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持ち帰ったキャラで雑談 その二

1名無しさん:2007/05/13(日) 21:30:22
リディア「僭越ながら、新しいスレを立てさせてもらいますね」
アーチェ「本スレにはあげられないのをあげる場所だから。主にSSかな」
リディア「それでは、楽しんでください」
アーチェ「いつでも参加募集中〜」

2確執編十章:豪雨の茶会      2/5:2007/05/13(日) 21:31:43
 違う。
 あたしは答えをすでに知っていた。
『知らない』から、知っている。
 赦せなかった。
 あの時の、あのリディアの言葉だけは。
 時間の流れくらいでは消え去らないほどに。

 ――あたしが持たないものを持ってるあの娘が。
 ――あたしが持たないものを手に入れて。
 ――あたしに対して、紡いだ言葉。

 どれかひとつでも欠けてれば、ここまで理性を失うことはなかっただろう。
 あの娘は理解してるんだろうか。
 自分がどれだけの高みからあたしを見下して、あの言葉を紡いだのか。
 持たないからといって、あたしは欠けてるわけじゃない。
 不幸の看板背負って生きてきたつもりなんてないんだ。

 確かにあたしとあの娘はよく似たところがある。
 けど、違う。
 その違いを、あの娘は本当のところ理解してない。
 しょせん上っ面だ。言葉で理性的に区分けして、その意味が見えてない。
 だからあんなことが言える。

 ――バカにすんな。

3確執編十章:豪雨の茶会      3/5:2007/05/13(日) 21:32:28

 ・二日目 PM12:00 サイド:アーチェ

「やっぱり観光地のおみやげ屋は風情があるデスねー」
 こういうところに来るとカメラスキーの血が騒ぐんだろう。
 さっきからカメラのレンズ越しからしか世界を見ずに、ふらふらとあちこちを彷徨う四葉。
「はい、ジョニーの糧さん。チーズ」
「おう! って誰がジョニーの糧だよ! ――僕は覗き魔だから」
「…わざわざ自己主張するあたり本物デスね」
 さすがに観光地だけあって、街並ひとつとっても住んでる街とはずいぶん違う。 
「いい、四葉。今度勝手に姿を消したらおでこに『迷子』って書くわよ。当然、油性」
「う゛っ!? そんな人間迷子札は激しくイヤデス…」
「あははは、弱そうな悪魔超人だね――僕は覗き魔だから」
「ならあんたも自分のおでこに『覗き魔』って書いとけば? 史上最弱のヘタレ超人が誕生するわよ」
 人が行き交うだけでいっぱいの細い道の周囲に立ち並ぶ、見慣れたそれとは違った家々。
「おぉ! 今や懐かし三角ステッカー! これはチェキデスっ!」
「へぇ、なんだか昔の駄菓子屋チックね」
「お、スコープじゃん。僕がガキの頃住んでたとこってド田舎でさ。
 よくこれ使って遊んだもんさ――僕は覗き魔だから」
「…子供の頃から覗き魔だったわけ、あんた?」
 ただ歩いてるだけなのに、不思議と穏やかな気持ちになれるのが不思議だった。
「あ、四葉。ハンカチ落とした」
「僕が拾ってやるよ。…はい、気をつけなよ――僕は覗き魔だから」
「ど、どこ覗いてるデスか!?」
「陽平…あんた白昼堂々、それは人としてどうなの?」

「もうイヤじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 春原が奇声をあげながら地面をのたうちまわりだした。
 即座に杏が蹴飛ばして黙らせる。賢明な判断だ。
 けど、今回は惜しくもすぐに復活した。
「何で普通に会話してるだけでヘンタイになってくんだよ!」
「春原」
 軽くこめかみを押さえてから――ひと睨み。
「罰罰ゲーム」
 気迫に押され、「ひぃっ!」と黙り込む春原。
「け、けどこれってあんまりだろ!」
「本当のことじゃん」
「どこの世界に『覗き魔』自称して歩く奴がいるんだよ!」
「最初の一人、っていい響きだと思わない?」
「場合によるだろっ!」
「はいはい、わかったわよ。――なら罰罰罰ゲームね」
「もうイヤじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

4確執編十章:豪雨の茶会      4/5:2007/05/13(日) 21:33:09
「あ、国崎さんデス」
 四葉が指差す先。見慣れた銀髪が目に入った。
 どうでもいいけど、周囲の風景からビビるほど浮きまくってる。
「国崎…アンタ、何してんの?」
 胡坐をかいて道端に座ってたその姿は、あたしの声に顔を上にあげた。
「見ればわかるだろう」
「わかんないから聞いてんだけど」
 冗談抜きで本当にわからない。
「あのな…人形劇に決まってるだろうが」
「どこに人形があんのよ」
「お前らが俺からふんだくったまま返さないんだろうが!」
「答えになってないし」
「このガキ…仕方がないから、部屋にあったので代用することにしたんだよ」
 言って、指差す先。

 カミソリと石鹸が転がってる。

 しばし、無言。
「……これで、何をするって?」
 こめかみを押さえつつ、うめく。
「人形劇」
「動くの?」
「動くとも」
 動いた。うぞうぞと。
『…………………………』
 きっとあたし達は、揃って同じ顔をしてたことだろう。
「……せめて、関節らしきものがあるので代用しなさいよ」
「ムチウチになったヘビと、陸に上がった死にかけのナマコみたい」
「亀さんだってもっと機敏に動くデス。けどこれはこれで面白いのでチェキ、と」
「文句言うなら人形返せ!」
 当然のように無視して。
「で? 誰か見てく人、いるの?」
「いや。何故か思いっきり避けて通られる」
「……お願いだから、捕まるのだけはやめてよね」
 これ以上話をして関係者と思われるのも嫌なので、
あたし達はもはや何も見なかったことにしてその場を通り過ぎた。

5確執編十章:豪雨の茶会      5/5:2007/05/13(日) 21:33:52
 ふと気づくと、昨日まであった蒼穹は姿を消し、
空一面に黒と灰のグラデーションが立ち込め出していた。
「何か日が陰ると、途端に寒くなる気がするわね」
 襟を押さえて服の中に寒気が入るのを防ぐ杏。
「ひょっとして、雪でも降ってくんのかしら」
「それもいいかも。きれいだし」
 と、一人先行してた春原がふいに戻ってきた。
「おい、向こうに穴場の共同浴場があるってさ」
「何? 絶好の覗きスポット?」
「僕の言葉が信じられないなら、向こうの連中に聞けよ。女の子もいるし」
 その先には、なるほど、数人のメンバーが談笑してる様子。
「知り合い?」
「ついさっき知り合ったばっかだけど。僕らと年同じくらいらしいぜ。
 行くなら、一緒に行かないかってさ。どうする?」
 正直、ちょっと春原のことを見直した。
「春原、アンタのそういう誰とでも気さくに話せるとこは嫌いじゃないよ。
 ――けどアンタ、覗き魔だもんね…」
「ホント、そこは陽平の長所よね。
 ――けどあんた、覗き魔だもんね…」
「いい加減それ引っ張るのやめてくれませんかねぇっ!?」
 もちろんあたしとしてはその提案に異論はなかった。
「じゃ、一緒に……」

 ――その時。

 針で突き刺すような痛みが頭に走る。
 一瞬目を閉じた瞬間、世界は『変わった』。

 足音が聞こえてくる。
 あたしでなければ、音の主は一人しかいない。
「お楽しみのところ、申し訳ありません」
 ――『アクマ』。

6確執編十一章:ギリギリの導き      1/8:2007/05/13(日) 21:35:04

 ・二日目 PM2:00 サイド:アーチェ

 昨日と同じだ。
 街は死に絶え、あたりにはあたしと『アクマ』の気配しかない。
「昨日も思ったんだけど…これはアンタの芸なわけ?」
 不気味なほど静まり返った世界に、あたしの声が残響する。
「…………」
「あたし達以外誰もいない世界。『意識は世界に属し、世界は意識に属す』…だっけ?」
 そのことですか、と前置きしてから、
「そうですね。私の能力です」
「あ、そ」
「期待していた答えと違いましたか?」
「いんや、そうだろうと思った」
 ――あくまで無力を装う、か。
「ま、いっか。ギャラリーいない方がやりやすいのは確かだし」
「やる気なようで安心しました。逃げ回られると困りますので」
「足が遅いとか?」
「逃げ回る者の背中を刺し貫くのが性分にあわないだけです」
 手を前にかざすだけで、両刃の剣がそこに握られる。
 頬を冷や汗が伝った。
『彼女』の剣の威力はすでに昨日まざまざと見せ付けられてる。
 そこに殺意がブレンドされれば、あたしは一瞬で輪切りにされるだろう。

 ――アイツは、あたしを『アクマ』に殺させたいってわけ?

 怒りがこみ上げてくる。こんなの理不尽だ。
 相手は目的を告げもせず、一方的にあたしを殺そうとしてる。 
 昨日、電話越しに耳にしたアイツの言葉が蘇る。
『どれだけ勝手暴悪に見えても、そこには必ず意味がありますから』
 ――こんなもののどこに意味があるってのよ!

7確執編十一章:ギリギリの導き      2/8:2007/05/13(日) 21:35:57
「『アクマ』」
 そう言葉を紡いだのは、しかしあたしじゃなかった。
 聞こえてきたのは背後。
 振り返ると、いつの間にかそこには一人の姿が立っている。
 流れるような金の長髪。どこか物憂げな瞳。
 そして、腰に長剣を携えた出で立ちは。
「……セリス」
 かつては軍属だったこともあるという、生粋の剣士。
 その双眸が冷たくこちらに向けられている。
 ――冗談じゃなかった。
 一対一でさえ絶望的なこの状況下で、さらに伏兵が現れるなんてありえない。
 アイツが求めてるのは戦いですらない、ただの殺戮だとでも言うんだろうか。
 けど、意外にそれを否定する言葉が向こうから来た。
「交わされた契約を忘れたか。示威行為以外で抜剣するなら黙っていない」
「……契約?」
 あたしの知らない何かが、二人の間で行われている。
「黙っていない、ね。ならば、どうするというのです?」
「無論、お前の敵に回らせてもらう」
 そもそも、と、
「私はお前達の間で一方的に取り交わされたルールが気に入らない」
「それがすべてにとって正しい、とあの人間は考えているようですけれど?」
「傲慢な。他人に押し付けていい正しさなどあるものか」
「部外者のあなたが、ずいぶんと入れ込んだことを」
「部外者というなら、お前も、あの男も、同じことだ」
「――平行線、ですか」
 小さく溜息をひとつ。
「それこそあなたの自己満足に過ぎないというのに」
 明らかに両手で扱う長大な剣を、しかし彼女は片手で構える。
 実戦剣術というより、どこか儀礼的な優雅さをまとった立ち振る舞い。

「いいでしょう。一人も二人も変わりません。
 アレには『反逆の末に共に掃滅』とでも伝えることにします」

8確執編十一章:ギリギリの導き      3/8:2007/05/13(日) 21:36:53
 どうも話はあたしを置き去りにして勝手に進んでいった様子。
 何が何やらわからないまま、あたしは『アクマ』に剣の切っ先を向けられた。
 ――んな理不尽な流れで、殺されてたまるもんですか!
「アーチェ」
『アクマ』と対峙してるため、自然背後から聞こえてくる声。
 振り向きもせずに応える。
「何?」
「奴の剣戟は私がおさえる――あなたは後ろから私のサポートをして」
 言葉の間に挟んだ、一瞬の間。
 その空白の間に、声はすぐ隣から聞こえてくるようになった。
「一体、何がどうなってんの? 何でアンタはあたしの味方をしてくれるワケ?」
「話してる時間があると思う?」
 腰の柄に手をかけながら、『アクマ』の方を一瞥。
「けど、そうね――」
 その目に揺らぐのは、紛れもない――殺意。

「私は奴らが一方的に振りかざしてる正義が気に入らない。それだけ」

 殺し合いは、いきなりあたしじゃ視認できない速度で始まった。
 5メートルはあった彼我の距離を一瞬で0に縮め、セリスが『アクマ』の胴体を薙ぐ。
 が、そこにすでに『アクマ』の姿はない。
 軽く宙を跳ね、ギリギリのところで剣先をかわしながら、
あろうことかその体勢のまま空中で袈裟斬りに剣を振るう。
『アクマ』は重力に縛られない。中空は彼女にとって第二の支配領域だ。
 セリスもその動きは予想してなかったのか、素人目にわかるほど対応が遅れた。
 左肩から断ち割られる様が脳裏をよぎる。
 ――やられる!
 と思った瞬間、セリスの左手が動いた。
 いつの間にかその手に握られた短剣が、『アクマ』の剣閃をかろうじてうけとめる。
 逆にガラ開きになったその胴体に向けて、セリスの刺突が疾った。
 それより早く宙を空打ちした翼が『アクマ』の体を背後へと遣る。
 セリスもまたバックステップで間合いをとる。
 右手には剣を、左手にはそれよりわずかに刃の短い投擲用の剣を携えて。
 
 一連の動作が、わずかまばたき数度の間に行われた。

9確執編十一章:ギリギリの導き      4/8:2007/05/13(日) 21:38:49
「アーチェ。ボーッと見てないで加勢してよ」
 こちらのすぐ傍まで戻ってくるなり、どこか拗ねた声音で一言。
 たった今見せた死戦とのギャップと相俟って、なんだか可愛い。
「……ど、どうやって加勢すんのよ」
 今この2人が展開した死合は、あたしじゃ目で追うのがやっとの世界だ。
「あなた、魔法使いでしょう?」
「そうだけど…あんな接近戦でボコスカやってるとこに、魔法なんて撃てるわけないじゃん」
「どうして? 逃げ回らないだけ返って当てやすいでしょうに」
「アンタにも当たっちゃうでしょうが!」
 あたしには至近距離で戦ってる2人のどちらかだけを狙うなんて不可能だ。
 いや、たとえ出来たとしても、やらない。
 正確にどちらかを狙ったとしても、その余波は確実にもう一人を巻き込むだろう。
 セリスは少し考えるように黙ってから、あぁとうなずいた。
「そうか、アーチェは知らないのね」
「何がよ」
「まぁいいわ。とにかく私のことは構わなくていいから、最大出力で援護をお願い」
「だから、大丈夫な理由を説明してってば!」
 応えの代わりに、銀光が交わる激しい金属音が轟いてきた。

 セリスの戦闘スタイルは、右手に片手用の細身剣、左手に投擲用の短剣というのが主流らしい。
 見た目は確かに二刀流だけど、実際の戦闘スタイルはイメージとはちょっと異なる。
 二本の剣で滅多に斬り付けるなんてことはしないで、
右手で攻撃する時は短剣を盾に、左手で攻撃なら細身剣を盾にと、
つまりは剣と盾の役割をその都度変えてくってものらしい。
 そのスタイルは千変万化で、攻撃に一定のリズムがない。
 リズムがあるってのは、つまりは流れが決まってるってこと。
 それは戦闘を支配する意味を持つ反面、自分の流れに動きを縛られるって欠点も持ち合わせる。
 格闘ゲームを思い浮かべてほしい。一定のリズムを持ったコンボは決まれば有効だけど、
何度も使ってればそのうち相手にリズムを読まれ、逆用されてしまう。
 それと同じことだ。
 特有のスタイルを持つ『アクマ』の剣術の前には、下手なリズムはかえって隙をつくってしまうんだろう。
 うん。それはいい。
「……で、この状態でどうやって魔法を使うのよ」
 当たり前だけど、威力が大きい魔法ほど効果範囲は広くなる。
 最大出力なんかで撃てば、たとえ数メートル離れてたって巻き込んでしまう。
 ――けど、セリスはそれをわかった上で、あぁ言ったんだよね。
 なら、彼女にも何か策があるんだろう。
 あたしはそれを信じることにした。

10確執編十一章:ギリギリの導き      5/8:2007/05/13(日) 21:40:09
 互角に見えた勝負は、けど徐々にセリスが押され始めるという劣勢ムードの様相を呈してきた。
 もともと軽量化を重視した剣身は、『斬る』ことに向いてない。
 重さが足りない分、威力が削がれるからだ。
 だからセリスの必殺は、常に『突く』って動作に乗せられる。
 その欠点は――言うまでもない。効果範囲が極狭ってことだ。
 これが普通の相手なら、幾度か剣を捌いた先に隙を見出して必殺を当てることも出来るんだろう。
 けど、戦闘領域が三次元な『アクマ』とは分が悪かった。

 呪を紡ぐ。
 それはあたしにとって、言葉を紡ぐのとさして違いのない動作だ。
 けどそこには意味がある。
 世界に能動的に影響を与える、『魔法』としての力。
 物心ついた時には、息を吸うのと同じ感覚でそれが使えた。
 どういう原理で使うんだ、ってたまに聞かれたりするけど、そんなのあたしは知らない。
 ――リディアなら答えられるかもしれないけど、さ。
 そんなのいちいち知らなくたって魔法は使えるし。
 普通の人だって、手を動かしたり、呼吸したりするのに『どうやって』なんて考えないだろう。
 あたしにとっての魔法ってのは、つまりはそういうものだ。

 あたしの視界で、2つの存在が一進一退を繰り返してる。
 本気の一撃なら『アクマ』を止めるのも不可能じゃない。
 けど、それは確実にセリスを巻き込む。
 そもそも仲間を巻き込まないように魔法を使うなんて、すごく気を使う作業だ。
 多人数での戦闘で全力を振るうなんて無理と言いかえてもいい。
 敵を倒す代償に仲間を失うなんてシャレにならない――

 ふと、違和感が走る。

 敵? 誰が?
 決まってる、『アクマ』だ。
 向こうは理由は不明だけど、こっちの命を狙ってて、
 ――それなら、こっちも相手の命を奪ってもいいっての?

11確執編十一章:ギリギリの導き      6/8:2007/05/13(日) 21:41:25
 ちょっと待て。
 あたしは何を考えてたんだろう。
 いくら不可解な状況で命を狙われたからって、相手を殺していい道理なんてあるわけない。
 そもそもあれは『アクマ』であると同時にリヴァルでもある。
 彼女には何の罪もない。
 いや、罪の有無なんて問題じゃない。

 いつからあたしは魔法を『相手を殺す道具』として使うようになったんだ。

 そりゃ確かにあたしが使えるのは攻撃系の魔法ばっかりだ。
 リディアの召喚獣みたく応用も利かないし、一撃で人の命を奪える凶悪なのだってある。
 けど、それなら使わなければいいだけの話。
 殺されそうになったら、相手を殺してもいい? そんなの自分勝手な言い訳だ。
 どんな理屈も言い分も、人を殺していい理由にはならな――

 ゾッとした。

『あの時』、あたしは何をしようとした?
 今と同じように、ただ怒りに駆られたあたしは、魔法を。
 ――リディアに、全力でその力を振るおうとしたんだ。
 何も見えちゃいなかった。
 自分の力も、その意味も。
 あの時のあたしはそれに微塵も躊躇がよぎらなかった。
 やろうとしてることは、今とまったく変わらない。
 その時――そう、本当にその時になって、あたしは初めて思い至った。

 あたし、リディアを殺しててもおかしくなかったんだ――

12確執編十一章:ギリギリの導き      7/8:2007/05/13(日) 21:42:33
 確かにリディアはあたしと同じ魔法使いだ。
 普通の人に使うのと違って、たとえ全力で力をぶつけたところで死ぬとは限らない。
 事実、あたし達は一度本気でぶつかり合ったこともある。
 だけど――いや、だから。
 あたしはいつの間にか、魔法が持つ力を失念してた。

 その力は、人一人をこの世界から消すには十分過ぎるってことを。

 ――あたしは、何てことを…
 自分のやろうとしたことに愕然とした。
 怒りに任せて、そんな当たり前のことを忘れてたなんて。
 アイツや春原に対して自然に使ってたことも、それに拍車をかけてたのかもしれない。
 けど何を言ったところで、すべてはいいわけだ。
 事実は、消えない。

「――アーチェ、早く!」

 その声に我に返った。
 折りしも、セリスの持つ細身剣が弾き飛ばされ、地面に突き立つところだった。
 膝を突くセリス。――早く、と叫ぶ。
 早く? 早く、どうしろっての?
 決まってる。魔法だ。
 魔法を使わないと。
 でないと、セリスは『アクマ』の剣に――
 けど、あたしが魔法を使えば、今度こそ誰かを殺してしまうかもしれない。
『アクマ』か、セリスか。
 あたしに命の重さを決める資格なんてあるんだろうか。
 敵だから攻撃してもいい? 違う、そんなのは自己の正当化だ。 
 けど、『何もしない』って選択肢はあっても、『決定を先送りにする』なんてのはない。
 けど、けど、けど――

 ……あぁ、またあたしは、いいわけをしてる。

「……決められないよ」
 涙が、頬を伝った。
「決められるわけ、ないじゃん」

「――なら死になさい」

 世界が、暗転した。

13確執編十一章:ギリギリの導き      8/8:2007/05/13(日) 21:43:57
 死んだ――はずだった。
 けど、気づくとあたしは杏や四葉に囲まれて、またも地面に寝転がってた。
「………………あたし、寝てた?」
 杏の顔は怖いくらいに怒りで歪んでた。
「だ・か・ら、『寝てた?』じゃないっての!!」
 がくがくと揺さぶられるも、思考がいまいちついてこない。
「あんた、まさか何かの持病持ちとかじゃないでしょうね?」
「あー…実は脳が」
「やっぱり」
「即座に頷かないでよ。冗談に決まってんじゃん!」
 夢――なんてことは今さら考えない。
 あたしは確実に『アクマ』に殺されて、けど傷一つなくここにいる。
 ――ひょっとして、あそこでの死はこの世界に何の影響も及ぼさないってこと?
 それなら昨日のあたしが無傷だったこともうなずける。
 けど、なら『アクマ』のしてたことは一体なんだったのか。
「ねぇ、杏。あたしどんくらい意識失ってた?」
「どのくらい…って、10秒も経ってないわよ」
 長かったらとっくに救急車呼んでるって、と付け足される。
 死なないだけでなく、時間的な対応もないらしい。
 別世界、とは微妙に違うだろう。
 あの世界はこことまったく同じ構造をしてた。
 ただ、人の姿がなく、死が存在せず、時間の流れが繋がらない。
 ――まるで、この世界を中古のコピー機で印刷したら出来上がった劣化品のような。
「で、本当に大丈夫なわけ?」
 杏の瞳は不安でかすかに揺れてる。
 四葉に至っては軽く涙目だ。
 それが、なんだかすごく嬉しかった。

「アーチェ。何で撃たなかったの?」

 鼓動が一際強く跳ねた。
 仮初の喜びなんて、その一言であっさりと吹き消された。

「あれ、セリスさんデス」
「何で…ってか、いつの間にここに来てたのよ?」
 二人の言葉を無視して、セリスはこちらに詰め寄ってくる。
「あそこで私達が『死んだ』のは、あなたが撃つのを躊躇ったからよ」
 気遣いなんて微塵もない、直球の一言。
「……だって、あそこで撃ったら、アンタに当たったじゃん」
「構わないと言っただろう!」
 怒気をはらんだその声に、あたしはビクッと身を竦ませる。
「覚えておけ。戦場で力を使うことを躊躇う者は、死体と変わらない」
 場に沈黙が訪れた。
 誰も――あたし以外誰も、セリスの言葉の意味は理解できないだろう。
 それでも、彼女がまとう雰囲気がこの現実からかけ離れてるものだってことはわかる。
「…………」
 あたしは何も言い返せない。
 セリスの言葉は正しい。あそこであたしは迷うべきじゃなかった。
 けど、それでも。
 自分の愚かさに気づいたあたしに、命の秤を使うことなんて出来なかった。
 セリスの手がこちらに伸びてくる。
 叩かれると思った。
「……けどね」
 それまでの怒りはもはやそこになく。
「命の重さを量れないあなたの優しさは、尊ぶべきものだと私は思う」
 その指があたしの頬に触れる。優しく、いたわるように。
 ――ずるい。
 こんな気持ちの時に、そんな言葉を使われたら、泣くに決まってるじゃないか。
「迷うべき時は、必死に迷って。けど、決断すべき時には躊躇わないで」
「……うん、うん」
 ボロボロ涙を流すみっともない姿で、あたしはセリスの言葉に何度もうなずいた。
 セリスはかすかに笑みを浮かべ、もはや無言できびすを返した。
 そして――ピタリと止まる。
 何かを思案するように首を上に傾け、さらに停止。
 そのままわずかに小首を傾げ、こちらを振り向いた。

「あの…ここ、どこ?」

 涙は、長い間支払料金を滞納した水道みたいに強制的に止められた。

14紅魔の見る夢:2007/05/21(月) 17:37:18
紅魔館のロビーで引っくり返っている少女の姿にレミリアは微かな頭痛を覚えた。隣では少女の゙母゙が手摺に寄りかかり、からかう様に笑っている。
「ごめんねぇ、フランドール。アサヒったらいつまで経ってもよわっちくてつまんないでしょ?」
フランドール、と呼ばれた少女がきょとんとしながら、レミリア達を見上げ、困ったように首を傾げた。
「うるせぇよ、大きなお世話だ」
倒れたままの少女、アサヒが服の埃を落としながら、不機嫌そうに起き上がる。
途端にフランドールが彼女に飛び付き、心配そうに顔を覗きこんだ。
「アサヒ、大丈夫?手加減、また出来なくて…ごめんなさい」
しゅんと力なく羽根を垂らしながら、フランドール。
「気にすんなよ、誰だって初めはそんなもんだってーの」
くしゃりと少女を撫でてやりながら、励ますように笑いかける。
「そうそう。アサヒだって今もよく真っ黒になってるからねぇ」
「そうなの?」
「だーっ!母さん!あることないこと言うなよ!
フランも!母さんの言ってる事なんか信用すんなよ!」
一人わめくアサヒの様子がおかしく、思わず誰もが吹き出す。


ただ、一人を除いては。


「…くだらない」
そう吐き捨て、背を向けるレミリアに紅がふと思い付いた様に声をかける。
「レミリア、そんなにあの子が嫌いなのかい?」
その言葉に一瞬、足を止めかけ―しかし、何事もなかったかの様にレミリアは足早に暗がりへと姿を消したのだった。
「…素直じゃないねぇ」
そんな紅の呟きはレミリアが歩いていった廊下に溶けて、消えた。

15紅魔の見る夢:2007/05/21(月) 18:44:08
「これはどういう事?」
しん、と静まりかえった館を見回しながら、レミリアは不機嫌そうに呟いた。
たしか…ロビーで弾幕ごっこをするフランドール達に苛立ちを覚え、部屋のベットに潜り込んだ筈だった。
それから…急に紅茶が飲みたくなり、咲夜を呼びつけたのだが、いつまで経っても現れない彼女に苛立ちを覚え始め、部屋を出たのだが…。
「全く…ほんとに揃いも揃って役に立たないメイドばかりね。
主人の呼び出しに応えないなんて」
苛立たしく靴音を響かせながら、長い廊下を進む。誰一人の姿もない。
「…………」
やがて苛立ちは焦りに変わり、半ば走るかの様に廊下を進む。部屋を一つ一つ見ても、誰も居ない。
「ちょっと!誰か、誰か居ないの!?」
叫びながら、廊下を走る。普段なら「お嬢様、はしたないですよ」と背後に現れる咲夜が居ない。
「パチェ!門番!咲夜!フランドール!お願い…誰か」
手摺に手を付きながら、乱れた息を整える。
誰も居ない。そう思っただけで吐きそうになった。


(っしゃあ!今日は負けねぇからな!)
「!?」
(へーんだ。アサヒになんか絶対負けないよーだ!)
不意に聞こえた声に手摺から身を乗り出す。
そこにはいつもの様に弾幕ごっこに興じる妹とその友人の姿。


楽しそうに笑い合う二人がどこか遠くにあって、ただ一人取り残された気持ちになって。
「淋しかった…?この私が…?」
そう言った途端、レミリアの視界は闇に包まれた。

16紅魔の見る夢:2007/05/21(月) 19:35:26
「レミリア?ちょっと大丈夫?」
不審そうな紅の声にレミリアは辺りを見回した。
紅魔館のロビー。下でわめくアサヒ、それを見て笑うフランドール。
…夢?
「まぁ弾幕張り慣れてるあなたにはアサヒの拙い弾幕じゃあつまらないと思うのも無理は無いと思うけど」
そこらへんは勘弁してあげてね、と肩をすくめる彼女を尻目にレミリアはくすりと笑い、
「そうね。でもせっかくだから私が直々に弾幕を伝授してあげるわ」
「え゛っ?!」
「わーい!お姉様との弾幕ごっこなんて久し振り!」
ただ一人、悲鳴を上げるアサヒを無視してレミリアは弾幕を展開した。


「にしても、紫に似てずいぶんお節介ね」
「あれ、ばれてた?うまく隠れたつもりだったのになぁ」
ひょこりと窓から入ってきたフヨウに溜め息を付きながら、頭を指差す。
「あんたのアホ毛が窓の外で揺れてたからねぇ。
にしても…レミリアに一体どんな夢見せたのよ?」
「んー…独りになっちゃう夢、かな」
「…バレたら弾幕ごっこだろうね」
「大丈夫!僕頑張って避けまくるから!」
避けまくるだけじゃ意味はないだろうに。
そう思いながら、紅は再び撃墜された娘の救出に向かうのであった。



〜蛇足〜
フランドールが姉離れしていくのが寂しいけど、そうとは言えないレミリアな話。
フヨウが夢を操れるのは某悪夢さんのせいだったり…放出して話には出てこないけどまだとりあえずくっついてます

17対峙編、abstract:2007/05/22(火) 22:02:31
(注:この話は俺作品の中でも特に主観の強い話になっています。
  故に自分の解釈のみを是とし、他の主観を廃絶している可能性が極めて高いです。
  恣意をこめているつもりはありませんので、悪しからず)

時期:退屈編と星海編の間。季節的には去年の夏頃から冬間近までという設定

背景:退屈編が終わりしばらく経った頃。「俺」の独断で全キャラを放出
(去年の8月初め頃。覚えてない人はそういうことがあったと思ってくれれば)
それからしばらくしてリディア様とアーチェの二人を再び持ち帰り

スレ的事実としてはそれだけだが、二人は放出されたことにそれぞれ想いを抱く
と同時に、自分達が「神」の作った世界の住人であることを知る
(この辺のくだりを詳しく知りたい人がいたら、星海編を参照)
すべてを単なる事実として認識したリディア様に対し、
アーチェはどうしてもそれを認める(あるいは許す)ことが出来なかった
故に「神」であり観測者である存在を否定するようになる
(ここからアーチェの長い反抗期が始まる。誰も覚えてないだろうけど、
 スレ一周年の時などでアーチェがやさぐれてたのはそのため)

軋轢は日を追うごとに大きくなり、ついに臨界を迎える

以下は、その時のやりとり

18対峙編       1/7:2007/05/22(火) 22:03:42
 ――誰がこの世界を定義したんだろう。
 らしくないと思う。自分はいつからそんな哲学めいたことで悩むようになったのか。
 けれど、考えずにはいられない。
 夢でもいいと思っていた。
 すべてがある一瞬で消えてなくなってしまってもいい。
 今を全力で楽しむことが出来るのなら。

 ――なら、あたしは何が許せないんだろう。
 らしくない。悩むのも、いらつくのも、全然自分らしくない。
 いつからこんなにも後ろ向きな人間になったのか。

 そこまで考えて、ふいに、自嘲。
 ――『あたしらしい』って、何だっけ?

「ねぇ、リディア」
 アーチェの問いかけに、リディアは振り向かずに応える。
「何?」
「何で、アンタはアイツを許せるの?」
 彼女の視界には、蒼しか映っていない。
 空の蒼。海の蒼。そして、境界を結ぶ蒼。
 ここにリディアを呼び出したのはアーチェだ。
 話がしたかった。彼女が何を思ってその道を選んだのか。
「許す、って、何を?」
 とぼけているのではない。リディアは本気で、アーチェの言葉が理解できないのだ。
 自分と同じでありながら、自分とは異なる結論を導き出した少女。
「リディアだってもうわかってんでしょ? あたし達はアイツが作ったオモチャ。
 所持されるのも、捨てられるのも、全部アイツの気分次第」
「………………」
「あたしね、ようやくわかったんだ。なんでこんなにイラつくのか。
 ――あたしがね、いないの。どこにも」
 自分はここにいる。だが、ここにいない。

「アイツは、あたしのことを何にも理解してないのに。
 それなのに、自分の都合であたしの心を捻じ曲げる。
 ……そんなの、あたしは耐えられない」

19対峙編       2/7:2007/05/22(火) 22:04:30
 リディアは、しばらく無言だった。
 身じろぎひとつせず、アーチェの存在を完璧に廃絶して、視線を蒼に向けていた。
 どれだけの時間が経っただろう。
「……そうだね。それはきっと、正しい」
 小さく頷いて、こちらを振り向く。
 アーチェは目を見開いた。
 リディアは、笑っていた。ひどく透明な笑顔で。
「けどね。あなたはとても重要な事を見落としてるよ、アーチェ」
 何故、そんな笑顔を浮かべて彼のことを語れるのか。
「私達は、確かに『彼』が作ったお話の登場人物に過ぎないのかもしれない。
『彼』が思いついた物語の上で踊らされているだけかもしれない。

 ――でも、それが何?

 前にアーチェ、言ったよね? 『私達はここにいる』って。
 現実とか夢とか、考えてもしょうがない。覚めない夢は現実と変わらない。
 何を悩むの? 何に腹を立てるの?
 生きてることに苛立っても、私達はここでしか存在出来ないのに」

「……それが」
 ややかすれた声で応える。潮風にあたっているせいだろうか、ひどく喉が渇いた。
「そう思うことがアイツのせいだとは、考えないわけ?
 アイツはあたし達の心さえ弄れる。いくらでも自由に動かせる。
 絶対に信用なんて出来ない。出来るわけない。そんなヤツなのよ?」
「………………」
「アンタはアイツの味方をさせられてんのよ、リディア」
 大きな波に水が逆巻き、わずかな音と共に砕けて呑まれる。
 リディアはアーチェから目を逸らしていた。何かをこらえるように。
 ――事実を認める心さえ、あたし達には存在しないのかな。
 そんなことを考える。
 アーチェはリディアの答えを待っていた。そして、それは長い空白の後に叶えられた。

「あなたは……少し頭を冷やした方がいいみたいだね」

 腹を立てているのかと思ったが、そうではなかった。
 リディアはやはり笑っていた。だが、その質はひどく悲しげなものへと変わっていた。
 道が違えたことを、アーチェは悟った。
 それもアイツが原因だ。リディアは『彼』の味方をするのが「役目」なのだから。

「王よ。意思通ずるなら、応えて」

 アーチェは抵抗しない。リディアが自分に怪我を負わせるはずがない。
 反撃することも可能だったが、矛先を彼女に向けても意味がなかった。
 この怒りは、然るべきところに向けられなければならない。
 ――考えてみなよ、アーチェ。あなたのその怒りは、どこから生まれてくるの?
 海面から爆発的に伸びてくる水の帯に呑まれる直前、そんな言葉を聞いた気がした。

20対峙編       3/7:2007/05/22(火) 22:05:22
 無為に時を刻むのが好きだった。
 何をするでもなく。何を求めるわけでもなく。
 時の移ろいと共に影が伸び、夕焼けに染まり、そして夜の帳に包まれていくのを
ただ眺めているだけで、全身に震えが走るほどの幸せに包まれた。
 安上がりな幸せと思う者もいるかもしれない。
 それでもいい。幸福を独り占めというのも、退屈だが、悪くはなかった。
 故に、今日もここにいる。
 大概一人で。たまに、数人で。
 鳥居の奥、神が住まうと言われる社の庭で、彼はぼんやりと佇んでいた。
「お月見? 風流だね」
「……風土が流れ行き渡ると書いて、風流。実にいい言葉だと思いません?」
 声のした方を見れば、そこには落ちかけた帳の中でも映える桜色の髪。
 だが、その有り様に彼は思わず眉を潜めた。
「どうしたんです? この寒空の下で着衣水泳でもしてたんですか?」
 アーチェは見るも無残なほどびしょぬれだった。
 髪からは今なお滴が地面に引かれて落ちている。
「ねぇ、『ライール』」
 ぞくりと、体が震える。
 それは動揺と幸福がない交ぜになった不思議な感覚だった。
「…………珍しいですね。名前で呼ぶなんて」
「アンタがそう望んだからじゃない?」
 冷たい微笑。彼は曖昧に笑みを返す。
「アンタさえ望めば、あたしは自ら望んで何でもしちゃうんじゃないの?
 だって――あたしはアンタの操り人形に過ぎないんだから」
「………………」
「けど、アンタはそうしない。あたし達に触れようともしない。
 ――善人でも気取ってるつもりなワケ?」
「違います」
 即答。
「俺は自分を善人だとは思ってません。何故なら、俺は俺が望むことしかしてませんから」
 その言葉に、アーチェは一瞬だけ微かに笑みを浮かべた。
 即座にそれは怒りの形相へと変わる。

「……なら、何であたしはアンタのことが許せないのよっ!」

21対峙編       4/7:2007/05/22(火) 22:06:39
「何でこんなに辛いの? 何でこんなに苦しいのよっ!
 あたしをいいようにしたいなら、そうすればいいじゃん!
 アンタが嫌いなわけじゃないのに、あたしはアンタを憎んでる。
 それがどんだけ苦しいかわかってる!?」
 彼女の顔は変わらず濡れていて。
 頬を伝うものがしたたる滴なのか、それとも別の何かなのか、判断がつかない。
「リディアがね、言ったの。あたしの怒りはどこから生まれてきてるのかって。
 ……わかってるよ、言われなくったってそんなこと。
 アンタはあたし達の気持ちを尊重してくれてんでしょ?
 あたしが――本当のあたしが気に入らない事を、アンタは強要しない。
 あたし達を自由にさせようとしてくれるのだって、ちゃんとわかってる。
 ……だけど、だけど!」
 気づくと、アーチェの顔が目の前にあった。
 宵闇の中でも目尻に溢れる輝きを覗けるほどに。
「だからって……あたしにアンタを憎ませないでよっ!!」
 ――嫌いたかったわけじゃない。
 憎みたかったわけじゃない。
 楽しければ、そう、楽しければそれでよかったのだ。
 たとえすべてが『夢』であったとしても。
 アーチェが何より許せなかったのは。

「アンタは、自分のしてることを許せないから、あたしにアンタを許させないだけじゃない!!」

 リディアと話をして、アーチェははっきりと理解した。
 彼は偽善者だ。善人ではないけれど、決して悪人でもない。
 臆病で、アーチェ達を欲望の赴くままに動かせなかっただけかもしれない。
 けれどそれは自分達を大事に思ってくれている証拠だ。
 リディアが彼を否定しないのは、彼女がそういう人間だと彼が思っているから。
 もちろん自己弁護の気持ちだってあるだろう。
 けど、何よりリディアの意思を尊重していることはアーチェにもわかった。
 それは誰よりもアーチェ自身が、リディアならきっとあのように答えるだろうと思ったから。

 だから、アーチェは彼の事が許せない。
 自分が彼を憎むのは、アーチェならそうするだろうと彼が考えているからだ。
 彼はこの状況下で『アーチェは自分を否定する』と思っている。
 それだけじゃない。
 彼は臆病で、優しい。だから自分のしてることを許さない。
 そのために、弾劾役としてアーチェを配置したのだ。

 操られてるとか、いいように動かされてるとか。
 そんなことは心底からどうでもよく。
 ただ、自分がその程度の人間とみなされているのが、純粋に気に入らなかった。

22対峙編       5/7:2007/05/22(火) 22:07:36
「……ケリをつけよう、ライール」
 アーチェの右手に光が宿る。同時に青白色の魔法陣が、彼女の足元で淡い輝きを発し始めた。
「これからもあたしにアンタを憎ませるなら、この世界からあたしを消して。
 それを認めないっていうなら、あたしは全力でアンタを――倒す」
「……それが無意味なことだと、理解していますか?」
「どういう意味?」
「俺がそう望むだけで、あなたは決して俺に魔法を使えない。そういうルールだからです。
 今この瞬間に俺に土下座して許しを請わせることだって可能なんですよ?」
「悪人気取りはいいって。つまんない」
 そんなことが出来るなら、とっくの昔にアーチェの風呂ぐらい覗いているだろう。
 彼は何よりアーチェ達の意思を尊重する。
 今、こんな状況が生まれていることこそが、その証だ。
 彼が許さない限り、アーチェは彼に反抗心を抱くことすら出来ないのだから。
「アンタが許せないのは自分だけ。その動機付けのためにあたしを利用しないで」
「あなたは俺を肯定しない。それが最も自然な在り様なんですよ」
「勝手に決めるなっ!」
 あいている左手で、彼の頬を思い切りひっぱたく。

「アンタの勝手な理屈で、毎日身近にいる人を嫌って生活するなんてまっぴらごめんよ!」

 その言葉に、彼は初めて動揺の表情を浮かべた。
「……そうか、そうですよね。そこまでは考えていませんでした」
 そして、苦笑。救いようがないな、というように。
「他人の心を完全に把握出来ると思うことが、そも愚かなんでしょうね」
「当たり前のことを今さら語ってんじゃないわよ、バカ」
 アーチェの顔にも薄い笑みが浮かんでいる。
 その右手の輝きが、さらに増した。
 夜を引き裂くほどに青白く燃える光。
「ここであたしがアンタを撃てなかったら、アンタは今のあたしが望む通りにしなさい。
 これはアンタが想像《創造》する、紛れもないあたしという存在が紡いだ結論よ」
「もし、撃てたら?」
「アンタは確実に死ぬ。それでこの『夢』は終わる」
「そうですね。その通りだと思います」
 故に、これは駆け引きにすらなっていない。
 終わりを迎えたくなければ従えと言っているのだ。最初から選択の余地などない。
 それを把握した上で、彼は頷いた。
「……わかりました。あなたが望むようにするといいでしょう」
 その言葉に、アーチェの瞳から感情が消えた。

23対峙編       6/7:2007/05/22(火) 22:08:41

「――天高満つるところ我は在り」

 好き、という言葉で表現するのは陳腐だとアーチェは思っていた。
 男女の感情を介することは彼が認めていない。
 故に彼を恋愛対象として見ることは、決してない。

「――黄泉の門開くところ汝在り」

 ただ、そこにいるのが当然だった。
 傍に居ても不快ではなく。さりとて心地よいというほどのものでもなく。
 隣に在っても特に何も思わない。そういう存在。
 彼はそんな『自然』を何より尊んでいたんだと、アーチェは思う。
 ――なんと虚しいことか。
 彼とアーチェ達の関係上、それは決して叶うことのない幻想に過ぎないのに。

 けど。
 それでも。
 アーチェはそれを、悪くないと思う。

「――出でよ、神の雷《いかずち》」

 そして――

24対峙編       7/7:2007/05/22(火) 22:09:41
「灰も残らず蒸発してしまいましたとさ。はい残念、なんちゃって」
「……何? その無理矢理畳んだ風呂敷みたいな結末」
 凛とした鋭さを宿す、初冬の朝。
 吐く息が白く凍る空の下、彼は傍らの少女と共に、朝露に濡れる木々の中に佇んでいる。
「今のはですね。『灰』と『はい』、『残』ると『残』念をかけた高等な……」
「冗談はいいから。結局、どうなったの?」
「一言で斬って捨てられるといつか泣くので気をつけてください。
 ――俺が生きてるのが何よりの結果提示だと思いません?」
「それは、そうだけど」
 すると彼はアーチェとの対峙に破れたことになるのだが。
「全然残念そうじゃないよね?」
「そも負けても俺は何も失いませんし」
 ただ、と言葉を続ける。
「アーチェに何でも背負わせていたのは、確かに俺の落ち度でしたから。
 それだけは、何とかしたいなーと」
「……それなんだけど」
 リディアはこれまで何度か口にしようとして、しかし出来なかった言葉を、意を決して紡いだ。

「あの夜、帰ってきたアーチェの顔が耳まで真っ赤だったのは、何で?」

 しばしの間。
 それから、爽やかな表情で、一言。
「風邪でしょう」
 虚空から現れた巨大な腕が彼の体を鷲掴む。
「もう少し気の利いた答えがほしかったなー」
「返答ミスで圧死の危険ですか俺。――いや言うのは構わないんですよ。けど」
「けど?」
「言えると思いますか?」
 リディアには、彼の言葉の意味がわからない。
 彼はわずかに息を漏らしてから、おもむろに口を開いた。
「……あの時のアーチェといったr」
 言葉の途中で閃く雷鳴。それは寸分狂わず彼の登頂に直撃する。
「とまぁ、こうなるワケ」
 いつからいたのか、そこには桜色の髪を風になびかせる少女の姿。
 それが当然とでも言うかのように
「……なるほど。予想して然るべき、だね」
 苦笑。
 結局は何も変わることがなく。
 しかしそれ故に得られるものがあるのだと――そう、思う。

                to be continued "星海編"

25確執編十二章:振り返りの推奨      1/7:2007/05/31(木) 20:40:03

 ・二日目 PM2:00 サイド:リディア

 その中に踏み入った瞬間、私の中で何かが変わった。
 それはこの世界が作る大気によるものか。
 あるいは、ここが出来てから今まで流れてきた時間に、私の心が囚われたせいかもしれない。

 もう何百年も前に建てられたのだという、木造の古びた建築物。
 視覚が構築する風景をそのままに言語化してしまえば、ただそれだけでしかない。
 けれどそれは刻まれてゆく時計の針の中、世界という根源に根を張って。
 いつしか静謐な原初の記憶に溶け込んだ。
 今の私はこの建物を通して、『いつでもないいつか』の果てに触れている――

「リディアさん。詩人ですね」
 え、と思って振り返れば、そこにはいつもの早苗さん。
「ひょっとして…声、出してました?」
「はい。とても素敵な表現だと思います」
 どうやら意識で語るのを忘れた分、無意識が勝手に言葉を紡いでいたらしい。
「いえ、言ってる私にも意味のわからない言葉ですし」
 独り言を聞かれた(しかもポエム風だ)気恥ずかしさを、わたわた手を振ってごまかす。
 ただ、と、
「あらゆる物事に始まりはあって。けどそれは途方もなく昔のことで。
 私はそんな昔の世界を知ってるわけじゃないのに、この建物の今を知っている。
 ――それはきっと、どんなものにも勝る幻想。
 刻まれた時間が長いほど、多くの人がそれに触れて。確かめて。
 けど、それでも――私達が知ってるのは『今』だけなんですよね」
 早苗さんは答えない。
 やっぱりこの人はすごいと思う。
 私がこの言葉にこめた意味に気づいたから、何も言おうとはしない。 

 私は朝からずっと『あの日』のことを考えていた。

26確執編十二章:振り返りの推奨      2/7:2007/05/31(木) 20:41:24

 ・零日目 サイド:リディア

「あ、早苗さん。私も手伝います」
 古河家がここに来てから、それなりの時間が経つ。
「いえ、私は大丈夫ですよ」
「けどいつも仕事を任せてたら悪いです」
 早苗さんは四六時中家事で体を動かしている。
「好きでやってることですから」
 にこりと笑顔。
 そう返されてしまうと、何も言い返せない。
 と、そこに秋生さんと渚が乱入。
「おー、早苗。今日もコスモにシャインな感じが素晴らしいぞ」
「秋生さんも、ポップでシルクな感じがとっても素敵ですよ」
「そーかそーか。おら、マイソン渚もグレートにボムってみろ」
「私ボムったりしないですっ」
「それに秋生さん、ソンは息子ですよ」
「あー、そうだっけか? 何、生えてるか生えてないかの違いだろ」
 ……何ていうか、この一家はすごい。
 親子という明確な形を持った『家族』を見るのは久しぶりだったので、
危うくこれが普通の『家族』なんだと最初は錯覚しそうになった。
 ――けど、理想的なことには変わりないよね。
 素直に、羨ましい。
 それはかつてあったもの。
 けど今はないもの。

 声をかけることさえ憚れる気がして、私は無言でその場から離れた。

 今に不満があるわけじゃない。
 そんなこと考えたらみんなに失礼だ。
 だから、そう――それはわがままなんだと思う。
 今に満足してて、それでも求めずにはいられない衝動。
 この感情を的確に表現出来る語彙を私は持っていない。
 ただ、強いて言うならば。
 それは、迷子の子供が覚える『喪失』に近かったのかもしれない。

 気がつくと、私はいつも早苗さんの後についてまわっていた。
 何かをするわけでもなく。何かを求めるわけでもなく。
 ただ、隣においてほしかった。
 ――誰よりも、お母さんに近い人だったから。
 そこに失った『母親』の幻想を重ねてるだけだということには、とっくに気づいていた。
 けど、それでもよかったんだ。

 だって、早苗さんは涙が出るくらい優しかったから。

27確執編十二章:振り返りの推奨      3/7:2007/05/31(木) 20:42:26
 だけど、それはある時突然失われた。

 始まりはアーチェの一言だった。
「リディア。アンタ最近ずいぶん早苗さんにひっついてんね」
 何気ないその一言に、何故か私の背中に冷たいものが走った。
「……そう、かな?」
「うん。なんかこう、母鳥の後ろについてまわる小鳥みたいな?」
 ぴく、と私の眉が動いた。
 今のアーチェの言葉は何かおかしかった。
 内容が、というより、そこにまとわせた雰囲気が、だ。
「偶然じゃないかな。早苗さん、いつも率先して家事してくれてて、何か申し訳ないし」
 これが彼女でなかったなら、正直に胸の内を明かしていたかもしれない。
 けれど、私はアーチェの過去を知っている。
 彼女は物心ついた時に母親を失っている。私と同じように。
 だから、そう。

 ――それはきっと、後ろめたさと表現されるものに違いなかった。

「ふーん」
 アーチェの返答はそっけない。
 それだけなのに、私の心は激しく漣(さざなみ)立った。
 何だか、遠まわしに嬲られているような気がした。
 後ろめたさに付随する感情が何なのか、その時の私はまだ気付いていなかった。
 と、それまでそっぽを向いていたアーチェがこちらに向き直った。
 目が合う。
 そして、彼女はその言葉を口にした。

「じゃあさ。なんでアンタ、『しまった!』って字を顔に貼り付けてるワケ?」

 激しく鼓動が跳ね、全身が凍りついたように動かなくなった。
 ――見透か、された。
 ようやく気づく。
 これまでの会話は、私を秤にかけていたのだと。
「何か気になってたんだよねー。度々ちらちらとこっちの顔を伺うような素振りしてたじゃん?
 ……ねぇリディア。まさかとは思うけど」
 嫌な汗が流れ、インナーが体に張り付くのに煩わしさを覚える。
 ――本当、何だかすごく、イヤな感じ。
「アンタ、あたしに申し訳ないとか思ってない?」
 後ろめたさに付随するもの。

 それは自己防衛のための苛立ちだと、気づいた時には遅かった。

28確執編十二章:振り返りの推奨      4/7:2007/05/31(木) 20:43:33

 ・二日目 PM2:00 サイド:リディア

 ふと、誰かに頭をはたかれた。
 疑問符を浮かべながら振り返る。
「タッチしました。もう鬼の運命からは逃れられません」
 得意気に胸を張る風子。ますますわからない。
「あの…実はふぅちゃんが、退屈だから鬼ごっこしようって」
 どうやらここは風子の退屈を紛らわせるのには向かないらしい。
 苦笑する。確かにアクティブ派な風子向けの場所とは言えない。
 そんなことを考えている間に、あたりの空間はたちまち風子ワールドに呑まれていった。
「風子の逃げ足はドドリア級です! 簡単には捕まりません」
 すごいのかすごくないのか、やっぱりまったくわからない。
「ちなみに風子はまだあと二回変身を残しています」
 つまりすでに一度は変身しているわけか。これには妙に得心。
「さぁザーボンさん、やっておしまいなさい!」
 少なくとも鬼に対して反撃するゲームは、鬼ごっことは呼ばない。
 ここでしばしの間。
「ふぅちゃん、それって私のことですか?」
 きょとんとした顔で、渚。風子は当然だと言わんばかりに頷いて、
「そうです。ザーボンさんも変身してギャリック砲でどかーんです」
 どうでもいいけれど、渚はギャリック砲とやらを使う側なのか、それとも使われてやられる側なのか。
「私、変身なんて出来ないですっ」
 つっこむところはそこじゃない気が。
「仕方ないです。風子が直々にお相手してさしあげましょう」
 いやだから。
「か〜め〜は〜……」
 何だろう。何かが激しく間違っていると、誰かが私に告げている。

「……め〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」

 ――あぁ、もう何かがひどく、やりきれない。

「敵はこなごなになりました」
 されたらしい。
「風子にチェーンソーは必要ありません」
 変身の効果はすさまじい。本当に。
「ご褒美に風子の最終形態をお見せしましょう」
 ここで変身するんだ。しかも一足飛び。
「あ、今Bボタンが押されました。変身はストップです」
 もう何が何やら。
「というわけで、あなたが鬼です」
 戻ってきた。

 とりあえずすべてのツッコミを心の中にしまいこんで、私は風子を捕まえに走った。

29確執編十二章:振り返りの推奨      4/7:2007/05/31(木) 20:44:15

 ・零日目 サイド:リディア

「アンタが早苗さんに懐くのは勝手だけどさ。あたしに妙な同情するのはやめてくんない?」
 怒気を孕んだアーチェの声を、どこか遠くで聞いていた。
 同情。確かに、そう捉えられてもおかしくない。
 ――けど、釈然としない。
 私が無言を貫くことを受けて、アーチェがさらにまくし立てる。
「アンタは記憶があるから、幻想を重ねられる。あたしにはそれがないから出来ない、とか?
 ……その考え方が、どれだけ高いとこからあたしを見下してるか、アンタわかってるわけ?」
「……ってない」
「え?」

「そんなこと…私、言ってないじゃない!」

 自分でも驚くくらいの声量が出た。
 これは予想外だったのか、アーチェも思わず言葉を止めた。
「勝手に被害者ぶって、悲劇のヒロイン気取って、私を悪役にしないでよ!」
「なっ……」
 もともと後ろめたさから圧迫されていた感情が、アーチェの言葉を引き金にして爆発した。
 頭の片隅で、自嘲気味に考える――あぁ、私は今、大切なものを壊そうとしている。
「そうだよ。私は早苗さんに『お母さん』の姿を見てた。
 それはアーチェにそこまで責められなきゃいけないこと?」
「あたしの話聞いてた? んなのはどうでもいいの! あたしは……」
「嘘」
 ぴたりと、アーチェが硬直する。
「どうでもよくないから、そうやって声を荒げるんじゃない。
 アーチェだって私と同じなのに、自分には出来ないから私につっかかってくる」
 今の私はきっとひどく嫌な顔をしているだろう。
「本当にどうでもいいなら、同情云々なんて言葉を使って私を否定したりしない。
 あなたは記憶を持ってないから、私に嫉妬してるだけ!」
 取り返しのつかないことをしているのは、わかっていた。
 けど、止まらない。堰が決壊した時点ですべては手遅れだった。
 アーチェの顔から、一切の感情が消えた。
「……言ってくれんじゃない」
 それは今だかつて見たことのない、アーチェの本気の怒りだった。
 この火力に比べれば、『彼』との諍いの時のなんてマッチの火くらいのものだろう。

30確執編十二章:振り返りの推奨      6/7:2007/05/31(木) 20:45:15

 ・二日目 PM4:00 サイド:リディア

「前々から疑問に思ってたんだがな」
 試食用の八橋を掲げながら、一言。
「なんでこれ、こんな形してんだろうな」
 おみやげ屋に入るなり、真っ先に秋生さんが口にした言葉がそれだった。
 まじまじと私もそれを見つめる。
 四角形の白いお餅みたいなものの中に、あんこを入れて挟んだ三角形の物質。
 確かに珍しいかもしれない。
「食感も、お餅より硬いけど柔らかくて面白いです」
 少しずつちぎってちまちまと口に入れているのは渚。
「私、中学の時の修学旅行も病気で休んでしまったので、八橋を食べるの夢だったんです」
 つまり念願がようやく叶ったわけだ。
「味の方も、けっこう面白いよね」
「はい。言葉では表現できない美味しさです」
 渚の表現は、時々オーバーな気もするけれど。
 そんなことも楽しくて、私は自然と笑みを浮かべていた。
「見てください。大発見です」
「どうしましたか、ふぅちゃん?」
 風子は両手に八橋を何個も持っていた。
 どうでもいいけれど、試食品をそんなにもらっていいんだろうか。
「ほら、こうやって3つ重ねると」
「……星?」
「ヒトデです」
 なるほど。言われてみると、角が5つあるやや黄色っぽい白はヒトデに見えなくもない。
「きっと風子とヒトデは離れられない運命にあるに違いありません」
「それ張り付かれてるんじゃ……」
 ツッコミは、しかし彼女の耳には届かない。見ると恍惚な表情を浮かべて停止している。
 どうやら遠い世界に旅立たれてしまわれたらしい。
「なんだ? どした?」
 風子の異変に気づいた秋生さんが、その手に握られたヒトデ(メイドバイ八橋)に目をつけると、
「いらないんならもらってやるぞ」
 私が静止するより早く口の中に放り込んだ。3つまとめて。
「はっ、今ヒトデとどちらが長く岩に張り付いてられるか競争する夢を見てました」
 我に返った。それにしても微妙な夢だ。
「あれ? 風子のヒトデはどこに行ってしまったんでしょう」
「そこ」
 指差したのは、秋生さんの口。
「風子のヒトデ、食べたんですかっ!」
「あん? んなもの食ってねぇぞ」
「怖ろしいです……今度から、あなたのことはヒトデイーターと呼ぶことにします」
「馬鹿野郎。俺様のことはちゃんと秋生様と呼べ」
「じゃあ合わせてヒトデ様と呼ぶことにします」
「俺はどこにいったんだよ!」
「まったく、とてもわがままです。仕方がないので秋生イーターと呼ぶことにします」
「『俺の主食:俺』、って何だそりゃぁぁぁっ!」
「お父さんとふぅちゃん、とっても仲が良くて羨ましいです」
「…………そう?」

31確執編十二章:振り返りの推奨      7/7:2007/05/31(木) 20:46:20

 ・零日目 サイド:リディア

 私は知らず、一歩下がっていた。
「記憶、ね。さも大事なものみたくアンタは言ってるけどさ。それってそんなに大層なわけ?」
 あたりの音を殺し尽くしたかのような静寂の中、アーチェの声だけが空気を震わせる。
「あ、答えなくていいから。持たないあたしには、どんだけ語られてもどうせわかんないし。
 過去の思い出にすがり付いて、幻想に浸るのはさぞ気分がいいんでしょうね」
 その声はひどく落ち着いていて。
 それだけに、内に宿る昏い炎が透けて見えるかのようだった。
「けど、さ」
 アーチェの右手に力が宿るのが見えた。
 息を飲む。
 アーチェは本気だ。あの魔力量が解き放たれたら、この家は一瞬で吹き飛ぶ。
 けど、そんなことよりも――私にはアーチェが紡ぐ言葉の方が重要だった。
「過去にすがる惨めな姿を誇るなんて、アンタみっともないわ」
 それはどんな刃物よりも鋭く私の胸に突き刺さる。
「あたしは、今のままでいい。杏とポーカーしたり、春原を焦がしたり、アイツをからかってみたり。
 それで十分。十分、楽しい。何の不満もない。
 そのあたしに、同情? リディア――今のアンタ、あたしよりよっぽど可哀想だよ」
 薄れ掛けていた炎が、再び激しく燃え上がった。
「勝手に決めないで! 私だって何の不満もない!」
「なら何であたしに同情なんてすんのよ! 後ろめたいことしてるからじゃないわけ!?」
「…………っ!!」
 感情が空回りして、言葉がついてこない。

 私はほとんど反射的に右手を掲げ、呪文を紡いでいた。
 完全に我を忘れていた。ただ、目の前の自分を脅かす存在を消したかった。
 それに呼応するように、アーチェもかざした右手から魔力を解き放つ――

「けんかー?」
 
 硬直した。
 視線の先に、アスミがいた。
 考えてみれば、これだけ騒いでみんなが気づかないはずがない。
 アスミは相変わらずぼんやりとした表情で、それでもしっかりとこちらを見ていた。
 私は――目を合わせられなかった。
 と同時に、これまで張り詰めさせていた緊張の糸が解けてしまった。
 腰が抜けたように、ぺたりと床に座り込む。
 アーチェに負けないよう必死にこらえていた涙が、幾筋も頬を伝って床に落ちる。

「あなたが、そんなこと言うなんて、思わなかった……!」

32確執編十Ⅲ章:落日の語り草      1/7:2007/06/09(土) 21:26:58

 ・二日目 AM10:00

「あ、おはようございます」
 震える体を押さえながら窓から部屋に入ると、温かい声が出迎えてくれた。
「おはようございます、リヴァル」
 リヴァルはにこりと笑みを浮かべ、部屋の掃除に戻る。
 きさらぎが独断で増設した地下室が完成して以来、
部屋の数にゆとりが出来て寝袋生活から脱却出来た。
 ――まではよかったのだが。
「何で地下室ってあんな異様に冷えるんですかねー…
 風が吹かないだけマシと言えばマシですけど」
 ちなみに2つある地下室で寝てるのは、「外よりかは…」な男組と、
趣味で生息してるきさらぎ、プリシスだけだ。
 特に前者の部屋の入り口は外にあるので、夜這いの心配もなく女性陣も安心、なのだそうだ。
「私は一緒の部屋でも構わないんですけど…」
 やや困った笑顔の彼女に、浅薄な発言だったことを悟る。
「あぁすいません。別に責めてるわけではないんです。慣れてますしね。
 リヴァルはご苦労様。鬼の居ぬ間に部屋の掃除ですか」
「はい。あ、いえ、人が少ない時にやる方がいいかな、と」
「部屋の中で常時吹き荒れる台風共がいたら、片付ける意味そのものに悩むことになりますしね」
 リヴァルは苦笑。笑顔が絶えない娘だと思いつつ、
「他の4人は?」
「プリシスときさらぎさんは、部屋からまだ出てこないですね。
 セリスさんは買い物に。もうすぐ帰ってくると思いますよ。
 で、アスミは……」
 ちらりと一瞥。
 視線を追えば、そこには世にも幸せそうな寝顔で布団にうずくまる姿。
「昨夜は遅くまで頑張ってましたしね」
 その寝顔を見ているだけで、穏やかな気持ちになれる気がした。
 ふとリヴァルの顔から初めて笑顔が消えた。やや警戒するように、
「……やっぱり、襲いたくなりますか?」
 ぴたりと硬直。
「…………それは、誰ぞの物言いですか?」
「アーチェさんです」
「あの魔女っ娘の皮を被った悪魔め……」

33確執編十三章:落日の語り草      2/7:2007/06/09(土) 21:29:04

 ・二日目 PM1:00

 ぼんやりと天井を見上げる。
 こんなにこの部屋が静かなことは滅多にない。
『わー、すべるー』
『アスミー、それもとはむじん君用のローラーだから。無茶な使い方しないでよー』
 窓の外から聞こえてくる穏やかなやりとり。
 平穏、という言葉で表される瞬間。
 それが仮初の、あるいは逃避の結果得られたものであっても、大事な一時であると思う。
『とつげきー』
『ちょ、こっち来んな、ぶつかるって!』
『おまえもすでにしんでるー』
『道連れッ!?』
 激突音。
 ――穏やかだと、思っておこう。
 ふと何となく小腹がすき、冷蔵庫を漁ってみる。
 遅い朝食だからと軽めにとったのがよくなかったかなーと独りごちつつ、
 見ると冷凍肉まんがあと一個。
「……誰も、いない」
 わかっているのに、あたりを見回さずにはいられない。
 普段だと大概命をかけた奪い合いになる。
 もっとも、自分はそれに参加することはない。
 弱肉強食の世界において、男はそれだけでヒエラルキーの最下層に位置づけられる。
 今、自分は何かに勝ったような気がした。
 ――悲しすぎる錯覚だったが。
 肉まんをレンジに放り込んで、一分。
「さって、と……」
 終了を告げる軽い音と共に、取り出した瞬間。
「おなかすいたー、ごはんだー」
 いきなり窓が開いた。
「ごはんはっけー」
 即座に肉まんに反応した。というか、
 ――まさか匂いを嗅ぎつけて……!?
「こ、これは俺のです! いつもあげるとは限りませんよ!」
「ずるいー。おなかすいたー。たべるー」
 言いながら、窓からこっちに駆けてくる。
 すごい速さで。
「なっ!? あ、こらローラーのまま部屋に入るんじゃ」
「おまえもすでにしんでるー」
「連続殺人ッ!?」
 激突音。

 結局、肉まんは餌に釣られた魚のように食いついてきたアスミに略奪された。

34確執編十三章:落日の語り草      3/7:2007/06/09(土) 21:31:21

 ・二日目 PM3:00

「おなかすいたー、おやつだー」 
 長針は原点。短針との為す角は90度。
 なるほど、確かに世間一般に言う『おやつタイム』に相違なく、
アスミの空腹コールが鳴り出すのも無理からぬことだった。
 が、
「おやつならありませんよ」
「ないー?」
 小首を傾げる。
「さっきアスミも冷蔵庫の中を見たでしょう?」
「みたー、からっぽー」
「昨夜までは確かに三日分くらいの間食用食品はあったんです」
「あったー」
「勝手に食べましたね?」
「たべたー」
 満面の笑みで答えてくれた。
 こちらもそれに応えるように笑顔で、しかし頬はわずかにひきつり、
「だから、ありません」
「買いにいこー」
「お金もありません」
「じゃあどうするー?」
「我慢しましょう」
 ここで、しばしの間。
「とりゃー」
「うげっ、実力行使なんて卑怯ですよ!」
「ぽかんっ」
「痛ッ! グーで殴ったでしょう今ッ!? 親父にだってぶたれたことないのに!」
「ぽかんっ」
「くっ、やはり通じないか。プリシスッ! プリシスはおらぬか!」
「いないよー」
 すぐ隣から聞こえてくる声。
 寝転がりながら何かに目を通している。
「手を貸して、痛ッ! このままだと、『罪状:おやつ用意し忘れ罪』で公開私刑に!」
「あたしも間食ほしいしー」
「うわアスミの味方だよこの人。リヴァル助けてー」
「……すみません(曖昧な笑み)」
「味方が、味方がいないっ」

 最初からわかっていたことだ。
 しょせん自分はヒエラルキーの最下層の住人なのだから。
 無論、この直後に買い物に走ったのは言うまでもない。

35確執編十三章:落日の語り草      4/7:2007/06/09(土) 21:35:26

 ・二日目 PM5:30

 日が暮れた。
 電気を点けようとする者はなく、落日の闇が部屋の中に立ち込める。
 その場にいたのは、3人。
 うち1人はベッドを占領して昼寝の真っ最中。お陰で部屋は嘘のように静かだ。
 必然的に、一対一の構図となっている。
 そのもう一人は、暗がりの中に浮かぶかすかな光を頼りに、変わらず書物を読みふけっていた。
「さっきから何を読んでるんです?」
 問いかける。返答は、一拍置いてから来た。
「特殊相対性理論の基礎理念」
「面白いの読んでますねー」
「暇つぶしにはちょうどいいかな。一般人向けの簡略書だし」
 言葉が途切れる。
「……あー、こうして二人で話すのって、初めてじゃありません?」
「だっけ? そんな大したことじゃないでしょ」
「目、悪くなりますよ?」
「じゃあ電気点けてよ」
「アスミが起きるかもしれませんし」
「なら最初から言うなっ」
 言葉が途切れる。
 わかっていたことだが、会話が続かない。
 意図して避けられているわけではない。おそらくは、だが。
 ただ、向こうからこちらに話しかけてくることがほぼ皆無なのも事実だ。
「あなたは、聞かないんですね」
「何を?」
「俺が何をしようとしてるのか」
 それは漠然とした表現だったが、意味は容易に相手に伝わった。
「話す気があるの?」
「当事者達に対しては黙秘権を行使するつもりですが」
「……話したいの?」
「はい、すごく」
 ぱたりと本を閉じる音。
 部屋は完全に闇に包まれ、すぐ近くの相手の顔さえ伺えない。
「じゃあ聞かせてよ。リディアとアーチェに、何をしようとしてんの?」
「少なくとも、あの二人の喧嘩の仲裁ではないです」
「そうなの?」
 意外、と言外で言っている。
 単純に考えれば、それが一番ありそうな答えだろう。
 発端がそこにあるのは明白なのだから。
「しょせん俺も部外者ですから。二人の問題は、二人でしか解決できないでしょう?」
「てっきりお節介で茶々を入れようとしてるんだと思ってたけど」
「そんなことしたって二人に嫌われるだけです。
 ……好き好んで嫌われたがる奴なんていませんよ」

36確執編十三章:落日の語り草      5/7:2007/06/09(土) 21:36:41
「どんなに仲のいい相手とでも喧嘩にはなります。
 プリシスだってそういう経験、あるでしょう?」
「そりゃ、あるけど」
「本当の意味で人は人を理解することなんて出来ないんです。理解した気になるだけで。
 その理解に齟齬が生じた時、つまり己の理解が無理解であるのを悟った時、相手と喧嘩になる」
「そんなのわかってるってば」
 暗闇の中、気配で相手がこちらに寄ってきたことを知る。
 アスミを起こさぬよう押し殺した声で、
「だから、あんたは何をしようとしてるの?」
「聞きたいですか?」
「別に」
「すいません語らせてください」
「弱いなー」
 小さくひとつ、咳払い。
「喧嘩自体は問題じゃない。問題なのは、彼女達が理解の無理解を受け止めきれなかったことです」
「……何それ?」
 いいですか、と告げた後、
「人はしばしば容れ物という意味で『器』に例えられます。
 長い時間をかけて己という器に経験や想い出を入れていくわけです」
「それで?」
「彼女達はね、力量を容れるための器が大きすぎるんです」
 視線を上に向ける。
 無論、そこにあるのは暗闇の中わずかに映る天井だけだ。
 小さく溜息を一つ。
「あまりに強すぎる力を持つが故に、一つ間違えると簡単に大惨事を引き起こす」
「それは確かにそうだけど…そんなの、言われるまでもなく二人だって理解してるんじゃない?」
 その通り、とうなずく。
「彼女達にしてみれば生まれた頃から付き合ってきた力です。
 外野の俺なんかより、その危険性は遥かに理解してるでしょう。
 故に、どれだけ腹が立っても『魔法』を喧嘩の道具に使ったりはしない」
「あっ……!」
 そこでプリシスは気づいたようだ。

「――そう。にも関わらず、あの時の二人は喧嘩に『魔法』を使おうとした」

37確執編十三章:落日の語り草      6/7:2007/06/09(土) 21:37:39
 しん、と痛いほどの静寂に包まれる。
 それを心地よいと思う自分の感覚は、どこかおかしいのだろうかと思いつつ。
「……何で?」
「だから、理解の無理解ですよ」
「言葉遊びはいいって」
「……これだけが取り柄なのに」
「後ろ向きな発言もいいから」
 再び咳払い。
「……あの二人、あれで今まで本気で喧嘩したこと、一度もなかったんですよ」
 少なくとも自分は知らない、と言葉を付け足す。
「あれ? 一年以上前にそれっぽいことなかったっけ?」
 そんなこともあった、と懐かしげにうなずく。
「あの時はひとつの国が消えました……」
「あんたの妄想王国だった気が」
「クリティカルなこと言わないで下さい。傷つきます。
 で、あれは喧嘩じゃありません。アーチェはともかく、リディア様は腹を立ててはいませんでしたし」
 そもそも、と、
「リディア様が本気で怒ること自体、極めてレアなんです。
 俺も今回の一件を除けば、初夏の浮気騒……」
 言いかけて、やめる。小さくかぶりを振って、
「という背景から、あの二人が本気で衝突したのは今回が初めてだと言えるでしょう」
「初めてだから『魔法』を使おうとしたの?」
「正確には違います。あなたも二人のやりとりは耳にしてたんですよね?」
「そりゃ、あれだけ大声でケンカしてたら嫌でも耳に届くよ。
 聞かなかったのは、その場にいなかったあんたと古河家くらいだったんじゃない?」
「そこに早苗さんがいてくれたら、ここまでこじれることはなかったんでしょうけど」
「……あんたでも、よかったと思うけど」
「そう思いますか?」
 無視された。
「俺もリヴァルから聞いたので概ね把握してますが……
 二人は、どちらも自分自身が理由でキレたんです。だからあれだけ激しく沸騰した」
「説明する気なら、最初からわかりやすく言ってよ」

「つまりですね。二人は『相手に不満があったから』腹を立てたんじゃない。
 ――自分に許せない部分があったから。そこを相手に突かれて狼狽したんですよ」

38確執編十三章:落日の語り草      7/7:2007/06/09(土) 21:38:29
「前者の場合は簡単なんです。互いに相手に文句を言い合って喧嘩すれば、それで終わる。
 何故なら喧嘩の結果、互いに相手を知ることが出来るから。
 一方、後者の場合はそうはいかない。喧嘩の原因は相手ではなく、自分の中にあるんですから。
 そこに、『理解の無理解』です。信頼とは、時にもっとも残酷な刃となる。
 二人はまさか相手があんな言葉を自分に向けてくるとは考えてもいなかった。
 自分自身でさえ持て余していた感情を相手に指摘され、抉り出され。
 ――結果として、互いに傷つけあうしか二人に道は残されてなかったんです。
 ……そんなこと誰一人として望んでいなかったのに」
「…………」
「こうなると一度衝突したぐらいじゃ何も解決しない。むしろこじれる。自己防衛本能が働きますからね。
 複雑に絡んだ糸を解くためには、一度二人を引き離した方が良かった」
「だから、旅行先を2つに分けた?」
 うなずく。
「彼女達は互いに喧嘩の原因が自分にあることを理解している。けど認められない。
 それを認めてしまうと、自分の信念を自ら否定することに繋がってしまうから。
 だから相手を否定する。それにさらに自己嫌悪を覚え、それさえ認められず――悪循環です。
 赦したくても赦せない。そんな袋小路の中にいる。

 ――二人が『魔法』を使おうとしたのは、ひょっとしたら自分の非を認められない
   狭量な自身に対してだったんじゃないかと、俺は思うんです」

 眩しさに目を細める。
 いつの間にか立ち上がったプリシスが、灯りのスイッチを入れていた。
「最後に。二人に、アスミと『アクマ』をぶつける理由は?」
 上から見上げるような体勢で、彼女は言う。
 何故か、それを自分が見上げる行為はひどく背徳的な気がした。苦笑して、目をそらす。
「自分の間違いを認められない人間ほど、ガラスのように強くて脆い信念に縋りたがる。
 一度徹底的に負ければ、自分の弱さに嫌でも気づかされるでしょう?」
 あの二人じゃアスミや『アクマ』には勝てませんし、と付け加える。
「間違いを支える信念はいらない、か……」
 アスミが寝返りを打つ。そろそろ目を覚ます頃合いだろう。
「結局、お節介で茶々入れてんじゃん」
「そうですね」
「嫌われるね」
「そうですね」
「このことちゃんと話したら、二人も考え方変えるかもよ?」
「そうですね」
 苦笑。
「それが出来れば、苦労しないんですけどね……」

39確執編十四章:当たり前の気づき方    1/6:2007/06/21(木) 22:18:46

 ・二日目 PM7:00 サイド:リディア

 薄い膜の中に包まれているみたいだった。
 膜のすぐ向こう側に『私』がいる。
 それは私の知っている『私』。
 10人に問えば全員が自分だと答えるだろう、リディアという一人の人間。
 そして、それを見つめる『私』ではない私――

「リディアさん」
「…は、はいっ?」
 我に返る。最近物思いにふけることが多いな、と思いつつ。
「髪の毛…大丈夫ですか?」
 早苗さんが何を言っているのか、私には本気で理解できなかった。
 その言葉に誘われるように自分の翠色の髪に手を伸ばす。
 ――ない。
 普段なら腰を下ろしただけで床につくほどの長髪が、しかしそこにない。
 しばらく思考が止まった後、恐る恐る手を伸ばす。
 それは世界を破滅させるスイッチを前にした逡巡に似ていたかもしれない。
 押すことは出来ない。けど――だから、押したい。
 考えるうちに、私の手は自分の髪に触れた。

 ドリルにされていた。

「…………………………ねぇ、風子」
 返事がない。
「風子ちゃん?」
「…風子は今温泉ヒトデと戯れているところです。なので返事は出来ません」
 今度は返ってきた。相変わらず彼女の中で270度くらい捻じ曲げられて、だけれど。
「おいでー」
 手を振ってみる。風子の体がわずかに震えた、気がした。
「ふ、風子は何もしていません、無実の犯人です」
「犯人なら無実ってことはないと思うんだ」
「あなたのドリルはとても良く似合っています。グレートです」
「じゃあ風子もグレートにしてあげるよ」
「風子は、ヒトデがいるから遠慮しておきます」
「まぁまぁ。遠慮しない、で!」
「わ―――――っ!」

 ちなみに。
 さっきの鬼ごっこの時と同様、3秒で捕獲に成功した。

40確執編十四章:当たり前の気づき方    2/6:2007/06/21(木) 22:20:12
「もう、風子ったら……」
 何度か入念に洗って、ドリルは何とか解除出来た。
 ――ここまで言えばわかるだろうけれど。
 私は今、早苗さん達と一緒にお風呂に入っている。
 入る直前まで秋生さんが「一人にするな」とかなり駄々をこねていたけど、
早苗さんがにこやかな笑顔で黙らせた。
「これでもけっこう大事にしてるんだからね」
 湯船につからないよう結ってあげた髪を大事に撫でる。
 一方の風子はさも不服だと言うように、
「風子は悪くありません。あなたの髪が翠なのがいけないんです。風子の創作意欲を駆り立てます」
 にっこりと笑って背中から風子に抱きつく。
 家ではアスミとよく一緒に入る。私が体を洗っていると、必ずと言っていいほどこうやって抱きついてく

ることを思い出す。
 バタバタと暴れる彼女を力づくで羽交い絞め。
 しばらくするとおとなしくなったので、
「ちっちゃいねー風子」
 頭を撫でる。風子が心外そうに声を上げた。
「とても失礼ですっ。風子はまだ成長中なんです。これから竹のように伸びます」
 竹より高い風子はかなり怖い。
「そういうあなただってとても小さいです」
 無邪気な言葉が胸に――そう、胸に――突き刺さった。
「私は…いや、それはそうかもしれないけど……でもアーチェよりは……」
 思考処理が空転し始めたので、私は即座に考えることをやめた。
 その類の懊悩はアスミと一緒に入る度によぎるので慣れたしまったのかもしれない。
 ちらりと、早苗さんの方を見る。

 何だか少しだけ――主に心があるといわれる場所が――痛かった。

41確執編十四章:当たり前の気づき方    3/6:2007/06/21(木) 22:22:26

 ・二日目 PM9:50 サイド:リディア

 静かだった。
 時刻は10時を過ぎていないけれど、みんなはすでに寝静まってしまっている。
 私は相変わらず一人寝付けなかった。
 あの日から、もうずっと。
 よぎるのは無邪気なアスミの顔。
 そこに重なるのは『彼』曰く魔法使いとしてのアスミの顔。
 体が震える。何故なら――二つの顔に、違いがあるようには見えなかったから。
 ――私は、あの娘の何を理解してたんだろう。
 悩む。それは自我を闇の底へと埋没させていく行為だ。
 もう長い間、私はその闇から抜け出せていない。
 間違っていたとは、思ってない。
 けど、正しいかと言われると、やっぱりそうも思えない。
 
 ――いつものリディアがいーよ。だから今のリディアは私がやっつけるね。

 アスミの中に、今の私はいない。
 それだけでも今の自分の在り方を逡巡するには十分だった。
 なのに、止まらない。止められない。
 どうしてこんなに嫌な感情がまとわりつくんだろう。
 アーチェが悪いと。何をしても許せないと。
 ――心底からそう割り切れてれば、きっとこんな暗闇に飲まれることもないのに。

42確執編十四章:当たり前の気づき方    4/6:2007/06/21(木) 22:23:28
「眠れないんですか?」
 夜の闇にその身を預けて、どのくらい経った頃だろう。
「……早苗さん」
 とっくに暗闇に慣れた双眸が彼女の姿を視界に収める。
 その顔はどこか悲しげで、見ているだけの私でさえ胸が締め付けられるようだった。
「……すみません」
 そう囁いたのは、早苗さんの方だった。
「なんで…謝るんですか?」

「あなたをそこまで苦しめている原因が、私にあるからです」

 ナイフより遥かに鋭利な何かが私の胸に突き刺さる。
 もちろん、あの日のことを私から早苗さんに話したことは一度もない。
 知っていたからって不思議なわけじゃないけど。
 ――知られたくは、なかった。 
「やだ…謝らないで、くだ、さい」
「リディアさんとアーチェさんはあんなに仲がよかったのに。
 私が現れたりしたから、お二人はケンカしてしまったんですよね?」
「やめて……やだ……」
 嗚咽が絡みつき、息が出来ない。
 早苗さんにまで拒絶されてしまったら、私はどこへいけばいいんだろう。
 あまりに理不尽なことに、この時の私は早苗さんを憎みさえした。
 何故、自分を突き放そうとするのかと。
 無二の友達だったアーチェを否定しても、なおあなたを選んだのに。
「私を……置いていかないで……!」
 誰もいなくなる。独りになる。
 あの、炎に包まれた故郷の中で取り残された時のように。
 孤独は、辛い。
 アーチェも、アスミも、早苗さんまでもが私から離れていこうとする。
 私は、何を間違えたの?
 ただ、もう独りになりたくなかった。それだけなのに。

 ――私の居場所は、いったい、どこに……

「私を独りにしないで、『お母さん』!!!」

43確執編十四章:当たり前の気づき方    5/6:2007/06/21(木) 22:24:19
 ……あぁ、そうか。
 この時になって、馬鹿な私はようやくすべてを理解した。
 道理でずっとひっかかっていたわけだ。
 私は、私自身を何一つ理解してはいなかった。それを今、やっと理解できた。
 同時に、自分のあまりの愚かさに目を背けたくなった。
 アーチェが私と同じ?
 とんでもない。アーチェは私よりもずっと純粋だった。

 私は早苗さんをお母さんだと思っていたわけじゃない。
 言いたかった言葉が。届かなかった言葉が――ずっと私の心の中で澱として残っていて。
 お母さんの命の灯火が私の目の前で消え果た時、幼かった私はただ泣きじゃくるだけだった。
 その時の記憶は真っ赤に焼けた鎖となって、無意識下で私をずっと縛り続けてきた。
 どうして、あの時の私は言うことが出来なかったんだろう。



 独りにしないで、と。
 私を置いていかないで、と。



 もちろん、言葉にしたところで何かが変わったわけじゃない。
 頭がそれを理解していても、何もならない。人は理性で動く生き物じゃない。
 どうして、あの時の私は最後の瞬間までお母さんに縋ることが出来なかったんだろう。
 ――私の根本にあったのは『後悔』だった。
 私は、ずっとずっと、お母さんに謝りたかったんだ。

 私は早苗さんをお母さんだと思っていたわけじゃない。
 早苗さんを通して、お母さんに償いたいという自分の欲望を満たそうとしていただけだ。
 私の両のまなざしは、どこにも向いていなかった。
 誰も見てなどいなかった。
 それでどうして、誰も私を見てくれなくなったことに文句を言えるだろう?

 私から居場所を奪ったのは、他でもない、私自身だった。

44確執編十四章:当たり前の気づき方    6/6:2007/06/21(木) 22:25:11
「独りになんて…しないです」
 その声に私は我に返った。
 早苗さんじゃない。後ろから聞こえてきたその声は、
「………………なぎ、さ」
 いつから聞いていたんだろう。
「ぐすっ……私達は、ずっと家族です。だから…ずっと一緒にいましょう」
 涙で顔をぐしゃぐしゃにして嗚咽を殺す渚に、私は思わず息を飲んだ。
「あのな、お前。なんかよくわからんが、一人で溜め込むな」
 頭を思いっきり撫でられた。
「秋生…さん」
 彼はとても苦々しい顔をしていた。私にはその理由がわかる。
 だから、どうしようもなく嬉しい。
「辛い時は俺らを頼れ。泣きつけ。そんで問題を押し付けろ。
 迷惑がかかると思うか? けどな、ガキに迷惑かけられるほど嬉しいことはないんだよ、親ってのはな」
 ――この人は、私が苦しんでることに心を痛めてくれている。
 さらに私の胸に飛び込んできたのは、
「風子……」
「風子との鬼ごっこはまだ終わっていません。勝ち逃げはよくないです」
 言ってることは相変わらずだったけれど、しがみついてくる腕ごしに想いは伝わってきた。
「私は……」
 ――本当に、馬鹿だ。
 すぐ近くにいたのに。息が重なるほど近くに、私を見てくれている人はいたのに。
「リディアさん」
 目の前の早苗さんが、笑った。
 いつものとびっきりの笑顔で、

「これが、『家族』ですよ」

 心の澱が、涙となって流れ落ちていく気がした。

 ――お母さん、ごめんなさい。
 最後までお母さんを見続けることが出来なくて。
 目の前の自分しか見えていなくて。
 今頃になって謝ったりして――ごめんなさい。


 私をここまで歩ませてくれて、ありがとう。

45ピエット提督 ◆ltk3xwOrlM:2007/06/23(土) 20:42:26
と、言うわけでこっちに来たわけですが

46コレットたんは天使カワイイ:2007/06/23(土) 20:45:05
>>45
そもそも今回のはギリギリ裏になりかけそうなネタを僕が出して…
僕の○○○を切り落とそうとしたから反撃したわけで。

…つーか続きどうやって書くの?しかもあれSSかキャラ雑談どっちなのか判断つかないからなぁ…

47乃木平八郎 ◆xr2aDZKr1A:2007/06/23(土) 20:49:49
>>46
それでその後俺が介入して・・・って俺が元凶か?
一同「うん」
だ、誰かフォローしてくれヨ・・・
SSの部類だと思いますヨ

48 ◆VioleTnHxg:2007/06/23(土) 20:51:40
単独SSや短めなキャラ雑談なら大体ここ、エロありならカプ雑談
あとはそこらへんの空いてるスレでどうぞ

49ピエット提督 ◆ltk3xwOrlM:2007/06/23(土) 20:51:40
本スレ>>682

Sトルーパー「なんだ!?ブラスターが効かない!」
コンバイン兵「パルスライフルも効かん!どういうことだ!?」
Cトルーパー「落ち着け同志達よ!こういう未知の兵器はだな、wikiで…」

ピコーン!

コンソル:こいつを使ってくれ!
つ【何の変哲も無いサブマシンガン】

Sトルーパー「おおっ、こんな原始的な火薬兵器なのに貫通している!」
コンバイン兵「原始的とか言うな!俺達には最新の兵器だ!」

>>46-47
触らぬ神に祟り無し…論争になる前に引いたほうが得ですよ。

ふたなりは個人的には好物だったり。

50乃木平八郎 ◆xr2aDZKr1A:2007/06/23(土) 20:56:15
>>本スレ684
山本「ううむ、敵戦闘機は鹵獲したものの・・・」
南雲「肝心な飛行士が乗っておらぬとは・・・」
井上「それより早く逃げましょう!」
山本「うむ!で、どこにだ!」
静まり返る一同・・・
南雲 井上(ここまで来てそれですか元帥殿・・・)

51ピエット提督 ◆ltk3xwOrlM:2007/06/23(土) 21:00:43
>>48
そんなに長くも無いので、ここをお借りできればと。

>>50
アッシュ「ふうっ、ここまで泳げば良いだろう。我ながら軽率なことをしたものだ…」

――ヴィクトリー級艦内

帝国将校A「早く閣下を収容しろ!敵や怪物は放っておけ!ああ…バレたら私の出世が消える」
帝国将校B「やってます!やってますが…(バレたら全員処刑だろうなぁ…」

52コレットたんは天使カワイイ:2007/06/23(土) 21:01:10
>>49
うぐっ…ぐ…ディストーションフィールドは熱量兵器に対しては強いけど実弾への耐性があまり無いから…な。
でも、こんな所でぇ…やられてたまるかぁぁぁぁ!
コレット「グランドクロス!」
(グランドクロスの詠唱が完了し、光の十字架があたりを巻き込む)
デュランダル、行くよ…
デュランダル「OK.boss」
みんな、下がって!エターナルコフィンを使う!
ロイ・コレット・エレノア「わかった!」
悠久なる凍土……凍てつく棺の内にて、永遠の眠りを与えよ…凍てつけ!
デュランダル「Eternal Coffin」
はぁぁぁぁっ!

ふたなり好みならそういって下さればよかったのに…てか論争じゃ勝ち目ありませんw

53乃木平八郎 ◆xr2aDZKr1A:2007/06/23(土) 21:07:14
>>51
山本「ふぅ・・・で、舞鶴港まで来たわけだが・・・」
南雲「ここは松岡殿の力を借りようではないか!」
井上「おお、賛成である!」

 〜緊急国際会議〜
まつおかよ○すけ「今世界は新たなる謎の国家によって危機に瀕している!
今、世界中の国々が一致団結し、その謎の国家を倒すことが先決である!」

参加国 47国 賛成 1票 反対 44票 危険 2国

翌日の新聞
〜さらば世界よ まつおかよ○すけの説得もむなしく〜

54コレットたんは天使カワイイ:2007/06/23(土) 21:08:26
>>53
ちょwテラヒドスw

55ピエット提督 ◆ltk3xwOrlM:2007/06/23(土) 21:16:06
>>52
ウホァァーという情けない断末魔を残して、防御区画のマリーン達は一掃された。が、艦内には
無数に防御区画があり、総司令官たるピエットを葬るにはまだまだ試練が残されていた。

ブルーニャ「なんて事…次の区画で守りなさい!」
ウルスラ「全員に火薬兵器を支給!ブラスター系の兵器は敵のシールドには無効よ!火薬兵器
       で応戦しなさい」
バレイポット「ふん…その小さな勝利に酔っているが良い…」


いや、本スレじゃまずいでしょw   論争はめんどい。寝落ちしたら逃げたと思われるし。

>>53
アッシュ「世話をかけたな」
帝国将校「もう勘弁して下さい…orz」
クルー達(た、助かった…)

アッシュ「どうやら国際会議が開かれているようだな?」
帝国将校「はっ、どうやら我々に対する同盟を結成するためのものであったようですが、決裂した
       模様」
アッシュ「なんだ、意気地の無い奴らだ」

56乃木平八郎 ◆xr2aDZKr1A:2007/06/23(土) 21:21:03
>>55
山本「どうでしたか?松岡殿」
松岡「うん ダメだったヨ」
南雲「な、なんてこったい!orz」

一方その頃アラスカでは・・・

シギント「まさかアンタに協力しなくちゃいけなくなるなんてな」
オセロット「うるさいぞ!メタルギアRAY、行くぞ!」
パラメディック「気を付けてね〜」
オセロット「能天気なやつらめ・・・!」

57コレットたんは天使カワイイ:2007/06/23(土) 21:29:05
>>55
…エターナルコフィン使うまでもなかったね。
(次の区画へ進むとまたも敵がやってくる)
っと、次のお客さんがきた…か。
僕は正直、砲撃魔法とか極大魔法を連発したくはないんだけどね…きついし。
ロイ「翼、あんまり無茶はするなよ?」
わかってる。デュランダル…行くよ。
デュランダル「OK.boss」
エクセリオン・バスタァー!
(もともとは高町なのはが生み出した砲撃魔法…しかし、これを発動するには)
(カートリッジシステムと呼ばれるある特殊なシステムを搭載しなければならないが、それを使用せずに発動しているため…)
(なのはたち以上の魔力を保有している事がそこからわかる)
(それと同時に非殺傷設定を解除した白い魔力光が通路を開く)
エレノア「す、すごい…」
コレット「元々デュランダルは、氷結魔法に特化した杖なのに…それを見事に使いこなしてる」

58コレットたんは天使カワイイ:2007/06/23(土) 21:29:59
>>55
あ、確かに。僕も時たまPC電源つけっぱで部屋に引きこもる時ありますし。

59ピエット提督 ◆ltk3xwOrlM:2007/06/23(土) 21:44:35
>>56
アッシュ「大日本帝国政府に勧告する。既に大勢は決した。帝国は降伏する者
      には寛大である。素直に兜を脱げ。そうすれば、これから起こるあらゆ
      る悲劇を防げるだろう」

>>57
帝国将校「帝国を甘く見るな反逆者達よ。我々はそのような攻撃に屈するほど脆弱
       ではない」
爆煙の中、威厳と尊大さに溢れた帝国軍の指揮官の声がした。煙が晴れると、そこ
には将校とトルーパー達の姿があった。よく見ると彼らは薄い膜のようなもので覆わ
れていた。彼らはDアルルやウルスラ、ブルーニャらによって対魔法攻撃用のシール
ドを付与されていたのである。そして静かに指揮官は攻撃命令を下した。

私はPC放置していると、父にプチッとやられたり。
さて、もう一度ふたなり化してもらおうかw

60コレットたんは天使カワイイ:2007/06/23(土) 22:03:24
>>59
くぅ…エクセリオンバスターはシールドを破れるはずなのに!
(参考資料 http://nanoha.julynet.jp/?%A5%DF%A5%C3%A5%C9%A5%C1%A5%EB%A5%C0%BC%B0%28%B9%B6%B7%E2%29#gc6af3d7)
相手に全くダメージが通ってない!?
エレノア「つ、翼君!?」
大丈夫、まだいける!
(デュランダルのデバイスモードを解除し懐からアンビシオンを取り出す)
(アンビシオン、封印の剣、ロンギコルニスが煌めく)
たぁぁぁぁっ!
ロイ「そりゃぁっ!」
エレノア「はぁぁぁぁっ!」
コレット「御許に仕えることを赦したまえ 響け、壮麗なる歌声よ……!みんなを守って!ホーリーソング!」

それは捕まった時にでも。
てかエクセリオンバスターはバリア破れるはずなのになんで破られてないんです?

61乃木平八郎 ◆xr2aDZKr1A:2007/06/23(土) 22:04:03
>>59
御前会議にて・・・
昭和天皇「ではその新銀河帝国とやらが朕らの国に降伏勧告をしてきたのだな?」
南雲「はっ、そうであります」
栗田「しかし、これは我が大日本帝国に対する侮辱に他ありません!」
宇垣「私も栗田殿と同じ考えであります。」
山本「それにしても陸軍がいないようだが・・・」
源田「あやつらは怖気づいてもう降伏したわい!」
井上「つまり我ら海軍のみが降伏せずに生き残ってるわけでございますな?」
栗田「な、なんだと!?それでは充分に戦えぬではないか・・・」
山本「だが大日本帝国は戦わなければならんのだ!」

そのとき、昭和○皇が一言・・・

昭○天皇「朕はもう戦争は嫌じゃ・・・朕が自ら新銀河に赴き降伏勧告を受け入れることにする」
山本「て、天皇様・・・」

こうして御前会議での新銀河への降伏が決まったのであった。
栗田、源田、う

62乃木平八郎 ◆xr2aDZKr1A:2007/06/23(土) 22:06:23
>>61で書きかけたことは気にしないで下さいー

63ピエット提督 ◆ltk3xwOrlM:2007/06/23(土) 22:25:35
>>60
斬撃や刺突から必死で逃れるマリーン達。彼らの装甲は銃撃から身を守ることは
想定しているが、刃物に対する防御は考慮されていなかったのだ。

トルーパー「うわっとと…物騒なものを振り回すんじゃないッ!」

そう言って辛くも斬撃を逃れたトルーパーは再び応戦した。

Mシールドはバリアというか、魔法に対する耐性を上げる性質のものでして。
実はwiki引くのを忘れたなんて股が裂けても言えない…。

>>61
アッシュ「何!?皇帝が自ら降伏を!?」
帝国将校「はっ!」

アッシュは驚きを隠せなかった。敵国の元首自ら、和を求めにやって来たというのだ。
普通は逃亡するか、最後まで抗戦するか、あるいは…というものと相場が決まってい
るのにである。

アッシュ「と、とにかく、相手は皇帝だ。儀仗兵を整列させろ。最大の敬意を以ってお迎え
      するのだ」


ちょwww先帝陛下はまずいwww

64乃木平八郎 ◆xr2aDZKr1A:2007/06/23(土) 22:34:39
>>63
南雲「天皇様、足元にお気をつけて・・・」
昭和天皇「大丈夫だ!それより・・・あの船が新国家の戦艦なのだな?」
南雲「はっ、そうにありますが・・・」
昭和天皇「どう足掻いても勝てるわけが無いではないか」
南雲「は、はあ・・・」

こうして新銀河の戦艦の前で昭和天皇自ら降伏宣言することになった。

昭和天皇「我が国は貴国に対し降伏の意を表明す。我が国の提督が貴国に対し迷惑をかけた件については
なんらかの処置を以て、是を対処すべしものなり。朕はこれ以上の戦いはのぞんでおりませぬ。」

この声明のもと、大日本帝国は新銀河帝国の傘下に入ったのである。

(むしろ昭和天皇だからこそ成り立つんですヨ?w)

65コレットたんは天使カワイイ:2007/06/23(土) 22:43:04
>>63
ロイ「物騒な物?そっちこそ銃撃してるじゃないか!」
エレノア「弓より当たったら痛い物撃ってる方がひどいじゃない!」
いや、お互い様だからw
コレット「私も頑張る!」
コレット、あんまり無茶しないでね。
(四人の斬撃と刺突がマリーン達を一人ずつ捉え、葬っていく)

…エクセリオンバスター、非殺傷設定だとしてもかなり威力あるんですけど…
耐性をあげたどころでは少々無理がありませんか?
それに、その耐性をあげるタイプでは絶対にエターナルコフィンは防げませんよ?
(温度変化魔法であるため、DQでいうフバーハ系統でも通用しない可能性が大あり)

66ピエット提督 ◆ltk3xwOrlM:2007/06/23(土) 22:55:18
>>64
着陸したスターデストロイヤーの前に降伏文書調印の場は設けられていた。
緋色の装甲服を纏った儀仗兵達が両脇に整列し、天皇の車とアッシュの前
までに道を作った。

アッシュ「貴国の降伏宣言を受諾致します、陛下。止むを得ないとは言え、貴国
      の兵士を多く傷つけた事をお詫び致します」

昭和帝の潔い態度の前に、アッシュは感銘を受けていた。そして、日本の各都市
にはストームトルーパーやコンバインが進駐する事となったのである…。

(いやいや、皇族出すのはちょっとまずいですよw)

>>65
トルーパー「いやいや、そっちの魔法の方が圧倒的…アァーーー!!」

こうして第二の防御区画も逃げ出した数名の将校とトルーパーを除いて全滅した。
ここに来て、ピエットも禁じ手を使うことにした。

第三区画で守りきれなかったら…分かっているな?
ブルーニャ「閣下、まさかそれは…」
ウルスラ「区画ごと射出…?」
仕方あるまい、悔しいがトルーパー達では敵わないかも知れない。

そう言いつつ、ピエットは第三防御区画の無人兵器を作動させた。

いや、本当に申し訳無い…orz
ググるの忘れたのと、トルーパー達に陽の目を見せようと…ね?

67乃木平八郎 ◆xr2aDZKr1A:2007/06/23(土) 23:08:04
>>66
山本「そうか・・・我が大日本帝国は降伏したか・・・」
南雲「私たちは戦いを引き起こした責任で明日までに日本国から追放処分とのこと・・・」
井上「うう、なんということだ・・・」
南雲「元帥、大将 対馬丸が港にとめてあります。それで米帝に行きましょう。」
山本「うむ・・・。」

一方その頃・・・

オセロット「まだ日本にはつかないのか!?シギント!」
シギント「ああ、まだつかない 今はミッドウェーあたりだろう?」
オセロット「ああ!そうだが!?」
シギント「まだまだだな」
オセロット「くっ・・・ヴィッチ!ヴィッチ!」

(うーん さすがにまずかったかw
昭和天皇さま、本当にすいませんでした この場を借りてお詫び申し上げます)

68コレットたんは天使カワイイ:2007/06/23(土) 23:13:03
>>66
…敵が消えた…でも何か機械の音が聞こえないか?
ロイ「言われてみれば確かに…」
エレノア「強制射出装置とか、そんな類の?」
コレット「ううん、違う…これは無人兵器…!?」
(コレットが聴覚に優れており、彼女の一言で戦闘態勢に入る翼達)

わけわからなくなると困るので使用可能魔法リスト作っておきますか…

十条 翼 使用デバイス 氷結の杖デュランダル
(翼が所持しているのは本編で登場した物とは別に作られた物)
ミッドチルダ式魔法:
エクセリオンバスター
ラウンドシールド
エターナルコフィン
ディバインシューター

その他ゲーム出典魔法:
アイスブラスト
エクスプロード
サンダーフレア
フリーズランサー
アブソリュート

エレノア・オリアト
アイスブラスト
フェンリル
ヒーリングオール
リザレクション

コレット・ブルーネル
ホーリーソング
エンジェル・フェザー
リヴァヴィウサー
ジャッジメント
グランドクロス

69名無しさん:2007/06/23(土) 23:38:54
>>67
華劇団みたいに字を変えるのもありだけど、多用は禁物…。

70ピエット提督 ◆ltk3xwOrlM:2007/06/23(土) 23:39:06
>>67
進駐軍は直ちに東京に支配の拠点となる建物を建設した。黒い30階建ての
現代的なビルが数日の内に建設され、金髪に白いアーマーを着た女性…
ラフラが占領軍の総司令官として日本の復興の監督にあたることとなったの
である。

ラフラ「勤勉な国民と潔い指導者…気に入ったわ」

そして、アッシュは次なる目標…アメリカ合衆国に降伏を迫るべく、機動艦隊を
率いて、ミッドウェイ諸島上空を航行していた…

>>68
無人の広い部屋に一行は出た。コレットが危機を察知するのが早いか、突然天井
からターレットが次々に現れ、一行に照準を合わせると、強力なブラスターの連射
を浴びせたのである。

ハハハ!踊れ踊れ!ここがお前たちの墓場だ!

分からなくなったら、そのリスト見てクグりますね。

こっちも装備や魔法関連…

ピエット 武装:ブラスター、トカレフ、将校用ボディアーマー

ウルスラ 武装:ブラスター、トカレフ、将校用ボディアーマー
      魔法:エクスカリバー、サンダーストーム、ギガスカリバー、Mシールド
          リカバー、サイレス、バーサク

ブルーニャ 武装:ブラスター、トカレフ、将校用ボディアーマー
        魔法:フィンブル、サンダーストーム、フォルブレイズ、Mシールド
          リカバー、サイレス、バーサク

Dアルル 武装:ブラスター、トカレフ、魔導アーマー
      魔法:アレイアード、イクリプス、タキオン、ラビリンス、ラグナロク、ヴォイドホール
          ヒーリング、バリア

ジェリルクス/帝国軍将校 武装:ブラスター、トカレフ、グレネードランチャー、将校用ボディアーマー

バレイポット/クローンコマンダー 武装:ブラスター、トカレフ、ミニガン、将校用ボディアーマー

ニクシル 武装:357マグナム、パルスライフル、MP7、ロケットランチャー、コンバインアーマー

クララ 武装:トカレフ、天界謹製の剣

フィフティニー 武装:トカレフ、天界謹製の弓

マリーン達 ブラスターライフル/パルスライフル、MP7、グレネード、
        トルーパーアーマー/コンバインアーマー

71乃木平八郎 ◆xr2aDZKr1A:2007/06/23(土) 23:40:42
>>69
なるほど!でも多用は禁物かあ・・・orz

72乃木平八郎 ◆xr2aDZKr1A:2007/06/23(土) 23:46:11
>>70
ミッドウェイ付近をメタルギアRAYに乗って航行していたオセロットは
あることに気づいた。
オセロット「ん?これは・・・敵のお出ましか」
シギント「おい!今はあまり戦うなよ?」
オセロット「わかっている!これから水中に入る!」
そう言って無線をきるとメタルギアRAYは水中に姿を消していった。
オセロット「本当は戦いたかったんだがな・・・」

73コレットたんは天使カワイイ:2007/06/24(日) 00:07:03
>>70
うお!?ディストーションフィールド展開!
(いきなり無人兵器からブラスターがすっ飛んできて先頭を歩いていた翼が驚いてすぐにフィールドを展開する)
(しかし、フィールドを所持していないコレット達は逃げ回るしかなかった)
ロイ「こ、こいつらなんで熱量兵器連射してくるんだ!?」
そんなの知らない!エターナルコフィンで一掃するから、みんなはこの部屋を離脱して!
エレノア「うん!」
(テレポートでその場を離脱する三人)
(そしてこの部屋には、デュランダルを構えた翼のみが残った)
悠久なる凍土…凍てつく棺の内にて、永遠の眠りを与えよ…凍てつけ!
デュランダル「Eternal Coffin」
はぁぁぁぁっ!
(その場にいたターレット達が凍り付き、動かなくなってしまう)


…テレポートは翼とエレノアが使用という事で。ちなみにこっちはTOにおける四装備システム採用してます。
(魔法に置いてはその限りではない)

武装関連まとめ

十条 翼
武装:氷結の杖デュランダル アンビシオン フウェイルメイル フェアリィリング(魔法行使に必要なMP半減)
(補助装備としてディストーションフィールド展開装置)
魔法:エクセリオンバスター ラウンドシールド エターナルコフィン ディバインシューター
    アイスブラスト エクスプロード サンダーフレア フリーズランサー アブソリュート テレポート

コレット・ブルーネル
武装:エンジェルハイロゥ 巫の装束 リングシールド スターサークレット
魔法:ホーリーソング エンジェル・フェザー リヴァヴィウサー ジャッジメント グランドクロス

エレノア・オリアト
武装:ロンギコルニス ルーンメイル オーキッドパール ウィングリング
魔法:アイスブラスト フェンリル ヒーリングオール リザレクション テレポート

ロイ
武装:封印の剣 フレイムシールド ポイニクスメイル ウィングリング
魔法:無し

74ピエット提督 ◆ltk3xwOrlM:2007/06/24(日) 00:24:47
>>72
アッシュの機動艦隊はは何事も無くミッドウェイ付近を通過し、ハワイへと向かった。
その頃、ハワイの太平洋艦隊司令部はミッドウェイからの通報で、上へ下への大騒
ぎである。日本が降伏したニュースも既に届いており、慌てて、防衛体制を整えたが、
全ては徒労に終わった。アッシュはハワイを占領し、艦隊を停泊させると、恫喝する為
の更なる増援を要請した。

アッシュ「無駄な血を流すことは無い。圧力を以って降伏させよう」

>>73
モニターで一部始終を見ていたピエットは大泣きしながら頭を床にガンガン叩きつけて
いた。尽く、防御網を突破された事に強い憤りと、深い失望を覚えているのである。見
かねたウルスラが声をかける。

ウルスラ「閣下、まだ方法はありますわ。先程の計画通り、区画ごと射出なさっては?」
あ?ああ、その手があったか。インターディクターに通達!重力井戸発生装置起動!
第1〜3区画を緊急ロック!ワープを阻止し、射出する態勢を整えよ!

私はHLとBFに忠実にやりましたが、システム統一しないとまずいかなぁ?

75コレットたんは天使カワイイ:2007/06/24(日) 00:51:26
>>74
コレット「なんか、すごく嫌な予感がするよ…」
ロイ「ああ…早急に翼と連絡を取ろう」
ん…ロイ?何、嫌な予感がする?わかった…
(なぜか携帯で連絡を取ってる二人)
(その後後続全員が大急ぎでウィングリングを使って飛んでくる)
(そしてターレット達の固まった氷の上を飛び次の区画へと到着する)

…そもそも両方ともルール知らないし…(´・ω・`)

76ピエット提督 ◆ltk3xwOrlM:2007/06/24(日) 00:59:05
>>75
うん?ターレットの上?艦内は天井や壁で仕切られていて、通路と区画同士は
繋がっておりまして…天井破るか、壁を破るかしたんですか?

採用したのはルールというか、装備ですね。

77コレットたんは天使カワイイ:2007/06/24(日) 01:05:38
>>76
装備、ですか。
ちなみにターレットの上というのは…ってあれ?
つまり天井を凍らせたという事だから、普通に歩いていけたんじゃん…僕のバカw
ただし床とかつるつる滑りますが。

78ピエット提督 ◆ltk3xwOrlM:2007/06/24(日) 01:17:15
>>77
では、普通に通路を通ったと解釈しますね。

防御区画は予定通り射出され、ピエットが祝杯を挙げようとしたその時である。
モニターにしっかりと一行が通路を通る姿が映し出されたのである。

ウルスラ「やはり駄目でしたか…」

ウルスラがさぞかし失望しているであろうと予想し、横のピエットを伺う。ところが、
彼はいつになく、冷静であった。

では、総員退艦だ。こんな旧型のヴェネター級など惜しくは無い。それよりも、奴等
を抹殺する事が重要だ。

そう言うと、艦内の全ての無人兵器を起動させた。更に艦をオートパイロットに切り
替え、ピエットや将校達、マリーンもハンガーから次々に輸送機で脱出したのである。

旧共和国時代から戦ってきたこの艦に最期の時が近づいていた…

79コレットたんは天使カワイイ:2007/06/24(日) 01:24:52
>>78
…なんだか、おかしいぞ…?
ロイ「うん、なんかこう…人気がないというか。」
エレノア「嫌な予感がするよ…」
コレット「私もだよ…」
ラウ「おい、翼!何をやってるんだ、脱出しろ!」
ラウ、いきなりそんなに怒鳴らなくても…
ラウ「この艦の主要なメンバーは退艦してる!四人とも早く退避しろ!」
わ、わかった!
(テレポートを使い、瞬時に艦外へと脱出する)

てか、もしかしてヴェネター級がいるの宇宙ですか?それとも大気圏内?
もし宇宙であればヴェサリウスに、大気圏内なら近くの降りられる場所という事で。

80ピエット提督 ◆ltk3xwOrlM:2007/06/24(日) 01:29:14
>>79
大気圏内です。…が、>>74をよ〜くご覧下さい(・∀・)ニヤニヤ

81コレットたんは天使カワイイ:2007/06/24(日) 01:35:26
>>80
うおおおおい!太平洋ど真ん中ですかw

ロイ「…はぁ!?」
エレノア「ここって…」
コレット「海!?」
翼「…ちょwやばいw日本海軍は見あたらない?」
コレット「…見えないよ?」
翼「テラヤバスwとりあえず僕の家に戻るしか(ry」
(テレポートを再度発動し、翼の家に戻る)
というわけで四人とも自宅(翼の家)に帰宅ですー(死

82ピエット提督 ◆ltk3xwOrlM:2007/06/24(日) 01:40:08
>>81
いやいやいやwアッシュ達は別行動ですよ。
…インターディクターが居るんだけどな〜

83コレットたんは天使カワイイ:2007/06/24(日) 01:42:18
>>82
えええw
…じゃあディストーションフィールド展開装置を利用したボソンジャンプで脱出した事にしておいて下さい。
というか…僕達が降り立つのは東京?

84ピエット提督 ◆ltk3xwOrlM:2007/06/24(日) 01:53:47
>>83
降りても構いませんが、東京は既に…(・∀・)ニヤニヤ

85コレットたんは天使カワイイ:2007/06/24(日) 01:56:56
>>84
まぁいいや、とりあえず自宅に戻ったって事で。
って何にやにやしてるんですか?帝国の支配下だろうとってまさか…!?

…(´・ω・`)

86ピエット提督 ◆ltk3xwOrlM:2007/06/24(日) 02:09:11
>>85
ヴェネター級スターデストロイヤー『コレリア』は『エグゼキューター』の砲撃により、
その生涯を閉じた。艦内で今度こそやったと、祝杯を挙げるピエット達であった。

――東京

東京はそれまでの昭和の街から一転して、近未来都市に変貌していた。皇居周辺
を除いて、すっかり区画を改められ、長屋や低層ビルは高層ビルやコンドミニアムに
変化していた。交通も、蒸気機関車や木炭自動車から、リニアやスピーダーに改めら
れていた。が、戦争に負け、異星の軍隊に占領されている事から、市民達の顔は決し
て明るいものでは無かった…

87コレットたんは天使カワイイ:2007/06/24(日) 02:14:13
>>86
四人はすでにヴェネター級から脱出していたものの、頼る当てもなく彷徨っていた。
それは、東京が近未来都市であったからだった。
仕方なく、翼のテレポートでZ.A.F.T.のヴェサリウスへと向かう事になったのだった…

88ブルーニャはフィンブル美しい:2007/06/24(日) 02:46:30
>>87
ピエット達は艦隊を集結させ、地球周辺の勢力も屈服させようと企んでいた。そして、
その矛先はZ.A.F.T.へと向けられ、彼らの政府がある宙域へと彼は艦隊を進めたの
である。スーパー級3隻とそれに付随するスターデストロイヤーやヘヴィ・クルーザー、
クルーザー、フリゲート等が進撃する様は月や太陽ですら青ざめるほどの威容であった。

89コレットたんは天使カワイイ:2007/06/24(日) 06:43:07
>>88
プラントの存在するL5宙域…
ここには首都アプリリウスを含めたたくさんのプラント群があり、コレットやロイ達も一応はこのプラント出身であった。
それは彼らが異世界から現れた存在であり、その出生や元いた世界の事が知られるといろいろとまずかったのだ。
そこでラウと親交の深いギルバート・デュランダル最高評議会議長がそのように取りはからってくれたからだった。
そして、ラウと一緒に住んでいる少女達…彼女らはMSパイロットであり、また翼達のよき友人でもあった。
今ヴェサリウスはそのL5宙域の防衛についていたが巨大な熱源反応を感知し、
また翼達がテレポートでこの艦にやってきて熱源反応の正体と先程地球で起こった事態の説明をした事からZ.A.F.T宇宙軍が
集合し、一大決戦となる様子だった…

そして…隠された力が目覚める兆候も少しずつ出始めていた…

90オセロットは山猫カッコイイ:2007/06/24(日) 08:34:29
>>74
トルーマン「ジャップがあっけなく降伏したか・・・」
議院A「我が国も降伏したほうがいいと思います」
マッカーサー「ふん!腰抜けめが」
議院C「それでは裁決をとろうではないか」

降伏するかしないか 参加議院数 320名
賛成 214名 反対 102名 棄権 2名

トルーマン「くっ・・・降伏せねばならんのか・・・」
マッカーサー「な、なんと・・・」

>>86
ここは東京 かつての昭和の街は消え、新銀河の第二の首都となっていた。
市民A「わしらの良き昭和の街はどこへ消えていったのだ・・・」
市民B「んなこと言われても日本は降伏しちまったんだ・・・」
市民A「うう、これなら米帝に降伏したほうがマシじゃ・・・」

一方その頃・・・
オセロット「ここは・・・硫黄島か・・・」
オセロットは硫黄島に来ていた。
そのとき、シギントから無線が入る。
シギント「おい、聞こえるか?オセロット」
オセロット「なんだ!?」
シギント「アメリカは・・・ニューミルキーウェイに降伏したらしい・・・」
オセロット「な、なんだと・・・!」

オセロットは失意のあまり、そこから動けなくなってしまった・・・。

91名無しさん:2007/06/24(日) 09:04:20
>>70
トカレフなんて、ある意味物騒な軍用拳銃持ってますな。

>>71
だって「やんごとなきお方たち」ですから。
首相とかなら…。

92オセロットは山猫カッコイイ:2007/06/24(日) 09:17:06
>>91
しゅ、東條首相がいたのを忘れていたーッ!
一同「あんたどんだけやねん」

93確執編十五章:再動の荒野        1/7:2007/06/24(日) 22:33:17

 ・三日目 サイド:リディア

 その時が来ても、私はもう驚かなかった。

 いきなりドアが吹っ飛んだ。極限まで凝縮された紅い炎が部屋を一直線に貫く。
 昨日は気がつかなかったけれど、あの娘の使う炎はとても綺麗だった。
 それは大気に存在するあらゆる生きる糧を根こそぎ蒸発させる破滅の炎であり。
 一片の淀みも残さずすべてを終わらせる浄化の炎でもある。

 生まれついての資質なのかはわからないけれど、私は回復や防御といった支援系
――いわゆる白魔法が苦手だった。
 幼い頃はまだ多少は扱えたのだけれど、今ではもうまったくだ。
 だから、身を守りたければ力に力をぶつけるか、あるいは退却するしかない。
 躊躇いなく後者を選ぶ。窓を開け、飛び降りた。
 次の瞬間、背中に届く爆音と熱風。
 一方で私は翠の髪を宙に躍らせながら落下。
 ちなみにさっきの部屋は4階。地面に激突するまで、数秒もかからない。
 けど、たった一言を紡ぐのには十分な時間だ。
 
「偶然《ラプラス》の祝福よ。意思通ずるなら、応えて!」
 
 直後、私の体は地表と重なる。
 まず足が地面に触れた。これが顔からだと、どうやっても致命傷という悲しい結末が待っている。
 激痛がつま先から脊髄、そして頭まで突き抜けた。目にはうっすらと涙が浮かぶ。
 そして、それだけだ。
「ありがと、アスラ」
 私が唯一喚び出せる支援系の幻獣――アスラににこりと笑顔を返す。

 そして、上を見上げた。

 窓から覗くのは少女の顔。
 いつもとまったく変わらない――『悪魔』の笑みをたたえる少女。
 戦いが――始まった。

94確執編十五章:再動の荒野        2/7:2007/06/24(日) 22:34:21
 あ、と思った時にはアスミは窓から飛び降りていた。
 くるくると宙で2回転ほどした後、足から地面に着地。ほとんど音がしなかった。
猫みたいだ。風をはらむスカートでやるんだから尋常じゃない。
「目が回るー」
 口調の割に足はまったくふらついていない。
 物理障壁を張って着地した私でさえ、軽く膝が笑っているのに。
「ねぇアスミ、聞いて。私は……」
「とりゃー」
 説得の言葉に返ってきたのは火球だった。
 やっぱり無理か、と思う。
 一度動き出したら止まらない性格なのは私もよく知っている。
 テレビを見出したらひとつの番組が終わるまで身じろぎしない。
 お菓子を食べだしたら横で戦争が始まっても無視して頬張り続けるだろう。
 彼女を突き動かすものは『関心』と『情動』だけ。
 そして今、彼女の情動は私を滅ぼすことにのみ向いている。

 これは罰だ。
 私は私のために彼女を裏切った。
 確かに意図してそうしたわけじゃない。けど、そんなのアスミにはそれこそどうでもいいことだ。
 言葉じゃアスミは決して止まらない。
 なら、どうすればいいんだろう。どうすれば償えるんだろう。
 ここでアスミに殺される? もちろん却下だ。
 じゃあアスミを殺す? ありえない。それも二重の意味で。
 一体、どうすれば――

「もえろー」

 言葉通りのものが来た。
「くっ!」
 とっさに冷気系の魔法で壁を張り、その場から全力で飛びのく。
 一瞬で気化した氷壁は軽い水蒸気爆発すら起こして消滅。
 力の違いがどれほどあるかは明白だ。

95確執編十五章:再動の荒野        3/7:2007/06/24(日) 22:35:23
 逃げるしか選択肢がなかった。
 正面からやりあえるほど力の差は小さくないし、そもアスミに攻撃すること自体が躊躇われる。
 建物の影に隠れるようにして、極力アスミとの線上に何かを配置する。
 けれど――
「おにごっこだー、おにを捕まえよー」
 すぐ背後から聞こえてくる声をこんなにうすら寒く感じたことはない。
 私も体力がある方ではないけど、それでも人並み以上に走れる自信はある。
 異常なのはアスミの速さだった。
 さっきの飛び降りといい、普段の彼女とは明らかに違う。
 そう。私は勘違いしていた。
 あの娘は、アスミは、私のような人間とは違う。

 あの娘、なんて表現をしているけれど、私より何十倍も長く生きているらしい。
 けどアスミは決してそんな素振りを見せない。
 魔法使いを自称しているのに、魔法を使うところを見たこともなかった。
 その意味について深く考えたことはなかった。
 自身で言うほど魔法が使えないのか、単に争いが嫌いなんだろう――その程度にしか。
『数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの戦闘の果てに正悪を決める心の秤を捨て、
争いをやめない愚か者に等しく「焦滅」を与える「現象」と化した』
 アスミは魔法を使えないんじゃない。使わないんだと『彼』は言った。
 理由は、何となくだけどわかる。
 強すぎる力を持つと理性が破壊されてしまう。その危険性は私も知っている。
 アスミはああ見えて、きっと誰よりも強い。
 自分の力に殺されないよう、これまでずっと戦い続けてきたんだから。

 彼女が力を振るうのは、自分の力に負けた者だけ。
 自分の力で人を傷つけようとする者だけ。
 つまり――私だ。

96確執編十五章:再動の荒野        4/7:2007/06/24(日) 22:36:05
「ストップ」
 その言葉を聞いた時は、かなり息が切れてたこともあって心臓が止まるかと思った。
 てっきり『ここ』には自分達以外誰もいないと思っていたからだ。
 けど、暗闇の中目をこらしてみれば、それは見知った顔だった。
「……プリシス?」
 何故こんなところに、なんて質問は無意味だと途中で気づく。
「あなたも…今の私を否定する?」
 プリシスはわずかに驚いたような顔をして、それから笑う。
「あたしは最初からアンタもアーチェも否定する気はないよ。
 ケンカなんて少しでも仲良くなったらして当然じゃん」
「……ありがとう。優しいね、プリシスは」
「別にいーって、友達でしょ?」
 何の気なしに言ってくれる彼女の言葉が、何より心にしみてくる。
「で、リディアはどうするの? このままじゃアスミに追いつかれるのは時間の問題だよ」
「あっ……!」
 現状を思い出して慌てて背後を振り返る。
「あー、大丈夫。少しだけ時間を寄越せって言ってあるから」
「……そう」
 あの状態のアスミをどうやって留めているんだろう。
 何かがひっかかる。
「私は…どうしたら、許してもらえるのかな」
「アスミに? それとも、アーチェに?」
「……アスミに」
 プリシスの目が、ほんの少しだけ悲しそうに歪んだ、気がした。
「あの娘に関してはあたしよりリディアのが詳しいと思うけど……」
 プリシスは小さく一度かぶりを振って、
「今のままじゃ絶対に止まらない、らしい」
 こくりとうなずく。伝言形であることも含めて。
「彼女を止めたかったら、一度『リセット』するしかない」
「リセット?」
「アスミの純粋さは機械のそれだからって。あたしが聞いたのはそれだけ」
 機械の純粋さ。私には意味がわからない。
「プリシスは、それでわかったんだね」
 応えの代わりに、プリシスは何かをこちらに投げてきた。
 受け取って眺める。それは飴玉だった。
「あたしが気づけたんだから、リディアだってわかるよ」

97確執編十五章:再動の荒野        5/7:2007/06/24(日) 22:37:13
 私はすべてから目を背けることで信頼を失った。
 私の怒りや苛立ちは、すべて私自身のものでしかない。
 けれどそれによってもたらされるものは、私の周りにも被害を及ぼす。
 誰にも迷惑をかけないなんて無理だ。
 人は生きてる限り、誰かに迷惑をかけるしかない。

『彼』が何を求めているのか、何となくわかってきた。

 そうして、私は彼女と対峙した。
「アスミ」
 私は車が横に4台は通れる大きな通りの真ん中に立っていた。
 普通ならこんなことをしたら数秒で怒られるだろうけど、この世界では何の気兼ねも必要ない。
「アスミ、私の声が聞こえるかな?」
 アスミはのんびりとした顔で、右手をかざす。
 胸がどうしようもなく痛い。強く噛み締めた唇の痛みが気にならないほどに。
「今から私は、あなたを止めるよ」
 そして、私も右手をかざす。思考を即座にシフト。
 アスミは――敵だ。

「――神よ。意思通ずるなら、応えて!」

 耳をつんざく神竜の咆哮。
「すごくおっきー」
 さしものアスミも、その巨体に目を丸くしている。
「アスミ」
 そう彼女を呼んだのは、しかし私じゃなかった。
 声の方に視線を遣れば、そこには飄々とした風貌が立っている。

「構いません。『全力』でどうぞ」

 その声は、焼け付くようなこの空間でなお、ひどく冷たく響いた。
 アスミの目つきが――わずかに、変わる。
 可愛らしい声だけはいつもと同じまま、おそろしい早さで詠唱を紡ぐ。
「おしごとー」
 ……なるほど、と思う。
 昨日の彼女が全力じゃなかったという話は、虚勢でも脅しでもなかった。
 魔界から召喚されたもう一体の竜は、神の御前で世界を割る咆哮を発した。

98確執編十五章:再動の荒野        6/7:2007/06/24(日) 22:38:36
 召喚魔法というと他者の力頼みという印象を受けるかもしれない。
 けど、そうじゃない。
 完全な『顕現』とは異なり、召喚士の開く道を介してしか存在出来ない『召喚』では
その力を100%発揮することは適わない。
 結局、術士の力に依存することになる。
「いけー」
 相対する火竜の危険性を悟ったか、バハムートはその場から大きく退いた。
 その火竜はおもむろに口を開くと、周囲の酸素を食い散らかして火柱を吐き出した。
 ビルに直撃しては粉砕し、山に直撃しては豆腐のように貫いて、地平線の向こうに消えていく。
 ここまですさまじいともう笑うしかない。
 ――もちろん、退くつもりはなかった。
「お願い。私と一緒にあの娘を止めて」
 こういうのも神に祈るって言うんだろうか。
 私の全力はアスミに遠く及ばないけれど。
 覚悟なら、今の彼女にだって負ける気がしなかった。

 神竜が大きく息を吸った、気がする。
 それは初動。月に降り注ぐ、星をもまたいで輝く美しき御柱。
 大気が、啼いた。
 私の魔力に依存したメガフレアじゃ、アスミの火竜には敵わない。
 ならば――足りない力は数でカバーするしかない。

「彩れ――フレア」

 魔法と召喚のダブルタスク。
 初めて試すけど、魔法はちゃんと発動した。
 空間爆砕系の魔法を回避するのは容易じゃない。
 二重のフレアは火竜に直撃した。アスミの魔力がどれだけ膨大でも、この威力を殺すことは出来ない。
 火竜の存在は私にとっても都合がよかった。アスミを相手にするよりもはるかにやりやすい。
 再び火竜が口を開いた。狙いは――バハムート。 
 レーザーのような炎が一直線に神竜を貫く――直前、私は召喚を解いた。
 膨大な力量に大気が乱れ、風が吹き荒れる。
 さらわれそうになる髪も無視して呪を紡ぐ。
 火竜の次の一撃より早く唱え終わらなければ、その時点で敗北が確定する。

 一撃にありったけの全力を込める。
 小さく祈る――どうか、アスミに当たりませんように。

「堕ちろ――メテオ!」

99確執編十五章:再動の荒野        7/7:2007/06/24(日) 22:39:42
 頭が真っ白になった。
 酔っ払うって、こういう感覚なんだろうか。
 目が回る。気持ちが悪い。
 自分が地面に倒れたことにさえ、最初は気づかなかった。
 メテオを使った経験は片手で数えられる程度しかない。
 さっきのダブルタスクが想像以上に無理があったのかもしれない。
それにしても気絶するとは思わなかった。
 頭を振って、立ち上がる。
 あぁ――わかっていたこととはいえ、直視するのが憚られる。

 あたりは荒野と化していた。
 綺麗だったたくさんの歴史的建造物も、すべて消えてしまっただろう。

 ――アスミ、は?
 いた。月の表面みたいにクレーターが続く中、彼女はぽつんと一人立っていた。
 火竜の姿はない。あの巨体に隕石が直撃したならひとたまりもなかっただろう。
 アスミは放心したようにその場に立ち尽くしていた。
 彼女を支配するものは極めてシンプルだ――気に入らないものは、滅ぼす。
 圧倒的な力はそれを可能とし続けてきたはずだ。
 今だって、別にアスミは負けたわけじゃない。
 ほんの一瞬、私の覚悟が彼女を上回っただけ。
 まだ余裕がある彼女に対して、私にはもうマッチの火くらいの炎を出す魔力も残ってない。

 ――けど、これで、終わり。

「アスミ」
 呼びかける。目が霞んで、アスミがこちらに反応したかどうかはわからない。
「いいもの、あげよっか」
 言う私の手に握られているのは、たった一個の飴玉。
 さっきプリシスからもらったものだ。
 私にアスミの信念を破壊することは出来ない。
 出来ることがあるとしたら、それは――
「食べない?」

 何かがこちらに駆け寄ってくる。

 私は残されたわずかな意識でそれを感じ取る。

「たべるー」

 私の手を握ってくる、温かい感触。


 ――それが、最後に認識できたものだった。

100ピエット提督 ◆ltk3xwOrlM:2007/07/03(火) 19:21:42
遠い昔、遥か彼方のエレブ大陸で…

戦争だ!イリア地方は無慈悲な残存帝国軍参謀総長ジェリルクス中将による攻撃によって、焦土と化していた。
英雄達は両陣営におり、邪悪はいたるところに存在する。この激動の最中、残忍な機動艦隊の指揮官ニーダ大佐
はイリアの中心都市エデッサを急襲し、エデッサ城と天馬騎士団の団員の捕縛に成功する。残存帝国軍が価値あ
る人質と共に祝杯を挙げる中、十条軍は暗黒支配から人々を解放すべく、行動を起こしていた…

101:2007/07/03(火) 19:54:03
>>100
プラント首都・アプリリウス 十条 翼宅

ロイ「…ティト、気が乗らないなら…アプリリウスで待っててもいいんだよ?」
ティト「ロイ、生まれ故郷を取り返すんだから…私も一緒に行かせて」
ロイ「いいのかな…?もしかしたら知り合いが人質に取られてるかもしれないし…」
ティト「それはありえるけど、それを理由にあの人達をやっつけないのはもっと嫌だ」
翼「2人とも…そろそろ、行くよ?」
ロイ「ああ、わかってる…」
ミヒロ「今回は私も一緒に行く!」
コレット・エレノア「私達も行きます」

今回のパーティー編成
翼(賢者)・ロイ(ロード)・エレノア(ヴァルキリー)
コレット(神子)・ミヒロ(マージファイター)・ティト(ペガサスナイト)

102ピエット提督 ◆ltk3xwOrlM:2007/07/03(火) 20:12:35
>>101
ジェリルクス「ニーダ大佐、よくやってくれた。この度の大戦果に大提督もお喜びである」
ニーダ「はっ!」
ジェリルクス「では諸君!祝杯を挙げようではないか!ウラー!」
将校達「ウラー!」

帝国軍はイリア占領という快挙を成し遂げた。既にイリア各地ではストームトルーパーが
配備され、治安維持、徴税等を行っていた。税金は今までよりも軽くなったことで、帝国を
支持する者も居たが、異世界からの侵略軍に対する目は懐疑的なものであった。

帝国軍イリア"鎮圧"部隊

ジェリルクス参謀総長(帝国軍中将)、ニーダ艦長(帝国軍大佐)、レノックス艦長(帝国軍大佐)
フィオーラ(ファルコンナイト)、ファリナ(ペガサスナイト)、フロリーナ(ペガサスナイト)

参加兵力

SSD『インティミディター(恫喝者)』、ISD『アヴェンジャー』、『タイラント』、IDHC24隻
ストームトルーパー4個師団:38800人

103:2007/07/03(火) 20:22:55
>>102
イリア 南方
ロイ「しかし…寒いなぁ…」
翼「うん、でも相手に行軍を悟られないようにするには、こうするのが一番だって言うじゃない?」
ミヒロ「ティトさんはペガサスに乗れて良いなぁ…」
ティト「そんなことないよ、私だって寒いもん…」
エレノア「はっくしょん!うう…寒い…」
コレット「エレノアさん、大丈夫?」
エレノア「ううん、大丈夫。気にしなくて良いよ」

【夏でも寒いイリアを六人で行軍中】

104ピエット提督 ◆ltk3xwOrlM:2007/07/03(火) 20:41:01
>>103
――イリア南方・レーミー

イリアの入り口であるレーミー城は既にピエットの甥であるサークリィ中佐が占領軍司令官として
第230大隊を率いて統治にあたっていた。この世界独特の中世ヨーロッパ的な景観の都市にスト
ームトルーパーが居るのは奇妙な感じがした。彼らは分隊で市内を巡回し、帝国の支配を隅々に
まで行き渡らせていた。

市民A「な、なんて恐ろしい風貌の兵士だ…」
市民B「税金は軽くなったが…一々監視されるのはなぁ」

そんな中、この街に6人の男女がやってきた。

105:2007/07/03(火) 20:53:54
>>104
――イリア南方・レーミー城
ティト「ここは、レーミーって言う所なんだよ」
翼「そうなんだ…」
コレット「寒い…どこかで休みたい…」
ミヒロ「コレットお姉ちゃん、無理しないでね?」
エレノア「…あ、トルーパー達がいる…」
翼「私やミヒロちゃん、ティトはともかくとしてロイ達は私達の後ろを歩いて」
ロイ「なんで?」
翼「相手方にあなた達の顔が割れてるかもしれない、そうなれば捕まってしまうかもしれないし」
ロイ「なるほど」
翼「もしいざとなったらその時は…これを」
(ロイにワープリングを手渡す)
ロイ「これは…よし、わかった」

【レーミー城に到着、ひとまずは宿を探す予定】

106ピエット提督 ◆ltk3xwOrlM:2007/07/03(火) 21:59:55
>>105
レーミー市内の一部は近代化と区画整理が既に始まっており、一行はその区画に入り
込んだ。大型機材が運び込まれ、帝国のエンジニアが現地労働者を指揮している姿が
見られた。多くは淡々と仕事をこなしていたが、中には反抗する者もおり、そういった者
はすぐにストームトルーパーがどこかへ連行していった。

労働者「俺達の街をどうする気だ!こんな建物は悪魔の所業だ!」
エンジニア「君、現場に戻りたまえ。新秩序を受け入れるのだ」
労働者「真っ平だ!」

そう言って労働者は石をエンジニアに投げつけた。石はエンジニアの頬を掠め、わずかに
血が滲む。そして、痛みで顔を歪め、彼は叫んだ。

エンジニア「何をする!これは反乱だ!」

するとすぐに巡回中のトルーパー達がやってきて、抵抗する労働者を取り押さえるが、反骨
心旺盛な彼は中々従わなかった。

トルーパー「来い、逮捕だ」
労働者「離せ!この白ずくめの化け物め!」
トルーパー「黙れ!」

そう言ってトルーパーは出力を落としたブラスターで彼を気絶させた。

労働者「がっ…」
トルーパー「よし、連行しろ」

その光景を一行は呆然と眺めていた。

107:2007/07/03(火) 22:10:14
>>106
その光景を見てしまった彼らは…
ロイ「…確かに生活はよくなったかもしれないが、これではあまりにも可哀想すぎる…」
ティト「そうだね…」
翼「かならず、この地を帝国の支配から解放しよう…」
そういって、一軒の宿屋を見つけ一行はその日はそこで休むことにした…

【ちょっと、雪お姉さまとのロール+本スレのレスに集中したいので今日はここまでとさせて頂きますねノシ】

108ピエット提督 ◆ltk3xwOrlM:2007/07/04(水) 00:04:22
>>107
一行は高さ120m.の最も最初に完成した近代施設であるギャラクティックホテル…の隣にある
この世界に多くある普通の宿に決めた。どうやら、隣のホテルに客を取られたせいか、誰も居
なかった。それだけに、主人の歓待は大変なものであった。

宿の主「おお!いらっしゃいませ!6名様ですか!?ささ、こちらへどうぞ!」

一行には三部屋があてがわれ、二人ずつ分宿することとなった。

宿の主「お風呂は一番奥となっております。お食事はお好きな時にお申し付け下さい。それでは
      ごゆっくり…」

109:2007/07/04(水) 20:51:54
>>108
いたって普通の宿に泊まり、2部屋に分かれる6人。
本来なら近代施設に泊まりたい、とでも翼が言い出すと思っていたロイだが
「顔が割れるのを避けたい」という翼の意思から結局普通の宿に泊まることにしたのだった。

(部屋わけはロイ・ティト・翼、エレノア・コレット・ミヒロ)

ロイ「…さて、どうやってレーミー城に潜入するか…?」
ティト「ペガサスじゃ目立つだろうし…ねぇ…」
翼「ワープリングも封じられてた場合は…どうする…?」
ロイ「その時は…………の……を………………するしかないね…」

110ピエット提督 ◆ltk3xwOrlM:2007/07/04(水) 23:20:46
>>109
――レーミー城・占領軍司令部

海の側に立つこの古城は今や帝国軍の手で近代化改修が行われていた。シールド
やレーダー基地、通信設備などが設置され、一部は既に機能していた。それらを窓
から眺めているのが、この城とレーミー市の支配者である。サークリィ=ピエット中佐
である。

サークリィ「まずまずだな」
帝国軍将校「ええ、設備も整い、統治も軌道に乗り始めました」
サークリィ「その事じゃないさ、ここに配備されたことだ」
帝国軍将校「は、はぁ?」
サークリィ「伯父上は私にエトルリア侵攻軍の司令官をやらせるつもりなんだ」
帝国軍将校「な、なるほど…」
サークリィ「という訳で、面倒があっては伯父上の考えが変わるかもしれない。そうならぬ
       為にも、統治は慎重にやらねばならん」
帝国軍将校「はっ!」

111埋葬、1:2007/07/08(日) 16:05:32
「幽霊?」
 受話器の向こうから伝わってきた言葉に、知らず声のトーンが上がった。
「今アンタあたしをバカだと思ったでしょ!」
「いえいえそんな――いつものことですし」
 切られた。
 その数秒後。
「――で、話は戻るけど」
「何事もなかったかのように再開することには、はい、触れないことにしましょう」
「なけなしの良心で、あ・り・が・と!
 けどマジなのよ。夜中に目が覚めると、なんかこうひどくかすれた声が聞こえてくんの、どこからともなく。
 で、おまけにそれがどっかで聞いたことのある声なワケ。ね? 何かおっかなくない?」
「ありがちですね。誰の寝言です?」
「寝言と幽霊の声を聞き間違えるわけないでしょーが!」
「俺はそっちに6年ほど住んでましたが、幽霊に出くわしたことなんてありませんよ?」
「嫌われてたんでしょ」
「…今のは不意打ちのストレートでした。
 で、真面目に返すと。きっと寝ぼけてたんですよ、それで寝言か風の音を聞き間違えた、と」
「絶対違うんだってばー!」
「それより明日は…何でしたっけ、ハイキング? に行くんじゃなかったんですか?」
「それが今の話とどう関係すんのよ?」
「早く寝ましょう」
「よっけいなお世話よっ!」
 切られた。

112埋葬、2:2007/07/08(日) 21:32:18
「行方不明?」
 受話器の向こうから伝わってきた言葉に、知らず声のトーンが上がった。
「今度のは大マジなんだから! バカにしたら承知しないわよっ!」
「最初からする気なんてありません」
「それはそれで何か腹が立つ…」
「理不尽なこと言ってないで状況説明をお願いします」
 要約するとこういうことらしい。
 曰く。ハイキングと称してちょっと山奥の方まで数人で出かけた。
 曰く。最初は全員一緒で行動していたが、途中から個人で散策することにした。
 曰く。その十分後アスミが消えた。
 曰く。それを探しに行ったリディアも消えた。
「3つ目は必然ですね。アスミなら数日後にジャングル奥地で発見されても不思議じゃない」
「それはあたしもそう思うけど、リディアがいたもの」
「えぇ、リディア様がいればアスミの場所はわかりますね」
 リディアは魔力の流れを『視る』ことが出来る。
 この世界で魔力を持つ存在は特異なため、さほど離れていなければ見つけることは容易なはずだ。
「にも関わらず、そのリディア様まで行方がわからなくなった、と…」
「そ。ね、あたし達どーすればいいと思う?」
「いや俺に聞かれても、何とも……」
「役立たず!」
「うわ理不尽」
 さりとて今に始まったことでもないので、互いに恣意を含めることもない。
「あーもうどうすりゃいいのよ。箒で空飛んでも森の中は見えないし……あっ!」
 切られた。
「……ここで切るってどんだけ」
 空しくツッコみつつ、とりあえずかけ直す。
「あ、良かった……」
 と言ってきた声はしかし先ほどまでの甲高いものではない。
「あれ、リディア様?」
「ねぇ……しよう。…………ない、の」
「すいません、なんて言ってるか聞こえません。泣いてるんですか? アーチェは行方不明って……」


「アスミが……動か、ないの」

113彼女にとっての幸せ:2007/07/10(火) 18:05:07
いつものようにぼんやりしていると、不意に誰かに頬をつねられ、
コピーエックスは慌てて顔を上げた。
見れば、何時から居たのか、フヨウがむっとしながら彼の頬を摘んでいた。
「ふほう?」
「また難しそうな顔してる」
そう言うとぱっと手を離し、つねられた部分をさするコピーエックスのに鼻先に
指を突きつけた。
「エックスは人の事ばっかり考えすぎなんだよ、だからそんな顔ばっかり」
その言葉に彼が小さく笑うのにフヨウは指を引っ込めた。
「・・・エックスが居た世界のこと?」
「うん・・・、いまになってみるとぼくは本当に楽園を築いていたのか、自信がもてなくてさ」
隣でフヨウが立ち上がる気配を感じながらも、コピーエックスはそのまま続けた。
「オリジナルがどう考えたかは知らないけど、人もレプリロイドも幸せに暮らせる理想郷なんて
無理なんだよ。第一どう考えたってエネルギー不足になるし」
「それは違うんじゃないかな?」
えっと彼は庭に降り立ったフヨウを見つめた。
彼女は眩しそうに空を見上げながら、歌うように言った。
「その、エックスのお父さんがどんな人か僕は知らないよ?
でも、きっとその人が作りたかった楽園はさ、
皆が誰かに必要とされるって感じることが出来て安心できる場所なんじゃないかと思うんだ」
だってさ、といったん言葉を切ると彼女は振り返り
そのまま言葉の続きを待っていた彼に抱きついた。
「ふふふふふフヨウ!?」
「えへへへへ」
顔を真っ赤にして慌てる少年の腕の中で少女は
幸せそうに笑いながら、言うのであった。
「だってさ、誰かに愛してもらうこと以上に幸せなことなんてないもん」


おまけ
「うー・・・・・」
「お?どうしたんだ?」
「なんていうか・・・水飲みにきたのに物凄い胸焼けがさ」
「???」

114君が居なくなるその時まで 1/2:2007/07/15(日) 14:29:01
「フランドール」
声に振り替えれば、日傘を差したレミリアが立っていた。
フランドールは手にしていた花を置くと傍らに置いておいた日傘を手に立ち上がった。
「少し歩かない?」
小さく頷いて、二人で歩き出す。
あれから、こうした晴れた日に姉妹で散歩するのが日課になっていた。
本心を言えば、フランドールはこれが嫌いだった。二人だけで歩く事が嫌応なく居た筈の存在を意識してしまったから。
いつも変わらない門番の横を通り抜け、湖の近くまで歩く。
「あ、蝶々」
二人の目の前を一匹の蝶が横切る。
「見たことない蝶ね、なんていうのかしらね?」
「私知ってるよ、あれはねアサヒヒョウモンって言うんだよ」
どこか寂しそうに、懐かしそうに言うフランドールにレミリアはただ無言で舞い踊る蝶を見つめていた。
「アサヒが、言ってたもん、俺の名前はあれから貰ったんだって、紅が、そう付けて、くれたんだって」
ぽたり、とフランドールの頬を雫が伝う。
「ずっと、ずっと、一緒に、居てくれっ、るって、言ったのに!」
視界の端で傘が落ちる。同時にフランドールをレミリアが抱き締めていた。
「フラン、私達と人間では寿命が違い過ぎるの。それは悲しい事だけど、仕方ない事なの」
気付けば、レミリアもフランドールを抱き締めたまま静かに涙を流していた。
大切な存在を失ったのは何もフランドールだけではなかった。
彼女の姉も、同じ様に大切な存在を失っていた。
何処かでひぐらしが鳴いている。
もうすぐ、夜になる。

115君が居なくなるその時まで 2/2:2007/07/15(日) 14:41:24
縁起でもない夢を見たフランドールはぶすっとしたまま、テーブルに突っ伏していた。
「今日は随分とご機嫌斜めだな」
くくっと笑うゼロツーを見つめ―ふと、思い付いた疑問を投げ掛けてみた。
「ゼロツー、もし紫が死んだらどうする?」
「…いきなりだな。まあ、そうなったら、また前の生活に戻るだけさ」
新聞を畳みながら、なんでもない風に言うゼロツー。
「でも多分そんな事無理だろうな。あの頃と今じゃ違いすぎる。
となるとあれだ、あいつをダークマターに…は拒絶されるな」
「じゃあどうするの?」
「そうだな…」
天井を見上げ、しばし考え込むように目をつむり、思い付いた様に頷く。
「あいつの最後をみとってやる」
「なにそれ」
「いやいや、あいつの最後の時まで一緒に居てやるって事だ。
一緒にいられないなら居られる所まで居ようってな」



寿命が違えば、必ずどっちかが先に逝ってしまう
そんな未来の、必ず来るお話

116確執編十六章:同志の見極め      1/6:2007/07/17(火) 21:26:39

 ・二日目 サイド:アーチェ PM8:30

「人を好きになるって、どういうものなのかしら?」
 面と向かって言われたあたしは、その突然の質問に呆然とするしかなかった。

 ・二日目 サイド:アーチェ PM7:30

『………………』
 鉛のように重苦しい沈黙。
 息を吸うのさえ罪の意識を覚える停滞した空間に、あたし達は腰までどっぷり浸かってた。
 黙々と動かす箸に、だけど人の意思が介在してる素振りは見られない。
 水飲み鳥のように、あがっては、おりる。機械仕掛けのように単調な動作。
 ――あたしは今、何をしてるんだっけ?
 自問する。答えは意外にも明白だ。
 箸を動かし、お皿に盛り付けられた料理を掴み、口に運ぶ。
 ただし、どこまでも機械的に。
 栄養を摂取するだけの物体と化したあたしに、もちろん味を感じる器官なんてあるはずもなく。
 つまりは味気のない夕食を味わってるわけだった。
「…………ごちそうさま」
 ビクリと。
 突如崩壊した静寂に、その場にいた全員が身をすくませた。
 声の主はそれにさほどの感慨を抱いた様子もなく、「ちょっと風を浴びてくる」と言って部屋を出て行った。
「………………ふぅ」
 誰かが息をつく音。それはあるいはあたしだったかもしれない。
「何でこんなに緊張してんだろ」
 杏の言葉に、あたしは曖昧な表情を浮かべることしか出来ない。
 たった一人、部屋から人数が減った。
 それだけで空気はいつもと同じに戻っていた。
「なんかアイツの雰囲気って、あたし達を拒絶してる気がするのよねー」
 ――そう。
 たった今部屋から出て行ったアイツ――セリスは、ここに来てもいつもと同じだった。

 セリスは家にいてもあたし達と積極的に言葉を交わそうとしない。
 何というか、周りを近づけないのが自然って感じだ。
 けど、拒絶してるってほどでもない。距離を置いて会話するのは可能で、無闇に近づけば避けられる。
 だから彼女に特別な印象は持ってない。良くも悪くも、彼女は空気みたいな存在だ。
 ――違う。正確には、存在だった。
『迷うべき時は、必死に迷って。けど、決断すべき時には躊躇わないで』
 セリスはいいヤツだ。
 どうしてあたしを助けてくれたのか。
 どうしてあんなに本気の目でいられるのか。
 ――どうすればあたしはあたしにとっての正しさを見つけられるのか。

 あたしは、彼女と話がしたい。

117確執編十六章:同志の見極め      2/6:2007/07/17(火) 21:28:31
「セーリス」
 驚かそうと思って背後から声をかけたけど、彼女は少しも動じた様子がない。
 きっと気配か何かで気づいたんだろう。
「…………何?」
 ひどく平坦な声。彼女は滅多なことじゃ声に感情を含めない。
「いや、一人で何してんのかなーって」
「特に何も。木々を見てたの」
 言うとおり、セリスはさっきから視線を同じ方向に向けたままだ。
 相手にされてないと腹を立てるよりも、あたしは彼女のまなざしの色が気になった。
「何でそんな眩しいものでも見るような目をしてんの?」
 その様子は、一言で言えば、憧憬だった。
「……この世界にも、美しいものはあるのね」
 セリスの視線がこちらを向いた。
 潤むように濡れた瞳があたしの双眸を射抜く。
 同性のあたしでさえ胸が高鳴る艶っぽい姿だった。
「自然が、好きとか?」
「えぇ、とても。私の周りにはなかったものだから」
 ――キンッ
 震えるような金属音。
 そうして、セリスは『初めて右手から剣を離した』。
 どんな状況下でも戦場を想定するのは、もと軍属としての性だろうか。
「……ねぇ、アーチェ。少し話をしましょうか」
 願ってもない提案だった。

 そうしていきなりぶつけられた質問がそれだ。
 正直な話、あたしの方から何を聞こうとしてたかなんて全部吹っ飛んだ。
「人を好きになる、ねー……」
 思わず空を見上げる。残念ながら星は見えない。
「んー、まずどうしていきなりそんなことを聞くワケ?」
「大した理由はないわ。単純に興味があるだけよ」
 一番厄介な返し方をされてしまった。これではごまかしようがない。
「けど聞かれてもあたしには特に好きなヤツなんていないしえぇいないし」
 自爆ってこういうことを言うんだろう。あー空しい。
 セリスはそんなあたしの様子をきょとんとした顔で見た後、ふいに苦笑した。
「別に男女の事に限ってはいないの。親子愛とか、友情とかも『好き』って呼称するでしょう?」
 うわ壮絶な自爆。

「私はあまりそういう感情を抱いた経験がないの。物心ついた時には独りだったから」
 熱く火照った頬に思いっきり冷水を浴びせられる。

118確執編十六章:同志の見極め      3/6:2007/07/17(火) 21:30:32
「正直、私はあなた達が羨ましい」
 セリスの独白にも似た言葉は、ひどく透き通っていて。
「親の記憶も、友達との想い出も、私にはないもの」
 それだけにどうしようもなく重かった。
「あ、勘違いしないで。別に不幸自慢をしてあなた達の諍いを批判する気はないの」
「……十分、批判された気分だけどね」
「批判できるほど他人を知らない。私はただひたすらに強くなることを求められた――機械だから」
 ふと、半年くらい前まで一緒にいた幼い忍の姿が重なる。
 あの娘と違うところがあるとすれば、それは――
「友達ってのはね、けっこう面倒なもんよ」
 意外そうな顔をするセリス。
「批判できるほど云々なんてアンタは言うけど、そんなのアタシだっておんなじ。
 相手が何考えてるかなんてわかるわけないじゃん。エスパーじゃないんだから」
 そう、わかりあえるはずがない。自分と相手は違う存在なんだから。
 わかりあえなくて、当然。
「それをわかった気になって付き合えて、なお不快に感じない相手を『友達』ってゆーのよ、多分ね」
 ――なんだ、わかってんじゃん、アタシ。
「……っても、こんなのしょせん口だけの話だけど」
 苦笑する。わかってるはずなのに、あたしは何にもわかってない。
「仲良くなればなるほど、わかってるって思っちゃう。わかってほしいと思っちゃうもん」
 わかってると自惚れてた。
 わかってくれてると錯覚してた。
「そうして、いつの間にかあたし達はお互いを『本当に』わかった気になってた。
 だからうまくいかなくなったのよ、あたしとリディアは」

 これが憎しみじゃないことには、本当はとっくの昔に気づいてた。
 ただ、そう思い込みたかっただけだ。
 彼女を恨むことが出来れば、あたしはきっとあたしを許せる。
 そんなバカみたいな幻想を抱いてた。
 だからあの時のあたしはリディアに躊躇なく魔法を使おうとしたんだろう。
 恨みたかった。恨んでほしかった。
 壊れかけた砂の城は、無様な形で作り直すより壊した方が楽だから。

119確執編十六章:同志の見極め      4/6:2007/07/17(火) 21:33:16
「私には…よく、わからないけれど」
 今のセリスの顔はさっきまでの大人びたものと対照的に、ひどく幼く見えた。
「わかりたいと思うことは、そんなに罪深いことなの?」
「………………」
「誰だって、知らないものは知りたいと思う。知の探求は人として当然持ってるものよ。
 人が当然持ちうるものが、人が当然抱く感情の妨げになるものかしら」
「それはつまり…あたしが間違ってるって言いたいワケ?」
「そうね。私が思うに、だけれど」
 はっきり言ってくれる。好き嫌いの分かれるタイプだ。
「本当はあなただって気づいてるんじゃない?
 ただ、あなたはリディアを肯定できないから、都合のいいように理屈を捻じ曲げてる」
「…全部わかったような言い方しないでよ」
「ごめん。私は『好き』を知らないから、わかった気になって語ることしか出来ない。
 けど、あなたは違うよね、アーチェ?」

 ・二日目 サイド:アーチェ PM10:00

 あたしはリディアの何を知ってたのか――か。
 湯船から生える自分の手を何とはなしに眺めながら、物思いの海に沈みこむ。
 友達だったのは、間違いない。
 彼女があたしを理解してるくらいは、あたしも彼女を理解してた。
 ――そう感じてたのは、やっぱり幻想だったんだろう。
 だからあたしはあの時のリディアの言葉に耐えられなかった。
 裏切られた――そう思ってしまった。
「どしたの、アーチェ?」
「んー。色々ねー」
「悩んでるあんたって、ものすごく違和感あるわ」
「どーゆー意味よそれ」
「セリスと何かあった?」
「…………」
 間違いじゃないけど、正しくもない。
 一瞬答えに窮したあたしを、杏は肯定と受け取ったらしい。
「悪いヤツには見えないけどね。近づかないけど、突き放しもしないみたいな?」
「そんなことない、セリスはヤな奴よ……って言ったらどうする?」
「もちろん、セリスと話に行くわ」
 言って、口元を笑みに歪める。
 やっぱり杏もいい奴だった。

120確執編十六章:同志の見極め      5/6:2007/07/17(火) 21:35:23
 ガラリと。
 音のした方を振り向くと、唖然とするほど綺麗な肢体が視界に留まった。
「…………神様は不公平だわ」
 頬を引きつらせる杏に、あたしは無言で同意。
 セリスは一度すくったお湯で体を流した後、あたし達から少し離れたところに腰を下ろした。
 ちなみに、セリスの分の宿泊料金は当然ながら支払われてる。
 これもアイツの手引きらしい。準備のいいことだ。
 セリスはあたし達とはちょうど反対方向――庇の向こう側に見える木々を眺めてた。
 あたし達を避けてるのか、単に木々を見るのが好きなだけか。難しいところだ。
 そんな彼女を杏はしばらく歯噛みするような目で見てたけど、急にその顔が変わった。
 思わずあたしは二人から視線をそらす。経験上、杏があの顔になって穏便に事が済んだ例がない。
 杏の姿が消える。湯船に沈んだようだ。
 即座に彼女の狙いが読めた。同時に、それが失敗することも。
 たとえこちらを見てなくても、セリスにはこちらが視えてるに決まってる。
「あの……アーチェ」
「へ……へ?」
 その彼女にいきなり声をかけられあたしは面食らう。
「さっきは、ごめんなさい」
「さっき?」
「昼間のこと」
 少し悩んでから理由に思い至った。
「ひょっとして、アクマの時の?」
 こくりとうなずく。
「…何でアンタが謝んの?」
 セリスの言葉に間違いはなかったし、あたしが原因で『死んだ』以上責められてもおかしくない。
「戦闘時は昔の記憶が蘇って感情が昂ぶるの。それを理由にするつもりはないけど、やっぱり言い方が悪かひゃあっ!?」
「悪か……ひゃあ?」
 ずいぶん新しい謝罪の仕方だ。
「ち、違っ!? ……んっ」
 セリスがおもむろに湯船の中に手を伸ばす。
 杏が釣れた。
「…………………………何してるの?」
 セリスの顔は真っ赤だった。のぼせたのか、怒りのためか、恥ずかしさのためか。これも難しいところ。
「スキンシップ」
 言って、手をわきわきと動かす。
「杏……アンタ、完全に変態オヤジと化してるわよ」
「女同士のスキンシップなんて普通でしょ」
「その手つきと顔はスキンシップの域を軽々と越えてる気がするけど」
 それよりもあたしにはセリスが杏にしてやられたことの方が驚きだった。
 何か他に気がかりなことでもあったんだろうか。
 思ってから、気づく。

 ――さっきは、ごめんなさい。

121確執編十六章:同志の見極め      6/6:2007/07/17(火) 21:38:05
 結局、杏はセリスの傍らに寄るというミッションに成功した。
「ねぇ何でそんなにデカいの?」
「…いや、自然と」
 というか、セリスが少しずつ距離を開くたびに杏が同じ分だけ縮めてるんだけど。
 基本的にセリスは明確な拒絶を示さない。態度で避けてることを表すだけだ。
 今、杏はそれをわざと無視してる。
「もっかい触っていい?」
「……ダメ」
「わかった。じゃあ揉むわ」
「ひぅっ!?」
 抱きついた。同性じゃなかったら犯罪以外の何物でもない。
 ――と、昨日四葉に対して同じことをしたのは棚にあげつつ。
 小さく震えるセリスの肢体。
 それが――わずかに、動いた。
「…………へ?」
 そばで見てたあたしでさえわからなかったんだから、杏には何が起きたかさえ把握出来なかっただろう。
 セリスが杏の後頭部を掴んで嗤っていた。
 速い。お湯の中という制約すら無視して、まばたきする間に杏を組み伏せていた。
「…頭を湯の中に漬けてもいい?」
「いいわけないでしょ!」
「わかった。じゃあ沈めるわ」
 沈めた。杏のもがきなんてものともしない腕力で。
「楽しいね」
「へ?」
「こういうのも、うん。そんなに悪くない」
 言って無邪気な子供のように笑う。
 何だ、こんな風にも笑えるんじゃん。
「ならさ、もっとあたし達に寄ってもいいんじゃない?」
「……私はよくわからないから」
「人はわかりあえるって言ったのは誰だっけ」
「! ……そうだね、そうだった」
 笑みが翳る。何となく何を考えてるか想像がついた。
「ね? 言葉で言うのは簡単でも、行動にするのは大変でしょ?」
「そうかもしれない――

 ――けど、不可能だとも思わない」

 つられて笑う。
 そう、それが正しいんだ、きっと。

「それとさ…杏、そろそろ離してあげたほうがいんでない?」
 慌ててセリスが後頭部から手を離しても、杏はしばらく浮いてこなかった。

122ギャラクティック・コンクエスト:序章・工業惑星マイギートー:2007/07/20(金) 11:58:12
――残存帝国艦隊旗艦SSDエグゼキューター

『執行者』の名を冠するこの白い巨艦はかつて、デス・スターと並んで、帝国の威信を示すものであった。
が、今では一戦闘艦として『新銀河共和国』を僭称する反乱同盟軍や裏切り者の総督や軍人達の軍隊
と惑星や宙域の覇権を巡って戦いに明け暮れる毎日である。しかし今は反乱軍の手から奪回したばか
りの工業惑星マイギートーの軌道上に浮かび、束の間の平和を得ていた。そして、艦隊を束ねるピエット
は司令官にのみ使用が許される瞑想室で瞑想に耽っていた。

ピエット「…」

一方、ブリッジから瞑想室へと通じる白く長い廊下を背筋を伸ばして歩く黒髪の女性が居た。彼女はこの
近代的な戦艦には似つかわしくない、中世的な…帯剣をし、まるで剣士のような装束に身を包んでいた。
しかし、いつもは傲慢な態度の帝国の将校やストームトルーパー達が敬礼しているところを見ると、相当
高位の人物なのだろう。彼女は瞑想室のドアの前に止まると、慣れた動作でロックを解除し、中に入った。
本来、司令官が瞑想中にこの部屋に入るのは御法度である。この事からも彼女の地位が分かる。

――SSDエグゼキューター・瞑想室

薄暗い部屋の中央には巨大な貝のような機械が置かれていた。この機械こそが、瞑想室である。これは
かつてダース=ヴェイダーが使用していたものと同じ仕様のものであり、ピエット曰く、「暗黒面の力が身
につくような気がする」とのことだ。そして彼女が横にあるコンパネを操作すると、すぐに瞑想室の屋根が
上に持ち上がり、白い大提督の制服を着た男が姿を現した。

ピエット「やあ、アッシュ」

男はこの女剣士のことをアッシュと呼んだ。これかもし彼女でなく、将校やストームトルーパーだったら、
その者は良くて叱責、悪ければ軍法会議にかけられているだろう。そうではなく、機嫌よく挨拶したところ
から、関係も大体分かってくる。

アッシュ「またここに居たのか」
ピエット「うむ、深遠なる知恵の完成について考えていた」
アッシュ「また、訳の分からないことを…で、何か分かったのか?」
ピエット「今夜のおかずはほうれん草のソテーとみた」

次の瞬間、ブラスターよりも早いアッシュの斬撃がピエットを襲い、断末魔が瞑想室内に響き渡ると同時
に、白い瞑想室と制服を深紅に染め上げた。だが、そこは戦闘機に特攻されようが、デス・スターに特攻
しようが死ななかったピエットである。彼の魂は直ちにフォースの冥界から帰還し、抗議の声をあげた。

ピエット「何をするんだ!この神聖なる瞑想室を血で染め上げるとは!」
アッシュ「この忙しい時に何を考えているのだ貴様は!何が深遠なる知恵の完成だ!おかずくらい主計
      将校にでも尋ねれば良いだろうが」

まさに正論である。戦闘が終われば、占領統治の方針の決定や、兵員や物資の補給、敵産の接収、論
功行賞など、すべき事は山ほどあるのにもかかわらず、彼は夕食の献立を数時間に渡って予知しようと
いう時間の浪費を行っていたのだ。もっとも、確かに献立はその通りであったが。

ピエット「それはそうだけどさ。で、戦後処理は誰が担当している?」
アッシュ「ヴィアーズ将軍とフリーマン博士を中心に委員会を設置した」

そうかと言って、彼はがっしりした体格の戦友と髭面の物理学博士をの顔を頭に浮かべた。どちらも信用
のおける優秀な人物なので、間違いは無いと彼は判断した。彼女はピエットの代理人という地位にあり、
この人選も恐らくはアッシュが行ったものだろう。ピエットは彼女の的確な人材の配置に満足していた。

123ギャラクティック・コンクエスト:序章・工業惑星マイギートー:2007/07/20(金) 12:11:46
まさに正論である。戦闘が終われば、占領統治の方針の決定や、兵員や物資の補給、敵産の接収、論
功行賞など、すべき事はいくらでもあるのだ。それにもかかわらず、彼は夕食の献立を数時間に渡って
予知しようという時間の浪費を行っていたのだ。もっとも、確かに献立はその通りであったが。

ピエット「それはそうだけどさ。で、戦後処理は誰が担当している?」
アッシュ「ヴィアーズ将軍とフリーマン博士を中心に委員会を設置した」

そうかと言って、彼はがっしりした体格の戦友と髭面の物理学博士の顔を頭に浮かべた。どちらも信用
のおける優秀な人物であり、人民の支持を失うような真似をしでかすことは無いだろう。この人選は恐
らくはアッシュが行ったものである。彼女はピエットの代理人という地位にあり、彼女の的確な人材の配
置は彼を満足させた。

最初はほとんどの者が彼女に批判的だった。帝国には女性蔑視の風潮があった上に、代理人という立
場がかつての皇帝の代理人であるダース=ヴェイダーに重った為、彼女を忌み嫌った。更にピエットに
も色狂いしたかという陰口を叩く者も居た。だが、的確な判断力を随所に示したり、時にはピエットを超え
る見事な差配をする内に、頑迷な帝国の将校達も彼女を認めるようになった。勿論、彼女の容姿による
ところも大きいが。ただ、兵士達には当初から人気があった。かつて皇帝が使っていた赤い光刃のライト
セイバーを振るい、先陣を切る姿はトルーパー達にとって非常に頼もしいものだったのである。

ピエット「で、用件は何かな?」

ピエットが本題を聞く。アッシュも忘れていた、と言った顔をして用件を伝えた。

アッシュ「ああ、それなんだが…少々、問題が発生した。会議室に来てくれないか?提督や将軍達はもう、
      集めてある」

それを聞いて何が起こったか、問題の規模の見当がついた。少々の問題なら現場で、やや大きいものな
ら彼女と司令官達で対処できる。自分の所まで来るのは余程の問題だ。すぐさまアッシュを伴い、瞑想室
を出て、作戦室へと彼は向かった。

124ギャラクティック・コンクエスト:序章・工業惑星マイギートー:2007/07/21(土) 14:56:11
――SSDエグゼキューター・作戦室

作戦室では既に麾下の将官や佐官が長い帝国軍ホロテーブルに腰掛けている。一番奥と、二番目の左
側の席が空いており、座るべき者を待っていた。彼らは二人を見ると立ち上がって一礼し、二人が座った
後に再び腰をかけると、開口一番にピエットのすぐ脇に座る将軍がプロジェクターに惑星のホロを映しなが
ら、状況の説明を開始した。

冷静に状況を説明する彼はマキシミリア=ヴィアーズ将軍。首都惑星コルサント出身の人間である。彼は
上司の策謀で常に危険な戦場や、脆弱な部隊を預けられたが、彼にはそれも自分の有能さを見せ付ける
手段でしかなかった。戦局を引っくり返し、脆弱な部隊も精鋭に鍛え上げ、常に前線で武功を立てたのだ。
面白くないのは上官達である。そこで彼らは死刑宣告にも等しい人事を行った。あの邪悪なダース=ヴェ
イダーの下に送ったのだ。しかし、彼はヴェイダーの要求することをソツなくこなし、自慢のAT-AT部隊を率
いて、氷雪の惑星に籠った反乱軍を踏み潰し、人々は『ホスの英雄』と彼を称えた。

ヴィアーズ「問題が発生しました。惑星マイギートーの主要都市『ルーンニウム』で反乱軍の残党が決起し、
        市民を人質に取り、帝国軍の撤退を要求しております」

かつての帝国なら、市民もろとも反乱軍の上にスターデストロイヤーの砲撃を浴びせて滅ぼしていただろ
う。が、ピエットはそのような手荒な真似を好まなかった。それに、差別主義や圧制を廃止することで、反乱
軍の大義を失わせ、他の軍閥との違いを明らかにするという戦略がある。また、財政の逼迫も占領地の必
要以上の損害を許さなかった。

ピエット「まずいな…しかし、反乱軍の要求を呑むことはできん。そこで、精鋭部隊にルーンニウム解放の
      任務を与える」
アッシュ「第501大隊か?」

第501大隊…共和国末期のクローン大戦の時に編成された大隊である。兵員や小隊長まで全員がクロー
ンの部隊であり、中隊長も半分がクローンという編制だ。これは数々の戦闘で武功を挙げ、ダース=ヴェ
イダーの直属部隊という名誉と『ヴェイダーの拳』の異名を与えられた、エリート部隊である。帝国崩壊後
は、ピエットの軍に所属し、常に困難な戦局を打破してきた。

ピエット「その通りだ。ジェリルクス大佐、直ちに麾下の兵力を以て、一週間以内に反乱軍を沈黙させるの
      だ。使用する兵器に制限は設けないが、市民や施設の損害を最小限に抑えるように」
ジェリルクス「はっ!」

ジェリルクス大佐は工業惑星エリアドゥの出身で、カリダ軍事アカデミーを首席で卒業したエリート将校で
ある。アウター・リムで数々の内乱を鎮圧し、30代にならない内に中佐に昇進。そしてそれがヴェイダーの
目に留まり、第501大隊の司令官に任命され、同時に大佐に昇進した。ヴェイダーの部下になった者は大
抵、暗黒面の教義を与えられることになるが、彼はピエット、ヴィアーズのような少数の成功者に名を連ね
ることに成功したのである。

125非日常なる日常 1/2:2007/07/22(日) 08:57:18
(465人目594目欄から、469人目の状況も追加で。)

緑:「学習しないとな…。」
カワサキ:「あなたが一番学習しないとならないでしょうに…。」
久遠:「まさしく正論ですね。」
緑:「否定できないのが悔しい。」
日向:「まあ、気付いてるだけでもいいんじゃない?」
静馬:「そうとは言い切れないと思うけど…。」
菜月:「こっちに飛び火させないでね、忙しいんだし。」
七瀬:「またお部屋にこもるの?」
菜月:「ん〜、ちょっとね…。」
日向:「お店手伝って貰おうと思ったけど無理みたいね…。」
小春:「じゃあ私が手伝うよ。」
静馬:「僕も手伝いますよ。」
日向:「いいの、二人とも?」
小春:「あの制服可愛いし、お手伝いするよっ☆」
静馬:「いつも忙しそうですしね。」
日向:「じゃあお願いね。」
緑:(君も制服着れるだろうに…。髪伸ばしてるんだから。)
静馬:「緑も手伝ってくれるだろう?。」
緑:「ちょ、なんで俺まで?」
静馬:「ちょうどいいじゃないか、そんな格好なんだし。」
緑:「勘弁してくれ…。二度とお天道様の下を歩けなくなるから。」
菜月:「にへへ〜、おねーさんがお化粧してあげるわ〜。」
緑:「ま、待ってください(汗。なんでそんな…」
菜月:「決まってるじゃない、面白そうだからよ。」
緑:「だ、誰か助けて〜!」
氷:「面白そうだから私も手伝っちゃおっと。」
菜月・静馬・氷・七瀬:「覚悟しなさ〜い!!」
緑:「増えてるしー!」

20分後…。

緑:「ううぅ…。もうお婿にいけないOTL」
氷:「ちょっと無理そうかも…。」
静馬:「でもリボンか頭の飾りのやつ着ければ結構いけそうだね。」
菜月:「やっぱり厚手の黒タイツじゃなきゃダメみたいね。」
七瀬:「お兄ちゃんの足の毛を剃らなきゃね。」
静馬:「でも見えないから大丈夫ですよ。」
リース:「変…。」
涼乃:「兄様(にいさま)…。」
水:「ああううぅ…。」(←オロオロしてる娘)
菜月:「さっ、よろしくお願いね。」
小春:「は〜い!」
静馬:「じゃあ行こうか。」
緑:「モウドウトデモシヤガレ…。」
久遠:「緑さん、これを。」
緑:「ん?ってこれは変声機!?なんでこんな物が?」
久遠:「お気になさらずに。ではいってらっしゃい。」

126非日常なる日常 2/2:2007/07/22(日) 08:57:50
〜喫茶店店内〜

日向:「緑さん、これ奥のテーブルにお願い。」
緑:「は〜い。」
静馬:「コーヒー2つと紅茶1つ、トースト3つお願いします。」
小春:「スパゲッティ茹で上がったよ〜。」
(裏口から覗く人影)
氷:「ちゃんとやってるみたいね。」(←ファミレスでバイトしてる人)
涼乃:「兄様、楽しんでらっしゃいませんか?」
久遠:「開き直ってるのでしょうね、あれは。」
花穂:「お兄ちゃま…。」
久遠:「さあ、戻りましょうか。」
氷:「そうですね、行きましょう。」

〜閉店後の店内〜

静馬:「なんとかできたじゃない。」
緑:「……。」(無言で睨む)
小春:「あはは、そんなに睨まない…。(苦笑」
日向:「お疲れ様、緑君。」
緑:「お疲れ様です、日向さん。」
静馬:「どう、これからm…」
緑:「二度とごめんだい。」
菜月:「やっぱりか…。」
日向:「あら菜月ちゃん。そっちは終わったの?」
菜月:「なんとかね〜。緑君もお疲れ様。」
緑:「精神的に疲れますたorz先に上がりたいっす、メイク落したいですし。」
日向:「じゃあいいわよ、菜月ちゃんお願いできる?」
菜月:「おっけ〜。じゃあついてきてね。」
緑:「はい…。お疲れ様でした〜。」
日向:「静馬君もいいわよ。もう全部終わったから。」
静馬:「では僕も上がらせて貰います。お疲れ様でした。」
日向:「お疲れ様。さて、緑君の様子を見ておかないと。」

〜菜月さんの部屋〜

菜月:「っと、これで終わり。」
緑:「ありがとうございました。」
菜月:「似合ってたのに残念ね。」
緑:「もう勘弁してください…。」
日向:「菜月ちゃん、入っていい?」
菜月:「あ、姉さん。いいわよ。」
日向:「どう?お化粧落ちてる?」
緑:「おかげさまで。」
日向:「ごめんなさいね。静馬君や菜月ちゃんたちのせいで大変な目に合わせちゃって。」
緑:「まさか4人がかりで来るとは…。」
日向:「でしょうね。あ、これ借りてた緑君の服。」
緑:「あ、ありがとうございます。もういい加減これも脱ぎたかったんです。」
菜月:「もうちょっと着ててもいいのに…。」
緑:「いろいろと嫌です、大変だったんですから。」
菜月:「どんな風に?」
緑:「カンベンシテクダサイ、イヤマジデorz」
日向:「女性用の下着をしてること?」
緑:「ちょ、日向さん、言わないでくださいよ。」
菜月:「え〜、本当?見せて見せて。」
緑:「やめ、待って、嫌〜(泣」


(無理矢理終了。)
半ば勢いだけで書き上げた。反省は山ほどしているOTL
続きません、続きませんったら。

127いつものイツ花の一日:2007/07/22(日) 16:06:14
AM05:00 起床
イツ花「う〜ん・・・今日もバーンとォ!いい朝ですね!」
AM05:30-05:50 朝食の支度
イツ花「今日は何にしよっかな〜?」
AM06:00-06:35 朝食
一同「いっただきまーす!」
イツ花「召し上がれ〜♪」
AM06:40-06:55 片付け開始
イツ花「♪〜」
エルウィン「食器洗い機買おうか?」
AM07:00-08:00 猫とたわむれる(休憩)
イツ花「たま、おいでー」
南雲「い、一時間も・・・」
AM08:00-09:40 洗濯(手洗い)
イツ花「♪〜」
ななこ「せ、洗濯機使えばええやん・・・」
AM09:50-AM11:00 お掃除(ほうき&ぞうきん)
イツ花「♪〜」
ムウ「そ、掃除機使えば?」
AM11:10-AM11:40 休憩
イツ花「Zzz...」
AM11:50-PM00:10 昼食の支度開始
イツ花「昼は・・・何にしようかしら?」
山本「コンビニの弁当ですませてもいいんだぞ?」
PM00:15-00:50 昼食
一同「いっただっきまーす!(きょ、今日も手作り・・・冷凍でもいいのに」
イツ花「召し上がれ〜♪」
PM00:55-01:10 片付け
イツ花「我が庵は都のたつみしかぞ住む〜」
カリス「た、短歌!?」
PM01:30-02:30 町内会へ
イツ花「じゃ、バーンとォ!行ってきますネ!」
ブランネージュ「た、たまには私が行くわよ?」
PM02:35-03:40 買い物
イツ花「今日はどれを買っていこうかな?」
井上「す、すまんのぅ・・・」
PM03:45-04:00 風呂の掃除
イツ花「五月雨に集めて早し最上川〜」
クララクラン「私も手伝いますわイツ花さん・・・」
イツ花「大 丈 夫 で す !(キラーン」
PM04:20-05:20 食事の勉強
イツ花「なるほど・・・ふむふむ」
マオ「い、いつもありがとにゃん!」
PM05:30-05:50 夕食の準備
イツ花「今日は腕によりをかけて!」
一同「いつもかけさせていただいていますorz」
PM06:00-06:40 夕食
一同「いっただっきまーす!」
イツ花「召し上がれ〜♪」
PM06:45-07:00 片付け
イツ花「♪〜」
パラメディック「て、手伝うわよ!?」
PM07:15-07:30 猫と戯れる
イツ花「ごめんね、たま・・・」
シギント「か、飼ってもいいんだぜ?」
PM07:35-09:00 読書
イツ花「やはり徒然草はいつ読んでもいいですねぇ」
井上「な、なにげにすごいことを・・・!」
PM09:10-PM09:55 風呂
イツ花「つれづれなるままに〜」
エルウィン「・・・なにそれ?」
PM10:05-10:50 町内会の一員として付近見回り
イツ花「それではバーンとォ!行ってきますネ!」
元親「す、すまねぇ・・・」
PM11:00-11:10 日記をつける
イツ花「今日も特に変わらない一日でした。っと」
PM11:15 就寝
イツ花「おやすみなさい・・・」

129ギャラクティック・コンクエスト:序章・工業惑星マイギートー:2007/07/27(金) 11:59:31
――SSDエグゼキューター・ハンガー02

何十機もの惑星降下用シャトルをバックに、ジェリルクスが数名の中隊長や小隊長とブリーフィングを行
っていた。

ジェリルクス「以上が本作戦の概要である。質問がある者はいないか?」

クローンの指揮官であるバレイポット大尉が質問を行う。彼は第501大隊の最古参であり、隊内で最も信
頼のある人物で、ジェリルクス大佐の重要な片腕である。

バレイポット「交戦規定は?」
ジェリルクス「特に定めていない。必要な時に攻撃してよろしい…他には?」

それに頷き、他の者達を見回した。誰も質問があるような素振りを見せている者は居ない。

バレイポット「ありません」
ジェリルクス「では、我々の職場へと向かうとしよう」
バレイポット「イエッサー!」

そして指揮官達は敵に恐怖を与え、自分を守ってくれるフルフェイスのヘルメットを被り、センティネル級
シャトルに搭乗して、雪の降る惑星へと降りて行った。

――惑星マイギートー・ルーンニウム市郊外

雪が降り、結晶化した氷河や雪原が広がるマイギートー。文明はこの上に築かれており、地表は荒れ放
題である。しかし、ムーンの建設した都市は美しく、氷河は壮大な眺めであった。だが、彼らは観光に来た
のではない。反乱の代償を支払わせる為に来たのだ。

バレイポット「これより我ら第501大隊は人質とされた罪の無い帝国市民を救い、卑怯な反乱軍に鉄槌を
         下す為に向かう。…お前達はなんだ?」

バレイポットは兵員達を眺め回す。すると彼らが一斉に大声を張り上げる。だが、バレイポットはやり直し
を何度も要求する。

トルーパー「第501大隊だ!」
バレイポット「ふざけるな!聞こえんぞ!」
トルーパー「精鋭第501大隊だ!」
バレイポット「最近のクローンはタマを落とされているのか!?」
トルーパー「無敵の精鋭第501大隊だ!!」
バレイポット「良し!我々第501大隊は無敵だ!行くぞ豚娘共!」

喚声をあげながら突進していく兵士達。しかし、数分後にはこの高揚を止めねばならない。接近が知られ
ては攻撃を受けるばかりではなく、市民が処刑されるかもしれないからだ。あくまで隠密作戦なのである。

131埋葬、4:2007/08/11(土) 20:27:44
「……あのさ、ずっと考えてたんだけど」
 と彼女が言い出したのは、降りしきる暗黒という名の雨に全身を包まれた頃。
 携帯の画面を唯一の灯りにして歩いていた四肢を止め、彼女を見る。
「ひょっとしたら、これは幽霊の仕業なんじゃないかな?」
「……はい?」
 予想外の単語だった。
「あ、別に気が変になったとかじゃなくて。
 今私たちが住んでる部屋にね、最近幽霊が出るの」
「幽霊……」
 つい最近そんなことを別の誰かから聞いた気がする。
「よく知ってる気がするのに、誰だかわからない声。それがね、どこからともなく聞こえてくるの。
 アーチェやプリシスも聞いたんだから間違いない」
「まぁ確かに怪談話としてはセオリーすぎる展開ですけど」
「信じてないって声」
 見透かされた。隠すつもりもなかったが。
 足を止め、軽く肩をすくめる。無論、暗がりの中彼女の目には入らないのを見越した上で。
「信じられません。自分の目で見ない限りはね」
「あなたの目はこの世界でそんなに偉いの?」
 非難ではない。どこか、試すような響きを感じた。
 思わず苦笑が漏れた。
 その言葉の意味を伝えるのに「偉い」という表現を用いる彼女の発想に対して。
「確かに、俺の目はこの世界のすべてを見通せるほど大層な代物じゃありません」
 それに――
「天使や悪魔がいる『世界』で、幽霊の存在を嗤うのもナンセンスか」
 ふと気付いて、再び足を動かす。
 相変わらずだが、体力で目の前の少女に劣る自分の体が恨めしい。
「けどですね、それを踏まえてもリディア様の発想は飛躍しすぎてます」
「……わかってる。そう思いたいだけ」
 ――あぁ、そうか。
 自分の浅薄な回路を呪う。
 彼女は明確な敵がほしかったのだ。
 懊悩や焦燥は問題が解決されない限り消えない。
 敵は倒せば解決する。
 ――これほど安易かつ平穏な解答はない。

 そして、平穏とは大概現実から最も離れた場所に存在するものだ。

132埋葬、5:2007/08/11(土) 20:30:40
 ここは一体なんだろうか。
 森の中を、歩いてきたはずだった。
 しかしそこに現れたのは、明らかに人間の手によって作られたとしか思えない建造物。
 周囲には何もない。
 正確には、人工的なにおいを感じさせるものは、何も。
 道さえなかったのだ。当然ながら、人が住んでいる気配はない。
 森の中にぽつんと立つ、忘れられた廃墟――
「アスミは、この中ですか?」
 こくりとうなずく。
 足もとに気をつけながら、とりあえず一歩踏み入れる。
 そして――自分の認識が間違っていたことに気づいた。

 ここは忘れられたのではない。
 棄てられたのだ。

「……聞こえる」
 何が、と問うより早くその声は自分の耳にも届いた。
 格子の外された窓枠から、まるで無粋な侵入者を咎めるように大気を揺らす緑の喧噪――
その中にあって、かすかだがはっきりと鼓膜を震わせる意味ある韻律、あるいはその羅列。
「これ……あの声だ」
「その指示代名詞に該当する具体的名称を共有してください」
「本当に好きだよね、わざわざ回りくどい言い方するの。
 だから、幽霊。時々聞こえるあの声とおんなじ」
 リディア様の声はわずかだが震えを帯びている。
 耳を澄まして聞いてみる。
 その声は、廃墟の奥から聞こえてくるようだ。
 もともと大きな建物ではない。届く声がおぼろげなのは遠いからではなく、声量が乏しいのだろう。
 しかし何より関心を覚えたのは、
「……なるほど」
 正直、アーチェやリディア様の言葉には半信半疑だった。
 聞いたことがあるような気がするのに、聞き覚えのない――そんな形容で飾られる声など経験がない。
 だが――それ以外にどう形容のしようがあるというのか。

 二人と同じ表現しか思いつかない自分が、そこにいた。

133埋葬、6:2007/08/11(土) 21:13:02
 静止するより早く、リディア様は一人廃墟の奥へと駆け出した。
 彼女が何を考えたのかは想像に難くない。
 幽霊にアスミが憑かれた――そんな可能性を一笑に付すことが、何故出来る?
 慌てて彼女を追いかける。自分がいたところで足手まといにしかならないことは自覚しつつ。
 近づくほどに届く声もはっきりとしたものになった。
 眉を潜める。

 ――The place changes and goes. Like a wind, like clouds
 ――Like the traces the heart, no halt at the places

 耳に届く歌詞は英語のもの。さらに言えばその曲を自分は知っている。
 だがそんなことよりも、
 ――この声で、この曲を知っている人物……?

 リディア様はすぐに見つかった。
 そして、彼女も。
 気のせいか、彼女は暗闇の中でぼんやりと光っているように見えた。
「アス、ミ……?」
 そう呼びかけたのは自分か、リディア様か。両方だったかもしれない。
 疑問を帯びた口調であることは自覚していた。
 何故か?
 別に彼女が普段とまったく異なる姿をしていたわけではない。
 さすがにいつもの花のように広がったスカートではなく、歩きやすいパンツルックではあったが。
 まして空を飛んでいるわけでも、奇行を繰り広げているわけでも。
 あるいは彼女を知る人物にしてみれば、奇行と表現してもおかしくはないかもしれない。
 ――さて、彼女とは誰か。
 言うまでもない、アスミだ。

 正確には、アスミの姿をした、『誰か』。
 それが、歌っていた。

 ――The place is so far away, be far apart
 ――People's hand does not reach, so merely has the worship

 アスミの声で。

 ――The place is a profound load, and wear the vain faint light
 ――But we will find it in the place. The hut at which it stands still

 あるいは、幽霊の声で。

134埋葬、7:2007/08/11(土) 22:16:14
「つまりアスミが幽霊にとりつかれて歌ってたってゆーこと?」
 アスミの失踪から一夜明けた、朝。
「そうですね。俺も最初はそうかと思いました」
 昨日自分が見た出来事を、そのままアーチェに話す。
 スパイスとして己の主観を織り交ぜながら。
 何だかんだとあって、結局昨日は話す機会を逸してしまったのだ。
「過去形? そうじゃなかったの?」
「考えてください。そもそも幽霊って単語はどこから出てきました?」
「それは、だから聞いたことがあるようでない声が、どこからともなく……」
「その声の正体はアスミだったんですよ?」
「ん? アスミの声が幽霊で、つまり幽霊はアスミだったわけだから……えっと、死亡フラグ?」
「リディア様が聞いたら斬鉄剣が唸りますよ」
 つまりですね、と、

「幽霊という概念。その根源とも言えるものの正体が、アスミだったんです」

 聞き覚えのあるようでない。
 闇の中を踊る声に、何故そんな印象を覚えたのか、理解した。
 声は紛れもなくアスミのものだ。そう認識して聞けば、それ以外の何物でもない。
 だがその音を紡ぐテンポが、普段の彼女からは想像できないほどにかけ離れていた。
 四車線の公道をジャンボジェットが滑走していくようなものだ。
 誰もそんなことがありえるとは思わない。
 それはアスミのことをよく知る者にのみ起こる、認識の穴だった。

 しかしそれでは即座に次の疑問が生じる。
 何故アスミは歌っているのか。
 そもそもアスミが倒れたと聞いて自分はここに来たのだ。
 その彼女が今、こんな場所で一人歌っている。

135埋葬、8:2007/08/11(土) 22:18:06
 結局、その声が途切れるまで自分もリディア様も動けなかった。
 アスミは虚空を見据えて立っている。
 その体をリディア様が無言で抱きしめる。
「あついー、はなれろー」
 ふいにバタバタと暴れだすアスミ。
 そう、アスミだ。こんな間延びした響きを彼女以外の人格が出せるとは思えない。
 ぱっとリディア様が手を離す。アスミは猫のように体を軽く震わせ、満面の笑みを浮かべた。
「体は大丈夫? おなかとか痛かったりしない?」
「たくさん元気ー」
 ぱたぱたと手を上下に動かす仕草が、彼女なりの元気の表現法らしい。
 こういう時、虚飾や虚勢のないアスミの言葉はありがたい。
 素直に安堵することができる。
「何で、こんなところに一人で来たの?」
 その声には非難の響きが含まれている。
 アスミも敏感に感じ取ったようで、ぱたぱたをバタバタに変えて、
「一人じゃないー、いっしょー」
 そう言った。
 思わず首を傾げ、リディア様と顔を見合わせる。
「誰と…一緒だったの?」
「いっしょー、あっちこっちー、いなくなったー、おいかけるー」
 ついには部屋の中を駆け出しながら、右手を矢印にしてくるくると回り出す。
「アスミ落ち着いて…ねぇどうしよう?」
 リディア様が自分に意見を求めるのも珍しい。
 だが、それには応えない。
「一人はやー、いっしょー、いっぱい一人ー、いくなー」

「今はもう、いないんですね?」

 ぴたりとアスミが動きを止めた。

「いないー、いっしょはくるしー、うたってばいばいー」

 リディア様の目から、涙が溢れ出した。
 何故かはわからない。わかるような気がしても、それはきっと錯覚だろう。
 アスミは変わらず満面の笑みを浮かべながら、


 矢印の形にした右手で、空を指差していた。

136埋葬、9:2007/08/11(土) 22:40:58
「……それで?」
「いえ、それで終わりです。その後すぐあなた達と合流して、以降は説明する必要ないでしょう?」
 アーチェは口を結んで難しそうな顔をした。
「んー、結局何だったワケ?」
「いや俺に聞かれても」
 アスミが何を見て、誰と会話していたのか。
 それはアスミにしかわからない。
 彼女は嘘をつかないが、すべてが彼女の妄想だったとも考えられる。
 だが――
「『あそこ』では、そんなことがあってもおかしくないような気もする、かな」
「あそこって、話に出てきた廃墟のこと?」
 頷く。
「多分、数十年前まではどこにでもある普通の家屋だったんでしょう」
「森の中に一軒だけ立ってて普通もないもんだけど」
「いえ、その頃はまだ森じゃなかったんだと思いますよ?
 あそこまでの間に生えてた木はそんなに生長しているようには見えなかった。
戦争時代、家と一緒に多くの木々も焼けたんでしょう。あれは植林されたものです」
「じゃあ、その廃墟は……」
「多分、戦争時代に焼け残ったんでしょう。もっと昔の可能性もありますけど。
 取り壊すのにも費用がかかるから、そこに放置された」
「…………」
 上を見上げる。
 部屋の中だ。見えるのは天井でしかない。
 昨夜のアスミには、空に還る誰かの姿が映っていたのだろうか。

「そうしてあの建物は『埋葬』されたんです。
 ――森という棺の中に、ね」

137埋葬、10:2007/08/11(土) 23:42:51
「リディアー、ごはんおいしー」
 一対の箸をフォークのように掴んで口の中にかきこむせいで、
アスミの食事機能にはデフォルトとして「口の周りを汚す」と「床にこぼす」が備わっている。
 それをすべて世話するのがリディア様の日課だ。
「ありがとう、アスミ」
 時折ハンカチで彼女の口の周りを拭う。
 最初の頃は食事を邪魔する行為として嫌がっていたが、最近は素直に受け入れるようになったようだ。
 落ち着きのない妹の世話を焼く姉を見ているようで微笑ましい。

 これは余談だが、アスミは時々地下室で歌っていることがあるようだ。
 地下室には通気口のための穴が何箇所かある。中には部屋と繋がっているものも。
 それが伝声管の役割を果たしたのが、枯れ尾花の原因になったようだ。
 アスミが地下室で一人歌っていた理由は、不明である。

 箸を動かすアスミの動きが止まった。
 怪訝な顔で見やるリディア様。
「これおいしー」
「うん、どうしたのアスミ?」
 すっ、とアスミが皿を差し出した。
 もういらない、というジェスチャーではないだろう。それは天地がひっくり返るよりもありえない。
「……食べるー?」
 リディア様の目が大きく見開かれる。

 ――独りは嫌だと、彼女は言った。

 それはつまり、今は独りではないと。
 自分達は「認識されている」と。
 そう、思っていいのだろうか。

 にこりと笑って、皿を受け取る。
 言う言葉は、月並みで、ありふれているかもしれない。
 だが、だからこそそれはそこに存在し続ける。
 忘れることのない、確かな想い――

「ありがとう、アスミ」

138夏空、時々、雨:2007/08/14(火) 01:07:48
建物から出ると見事なまでの土砂降りだった。
「すごい雨だねぇ」
ラムネの瓶を開けながら、フヨウ。
「けどこれじゃあ帰れないよ…」
建物の中には泣きそうなフランドールとそんな彼女と手を繋ぐアサヒ。二人の隣ではメイディが携帯を見ている。

ざんざん、ざぁざぁ。
突然の雨に道行く人がかけていく。

「ねぇ」
空になったラムネの瓶と鞄を腰かけていた長椅子に置くと、たんっ、と地面を蹴り、前へ飛び出す。
「あはははは!やっぱりすごーい!」
ざんざん降り注ぐ雨を頭から浴びながら、彼女は嬉しそうに笑った。
「なにやってんだよー!?」
雨に負けない様に叫ぶアサヒにフヨウが同じ様に叫び返す。
「思い出してるんだよー!」

ぽたん、と軒下から落ちる雫に日傘をさしかけていたフランドールが小さな悲鳴を上げる。
「うわぁ、すっごい青空」
思わず感嘆の声を上げ、携帯で空を写す。
「僕とお母さんがあったのも雨の日だったんだ」
複雑そうなアサヒが見つめるなか、濡れた髪をなびかせながら、空を見上げるフヨウの視線の先には
真っ青な夏空と白い雲を繋ぐ大きな虹がかかっていた。


夕立と女の子組

139花火:2007/08/16(木) 14:06:33
8月のある日―――

皆はこの夏の異様な暑さでだらけていた。
「おーい!今年は冷夏だとか言った奴出てこーい!」
と、巨乳戦闘機の声が一日一回は聞こえるほどだ。
そんなとき―――。
「なぁ、皆で乃木の地元で花火やらへん?」
不意に先生が思いがけない提案をする。
「しっかり夏の思い出は作っておかんと後々後悔するでー?」
そんなこんなで花火をすることになったのだが………。

「………東京やてー!?」
先生は驚いていた。
「や、やる場所確保できへんやん………」
現在の東京というものは広い公園や空き地が無く、
あってもそこは花火禁止の立て看板がいやらしく立っているのであった。
「うーん、それじゃバーンとォ!天界でやります?」
皆がその提案に驚いた。
「て、天界?………上?」
「ええ!上です!さぁ今から皆さんを天界にバーンとォ!ご招待しますので歯を食いしばってくださいね!?」
どこからか金属バットを取り出し………
「ちょっと待て(カキーン」
皆まだ死にたくないと必死に逃げるも見事に打たれたのであった。

―天界―
「ようこそ!極楽浄土の天界へ!」
一同を迎えたのはいつものお手伝いだが、その姿はいつもと違う巫女姿。
「……………」
沈黙する一同。しかしそのお手伝いの口から―――。
「花火はあちらにバーンとォ!沢山用意させていただきました!」
途端に皆の顔が明るくなる。しかし空はまだ青い…。
「どうしよう…まだ…」
また一同の顔が暗くなっていく。すると…。
「あ、昼子様に頼んで夜にしてきてもらうのでバーンとォ!待っててくださいネ!」

それから10分ぐらい経っただろうか…。
みるみるうちに空は暗くなっていき花火をやるには今しかなかった。
「じゃ、打ち上げるでー!?」
一発目の花火は赤く空の野に咲く花の様な…
「じゃ、いっくよー!?スプレッドボム!」
二発目の花火は橙色に丸く―――。あれ?何かおかしい。
「その前にそれは花火じゃなくて爆弾だっ!」
一同の突っ込みが炸裂する。
その後も数時間に渡って花火を楽しんだ一同ではあったが―――。

―ネオトーキョー カツ○カ地区―
「へぇー、未来 の東京ってこんな感じなんだー!」
「………浦島太郎か俺らは?」

彼らが天界からかえってきたときにはすでに500年の歴史が流れていたそうな…。

140メガネとキスと魔女:2007/08/30(木) 18:27:00
「いつも思うんだけど」
不意に上がった疑問の声に紅は新聞からキャンバスに筆を滑らせているドロシアへと視線を移した。
メガネをはずしてるせいか、キャンバスの絵はあやふやでしか見えず、彼女が何を描いているのかわからなかった。
「紅ってやっぱりメガネないほうがカワイイですよ?」
くすくす、と笑い声が聞こえる。
少し距離があるせいか、振り返ったドロシアの表情まではぼやけて分からない。
「今更何言ってるのよ」
むっとしながら、立ち上がり、メガネを手に―

「ダメ、ですよ?」
トン、と軽い衝撃と油絵の具独特の匂いが近付く。
「メガネかけないと前見えないんだけど?」
「だからだめですって」
「…なんでよ」
「だって」
少しドロシアの顔が近付き―

チュッ

「メガネが邪魔でキス出来ないでしょう?」




やあ、最近ネタが出ないえぐい色の魔道士だぜ
ドロシアさんに最後の台詞を言わせたかっただけなんだ
…BGMに某銀森のアリスの王子さまかけたら脳内がやばいぜ

141勢いでやった、反省はry:2007/09/01(土) 04:55:23
今日もスパ家は何食わぬ顔して非日常な日常がすぎ、季節も過ぎ今日もまたのんびり過ごしております。

おーい、ライー。
ライ(擬人キリン♂)「呼んだー?(何故か巫女服)」
…だから、何故いつもそういうかっこうしてくるのかと。
ライ「しかたないじゃん、そういう服しか持ち合わせてないのに。」
そういう服しかないの!?
ライ「うん。後はセラ服にチャイナドレスにメイド服にry」
まてえぇい! おまいそれはおかしいだろ!!!
ライ「でも、女の子顔女装ショタってある意味需要あると思うけどなー?」
いやそんなわけないだろ
ライ「ま、ちょっと誰かに写真撮ってもらって写真集にしてネットでばらまくわ。」
ちょ、そうじゃなくてn
ライ「あ、アリオル先生だ。 せんせーwww(たったった…」

…(゚Д゚ )

…(゚Д゜)

…( ゚Д゚ )

今日もまた、スパ家は賑やかそうです。

142ギャラクティック・コンクエスト:序章・工業惑星マイギートー:2007/09/05(水) 18:51:40
その頃、ルーンニウム郊外のハイウェイを疾走する2台のスピーダーバイクの姿
があった。レイズ上級曹長とその部下のドレロシン軍曹である。彼らは第501大隊
への情報面での援護をする為に、偵察を行っていた。

レイズ「本当に自然に乏しい惑星だなぁ…」
ドレロシン「都市は綺麗なんですがね。まあ、アウター・リムの惑星なんてこんなも
        んですよ」

破壊された車や装甲車両を巧みにかわしながら彼らは雑談を行っている。その辺
りのチンピラならすぐに霊柩車の厄介となる行為だ。この事から、彼らの練度の高
さが伺える。その時、彼らは突如バイクを止め、焼け焦げた反乱軍の戦車の陰に
隠れた。

レイズ「こちらST-1138レイズ上級曹長、6号ハイウェイ上に小規模な敵の砲撃陣地
     を確認、行動の際は注意されたし」

彼らのヘルメットに内蔵された高性能スコープは数km.先の火点を正確に捉えてい
たのだった。更に周囲を彼らは見回す。ハイウェイは高所に建設され、大地は平坦
で見晴らしが非常に良い。が、これは味方にとって不利であり、敵にとっては利点で
ある。この砲撃陣地を潰さなければ、大隊の行動が通報され、同時に攻撃を受ける。

ドレロシン「分隊長、どうします…?」
レイズ「軍曹、人数を数えろ」

敵の守備隊は10数名…砲兵やその他の兵や将校を入れても30名は超えないだろ
う。奇襲をかければ、一個分隊でも制圧することは容易い。彼は別のエリアを探索
しているスカウトに召集をかけた。奇襲攻撃をかける為に。

143確執編十七章:悟りの終着点       1/12:2007/09/06(木) 23:04:38

 ・三日目 AM10:30 サイド:アーチェ 

「これが最終日でよかったわよねー」
 空を見上げながらしみじみとつぶやく杏。
 確かに、と思いつつ倣えば、そこにはちらちらと舞い降りる白い結晶。
「電車止まんないかな。そうしたら『仕方なく』もう一日こっちにいられるじゃん」
「バカね。泊まるとこもお金もないのに、下手したらここで朝まで野宿よ?」
 駅の構内を指差す。春原はつまらなそうに舌打ちした。
 春原の期待とは裏腹に、電車が止まるというアナウンスは聞こえてこない。
「向こうも雪らしいね。このまま降り続けたら積もるかも」
「その時は雪かきお願いね、陽平」
「はぁ? 旅行疲れの、特にやたらと重い荷物を背負わされてボロボロの僕に、まだそんな重労働をさせるわけ?」
「男でしょ? ここでいいとこ見せなきゃあんたの株は死ぬまでストップ安よ」
「杏がやればいいだろ。僕はお前と違って繊細なんだよ」
「陽平〜、犬神家雪原Verの餌食になりたくなきゃ今すぐ前言を撤回しなさい」
「ひぃっ!?」
 二人を無視して、あたしは少し離れたところに一人立つセリスに近寄った。
「来ると思う?」
「ほぼ、間違いなく」
 セリスの声は確信に満ちている。
 誰か、なんて言うまでもない。
「彼女は『彼』と契約を結んでいる。それを果たすためにも、彼女は来るわ」
「そういや昨日もそんなこと言ってたけど。契約って一体、何? それがあたしとどう関係してるの?」
 セリスの顔にわずかに生まれたのは、躊躇いだった。
「…私も、そんなに詳しく知ってるわけじゃない。特に『彼』が何を提示して彼女を従わせてるのかは。
 けど、彼女が何をしようとしてるかは知ってる」
「教えて」

「……あなたを、負かし続けること」

 呼吸が止まった。
 何となく予想はしてた。それでも面と向かって言われるとショックだった。
「正確に言うと、同等の条件下でって制約がつくらしいんだけれど」
「同等の?」
「剣には剣で、魔法には魔法でのみ対すること。
 けど彼女はそれを守らなかった。つまり最優先はあくまで――」
「あたしを殺すこと、か」
 それは死の劣化した世界であたしを殺させ続ける契約を交わしたってこと。
「……やっぱ、アイツあたしのこと恨んでんのかな」
 考えてみれば、あたしは当たり前のようにアイツは中立だと思い込んでた。
 けどアイツが使徒を名乗ったのはあくまでリディアに対してだ。あたしじゃない。
 秤にかけて向こうを選ぶのは、極めて自然なことじゃないか。
「あなただけじゃないわ。これはリディアに対しても行われてる」
 あたしの心理を読んだのか、セリスがそう言葉を付け足した。初耳だ。
「私にはその意図はわからないけれど…負けることに意味があると、そう思ってるみたい」
 負けることの意味、か。

144確執編十七章:悟りの終着点       2/12:2007/09/06(木) 23:06:02

 ・三日目 AM11:00 サイド:アーチェ 

 あたしは正義って言葉があんま好きじゃない。
 その言葉を好んで使う奴にはロクなのがいない。
 自分が正しいことを知ってる奴は、それを自分の中だけに留める。吹聴したりしない。
 何故なら、その正しさが自分だけのものだってことをちゃんと知ってるからだ。
 正義なんて十人いたら十通りのカタチがあって当然で。
 だからこそ――あたし達は、理解し合えない。

 そう考えて、あたしは逃げてただけだった。ずっと。

 ――カチンッ
 それは戦闘の始まりを告げる鐘にしてはあっけなさすぎるほど軽い音だった。
「面白い剣術ですね。魔法を『斬る』とは」
 どうやらあたしめがけて飛んできた魔法をセリスが防いでくれたらしい。
 完全に不意打ちだ。セリスがいなかったら、自覚した瞬間にこの世界から消えてただろう。
「……貴様は何を考えている?」
 怒気を隠そうともしていない。今の一撃がよっぽど腹に据えかねたらしい。
 それにしても狙われたあたしの方がまだ状況を呑み込めてないってのも何だか恥ずかしい。
 一方のアクマは、背から広げた漆黒の翼をはためかせ、
「誰もが理解できる事象など、この世のどこに存在するでしょう?」
 世界に染み渡るような澄んだ音色で、そう言った。
 セリスが駆ける。
 彼女の剣の間合いがアクマを捉えるより早く、大気を引き裂く音が宙を跳ねた。
 魔力で凝縮された紫電の槍。狙いは――あたしっ!?
「つぁっ!?」
 頭より体の方が先に動いてた。
 地面から生えた錐が槍の進行を阻む。
 嫌な汗が背筋を伝う。雪のちらつく世界に、かすかに震えるあたしの躰。

 これが彼女の――ひいてはアイツの中にある意味。
 負けることで得られるものをあたし達に求めてるということ。
 実際あたしは何が得られただろう。
 自分の無力。悔しさ。それ以上に――後悔と、恐怖。
 けどそんなのは今何の役にも立たない。
 リディアと仲直りしろといいたいのか。
 とにかくいっぺん痛い目見ろってことなのか。

 何にせよ、アイツが求めてるものをあげられるとは思えない。あげたいとも思わない。

145確執編十七章:悟りの終着点       3/12:2007/09/06(木) 23:08:06
 セリスは速度を落とさないままアクマを捉えた。
「動揺するとでも思ったか?」
 魔法を放った直後の体勢で、アクマの動きは鈍い。
 刺突は狙い違わず片翼を貫いた。
「報いろ」
 勢いを殺さず、そのまま翼を引き裂く。
 アクマの体が堕ちる。なのに、そこには動揺も痛痒もない。
 彼女の表情はどこまでも虚無。
 体を回転させ、セリスの連撃がうなる。
 アクマは右手で受け止めた。掌にわずかに食い込んだ傷口から滴り落ちる血。
「っ!?」
 攻めていたはずのセリスの顔が、突然驚愕に彩られた。剣を離し、後ろへ飛び退る。
 雷柱が降り注いだ。
 平たく言えば、あたしの使う雷撃をでかくして連発したようなもんだ。
「セリス!」
 叫ぶ。彼女はこちらを振り返ろうともしない。
 呼吸をするのと同じ感覚で、あたしは呪文を紡ぐ。
 あとは発動のキーを告げるだけってとこで、激しいフラッシュバックがよぎる。
 言葉が――出ない。

 あたしの力で何が出来る?
 ひょっとしたらアクマを倒せるかもしれない。
 ――それで? それで、どうなる?
 あたしの力は誰も守れない。誰かを傷つけることしかできない。
 望むものは、あたしの力じゃ手に入らない。

 命中精度を捨てて数を頼りにした攻撃が、実は一番怖い。
 自分を狙ってるならまだかわしようがある。
 けどランダムに降り注ぐ雷が当たるかはどこまでも運だ。
 標的は完全にセリスだった。
 広範囲に撒くほど精度は落ちる。あたしが範囲外にいたのもやっぱり運でしかない。
「セリス!」
 もはや雷のつんざく音に紛れてあたしの声は届かない。
 その姿が、光の中に、消えた。

146確執編十七章:悟りの終着点       4/12:2007/09/06(木) 23:09:17
 雷の集中砲火がやんだ。
 アクマの右手にはすでに剣が握られている。
 神速の斬撃を彼女は片手で受け止めた。
 誰の? そんなの、言うまでもない。
 いつのまにかさっきとは別の剣をその手に携えたセリスは、雷直撃の余韻も残さずアクマと切り結ぶ。
「興味深い」
 片手でセリスの剣戟を抑えていたアクマが、ふいにその澄んだ声を紡いだ。
「相殺とも違う。強いて言えば――吸収でしょうか」
 セリスの力のことを言ってるんだろう。
 それはあたしも興味があった。
 なんて言うか、セリスのあの力はおかしい。絶対に普通じゃない。
 魔法の完全キャンセルなんて聞いたこともなかった。
「随分と余裕だな」
「そう思うなら、もっと追い詰めさせてみなさい」
 アクマの剣が青白い輝きを帯び始める。
 あたしでもわかる。あれは『斬るための力』だ。
 セリスも気づいたんだろう。一瞬で距離を離す。
 そして、アクマの一閃。
 その一撃はかろうじて原型を留めてたプラットホームをきれいに両断してセリスへ疾る。
 対するセリスは剣を鞘に納めて構える。剣閃に対して、抜剣。
 ――なんてーか、もうムチャクチャだ。
 雷を槍の形状に変化させたり、剣に魔力を乗せて『斬る』ことに特化させたりするアクマの技術もそうだけど、
それらをことごとく斬り捨てるセリスの力も桁外れ。
 今のあたしじゃ決して届くことのない世界。
 わからない。
 何故ここにあたしはいるんだろう。
 戦う意志も。
 覚悟も。
 力さえもない。
 そもそもそんなもの望んでさえいない。

「それで何もせずここでくすぶってる、と」
 振り返る。
 飄々とした姿が、そこにあった。

147確執編十七章:悟りの終着点       5/12:2007/09/06(木) 23:12:02
 ほんの三日前まで普通に見てた顔。
 二日前には言葉も交わした声。
 それなのに、何故かひどく違和感を感じた。
 ――今あたしの目の前にいるこいつは、本当にあたしの知ってるアイツと同一人物だろうか。
「彼女はまた随分と派手にやってるようですね」
「アンタが指図したんでしょ?」
 舌が乾いて言葉がうまく出ない。
 何であたし、こいつ相手にこんな緊張してんだろ。
「俺は負かせと言っただけ。手段はすべて彼女に一任してます。
 一応ハンデはつけるよう言ったんですが…まぁ、いいか」
 それはここ数日のあたし達に対する言葉にしては、あまりにも軽かった。
「ふ…ざけんじゃないわよ!」
 一拍遅れて叫びになった。
「何が負かし続ける、よ。そんなワケわかんない理由であたし達をこんなメに遭わせてるっての!?」
「それは誤りですね」
 一太刀で切り捨てられた。
「あなたはもう理由に気づいてるはずです。ただそれを認められないだけでしょう?」
「…………!」
 わかってはいる。わかってはいるけど、それでもこんな時は腹を立てずにいられない。
 こいつはこちらのすべてを把握してる。してる上で、すべてを動かしてる。
 普段はまったく感じない――いや感じさせないそれを、今あたしは痛いほど味わってた。
「一方的に負けて終わりにしますか? それもいい、アクマとの契約は今日までですし。
 ――ただし」
 次の一言に、あたしはこれまでの何よりも動揺した。

「リディア様は、これに確かな価値を見出しましたよ」

 気づくと、アイツはもういなかった。
 最初からいなかったのかもしれない。あたし自身が望んだ幻とは、思いたくないけど。
 ――リディアは、あたしとは違うと。
 そう言いたかったのか。
 あるいはあたしが無意識にそう思ってたのか。
 それは劣等感? まさか嫉妬、なんて心底考えたくもない。

 これに価値があるというなら。
 それは自分の負けを肯定したってこと。
 自分が足りてないことを、劣ってることを認めて、それでも前に進むと決めたってこと。
 ――このまま彼女と再会して。
 果たして、あたしはリディアの顔をまともに見ることが出来るだろうか。
 まっすぐにあたしを見てくるだろう、その瞳に対して、
 自信を持って見つめ返すことが、出来るだろうか。

148確執編十七章:悟りの終着点       6/12:2007/09/06(木) 23:13:02
 この前と違い、アクマはセリスと積極的に斬りあおうとはしない。
 魔法を使った遠距離攻撃を主体として、極力距離を置こうとしてるように見える。
「翼なしで私と斬り合うのが怖いか?」
 そう。完全に対等な条件下でなら、セリスの剣技はアクマより上だ。
 これまでも何度かアクマの剣を弾いて隙を作ってもいる。
 詰め切れないのは一重に多彩な魔法技術のせいだ。
「怖い、という感情は持ち合わせていません」
「なら知ってみるといい」
 激しい金属音。腕力でアクマが勝っても、セリスはそれを技量で受け流す。
 アクマの剣が流される。剣の素人なあたしでもわかる、隙。
 不自然な体勢でアクマがそれでも剣を揮う。けどそれをセリスが払ったら終わりだ。
 実際、その通りにセリスは動いた。
 そしてそれが勝敗を決した。

 セリスの剣が『斬られた』。

 一瞬、何が起こったのかわからなかった。
 それはあたしだけじゃない。あのセリスが、戦闘中に動揺をはっきりと出している。
 折られたのとは違う。
 まるでバターをナイフで切るみたいに、きれいに剣身が断ち切られてた。
『それ』に気づいたのは一拍遅れてから。
 金属の輝きとは異なる、淡い銀光がアクマの剣から発せられている。
 ――剣に魔力を乗せたまま斬ったんだ。
 どうすればそんなことが可能なのか、あたしにはさっぱりわからない。
 卓越した魔法技術とそれを駆使する力量あって初めて可能となるスキル。
 セリスでさえ予想できなかった一撃。
「それなりに楽しませてもらいましたよ」
 アクマが軽く手を払う。その手に握っていた剣が消えるのと同時、セリスの周囲を紫色の障壁が囲む。

「では、本題に入るとしましょうか」
 そうしてアクマは初めてはっきりとこちらに視線を向けた。

149確執編十七章:悟りの終着点       7/12:2007/09/06(木) 23:16:20
 人は自分の正しさのために力を使う。
 どんなにいい言葉を並べてもそれは変わらない。
 あたしの力も、あたしの正しさのために使われるべきだ。
 けど、あたしの力は人を傷つけることにしか使えない。

 ――そしたら、あたしは他人を傷つけることでしか、正しさを貫けないんだろうか。

 負けてしまえばいい。
 そうすれば、誰も傷つけなくて済む。
 あたしの正しさは、どこにも表すことなくあたしの中だけに留めてしまえば――
「詭弁ですね」
 アクマの声はこんな時でさえも穏やかに澄み渡っていた。
「己を否定するために詭弁を用いるというのも、愚かな話」
 それに応える余裕はあたしにはない。
 アクマの猛攻をかろうじて退けるので精一杯だ。
「そうしてあなたはこれからも負け続けるのですか?
 優しさというオブラートで誤魔化して、己の臆病を隠して生きるのも――
 えぇ、愚かではあっても否定はしません」
 何であたしだけが責められなきゃいけないんだろ。
 優しさという言葉で臆病を隠す――そんなの、みんなやってることじゃないか。
 誰も傷つけたくないって気持ちは本当だ。
 それを臆病と嗤いたければ嗤えばいい。
「人間とはつくづく不思議な生き物ですね。生きるために己を否定する思考、私には理解できません」
 仕方ない。それが生きるってことなんだから。

「そうですね。このまま私に負けるように、彼女にも負けるといい。
 それもまた、あれの望む一つの終りの形でしょうから」

 その一言が、眠るように沈みかけたあたしの思考を呼び覚ました。
 負ける。リディアに。
 具体的なビジョンがあたしの中によぎることで、これまでの自分の思考が具体化される。
 誰も傷つけたくないから、自分の正しさを否定する?
 何でそうまでして周りを守んなきゃいけないのか。
 こう言っちゃ何だけど、あたしはあたしが可愛い。
 時と場合にもよるけど、誰かと自分を秤にかけたらあたしは自分を選ぶだろう。
『アクマ』の言う通りだ。
 それは優しさなんかじゃない。
 自分が傷つきたくないから、誰も傷つけないだけ。

150確執編十七章:悟りの終着点       8/12:2007/09/06(木) 23:18:33
「ねぇ、『アクマ』。ひとつ聞いてもいい?」
 案の定、あたしがそう言った途端、攻撃の手が止まった。
 これまで『かろうじてあたしが凌げる程度の攻撃』をしていた理由なんて、他には考えられない。
「えぇ、ひとつだけなら」
「理解するって、どういうこと?」
 アクマの表情が変わる。無表情から、わずかな微笑へ。
「そう聞かれた以上、私はこう応えるしかありません。

 ――『それは穏やかな幻想に包まれること』」

 どこかから笑い声が聞こえる。
 誰かと思ったら、声の主はすぐ近く。
 それはあたし自身が発してたものだった。
 ――そっか。そういうことか。
 ようやくあたしは理解した。
『アクマ』の――いや、『とある誰か』の言葉を借りれば、ようやくあたしは穏やかな幻想に辿り着いたってこと。
 何て遠回りをしてたんだろう。
 あたしは答えに辿り着くために、答えとはずっと逆の方向に歩いてたわけだ。

 他人とはわかりあえないとあたしは悟った。
 そんなことはないとセリスは語った。
 ――それはきっと、どっちも正しい。
 結局のところ、他人を理解することなんてできない。
 けど、わかりあうことは出来る。
 その手段は簡単。
『わかりあえる』って幻想にずっと浸り続けてればいい。
 悟った気になったあたしは、その瞬間から他人を理解できなくなった。
 それはあたし自身が理解することを放棄したからだ。

「……ずいぶん長いこと忘れてたけど、ようやく見せてやれそうだわ」

 それはしょせん幻かもしれない。
 実態のない夢でしかないのかもしれない。
 けど、あたしは知ってる。

「これが、あたしよ」

 覚めない夢は現実と変わりない、と。

151確執編十七章:悟りの終着点       9/12:2007/09/06(木) 23:21:58
 詠唱は一瞬。
 あたしが放った雷撃は、アクマの一撃と相殺して虚空に消える。
「魔法合戦なら、アンタにだって負ける気がしないわ」
 アクマの手に光が宿る。
 純粋に魔力のみを凝縮させた力の結晶。
「それで? あなたは自分の力を肯定するのですか?」
「あたしはあたしのやりたいようにやるだけよ。今も、そしてこれからもね」
 どうしてこんな簡単なことを忘れてたんだろ。
 思い出した今となっては、逆に思い出すことができない。シーソーの両端に括られた思考。
 あたし自身があたしを信じられる行動をとる限り、あたしは決して間違わない。
 反省することはあっても、後悔はしない。

 それこそがこの世界であたしが唯一信じられる『正しさ』だ。

「それがあなたの結論ですか」
 魔力光を、握り潰す。
 反射的に後ろへ跳ぶ。結果的にそれが時間の猶予をもたらしてくれた。
 アクマを中心として、無数の錐が地面から生えてきた。
 さらに錐からはまた別の錐が、その錐からまた別の錐がというように、次々と増殖していく。
 たちまち錐で象られた茨で埋め尽くされた。
 それは範囲を広げ、あたしの方へと襲いかかってくる。
「アースクエイク」
 大地が裂けた。
 あたしの魔法は錐を飲み込み、砕き、勢いを殺さないままアクマへと走る。
 周囲を錐に囲まれたアクマは動けない。さながら自分で檻を作ったようなもんだ。
 と、思ったら。
 錐が一瞬で薙ぎ払われた。アクマの振るったたったの一閃で、だ。
 その衝撃だけであたしの魔法もねじ伏せられる。
「出でよ、神の雷!」
 全力の雷はアクマが上空へ投げ上げた魔力塊で爆砕。
「メテオスォーム!」
 飛び交う隕石群を、もはや魔法すら使わず素手で粉砕。
「児戯ですね」
 言いながら長髪をかきあげる仕草が悔しいほど様になっている。
「たとえどれほど魔力が優れていたところで、私に勝つなど不可能です」
「……そう。いつもそうよね」
 小さくため息。魔力の使い過ぎで息が切れたってのもある。

「あんたみたいに桁違いの力を持ってる奴って、大抵そうやって人をみくびんのよ」

152確執編十七章:悟りの終着点      10/12:2007/09/06(木) 23:23:13
「…………っ!」
 ――初めて。
 アクマの顔に動揺が走った。
 二度も『殺された』身だ。胸がすく思いを感じたって、あたしは悪くない。
「貴様の敗因を強いてあげるとするなら――」
 セリスの手には最初に弾かれた剣が握られ、
「アーチェを考えなしの無鉄砲と判断したことだろう」
 アクマの胸を貫いていた。
 それにしても考えなしの無鉄砲ってどういうことだ。
「あなたが、魔法を乱発したのは……」
 アクマの双眸は己を刺し貫いたセリスをまったく見ていない。
 まっすぐに、あたしだけを見ていた。
 あたしが男だったら、そのまなざしだけで惚れちゃったかもしれない。女で良かったわ。
「セリスを解放するためよ」
 セリスの剣はあらゆる魔法を『斬る』。
 どれだけ力をぶつけても彼女は傷つかないと計算したんだ。
 あのアクマが、小さく息を漏らした。
「まったく。人間とは、愚かであるが故に時に興味深い」
 その顔にもはや感情の色はない。苦悶の色なんて最初から感じさせない。
「もっとも、関心を割いてまで突き詰めるほどのものではありませんが」 
 セリスが横に剣を薙ごうとしたのが、体の動きでわかった。
 決まれば致命傷だ。下手したら両だ……やめよ、考えるとひたすら怖い。
 そしてそれは呆気なく叶えられた。
「……ちっ」
 小さく舌打つセリス。
 その手に握る剣には、血の一滴もついてない。

 アクマの姿はその残影さえも残さず、夢のように虚空へとかき消えてた。

153確執編十七章:悟りの終着点      11/12:2007/09/06(木) 23:24:17
「あれ?」
 気がつくと地面にへたりこんでた。
「…アーチェ?」
「え? あれ?」
 戦いの気配はすでにない。アクマが丸ごとどこかへ持ち去ってしまった。
 あたしは安心したんだろうか。
「どうして、泣いてるの?」
 わからない。
 あたしにもわからない。
 何でか涙が止まらなかった。
 悲しいわけじゃない。特に嬉しいわけでもない。
 それどころか、ここ数日で一番落ち着いてると言っていい。
 なのに、何でこんなに涙が出るんだろ。
 涙腺が壊れたんじゃないかと、自分の体が心配になってくる。
「あー、ごめん。あたしのことは気にしないで。ホント、何でもないから」
 セリスは無言でこちらの顔を覗き込んでる。
 昨日といい今日といい、セリスの前では泣いてばっかりだ。

「ありがとう、アーチェ」

 目を見開く。
「何で…お礼を言うワケ?」
「あなたは私に見せてくれたもの。
 ――人はわかりあえる生き物だってことを」
「今の戦いの中に、そんな場面あった?」
 特にあたしなんか魔法連発してただけだ。戦いというより魔法のバーゲンセールって感じ。
 セリスは意外そうに眉を上げた。気づいてないのかって顔だ。
「うん、そうだね。それがあなたであり、だからこそ私はそれに喜びを覚える」
 いや本気でわけわからないんですけど。
 まだわからないの?、という言葉の後に繋がったのは、

「だってあなたは私を、私はあなたを理解してたじゃない」

 ――あぁ、そういえば。
 生まれたばかりの赤ちゃんも、同じように泣いてるっけ。

154確執編十七章:悟りの終着点      12/12:2007/09/06(木) 23:25:24
 
 ・三日目

「まったく、とんだ茶番でした」
 漆黒の翼をはためかせ、アクマがその髪をかきあげる。
 その体には傷一つついていない。
 最初からすべてが夢幻にしか過ぎなかったというように。
「お疲れ様です」
 その言葉を彼女に対して用いることに意味があるのかと自問しつつ、
「わざと負けるのは納得がいきませんか?」
「最初から負けてなどいません」
「時々変なところで強情ですよね……」
 深く、溜息をひとつ。
「これでようやくスタートラインといったところ、か」
「興味ありません」
 心の底から無関心な響き。
「契約は果たしてもらいますよ」
「それこそ児戯ですね。貴女が気にかけても詮無いことです」
 彼女は答えない。
「アーチェはリディア様と違って聞き分けが悪く、変なところで聡い。
 最初から苦戦は覚悟の上だったが……えぇ、十分です」
「あなたの回した歯車はどこで何とかみ合うのでしょう?」
「興味がなかったのでは?」
「歯車には運命を知る権利はないと?」
「貴女でも自虐的なことを言うんですね。意外です。
 まぁ運命なんて大層な呼び名をつけるほどのことじゃないですよ。
 これからもう少しだけ騒がしくなって、それで、終わり。いや、終わり? 終わりになると、いいなぁ」
「それはどこに行きつくと?」
「無論、俺の望むゴールです」
 お互いに、沈黙。

「さて。彼女達は、相手の中に映した自分とどう決着をつけるんでしょうね…」

155名無しさん:2007/09/09(日) 01:17:01
ageなのですよー

156らいーる:2007/09/09(日) 23:13:34
age

157コア一族 -ビッグコア&テトラン編-:2007/09/10(月) 11:59:31
私らコア系統はグラディウスを苦しめたバクテリアン軍の主力艦だ。
しかしそのバクテリアン様も今はビックバイパーによって死に絶え、
私らは宇宙に彷徨うだけの存在となっていた。
その後ヴェノム様に拾っていただくも酷い扱われ方をされた。
最初はビックバイパーを見つけ出し、ヴェノム様と供に倒して
再び第二次バクテリアンを築き、自分の地位を上げようとした。
しかしヴェノム様はビックバイパーに倒された…。

もう、可愛い妹達を自分と同じ目にあわせたくない…。
自由を求めて妹達と旅をしよう…心からそう思った。
そしてそれが叶った…。
それから数十年後…。

テトラン「ビッグコア姉どうしたの…?」
ビッグコア「あ?て、テトランか…昔のことを思い出してて…」
テトラン「そうなんだ…」
ビッグコア「あの頃が懐かしいな…テトランがまだコアだった頃だもの…」
テトラン「それ新手のギャグ?」
私とテトランは顔を見合わせて笑った。
ビッグコア「テトラン…お前は年老いちゃったねぇ…もう72歳か…」
テトラン「あ…うん…人間になってからね…あの人の子供も産めたし良かったよ…」
ビッグコア「馬鹿……………お願いだから死なないで私の可愛い妹…!」
私はぎゅっとテトランを抱きしめた。
テトラン「ビッグコア姉…だけどね…あの人のおかげでもう幸せはたっぷり味わったから…
     今までありがとう…ごめんね…心配かけ…て………」
テトラン目を閉じてが動かなくなる。
ビッグコア「テトラン!?テトラン………馬鹿っ…」
私は動かなくなった

次の月、テトランの葬儀が静かに行われた。
そこにはビッグコアやカバードコア、クリスタルコアはもちろんのこと、
ビックバイパーなどの戦闘機一族も来ていたという。

待っていてねテトラン…。私も今、そっちに行くから…。

そう言ってからもう何光年経つだろうか…。
私は今でも生き続けている。テトランとの約束は果たせていない。

でも、いつか果たすつもりでいるんだ…テトランのためにね…

158コア一族 -ビッグコア&テトラン編- 改訂Ver:2007/09/10(月) 12:08:38
私らコア系統はグラディウスを苦しめたバクテリアン軍の主力艦だ。
しかしそのバクテリアン様も今はビックバイパーによって死に絶え、
私らは宇宙に彷徨うだけの存在となっていた。
その後ヴェノム様に拾っていただくも酷い扱われ方をされた。
最初はビックバイパーを見つけ出し、ヴェノム様と供に倒して
再び第二次バクテリアンを築き、自分の地位を上げようとした。
しかしヴェノム様はビックバイパーに倒された…。

もう、可愛い妹達を自分と同じ目にあわせたくない…。
自由を求めて妹達と旅をしよう…心からそう思った。
そしてそれが叶った…。
それから数十年後…。

テトラン「ビッグコア姉どうしたの…?」
ビッグコア「あ?て、テトランか…昔のことを思い出してて…」
テトラン「そうなんだ…」
ビッグコア「あの頃が懐かしいな…テトランがまだコアだった頃だもの…」
テトラン「それ新手のギャグ?」
私とテトランは顔を見合わせて笑った。
ビッグコア「テトラン…お前は年老いちゃったねぇ…もう72歳か…」
テトラン「あ…うん…人間になってからね…あの人の子供も産めたし良かったよ…」
ビッグコア「馬鹿……………お願いだから死なないで私の可愛い妹…!」
私はぎゅっとテトランを抱きしめた。
テトラン「ビッグコア姉…だけどね…あの人のおかげでもう幸せはたっぷり味わったから…
     今までありがとう…ごめんね…心配かけ…て………」
テトラン目を閉じてが動かなくなる。
ビッグコア「テトラン!?テトラン………馬鹿っ…」
私は動かなくなったテトランを抱いて一日中ずっとそのままでいた…。

次の月、テトランの葬儀が静かに行われた。
そこにはビッグコアやカバードコア、クリスタルコアはもちろんのこと、
ビックバイパーなどの戦闘機一族も来ていたという。
しかしテトランが言ったあの人は来ていなかった。
彼は仕事で忙しくて来れなかったらしい…。
代わりに、兵士が何人か来た。
皆、テトランの顔を見るたびに「昔と全然違うな」と一言。
でも、私は昔と変わっていない、そんな気がした。

待っていてねテトラン…。私も今、そっちに行くから…。

そう思ってからもう何光年経つだろうか…。
私は今でも生き続けている。テトランとの約束は果たせていない。

でも、いつか果たすつもりでいるんだ…テトランのためにね…

(まさかのミス発見orz とほほ…)

159ここより続く道、1:2007/09/17(月) 19:49:21
 チャイムが鳴る音で目が覚めた。
 珍しい、と言えるだろう。基本的にその音色は予定調和によってもたらされるものであり、
確認を促すため以外の意味を持ちえない。
 平たく言えば、何の連絡もなくチャイムを鳴らして我が家に訪れる輩はいないということだ。
 つまり「チャイムを鳴らさずに」訪れる輩ならいるわけだが。
 ――NHKの集金か?
 半年放置プレイの刑に処したのに、まだ懲りていないのだろうか。
 だとしたら随分とガッツのある集金員だ。実に好感が持てる。
 もう半年放置してやろう。
 そう結論づけ、聞かなかったことにした。
 再びチャイムの音――居留守ですが何か?
 さらにもう一度。
 もう一度。
 もう一度もう一度もう一度もう一度もう一度もう一度もう一度もう一度もう一度もう一度もう一度…
 25回目のチャイムを聞いたところで、さすがに何かおかしい事に気がついた。
 いくらなんでもガッツとバカの意味を履き違えた集金員などいないだろう。
 ――どっかのネタ製造機じゃあるまいし。
 ちなみに現在の所在地はマンションである。どんなに入口で喚き散らされても、
自分のいる部屋までは聞こえてこない。
 わずかに。
 そう、ここにきてわずかに。
 ――嫌な予感がした。
 自分は二択の――そう、たった二つしかない選択肢の――半分は正解となる確率を有した事象の――

 はずれを選んでしまったのではないか。

 そしてその予感は反省も悔悛も許さぬ速度で確信に相転移する。
「居留守使ってんじゃないわよ!!!」
 すさまじい轟音・爆音・騒音と共に視界が暗転する。
 平たく言えば、脳天を打ち据えられて昏倒した。

160ここより続く道、2:2007/09/17(月) 19:50:27
 目が覚めると、そこは楽園だった。
 即座に理解する。
「あぁ、俺、死んだのか……」
「アンタはいいけど、あたし達まで死んだことにしないでくれる?」
「天国でも理不尽な物言いをありがとう」
 かぶりを振って起き上がる。
「いきかえったー」
 視界に収まっていた顔のひとつが横に転がる――落ちた。
「? ……? ここはどこだー」
 足をバタバタと振り回す。頭から床に落下したにしては元気なセリフだ。
 それでも気にはなるので、スカートの大輪を咲かせた花をどかしつつ見下ろす。
「大丈夫ですか?」
「あ、はっけー」
 満面の笑み。こちらは苦笑交じりに溜息ひとつ。
「…あなたは全然変わりませんね、アスミ」
 この性格が一年やそこらで変わるはずもないが。
 見回してみれば、なるほど、ここに彼女達がいる理由が理解できる。
「いつの間に……」
 半年前まで日常を過ごした場所が、そこにはあった。
 何も変わってない――そう感じるのはただの錯覚か、あるいは幻想だろう。
 無駄に書籍が積まれていた場所には箪笥がある。
 寝袋を置いていた場所にはハンガーラックがある。
 自分の存在した痕跡には墓標が立てられている――は、自虐が過ぎるか。
「アーチェですね?」
 ここまで歩いて来た記憶は、当然だが、まったくない。
 というか窓をブチ割られた直後に脳天強打されたあたりからプツリと糸が途切れている。
 とりあえず主犯格を犯人扱いしてみる。
「違うわよ」
 即答。まるで質問されるのを予想していたかのようだ。
「アーチェですね?」
「違うってば」
「アーチェです」
「わかってんならいちいち聞くなバカ!」
 雷撃。というか逆ギレ。

161ここより続く道、3:2007/09/17(月) 19:55:09
 ――さて。
 ある程度落ち着いてから見回してみると、何かがおかしなことに気づく。
「あの、イサ?」
 人の真ん前で胡坐をかいて座っている姿に問いかける。
「ん、何かな何かな?」
 イサと呼ばれたその姿は、持っていたコミックから視線をこちらに向けた。
 少年や少女という形容はあまり相応しいとは言えない――故にどちらも相応しいと言える、そんな『少女』。
 それがイサだ。
「何で俺は足を縛られてるんです?」
 ――むしろ最初に気づけと言う感じだが。
「決まってんじゃん、動けなくするためですだよ!」
「敬語とタメ口が混在してカオスと化してます。それにそれは聞きたい回答じゃありません」
「難しいこと言うね! 謎人!」
「いえ言ってません。あの…俺の言葉、通じてます?」
「ジャパニーズ日本語通じてます! ハラキリ、ゲイシャ、カネカエセ!」
「決死の覚悟をした芸者から金まで毟らないであげてください」
「あはははは! 面白いねおじさん! ボク大好き!」
「………………」
 笑われたことに腹を立てるべきか。
 大好きと言われたことに喜ぶべきか。
 ――おじさんと言われたことに凹むべきか。
 とりあえず一番インパクトのあったラストに沈むことにする。
「リディア様とかは何をしてるんです?」
 日本語が――いや、そもそも人間としての会話が成立するのかと思いつつ、
如何せん相手が目の前の悪魔しかいない現状では、いい悪いに関わらず話しかけるしかない。
「ディア? 朝から何かやってるよ! ボ……ワタクシサマは詳しいことは知らないかな!
 ってか、知ってても言うなって言われてる!」
 と、言うことらしい。
 それにしても度重なる脳への衝撃の後に、この廃テンションに市中引き回しの刑にされるのはかなりこたえる。
 せめてもう少しまっとうに会話できる人材はいないのかと、思索を巡らす。
 リヴァルやフィーナなんて贅沢は言わない。せめて霧香か杏ぐらいの常識度はほしい。
 というのを(具体的に述べるのは伏せ、ニュアンスで)イサに伝えると、
「おっけー了解! イサちゃん承りまくりましたでござる!」
 いつの時代の日本語だ、と言いたくなるのをこらえる。
 きっと彼女には1000年ぐらい未来の日本語を1Tビットの脳内無線LANで受信する機能でも備わっているのだろう。
 何にせよこちらの日本語を理解した(らしい)イサは、窓から勢いよく飛び出して行った。
 ――その光景も、何とはなしに懐かしい。
 しばらく独りの退屈な時間を過ごす。何しろ動けない。
「イサちゃん無事帰還! ただし乗組員全員逃亡、ドゾー!」
 どこが無事なんだ、と言いたくなるのをこらえる。
 何せ相手は1000年後だ。10世紀だ。ドラ○もんでさえ1世紀の差でギガゾンビに負けたというのに。
 で、その無事(?)に帰還した宇宙戦艦イサは、
「おなかすいたー、ごはんだー」
 わざわざ、遥か遠くのイスカンダルから、
 常識度皆無、絶無、それはもう完璧にゼロの娘さんを連れてきてくれた。
「……………………………………イサ、ちょっと来てもらえます?」
「ごほうび? ワタクシサマにごほうびですね? 謹んで強奪させていただきます!」
 嬉しそうに近寄ってくるイサの頭を両手で掴み、
 振り回す。
「自分の脳みそを、一体、どこに、置き忘れてきたんですか、あなたは?」
「うぎゃー! 暴力反対だよおじさん! ボク大嫌い!」
「繊細な硝子のハートをハンマーで殴りつけるのはこの口か? この口か? あぁこの口か」
「うにゃににゃににゃにゅにゃにょ!」
「おなかすいたー、ごはんだー」

162Gradius:2007/09/19(水) 01:10:51
ここは蒼き聖なる惑星グラディウス。
第五次バクテリアン戦役(グラディウスⅤ)から幾多のも年月が過ぎ、
惑星グラディウスの歴史は1万を迎えようとしていた。
そんなとき、皇帝ラーズ63世による他の惑星にいると思われるリーク人の
捜索が始まった。
それというのも絶滅したはずのリーク人の子孫達が、
他の惑星で繁栄していたという話を聞きつけたためである。
そしてグラディウス帝国はとんでもない場所でリーク人を見つけることになる。

そこはかつて特殊部隊サラマンダと戦った星。
爆発して消えたと思っていたあのサラマンダの本拠地であった。
しかもグラディウスからそんなに離れていない。
グラディウスはすぐさまその地に軍隊と調査隊を派遣する。
しかし送ってすぐに音信が途絶えてしまう。
予測していた事態とはいえグラディウス連邦政府は
超時空戦闘機ビックバイパーを緊急発動させることにしたのだった。
今回ビックバイパーのパイロットになったのはなんと
皇帝ラーズ68世の息子、イアン・ドゥーリットルだった。

163Gradius2:2007/09/19(水) 01:50:28
そしてすぐさまイアンの乗ったビックバイパーが
グラディウス空軍基地から発射していった。
目指すはサラマンダの元本拠地。
ビックバイパーはものすごい速さでその元本拠地へと近づいていく。
そのときグラディウスから通信が入る。
「7つのスペース・プラントが何者かによって占領された!」
イアンは驚きを隠せなかった。
これでは4000年前と同じサイレント・ナイトメア事件の二の舞である。
「もしかして…ヴェノム?」
イアンの脳裏にふと一人の人物の名がよぎる。
しかし第五次バクテリアン戦役においてヴェノムは完璧に死に絶えた。
宇宙各地に分散されたヴェノムの脳みそも完全に破壊され
バクテリアンは完全に消え去ったはずである。
しかしイアンにはそんなことを考えている余裕もなかった。
まずはグラディウスに一番近いスペース・プラント、
「アルマティア」へ向かうことにした。

164Gradius3:2007/09/19(水) 16:39:49
―スペース・プラント「アルマティア」―

このプラント「アルマティア」は商業が盛んなプラントとして有名であったが
ビックバイパーとイアンが到着した頃に地表が氷で覆われた
無残な姿へとなっていた。
氷の中に閉ざされた建物や犬や猫などの小動物、そして人。
イアンはただただ呆然としているのみだった。
「これが…アルマティア…?」
しばらく進むとそこには大きな要塞があった。
間違いなかった。それは紛れも無くバクテリアンだった。
青いコアを持った要塞。それは第二次バクテリアン戦役(グラディウスⅡ)のときに
確認された「要塞ヴァリス」とほぼ同じものだった。
もはや侵略者はヴェノムぐらいしかいなかった。

165ここより続く道、4:2007/09/19(水) 22:54:17
 というわけで暇だった。
 何が「というわけで」なのかを解説すると、
 1:イサ、泣きながらイスカンダルへと再出航。
 2:アスミ、食糧がないことを悲観して失踪(単に別の部屋へ移っただけとも言う)。
 3:残された一人、身動きも満足に出来ず放置プレイ。
 空間は静かだった。何せ自分以外誰もいない。
 隣の部屋から時々聞こえてくる喧噪がまた哀れを誘う。
 そもそも理不尽ではないだろうか。
 望んで来たのならいい。フォズの着替えを覗いた末路だと言うなら、この仕打ちも甘んじて受けよう。
 自分はここに誘拐されてきたのだ。
 ――とここまで頭を巡らせて、あれ誘拐ならこの監禁的状況もおかしくないかと妙な納得感に包まれる。
 つまり。これは。
 俺を誘拐して身代金を要求しようとする――
「なんて卑劣な犯罪……」
「いきなりわけのわからないこと呟いてるし」
「うわっ!」
 声が聞こえてきたのは頭の後ろ。
 振り返る。
「こんにちは、『観測者』」
 目の覚めるような蒼が佇んでいた。
 髪も青なら、着ている服もほぼ青一色。
 胸に描かれた金の十字架が、何故だろう、恐ろしく似合っている気がしてならない。
 無論、ずっとそこにいたわけではない、はずだ。
 しかし声を聞くまでそこに『いる』ことをまったく知覚出来なかった。
「……影が薄いのか」
「わけのわかるすっげー失礼なこと呟いてるし」
 淡々とした口調。そこには感情の欠片も伺えない。
 世界の終わりを韻律で表現するなら、こんな音になるのではないだろうか。
 すべてを見据えた上でそれらを片っ端から見下すような――
そんな極地を『限りなく希釈した』、まぁつまり単なる無味乾燥な声。
「すっげー失礼な奴にはすっげー失礼な対応をしろと師匠から教わりました」
「あえて聞きますが……師匠とは?」
「私」
 自分かよ! とツッコむのに気を取られてるうちに腕を縛られた。
 ごく自然に、縛られた。
「…あの、これだと完全に一人じゃ身動き取れないんですけど」
 足縛り + 腕縛り = 推してシルベスタ・スタローン。
「青虫や蛇は動けるじゃない」
「人間と比較してください頼みますから」
「今の貴方、とっても素敵」
「手放しで誉められても現状に満足したりしませんから」
「…………チッ」
 舌打ちしたいのはこっちだ。
 いや、心底から。

166ここより続く道、5:2007/09/19(水) 22:55:56
「で、あなたは何しに来たんです? まさか俺の腕を縛りに来たわけじゃないですよね?」
「そうだと言ったら?」
「全力で逃げます」
 と言ったら、何故か意外っぽい顔をされた。
『ぽい』というのは、変化したのが僧帽筋の伸縮だけで、目の奥の光は微塵も揺るがなかったからだが。
「……おかしい」
「はい?」
「あなたはMのはず」
「どっから仕入れたそのソース」
「むしろM」
「断言されたし」
「ならまさかS!?」
「この世にはSかMの二種類しかいないのかってか体を両手で隠すな縛られた腕じゃ何も出来ん」
 ナイロンで出来た(自分で言っても説得力がないが)堪忍袋の緒も、摩耗の果てに擦り切れつつあった。
「すべてじょーだんです。やーいやーい釣られたクマー」
「……………………」
 体を反対側に向け、視界から彼女を消した。
 これならまだ誘拐の方がマシだ。少なくとも誘拐犯には人並の理性があると思うから。
「怒った?」
 無視。
「ごめんなさい」
 ……無視。
「挨拶したのに無視されたから、少し落ち込んだ。だからからかってやろうと思った」
 …………無視。
「手を縛ったのはやり過ぎだった。そこまで怒ると思わなかったの、ごめんなさい」
 縛られていた腕が自由になる感覚。足の方は相変わらずだったが。
 ……………………嘆息。
 体の向きを戻す。
「……わかりましたよ、今回だけは」
 水に流そうと言う前に、
「すべてじょーだんです。やーいやーい釣られたクマー」
 即座に彼女の顔の『征服』にとりかかった。

 ひとしきり憂さ晴らしを敢行した後。
「あぁ、もうお嫁に行けない私。およよよよ」
「およよとか泣くな被害者ぶるないいから黙れ」
 名誉のために言うが、誓って人の(自分も含め)尊厳を損なう行為はしていない。
 まぁ自身の主観だと言われてしまえばそれまでだが。
「女の子に対してそんな暴言を吐くなんて。鬼畜」
「……あなたは『女の子』なんてカテゴリーに含まれる生温い存在じゃないでしょう」
「差別発言。人非人。こんな可愛い女の子を前にしてそんなことが言えるなんて。……薔薇?」
 血が出そうなくらい下唇を噛みこらえる。
「…………で? 真面目な話、俺に何の用です?」
「いや、別に」
 あっけらかんと。
「さっきも言ったけど。挨拶に来ただけ」
 そこには喜びも悲しみも怒りも焦燥も何もない。
 どこまでも、無。

「改めまして。こんにちは、『観測者』」
「えぇ。こんにちは、『代理人』」

 ――そして、それ故の『代理人』だった。

167Gradius4:2007/09/21(金) 19:34:37
ビックバイパーが要塞ヴァリスとほぼ同じ要塞を見つけた頃、
惑星グラディウスはバクテリアン軍と必死の戦いを繰り広げていた。
そして次第に勢いを増すバクテリアン軍。
最後には壊滅し、敗走していくグラディウス軍。
勝負は敗北という最悪の形でついてしまった。
聖なる蒼き惑星グラディウスはついにバクテリアンの支配下となってしまったのだ。
巨大なダーク・フォースの力に飲み込まれていくグラディウス。
そしてすぐさまバクテリアンの要塞と化していった。
???(これで私の願いがやっと叶ったぞ…リーク人に栄光あれ…!)

168少女、思い:2007/09/22(土) 02:31:28
最近、自分を呼ぶ声がする。
そう、姉に話すと姉はただ寂しげに笑って「それは“オトウサマ”の声だよ」と言った。
オトウサマ、私を作った知らない、ニンゲン。
姉にとってお父様より大切な…ニンゲン。
以前お父様とそのニンゲンのどちらが大切か、聞いた事があった。
お姉様は手入れの手を止め、困った様に笑っていたのを、私は覚えている。

彼はそんなに、そんなに大切な存在なのだろうか?
姉妹を互いに戦わせる様なニンゲンが。
その問いかけにもお姉様は困った様に笑っていた。
「アリスがオトウサマの願いだから…」


“薔薇水晶…”
また、声がした。
「どうしたんだ?」
お父様のぶっきらぼうな、心配してくれてる声に私は首を振った。
お父様は少し肩をすくめると、再び髪を柔らかなブラシでとかし始める。
…お姉様は贅沢だ、お父様の愛を受けながら、他のニンゲンを求めている。


そんな、姉への嫉妬にも似た思いがいつしか私にオトウサマに対して怒りに近い感情を抱かせていた。

「はて、では貴方はアリスゲームを放棄すると?」
目の前の兎男の問いに薔薇水晶はただ無言で見つめ返した。
ただ、彼女が纏う闇は落ち着きなくうごめき、明らかな敵意を現していた。
「ですが…宿命から逃れられませんよ?
貴方がいくらあがこうとも全てはいずれ一つとなるのですから」


―あら、今日はずいぶんと早いじゃない

―え?ナハト?

―紫が言うにはゼロツーともども帰ってこれなかったみたいよ?

―それより、一緒に朝御飯はいかが?


そして、今日もまた一日が始まる

169ここより続く道、6:2007/09/25(火) 21:50:54
「あの。準備が、終わりました」
 視線を遣る。が、姿は見えない。
 世界は闇色に溶け込み、視界は夜色に染まる。
『代理人』との他愛ない会話は、時間を忘れるほどには充実していたようだ。
 ――いや、そんなことよりも。
「フォズ、ですよね?」
「え、あ、はい」
 応えが返ってきた直後、言葉が「証明」された。
 光が灯る。
 電気? そんな無粋な光ではない。婚礼衣裳のように彼女を包む、純白の光。
 佇むのは、10歳ほどの少女。
「御挨拶が遅れました。お久しぶりです」
 利発そうな大きな瞳が、下げられて降りた髪に隠れた。
「確かに。こうして面と向かって会話するのは、久方ぶりですね」
「久方ぶりの再開。ロ(ryコン観測者、大興奮」
「黙れ戯言代理人」
 困ったような笑みを浮かべるフォズ。
 それにしても、
「準備――とは、一体何のことです?」
 そういえば、と。さっきイサも同じようなことを言っていたことを思い出す。
 フォズは瞳を意外そうに揺らした。
「え? あの、そちらの代理人さんからは、何も?」
 首は動かさず、黒瞳だけを彼女に向ける。
「知ってることを吐け」
「『教えてください、セクシィでビューティフルな代理人さん』。はい復唱」
「知ってることを吐きやがってください、リスキィでデンジャラスな代理人さん」
「よろしい」
「いいんだ」
「ディアからの伝言です。『パーティの準備が終わるまで部屋で待っていてください』」
「……準備が終わってから言うことでは?」
「ありませんが何か」
「…………」
「いやー、犯されるー」
「誤解を招くことを大声で言うな!」
 こほんと、咳ばらい――したのは自分ではなく、フォズ。
 唐突に『代理人』との子供じみたやり取りに羞恥心が湧いてくる。
「……ともかく、こちらの準備は終わったので、早く来てほしいとのことです」
「はぁ、それはいいんですが……」
 尾ひれを跳ねさせる人魚姫さながらに、ぱたぱたと足を動かす。相変わらず縛られたままだ。
 フォズは初めてそれに気づいたようだった。怪訝そうに、
「何をなさっているんです?」
「趣味なんです。緊縛が。Mなので」
「フォズー、このイカれたお姉さんの言うことは無視していいですからねー」
 結局、縛られた足はフォズの魔法で解放された。

170ここより続く道、7:2007/09/25(火) 21:52:06
 案内されたのは隣の部屋。
 扉を開けた瞬間、軽い破裂音が鼓膜を揺らす。
「…………!」
 軽く、絶句する。
 音に驚いたということもあるが、それ以上に、
 ――前にもこんなことがあったような。
 あれは、そう、ちょうど一年前――
「あ……」
 遅まきながら気がついた。
『にしぅねん☆ばんざい』(筆跡から察するにメイドバイアスミ)
 正確には、思いだした。
 そう、あの日から、もう、

「2年か……」

「なにアンタ、ひょっとしてマジで忘れてたワケ?」
 呆れた、とアーチェ。
「まぁ部屋に乗り込んだ時の反応から、だろうと思ってたけどさー」
「そういえば、去年も、忘れてたもんね」
「リディア様……」
「アスミがいなくなった時以来だよね。二ケ月ぶり、かな?」
 翠の双眸が微笑む。そこだけ空気が火照ったかのように、温かい。

「んじゃま、始めますか!」

 そしてパーティが始まった。
 一部屋に全員が入るのは無理がある。
 多くは部屋の外に領域を広げはしゃいでいた。
 然り。
「あー、それボクの!」
「あん? 肉に名前でも書いてたか?」
「ヨーヘーのバカー! 肉泥棒! 罰として逆立ちで二階から飛び降りを要求します!」
「するかっ」
 然り。
「今日は何を『代理』してんの?」
「主人公の代理などを」
「は?」
「オラは怒ったぞー、フ○ーザー」
「感情なし、抑揚なしで激怒されても。むしろこっちが金髪化したいわ」
「正確には主人公の代理の予行演習。私の『代理権限』は本来そのために『執行』されるものだから」
「…あんたの電波は今に始まったことじゃないけど、そこそこにしときなさいよ」
「『と、何だかんだと拒みつつも、そんな代理人がみんな大好きなのでした』――ありがとう、杏」
「都合のいいモノローグを捏造してんじゃないわよ!」
 1年前とは色々なものが違う。
 迷わなくなった。
 正しいとまでは云わずとも、疑問を抱くことはなくなった。
 心から思う。

 ――こんな『世界』も、悪くない。

171I pray, you must have the smile.:2007/09/26(水) 00:47:07
「ひどい顔だな」
言われて、顔を上げてみれば、確かに涙やら鼻水やらで顔は相当ひどい有り様だった。
「ごめん…わざわざこんなことの為に起こしちゃってさ…」
うなだれながら、握りすぎて皺になってしまった服から手を離すと、
突然、髪がぐちゃぐちゃになるのではないかという勢いで頭を撫でられた。
「またすぐそういう事を言う」
「だ、だって…」
困惑しながら、手をどけようとする彼女を彼はにんまりと笑いながら、抱きしめた。
「お前は苦しくて助けを求めてたんだろう?
ならつまらなくもなんともないじゃないか」
そこまで言って、腕のなかの彼女がまた鼻をすすりだしたのに気付き、
彼は黙って彼女が落ち着くその時まで再び頭を―今度は優しく撫で続けるのだった。


「やっぱりひどい顔だな」
泣き疲れて寝息を立てる彼女の顔を覗きこみながら、彼は呟く。
「それでも独りで苦しむよりはずっとマシだな」
目元に残った涙を指で掬い、彼はそのまま部屋の明かりを消した。
「I pray, you must have the smile…」
やがて寝息は二つになり、夜はゆっくり更けていくのだった…


枕の裏
英語は自信なしだぜ
たまにこんな感じで現実逃避を(ダメジャン
枕の裏

172名無しさん:2007/10/02(火) 00:07:45
あげませう

173英雄:2007/10/07(日) 22:53:58
地響きを立てながら、地面に倒れ伏す魔物の横をくぐり抜けながら、ナハトはようやく息をついた。
火を自在に操る相手との戦いはまさに死闘そのものであり、彼もまた無傷ではなかった。
それでも、彼は大地に立ち、魔物は大地に沈んだ。
ナハトにとってそれだけで十分だった。

「ありがとうございます!お陰でこの街は救われました!」
証拠の魔物の角を持ち帰った彼を出迎えたのは人々の歓声と憧れ等が混じった視線だった。
「この村を救ってくださった貴方様こそまさに英雄にふさわしい!」
禿げかかった街長の言葉を無言で聞きながら、彼は杯をあおった。
皮肉な話である。彼は元々忌み嫌われる破壊と破滅をもたらす負の血族。
それを英雄と呼ぶ彼らは滑稽以外の何者でもなかった。
英雄というのは、とナハトは抱きつこうとする女を払い退けながら、思う。
英雄というのは、そう、命を賭して大切な者を守ろうとする、弱く、誰よりも強い彼女の事だろう。
ああ、本当に滑稽だ―
彼はほくそ笑みながら、再び酒で満たされた杯を傾けるのだった。


英雄の定義と闇の剣士のお話

174星の海:2007/10/07(日) 23:15:06
「たまには見上げる星というのもいいものだ」

そう言ったのは白い軍服を着た男―――大提督ピエットである。そしてその傍らには少々、
変わったポニーテールの女性―――アッシュが座っていた。彼らは今、都市郊外の丘に座
って、空を眺めていた。人工の光の少ないここでは、普段は見えない星も明瞭に見る事が
でき、まさに、星の海と形容するにふさわしい光景が彼らの視界の先に広がっていた。

「そうだな…いや、私にとってはこういう視点が当然だったのだが…」

男の先程の発言に対して相槌を打ち、自分のかつての立場を告げるアッシュ。彼女は元は
といえば、ハイラルという異世界の王国の騎士である。当然、その世界では、彼女のみなら
ず、多数の人々にとって、星々と同じ高さに登ろうなどとは夢にも思う事ではなかった。が、
今ではその非現実が現実となっている。そうなった後で、かつての常識の中に戻ると、違和
を感じるものである。

「まあ、喧騒を離れれば色々、考えや感じ方も湧くものさ。いつもなら、何がおかしくて、何が
当たり前かだなんて考えないだろう?それだけでも出てくる価値はあったさ」

彼女が言葉にしていない部分までを見通して、彼は語りかけた。普段、彼の喋る諧謔や口説
き文句とは違って、こんな時の彼の言葉は傾聴に値するように思われる。

「ふん…確かに出てくる価値はあったな。久しぶりにまともなお前を見た気がする」
「相変わらず、君は辛辣だね…だいぶ冷えてきた。そろそろ戻った方が良さそうだ」

そう言うと、彼は待機させていたシャトルへと彼女を促した。彼らの姿が消えると同時に、ライト
ブルーの機体が浮き上がり、星の海へと消えていった。

「間近で眺める星もいいものだ」





戦争物から離れてみようと試行錯誤した産物…o...rz
お題に沿っているかも怪しいものです…

175確執編十八章:調和という名の歯車     1/7:2007/10/08(月) 17:18:12

 ・三日目 サイド: ――――

 吐く息が白い。
 空が高い。
 目の前の建物は白く、
 見上げるほどの高さ。
 不思議な感じがする。
 ありふれた場所。
 ありふれた場所――だった、はずだ。
 違和感。
 ここはどこだろう。
 知っている場所なのに。
 答えを求めることさえ意味がない。
 そんな場所のはずなのに。

 変わったのは世界?
 変わったのは時間?
 変わったのは――自分?

 ・三日目

「『あの高さはどれほどでしょう、と貴方は言っていた』、か」
「? 何です、それ?」
 エプロン姿のリヴァルが、ふいに台所からこちらに声をかけてきた。
 苦笑。まさか独り言を口にした上、その意味を聞かれることになるとは思わなかった。
「いえ――何の意味もありません」
 時計を見やる。
「そういや今更と言えば今更ですけど、この三日間炊事洗濯家事等々ありがとうございました」
「今更――というかいきなりですね」
 と言う割に、わずかに声には喜びがこもっている。
 一昨日早苗さんが作り置きしていったパンは両手を合わせて供養し、
(何しろ食の権化とも言えるアスミでさえ首を横に振り、頑として口に入れようとしない)
 以来ほとんどの家事は彼女に任せっきりだった。
「こういう仕事って、やってて楽しいんです。
 私が楽しめて、皆さんに喜んでもらえたら、それに勝ることはありませんよね?」
「……きれいですね」
「ありがとうございます。そう言ってもらえると、掃除のしがいもあります」
 そういう意味ではなかったが、まぁ、それでいいのだろう。
「さ、そろそろ皆さんも帰っていらっしゃる頃ですよね。
 私は夕食の支度をすませちゃいます」
「お願いします、リヴァル」

 そう。今日は三日目。
 確執から始まり、憎悪を経て、今、辿り着く。

176確執編十八章:調和という名の歯車     2/7:2007/10/08(月) 17:20:41
「ただい、まっ!」
「おかえ、りィィィィィィィィッ!?」
 己の発した声より速く体が吹っ飛ぶ。
 極めて珍しい現象かもしれない。体感する本人としては珍しがる余裕もなかったが。
 そういえば1キロ以上離れた場所からライフルで狙撃すると、着弾した後に発射音が届くらしい。
 そんなどうでもいいことを考えてる間に、体が壁に激突。
「て、敵襲だ! ライフルで狙撃された! 皆の者であえであえ!」
「またわけのわからないことを」
 空気の色が変わった。
『人がいる』というのはそれだけで世界を変質させる。
 無論、己の認識する世界が変わるだけなのだが。
「それ、おみやげだから。ありがたく受け取りなさい」
「ありがたく受け取ってほしいなら全力で投げつけないでください」
 どうやら当たったのは角だったらしい。直方体が凶悪に歪んでいる。
 この凹んだ分だけ脳が揺さぶられたのかと思いつつ、包装を解く。
 温泉饅頭だった。
「あ、あたしにも頂戴。お腹すいたわ」
「まぁいいですけど……すぐにリヴァルが夕食を作ってくれますよ?」
「いいから寄越しなさい」
 ふんだくられた。手持無沙汰になった両の手に、饅頭が一つ載せられる。
「覚悟はしてたのよね?」
 これまでとトーンが変わる。
「その話はまた後にしましょう。今はまだその時じゃない。
 ――あぁ、一度でいいから言ってみたかったんですよね、このセリフ」
「浸んなバカ」
「なら真面目な話。片割れがいない状況で語る気はない、ってことで」
「………………」
「睨まないでください。お互いさまでしょう?」
 彼女は諦めたようだった。嘆息して、かぶりを振る。

「それより他の面子はどうしたんです?」
「春原が道の真ん中でブッ倒れて、四葉が看病中。杏は隣の部屋に行ったわ。
 あと、国崎とは向こうで別れた。しばらくあっちで稼いでからまた旅に出るってさ」
「それは心配ですね、四葉が。彼は……なるほど、流石としかいいようがない」

177確執編十八章:調和という名の歯車     3/7:2007/10/08(月) 17:22:25
「ただいまー」
「あ、リディアだー」
 ぱたぱたと駆け寄るアスミを、優しく抱きとめるリディア様。
「ただいま、アスミ」
「おなかすいたー」
「こらこら、いきなり晩飯を要求しない」
 襟首をつまむ。「はなせー」と暴れるアスミを一蹴しつつ、
「おかえりなさい、リディア様」
「ただいま。はいこれ、おみやげ」
 手渡された包みを見て、感慨深い思いを抱く。
「これが正しい渡し方です。満点です。さっき零点を見せ付けられたばかりだからなおさらそう感じます」
「うん、わけがわからない」
「そんなところだけアーチェと被らないでください」
 表情が、わずかに変わる。
 穏やかな笑みの中に、かすかに混じったそれは――
「もう帰ってきてるんだ、向こうも」
「えぇ、ほんのついさっきですけどね」
 包みを開けてみる。案の定というか、出てきたのは八つ橋だった。
「流石です。見事です。京都と言えばこれ以外にありえない」
「アーチェは、どこにいるのかな」
 トーンが変わっているところはあえて無視。
「彼女なら地下にいると思いますよ。さっき下りてくのが見えたん」
 で、と言い切る前に言葉を止める。
 地下へのハッチがふいに開いた。
 この季節、体感温度が異様に低く感じられる地下室に、好んで下りたがる者はほとんどいない。
 開発者コンビを除けば、「外よりはマシ」と寝床に使っている男組だけだ。

 そして今日に限って、例外がもう一人。

178確執編十八章:調和という名の歯車     4/7:2007/10/08(月) 17:24:43






         見つめ合う。
         それは互いに親を殺された仇を見るように。
         あるいは、親愛なる家族を見るように。

179確執編十八章:調和という名の歯車     5/7:2007/10/08(月) 17:27:18
「賑やかな夕食は久しぶりですねー」
 言ってる間に目の前に置いてあった皿が消えた。
「………………」
 沈黙している間に持っていた茶碗も消えた。
「浸ってるとなくなるわよ? 割と凶悪に」
「……これはご忠告どうも」
 人の手から茶碗をかっさらっていった張本人――つまりは杏――が頬張るのを、冷めた目で睨む。
 ここは戦場だった。
「これは私がたべるー、これは私がたべるー、これは」
「って、全部じゃないっ! 誰かアスミを抑えなさい!」
「すいません本当にすいません、私がもっとちゃんと準備しておけば」
「仕方ないよリヴァル。一人でこれだけの準備お疲れ様、あとは私がやるから」
「あの……僕の箸がないんですけど」
「それならさっき折って捨てた」
「僕に素手で食えと!?」
「汚いわね。大皿にその手を突っ込んだら両手足縛って外に放り投げるわよ」
「食うなってことかよ!」
「そうよ」

 それは本当に久しく見なかった光景だった。
 2日や3日などではない。『あの日』以来だ。
 何より大きいのがアーチェの存在だった。
 この空間の雰囲気を杏と秋生の三人で作り上げていると言っても過言ではない、
そんな彼女が『意図的に』塞ぎこんでいたせいで、食事時はまさに火の消える有様だった。
 しかし。
 この場にいる誰も(アスミ除く)が理解している。

 こんなものは気休めに過ぎない。
 問題は何一つ解決していないと。

 事実、二人はさっき一度目を合わせたきり、一言も語り合っていない。
 互いの存在を完全に無視、それに関しては旅行の前からまったく変化がない。
 それでもそう言った空気を示さないのは、考えなくしてのことでは無論なく。
 ――リディア様は不穏な空気をアスミに気取られるわけにはいかず。
 ――アーチェは『俺』に対する反感を示すために、自分を理由に空気を乱すわけにはいかない。
 打算にまみれているのはわかっている。わかりきっている。
 だが、それで良かった。

 ――歯車はかみ合わない限り虚しく空転するしかないが。
   一度かみ合えば、どちらかが壊れるまで相手に影響を及ぼし続けることになるのだから――


 ちなみに、浸っている間に料理がきれいさっぱりなくなっていたことは、まぁ、蛇足である。

180確執編十八章:調和という名の歯車     6/7:2007/10/08(月) 17:29:06
「人間ってすごいよね。あんなにきれいな建物が造れるんだもん」
「で、春原のバカを引き取るために駐在所まで行かされてさー」
 さてこの状況は何だろう。
 二人の話を聞きながら、頭の片隅で考える。
 右にリディア様。左にアーチェが座り、挟まれる形でここにいる。
 部屋には自分達3人以外の姿はない。
 空気を読んだ? そんな生温いものではないだろう。
 誰もが望んでいる。
 おそらくは、彼女達自身さえも。

 ――この現状を、確執を、是正することを。

『ねぇ、聞いてるの?』
 ハモったところで、互いに相手の顔を見やる。
 一応、お互いの顔を覗いてみた。
 怒っているのか悲しんでいるのか、あるいは喜んでいるのか――複雑だ。
「いや俺としてはこんなドキモテシチュエーションも悪くはありませんよ?」
「頭の悪い表現すんなバカ」
「だけどですね、いくらなんでもステレオで旅日記を語られても。聖徳太子じゃないんですから」
 何より、と、
「あなた達の仲違いのダシにされてるのがわかりきってるんじゃ、喜びようがない」
『………………』
 二人の目つきが変わる。
 無理に装っていた『普通』から、臨戦態勢に入ったかのように。
「んじゃま、本題に入りましょうか」
 切り出したのは、やはりというか、アーチェの方。
「アンタがしようとしたこと。今ならはっきりわかる」
「それは何より」
「最初はわけがわかんなかった。次にムカついた。嫌な思いもした。殺されもした」
「知ってます」
「アンタがどんな気持ちでそれをやらせたのかはわかんない」
「わかられても困りますね」
「けど、これだけは言える」
 一拍置いて、

「あたしは、アンタが、だいっっきらいよ」

 言って、彼女は満面の笑みを浮かべた。

181確執編十八章:調和という名の歯車     7/7:2007/10/08(月) 17:31:11
「……私は」
 アーチェが言葉を切ったのは合図にして、反対側のリディア様が口を開く。
「アスミに嫌われて、そのアスミに襲われて、やっぱりわけがわからなかった」
 けど、と、
「何より、私は独りになるのが怖かった」
「………………」
「たったの一言が、何もかもを壊してしまうことを知った。
 たったの一言が、大切だったはずのものをすべてゴミにしてしまうことを知った。
 ――たったの一言が、その一言が言えなかったばかりに、道を見失うことを知った」
 リディア様は自分の手を顔の前にかざし、かすかに首を横に振る。
「それに関しては、誰の責任にも出来ない。私自身の問題。
 貴方にはね、感謝してるの。昔抱いた私の『罪』を、思い出させてくれたから。
 ――だから、ね」
 気がつくと、目が合っていた。
 彼女が微笑む。
 ――そしておそらくは、自分も。
「私は、貴方が望むことをするよ」


 全力で平手打ちされた。


 しばらくの間、頬に残る熱の余韻を楽しんだ。
「……ありがとうございます。無償で許されるより、よっぽど心地がいい」
「M」
「はいそこ、変な掘り返し方しない」
 二人、同時に立ち上がる。まるで示し合わせたかのように。
 残った一人は座ったまま、
「俺が干渉するのはここまで。後は完全にあなた達二人の問題です」
「うん」
「わかってるわよ」
 片や穏やかな笑みを浮かべ、片や不機嫌そうにそっぽを向く。
 そうして部屋から出ていく二人を見送ってから。
「……さて、俺はアスミの注意を逸らしておかないと」
 立ち上がる。
 そして独り、つぶやいた。
「あぁ、くそ……ここは寒いな……」

182確執編十九章:確執編十九章:開演の再演       1/6:2007/10/09(火) 21:24:32

 ・三日目 サイド:リディア

 そんな簡単に割り切れるものなら苦労はしない。
 そんな簡単になかったことに出来るなら誰も苦しんだりしない。
 頭は理解してる。
 悪いのは決してアーチェだけじゃないと。
 私自身が抱えていたものに、彼女が触れてきただけだ。
 触れたことだけが悪いなんて、どうして言える?

 わかっていても、戻れない。
 もう私は引き返すことの出来ないところまで来てしまった。
 言っちゃいけないことを言った。
 しちゃいけないことをした。
 今更、どうやって謝れと言うのか。

 何より、私はまだ彼女を許していない。

 ・三日目 サイド:アーチェ

 あたしが悪かったことは認める。
 最初に引き金をひいたのはあたし。
 最初に力を振るおうとしたのはあたし。
 最初に三行半を突き付けたのはあたしだ。

 けど、あたしだけが悪かったわけじゃない。
 あたしだけが責められるいわれはない。
 あたしはあの時のあたし自身を許せない。
 けどそれはリディアを許せることとイコールにはならない。

 理解し合うという幻想に浸るには、まだ、足りない。

183確執編十九章:開演の再演       2/6:2007/10/09(火) 21:25:31

 ・三日目 サイド:リディア

「……ここは」
 あたりは水を打ったように静かだった。
 小さな林の中にひっそりと佇む神社。
 普段から静かな場所ではあるけれど、葉の擦れる音くらい聞こえてきてもいいはずだ。
「アイツが……っと、正確には違うか、気を利かせてくれたみたいね」
「ここは一体……」
「アンタは『ここ』に来たことがないわけ?」
 ここ、とはこの場所を指しているわけじゃないだろう。
 音のしない世界。
 誰もいない世界。
「2回だけあるけど……人がいないことくらいしか知らない」
「人がいないんじゃなくて、あたし達がいるんだろうけどね。
 確かなのは、ここなら余計な邪魔も周りへの気遣いも一切無用ってことよ」
 どうやらアーチェは私よりもここに詳しいらしい。
 彼女の方にはアクマが行ったらしいけれど。
 そこで一体、何を見たんだろう。

 けれど、これだけはわかる。
 アーチェはもう迷っていない。
 私と、同じように。

 ・三日目 サイド:アーチェ

「こうやって話すのも随分久しぶりだね」
 揺れる木々の中、なびく髪をおさえてリディアが口を開く。
 あたしはいつものポニーテールだから、顔の前に髪がかかる心配をしなくていい。
 久しぶり。確かに、そうかもしれない。
「あたしは全然そんな気がしないけどね」
 簡単なことだ。
 話してなかった時間より。
 話してた時間の方が、ずっと長い。
「旅行は、楽しかった?」
「ん? まぁまぁよ。金髪と銀髪がバカやって色々大変だったけどね」
「春原と国崎ね。うん、二人はどこにいてもあんな感じな気がする」
「あのバカ共の手綱を引いてたあたしの身にもなってほしいっての」
「多分、一番大変だったのは四葉だったんじゃないかな」
「なんでよ!」
 苦笑するリディア。
 つられてあたしも笑う。

 話してみれば、こんなに自然に触れ合えるのに。
 それでも、あたし達は足りてない。

 お互いに目を合わせないようにしながら、あたし達は無為なことを語り合う。

184確執編十九章:開演の再演       3/6:2007/10/09(火) 21:26:22

 ・三日目 サイド:リディア

 いつしか、語ることがなくなって。
 私達は無言でそこにいた。
 語るべきことなら、いくらでもある。
 ただ、切り出せないだけだ。

 ふいに一際強く風が吹いた。
 風はあるのに、音がないなんて不思議な世界だ。
 目を眇めてふとアーチェの方に目を遣る。


    ――視線が、合った


「そろそろ始めよっか」
 まるでゲームでも始めるかのような気軽さで、そう言った。
「……何を?」
「何を? そんなの決まってんじゃん」
 目を見開く。
 アーチェの足元が赤く輝いた――高位魔法を使う時に現れる、魔法陣。
 つまりは、そういうことだ。

「まさか、あたしのことを許せたわけじゃないんでしょ?」

 ・三日目 サイド:アーチェ

 リディアが、小さく微笑んだ。
「――許せたわけじゃない、か。うん、その表現は面白い」
 その手が青く輝いてる。
 あたしと違って、彼女の魔法に余分なイミテーションはない。
「私は私を許せない。許す気もない。
 だけど、あなたのことは許したいと思うよ、アーチェ」
「勝手なこと言ってんじゃないわよ」
 右手を掲げる。脳裏に『あの日』の光景が蘇る。
 けどあの時とは違う。
 あたしは、あたしを疑わない。
「誰も許してほしいなんて頼んでない。思いあがんのも大概にして」
 同じように。
 あたしは、もう、リディアを疑わない。
 わかりあうという幻想に浸るのに足りないもの。
 それは――

「そうだね。私達はそうやって、自分を許すために、相手を責めた」

 息が漏れた。
 体が小刻みに震える。
 誰が見てもそんな場面じゃない。
 それなのに、あたしは――笑いをこらえることが、出来なかった。
「あなたも私も、一緒。自分が許せないのに、自分を肯定したくて。
 そのためにお互いを否定した。……そんなの、本末転倒なのにね」
 ――ほら、やっぱりあたしは正しかった。

「決着をつけよう。私達はお互いを『赦すことが出来る』。
 足りないものがあるとしたら、それは――」

185確執編十九章:開演の再演       4/6:2007/10/09(火) 21:27:11

 ・三日目 サイド:リディア

 アーチェが言うには、この世界に死はないらしい。
 実際、私自身すぐに、それも何度となく身をもって知ることになった。
 せめてもの救いは、威力がありすぎて痛みを感じる間もなく終わることだろうか。
 ほとんどゲーム感覚だ。
 けど、もちろんゲームとは違う。
「彩れ――フレア!」
 ここでは容赦が返って相手を苦しめる。
 全力で『殺さない』と、死ぬ痛みを与えることになるだろう。

 最初こそ攻撃をかわそうとしてたけど、すぐに諦めた。
 回避行動には何の意味もない。
 アーチェの全力は半径数キロを一瞬で焦土に変えられるんだから。
 彼女はここの仕組みを私よりずっと理解してるみたいで、最初から捨て身で攻めてきている。
 それにしても、彼女の力には改めて驚かされる。
 彼に対して雷撃を落としている時。
 彼女はどれだけ力をセーブしてるんだろう。

 ・三日目 サイド:アーチェ

 リディアの状況判断と適応力は、はっきり言って異常だ。
 聞けば、あたしと違って直接『殺された』ことは一度もないらしい。
 にも関わらず、死なないことを体で覚えてるあたしと即座に同じフィールドに立ってきた。
 これは口で言うほど簡単なことじゃない。簡単なはずがないんだ。
 死ぬって言葉の意味は、そんなに軽くない。
「ビッグバン!」
 あたしは自分の力に自信がある。
 自信がありすぎて、使うことを躊躇ったぐらいだ。
 苦しみなんて与えない。
 そんなのが神経を駆け抜けて脳に届く前に、あたしの魔法はすべてを塵に還す。

 最初からリディアの攻撃をかわすつもりはなかった。
 かわす意味なんてないし、かわせるとも思えない。
 リディアの全力はあたしがそれと知覚するより早く空間を沸騰させられる。
 そもそもこれは『相手を倒す』ことが目的じゃない。
 それには、この世界はこれ以上ないほどうってつけだった。

186確執編十九章:開演の再演       5/6:2007/10/09(火) 21:28:17

 ・三日目 サイド:リディア
  
 当然といえば当然で、私達はやがて力尽きた。
 死なないけれど、力の総量は変わらないらしい。
 お互いに特に示し合うこともせず、『何もない』場所で私達は対峙する。

「あたしはリディアのいいこちゃんぶってるとこが嫌い」
 いきなり、そう言われた――と、思う。
 魔力が乏しくなるというのは、つまるところ気力が尽きるのと同じだ。
 これが眠気なのか、失神直前のあがきなのか、私には区別がつかない。
 落ちそうな意識を、だけどギリギリのところで繋ぎ留め、私は『聞く』。
「優しいのと甘いのは違う。アンタのはただ甘いだけ。
 何でもすぐ自己犠牲的な精神を発揮するとこなんか特に大嫌い。
 そのくせキレると周りをまったく見なくなるし」
 淡々と言葉を紡ぐアーチェ。
 私は何も言い返さない。
 そんなことをするわけにはいかない。

 ・三日目 サイド:アーチェ

 この時点ですでにあたしは確信してた。
 お互いに目的を確認しあったわけじゃない。
 だけど、彼女は確実にあたしと同じものを目指してる、と。

「私はアーチェの無責任なところが嫌い」
 あたしが言葉をなくした段階で、リディアが言葉を紡ぎ始める。
 それは望みどおり――あたしを否定するものだった。
 内心で苦笑しながら、倒れそうな体に鞭を打つ。
 ここであたしだけが倒れたらもとの木阿弥だ。
「天真爛漫なんて言えば聞こえがいいけど、やるべきことをやらないならいい加減なだけ。
 正直者はバカを見るって暗に言われてるみたい。そういう人に支えられて生きてるのにね。
 それと秋生さんのお酒を呑んで暴れた時はオーディンに本気で締め上げさせようかと思った」
 なるほど。こうして聞いてみると、いくらでも出てくるもんだ。
 あたし自身、さっき口にするまで忘れてたようなこともあったし。
 けど、それが当然だ。
 赤の他人同士が一緒に暮らしてて、何の不満も出ないはずがない。
 何で一年以上こんなことが起こらなかったのか、逆に不思議なくらいだ。
 ま、言うまでもなく原因はわかってるんだけど。

187確執編十九章:開演の再演       6/6:2007/10/09(火) 21:31:05

 ・三日目 サイド:リディア

 お互いにやるべきことはやった。
 言うべきことも言った。

 ・三日目 サイド:アーチェ
 
 その上で確かめなきゃいけない。
 今のあたし達に足りていないもの。

 ・三日目

 どれだけの時間が過ぎただろうか。
 折り重なるようにして――しかし、決して重なることはなく――
二人同時に倒れてから、さらにしばらく後のこと。
「私達は、お互いを理解してると思う?」
 切り出したのはリディアの方。
 アーチェは笑う。そんなことは当然だ、とばかりに。
「してるわけないじゃん」
「どうして?」
「あたしとアンタは赤の他人。わかりあえるはずがないのよ」
「……だから、あの時ケンカになった?」
「わかってんでしょ。あたし達は自分が一番可愛かったのに、相手を可愛がってる気になってた。
 まったく理解出来てなかったのに、理解した気になってた」
「そうだね。信じてるつもりになってたから、裏切られたと思った」
「自分が一番可愛いくせに、信じてるも何もあるわけないじゃん」
「ほんと、バカだったね、私達」
「バカもバカ。最高にバカだったわ。春原に勝るとも劣らないくらい」
「友達って大変だね」
「大変だなんて思ってる時点で相当ダメだと思うけど」
「けど、私はあなたと友達でいたいよ」
「あたしだってそうしたいに決まってんじゃない」
「……じゃあ、私を許してくれる?」
「は? 本気で言ってるなら怒るわよ?」
「うん、冗談。アーチェがどんな反応をするか試してみた」
「えげつなー」
「お互い様だよ。さっきあなたもやったでしょ」
「私もアンタも似た者同士、と」
「性格は正反対だけどね」
「……お母さんのこと、好きだった?」
「……! うん、好きだったよ。ううん、今でも大好き」
「なんであたしにはお母さんの記憶がないのかなぁ……」
「代わりにお父さんがいるんだからいいじゃない」
「代わりになるもんじゃない気もするけど、ま、そっか」
「考えてみたら羨まれる筋合いなんてなかったよね」
「だから羨んでなんかないっての」
「嘘ですー、嫉妬してましたー」
「それ以上言うとアイツの前でトラクタービームかけるわよ。スカートだと大惨事」
「……まぁ、結局、あれだよね」
「うん。まぁ、あれだーね」
 今までの彼女達に足りていなかったもの。
 それは――

『これからも、こうやってケンカしてこうか』

188確執編終章:無知の再通知:2007/10/09(火) 21:33:03
『ただいまー』
 戻ってきた二人を見た時点で、終わりを悟った。
「おかえりなさい」
「おなかすいたー、ごはんだー」
 目を剥く。
「冗談だよ。そんなに驚かなくても」
「……アスミ病が伝染したのかと思いました」
「けどお腹が空いたのは本当だったり」
「じゃあ俺がとっておきの夜食を作りましょう」
「インスタントラーメン以外なら大歓迎」
「…………お疲れ様でしたー」
「やれやれ…」
 嘆息されてしまった。

「仲直り出来たみたいですね」
「うん? 何のこと?」
 割と不思議そうな顔をされた。
「とぼけないでくださいよ。仲良く帰ってきたでしょう?」
 リディア様は、軽く呆気にとられた様子の後。
 たまりかねたように笑い出した。
「……なんだ、じゃあこれはあなたが望んだ結末とは違ったんだ」
 彼女の言うことが理解できない。
「リディアー、そんな何でも知ったかぶってる奴に教えてやる義理はないわよー」
「んー……それもそうだね」
「いやそこは納得しないでほしいなー、と懇願してみたり」
「アーチェ、どうする?」
「アンタに任せる。あたしはお風呂に入ってから寝る」
「おやすみ、アーチェ」
「おやすみ、リディア」
「わー、俺一人蚊帳の外ですよー…」

 そうして、一人の部屋に、二人きり。
「教えてほしい?」
 焦らすように言うリディア様。
「それはもう」
「簡単に教えてあげられる方法があるけど、どうする?」
「……なんか嫌な予感がしますが、それで」
「じゃあ、まずトイレのドアの前に立ってー」
「立ちました」
「おもむろに扉を開けてー」
「開けました」
「傍らのカーテンを無造作に開けてー」
「開けましぎゃぁあああああああああっ!」
 借家の浴槽はトイレと繋がっている。いわゆるユニットバスだ。
 そこに誰がいたかは――まぁ、語るまでもなく。

「あなたも一度本気でケンカしてみたらわかるよ。いやでも、ね」

189英雄・マキシミリアン=ヴィアーズ    1/2:2007/10/10(水) 18:25:19
遠い昔…遥か彼方の銀河系で…

依然として銀河系は戦乱の渦中にあった。銀河帝国、銀河共和国、軍閥、犯罪組織、外宇宙の
エイリアン…各々、自分の主義主張を正当化せんが為に武力や謀略に訴え、毎日至る所で大
小の戦闘が発生しており、戦場となった所では市民が塗炭の苦しみに嘆息し、天を呪詛する声
は絶えない。そして、今日もアウター・リムの惑星で戦闘が始まろうとしていた…。

アーネット「失礼致します。将軍、攻撃準備整いました。いつでも御命令を」

長身の若い士官が入ってきて、用件を告げる。それに対して壮健な体格の将軍が「そうか」と短
く答えた。ホロマップで地形を睥睨するのをやめると、彼は席を立ち、下知を下す。

ヴィアーズ「クレンネル将軍に通達、ここの部隊に対して30分間絨毯砲撃を行え。その後に、タ
        スクル将軍と私の機甲部隊を突入させる」
アーネット「はっ、仰せのままに!」

若い士官は一礼の後、元来た道を引き返して、彼の命令を伝達すべく、将軍達の所へと歩を進
めた。そして、彼も自身の愛機が休息している駐機場へと向かった。その通路を闊歩している途
中で、早くもレーザー砲特有の高音と着弾したであろう地点から聞こえる大音声を聞く。その音
一つ一つがが反逆者を窮迫させていると思えば、心地よく彼の耳に響いた。そして彼は愛機の
前に立つ。帝国の誇る巨大ウォーカー『AT-AT』…数十年間に渡って彼はこの白い機械の巨獣
に魅せられ、共に戦場を駆け抜けてきた。そして今日も命運を共にする。傍らには専属の整備
兵達が整列していた。

バウール「将軍、整備は完璧です。どうぞ御搭乗下さい」
ヴィアーズ「よろしい、曹長。いつもながら行き届いた整備だ。御苦労」
バウール「はっ!」

彼らに慰労の言葉を掛けると、彼は最敬礼で将軍がコクピットに消えるのを見送る。そして、彼
らの目には光るものがあった。

将校用のヘルメットとアーマーに身を包み、自身の戦支度は既に整った。砲撃終了予定時刻が
近づき、そして時計のアラームがその時を告げる。味方からは『英雄』と称えられ、敵からは『死
神』と畏怖される、闘将・マキシミリアン=ヴィアーズの出陣である。

192楽園に響くデクテット:2007/10/15(月) 09:36:24
「なるほど、それでわざわざ未来から戻って来たってわけね」
「ああ」
フラスコの中の光る物体から目を離そうとしない魔女にハルピュイアは苛立ちを覚え始めていた。
ここに来て、すでに数十分。彼女の作業とやらはいまだ終わる気配がなく、同じ様な作業が延々繰り返されていた。
「…いい加減まだ終らないのか!」
とうとう痺れを切らし、声を上げるハルピュイアに一方の魔女は呆れたと言わんばかりに肩をすくめた。
「前から少し短気だとは思ってたけど、今の貴方は全く短気そのものね」
「エックス様の大事に落ち着いてなどいられるか!ただでさえ我々が遠ざけられているというのに」
「エックス様」
巻くし立てていた彼を遮る様に魔女が言葉をつむぐ。
「エックス様の為だ、とか大事だとか黙って聞いていれば何?」
フラスコに封をして、魔女が振り返る。その顔はまるで子供を諭す時の母親のそれだった。
「確かに彼は大事かも知れないわ。
けど、あの子がそれをどう感じているか、貴方に分かる?」
魔女の問いにハルピュイアは首を振った。
彼にしてみれば、エックス様に仕える事は生まれた頃から当然の事であり、今更疑問すら抱いてはいなかった。
予想通り、という風に溜め息を付きながら、彼女は続けた。
「あの子はね、本当に必要とされているのは自分じゃなくてオリジナルのエックスだと、本気でそう思っているのよ」

197英雄・マキシミリアン=ヴィアーズ    2/2:2007/10/21(日) 18:21:15
永遠に続くかと思われた砲撃が止んだ。塹壕に隠れていた反乱軍が這い出してきて、熱気の
混じった外の空気を吸う。決して新鮮なものではないが、雄臭い地下よりはましだろう。だが、
ここは戦場。気の緩みは許されない。ただちにスコープで周囲を警戒する。が、彼らの目には
白い巨獣と地を這う機甲部隊が荒野を悠々と進軍してくるのが見えた。

反乱軍歩兵A「…!正面にAT-AT多数!」
反乱軍歩兵B「TB-4接近中!」

次々に入る報告に、再び司令部は緊張の度合いを増す。司令要員が何かメモされた紙を持
って走り回り、通路では大型の兵器を抱えた兵士が地上へと向かっていた。将校達は騒が
ず指揮を下している。

反乱軍将校「重火器兵は配置につけ!ここがこの惑星最後の拠点だ、絶対に帝国に明け渡
         すな!」
反乱軍将兵「おおーっ!」

気勢を挙げる反乱軍の将兵達。彼ら一人一人が銀河系に自由を取り戻すという使命に燃え
ていた。しかし、それだけで帝国を止めることはできない。

アーネット「将軍、前方に歩兵小隊です」
ヴィアーズ「重火器部隊か。全く問題ない、各車輌適宜攻撃せよ」
マーカンド「ブリザード2了解」
ワッツ「ブリザード3了解」
アーネット「敵、有効射程内に入りました」
ヴィアーズ「情け無用、ファイア!」

たちまち赤い光弾が無数にAT-ATの頭部から吐き出され、自由の戦士達を薙ぎ払っていく。
最初の数秒で40名の小隊は全滅したのであった。彼らにとっては理不尽と言うしかないだろ
う。数多の戦場を潜り抜けてきた彼らが一発も撃たずに倒れることになったのだから。陣地
に配備された兵士達は、前方の虐殺に憤慨し、歯軋りするも、自分達の番が近づいている
ことに恐怖を覚えていた。

反乱軍将校「お前達何を怯えているんだ?帝国の司令官はヴィアーズだ!討ち取って名を
         挙げろ!ホスで死んだ仲間の敵討ちだ!」

彼は士気高揚を図ったつもりかもしれない。だが、却って逆効果だったようだ。帝国の将官
達は大抵、侮られている。ピエットは『皇帝とヴェイダーのイエスマン』などという不名誉な
称号を与えられていたし、ペレオン提督はチキンと呼ばれていた。しかし、彼は違った。敵
からも畏敬を受けていたのである。その間にもヴィアーズと彼のスタッフは重要拠点を探
していた。

ヴィアーズ「敵の最有力抵抗拠点は?」
アーネット「10時方向、距離13.37の陣地です!」
ヴィアーズ「よろしい、照準敵野戦陣地!火力最大…ファイア!」

たちまち、最も強力な抵抗を見せていた陣地から巨大な火柱が上がる。おそらく生存者は
いないだろう。AT-ATの主砲の出力の高さだけではなく、そこには燃料や弾薬が集積して
あった為、誘爆を起こしたのだ。指揮官の失言と、強まる攻勢で完全に反乱軍の士気は崩
壊した。我先に脱出の為の輸送艦を目指し、陣地を放棄していく。最早誰も帝国の進撃と
反乱軍の逃亡を止めることはできなかった。止めにストーム・トルーパーが降車して、陣地
内の残敵を掃討した時、全ては終わった。

アーネット「バレイポット大佐から報告。反乱同盟軍陣地の残敵の無力化を完了。この地
        域は完全に帝国の支配下にあり」
ヴィアーズ「結構。大提督にも通達せよ」
アーネット「はっ!」
ヴィアーズ「これでまた一つの惑星に秩序が戻ったな」

かくしてマキシミリアン=ヴィアーズと彼のブリザードフォースはまたも帝国中の賞賛を集
めたのである。

198未来の息子との対面:2007/10/21(日) 23:06:06
いつもと変わりなく暮らすテトランにある時、訪問者が訪れた。

ピンポーン、とベルがなる。
テトランが出るとそこにはある一人の男性がいた。
テトラン「…誰…ですか?」
するとその男性は意外な一言を発した。
マキシミリアン「僕だよ、マキシミリアンだよ 若いねぇ、母さん…」
テトラン「えっ!?あっ!?うっ!? あ…でもファーマスに似てる…」
マキシミリアン「でしょ? おっと、30年後の未来から来たんだ!
        そういえばお父さんは?」
テトラン「え!?あ…えーとね、エクリプスに乗って仕事中…」
マキシミリアンは呆れたように一言。
マキシミリアン「父さんは本当に仕事が好きなんだなぁ…30年後の世界でもまだ現役さ」
テトラン「えっ!?そうなの!? あ…でもわかるような…」
マキシミリアン「でしょ!? ってことで父さんに会ってくるよ! じゃあね、若い母さん!」
テトラン「あ、じゃ、じゃーねー…あは、あはは…あぅ…」
テトランは思いもよらぬ訪問者にテトランは一日中ぼーっとしていたそうな。

201生きる術 その一、兎の捌き方1:2007/10/22(月) 23:12:14
「さーなえちゃ…あれ?」
妙に暗い顔で縁側に腰掛ける青巫子にフヨウは首を傾げた。
具合が悪いのか、顔は頬が痩け、目はどこか虚ろだった。
「あー…えーっと、大丈夫?」
「………たい」
「えっ?」
ぼそりと呟かれたその言葉を聞くべく、近くにより―
「…お肉が食べたい」
ただその発言に目を丸くするばかりであった。


「じゃあここ最近魚と野菜だけなんだ」
力なく頷く早苗にフヨウはいかにもわからないと言わんばかりに首を傾げた。
「捕ればいいんじゃない?」
しごく簡単なフヨウの答えに早苗は溜め息を漏らした。
つい最近まで外に居た彼女には鳥はおろか、小動物の捌き方や罠の作り方を知らない。
故に今日まで魚と野菜でしのぐ羽目になったのだ。
「なら今日は僕が何か捕ってこようか?」
そんな彼女とは裏腹にフヨウがまるで何か買いに行く様な感覚でそう尋ねた。
え、と声を漏らせば、相手はにかっと笑った。
「大丈夫、蛙じゃないからさ。蛙も美味しいとは思うけどケロちゃんが共食いになっちゃうし」
言っている意味が分からない早苗を取り残し、話はどんどん進み、
ようやくその意味が分かったのは、フヨウが彼女の母と兎をぶら下げて帰って来た時の事だった。

202生きる術 その一、兎の捌き方2:2007/10/22(月) 23:32:48
血抜きは既に終わったらしい兎を目の前に早苗は戸惑った。
毛皮がついている。耳がある。もろ兎である。
「大丈夫?」
既に包丁を持っている紫に早苗は助けを求めるような視線を返した。
「あの…これ…」
「兎だよ、血抜きはしといたから後は皮剥いで食べるんだよ…って聞きたい訳じゃないよね」
蒼白になった顔を見つめ返しながら、紫は困った様に笑った。
「そうだよね、現代っ子はまず兎とか捌くなんてやらんもんねぇ」
包丁を一度置き、少し考え込むようにうめく彼女―自分とそう年に変わりない彼女とぐてんとした兎を交互に見た。
「でもさ、兎美味いよ」
既に捌き終わったフヨウの笑顔とその手元のギャップに早苗はとうとう意識を失った。


目を醒ました後、失神しかけながらも早苗は生まれて始めて兎を捌く事となった。


「あら、今日は兎かい?」
夕食に現れた神奈子は皿に置かれた焼きたての兎肉を見ながら、嬉しそうに呟いた。
隣では諏訪子が同様に立ち上る香りをかいでいた。
そして、早苗はというと―
「早苗ちゃーん?大丈夫かー?」
「あぅぅぅ…あぅぅぅ…」
すっかり参ってしまった様子で床で倒れ付していた。
「まあ最初にしては上出来だったんだから、いいじゃん。
それにこれからは自分でやらなきゃいけないんだし」
紫のほとんど慰めになっていない言葉にうめき声が返ってきた。
「ほんとにやってけんのかねぇ…」
今更ながら心配になりつつも食欲をそそる香りに負け、箸を取る面々であった。

204いつもと変わらぬ?一日:2007/10/27(土) 11:26:16
いつものように目を覚ますといつものように視界に広がる天井。
「…いつも違う天井だなんてシ○ジ君みたいなことは言わなくていいんだ…」

いつものようにリビングに行くといつものように広がる光景。
「もう7時か…、結構寝たんだな」

いつものようにテレビを見る。いつもの番組。
「……みの○んたこの番組に合ってねぇ…」

いつものように学校へ向かう。そしていつものように帰宅。
「だるい…けどやるならやらねば」

そしていつものように、PCへ向かう。
「…さぁ、始めようか…」

そしていつものように夕食を食べ、いつものように風呂へ入る。
「はぁ…気持ちいい…」

そしていつものように布団へもぐりこんで寝る。
「おやすみ…」

そして、いつもとは違う夢をいつものように見る。
そして、またいつものように―――。

205<スキマ送り>:<スキマ送り>
<スキマ送り>

207少女の心:2007/11/02(金) 17:26:01
数冊のノートを持ってドアをくぐったアサヒは暫し目を瞬き、頭を掻いた。
彼女の目の前には困惑した妖精メイド達と家具を壊し続けるフランドールの姿。
別段珍しい光景ではなかった。
フランドールは時折自身の力に引きずられる様に感情を爆発させ、流れるままに家具を壊していくからだ。
片付けが大変だとぼやくメイド長の顔を思い浮かべながら、メイド達を避け、フランドールの後ろに近付く。
「こりゃ」
ぺちん、という軽い音が広間に響き、妖精メイド達が一斉に逃げ出す。
ただでさえ機嫌が悪いフランドールの頭をあろうことかノートで叩くという行動は彼女達から見れば、
空腹の猛獣の前に肉を持って飛び出す様なものだ。
「あ、アサヒだ」
「アサヒだ、じゃねぇだろ?」
不機嫌そうに振り返る彼女の額に再び一撃。
「家具は壊したらだめだってこないだ言ったろ?」
額をさすりながら、フランドールがうつむきながら答える。
「だ、だって、なんだかいらいらしてたんだもん…」
そんな彼女の頭をぐりぐりと撫でながら、アサヒが困った様に笑う。
「しょうがねぇなぁ、けど、誰も壊さなかったから今回は俺もお前の姉ちゃんに謝ってやるよ。
ただしもうすんなよ?」
そう言うとフランドールの顔が渋くなる。
「私、あいつ嫌いだもん…」
「まあまあ、家具ぶっ壊しちまったんだからちゃんと謝んなきゃ駄目だぞ?
それに俺が居るからさ」
そうして、渋々首を縦に振ったフランドールと手を繋ぎ、
「あー、わりぃけどこれ、片付けといてくれないか?」
物陰に隠れたメイド達にそう言付けて、二人は廊下を歩き出した。

208少女の心:2007/11/02(金) 17:39:11
「あーあ、怒られたなぁ、主にメイド長に」
フランドールのベッドにどっかり腰掛けながら、アサヒはあっけらかんと言った。
いまいち表情が晴れないフランドールも同じ様に腰掛ける。
「なんだ、まだ気にしてんのか?」
そんな彼女の顔をアサヒが覗き込む。
小さく頷くフランドールに頬を掻きながら、うーんとうめく。
「まあさ、次から注意すればいいんだよ」
それでも浮かない顔をした彼女にアサヒは。
「よっと」
「わっ」
突然膝の上に抱き上げられ、目を白黒させるフランドールにアサヒはからからと笑った。
「間違ったっていいじゃないか。そこから学んでいけばいいんだ。
何が悪くて、何がいいのか。
もしそれが分からなくなったら俺に言え。
手助けか、抱き枕位にゃあなってやるさ」
アサヒの笑顔に釣られる様にフランドールも笑い、大きく首を縦に振る。
そのまま抱きつく彼女の頭を撫でてやりながら、アサヒは日課にしているおとぎ話を話はじめるのだった。




なんとなくフランドールに甘いアサヒとアサヒに甘えるフランドールの話。

209名無しさん:2007/11/03(土) 23:14:27

   | │                   〈   !
   | |/ノ二__‐──ァ   ヽニニ二二二ヾ } ,'⌒ヽ いい男専用浮上法
  /⌒!| =彳o。ト ̄ヽ     '´ !o_シ`ヾ | i/ ヽ !
  ! ハ!|  ー─ '  i  !    `'   '' "   ||ヽ l |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   :::::;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;::::
     :::::::;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;:::::::     ∧_∧ ウホッ!
      ::::::::::::::::::::::::::::     Σ( ::;;;;;;;;:)
        ::::::::::::        /⌒`'''''''''''^ヽ
               /⌒ヾ/ / .,;;;;;;:/.:;|
-―'――ー'''‐'ー'''―‐'―''''\,./ / .::;;;;;;:/‐'| :;|'''ー'-''――'`'
 ,, ''''  `、 `´'、、,   '''_ソ / `:;;::::ノ,,, | :;| '''  、、,
    ,,,   ''  ,,   ''''' ξ_ノ丶ー'ー< ,ゝ__> '''''  ,,

210名無しさん:2007/11/04(日) 21:50:37
一応浮上

211名無しさん:2007/11/04(日) 22:28:59
二人の姿は周囲にすればもどかしいものだった。
近くにいるのに二人の間にある僅かな距離が周囲の目にはもどかしいものだった。
二人はそれがいいと言った。
呆れる周囲をよそに二人はずっと付かず離れずの微妙なバランスの上で一緒だった。
互いの想いを口にしても、それ以上を望まず。

それでも片方の最後の時は残された方は涙を流して言うのだ。
一人にしないでほしいと。
「…と、俺が知ってるのはそこまでだ」
男はそう言って、カップに口を付けた。
「ずいぶん中途半端な話だね」
男の向かいで同じ様に紅茶を飲む少女が困った様に笑う。
「俺はこのての話に興味がないからな」
「編み物は好きなのにね」
少女の言葉に男は皮肉っぽく笑う。
「マスター」
少女が柔らかに笑いながら男を呼ぶ。
「愛してますよ」
少女の言葉に男が盛大にむせ、そのままテーブルに突っ伏す。
流石にやりすぎたか。そう思い、立ち上がりかけた少女の動きが不意に止まり―その顔が見る間に赤く染まる。
「お返しだ」
してやったり顔の、けれど真っ赤になった男が視線をはずす。
「卑怯だよ…」
言葉を使わずに胸に伝わってきた男の想いに少女はしばらく彼の顔をみられなかったという―



なんとなくイチャイチャさせた。が、糖度がいまいちだ

212未来の息子との対面―ピエット Side 1/4:2007/11/06(火) 15:33:52
遠い昔…遥か彼方の銀河系で…

――アウター・リム/バクラ星系

アウター・リムの外れに位置し、ワイルド・スペースに接しているこの星系は昔からエイリアンや
ならず者、未知の存在の侵略を受けてきた。そして、今度は反乱同盟軍の侵略をこの星と帝国
艦隊は退けたところである。ピエット大提督とヴィアーズ将軍の最強タッグの前に、またしても反
乱同盟軍は敗れた。どうやら銀河共和国が復活するのは遠い日のことになりそうである。そして
今、二人の英雄はバクラ総督のワイレック=ネリアスの歓待を受け、艦に戻ったところであった。

――ESSD『エクリプス』

ヴィアーズ「いやいや…大変な歓待だったな」
ピエット「そりゃそうだ、我々は英雄なんだから…むぅ」

突如、ピエットが額を押さえる。当然ながら彼の親友は疑問に思った。

ヴィアーズ「どうした?」
ピエット「いや…しかし…ありえない」
ヴィアーズ「分かるように話せ」

独り言…いや、うわ言に近い言辞をとるピエットそれに対してヴィアーズは少々の苛立ちを覚え
た。彼の気はそんなに長いものではないのだ。

ピエット「息子の…マキシミリアンのフォースを感じる…」
ヴィアーズ「テトランさんが来ているんじゃないのか?」

彼の幼い息子が1人の筈は無い。したがって、彼の細君と一緒に来たのだろう。彼とテトランは
お互いに愛しあっているのだ。想いのあまり、最前線まで会いに来てもおかしくはない。しかし、
ピエットは首を振った。

ピエット「いや…テトランのもそれ以外の存在も感じない…一人だけだ」
ヴィアーズ「まさか!まだ一歳だろう?」
ピエット「だが、感じるのだ…息子の存在を」

ヴィアーズはフォースに畏れを抱いているが、その不透明さに対していまだに半信半疑なところ
がある。しかし、フォースは正しかった。

213未来の息子との対面―ピエットSide 2/4:2007/11/06(火) 15:34:54
レーダー員が何事か艦長に耳打ちすると、驚いた顔をして、ピエットに近づいてきた。

セシウス「大提督、信じがたいことですが、大提督のコードを発信しているTIE-アグレッサーが接
       近中であります」
ピエット「…艦長、トラクタービームで収容せよ」
セシウス「仰せのままに」

ピエットは収容を命じ、中に乗っていた人物を連れて来るように言った。そして、数分の後、彼ら
の居るブリッジのシャッターが開き、マリーン達が中に居た人物を連れて来た。そして、一目見て
驚いた。ピエットにそっくりなのである。それでも、大分若いが。そして、彼との関係はすぐに分か
った。

マキシミリアン「お父さん!」
ピエット「ひょっとして…マキシミリアンか?」
マキシミリアン「そう、マキシミリアンだよ!30年後のね」

驚いた。まさか30年後の息子に出会えるとは。しかも、彼の制服の階級章を見れば上に赤の徽
章が3つ、青の徽章が3つ、つまりは大佐の地位にあることが分かった。どうやら彼の軍人として
の人生は順調なようである。

ピエット「大佐か…なかなか順調なようだな」
マキシミリアン「うん、今は『キメラ』の艦長をやっているんだ」
ピエット「『キメラ』か!?30歳でインペリアル級の艦長とは…チェル艦長はスーパースターデスト
      ロイヤーの艦長にでもなったのか?」

30代でインペリアル級の艦長を務める例はあまり多くない。チェル艦長などは例外中の例外だ。
彼は特に目立った功績があるわけでもないが、ペレオン提督が人材を育てる意味で抜擢したの
である。30年も経っていれば、彼も熟練の艦長になっていると思い、ピエットはそう言った。

214未来の息子との対面―ピエットSide 3/4:2007/11/06(火) 15:35:29
しかし、息子からは意外な返答が返ってきた。

マキシミリアン「チェル艦長…チェル提督のこと?」
ヴィアーズ/ピエット「何!?彼が提督だと!?」
マキシミリアン「うん、あまり詳しくは言えないけど、銀河大戦とそれに続く―――ああ、これは言
          えない…まあ、これから起こる一連の戦乱の英雄の一人に数えられているよ?
          勿論、お父さんやヴィアーズ大将軍に、ペレオン大提督やジェリルクス参謀総長
          もね?」
ピエット「ギラッドも大提督か…それは妥当だな」
マキシミリアン「うん、お父さんと一緒に戦った人達は大抵、出世しているよ。しかし凄いなぁ…こ
          このブリッジだけでも伝説級の人達ばかりだよ…」

そう言って彼はピエットやヴィアーズの脇に立っている高級軍人やその下で働く司令要員達を一
人一人見回していた。そこにヴィアーズが話しかける。

ヴィアーズ「マキシミリアン、私の息子…ゼヴュロンはどうしているんだ?話せないこともあると思
        うが、生きているかどうかだけでも教えてくれないか?」

彼の息子…ゼヴュロン=ヴィアーズは帝国の理念に疑問を抱き、反乱同盟軍に身を投じていた
のである。最後の消息では、4年前のエンドアの戦いで反乱同盟軍の艦船の砲撃手を務めてい
たと風の噂に聞いただけなのである。彼は過保護な父親ではないが、4年も聞かなければ不安に
なるものである。妻に先立たれた彼にとっては唯一の肉親なのだ。

マキシミリアン「ゼヴュロン=ヴィアーズ将軍の事ですね?AT-AT部隊の司令官になっています
          よ。経緯は言えませんが…」
ヴィアーズ「おお!神よ!久しぶりにあなたに感謝致します…」

30年後の世界で元気に、しかも自分の跡を継いでいるという事は、今もどこかで元気にしている
ということであろう。その奇跡に彼は久しく忘れていた神への感謝を捧げたのであった。

ピエット「ところで…フォースの方はどうだ?」
マキシミリアン「ふふふ、どうだろう?」

そう言うと、彼はダークサイドの電撃を軽く飛ばした。それを見ていた者達が唖然とする中、ピエッ
トだけが目を細めていた。

ピエット「素晴らしい!!ダークサイドを順調に使いこなせているようだな」
ヴィアーズ「次世代の暗黒卿というわけか…」

だが目の前の青年はダース=ヴェイダーのような恐ろしい容貌でもなければ、皇帝のように邪悪
な表情もしていない。澄んだ瞳に微笑を湛えていた。性格も両親のものを受け継いだのだろう。ヴ
ィアーズはその力に畏怖こそすれ、恐怖は感じていなかった。むしろ、帝国の未来に光を見ている
気さえしたのである。

215未来の息子との対面―ピエットSide 4/4:2007/11/06(火) 15:36:06
一通り聞いた後でピエット達は最大の疑問を彼に投げかけてみた。

ピエット「何故、この時代に来たんだ?」
マキシミリアン「んー…これなんだよね…」

そう言って彼は銀色の円筒…ライトセイバーを取り出した。もっとも、まだ作りかけであるが。ジェダ
イやシスは修行の一環として、ライトセイバーを自作する。彼もその例に漏れず、作っていたようだ。

ピエット「作り方なら教えられないぞ?これも修行だ。まあ、それなら30年後の私に聞いているだろ
      うが…もしかして、何か部品が足りないのか?」
マキシミリアン「うん…クリスタルの生産工場が吹っ飛んじゃって…」

シスのライトセイバーに使用されるプライマリー・クリスタルは人工のものを使っており、秘密の工場
で生産される。それが無くなったのは致命的だろう。

ピエット「それでこの時代に来たわけだ、なるほどね」
マキシミリアン「うん、それで開けてもらえないかな…と」
ピエット「まあ…それくらいなら構わないだろう。うん、コードは出しておく。行き方は分かるな?」
マキシミリアン「うん、分かってる。それじゃ…ありがとう」

そう言って、若きピエットは再び銀河の果てへと消えていった。後にはピエットと彼の側近達が残さ
れる。

セシウス「御子息は御立派に成長なさるようですね、お喜び申し上げます」
ピエット「ありがとう、艦長」
ヴィアーズ「私の名前を名乗るだけはあるな、うん」
ピエット「君の息子も帰ってくるようだし…万々歳だな!」

反乱同盟軍が聞いたら、悪夢と思うような話だろう。自分達の努力が少なくとも自分達の生きている
間に報われることは無いのだから。しかし、今聞いた彼らには幸せな話である。自分と自分の家族や
友人が栄達を遂げているのだから。未来というものはある者には明るく、ある者には暗い…



黒閣下のに続いてみましたw

216銀河鉄道の夜:2007/11/11(日) 00:35:31
ふと、目を開けたフランドールは首を傾げた。
がたごとと揺れる、ついぞ見たことがない、窓の沢山ついた―およそ吸血鬼の彼女には似合わない部屋の長椅子に彼女は腰かけていた。
はて、ここはどこなのだろうか、と首を捻るフランドールの前に姉が腰掛けていた。
「あら、お姉様」
「こんばんは、妹様」
彼女の声に、だが応えたのは姉の従者だった。
「お前には話しかけてない」
口を尖らせながらそう呟くと、姉の従者は困ったように笑いながら、頭を下げた。
「申し訳ございません」
姉の方はただ窓の外をぼぅと見つめたまま、一言も喋ろうとはしなかった。


「おかしな夢だね」
いつもの様に笑うフヨウにフランドールはむっとしながら、クッキーを飲み込んだ。
「そんなにおかしいの?別にあいつとあいつの従者と部屋にいただけよ」
少し苛立ち始めた彼女にそれでもフヨウはペースを崩さず天井を見上げて、言った。
「フランがいたのは部屋なんかじゃないよ。フランがいたのはね―」

パタン、と閉じられた本から顔を上げると、アサヒと目が合った。
「どうした?この話、つまんなかったか?」
彼女の問いかけに首を横に振り―思い出したように手を叩く。
「ねぇ、今度さ、この汽車って奴に乗りに行こうよ」
「ああ、そりゃあ名案だな」
くしゃくしゃと髪を撫でる手が暖かくて、フランドールは目を細めて、その感覚を楽しみ―


夢を、見ていた。
暗い部屋を見回しながら、フランドールは息をついた。
果たして何処までが夢で、何処からが現実なのか。
そして今は本当に夢から覚めているのだろうか。
ふと、枕元に置いてある古い本が目につき、それを手に取っていた。
―銀河鉄道の夜
何度も捲ったページは擦れて、表紙に至っては既にボロボロになっていた。
それでも彼女はこの本を捨てる気にはなれなかった。
ページを捲り、目当てのページを見つけ―彼女は知らず知らずその言葉を口にしていた。



久々に劇場アニメ版の銀河鉄道の夜が見たくなったら、こんな夢を見た件
…しかしなんでフラン視点だったんだろう?

217乃木版ウィリアム・テル【ウィリアムの反乱】:2007/11/11(日) 17:29:58
その日、街には活気がなかった。
と、いうのもその街は謎の「帝国」に支配されていたためであった。
それはつい先月、空からやってきた。
軍隊がそれに対応したがあっけなくやられてしまったのだ。
そして次の日から始まったのは何の意味もない銅像に
お辞儀をしろと言われたのであった。
しかしその銅像にお辞儀しなかったがために逮捕された人物がいた。
ウィリアム・テル…じゃなくてヴェノムである。
しかしヴェノムは街の人々から嫌われていて、
逮捕されたといってもそんなに心配されなかったのだ。
しかし彼には今年18歳になる娘がいた。
彼はその娘がいる方向を見つめながら、連行されていったという。

続く(ぇ

218らいーる ◆AsumiI7ApQ:2007/11/12(月) 21:41:13
逃亡編って2か月前にはプロット出来てたのねと思いつつ
再考に再考を重ね過ぎたあげく、どうにもまとまりが悪いという体たらく
やはりあれか。俺には恋愛物は無理ということか

もっと話をコンパクトにして、書きたいとこだけ書こうかしら

219らいーる ◆AsumiI7ApQ:2007/11/12(月) 21:42:00
うわーい、書くとこ間違えたー。もう今日の俺ダメポ

220夢題:2007/11/13(火) 20:48:31
「何ものも、そこに暗い影を落とすことのないように―――。」

                   バースデイ・ガールより

いつもと変わらぬように、いつもと同じように彼らは暮らしていた。
しかし、彼らは何かに気づいていた。
「何か、忘れているような気がする だが、それが何か思い出せない」
皆、「何を忘れたのか」ということを質問するたびに同じ言葉を、
この答えを発する。
しかし、二人だけはその消えた記憶を知っていた。

ヴェノム「…あれで良かったんだな?」
乃木「ああ、いいんだ あれで…あとで自分の幸せの記憶も封印しておいてくれ」
ヴェノム「わかった…後悔はしないな?」
乃木「ああ、いつまでも偶像に崇拝を続けることも無いだろう?」
ヴェノム「…わかった それじゃ私の研究室に行こうか」
乃木「…ああ 頼むよドクター」

「小英雄の面影は、もとは鮮明このうえなかったのが、
今では急にぼんやりしてしまった。」

              魯迅 「故郷」より

221憐哀編side春原:序章「成り行きの駆け出し」:2007/11/23(金) 16:22:24
 吐く息が白い。
 もう冬が近いってことを、嫌でも思い知らされる。
 街を照らすイルミネーションが鬱陶しい。
 冬なんぞ嫌いだ。
「……寒い、ねっ」
 語尾を無理に上げてるのがバレバレだった。
 ――何で元気な風を装ってんだか。
 僕は無言で歩く。後ろからついてくる足音に耳を澄ましながら。
「何で、冬なんて、あるんだろうねっ」
「神様の嫌がらせに決まってんだろ」
「なるほど。ヨーヘー、頭いい……ねっ」
 尻すぼみなトーンは、まるで声まで凍りつく様を表わしてるようだった。
 軽くイラつきながら振り返る。

 そこにいるのは、一言で言ってしまえばガキだった。
 取るに足らない、そこらへんに掃いて捨てるほど湧いてる連中と同じ。
 いや、同じように見えるだけの、別物。
 別物の――それでも、ただのガキ。

「あのな、この季節に半袖短パンじゃ寒いに決まってんだろうが」
「だってこれがボクのチャームポイントだし」
「チャームポイント丸出しで凍死する気かよ。バカじゃね?」
「ヨーヘーに言われたらおしまいだ、ねっ」
 ――口の減らねーガキ。
 苛立ちはおさまらない。
「ほら」
 着てたコートを脱いで、差し出す。
「?」
「着ろよ。寒いんだろ」
「ボクはチャームポイントのために凍死する覚悟は出来てました!」
「うるせーよ。僕がムカつくんだ、黙って着ろ」
 まったく、鬱陶しい。
「……ありがと」
「今日の晩飯代は僕が7でお前が3だからな」
「ありがたくないっ!?」
 何でこんな寒い日に、こんなとこで、こんなガキと、こんなやりとりをしてるのかと思いつつ。

 僕らは、二人きりで、逃げている。

222翼風 ◆1TOguFFHvI:2007/11/25(日) 10:51:04
ラスト

223月光浴:2007/11/25(日) 15:36:47
 真夜中に、ふいに目が覚めた。
 明るい。
 その眩しさに、光に慣れない目をかばって眇める。
 時計を見れば真夜中の4時半。当然ながら蛍光灯の灯りは消されている。
 頭が回っていなかったのだろう。
 その光がカーテンの隙間から洩れ出でているのに気づくまで、多少の時間を要した。

 十六夜月だった。
 空から降りしきるその光は、夜だと言うのにこの背に影を映しだす。
 月は金色に輝くが、その光は夜色と混ざり溶け合って青く注がれる。
 青。
 それは自分を象徴する色だ。
 きっと私は月なのだろうと、そう思う。
 己の光を持たない月。
 己の心を持たない自分。
 あまりに作為的な偶然にまみれた、自分という存在を照らす光。

 太陽は明るい。明るくて、強い。
 月は儚い。儚くて、美しい。
 私には己の光を持つことは求められていない。
 私には自分で輝くことは許されていない。
 そして――それを嘆くことも、恨むことも出来ない。
 それでも、私は月だ。
 自分で輝くことは出来なくても、光を常に浴び続けることが出来る。
 自分という存在を持たなくても、私は必ずそこに存在し続ける。

 望みはしない。
 求めもしない。

 月の美しさを湛えている限り、それこそが私なのだから。

224憐哀編side春原:一章「価値の模索」     1/4:2007/11/25(日) 19:03:02

 一日目 AM 7:30

「ねぇヨーヘー、今日ボクとデートしてくれないかなっ」
 すべてはノーテンキなお子様の、そんな一言から始まった。

 一日目 PM 15:30

 公園には人っ子一人いやしなかった。
 ま、当然だ。こんなくそ寒い中、シーソーも滑り台もベンチすらもないチンケな公園に
足を踏み入れるのは、アホの子かリストラされて行き場のないリーマンくらいのもんだ。
 だってのに、
「ヨーヘー! 見てみて、イサちゃんエベレスト踏破の瞬間!」
 アホの子はサルよろしく、木の上で喜色満面ときてる。
「へーへー、そりゃすごいですね」
「むっ。もっと喜びをわかちあおうというスポーツマンシップはないのか貴様!」
「ねーよ」
 ベンチすらないので、その場に適当にしゃがみこむ。
 溜息が、白かった。
「……ヨーヘー、退屈?」
 ふいに声に元気がなくなる。
 こちらの真意を伺うように、おそるおそる。
「あー退屈だね。こんな何もないとこで、文明人の僕が楽しめるわけないだろ」
「……ごめん」
 がりがりと頭をかく。
 まったくイライラする。
『こんな状況』でなきゃ、とっくの昔に置き去りにしてるところだ。
 僕はこいつから離れるわけにはいかない。
 もちろん、アホの子のためなんかじゃない。僕自身のためにだ。

225憐哀編side春原:一章「価値の模索」     2/4:2007/11/25(日) 19:03:49
「けどさ」
「あん?」
「普通、デートって男の人が盛り上げようとあれこれするもんじゃないかなっ」
「………………」
 もっともだ。
 男としてこれは恥ずかしいんじゃないだろうか。
 けど僕、デートしたことないぞ。
 どうやって盛り上げればいいんだ?
 ……いや、待て。
「何で僕が盛り上げなきゃなんないんだよ!?」
「ヨーヘー、男の人じゃないの?」
「男だよ!」
「じゃあ盛り上げれー」
「………………」
 もっともだ。
 男としてこれは(以下略)
「だからそうじゃねぇよ! デートしたいとか言ったのお前の方だろ!」
「……ヨーヘーは」
 木から飛び降りた。
 2階以上の高さはあったってのに、呆れるくらい身軽な動作だ。
 けど、そうして目の前に立つ姿は、僕より頭一つは小さい。
 つまりはガキだ。
「ボクのこと……きらい?」
 本当にムカつくガキだ。
 それには応えず、そっぽを向く。
 質問をわざと無視したのに、それ以上は何も聞かずに僕の傍に立つ。

226憐哀編side春原:一章「価値の模索」     3/4:2007/11/25(日) 19:04:22

 一日目 AM 8:00

 僕はそいつの問いかけにYESともNOとも応えなかった。
 応えるより早く連れ出されてたんだからしょうがない。
 寝起き直後にそんな質問されたって、応えられるわけがない。
 デート? そんな誘い受けたの始めてだっての。
 強引にもほどがあるだろ。

 僕がガキ呼ばわりしてるそいつの名前は、イサと言う。
 僕と違って天然の金髪。背が低い。
 男と言えば男、女と言えば女に見える。まぁユニセックスってやつだ。
 ガキほど性別の区別がしずらかったりするが、まさにそれだ。
 服装は大体いつも短パン。その格好がなおさら中性っぽく見せてる。

 そして極めつけの中身は、
「ヨーヘーは何でバカなのっ?」
「ケンカ売ってんのかよてめぇ!」
「だってバカじゃん!」
「バカじゃねぇよ、知性に溢れたこの顔を見ろよ!」
「あ、ディアが半裸でこっちに流し目してる」
「マジかよっ!?」
「やっぱバカじゃん!」
「バカじゃねぇよ、当然の反応だよ!」
「ボ……ワタシはヨーヘーのバカなところが大好きかなっ!」
「嫌いでいいです! ほっといてくれよ!」
「あ、よーちゃんがスカートで体育座りしながら潤んだ瞳をこっちに向けてる」
「マジかよっ!?」
「ヨーヘーのスケベー!」
「周囲から注目されるくらいの大声で言わないでください!」
 こんな有様だった。

227憐哀編side春原:一章「価値の模索」     4/4:2007/11/25(日) 19:05:10
「もうここまできたら今更だから、デートってのはまぁいい」
「本当は嬉しいくせにー」
「ガキにモテたって嬉しくねーよ。で、どこに行くわけ?」
「考えてません!」
「…………は?」
 こんな朝早くに叩き起こされたってのに……考えてない?
「ヨーヘー、考えれ」
 確か僕、誘われた側じゃなかったっけ?
「ワタシはヨーヘーの行きたいとこについてくから」
「……ふ」
「ふ? 古河パン?」
「ふっざけんなぁぁぁっ!」
 天に向かって高らかと叫ぶ。
 イサが小さく悲鳴をあげて遠ざかる。
「いきなり奇声をあげる趣味がヨーヘーにあったなんて」
「違うわっ!」
 反射的にイサを掴もうと手を伸ばす。
 あっさりとかわされた。
「こんな朝早くに叩き起こしといて、考えてないとかどーゆーことだよ!」
「えー、ヨーヘーわがままー」
「僕が悪いのかよっ!?」
「デート出来るだけで嬉しかったりするもんだー」
「だからガキにモテたって嬉しくないんだよ!」
「ワタシこれでも1434歳アルね」
「知るかっ!」
 本人曰く、あくまで悪魔な1434歳。
 羽の生えた女神や、心の底から悪魔な奴も見たことがあるから、別にそれを疑う気はないさ。
 けど、年齢と精神年齢が比例するなんて認めねぇ。
「ボクはさー」
「あ?」
「ヨーヘーと一緒にいられるなら、どこでもいいんだよ」
「………………」
 まったく。
 どうしてこんなガキにしか好かれないんだか。
 何だかんだで動揺した僕は、次に続いたイサの言葉を聞き逃した。

「どこに行っても……きっと、最後は同じだもん」

228憐哀編side春原:二章「幸福の押し売り」     1/4:2007/11/25(日) 21:10:59

 二日目 AM 10:00

 お互いに無言だった。
 何とはなしに、話を切り出しずらい。
 昨夜の僕に言ってやりたい。アホか、と。
「あ、ヨーヘー」
 小さな声で、呼びかけられる。
 何故か立ち止まって振り返ることを躊躇った。
 僕はそのまま通りを歩く。
「ヨー…ヘー」
 無視。
 振り返らない。
 いや、振り返ることが出来ない。
 いったいどんな顔して振り返ればいいってんだ。
 誰か教えてくれ。
『あんなこと』した後って、どうやって会話すればいいんだよ。
 すると、
「ヨー、ヘー!」
 体当たりされた。
 背中に強烈な一撃。
 僕はつんのめり、折り重なるようにして倒れた。
「へへ……ヨーヘー」
「浮かされたような声出すなよ! 気味悪いだろうがっ!」
 背中にのしかかる重さは軽かったけど、子泣き爺のように貼りついてくるせいで立ち上がれない。
「じゃあ無視すんなっ」
「うるせぇ! どんな顔して答えりゃいいんだよ!」
「こんな顔でいーじゃん!」
 僕の真横に顔が生える。
 満面の笑み。見てるこっちまで多幸感に包まれそうになる。
 その頬が、心持ち赤い。
「ヨーヘー」
「何だよ」
「ヨーヘー」
「だから何だって」
「大好き」
「……恥ずかしいんだよ」
 気色の悪い感覚。
 僕はロリコンになるつもりはない。
 ない、はずだ。

229憐哀編side春原:二章「幸福の押し売り」     1/4:2007/11/25(日) 21:13:05
 腕にしがみついて離れないのが邪魔だった。
「だから勘違いすんなよ、別に僕は」
「それでもボクはこーしてたいのでした!」
「僕が迷惑なんだよ!」
「なら喜べ!」
「理不尽すぎませんかねぇっ!?」
 明らかに昨日とは振舞いが違う。
 傍若無人なのは変わらずだけど、それでも昨日はこれだけ近づいてきたりはしなかった。
 距離が変わったんだろうか。
 言うまでもなく、原因は昨夜のやりとりにあるんだけど。
「この方がデートっぽいし」
「デートじゃないんだろ」
 昨夜、こいつ自身が口にしたことだ。
「じゃあデート以上」
「何だよそれ」
 そう言うと、横の姿がニヤリと笑った。
「やーだなー、ボクのこと子供扱いしてるくせに、そんなことも知らないんだー」
「あ? 適当言ってんじゃねぇぞコラ」
「ヨーヘーはドーテーだからそんなことも知らないんだー」
「心の底から大きなお世話ですよねぇっ!?」
 こんなガキにドーテーとか言われたくない。
「大体、これは逃げるためだって昨夜お前自身が……」
 逃げるため。
 そう、これはデートなんかじゃない。

 イサは狙われている、らしい。
 誰にかはわからない。
 本当なのかどうかもわからない。
 けど、少なくとも根も葉もないデタラメじゃないだろう。
 そう思わせるほどのものが、昨夜のイサにはあった。

230憐哀編side春原:二章「幸福の押し売り」     3/4:2007/11/25(日) 21:13:59
「や」
「あ?」
「やだよ、それ忘れて」
「言ったのお前だろーが」
「あれはもののはずみ。なし」
「意味わかんねーっての」
「だって、そんな気持ちでこれから一緒にいても楽しくねぇ!」
「いきなりテンションあげんな。ついてけねーよ」
 こいつの言動は定期的に意味不明になるから困る。
 けど、何となく他人の気がしないんだよな…
「ヨーヘーには迷惑かけないから」
「あ?」
「何度見つかっても、絶対ボクが何とかするから」
 いまいち意味がわからないので無言。
「だからボクを独りにしないで」
 けどイサの目は切実で。
「最後の時まで、ボクと一緒にいて」
 やっぱり嘘を言ってるようにはとても見えない。
「ヨーヘーだけなの」
 何がこいつをここまで追い詰めるのか。
「ボクにはヨーヘーしかいない」
 何がこいつをここまで怯えさせるのか。
「ヨーヘーしか信じられない」
 おそらく、それは絶対にわかりゃしないだろう。
 それでも、
「うるせーよ」
 イサの頭に手をおき、引き剝がす。
 僕の本気を悟ったか、イサはほとんど抵抗せずに手を離した。
 その顔は驚きに満ち溢れてる。
 溜め息。

231憐哀編side春原:二章「幸福の押し売り」     4/4:2007/11/25(日) 21:21:50
「ここまで来て、今更お前だけ置いていけるかよ」
 頭に置いた手を、適当に動かす。
 天然の金髪がぐしゃぐしゃになった。
「え……」
「ずるいんだよお前。僕の意見なんて最初から聞こうともしないくせに、
 自分の意見ばっか僕に押し付けてきやがって」
「…………」
「僕は他人に動かされるなんて御免なんだよ」
 押しつけた手のせいで、イサがどんな顔をしてるかはわからない。
 わかりたくもなかったね。
 こんなこと言わなきゃならない自分にもうんざりだ。
「僕は好き勝手にやる。僕がしたいことだけをな。
 ついてきたけりゃついてこいよ」
 手がはねのけられた。
 見たくもない顔が上目づかいでこちらを見上げてくる。
 薄く涙のにじんだ顔。
 すがられるのなんて御免だ。
 けど、今ここでこいつを見捨てるのはもっと御免だ。

「お前が僕の傍にいる限り、僕はお前を見捨てねーよ」

 前から飛びつかれた。
 ある程度予想してたので、今度は倒れずに済む。
「ヨーヘー」
 面倒なので、もう応えない。
 しばらく、そうしてた。

232神様仏様ミシャグシ様:2007/11/26(月) 12:09:16
正直ナハトは困っていた。
「そこからどけ、掃除機がかけられんぞ」
「やーだ、寒いもん」
こたつ布団にしがみつき、首だけ出した少女を見下ろしながら彼は深く溜め息をついた。
既に十時すぎ。
そろそろ近所のスーパーの朝市で玉子等を買ってこなくてはならない。
ナハトは再び溜め息をつくと掃除機を片付けだした。
「あんまり溜め息つくと幸せ逃げるわよー?」
誰のせいだ、と言わんばかりにこたつむりを睨んでおき、鞄を手に玄関へと向かった。
「ついでになんかつまむもんお願いね〜」
「へーへー」
神様ってこんなもんなのかと思いながらも普段一緒に居る早苗に彼は同情せざる得なかった。

「彼の事、いじるわねぇ」
「そうでもないよ」
テレビの時代劇を見る友人に諏訪子はこたつからはいだした。
「彼がいじられやすいだけよ」
「口ではなんだかんだで世話焼きよねぇ」
テーブルの上に備え付けられた蜜柑を友人に投げてよこしながら、彼女も蜜柑に手を伸ばす。
「でも手は出さないでくださいよ?彼はちゃんと彼女居るんですから」
声に諏訪子達が振り向けば、カップ片手に笑顔を浮かべるドロシアがいた。
「あーうー…、大体彼はすこし細いわ」
「ところが!脱ぐとしっかり腹筋が割れてるのよ!」
「なんで知ってるのよ…」

そんないつもの光景

233名無しさん:2007/11/28(水) 18:31:12
作業age

234まとめ:2007/12/03(月) 01:04:25
浮上

235ピエット大提督:2007/12/05(水) 18:36:30
帝国は情報保護の必要性を感じている為、浮上工作を実行中である

236仰視編 ―神格佇む境内で・昼―:2007/12/09(日) 21:06:14
 その空間だけ、世界から切り離されていた。
 気配はなく。
 木々のこすれ合うわずかな音の中で、独り鳥居を通り過ぎる。
 紅葉も終わりその多くが地を黄金に染め上げる秋の名残りの、
 それでも木々に残る葉の隙間から零れ落ちる光線に、わずかに目が眩んだ。

 まずは左手。次に右手。左手に注ぎ口に含み、最後にもう一度左手。
 手水舎での作法は、冬の近いこの季節には感覚を痺れさせる。
 水の跳ねる音が心地いい。
 手水舎から境内まで歩く間に、財布の中から硬貨を取り出す。
 10円。これ以上の金額にすることも、以下にすることもない。
 高すぎると習慣性が薄らぐし、安すぎると参拝という行為自体まで安っぽくなってしまう。
 ちなみに定番の5円は使わない。御縁に興味はないからだ。
 冷水を浴びた手には、握りしめる硬貨の温度さえほんのり温かく感じられた。

 境内に、一歩。
 視界の先に佇む拝殿。そこに至るまでの真っ白な道。
 恐る恐る歩く。
 いつだってここでは畏怖を覚えずにはいられない。
 神が居る・居ない。神を信じる・信じない。
 そんなの些末事だ。些末だし、どうでもいい。
『参拝』という行為に、「神様にお願いする」なんて意味は微塵も込めていない。
 それでも、ここには確かな畏敬がある。
 そして、それだけでいい。

 最初に小さく会釈。それは魔術儀式における『聖別』に似ている。
 現実と夢の狭間にあって、その2つを切り分ける1つの儀式。
 腕の中でしっかり握りしめていた硬貨を放る。
 木造の賽銭箱にあたる鈍い音。続いて、金属同士がぶつかる鋭い音。
 ゆっくりと目を瞑る。時と場所が違えば、それは寵愛をねだる動作と何ら変わりない。
 そして、最も基本的かつ有名な作法――二拝二拍一拝。
 心の中で念じる。

 ――どうか、平穏を。

 それは願い事『ではない』。
 あえて陳腐な言葉で表現するなら、『誓い』だろうか。
 この一連の流れの中に、自分の意識を刻み込む。
 静謐で彩られた幻想世界を。もはや習慣と言い換えてもいいこの儀式を。
 いつか心の中で思い返す度に、思い出せる。
 今の自分が何を求めていたかを。
 もしも神様が存在するなら、何もしてくれなくていい。
 ただ、許してほしい。
 今この時、この場所で、こういった形で『願い』を歴史に刻みつける自分を。

 最後にもう一度会釈して、儀式は終わる。
 拝殿から振り返ると、ゆるやかな日差しの中に伸びる影が軽く踊った。
 これで穏やかな夢の時間も終わり。
 さぁ、現実に帰ろう。
 騒々しく、慌ただしく、それでもそこにしかない自分の居場所へ帰ろう。

237冬の音:2007/12/16(日) 23:38:19
茶をすすっていた紫がついと顔を上げて、呟くように言った。
「冬の音ね」
「冬の音…ですか?」
向かいに座り、同じ様に茶をすする早苗が不思議そうに紫を見つめた。
黒目黒髪のごく普通の日本人、といった彼女はそうと嬉しそうに頷いた。
「あの音を聞くとね、いよいよ冬だって気になるの。自分はあの音が好きなんだ」
そう言い、目を閉じて耳を澄ます彼女に倣い、早苗も同じ様に目を閉じる。
そうすると普段は気にも留めない小さな音が―風が落ち葉をさらう音や火鉢のはぜる音が聞こえてくる。
これが冬の音なのだろうか。
そう思い、目を空けかけた時だった。
パキ―
先ほどよりももっと小さな、何かの割れる音が早苗の耳へと入った。
「聞こえた?」
紫が嬉しそうに問掛けた。
「今のは?」
聞き慣れないそれを早苗が問いで返す。
「霜が砕ける音さ。外じゃとびきり寒い日の朝にお日様が当たるとほんの少し聞こえるんだ」
そんな、霜が降りた朝のこと。



静かじゃないと聞こえない、霜が砕ける音
もしかしたら明日の朝は聞こえるかもしれない

皆にとっての冬の音はなんだろう。そう思う、冬の夜

238仰視編 ―曙光抱く摩天楼にて―:2007/12/17(月) 23:13:26
 見上げる。
 天に突き刺さらんばかりに延びる巨大な柱が、視界の一面を覆っている。
 けれど、そこにあるのは決して無機質なだけの鈍い光じゃなかった。
 光線。
 ビルの壁面を埋め尽くす透明なガラス窓が、その屈折率から全反射させた朝ぼらけの太陽光。
 空は、太陽から光を受け取りながら、太陽よりも眩しく輝いていた。
 薄く目を凝らす。

 早朝の摩天楼に人の気配はなく。
 あと数時間もすれば雑多な波に覆い尽くされるであろうその場所は、
故にこの時間だけは普段の喧噪を晴らすかのように静寂に包まれている。
 目を閉じる。
 このまま眠ってしまえればどれだけ気持ちがいいだろうか。
 思い、一時間後の惨事が即座に脳裏に浮かび、苦笑。

 日の光がわずかに上方に傾くだけで、人工物が彩る光の幻想は終わりを告げる。
 一日の、わずか十数分の間にだけ訪れる、『ツクリモノノゲンソウ』
 日常の中でそんな幻想に浸れる自分は、さて幸福か。
 あるいはそれはとてつもなく不幸なことなのかもしれない。
 幻想と対比してしまう限り、現実は俗物にまみれた凡庸な世界に過ぎない。
 それはダイヤと比較して、水晶の価値を軽んじるようなものだ。
 決して水晶に価値がないわけではないのに。

 そして、結局のところ、自分は水晶しか手に取れない。
 ダイヤは眺めることは出来ても、その手に納めることは出来ないのだ――

 さて、時間が来た様子。
 これから摩天楼の一角にその身を置き、生きるための労働が始まる。

 胸に抱いたダイヤの輝きは、従事する自分を少しは癒してくれるだろうか?

239―地上の咆哮―:2007/12/22(土) 10:29:47
ただ、音が外から聞こえるだけである。

それは爆発音であったり、機銃を撃つ音でもあり、
そして突貫の命令の声でもあり、悲鳴でもある。

次々と倒れゆく味方、迫ってくる敵。
私はこのやうな戦火の中で、決断をしなくてはならない。
味方にどのやうな指揮するかをだ。
私は迫られている。それは決断なり。

「サイパン全島の皇軍将兵に告ぐ 鬼畜米帝への侵攻を始め、既に約二年も過ぎた。
このサイパンにいる陸海軍の将兵ならびに軍属達は皆が一致団結して協力し、
皇軍の面目を十分に発揮し、負託の任務を完遂することと思われたが、
天に見放され、地の利は十分に発揮できず、だが、人の和を発揮して今日まで生きてきた。
だが、資材は尽き果て、銃や大砲も鹵獲されたり、壊されるなどして、
戦友達は相次いで戦死している。これは真に無念だが、彼らが国に貢献してことを信ずる。
だが、敵の進行は依然として悠々たるものであり、サイパンの一角を占領するも、
敵の爆撃に曝され散っていくのみで、今や止まっても、進んでも死ぬという最悪の事態となっている。
だが、今は大日本帝国男児の真骨頂は発揮するときであり、私南雲忠一は、
今ここにいる君ら将兵、軍属とともに喜んで鬼畜米帝の懐に飛び込み、
太平洋への防波堤として、ここに骨を埋めようと思っている。
今こそ戦争での教訓、「生きて虜囚の辱めを受けず」を実行するときであり、
勇気を持って躍進し、全身全霊で戦ひ、悠久の大義に生きることを
最後の喜びとするのだ。」

1944年7月8日 南雲忠一 戦死(ただし自決説もあり)

二階級特進にて、海軍大将へ

サイパンの戦いで日本軍は文字通り玉砕し、
生き残った日本兵は重症の兵士一人だけだったという。

240願いの雪:2007/12/23(日) 21:47:10
「…雪だ」
つまらなそうに窓の外を見ていたコピーエックスが驚いたように目を丸くした。
「ポッケ村は雪山に近いからね、降っても不思議じゃないよ」
鎧の手入れをしていたフヨウが彼の方を振り返る。
まるで子供のように窓から身を乗り出し、雪に手を伸ばすコピーエックスの様子が
普段の彼からは想像もつかず、フヨウは思わず笑ってしまった。
けれど、いつものなら飛んでくるであろう皮肉はいつまでもなく、
不思議に思った彼女は首をかしげて、問いかけた。
「もしかして雪見るの、初めて?」
彼女に背を向けたまま、彼が首を横に振る。
「視察にいったとき何回も見てるよ?…ただ、そこで見たのは
天候操作装置で操作して降らせた雪だからさ」

人だけでなく、天候と言う自然でさえ操作されていた彼のいた場所。

そんな環境だったからこそ、人々の間にはあるジンクスが出来上がっていた。

―曰く、自然に降る雪を見れた者は願いが叶う、と。

(ついでだから、何か願掛けしてみようかな)
柄にもなく、そんなことを思いながら、すっかり溶けてしまった手の中の雪を見つめる。
「そか」
一方、答えに満足したのか、フヨウは再びコピーエックスに背を向け、
今度は盾を点検しだした。
二人の間に流れる、静かな時間。
暖炉では暖かな火が燃え、時折薪の爆ぜる音を辺りに響かせる。
「そういえば」
思い出したようにフヨウが武具を床においたまま、コピーエックスの隣に身を乗り出す。
「昔お父さんに聞いたんだけど、静かにしてると雪が地面に落ちる音が聞こえるんだって」
「ほんとうかい?なんだかにわかには信じられないけどな」
「まぁさ、ほんとかどうかは目、閉じてみよう」
そう言いながら、二人がゆっくり目を閉じ、
「するね」「…ん」
どちらともなく互いの手に自分の手を重ね、
二人は飽きることなく雪の落ちる音をただ静かに聞いていたのだった。
どうやら、天然の雪は溶けてしまっても願いを叶えてくれるのだと、思いながら……

241憐哀編side春原:三章「諦観の共有」     1/4:2007/12/24(月) 19:50:01

 二日目 PM 22:30

 結局僕らが最後に辿り着いたのは、昨日も訪れた何もない公園だった。

 二日目 PM 16:00

 ――おい、パス!
 その言葉が耳に届いた瞬間、忘れかけてた何かがわずかに疼いた。
「? どったんヨーヘー?」
「……あ? いや、別に」
 顔に出した覚えはない。
 ほとんど反応なんてしてなかったはずだ。
 それなのに、
「気になんの? 今の声が」
 コイツは僕の考えを当たり前のように読み取ってくる。
「んなことねーよ」
 ――まったく、鬱陶しい。
 そんな思いさえも伝わったのか、イサは顔を伏せて、
「そっか」
 とだけ言った。
 何か悪者っぽかった。むしろ悪者だった。
 僕は何もしてないってのに。
「おい、ちょっとついてこい」
「え?」
 イサの手を引いて、僕は声のする方へ歩く。

242憐哀編side春原:三章「諦観の共有」     2/4:2007/12/24(月) 19:51:47
 そこは運動場だった。
 ちょっとした祭りぐらいなら余裕で開けそうな広さがある。
 娯楽がない、って意味じゃ昨日の公園と何も変わらない。
 けど、
「何かやたらと人がいやがりまくります」
 そりゃそうだ。
 運動場は運動場らしく、運動のために使われてる。
 走りまわる『同じ服装(ユニフォーム)』の連中。
 間を行き交うたった一個のボール。

 つまりは、まぁ、サッカーの試合中ってことだ。

「ヨーヘー、あれ何してんの?」
 イサが僕の服の端を引っ張りながらそう聞いてくる。
 その光景が、ふといつかの何かと重なり――胸中ではっ、と笑う。
「あ? お前サッカー知らないのかよ」
「知らねー。ヨーヘー教えれー」
「それが人に物聞く態度ですかねぇっ!?」
 と言いつつ、これについて語らせると僕はうるさい。
 伊達にサッカーのスポーツ推薦で高校に進んだわけじゃない。
 そこらのなんちゃってスポーツマンとは格が違うわけよ。
「いいか、サッカーってのは…」
「入った! ボールがデカい籠に入った! ねぇあれで勝ち? 勝ち?」
「聞けよっ!」
 聞きやしなかった。

243憐哀編side春原:三章「諦観の共有」     3/4:2007/12/24(月) 19:52:38
「ボールでけー。投げますか? イサちゃん遠投は大得意でした!」
「投げねーよ」
 僕らは運動場から一つサッカーボールを拝借して、広場の隅へと場所を移した。
「これはこうやって使うんだ、よっと」
 慣れ親しんだ感覚。
 ボールに触れる回数は減っても、体に染みついた技術は簡単になくならない。
「ヨーヘーかっけー! 驚異のボール捌き、ただしハンドみたいなっ」
「お前ホントは知ってるだろ!」
 まぁただのリフティングでも、ここまで驚かれればやった甲斐はある。
「ほら、パス」
「あ、えっ!?」
 山なりにボールを送ると、イサはバタバタと手を振って、
 顔面でリフティングした。
「……もう少し機敏に動けねーのかよ」
「あはははははははっ!」
「何がおかしいんだよ?」
「ヨーヘーが笑ったから! ボクも笑う!」
 口元が知らず歪む。
「そーかよ」
 自分の頭と同じくらいの大きさのボールを抱えながらイサが笑う。
 それを見ながら僕も笑う。

 ムカつくことに、僕はこの時少しだけ思ってしまった。
 こんなのも、悪くはないと。

244憐哀編side春原:三章「諦観の共有」    4/4:2007/12/24(月) 19:53:26

 二日目 PM 23:30

 イサの息はわずかに荒い。
 それ以上に、弱い。
 普段のイサを知っていれば、なおさら今の姿は異様に映る。
 その顔に普段のむやみやたらな快活さはほんのこれっぽっちもなく。
 そのまま夜の闇の中に溶けていくかのような、昏い表情をしていた。

 ――ボクはもう、ムリ。
 ――これ以上は、何も持っていけない。
 ――アイツは間違いなくボクを『壊す』。
 ――だから、もう、お別れしない、と。

 けど、何より異常だったのは。

「こんなの……ヤだ。もっと、ずっと…ずっとヨーヘーといたかったのにぃ……」

 その瞳から、壊れたように涙がとめどなく溢れていることだった。

 二日目 PM 17:00

 ボールを適当な場所に返して、僕達は再びあてどもなく歩く。
 いつまでこんなことを続けるのか、とか。
 そもそも僕達は何をしてるんだ、とか。
 ――昨夜のコイツを見たら、何も聞けないんだよな……
「ヨーヘー」
「あん?」
「楽しかった?」
「何が?」
「さっきの。サッカーってやつ。球蹴り。ナイッシュー」
 相変わらず言葉はおかしかったけど。
「……まぁな」
 自然と、そんな言葉が漏れた。
「へへっ」
 手が握られる。

 もう、その温かい感触を振りほどく気にはならなかった。

 この時には何となく気がついてた。
 僕が何故コイツの勝手気ままをここまで許してるのかを。
 僕が何故コイツの手を振りほどく気にならないのかを。

 僕はコイツを守りたい。
 このバカなお子様を助けてやりたい。
 間抜けなことに、硬派で通るこの僕がそんなことを思ってしまってた。

245何かが足りない:2007/12/25(火) 16:47:11
マキシミリアン=ヴィアーズ…帝国軍の大将軍にして、数々の戦いの英雄にして、機甲部隊の
運用の天才…肩書きと名声をほしいままにし、大提督ピエットの親友であることから、その地位
も磐石。軍人としては非の打ち所無い人生を送っていた。軍人としては。

ヴィアーズ「…」

1人で自身のオフィスに篭っている時には、ポケットからロケットを取り出し、ある写真を見るの
が彼の習慣となっていた。息子、ゼヴュロン=ヴィアーズの写真である。彼の息子は皇帝の掲
げる新秩序を崇拝する父親と袂を分かち、反乱同盟軍に行ってしまったのである。妻を事故で
亡くした彼にとっては唯一の肉親であるにも関わらず、だ。

ヴィアーズ「私の方針が間違っていたのだろうか…?」

虚空に疑問を放つのもいつもの事だ。彼は典型的な仕事人間であり、家庭的では無い、とは
言い切れないが、過保護な父親でもなかった。妻が亡くなったときでさえ、軍事アカデミーを卒
業したばかりの息子には、帝国軍に仕えることで母との思い出を誇りに思うようにと言った。
それが彼の心の琴線に触れたのだろう。親子の溝は決定的なものとなった。

ゼヴュロンはしばらくの間、将校として働いていたが、機を見て、反乱軍に逃亡した。この時は
ヴィアーズも連日査問委員会へと呼び出された。彼はヴェイダーに拾われたことで、不問にさ
れたが、息子の上官と同僚は軍籍を剥奪され、その後の行方は分からなくなってしまった。彼
は今でもそのことを思うと、胸が痛む。しかし、それでも考えを改めることは無い。

ヴィアーズ「いや、そんな事はあるまい。ゼヴュロンは愚かな反動分子に誑かされただけなのだ」

先程放った自分の疑問に答えるのも自分だった。自分を否定することは皇帝の理想を否定す
ることになる。彼にできることではなかった。

ヴィアーズ「ならば…」

自分と同じ者をこれ以上出さないようにしよう。椅子から腰を上げ、背後の窓から下を見下ろす。
インペリアル・パレスには数階ごとに空中庭園が設けられている。その中でも最も高いところに
ある庭園を、彼の親友とその妻と息子達が散歩していた。その妻の数に彼は苦言を呈したくも
なるが、今のところ仲良くやっているようなので口出しはしない。ただ、自分の役割は彼らを見
守り、破滅を再び起こさせないようにすることであると再確認した。

246さんどいっち記念日:2008/01/12(土) 23:36:10
食卓に並べられた野菜の山と柔らかなフランスパンとを諏訪子は交互に見つめた。
「あれ、ケロちゃんだ」
声に振り向けば、片手にクリームチーズを持った赤目の少女。
「今日は何かやるの?」
「んーん、お母さん達の気まぐれのサンドイッチパーティーやるだけ」
言われて見れば成程、彼女の母達が台所に明け暮れていた。
鶏肉と香草の芳しい香りに、肉の焼ける音。
それだけでも食欲をそそるそれらに諏訪子も唾を飲み込む。
「おーずいぶん準備進んでるじゃん」
そう言いながら、現れたのは伊吹の鬼。
「どぉれ、ひとつ味見…うん!中々いい野菜使ってるじゃん」
手近なトマトを摘んだ彼女の体がふわりと浮きあがる。
「こら」
襟をつかまれたままデコピンを喰らう彼女。
「まあ野菜くらいいいじゃないの、まだ鶏やらは出してないんだし」
皿に盛られた鶏の香草焼きを卓へ並べながら、人間の紫がくすくす笑う。
ああ、ここは今日も平和だ。
そう思いながら、諏訪子は野菜に手を伸ばすのだった。
「…ん、おいし」


サブウェイの奴を家でつくってるときに思い付いたネタ
野菜がっつり入れるのが最近のお気に入り
…オリーブないけどな!

247雪と子と巫女:2008/01/18(金) 21:43:04
寒いと思えば。
窓の外にちらつく白片を見上げながら、早苗は火鉢に炭を入れた。
冬になる前に「必要不可欠だ」と山のように拵えられたそれらは暖房機器など
ほとんどないこの場所では重宝できるものであった。
きっと朝入れた掘り炬燵の炭も残り少ないだろう。
そうなれば、寒さに弱い神様がまた寒い寒いと布団に潜り込むだろう。
それではあまりにも情けない気がして、早苗は足早に土間を後にした。

「あら…?」
寒い廊下を進む彼女の目に雪の降る境内に立つ誰かの姿が入る。
その人物は踊るように空に手を伸ばし、白くなった息を何度も弾ませていた。
石畳を跳ねるように裸足で踏みしめながら、誰かがその場でターンを決め、
「あ、早苗ちゃんだ」
白い髪から覗く深紅の目を細めながら、彼女は笑った。
「村上、さん?」
「んもぅ、呼び捨てでいいってば」
驚き、立ったままの早苗を見つめながら、フヨウは再び舞い始める。
「あの、何を?」
「踊ってる!」
それは見れば分かる。
少し馬鹿にされた気がして、早苗は火鉢を手近な場所に置き、その場に座った。
「あのさ、空から雪が降ってくると何だか
『一緒にダンスはいかが?』って誘われてる気がしない?」
思わず首をかしげる。
フヨウは少し変わった子だとは思っていたが、感性等は早苗の理解の域を出ていた。
「でね、踊ってるとそのうち雪の結晶がね、きらきらしてすごく綺麗になってくの」
ほら、と差し出された手の上には木の葉に乗せられた雪の結晶たち。
「綺麗でしょ?」
まるでビー玉を見せに来る幼い子供のような彼女に早苗はそうですね、と
つられるように笑うのだった。

その後、すっかり少なくなった炭の追加に再び土間に戻り、
居間に向かった早苗が見たのは寒さに耐えきれず、炬燵の争奪戦を繰り広げる二柱の神と
ちゃっかり炬燵で暖をとるフヨウの姿だった。
「でもさ、やっぱり寒いじゃん」

248窓辺に二人、月見酒:2008/01/26(土) 08:10:25
「ぬ」
「お?」
片や嫌そうに、片や意外そうに、二人はそんな声を上げた。
「月見か」
「…そんな所です」
満月よりは少し欠けた、それでもまだ強い光を宿す月のある夜である。
その光に誘われたのか、はたまた偶然か。
しばらくして両者とも手に杯、それに僅かなつまみを持って縁側に並んだ。
「粋狂ですな」
「お互いにな」
話すことはほとんどなく(元より声にする必要は二人にはない)、ただ黙々と互いの酒を酌み交わし、寒々とした夜空を見上げるばかりであった。
時折思い出したように言葉を交わし、また沈黙。

別段互いを嫌っている訳ではない。これが二人にとって自然の反応だった。
少し前までは言葉すらほとんど交わさず、ましてやこうして酒を酌み交わすことすらなかった。
「変わったものだな」
「えぇ、全く」
片方の言葉にもう一方が苦笑しつつ、酒瓶を傾ける。
瓶は二人の杯を満たすと酒瓶としての役目を終えた。
「お開きですかね」
「そうなるな」
瓶を適当に横に置くと、既に傾きつつある月を見上げて、互いの杯を掲げる。
「乾杯」
「乾杯」


リクがあったナハトとゼロツー話
二人の関係は多分こんな感じ

249双翼と宿木:2008/01/27(日) 17:54:17

これは私の望むものではありません。

胸を貫く充足。全身を焼き焦がすような安寧。
髪の毛一本の先にまで行き渡る幸福感。
この瞬間に己の生が途絶えたとしても、何一つ禍根を残すことはないでしょう。
世を儚むことも、恨むこともなく、清らかなまま逝けるでしょう。

それは何という――不幸。

心が仮初の幸福に包まれるほど、虚ろなその本性が醜く際立つ。
私の中には何もないことを思い知らされずにはいられないのです。
知己を望まなければ、自分がどれだけ愚かであるか知らずにすみます。
温もりを望まなければ、自分がどれだけ孤独であるか知らずにすみます。

幸福を望まなければ、自分がどれだけ不幸であるかを知らずにすむのです。

何かで満たされるほど、私の中の虚ろが際立つ。
けれど、満たされないことに私の小さな心は耐えられないでしょう。
繰り返しです。
これから先、私はどれほどの幸福を得るでしょう。
そうしてどれほど苦しんでいくことになるのでしょう。

幸福でありたい。
けれど、幸福であることは――辛い。


「……なんて、可哀想な人」

どこかで、誰かが、そうつぶやきました。

これは私の望むものでは、ありません。

250手記、1:2008/01/27(日) 22:30:26
 彼女の話をしよう。

 彼女はいつもシングルベッドの隅で小さくなって寝ている。
 シングルベッドと言っても、いつも2人――多い時は3人で使うこともある。
 部屋の広さに対して人数が多すぎるからしょうがないんだけれど。
 彼女は同じベッドを使う子の間では、とても評判が良かった。
 とにかく彼女は寝相がいい。
 一度眠りについたらピクリとも動かなくなる。
 おまけに寝付きもいいから、自分から起きない限りはまず起きようとしない。
 何度、急な心臓発作でも起こして死んじゃったんじゃないかと焦ったことか。
 これがあのピンクのポニテ娘だとこうはいかない。
 何度ベッドから蹴り落とされたかわからない。

 それはともかく、彼女は寝相がよく、寝付きがいい。
 時折、壁にぴったり貼りついて眠る彼女の顔を覗き込む。
 もう日はとっくに昇り、みんなも少しずつ起きだしてくる頃合いだ。
 放っておいてもその時が来れば必ず目を覚ますのだけれど、今日は何となく
幸せそうに寝ている彼女にいたずらをしてみたくなった。
 仕方がない。だってこんなに可愛いんだから。
 頬をつついてみる。
 反応なし。
 頭を撫でてみる。
 反応なし。
 身じろぎの一つもしてくれたらさらに可愛いのに。
 そんな身勝手なことを考えつつ、その後も耳に息を吹きかけたり鼻をつまんだり
してみたけど、結局彼女は何一つリアクションをしなかった。
 結局、今日も諦める。

 そうして私は朝の作業に戻る。
 フライパンに卵を落とし、トースターにパンを放り込む。
 そんなことをしていれば――ほら。
 布団にくるまるその姿がもそもそと動き出す。

 彼女が目を覚ます時間は、朝食が始まる直前と決まってる。
 
「おなかすいたー、ごはんだー」

 布団が内側から爆発した。
 寝相も寝付きもよければ寝起きもいい彼女は、ベッドから起き上がるなり
朝の第一声を響かせた。
 長い髪はあちこち飛び跳ね、パジャマは下がずり落ちて白いラインが覗いてるけど、
その顔に浮かんだ笑顔だけは百点満点、完璧だ。
 私は告げる。
 朝の挨拶と共に、彼女の名を。

 ――おはよう、アスミ。

 彼女の話をしよう。
 可愛くて、強くて、私の大切な大切な『妹』の話をしよう。

251煙の向こう側:2008/01/29(火) 23:01:53
縁側から立ち昇る煙にナハトは首を傾げた。
はて、こんな時間に誰か縁側でするめでも焼いているのだろう。
そう思い、鼻を動かすも感じたのは独特の苦味を含んだ臭い。
それが煙草だと分かっても彼には誰が吸っているのか、見当もつかなかった。
そもそもこの家に煙草を吸う粋狂などいない筈だ。
そう思いながら、庭へ回り込み、縁側に腰かけている彼女と目があった。
冬眠したんじゃないのか、と問えば、珍しく目が覚めたのだと返された。
自前の物だろう肘掛けにもたれながら、煙を吐き出す彼女に肩をすくめ、隣に腰掛ける。
縁側と居間とを仕切る障子は閉めきられおり、縁側はひんやりとした空気と煙草の煙に包まれていた。
何をする訳でもなく、ぼんやりとするナハトへ彼女が一服いかが?とキセルを差し出す。
煙草は吸わない主義だと返せば、残念ねと彼女にしては珍しくあっさり引き下がった。

煙草の煙が出なくなった頃、彼女は自身のキセルに残った灰を火鉢に落とした。
今度は春まで起きるなよ。
皮肉を込めて、ナハトが笑いかけると彼女は
なら早起きしようかしらと微笑み返す。

性悪め。
お互い様でしょう?

彼女がいなくなったそこから彼もようやく腰を上げ、
縁側に僅かに残った煙を空気に溶かしていくのだった。


なんとなくゆかりんはキセル吸ってそうなイメージ

252静寂:2008/02/02(土) 20:39:00




 ――私は、あなたのためにいるのに。

 ――あなたのためだけの存在なのに。

 ――あなたの中に、私はいない。




 ……………………

253覚醒:2008/02/03(日) 22:28:22

 ある時、気がついた。
『それ』が当然であることを。

 知るとはつまり、踏み越えるということだ。
 明確に引かれた一線を、私は自覚した瞬間にまたいでいた。
 もちろん、それで世界が変わるわけじゃない。
 けれどおそらく、私は変わった。
「おそらく」というのは、今となってはそれ以前の自分を思い出すことができないから。
 それこそ、その瞬間に私は生まれ変わったようなものだ。

 気がつくと私はすべてを知り。
 同時に私のすべてを失った。
 それは神の祝福であり。
 同時に悪魔の呪いでもあった。

 想うことはない。
 感じることもない。

 ただ、知った。

 世界のすべてを。
 その真実を。
 その偽りを。
 その愛おしさを。
 その虚しさを。

 ――そして、『彼』もそうであったことを。

 ……………………

254エンドアの戦い・IF 1/4:2008/02/08(金) 13:47:25
森林惑星エンドア…アウター・リムの外れに浮かぶ、文明の香りは遠いが美しい惑星である。この
惑星の軌道上に最近、人工の天体が浮かぶようになった。銀河帝国軍の"極秘超兵器"が建造さ
れつつあったのである。

そしてこの惑星の地表にはそれを守るシールド発生装置が建設され、守備隊も配置された。反乱
同盟軍の破滅は近く、帝国の一層の隆盛を誰も疑うことは無かった。しかし、破滅に向かっていた
のは彼らの方だった。

――エンドア星系・エリア48

普段は往来もまばらなこのエリアに、大規模な帝国艦隊が集結していた。フリゲートやクルーザー、
そしてスターデストロイヤーも。しかし、それらの決して小さくは無い艦船が救命ボートか駆逐艦の
ように見えてしまうほど巨大な戦艦が中心にいた。エグゼキューター級スタードレッドノートである。

エグゼキューターは銀河帝国の威信をかけて建造した帝国艦隊の総旗艦である。全長は17km.を
超え、数千の航空機と数個師団を内包し、一つの惑星を破壊できるだけの力を秘めていた。まさに
皇帝パルパティーンの理想の果てを体現したと言える代物であった。

今、この戦艦の艦橋に2人の男が立っていた。この艦隊の司令長官ピエット提督と、艦長のゲラント
大佐である。彼らは皇帝によって、"極秘超兵器"の護衛任務を与えられていたのである。その内、
黒い制服を着た将校がやって来た。彼の踵を鳴らした音で、初めて彼らは気付き、振り返る。

「提督、全艦船戦闘配置に就きました。サラストの敵艦隊はハイパースペースに突入し、こちらに向
 かっているとのことです」

偵察部隊の指揮官のメリジク中佐である。彼はしばしば、民間船の船長に化けて諜報活動を行うこ
とを得意としており、優秀なスパイとして知られている。

「よろしい、ここで待機するとしよう」
「迎撃なさらないのですか?」

提督の意外な言葉に、艦長がすぐさま疑問を口にする。報告をしたメリジクや、彼らのそばに居た司
令要員達も艦長と似たような反応を示す。言った本人の提督も、少々、落ち着かないそぶりを見せな
がら続けた。

「皇帝陛下の勅命だ。何か特別な計画がおありらしい。我々は敵の退路を塞ぎさえすれば良いのだ」

そう言って彼は再び窓の外を眺めた。勅命とあれば、彼らに議論の余地は無い。ただ、戸惑いながら
も従うしかなかった。

――第2デス・スター・火器管制室

この"極秘超兵器"の北半球に設置されたこの区画は、この計画の中で最も重要なものであり、存在
意義そのものである。帝国艦隊の半分を動員してやっとという仕事を、一発で片付けてしまうからだ。

この区画は体感的には決して寒くは無い。デス・スター内は完全に温度が調節されており、快適な環
境で将兵から作業員に至るまで自分の仕事を行える。ただ、あらゆるものが金属を始めとする無機物
で構成されている為か、視覚的には寒々としたものだった。そして人の心も。

255エンドアの戦い・IF 2/4:2008/02/08(金) 13:49:07
ここに一人の男が居た。他の将校と見かけは変わらないが、腕の腕章で総督職にあることが分かる。
彼がこの"極秘超兵器"の建造と攻撃指揮を任されているジャジャーロッド総督である。彼は今、巨大
なスクリーンに映された、反乱同盟軍艦隊の映像や、スーパーレーザーの様々なデータを見ていた。

突如、画面が切り替わった。黒いローブを纏い、厳しい表情をした男――皇帝パルパティーンである。
直ちに彼や将校達が跪く。そして、次の言葉を待った。

「司令官、適宜砲撃せよ」

ついに、この兵器が運用される時が来たのである。と言っても、彼が予定していたのは、もっと後だっ
たが。皇帝の思いつきは彼の予定を大幅に短縮したのである。

「仰せのままに、陛下」

その返事を聞いたのか、画面は元に戻った。直ちに彼らは戦闘配置に就き、攻撃準備に取り掛かった。
そして、ついに最初の発射命令が下される。

「発射!」

腕をまっすぐ伸ばし、革のグローブを嵌めた人差し指で命令を下す。すぐさま周辺の8基のタワーから
レーザーが放たれ、中央のレンズに収束し、一筋の巨大な緑色の光の矢となって、不運な敵艦を貫き、
破壊する。この時、彼らの心の中には不思議な高揚が生まれていた。

――惑星エンドア・シールドバンカー

「くそっ…」

そう呟いたのは、この基地の司令官のアイガー将軍である。彼はホスの戦いにも従軍した、天性の指
揮官であったが、原住民達をうまく味方につけた反乱同盟軍の奇襲攻撃により、部下の将兵と共に、
捕虜として木にくくりつけられていた。

先程まで彼らの居た基地から、反乱軍の指揮官らしい男――もっとも、ならず者のような風貌だが。が
逃げろ!と叫びながら飛び出してくる。何が起こるかは容易に予想ができた。その直後、目の前のバン
カーが大爆発を起こし、アンテナは焼け崩れた。最早、自分の軍人としての人生が終わった事を象徴
しているかのように。

――エンドア星系・エリア48

デス・スターの砲撃に驚いた反乱同盟軍艦隊は退却をしようとした。しかし、その先にはピエット提督
率いる大艦隊が待ち構えていた。まさに前門の虎、後門の狼…または、袋のネズミである。

しかし、デス・スターと戦うよりは賢明だっただろう。艦隊の中に突っ込むと、彼らは砲撃してこなくなっ
た。人命軽視の帝国軍でも、流石に戦艦を沈める真似はしなかった。その為、至近距離での撃ち合い
となり、ここに銀河内乱初の艦隊決戦という事になった。

「提督、シールドに負荷がかかり始めました。敵の集中砲火です」
「我々と刺し違えようと言うわけか…よろしい、反乱軍のクズ共とはいえ、見上げた根性だ。それに敬
 意を表し、全力で戦うとしよう。シールド、並びに攻撃出力強化!」

提督は邪悪な笑みを浮かべると、そう命令を下した。そして、白い巨艦は持てる火力と防御力をフル
に発揮し、次々に敵の艦船と航空機を飲み込んでいったのである。

256エンドアの戦い・IF 3/4:2008/02/08(金) 13:52:27
「前方!敵機急降下!」

次の瞬間、強い衝撃が彼らを襲った。弾幕を潜り抜け、満身創痍になった攻撃機が特攻を仕掛けて
きたのである。シールド発生装置や艦橋には影響は無かったが、通信アレイと発電設備が大爆発を
起こしたのである。これにより、指揮と攻撃が全くできなくなってしまったのだ。

「提督!通信アレイ並びに発電室大破!攻撃及び指揮不可能!」
「ダメコンチームを全員差し向けろ!指揮能力だけでも回復させるのだ!」

統制の取れない軍隊ほど弱いものは無い。事実、この戦いの戦没艦の多くは指揮系統が麻痺して
いた時間に撃破されている。しかし、彼の判断は正しかった。攻撃を優先させていたら、それこそ全
滅ものだっただろう。彼らの目の前で、デス・スターは吹き飛んだ。

――第2デス・スター

いまや、デス・スターの全てが崩壊していた。あらゆる計器が危険であることを告げ、壁や天井は崩
れ落ち、あちらこちらで大小の爆発が起きていた。皇帝の計画は自身と共に滅び去り、帝国の崩壊
を示していた。しかし、今はそれを考える余裕は誰にも無い。生き延びることで精一杯だった。

「ああ、もうおしまいだ…どこへ逃げようと言うんだ…」

総督の、いや総督だった彼はとうとう座り込んでしまった。どこのハンガーも、逃げ出してしまったか、
崩壊してしまったものばかりで、彼の逃げる手段は無かった。もっとも、あったとしても、彼は航空機
の操縦の心得は無い。さらに育ちの良い彼は、見苦しく逃げ回るのにも嫌気が刺していた。

「総督!お早くお乗り下さい!これが最後です!」

どこかで聞いたような声だ。見れば、赤いアーマーのクローン・コマンダー…名前はバレイポットとか
言ったか。ヴェイダー直属部隊の指揮官で、デス・スター防衛責任者の一人でもあった。彼らは、来
るかも分からない、彼の為に待っていたのである。背後には廊下から爆発と猛火が迫っている。慌
てて、彼はそのシャトルに転がり込んだ。ハッチを閉める前に、シャトルは上昇し、少し火が入って、
コマンダーのスカートの裾を焦がした。しかし、間一髪で彼らは逃げだすことに成功したのである。

――惑星エンドア・シールドバンカー

この惑星の地上からも、デス・スターの崩壊を望むことができた。原住民と反乱同盟軍が歓声を挙
げる中、帝国軍将兵達は通夜のように静まり返り、時折落胆の声が聞こえたり、親族か友人が居た
のか、すすり泣く者も居た。

「ああ…」

将軍も例に漏れず、頭を垂れていた。しかし、処刑されずに済むかもしれないという、安堵の気持ち
もあった。あの爆発から、2人の暗黒卿が逃れられたとは思えないからだ。

ふと、背後に気配を感じた。スカウトの一人が自分の縄を切っていたのである。思わず、声を出しそ
うになるが、スカウトが人差し指を口元にあてて制止した。小さなナイフだったので数分かかったが、
縄は解けた。そして、シャトルが確保してあるので逃げるようにと言われた。

「…君の名前を聞いておこう」
「レイズです、レイズ軍曹です」
「軍曹、感謝する」

そう言って将軍は、勝利に酔う反徒達の隙を衝いて数人の将兵と共に森に消えた。

257エンドアの戦い・IF 4/4:2008/02/08(金) 13:53:04
――エンドア星系・エリア48

「通信回復しました!」

ダメコンチームは当初の目的を達成したことを伝えた。しかし、時すでに遅く、守るべきものは失われ
ていた。全員が呆然とする中、通信が入った。皇帝かヴェイダーが現れて、死刑宣告をするのかと、
全員が恐怖した。しかし、現れたのは初老の将校だった。

「提督、インペリアル・スターデストロイヤー・キメラのペレオン副長です」

ホロに浮かんだ彼はそう告げた。何回か、艦長達との作戦会議の時に会ったのを覚えている。しかし、
なぜ彼なのか。その疑問はすぐに溶けることになる。

「副長、君が何用だ」
「艦長が名誉の戦死を遂げられたので、ただいまは私が指揮をしております」
「そうか、では今から君が艦長だ」
「ありがとうございます、提督。本題ですが、これからどうなさるのか御指示を」

心の中で少し悼んでから、副長の昇格を告げた。そして、新しい艦長が礼を言った後に、指示を仰い
だ。今や、自分が全てを決めねばならない。そうは思ったが、なかなか整理がつかないものである。2
人の暗黒卿に怯えながら仕えていたが、改めて偉大さを感じていたのである。その為少々、弱気な発
言をしてしまった。

「その事だが…どうしたものだろう」

言ってから、しまったと思ったが、目の前の艦長は動じる様子も無く、強い口調で自分の意見を示した。

「デス・スターは失われました、ここは退却すべきです!これ以上犠牲を出すことはありません!」

正論である。皇帝には恐怖こそ抱いていたが、殉ずるというまでの忠誠心は持ち合わせていなかった。
それに、戦争もさらに続くことになるだろう。ならば、戦力をどれだけ残せるかが彼の仕事だった。

背筋を伸ばすと、全てのチャンネルを開き、命令を下した。

「その通りだ。…私はピエット提督だ、艦隊の全艦並びにパイロット諸君に告ぐ。作戦は中止だ、直ちに
 カリダン星系へと撤退する!繰り返す、作戦中止、カリダン星系へ撤退せよ!」

展開していた航空機や、デス・スターとエンドアの生き残りを拾うのに多少時間はかかったが、敵の主力
は戦線から離れており、これ以上の犠牲を出すことは無く、撤退を行うことに成功した。

最悪の戦場を生き延びた彼らは、さらに大きく、泥沼化した戦いに身を投じることとなる…

258双翼と宿木、2:2008/02/11(月) 22:59:46

『そこ』は安息の地であり、また地獄でもありました。

 そのまなざしが私に絡まるだけで心が躍り。
 その手が軽く触れ合うだけで全身が焼けるような温かさに包まれ。
 その声で名を呼ばれるだけで、すべてを捧げても良いと思えるのです。

 けれど、想えば想うほど。
 慕えば慕うほど。
 彼のしたその仕打ちを、私は思い出さずにはいられないのです。
 彼を非道と罵れば、私の心は少しは軽くなるでしょう。
 けれどその代償に、そのまなざしは二度と私を見てはくれなくなるでしょう。

 いえ、彼だけではありません。
 もう誰も、私を見てくれる人はいないのです。
 彼はこの世で最も憎むべき存在であると同時に、
 この世で唯一私を認めてくれている存在なのですカラ。

 そこにいるだけで、私は例えようのない幸福に包まれます。
 同時に、その幸福の大きさに不安を感じずにはいられなくなるのです。
 私が望めば、あなたはいつまでも私を側においてくれますか?
 それとも、意義に反するからと冷たくあしらいますか?
 彼ならどちらもありえそうで、私は問うことが出来ません。

 彼は私のすべてです。
 憎しみも、好意も、私はすべてを彼に捧げました。
 だってそうでしょう?
 もはや『どこにもいない』私は、彼の幻想の中でのみ形を留めていられるのですから。

 安らぎと、絶望と、ほんの少しの虚無を与えてくれる場所。
 ――あなたの、隣。

 そこは安息の地であり、また地獄でもありました。


 ………………………

259手記、2:2008/02/24(日) 22:41:59
 食卓とは、一言で言えば世界の縮図のようなものだ。
 ある者は平和に朝のひと時を語らい。
 またある者は、一握りのパンを求めて醜く争う。
「……大人しくその焼き魚をそちらに寄越しなさい。
 今日は目覚めがいいから、スペルカードの餌食にするのだけは勘弁してあげるわ」
「あらあら、巫女ともあろう御方が脅迫? 世も末ねー」
 朝食は和食と洋食の二種類を毎朝用意する。
 人によっては朝からパンなんて食べたくないという我儘さんもいるからだ。
 私の担当は主に洋。一方の和食は杏の担当だ。
 けど、どちらか一方だけ、なんて明確な仕切りを持っている人は、実はほとんどいない。
「ソーセージー、ソーセージを食べるよー」
「イサ! 今すぐその皿のソーセージを3つだけ残して退避させなさい!」
「らじゃー!」
 ご飯を食べながらコーヒーを飲む子もいれば、パンに梅干しを塗って食べる子もいる。
 その辺は人によって様々だと思うし、片方に寄られて残ってしまうなんて心配もしなくて済む。
 けど、それはつまり、それだけお互いに食べるものが交錯するって意味でもあるんだけど。
「パンー、パンー」
「残り一枚…そこはもうダメよ! 諦めなさい!」
「そんなっ。ボク、まだ今日は一枚も食べられてないのに!」
「悲しいけど……これは戦争なのよ」
「いや、朝御飯でしょ」
 さっきからやかましく騒ぎながら食べてるのは、まぁいつも通りアーチェとイサのバカコンビだ。
 どちらかというと洋の傾向が強い二人は、いつも彼女と食べ物を争っている。
 そう、アスミも相対的に洋食傾向が強い。
 小さな両手でしっかりとパンを掴み、はくはくと口の中に詰め込んでいく。
 その口からポロポロとパンくずが零れ落ちるのも、まぁいつも通り。
「アスミ、いい加減零さないで食べるのを覚えてほしいかなぁ」
「……リディアも食べるー?」
 全然聞いてないのはわかってたことなので、特に気落ちもせず受け取ったソーセージを口に入れる。
「私から食事を奪って、まさか無事で済むとは思ってないでしょうね…」
「あんたのその言葉はもう聞き飽きたわ」
「飽きるほど聞いてるってことは、これから私がすることも想像がつくわよね?」
「あ、その海苔いただき」
「――『夢想封印』」
 食卓が吹っ飛んだ。
「今がチャンスよイサ! この混乱に乗じてさっさと食べ…ってあぁ!」
「この食べ物達はイサちゃんが獲得しました故、これにてさらばー!」
「裏切ったなーーーーーーー!!!」
 怒号。雷撃。符の嵐。
 まぁ、いつも通りだ。

 ――それからしばらくして。
「さて、じゃあ朝ごはんを作りますね」
「よろしく」
 第一陣が去った荒涼たる食卓に、再び人が集まる。
 そうして、私も含めた第二陣の、穏やかな朝御飯が始まる。
「ごはんだー」
 食卓に座りっぱなしのアスミも、うん、まったくのいつも通り。

2601日遅れのHappyBirthday:2008/03/02(日) 14:18:51
ポケットの中にある小さな紙袋をいじりながら、コピーエックスは息をついた。
(…どうしよう)
彼が居るのは、とある住人の部屋の前。
何度も扉をノックしようとしては手を引っ込めるを繰り返す彼は
傍目から見れば、怪しいの一言であった。
「…よし、フヨ」
意を決して、出したつもりの声は本当に蚊の鳴く様な声で
彼はまた小さく息をついた。
(何をしてるんだ、僕は)
左手を固く握りながら、コピーエックスは自分に問掛ける。
(簡単じゃないか、今まで通りに話して、昨日渡しそびれたこれを渡すだけだ)
これまでと同じ、これからも変わらない日常の一コマ。
それだけの、はずだった。
(なのになんでこんなに躊躇してるんだ…)
くしゃり、とポケットの紙袋が鳴る。
プレゼントを気に入らない―はない筈だ。
そう思って無難に、けれど彼女が好きそうな物を選んでおいた。


―ああ、そっか。
すっと背筋を伸ばし、ノブに手をかける。
―僕は、彼女が好きなんだ。

「フヨウ、HappyBirthday」

261空白:2008/03/02(日) 21:29:47

 だからこそ、存在出来ていると言えるのだろうが。
『それ』は普段はそこにはいない。
 どこにもいない。
 だからこそ。そう、だからこそ、私はここにいる。

 交わらないことを前提に、私は存在している。

 もともと、その必要性すらなかった。
 すべては未練だ。
 執着ともいえる。
 あるいは、愛情、と言葉を変えても誤りではないかもしれない。
 ともあれ、それ故に邂逅が可能ではあった。
 もっとも、それは私ではないのだけれど。

 執着は終わらない。
 手放しても、終わらない。
 故に、いつか終わる。
 すべては終着する。

 その時、私はどこに立っているんだろうか。


 ………………………

262君のとなり:2008/03/03(月) 23:32:41
普段はそう何気無くしている動作も意識した途端、全く出来なくなってしまう。
(手、近いな…)
ちらちらと隣を歩く男の横顔を窺いながら、もぞもぞと手を引っ込める。
普段なら知らず知らずに手を繋いでいたりするが、
意識してしまう手前、どうにも体が緊張してしまう。
(すごく、ドキドキしてる)
坂道を歩いている事もあるが、今はいつも以上に胸が高鳴っている。
そのせいか、歩き慣れたいつもの道ですら、まるで初めて歩く様な新鮮さがあった。
となりに彼が居るだけでここまで違うとは。
(ほんとに…ほんとに重症だ)
愛はまさに盲目。
そんな言葉が頭をよぎる。
けれども次の瞬間にはもう決心はついていた。
「ねぇ」
私の思い、あなたに届け

「手、繋いでもいい?」
こんな春の一時―

263手記、3:2008/03/09(日) 22:57:56
朝食が終わると、たちまち部屋は静かになる。
15人の大所帯でこの静けさはありえない、と思うかもしれない。
けど、大所帯だからこそ、静かになることもあるんだ。

今でこそ部屋数もそれなりにあるけど、昔は六畳間に15人+1人という
どう考えても物理的に入りきらない密度の中で生活してた。
食事時以外でメンバーが全員揃うことなんてまずない。
でないと、あっと言う間に酸欠の犠牲者が出てたと思う。

だからみんなどこかに「自分だけの場所」を持ってる。
中にはご飯と寝る時以外ここには戻ってこない、なんて人もいるくらいだ。
かく言う私にもそういう場所はある。
どこかって? もちろん、それはヒミツ。

そういう意味ではアスミも例外じゃない。
ご飯を食べ終えると、アスミはどこかに姿を消す。
「行ってきます」という言語概念はまだ身についてないので、
ふと思い立った瞬間に彼女はどこかへ飛び出していってしまう。
場所は決まってないみたいだ。一度ついていった事があるけど、
その時は少し離れた小さな神社に着いた。
どうもここはいつかの鬼ごっこの時に見つけた場所のようで、
よくふらふらとやってきては、勝手に中に入って遊んでるみたい。

基本的にアスミは一人で遊んでることが多い。
もともとあまり他人には寄ってこない子、と書くと意外だろうか。
アスミの中にはどうも何かの基準があるみたいで、
それを満たしている人以外には、初対面かつ無条件で懐くことはない。
私が知ってる中では、エトナと『彼』だけだ。
もっとも、後者はあまりアテにはならないけれど。

264戦場に舞う音:2008/03/15(土) 12:08:41
岩の上から見張りをしていたアサヒが慌てて降りてくる様子に一行の間に緊張が走った。
「凄い数のゴーレムとメカニロイドの軍勢がこっちに向かってきてる!」
その声を聞くまでもなく、互いが顔を見合わせ頷く。
「やはり本気で潰しに来たようだな」
普段は軽装のナハトがいつもは身に付けない鎧の留め金を鳴らしながら、
巻き上がる砂塵を睨む。
「死んだことになってるからね、今更姿を現されちゃ奴も困るんだよ」
ライトセイバーを腰に吊しながら、紫が立ち上がる。
その顔は不快そのものだと言わんばかりに歪んでいる。
「それだけこっちの存在が邪魔なんだよ、バイルは」
砂塵を見つめていた紅も脇に抱えていた漆黒の兜を被り、
地面に突き立てていた得物を手にする。
「敵は多い。
だがいいか!奴らは所詮機械!我等は歴戦の猛者だ!」
振り返り、なだらかな丘の下を埋め尽す黒い軍勢に声を張り上げる。
彼女の声に歓声が沸き起こる。
「敵には闇の恐怖と死を!
我等には勝利の栄光を!」
ジャキン!と槍と盾を構えた一団が丘の上で命令を待つ。
「全軍…」
太陽の光に透かされた紅い刃を振り下ろされる。
「進めーっ!」

265戦場に舞う音:2008/03/15(土) 12:23:32
号令に地響きを轟かせながら、一団が坂を一気に駆け降りる。
下で待ち構えていたメカニロイド達が迎え撃つように武器を構える。
その瞬間、空からいつもの流星が彼等のもとへ降り注ぐ。
「流石に、連続メテオは応えるね…」
その場に膝を突きながら、荒く息をつく紫がにたりと笑う。
轟音と爆風の中をくぐり抜けた戦士達が敵と斬り合う。
繰り広げられる弾幕をかいくぐりながら、紅は寄る敵をすれちがい様に切り捨てていた。
「紅!」
銀の鎧にオイルをまとわりつかせたゼロツーが
彼女の背後に近付いてきていた敵を槍で突き刺す。
「ヤツが来ている」
そう言われて指差された方向を見れば、敵の遥か後方で
手下を従えたその姿。
「バイルーッ!」
声に振り返れば、空を飛ぶ妹の姿。
「紫!」
制止する声を届かず、彼女は敵を避けながら走り出した。
紅い光刃を手に近付く紫の姿にバイルの近くで待機していた
レプリロイド達が直ぐ様反応する。
「ちぃっ!」
冷たく鋭い氷を避けながら、術を展開する。
少しだけ背後を振り返ると両手を空に掲げ、正反対の魔法をぶつけ合う。
カッ!と辺りが閃光に包まれ、視界を一瞬白く染め上げる。
その光に他のレプリロイド達も一瞬注意をそらした。
それが光を背に受けながら現れた黒い鎧への反応を遅らせた。

266戦場に舞う音:2008/03/15(土) 12:36:14
一歩。
レプリロイド達が慌てて黒い鎧の紅に迫る。
それを一緒に現れた仲間が迎え撃つ。
一歩。
踏み込んだ力で地面を蹴り、得物を振りかぶる。
「覚悟―!」
紅い軌跡を残しながら、刃は相手へと―届かなかった。
「……!」
衝撃に地面へと吹き飛ばされ、何度も転がりながら、目を見開く。
「オメガ…」
巨大な兵器の肩に悠然と立ちながら、男が笑っている。
「紅!」
倒れた彼女の周りに仲間が集まり、同じ様に男を見上げる。
割れた兜を脱ぎ捨て、血を拭いながら、紅は再び構える。
強大ではあるが、決して勝てないこともない力。
仲間を見回す彼女に誰もが頷き返す。
―愚かな、やれ!オメガ!
男の声に力が雄叫びを上げる。
魂まで揺さぶられるような錯覚を覚えながらも一歩も引くことはない。

もう一つの戦いが、終りの時を迎える―


たまにはこんなんもいいよね?

267彼女の見た、茜の空:2008/03/20(木) 21:28:43
西へと傾く夕日を受けながら、フヨウは石段の上に腰掛け、空を見つめていた。
空を横切る家路につく鳥の群れや取材が終わったであろう鴉天狗を目で追い掛けていると、
不意に目隠しをされる。
「誰だ?」
目隠しをした人物の声に笑いながら答える。
「早苗ちゃん!」
すっと手が外され、彼女の横に蒼い巫子服の少女が降り立つ。
「おつとめ?」
「うん、さっき里から帰ってきたとこ」
同じ様に石段に腰掛けながら、空を見上げる。
「何を見てたの?」
早苗の言葉にフヨウは大袈裟に腕を組み、唸った。
年はほとんど変わらないのだが、一方は年の割には幼く、もう一方は大人びているせいか、
二人並ぶ様はさながら年の離れた姉妹の様であった。
「うーんと、空かな?綺麗な夕焼け空だったからさ」
そう言いながら組んでいた腕をほどき、立ち上がったかと思うと空に向かって手を伸ばした。
「目の前にあるけど絶対触れない、綺麗な空を見ると何だか嬉しいんだ」
首を傾げる早苗にフヨウはくすくすと笑いながら、地面を蹴る。
「だってさ、同じなんだよ」
一瞬、風の流れが変わる。
「お父さんからもらった、僕の羽根と」
夕焼けと同じ色をした妖精の様な羽根を持った少女は嬉しそうに空へと上った。

268憐哀編side春原:四章「平穏の裏表」     1/5:2008/03/20(木) 22:42:30

 一日目 PM 16:30

 ――文明人の僕が、もっと遊べる場所を教えてやるよ。
 そう言ってから、歩いて、歩いて。
 僕達はようやく目的地に辿り着いた。
「この辺は遊べる場所が少ないんだよな」
 もともと存在価値が「大学に近い」しかない駅の前だ。
 近くにあるのは何でも取り揃えているだけが取り柄のスーパーを除けば、
個人経営のしがない小型店舗しかない。
 都会人の僕には耐えられない田舎っぷりだ。
 いや、僕の実家の田舎っぷりはこんなもんじゃないけど。
「ここ何? 中、暗くてすごい音がしてるんだけど」
「入ればわかるさ」
「……はっ! まさかイサちゃんは大人の階段上るシンデレラですか!?」
「どっから覚えてくんだよ、んな言葉」
「ダメです! だってイサちゃんはまだ1434歳なのですから!」
「いやむしろ大丈夫だろそれ」
 ネジの飛んだイサの手を掴む。
 ひどく汗ばんでいた。やたら緊張しているらしい。
「ほら、行くぞ」
「え、あ、でも……恥ずかしい、よ…………」
 半眼でイサの顔を見る。
 何をどう勘違いしてるか、耳まで真っ赤な動揺ぶりを見れば一目瞭然だ。
 ――なんつーマセたガキだ。
 わざわざ口頭で誤解を解くのはひどく面倒だったし、
そうまでしてやるほど僕はお人好しじゃない。
 イサの態度は完全に無視して、中へと強引に連れ込む。

 イサは、ほとんど抵抗しなかった。

269憐哀編side春原:四章「平穏の裏表」     2/5:2008/03/20(木) 22:45:11
 薄暗い中にぼんやりと灯る光。
 心の高揚と引き換えに正常な鼓膜を失いそうな大音量。
 つまりはゲームセンターだった。
「…………あの、ヨーヘー。ここ本気で何?」
 赤かった頬は、一転して暗闇の中で真っ青になっている。
 イサの声にはいつもの無意味な快活さがない。
 ってか、さっきから僕の服の端をつまんで離そうとしない。
「お前本気でゲーセンも知らないのかよ」
「何? ねぇ、何ここ? 怖い? 怖いの?」
 本気で怯えてるらしかった。
 完全に初めての奴にしてみれば、怖いと思うのは自然なのかもしれない。
 正体不明の場所に、正体不明の大音量。
 人の気配はある。けど、その姿は暗闇に紛れて判然としない。
 何をしてるってゲームしてるに決まってるんだが、それもこの場所を
知らない奴からすれば、異常に真剣な顔つきで不気味に発光するモニターの前で
黙々と手を動かしているようにしか映らない。
 イサの目にはアヤしい宗教を信仰する信者にでも見えてるのかもしれない。
「――まぁな」
 ここまで怯えられると、その期待に応えてやりたくなるのが人情ってもんだ。
「ここは選ばれた者だけが足を踏み入れることを許されてる」
「ボクはっ!? ボクは許されてるの!?」
「許可を得るためにはある条件をクリアーしなきゃいけないんだ」
「よし! ヨーヘーに出来たならボクにも出来るかなっ!」
「どういう意味だてめぇ!」
 安堵した上に僕をけなすという見事なコンボが決まった。
 これが僕じゃなければKOだっただろう。
 ここからどうやってねじ伏せてやろうかと頭を巡らす。
 とある友人いわく、僕は悪知恵を働かせたら一流らしいしな。

270憐哀編side春原:四章「平穏の裏表」     3/5:2008/03/20(木) 22:46:24
「それは……」
「それは?」
「……男であること」
「いきなりダメでした!」
 頭を抱えるイサ。
「けどこれには抜け道がある」
「つまりあれですかっ。『勇者、ズル技を覚える』」
「それバグですよねぇ!?」
 大体何でそんな知識を持ってるんだこいつは。
「抜け道ってのはなぁ……」
 言って、イサの頭からつま先までを軽く一瞥。
 何かに気づいたように胸の前で手を組むイサ。
「外見が男っぽければいいんだ」
「外見が……」
 今度はイサ自身が自分の体をしげしげと。
「……残念っ、イサちゃんにはここに入る資格はないようです!」
「嘘つけよっ!? バリバリOKだっつの!」
「イサちゃんはどこからどう見ても女の子です!」
「後ろ姿は99%の確率で男に間違われるっての!」
「慰謝料払えヨーヘー!!!」
「マジギレしたって一円だって払わねーよ!!」
 ってかコイツ地味に力強いんですが。
 ボカボカ殴られてる腹がムチャクチャ痛い。
 しかも周りからウザさ満点って目で睨まれてるし。
 やかましい兄妹ゲンカするなら余所でやれ、とでも思われてんだろう。
 普段なら「何見てやがんだコラ」で済ませるとこだけど、
こんなガキを横に従えてちゃ迫力ってものが出ない。
 結局、ひとしきり騒いだ挙句に自然鎮火した。

271憐哀編side春原:四章「平穏の裏表」     4/5:2008/03/20(木) 22:47:28
「ま、ガキ相手ならこれでいいだろ」
 初心者でもそれなりに楽しめるものを、ってことで。
 レーシングゲーの筐体にイサを座らせて、コインを入れる。
 イサには適当にキャラを選ばせて、スタート。
「おー、走る」
 最初はアクセルとカーブの使い方に慣れてなく、
しょっちゅう端にぶつかって僕を楽しませてくれた。
 ――ってのに。
「はい、ボクの勝ちー」
 そんな楽しみは最初の一回であっけなく終わりを告げた。
「んで、こんな強いんだよてめぇ!」
 僅差とかならまだ言いわけのしようもある。
 ぶっちぎりだ。
 周回遅れの僕に背後から追突するくらいの余裕をかますほどの。
「ボ……ワタシに勝とうなんて1000年早いかなっ」
 イサは勘がいいんだ。
 どのタイミングで、どれだけの強さでアクセルを踏み、
どれだけの量ハンドルを回せば最適な角度でカーブを曲がれるか。
 それを知識でなく感覚だけでこなしてやがる。
「ちっ、マグレで勝ったくらいでいい気になってんじゃねぇ」
「マグレは連続で10回も続かないかなっ」
「じゃあ超マグレだよ!」
「やっぱヨーヘーってバカだよね」
「大きなお世話ですよねぇ!?」
 と、他愛もない会話がダラダラと続いて――

272憐哀編side春原:四章「平穏の裏表」     5/5:2008/03/20(木) 22:48:15
「……ヨーヘー」
「あん? 勝ち逃げは許さないからな」
「ボク、ちょっとトイレ」
「だから勝ち逃げは許さないって言ってんだろ」
「漏らせと!? ヨーヘーったら何てマニアック」
「…………とっとと行ってこい」
 毒気を抜かれるとは、まさに今の僕のことを言うんだろう。
 まったく、こいつといるとペースを狂わされる。
 間違っても僕は子供に優しい優しいお兄さんなんかじゃない。
 むしろガキなんてウザいだけだ。
 実際、目の前のガキも本気で鬱陶しくてしょうがない。
 おかしな縁で知り合ってさえいなきゃ、鼻にもかけやしないさ。

 けど、こうして『知り合って』しまった以上は、無視することも出来ない。
 そう。ただ、それだけだ。

 10分ほどでイサは戻ってきた。
「おっせーよ」
「トイレを急かすなんて、ヨーヘーはつくづくデリカシーが足りねぇ!」
「僕のデリカシーは高いんだよ。誰彼構わず使えるほど数に余裕もないしな」
「エロ気は売るほどあるのにね」
「エロ気って何だよ!」
「えらくロクでもない汚らしい心」
「よりひどい方向にデマるな!」
「わかってんなら聞くんじゃねぇ!」
「ここで逆ギレする意味がわかんねぇよ!」
 それからは、筺体の前でひたすらダベって時間を過ごした。
 時折筐体を占領する俺らを鬱陶しそうに見る奴らがいたが、知ったこっちゃなかった。

 当然、僕は知らなかった。
 何も。

273君の笑顔と虹の空:2008/03/22(土) 17:01:35
「うそつき」
両目に涙をためながら、自分を睨む妹にレミリアはただ立ちつくすだけしかできなかった。
後ろでパチュリーが息を飲む気配がする。
「お姉様なんか…」

「大嫌い!」


枕に顔を押しつけながら、フランドールは大声で泣いていた。
周りでは溢れた力が荒れ狂いながら、ベッド以外のものを壁に叩き付けていた。
その音にも彼女が顔を上げる事はなく、部屋の中はどんどん荒れていった。
ゴンゴン。
吹き飛んだものが重い扉に当たって、音を立てる。
ゴンゴン。
「妹様」
誰かの声に枕に顔を埋めたままのフランドールの肩がぴくりと動く。
「…今誰とも会いたくないの」
扉の外にいる誰かにそう冷たく言い放つ。
それでもその誰かは彼女の声を無視して、扉を開け―

「来ないでって言ってるでしょ!?」

その声とともに入ってきた誰かに魔力を放つ。
弾のはじける音とくぐもった声。
その音にようやくフランドールは顔を上げ、床に倒れた誰かを見下ろす。
見た事のない誰かは苦しそうに―けれど悲しそうな瞳でフランドールを見上げる。
「そんな目で…見ないでよ!」
相手の頭をつかむとそのまま床に叩き付ける。何度も何度も。
それでも彼女は自分の髪をつかんだその手にそっと己の手を重ねた。
「大丈夫ですよ」
誰かは血まみれの顔で笑った。
ただやさしく、フランドールを包み込むように。
「あ…う…」
いままで向けられた事のないその顔にフランドールはたじろぎ、手を離し後ずさった。
その彼女を誰かはただ黙って抱きしめた。
「私はレミリア様の部下です」
その言葉にフランドールの顔が歪む。
「やっぱり、あいつの思い通りって訳ね」
振り解こうとする彼女にでも、と誰かは続ける。
「私はフランドール様の友達になりたい」

「…あー」
天井を見上げながら、声を上げる。
懐かしい夢を見た、気がした。
といっても昔のことなんてよくおぼえてはいない。
伸びをしながら、服を着ていると誰かの足音が聞こえてくる。
少し早歩きのそれに背中の羽をばたつかせながら、扉へ向かう。
「おはよう!アサヒ!」
「おお、今日は随分早起きじゃねぇか」
「えへへ、だって今日は魔里沙にお呼ばれしてるんだもん」
「ははは、そうだったな。じゃ、行くか」
「うん!」
手を繋ぎながら、正面玄関へ向かい、門の近くまで歩く。
「ああ、アサヒにフランドール様。お出かけですか?」
あくびをしていた美鈴が二人の姿を見つけ、背筋を正す。
「うん!魔里沙のとこにいくんだ!」
嬉しそうに笑うフランドールに美鈴は優しく笑いかけながら、その頭を撫でる。

「よかったですよ、ああして笑えるようになって」
「の割には寂しそうじゃないか」
「そんなことないですよ。私は彼女が笑っていられるだけで幸せなんです」

―そうですよね?フランドール様
空にかかった虹へと飛ぶ二人を見ながら、美鈴は今日も門の前に立っていた。


蛇足
めーりんは紅魔館みんなのお母さん
異論?そんなもん知らんニャ

274無為:2008/03/24(月) 22:32:10





 必要ないなんて、言わないで。





 ……………………

275桜月夜:2008/03/29(土) 23:00:06

「月を眺める風情は、私には理解出来ない」

 振り返る。
「月光浴。言葉はこんなにも美しく響くというのに。
 あの光を眺めていると、冥い生の闇に震えずにはいられない」
「それは千年生きても変わらない?」
「千年程度、私の永遠の前には塵芥に等しい」
 かすかに灯る、紅い炎。
 富士から立ち上る、不尽の煙を生む力。
「あの絶え間無く続く闇夜の凌辱に、人は何を思うものなのかしら」
「あなたも人でしょう?」
「そう。私も人。不死の冥路を永劫彷徨う、呪われた蓬莱人。
 お前は?」
「私も人よ。見ての通り」
 蓬莱人はわずかに目を細めて嗤う。
「あら。私の目には『人』なんて映っていないけれど」
「不死で瞎(めくら)とは救いようのない」
「心無き器を人とは言わない」
 まなじりを、わずかに細める。
 蓬莱人は薄い笑みを張り付けたまま、一歩後ろに下がる。
「おお怖い。人の形にも、怒りが存在するのかしら」
「私にそんなものは存在しない」
「それは面白い。心無き人形に怒りはなくとも、月を眺める風情はあると?」
「ないわ。私には何もない」
 告げている。
 この生き物は危険だと。
 不死など実に些細なこと。

 その本質は、生き続けるという地獄の果てに得たパーソナリティにある。

「消えなさい。邪魔だわ」
「つれない事。せっかく夜桜の中で一杯と思ったのに」
 カチンと鳴る小さな音。
 見ると、その手には一升瓶と二杯のグラス。
 気がつかなかったが、最初から持っていたようだ。
「月明かりが疎ましいんでしょう?」
「その罪を妖しく咲き乱れる桜に求めるほど無粋ではない」
「私に月を眺める風情はないと言ったでしょう?」
「なら、お前はここで何をしていたの?」
 言葉に詰まる。
「いいから付き合いなさい、人の形」
「私は代理人よ」
「何も変わるまい。己を持たぬという意味では」
 反射的に額に一閃。
『目にも止まらせない』その一撃は、狙い違わず蓬莱人の眉間を貫く。
「痛ッ! いーたーいー! 何するの!」
「私は代理人よ」
「死ななくても痛いものは痛いんだからー!」
「あ、そこにまんじゅうが」
「ひっ!」
 さっきまでの危険はもう微塵も感じられない。
 文字通り飛び上がるその手からグラスを一つかっさらう。
「そっちも寄越しなさい」
 蓬莱人は目に涙を浮かべたまま、大人しく一升瓶を差し出した。
「……お前は私に似ている」
「錯覚だわ」
「だからわかる。お前に『生』はない」

 瞬間。
 世界が、燃えた。

「――終わらない無の中で燻ぶる、憐れな蒼炎」
 紅い炎をその背に宿し、蓬莱人は空を見上げる。
 視線の先に映える月光に、不死の煙は届いているだろうか。
「盛ろう人の形。私達には『その時』を焼き尽くす炎がある」
 再びこちらに遣られた双眸には、純粋な笑みが浮かんでいる。
「永遠を抱える私と、無を抱えるお前。
 無限と零は対極に在れど、それ故に輪廻の果てで結びつく」
 それには応えを返さず、蓬莱人のグラスに注ぐ。
「お前とは仲良くやれそうよ、人の形」
「私は代理人よ」
「なら私のことは妹紅と呼ぶこと」
 差し出したグラスに注ぐ蓬莱人――もとい、藤原妹紅。
「宵闇を包む蒼い炎に」
「宵闇を裂く紅い炎に」


「乾杯」

276絶望:2008/04/01(火) 10:44:09
ここはとある国。
何もかもが配給制の国だ。
今日はその国に来ていたコア姉妹たちが、
その列に並んでパンを買おうととした時の話である。
ずらりと並んでいる人の列。
それはきれいに一直線にならび、大袈裟だが地平線の彼方まで続いているような、
そんな行列だった。行列のできる法律相談所なんて目じゃない。
ラブ「まだかしらねぇ…」
クリス「ええい!私はもう我慢できん!はやく飯をよこせーっ!」
オルト「この国に来たいって言ったの水晶姉じゃん…」
デス「留守番組がうらやましい…」
そのとき、コア姉妹が騒がしすぎたのか、コートの男がやってくる。
そのコートの男はクリスのこめかみに人さし指を当てると、
なにもせずそのまま帰っていってしまった。
クリス「あ…帰ろう…日本に…」
ラブ「こ、ここまで並んで!?」
クリス「銃を買うお金もないのに食糧なんて全員分支給できるはずないじゃないか…」
そう、クリスはそのコートの男のしたことですべてを感じ取ったのだ。
ラブ「ったく、しっかりしなさいよ、次女なんでしょ?まあ我慢するからいいけど」
説教しつつもクリスを遠回しに励ます長女ラブ。
オルト「そうだね…1日2日は我慢できるし」
笑いながら、周りを明るくするオルト。
デス「珍しいミス…これはいい土産話」
あえて怒らせることで元気づけようとするデス。
その三人に支えられ、彼女らがまだ全員機械だったころの旅は終わった。
その時の旅行の記憶は今もみんなの心の奥底に刻まれている。

277転がり墜ちるように:2008/04/09(水) 14:25:40
彼の目から見ても、父はあまりにも愚かな王であった。
無謀な侵略を繰り返し、いたずらに国を疲弊させるその姿を幼い頃から悪い見本として見つめていた。
それでも、父は別の面も持ちあわせていた。
厳しくも優しかったその時の父は彼は一番大好きであった。
成長してからもそれは変わらず、寧ろ王位継承の日が近付くにつれ、
その恩に報いるためにこの国を豊かにしようという気持ちが強くなっていた。



扉の向こうで行われていた惨劇に彼は息を飲んだ。
臣下達が何かを斬っている。 ―何を?
紅い絨毯が更に紅く紅く染まっていく。 ―何で?
ごとり、と床に何かが転がる。 ―あれは、何だ?
「…………!」
扉から後退り、その場から走り出す。
込み上げてくる吐き気を無理矢理飲み込み、がむしゃらに走る。
気付けば、母の部屋の前にいた。
せめて、病に臥せている母だけでも助けなければ。
そう思い、扉を開けた彼は現れた光景を理解出来なかった。
力なく投げ出された裸の肢体にランプの明かりが揺らめく。
部屋に充満している臭いと肌に残されたそれがここで何が合ったかを物語っていた。
「は、ははは…」
その場に膝をつきながら、彼は笑った。
もしかしたら悪い夢でも見ているのではないだろうか、それほどに目の前の光景は理解し難いものであった。


(…復讐したくはないか?)
闇の中でそれがこちらを見つめながら、そう問掛けてきた。
その声に彼はゆっくり立ち上がり、声の方へ歩み寄る。
(侵略者に)
差し出された手を生気のない瞳で見つめる。
(偽りに満ちた世界に)

―ああ、そうしよう。
―自分から全てを奪ったこの世界に。

(世界に)
「破滅と復讐を」

手を掴んだ彼の姿は闇の中へ転がり墜ちるように飲まれ、
後には何も残っていなかった。


悲劇の幕開けはもうすぐ―

278長雨:2008/04/13(日) 21:12:48
「こんな夜更けに、何処へ?」
 声は唐突に彼女の背後からした。
 気配は、しなかった。雨に打たれる音も、濡れた地面を歩く音も。
 まるでその瞬間に、その場に現れたかのような。
「春の長雨に気配も薄れる闇の中。よく私のことがわかったわね」
「それはもう。あなたの夜を否定する銀の髪は、百由旬先からでもわかる」
「畜生の分際で……いえ、畜生だからこそ、か」
 挑発のつもりだったが、狐は軽く笑んだだけ。
 その狐――とある妖怪の式であり、その姓を賜って『八雲藍』と名乗る人狐は、
9つの尾をわずかに振りながら雨の中に佇んでいた。
「言わなければならない?」
 最初の問いに、問いで返す。
「いえ、特に興味は。ただ…」
 肩を竦める。
「害成す毒花は咲かせず摘むのもまた一理、とも思うのよ」
「嫌われたものね」
 雨に濡れた銀の髪が頬に張り付く。
 遠目から見たら、その姿は幽鬼と間違われたかもしれない。
 血の色を湛える紅い瞳も、病的ささえ超えて死人のように白い肌も、およそ人らしさから外れていた。
 唯一、この世のすべてを嘲るように笑みを浮かべる、その形相を除けば。
 人ならぬ人。蓬莱人とも呼ばれる人の形――藤原妹紅。
「別に、お前にも、お前の式にも害を成す気はない」
「正直ね。もっとも、嘘吐きは正直に嘘を吐くものだけれど」
「お前に害を成して、私に何の益がある?」
「なら何故あの女の側につく」
 妹紅の表情が、わずかに変わった。
 藍の顔からはとっくに笑みが消えている。
「気付かれていないとでも思った? 接触を持ったことはとうに知れている」
「代理人とはただの呑み仲間よ」
「ただの、ね」
 立場こそ隠れてどこかへ赴く様に奇を呈した形ではあるが、
余裕が欠けているのが藍の方なのは明らかだった。
 彼女は知っている――『何も知れないこと』を。
 この蓬莱人と、あの蒼い僧服をまとった存在の、計り知れなさを。
「不穏分子が二つ合わされば、それはもう必然」
「私は代理人と酒を呑み交わすだけで敵対意思を持たれるわけ」
「痛くないと言うなら、その腹開いて晒しなさい」
「開いたら痛いでしょう」
「不死の身で何を言う」
「痛いのよ。死なないだけで」
「……とにかく。あまりおかしな行動をとらないことね。
 橙に少しでも危害を加えるような真似をすれば、決して黙ってはいない」
 妹紅はふぅ、とわざとらしく溜息をつき、かぶりを振った。
 そうしてまばたきより長く目を閉じ、

「――不愉快だ」

 紅蓮の翼が生えた。
 瞬時に妹紅の周囲の水分が蒸発する。立ち上る水蒸気に藍の髪が激しくなびいた。
「畜生ごときが、分不相応と知れ」
「その短絡さはわかりやすくて嫌いじゃない。だが……」
 激しく吊り上げた口元から犬歯が覗く。
「畜生畜生と、侮辱するのも大概にしろ人の出来損ない。
 誇り高き八雲の姓を持つ式を貶めて、五体満足に済むと思うなよ」
 スペルカードを掲げたのは、二人同時。

 ――貴人「サンジェルマンの忠告」
 ――密符「御大師様の秘鍵」

 二つの怪物が夜の空を朱で染める頃。
 それを更なる高みから見下ろす一つの影があった。
 ――影。そう、その姿は影のようだった。
 それは夜に溶け込む漆黒の翼によるもの、ではなく。
 獲物を狩るために気配を殺す、獰猛な肉食動物のそれだった。
「質対量、の争いになりますかね」
 右手には望遠用レンズのついたカメラが握られている。
「いつ起こるかはわからない。けれどいつか必ず起こる」
 髪がなびく程度の風が吹き。
 次の瞬間には、大気の流れにその身を移し気配が完全に消えた。
 あとに残されたのは、残像のように空気を震わせる一語だけ。


 ――来る日の第二次終末戦争、この射命丸文がすべてを歴史に留めましょう。

279朝御飯と新聞:2008/04/16(水) 08:28:17
「あら」
「ん?」
目の前に広げられた新聞から上がった声に彼女はトーストをかじりながら、顔を上げた。
朝の静かな食卓。
住人達の殆んどが朝食を済ませたそこに偶然顔を合わせた二人はいた。
最も縁側で寝ている酒飲み鬼が立てる大鼾で実際には静かさとは縁遠い。
閑話休題。
文々。新聞と書かれたそれの向こうで相手は相変わらず何かに目を通しながら、
教育が足りないかしら等と呟いている。
「…何か面白い記事でもありました?」
指についた油を舐めとりながら、問いかける。
「ちょっとうちの式がね」
それだけ言うと相手は新聞を畳み、その記事が見える様に彼女へと差し出す。
『大激突!雨夜の死闘』等と銘打たれているそれに目を通しながら、訊いた。
「で、藍がどっかの誰かさんと闘うのに不都合でも?」
まだわからないのかとか言わんばかりに大袈裟に呆れながら、湯呑の茶をすする。
「私が決めた通りに動かなければ力は十分に発揮出来ないのは…」
答えを待つようなそぶりの相手に彼女は肩をすくめる。
「耳にタコ。
ってつまり今回のは彼女の独断?」
「そういうことになるわね」
どこから取り出したのか、日傘を手に、空中をなぞるように横に手を動かす。
「式は道具、道具は指示通り動いて初めて真価を発揮する。
…それを自身の考え、感情で動けばいずれは命を落とす。
…あの子ほど有能な道具を失うのは惜しいわ」
言いながら、日傘を開けた隙間へと差し込み、ぐりぐりと手を動かす。
何をしているかは、大体想像がつく。
(でも、本当は心配なんだろうな)
口では道具、道具と言いながら、その口調には僅かだが不安を感じてた。
(とは言え、気のせいかもだけどね)
隙間から聞こえてくるか細い悲鳴様な声にきっと隙間の向こうでは朝から
スプラッターショー絶賛開幕中なんだろうな、とどうでもいいことを考えながら
最後のカフェオレを胃に流し込み、彼女、村上紫は食卓を後にするのだった。

おおむね、今日も平和です。

280抱擁:2008/04/19(土) 18:20:35

 あなたには、わからないでしょう。

 何故、私は自覚してしまったのでしょうか。
 意識がそちらに向くだけで、絶望的な衝動が心の深淵からせりあがってくる。
 吐き出すことが出来るというなら、胃液で喉が焼けつくまで嘔吐するのに。
 どれだけ思い患ったところで、それは量を増して深淵に沈んでくるだけ。
 重すぎて、浮かび上がる事もなく、心の底に泥土のように積もっていく。
 それは昏く、絶望と呼ぶにはあまりに虚ろで、明確な形を持たない。
 虚ろであるからこそ、形を持たないからこそ、私自身ではどうすることも出来ない。
 足掻くことすら許されず、蹂躙されていくのです。

 何故、私は自覚してしまったのでしょうか。
 ただ平穏であれば良かったのに。
 幸せになりたい、なんて贅沢は言いません。
 少し怒って、少し悲しんで、それよりほんの少しだけ多く笑えれば、
それ以上なんて決して望みはしなかったのに。

 ――いいえ、平穏さえも望みません。
 何もなければ良かった。
 苦しむことで生まれる苦しみを抱くくらいなら。
 決して報われることのない想いを背負うくらいなら。

 自覚していることを、私は自覚したくなかった――

 あなたには、わからないでしょう。
 私の心を犯しつくした、世界で最も憎むべき、愛しい人。

 ……………………

281向日葵畑の真ん中で:2008/04/20(日) 12:34:31
幻想郷の中の、向日葵の花畑。
向日葵の黄色に覆われたその真中に一人の少女が佇んでいる。
その少女はくるくると日傘を回しながら、退屈そうに欠伸を一つして呟く。

「何か面白いことは無いかしらね…」

退屈、と一言付け加える直前、遠くから足音が聞こえた。
ふと音の方向へ振り向くと、こちらに向かって走ってくる小さな人影が一つ。

「…あらあら、また来たのね。」
少女は、その突然の来訪者が誰か把握すると、微笑みながら声をかける。
そして、その小さな来訪者も笑顔で言葉を返す。
「あら、こんにちはメディ。」
「幽香〜っ、こんにちは〜!」

…今日も、また楽しくなりそうね。
そう心のながで少女…風見 幽香は呟いた。





ごめん、個人的に幽香×メディが書きたかったんだ。
異論は認めるから鈴蘭の毒は勘弁を(ピチューン

282月光:2008/04/21(月) 01:34:17
「貴方が外に出るなんて珍しいわね」
背後に降り立った相手に声をかける。
先程まで騒がしかった妖精達は慌てて姿を隠し、息を殺していた。
「こんないい夜だもの。外に出ないのは惜しいわ」
「今頃、貴方が居なくてきっと大騒ぎよ」
「大丈夫、皆眠ってもらったから」
彼女の言葉に少女は紅い眼を細め、にぃっと笑う。
その表情に彼女の顔が僅かに曇る。
「ふふ、大丈夫。誰も゙壊してない゙わ」
手にした歪な杖を彼女に向けながら、続ける。
「貴方はあいつを倒して、契約を結ばせたのよね?」
彼女もまた閉じていた卍傘を広げて、薄く笑う。
「えぇ、そうですわ。そして、それは貴女にも言えること」
ぴくりと少女の羽根が動く。
「私はあいつよりも強いわよ?」
「力だけが強さに非ず、そして貴女はまだ彼女より弱いわ」
その言葉に少女、フランドールの周囲が漏れ出した妖気で紅く染まっていく。
あらあら、と慌てる様子もない彼女、八雲紫の周りの空間が軋みを上げる。
「ならば、ここでわからせてよう、八雲の大妖!」
「その未熟さを知らしめよう、悪魔の妹!」
それぞれがスペルカードを掲げ、高らかに宣言する。
――秘弾『そして誰もいなくなるか?』
――紫奥義『弾幕結界』


月の光の元、繰り広げられる光景に彼女は溜め息をついた。
「まさか八雲紫に喧嘩を売りに行くなんて、あの子も大胆ね」
背中の羽根を落ち着きなく動かしながら、
彼女、レミリア・スカーレットは何度目かの溜め息をついた。
いつものように神社から帰ってみれば、妹は脱走、館内は酷い有り様であった。
挙げ句、幻想郷の賢者に喧嘩を売る妹の姿を目の当たりにし、彼女は
「…まあ、とりあえず帰って紅茶でも飲みましょ」
飽きたのか、いまだに弾幕ごっこの続くそこから飛び去るのであった。


翌朝、フランドールの機嫌が悪かったのはいうまでもない。

283黒兄貴からのリクエストSS その1:2008/04/21(月) 18:13:59
遠い昔、遥か彼方の銀河系で…

――エグゼキューター級スター・ドレッドノート『リーパー』

銀河内乱や帝国の継承者争い、反乱同盟軍の再来、シ=ルウクの乱、イェヴェサの乱等、平和を
脅かした数々の戦乱が遠い日の記憶となりつつあった時、この巨大戦艦に2人の新米パイロットが
着任した。

新しい人員の着任自体は珍しいことではない。欠員が出たり、他の艦や基地に欠員が出れば、人
の移動は付き物だからだ。しかし、送られてくる人員の内容によって迎える側の対応は異なる。今
回もそういったケースの一つだった。配属される中隊の全員、そして航空団司令、艦長、提督まで
が勢ぞろいして迎えたのである。普通、新米パイロットに対してこのような待遇はありえない。しか
し、人物が人物であった。

「申告致します!クリスティアン=ピエット少尉、ESD『リーパー』第1戦闘機中隊配属の辞令により、
 13:20分着任致しました!」
「申告致します!クリスティアーヌ=ピエット少尉、ESD『リーパー』第1戦闘機中隊配属の辞令によ
 り、 13:20分着任致しました!」

若い男女が航空団司令に着任の報告を行う。二人とも整った顔をしており、水晶色の髪と尖った耳
を持っていた。その身体的特徴と名前で分かるだろう、二人はピエット大提督とその夫人のシュヴェ
ルトライテ将軍との間にできた双子なのである。生まれながらにフォースの才に恵まれたシスの双
子はパイロットの道を志し、今その第一歩を踏み始めたのである。

「よろしい、両少尉。諸君の直属上官になるのがバリック中佐だ。しっかりやってくれたまえ」

将位を持つ航空団司令も緊張気味に2人にそう言った。この場で緊張を覚えていないのはペレオン
大提督くらい…いや、もう一人居た。中隊長のバリック中佐である。

284濡羽:2008/04/22(火) 23:55:34
「天狗。私のところに来てもあんたの好むスクープはないわよ」
 開口一番、彼女は宙から舞い降りた翼に牽制を加える。
「私には文という名前があるんだけど」
「知ってるわ」
 文(あや)と名乗った少女は肩を竦めて苦笑。
 ブンヤを自称するこの鴉天狗は、時折こうして誰かの前に姿を現しては
無許可かつ強硬に取材を行うことで知られている。
 またそうして収集した情報をまとめた「文々。新聞」なる報道誌は、
その遠慮容赦の少なさに反比例するように諸処で好まれている。
 だが、この巫女が文の揃える『スクープ』に興味を示すことは稀だ。
 そして関心のベクトルが合わない事象に対してとる所作は、
道端に転がる石ころを拾う動作よりも情動に欠けている。
 人間味がないとは言わない――人ならぬ身故『人間味』を定義できないというのもあるが。
 しかし少なくとも文の知る人間の多くは、そこに類似した方向性が見られるものだ。
 一切の類似を見出せない、そもそもベクトルの次元が違う存在。
 そんな人間を、文は『変わり者』と呼んでいる。
 ――無論、胸中でだが。
「今日は世間話をしに」
 意外そのものといった表情で、巫女。
「この世界はどう?」
 文の問いに、わずかに微笑。
「おかしな言い回し。世界…そうね、幻想郷と大差はないんじゃない?」
 一度区切ってから、付け足す。
「――人為的に隔絶されている、という意味では」
「さすが博麗の巫女。わかるの?」
「そんな気がするだけ」
 今しがたまで掃除に用いていた箒を、手持無沙汰にもてあそぶ。
 神社の境内に比べれば猫の額に等しい庭。掃除などする必要性さえないのだが、
それでも何となく決まった時間にこうしているのは、単なる習慣の延長である。
 ちなみにこの箒、ピンク髪の魔女所有のものを無断で使っているのだが、今のところバレてはいない。
「けどおかしな話。何故、私達はここにいるのかしら」
 博麗大結界。その名を知らぬ者は幻想郷にはいない。
 一方でその博麗の姓を持つ巫女はあっさりと、
「あんたは夢の中で何故自分がここにいるのかいちいち懊悩するの?」
 ハゲたら天狗から河童になるわよ、と付け足される。
 その理屈は文の理解を超えていたが、おそらく知る必要のないことなのだろうと判断。
 ふと、
「結界と言えば、八雲の神隠しに会ってきたわよ」
「紫に?」
 巫女の応対がその一言で激変した。
「……あんた、それを私に伝えてどうするつもり?」
「ふと思い出しただけ。あの家はお得意さんだもの」
 その言葉に含まれた真意に、巫女は気づいただろうか。
「ふん。そんな近くにいるのなら、熨し付けて送りつけてやろうかしら」
「何を?」
「紫の式をよ」
 ここにきて初めて、巫女は文をひたりと見据えた。

「言っとくけど、私はどちらにもつく気はないからね」

 これで満足? と付け足そうと思い、やめた。
 そこにはすでに文の姿はなかった。
 それこそ夢のように消えていた。

285閃光:2008/04/27(日) 09:26:10

 見上げる空はあまりにも高く。
 突き刺さる夜明けの閃光に、自然目を細める。
 何かを、愛おしむように。

 草一本のなびく音さえ聞こえる静寂の下、この身を震わす感情を持て余す。
 喜びにしては頽廃。
 悲しみにしては蠱惑。
 言葉で表すには何もかもが足りない。
 ただ胸の中を埋め尽くす充足だけが、そこには在る。

 独りであることの幸福。
 孤独であることの不幸。
 幸せであることは難しく。
 不幸であることは、こんなにも、容易。

 月が傾き、色褪せる。
 大地を貫く十字の暁に、生死の罪が裁かれる。
 見上げる空には、届かない。
 空を飛べても、地平の果てまで駆けても、届かない。

 ――こんなにも近くて、遠い世界。

 涙が溢れ、止まらない。

286憐哀編side春原:間章:2008/04/27(日) 19:33:07

 ――さよなら、ヨーヘー

「なんだよ、それ…」
 わからない。
 こいつは一体何を言ってるんだろう。
 突然だった。
 わずか数十分。
 その間に、一体何が――いや、一体誰が。

 この少女を、ここまで追い詰めさせたのだろう。

「なんだよ、それ!!」
 僕は今、何に腹を立てているんだろう。
「意味わかんねぇよ! これまで好き勝手に僕を振り回しといて!
 今さら一方的になめたこと言ってんじゃねぇよ! 自分勝手にも程があるだろ!」
 違う。
 僕はこんなつまらないセリフを吐きたかったわけじゃない。
 なぜ、こんなことになったのかと。
 何が、ここまでイサを追い詰めるのかと。
 ――どうして、何も語らず独りでどうにかしようとするのかと。
 イサは、背中を向けたまま何も答えない。
「こっち向けよコラ!」
 それは普段の行動が反射となって表れた結果だった。
 見た目僕よりお子様の彼女の肩を、僕は力任せに引っ張っていた。
 お子様相手と遠慮する余裕もない。そのくらい僕は動揺していた。
 いつも突き放す側だったからこそ、今突き放されたことに平静を失っていた。
 当たり前だったものが失われんとする、その瞬間。

 けど、僕の必死よりも、イサの覚悟の方が遥かに上だった。

「!?」
 腹部に走るすさまじい衝撃。
 痛い、なんて感じる余裕もない。
 腰が抜ける感覚を、僕は生まれて初めて知った。
 足に力が入らない。
 膝から崩れ落ちるように、僕の体は力を失っていく。
 ――ごめんね。
 耳に届く、かすかな声。
 軽く抱きしめられる。
 見えない。呼吸ができない。苦しい。
 ――大好き、だから。
 口が塞がれる。温かい柔らかさ。
 頬に当たる冷たい感触。

 この時のことを、僕はこれから忘れることは出来ないだろう。
 縋られていたものに、縋ろうとして。
 突き放された時の、やるさなさを。

 僕は、決して、忘れない――

287神葬祭:2008/04/29(火) 21:42:31
「霊夢、何をしてるの?」
 昼間から部屋の片隅に佇んでいた博麗神社の巫女に、
夜も更けたこの時になって初めてリディアは声をかけた。
 何しろ、食事もとらずに黙々と作業をしているのだ。
 ――いや、それは作業と呼んでいいのかさえ不明だった。
 彼女は手に旗のようなものを持ち、正座姿でずっと目を閉じていた。
 声に反応した霊夢は、わずかに疲れているようだった。
「頼まれたのよ」
 微妙に答えになっていない。
「そもそも私は巫女であって神主じゃない。神職にも就いてない。
 祀りを行うには分不相応だって言ったのに」
 溜息交じりに肩をすくめる。
「祖霊舎も奥津城も用意できない。それ以前に遷霊祭だって無理よ」
 おまけに何やら不平不満。
「その割に、やけに一生懸命に見えたけど」
「一生懸命、ね。柄にもないわ、本当」
 軽く自嘲しながら、額の汗を拭うように前髪を軽くかき上げる。
 その重い動きに、頭の可愛らしいリボンさえ重苦しく感じる。
「始めて10分で後悔したわ。やめときゃよかったって」
 リディアにはその言葉の意味が理解できない。
「……でも、すっと目を閉じてただけでしょ?」
 そこに何の意味があるかはわからない。
 だが、やめようと思えばいつだってやめられたような気がした。
 少なくともリディアには、霊夢の今日一日の行動によって何かが変わったようには思えない。
「変わるのよ」
 リディアの言葉を、霊夢は一言で一蹴。
「こういうのはね。変わると思えば変わるの。
 経験ない? 『今日はきっとついてない』と思った朝に限って、その日はついてないとか」
 こくこくと頷く。
「それはその日が本当についてなかったわけじゃない。
 いつもなら瑣末事として気に止めないことを、何でも『ついてない』と捉えるからついてないの」
 だから、
「こうして祈ることで、誰かの想いに報いることが出来るのであれば。
 ……そこには意味があるのよ。確かにね」
 そこでようやくリディアにも理解できた。
 彼女がここで、どんな気持ちで、何をしていたのかを。
「……一生懸命だったんだね」
 同じ言葉を繰り返す。さっきとは、微妙にニュアンスを変えて。
「当たり前でしょ」
 すると、返ってきた言葉も変わった。
 霊夢は深く息を吐き、目を閉じる。
 少し翳を帯びたその表情は、薄白い明かりの下でもはっきりと陰影が浮かぶ。
 今、彼女の胸の中ではどんな感情が廻っているのか。
 リディアにはわからない。
 ――ただ、ひとつだけ言えるのは。
「私には何も出来ない。せいぜい祈ることぐらいだって――そう言ったのに」
 彼女は自ら望んでそうしていたのだと言うこと――
「知り合いの知り合いの知り合いなら、赤の他人とも呼べないしね」
「まだ続けるの?」
「そうね、日付が変わるまでは。そこに意味はないけど」
 リディアは少しだけ逡巡し、やがて意を決して、
「……私も、参加していいかな」
「ご自由にどうぞ」
 その言葉をあらかじめ予想していたかのように、霊夢は即答。
「ただし、日付が終わったら直会を用意してもらうわよ」
「なおらい?」
「後で教えたげるわ。ほら、正座しなさい。
 言っとくけど、途中でやめることは許さないからね」


 これが俺に出来る精一杯ってことで。
 せめて冥福だけは祈らせていただきます。

288衝動:2008/05/01(木) 00:07:28
 背後から寄る気配が自分を目的としているのは明白だった。
 故に、妹紅は振り返る。
「何?」
「……いや、そんな先制攻撃かけられると、返って聞きずらいんだけど」
 気配を具体化したその存在は、何故か両手をあげて万歳――もしくは降参の合図――をしていた。
 無論、見覚えがある。
「バカコンビの片割れか」
「ネジが緩み過ぎてあちこちに落として回ってるアホ盗賊と一緒にすんな!」
 誰とも言ってないのに相方がわかる時点で、自覚してると吹聴しているようなものだ。
 嘆息するのさえ馬鹿らしく、視線を明後日に逸らす。
「あのさ、もこー」
 そこで会話が終わらなかったことにやや苛立ちつつ、視線を戻す。
 鮮やかなピンクの髪を、尾のように頭の後ろで揺らすその姿。
 彼女――アーチェは、はっきり言って妹紅の苦手なタイプだった。
 いや苦手と言うよりも、もっと純粋に、嫌いだった。
「も・こ・う。無闇にのばさないでくれない?」
「はいはい、でさ、もこー」
 これだ。
 バカはバカであるが故に、こちらとそちらの境界線に気づかない。
 ――あるいは、気づきながらなおそれを無視して踏み込んでくる。
 妹紅にはそれが不快でならない。
 体の中を這い回る蛆のように、おぞましく鬱陶しい。
「あたしの箒を知らない?」
「は?」
 即座に生じた疑問は二つ。
 ひとつ。何故それを自分に聞くのか。
 ふたつ。何故その問いに自分が答えると思っているのか。
「なんか今朝から見当たんないのよ。あちこちに聞いて回ってんだけどさー。
 あと聞いてないのは、文に霊夢、それにナミ……は聞きようがないか。
 あれがないと空飛べないし、空飛べないと歩いて街まで行かなきゃなんない。
 そんなのこのアーチェさんに耐えられるわけないじゃん?」
 ――知るか。
「どっかで見かけた、ってのでもいいからさ。知ってたら教えてくんない?」
「……生憎と、私は知らないわ」
 衝動で込み上げた破滅的な感情を、すんでのところで圧し留める。
 あと少し抑える力が弱ければ、懐に忍ばせたスペルカードに手をかけていた。
 ――忌々しい。
 漆黒の殺意と共に思い起こされるのはひとつの顔(かんばせ)。
 妹紅から人としてのすべてを奪い去った、万の死を刻みつけてなお足りぬ大罪人の顔。
「んー、そっか。あんがと」
 妹紅の衝動を知ってか知らずか、アーチェは軽く言って妹紅に背を向ける。
「あぁ、それと」
 まだあるのかと再び湧き上がった熱い揺らぎは、次の瞬間に凍結した。

「気をつけんのよ。『ここ』はアンタが思うほど、優しくも辛くもない」

 すぐに扉の向こうに消えた背中を見送ってから、妹紅は後悔した。
 躊躇わずに、撃つべきだったと。

289レイレイの探し物:2008/05/05(月) 20:55:56
ときどき私はとある物を無くす。
でも私には何がないのかわからない。
それは大切な物というのはわかっているのだが、
しかし何を忘れていたのかは覚えていない。
「何を忘れてるんだろ、私」
青空の下、青々とした草の上にねっ転がり、しばらく考えていた。
でも何も答えはでない。眠くなっただけ。
そのまま私はぐっすりと眠ってしまった。
気がつくと辺り一面は真っ暗になっていた。
誰もいない。見慣れている風景さえ怖く感じる。
どうしたんだろう、魔界じゃこんなこと感じなかったのに。
そうか、ゆっくりすること、安心することを忘れていたんだ。私は悟った。
魔界ではいつも神経を研ぎ澄ませ、後ろから来る敵に備えていたが、
今ではその必要は全くない。当たり前だ、何もない平穏な世界なのだから。
だが、だからこそ安心できたのだと私は思う。

ああ、魔界には戻りたくないなぁ

290憐哀編sideイサ:序章:2008/05/05(月) 22:41:52

 生まれつき、ボクの心は欠けていた。

 それは悪魔として生を受けた身であれば歓迎すべきことだと、いつか言われた記憶がある。
 ――悪魔。
 自分という種族を表すその単語に、特にこれといった他意を覚えたことはない。
 ただ、『悪魔』であれば自分は喜ばれるのだと、幼心にそんなことを考えた。
 喜ばれることは、嬉しい。
 ボクは『悪魔』であることを誇りに思った。

 ――それなのに。

 歯車は、一体いつの間に歪んでしまったんだろう。
 理由はわからない。
 ――嘘。
 わかっている。
 教えてくれたから。
 ただその当時のボクはまだまだ幼くて、拒絶される意味を理解することなんて到底出来なかった。
 けれど、覚えていた。
 言われた事実は事実として、整理されることもなく、心の引出しの片隅に
ずっとずっと置きっぱなしにされているだけ。
 今でも簡単に思い出せる。
 昨日のことのように。

 そして今ならその時の言葉の意味がわかる。
 思い出しても、痛くない。
 思い出しても、辛くない。

 生まれつき、ボクの心は欠けていた。

291憐哀編sideイサ、1:2008/05/05(月) 22:43:10

 一日目 AM 3:00

 限界が近いことをイサは自覚した。

 ――時間がない。

 このままでは終わってしまう。
 いや、終わってしまうことは仕方がない。
 それは不可避の事象だ。
 イサがイサとして存在する以上、それからは決して逃れることは出来ない。
 それは、息を吸えば吐くように、手を挙げれば下ろすように。
 起点から終点までの過程に疑念を抱く余地すらない、当たり前のこと。

 自分は終わる。
 それはいい。

 だが、このままではダメだ、とイサは考える。

 このままでは、何も残らない。
 自分はただの悪魔の一人として、誰の心にも残ることなく、消えてしまう。
 それは嫌だ。
 せめて、せめて今の自分のことを覚えていてほしい。
 これ以上ないというくらいに。
 心の根に当たる部分を縛り上げ、一生自分という存在に囚われ続けるほどに。

 そんな『ささやかな願い』を叶えてくれる存在を、イサは一人しか知らない――

292紅夜:2008/05/06(火) 08:18:07
(さて、どう終わらせたものか)
視界を塞ぐ紅の波をかわしながら、彼は月を背後に浮かぶ少女を見上げた。
機嫌がいいのか、人であれば卒倒しかねない笑みを彼に向けながら、その手を振るう。
ばっ!と少女の姿が無数のコウモリへ四散し、その一つ一つからナイフが彼へと降り注ぐ。
「ふん」
それに対してか、男は鼻を鳴らし、少女ど同じ様゙に四散した。
「そういえば、貴方も霧になれるんだったわね」
コウモリ達が集まり、元の形へと戻りながら、霧になった男を見つめる。
「お前ほど万能でもないがな」
少女と対になるような、黒く深い闇を纏いながら、男が答える。
紅に呑み込まれながら、黒へと染まる場で二人は暫し見つめ合った。
その視線は愛しい恋人同士のそれの様な熱を帯び、獲物を狩る獣の様な鋭さを秘めていた。
「そろそろ、夜が明けるわね」
少女の言葉が二人の時間の終わりを告げ、
「ああ、また忌むべき朝が来るな」
男の言葉が始まりを告げた。

「なら」
「今この時を」
「楽しみましょう」
「楽しもう」


「「こんなにも月が紅いから」」

日の光が世界を染めるその時まで紅と黒は世界を染め上げる。

293キルアから見た恋愛:2008/05/07(水) 15:38:17
ここに恋する男が2人(+1匹)。
「はぁ…ジラーチさん…」
「雪…」
「レイレイ…」
 
――なんだろう。恋愛は別に悪くないと思うよ?俺は。あいつ等の恋を応援してあげたいという気持ちもあるし。ついでに言うと、 (頼まれたらの話だけど) 恋愛を手伝ってやってもいい。
――けど…モヤモヤする。
あ、 断 じ て 嫉 妬 じ ゃ な い か ら 。
 
このモヤモヤの原因はあれだ。『理由が分からない』。
ジラーチは常に元気で可愛いし雪という奴はシッカリしていて女らしいしレイレイは異性を魅了させるようなオーラがある。
だけど、これだけで恋に落ちるか普通?人それぞれと言ったらそこで終わりだけど俺は納得いかない。
 
 
「ジラーチさんってかっこいいよね」
「雪とは、いずれまた交際したい」
「レイレイのフィギュアで毎晩(ry」
あーあ、始まったよコイバナって奴が。女だけがすると思ってたけど男もするんだな…って最後待てよ最後。変態発言だろ?あいつが見てたらどうすんだよ。
 
…………
なんか恋って凄いな。
こんなに他人を虜にできるなんて。ま、俺はゴメンだけど

294宵闇:2008/05/07(水) 23:02:19

 ――月符「ムーンライトレイ」

 文字通り夜を裂く閃光の槍。
 完全な不意打ちに、妹紅の反応は致命的なまでに遅れた。
 そして――直撃。
「……っ!」
 声は出なかった。
 ――声帯が消滅したのかもしれない。
 左半身の感覚がない。
 ――そもそもまだ存在しているのか。
 思考が徐々に鈍っていく。
 ――まさか、脳が、壊れ……

 ――「リザレクション」

 意識が戻った。
 左手を動かしてみる。五指は妹紅の思うままに従った。
 念のため頭に触れてみる。陥没している気配はない。銀の髪一本までそのままだ。
 ――完全に「復活」していた。
 こんな短期間で復活できたところを見るに、威力はさほどなかったらしい。
 おそらく突然の衝撃に脳がパニックを起こしたのだろう。
「……またお前か」
 妹紅は語りかける。突如奇襲をかけてきた相手に向かって。
「む、その声はまさか『はずれ人』?」
 声の返ってきた先に、しかし姿はない。
 ――いや、姿は『あった』。
 夜よりもさらに昏い宵闇。
 如何に目をこらしたところで決して見透かすことの出来ない深淵。
 それが声の正体だ。
「なんであなたばかりひっかかるのかしら」
 それはこっちが聞きたいと妹紅は思う。
「魚を獲るつもりがヒトデやクラゲばかりひっかかってしまう漁師の気持ちって、
 きっとこんな感じなんでしょうね」
「…そもそもお前はこんなところに『網』を張って、一体何を狙ってるわけ?」
 やや呆れ声の妹紅に対して、宵闇は応える。
「決まってるでしょ。人間よ、人間。今晩のおかず」
「一応聞くけど。ここはどこ?」
「空ね。地上200メートルくらい?」
 しばし、お互いに無言。
「……木に縁りて魚を求むとはこのことか」
「? そーなのかー」
「鬱陶しいからやめてもらえる? お前の闇は夜に紛れると区別がつかない」
「だから罠になるんじゃない」
「相手を視認できない罠に何の意味があると?」
 宵闇がかすかに蠢いた、気がする。
 正確に言えば、人為的に作られた闇の中に埋もれた姿が、だが。
 その闇は外から中を見ることが一切叶わない代わりに、中から外を見ることも一切叶わない。
 しばらく逡巡してから、闇はぽつりと、
「……そういえば、私はどうやって罠にかかったことを知ればいいのかしら?」

 ――適当に放ったのであろう先のスペルカードが偶然にも直撃したことは、妹紅にとって屈辱の極みだった。

「……木は炭に」
「え?」
「物は灰に。人は焼死体に」
 闇の奥の気配がすくみあがるのがわかる。
 妹紅の背に生える炎の双翼が、彼女の意思を反映して燃え盛る。
「――闇は、焼けば何になるのか知らん」
 光も通さない闇から一人の少女が飛び出した。
 金髪の幼い容姿に、黒のロングスカート。
 宵闇を生む妖怪――ルーミア。
 一目散に逃げ出すその背に向かって、妹紅は掲げる。
 不尽の煙を生む炎を。

 ――不死「火の鳥 -鳳翼天翔-」

 そうしてあたりに夜が戻った。
 火の鳥に貫かれた闇は、霧散して夜に溶けた。
『私は焼いてもおいしくないよーーーーーーーー!!!』と叫びながら遠ざかった声も、もう届いてこない。
 深々と嘆息。しばらくしてから、来た道を逆に辿る。

 今晩もそこには届かなかった、と思いつつ。

295ありがた迷惑:2008/05/09(金) 23:52:03
テーブルの上に鎮座する大きな箱を覗き込み、紅は思わずぎょっとした。
黄色の長方形の物体がこれでもかと言わんばかりに箱の中にぎっしりと詰め込まれていたのだ。
「食べちゃ嫌よ?」
いつの間にやら、彼女の隣には八雲紫がいた―但し、スキマから逆さまの上半身のみ。
「…つか、これ食べ物なんだ」
最もらしい疑問を口にしながらも、半眼のまま黄色い物体(食べ物?)を見下ろす。
「しかしこんなにどこに送るのよ。白玉楼かなんか?」
一番可能性の高い場所を口にし、だが、逆さまの紫は扇子で口許を隠して笑った。
「今回は違うわ、私の式の所よ」
式、と言われて、紅はああと声を上げた。
「藍か」
「そ」
箱の蓋がひとりでに閉まり、封がされる。と、箱の真下に隙間が開き、重力のまま箱が下へと落下する。
隙間からはドスンという音と向こうの住人だろう声がいくつか聞こえたが、
紫は笑うだけで紅は思わず頭を抱えた。
「ああそれと」
まだ何かあるのかと言わんばかりに視線を向けた紅の目の前に一枚の紙が差し出される。
「請求書、貴方の名前でつけておいたからお願いね☆」
まさにゆかりん!
ワナワナと震える彼女の異変を察知したのか、今でくつろいでいた者は脱兎のごとく逃げ出し
「――っんの、隙間があぁぁぁぁぁっ!!」
吠える彼女の魔法で家が半壊したのはいうまでもない。
どっとはらい

296悦び:2008/05/11(日) 01:05:40

 この気持ちを言葉で表すとしたら、適切な語彙は何になるのでしょう。

 何かに追い詰められているのがわかる。
 進むということは、いつか辿りつくということ。
 一本しかない道を歩き続けている限り、その日は必ずやってくる。
 たとえそれが望まぬゴールであろうとも。

 その時こそが私の始まりであり。
 すべてが終わる日でもあるのです。

 何かに追い詰められているのがわかる。
 それがこんなにも悦ばしいことだったなんて。
 愛しい人。
 もっと悩んでください。
 もっと苦しんでください。
 あなたがそうして苦しむのは、私のせいなのですから。

 もっと、もっと。
 私の存在を刻みつけてください。

 あぁ、いつになればやってくるのでしょう。
 ――世界の終わりは。
 ――私の始まりは。

297老大提督の贖罪:2008/05/11(日) 09:49:40
――惑星ビィス軌道上・ESD『リーパー』ブリッジ

帝国の副都ビィス。この惑星はインペリアル・センターに次いで二番目の規模を誇る
メトロポリス惑星である。地表を摩天楼で覆いつくした惑星の軌道上には、この惑星
を母港とし、『死神』の名を持つ旗艦を有するペレオン艦隊が浮かんでいた。

ブリッジの窓の前で佇む老人が居た。ギラッド=ペレオン…エンドアの撤退戦におけ
る最大の功労者で、その後の数々の戦いで『キメラ』、『ルサンキア』、そして今の旗艦
である『リーパー』を率いて武功を立ててきた老将である。彼はまたしてもディープ・コ
アに侵入してきた反乱同盟軍の機動部隊を撃破してきたばかりだったのであった。

「…ふぅ」
「お疲れですか?大提督」

溜息を吐いた彼に、『キメラ』以来彼の旗艦の艦長を勤めてきたアーディフ艦長が声
をかける。無理も無い、パルパティーン皇帝というカリスマ指導者が居なくなった後の
彼らの職務は激務の上に激務を重ねるものだった。自由と解放を掲げる反乱同盟軍
はそのスローガンとは裏腹に帝国の高官から自由を奪っていることに気が付いている
のだろうか。更に、彼は既に70歳を超えている。普通ならば彼くらいの齢の者は退役
して、帝国へ長年の忠誠を捧げたことに対する見返りとしての十分な額の年金を受け
取り、悠々自適に暮らしているはずだ。しかし、一連の混乱が彼に安息を与えることは
しなかった。艦長が気遣うのも当然のことである。

だが彼はいいや、と首を軽く横に振った。恐らく彼の見栄もあっただろうが、実際のとこ
ろ彼は別のことを考えていた。

「息子の事を…考えていたんだ」
「息子…」

艦長は少し考えて納得した。しかし、もし彼でなかったら納得には至らなかっただろう。
公式の記録によれば、ペレオン大提督に妻子が居たという記録もクローン施設を利用
した記録も養子を取った記録も無い。従って、息子と呼ぶ存在は皆無の筈だが、存在
した。私生児として。

マイナー=デヴィス…インペリアル・スター・デストロイヤーの艦長を務める帝国軍将校
だ。2度のデス・スター破壊による高級軍人の大量喪失を利用して30代半ばでのし上が
った者だ。しかし、勤務記録によれば彼の成績はどの階級・ポストでも優秀なものであり、
勲章や賞状の授与に何回も与っている。しかし、その出生は謎に包まれていた。いくら
高級軍人の大量喪失があったとしても、インペリアル級の艦長ともなれば高官が後ろ楯
にいなければ、彼の若さで任命されるのは難しい。その為、色々な憶測が流れていたが、
ペレオンの隠し子だったのである。

マイナーの母が妊娠したことを若き日のペレオンに告げた時、彼は結婚していない相手
との間に子ができたことが公になれば自身の出世に傷が付くと考え、私が父親というこ
とは伏せて欲しいと頼み、彼女は泣く泣くそれを承諾した。彼も自分を冷たい男だと自分
を呪い、彼女と息子に対して可能な限りの援助を続けていた。いずれ出世した暁には妻
として迎え、息子として認知しようと。しかし、その願いは永久に果たせなくなった。彼が
キャッシークのウーキー奴隷化任務に赴いた時、不慮の病に彼女は斃れ、帰らぬ人とな
った。この事を後で知ったペレオンは人知れず慟哭した。しかし、まだ息子が居た。せめ
てもの罪滅ぼしに彼にはできることをしてやろうと考えた。

親しい同僚に息子を預かるように頼み、軍事アカデミーに入る際も教官達に根回しを行
い、長じては重要なポストに就けるように手を回した。息子だけが彼の生きる理由なので
あった。

彼は何度か息子に会っている。会う度に息子の成長に目を細め、自分とかつて愛した人
の面影が彼に表れていることをまた喜んだ。マイナーも最初は父が母子を出世の犠牲に
したことを良くは思わなかったが、彼をペレオンが裏で支えたことを育ての親から聞かされ、
ペレオン自身の告白もあったことで、わだかまりも大分消えた。

「もう…よろしいのではありませんか?十分に贖罪は…」
「いや、生涯…永遠に償えるものではない…それにまだ1つやるべきことが残っている」
「1つ…?」
「ああ、この休暇に取り掛かるとしよう」

数日後、帝国軍人事局の整理課の仕事が一つ増えた。ある将校の名前を書き換える仕事
である。1人の事務官がコンピュータの電源を入れ、インスタント・コーヒーを傾けながら作業
を確認していた。

「どれ、今日もお仕事に取り掛かりますか!最初の奴は…マイナー=デヴィス大佐…姓を変
更…改姓前:デヴィス…改姓後:ペレオン…マイナー=ペレオン、か!」

298贈り物:2008/05/11(日) 10:20:32
 一瞬、そのシュールな光景にアーチェは我を忘れた。
「きゃー潰されたー」
 ぱたぱたと手足を振り回す様は、さながら胴体にピンを打たれもがく虫のようで。
 何で先に防腐剤を打ってあげないのかとかいやそうではなく。
「ちょ、え? 何これどうしたの!?」
 アスミが潰れていた。
 正確には、大きな箱を背中に乗せもがいていた。
「潰されたー」
 言っている内容の割には、アスミはやたらと楽しそうだった。
 かたつむりにでもなっているつもりなのかもしれない。
 本人が嬉しそうなのでやや躊躇ったが、とりあえずアーチェはその背に
乗った荷物をどかしてやることにする。
 重さは思ったほどではなかった。
 というか、サイズの割には軽い。
「何だろこれ……爆弾?」
「何でそんな結論に到達するかな……」
 突如別の声がしたので振り返ると、リディアが後ろから覗き込んでいる。
「だってこれどこにも宛名がついてないし」
「宛名がついてないなら、郵便物じゃないってことでしょ。
 文の配達物とかじゃない?」
「文って配達員だっけ?」
「う〜ん…? まぁ、似たようなものなんじゃないかな」
 本人が聞いたら全力で否定しそうな会話を続ける二人。
 ちなみにアスミは自由になった身を謳歌しているのか、
ある一点――ちょうどアスミが潰れていた場所の少し上あたりだ――を
指さしながらくるくると回っている。

 と、そこに、
「ここに紫様が来なかった!?」
 何やら緊張の面持ちをした藍と、それに従うようについてきた橙がやってきた。
 しかしメンバーの中でも良識な部類に入る藍が、動揺をここまではっきり表しているのも珍しい。
 一方、問われた二人は、
「紫? 誰、それ?」
 知らぬ名が出てきたことに首を傾げる。
「平たく言えば、私のご主人さま。今、ここであの方の力の気配を感じたから…」
 おそらく望んだ状況とは異なっていたのだろう。声のトーンが明らかに落ちている。
「そう言われてみると……何か、見慣れない魔力の残滓があるね」
 敏感なリディアも、うっすらとだがここに残った何かを感じた。
「けど、私達も今ここに来たところなの。今はいないみたいだけど…」
「アスミなら知ってるかもよ。あたしが来た時に、ここで潰れてたし」
「潰れてた?」
 全員の視線がアスミへ。
 そのアスミはと言えば、何故か橙にフライングボディアタックをかましていた。
「やったなー!」と叫ぶ橙が、負けじとアスミに対してくすぐり攻撃をかけている。
 まぁ要するに、じゃれあっていた。
「……それで、潰れてたっていうのは?」
「いやじゃれるアスミをうっとりと見てたまばたき一回後に、そんな真面目な声出されても。
 それと藍、アンタは鼻血の跡を拭け」
 アーチェはつい先ほどここで見た出来事を簡単に説明した。
「これに潰されてた……か」
 視線の先には、大きな箱。
 藍を見やると、目が合った。
「ひょっとして……上から、落ちてきた?」
 藍は確信を持って頷いた。
「紫様なら、その力で物をどこかに送るなんて造作もないことよ。
 おそらく隙間で、これだけを……」
「じゃ、とりあえず開けてみよっか」
 爆弾と推測した時から、アーチェは開けたくてしょうがないという顔をしている。
 間違いなく、プレゼントをもらったら包み紙を散々蹂躙したあげく中身を取り出すタイプだ。
 アーチェを制して、藍が慎重に箱を開けた。
 そこには、
「……………………油揚げ?」
 としか呼べないものが入っていた。それもぎっしりと。
「…どうりでサイズの割に軽かったわけだわ」
 さしものアーチェもその光景には圧倒された。
「うん。それにこれはどう見ても……」
 視線の先には、9つの尾。
「紫、様」
 藍のお尻あたりから生えたそれは、彼女の心中を反映するようにふるふると揺れている。
 何となく声をかけるのも憚られて、しばらく二人も無言でその時を過ごした。
「……すまなかった」
 最初にその場の均衡を破ったのは、藍当人だった。
「これは私宛のもので間違いないわ。けど、ここでは私も相伴に預かる身。
 良かったら今晩のおかずにでも使いましょう――橙!」
「くの、くのっ! ……あ、はい藍様。何でしょう?」
「これを運ぶのを手伝って頂戴」
「わかりました! …この勝負はお預けだからね、赤いの」
「これで勝ったと思うなー」
 ぱたぱた手を振るアスミ。
「しかし、何の前触れもなくいきなりあれだけの油揚げって……」
 二人が運ぶ姿を傍観しながら、ぽつりとつぶやく。
「……うん。なんて言うか」
 リディアとアーチェ。お互いを見やって、苦笑。

『世界は広いわ』

299誰もがやられた:2008/05/12(月) 15:10:20
逃げ惑う妖精メイド達(役立たず)とそれに執拗に弾幕を放つ少女を紫は半眼で見ていた。
弾幕が放たれて随分時間が経っているのか、辺りはまさに地獄絵図と化していた。
(…流石に地獄絵図は言い過ぎか)
頭を振りながら、体の回りに結界を展開する。
幸いな事に向こうはまだ自分に気付いていない。
最も気付いていても無視してるだけかもしれないが。
その場に浮かび上がると弾を結界で防ぎながら、少女へと近付く。と―
少女がこちらに振り返る。
(けど、もう遅い)
がっしりと彼女の腰を脇に抱える。
喚きながら暴れる少女のドロワーズに手をかけると、弾幕が更に濃くなる。
(フォーオブアカインド…)
分身した少女を一瞥し、手を一気に降ろす。
「いやああああっ!」
恥ずかしさからか、更に暴れる少女の声と弾幕に負けない様に紫も声を張り上げる。
「このっ!悪い子がぁ!」

ピチューン

真っ赤になった尻を出したまま、鼻をすする少女―フランドールを見下ろしながら、紫は息をついた。
「そういうのが嫌なのは自分もよぉく分かるけど、だからって弾幕でどかーんは駄目よ」
「ひぐっ…う、うん」
ドロワを穿きながら、小さく頷く。
その様子に苦笑しつつ、目線を合わせる様に片膝をつく。
「けどさ、姉貴だとこうはいかないんだよ?
昔やられたけど、それこそばちーんばちーんって凄い音させるし、
あのつるぺた姉貴「…へぇ、人のことそんな風に思ってたんだ」は…」
背後からした声に紫の顔から汗が滝のように流れる。
そのままゆっくりと、さながら油が切れたブリキの玩具の如く振り返る。
そこには満面の笑みをたたえた、けれど、背後に般若の面が見えそうなオーラを従えた女性がいた。
「…こ、ここからが本当の地獄だ」
壁際で震え上がるメイド達とフランドールの目の前で惨劇は幕を開けるのだった。



尻叩きって痛いよねって話
皆も小さい頃やられたよな?!

300禊雨・上:2008/05/13(火) 23:40:30
 雨の降りしきる夜だった。
 音を立てるほど強くはなく、さりとて無視できるほど弱くもない。
 この雨を楽しむ風情は濡れることにあると妹紅は思う。
 傘も差さず、街灯の薄明かりに映える暗緑の森を肴にして。
 彼女達は酒を酌み交わしていた。
「お二人はここで何をしているのですか?」
 声をかけられた二人――代理人と妹紅は、共に感情の希薄な表情をしていた。
 代理人に至っては、横に一升瓶を置きながら顔色一つ変えていない。
「あなたこそ、こんなところへ何をしに? お嬢ちゃん」
 お嬢ちゃんと呼ばれたその少女は、「にぱ〜☆」と満面の笑みを浮かべ、
「楽しいことをしているなら、ボクも混ぜてほしいのですよ」
 意外そうな顔をしたのは、妹紅一人だけ。代理人は変わらず無表情にグラスを傾けている。
 その齢10歳にも満たないように見える少女がここまで一人でやってきたことも意外なら、
雨に打たれながら淡々と酒を交わす光景をまさか「楽しいこと」と評されるとも思わなかった。
 だが、子供の発想が固定観念に縛られた『大人』とは異なる感性から生まれることは知っている。
 その程度のことだろうと、妹紅は安直に考えた。
「私達にとって楽しいことが、お嬢ちゃんにとっても楽しいとは限らないよ」
 言いながらグラスを煽る。
 特に美味いとは感じなかった。
 ――気分が悪いのならなおさらだ。
「それは混ざればわかることなのですよ」
 言って、代理人の隣に座る。
 ちなみにその少女は二人と違ってきちんと傘を差していた。
もっとも、濡れた地面に腰を下ろしている時点で傘の役割など無きに等しいが。
「雨がざーざーで水たまりがぱしゃぱしゃなのです。とってもいい気持ちなのですよ」
 少女は始終ご機嫌という様子だった。
 ただの八つ当たりと知りつつも、妹紅にはそれが面白くない。
 何しろ、つい今しがたまで胸が悪くなる会話を展開していたのだ。
 そしてそれはまだ終わっていない。
「妹紅。無駄と知りつつも、もう一度だけ言うわ」
 少女の存在を完璧に無視して、代理人が口を開く。
「愚かな思索はやめなさい。そこには何の価値もない」
「価値を決めるのは私。違う?」
「違わない。だから表現を変える。
 あなたは自分の魂を貶めてでも、『この世界』の根幹に触れようと言うの?」
 妹紅の眉根がわずかに上がる。
「何も変わらない。何も叶わない。そもそもここには何もない。
 求めれば求めるほど、足掻き、醜態を晒すことになる」
「……だから私は」
「『自分の信じるものを貫くだけ』、と? なるほど、その言葉を口にするだけの強さをあなたは持ってる」
 けれど、と、
「少しは学びなさい。そのメンタリティこそが、今のあなたに一人相撲をとらせる因となっていることを」
「……るのか」
 妹紅の周囲に空気の流れが生まれる。
 周囲の温度が急激に上昇し――そして。

「わかるのかっ!! 貴様にっ!! 蓬莱人としての苦しみがっ!!!」

 怒りに燃え上がる妹紅の顔は、まるで泣いているようだった。
「この永遠の苦輪から逃れられるというのなら、私は泥をすすることさえ厭わない……!」
「…………戯れか」
 代理人が、動いた。

301禊雨・下:2008/05/13(火) 23:41:40
 妹紅は反応できなかった。
 油断があったのは事実だろう。
 それは代理人が自分を急襲するわけがないという甘えと、
そもそも代理人が自分を急襲できるわけがないという自負から来ていた。
 ――だが、それだけではない。
 妹紅は『自分の体が吹っ飛ばされる』まで、代理人を知覚することが出来なかった。
「な……っ」
 吹っ飛ばされたと言っても、威力はほとんどなかった。
妹紅の体が抵抗を示すより早く衝撃が伝わったため、思いのほか体が跳ねただけだ。
 逆に言えば、今の一撃にはそれだけの速さがあったということか。
「私の素早さはカンストよ」
 妹紅を吹っ飛ばした体勢のまま――つまりは拳を前に掲げた状態でそう告げる。
「学びなさい。あなたの唯一にして最大の敵は、その悪夢に繋がれた楔にこそあることを」
 それだけ言い放ち、代理人は再び無言で酒を呷り出した。
 妹紅は濡れた地面にぺたんと座りこんだまましばらく呆気にとられていたが、
やがて小さく「……ごめん」とだけ言うと、代理人に追従するようにグラスに酒を注ぎだした。
 そうして、辺りに静寂が戻る。

 粛々と。
 まるで彼女達の罪を身削ぐように、降りしきる雨。

「…………感想は?」
 ぽつりと。
 ここに来て初めて、代理人は少女に語りかけた。
「よくわからなかったのですが、ケンカはダメなのですよ」
「違う」
 無機質な視線が少女を睨め付ける。
「満足したかと聞いてるの」
「……何のことなのか、ボクにはちっともわからないのですよ」
 言って「にぱ〜☆」と笑う。
 代理人は今度こそ口を閉ざし、そして二度と開くことはなかった。

 沈黙の酒会は、こうして更けていく。

302密談:2008/05/16(金) 23:50:06
「どう思う?」
「どう……って?」
「ここ最近の出来事だよ――似てると思わない?」
「……『あの時』と?」
「…アーチェも気づいてたんだね」
「わかるわよ。自分のことだもん」
「……繰り返そうとしてる、ってことなのかな」
「それ以外に、何があると思うわけ?」
「…………」
「『あの時』は派閥が二つに割れた」
「旗が二本立てば、そこに人が集うから」
「今回はすでに旗が一本立ってる」
「文の話だと、藍とかルーミアとか、見境がない感じだね」
「それに不満を抱く奴が現れたら」
「旗がもう一本立つ。そして……」

『――戦争が始まる』

「当事者だったあたし達だからこそわかる」
「うん。繰り返させるわけには、いかないよ」
「……アイツに会って、話をしよう」
「それが出来るのは私達だけだしね」
「今度は何を企んでんだか」
「場合によっては、強硬手段も辞さない覚悟でいこう」
「……アンタの強硬手段って、アイツの体は斬鉄剣の錆になるんじゃ」

303昔話:2008/05/17(土) 00:11:39

 ――むかし、むかし。
 ――それは、ある世界の中の、ある町の中の、あるアパートの中のお話。

 そこには六畳一間の王国がありました。
 世界で最も小さなその王国には、十数人の住人と、一人の従者がおりました。
 その国の王様は女王様でしたが、統治などはせず、住人は自由気ままに過ごしておりました。
 一人の従者は自らのことを『使徒』と呼び、王様を大変崇拝しておりました。

 しかし、時が経つにつれ、王国はその様相を変えていきました。
 いつの間にかそこは帝国と呼ばれ、不必要な軍備増強が繰り返されたのです。
 もともといた住人達の多くは居場所を失い、去っていきました。
 温かった空気も、次第に鉄の冷たさを帯びるようになりました。
 
 ある時、住人の一人が解放宣言を唱えました。
 自分達には自由に暮らす権利がある――と。
 それに同調したメンバー達が派閥を作り、帝国に反旗を翻しました。
 たちまち両者の間には軋轢が生まれ、鉄の冷たさは焼けた鉄の熱さへと変わっていきました。

 やがて二つの派閥は互いの境界を踏み越えます。

 ――帝国派のリーダーはリディア。
 ――独立派のリーダーはアーチェ。

 両者の争いは『ハルマゲドン』と呼ばれ、その世界の歴史に刻まれました。
 結果として、帝国は解体。
 六畳一間の王国は、六畳一間の民主国家となりました。
 一人の従者が夢見た砂上の楼閣は、そうして終わりを迎えました。

 ――むかし、むかし
 ――それは、ある世界の中の、ある町の中の、あるアパートの中のお話でした。

304傍観:2008/05/17(土) 12:46:20
「面白そうな事になってきたねぇ」
扇子を開いては閉じるを繰り返す紫の肩に顎を乗せながら、
前に開かれた隙間を萃香が覗き込む。
「そうね」
パチン、と区切りをつけるように扇子を手の中に収める。
「役者は既に舞台に立ち、後は開始の鐘を待つのみ。
あれの相手はさながら蓬莱人かね?」
自身の予想を話す萃香に紫は扇子を口許に持っていきながら、くすりと笑う。
「案外二人かもしれないわよ?」
「っていうと?」
隙間から見える光景はいつの間にか一人の式から一人の青年へと変わっている。
「悲劇を知る者はそれを繰り返さぬ様に立ち回る。
けれど舞台に立つ役者達は劇のシナリオには逆らえない。
それはあの場所を収める彼とて同様」
「…もうちょっと分かりやすく頼むよ」
「まあ、簡単にいえば、劇は面白い方がいいってことよ」

紫の瞳がすっと細められる。
寒気すら感じられるそれに萃香が思わずたじろぐ。
片手に複雑な式を組み込んだ符を持ち、笑みを浮かべる。
「そう、劇は面白い方が観客も喜ぶものね」
ぺらりと符を隙間に落とすと彼女はおかしそうに笑う。
「…楽しませて頂戴ね」


隙間の向こうでは彼女の式の式の背に張り付いた符が溶けるように消えていた。

305訃報・上:2008/05/17(土) 23:47:36
 そこに在れば、薄ら寒い怯えと共に誰もが思うだろう。
 ――ここはどこだ、と。
「これって…………」
 あたりは不気味な静寂に包まれている。
 道を歩く足音さえ聞こえない――それ以前に、人の姿がない。
 比喩などではなく、針を落とせばその音が聞こえるだろう。
 ――わずかに、一歩。
 ただそれだけで、人間達に置き去りにされた無機質の建造物だけを残し、生の気配はこの地から根絶された。
 それがどれほど異様なことか、二人は理解していた。
 と同時に、その意味も。
「……久しぶりね、『ここ』も」
 わずかに茶化すようなアーチェの口調も、緊張に歪む表情を崩すには至らない。
「久しい」という表現が正しいのか、実のところアーチェにもわからない。
 ただ、かつて同じような場所に踏み入れたことがあるという話だ。

 ――同じような場所。
 無限の可能性から堕とされた粗悪な世界。
 名もなき泡沫の、弾けるその一瞬前。
 ここは『生』という概念が劣化しているため、踏み込むことは出来ても生まれることはない。
 ここは『死』という概念が劣化しているため、どれだけ殺されても死ぬことはない。
 何もかもが不完全で、そして何物も完全ではいられない御伽の国。

 リディアはそこに足を踏み入れた瞬間から、無言で目を閉じていた。
 しかしそれもしばしの後にぽつりと、
「私達以外に、あと一人」
 魔力を『視る』リディアの言葉に誤りはない。
「アイツってこと?」
 首を横に振る。
「魔力の気配がするんだから、多分違うと思う」
 知らない間に魔法を身につけたりとかしてたら、話は別だけれど。
 そんなことを言外に言っている。
 しかし、それが有り得ないことを二人は理解していた。

 ここは「神」の領域なればこそ。
 ここで「神」の願いは叶わない。

 二人は、この世界に存在する最後の一人を探した。
 いや、探したという表現は適切ではない。
 ――探すまでもなく、すぐに遭遇したからだ。
 そこはまさしく、あの人間が住む場所に違いなかった。
 アーチェも度々訪れたことがある。見間違えるはずもない。
 
 その入口に、蒼い僧服を着た一人の女が立っていた。

306訃報・下:2008/05/17(土) 23:49:59
「こんにちは、ディア」
 代理人は、その流れるような蒼い髪の毛先まで、普段とまったく変わらない。
 そもそも変わるところを見たことがない。
 無表情、無感情、無感動――震度8でもビクともしない最新の耐震構造を搭載した、鉄壁のアイデンティティ。
「――それと桃色の生命体」
「とってつけで何て失礼な!」
「ごめんなさい。――それと#F58F98の貧乳女」
「訂正後がわかりにくい上、明らかに中指立てて挑発されてる!」
「私の中指は何でも貫くZE☆」
「なら自分のこめかみでも貫いてなさいよ!!」
「個人的にはディアのいけないところを希望」
「どこ!? それはどこっ!?」
 頭から湯気が出ているアーチェの襟首を、猫の子よろしく引っ張り上げる。
「ちょ、邪魔しないでよリディア。今アイツにオートマチック・ロシアンルーレットを」
「代理人に遊ばれないの」
 ぴたりと動きを止めるアーチェ。ぎろりと代理人を見遣る。
 無論、睨まれた当人は眉根一つ動かさない。
「…何で今ここにいるのか、なんて聞かないよ。そんな気はしてたから」
「さすがディア。どこかの低濃度生物と違って理解が早いわ」
『何が低濃度がm』と、言いかけたアーチェの口を塞ぐ。
「そこを通してもらえる?」
「どうぞ」
 代理人がすっと入口からどく。
「ただし、目的地に目的の人物がいるとは限らないけれど」
「そうだろうね」
 まずはここから出ないといけないもの、と付け足す。
「いや、そういう問題ではなく」
 しかし、それに対する代理人の回答は、リディアの予想を絶望的に超えていた。


「――死んだ人間に会うことなんて、誰にも出来ないでしょう?」

307憐哀編sideイサ、2:2008/05/18(日) 21:20:22
 一日目 PM 17:00

 春原に用を足すと言い、イサはゲームセンターから外へと出た。
 無論、言葉通りであればわざわざ外に出る必要はない。
 念のために後ろを振り返る。
 春原がこちらに気づいた様子はない。
 ――追ってこられては、困るのだ。
 外は身を切るような寒さだった。むき出しの足は凍りつくようだ。
 もっともこの季節に半ズボン姿で、寒さに文句を言うのも滑稽だが。
 そしてイサ自身も、そんなものを気に掛けるつもりは微塵もなかった。
「……何の用?」
 イサは語りかける。
 自分の『真上』に。
「昼ごろ辺りからずっとボク達のことを見てたよね」
「…まさか気づかれているとは思いませんでした」
 ばさりと。
 空打ち一つで、漆黒の翼が地上へと降りてくる。
 その右手には、望遠レンズのついたカメラ。

 幻想郷最速の烏天狗にして、伝統の幻想ブン屋――射命丸文。

「何の用だって聞いてんの」
 イサの目には、未だかつて誰も見たことのない光が湛えられていた。
 先ほどまで春原に見せていた年相応――と言っても、人間年齢に換算すればだが――の
子供らしさは、その光に食い潰され跡形もない。
『悪魔』としてのイサが、そこにはあった。
「――邪魔だよ、お前」
 すぅっ、と。
 軽く動かした手には、すでに一本のナイフが握られている。
「……それがあなたの力ですか」
 イサの殺意にもまるで動じた様子はない。
 絶やさぬ微笑が、今はひどく胡散臭い。
「まるで手品みたいですね。ただ、手品と違うところは……」
 風切り音。
 それが耳のすぐ横を駆けて行ったことを、感覚で悟る。
「……それで人を殺せる、ということでしょうか」
 ナイフを投げた時に、それとわかる挙動はなかった。
 手首のわずかなスナップだけで、正確に文の顔面を狙ったのだ。
 何の躊躇いもなく。
「ざんねん」
 イサの口調は、明るくて昏い。
「一応、投擲用のダガーを選んだんだけど。ちょっと狙いがそれたかな」 
 投げるのは苦手なんだよね、と。
 文の神懸かった動体反射がなければ、耳が削ぎ落とされていてもおかしくなかったというのに。
「次は外さないように胴体を狙おうか」
 心理作戦か、と文は胸中でつぶやく。
 最初から、今の一打で仕留められるとは思っていなかったのだろう。
 だが、先手必勝で命を狙われれば、どんな強者でも体がすくむ。
 それをイサは理解した上で、さらに心理的なゆさぶりをかけているのだ。
 ――次こそ、確実に仕留めるために。
「……勘違いしないでください」 
 文は両手を空に掲げる。
「私はただのブン屋です。あなたに危害を加えるつもりなんてないですよ」
「信じられないかな」
「では、私はこのまま両手を挙げて退散しましょう。それで見逃してもらえますか?」
「…………」
 イサはしばし無言の後、こくりと頷いた。
 文は両手を挙げたままイサに背を向け、その翼で空に飛び立った。
 瞬間、イサの方に向き直る!

 ――風神「天狗颪」

 イサの放った十を優に超えるナイフは、文の巻き起こした風にことごとく散らされた。
 ――いや。
「…………っ」 
 軌道はそれたが散らすには至らなかった一本が、彼女の膝を浅く裂いた。
 傷の痛みに歯噛みしながら、イサを見遣る。
 イサはその両手になお数本のナイフを持ちながら、はっきりと舌打ちした。
 文も奇襲の可能性は考えていた。
 が、ここまであからさまに殺しに来るとは思わなかった。
「……覚えておきましょう」
 文の表情から、微笑が消える。
 そうして、空の高みへその身を躍らせた。

308憐哀編sideイサ、3:2008/05/18(日) 22:58:03
 物心ついた時には、イサの横には常に殺戮衝動が身を置いていた。

 イサの家系は代々優秀な魔法使いを輩出していた。
 特に女系はその力が強く、中には生きながら伝説となった者もいるという。
 しかし同時に、悪魔としては致命的とも言える欠点を抱えていた。
 穏やかなのだ。性格が。
 特に女系にはそれが顕著に現れる。
 山一つ消し飛ばす力を持っていながら、それを決して使おうとはしない。
 炎や水を自在に操って敵を屠るより、料理をしたり飲み水を調達することを好む。
 宝の持ち腐れだ。
 おまけに一族揃ってそんな有様なため、それを危惧する者はいても改める者はいない。

 そのため、イサという悪魔の誕生は一族から大いに歓迎された。

 生まれながらにして殺意を秘めたその瞳。
 この娘は将来優秀な魔法使いになるだろうと、一族の誰もが思った。

 ――しかしその期待は、2度の出来事の後に灰燼と消えた。

 最初はイサが640歳――人間年齢に換算して6歳ほどの頃だった。
 それはあまりにも致命的な出来事だった。
 イサは魔法が使えなかったのだ。
 一族なら親へのわずかな反抗心で炎を用いるほど慣れ親しんだ魔法を、
イサは一向に使おうとしなかった。
 何故かはわからない。
 だが、おそらくは一族が期待した衝動にこそ原因があるのだろうと思われた。
 一族の歴史の中で、魔法を使えない者はイサ一人。
 一族の歴史の中で、最も殺戮本能の強い者がイサ。
 つまりは、そういうことだ。 
 それでも悪魔として優秀であることに変わりはない。
 イサにかけられていた期待はこの一件でほぼなくなったが、それでもそのまま育てられた。
 二度目にして最後の転機は、その400年後に起こった。
 イサが、家族に手をかけたのだ。
 彼女にはやや年の離れた姉がいた。
 最初はただの姉妹ゲンカだったそれは、姉殺しの一歩手前まで加速した。
 年を経るごとに暴走の翳りを見せ出したイサの衝動は、もはや実の両親にさえ止められなかった。

 イサは捨てられた。

 実のところ、悪魔の中で同族殺しなどさして珍しくもない。
 親殺しをステータスとして見る者さえいる。
 それが悪魔というものだ。
 だが、穏やか過ぎたイサの家系では、家族に手をかけるという行為があまりにも異様に映った。
 家族としての愛情が消し飛ぶほどに。

 そうしてイサは独りになり、しばらくして盗賊ギルドに拾われた。

309告白:2008/05/22(木) 20:28:22






            好きです






 ………………

310花咲く夜に蝶は踊る:2008/05/22(木) 22:24:06
視界を霞めていくナイフをギリギリで交しながら、隙をみては反撃をする。
もう何度も繰り返し見ている光景に少女は僅かながら集中を途切れさせた。
「―――!?」
肩を伝う痛みに顔を歪めながら、攻撃が密集しつつあるその場所を離れた。
一瞬とはいえ、その時を最大に利用した事に少女はやはり油断はならないと相手を見た。
目の前の相手はしてやったりと一瞬笑い、また鋭い目付きで少女へ狙いをつける。
瞬間、相手の姿はそこから消え、代わりに無数の刃が再び少女へと殺到する。
急速に自分へと迫る刃の雨を前に彼女はすっと息を吸い―紅い瞳で相手を捉えた。
手にした烏の描かれた黒いカードに力を込め、宣言する。

黒符『常闇の烏』―

符の力が解き放たれると同時に少女の従えていた使い魔が烏へと姿を変え、辺りが黒へと染まる。
その黒に溶け込むように烏達は相手へと殺到し、

傷魂「ソウルスカルプチュア」

黒を割って現れた紅い軌跡に烏は残らず切り刻まれ―そこで相手ははっと目を見開いた。
少女が、居ない。
背後だと気付いた時には既に少女に放たれた紅い奔流に飲み込まれていた。


「負けちゃったわね」
服―勿論新しく着替えたそれについた埃を払いながら、咲夜は地面で伸びている少女へ声をかけた。
「でも、よーやく一勝だよ。19敗1勝でまだまだ咲夜さんには勝てないよ」
悔しそうに言うフヨウの回りには彼女の使い魔達が心配そうに漂っている。
「けど、初めて作ったスペルカードにしては中々だったわよ?
その子達には時間停止があまり効かないみたいだし」
それにしたってさぁ…と口を尖らせるフヨウに咲夜はくすりと笑うと手を差し出すのであった。


おまけ
「あのさ、もうルールは分かったからさ。
てかレミィムキになってない?」
「私が高々チェスごときでムキになるとでも?
ただ素人に負けたのが何だかしらんが嫌なだけだ」
(咲夜さん、頼むから早く帰ってきて…)

311悔悛:2008/05/24(土) 00:04:00

 どうやら、彼は死んだらしい。

 不思議とリディアはそれを事実としてすんなりと受け入れられた。
 人づてで聞いたに過ぎず、またその根拠もまったくないにも関わらず、だ。
 何とはなしに予感していた。
 いつか、こんな日が訪れるのではないかということを。
 まさかそれが死別という形で具現化するとは夢にも思っていなかったが、
それでも何らかの形で別れの時が来ることはわかっていたのだ。

 ――彼はこの世界にいることに耐えられなかった。
 それは己の立ち位置を自覚してしまった瞬間から芽生えたものだろう。
 一つの王国が終わりを告げ、リディアとアーチェ、そしてすずを除く全員を
この世界から断ち切った時には、彼の幸福は終わっていた。
 そして彼は今、世界から自分自身をも断ち切ったのだ。
 ――未練を断つのにかかった時間は、約2年。
 そう考えればむしろ遅すぎたとも言える。

 リディアの中に、悲しい、という感情は湧かなかった。
 それは彼自身の罰から来るものだろうか――いや。
 リディアは理解しているのだ。
 これが決して終わりではないことを。

 争いは止まらない。むしろ加速していくだろう。
 彼はもういない。
 けれどここには彼女がいる。
 何も変わらない。
 何も終わらない。
 ここからだ。
 ここからすべてが始まっていく。

 ――リディアとアーチェに遺されたのは世界の断片。
 ――彼女が持つのは残りすべての理。

 世界はもはや完全を失い、託された者の意に従うのみとなる。

312恐怖:2008/05/26(月) 23:33:14

 独りであることを苦痛には感じない。
 この身が蓬莱人と化してから、それは常に自分の隣にあるものだ。
 とは言え、心地よいと感じるものでもない。
 隣に誰がいようが。
 隣に誰もいまいが。
 人としてあるべきところから欠落したモノが埋まるわけではないのだから。

「あ……! お前は……」
 すぐ近くでそんな声が聞こえるまで気がつかなかった。
 眠っていた、というわけではないのだが、意識が飛んでいたようだ。
 寝転がった体勢のまま首だけ動かす。
 猫が立っていた。否。
 猫のような人間のような姿をした、つまりはどちらでもないモノがいた。
「……式の式か」
 欠伸を噛み殺す。
 妹紅の関心対象の中にこの少女はいない。
 いようがいまいがどうでもいい。空気よりも無価値な存在。
「こ、この前はよくも藍様をいじめたな!」
 思わず鼻で笑う――実に滑稽な話だ。
 あの時の式との争いに決着がつくことはなかった。
 力で妹紅の方が勝っていたのは事実だ。何度となく藍を地に沈めた。
 それでも、妹紅は三度『殺された』。
 蓬莱人とは言え、身体的スペックは人間のそれと変わらない。
 不死身であることを除けば、妖怪の式であるという藍とは比べるべくもなかった。

 ――その死闘を、こともあろうに『苛める』などという単語で表すとは!

「失せなさい。今は弾幕ごっこに付き合う気にはならない」
「藍様は私のご主人様だ! その誇り高い式として、ここですごすご逃げたりするもんか!」
 ……またか。
 藍といいこの猫といい、誇り誇りと大層な言葉を持ち出すものだ。
「忠言は耳に逆らうとは言うが……さて!」
 瞬間的に体を跳ね上げる。
 その突然の動きに緊張が爆発したのか、少女は本人でさえ意識しきれぬまま
取り出したスペルカードを掲げていた。

 ――鬼神「鳴動持国天」

 最初はこのまま退散するつもりだった。
 約束というほどではないが、藍に対して「式には手を出さない」と告げている。
 それに弱者の蹂躙は妹紅の望むところではない。
 ――だが、彼女の放つ弾幕を見て気分が変わった。
 藍の主人がどれほどの力を持つのかは知らないが、その式の式でさえ
これほどの力を持つと言うのは面白い。
 妹紅は認識を改めた――少女は、いや『橙』は敵だ。
 口元に凶悪な笑みを浮かべ、スペルカードを掲げる。
「――括目しなさい。これが紅蓮の弾幕というものよ」

 ――不滅「フェニックスの尾」

 勝負は一瞬だった。
 橙は体のあちこちを焦がして地面に伸びている。
 これでも加減はしている。先にしかけてきたのは少女の方とは言え、
一方的な力を振るうことになど価値はない。
 力の誇示など、それこそ空しいだけだ。 
「さて、この式が目を覚まさないうちに……」

 ぞくりと。

 全身が放つ絶叫に、妹紅は一瞬我を忘れた。
 永い生において似たような感覚を味わったことがある。
 それはまだ人だった頃の名残り。
 もはや死とは無縁の身でありながら、身体が未だ記憶する「終わり」に恐怖する感触――
 意志とは無関係に体が動いた。
 逃げろ、と。
 ここから一刻も早く立ち去れ、と。
 それに屈辱を覚えられるほど、今の妹紅に余裕はない――

 そこに残されたのは『二人』。
 式の式と。
 ――人に在らざる『現象』のみ。

313大胆:2008/05/27(火) 09:47:58
不意に空間に小さな切目が現れる。
それは少しずつ、けれど確実に広がり、とうとう人一人とそう変わらない迄の大きさとなった。
切目から覗く無数の目が辺りをぎょろりと見回し、人の居ない事を確認すると
切目を押し広げる様に手が現れる。

「ふあぁー…」

欠伸をしながら現れたのは、まだ若い女だった。
だが、その身から放たれる気は決して人のそれではなく、その者はうすら寒い物―ともすれば、恐怖を感じる事となっただろう。
…頭に酷い寝癖があるのとよだれの跡が無ければの話だが。
「んー…」
状況を把握しているが、面倒といった様子で手を切目に入れる。すると―
「うををっ?!」
空から別の女が落ちてきた。
「ちゃお」
起き上がり、訳が判らないと辺りを見回す彼女に女が声をかける。
「……紫さんよぉ、何が悲しくて地面と熱烈なキスせにゃならんのですか」
声に振り返った彼女は暫しきょとんとした後、胡散臭そうに女―八雲紫を見つめた。
「ちょっと暇人なむぅちゃんに」
「暇人じゃないっての」
「強制的に人を回復してほしいのよ」
「拒否権なし!?」
ブツブツと文句を言いながらも、対象に近付き、手をかざす。
柔らかな光が対象を包み込む様を見ながら、紫が呟く。
「時間かかるわね」
「対象者のエネルギー使ってる訳じゃないからね。
その場自体の生命エネルギーを分けてもらって、対象に注ぎ込んでる感じだからさ…はい、治療終わり」
一仕事したと言わんばかりに首を回しながら、立ち上がる。
「ふふっ、ありがとう」
「ん?どういたしましt」
言いかけた彼女の足元に切目が入り、ズボッと言う音と共に切目の中へと落ちていった。
「さて―」
あんまり無茶をしないことと書かれた紙を置きながら、紫は小さく伸びをし
「…帰ってねましょ」
彼女が切目に姿を消すと同時に、何事もなかったかのように切目が消え失せる。

後には何も残らなかった。

314七つ怪談探偵部:2008/05/27(火) 20:38:55
「ねぇねぇ、知ってる?高等部の噂」
「一人で西の廊下の鏡に写ると入れ替わられちゃうんでしょ?」
「えー、わたしが聞いたのは鏡に引き込まれちゃうって話だよ」
たわいない少女達のお喋り。
生徒でごった返す昼時の食堂ではごくありふれた光景。
(しかし、怪談ねぇ…)
いつもの定食を口に運びながら、村上アサヒは少女達のお喋りに耳を傾けていた。

生徒達の間に密かに、しかし決して途切れる事のない、怪談話。
何処にでもあるそれはここ、私立西尾杜女子学校にも存在していた。
曰く、東階段の段数がある時間のみ違う。
曰く、地体育館倉庫で自殺した女子生徒が泣く声がする。
曰く―

(って、もうこんな時間じゃねーか)
ふと目をやった時計の示す時刻に彼女は残っていた味噌汁を一気に飲み干し、
食器を載せたトレイを片手に席を立ち上がった。
まだお喋りを続ける彼女達の横を通り抜け、返却口へと向かう。

「じゃあさ、後で確かめにいこうよ」

「えー、怖いよぉ」

そんな、声を聞きながら。


「すいません、村上先輩はまだ居ますか?」
HRも終わり、生徒もまばらになった教室で身支度を始めていたアサヒはその声に顔を上げた。
見れば、一年生とおぼしき少女が一人、ドアから顔を覗かせていた。
だが、アサヒは彼女とは面識はない。
とすれば、用があるのは自分の隣で眠りこけている生徒―従姉妹関係にある村上フヨウであろう。
「居るけど、寝てるぜ?」
隣の席で幸せそうな顔をして眠る彼女を指差すと、少女はぺこりと頭を下げて、フヨウへと駆け寄る。
「村上先輩、村上先輩ってば」
揺さぶられながも一向に起きる気配のない彼女に少女の声が焦りを帯びていく。
「先輩!きんちゅー事態ですから起きてくださいって!先輩ってばぁ!」
これでは埒があかない。
そう思ったアサヒは呆れながら、彼女の側へと歩み寄り、勢いよく右手をその頭に振り下ろした。
「みぎゃ!」
流石に起きたのか、フヨウが驚いた様に身を起こす。
「うぅ、何か頭が殴られたように痛いぃ」
その言葉にアサヒは右手をヒラヒラさせながら、明後日の方を向く。
首を傾げるフヨウに少女が何事かを巻くし立てている。
すると、彼女は帰り支度を再開したアサヒの方を向き、
「アーちゃん」
笑顔で言うのだった。
「手を貸してくれない?」

315七つ怪談探偵部:2008/05/27(火) 21:10:35
少女は名前を山手イズミと名乗り、フヨウと同じ図書部であるとアサヒに説明した。
「んで、その寝ぼすけなフヨウ先輩に何の用なんだ?
三年生は基本的に進学するまで部活は休みの筈だぜ?」
その言葉にイズミは申し訳なさそうに視線を落としながら、ぼそぼそと話し始めた。
「そうは思ったんですけど、頼れそうな人は皆さんもう帰ってしまったんで、比較的帰りが遅いって有名なフヨウ先輩ならって」
「有名なって…」
その一言に呆れながらも、先を話す様に促す。
すると、イズミはスカートを握り締めている手を震わせながら、ゆっくり語り出した。
「あれは、図書室で返却されてきた本を整理してた時なんです…」


お喋りをしながら入ってきた三人組の生徒にイズミはムッとしながら、本棚に本を戻した。
いつもは注意を促す教員が今日に限ってこの場には居らず、
かといって自分より年上とおぼしき彼女らに注意する勇気はイズミにはなく、
ただ図書室の奥へと進む彼女達を無視して、本棚に本を戻す作業を続けていた。
そして、しばらく経った頃であった。
「ちょっと!本当だったんじゃないの!どうすんのよ!」
「知らないわよ!あたしに聞かないでよ!」
半ば叫びながら、飛び出していった二人を見送り―奇妙な感覚に捕われる。
最初に来たのは三人で、戻ってきたのは二人。
では、後の一人は?
急にイズミの背筋を冷たい物が走る。
慌てて振り返って―彼女は悲鳴を上げた。
彼女の目にした物、それは―。

「『奥の壁に付いた手形に触ると壁に捕まる』、か」
人の形に浮き上がった染みを見上げながら、アサヒは息をついた。
あの後、とりあえずイズミに教員を呼ぶよう指示を出し、一足先に図書室へ向かった二人は
奥の壁に出来た染み―噂通りなら、壁に捕まった生徒だろう―を見上げていた。
「でも凄いねぇ、これ」
あくまで呑気に言うフヨウに呆れながら、辺りを見回す。
地下に作られた図書室は空気が淀み、明かりを集める天井の大窓も今の時間では大して機能していない。
室内には本棚が整然と並べられており、人が隠れられるスペースはそうなかった。

316七つ怪談探偵部:2008/05/27(火) 21:46:30
「となると、これがそいつって訳になるのかねぇ」
壁に鼻を近付け、匂いをかぐ。
特にこれといった異臭―血や腐敗臭の類はなく、アサヒは肩をすくめた。
「ここはお前の分野だわ、俺じゃあ何にも分かんねぇ」
「そうだろうね。アーちゃん、ぼくより弱いもんね」
その言葉に失礼だろと返すアサヒを横目にフヨウが目を閉じ、意識を集中する。と―
“ぞるっ”。
足元を這う様に広がるそれに思わず身震いをする。
「…もうちっとどうにかならねぇのか」
彼女の足に絡み付いた黒い物を見下ろしながら、フヨウはぺろりと舌を出した。
「出来なくもないけど時間ないからさ」
そう言っている間も黒い物は床や壁へと這い回りながら、部屋全体へと広がっていく。
やがて、図書室全体が黒一色に染まった頃、漸くアサヒの足から黒い物が床へと同化していった。
「こいつら絶対わざとやってんだろ」
「さあ?」
短くそう答えると床に手をつく。
「さあ皆、この部屋で消えちゃった女の子を探すんだ。
生きてたら、絶対に生きてるままにしておいてよ。
既に死んでたら…うん、まあしょうがない」
さりげなく恐ろしい事を言う彼女の下で黒が波打ち、浮かびあがった波紋で部屋全体が揺れる。
波紋はアサヒの下ではね返ってはフヨウの元へ返っていく。
「なんか、今のお前って魚群探知機みたいだよな。
つか俺にも反応してっぞ」
「何ならみょんみょん言おっか?」
「ばーろー」
笑いながら、やりとりをする彼女達であったが、不意に表情が固くなる。
波紋が返ってきた。
「ドアは?」
「閉めて、幻惑結界張っといた。誰もここには来れねぇ筈だぜ」
返ってきた波紋は先程の壁からのみで二人は顔を見合わせた。
「見てみる」
部屋を覆っていた黒がその壁のみへと集まり、壁の中へと入り込んでいく。

「あ、ヤバいかも」

何を探り当てたのか、そう問いかける前にアサヒはフヨウと共に既に後ろへと飛び退いていた。
「やべぇっつーか、もろ大当たりって奴じゃね?」
ある程度の距離を置きながら、二人は壁から浮き上がりつつある染みに身構えるのだった。

317七つ怪談探偵部:2008/05/27(火) 22:45:58
辺りの本棚を薙ぎ倒しながら現れた歪な人型をした怪物を見つめながら、二人は少しずつ横に離れていた。
机の上から拝借したカッターを構えながら、アサヒは注意深く相手の動きを観察していた。
(硬そうだよな…)
一見して攻撃が通りそうなのは先程からぎょろぎょろと世話しなく動いている目位で
他は赤黒く硬そうな皮膚―岩に血管の様な悪趣味な彫刻を施せば、こうなるのだろう―に覆われていた。
「アーちゃん!」
離れて身構えているフヨウが奥を指差す。
見れば、緩慢に左右に揺れる怪物の後ろにぽっかりと穴が空き、人の居る気配があった。
「どのみちこいつを倒さなきゃダメって訳、かっ!」
床を蹴って、怪物へと駆け出す。
(動きが鈍いのならば、目を…!?)
焦点のあってなかった瞳が不意にアサヒを捉える。
罠だと分かった瞬間には、鈍い痛みが体を走り、視界が回っていた。
「アーちゃん!」
フヨウの声をやけに遠くで感じながら、アサヒは胸中で毒づいた。
(くそったれ、味な真似してくれんじゃねぇか)
けれど、アサヒとてただで殴られたつもりはなかった。
目に突き刺さったカッターに血を巻き散らしながら悶えるそれの姿にザマアミロと思いながら、彼女は意識を手放した。


「アーちゃん!」
吹き飛ばされ、本棚にと一緒に倒されたアサヒを見た。
苦しそうに、けれど無事そうな彼女から怪物に視線を戻す。
片目を潰され、怒りに満ちた視線をぶつけてくる。
フヨウはそれに無表情で応えた。
「残念だけど、ぼくは君を怖がらないよ」
右の人指し指を銃の形にし、狙いをつける様に向ける。
すると彼女の足元が再びざわつき始め、黒い物が溢れ出す。
その様子に勝てないと思ったのか、壁に戻ろうとする怪物であったが
何かに気付いたのか、辺りを見回す。
「探しものは彼女かい?」
黒い物の中から現れた少女を顎で示しながら、フヨウ。
「さっき、君とアサヒがやりあってる隙に返してもらったよ」
その言葉を理解したのか、はたまた獲物を取られて怒っただけか。
怪物は腕を振り上げながら、フヨウへと迫る。
「ばーか」
ばりっと怪物にひびが入る。
「もうここはぼくの領域だってまだ気付かないの?」
粉々になったそれを見上げて、彼女はニタリと笑った。
「格が違うんだよ」
恐怖に染まる魔物の目にもひびが入り、
「ばーんっ」
撃つ様な仕草を合図にするように怪物は跡形もなく消し飛んだ。

318七つ怪談探偵部:2008/05/27(火) 23:01:45
「で、何か知らねぇ間に大騒ぎになったと」
「ふぅん?」
膝の上で話を聞いていた少女がそう声を上げた。
あの後、“偶然”崩れた奥の穴から多くの人骨が出たとテレビ局やマスコミが殺到し、
学校中がその話題で持ちきりになった。
どの骨もかなりの年数が経っていた為、建設時に埋められた死体だとか戦中に逃げ込んだ生徒のなれのはてだとか様々な憶測が飛び交った。
「ま、妖怪の仕業って言っても信用しねぇだろうし」
助け出された生徒は何が起こったか、一切覚えておらず、
アサヒ達も図書委員のイズミの手伝いをした事となっていたため、なんとか表沙汰にはならずに済んだ。
「人間って目に見えない物は信じたがらないしね」
くすくすと笑う少女の頭を撫でてやりながら、アサヒも釣られて笑うのだった。

319未熟:2008/05/27(火) 23:11:52
 人によって笑顔になる瞬間は様々だ。
 欲しい物が手に入った時。好きな人の傍にいる時。
 また、ある人にとっては顔をしかめるようなことでさえも。
 無論それらを集約すれば、嬉しい時・楽しい時などになるのだろうが。
「けど、お菓子を食べることにここまでの笑顔を浮かべる人も珍しいんじゃないかな…」
 この世の幸福を独り占めにするような満ち足りた表情で饅頭を頬張る霊夢を、
我知らず苦笑しながら見つめるリディア。
「それは食べたい時に食べたい物を食べられる人の意見よ」
 急に普段の表情に戻り、ぴっとリディアを指さす。
「そういうもの?」
「そういうもの。……やっぱりお茶請けは和菓子に限るわ」
 言って緑茶をすする。
 そういうものなのだと言われれば、そういうものなのだろうか。
 試しに霊夢を真似て緑茶を口に含んでみる。
 苦い。
 決して不快ではないのだが、さりとて好んで飲みたいと思うものでもない。
 そもそも緑色の飲み物というのが何とはなしに意欲を削ぐ。
 ここでの暮らしや霊夢との付き合いも大分長くはあるものの、こういうところ――
それはいわゆる和の文化とでも言うべきもの――は未だに理解できないところが多い。
「別に理解する必要もないわ」
 見透かされた。
「人は人。自分は自分。その仕切りは明確にしておかないと、
 いざという時自分の中で自分の不在証明を見つけることになりかねないわよ」
 おまけに言っていることがいまいちよくわからない。
 とりあえずわかったような振りをして頷いておく。
「そう。そうやってわかった振りをしておけばいい」
「…………あはは」
 苦笑い。

 と、突然玄関の扉が開いた。
「おい、そこの紅白!」
「…………はぁ?」
 紅白に該当する人物はこの場には一人しかいない。
 当の本人もそれに気づいたようで、訝しげに声の方を見遣る。
 その声の主――橙はと言えば、スペルカードをびしっと掲げ、高らかに宣言した。
「私と弾幕ごっこで勝負しなさい!」
「やだ」
「はやっ! 即答拒否!?」
 ばたばたと手を振り回す橙。
「いいから勝負しなさい! この腋!」
「何ですって?」
 一オクターブ下がったトーンにびくりと体を震わせる。
「……ねぇ、橙。一体どうしたの?」
 明らかに普段と様子が異なるその姿に、リディアが疑問を投げかける。
「……私は」
 項垂れたまま、それまでのテンションが幻だったかのようにぽつぽつと語り出す。
「私は、誇り高い式の式で。絶対、ぜったい無様な真似を見せちゃいけないんだ……」
 それだけで霊夢は事情を察したらしい。深々と嘆息して、
「強さが誇りだなんて明快ね。式の式とは言え、アレの流れを汲んでるとは思えないわ」
「バ、バカにするのか!」
「そうね、あんたはバカだわ」
 鋭いまなざしを突き付ける。
 意気を奮っていた橙がはっと息を飲むほどに。

「あんたはこれまで一体自分のご主人様の何を見てきたの?」

 橙の目から大粒の涙がボロボロと零れて落ちた。
「後はあんたに任せるわ」
 例によってアーチェの箒を手に取り、霊夢は立ち去ろうとする。
 張りつめていた糸が切れたのだろう、大声で泣き崩れる橙には目もくれない。
「言うだけ言っておいて? それは勝手なんじゃないかな」
「勝手で結構。泣く子をあやすなんて性に合わないもの」
 それと、と、
「冷静に自分の立ち位置を見据えて、それでも前に進む気があるというのなら。
 私が退屈を持て余して死にかけている時くらい、相手をしてあげると伝えて頂戴」
「……素直じゃないんだから」
 やはり、苦笑。

 ちなみに、この直後に橙の泣き声を聞きつけ文字通り飛んできた藍と一悶着あったのは、また別の話。

320ABY10.アクシラの戦い:2008/05/29(木) 08:14:59
遠い昔…遥か彼方の銀河系で…

――アウター・リム・惑星アクシラ軌道上

キュートリック・ヘゲモニーを構成する惑星の一つである、商業惑星アクシラ。アウター・リム
には珍しく、超高層ビルや帝国軍の大規模な駐屯地・造船所を擁する惑星であり、バスティ
オンにも匹敵すると謳われる規模を誇る。そして、帝国宇宙軍のNo.2のピエット大提督の出
身惑星でもあった。

今ここで、リヴァイアサン同士の戦いが始まろうとしていた。戦略的に非常に価値のあるこの
惑星に眼を付けた反乱同盟軍が侵攻を開始したのだ。大規模な艦隊を繰り出し、アクシラの
衛星を次々に押さえ、本星へと向かいつつあった。その艦隊の中には、全長17km.を誇る、
反乱同盟軍の新鋭艦のヴァイスカウント級スター・ディフェンダー4隻が確認されていた。

アウター・リムの防衛はナターシ=ダーラ上級大将の管轄である。しかし、彼女はヴァイスカ
ウント級に対抗しうる、スター・ドレッドノートを有していなかった。そこで、ただちにピエット大
提督とニーダ大提督、そしてキラヌー提督の艦隊が来援し、決戦の運びとなった。

反乱同盟軍は4隻のスター・ディフェンダーに、40隻を超えるモン・カラマリ・スター・クルーザ
ー、100隻以上のボサン・アサルト・クルーザーを擁し、対する帝国軍は5隻のスター・ドレッド
ノート、86隻のインペリアル・スター・デストロイヤー、それに加えてクルーザー多数である。
数では帝国軍が優勢だが、反乱軍の艦船は防御力が極めて高い事を考えれば、互角と言
えよう。

帝国軍の司令官はファーマス=ピエット大提督、ロース=ニーダ大提督、ナターシ=ダーラ
提督、キラヌー提督、オキンス提督、ヴィラ=ニーダ提督。
反乱同盟軍の司令官はアクバー提督、ハイラム=ドレイソン提督、ウェッジ=アンティリーズ
将軍と、錚々たるメンバーであった。

321ABY10.アクシラの戦い:2008/05/29(木) 08:15:57
――ESD『エグゼキューター』・作戦室

作戦室にはすでに大提督や艦隊提督、参謀長達が集結し、統合作戦室が設置されていた。
首席参謀長として、レティン=ジェリルクス中将が任命されたが、居並ぶ参謀長達も歴戦の
知将・謀将ばかりであった。ペレオン艦隊のドゥレイフ参謀長、ニーダ艦隊のアーク=ポイナ
ード参謀長が有名である。

アウター・リムの統括はダーラ提督の管轄である。しかし、総司令官は最先任の大提督であ
る、ピエットの手に移った。ピエットの発言で会議が幕を開ける。

「それでは作戦会議を始める。ダーラ提督、現状の説明を」

その声に30代半ばの女提督が立ち上がり、敵軍と自軍の位置が示されている周辺の星図
のホロを映し出した。そして張りのある、女性にしては少々、低い声で話し始めた。

「完全に出鼻をくじかれています、すでに3つの衛星は反乱軍の手に落ち、本星への先遣隊
の散発的な攻撃も見受けられます。しかし、衛星の防衛施設は守備隊が爆破した為、使用
不能。つまり、大した脅威ではないでしょう。純粋な艦隊決戦でこの戦いの決着は着くと考え
られます」

女だてらに猛将として知られる彼女は決戦を進言した。自分の領域を蹂躙された事にも我
慢がならないのだろう。しかし、「ですが」と付け加えた。

「ここは威力偵察を行っていると思われる先遣隊を漸次撃破することが有効と思われます。
アクシラの防衛シールドや防衛兵器は依然として強固なままです。損害を出さずに撃破で
きるでしょう」
「大変結構だ、提督」

彼の方を向いて一礼すると、再び彼女は席に着いた。次に発言したのはニーダ大提督であ
る。端正な顔立ちは、彼の知性と冷静さを滲ませており、いかにも実力派といった将であっ
た。しかし、今回ばかりは予想もしない発言を行った。

322ABY10.アクシラの戦い:2008/05/29(木) 08:21:17
「ふむ…これは早期決戦で行くしかないように思われるが」
「なんだと?」

ダーラの案に心中賛成していた、ピエットとペレオンが思わず驚きの声を漏らす。居並ぶ提
督達も、彼女の案に賛成した者は一斉にニーダに疑問の視線を投げかけた。しかし、ニーダ
はそのまま補足説明を行った。

「お二人とも、今ディープ・コア、コア・ワールド、エキスパンション・リージョン、コロニー界は
ガラ空きなのですよ?2週間前の反逆を忘れておりますまい?」

全員がはっ、とした。数週間前に、それらの宙界に隣接するアウター・リムのとある星系の
モフが副官に暗殺され、彼が新たな総督として、反乱同盟軍と手を組んだ事を思い出した
のである。それらを足掛かりにすれば―――

「更に、何も明確に反旗を翻した人間ばかりが野心を抱いているとは限りませんからね?」

これは、スローン大提督と十条大提督の事を暗に指している。二人とも外宇宙の未知領域
からそれぞれパルパティーン皇帝とダース=ヴェイダーによって抜擢された者である。この
二人は過酷な帝国の辺境の辺境、最外殻部の任務にあてられている。しかも、スローンは
自分の帝国を創設したり、母国のチス帝国との繋がりを絶っていないし、十条は反乱同盟軍
との繋がりがあるとされている。どちらか一人でも行動を起こせば、帝国は最大の窮地に立
たされるであろう。全員が蒼褪めた。彼らをよそに、彼は自分の意見を締めくくった。

「以上が、私の意見だ」

そう言って、彼は自分の席に着いた。重い沈黙が場を支配していた。帝国の崩壊の危機も
さることながら、本音を言うと、誰もダーラ提督の為に、自分の兵力を消耗させたくないのだ。
スター・デストロイヤーの一隻も破壊されれば、大損害である。しかし、そんな事がピエットに
でも知られれば即左遷、機嫌が悪ければ、処刑も有り得る。誰もがこの危険な状況を自分
にとって最小限の被害で乗り切れるかを考えていた。

323風邪の日:2008/05/31(土) 10:31:14
全身を包む不快感と寒さに早苗は身を縮込ませていた。
幻想郷に来てから初めての風邪であった。
二柱の神はというと知り合いを手伝いに呼ぶと言い、彼女にはゆっくり休むよう念を押したのだった。
先程から誰かが台所に立つ音がするのももしかしたらそのためかもしれない。
包丁がまな板を叩く音。味噌汁の良い香り。
「…お母さん」
不意に外に居るであろう、母の顔が横切る。
と、同時に胸をずきりとした痛みが走る。
そのあまりの痛みに堅く閉じた瞼から涙がこぼれ落ちる。
だからだろうか、誰かが布団のすぐ側にまで来て、頭を撫でる迄早苗はその存在に気付かなかった。
「こっちみるなよ?」
知らない女性の声に思わず振り向きかけるも、相手はそれを嫌がった。
「大丈夫だ、暗いもんは皆持っていってやる」
頭を撫でられる度、早苗の胸から痛みが徐々に失せていった。
「だから、今日くらい休んどけ」
すっと手が頭から離れていくのを感じ、早苗はようやく目を開けた。
見覚えのある、ツンツン頭が後ろ手に襖を閉める姿がそこにはあった。

324暇潰:2008/05/31(土) 16:17:09

 人生は退屈だという人がいる。
 だが、それは間違いだ。
 それは人生が退屈なのではなく、退屈な人生を自分で選んでいるだけ。
 本当の意味で退屈な人生というものがあるのなら、それはこの世の
ありとあらゆる事象を知りつくし、その因果まで把握していることだろう。
 すべてを知り、すべてを識るが故に、すべてが予測可能な結末へ帰着する。
 たとえそれがどれだけ破滅的な末路であったとしても。
 そんな不変性こそが、真の退屈。

 私は退屈だった。

 だが、どうやら私はこの世界の神には愛されているらしい。
 私がこの世で最も嫌うものは、ここにはない。
 確かに私はこの世界の構造をわずかだが『知って』いる。
 それは――これこそ実に陳腐な表現と言えるが――神の恩寵とやらによるものだろう。
 だが、私の持ち物はそれだけ。
 この世界の趨勢も、輪廻の果ても、私には見えない。

 そのことに幸福を感じられる人間など、私くらいのものだろう。

「アスミ、それに梨花にレナも。お饅頭買ってきたから食べよ」
「まんじゅー食べるー」
「わ〜〜〜い、ボクおまんじゅう大好きなのです」
「お饅頭もいいけど、喜ぶ二人の方がもっとかぁいいね〜、お持ち帰り〜〜」
「はいそこー、さも当然のように二人をお持ち帰りしない」

 この、何もかもがありきたりで、けれど何も予測しえない世界。
 ゴールさえ存在しないかもしれない、虚ろで不安定な世界。
 そんな世界だからこそ、さぞ私を楽しませてくれることだろう。

 ――廻れ。夢が終わるその時まで。

325趣味:2008/05/31(土) 22:00:38
べべんっ。
今の日本人には大分馴染みがなくなってしまったその音色に紅は足を止めた。
「……三味線?」
しかも流れてくるのは某お姫様のテーマ曲。
ついつい腕を振り上げたくなる衝動に駆られながらも、とりあえず音源を見る。
「……ベオーク?」
見覚えある仮面を被った女が真顔―口しか見えないが多分―で三味線を一心不乱に奏でている。
べけべけべけべけ。
見ればその前には何故か正座した彼―今は彼女の娘が微妙な顔をしてこちらを見ていた。
「…やあ人間」
そりゃまあ父ちゃんがいきなり性転換したり、三味線弾き語り(語ってないけど)すれば誰だって正気を疑いたくもなる。
そもそもダークマターが正気なのかはしらんが。
「…父に聞いたんだ、趣味の一つくらいはないのかと。
後悔した、すっごく」
そこで三味線を出す奴も凄いが、それをおとなしく聞く方も聞く方だ。
「…でだ、なんで東方なんだ。てか、いつの間にネクロファンタジアになった」
相変わらず一心不乱な彼をとりあえず無視しつつ、尋ねる。
ふっとどこか達観したような顔で少女がそれに答える。
「先程八雲の大妖がな、あれに楽譜を渡しおってな」
ま た ゆ か り ん か 。


そこでふと気付く。メロディにいつの間にか笛が加わっている。
見れば、酔っ払い鬼が楽しげに笛を吹き、太鼓が打ち鳴らされ、
辺りはさながら縁日の様な賑やかさに溢れかえっていた。
呆れ顔の少女の隣で目を丸くしていると横からにゅぅっと杯を持った手が差し出される。
手の主を見て、紅は笑いながら杯を受け取った。
気付けば、狭い部屋はいつの間にやら緑生い茂る森の中へと転じ、
不思議な姿の者達がそこここで輪を組み、手を打ち鳴らし、踊っていた。
八雲の百鬼夜行。
そんな単語が頭を横切り、彼女は杯を乾かし、隣でいまだに状況が把握出来ていない少女の手を取り、
宴の輪へと入っていくのであった。


夜はまだ、これから―

326安寧:2008/06/01(日) 22:39:40
 我知らず、月を見上げていた。
 望を一夜巡った十六夜の頃。
 冴々と、満ちぬ金色が空を灼く。
 その不完全さが、あたかも今の自分をも映しているようで。
 目を逸らしたいと思いながら、目を離すことが出来ない。
 慣れた手つきで懐から直方体の物体を取り出す。
 軽く手を振る。
 ふいにその手が凄まじい勢いで燃え上がった。
 だが当の本人は気にも留めず、もう片方の手だけで箱から器用に一本だけ
煙草を取り出し口にくわえると、おもむろに燃えた手に押し当てた。
 紫煙をくゆらせる。
 深夜の神社は、神聖と言うよりも荘厳な感じがした。
 そんな境内の真ん中に腰掛けても、咎める者はいない。
 独りだ。
 ぼんやりと、どこかに置き忘れた心を探す気力もなく。
 煙草の灰が落ちることにさえ関心を持たずに、やや肌寒い夜気に包まれる。
 ふいに顔を俯かせる。
 と、煙草の煙が目に入った。
「……つっ」
 目をこする。突き刺さるような痛みに、目頭が熱くなった。
 涙がこぼれる。
 そして――止まらない。
 感傷だ、と思う。
 打ちひしがれた時ほど、独りの重みがのしかかる。
 それが孤独なのだということを、痛いほどに知っている。
 ――蓬莱の宿命は、すなわち孤独という地獄を背負うことに他ならない。
 人と交わることは許されず。
 人ならざるものとして生きるには、人の心が邪魔をする。
 何者にもなれない、不完全な存在。
 そんなものはこの永い生の中で何度となく味わったというのに。
 腕をもがれる痛みには慣れても、胸が潰れる痛みには慣れられない。
「………………ぐや」
 何かを言いかけ、やめる。 
 それは自分という存在の全否定に繋がる気がした。
 ――そう、憎しみだけあればいい。
 今、私が存在してしまっているのは誰のせいだ?
 決して赦されてはならない生の出来損ないを生み出した大罪人は誰だ?
 そうだ、怒れ。
 憎め。

「……ああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!」

 そう。それだけでいい。
 忘れよう。
 人としての感傷など蓬莱人には毒でしかない。
 怯えも、迷いも、苦しみも。
 すべては人が背負う業。

 ――滅びぬ身には、尽きぬ煙を生む炎こそが相応しい。

327空飛ぶバケツと妖怪:2008/06/02(月) 00:00:35
「ねぇ」
「何かしら?」
キセルに煙草を詰めながら答える八雲紫に紅はしばし間を置き―また問いかけた。
「あそこの張り紙、あれ読んだかしら?」
引きつっ笑みを浮かべた柱に張りつけられた紙を指差す。
「んー、どれどれ」
煙草に火をつけ、指差されている張り紙に視線を向けるとあらっと声を上げる。
「またずいぶんと下手くそな字ね。これは貴方が?」
「妹がのたくりつつ書いてました」
「あらそうなの」
紫はそう言うと、煙をふかす。
雑味が少なく、それでいて芳しくまろやかな煙が舌へと広がる。
その味に感慨深く頷く。
「上物ね」
彼女の言葉に、紅はどす黒い笑みを張り付けたまま張り紙を見る。この場所で喫煙禁止!と書かれた紙から、再び煙草を入れ換える彼女を見る。
「ねぇ紫…」
手に水の入ったバケツを持ち上げながら、
「アタシの目がおかしくなきゃここ禁煙よね?」
「そうみたいね…」
ぷかり、と煙を吐きながら、小首を傾げて―ポンと手をうつ。
「だけど、煙草禁止してるわけじゃないんだから」
「うん」
「余裕でセーフね」
「ソウデスカ」
紅は深く声を落とし、バケツの底に手を添える。
「んな屁理屈通用するかあぁぁぁぁっ!!」

バケツと水と一緒に空を舞いながら、紫はぷかりと煙を吐き―
「やっぱりこのくらい刺激があったほうがいいわね」
そんな言葉を一緒に吐き出すのだった。

328図書館:2008/06/02(月) 16:30:36
とある大学附属の図書館の個室。
静けさが増したここで聞こえてくるのは、ペンが紙を滑る音と自身の呼吸だけ。
考え事―大体はループして、強制終了―するのには絶好の環境だと彼女は思っている。
ぺらり、と紙を捲る音に人間が顔を上げ―
「はぁい」
…何も見なかった事にして顔をレポートへ戻す。
「ちょっとぉ、無視しないでよ」
酒臭い息を吐きながら、鬼が彼女の手元を覗き込む。
「心理学ぅ?」
「…別にいいでしょ」
横に積み上げた本の背表紙を指でなぞり、目当ての本を引き抜く。
その様子に鬼は何か企む様に一番上の本を持ったまま、中身に目を通す振りをしながら、人間を見る。
「自分の心も分からない魔道士が心理学とはねぇ」
にまにまと笑う鬼に人間は答えない。ただ彼女が来る前と変わらず、ペンを滑らせている。
期待外れだったかな?とイマイチ反応のない人間を見ながら、仕方なしに本を見る。
「分からないからこそここにいる」
しばらく間を置いてから、人間が答える。
「機械だなんだで視覚化することも確かに出来る。
けど、そこに込められた思いは見ることは出来ない。
苦しみや恐怖が脳の作り出した幻想なら「私」という存在だって本当は只の幻想かもしれない。
それならどうして…」
「わわっ、ちょっとタンマ」
慌てて手を振って止める鬼に人間は口を閉ざす。
「まぁあんたが悩んでるのはよく分かってるけどさぁ…つまるところ今なにしてんの?」
頭に疑問符を大量に浮かべながら、問掛ける鬼を見つめながら、今度は人間が笑う。
「心理学のレポート書きながらエセ哲学って名前の妄想」
「なにそれ…」
普段ならば、他者を拒絶するように静まりかえった大学附属図書館の一室。
今日のそこは呆れた様子の鬼と楽しそうな人間の笑顔が咲いていた。

―レポートの裏―
図書館の閲覧個室が静かで好きです。
たまに寝るけど
―レポートの裏―

329鶏の屠殺はお嬢ちゃんのry:2008/06/03(火) 00:30:24
「はぁ…」
と溜め息をついたのは、籠に入れられた鶏を眺める早苗であった。
立派な体格のおんどりは重しを乗せられた籠の中でココッと鳴いている。
里に信仰を集めに行った際、とある村人から「夕飯に」と貰ったものだ。
しかし、鶏と夕飯という二つのワードに早苗の心は激しく揺れた。
思い出すのは小学生の頃。
夜店で売られていたカラーヒヨコに「ピヨちゃん」と名をつけ、大層可愛がっていたのだが
ある日、昨晩まではいたはずのピヨちゃんの姿はなく、心配になった早苗は母に尋ねてみた。
そして返ってきた答えは―

…幼少期のトラウマに思わず顔を被ってブルブルと震える早苗。
だが、ここは幻想郷である。
パックに包まれた鶏肉や魚など勿論存在しない。
ならば、自分で手にいれるしかない。そろそろ兎肉も飽きてきたし。
そうだ。今の自分は兎を捌けるまでに成長している。今更何を恐れるか。
そんなこんなでようやく決心のついた早苗は手早く服を着替え、包丁を手に鶏に挑んでいった。

…余談ではあるが、鶏はきちんと絞めてからでなければ首を落としてはない。
もし万が一まだ息のあるうちに首を落とすと世にもおぞましい光景が広がる事となる。



その日上がった大音量の悲鳴は妖怪の山全体に響きわたったという。
(鶏はそのあと神奈子に美味しく料理されました)

330願望:2008/06/04(水) 23:26:17
 炎が吹き荒れる地獄絵図が止んで、しばし。
「……妹紅」
 ふいに、誰かに名を呼ばれた。
 どこか懐かしい、その声音。
 ひどく緩慢な動作で、声の方を向く。
「…………慧、音」
 自分の声がかすれているのがわかる。
「どうした? ずいぶん荒れてるようじゃないか」
 上白沢慧音。
 それは紛れもなく友と呼べる者の名だった。
「そんな……ことはない」
 バツが悪そうに顔を背ける。
 打ちひしがれた姿を見せたくないと思うのも、所詮は人間としての感傷だろうか。
 そんな自分を誤魔化すように、煙草に火をつける。
 そうして、月を見上げた。
「なぁ、妹紅。知ってるか」
 急に話を切り替えられ、妹紅は面食らう。
「人は無意識に行う動作ほど、自分ではそれに気づかないものらしい」
「私は蓬莱人よ」
 自虐的な発言を、慧音は無視。
「なぁ、妹紅。知ってるか」
 同じ言葉を繰り返す彼女に、妹紅は軽い苛立ちを覚えつつ問い返す。
「……何を?」

「お前は辛い時に限って、今みたいに月を見上げるんだ」

 まだ半分も残っていた煙草が、落ちた。
「私がここに来るまでの間に、何があった?」
 詰問するような声音ではない。
 慧音の声はどこまでも優しい。
 だからこそ、妹紅は胸を抉られるような痛みを覚えずにはいられない。
「……何も、ない」
「――妹紅」
「何もない。いつも通りよ」
 断ち切るような、一言だった。
 慧音はわずかに眉を伏せ、「そうか」とだけ呟いた。
 会話が途切れそうになる。
 そのことに、何故か妹紅はある種の危機感を覚えた。
「ねぇ、慧音」
「何だ?」
「自分が自分であることに疑問を抱いたことはある?」
「……また随分と哲学的な質問だな」
 苦笑。
「私は私でしかない。私でない私がいるとしたら、それは私ではないからな。
 ……と、いつもなら答えるかもしれないが」
 その笑みも、すぐに消える。
 決して曲げることのない意思を宿したその相貌は、誰の目にも美しく映ることだろう。
「白沢の血を宿す私には、究極的に人間を理解することは出来ない。
 それを嘆いたことがないと言えば、嘘かやせ我慢にしかならないだろう」
「……そう。そうでしょうね」
 落胆する自分がいることに、妹紅は驚いた。
 何を期待していたのだろう。
 ――慧音が人ならぬことを肯定したところで、自分の心が人でなくなるわけではないのに。
「けれどな、妹紅」
 慧音の横顔に、妹紅はハッとする。
「私は私だったからこそ、今お前とこうしていられると思うんだ」
「私が、私だったから……」
 それはつまり、妹紅が蓬莱人であるからこそ慧音と知り合えたということ。
「辛いか、妹紅」
 慧音の手が、妹紅の手を包み込む。
 先程の炎に比べれば遥かに弱く、しかし何にも勝る温かさ。

 ――失われた心の隙間を埋める、小さな小さな欠片。

「お前の苦しみを理解してやることは、私には出来ない。
 私が万の慰めを語ったところで、張子の虎よりも浅薄に映ることだろう。
 ……だが、それでもお前は私に願う」
 包み込む両手に力がこもる。
 慧音は無表情だった。
 無表情に、涙を必死に堪えていた。
「お願いだから、人であることを忘れないでくれ。
 お願いだから、人であることを捨てないでくれ、妹紅……」

 妹紅は、動けなかった。
 何も、出来なかった。

331ぐつぐつ、ぐらぐら:2008/06/05(木) 00:33:21
コンロにかけられた大小のヤカンを見つめながら、彼は台所の隅に追いやられていた踏み台を引っ張りだし、腰掛けた。
頼まれたのは、15分ほど前。
麦茶の番を頼まれた彼に姉妹の下の方が小さなヤカンの番を頼んだのだ。
風呂上がりに茶を飲みたくてね。
肩にタオル、手に着替を持った彼女はそういうと彼が何かを言う前に
さっさとコンロにヤカンを置き、風呂場へ行ってしまったのだ。
だが、と彼は二つのヤカンを前に腕を組んだ。
どちらとも火の番という意味では大差なかった。
それが大か小か、誰に頼まれたか、そのくらいの違いだった。

ぐつぐつ

湯が沸いてきたのか、ヤカンの中で水の踊る音がする。
それはどこか人の鼓動のようだ、と彼は思った。
人の姿をした―人とは似ても似つかない彼にはどこかそれがうらやましくも感じられた。

ぐつぐつ、ぐつぐつ

体を流れるそれがやけに気になると言ったのは、件の妹だったか。
神経質の気がある彼女は首を巡る鼓動が妙に擽ったい。そう彼に話していた。

ぐつぐつ、ぐらぐら。

そうだとすれば、ちょうど目の前のヤカンの様な振動を彼女は感じているのだろうか。
ほんの少し、彼は興味をもった。



ちょうど彼女が風呂から上がるのと湯が沸くのは同じタイミングであった。
やっぱり鼓動とおなじなのかと聞くと、彼女は訳が分からんと熱い茶を飲むのだった。

332ABY10.アクシラの戦い:2008/06/05(木) 18:58:29
決戦に持ち込む…と言っても簡単な話ではない。敵はこちらの動揺を推測しているだろう。ひょっと
すれば、数週間前の事件もこの為に引き起こしたのかもしれない。それ故に、敵は決戦を避けたい
筈だ。逃げるのも彼らのお家芸である。しかし、彼らの想定するほど帝国軍は無能ではなかった。

「衛星を奪回しましょう」

ジェリルクス参謀長が言った。一見、不毛な行為に思えるが、彼の説明で将帥達は納得に達した。
彼らの戦いの動機は何か、自由と正義である。それは何が支えているか、仲間との連帯である。彼
らは仲間が危機に陥ったならば、総力で救援にかかるに違いない。若き参謀はそう考えたのだ。

「それでは衛星侵攻部隊ですが…」
「参謀長、私に発言の機会を与えてはくれないだろうか」

ピエットが彼の言葉が途切れるのを見計らって機会を求めた。彼には大提督が何を言いたいかは
分かっている。無論、それに問題は無いの座を譲る。もっとも、問題があったとしても、彼に逆らえる
筈は無いが。

「ありがとう、参謀長。その任にはアッシュ将軍を向かわせたい」

一斉に視線が緑の制服の女将軍に集まる。しかし、そのような視線など、我関せずといった風で流
し、腕組みをして悠然と構えていた。

「私がか?ふ…少し運動をしてくるかな」

大胆不敵な発言である。帝国の司令官は大抵、スター・デストロイヤーや要塞で指揮を執るものだ
が、中には自ら前線を駆けて、将兵と労苦を共にする者も居る。代表的な者にヴィアーズ大将軍や
ズィアリング大将軍、コヴェル将軍が挙げられるが、彼女もその一人であり、赤い光刃のライトセイ
バーや銀の剣を高く上げ、時には徒歩、時には馬、時にはバイクに跨り先陣を切る姿は将兵にとっ
て頼もしいものであった。

「では、ウォーカー部隊を1個大隊、歩兵部隊を1個師団任せるから、思うように暴れてもらおう」
「Yes My Lord」

333夢の跡:2008/06/05(木) 19:19:35
手を繋いでいた。
暗闇の中で見失わないよう、幼い子供の様にその手をしっかりと握っていた。
名前を何度も呼びもした。
手が、離れる。
暗闇が晴れていくと同じく、相手の姿もかすれ消えていく。
嫌だ、おいていかないで。
手を伸ばしてももう触れる事も出来ずにただその困った様な悲しそうな笑顔だけが瞼に残った。


二度寝の目覚めは酷いものだった。
涙が頬を伝い、胸が悲しみで潰れそうだった。
ふと、部屋が広い気がして、辺りを見回し、
「――」
言いかけてやめる。
誰も、答える訳がない。
この部屋は自分一人の部屋で他に誰も居ない。
今までと変わらない筈のそれに止まっていた涙が再び流れ出す。
言葉になれなかった声が口から溢れていくのをもうどうすることも出来ない。

やがて、ふらりと立ち上がり、机に置かれた紙へペンを走らす。
書くこと等ほとんどなかったが、真っ白なそこにただ一言残し、
ゆっくり瞼を閉じた。


明日も、変わらない朝が来る

334廊下:2008/06/06(金) 23:24:19
ギシリ、と廊下が軋む音に早苗は思わず肩をすくめた。
いつもの事なのだが、それでも寝惚け眼で廊下へ出ると体がすくんでしまう。
まるで子供のようだ、と溜め息を付きながら、廊下の奥の廁へと足を運ぶ。

ギシッ。ギシ。

しばらくしてふと気が付く。
自分の後ろに誰か、いる。
別に驚く事はなかった。きっと、八坂様か洩矢様か両親のどちらかも廁なのだろう。
大して気にも止めず、廁に入る。
その間にも廊下の軋みはゆっくりと廁へと近付いて―ふと妙な音が混じっている。

ギシッペタッ。ギシッペタッ。

二柱の足音とは違うそれに早苗の顔から血の気が引く。
擦り足気味な八坂様とも跳ねるように歩く洩矢様や両親とも違う誰かが、そこにいる。
途端、彼女は廁から出るのが恐ろしくなった。
心の中で二柱の名前と両親を呼びながら、その場で息を殺していると廁の前まで来た足音―何かの気配は
しばらく廁の前に佇んでいたが、やがてゆっくりと遠ざかっていった。
気配が遠ざかった瞬間、早苗は廁から飛び出し、飛ぶような早さで部屋へと戻っていった。
布団の中で震えながら、早く朝が来ることを祈り―ようやく、鳥の囀りが聞こえた頃
安堵の息を漏らし、布団から頭を出して―

「そこには恐ろしい顔の女性が私をにらんでいました…」
そう締め括る早苗にギャラリーの何人かは思わず身震いする。
「うー…今ので催してきたわ。トイレ借りるぜ」
襖に手をかけ、立ち上がったアサヒはそう断ってから廊下へ出た。
(たしかあっちだよな)
魔法の灯りを揺らめかせながら、廊下を進む。と―

…ギシッ…ペタッ。

足音が聞こえ、彼女は思わず振り向いてしまった。

そして、そこにいたのは―

335紅白:2008/06/09(月) 12:49:26
「お前の事はあまり好きではなかったぞ、ゼロツー」
地面で無様に倒れている男を見下ろしながら、紅い悪魔が囁く。
背後に月を、手には深紅の槍を従えて、彼女は無表情のまま、腕をゆっくりと掲げる。
男はまだ動かない。
散々痛めつけていたからもしかしたら、もう死んでいるのかもしれない。
それでも彼女は男にとどめを刺すべく、槍を―
「……っ!」
視界を埋め尽くさんばかりの朱を男に投げるはずだった槍で迎え撃つ。
それでも、相殺するには少し及ばず、悪魔は舌打ちをしながら、朱に飲み込まれた。

「なんだレミリア。跡形もなく消し飛んで死んだか?」
肩を鳴らしながら、瓦礫から白い男が立ち上がる。
月を見上げながら、つまらなそうに溜め息をつき―
「お気遣い感謝しますわ」
背後から上がったその声に一瞬反応が遅れ、次の瞬間には彼は体から無数の針を生やしていた。
倒れ込む男の目の前に蝙蝠が集まり、一つの形を成していく。
「なるほど、蝙蝠となってよけたか」
血を流すことなく起きあがる白い男を前に紅い悪魔がにたりと笑う。
「そういうお前こそ」
針が男の中に完全に飲み込まれたのを合図に二人の足が動き出す。
悪魔が笑う。男も笑う。

互いに闇に生き、不死とされたもの。
そこがお互い気にくわなかったのだ。
片や夜の帝王、片や闇そのもの。

もはや戦いはルールなど存在しない、単なる力のぶつかり合いとなっていた。
悪魔が男の腕を千切り飛ばせば、男が悪魔の羽根を切り刻む。
もはや二人に理性などはありはしなかった。
ただ純粋に、目の前にいる相手を蹂躙し、打ちのめす。それだけだった。
瞳は狂気に彩られ、顔には壮絶な笑みを貼り付けながら。

結局勝負は両者の「飽きた」という一言で決着がついた。
二人にしてみれば、なんともなしに始めた戦いの勝敗など特に気にするものではなかった。
すっかりぼろぼろになった衣服をそこらに捨て、手近な場所に座る。全裸で。
「…そんな格好していいのか?」
特に裸でいる事に抵抗がないのか、男の言葉に悪魔が肩をすくめる。
「減るもんでもないだろ?」
その言葉に男は眉をしかめ、呟く。
「どこぞのパパラッチに撮られても知らんぞ」
パシャッ。
「……やるか」「……ええ」
ものすごいスピードで飛び去ろうとするそれの後を二人は猛スピードで追いかけるのだった。
全裸で。


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336ABY10.アクシラの戦い:2008/06/10(火) 07:48:04
帝国軍はアクシラ本星に一番近い、アクシラⅠに軍を派遣した。陽動部隊の輸送と支援という
名誉を与えられたのは、マイナー=ペレオン大佐率いるスター・デストロイヤー『キメラ』とその
支援艦艇である。彼らは占領後に設置されたシールドを全力で破壊すると、直ちにウォーカー
やトルーパー達を降下させた。

――アクシラⅠ・ピエット宇宙港第3埠頭

故郷の英雄の名を冠した施設が建設されるのはいつの時代も同じである。しかし、それが敵
の手に陥ることは最大の不名誉だ。ピエットはこの施設と付随する都市の最優先での奪回を
命じ、彼の妻とその麾下の部隊は彼の要望に応えることに成功した。そして今は、市内の残
敵の掃討と守備隊の生き残りを回収する任にあたっていた。

――アクシラⅠ・『リトル・ブリギア』区

反乱軍将校「退却だ!退却ーッ!味方と合流するんだーッ!」

市内の到る所にバリケードを急造し、抵抗していた反乱同盟軍だったが、それらは次々に巨
大なAT-ATに踏み潰され、防衛線は崩壊していった。シープ=ジェイオン大佐男爵率いる第
08ウォーカー大隊は無人の荒野を往くが如くの進撃を行っていた。

ワッツ「こちらアクシラ-02、アクシラ-01ジェイオン卿へ、リトル・ブリギアの最後の拠点を制圧。
     敵戦線は崩壊、逃走しつつあり。繰り返す、敵は逃走中!」
ジェイオン「アクシラ-01より、アクシラ-02ワッツ中佐へ、大変結構だ、クズ共は一人も生きて
        帰すな。帝国への反逆がどういうことかその身をもって教えてやるのだ」
ワッツ「Yes My Lord!」

AT-ATから無慈悲にヘヴィ・キャノン・レーザーが放たれ、その度に大勢の自由の戦士達が空
に舞い上がり、その爆発を逃れた者も、AT-STの機銃掃射でヴァルハラ送りにされて行った。

338憐哀編sideイサ、4:2008/06/12(木) 23:12:56

 一日目 PM 18:30

「……なぁ、どうかしたのかお前?」
 春原に指摘されるまで、イサは自分の不調に気が付かなかった。
 いや、指摘されてもなお、イサには言葉の意味がわからなかった。
 だから問う。
「ん? どうかしたんでばさ?」
「でばさって何語だよ」
「現代日本語」
「真顔で嘘吐くな。んな語尾、聞いたことねーし」
「あーぁ、ヨーヘーは流行から取り残されて化石になってしまいましたとさ」
「マジかよ!? ……って、そーじゃねーよ」
 気づいてないのかと、
「お前、さっきからずっと顔が笑ってないんだよ」
 なるほど、とイサは思う。
 確かに気がつかなかった。
 ――普段の自分は、『笑顔であることが当然』と思われていたのかと。

 敗走する文を見送ってから、やってしまったとイサは思った。
 最初は警告で済ませるつもりだった。
 そして、それで終わるとも思っていた。
 文自身が語るまでもなく、文に争う意思がないことなど気づいていたのだから。
 だが、実際にはそうならなかった。
 いや、出来なかった。
 いつもの『悪いクセ』が出てしまったと、イサは歯噛みする。

 イサにとって、苛立ちと殺意は同義だ。
 わずかな心の揺らぎは、即座に対象への破壊衝動にシフトする。
 それはつまりイサの平静を乱すものはイコール抹殺対象になるということだ。
 そんな自分が、イサは嫌いだった。
 だから変わろうと思った。
 変われるとも思った。
 変わったとさえ、思っていたのだ。

 それがすべて自身の楽観的観測にすぎなかったことを自覚したのには、
さすがのイサでも落ち込まずにはいられなかったのかもしれない。
 もっとも、本人がそれと自覚することはなかったが。

339歌唄い:2008/06/12(木) 23:28:33

 夢の歌を唄いましょう。

 ――あなたとそこで逢ったから。

 夜の歌を唄いましょう。

 ――あなたがそれを好むから。
 
 嘆きの歌を唄いましょう。

 ――あなたがそれを望むから。

 終わりの歌を唄いましょう。 

 ――もはやあなたはそこにだけ。


 ………………

340隔たり:2008/06/13(金) 03:41:20
「ふぅ…」
息を吐きながら、ベッドに沈み込む。
書きかけの文章をメモ帳に保存し、携帯と目を閉じる。
「紫…」
ふと彼女の名前が――の口を出る。
それは自分のもう一つの名であり、遥か高みにいる妖怪の名でもあった。
「見てんのかなぁ、自分の事…」
目を開き、天井を指の間から覗きながら呟く。
境界にいる彼女の事だ。携帯に向かう自分の姿を何処かで―あるいは携帯からこちらを見ているのかもしれない。
「ずるいよ」
携帯のモニターにそう声をかける。
もし聞こえたら、きっと彼女はこう応えるだろう。
――――――。
それに――も全くだと笑ってしまった。
やっぱり彼女は自分と比べたら、ずっと大人だ。
茶番ともいえる彼女の話に付き合ってくれているのだから。


そうして背後に降り立つ彼女に『紫』は挨拶を交すのだった。
「こんばんは、紫。今日はカレーだよ」

341奇妙な姉妹の会話:2008/06/14(土) 14:37:04
レミリアは目の前で繰り広げられるその会話に頭痛を覚えていた。

いつもの茶会。
妹と妹が世話になっている家の姉妹を交えた午後の一時。

しかし、姉妹が話す会話はほとんど一貫性がなく、あちらへこちらへとフラフラさまよっていた。
「そういえば」
カチャリ、とカップを置くと向こうの妹が声を上げる。
「庭に植わってるラズベリーってそろそろ食べれるかな?」
「さあ?蒼星石に聞けば分かるかもよ?ところであいつらの仲は進展したんかな」
「たしかさっぱりだった気がするよ、ふたりともウブだからねぇ。
そういえばまたみょうがが生えてきたらしいよ」
「みょうがねぇ…使い道そんな無いよね。
それより帰ったら試しにラズベリー食べてみない?」

「…」
彼女らには理解出来ているようだが、レミリアには一向に理解出来そうになかった。
一体何をどうすればあんな宇宙人の様な会話が出来るのだろうか?
…もうどうでもいい気がして、レミリアは静かに紅茶を飲み干すのだった。



姉貴と話してたら友人に「宇宙人的会話」と言われたので書いてみた
別に普通な気がする

342スノハラクエスト 〜そして伝説へ(ニート的な意味で):2008/06/15(日) 08:52:26

 一日目 PM 20:30
 
「さて、そろそろ帰るか」
 春原がそう言った瞬間、イサの体がびくりと跳ね上がった。
 信じられないことを聞いたとでも言うように。
 あるいは、唐突に夢から覚めたかのように。
「……帰る?」
 もちろん、春原の言葉に他意などはなかった。
 始まりがあれば必ず終わりがある。それだけのことだ。
 デートの終了を男の方から告げるのは、無粋と言えなくもない。
 だが元を正せば、そもそも春原にはこれがデートという意識さえもなく。
 イサのわがままに付き合うのもこれで終わりという、そんな最後通牒の響きくらいは含まれていたかもしれない。
 故に、春原にはわからない。
 何故、イサがそんな表情をするのか。
 ――まるで、裏切られたとでも言いたげな。
 口火を切った春原の方が、逆に言葉に詰まった。
 夜を彩るかすかなイルミネーションが、イサの顔を半ば隠して浮かび上がらせる。
「……こに?」
「え?」

「……ボクは、どこに帰ればいいの?」

 そのあまりに強い虚無の響きに、春原の頬がひきつった。
「どこって……」
 何故か春原にはわかった。
 このイサは説得しなければならない、と。
 それによって何かが得られるという確信ではなく。
 そうしなければ何かが失われるという危機感で。
「家に帰るに、決まってんだろ」
「……家?」
 鼻で笑う。
「あそこは家なんかじゃない。監獄だよ」
 もはやそこにいるのは春原の知るイサではなかった。
 その年相応の体躯と微塵もあっていない諦観のまなざしで、
「ボクはあいつに囚われてるにすぎない」
「……あいつ?」
 そこには明らかに特定の誰かを示す意味合いがこめられていたが、
少なくとも春原には悪意を持ってイサと接している人物に心当たりなどなかった。
 イサの声にはますます強い諦観が混じり、もはや声とさえ思えなくなってきていた。
「ボクにはわかる、わかってしまった。
 この『世界』はもうあいつの手の中にある」
「おい、イサ……」
「あいつに壊されるのは仕方がない。だってあいつは『世界』そのものなんだから。
 だからボクは、そうなる前に思い出がほしかった」
 何かを言い返すには、春原は無力だった。
 ただ、イサには何か絶望を抱かずにいられないものがあり。
 いつか来る――と信じている――破滅の前に、思い出を求めていたことは理解した。
 それ故の――デート。
 と、イサが突然顔をあげた。満面の笑みを浮かべて。
 だが、春原の目にはそれがどうしても痛々しく映ってしまう。
 イサはその目尻にわずかに外灯を反射させる光を浮かべ、言った。

「ねぇ、ヨーヘー。ボクと一緒に、逃げてくれないかな!」

343鬼畜姉妹と天然魔道士:2008/06/15(日) 21:20:12
調子が狂う。半眼のままクリームを泡立てる女の後ろ姿を妹と眺めていた。
発端は先程、咲夜に対して言った一言だった。
「咲夜、体にクリーム塗ってそれを舐めさせなさい」
当然、咲夜は怪訝な顔をしたが、ニコニコと笑った彼女は違った。
「生クリームプレイとは、レミィはうちの旦那並にマニアックだね」
姉妹で紅茶を吹かざる得なかった。
紅茶を一瞬で始末する咲夜を横目に彼女はでも、と続ける。
「あの人、甘いの好きだからアイスでもいいんだけどね」
「えーと…貴方は何の話をしているのかしら?」
あの目玉男恐るべしとか思いつつ、なんとか平静を保つ。
椅子に座り直しながら、引きつった笑みで問掛ける。
今度は彼女が目を丸くする番だった。
「何の話って……ソフトSMプレイの話だけど…」
ごんっ、と妹が机に頭を打ち付ける。墜ちたか。
「フラン大丈夫?どうした?」
自分の発言に問題があるとは思っていないのか、彼女が本気で妹を心配している。
「ううん、なんでもない…ただ酷いノロケをみただけだから」
そこで止めておけばよかったのだが、ついついからかってやろうと口を開いた。
「あら、だったら試しにクリームプレイとやらを見せてもらえないかしら?」
「えー…まあ舐めるだけならいいかもしれないけど」
「「………は?」」
そして、今に至る。
何故かムラムラした様な目玉男が待っているし、彼女は鼻唄混じりにクリームを泡立てる。
「お姉さま…」
「…何?」
「紫って…冗談通じないんだよ」
「…早く言って」
とうとう押さえきれなくなって襲いかかる目玉男にグングニルを投げつけながら、
レミリアはもう彼女に変な冗談を言うのを止めようと心に誓うのだった。

―ボールの裏―
ほんとにロウソクの下位互換なアイス(と生クリーム)。
食べれるからこっちの方がいい気がするけど
―ボールの裏―

344感触・上:2008/06/15(日) 21:44:09
 梅雨の合間に照りつける貴重な陽光に、わずかに濡れた木々が歓喜の声を上げる。
「草だー。花だー」
 歓声なのか客観的事実を述べているだけなのかよくわからない声をあげながら、くるくると回る薔薇色のスカート。
 近場の野原を訪れるだけであれだけはしゃげる感性には羨ましさを覚えなくもない。
 さて、私は一体いつの間に失ってしまったのか――もはや判然としない。
「ちぇええええん、しょーぶだー」
「言ったな赤いの! この前の分も合わせてお返ししてやるからね!」
 最近よくじゃれあっている二人が、時も場所も関係なしに騒ぎ出す。
 それを少し離れたところから陶酔の眼差しで見つめる保護者二人。
 好意的に解釈すれば娘を見守る微笑ましい光景だが、
如何せんどう好意的に見ても「娘を見守る」にしては危なすぎる。
 ――その光景は温かくあると同時にどこか廃絶的で。
 だからと言うわけではなかったが、何とはなしに心は冷めていた。
「……混ざらないの?」
 背筋が震えた。
 心を見透かされたかと思った。
『彼女』ならば、そのくらいやってもおかしくはない。
 胸中の動揺を押し隠し、にこやかな笑みを浮かべた『演技』を使う。
 体調が優れないといったニュアンスを返したところ、彼女は平然とした顔で、
「あの日?」
 ――とんでもない恥知らずだ。
 いや、そもそも恥などという感情を持ち合わせていないのだろう。
 私も相当擦り切れているとは思うが、これ程ではない。
 これを人として分類することは、人間に対する冒涜だ。
「……何か用?」
 声音を変える。いや正確に言えば、本来のそれに戻す。
 他に誰か聞く者がいるのならばともかく、これを相手に演じる価値はなかった。
「いえ、別に」
 突然の変貌にも彼女はまるで動じた様子はない。
「ただ少し聞いてみたいと思っただけ」
「…………?」

「『殺される』って、どういう感触?」

 そこには揶揄も皮肉も含まれてはいない。
 本当に、ただ純粋に疑問に思っているだけなのだろう。
 いやそれさえも定かではない。
「聞くためだけに聞いている」と言われても、彼女が言うなら信じる。

345感触・下:2008/06/15(日) 21:44:47
「……生憎だけど、殺される瞬間のことはよく覚えていないの」
 事実だ。
 そもそもここに来てからというもの、負の記憶はひどく曖昧だった。
 都合の悪いものは存在しない――なるほど、何とも居心地のいい夢ではないか。
「そう。それは幸いね」
 案の定彼女はさして気にとめた様子もなく、言葉を止めた。
 代わりに、今度はこちらが聞き返す。
「世界を思うままにするのは、どういう感触?」
「………………」
 彼女は、しばし無言だった。
 平和な世界から漏れ聞こえる嬌声が、私達を包む境界の外で空々しく響く。
 境界の内側は、夏が近づく世界を嘲笑うように凍りついているというのに。
「……何を勘違いしているのか知らないけれど」
 彼女の瞳は、世界の温度を否定する冷たさを宿していた。
「私は他者の理を代わるだけ。ただ、それだけよ」
「理解できないわね。そんなものを己に強いて、一体何の価値があるの?」
「価値なんて言葉を使っている時点で、あなたに理解することは不可能よ」
 彼女にしてはひどく挑発的な物言いだった。
「そこにあるのは価値などではない。0に価値を生み出す価値はない」
「自虐的ね――それは理解できなくもないけれど」
 自嘲する。
 場所と立場によっては、そこに立っているのは私だ。
「まぁいいわ。私もそれほど興味があるわけではないもの」
「傍観者に留まるつもり?」
「無知は私にとっての安息よ。智者を気取った愚者になるなんてまっぴらだわ」
 こういう会話をしていると、自然と手がグラスを求めだす。
 ここではBern castelもそうそう手に入らない。
「最初はこの世界の構造が気にもなったけど、その必要もなくなったし」
「その心は?」
「私を傍観者以上の存在として扱わないことがわかったから、かしら」
 自然と笑みの質が変わる。苦笑へと。
「もっとも、傍観させることに私は価値を見出されているのかもしれないけれど。
 ――それこそ『神のみぞ知る』と言ったところね」
 と。
 ふいに二人の間を縫うように抜けていったボールが、凍結した世界を叩き壊した。
「ちょっとー、そこのボールとってー」
 ぱたぱた手を振る猫耳娘。
 即座に振る舞いをシフト。
 にこやかな笑みを浮かべて、ボールを精一杯投げ返す。
 そこには一縷の隙もない。演技と言えば、完璧な演技だ。
「道化を続けるのは不便じゃない?」
「演技も貫けば真実よ。無理をしているわけでもないしね」
 私は立ち上がる。
「さて、安らかで不確定な日常へ還りましょうか」
「――それは、幸いね」
 声の返ってきた場所に、もはや彼女の姿はなく。
 頭上を覆い隠す緑の天蓋が、わずかにその葉を揺らしていた。

346紅色月夜:2008/06/16(月) 23:14:17
ふと窓の外が気になり、頭上へと目を向ける。…月と目が合った。
ほんのりと紅を帯びたそれを窓から眺めながら、歌を―歌詞はないから、鼻唄だが―を歌う。
「〜〜♪〜〜〜〜〜♪」
千年の時を過ごしたあの場所でもこの月は見えているだろうか。
もしかするとあちらの月の方がここより人を魅了する力が強いかもしれない。
なにしろ、狂気で瞳が紅へと染まってしまうから―。
(そういえば―)
彼の目も鮮やかな紅色だ。
(彼も独りで月を見上げ続けていたのかな…それとも…)
人々の狂気が彼の目を染めたのか。

一息いれるように息をついて、ペットボトルに口を付ける。
「…自分も」
小さな溜め息と一緒にかすれた声が口を出る。
治す気になれないその癖に胸中で笑いながら、天へ―月へ手を伸ばす。
「自分の瞳も狂気で染まったら、貴方達の所へ行けるかな?」
掴める筈のない月を見上げ、手を閉じかけ―何かを握る。
「…………」
人の手のような感触に目を丸くする。
あちらの手か、他の何かか、見当はつかなかったものの、
笑いながら、その手を離し、そこをじっと見つめる。
黒々としたもの以外何も見えなかったが、それでも怖さはほとんどない。
いずれは自分も、あれになる。それが分かっているから。

そろそろ寝なくては。
小さく欠伸をしながら、そこへ手を振る。

「おやすみ、また明日」


窓から離れようとした少しの間、彼女がそこに居た気がした。


カーテンが引かれ、境界が引かれる

347三割増:2008/06/17(火) 15:28:54
「おおっ!」
何かを手に叫ぶフヨウにアサヒは思わず振り返る。
いつもより背丈が半分ほどになっているが、きっと何かの魔法でも使ったのだろう。
「黒板じゃなくても文字書けた!」
感極まった様に叫ぶ彼女の姿に思わずその手元を覗きこむ。
その手にあったのは…やけに短いチョークだった。
「チョークって偉い!お前凄すぎ!」
従姉妹がおかしいのは今に始まった事ではなかったが、
あまりの反応にアサヒの目から涙が溢れる。
「ああ…本当にすげぇよ」
悲しさ一杯になるアサヒをよそにフヨウはチョークを手にどこかへ走り出すのだった。


どんとそびえたつ紅魔館の塀を見上げながら、フヨウは「おー…」と声を見上げていた。
手にはやはりあの短いチョーク。
「…よし!」
手を上に精一杯伸ばし、爪先立ちになりながら、何かを書いていく。
「あいあいがーさ、あいあいがーさ…と!」
満足したのか、チョークをポケットへ突っ込むとその場から走り出す。

数分後、相合い傘に書かれた「さくや|れみりあ」の文字に誰かがハナマルをつけていた。

348憐哀編sideイサ、6:2008/06/17(火) 22:38:02

 一日目 PM 22:30
 
 デートが逃走劇へと様相を変えてから、早2時間。
 目的なく歩くことへの苦痛を感じ始めるには十分な頃合いだった。
 同じ徒歩でも、どこかに向かうという目的があれば感じる負担は軽い。
 その逆に、ゴールがあるかわからないマラソンなど拷問と変わらない。
 まして冬も最中のこの頃に、日も落ちきった道を淡々と歩くなど。
「………………」
 それでも、春原は何も言わない。
 何も、言えない。
 正直なことを言えば、さっさと帰りたいというのが本心だ。
 いや、誰でもそう思うだろう。
 何が悲しくて雪中行軍(雪は降っていないが)の真似事などしなければならいのか。
「………………」
 逃げるとイサは言っているが、そもそも誰に追われているのかわからない。
 本当に追われているのかさえわからない。
 ひょっとしたらデートと称した引き回しを続けるためのデタラメではないのか、とさえ思えてくる。
 その証拠に、イサの顔はまだ多少翳りは残るものの明るさが大分戻ってきている。
 自分が舐められていることは――不本意にも――自覚している。
 ――ここでそろそろ、男としての立場の強さを見せつけるべきではないか?
 いやそこまで強く出ずとも、詳しい理由を問いただすくらいは許されて然るべきではないか?
「………………はぁ」
 などと考えてみたところで、すべては徒労だ。
 どこに結論を持っていったとしても、結局自分からそれを話題にすることは出来ない。
 つまりこの状況に為す術なく流される程度には、春原には度胸がなかった。
 それすらもイサの思惑通りであるとは、まさか露程にも思わずに。

 引きずり回していることは自覚していた。
 春原はイサに比べて体力面で遥かに劣る。
 もっとも、丸一昼夜歩き続けることも可能なイサと比較するのは酷な話なのだが。
 ――この一件を境に、かろうじて保たれていた関係が崩壊するかもしれない。
 無論、イサがその関係を考えていないはずがない。
 しかしそれは考えても詮無いことでもあった。
 無意味なのだ。
 自分は、あと数日を待たずして、終わる。
 それは決まっていることだ。

 イサが垣間見た『世界の断片』とは、つまりそうされるだけのものがあるということなのだから。

「その時までを、せめて最高の思い出で埋めたいと思うのは、そんなに悪いことなのかな……」
「あ? 何か言ったか?」
 不機嫌そうな春原の声。疲れが混じった息からして、こちらを気に留める余裕さえ失くしかけているようだ。
 イサは首を横に振る。
 春原はバカで、無神経で、結局自分のことしか考えていない。
 今はそれでよかった。
 ――そんな少年が、イサの死を目の当たりにした時に何を思うか。
 身勝手とはつまり心の弱さに他ならない。
 弱い心はイサの死を刻みつけることで、元の形を取り戻すことが出来なくなるだろう。
 一生、イサの死を背負って生きることになる。
 それだけで、イサは満足だった。
 
 ――そして、この『世界』にはそんな些細な望みさえ許さない存在がいる。

349オレオレ詐欺:2008/06/19(木) 23:32:07
「オレだよオレオレ」
一昔前に流行った詐欺の口上を上げる男にフヨウは首を傾げた。
「…誰だっけ?」
「だからオレだよ、オレ」
「……!ああ!オレさんですね?」
電話の向こう側で派手に何かが崩れる音がしたが、男は意外にも早くカンバックした。
「それでオレさんはどうしたの?」
「実は事故って急にお金が要るんだ」
「え、腕とか足とかもげちゃったの?!」
「もげ…!?」
何やら驚く男にフヨウも目を丸くしながら、巻くし立てる。
「あれって痛そうだよね。
こないだもさ、僕のお父さんが電車に引かれて腕もげちゃったんだよ、ズパーンって」
紫の新しいスペカの実験台にされ、腕(羽根の事である)を壊されただけだが、
事情を知らない者からしてみれば、とんでもない話である。
「その前もナハトがフランドールに斬られたり、もう大変だったんだよ」
ナハトがフランドールの弾幕ごっこの相手をしただけだが、
こちらもやはりとんでもない話である。
「た、大変なんだな…」
「ほんとだよーお陰で家計は火の車だってお母さん言ってるんだよ。
最近お母さんも夜は忙しいみたいだしさぁ」


何故だか泣き出したオレさんに「強く生きるんだぞ」や「オレも頑張るから」と励まされ、
やはりフヨウは首を傾げながら、受話器を置いた。
それでも、地下から黒焦げになって現れた父を見た彼女の頭からは
「オレさん」なる人物の事はすっかり消えていたのだった。
「おとーさーん、弾幕教えてー」
「か、勘弁してくれぇ」

今日も今日とて平和です

350スモーカー:2008/06/22(日) 23:53:18
子供の健康に障ると部屋から追い出されたドロシーはやって来た屋根の上で
ポケットにねじこんだ箱を取り出し、その中の一本を口にくわえた。
パッケージで選んだマイルドセブンに火を付けるべく―ポケットを探す内に気付いた。
(ライター、部屋だわ)
火を使う使い魔を呼び出すにしても、手間がかかりすぎて気軽な一服ではなくなる。
今更戻っても姉にうるさく言われるだけで戻る気もない。
台所かどこかでマッチを拝借してこよう。
そう諦めた様にくわえていたそれを手に持ち―ふと横を見ると火の付いた炭を差し出された。
「どうぞ」
キセルから煙を立ち上らせる彼女から炭を受け取り、煙草に火を付ける。
煙を溜めるように吸い込み、それを空へ長く細く吐き出す。
「…どうも」
呟く様に礼をのべ、煙草に口をつける。

互いに会話はなく、時間だけがゆっくり過ぎていく。

やがて、ドロシーは携帯用の灰皿に煙草を入れ、紫はキセルの灰を落とした。
そうするとどちらともなく立ち上がり、その場を離れていく。
「今度は忘れないようにね?」
背中に投げ掛けられた言葉にドロシーは手を振って応えた。

351おえかき:2008/06/25(水) 23:19:12
ご存じ?ご存じ?ご存じかしら?
紅い悪魔の御屋敷の 暗い地下のその部屋に
怖い怖い吸血鬼が住んでるの
壊れたメイドは数知れず 戻った子は誰だって
口を揃えてこう言うわ "あの子は絶対狂ってる"

「変な唄だな」
フランドールの唄にゼロツーはソファに身を沈め、、欠伸混じりに言う。
紅魔館地下にあるフランドールの私室。
闇を照らすランプは既に床で砕け散り、辺りには緩やかな闇が流れる。
「そう?」
手にした本の頁を一枚一枚破り投げるフランドールは彼を見ない。
舞い落ちる紙をじっと見つめ、それが床に落ちれば、また破いて放り投げる。
あれでは後で掃除が大変そうだと思いながら、ソファに寝そべる。
部屋全体に染み付いた死の残り香と床に散らばる子供の玩具が不釣り合いな部屋の主を表しているようで。
「ねぇねぇ」
本の吹雪に飽きたのか、頁がなくなっただけか、フランドールが首をゼロツーに向けて言う。
「遊んで?」


「あら」
眠るフランドールを膝に乗せ、安楽椅子に腰掛けたまま船をこいでいるゼロツーに
咲夜は手にしたティーセットを珍しく無事だったテーブルに置いた。
「お茶持ってきたけど…後での方がいいかしらね?」
考えるように首を傾げる咲夜の目に床に散らばる紙が目に入る。
そのなかの一枚を手にして、咲夜は何かに気付き、嬉しそうに目を細めた。
「あらあら」

破かれた頁は色とりどりのクレヨンで飾られ、全体で一枚の絵へ姿を変えていた。

紅い月の下、姉や友人達と笑うフランドールの描いた絵へと。

352夏の幕開け:2008/06/29(日) 00:32:11
流れ落ちる汗もそのままにペダルを踏み込む。
ギアを一番軽いものにしてあるとはいえ、坂道は流石に辛いものであった。
そこに来て、肌に張り付くようなむし暑さがじりじりと体力を奪っていく。
とうとう限界に達したのか、息を吐き出しながら足を地面につく。
心配して降りようとする連れを手で制する。
そうして肩で息をしながら、先を見つめ、自転車を押す。
便利な乗り物もこうなってはただの重い荷物。
それでも一歩、また一歩と足を進める。
目的地まではもうそう遠くはない。この坂道を乗り切れば、それが見えてくるはずだ。


やがて坂道が終わりを告げ、それが眼下に広がった。
「はぁ――はぁ――はっ――」
半ばむせるように息をつきながら、それを見る。
山の緑と人が作った灰色の町と―空と海。
見たかった色とは大分違っていたが、胸にはここまで来た満足感が広がっていた。
後ろに乗せていた連れも初めて見るであろう海にはしゃぐ。
その様子にここまで来た甲斐があった、と顔を綻ばせて、汗を拭う。


二人を呼ぶ声に振り返る。他の者が同じ様に自転車で―あるいは徒歩でこちらに来ている。
もうじきこの光景は二人だけのものではなくなる。
だから、と言うわけではない。
気付けば二人は海に向かって叫んた。
ひとしきり叫んで顔を見合わせてわらった。
首にかけたタオルからは汗の匂いがしていた。


もうじき、夏がくる

353神様の悩み:2008/07/02(水) 15:40:56
「暑いな…」
 
いつからこうなったのかは忘れたけど地球が少しずつ温暖化している。
今はまだ涼しい方なのかもしれない。けれど  これが永遠に続くと同時に温度も上がっていくと思うとさ……嫌だと思わない?
僕は地球の滅亡を真っ先に想像してしまうよ。
 
 
『暑くなる』だけでは済まないんだ
氷が溶けて海面上昇したり、異常気象が起きて農耕適地の移動をする可能性もある
現に 何処かの畑が洪水によって全部駄目になったとユクシーから聞いたことあるからね。
洪水による水害ってやつかな… 水害に限らず日差しが強いせいで乾燥化して 作物が駄目になる場合もあるらしいけどね。
 
 
ところで何故、温暖化になるか知ってる?二酸化炭素が原因らしいよ。 工場や自動車等から出てきてしまう二酸化炭素。
 
 言っておくけど今更やめたって遅いんじゃないかな…、二酸化炭素は温暖効果を発生させるガスとなって 太陽から放射される熱を吸収してしまい 地表を温めてしまうから、さ…
 
 
……はぁ。 この世界は、最終的にどうなってしまうのだろう?
僕は正直言って あまり見守りたくない……。

354無言:2008/07/07(月) 22:21:48
会話のない食卓というものは随分と味気無いものである。
家族と顔を合わせてもそこに会話はないとなるとそれは独りの食卓より
ずっと寂しいもので―
(まあ皆話してる暇ないだけだろうけどね)
緑の山を見つめながら、エックスは今しがた空になった殻を横に退けた。
安かったんだ。
そう言いながら、大量の枝豆をゼロツーが買ってきたのはちょうど夕飯の支度を始める時間前であった。
巨大な鍋に投げ込まれていく枝豆をエックスは感心するような眼差しを送っていた。

そして、夕飯の時。

出てきたのは大皿数枚に盛りに盛られた枝豆に茄子の揚げ浸し。
だが、誰も茄子には目を向けなかった。住人の誰しもが皿に盛られた枝豆に釘付けだった。
哀れ、茄子。

そして、現在。
宴会を開くと半分は持っていかれてもなお存在感ある緑の山がテーブルに鎮座していた。
半分は既に殻だが。
(それにしても…)
まだ大豆になっていない大豆の癖をして、なんて美味なことか!
つるりとした種子の甘みと程よい塩加減。噛む度に広がる風味とどれを取ってもよいものだった。
隣で爆食する紫を生温い目で見つめながら、再び手を伸ばすのだった。



そんな夕飯の一幕

355憐哀編sideイサ、7:2008/07/08(火) 21:55:36

 一日目 PM 23:00

 結局、今夜は家に帰ることはなくなった。
 すると浮上してくるのが、寝床の確保だ。
 着の身着のままで飛び出した状態に近い春原に、まさかホテル代を払う余裕などなく。
 脳裏を「野宿」という言葉がかすめる。
 野宿。言葉でかけば一言だが、そこに込められた意味は凄絶だ。
 まず場所がない。公園のベンチで寝るなどと言えば簡単だが、
容易に人目につくところでは補導される可能性がある。
 そして何より問題なのが寒さだ。
 ちょっと動き回る程度ならわからないが、真冬の寒さはそれ自体が凶器となる。
 比喩でも冗談でもなく、都会の街並みの一角で凍死することも考えられる。
 ベッドで寝ることを当然とする人種が、にわか覚悟で耐えられるようなものではないのだ。
 ――というわけで。
「ま、やっぱこれしかないっしょ」
 手軽に入れ、環境もそれなり。何より価格が良心的。
 そんな夢のようなホテル――もとい、ネットカフェに二人は訪れていた。
 ここならその気になれば朝まででもいられる。無論こんな生活を長期間続けるなど不可能だが、
それでも一夜の雫を避けるのには問題ない。
 春原は一人ネットに興じていた。
 というのは、イサがネットのやり方をわからないと言ったからだ。
 教えることは出来る。
 だが、何となくそんな会話をすることにも躊躇いが生じていた。
 気持ちの齟齬、とでも言えばいいのだろうか。
 特に腹を立てているわけでもないのに、さっきまでのような普通の会話が出来ない。
 わざわざペア席をとったのだが、これではあまり意味がなかった。
 匿名巨大掲示板を覗いては、そこに時折つまらないレスをつける時間。
 それを横からじっと見つめられているのを自覚しつつ、享受せざるをえない時間。

 そんな時間がどれだけ続いただろうか。
 とっくに日付は変わり、あたりは不気味なほど静まり返っている。
 何とはなしに、パソコンの時計を眺めた――午前二時。
 いわゆる草木も眠る丑三つ時だ。
 ――そういえばいわゆる妖怪が活発に動き始めるのもこの時間だったか。
 妖怪、などかつてなら一笑に付すおとぎ話に過ぎなかったが、
ここしばらくはそんな認識を変えざるをえないことが多すぎた。
 妖怪は、実在する。
 悪魔でさえ実在するのだから。

 ――とん、と。

 軽く肩を押された。
 誰かなど言うまでもない。ここには自分以外には彼女しかいない。
 何を、と言いかけた瞬間、

 それまで自分の頭のあった場所を、何かが凄まじい速度で貫いた。

356憐哀編sideイサ、8:2008/07/08(火) 22:22:29
 音は後から伝わってきた。
 個室を仕切るドア。
 片田舎の駅前通りを見渡せる5階の窓。
 それらをわずかに瞼を一度動かした瞬間にすべてぶち抜いていったそれは、
残像の尾だけを残して夜の世界に消えていった。
「……なっ!?」
 一拍遅れて春原が声をあげた時には、イサはすでに彼を庇うように前に出ていた。
 そして、第二撃。
 理不尽極まる暴力の顕現を、今度こそイサは視認した。
 それは『棒』だった。
 太さ二センチほどの円柱状のそれが、コマ送りのようにこちらに飛んでくる。
 避けることは出来ない。避ければ後ろの春原の頭が確実に吹き飛ぶ。
 他の選択肢を考えるには与えられた時間はあまりにも短過ぎ、
イサは自分でも無自覚の領域でその棒を掴もうとしていた。
 指がそれに触れた瞬間、焼けるような激痛が背筋を抜けていった。
 そしてそれでも止まらず、勢いの殺しきれなかった衝撃が眉間を直撃した。
 暗転する世界。

 意識が覚醒する。
 即座に状況を把握。どうやら気絶したのは数秒ほどだったようだ。
 イサを抱きかかえるようにしていた春原の手を振り払い、イサは周囲の敵意を探る。
 しかし、ここにはすでにその残滓さえも残っていなかった。
 逃げた――わけがない。
 むしろ見逃してもらったようなものだ。
 あるいは、泳がされているだけか。
 なんにせよ脅威はもう感じられない。
「……ヨーヘー、ありがと」
「いや、んなことはいいんだよ。……手、大丈夫か?」
 手? と思ってみれば、棒を受け止めた左手から煙が上がっていた。
 焼けるような痛みは、どうやらそのまま焼ける痛みだったらしい。
 摩擦熱で手のひらが黒こげになっていた。
「ん。こんなの大したことないんじゃないかな!」
「嘘つけよ。煙出るとか明らかに変だろうが」
 確かに大丈夫ではなかったが、指摘されたところで傷が治るわけではない。
 適当に春原をあしらうようにして、背中を伝う冷たい汗に気づかれないように努める。

 間違いない。
 これはアイツの仕業だった。
 とうとう、直接的手段によるイサの排除が始まったのだ。

357:2008/07/12(土) 20:41:45
ちりーん。
果たしてうちわで扇いで風鈴を鳴らすのは何の意味があるのだろうか。
従姉妹の奇怪な行動を横目で見ながら、アサヒは温くなった床から横へ転がった。
ひんやり、とまではいかないが、それでもソファに寝転がるよりは随分マシであった。
ちりーん。
わざわざ扇ぐ位ならば自分に対して扇いだ方が早く涼しくなる気がして仕方なかった。
「あぁあぁぁぁあああ〜」
扇風機の方から聞こえる唸り声的なロリヴォイスはフランドールのもので。
夏と言えばこれと随分前からリビングに鎮座しているそれの前で彼女は飽きることなく声を上げている。
「われわれはうぢうじんだぁぁぁ〜」
…隣で一緒になってやっているいい歳の魔道士は見なかった事にしておく。
上半身がブラのみだという気持悪い画像もすぐさま頭の中から消し去る。

ちりーん。
普段ならばひんやりとした地下に降りて涼みたい気分ではあったが、
少し前に通気口が壊れただので今は機械の放つ熱でちょっとしたサウナと化していた。
地下に部屋のある住人が一致団結して修理に乗り出した様だが、直るのはまだ先だろう。

ちりーん。
「あ゙〜…」
床に大の字で広がり、アサヒは何度目かになるその言葉を吐き出すのだった。
「あちぃ……」

358惜別:2008/07/13(日) 20:52:40

 結局、アイツは自分の傲慢に耐えきれなくなった。
 そういうことなんだろう。

「おはよ、リディア」
「……おはよ、アーチェ」
 一瞬、間があったのはやっぱり意外だったからだろう。
 こうしたまともな挨拶をするのも実は久しぶりだ。
 ――立ち直るのにかかった時間は、短いようで長かった。
 事実を知らされてから数日は、部屋から出るのさえ嫌だった。
 それから数週間は、歯車のネジをどこかに落としたみたいに調子が出なかった。

 アイツの死を、何故かあたしは辛いと感じた。
 別に直にアイツが死ぬところを見たわけじゃない。
 代理人が口からでまかせを言ってる可能性だって、ないわけじゃない。
 けどあたしはそれが事実であることを『識って』いた。
 それよりも、あたしがその死を悼むことの方が意外だった。
 あたしに自分を憎ませるように仕向けた奴のすることとは思えない。
 ――いや。
 だから、だろうか。
 リディアはあたしよりもずっとこの世界に馴染んでる。
 あたしは馴染めなかったから、一時期アイツと対立した。
 その違いなのかもしれない。

 あたしとリディアは違う。
 それぞれに、違うものを求められてる。
 この世界はアイツの忘れ形見なんだろうか。
 あたしはそれを――好きだと、そう思ってるんだろうか。

 答えが見つかるのは、まだ先だと思う。

359マイナス思考のチキンハート:2008/07/17(木) 23:05:02
夜。
彼女はタオルケットを頭から被り、微かに震えていた。
朝よりも、昼よりも、恐ろしい時間。胸の底に沈んでいた物がじわりと体を犯していく時間。
怖い。何を、と明確に判る訳ではないがただ怖い。それだけだった。
「――!?」
何かが肩に触れ、彼女は反射的にタオルケットを被ったまま体を硬くした。

「そんなに怖がらなくてもいいじゃない」

おそるおそる顔を出せば、酒臭い空気が鼻をつく。
「萃、香…?」
床に座り込んで酒をあおる鬼が不安そうにする人間をじぃっと見つめる。
「やれやれ、あの白いのが居ないと思ってきたら、だーいぶ弱ってるみたいじゃないか」
鬼の言葉に人間が枕に顔を埋める。
明日、試験なんだ。枕に埋まったまま、人間が呟く。
ちゃんとやらなきゃいけないと思うとなんかさ。
そんな人間の言葉に鬼が溜め息をつく。
「なんでそこまでちゃんとやろうとすんの?
いいじゃない、出来なくなって」
だって…ずっとそう言われてきたから。と人間。
鬼は鼻の頭を少しかくと、言葉を選びながら話す。
「そりゃまあ親の言うことも守らなきゃ駄目だけど、あんたの場合はただの枷になってない?
もうそろそろ、『自分』で生きてもいいと思うよ?」
人間は答えない。
ただ鼻をすする音が聞え始めた頃、鬼は人間が落ち着くまで側に居てやろうと思うのだった。

360凍夏・上:2008/07/17(木) 23:27:27

 さて、始まりは何だっただろうか。
 希望が先か。絶望が先か。
 もはやそれさえわからない。

 季節が夏を迎えるにつれ、地面を覆う影も減る。
 青々と茂る葉を軽く見遣りながら、やや非建設的な作業を繰り返す。
 しばらくすれば落ちる葉がまた地面を包むだろうが、それもまだ先の話だ。
 淡々と、意味と無意味の狭間をたゆたうルーチンを刻む。
 ふと、音が近づく気配に気づき、霊夢は箒を動かす手を止めた。
「……ずいぶん情けない姿になったものね」
 その姿を視界に留めた、最初の感想がそれだった。
 とは言え、外見にさしたる変化が生まれたわけではない。
 変化しない事こそが、彼女に刻まれた業だ。
 だが、それでも普段の彼女を知る者からすれば、別人のような印象を受けるだろう。

 妹紅の気配からは、あの燃え盛る炎のイメージが完全に消えていた。

「私は……」
 伏せた双眸は、誰の方も向いていない。
 そもそも眼前の霊夢を留めているのかさえ怪しい。
 それでも妹紅は言葉を紡いだ――無ベクトルの、独白を。
「何を、間違えたんだろう」
 妹紅の声は死せる亡者のような響きを帯びていた。
 炎どころか、そこには火の粉の印象さえもない。
 あたかも燃え落ちた消し炭のようだった。
「あんたは、何を望んでいたの?」
 対する霊夢は、感情を込めずに客観的視点で問う。
「私は……」
 そこで一旦逡巡し、
「……人に、戻りたかった」
 霊夢は無言。沈黙を貫くことで、先を促す。
「この宿業から逃れたかった。知り合った人々が、抗いようなく皆すべて
自分を置いて死んでいくのを、もう見たくなかった」
 いや、違うな、と、
「単に……私は、死にたかったのかもしれない」
 吹きつける風が二人の髪を弄ぶ。
 集めた葉が散らされていく様を、霊夢は一瞥もくれずにやり過ごす。
 そうして紡いだ言葉は――

361凍夏・下:2008/07/17(木) 23:28:11
「……バカじゃないの?」
 蔑みだった。
「いい年こいて自虐発言してる暇があったら、とっとと死ねばいいじゃない」
「死ねるならとっくにそうしてるわ」
 嘲笑。それは無知への嘲りと同時に、己への自嘲も含んでいた。
「私は死ねない。そういう風に出来てるんだもの」
「試したことがあるの?」
 対する言葉は、斬りつけるように凍えていた。
「土に埋まって呼吸が止まるのを試した経験は?
 火山に飛び込んで文字通り灰になるまで焼かれた経験は?
 バナナで釘が打てる氷点下の世界なら、脳まで凍りついて擬似的に死ねるんじゃない?」
 さしもの妹紅も、その辛辣極まる畳みかけには絶句した。
「しょせん中途半端なのよ。あんたの覚悟は」
 はっ、とする。
 霊夢の瞳は、生の地獄を垣間見た妹紅さえ我に返すほど生気に満ちていた。
「人になりたい? 人間って、そんな半端な気持ちでやっていけるほど甘く見える?
 死にたい? 人間って、死ぬ特権を与えられた素敵な生き物とでも見えてるの?
 ――死ねない苦しみが私達人間にはわからないように。
 死を宿命づけられた『人間』を、蓬莱人のあんたは本当に理解出来てるのかしら」
「……私は、人間ではないと言いたいの?」
「バカなことを聞かないで。最初にあんたを人外扱いしたのは誰?」

 ――『お願いだから、人であることを捨てないでくれ、妹紅……』

 妹紅は、何も言い返せなかった。
「ないものねだりも大概にしなさいよ、蓬莱人。
 あんたがやってるのは、『私の不幸は誰にも理解出来ない』と勝手に拗ねて、
世の中をひねくれて見てるそこらのガキとまったくおんなじ」
 霊夢はゆっくりと袖に手を入れた。
「人間だろうが妖怪だろうが――蓬莱人だろうが。
 今、ここにいることに何の違いもない」
 取り出した手には、一枚のスペルカード。
「前を向くか。俯き続けるか――まずはそこから決めることね」

 ――神霊「夢想封印」

362釣り:2008/07/18(金) 21:09:36
竹竿に糸付けた簡単な釣竿を振り、餌のついた針を放つ。
針が水中に消えるのを確認すると麦わら帽子を被り直しながら、その場にあぐらをかく。
ついつい、と竿を小刻に動かしながら、水面を見つめる。
さんさんと降り注ぐ太陽を受け、輝くそこを魚が跳ねる。
「釣りですか?」
声に振り向けば、上半身のみで宙に浮く少女の姿。
「うん、気分転換にね。あ、釣れれば食うよ?」
言いながら、針を引き上げる。
水しぶきをあげながら跳ねる鮎を手にしながら、針を手早く離し、水の張った桶に放つ。
「鮎ですね」
「鮎だね」
泳ぎ回る三匹の鮎を見つめながら、二人はそう言葉をかわす。
「さて今日はここまでだ」
竿を片付けていると、少女が笑う。
「それだけでいいのかしら?」
「これだけ取れれば十分さ」
甘露煮には十分足りる量だと付け加えながら、川に背を向けて歩き出す。
「紫もど?こいつで冷たくした酒をやるんだけど」
少女―紫ははじめからそうだと決まっていたかのように微笑みを浮かべながら、隣に並ぶ。
「勿論―ご一緒しますわ」
こもれ陽を受ける桶を揺らしながら、二人は帰路についた。




釣りに行きたいです、川釣り
…キャッチアンドイートな自分にゃ無理な話だけどな

363祭囃:2008/07/20(日) 23:15:28
 日も暮れた街中は、しかしあちこちに揚げられた提灯の光に明るく照らされていた。
 とある商店街のお祭りに、誘われるように足を運ぶ。
「すごいお祭りだね」
 ともすれば耳を塞ぎたくなるほどの大音量も、不思議とこの場にいると心地よい。
「それはいーんだけどさー」
 アーチェは尾のように垂らした髪を風に遊ばせながら、
「なんか危なっかしいのよね、この服…」
 どうやら浴衣がいまいち合わないらしい。
 箒で飛び回ることを前提とした服装が多いせいか、
布きれを帯で止めるだけという格好に抵抗があるようだ。
 一方で、それをまったく気にとめない同性もいる。
「やきそばだー」
 飛び出しかけたアスミの首根っこを、神速の勢いで掴むのは代理人。
「やきそばー、やきそばをたべるよー」
「買ってきてあげるから、一人であちこち行かないでね」
 諭すようにリディアが言うが、無論その程度で納得するアスミではない。
 実年齢数千歳に対して完全にお子様扱いだが、アスミの場合
そのまま食べ物を求めて失踪する可能性もあるため、お子様よりも遥かにタチが悪い。
「青いのはなせー」
 バタバタ暴れるアスミだが、代理人は意に介さず缶コーヒーをすする。
 浴衣がはだけるのもお構いなしで動き回るため、本人より周囲が戦々恐々という有様だ。
「代理人も食べる?」
 問うリディアに代理人は即答。
「むしろディアを食べたい」
「うんわかった、そのままコーヒーをすすってるといいよ」
「……最近ディアの反応がドライ」
「あの、ご主人様…そういうのはもう少しこう柔らかめに……」
 とある経緯から代理人を主とする精霊アイリが、控え目な声で横からそう告げる。
「たこやきだー」
「アスミ! 脱げる、脱げるっ!」
 色々と危険なことになり始めたアスミに、リディアが顔を青ざめさせる。
 とっさに手近にあったカ○リーメイトをアスミの口の中に放り込むと、
「アーチェ、ちょっとアスミを抑えるのをてつ、だっ…て……?」
 いない。
 消えた姿の代わりに聴こえてくるのは、
「うあー、また手前で落ちたー。おっちゃん、これ砲身曲がってんじゃない?
 ……え? 曲げてますが何か? こっちも商売ですから?
 いい度胸してんじゃない! ならあたしはこれであのPS3を落としてやるわよ!
 軽くまぶたを落とした半眼で、射的屋を見遣る。
「『あれはもはや戦力にはなり得ない。金を無心される前にここから離脱しよう』
 ――と、リディアは思った」
「………………」
 普段なら否定するモノローグに、しかしリディアは沈黙を返した。

 その後、たこ焼き屋の屋台がアスミにタダでたこ焼きを一箱提供してくれたのは、
さてどういう理由からだったのか――リディアにはわからなかった。

364花火大会:2008/07/20(日) 23:50:16
夜空を彩った光の華をフヨウは目を輝かせながら、見上げていた。
「きれー」
隣に並ぶ母の姉婦妻も同意するように空を見上げていた。
ちなみに両親はここにはいない。ちょっと用が、二人して人気のない林の奥へ行ってしまったのだ。
従姉妹曰く、そういうのは家ですべきじゃないのか、らしい。
何が、と聞いてもナニだよとしか返してくれない従姉妹に頬を膨らませ抗議したが、林檎飴で全てがチャラになった。
その従姉妹本人はというと…
「弾幕ごっこ!アサヒ、わたしも弾幕ごっこしたい!」
「だからありゃ弾幕ごっこじゃねぇっつってんだろ!
ああ!羽ばたくな!飛ぶな!浴衣が脱げる!てか腕もげるー!」
身を乗り出して空へ飛ぼうとするロリ吸血鬼に引きずられる格好で手摺にしがみついている。
その隣では屋台でぱくって…もらってきたであろう、戦利品の数々を頬張りながら、はしたない妹に姉が注意を促す。
「だめよ、フラン。
今飛んだら新しいカメラがまだからお姉ちゃんあなたのパンチラ取れないわ」
「さりげない変態発言!?」
楽しそう(?)なやり取りに思わずフヨウの頬が緩む。
レミリアの隣ですっかり空になった財布を見て絶望しているドロシーが居たが、とりあえず無視しておく。
とうとう従姉妹ごと空へ飛んだロリ吸血鬼と花火を見上げながら、彼女は夏の一幕を満喫するのだった。

365:2008/07/22(火) 13:40:19
手の中でやわやわと撫で回したそれをアサヒは愛しそうに見つめた。
ずっと、この時を待っていたと言っても過言ではない。
ずっと前から目をつけていた、と言っても過言ではない。
ふと視線を上げれば、金髪の吸血鬼少女と目が合う。
物欲しそうな視線に答えるようにアサヒはそれをゆっくりと口へ近付け―


「ああ…」
桃へかぶりついた娘の顔は至福の文字であった。
(そういえば、あの子は桃が大好きだったっけか)
熟れた桃の皮を剥き、切り分けたそれを皿に盛る。
その甘い香りに紅も思わず唾を飲み込む。
時期物である生の桃はそうそう食べれる物でもない。
あるとすれば缶詰のシロップ漬けになってしまう。
食べるなら今しかない。
とりあえず切り分けたそれを相変わらずアサヒの桃に視線釘付けなフランドールに差し出すと、彼女は何故か躊躇した。
「…………たい」
ちらちらと爪楊枝に刺さった桃に視線をやりながら、言う。
「わたしも、丸かじりしてみたい」
その一言に紅は目を丸くしたが、やがて笑いながら、冷蔵庫から桃を取りだし、彼女へと渡した。
(やっぱり、一度はやってみたくなるもんだよね)
渡された桃はやはり甘い香りがしていた。

366-幻想時間-:2008/07/26(土) 22:38:06

 ――カチリ。

 それは欠片の嵌まる音。
 足りないものが埋まる音。

 すべての欠片が嵌まるまで、連なる音はあといくつ?

367憐哀編sideイサ、9:2008/07/26(土) 23:12:33

 二日目 PM 3:00

 どこをどう逃げたのかはわからない。
 気がつくとイサは人気のまったくない神社の傍らに独り腰を下ろしていた。
 心理的侵食は時を追うごとに加速していった。
 寒いとか、苦しいとか、そんな『前向き』な思考は微塵も働かず。
 ただただ心の中の空白を埋めるように、欠けたものを補うように、
頭を抱え無意識の独り言をつぶやきながら、精神の自壊を防いでいた。
 イサは恐れていた。
 死を宣告する砂時計の砂が少しずつ落ちていくのを、ただ眺めるだけの焦燥。
 それをはっきりと自覚した瞬間、かつてないほどの喪失感が胸を貫いたのだ。
 死ぬのが怖い。
 終わるのが怖い。
 しかしそれでも己の死を認めざるをえない、理不尽極まる現実。
 命を天秤にかけた壮絶な自己矛盾。
 それはイサ一人で抱えこむには重すぎた。
人の身に余る重圧に、心が圧搾機にかけられたように締め付けられていく。
 胸の内を吐瀉するように嘔吐いても、口からこぼれるのは濁った唾液だけ。
 沈澱していく。

 死にたくない。
 自分が死ぬくらいなら、周りのすべてを殺す。
 そう、殺せばいい。
 自分には力がある。
 少なくとも、身近な人間の首を掻き切ることが出来る程度の力は。
 それでもアレには敵わないだろう。
 だが、一糸を報いることは出来るかもしれない。
 ひょっとしたら、自分一人なら逃げきることくらいは――

 俄かに蘇った殺意を、もはや否定する余裕はイサにはなかった。
 ――タン、と。
 正面の松の木にナイフが突き立つ。
 一本。二本、三本と――淡々と、あたかも藁人形に五寸釘を打ち込むように増える本数。
 音が刻まれるほど、イサの顔から表情が消えていく。
『人間』としての仮面が剥がれたそこには、『悪魔』としての狂気が渦巻いていた。
 刻まれた本数が二十を超えたところで、ふと手の動きが止まった。
 ――微かな音。
 誰かが来たようだ。
 こんな時間に歩き回っている時点で、まともな人間ではない。
 いや、まともであるかどうかなどもはやどうでもいい。

 視界に入った瞬間、殺す。
 月の光を隠して伸びる影をイサは捉えた。

「……こんなとこに、いやがったのかよ」

368石と河童の川流れ:2008/07/26(土) 23:33:01
「持って帰ったら、駄目だよ?」
少女の声にフヨウは眩しそうに目を細めながら、顔をあげた。
「ケロちゃんだ」
岩の上に腰掛けた、ケロちゃんこと洩矢諏訪子は足をぶらつかけながら、笑う。
「川の石にはね、霊が憑きやすいの」
「霊」
おうむの様に単語を繰り返しながら、今しがた拾った石ころを太陽に透かす。
見た目は拳大の石英だ。それが太陽に透かされて、フヨウの顔を照らす。
「霊」
もう一度、単語を口にし、彼女は手の中に収まる石をじぃっと見つめた。
諏訪子は川の石には霊が憑きやすいと言った。ならばこの石にも何かの霊がいるのだろうか。
もしそうならばそれはさぞ澄んだ霊だろう。
…と、難しく考えてみたものの、彼女が出来るのは一つだけだった。
「かわへおかえり〜」
この間見た野球選手―イチローだかイジローだか言う選手の真似をするように石を投げ―

ドポンッ!
ガツンッ!
「みぎゃっ!!」
運悪く泳いでいたのだろう河童の頭に石は見事に当たり、哀れな河童はぷかりと水面に浮かび上がった。
「……………」
「………」
ぷかぷかと流されていく河童を二人はしばし見送るのだった。

369ABY10.アクシラの戦い:2008/07/28(月) 17:53:32
――アクシラ方面軍・コマンドセンター

「将軍、ジェイオン卿より報告、リトル・ブリギア陥落です」
「そうか、ならばここで最後というわけだな」

彼女らがテントの中の急造の司令部から睨むのは行政センターが置かれていたビルである。
今は反乱軍の司令部となっているようだが。高さ600m.の高層タワーは美しい緑地公園とその
周りを囲む堀によって景観美を平時ではもたらしていたが、今では攻めにくい要害でしかない。
橋の上を通過しなければ内部には入れない為、数で勝る帝国軍はそれを活かしきれないでい
た。

「…爆撃で吹き飛ばすわけにはいかんものかな」
「この衛星の行政に関わるデータが失われてしまいますが…」

確かに空から、宇宙からの攻撃は効果覿面だろう。徹底的に押し潰してしまえば被害も無い。
実に合理的だ。しかし、勝ちの見えた戦いとなると、その後のことも考えなくてはならない。慌
てて副官が制した。

「やれやれ、文明が進むとややこしいものだな。付いて来い!」

瞑目しながら溜息を吐いたかと思うと、赤い光刃のライトセイバーを掲げて橋の一つへと彼女
は突っ込んで行った。慌てて多くの将兵がそれに従い、一つの突撃隊形を展開する。橋の上
で頑張っていた反乱軍もそれに応戦し、膠着していた戦線は激しい戦闘となった。敵の攻撃を
紙一重でかわしたり、反射しながら突き進む。夫からフォースの手解きを受けた彼女はその力
を使って、次々と屍とスクラップの山を築いていった。これに呼応して別の橋の前に陣取ってい
た各部隊が呼応し、各所とも敵を撃攘しつつ合流に成功した。

「はぁ、ふぅ…む、無茶なさらないで下さい;」
「うん?少し速過ぎたか?」
「少しどころではありません、将軍;」

見れば、後から合流した部隊は別にして、副官以下アッシュの直掩部隊は疲労の色が見える。
シスやジェダイはフォースの力で身体能力を上げ、驚異的な速度で走ることができる。彼女も
そうしたのだが、いくら訓練を積んだ軍人とはいえ、それに続くのは容易でないのである。

370豪雨:2008/07/29(火) 22:10:54
 空が輝く。
 もはやそうとしか表現出来ない閃光と同時に、天地を貫く轟音が走った。
「…………んっ」
 それはもはや音と言うよりも衝撃に近かった。
 ベルリンの壁に新幹線が最高速度で突っ込んだような、胃にズンと来る響き。
 それは雷が怖いとか怖くないなどという次元の問題ではなく。
 遺伝子に刻まれた自然への畏怖を呼び起こされるかのようだった。
「うはー、あれは間違いなくどっかに落ちたわね」
 窓の外を眺めるアーチェの声は不思議と弾んでいた。
「あれがここに落ちたらどうなんのかしら。炎上?」
「縁起でもないこと言わないの」
 そもそもと、
「アーチェは常日頃からお手軽な雷を落としてるじゃない。主に春原の頭に」
「あれはちゃんと狙って人の頭に落としてるわよ。家に落としたら危ないじゃん」
 人の頭に落とすのは危なくないのかという理屈は問うても無駄なので沈黙。
 再び閃光が走り、世界が震える。
「…………んっ。――ねぇ、さっきからアーチェは何でそんなにはしゃいでるの?」
「はしゃいでる? あたしが?」
 そう見えるのかしらと、
「けどこんだけ雨とか雷がバシバシ降ってると、なんかワクワクしてこない?」
 滝のように雪崩れ落ちる豪雨。
 クレバスのように世界を裂く雷。
 これらを眺めて楽しいと思える心理構造とはさて。
「…………お子様なんだから」
「へー。あたしがお子様ならリディアは何?」
 アーチェの顔に狡猾な笑みが浮かぶ。
「……どういうこと?」
 そのいやらしい雰囲気に思わず怯んだところに雷が重なった。
「…………んっ」
 反射的に目を閉じる。
「あーらリディアさんったらずいぶん可愛らしいリアクションですこと。
 まるで雷に怯えるちっちゃな女の子みたーい」
 頭に血が上ったのは、怒りか恥ずかしさか。
「別に雷が怖いんじゃなくって! あの音が、こう、うるさいのが嫌っていうか……」
「図星を指されて必死なんじゃりませんことー?」
 そのバカにしきった高飛車な物言いに、リディアの額にかすかに青筋が浮かぶ。
「……わかったよ」
「へ?」
 詠唱は一瞬。
 あちらとこちらを結ぶ門を開くのも、また一瞬。
「――雷杖よ。意思通ずるなら、応えて」
 アーチェは生来の動物的勘で部屋から飛び出した。
 豪雨の降りしきる『外』と、今リディアがいる『中』。
 ――選ぶなら、躊躇いなく前者だ。
「ラムウ、あの娘は雷がちっとも怖くないらしいの。だから本気で大丈夫だよ」
「大丈夫なわけあるか――――ッ!!!」
 雨の中を猛烈な勢いで逃げるアーチェを追い、リディアも部屋から飛び出す。

 幸か不幸か、頭から自然への畏怖とやらは消し飛んでしまっていた。

371:2008/08/01(金) 17:24:22
突然はらはらと涙を溢した妻にゼロツーはギョッとした。
「大丈夫か?」
彼女は顔を覆った両手を外し、涙ながらも澄んだ顔で頷いた。
「ようやく、わかったの」
なにが、と聞くつもりが声はかすれ、気の抜けた息が口から漏れた。
「愛が」
その言葉にどきりとした。
はてさて鬱の苦しみの果てに何を見たのか。どことなく緊張しながらも彼は妻を見つめた。
「私は、ずっと母に愛されてなかったと思って、彼女をにくんだわ。
でも、そうじゃなかったの。あの人は分からなかっただけ、ただただ愛する事を」
いよいよ訳が分からなくなり、ゼロツーは首を傾げた。
「よく、分からないんだが…」
「簡単に言うならギブアンドテイク。何かをする代わりに代価を得る。
ほら、よく言うでしょ?何をする代わりに愛してあげるとか」
でも、本当はそうじゃないの。と彼女はゼロツーの手を取り、続ける。
「愛に条件なんていらないの。
凄く当たり前な事なんだけど、当たり前だからこそ判らなくなるの」
抱き締められ、ただ目を丸くする彼を彼の妻は優しく。
「私の心にも母が居たの」
言葉のひとつひとつが柔らかに心へ降り注ぐ。
「あれをしなさい、これをしなさいって怒りながら言うの。
でもそれは私への言葉じゃなかった。あれは…母が、母の母に向けた言葉だって気付いたの」
ただ愛してほしくて、それでも言えずに心へしまいこんだ、悲しい言葉。
「…どうして、そう思うんだ」
「うつの、底の見えない苦しみのお陰かしら?」
やはり彼女の考えていることはゼロツーには理解出来なかった。
それでも、確かめなければならない事が彼にはあった。
「紫」
「はい」
「私の事も―」


愛していますか?

372解体:2008/08/01(金) 23:27:54
「それでも人は言うわ。誰かを愛するのは素晴らしいことだと」
 独白のように語る代理人の傍らには、彼女の『杖』に宿る精霊アイリが佇んでいる。
「ご主人さまは……そうではないと思うんですか?」
「まさか」
 缶コーヒーをあおる。
「『私』は何も思わない。何も感じない。
誰かの理を代われる、ネジまき駆動の特注品よ」
 ――けれど、
「だからこそ見えることもあるわ。
 主観の放棄とは、すなわち究極的客観の獲得なのだから」
「………………」
「恋も愛も麻薬と同じ。足りなければ飢え、得られるとそれ以上を求める。
 麻薬に溺れないための、最も賢い方法がお前にはわかる?」
 アイリはかすかに顔を俯かせた。
 それだけで、彼女の思った答えが正しいことがわかる。
「知ることを誤りだとは言わない。
 知りたいと思うことを愚かだとは言わない。
 そして――知ったことを後悔するのは無様と言う他ない」
 空になった缶を放り投げる。
 それはきれいな弧を描いて屑籠へ飛び――縁にあたって道端に転がった。
「誰かを好きになるのは……間違いではないと思います」
「短絡的に捉えすぎだわ、アイリ。私は最も利口な解答を提示しただけ。
 正論はあくまで正論であり、正答であるとは限らない」
「ご主人さまの言葉は難しすぎます。もっとわかりやすく言ってください」
「却下。別に私は理解してほしいとも、理解してくれとも言わない。勝手に理解しなさい」
「ご主人さまは時々私に冷たいです……」
「ごめんなさい、ツンデレなの」
 自称するツンデレも中々珍しい。
「けどまぁ、愛するアイリにもわかるようにひとつ極論を提示しましょう。
――恋だの愛だの人受けのいい単語を選んでいるから惑わされるだけで、
愛なんて性欲と独占欲の延長上にある傍迷惑な疫病のようなものだ」
「それは……!」
「誤りだと思う? そうね、確かに主観的な恣意が込められているわ。
 これでは誰にも好かれない人間の僻みにしか聞こえない」
 ならもうひとつ、
「――人を愛することは素晴らしいことだ。人を愛せる私は素晴らしい人間だ。
人を愛せる素晴らしい私は、愛する彼女を私のものにするために犯して殺そう」
 はっきりとアイリの顔に翳がさした。
 代理人はとぼけるように軽く肩をすくめ、
「正しいも間違いもないのよ。あるいは、何もかもが正しくて間違い」
「『正しい』も『間違い』も、主観にすぎないってことですよね……」
「お利口ね、アイリ。後でご褒美をあげるわ」
「ご主人さまのご褒美はいろいろ怖いのでいいです」
 代理人は最初からまったく変化のない冷めた瞳を虚空に戻し、
「安易なはずの『人の型』におさまるのも、こうして見ると何とも過酷ね。
 それとも過酷と感じる時点で、その人はすでに『人の型』におさまる資格を失っているのかしら。何にせよ――文字通りの世迷言だけれど」
「……結局、どういうことですか?」
「愛を知った上で解体した人間は、二度と『人の型』にはおさまれないというお話よ」

373:2008/08/02(土) 04:31:58
「形がなくともいずれは終わる」
「真理ね」
だらりと力の抜けた体はただ重いだけで、温かさは徐々に消えていく。
「さて、どうしたい?」
「そうね、切り刻んで魚の餌にするもよし。宇宙に放り捨ててミイラにするもよし」
うっとりと夢見る様な口調は相変わらずで、その目は力を失いつつあった。
「食べるのは」
「却下。添加物と毒まみれの体なんて、お腹壊すわよ」
「じゃあミイラか」
「それか、燃やしてそこらにばら蒔くとか」
「悪趣味」
「何を今更」
目的の場所についたのか、重い体を地面に降ろす。
「怖いか」
「いいえ、『死ぬ気』でやった結果ですもの」
「そうか」
ごほっ、とくぐもった呼気が口から溢れる。もうすぐ、幕だ。
「死ぬって」
「ああ」
「思ったより、怖くなさそうね」
「……そうか」

「なあ」
「……ん?」
けだるそうな返事。
「幸せ、だったか?」
その答えに彼女は目を細めて笑い―


返事を待ち、やがてそれがないと判るとそれは空へと浮かび上がり、じぃっと地面に転がる有機物を見た。
「さらばだ、人間」



"今朝――都―――市の道路脇の雑木林で倒れている女性が通勤途中の男性によって発見されました
女性は遺書等が発見された事から自殺との―――"

374浮薄:2008/08/02(土) 09:53:39
「それは難しい質問ね。というよりも、答えなど最初から無きに等しい」
 全裸にシーツ一枚をまとった恰好で、相変わらず無感動の光を虚空に向ける。
「価値を見出すのは主観に過ぎない。
 なら、生と死、共に価値があるともないとも言える。
 ――私? 本気で聞いてるのならこれ以上ないほどに滑稽よ?
 主観の排除こそが私に求められた唯一のパーソナリティなのだから」
「むー……ご主人さま、誰とお話してるんですか?」
「……ゆうべはおたのしみでしたね」
「いえ何もしてませんけど。あとご主人さまの恰好は暑くて寝苦しかったからとか、
誰にともなくフォローした方がいいですか?」
「別に寝苦しくはなかったけれど」
「そういうことにしておいてください」
 きっぱりと断じるアイリ。
「それより。今、何か話してませんでした?」
 きょろきょろとあたりを見回すが、自分達以外に目を覚ましているものはいないようだ。
 アイリを除けば、代理人は一人起きていたことになる。
「――諦観と、あとはわずかな動揺とかしら」
「……はぁ」
 代理人でも寝ぼけることがあるのか、とアイリは漠然と納得。
「人の生と死に対する尊厳意識は、詰まるところ「個」の尊重と同等よ。
 面白いのは、人以外の動物は生に対する強い執着を見せる一方で、死に対しての
反応が人とは比較にならないほど淡泊であるということ」
 と、代理人は少しも面白くなさそうな顔で、
「その理屈は単純。動物は「個」以上に「種」を尊重するから。
 一個体が理不尽な死に至っても、種が存続できればそれでいい。
 人は自我を強く持ちすぎたが故に、「個」を妄信するようになってしまったのね」
 そして、
「だからこそ、私は今ここにいる」
「……どういう意味ですか?」
 話が飛躍しすぎていてアイリには理解できない。
 理解しようとしている時点で、アイリも寝ぼけているのかもしれない。
 つ、と代理人はアイリを見遣り、
「お前は、私が死んだら悲しい?」
「悲しいに…決まってるじゃないですか」
「そう。『決まってる』と思えることが、『人の型』におさまる要素のひとつ。
 逆に言えば、死の尊厳への浮薄さが『人の型』におさまることを否定する。
 ――普通であることって、一体どれだけ大変なのかしらね」
 アイリは驚愕に目を剥いた。

 代理人が泣いていた。

「私は肯定も否定もしないし、それは『彼』も同じ。
 ただ、それでもこう言うのでしょうね――否定しなくても、悼むことは出来ると」
「ご主人さま……」
 何故、泣くのかと。
 何が悲しいのかと。
 ――そう問うには、代理人の瞳はあまりにも普段通りで。
「こういう理もあるということよ」
 それはアイリへの応えか。
 あるいはただの独白か。
「さて、寝ましょうか」
 我に返った時には、代理人の頬には涙の跡もなかった。
 それこそ寝ぼけたアイリの錯覚だったのかもしれない。
「こっちへいらっしゃい、アイリ」
「いえ、遠慮します」
 最後にはっきりと理解できた一言を、アイリは全力で断った。

375空まで上がれ、心のままに:2008/08/02(土) 23:51:49
彼女が一言かける間もなく、相手は思い切り息を吸い込み―
「うぇごほっ!げほげほ」
手から滑り落ちた煙草が床につく前に拾い上げると、ドロシーは再び煙草を口にした。
完全に間接キスだが、元々は自分のモノなせいか、気にはならなかった。
「ごほっ…本当によくそんな不味いもんを吸えるね」
目元に涙を浮かべながら、信じられないとばかりにドロシーを見つめる。
「子供舌な紫には、理解出来っこないさ」
ふぅっと空に煙を打ち上げながら、からかうように額をつつく。
つつかれた額を擦りながら、それでも何かを考えるようにドロシーの横に置かれていた煙草の箱をまじまじと見つめる。
「ところでさ」
箱から一本取り出し、手のなかでそれを転がしながら、尋ねる。
「なんで煙草吸おうと思ったの?」

「そうねぇ…」
フィルターだけになった煙草を灰皿に落としながら、考える。
「興味とストレス発散と…ああ後かっこつける為?」
「ふぅん」
気の抜けた返事をしながら、手のなかの煙草を差し出す。
それを受け取り、先程の煙草から火を移す。
「ま、本当にそうかは知らないけど」
案外、アンタみたく死にたがりなだけかもしれないけどね。
そんな冗談めいた台詞に紫は呆れた様に笑うだけだった。

嫌いだった煙草の煙が少しだけ好きになれた気がした。

376日常茶飯事:2008/08/07(木) 22:03:21
第一印象は挽き立ての挽き肉だった。
ぶらりと少女のの口元から垂れ下がっていたのは、紛れもない人のそれだった。
とさっ。
後ろに居るであろう早苗が落とした籠の音に少女が"食事"を止め、振り返る。
服の前は血で染まり、口の周りも同様に紅く輝いていた。
新しい獲物の存在に少女の瞳は爛々と輝き、鋭い牙を見せて笑う。
「ひっ…!」
後ろで早苗が小さく悲鳴をあげるのを聞きながら、すっと身を屈め、少女を睨む。
少女も何か異変を感じたのか、笑みを消して、警戒するように後ろに後ずさる。
(気付いたか…)
じわり、と染み出す様に影が背後から立ち上がり、イメージした姿を形成していく。
決まった形を持たない影ならではの、ハッタリだった。



「ふぅ…」
逃げていった少女を見送る紫は緊張した様に額の汗を拭った。
人の形をした妖怪が人を喰らう。
ここでは当たり前だったそれを、だが、実際目の当たりにして、足から力が抜けていく感覚に襲われた。
「まあ今度は自分で撃退出来るようになればいいことさ」
彼女の差し出した手を取れずに暫く困ったような顔を見上げる事しか出来なかった。
「あー…なんていうか、とりあえずあれはここじゃあ当たり前なんだけど…なんというか、
ほら、うちらって肉食べるじゃん?つまりはそれみたいな感じでえーと」
励まそうとしているのだろうが、段々と本人も何だか分からなくなっていく様子が変で思わず吹き出す。
驚いたように目を丸くし―彼女は本当に良く表情が変わる―、やがて釣られた様に笑いながら、再び手を差し出す。
「なにはとまれ、とりあえず帰ろう?」
伸ばした手は今度こそ彼女の手を掴む事が出来た。

377:2008/08/12(火) 22:16:51
※グロ注意



最近、何をしていても手につかない事が多くなっていた。
趣味でもある仕事に立つその時ですら、既に帰った後の事を考えてしまう。
「う、うわああああああ!!」
そのせいなのか、撃ちもらしが増え、今日はあろうことか袈裟掛けに引き裂かれてしまった。
斬られてもなお思考は家の事ばかり。
ただ…目の前のこれは思考の邪魔だ。
「ぎあああああ!」
声がうるさい。指を落としただけで叫ぶ喉が邪魔になった。
「ぎ………!」
ヒュー、と音と共にしぶきが視界を染め上げる。
…ああこれでは駄目だ。鉄の匂いは女を泣かせてしまう。
軽率過ぎた自分の判断に舌打ちをしながら、地面で小刻に悶えるそれの頭に足を置く。
ガクガクと揺れる相手の目線と一瞬目が合い―僅かに笑みを浮かべて**********************


「いま帰ったぞ〜」
玄関で靴を揃え、居間に向かえば、温かな笑みが彼を迎えた。
「おかえりなさい、お夕飯出来てますよ」
「お父さんおかえり〜」
妻と子供に促されるまま席につき、サラダの上に乗ったトマトを皿の上へと移し、潰して混ぜ合わせる。
「お父さんってトマト変わった食べ方するよね?」
そんな子供の言葉に苦笑しながら、潰れたトマトと和えたサラダを口に放り込んだ。


今日もいつもの変わらない一日だった

378食人鬼の滅亡:2008/08/14(木) 12:20:29
常に一流の庭師によって手入れがなされているこの朝の空中庭園の石畳に馬の蹄の音が響き渡る。
銀河皇帝と帝国軍参謀総長の朝の日課によるものだ。彼らはこの地上数km.の楽園を一周してから、
それぞれの家族とともに朝食を摂る事を好んでいる。馬首を並べている間の主な話題は他愛ない世
間話だが、重要な話もさりげなく盛り込まれることもある。

「こればかりは別だろうね、バスト大将軍」
「アンザーティですか、確かに彼らは問題ですね」

アンザーティとは人間に非常に酷似した種族であるが、マインド・テレパシーで犠牲者を魅了し、両頬
に隠された触手で脳味噌や生命エネルギーを吸収する、恐るべき食人鬼である。その能力を活かし
て彼らは暗殺者として銀河社会に参加しているが、捕食される側からすればたまったものではない。
しかし、人間にとって幸運なことに現在の銀河の表社会は人間が圧倒的な勢力を誇り、かつて無い強
大な中央集権国家を築いていた。

『滅ぼすなら今しかない』

上から下までがそういった考えに囚われ、皇帝も例外ではなかった。しかし、いつの時代にも大義名分
は必要である。いきなりの虐殺は到底支持を得られないだろう。そこでいくつか下準備を始めていた。

「して、どのような手を打たれましたか?」
「アンザートに環境ホルモンを密かに工作員に撒かせている。出生率が格段に落ちるだろう。
それから、人間中心主義者に密かに支援を与え、論壇で攻撃をさせている。市民達も影響さ
れている」

彼らは普段銀河を放浪しており、母星には繁殖の時にだけ帰る性質がある。その為、出生率が下がれ
ば多くの者が帰還することになる。また、プロパガンタによって多くの支持を取り付けることも必要だ。即
位したばかりの彼の権力基盤は磐石とは言い難い状況にある。

「陛下、自分の嫌がることは人にはなさらないのが信条では?」
「ああ、『人』にはね」

美しい女性に自らの子を宿させることを楽しみの一つとしている彼への少しきついジョークとして参謀総
長は言ったが、返ってきた言葉も辛辣なものだった。無論、それは食人鬼達に対してであって、彼ら2人
には朝の頭の体操とユーモアでしかなかったが。

数年経ち、予想通り大半のアンザーティがアンザートに集まった。しかし子はできず、できない以上は星
を離れるわけにはいかない。更に帝国は近隣の惑星を焚き付けてアンザートへ侵攻させた。彼らも独自
の防衛軍を組織し、これらと戦ったが、全て帝国の掌の上で踊らされただけだった。

皇帝の息のかかった議員達のアンザーティ達に圧倒的に不利な紛争調査報告、それに伴う、アンザート
の武装放棄勧告、帝国軍の駐留。ここに来てやっと彼らは気がついた。

『帝国と人間に嵌められた』

より一層の軍備拡大と、駐留軍に対するテロを彼らは仕掛けた。直ちに帝国はキラヌー大提督とズィアリ
ング大将軍を総司令官とする遠征軍を派遣し、圧倒的な軍事力で彼らの掃討を開始した。彼らは女子供
に至るまで無慈悲なストーム・トルーパーやスター・デストロイヤーと戦ったが、刀折れ矢尽き、名立たる
都市は灰燼に帰し、皆殺しにされた。更に帝国軍は撤収時にアンザートの大地に塩と放射性物質を満遍
なく、幾層にも渡ってばら撒き、永遠に不毛の地とした。ここに食人鬼は永遠に消滅したのである。

「君は料理も堪能だね、ローストビーフのサンドイッチは最高だ。仕事の後ならなお格別」
「乗馬の後に朝食か、実に優雅な嗜みだな大将軍」
「恐れ入ります両陛下」

朝の庭園には花や木のかぐわしい香りと食事の香りがいつまでも漂っていた。

379滅亡から再誕へ:2008/08/15(金) 01:17:54
荒廃した地面を踏みしめながら、男が進む。
いまだに毒を巻き散らし、生きる者の命を蝕む死の大地は―だが汚染をもろともしない彼の様な者にはむしろ身を休めるのに最適の場所だった。
息を吸い込めば、漂う毒が体の隅々まで染み渡る感覚を彼は夢心地で楽しんでいた。
死を招く毒ですら男にしてみれば酒のように甘美で、体を震わす甘いうずきについ力を振るいたくなり―息をつく。
まだ仕事の最中だ。"酒"に酔うのは仕事の後の方が良かろう。
鼻唄混じりにざらつく地面を踏み砕きながら、軽い足取りで進んでいく。


やがて男の足が止まる。
眼下には岩の山が広がり、気を付けて見なければそれらが建物であったことすら判別出来なかった。
男はしばらく瓦礫の山を見下ろしていたが、やがて地面に腰を降ろし、何かを招くように手を動かす。
「……こい」
陽炎が瓦礫の間で揺らめく。
男の手招きに誘われる様にゆらゆらと揺れながら、ひとつ、ふたつと男の元へと動き出す。
「こい」
それは地面から起き上がるように現れ、次々に集まり―やがてそれらがひとつの形を形成していく。

男は既に手招きを止め、陽炎達の集合体をじぃっと見つめていた。
そうして、肌がざわめくのを止め、ひとつの決まった形を成した頃、
男はようやく立ち上がり、地面にうずくまるそれを見下ろし―静かに笑った。

「再誕、おめでとう。そして、ようこそ―」

380デリコート将軍の乱:2008/08/16(土) 12:14:18
草木も眠る丑三つ時、と古来より言うが忙しい銀河の支配者も眠る時間である。平時ならば。
ニモイディアンのデザイナーに設計させた優美な装飾と、人体工学によって寝心地を極限まで
追求したベッドはまさに一握りの者の為に用意されたものだ。しかし、取り巻く環境は往々にし
てそれを相殺してしまう。枕元のインターコムが突然鳴り響いた。両脇に一糸纏わぬ姿で寝て
いる王族と貴族出身の寵妃をよそに、長年の習慣ではたと目を覚ます皇帝。

「ピエットだ」

残る眠気のせいで幾分不機嫌な調子で応答するが、返ってきた声は切迫していた。もっとも、
切迫した用件以外で夜中に皇帝を叩き起こした者が朝日を拝むことはできないが。

「反乱です、我が皇帝!」
「なんだと…?そんなことで…」

広大な帝国領には反抗的な惑星や野心的な総督や将軍、提督の支配する星系もある。その
為、反乱はいつ起きてもおかしくは無いが、普通は隣の星系の軍、大規模なものなら宙域・宙
界総督が鎮圧し、その後に報告をすればよい。インペリアル=センターにこのような粗忽者が
配属されるとは世も末と思ったが、話し手がすぐに変わった。

「エーシェン将軍です陛下」
「将軍、君が何用だ。まさか反乱がここで起きたなんてことではあるまい」
「そのまさかです、陛下!」

タール=エージェン将軍はインペリアル・パレス内外の防衛を任されている、いわば近衛将軍
である。その彼が直々に反乱の報告などおかしいと思ったが、ここで起こったのなら話は別だ。
当然、彼の管轄内である。

「…そんなまさか。誰なんだ…誰が首謀者だ」
「デリコート将軍です!」

呻く皇帝。だが、疑問は無かった。エヴァー=デリコート将軍は前情報部長官イセイン=アイサ
ード派の、もっと言えばパルパティーン派の将軍だ。クレンネル大提督の反乱に続き、寛大な
彼の心はまたしても踏みにじられたのである。

「今の状況はどうなっている?」
「4つの城門で押しとどめておりますが、援軍が無ければ危険です。正門は大将軍皇后陛下が
自らソヴェリン・プロテクターの一団を率いて防戦しておられます」
「な、何ィ〜!?何故止めなかった!」

ソヴェリン・プロテクターはロイヤル・ガードの中から更に慎重に選抜され、ダークサイドの加護
を付与された恐るべき戦士達である。ロイヤル・ガードが100人力ならば、彼らは一騎当千という
言葉が適当であろう。彼らが付いているとはいえ、愛妻を死地に送ったことを彼は咎めた。

「いえ、反乱の第一報を受けるや戦装束でお出ましになり、そのまま往かれましたので…」
「なんたることだ…いや、最早将軍、君を咎めまい。今すぐ司令室に向かう、君と作戦スタッフを
召集するんだ」
「仰せのままに、我が皇帝」

ベッドから身を起こすと、流石に相次ぐ大声で目を覚ましていた2人が身支度を手伝い、大元帥
の制服を身に着け、クララはそのままロイヤル・ガードとして司令室に同伴していった。後に残さ
れたティータは窓の外の戦闘によってか、反乱軍の蛮行によってか、火災の起こるインペリアル
シティの市外を虚ろな瞳で眺めていた。

381デリコート将軍の乱:2008/08/19(火) 16:28:44
既に司令センターの作戦室内にはエーシェン将軍以下、各所の防衛部隊の司令官や
将位を持つ参謀達が集結し、大元帥の制服を着て現れた皇帝を迎えた。

「将軍、状況のまとめを」
「はっ、デリコート将軍麾下のストーム・トルーパー4個師団が包囲中です。機甲大隊や
自走砲大隊も含まれており、火力は極めて優勢です。この他にアーミー・トルーパーの
2個大隊が市内の制圧にかかっております」

インペリアル・パレスを守るのは近衛1個師団とロイヤル・ガードが200名、ソヴェリン・
プロテクターが10名である。防衛には十分だが、敵が数では遥かに優勢である以上、
撃攘することは困難であろう。

「市民を押さえつけるか…人質探しか…高官達はどうなのだ?」
「アロー副議長とバスト参謀総長、バゼーヌ総督の行方が――今、アロー副議長の安
否確認が取れました、軌道上のインペリアル・スター・デストロイヤー『スリンガー』に収
容されたそうです」
「となると2人か…まずいな」

インペリアル=センター総督のバゼーヌは市民に人気があるので人心収攬の観点か
ら捕まっても殺されることは無い、と彼は考えたが問題はバスト参謀総長である。彼
は皇帝の側近であり、新体制の熱心な支持者である。彼の首はどのような反体制プ
ロパガンタよりも価値があり、効果的だろう。

「まあ、今は手の出しようが無い。夜明けまでには各地から援軍が到着するだろう」
「はい」
「オキンス提督には連絡が取れたか?」
「はっ、半日で到着するそうです」

幸い、インペリアル=センター各地の駐屯地への連絡は可能であり、司令官達に連絡
はついていた。未知領域への援軍に向かったオキンス提督も引き返せる。デリコート将
軍が思慮に欠ける人物であったことが幸いしたおかげでまたしても帝国は延命に成功
した。もしもスローン大提督のような天才的な策士が起こしたならば、コトは確実に運ん
だだろう。クーデターとは、あらゆる外的圧力を排した状況下で速やかに行われてこそ
成功するものである。彼には全てが欠けていた。

「そうか、正午まで頑張れば我々の勝利確実だ。専守防衛に努めよ、市民には我らが
いまだ健在であることを放送せよ、反乱軍への揺さぶりを忘れるな。各員、それぞれの
職責を全うするように、帝国万歳」
『帝国万歳!』

皇帝が徹底抗戦を命じたことで俄かに司令官達の士気が上がったように見えた。恐らく
それは彼らを通じて末端の兵士にまで行き渡ることだろう。援軍が到着次第、皇帝は反
乱軍のパージを命じ、その時に士気は最高潮に達する。司令官達は心中密かに反撃の
機会を待つのだった。

382歌・上:2008/08/21(木) 21:50:11

 ――Forever…
 ――Tears fall, vanish into the night
 ――If I'm a sinnner…
 ――Chivalry, show me the way to go

「――本当に」
 静寂だった空間に、声という亀裂が走る。
 静寂。亀裂が走るまで歌声が響いていた空間を、しかしそう称せずにはいられない。
 鼓膜を震わせる不快を忌み、心へと直に響いてくるような。
 空気よりも自然に世界に馴染み、呼吸するだけで全身に染み渡るような。
 それは歌よりも根源的な何かを孕んだ、しかし紛れもなく歌そのものだった。
「歌声だけだと誰だかわからないわね」
 その歌声は、しかしもう届かない。
 今この時、歌を媒介にして世界の一部を確かに紡いでいた『それ』は、
大きな瞳をさらに見開いて声の主を見つめている。
「意外? 私がここにいることが」
 わずかに顔にかかった真っ青の髪を手で梳き、代理人は『それ』を見遣る。
『それ』。それはまさに『それ』であり、と同時に、
「――アスミ」
 代理人とは対照的なピンク色の髪を下げた、ただの少女だった。

 アスミは人前では歌わない。
 それは彼女の歌の腕前以上に、皆の間に知れ渡っている周知の事実だった。
 歌う場所は専ら地下室で、それも誰かが入るとピタリとやむ。
 ただ地下室には通気のためにいくつも空気穴があり、その一つが部屋に直接
繋がっているため、時折アスミの歌声を耳にすることがある。
 それを聞いた誰もが最初に思うのは、
『――これは一体誰が歌っているのか』
 つまり、それだけ歌っているアスミの声は印象が異なるわけだ。
 アスミが歌うところを見た者はいない。
 とある一件から、葬送歌を紡いでいるところを目の当たりにしたリディアと。
 今この瞬間の、代理人を除いては。

383歌・中:2008/08/21(木) 21:53:37
 大きな瞳が代理人を覗き込んでいる。
 そこに湛えられる光は、驚きと――好奇心か。
「青いのー」
 ぴっ、と代理人を指さして、
「いなかったー、いるー、なんでー?」
「陳腐な表現で申し訳ないけど、私はどこにでもいるの。文字通りにね」
 主語の存在しないアスミの問いかけを、どうやら代理人は理解しているらしい。
「どこにでもいるー、たくさんー?」
「もちろん私は一人だけよ。ダメージを受けると増殖するスキルなら随時募集中」
「たくさんー、ここにもたくさんー、あっちにもたくさんー」
 言って、代理人を指し示した紅葉のような手のひらを、虚空に向ける。
 虚空。言葉の通り、そこには何もない。何も、だ。
「……そう。見えるのね、アスミは」
 わずかに代理人が眉を落としたように見えたのは、果たして錯覚か。
「たくさんいるー、みんなさみしー、いっしょに歌うー」
 くるくると回り始めるアスミ。
 そんな奇行は今に始まったわけではなく、むしろいつも通りなので、
当然のように代理人は気に留めない。
「そうね。貴女の歌はそのためにあるんだもの」
 もっとも、代理人の場合気に留めるものが存在するのかどうか。
「歌ってバイバイー」
「そうやって『彼』ともお別れをしたの?」
 ぴたりと。
 発条の切れた人形のように動きを止めたその体は、首だけを代理人に向けていた。
「お別れ?」
「そう、お別れ。もう会えないことを告げること」
 首を傾げる。理解できないというジェスチャー。
 アスミに限って、惚けるなどという選択肢はない。
 知らないと言えばそれは彼女の知らないことであり、
理解できないと振る舞いで示せばそれは彼女には理解できないことなのだ。
「してないよ?」
「そう」
 故に、していないと言うのなら、していない。
 だがそれに続いた言葉は、代理人の予想を超えていた。

「ここに、いるから」

384歌・下:2008/08/21(木) 21:55:52
 沈黙が場を支配した。
 それは静寂と呼ぶには重苦しく、静謐と呼ぶには世俗的で。
「どーしたー?」
 ぱたぱたと。
 代理人に駆け寄ったアスミは、頬を引っ張ったり抱きついたりして彼女の反応を
窺っていたが、彼女自身が自発的に動こうとするまで代理人は眉さえも動かさなかった。
「――そう」
 再び、前髪を梳く。
「しょせん私の持ち物は、一部でありすべてではないということなのね」
「一部ー、すべてー、たくさんー、ひとつー?」
 またくるくる回り出そうとしたアスミの頭を代理人はおもむろに掴んだ。
「きゃー、青いのはなせー」
 途端にバタバタと暴れ出す。
 自分からはひっついてくる割に、他人から触れられるのをアスミは嫌う。
 代理人の手が届かない安全圏まで逃げ出すと、
己の無事を確認するようにふるふると身を震わせた。
「おなかすいたー、ごはんだー」
 それはモードの切り替わる合図。
 こうなるとアスミは理性よりも食欲を優先するようになるため、
何を聞いてもまともな返答が返ってこなくなる。
 その度に苦労するのは姉役のリディアだったりするのだが、まぁそれはどうでもいい話。
 食べ物を求めて姿を消したアスミにより、残されたのは代理人一人。
 一人、のはずだ。

「偏在を非とし、遍在を是として私をここに置きながら。
 ――それでも未練を捨てることは出来ないとでも言うの?」

 その言葉を聞いた者は、誰もいない。
 誰も。

385正義の名の元に:2008/08/21(木) 22:48:45
正義。これほど胸くそ悪くなる言葉を彼女はいまだに知らない。
正義の名の元に。彼女の居た群れは幾重もの武器で斬り刻まれ、無へ還った。
そうして庇護を失いはしたが、とりあえず生きていく術は覚えていた。
幼子の姿をその手段に、彼女は独り生きた。

だから、という訳ではないが、正義を口に戦いの火種を巻き散らす彼らの姿は至極滑稽であった。

正義の名の元にあるならば。人は敵という名の人を殺せる。

正義の名の元にあるならば。あるものを崇拝する者達は他の者が信ずるものを悪魔と呼び、排除出来た。


人が正義を口にすればするほど正義は血と怨みを纏い―闇となる。

「本当なら…歓迎したいけど」
身の丈以上ある巨大な鎌を手に、彼女は眼下に広がる敵達の陣を無表情に見つめた。
「胸くそ悪いから、退場願うわ」
その背後には無数の目が静かに、狂気を孕みながら漂っていた。



夜が降りてくる。
ただその一言を残して、市街の制圧に向かっていた2個大隊が消失した。


「後は…そちら次第ですわ、ねぇ?」


―人間のお父様…

386もう一つの大会:2008/08/30(土) 08:49:54
夏の名物と言えば夏の甲子園こと、全国高等学校野球選手権大会が行われる。
高校球児たちが野球の聖地と言われている甲子園で
優勝を目指すドカベンでもおなじみのあの大会だ。
そして2008年8月18日、決勝戦で大阪桐蔭が常葉菊川に対し、
打線が大爆発、5回表までに6点を取っていたそのころ、
ドカベンの舞台として有名な保土ヶ谷球場、
正式名称神奈川県立保土ヶ谷公園硬式野球場で
試合の始まりを告げるサイレンが鳴っていた。

だが、相手はいなかった―。

相手求む!資格はわいの豪球打てる人や!

かくして平成の藤村甲子園のひとり試合はスタートした―。

387緋色を背に、魔は嗤う:2008/08/31(日) 21:46:03
人々の奏でるオーケストラが彼女の周りでそれぞれの音をあげる。
自らに敵う者など、この世界にいない。
そう信じて疑わなかった者の奏でる音楽はなんと甘美なことか!
揺らめく炎に髪をなびかせながら、通りを進んでいく。
それが罪である、と自身が警告を発する。だが、今となってはそれらに自分を止める力は無きに等しい。

ここは戦場。居るのは、敵という名の他人。

生きて明日を迎えるか、死して幕となるか。

ここには正義も悪もない。あるのは破壊と殺戮。
「さあ」
生き残った“敵”へ微笑む。最も彼らには死をもたらす狂った笑みでしかない。
「音楽会を続けようか」
遙か遠くに忘れてきた暴威の前に彼らは震えるしかなかった。

幕が下りる。

地面に転がった肉に何の疑問を持たずに手を合わせる。
「終わったかしら?」
目の前に降り立った少女にため息をつく。
「死体に乗るなっての」
その言葉に彼女は驚いたように目を丸くし、からかうように口を歪めた。
「おかしな人、あなたが殺したんじゃない」
思わず肩をすくめる。
「習慣よ、日本人としてのね」
いよいよ少女は声をあげて笑い出す。
「滑稽だわ!破壊と殺戮を好みながら、まだ魔に染まりきっていないとは!」
「二面性に富んでいると言ってほしい」
腹を抱えて笑う少女に通りの向こう側を示す。
駆けつけたのであろう、新たな敵の姿がそこにあった。
「あきないわね」
「そうね」
哀れな生け贄を見つめながら、二人の魔は嗤う。


夜明けはまだ遠い

388デリコート将軍の乱:2008/09/01(月) 08:07:05
インペリアル=センターの炎に焦がされた空が段々白んできた。あげ雲雀なのりいで、かたつむり
枝を這い、神空にしろしめす。下で人間が命のやり取りをしていようが、保身や野心に躍起になっ
ていようが、朝は決まった時間にやってくる。そして、今この世で一番の保身に奔っている皇帝は
睡魔を撃退する超兵器の9杯目にとりかかっていた。

「あー…味も分からなくなってきた…クララ、オーダー66発令宣言の草案はできているのかな?」
「まもなくできあがるって」
「そうか、清書次第目を通して暗記しよう」

彼は宇宙軍出身の為、これといってやることが無い。その為、防衛の状況よりもこちらの方が重要
なのである。

もっとも、防衛の状況も気にする必要は無かった。いくら兵数で勝ろうとも、優秀なストーム・トルー
パーを選抜した近衛師団と百人力のロイヤル・ガード、一騎当千のソヴェリン・プロテクター達、そし
て堅固な城壁と強力な防御火力の前にクーデター軍は手も足も出なかったのである。

更に僥倖が、敵にとっては悲報が舞い込んだ。警察部隊からの報告によると、市内を制圧に向かっ
たクーデター軍が原因不明の壊滅をしたとの情報が入った。誰もが喜びと疑問の混じった顔をして
いたが、皇帝と彼の側室にはすぐに誰がやったか見当がついた。

「ヤラちゃんだね…」
「ああ、戦うのは大人の仕事だと何度言っても聞き分けの無い…」

銀河帝国第2皇女ヤラ=ピエット。彼女は公式には惑星アクシリアの名門軍人の一族から貰い受け
た養子ということになっているが、上層部では彼女が破滅をもたらす闇の一族のダークマターである
ことは公然の秘密である。その常軌を逸した戦闘力は人間の及ぶところではない。それでも皇帝と
皇后は彼女を実の娘同然に愛し、人としての生き方を教えてきた。だが、まだまだ彼女は学ばねば
ならないようだ。

389デリコート将軍の乱:2008/09/01(月) 08:17:28
そして夜が明けた。インペリアル・プライムが四天を遍く照らし、黄金の光に摩天楼が包まれる。そし
て四方からストーム・トルーパーやアーミー・トルーパーを載せたシャトルの大編隊や兵員輸送車の
姿が現れた。実質的に愚か者の将軍に反乱の失敗を思い知らせる光景である。そして追い討ちを
かけるように皇帝の玉音放送がインペリアルシティ全域に放送された。

「おはよう、善良なる帝国市民の諸君。今、諸君らの血と汗の結晶、そして諸君ら自身の安寧が愚
かなる反逆者によって攻撃されている。だが、案ずることは無い。我々の国防軍は諸君らを保護し、
反逆者を一掃する為に必要なあらゆる手段を講じている。よって君達市民が武器を取る必要は無
い。だが!諸君らは心で抵抗を行ってもらいたい!軍人は矛で!市民は心で!それぞれの持てる
もので敵のあらゆる面に対して徹底抗戦しなくてはならない!今こそ私はその旗手となって最前線
で戦おう!ここにオーダー66を発令する、軍民一体となって、我らの繁栄を邪魔する者に死の代償
を払わせるのだ!」

皇帝の熱弁と健在のアピール、そして完全なるパージが発令されたことでクーデター軍の戦意は消
沈し、投降する者や逃亡する者が次から次へと続き、崩壊した。デリコートも「最早これまで」と自決
し、最期は軍人らしい潔い死でこのお粗末な反乱劇は終焉したのである。

日が高くなった。皇帝とその家族達は戦塵を払い落とし、お互いの無事を喜びつつ、遅めの朝食に
とりかかった。帝都惑星は今日も平和と喧騒の中、回り続ける。

390忘却:2008/09/07(日) 12:16:07
街を大勢の人々が歩き、休憩の兵士達が談笑する。
平和、そのものだった。
一週間足らずでここまで復興したのは被害が少なかった事もあるが、純粋な意味で技術力の高さを物語っていた。

それでも、この場を歩く人々は知っているのだろうか。
あの夜、ここは戦場だった事を。
道路を覆いつくした死体の山と血の海があったことを。

良くも悪くも人は忘れる生き物だと、既に声すら思い出せない父の言葉が頭に浮かぶ。
その人間の元で生きていく事になろうとは、
運命とはつくづく自分がキライらしい。


「―――」
名を呼ばれた彼女が思考の海から顔をあげると、通りの向こうで手を振る青年の姿。
かすれた記憶に残った誰かに似た青年に心からの笑みを浮かべ、彼女は「兄」の元へと走り出すのだった。

391真っ暗:2008/09/07(日) 22:04:47
朝起きるとそこは暗闇だった。何も見えない。
どうやら失明してしまったようだ。歩けもしない。
助けを呼ぼうとした。だが声も出ない。助けを呼ぶこともできない。
この絶望の中で私は寝室からリビングまで歩くことにした。
何も見えない。リビングへの方向なのかすらわからない。
何が起きているのだろう。一体これは何のつもりなのだろう。
家族は今旅行に行っている。助けてくれる人なんざ一人もいやしない。
どうしよう、どうするべきか。
考えても絶望的な答えばかりしか思い浮かばない。

と、そのとき私はある事実を思い出した。
そうだ、昨日私は酔いつぶれていたところをトラックに―。

392豪雨2・上:2008/09/07(日) 23:02:20
 天地を裂く撃音。
「………………んっ」
 恐怖の根源を呼び起こす大気の震えに、生存本能が体をすくませる。
 リディアは反射的に少女を抱きかかえる力を強めた。
「……………………」
 そしてその力に対する少女の反応は、皆無だった。
 動かない。ぴくりとも。
 まぶたの動きでさえもその力に抗うことはしない。
 それは――ニンギョウのような。
 それは――ヒトガタのような。
 着やせした胸が浅く上下していなければ、服越しに伝わる温かささえ錯覚と思ったかもしれない。
「いつものことなのはわかってるんだけどなぁ」
 苦笑する。
 雷など、アスミには恐怖どころか関心の対象にさえならないのか、と。
 そもそも耳に届いているのかさえあやしい。
「ぼんやり」を追及した果てに完成した、二時間ごとに空腹を訴える神秘のビスク・ドール。
 そんな触れ込みで売り出したら、意外に好評かもしれない。
 それにしても動かない。
 こうなると梃子でもシーソーでも動かない。
 この状態になったアスミの関心をこちらに向けるとしたら、目の前でお菓子を
ちらつかせるか、あるいは――
「あ」
 と、リディアが声を上げたのは、
「さ〜て、今日のイッテ○は、っと」
 リモコン片手に現れたのは、ピンクの髪をした魔女。
 何の遠慮もなく、何の考慮もなく、何の思慮もなく、何の浅慮もなく、
 彼女はリモコンのボタンをテレビに向けていた。
「……………………!」
 少女は相変わらずの無言。
 が、その目はこれ以上ないほど大きく見開かれていた。
 テレビの画面に支配されたように停滞していた、その瞳が。
「……………………」
 投げだされた足が。だらりと垂れ下がった手が。
 あたかも壊れた人形でも象徴するように、アスミという存在を描く。

 耳をつんざく轟音が走り。
 アスミの首が――まさに糸の切れた人形のように――かくんと落ちた。

393豪雨2・中:2008/09/07(日) 23:03:50
「ちょっと! 今アスミがどうぶつ○想天外見てたでしょ!」
 アスミのお腹辺りに手をまわして、背後から抱きかかえるように座っていた
リディアが、彼女のあまりの落胆ぶりに思わず声を上げた。
 一方、風呂あがりなのか濡れた髪をふいているアーチェは、
「いい? リディア」
 と、やけに真剣めいた声を出す。
「……な、何?」
 萎縮してしまうのは、アーチェの日頃の振る舞いの賜物だ。
 普段バk、もといおちゃらけた印象の人物が突然真面目な雰囲気を醸し出したりすると、
何故か意味もなく怯んでしまう。
 その隙をアーチェは見逃さずに――畳みかけた。
「今日は――○モトが飛び降りるのよ」
「意味がわからない!」
 それは、リディアをして0.1secでツッコミを飛ばすほどのレベルだった。
 勝者と敗者。勝ちと負け。0と1。得た者と失った者。
 それらがすべて、決まるほどに。
「リモコンを持つ者が常に世界を制するのよ」
「大きい! 回収する見込みのまったくない伏線を張りまくった大長編作品並にスケールが大きいよ!」
「あたしは器が大きいから」
「関係ない上に正しくもないし!」
 適当なことを言ってあしらってはいるが、アーチェの視線はとっくにテレビに向かっている。
 もはや何を言っても届かない。
 しょせんは、敗者の言葉だった。
 ――リモコンを手元に置いておかなかった。
 そんなごく些細な、ごく卑近な、ごく矮小なミスが、こんな敗北をもたらすとは――!

 曇天を埋め尽くす白光がきらめき。
 しかしリディアの目に、怯えの色はなかった。

394豪雨2・下:2008/09/07(日) 23:07:20
 テレビのモニターでは今まさに珍獣が塔の上から飛び降りようとしている。
 何やら喚いては笑いを誘っている。
 半ば押し出されるようにその体躯が重力の束縛から解放さr
「あ」
 手動でチャンネルを変えられた。
 そう。別にリモコンでなくても、チャンネルは変えられる。
 ただそれだけのことだったし、それ以上のことでもない。
 大したことではないのだ。少なくとも、戦局を変えたわけではない。
 そう、またリモコンを使って変えればいいのだか「サンダー」。

 天空を轟かせる閃光に比べれば、それは穏やかとさえ言えるものだったが。
 リモコンを破壊するくらいの威力は、有していた。

「……やってくれんじゃない」
 勝ち負けなど、しょせんはコインの裏表に過ぎない。
 些細なことで――ひっくり返る。
「普段あたしのライトニングに文句を言う人のすることじゃないわよねぇ?」
「文句を言っても反省する気のない人に言われたくはないかな」
「反省はしてるのよ。反映させる気がないだけで」
「ふーん。でも結果の伴わない反省なら……ね?」
 あえて最期をぼかすことで、その言葉が意味するところをほのめかす。
『ビシィッ!』という効果音さえ聞こえてきそうな勢いで、アーチェの額に青筋が浮かぶ。
「あたしが、日光の軍団並だとでも?」
「ううん、日光の軍団よりきれいだと思うよ」
 にこりと。
「――かわいくはないけど」
 無邪気に、無慈悲に、無感動に嗤う。 
「……サルより太い足の娘に言われたくはないわね」
 こちらは『バキンッ!』とでも聞こえてきそうな驚愕だった。
「……なん、ですって?」
「いっつも傍にいるからアスミに感化されてるんじゃない?
 ――天高く リディアが肥ゆる なんとやら」
 革新的に、確信的に、核心的に哂う。
「……大草原体形に言われたくはないかな」
「その言葉、そっっっくりそのままお返ししてさしあげましてよ?」
 あるいはこの場に霊夢か慧音でもいれば、最悪の結末は防げたかもしれない。
 それはつまり、そんな仮定を望みたくなるような結末を迎えるということだが。

「出でよ、神の雷」
「雷杖よ――意思通ずるなら、応えて」

 天から降り注ぐ雷柱にも劣らぬ、地から『立ち上る』2本の雷槍も、
しばらくの後に天気が切り替わるようにどこかへ遠ざかっていった。

 残されたのはアスミ一人。
 インスタントラーメンをバリバリとかじりながら(作るのが面倒なのか、
作り方がわからないのかは不明。どちらにせよ同じことだが)、くしくしと目を擦る。
「おなかすいたー、たくさん食べるー、眠いー、どうするー?」
 自問自答しながら、かわいらしく頭を傾げる。
 ただでさえ回転を拒絶する思考は、眠気のせいでさらにその動きが鈍っていた。

 お姫様は、かくんかくんと船を漕ぎながら、誰も作ってくれないインスタントをかじり続ける。

395涙さえ乾かない:2008/09/11(木) 16:34:27
White birds
闇に閉ざされ今
僕等は ah 静寂の彼方まで
 
何もかも変わらない
しらけた この世界
いつも通りの僕と違う自分を
さらけ出して愛を
 
White birds
闇に閉ざされ今
僕等は ah 静寂の彼方まで
 
tell me
生まれ変われるなら
夢の叶え方を教えて
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「無理でしょ」
「貴様よく空気読めないと言われるだろ」
「イヒヒヒ」
 
吸血鬼ユーリと透明人間スマイルは今日も仲良しです。

396行列:2008/09/13(土) 09:00:57
じわりと肌に張り付く様な暑さを感じながら、アサヒは腕時計を見た。
「今何時ー?」
隣で座り込んだ(アサヒ自身もだが)フヨウが覗き込む様にしながら、問掛ける。
「まだ30分もある」
その言葉に周りで溜め息が漏れる。
「まあコミケよりはましだわな」
そう嘘ぶくのは紫。
数年前まではコミケへと足を運んでいた彼女にはこの行列も大した事ないのであろうか?
「比較対象がでかすぎだっての…」
言いながら、鞄からDSを取り出し、電源を付ける。
隣のフヨウ達も同じ様に電源を付け、紫にいたってはイヤホンをつけている。
「暇だし、地下で化石掘りやらん?」
「フラグとられるからやだ」
「ひみつのコハク、誰か持ってない?」
そうこうしているうちに列は徐々に、確実に長くなり、ついに100人程に増えていた。
(こいつらもやっぱりおなじもん目当てかな…)
そう思いながら、アサヒは再び…三回目となる、時間の確認をするのであった。

397再生と再会:2008/09/14(日) 07:15:28
お粗末な反乱劇から一週間、帝都からは完全に戦塵は拭い去られていた。皇帝の宮殿は
四囲を睨み下ろし、摩天楼はいよいよ聳え、街を行きかう人々は賑わい、巡回のストーム・
トルーパー達の足音は整然としていた。

一人の軍事アカデミーの学生が通りを歩いていた。先程まで復旧作業中の市民や将兵、ド
ロイド達を慰労し、大勢の群集からの歓声や礼に手を振って応えていた、皇太子エドゥアー
ルである。本来、彼は別の惑星の軍事アカデミーで腹違いの兄と共に学んでいる筈だが、
事態が事態なので教官から兄と共に帰還を認められていたのである。

あの反乱で多くの命や物が失われたが、生き残った人々は力を合わせて復旧し、更にそれ
以上のものへと発展させようとしている。人はちょっとやそっとでは挫けたりはしない。身体
的には他の種族に後れをとるが、ガッツだけは誰にも負けない、と若き皇太子は確信して
いた。

ふと、よく知った感覚を感じ、通りの向こうを見ると、焼け落ちて、再建途上のビルの足場に
腰掛けている妹がいた。ダークマターらしく、人の中にいる事を好まない彼女らしい。仕方の
ない、という意味と久しぶりに会えたという意味で、笑みを浮かべると、妹の名を呼び、手を
振った。すると、見る者が限られる愛らしい笑顔を浮かべた彼女が駆け寄ってきた。

「ただいま、ヤラ」

頭に手を載せると、兄妹は久々の再会を喜んだのである。空は今日も雲一つ無い青空がど
こまでも広がっている。しばらく散策するには都合がいいだろう。

398愛の欠片:2008/09/18(木) 10:42:54
数多くの犯罪を起こしてきたからなのか 皆、俺の事を警戒している
最近では(悪い意味で)有名になったのか、ついにブラックリストに載せられた。
その後 上司に叱られたな。 恥を知れと 任務以外の犯罪は犯すなと
内心うるせえと思った。何度脳内で上司を殺したことか
俺の周りには敵しか居ないのか、とも思った
 
…だが そうでもない。マスターと呼ばれる人魚だけは警戒してこない
それどころか 時間が空けば遊んでくれて、怪我すれば治療してくれて、悪い事をすれば代わりに謝ってくれた
何故俺の為にそこまでするのかは知らないけど悪い気はしない。 むしろ嬉しい、正直
 
そう言えば彼奴は俺を犯罪者としてではなく一人の人間として見てくれてるのだろうか?
 汚い手を持っていても中傷発言で脅しても監禁して欲望を満たしても、皆みたいに警戒せず俺自身を見てくれている風に感じる
あ…でも犯罪を起こしても謝らない非常識野郎な俺なのに何故?と疑問に思う時もある。
だけど これは考えても仕方ないよな。
 
とりあえず いつか今までされた恩を返そうと考えてたりするんだ。こんな俺でも優しく接してきてくれたから
彼奴はマスターだから当然の事、って言ってたけど 暗殺者として生きていた俺にとっては…凄く嬉しかったんだよ
 
 
 
よし 心に誓う
人魚から貰った幸福は いつか倍にして返すと
 … 果たさないといけないからな 『責任』は。

399ABY10.アクシリアの戦い:2008/09/26(金) 19:27:03
――ESD『エグゼキューター』

「Goooooooooooooood!!」

ビューポート前に据えられた椅子に座りながら、アクシリアⅠ奪回の報告を受けた総司令官
はパルパティーン皇帝のような賛辞を送った。賛辞だけではない、最近の彼はまるで皇帝の
ように振舞い、そのように彼を扱う者も少なからぬ数となっていた。元老議員や帝国顧問達
は彼におべっかを使い、官僚や軍人達は重要な決済を彼に仰ぎ、市民達は帝国の英雄と
祭り上げている。心ある者達や反感を持つ者達はこれを批判するが、彼と彼の側近グルー
プの働きぶりは無視できないものである。彼がいずれ玉座に就くのは明白であった。

だが今はそれを論じる時ではない。陽道作戦の一手の成功を皆が喜んだ。更に喜ばしいこ
とに、反乱軍に潜入している諜報員が反乱同盟軍の司令部に動きがあったことを報告した。
まず間違いなく敵の艦隊は出撃してくるだろう。しかし、敵もこの作戦に乗るだけではなかっ
た。こちらが一番危惧していることへの布石をしたのである。裏切り者のモフに軍隊の通行
許可を打診したのだ。すなわち、有力な部隊が後背を突くことに他ならない。

「この戦い、我々が敵を敗北させるニュースが広まるが早いか、敵がインペリアル=センター
を陥落させるのが早いかで決まりますな…まさに決戦です、閣下」

老練なペレオンが重い口を開いた。既にピエットにも慢心の色は無い、堅実な歴戦の司令官
としての顔になっていた。再びピエットは敵が来襲してくるであろう方向の暗い宇宙空間を睨
んだ。

「来るなら来い、ここを貴様らの取るに足らない反逆の墓標としてやろう…!」

ソヴェリン・プロテクターのマイン=カイニューはどこかで似たような言葉を誰かから聞いたよ
うな気がした。そうだ、自分が――ここに居る全員がかつて忠誠を誓い、畏怖していた皇帝か
らだ。

400葉の落ちる音:2008/09/29(月) 22:13:22
窓の外で色付き始めた木の葉を見つめながら、少女は儚げに呟いた。
「嗚呼あの葉が全て散ったら、私ももう―」
その言葉が終わる間際に木が激しく揺れ、葉がバラバラと舞い落ちる。
容赦なく。大量に。
「・・・・」
庭では鬼ごっこをする子供達の笑い声が響いていた。

「焼き芋だー」
新聞紙にくるんだ芋を落ち葉の中へ放り込み、少女達は焼けるまでの時間すら待てないと言わんばかりにそこら中を駆け回っていた。
その様子を見守る紅の隣に女性がゆらりと現れる。
「おはよう、紫さん」
金髪の女性―紫はけだるそうに縁側に腰掛け、欠伸をひとつ。
そうして、ぼんやりとした視線を少女達に向ける。
「元気ね」
「まあ、子供ですから」
そう言うと手にした竹の棒で弱々しく燃える落ち葉をつつきながら―思い出したように問い掛ける。
「冬眠って、もうすぐだっけ?」
「えぇ」
すこし寒そうに手を擦り合わせながら、紫が答える。
「難儀なものね」
「割と楽しいわよ。
色々な夢を見て、現との境界に漂うんだから」
「じゃ、そろそろ食い溜めしないとね」
「えぇ」
ぱちん、とはぜる音を聞きながら、少女達の一日は過ぎていく。

401秋更ける:2008/10/08(水) 22:04:39
目を開けた時には既に布団のなかであった。
自分の匂いの染み込んだ枕に顔を埋めながら、ぼんやりと頭の中を整理していく。

ここは何処か?
   ―境界にある自分の家の、自分の部屋。

今はいつか?
   ―そろそろ支度をするべき季節。


「ん?」
頼まれていた服を手に障子に手をかけた紫は障子の間からはみ出ている何かに手を引っ込めた。
金色の糸のようなものの一本を摘み、軽く引っ張る。
ツンツン。
「むぅ」
おもむろに糸のようなそれから手を離すと今度は自身の頭の毛を一本ばかり摘み、引っ張る。
ツンツン。
「ん」
合点いったという様子で髪から手を離し、別の障子を開け、中を覗き込む。
障子に頭を押し付けるようにして横たわる人物(人外)が一人、それと荒れ放題の室内に目を丸くする。
はてさて寝惚けて探しものでもしたのか。
とりあえず布団を(紫なりに)綺麗に畳み、散らばった掛け軸だのを元の場所らしき場所へと戻し、布団を敷き直す。
一通り布団を整えてから、障子の人物を布団へ運び―
「いででっ」
痛みを持った腰を擦りながら、立ち上がろうとして―目が合う。
「痛そうね」
眠たげなまま、金髪の女性。
「まあ、持病みたいなもんだからさ」
苦笑いで、紫。
「さっき藍さんが一旦帰ってきてて、家のこと粗方やってくれたみたいよ。
なんでもぱぱっとしちゃうなんて流石だよ」
「主人がいいからね」
「違いない」
布団に潜り込む女性を見届け、入口に歩き出す。
「ねぇ紫」
障子に手をかけたまま、肩越しに振り返る。
「今はいつかしら?」

402十六夜日記(予定):2008/10/13(月) 23:09:21

 これは日記である。

 日本人はいい人ばかりだと聞いたので、これも日本語で書いています。

 仮に私の名前を「十六夜」と仮名しよう。

 これだから現実ってのは嫌だ。事実はネット小説より奇なり。

 何か相手もヤンデレだったし。ヤンデレうざい。いやマジで。

 くるくると宙で回転するのは――十六夜の、左腕。

 黒灰を混じらせたスモッグをまとう空気は、常にどこか薄暗い。

 私、十六夜の住むこの世界は、現在ひどく歪んでいる。
 

 ――これはオチもない、嘘のような、本当のような、嘘でも本当でもない話。

403十六夜の空:2008/10/15(水) 22:42:42
「風流な事してるじゃない」
縁側に腰掛け、一人晩酌をしていた紫の背に紅がにやつきながら声をかける。
「…ん」
ぶっきらぼうな妹の隣に腰を下ろし、手にした硝子の小さな杯を差し出す。
「ん」
差し出された紫はそれと姉の顔を交互に見ていたが、
やがて呆れたように傍らに置かれた黄金色の液体で満たされた小さな瓶を自身と姉の間に移した。
「氷は?」
「ない、セルフサービス」
そう言う紫のコップに姉の手が伸び、ひょいと氷をつまみあげる。
「…お姉ちゃぁん」
恨めしげな妹の視線を涼しい顔で受け流しながら、紅はさっさと杯に氷を落とし、液体を注ぎ込む。
「かんぱい」
にっと笑う姉に妹は呆れながらも笑いながら、コップに酒を注ぎ足し杯を鳴らした。


「こいつらはここで何してるんだ?」
縁側ですっかり出来上がった姉妹を見、ナハトは溜め息をついた。
羽目をはずしすぎたのか、二人の側にはすっかり空になった瓶とコップが転がっていた。
(月に当てられでもしたのか?)
二人を居間へと運び終えたナハトを少し欠けた月が照らしていた。

404楽園:2008/10/17(金) 18:21:15
熱が入った男の声に紫は何事かと足を止めた。
周りの人々も同じ様に足を止めては、くだらないと再び歩き出している。
男は妖怪の根絶をうたっていた。人間だけの、平和な世界を作る。取り巻きだろうか、周りの若い男達も一緒になって叫ぶ。
馬鹿らしい。目を細めながら、紫は口の中で呟いた。
人間が世界の支配者となった外の世界の現状を知らないが故にそう言えるんだ。
そんな事を口の中でぶつぶつと呟き―ほんの気まぐれに手を振るった。
そんなに人間だけの世界がいいなら、見てこいと、嫉妬にも似た気持ちを抱きながら―


「人間が何人か外に逃げたわ」
八雲紫の一言に紫は持ち上げかけた湯呑をちゃぶ台に置いた。
「やっぱり怒ってる?」
否定とも肯定とも取れる笑みに紫は怒られた子供の様にうなだれ、ぽつりと呟いた。
「…ごめんなさい」


行方知れずになっていた男達が見付かったのはそれからすぐ後だった。
魂が抜けたような、酷い状態だったとは様子を見に行った早苗の話。
「ああなるなんでどこに送り込んだのかしら?」
茶化す様な妖怪の言葉に人間は生気の抜けた瞳を空に向け、ただ「外で一番馬鹿な人間のいる所」とだけこたえた。

405メイド館 1:2008/10/18(土) 21:01:29
これから始まるのは乃木家内で起きた世にも奇妙な物語―。

とある朝、女性陣は起きると共に、自分が来ていた服に愕然とした。
それというのも奉公や仕事に言ってる一部の擬人化一族や、
太陽が昇る前から修行へ山へ行っていたレイレイら以外の女性は、
一人残らずメイド服となっていたのだ。
男は、というとマスターの乃木平八郎は昨日の夜から姿が見えない。
もう一人の男性であるカリス王子―正確には国王だが―は、
それを知らずに洗面所へと向かっていた。
そのころ女性陣はメイド服からいつもの服へ着替えようとしたが、
RPGの呪われた装備みたいに呪われているらしく、取れようとはしない。
それを悟った女性陣はそのままの姿で部屋を出る―、
それと同時に相手の姿を見てまた愕然としたのだった。
「まさかあなたも!?」との声が廊下にこだまする。
かくして、乃木家女性陣の災難は始まったのだった。

406現代百鬼夜行:2008/10/19(日) 19:40:55
とあるときのこと、イタリアからの留学生、
フィオことフィオリーナ・ジェルミは仕事で榛名山を
ワーゲンスラッグに乗り走っていた。
するといつの間にか日も暮れて、彼女は宿を探すことにした。
しかし山奥にあったのは大きなお寺だけ。
しかも不気味で古ぼけていて誰もいないときた。
しかし外にはぱらぱらと小雨が降りはじめ、
雨に打たれながらの野宿よりはましだと思い、
今までのってきたワーゲンスラッグを隠すように置き、
その寺の中に小走りで入っていった。
明日に備え寝ることにしたフィオは、
夜中に珍しく何も用事がないのに目が覚めた。
すると人の声が外からたくさん聞こえてきた。
こんな古ぼけたお寺に、しかもこんな時間に誰が来たのだろうと覗くと、
そこには松明に火をともし、百人ほどが集まっていた。
その人々の頭には角が確認できた。「鬼」である。
フィオはそれを見て隠れるようにして
不動明王が祀られている部屋へ急いで逃げた。
しかしフィオのその行動とは裏腹に、鬼たちはその部屋へと集まってきた。
そしてフィオと鬼たちはばったりと会ってしまったのだ。
鬼たちが目の前に現れた渡来人を見て何を思ったかは知らないが、
フィオは目の前に現れた鬼を見て身の毛もよだつ思いをしたのは確かである。
とっさにフィオは逃げる。それを追う鬼。
そして大きな寺の中での「鬼ごっこ」が数分の間続き、
フィオは不動明王像の後ろに隠れた。
すると鬼たちはそれを見てこういった。
「この方はもしかしたら不動明王の奥方やも知れぬ
  渡来人を嫁にした理由はわからぬが、不動明王を敵にまわしたら
  今この山に残っている鬼たちも駆逐されてしまう」とて、
フィオを襲うのをやめ、鬼たちは会議に入った。
そしてそれから何時間経ったのだろうか、朝日が出てくると共に
鬼たちは重い腰をあげ、ぞろぞろと山の中へと帰って行った。
しかしフィオはその帰りを見届けながら、
不動明王の像の後ろでまた深い眠りに入ってしまった。
気がつくとフィオは自身が用意した寝袋にくるまって、
起きる前と同じように寝ていたという。
朝、フィオを乗せたワーゲンスラッグが榛名山を出発した。
それを多くの鬼が見守っていたことはフィオは知らなかった。
そして、フィオがこのことを夢の中の出来事としたため、
このことが伝わることは二度となかったそうな…。

407※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2008/10/20(月) 21:25:22

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

 おそらく、それは彼女の物語と呼んでいいものだ。

 何も始まることがない。
 何も終わることがない。
 何も生まれず。
 何も潰えず。
 何もかもがそこに停滞する。

 それは、あるいは夢のようなものだろう。
 目覚めた瞬間、すべては泡沫となって消えていく。
 千の希望も、万の願いも、そこにはきっと届かない。

 しかし。
 それでも。

 これを彼女の物語と呼ぼう。
 傲慢に。
 貪欲に。
 ――切実に。

 それが、彼女にしてやれるせめてもの償いだと思うから。

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

408備えあれば嬉しいな:2008/10/22(水) 08:56:50
重い鉄鍋をようやく卓上コンロに置き、紫はバットに並んだ色とりどりの野菜等を鍋へと放り込んだ。
腹ペコな者の箸がわきわき動くのを視界の隅で見ながら、スイッチを回す。

カチッ。カチッ。

「………」「………」「………」
ガス切れの様だった。
仕方なしに廊下にガスボンベを取りにいったゼロツーが悲鳴を上げた。
「大変だ!」
「どうした!?」
「ボンベのストックがない!」

結局、魚を焼くときに重宝した七輪の出番となった。
いささか煙いが、空腹と扇風機の前では障害にすらならない。寒さはあるが。
二組六人で鍋…とフライパンをつついていると、誰かが酒を取り出したのを皮切りに年長者達で酒盛りが始まる。
鍋の中身が無くなった後もやれうどんはまたか、やれ肉はまだ冷凍のストックがある筈だと騒ぐ年長者達の鍋に
紫はただ黙って野菜をしこたま追加した。
ブーイングが飛ぶが、無視しておく。肉を出せば、最限なく食べるのに肉は出せるか。
ざるに上げたうどんを傍らに置き、ついでにほんのすこしの牛肉を入れると
酒盛り続く居間を後に、二階に上がっていくのだった。

409紅魔の盾:2008/10/25(土) 22:46:24
「負けるわね」
紅の一言にゼーレはちらりと彼女を見、今更と言わんばかりに息をついた。
紅魔館。その門前で紅の髪をなびかせる女性と絞め縄を背負い、威圧感を放つ女性が睨みあう。
紅魔館が門番長、紅美鈴と守矢神社が神、八坂神奈子だ。
「中々気骨のある子だね」
自身の気迫に一歩も引く素振りを見せない美鈴に八坂の神が嬉しそうに笑う。
「けど」
場を支配する威圧感が増し、神の周りに幾つもの柱が浮かび上がる。
不安げな妖精達を背に、美鈴が無言で柱を見る。その瞳に迷いは、ない。
「これを前に引かないなんてほんとに大した子だよ。
だが、この柱を受けてなおそうしていられるか!」
その言葉と共に掲げられた腕が振り下ろされる。
門へと振り注ぐ柱。美鈴は動かない。

「勝負あり、ね」

大地が、大気が震え、砂煙が美鈴の周りをつつみ込む。
遠野く地響きに勝利を確信する八坂の神。だがその顔が煙が晴れるにつれ、驚きに染まる。
「な……!?」
柱は確かに美鈴へ向かって飛ばしていた。

その柱が

残らず彼女の手前に突き刺さっている


気を放ったままの構えを解く美鈴を見ながら、紅が当然という様に笑う。
「力の差は八坂神のが上だけど気迫じゃ美鈴の方が勝ってた」
それに、と背中を指差し、こう言うのだった。
「ここが紅魔館だからさ」

410十六夜日記:2008/10/26(日) 21:27:29
 これは日記である。
 違う。これは日記です。日記でございます。日記でガンス。あー、日本語わかりにけぇ!
 日記というか、何かそんなの(妥協)。
 これをあなたが読んでるということは、私の作品に興味を持とうとしてくれているのだと信じる。
 ――信じていいんだよね?
 信じていいものと仮定します。
 日本人はいい人ばかりだと聞いたので、これも日本語で書いています。
 別に日本語しかわからないわけでない。
 本当だ。決して日本人であるわけではない、勘違いしないように。
 信じてくれたものと仮定します。ニポンジンイイヒト。
 唐突だが、この日記にオチはない。期待厳禁。
 ――ごめんなさい、ブラウザを閉じないでください。
 いきなりぶっちゃけたら許してもらえるだろうとか思ってました。甘かったです自分。
 オチはないけど、お話はあります。
 嘘のような、本当のような、嘘でも本当でもない話。
 え? 日記じゃなかったのかって?
 日記ですよ? 私は嘘をつかないクレタ人ですもの。
 とりあえず読んでほしい。
 これを読むことが出来ると言うことは、何らかの形で私とあなたは繋がっているということだろうから。
 それなら、きっと理解できる。
 理解してくれる。
 そんな人が一人でもいてくれることを信じて。

 これはオチもない、嘘のような、本当のような、嘘でも本当でもない話。
 あなたにとっての嘘で、私にとっての本当。
 あなたにとっての作り話で、私にとっての日記。
 あなたにとっての虚構で、私にとっての現実。

 そんな、物語。

411もうだめだ:2008/10/27(月) 07:48:04
神様は何て酷いものなのでしょう。
泥酔した風神様が居る。凍りついたギャラリーが居る。
ゲラゲラ笑う神様に文句の一つ位投げつけたかったが、今は口を開くどころか、鼻で呼吸する気分にすらなれない。
直接表現は本人が可哀想になるのでぼかすことになるが、リバースカード直撃とだけ言っておこう。
「と、とりあえずさ、お風呂入ってきたらどう?」
早速血涙を流す奇襲爆撃の被害者に伴侶が優しく声をかける。
無言のまま、宴会を後にするその背中には悲しみが漂っていた。


もうだめだ

412:2008/10/27(月) 11:06:23
闇は鬼の巣食う場所、そしてその鬼はその闇の中でしか生きられない。
だがその闇は広く、大きく、どこにでもある。
闇の世界は既に世界を侵食しているのだ。

さあ、受け入れようじゃないか、この闇を
さあ、闇をもっと広げようじゃないか、鬼たちをおびき寄せるために
この闇はいくらでも広がる、世界を完全に闇で浸食しつくすまで、永遠に

闇は、素晴らしい―

413十六夜日記:2008/10/30(木) 20:45:55
 仮に私の名前を「十六夜」と仮名しよう。
 え? トートロジー? 黙れ話の腰を折るなこの哲学者気取りのビッチめ!
 失礼、取り乱した。
 私は哲学者ぶった単語の羅列を並べる輩が嫌いなのです。
 ――世界中の哲学者がマーフィーの法則を信じて鬱になればいいのに。
 というわけで、私の名前は十六夜です。
 My name is Izayoi。
 十六夜は 狭いマンションに 暮らしています 同居人と 一緒に。
 あらあら、何だか日本語と英語と英語を直訳した日本語が混ざった文章ね。
 そしてこれで私がニポンジンでないことは信じてもらえたと思う。
 ――ごめんなさい、調子に乗りました。
 だからその右上のバッテンにカーソルを移動させる作業を思い留まってください。
 仕方ないんです初めてなんです必死なんです。
 ほら、何でも初めてって緊張するでしょう? きゃっ(照れ)。
 ……自分で書いてて吐きそうになった鬱だ死のう。
 で、私の同居人―あすみは、現在無職のプータローです。
 よりぶっちゃけると、ヒモ。
 私の少ない稼ぎを食い潰す穀潰しだ。
 働く気なんて微塵もなく、そもそも働こうという意欲を持ち合わせていない。
 おかげで我が家は毎月火の車。
 ちなみにあすみは実名ですザマアミロ。
 いえ、同居人の愚痴を書くのが目的ではありません。
 話が逸れすぎました。
 本題に入りたいと思います。

 私、十六夜の住むこの世界は、現在ひどく歪んでいる。

414夢の狭間:2008/11/01(土) 07:23:39
夢を、見た。
見たことがない場所で知らない子と誰かによく似た子が笑って歩いていた。
誰かによく似た金髪の子がうつむいて何かを言う。
前を歩く知らない黒髪の子が上を向いてそれに答える。
誰かによく似た子の足が止まる。
知らない黒髪の子は泣きながら歩いていく。
「さよなら―」
そう言ったのはどっちだったんだろう。

知らない黒髪の子の背中が遠ざかる。

その子からと誰かによく似た子の方を向いて―

そこにいたのは、もう誰かによく似た子じゃなかった。


紫色のドレスの裾をつかんで泣いていたのは―




夢が終わる。

415幻想の狭間:2008/11/01(土) 07:42:39
ぼんやりとした様子で起きてきた少女にゼロツーは
「おはよう、フヨウ」
「うん…おはよう」
いつもに比べて元気のない娘の様子に首を傾げながら、経済面に視線を戻す。
しばらくの沈黙の後、口を開いたのはフヨウだった。
「ねぇ、お父さん。もし、もしも、大切な友達と大切な世界のどっちか選べって言われたらどうする?」
「ふむ…」
読んでいた新聞を畳み、目を閉じて考え込むゼロツーにフヨウは申し訳なさそうな視線を送り、うつむいた。
「夢を、見たんだ」
椅子に腰掛け、テーブルに視線を投げながら続ける。
「凄く、仲の良さそうな二人の女の子の夢」
ぽたり、と目から涙がテーブルに落ちる。
不思議な気持ち、とフヨウ自身も驚いた。悲しいとも愛しいとも言えない彼女の知らない感情が何処からか溢れ、涙になる。
「…だが、片方は異なる世界の守人となった。いや、ならざる得なかった夢」
顔を上げると、父親の何処か遠くを見つめる目が見えた。
「お父さんも…見たの?」
「見たのはお母さんだがな、父さんはそれを聞いただけだ」

416現実の狭間:2008/11/01(土) 08:06:29
「自分には、多分どっちも選べない」
妹はそう言い、テーブルに顔を伏せた。
「どっちも大事で、でもどっちか選べ、か」
彼女の語った夢の話を黙って聞いていた姉が口を開く。
「けど、現実はそれ以上の選択ばっか迫ってくる様になるよ」
空になった湯呑みを流しへ持っていく姉に妹が顔を上げる。
「理不尽だね」
「理不尽だよ」
妹はそんな姉の背を見つめたまま、ぽつりと呟いた。
「難しいね、大人になるのって」

417名無しさん:2008/11/03(月) 22:09:09
誰も信じられない。誰もいない。誰も話しかけてくれない。
でも、この世界から離れようとは思わない。この世界が気持ちいいから

私は、何を信じればいいのだろうか
考えれば考えるほど絶望という文字が浮かんでくる。
だが、それでもあの世界から離れようとは思わない。
いい、私が何を言われようとも。

私はこの世界から離れようとは、幾分の間は思えそうにない。
もしかしたら、絶望という名の希望が、
私を突き動かしているのかもしれない。

この世界に、私は何を求めているのだろうか

418十六夜日記:2008/11/03(月) 22:32:51
 はい、「何だよセカイ系かよ」とか思ったそこのあなた。
 半分は正解だけど、半分は不正解。
 別に私はこれから世界を救おうとしている勇者ではない。
 どこにでもいる普通の女の子だ。
 あ、そうそう。仮名からは判断がつかないだろうけど、私は女です。
 ドキドキしてください。
 期待を裏切ることには定評があるが。
 なお、成人を「子」と評することにご意見のある方がいらっしゃいましたら、
Lovely_Izayoi●mail.goo.ne.jpまで。
 住所も記載していただければ、直々に殴りに行きます。
 まぁ最近は一般人が世界を救うラノベもあるから、
必ずしも普通という表現がセカイ系を否定するわけじゃないけど。
 ただ、私の日記に限ってそれはない。
 断言しよう。
 保証はしないけど。

 自分の世界を「歪んでいる」と評する異常さは理解している。
 異常と対比させて正常とする世界なんてあり得ないからだ。
 それはこの世界「以外に」別の世界が存在することを前提とするのだから。
 ――普通なら。
 それこそが現在の歪み、異常性を体現としていると言ってもいいかと思います。
 思いますた。

 詳しい話は、また今度。

419妖怪よりも怖いもの:2008/11/05(水) 08:41:09
獣を散らしたそこは酷い有り様だった。
人の残骸があちこちに転がり、蒸せかえる様な鉄の臭いが辺りに漂っていた。
その内の一人は人間の世界を、とあの通りで叫んでいた者だった。
里の周辺で弱い妖怪だけを倒し、増長した彼等が吸血鬼の館へ出向いたと聞いたのは、ほんの少し前。
(辿り着けさえもしなかった、か)
彼等を殺したのは、彼等と同じ人間だった。
野党だの山賊だのと呼ばれる者達は妖怪達を倒すだけ支度しかしていなかった彼等へ襲いかかり―
(破魔符なんぞ人間には効果ないからな)
格好の獲物、というわけだった。


遺体を回収し、里へ届けた。
血に釣られた獣に喰い散らかされたモノもあったが、おおむね五体満足だった。
遺体を渡して、里長の家を出た所で男に呼び止められる。
問われたのはいつもの言葉。
―妖怪にやられたのか?
首を横に振る。人と獣に彼等は殺されたのだと。
男は自分も人間の世界をと理想を唱えている事を言った。
そうして理想を語る男に問いかける。
人の世となれば、こういう事が多くなる。妖怪の恐怖より隣人に殺されるかもしれない恐怖に脅かされる日々。
そうなった時、世界を変えたお前達はどうするつもりかと問う。
男は何も答えなかった。予想はしていたが。
結局この男も日々の不満を誰かにぶつけたいだけであったのか。
惰性で最もらしい事を言う者とつるみ、正義に酔いしれては過ちから目をそらす。
小さく息をつけば、男がうつむいたまま問いかける。
なら、どうすればいいのかと。
そんなこと自分で考えろと返して、途方にくれる男に背を向けた。


里の外れまで歩いて、腰巾着から取り出した煙管に煙草を詰める。
火をつけ吸えば、いつもの味。だがそれも今日のドロシーにはやたらに不味く感じた。


もうすぐ冬が来る

420銃声:2008/11/09(日) 13:02:46
銃声が木霊する。
どこまでも、どこまでも。
ここはとある射撃場。山の中にある人の手によって作られた射撃場。
木の緑で覆われた山には全く似合わない白い壁の、白い外見をした射撃場。
そこからうるさく銃声が響く。
その銃声が響くたびに、鳥たちは慌てふためき逃げていく。
中では何が行われているのだろうか。
その建物にかかってる小さな看板には、「スパローズ」と英語で書かれていた。
そう、ここは正規軍情報部特殊部隊スパローズの専用訓練場。
今日は3人の女性たちがそこにいるのみだった。
一人は何もためらうことなく撃ち続け、
一人は何かを考えながら、ぼーっとしながら撃ち続け、
そしてもう一人は、「何か」にためらいながら、
重い引き金を撃っていた。
「何かあったの?引き金が重いようだけど」
赤い髪の、ツインテールの特徴的な髪形をした女性が話しかける。
「…私、軍人で本当によかったのかな、って…」
それをイタリア産まれの茶髪のポニーテールの女性が受け答えする。
とてもイタリア系とは思えない、日本人らしい顔の女性―、
彼女の名は、フィオリーナ・ジェルミ。
一人娘のため家を継ぐことになり、
そして家を継いだことにより、彼女は初めての女性軍人となった。
もちろん、ジェルミ家としての、だ。
その彼女が軍人になろうとしたとき、彼女は日本の大学に留学生として来ていた。
その時、彼女はこう言われた。
「人殺しの軍人になるつもり?」
その時は吹っ切れたが、今も彼女の心に深く残っている。
その迷いは時々であるが、今のように心の中から自然に現れる。
「本当にこの職業を選んでよかったのか?」
今でも彼女はこのことで葛藤する。
そこに緑のバンダナを巻いた金髪の女性、エリがフィオに話しかける。
「ねえ、またあのことで悩んでるの?もういいじゃない
  いつまでくよくよしてたって始まらないさ、そうだろ?」
その言葉にフィオは何もない、いや、
薬莢が転がっている床へ顔をうつむかせた。
「フィオ、今のあんたは逃げてるだけだよ
  いいじゃないか、軍人が人殺しって言われても
  だってそうなんだから、否定のしようがないだろう?
  くよくよするな、おまえはおまえだ」
「私は…私?そ、そうですよね…ありがとうございますw
  吹っ切れることができました 私は…そのとおり、軍人です!」
その瞬間、すべて吹っ切れたフィオは、銃を連射し始めた。
人型の的の頭の部分の中心に弾丸が当たり、そして貫通する。
そのあとを続くように弾丸がずれることもなく、その穴をくぐり抜けていく。
「これが、私の答えです!」
そしてまた、さらに銃声が山中に木霊する。
この木霊は、しばらくは途切れそうにない。

421因果応報:2008/11/09(日) 18:28:09
とある島国にわずかに知られている伝説がある。そこは閉鎖された空間で、魑魅魍魎と人間が不安定な
和平の内に共に暮らしている、と。理想郷のように見えなくもないが、どんな所にも悪党は居るものである。
そしてその悪党が今、人を殺めることによって不正に得た物品を囲みながら酒盛りをしていた。先程まで。

「全員拘束しました」
「御苦労、上級曹長」

骸骨のようなフルフェイスのヘルメットを被り、黒い戦闘服にグレーのプロテクターを装着した者が一つ目の
これまたフルフェイスのヘルメットを被り、グレーのボディ・グローブと白いアーマーを着けた者に敬礼しなが
ら報告する。体型は人間の女性をしているが、機械文明に縁遠いこの地の人間達にはコンバイン・フォース
の彼女らを人間と認識することは困難だった。

彼女らは薄汚い大男達を囚人護送用のカプセルに納めると、それらを生体工学の産物の輸送機に載せて、
来た時と同じように無理やり開けたポータルと呼ばれる次元の裂け目を通り、東欧のCity17という、コンバイ
ンの首都へと飛び去った。後には盗品と、宴の後が残されただけである。

彼らが次に目を覚ましたのは、薄暗く、冷たい金属の床の上だった。辺りを見回すと、何かの紋章の描かれ
た垂れ旗が壁にいくつも下がり、その下にはあの白い一つ目の兵士達、そして奥には数段高くなっていると
ころがあり、そこには玉座が据えられ、そこから何者かが彼らを見下ろしていた。

「幻想郷のならず者諸君、ようこそCity17へ―――いや、『外の世界』と言った方が諸君には理解しやすいか
な?もっとも、君らの同意を積極的に欲しいとは考えていないが」

状況が今一つ掴めないのと、玉座に座る男の傲慢な態度に苛立つ彼らだが、拘束されていて抗うことができ
ない。彼らは芋虫のように体をくねらせるだけだった。

「まあ落ち着いてくれたまえよ、これから諸君の悪事に関する簡単な裁判を行うのだから。ちなみに本法廷で
は弁護士を呼ぶ権利と、証人及び証拠物件並びに陪審員の必要を認めていない。また、この裁判の進行一
切と前述の行為を私が行使するにあたっては、銀河帝国憲法第一条の銀河皇帝の権利に由来するものであ
る」

訳の分からない事を矢継早に捲くし立てる男に呆然とするばかりだったが、この男が相当理不尽なことを言っ
ているのは理解できた。それにまた腹を立てるが、日頃愛用の山刀も見当たらない。

「ま、時間の無駄だし、審理も省こう。強盗殺人を数多繰り返した罪は重い。主文、被告人全員を死刑に処す。
処刑は即時行われるものとする」

他人の命など虫の羽ほどにも気に留めない彼らだが、自分の命は地球よりも重い。それが簡単に奪われよう
としているのである。まさか自分達が殺される側に回るなど、夢にも思わなかったのだ。情けないことに、声に
ならぬ声で泣きながら許しを請おうとする者も居た。それを冷笑しながら、玉座の男は彼らに囁く。

422因果応報:2008/11/09(日) 18:28:52
「今まで散々人を殺めたのだから、一回くらい体験してみるのも面白いと思ったんだがね?まあ、今日は機嫌
が良い。タイマンで私を殺せたら、無罪放免してやろう。が、仕損じたらこうだ!」

そう言うと、そばに控えていたガードから拳銃を受け取り、泣いて命乞いをした賊の額に穴を開けた。鮮血が
噴出し、それがそばに居た者達に降りかかる。とうとう迫り来る死を実感することになったのだ。それでも、一
縷の望みを託し、立ち上がる者が居た。ガードに命じて拘束具を外させ、押収したものから得物を取らせると、
一気に斬り込んで来る。男はそれをかわすと、拳銃をガードに返した。丸腰になったのである。

「ほら、私は丸腰だ。これで負けたら恥だなぁ?」

涼しい顔での挑発に怒り心頭に達する賊。何度も斬り込んではかわされる。それを繰り返した後に、男は欠伸
さえした。

「飽きた」

そう一言言うと、突撃してくる賊を指差し―――それをゆっくりと下ろし、指を跳ね上げる。すると、男の動きが
止まった。一同が不思議に思っていると、閃光を発しながら、男の体が真っ二つに裂けたのである。

「な…南斗南斗紅鶴拳奥義の1つ、南斗鷹爪破斬!あまりに早いスピードの為、衝撃は一気に背中へと突き
抜ける!」
「返り血で身を紅く染めた美しき鶴に名を喩え、紅鶴拳と呼ばれる艶やかな殺人拳法…!」
「いつ見てもお美しい…」

ガード達は見惚れ、賊達が恐怖に震え上がる中、一人冷静なのが皇帝だった。その後、それでも僅かな可能
性に賭けた賊が次々に挑み、その度に美しくも残虐な殺され方をした。残り数人となったところで皇帝も飽きた
ようだ。

「ガード、カプセルに生き残りを詰めろ。幻想郷へ向かう」
「Yes Your Majesty」

生き残りの賊達は再び意識を失った。そしてまた意識を取り戻した時、目の前は薄暗く冷たいが、見慣れた地
面だった。さっきのことは夢だったのだろうか。あの恐ろしい男も不気味な将兵も居ない。しかし、体が動かない。
どうしたことか。

疑問はすぐに氷解した。首から下が地面に埋まっているのである。更に、よく見えなかったが横にはのこぎりが、
目の前には人里、すぐ脇には『山賊の生き残り。好きにしろ』と書かれた立て札があった。朝日が昇ってきた。村
人が目を覚ます頃だろう。仲間を殺された、人間中心主義の活動家達も同じく。

423どこにもいる、どこにもいない:2008/11/09(日) 21:04:43
突きつけられた言葉に彼女たちはしばし口を閉ざした。
「冗談…ではなさそうね」
家長の役割に就いた女の瞳に影が落ちる。
他の者も同様に視線を床に落とし、誰一人として話す者は居なかった。
「…現実の科学から身を守るためには、こことの交わりを絶つ」
誰かの台詞に壁際の女が頭を壁に打ち付ける。
傍らの男がそれを止める。女は自身にあらん限りの呪詛を向け続ける。
「関わりを持った者の記憶は」
家長の女が妖怪に問いかける。
「忘却の境界をいじって、彼女たちの中から貴方達に関する記憶は消させてもらうわ」

そうか、とだけ彼女は答えると壁際の女へ視線を移す。
「…悪いが、あれのも消してはもらえないかしら?」
妖怪の瞳が一瞬揺らぎ―首を横に振った。

「彼女には悪いけど、それは出来ないわ」

「…二度とあの地に来ないようにか」

妖怪が頷く。



キーを打つ指が止まる。
はて次はどうするべきか。
愚かな女にいかなる罰を下そうか。人を殺し、幻想を殺し、自身すら殺した女にふさわしい罰はなんだろうか。
女の代わりとして生まれた自身に下せる、最もふさわしい罰は。

……なんだ、簡単じゃないか。

女の姿をした何かはそう言って、立っていた椅子を蹴り飛ばした。


ぎしり、と縄の軋む音が聞こえた気がした。



自殺する夢を見た。
縁起が良いと知ってはいても、目覚めは最悪で彼女は掛け布団の中に顔を埋めた。
朝を告げる目覚ましにいつまでもそうしている訳にもいかず、緩慢な動きで布団から這い出る。
枕元の鏡と目が合う。

鏡は、暗い目をして笑っていた。

424十六夜日記:2008/11/10(月) 18:24:14
 友人との会話

私「どうしよう…最近私、アレがないの」
友「おいおい、だからって銀行を襲うなよ。困るだろ? ――俺が」
私「なんで銀行強盗の実行犯扱いされてますか私」
友「あ、面会には行かないから」
私「この際だから今後の私達の関係について語り合おうか。主に拳で」
友「金の話はいいのか」
私「金の話も重要だけど」
友「やっぱり金かよ。無心されても貸さんぞ」
私「貸しなさい」
友「お前、話の流れちゃんと理解出来てるか?」
私「私の命令にあんたが咽いで金を差し出す流れでしょう?」
友「それは恐喝だ馬鹿。
  金がないなら働けばいいだろ」
私「働いてるわよ、失敬ね」
友「そんな嘘で自分をごまかして虚しくならないか?」
私「ごまかして虚しくなるのはカップのサイズだけよ」
友「得意気に言っても恥以外の何物でもねぇよ」
私「カップサイズをサバ読んだ後、パッドを探しに行く気持ちはあんたにはわからないでしょうね」
友「いいからもう黙れ。それか死ね」
私「私が働いても、あいつが食い潰すのよ」
友「あすみか。まぁそれは仕方ないだろ」
私「あ? あぁ、あんたロリコンですか」
友「当たり前の事実を吹聴するな」
私「日本語と頭、どっちを先に狂ってると指摘したらいい?」
友「俺は正常だ。狂ってるのは世界の方だ」
私「私より先にあんたが死ね」

 どっちもどっちか。
 そんなこんなで。

425朝靄に眠る街:2008/11/12(水) 22:46:00
朝霧をかきわけながら、彼はまだ眠る街を歩いていた。

街灯の仄かな光に伸びる影を道連れに、あてもなく道を進む。

早起きな烏達の声とようやく帰路につく車を横目に、彼は傍らの林の中へ足を踏み入れる。

湿った土と落ち葉の匂いがするそこを注意深く進めば、見えてくるのがペンキの剥げた古びたベンチ。

夜が残る空を一度見上げ、ベンチを通りすぎ、林の奥へ歩き出す。

かつては道だったそこを進むと、不意に林の向こうに階段が姿を見せる。

人に忘れられて久しい、苔と枯草に覆われた石段に足をかけ、頂上を目指す。

ようやく頂上についた頃には、東の空がほんのりと紅色へ染まっていた。

息をついて、階段の一番上に腰掛け、その時を待つ。

やがて、山の間から太陽が顔を覗かせ、霧に包まれた街を一息に染め上げる。

燃える様な橙の光を放つ街と西へと逃げていく紺の空。

とびきり素敵な光景だと、彼をここへ導いた少女は笑って言っていた。

夜から朝に新しく生まれ変わる世界はゾッとするほど綺麗だと、神様は嬉しそうに言っていた。


太陽の光は、暖かく彼の体を包み込み、空へと駆け上がっていった。

426十六夜日記:2008/11/15(土) 22:41:26
友「おいちょっと聞いてくれよ」
私「嫌だと言ったら黙ってくれるの?」
友「帰り際にコンビニに寄ったんだけどさ」
私「無視かよ。最初の了解は何のために」
友「ちゃんと了解取っただろ。 ――俺に」
私「事後承諾ならぬ自己承諾、と。事故承諾と誤変換しても正しい気がするから素敵」
友「で、普段見ない駄菓子屋に売ってるような菓子売り場にふと目が行ったわけ」
私「うわ完全スルーキター。目も合わせやがらねー」
友「そしたらそこに売ってたんだよ」
私「ICBMが?」
友「なんで駄菓子コーナーに大陸間弾道ミサイルが並べられてんだよ!」
私「買うのよ、子供が」
友「BB弾感覚で買われたら三日で世界が崩壊するぞ」
私「たまに大きな子供が大人買いしていったり」
友「それはテロリストの物資調達だ」
私「これが本当のコンビニウォーズ」
友「ねえよ。
  で、そこにはチョコが売ってたんだ」
私「チョコ?」
友「あぁ。院生――学生時代に毎日のように食ってたチョコ」
私「ふーん、何ともメタボな思い出ね」
友「俺の思い出を現代症候群扱いするな。
  けど懐かしかったわ。2/14に買いに行ったら、女性店員に微妙な目線を
  投げられた記憶がはっきりと」
私「それトラウマって言うんじゃ」
友「で、買ってきてさっそく食ってみたわけだ」
私「味は?」
友「まったく変わらんかった」
私「あ、そうなんだ」
友「軽く涙が出てきたよ――味変わらないのに、何で10円高くなってるんだと」
私「あんたの思い出は10円以下なのね」

 お手軽ですこと。
 そんなこんなで。

427十六夜日記:2008/11/16(日) 20:31:24
 今日はお友達が遊びに来ました。
 はい嘘です。
 日記っぽい出だしにしてみたかっただけですごめんなさい怒らないで。
 遊びに来たのはお友達ではない。
 猫だった。
 それも見覚えのない真っ黒の猫だ。
「にゃーん」と可愛らしく鳴いたりしている。
 何で部屋の中に猫がなんて悩むまでもない。
 奴だ。
 猫なで声で呼びつける、あすみちゃーん。
 てとてととバカが来たので、優しく問いかけてみた。
「この猫はあすみちゃんが拾ってきやがったの?」
「拾ったー、おともだちー」
 満面の笑顔で言われても私にそんなのは通じない。
 向こうが核ミサイル級の破壊力なら、こちらは放射能も弾くシェルターだ。
 ――あれ、あんまり頭のいい例えじゃないな。
 じゃあ、おともだちは1972年創刊の講●社発行幼児向け雑誌だけで十分です。
 話がそれました。
 当然ながら道端で野良猫拾ってきたおバカさんには注意が必要です。
 頭をひっぱたきました。先制攻撃。
「だ・か・ら! うちはこれ以上『HI☆MO』増やせる余裕なんざないっての!」
 そんなことが可能なのは、謎の出資先から金を見繕っては
六畳間にハーレムを作って悦に浸る異常性癖誘拐犯くらいのものだ。
「…………」
 頭を叩かれたあすみは、目をまんまるにしてから、しょんぼりと肩を落とす。
 最近はある程度の意思疎通が可能になったので、
私がひどく怒ってることを態度と行動で示せば大体理解してくれる。
 私の怒りを知ってか知らずか、「にゃーん」と鳴く猫。
「……おともだち、ダメ?」
 その猫をぎゅっと抱きしめるあすみ。
 あー、媚びるなムカつく!
「ダ・メ! その猫を捨ててくるまで帰ってくんな!」
 追い出しました。

 ちなみに追い出した直後にこれを書いてるので。
 あすみはまだ帰ってきていません。

428紫煙に巻かれて:2008/11/24(月) 10:38:50
煙草を吸う者との口付けは苦いと話していたのは、果たして誰であったか。
出力が有り得ない程高いセイバーを何とか扱おうと格闘する傍ら、視界を流れる煙にコピーエックスはいい加減苛立ちを覚えていた。
「ロッシー」
煙草をくわえたまま、振り返る目つきの悪い女性。
「何よ鉄屑」
「その呼び名はやめてくれないかい?」
そうだったとばかりに肩をすくめるドロシーに苛立つ。
一々人を馬鹿にする様な態度も言動も、何もかも気にいらない。
「んで、何よ鉄屑」
一際大きく煙を吸い込んだと思うと、煙が視界を塞ぎ、その臭いで思わず咳き込む。
「げほっ…そういうのはやめろ、って言ってるんだよ」
「ほほぉう、よわっちいアンタも言う様になったじゃない」

その一言が引き金になった。

気付いた時には、ドロシーは壁にまで吹き飛ばされ、吸う者が居なくなった煙草が床に転がる。
「……お前なんかに何が分かるんだっ!」
力の限り、煙草を踏みつけながら、半ば叫ぶように言葉を投げる。
「いつもいつもいつも!ボクが言う事なんて聞こうともしないで!
嫌だって、何回言ったと思ってるんだよ!」
ドロシーには目もくれず、煙草を踏み続ける。
「ボクを何だと思ってるんだ!?ボクは…誰かの身代わりの人形じゃないんだぞ!」
怒りに乗じて、何処かに封じ込めていたものが口を飛び出す。
誰かが止めろ、と叫ぶのが聞こえた気がした。
その声は、彼を作った科学者であったり、彼を見ようとしなかった人間達であったり。
「おい」
誰も彼もが叫んでいる。英雄はそんな事をしてはいけないと。
「おーい…エックスぅ?」
ふざけるな。なら、ボクは一体なんなんだ…

429紫煙に巻かれて:2008/11/24(月) 11:19:20
「目は醒めましたかぁ?」
床に突っ伏したまま、睨むように顔を動かす。
「…いきなり人の頭に蹴り入れる女性なんて聞いた事ないよ」
「私は非常識の塊ですわ」
おどける様な態度に怒る気力も失せ、深い溜め息をつく。
「ねぇ、エックス」
先程とは違うドロシーの声色にぎょっとしながら、顔をあげる。
背を向けたまま、煙草に火をつける彼女の表情は窺い知れない。
「さっき言う様になった、って言ったじゃない?」
細く吐き出された煙が空気に溶けて、色をなくす。
「来た時のアンタは物凄く暗い目をしてたわ。
それこそ、紫じゃあないけど誰かの意思で動かされてる人形って奴だった。
それこそ皆に何されても反抗する意志なんか砂粒の一つも感じられなかったし」
「酷い言われ様だね」
「まぁ口が悪いのは元からなんでね。
でもさっきのアンタはそれにちゃんと反感覚えたし、言いたい事も言った」
「子供みたいで嫌だな」
「子供じゃないつもり?」
「…すごく頭に来る言い方だね」
「ははは、ご冗談を」
煙草の火を消して、伸びをする彼女の背に視線を送る。
「自信を持ちな。アンタはエックス、うちらのかわいい我儘な家族で誰かのお人形じゃないよ。
…あたしらがその保証人さね」
振り返ったドロシーの金色の瞳は太陽の様に輝いていた。



「あ」
彼女の立ち去って、気を取り直して訓練に挑もうとセイバーを手にした瞬間、
本来の目的を思い出して、エックスは声をあげた。
「ここで煙草吸うなって言いそびれた…」
あの人を馬鹿にした様な笑顔を思い浮かべ、彼は小さく息をつくのだった。

430十六夜日記:2008/11/24(月) 19:43:49
 家に戻ってきた時、あいつはビショ濡れだったわけで。
「くしゃんっ」と唾液をまき散らす災害を食い止めるには、
私が後始末をするしかなかったわけで。
 毎度毎度手間をかけさせるこの悪魔には、そろそろお仕置きが必要なわけで。
 お仕置き。
 18禁な想像した輩はとりあえず逆立ちで池に飛び込め。
 今日の晩御飯は抜きにしました。
 あすみ、部屋の隅でしょんぼりモード。
 なぐさめてるつもりなのか、黒猫はあすみの肩に乗っかって頬を舐めている。
 さてさて。
 結局、あすみは猫を捨てることは出来なかった。
 まぁ、わかってはいたんだけどね。
 これで「捨ててきたー」と戻ってきたら、それはそれで私はあすみに腹を立ててたかもしれない。
 そんなもんです。
 もちろん、私が捨ててくることも出来る。
 心情的に「手放す」というのはあまり好きではありませんが。
 ただこれ以上飼うのを反対すると、あいつはどんな行動に出るかわからない。

 泣き出す?
 駄々をこねる?
 そんな可愛いもんじゃない。

 冗談でも何でもなく、家がなくなるのです。

 せっかく手に入れた小さいながらも落ち着く我が家。
 猫を飼うのを反対したから、なんて理由で焼失したら泣くに泣けません。
 いや泣くけどさ。
 かくして、我が家にHI☆MOがまた増えることになったのでした。
 めでたくなしめでたくなし。

 まぁあの猫、あれでただの猫とは違うみたいだし。
 使いようによっては、少しは飯のタネになるかもしれない。
 それについては、またいつか。

431※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2008/11/25(火) 21:45:48

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

 踏みしめた震脚が鳴り響くより、速く。
 彼女は己の間合いに「敵」を捉えた。
 目はわずかだが閉じている。どれだけ己の反射神経を研ぎ澄ませたところで、
雨が目に入った時のわずかなプロセスの乱れは免れない。
 地面は舗装されたアスファルト。不調な天気の影響はほとんど受けない。
 灰雨となって積もった黒灰も、雨に流れて下水を汚していることだろう。
 故に、最速には程遠いが。
 最良と言っていい程には、加速に身体がついてきた。
 後ろからやってくる「音の壁」を感じつつ、弾き出した速度をそのままに
手指の第二関節まで折り曲げた掌底を標的目掛けて勢いよく突き出す。
 狙いは下顎。牙顎とも呼ばれる人体の急所の一つ。
 この速度で打ち抜けば、顎が外れるどころか顎関節を破壊する。
 向こう数か月は、まともな食事を口にすることもできなくなるだろう。

 彼女にしてみれば、それでも手加減している方であり。
 そして、それが災いした。

 彼女の「非人速」に比べれば、それは亀の歩みと言える速さだったが。
 結果として、標的は彼女の攻撃を受けなかった。
 かわされた、と認識した時にはすでに次の一打を見舞っている。
 ――見舞って、しまっていた。

 後悔はそれよりも遥か後方、追いついてくるには時間が不足しすぎている。

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

432※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2008/11/25(火) 22:09:00

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

 続け様に放った一撃は、またもすんでのところでかわされた。
 いや、かわされたという表現は正確ではない。
 彼女の動作を視認してから回避するのは、人間はもとよりあらゆる生物に不可能だ。
 これは誇張表現ではなく、物理的にそう決定づけられている。
 故に標的はかわしたのではなく、その時点では無意味な方向に身体を動かしただけ。
 それは「野生の勘」などという非論理的な表現に頼らざるをえない、
まったくもって非常識な反射速度だった。
 時の流れが正される。
 もう「非人速」は使えない。
 意識と身体がまともに繋がる状態で、しかし体は連撃の後遺症で思うように動かなかった。
 二打も立て続けに空振りをかました報いが、これだ。
 一撃は覚悟した。
 あばら骨折だろうが内蔵破壊だろうが、甘んじて受け入れると。
 ただし、それであばらが折れようが内臓が破裂しようが、
その次の一打を先に見舞うのは必ず自分だ。
 そんな決意を一瞬で固め、来たる一撃を想定して歯を食いしばる。

 ――しかし。

「ひゃー、おねーさん危ないなー」
 一撃の代わりに来たのは、場の空気を瓦解させるそんな一言だった。

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

433十六夜日記:2008/11/30(日) 21:56:12
 こんにちは。
 あるいはこんばんは。
 十六夜日記のお時間です。
 パーソナリティの十六夜です。
 皆さん、昨夜はたっぷりフィーバーされましたか?
 私はされませんでした。
 間違えました。しませんでした。
 ――はぁ。

 今日はゲストが来ています。
 猫です。
 間違えてません。お燐です。
 よろしくーとか横で騒いでます。
 邪魔です。
 真似してあすみもバタバタ手を振り回しています。
 えらいはしゃぎようです。
 邪魔です。
 というか、お燐が来てからあすみは毎日こんな感じです。
 遊び相手が出来て楽しくてしょうがないようです。
 はしゃいで飛び跳ねて家具を破壊します。
 邪魔です。
 日がな一日騒ぎまくるので、夜型の私は昼間寝ることができません。
 寝不足です。
 イライラです。
 横で猫が、いや猫耳つけた人型妖怪がタイプのじゃえmdfdwws
 ……もう打ち直すのも面倒なんでそのままで。
 ああああああああああああああああああああああああああああ頬を舐めるな髪を引っ張るな歌うな笑うな人の胸に顔をうずめるなああああああああああああああああああ
 ――はぁ。

 誰か私に安眠をくださいませ。

434冬の吸血鬼:2008/11/30(日) 23:15:35
近所の並木道を一緒に散歩していた時だった。
不意にアサヒが雲を見上げて、呟いた。
「冬の雲だ」
灰色の雲を一緒に見上げるアサヒの手は少しひんやりしていて、ごわごわしたコートが少しくすぐったかった。
「ねぇねぇアサヒ。どうして灰色の雲が冬の雲なの?」
少し前まで、シキというものが何なのか、私にはよく分からなかった。
第一、空ってものが黒以外の色だって事も知らなかったもの。あと雲とか。
だから冬の空とか雲なんていわれても私には何だかちんぷんかんぷんだった。
「あー…なんていうか、雪が降りそうな感じがする雲っていうか…」
雪は知ってる。
前に寒さに耐えかねたあいつが地下に来た時見せびらかしてた白くて冷たい、直ぐに溶けてなくなった物体。
「あんな雲だと雪が降るの?」
「必ず、って訳でもないな。こっちは外に近いからそう簡単には降らないだろうし」
オンダンカって奴だとアサヒは肩をすくめた。
なんだ、降らないのか。
そうだと分かると少し残念な気持ちになった。

「くしゅん」
「…帰ったらココアでも飲むか?」
「…うんっ!」



とりとめもない話

435愉しい紅魔館:2008/12/01(月) 19:03:57
ナハトはたまに貸し出される場所を間違えたのではないかと思う瞬間があった。

月明かりの降り注ぐテラスで館の主がワイングラスを傾けている。横には彼女ご自慢のメイド。
いつもの光景。だが、今日はどうやらメイドに細やかな悪戯心が芽生えたらしい。
「! ! ! !」
主の視線が手の中のワイングラス―いつの間にか摩り替えられたドクロに釘付けになる。
緩やかに折り畳まれていた背中の翼が限界まで広げられている。
どうやら相当驚いたらしい。
再起動するのに時間のかかりそうな主を尻目に
メイドは表現出来ないほどの素晴らしい笑みで主の手に収まったドクロを回収し、グラスを持たせる。
さりげなく髪の匂いをかぐ彼女の姿をナハトは見なかった事にした。


吸血鬼らしい表情を思い付いたと言う主の妹に捕まり、ナハトは胸中で嘆息した。
適当にあしらおう物なら弾幕ごっこを要求されるのは目に見えている。
仕方ないにどんな表情かと問掛け、主の妹が得意気にやってみせたそれは

どこからどう見ても八重歯な口裂け女の様にしか見えなかった。

頭を抱えたくなるナハトを尻目に図書館の魔女からもそれらしいと好評だったと
誇らしげに(顔はそのまま)言った。
あのもやし魔女め、後でどついてやろう。


一日が終わり、憔悴しきったナハトの目にメイドと門番の姿がうつる。

壮絶な笑みを浮かべて、ナイフをばら蒔くメイドと悲鳴と共に針ネズミと化していく門番の
楽しそうな、参加は勘弁願いたいじゃれあい。
門柱にしがみついている息子に強くイ㌔と呟き、彼は笑顔で床と接吻を交した。



紅魔館は笑顔の絶えない明るい職場です

436:2008/12/05(金) 16:58:06
ガシャン、と陶器の割れる音が響き、藍色の破片が庭へ降り注ぐ。
「こりゃ、屋根は酷いことになってそうだな…」
硝子の器に盛られた白と黒の氷を口運びながら、銀髪の少女が呆れた様に呟いた。
「凄い雹ですからね」
少女の向かい、青い巫女服を着た少女がそれに同意する。
二刻程前からだった。
ひやりとした風が吹き抜け、いつの間にか広がった雲から大小様々な氷の粒が降り始めたのだ。
それからしばらくして山から里へ雲と雹が帯を描くように流れていく中、黒蜜を携えた少女が訪ねてきた。
「しっかし」
ばりぼりと音を立て、銀髪の少女が黒蜜をかけた雹を飲み込む。
「止まねぇな」


「あー…」
地面に落ちた拳大の雹を女は呆れ気味に見つめた。
ようやくと雹が勢いを弱めたと思い、軒を借りていた廃屋を出た途端であった。
「読み違えたかねぇ…」
一つにまとめた水色の髪を揺らめかせながら、紫煙を吐き出す。
背負った木箱を背負いなおすと深めに被った編み笠を片手に支え、歩き出す。
草木の影から奇妙な気配がちらつく。
「…そんなに人間臭いもんかね、あたしは」
笠を打つ音と煙を引き連れて、彼女は里へと続く道を進んでいく。

437十六夜日記:2008/12/07(日) 20:53:55
 すいません。
 何で出だしから誤ってるんだろう私。
 しかも謝るを誤ってるし。
 この前は寝不足でなんか暴走した文字列を並べてました。
 夜に働く仕事をしてる関係で、昼に寝ないと体調がやばいのですよ。
 あすみ? もう寝てます。
 食うだけ食ったら速攻おやすみとは素敵な人生だ。あやかりたい。
 お燐はあすみが眠った直後に姿を消した。
 もともと「妖怪として」のあいつはあすみに飼われてるわけじゃない。
 何でもどこかに飼い主がいるんだとか。
 まぁ、「猫として」あのお子様の面倒を見てくれればそれでいいのですが。
 夜になるといなくなると言うことは、私とやってることは大差ないのかしら。
 その割にうちに食費はいれてくれませんが。
 食うだけ食って失踪とか。
 すばらしき哉HI☆MO。

 さて、お仕事前なのでこんなところで。
 今晩もがんばります。

438冬の境内:2008/12/13(土) 13:30:07
音が消えた境内を一通り見回し、早苗は溜め息をついた。
雪の落ちる音以外は何も聞こえない。まるでそれ以外の音が雪に喰われた様に。
と、そんな事を考えては見たものの、明日の雪掻きが大変な事には変わりはない。
こんな雪の中を参拝にくる粋狂は居ないと分かってはいてもやらずにはいられない生真面目な彼女はそんな事を考え―
降りしきる雪の中で茶色い皮のとんがり帽子を揺らしながらやってくる粋狂な者を見つめた。


聞けば、コートの内側に防寒用の呪を縫い付けた、冬用の代物らしい。
彼女はそう言うと帽子に積もった雪を払い、暖気に曇った眼鏡を外した。
―本やらゲームやらで大分視力が悪いんだ。
眼鏡を外した顔をまじまじと見つめていたのか、彼女は照れ臭そうに笑って見せた。


しばらく他愛もない会話し、思い出したように二柱への奉納品だという酒や食糧を早苗に渡すと彼女は帽子を被り直した。
もう行くのかと聞けば、吸血鬼の館にも用があると肩をすくめられた。
もうしばらくしたら、娘らが遊びに来るかもしれない。
暖かな室内から出るのは流石に抵抗があるらしく、靴を掃く傍らそんな事を口にした。
雪合戦でも誘うつもりなのだろうと、覚悟はしとくように、からかう様な声色をされたので
雪合戦は得意だと笑いながら返す。


音が消えた境内を一通り見回し、早苗は溜め息をついた。
雪の落ちる音以外は何も聞こえない。まるでそれ以外の音が雪に喰われた様に。
「早苗ー!」
雪の中で手を振り、自分を呼ぶ少女達に早苗は込みあげる笑みを隠さずに雪靴に足を通すのだった。

439闇白:2008/12/20(土) 13:06:26
※グロあり、苦手な方は閲覧ご注意※
※色々狂ってるのでそういうのがだめな方もスルー推奨※
※以上を踏まえて、自己責任でお願いします※






覚悟は出来ましたか?



ざくり、と降り積もった雪を踏みしめながら、ヤラは灰色の空を見上げた。
止む気配の無い雪が視界と彼女の痕跡を覆っていく。
ヤラは雪が好きだった。
溶けて土と混じった泥色の雪も無垢な白さを晒す雪も。
特に全てを飲み込み、容赦なく覆い被さる鋭さを持った吹雪なんて最高だった。
時間が経てば、流れ出た命の色も青ざめた肌も雪の白が全て隠匿してくれる。

握りしめた大鎌の刃は雪の白と命に濡れていた。


彼らは彼女と同じく外から来た種族だった。
手薄な辺境の惑星を蹂躙し、信仰という名の狂気を振りかざした輩だと何人かが顔をしかめて言った。
彼らが使うものは全てに命が宿る。
そう言ったのは、誰であったか。
ふとそんなことを思ったのは、彼らの前に舞い降りた時だった。
銃弾の一発に至るまで、命を宿した彼らを切り捨てる。
聖なる騎士達の探知すら通用しない彼らではあったが、そこに揺らめく命は隠しようがなかった。

どこにいようと、どんなに姿を隠そうとも。

彼女は、闇はどこまでも彼らを追いかけた。

そうして、銃弾の一発、鎧の一欠片に至る命を余すことなくそぎ落とした。


ヤラが思考の海に沈む間に刃の命は溶けた雪に流され、元の冷たい黒へと姿を変えていた。
辺りもすっかり雪に沈み、元の雪原へ戻っていた。
「・・・・・・」
改めて目の前のそれを見る。
両手両足をもがれてなお、憎しみと怒りに燃える瞳は衰えることなく、むしろ
更に暗い輝きを増しながら、彼女を睨み付けていた。
「後はあなただけね、何か遺言はあるかしら?」
息も絶え絶えに、口元から命を溢れさせながら―それでも男は呪詛を彼女へと投げつける。
「我らは、死を恐れない・・・貴様のような悪魔には、けっして」
そう言い放つ男の前に後ろ手に持っていたそれを転がす。
「・・・!!」
「強かったわ、彼女」
残酷な笑みと浮かべながら、ヤラは続ける。
「あなたと同じようにしても、目玉を抉り出してもなお、呻き声一つあげなかったもの」
もっとも、と足でそれを踏みつけながら、徐々に足に力を込める。
「最後はあなたのこと、呼んでたから興ざめだったけどね」
ぐしゃり。と雪の白が色を変える。

「化け物め・・・・!貴様だけは殺してやる・・・!」
その言葉にヤラは歓喜した。瞳だけで神の魂をも焼き焦がさん程の憎悪を持った男は
ようやく彼女と同じ場所へ堕ちた。
「ええ、今更気づいたの?」
これはきっと良い闇になる。
彼女は歪んだ笑みを浮かべたまま、鎌を振り下ろした。

440帝都のクリスマス:2008/12/25(木) 17:39:41
雪の降りしきるインペリアル・シティ。しかし、この寒い中どこも活気に満ちていた。今日は
クリスマスなのである。若者はイヴの夜に騒ぐものだが、敬虔な人々や常識のある人々は
今日がメインであることを知っている。色とりどりの玉やモールで飾ったクリスマスツリーに
ごちそうのチキン、年代もののワイン。実に楽しみな日である。

インペリアル・シティの中央に聳えるインペリアル・パレスも例外ではない。正門前の広場に
は巨大なツリーが飾られ、中央勤務や出張・報告・休暇などで来ていた高官達がパーティを
楽しんでいた。皇帝一家も同じように身内でささやかに行っていた。

祈りを済ませ、食事に取り掛かる。子供達の食欲は凄まじいもので、作法くらいは弁えてい
るものの、最初に用意した量では足りず、追加で作らせる羽目になった。そしてそれさえも平
らげてしまうと、興味は朝にサンタクロースが置いて行ったプレゼントに移り、各々の自室へ
と引きこもってしまうのであった。

「いやいや…ずいぶん食べるものだね」
「年に一度の特別メニューだもん、あれくらい食べてもいいんじゃない?」

食事が済んで、少々火照った体を冷やす為にバルコニーに出た皇帝が金髪で翼の生えた
妻に驚きの篭った声で話しかける。幼い妻もまた、子供達と同じくらい飲み食いしておきな
がら、そう返す。皇帝は手のひらを見せて肩をすくめるという仕草で更に驚いたことを示す。

「まあ、食べないよりはずっといいな。太りすぎも困るが…痩せ過ぎでは戦えない」

軍人出身らしく、戦いを引き合いに出して肯定するが、子供達に軍人としての道を歩ませよう
としていることも言外に含まれていた。

「おっと、子供たちにはあげたけれど…」
「ん、なぁに?」

内ポケットをまさぐる皇帝、おそらくプレゼントを渡すつもりなのだろうか。彼はこういったところ
にまめである。このことが多くの細君とうまくやっている秘訣なのだろう。

「はいっ。フィフティニー、メリー・クリスマス」

そう言って彼は丁寧にラッピングされた小包を取り出した。天使がリボンを解こうとすると、皇帝
が指でそれを制止し、バルコニー備え付けのテーブルの雪を払い、きちんと置いて開けるよう
に勧めた。

「ありがと…わぁ…」
「気に入って、いただけたかな?」

前にアクセサリーショップで見かけて気に入ったブローチだった。銀製で、品のあるデザインの一
品である。

「覚えていてれたんだ…」
「あの時は別のものを買ったけれど、君が帰り際に視線を送ったのに気づいてね。うん、こういう
ものは今日贈るのにぴったりだろう」

少し自慢げに話す彼だったが、彼女は嬉しかった。『浮気者』と友人達から囁かれる彼だが、今は
それを否定できる気がした。ちょっとしたことを覚えていて、それでこんな日に喜ばせてくれたのだ
から。

雪はまだ降っていた。ホワイトクリスマスの夜が静かに更けていく。

441宴会を二人で抜け出して:2008/12/25(木) 18:45:44
夜風でほてった頬を覚ましながら、何をするともなしに二人で夜空を眺めていた。
「きれーね」
「ああ」
下からは耐えることのない賑やかな音楽や人々の騒ぐ声が響いていた。
せっかくのハレの日だからだと言わんばかりに、集まった者達は歌い、踊り、手を叩きあって笑っていた。

半ば収拾のつかないそこで様々な者から勧められ、一体どれほどの量の酒を飲んだことだろうか。
そうして杯を重ね、微酔いを越えた頃に手を引かれ、宴会から二人で抜け出したのはほんの少し前。

「大丈夫か?」
アルコールでとろけた頭に声が心地よく広がる。
「ん、だいじょーぶ」
くすくす笑いながら背を預ければ、抱えられるように包み込まれる。
「わたし、あなたがすきだよ。髪とか声とか全部」
酔ったせいか、あるいは今日がハレの日だからか。
「私も、お前の全てが愛しい」
どちらともなく、唇を合わせ―


「ん?おい、馬鹿親父。王の姿がないが?」
「……………」
「…全くここでも馬鹿夫婦発生中か。
やれやれ、一族の集まりだから何事かと思ったがただのパーティとはな」
「……………」
「そうだな…それだけ余裕が出来たとも取れるな。
さて、親父よ。今一度乾杯でもしようか。
我らの王と一族の繁栄を願ってな」

442年明け早々の冒険:2009/01/01(木) 19:02:01
退屈な日常、神社の手伝い―、
それを抜け出しては街へ繰り出す日々―
だがしかし、悪事はばれるものである。
代わりに化けて働いていた人形が紙に戻り、帰ってくると父に怒られる日々。
そんな日々から抜け出したいと思った少女は、
近くに来ていた蒸気船の中に仲間とともに忍び込み―
そして蒸気船は動き出す、彼女らを乗せて
「大丈夫なん、あかり これどこまで行くん」
「大丈夫や聖、すぐ近くまでや」

―だが、その船は「めりけん」へ帰る船だった
     そして、彼女らは太平洋を越え、「めりけん」へとたどり着く―

443十六夜日記:2009/01/10(土) 22:16:19
 私の世界は灰色にまみれている。

 変化の乏しい生活を揶揄してるわけじゃない。
 恋愛色のない生活を自嘲してるわけじゃない。
 世界は、文字通り、灰色に染まっていた。

 いつからだったかな。
 もう、一年くらい前になると思う。
 空から灰が降るようになった。
 灰色の灰。当たり前だけど。うん? 当たり前かな?
 当たり前のように灰色の灰は、当たり前のように降り積もり。
 私の世界を壊滅させていった。

 一年。
「三年」しかない私の時間にとって、それは3分の1にもなる長い時間だ。
 最初は雪かと思った。冬だったし。
 けど、冷たくない。そもそもあんな薄黒い雪が降ってきたら、それはそれで大事です。
 それは差された傘を黒く汚し。
 頭を抱えて駆け抜ける人の頭を黒く汚し。
 もともと薄汚れたアスファルトの道路をさらに汚し。
 私の目に映るすべてを汚していった。

 理由はよくわかってない。
 どこぞの国から風に乗ってきた火山灰じゃないかって言われてるけど、根拠はないらしい。
 何故、降ってくるかわからない。
 けど、それは確かに降ってくる。
 深々と。
 世界そのものを、穢していくように

 信仰心の篤いとある誰かが言った。

 ――七つの封印は解かれた。
 ――高らかに響き渡るはラッパの音。
 ――かくて、バビロンは崩壊する。

 バビロンの大淫婦と貶められた私達は。
 こうして歪められた世界の中で、それでも生きている。

444※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/01/11(日) 18:47:56

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

「こんにちは」
 言葉を紡いでから頭を下げるまでの動きも流麗に。
 玄関の先で両手を揃えて佇む少女は、そうして簡素な挨拶を述べた。
 ――その瞬間に空気の質が変化したことに、気づいているのか否か。
 紫色の髪はこの国では稀有だが、十六夜にはどうでもいい。
彼女自身、その髪は光の遮られた海底のような深い蒼色をしている。
 外見から年齢を判断すれば、十代半ばと言ったところだろうか。
 だが、決してそんな安易な判断で計れるような存在でないことは、その怪奇な存在感から想像がついた。
 十六夜の頬を浅く伝った汗も物語っている。
「…………あんた」
 発せられた言葉は、砂漠において水を求める彷徨い人のように乾いていた。

「あんた…………『ナニ』?」

 十六夜は問う。
 外見では判断のつかないそのイキモノに。
「何、ですか。随分と哲学的な質問をするのですね」
 妹と相性がいいかもしれないわね、と小さく微笑む。
 十六夜は笑わない――笑えない。
 それ以外の筋肉を即座に動かすよう研ぎ澄まされた神経が、頬筋を動かす余裕など与えない。
「この間、すぐ近くに引っ越してきまして。今日はそのご挨拶に」
 言って、再び頭を下げる。
「古明地さとりと申します。お見知り置きを」

 そのしばらく後に、十六夜は後悔する。
 この時、この瞬間であれば、このイキモノを始末できたのではないかと。
 そしてその直後にかぶりを振って嘆息する。
 それでも、このイキモノを仕留める自分の姿は想像できないと。

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

445※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/01/11(日) 19:43:38

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

「じゃあ、あんたが……」
「ええ、お燐は私のペットです」
 立ち話も何だからと、十六夜はさとりを部屋に招いた。
 さとりは一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに目を弓形に細めて承諾した。
「あの娘から貴女の話は聞いていたので、遅れたけれどご挨拶を、と」
 勘違いだったのだろうか、と十六夜は胸中で首を傾げる。
 今、ここには十六夜とさとりしかいない。
 あすみは外に出している。普段なら滅多なことでは彼女を独りで外に出したりしないが、
今は逆にこの空間に留まっている方が遥かに危険だった。
 彼女が思った通りの相手であれば、

 今ここで、十六夜の首を獲りに来ないはずがない。

 十六夜を殺そうとする人間は、例外なく昼間を狙う。
 彼女を殺すためには彼女を知る必要があり、彼女を知れば皆悟るからだ。
 そして、今は昼下がりの、彼女が最も苦手な時刻。

「いや、むしろあすみの面倒を見てもらって助かってるくらいよ」
「あの娘が死体でない人間に興味を持つのは意外でした」
「したい?」
「こちらの話です」
 言って、十六夜の出したお茶をすする。
 やはり勘違いだったようだ。
 でなければ、十六夜が出した茶を平然と飲むはずがない。
 毒殺とはいかないまでも、心身を歪める程度の薬品ならグラムいくらで手に入る。
 何の迷いもなく『敵』の出した物が飲めるとしたら、それは――

「――鋭いのね」

 物思いにふけっていた彼女は、熟しきった果実のように濃密なさとりの笑みに終に気づくことはなかった。

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

446材料:2009/01/12(月) 07:48:07
曲がりなりにもナハトは男性型ダークマターだ。
女性の裸や下着姿に欲情することはないが―蒼星石は例外―、やはり抵抗感の様な物はある。
と、大量の洗濯物を干しながら、息をつく。
紅魔館、屋上部。
長くに続いた雪が止み、貴重な日差しの降り注ぐ中、シーツやメイド服、ドロワーズが風になびく。
(咲夜め)
その光景を見ながら、館内を掃除しているメイド長を思い浮かべる。
(奴には羞恥心というものがないのか)
あるいは自分が異性と見られていないのか。
「…ん?」
館内への扉の開く音にさては噂をすれば、と振り返る。
「…精が出るわね」
と、眠たげな目をした魔女。
「珍しいな、図書館のもやしっ子がこんな所まで出て来るとは」
驚きながら、手にした本へ目を移し―
「確かめたい事があるの」
すっ、とスペルカードを構える彼女にナハトは思わず後ずさる。
「あ、いや、物凄く嫌な予感がするから、あ、後色々仕事が」
「大丈夫よ、咲夜に正式に借りてきたから」
「だから」
スペルカードが輝きを帯び、展開される。
「大人しく材料になりなさい」
「あのやろぉぉぉぉ!」


逃げるように飛び去るナハトとそれを追う様に飛び立つ魔女が去った屋上には
『ダークマターを使った錬金術レシピ』の本とドロワーズが風に揺れていた。

447※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/01/12(月) 19:42:09

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

「あ、お姉ちゃん見つけー」
「こいし……! 何故、あなたがここにいるの?」
「お姉ちゃんのペットに教えてもらったのよ」
「そうじゃなくて」
「だってお姉ちゃんが人間に直接逢いに行くなんて中々ないじゃない」
「…とにかく、人の家にあがったら家主に挨拶くらいはちゃんとしなさい」
「はーい。
 家主の人こんにちは。私はさとりお姉ちゃんの妹で古明地こいし。しがない訪問客よ」
 一連の姉妹の会話が区切られるまで、十六夜は微動だにしなかった。
 先程も浮いた汗が、思いだしたように頬をつぅ、と伝う。
 それどころか背中にはびっしりと冷たい汗が噴き出している。

 気がつかなかった。

 信じられなかった。
 まず真っ先にこれは夢だと思った。次に自分が壊れたのだと思った。
 あり得ない。空から天使が舞い降りてきてラッパを吹き鳴らすくらいあり得ない。
 今、この瞬間まで、確かにこの部屋には自分とさとりしかいなかった。
 目の前の「自称妹」など、心音の一つさえ感じられなかったのだ。
 ――この家に侵入した人間を感知できなかった。
 それは屈辱などではない。
 十六夜は確かにプライドが高い方だ。自分の主張を批判されるのが大嫌いで、
あらん限りの語彙を尽くして相手の意見そのものを叩き潰す。また自己優位論信者で、
無意識にか他人を見下している節がある。
 その彼女も、ことこれに関しては自分のプライドなど気にかけている余裕がない。
 十六夜の全身をあますところなく駆け巡ったその感情は、

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

448※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/01/12(月) 20:02:08

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

「どうしたの? お姉ちゃんとしてたみたいに私ともおしゃべりしてよ」
「あなたが無作法に家に入ってきたから、腹を立ててるのよ」
「そうなの? 人間ってつまらないことで腹を立てるのね」
「…………れ」
「ん、なに?」
「…………もう帰ってくれない?」
 息がわずかに荒かった。
 寒い。浮き出た汗が体温を奪い、全身が小刻みに震えている。
「なんで? 勝手に家に入ったことは謝るから、私とも遊んでよ」
 つまらなさそうに口を尖らせるこいし。
 その横で、さとりがうっすらと笑みを浮かべている。
 十六夜はそれきり何も言わない。

 均衡する三人。
 それを破ったのは、

「――そんなに私を怖がらないで、十六夜。
 恐怖に覆われてしまったせいで、貴女の心がよく見えないわ」

 それは小さな音だった。
 カシン、という何かが軋むような音。
 雑踏の中では確実に紛れてしまうその音も、張りつめた空間の中では
澄んだ水を打ったように響き渡った。
 こいしはきょとんと目を瞬かせる。
 さとりは首をわずかに動かし、表情は完全に無。
 そして十六夜は、

 さとりの眉間目掛けてシャーペンを放ったその体勢のまま、
猛禽のごとき獰猛な目つきで彼女を睨みつけていた。

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

449※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/01/12(月) 21:29:53

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

「『この場においてのつまらない冗談は死を意味する』、ですか。
 それは知りませんでした。前もって教えてもらわないと」
「……読心か」
 技術としては聞いたことがある。
 相手の口調・目の動き・声の高低差など、些細な行動からプロファイリングし
相手が何を考え、次に何をしようとしているかを予測するのだという。
「そんな技術があるのね。ただ、あくまで予測でしかないようだけれど」
 そう、技術としての「読心」は、相手の心理を読み測るだけだ。
 だが、さとりの行うそれは、
「私の読心は能力としてのものよ。押し測るまでもなく、すべてが見えるの」
 そうだろう。こちらが考えたことをそのまま言葉に出来るのだから。
「あ、ちなみに私は出来ないよ。第三の目を閉じちゃってるからね」
 そう言うこいしの言葉は無視。
「なんで私のところに来たの?」
「先ほど伝えましたよ」
「もう一度聞こうか?」
 十六夜の深い蒼の双眸が冴え冴えと輝く。

「――何が目的で、私の領域に踏み込んだ?」

 すっ、と十六夜の手が動く。
 その手の動きの延長線上にあったクッションが、前触れもなく引き裂かれた。
 まるで鋭利な刃物で断ち切られたように中身をぶちまけるそれに、
最も近くにいた十六夜は目もくれない。
「おぉっ。え、何今の? あなたがやったの?」
 一人状況から取り残されているこいしは、眼前で展開される殺意混じりの応酬から
離れ、完全に傍観に徹している。少なくとも、心配や怯えといったものは見られない。
「駄目ね。力の誇示が目的ならともかく、意思なき力の発露は暴走としか言えないわ」
「意思を持った時は、あんたの首が刎ね跳ぶ時よ」
「……ふぅん、そう。貴女にとって、この部屋こそが『聖域』なのね」
「質問に答えろ」
 音が聞こえるほどの歯軋りが十六夜から漏れる。
 温度が上がる十六夜に対し、さとりはどこまでも空虚だ。
「深い意味はないわ。お燐の話を聞いて、少し興味を持っただけです」
「なら今すぐ帰れ。それか死ね」
「どちらもお断りよ。ようやく貴女の中が見えてきたところですもの」
 それではもう一つ、と、

「十六夜。貴女にとって、『彼女』は何?」

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

450※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/01/13(火) 22:04:14

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

「お燐から聞いたわ。『彼女』を見つけた直後に貴女に襲われたって」
「人間とは思えなかった。喰い殺されるかと思ったそうよ」
「あの娘は仮にも私のペット。ただの人間ごとき、餌にこそなれ脅威になんてなり得ない」
「だから貴女に興味を持ったの」
「妖怪を喰い殺そうとする人間は、何を想うのか」
「そうそう、お燐はこんなことも言っていたわ」

 ――その姿はまるで、奪われた子供を奪り還そうとする母猫のようだった。

 言葉の羅列を、一音一音噛み締めた。
 ついさっきまで滾っていた衝動はすでに無い。
 まるで表を向けていたカードがひっくり返ったような、幽まり還った裏の顔。
 視線はさとりを向いている。
 否。十六夜の視界には、もうさとりしか映っていない。
 彼女の目が見える。鼻が見える。口が見える。髪が見える。
 首が、指が、肘が、胸が、腹が、脛が、足が見える。
 そのすべてが――もう、ただの物体としか映らない。

「……そう。それが貴女の深淵。貴女の根底。貴女の中にある最も古き原風景なのですね」

 十六夜の手には、傍らに立てかけられていた棒状の物体が握られている。
 それは何の飾り気もない棒に過ぎなかったが、見ようによっては「杖」にもとれた。
 構えるでもなく、中程を掴んでぶら下げる。

 さとりが陶然とした笑みを浮かべて言い放つ。

 前触れなく、視覚が支配する世界そのものを置き去りにした神速がさとりの胴体を薙ぐ。

 そして、

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

451いざます:2009/01/13(火) 22:30:07
最近記憶と記録は違うことに気づいたので、
書き残すという所作をしておきたいと思ったり

十六夜の怒りのボルテージは二段階

一つは十六夜自身の領域を侵された時
二つは『彼女』に干渉された時
ただしどちらも源泉は同じ

さとりんが見た「原風景」の中に、すべての理由が存在する

452十六夜日記:2009/01/13(火) 22:44:35

 心が読めるってどういう気分なのかしら。
 こんばんは。十六夜日記のお時間がやってきました。
 パーソナリティの十六夜です。
 今日もハイテンションにクールダウンしていきましょう。メメタァ! メメタァ!

 すいません、私の脳が溶けてました。

 この前、心が読めるっていう古明地さとりという少女に会いました。
 最近、引っ越してきたらしい。
 会ったその日に思ってることをズバズバ言いあてられました。
 うん、キモイって思ったことまでバレましたかっこほし。
 周りからもけっこう敬遠されるらしい。そりゃそうだ。

 事の発端は、さとりん(小五ロリと呼ばないだけ優しい私)がお燐の飼い主だったってところに始まる。
 お世話になってます的な挨拶されたの初めてですよ私。
 お世話なら某タダ飯食らいを毎日のようにしてるというのに!
 あははははすいません考えたらまたムカついてきました。
 あのお子様と来たらちょっと目を離した隙に飯をこぼす水をこぼす洗剤をこぼすと(ry

 まあそんなこんなで妙に我が家の人口密度が増えつつある今日この頃。

 追記:
 バカな友人が最近うちに入り浸って半ヒモ化してます。
 こいしのペットになりたいらしいです(こいしはこいしで何故かよく来る)。
 …こいつを引き取ってくれる業者ありませんか? お金なら出すので。
 焼却処分とかしてくれるとなおいいです。あ、保健所でも構わない。

453十六夜日記:2009/01/26(月) 22:29:51

最近、正義って単語をよく考える。
正しいって何かしら。
私の正しさは、私以外の誰かの正しさになるのかしら。

まぁ他人の正義には興味ないんだけどね。

454名無しさん:2009/01/27(火) 21:48:25
【正義】
1.人の道にかなって正しいこと。
2.正しい意義、また正しい解釈。
3.人間の社会行動の評価基準で、その違反に対し厳格な制裁を伴う規範。
【Yahoo広辞苑より】

正義ってそもそも存在しないと思う。2の意味でならともかくも、だ。
というより、2の解釈でさえ、存在しないのではないだろうか。
正義って、なんだろう。その対極にある悪って、なんだろう。

自分は、何が正義で、何が悪かなんてわからない。
恐らく、生きていても一生わからなそうな、
絶対に理解できないと思う。自分が不器用だから、とかそんな次元ではなく。

いったい正義ってなんなんだー!教えてくれト○ロー!
エリ「待て、なんでトトロなんだ」

455十六夜日記:2009/01/27(火) 23:13:56

何か晩御飯を作るのがめんどいです。

うちにはタダ飯のくせに大食らいのおガキ様がいらっしゃるので、
それでも作らないわけにはいかないのだけれど。
コンビニの出来あいで済ませようとすると、メチャメチャ怒り出すし。

「おなかすいたー、ごはんだー」とか言ったら
満漢全席が出てくるようなおうちに住みたいです。

456十六夜日記:2009/01/28(水) 22:15:17

風気味のような気がします。

間違えました。別に身体が昇華しつつあるわけではありません。
いやそれはそれで面白そうというかオラワクワクしてきたぞ!

まぁ風邪っぽいだけなんですが。

幸いこういう時に潰しがきく職業だったりするし。
今日はお仕事に出るのはやめておこう。

457アホくさい話:2009/01/29(木) 19:58:30
「おー、すごいすごい。流石ダークマター。
外の武器でも全然大丈夫なんだねぇ」
地面に転がった残骸を見下ろしながら、ドロシーはいつもの様に煙草に火をつけた。
「まあな」
対するナハトも黒光りする鋭い鈎爪をした手甲をマントの中へとしまいながら、ほぅと息をつく。
足元には彼が壊したであろう武器がごちゃごちゃと散らばっていた。
「それにしても、流行りなのか?こういう連中」
再びマントから出した―先程とは違い、革の手袋をはめた手で地面を指差す。
「天意は我等にありだとか言いながら、買い物帰りの者を襲うのは
相当気がおかしいか、馬鹿の様にしか思えん」
その言葉にドロシーは肩をすくめて、同意するように苦笑した。
「里でも大分白い目で見られ始めてるみたいねぇ。
実は妖怪だけでなくて、反対する輩まで殺してるんじゃないかって噂あるくらいだし。
言ってることもやってることもカルト教団並…もっと言うならナチスとかそれっぽいねぇ。
その内、原爆で幻想郷吹っ飛ばすんじゃないかしら?くすくす」
そんなことに興味はないと言わんばかりに背を向けるナハトにドロシーが口を尖らせる。
「まあ、あれよあれ。
自分らのやってることは絶対間違っていないとか言って
正義なんてものを振りかざすのは迷惑極まりない事はないって事。
民族浄化とか霊長の長とか思い付くんだから人間ってアホよね、アホ。
あ、でも紅は別よ、別格」
そうして、ふといつの間にかその場から姿を消していたダークマターに軽く舌打ちをし、
その場をぐるりと見回して、首だけでも持って帰ればいいもんかねぇと一人呟いた。

458十六夜日記:2009/01/29(木) 23:25:46

ん〜、まずい。本格的に身体を壊したかも。

立ち上がるだけで目眩がする。吐き気がする。
こんな時に限って古明地姉妹は姿を見せない。
姉は間違いなく状況を悟っているに違いないというのに。薄情者め。

それでもあすみには飯を食わせなきゃならない。でないと我が身が危うい。
しゃーない、あいつを呼びませうか。

459トラジャをレギュラーで:2009/02/01(日) 11:26:28
遠い昔、遥か彼方の銀河系で…

大雪が降った次の日のインペリアル・パレスは積もった雪で白く輝いていた。
その雪化粧をした宮殿の一室で皇帝と皇后がミニテーブルを挟んでコーヒーを
飲んでいた。別の銀河、遥か未来を生きる友人達の見解をつまみにしながら。

「正義ねぇ…便利な言葉だ。私も愛用している」
「お前も段々、政治家になってきたんだな」

銀河内乱、ユージャン=ヴォング戦争、ルウィック解放戦争、その他諸々の
帝国への脅威に際して、彼は臣下や市民達に繰り返し正義を説いてきた。
それらは全て自分を正当化する為の飾りに過ぎなかったのだろうか。
彼の糟糠の妻も、少し哀しさを孕んだ口調で返した。

「政治やってるんだ、プロにならなきゃまともな仕事ができない。そうなると市民達の
代表たる議員達が帝室関連予算という名の私への給料を支払うことに同意しない
だろう」
「給料という言い方はどんなものだろうか」

何かをやるにはその道のプロフェッショナルでなければならず、プロには正当な対価を
受け取る権利があるという彼の考え方らしい発言である。しかし、封建社会で育ち、
王家への忠誠ということを幼少より教育されてきた彼女にはいまだに受け入れにくい
考え方である。

「父親が官僚、自分は軍人出身なのでね。まあ、リップサーヴィスに終わらせるのも
また問題だろうけれど。私は現実を見据えて行動するが、砂を噛むような暮らしは
嫌だね」
「で、お前の正義とは何だ?」

彼が正義という言葉は飾りではないということを匂わせた発言にすぐさま彼女は
飛びついた。冷めたように見られがちな皇后だが、内面を知る者は彼女の内に
熱いものが流れていることを知っている。今回もそれが働いたのだ。

「大きく言えば、帝国統治下における秩序正しい社会の維持と発展。小さく言うなら、
こうして君とコーヒー片手に話ができる毎日の維持。これを乱す愚か者はフォースと
1つになってもらう」

つまり、彼には平穏な毎日が正義なのである。統治者としてはまず及第点の答え
であろう。そして、妻たる皇后は文句無しの満点を与えていた。

「コーヒーが切れたな、まだ死にたくないから私が淹れてこよう」
「ふふ、君も淹れ方うまい方だからね、楽しみにしているよ」

コーヒーを淹れに行った皇后の表情は目尻と口元がわずかに緩んでいた。

460朝焼け、黄昏、宵の口:2009/02/10(火) 12:36:57
まだ夜も明けきらない頃でも様々な人々が居た。
これから仕事へ行く者、ようやく帰路につく者、それぞれの場所へ彼等を運ぶ者。
まだ肌寒い空気の中でマスクから鼻を出して、紅は空を見ていた。
微かな星の残る藍と太陽を連れて、空を染める橙が彼女の最も多く見掛ける空の色だった。
周りは下を向いて、電車を待つ中、紅だけはじっと空を見つめていた。


いずれはこうして見上げる事すらなくなるんじゃないんだろうか。
信号待ちに自転車を止め、ふと見上げた空でアサヒはそんな事を思った。
沈む夕陽を受けて、茜や黄金へ染まった雲の背後から群青色の空が忍び寄る。

そういえば、あの隙間妖怪はそろそろ目を醒ますのではない。
空で混ざりあった、昼と夜の境を見つめながら、彼女は思い出したようにペダルに足をかけた。


湖面の月を肴に神奈子は一人、杯を重ねていた。
外の世界が何時かに忘れてきた空で星と月が宴と洒落込んでいた。
その様を懐かしげに眺めながら、杯へ酒を注ぎ込む。
懐かしきかな、と呟けば、年寄り臭いと声があり
確かに違いないといつの間にか隣に腰掛けた旧い友と杯を交わす。
移ろう空と人へ思いを馳せながら。

461十六夜日記:2009/02/11(水) 08:55:43

やっと風邪が治りました。

というか、風邪じゃなかったみたいです。インフルエンザとか、なんかそんなの。
決して拾い食いして中ったわけではありません。ないんだからねっ。

その間お仕事にもいけなかったため、家計はそろそろ妖怪死体盗みです。
病み上がりだけど、今日は久し振りに頑張ろうかと思います。

462※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/02/11(水) 08:57:17

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

 灰が降る夕暮れ。
 などと評しても、しょせんは現在の時刻から晴天時の空模様を推測しただけであり、
今日のような『どしゃ降り』の日は日中を通して宵闇と変わらない。
 雨よりもはるかに厄介な灰雨は、必然的に人の往来を抑制する。
 空気の抵抗を受けて中空をちらつくその様はさながらドス黒い雪のようで、
だからだろうか、水を打ったように静まり返った通りにもそれほど違和感を覚えない。
 自分独りだけ残して死に絶えていった世界。
取り残された自分の中に取り残された感情は、さて。
茫洋と、他愛もないことを思い連ねる、そんな黄昏時。

「まぁ、そういうものなのかもしれないけれど」
 行きつけのスーパーマーケットが潰れていた。
 現状を一言で表すと、その程度のことでしかない。
 自然と当然の境界に遍在する、荒廃という名のバックグラウンド。
 その原因が暴徒の集団による集団強盗であったとしても、その程度の範疇を超えることはない。
「……どうするかなぁ」
 頭をかく。

 ――約束を、してしまっていた。
 今日の晩御飯はハンバーグにすると。

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

463※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/02/11(水) 08:58:53

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

 あすみは特に好き嫌いなく何でも食べる子だが、それでもとりわけ好むものが2つある。
 その1つが、ハンバーグだった。
 最近体調が優れなかった十六夜は――仕方がないとは言え――、
出来あいの総菜で何とか夕食という体裁を保たせていたのだが、
「…………………………………………………………ごはん、違う」
あすみにはそれが大層不満だったようで、三日目あたりから夕飯時になると
十六夜をぺしぺし叩き何かを訴え出すようになった。
 ようやく復調した時にはすっかりへしょげてしまい、十六夜が台所に立つのに合わせて
部屋の隅にちょこんと丸まり、「いいの晩御飯がお惣菜でも私は大丈夫」とでも
言わんばかりの表情でうずくまるという有様だった。
 これがあすみなりの「甘え」であることは十六夜も理解している。
 そもそもあすみに食での好き嫌いなど存在しない。
 食べられるものなら、究極的には何でもいいはずなのだ。
 だから、あすみはレパートリーそのものに不満があったわけではない。

 ないがしろにされていると思ったのだろう。

 あすみは幼いが、だからこそ最も身近な存在からの愛情には敏感だった。

「ここが使えないとなると、割と遠くまで行かないと肉買えないんだよなぁ」
 自動ドアだったガラス戸は踏み割られた水溜りの氷のように地面に散乱し、
まだかすかに灯る蛍光灯の光が断末魔の明滅を繰り返している。
 中にはすでに灰が積もり始めているようで、わずか数日の間にここは
疑う事無き廃墟と化していた。
 それに対する感情は、やはりない。

 だが、それは向けるべき矛先が見当たらなければの話だ。

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

464※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/02/11(水) 09:02:59

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

 無人と思われた廃墟から、男が飛び出してきた。
 この時勢に路頭に迷ったホームレスのようだ。灰で真っ黒になった衣服を見ればわかる。
 その両手には、やはり灰で煤けてはいるものの食料を山ほど抱えている。
 いわゆる火事場泥棒の類型か。
 向こうもすぐに十六夜に気づいたようで、先んじてやったとばかりに
したり顔を浮かべて彼女の脇を駆け抜けていこうとした。
 ――夢にも思っていなかっただろう。
 交差する瞬間に、痛烈な速度で顔面を殴打されるとは。
「今日はいいとしても、明日からどうしようかな。あー、めんどい」
 ぎじぎじぎじ! と錆びたカッターの刃を伸ばすような音を立てて、
男がアスファルトの地面を滑っていく。
 十六夜は軽く嘆息して、男を殴り飛ばしたのとは反対の方向に歩きだした。

「はんばーぐだー」
 ここ数日見ることのなかった満面の笑顔が食卓を彩った。
 十六夜が作っている最中から大はしゃぎで、包丁を使っているから危ないと言う
十六夜の言葉も聞かずに跳ねまわり、お燐に抑え込まれてやっと落ち着くという有様だった。
「いい加減『いただきます』くらい覚えなさいよ、もう」
 食卓に並ぶなりハンバーグにフォークを突き刺すあすみ。
 十六夜はうんざりしたように溜息をついているが、ここまで喜ばれれば無論悪い気はしない。
 喜びと苛立ちと諦めが入り混じったその複雑な表情は、時に「人間凝固点」とも
揶揄される凍結した表面世界に短い春が訪れたようだった。

 十六夜がこれほどの親愛を浮かべられることを知る者は、ごくごくわずかである。

「おねーさん、私の分は?」
「ごめんなさいね、生憎キャットフードは置いてないの」
「ほしければ奪い取れ、ってことかな?」
「『略奪』はご自由に。その代わり、髭の2・3本は覚悟しときなさいよ」

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465にゃーにゃー:2009/02/11(水) 10:37:38
またいつもの病気が始まった。
歯ブラシをくわえた姿でドロシーは肩から服がずり落ちる様な気がした。
縁側に腹這いに寝そべり、至福の表情で猫缶片手ににゃーにゃー言う女性の前には見たこともない艶やかな毛並の黒猫が一匹。

ニャーン。

家の人間の中で特に筋金入りの猫フリークたる彼女は黒猫の美声(多分)に背後に花を背負いながら、
手慣れた手つきで猫缶を発泡スチロールのトレーに盛り付ける。
「可愛いねぇ、お前。何処かのお家の子なの〜?」
これは酷い。
がつがつと猫缶にがっつく黒猫にメロメロな女性。
背後の花がいつの間にかハートマークに変わっている。
そこまで好きか、猫。
「あんまりお家の人に心配かけたら、駄目ですよー」
何やら切なさで胸がいっぱいになりかけ、ドロシーは熱くなった目頭を押さえながら
洗面所へと向かい始めた。

―モンプチの裏―
猫猫にゃーにゃー
―モンプチの裏―

466十六夜日記:2009/02/11(水) 19:35:05

時々、夢を見ることがある。

それは露頭を彷徨ってた時のものだったり。
いつかどこかで見たような奴に復讐されるものだったり。
無愛想で百合っぽくて電波になるものだったり。

んー、なんか今の私って案外幸せだったりするのかしら。
夢の中の私は、何だかいつも退屈そうにしてる気がする。
それとも私は端から見たら、そんな雰囲気を醸し出してるのかしら。
他人から見た自分のことはやっぱり自分じゃわからない。

好きなことを好きなだけしてれば幸せ?
やりたいことをやりたい時にできれば幸せ?

んー、少なくとも私は好きなこともやりたいことも出来てないよなー。
ほら私の夢ってこの可愛さを活かしてアイドルにすいません何でもないです。
あ、だから私って端から見たら悲愴感とか漂ってるのかも

やりたいこと、やりたいだけしてみようかなー。

467十六夜日記:2009/02/11(水) 23:08:09

今日は久々にあすみと買い物に行きました。
久々なのは、あれと一緒に出かけるとロクなことがないからだ。
とにかくどうしようもないほどにお子様なあすみは、お子様全開で火の粉を振りまく。
手を離すと5秒で彷徨いだす。
目を離せば10秒で行方不明だ。
その度に迷子コーナーを探す私の身にもなってほしいものです。

話がそれました。
さっきも書いたようにあすみを目を離すとどこにいくかわからない。
だから間違っても何かを頼むことなんて出来ない。
「たまねぎ探してきて」と頼んで、何度あすみを探すことになったことか。
そもそもあすみは満足に数を数えることが出来ません。
何しろ、年を聞けば「え〜と、823さいー」とか答える始末だ。
何ですか823歳って。私より800歳も年上ですか。

そんなわけだから、私は頑なにあすみの手を離すことなく
妙な緊張感を漂わせて買い物に臨まなければならないのでした。

明日は、いつも通りあすみが寝てから出かけることにしよう。

468※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/02/12(木) 22:16:33

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 ぱあん、と肌と肌が跳ねる快音が響く。
 弾丸のように打ち出された十六夜の右手が、さとりの顔面を鷲掴みにする。
 さとりは無表情。
しかし、それ以上に十六夜は無表情。
「無駄です。心が読める私に、得意の「外人想」は通じません」
「心が読めるならわかるでしょう。何も人の心を弄ることだけが能じゃない」
「あなたは私に嘘をつく無意味を学ぶべきね。
 意地とは、相手に真意を悟らせずして初めて張ることが出来るものよ」
「――死ぬか、お前?」
「片腹痛いわ。 ――瞎(めくら)な眼で、私の『さとり』に抗おうなんて」
 十六夜が左手の人差し指を立て、さとりの白い首にひたりと当てる。
 そして、

 ――表象「夢枕にご先祖総立ち」

「はいはーい、そこまで」
 スペルカードを掲げたこいしが、口を尖らせ拗ねたような口調で言う。
「私一人を置いて二人だけで遊ぶなんてずるいよ。やるなら、私も混ぜて」
 その完全に場違いな物言いに、毒気を抜かれた十六夜がさとりを離す。
「妹に感謝しなさい、古明地姉。あと3秒止めるのが遅ければ、あんたの首は、」
 すっ、と自分の首を掻き切るしぐさをとり、
「――こうだったわよ」
 一方のさとりは、薄く笑みを浮かべるだけ。
「もう、せっかくのお出かけなんだから仲良くしようよ。ね?」
「私の仕事に勝手についてきてるだけでしょうが」
 嘆息する。

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

469※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/02/12(木) 23:19:55

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 十六夜の仕事は夜始まる。
 理由は簡単。昼では困るからだ。
 人目につくのを憚る仕事は、夜にするものと相場が決まっている。
「今日もいい夜ね――星の光さえ差さない」
 外灯などとうの昔にその機能を放棄した夜の街、月明かりすら灰に遮られた世界は
己の手指さえ判別できない闇で彩られていた。
そんな沈みきった世界に溶け込むような、烏の羽より薄黒い男物の外套を羽織った
十六夜は、言葉とは裏腹にすべてを嫌悪する鬱な光をその瞳に湛えていた。
「それにしても」
 つと、思いだしたように視線を向ける。
「妖怪――ね。そんな生命体が実在するとはだわ」
 肩をすくめるように、さとり。
「あら、別に珍しいことではないでしょう? ――『貴女の世界』では」
「私の世界、ね」
 吐き捨てるように。
「くだらない記憶だわ。3年より前のことなんて思い出すだけで反吐が出る」
「そうかしら? 少なくとも、今よりはまともな生き方が出来てたようだけど」
「まともだったけど、人らしくはなかった。
 ――当たり前のように人の心を読むな」
 思い出したように、最後にそう付け加える。
「ま、それならあの猫娘的存在も納得がいかなくもないけど。
 火車――死体運び。なるほど、この世界に化けて出るにはうってつけね」
「幽霊とは違うわ。化けて出たりはしない」
「同じことよ。『迷惑来訪者(ナイト・ノッカー)』に変わりはない」

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470※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/02/14(土) 22:59:38

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 風が吹く。否、風が吹き続ける。
 それは十六夜を中心にして、ごく小規模な竜巻を成している。
 その風に吹き散らされ、黒灰は一欠片さえ彼女に触れることはない。
「大体、あんた達はいつまで私の周りをつきまとうわけ?
 お燐はあすみが気に入ってるから我慢してるけど、その飼い主にまで敷居をまたぐ権利を与えた覚えはないわ」
「そうね。権利を与える権利なんて貴女にはないもの」
「私はあなたをペットにしないといけないし」
「勝手なところだけはそっくりね」
 つと、見上げる。
 そこは幾重にも連なるビル群の一角。世界中のどの樹木よりも高く、無様に聳える
無機質のジャングルは、人間の愚かさでも象るかのように闇夜の空を切り崩している。
 人の通りはない。そもそも、人が通るところではない。
 あたりは水に沈んだように静まり返っている。
 音すら飲み込む空虚な世界に、ただずむ生物が3匹。
 ――そこに混じり出した音は、ちょうど落ち葉が吹き流されるそれに似ていた。
 降り積もっていた灰が、十六夜を「目」として吹き荒れる。
「つきまとうのは自由だけど」
 ふいに――世界が、「壊れた」。
 無機質の建築群に順応した十六夜の心象世界に、
 まるで老朽化したコンクリートに走る亀裂のような、

 罅割れた笑みが、灯る。

 バキバキと音でも立てそうな程に歪んだ瞳が、
「――追いつく頃には、もう終わってるわ」
 消えた。

 十六夜の姿もろともに。

 次いで、遥か上方から鳴り響く破砕音。

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471※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/02/15(日) 09:48:18

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

 あらかじめ結果を把握していたさとりは、こいしの手を掴んですぐ脇の建物に飛び込んだ。
 二人の立っていた場所にバラバラとガラスの破片が降ってくる。
「空も飛べるんだー、あの人間。ますますペットにしたくなっちゃった」
 十六夜は、ビルの10階の窓をぶち破って飛び込んだ。
 だが飛んだ、という表現は正しくない。
 十六夜は「飛んだ」のではなく――「跳んだ」のだ。
「さ、私達も追いかけよ、お姉ちゃん」
「待ちなさい、こいし」
 何の躊躇いもなく追いかけようとするこいしを、さとりは静止させる。
「十六夜を追いかけてはいけないわ」
「何で? こんなところにいてもつまらないよ?」
「むざむざあなたを殺されるわけにはいかないもの」
 さとりはきょろきょろとあたりを見回した。やがて無造作に並べられたドラム缶を
見つけると、ぱたぱたと手で埃を払ってちょこんと腰かける。
「あれは多重人格というよりも洗脳に近い。
 黒を白に塗りかえる類の催眠暗示なら、私も心得があるけれど。
 ――自分に使うなんて発想はなかったわ」
 その瞬間を垣間見た時は、他人の心に触れ飽きたさとりでさえ頬に冷や汗が浮かんだ。
 たった一つの意思だけを特化させた、純粋に歪んだ心のカタチ。

「人間はずいぶんと軽んじているのね――命というものを」

 さとりは認める。それは動揺といえるものだ、と。
 他者の心に踏み込むことに抵抗などないが、一線を越えてはいけない世界もある。
 久々に、それを痛感させられた。
「だからこいしも――こいし?」
 いつの間にか、あたりに自分以外の気配がなくなっていることに気づく。
 思わず舌打ちする――無意識の領域に独りたたずむ、こいしの特性を失念していた。
「こいし、こいし!」
 どこに行ったかなど考えるまでもない。十六夜の後を追ったのだ。
 慌ててこいしを追おうとする。最悪の可能性が想起されることのないように。

 その時、さとりの頭に誰かの心の声が聞こえてきた。

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472戦場の匂い:2009/02/28(土) 09:51:15
各地で上がる灰色の煙に濁り、澱んでいる空は、夜だというのにまだ明るかった。
灼熱の炎に空までが赤く焼かれ、空は一行に藍色に戻る気配はなかった。
時間などわからない。わかるのはただ、砲撃の音、光、炎の光、煙の色といったものばかり。
地にはただ死体が転がり、誰のとも知らないヘルメットがそこにあるのみだ。
そんな戦場を四人の女性たちが戦車で偵察に来ていた。
漂い、戦車の中にまで入ってくる死者の匂いを嗅ぎながら、
彼女たちはたった四人で荒んだ戦場に来ていた。
「うわ、こりゃひでぇ 一体何があったんだ?」
「大きな戦いがあったのはわかるけど…私たちが来るまでに一体何が…」
実は数時間前まではこの『戦場』は一つの『街』だった。
古き良き時代を捨て、すべての物をハイテクにした、有名な街。
工業用水の排水や、工場から出る煙による汚染という問題を抱えつつ、
街は大きく発展していった。だが、それがいけなかったらしい。
この街は「とある物」を開発した。それが何だか知らないが―。
とある用事で彼女らは立ち寄ることになったのだが、
もう既にそこに『街』はなく、あるのは『戦場』だった。
横たわるのは市民の体ばかり、一体誰がこんなことをしたのか想像もつかなかった。
だが、彼女らが乗るグラントの前には誰も現れることはなかった。
死体を除いて…。

473※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/02/28(土) 23:48:53

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

 彼女の宣言通り、こいしが追いつく時にはすべてが終わっていた。
 こいしは空が飛べる。跳べるのではなく、飛べる。
 十六夜の侵入プロセスとまったく同じ経路を使い、窓から入ったのだ。
 その間など、1分程度しかなかっただろう。

 その空間には暗欝が立ち込めていた。

 ――それはぶち破られた窓から吹き込む細かい灰のせいであり。
 黒灰は風に散ると黒い霧のように空気中を漂う。
 そのため、余程のことがあっても住人は窓を開けない。破壊されれば話は別だが。

 ――それは破壊された照明のせいであり。
20畳以上はある空間は、ところどころ破壊された照明によって
あたかもスポットライトのように局所的に照らし出されている。
 薄明かりから漏れる世界には、蹂躙の爪痕が深く刻まれていた。
 それはもとからだったのかもしれない。
 打ち捨てられた廃ビル群の一角にこのような光景が広がっていても不自然はない。
 だが、そこに立つ少女は、一種異様な不自然をまとい超然とそこに立っている。
 
 ――そして、それはあちこちから聞こえてくる怨嗟のせいだった。
 どれほどの数の人間がここにいるのか――あるいは、いたのかはわからないが、
聞こえてくる声の数はそれほど多いものではなかった。
 それは言葉と呼ぶには意味がなく、叫びと呼ぶには弱々しい。

 それらを平然と聞き流し、こいしはじっと十六夜を見つめている。
 口元に、いつもの無垢な笑みを浮かべながら。

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

474※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/03/01(日) 00:40:49

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

 嫌われるのが怖かった。
 そんな、知能ある生き物としてはごく自然の考えが、古明地こいしの運命を決定づけた。
 さとりと同じ第三の眼を持つこいしは、しかしさとりのように人の心を読むことはできない。
 それは、こいしが己の第三の眼を閉じてしまったからだ。
 心を読む能力は他人から疎まれる。
 それを身をもって――そして姉の姿を見て理解していたこいしは、
自分の能力を封じ込めることで輪の中に混じろうとした。
 嫌われたくなかったから。
 だが、その結果として彼女を待っていたのは、知覚世界からの追放だった。
 誰も――実の姉でさえも、能動的にこいしを知覚することはできない。
 能動的とは、つまり自らの意思でという意味だ。
 こいしから話しかける分には、意思の疎通は出来る。
 だが、その逆はかなわない。

 彼女の意識は無意識へと堕ちた。
 絶対的な「無意識の領域」には、彼女以外は足を踏み入れることも出来ない。
 嫌われたくないという意識が生んだ、孤独(むいしき)という名の安息。
 だが、それを厭う心(いしき)すら、彼女にはない。

 こいしは無垢に笑う。
 何も知らないというような表情で。

 ――故に、その瞬間に十六夜が振り返った理由は。
 ――こいしの気配に気づいたからなどでは、断じてなかった。

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475天空カフェで一時を:2009/03/02(月) 14:07:57
凄い場所でお茶をしない?
そんな風に早苗を誘ったのは銀髪赤目の少女で。
空と星との境を一望出来るという場所の話を聞いた時だった。
大袈裟な程の身振り手振りを交えて話す彼女に同意するよう頷き、呟いた。
―私もいつかその眺めを見てみたい。
テレビでしか見たことのない星の姿へ馳せた想い。
胸の内に渦巻く故郷への想いが早苗にそう呟かせたのだろう。
それなら、と少女が腰かけていた縁側から立ち上がり、夕陽を背に振り返る。
―今度、皆で一緒にそこに行こう。


まさしくそこは、星の世界と空との境界だった。
眼下に地球の蒼を従え、頭上には手を伸ばせば届きそうな星が輝く。
最も自身が作り出した疑似空間だと肩をすくめる絵画の魔女の隣で眼鏡の女性が
それにしたって、最高の眺めだと笑う。
隙間妖怪が何処からともなく洒落たティーカップを取り出せば、メイドが菓子と紅茶を取り出し、
二人の吸血鬼と魔女が椅子へと腰掛ける。
「ようこそ―」
演技がかった仕草で銀髪の二人が揃って早苗におじきする。
「天空カフェへ」




「という夢をみたんですよ」

476※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/03/02(月) 23:29:08

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 相手の姿など見ずとも、踏み込む気配だけで力量は知れた。
 十六夜の「射程距離」ギリギリのところで足を止める所作。
 こちらの動きを警戒しつつも、振る舞いそれ自体が十六夜への牽制となっている。
 名が知れてから「仕事」中の乱入など終ぞされたことがなかったのだが、
どうやら相手は余程自分の腕に自信があるか、でなければ途方もない馬鹿であるらしい。
 そんなことを心の片隅で考えながら。

 ――体は、すでに振り向き様の一撃を放っていた。

 踏み込む分だけ遅くなる交差の瞬間は、相手に反応と対応の余裕を生む。
 故に、十六夜は踏み込まなかった。
 右手の「それ」を、背後へと向けて躍る四肢の遠心力に乗せて投げつける!

 音は、なかった。
『……なるほど』
 代わりに届いたのは、声だった。
『噂に違わぬ凶暴性。これが巷で騒がれる強盗の正体か』
 彼女が放ったそれ――床に転がっていたのを拾った蛍光灯は、相手の左手に握られていた。
 言うまでもない、避けもせずに受け止めたのだ。
 だが、そんなことはどうでもよかった。
 どうでもいい。まったくどうでもいい。

『――同郷か』

 憎々しげに――そして、どこか懐かしげに、十六夜はそう言った。

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

477※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/03/08(日) 22:58:03

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

『言葉が……通じる?』
 かち、という小さな音を立て、十六夜が腰に差した武器を抜く。
 相手が驚愕を満面に浮かべているのに対し、彼女は極めて冷静だった。
『意味が理解できたなら通じてるんでしょ』
 すでに己にかけた「外人想」は解けているので、会話する分には問題がない。
 構えるというほどの大仰さはなく、十六夜は握る「それ」の感触を弄ぶ。
『正直に言う。私も、まさか再びこの言葉を使う時が来るとは思ってなかった』
『それじゃあ、お前も……?』
『まあ、そういう事になる。
ちなみに、ルイーダの酒場にも登録済みよ――もはや、意味がないけど』
 肩を竦める。
 相手は、動きやすい軽装の鎧に青いマントを羽織っていた。
 そして腰には、「ここ」には似合わない一振りの長剣。
 その様相だけでも、彼がかつての十六夜と同じ場所にいたのだろうと推測できる。
 かつての彼女も――そうだった。
『さて、悪いけど私にはあんたとのんびり昔話に浸る時間はないの。
 大人しく私の前から消えてくれる?』
『それは……できない』
 だろうな、と十六夜は胸中で自嘲。
 あの目つき、言動、立ち居振る舞い。
 そんな状況証拠を並べ連ねても、しょせんは妄想の域を出ることはなかったが。

 それでも、何故だか十六夜には確信めいたものがあった。
 この男は、今の自分にとっての難敵だと。

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

478宇宙の彼方の幻想郷:2009/03/08(日) 23:19:02
「不思議よね」
何が、とあえて言わなかったのだろう八雲紫に紫は肯定ともそうでないとも取れるように肩をすくめた。
昼下がりだった。
街のとあるカフェテラスで散り始めた梅を横目に優雅な一時を過ごしていた。
「あの皇帝さん」
皇帝、の一言に紫はようやくああと頷いた。
「確かに、あれは相当な変わり者だ」
苺のショートケーキから苺を摘み上げ、くるりと回す。
「宇宙をこれに喩えたら、あれが欲しがってるのはこいつのへただもんなぁ」
口の中へと苺を放り込み、程良い甘味と酸味を楽しむ。
「あら、また面白い考えですわね」
ティラミスを一掬いし、実に優雅な動作で口へと運ぶ。

「あー、食後の一杯はやっぱりいいなぁ」
「本当にたべるの好きよねぇ」
そう言った脳裏に一瞬友人の姿が横切った。
「あ、そういえば、彼の居るところも幻想がうんぬんって話だったよね?」
紅茶のおかわり(既に6杯目)を注ぎながら、村上紫。
おかわり自由で無料なのは良いが、ここまで飲まれたら店側も流石に焦り出すのではないか。
「いいの。値段分は元を取るからさ。
それより、さっきの続き」
「えぇ、そうだったわね。
…厳密には違うけれど、彼の居るところもまた幻想郷に近しいといえるわ」
発展に発展を重ねた宇宙。
既に魔法と殆んど区別がなくなった科学に不思議な力を持った多様な種族。
そんな人と彼らの生きるあの場所は魔法と妖の生きるこの世界とが僅かにだぶった。

479宇宙の彼方の幻想郷:2009/03/08(日) 23:32:09
「まあ向こうじゃ地球って星すら幻想みたいな物だしね」
「いずれはこの星自体が幻想の境界へ隠れるかもしれないわね」
人々が挙って宇宙を目指し、誰しもが宇宙へ行けるようになる頃にはもしかするとそうなるかもしれない。
「自分は空も良いけど、地上の方がいいなぁ…」
「あら、そういえば高いところが苦手だったわね。
飛ぶのは好きなのにおかしな人」
「飛ぶのはいいんだよ。
落ちる時のヒューッて無重力感が嫌いなの」
「宇宙飛行士は無理そうね」
「確かにね」


二人はそうして暫く歩き続けた。
既に日は傾き、空では夜と昼が混ざり合っていた。
人間がその空を見上げ、振り返る。
幻想の向こう側で微笑む妖怪に彼女もまた笑い返し、再び歩き出す。


今宵も妖怪の時

480※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/03/11(水) 21:57:04

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

 結局のところ――
 突き詰めてしまえば、それはただの喧嘩に過ぎなかった。
 意志も、意欲も、意味も、価値も、それ自体にはない。
 あるのは殴られれば痛いという事実と、殴りきれば勝ちという幻想だけだ。
 どんな思想を持ちだしたところで、それは決して変わらない――
 自嘲する。
 言い訳地味たサーキットを流れるのは、まあ理解しているからなのだろう。
 図り合う相手との位置関係を算じながら、手の中の「武器」で固いコンクリートの
床をノックする。無論、返事はなかったが。
「武器」の返す感触は、金属の震わす響きには程遠い――反響すらない。
 あるのは重苦しい反作用だけ。
 仕方がない。
 そもそもそれは金属ではなく、無機物ですらない。
 ただの棒だった。
 相手の手に握られた刃渡り1メートル以上ある真正の刃物に比べれば、
「武器」と呼称するのさえおこがましいというものだろう。
 それでも、十六夜が持てばそこには意味が生まれる。
 その長さ1メートルの棒が、例えば両の先端から引くと半ばから引き抜かれ、
有名な刀鍛冶に鍛えられた鉄をも切り裂く名刀が姿を現す――などということもない、
正真正銘ただの檜製の棒だったとしても、やはりそこには意味があるのだ。

 ――生まれた意味が大きければ、それだけ望む結果を手繰り寄せることができる。
 ――そんな夢想を抱けるほどの価値はなかったとしても。

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481※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/03/11(水) 22:20:28

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

 実のところ、逃げるという選択肢は最初からなかった。
 これは何も増長から来るものばかりではない。まあ増長も含まれてはいるのだが。
 ここで逃げ出したところで、同じことが繰り返されるだけだ。
『――勇者』
 つぶやく。無自覚に揶揄の響きがこもるのは、それだけその単語の持つ意味に
辟易していることの表れだった。勇者。
『どうして来たの?』
 その問いが無意味であることは、誰よりも彼女が理解していた。
 来る。その言葉に前提として含まれている「己の意思」を、さて一体どのようにすれば持ちうることができたのか。
『……お世話になった人から聞いた』
 だが、答えは予想外に返ってきた。
『いや、正確には伝わったのだけれど。言葉が通じないから』
 もっとも、十六夜が本来尋ねた意味とはまったく異なる形で、ではあったが。
『――この街には人の財産を根こそぎ「略奪」していく悪魔がいる、と』
 悪魔。
 くだらない表現だと十六夜は思う。
 そんな、今時聖書(おとぎばなし)にしか出てこないような単語を使うのは、
それこそお子様に御伽噺(ゆめものがたり)を語って聞かせる時くらいだろう。
 つまりは、それだけ現実味を帯びていない。否、帯びさせない。
 この街の――この世界の住人は、誰もがそうだった。
 誰一人として、現実を見ている者はいない。

 ――まるで、ここには現実など存在しないのだとでも言うように。

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

482※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/03/15(日) 23:10:46

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

 スッ、と十六夜が右手を払う。
 生まれたのは風だった。
『勇者』が警戒も露わに剣を掲げたが、そんなものに意味はない。
 大気のうねりは黒灰を媒介に視認され、二人を中心に渦を成す。
 そして、疾った。
『――――!』
 それは十六夜がここに踏み込んだ瞬間に起こったことの再現だった。
 風を操り、人間ごと大気を蹴散らし、吹き飛ばす。
 台風が直撃したような轟音に混じり聞こえてくるのは、圧縮された大気によって
刻まれる建物の悲鳴と、それすらあげられずに転がる人間達の激突音。
 その光景に、ふと何故か十六夜は虚しさを覚えた。
『……さて』
 薙ぎ払われた世界に取り残された二人は、綺麗に「掃除」された空間で改めて対峙した。
『これで少しはやりやすくなったでしょう』
『お前は……まさか』
 そこから先に続く言葉は予想がついた。
 かつての自分ならばそれを肯定していただろうか、などと考えながら、
『ええ。ご想像通り、神職に就いていたこともあるわ。記憶すら朧な過去の話だけれど』
 今の十六夜はそれを否定する。
 聖者を騙っていた自分は、生に縋りついた時に死んでしまった。
 今ここにいるのは――
『始めようか。夜明け前には帰りたいからね』
 その言葉に、『勇者』のまなざしが変わる。
 覚悟を――ようやくといったところだが――決めたらしい。
 彼の全身が俄かに発光する。コンセントに電極を指した時のような炸裂音と共に、
電光がその姿を覆った。その力は左手に集約されている。
 勇者のみが使うことの出来ると言われる、紫電の魔法。
『それに、私も興味がないわけじゃない』
 それを視界に留めながら、十六夜は微笑する。

『――私の「異端」は、かつての世界(じぶん)を超えることができたのか』

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

483虫ピン:2009/03/17(火) 23:22:22
うごうごと必死にもがく虫をフランドールはじっと見つめていた。
それは虫ピンで壁に縫い付けられ、哀れなその姿を晒していた。
暫くはその動きを物珍しそうに見つめていたフランドールではあったが、
飽きてしまったのか、床に手の中に残った虫ピンを一本、手にした。
真鋳製のそれを腹へ一刺し。
もう一本手に取り、最初の虫ピンの横へ二刺し。
三刺し。
四刺し。
五刺し。

虫が動きを止めようと、フランドールは虫ピンを何本も何本も突き立てた。
執拗に、楽しむように。
そうして、虫の姿が虫ピンで見えなくなった頃、フランドールはようやく満足げにベッドに腰掛けた。


暫くして、姉お気に入りのメイドが紅茶を携え、やってきた。
そうして、壁の虫ピンに目をやり、首を傾げた。
―妹様、あれはどうしたのですか?
そんなメイドの様子がおかしかったのか、フランドールはくすくすと笑って見せる。
―部屋に入ってきたから、壁に飾ってみたの。
でも飾ってみたらあんまり綺麗じゃなかったんだ。
左様ですかとメイドが言い、壁の虫を見つめる。
後で片付けられるだろうそれの話を今度誰かにしてみようか。
そんな風に思いながら、フランドールは紅い紅茶に口をつけた。


ピンから覗く虫の足は人の形をしているものだった。

484辺境の星の空:2009/03/19(木) 05:59:04
こんな空はあんまり好きじゃない。
雲一つとしてない、何処までも突き抜ける様な青空をヤラは睨みつける様に見上げていた。
とある辺境の星に、彼女は居た。
見聞を広めるためにという名目で義父の治める帝国から遠く離れた星を点々と渡り歩き、
その星土着の民と交流する事もあれば、暇潰しに傭兵の真似事もしてみた。
今しているのは…どちらかと言えば、後者だった。
外から来た侵略者―その星に住む者にとっての―からの略奪を阻止したせいか、
その腕を買われ、客将として手厚くもてなされていた。
そろそろ次の星へ向かいたい所だったが、熱心な侵略者達がそれを許さない。
いっそ中央部にその悪逆ぶりをチクってやろうかしら。五割増し凶悪に。
等と考えながら、溜め息をつく。

もう一度、空を見上げる。
空の果てから降りてくる点のように見える何かに口の端がつり上がる。
「さぁて、仕事と行きますか」
傍らの大鎌を肩にかけ、彼女はゆっくりと歩き出した。

485無責任:2009/03/24(火) 00:27:37
テレビを見つめる彼女の姿を蒼星石はちらりと横目で見た。暗く沈んだ瞳に画面の点滅を写し、彼女は無表情にそこに座っていた。
『…男は死刑になりたくてと話しており―』
「………だったのかね、彼も」
ニュースキャスターの言葉に重ねるように、かすれた彼女の声に蒼星石はとうとうそちらに振り向いた。
先程と変わりない様に見える彼女の瞳が僅かにうるんでいる…様な気がした。
「一体いつから人間はこんなに冷たくなったんだろうね…」
どういう意味か、問い掛けようとした蒼星石の横を彼女が通り過ぎる。
その横顔に深い何かを見た気がした。

「ああ多分それはこう言ったんじゃない?」
相変わらずゴチャゴチャとした部屋の中で彼女の妹が肩をすくめる。
「その男も独りになっちゃったんだろうってね」
「…つまり?」
いまいち理解出来ない様子の蒼星石に相手は苦笑しながら、ベッドに腰掛ける。
「誰かに助けを求められず、でも、差しのべられた手に気付くことも出来ない。
…ううん、もしかすると助けを求めて、気付いてもらえなかった、って事かも」
天井を見上げながら、彼女が溜め息をつく。
「周りは励ましたつもりでも本人には責められる様にしか聞こえない事もあるからさ。
頑張れ、とか逃げるな、って思ってみれば物凄く無責任な言葉だよ。
耐えて耐えて誰かにもう頑張らなくていいって言って欲しくて…でもこれは人によるかな」
自身の手を握っては開く彼女は長く息を吐き出し、困った様に笑った。

「あいつららしいな」
服にアイロンをかける男の背中に寄りかかりながら、蒼星石は深く息を吐いた。
「まぁ、ね。でもなんであんな事言ったんだろうってさ」
男は暫し考える様に小さくうめくとアイロンを傍らに置いた。
「あいつらもその男と同じ場所に居るからだろうな」
「…?」
「つまり、だ」
男が蒼星石を抱き上げ、膝へと招く。
「あいつらも自分の中の闇に飲まれたんだろう、とな」

486信頼:2009/03/28(土) 12:44:57
「…という訳なんだけど、分かった?そもそも起きてる?」
机に突っ伏したままの紫と船を漕ぐ面子にコピーエックス―コピックの愛称で呼ばれるは思わず頭を抱えた。
彼の背後のホワイトボードには『電子空間視覚化スコープ』と巨大な文字とそれを囲むように様々な数式が散りばめられていた。
村上家の地下居住スペースの一角に設けられた会議室で新たな装備についての発表がされていたのだが…。
「ちょっと説明があれだったらしいね」
いまだに頭を抱えるコピックに茶を取りに戻っていた蒼星石が苦笑しながら、声をかける。
「分かりやすくしたつもりだったんだけどなぁ」
「でもほとんど数式とか理論とかみたいだし、疲れてる皆には子守り歌になっちゃったんだよ」
差し出されたE缶―いつも何処から調達しているのか、コピックには不思議でたまらなかった―を受け取り、諦め気味に息をつく。
「まぁそれもそうだけどさ、こっちだってエンジニアじゃないんだし結構大変だったんだよ?
試作作ればもっと軽くだの、でかいからコンパクトにしろだの…」
文句を言いながら、E缶をあおる彼に蒼星石も肩をすくめる。
「それだけ君は皆に信用されてるって事だよ」
「…素直に喜んでいいのかな、それ」
「多分ね」
不機嫌そうな、ただどこか満更でもなさそうなコピックの視線の先で
紫が椅子からころ下落ちていった。

48710ABY. アクシリアの戦い:2009/04/04(土) 09:59:34
―――アクシリア軌道上

既に両軍のレーダーがお互いの艦隊を認識していた。両軍のハンガーでは第二波の航空隊の
発進の為に整備員が駆け回り、両軍の砲撃手達は敵の最新の位置を入力し続け、
両軍の司令官達はいかにして優勢に持ち込むかを思案していた。

―――TIEハンター レインボー1

エグゼキューターに配置されているレインボー中隊は最新鋭のTIEハンターを授かるという名誉に
いち早く与ったエリート部隊である。そのようなエリート部隊の仕事とは前線の露払いである。
レインボー中隊を率いるヘブスリィ大尉は部下達を引き連れて、帝国軍の最前列に居た。

「レインボー1より中隊各機へ、ようやく俺達の出番だ」
「早くコイツを実戦で試したくてウズウズしていました!」

ヘブスリィが言い終わるか終わらないかの内に若い声が返ってきた。ハンターと一緒に配属された
グレシャム少尉である。アカデミーを優秀な成績で卒業したものの、まだ実戦を経験していない彼は
新鋭機で初陣を飾れるのが嬉しくてたまらないのだ。

「レインボー16、お前は俺の後ろにつけ。さもないとヒヨコがターキーにされてしまうぞ」

そう言って、中隊のほぼ全員の笑いを取ることに成功したのはクリストファー副隊長である。
歴戦の勇士の彼はユーモアの中に警告と心遣いを含ませたのである。しかし、この楽しい空気は
すぐに吹き飛んだ。両軍がミサイルの有効レンジに入ったのである。

すぐさまミサイルとレーザーが飛び交い、一瞬にして何十機もの戦闘機が宇宙の塵となる。
しかし、それを生き延びる者はもっと多い。生き延びた者同士でドッグファイトが始まるのだ。
幸いにもレインボー中隊は全員が最初の洗礼を抜け、本戦への出場権を手に入れた。

「レインボー6、レインボー7、俺の両翼を固めろ!あのAウィングのグループを潰しておく!」
「「了解!」」

3機のTIEハンターが乱戦の中で目標を真っ直ぐに捉え、一斉射撃を浴びせて落としていく。
数と連携に優れ、防御力に劣る帝国らしいやり方である。本戦に出場したことで安心していた
Aウィングのパイロットは何が起きたのか分かる間もなく、退場させられたのであった。

488※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/04/04(土) 23:34:01

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

 初撃は、『勇者』の方が速かった。
 見舞った瞬間に完了するのは、光の速さで疾駆する呪文特有の利点だろう。
 その必殺性故に、勇者以外は扱うことすら許されない禁忌の力。
『勇者』を中心にして全方位に放射される稲光をかわす手段などはなく。
 十六夜は考えられうるあらゆる最悪の事態をすべて臓腑に飲み込み踏み込んだ。
 世界が鮮烈な白で包まれる。
 痛い、という感覚はない。
 痛覚さえ麻痺させるショックが全身を駆け巡った。
『…………なっ!?』
 それにも関わらず、驚愕の表情を浮かべたのは『勇者』の方だった。
 床に倒れこむ。長時間正座した後のように足が痺れ立ち上がることが出来ない。
 先程の風で黒灰は吹き散らされたため汚れることはなかったことに安堵する――
今置かれた状況そのものよりも、そちらの方が遥かに重要だとでも言うように。
『……ひさびしゃに効いたわ』
 全身が小刻みに痙攣するため、呂律さえも満足に回らない。
 全力で舌打ちして、小さく呪文を唱える――ホイミ。
『つくづく厄介ね、「魔法」ってのは』
 立ち上がる。激しい嘔吐感は残っていたが、活動に支障はきたさない。
 むしろそれを心配すべきは『勇者』の方だろう。
『こんなのを1対1の戦いに持ち込む私達は、人の道から外れた卑怯者だとは思わない?』
『これは……一体……』
 わずかに混濁していたらしい意識が戻り、苦瓜でも噛み砕いたような渋面を浮かべる。

『勇者』の雷撃は光の速さで十六夜を貫いた。
 同じ時間に、十六夜の掌底は『勇者』の顎を撃ち抜いた。
 意識が混濁したのは軽い脳震盪を起こしたせいだろう。

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489※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/04/05(日) 10:50:14

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 それを戦いと呼べるほど上等なものだと十六夜は思うことが出来なかった。
 故に、やはりこれはただの喧嘩だろうと思う。
 鞘に納められたまま振り下ろされた『勇者』の一撃を檜の棒で弾く。
 向こうも予想していたらしく、あらぬ方向に走る剣閃の向きを素早く変え、
返す一撃で十六夜の左脇を狙ってくる。慣性を無視した強引な燕返しだったが
それなりの速度があり、十六夜は一歩身を引いてそれをかわす。
 そこに『勇者』の放ったギラが飛んできた。
 不意をついて追撃する形となったその一撃。予想の範疇外にあったそれを、
十六夜は舌打ちと共に棒を持たない左手で叩き落とす。
 おぞましい虫の這いずりのように伝う火傷の痛みの暴走をかろうじて理性で圧し殺し、
『勇者』の畳みかけを防ぐ目的でバギマを放つ。
 あわよくば傷の一つでもと思ったが、イオラの爆発にかき消されダメージには至らない。
 再び間合いを開きあった二人は、回復呪文でそれまでの傷を癒す。

『久々ね――いや、このスタイルをとってからは初めてか』
 独白のつもりだったが、その言葉に『勇者』がいぶかしむ顔をした。
 答える義理などなかったが、何とはなしに言葉が口をついた。
『私がこの戦い方を覚えたのはこっちに来てからなの』
 僧侶は一人では戦えない。
 それは数年前までの十六夜にとっての常識であり、今の十六夜にとっての汚点だった。
 一人で戦うことを強要される状況になって初めて気づいたのだ。
 それまでの常識など、蜂蜜のように甘ったるく粘質の海に浸かっていた己の抱く願望に過ぎなかったのだと。
『ここは私達みたいな「魔法使い」は少数派だから。
 ――魔法を使われるのがこんなに厄介だとは思わなかった』
『……お前の悪行なんて知ったことじゃない』
 硬質化したままの『勇者』の言葉に。
 十六夜はかすかに眉根を上げた。興味深そうに――あるいは、腹立たしげに。
『悪行。悪行――ね。面白い、少し興味がわいてきた。
 夜明けまでにはまだ時間がある、ちょっとお姉さんと話をしようか――「勇者様」?』

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490※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/04/05(日) 18:38:41

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 つと、もはやただの穴と化した窓の方を見遣る。
 そこには最初の雷撃に巻き込まれて目を回しているこいしがいたりしたのだが、
十六夜は気づいた様子もなく――あるいは気づいた上で無視して、視線を戻す。
『自己紹介が遅れたわね。私が貴方の探していた張本人、「拷盗」その人よ』
 軽く腕を持ち上げ、芝居がかった口調でそう告げる。
『「拷盗」と呼ばれる所以はもう知ってるのよね?
「略奪」だけを目的とした愉快犯。その対象は金品に留まらず、時には人の身体と
心さえも奪うことで知られ、行方不明や記憶喪失に陥った者は数知れず。
 あまりに残虐な手口に、今では半ば都市伝説と化してさえいる――とか、そんなところかしら』
 他人事のように語ったのが癇に障ったのか、『勇者』のまなじりが下がる。
『どうしてそんな事をするんだ』
『どうして。そんな疑問が湧く時点で滑稽ね』
 図るように『勇者』の全身を睨めつける。
『あなたは自分が何故呼吸するか、いちいち疑問に思ったりするの?』
『自分さえ良ければいいのか。その為なら、誰を傷つけてもいいと』
『誰でもいいとは言わない。私が「略奪」するのは、私の得になる奴だけよ』
『自分さえ良ければいいのか!』
『大事なことでもないのに2回も言う必要はないわ』
『勇者』が強く拳を握り締める。
『お前みたいな悪党が蔓延るせいで、夜も眠れずにやつれてる人々がいる。
 そういう人達のことを少しでも顧みようという気持ちに、どうしてなれない?』
『そう、それよ』
 面白がるように口の端を上げ、『勇者』を指さす。
『悪党――って、何?』

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491※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/04/05(日) 19:17:31

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『ねえ、勇者様。あんたは正義って看板背負って生きる運命にあるんだと思う。
 故にあんたが例え正義の味方を自負したところで、否定する気はないわ』
 けど、
『あんたは、どうして私を悪と呼ぶことが出来るの?』
 悪とは何か。
 幸福すぎたかつての自分は、いつもそれを考えていた。
『お前が、罪のない人達を傷つけるからだ』
『なら罪って何?』
『言葉遊びをするつもりはない!』
『勇者』の言葉を無視して、再び窓の外を見遣る。
 先程から視界の端々に映る紫色の髪が目障りで仕様がなかった。
 あの読心女も、この会話を聞いている。
 しかもこちらの真意をすべて読み取った上で。
『言葉遊び? 私は私を悪と貶める根拠を聞いてるだけでしょう?』
『そうやって言い逃れて自分のしてきた事を正当化するつもりか!』
『正当化するつもりなんてない。正当化するまでもなく、私は常に正しい』
『お前はそれを傷つけた人達の前でも言えるのか!』
『言える』
 きっぱりと。
 あらゆるものを断ち切る迷いのない一言に、『勇者』が絶句する。
『私は正しい。正義という言葉がお好みなら言い換えてもいい――私は正義よ』

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492※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/04/06(月) 23:06:47

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『勇者』の瞳に怒りとは異なる色が混ざり出したことに十六夜は気づいていた。
 それは困惑。そして――
『お前……それでも僧侶だったのか!? 何でそんな卑劣なことが言える!?』
『卑劣? 私は自分の正しさを貫くだけよ。あんたと何が違うの?』
 ようやく十六夜の言葉の意味がわかりだしたのだろう。
 これまでのように刹那的な感情を撒き散らすのをやめ、『勇者』は落ち着いた口調で語りだした。
『……僕は罪のない人達を傷つけたりはしない』
『…………』
『あるいは、無意識に傷つけてしまうことはあるかもしれない。
 だがそれは罪だ。だからそれに気づけば、僕は必ず償おうとするだろう。
 けどお前のやってることは違う。
 自覚を持って他人を傷つけ、自分の利だけを最優先し、弱者を貶める。
 それが罪だ。それが――悪だ』
『そう。それが聞きたかった』
 かつての自分と同じ結論を聞けたことに満足する。
 聖職者だった十六夜も、この『勇者』と同じように「悪」を定義した。
 そして――絶望したのだ。

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493※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/04/06(月) 23:35:15

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

『あるところに、とても悪いことをした罪深い人がいました』
 急に語り口調で話しだす十六夜。
『…………?』
 意図が読めず、『勇者』が怪訝な顔つきを浮かべる。
『罪人はたくさんの人を悲しませた罪で極刑になることが決まりました。
 とてもとてもたくさんの人を傷つけた罪です。それはそれは思い罰でした。
 罰。それは悲しみを被った人達の手で、その悲しみが癒えるまで罰を受け続けることでした』
 十六夜の声音はかつてないほどに平坦だった。
 まるでともすれば吹き荒れる激情を気取られぬよう、無理に押し殺しているかのように。
『罰を受け続けるという罰。
 それは死とイコールではありません。
 魔法という力は、罪人から死という逃避さえも奪います。

 ――目を13回抉り出されたところで、罪人は許しを乞い始めました。
 ――腸を35回引き千切られたところで、絶叫と共に神様に死を願い始めました。
 ――性器を44回嬲られたところで、罪人はついに自我が壊れ発狂しました。

 罪人が死ぬ事を許された時。
 そこにはもとは脳漿だったか臓器だったか、それさえも判別できないほど
ミキシングされた人間のなれの果てが、ほんの数百グラムほど転がっていたそうです』

 かしん
 かすかに響いたその音は、しかし静まり返った空間に異様なほど響き渡り、
巻き付けられた糸がふいに切られたように、ビクリと『勇者』が肩を震わせる。
 十六夜は同じ動作で、二度、三度と檜の棒で床を叩く。
『……だから、正義なんてありはしないと言いたいのか?』
『信じたの? ただの御伽話よ。お・と・ぎ・ば・な・し、子供が大好きな、ね?』
 底冷えするような声で、十六夜。
「ただの御伽話」を憎悪のまなざしで語る十六夜は、
『そうね、楽しい御伽噺にこんな終わりを付け加えてみましょうか』
 かしん

『罪人は理性がクラッシュする少し前、とある聖職者にこう尋ねました』

 ――ワタシノツミハ、ナニ?

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

494死を望む者:2009/04/09(木) 09:08:42
「無駄な事してるわね」
手近なスクラップに腰掛け、疲れたようにヤラが息をつく。
『無駄な事…なのでしょうか?』
彼女の呟いた言葉に男の声が答える。
だが、彼女の周りには乱雑に積み上げられたスクラップや未練がましく動く残骸しか存在しない。
「えぇ、私から見たら十分無駄な事よ」
濁った空の向こうから僅かに降り注ぐ光に照らされて、薄い影がそこかしこで揺らめく。
「何が起こったのかも分からない一瞬の内に葬ってやるなんて慈悲深いにも程があるとは思わない?」
『は、はぁ…』
煮えきらない返答に僅かに苛立ちを覚えるも、すぐさまそれを塗り潰すような感情を抱く。
『……っ、相変わらずいきなりなんですね。こちらまで引っ張られそうですよ』
「あら、ごめんなさい」
そう答えながらも、ヤラは自分の中で沸き上がる感情を押さえようとはしなかった。
普段の武器とは別の、切れ味が格段に劣るナイフを逆手に哀れな獲物へと近付く。
「はろー、まだ生きてるかしら?」
体中を棘で地面に縫いつけられ、無惨に地面に転がされた残骸は彼女を濁った瞳で見つめた。
「こ………殺せ………」
血混じりの懇願とも取れる訴えに、しかしヤラは笑顔で答えた。
「嫌よ。
ねぇさっきも言ったわよね?死は貴方達にとっての最高の名誉なら
私は貴方達に死を絶対与えないって」
止血した傷口を開くようにナイフを突き立てる。
残骸からは苦悶の声が漏れ、手足のない体をよじる。
「あら駄目よ、まだ死んだら」
ナイフを傷口から外し、癒しの力を注ぎ込む。
塞がっていく傷口を絶望するように目を見開く相手にヤラは暗い笑みを向けた。
「闇に飲まれるまで一緒にいましょう」

495桜月:2009/04/13(月) 21:46:15
鼻先に舞い落ちた花びらを手に取り、コピーエックスは頭上の木を見上げた。
ソメイヨシノと呼ばれるこの木は彼が居た世界では遥か昔に絶えて久しかったが、
その時よりも過去であろうこの時代の日本エリアはそこかしこで見る事が出来た。
視線を下へと戻す。
四季の情緒を愛するこの国の人々が満開の木の元へ集い、あちこちから陽気な歌声が上がっていた。
ここいう日はハレの日だと教えてくれたのは、これまた彼が居た時代には姿を消した異形の者―土着神と呼ばれた者だった。
「あーした、ハレの日ぃ…」
口ずさむのは誰かの歌っていた歌。
幼さが残る声は人々の喧騒に紛れ、桜の花と共に風にかすれて―


「おやまぁ」
桜に誘われ、ふらりと公園に足を運んだ紅は桜の根本に座り込んだ青年に目を丸くした。
目を閉じて眠る青年を起こさぬ様に隣へ腰掛け、鞄から缶入りのアルコール飲料を取り出す。
「月にむら雲、華に風って奴かねぇ」
しみじみと呟く彼女の頭上で桜吹雪が月と踊っていた。

496戦場の亡霊:2009/04/17(金) 14:45:20
各地を歩けば、それだけ色々な人物と出会う機会が多くなる。
アンドロイド。闇商人。暗殺者。
だが―この相手ほど奇怪な相手は果たして居ただろうか。
ヤラは普段の大鎌を地面に突き立て、真紅のセイバーを構えながら、相手を注意深く見つめた。
「シスか……」
喘息を思わせる咳払いをし、相手はそれぞれの手に青と緑のセイバーを構える。
ジェダイを殺して奪った物か、元々本人の物かは定かではないが、
ただそこから感じられる気迫にヤラはいつでも飛び退ける様にしている自分がいる事に気付いた。
(強敵ね…)
相手の挙動を見逃さぬ様にしながら、彼女はここに来る事となった経緯を思い出していた。

497戦場の亡霊:2009/04/17(金) 15:30:53
「…所属不明のアンドロイドの大群?」
敬礼をし、報告してきたトルーパーにヤラは眉をしかめた。
宇宙船の補給をしに―という名目で降り立った星の駐留基地でヤラを出迎えたのは、慌ただしく行き交うトルーパー達だった。
この基地を預かる壮年の長官は彼女の言葉に表面上は冷静に、言葉の所々に悔しさをにじませながら答える。
「先日、この星に置いて中規模の地震が発生し、それに伴い、基地下層に巨大な空洞が出現したのですが…」
調査に向かった中隊からの連絡はなく、不審に思った彼は自ら精鋭を率いて、空洞へと赴いた。
だが、そこで彼らを待ち受けていたのは、無数とも思えるドロイドと物言わぬ戦友の姿だった。
「調査には多くの犠牲を払う事となりましたが、敵が何であるかは判明いたしました。
…こちらをご覧ください」
そう言いながら、オペレーターがスクリーンにそのドロイドの姿を映し出す。

「…マグナ・ガードじゃない。
かつてIGシリーズのプロトタイプとして、一時期少数のみ市場に出回っていたとは聞いていたけど…」
ヤラの言葉に長官が首を頷く。
「はい。ですが、何者かがその後密かにこの地下で製造を行っていたようでして…」
オペレーターの言葉にヤラの表情が曇る。
(まさに灯台もと暗し、ね)
知らず知らずに自分達の足下深くでドロイドの製造が行われていたとは夢にも思わなかっただろう。
それが地震により外部へ露見した事が果たして幸か不幸だったかはさておき、ヤラがすべき事が決まった。

何者であろうと、自分の縄張りを荒らす不届き者にはそれなりの代価を支払わせてやろう。

498戦場の亡霊:2009/04/17(金) 19:04:32
24時間しても連絡がなければ、中央へ連絡する様言い残し、引き止めるトルーパー達を振り払いながら、ヤラは地下へ足を踏み入れた。
入ってみれば、予想以上に内部は入り組み、下へ下へと伸びていた。
途中まではバトルドロイドに出会うこともなく、些か拍子抜けだと思いながら、
そこへ足を踏み入れた瞬間だった。
出迎えたのは通路をうろつくドロイド達の熱烈な歓迎だった。
(数が多いとは聞いてたけど…)
振り向き様に背後の敵を切り捨て、一息つく間もなく奥から沸いてくるドロイドにいい加減辟易しながら、壁に身を隠す。
「一体どれだけ居るのよ」
雨の如く降り注ぐブラスターを受け、次第に頼りなくなりつつある壁の後ろで愚痴を呟き、安全ピンを抜いた手榴弾を投げ込む。
「おまけにほいっ、と」
続け様に同じ様にいくつか投げ込み―爆音と衝撃波が脆くなった壁とドロイド達を吹き飛ばす。
地上でも今の揺れは感じられただろうが、この際知った事ではない。
体の上から瓦礫を退け、砂埃の収まらぬ奥へ視覚を飛ばす。
倒れているドロイド5体の内、機能しているものは2体。その内の1体は両腕と片足が潰れている。
(相手は実質1体…一々相手をするのも面倒ね)
闇へ紛れる様に人の形を崩しながら、音もなく天井まで浮かび上がる。
(今の姿なら奴らのセンサーにも引っ掛からない筈だけど…)
目標を見失い、辺りを見回すドロイドの頭上を漂い―
(…!?)
一瞬ドロイドがこちらを向き、ブラスターを向ける。
が、何事もなかったの様に首を傾げるような仕草をし、空洞の奥へと引き返していく。
(流石にびっくりしたわね……)
後をつけるように距離を置きながら、胸中で息をつく。

499戦場の亡霊:2009/04/17(金) 19:28:23
「…何者だ」
そう言われた瞬間、ヤラはまさか自分の事だとは思いもしなかった。
「ドロイド共を欺き、ここまで来れた事は称賛しよう」
ドロイドの残骸に囲まれたそれはそう言いながら、傍らのスピアを手に―
「………っ」
天井から床へ降りると同時に先程まで居た場所へスピアが突き刺さる。
「…いつから気付いていたのかしら?」
ヤラの言葉に相手は驚いた様子で答える。
「先程の揺れと帰還した部下の様子でかなりの者だとは思っていたが…よもや女とはな」
咳払いをする相手に人の姿を取ったヤラが忌々しそうに吐き捨てる。
「あら、女だからって油断しない方が良いわよ?」
それを示すかの様に鎌をドロイドへと袈裟掛けに切りつける。
その様に満足したようで相手はヤラへ背を向け、奥へと来るように促した。
「どういうつもりかしら?」
罠だと警戒する彼女に相手は軽く咳をし、肩越しに振り向く。
「ここは狭い…戦うならば広い方が良いだろう?」
…どうやら、相手は意外に正々堂々とした勝負を好むらしい。
それでも罠である可能性を頭に起きながら、彼女は相手の後に続いた。

500戦場の亡霊:2009/04/17(金) 20:01:50
「来ないならば、こちらから行くぞ」
その声にヤラは顔を上げ、セイバーを踏み込んできた相手へ突き出した。
相手はそれをヤラの横へ回り込む事で避け、上段と横からセイバーをヤラへと振り下ろす。
横へも後ろにも避けられない彼女はあえて相手の懐へ飛び込み、股下をくぐり抜け、足へ切りかかる。
相手もそれを読んでいたのか、前へ跳躍してヤラへと向き直る。
「流石だな」
「貴方もね、ついでに名前でも聞こうかしら。
墓、作ってあげなくもないわよ?」
距離を取り、セイバーを構え直しながら吐いた言葉に相手の様子が変わる。
セイバーを握る手は震え、怒りをにじませた瞳がヤラを射抜く。
「名乗る名など…とうに無くした!」
ダンッ!と床を踏み抜かんばかりの跳躍から放たれた突きにヤラのセイバーが宙へと舞う。
舌打ちをし、拳を固める彼女の右肩をもう一方のセイバーが貫き、後ろの壁へと叩き付ける。
「がっ……!」
肩を瞬間に焼ききられる痛みに歯を食い縛りながら、続け様に貫かれた左肩の痛みに耐える。
「終わりだ」
肩からセイバーを引き抜き、逆手に持ち変えた相手を見上げながら、ヤラは口を歪めて笑った。
「えぇ、その様ね。でも最期にひとつ」
その言葉に相手は怪訝そうな様子を見せて…次の瞬間、まるで信じられない目つきで自身の胸を見下ろした。
「シスもフォース使える事を、お忘れなく」

501戦場の亡霊:2009/04/17(金) 20:27:09
「テレキネシス、か…」
背中から貫いた鎌を見下ろしながら、相手が息苦しそうに呟く。
「肉を切らせて、骨を絶つ…ま、あんまり好きな戦い方じゃないけどね。
それより…あなた、何者?どこに頼まれてあのドロイド達を作った?」
「…作ったのではない。我々は以前から、ここに、居た」
「なんですって?」
咳込みながら、言葉を続ける相手にヤラは一言も聞き逃さぬよう、耳を傾けた。
「戦いに破れ…地下へ打ち捨てられ、そのまま死ぬ筈であった。
だが、死ぬ瞬間、心の中である感情が芽生えた」
体を軋ませながら、なおも立ち上がろうとする相手に思わず後ずさる。
「まだ、戦い足りない。まだ、ジェダイ共をこの手で滅ぼし足りない!
特に奴を、手傷を負わせた奴ヲ!」
覆っていた金属が体からはがれ落ち、床へ散らばっていく。
「あなた…まさか…」
「奴ハ何処だ!奴ヲ出セ!ヤツヲヤツヲヤツヲ!」
…体を覆っていた金属の下から現れたのは、見慣れた漆黒の体。
「…だが、地上への道は閉ざされたまま、我々はなす術なくここで時を待った」
「そして地震が起きて、地上への道が開けた…」
相手から抜け落ちた鎌を手元へ引き寄せ、構える。
「執念もここまで来ると恐ろしいわね。
ま、私も同じ様なものなんだけどね」
「邪魔ヲ…する気か」
顔を覆う金属の仮面のみとなった相手が再びセイバーを構える。
「えぇ、そうよ」
唇を歪め、暗く歪んだ笑みを向けながら、皮肉っぽく言い放つ。
「さようなら、未練がましい亡霊さん」

502クロネコ:2009/04/20(月) 19:08:42
彼女を例えるならば何であろう?
いつもの様に仲間とくだらない話をしていた時にふとそんな話が出た。
数ヶ月ぶりにここ、インペリアル=パレスに放浪癖のある第二皇女が帰ってきた。
相変わらず訳が分からないもの―妙な装飾がされたドロイドのパーツやら不思議な色合いの鉱物やらを持ち帰っては、部屋に飾っているだの
辺境の地を荒らし回る海賊共を一人で絞め上げただの、
何かしら(皇族にしては)噂話に事欠かない人物ではあるがそれもあいまってか、彼女には一部から人気がある。
風に流れる艶やかな黒髪が素敵だ、いやいや敵を射抜くあの視線だ、
しなやかな身のこなしだ、等々。
日頃彼女の暴言(に近い台詞)を聞いている彼は
同僚達の言葉にただ苦笑するしかなかった。
「××はどうなんだ?」
同僚の一人がこちらに話題を振る。
「あー…そうだな」
言われて少し考え込む素振りを見せる。
「ネコ、だな」
「ネコだぁ?」
彼の言葉にどっと笑いが起きる。
またまた、やっぱり××はジョークが上手い、とはやしたてる同僚達に彼が肩をすくめると同時に休憩終了を告げるベルが鳴り響いた。


上司は気まぐれなクロネコ

503評価:2009/04/26(日) 22:15:06
訴えようとも訴えることができない。これほどつらいことはない。
言いたいことも言えないのだ。ひとえにそれは自らの性格にある。
前に他人に人間関係は『外交』じゃない、と言ったが、
実はそう捉えているのはそれを言った本人なのだ。
卑屈になることしかできない自分に腹が立つ。
己の中では己を貫きとおしてはいるが、外に出るとすぐに曲げてしまう。
きっと、あと数年もこんな感じなのだろう。

結局、まだ言いたいことが言えずにいる。
そして、自分の欲望を曲げて出すことしかできない最低の人間へとなり下がっていくのだ。
そこにいる意味を見失ったら、他人との比較でしかそこにいる意味を見つけられないのだ。

恐らく、これからも言いたいことを自分は黙りとおしていくのだろう、永遠に。

504潜む者:2009/04/28(火) 11:32:44
いつもと変わらない夜だった。
同僚たちと仕事明けの一杯へ赴いた彼は、街のざわめきを聞きながら、いつものように空を見上げた。
「!!!」
遠くの空が赤く染まり、何かが焦げる臭いと煙に人々は何事かと足を止めて、彼と同じように空を
見上げていた。
なんだどっかで火事か?向こうはインペリアルパレスの方じゃないか?
ざわめく人々を尻目に本部と連絡を取っていた同僚の一人が吐き捨てる。
「くそったれ!妨害されてる!」
本部との連絡が取れない以上、武器が必要になるであろう状況なのは疑いない。
足早に詰め所に戻っていく同僚たちの後を追うように振り返り―

「おーい、この資料を取ってきてくれないか?」
「はい!ただいま!」
彼女は渡されたメモを片手に資料庫にいくつかの荷物を抱えて廊下を歩いていた。
IDカードを扉に差し込み、相変わらず乱雑に置かれた荷物の山を崩さないようにゆっくりと奥へと
進み・・・
{緊急事態発生!緊急事態発生!社内の職員は速やかに所定の場所への退避をお願いします!
繰り返します!社内の・・・}
避難訓練は果たして今日であったのだろうか?
そんな風に首を傾げて、一番近くの窓から外を見―

「お母さん・・・」
不安げに見上げてくるわが子を抱きしめる娘に老婆は優しく笑いかけ、孫の頭を優しく撫でた。
「おばあちゃん?」
もう少し、この子供たちの側にいた方がいいのかもしれない。
だが、それでは敵を通すまいとする子供の夫、父が命を落とすやもしれない。
「・・・お母さん?」
「大丈夫」
不安げな娘の目元から涙をぬぐい、入口へ歩いていく。
「おかあさ・・・」
閉まる扉の向こう側で娘の声を背に聞きながら、老婆は空を仰ぎ―


あるものは大切なものを守るためといった。
別のものは戦う意味など持たないといった。


しかし、自らが根を下ろしたその場所を守るため
その夜、人の中へ身を潜めていた数多の暗闇が
黒い三日月の呼ぶ声に集まり
深く暗い夜となり、仇なす者達へ
その牙をむいた

505産まれることのできない命:2009/04/29(水) 15:39:41
ここはどこか遠い、でも技術の最先端を行く惑星での、小さな小さな物語。
とある一人の女性―外見年齢は18歳ぐらいか―が、自らの体を透明にすると、
自分の部屋を飛び出し、こことは違う遠いどこかへ向かっていた。

そしていくつかの宙域を生身のまま抜け、そして、数時間の『航行』ののち
ついた先は未開惑星―とは言っても、彼女には古戦場でもあった惑星―だった。
彼女は自らの体を可視状態にすると誰もいない、酸素もない惑星をただ一人歩き始めた。
だが彼女は酸素がないこの惑星を、生身のままで宙域を抜けた私には、
何も案ずることは無しと言わんがばかりに白いドーム状の建物へとてくてくと歩いて行く。
まるで、『我が故郷』と言わんばかりに、だ。

彼女はその建物に入ると、人造物でありながら、
人の気配を感じることができないその建物の電気をつけ、
水槽の中に入った、まだ喋ったことも、考えたことも、
自ら動いたこともない自分の姉妹たちに挨拶をした。
「…まだOS見つからないの、もう少しだからね、待っててね」
いつも彼女の恋人に毒を吐いてるその口で、彼女は動かない自分の姉妹たちに、
優しく、だけど、力強く話しかけていた。

そして彼女は、その施設を後にした。彼女の眼には、うっすらとだが、涙が浮かんでいた。
だが、彼女がもといた惑星に戻る頃には、いつもの毒舌を彼女の恋人に向かって吐いていたという。

506:2009/05/05(火) 14:25:14
湿った空気を感じながら、ドロシーはぷかりと煙を吐き出した。
暇である。
妙に厄介な依頼も今のところ入ってはおらず、かと言って何かしたい事がある訳でもない。
出掛けようにも今の時期ではどこも人だらけだろう。
いつもなら煩い年少組も今日は紅魔館だ守矢神社だと出掛けていて、居ない。
唯一家に居る鉄屑は定期メンテナンス中でからかうことすら出来ない。
珍しく静かなのはよろしいが、暇でたまらない。
いつの間にかフィルターのみとなった煙草を灰皿に捨て、新たな煙草を取り出そうとし―
「…………ない」
くしゃりと空になった箱を握り潰し、仕方ないとばかりに重い腰を上げる。
日用品のついでに買いに行くか。
財布をジーンズのポケットへねじこみ、椅子にかけたままの上着に袖を通す。
玄関で靴を履き、扉へ手をかけ―
「……あー」
くるりと後ろを振り返り、一言。
「行ってきます」

507※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/05/05(火) 22:27:01

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

『罪なんて――悪なんて、他人が決めていいものではないのよ』
 嘲るように――その対象が『勇者』なのか、あるいはかつての自分だったのか――
十六夜は言い放つ。
『だから何をしても罪にはならないと? それこそただの言い逃れだ』
『罪になるかどうかは私自身が決める。そして私以外の誰にも決めさせない』
「勇者」が歯ぎしりする。
『悪党の理屈だ!』
『なら聞こう。あんたは悪を定義して、何を成す?』
 その問いに対して、「勇者」は迷わなかった。
 間髪入れずに答えを返す。わかりきったことを聞くなと、言外に怒りを込めて。
『罪を犯す者を止める。止めてみせる』
 そしてその答えをも予想していた十六夜は立て続けに言葉を投げる。
『どうやって? あんたの言う罪は、あんたにとっての罪でしかない。
 それを押し付けることの是非を問うても堂々巡りだから置いておくとしても、
 あんたが悪と定義した相手は、自分が正しいと主張するでしょうね。
 自分だけの「正義の味方」を、あんたは如何なる手段でもって止めると言うの?』
『それは……』
 言葉を濁す。
 答えを持たないわけではない。そんなはずはない。
 彼はすでに具体的な行動でもって十六夜にそれを提示しているのだから。
『とっくにわかってるんでしょう? 
 物理的暴力にせよ、司法的権力にせよ、力づくで止めるしかないのよ。
 口で言って聞かない奴は、殴って言い聞かせるしかない。
 それはまったくもって正しい。そしてそれ故にあんたは間違ってる』
 十六夜は言い放つ。
 眼前の、現実を知ろうともしない御伽噺の中の勇者へと。
 そして、現実を見もせずに人を諭していたかつての僧侶(じぶん)へと。

『自覚を持って相手を傷つけ、己の利を最優先するために力で相手をねじ伏せる「正義」。
 ――それこそ、あんたが定義する「悪」そのものだ!』

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

508※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/05/05(火) 23:19:50

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

 語り合うまでもなく、結論など最初からわかりきっていた。
 究極的な「正義」などない。
 そんなものはどこにもありはしない。
 魔王にとっての正義が人間にとっての悪でしかないように。
 主張を異にする限り、正義の裏側に必ず悪が存在する。
 それはどちらが正しくて、どちらが間違っているなどということはない。
 そんなものは立ち位置の違いを示しているにすぎないのだから。

 それに気づいた時、十六夜は聖職者としての地位を捨てた。
 正義を信じられない者が、神を信じることなど出来るはずもなかった。

『僕、は……』
 拠り所を失った世界の救世主は、くず折れるように己の剣に体重を預ける。
 その姿に、懐かしさと、わずかの苛立ちを覚えながら、
『認めなさい。あんたは「正義」であると同時に「悪」だ。私と何も変わらない。
 守るべきものが私とあんたでは異なるという、ただそれだけの違いに過ぎないのよ』
『……信じたいんだな』
 ぴくりと、十六夜の眉が上がる。
『そう信じないと、そしてそう僕に信じさせないと、お前は僕を斃せないんだな』
 十六夜は無言。そこには先程までの憤りも消え失せたいつもの無表情だけがある。
『ようやくわかったよ。何故、お前がこんな禅問答を語り出したのか。
 さっきのお前の言を借りるなら、今の僕はかつてのお前そのものなんだろう。
 正義を信じることを諦めたお前は、正義を信じる僕には勝てない。
 だから語りを入れたんだろう? 僕を、お前と同じところへ堕とすために』
 かしん
『そうだ、理屈なんかじゃない。僕には守りたい、守るべき人達がいる。
 その人達を守り通すことが誰かにとって「悪」となるなら、それでもいいさ。
 僕は、僕を信じてくれるみんなにとっての「正義の味方」で在り続けよう』
 そうして、「勇者」は目を眇めた。
 心の底から憐れみを込めたまなざしで、

『――お前は、信じられる人を失った僕なんだな』

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509※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/05/05(火) 23:23:48

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

「………………ッ!」
 胸を締め付けられるような痛みに、十六夜の体が震えた。
 ――僕を信じてくれるみんなにとっての「正義の味方」
「かっ……は……」
 喉に詰まったしこりを取り出すかのように、激しく嘔く。
 唾液が溢れ、涙が伝う。
 ――お前は、信じられる人を失った僕なんだな
 発作のようなしゃっくりを繰り返す度に、意識が逆行する。
 思い出してはいけない。
 理性が強硬に想起を拒んでいる。
 だが、すべては手遅れだ。
 己の頭の中を弄ってまで封印していた箱は、一度開いたら最後あらゆる負の感情を吐き出すまで収まることはない。

 最後の友達を失った夜。
 傷つき、嬲られ、蹂躙される様を、見ていることしか出来なかった地獄の夜。

 最初の家族に出会った夜。
 何もかもが終わりきり、ゴミのように打ち捨てられた「それ」を抱きしめることしか出来なかった悪夢の夜。

 思い、出しては、





 ――そーなの、よかったねー





「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



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510母の日:2009/05/08(金) 20:01:38
花屋を埋め尽さんばかりの赤い花とそれを一生懸命に選ぼうと見つめる少女とをエックスは黙って見ていた。
「そういえば」
一見同じ様な二輪を両手に少女がエックスへと振り返る。
「コピックは見なくていいの?」
少女の問いかけに短くこたえると彼女は少し考えるような仕草をし―やがて、申し訳なさそうな顔を自分へ向けた。
「…ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ」
落ち込む彼女に花の会計を済ます様に促しながら、エックスはぼんやりと思った。

―自分を作った人を母とするなら、
―その人は自分を捨てた


「別に、今更なんともないよ」
花屋からの帰り道に謝ろうと口を開きかけたフヨウの言葉を青年が遮る。
居心地の悪い空気に先を歩く彼の姿を見る。
「どうした?」
不思議そうに眉根を寄せる青年の顔を間近にし、フヨウは驚いたように後ろへ飛び退いた。
「…君ってば本当にぼんやりしすぎだよ、ほら」
差し出された手は人間のそれと変わりなかった。

511※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/05/10(日) 21:21:57

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

「こいしっ!」
 総毛立つ感触に、さとりは思わず叫んでいた。
「ん、お姉ちゃん?」
 初めてその存在に気付いたというような声をあげるこいし。
 事実、こいしは声をかけられるその時までさとりを失念していた。
 声をかけようにもこいしを知覚できなかったさとりとは対照的とも言える。
「どうしたの?」
 危機感の欠落したその声に、さとりはまた別の理由で慄然する。
 それはさとりだけが抱いている危惧なのだろうか?
 さとりには十六夜の心が読める。
 それ故に、さとりの全感情が訴えるのだ。
「逃げるわよ」
 ――逃げろ、と。
「逃げる? 何から?」
 だが、こいしにはそれが伝わらない。
「この前のことを忘れたの?」
「この前? あぁ、ひょっとして十六夜に初めましての挨拶をした時?」
「あの時と同じことが起こるわ」
「そうなんだ。でも、その方が面白いよね」
「こいしっ!」
「んー、お姉ちゃんが何でそんなにビクビクしてるのか私にはわかんないよ」
 何故、伝わらないのか。
 それが普通なのだろうか。
 さとりにはわからない。
 心の読めるさとりに、心の読めないこいしのことは――
「……違う」
 そうではない。そんなことは関係ないはずだ。
「お願い、こいし。私の言うことを聞いて」
「……お姉ちゃん?」
「お願いだから……」
 こいしに理解させることができなくても。
 さとりの思いをそのまま伝えることが出来れば。
「あなたが傷つく姿を、私に見せないで」

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

512※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/05/10(日) 22:12:54

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

 灰が降り積もる。
 雪とは異なり結晶構造を成さないそれに吸音効果があるとは到底思えないのだが、
あたりは不気味なほど静まり返っていた。
 かすかな光に照らされたその場所は、よく見れば思いの外広かった。
 ただのコンクリートだと思っていた床は実は一部に過ぎず、その大部分は学校の
廊下のようなリノリウム張りとなっていた。建設途中に破棄されたというよりは、
破棄された後に風化ないし破壊されたのだろう。先程十六夜の風によって吹き飛ばされた
家具らしきものはよく見れば長机で、どうやらここは予備校だったらしい。
放棄されてかなりの年月が経っているのか、あちこち壁の塗装が剥がれた様はさながら
腐乱死体のようで、廃墟特有の押し潰されそうな空気が忸々と立ち込めている。
 常人なら間違っても留まりたいとは思わないその場所を塒(ねぐら)としていた
とある「普通」の強盗犯達は、十六夜の強襲から意識を回復させた直後に一目散で
遁走している。追いかけなかったのは、彼らが戦利品を置いていくのを確認していたからだ。
 故に、ここに残っているのは二人だけ。

 夜の中に混じる朱。
 その光を吸収し、黒灰がちらちらと彼らのもとに降り注ぐ。
「――いい夜だったわね」
 告げる十六夜の相貌には、笑みがあった。
 凍結したような瞳は敵を見据えてまばたきもせず、口元だけが異様に吊り上がった
その表情を、笑みと評していいのかはわからないが。

 ビルの建物の一室。
 そこに『降り積もる』雪。

 10階より上層が跡形もなく消し飛ばされたビルで、彼らは最後の対峙を迎えた。

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

513小ネタ:2009/05/15(金) 23:19:50
1 魔がさした
居間で何時ものようにフヨウが何かの物真似を披露し、
酔っ払った周囲が囃したてるのをコピーエックスは若干冷めた目で見ていた。
「なんだい、青いののノリが悪いよぉ?」
絡んでくる酔っ払いを避けるように洗面所へ逃げ込み、息をつく。
…ふと、鏡台の横に置いてあったブラシが目に入り、それを手に―
「………キラッ☆」
なんとなくポーズを取ってみる。
「……………」
「……………」
風呂に入りにきた紅と鏡の中で目があった。

2 三十七歳
アサヒにはどうしても一息に物を言う癖があった。
「お、紫さんだ」
珍しく縁側に現れた八雲紫にアサヒは常々疑問に思っていた事を聞いてみた。
「紫さん十七歳って本当なのか?」
アサヒが最期に見たのは、視界を埋める弾幕だった。

514ここにいる:2009/05/27(水) 18:43:32
「結局さぁ、何があったんよ?」
壁に顔面からめり込んだ…本性である姿な為、色々と酷い事になっているドロシーから距離を取るようにしていたコピーエックスにふと翳る。
「そりゃあさぁ、あんたの百式をシルバーカラーにしたり、専用ザクの角折って普通のザクにしたのは悪いとは思うよ、但し反省はしてない。
あ、うそうそ。反省はしてるからバスターこっち向けんな。
おーけー落ち着け鉄屑話し合おう」
うごうごと混ざった絵の具の様な体表を揺らして、焦る彼女にエックスはほんの少し笑みを溢し―肩を落として、壁にもたれるように座り込んだ。
その様子を察したのか、ドロシーはコピーエックスの動きに注意を払うように…あるいは彼の言葉を聞き逃すまいと体を揺らすのを止めた。
床に視線を投げ掛けるコピーエックスは何かを言うわけでもなく、ただ黙ったままにその場へ身を縮めるように蹲っていた。
水音に視線を動かせば、人の姿へと化けた化性が一人、裸を晒したまま、彼を見下ろしていた。
「話して、くれる?」
いつもよりかすれたドロシーの声にコピーエックスはぽつりぽつりと言葉を吐き出し始めた。

515ここにいる:2009/05/27(水) 19:02:59
「夢で、あいつに会ったんだ」
「うん」
「僕の事を見て、あいつはこう言ったんだ」
肩を抱くようにしていた手に力がこもり、瞳に激しい怒りと憎悪が宿る。
「僕は、あいつがなりたくなったあいつなんだって」
「…うん」
「ふざけるなよ!勝手に居なくなっておいて、いきなり帰ってくるなり僕が、僕が出来損ないみたいに言いやがって!」
その顔は怒りに歪んでいたが、ドロシーの目にはそれが今にも泣き出しそうな顔にうつった。
だからだろうか、そうしなければ彼が何処かへ、かつてドロシー達が、この家に流れついた者達が居た冷たいあの場所へ行ってしまいそうで―
『英雄』という名の呪いに縛られた彼を胸に抱き締めていた。
突然の事にエックスはドロシーの胸に顔を埋めたまま、目を丸くしていた。
「エックス、あんたは強い子だ」
わしゃわしゃと彼の人工毛髪を撫でながら、彼女はエックスを強く抱き締め続けた。
「だけど、ここでまで強くある必要はないよ。
だって、私達は
家族でしょ?」

516昼下がりの1コマ:2009/06/16(火) 13:27:42 ID:Ps7ymsCw0
グランド・モフ…元々は複数の宙域の統括を命じられた総督のことであり、銀河史に永久に残るであろう、
オルデラン破壊を行ったターキンも最初のグランド・モフの1人だった。
帝国の設立から半世紀が経とうとしている今日ではグランド・モフは宙界を丸ごと1つ支配する権力者と
なっていた。この地位を「ばかげたもの」と評したのはダース=ヴェイダーが最初で最後だろう。
彼らの権力は皇帝を除けば、銀河史上かつてないものにまで強くなっているのである。

現皇帝の故郷の惑星として知られるアクシリアにもアウター=リムを統括するグランド・モフの総督府が
存在する。そしてその最上階のオフィスに初老の男の姿があった。

彼の名はグランド・モフ・アーダス=ケイン。姿こそ初老だが、彼はすでに100標準年を越える年月を
生きており、その内の半分を総督、モフ、グランド・モフとして過ごしてきた。顔が映るほどぴかぴかに
磨き上げられたブーツ、皺一つ無いカーキ色の軍服、アカデミーを卒業したばかりの少尉のように
ぴんと伸びた背筋、いかめしい顔つき、短くカットされた頭髪…外見の特徴のどれをとっても彼の
隙の無い性格が表れていた。

「ブラクサント・セクターの月例経済報告はできあがっているかね?」
「はい、閣下。2時間前に送られてきました」
「大変結構だ、バスティオンの官僚達は極めて優秀だね」

補佐官の大佐が厳重に梱包されたホロ・ディスクを渡すと、彼は自分のデータパッドにそれを取り込み、
目を通す。数字は全てが好調なことを知らせており、彼の機嫌を損ねることは無かった。

「これで主要セクターの月例経済報告は集まった。3日で皇帝陛下への報告書を製作してくれたまえ、
一週間後に委員会があるから、その時に陛下に報告する」
「仰せのままに、閣下」

大佐が踵を鳴らして敬礼し、オフィスを後にする。報告を読み、それに意見を付け加えて部下に渡すまでに
1時間が過ぎていた。昼食を摂るには良い頃だろう。

「今日のメニューは『ブルアルキのワイン煮込み』か…ふむ!」

彼は微妙な表情をした。といっても彼は献立に不満があるわけではない、むしろ彼の好物なのだ。
問題はブルアルキが非常に高カロリーであることと、自分がそれを不安を抱かずに食べるには
歳をとりすぎているという点だった。結局、数切れを残せば問題は無いという結論に達し彼は
補佐官に食事を持ってくるように伝えた。

「皇帝が羨ましい、あれだけ暴飲暴食をしてよく体が持つものだ…」

そう独り言を呟くと、読みかけの『シーリン詩集 悲劇編』をめくり始めた。
料理が運ばれるまでに10分は待たなければならない。数ページ読み進めることはできるだろう。

517記憶:2009/06/16(火) 18:53:34 ID:bjIIsJPQO
嫌だ。
喉を掻き斬ってなおも収まらない嫌悪感にヤラは鎌を男の頭へ振り下ろした。
骨と肉を裂く感触が手に伝わり―だが、次の瞬間にはじわりと胸の中で嫌な物が広がった。
嫌だ、嫌だ。
悲鳴を上げて逃げ惑っていた者、銃を手に応戦してきた者。
それを一人残らず肉塊へと変え、彼女は最後の男の腕を跳ねた。
「ま、待ってくれ!たかが一人だろう!?
み、身寄りもねぇ、能力だってそんなに高くもねぇ。
そんな奴を実験台にして何g」
ズダン、と石突きで男の足を貫く。
「ぎっ…」
「黙れ」
無表情のまま、手をかざすと闇が男の口を塞ぐ。
恐怖に染まったその顔に石突きを突き立てる。
「黙れ、黙れ、黙れ、黙れ!」
悲鳴を上げることも出来ず、他の者同様に肉塊へ男が姿を変えても、
ヤラはいいようのない嫌悪感と怒りに手を止める事すら出来ずにいた。


血を吸い、すっかり重たくなった黒いローブを脱ぎ捨て、ヤラは鎖に繋がれたままの子供を見つめた。
実験台とは良く言ったものだ。体に残された痕跡は子供が何をされたのかを物語っていた。
鎖を斬り離しても子供は動こうとせず、床にただ転がるだけだった。
ああ、とヤラは息をついた。
もうこの子は壊されてしまっている。
光を失ったその瞳を伏せてやり、すっと背筋を伸ばし―




…………

518記憶:2009/06/16(火) 19:01:11 ID:bjIIsJPQO
アラーム音に目を開ける。
アナウンスは港についた旨を話し、ヤラはそれに面倒そうに体を起こした。
夢、というより父や仲間から受け継いだ記憶を見ていた。
誰のかは定かではないが、仲間の誰かしらのものだろう。
(しかしまたなんでこんな夢を見たんだか)
欠伸を噛み締めながら、簡素なベッドから降り、他の乗客に混じって港に降りていく。
「おかえりなさい、よく無事に帰ってきたわ」
「お父さん!おかえりなさい!」
港で家族を迎える者の姿に混じって聞こえるのは誰かが誕生日を祝う歌。
「ああ、そういえば」
思い出したように足を止め、外を見つめる。
「群れの皆が私を拾った日だったっけ」
インペリアルセンターを染める夕日を横に浴びながら、ヤラは久しぶりの我が家へと急いだ。

519存在の意味:2009/06/16(火) 23:07:36 ID:g1SrzQBM0
ベランダから夕方を見つめる一体のアンドロイド。
時折吹く強い風が彼女の紫色のポニーテールをなびかせていた。
だが、彼女、アルファがこうしているときは何かしら悩んでいるときだった。
その悩みというのが存在だった。
もはや、彼女には存在などどうでもよくなっていた。
自分の存在する意味を失っていたからだ。
ここ最近、彼女が本気で稼動することは全くない。
彼女はアンドロイドで、戦うことで今まで生きてきた。
それが今、その彼女の力は必要とされなくなってきていた。
無論、その方が平和でいいのだが、彼女には何かが物足りないような気がしていた。
相方は相変わらず元気にやっていた。何が原動力なのかたまにわからなくなる。
ベランダに近づいてくる相方の元気な声をよそに、一人憂鬱な雰囲気にかられていた。
相方のほうはその金髪をなびかせながら遠くを見つめている。彼女の顔には笑みが浮かんでいる。
そして、アルファはやってきた相方、シャーリィに一言つぶやいた。
「私みたいな兵器には今の平和な時代に生きていく資格はないのでしょうか」
それを聞いた相方は、紫色の髪をつかんでわしゃわしゃとかきまわし、こういった。
「あのなぁ、おまえはおまえなんだよ、気にせず生きてきゃいいんだよ
  細けぇこと気にしてると老けちまうぞ?…お前、アンドロイドだから老けないのか
  全く…それにしても羨ましくてエロい体してやがるぜ」
そう言うとシャーリィはアルファの隣に腰をおろした。
「お前がいなくなっていい理由はどこにもないさ そうだろ?」
シャーリィの笑顔は、まるで今、沈んでいる最中の真っ赤な夕日の様だった。
そしてアルファは決意した。
『私が必要とされていなくても、壊れるその日まで生きつづけよう』、と。

以降、ベランダにアルファが来ることはなくなったという

520暗い場所で:2009/06/26(金) 00:41:14 ID:f0IKFGZgO
「あら、あら、まけてしまったわ」
ジジ…と火花を散らし倒れたロボットを見下ろしながら、少女はさもおかしそうに―何の感情も篭っていない声で笑った。
「ゆかい、ゆかい、全くたのしい人々ですわ」
背後に仮面の男を従えて、少女は壊された機械の間を踊るように進んでいく。
その度に白いリボンがふわりふわりと場違いに山を撫でていく。
「てかげん、てかげん、でも本気?そうだとしたら素晴らしい!」
言葉の羅列を繰り返し、少女がくすくすと笑う。
男はただ無言でそれに従う。
「さんぽ、さんぽ、また外まで行きましょう。
沢山、大勢、おもちゃはいっぱい!嗚呼、世界はなんてすてきなの!」
外、の一言に少女の後ろに従っていた男が体を覆う鎧に手をかけ――

521名無しさん:2009/06/27(土) 20:52:37 ID:j1Olu0.MO
洗面所の鏡に走る亀裂を見て、ドロシアは溜め息混じりに手帳を開いた。


・洗面所×
・風呂場×
・二階洗面所×
・地下 
・倉庫内の鏡×?(確か割れてた)
  なんだこれオワタ』
…一番下のは先程二階を調べた義妹が書いたのだろう。
余計な事はあまり書かない様釘を差した筈だが、いつもの様に聞いていなかったのだろう。

(それにしても…)

一夜の内に家中の―まだ全部を見て回った訳ではないが多分―鏡に
ヒビが入っているのは、いくらなんでも異常な事である。

…一瞬酔った挙げ句に窓ガラスという窓ガラスを全てぶち破ったという黒い歴史が頭を横切ったが、
頭を振ってそれらを記憶の彼方へ追いやり、鏡に背を向け―

くすくす…

「?!」

背後から聞こえた…気がした声の主に手帳を反射的に投げつける。

ガシャン!

金具の部分が当たったのか、鏡はとうとう壊滅的な迄に砕け散り、陶器の洗面台へとこぼれ落ちた。


「……ー?何か凄い音したけど大丈夫ー?
…シア姉ー?」

使い魔を展開したまま、ドロシアは壁づたいに床へ座り込んだ。

522それでも朝はやってくる:2009/07/06(月) 08:44:13 ID:45.52UcY0
最初はただもう少し早く走ってみたくなっただけだった。
アクセルを握る手に力を入れ、前へ前へと進んでいく。

風が耳元を掠めて鳴り響き、景色が前から後ろへ流れていく。

メーターが乱暴にぶれるのも気に留めず、ただ走り続けた。

気づけば、訳のわからない涙が風に流され、頬を伝っていた。

「はぁ、ぜぇ、はっ」

嗚咽交じりの吐息を吐き出しながら、涙の滲んだ世界を振り払うように。
ここから逃げ出すように。

真っ赤なテールランプを闇夜に残して、遠くへもっと遠くへと囁く声に
急かされる様にスピードを上げて―

気づいたときには、ガードレールはすぐ目の前に迫り―


「―あ」

飛び散るバイクのパーツの向こうに見えた空はぼんやりとした星と
空を紅へ染めていく朝日が浮かんでいた。


「え?大丈夫かって?・・・あたしの丈夫さはわかって・・・はぁ?バイクのほう?
ありゃもう駄目ね、思いっきりぶつけたし。
・・・わかってるわよ、ちゃんと帰れるって・・・子供じゃないんだから」

もはや鉄屑と化したバイクの傍らでタバコに火をつけ、煙を吸い込み
昇り来る朝日へにたりと笑う。

「こんなくそったれな夜にも朝日は来る・・・ってか」

523廃アパート:2009/07/10(金) 18:12:36 ID:bZCAwxzEO
学校にほど近い場所に噂の廃アパートはあった。
昭和の中程に立てられ、いつからかうち捨てられたそこには曰く「呪い」がかかっている、らしい。
強引な地上げ屋に殺された老婆のものだとか一家心中を図った一家が憑り付いている等…

オカルト倶楽部が不定期に発行する「ザ・怪奇新聞」を流し読みしながら、アサヒは
各地の美術館でのイベントを告げるポスターを張り替えていた。
「美化委員ってフツーこんな事までするか?」
古いポスターを床にまとめているフヨウが首を傾げる。
「さあ?」
「さあ…ってお前、美化委員じゃねぇかよ」
アサヒの言葉にフヨウはいつものようにうーとうめきながら、腕を組む。
「アーちゃん帰宅部なんだから暇だよね?」
「うるせぇ、こう見えてもオレは色々やりたい事あんだよ。
サーティワンで新作食おうかと思ってたのに…くそぅ」
「帰り道では買い食いは良くないよ?」
「…お前は小学生のがきんちょか」
律儀で天然な彼女を尻目にアサヒは最後の画鋲を掲示板に突き刺した。

524廃アパート:2009/07/10(金) 18:22:51 ID:bZCAwxzEO
「あれ?」
「ん?なんだ、忘れもんか」
突然立ち止まったフヨウにアサヒはアイス(手伝い賃としてフヨウに買わせた)を手に振り向いた。
彼女の視線の先を辿れば、ボロいアパートにともった灯り。
「あー、どーせホームレスかなんかが上がり込んで住んでんだろ。
いいじゃねぇか、誰も住んじゃいねぇんだし」
出来ることなら早く帰りたいアサヒの心境を知ってか知らずか、フヨウはじっと窓を凝視していた。
「ほら、あんまり見てるとその内ゴミ投げられっぞ。早いとこ…」
「アーちゃん」
「帰ろうぜ…って何だよ、まだ何かあんのかよ?」
すっと窓を指差し、一言。

「中の人、天井からぶら下がってるよ」

525盈月明夜:2009/07/12(日) 22:12:19 ID:OVB69jK60
 轟、と。
 無を焼き尽くす炎が、夜の帳を引き裂いた。
「もう、邪魔しないで、よ!」
 少女が素早くスペルカードを構える。

 ――核熱「ニュークリアフュージョン」

 炎と炎がぶつかり、互いを食い合うようにして渦を描き、そして消滅する。
 急激な気流の変化に風が吹き荒れる。すでにあたりは台風に近しい暴風域となっていた。
 その風に髪をなびかせる者は、二人。
 ――いや、果たしてそれらを二人と表現するのは正しいのか。 
 紅蓮と漆黒。それぞれの翼をはためかせ、中空にて対峙。
 その時点で、およそ常人とはかけ離れた世界に存在していることがわかるだろう。
 漆黒の翼を宿した少女が、その背の力をばさりと一度大きく打つ。
 本来の翼あるモノならば、吹き荒れるその風に弄ばれ地上に叩きつけられるものだが、
少女の翼は風などものともせずにゆったりと上下している。
 それは降臨する天使を思わせる雄大な動きではあったが、
「しょ〜めつ〜、あははははッ!」
 右手の制御棒を振り回して笑う姿に、およそ威厳と評する部分は見当たらない。
「まったく、いっつも私の邪魔する貴方は何者?」 
 自由な左手でかきあげる、膝まで伸びた長い黒髪。
 その、夜に吸い込まれそうな深い色は、しかし上品さを醸し出す濡羽色というよりも、
百獣の王の鬣のような粗野と荒々しさを生み出している。
「八咫の神様の力を借りた私と同じ炎を作れるなんて、ね」
 その表情も人間のそれと酷似しているものの、やはりどこか異なる。
 あえてその差異を挙げるとすれば、「目」だろう。
 少女の相貌をしたその目は、しかし少女のものではありえなかった。
 獰猛。
 それ以外に言語化の出来ない輝きは、食いつき、食い破り、食い荒らさんばかりの
プレッシャーを漲らせている。
 それこそ、無限の焔で世界を焼き焦がす、あの中天の光のように。
「――さてね」
 応えるのは、対照的な白い輝き。
 銀色の髪を夜闇にたなびかせるその顔には、あたかも感情を目の前の少女に奪われた
かのように暗欝な無表情が浮かんでいる。
 しかし、その背に生えた紅蓮の翼は揺るがない。
 留まることなく、抑まることなく、絶えることのない不尽の炎は、彼女の内面の力強さを
象徴するかのごとく光熱を発していた。
「季節の巡りに背く熱を」
 そっけなくつぶやくその手には、すでにもう一枚のスペルカード。

 ――貴人「サンジェルマンの忠告」
 ――爆符「メガフレア」

526皿洗い:2009/07/20(月) 23:18:50 ID:Vh6IChyc0
今日の夕飯が終わった。食器が次々と台所に運ばれていく。
その食器を洗うのは今日はアルファの番だった。
いつもならイツ花が一人でやるのだが、
生憎今夜は町内会へ用事へ出ていて帰ってきそうにない。
そこで夕食前、ジャンケンをして決めることになった。
そして、最後まで負け続けたのがアルファだった。

積まれていく皿をいとも気にせずただ洗い続けるアルファ。
だが、そこに広がっていたのは一種の異様な光景だった。
洗剤も付けず、ただスポンジでごしごしと洗い続けるアルファ。
このままではいつまで経っても終わりそうにない。
心配になってきたので、声をかけることにした。
「アルファ、大丈夫かい?手伝おうか?っていうか、洗剤付けようよ」
ロボットにも荒れ性があるのだろうか、でもそれだって手袋をつけてやればいいだけの話だ。

するとアルファは一言言った。
「洗剤は戦車に使うものではないのですか?」
そうだ、アルファは戦車全盛期、しかもオイルショックどころではない時代だ。
恐らく洗剤を使うのは戦車にのみ、だったのだろう。
だが今は時代が違う、世界が違う。すかさず突っ込みを入れる。
「あのね、皿洗い用の洗剤があるのね?それを使えばてっとり早く綺麗になるから、使っていいよ」
それを聞いたアルファは目を丸くする。ぽかーん、というか、驚きというか、そんな感じだ。

「マスター、皿を洗う為の洗剤なんて贅沢じゃありませんか?」
彼女にとっては当たり前だろうが…。
「それに、イツ花も使っていませんでしたよ?」
「いや、イツ花は使わないでも洗えるからいいの」
イツ花は平安の生まれだ。洗剤なんて知っても使わないだろう。
…いや、実のところ塩を洗剤代わりとして使っているのだが。
ちなみに平安の時代では塩は高級品のはずである。あれをああも簡単に使うとは。さすが神。
それは置いておいて、問題のアルファだが、プライドを傷つけられたらしく、頬をふくらましている。
「マスター、私にだって洗剤がなくても皿は洗えます」

そう言うと、またもくもくと皿を洗い始めた。
少なくとも、見た目的には綺麗ではあるが…塩さえもつけないのは…。
すると、アルファが一言。
「まだ細菌がついています…く…これはピロリ菌…」
「いや、だから洗剤使えよ!ってかよく見えるな!!」

結局、アルファの皿洗いはすべて終わる前に、イツ花に引き継がれた。
あんな真剣なくせに遅いの見てたら夜が明けてしまう。
そして、イツ花は引き継ぐついでに殺菌のテクニックも教えていた。
「いいですか?殺菌はですねぇ、お湯にバーンとォ!入れて熱湯消毒しちゃうんです」
「なるほど…確かにそっちのほうが効率がいいですね」
「…熱湯消毒でいいって君らアバウトだな いや、確かにそうかもしれんが」

こうして、乃木家の台所は今日も優しさに包まれていた。
…そして、明日も…?

527洗濯:2009/07/21(火) 13:59:58 ID:omLhYaF60
夏の晴れた日、洗濯日和と告げる太陽が空で威張ってる。
今日は雲ひとつない快晴である。こういう日こそ海の日にするべきだろう。
いや、休日を増やせと言っているのではない。ただ単に、言っただけだ。
決して休みがほしいわけではない、ないのだ。

洗濯はいつも通りイツ花の担当…のはずだった。
今日も町内会の用事でいない。回覧板を回すだけなのに、あれは絶対しゃべってる。
しかも本気で、ああ、いつになったら帰ってくるのだろう。
するとアルファが昨夜のリベンジとばかりに洗濯ものを持ってくる。
イツ花愛用の洗濯用桶と洗濯板、そして、これまたイツ花愛用の洗濯石鹸を持ってきた。
何というアナログな方法だろうか…。
アルファは洗濯物を洗濯板の上でごしごしとやり始めた。
時々石鹸をつけて、桶の中の水で洗って、まだごしごしと。
手慣れているイツ花はともかく、それ以外は皆洗濯機に持っていくのに、
先ほども言ったが昨日のリベンジなのか、アルファはごしごしと洗濯ものを洗っている。
彼女だって洗濯機のほうが効率がいいことぐらい知っているのに。
…もう見ていられない、洗濯機で洗うように促そう。

「おい、アルファ 洗濯機で洗ったほうがいいんじゃないのか?」
するとアルファは顔を真っ赤にして答える。これは照れではない、怒りだ。
「マスター、あなたにはピョンヤンというものがないのですか?!」
「ソウルと言いたいのか?!ピョンヤンは北朝鮮だよアルファ!」
「すいません、迎春のことを考えていたら…」
「青春じゃないの?まあ、とにかくそれはいいとして、なんで洗濯機で洗わないの?
  そっちのほうが効率もいいし、少なくとも洗濯板よりかはずっと綺麗になる。」
「だからマスターにはペキンが足りないんです!」
「いや、だからね、ソウルが足りないのはわかったから」
「何の影響受けたかは知らんけど、いつものアルファでいいの」
頭をぐしゃりと撫でる。「ふみゅ」、と聞こえたような感じがした。

「…わざわざ失敗する方法でせんでも」
「うるさいです、マスター それに失敗は…あ」
「あー、破れて…ってこれ自分のシャツ!?」

追記
この日は実は東京はしとしと雨でした じめじめ

528盈月明夜:2009/07/27(月) 21:56:29 ID:ZqlKNNqM0
 音すら消し飛ぶ大爆発。
 その爆心地にあって、妹紅は涼風でも浴びるかのように佇む。猛然とたなびく
髪の束が天を突くように怒髪しているが、表情は相変わらず暗欝なままだ。
 喜怒哀楽を殺しているわけではなく、単に気分が晴れないだけだった。
 それを「仕事」と呼ぶのだろうと妹紅は思う。
 仕事――己の意思が望まぬことを、しかし己の利益のために成す。
 無論、これが初めての労働ではない。
 生きるために必要なものが余りにも少ない身であるとは言え、それでも対価を得るために
労働力を行使したことくらいは経験があった。
 だが、今している「仕事」は明らかにそれとは異なる。
 対価として得られるものは、今の彼女にはゴミ同然の代物だ。
「まったく……被害ばかり増やす」
 つぶやく。込められた感情は忌避の念。
 周囲になるべく被害を与えない場所を選んだつもりだった。建物としては巨大だが、
損壊が激しくホームレスでさえ住めそうにない廃墟の頭上。またその傍らには
楕円形の白いラインが引かれた空白地帯が広がり、戦場にはうってつけだった。
これまでの経験上、場所を選ばないと被害の規模を推し量ることすら出来なくなる。
一度、人の通りが疎らにある商店街の遥か上方で相対した時は、あの翼人――否、
人面烏の恒星落とし(メテオスマッシュ)で街が蒸発しかけた。文字通り死力で止めたが。
 しかし、人がいなければ何をしてもいいと言うものでもないだろう。
 空白地帯には隕石でも落下したようなクレーターがいくつも出来上がっている
――いや、「ような」も何も文字通りのことが起きているのだが。
 埋められた対人地雷を根こそぎ爆破させても、ここまでにはなるまい。
 今でこそ誰も住んでいない廃墟だが、使われていた当時というものが必ずあったはずで、
それを考えると無価値にして無遠慮な破壊の爪跡に、言い知れぬ不快がこみ上げてくる。
 これで終わりに出来ればと、何度思ったことか。
 そして、それは未だに叶ってはいない。人面烏の言う通り、これで何度目の対峙になるか
数えるのも億劫になるほど相見えてきた。
 そう――その異質極まる炎でさえも見飽きてしまうほどに。

529盈月明夜:2009/07/27(月) 22:32:03 ID:ZqlKNNqM0
「貴方も私と同じでしょ?」
 どこか嬉しそうに話しかけてくる烏。
 思えば、彼女はいつもそうだった。初めて対峙した時でさえも。
 躁の卦でもあるのかもしれない。そういうことにしておこう。感情のゲージが暗欝あたりを
ふらついているから理性を保てているのだ。わざわざメーター振り切って怒りモードに
突入させることもない。
 故に、妹紅は応える。
「一緒にするな、馬鹿烏」
 暗欝に。
 興味など微塵も感じさせない表情で。
「私は馬鹿じゃないわ。だって神様が選んでくれるくらいだもの」
 何やら胸を反り返して胸部を強調しているが、異性なら見惚れるのかも知れない
プロポーションも同性の彼女には鬱陶しいだけだった。
「深い深い地下の奥底。そんなところで燻ぶる炎に、私はもううんざりなの。
 私の力の源は太陽。太陽は地上に降り注ぐ光そのものよ。
 地中深くに埋めてしまうのはもったいないと思わない?」
「偃鼠(えんそ)河に飲めども腹を満たすに過ぎず――分をわきまえろよ」
「うにゅ? えんそ? ……あ、わけわかんないこと言ってごまかす気ね!」
「この、鳥頭め」
「世にも珍しい不死の鳥。私と同じ炎の鳥。せっかく友達になれると思ったのに」
「その台詞はもう何度となく聞いた。そしてその度に同じ言葉を返してる」
 おそらく忘れてしまっているのだろう。鳥頭というのは決して比喩表現ではない。
「それでも言おう。何度でも」
 妹紅の背で炎が猛る。
「お前は無何有へ回帰し、私は無何有から蘇生する。
 ――互いに食い合う以外に、道などあるものか」

530夏空の下:2009/08/03(月) 21:30:40 ID:ZlCGHFbEO
故郷とは何を基準にそう呼ぶのだろう。
花を備えられた墓を見つめながら、アサヒはぼぅとそんな事を考えていた。

ほとんど訪れる者も居ないのか、苔の生えたそれを母達が綺麗にしたのがすこし前、
こうして、墓を見つめたのが今さっき。

アサヒはあまり線香の匂いが好きではなかったが、この匂いがする度に母は何処か遠くを見つめて、言うのだった。
―ああ懐かしい香りがする。

ジジ、と蝉の鳴く声に顔を上げると心配そうな母の顔が目に入る。

―あんまり無理しないで、向こうで休んでおいで。

母の言葉にアサヒは黙って頷き、おぼつかない足取りでその場を後にした。

蝉の大合唱を何処か遠くに聞きながら、うだるような暑さに煮える墓を振り返った。

揺らめく陽炎の向こうに居る母達が幻の様に消えてしまいそうな気がして、アサヒは慌てて駆け戻っていった。

531帝王の怒り:2009/08/23(日) 18:50:44 ID:t3qmZQM6O
レミリアは激怒していた。
それを手に入れるこの日をどんなに待ちわびただろうか。
そう思い、上機嫌であった彼女の機嫌は一瞬で変わってしまった。
他人には些細であるかもしれないが、今の彼女にとっては最も重要な、最も欲していた物がないのだ。
「……っ!」
その怒気を含んだ空気に妖精メイドは逃げ出し、魔道書は棚の中で激しく音を立てていた。
そのプレッシャーを感じながらも怒れる夜の帝王に近付く者がいた。
「レミィ」
この図書館を自らの領域とした七曜の魔女、パチュリー・ノーレッジである。
「パチェ…これはどういうことだ…」
レミリアの殺気を帯びた視線に後退りかけ、それでも努めて冷静に応える。
「落ち着いて、レミィ。
予定が多少狂ってしまっているの、後ほんの少しの辛抱よ」
その言葉にレミリアはしばらくパチュリーを睨みつけていたが、
やがてそうしていても仕方がないと理解したのか、忌々しげにパチュリーの横を通りすぎていった。
「…よほど、ご立腹みたいね」
全身から吹き出した嫌な汗と震えを感じながら、パチュリーは先程レミリアの居た本棚を見つめた。


そこには『夏の大特集!少年&少女漫画コーナー!』と場違いな文字が掲げられていた。

532河童と機械人形と管理人形と。:2009/08/25(火) 09:22:30 ID:rSlZtcS.O
夏。
太陽は地を照らし熱気を高めて陽気な天気で気温のボルテージを高めていく。
アブラ蝉とミンミン蝉は五月蝿い交響曲を奏で、人間はさぞかし迷惑がっているだろう。
 
そんな、小さな生命が新たな命を育む夏。
焼けるような日差しの中、鉄塊と向き合う一匹の妖怪がいた。
―河城 にとり
一言で言えばカッパである。三言で言うなら人間恐怖症の河童。
多言するなら幻想世界の機械(耐水一級)技師の河童の女の子(ただし人間恐怖症)で、いいのではないだろうか。
…そんな彼女は。
微かに緑色のお手製のスパナ(のような物)を手に持ってボルトとネジとよくわからない機械が芸術的に絡み合う…「それ」を見つめていた。
彼女は一人、呟く。
 
「花のミサイルって、どんなものなんだろう…」
 
要はこうである。
夜。ここの主人に作ってもらった小川―みたいな所でぼんやり星空を眺めていたら―
―突如、空に光る花が咲いて…空から鉄の欠片―花びらが落ちてきた。と

533河童と機械人形と管理人形と。:2009/08/25(火) 10:12:10 ID:rSlZtcS.O
―「私」の部屋に来た彼女は、作りたての緑色扇風機のプラグをコンセントに挿して話をしに来た。
「羽」の取り付けが逆で、慌てて直していたりしたが―中々涼しいものだ。
そして、彼女の話というのが―
「ミサイルかロケットの作り方教えて!」
―――――

「…突拍子もない事言うから、把握するのに時間かかったじゃないかー…」
普通、ミサイルやロケットの作り方なんて知る由もないだろう。
―にとりの考えはこうである(と思う)。
ミサイルとかロケットが、遙か高くの星空で爆発すれば光る花が咲く…とかなんとか。
…にしても、どこかで聞いたことのある話ではある。
 
「ああもう、なんで博麗の巫女と空飛ぶ赤い悪魔のアレを見逃したんだろう」
スペースデブリになりかけたあの話―月へのロケットの事だろうか。
ちなみに空飛ぶ赤い悪魔は○馬さんの事ではない。念のため。
「はぁ…」
ふかふかの茣蓙(ござ)ベットに寝転んでため息を吐くにとりを、椅子に座る私はパソコンを横目に眺めている。
 
「ロケットの資料くらいなら…言ってくれれば簡単に探せるのに」

534河童と機械人形と管理人形と。:2009/08/25(火) 19:15:22 ID:PJoXEMgEC
月に行ったらしい「あの話」は、確か資料を集めて「だいたいあってる」ロケットを作ったはずだ。
ミサイルならその話は別なのだが…
と、私が検索エンジンに文字を打ち込もうとした時―
「…ダメ!」
「ふえっ…!?」
がばっと起き上がったにとりが、突如発した大声に私は驚いた。
そして、にとりは続けて言い放つ。
「資料を見たら独創的じゃないと思うんだ。独創的じゃないと高く空を飛ばないと思うし飛んで爆発しても綺麗にならないと思うし。だから自力で頑張る」
…少し情報が間違っている節もある気がするのだけれど。
というかその言い方は、あのロケットを見なくても別に関係ないって言い方じゃないかい?
とか言うと、こう返事をしてきた。
 
「あのロケットは参考にするだけだよ!」
さいですか。

535河童と機械人形と管理人形と。:2009/08/26(水) 10:30:18 ID:w9sMxr/2O
―あの後、初流にペプシキューカンバーを奢ってもらってから一時間くらい過ぎただろうか。
太陽はゆっくりと傾き始めていた。
でも、暑さは相変わらずで
「あづいー…」
なんとなく眺めに来たらしい初流もうだっていた。私もかさかさになりそうである。
ああ、川で寝たいなぁ…誰かに見られたら川流れに見られそうだけど…なんて考えていたら―
 
肌寒い感触が首筋にぴとりと
「ひゅい!?」
思わずスパナを手離すと、部品が鈍い音をいくつか弾いて私のスパナは地面に転がる。
「あら…すみません。暑いと思って冷たいお茶を淹れてきたのですが…」
落としたスパナを拾って、振り向いた私に渡してきた。
「…クノンさんかぁ。びっくりした…」
クノンさんが手に持っていたトレーを蹴らないとこに置いて、少し笑った顔をする。
「人間でしたら、逃げたのかしら」
「に、逃げないよ…みんな、不意に現れるんだもん」
「人は幽霊や亡霊じゃありませんよ?」
…初流がもっともな顔してにやけてる。
せめて笑ってくれたほうが、私はいいんだけれども。

536河童と機械人形と管理人形と。:2009/09/09(水) 06:31:18 ID:dq8.oEvoO
ちびちびとお茶を飲んではきゅうりをつまむ。ぽりぽり。うむ、美味しい。
塩浅漬けのきゅうりと味噌をつけた生きゅうり。それと、ぬか漬けにしたきゅうりの漬け物をおいしくいただいている。
お茶請けとしては…そこそこのものではあるが、夏である。汗で塩分を放出する体は喜んで塩気の濃いきゅうりを吸収する。ぽりぽり。
それにしてもクノンさんにこんな趣があったとは意外である。ぽりぽり
「よいしょ…っ、と」
にとりはきゅうり味噌にかぶりついてすぐ作業に戻った。…食べる時が地味にいやらしくておいしそうだった。ぽりぽり。
「…初流さん。メイド服、暑くないですか?」
「あ、大丈夫です。はい」微笑してみたりして。
クノンさんは日陰で体が熱くならないようにしていた。やはり機械だからだろうか…
私は…薬を飲んで、好きで女の子になっている。で、メイド服を着ている。物好きですし。
本音は解毒剤と女体化薬の副作用が強いからで、30分は身悶えてしまう…こんな話はいいか。ぽりぽり
「うーん…」
などと考えていたら、にとりが悩み始めた。
どうしたの?とか聞こうと思ったが、自ら口にした。
「…推進力、どうしようかな」
 
…それは今更ではないか?ぽりぽり。

537秋ですよー:2009/09/18(金) 01:07:01 ID:et3NCDH.O
秋である。
天高く馬肥ゆるとは良く言ったものであり、この時期は色々美味なる味覚が多かったりする訳で。
と、現実から目をそらしてはいられなくなり、早苗は視線を下に落とした。
昔ながらの体重計の針は右へと動いていた。

梨と林檎のどちらが好きかと問われれば、フヨウは迷わず梨を選んだ。
林檎にはない歯触りの良さや水分を多く含んだ所が最高だ。
但し冬に作ってもらえる焼き林檎もまた格別であるから、正直なところ林檎も梨も好きなのである。
「ほころで、早苗は食べはいの?」
丸ごと豪快にかぶりつく紫が曖昧な表情の早苗と梨を見る。食べるか喋るか、どちらかにしろというのは野暮な事だ。
「食べたいのは山々なんだけど…」
深く溜め息をつく早苗。フヨウは相変わらず我関せずと切り分けられた梨を頬張っている。
「…この時期は正月並にヤバいよね、栗とか葡萄とか」
ふっと綺麗になった芯を片手に紫の目が遠くなる。
「そして、誘惑に負けてしまうのが自分や」
現実とは非情である。
「焼きたてのサンマの香りとかおろした大根おろしとかなんか焦臭い様な……って、こげくさい?」
外を見る。落ち葉を燃料に燃え盛る炎が芋とそれをくべる神様を炭化させんと頑張っていた。

538錦彩る:2009/09/21(月) 19:33:37 ID:9vR4j2KQO
守矢神社へと続く石段の一つに腰を下ろし、アサヒはぼんやりと僅かに色付き始めた山々を眺めていた。
参拝をするつもりではあった。が、石段を少し登った所でその気持ちが急に萎えてしまい、ここにこうして腰を下ろしているのだ。
そもそも、なんで参拝しようと思ったのか。ら頭を捻ろうと理由は出てこない。
それでも無理に理由をつけるならば、なんとなく。
なんとなく、参拝をしようと思ったのかも知れない。
そんなんでいいもんか、と小さく息をつく。

そろそろ風が冷えてきたのか、ぶるりと体を震わせ、仕方なしに立ち上がり―
「あ――」
視界を埋める赤や黄色の艶やかな錦が山を染めている。
あれほど青々していた山が一瞬の間に上質な着物の様な色鮮やかさに変わった様をアサヒは呆然と眺めていた。
不意に風が紅葉や楓の樹木を鳴らしながら、アサヒへと吹き付ける。
思わず両腕で顔をかばい、再び顔をあげた時には山は先程と同じ緑のままだった。

539ジャズの音色は止まらない:2009/09/29(火) 09:08:44 ID:fv3sa4qcO
普通の人々が賑わう表から少し路地を奥へ入れば、そこはもはや別世界だった。
表を歩けない様なスリやコソドロ、いかつい男達があちこちでいざこざを起こし、魅惑的な娼婦が客を店へと引き入れる。
そんな喧嘩と煙草に溢れた路地を進み、ヤラが足を踏み入れたのは看板が斜める酒場だった。
やっているのか、そもそも店なのかすら判断の難しいそこの扉を開け放つ。
「いらっしゃい」
予想に反して、店内には客が居た。
このゴミ溜りの様なこことは不釣り合いな、上品そうな初老の女性はヤラの姿に深く会釈をした。
対するヤラは手を振って応え、いつもの席に腰を下ろした。
「いつもの、ロックで」
バーテンダーはまるで最初から用意していたように、ヤラの言葉が終わるか否かに琥珀色の液体が入ったグラスを目の前に差し出した。
「それにしても、あんた、良くこんな裏まで来れたわね」
グラスに口をつけながら、女性を見る。
「ここに来れば、お会いできるとお伺いいたしましたので」
クスクスと笑う女性に興味なさそうに酒をあおる。体の中で広がる熱に心地良さを覚えながら、長く息を吐く。
「…べっつにかしこまらなくていいんだけどねぇ。
上位とは言え、自分は離反した群れ出身なんだし」
空になったグラスに新たに酒が注がれる。
あちらのお方ですと言われて見た方向には長い白髪を背中に流した男が居た。

540ジャズの音色は止まらない:2009/09/29(火) 09:21:56 ID:fv3sa4qcO
「おや、まぁまぁ!誰かと思えば、我等が王ではありませんか」
わざと芝居がかった口ぶりのヤラに男は何を言うわけでもなく、手にしたグラスを空ける。
「相変わらず暴れている様だな」
「誰かさんと違って若いんでね」
注がれた酒には手を付けず、新たに酒を頼むヤラに女性が顔を曇らせる。
「気にするな、そいつはそういう奴だ」
男の言葉に女性は困った様に、だがそうしていても仕方ないとばかりにワイングラスを傾ける。
「そういえば、何か用があったみたいだけど、何?」
「え、えぇ…今度皇帝陛下主催の晩餐会が」
「あーごめん、興味ないわ」
きょとんとする女性を尻目に新しく注がれた酒をあおる。
「晩餐会という柄ではないからな、お前」
「はっ!そんなつまらないもの出るくらいなら、怪物と殺し合ってた方がましさ」
そう笑いながら、タンッとカウンターにグラスを叩き付け、次を催促するのだった。

541呟く声は闇に溶け:2009/10/03(土) 21:59:22 ID:eatO2REcO
出てくるであろう言葉を待つ。
それでも相手の口から出たのは、アルコール混じりの呼気だけだった。
溜め息の様なそれは意味を成さず、何かの意味を含みながら、ゆるりと空気に溶けた。
くいと手で顔を上げさせれば、普段の懐疑的な視線は緩み、ぼんやりとした雰囲気がそこにあった。
抵抗を見せないことに思わずその唇へ貪りつく。
舌を絡ませ、唾液が口の端から流れ落ちるのも気にせず、何度も深く深く口付ける。


もしかすると酔っていたのかもしれない。
体の下で荒く息を吐く相手についばむような口付けを交わしながら、ふとそんな事を思う。
「ゼロツ」
不意に相手が上気した頬を緩ませながら、再び口を開く。

「―――――」

溜め息の様なそれは、意味を成さず、ただ相手はふにゃりと笑った。

「お前は卑怯だ」

ゆっくりと再開した動きに喘ぎ声があがる。

「卑怯だ」

意味を理解しながらも、そう囁く。

「だからこそ、私も―」


愛してる

542叫び声は届かない:2009/10/11(日) 21:41:12 ID:HOUYye9oO
最初が何であったか、もはや誰にも分からないだろう。
頼りないランプの明かりに照らされた坑道は暗く、底へ降りていく者にまるで奈落に落とす様な心地を誘う。

時折襲いかかる幻覚と幻聴にルドルフの精神は既に限界に達していた。
いかなる状況、尋問にも耐えうる様、訓練を受けた、その彼がだ。
ここに来て、時間の感覚はとうに狂い、暗闇で散々になった仲間との連絡も途絶えて等しい。
「隊長、大丈夫ですか?」
唯一の望みは一緒に行動している部下の青年だった。
暗闇に物怖じせず、通信機越しではあるが会話の出来る相手に、彼はギリギリの所で踏みとどまっていた。

…そういえば、この青年はあの皇女のお気に入りであったな。
よく、あちこち連れ回されているようだな。

ギチリ、と音が聞こえたのは、その時だった。

「…隊長、お下がりを」
青年が前に出、ルドルフをかばう様にブラスターを構える。

―ああ、ちくしょうまただ。あの化け物共だ。

胸中で毒づくも、脈は速まり、息が独りでに上がっていく。
そして―

543叫び声は届かない:2009/10/11(日) 22:00:33 ID:HOUYye9oO
ぐちゃり、と地面に崩れ落ちたそれの頭を力の限り踏み砕く。
それでもなお、体を蠢かせるそれに吐き気を催しながら、前を見る。
白い装甲を赤に濡らしながら、青年が体に覆い被さったそれを横に退けている。

前時代の産物であろう、化け物達は人とかまきりの合成物であるような姿であった。
きっと、ここで働いていた坑夫達がこの化け物共を起こしたのだろう。
いっそ、地下深く眠り続けていればよかったものを。

じわりとまた闇の中で何かが動いた、様に見えた。
「だいぢょゔぅぅぅ」
通信機から不気味な声が響く。
―やめろ、お前達はもう死んだんだ。土のしたで大人しく眠っていてくれ。
「わ゙れわ゙れを見捨てるづもりでずがぁぁぁ」
(隊長?どうしましたか?隊長?)
視界を沢山の土と血に濡れた手が覆う。
作戦中に死んだ者から殺した者達の怨嗟と嗚咽と憎悪が一斉にルドルフの精神を覆い―

「ひっ―――――」

手にしたブラスターを顎に当て、

「っ!隊長!!」

引き金を―――

544叫び声は届かない:2009/10/11(日) 22:15:59 ID:HOUYye9oO
全面に柔らかな素材を敷き詰めた病室にルドルフは居た。
壁に頭を打ち続けながら、ブツブツと呟くその姿を画面越しに見つめながら、ヤラは鼻を鳴らした。
「幻覚に幻聴、それに暗闇と化け物…全くとんでもない物を残したわよね」
投げ掛けられた言葉に青年は溜め息でこたえる。
「地下で人を狂わす周波数の電波が出ていたとはいえ、こんな事になるなんて…」
「あら、私は予想してたわよ?ついでに帰ってこられるのはあんただけだと思ってたわ」
それも外れたけどね、と特に興味も無さそうにヤラが呟く。

結局帰ってこられたのは人ではない青年と壊れてしまった男だけだった。
坑道と化け物はその地域一帯ごと灰になり、そこで行われていたであろう
おぞましい実験の跡を僅かに残すだけであった。

「結局あの場所はなんだったのでしょうか…?」
「さあね、調査団すら危うい場所だったからろくに調べられなかったろうけど」
ぎしり、と長椅子に身を預けながら、ポツリと呟いた。
「あそこに行った人間は生きては戻れなかったってことさ」

モニターの向こうでは男が口を開いていた。

彼の叫び声は、どこにも届かない

545ワルツとタンゴは果てしなく:2009/10/12(月) 08:21:47 ID:Y.Un2SS60
黄金に輝くインペリアル・プライムが帝都を覆う摩天楼の西端に沈む頃、皇帝の居城はライトアップによって
昼間とは違った美しさを帝都市民達に提供する。そして中では贅沢な饗宴が銀河系の選ばれた人々に供されていた。

「皇帝陛下、この度はお招きに与り光栄の極みに存じます」
「これはレイトン卿。こちらこそ古く由緒正しい家柄と最高裁長官という帝国の重責を負われるあなたをお招きできて
大変名誉なことです。御令嬢は美しさと実績を重ねておられるようでなにより」
「陛下のお眼鏡に適うとはこれまた光栄と申しましょうか……」

白地に金モールや肩章、勲章で装飾された詰襟の礼装に身を包む皇帝に対してタキシードに蝶ネクタイといった
伝統的なパーティ用の礼装に身を包んだ公爵が挨拶を述べている。儀仗兵の「皇帝陛下御入場」の声と賓客達の
拍手に迎えられて早一時間、彼のような大貴族や大臣、グランド・モフ、元帥といった帝国の実力者達から
代わる代わる挨拶の辞を述べられ、それに返事と彼らに関する話題をいくつか振ることを繰り返していた。

「ふぅ、やっと終わった」
「相変わらず御苦労なことだな」

公爵との挨拶を終えて自分のテーブルに戻ると、同じく他のゲストへ挨拶をしていた皇后も戻っていた。
こちらも白金のティアラを着け、パールホワイトのドレスとドレスグローヴ、肩章といった礼装のいでたちであり、
普段の軍装とは違った女性的な魅力といつもと変わらぬ威厳を醸し出している。

「私は呑まないから食べないと持たないのよね……ああ、おいしい」
「下戸ではないのだから、こういう席でくらい呑めばよかろう?」
「酒は罪だよ、皇后陛下?」

ホーク=バットの香草焼きを切り分けて咀嚼した後に漠然とした返答を返す。ホーク=バットは数ある鳥類の中で
もっとも美味であるとされており、パルパティーン皇帝の時代からパレス内には専用の飼育場が設けられ、
よりおいしく飼育と調理が為されており、晩餐会では皇族と側近のみに振舞われるというものである。
美食家で知られる現皇帝もこの肉を愛しており、「これが食べたくて皇帝なった」とジョークの種にされる程である。

「嗜む程度には悪くあるまい」
「私はリスクを低減する志向があるからねぇ、用心深くないと権力者にはなれないのさ」

暗に酔った時の失態への懸念を示す皇帝。酒の上での失態は社会的に抹殺される。すなわちこれまで積み上げてきた
栄光が全て崩れ去るのである。別の銀河のとある島国ではそれは大して問題にならない文化があるようだが、
ここは銀河帝国である。エリートに絶大な権限と尊敬が寄せられる代わりに目も厳しいのだ。

「まあ……お前が失態をしでかさなかったおかげで今日の冨貴の暮らしがあるのは否定できんな」
「だろう? おお、グランド・モフ・ニーベルンク!ノエリア様」
「久しいな皇帝、そして皇后も」
「ごきげんよう、ノエリア殿。楽しんでいるかな?」

あわてて自分の皿に載っていたホーク=バットの最後の一切れを押し込んで飲み込むと、美しい蒼い髪を靡かせる
ドロイドのグランド・モフに妻と共に挨拶を述べる皇帝。
この華やかな社交場で皇后はふと想う。「あの子も着飾れば他の子達に劣らず美しいだろうに」と。
その脳裏に1人の養女の顔とそれぞれ軍装や礼装で出席している皇子や皇女達を重ねながら。

546ほんのすこし:2009/10/21(水) 11:16:21 ID:KUPs.7CMO
ほんのすこし、咲夜から血の匂いがした。
服のポケットに入ったハーブの匂いに混じったそれに咲夜がどこか怪我をしたんじゃないかと思った。
でも、お姉様はそれに気付かない振りをしてるし、パチュリーもその事には触れない様にしているみたいだった。

へんなの。

袖を捲って窓をピカピカにしていた黒いのの肩の上でわたしは頬を膨らませていた。
黒いのの肩の上から窓の外で洗濯物を干す咲夜が見えた。

怪我してるなら、無理しなくていいのに。

そう思いながら、黒いのの髪の毛をぐいぐい引っ張る。
視線をガラス越しに向ける黒いのを見つめがら、お姉様達と同じ質問を投げ掛ける。

咲夜から血の匂いがするの。

わたしの言葉に黒いのはそうかと答え、女は難儀だなと呟いた。
難儀?と首を傾げるわたしに黒いのは難儀だと返した。
怪我じゃないの?と聞けば、怪我じゃないと返ってくる。
男の俺には分からない難儀だと黒いのは肩に乗ったわたしを床に下ろすと、バケツを持って行ってしまった。


難儀なんだねと屋上から戻ってきた咲夜に言ったら、咲夜は一瞬変な顔をしてから、困った様に笑った。
そんな咲夜からはやっぱりほんのすこし、血の匂いがした。

547Driver-潜入!カーチェイス大作戦-:2009/11/21(土) 13:43:20 ID:iA8AymxU0
ここはニューヨーク警察本部。
署長に呼び出され一人の女が署長室へと入り、署長からの話を聞いていた。
その女の名前はシャーリィ。今回彼女が呼び出されたのはとある事件についてだった。

「君は、ロジーナ・ファミリーを知っているかね、ロシアン・マフィアだ
 その幹部の一人、エリ・カサモトがマイアミへ来るらしい。
 君はエリと接触し、ロジーナ・ファミリーへ潜入してほしい
 無論、警察は君が潜入したことは知らない 潜入任務だからな」
ロジーナ・ファミリー、それは最近殺人事件や違法賭博等で頭角を表してきたファミリーだった。
ロシアン・ファミリーであるにも関わらず、アメリカにもその魔の手を伸ばしていた。
ニューヨーク警察はこれを打破しようとシャーリィを送り込もうとしていたのだ。

その話をしながら署長はシャーリィのためにコーヒーを注ぎ、
シャーリィは署長が角砂糖を入れようとしたのを止め、
ブラックのままそれの香りも楽しまずにつまらなそうに飲んでいた。

「何か質問はあるかね?」
署長の問いにシャーリィは不満げな顔で警察バッジを置いていくと、
すぐさまロジーナ・ファミリーの一幹部、エリ・カサモトが待つ
マイアミの駐車場へと車を走らせた…。

548Driver-潜入!カーチェイス大作戦-:2009/11/23(月) 09:46:46 ID:VZBAu6o.0
ロシアン・マフィア唯一の東洋人幹部であるエリは、
すでに駐車場にいてシャーリィが来るのを待っていた。
この駐車場は今は使われていない地下にある駐車場だった。
ロジーナファミリーはたびたびこう言った目的(新しいドライバーの雇用)や、
隠れ家代わり(一時的にだが)などの用途でこういう駐車場を使っていた。

シャーリィはその地下駐車場に入ると、シャーリィよりも濃い金の髪を持った女性が近づいてくる。エリだ。
エリは何のためらいもなく助手席に乗り込んできて言った。
「さっそく腕を試させてもらうよ」
「おう、アタシはシャーリィ アンタはエリだな?それと部下は?」
「エリだ 部下?人間は皆独りぼっちだぞ? さあ、腕を見せてくれ」
そういうとエリはメモを渡した。それにはやるべきことが書いてあった。

やるべきこと
アクセル全開急発進
サイドブレーキを使って急停止
180度ターンと360度ターン
バックから180度ターンしてそこから前進
駐車場の支柱をスラローム走行で一周
駐車場を一周

だがシャーリィはこれを見るなりアクセルを勢いよく踏み、壁の前で急停止し、
そのままバックしながらの180度ターンをして、そのまま前進、
さらにそこから360度ターン180度ターンを相次いで決め、
駐車場を支柱に当たらないよう、でも全速力でスラローム走行で走っていき、
さらにそれを終えると全速力で一周走り、ドリフトしつつ車を止めた。
これらはたった5分の間に全て行われた。エリは驚いていた。
そしてシャーリィに、
「明日から仕事を渡す、それまでここのモーテルで待機しているように」
とひとこと言い残して助手席から降り、そのままどこかへ立ち去ってしまった。
なにはともあれシャーリィはロジーナ・ファミリーの一員となることができたのだ。

        アンダーカバー
だがしかし、まだ潜入任務は始まったばかりである…。

549西日:2009/12/21(月) 12:18:38 ID:It2c2L7cO
何気無しに読んでいたホラー小説の内容にアサヒはなんだとつまらなそうに口を尖らせた。
ある男が古井戸に死体を投げ込むと死体は消え失せ、男は喜んだが
最期に投げ入れた母親の死体はいつまでも消えず、実は母親が密かに処理していたという
話はまるきり何処からか囁かれる都市伝説そのものだった。
(いつから何人殺したって細かい所は違うけど…)
様々な作家の小説を集めた本の締めがこれでは、と本を棚へと戻しに席を立つ。
斜陽の射し込む図書室は古びた本のカビ臭さと程良い暖気に満たされ、静かに古時計の音を響かせていた。

そろそろここが閉める時間か。

時計が示す針を一瞥し、小説コーナーと銘打たれた棚の中へ本を潜り込ませる。
順序良く並べられた背表紙を指で緩やかになぞり、くるりと背を向ける。
明日はあの本にしようか、それとも違うものにしようか。
暖気に負けて、すっかり夢の中の友人を叩き起こしながら、アサヒはふとそう思うのだった。

550浪漫:2010/02/02(火) 15:05:15 ID:kAnVgp3EO
「……は外せないよね」
「それだったら………」
女子が二人、紙に何やら書き連ねながら、ひそひそと声を潜めながら、密談を交している。
「となると………蛙」
「烏も……………」
そんな二人を眺めながら、神奈子ははて何の話かと首を傾げた。
年頃の二人の少女の会話は化粧や異性と相場が決まっているが、先程の会話の端々に出てくる単語はそれとは無縁なものだ。
「ドリルだよ!」
「いいえ!超電磁砲です!」
だんと机を叩くとんがり帽子に早苗も負けじと声を上げ、神奈子はいよいよ意味が分からなくなった。

「たっだいまー」

そこに響く呑気な祟り神の声に二人がざわりと殺気だち、ガタンと立ち上がる。

「諏訪子様ぁ!ヒソウテンソクにはドリルつけましょう!ドリル!」
「駄目です!巨大合体ロボといったら、超電磁砲です!乙女の浪漫砲ですよ、電磁砲!」
「だから!ドリルだってそれと、いや、それ以上の浪漫が詰まってるのになんで分からない!?」
「ドリルは所詮工具!電磁砲の浪漫には負けるわ!」
「表出ろぉ!早苗ぇ!」
「紫の、わからずやぁ!」

ぎゃーぎゃーどったんばったんぴちゅーん

境内で何がなんだか分からない内に被弾した諏訪子を尻目に、空には乙女の浪漫をかけた弾幕ごっこが繰り広げられていた。

「…もう、付き合えん」

今なお何か叫ぶ二人と倒れた諏訪子に背を向け、神奈子は奥へと引っ込んでいった。

551世にも奇妙な?銀行:2010/04/03(土) 21:50:12 ID:1jrkyVH20
私がこの銀行の頭取です、初めまして―。
我が銀行では返す見込みのない者や意にそぐわぬ者に対し融資を行いません。

絶対に、絶対に、絶対に。

一度でも、一円でも見逃して御覧なさい。二度と私達は融資しないでしょう。
ただし、例外はありますが―、それももうすぐなくなることでしょう。

ある種の信頼、とでも言いましょうか。
まッ、遠い昔にこの銀行の名誉と地位は地に落ちたも同然、無論信頼でさえも。
そこに借りに来るあなたはこの銀行に始めてきた者か、盟友か、はたまた―

滅多に、または全く融資をしてもらえないそこのあなた、入口で回れ右なさい。
最も、融資を断られた時点で二度と来ないお客様もいるでしょうが…ね
借りる用のない者も、回れ右なさい。あなた方がここに来る必要はないのですから…
もし、必要ならこちらからお伺いします、ええ。



―さあ、融資の額はいかほどで?―

552ニューアース戦線異状あり:2010/04/04(日) 18:59:04 ID:yCCO/INw0
惑星ニューアース…新たな第二の地球。
メタリオン星系内で見つかったこの新たな惑星は、
このニューアースを一番最初に見つけたグラディウスの領地となる。
そののち銀河帝国が同惑星の監視目的を理由としていろんな場所に基地を建造した。
これによりニューアースでの治安は格段にあがり、賊が現れることもなくなった。

そんな折、オーストラリアのグラディウス軍キャンベラ基地からの連絡が突如途絶える。
近くのシドニー基地からキャンベラ基地へ向かった偵察部隊はキャンベラ基地にたどり着いた。
そこで彼らが見たものはマルセル・ブリュノー基地司令官が同胞に同胞を殺すことを命じている場面だった。
そしてただちにシドニー基地司令官、ジャック・ブールジェに対し連絡を入れた。
『ブリュノー基地指令、謀反の疑いあり』、と―。

553悪夢と空:2010/04/23(金) 15:10:50 ID:9xAUmk0wO
鉄の臭いを孕んだ熱い風が髪を揺らす。
燃える音に首をそちらに巡らせれば、黒く焼かれていくモノと目があった。
ああこれは夢なんだと、動かない体を何とか動かしながら、立ち上がる。
動くものは、もうなかった。



相も変わらず、嫌な夢だ。
机から上半身を引き剥がしながら、後ろへと伸びる。
午後の睡魔に負け、そのまま机に突っ伏したせいか、体があちこち痛んだ。
それでも夢が見せた光景が胸のなかでドロリとした嫌なモノへ変わるよりは幾分マシだった。
戦争に行った兵士が何度も見ると言われる戦場の悪夢も丁度こんな感じなのかもしれない。
そんな考えに被りを振ると鞄の中へ手早くノートをしまい、席を立つ。
ふと窓から見上げた空は、アサヒの心のようにどんよりとした色をしていた。

554はいたいロジーナさん:2010/05/04(火) 10:29:33 ID:CZlxNRik0
とあるひょんなことで沖縄にしばらく滞在することになったロジーナさん
最初は嫌がっていたが暖かい気候と泡盛のおかげでそんな憂鬱気分もどこかへ消えていた。
そこへエリが仕事がてらロジーナのとこへやってきた…

エリ「はいたい!よおロジーナ 近所で噂になってたぜ
    お前昨日近所の人と飲み比べやって勝ったんだってな
    でさ、中身が残ってる三合瓶が欲しいんだが…」
ロジーナ「あらあらエリ、どうしたの 私が三合瓶程度の残してると思う?
      私のことは結構知ってるでしょエリ?」
エリ「じゃあさ!三合瓶はいらんよ 一升瓶をくれ」

エリは怒ったロジーナに追い出され、また次の日にやってくることにした。

エリ「はいたい!やあロジーナ!昨日は悪かったな
    さっきロジーナを嫁にもらいたいと思ってる人が歩いていたぞ」
ロジーナ「あらあらエリ、どうしたの 私がそれを受けると思う?
      しかもその人知ってるし…子供のくせにませてるわねぇ」
エリ「じゃあ二十歳三十路すぎて白髪になってきたらいいのか?」

エリは『私は百合よ!』と怒ったロジーナに追い出され、
そしてそのまま沖縄を後にした…

555五年の月日:2010/05/07(金) 05:31:33 ID:UMut5za.0
深夜、誰も居ないはずの台所
夜の誰もかもが寝静まった時間に似つかわしくない音が響いていた
湯の沸く音、焜炉の火の音、何かを切る音…
そしてそれらは少しの時間の後、ぴたりと止まった

「今日の夜食はもうこれでいいや」
手元に簡単ながらも食欲をそそられそうなペペロンチーノを手にしているのはこの家の主、如月ダーク
…尤も、今の彼はダークという呼び名を変えたいと思っているのだが…
どうやら小腹が空いたのか、夜食を作っていたようだ。
(夜食にペペロンチーノを自作するとか言うのもちょっとあれかもだが自分にとってはいつものことであるby中の人)
そして冷蔵庫の中から瓶を一本取り出し、静まりかえった食卓に座る
夜遅くに、一人で、静かに食べる
これは彼のささやかな楽しみである

自作のパスタを味わいながら、冷蔵庫の中から取ってきた瓶を見る
・・・どうして、この家にはこういうものが多いんだろう
そう思いながら瓶の蓋を開け、中の液体をグラスにわずかに注ぐ
グラスの4分の1ほど注ぎ、一呼吸おいてから一気に飲み干す
…口の中にツン、とくる何か
昔ほどではないが、どうしても好きにはなれない感覚

「えっ」
ふと声がした方を向くと、そこにはエリアの姿が
「ちょ、だーく?」
普段から顔を合わせ、親しくしているはずの彼女が物珍しげな顔でこちらを見ている
「えっと、それって・・・」
まぁ、驚くのも無理はない
だって、今ちょうど口にしているのは…
「お酒、だよね?」
そう、酒だからだ。

「まぁ、そろそろ自分もあれだしな。 最低でも嗜む程度には飲んでおこうと思って。」
口直しに水を飲みつつ、酒に関しての言い訳をする
まぁ、酒飲んで言い訳するというのはこの二人にとってはとても珍しい光景ではあるが…
「あれって?」
「…もうすぐ、自分の誕生日だよな?」
ダークの誕生日は5月8日、最早明日が誕生日である(これを書いている時点で)
「うん、でもそれが・・・、あっ」
「5年って、早いな」
5年、それはダークとエリアが出会ってからのおおよその年月である
実際にはヶ月単位での誤差はあるがそこは気にしないでおくことにする
「うん、そだね。 もう・・・そんなに経つんだね」
少しの間沈黙が続く。
「ねぇ、ダーク」
「・・・何?」
「これからも、好きで居てくれる?」

「…うん。」
「・・・ん、ありがと。」

たった、これだけのやり取り。
それだけでも、二人には十分だった。

「ん・・・っ」
突然、本当に突然、ダークはエリアを抱きしめた。
「え、ちょっと、ダーク?」
「えと、酔ったかも…」
「酔ってないくせに」
「ばれたか」
どちらから、というわけでもないが二人して笑い出す。
「もう、ダークったら嘘が下手すぎ!」
「ごめんごめん」
「もう・・・、今日だけよ?」
「いいの?」
「嘘、やっぱダメ」
「何だよそれ」
「あはは…っ」
「はは…っ」

長いようで短かった年月、だが彼らの終点はまだまだ遠い
これから二人がどうなるのかは、運命すら知らない…

556一線:2010/05/18(火) 20:02:56 ID:04/tEyAAO
長らく開かれなかった扉は、半ば開いた所で蝶番から外れるという形で自らの役目を放棄した。
溜め息を手に残った扉と共に乱暴に室内へと倒すと、黴と埃の臭いが舞い上がった。
典型的な古い空き家の臭いなのかもしれないと足を踏み出しかけ、つと床を見下ろす。
倒れた扉に不満を言うかのように、床がミシミシと声をあげていた。
失敗したと頭を振り、フワリと地面から浮き上がった。

昔、とある富豪の一家が召し使いを巻き込んで心中をしたらしい。
原因は本人達が居ない今となっては知る術もない。
ただ、一家と召し使いは今も家にとどまり続け、入り込む全ても喰い散らかした。
面白半分で入る者に家に残る物品を頂こうとする盗人、或いはどこぞの教会から送り込まれた神父。
ほとんどが翌朝には家の前で屍を晒し、命からがら逃げた者も無惨な最後をとげた。

依頼主は、そんな者達の遺族の一人だった。

557一線:2010/05/18(火) 20:30:38 ID:04/tEyAAO
フワフワと廊下を進み、かつての応接間とおぼしき部屋へと踏み込む。
盗人が持ち出そうとしたのか、値打ちのありそうな物がどす黒く変色した床に転がっていた。
黴が生え、書いてある内容すら判別出来ない本が並ぶ本棚を一瞥し―妙なものを見つける。
およそこの場所には不釣り合いの真新しい背表紙をした本が変色したそれらの間に収まっていた。
好奇心は猫を殺す。そんな言葉を思い浮かべながら、どのみち読んでも読まなくともここに住み着くモノは姿を見せるだろうからいっそ読んでしまおうかと足で本棚を横へ蹴った。
ぐらりと押し潰すように倒れてくる本棚を避けることなく、じっと見上げ―


真下に散らばった本の残骸と元本棚に溜め息を付き、面倒そうに本棚に隠れていた場所を見た。
人を壁際に立たせ、潰せばこうなると言わんばかりのものがそこにあった。
それらがうめき声をあげながら、壁から手を伸ばす様に冷ややかな視線を投げ、廊下へと戻る扉へと進んだ。


故人は家に憑いたものを祓う為に赴き、非業の最期をとげたらしい。
依頼内容はその故人の遺品を回収する事だった。

558一線:2010/05/21(金) 18:47:04 ID:TrGldRnwO
まただ。
廊下の向こう側からこちらを伺う気配に背を向け、気付いた素振りを見せずに辺りを見た。
後から侵入をした者か。それとも、この家に憑いたモノか。
いずれにしろ、こちらに好意的な存在ではないだろう。
無関心を装いながら、手近な扉へ手をかけた。


扉の向こうには年頃の少女が好みそうな家具で揃えられた一室だった。
タンスの上にはむくむくとしたぬいぐるみが、ベッドの枕元には小さなオルゴールが置かれていた。
妙な違和感を覚えながら、ふと板が打ち付けられた窓へ目が向く。
…おかしい。この家の窓は外側から封じられている。だが、この部屋は中から板が打ち付けられている。
嫌な予感を感じながら、不釣り合いなその窓の下で何かが光る。
いぶかしみながら、それに近付き、手を―
「―っ!」
ベッドの下から何かが足に絡み付き、バランスを崩した弾みに肩を強かにぶつけた。
手だ。暗がりへ引き込もうとする小さな手がそれに見合わない力で足を掴んでいた。
引き込まれればどうなるかは、想像はしなかった。

死んでやるつもりは、毛頭ない。

559一線:2010/05/27(木) 19:58:37 ID:0TdFPlesO
袖に仕込んでいたナイフを床に突き立て、空いた片手でポーチからまさぐり掴んだ物をベッドへ投げつけた。
球状のそれがベッドの下へとバウンドし…激しい閃光が辺りを照らし出す。
目を閉じてもなお目がくらむ程のそれに怯んだか、足を掴んでいた手が弛む。
そのチャンスを逃す訳もなく、動かせる片足で床を蹴り、跳ねる様に窓側へと飛ぶ。
背中を壁に押し付け、残っていたもう一本のナイフを構える。
「………」
光が収まる頃には室内の様子は他となんら変わらない、廃屋の一室へ変わっていた。
息を付き、床に突き立てたナイフを引き抜き、袖の中へと収める。
(そういえば、さっきの…)
何かを踏んでいる感触に足を上げると、鎖の千切れたロケットが転がっていた。
間違いない。これが依頼者の探していた遺品だろう。
ようやくそれを拾い上げ、後は帰るのみとなった時だった。

560一線:2010/05/27(木) 20:18:25 ID:0TdFPlesO
ペタリ…ペタリ…
廊下を何かがゆっくりと這ってくる様な物音が耳に届く。
閉じられた扉越しに聞こえる音は確実にこちらに近付いてきている様で、思わず扉からあとずさる。
このまま強行突破、は賢い選択ではない。ナイフ二本で抵抗するにしてもたかが知れている。
窓や壁を壊す事も恐らく不可能に近いだろう。
万事休すと天を仰いでみようか。
自虐的な笑みを浮かべながら、上を見上げると―


「と…と…うぅん、何か違うわな」
頭を掻きながらうめく彼女にゼロツーは興味も持った素振りを見せずにぼんやりとしていた。
「適当で良くはないのか?」
「とは言っても…なんというか、どうにかいい感じに終わらす事が出来ないのよ。
いや、さ、『任務は無事遂行されました』って書けばよかったんだろうけど」
今後の事例のためにも読み物的に残しときたいしぃ、と紙から目を動かさない彼女にゼロツーは大きく息をついた。
「…この話はフィクションだから不死かそれに近いモノ以外は真似はするなーでいいと思うがな」
一人うめく彼女を置いて、彼は目を閉じた。

561危機:2010/05/29(土) 11:23:36 ID:D.1NQMFg0
メタリオン星系に浮かぶ蒼い惑星グラディウス。
少し前に皇帝ラーズ72世が自ら退位し、その後継としてラーズ73世が即位したばかりだった。
ラーズ73世になってから退位したラーズ72世が国防省に移籍し、
ビックバイパーT-302B(Bomber)の製作、そして兵器擬人化勢の増強に力を入れることになる。

そして目覚ましい発展を遂げている新興国バクテリアン帝国―。
かつてはグラディウスの敵であったが今では和解したという歴史を持つ。
農業と工業、二つの顔を持つ惑星で建艦技術に関してはメタリオン一だとも言われている。
また兵器擬人化勢が国民の三割を占めているため、有事の際には強い国だともいわれている。
だが今までに製造されていた洗練されしきった宇宙戦艦は手を加える余裕がなく、
新しく新造されている艦はその全てが今まであった型のであった。

そんなある日、メタリオン星系外から全長15kmを超えるとてつもない大きさの宇宙戦艦がやってきた。
グラディウス軍はすぐに国中に警報を発令し、一般人には外出禁止令が出された。
同時に数千機ものビックバイパーがグラディウス中の飛行場から飛び立った。
そしてグラディウス空軍基地本部からその戦艦に対し警告が送られた。
―すぐさま引き返されたし、さもなくば攻撃を辞さん―と。
バクテリアンも同様のようで、何回もその謎の戦艦に警告を送っていた。
だが返事は無かった。反応もなかった。ただ進むだけだった。
そしてバクテリアン帝国大統領ブリュンヒルデによって、攻撃命令が下された。
―我等の地に無断で入ってきた者に制裁を加えよ―と。
ラーズ73世も攻撃命令を下し、巨大戦艦への攻撃を開始した。

だがいくら攻撃をしても反撃をする様子がない。
そこで擬人化勢に頼んでもらい『入口』を作ってもらったのだ。
そしてグラディウス、バクテリアン両国の合同調査団を乗せた輸送艦が
その『入口』の中に入ろうとしたその時、戦艦から赤いレーザーが全方位に向けて放たれる。
赤いレーザーは輸送艦やビックバイパー、コアを貫通し、破壊していく。
その時、初めて戦艦側から初めて通信が送られて来た。
―我らはヴォリスキー宇宙帝国、グラディウスとバクテリアンの民よ
  我等の支配下にはいるか、我等に焦土とされるか撰ぶがよい―と。

562頼もしきもの共:2010/07/03(土) 23:27:17 ID:B4wirlRUO
彼が入口をくぐった時には行き届いている筈の冷気は店内に集まった人々の熱気に押され、既に部屋の隅で縮こまっている様だった。
所々で響く乾杯の声とゴブレットの打ち鳴らされる音が陽気な男達が奏でる音楽と混ざり合う中へと分け入り、辺りを見回す。
それに気付いたのか、人だかりから手が生える。
人々に詫びを入れながら、そちらに向かえば、黒い長髪の女が並々とトランプを手ににんまりと笑っていた。
「フルハウス」
パサリとテーブルに役を晒し、男達が落胆の声を上げるなか、彼への挨拶のつもりか、ゴブレットを掲げる。
「意外に早かったわね」
「どなたかが早く来いと仰っていましたからね」
「おやまぁ」
笑いを堪える様に酒をあおる。
「酷い輩が居るものね」
一息に中身を干すと、女は意地悪そうな笑みを彼へと向けてきた。
「えぇ、えぇ、全くです。その方がもう少し自重してくだされば、私も楽になれますよ」
運ばれてきたギジュー・シチューに悶絶する同僚に心の中でエールを送りながら、言葉に多少の嫌味を込める。
それに女が顔を押さえて笑う。あのゲテモノを頼んだのは貴女ですか。
頭痛を覚えながら、手近な席に腰を下ろせば、酒の注がれたゴブレットを差し出される。
それを差し出す女は彼に受け取る様に顎を動かす。
断わりきれずにそれを受け取ると女は空になった自分のへと酒を満たし、声を上げる。
「私の愛すべきクソッタレ共!今夜は私の奢りだ!ぶっ倒れるまで付いてこい!」
ヤジやら口笛やら飛び交う中で呆れた様に息をつき、席から立ち上がる。
こうなればヤケだ。明日も非番だ、今夜はとことん飲んでやろうではないか。
「我等が帝国の繁栄に!」
『我等の麗しき黒い月に!』

『乾杯!』

女の音頭にゴブレットは打ち鳴らされ、場は最早どうしようもない程に崩れていく。
呆れながら、ノドへと流し込んだ酒はどこか心地良さを誘っていた。

563通話:2010/08/21(土) 00:18:12 ID:HCSgDpJIO
着信を告げる音が静まり返った木々の間に谺する。
モニターに写し出された名前を一瞥し、通話ボタンを押す。

『もしもし?今何処に居るのよ?』
「空の下の何処かよ」

『……、質問を変えるわ、日本国内なの?それとも海外?』
「世界の星空が綺麗な場所よ」

電話の主がつく溜め息を聞きながら、細長く煙を空へと吐き出す。
煙の向こう側では細かく砕けたガラスの様に淡い光が瞬いていた。

「ここはいいわよ、人間も居ない、車も居ない、なんてったって」
通話口に煙を吐きかけながら、にやりと笑う。
「存分に煙草が吸える」
匂いが届く訳でもないが―恐らく嫌味だ、電話の向こうで咳払いを一つして、相手が話し出す。
『たまには連絡するか、顔見せに帰ってきなさい』
「近々ね。じゃ、切るわ」
『ちょっとまだ話h』

―相変わらずの心配性。
今頃憤慨しているだろう電話の主を思い浮かべながら、新しい煙草に火を付け、空へと吐き出す。

どんなに遠くへ行こうと、胸の奥で燻るモノはいまだにヒトを許すなと囁き、再び暴れ回る事もあるだろう。
もしかすると、また正義の味方に追われる事になるかもしれない。

それでも、あの連中は戸口を開けて、帰りを待っていてくれるだろう。
家族という、奇妙な集まりのもとに。

(本当に、馬鹿でおめでたい連中よ)
煙に隠れたドロシーの横顔には、けれど、安堵した様な笑みが浮かんでいた。




帰りを待っててくれる場所があるって安心するよね

564ある酔った男の話:2010/09/11(土) 17:03:56 ID:KsLUGMwwO
―切り裂き公って知ってるか?…、まぁ有名だし、そりゃ知ってるよな
話ってのはその切り裂き公の話なんだ
…おいおい、別に危なくなんてないぞ?第一随分と昔の話だ
…ほら、ストリートギャングがここらへんでゴタゴタしてただろ?
丁度その頃に切り裂き公がこの街に来ててさ、その中の弱小グループに手を貸す事になった訳よ
…色々あったんだよ、とりあえずまずは話させろって
ところでお前、トリッキーリッパーって奴の噂、覚えてるか?
この街を縄張りとしてた連続殺人鬼で街を荒らす奴らには容赦しないって、ほら、あったじゃねぇか?
丁度グループ同士の衝突が激化した頃にそいつが現れたって話題になってさ、仲間の仇討ちだって血気盛んな連中が向かってたらしいんだけど
誰一人として倒せる奴なんか居なかったんだ
で、その内警察も本気で動こうって時にプッツリ噂聞かなくなったろ?
…実はな、殺ったのは切り裂き公なんだよ

ああそうさ、もう20年も経ったんだ
だからこいつを酒に酔った男の戯言だと思って聞き流してくれて構わない
ただ……、ただ俺はもうこいつを話さずにはいられないんだ
あの日、目に焼き付いたままの―

565名無しさん:2010/09/19(日) 22:45:10 ID:h70EqLmo0
 ふっと眩暈を覚えて早苗は眉をしかめた。
 軽くこめかみを抑えて頭を左右に振る。
 と。
「……………………」
 彼女をじっと見つめる少女の姿があった。
 年の頃は5歳ほど。腰のあたりまで伸びた長い黒髪を無造作に垂らしている。その大きな瞳はまばたきすることなく早苗を見据えていて、何故だろう、まったく表情を浮かべていないのに今にも泣きそうに見えた。
 その光景に、早苗は違和感を覚える。
 連続しているはずの時間が、ある時を境に断絶してしまったような。
 あたかも旧式のフィルムのある部分と部分を切って繋ぎ合せたような、そんな不連続感。
 ――だが、
「……あす、み?」
 早苗は、無意識に少女の名をつぶやいていた。
 そこでようやく彼女は気づいた。
 ――これは、夢なのだと。
「……………………」
 じっと早苗を見つめる少女の瞳。その無言の瞳に見つめられ、早苗は動くことが出来ない。
 何が出来るのか。
 あるいは、何がしたいのか。
 だが、その均衡はふいに崩れた。
「……だっこー」
 手を伸ばす。早苗の方へと。
 一瞬、その言葉の意味が理解できずに唖然とする。
 それを少女は拒絶と受け取ったようで、
「…………だっこ」
 同じ言葉を繰り返しながらも腕は下がり、肩を落としている。
 早苗は、ほとんど反射的に動いていた。
「大丈夫ですよ」
 抱きしめる。
「私が、あなたの傍にいますから」
 少女の顔は見えない。
 だが、目をまんまるくしている姿は容易に想像がつく。
 早苗の胸の中でもぞもぞと動いた少女は、
「……………………ん」
 小さく、そう鳴いた。

 それは新たな夢が始まる瞬間。

566切り裂き公、街に立つ:2011/04/22(金) 14:21:48 ID:VJLRBwS60
ガタン、と音を立てて停止した鉄の車が駅の中へ人々を吐いていく。
足早に流れていく人の中に彼女はいた。
若い女だった。腰まで伸びた黒髪を背中に流し、きれいに整った顔立ちの彼女は至極のんびりとした歩調で足を進めていた。
迷惑そうに彼女を避けていく他人の顔などどこ吹く風といった具合に。
彼らのうちで果たして知るものは居るのだろうか。彼女がこの星系を統べる皇帝の娘である事を。
辺境の地で切り裂き公と呼ばれ、恐れられるヤラ=ピエット、その人である事を。

白昼堂々と人を殺したにも関わらず、未だ身元も顔すらも割れていない殺人鬼が居る。
そんな話を耳にしたのはどこであっただろうか?
駐留する軍関係者であるとも、流れの暗殺者だとも囁かれるそれの話に妙な興味を覚えた彼女は準備もそこそこに
住み慣れた家をいつものように飛び出し―義母の小言を背に受けながら、遠く離れたこの地へ降り立った。

(しかし、ほんとに居るのかね、私以外にそんな奴)
人混みの中でさえ殺して見せたその腕前もさることながら、大勢の他人の目が合ったにも関わらず姿をくらませた芸当は賞賛に値する。
人間であるならば、だが。
…最も町に流れる噂など大体は余計な尾ひれが付いている。もしかしなくとも噂のいくつかは誇張でしかない事が多い。
けれどそれらを事実と照らし合わせてから初めてようやく事の真相にたどり着く…面倒な作業だが、楽しみのためなら多少の労力は惜しまない。
(まるで恋する乙女ね)
居るかも分からない相手に恋い焦がれ、その姿を求めて彷徨う自身の姿は彼女を知る者にはさぞかし奇妙だろう。
それでも―ヤラ自身が半信半疑であるにもかかわらず―妙な予感があった。
この街で必ず会える、と。

そうしてしばらく辺りを歩き回り、出口から差し込む夕日に目を細める。
人の往来が絶えない通りは見た限りでは抗争とは無縁の場所に思えたが、武装した警官らしき者達がそこかしこに立っており、
鋭い視線を辺りに投げかけていた。
およそ不釣り合いなその光景を横目に流しながら、鈍色の建物の間へと足を進める。

まずはどこかに宿を探そう。点り始めた煌びやかな広告の光に目を細めながら、夜の街を行く。
抗争が起きるまで、ひいては例の殺人鬼が現れるのを待つための拠点にお誂え向きな、人目に付かない場所に。
酒と煙草の匂いが辺りに濃くなり始めた頃、ようやく彼女の足が止まる。
「…おやまぁ」
道路を挟んだ向かい側で燃え上がる車から男が這い出していた。
息も絶え絶えといった具合の彼の周りを他の男達が取り囲み、手にした銃を彼の頭に突き付けた。
(おお、リボルバー。もうここらではとっくの昔に絶滅したと思ってたけど、いいね、まだ使ってるマニアが居たのね)
男の手の中に握られた古めかしい骨董品にヤラが若干の興奮を覚えていると、男達の視線が向けられる。
とても友好的とは言い難いそれに彼女の中で何かがざわめく。

―ああ、これは襲われる。この状況を見て大人しく帰される訳がない。だから、

男の一人が小型のブラスターを手に、ヤラの方へと歩みを進めてくる。
男は思いもよらないだろう。目の前の女が動けない理由が恐怖ではなく、獲物を待ち構えている為だということを。
男の仲間は知らないだろう。この後、自分達がどのような末路をたどるのかを。

―だから、これは

ヤラの眉間に銃口を向けた男の顔が僅かに歪む。

―正当防衛。

瞳を爛々と輝かせて笑う彼女に不信感を覚えていたであろう男が仲間の方へ振り返ろうとした。
…ふと、男の瞳が妙なものを映し出す。彼自身の、天地が逆さまになった体。
何故こんなものが、と言いたげな目を見開いたまま、鈍い音を立てて、首が道路をはねる。
その奇妙な音に男達が振り返り、変わり果てた仲間の姿に誰しもが動きを止める。
男の血を手にしたナイフから滴らせながら、呆然とする男達を吹き上がる赤い飛沫越しに見つめる。


さぁ、狩りの時間だ。

567すき:2011/05/15(日) 01:10:29 ID:LM8ZkY1I0
おねえちゃん、私の好きだった人
 今は違うの?
良く分かんなくなっちゃった
 ふぅん
そういう貴女は?居るの?
 うん
ふぅん
 誰か聞かないんだ
聞いてどうするの?
 公平感が出ます、素敵
うわぁい
 うわぁい
公平なんて存在しないのだよ明智君
 なんだと、おのれ謀ったなピエットめ
誰それ
 おかーさんの友達
ふぅん
 変な人なの、おかーさんとはまた違うとこが
貴女のおかーさんも変だね
 うん、変だよ、主に頭
目、開けたまま寝てるし
 おとーさんもすごいんだよ
そーなのかー
 貴女は食べられる人類?
いいえ、できそこないです
 わーい、仲間だー
貴女もできそこないなの?
 おういえす
自分でできそこないとか言っちゃだめだって言われなかった?
 おまえもなー
なにそれ
 突っ込みです、えっへん


「妹が貴女の娘と訳の分からない会話しているのですが…ああ、寝てらっしゃるのね、目を開けたままだなんて器用ですね」

568東風谷早苗の今日の絶対許早苗:2012/04/22(日) 22:54:14 ID:3risYo.M0
 今日は「天子とブロントさんのモンハン生活」という動画を見て一日を過ごしてしまいました。
 モンスターハンターおもしろそうですね。
 この動画を見て心からそう思いました。
 創作動画とは思えないくらい感動的なお話で、特に終盤の盛り上がりではセルフエコノミーで視界がぼやけるというアクシデントも発生です。
 ちなみに動画の中の私はスラックス最強説を唱えながら主人公の座を獲得しようとする2P扱いですが、ちょっとあんまりじゃないですかねこれ。
 それはともかく、涙を拭いながら最終回前半を見終えて、後半を開いたんですよ。
 そうしたら、

「やっと終わったのかよ。はいはい乙乙」

 感動的なお話の中に冷めたコメント混ぜられたら興醒めしちゃうでしょう!!
 台無しじゃないですか!!
 流れてた涙がひっこんじゃいましたよ!!
 
 絶対に許しませんよ、絶対に!

569東風谷早苗の今日の絶対許早苗:2012/04/25(水) 00:17:55 ID:HxUkoyEY0
 今日も一日おつかれさまでした、「私は2Pじゃありません」早苗です。
 一時期は毎日のようにログインしていたネトゲも、今はまったくプレイしていません。
 というのも、私を誘ってくださった一番仲の良かった方がインしなくなってしまいまして。
 理由も言わずに突然音沙汰がなくなったので、最初の頃はひょっとして体を壊したのかな、それともネット環境が不調で繋げなくなったのかな、と思っていたのですが。
 それが1ヶ月も続けば、やっぱり飽きたのかな、という考えにも至りました。

 数日前、その方から久しぶりに連絡がありました。
 今はまったく別のネトゲを楽しくプレイしているそうです。
 
 …………

 ええ、わかってましたよ!! わかってましたとも!!
 けどそうならそうと、もっと早く言ってくださいよ!!
 1ヶ月も忠犬ハチ公みたいに待ち続けた私は、完全に可哀想な子じゃないですか!!
 怒り半分、呆れ半分でインしなくなった理由を聞いたら、「インする人が減ってつまらなくなったから」って、それは取り残された私の台詞ですよ!!

 絶対に許しませんよ、絶対に!

570心太:2012/04/30(月) 20:34:44 ID:Msuf7ve60
 ある日のことです。
 その日の夕食には、心太が添え物として並んでいました。
 いえ、某るろうに剣客の子供の頃の名前ではないです。『ところてん』です。
 つるつるっとしていて、三杯酢をかけて食べるとすごく美味しいあれのことです。
 とにかくあれを食べている時に、
「…………東風谷さん」
 ふいに西園さんがこちらを向いてぽつりと声をかけてきました。
 食事中に彼女が突然話しかけてくるなんてそうそうないので、私はちょっとびっくりしながら「どうかしました、西園さん?」と問いかけました。
 ちなみに彼女の左隣では地獄烏がゆでたまごを両手で掴んでがじがじと噛んでいます。すごく満ち足りた顔をしながら食べているのでおそらくご満悦なんだと思いますが、あれって共食いにはならないんでしょうか。
 ともかく、問いかけられた西園さんはしばらくじっとこちらを見つめてから、
「……心太を凍らせたことは、おありですか?」
 そう言いました。
 私は首を傾げました。質問の内容に、というより、このタイミングで何故それを質問してくるのかがわかりませんでした。
 ちなみに彼女の右隣では女僧侶が「らめええええ、こんな太いの入れたらこわれりゅうううう!!」と無表情で叫びながらバナナをくわえています。あ、顔を真っ赤にした天人に緋想の剣で殴られました。
「ありま、せんけど」
 私の答えに、またしばらく西園さんはじっとこちらを見たまま黙り込みました。
 ちなみに私の左隣では黒髪のちっちゃな女の子が手で心太を掴もうとして力を入れすぎて握りつぶしています。「おー」と言いながら目をまんまるにしていますが、心太もはやぐちゃぐちゃでほとんど原型を留めていません。
「心太って、ほとんど水分で出来ていますよね」
 またぽつりと、西園さんが語り始めます。
「ええ」
「だから、凍らせてしまうと心太を構成する水分も凍ってしまうんです」
「そう……でしょうね」
「水分が凍ると、どうなりますか?」
「……膨張しますね」
「そう、膨張するんです」
 つ、と冷や汗が流れました。あれ、なんだろうこの汗。
「膨張した水分は、心太の組織を破壊してしまいます。そのため、一度凍らせた後に解凍しても、心太はもう元には戻りません」
「………………」
「人間に例えると、内臓が一気に膨張して破裂したような感じでしょうか」
 かたんっ、とどこかで箸が落ちる音がしました。
 見ると、テーブルの一番端にいた機械好きの少女が顔を真っ青にして心太を凝視しています。
「解凍した後の心太はぺらぺらで、中の水分はすべて流れ落ち、わずかに残った組織の残骸が死に絶えたミミズのように……」
 そこまで言ってから、
「心太、美味しいですね」
 つるつる、と西園さんが心太を口に含みました。


 結局、その日の夕食では心太が大量に余ってしまいました。

571名無しさん:2012/06/13(水) 16:49:59 ID:5mna.40QO
(ああいけない、やってしまった)
猟奇殺人現場と化した路地を一望し、深く息を付く。
敵をなぶり殺すのは悪い癖だ。悪いことにここは人が居ない辺境の惑星ではない。
辺りに立ち込める血の臭いが表の通りに流れるのにはそう時間はかからないだろう。
凶器は鋭利な刃物、現場に残った靴のサイズは…と様々な分析が成されるも、犯人に結び付くものは発見出来ず、迷宮入り。
唯一の目撃者も消えてしまえば、彼女にとって不利な物はなくなる。理想的だ。

(それじゃあさっさとご退場願いましょうかね)

そう思い、振り返りかけたヤラの視界に鋭利な刃物が映る。
「 」
言葉を発する間もなく、目を抉ろうとするそれをなんとか弾き飛ばし、後ろへと距離を開ける。
舌打ちをしながら、自分の背後を取っていた人物を見つめる。
深くかぶった帽子に体のラインを隠すような大きめのコート、男とも女とも取れる曖昧な身長。
(よもや人間如きに背後を取られるとは!)
ぎりりと奥歯を噛みながら、怒りに顔を歪ませる。
相手はそんな彼女の様子を気にした様子もなく、コートの袖からナイフを覗かせている。
(次に近付いた時に武器を奪って殺してやる!)
次に来るであろう、攻撃に備えて身構えた、その時だった。

「か…は…!?」

口から空気の漏れる音と共に熱い物が上がってくる。背後の壁から自分を貫いた黒い槍を信じられない眼差しで見下ろし、相手に視線を向ける。
相手の口許に浮かんだ笑みに小さく毒づきながら、ヤラは意識を手放した。

572名無しさん:2012/08/21(火) 18:06:49 ID:Y8ST66t.0
背中に走った鈍い痛みにヤラは思わず呻き声を上げた。
サイレンや人々のざわめきが嫌に大きく聞こえる。辺りも驚くほど暗い。
「なんだ、生きてたのか半人前」
低い男の声に慌てて体を起こしかけて、体を突き抜ける痛みにうめき声を上げ、再び地面に倒れ伏した。
「こっぴどくやられたな」
まるでからかうかのような声色をヤラに投げかけながら、男は路地の方へと視線を戻した。
なんとか上半身を起こして視線を向けると、これでもかと集まった警官と鑑識とおぼしき者達が
せわしなく路地を行き来する様がそこにあった。
「お前が解体した死体は欠損が酷くない場所を繋げておいた。
相変わらず解体が好きなようだな、いっそ肉屋にでもなったらどうだ?」
どこか馬鹿にするような様子に余計な事をするなと鋭い視線を投げつけるも、男はくくっと笑うだけだった。
この男が脅しに怯む事も相手にする事もないのはヤラ自身が十分承知していた。
「…何も出来なかった」
相手に一太刀も浴びせる事がないまま、無残に負けた。
この男がこの場に現れなかったら、彼女は間違いなく命を落としていただろう。
「次は殺す」
怒りと苛立ちに顔を歪めるヤラに気付いたのか、男がつまらなさそうに鼻を鳴らした。
「諦めろ、お前には無理だ」
「必ず、殺してやる」
全く聞くそぶりを見せない彼女に男は呆れたように頭を振り、路地の闇へと姿を消していった。
「必ず、必ず…殺してやる」
路地の向こうでは、相変わらず大勢の野次馬で溢れかえっていた。


人混みに紛れながら、黄色いテープで仕切られた路地へ目をやる。
相変わらず大勢の警官―鑑識も居るだろうが、区別が付かなかった―達が犯人逮捕のために情報を探す姿が見えた。
(見つかる訳がない)
徒労に終わるであろう彼らの苦労を胸中で嘲る。
犯人はそもそも人ではない…もっとも彼らはそうだと知らない訳だが、
仮に何か証拠が挙がるとしてもそれらが彼らを犯人へと導く事はないだろう。
まるで遠い昔に狂気に駆られた人間が紡ぎ出したおとぎ話が現実となった様な、そんな気味の悪い事件として
人々の記憶から姿を消す事になるだろう。
(実際オカルト系団体が彼らの奉る神の仕業だとか騒いでいるらしいからね)
街頭で神による粛正が近いと語る男の横を通り過ぎながら、当てもなく歩みを進める。
「お前らが語る神なんて、いやしない」
ぽつりとこぼれ落ちた呟きは雑踏に紛れ、誰の耳にも届くことはなかった。

573ある兵士の話:2012/08/21(火) 19:18:53 ID:Y8ST66t.0
その時に俺さ、他のグループの連中に因縁付けられて、ぼこられてたんだわ。
…若気の至りって奴さ、あの頃は周りに不満だらけだったんだ。
で、そいつを俺たちが変えてやろうって思ってたんだけど、現実は甘くはなかったんだよな。
んで、そこで颯爽と来たのが我らが切り裂き公様って訳さ。
けど、あんときゃおっそろしく機嫌悪くて、「あ、話しかけたら首が飛ぶな」って具合にすげぇ顔してたんだよね。
ま、おかげであの時の俺はカツアゲされずに済んだし、何かよく分からないうちに力貸してくれる事になったんだわ。
今でも不思議に思うよ、あんときどうしてあの人があんなちんけなバーに来たのかさ

574雪中1:2012/09/18(火) 23:44:02 ID:pS0e5Gp20
季節外れの銀色の雪に覆われた大地はまるで生命の訪れを永遠に拒むようであった。

そんな場所とはまるで無縁であるような女性が一人、
そのやや硬い雪の中を足を取られぬように足跡を残しながら歩いて行く。
脚は膝ほどの深さまで沈み、歩くだけでも相当な重労働だ。
言うまでも無いが彼女は観光目的、避暑地目当てにここまで来たのではない。
過去の争いのけじめ(とはいっても彼女自身のけじめではないが)をつけに来たようなものである。
彼女の名前はフィオリーナ・ジェルミ。国連軍の特殊部隊の一員である。
当初はこんなに雪深いところまで来るつもりはなかったのだが、
反乱軍に誘われるようにして本来人の訪れるはずの無いここまで来てしまった。
引き返すにしても来る時につり橋を自らのミスで壊してしまい、自力で戻れなくなってしまったのである。

空は曇り、さらに雪が降り積もりそうな様相を呈している。
一歩一歩前に進むが周りの景色は雪一色、
目印になるようなものは何も無く全く進んでいる感じはしない。
その間にも着こんできた防寒着などまるで意味がないように体温を取られていく。
メガネは数分で曇り数歩歩くごとに吹かねば前がまともに見えない。
「全く、あれほど叫ばれていた温暖化とは一体何だったのか」、
フィオは出撃前まで見ていたドキュメンタリー番組の内容を思い出しながら一歩ずつ前へ進んでいく。
先ほど救難信号は出したのだが、ともすると吹雪さえ吹きかねない土地である。
救助は天候が回復するのは明日以降なのは確実、
最悪の場合この先吹雪が続き行方不明扱いにされてまう恐れさえあった。

しかしこれ以上歩いてもただ無駄に体力を消耗するだけ、
そう考えた彼女はもしもの時にと渡された携帯用スコップをリュックサックの中から取り出し、
日本人の女性軍曹、相川留美に教えてもらったかまくらという雪窟を作ることにした。
この地において雪窟を作るのはなんら難しいことではなかった。
入り口だけ階段状に深く掘り、あとはそこから中をかきだすようにして掘るだけ。
これで簡単に雪窟ができてしまうのだから。
雪窟の中は外にいるよりはまだいい程度の温度ではあったが、
フィオにはこれが今までの苦行よりははるかにマシに思え、天国に思えた。
リュックから固形燃料を取りだして使い、雪窟を溶かさぬ程度の弱い火で雪を溶かし温かいお湯を飲む。
体が温かくなったフィオは今までの過労からか、猛烈な睡魔に襲われる。
フィオは襲ってくる睡魔に逆らうことはせず、そのまま寝袋に入って明日まで寝てしまうことにした。

575汝は反逆者なりや?:2012/12/23(日) 12:00:40 ID:58bpE.IY0
「プレーシデンテ!早朝からすいません!いいニュースと悪いニュースが一つずつ!
まずは悪いニュースから、КГБとCIAから指導を受けた政権転覆を目論む反逆者があの小さな街の住人の中にいたことです!
そして昨日の夜にその反逆者がその町の人間を一人殺してしまったようです!これは非常にゆゆしき事態ですプレシデンテ!
そして次にいいニュースを!反逆者が逃げ込んだ街は小規模で見つけるのは一か月もあれば容易だということです!」
朝からひょうきんな男の秘書の声が島の中心に位置する総統府の中にこだまする。
軍服を着てひげをたっぷりと蓄えた、いかついサングラスをかけたプレシデンテはこう命令した。
「なら、炙り出してやろうじゃないか 秘密警察に命じてその街の住人が選んだ『他称反逆者』を一日一人ずつ殺すんだ そうすれば…」
プレシデンテの『粋な提案』に秘書は笑いながら「それはいいアイディアです!見世物にもなりますしね!早速実行いたしましょう!」
そうしてとてつもなく酷く、くだらない反逆者炙り出し作戦が始まるのであった。

街の住人は、数人のただの農家の人間を除けばとても独特で面白い職―というよりは、趣味?―に就いていた。
まずはこの街に反逆者がいると密告した秘密警察の人間―公衆電話からの連絡だったので誰かは知らないが―、
次に預言者気取り、医者気取りのまじない師―これも誰かは知らない―、
そしてマタギをやって暮らしている人間―無論、誰かは知らないし知っているわけがない―、
さらには自分を救世主だと信じて疑わない狂信者―だから誰が誰だかわからないんだってば!―、
最後に反逆者2人―わかったら苦労はしない―である。

派遣された秘密警察の男が集まった街の住人の前でこう言い放った。
「夕暮れまでに反逆者と思しき人物を一人ここまで連れてこい そいつを殺す」
こうして街の住人達も反逆者探しに躍起になるのだが…さあ、誰が反逆者かな?

576新任大使狂想曲:2013/08/02(金) 00:19:11 ID:dsbRSvqI0
グラディウス格納庫横の擬人化できるビックバイパー達の住まう擬人化寮は新たな任務とその人選により混乱に陥っていた。
そしてその彼女達を混乱に突き落とした任務と人選は以下のようなものであった。
『長らく空席になっていたグラディウスの駐バクテリアン大使であるが、新任大使の選定が決まったので以下を報告す
 エルミニア・バイパーを新任大使とし、ミルシェ・バイパー、ルジェナ・バイパーの両名を新任大使の補佐とする。』
外交に詳しくない彼女達でも今までの歴史や他の惑星の事象から大使が非常に大きな意味を持つことぐらいは知っていたのである。
ゆえに前皇帝ラーズ72世が暫くの大使代理となっていたときは皆安心していたのだが、
そのラーズ72世が現皇帝のラーズ73世と結託し新任大使を決めたのである。
これを聞いた時、政治を知らぬ彼女ら擬人化ビックバイパー達は恐れおののいた。
ラーズ72世は前任大使で現バクテリアン皇帝ファノリオスの皇后の一人となっているセイディー・バイパーを任命した時、
『今回から大使は擬人化ビックバイパーが歴任することになる』と明言してしまっていたからである。
つまり今回の新任大使もビックバイパーから選ばれるということはもはや確定であり、それがさらに彼女らを不安にさせていた。
新任大使の発表後は言わずもがなといった状態で、選ばれた3人はまさに絶望の淵に立たされているといった感じであった。
それに加えて今回選ばれたエルミニアらをさらに絶望の淵にたたき落としたのは謎の新要職の新設であった。
新設された要職は、まずは文字通り大使について外交の補佐を担当する外交補佐官。
これには外交経験も多く擬人化ビックバイパーの長として彼女らに気軽にアドバイスもできるビックバイパー現族長、
アストリッド・バイパーが着任し、これはバクテリアンへ派遣されるエルミニアらを喜ばせた。
次にビーコンMk.2の建造から始まったグラディウス、バクテリアン両国の技術交流と、
その技術発展のための懸け橋となるため、技術面での外交を担当する要職が設立された。
それが科学技術庁出張官であったが、これには彼女らをバクテリアン送りにした張本人ラーズ72世が着任。
これにはアストリッドの現地外交補佐官着任でぬか喜びしていた彼女らを不安にさせた。
さらにもう一つ別に新設された要職によって彼女らの心の中での今回の事態はより複雑を極めて行った。
それがグラディウスないしその友好国にあるバクテリアンが有事の際、外交の席に着く特別時軍事顧問の存在であった。
これには現バクテリアン皇帝であるファノリオス、フォイヴォス兄弟とも親戚として繋がりの深い、
現グラディウス陸軍元帥ブラン・ホルテンが兼任するという形で着任に至った。
これはただ、新たな親戚にあまり会えないブラン・ホルテン元帥のために作られた、いわば名誉職に近い物であった。
しかし表立って名誉職というわけにもいかず、またビックバイパー達にもその事実は隠されていたために、
エルミニアらが得意としている軍事にも政治的な対応しなければならなくなったということを嫌でも感じさせ
それがエルミニアらの心中を極めて複雑で難解なものにしていた。
かくしてエルミニアらは、バクテリアン行きのシャトルの中で大使就任の際の文言を考えながら、
これから始まるであろう艱難辛苦に一優するばかりであった。

577名無しさん:2013/10/18(金) 22:59:29 ID:2gkjndHQO
ヤラ:弁解を聞こうか
…前のPCに入ってました、ラストまで書けてたんだよ
ヤラ:なら何故投稿してないのかしら?ん〜?
は、ひっ、あの、今年は暑かったじゃん?
ヤラ:暑かったねぇ、あんまり暑かったからいつもより仕事がとーっても捗ったよ
…それただの八つ当たりじゃ
ヤラ:あ゛あ゛っ?
すいません!PCご臨終で全部消し飛びました!バックアップも忘れてました!
ヤラ:…素直でよろしい、でもちょっとムカついたんであんたシメるわ
え、ちょ、話がちぎゃあああ

578もう1つのFirst Order 1/2:2017/05/27(土) 20:01:53 ID:nA56LhoE0
遠い昔、遥か彼方の銀河系で……

「エドゥアール皇帝誕生!帝国は新体制へ!」
漆黒の闇と粒ほどの光が浮かぶ宇宙空間を音もなく、流線型をした銀色のクルーザーが進んでいく。
その中で一人の老人がホロネットのニュースを眺めていた。最も、中身よりはジャーナリストに目が行っているようであるが。

「統合軍の台頭の責任を取る形で退位した皇帝に代わってエドゥアール副帝が即位したのだ。軍に求心力がある強力なリーダーなのだ。
ちなみに私のおじさんでもあるのだー」

長く美しい緑色の髪に赤と青のオッドアイを双眸に宿した長身の女性がその整った容姿に似合わぬ独特の口調で新皇帝の特徴と今後の方針を
解説、あるいは予想していた。その仕草の1つ1つに彼は温かい視線とうなずきを送っている。
ふと、部屋のエアロックが外れ、金髪長身の女性が入ってきた。亜人だろうか、その耳は顔の横ではなく頭の上に付いていた。

「騒動の渦中の人物がここでのんびりしているだなんて、視聴者の何人が知っているんだろうね?」
「良いだろう、孫娘の成長を見るくらい」

女性がため息を漏らし、視線を下へと向ける。
老人はちらりと視線を送っただけで、またホロネットのキャスターに見入っていた。

キャスターはニトラ。若いながらもバクテリアン帝国のジャーナリストとして活躍し、看板番組も持つ有名人である。
バクテリアン帝国副帝の姫として生まれながら、行政や軍の怠慢に容赦なくメスを入れる筋金入りのリベラリストである。
老人は退位した銀河帝国皇帝・ファーマス1世その人である。彼はある失態から失脚し、息子に帝位を譲り渡した。
金髪の女性は八雲 藍。皇帝の側室の一人で、その正体は別の銀河系から来た妖怪・九尾の狐である。

「アテが外れたよ、九尾の狐に魅入られながら失脚するなんて」
「外れた方が市民達の為じゃないかね」
「まあ、私が国を傾けるまでもなく傾いたけれどね」
「それは耳が痛いな」

銀河帝国はシーヴ1世パルパティーンにより成立し、銀河大戦とファーマス1世の簒奪、ユージャン=ヴォング大戦という戦争と政争の歴史を刻みつつも
ホイルス銀河系を代表する政府及び国家として勢威を増していた。軍事力で圧制を敷いていた初代皇帝と違い、軍人上がりの先代皇帝は新共和国やチス・アセンダンシー、
バクリアン帝国と協力し、緩やかな連帯の下に銀河を治めていた。
パルパティーン皇帝のやり方は野蛮であったかもしれない。しかし、敵と味方をはっきりさせることができた。
ファーマス皇帝のやり方は理想的であったが、ついていけない者達を内部の敵へと変質させた。それこそが彼の政治的キャリアにとどめを刺したのである。

統合軍とは、各国の軍隊が集まって組織された集団である。
バクテリアン帝国が治めるテスラ系銀河を脅かす、シェブール王国に対し結成された。
しかし、3つ問題があった。1つはそれぞれの指揮系統から離脱して集合したものであるということ。
もう1つはその最高司令官にファーマス皇帝の側室であるシュヴェルトライテが就いたということであった。
そして最後の問題は、シェブール王国が降伏した後その大半を不法に占拠し、独立した勢力となったことであった。

579もう1つのFirst Order 2/2:2017/05/27(土) 20:02:38 ID:nA56LhoE0
シュヴェルトライテは平和の恩恵よりも戦場の狂気に身を委ねることを元々好んでいた人物である。
先代皇帝がパルパティーン死後の混乱を収め、未知の脅威と戦っていた間は重宝された。
しかし、先に見ていたものがお互いに違うことに気付かなかった、あるいは気付かないふりをしていたのだった。
先代皇帝はもたらされる平和によって、旧共和国の最盛期のような自由で豊かな社会を望んだ。
シュヴェルトライテは平和は次の戦争の為の準備期間程度にしか考えていなかった。

シュヴェルトライテは不満を感じていた。あまりにも危機感が無さすぎる、と。
皇帝であり、夫でもある彼は腐敗しきった取り巻き達の言いなりになり、色欲に溺れている。
シュヴェルトライテは飢えを感じていた。あまりにもこの世界は退屈である、と。
戦意を掻き立てる炎、闘争心を煽る硝煙の匂い、緊張感と高揚感をもたらす兵士達の怒声が彼女には必要であった。
だが、彼女を取り巻く世界はあまりにも静かで、清潔で、安全で……生の実感を認識することは困難であった。

「こんな世界はいらない」

戦いを取り上げられた彼女は自分を守る為に自ら戦いの幕を上げた。
今までの児戯に等しい突発的なものではなく、永遠に戦いを楽しむ為に。
願わくはその最中で、戦塵に塗れて斃れることができるようにと願って。

「一体、何が不満なのか」

皇帝も居並ぶ高官達も首をかしげていた。
半世紀に渡って皆が求めていたものがようやく手に入ったのに。
三度に渡る戦争で銀河系は荒廃し切ったが、ユージャン=ヴォングの生命工学とどんなところでも開拓するデス達の組み合わせは、
難民と化した人々に新しい故郷を与え、停滞と閉塞感に悩まされていた生き残った人々に希望と未来を与えた。
再び、銀河系が活力に満ちた時代がやってきたのである。その矢先に皇后の一人が行動を起こした。

軍人は戦いに生きることもあるかもしれない生き方である。しかしながら、必ずしも好戦的ではない。
皇帝は彼が帝位を簒奪する契機となった敗戦を経験していただけになおさらそうであった。
戦わずに済むのであればそうしたい、というのが彼の生き方であり、指導者となっていく彼の子息達にもそう教えていた。
願わくば次の世代は戦争を、そして荒廃を知らない人々になって欲しいと願って。

「皇帝は老いた」

ダーラ大提督とファズマ将軍をはじめとする人々は考えが違った。
パルパティーンの帝国の最盛期を理想とする彼女達は今の皇帝と取り巻き達は柔弱であり、それは老いによるものと決めてかかっていた。
最盛期の頃とほぼ指導者達は変わっていないにもかかわらず、帝国は大きくそのあり方を変えていた。敵であった反乱同盟軍のように。
元老院を復活させ、禁じていた宗教を復活させ、再び銀行家や大企業が経済を牛耳るようになっていた。
軍人は帝国のヒエラルキーの中で一番高い位置を占めていた。しかし、今は宮廷もその外も政治家や科学者、銀行家が幅を利かせていた。
皇帝は神に赦しを求め、科学者達は政治顧問として好き勝手な政治を行い、政治家達は総督達に自らの決定を追認させ、官僚達は民間とパーティに明け暮れていた。
「唯一の法、唯一の思想が銀河を一つにする……」この言葉で幕を開けた帝国は完全に変貌してしまっていた。

「ならば新しい帝国をシュヴェルトライテ陛下の下で」

彼女達は各国の戦友達を同志にし始めた。自分達が選ばれた階級であり、世界を導く存在だと信じて。

シェブール動乱が国王・フェリペの退位をもって幕が引かれた数年後、ファーマス皇帝を退位に追い込んだ統合軍戦争が幕を開ける。
餓えた狼の群れが満ち足りた羊達を恐怖に陥れようとしていた……。
父から衣鉢を受け継いだ3人の皇帝、退位に追い込まれた皇帝、市民を守ると誓いを立てていた人々、自分達のコミュニティを守る為に立ち上がる人々……。
もう1つのSTAR WARSはまだ終わらない。

580楽園・エルルーン1138 1/2:2017/06/06(火) 16:37:18 ID:dADaGbOE0
―――エルルーン1138 未知領域 ホイルス銀河


「ふぬっ!」

安全用ヘルメットにツナギを着た少女がその小さな身体に似合わぬ大きな斧を振り下ろすと、繊維が千切れていく音を立てて
巨木がゆっくりと倒れて行く。完全にそれが地面に横たわるとたちまち似たような恰好をした少女達が現れて斧や鋸で解体し、
装軌式のトラックに積み込んで行く。彼女達の目の前には鬱蒼とした森林が広がり、その後ろには切り株が点在し、
遠くでは切り株を掘り起こし、その後をトラクターが耕して農場へと変えて行く風景があった。

エルルーン1138はつい最近デスの探検家によって発見された惑星であるが、元々何もない荒涼とした惑星であった。
しかし、その存在が知れ渡るとすぐさま彼女達はユージャン=ヴォングの生命工学を利用し、テラフォーミングを行った。
数か月で惑星は大気を形成し、主だった大陸は森林に埋もれた。そして彼女達は惑星に降り立ち開拓を開始したのである。


―――デス・タウン エルルーン1138


夜の帳が降りると、彼女達は自分達の集落へと戻る。入植当初は掘っ立て小屋しかなかった集落も不断の努力により、
様々な施設が立ち並び、「田舎町」と呼べる程度には発展していた。
集落の中心にはコンビニがあり、カンティーナや宇宙港、ホロネットの送受施設が建設され、掘っ立て小屋も徐々に
アパートへと変わり始めていた。
行き交う人々もデス達だけではなく、人間やウーキー、スクイブ、チスといったエイリアンも街の住民となりつつあった。
ここ数週間のニュースと言えば、ニモイディアンの銀行家が入植したことだろう。強欲で抜け目のない彼らが来たということは、
銀河系の基準から言って、有望な惑星であると言えた。


「うぬー、今日もいい仕事したのだー。マスター、いつものー」
「はーい」

そう言ってカンティーナの席に着いたのは美しい緑色の髪をショートボブにした長身の成体デスであった。
彼女の名前はアビガイーレ、製造されてからバクテリアン宇宙軍の空母デスのOSとして4年間勤務した後除隊し、
大学に6年間通って通信工学と法学及びパントラン文学を学び、ギリギリの成績で卒業した。
卒業後のプランはデスらしく何も考えていなかったが、友人がエルルーン1138に入植していたため、後を追って住み着く。

その頃、エルルーン1138は食糧に関して自給自足ができるようになり、社会的分業が見られる時期となった。
デス達は「タウン」という行政単位を非常に重要視する。銀河政治にはごく僅かな例外を除いて関心を示さないが、
自分達の身の回りについては自治的な傾向を強く示す。そしてタウン行政に必要な役職を任命し始めたのであった。
すなわち、町長、判事、保安官、民兵隊長、郵便局長である。

エルルーン1138には当時200人のデスと48人のウーキーが入植していたが、大学を出ていたのは3人のデスと10人のウーキーだけであった。
そして、郵便事業に関係のありそうな学位を持っていたのはアビガイーレだけであった。彼女はなんとなく引っ越した惑星で突然重要なポストについたのである。

人口300人に満たない惑星における郵便局長の仕事はなかなか多忙である。
古代から連綿と続くやり方―――フリムジに直筆でしたためた手紙を回収して、100パーセク離れた帝国領のはずれの郵便局まで運び、
反対側に70パーセク離れた共和国領のはずれの郵便局まで運ぶこともあれば、ホロネット通信施設の維持管理も行う。
今日もホロネット送受機の不具合を修理してきたところであり、このカンティーナのテレビで流されている野球のメタリオン・シリーズも彼女の働きにより
始球式に間に合ったのである。

「できたのだー」
「わーい」

マスターが頭に料理を載せて運び、飲み物を置いた後に湯気の立ち上るジェノベーゼとソーセージを並べる。
アビガイーレは毎晩、カンティーナでブリシュト・ジュースと共にこれを楽しんでいた。
そしてこれは全てこの惑星の大地で収穫されたものであった。

581楽園・エルルーン1138 2/2:2017/06/06(火) 16:37:51 ID:dADaGbOE0
「やあ、局長」
「むぬ?ぬー!」

口いっぱいにパスタを頬張っている彼女に隣に腰かけてきたエイリアンが挨拶する。
青い肌に燃え上がるような赤い瞳を持った男はエンジニアのアルテンシナイであった。
閉鎖的なことで知られるチス達だが、何故かデスの入植地ではよく見かけられる。チス・アセンダンシーが彼女らを注意深く監視しているのか、
もっと友好的な理由かは定かではないが、デス一族と同盟を組んでいるとされるエイリアンのリストの筆頭に来る存在である。
飲み込めないままアビガイーレはルテンスに挨拶を返す。彼女はシステム的な不具合に対応することはできるが、メカニカルな不具合は彼に頼る外無い。
彼はチス・アセンダンシーにおいて最高の機械工学を学んだ上で外の世界へと旅立ち、ここにたどり着いたのであった。

「この前のケーブルの件だが、0.9×2Pの規格ではもう古いと思う。他のは手に入らないのかな?」
「それは私も思うんだけどねー、ヘンキョーじゃモノがあるだけありがたいのだー」
「それはそうなのだが、セブリ高地の冬季における雪害に耐え切れないぞ」
「まー、ここがもーちょい発展したらコマース・ギルドやヴァリー様のボーエキセンダンが立ち寄るのだ。そしたら色々買えるのだ、おでんとか」
「君は結局そこなのだな」
「うむ!デスのソウル・フードなのだ!」

チスが肩をすくめる一方で、目を閉じて右手を口元にあてて宙を仰ぐデス。最後に屋台のおでんをつまんだのはいつのことだっただろうか。
最近できたコンビニで調達は容易になったが、それまでは祖国から大事に運んできた冷凍食品のおでんが頼りだっただけにデスの彼女にとっては
この惑星の生活は過酷なものであった。

「ところで今度入植してた集落への延線の話だが―――」

彼が新しく話題を切り開こうとして目の前が暗転した。次に目を覚ましたのは焼け焦げた臭いの中であり、煤だらけの顔をしたアビガイーレの今にも
泣き出しそうな顔があった。そして全身に痛みがある。

「よ、よかったのだー!」
「い、一体これは……?」

はっきりしない視界の中でまず確認したのは自分の身体だった。あちこち切ったり打ったりして出血及び内出血があるが、致命傷では無いように思われた。
次に見えたものは先程まで居たカンティーナの無残な瓦礫の山であった。マスターが料理中にメタリオン・シリーズら夢中になりすぎて爆発事故を起こしたのだろうか。
最後に見えたのは装甲ブーツを履いた兵士であった。

「我々は統合軍・第20軍団の先遣隊である、私は第21戦闘団長にしてこの地区占領行政管理者のクルッツェン大佐だ。現在、この惑星は統合軍の支配下にある。
喜びたまえ、君達は新世界創成の労働部門における尖兵としての役割と名誉を与えられたのだ」

装甲ブーツを履き、全身をグレーのアーマーで覆った兵士達の奥で装甲車輌から身を乗り出した司令官が演説をしている。
広場に住民が集められているようだが、全てでは無いようだ。破壊された家の下から助けを求める声が聞こえたり、遠くの方で悲鳴や銃声が聞こえていた。
何が起きたかを全て知ることは難しいが、市民達は1つのことを共有していた。

楽園は失われたのだと。


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