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持ち帰ったキャラで雑談 その二

566切り裂き公、街に立つ:2011/04/22(金) 14:21:48 ID:VJLRBwS60
ガタン、と音を立てて停止した鉄の車が駅の中へ人々を吐いていく。
足早に流れていく人の中に彼女はいた。
若い女だった。腰まで伸びた黒髪を背中に流し、きれいに整った顔立ちの彼女は至極のんびりとした歩調で足を進めていた。
迷惑そうに彼女を避けていく他人の顔などどこ吹く風といった具合に。
彼らのうちで果たして知るものは居るのだろうか。彼女がこの星系を統べる皇帝の娘である事を。
辺境の地で切り裂き公と呼ばれ、恐れられるヤラ=ピエット、その人である事を。

白昼堂々と人を殺したにも関わらず、未だ身元も顔すらも割れていない殺人鬼が居る。
そんな話を耳にしたのはどこであっただろうか?
駐留する軍関係者であるとも、流れの暗殺者だとも囁かれるそれの話に妙な興味を覚えた彼女は準備もそこそこに
住み慣れた家をいつものように飛び出し―義母の小言を背に受けながら、遠く離れたこの地へ降り立った。

(しかし、ほんとに居るのかね、私以外にそんな奴)
人混みの中でさえ殺して見せたその腕前もさることながら、大勢の他人の目が合ったにも関わらず姿をくらませた芸当は賞賛に値する。
人間であるならば、だが。
…最も町に流れる噂など大体は余計な尾ひれが付いている。もしかしなくとも噂のいくつかは誇張でしかない事が多い。
けれどそれらを事実と照らし合わせてから初めてようやく事の真相にたどり着く…面倒な作業だが、楽しみのためなら多少の労力は惜しまない。
(まるで恋する乙女ね)
居るかも分からない相手に恋い焦がれ、その姿を求めて彷徨う自身の姿は彼女を知る者にはさぞかし奇妙だろう。
それでも―ヤラ自身が半信半疑であるにもかかわらず―妙な予感があった。
この街で必ず会える、と。

そうしてしばらく辺りを歩き回り、出口から差し込む夕日に目を細める。
人の往来が絶えない通りは見た限りでは抗争とは無縁の場所に思えたが、武装した警官らしき者達がそこかしこに立っており、
鋭い視線を辺りに投げかけていた。
およそ不釣り合いなその光景を横目に流しながら、鈍色の建物の間へと足を進める。

まずはどこかに宿を探そう。点り始めた煌びやかな広告の光に目を細めながら、夜の街を行く。
抗争が起きるまで、ひいては例の殺人鬼が現れるのを待つための拠点にお誂え向きな、人目に付かない場所に。
酒と煙草の匂いが辺りに濃くなり始めた頃、ようやく彼女の足が止まる。
「…おやまぁ」
道路を挟んだ向かい側で燃え上がる車から男が這い出していた。
息も絶え絶えといった具合の彼の周りを他の男達が取り囲み、手にした銃を彼の頭に突き付けた。
(おお、リボルバー。もうここらではとっくの昔に絶滅したと思ってたけど、いいね、まだ使ってるマニアが居たのね)
男の手の中に握られた古めかしい骨董品にヤラが若干の興奮を覚えていると、男達の視線が向けられる。
とても友好的とは言い難いそれに彼女の中で何かがざわめく。

―ああ、これは襲われる。この状況を見て大人しく帰される訳がない。だから、

男の一人が小型のブラスターを手に、ヤラの方へと歩みを進めてくる。
男は思いもよらないだろう。目の前の女が動けない理由が恐怖ではなく、獲物を待ち構えている為だということを。
男の仲間は知らないだろう。この後、自分達がどのような末路をたどるのかを。

―だから、これは

ヤラの眉間に銃口を向けた男の顔が僅かに歪む。

―正当防衛。

瞳を爛々と輝かせて笑う彼女に不信感を覚えていたであろう男が仲間の方へ振り返ろうとした。
…ふと、男の瞳が妙なものを映し出す。彼自身の、天地が逆さまになった体。
何故こんなものが、と言いたげな目を見開いたまま、鈍い音を立てて、首が道路をはねる。
その奇妙な音に男達が振り返り、変わり果てた仲間の姿に誰しもが動きを止める。
男の血を手にしたナイフから滴らせながら、呆然とする男達を吹き上がる赤い飛沫越しに見つめる。


さぁ、狩りの時間だ。


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