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持ち帰ったキャラで雑談 その二

236仰視編 ―神格佇む境内で・昼―:2007/12/09(日) 21:06:14
 その空間だけ、世界から切り離されていた。
 気配はなく。
 木々のこすれ合うわずかな音の中で、独り鳥居を通り過ぎる。
 紅葉も終わりその多くが地を黄金に染め上げる秋の名残りの、
 それでも木々に残る葉の隙間から零れ落ちる光線に、わずかに目が眩んだ。

 まずは左手。次に右手。左手に注ぎ口に含み、最後にもう一度左手。
 手水舎での作法は、冬の近いこの季節には感覚を痺れさせる。
 水の跳ねる音が心地いい。
 手水舎から境内まで歩く間に、財布の中から硬貨を取り出す。
 10円。これ以上の金額にすることも、以下にすることもない。
 高すぎると習慣性が薄らぐし、安すぎると参拝という行為自体まで安っぽくなってしまう。
 ちなみに定番の5円は使わない。御縁に興味はないからだ。
 冷水を浴びた手には、握りしめる硬貨の温度さえほんのり温かく感じられた。

 境内に、一歩。
 視界の先に佇む拝殿。そこに至るまでの真っ白な道。
 恐る恐る歩く。
 いつだってここでは畏怖を覚えずにはいられない。
 神が居る・居ない。神を信じる・信じない。
 そんなの些末事だ。些末だし、どうでもいい。
『参拝』という行為に、「神様にお願いする」なんて意味は微塵も込めていない。
 それでも、ここには確かな畏敬がある。
 そして、それだけでいい。

 最初に小さく会釈。それは魔術儀式における『聖別』に似ている。
 現実と夢の狭間にあって、その2つを切り分ける1つの儀式。
 腕の中でしっかり握りしめていた硬貨を放る。
 木造の賽銭箱にあたる鈍い音。続いて、金属同士がぶつかる鋭い音。
 ゆっくりと目を瞑る。時と場所が違えば、それは寵愛をねだる動作と何ら変わりない。
 そして、最も基本的かつ有名な作法――二拝二拍一拝。
 心の中で念じる。

 ――どうか、平穏を。

 それは願い事『ではない』。
 あえて陳腐な言葉で表現するなら、『誓い』だろうか。
 この一連の流れの中に、自分の意識を刻み込む。
 静謐で彩られた幻想世界を。もはや習慣と言い換えてもいいこの儀式を。
 いつか心の中で思い返す度に、思い出せる。
 今の自分が何を求めていたかを。
 もしも神様が存在するなら、何もしてくれなくていい。
 ただ、許してほしい。
 今この時、この場所で、こういった形で『願い』を歴史に刻みつける自分を。

 最後にもう一度会釈して、儀式は終わる。
 拝殿から振り返ると、ゆるやかな日差しの中に伸びる影が軽く踊った。
 これで穏やかな夢の時間も終わり。
 さぁ、現実に帰ろう。
 騒々しく、慌ただしく、それでもそこにしかない自分の居場所へ帰ろう。


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