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持ち帰ったキャラで雑談 その二

19対峙編       2/7:2007/05/22(火) 22:04:30
 リディアは、しばらく無言だった。
 身じろぎひとつせず、アーチェの存在を完璧に廃絶して、視線を蒼に向けていた。
 どれだけの時間が経っただろう。
「……そうだね。それはきっと、正しい」
 小さく頷いて、こちらを振り向く。
 アーチェは目を見開いた。
 リディアは、笑っていた。ひどく透明な笑顔で。
「けどね。あなたはとても重要な事を見落としてるよ、アーチェ」
 何故、そんな笑顔を浮かべて彼のことを語れるのか。
「私達は、確かに『彼』が作ったお話の登場人物に過ぎないのかもしれない。
『彼』が思いついた物語の上で踊らされているだけかもしれない。

 ――でも、それが何?

 前にアーチェ、言ったよね? 『私達はここにいる』って。
 現実とか夢とか、考えてもしょうがない。覚めない夢は現実と変わらない。
 何を悩むの? 何に腹を立てるの?
 生きてることに苛立っても、私達はここでしか存在出来ないのに」

「……それが」
 ややかすれた声で応える。潮風にあたっているせいだろうか、ひどく喉が渇いた。
「そう思うことがアイツのせいだとは、考えないわけ?
 アイツはあたし達の心さえ弄れる。いくらでも自由に動かせる。
 絶対に信用なんて出来ない。出来るわけない。そんなヤツなのよ?」
「………………」
「アンタはアイツの味方をさせられてんのよ、リディア」
 大きな波に水が逆巻き、わずかな音と共に砕けて呑まれる。
 リディアはアーチェから目を逸らしていた。何かをこらえるように。
 ――事実を認める心さえ、あたし達には存在しないのかな。
 そんなことを考える。
 アーチェはリディアの答えを待っていた。そして、それは長い空白の後に叶えられた。

「あなたは……少し頭を冷やした方がいいみたいだね」

 腹を立てているのかと思ったが、そうではなかった。
 リディアはやはり笑っていた。だが、その質はひどく悲しげなものへと変わっていた。
 道が違えたことを、アーチェは悟った。
 それもアイツが原因だ。リディアは『彼』の味方をするのが「役目」なのだから。

「王よ。意思通ずるなら、応えて」

 アーチェは抵抗しない。リディアが自分に怪我を負わせるはずがない。
 反撃することも可能だったが、矛先を彼女に向けても意味がなかった。
 この怒りは、然るべきところに向けられなければならない。
 ――考えてみなよ、アーチェ。あなたのその怒りは、どこから生まれてくるの?
 海面から爆発的に伸びてくる水の帯に呑まれる直前、そんな言葉を聞いた気がした。


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