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持ち帰ったキャラで雑談 その二

345感触・下:2008/06/15(日) 21:44:47
「……生憎だけど、殺される瞬間のことはよく覚えていないの」
 事実だ。
 そもそもここに来てからというもの、負の記憶はひどく曖昧だった。
 都合の悪いものは存在しない――なるほど、何とも居心地のいい夢ではないか。
「そう。それは幸いね」
 案の定彼女はさして気にとめた様子もなく、言葉を止めた。
 代わりに、今度はこちらが聞き返す。
「世界を思うままにするのは、どういう感触?」
「………………」
 彼女は、しばし無言だった。
 平和な世界から漏れ聞こえる嬌声が、私達を包む境界の外で空々しく響く。
 境界の内側は、夏が近づく世界を嘲笑うように凍りついているというのに。
「……何を勘違いしているのか知らないけれど」
 彼女の瞳は、世界の温度を否定する冷たさを宿していた。
「私は他者の理を代わるだけ。ただ、それだけよ」
「理解できないわね。そんなものを己に強いて、一体何の価値があるの?」
「価値なんて言葉を使っている時点で、あなたに理解することは不可能よ」
 彼女にしてはひどく挑発的な物言いだった。
「そこにあるのは価値などではない。0に価値を生み出す価値はない」
「自虐的ね――それは理解できなくもないけれど」
 自嘲する。
 場所と立場によっては、そこに立っているのは私だ。
「まぁいいわ。私もそれほど興味があるわけではないもの」
「傍観者に留まるつもり?」
「無知は私にとっての安息よ。智者を気取った愚者になるなんてまっぴらだわ」
 こういう会話をしていると、自然と手がグラスを求めだす。
 ここではBern castelもそうそう手に入らない。
「最初はこの世界の構造が気にもなったけど、その必要もなくなったし」
「その心は?」
「私を傍観者以上の存在として扱わないことがわかったから、かしら」
 自然と笑みの質が変わる。苦笑へと。
「もっとも、傍観させることに私は価値を見出されているのかもしれないけれど。
 ――それこそ『神のみぞ知る』と言ったところね」
 と。
 ふいに二人の間を縫うように抜けていったボールが、凍結した世界を叩き壊した。
「ちょっとー、そこのボールとってー」
 ぱたぱた手を振る猫耳娘。
 即座に振る舞いをシフト。
 にこやかな笑みを浮かべて、ボールを精一杯投げ返す。
 そこには一縷の隙もない。演技と言えば、完璧な演技だ。
「道化を続けるのは不便じゃない?」
「演技も貫けば真実よ。無理をしているわけでもないしね」
 私は立ち上がる。
「さて、安らかで不確定な日常へ還りましょうか」
「――それは、幸いね」
 声の返ってきた場所に、もはや彼女の姿はなく。
 頭上を覆い隠す緑の天蓋が、わずかにその葉を揺らしていた。


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