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持ち帰ったキャラで雑談 その二
348
:
憐哀編sideイサ、6
:2008/06/17(火) 22:38:02
一日目 PM 22:30
デートが逃走劇へと様相を変えてから、早2時間。
目的なく歩くことへの苦痛を感じ始めるには十分な頃合いだった。
同じ徒歩でも、どこかに向かうという目的があれば感じる負担は軽い。
その逆に、ゴールがあるかわからないマラソンなど拷問と変わらない。
まして冬も最中のこの頃に、日も落ちきった道を淡々と歩くなど。
「………………」
それでも、春原は何も言わない。
何も、言えない。
正直なことを言えば、さっさと帰りたいというのが本心だ。
いや、誰でもそう思うだろう。
何が悲しくて雪中行軍(雪は降っていないが)の真似事などしなければならいのか。
「………………」
逃げるとイサは言っているが、そもそも誰に追われているのかわからない。
本当に追われているのかさえわからない。
ひょっとしたらデートと称した引き回しを続けるためのデタラメではないのか、とさえ思えてくる。
その証拠に、イサの顔はまだ多少翳りは残るものの明るさが大分戻ってきている。
自分が舐められていることは――不本意にも――自覚している。
――ここでそろそろ、男としての立場の強さを見せつけるべきではないか?
いやそこまで強く出ずとも、詳しい理由を問いただすくらいは許されて然るべきではないか?
「………………はぁ」
などと考えてみたところで、すべては徒労だ。
どこに結論を持っていったとしても、結局自分からそれを話題にすることは出来ない。
つまりこの状況に為す術なく流される程度には、春原には度胸がなかった。
それすらもイサの思惑通りであるとは、まさか露程にも思わずに。
引きずり回していることは自覚していた。
春原はイサに比べて体力面で遥かに劣る。
もっとも、丸一昼夜歩き続けることも可能なイサと比較するのは酷な話なのだが。
――この一件を境に、かろうじて保たれていた関係が崩壊するかもしれない。
無論、イサがその関係を考えていないはずがない。
しかしそれは考えても詮無いことでもあった。
無意味なのだ。
自分は、あと数日を待たずして、終わる。
それは決まっていることだ。
イサが垣間見た『世界の断片』とは、つまりそうされるだけのものがあるということなのだから。
「その時までを、せめて最高の思い出で埋めたいと思うのは、そんなに悪いことなのかな……」
「あ? 何か言ったか?」
不機嫌そうな春原の声。疲れが混じった息からして、こちらを気に留める余裕さえ失くしかけているようだ。
イサは首を横に振る。
春原はバカで、無神経で、結局自分のことしか考えていない。
今はそれでよかった。
――そんな少年が、イサの死を目の当たりにした時に何を思うか。
身勝手とはつまり心の弱さに他ならない。
弱い心はイサの死を刻みつけることで、元の形を取り戻すことが出来なくなるだろう。
一生、イサの死を背負って生きることになる。
それだけで、イサは満足だった。
――そして、この『世界』にはそんな些細な望みさえ許さない存在がいる。
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