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持ち帰ったキャラで雑談 その二

307憐哀編sideイサ、2:2008/05/18(日) 21:20:22
 一日目 PM 17:00

 春原に用を足すと言い、イサはゲームセンターから外へと出た。
 無論、言葉通りであればわざわざ外に出る必要はない。
 念のために後ろを振り返る。
 春原がこちらに気づいた様子はない。
 ――追ってこられては、困るのだ。
 外は身を切るような寒さだった。むき出しの足は凍りつくようだ。
 もっともこの季節に半ズボン姿で、寒さに文句を言うのも滑稽だが。
 そしてイサ自身も、そんなものを気に掛けるつもりは微塵もなかった。
「……何の用?」
 イサは語りかける。
 自分の『真上』に。
「昼ごろ辺りからずっとボク達のことを見てたよね」
「…まさか気づかれているとは思いませんでした」
 ばさりと。
 空打ち一つで、漆黒の翼が地上へと降りてくる。
 その右手には、望遠レンズのついたカメラ。

 幻想郷最速の烏天狗にして、伝統の幻想ブン屋――射命丸文。

「何の用だって聞いてんの」
 イサの目には、未だかつて誰も見たことのない光が湛えられていた。
 先ほどまで春原に見せていた年相応――と言っても、人間年齢に換算すればだが――の
子供らしさは、その光に食い潰され跡形もない。
『悪魔』としてのイサが、そこにはあった。
「――邪魔だよ、お前」
 すぅっ、と。
 軽く動かした手には、すでに一本のナイフが握られている。
「……それがあなたの力ですか」
 イサの殺意にもまるで動じた様子はない。
 絶やさぬ微笑が、今はひどく胡散臭い。
「まるで手品みたいですね。ただ、手品と違うところは……」
 風切り音。
 それが耳のすぐ横を駆けて行ったことを、感覚で悟る。
「……それで人を殺せる、ということでしょうか」
 ナイフを投げた時に、それとわかる挙動はなかった。
 手首のわずかなスナップだけで、正確に文の顔面を狙ったのだ。
 何の躊躇いもなく。
「ざんねん」
 イサの口調は、明るくて昏い。
「一応、投擲用のダガーを選んだんだけど。ちょっと狙いがそれたかな」 
 投げるのは苦手なんだよね、と。
 文の神懸かった動体反射がなければ、耳が削ぎ落とされていてもおかしくなかったというのに。
「次は外さないように胴体を狙おうか」
 心理作戦か、と文は胸中でつぶやく。
 最初から、今の一打で仕留められるとは思っていなかったのだろう。
 だが、先手必勝で命を狙われれば、どんな強者でも体がすくむ。
 それをイサは理解した上で、さらに心理的なゆさぶりをかけているのだ。
 ――次こそ、確実に仕留めるために。
「……勘違いしないでください」 
 文は両手を空に掲げる。
「私はただのブン屋です。あなたに危害を加えるつもりなんてないですよ」
「信じられないかな」
「では、私はこのまま両手を挙げて退散しましょう。それで見逃してもらえますか?」
「…………」
 イサはしばし無言の後、こくりと頷いた。
 文は両手を挙げたままイサに背を向け、その翼で空に飛び立った。
 瞬間、イサの方に向き直る!

 ――風神「天狗颪」

 イサの放った十を優に超えるナイフは、文の巻き起こした風にことごとく散らされた。
 ――いや。
「…………っ」 
 軌道はそれたが散らすには至らなかった一本が、彼女の膝を浅く裂いた。
 傷の痛みに歯噛みしながら、イサを見遣る。
 イサはその両手になお数本のナイフを持ちながら、はっきりと舌打ちした。
 文も奇襲の可能性は考えていた。
 が、ここまであからさまに殺しに来るとは思わなかった。
「……覚えておきましょう」
 文の表情から、微笑が消える。
 そうして、空の高みへその身を躍らせた。


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