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持ち帰ったキャラで雑談 その二

330願望:2008/06/04(水) 23:26:17
 炎が吹き荒れる地獄絵図が止んで、しばし。
「……妹紅」
 ふいに、誰かに名を呼ばれた。
 どこか懐かしい、その声音。
 ひどく緩慢な動作で、声の方を向く。
「…………慧、音」
 自分の声がかすれているのがわかる。
「どうした? ずいぶん荒れてるようじゃないか」
 上白沢慧音。
 それは紛れもなく友と呼べる者の名だった。
「そんな……ことはない」
 バツが悪そうに顔を背ける。
 打ちひしがれた姿を見せたくないと思うのも、所詮は人間としての感傷だろうか。
 そんな自分を誤魔化すように、煙草に火をつける。
 そうして、月を見上げた。
「なぁ、妹紅。知ってるか」
 急に話を切り替えられ、妹紅は面食らう。
「人は無意識に行う動作ほど、自分ではそれに気づかないものらしい」
「私は蓬莱人よ」
 自虐的な発言を、慧音は無視。
「なぁ、妹紅。知ってるか」
 同じ言葉を繰り返す彼女に、妹紅は軽い苛立ちを覚えつつ問い返す。
「……何を?」

「お前は辛い時に限って、今みたいに月を見上げるんだ」

 まだ半分も残っていた煙草が、落ちた。
「私がここに来るまでの間に、何があった?」
 詰問するような声音ではない。
 慧音の声はどこまでも優しい。
 だからこそ、妹紅は胸を抉られるような痛みを覚えずにはいられない。
「……何も、ない」
「――妹紅」
「何もない。いつも通りよ」
 断ち切るような、一言だった。
 慧音はわずかに眉を伏せ、「そうか」とだけ呟いた。
 会話が途切れそうになる。
 そのことに、何故か妹紅はある種の危機感を覚えた。
「ねぇ、慧音」
「何だ?」
「自分が自分であることに疑問を抱いたことはある?」
「……また随分と哲学的な質問だな」
 苦笑。
「私は私でしかない。私でない私がいるとしたら、それは私ではないからな。
 ……と、いつもなら答えるかもしれないが」
 その笑みも、すぐに消える。
 決して曲げることのない意思を宿したその相貌は、誰の目にも美しく映ることだろう。
「白沢の血を宿す私には、究極的に人間を理解することは出来ない。
 それを嘆いたことがないと言えば、嘘かやせ我慢にしかならないだろう」
「……そう。そうでしょうね」
 落胆する自分がいることに、妹紅は驚いた。
 何を期待していたのだろう。
 ――慧音が人ならぬことを肯定したところで、自分の心が人でなくなるわけではないのに。
「けれどな、妹紅」
 慧音の横顔に、妹紅はハッとする。
「私は私だったからこそ、今お前とこうしていられると思うんだ」
「私が、私だったから……」
 それはつまり、妹紅が蓬莱人であるからこそ慧音と知り合えたということ。
「辛いか、妹紅」
 慧音の手が、妹紅の手を包み込む。
 先程の炎に比べれば遥かに弱く、しかし何にも勝る温かさ。

 ――失われた心の隙間を埋める、小さな小さな欠片。

「お前の苦しみを理解してやることは、私には出来ない。
 私が万の慰めを語ったところで、張子の虎よりも浅薄に映ることだろう。
 ……だが、それでもお前は私に願う」
 包み込む両手に力がこもる。
 慧音は無表情だった。
 無表情に、涙を必死に堪えていた。
「お願いだから、人であることを忘れないでくれ。
 お願いだから、人であることを捨てないでくれ、妹紅……」

 妹紅は、動けなかった。
 何も、出来なかった。


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