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持ち帰ったキャラで雑談 その二

372解体:2008/08/01(金) 23:27:54
「それでも人は言うわ。誰かを愛するのは素晴らしいことだと」
 独白のように語る代理人の傍らには、彼女の『杖』に宿る精霊アイリが佇んでいる。
「ご主人さまは……そうではないと思うんですか?」
「まさか」
 缶コーヒーをあおる。
「『私』は何も思わない。何も感じない。
誰かの理を代われる、ネジまき駆動の特注品よ」
 ――けれど、
「だからこそ見えることもあるわ。
 主観の放棄とは、すなわち究極的客観の獲得なのだから」
「………………」
「恋も愛も麻薬と同じ。足りなければ飢え、得られるとそれ以上を求める。
 麻薬に溺れないための、最も賢い方法がお前にはわかる?」
 アイリはかすかに顔を俯かせた。
 それだけで、彼女の思った答えが正しいことがわかる。
「知ることを誤りだとは言わない。
 知りたいと思うことを愚かだとは言わない。
 そして――知ったことを後悔するのは無様と言う他ない」
 空になった缶を放り投げる。
 それはきれいな弧を描いて屑籠へ飛び――縁にあたって道端に転がった。
「誰かを好きになるのは……間違いではないと思います」
「短絡的に捉えすぎだわ、アイリ。私は最も利口な解答を提示しただけ。
 正論はあくまで正論であり、正答であるとは限らない」
「ご主人さまの言葉は難しすぎます。もっとわかりやすく言ってください」
「却下。別に私は理解してほしいとも、理解してくれとも言わない。勝手に理解しなさい」
「ご主人さまは時々私に冷たいです……」
「ごめんなさい、ツンデレなの」
 自称するツンデレも中々珍しい。
「けどまぁ、愛するアイリにもわかるようにひとつ極論を提示しましょう。
――恋だの愛だの人受けのいい単語を選んでいるから惑わされるだけで、
愛なんて性欲と独占欲の延長上にある傍迷惑な疫病のようなものだ」
「それは……!」
「誤りだと思う? そうね、確かに主観的な恣意が込められているわ。
 これでは誰にも好かれない人間の僻みにしか聞こえない」
 ならもうひとつ、
「――人を愛することは素晴らしいことだ。人を愛せる私は素晴らしい人間だ。
人を愛せる素晴らしい私は、愛する彼女を私のものにするために犯して殺そう」
 はっきりとアイリの顔に翳がさした。
 代理人はとぼけるように軽く肩をすくめ、
「正しいも間違いもないのよ。あるいは、何もかもが正しくて間違い」
「『正しい』も『間違い』も、主観にすぎないってことですよね……」
「お利口ね、アイリ。後でご褒美をあげるわ」
「ご主人さまのご褒美はいろいろ怖いのでいいです」
 代理人は最初からまったく変化のない冷めた瞳を虚空に戻し、
「安易なはずの『人の型』におさまるのも、こうして見ると何とも過酷ね。
 それとも過酷と感じる時点で、その人はすでに『人の型』におさまる資格を失っているのかしら。何にせよ――文字通りの世迷言だけれど」
「……結局、どういうことですか?」
「愛を知った上で解体した人間は、二度と『人の型』にはおさまれないというお話よ」


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