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持ち帰ったキャラで雑談 その二
288
:
衝動
:2008/05/01(木) 00:07:28
背後から寄る気配が自分を目的としているのは明白だった。
故に、妹紅は振り返る。
「何?」
「……いや、そんな先制攻撃かけられると、返って聞きずらいんだけど」
気配を具体化したその存在は、何故か両手をあげて万歳――もしくは降参の合図――をしていた。
無論、見覚えがある。
「バカコンビの片割れか」
「ネジが緩み過ぎてあちこちに落として回ってるアホ盗賊と一緒にすんな!」
誰とも言ってないのに相方がわかる時点で、自覚してると吹聴しているようなものだ。
嘆息するのさえ馬鹿らしく、視線を明後日に逸らす。
「あのさ、もこー」
そこで会話が終わらなかったことにやや苛立ちつつ、視線を戻す。
鮮やかなピンクの髪を、尾のように頭の後ろで揺らすその姿。
彼女――アーチェは、はっきり言って妹紅の苦手なタイプだった。
いや苦手と言うよりも、もっと純粋に、嫌いだった。
「も・こ・う。無闇にのばさないでくれない?」
「はいはい、でさ、もこー」
これだ。
バカはバカであるが故に、こちらとそちらの境界線に気づかない。
――あるいは、気づきながらなおそれを無視して踏み込んでくる。
妹紅にはそれが不快でならない。
体の中を這い回る蛆のように、おぞましく鬱陶しい。
「あたしの箒を知らない?」
「は?」
即座に生じた疑問は二つ。
ひとつ。何故それを自分に聞くのか。
ふたつ。何故その問いに自分が答えると思っているのか。
「なんか今朝から見当たんないのよ。あちこちに聞いて回ってんだけどさー。
あと聞いてないのは、文に霊夢、それにナミ……は聞きようがないか。
あれがないと空飛べないし、空飛べないと歩いて街まで行かなきゃなんない。
そんなのこのアーチェさんに耐えられるわけないじゃん?」
――知るか。
「どっかで見かけた、ってのでもいいからさ。知ってたら教えてくんない?」
「……生憎と、私は知らないわ」
衝動で込み上げた破滅的な感情を、すんでのところで圧し留める。
あと少し抑える力が弱ければ、懐に忍ばせたスペルカードに手をかけていた。
――忌々しい。
漆黒の殺意と共に思い起こされるのはひとつの顔(かんばせ)。
妹紅から人としてのすべてを奪い去った、万の死を刻みつけてなお足りぬ大罪人の顔。
「んー、そっか。あんがと」
妹紅の衝動を知ってか知らずか、アーチェは軽く言って妹紅に背を向ける。
「あぁ、それと」
まだあるのかと再び湧き上がった熱い揺らぎは、次の瞬間に凍結した。
「気をつけんのよ。『ここ』はアンタが思うほど、優しくも辛くもない」
すぐに扉の向こうに消えた背中を見送ってから、妹紅は後悔した。
躊躇わずに、撃つべきだったと。
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