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持ち帰ったキャラで雑談 その二

13確執編十一章:ギリギリの導き      8/8:2007/05/13(日) 21:43:57
 死んだ――はずだった。
 けど、気づくとあたしは杏や四葉に囲まれて、またも地面に寝転がってた。
「………………あたし、寝てた?」
 杏の顔は怖いくらいに怒りで歪んでた。
「だ・か・ら、『寝てた?』じゃないっての!!」
 がくがくと揺さぶられるも、思考がいまいちついてこない。
「あんた、まさか何かの持病持ちとかじゃないでしょうね?」
「あー…実は脳が」
「やっぱり」
「即座に頷かないでよ。冗談に決まってんじゃん!」
 夢――なんてことは今さら考えない。
 あたしは確実に『アクマ』に殺されて、けど傷一つなくここにいる。
 ――ひょっとして、あそこでの死はこの世界に何の影響も及ぼさないってこと?
 それなら昨日のあたしが無傷だったこともうなずける。
 けど、なら『アクマ』のしてたことは一体なんだったのか。
「ねぇ、杏。あたしどんくらい意識失ってた?」
「どのくらい…って、10秒も経ってないわよ」
 長かったらとっくに救急車呼んでるって、と付け足される。
 死なないだけでなく、時間的な対応もないらしい。
 別世界、とは微妙に違うだろう。
 あの世界はこことまったく同じ構造をしてた。
 ただ、人の姿がなく、死が存在せず、時間の流れが繋がらない。
 ――まるで、この世界を中古のコピー機で印刷したら出来上がった劣化品のような。
「で、本当に大丈夫なわけ?」
 杏の瞳は不安でかすかに揺れてる。
 四葉に至っては軽く涙目だ。
 それが、なんだかすごく嬉しかった。

「アーチェ。何で撃たなかったの?」

 鼓動が一際強く跳ねた。
 仮初の喜びなんて、その一言であっさりと吹き消された。

「あれ、セリスさんデス」
「何で…ってか、いつの間にここに来てたのよ?」
 二人の言葉を無視して、セリスはこちらに詰め寄ってくる。
「あそこで私達が『死んだ』のは、あなたが撃つのを躊躇ったからよ」
 気遣いなんて微塵もない、直球の一言。
「……だって、あそこで撃ったら、アンタに当たったじゃん」
「構わないと言っただろう!」
 怒気をはらんだその声に、あたしはビクッと身を竦ませる。
「覚えておけ。戦場で力を使うことを躊躇う者は、死体と変わらない」
 場に沈黙が訪れた。
 誰も――あたし以外誰も、セリスの言葉の意味は理解できないだろう。
 それでも、彼女がまとう雰囲気がこの現実からかけ離れてるものだってことはわかる。
「…………」
 あたしは何も言い返せない。
 セリスの言葉は正しい。あそこであたしは迷うべきじゃなかった。
 けど、それでも。
 自分の愚かさに気づいたあたしに、命の秤を使うことなんて出来なかった。
 セリスの手がこちらに伸びてくる。
 叩かれると思った。
「……けどね」
 それまでの怒りはもはやそこになく。
「命の重さを量れないあなたの優しさは、尊ぶべきものだと私は思う」
 その指があたしの頬に触れる。優しく、いたわるように。
 ――ずるい。
 こんな気持ちの時に、そんな言葉を使われたら、泣くに決まってるじゃないか。
「迷うべき時は、必死に迷って。けど、決断すべき時には躊躇わないで」
「……うん、うん」
 ボロボロ涙を流すみっともない姿で、あたしはセリスの言葉に何度もうなずいた。
 セリスはかすかに笑みを浮かべ、もはや無言できびすを返した。
 そして――ピタリと止まる。
 何かを思案するように首を上に傾け、さらに停止。
 そのままわずかに小首を傾げ、こちらを振り向いた。

「あの…ここ、どこ?」

 涙は、長い間支払料金を滞納した水道みたいに強制的に止められた。


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