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持ち帰ったキャラで雑談 その二
278
:
長雨
:2008/04/13(日) 21:12:48
「こんな夜更けに、何処へ?」
声は唐突に彼女の背後からした。
気配は、しなかった。雨に打たれる音も、濡れた地面を歩く音も。
まるでその瞬間に、その場に現れたかのような。
「春の長雨に気配も薄れる闇の中。よく私のことがわかったわね」
「それはもう。あなたの夜を否定する銀の髪は、百由旬先からでもわかる」
「畜生の分際で……いえ、畜生だからこそ、か」
挑発のつもりだったが、狐は軽く笑んだだけ。
その狐――とある妖怪の式であり、その姓を賜って『八雲藍』と名乗る人狐は、
9つの尾をわずかに振りながら雨の中に佇んでいた。
「言わなければならない?」
最初の問いに、問いで返す。
「いえ、特に興味は。ただ…」
肩を竦める。
「害成す毒花は咲かせず摘むのもまた一理、とも思うのよ」
「嫌われたものね」
雨に濡れた銀の髪が頬に張り付く。
遠目から見たら、その姿は幽鬼と間違われたかもしれない。
血の色を湛える紅い瞳も、病的ささえ超えて死人のように白い肌も、およそ人らしさから外れていた。
唯一、この世のすべてを嘲るように笑みを浮かべる、その形相を除けば。
人ならぬ人。蓬莱人とも呼ばれる人の形――藤原妹紅。
「別に、お前にも、お前の式にも害を成す気はない」
「正直ね。もっとも、嘘吐きは正直に嘘を吐くものだけれど」
「お前に害を成して、私に何の益がある?」
「なら何故あの女の側につく」
妹紅の表情が、わずかに変わった。
藍の顔からはとっくに笑みが消えている。
「気付かれていないとでも思った? 接触を持ったことはとうに知れている」
「代理人とはただの呑み仲間よ」
「ただの、ね」
立場こそ隠れてどこかへ赴く様に奇を呈した形ではあるが、
余裕が欠けているのが藍の方なのは明らかだった。
彼女は知っている――『何も知れないこと』を。
この蓬莱人と、あの蒼い僧服をまとった存在の、計り知れなさを。
「不穏分子が二つ合わされば、それはもう必然」
「私は代理人と酒を呑み交わすだけで敵対意思を持たれるわけ」
「痛くないと言うなら、その腹開いて晒しなさい」
「開いたら痛いでしょう」
「不死の身で何を言う」
「痛いのよ。死なないだけで」
「……とにかく。あまりおかしな行動をとらないことね。
橙に少しでも危害を加えるような真似をすれば、決して黙ってはいない」
妹紅はふぅ、とわざとらしく溜息をつき、かぶりを振った。
そうしてまばたきより長く目を閉じ、
「――不愉快だ」
紅蓮の翼が生えた。
瞬時に妹紅の周囲の水分が蒸発する。立ち上る水蒸気に藍の髪が激しくなびいた。
「畜生ごときが、分不相応と知れ」
「その短絡さはわかりやすくて嫌いじゃない。だが……」
激しく吊り上げた口元から犬歯が覗く。
「畜生畜生と、侮辱するのも大概にしろ人の出来損ない。
誇り高き八雲の姓を持つ式を貶めて、五体満足に済むと思うなよ」
スペルカードを掲げたのは、二人同時。
――貴人「サンジェルマンの忠告」
――密符「御大師様の秘鍵」
二つの怪物が夜の空を朱で染める頃。
それを更なる高みから見下ろす一つの影があった。
――影。そう、その姿は影のようだった。
それは夜に溶け込む漆黒の翼によるもの、ではなく。
獲物を狩るために気配を殺す、獰猛な肉食動物のそれだった。
「質対量、の争いになりますかね」
右手には望遠用レンズのついたカメラが握られている。
「いつ起こるかはわからない。けれどいつか必ず起こる」
髪がなびく程度の風が吹き。
次の瞬間には、大気の流れにその身を移し気配が完全に消えた。
あとに残されたのは、残像のように空気を震わせる一語だけ。
――来る日の第二次終末戦争、この射命丸文がすべてを歴史に留めましょう。
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