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持ち帰ったキャラで雑談 その二

31確執編十二章:振り返りの推奨      7/7:2007/05/31(木) 20:46:20

 ・零日目 サイド:リディア

 私は知らず、一歩下がっていた。
「記憶、ね。さも大事なものみたくアンタは言ってるけどさ。それってそんなに大層なわけ?」
 あたりの音を殺し尽くしたかのような静寂の中、アーチェの声だけが空気を震わせる。
「あ、答えなくていいから。持たないあたしには、どんだけ語られてもどうせわかんないし。
 過去の思い出にすがり付いて、幻想に浸るのはさぞ気分がいいんでしょうね」
 その声はひどく落ち着いていて。
 それだけに、内に宿る昏い炎が透けて見えるかのようだった。
「けど、さ」
 アーチェの右手に力が宿るのが見えた。
 息を飲む。
 アーチェは本気だ。あの魔力量が解き放たれたら、この家は一瞬で吹き飛ぶ。
 けど、そんなことよりも――私にはアーチェが紡ぐ言葉の方が重要だった。
「過去にすがる惨めな姿を誇るなんて、アンタみっともないわ」
 それはどんな刃物よりも鋭く私の胸に突き刺さる。
「あたしは、今のままでいい。杏とポーカーしたり、春原を焦がしたり、アイツをからかってみたり。
 それで十分。十分、楽しい。何の不満もない。
 そのあたしに、同情? リディア――今のアンタ、あたしよりよっぽど可哀想だよ」
 薄れ掛けていた炎が、再び激しく燃え上がった。
「勝手に決めないで! 私だって何の不満もない!」
「なら何であたしに同情なんてすんのよ! 後ろめたいことしてるからじゃないわけ!?」
「…………っ!!」
 感情が空回りして、言葉がついてこない。

 私はほとんど反射的に右手を掲げ、呪文を紡いでいた。
 完全に我を忘れていた。ただ、目の前の自分を脅かす存在を消したかった。
 それに呼応するように、アーチェもかざした右手から魔力を解き放つ――

「けんかー?」
 
 硬直した。
 視線の先に、アスミがいた。
 考えてみれば、これだけ騒いでみんなが気づかないはずがない。
 アスミは相変わらずぼんやりとした表情で、それでもしっかりとこちらを見ていた。
 私は――目を合わせられなかった。
 と同時に、これまで張り詰めさせていた緊張の糸が解けてしまった。
 腰が抜けたように、ぺたりと床に座り込む。
 アーチェに負けないよう必死にこらえていた涙が、幾筋も頬を伝って床に落ちる。

「あなたが、そんなこと言うなんて、思わなかった……!」


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