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持ち帰ったキャラで雑談 その二

275桜月夜:2008/03/29(土) 23:00:06

「月を眺める風情は、私には理解出来ない」

 振り返る。
「月光浴。言葉はこんなにも美しく響くというのに。
 あの光を眺めていると、冥い生の闇に震えずにはいられない」
「それは千年生きても変わらない?」
「千年程度、私の永遠の前には塵芥に等しい」
 かすかに灯る、紅い炎。
 富士から立ち上る、不尽の煙を生む力。
「あの絶え間無く続く闇夜の凌辱に、人は何を思うものなのかしら」
「あなたも人でしょう?」
「そう。私も人。不死の冥路を永劫彷徨う、呪われた蓬莱人。
 お前は?」
「私も人よ。見ての通り」
 蓬莱人はわずかに目を細めて嗤う。
「あら。私の目には『人』なんて映っていないけれど」
「不死で瞎(めくら)とは救いようのない」
「心無き器を人とは言わない」
 まなじりを、わずかに細める。
 蓬莱人は薄い笑みを張り付けたまま、一歩後ろに下がる。
「おお怖い。人の形にも、怒りが存在するのかしら」
「私にそんなものは存在しない」
「それは面白い。心無き人形に怒りはなくとも、月を眺める風情はあると?」
「ないわ。私には何もない」
 告げている。
 この生き物は危険だと。
 不死など実に些細なこと。

 その本質は、生き続けるという地獄の果てに得たパーソナリティにある。

「消えなさい。邪魔だわ」
「つれない事。せっかく夜桜の中で一杯と思ったのに」
 カチンと鳴る小さな音。
 見ると、その手には一升瓶と二杯のグラス。
 気がつかなかったが、最初から持っていたようだ。
「月明かりが疎ましいんでしょう?」
「その罪を妖しく咲き乱れる桜に求めるほど無粋ではない」
「私に月を眺める風情はないと言ったでしょう?」
「なら、お前はここで何をしていたの?」
 言葉に詰まる。
「いいから付き合いなさい、人の形」
「私は代理人よ」
「何も変わるまい。己を持たぬという意味では」
 反射的に額に一閃。
『目にも止まらせない』その一撃は、狙い違わず蓬莱人の眉間を貫く。
「痛ッ! いーたーいー! 何するの!」
「私は代理人よ」
「死ななくても痛いものは痛いんだからー!」
「あ、そこにまんじゅうが」
「ひっ!」
 さっきまでの危険はもう微塵も感じられない。
 文字通り飛び上がるその手からグラスを一つかっさらう。
「そっちも寄越しなさい」
 蓬莱人は目に涙を浮かべたまま、大人しく一升瓶を差し出した。
「……お前は私に似ている」
「錯覚だわ」
「だからわかる。お前に『生』はない」

 瞬間。
 世界が、燃えた。

「――終わらない無の中で燻ぶる、憐れな蒼炎」
 紅い炎をその背に宿し、蓬莱人は空を見上げる。
 視線の先に映える月光に、不死の煙は届いているだろうか。
「盛ろう人の形。私達には『その時』を焼き尽くす炎がある」
 再びこちらに遣られた双眸には、純粋な笑みが浮かんでいる。
「永遠を抱える私と、無を抱えるお前。
 無限と零は対極に在れど、それ故に輪廻の果てで結びつく」
 それには応えを返さず、蓬莱人のグラスに注ぐ。
「お前とは仲良くやれそうよ、人の形」
「私は代理人よ」
「なら私のことは妹紅と呼ぶこと」
 差し出したグラスに注ぐ蓬莱人――もとい、藤原妹紅。
「宵闇を包む蒼い炎に」
「宵闇を裂く紅い炎に」


「乾杯」


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