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持ち帰ったキャラで雑談 その二

319未熟:2008/05/27(火) 23:11:52
 人によって笑顔になる瞬間は様々だ。
 欲しい物が手に入った時。好きな人の傍にいる時。
 また、ある人にとっては顔をしかめるようなことでさえも。
 無論それらを集約すれば、嬉しい時・楽しい時などになるのだろうが。
「けど、お菓子を食べることにここまでの笑顔を浮かべる人も珍しいんじゃないかな…」
 この世の幸福を独り占めにするような満ち足りた表情で饅頭を頬張る霊夢を、
我知らず苦笑しながら見つめるリディア。
「それは食べたい時に食べたい物を食べられる人の意見よ」
 急に普段の表情に戻り、ぴっとリディアを指さす。
「そういうもの?」
「そういうもの。……やっぱりお茶請けは和菓子に限るわ」
 言って緑茶をすする。
 そういうものなのだと言われれば、そういうものなのだろうか。
 試しに霊夢を真似て緑茶を口に含んでみる。
 苦い。
 決して不快ではないのだが、さりとて好んで飲みたいと思うものでもない。
 そもそも緑色の飲み物というのが何とはなしに意欲を削ぐ。
 ここでの暮らしや霊夢との付き合いも大分長くはあるものの、こういうところ――
それはいわゆる和の文化とでも言うべきもの――は未だに理解できないところが多い。
「別に理解する必要もないわ」
 見透かされた。
「人は人。自分は自分。その仕切りは明確にしておかないと、
 いざという時自分の中で自分の不在証明を見つけることになりかねないわよ」
 おまけに言っていることがいまいちよくわからない。
 とりあえずわかったような振りをして頷いておく。
「そう。そうやってわかった振りをしておけばいい」
「…………あはは」
 苦笑い。

 と、突然玄関の扉が開いた。
「おい、そこの紅白!」
「…………はぁ?」
 紅白に該当する人物はこの場には一人しかいない。
 当の本人もそれに気づいたようで、訝しげに声の方を見遣る。
 その声の主――橙はと言えば、スペルカードをびしっと掲げ、高らかに宣言した。
「私と弾幕ごっこで勝負しなさい!」
「やだ」
「はやっ! 即答拒否!?」
 ばたばたと手を振り回す橙。
「いいから勝負しなさい! この腋!」
「何ですって?」
 一オクターブ下がったトーンにびくりと体を震わせる。
「……ねぇ、橙。一体どうしたの?」
 明らかに普段と様子が異なるその姿に、リディアが疑問を投げかける。
「……私は」
 項垂れたまま、それまでのテンションが幻だったかのようにぽつぽつと語り出す。
「私は、誇り高い式の式で。絶対、ぜったい無様な真似を見せちゃいけないんだ……」
 それだけで霊夢は事情を察したらしい。深々と嘆息して、
「強さが誇りだなんて明快ね。式の式とは言え、アレの流れを汲んでるとは思えないわ」
「バ、バカにするのか!」
「そうね、あんたはバカだわ」
 鋭いまなざしを突き付ける。
 意気を奮っていた橙がはっと息を飲むほどに。

「あんたはこれまで一体自分のご主人様の何を見てきたの?」

 橙の目から大粒の涙がボロボロと零れて落ちた。
「後はあんたに任せるわ」
 例によってアーチェの箒を手に取り、霊夢は立ち去ろうとする。
 張りつめていた糸が切れたのだろう、大声で泣き崩れる橙には目もくれない。
「言うだけ言っておいて? それは勝手なんじゃないかな」
「勝手で結構。泣く子をあやすなんて性に合わないもの」
 それと、と、
「冷静に自分の立ち位置を見据えて、それでも前に進む気があるというのなら。
 私が退屈を持て余して死にかけている時くらい、相手をしてあげると伝えて頂戴」
「……素直じゃないんだから」
 やはり、苦笑。

 ちなみに、この直後に橙の泣き声を聞きつけ文字通り飛んできた藍と一悶着あったのは、また別の話。


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