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虐待・虐殺小説スレッドPART.4
1
:
管理団
:2007/04/12(木) 23:32:19 ID:???
AA ではない活字の並ぶ 虐待・虐殺系 の 新 し い ス タ イ ル 。
━━━━─────────────────────────────────━━━━
皮を剥がされたしぃが、首筋に大きなフックを刺されて吊され、みぞおちから股間までを
切り裂かれている。裂かれた腹からは、勝手にニュルニュルと腸が飛び出て、こぼれた。
吊された中には、ベビしぃも混じっている。
「ウゥゥゥ イタ イヨ、、、 モウ シナ セテ」
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;; 「イチャ ヨ ナコ チテ マチャ リ チタ」
|ミ| |ミ| ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
-、. |ミ|、 |ミ| |ミ| :
/;l |ミ|;l |ミ| ,,、 ,.,,.,.,,.,,.,..,, ,.,,. ,,.,,,.,, |ミ|i | ̄ ̄| ̄
/:;,.;ヽ,.,|ミ| | |ミ| /;,:l ミ,,,,,(★)ミ ミ(★),,,,,ミ |ミ| :| |
,:;´ ;::; ;: ; ;|ミ|.;`,、 、ー-- 、__、、ミ|_,,//,、| <ヽ`∀´> <`∀´* >、 i|ミ| :| |
l.,;:.ー、 ;;,:..;|ミ|;:..:.,;l ヽ;.:;r :;;.,;: ;:、_:;:;ヽ;l ⊂ミ 北 ) m 北 ミmヽ |ミ|i | |
 ̄ ̄|;:.;゚-,.ilヽ|/:|ミ|,; :; ;|  ̄ ̄`l>:;,. ;:( ゚,0.`o ;l: ̄ ̄| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ̄ ̄ ̄ i |ミ| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ヽっ ;i|;/lヽ|ミ|;;:; ;/ |;,.: ;(´ ̄`)" ゚。;:l | 労働党 万歳 | . |ミ|, ー--、
>;:;: :;,. ;(O);:く ヽ;;.:` - ´:;: ;: ;;/ | ____ | . |ミ| ;: ;: ;:、´
/:: :; :,. ;:;l|iノ,.:;:.;;ヽ /;":;:);)(;:(;(;:;`;:, | || ★ || | i |ミ|:;: .:.,ー--、
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::`ー、,:.;;i | __ ̄ ̄__ | ,(O) ;;: ;:;: ;;:,´
::::::::::::::::::::::::::::::::::|/::::::::::::::::::::::::: \|:::::: /:;ヽi|l;;;: ;;: (゚ノ
「フォルフォルフォル、これが全自動畜産場ニカ?」 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
突如、重く冷たい鉄の扉が開き、人が二人、中へ入ってきた。毛皮のコートに、これまた
毛皮の大きな帽子。その帽子に付けられた、大きな赤い星は、彼等が共産国家の兵士で
ある事を、何よりも雄弁に語っていた。
「はい、そのとおりでスミダ」
先に入ってきた男――物腰の低さや、言葉遣いからして、後から入ってきた男の案内役
であろう――は、上機嫌な上官に、この工場の概要を説明し始める。
「ちびギコを使った種付けから、しぃのニクコプンでの飼育、屠殺、解体、全て奴らの手で行われまスミダ」
鳴りやまない笑い声、絶えない悲鳴と怨嗟の声、、、
ここは彼女らの故郷より西に在る、
地 上 の 楽 園 。
2
:
管理団
:2007/04/12(木) 23:32:37 ID:???
過去ログ
虐殺小説総合スレ
ttp://jbbs.livedoor.jp/computer/1523/storage/1043305597.html
虐待・虐殺小説スレッド
ttp://jbbs.livedoor.jp/computer/5580/storage/1048169233.html
虐待・虐殺小説スレッドPART.2
ttp://jbbs.livedoor.jp/computer/5580/storage/1067790306.html
虐待・虐殺小説スレッドPART.3
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/5580/1092139155/
― ローカルルール ―
◆ 感想・批評は下記の専用スレへ。本スレへの感想は禁止。
小説スレ 感想・議論スレ Part 3
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/5580/1099659155/
◆ 話の展開を急ぐ感想は嫌われます。気長にマターリと待ちませう。
◆ 小説が面白かったとて他スレのAA職人さんに
『小説をAA化して!』と言うような事はやめましょう。
◆ セリフのみが延々と続く台本形式の小説は削除対象になります。
- 例 -
(*゚ー゚) ハニャーン。ベビチャン カワイイネ♪
(*゚ヮ゚) チィチィ!マンマナッコ!
(・∀・ ) やあ今日は。
(#゚ -゚) ナニヨ クソモララー!ベビチャンヲ ナッコシナサイ!
(・∀・#) 殺す!
(*T0゚) シィィィーッ!
3
:
へびぃ
:2007/04/17(火) 00:36:41 ID:???
新スレ乙です。僭越ながらも1番乗りで申し訳ありませんが、早速新作投下させて頂きます。
【流石兄妹の華麗なる休日〜百ベビ組手〜 前編】
「父者〜。どこか遊びに連れてって欲しいのじゃぁ〜」
先日11歳の誕生日を迎えたばかりの妹者が甘えるような声を出して、父者の背中に抱きついた。
それはまるで木にしがみ付く蝉を連想させ、何だか暑苦しい。
「い、妹者・・・降りてくれないかな?私は腰を痛めてるんだ・・・」
妹者にしがみ付かれた父者が声を絞り出した。
それを聞いた妹者は慌てて、
「あ・・・ごめんなのじゃ」
父者の背中から離れたが、すぐに標的を変え、
「兄者〜。退屈で爆死しそうなのじゃ〜」
そばであぐらをかいてゲーム雑誌を読みふけっていた兄者の背中に飛びつく。
兄者は突如として飛びついてきた妹者の衝撃に少々驚きながらも、横に居た弟者に声を掛けた。
「弟者よ。何故妹者は退屈だと爆死してしまうのだ・・・?」
「さあ・・・それほど暇だという事だろうな」
弟者が冷静に返した。
時は6月。初夏だ。場所は流石家の居間。
状況は見ていただければ分かる通り。
妹者が退屈のあまり、父者にどこか連れてって貰うようにねだっていた所だ。
しかし父者は腰痛で療養中。久々の休みなのでゆっくり休んでいたいらしい。
そこで今度は兄者に矛先を変えたという事だ。
「兄者は何か用事でもあるのじゃ?」
妹者に訊かれ、兄者は答える。
「い、いや・・・別に無いが」
すかさず妹者は、兄者の体を背中から揺さぶり始める。
「じゃあどこかに連れてって欲しいのじゃ!お願いなのじゃ、ね〜ね〜ね〜ね〜ねぇ〜・・・」
ゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさ・・・・・・・・・・。
妹者の必殺ヴァイブレーションに、兄者はたまらずギブアップ宣言。
「わ、わかった、妹者よ・・・わかったから止めてくれ・・・うぷ」
「わ〜い!兄者に勝ったのじゃ〜!」
どさりと倒れた兄者の横で妹者が勝利宣言。
そして即座に弟者にも声を掛ける。目をキラキラと輝かせて。
「ちっちゃい兄者も一緒に行くのじゃ!」
弟者は少し困った顔をしたが、目を輝かせる愛妹の前では断る事も出来ず、承諾。
「わかった。俺も行こう。妹者、支度して来なさい」
「やった〜!着替えてくるのじゃ♪」
妹者はピョン、と一つ跳ねてから、『ブーン』のポーズで部屋を出て行った。
まあ、俺も暇だったしな・・・とひとりごちてから、弟者は未だに床に伏す兄者に声を掛ける。
「兄者・・・大丈夫か?」
「あ、ああ・・・何とかな」
兄者が起き上がりながら答える。
「ところで、どこへ連れて行くんだ?金もあまり無いぞ・・・」
「そうだな・・・弟者よ、今日は何日だ?」
「今日か?」
弟者はちら、とカレンダーを見てから答える。
「今日は6月17日、日曜日だが」
そう告げると、兄者はポン、と手を叩いた。
「それなら丁度いい。今日はあれだ、町内広場で『百ベビ組手』の大会があるじゃないか」
「それだ!あれなら俺達も妹者も楽しめる、まさに打ってつけだな。金も掛からんし・・・」
その時、早くも可愛らしい服に身を包んだ妹者がバン!とドアを開けた。
「支度できたのじゃ!」
「早いな・・・妹者よ」
弟者は思わず苦笑するのだった。
4
:
へびぃ
:2007/04/17(火) 00:37:21 ID:???
家を出た兄妹3人組は、早速町内広場へ向かって歩き出した。
「〜♪」
鼻歌を歌いながら上機嫌な妹者がどんどん歩いてゆくので、続く兄者と弟者は付いて行くだけで精一杯だった。
「い、妹者よ・・・随分とご機嫌だな」
弟者が尋ねると、妹者は笑顔を崩さずに答えた。
「だって、久しぶりのお出掛けなのじゃ!」
言いながらもどんどん歩調が速くなる妹者。
兄2人はついに小走り状態で付いていく事となった。
道中、兄者が思わず弟者に漏らした。
「まったく、我が妹ながらなんてパワフルなんだ・・・」
それを聞いた弟者も、肩を軽く竦めながら言う。
「禿同だ、兄者。伊達に母者の血は引いてないな・・・」
「ああ、その元気を1割でいいから俺に・・・」
「兄者〜!早くするのじゃ〜!」
妹者の大声で会話を遮られた兄者と弟者は、互いに苦笑一つしてから、妹者の待つ方向へ駆け出した。
町内広場は、もうすぐそこだ。
5
:
へびぃ
:2007/04/17(火) 00:37:56 ID:???
パン!パン!パン!
雲が1つ2つ浮かぶ青空に、花火の音が響く。
抜けるようなスカッとした快晴の空の下、大勢の人だかり。
広場のあちこちに特設ステージや臨時のプレハブ小屋、大きな柵で囲まれた古代ギリシャのコロッセウムを思わせる闘技場らしきエリアなんかが作られている。
また、様々な食べ物や飲み物、射的に金魚すくい等のアトラクションの出店まで出展しており、文字通り『お祭り騒ぎ』状態だった。
さて、大人から子供まで入り混じっての人の波に、早速飲み込まれた流石兄妹達。
「妹者、はぐれるなよ〜!」
弟者の声に、
「大丈夫なのじゃ〜!」
割とそばから妹者の声が返ってきた。この分なら大丈夫か、と弟者はほっと一息―――ついてもいられなかった。
とにかく押し寄せる人の波、波、波。まさにタイダルウェイヴ。
「あ、兄者よ・・・とりあえず落ち着ける場所に行かないか?」
最早どこにいるかもわからない兄者に弟者が提案すると、
「う、うむ・・・そうしよう」
弟者から見て5時の方向から兄者の返答が返って来た。
「このままでは・・・あっという間に・・・ばらば、あ、いや、ちょ・・・弟者、助け・・・」
弟者に向かって話しかけていた筈の兄者の声がどんどん離れていく。
見れば兄者は、人の波に流されてどんどん弟者から離れて行ってしまっていた。
十代後半の健全男子ならこれくらいどうという事も無さそうだが、兄者の場合は日頃の運動不足が祟っているのだろう。
はぁ、とため息一つついてから、弟者は人の波を掻き分け掻き分け、ようやく兄者の左手首を掴んだ。
「まったく、しっかりしてくれよ。妹者より先に兄者がはぐれてどうする・・・」
「うむ・・・スマンかった」
兄者は弟者に陳謝。
そのまま弟者は兄者の手首を引きながら、これまた流されそうな妹者の手を握る。
そして2人の手を離さないように、弟者は人ごみからの脱出を図って歩き出した。
その姿はまるで、雪山で遭難者のソリを引っ張って走るセント・バーナード犬のようだった。
「それ・・・褒めてないだろ」
弟者は誰にとも無く呟いてから、弟者はまた歩き出した。
彼方に見えた、レストハウスを目指して。
6
:
へびぃ
:2007/04/17(火) 00:38:28 ID:???
「もうクタクタなのじゃ〜・・・」
折り畳み式テーブルに突っ伏した妹者が、力無く呟きながら、メロンソーダのストローを銜えた。
「まだ来たばかりなんだがな・・・まあ、この人込みでは無理も無いか」
弟者が同調しつつ、手に持ったアイスコーヒーをストローでかき混ぜる。
カランカラン、とグラス内の氷が涼しい音を奏でた。
「賑わっているとは思ったがな・・・まさか、ここまでとは」
兄者は一息でグラスの烏龍茶を半分ほど空け、一息ついてから言った。
弟者はどうにか人込みを脱出し、近くにあったこのレストハウスに辿り着いていた。
兄者達が囲むテーブルは折り畳み式の物で、中央にはビーチパラソル。それぞれの手には注文した飲み物のグラス。
おかげで中々に涼しい空間が出来上がっていた。
そんな中で、弟者は入り口で貰った地図付きパンフレットを広げた。
「・・・さて。この後はどうするんだ?いつまでものんびりしている訳にもいくまい」
弟者の言葉に、兄者が顎の先を摘みながら返答した。
「そうだな・・・やはりここはメインイベントの百ベビ組手本戦を見に行かないか。
時間的にも丁度良いしな」
言いながら兄者は自らの左腕の腕時計を示した。
時計の針は9時32分を指していた。
パンフレットを見れば、本戦は10時からとなっている。
「では、そろそろ行ったほうがいいな。余裕があるに越した事は無いさ」
弟者が立ち上がろうとしたが、兄者がそれを引き止めた。
「まあ待て。少しくらい休んでからの方が良かろう。時間も無い訳ではないしな・・・」
弟者はそれを聞いて、再び椅子に腰を下ろした。
「・・・まあ、それもそうか」
―――10分後。
グラスを空にした3人は、そのまま本戦会場となっている特設ステージへと向かった。
(ちなみに飲み物代は壮絶なジャンケン対決の末、兄者が支払った)
レストハウスからも見える位置にあったので、今度は大して労せずに会場へと辿り着く事が出来た。
それは最初に来たときにも目に留まった、闘技場のようなステージだった。
入り口のゲートの前で、唐突に兄者が言った。
「弟者。せっかくだから、お前も出てみないか」
え、と軽く驚いた表情で弟者が振り向く。
「い、いや・・・急に言われてもだな・・・」
「見ろ。『飛び入り参加大歓迎!お気軽に受付にお申し付け下さい』と書かれているではないか。
お前も最近家の周りにアフォしぃなんかが出なくて退屈していただろう?丁度良いじゃないか」
「ちっちゃい兄者、頑張るのじゃ!」
妹者にも後押しされた弟者は少しの間思案していたが、
「・・・まあ、俺も最近運動不足だったからな・・・。
――わかった、せっかくだから出よう。兄者と妹者は、観客席に先に行っててくれ。
俺は自分の番が終わってから行くよ」
それから弟者は兄者と妹者を見送ると、受付へと向かった。
7
:
へびぃ
:2007/04/17(火) 00:39:11 ID:???
―――『百ベビ組手』。
名前から察した方も多いだろうが、この競技は、簡単に言えば空手なんかの『百人組み手』のベビしぃverだ。
無論、空手とは違い相手を虐殺する事が前提だ。
要するに、ベビしぃ100匹をいかに迅速に、かつ華麗に虐殺するかを競うのだ。
武器や方法などは基本的に自由。始めからフィールドに100匹放たれている場合もあれば、その都度追加される場合もある。これは、大会によって異なる。
この辺は後に説明があるのでこのくらいに。
本戦会場は、言うなれば野球場をそのまま小さくしたような感じだ。
観客席に囲まれて、直径25m程度の円形のフィールドが広がっている。
フィールドの隅には入退場口とベビ入場用の金網付きゲートがある。(無論、ベビの退場口は無いww
フェンスの一部にはガラス張りの所があるが、これは恐らく招待客や来賓が観戦するための席なのだろう。
また、他にも似たようなガラス張りの部分があるが、その向こうには席ではなく妙にガランとした、人が普通に立って歩き回れる程の広い空間が広がっていた。一体何の為なのか・・・?
受付で手続きを終えた弟者は、早速控え室へと向かった。
ちょっとしたホール並みの広さの部屋に、男女合わせて20人近くのAAが居た。
部屋には備え付けのロッカーや革張りの長椅子、自動販売機などと設備は充実している。部屋の上方には、大きなモニター。
さて、どうしたものかとキョロキョロ部屋を見渡していた弟者に、肩をチョンチョンとつつくと同時に不意に声がかかった。
「オイ、弟者!コンナ所デ何シテンダヨ?」
ややソプラノ気味な声に弟者が振り向くと、そこには弟者の高校のクラスメイトのつーが立っていた。その手には持ち込んだらしいナイフが握られている。
「ん?ああ、つーじゃないか。何してると訊かれてもな・・・百ベビ組手出場以外の目的で、ここにいるとは思えないだろう」
弟者が答えると、やや小柄で勝気なこの少女は腰に手を当てて笑った。
「アヒャヒャ!ソウジャネェッテ。オマエガコウイウ大会ニ出場スルナンテ珍シイナ、ッテ思ッテサ」
それを聞いた弟者は、頬をポリポリとかきながら言う。
「むう。俺も最初は観戦目的だったんだがな・・・兄者や妹者に薦められて、出る事にしたんだよ。俺自身、虐殺はご無沙汰だったしな。
つーはこういうの好きそうだとは思ったが・・・まさか出ているとは思わなかったな。いつから出ているんだ?」
弟者の質問に、つーは少し声のトーンを落として言った。
「3,4年前クライカラカナ。ソレニ、出テイルモナニモ・・・ホレ」
囁きながらつーが取り出した物―――それは、首から下げる為のストラップが付いた、金色に輝くメダルだった。
それこそまさに、この『百ベビ組手』の覇者の証だった。そこには『第39回大会優勝者 つー』と刻まれている。
文字の上にはでかでかと、ベビしぃの死骸を踏み台にしてポージングするモナーが描かれていた。
「おいおい・・・優勝までしてるのか。凄いじゃないか。第39回って事は・・・丁度去年か」
弟者からの賞賛に、つーは顔を真っ赤にしながら、腕をパタパタと振った。
「オ、オイ・・・アンマリ大キナ声デ言ウナヨ。恥ズカシイジャネーカ・・・」
と、その時。
ブン、という低い音と共に、部屋の上部に取り付けられたモニターの電源が入った。
そこにはこれから自らがベビを屠殺して周るであろうフィールドが映し出されている。
少しではあるが、観客席の様子も見て取れた。
まじまじとモニターを見上げていた弟者に、つーが声を掛けた。
「ソロソロ開会式ガ始マルナ・・・オイ、チャント見テオケヨ?ルールノ説明ナンカモアルカラナ」
「ああ、わかった」
弟者が答えながら、そばにある2人用の椅子に腰掛ける。つーが寄ってきて、その隣に座った。
それから2人は、ほぼ同時のタイミングでモニターを見上げる。
モニターの中では丁度、1組の男女がフィールドの中心へ向かって歩いてきていた。
8
:
へびぃ
:2007/04/17(火) 00:39:41 ID:???
野球場のスタンドそのものとも言えるような観客席。
その中段のやや前寄り、位置にして選手入場門の上にあたる席に、兄者と妹者が陣取っていた。
「うむ。ここなら見やすいな」
兄者が呟く。
「バッチリなのじゃ!兄者、まだ始まらないのじゃ?」
妹者が待ちきれないといった体で腕を振る。
そんな妹者を微笑ましく思いつつ、兄者は腕時計を見た。
「そろそろ始まるはずだぞ。・・・ほれ、見てみろ」
兄者が指差した先に妹者が視線を移す。
2人のAAが、フィールドの中央に向かって歩いてきたのである。片やモララー、もう1人はガナー。
2人が丁度フィールドの中央に辿り着き、歩みを止めた瞬間―――ざわついていた観客席が、ぴたりと静かになった。
それを確認すると、2人はハンドマイクを取り出した。
そして、モララーが大きく息を吸い込んだ。
「レディース エーン ジェントルメーーーン!!!」
英語の発音にはあまり聞こえない英語で、モララーが叫んだ。何だか矛盾している気もするが気にしない。気にしちゃいけない。
その声はマイクによって拡張され、スタンド中に響いた。
「ベビ虐殺が大好きな諸君!『百ベビ組手』本戦へようこそ!!」
モララーがさらに叫んだ。それを聞き届けたガナーも、マイクを口元へ持っていく。
「本日は是非、華麗な虐殺と・・・ベビしぃ達の阿鼻の叫びを、心行くまでお楽しみ下さい!」
その言葉が終わると、モララーが一歩前へ出た。
「本日の、司会進行はこの私、モララーと・・・」
続いてガナーも前へ出る。
「私、ガナーが務めさせて頂きます!」
そして2人は優雅に一礼。
『不慣れではございますが、どうぞ宜しくお願い致します!』
その瞬間、観客席から『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』とかなりの大歓声。
その大歓声に照れ笑いを浮かべながら、モララーが再びマイクを構える。
「ではここで、本日ご招待致しました、来賓・ゲストのご紹介をさせて頂きます!」
そこで2人は、今日のゲストや来賓を一人ずつ紹介していった。
この町出身の国会議員、売れっ子アイドル、ブレイク中のお笑い芸人達etc・・・。
「さいたまかっ!」
ツッコミに合わせて、アヒャがヒッキーの頭をパチン!と叩いた。
「いや、何が・・・!?」
「どーも、ありがとうございました〜!」
ゲストのお笑い芸人『アヒャ&ヒッキー』の即興漫才を締めとして、紹介は終わった。
最後のネタによって笑いの絶えない観客席に向かって、モララーが叫ぶ。
「いやぁ、アヒャヒキはやはり面白いですねぇ!ではここで、今回の競技のルール説明をさせて頂きましょう!
ギコ君、カマン!」
モララーのコールと共に、入場口から1人のギコが歩いて来た。
そこでガナーが苦笑しながら付け足す。
「こちらは面白くも何ともありませんが、我慢して聞いて下さいね〜」
観客席から微笑。
そこでギコは、モララーのマイクを奪い取って叫んだ。
「おいおいガナーちゃん、そいつはキツい言い方だな、ゴルァ」
「だって、本当の事じゃ無いですか〜」
ガナーの返しに、ギコは頭を掻いた。
「いや、そうだけどさ・・・もうちょっと、オブラートに包むっていうかさ、もっと、こう・・・」
身振り手振りを交えてうろたえるギコ。観客席から再び爆笑が聞こえてくる。
モララーがそこで助け舟。
「まあまあ。それについてはまた後でって事で・・・ほら、説明説明」
「おっと、忘れる所だった・・・じゃ、改めて」
ギコはマイクを構えなおし、説明を始めた。
9
:
へびぃ
:2007/04/17(火) 00:41:31 ID:???
「え〜、基本的なルール説明をさせて頂きますよ、と。
ルールは簡単!そこいらに転がっているベビ100匹をひたすらヌッ殺す!それだけ!
武器は基本的に何でもアリだが、重火器なんかは簡単過ぎるのでタブー。ハンドガン、手榴弾くらいまでだな。
武器は持ち込みでもいいし、レンタルでもオッケーだ!もちろん、素手でもよし!
ちなみに、使用するベビしぃは全てノーマルなベビしぃだ。フサやワッチィなんかは混じってないぜ。
方式はタイムアタック方式。100匹目が絶命した瞬間までのタイムを計測。
一番早かった奴が優勝だ!3位までが表彰台、5位までが入賞。
なお、それとは別に1人、審査員特別賞ってのも用意されてるから、希望を捨てちゃあ駄目だぜ?
こっちを狙うなら、そうだな、速さだけじゃなくて方法や見た目なんかにも気を配ってみたらどうだ?以上っ!」
ろくに呼吸もせずに言い切り、ギコはマイクをモララーへ返した。
そして全方位の観客席へとお辞儀をしてから、再び入退場口へと引き返してゆく。
「ご苦労様!ギコ君ありがと〜!」
モララーが叫ぶ。
ガナーがギコに向かって手を振りながら言った。
「面白くは無かったけど、とても重要なお話でした!では、次は・・・」
「・・・おやおや。もう待ちきれないってご様子ですねぇ、皆さん・・・」
途中で遮り、モララーが後を引き取るように言った。
そして2人は顔を見合わせる。
その顔を戻してから、2人は観客席へ言葉を放った。
「しょうがないので、残りの開会式の予定はパス!」
「早速、本戦へ突入しちゃいましょう!」
その瞬間の観客席からの歓声の大きさと言ったらもう。文字通りスタンドを揺るがすほどだった。
もっとも、本当に飛ばしてしまったのか、はたまた最初からそのつもりだったのかはわからないが。
「うへ〜、すごい大歓声なのじゃ」
妹者が肩を竦めながら、兄者に向かって呟く。
「まあ、それくらい皆、楽しみにしていたという事だろうな。ほら妹者、いきなり始まるみたいだぞ・・・」
兄者が答えながら、フィールドを指差した。
見れば司会の2人はいつの間にか特設された実況席へと下がり、どうやら最初の挑戦者らしいフサギコが入場口からフィールドへと姿を現していた。
スタッフらしいジエンが駆け寄り、フサにマイクを手渡した。
「では、挑戦者NO.01!フサギコ選手の登場だァ〜〜っ!!」
モララーの紹介が終わらない内に、観客席から再び大歓声。
フサはやや驚きながらも、渡されたマイクをポンポンと叩き、テストしている。
ガナーがマイクを通し、フサに声をかける。
「フサギコ選手、自己紹介をよろしくお願いしま〜す!」
フサは軽く司会の2人へ向かって会釈をし、マイクを口元へ運んだ。
「え〜と・・・市立第2モララ高等学校2年、フサギコです。
同校ラグビー部、主将をやっています。
虐殺はあまり慣れていませんが、精一杯殺らせて頂きます!」
ワァァァァァァァァァ!!
やっぱり大歓声。
ラグビー部だからなのか、彼の腕にはラグビーボールが抱えられていた。
そこでモララーが実況席からフサに尋ねた。
「第2モララ高のラグビー部は強いってもっぱら評判だよ!
ひょっとしてそのボール、虐殺と関係あるのかい?」
フサは「ありがとうございます」と一礼してから、
「はい。せっかくなので、ラグビーを虐殺に応用してみました」
その答えに実況席の2人は『おお〜っ・・・』と同時に呟く。
興奮を抑えようともしないモララーがマイクへ向かって叫びまくる。
「そいつぁ楽しみだ!頑張ってちょーだい!
それでは、本日のある意味での主役!『殺られ役』の、ベビしぃちゃんの登場だぁ!カマン!」
彼のコールと共に、『ベビ入場口』のゲートが開いた。
ガーッ!
すると、ゲートが開いた瞬間・・・
チィチィチィチィチィチィチィチィチィチィチィチィチィチィチィチィチィチィチィチィ・・・・・・・・・・・・
ナッコナッコナッコナッコナッコナッコナッコナッコナッコナッコナッコナッコナッコ・・・・・・・・・・・・・
聞こえてくる鳴き声。まるで洪水の如く溢れてくる。
やがてぞろぞろぞろと現れる、ベビしぃの群れ。
這うように歩いてきながら口々に、やれナッコだの、やれハナーンだの、やれコウピだの言っている。
100匹全てのベビしぃが入場したのを確認すると、ゲートは元通り閉まった。
このゲートが次に開くのは、次の挑戦者が入場する時だ。
つまり、ここにいるベビしぃ達が1匹残らず死んだ時。それまでは決して開かない。
―――そう。ベビしぃ達が生きてこのゲートをくぐる事は、もう無いのである―――。
10
:
へびぃ
:2007/04/17(火) 00:43:53 ID:???
入場したベビ達は、フィールド上のあちこちに勝手に思い思いに散っていく。
その場で眠りこける者、追いかけっこをはじめる者、互いに抱き合って(ダッコし合って)マターリする者・・・。
一部のベビは、選手であるフサを目ざとく見つけ、さっきから足元に集まって「ナッコナッコ!チィヲ ナッコチナイト ギャクサツチュー デチュヨォ!」などと喚いてみたり、
尻を向けながら「チィト ハヤク コウピシナチャイ!コウピ!」などと言っている。五月蝿い事この上なく、観客の嗜虐心をいい感じに煽ってくれている。
一部のヒートアップした観客が、「早く殺っちまえ〜!」と叫んだ。
するとモララーが、
「まあまあお客さん、マターリしましょうよ。慌てなくてもベビは逃げない、っつーより逃げられませんから、ね?
それではフサギコ選手、準備をお願いします!」
と観客を宥めつつ、フサに準備を促した。
フサは司会の2人にぺこりと一礼してから、『準備』を始めた。
彼は自らの両膝と両肘に、ラグビーやインラインスケートなんかで使用するプロテクターを装着した。
その頃、彼以外の部分でも変化は起こっていた。
「ん?あれは・・・?」
「兄者、どうしたのじゃ?」
怪訝そうな声を出した兄者に向かい、妹者が問う。
兄者はフィールドの一角を指差し、答えた。
「いや、あそこを見てくれ。あんな所にしぃがいるんだが・・・」
「あ、本当なのじゃ。でも、そんな偉い人には見えないのじゃ」
「うむ。俺もそれが気になってな・・・」
妹者も怪訝そうな顔。
2人が以前から気にしていた、フェンスの向こうのガラス窓の部屋。
あの部屋に次々と、しぃ達が現れたのだ。
兄者が周りを見回すと、観客達も次第に気が付いたらしく、しきりに指さしながら首を捻っている。
それに気付いたらしく、ガナーがモララーに問い掛けた。
「モララーさん。あの部屋にいるしぃ達は、一体何なんでしょうか?
ゲストには見えませんが・・・」
するとモララーは、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに含み笑いをしながらマイクに向かって囁くように言った。
「んふふふふ・・・あれですか。あれはですね・・・。
実は、今回殺されてくれるベビちゃんを提供して下さったお母様方なんですよ〜。
せっかくだから、特別席で我が子の死に様をバッチリ見物して頂こうと思いましてね。
今はこちらの音声は伝わってません。競技の際には、お互いに音声が伝わるようにしますよ。
では、先にあちら側の音声をお聞き願いましょうか・・・」
するとモララーは、手元のボタンをポチッと押した。
やがて、スタンド中に特別席内の音声が聞こえてきた。
「ハニャーン!ベビチャーン、オカアサンダヨ!」
「ベビチャンヲ ナッコシテクレルナンテ、ギャクサツチュウニシテハ イイキカクヲ カンガエルジャナイ」
「マ、シィチャント ベビチャンハ カワイインダカラ トウゼンヨネ!」
「ムシロ、イママデ コウイウノガ ナカッタコトガ オカシインダカラ!」
「ツイデニ シィチャンモ ダッコシテヨー!ハニャーン!」
どよめく場内。
再びガナーがモララーに問い掛けた。
「ところで、あのしぃ達には何て説明してあるんですか?」
「ああ。百匹のベビを、いかに素早くダッコやら何やらでマターリさせるかを競う競技、って言ってあるよ。
完全に自分の子供がナッコしてもらえると信じてるみたいだね。
というわけで皆様。ベビの虐殺だけではなく、あちらのしぃちゃん達が絶望に打ちひしがれる様子も、合わせてお楽しみ下さいね〜!」
そして観客からの拍手喝采。
その時、フサが準備を終えたらしく、近くに設置されたボタンを押し込む。
実況席のテーブルに設置されたランプが点灯したのを見て、モララーが言った。
「おやぁ?丁度準備が整ったようですね」
「では、皆様大変長らくお待たせ致しました!
いよいよ、競技開始の時間です!」
大歓声に包まれるスタンド。
「兄者、いよいよなのじゃ!」
「ああ。お楽しみの始まりだな・・・妹者よ、しっかり見ておくんだぞ」
観客席の兄者と妹者も、フィールドへと視線を固定する。
「ヤット始マルナ・・・弟者、緊張シテルノカ?」
「ん・・・まあ、少しな。つーはもう慣れっこだろう?」
「マアナ。全クシナイカッテ言エバ微妙ダケド、他ノ人ノ競技ヲ見テレバ落チ着クモンサ」
「なるほど、流石だな」
控え室の弟者とつーも、モニターを見上げた。
楽しい楽しい、血と肉と悲鳴の舞踏会が始まろうとしていた―――。
11
:
へびぃ
:2007/04/17(火) 01:05:20 ID:???
開始の合図の前に、モララーが手元のボタンを押した。
恐らくこれで、親しぃの特別席にもこちらの音声が伝わるのだろう。
それは司会や観客の声だけじゃない。愛する我が子の断末魔も、である。
「ベビチャン、ナッコハ モウスグヨ!」
「セッカク ダカラ コウピモ シテラッシャイ!」
「ソレニシテモ アノフサハ シアワセモノネ!コンナニ カワイイ ベビチャンタチヲ ナッコシテ コウピシテ マターリデキルンダモン!」
「デモ、ヘンナカッコウネ。ナンデ アンナカッコウヲ・・・?」
「キット、スコシデモ タクサンノ ベビチャンヲ マターリサセタイカラ カラダガ タエラレルヨウニ シテルノヨ!」
「ハニャ、ナルホドネ!ベビチャーン、タクサン ナッコシテ モライナサイ!アイテノ コトナンカ シンパイシナクテ イイワヨ!」
何も知らない親しぃの声。それを聞いたスタンドにいた観客、司会、スタッフ、選手、ゲスト等の人々は、内心ほくそ笑んだ。
「それじゃあ、競技開始だゴルァ!よーい・・・」
先刻、説明係として登場したギコが、いつのまにか入場口の脇に立ってピストルを空へ向けていた。
それを聞いたフサが、いかにもこれから全力で走りますよ、といった感じで姿勢を少し低くし、片足を前へ出した。
その腕にはラグビーボールが抱えられたままだ。
「チィチィ!イヨイヨ チィヲ ナッコチテ クレルンデチュネ!」
「マズハ チィガ ナッコチテ モラウノ!アンタハ アトヨ!」
「チィィィィ!マズハ セカイイチ カワイイ コノチィガ ナッコナノ!」
「コウピ!コウピー!」
「Zzz・・・マァマ・・・ナッコォ・・・」
「ハナーン・・・マチャーリ デチュヨゥ・・・」
ベビ達の反応も様々だ。
まずは自分がナッコしてもらうと周りのベビを押しのけようとするベビ、ずっとフサへ向けて尻を振り続けるベビ、
まだ眠りこけてるベビ、相も変わらず互いにナッコし合って終始マターリ状態のベビ・・・etc、etc。
共通しているのは、どのベビもこの後自らを襲う災厄に欠片ほども気付いていないという事か。
ギコが、トリガーにかけた指に力を込めた。そして―――
―――パァン!
ピストルが咆哮を放つ。それは、競技という名目の殺戮ショー開始の合図。
瞬間、フサは前方へ向かって猛ダッシュ。それを後押しするかの様な観客の大歓声。
「ハナーン、ナッコ♪」
「マズハ チィヲ ナッコ チナサイ!」
「コノ セカイイチカワイイ チィヲ ナッコ デキルコトヲ カンシャ・・・チィィィィ!ドコニ イクンデチュカ!」
「ハヤク コウピー!」
早速ナッコにコウピをねだって来るベビ達。
しかし、フサはそんなベビ達に目もくれず、脇をすり抜けて行った。
口々に文句を言うベビ。中には追いかけて捕まえようとする者もいたが、ラグビーによって鍛え抜かれた健脚に叶う筈も無く。
というか、ベビしぃが全速力で走った所で、幼稚園児にだって叶う筈は無い。
フサが走るその先には、互いにナッコし合ってマターリ空間を生み出すベビ2匹。
左側にいるベビは既に眠っている。右側のベビも目を閉じて恍惚状態。あちら側に言わせれば、マターリしているのだろう。
ナッコし合うベビ2匹まで後3mくらいの所で、フサが地を蹴った。
フサは空中で体を伸ばし、両手でラグビーボールを持ち直して、それを振り上げた。
流石に殺気のようなものを感じ取ったらしい右側のベビが、目を開けた。
目の前に迫るフサ。もう1m程度。だがベビは状況を理解してないらしく、とろりとした表情を崩さない。
そして、フサの体が地面へ着く直前、彼は腕を思いっきり振り下ろしつつ、叫んだ。
「―――トライッ!!」
寸前、ベビが口を開いた。
「・・・ナッコ?」
―――そして。
―――グチャァッ!!
「ヂピギュゥッ!?」
尖った形状をしたラグビーボールの先端を脳天に叩きつけられ、ベビは異常な断末魔と共に、下半身を残して肉塊へと化した。
頭部が割れ、あちこちから脳味噌がはみ出し、血は止め処無く噴き出す。目玉が飛び出してごろり、と地に転がった。
その刹那。
12
:
へびぃ
:2007/04/17(火) 01:07:52 ID:???
『シィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!????』
『チィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!????』
『ドワァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!』
3種類の大絶叫が、同時にスタンドに轟いた。
たった今までベビ達がナッコして貰えると信じきっていた親しぃ達の叫びと、
自分達をナッコしてくれると信じていたフサの突然の殺戮行為に驚愕したベビ達の叫びと、
見事にベビが肉塊へと変貌したのを見て大興奮の観客の声援。
しかし、その大絶叫の間にも、フィールド上のフサは動いていた。
素早く起き上がると、今度はたった今潰したベビのすぐ横で眠るベビに狙いを定めた。
今度はキックで飛ばすらしく、足を振り上げる。
すると、ターゲットのベビがナッコし合っていた相手のベビの血液や脳漿の付着によって目を覚ました。
そして顔を上げ、フサと目を合わせる。
「・・・ハナ?」
しかし、フサの足は止まらない。
ドゴッ!!
「ヂュィィィィィィィィィ!!?」
鍛え抜かれた足から放たれたキックの威力は相当なものだった。
ベビしぃは蹴られた部分―――側頭部から脇腹にかけて―――が潰れてへこみ、鼻や口から血が溢れていた。
そのままベビはあれよあれよと空の旅。そして数秒後の後に、
ガッシャーン!!
という音と共に観客席とフィールド上空を仕切る金網に激突、その衝撃でさらに潰れてから、ドサリと地面に落下した。
落下の衝撃でますます潰れたベビ。内臓にも被害が出たらしく、体中の穴からどす黒い血液を垂れ流した。当然、もう動かない。
「チィィィィィィ!?ギャクサツチュー デチュヨォォ!」
「チィノ ナッコハ ドウナルンデチュカ!?」
「タチュケテェェェェェ!チニタク ナイデチュー!」
「ハナーン!マンマー!タチュケテー!」
「コウピコウピー!」
次の瞬間、ベビ達はパニックに陥った。
突如として目の前に現れた殺戮者に、ベビ達は混乱を隠せない。
生き延びようとして我先に逃げようとするが、ここは高いフェンスで仕切られたバトルフィールド。逃げ出せる筈が無い。
ベビ達の顔に、絶望の色がありありと浮かび始めた。
―――もっとも、一部のベビは全く動じていない様子。
それは、単に目の前の惨状が受け入れられないか、未だ気付いていないか、眠っているかのどれかなのだが。
また、パニックに陥ったのはベビ達だけではない。
「シィィィィィィィ!?ベビチャンガー!!」
「ドウナッテルノヨ!ナッコト コウピデ ハニャハニャンジャ ナカッタノ!!?」
「シィノ ベビチャンガ シンジャッタヨォォォォォ!!ビエェェェェェェェェェン!!!」
「ベビチャァァァァァン!ニゲテェェェェェェ!!!」
「シィィィィ!カベサンガ ジャマデ ベビチャンヲ タスケニ イケナイヨゥ!!ココヲ アケテヨゥ!!」
そう。ベビ達の親であるしぃ達もまた、突如目の前で繰り広げられた殺戮に、完全に混乱した模様。
バタバタと暴れだす者、大声で泣き叫ぶ者、ガラス窓をドンドンと叩く者、我が子に必死に呼びかける者―――。
それら全ての行為が、全くの無駄であるという事にも気付かず、しぃ達は必死だ。
13
:
へびぃ
:2007/04/17(火) 01:09:15 ID:???
やがて、フサが再び動き出した。
彼はふぅ、と一つ息をついてから、再び猛烈な勢いで走り出した。
前方にベビの群れ。
「チィィィィィ!コナイデ クダチャイヨゥ!」
「コロスナラ コッチノ クチョベビカラニ チテヨゥ!」
「チィィィィィィ!?コノ セカイイチ カワイイ チィニ ナンテコトヲ イウノ!?」
「マァマァァァァァァァァ!!!タチュケテェェェェェェェェ!!!」
「ナッコーーー!!」
口々に叫びながら逃げるベビ。
本人は必死のつもりなのだろうが、あっという間に差が詰まってゆく。
そりゃそうだ。ベビしぃが全速力で走っても、その速度は時速1km程度か、それ以下だ。まさに牛歩。―――それは牛に失礼か。
フサはベビの群れに突っ込む寸前にもスピードを一切緩めず、足元のベビを次々とスパイクシューズを履いた足で踏み潰さんと駆け抜けた。
グシャッ!
フサの足が群れの最後方をチィチィ言いながら這っていたベビしぃを踏み潰した。
「ギュビィィィィィィィ!!!!」
奇声を発してベビしぃが潰れた。胴体をまるまる踏み潰されたベビ。心臓まで潰れたらしく、口から血を流してすぐに事切れた。
フサは一切スピードを緩めず、そのままの勢いでベビを次々と踏み潰していった。
グシャッ!
「ミヂィィィィィ!!??」
グチョッ!
「ナッゴー!ナッブギョォォォォ!?」
メシャッ!
「ゴヴェェェェェェェェェ!!!!」
「ヂィィィィィィィ!!!モウ ヤァァァァァァァ!!!!マァマァァァァァァ!!!」
次々と潰されていく同族の姿を見て、ベビが泣き叫ぶ。
「ベビチャァァァァン!コノ ギャクサツチュウ!ヤメナサイ!」
「シィノ ベビチャンガァァァァァ!!!ベビチャァァァァァン!」
「イヤァァァァァァ!!!ベビチャンガ シンジャウヨゥ!」
「オナガイ、ハヤク ココヲ アケテェェェェ!ハヤクシナイト シィノ ベビチャンガ、ベビチャンガァァァァァァァ!!!」
「シィィィィィ・・・シィノ、シィノ、ベビチャァァァァン・・・」
親しぃ達も叫ぶ叫ぶ。目の前で我が子が殺されようとしているのに、手も足も出ないという絶望感。
中には既に、ベビを殺されたショックで意識がお花畑に飛ばされてしまったしぃもいる模様。
一方フサは、ある程度走った所で足を急に止めた。
ベビ達や観客たちも、フサの次の行動に注目する。
すると、フサは持っていたラグビーボールを、少し離れた所に思いっきり投げつけた。
近くにベビが居たが、この様子ではまず当たらないだろう。
「チィチィ!ヤッパリ ギャクサツチューハ バカデチュ!ハズシテルデチュ!」
「ヨウヤク コノチィノ イダイサニ キヅイタノネ!」
「ハナーン ヤット マチャーリ デキマチュ・・・」
ベビ達は安堵しきった様子。
「ハニャッ!アノ ギャクサツチュウ ボールサンヲ ハズシテルヨ!」
「ホントホント!アンナトコロニ ナゲルナンテ ヴァカミタイ!」
「マ、ショセン ギャクサツチュウナンテ コンナモンネ!」
「サア、ハヤク ベビチャンヲ ナッコシナサイ!」
親しぃ達も好き勝手言っている。
しかし、観客の殆どは『ラグビーボールの特性』を知っており、内心でほくそ笑んだ。
14
:
へびぃ
:2007/04/17(火) 01:09:51 ID:???
ラグビーボールが着弾。フサが投げた方向にベビはいない。余裕の表情のベビ&親。
しかし、その表情は一瞬で凍りついた。
着弾したラグビーボールは、フサが投げた方向を12時(フサがいる方向が6時)とすると、なんと突如として7時の方向へバウンドした。
その先にはベビが1匹、余裕の表情で寝転んでいた。
ベビは突如として向かってきたボールに驚き、
「チィィィ!?ナンデ ボールサンガ・・・」
ゴシャッ!
「ヂュィィィィィッ!」
そして、ボールの直撃を食らって倒れた。
フサが全力で放ったボールの勢いはこれまたかなりの物。ベビは顔面を潰され、頭部の体積が1/3程度になってしまった。生きている筈が無い。
さらに、ベビを1匹昇天させたにも関わらずボールの勢いは全く衰えず、着弾してから今度は真横、3時の方向へ飛んだ。
その先にもまたもやベビが。
「チィィィィ!?コナイデェェェェ!!」
ベビが叫ぶが、ボールに何を言っても無駄な訳で。
グシャッ!
「ヂュピィィッ!?!?」
―――当然、潰される訳で。飛び散る血液と脳のコラボレーションが、観客達を魅了する。
それからというもの、ラグビーボールはフルパワー状態を維持しながら、ベビ達が全く予想できない方向へと跳ねまくった。
何故、このような現象が起こるのだろう。それは、ラグビーボールの形状に理由がある。
通常のサッカーボール等の球形のボールは、どの部分で着弾しても力の掛かり方はほぼ同じ、従って決まった方向にしか跳ねない。
しかし、ラグビーボールは楕円形をしているため、着弾する箇所が異なると、力の掛かり方も全く異なってくる。もちろん、跳ね方だって全く異なる。
従って、次にどの部分で着弾し、どの方向に跳ねるかなんて全く予測が出来ないのである。
15
:
へびぃ
:2007/04/17(火) 01:10:22 ID:???
「チィィィィィ!!マァマァァァァァ!!タチュk」
グチャッ!!
「ナッゴォォォォ!!!ナ」
ブチュッ!
「アニ゙ャァァァァァァァァァァ!!!コンナノ マチャーリジャ ナ」
ビシャッ!!
叫ぶベビ、そして叫んだそばから潰されていくベビ。
完全に次の動向が予測できないラグビーボールは、まるで意思があるかのように次々とベビを潰していった。
何しろ、次はどの方向に、どれくらいの速度で、どこまで跳ぶのか。それらが全く予測できないのだ。
現実にそんな兵器があったとしたら、手練の兵士でも避ける事は困難を極めるだろう。
ましてや相手は単なるアフォしぃのベビ。運動神経は皆無に等しい。
それが最新鋭の兵器では無くてラグビーボールだったとしても、かわす事なんて出来やしなかった。
『ラグビーボールなんかで殺せるのか?』なんて疑問を抱いた方もいらっしゃるだろう。
だが、ラグビーボールの空気をしっかりと入れ、それなりの力で投げつけたなら、革張りのボールはかなりの威力を持つ。
前述したが、相手は単なるベビなのだ。体の脆いアフォしぃのベビの強度なんてたかが知れている。
ベビ達にとってそのラグビーボールは、まさに軽快に跳ね回る鋼鉄の塊のような物だった。
また、ボールが次々とベビを仕留める間も、フサは休んでいた訳では無かった。
彼はおもむろに駆け出すと、近くで恐怖に慄いて体が硬直していたベビを1匹、掴み上げた。
そしてそのベビを、片腕でしっかりと抱くようにして持つ。
「アニャ?ナッコデチュカ!?アニャーン・・・ヤット チィノ カワイサニ キヅイタンデチュネ・・・ナッコ・・・」
腕に抱かれたベビはナッコと勘違い。瞬時にマターリモード。
(ちなみに、片腕で抱くようにしてボールを持つのはラグビーの基本)
フサはそんなベビも意に介さず、猛烈なダッシュをかける。
そして、これだけの惨劇が起こっているにも関わらず眠りこけている(ある意味大物な)1匹のベビを補足。
この時点で観客の半数はフサの目論見に気付いたらしく、wktkが止まらないご様子。
中にはまるでジョルジュ長岡の如く腕を振りまくって『うおぉぉぉぉ!!』なんて叫んでヒートする観客も居た。
縮まっていくフサと眠りベビの距離。
それが5m程度に達したとき、フサは抱えていたベビを片手持ちに持ち替えた。
「ハナーン・・・?」
マターリのあまりとろけそうになっているベビは、さして気にしていない様子だ。
そしてフサとベビの距離が3m程度になった時―――
―――跳躍。
空中でフサは、ベビを両手で持ち直して、その手を高々と振り上げた。
その様子は、つい先刻、ボールをベビに叩き付ける直前の瞬間と酷似していた。
「チィチィ!タカイタカイ デチュネ・・・。タカナッコ デチュ・・・」
―――いくらなんでも気付いても良さそうなのだが。
第一、今貴方は逆さまに掴まれているのですよ、ベビちゃん?
一瞬の静寂の時。そして。
ドグチャァッ!!
『ヂュビギョォォォォォォ!!!??』
この世の生き物が発したとは到底思えない奇声の二重奏(デュエット)。
互いに叩きつけられたベビの頭部は最早原型を留めない程に崩壊した。
特に叩き付けた方のベビ(掴まれてた方)は、頭部がグシャグシャに千切れて、さらに首から上が吹き飛んだ。
吹き飛んだ頭部は既に千切れていた事もあって見事に空中分解。
傍で目をひん剥いて事の顛末を見届けていた1匹のベビに、血肉のスコールが降り注いだ。
「チィィィィィィィィィ!!!!??イヤァァァァァァァァァァァ!!!!キモチワルイ デチュヨォォォォォォ!!!」
突如として文字通り降り掛かった災厄に、ベビは悲鳴を上げた。
全身を血液、肉片、脳漿で染め上げ、さらに耳の辺りを飛んで来た目玉でデコレーションしたベビ。
周りのベビも、遠巻きにしてそれを観察している。
次は自分が、あんな目に遭うのだろうか―――。
そんな言葉を脳裏に過ぎらせながら。
16
:
へびぃ
:2007/04/17(火) 01:10:49 ID:???
「キモイ デチュヨォォォォォ!タチュケテェェェェェ!!ナッコォォォォ!!」
全身血肉塗れとなったベビが、半ば転げまわるような形で暴走を開始する。
他のベビに向かって突進する血塗れベビ。―――だが。
「チィィィィ!?コナイデェェェェェェ!!!」
「クチャーヨゥ!キモチワルイヨゥ!!マチャーリジャ ナイデチュヨゥ!!」
「アンタミタイナ キモイノハ ホコリアル カワイイ ベビシィトハ ミトメナイデチュ!!コノ キケイ!!」
口々に言いながら一目散に逃げてゆく。
血塗れベビを気遣う者は、誰一人としていない。『大丈夫か』の一言も無い。
それどころか、そのベビを罵倒し、蔑み、挙句『奇形』とまで言ってのけた。
運が悪ければ、自分がその『奇形』とやらになっていたかも知れないのに、そんな事は頭に無い。
奴らの頭は都合の悪い事は全て忘れるような構造をしているらしい。まさにアフォしぃの思想そのものだった。
蛙の子は蛙。アフォしぃの子はアフォしぃ。という事か。
「チィハ キケイナンカジャ ナイデチュヨゥ・・・ナッコ・・・ナコ、ナコ・・・」
周りのベビ全員から非難され、行き場を無くした血塗れベビが、その場に立ち止まって呟く。
だが次の瞬間、背後に誰かの気配を感じた。ベビの顔が明るくなる。
こんな自分でも、傍にいてくれる仲間がまだ居たのかと、ベビはゆっくり振り向く。
振り向きざま、ベビは両手を突き出しながら言った。
「ナッコ♪」
―――そこに居たのは、自らと同じベビしぃでは無かった。
目の前で数多のベビを屠ってきた、フサの姿があった。
「ヂ・・・」
ベビの顔が凍り付きかけた。―――何故、未完形なのかって?
凍り付く暇も無く、その頭は蹴り飛ばされてしまったから。
蹴られた頭部は、首から離れてかなりの速度で飛んでいく。鮮血の尾を引きながら。
そのまま、遠くにいたベビの、これまた頭部に直撃した。
ゴシャッ!
「ギヂュゥゥッ!!?」
命中の瞬間、生首の直撃を食らったベビの頭部は爆散した。
そしてさらに、その頭部の破片が近くに居た数匹のベビを襲った!
グシャシャッ!!ブチュッ!バキッ!
「ブギュッ!!」
頭蓋骨の大きな破片が側頭部に突き刺さり、脳を露出させたベビ。
「アギギギギィィィィ・・・」
顔面に大量の歯が突き刺さり、まるで蓮コラ画像のようになったベビ。
「ミ゙ギュゥゥゥゥゥ!!ウヴィィィィ!!」
顎の太くて丈夫な骨の直撃を受け、顔面を砕かれたベビ。
蹴り飛ばした首がベビを直撃し、さらにそのベビの砕けた頭部が周りのベビに命中する。それはまるでビリヤードのようだった。
「チィィィィィ!!ナッコスルカラ タチュケ」
グチョッ!
唯一フィールドで生き残っていたベビを、フサが踏み潰した。
と、その瞬間。
パァン!
再びピストルの音が、高らかに鳴り響いた。
それは、競技終了を知らせる合図だった。
「競技終了ォォォォォォォォ!!100匹屠殺完了っ!!」
「フサギコ選手、お疲れ様でした〜!」
すっかり興奮したモララーが叫び、ガナーはフサに労いの言葉をかける。
「タイムはぁっ・・・6分7秒!!これはいきなり好記録っっ!!」
モララーのコールに合わせて、スタンドの金網を吹き飛ばさんばかりの大歓声が轟いた。
17
:
へびぃ
:2007/04/17(火) 01:17:20 ID:???
「ラグビーの動きを応用しての虐殺!いやぁ、お見事だったよ〜!」
モララーがすっかり上気しながらフサを褒め称える。
フサは「ありがとうございます!」と一礼。
「それではフサギコ選手、控え室、或いは観客席の方へお戻り下さい!ありがとうございました〜!」
ガナーのアナウンスを聞き届けてから、フサは司会、スタッフ、観客の順に礼をしてから、退場口へと消えていった。
―――一方、親しぃは。
「イヤァァァァァァァァァァァ!!ベビチャンガァァァァァァァ!!」
「ビェェェェェェェェェェェン!!ベビチャンガ シンジャッタヨォォォォォォォ!!」
「ハニャーン!ハニャーン!!ハニャァァァァァン!!!」
「アニャニャニャ・・・ベービチャァーン・・・」
愛する我が子とその仲間達が目の前で惨殺された親しぃ達は、完全に狂乱状態だった。
中にはショックから完全に思考回路が消し飛び、抜け殻のようになったしぃもいた。
やがて親しぃ達は、スタッフの手によって強制的に退場(泣き喚く奴・狂った奴は蹴り出して)させられた。
「う〜ん、すごいのじゃぁ・・・」
妹者が感心しきった様子で呟いた。
兄者がそれに同意する。
「うむ、まったくだ。だが妹者よ。感心するのはまだまだ早いぞ。これからまだ何人も競技を行うのだからな・・・」
「楽しみなのじゃ!」
兄者の言葉に、妹者は待ちきれないといった表情で笑った。
それから、何人もの挑戦者がバトルフィールドに現れ、ベビ達を虐殺していった。
(ちなみに、競技終了後のフィールドはスタッフが死骸を片した後、機械で土をまるまる入れ替える為、ほぼ元通りになる)
無難に虐殺した者もいたし、中にはかなり特異な方法をとった者もいた。
挑戦者NO.09である、有名料理店『モナ場料理店』の料理人モナーは、何とベビ達を100匹全員ベビフライにしてしまった。
油を高温に熱したり、ベビを捕まえて巨大鍋に放り込むのに時間が掛かった為に優勝は望めそうに無かったが、本人はとても満足した様子。
そのベビフライは司会の2人やスタッフ、抽選で決定した観客に配られた。
誰もが皆、百人百様の虐殺に魅了されていた。
―――控え室。
弟者と共にずっとモニターを見上げていたつーが、不意に立ち上がった。
モニターの中では、挑戦者NO.10の大工ギコが、ベビを鉋(かんな)でガリガリ削っている。『ギヂィィィィィィ!!!』という悲鳴が響いていた。
「ジャ、ソロソロ行ッテクルゼ」
「ん、もう出番なのか?」
つーの言葉に、弟者が反応する。
つーが答えた。
「アア、アタシハNO.12ナンデナ。1ツ前ノ挑戦者ノ競技中ニ、準備室ヘト移動スル事ニナッテルンダヨ」
なるほど、と弟者が頷いた。
「まあ、頑張って来い。前回優勝者だからって、気負う必要は無いさ。リラックスして、な」
「言ワレルマデモネェッテ。・・・アリガトヨ」
弟者の激励につーは微笑んでから、『出場者準備室』のプレートが掛かったドアを開け、その先に続く階段を下りていった。
その背中に確かな自信を感じ、弟者は少しだけ安堵してから、もう一度モニターを見上げ直す。
今度は別のベビが、エアーネイラー(電動釘打ち込み機)で釘を打ち込まれまくっていた。『アニ゙ャア゙ァァァァァァ!!!』というベビの悲鳴が聞こえて来た。
「さあさあ!いよいよ真打ちの登場です!」
モララーの一層大きな声が、スタンド中のAA達の耳を打った。
続いてガナーが、これまた普段より大きな声で告げた。
「挑戦者NO.12!!前回大会優勝者・・・つー選手の登場ですっ!!」
ドワァァァァァァァァ!!!!
その瞬間、爆弾が爆発したとも聞きまがう、凄まじい歓声が轟いた。
恐らくスタンド中どころでは無い。町内広場中に響き渡った事だろう。
歓声と共に登場した、小柄な少女。
「あ、つーちゃんなのじゃ」
妹者がつーに向かって手を振る。兄者も、少し驚きながら唸った。
「う〜む・・・前回優勝者はつー族の女の子とは聞いていたが・・・まさか弟者の友達だったとはな」
当の本人は、モララーからのインタビューに答えていた。
「今回も華麗なナイフ捌きを見せてくれると期待してるよ〜!ところで今回の目標は?」
その問いに、つーは即座に答えた。
「勿論、V2達成ニ決マッテルサ!アーッヒャッヒャッヒャッヒャ!!!!」
「頼もしいお言葉!!是非頑張ってちょーだい!!」
「ではつー選手、準備をお願い致します!」
司会2人の声に押されて、つーは準備を始めた。
18
:
へびぃ
:2007/04/17(火) 01:19:16 ID:???
『準備』とは言っても、つーは何やら硬い物がぎっしり詰まっている麻袋を2つ、腰にそれぞれ左右に括り付けただけだった。袋の口は背中の方を向いている。
そして、壁際のボタンを押し込む。ランプの点灯を確認してから、モララーがマイクを手に取る。
「おっと、準備が出来たようですね。ガナーちゃん、ベビの方はスタンバイ・オーケィ?」
「こっちも準備完了ですよ〜。それでは、間も無く競技開始です!」
ガナーの言葉通り、フィールドには既にベビしぃが100匹入場完了していた。
前述したが、フィールドは競技が終わる毎に綺麗に掃除される。ベビ達は100匹ずつ完全に隔離されて待機する為、誰一人として『ここで虐殺があった』という事実には気付かない。
それは親しぃも同じだった。
「ベビチャン、イイナァ。ナッコシテ モラエルナンテ・・・」
「デモ、ナンデ ギコクンジャ ナイノヨ!アンナ アヒャッタヤシニ ナッコサセタラ ベビチャンノ キョウイクニ ワルイジャナイノ!」
「マア、シィチャンハ ヤサシイカラ、ダッコサセテアゲテモ イインジャナイ?」
「カワイイシィチャンノ、カワイイベビチャンヲ ナッコデキルコトヲ ナイテ カンシャシナサイヨ!」
そんな喚きが聞こえてくる。バレる気配は全く無い。もっとも、バレた所で防ぎようも無い訳だが。
つーはというと、親しぃの言葉に軽くカチンと来たのか、親しぃの方を睨み付けながら、腰の袋に手を伸ばしたり、引っ込めたりしている。
どうやらあの中には武器が入っているようだ。
しかし間も無く競技が始まるというので、つーは視線を前に戻す。
視線の先には、ベビが100匹。ナッコを要求したり、つーが男に見えるのかコウピを要求するものもいたり、眠っていたり―――。
「では、よ〜い・・・」
ギコが空砲のピストルを構える。つーは軽く深呼吸しながら、体を少し屈める。
兄者、妹者を始めとする観客も息を飲む。スタンド中が静寂に包まれた。
―――否。ベビと親しぃだけは騒いでいたが。
そして―――。
パァン!
ピストルの咆哮と共に、流星の如き勢いでつーが飛び出した。
あちこちから聞こえてくる「ナッコーー!!」やら「チィヲ ナッコチナサイヨー!」とか言う声を完全に無視して。
その瞬発力は、確実に本日の出場者の中でも最速だろう。
フィールドの中央付近まで走り込んだつーは、右手を腰に回し、袋の中に突っ込む。
一瞬、風を切るような音がした。はた、と見た次の瞬間、つーの腕は顔の前を通り、右手は彼女の左側頭部の所にあった。
何が起こったのか、観客には全くわからない。
しかし、すぐに分かる事となる。
19
:
へびぃ
:2007/04/17(火) 01:19:56 ID:???
「ヂィィィィィィ!!」
「ヂギャァァァァァァァァ!!!」
「ア゙ア゙ァァァァァァァァ!!」
という、3つの悲鳴が聞こえて来たからだ。
見やれば、つーの前方5、6m先に居る3匹のベビの顔面に、細めのナイフが突き刺さっていたのだ。
それぞれ眉間、こめかみ、右目。どれもベビの頭部を貫き、後頭部から切っ先が飛び出している。
「な、なにが起こったのじゃ・・・?」
目をくるくると回す妹者に、兄者が解説を開始する。
「妹者よ、説明しよう。袋の中にはあのナイフがぎっしり入ってたようだな。
で、袋に手を突っ込んだ時にナイフを3本掴んで、投げた」
「でも、投げたようには見えなかったのじゃ・・・」
「―――恐らく、目にも留まらない速さで腕を振って、投げたんだろうな。俺にも見えなかったよ。
俺達が見た時には既に顔の横に手をまわしていたが、あれはフォロースルーだろうな・・・」
「つーちゃん、凄いのじゃ・・・」
「ああ、全く・・・流石だな」
兄者が説明した通り、つーは目にも留まらぬ速さでナイフを投げた。
そしてそれは、正確にベビの顔を捉えたのだった。
その華奢な腕からは想像も出来ない程の剛速球、もとい剛速刃だ。
顔面に刃を受けた3匹が倒れ伏す間も無く、つーは走り出していた。
そして左手でナイフを1本取り出すと、体制を低くする。
怯えた表情のベビがすぐ傍に迫る。つーは軽く左手を振った、つもりだった。
ザシュッ!!
ベビの両耳、両手、両足が吹き飛んだ。噴出した鮮血の雫が、太陽の光を浴びてきらきらと輝く。
ベビがすかさず叫ぶ。
「チィィィィ!?チィノ オミミー!オテテー!アン」
「ウッサイ!」
聞き飽きたその叫びを皆まで言わせず、つーは達磨になったベビを蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされたベビ一直線に飛んで行き、親しぃの観戦席の窓ガラスの上方の壁に激突、そのままグチャリとトマトのように潰れた。
「シィィィィィィィィ!!?」という叫び声が聞こえたが、つーは全く気に留めない。
「チィィィィィィィィ!!ギャクサツチュー デチュヨォォォ!ナッコォォォォ!!」
そんな叫びが聞こえてきた。つーは視線を移す事もせず、その叫びの聞こえてきた方向へナイフを放る。
ザクッ、という音に一拍遅れて
「ギュヂィィィッ!!!?」
ベビの悲鳴が被さる。仕留めたかどうかを確認しようともせず、つーは再びナイフを1本抜く。
20
:
へびぃ
:2007/04/17(火) 01:20:27 ID:???
その時、真正面からベビの声。
「カワイイ チィタチニ コンナンコトシテ ユルサレルト オモッテルンデチュカ!?イマナラ コウピデ カンベンチテヤルデチュ!コウピ コウピー!」
見ればそのベビは、尻をこっちに突き出しながら少しずつ接近して来る。常人なら確実に眼を背ける光景だろう。
つーは、ぎりっ、と歯軋り一つしてから、言葉と共にナイフを振りかぶる。
「アタシハ・・・」
そして、絶叫と共に腕を振りぬいた。
「―――女ダァァァァァァァ!!」
ブチュンッ!
「ギュッ・・・!?」
短い悲鳴。見れば、ナイフはなんとベビの体をぶち抜いて、貫通していた。
ナイフは肛門から突き刺さり、皮膚を破り、血管を絶ち、あばら骨を折り、心臓を貫いて、最後に口腔内を切り裂いてから口から体外へ出、失速して地面に突き刺さった。
その小さな体からは想像もつかないようなパワーだったが、つー自身はその力に酔う暇も無く、ナイフをまた取り出す。
今度は両手にそれぞれ5本ずつ。すると、つーはそのまま跳躍。高く高く上昇する。
彼女は空中で体制を直すと、ベビ7,8匹が身を寄せ合って固まっている箇所に狙いを定めた。
そして腕をクロスさせると、その両腕を広げるような形でナイフを投げつけた。
ベビの集まりに向けて、上空から風を切り裂いて10本のナイフが襲い掛かる!
ズドドドドドドドドドドッ!!!
「ハギュッ・・・!」
「ヂュィィィィィィ!!?」
「ナ゙ゴォォォォォ!!!」
「アギャァァァァ!」
雨霰(あめあられ)と降り注いだナイフは、余す事無くベビ達に突き刺さった。
顔面、後頭部、胸部、腹部、背中、首・・・被弾箇所は違えど、1匹残らずナイフの餌食。
つーがスタッ!と地面に着地した時には、既に8匹中5匹が絶命していた。
生き残っていたのはそれぞれ背中、腹部、脇腹にナイフを受けていた。致命傷にはなっていなかったが、出血はかなり激しい。溢れるなんてもんじゃない。噴出している。
放って置けば確実に死ぬ―――誰もがそう判断した。それはつーとて例外ではなく、未だにしぶとく「ナ・・・ナゴ・・・」と呟くベビをスルーし、ナイフを新しく抜きながら辺りを見渡した。
今度は両手に1本ずつ。それを構え、つーは突進した。
フィールドを縦横無尽に駆け回り、ベビの横を通り抜ける度に、つーは腕を動かす。
そしてその度に、ベビの体から鮮血が噴き出すのだった。体の一部も一緒に吹き飛ばし、時にはまるまる首や上半身を無くす者もいた。
ウオォォォォォォォォ!!
会場のボルテージは最高潮だった。
阿修羅の如き勢いでナイフを駆るつー。彼女が傍にいたベビの首を切断した瞬間、彼女は大きな声で笑った。
「アーーーーーーヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャ!!!!」
その笑い声は、観客達に最大の興奮を、ベビ達に絶大な恐怖をもたらした。
21
:
へびぃ
:2007/04/17(火) 01:21:48 ID:???
まるで真っ赤な絨毯を敷き詰めたかのようなフィールド。むせ返るような血の匂い。
その中央で、銀の刃を煌かせながら舞う少女。
彼女が動くたび、フィールドに真っ赤な花が咲く。
「チィィィィィ!モウ ヤァヨォォォォォォォ!!!」
ベビしぃの悲鳴。
しかし、耐え切れぬ恐怖から発したその叫びが、皮肉にもその『恐怖』の根源を呼び寄せる結果となる。
つーが、叫びを発したベビの方を向いた。思わずビクリと竦むベビ。
そして、右腕を軽く振る。放たれたナイフが、太陽光を反射して眩しく光った。
グシャッ!
「ジギュゥッ!!?」
哀れ、叫びを発したベビは、鋭いナイフにその小さな心臓を貫かれて逝ってしまった。
噴水のように噴き出す鮮血にも目もくれず、つーは足元に居たベビを蹴り上げた。
「アニャァァァァ!」
まるでサッカーボールのように高く舞い上がったベビ。
それと同時に、つーはベビと同じ高さまで跳躍する。
空中でくるりと体を捻って1回転してから、つーがナイフを水平に構えた。
「ナッコチュルカラ タチュケ・・・」
「ヤダネ!アッヒャッヒャ!」
短すぎる会話。
そして―――
ザンッ!
「アギュッ・・・」
横薙ぎに振るわれたナイフは、正確にベビを腹部の辺りで真っ二つに切り裂いた。
腸をぶら下げながら飛んでいく上半身と、糞尿になりかけの物体を撒き散らしながら落ちていく下半身。
つーは着地と同時に、少し離れた場所に居るベビ―――最後の一匹目掛けて走り出した。
爆風の如き勢いで迫る、小さな小さな『災厄』。
ベビは、つーに背を向けて逃げながら絶叫した。
「ナッコォォォォォォォォ!!ナコスルカラ ユルチテェェェェェェェェェェ!!」
だが、ベビしぃの渾身の叫びは、つーの心を1nmmですら動かす事は出来なかった。
「ソレシカ言エネェノカ・・・ヨッ!」
ドガッ!
「ヂィィィィィィィィィィ!!!」
あっという間にベビに追いついたつーは言い切ると同時に、ベビを思いっきり前方へ蹴飛ばした。
ベビは悲鳴を発しながら一直線に飛んで行き、そして。
ゴシャッ!!
「ビュギィッ!!??」
何と、親しぃ達の特別観戦席の窓ガラスに激突して張り付いた。
「イヤァァァァァァ!!」
「シィィィィィィ!!?」
親しぃ達の悲鳴が聞こえてくる。と、その時。
「ベビチャン!オカアサンハ ココヨ!!」
最前列に居た1匹のしぃが、ベビに向けて叫んだ。
何と皮肉な事か。顔面を骨折し、鼻血を垂れ流してガラスに張り付く何とも醜い有様のベビを、その母親が眼前で見る羽目になろうとは。
ベビも母親に気付いたのか、声を絞り出す。
「マ・・・マ、マ・・・」
「ベビチャン!ベビチャン!!シッカリシテェ!」
親しぃが、ガラスの向こうの我が子に向かって必死に手を伸ばす。
たった数cmのガラス窓に隔てられた親子。このガラスさえ無ければ、ベビちゃんを助けられるのに。
親しぃは無駄と頭では分かっていながらも、手を伸ばす。
ベビが今生の頼み、といった感じで、言葉を紡ぎだした。
「マ、マ・・・ナ、ナ、ナ゙」
ブシャッ!!!
22
:
へびぃ
:2007/04/17(火) 01:22:13 ID:???
「ギュピィィィッ!!?」
刹那、窓ガラスが真っ赤に染まった。
たった今まで張り付いていた筈のベビは、頭部をざっくりと割られて一瞬で命の灯火を掻き消された。
噴き出した血が窓ガラスを紅く染め上げ、まるでステンドグラスのよう。
ベビの頭部は真っ二つに分かれて頭の中身をぶち撒けながら落下、窓ガラスには張り付いた首から下が残された。
血飛沫の向こう側に見えたつーの姿を、親しぃ達はきっと生涯忘れる事が出来ないだろう。
「ベビチャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!!!!!!!!!!」
親しぃの大絶叫。
数cmのガラスを隔てた先で、その若すぎる命を散らした我が子。
「マァマ、ナッコチテ」その最後のお願いを言う事も許されなかった。
叫び終わった親しぃはただ呆然と、我が子の命の残光―――ガラスの血と、残された体を見つめていたが、
パァン!
突如として鳴り響いた、競技の終了を告げるピストルの音と共に、どやどやと入ってきたスタッフ達に押し出されるようにして、強制退場させられる羽目となった。
スタッフに腕を掴まれた瞬間、我に返ったように親しぃが叫んだ。
「ベビチャン!シィノ、シィノ、ベビチャンガァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
だが、スタッフの丸耳モナーが、軽い肘鉄と共に放った、
「五月蝿いモナ!あんな生ゴミ以下の命が無くなったくらいで、ガタガタ騒がないで欲しいモナ」
という、しぃ達にとってあまり冷徹過ぎる言葉によって、黙らざるを得なかった。
「終了ォォォォォォォ!!ブラボォォォォォォォ!!」
鳴り止まない拍手の中、モララーが叫んだ。
彼の顔はすっかり真っ赤、かなり興奮していた。
「つー選手、お疲れ様でした〜!いやぁ、本当に素晴らしかったですよ!」
ガナーも彼女を褒め称えた。
その言葉を聞いて、つーは血が飛び散って所々赤い顔でニッコリと笑った。虐殺の疲れを微塵も感じさせないその顔は、充実感と爽快感に満ち溢れていた。
「タイムは・・・おおぉぉぉぉぉぉぉ!!!5分27秒!!早いっ!早すぎるぅ!!」
「アッヒャァァァァァァァァァァ!!!」
モララーが告げた自らのタイムを聞いたつーは、喜びを隠そうともせずに叫んだのだった。
両手を天に突き出し、全身で喜びを表すつー。
「これは凄い!大会史上、第2位のタイムです!!史上最速のタイム、5分21秒と僅か6秒差!!」
「これはもうV2ケテーイかぁっ!?素晴らしすぎる虐殺をありがとうっ!つー選手、戻ってチョーダイッ!!」
興奮の坩堝(るつぼ)と化したスタンドに、司会2人の声が響き渡る。
つーは司会、スタッフ、そして大観衆にまとめて手をぶんぶんと振ると、ガッツポーズをしながら退場口へと消えていった。
23
:
へびぃ
:2007/04/17(火) 01:23:24 ID:???
つーが意気揚々とフィールドを去った後も、歓声が絶える事は無かった。
その後に出てきた挑戦者達が、これまた見事な虐殺を披露していったからである。
例えば、硫酸プールに次々とベビを放り込んで溶解させたNO.15の科学者じぃ。
プールがスケルトンになっていた為、観客達はベビが溶けゆく様子をじっくり観察する事が出来た。
他にはNO.18、食品工場勤務のニダー。
彼は特製超激辛キムチ用唐辛子ペーストなる物を次々とベビの肛門にぶち込み、まるでジェットの如く糞を爆裂させた。彼は100匹全員脱肛という、ある意味凄まじい記録を打ち立てた。
『我が国の誇り、思い知ったかニダ!ウェーハッハッハッハ!!』と、彼は笑っていた。
そして―――。
「さあいよいよ、最後の挑戦者です!」
マイクを通したガナーの声。
手元の資料を読みながら、モララーが言った。
「ん・・・おやぁ?どうやらこの選手は、飛び入り参加のようですね!これは期待!
では、ご登場願いましょう!挑戦者NO.20―――流石 弟者選手です!!」
コールを聞き届けた弟者が、入場口からフィールド内へと姿を現した―――その時。
『あーーーにーーーじゃぁーーーーーーーー!!!!頑張るのじゃーーーーーーーーーーー!!!』
スタンドに何百人と集まった観衆の大歓声にも劣らない大声が、スタンド中に響き渡った。
その何百という観衆、そしてスタッフに司会者の視線が、一斉に声の主―――妹者に注がれる。
「お、おい、妹者・・・恥ずかしいからやめてくれって・・・」
隣に座った兄者にとっては、殆ど晒し上げ状態だった。顔を真っ赤にして妹者に囁くと、彼女は
「ふぇ?」
とすっとぼけたような声を上げたが、スタンドに集まった全てのAAの視線が自分に注がれている事に気付くと、
「あ・・・は、恥ずかしいのじゃ・・・」
これまた顔を真っ赤にして、兄者の膝元に隠れてしまった。その様子を見て、スタンド中からどっと大爆笑。
笑いを必死にかみ殺しながら、モララーがマイクを構える。
「く、くく・・・失礼。どうやら、ご家族がいらっしゃるようですね・・・あれは妹さんですか?」
弟者は「・・・え、は、はい・・・」と呟いた。やはり顔が赤い。
それを聞いたモララーは、ニコリと笑って、
「可愛いお嬢さんですね。それに、あんなに大きな声で応援してくれるなんて・・・いい妹さんじゃないですか。羨ましいなぁ」
そう言った。
今度はスタンド中から拍手喝采。妹者はまだ頬を赤らめながらも、立ち上がってぺこぺことお辞儀を繰り返す。
拍手が止んだ辺りで、ガナーが苦笑する弟者に問いかける。
「今回は飛び入りでご参加のようですが、何故参加を?」
その質問に弟者は、
「いやあ、最初は観戦目的だったんですがね・・・兄と妹に薦められたんで、やってみようかなと」
つーに答えたのと同じように答える。
今度はモララーから質問が飛んできた。
「そういえば、弟者選手はあのつー選手と同級生だとか」
弟者が「ええ、結構つるんでます(w」と答えると、モララーは興味津々な顔つきになって、
「つー選手は、学校ではどのような感じなんですか?やっぱり虐殺を?」
と訊く。弟者はニヤリと笑って答えた。
24
:
へびぃ
:2007/04/17(火) 01:23:49 ID:???
「ええ、そりゃあもう。以前校庭にアフォしぃが侵入した時なんかですね、授業中なのに真っ先に飛び出していって駆除してましたよ。
で、案の定先生からお説教。『アフォヲ駆除シタンダカラ、ソコマデ怒ル事ナイダロ!』って口答えしたら、デコピン喰らったらしいですよ。
それだけなら良かったんですが、つーの奴、その先生の授業だけ成績をガクンと下げられましてね。親に怒られるって、涙目になってましたww
武装したアフォしぃにも臆することなく立ち向かっていくのに、親には勝てないんですね・・・。
そういえば競技の時も何やら叫んでましたけど、やっぱりよく男に間違えられるそうですよ。そのくせ、男に間違うと怒る。
だったらもう少し女らしくしたらどうなんだと小一時間・・・」
つーの赤裸々な学校生活を次々と暴露する弟者。実に楽しそうだ。スタンドからは笑いが絶えない。
しかしその時、再び大声が。
「弟者・・・テメェェェェェ!!!ナニ勝手ニ喋ッテンダヨォ!ブッ殺スゾ!!」
見れば、兄者の横にいつの間にかつーが。恥ずかしさと怒りで顔が赤い。
「おおっとぉ、ご本人登場だ!弟者選手、明日の学校が怖いですねぇ・・・情報料として、治療費は半額くらいならお支払いしますよ?」
モララーのこの言葉に、会場がさらにどっと沸く。笑いすぎて椅子から転げ落ちる観客も居た。
弟者は肩を竦め、「おお怖・・・」と呟く。
つーは最後に、
「コレダケ言ッテオイテ、肝心ノ競技ガ全然ダメナラ、本気デ怒ルカラナ!
モシ全然ダメダッタラ・・・トリアエズ明日ノ学校デ、上履キニゴキブリ仕込ンデヤルカラナ!!シッカリヤレヨ!」
それだけ叫んで、頬を膨らませながら椅子にすとんと着席した。
モララーはニヤニヤと笑う。
「何だかんだ言って、応援してくれてますね・・・これは頑張らないとマズーですよ?」
今度はガナーがぽそりと呟いた。
「いやぁ、仲が良さそうで何よりですね」
思わず弟者は苦笑。
「まあ、せめて文句を言われない程度には頑張ります・・・」
「それでは弟者選手、準備をお願いしま〜す!」
ガナーのコールを聞いた弟者は、とりあえずレンタル武器が並べられたテーブルに向かって歩いていった。
25
:
へびぃ
:2007/04/17(火) 01:25:06 ID:???
(さて・・・どうするべきか)
弟者は思案していた。飛び入り参加の為、武器は持参していない。となればレンタルするのが吉だろう。素手にはそこまで自信が無い。
テーブルの上には剣、ナイフ等の刃物類や槍なんかの長柄武器、ハンドガン、手榴弾、棍棒にハンマーetc―――様々な武器が並んでいる。
他にも絞殺用のピアノ線に、ロケット花火、爆竹、画鋲等の言わば『虐待用』の道具もある。
弟者は暫く武器を眺めていたが、ぽん、と手を打つ。
(この方法で逝くか・・・ならば、まずは相手の数を減らさないとな―――よし!)
弟者はポケットにピアノ線と手榴弾を2,3個ねじ込み、小剣とハンドガンを手に取ると、すぐ傍の壁に設置されたボタンを押し込んだ。
ランプが灯り、司会2人がマイクを構える。
「おおぅ!準備が完了したようです!どうやらスタンダードな方法を採るようですね」
「では、本日最後の挑戦、間も無くスタートです!」
弟者は前を見据えた。フィールド中にベビが散らばっている。
あちこちから、「ナッコ」「コウピ」「ハナーン」「チィチィ」の声。
武器を握る手に思わず力が篭った。
「それでは、よ〜い・・・」
ギコの声が聞こえた。
「ちっちゃい兄者・・・」
ぎゅ、と祈るように両手を組んだ妹者が呟く。
兄者は腕を組んで、弟者に視線を注ぐ。
その隣で、つーも同様に彼を見つめている。
そして、
パァン!
ピストルが短い爆音を発した。
弟者は素早く飛び出すと、辺りを見渡す。
ベビが周りから、次々と這い寄ってくる。
「チィヲ ハヤク ナッコ シナチャイ!」
すぐ傍にいたベビが喚く。
よし、と弟者は心の中で呟くと、何の躊躇いも無く手にした剣を足元へ突き出した。
すかさず、
「アギュゥゥゥッ!!?」
ベビの悲鳴が聞こえ、足に何やら生暖かい感触が伝わる。
そして「チィィィィィィ!?」「ギャクサツチュー デチュカ!?」「チィノ ナッコハ ドウナルンデチュカー!」等の五月蝿い喚き声が聞こえてきた。
弟者は血に塗れた剣を振り上げ、そばでナッコナッコと騒いでいるベビの頭上に振り下ろす。
赤い液体がぱっと散り、「ウヂュゥッ!!?」という断末魔。止め処無く噴き出す血と共に、ベビの命も流れ出ていった。
「ハニャァァァァン!!ベビチャンガ シンジャウヨゥ!!」
「ギャクサツチュウ、ヤメナサイ!!」
親しぃの声が聞こえた。弟者は少し眉を顰め、足を振り上げた。
そのまま足元のベビに向かって足を振り下ろす。柔らかい物を潰す、気味の悪い感触が
グチュッ!
という音と共に伝わる。
「グブヂュゥ!?」
異様なベビの声を聞いた弟者は、その無残に潰れ、見るのも嫌気がする死骸を摘み上げる。
そして、そのベビだった肉塊を、未だギャーギャー喚く親しぃの席へ向かって投げ付けた。
ビチャッ!!
元から潰れていたベビ風肉塊はガラス窓にぶつかり、気持ち悪いSEと共にさらに醜く潰れて拡がった。
「シィィィィィィィィィィ!!!?」
という悲鳴が場内に響き渡る。その声は、まさに観客達にとっては興奮剤のようなもの。歓声が一層大きくなった。
26
:
へびぃ
:2007/04/17(火) 01:25:30 ID:???
ビビらせるには十分だろう、と思った弟者は、今度はハンドガンを構える。
そして、少し離れた所で必死に
「タチュケテェェェェェェェ!!」
「ナッコモ コウピモ ナンデモチュルカラ ユルチテヨゥ!!」
「チィヲ コロチタラ マァマガ ダマッテナイデチュヨ!」
とか何とか言いながら這いずるベビ数匹を捉えた。
本人はかなり必死なんだろうが、動くペースはあまりにスロウ。弟者にとっては殆ど的。当ててくださいと言っているようにしか聞こえない。
「ベビしぃ、必死だな」
弟者はひとりごちると、トリガーを連続で引いた。
パン!パン!パァン!!
競技開始時にギコが鳴らしたピストルに酷似した音が響いた。
発射音とマズルフラッシュを伴って撃ち出された弾丸は、正確にベビの急所―――眉間、左胸、顔面etc―――に風穴を穿たう。
「アギャァァァァァ!!」
「ウジィィィ!?」
「ナ゙ゴォォォッ!?」
口々に断末魔の叫びを上げて、ベビ達は朽ちた。
弟者は特にリアクションする事も無く、再びトリガーを引いた。
パァン!パァン!パァン!
新たに撃ち出された弾丸は、やはり離れた所にいたベビ達を確実に黄泉の国へと誘うのであった。
「ビュゥゥッ!?」
「ナ゙ゴ、ナ、ナ、ア゙ア゙ァァァァァァァ!!」
「ピギャァァァァ!?」」
1匹目は首、2匹目はこめかみ、3匹目は左胸から鮮血を噴き出しながら、そのまま倒れ伏す。
弟者の射撃技術はかなりのものだった。ここまで1発も撃ち漏らす事無く、ベビを仕留めている。
観客席から聞こえて来た『いいぞ〜!』という歓声に片手を挙げて応えると、弟者はまた走り出す。
そして、逃げ惑うベビしぃ達を次々と葬っていった。
27
:
へびぃ
:2007/04/17(火) 01:25:57 ID:???
「せいっ!」
「ナッゴォォォォォォ!!」
気合の掛け声と共に剣を振り抜く弟者。悲鳴を上げるベビ。
弟者の振るった刃は、ベビの意思を一切無視。ベビの腹部を切り裂いた。
「ナギュォォォォ・・・ォ・・・」
間延びした悲鳴と共に、切り裂かれた腹から臓物がこぼれた。蚯蚓の様な腸が、ベチャリと音を立てて地面に墜ちる。
止めを刺そうとはせずに、弟者は手にしたハンドガンのリロード作業を行っている。
グリップの底部から、空になったマガジンが落下。
落ちてきたマガジンは、しぶとく命を繋ぎ止めているベビの、腹部よりこぼれ出る臓物を直撃した。
グチッ
「ア゙ヴィッ・・・?」
何とも可笑しな呟きを残して、ベビが白目を剥いた。
どうやら、落ちてきたマガジンの衝撃が予想以上に強く、直撃を受けた内蔵が裂けたらしい。
弟者はというと、弾丸を詰め終えたハンドガンを前方へ突き出し、狙いを定める。
「ナッコォォォ!ナコスルカラ チィダケデモ タチュケテヨゥ!ナコナコナコナコナコナコ」
パァン!パァン!
「ナコナコナギャァァァァァァァ!!」
ナコナコ五月蝿く騒いで観客を見事にイラつかせていたベビは、弾丸を頭部に撃ち込まれて血液&脳漿を撒き散らした。
そこで弟者は、一旦虐殺の手を休めて辺りを見回してみた。
そこここに自らが仕留めたベビの死骸が横たわり―――バラバラになってて横たわる事も出来ないベビもいたが―――、
残ったベビはあちこちで逃げ惑ったり、怯えている。恐怖のあまり竦んで動けない者もいた。
素早く数を数えてみる。10,20,30―――40匹前後か。
「そろそろだな・・・」
弟者が呟いた。
すると彼は、何と持っていたハンドガンをしまい、剣をその場に放り出してしまった。
スタンド中からどよめきが起こる。それはそうだろう。
1分1秒を争う競技の真っ最中に、武器を放り出すなんて前代未聞だからだ。
しかし、弟者の妙な行動はこれだけでは無かった。
次の瞬間、弟者は何と実況席へと走って行ったのだった。
選手がいきなり実況席に向かってくるなんてこれまた前代未聞。
面食らった表情のモララーに、弟者が早口で言った。
「紙とペン、お貸し願えますか?」
「え、あ、ああ・・・紙とペンね、はい」
突然の要求にモララーは多少慌てながらも、B4サイズの画用紙とボールペンを渡してやる。
弟者は一礼すると、素早く取って返し、まず紙を2つに裂いた。
次に、片足を上げて自らの太ももを下敷き代わりにして、2つに裂いた紙の内、片方に素早く何かを書き込む。
そして、フィールド中に聞こえるように大声を張った。
「ベビちゃん達!よ〜く聞いておくれ!」
その言葉に、ベビ達が少しだけ反応する。勿論、かなり警戒はしているが。
しかし、弟者の次の言葉を聞いた瞬間、その目の色が変わった。
「今から俺がこの紙を放るから、それを取って俺の所へ持ってきてください!
持って来たベビちゃんを、好きなだけナッコしてあげます!」
言い切ると同時に、弟者は紙片を投げた。
そよ風に煽られた紙片は、少し飛ばされてから地面に落ちる。
ベビ達はというと―――
「ナッコ!?」
「チィヲ ナッコチテクレルノ!?」
「ヤット コノチィノ カワイサニ キヅイタンデチュネ!」
「チィィィィ!アノカミサンハ モラッタデチュ!」
ついさっきまで自分の仲間達が惨たらしく殺されていた事などとうに忘れ、その小さな目をらんらんと輝かせ、一心不乱に紙片の元へ向かっていく。
フィールドに残された全てのベビが、紙を目指して這う。
ベビ達にとっては宝の地図の如き紙片には、ただ一言『ナッコ』と書かれているのみだった。
28
:
へびぃ
:2007/04/17(火) 01:26:25 ID:???
ベビ達の内、紙片から近かった十数匹はあっという間に紙片の元へ到達した。
先頭のベビが、紙片をその小さな手に握り締めた。
「ハナーン!ナッコハ チィノモノデチュネ!」
勝ち誇った顔でベビが言った。だが―――
ドンッ!
すぐに追いついた別のベビが、紙片を握ったベビに向かって体当たりをしたのだ。
「アニャァァァ!?」
体当たりを食らったベビはバランスを崩し、地面に倒れた。その拍子にそのベビが握っていた紙片はその手を離れ、ひらひらと舞う。
「アンタミタイナ クチョベビニ ナッコハ モッタイナイデチュ!ナッコハ コノウチュウイチカワイイ チィニコソ フサワシインデチュ!」
そんな台詞を吐きながら、体当たりをしたベビが漂う紙片へ向かって手を伸ばす。
絶対自分本位という、アフォしぃ的思想はベビの頃から備わっているようだ。
しかし、それは他のベビも同じな訳で、
「マチナチャイ!アンタミタイナ ゲセンナベビハ ヒッコンデナチャイ!」
「ナッコハ チィノモノデチュヨゥ!」
「チィィィィィィ!!ナッコナッコナッコォォォォォォォ!!」
後から追いついたベビ達が、体当たりをしたベビを突き飛ばし、我先にと手を伸ばす。
そこからはあまりにも醜い争いだった。
40匹のベビしぃが、たった一切れの紙切れを求めて、押し合い、圧し合い、取っ組み合い。
口々に「ナッコ、ナッコ」と言いながら、紙をその手に掴まんと、他のベビを押しのけ押しのけ、地面を転がった。
そんな中―――
「イイカゲン アキラメナチャイ!ナッコハ チィノモノト キマッテルノ!」
ドガッ!
「ヂィィィィィ!?」
―――ついに、殴り合いの喧嘩に発展した。
ベビが放ったストレートパンチは、相手のベビの顔面に見事にクリーンヒット。
ベビしぃのパンチの威力などたかが知れているが、相手が同じベビしぃなら威力はかなりの物だ。
殴られたベビは顔中の穴から血を噴いて、地面に倒れた。
それを皮切りに、ベビ達の争いはさらにエスカレートした。
殴る、蹴る、頭突きなんて当たり前。中には、本物の虐殺者よろしく相手を『殺しに』かかっているベビまでいる始末。
「ナッコ!ナッコォォォォ!!」
ブチッ!
「ヂュィィィィィィィ!!ヤメテェェェェ!!」
傷だらけになったベビが、殴り合っていた相手のベビの耳を食い千切った。悲鳴を上げるベビ。
なんと、ついに虐殺の基本中の基本、『耳もぎ』まで登場した。
この時点で、観客の興奮度はピークに達した。
弟者自身は手を下さず、ベビ達が勝手に殺し合う。弟者の真意はそこにあったのだ。
未だかつて無かった新しい虐殺方法―――同士討ち。初めての感覚に、観客達のボルテージは上がりっぱなしだ。
その間も、ベビ達の数はどんどん減っていく。
「チィィィィ!ナッコハ チィノモノナノ!」
ブチィッ!
「チィィィィィ!イチャイヨゥゥゥゥ!!」
―――足もぎ。
「アンタニハ ナッコナンテ ヒツヨウナイノ!ナッコチナイ オテテハ イラナイデチュネ!」
ブシャァァ!
「アギィィィィィィ!!チィノ オテテガァァァァァァァ!!」
―――腕もぎ。
「ナッコナッコナッコォォォォォ!」
ドガッ!ドガッ!ドガッ!
「ナッゴォォォォ・・・ヂ、ヂィィィィ・・・ナ゙ッ・・・」
背中に馬乗りになって後頭部を連打したり、
「サッサト チニナチャイッ!」
ガブシュッ!!
「ヂュィィィィィィ!!?ナッコチュルカラ ユルチテェェェェェェ!!」
腹を食い破ったり。
ベビ達はその体を仲間だったはずの連中の血液と臓物の欠片に塗れさせ、目の前の相手を葬り去っていく。
敗北した哀れなベビは、「ナ・・・ナゴォ・・・」の呟きを残して、命の灯火を消してゆく。
因みに、『ナッコ』と書かれた紙片はすでに千切れてバラバラになり、風に吹かれてどこかへ舞い散っていってしまった。
しかし、そんな事を既に忘れたベビ達は、ただ自らの欲望の為、目の前の相手を叩き潰すだけ。
気付けば、この1分前後の間にベビの数は半分程度になっていた。
―――そこで、弟者が再び動いた。
29
:
へびぃ
:2007/04/17(火) 01:26:56 ID:???
弟者は残ったもう1枚の紙片に再び『ナッコ』と書き込むと、ベビ達が醜く争う現場より少し離れた場所へ向かう。
そこで、ポケットからピアノ線と手榴弾を取り出すと、何やら細工。
次に弟者は、足で軽く地面を掘ると、細工の終わった2つの手榴弾をそこに置き、ぐいぐいと押し込んで固定してから土を被せた。
そして、土をかけた場所に紙片を置くと、小走りでその場所から離れ、再び大声を張った。
「ベビちゃん達!こっちにも紙があるよ〜!」
その声を聞いたベビ達が一斉に反応した。
「コンドコソ チィガ ナッコチテ モラウデチュ!」
「チィィィィ!チィコソガ ナッコデ マターリスルノ!アンタハ ドッカヘ イッテナチャイ!」
「ナッコナッコナッコナッコナッコォォォォ!!」
口々に己の欲望に染まった台詞を叫びながら、ベビ達が一斉に紙の置かれた地点へと向かっていく。
「ヂィィィ・・・ナ、ナッグォォォ・・・」
大怪我をして動けないベビをその場に置き去りにして。
弟者は何故か片手を握ったまま、離れた場所で傍観している。
やがて、動く事の出来る全てのベビが置かれた紙片を射程圏内に捉えた。
そして例の如く、紙片を求めて再び大乱闘を始めた。
骨肉の争いを繰り広げるベビ達を尻目に、弟者は先程までベビ達が争っていた場所へ行く。
体のあちこちを無くしたり、臓物を露出させたりしているベビ達の死体。同族にここまでこっぴどくやられるとは、と弟者は少しだけ戦慄した。
弟者が戻ってきたのは、数多くの死体の中にただ1匹、しぶとくも命の火を燻らせるベビがいたからだ。
「ヂュィィィ・・・ナ、ナ、ナッゴォォォォ・・・」
途切れ途切れの声で、虫の息のベビが言葉を紡ぎ出す。
死にかけのベビは、弟者の姿を捉えると、まだ残っていた左手を懸命に伸ばす。
「ナゴ・・・ナ、ゴ・・・」
まるで最後の願いだと言わんばかりに、ベビは「ナッコ」を繰り返す。
そんなベビを弟者は一瞥した後、足を振り上げて―――
グチッ!
「ナギュッ!」
何の躊躇いも無く踏み潰した。
弟者が足をどけてみると、潰れたベビの死体から、じわじわと鮮血が漏れ出して、周りの土に染み込んでいった。
弟者はその場を離れると、未だに乱闘を繰り広げるベビ達の方を向いた。
「ナッゴォォォォ!!」
グチャッ!!
「アヂュゥゥゥゥゥィィィィ!!?」」
片耳を失ったベビが、相手のベビを思いっきり地面に叩き付けた。
叩きつけられたベビは、頭部が破裂して脳みそを辺りにぶちまける。
「ナッコハ チィノモノナノヨゥ!アンタハ チニナチャイ!」
ブチュッ!
「ヂギィィィィィ!?チィノ オメメェェェェェェ!!」
こちらでは未だに無傷のベビが、両手を失って反撃の出来ないベビの目玉を抉り取っている。
それだけに留まらず、
「ハナーン!ヤッパリ カワイイチィイガイニ ナッコハ ヒツヨウナイデチュネ!サア サッサト チンデチョウダイネ!」
ブチャッ!
「チィィィィィィィィィ!?チィノオミミー!オメメー!!」
嬲るようにして、相手の目や耳を一つ一つ奪っていく。しかも、前述したが相手は反撃不可能。残虐にも程がある。
ベビ達は戦った。ただ、ナッコの為に。時に必死に、時に残虐に。アフォしぃという生き物は、ここまで自分の欲望に素直になれるのか。
しかし、ベビ達は知らない。自分達が戦っているフィールドの真下に、手榴弾が眠っている事を。
思わず顔を顰めた弟者は、一言
「―――これで締めだな・・・」
そう呟いた。
そして、不自然に握ったままの右手を、その場で思いっきりグイッ!と引っ張った。
キュポッ!
何かを引き抜くような音が微かに聞こえた。
しかし、口々に叫びを発しつつ殴り合い、蹴り合い、もぎ取り合いに興じるベビ達にはまったく聞こえなかった模様。
そして数秒の後―――
「チィ?」
「アニャッ?」
ドゴォォォォォォォォォン!!!!
30
:
へびぃ
:2007/04/17(火) 01:28:09 ID:???
爆音を伴った衝撃波と共に、高々と舞い上がった土煙。そして、哀れなベビ達のバラバラ死体。
お分かりの事とは思うが、弟者がずっと握っていたのはピアノ線だ。そして、そのピアノ線は地中に埋めた手榴弾の安全装置に括り付けてあったのだ。
弟者はそれを引っ張って離れた所から安全装置を外し、見事な遠隔操作で手榴弾を爆発させた。
すぐ真下で2つもの爆弾が爆発したのだ。元より脆いベビしぃで無くとも、無事である筈が無い。
生き残っていた全てのベビが、手榴弾の直撃を受けていた。
両手両足は当たり前、その他首が千切れたり、腹部から四方に爆ぜていたり、中には完全にバラバラに千切れてただの肉片と化したベビも居た。
ボトボトボトッ!
ベビ達の死体が、地面に落下した。
見たところ、爆発から逃れたベビはいない。これで競技終了かと思われた―――が。
「ヂ・・・ヂィィィィ・・・」
落ちてきた死体の中から、声が微かに聞こえた。
見れば何と、下半身を失いながらも未だ生きているベビが、ただ1匹。
どんなに死に掛けであろうと、ただ1匹であろうと、生き残りが居れば競技は終了しない。その間も、時間は経過していく。
「―――なんてこった!」
弟者は素早く駆け出した。
そして、その異常な生命力を持つベビに肉薄すると、足を思いっきり後方へと振り上げ、ベビに叩き付けた。
グシャァッ!
「ニ゙ャッッ・・・」
「ナッコ」の一言も発する事が出来ないまま、ベビは顔面を蹴り潰され、再び高々と宙に舞った。
舞い上がったベビは、すぐに落下してきて、地面に叩きつけられる。そして、その瞬間―――
パァン!!
ギコの手に握られたピストルが、本日最後となる咆哮を放った。
ワァァァァァァァァ!!!
瞬間、観客達が沸きに沸いた。
さらに、大歓声の中から、
『あーーーにーーーじゃぁーーーー!』
の声を聞き取った。見やれば、妹者が両手を思いっきり振っている。兄者は頷き、つーは笑いかけてくれた。
やがて歓声が徐々に収まってきた頃、司会者の2人がマイクを掴んだ。
「いやぁ、素晴らしいっ!お見事っ!!名前通り、流石だぁぁぁぁぁぁ!!」
「弟者選手、お疲れ様でした〜!う〜ん、これは凄かったですよ!」
今にも脳溢血で倒れるんじゃないかと危惧させる程興奮したモララーと、そんな彼に苦笑しながらも、弟者に労いの言葉を投げかけるガナー。
弟者が一礼で返すと、さらにモララーが喋りまくる。
「それにしても、ベビ同士で殺し合いをさせるなんて、史上初だよ君ィ!
さらに、手榴弾の遠隔操作!飛び入りとは思えないねマッタク!!いや本当に凄い!!」
まるでガトリング砲の如く言葉を撃ち出しまくるモララーに、弟者とガナーが同時に苦笑。だが、弟者はまんざらでも無い様子だった。褒められれば悪い気はしない。
「忘れがちですけど、その前の小剣とハンドガンによる虐殺も見事でしたよ〜」
ガナーもしっかりと弟者を賞賛してくれる。
「最後の最後に凄い奴が居たァァァァァ!!弟者選手、アリガ㌧!!」
終始興奮しっぱなしのモララーのこの言葉を締めとして、弟者へのインタビューは終了した。
直後に沸き起こった大歓声が、再び弟者を包み込んだ。
31
:
へびぃ
:2007/04/17(火) 01:28:37 ID:???
「結果ァッ!」
「発表ォォォォォォォォォォォ!!!」
司会者2人の気合篭りまくりな声が、マイクに拡張されてスタンド中のAA達の耳を打つ。
同時に湧き上がった大歓声も、司会者に負けず劣らず気合十分。
綺麗に掃除されたフィールドに、弟者やつーを含む全ての選手達が整列している。
「いよいよ、本日の競技の結果を発表します!皆様、お疲れ様でした〜!」
「ギコ君が先に説明してくれたけど、1〜3位までがメダル!4〜5位が入賞!!それから、特別賞が1人!!
さあさあ、誰になるのかな!!」
改めて説明があった後、用意された折り畳み式テーブルにトロフィーやメダル、賞状、そして景品と思われる小箱が並んだ。
どうやら目録授与役も兼任しているらしい司会者の2人が、司会席からフィールドに降り立つ。
そして、ギコからモララーが金色に輝くメダルを、ガナーがトロフィーを受け取る。
ギコが残りの賞状や小箱を持って、2人の横に立った。そこで再びモララーが口を開く。
「ではっ!ではではではっ!!いきなりですが、本日の優勝者を発表しちゃいます!!
・・・とは言っても、皆さん大体察しがついてるとは思いますが・・・」
苦笑しながらモララーが言い、今度はガナーが口を開く。
「では、発表します!
『第40回百ベビ組手大会』、優勝者は・・・」
ダラララララララララララララ・・・
スネアドラムのロール音が、静寂したスタンドに響き渡る。
誰もが、固唾を呑んで次の言葉を待つ。
選手達も、一様に緊張した様子。そして―――
ダンッ!!
最後に一発、大きな音を立てて、スネアドラムの音が止んだ。ガナーの口が、ゆっくりと開く。
「―――タイム、5分27秒。挑戦者NO.06―――つー選手ですっ!!」
オオオオォォォォォォォォォ!!!
恐らく今、飛行機がこの場で飛び立ったとしても誰も気付かないだろう―――そう思わせるくらいの凄まじい大歓声。
続いて湧き上がる万雷の拍手の嵐をバックBGMに、つーが両手を天に突き出してガッツポーズ。
司会者2人とギコが、喜びを爆発させる彼女に近づいていき、それぞれ目録を手渡す。
モララーに黄金のメダルを首にかけて貰った瞬間の彼女の、金メダルにも負けない程の輝かんばかりの笑顔。皆の目に焼きついた事だろう。
トロフィーや小箱を小脇に抱えて嬉しそうなつーが、表彰台の頂上に駆け上った。
それから、モララーが口を開く。
「なお、優勝商品はメダルやトロフィー、賞状の他に、賞金30万円!
さらに、大会特製の虐殺用ナイフ10本!!よく切れるよぉぉ!!おめでと〜!!」
「ちなみに、2位以降の方にもナイフがプレゼントされますよ〜」
ガナーが付け足した。
そのままの勢いで、2人がさらに続けた。
「ではではっ!!続きまして、第2位の発表ですよ〜!
これでも十分誇れます!!では発表!!」
「はい!では、発表します!!第2位は―――」
―――スタンド入り口ゲート。
満足した顔の観客達が、ぞろぞろと吐き出されてくる。
中には未だ興奮冷めやらずといった感じで、身振り手振りを交えて友人同士、あの虐殺が良かった、いやこっちもなかなかだ、と熱く語り合う者もいる。
そんな人込みの中で、兄者と妹者は待っていた。選手として出場した、弟を。或いは、兄を。
そして、見つけた。
両手に何かを持った弟者が、ゲートをくぐって2人の前に現れた。
「ちっちゃい兄者!おかえりなのじゃ!」
妹者が真っ先に見つけ、彼に駆け寄る。
兄者が軽く拍手しながら、弟者の肩をポン、と叩いた。
「いやまったく、流石だったぞ。俺の弟としては、申し分無い結果だったな」
「そ、そうか?ははは・・・ほら」
弟者が少し照れた様子で、2人に持っていた大きな紙を差し出した。
妹者がそれを受け取り、ニコニコと笑いながら言った。
「おめでとうなのじゃ!」
弟者が差し出した紙―――賞状。
そこには、こう書かれていた。
『第40回 百ベビ組手大会 4位入賞 タイム 6分12秒』
【続く】
32
:
栄
:2007/04/19(木) 00:17:15 ID:???
初めまして・・・、栄と申します。まだまだ未熟ですが宜しくお願いします。
深夜2時、誰もいない台所の換気扇から、7つの小さな影がもぞもぞと這い出てきた。
「…誰もいないデチ…」
影の一つが辺りを見回す。
「ハニャーン♪コレデマターリデキルネ♪」
「マンマハケーンデチュ!!」
4つの影が冷蔵庫の中から手荒に食物を引っ張り出し、汚く食い散らかし始めた。
「ミュ〜」
一番小さな影も冷蔵庫の方に這っていく。
「コレデオナカノベビチャンモダイジョウブダネ♪」
冷蔵庫の中からソーセージを引きずり出し、影…ミニしぃが言った。ミニしぃは妊娠していて、中の新たな生命はもうすぐ産まれそうである。
「ベビたんを産んだらまたセクースするデチ!!」
チビギコが耳障りな声を上げる。
「チビチャンタチハモウスグオネェチャンニナルノヨ。」
「ワーイ♪タノシミデチュヨウ!」
4匹のそれぞれ異なるベビしぃ(ノーマル、フサ、みけ、ワッチィ)が声を揃えてはしゃぐ。
「ミュ〜♪」
一番小さなベビギコがもぞもぞと這ってくる。
「ハニャーン♪マターリ♪」
今、この一家は幸せだった。が、この幸せがこの一家の最後の幸せであることを誰一人知ることはなかった。
「ミュ?」
あちらこちらを這いずり回っていたベビギコがふと足を止めた。ベビギコの視線は5センチ先のチーズに釘付けだった。
「ミュミュ〜♪」
ベビギコはさっきから特に何も食べていなかった為、一目散にチーズに飛びついた。これが地獄の扉を開ける鍵だとは知らずに…。『ガチン!』金属がぶつかる音を立て、ベビギコの左腕に鉄の鋭い牙が食らいついた。牙はいとも簡単にベビギコの肉を裂き、骨に食い込んで止まった。突然のことに対応出来なかったベビギコの脳が遅れて激痛を感じ始めた。
「ミ゛ュギィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ッ!!?」
ベビギコの口から悲痛な叫び声が吐き出される。
「ベ、ベビチャン!?」
ミニしぃが持っていたソーセージを放り投げて、叫び声を上げるベビギコに走り寄った。その時、急に部屋の電気がついた。
「こらぁ!!どこのキモゴミだぁ!!」
ゴルフクラブを持ってモララーが部屋に入ってきた。
「アナタナノネ!!ヒドイ!ドウシテシィノベビチャンヲコンナメニアワセルノヨォ!」
ミニしぃがモララーを睨みつける。
「人ん家に勝手に上がりこんどいて、冷蔵庫を荒らす害虫が開き直ってんじゃねーYO!!」
モララーがゴルフクラブをスイングした。すると、2メートル程離れた所にいたみけベビの耳が弾け飛んだ。
「ミィィィィッ!?ミィノオミミガァァァッ!!?」
泣き声が更に増した。みけベビの耳は流し台の角の生ゴミ入れに入っていった。
「真夜中にうるさい!!」
モララーがまたスイングした。
「ミィィィィッ!!ミィィィィッ!!ミ…フブヂィッ!!」
モララーが打ったゴルフボールがみけベビの顔面にめり込む。顔面全体に広がる例えようのない痛みがみけベビの脳を直撃する。みけベビの鼻が潰れ、瞼は眼球が飛び出さんばかりに見開かれ、そこから涙と血が流れ落ちる。
「ミギャァァァァァッ!!」
みけベビは手足をばたつかせて吹き飛び、壁に頭を強く打ちつけて気絶した。
33
:
栄
:2007/04/19(木) 00:18:23 ID:???
「イ…ヤァ…」
ミニしぃは口をぱくぱくさせているが言葉にならない。モララーがミニしぃに歩み寄ってゴルフクラブを振り下ろそうとした。その時、
「ミンナヲイジメナイデヨゥ!!」
モララーが振り返るとそこには、ベビしぃが震えながら二本足で立っていた。ベビしぃはまだおぼつかない足取りでヨタヨタと歩きながら叫ぶ。
「チィタチハマターリチタイノ!ジャマシュルナラアポーンチマチュヨゥ!!」
「ベビたんが初めてたっちしたデチ!!」
チビギコが感嘆の声を上げる。ミニしぃも自分に振り下ろそうとされているゴルフクラブのことさえ忘れて、はしゃぎ回りだした。
「ハニャーン♪ベビチャンガタッタ♪ベビチャンガタッタ♪」
「………。」
モララーはしばらくポカンと口を開けていたが、我に帰り、ベビしぃに向かってゴルフクラブを引きずり、歩み寄った。
「テイコウシュルナラhttpレーザーデアポーンチマチュヨゥ!!」
「妄想癖もたいがいにしろ!!」
ゴルフクラブが唸りを上げてベビしぃの腹部に突き刺さる。
「httpレーザー!!アポ…クヒィイッ!?」
ベビしぃは呼吸困難に陥って、口をぱくぱくさせ、必死に酸素を求めている。
「ベビチャンガタッタ♪ベビチャ…イャァァァァァ!ベビチャァァァァァン!!」
「チビたんのベビたんがぁぁぁ!!」
2匹が腹を押さえてうずくまっているベビしぃに向かって走り出そうとすると、
「おっと、そうはいかんざき!!」
モララーは2匹に向かってスプレーを吹きかけた。
「シィィィィ!!?」
「アガガガガ…」
2匹は床にどうと倒れ、悶えはじめた。
「いゃぁ、やっぱりア〇スジェットはよく効くなぁ。キモゴミがあっと言う間に動けなくなる。」
「ジィィィ…ベビチャンニゲ…テ…」
ミニしぃが涎を垂らしながら呟く。が、ベビしぃは腹部を押さえて転がっている。
「ヂィィィッ!!チィノポンポンガァァァッ!!?」
「HAHAHA、所詮キモゴミなんてこの程度さ。」
モララーがベビしぃを蔑んだ目で見る。それでもまだ、ベビしぃは立ち上がってモララーに立ち向かおうとした。
「ヂィィィ…マダマダアキラメマチェンヨォ!!」
「よっぽど立つのが好きなんだね。」
そう言うとモララーはベビしぃの足を掴んだ。
「チ、チィハ2CHノアイドルデチュヨゥ!ワカッタラナッコチナチャイヨォ!!」
「さっきからマターリだのダッコだの鬱陶しいんだYO!!」
そう言うとモララーはミキサーを取り出し、スイッチを入れた。ミキサーは唸りながら中の刃を回転させている。
「足なんて飾りです。キモいゴミにはそれが判らんのです。」
そう言うとモララーはベビしぃの足をミキサーに入れた。
「チィヲハナチテヨゥ!!チィハタダマタ…ッピギィィィィッ!!?」
ベビしぃの小さな足はミキサーの中の刃で切り刻まれてあっという間に消し飛んだ。
「HAHAHA、もうたっち出来ないねぇ(笑)」
「チィノ、チィノアンヨガァァァァッ!!」
続きます・・・
34
:
hage野郎
:2007/05/04(金) 00:05:51 ID:???
初めて書きました。 「糞虫についての日記」
十月の肌寒い風の中、
「キョウモゲンキニシィシィシィ〜♪
ミンナナカヨクハニャニャニャーン♪♪」
肌寒さも吹き飛ぶような胸くそ悪い歌を歌ってしぃがこっちに来る。
俺が視界に入ったのか、こんな事を言い出してきた。
「アラ、クソモララー。セッカクアッタンダカラ
このカワイイシィチャンヲダッコシナサイ。
サモナイトギャクサツチュウトシテアボーンスルワヨ。」
俺は一瞬間を置き、あざ笑うかのように言った。
「誰がてめえみたいなノミ臭い奴をダッコするんだよ。
この糞虫。」
予想どうり、顔に怒りが満ちているようだった。
「ヤッパリアンタモギャクサツチュウネ・・・・。
コノカワイイシィチャンヲブジョクシタコトヲ
コウカイサセテヤルワヨ!コノギャクサツチュウ!!」
しぃはお馴染みの棒をどこからか取り出し、
それを掲げてやってきた。
「ハニャーン!ギャクサツチュウイッテヨシダヨ!!」
くだらない罵声が飛んできた。
「死ぬのは・・・。お前だ!!!」
「ヤレルモノナラヤッテミナサイヨ!クソモララー!!」
愚かな奴、と哀れんでやった。
ふうっと溜息をつき、コートの下に仕込んでおいた
ショットガンを取りだし、構えた。
しぃはそれを見て表情を歪めたが、向かってくる。
俺はしぃが射程距離に入るまでじっと構え続けた。
このショットガンは何百ものしぃの血を吸っているのだ。
お前もこのショットガンの餌食になるのだ。
慎重に狙いを定め、堅い引き金を絞った。
「シイイーー!!!シイノオミミー!!!!」
狙いが大きく逸れて殺せなかったが、満足した。
こいつを家に連れて帰って虐待すればいい、と思いついたからだ。
無力なしぃをロープで縛り、ついでに猿ぐつわもしておいた。
やかましいからだ。
「帰ったら、たっぷりと「お仕置き」しないとね」
俺はにんまりと笑顔で言った。
「ングー!!ンググーー!!!」
俺は遠足から帰る小学生の様な気分で家に帰る。
楽しみだ。
駄文スマソ。 後、これ以上続き書けません。だれか
続きを書いてください。
35
:
hage野郎
:2007/05/06(日) 20:40:12 ID:???
やべ・・・。変換し忘れたし・・・。逝ってこよう・・・・。
36
:
魔@お初です
:2007/05/07(月) 19:00:21 ID:???
天と地の差の裏話
※この話は被虐者の視点で書かれています
『弱き者は強き者に弄ばれる』
そんな虐殺があたりまえの世界で、僕は産まれた。
母親であるしぃがモララーに強姦され、そのまま身篭って産まれたらしい。
僕は母と見た目が全然違う。
左耳は真っ黒で、右側は頬まで茶色。
三毛猫とでも言うのだろうか
母はしぃ族だから、端から見たら僕は養子である。
僕は自分の毛並みのことを聞いてみたりはしたが、母は何も言わない。
それなのに母は僕の姿が気に入らないようだ。
この世界ではしぃ族は忌み嫌われている。
ダンボールの家で待っていると、今日も母が傷だらけで帰って来た。
「・・・・大丈夫?」
「アンタノセイナノニ ナンデワタシガ ギャクタイサレナキャイケナイノヨ!
」
僕は毎日虐待を受けた。
何か嫌なことがあれば、すぐに手を出す。
「アンタナンカ イラナイノニ ナンデウマレテクルノヨ!」
そんな事を言っては、母は僕を殴る。
でも殺すまではしなかった。
何故かわからなかった。
僕は殴られようが蹴られようが母を心配していた。
何故かわからなかった。
そして、この日から僕の住む世界はがらりと変わった。
近くの公園を散歩するとのことで、僕も行く事にした。
どうやら、母は自分が何もされなかったら、僕には何もしないようだ。
話を聞いてくれない。
手すら繋いでくれない。
そんな意味も含めて『何もしない』
母は僕の前を歩く。
変な踊りを踊りながら。
変な歌を歌いながら。
僕は母の後ろを歩く。
何もせずに。
暫くすると、見知らぬモララーが目の前にいた。
「お、いいもん連れてんじゃねぇか」
「ナニカトオモエバ ギャクサツチュウ ジャナイノ! サンポノジャマy」
母が全てを言い終わる前に、モララーは母の頬を殴る。
おもいっきり殴ったのか、母はゴミ箱のある所まで吹っ飛んでいった。
大きな音がして、ゴミがばらまかれる。
37
:
魔
:2007/05/07(月) 19:01:57 ID:???
初日
モララーは母へ追い撃ちをかける。
僕はそれを眺めていた。
いや、見ることしか出来なかった。
モララーはこれでもかという位、しぃを殴り、蹴る。
鳴咽や呻きが母の身体の中から聞こえた。
休む暇なく、モララーはどこからか出したナイフで母の耳を添ぐ
「イヤアアアアアアア!!」
叫び声が響き渡る。
この世のモノとは思えないほどの悲鳴が僕の頭の中を掻き回す。
僕はそれを受け入れまいと、必死で目をとじ耳をふさぐ。
しばらくして、声がしなくなった。
恐る恐る目を開けると、モララーがこっちへ歩いて来た。
その黄色い体には血がべっとりとついている。
その奥に、血に塗れたしぃがいた。
次は僕なのだろうか。
あまりの恐怖で身体がいうことをきかない。
一刻も早く、この場から逃げ出したいのに。
「いいもん落ちてンじゃねぇか・・・」
モララーは僕の首を掴み、そのまま持ち上げる。
「・・・っ」
自分の体重が自分の首に負担をかけているのがわかる。
苦しい。
どうにかして離してもらおうともがくが、大人の力に子供が勝てる筈がない。
僕の行動は自分を更に苦しめるだけに留まった。
「お前は持って帰って遊ぼうかな・・・っと!」
刹那、視界が回る。
世界が逆さまになる。
物凄い勢いでモララーが奥へと飛んでいく。
何が起こったのか理解する前に、僕は背中を襲った激痛のせいで思考が止まった。
「ぎゃっ!」
地面にたたき付けられる身体。
何かと思えば、モララーは僕を木に投げ付けただけだった。
僕の方に近付き、再度持ち上げるモララー。
「・・・なかなか頑丈じゃねぇか、気に入ったぜ」
恐怖に震える僕に向かってきたのは、そんな言葉と。
モララーの、拳だった。
意識が戻ったのは、また身体に激痛が走ってから。
「っ・・・げほ・・・!」
壁にたたき付けられた衝撃で肺から空気が漏れる。
骨は折れてなさそうだが、身体を動かそうとすると再び激痛が走る。
「今日からお前はここで生活するんだからな」
そう言うと、モララーはシミだらけの縄を僕の首に巻く。
抗おうとはしたが、傷めつけられた身体は動かず、成すがままだった。
よくみると、安易な首輪とリードについていたシミは血糊。
「・・・さて、早速だがお前の悲鳴を聞かせてもらうよ」
38
:
魔
:2007/05/07(月) 19:03:08 ID:???
息がかかる距離で話し掛けるモララーに僕は嫌悪した。
それをモララーは気に入らなかったようだ。
大きな手が、僕の首をまた掴む。
「まずは・・・どこがいいか言ってみな」
嫌になるほど近づけられたモララーの顔が、目が大きく写る。
その奥にあるのは、悪魔だか死に神だか。
思い付く限りの畏怖の象徴全てがその目の中にあるように感じた。
それを見て僕は喉から声が漏れそうになる。
「・・・いい目だ」
心臓を掴まれたような感覚に陥る僕を見て、モララーは笑う。
口の端を吊り上げ、細く。
しかし、その目は『睨む』ということは止めていなかった。
「その目は最後にしてやろう」
そう言うと、モララーは空いた手で僕の左耳を摘む。
そして、力を込めて引っ張る。
「っ・・・痛い!痛いっ!」
必死で抵抗しようとするも、首を掴むと同時に身体の自由を奪うモララーの手の
せいで何もできない。
じわじわと込められていく力は僕にとって万力のような感覚。
目を強く閉じ、その端からは涙がとめどなく流れてくる。
止めて欲しいと叫び必死に訴えるが、モララーは僕の声を聞く度に薄く笑う。
「嫌っ!やあああああああ!!」
ぶちりと音をたてて耳がちぎれた。
僕は痛みと耳を失ったショックで声にならない叫び声をあげた。
「ああっ!!ああああああ!!!」
耳があった所から溢れ出す血が僕の顔を濡らす。
僕は必死で傷口を押さえ、頭を裂くような痛みにもんどりうつ。
モララーはそこに追い討ちをかけるように、僕の腹を蹴り飛ばした。
「ゲふっ!」
血とよくわからない液体が部屋に飛び散り、部屋を汚す。
とめどなく流れる血と止まらない激痛。
そしてゆっくりと命を奪われていくという未来を押し付けられ、
僕の身体はこれでもかというほど震えていた。
「あ・・・う・・・」
血とは違う冷たい何かが顔をつたう。
「こんなところまで頑丈とはな」
ちぎった耳を投げ捨て、頭にまだ残っている黒い突起を掴む。
「ぎっ!」
僕は歯を食いしばり、モララーの腕にしがみついて耳にくる負担を抑えようとす
る。
が、僕の手は空を掴むばかり
身体がゆっくりと宙に浮き、モララーと同じ目線まで持ちあがる。
「根元からちぎれねぇ耳は初めてだよ」
「うあ・・・あっ!・・・ああっ!」
足をばたつかせて降ろしてもらおうと必死に願っても、
それは痛みを増幅させるだけの動作に終わった。
疲弊しきった身体はいよいよ動かない。
モララーにゴミを捨てるかのように床に落とされる。
僕は受け身を取れずに人形のようにそこに崩れる。た
もう口からは変な液体しか出なかった。
「はっ・・・はあっ」
足りなくなった酸素を取り込もうと身体全体で息をする僕を見下ろして、モララ
ーが言った。
「どうせ、だ。お前に名前をやるよ」
と、どこからか出したナイフで首輪に刻みを入れる。
「っと・・・これでいいな」
「あ・・・?」
ぐわんぐわんする頭を必死で持ち上げ、焦点のあわない目でモララーを見る。
「そうか、首につけてたんじゃあ見えないよな」
「今日からお前の名前は”メイ”だ」
39
:
魔
:2007/05/07(月) 19:04:19 ID:???
二日目
目が覚めると小さな倉庫の中にいた。
あの時、モララーに名前を貰ってからまた気絶していたらしい。
辺りを見回すと、引き戸と窓しかなかった。
窓からは光が差し込んでいる。
日の傾きからして、朝なのだろうか。
ここは物をしまう倉庫というよりも、虐待専用の倉庫のようだ。
二畳半くらいの、この小さな倉庫にはメイとリードと血糊、それと水の入った器
しかない。
床には昨日メイが撒いた血と、メイのものでない血痕だらけ。
壁にも、嫌な装飾として血痕と黒い塊。
塊がなんなのかは、考えたくもなかった。
身体の節々がまだ痛むが、なんとか動けそうだ。
殆ど身体を引きずるようにして、器の中に顔をうずめる。
そして水を飲もうとしたが、ある事に気付いた。
「あ・・・」
器の中に、自分の顔が映る。
それは涙と血でくしゃくしゃになっていた。
水面にある己の顔を覗きながら、ゆっくりと頬を触る。
かさかさした感触がして、指に小さな黒い塊がこびりつく。
ふと、水面に映った顔が弾けた。
何かと思えば自分の目から零れたモノ。
昨日の一件で枯れ果てていたと思っていたそれは、決壊したダムのように溢れ出す。
メイは水を飲むことを忘れ、静かに泣いた。
泣き疲れ、また床につこうとした瞬間扉が勢いよく開く。
「ひっ!?」
突然のことに、メイは酷く驚く。
虫の声も全く聞こえない空間で、それは爆弾と同等の大きさのように感じた。
「なんだ、起きてたのか」
扉の奥から出て来たのはモララー。
街に出れば何処にでもいそうな程普通のモララーだが、メイにとっては畏怖の象徴。
モララーを見ればどんな状態であれ怯えなければならないような気がした。
「今日はこれで遊ぼうな・・・」
モララーの手には奇妙な手袋。
その中にあるのはまた奇妙な液体とライター。
メイはそれを見て背筋が凍るような感覚に陥る。
脱兎のごとくまだあいている扉へと走るが、途端に身体が動かなくなる。
「ぎっ!」
リードを踏まれ、首が絞まり声が漏れた
。
「待てよ・・・まだお前の綺麗な声を聞いてないんだぜ?」
40
:
魔
:2007/05/07(月) 19:04:55 ID:???
身体を床に強引にに押し付け、メイの自由を奪う。
メイは必死に足をばたつかせるも、モララーは全く動じない。
そして、手袋の中に仕込んでいた釘でメイの左手を打ち付けた。
「っ!! ああああああ!!!」
声にならない声がメイの喉から噴き出て、大粒の涙が空を舞った。
肉と、床を貫通する鈍い音。
刺さった所からして、手の平の骨は折れているかもしれない。
「お楽しみはこれからだ」
モララーはメイを見て嫌らしく笑うと、奇妙な液体をメイの左手にかけた。
つんと臭うそれに不快感を覚えるより傷口にしみることにメイは気が動転しかける。
そしてモララーはライターの火打ち石をそこに近づけ、擦った。
轟、という音と共に、突然左手で炎が暴れだした。
「ギャアアアアアアアアア!!!」
左手を隙間なく針でめった刺しにされるような感覚にメイは狂うように叫ぶ。
モララーは自分に引火しないようにと、その場から少し離れた。
「アッアアアアギャアアッ!!!」
ただひたすらに手足をばたつかせるが、打たれた釘のせいで動けない。
モララーはメイの不格好なダンスを唯笑いながら見詰める。
と、
「おっ」
ぶちりと音をたてて左手が床から離れた。
必死で暴れていたから予想はできてはいたが、これほど早く外れるとは。
メイは燃え盛る腕を投げ込むようにして器に向かう。
バランスを崩しながらの動作だったので、中にあった水は全部空中に舞ってしまう。
「あーあもったいない・・・まだ飲んでないんだろ?」
「うっ・・・うあっ・・・は・・・」
火が消えたのはいいが、腕自体が熱をもっているせいか蒸気がたちこめる。
低温ながらも蒸されていく腕を、いっそ切り落としたくなるメイ。
モララーは転がる器を拾い、手の中でくるんと回す。
「また水入れてやるから、その時はちゃんと飲んでくれよ?」
「あ・・・?」
不思議だった。
自分にこんなことをしておいて水だけは用意する。
折角あげたやった水をぶちまけられたってキレてボコボコにしたり。
これ以上与える物はないなんて言って更に精神を削いでいくのかと。
そう思っていたのに。
結局は食料を与えてくれていないのだから、そう深い意味はないかもしれないが。
だが、メイはその不思議を知りたくて扉の奥へと進むモララーを途絶えそうな意
識の中必死で目で追う。
扉を閉め、鍵をかけるまでモララーはこちらを見ていた。
自分の荒い息遣いしか聞こえなくなった倉庫。
気が『おかしくなりそう』な程の痛みを受け、『おかしくならない』ように耐える。
叫ぶことが、恐怖に怯えることがこれだけ疲れることだったとは。
メイは息を整えた後、いろんな事を考えながら床についた。
41
:
魔
:2007/05/07(月) 19:06:15 ID:???
三日目
夢を見た。
それはメイが産まれ育った街が舞台の夢。
被虐者と加虐者が紡ぐ色はどこにもなく、
代わりとして炎が己を自己主張し、街を支配していた。
辺り一面に踊り狂う炎の中一人立つメイ。
所々に写る黒と灰色の粒。
掴めないことからして、それはノイズのようなものだろうか。
何故自分がそう考えるのか、何故夢だと理解するのか。
明確な答えを見出ださずとも、メイはそれに納得していく。
何故炎が踊っているのか、何故視ることが妨害されているのか。
疑問を抱いては考えることを止め、メイは街の中を歩いた。
炎に包まれていながら、なお形を残す建造物達。
街路樹も枝でなく葉が作る形で松明のように燃えていた。
そんな物達を見ていても、やはりどこか落ち着いているメイ。
身体はボロボロのままだというのに、どこも患っていないような。
爛れることより先に、カサカサに焼け焦げた左手に目線を落とす。
夢の中だからだろうか。
指が全部綺麗に動く。
その動作の中には痛みはない。
健全なヒトから見れば当たり前のことにメイは少し驚いた。
釘を打たれていた箇所には穴はない。
そこを触ってみるが、骨も元通りになっているよう。
・・・どうせ夢の中のことだ。
起きればそこはまた痛む。
一つ軽く溜め息をつくと、黒い手首をぷらぷらさせながら再度街を歩く。
公園に出た。
あの時、モララーに見つかり捕まってしまった場所。
そこでメイはあるものを見つける。
「・・・」
「ねぇ、返事してよ!ねぇ!ねぇってば!」
自分の、綺麗な頃の自分の毛並みに似た子が泣き叫ぶ。
その子の腕の中には、真っ白な身体をしたちびギコが目を閉じていた。
必死に呼び掛け、叫んでも一向に起きる気配はない。
「お願いだから、起きてよぉ!!」
声は枯れ、目は涙で赤く腫れていく。
嘲笑うように燃え盛る炎。
叫べば叫ぶ程、呼び掛けている子は腐り、醜くなっていった。
メイはそれを見て、一つの感情が心の中に芽生える。
−−−情けないね−−−
42
:
魔
:2007/05/07(月) 19:07:00 ID:???
メイがそう思った瞬間、世界が暗転する。
「・・・」
瞼が降りていたということに気付くのには時間はかからなかった。
右手で目を擦り、ゆっくりと視界を広げていくと、また朝日が差し込む倉庫の中。
メイはふと何かを思い出したかのように左腕を見遣る。
そこには痛々しいとでは全て表現できそうにない程黒く焼け焦げた腕。
動かしてみると、何故か痛みはなかった。
というのも、神経が全て麻痺するほど焼かれたからだろうか。
中途半端な奇跡にメイは少し喜ぶ。
手の平の骨も、錯乱していたせいで折れたと勘違いしたんだと解釈した。
暫くして、モララーが器を持って入ってくる。
「起きてたか」
鍵をあけ、扉を開いた後倉庫の中へと姿を見せるまでメイはモララーに気付かなかった。
何故だろうか。
昨日まで畏怖の象徴であったモララーが、今ではなんとも思わなくなっていた。
「ほらよ、水だ」
モララーは目線をメイと同じ高さまで下げ、器をメイの前に置く。
メイはそれに近づき、口をつけた直後浴びるように飲んだ。
「それとな・・・今日は飯も持ってきたんだ」
その言葉と重なるのは薄く笑うモララーの顔。
メイはモララーを見上げてその表情を見ると、今やっと背筋が凍るような感覚を覚える。
「これだよ」
倉庫に入ってからずっと背中の後ろに回していた手を前に回す。
モララーが持っていたのはビニール袋。
それを軽く放り投げるようにその場に落とす。
撒かれた中身を見て、メイは一瞬思考が停止した。
そこにあったのは、ちびギコの腕と脚。
自分の四肢より少し細いそれは、まだ新しかった。
「昨日見つけたヤツのでね・・・達磨にして遊んでやったからお前と遊ぶ時間がなくてな」
クク、と嫌らしく笑うモララー。
「さあ、食べなよ」
・・・昨日水をまた用意すると言ったのはこれの為。
自分とほぼ同じ年齢のヤツの手足を飯として出されて、絶望しないヤツはいないだろう。
小さな希望を与えた後に大きな絶望を与えるのは定石・・・
「!」
モララーは一旦考えることを止める。
気付けば、メイがちびギコの腕にがっついているではないか。
噛り付く毎に見える八重歯に野性の本能のようなものを感じる。
血に濡れていくメイの口と手を見て、モララーはここで初めて嘲笑以外の笑みを浮かべた。
「はは・・・これは一本取られたねえ」
モララーは君の為にとタオルを持ってくると伝えた後、倉庫を後にした。
結果的に、メイは今日は虐待を免れる。
が、本人はそれに対し何も思わなかった。
43
:
魔
:2007/05/07(月) 19:08:02 ID:???
四日目
深夜。
月光りが眩しい位に差し込む窓を眺めるメイ。
メイの足元には血で濡れたタオルと、小さな骨が数個。
「・・・」
澄んだ明かりと瞬く星々。
それと真逆の、濁った真っ黒な感情を静かに燃やす。
昨日、モララーはちびギコの腕で精神を汚染させようとしたのだろうが、もう関係ない。
なりふり構っていられない。
己の腕でも食えと言われたらやってやる。
目をえぐれと言われたら綺麗に取出して献上してもいい。
絶対生きてここから脱出する。
命を、自分自身を奪いそうな程の虐待にも耐えてやる。
餓死も頓死も圧死も溺死も轢死も拒まれるまで耐え抜いてやる。
(チャンスがあれば、何だって−−−)
結局、メイは寝る事なく朝を迎える。
空がすっかり青くなった頃に、モララーはやってきた。
「や、おはよう」
メイがモララーに気付いたのは挨拶をされてから。
空を見るのを止め、モララーを見上げる。
「・・・おはようございます」
少し掠れた声で、言葉だけで挨拶をするメイ。
昨日に続くメイの読めない行動にモララーはまた面食らう。
(こいつ・・・まあいい)
「き、今日は天気がいいから散歩でもしようか」
モララーは一度考えていた事を捨て、壁に打ち付けているリードを外す。
メイはリードが伸びきらないようにと、モララーの足元に行く。
「・・・」
「・・・」
リードを掴んだまま、メイの方を見て固まるモララー。
足元にぴったりとついて、扉の外だけをしっかりと見るメイ。
沈黙は長い。
44
:
魔
:2007/05/07(月) 19:08:38 ID:???
街。
鼻唄を歌いながら陽気と歩くモララーと、その斜め後ろに無表情のメイ。
周りを見渡せば、自分と同じようなスタイルのちびギコは少なくはない。
もがれている箇所も様々で、両腕がなく必死でバランスを取るコもいれば。
片脚だけでぴょんぴょんと跳ねながらなんとか追い付こうとしているものも。
酷い時には芋虫がずりずりと引きずり回されている状態。
そこから見れば、まだ四肢がある僕は幸せなのだろうか。
少しして、モララーは足を止める。
そこはなんの変哲のない公園だった。
しかしそこは加虐者から見れば被虐者のオアシス。
路地裏の次にそいつらが集まりやすい所で、二人の加虐者がモララーを待っていた。
「遅いぞ」
「待ってたモナ」
青い身体の男、ギコ。
それと白い身体の男、モナーがモララーに呼び掛ける。
その二人の手の中にはリード。
リードの先には案の定ボロボロのちびギコとちびしぃがいた。
例に洩れず、二匹ともカタワだった。
「いや、待たせてすまなかったよ」
「何かあったのか・・・っつーかそいつは?」
ギコはリードを引っ張りながらメイに近付き、まじまじと見つめる。
リードの先のちびギコはそのせいで首が絞まり、声を漏らした。
目に大きく写るギコに、メイは微動だにしない。
「変わった毛並みだし、なんかちょっと大きいような・・・」
「この前アフォしぃを殺ってたらさ、そいつの子供らしく近くで震えててね」
「なんだか人形みたいモナね」
「・・・メイって言います」
被虐者の言葉に、加虐者三人の目が点になる。
「お前被虐者に名前とかつけてんのか?」
呆れたようにモララーに問い質すギコ。
「そういや・・・なんでだろ? なんか珍しかったからかなあ」
自分のした事に首を傾げるモララー。
「というか、挨拶するなんて馬鹿みたいモナ。自分の立場がわかってないようモ
ナよ」
「わかってます」
それぞれの反応を見せた後、その本人の言葉に再度固まる三人。
掠れていても、はっきりとしたそれは被虐者のモノでないような。
うっすらと感じた凜とした何か。
それは一人を困惑させ、一人を恐怖に陥れ、一人を苛立たせたり
「おい。さっさとやろうぜ」
待たされたのと、メイの不快な態度に眉間に皺をよせるギコ。
下手に刺激を与えたら殴り殺されかねないと、その場にいた被虐者二人は察する。
が、やはり残りの一匹は何も思わなかった。
「ば、場所はどこがいい?」
「此処でいい」
なんとかして宥めようとモララーが話し掛けるが、刺のある声色で返答される。
公園に、気まずい空気が流れた。
45
:
魔
:2007/05/07(月) 19:09:55 ID:???
四日目
昼
「ここでいい」と、ギコが皆にそう言った直後の事だった。
「ヒギャッ!?」
突然、ちびギコが身体をくの字にして吹き飛んだ。
ちびギコが立っていた位置には脚をめいいっぱい振り上げているギコの姿。
小さい身体はそのまま遊具へとたたき付けられるかと思いきや、首のリードがそれ
を阻んだ。
ギコは握っていたリードを引っ張り、被虐者を手元に持ってくる。
急な動作で首が絞まり、奇怪な声をあげた後その場に倒れ込むちびギコ。
首輪を引っ張り隙間をあけ、苦しそうに咳込む。
「えぅ・・・ひぎっ!?」
そこに追い打ちを掛けるように、ギコはちびギコの頭を掴みメイの方に向き直させる。
そしてちびギコにしか聞こえない程の声で、囁いた。
「お前は片腕しかないのに、あいつは両腕がある・・・不公平だと思わないか?
」
その言葉を聞いた途端、ちびギコの目に血が走る。
暫くの間唸った後、メイの方へと飛び掛かった。
「!?」
いきなり飛び付いて来たちびギコにメイは驚く。
反応するのが遅れ、そのまま肩を掴まれ取っ組み合いになった。
「フゥー・・・ガアアァァ!!」
被虐者とは思えない声を発し、ちびギコは牙を剥きメイを襲う。
砂埃をたてて暴れる二匹を見てけらけらと笑う加虐者と、傍観し怯える被虐者。
「相変わらず凄い変貌ぶりモナ」
「どうやったらあんな風に調教できるんだか・・・」
「なに、コツをつかめば誰にでも作れる」
怒りや憎しみに暴れ狂う弱い命。
命乞いや絶望にうちひしかれる者よりも、ギコはそういう奴の方が好きとのこと。
それがほんの少しも抗えずに死んでいく様、我に返った時の発狂していく姿がギコにとっての虐待虐殺のようだ。
「コツって何モナ?」
「とりあえず煽ればいいんだよ。そいつの・・・」
「ガアアアアアアアアアアアアッ!!」
ギコの言葉が獣の咆哮に断たれる。
何かと思い三人は揃って被虐者の方へと目線を持っていく。
そこにあったのは、身体をビクビクと激しく痙攣させて俯いているちびギコ。
その喉からはだらだらと血が流れ、自分と周りを赤く染めていった。
その後ろに、息を切らし手の中に肉片を握っているメイがいた。
「こいつ・・・」
自分の書いたシナリオ通りにいかず、憤慨するギコ。
「ギコ! 落ち着け!」
モララーは額と拳に青すじをたてメイへ迫ろうとしたギコの肩を掴み、宥める。
すると、ギコはその表情のまま振り向きモララーにこう告げた。
「俺は何事も思い通りにいかねぇと気が済まないんだがな・・・」
殺気。
虐殺の一線を越え殺人を犯してしまいそうな程の気迫。
そんなギコにモララーはたじろいだ。
「だ、だけどそんなすぐに殺しても何も楽しくないモナよ?」
険悪な雰囲気が漂う中、モナーが慌てて仲介に入る。
「・・・チッ」
モララーの腕を振りほどき、再度メイの方へ歩きだす。
46
:
魔
:2007/05/07(月) 19:10:33 ID:???
「ギコ!」
「とりあえず、だ」
メイが逃げようとする前に、ギコはメイの頭を乱暴に掴む。
そしてメイの左目に自分の指を無理矢理捩込んだ。
間髪入れず、ギコは右手を後ろへと引っ張る。
「ぎゃあああアアアアアアアア!!」
ぶちぶちと繊維が切れていく音とほぼ同時に、その悲鳴は聞こえた。
次にモララーとモナーが見たのは、左目を押さえ震えながらうずくまるメイと。
黒く綺麗に光る眼球を手に持つ加虐者だった。
「・・・このくらいならいいだろ」
「っあ・・・はあっ・・・はっ・・・」
張り裂けそうな痛みを堪え、出血している左目を押さえ、
フラッシュバックする虐待に狂いそうになる思考。
歯噛みし、精神を無理矢理に落ち着かせる。
そして、必死に状況を確認する。
口論をしている加虐者達と、こちらをみながら怯える被虐者。
何か、あと何かがあれば。
(この状況から逃げ出すチャンスが−−−!)
「何か珍しいモン見せてやるって聞いてきたのによ・・・とんだババひいちまっ
たな」
「お、俺だってこんな反抗するような奴とは思ってなかったんだよ!」
「何やっても怯えるよう本当にそう調教したのか?」
「・・・」
「まさかしてないモナ?」
「だ、だって最初からすげぇおとなしかったし・・・必要ないかと・・・」
「馬鹿モナ」
「何だと!?」
モナーがモララーを煽ったその時だった。
ギコの手が一瞬見えなくなるかと思うと、それはモララーの首に宛てがわれる。
どす黒い腹と、それの縁に沿うように銀色。
20センチ程の長さのあるナイフがギコの手の中にあった。
「な・・・っ!?」
絶句する二人。
「面白くねぇわ・・・死ねよ」
ギコの殺意がモララーを襲う。
全く動けない二人の加虐者。
今、加虐者が加虐者を殺さんと、ナイフを振りかぶる。
モララーを凶刃が貫く直前に、メイがギコに飛び付いた。
「があっ!?」
ギコの手の中に爪をたて、肉をえぐる。
痛みに耐え兼ねて手を押さえるギコから離れ、素早く地面に落ちたナイフを拾う。
「こ、こいつッ!」
自分の身体に不釣り合いな程長いナイフを使い、器用にリードを切る。
これで捕まえられることはない・・・そう確信したメイは次の行動へと移った
絶対に生き延びる−−−
47
:
魔
:2007/05/07(月) 19:11:58 ID:???
───この話はここで終わり
メイは死んだのか、それとも生き延びたのか
それは誰にもわからない
巷では、『片腕が黒い少年』が殺戮を繰り返しているという噂
謎は謎のまま、どこかで語り継がれていく
奇妙な話は、どこかで歯車を噛み合わせる
天と地の差の裏話
メイの物語は、ひとまずおしまい
48
:
cmeptb
:2007/05/08(火) 23:10:55 ID:???
へびぃ氏作 【流石兄妹の華麗なる休日〜百ベビ組手〜】
便乗作品 フザケンナ! というのでしたら削除可で。
「挑戦者No.X! タカラギコさんです!」
モララーの声と共に、相変わらずのにこにこ笑顔を浮かべて
タカラギコが競技場に入場してきた。
「え〜と、自己紹介をお願いしま〜す!」
マイクを手に取ると、タカラギコは咳払いをし
「え、え〜と、某科学研究所に勤めている、タカラギコといいます。
お察しの方も多いかと思いますが、今回は仕事で培ってきた技術や知識を
虐殺に使ってみたいと思います!! 多分皆さんを落胆させるような
結果にはならないと思いますので、お、応援よろしくお願いします!!」
ワァァァァァァ………!!
大歓声と共に、「頑張れー!」と応援の声が。
ぺこぺこと頭を下げるタカラギコに、モララーが実況席から
「それで本日はどんなものを使うご予定で? ドクトル・タカラ?」
ドクトルと呼ばれたことに対してか、タカラギコが顔を赤くする。
「は、はい! ちょっと大きいですが、まずこれを!」
そういいながらタカラギコは右手を挙げる。すると競技場の中に
直径1m、長さ2mほどの鉄柱とおぼしきものが20本ほど
台車に積まれて入ってきた。その鉄柱を、助手であろう数人の
AAに手伝ってもらいながら、競技場のあちこちに立てていく。
「……あ、お待たせしました。これでセッティングは完了です!」
「この柱でドクトルが何をするつもりかさっぱり読めませんが、まぁ一応終了したと
いうことなので、サァクリファイスゥッ!! ベビしぃちゃんたちの入場でぇっす!」
モララーの合図と共に、ベビ入場口が開かれ……あとはお決まりの展開。
チィチィナッコナッココウピコウピ それが100匹。
「ベビチャーン! ガンバルノヨー!」
そして、何も知らない母しぃたちと。
「んじゃあドクトル・タカラ、準備はいいか!?」
競技開始のピストルを構えたギコが、タカラに尋ねる。
タカラは勿論、首を縦に振り
パ ァ ン!!
競技、開始。
49
:
cmeptb
:2007/05/08(火) 23:11:25 ID:???
……観客席も、控え室も、皆が皆息を呑んで見守っていた。
科学の専門家が、この鉄柱を使ってどんな虐殺をするのか
興味に堪えないといったところか。
「……よし。それじゃあまずは、第一段階……」
だがそんな皆の期待をよそに、タカラギコはポケットから何やら丸いもの
黒く、光沢があり、短い紐がついた球体を取り出した。
「……あれは、爆弾でしょうか? 確かにあのレベルの爆弾ならば
持ち込みは許可されていますが、あれと鉄柱がどう結びつくのか……?」
モララーが皆の気持ちを代弁するような一言を呟くと、タカラは
その爆弾とおぼしき2,3個の球体の紐に火をつけ、宙に放り投げた。
バ ア ア ン ! !
「アニャッ!? ナンデチュカイッタイ!」
「ヂチッ!? ハナビシャンデチュカ!?」
「アニャニャニャニャニャァ!?」
……晴天の何とやら。各地で思い思いに過ごしていたベビしぃたちは
まず、皆が上空の破裂音に驚いた顔をした。
………まず………?
……その爆弾、中には液体でも詰められていたのだろうか? 上空で
破裂したかと思うと次の瞬間、それは戦時中の「黒い雨」を思わせるような
というよりまさしくそのもの、黒い雨が降り注いできた。
「チィッ!コ、コンドハイッタイナデチュカ!」
「ハナビシャンノチュギハ アメシャンデチュカ?」
「チィィィ! チュメタイ! アアッ! チィノキレイナケガワガマックロニ!」
……その黒い雨は競技場全域に降り注いだようで、ベビしぃは
百匹全てが真っ黒に染まったようだ。
それを確認すると、タカラはよし! とひとりごちた。
「おっきい兄者〜、あれは何なのじゃ〜?」
観客席の妹者が、隣の兄者に話しかける。
「う〜む。見たところガソリンか毒薬か、その類の何かだと思うが
しかしそれでは、あの柱の意味が分からないし……」
他のギャラリーも同じような疑問を抱き、観客席がざわつき始めると
タカラは次に、ベビしぃたちに向かって大声を出す。
「ベビちゃ〜ん!! 今降ってきたその雨さんはね、実はとっても
甘くておいしいんだよ! 試しになめてみなよ!!」
「アニャッ?」
「甘くて」「おいしい」の言葉に反応したか、ベビしぃが自分の体に
付着したその黒い液体をなめ始めた。
「アニャッ! オイチィ!! コェ、チュゴクオイチィ!!」
「エッ! ホントウ! チュゴクオイチィ! アマ〜イ!」
一斉に、ベビしぃたちは自分たちの体についた液体を嘗めだした。
いやそれでは済まず、地面に零れた液体や、果ては他のベビしぃの
体を舐めだすベビまで出現していた。
「何だあれは? あのタカラは一体何をしたいんだろう?」
「サーナ! デモアイツ、チョット曲者ッテニオイガスルゾ! コノママ
クソッタレマターリデ済マスハズガネーサ!! 黙ッテ見テヨーゼ!!」
控え室にいた弟者とつーが首を傾げあうと、実況席でも
「これは一体、どういうことでしょう……? 私にはドクトルの考えが
全く読めません! てっきりガソリンの類かと思いきや、そうではない!
毒物とも思いましたが、その雰囲気もない! 現状はただベビたちが食事をして
マターリとしているだけ! このマターリとした胸くそ悪くなる光景がどう虐殺に
変化するのか! 常人には理解できないということなのでしょうか!!」
疑問が頭を渦巻き、中には不満を漏らし始めるギャラリー。だがそんなギャラリーに
向かって、タカラギコは人差し指を立ててちっちっちっ、と左右に振る。
「“慌てる良い子はクソ掴む” 焦らないでください。そしてご安心ください、皆さん!
私がマタ厨だとか思っていらっしゃる人もいるかもですが、断じてあり得ません!!
この光景は、前座! これから奴らに地獄を見せてやるんです! マターリの極みに
いるクソ共を地獄へ落とす……。これが最高でしょう? ……おやおや、やはり
思った通り! あの馬鹿共、たらふく食ってくれたようです! ……では今から
その“地獄”をお見せします! ……スイッチ1、怨(オン)!」
タカラギコは懐からリモコンを取り出すと、「1」と書かれたスイッチを入れた。
50
:
cmeptb
:2007/05/08(火) 23:12:28 ID:???
「アニャア…、オナカイッパイ。マターリデチュネェ……」
「ココハテンゴクデチュネェ……」
……満腹ということで思い思いに寝っ転がり、ノビーをするベビしぃたち。
お決まりだが、今の彼女たちは気づいていないだろう。自分にこれからどんな災厄が
降りかかるのか、あまつさえその“災厄”の一部を体に入れてしまっていることに…
そして、異変は突然起こった。柱を枕にして寝息を立てていたベビしぃたちが
「アニャ? ナンカアッタカイデチュネ…… ! ナ、ナンカドンドンアチュクナッテマチュヨ!」
突然悲鳴を上げて、もたれかかっていた鉄柱から離れ始めた。
見ると先ほどまでは何事もなかった鉄柱が、今やもうもうと熱気をあげているではないか。
付着した先の黒い液体が、早くもじゅうじゅう音を立てて蒸発している。
「おおっと! 何か分からなかった鉄柱の意味が、ようやく分かったようです。あれは
ホットプレートのように熱々になるわけですな! しかし、しか〜し!!
いくら熱くなっても、ベビ共が逃げてしまっては意味がない!!」
モララーの言葉通りで、競技場を見ると、鉄柱は確かに赤熱化するくらいに熱くなって
いるようだが、肝心のベビしぃは……、当然といえば当然だが、やはり逃げ出している。
鉄柱の熱気に顔をしかめながら、皆競技場の中央に集まっている。
「もしかしてこの鉄柱の熱気で、奴らをロォストビィフにするつもりか! しかしドクトル
そいつは時間がかかりすぎるぞっ! それにベビフライを食したから、満腹さ!」
モララーが興奮気味にしゃべると、タカラギコは首を横に振り
「“慌てる大人はブス娶る”!……ちゃぁんと仕掛けがありますから!
ではスゥィッチ2、怨!!」
51
:
cmeptb
:2007/05/08(火) 23:12:59 ID:???
「ア、アニャッ!? ナ、ナンカヘンデチュヨウ!!」
「アルイテナイノニ、カッテニウゴイチャイマスヨゥ!!」
「アニャア!? ナ、ナァニィ、コエェ!?」
……タカラギコが“スイッチ2”を入れた途端、ベビしぃたちに異変が起こった。
見ると何故かベビしぃたちが、鉄柱に向かって動き出しているではないか!!
いや、しかし爪を地面に立てたりして抗っているところを見ると、自分の意志で
動いているわけではなさそうだが……
「おおっと! 突如始まった謎の行進! これは一体どういうことか!!
これがドクトルの新兵器なのか!!」
モララーの言葉に、タカラギコは親指をびしっと立てる。
「その通り! 名付けて現代版“炮烙” 灼熱電磁石よ!!」
「あにじゃ〜!! 何なのじゃ、何なのじゃ〜! あのどくとるが
やっているのは、何なのじゃ〜!?」
「お、おお落ち着け妹者! これでは答えられん!!」
興奮した妹者に揺さぶられ、兄者がげほげほと咳き込む。
「……で、妹者、何が聞きたいんだ?」
ようやく解放され、呼吸を整える兄者に妹者が尚もはしゃいだ様子で
「“ほーらく”というのは何じゃ? ちっちゃい兄者が彼女に“こくはく”した
あとのちっちゃい兄者のことを姉者がそう呼んでいたが、それか?」
妹者の素っ頓狂な発言に兄者は吹き出し、周りのAAも苦笑いを浮かべる。
「ば、馬鹿! それは“崩落”だ! ……弟者には絶対に言うんじゃないぞ……!
で、“炮烙”だが……。あれは昔の中国の伝説の処刑方法でな、ああいう熱い
金属の柱に体を押しつけて焼き尽くす方法だ。想像できるだろうが、結構えぐい」
「うへ〜。お魚みたいになるんじゃ?」
「そう。なる。あのドクトルはおそらくそれをやろうとしているんだろう。
……次の電磁石というのが、ミソか……?」
「じじゃく? それは母者がどっかーんしても全然いつもと変わらない様子の父者のことか?」
「……妹者、それは多分“自若”のことだろうが、なぜに“磁石”を知らないのに、こんな
言葉を知っている? それに父者は単に怖くて動けないだけだろ……と。まぁいい。
学校の理科の時間に習っただろう? 鉄を近づけるとひっつく、あの不思議な物体だ」
「あ! 知ってるのじゃ! 変なものにひっついて面白かった石のことじゃ!!
先生のパソコンにひっつけたら、「俺の二次元これくしょんが〜!!」って先生が
泣いてたのじゃ!! どうしてなのじゃ?」
「……哀れな……。HDが飛んだか……! だが気持ちは分かるぞ……。ま、まぁそれだ。
それを磁石と言ってな。んで今回あのドクトルが使っているのは“電磁石”という
少し特殊な代物で、普段は何ともないのだが、電気を通すとたちまち磁石に変わる
不思議なものなんだ」
「ふえ〜、変なものがあるのじゃなぁ〜……。それで兄者、あのベビたちは
いったいどうして、あんなことになっているのじゃ〜?」
……兄者が説明しようとしたその時、競技場でタカラギコが話し始めた。
「はい! お察しの通り、この鉄柱は電磁石になっているのです! それでこの
キモベビ共が何故引き寄せられているかと言えば、……これもお察しの方もいらっしゃるか
そう! 先ほどベビに舐めさせたあの黒い液体。アレがミソでしてね。あれは砂糖水に
砂鉄をぶち込んだ、というより砂鉄に砂糖水をぶっかけた代物さッ! あ、あと観客席には
磁力が行かないように計算してありますので、皆さんの鉄製品、特に電子機器の心配を
する必要はないですので、ご安心を!!」
「なぁるほどぉ! やつらは卑しく砂鉄入りの砂糖水をたっぷり食ったわけだから
腹の中は今、砂鉄で満杯! おまけに最初に破裂したときも全身に浴びてるわけだから
尚更だね! ……おやぁ、もうそろそろ限界のベビがいるぞ!!」
52
:
cmeptb
:2007/05/08(火) 23:13:37 ID:???
モララーの言葉にギャラリーが振り向くと、たしかにそろそろ鉄柱に接触するベビが。
「アニャアア!! イヤアァァ、タチュケテェェェ!!」
……無知なベビでは磁力の仕組みも分からない。さながら見えない手に引っ張られている
ような感覚を覚えているのか? 必死に抗っているようだが、ずるずるずるずる、どんどん
鉄柱との距離は近くなっていく。
……強くなっていく熱気、爪を地面に立てて抗っても、地面に残るのは爪痕のみ。
自分の体は決して残らず、無情にも距離を近づけるだけに他ならない。
「よぉし! そろそろだ! さぁべびちゃん、ゆっくり熱々のダッコを味わいな!!」
タカラギコが叫んだ、まさにその時。鉄柱まで30cm程に近づいたベビしぃの体が、浮き……
じ ゅ わ ぁ ぁ ぁ ぁ あ あ あ あ ! !
「ギニャァァァァァアアアアアアアアアアア!!!」
……遂に、最初の犠牲者が誕生した。鉄柱からもうもうと上がる白煙。暴れるベビしぃ。
「ギニャアアゲギャアアア!! ヤヤ、ヤデチュヨウ!!」
必死に自分の体を鉄柱から引き剥がそうとするベビしぃだったが、悲しいかな所詮ベビの腕力。
ベビのヤワな腕力では強烈な磁力にかなうはずもなく、むしろ掌足の裏を焦がすだけ。
「さー! 鉄柱とのダッコは如何かな!? 最高に“熱い”ダッコだろぉ!?
おうおう、皆もダッコしたいか! 慌てるな慌てるな! 鉄柱さんは逃げやしない!!」
最初のベビが必死に体を引き剥がそうとしていた、その時
「モーヤァヨゥ! ヤァヨゥ! ヤァ……ブブベッ!?」
その体に、同じく磁力に吸い寄せられた別のベビがぶつかってきた。
「ア゙ーーーーーーーーー!!!」
下は鉄柱、上から別のベビのサンドイッチ。最初のベビはまさに阿鼻叫喚。
顔面を鉄柱に押しつける形となり、くぐもった悲鳴を上げる。相変わらず立ち上る煙。
そしてしばらくもがいたうちに……、動かなくなった。
「ハァ…ダッコハヤッパリマターリデチュネェ……。ッテ、アレ!? ナンカアツクナッテキマチタヨゥ!!」
今までは鉄柱と自分との間にベビがいたが、それは今や熱で焼き焦がされ消し炭そのもの。
さぁ、次は上に乗っていたベビの番だ。
53
:
cmeptb
:2007/05/08(火) 23:14:36 ID:???
そんな悲惨?な光景が、あっちこっちで繰り広げられていた中で
「フ、フン! チィハヘイキデチュヨ! アンタノヘンナマホウニハ、カカッテナイデチュヨーダ!!
チャア、ユルチテホチカッタラ、チィニコウピチナチャイ!!」
各々の鉄柱から離れた場所にいた、奇跡的に磁力の影響を受けていないベビしぃが
タカラギコに向かって挑発的な言葉を投げつける。
「そんなに交尾がしたいんなら……」
しかしタカラギコは相変わらずのタカラ・スマイルを崩すことなく、ベビしぃを持ち上げ
「あの鉄柱としてこいやぁぁ!!」
タカラがベビしぃをぶん投げたその先には、何と、棘突きの鉄柱が!!
その棘にベビしぃのマムコが、すっぽりと突き刺さり……
「ヤァァァァァ!! コンナノマターリノコウピジャナイデチュヨゥゥゥ!!」
ベビしぃがマムコを焼き焦がされていく様を、楽しそうに眺めていた……
「おおう! あんな離れたトゲトゲに、ベビのマムコを正確にクリーンヒットさせるとは!!
流石ドクトル! 勉強だけじゃなくてスポーツも万能ッてか!?」
「……学生時代から、野球は大の得意さぁぁ!!」
タカラは尚も傍にいたベビしぃをつまみ上げると、ぶんぶんと灼熱の鉄柱に投げ始めた。
「アギャアアァァァァアアア!!??」
掃除機で吸い込まれるように、ベビしぃは次から次へと灼熱の鉄柱に引き寄せられていった。
「アヂュウヨォォォォオオオオ!? ダヂゲデェェェェェェェエエエエ!!」
体を鉄柱から引き剥がそうと手足を踏ん張るベビ、体をねじってみるベビ。
だが、結果は言わずもがな。どのみち上から次々とベビしぃが吸い寄せられてくるのだから
脱出など、不可能。このベビしぃはまず腹に直撃を受け、それだけで内臓がはみ出てきた。
ジュワァアアアアア……
「チ、チィノコテッチャンガァァ!! イヤァァァ!!」
さながら焼き肉のようなもの。ベビしぃは焼かれる己が内臓を無駄な抵抗、必死で体内に
戻そうとするが、その内臓は出来の悪いフライパンで料理をした末路よろしく、鉄柱に
べったりとくっついてしまっている。傷口からの出血も煙を上げて蒸発していく傍ら
「ア、ア、ヤ、ヤデチュヨゥゥゥ……」
真っ白な毛皮がどんどん真っ黒に縮れて焼けこげていく傍ら、ベビしぃは腹に感じる
鈍痛と、全身を苛む文字通りの灼熱感に散々悲鳴を上げた後……、動かなくなった。
勿論、はらわただけではない。あるベビは頭に別のベビが衝突、頭蓋骨が解放され
「アババババババババ!! ナコナゴォウゲガギャアアアアアア!!」
脳味噌を直接焼かれるか、あるいは蒸し焼きにされ、いずれにせよろくな悲鳴を上げずに
じゅうじゅう音を立てて消えていった。
54
:
cmeptb
:2007/05/08(火) 23:15:08 ID:???
「おおぅ! しかし実に科学者らしい効率的な殺し方!! 自分で手を下す以外にも
勝手にベビたちが死んでくれるんだから、これ以上の方法はなぁーい!!」
「まぁ本音を言えばこの手で百匹全てをぶち殺したいところでしたが、この大会では
時間が優先されるとのこと!! ちんたらやっていては入賞を逃しますのでね!
この屑共が卑しい馬鹿共で、助かりましたよ!」
「そりゃそーですよねぇ! いくら甘いってもあんな得体の知れない黒い液体、普通の
AAなら舐めやしませんって! 流石欲望一直線のアフォベビ!! 甘いと分かれば
後先考えずに体に入れる! いやー、天下無敵の大馬鹿種族だッッ!!」
「まぁ、このまま連中が勝手に死ぬのを待っていてもいいんですがね、それじゃあ
面白くない。つーわけでますますベビしぃには苦しんでもらおうと思います!!
さぁて、これでもくらえやぁぁ!!」
そう叫ぶとタカラギコはいつからそこにあったのか、傍らのずた袋の中に手をつっこむ。
中から出てきたのは……、釘や針、剃刀。タカラギコはそれらを次々に投げ始めた。
元からのタカラの投球力と、吸い寄せられる磁力。双方の力が相成って、飛翔物の速度は
倍加している。そして的とも言えるベビしぃたちは、逃げられない。
「イヂャアアアアアアアアアア!! チィノアンヨガァァァアアアア!!」
「ヂィノオメエエエエエエエエエエ!! グギャアアアアアアアアア!!」
オメメに釘が刺さるベビ。腹に大きな畳針が食い込むベビ。口の中に剃刀が突っ込むベビ…
吹き出た血がまたもうもうと煙を上げながら蒸発、辺りに妙な臭いが立ちこめた。
「気分は“ジャンピング・ジャック・フラッシュ”かな? まぁ原理は全く別物だけれどね。
……さ、どんどんいこうか。次はさながらイノシシ用のショットガンってとこかな?」
タカラギコはにんまり微笑んでまた袋に手を入れると、今度はビー玉大の鉄球を
じゃらじゃらと取り出し……投げつけ始めた。
「ほらっ!」
「アベェッ!?」
「うぉらっ!!」
「ギャバァッ!?」
「せぃやっ!!」
「ギーーーー!!」
先の釘や剃刀と違い、今度の鉄球は鋭さがない分、衝撃がすさまじい。
恐らく純粋な鉄ではなく、中に鉛でも仕込まれているのだろう。ベビしぃに着弾するたびに
どぼっ、どぶっ、と鈍い、肉にめり込む音が聞こえてくる。勿論打ち込まれたベビ共は
それ一発で既に致命傷。内臓破裂で済めばまだいい方なのが恐ろしい。
「べびしぃはぁ〜、歩いてこないっ♪ だ〜からぶつけにいくんだよ〜♪
一回三個♪ 二回で六個♪ 三回投〜げて死体の山♪ ……と、あれぇ?」
意気揚々と鉄球を投げまくっていたタカラが、ふと顔を横に向ける。
その視線の先には、まだ何故かベビしぃが残っていた。
55
:
cmeptb
:2007/05/08(火) 23:16:56 ID:???
「……さっき磁力の影響を受けてない奴は皆放り込んだと思っていたが……まだいたか?」
タカラがずんずん近づくと、ベビしぃは涙目になってがたがた震え出す。
「ア…アニャニャ…! オ、オネガイオジタン、ユルチテ…!」
「オジタン、だと!?」
ベビしぃの言葉にカチンときたか、タカラスマイルに血管を浮かべながらベビしぃを持ち上げる。
「……計算すると、大体あの辺りか……。よし、行くか」
にやりと微笑むとタカラは、ベビしぃを投球フォームよろしく振りかぶった。
「オ、オジタン、ヤメテェェェェ!!」
「俺はまだおじさんなんて年じゃないんだよ! 逝ってこいやぁ!!」
すっかり顔を赤くしたタカラが投げるは、まさに剛速球!!
……と、思いきや、あれほどいきり立っていたタカラだったが、その投球は奇妙なものだった。
なぜならベビしぃが飛んでいく先には柱がなかったし、その速度も下投げ程度のスロー・ボール。
興奮しすぎてミスしたか? と思いきや、そんなことは全くなかったわけで
「ア、アニャッ!? チィノカラダガ、オソラデトマッチャッタ!」
見るとベビしぃの体が、空中で静止しているではないか! いや、それだけではない!
「ヂィィッ!? チ、チィノカラダガヒッパラレテマチュヨゥ!! イ、イタイヨウゥ! マァマァァァァ!!」
ギャラリーも、そのベビしぃの悲鳴で悟ったようだ。……そう。タカラはわざと柱に向かっては
投げず、見た目には何もない場所に投げつけたのだ。
すなわち、柱と柱の中間地点。ちょうど双方の柱の磁力の影響がある場所に。
「ギューーー!! ギィィィィィーーーー!!」
今のベビしぃの状況を説明するなら、江戸時代にあったという牛裂き刑のようなものか
要するに体の両側から引っ張られているようなものである。
「アアアアアアアアアアアァァァ!! イヤァァァァ!!」
激痛の中必死にもがくが、ベビしぃの貧弱な力では強力な磁力に抗えようはずもない。
全身から関節の外れる、嫌な音が聞こえ始める。
「おうおう! これは痛い! 見えない力の股裂きだ! 流石ドクトル! こんな
精密なことまでやってのけるとは! あんたは野球選手としても一流だよ!
「そいつはどうも!! さーて、まだ他にも悶えてるベビがいるから、そいつらが
焼き上がるまで、こいつをじっくり眺めるとしますか!」
「アアァァアアアアァァァアアア……!!」
今やベビしぃの関節からは、嫌な音がしなくなった。替わりに四肢が元の二倍に伸びていたが。
その張本人、すでにもう白目をむいて口からは泡をごぼごぼと吹きだしている。
そしてついには、肉の裂け始める「みちみち」と言う音が。
その音は、タカラにも聞こえていたようだが
「……と。他は皆消し炭にして、お前が最後か……。
このまま自然に八つ裂きになるまで放っておくのも手だが、時間がかかるな」
タカラはふぅとため息を一つつくと、ナイフを一本取り出し……ベビしぃに向かって、投げた。
56
:
cmeptb
:2007/05/08(火) 23:17:37 ID:???
ばりばりばりっ!!
.
57
:
cmeptb
:2007/05/08(火) 23:18:20 ID:???
その投げられたナイフは、きれいにベビしぃの正中線、鳩尾に突き刺さった。
ゴムというものは、裂傷が入ると途端に脆くなる。それは筋肉も同じだったようで……
きれいに真っ二つに裂けたベビしぃは、そのまま各々の半身が各々の鉄柱に吸い寄せられ
他のベビしぃよろしく、じゅうじゅう音をあげて焼け始めた。
パ ァ ン!!
「終ーーー了ーーー!! 100匹全部丸焼きだー!!」
最後のベビしぃが真っ二つになり、柱に飛び込むとピストルが鳴った。
「さすがはドクトル!! 実に科学者らしいやり方でした!! いやぁ、お見事!!」
上気するモララーに、タカラギコも両手をあげて喜んだ姿を見せる。
「久々に実験以外でベビしぃを屠りましたが、いやぁ、やっぱり遊びで殺すのは爽快ですねぇ!」
「それではタカラ選手、控え室、或いは観客席の方へお戻り下さい!ありがとうございました〜!」
終焉
58
:
栄
:2007/05/12(土) 00:04:16 ID:???
続きです・・・
ベビしぃの両足があったところから血が噴き出す。しかし、それを止める事は出来ない。ただベビしぃは叫び、助けを求める事しか出来なかった。ベビしぃは無力だった。もう二度と立ち上がり、走り回る事も出来なくなったベビしぃは必死にもがいているしか出来ない。
「ヂィノアンヨォォォ!!アンヨォォォ!!」
ベビしぃは噴き出す自分の血を見ながら恐怖と絶望に飲み込まれた。
「鬱陶しい!!這いずり回るな糞虫が!!」
モララーがベビしぃを蹴り飛ばした。
「ッヂィャァァァァ!!」
ベビしぃは吹っ飛び、テーブルの脚に頭からぶつかった。歯が何本か折れ、そこから出血した。ベビしぃは気が遠くなるのを感じた。そのまま死んだ方が楽かもしれない。が、神はそれを許さなかった。ベビしぃが気絶して落ちる。が、床に着いた瞬間、ベビギコに噛み付いたのと同じ鉄の牙がベビしぃの両腕に食らいついた。その激痛でベビしぃは一気に正気に戻された。
「ア゛ニ゛ャァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!?チ、チィノオテテガァァァァッ!!」
ベビしぃは激痛のあまり、飛び跳ねるが鼠捕りは一層腕に食い込み、ベビしぃに激痛を提供する。
「HAHAHA、運の悪い奴め(笑)そろそろ逝くか?」
「チィノオテテ…、シアワセヲツカムチィノオテテガ…」
「ベビしぃ如きが幸せを語るなんて100年早いわ!じゃぁそろそろ止めを刺して…いや、その必要はないみたいだ。」
そう言うとモララーはニヤニヤしながらその場に腰を下ろした。
「イヂャーヨゥ!チィハタダマターリチタイダケ…」
『ゴゥー…』という機械的な音にベビしぃは喋るのを止めた。ベビしぃが上を仰ぎ見ると、テーブルの上のミキサーが唸りをあげ、ベビしぃの上へ今にも落ちそうである。テーブルの脚に激突した時、その衝撃でミキサーが作動したのだ。ミキサーはさっきベビしぃの脚を切り刻んだ血だらけの刃を回転させ、少しずつ進んでいる。
「チィィ!ア、アレヲトメナチャイ!!」
「どうしてだよ。ベビしぃちゃん。逃げればいいじゃん(笑)」
ベビしぃは必死に腕を引き抜こうとするが、しっかりと鼠捕りが噛み付いているので、全く動けない。
「ヌ、ヌケナイ…ヌケナイデチュヨォ!ハヤクアレヲトメテクダチャイヨォ!!」
「何で止めるんだよ。こんな楽しいこと(笑)」
モララーがニヤニヤ笑いながら、囁く。
「オカァタン!オトォタン!タチケテ!!」
「みんな向こうでオネンネしてるよ。」
「ベ…べヒ…チャン…」
ミニしぃが掠れた声で叫ぶ。他のベビしぃ達もスプレーを吸い込んで、あちこちで倒れている。
「ほらほら、そんなこと叫んでる場合かな?」
モララーの言葉にベビしぃが上を見ると、ミキサーが揺れながらベビしぃの上に落ちてきそうである。
「ビェェェン!!ビェェェン!!ヂィヲダヂゲデヨォ!!」
助けが来ない事を悟ると、ベビしぃは大粒の涙を流しながら泣き叫んだ。
「今行くデチ!!」
スプレーの効果が切れたらしく、チビギコが走ってベビしぃを助ける為、走り出した。
「オトータン!!」
ベビしぃが涙声で叫ぶ。チビギコが鼠捕りをを手早く外す。
「さぁ、早く行くデチ!」
チビギコがベビしぃを抱き上げた。
「チィ…オトータンノナッコ…アタタカイデチュ…」
ベビしぃが安堵の笑みを漏らす。
「…けど、遅かったね…」
59
:
栄
:2007/05/12(土) 00:05:14 ID:???
ベビしぃが安堵の笑みを漏らした次の瞬間、ベビしぃの頭にミキサーが覆い被さった。
「ハギィィィィィィッ!!?」
「べ、ベビタァァァン!!」
「ミキサーキター( ゜∀ ゜)ー!!」
ベビしぃの千切れかけた小さな手がチビギコの身体をギュッと掴む。ミキサーからはベビしぃの肉や骨などが細切れになって飛び散っていく。チビギコの顔に何かが付着した。それは、ベビしぃの舌であった。
「……!!ヒギィィ!!離れろ!離れるデチ!!」
チビギコは身体を揺すってベビしぃを振り落とそうとしたがベビしぃの手にしっかりと掴まれているのでなかなか離れられない。
「ヒギャァァァァ!!助けてデチィィィ!!」
チビギコがその場で回りはじめた。その時でも、ミキサーから血が迸っている。そして激しく回っていると遂に、『ブチン』と音を立てて、ベビしぃの身体がチビギコから離れた。チビギコの身体にはベビしぃの両腕がビクンビクンと奇妙な虫の様に痙攣しながら付いている。
「イャァァァァ!!シィノベビチャンガァァァァ!!!」
ミニしぃがその場で叫ぶ。ミキサーはまるで貪欲な怪物の様に、ベビしぃの死体を刃の中に巻き込んでベビしぃのジュースを作っている。が、しばらくして、肉などが詰まってしまい、動かなくなってしまった。辺りの惨状は酷いものだった。台所のあちこちに、肉や内臓の切れ端、脳みその灰色のゼリーが飛び散り、天井にまで達していた。
「ヒグゥ…チビたんのベビたんが…。」
チビギコがベビしぃの死体を見ながら涙した。その時、チビギコの目の前に何かがポトンと落ちてきた。それは、『ベチャ』と音を立ててチビギコの足下に落ちた。
「……!ヒギ…!!」
チビギコがそれを見て息をのんだ。それはベビしぃの顔の一部分だった。顔は耳が千切れ、顎から下が無かった。左目があったところは、ただ真っ暗な穴が開いているだけで、右目はチビギコを恨めしそうに睨んでいる。
「……ヒクゥゥ…」
チビギコは恐怖のあまり、気絶してしまった。
「ドウシテシィタチヲイジメルノヨォ!!」
ミニしぃが倒れながらモララーを睨み付ける。
「虐めてないさ。これは駆除だよ。」
モララーがミニしぃを一瞥して喋る。
「シィタチガイッタイナニシタッテイウノ!?」
「何をしたって!?人ん家に不法侵入して、さらに冷蔵庫の食い物を勝手に食い散らかしていて何をしただって!?」
モララーが側で泣き叫んでいるベビギコを掴む。
「ミュギィ!ミュギィ!!」
「シイチャンタチハ2chノアイドルナノヨ!!ダカラナニヲシテモカワイイカラユルサレルノ!!」
ミニしぃが怒りで声を荒げる。
「テメエがアイドルならゴキブリは神様だよ。自意識過剰もたいがいにしやがれ!!」
モララーが声を荒げると同時にベビギコを荒々しくベビギコを投げつけた。鼠捕りに噛み付かれていた左腕は『ズルルッ』と骨だけが抜け、神経や筋肉の切れ端が付いているだけとなった。
「ミ゛ィ゛ィ゛ー!ミ゛ィ゛ィ゛ー!!」
ベビギコは自分に起こった事を理解しきれなくて、ただ激痛に泣き叫んでいる。
60
:
栄
:2007/05/12(土) 00:05:43 ID:???
ベビギコの悲痛な泣き声が辺りに響く。左腕の露出した骨がカタカタと音を立てている。
「お前はどうして殺ろうかな…」
「そんなことはさせないデチ!!」
ベビギコの絶叫で目が覚めたチビギコがモララーに飛びかかる。が、この捨て身の攻撃は呆気なく避けられてしまった。
「そんなものでこの漏れを倒せると思っているのか?つくづくおめでたい奴だな。」
モララーが側にあった麻袋をチビギコに被せる。
「ヒギィ!?や、止めるデチ!!」
モララーはチビギコの入った麻袋をサンドバックのスタンドに掛け、思いっきり殴った。
「ブギィィ!!?」
殴った箇所から血が滲み出る。
「そんなに強く殴ってないのに、やっぱり糞虫は脆いねぇ。」
モララーは隣の部屋から釘が全体に打たれたモララー専用虐殺棒を持ってきた。
「昔は漏れもこの棒持って青春してたなぁ…それじゃぁいっちょ殺りますか!」
そう言うとモララーは虐殺棒で麻袋をスイングした。唸りを上げる虐殺棒、麻袋から滲み出る血の量が多くなった。それに比例して叫び声も大きく、激しくなった。
「ヒギッ!!や、止め…ゴブゥ!!許ひギャブゥ!!」
「アヒャヒャヒャヒャヒャ!!やめらんねぇ!止まんねぇ!最高だぜぇ!!」
モララーのスイングが更に激化する。麻袋は完全に血に染まり、床にも血だまりができている。今度はチビギコの悲鳴は逆に小さくなっていった。
「ギッ!ウヂッ!ダッ!ズゲッ!!ヂブッ!デッ!!」
最早何を言っているのか分からないチビギコにモララーが容赦なく虐殺棒で殴打する。自分達の父親がなぶり殺されるのをベビしぃ達は震えて見てるしかなかった。
「アーヒャヒャヒャヒャヒャ…」
モララーが正気に戻ったのはそれから5分後だった。麻袋は血で滑っていて、ボタボタと音を立てて血が垂れている。大きな蓑虫のような麻袋はビクンビクンと激しく痙攣している。
「はー、はー、久しぶりにアヒャると流石に疲れるな。」
モララーが最後に力一杯殴る。すると、袋の下部が破れて中の物が溜まっていた血と共に落下した。それはチビギコではなかった。あちこちから複雑骨折した骨の破片が突き出ており、さながら針千本の様である。手足は本来、曲がるべきではない方向に折れ曲がっており、関節部分からは桃色の肉が血にまみれてはみでている。最も凄惨なのはそれの顔で殆ど原型を留めていない。あちらこちらが陥没して、口があった所には下顎がだらんと千切れかけていて、脳漿の一部が割れた後頭部からはみ出ている。それでもまだ生きているらしく、息の洩れる『ヒュー、ヒュー…』という音が口の辺りから聞こえる。
「…た…たひゅけて…」
潰れた目から涙を流し、チビギコが懇願する。
「ん〜?何だって?」
モララーがニヤニヤ笑いながら聞く。
「ご…ごめんなひゃ…い…もう…しましぇん…」
61
:
栄
:2007/05/12(土) 00:06:19 ID:???
「オナガイ!!モウヤメテ!!」
ミニしぃが必死に叫ぶ。
「モウヤメチェヨゥ!!」
ベビしぃ達も泣きながらモララーに頼む。
「やなこった!!」
モララーはチビギコの頭部に虐殺棒を打ち下ろした。
「…ごめんなひゃい…たひゅけ…ヘブゥッ!!…」
頭に虐殺棒がめり込む。チビギコの頭がそれと同時に身体の中にめり込んだ。チビギコの頭は自分の突き出た背骨に串刺しになった。
「…あがぁ…!あっ…!」
チビギコの目や口から多量の鮮血が噴き出し、モララーの顔に飛び散る。
「最後の一発!!」
モララーがチビギコの顔面めがけて、渾身の一撃を放つ。チビギコの眼球が飛び出し、顔面の皮膚は石榴の様に弾けた。チビギコの頭は背骨と共に千切れ、洗面台の壁に叩きつけられ、水風船みたいに破裂した。その威力は凄まじく、飛び散った灰色の脳漿がモララーの所まで飛んできた程である。チビギコの身体はニ、三度跳ねる様に大きく痙攣して、それきり二度と動かなくなった。
「イヤァァァァ!!ギコクゥゥゥン!!!」
ミニしぃが叫ぶと、他のベビしぃ達も騒ぎ出した。
「オトータン!オトータン!!ヘンジチテヨォ!ナッコチテヨゥ!!」
フサベビが泣きながら頭が無いチビギコの身体を揺すった。しかし、身体は動く事無く、首からただ血を垂れ流しているだけであった。モララーはフサベビの耳を掴み上げた。
「ヤーヨゥ!ハナチテヨゥ!!」
フサベビは激しく暴れているが、モララーは物ともせず、絨毯に擦りつけた。
「ヂィィィィ…ゴミガチュイチャウヨォ!!」
「お前自体がゴミじゃん。」
「チィハゴミヂャナイヨォ!!」
「フサゴミはよくゴミが取れるな。」
しばらくしてモララーはフサベビを掴んでる手を離した。フサベビのフサフサした体毛には、埃や塵が絡まり、汚れたモップみたいであった。
「チィノカワイイオケケガキタナクナッチャッタヨォ!!」
「これでゴミ虫に相応しい姿になったね(笑)」
モララーが冷やかす。
「カワイイチィヲゴミアチュカイシュルヤシハアポーンチマチュヨォ!!」
フサベビが怒って飛びかかる。その時、『パチッ』という微かな音がし、フサベビの身体に電気が走った。
「ヂッ!?」
フサベビは驚いて飛び跳ね、頭から落ちた。
「イヂャーヨゥ!!イヂャーヨゥ!クソモララーガイヂメルヨォ!!!」
「HAHAHA、帯電してやがる。」
フサベビが身体を動かす度に静電気が身体を流れる。その度に驚き跳ね回るフサベビは見ていて滑稽であった。
「ヂッ!ヒヂッ!コノバチバチ、ヤーヨゥ!!」
フサベビは跳ね回りながら壁の方へ寄っていく。そして壁に触れた瞬間、
「ハギェェェェッ!!?」
突然フサベビを耐え難い激痛が襲った。フサベビの毛は針の様に逆立ち、口から泡が噴き出す。初め、モララーにも何が起こったのかわからなかった。がフサベビの足元を見て、全てがわかった。フサベビの体毛がコンセントの中に入り込んでいたのだ。フサベビに強力な電流が流れ、フサベビを絶え間ない激痛が襲う。
「ハギェェェェッ!ハギッ!!ギィィィィッ!」
この世のものとは思えない叫び声にミニしぃ達は耳を押さえうずくまった。フサベビの身体が激しく痙攣している。が、コンセントから体毛が抜けることなかった。口から出ている泡が白色からだんだんと紅くなっていった。
62
:
栄
:2007/05/12(土) 00:06:54 ID:???
「ハギュゥゥゥゥ!!ヒビャァァァァァッ!!」
口から泡を飛ばしながら、フサベビは悶え苦しんでいる。『パチパチ』と電流の流れる音が激しくなっていく。そして遂に、『ヒュボッ!!』という音と共に、フサベビの身体は炎に包まれた。
「ヒギィィィィッ!!?アジィィィィ!!」
体毛が乾燥していた為、炎は一層激しく燃え盛った。フサベビはこの時、自分の体毛を呪った。
「イジィィィィ!!オカ…タン…タ…タチ…」
フサベビは炎に包まれた小さな腕をミニしぃの方に延ばした。が、ミニしぃは耳を押さえてうずくまっている。フサベビの目から涙がこぼれたが、すぐに熱で蒸発した。そして、そのつぶらな2つの目も次第に白濁し、遂には破裂した。
「オガ…ダン…フサフサ…イヤ…ヨゥ…」
そう言うとフサベビは前に倒れた。そして、二度と動く事はなかった。もうフサフサの体毛は無く、変わりにメラメラと燃える炎がフサベビの全身を包んでいる。
「…フサチャン…?」
ミニしぃが顔を上げ、燃えている我が子を見て呟く。
「…イ…イヤァァァァ!!フサチャァァァン!!!」
ミニしぃはその場に泣き崩れ、嗚咽を漏らした。
「オナガイ…オナガイシマス!!マターリノカミサマ!ミンナヲフッカツサセテクダサイ!!」
ミニしぃは必死に祈ったが、神はそれに応じなかった。
「HAHAHA、マターリの神様は汚いゴミなんか生き返させたくないみたいだね(笑)」
「ハニャーン!ゴミジャナイヨォ!!カワイイ2CHノアイドルダヨォ!」
「馬鹿は死ななきゃ治らないってか?」
モララーがミニしぃに虐殺棒を振り下ろそうとした時、モララーの腕にワッチィが飛びついた。
「オカータントベビチャンニハユビイッポンフレサセマチェン!!オカータン!!ハヤクニゲルデチュ!!!」
しかし、ミニしぃは動くことが出来なかった。
「ハニャーン!コシガヌケテウゴケナイヨォ!!」
「せっかくのチャンスを棒に振る気かい?」
そこで、ようやくモララーはミニしぃの腹部が膨らんでいるのに気が付いた。
「ほう、妊娠してるのか。」
モララーの顔がにやける。
モララーはワッチィの頭を掴み、引き剥がすと、ミニしぃに、
「なーんだ、妊娠してるのなら始めに言ってくれればいいじゃん。漏れも鬼じゃあ無い、ミニしぃちゃんの為に何か作ってあげるよ。」
とミニしぃの頭を撫でながら言った。
「フ、フン!ヨウヤクカワイイシィチャンノイダイサガワカッタミタイネ!!ジャアトットトツクッテキナサイヨ!!コノテイノウクソモララー!!」
ミニしぃが調子に乗って、モララーに罵声を浴びせる。
「じゃあ、ちょっと待っててね。すぐ作ってくるから。」
そう言うとモララーはワッチィを掴んで、隣の部屋に入っていった。
「フン!カワイイシィチャンハナニシタッテイイノヨ!!」
63
:
栄
:2007/05/12(土) 00:07:15 ID:???
ミニしぃはモララーに連れていかれたワッチィのことなど眼中になく、その場で耳障りな歌を歌い始めた。
「キョウモゲンキニシィシィシィ〜♪」
一方、隣の部屋ではモララーが手早く料理の準備をしていた。側にはワッチィがちょこんと座ってくだらないことを喚いている。
(…ったく、もの凄い音痴だな…)
心の中でそう思いつつ、にやけながら、包丁を研いでいる。
「モララーハチィタチニヒレフスノヨ!キョウカラモララーハチィタチノドレイデチュヨ!!」
「あー、はいはい。」
モララーが生返事をする。
「ナンデチュカ!ソノヘンジハ!!ワカッタラ『ワカリマチタ、セカイイチカワイクテカチコク(中略)ナワッチィサマ』トイイナチャイ!!」
「わかりました、世界一(中略)なワッチィ様。」
モララーは言い終わるのと同時に包丁を研ぐのを止めた。
「ソレデイイデチュ!!トコロデ、ナンデチィダケツレテコラレタノデチュカ?」
「それはねぇ…」
モララーがワッチィを抱き上げて小さい右手を摘んで答える。
「テメエをキモゴミの餌にする為だよ!!」
モララーはワッチィの右手を捻り切った。
「ワヂィィィィッ!!?」
突然、手の感覚が無くなると、ワッチィの右手があった所から熱い真っ赤な液体が迸った。
「ワヂッ、ワッヂィノオテテガァァァ!?」
ワッチィは激痛と恐怖でパニック状態に陥っている。モララーは暴れるワッチィの海苔の部分を掴んで、左手も千切り取りにかかった。
「すぐに千切り取るのは駄目です。ゆったりと千切り切る方が食材の脳に刺激を与え、より新鮮でマターリな味になります。」
モララーは『アブノーマル版アフォしぃでも分かる、レモナの虐殺クッキング』を音読しながら、ゆっくりとワッチィの左手を捻っていく。
「ヤ、ヤメテヨゥ!!チィガナニヲチタノヨォ!!」
ワッチィの叫び声を聞き流しながらモララーはゆっくりと左手を引っ張ってゆく。始めは伸びていた左手も伸びきってしまい、根元の皮膚が『ミチミチ』と音を立てて千切れだした。中から餅みたいな白身が見えている。
「ワ、ワカッタワ!!チィガワルカッタワ!!ダ、ダカラ、ヒッパラナイデヨォ!!!」
ワッチィが泣き叫ぶがモララーは決して力を緩めなかった。
「オ、オナガイシマス!オナガイシマス!!タチケテヨォ!!チ、チィヲタチケッ…ア゛ァ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ッ!!!?」
ワッチィの必死の懇願も虚しく、遂にワッチィの左手の肉が弾け、骨ごと左手が千切られた。両の切り口から血が勢いよく噴き出し、辺りを紅色に染める。
「え〜と…『次に、真っ赤に焼けた鉄棒を切り口から通し、醤油、砂糖、味醂で適当に作ったタレに漬けます』か…。」
音読をした途端、ワッチィは更に震え上がり、泣き喚いた。
「ヤーヨゥ!ヤーヨゥ!!ヂィハナッコガイイノォ!!ナッゴォォォォ!!!」
しかしモララーはそれらの要求をガン無視して、テキパキとテキストに書いてあることをこなしていく。ワッチィはその間、拷問の様な時間を過ごした。
「さぁ、ちょっぴり痛いからね〜(笑)」
やがて、耐熱手袋で真っ赤に焼けた鉄棒を持ってきて、モララーが猫なで声でワッチィに声をかける。放心していたワッチィは、恐怖のあまり、失禁してしまった。
「オ…オナガイデチュヨゥ…、ミノガチテクダチャイ…」
ワッチィは真っ赤に燃えている鉄棒を見て、糞尿を漏らしながら後退りする。
「可愛い可愛いベビちゃんの為だろ?」
「ィ、イヤァァァァ!!タチケテッ!!タチケテヨォォ!!!」
64
:
栄
:2007/05/12(土) 00:07:52 ID:???
ワッチィは自分の糞尿を掻き分け逃げようとしたが、すぐにバランスを崩し、倒れてしまった。起き上がろうとするが、両腕が無いため立ち上がることが出来ない。それでも這ってでもワッチィは逃げようとした。が、この地獄から逃げることは出来なかった。モララーが必死に逃げようとしているワッチィの右脚を踏みつける。『グキッ』という音と共に、折れた骨が踵の肉を突き破って飛び出てきた。
「ウヂィィィィィ!!?」
ワッチィの右脚の感覚がなくなった。そして、その代わりに熱い様な感覚がワッチィを襲った。
「ワッチィノ、ワッチィノアンヨガァァァアッ!!」
ワッチィはゴロゴロと右脚の残骸を押さえて転がった。ぐちゃぐちゃになった右脚の動脈からは心臓の鼓動に合わせて真っ赤な鮮血がリズミカルに噴き出している。モララーは血が噴き出している箇所に鉄棒を押し付けた。『ジュッ』と米と肉の焼ける音がし、辺りに香ばしい焼おにぎりの匂いが漂う。
「ジッ!?ッピギィィィィィッ!!!」
ワッチィはだらしなく口から涎を垂らして痙攣している。鉄棒にささくれ立った皮膚が張り付き、白煙を上げる。激しく出血していた所は、傷は塞がったが、その代わりに痛々しい水膨れが幾つも出来上がった。
「ヂィィィィ…、イヂャ…ヨゥ…コンナノ…マターリジャナイヨォ…」
ワッチィが大粒の涙を流しながら掠れ声で呟く。モララーはそんなものには耳を貸さず、鉄棒をワッチィの肛門に突っ込んだ。
「ヒッギィィィィィィッ!!?」
鉄棒はワッチィの腸や胃、そして呼吸器官を突き破って、口から飛び出した。ワッチィは文字通り、串刺しになったのである。
「アガァァァッ!アヂィーヨゥ!!!ナゴ、ナッゴォォォッ!!!!」
ワッチィはまだ生きていて、串刺しになりながらも必死にもがいている。が、貫通しているので、抜けることはなかった。熱さと痛みが同時にワッチィを襲う。ワッチィの肺が気圧の変化によって『ボフゥ』と音を立てて破裂した。
「ブプゥッ!!」
ワッチィが勢いよく吐血する。そして、口を大きく開け、必死に酸素を求めている。
「チ…チヒィィィィ…イキ…デキナヒヨォ…ッ!!?…ァァァアアアア…」
ワッチィの下腹部が徐々に膨らんでいった。腸内のメタンガスやその他の可燃性のガスに引火し始めたのである。そして、遂に下腹部はまるでエイリアンが出てきそうな程に膨らんでしまった。
「アァアア…モ、モララーヒャン…タシュ…ケ…ァ゛ア゛ァ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ッ!!!」
遂に下腹部が破裂した。中から飛び出てきたのは、エイリアンなどではなく、ズルズルになった内臓であった。下半身は、辛うじて筋と皮で繋がっている。途中で途切れた背骨からは、赤黒い骨髄が飛び出しており、鉄棒に触れて一気に焦げあがった。
「ハギュゥゥゥゥ!!チィノポンポンガァァ!!ダ、ダヂッ!!!ワヂョォォォォ!!」
ワッチィの頭は混乱状態になり、様々な単語と叫び声を連発し始めた。
「ヒッ!!ヒギィッ!!マダーリッ!!マダーリィィイッ!!ヒアァア゛ァ゛ァ゛ア゛ッ!!ア゛ニ゛ャァ゛ア゛ァ゛ッ!!ナッゴォォォ!!」
最早ワッチィは自分でも何を言っているのか分からなかった。
「…五月蝿いなぁ…」
モララーは壊れた悪趣味な玩具の様に暴れるワッチィを鉄棒ごと特製醤油ダレに漬け込んだ。
「ワヂィィィィッ!!ワッヂィィィィ!!ナッゴォォォ!!ナッブクブク…」
ワッチィのの全身がタレの中に沈む。タレが傷にしみるのだろうか、泡が異常に出てくる。が、息が尽きたのだろうか、しばらくして、泡が止まった。モララーがタレから鉄棒を取り出した。ワッチィは鉄棒の熱と醤油ダレて焼おにぎり状態になっていた。
「ワヂィィィィ…チミルヨゥ…オカ…タン…ナ…コ…」
「よし、いい具合に仕上がったからな!」
65
:
栄
:2007/05/12(土) 00:08:12 ID:???
モララーはまず、千切り取った手を皿に盛り付けて隣の部屋に持っていった。
「オソイジャナイノ!!ハヤクシナサイヨ!!!マッタク、コレダカラカトウシュゾクハ…」
隣の部屋ではミニしぃが喚き散らしていた。これから起こる悲劇を想像しながらモララーはニヤニヤしていた。
「まずはこれでもドゾー。」
モララーがミニしぃの前に皿を置く。置くや否や、ミニしぃは我が子の手にかぶりつく。
「アラ、オイシイジャナイ。クソモララーニシテハジョウデキネ。」
モララーが次の皿を持ってきた。その皿にはいい具合に焼けた肉が輪切りにされて乗っていた。ミニしぃは何の疑いもなくその肉にかぶりつく。
「ミュミュ〜」
美味しそうな匂いに誘われて、ベビギコが寄ってきた。
「コノウマーナオニクハナンノオニクナノ?」
ミニしぃがこてっちゃんに食らいつきながらモララーに尋ねる。
「直にわかるさ。」
モララーが不敵な笑みを浮かべて答える。
「さぁ、メインディッシュだよ。」
モララーは隣の部屋から被せ物をした皿を持ってきた。中の物が激しく暴れているためか、皿は音を立てる程揺れている。
「イヂャァァアァアアァヨゥ!!オガァダァァン!!オガァダァァン!!」
「ハニャ♪イキガイイワネ♪」
「そうなんだよ。活きが良すぎて調理するのが大変だったよ。」
「オイシソウダワ、ハヤクアケナサイ。」
「ミュィ〜♪」
ミニしぃとベビギコが催促する。そしてモララーは被せ物を取った。
「ハニャーン♪イタダキマ…。」
ミニしぃがその場で硬直した。視線は皿の上の物に注がれている。
「アニャァ…オカ…タン…」
それは我が子の生首であった。血の様に見えているのは、モララー特製醤油ダレである。
「イ、イヤァアァアアアァァアアッ!!?ワッチィチャァァァン!!」
「ミュミュ〜!!?」
ミニしぃとベビギコが叫ぶ。
「モララー特製焼き生首ワッチィの踊り食いだよ。(多分)美味いよ。」
モララーがニヤリと笑う。
「コノオニ!アクマ!!ギャクサツチュゥ!!!シィノベビチャンノカラダヲドコニヤッタノヨ!!」
「こいつの身体?身体ならお前の腹の中だよ(笑)」
そこでようやくミニしぃは理解した。理解した途端に吐き気がこみ上げてきた。
「ハニャ!?ジャァサッキノオニクサンハ…ウッ、ウゲェェェェ!!」
ミニしぃは胃の中の物を全て吐き出した。辺りは一気に酸っぱい胃酸の匂いに包まれた。
「オカ…タン…チィノカラダ…ヒドイヨ…」
生首が胃酸でずるずるに溶けた自分の身体を見て、絶望の涙を流す。
66
:
栄
:2007/05/12(土) 00:08:57 ID:???
「ハニャーン!!コンナノマターリジャナイヨォ!!」
中の物を吐き終わってから、ミニしぃが叫ぶ。
「でもしぃちゃんだってがっついてたじゃん。」
モララーの言葉に言葉を詰まらせるミニしぃ。
「…ソ、ソレハ…」
「ま、いいや。そろそろメインディッシュにしようか。」
モララーがベビギコを掴む。
「イヤ…ヨゥ…チニタク…ナヒヨゥ…」
ワッチィが涙目でミニしぃを見上げる。
「せっかく作ったんだから、もし残したりしたらこのキモベビを嬲り殺しにするからな。」
ミニしぃが泣きながらワッチィの生首を掴む。
「ゴメンネ、ゴメンネ…ワッチィチャン…」
ミニしぃがワッチィの頭にかぶりついた。
「ヂィヨォォォォッ!!?」
ワッチィが悲鳴を上げる。ワッチィの頬肉が伸び、『ブツン』と音を立て、毟り取られた。血が噴き出し、ミニしぃの顔面に飛び散る。血まみれの頬骨が露出して、照明に照らされて青白く光る。ミニしぃは頬肉をガムの様に噛み、吐きそうになりながらも飲み込んだ。次にミニしぃはワッチィの眉間に歯を立てた。
「オ、オカ…タン…ヤメ…ヤメチェ…ッア゛ア゛ァ゛ア゛ァ゛ア゛ァ゛ア゛!!」
ワッチィの目にミニしぃの歯が突き刺さり、半透明の液体と共に、血が流れていく。ミニしぃが勢いよく口を閉じた。それと同時に、ワッチィの顔の上半分がミニしぃの口の中に消えた。
「ハギャァ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ア゛ァ゛ッ!!」
ワッチィがまた叫ぶ。
「チ、チィノ、チィノオメメェェェ!!ナニモミエナイデチュヨゥ!!イタイヨゥ!!イ゛ダァ゛ァ゛ァ゛イ゛ヨ゛ォ゛ォ゛ォ゛ッ!!」
「ウゥ…、モウユルシテ…」
ミニしぃが涙声で訴える。
「踊り食いは嫌なのかい?全く、注文が多いなぁ。それじゃあ食べやすくしてあげるよ。」
そう言うとモララーは、泣き叫ぶワッチィの首を上から踏みつけた。
「ヤ、ヤメチェ…タチ…ケ…オカ…タン…」
モララーが体重を掛ける。するとワッチィの頭が紙で出来たはりぼての様に潰れていく。
「ユクーリ潰すからな。」
「オナガイ!!モウヤメテ!!」
ミニしぃの懇願も虚しく、ワッチィの頭は既に半分位潰れている。『ボキ…ボキ…』と頭蓋骨が折れていく音が響く。
「ワ…ヂィィィ…」
「オナガイ!!ナンデモシマスカラ!!」
ミニしぃが土下座して頼み込む。
「そうか、なら止めてやるよ。」
モララーが足を上げた。
「アリガトウゴザイマス!!ヨカッタ!!ベビチャン!!!」
ミニしぃがワッチィの頭に抱きつこうとしたその瞬間、
「な訳ねーじゃん。」
モララーがワッチィの頭を勢い良く踏み潰した。
「オ…オカ…ブヂュィッ!!?」
モララーの足元からワッチィの餅の様な残骸が飛び散った。ぐちゃぐちゃに潰れた頭から血まみれの焼きたらこがはみ出ている。モララーはこの残骸を集めてこねはじめた。やがて、ワッチィだった物は真っ赤な団子になった。
「ほら、お団子なら食べやすいだろ?」
モララーはこの汚物をミニしぃの口に捻り込んだ。
「イヤッ!!ヤメッ、ングゥッ!!ウ…ゲェェェ!!」
突然捻り込まれた我が子の血肉の味と激しい罪悪感がミニしぃの胃の内容物を全て吐き出させた。
67
:
栄
:2007/05/12(土) 00:09:52 ID:???
「何だよ、せっかく作ってやったのに、じゃあ、こいつは嬲り殺しケテーイだな。」
モララーはベビギコの抉られた左腕を掴み壁に叩きつけた。
「ミ゛ヂィ!!?」
左腕の骨が神経と共に身体から抜け、鮮血が噴き出す。
「ミギィィー!!ミギィィー!!」
血のラインを引きながらベビギコはもぞもぞと蠢く。
「嗚呼キモッ!!こんなゴミに生きる権利なんか無いね。」
「ベビチャンニナニスルノヨォ!!」
ミニしぃがベビギコを助けによたよたと走る。
「おっと、残念。」
モララーがミニしぃの顔にカビ取りを吹きかけた。ミニしぃの顔面を強烈な激痛が襲った。
「ハギャァアァアアァアアッ!!?」
あまりの痛みにミニしぃは顔を押さえた。
「アツイヨォ!!アツイヨォ!!シィノ、シィノオカオガァアァアアアァアッ!!!」
「よし、漏れを捕まえられたらこのキモゴミを返してやろう。」
「イヤァァァッ!!ナニモミエナイヨゥ!!!ベビチャン!ベビチャァァァン!!」
パニックに陥ったミニしぃの背後から『ゴキッ!!』という音が聴こえた。それに続いて、
「ミュギッ!!ミ゛ィィー!!」
と、我が子の叫び声。
「ベビチャン!ドコナノ!!」
ミニしぃは暗闇の中、右往左往している。
「ベビチャン!ワタシノベビチャン!!」
モララーは顔面を押さえ彷徨しているミニしぃを見て笑っている。手には右腕と左足があらぬ方向に向いているベビギコを掴んでいる。ベビギコは逃れようと必死に暴れているが、モララーが右腕を更に捻ると、呻いておとなしくなった。
「キモゴミこちら♪ベビ泣く方へ♪」
モララーが歌いながらベビギコの右足の関節を無理矢理前方に曲げた。
「ギュィー!ギュィー!!ギュ…ミ゛ギィ゛ィ゛ィ゛ィ゛!!」
『パキィ』と枝の折れる様な音がして、ベビギコの右足は変な方向に折れ曲がった。血まみれの大腿骨が折れて、肉を突き破って飛び出している。
「ハニャーン!モウヤメテェェェ!!」
ミニしぃがベビギコの叫び声を頼りにこちらに向かってくる。モララーはベビギコの折れ曲がった両脚を掴み、ミニしぃに叩きつけた。突然の衝撃にミニしぃは情けない声で吹っ飛んだ。
「シィィィィッ!!」
「ほらほら、早くしないと大切なベビチャンの骨が無くなっちゃうよ。」
モララーがあさっての方向を向いて我が子の名を叫んでるミニしぃを見ながらニヤついている。
「ハニャーン!!コンナノヤダヨゥ!シィハタダマターリシタイダケナノニー!!!」
その時、またミニしぃの背後から、『バキベキ』と骨の折れる音と、
「ミ゛ギィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ッ!!!!」
と、悶え苦しむ我が子の声。
「ベビチャン!!ベビチャン!!イッタイドコナノ!!?」
その時、少しずつ視力が回復していることをミニしぃは気付いた。そしてまだ痛む眼を酷使して、モララーの姿を捉えた。モララーはボロ雑巾の様なベビギコをロープで吊し上げていた。
「ミュ…ギッ…ギィィィ…」
ベビギコは涎を垂らしながらモゾモゾと折れた、未発達の手足を動かしている。
「ハニャァ!!シィチャンノベビチャンヲカエシテ!!」
ミニしぃが慌ててモララーに飛びかかる。
「じゃぁ、返してあげるよ。」
モララーがミニしぃの捨て身の攻撃をひょいとよける。ミニしぃは首にロープを食い込ませ悶え苦しんでいるベビギコに激突した。そしてその下には、ベビしぃを切り刻んだミキサーが口を開けている。
68
:
栄
:2007/05/12(土) 00:10:34 ID:???
「シィィィ!!」
ミニしぃは本能的に必死でベビギコの体を掴んだ。ミニしぃの重みでベビギコの首に食い込んでいるロープが更に締まる。
「ギュブププ…」
ベビギコの眼は大きく見開かれ、顔が真っ赤に染まっていく。ベビギコは必死にミニしぃを振り解こうと手足をばたつかせた。
「ミュギッ…!!…ギィィ…」
「イヤァァァァ!ヤメテェェエ!!」
ミニしぃの脳裏にバラバラの肉片になったベビしぃが浮かぶ。
「シィチャンハマダマダマターリシタイノ!アンタガオチナサイ!!」
ベビギコの体をよじ登るミニしぃ、苦しみから逃れようと体を捩るベビギコ、モララーはその光景をニヤニヤしながら見ている。すると突然、
「ヒクゥ!!」
「シィィィ!!?」
ベビギコの体が重みに耐えられず首と胴体に千切れた。背骨がズルリと胴体から抜け、ロープで吊されているのは、ベビギコの頭と真っ赤な背骨と、千切れた食道が少しだけだった。
「イヤァァァァ!!」
ミニしぃは必死に足をばたつかせてミキサーから逃れようとしたが、ミキサーはミニしぃの尾を只の肉片に変えた。
「アジィィィィッ!!?」
ミニしぃが激痛で飛び上がる。その拍子にベビギコの胴体がミキサーの刃に切り刻まれた。肉片や骨が辺りに飛び散る。自分の体が音を立てて切り刻まれているのを頭だけになったベビギコが何か言いたげに口をパクパクさせて見ていたが、やがて、口も動かなくなり、眼から一筋の血の涙を流して息絶えた。突然、『ギュガガガガ…』という音と共に、ミキサーは止まってしまった。おそらく、ベビしぃとベビギコの毛や筋が絡まってしまったのだろう。
「シィノ、シィノシッポガァァァァッ!!」
ミニしぃは飛び跳ねながら叫び声を上げている。
「うるせー!!たかが尻尾如きで泣き叫んでんじゃねーYO!!」
モララーが虐殺棒でミニしぃの腹部を強打した。
「ハグゥッ!!」
その拍子に勢い良くお腹にいたベビしぃが飛び出し、壁に激突して一瞬で汚い残骸となった。
「ウホッ、いい飛びっぷり。」
「シヒノヘヒチャンガハァァァ…」
口から涎をだらしなく垂らしながらミニしぃはよたよたと残骸となったベビしぃの方に寄った。
「あ〜あ、僅か一秒足らずの命だったね〜。」
モララーがペシャンコに潰れたベビしぃをひっぺがすと床に叩きつけた。最早ぼろ雑巾の様になったベビしぃは『ベチャッ』と湿った音を立てて床に張り付いた。壁にぶつかって平らになったベビしぃの眼窩から潰れた眼がはみ出している。
「そういや、しぃって一度に何匹もキモゴミを作るんだっけ?」
確かにミニしぃの腹部はまだ膨らんでいる。モララーはミニしぃの顔をニヤニヤしながら覗き込んだ。
69
:
栄
:2007/05/12(土) 00:11:21 ID:???
「イ…イヤ…オナガイダカラソレダケハ…」
ミニしぃはモララーが何を考えているのか察し、必死に懇願した。その時、気絶していたみけベビが目を覚ました。
「ンミィ…オカータン?ミンナハ?」
「ターゲット確認!!」
モララーはまだ状況を理解出来てないみけベビの方にミニしぃを向けた。
「ネ…ネェ…コンナコトヨリダッコシヨ…ホラ…マターリデハニャニャニン…」
「ウミィ!!オモチロチョウデチュ!チィモマゼテクダチャイヨォ!!」
みけベビがこちらにヨタヨタと歩み寄ってくる。
「発射!!」
かけ声と同時にモララーの虐殺棒がミニしぃの腹部にめり込む。
「ブフッ!!」
ミニしぃの目がこれ以上ない程開く。それと同時に勢い良くベビしぃが飛び出した。
「ピィィィィィィ……。」
産声を上げてベビしぃが物凄い勢いでみけベビの左手を吹き飛ばし、壁に叩きつけられた。
「ピィィィィィィ……ブヂィ!!」
壁に叩きつけられた途端にベビしぃは水風船の様に弾け飛んだ。
「アレ?ミィノオテテガナイヨ………?」
みけベビは何が起こったか理解出来ていないらしく、左手のあった所から血を噴き出しながら自分の左手を探し出した。が、それも長くは続かなかった。
「………ッミィィィィィ!!?ミィノ、ミィノオテテェェェェ!!」
漸く状況を理解したみけベビは激痛で血を噴き出しながらパニックに陥った。
「2発目…発射!!」
モララーは非情にも、必死に懇願しているミニしぃの腹部を虐殺棒で殴打した。
「フグゥッ!!」
ミニしぃの呻き声と共に、必死で生きる筈だったベビしぃがミニしぃに向かって特攻する。ベビしぃの弾丸は、みけベビの腹部を貫き、内臓の大部分を持っていった。
「ミ、ミィノポンポン…ヘンダヨォォ…。」
腹に砲弾で開けた様な大きな風穴を開け、口から真っ赤な泡を噴き出しながら、みけベビは呟く。
「オ…オ……オカ…」
何か言いたげに口をパクパクさせているみけベビの顔面に無情にもモララーが狙いを定める。
「モ、モウヤメテ!!シィノミケチャンガシンジャウヨォ!!!」
ミニしぃが大声で喚く。
「バーカ、どの道藻前も直ぐに逝くだろうが。」
モララーはミニしぃに冷酷な言葉を浴びせると、虐殺棒を振るった。
「カハァ!!」
掠れた声と共に、ベビしぃが発射される。
「チィィィィィィ……」
ベビしぃはみけベビの顔の右半分を吹き飛ばして、壁の一部となった。みけベビの頭はベビしぃが当たった瞬間に『バギャァ!!』と、骨が複雑骨折する激しい音と共に、360゜回転した。
「ギ…ギュギッ…ギュビビ…」
頭部の吹っ飛ばされた箇所から血と脳漿を激しく噴き出しながら、みけベビは白目で、壊れた機械の様な音を発している。複雑骨折した頸部からも、頸動脈を損傷したのか、血が噴水の様に噴き出している。
「HAHAHA、見てみろよ。こんなになってもまだ生きてやがる。」
モララーは嬉々としてミニしぃを抱え、瀕死のみけベビの目と鼻の先にミニしぃを押しつけた。ミニしぃは我が子の惨状を見て、失禁しながら気絶している。
「さぁ、そろそろこの死に損ないに止めを刺してやろうかな…。」
「ギュ…アガ…オガ…ダン…」
みけベビは焦点の定まらない左目から涙を流し、母親を呼んでいる。
「オガ…ダン…オガ…ダン…」
「キモイから死んでね。」
モララーは虐殺棒でミニしぃの腹部を連打した。内臓が潰れる感覚が、モララーの手に伝わってくる。そして、『グチュゥ』という陰湿な音と共に、中で潰れたベビしぃの残骸が散弾の様にみけベビの頭を貫いていく。
70
:
栄
:2007/05/12(土) 00:12:07 ID:???
「オガ…ダ…フブヂィィッ!!?」
ベビしぃの残骸に頭を貫かれ、みけベビは悲痛な叫び声を上げた。それにもかかわらず、モララーは虐殺棒でミニしぃの腹部を殴り続けた。モララーが虐殺棒で殴るのを止めた時には、ミニしぃの下腹部はスカトロレースに使われたみたいに、股が裂け、そこから腸やベビしぃの見るも無惨な残骸が飛び出していた。ミニしぃは激痛で気絶しているだけみたいで荒々しい息をしている。一方、みけベビは、まるで近距離で重火器でも打ち込まれたかの様に、無惨な姿を晒していた。頭のあった場所には、骨が突き出て血塗れの首と、半ば千切れかけている下顎しか残っていなかった。もう鮮やかな三色の毛はどこにもなく、それは、汚らしい赤黒い毛が付着した只の肉塊に成り下がっていた。その肉塊は何度かポンプの様に血の塊を噴き出しながら痙攣してから、二度と動く事は無かった。
「ふぃ〜、疲れた〜。」
モララーは虐殺棒を置いて、息を整えた。辺りに広がる血の匂いを感じながら自分のした事に満足感を感じた。
「…ピィピィ…」
不意にミニしぃの腹部からもぞもぞとベビしぃが這い出してきた。
「…何だ、まだいたのか。」
モララーは不敵な笑みを浮かべると、装置に繋がれたほ乳瓶を持ってきた。モララーはミルクを求めているベビしぃの口にほ乳瓶の先をねじ込むと、装置のスイッチをONにした。『ヴィーン…』と機械特有の音がすると、ほ乳瓶に沸騰したミルクが流れ込んできた。
「ヂィッ!!?ヂッ!ヂヂィ!!」
ベビしぃがミルクの余りの熱さに驚いてほ乳瓶から口を離そうとする。しかし、ほ乳瓶の先はベビしぃの口に吸い付いたままである。
「無駄だよ、ア〇ンアルファで接着してるから(笑)」
モララーが笑いながらベビしぃに話し掛ける。
「他のゴミはミルクも口にできずに死んじゃったんだ。だからみんなの分まで沢山ミルクを飲むんだよ(笑)」
モララーが猫なで声で囁く。やがて、悶えているベビしぃの鼻や肛門からミルクが噴き出し始めた。
「ブプッ!ボフッ!」
ベビしぃが呼吸をしようとしても、とめどなく流れ込んでくるミルクが邪魔をして、更に苦しくなった。やがて、ベビしぃの穴という穴からは、沸騰したミルクが湯気を出しながら流れ落ちてきた。
「……!………!!」
最早叫び声を上げることさえ出来なくなり、ベビしぃの体が風船の様に膨らんできた。ベビしぃの体がビクンビクンと痙攣する。そこで漸くミニしぃが目を覚ました。
「シィィィィ!?シィノベビチャンニナニシテンノヨォ!!」
「何ってキモゴミには勿体無い程高級なミルクを与えてやってますが何か?」
「シィノベビチャンガフウセンミタイニナッテルヨォ!!」
ミニしぃが泣き声を上げる。その時、『ベリベリ』と音がし、ベビしぃの口からほ乳瓶が外れた。しかし、ベビしぃの唇は肉ごとほ乳瓶に付着しており、ベビしぃの口は歯が剥き出しになっている。
「シィノベビチャンガァァァァ!!」
ミニしぃが泣きながらベビしぃの方に這いずっていく。
「よくそれで動けるねぇ、痛くないのかい?」
モララーのその台詞を聞いて初めてミニしぃは自分の体の状態に気付いた。
「ハギャァァァ!?シ、シィノポンポンガァァァァ!!?」
ミニしぃがパニックに陥っている間にモララーはパンパンに膨れ上がったベビしぃを放り投げて遊んでいる。
「いやぁ〜楽しいねぇ、しぃちゃんもどうだい?」
そう言うとモララーは、ベビしぃをミニしぃに放り投げた。
「シィィィィ!!ベビチャァァァァン!!」
71
:
栄
:2007/05/12(土) 00:12:30 ID:???
ミニしぃは痛みも忘れてベビしぃに向かって飛んだ。
「……!!…!!!」
ベビしぃも必死に母親に向かって手足をばたつかせている。ミニしぃがベビしぃを空中で掴んだ。ベビしぃは母親の腕の中で恐怖から解放されて涙した。しかし、本当の恐怖はこれからだった。
「はいはい、馬鹿みたいな人情劇はここまでね(笑)」
モララーが床に垂れていたミニしぃの腸を釘で床に打ち付けた。
「!!ヒギィィィィィッ!!?」
突然の激痛でミニしぃはベビしぃを落とした。ベビしぃはバウンドして床に落ちた。
「……!!…!」
ベビしぃは手足をばたつかせているが、膨れ上がった腹のせいで動く事は出来なかった。更に運命の成せる業か、ミニしぃの落下地点が丁度ベビしぃのいる場所だった。
「ハ、ハニャ!!ベビチャンノウエニオチチャウヨォ!!!」
ミニしぃは必死に落下の軌道を逸らそうとした。が、
「プジュビッ!!?」
ミニしぃがベビしぃの上に落ちた瞬間、『ボンッ!!』と小さな爆発音を響かせ、ベビしぃの小さな体が、ミルクや肉片を飛び散らせて破裂した。『ビチャッ』と湿った音と共に血とミルクが混ざったものが天井一帯にへばりついていく。辺りはむせかえる様な血とミルクの臭いが漂っている。
「シ、シ、シィノベビチャンガシンジャッタヨォォォ!!!」
ミニしぃが弾けたベビしぃの残骸の上で喚く。
「はいはい、良かったねぇ〜(笑)」
モララーがミニしぃの腸にもう一本釘を打ち付けた。
「ヒッギィィィィッ!!!」
激痛でミニしぃが悶え苦しむ。ミニしぃが激痛で転がっていたその時、
「…ピィ…ピィ…」
と蚊の鳴く様な声が聞こえた。よく見ると破裂したベビしぃが頭だけになっても這いずってきている。
「ベビチャン!!イキテタノネ!!」
ミニしぃが歓喜の声を上げる。
「うっわ〜頭だけで生きてるよ…キモッ…」
「ハニャーン、マターリノカミサマノオカゲネ!!」
ベビしぃの頭を抱きかかえてミニしぃは勝ち誇った様な顔でモララーを見ている。
「ピィ…ビ…ギィ…ギヂ…」
突然、ベビしぃの頭が震え始めた。それにつれて、段々と鳴き声も変化してきた。
「ド、ドウシタノ!?ベビチャン?」
「ウジィィ…キィィィ…」
モララーは悟った。そしてニヤリと笑った。
「ウビィィィィ!!!」
突然ベビしぃの頭が叫んだと思うと、ミニしぃの腹部の裂け目の中に入り込んだ。
「イヤァァァァァ!!チョ、ベビチャン!!ヤ、ヤメッ…ピギィィィィッ!!?」
ミニしぃは叫び声を上げたが、既に遅かった。腹部からの出血が更に酷くなった。中では何かを貪り喰う様な『グチ…ブチ…ブヂ…』といった、音がする。
「キタ―( ゜∀ ゜)―!!」
モララーが叫ぶ。モララーの予想は当たっていた。瀕死の重傷を負ったベビしぃは『びぃ』化していたのだった。
72
:
栄
:2007/05/12(土) 00:13:51 ID:???
これで最後です・・・。
「ハグゥ…オゲェェェ!!」
ミニしぃが血反吐を吐く。そして再びパニックに陥った。
「シ、シィィィ!!タ、タスケ…ジィヨォアァアア!!」
ミニしぃが大きく口を開けた。『ブチブチ』と上顎と下顎が裂ける音がする。
「ア…ア…アガァ……」
やがて完全に分離した上顎から上が体の中にゆっくりと沈んでいった。
「ヒギッ…へ…ヘヒチャ…ン…フグッ…」
肉片や脳漿がこれでもかと云わんばかりに飛び出してくる。それから暫くして、頭のあった部分からベビでぃが顔を出した。
「ウジュゥゥゥゥ…」
ベビでぃは剥き出しの口からミニしぃの眼球を吐き出すと、モララーに向かって飛びかかってきた。
「アジィィィィ!!」
ミニしぃの内臓をまとわりつかせて襲いかかってくるベビでぃを一瞥してモララーはフライパンを取った。
「ゴミが…ちゃんと分相応を弁えろやぁ!!」
『ゴッ!』と鈍い音がし、頭だけのベビでぃは脳漿を撒き散らしながら壁に叩きつけられた。
「ギ…ギヂュゥ…」
壁に紅と灰色のゼリーのラインを引きながら、今度こそ本当に絶命した。
「あ〜あ、楽しかったな。」
欠伸をしながらモララーは一人呟いた。
「さて…と…」
モララーは部屋の中を見た。あちこちに糞虫の死骸が転がっている。
「…ダスキソに頼むか…」
モララーは受話器を手に取り、電話を掛けた。
「あ、もしもし、雑巾虫1ダースお願いします…」
外はもう朝になっていた。
お目汚しすいませんでした・・・。感想・指摘などあればお願いします・・・。
74
:
魔
:2007/05/27(日) 01:09:19 ID:???
(関連作品
>>36
〜)
天と地の差の裏話
『弱き者は強き者に弄ばれる』
それは被虐者と加虐者の関係に限ったことではない。
加虐者でも、力を持たなければ殺されてしまう。
被虐者でも、力を持てば誰彼構わず虐殺できる。
全てを超越した強者だけが、この世界を支配する。
「んー、今日はイマイチなノーネ・・・」
緑色の身体をした浮浪者が、けだるそうに街を練り歩いていた。
身体的な特徴として、先の折れた耳と右目に走った大きな切り傷。
いつも不機嫌そうに尖らせている口元は、今の気分としっかりマッチしている。
男の名前はノーネと言った。
ノーネの日課はアフォしぃやちびギコの虐殺と、その肉の収穫。
治安の悪いこの街では小食は被虐者同然。
働けないのなら奴らの肉を口にすればいいだけのこと。
媚びらなければ狙われないし、質の良さなんて、贅沢を通り越して都市伝説モノだ。
「・・・?」
いつもは糞虫達で賑わう路地裏。
ここに来れば大概は捕獲することが出来るはずだが、
今日は街中と同じように違っていた。
そこには一人のAAが、俯せに倒れていた。
茶色の身体に、その長毛は泥と血糊で汚れ醜い姿を晒している。
足の方はもっと酷く、何時間歩けばこんなになるのかと思ってしまう程、皮がべろべろに剥がれていた。
(・・・一体なんなノーネ?)
ノーネはそのAAをまじまじと見詰める。
身体は大きめな所から、ちびフサとは違う可能性がある。
フサギコ種の、子供。
なんで子供がこんな姿で、こんな場所で行き倒れているのか。
保護するべきか、見てみぬふりをするか。
いろいろと考えていると、盛大に腹が鳴った。
ここ最近、アフォしぃをなかなか見掛けないことがあり、ノーネは満足に腹を膨らますことが出来ていない。
このAAを見逃し、他の場所に探しに行くという選択肢はあったのだが、
腹が鳴ったことで、切羽詰まった情況というのを思い出してしまう。
幸い、この辺りに他人の気配は全くないし、元より糞虫以外の肉にも興味があった。
ノーネは周囲を二、三度見回してから、足元のフサギコの首に手をのばした。
すると、
「ふがっ!?」
「うおっ!?」
急にフサギコが顔をあげ、跳びはねるように起き上がる。
ノーネはそれに驚き、勢いよく手を引っ込めた。
急な出来事に高鳴る心臓。
それと、殺めようとした事に気付いたことで、脂汗が一気に噴き出る。
対するフサギコはぼんやりとしていて、暫くしてからノーネを見遣った。
「・・・」
「な、何か・・・」
真剣な眼差しと、無言の圧力で更に焦る。
やはり一般AAを喰うことなど、間違っていたのだろうか。
恐らくバレてはいないのだが、どうしてか罪悪感が付き纏う。
聞かれてもないのに、心の中で必死に弁解。
無意味に神経を擦り減らすノーネに、それをじっくり見詰めるフサギコ。
奇妙な空気と沈黙は、そのフサギコの言葉と腹の音で壊された。
「腹減った」
「は?」
「オッサン、なんか食べられるもん持ってない?」
「・・・」
75
:
魔
:2007/05/27(日) 01:09:57 ID:???
初日
あれから、ノーネは肉を探しにいろいろな所をまわった。
自分と、ひょんなことからついてくるようになった毛玉の空腹を癒す為だ。
肉を探す少し前、フサギコと会ってすぐの話。
出会ってからの第一声が『腹減った』という、ぶっきらぼうな台詞。
やんちゃなのか、それとも命知らずなのか。
ノーネは、何故子供のお前がこんな所でうろうろしているのかとフサギコに問い質す。
返ってきた答えは、大方予測できたものだった。
「親とか、家とか、そういうの俺にはないから」
捨て子か何か。
ノーネ自身も浮浪者であったし、こういうのは珍しくない。
治安が悪い事と重なり、街は浮浪者の存在を黙認している。
糞虫という食糧があるし、放っておけばそいつらを苦情してくれる。
だが、子供であるこいつが街を徘徊するのには多少危ういものがある。
産まれたてであれば、ギコ種は糞虫と見分けがつきにくい。
今だって、いくらか成長したとはいえノーネに喰われそうにもなった。
まあ、これは唯のノーネ本人の過ちなのだが。
「親はいなくとも、名前ぐらいはあるノーネ?」
「ああ、俺はフーっていうんだ。よろしくな、オッサン」
自慢げに己の名前を告げ、更にこちらをオッサン呼ばわり。
こちらの名前を教える前に、既にオッサンと命名されてしまっている。
「俺はノーネだ」とはっきり言っても、聞いてくれなさそうな雰囲気だ。
「フーというより、愚者(フール)なノーネ・・・」
「なんだそりゃ? 知的に見せようとしても俺には通用しねーぞ」
「・・・」
76
:
魔
:2007/05/27(日) 01:11:09 ID:???
初日
夕方
日が完全に落ちきる前に、ノーネは獲物を見つけることができた。
道路のど真ん中をふらふらと、かつ大胆に歩くアフォしぃ。
ノーネは気配を殺し、音をたてずにしぃに近付く。
「〜♪」
あの妙な歌は唄っていないものの、その動きは奇怪である。
奴らにとってそれは華麗にダンスを踊っているとのことだが、
どう見ても幼児が手足をばたつかせているだけ、もしくはそれ以下。
だが、その奇怪なダンスのせいで、捕まえることが幾らか難しくなっていた。
というのも、予測できない移動パターンにてこずる事。
油断すれば見つかってしまい、そのまま逃げられる可能性がある。
と、
「ハニャッ?」
バレリーナ宜しく一本足で回転し、ノーネと偶然にも目が合う。
ノーネは小さく舌打ちをすると、狩りへと移行。
アフォしぃが情況を把握する前に、素早く屈み後ろへ回り込む。
元々高いノーネの身体能力と、アフォしぃを反応速度の悪さが重なり、楽に後ろを取れた。
そして、片腕でアフォしぃの首を掴み力いっぱい握る。
「ガッ!?・・・グ、グェ・・・」
アフォしぃはすぐに泡を吹き、白目を剥いて気絶した。
首の骨を折れば、簡単に死んでそのまま肉が手に入るのだが、それだけではどうにもつまらない。
ノーネは生きたままの人形をひょいと担ぎ、フーの元へ戻る。
「遅ぇよオッサン!」
路地裏に戻れば、早速フーから罵声が飛んできた。
やはり、このやんちゃ坊主と一緒に狩りをしなくて正解だった。
本人いわくベビしぃや生ゴミを漁ることは出来るらしいが、
自分より大きい獲物は狙ったことがないようだ。
更にはこの狩りのルールをぶっちぎりで無視している性格。
そんな奴を横に置いておけば、アフォしぃやちびギコに逃げられるに決まってる。
「お前、いろいろと煩いノーネ。そんな態度でよく生き延びてきたノーネ」
「それ、どういうことだよ」
諦めを混ぜた溜め息をつき、悪態をつくとあっさりと反応するフー。
どんなことにもすぐ突っ掛かることと、今までの言動から、やはりこれでは身体のでかい糞虫のようだ。
接するAAの評価にもよるが、運が悪ければ虐殺厨に殺されていたかもしれない。
「なんでもないノーネ」
「んだよ、全く・・・ほら、早く肉くれよ!」
77
:
魔
:2007/05/27(日) 01:11:59 ID:???
「じゃあ、ご希望に供えて始めるノーネ」
ノーネは担いでいたしぃを下ろし、壁にもたれ掛かせる。
胸がわずかに、ゆっくりと上下動していたから、まだ生きていると確認できた。
そして、しぃの左側にまわると、腿と脛を掴み左右に一気に引っ張る。
「シギィィィィィィィ!!!?」
ぶちぶちと嫌な音に重なるのは、アフォしぃの甲高い悲鳴。
膝から先を無理矢理に契ったものだから、その痛みは気絶という効果の薄い麻酔から充分に目を覚ます程の威力。
寧ろ、覚ます事を通り越して狂乱させる程の方が正しいかもしれない。
「シィノ、シィノアンヨガァァァァァァ!!!」
「お前もお前で煩いノーネ」
「ギャブっ!?」
叫び、のたうちまわるしぃを俯せに押さえ付け、上に乗る。
ノーネは続けて右足を掴み、今度は付け根から腿を契る。
余分な肉がある個所のせいか、切り離すことに多少苦労した。
ぐりぐりと捩ったり、左右に振ったりとなかなか上手くいかない。
しぃは取れそうな足の動きに併せるように唯々悲鳴を上げるばかり。
それを見ていたフーは、しぃの叫び声が不快だというように耳を塞ぎしかめっつらをしていた。
「なぁ、なんで生きたまま持ってきたんだよ」
「新鮮さを考えるとこれが1番なノーネ。お前も見てないで手伝うノーネ」
「手伝うって?」
「このほっそい腕位は、フーでも契れるノーネ」
「シィィィィィィ!!! ヤメテェェェェェ!!!」
後ろ向きに馬乗りになっているノーネに促され、喧しいしぃを無視して手を掴む。
フーは、その生き方から今まで虐待をしたことがなかった。
公園などで子供や大人が揃ってこいつらに傷を負わせたりする事は見たことがあるのだが、
いつも自分が捕まえるのはベビばかりで、もいだりする部位といえば首暮らすしかない。
しかも一口二口で終わる大きさでもあり、あまり叫びもしないし遊ぼうにも微妙といった所。
初めての虐待。
最初は抵抗があったものの、しぃの涙でくしゃくしゃになった顔を見ると、どこかワクワクしてきた。
しぃの肩に手を添え、引っ張る為に力を込めると悲鳴のボリュームが上がる。
フーはそれを聞いたことで好奇心が興奮へと昇華。
目を光らせ、一気に腕をもいだ。
「ふがっ!」
「シギャアアアァァァァァ!!!」
気合いを入れた一発。
同時に泣き叫ぶアフォしぃ。
それは些細なことではあったが、フーは達成感で胸がいっぱいになり、満面の笑みを浮かべる。
「なんだこれ・・・妙に愉しいんだけど・・・」
「今時そういう反応する奴、珍しいノーネ。気に入ったなら反対側も、それでも足りないなら耳でもやればいいノーネ」
78
:
魔
:2007/05/27(日) 01:13:41 ID:???
「ハ、ハニャア・・・」
「ちゃんと契ったノーネ?」
「おうよ」
四肢をもぎ取った二人は、次の行動に出た。
桃色の毛に包まれた脚の皮を、バナナのように剥いでいく。
しぃの皮はいくらか頑丈であったため、べりべりと気持ち良く剥ぐことができた。
それを見ていたしぃは、自分の手足がぼろぼろにされていく事に絶望し、口をぱくぱくとさせている。
叫び疲れた上、ノーネの手早い動作に出会った時から思考がついていけず、もはやアヒャる寸前だ。
「すげぇ。ベビやちびの肉よりずっと重いや」
フーは皮を剥ぎ終えてから、その血で肉が嫌らしく光るしぃの腕を見つめる。
先程の虐待による興奮の目とは違い、ただ純粋にその肉に驚いていた。
「喰ってみるノーネ。生臭いけど、我慢すれば美味なノーネ」
気が付けば、既にノーネは食事に入っていた。
フーはノーネの言葉を聞き、ひと呼吸置いてから大きく口を開け、肉に噛み付いた。
ぐにぐにと咀嚼すると、まず先に血の臭い匂いが鼻をつく。
いろんな生肉を食べてきたので、この位問題はない。
ある程度血の匂いが消えると、しぃの肉の甘みが少しずつ現れてくる。
思ったより硬くもないし、量もある。
口の中のものを飲み込んで、フーはこう叫んだ
「うめぇ!」
「それはよかったノーネ」
美味とわかった途端、貪るように噛り付くフー。
ノーネはそれを見てほんの少しだけ笑った。
「シィノ、シィノオテテ・・・シィノアンヨ・・・カエシテ・・・」
ほのぼのとしたやりとりの横で、ぼそぼそと嘆く芋虫。
自分の手足が見るも無惨な姿にされ、食べられていく。
溢れる涙で視界がぼやけ、緑と茶色の悪魔が笑っているように見える。
何の罪もないのに、私はお前達に何もしていないというのに。
どうして、私が。
「ドウシテ・・・ドウシテ、コンナコトヲ スルノ・・・」
「俺達が生きる為に決まっているノーネ。それに・・・」
しぃへの返答と同時に、向き直り耳の方へと手を持っていくノーネ。
それを摘み、力を込めてぐいと引っ張る。
すると、複数の繊維の切れる音がしてしぃの耳が頭から離れた。
少量の血液が辺りに散らばる。
「シィィィィィィィ!!」
四肢のない現実を信じたくないと、虚ろだった意識が一気に覚醒する。
脳天を杭で穿たれたような鋭い痛みにしぃは悶え、腹と首だけでその場を転がった。
ノーネはそんなしぃを見て、摘んだ耳を自分の口の中にほうり込み、こう言った。
「お前の声と泣き顔は『おかず』なノーネ。簡単には殺さないノーネ」
79
:
魔
:2007/05/27(日) 01:14:19 ID:???
「シ、シィィ・・・アゥゥ」
痛みと恐ろしさで言葉が出てこない。
彼らから見た私は餌。それだと、私から見た彼らは『人喰い』。
自分と同じ体格のAA達に食べられていく身体。
嘆きや慟哭は彼らの心を潤し、惨めな私を嘲笑う。
舌を噛み切って死のうにも、顎に力が入らない。
更にそれがバレとすると、彼らは私の歯をむしり取るだろう。
そして、達磨になった身体でも、まだ左腿が残っている。
恐らく意図的に残したのだろう。ここに釘を無数に打ち込むとか、少しずつ削いでいくとか。
もういい。自分の身に何が起きるかなんて、考えたくない。
怖い。怖い。助けて。助けて。誰か。誰
「ハギャァァァァアアアアアア!!?」
またもや思考が停止。
今度は頭蓋骨を貫いたかのような激痛。
というよりも、右目にとてつもなく大きな異物が入り込んだ感覚の方が正しい。
あまりの痛さに目を見開き、肺の空気を全て吐き出す勢いで叫ぶ。
ぐちゅ、と湿った音がして、異物は目と共にしぃの頭蓋を離れた。
「おぉ、やっぱ綺麗だなこれ」
しぃの目をえぐったのはフーだった。
フーは虐待で醜く歪んだしぃの顔の、ぼろぼろと流れる涙のその先にあるもの。
エメラルド色に輝くその目に、興味を示していた。
無理矢理に取り出したそれは、血と神経でどろどろではあったが、
自分の顔が映り込む程透き通った鮮やかな緑に、フーは魅入っていた。
「しぃは肉以外はあまり美味しくないノーネ。それに達磨から目を取ったらいい声が聞けなくなるノーネ」
と、眼球を手の平で転がしているフーにノーネが忠告をする。
ノーネは身体の機能を崩し、哀れな被虐者を観察するというやり方には興味がないらしく、
自分の身体が壊されていく所を見せ、絶望させる方が好みだとか。
達磨状態が拘束具として、目潰しはアイマスク。
それらだけで被虐者の嘆き、叫び、喚きを聴くのには少し無理がある。
「わかったよ。んじゃこれだけにしとく」
不満げに言葉を返し、眼球をかじる。
固い歯ごたえと、ゼリーのようなものが舌に触れ、しょっぱい匂いが口の中を支配した。
「・・・まずっ」
80
:
魔
:2007/05/27(日) 01:15:36 ID:???
二日目
朝
厚い雲が街を覆い、日の光はしっかりと地に届かず、薄暗い夜明けとなった。
そんなどんよりとした灰色の空の街を、すっきりとした面持ちで散策するフー。
歩道を意気揚々と歩く彼の近くに、ノーネの姿はない。
会って間もないというのに、どうやらフー一人で次の獲物を捜すことになったようだ。
話は昨日の夜まで遡る。
「ふぅ、ごっそさん」
二人は肉を食べ終え、それぞれだらけていた。
おかずであるしぃは、骨となった四肢を元の場所にあったかのように突き刺しておいた。
アヒャ化直前から我に返す、というパターンを何度もしてしまったので、流石にしぃはショック死してしまったようだ。
少し勿体ないかもしれないが、それなりにいい声が聞けてノーネは満足。
初めて虐待に参加したフーにも充分な刺激となった。
「満足したノーネ? したのなら俺は消えるノーネ」
「待った!」
立ち去ろうとしたノーネを、声だけで引き留める。
元々でかい声に拍車が掛かったのもあり、ノーネは肩を跳ねさせて立ち止まった。
「煩いノーネ。お前の言う通り食べ物持ってきてやったのに、まだ何か欲しいノーネ?」
「その逆。助けてくれた恩を返したいんだよ」
フーが言うには、しぃの肉の美味さと虐待の愉しさを教えてもらった代わりとして、
ちびギコやベビギコの味を知ってもらおうというものだった。
そして、持ち前の明るさと強引さでノーネを丸め込み、ちびギコを捕ってくることの許可が下りた。
虐待を知っての狩りは、言わずもがな今回が初めて。
昨日感じた興奮をまた味わいたいと、想像するだけで心臓が高鳴る。
いつも暴言を吐かれるのがうざったいからと、毎回獲物の息の根はすぐに止めていた。
だが、それは過ちだったのだ。
見る角度を、やり方をほんの少し変えるだけであんなに愉しいものになるなんて。
フーの脳裏に醜く歪んだちびギコの顔が浮かび、思わず笑みが零れる。
「ああ、早く遊びてぇーっ」
公園。
フーがちびギコ等を狩る時に、公園はよく訪れることがあった。
生きることに対しての意識が薄い奴らは、たとえ天敵の集まりやすい場所でも娯楽を求めにやってくる。
とりあえずうろうろしていると、まず砂場に二匹。
ベビギコと、その兄と思われるちびギコが砂山を作っていた。
他の子供達の影はなく、無理矢理奪って遊んだわけではなさそうだ。
糞尿を撒き散らしてもないし、フーはそいつらを後回しにすることにした。
次に見つけたのは、動物をモチーフにした小さいトンネルの中のちびしぃとちびフサ。
コンクリでできた薄暗く狭いそんな場所でくんずほぐれつ、一体何をしているのかと問いたくなる。
どうやらこちらに気付いてないようで、フーはそいつらを狙うことに決めた。
81
:
魔
:2007/05/27(日) 01:16:33 ID:???
「よ、そこで何してんだ?」
淵から覗き込むようにし、挨拶。
ここでまともな返事が来ればいいのだが、やはり糞虫は糞虫。
「なんデチか? ボクは今忙しいんデチ。どっかいけデチ」
目を合わせることは疎か、こちらに顔すら向けない。
二匹はフーを挑発しているのか、或いは全く関心を示していないのか。
一心不乱に身体をすりあわせ、息遣いが荒い糞虫。
フーはそこで二匹が何をやっているのか理解し、次の行動に出た。
「ほうほう。朝っぱらからお盛んなことで」
ちびフサの首根っこを掴み、ちびしぃから引きはがすように遊具の外に出す。
すると、二匹の接合部から何かが糸を引き、ぷつりと切れると地に落ちて消えた。
「なにするんデチ!? 邪魔するなデチ!!」
手足をばたつかせ、必死に抵抗をするちびフサ。
身体の大きさに差がありすぎる為、フーから見れば滑稽な動きをしているだけ。
喚くちびフサの身体をよく観察すると、やはりといった所、股間の部分が汚くテカっていた。
糸が繋がっていた所にいる者、ちびしぃはどこかぐったりとしている。
どうやらヤりすぎで疲労しているようだ。
「うっへ、お前きったねーな」
「うるさい! お前だって泥だらけの毛玉じゃないデチか!!」
「毛玉に毛玉って言われたくないな。鏡見たことないの?」
「ボクはお前と違ってサラサラで清潔なんデチ。オマエこそ、水溜まりに映った自分でも見ておくといいデチ」
嫌らしい言い回しをするちびフサ。
確かにフーは浮浪者でもあり、昨日の食事でついた血糊も完全に落としてはいなかった。
だが、生きているだけでゴミ扱いされている奴に言われたくはない。
生意気を言うちびフサに怒りを覚えると共に、フーは一人でやる初めての虐待のメニューを思い付いた。
「へぇ・・・。だったら、その自慢の毛、俺にくれよ」
「ハァ? 誰がそん・・・ぶギャッ!?」
首根っこを掴んだまま、地面にたたき付ける。
顔面を思いっきり打ったちびフサは、急なことに驚き変な声をあげた。
「痛いデチ!! ふざけるなデチこの虐殺厨!!」
涙目になり鼻を赤くしながらも、尚ばたつき抵抗する。
ちびフサの手足は元気に土を叩き、その自慢の毛を自ら汚していく。
「暴れんなって、すぐに終わるから・・・よっ!」
フーは押さえ付けている手に力を入れ、空いている手で背中の毛を握る。
結構な量を握った所で、景気よくむしり取った。
「ヒギャアアアァァァァ!!!」
毛が抜ける爽快な音にちびフサの叫び声が重なる。
皮膚のことを全く心配しないでやったため、抜けた個所からぷつぷつと血が出てきた。
傷として見たらたいしたことないのだが、毛を抜く事自体が身体に大きな負担となっている。
82
:
魔
:2007/05/27(日) 01:17:07 ID:???
長毛な被虐者に最も有効で、かつありきたりな虐待。
余程の事がない限りは死なないし、自慢であるフサフサの毛がなくなることは、大切な物を壊されるのと同じである。
「まだ足りないからよ、もっと抜かないと・・・なっ!」
「痛いぃっ!! やめ、やめてぇッ!! やめアアアァァぁぁぁぁ!!」
背中の毛は見てわかるように減っていき、小さな赤い斑点だらけの皮膚が露になった。
一つ一つの毛根全てに針を刺されているような痛みに、ちびフサはただ叫ぶばかり。
目玉が転がり落ちそうな程見開いた眼からは、ぼろぼろと涙が溢れていた。
背中は前述の通り。腹は土でどろどろ。顔は涙と涎でぐしゃぐしゃである。
「ほら! ほら! ほら! ほら! ほら!!」
それとは裏腹に、毛を毟る度にエスカレートするフー。
血走った目と回を重ねる毎に吊り上がる口元が、どこか狂ってきているのではないかと見る者を心配させる。
しかし、その惨状を目の当たりにしているのはちびフサ本人のみ。
砂場のちびギコはどうしてか気付かないし、ちびしぃは全身で快楽の余韻を堪能していた。
既にフーを止める者などそこにはおらず、ついには
「ぃぎゃああああああぁぁぁぁぁァァァァ!!!」
勢い余ったフーの手はちびフサの皮を掴み、あろうことかそれごと毛を毟ってしまった。
唯ならぬ痛みにちびフサは聞く者すら発狂してしまいそうな程の声をあげる。
背中なので自分からは見えないが、きっとそれは凄まじい状態なのだろう。
背骨まで襲ってくる激痛に、正気を失いそうになりながらもちびフサはそう思った。
「さて、こんなもんかな・・・って俺より汚くなってんじゃねーか」
「あ、ああァ・・・痛いデチ、痛い、痛・・・」
汚物まみれの雑巾を扱うように、指でつまんで持ち上げる。
暴言を吐きまくっていた威勢の良い口からは鳴咽と嘆きばかり。
自慢の美しい毛はどこにも見当たらず、ちびフサが身に纏うのは血と泥と涎だけだった。
最も酷い有様なのはその背中。
赤黒い肉が露となり、脚の方には血が滴っている。
実は皮を剥いだ時、その威力が利いて尻の皮や尻尾までも被害にあっているのだが、それを行ったフーすら気付いていないようだ。
「流石にここまで汚いと食えないから、お前は帰してやるよ」
「え」
ちびフサの最期の言葉は何ともあっけないものだった。
「帰してやる」と告げた直後、おもいっきり振りかぶりちびしぃ目掛け投げ飛ばす。
語尾は空を切る音に掻き消され、断末魔は骨が砕ける音と肉が弾ける音に重なる。
恐らくちびしぃは状況を理解することは疎か、ヤった後の気持ち良さを死後の世界に持ち込めたかもしれない。
そう言いたくなる程遊具の中は凄まじく、沢山の生卵を投げ付けたかのようにぐちゃぐちゃである。
フーは暫くその惨状を眺めた後、砂場へと移動する。
鎮まらない興奮を必死で抑え、ニヤついた顔のままちびギコ達の方へ。
そして、二匹が頑張って作った砂山を踏み潰しこう言い放った。
「なあ、今から俺と楽しいことしようぜ!」
その後、フーは糞虫を素手で挽き肉にするまで暴れてしまう。
当初の目的などすっかり忘れてしまい、生きたちびギコを持ち帰らずに帰路につく。
そんなフーにノーネは鉄拳制裁を打ち噛ましたのは言うまでもない。
83
:
魔
:2007/05/27(日) 01:18:57 ID:???
フーとノーネが出会って数日が経った。
二人は毎日交代制で肉を捕ってきたり、時には一緒に虐待虐殺をしたりと、それなりに充実した生活を送っていた。
互いの過去には触れなくても、すっかり打ち解けているし不満はない。
このままずっと一緒に居られたらな、と柄にもないことを思うノーネ。
本人は満足しているのかどうかわからないが、いつも楽しそうにしているフー。
二人の関係は何時まで続くのか。
それを知る者は、その関係を壊す者だけだった。
某日
「じゃあ、行ってくるわ」
「期待はしないノーネ」
今日はフーが当番の日である。
最近は道具を使うことにも凝っているフーは、どこからか拾ってきた紐を持って狩りに出た。
刃物や鈍器、その他の小道具を使った虐殺を街で見掛け、それらに酷く興味を示していたのだ。
フーは自分にも出来る道具を使用した虐待を考え、辿り着いたのが紐だった。
四肢を壊さずとも相手の自由を奪えるし、首に巻けば逃げられる心配もない。
フーは新しい試みを早く実践したくてしょうがない状態だ。
獲物を捜す脚はいつもより速く、見つける為の目はより鋭い。
が、やはり本人の持ち味である笑顔は忘れていなかった。
空き地。
人の集まりやすい公園では、あまり派手なことはしない方がいいと考え、少し遠出してそこを選んだ。
鬼ごっこや奇妙な踊りをしたりと、遊具を使わずとも楽しむ奴らはいる。
(糞虫にバレねーように・・・)
フーは空き地に一番近い電柱に身を隠し、様子を伺うように覗き見る。
その手には、先を輪にした赤い紐が束ねて握られていた。
84
:
魔
:2007/05/27(日) 01:19:38 ID:???
空き地にはおにーにと、ちびギコの兄弟がそれぞれ遊んでいた。
おにーにはあの変な踊りを布教しようと、ちびギコにレクチャーしている所。
リズムのない、くねくねとしたその動きはアフォしぃのそれとは違う不快感を見るものに与える。
「その調子ワチョ。ちびタンは飲み込みが早くて素晴らしいワチョ!」
「ありがとうデチ! これでちびタンも人気者デチね!」
そんなやりとりをしていると、ちびギコの首に赤い紐がぱさりと落ちてきた。
「ん?なんデ・・・ぐぅえ!?」
ちびギコはそれが何かを確認する前に、その紐に身体を引っ張られる。
勢いが強すぎるおかげで、首が絞まり妙な声が漏れた。
「成功っ!」
ちびギコを捕まえた者、フーは事が上手くいったことに歓喜する。
余った紐を手繰り寄せ、獲物を無理矢理に足元へと運ぶ。
体重と力が重なり首が絞まっていくちびギコは、声は出なくとも手足をばたつかせて苦しみを身体で表現していた。
「ちびタン!?」
「ミュー!」
少し遅れて仲間が反応し、ちびギコの方へと駆け寄る。
そのすぐ側に、自分達の天敵である虐殺厨がいるというのに。
「さぁ、皆で一緒に踊ろうか!」
と、フーが気合いを入れてちびギコのついた紐を頭上で振り回し始める。
轟々と鈍く風を切る音がして、それは速度を増していく。
「な、何をするワチガふぁ!!?」
ある程度の速さを乗せた所で、おにーにの顔面へと投擲。
頭部が脆いおにーに種は、ちびギコがぶつかったことであっさりと砕けてしまった。
米塗れになったちびギコは、仲間の命を哀れむより酸素を取り込む事に必死だ。
声はなくとも、その苦痛に歪んだ表情は何かそそるものがある。
ちびギコは首の紐を緩め、何度か噎せた後フーの方を睨む。
「エぅ・・・な、ナんデ・・・ッ!?」
息を整え、抗議しようとした矢先のことだった。
再度身体が宙を舞い、視界が矢のように吹き飛んでいく。
やはり首に巻き付いた紐は絞まり、声もまたでなくなってしまった。
「うっひょー! こいつはすげぇや!」
フーは紐を扱った虐殺が気に入ったらしく、何時にも増して笑顔である。
おにーにの砕け方やその時の感触が、直接手でやるものより全然違うことがフーを興奮させていた。
「必殺! ちびギコハンマー! なんつって」
一心不乱に振り回し、ちびギコを地面にたたき付けたり引きずり回したりと、色々とせわしない。
脳内麻薬もたっぷり分泌し、ある意味で盲目と違わない状態なものだから、
「ミュー! ミュー! ミュギャヒッ!?」
ベビギコを巻き込み殺したことに気が付かなかった。
おにーにの頭程ではないが、その脆さにはいつも驚かされるものだ。
内部から爆発させたかのように、ベビギコは自分の中身を惜しみなく辺りにばらまく。
唯一形が残ったのは直撃を免れた下半身のみだった。
85
:
魔
:2007/05/27(日) 01:20:02 ID:???
フーは事に満足し、一旦腕を動かすことを止める。
それに合わせるように、ちびギコは地に乱暴に落とされた。
「っ!・・・げぇぇっ! ぐっふ!・・・」
子供のものとは思えない濁った咳をし、やはり必死に首の紐を緩めようとする。
が、それはとあることのせいでなかなか上手くいっていないようだ。
「ん?」
ちびギコの挙動がおかしいと、フーは近付いて覗き込む。
そこには肉と骨が露になり、血と土でどろどろになっているちびギコの腕があった。
恐らく、地面にたたき付けられる毎に受け身を取るように手を突き出して致命傷を防いでいたようだ。
理解不能なことが連続で起こり、ちびギコは仲間や状態把握より自分の命の保守を選んだ模様。
フーのやり方はあまりにも乱暴過ぎたし、こうなることは当然の結果か。
「なんだ、苦しいのか。だったら手伝ってやるよ」
と、フーはちびギコの首に手を掛け、紐の両端を握り強く引っ張る。
帛の擦れる音がして、紐は指三本程入る位まで緩くなった。
「っ・・・あ、あンタ、なニすんでチ・・・」
もう腕とは言えない腕をぷらぷらとさせながら、元気なくフーに抗議する。
恐怖と怒りと混乱が混じったその表情は、滑稽なものでもありほんの少しだけ罪悪感を覚える。
しかし、今フーが行っているのは虐待。狙ってやっていることだし、寧ろそれは快感に昇華していく。
「まあまあ、落ち着けって。ていうかその腕、もう使えないだろ?」
「そん、そんなの、おまえのせい・・・」
「俺が『いたいのいたいの飛んでいけ』してやるから安心しろよ」
「ちょ、何・・・っ痛いッ! 痛い痛い痛いぃぃ!!」
そう言うと、フーはおもむろにちびギコの腕をしっかりと握る。
痛覚神経はまだ機能していたし、握られた事で折れた骨がそれらを刺激していく。
フーは喚くちびギコを無視して、力を込めて手を素早く引いた。
すると、鈍く湿った不快な音をたてて、ボロボロの腕は見事にすっぽ抜ける。
「ぎゃあぁぁぁああぃぃぃぃあああぁ!!!」
白目を剥き、火が点いたかのように絶叫。
これだけ痛め付けられていても、叫ぶことだけは忘れない。
なんとも忙しい生き物である。
「・・・ありゃ?」
ちびギコは腕があった所からそれなりの量の血をばらまいた後、俯せに倒れ込んだ。
失神したのか、体力がなくなり気絶したのか。
どちらにせよこのままでは虐待を続けられない。
「んだよ、面白くねー・・・まいっか、戻って他の獲物捜そうかな」
フーは溜め息を軽くつくと、気を失ったちびギコを引きずり空き地を後にする。
やはり紐のせいで首が絞まるのだが、今回は本人は完全に何もできずにいた。
シュレディンガーの猫宜しく、ちびギコがいつ死んだのかは誰にもわからなかった。
86
:
魔
:2007/05/27(日) 01:21:17 ID:???
※
生き物というのは、自分を環境に適応させる為に常に進化していくものだ。
それはアフォしぃやちびギコにも言えたことである。
彼等はその繁殖能力で環境に適応した進化をせずとも生きていけるのだが、
ごく稀に、虐殺厨にこれ以上苦しめられないようにと願い、進化してしまう者もいた。
虐殺の味を全て覚え、それに耐え得る身体を持つ。
そして、その味を好きな相手に好きなように振り撒くこともできてしまう。
虐殺厨が彼等に与える苦痛は凄まじく、また彼等の想いにも恐ろしいものがあった。
「・・・遅いノーネ」
厚い雲が空を覆い、薄暗い路地裏がその黒さを増している。
ノーネはフーの帰りをただひたすらに待っていた。
近くにいるアフォしぃはあらかた片付けたし、全くすることがない。
仕方なしに、ノーネは壁にもたれ掛かり胡座をかいている。
何もせずにいると、どうしてか時間が経つのが遅く感じてしまう。
無音に等しい世界。
不快な色の空。
それらはノーネの退屈な時間に上塗りされていく。
外的刺激もなく、ストレスは更に溜まっていく中、とある音が聞こえた。
液体が撒かれるものと、何かを殴る音。
恐らく、見知らぬ者が近くで虐殺をしているのだろうと思われる。
「・・・」
ノーネはそれを黙って聞くことにした。
部外者であり、浮浪者である自分がお邪魔すればまずいことになるだろう、と考えてのことだ。
音だけでもいくらか楽しめるし、ノーネはそれに聴き入っていく。
が、途中何か妙な音が混じっていることに気がつく。
咀嚼する湿ったものに重なる、硬い物を砕く音。
そして、地を這うような低い唸り声。
(これは・・・もしかして、びぃなノーネ?)
凶暴な化け物として名高い『びぃ』。
乱暴さが垣間見えるその演奏と歌声から、ノーネは姿を見ずともそう確信した。
逃げなければ。
下手に手を出せば、返り討ちにあうのは目に見えている。
フーの事が心配ではあるが、呑気に待っていればこちらが餌になってしまう。
立ち上がり、駆け出そうとした矢先のことだった。
「ッ!?」
突然、目の前に何かが落ちて来た。
それは血に塗れ、苦痛の表情で満たされたしぃの生首。
飛んで来たのは、びぃと思わしき者の声が聞こえた方から。
ノーネはしぃの生首と、背後の化け物の威圧感のせいで竦み上がり、動けなくなっていた。
「・・・あら、あら。そんなに驚かなくてもいいじゃない」
化け物が話し掛けてくる。
その声からはあの汚いびぃを想像できない程、艶かしかった。
もしかして、唸り声は被虐者のものなのだろうか。
ノーネはそう思い、ゆっくりと後ろを見遣る。
そこには、びぃはいなかった。
びぃより酷い何者かが、そこに立っていたのだ。
全身の皮膚は焼け爛れたようにくすんでおり、所々水ぶくれをおこしている。
左目は白く濁り、右目は鮮やかなエメラルドをしていた。
耳は不気味に長く色々な方向に伸び、片側は惟の突起でしかないように見える。
「お、お前・・・誰なノーネ?」
見たことのない風貌。
それが、ノーネの感じている恐怖を増幅させていく。
「私? さて、誰なのかしらね」
クス、とだけ女は笑い、手をゆらゆらと動かす。
水ぶくれと擦り傷でいっぱいの腕と、その先の先にある鋭い爪。
それらはまだ新しい血に塗れていた。
女が一歩前に進むと、遅れてノーネは後ろに下がる。
「そんなに構えなくてもいいじゃない。私は唯貴方と遊びたいだけなのに」
87
:
魔
:2007/05/27(日) 01:21:56 ID:???
「・・・遊び?」
ノーネはその言葉に、一瞬だけ気を取られた。
瞬間、女の姿が掻き消える。
続いて腹部に焼けるような感覚と、辺りに散らばる液体の音。
「が!? ッぐあああぁぁぁぁ!!!」
想像を絶する痛みにノーネは悶え、その場に崩れ落ちる。
痛む個所を押さえてみると、肉があった場所に何も触れられないことから、刔られているのがわかった。
血を吐き、俯せの状態から顔を上げて女を捜す。
女はちょうど真後ろで、ノーネの物と思われる肉を手でこねて遊んでいた。
「いい声ね。さあ、さあ。遊びましょう」
濁ったエメラルドの目が、ノーネを見下ろす。
この殺伐とした世界で、『油断』をした為にこうなってしまった。
普段のノーネならば、落ち着いてこの運命を甘んじて受ける筈だった。
フーに出会ってしまったせいで、こんなになっても生きたいと願ってしまう。
まだあいつと一緒に暮らしたい。
だが、その願いはノーネの苦痛を増加させるだけに過ぎないわけで・・・。
「く・・・うぁ、っ」
傷口から中身が洩れる。
綺麗に刔られたのは皮だけのようで、臓は破裂しているかのようにぐちゃぐちゃだった。
「結構カタかったわ、貴方の身体・・・骨はどうかしらね」
そう言うと、女はノーネの方に近付き、左腕を踏む。
ノーネはそれに対し、小刻みに震え痛みを堪えるばかり。
女はそれが気に入らないようで、少し顔をしかめる。
「それ」
そして、脚に力を入れ一気に踏み砕いた。
バキンと壮大な音がして、ノーネの腕に新しい関節が出来上がる。
「───ッッ!!!!!」
目を見開き、声にならない声をあげる。
ありえない方向に曲がった腕はあっさりと感覚を失い、鋭く折れた骨は痛覚を強く刺激する。
腹の痛みなど吹き飛び、ぐちゃぐちゃの内臓が溢れようとも、ノーネはもんどりうつ。
が、腕を踏み付けられているせいか、唯手足を醜くばたつかせるだけだった。
女はその惨状を見て、妖しく笑う。
激痛と恐怖に歪むノーネの顔が気に入ったようである。
「その表情、いいわね。ねえ、ねえ、貴方の顔、私に頂戴?」
今度はノーネの背中に座り、頬を撫でる。
血に濡れた掌は生暖かく、生臭さと眼前でちらつく爪がノーネの気をおかしくさせていく。
「な・・・っぐ!? ああっ!! うああぁあァァァァァぁ!!」
喋ることも、弄ばれていてはままならない。
万力のような力で、首を上へと引っ張る女。
アフォしぃならば『脱骨』というモノがあるように、あっさりともぐことが可能だ。
しかし、ノーネは一般のAAと同じ、人並みに頑丈である。
必死で叫んでも、止めてくれる筈がない。
身体は気が触れそうな程の悲鳴をあげているが、精神は何故か落ち着きを取り戻していた。
どうせなら、最後にフーに会いたかった。
退屈だった毎日に刺激を与えてくれた、あの糞ガキに。
言葉にしがたい音がして、ノーネの首は身体から離れる。
それは先程のアフォしぃと同じ、苦痛の表情で満たされていた。
女はノーネが死に際に何を想っていたのかなんて、全く気にしない。
唯、その血に塗れたデスマスクを見て、笑うだけだった。
88
:
魔
:2007/05/27(日) 01:23:09 ID:???
※
「ほっほ。今日の収穫ちびギコ二匹っと」
達磨にしたちびギコを紐に括り、満足げに鼻を鳴らすフー。
やはりそれは死んでおり、頭に残ったまだ新しい痣が痛々しい。
一匹ずつ両端に括ると、ちょうど真ん中を持って歩き始めた。
どうせ皮は食べないし、担ぐと肩が痛くなるとのことで、引きずって持って帰るようだ。
理由は他にもある。
街を散策するとよく見掛ける、ちびギコを首輪で繋いだAA達。
フーはそれを酷く気に入っていて、今回は形だけでもと真似ていたのだ。
ずるずると死体を引きずり、楽しそうに帰路につくフー。
時折すれ違う同じスタイルのAAと自分を照らし合わせ、妄想ではあるが興奮してしまう。
自分は浮浪者だけど、お前らと同等のことだってできるんだ。
フーはそう主張するかのように、胸をはって力強く歩く。
すると、ある一匹のちびギコに目がいった。
(・・・あれ?)
初めて見たちびギコだった。
顔の左半分が茶色で、右耳はちぎれてはいたが黒だということが伺えた。
それと、黒陽石のように凜と輝く目。
フーには、それがとてつもなく恐ろしいものに見えた。
目の奥で静かに、それでいて激しく燃え盛る黒い感情。
無言で、無表情でいるそのちびギコに、寒気さえ感じる。
リードを引っ張っているモララーは気付いていないらしく、どうしてか笑みを零していた。
「・・・うえっ」
フーはそのアンバランスさに吐き気を催す。
早くこの場から離れたいと、駆け足でノーネの待つ路地裏を目指した。
「オッサン! 捕ってきたぞー!」
景気よく声を出し、ノーネを呼ぶ。
しかし、路地裏からは何か奇妙な音がするだけで、ノーネからの返事がない。
先程のちびギコから受けた恐怖を払いのけようとしたことが、裏目に出てしまった。
フーは恐る恐る、路地裏を覗く。
そこには信じがたい光景があった。
内臓をこれでもかという程ぶちまけられた、ノーネの姿。
普通は一目見ただけではわからないが、フーは足元に落ちていたノーネの生首で全てを理解する。
汚い色と赤に混じり、その中で遊ぶ影。
恐らく、そいつが犯人だろう。
「う、うわあああぁぁぁ!!!」
信じたくない出来事に、フーは叫ぶことしかできなかった。
すると、影はフーの存在に気付いたらしく、ゆっくりと近付く。
「今日はなんていい日なのかしら。今度はおもちゃが寄ってきたわ」
化け物は妖しく笑うと、その鋭い毒牙をフーに向けた。
89
:
魔
:2007/05/27(日) 01:23:51 ID:???
───結論から言うと、フーはこの後生き延びることができた
殺されそうになった所を、あるAAが助けたのだ
しかし、それは少し遅かったようで、フーは両目を失うことになる
化け物だってまだ生きているし、歯車も音をたてて回り始めた
天と地の差の裏話
フーの地獄は、これから始まる
90
:
耳もぎ名無しさん
:2007/05/29(火) 04:07:06 ID:???
タイトル 『砕けた絆』
ーーーーーーーーーーーー
買い物を済ませて家に帰ると、様子がおかしかった。
いつもなら長女のチィちゃんが
「ママお帰りなさい!」 と愛くるしい笑顔で迎えてくれるのに、その気配すらない。
部屋の奥にはベビちゃんがいるのに、笑い声も鳴き声も聞こえてこない。
チィちゃんが子守をしてくれているうちに、2人とも眠ってしまったの?
不審に思いながら奥へ進み、子ども部屋のドアを開くと、
誰かが部屋の中央でベビちゃんの身体を左手で押さえ込み、右手で口を塞いでいた。
「ベビチャン!!」
厚手の黒い布を頭から足先までスッポリと被っていて、それが誰なのかは分からなかった。
腕の部分は切り抜かれているけれど長袖と手袋で特徴はつかめない。
「ダレ、ナノ」
掠れた声で問いかけると、そいつがこちらを見た、気がする。
目がある位置の布は細かい網状で、あたしからはよく見えない。
「僕はあなたのよく知る男ですよ、しぃさん」
ボイスチェンジャーガスで変質させた耳障りな声で
優雅に一礼してみせてから、男はベビちゃんの口から手をどけた。
喘ぐように空気を貪ってから大声でベビちゃんが泣き出す。
今すぐ駆け寄りたいけど、男を刺激するのはマズイ気がして動けない。
「あなたの大切なものを壊しにきました」
言葉だけは静かで丁寧だけど、端々に嘲りが滲む話し方。
あたしは、こんな話し方をする男を1人だけ知っている。
声を変えても、姿を隠しても分かる。
「タカラクン? ベビチャンヲ ハナシテ」
ギコくんと結婚する前に付き合っていたタカラくんに違いない。
本当はギコくんが好きだったけど、ギコくんには妻子がいたから。
ギコくんの奥さんが事故で亡くなったとき、チャンスだと思ったの。
傷心のギコくんを慰め、プロポーズしたら受け入れてもらえた。
だから、あたしは邪魔になったタカラくんを捨てた。
「キイテ、タカラクン。ベビチャン、ホントウハ アナタノ コドモナノヨ」
逆算するとベビちゃんを体内に宿したのはタカラくんを捨てる直前で、
ギコくんに受け入れてもらった直後だった。
実を言うと、どちらが本当の父親なのか分からない。
だけど、あたしは必死だった。なんとかしてベビちゃんを助けたい。
「僕の子どもですか。それならなぜギコと結婚したんです。
ひどい女です。僕も、ギコも、ギコの連れ子も、自分の子さえも。
みんなを騙して、このまま暮らしていくつもりだったんですか」
連れ子も、という言葉のときタカラくんは僅かに顎をしゃくった。
その方向に視線をやると、部屋の隅に縛った状態で座らされて頭を垂れているチィちゃんの姿が見えた。
あたしの咽喉からヒッという短い悲鳴が漏れる。
「チィチャン!! タカラクンッ、マサカ、チィチャンヲ コロシタノッ!?」
「いいえ。気を失っているだけです。今はまだ、ね」
つまり、後はどうなるか分からないってことね。
冗談じゃないわ。チィちゃんは、あたしとギコくんを繋ぐ大事な娘よ。
ギコくんはチィちゃんを溺愛しているから、もしものことがあったら許してくれない。
「オナガイ、チィチャント ベビチャンニ ヒドイコト シナイデ」
「いいえ。それは無理な相談です。僕は壊すためにきたんですから。
それに、こんな糞ベビが僕の遺伝子を継いでいるなんて許せません」
タカラくんはホッチキスに似た器具をベビちゃんのお耳に挟み込んだ。
パチンと器具が上下に動くと同時に、お耳から血が飛沫く。
「ヂィィィィィィィィィ!!」
「シィィィィィィィィッ ヤメテッ ヤメテェッ」
ベビちゃんのお耳に小さな丸い穴が開き、絶叫と悲鳴が重なる。
ホッチキスだと思ったものは書類に穴を開けるための一穴パンチだった。
パチンッパチンッと、まるで見せびらかすように何度も器具が動き、
そのたびにベビちゃんは両手両脚をバタつかせて泣きじゃくった。
形のいいお耳が漫画チーズみたいに穴だらけになっていく。
「ん、ママ? ママ、ママァッ!!」
「ダ、ダメヨ、チィチャン ダマッテ」
あたしとベビちゃんの悲鳴でチィちゃんが眼を覚ました。
チィちゃんはギコくんに似たのか、しぃ族なのに全角で話せる。
それだけに珍しがられて虐殺厨の標的になりやすい。
91
:
若葉
◆t8a6oBJT5k
:2007/05/29(火) 04:12:57 ID:???
「おや、お姫様のお目覚めですか。義妹と同じ耳にしてあげましょう」
「イヤッイヤアッ、ヤメテ、オナガイ、ヤメテヨォ」
全角での話し方についてはスルーしながらも、タカラくんはチィちゃんに近づこうとする。
その歩みが、チィちゃんの前でピタリと止まった。
「そうだ。あなたに殺す子を選ばせてあげましょう。
チィちゃんか糞ベビ。どちらか1人だけ助けてあげます」
どうします? と、楽しげにタカラくんが信じられない提案をしてくる。
「怖いよママ、チィを助けて!」
男の言葉に怯え、縋りつくような視線でチィちゃんが救いを求めている。
「チィ、チィチィ、ナッコ、ナッコォ」
ベビちゃんは耳から血を流し、あたしのダッコを求めて泣いている。
「他人の子だけど無傷なチィちゃん。
実の子だけどお耳がボロボロで奇形になった糞ベビ。
さあ、選ぶのはどっち? 早く決めないと両方殺っちゃいますよ?」
ギコくんを怒らせ離縁されるのは覚悟でベビちゃんを守るか。
ベビちゃんを見殺しにしてギコくんとチィちゃんとの生活をとるか?
「ソンナ、ソンナノ エラベナイ。エラベナイヨォ。ハニャーン、ダレカ タスケテ」
そのとき、恐怖のためかベビちゃんが失禁した。
股から足先まで黄色い液体が白い毛皮を濡らしていく。
汚いっ! という怒りを含んだタカラくんの言葉を聞いて
「マッテ! ベビチャンハ アタシノ タッタヒトリノ、コドモダヨ!! コロサナイデ」
とっさにベビちゃんを選んでいた。チィちゃんの顔が悲しそうに曇る。
「ベビちゃんがママの、たったひとりの子どもなの?
ママに愛されたくってチィお勉強も、お手伝いも頑張ったのに。
良い子にしてたのにチィはママの子になれないの?」
大粒の涙が零れ落ちるのを見て胸が痛んだ。
でも、どちらか一人だけしか助けられないのなら……
「ママ、今ならまだ間に合うよ。お願いチィを助けて。
ベビちゃんよりチィを愛して。チィを選んでよっ」
今日の買い物はチィちゃんの好きな味噌汁の材料。
夜は家族そろって遊ぼうと思って花火セットも買ってきた。
学校で使うという色鉛筆セットも買ってきたんだよ。
素直で可愛いチィちゃん。あなたの母親になれたつもりでいたけど。
あなたのために、あたしのベビちゃんを犠牲にすることはできない。
「ゴメン、ゴメンネ チィチャン」
言い終わったとたん、その場の空気が変わった。
チィちゃんから表情が消える。沈黙の後に暗い呟きが紡がれる。
「へぇーえ。そう。チィよりベビのほうが大事なんだ」
頭の中で警鐘が鳴った。今すぐ逃げろと本能が叫んでいる。
だけど、あたしはチィちゃんの静かな怒りに呑まれて動けなかった。
「チィ絶対に許さない。ベビなんか苦しめて殺してやる」
「そうですか。いいでしょう。好きにしなさい」
チィちゃんを縛ったロープを、タカラくんがナイフで切って解放する。
そのままナイフをチィちゃんに握らせてベビちゃんを差し出した。
「チョ、チョット マッテ、ヤクソクガ チガウ!!」
「ええ。気が変わったんです。予定通り糞ベビを処分します」
そ、そんなっ。そんなことって。
慌てるあたしの目の前で、妙に手慣れた仕草でチィちゃんは
薄い刃のナイフをベビちゃんの顔へと振り動かし切り刻んでいく。
「ママに似た顔。だからチィよりママに愛されてるのかなぁ」
「シヂィィィィィィィィィィィ!!」
柔らかな肌が切り裂かれ、赤い肉が露出する。
飛び出しそうなほど目を瞠らせたベビちゃんが耳を覆いたくなるような悲鳴をあげた。
ナイフは眼球の上も頓着せずに滑っていき、切り割られた中から
ドロリと涙とは違う、粘った体液が血と入り混じって流れ出ている。
格子状に細かく切り刻まれた顔は血で真っ赤に染められて
いつしかベビちゃんは、ぴくぴくと痙攣するだけになり
体力も精神力も限界かと思ったところで、チィちゃんの動きは止まった。
「ほらね。もうベビはママと同じ顔じゃなくなったよ?」
92
:
若葉
◆t8a6oBJT5k
:2007/05/29(火) 04:14:17 ID:???
無邪気に笑いながらベビちゃんの血染め顔を誇示されて戸惑った。
あんなに素直で優しかったチィちゃんが、こんなことするなんて。
これはきっと悪い夢。信じられるわけがない。
タカラくんは興味深そうにチィちゃんを手伝っていた。
ベビちゃんの親指の付け根に糸を絡めて縛ったチィちゃんが
糸先をタカラくんに渡す様子を、
あたしはただ放心して眺めていることしかできなかった。
指だけで吊り上げられたベビちゃんが痛そうに口をあけているけれど
もう泣き声を出すだけの体力が残っていない。
チィちゃんは、あたしが以前プレゼントした赤いランドセルに
教科書や本をたくさん詰めて重くすると、それを紐で括った。
その紐をベビちゃんの足へと結びつけてから、手を離す。
落下の衝撃で、紫色に鬱血した指の根元から血が噴出した。
ベビちゃんは悲鳴を上げないけれど、腕の筋肉は軋んでいるはずだ。
耐え難い苦痛と負荷が指にかかっているのが容易に推察できる。
悲鳴もあげられないビちゃんの代わりに、あたしの絶叫が響き続けた。
助けに行きたいのに、恐怖とショックで身体は石のように強張り、
動くことも、目を逸らすことすら出来ないのが口惜しい。
楽しそうにチィちゃんが何度もランドセルを持ち上げては手を離し、
落とすうちに腫れあがったベビちゃんの親指は、ぶちりと千切れた。
「ヂッ」
息を吐きだすような短い悲鳴が出たけれど、それっきりだった。
床に叩きつけられたベビちゃんはヒクヒクしている。
タカラくんが握ったままの紐は、ベビちゃんの指だったものが
結ばれたまま鮮血を滴らせていた。
「タ、タスケテ。ビョウイン、ベヒチャンヲ、イマスグ、ビョウインヘ」
「あの女も痛めつけてやったらどうです。裏切者ですから」
タカラくんがチィちゃんを煽っているけど、
ベビちゃんのことが心配で自分のことを構っている余裕はなかった。
「オナガイ。マダ、イキテル。ビョウインニ ツレテイッテ」
「病院に連れて行きたいのならチィちゃんを説得することです。
ま、あなたはチィちゃんの心とプライドを傷つけたんですから、
それ相応の償いとして痛い思いをすることになるでしょうけれど」
馬鹿にするようなタカラくんの言葉に、あたしは泣き崩れた。
「ママ、泣かないで」
チィちゃんがあたしのところに歩いてくる。
まだ、あたしをママと呼んでくれている。まだ、あたしのことを。
助けて。チィちゃん。ママとベビちゃんを助けて。
望みをかけて、泣き伏していた顔をあげてチィちゃんを見上げると、
ヒタリと額に冷たいナイフが触れた。
全身から血の気が引いくあたしとは対照的に、チィちゃんは笑顔だった。
笑顔のまま、あたしの額に触れさせたナイフを滑らせる。
痛みとともに血が流れる感触が伝わってきた。
「動かないでねママ。チィに許してほしいなら黙って我慢するの」
逃げたり顔を背けたりしたらチィちゃんはベビちゃんを殺す。
そう言っているの?
あたしは悲鳴をあげることすら忘れて呆然とチィちゃんを見ていた。
「そのままでは危険です。
しぃさんが痛みで錯乱してチィちゃんに噛みつくかもしれません。
何か咥えさせたほうがいいでしょう。いくら噛んでもいいものを」
偽善者ぶって口を挟んでくるタカラくんの言葉を、チィちゃんは
真剣な表情をして聞いていた。
「たとえば、コレとか?」
そう言いながら、こともあろうにチィちゃんが選んだのは
さっきと同じ姿勢でヒクヒクしたままのベビちゃんだった。
「では、お望みのままに」
「ありがとう。ふふっ。ママ、噛みたくなったら思い切り噛んでいいよ」
「チィ、チャン!? ……ムグッ、グッグゥッ」
無理やりタカラくんに顎をつかまれて唇を開かされてしまう。
咽喉奥に、ベビちゃんが洩らした汚物で濡れている足が押し込まれた。
冷たく濡れた足。まだ生きているベビちゃんの足。
鼻先と口内にアンモニアの刺激臭が広がる。
93
:
若葉
◆t8a6oBJT5k
:2007/05/29(火) 04:15:34 ID:???
「暴れてはいけません。まだ終わってませんから」
ベビちゃんを吐き出させないよう調整しながら、タカラくんが器用に
あたしを転がして馬乗りになり、一切の抵抗を封じた。
チィちゃんは満足そうに頷くとナイフを持つ手に力を込めた。
額に突き刺さる痛みに、唇を閉じることはできない。
ベビちゃんの足を喰い千切ることなんて、できるわけない。
口を軽く開けた態勢のまま、あたしは耐えるしかなかった。
ナイフは顔の輪郭を縁取るように浅く滑っていく。
あたしの恐怖感をあおって楽しんでいるのかと思っていたら
そうじゃなかった。チィちゃんは一周させたあと、皮をめくりあげて
生きたまま顔の皮を剥ぎ取ろうとしていた。
「シィィィィィィィィィィィィィ、ギジイィィィィィィィィィィ!!」
皮下の肉を削ぐように刃先と爪で抉られ、引っ張られる激痛は
とても悲鳴をこらえきれるものではなかった。
それでも、歯を喰い絞めることは許されない。
口を半開きにしたまま悲鳴を上げる。
自分の意思とは関係なく、唇端から涎が垂れる。
だけど濡れそぼった毛皮から滴る尿で口内が乾燥することはない。
「ヒギィィィィィィィッシィィィィィィギィィィィィ」
ミチミチと筋肉が引き千切られていくのが感じられる。
生温かい血が、肉と皮の間から滴り、あたしの身体を汚していく。
途中でチィちゃんの作業の邪魔になったのか、
口からベビちゃんの足を抜いてもらえたけど
悲鳴が溢れて歯を食いしばるどころではなかった。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
「アアッアアアアッウアァァァァァ」
助けて助けて助けて助けて助けて
「シィィィィッシィィィィィィィィィィィィ」
無理やり剥がされた顔の皮膚をチィちゃんが満足そうに眺めている。
自分の顔に重ねてみせると嬉しそうに言ってきた。
「ママ見て。これでチィはママと同じ顔。チィだけがママの子なの。
だからベビなんてもういらないよね?」
皮が顔から消えたせいか、ほんの少し風が触れるだけで
焼けつくような痛みが顔全体に広がっていく。
痛みに咽び泣きながら、あたしはチィちゃんに懇願した。
「ナニヲ、イッテルノッ ベビチャンヲ、ビョウインニ…、オナガイ、チィチャン。オナガイ」
「そっか。やっぱり駄目かぁ。まだチィだけ愛してくれないんだ」
「アイシテル。アイシテルヨ。チィチャンノ タメニ、オミソシル ツクル」
噛み合わない会話でも、あたしは必死だった。
つまらなそうに唇を尖らせていたチィちゃんが顔を輝かせている。
「わぁ。嬉しいな。チィね、ママのお味噌汁が大好き」
「ハナビモ、カッテキタノ。イッショニ アソボウネ。ダカラ イマハ、イマハ ベビチャンヲ」
「花火!?見てもいい?」
ショックで床に落としたままだった買い物袋を拾い上げて
チィちゃんが嬉しそうに中身を物色し始めた。
そんなの後でいいから、早くベビちゃんを助けて。
あんなに指からも顔からも血が流れてる。ベビちゃんが死んじゃうよ。
「お味噌と、増えるカワメと、醤油。色鉛筆セット。あった、花火!」
「ソウヨ、ミンナデ、ハナビ シマショウ。ダカラ、ベビチャンハ ビヨウインニ」
「うんっ。待っててねママ」
あたしはホッと息をついた。これでベビちゃんは助かる。助かるんだ。
嬉しそうに袋を握りしめたまま、チィちゃんがベビちゃんに近づく。
「お腹空いちゃった。ちょっと食べちゃおうかな」
増えるワカメを開封して、ひとつまみ取り出して食べている。
何をしているのチィちゃん。そんなのどうでもいいから早く!
「ベビにもあげる。最後のご飯、たっぷり食べなさい」
「チ、チィチャン?」
乾燥しているワカメを湯戻しもせずに、そのままベビちゃんの口を
無理やり大きくこじ開けて乱暴に突っ込んでいく。
口周りも咽喉奥もワカメで詰まって、苦しげにベビちゃんが身悶えた。
「ヤメテ、チィチャン。ベビチャンハ ママノ ミルクシカ ノメナイノヨ」
「ママのミルク?そんなの飲ませてやるもんですか。
だってママはチィだけのママなんだもん。ベビにはこれで充分よ」
一袋分まるまるベビちゃんにワカメを飲み込ませたら、
醤油のポリ容器がベビちゃんの口に差し込んで逆さにした。
ゴポゴポと真っ黒な醤油が泡立って減っていくのが見えた。
「ヤメテェ、チィチャン。ドウシテ、ドウシテッ!?」
94
:
若葉
◆t8a6oBJT5k
:2007/05/29(火) 04:16:52 ID:???
腹部が異様に膨れ、口端から醤油で膨れたワカメの残骸が零れて。
痙攣が一時的に激しくなり、ベビちゃんが動かなくなっていく。
あたしのベビちゃんが死ぬなんて、そんなの嘘。嘘だよね?
混乱するあたしの眼前に、チィちゃんは自慢そうに亡骸を掲げた。
見たくなかったのに、ベビちゃんの小さな亡骸が目と脳髄に刻まれる。
真っ赤でグチャグチャに切り刻まれ、激痛と恐怖で歪んだ顔が。
胃の中で醤油膨れしたワカメが際限なくボタボタと口から溢れている。
醤油で溺死したのか、ワカメで窒息死したのか、
それとも顔と指から流れ続ける血流が原因で死んだのか。
あたしには分からない。分かりたいとも思わない。
「コノ、アクマッ」
「ママ?」
なぜベビちゃんを殺したの。あたしの、たったひとりの赤ちゃんを!
「チィチャンガ シネバ ヨカッタノニ。ユルサナイ、ユルサナイカラッ」
「ママ。ひどい」
傷ついたといわんばかりに被害者づらをしてみせるのが気に入らない。
そうよ。あたしは最初からチィちゃんが嫌いだった。
自分自身すら騙して、チィちゃんを愛している振りをしていただけ。
ここでようやく、あたしは自分自身さえ気づかなかった本心を知る。
ギコくんに愛されてるチィちゃんに嫉妬してたこと。
チィちゃんに嫌われたら離婚されると思って畏れていたことも。
あたし本当はずっとチィちゃんが邪魔だったんだ。
「チィ。もう分かっただろう?この女も失格だぞゴルァ」
あたしに馬乗りになったままのタカラくんが、苦々しく言った。
その語調に、凍りつく。おそるおそる顔を背中にねじ向けると
タカラくんは誇示するように被っていた布を取り払った。
布の下から現れた顔は……タカラくんのものではなかった。
「そうねパパ。この女もチィのママに、なってくれなかった」
どうして。どうして、ここにギコくんがいるの?
「お前とタカラの関係を俺が知らないとでも思ってたのかゴルァ。
馬鹿な奴だ。裏切りの結果で生まれた糞ベビを諦めてさえいれば
俺はチィの母親役として認めてやるつもりだったのに」
ベビちゃんを殺して、あたしを試すための芝居だったの?
「ソンナノ、ヒドイヨ。ベビチャンハ、ギコクンノ アカチャンカモ シレナカッタンダヨ?」
「俺の娘はチィだけだ。
お前がチィを誰より慈しんで育てるって誓ったから
嫁にしてやったんだぞゴルァ。それを裏切りやがって!
妊娠したときも堕胎しろと言ったのに糞ベビを産みやがった。
チィが可哀想だと思わないのか?
実の母じゃないお前が、チィとベビを同等に愛せるか?
だから試してやったんだ。お前が実子よりチィを選ぶかどうかな」
ひどい。ひどすぎるよギコくん。
あんな芝居しなければ、あたしチィちゃんの母親を演じ続けたのに。
本心ではチィちゃんを疎んじていたことに気づくこともなかったんだよ?
ギコくんが愛している妻は、昔も今もたったひとり。最初の奥さんだけ。
必要なのは娘の母代わりになる女で、新しい妻じゃなかった。
そんなこと分かってた。でも、あたし、うまくやれるつもりだったのに。
チィちゃんを見ると、ふてくされたような表情をしていた。
ギコくんとあたしを繋ぐ唯一の娘。
だけど、あたしのベビちゃんを殺した憎い娘。
「ベビが産まれたときチィが喜んであげたの本気で信じてた?
ママに愛されたかったから良い娘を演じてあげただけなのに。
どうせパパがベビを処分する機会を作ってくれるの分かってたし」
反論しようと思っても唇が震えて、うまく動かない。
と、いうよりチィちゃんの不穏な雰囲気に呑まれて身動きが取れない。
これがチィちゃんの本性なの?
「そんなにベビが大事なら、お腹の中に捻じ込んであげようか?」
怖い。
怒鳴られたわけでもないのに体が竦んで脈拍が上昇した。
チィちゃんが怖い。
非力そうな小さな白い体。愛らしい顔。静かな声。
それでも充分すぎる凶暴性を含む空気を纏ったチィちゃんが怖い。
今までとは明らかに違う、虐殺厨側の者が持つ空気だ。
95
:
若葉
◆t8a6oBJT5k
:2007/05/29(火) 04:18:11 ID:???
「俺は気が進まないぞゴルァ。
何人か前の女を処分するとき腹部切開を失敗したじゃないか。
皮膚だけじゃなく大腸まで切っちまって後始末が悲惨だった」
ギコくんが言うと、チィちゃんは拗ねたように頬を膨らませる。
「だってあの女、すごく暴れたんだもん。チィ手元が狂っちゃって。
やだなぁ、思い出しちゃったじゃない。
お腹の中が臭くて汚い糞便と、内臓と、血で、グチャグチャ。
それなのにまだ生きてて、もぞもぞ虫みたいにもがくのよ。
いたいよー、ハニャーン、くるしいよー、たすけてー
ですって。あはははっ。馬鹿みたい。
声を出すたびにお腹の中が動いて悪臭も広がって最低。
面倒くさいからチィが咽喉を突き破って殺してあげたの」
どうしてそんな残酷なことができるの?
来ないでって叫びたかったけど、恐ろしくて声が出せない。
「やっぱりやーめた。チィまで臭くなっちゃうもん」
買い物袋の中をゴソゴソと探って、色鉛筆セットを取り出し
あたしの前まで来ると蓋を開く。中には色鉛筆と消しゴムと、
消しゴムサイズの手回し式の鉛筆削りが入っていた。
なぜかチィちゃんが鉛筆削りを取り出して、あたしの手を取る。
何をするのかと思っていたら、あたしの右小指を削り穴に……
「マ、マサカ。マサカ。ウソ、デショ?」
ガクガクと震えながら凝視する鉛筆削りは、ゆっくりと回転を始めた。
「シィィィィィィビャギャアァァァァ」
指の肉が削られてミチミチグチグチという音が聞こえた気がした。
薄切りされた指肉が血とともに、うねうねと練り出されていく。
あまりの痛みに気を失いかけても、爪を割り抉られる痛みで覚醒する。
硬いはずなのに、チィちゃんは力づくで鉛筆削り器を回し続けていた。
「イダイッイダイィィィィィィシィィィィィィィィィ」
普段の、非力で楚々としていたチィちゃんからは想像も出来ない怪力だ。
「ヒギィシィィィィィィィィ!!」
やがて、ガツッと骨に響く激痛が指先から脳天まで駆け抜けた。
苛立たしげに眉根を寄せて、ぐりぐりと鉛筆削りを回そうとしてるが
骨に当たった削り器は、動かない。それでも振動が伝わってくる。
気を失ったほうが楽なのに、痛みが激しすぎて、それもできない。
あきらめたチィちゃんは小指を解放して、
今度は左小指を削り器の中に差し入れた。
小指以外の指は太くて、削り器の中に入らないからだろう。
「ヒャメテェッヒャメデエェェ」
口から泡を飛ばしながら懇願したけれど、無駄だった。
両手の小指から血が流れ続けている。失血のせいか眩暈がしてきた。
まだ、死にたく、ない。でも止血して欲しいとは言えなかった。
そんなことを言ったらチィちゃんは指を根元から紐で縛るに違いない。
体重がベビちゃんと比べて重いから吊られることはなくても
縛ったまま放置されたら細胞が壊死して腐り落ちてしまうだろう。
生きたまま指が腐っていくなんて、考えただけでも怖気がはしる。
痛みに泣き続けているあたしに背を向け、チィちゃんは無言で
買い物袋の中を再び物色しはじめた。
「チィは優しいから血を止めてあげるね」
振り向いたチィちゃんは手に細い棒状のものを持っている。
近づいてきたことで、それが何かが判った。手持ち花火、だ。
納涼を兼ねて家族で楽しもうと思って買った花火。
あたしは、こんなものを買ってしまった自分を恨んだ。
「チィチャン、ママノ オハナシヲ キイテ。ソンナコトヲ シテハ ダメ」
「もう遅いよ。あなたなんかチィのママじゃない。
パパも言ったでしょう。あなたは失格!
今までのママ候補の中では気に入ってたから残念だけど」
ママ候補……ギコくんの、今までの再婚相手たち。
もしかして、みんなチィちゃんに認めてもらえなくて殺されたの?
96
:
若葉
◆t8a6oBJT5k
:2007/05/29(火) 04:20:07 ID:???
「大丈夫だぞゴルァ。俺はギコ族だから、しぃ族の女に不自由はしない。
チィの新しいママ候補もすぐに見つけてやる」
「今度は妹なんか産まないママがいいな。パパ」
カチッカチッと目の前で何度かライターを鳴らされて恐怖が高まる。
涙を流しながら懇願したけれど無情にも火は点けられた。
「ダメ、ヨ。ハナビハ、オソトデ、スルノ。オヘヤデ、シチャ、ダメヨ」
もうもうと煙が立ち昇り、勢いよく火花が噴出して
立ち込める煙で室内の空気が霧のように白く霞んでいく。
「イヤァ。オナガイ、ユルシテ、ユルシテヨオォォ」
白にも金にも見える美しい炎の流華が、あたしの指を包み込んだ。
削られ傷ついた指先が焼け焦げていく熱さと臭いに目を剥いた。
逃げたくてもチィちゃんは万力のような力で腕を掴んで離さない。
「お顔からも血が出てるよね?こっちも焼き潰してあげる」
助けて、お願い助けて!!
霞む視線で懸命にチィちゃんとギコくんに縋っても、
目の中にまで容赦なく火花が入り込んできて、視神経を
今まで感じたことのない熱と痛みが蹂躙していく。
瞼を閉じても、薄皮ごしに伝わる熱は防ぐことなど出来ない。
顔を無数の火花で炙られて絶叫する口内にも炎が入り込んだ。
「あははっ。お目目が白くなっちゃった。煮えたのかなぁ?」
花火の棒先で眼孔を抉られ、その棒先は鼻孔にも突き入れられた。
感触はあったけど、さほどの痛みがないのは神経が焼き潰されているから?
失明して嗅覚が失われ、煙と熱で咽喉もやられたらしく声が出せない。
「お顔の血は花火だけじゃ止まらないから、お味噌でパックしてあげる」
味噌をこすりつけるように塗られて、味噌に含まれる塩分が
皮膚を失い剥き出しになっている顔肉に激烈に沁みる。
抵抗しようとしても身体に力が入らなかった。
「そいつはもうすぐ死ぬ。そろそろ終わりにしてレストランに行こう」
「うんっパパ。チィ、ハンバーグがいい」
「家を留守にするついでに害虫駆除もしておこうか」
「あ。チィもやりたいことあったの」
コトッ
楽しそうに話し合い、何かが部屋の中に置かれるような物音がする。
ドアが閉まる音がして、ギコくんとチィちゃんが出かけたのを知る。
シュウシュウという奇怪な音とともに息苦しくなってきた。
げほっげほっ
たまらず咽せ、空気を求めて口を大きく開いたら苦しみが増した。
多分、バルサンか何かの殺虫煙が室内に充満してきてるんだろう。
こんなところで死ぬなんて。
でももういい。ママも、もうすぐベビちゃんのところに行くからね。
待っててベビちゃん。ベビ、ちゃん……
チィ… チィチィ… チィチィチィ……
!?
泣き声が聞こえた気がして、あたしは全神経を耳に集中させた。
チィチィチィチィ… ナッコ、ナッコー……
聞こえる!やっぱり聞こえる!
ベビちゃん!!あたしのベビちゃんが、まだ生きている!?
死んでいるとばかり思っていたのに。
あぁマターリの神様、感謝します。ありがとう。ありがとう。
97
:
若葉
◆t8a6oBJT5k
:2007/05/29(火) 04:21:01 ID:???
気力が蘇って、動かなかった体に力が入った。
視覚と嗅覚を封じられて方向感覚がつかめないから聴覚だけを頼りに這い進む。
焼け焦げた指が床に当たるたびに、耐え難い痛みがはしったけれど
あたしを呼ぶベビちゃんの声に励まされて、必死で這い続けた。
急がないと、せっかく助かったベビちゃんが殺虫煙で死んでしまう。
ベビちゃん!今、ママが助けてあげますからね。
少しずつベビちゃんの声が近づく。あと少し。あと少しだよ。
手を伸ばすと、堅い感触があった。
?
柔らかなベビちゃんの体とは似ても似つかない感触。
網目のようなザラザラした部分とスイッチみたいなものが並ぶ感触。
こ、これ、は。
正体を確かめるべく触っているうちに絶望が込み上げてきた。
この硬いものの中にベビちゃんが閉じ込められているのだと期待した。
だけど。スイッチのような部分を指で探って押すと
カチリと音がしてベビちゃんの鳴き声は止まった。
室内からはシュウシュウと殺虫煙の吹き出る音だけが聞こえる。
硬いものの正体。それはラジカセ、だった。
スピーカーから生前のベビちゃんの声が流されていただけだった。
やっぱりベビちゃんは、あのときに死んでいたんだ。
脳裏にチィちゃんの得意気な顔が浮かんで消える。
やりたいことがあるって言ってたけど、これのことなの?
こんな、ひどい。期待を持たせておいて絶望させるなんて。
希望が潰えて、今度こそあたしの全身から総べての力が抜けた。
さっきまでは必死で気づかなかったけれど、口に流れ込む空気は
とっくに殺虫煙に汚染されていて呼吸障害が起こっている。
息の出来ない苦しみに咳き込んでも吸い込まれるのは煙だけ。
咽喉が焼けるように痛み、耳鳴りがする。
いや、よ。まだシニタクナイ。どうしてあたしが死ななきゃいけないの。
苦しい。クルシイ。くるしぃ。くやしい。べび、ちゃん……どこなの?
せめてベビちゃんの亡骸を抱しめて逝きたい。
そう願っても、もう、あたしの体はピクとも動いてくれなかった。
そして。意識が死という闇に呑まれて消えるのを止めるすべも無かった。
ー終ー
98
:
ちびギコバトルロワイアル
:2007/06/02(土) 10:48:43 ID:???
今日は待ちに待った楽しい遠足。
北ギコ小学校、2−3組のちびギコ達は遠足の地へと進むバスの中で大はしゃぎしていた。
クラスでとりわけ仲の良い、フサ朗とちび太が顔をほころばせながら、仲良く話をしている。
「フサタンは、どんなお弁当を作ってもらったんデチか?」
「えっとね、えっとね、ウィンナーとね、玉子焼きと、それからハンバーグを作ってもらったデチ!」
そう、今日は楽しい遠足。
クラスの皆で山に登り、木々が生い茂り、そよ風吹く頂上でお弁当を仲の良いお友達と食べる。
それから、追いかけっこをしたり、かくれんぼをしたりして、思いっきり遊ぶ。
今日はとても楽しい一日となるだろうと、クラスの全員が信じて疑わなかった。
バスが出発してからしばらくのことだった。
喋りつかれたちび太は、窓の外をボーっと眺めていた。
ふと、フサ朗の方を見ると、スヤスヤと寝息を立てて眠っていた
「フサたん、疲れたんデチか?バスの中で寝るなんて珍しいデ……」
そう言いかけ、ちび太はハッとした。
バスの中の空気が明らかに変わっていたからだ。
さっきまで騒々しかったバスの中が嘘のように静まり返っている。
辺りを見回すと、通路の向こう側の席に座っていたびぶ朗、
その隣に座っている、ちび太の片思い相手のミケ代、
さらにはクラス一騒がしいと言われているキャッキャでさえスヤスヤと寝息を立てている。
「どうしたんデチか? 何で皆眠って……るんデチ……?」
そうこうしてる内にちび太も睡魔に襲われ、まどろみの中に意識が消えていった。
こうしてバスの中にいる者は全員、深い眠りについた。
一部の者を除いて。
99
:
ちびギコバトルロワイアル
:2007/06/02(土) 10:50:49 ID:???
「び……タン」
「ちびタン……!」
フサ朗の声に反応して、ちび太が目を覚ます。
辺りを見回すと、ちび太がいる所は、何年も使われて居ないような古びた教室の中だった。
教室の中は騒然としており、ちび太と同じように辺りをキョロキョロと見回す者や、
隣の席にいる友達と何でこんな所にいるのか話し合ってる者がいた。
「フサたん、ここはどこでデチか?」
「僕も分からないデチ。 目を覚ましたらここに居たデチ……」
騒然としている教室の中に2−3組の担任教師、モラ吉が入ってきた。
ちびギコ達は、教室に入ってきた自分たちの担任の姿に気づくと、
何で自分たちがこんな所に居るのかという疑問をぶつけた。
「ちぇんちぇい、どうして僕達こんな所にいるんデチ?」
「遠足するんじゃなかったんデチか?」
「ここは一体どこデチか?」
次々と問いかけられてくる質問を無視するかの如く、
モラ吉はパンパンと両手を叩き、ちびギコ達を制止させた。
「はいはい、皆さん、静かにしてください」
その言葉に反応するように、教室内は静まり返る。
静まり返った様子を見て、満足そうに頷いたモラ吉は言葉を続けた。
「なぜキミ達がここに連れてこられたのか、今から説明をするので、皆静かにしてねー♪」
そう言ってモラ吉は黒板に大きく、"せんとうじっけん ちびギコプログラム"と書いた。
「はい、これが何か分かる人ー?」
モラ吉は、挙手を促すようにクラスの全員に問いかける。
しかし、しばらく経っても手を上げる者はいない。
「おいおい、だめだなぁ〜。お父さんやお母さんに教えてもらわなかったのかい?」
ちび太やフサ朗は、何のことか分からないといった表情をしている。
他の者も、殆どがそんな表情をしていた。
しかし、クラス一のキレ者であるびぶ朗だけは違った。
ガタガタと体を震わせ、顔面蒼白になっている。
「まさか……そ……そんな……う、嘘だ……」
そんなびぶ朗の様子を無視するかの如く、モラ吉は話を続ける。
「しょうがないなぁ、それじゃあ簡単に説明するぞぉ〜」
ゴホンと、咳払いをして大きな声でモラ吉は言った。
「今からキミ達には殺し合いをしてもらいます」
100
:
ちびギコバトルロワイアル
:2007/06/02(土) 10:55:39 ID:???
殺し合い。
このフレーズを聞いてちびギコ達はポカーンとした表情をしていた。
――殺し合い?
先生は、一体何を言ってるのだろうか。
どのクラスにも負けない、仲良しな僕達が殺し合いなんてするわけない。
そんな空気がちびギコ達の間に流れている。
「あれ? なんだ皆、信じられないのか?」
しょうがないなぁ、と言った感じに頭をかくモラ吉。
「まぁ、確かにイキナリこんなところに連れてかれて、殺し合いをしろって言われても実感――」
モラ吉がそういい掛けた瞬間、さっき体をブルブルと震わせていたびぶ朗が突然叫び始めた。
「う、嘘だぁッ!!」
突然、席から立ち上がったびぶ朗にクラス全員の視線が注がれる。
「ぼ、ぼ、僕が……こんな……ゲームに参加させられるなんて……嘘だぁッ!!」
モラ吉はヤレヤレといった表情で、頭をかいている。
「落ち着きなさい、びぶ……」
「だ、だって……だって……僕の父さんはギコ製造の社長なんだッ!!」
涙を流しながら、必死に捲くし立てるびぶ朗。
これがどんなゲームか知っているだけに、その様子は尋常なものではない。
「いいかい、びぶ朗君……」
「ぼ、僕の家は凄くお金持ちだし……僕だっていっぱい習い事やお稽古をして……」
「びぶ朗君……」
「ぼ、僕には有望な将来があるんだッ! だから、こんなゲームに参加させられるわけ……」
「オイ」
涙を流しながら話していたびぶ朗に、鬼のような形相をしたモラ吉の視線が突き刺さる。
それを見たびぶ朗は、体が凍りついたかの如く体を硬直させた。
びぶ朗が静かになるのを見て、モラ吉は再びにこやかな表情をしながら話を続ける。
「いいかい、皆は生まれてから平等なんだ。 だから自は特別なんだっていうような勘違いを……」
クワッと目を見開くモラ吉。
「するんじゃない!」
その言葉が効いたのか、びぶ朗はそのまま魂が抜けたように椅子にへたり込んだ。
尋常じゃないびぶ朗の様子。
そして、冗談を言ってるようにはとても見えない先生の言葉。
この様子を見て、全ての生徒がようやく理解した。
これは夢でも幻でもドッキリでもなく、リアルで起きている出来事で、
自分たちはこれから本当に殺し合いをしなければならないのだと。
101
:
ちびギコバトルロワイアル
:2007/06/02(土) 11:00:04 ID:???
「い、い……イヤデチィィィイイイイ!!」
そして、そんな恐怖が全身を駆け巡ったのか。
恐怖に駆られたデチデチが席を立ち上がり、教室の外へ逃げ出そうとする。
「……やれやれ。しょうがない奴だな」
モラ吉は懐から拳銃を取り出すと、躊躇なくデチデチの後頭部めがけて発砲した。
「アブォブウェェェ……!」
頭を打ちぬかれたデチデチは、脳ミソを撒き散らしながら、地面に突っ伏した。
白目を剥きながらピクピクと痙攣し、やがて動かなくなる。
「イヤァァァアア!」
「デチデチターン!!」
「ウゲェェェェ!」
ある者は泣き叫び、ある者はデチデチの脳ミソを見て嗚咽をもらす。
再び騒然とする教室を静まらせるように、モラ吉は天井に銃口を向けて発砲した。
「はーい! 勝手な行動をした場合はデチデチ君のようになるから……くれぐれも注意してね」
モラ吉は、拳銃を懐にしまってコホンと咳払いする。
「それじゃあ、時間もないから簡単にルールを説明していくぞ〜」
モラ吉は黒板に次のようなルールを書いていった。
1.最後の一人になるまで皆で殺し合いをする。
2.殺し合いとなる場所は、この校舎が建てられている小さな孤島。
3.皆は、それぞれ支給品を渡され、支給された武器などで殺し合いをしていく。
4.孤島には禁止エリアがある。指定された時間を過ぎて禁止エリアに留まっていた場合は『失格』となる。
5.12時間ごとに、死亡した者と次の禁止エリアの結果発表がある。
6.12時間ごとの結果発表の前に、誰一人として死んでいなかった場合は全員『失格』となる。
一通り書き終えたモラ吉が、黒板を叩いて話を付け加える。
「えー、ルールはここに書いてある通りです。ちなみにここに書いてある『失格』となった場合……」
トントンと、首を指す。
「あらかじめキミタチの首輪に仕込んでおいた爆弾が爆発することになるから注意してね〜♪」
そう言われて、ちびギコ達は初めて、自分達の首に首輪が付けられていることに気づいた。
首輪が爆発すれば、自分たちの首など呆気なく吹っ飛ぶだろう。
それは、即ち死を意味する。
失格=死。
殺しあわなければ、とどのつまり自分たちは死ぬ。
死にたくない。
誰かを殺さなくては……自分が殺される。
そんな思いが、ちびギコ達の脳裏に過ぎる。
「それじゃあ時間も押してるから、呼ばれたら大きな声で返事をして、支給品を受け取ってね〜」
心待ちにしていた遠足。
お母さんに、何度も明日天気や、お弁当のことを聞いた昨日の夜。
夢にまで見た遠足の日が、最悪の殺し合いの日へと変わった瞬間であった。
――No7 デチデチ 死亡 ――
―残り 14匹―
102
:
ちびギコバトルロワイアル
:2007/06/02(土) 11:03:50 ID:???
今回は、以上になります。
ちびギコだけのバトルロワイアルネタを書きたいと思い書いてみました。
バトルロワイアルネタですが、短めにする予定です。
尚、参考までに生徒表を。
―生徒表―
No1 デル坊 No9 フサ朗
No2 レコ造 No10 テッチ
No3 びぶ朗 No11 ナブラ
No4 ちび太 No12 キャッキャ
No5 ミケ代 No13 ムー
No6 しぃ子 No14 クロスケ
No7 デチデチ(死亡) No15 フトマシ
No8 フサ美
103
:
魔
:2007/06/17(日) 00:15:17 ID:???
(関連作品
>>36
〜
>>74
〜)
※今回は、
>>36
からの話の続きになります
天と地の差の裏話
メイの目を奪った青い加虐者。
ギコもやはり、この話の歯車だった。
虐殺はいつも陰湿なやり方で、仲間からもあまりいい奴とは思われていない。
そのことは本人も自覚していた。
気に入らない事は己の暴力で片付けてきたし、
今の仲間だってその暴力を使って繋がっているだけにすぎない。
己が正義。それがギコの全てを表す言葉だった。
ギコからナイフを奪ったメイは、即座に後ろを向き駆け出した。
武器を手に入れたとはいえ、この体格差ではまず勝ち目はない。
反撃に移り、失敗して死んでしまうよりずっといい。
(絶対に生き延びる!)
メイは己にそう言い聞かせ、自身の持つポテンシャルを超えた速度を出し始める。
だが、子供の身体能力ではほんの少し限界を突破しただけでは大人には勝てない。
ナイフのこともあり、加速が遅れたメイはギコに追い付かれてしまう。
「糞ガキがああァ!!」
鬼の形相となり、獣の咆哮ともとれる声をあげメイに迫る。
突き出した右手は鮫の顎のように禍々しく、そのまま喰らいついてしまいそうな程。
メイはギコが放つ憎悪と殺気に気付いたのか、後ろを見るや否やナイフを振るった。
「う わあああぁぁっ!」
そのナイフは軍用の大きいものでなく、おもちゃに近いサイズであった。
それがギコにとって仇となり、メイにとって嬉しい事となる。
重いとはいえ、全く使い物にならない程ではない。
本人は闇雲に振ったつもりが、その刃はギコの人差し指を綺麗に切断したのだ。
「なっ・・・が、ああぁぁぁぁあああッ!!?」
自分の指が空を舞った事に戦慄し、遅れてきた痛みに絶叫。
ギコは倒れ込むように転倒、手を押さえてその場にうずくまった。
メイもナイフを振り切った時に転倒していたが、相手を怯ませたことを確認しすぐに立ち上がる。
そして、一目散に芝のあるところへと駆け、林の中に身を隠した。
雑木林を切り拓いてできたこの公園。
『自然を大切に』という謳い文句に違わず、それの規模は大きい。
子供が一人で入ってしまえば、ほぼ間違いなく迷子になってしまうだろう。
逆に言えば、追っ手から見つかる確率はかなり低くなるわけである。
メイは必死で雑木林の中を走った。
加虐者の叫びと、それに慌てる仲間の声が聞こえなくなるまで。
完全に逃げ切るまで、ひたすら脚を動かした。
「はあっ・・・はあっ・・・」
風に煽られる木々の音と、自分の息遣いしか耳に入らなくなった所で、メイは足を止めた。
手に持っていたナイフをその場に落とし、それに続いて土の上に倒れ込む。
虐待で疲弊していた身体に、流石に鞭を打ちすぎたようだ。
息を整えることを最優先とし、メイはこの後どうするかを考える。
家は勿論あるはずがなく、あてになるAAすらいない。
が、片目は失ったものの、四肢は守ることができた。
更には加虐者から奪ったナイフもある。
ならば、課題はもう一つしかない。
(・・・強く、ならないと)
ナイフという力。意志という力。
メイはそれらを使い、生きている限り続く地獄、
一日一日を、確実に生き延びる事を誓った。
104
:
魔
:2007/06/17(日) 00:16:22 ID:???
メイがそんな事を考えている時、公園では凄まじい事が起こっていた。
まだ生かされていた被虐者は既に挽き肉となり、肉片は辺りに撒き散らされている。
メイに喉笛をちぎられ死んだ者も、どうしてか原形を留めていない。
破裂したかのように砕けた頭蓋骨は、やはり同じように公園を汚していた。
犯人はギコだった。
指を切り落とされ、始めは痛みにのたうちまわったが、それを超える憎悪で持ち直した。
獲物は既に逃げているし、やり場のない怒りを誰にぶつけろというのか。
切り替えしが恐ろしく早いギコは、躊躇せず仲間を殴り飛ばす。
今もなお、モナーの胸倉を掴み執拗に拳を打ち込んでいた。
「っぎ、ギコ! もうやめてくれモナ! 落ち着・・・げぶっ!!」
抑止を請うモナーの顔は、血と涙でぐしゃぐしゃだった。
鼻の骨は折れ、奥歯は砕け口からは赤い液体を溢れさせている。
頬も血に塗れているが、これはギコのものだ。
止血もしないまま、指がそこにない事を忘れてモナーを殴る。
感情という麻酔で動いているものだから、自らが醒めないといつまでもこの状態である。
「煩ぇよ。他に怒りをぶつける奴がいねぇから、こうしてるまでだ」
「じ! じゃあなんでモララーを狙わないモナ?! こんなの・・・」
モナーは涙声でギコに反論し、モララーの方を指差す。
指した場所にいたのは、血を吐いて白目を剥いているモララーだった。
腹部には大きく、痛々しい痣ができている。
やはりそこにもギコの血が付着していて、傷痕を嫌らしく彩っていた。
「あいつは後でじっくり殺す・・・だから気絶させてんだよ」
「で、でも! モナは何もしてない! なのに・・・ぶぐぅ!」
喚くモナーの腹に一発、刔るように打ち込む。
内臓を揺さ振られて胃液と血が口から漏れ、びしゃという音と共に地面を汚す。
「今のお前は鎮静剤だよ。怒りで発狂しそうな俺のな」
「ひ・・・!」
表情こそ見えなかったものの、その声色は悍ましかった。
言葉だけで心臓を貫かれたような気分になり、モナーは痙攣と見て取れる程恐怖に震えた。
内股になり、後少しで成人になる歳だというのに失禁してしまう。
ギコはそれに嫌悪せず、嘲笑もしない。
心の奥底で怒りの業火を焚きながら、冷ややかな目でモナーを見ていた。
「お前は指が五本あるんだよな・・・」
「えっ?」
ギコはモナーの顔を掴み、眼前へと持っていく。
そして、もはや常識に等しい事を問う。
モナーは質問の意味がわからなかった。
というより、ギコの怒気のせいで何も考えられなかった方が正しいのかもしれない。
が、次に来た言葉を聞いて、それが何を示しているのかを理解してしまう。
「俺には四本しかないんだよ・・・不公平だと思わないか?」
指の切断面を見せびらかし、纏わり付くような声で続けてきた。
ゆらゆらと目の前で、骨の見えるギコの短い人差し指が踊る。
血は際限なく流れていて、その青い腕へと赤い色をつけていく。
モナーはそこで、二つ悟ってしまった。
一つはギコがいつも糞虫をああまで壊してしまえるのは、ギコが心を扱うのが得意なわけではなく、ギコ自身が壊れていたからだ。
そうであれば、自分色に染めあげるのは至極簡単である。
そしてもう一つは、今から壊れたギコに自分は壊されしまうのだと。
105
:
魔
:2007/06/17(日) 00:17:35 ID:???
信じたくはなかった。
虐殺に心残りがあるだけで、顔の形が変わるまで殴られたし、
友達をやめようとすれば、その日の記憶はそこで途切れもした。
だからといって殺したり、社会に出られない程になるまで暴力を振るうことはなかった。
ギコのそばにいるのは嫌だったけど、失敗さえしなければ凄くいい奴だ。
いつも素晴らしい方法で、虐殺を楽しくさせてくれる。
斬新なアイデアも、どこから湧いてくるのかという程沢山あって・・・。
そのギコに、自分は今から壊される。
身体か精神か、どちらかはわからない。
モナーは怯えることを忘れ、絶望と死の恐怖に硬直した。
だが、その硬直すらギコは許してはくれなかった。
ギコはおもむろにモナーの指を束ねるように持ち、握り締める。
瞬間、何かが潰れる音に固い物が割れる音が重なり、そこから血肉が溢れた。
「ぎゃああッッぁぁぁあああ!!!」
握り潰した、と表現した方が正しいのだろうか。
一般AAであるモナーの手を、いとも簡単に肉の塊にしてしまう。
ギコの力はどこぞの神様から授かったのかと問いたくなる程、凄まじかった。
実際、本人の手の平にはモナーの指の骨が刺さっている。
が、やはりギコは怒りで痛覚が麻痺していて、気がついてない様子。
痛みに悶え苦しむモナーに、追撃を加えにいく。
「て、手が!・・・モナの手があっ!?」
グロテスクな装飾と化した自分の手を見て、崩れ落ち泣き叫ぶモナー。
もはや一つ一つの判別は骨からすら不可能で、動く度に肉やら爪だったものやらがぽろぽろと落ちていく。
「・・・そういえば、お前ってやたらと目ェ細いよな」
二度目の質問。
モナーは次に自分が狙われる所を察知し、立ち上がり逃げようとする。
しかし、畏怖の象徴となったギコの言葉だ。
蛇に睨まれた蛙が易々と動ける筈がなかった。
今度は顎を掴まれ、嫌が応でもギコを向いてしまう。
モナーはいつも開いているかどうかわからない程細い目に、力を込めて強く閉じる。
暴君への、ささやかで尚且つ一番の抵抗。
「ばぁカ」
ギコはその抵抗を、無意味なものとして扱う。
狙ったのは、眼球でなく瞼。
爪を立て、自分にとって薄皮に等しいそれをむしり取った。
「ああぁぁがああアアァアァ!!!」
顎から響く、篭った叫び。
瞼を取り除いたそこには、血の涙を流し見開いたモナーの目があった。
比喩なんかではなく、文字どおりの血涙だ。
下の方はむしっていないものだから、どこかいびつな感じである。
ギコにはそれが妙に滑稽に見えた。
顎から手を離すと、目を押さえて倒れ込みうずくまるモナー。
がくがくと、今度は本当の痙攣を始めたようだ。
「どうした、もう終わりか?」
上から下から、様々な液体を垂れ流すモナーに問う。
それに対する返答はなく、寧ろ声すら発さない。
まあ、やる前から酷く怯えていたし、すぐに壊れるのは目に見えていたが。
つまらない。そう思ったギコは、モナーの首に手をかける。
そこで、自分がやっと落ち着いたことに気が付く。
ふう、と満足げに息を吐き、手に力を込めた。
モナーは首から不快な音をたて、奇妙な方向を向いたと同時に痙攣を止めた。
106
:
魔
:2007/06/17(日) 00:18:51 ID:???
※
暗闇。
モララーがいた場所は、黒い世界だった。
瞼もしっかりと開いていたのは自分でも理解している。
しかし、首を振っても仰ぎ見ても、身体すら見えない。
(なん・・・だ?)
手足を動かそうとすると、奇妙な感覚。
その場から全く動けず、それどころかあるはずのものがないような。
モララーはそこでギコに殴られ気絶させられたことを思い出す。
すると、一気に考えたくもない事が湯水の如く溢れ出した。
じわじわと上昇する心拍数。
冷や汗が頬を伝い、顎から一つ零れ落ちる。
心臓の鼓動が聞こえる程になった頃、目の前に明かりが灯った。
「お早う。ぐっすり眠れたか?」
そこにはギコの姿があった。
小さな照明ではそれ以外に何も確認できず、モララーは少し歯痒くなる。
「ギコ、ここは一体・・・」
「俺の部屋だよ。虐殺専用のな」
その言葉には、含みは何もなかった。
怒りをぶちまけるでなく、鋭く冷たい刺のあるものでもない。
まるで自分達が糞虫に当たり前のことを告げるかのような、
ただ純粋に、『虐殺』の二文字をモララーに投げ掛けていたのだ。
「ど、どういう、ことだ?」
加速度的に膨張する恐怖。
それからくる焦りに、変に吃ってしまう。
ギコはそれを聞いて、口の端だけで笑った。
そして、その青い暴君の化けの皮が剥がれていく。
明かりからギコが離れると、スイッチを押す音が空間に鳴り響いた。
一言で表すなら、『悪趣味』。
先程の明かりの正体は蝋燭で、天井からぶら下がっている裸電球がそれを照らしていた。
壁は汚く、一概に赤黒いだけでは言い表せない。
棚には奇怪な形をした瓶に、蛍光色の液体が入っているものが複数。
その端には、糞虫のものと思われる頭蓋骨が乱雑に置かれていた。
どうやら部屋の真ん中のテーブルに、自分はいるようだ。
何かに固定させられている感覚と共に。
そして、モララーは自分の身体を見てしまう。
本人としては、まだ拷問器具に縛り付けられていた方がまだ幸せだったかもしれない。
「う、嘘・・・嘘・・・だろ」
四肢が、無い。
肩には見慣れた黄色い手が置いてあり、それが自分を固定していたとすぐにわかった。
腕と脚がそれぞれあった所には、雑に縫合された跡があり、赤く染まっている。
出来の悪いクッションのような身体に、モララーは全身から脂汗が吹き出るのを感じた。
「お前が目覚めるまで半日かかった。麻酔せずに行ったが、痛みはないだろ?」
「ぉ、俺の・・・腕が・・・脚が・・・」
「お前、遠目から見たらなかなかいいオブジェになってるぞ。」
そう言いながら、ギコは棚にあるものを物色していた。
その背中は憎悪と、矛盾した嫉妬で塗りたくられているように見える。
モララーは達磨にされた事に憤慨するよりも、ギコを怒らせたことへの後悔の念で頭がいっぱいだ。
普通は、加虐者にここまですれば犯罪なのだが、
どうしてか、モララーはギコに謝罪したいと、許して貰いたいと願ってしまう。
そしてここで、一緒にいた仲間の事をやっと思い出す。
「モ、モナーは・・・どこに・・・」
「殺した」
107
:
魔
:2007/06/17(日) 00:19:58 ID:???
突き刺すような声で即答。
ギコは棚から探していた物を取り出すと、向き直り続けた。
「案外、一般AAって簡単に壊れるんだぜ? アイツは手と瞼潰しただけでイキやがった」
「・・・ぁ・・・う、ぅぁ」
聞かなければよかった。
モララーは、その言葉で心が埋め尽くされたような感覚になる。
一応様々な惨状を目の当たりにして生きてきたし、ちょっとやそっとの事では気が触れる筈がない。
それなのに、自分が被虐者と同じ扱いになるだけでこうも怯えるとは。
思考を張り巡らすモララーの傍で、ギコは手に持った物を弄る。
スイッチを入れ、暫くして次の行動に移った。
「これ、何かわかるよな?」
ギコが手にしていた物。
ペンのような形をしており、先端の丸い鉄の棒が先っぽについている。
尻からは何かコードのようなものが伸びていて、床の方に垂れていた。
大掛かりな道具ではないのだが、モララーにはそれが死神の鎌のように見えた。
震えるだけで、答えようとしないモララー。
ギコはそれに失望し、細い溜め息をつく。
「はんだごてっつーヤツでさ。はんだっていう金属を熔かしたりするモノだ」
手の中でそれを回し、テーブルの縁に押し付ける。
少し間を置いて、押し付けた所が黒くなった。
「いちいち火に鉄の棒焼べるのが面倒だったからな。コレは手間が省けていい」
「っ、ま、まさか・・・っああああああああァァッッ!!」
全てを言い切る前に、ギコははんだごてをモララーの腹に押し付ける。
じゅう、と小さく焼けた音がして、そこから細い煙が立ち上った。
切るよりも、刺すよりも長く続く激痛が全身を駆け巡る。
モララーは唯一動かせる首をこれでもかという程振り、その痛みを紛らわそうとする。
が、やはりそんな小さい事で和らぐモノではない。
「うああああああああああ!!!」
はんだごてを押し付けている限り、首を振り続けるモララーを見てギコは笑った。
被虐者の阿鼻叫喚を、しっかりと聞き取りたいが為に開けない口。
だが、その愉快さにおもわず裂けそうな程吊り上がってしまう。
狂気に満ち、それでいて満面の笑みをするギコ。
本気で虐殺を楽しむギコの悍ましさは、異常の二文字だけでは表せなかった。
108
:
魔
:2007/06/17(日) 00:21:03 ID:???
筆を持つように丁寧に。
雑に握って乱暴に。
様々な持ち方をしても、ギコが行うことは一つ。
『はんだごてを、モララーに押し付ける』事のみ。
黒く焦げ、少しだけ穴が開いたら箇所を変えて、休みなく虐待を続けた。
皮膚を焼き切り、じわじわと熱い鉄が入り込む感触にモララーは唯叫ぶばかり。
ある程度入り込んだら、神経がやられ痛みはなくなるのだが、また新しい所を狙われれば意味がない。
首を振る度に大粒の涙が空を舞い、大きく開いた口からは涎が糸を引いた。
はんだごてを押し付ける事数十回。
モララーの腹はパッと見、蜂の巣のような風貌になっていた。
穴という穴は全て炭化していて、一部はまだ細い煙が立ち上っている。
「が、っ・・・はぁ、あ、ああ・・・」
叫び続けたことにより、まともな言葉を発することができない。
眉間にしわをよせ、涙をぼろぼろと零しながら鳴咽を漏らす。
「蓮コラみてぇな身体になったな。ははッ」
ギコはモララーの汚くなった顔と、腹部を交互に見てそう笑った。
はんだごての電源を切り、湿らせたスポンジの上に置く。
じゅう、と心地よい音がしてスポンジの水分が飛んだ。
再度棚を物色し、更にモララーをいたぶる為の道具を探す。
当の本人はえづいてばかりで、虐待に怯える事すら忘れているようだ。
「記念によ、その皮貰っていいか?」
えげつない質問に返ってきたのは、言葉ではなく濁った呻きのみ。
もとより、壊れかけている者からの返事など、ギコは期待していなかった。
詰め寄りながら、棚から取り出した物をモララーに見せる。
それは裸電球に照らされ、銀色に光るメスだった。
「ッげ、ぇ・・・うぁ、ぁ」
潰れかけた喉からは、己の有様とこの先の地獄に嘆く声。
泣きじゃくる子供のような顔になっているモララーを見て、つい口元が緩む。
それは嘲笑などではなく、自分がその表情を見て興奮しているのだと、ギコはすぐに理解した。
モナーも、モララーも、種族として虐殺するのは今回が初めて。
指を無くし、被虐者を逃がした者への罰としての虐殺だったが、
こうやってしっかりと向き合ってヤってみると、普段とは違った愉快さがあった。
理解に苦しむ思考を持つ、ちびギコを調教するよりずっといい。
生物として自分と同じ立ち位置にいる命を、糞虫と同等のものとして扱う。
虐殺のやり方については殆ど出し尽くした感があったが、
対象を変えることで、新たな快楽を見つけだすことができた。
「・・・くくっ」
また新鮮な感覚で、今までで思い付いた数々の虐殺を楽しめる。
そして、糞虫達とは違う反応が返ってくることで更に拍車が掛かっていく。
こう見ると、モナーをあっさりと殺した事に少し後悔してしまう。
が、今はとりあえずモララーを使って遊ぶことに集中しようと、ギコは思った。
109
:
魔
:2007/06/17(日) 00:22:12 ID:???
利き腕の指は一つ既になくし、精密な作業をするのには向いていない。
だからといって、多少雑にした所で全てが台なしになるわけでもなかった。
寧ろ、乱暴に扱った方がより苦痛を与えられる事など、ギコはとうに知っていた。
メスを握り、モララーの腹に宛がう。
そして、ゆっくりと自分なりに丁寧に刃を走らせた。
「ッ! い・・・痛、ぅ・・・ああッ!」
メスのあまりにも鋭い刃は、普通は感じる痛みを最小限に抑える為にある。
だが、ゆっくりと皮を裂き、かつ左右に揺れながらでは意味を成さない。
何度も刃を入れ直し、納得のいくラインを通るまでギコは止めなかった。
「悪ィ、手元が狂いまくったな」
「ぅ・・・」
モララーの身体には、無数の火傷を囲う赤い線が描かれていた。
線は所々枝別れしていて、酷い有様である。
これがもし手術だとしたら、どうあがいても痕を消すのは出来そうにない。
更に、切り込みを入れる時にギコはほんのお茶目をし、外周にわざとメスを刺したりもした。
その時に見せる、モララーの表情がまた堪らない。
刃が皮膚を貫く時、一瞬だけ身体を跳ねさせ、小さく声を漏らす。
事に怯える加虐者だった者が滑稽で仕方なく、つい何度も繰り返した。
「さて、次にやる事は範囲も痛みも半端じゃねェ・・・覚悟はできてるか?」
皮を剥ぐというのに、何故かメスを棚に置くギコ。
モララーはそのことに疑問を抱くより先に、自分が何をされるのかをすぐに理解した。
ここまでされれば、次にくる虐待のメニューを安易に想像できる。
恐怖で妄想が加速し、自分なりのやり方をつい考えてしまうからだ。
しかし、たとえ想像と同じであっても、苦痛が和らいだり、それから逃れられるわけではない。
更に、違ったとしても糞虫のようにすぐ『開放してくれる』だの『今日の分は終わり』だのと思考が簡単に変わる筈がない。
もっとも、モララーは今喉が殆ど使えない状態だから、ギコにメニューを問うことすらできないのだが。
「ゃ・・・っ、め・・・やめ・・・」
それでも、モララーは必死に抑止を願った。
空気が通過する度に、壊れた笛のような音を出す喉。
必死の思いで出た二文字は、しっかりとギコに届いていた。
が、そこで止まるギコならば、モナーを殺すことはなかっただろう。
「止めて欲しいのか? じゃあ俺が受けた屈辱は、怒りは誰が鎮めてくれるんだ?」
「ぐ、っ・・・ぇ・・・げほ、ぅ」
「指を元通りにする事なんざどうでもいいんだよ。俺はお前等にムカついてんだ」
吐き捨て、モララーの胸元にある赤い線に指を入れる。
傷口を開かれ、更に拡大させていく事にモララーはまた悶え始める。
ポケットに手を突っ込む感覚で、ギコは皮を剥がしていく。
筋肉から皮膚が離れる、べりべりといった音が心地良い。
「っああ!! ああがあああぁぁぁァ!!!」
一般AAの頑丈な身体も、ギコの力の前では意味を成さなかった。
被虐者と何等変わりない勢いで、しかしゆっくりと剥がされていく皮膚。
血に濡れた肉が露になってくると、モララーの叫び声は一層大きくなる。
110
:
魔
:2007/06/17(日) 00:23:14 ID:???
半分ほど剥いだ所で、ギコは手を止めた。
どんなに握力があっても、血で濡れてしまっては意味がない。
上手く虐殺することができないのは、被虐者にとっては苦痛を加味させられる事と同じ。
しかし、くどいようだがギコはそれよりも、まず自分が満足できないと不満で仕方がないのだ。
できることなら一気にしたかったが、粘って失敗するよりはまだマシだ。
近くにあった、小汚い布で手を念入りに拭く。
ついでに軍手をはめてしまおうと思ったが、その位の理由で席を外すのはモララーに安心感をもたらしてしまいそうである。
なにより、右手の人差し指の部分が情けなく見えそうだったので、止めることにした。
「ぐ、うううぅぅぅ・・・っあァ、がああぁぁ!」
ギコがそんな事を考えている間も、モララーは激痛に悶えている。
胸から腹部にかけて、そこが空気に触れるだけで痛みが全身を駆け巡っているようだ。
モララーの首の振り方だけで、ギコはそう読み取った。
こうなってしまっては、いっそ楽にしてしまうか、或いは・・・。
とりあえず、やるべき事をやってしまおうと、ギコは行動に出る。
血糊が付いた布を捨て、モララーのめくれた皮膚を掴む。
「ぎゃあっっ!!」
完全に身体から離れていない為か、触れただけで悲鳴をあげるモララー。
もう少しこのまま弄ってやりたいが、他にも試したい事がある。
今の虐待に別れを惜しみ、新しい虐待に期待の念を込め、手に力を入れる。
そして、一気にその黄色い皮を剥ぎ取った。
「あああああああぁぁぁぁアアアアァ!!!」
天を仰ぎ、絶叫。
肉と皮が力強く離れる爽快な音。
その感触。
それらから来るとてつもない気持ち良さに、ギコは腹を抱えた。
が、やはり笑い声は絶対に出さない。
この空間に響き渡るのは、モララーの凄まじい叫びのみだった。
立ち直り、剥ぎ取った皮をまじまじと見詰める。
表側は血を吸い取り、ほぼ全体が赤みを帯びていた。
ギコが『蓮コラ』と称した、はんだごてで創った焼け跡もその不気味さを増幅させている。
裏返すと、自身の脂と血でぬらぬらと嫌らしく光っていた。
親指で押すように揉むと、そこそこの厚みと弾力があるのがわかる。
暫くギコは皮を揉みながら、モララーの狂気と苦痛に満ちた歌声を聴いていた。
その歌声が途切れ途切れになってきた所で、ギコは動いた。
モララーの様子を見れば、白目を剥き、口の端には泡がついていた。
それでも首を降り、激痛に悶える事は忘れていない。
(そろそろか・・・)
ギコは軽く溜め息をつくと、棚にある薬品のようなものを漁り始める。
沢山ある小さいガラス瓶の列の中から、一つだけ取り出す。
そして、注射機に瓶の中身を慎重に入れ、モララーの頸動脈に突き刺した。
111
:
魔
:2007/06/17(日) 00:25:02 ID:???
「ああ、ぁ・・・?」
まるで火が消えたかのように、おとなしくなるモララー。
というよりも、身体中から生気を奪われたと表現した方が正しいかもしれない。
疑問の表情を浮かべながらも、少しだがなおも悶え続ける。
ギコはそんなモララーに注射機を見せながら、答を説いた。
「鎮静剤だよ。発狂して死なれたらつまらないからな」
「っ、な・・・ぁ」
飽くまでも、モララーの声と絶望した顔が見たいというギコ。
人権もへったくれもない、容赦なきギコの虐待。
我を取り戻したモララーが最初に見たものは、この先延々と続く地獄だった。
自害は疎か、精神を破壊することも出来ず、唯々『痛み』と戯れる事だけが許されている。
死ねば楽になるという未来に、モララーは希望も何も持つことができなかった。
モララーが死んだのは、それからかなりの時間が経ってからだった。
時計も窓もない空間では、詳しい所はわからない。
かなり、とだけ表現できたのは、モララーの遺体が凄まじい事になっていたから。
自身の脚を背もたれに、太腿には両腕が打ち付けられ、それらが達磨のモララーを固定している。
身体は、剥がされた皮を始め、筋肉、性器、膀胱、大腸から小腸と、順を追って解剖されていった。
一つの臓器を取り出す度に、鎮静剤やら何やらを頸動脈に打たれ、首元には内出血の痕がある。
その何かの中に、出血を抑える効果のある薬品があったのか、臓器達はそこまで血に濡れていなかった。
あまりにも丁寧に行われたそれは、活け作りにでもするつもりなのかと思ってしまう程。
結局、モララーが死ねたのは、肋骨を砕いた先にある、肺を摘出してからのことだった。
見事なまでに空洞になったモララーの腹。
苦痛に満ちた首はうなだれ、自身の腹を覗き込むかのような状態になっていた。
「・・・フン」
暴力的でありながら、病的なまでに器用に事を熟すギコ。
モララーをこのような姿形にしたのには、理由があった。
新しい快感を見つけたとはいえ、指を奪われた屈辱は癒えたわけではない。
冷静さを取り戻したギコが、次に狙うのはそれを犯したAA。
生意気に、『メイ』と名乗った糞虫に、矛先は向いていた。
「絶対に見つけ出して、コイツの腹ン中に挽き肉にしてブチ込んでやる・・・」
自分のプライドを傷つけた事は、命だけでは償えない。
頭のてっぺんから爪先まで、細胞一つ一つまでも虐待してやる。
言葉にできない程、負の感情で心を埋め尽くしてやる。
全てにおいて絶望させて殺すと、ギコはそう決意した。
青い暴君は、復讐の為にと牙を研ぐ。
128
:
魔
:2007/07/22(日) 15:50:24 ID:???
(関連作品
>>36
〜
>>74
〜
>>103
〜)
※今回は、
>>74
からの話の続きになります
天と地の差の裏話
例えば、暗闇。
光というストレスのない世界。
聴覚だけを頼りにしなければ、そのまま死へと突き進む。
全ての恐怖が『見えない恐怖』と化す世界。
そんな所に、覚悟もなしに行く奴なんていない。
自分以外の誰かが、その世界へ行く切符を持っているのだ。
そして、その切符を切られた者は・・・。
※
慣れ親しんだ者が、首から上だけをこちらに向けていた。
苦痛と恐怖で酷く歪んだ表情をし、口を大きく開けている。
少し前に、そこから断末魔の悲鳴をあげていたというのはすぐに理解できた。
「う、うわあああぁぁぁ!!!」
フーは、こちらを睨むノーネの生首を見て、身体に電流が流れるような感覚を覚える。
その奥にノーネを殺した者がいる事すら忘れ、盛大に叫んだ。
罰なのだろうか。
浮浪していた二人が出会い、そのまま一緒に生活をする。
それが、いけない事だったのだろうか。
家族がいない命が、他人と共に生きる事は駄目なのだろうか。
いや、違う。
油断した自分達が悪いのだ。
糞虫とほぼ同じ立ち位置にいるのだから、常に死と隣り合わせだった筈だ。
それを忘れ、自分は虐殺という娯楽に目を向けてばかり。
気が付けば、既に死神に肩を叩かれていたのだ。
もはや自分にすら理解できない思考を張り巡らす程、フーは混乱していた。
もう少し冷静であれば、その場からすぐに逃げ出すことが出来たというのに。
「あら、あら。アナタは逃げたりしないの?」
血と臓腑の床を歩き、化け物が近付いてくる。
フーは化け物が言うように、今この場から離れたい。
逃げたい。
しかし、その意志に反して下半身が全く動かない。
蛇に睨まれた蛙でもあり、大切な者の死というショック。
フーをその場に縫い付ける事柄は、十二分に揃っていた。
それでも、フーは必死で逃亡を謀る。
全身は脂汗で濡れ、目には涙が溜まっていた。
がくがくと震える脚を、少し後ろにずらすだけで吐き気が込み上げる。
「う・・・く・・・」
歯を食いしばり、一歩ずつ後ろに下がる。
路地裏から抜け出せば、誰かが見つけてくれるかもしれない。
だが、この化け物を退治してくれる保証はない。
それでもフーは可能性に縋り付き、酷くゆっくりとその場から離れていく。
どのくらい下がればいいのだろうか。
先が見えない。
ほんの少しの距離が、果てしなく長く思える。
まるで両端のコンクリの壁が、永遠に続いているようで。
更に、一歩下がる度に化け物もこちらに迫ってくる。
恐怖に怯える自分を見て、嫌らしく笑いながら。
血に塗れた爪を翻し、化け物はノーネの上を歩く。
気配を殺して獲物に近付く虎のように、身を低く置いている。
しかし、表情はそれに反して、面白そうな物を見つけ、それをつついて遊ぶ子供のようなものだった。
ゆらゆらと靡くねこじゃらしに飛び付かんとするような子猫の目。
「こういうのも、いいわ。かたつむりのように、ゆっくり、ゆっくり・・・」
それでいて、裂けているのかと思ってしまう程吊り上がった口。
そこから意味不明な言葉を発し、更に化け物の目がぐるりと瞼の中で回転した。
「ひ・・・!!」
あまりの悍ましさに、フーは背筋が凍りつく。
そして、産まれたての子馬のように覚束なかった脚は、持ってきたちびギコに引っ掛かってしまった。
129
:
魔
:2007/07/22(日) 15:51:23 ID:???
「う、わっ!?」
縮み上がった心臓を一突きされたような感覚。
フーはそれほどまで驚き、尻餅をつく。
視界は一瞬で仰ぎ、そこには焼けた空が広がっていた。
慌てて上半身だけ起こすと、既に化け物は消えている。
何処に消えたのか。
普通なら辺りを見回し、相手の、化け物のいる場所を見つけるのが正しい。
だが、フーは何故か捜そうとしなかった。
目の前には、ノーネの生首と肉塊。
足元にちびギコの死体が二つ。
フーには今、それらしか見えていない。
起き上がると同時に後ろから聞こえてきた声。
化け物は、目ではなく耳で見つけ、かつ奴の方から場所を教えていたのだ。
「コケたら駄目じゃない。折角ゆっくり遊んでたのに」
頬に化け物のものと思われる吐息がかかる。
首の後ろで、爪がカリカリと音をたてているのが聞こえる。
たった、たったコンマ数秒目を離しただけで、音もなく退路を絶たれた。
ここまできて、フーはやっと理解した。
自分は、既に奴の射程範囲内にいたのだと。
殺される。
このまま、ノーネみたいに崩れた泥人形のようにされて死ぬ。
奴の手が肩に置かれ、そのまま胸へ、腹へと進んでいく。
触手のように纏わり付く、火傷だらけの褐色の腕。
その先端にある爪が身体を撫でると、つうと赤い線が滲み出る。
フサ種特有の長い毛も、それにあわせ綺麗に削ぎ落ちていった。
パッと見ただけではわからないが、フーは確実に傷を負っていた。
剃刀を扱うのに失敗した程度のものだったが、精神はそれ以上に傷つけられている。
爪が皮膚をなぞる度、身体が真っ二つにされるような感覚。
助けを呼ぼうにも、声が全く出てこない。
目を閉じたら、余計に恐怖が増大するような気がした。
だから、フーはずっと路地裏の惨状を網膜に焼き付けてしまっていた。
嫌が応でも、赤や茶に塗れた緑が視界に入ってくる。
ふと、ノーネの首に目線が行く。
心なしか最初に見た時よりも、口の開き方が酷くなっている。
更に、見開いた眼がしっかりとこちらを睨んでもいた。
腰が抜け、視線が下に落ちたことからそうなったのかもしれない。
その眼の奥にある感情はわからなかったが、フーの罪悪感と恐怖感を煽るのには十分な題材だった。
「まあ、まあ。今度は動かなくなったわ。こんなヒト、初めて」
小刻みに震えてはいたが、フーは化け物の言う通りに固まっていた。
失神寸前、といった感じだろうか。
化け物はそんな状態のフーを気に入ったのか、笑みがいっそう深くなる。
「でもね、静かになったコを起こすのってどうすればいいか、私知ってるわ」
フーの腹に宛てていた両手を、這うようにして上へと持っていく。
胸から首へ、頬まで上った所で動きを止めた。
妖艶に頬を撫で、反応を確かめる。
「・・・ふふっ」
やはり、何も返ってこなかった。
寧ろその方が化け物にとって好都合のようだ。
喉から声を漏らした後、自慢の爪をフーの眼球に這わせる。
そして―――
130
:
魔
:2007/07/22(日) 15:52:25 ID:???
※
フーが襲われる少し前、街中を一人のAAが歩いていた。
闇に溶けそうな黒い身体をしていて、耳には赤いラインが走っている。
男はウララーという名前を持ち、警察の『ような』仕事をしている。
この治安の悪い街では、本物の警察は殆どいない。
なぜかというと、何処もかしこも虐殺厨と糞虫で溢れているからだ。
いちいち一人ずつ、一匹ずつ捕まえて裁いていてはキリがない。
そういう理由で、本物の警察はこの街での活動を『大きな犯罪があった時』だけに限定した。
だが、それでは小さな犯罪だらけで街はより混沌としてしまう。
だから、国はいくらか良識のあるAAを採用し、擬似警官として扱う事を決めた。
その擬似警官のルールは一つ。
『虐殺ではなく、裁く為に引き金を引け』
至極簡単で、かつ難しい内容である。
「・・・はァ」
右腿に巻いたホルスターに収めた、擬似警官を示す銃。
それと、毎日の精神的な苦労から重く感じる身体に、ウララーは溜め息をついた。
虐殺に溺れたAAにも、銃口を向けなければならない日々。
秩序を乱すのであれば同じ種であれ、その頭を撃ち抜く事が約束されている。
ストレス解消だとかの為に命を奪っているのではなく、仕事の為。街の為。
虐殺厨に成り下がったからといって、ウララーは決して見下す心を持たなかった。
その性格が災いしてか、糞虫と呼ばれる者達にすら哀れんでしまう事がある。
『俺ってなんて優しいんだろう』と、自惚れている訳ではない。
ただ純粋に、裁く為に殺す事が心を傷めるばかりであった。
命という尊いものが軽い現実。
虐殺というストレス解消法が通用しない身体。
ウララー自身はまだ若いし、探そうと思えば別の道を歩む事はできる。
しかし、彼は絶対に職を変えようとはしなかった。
―――その理由についてはここでは記述しない。
謎は謎のまま、歯車は歯車として噛み合い、廻る。
「・・・ぁぁぁぁぁあああああああ!!!」
「ッ!?」
突如、前方から地を裂く程の悲鳴が聞こえた。
声色からして、おそらく一般AAのもの。
ウララーはそれに気付くや否や、弛緩しきっていた筋肉を引き締める。
次にほんの数秒前に起きた事を何度も反芻し、持ち前の洞察力で探る。
そして、アスファルトを力強く蹴り、声のした方へと一気に駆けた。
(どこだ―――!)
厨と成り果てた仲間を裁く事は心が痛む。
だが、罪なき者が無抵抗に殺される事は、なによりも許せないこと。
ウララーは矛盾する心と身体に舌打ちし、走りながらホルスターに収めた銃に手をかける。
131
:
魔
:2007/07/22(日) 15:53:41 ID:???
※
ウララーは路地裏へ飛び込むように入り、銃を構える。
同時に、恐らく加害者である者が奥の暗がりに身を隠す物音がした。
一瞬遅れて臓物と血の臭さが鼻をつき、その臭いのモトが目に映る。
「厄介だな・・・!」
こういった狂気に満ちた虐殺は、仕事柄よく目の当たりにしていた。
真っ赤に染ったアパートの一室だとか、街の至る所に部位をばらまいたり。
それらは己の勘と閃きで解決してきたし、その後の処理だって人差し指を動かすだけで済む。
ウララーが厄介と言ったのは、そのことではなかった。
暗がりに、犯人は目の前に居る。
アタマなんかを使わなくても、この事件は解決する。
だが・・・。
「うぁ・・・く・・・あああああっ!!」
両目を押さえ、のたうちまわるフサギコが一人。
手と顔の隙間から滲み出る血からして、眼を潰されたようである。
えげつないやり方だとか、今はそんな事を想っている場合ではない。
ウララーは暗がりに銃口を向け、グリップを握る手に力を込める。
自分が来た事に咄嗟に身を潜め、かつこちらの様子を伺っている加害者。
視認してはいないが、その気配は十二分にあった。
そのまま逃げればいいものの、獲物がそんなに名残惜しいのか。
「出てこいよ!」
声を荒げ、威嚇する。
すると、加害者はあっさりと姿を見せた。
戸惑う気配も怯えも全くなく、堂々と物影からはい出る。
その異形を、惜しみ無くウララーに見せ付けるように。
一歩一歩なまめかしく、ふらりと揺れながら近付いてくる。
血に濡れた爪で腹を撫で、性欲を逆なでするかのよう。
ウララーもそれなりの歳だし、あっさりと挑発に引っ掛かってしまいそうだ。
尤も、そいつが化け物でなければの話だが。
「びっくりして思わず隠れたけど・・・邪魔しないで」
風貌からは想像もつかない、しっかりと女性と思われる声を発する喉。
それでいて、身体の色や耳の形など、一般AAとは程遠い姿。
見た目に一番近い種だと、でぃやびぃが妥当だろう。
だが、これ程自我を綺麗に保っている者は、でぃですら見た事はない。
考えるだけ無駄、化け物は既に化け物という種族なのだ。
ウララーは思考を張り巡らせた後、そう無理矢理結論づけた。
「相手が、お前さんの獲物がアフォしぃだったらな。俺だって何も言わねェ」
強気に言い放ったつもりだが、声が震えているのは自分でもわかった。
眼で殺気を放っても、顎から滴る冷や汗は拭えない。
「アフォしぃ? 知らないわ、そんなの」
「・・・なんだと?」
「最近、ピンク色のいきものに飽きたから他のを狙ったのに。駄目なの?」
信じがたい事を問う化け物に、ウララーは一瞬目眩がした。
治安の悪いこの街でも、ここまでぶっ飛んだ考えを持ったAAは初めてだった。
絵に描いたような狂気を、そのまま持ち出した虐殺厨よりも質が悪い。
その濁った眼とエメラルドの眼というオッドアイから読み取れた感情は『無垢』。
含みも何もない、奴にとって唯の素朴な疑問だ。
(こいつ・・・)
132
:
魔
:2007/07/22(日) 15:54:11 ID:???
と、ここでウララーはある事を思い出す。
聞いた事がある。
身体能力、或いは生態など、AAの持つ何かを実験、観察していた団体があると。
目的は不透明だったが、ある日、被験体が研究員のミスで暴走してしまう。
最終的には研究所を抜け出し、皆の生活に溶け込んでしまっているという話だ。
尾鰭のついた怪談、もしくは都市伝説の類だと思っていた。
だが、この化け物はその話に出てくる被験体と特徴が酷似している。
何故早く思い出さなかったのか。
こいつはちびギコを喰らい、研究員を喰らい、そして母体であるびぃを喰らった―――
「邪魔した上、黙って突っ立ってるのはどういうこと?」
その言葉を聞き、ウララーは我に返った。
直後、全身が凍り付いたような感覚に陥る。
殺気。
化け物の表情は一変し、眼は自分の喉笛をしっかりと見据えている。
ビリビリとした空気が四肢を麻痺させ、身体をアスファルトに打ち付けているようだ。
「・・・っ!」
出かかった悲鳴を無理矢理押し殺し、しかしわずかに喉から漏れる。
化け物は、そのほんの一瞬の隙を逃さなかった。
地を一蹴りすると、血と臓を越え、フサギコを跨ぎ、一気に距離を詰める。
二人の間隔はそれなりにあった筈だが、化け物はそれを簡単に無かった事にした。
常識を超越した存在が、文字通り目の前に迫る。
だが、ウララーの身体能力も馬鹿にはできない。
こと瞬発力に関しては、人一倍優れていると自他共に認めていた。
それと、己のプライドが、『命を甘く見る奴らへの怒り』が、ウララーを突き動かす。
刹那、冷静さを取り戻したウララーは、素早く後方へ跳躍した。
しかし、それだけでは化け物の爪は回避できない。
ならばと、ここで初めて威嚇だけに留めていた銃を『殺す』為に扱う事を決意。
AAでないAAを裁く事など、誰が出来ようか。
化け物の爪が肩に触れる。
皮膚を裂き、肉を刔っていく。
熱いものが頬に当たり、鋭い痛みが身体を貫く。
持ち手の肩をやられたので、引き金はまだ引かない。
互いの顔が、目と鼻の先まで近付く。
狙いが定まっていないので、引き金はまだ引かない。
空いた手で化け物の腕を掴み、背中から倒れ込む。
ほぼ同時に腹を蹴り上げ、後方へと投げ飛ばす。
目標が視界から消えたので、引き金はまだ引かない。
直後に鈍い音と短い悲鳴が聞こえ、それに併せ立ち上がる。
化け物はガードレールにぶつかったようで、まだ俯せていた。
目標は視界に完全に捉らえた。
銃口も完璧に相手を狙っている。
切り裂かれた肩口は空いた手でしっかりと握り、反動に備える。
もう何も問題はない。
化け物が顔を上げるのと、ウララーの銃から銃弾が吐き出されるタイミングはほぼ同じだった。
増薬した訳でも、弾頭に切り込みを入れている訳でもない唯の鉛弾。
そんなものが、この化け物に通用するのか。
誰にもその答えはわからない。
鉛はそんな事を気にすることなく、目標の右胸を貫き、身体の中で進む事を止めた。
133
:
魔
:2007/07/22(日) 15:55:12 ID:???
「っっ!!・・・はあッ・・・!」
全力を出し切った、ほんの一秒にも満たない攻防。
ウララーにとっては、それが一分とも十分とも感じ取れた。
張り詰めた神経を緩めると、全身から脂汗が吹き出た。
脳と筋肉は酸素を求め、必死に取り込もうと肩で息をする。
更に追い打ちを掛けるように、肩の傷が自己主張を始めた。
受け身をとっていない為か、背中も悲鳴をあげている。
こんな状態で、また飛び掛かって来たら自分はもう何もできない。
二度も幸運は続かないし、己で手繰り寄せる気力も既にない。
しかし、
(・・・?)
化け物の様子がおかしい。
弾丸が胸を貫き、ガードレールにもたれ掛かる状態で奴はいる。
首はうなだれ、表情を汲み取る事はできない。
だが、二秒、三秒・・・十秒かかっても、その体制のままだ。
(仕留めた・・・のか?)
銃口を向けたまま、にじり寄る。
もしかしたら、気絶していたフリだとか、奴の仕組んだ罠かもしれない。
万が一の事もあるし、真っ直ぐに近付くのは危険である。
その時だった。
化け物の首が急に持ち上がり、痙攣を起こし始めたのだ。
眼はぐるぐると、虫のようにせわしなく動いている。
突然の出来事に、ウララーは心臓が跳ねたような感覚を覚える。
そして、己の悲鳴の代わりとして、再度銃が吠えた。
鉛弾は化け物の腹に潜り込み、内臓を潰す。
「キイイイイィィィィィィイイイ!!!」
それに併せ、化け物は狂ったかのように金切り声をあげた。
天を仰ぎ、眼を踊らせ、口からは噴火とも取れる程血を吐き出す。
ウララーは咄嗟に耳を塞いだ。
しかし、屋外だというのに、空気が揺れる程凄まじい雄叫び。
まるで直に鼓膜を揺さ振られているようで、頭痛さえ感じてしまう。
あまりの酷さによろめくが、ここで化け物を視界から外せば己の命はない。
歯を食いしばり、残り少ない気力をかき集めて踏ん張る。
叫び声が止み、化け物が急にこちらを向いた。
ぐるぐると回る眼球と、吐血を撒き散らす様はその異形さに拍車をかける。
ウララーはそれに驚き、一手遅れて発砲する。
が、着弾した場所は目標の後ろにあるガードレール。
不快な金属音がした時には、化け物は既に頭上を陣取っていた。
(殺られる!!)
化け物の影は大きく映り、酷く恐ろしく見えた。
ウララーは両腕で顔を庇い、力いっぱい目をつむる。
だが、聞こえたのは壁をテンポよく蹴る音と、はるか遠くで響く金切り声だった。
「・・・?」
恐る恐る目を開けると、既に化け物の姿はなかった。
後ろを振り向けば、壁に血が点々とついており、奥の方ではかなり高い所にある。
三角跳びとはいえ、かなりの幅があるここでやってのけるとは。
だが、化け物は何故あのように発狂したのだろうか。
まさかとは思うが、奴は銃という物を知らなかったのだろうか。
銃口を向けていても平気な顔、撃たれた時のあの有様。
常識はずれな能力を持っていても、化け物も未知なる物が恐ろしいのか。
「にしても、あの声は無いだろ」
ウララーはそう呟き、頭を小突いて頭痛を紛らす。
そして、もはや痙攣しかしていない被害者、フサギコに目を遣った。
134
:
魔
:2007/07/22(日) 15:56:25 ID:???
※
最後に見たのはノーネの顔だった。
直後、化け物の爪が俺の眼を覆い、潰したんだ。
俺はその痛みに耐え切れなくて、叫ぶしかできなかった。
途中で誰かの声がして、化け物は俺から離れた。
後は殆ど覚えていない。
その誰かが、化け物を追い払った時から、既に意識は朦朧としていたから。
ただ、俺に掛けてきた言葉と、その手の温もりは覚えてる。
どうしてかはわからないけど。
※
「・・・」
ふかふかのシーツの感触。
フーが最初に感じたものは、それだった。
身体に掛かる重力の向きからして、どうやら自分は寝ているようだ。
上半身だけを起こし、目を開けようとする。
だが、開かない。
何かと思い目元を触ると、ちくりとした痛みと包帯の手触り。
必死で記憶の糸を手繰り寄せ、自分の身に何が起きたのかを思い出そうとする。
と、そこで扉が開く音がして、フーは一旦思考を止めた。
「お、起きたか。一晩だけ気絶するなんて、いい体内時計持ってんな」
聞き慣れない声は、いい匂いを纏いながら近づいてくる。
おそらく、食べ物を持ってきたのだろう。
ことり、と食器を置く音がした所で、フーは問う。
「ア、アンタ誰だ?」
「ウララー。ここは俺の家」
「・・・助けてくれたのか?」
「一応『擬似警官』って職持ちだからな」
あっさりとした返答の中に、自分の語彙にはない単語が一つ。
それが気になり、再度質問を投げ掛けた。
「ぎじ警官?」
「国がな、犯罪の数に追いつけなくなったが為に置いた救命措置みたいなモンだ」
「・・・???」
まるでインコを彷彿とさせる程、フーは首をかしげる。
ウララーはそれに対し、額に手をついて軽く溜め息をついた。
と同時に、意識が回復しても取り乱さない神経の図太さに少しだけ感心した。
「あ、あとそれと・・・」
「待て」
「?」
「お前だけ質問するってのは不公平だからな。次は俺だ」
「あ・・・うん」
自分が質問をする。
自らがその状況を作ったというのに、ウララーは黙ったままだ。
風がカーテンを撫で、衣の擦れる音だけが部屋に響く。
一分程してから、ウララーは口を開いた。
「名前と、路地裏にいた理由を教えてくれ」
その声は、何かに怯えているように少しだけ震えていた。
「俺はフー。あそこにいたのは、家がないから」
「浮浪者か」
「うん・・・あの化け物は、俺が帰ってきた時にはもう・・・」
語尾が消え、俯くフー。
言葉にしていくに連れ、あの惨劇が脳裏に浮かび上がる。
時間にすれば対したものではないが、心に負った傷はかなり深い。
目を開けられない中、瞼に映るのはノーネの首だけ。
身体が震え出した所で、何かが膝の上に置かれた。
「?」
「飯だ。一人でも食えるようにパンにしといた」
少し待っててくれ、とウララーは言い残し、部屋を後にする。
扉の閉まる音がしてから、フーは膝の上のものを探り始めた。
取っ手のついた板の上に、ふんわりとした手触りの球体が一つ。
温かく、持ち上げてみると思ったよりも軽い。
それを少しずつちぎり、口の中へと運んでいく。
135
:
魔
:2007/07/22(日) 15:58:42 ID:???
パンを食べ終えたら、静寂が部屋を包み込んだ。
あまりにも静か過ぎるせいか、カーテンの靡く音が先程よりも大きく聞こえる。
今のフーには、それが夜のコオロギよりも、夏の蝉よりも煩く感じた。
目を潰され、見えるものは暗闇だけ。
その為、嫌が応でも意識が耳に走ってしまう。
化け物に襲われた時の恐怖も、そんなに直ぐに拭いきれるはずがない。
ノーネという心の依り所も、亡くなった。
怖い。
風の音も、衣すれも、なにもかもが自分を嘲笑っているようで。
こうなる位なら、せめて目でなく耳を削いで欲しかった。
フーはそう思いながら、わざと爪をたてて耳を塞ぐ。
不快な音達は、テレビに映る砂嵐のように視覚化されていく。
恐らく、不安と恐怖のせいで見える幻覚なのだろう。
無数の光の粒は、縦横無尽に暗闇を駆け巡り、それを埋め尽くした。
夢なんかじゃない。
はっきりとした意識の中、そんなものを見続けられる筈なんてない。
幻覚に幻覚が重なり、鼓動がじわじわと加速する。
誰か、これを―――
「どうした?」
扉の開く音がして、続いてウララーの声。
フーはそれに驚いて、耳を押さえていた手を掛け布団の下に捩込む。
跳ね上がった心拍数は、ゆっくりと下がっていった。
「あ、いや・・・なんでも・・・」
ボタンを押す音の後、電子音が一つ。
突如、部屋が騒がしくなる。
「っ!? な、なに!?」
掛け布団を首元まで引っ張り、縮こまるフー。
ウララーはその反応に、少しの間だけ呆気に取られた。
ノイズ混じりに喋り始めたスピーカーと、フーを交互に見遣る。
「・・・唯のラジオなんだが」
「ラジオ?」
「知らないのか?」
「・・・」
まるで電子レンジを怖がる老人のようなリアクション。
ウララーは、その初々しさだか何だかに、どこかくすぐったい気持ちになる。
ベットの傍に腰掛け、フーの頭を優しく撫でた。
「ぼーっとするだけなのは辛いだろ?」
「う、うん・・・」
それから少しの間、二人はラジオを聞きながら話し合った。
フーの心から、不安を取り除く為のウララーの配慮だ。
リスナーからのハガキを、意味不明なテンションで読み上げるDJ。
笑い声のSEが聞こえると同時に、二人もつられて笑う。
時折、フーの知らない単語が出て来ては、ウララーが解りやすく説明する。
曲が流れると、話題を変えて自分の事などを話した。
なるだけ内容を明るい方向に持っていき、互いに打ち解けていく。
番組がある程度進んだ所で、ウララーが腰を上げる。
「さて、時間だし出掛けるかな」
タイミングよく、ラジオが今の時間を知らせた。
早い人は既に仕事場に、学生は登校中の時間である。
軽くストレッチをして、棚から拳銃をホルスターごと取り出す。
「いつ頃戻ってくるの?」
フーがそう聞いてきて、天井付近に掛けている時計を見て踏み止まる。
目が見えないのに、壁掛け時計で時刻を教える事はできない。
どうしようかと少し考えた後、ウララーはスピーカーを見て閃いた。
「あー、ラジオが12時って言った頃には戻れるから」
「うん」
136
:
魔
:2007/07/22(日) 16:00:05 ID:???
※
自分は何をやっているのだろうか。
ウララーの心は、その言葉で埋め尽くされていた。
フーを助けた時、現場はそのままにして帰った。
あの時は日も落ちかけていたし、それしかすることが出来なかったからだ。
彼等は浮浪者でもあるし、何もそこまでするかと思う奴も出てくるだろう。
それでも、ウララーは化け物に襲われた命を、助けたかった。
路地裏に置いて来たフーの友人を、弔いたかった。
死体が、無いのだ。
業者が片付けたのならば、血の跡も綺麗に落とす筈だ。
だが、ここにはしっかりと赤黒く汚れたコンクリがある。
砕けた骨だって、真っ白になって一箇所に纏められていた。
誰かが、この死体を食べた。
そう思うしか、他になかった。
「・・・くそっ」
あの時、化け物は食べる事もせず遊んでいたことから、奴の可能性は殆ど無い。
骨が纏められている件に関しては、カラスや獣の類でない事も読み取れる。
ウララーが思考を張り巡らしていると、路地裏の奥からひたひたと足音が聞こえた。
何かと思い視線を向けると、薄暗い所をちびギコが歩いている。
だが、どこかおかしい。
普通のちびギコより大きめの体格で、片耳がない。
左腕は真っ黒に汚れていて、手元に目線を落とせば、ナイフが光っていた。
身体は所々血で塗れ、右手は緑色のボールを抱えていて―――。
違う。
ボールなんかじゃない。
折れ曲がった耳と、下部にあるささくれた部分に残っている血の跡。
紛れも無く、あれはここにあった死体の、首だ。
「おい!」
焦りと怒りで、必要以上の声が出た。
ちびギコの影はそれに驚き、振り向く事もなく走りだす。
ウララーは舌打ちし、同じように路地裏の奥へと駆け出した。
決して広くない空間を、ちびギコは易々と駆け抜ける。
大人のモノと思われる首と、身体と釣り合わない大きさのナイフを持ちながら。
対するウララーは、腕や脚が木材や粗大ゴミに引っ掛かり、持ち前の能力を発揮できない。
じわじわと距離を離され、その影を見失う回数が増えていく。
入り乱れ過ぎている路地裏の中、ウララーは影を追う事を止める。
息もあがり、あのまま策もなしに追っても意味がないと判断したからだ
一旦路地裏を出ようと光のさす所に向かえば、そこは鬼ごっこを始めた場所だった。
(・・・何やってんだ、俺)
落ち着いてみれば、何処か馬鹿らしくなってきた。
死んだ者は死人にならず、死体になる。
どこぞの偉い学者が言った言葉かは忘れたが、取り敢えずそう考えておく事にする。
骨の山から、なるだけ形が綺麗なものを取り出し、その場を後にした。
今日見たちびギコは、近いうちにまた出会う事になる。
ウララーは、この時点ではまだ気付いていなかった。
あの影が、治安の悪いこの街を更に混沌とさせる要因の一つということに。
―――続く
137
:
栄
:2007/07/31(火) 01:06:23 ID:???
私は幸せだった。
世間は私達をゴミや糞程の価値しかない害虫だと思っていたが、彼だけは違った。
彼…タカラ君はダンボールの中で縮こまっていた私達を家に持ち帰り、守ってくれた。
暖かい寝床をくれた。
たくさんダッコしてくれた。
ある晩、タカラ君はしぃに尋ねた。
「しぃちゃんの一番欲しい物は何だい?」
私は子供達を寝かしつけながらこう言った。
「シィチャンハツヨイカラダガホシイナ」
私はその時、この言葉が永遠に私達を苦しめるとは夢にも思わなかった…。
しぃは目を醒ました。
辺りを見渡すと、直ぐに異変に気付いた。
汚らしい壁、粗末な板の様なベッド、湿っている床、厳めしく、頑丈な扉、それは昔に、ゴミ箱の中に棄てられていた漫画を読んだ時にみた『独房』という所に似ていた。
「タカラ…クン…?」
辺りを見渡してもタカラギコも、可愛い我が子もいなかった。
しぃは扉を叩きながら叫んだ。
「チョット!!カワイイシィチャンヲコンナトコロニトジコメルナンテドーユーシンケイシテンノヨ!!」
それでも扉は開く気配は無い。
「ハニャァァ!!タカラクントベビチャンタチニアワセナサイヨォ!!コノギャクサ…」
急に勢い良く扉が開き、しぃに強烈なビンタを食らわせた。
「シィィィィ!?」
しぃの体は吹っ飛び、後頭部から壁に叩きつけられた。
「五月蝿いぞ!一体何時だと思ってんだ!!」
白衣を纏ったモララーが怒りを露わに入ってきた。
「ハギャァァァ!!クソモララーガシィヲイジメルヨォ!!!」
後頭部を押さえ、湿った床を転がりながらしぃが喚く。
「静かにしろと言っているだろが!!」
モララーが転がっているしぃの脇腹を革靴で蹴った。
「ンフグッ!!?」
しぃは脇腹を押さえうずくまった。
「これでもぶち込んでやろうか?」
モララーは懐から拳銃を取り出すと、しぃの眉間に銃口を当てた。
「何事だ?」
聞き慣れた声が扉の向こうから聞こえた。
しぃが顔を上げると、あのニコニコ顔が両手に2匹のベビしぃを抱えて扉の前に立っていた。
「タ…カラ…クン…」
しぃは喘ぎなから立ち上がるとタカラギコに這っていった。
「やぁ、調子はどうだい?」
いつものニコニコ顔のままタカラギコが尋ねる。
「タスケテ…、ダ…ダッコ…」
「もっと丁寧に扱ってくれよ、死んだりしたらどうするんだ。」
タカラギコはしぃを抱き上げて近くにいたモララーに注意した。
「す、すいません主任。」
モララーは縮まっておとなしくなった。
「うむ、まぁ、こっちもその程度で死なれてもらったらこまるからね。」
「ハニャァ!ザマーミロ!!クソモララー!!!」
しぃがモララーに罵声を浴びせる。
「それが『サンプル』モナ?」
新たな声が聞こえた。
「やぁ、所長、遅いですよ」
タカラギコは『所長』…モナーに軽く挨拶すると、
「じゃぁ、実験の成果をお見せしましょう」
138
:
栄
:2007/07/31(火) 01:06:50 ID:???
「ハニャーン♪マターリダネ」
しぃはさっきまでの事をすっかり忘れてタカラギコに抱きついている。
タカラギコは片手でしぃを、片手で白衣のポケットを弄っている。
その怪しい行為にも目をくれずに、しぃとベビ2匹は耳障りな歌を歌い始めた。
「キョウモゲンキニシィシィシィ〜♪ミンナナカヨ…」
『ターン…』
室内に突如響いた銃声。それと同時にしぃの歌が止まった。
ズキンとしぃは腹部が痛むのを感じた。
タカラギコの片手には大口径の拳銃が握られており、銃口から白煙が立ち上っている。
しぃは不振に思い、ゆっくりと腹部を見た。
しぃの腹部にはポッカリと15センチ程の穴が開いており、血にまみれた白い腸がズルリとはみ出している。
しぃは緑色の瞳がその光景を確認するや否や、一気に襲いかかってきた激痛に耐えきれず、どうと倒れた。
「ッアァアァアアァァア!!」
しぃは言葉にならない叫び声を上げ、自分の出した血の海の中を転がった。それをまるでいつもの事の様に慣れた目で見るタカラギコ達。
「ハッ…ハーッ…ハーッ…ハーッ…」
しぃは口をパクパクさせて何かを伝えようとしているが、口から漏れるのは、荒い息だけだった。
「チィ♪アニャーン♪」
産まれて間もないベビしぃ達は、今の状況を理解せずに、親しぃの真似をして床をコロコロと転がっている。
「ほう、まだ息があるモナ。普通のしぃなら即死なのに、大した生命力だモナ。」
「まだまだ驚くのは早いですよ。ご覧下さい!」
タカラギコがしぃの腹部を指差した。そこには何か、蚯蚓の様な物が多数蠢いている。
「おぉ!!何と自己再生能力もあるモナか!」
モナーが驚きの声をあげた。
「えぇ、恐らく、あれくらいの傷ならば15分程で完治するでしょう」
タカラギコは満面の笑みを浮かべている。
「一体何をしたらあんなしぃが作れるモナ?」
モナーが興奮しながら尋ねた。
「ポロロの遺伝子を移植したのです。ポロロは元々被虐AA、被虐AAの遺伝子は多少似通った所があるのです。」
タカラギコが自信たっぷりに説明した。
「チィチィ、ナッコ♪ナッコ♪」
ベビしぃが転がるのに飽きて、所構わずダッコを強請ってきた。
「ベ…ヒ…チャン…ニゲ…テ…」
しぃは痛みを堪えながら、ベビしぃ達に警告したが、2匹のベビしぃは白衣の裾を引っ張り、ダッコを要求している。
「…五月蝿いゴミだ…」
モララーは、白衣の裾を引っ張っているベビしぃを一瞥した。
「これでも使うかい?」
タカラギコが取り出した厳ついショットガンを見て、しぃは目を見開いた。
「ベ、ベビチャン!!ニゲテ!!!」
しぃが幾ら叫んでも、ベビしぃは何の警戒もしないで、いや、寧ろ図々しくもごね始めた。
「カワイイチィチャンヲナンデナッコチナイノヨゥ!!!」
「マンマニイイチュケマチュヨゥ!!」
「あ〜、どっちから殺ってやろっかな〜」
怒りのボルテージがMAXまで到達したモララーは、銃口を右に左にとベビしぃ達に向けて選んでいる。
「チィ?コレハナニデチュカ?」
片方のベビしぃがショットガンに興味を持ったらしく、銃口の中を覗き込んだ。
「よし!貴様に決定!!」
モララーはピタリとベビしぃに狙いを定めた。
「チィ?ナンデチュカ?」
ベビしぃは次に何が起こるのかと期待の眼差しで銃口を見つめている。
「ヤメテ!!オナガイ!タカラクン!!!」
しぃが懇願しても、誰一人聞き入れた者はいなかった。
「ナニモオコリャナイジャナイデチュカ!!チィヲヴァカニチュルヤチハ…」
「もう何も言ってくれるな!!」
モララーが勢い良く引き金を引いた。
139
:
栄
:2007/07/31(火) 01:07:22 ID:???
『ズドン!!』
モララーが引き金を引くと同時にベビしぃの顔面に、無数の銃弾が浴びせられた。
しぃとは違った、小ぶりの耳を、まだ母親の母乳しか飲んだことのない小さな口を、純粋無垢な緑色の瞳を、まだ丸みの帯びた、あどけないほっぺたを、容赦なく銃弾は破壊していった。
頭部を破壊し終わった銃弾は、次に小さな体を壊しにかかった。
銃弾は柔らかい肉にめり込み、肋骨や背骨をいとも簡単に粉砕し、肺をズタボロにし、心臓を一瞬にしてミンチにし、白い、生暖かい腸を体外に引きずり出し、小さい手足を弾け飛ばして独房の壁に紅い華を探せた。
「ヂブシッ!!?」
ショットガンの洗礼を受けたベビしぃは1秒足らずで、もの言わぬ血溜まりと化した。
弾き飛ばされた手足が、生きている芋虫みたいに蠢いている。
「ベビチャン…シィノベビチャン…」
我が子が一瞬にして血肉に変わったのを、しぃは只見ているしかなかった。
「チ、チィィィィッ!!!」
もう一匹のベビしぃが姉妹の変わり果てた姿を見て初めて危機を悟った。
「もう一匹はどうします?」
スッキリした声でモララーが尋ねた。
「じゃ、私が殺るモナ」
モナーは懐から注射器を取り出すと、腰を抜かして失禁しているベビしぃの頸部に突き刺し、中の液体を注入した。
「チィニイッタイナニ…ヲ…ウッ…」
罵声を急に止めて、ベビしぃは口に手を当てた。
「ゲェエェェエエエェッ!!!」
声と同時に短い指の隙間から、紅い鮮血を勢い良く吹き出した。
「ゲェェェッ!!グブェェェェ!!!」
ベビしぃの目は大きく見開かれ、大粒の涙が頬を伝って血と混ざる。
やがてベビしぃの穴という穴から出血し、ベビしぃは顔面から倒れ込んだ。
「一体何を挿れたのですか?」
ビクンビクンと激しく痙攣しているベビしぃを横目に、タカラギコが答えた。
「なに、最近発見された新種のウイルスの改良種をちょっと挿れてやっただけモナ。」
モナーの言葉にモララーの顔が青ざめる。
「ウイルスって……感染の危険性は…?」
モララーが恐る恐る尋ねた。
「只のお遊び用だから感染力はないモナ」
「シィノベビチャンガ…フタリトモシンジャッタ…」
しぃが涙を流しながら呟いた。無惨な姿の我が子を見つめながら。
「大丈夫だよ。死ぬことはないから、君もベビも。」
タカラギコが微笑みながらしぃに話し掛ける。
「シィタチハタダマターリシタイダケナノニ…シィタチハタダマターリシタイダケナノニ…」
しぃは壊れたオーディオみたいに同じ言葉を繰り返した。
「…五月蝿いよ」
タカラギコが言う。それでもまだしぃは呟く。
「シィタチハタダマターリシタイダケナノニ…シィタチハ…」
タカラギコの表情が変わった。
「黙れっていってんだよ!!」
タカラギコが塞がりかけの穴を蹴飛ばした。
傷口の治りかけの皮膚がいとも簡単に破けて、血の滲む真っ赤な肉が露出した。
「ハギャァアァアァアア!!」
しぃは傷口を押さえてうずくまった。
押さえている手の間から血が流れて下に血溜まりを作り始めた。
「まったく…何がマターリだ!抱いてやったらつけあがりやがって…!!」
タカラギコの豹変ぶりにしぃはただ震えるだけであった。
「ゴフッ…コン…ナノ…マタ…リジャ…ナ…ヨ…」
「マターリとかほざく口はこの口かぁ?」
タカラギコはモララーからショットガンを引ったくると無理矢理しぃの口に銃口をねじ込んだ。
「ヤ…ヤヘテ…オナハイ…」
銃口はまだ熱を帯びており、銃口に口腔をつけずに懇願した。
「はっ!!僕は今まで何をしてたんだろう!!!」
タカラギコは我に返った様に銃口を口から離して、しぃを抱き締めた。
「ごめん!ごめんよ!!しぃちゃん!!」
タカラギコは左手でしぃを一層強く抱き締めた。
「ハニャン…タカラクンノダッコ…アタタカイ…」
しぃは安堵の笑みを漏らし、静かに目を閉じた。
しかし、しぃは気付かなかった。タカラギコの右手の人差し指はしっかりと引き金に掛かっていたことを…。
140
:
栄
:2007/07/31(火) 01:07:42 ID:???
突如響いた轟音。それと同時にしぃの両脚が吹き飛んだ。
「シィィィッ!!?」
しぃの身体はタカラギコの腕をすり抜け、血溜まりの中に落ちた。
しぃは何が起こったか理解出来ず、起き上がろうとした時に、ようやく両脚がなくなった事に気付いた。
「シィノ、シィノアンヨォォォォ!!」
その光景を見て、3人の科学者は腹を抱えて笑った。
「HAHAHA!!『アンヨォォォォ』だってよ」
「なーにが『タカラクンノダッコ…』だよ、あまりにキモかったから思わず引き金を引いちまったよ」
タカラギコが口を尖らせ、しぃの声を真似た。
「アンヨォォォォ!!!アンヨガァァァァッ!!!!」
しぃは緑色の目から大粒の涙を流しながら、脚のあった所を手で押さえている。
「やかましい!!この生ゴミがぁ!」
タカラギコは銃身を持ち、柄でしぃの頭をスイングした。
「ハギャグェッ!!」
しぃの頭は『バキバキ』と頸の骨が砕かれていく音と共に、180゜回転した。
「ハガァッ…ア…アガ…」
普段なら死んでいる程の重傷を負っているが、しぃに移植されたポロロの遺伝子の効果で、しぃは死ぬ事を許されなかった。
「うわっ、こんなになってもまだ生きてるよ」
「今更ながらぞっとするモナ」
モナーが目を細めて言い放った。
タカラギコは銃を持ち替えて、銃口をしぃの口に再びねじ込んだ。
「ハ…ハカラフン…」
しぃは痛みと恐怖で目に涙を浮かべていた。瞳にはにっこりと微笑みかけているタカラギコが写っている。
『ズガン!ズガンズガン!!!』
タカラギコは何の容赦も無くショットガンの引き金を連続して引いた。
何十もの小さな鉛弾がしぃの口腔を貫き、しぃの肩から上を消し飛ばした。
最早胴体だけと化したしぃの残骸は、堅いベッドの上に落ちた。
ベッドの上の薄汚い布が、しぃの胴体から流れ出る赤黒い液体によって塗り替えられていく。
しぃの胴体はベッドの上でまな板の上の魚の様にのたうち回っている。自身の血で白い毛皮が紅く染まり、活きの良い鯛の様にも見える。
「口が無くなっても五月蝿いものですね。」
タカラギコが目を細めてそれを一瞥した。
「激しいボディランゲージモナね。」
モナーが呆れた様に呟いた。
「ですが、こうも五月蝿かったらまともに寝れませんよ。」
モララーが困った顔をする。
突然、タカラギコが立ち上がって、廊下に掛けてあった手斧を取り、ベッドの上でもんどり打っているしぃの残骸に叩きつけた。
手斧はしぃの腹部に突き刺さり背骨を砕いた。
141
:
栄
:2007/07/31(火) 01:08:33 ID:???
しぃの胴体は腹筋をする様に、上半身を折り曲げた。痛がっているのだろうか、身体が小刻みに震えている。
「痛いのかい?それは可哀想に(笑)?」
タカラギコが笑いながら、無言の胴体に話しかけた。
胴体に口が残っていたならば、その口は凄まじい叫び声を上げていただろう。
…脳が消し飛んでも痛みを感じる身体とは…、我ながら素晴らしい発見をしたものだ…、タカラギコは心の中で神に感謝した。
痛みに貫かれて悶えている身体から、タカラギコは手斧を乱暴に引き抜こうとした。だが、手斧は腹部を貫いて、下のベッドにしっかりと固定されていた。
タカラギコは更に力を入れ、手斧を上下に動かして無理矢理引き抜こうとした。
『グヂョッ…ニヂュッ…』と血だらけの臓物が手斧に擦れて粘着質な音をたてている。
胴体は激痛から身を捩ったり痙攣したりしている。
『ニチャァ…』と、粘っこい血液と腸と共に、やっと手斧が抜けた。
「面白そうですね。俺にもやらせて下さいよ。」
タカラギコはモララーに手斧を渡した。
モララーは手斧を片手に、独房に入っていき、芋虫の様に蠢いている上半身に向かって、手斧を叩きつけた。
手斧は丁度、上半身の中心に命中した。手斧は肋骨を砕き、その衝撃で折れた肋骨が体外に突き出てきた。手斧は心臓を抉り、2センチ程の切り込みを入れた。
脳が無くなっても動いていた心臓から勢い良く血が噴き出した。
傷口から血が噴出し、モララーの身体を血だらけにした。それでもモララーは何度も何度も手斧を叩きつけた。肋骨の幾つかは肺に突き刺さり、背骨は形もない。首があった所からは、叩きつけられる度に、露わになった気道から血が溢れ出る。
「アヒャヒャヒャヒャ!!!」
斧がベッドを叩く音と、モララーの奇声、そして血肉や臓物がたてる陰湿な音が独房の中に響いている。
5分後、独房から全身血まみれのモララーがぬっと現れた。その姿は、今し方、戦場で敵兵を惨殺してきた兵士の様だった。
「どうだった?」
タカラギコが訊いた。
「いやぁ、楽しかったです。骨を全部粉砕してやりました。これで、暫くの間は身動きが取れないでしょう。」
モララーが息を切らしながら言った。
『コン』独房の内側から何かが聞こえた。
「…アケテヨゥ…イヂャーヨゥ…」
ぼそぼそと何かが呟いている。
タカラギコが扉をゆっくりと開けた。扉の前にいたのはベビしぃだった。
「イチャーヨゥ…イチャーヨゥ…」
ベビしぃは血と涙の混ざった液体を目から流して這いずってきた。
「大した生命力モナ!あのウイルスをもう無力化したのかね?」
モナーが興奮して叫んだ。
「オヂ…タン…ナ…ゴ…」
ベビしぃはモナーの白衣の裾を弱々しく掴み、ダッコを要求した。
モナーは無言で、ベビしぃを掴み上げた。だが、抱き締める事はせず、汚れた雑巾を持つ様に背中の毛皮を摘んでいる。
「チィ…ナッコ…ナ…ゴ…」
ベビしぃは宙に浮いたまま、泳ぐ様手足をばたつかせ、モナーに近づこうとしている。
モナーはそれを一瞥し、白衣の下から拳銃を取り出した。
「研究材料は背中の皮膚と血液だけで結構モナ。残りは独房に入っておくモナ。」
モナーはそう言うと、立て続けに4発、発砲した。
「フヂジッ!!?」
雷鳴に似た轟音が鳴り響き、ベビしぃの身体は宙を舞った。モナーの片手には煙を吐く拳銃、もう一方には、血にまみれた毛皮があった。
ベビしぃの身体は壁に激突し紅い華を咲かせた後、バウンドして床に叩きつけられた。
ぱっくりと割れた頭から夥しい量の血が溢れ、頭蓋骨の一部や脳漿が紅い川の中に点在している。
ビクンビクンとうつ伏せのまま痙攣しているベビしぃを後目に、モナーは扉を閉めた。
「バイバイ、また明日モナ」
扉が閉まると、ガチャガチャと鍵の掛かる音がする。モララーが鍵を閉めたのだろう。しぃは段々と構成されていく感覚器官で、それを察知した。
「イヤ…オイテカナイデ…タカラ…クン…」
構成されかけの脳でしぃは叫んだ。しかし、その声は誰の耳にも届かなかった。
続けるつもりです・・・。
143
:
魔
:2007/08/06(月) 23:32:49 ID:???
(関連作品
>>36
〜
>>74
〜
>>103
〜
>>128
)
天と地の差の裏話
『まとめ』
最初はメイがモララーに捕まる事から、最後はウララーが路地裏で何かを見つける事まで。
全ての出来事が終わってから、一ヶ月が経った。
昨今、この街は『片腕が黒い少年』の話で悪い方向に賑わっている。
しかし、彼等は、この物語の歯車達はそんな話なんて露ほどにも思わない。
唯、自分のしたいこと、目標、目的の為だけに生きた。
そして今、歯車は更に噛み合い、隣り合う歯を牙に変えて互いを傷つける。
一ヶ月の間に、それぞれの牙を研ぎ、磨いてきた。
一ヶ月の間に、それぞれの念いは膨らみに膨らんだ。
誰が生き残るかなんて、誰も知る筈がない。
街の一角にある、寂れた商店街。
平日でさえ、殆どの店にシャッターが下りている。
人気があまりない事から、被虐者が身を潜めるのに良い環境である。
逆に言えば、加虐者にとっても良い環境でもある。
今日もまた、この商店街で虐殺が行われようとしていた。
「ヒギャアアアア!! 誰か、誰かぁぁぁ!!」
尻尾があった所から鮮血を撒き散らし、何者かから逃げているちびギコ。
恐らく、加虐者に襲われたが、代償は尻尾だけに留まったので、ここに隠れようと走ってきたようだ。
前述の通り、被虐者にとってここは防空壕のようなもの。
店と店の間に入り込めば、たやすく身をくらます事も可能だ。
しかし、ちびギコは必死になりすぎて、自分の犯したミスを知らないでいた。
「アヒャ! やっぱり糞虫は糞虫だナァ!」
ちびギコの後方で、追う者の影が見える。
赤い身体をしたAAが、種特有の笑い声を発しながらちびギコを追い掛けていた。
彼はアヒャという名前で、加虐者でもあり、ちびギコの尻尾をもぎ取った犯人でもある。
何故、被虐者を見つけておいて、そのまま虐殺せずこのような事をしているのか。
答えは至極簡単である。
逆『ヘンゼルとグレーテル』だ。
童話の中で、彼等は森の中で迷わないようにと、パンくずを進路に撒き目印にしていた。
この場合、趣旨は違えど、ちびギコの尻尾の付け根から溢れる血が、パンくずの役割を果たしていた。
アヒャはこうする事によって、尻尾をもいだ被虐者の後を追い、その住家と家族を見つける。
鴨が葱を背負うというより、鴨自身が葱の在りかを教えてくれているようなものだ。
必死になっているちびギコは、それに全く気付いていない。
振り切ったと思っても、また現れる事に吐き気を感じながら、商店街を縦横無尽に駆ける。
命懸けの鬼ごっこは、あっさりと幕を閉じた。
商店街の地理を把握しきれていないちびギコは、ついに袋小路に入り込んでしまった。
「あ・・・あぁ・・・」
上を見上げると、その場にあるものを積み上げれば登れる位の場所に屋根があった。
どう考えても、そんな事をする前に捕まってしまう。
真後ろでは、死神が不快な笑い声を響かせている。
恐怖で脚は震え、溜まりに溜まった涙はぼろぼろと流れ出す。
振り向けば、滲んだ視界の中央に嫌らしく笑う者がいた。
そいつの手には鈍く光る包丁がある。
つい先刻、簡単に尻尾を切り離したあの忌ま忌ましい得物。
次にそれで切り離されるのは何処だろうか。
想像しただけで、腰が抜けてしまった。
「ナんだ、闇雲に逃げてタだけかア」
「や、やだ・・・やだぁぁ・・・」
いつもは傲慢で鈍いちびギコでも、アヒャからだだ漏れる狂気にすぐに侵された。
だから、振り向いた今やっと、自分が撒いた血の痕に気付いたのだ。
誰がこんな頭の悪そうな奴に猿知恵を与えたのか。
そう心の隅で毒づきながら、必死で命乞いをする。
もはや助かる事よりも、一分でも、一秒でも長くこの地の息を吸っていたいと。
144
:
魔
:2007/08/06(月) 23:34:39 ID:???
既に下半身は恐怖でガチガチになり、両手を使って後ろに下がるしか他にない。
尻尾の血が、まるで失禁したかのように見え、酷く情けなく思えた。
不意に、アヒャが一気に距離を詰めてきた。
大きな二本の赤い脚が間近に迫り、それだけで心臓が跳ねる。
見上げると、何故か吊り上がった口に包丁の柄をくわえていた。
ふらふらと揺れる銀色の刃は、まるで自由落下を行おうとするギロチンのよう。
それが処刑で扱われるならば、苦しみは少ない筈。
だが、今から行われるこれは、紛れも無い虐殺だ。
「ヒャ」
間抜けな笑い声と共に、包丁が落ちた。
すとん、という心地良い音がして、それは地面に刺さった。
ちびギコの脚を、そのまま輪切りにして。
「ぇ、ぁ、ひ、ヒギャアアアアァァァ!!!」
鋭い刃物で素早く切られると、直ぐに痛みを感じない。
そんな事よりも、脚を切断されたショックの方がはるかにでかかった。
赤く濡れた包丁の奥で、自分の腿が転がるのが見える。
身体を動かすことだけが、彼等被虐者にとっての娯楽であり、全てでもある。
同じ種でも、達磨は疎かカタワですら恥さらしとして扱われてしまう。
それは、彼等にとっての暗黙のルールなのか、単に慈しむ心を持っていないだけなのか。
どちらにせよ、ちびギコはもう仲間と一緒に遊べなくなった事にただ絶望する。
宝物を壊された子供のように喚き、次に来る虐殺の恐怖に身を震わせた。
「アーッヒャヒャヒャ! 腹に刺サんなくてよかったなぁ!」
包丁を拾い、刃の腹についた血を舐めとるアヒャ。
自分の得物の切れ味に恍惚の表情を浮かべ、かつこちらを睨んでくる。
銀色のそれの奥にある、細く歪曲した眼が悍ましくてしょうがない。
再度包丁をくわえ、剥き出しになった牙が笑う。
今度は先程よりも、わざとらしく刃を揺らしている。
もう駄目だ。
このまま、細切れにされて死ぬのか。
何回包丁が身体を通過するのだろうか。
そんなの、嫌だ。
「誰かぁ・・・」
弱々しく呟いた時、光が見えた。
涙で滲んだ視界の事だし、最初は見間違いかと思った。
だが、今のちびギコでもそれは包丁の刃とは別のものと理解できた。
アヒャの口元で鈍く光るそれのはるか上、登ろうとした屋根。
その上で、小さな影が銀色に輝く何かを持っている。
「・・・ン? ドうした」
ぴたりと泣き叫ぶのをやめたちびギコを見て、アヒャは違和感を覚えた。
包丁を握り、口から離して、じっくりと観察をしてみる。
どうやら自分を見ていて、失神したわけではなさそうだ。
涙に濡れたつぶらな瞳は、自分より上の空間を見詰めている。
そこにあるものに怯えているわけではない。
ただ純粋に『何だろう』といった気持ちのようだ。
「なンナんだぁ?・・・」
ちびギコの心を掴んだ何かが、気になってしょうがない。
疑問は膨らみ、我慢できなくなって空を仰ぐ。
と、視界の端に、何か黒い影が動くのが見えた。
そして、アヒャが最後に見たものは、空から降ってきた小さな殺人鬼だった。
どすん、と鈍い音がその場に響き渡る。
アヒャに飛び付いた影は、その手に握っていた光るものを眉間に突き立てていた。
刀身はわからなかったが、柄まで減り込んでしまっていたので、恐らく即死だろう。
「ア ヒャ」
間抜けな笑い声を一つあげると、アヒャは白目を剥いて仰向けに倒れた。
眉間にあるナイフを手放すのが遅れたようで、影も一緒に地面に投げ出される。
尻餅をついた影は、身体についた砂を掃い次の行動に移った。
145
:
魔
:2007/08/06(月) 23:39:05 ID:???
※
普通のちびギコより少し大きい身体。
顔の左、彼から見て右半分は、綺麗な茶色をしている。
真っ黒に透き通った目は、刔られたのか片方しかなかった。
立派な耳も、同じく片方だけもがれている。
「あ・・・」
そして、彼の身体で一番の異彩を放つ部位があった。
左肩から指先にかけて、どろどろに黒く汚れていたのだ。
しかしそれはよく見ると、重度の火傷だとわかった。
炭化した皮膚と、所々で血と膿が混ざって固まっている。
助かった事による安堵の溜め息と、奇妙な風貌のちびギコに驚いた声が重なった。
アヒャの眉間からナイフを抜こうとした彼はそれに気付き、こちらに目を向ける。
「・・・なに?」
「いや、あの・・・助けてくれて、ありがとうデチ」
同じ種族のようだし、やはり感謝位はしなくては。
そう思ったのだが、やはり見てくれの酷さに目を逸らしたくなる。
「助けたつもりは、ないよ」
ナイフを抜くのに苦戦しながら、彼は意外な返答を返してきた。
「え?」
「僕は、このヒトを食べたかったから」
衝撃的な言葉に、脚が切断された事なんてどこかへ吹っ飛んでしまった。
それでも一応、止血の為に傷口を押さえるのだけれども。
ナイフをアヒャの頭蓋から抜き取った彼は、刃についた体液を舐めながら続ける。
「このヒト達はね、虐殺に夢中になると注意力が散漫になるんだ」
建物の上に居たのは、先程のように頭を狙い打つ為とのこと。
入り組んだこの商店街では、今のようなケースはそれなりにあるらしい。
つまり僕、被虐者達は彼にとって『仕掛けていないエサ』。
ここの他にも、地の利を活かした自分用の狩場があるんだ。と彼は言った。
「な、なんでこんなヤツを食べたがるんデチか?」
もしかして、自分をこんな姿に変えた虐殺厨への復讐なのか。
そう問い質してみたが、彼は首を横に振り、アヒャの腕に刃を入れてこう返してきた。
「生きたいんだ」
その時、彼の黒い瞳の中に、更に黒い何かが垣間見えた。
負の感情ではなかったが、その悍ましさに身震いしてしまう。
死体から腕を切り離した彼は、決して綺麗ではない肉の切り口をかじる。
もぐもぐと少し嬉しそうに咀嚼する様は、野性児とか浮浪者とかを彷彿とさせた。
暫く彼の食事を眺めていた時、不意に、商店街の通りの方から話し声が聞こえた。
段々と大きくなってくることから、こちらに近付いてきているようだ。
声色からして、虐殺厨かもしれない。
「!」
彼はその声に気付いた途端、肉を食べる事を止め、置いていたナイフを乱暴に掴む。
そして、脱兎の如くその場から消えた。
「あっ!?」
片脚の僕を、置き去りにして。
『うわっ! な、なんだ?』
『お、おい、今のって『片腕』じゃね?』
『って事は、まさか・・・!』
奴らの慌てたような声から、どうやら彼は虐殺厨を正面突破したようだ。
奴らはかなり近くまで来ているようで、会話の内容をしっかりと聞き取る事ができた。
しかし、奴らは彼を追い掛けることなく、こちらに迫っている。
「ああっ!」
「アヒャ君!」
複数の足音が消えた時、既に視界にそいつらはいた。
真っ先に死体に飛び付き泣きわめく者と、その場でオロオロする者。
そして、僕を睨んで青すじをたてている者の三人だ。
正直、どうでもよくなった。
一分でも一秒でも長く生きたいという願いは叶ったし、これ以上何も望まない。
脚もないし、希望も潰えた今、最期に面白いものが見れた。
そんな不思議な気持ちになった僕は、三人に向かってこう言ってやった。
「そこの奴ら、僕を殺せデチ」
146
:
魔
:2007/08/06(月) 23:39:45 ID:???
※
折角仕留めたのに、戦利品は腕一本だけ。
無理をして死ぬよりは大分マシではあるが、少々勿体なかったかもしれない。
「・・・」
アヒャを殺したちびギコは、そう思いながら商店街をひた走る。
彼の名前は『メイ』。とあるモララーから、その名前と傷を貰った過去がある。
ひょんなことから虐待の監獄を抜け出す事ができたメイは、必死に生を求めた。
雑菌だらけでも、喉を潤すのなら川の水だって飲む。
カラスに交ざって被虐者の死肉を食べる他、獲物を自分から仕留める事もあった。
何故、メイが肉に固執するのか。それには理由がある。
あの時モララーがちびギコの肉を持て成してくれたのと、逃げ出した初日の食事がそれだったからだ。
空腹という至高のソースもあったし、それに魅了されてしまうのは仕方のないこと。
更に、AAでなく肉が街を歩いていると考えれば、飢える事はおそらくない。
「ふう」
ヒトの気配が全くしなくなった所で、メイは走ることを止める。
持ってきた腕から血が垂れていない事を確認し、辺りを少し見回す。
と、ちょうど良い閉所を見つけ、そこに入り腰を下ろした。
早速戦利品に口を付けようとしたら、逃げて来た方角から悲鳴が聞こえた。
独特な声色のそれは、多分さっき出会ったちびギコかもしれない。
(・・・仕方ないよね)
自分には負傷者を助ける余裕もないし、寧ろこちらが助けてもらったようなもの。
虐殺厨をその場に留める撒き餌にもなった名も知らぬちびギコに、メイは軽く黙祷した。
しぃや、加虐者等の身体の大きい奴を仕留めると、やはり処理に困る。
今回のようなケースは何度もあったし、その都度死体を残してしまっていた。
自分の姿を見た者も数え切れない程居ただろう。
その中に、捕まえてしまおうといった考えを持った奴もいる。
メイは、そいつらに対しては酷く敏感でいた。
とにかく日の当たらない所で生活し、屋根のない所で夜を明かすことは当たり前。
人気がすれば、それが自分を狙っているか否かを観察。
そうであれば逃げ、違った場合は狩りに移行したりと忙しい。
だから、自分が『片腕の少年』として噂になってる事なんて気にしている暇はない。
被虐者として、生き延びる為にしている行動に過ぎない。
それなのに。
肉を食べ終わり、骨をかじって遊んでいた時のことだった。
物影から、一匹のちびしぃが出てきたのだ。
「・・・誰? ここで何をしてるの?」
桃色の毛並みに赤いアスタリスク、エメラルドグリーンの瞳。
外見だけならば美しく見える、至って普通のちびしぃだ。
口調はしっかりしたものだったが、その目には既に軽蔑の念があった。
彼女はメイに問い掛け、近付こうとする。
※
『弱き者は、強き者に弄ばれる』
この街では被虐者でも、自分より弱い者には虐殺をする。
メイだって、街の住人に変わりはない。
やり手が誰だとか、相手がどの種族かなんて関係ない。
理由すら無視されて、街では毎日虐殺が行われるのだ。
※
メイはくわえていた骨を手に持ち直し、ちびしぃに投げ付ける。
「ぎゃッ!?」
軽快な音とともに骨はちびしぃの額に当たり、跳ね返ってメイの足元に落ちた。
それを拾いあげ、今度はナイフで斜めに切り込みを入れ、二つに割る。
ちびしぃはその場にへたりこみ、額を押さえて泣いていた。
「ちょっと! 何す・・・っっ!!」
喚き散らす前に、メイは即座に距離を詰め、その小さな顎を掴む。
間髪入れずそのまま押し倒し、先程割った骨をちびしぃの手の平に突き立てた。
147
:
魔
:2007/08/06(月) 23:40:48 ID:???
「―――!!」
地面は舗装されておらず、しかも軟らかい土であった為か、綺麗に打ち付ける事ができた。
ちびしぃは目を見開き、大粒の涙を撒き散らしながら叫ぼうとする。
が、メイがしっかりと顎を掴んでいるせいで、悲痛の声は口の中で消えた。
それに重ね、駄々をこねるようにバタバタと手足を動かし、必死で抵抗をする。
メイはそれも気にせずに反対側の手も押さえ、更に力を込めて骨を突き刺した。
「ッッ!!! ーーッ!!!」
既に腹の上に乗っかかっていたので、ちびしぃが暴れるのを幾らか抑えることができた。
さるぐつわの代わりになるものがあれば、安心して行えるのに。
そう思いつつ、メイはちびしぃの顔色を観察する。
普通ならば、頭の弱そうな暴言ばかりを吐く種族ではあるが、
口を押さえてみると、涙でぐしゃぐしゃになりつつもこちらを睨む眼。
その中には何か力強いものがあるような気がした。
「君達って、喋らなかったら美人なのにね」
哀れみを込めた一言。
その言葉にちびしぃの眼は緩み、穏やかな表情を見せた。
呆気にとられた、といった方が正しいのかもしれないが、メイにはそう見えたのだ。
表情を崩し、再び暴れてしまう前に首に手をまわす。
「っ!? か・・・ぁ・・・」
あっさりと泡を吹き、白目を剥いてちびしぃは動かなくなった。
しかし、ゆっくりと手を離せば、腹部が再度上下動を始めた。
実はメイは首を絞めたのではなく、頸動脈を押さえただけ。
そうする事により、脳に酸素が行き渡らなくなり、すぐに意識を失わせることができる。
道具もなしに簡単に気絶させるには、この方法が手っ取り早い。
叫び声に気を配る心配もなくなり、メイは次の行動に移った。
まずはその場に置いていたナイフを拾い、刃を指で摘んで汚れを落とす。
そして辺りを見回し、さるぐつわの代わりになるものを探した。
今いる所のほんの少し先に、水場があるのがわかった。
ナイフを一旦ちびしぃの足元に置き、そこへ向かう。
コンクリでできた柱に、取って付けた様な蛇口。
それの裏側に、泥水の入った錆びかけたバケツと、虫喰いのようにちぎれたホース。
メイはバケツを覗き、音をたてずにゆっくりと傾ける。
(・・・あった)
どろどろとした水の中に、手頃な大きさの灰色の布が落ちている。
それを拾い、一応ではあるが蛇口を捻って水にさらし、洗う。
ついでに蛇口に口をつけ、喉を潤すことにした。
少し臭かったし、清潔感が全くない所なのであまり飲めなかったが。
布を緩く絞り、ちびしぃの元へと戻る。
ひゅうひゅうとかすかに鳴る咽と、合わせるように上下動する腹。
まだ気絶しているようで、だらし無く開いた口からは涎が垂れていた。
捻った布には後頭部までまわす位の余裕はない。
なので、すぐに吐き出せないように口の中に詰め込んだ。
顎をこじ開け、ぐいぐいと小汚い布を入れていく。
窒息されてはまずいので、半分程詰めた所で手を止める。
と、ちびしぃはしたぶくれのお世辞にも、いやお世辞でも美人とは言えない顔になってしまった。
「・・・うわ」
白目も剥いてしまっているし、これでは新しい妖怪である。
メイは見た目だけの美人を自分で崩した事に、少しだけ後悔した。
とりあえずだがさるぐつわを噛ませることができたので、早速虐殺を始める。
ナイフを手に取り、ちびしぃのか細い右腿に刃を宛がい、引いた。
「・・・」
血がいくらか吹き出るが、ちびしぃに反応はない。
桃色の脚はぱっくりと割れていて、見るだけで痛々しいというのに。
まだ脳の酸素が足りていないのか、はたまた鈍いだけなのか。
メイはちびしぃの様子を伺いながら、更に刃を進めた。
148
:
魔
:2007/08/06(月) 23:42:18 ID:???
三、四回と滑らせ、骨が見えた所で異変が起こった。
わずかだが、桃色の身体が痙攣している。
恐らく、覚醒し始めているのだろう。
ならば、もっと大きい刺激を与えれば起きるはず。
メイはそう考え、ナイフを骨に刺す形で振り下ろした。
「ーーーッ!!!」
ばきん、と骨が割れる乾いた音とともに、ちびしぃの身体が跳ね上がる。
口を押さえていた時と同じ声をあげ、ばたばたと暴れだした。
頬が膨らむまでに布を詰め込んだので、そう易々と吐き出せはしない。
とてつもない痛みの中、そのうえ叫びながらそれを行うのも困難だ。
声にならない声を精一杯あげ、ちびしぃは酷く発狂した。
実はというと、骨を割った時にもう脚は切り離していた。
ここでその脚を見せてしまえば、更に煩くなることはやらなくてもわかる。
寧ろ、メイからすると暴れるのを止めて欲しいところ。
もう片方の脚は激しく動き、押さえ込むのも面倒だ。
静かにしてもらおうと、半ば投げやりに手を打つ事にした。
「見て」
ちびしぃの横でしゃがみ、眼前に自分の左腕を持っていく。
すると、一瞬にしてちびしぃの顔は青ざめ、暴れるのを止めた。
炭化し、焼けきれなかった個所は血と膿でドロドロになった腕。
やはり他人からすると、この腕は生理的に不快感をもたらすものらしい。
自分でもグロテスクだとは思うが、そこまで嫌がられると正直遺憾だ。
ただ、見せた者は皆黙り込むから、便利といえば便利である。
そんな左腕でも、メイは一つ気掛かりな事があった。
「・・・この火傷はね、一ヶ月前に虐殺厨から貰ったんだよ」
自分に問うように、ちびしぃに囁く。
黒い掌を桃色の頬に宛て、艶かしく指を這わせる。
すると、ちびしぃの身体はメイの悍ましさと恐怖感で一気に震えだした。
一ヶ月もの間、全く治らない怪我なんて聞いたことがない。
炭化した所はともかく、血が未だに止まらないというのはおかしい。
壊死しないだけ、使えるだけマシではあるが―――。
「ム・・・ムゥ、ウ・・・」
メイの心とは裏腹に、ちびしぃはひたすら震えている。
焦げた指から逃げるように首を傾け、強く閉じた瞼からは大粒の涙。
布の詰まった口からは、抑止を願っているらしき声が漏れていた。
「哀れむことすらしてくれないんだね」
溜め息まじりに小さく言い放ち、立ち上がる。
自分に手に穴を開けられて、かつ脚を切り落とされた者にそんなことを願う方が無理があった。
が、やはりこの傷だらけの身体を否定されると、僅かながら怒りが込み上げてくる。
痙攣とも取れる程震えているちびしぃの左脚。
今度は股の部分、胴体に一番近い関節に刃先を突っ込んだ。
「!!!」
同時にその桃色の脚は暴れだし、爪先をぴんと伸ばすような状態になる。
ナイフを刺したままなので、ちびしぃが脚を動かす度に切り込みがじわじわと広がっていく。
流れ出る血の量も増え、美しい毛並みは体液と土の混ざった泥で汚れていった。
このまま観察するのも一興だが、それでは苛立ちを残して終わってしまいそうだ。
メイは暴れ狂う脚を、その汚らしいと見られた左手でわしづかみ、押さえる。
そしてナイフを鋸のように前後に走らせ、肉を切り裂いていった。
「ムゥ!! ムゥゥー!!!」
まだ叫び続けるちびしぃに、どこにそんな元気があるのかと問いたくなる。
打ち付けた両手からは血が溢れているものの、外れる気配は全くない。
首を左右に振り続け、頬を地面にこすりつけているせいか顔まで泥塗れになっていた。
149
:
魔
:2007/08/06(月) 23:43:07 ID:???
切り込みを入れること数回、ちびしぃの脚に異変が起きた。
地面に穴を開けそうな勢いで暴れていたのが、段々動きが鈍くなってきている。
上半身は相変わらずだし、疲労してきたわけではなさそうだ。
左手を離し、ナイフを浮かせた所で理由がわかった。
ちびしぃの脚の筋肉の、大半を切断していたからだ。
こうなれば、後は引っ張るだけでちびしぃの両足はなくなってしまう。
メイはナイフを置き、傷口の両端を掴んで一気にちぎった。
「・・・?」
ちびしぃが変だ。
脚は既に切り離したのに、叫びのトーンに変化がない。
もしかして、神経も一緒に切断していて、感覚はとうの昔になくしていたのだろうか。
そう思ったメイは、両足を持ってちびしぃの眼前に置いた。
「これ、君の」
「・・・!! ムゥゥゥゥゥ!!!」
切断面から見せたせいか、その発狂っぷりに拍車が掛かる。
エメラルドグリーンの瞳は、血走った目と奇妙なコントラストを醸しだしていた。
(頃合い・・・かな?・・・)
流石にこれ以上痛め付けてしまえば、ちびしぃはいろんな意味で飛び立ってしまうだろう。
味のなくなったガムを噛みつづける余裕はないし、仕上げに取り掛かる。
脚をその場に置き、ちびしぃの後方にまわる。
次に脚のあった所の真ん中にある秘部に、ナイフの刃先を上にして入れる。
二種類の体液が漏れだすが、ナイフはもう血で塗れているので気にしない。
更に奥深くに入れ込むものの、未だに反応は変わらない。
多分、痛覚神経を刺激し過ぎて感覚が麻痺しているのだろう。
或いは、錯乱の度合いが痛みを感じない程までになっているのか。
刃を押し上げ、秘部から腹を裂いていく。
ちびしぃの体液が手を濡らし、その生臭さにうっすらと吐き気を覚えた。
と、胸の辺りで刃が止まってしまい、それ以上先に進まなくなる。
考えるまでもなく、そこには肋骨があった。
「・・・このまま喉までヒラキにしてやろうと思ったのに」
引くだけでは切れない骨に重ね、ぬるぬると滑る手とナイフ。
そのような状態では、いくら力を入れようが意味がない。
忘れかけていた苛立ちが募り、冷静さが失われていく。
半ば投げやりになったメイは、ちびしぃの身体からナイフを抜き、逆手に持ち直す。
そして、血だらけの桃色の胸目掛けて、殴り付けるように振り下ろした。
「グ、ブッ!! ブギャエエェェェ!!!」
と、口から布を飛び出させ噴水のような吐血をするちびしぃ。
その様はほんの少し美しく、とてつもなくグロテスクだ。
心臓と肺を貫き、なおかつ拳も加わった一撃。
穴があき、圧迫された胸から体液と空気が一気に口へと向かった。
そうなれば、詰め物も何もかもが口から飛び出る。
命の灯を爆発させられたちびしぃは、空に撒いた吐血を顔に浴びて事切れた。
釘ではなく骨が掌を穿ち、十字架でなく土への張り付け。
まるでキリストのようではあるが、神々しさなんてどこにもない。
腹を槍で貫かれるどころか、グシャグシャに裂かれているし、後光は唯の汚い血。
哀れといえば哀れである。
「・・・そうだ」
凄まじい姿になったちびしぃを眺め、何かを思い付いたメイ。
ナイフを再度持ち直し、露になった臓器に手をかける。
くすんだ色をしていても、しっかりと光を反射するはらわたは、気持ち悪い事この上ない。
だが、それは大元を探れば『肉』の一つである。
旨い不味いの理由から、一般ではお目にかからないものだって一応食べられる。
ちびしぃだから証拠を放置してもいいのだが、アヒャの腕だけでは満足していない胃袋がある。
水場もあるし、どうせなのでとメイはちびしぃを食べることにした。
150
:
魔
:2007/08/06(月) 23:43:42 ID:???
※
摘出したのは、肝臓と小腸、大腸の一部。
消化器官は食べやすい部類には入るが、まるまる取り出すのは無理があった。
だだ長いそれを一々引っ張り、更に中を洗浄するのは骨が折れるからだ。
臓器と布を抱え、ナイフを口にくわえて水場に向かう。
メイとしては早くそれを洗い、胃袋におさめたい所だったが、その前に身体が汚れている。
形だけでも清潔にしておかないと、雑菌のせいで訳のわからない病気を発症しては本末転倒だ。
蛇口の下に屈み、水を浴びる。
生ぬるい水が全身を包み、ちびしぃの体液を落としていく。
腕だけならまだしも、腹にも体液がついてしまっているので、少々面倒である。
自分の毛の色が見えた所で、今度は虐殺で使用した布を洗う。
そして水気を絞り、身体を拭いていった。
準備が整った所で早速、小腸の中に水を注ぎ、洗浄する。
消化されかけた物や排泄物が押し出され、やがて透明な液体だけが流れてくる。
(こういう所に、必ず蛇口があったら嬉しいんだけどな)
水の流れる音を聞きながら、メイはそう思った。
全てを洗い終え、食事にかかる。
小さい布の上に、山のように置かれたはらわたから、まず肝臓を取る。
次に食べやすくする為、ナイフで器用に切り込みを入れていく。
皮や筋肉とは違った感触と切れ味に、楽しさすら感じた。
「・・・ん」
一切れを口に運べば生臭さと鉄分が鼻をつき、柔らかくとも固い歯ごたえが口の中に広がった。
加虐者の腕や脚とは違い、決して美味ではないが独特の味がある。
メイは更にナイフを走らせ、せわしなく肝臓にがっついた。
小腸や大腸は非常に固いせいか、刃も入りづらいしより細かくしないと噛み切れない。
だから、肝臓は全部平らげたものの、腸だけは半分近くを残してしまった。
(洗い損しちゃった、かな)
メイは布で口を拭き、余った腸はちびしぃに投げ付けた。
その時だった。
べしゃり、と腸がちびしぃに当たると同時に、通りに人影が見えた。
メイは『しまった!』と思うより先に、猛ダッシュでその場から逃げ出す。
とはいえ、この閉所の最奥までは確認していないし、運が悪いと袋小路だ。
「っ! みんな!! こっちだ!!」
だから、AAに見つかろうが何だろうが、メイは通りの方へと駆けた。
どうやら影は先程の虐殺厨の仲間のようで、その形相は凄まじかった。
股をくぐるのが二回目となると、相手もやすやすと逃がしてくれはしない。
そいつは仲間を呼びつつ、その手と目はこちらを捕らえんとばかりに構えていた。
「あああぁぁぁァァ!!」
対するメイは、自分に鞭を打つことを兼ねた咆哮を響かせた。
姿勢を低くしたまま駆け、ナイフの切っ先を相手に向ける。
そして、すれ違い様に襲ってきた手を切り付けた。
「ぎゃあっ!?」
相手はよろめき、道を開けてしまう。
そこからはメイの土壇場であり、忍者か兎かの如くその場から姿を消した。
※
その後、救急車から本物の警察が来る程までに、事件は発展する。
アヒャの仲間は、友人が殺されたことに理性を失いかけるまで怒り、悲しんだ。
そのせいか、アヒャに襲われていたちびギコを、片腕が黒い少年とグルだったと決め付けてしまう。
警察も報道陣も、そのことを追究せずに鵜呑みにしてしまった。
それ以降、住人は被虐者が片腕が黒い少年と繋がりがないかを気にしながらの虐殺しかできなくなった。
『一人で虐殺は行うな』。『警戒心を怠らず、みんなで楽しい虐殺を』。そんな用語まで生まれてしまう始末。
最終的に、この商店街は街から破棄され、洗浄という名の大虐殺が行われる。
―――これはまた、別の物語。
もし機会があれば、またその時に。
151
:
魔
:2007/08/06(月) 23:44:53 ID:???
※
今は、日が最も高い位置に昇り、下降していこうとする時間だ。
朝と昼の兼用として、アヒャの片腕とちびしぃの内臓を食べたメイ。
場所を移し、今度は夜の為の食べ物と寝床を探していた。
商店街からそれなりに距離のある、田舎っぽさが残る地域にメイは来た。
家より畑の方が目立ち、起伏の激しいところから、より身を隠しやすい。
その分、毒をもった虫や蛇など、虐殺厨以外の危険も増えてくる。
狩場としてはあまり利用もしていないここで、多少のリスクを背負いながらの探索。
隣り合わなかった歯車は、新しく噛み合っていく。
「・・・」
聞こえるのは、風が木を撫でる音と、虫の声だけ。
虐殺厨が歩き回っていないのは嬉しい事だが、少しでも騒げばすぐに見つかりそうだ。
細心の注意を払いながら、メイは地理を把握するためひたすら歩く。
土でなく、芝生のように雑草が生い茂る公園についた。
遊具は大半が錆び付いていて、とてもだが遊べる状態ではない。
そんな公園にメイは入り、警戒しながら辺りを散策する。
と、視界の中で公園にそぐわない何かを見つけた。
端の方に視線を移すと、そこにやたらと大きい段ボールがあった。
遊具とは正反対にまだ新しめのそれは、小さい鳴き声を漏らしてかすかに揺れている。
覗くまでもなく、あの中にはしぃの親子がいる。
ナイフをにぎりしめ、早速その段ボールへと近付く。
が、二、三歩と歩み寄った所で、メイは足を止めた。
(・・・まだ、様子見だけにしておこう)
身に降り懸かる危険が殆どない所で、こういった者を発見するのは幸運ではある。
しかし、その幸運を全て拾わなければ死ぬというわけではない。
とりあえずこの家族は保留として、他の場所へと移動する。
公園よりさほど離れていない所に、廃屋があった。
蔦で被われた壁と窓に、瓦の重みにすら堪えていない屋根。
フェンスと木に囲まれ、ボロボロの木材が積まれた庭。
近くにはAAが住んでる家屋があまりなく、寝床として利用するにはいいかもしれない。
それまで、虐殺厨にバレなかったらの話だが。
メイは建て付けの悪い扉を出来るだけ静かに開き、足を運んだ。
中に入ってみると、外観よりもあまり形を崩していなかった。
たいした大きさではなかったのに、家具がないせいか広く感じる。
奥の方は畳と大黒柱が主なつくりで、仕切りとして扱われる戸や襖は全部取り払われていた。
(かくれんぼは、できないかもね)
押し入れを覗き、天井裏は潰れているのを確認すると、メイはそう思った。
更に案の定ではあるが、台所やトイレ、風呂場などの蛇口を拈っても、水はでなかった。
雨と風をしのぐだけしか、他にこの廃屋の使い道はなさそうだ。
とりあえずここも保留とし、外に出ようとする。
「・・・あれ?」
入り口の扉が、何故か閉じていた。
もしかして、既に誰かがここに目を付けていたのか。
考えるより先に、踵を反し中庭へと駆ける。
おかしい。
ちゃんと警戒し、他人の気配がないかを確かめてここに来た。
今だって、他人の気配も何もない。
なのに、それなのに―――。
「ッ!?」
中庭に飛び込んだ所で、やっと他人の気配がした。
それも、血の匂いと殺気を醸し出しながらの凄まじいもの。
メイは即座に向き直り、ナイフを構える。
まるで呪いか何かをかけられたかのように、身体が上手く動かない。
普通なら、ここで対峙なんて馬鹿なことはしない筈なのに。
『逃げられない』。
もしかすると、思考よりも素早く動き、更に速く身体はその答を出していたのかも。
でも、折角手にした『生』を、もう手放す事になるなんて。
そんなの、認めたくない。
152
:
魔
:2007/08/06(月) 23:46:16 ID:???
破裂しそうな心臓と、粗い呼吸を必死で整えながら、メイは考える。
どうにかすれば、この状況から逃れ出る方法がある筈だ、と。
だが、目の前にいる相手を、
自分は、この『化け物』を相手に出来るのだろうか。
「やっと見つけた・・・お会いできて嬉しいわ」
艶かしい動きと声色の、奇妙な風貌の女はそう言った。
全身は痂と火傷で茶褐色になっていて、見るだけで痛ましい。
それに対し、指先に一つ一つ刃をつけたかのように、鋭い爪を持っている。
メイは、そいつに殺されかねないというのに、どこか自分と重ねてしまう。
傷だらけの身体と、ナイフ代わりの爪。
もしかしたら、このヒトも生きる為にこうしているのでは、と。
「入り口を閉めたのは、キミなの?」
恐る恐る、問い質してみる。
「ええ、そうよ。いつもあなたの事、見ていたわ」
「・・・殺さないの?」
「殺してほしいの?」
「・・・ごめんなさい」
「あはっ、面白いコね」
※
あっさりと打ち解けてしまった。
どうやら、先程の威圧は自分をその場に縫い付ける為のようだった。
メイは殺気に怯えた事を恥じ、女は驚かせた事を謝罪した。
女がしたことは、予想とほぼ同じであったが、目的は正反対だった。
AAをおもちゃのように扱い、種族を無視した虐殺を生き甲斐としているようだ。
というのも、女曰く『種族なんて知らなかった。いろんな色をしているのはそのせいだったの』。とのこと。
少しどころか、物凄い勢いで世間知らずの女に、メイは別の意味で恐怖した。
質問してばかりでは相手に失礼なので、何か知りたい事はないかと聞いてみる。
すると、女は一瞬悩んだ後、目を輝かせながらこう言った。
「私ね、私、あなたのこと、好きなの」
「え?」
「『片腕が黒い少年』って、いろんな所で聞いたの。ほら、あなたの腕、黒い」
聞き慣れた言葉を放ちつつ、女はメイの左腕をつつく。
世間知らずでやりたい放題な考えを持つ者にまで、噂は広まっているのか。
メイは落胆するが、女は逆に喜びを隠せないという態度だ。
「ちいさい身体なのに、いっぱいおおきいいきものを殺してるんだもの。凄いわよ」
と、女は今までにメイがしてきた事を話していく。
ほんの数時間前の、屋根から飛び降りて虐殺厨を殺したことから、逃げ出してすぐの殺人まで。
断片的ではあったが、生き証人のような女の記憶力とストーカーぶりに身震いしてしまう。
「一応、気配とかに気をつけてたのに・・・」
「遠くから眺めていた時もあるわ。いきものと遊ぶより、あなたを見ていた方が楽しかった」
隙を見つけておいて、殺さなかった理由はそれのようだ。
彼女の言う『遊ぶ』、つまり虐殺をしている時、やり方などが自分好みだとか。
それに加え、死体となったAAを解体し、食事をする様がかわいくて仕方ないとのこと。
その事に、メイは苦笑いしかできなかった。
「今日は、もう遊ばないの?」
何の含みのない、純粋な質問。
もう警戒する意味もないので、そのままの気持ちを言ってみた。
「いや、夜の分の肉が必要なんだ。どこにあるかはもう見つけてるけど」
「じゃあ、私がとってくるわ」
「・・・えっ?」
意外な返答に、片方しかない自分の耳を疑った。
「お礼とお詫びを兼ねて、お手伝いがしたいのよ」
153
:
魔
:2007/08/06(月) 23:47:28 ID:???
「お詫び?」
「実はね・・・」
申し訳なさそうに目を逸らし、彼女は続ける。
自分がしてきた虐殺と、それが一般の世界に与えた影響を。
『物陰に身を潜め、襲い掛かる』、と虐殺と行動のあり方が酷く似ている二人。
しかし、彼女の場合は、現場に立ち寄った者をも殺している事が多い。
ということは、証拠は残しても目撃者はいないということになる。
後は至極簡単に考えつく流れだ。
ろくすっぽに捜査しない警察は、似たような事件とそれをごちゃまぜにする。
彼女の話題が表に出なかったのも、おそらくそれが原因だろう。
「じゃあ、行ったこともない所でも噂が流れてたのは、キミだったの」
「そうかもしれないわ。ごめんなさいね、あなたの邪魔しちゃって」
確かに、迷惑だったかもしれない。
初めてやって来た地域でも、何もしていなくても追われている時は最悪だった。
どうしてここの住人が知っているのかと、見出だすことができない答を探すのにも神経を擦り減らした。
「知らず知らずの内に、嫌がらせまがいのことをしたのだから、ね」
「・・・」
彼女の思考や、その心内は口から出た言葉が全てだった。
疑心暗鬼になる必要もなく、これなら任せても良いかな、とメイは思った。
「この近くの公園で、しぃを見つけたんだ」
「?」
「子供がいたようだし、僕一人だと手に余りそうだから、それをお願いしたい。かな」
「わかったわ。我が儘聞いてくれて、ありがとう」
「こちらこそ」
※
日も傾き、木々の影が伸び始める時間。
その影は暑さを凌ぐには十分過ぎるどころか、薄暗ささえ感じる公園に二人は来ている。
入り口から五メートル先に、その段ボールはあった。
「アレね?」
「うん」
大胆に公園を横切る女に対し、メイは端の方をこそこそと走る。
天敵となる虐殺厨がいないとわかっていても、やはりああいった真似はできなかった。
背後から襲われただけで、隙をつかれてしまっただけでも終わってしまう命。
彼女のように、殺気だけで獲物を捕えたり、虐殺厨を簡単に返り討ちにできるような力があれば。
(もっと・・・強くならないと)
そんなことを考えながら、ひたすら気配を殺し、歩く。
段ボールとの距離は縮まり、女はそれの前に立ち、メイは近くのベンチに身を隠す。
「こっちで見ないの?」
「周りのこととか、念のため」
「ふうん」
※
どこに基準を定めたらいいのかはわからないが、とりあえず女が段ボールを覗き込んだ所から。
―――虐殺が、始まった。
「あら、あら・・・かわいい子達ね」
すやすやと寝息をたてて、一匹の親しぃと三匹のベビしぃが丸くなっている。
そんなほほえましい光景に、不本意ながら笑みがこぼれる。
早速段ボールの中に手を突っ込み、先ずは親しぃの首根っこを掴み、ひょいと持ち上げた。
皮に爪が食い込んでも、それでもまだ寝息をたてつづけている。
あまりの熟睡っぷり、或いは神経の図太さに、少し呆れてしまう。
が、この可愛い寝顔が血と涙でぐしゃぐしゃになるのを想像すると、先程とは違う意味で笑ってしまう。
「ふふっ」
女は親しぃの頬にキスをすると、そのまま後方に投げ捨てる。
桃色のAAは、物凄い勢いで芝生の上を滑り、公園の端にある木にぶつかった。
「シィィィィッ!?」
どうやら木に衝突したショックで覚醒したようで、親しぃは急に泣き叫ぶ。
状況を把握するどころか、草と土塗れになった擦り傷だらけの身体ばかりを見て悶えているばかりだ。
その隙を狙い、女は段ボールの中のベビを次の目標にする。
どうやらこちらも目を醒ましたようで、三匹共に覗き返していた。
親は外で酷い目にあっているというのに、小さく「チィ」と鳴き擦り寄ろうとしてきている。
154
:
魔
:2007/08/06(月) 23:48:07 ID:???
(まあ、まあ。綺麗なオメメ)
幼い頃であればひたすら清らかであるベビしぃ。
それだけを切り取って見てしまえば、何故こんな可愛い者達が殺されなければならないのかと考えたくなる。
が、今ベビの目の前にいる者は『化け物』である女だ。
慈愛の心なんて、母性なんてかけらも持っていない女は、もはや虐殺の二文字しか頭になかった。
「それ」
爪を翻し、一薙ぎ。
轟音と共に段ボールは爆発し、形を失って辺りに散らばった。
中に居たベビ達も、同じように様々な大きさの肉片となって投げ出される。
(うわ・・・!)
小道具もなしに、瞬きをする間にそれを細切れにした。
その瞬間を見ていたメイは、女の持つ力に、恐怖と興奮という二つの感情が重なる。
笑う様とその見てくれは畏怖の象徴でもあり、また目標でもある。
メイの求める『生き延びる』という願いは、彼女が全てを体言していた。
女はまだ悶えていた親しぃの前に立ち、こちらに気付くのを待つ。
「イタイ、イタイヨゥ・・・ハニャッ?」
「おはよう、お寝坊さん」
親しぃは女に顔を向けた途端、一気に青ざめた。
次にそいつの後方に広がる赤と、ぐしゃぐしゃになった段ボールを見て、絶望した。
「ア、アァ、ソンナ・・・ベビチャ・・・」
「あなただけは形を残してあげる」
呟き、鯉のようにぱくぱくと動く親しぃの口の中を覗く。
タイミングをあわせ、それが大きく開いたところで、爪を突っ込み舌をちぎった。
「ッ!!? ギャブアアァァァ!!」
血が噴水のように口から溢れ、言葉でない声がこだまする。
「ゆっくり遊ぶ暇はないわ。さあ、さあ、噛み締めましょう」
顔を押さえ突っ伏す親しぃを無視するように、桃色の肩に手をまわす。
そして、肩甲骨ごと引きはがすように、腕をもいだ。
「ギャッ!! ブアアアァァッ!!! ガ―――」
突っ伏した状態から、飛び上がるような形で海老反りになる。
二、三回叫んだかと思うと、急に声をあげるのを止め、仰向けに倒れた。
どうやら上を向いたせいで、口内に残っていた舌が落ち、気道を塞いでしまったようだ。
両腕なしにがくがくと暴れる様は、まるで新しい生き物のよう。
呼吸をしたくて必死になり、泣くことすら忘れてしまっているようだ。
「まあ、まあ、面白い動きね」
そんなことを言いつつも、虐殺の手は休めない。
もぎ取った腕を丁寧に置き、暴れ狂う脚を押さえ付ける。
しかしなかなかに抵抗してくるので、多少荒く脚の付け根を潰した。
と、親しぃは身体を弓のように張り、痛みに酷く悶絶する。
喉に落ちた舌のせいで、苦しさに苦しさが重なっていく。
段々とその動きは鈍くなっていき、ついには肉塊となった。
「・・・ふふ、お疲れ様」
(・・・凄い)
その一連の流れは鮮やかでもあり、指先一つ一つの動きすら美しかった。
冷静に見れば、奇形とも化け物とも取れる姿である彼女に、メイは心を奪われていた。
巷では本当に化け物と呼ばれている、あの女に。
「これでいいかしら?」
親しぃの腕と脚をまとめて抱え上げ、女はメイに問う。
「うん。できれば、身体の方も持ってきてほしいかも。腕は僕が持つから」
「まあ、まあ。見た目よりも食欲旺盛なのね」
と、二人はそんなやり取りをして、廃屋へと向かった。
公園には、嵐が通ったかのような跡を残しつつ・・・
155
:
魔
:2007/08/06(月) 23:49:13 ID:???
※
夜になり、望月が廃屋を照らす。
青白く光る自分の身体と、彼女の横顔がなかなか幻想的だった。
持ってきたしぃの遺体は、残さず綺麗に食べてしまった。
二人居たからというのが原因でもあるし、なにより寝床の近くで腐らせてしまったら不快でしかない。
文字通り骨と皮だけになったしぃは、庭に散らしておいた。
「今日は楽しかったわ。ありがとう」
横になろうとした時、女は唐突に話し掛ける。
振り向けば、自分に背を向けて月を眺めている彼女の姿があった。
「どこか行く場所があるの?」
「ないわ。ただ、一緒に居たら目立っちゃうかもしれないでしょ」
まだお話したいけど、と彼女は続け、俯く。
メイだって、その通りとは思いつつ、まだ彼女と一緒に居たいと心のどこかで願ってしまっていた。
だが、それではお互いの為にならない。
「・・・」
「またいつも通り、それぞれ違う場所で生きましょう」
そう言って、彼女はゆっくりと歩き始める。
「待って!」
「・・・何?」
「名前・・・教えてなかったから。僕は、メイって名前があるんだ」
風が、頬を撫でる。
ほんの少しの間だけ、同じ時間を過ごしただけなのに。
何故こうも惹かれてしまったのか。
それは、メイにも、女にも、誰にもわからなかった。
「・・・私ね、子供の頃、白くて、ガラス一枚しかない部屋で育ったの」
「えっ?」
「大きくなって、自分からその部屋を出た時、ガラスの下に『V』って彫られてた」
「それが、君の名前?」
「わからないわ。その頃はずっと、遊ぶことと食べることしか頭になかったから」
「・・・」
「メイ君・・・だっけ。また、機会があれば、その時は一緒に遊びましょ」
そう言うと、Vはその場で跳躍して夜の闇に消えた。
※
僕が、被虐者でなければ。
Vが、化け物でなければ。
この街に、虐殺がなければ。
いろんな者に不思議な体験をもたらす少年は、そんなことを想っていた。
生き延びる事以外にも、新しい願いが湯水の如く溢れ出す。
―――また、会えるかな。
いや、次は僕から逢いに行こう。
片腕が黒い少年は、次に叶えるべき事を定め、床についた。
続く
384
:
淡麗
:2007/09/06(木) 14:39:43 ID:???
本スレデビュー作、いきます
【マッチ売りのベビ】
①
「マッチ… マッチ カッテクダチャイヨォ… 」
「マッチハ イカガデチュカァ… ヨクモエル マッチデチュヨゥ」
アブ板シティの目抜き通りに、ベビしぃのマッチ売り姉妹がいた。
人々は家路を急ぐもの、これから繁華街へくりだすのか うほっな表情のもの
すでに一杯ひっかけたのか、顔を赤らめているもの・・・
決して人通りがまばらというわけではなかった。
しかし、ベビたちの前で足を止めるものはいない。
ライターだって100円で買えるいまどき、マッチを買うものはいない。
それにしぃが売るものだなんて誰も買いたいとは思わない。
むしろ
「往来の邪魔だ!」
と蹴飛ばされないだけ幸運でもあるのだ。
それでも夕闇はどんどん迫ってくるし、街並みを通り抜ける風も大分冷たい。
冷たい、というより「木枯らし」と表現するほうが正しいかもしれない。
季節は秋深まっているのだから。
「アニャァ… ダレモ カッテクレナイネ…」
「チィ、モウ ヤデチュヨゥ! ハヤク カエリタイデチュヨゥ!」
とうとう耐えかねて、ベビの一匹がぐずりだした。
もう一匹のベビも、ぐっと涙をこらえてそっと寄り添う。
「ミィモ カエリタイデチュ… オナカ チュキマチタ…」
「オテテモ アンヨモ チュメタイ デチュ… コンナノ マターリ ジャナイデチュ…」
木枯らしのなか、大分長いことマッチを売り続けていたのであろう。
ピンク色のお鼻も、淡い桜色のお耳も、今では真っ赤になっている。
マッチの入った籠を持つ小さなオテテは、すっかりかじかんでしまい、手を開くのもやっとの状態だ。
ちっちゃなアンヨもすっかり冷え切ってしまい、痛みすら感じている。
うちに帰りたい。
そう思うのだが、帰るわけには行かなかった。
「 コノママ カエッタラ ママニ チカラレマチュ…」
そう、この幼い姉妹に『マッチ売り』を命じているのは、他でもない姉妹の母なのだ。
「……マンマ、ダッコ チテクレナイ デチュネ…
アンナノ マンマジャナイ デチュ! ギャクサツチュウ ト イッショデチュ!」
「デモ マエハ トッテモ ヤサチイ ママ デチタヨォ…」
姉妹の母親は、いわゆる「アフォしぃ」だった。
姉妹が生まれた当初は、確かに可愛がり世話もしてくれた。
しかし姉妹がベビしぃになった頃、母しぃには男が出来た。
以来母しぃは、この姉妹がすっかり疎ましくなったのだ。
今まで養育費としていたお金は全て男との交際に消え、
それでも足りない分は、姉妹を使い金を稼がせている。
母しぃにとって姉妹はお荷物でしかないが、こうやって寒い街路に立たせ、大して売れもしないものを売らせ
売り上げがあれば全て取れば良いし、寒さで野たれ死ねばそれに越したことは無い。
そのくせ二人がすっかり冷え切った体でうちに帰ってきても、売り上げが無ければ激しく叱りつけた。
それでも姉妹はこんなどうしようもない母親を、未だに母として慕おうとする。
それは時々みせる昔のように優しい母の一面があったから。
だがその「優しいお母さん」は、単にその日男と愛し合い非常に気分が良いだけのことで、
姉妹のことを愛しているからではない。
たまに与える甘いお菓子も、男からの貰いもので自分の口に合わなかっただけ。
そんなことを知る由も無い姉妹は、自分たちが良い子にすれば、母の言いつけをちゃんと守れば
また昔のように優しい母でいてくれる・・・そう信じている。
完全に「虐待」の泥沼の中にいるのだった。
385
:
淡麗
:2007/09/06(木) 14:40:40 ID:???
②
「チィタン、モウスコシ ガンバルデチュ。 キット シンセツナ ヒトガ カッテクレルデチュ。」
「…ウン デモ モウ オテテモ アンヨモ チュメタイデチュ…」
ハァッとかじかんだ手に息を吹きかけ、少しでもぬくもりを得ようと試みる。
ほんの一瞬だけ暖かさを感じるが、すぐに冷たい木枯らしによって温もりは奪われてしまう。
再びかじかみ始める手を見つめ、ベビたちはより悲しみにくれる…
ふと、ミィと呼ばれているベビがかごの中のマッチを見つめ、何かを考え始めた。
自分たちが持っているのは、マッチの入った籠。
そして自分たちが今求めているのは、ぬくもり…
「ハニャッ! コノ マッチデ アタタマリナガラ ウレバ イインデチュ!
ソウスレバ マターリシナガラ マッチ ウルコト デキルデチュヨゥ!」
「ハニャァァ! スゴイデチュヨ! ミィタンハ カシコイ デチュゥ!」
本来売り物であるはずのマッチを消費してしまったら、それこそ問題なのだが
ミニマム脳なベビたちにしては十分考えて導き出された結果なのだろう。
ミィはさっそく籠からマッチ箱をひとつ取り出し、シュッとマッチをする。
シュワッと音を立ててマッチの炎は二人をやさしく照らす。
「ハニャァァ… アッタカイ…」
「ハニャーン… マターリ デチュヨゥ…」
二人はマッチの灯に手をかざし、そのぬくもりを感じていた。
しかしそれも束の間のこと。
マッチ一本の炎はたちまち風に吹き消されてしまう。
「ア アニァャ・・・」
「キエチャイ マチュタ…」
やや呆然と見つめる姉妹。
ベビたちにとってマッチの炎はもっと強く燃え続けるだろうはずのものだったのだ。
「モウイッカイ ヤルデチュ!」
「ウン! 」
いともたやすく消えてしまったマッチの残りくずを捨て、新たなマッチをする。
シュバァ…
リンの燃える香りを立てながら、再びマッチに灯がともる。
二人は小さな炎に小さなオテテをかざしてぬくもりを得る。
「ハニャ…オテテモ アッタカーイ デチュ」
「チィノ オテテモ!」
小さな炎でも、二人の冷え切った小さなオテテを暖めるには十分な炎なのかもしれない。
小さな炎を、今度は大切に大切に、消えないように注意しながら燃やして暖を取る。
しかし、ぴゅうと吹いた風が、いとも簡単に吹き消してしまった。
「ア、アァ…」
「マタ キエチャッタ… モウイッカイ ヤリマチュヨゥ!」
「デモ、ミィタチガ ツカッチャッタラ マタ ママニ チカラレマチュ」
「ウゥゥ… チィタチハ マターリ デキナイ デチュカ…」
温もりを得たい。
たったそれだけの願いも自分たちには適わないのだろうか
そんな悲しみに二人が支配されかけたときだった。
386
:
淡麗
:2007/09/06(木) 14:42:04 ID:???
③
「話は聞いたんだからな! ぐすっ」
「グスッ もう心配いらないモナ。」
勢いよく登場したのはモナーとモララーだった。
しかもなぜか、わざとらしくむせび泣いている。
「?? オニィタンタチ ダレデチュカ?」
突然現れた二人に姉妹は驚き、後ずさりする。
そりゃそうだ。
優しく微笑みながら、ではなくむせび泣き…見ようによっては「漢泣き」している
二人組みが登場したのだから。
しかし、そんな心配をよそにモララーは涙を拭きながら、姉妹に声をかける。
「さっきから君たちの事を見ていたモナよ。
こんなに寒いのに、大変だったモナね。辛かったモナね。
でも、もう心配いらないモナ!」
「あぁ!ベビちゃんたちはマッチで温まりたいんだろう?
だったら俺たちがそのマッチを買ってやるんだからな!」
「マッチ カッテ クレルンデチュカ??」
「ああ!」
「そうモナ。それにそんな小さなマッチじゃ十分温まらないモナよ。
お兄さんたちが、そのカゴのマッチを全部…じゃ厳しいから、
半分買い占めてあげるモナ!」
「ハニャ?! ハンブン カッテ クレルンデチュカ?!」
「ハニャーン! オニイタン タチ マターリノ ツカイ デチュネ! チィ ウレチイ デチュヨゥ!」
「よ〜し!そうと決まればまずは場所を移動しよう!
こんな風の通り道じゃ、すぐに消えちゃうんだからな!
裏の空き地ならば風も通らないし人目にもつかないから
安心して火をつけて温まることが出来るよ!」
「じゃあさっそく移動モナ!ベビちゃん達、おいで。ダッコで移動モナ♪」
「ハニャ! ダッコ?! ダッコ チテ クダチャイ!」
「アニャ! ミィモ! ミィモ ダッコ チテクダチャイ!!」
ダッコにすぐに反応した姉妹は、モナーの腕に飛び込んでいく。
小さなベビをひょいっとダッコするモナー。
その顔は優しさにあふれている。
「アニャァァン… マターリ デチュヨゥ…」
「オニィタンタチ ヤチャチクテ テンチチャマ デチュ…」
「はははッ 天使だなんて大げさモナ。」
「そうだよ。今幸せを感じているのは俺たちのおかげなんかじゃなくて、
今まで辛いことを我慢して耐えたベビちゃん達の頑張りがあるからだよ。」
「アニャァァ…チィタチ ガンバッタカラ マターリデキルンデチュネ!」
「ミィタン、ヨカッタネ! ウレチィネ! イッパイマターリナンダヨ!! 」
「ハニャー… ホントニ カゼガ フイテコナイデチュ」
「サムクナイネ 」
「そうだろう、ここなら風も吹き込んでこないから、ゆっくりと火に当たることが出来るよ。」
モナーとモララーが連れてきたのは、ちょうどビルの間にぽっかりと開いた空き地。
なるほど、確かにここならば吹き込む風はなく、マッチのような小さな炎で暖を取るには最適だ。
「ネェネェ、オニィタン アレッテ ナンテカイテルノ? 」
ふと、ミィが壁に書かれた文字を指差して尋ねた。
そこには、スプレーで綺麗に落書きされた文字がでかでかと書かれていた。
「 虐 殺 愛 」と。
387
:
淡麗
:2007/09/06(木) 14:43:10 ID:???
④
「あぁ、あれね。あれは『抱擁愛』って書いているんだよ(笑)。」
「そう、ホウヨウ。ダッコって言う意味だよ(笑)」
にたにたと笑いながら、全く逆の意味を伝える二人。
当然ベビたちに文字が読めるわけが無い。
「ハニャァァ! ダッコ?! チィ ダッコダイチュキ! 」
「ミィモ ダッコ ダイチュキデチュヨゥ! ヤッパリ オニィタンタチ ダッコノ テンチチャマデチュヨゥ! 」
自分たちの運命がしっかりと決まってしまったわけだが、無知というのは悲しいかな。
未だにこの二人がマターリのつかいだと信じてやまない。
文字が読めなかっただけではない。
「虐殺愛」と書かれた文字の後には、真っ白い、大きな十字架が描かれていたのだから、二人が天使と
勘違いしたのも無理はなかった。
すっかり自分たちを信用しきっているベビたちを優しく地面に置き、モララーは空き地の隅から何かを持ってきた。
それは一斗缶のようなもの。
重そうに抱える様子から、中身は液体であろうことが予想される。
「さ、さっそくベビちゃん達をあったかくしてあげなきゃな!
…そのまえに、まずはこれを…!」
というなり、手にした一斗缶のようなものからミィにバシャバシャ〜と中の水をかけた。
「ウミャァァァァ!! チュ、チュメチャイデチュヨゥ!! チャムイデチュヨゥ!! 」
すっかりずぶぬれになってしまい、一気に寒がり始めるミィ。
中の水は腐っていたのだろうか。
なにやら刺激臭もあたりに立ち込める。
「イヤァァ…ン ミィタンヲ イジメチャダメェ! 」
チィは慌ててモララーの足元に駆け寄り、ポカポカとその足を叩き始める。
もっともベビのネコパンチなんて痛くもなんとも無いので意味が無いのだが。
涙と鼻水をたらしながら必死に抵抗しようとするチィちゃんをひょいっと持ち上げ、モララーは優しい微笑を見せる。
「寒そうで可哀想かい?でも今感じるこの寒さが、ミィrちゃんをもっと、も〜〜っと暖かくして、
最高のマターリをあげることができるんだよ!」
「そうモナ!さっきも言ったモナ。
『苦しいことを我慢した人に、幸せが来る』んだよってね♪」
「ソ ソウナンデチュカ… ジャァ ミィタン ガンバッテクダチャイ! マターリノタメデチュヨゥ! 」
よく分からないが、この後に最高のマターリがある、そのことだけを理解したチィは、泣くのをやめてミィに声援を送る。
「チャ…ヂャ…ヂャム゙イ゙デヂュヨ゙ゥゥ マ゙ッヂ… マ゙ッヂグダヂャイヨゥ…」
声援を送られているミィはそれどころではない。
寒くてたまらないのだろう。ガタガタ震え続けている。
いくら寒い中で行水をさせられたにしては若干異常な寒がり方だが…
「マ゙ッヂ…マ゙ッヂ…グダヂャイ゙…」
「ははは、ミィ゙ちゃんはせっかちさんだなぁ!それじゃ、ハイ、マッチ。
一本二本じゃなくて、盛大にいっぱい使うモナ♪なんせマッチはまだまだあるモナよ。」
ずぶぬれになり、ガタガタと震えながらヨタヨタとモナーとモララーの元へ歩み寄ってくるミィ。
その様子をおかしくてたまらない、というように必死に笑うのを押し殺しながらモナーはマッチを一箱、ぽいっと放り投げる。
「マッ゙ヂ… マ゙ッヂ…」
ガタガタと震えながら、ちいさなオテテでマッチを拾い、さっそく火をつけようとする。
しかし震えているせいでマッチをうまく取り出すことは出来ないし、擦ることも出来ない。
「ウニャ… ヒヲ…マチャーリ…」
パラパラとマッチをこぼしながらやっと3本ほど掴み、何度か失敗しながらもようやくマッチをこすることに成功する。
388
:
淡麗
:2007/09/06(木) 14:44:38 ID:???
⑤
しゅばぁぁぁ……
小気味良い音を立てながら、マッチに灯がともる。
先ほどのように1本ではないので火も大きめだ。
これならさっきよりも十分温まることが出来る…
「アニャァ…」
うっとりとその火に手をかざし、マッチの炎で温もりを得て、まさしくマターリが始まった
と、言いたいトコロだが!!!
しゅぼぼっ!!!
「ハ、ハニャニャ?!!??!?!?」
突如、マッチにかざした手が炎に包まれる。
慌ててマッチを投げ捨て、火のついたてをブンブン!とふり火を消そうとするが火はあっという間に燃え広がる。
「ハ…ハニャァァァ!!」
ものの数秒で火達磨となってしまった。
「タチュケテ!! タチュケテェェ!!! チィタァァァン!!!」
「ア… ア… 」
「ダデュゲデ!! ヂィダァァァン!! ナッゴォ ナッゴォォォォ!!! 」
「ア… アニャァ…」
ミィが火達磨になって言う久様子を成す術も無く見つめるだけのチィ。
モナーとモララーを助けてほしいとばかりに見つめる。
しかし、炎に照らされている二人の顔は、焦った様子など無くニコニコとしているだけ。
「やぁ〜さすがにガソリンは引火性が早いモナ。」
「ただのガソリンじゃないからな!北極でも使用されちゃう寒冷地仕様だからな!」
二人の話からすると、どうやらミィが行水させられたのはタダの水ではなかったようだ。
寒冷地仕様のガソリン・・・
ガソリンは気化する際に熱を奪う。
それが寒冷地でもしっかり気化できるようになっている寒冷地仕様のガソリンを浴びせられたのだから、
ミィのあの異常な寒がり方は理解できる。
「オ、オナガイチマチュ! オニィタンタチ ミィタンヲ タチュケテクダチャイ! ナッコチマチュカラァァ!!」
必死にミィの救出を懇願するチィだが、当然その願いは受け入れてもらえない。
「え〜?何を言ってるモナ?せっかくミィちゃんは火に包まれて暖かくなっているのに??」
「そうだ、チィちゃんも暖まりたいんだよね?だったら一緒にダッコしたりしなよ(笑)」
そう言ってモララーは、自分の胸にひしっとしがみついているチィを引き剥がし、
燃え盛るミィのもとへぽ〜〜んと投げた。
「ギャンッ!! イチャイ… ヒィッ !!」
投げ下ろされたチィには痛みを訴え泣いている暇などなかった。
目の前に、火達磨になって焼け爛れながらもなお生きている自分の姉妹が近づいてきているから。
「ヂィダン… ダズゲデ… ダズゲゲ…」
「ヒッ… イ…イヤァァァ… コッチクルナデチュヨゥ!! 」
ずるっずるっと這いながら焼け爛れた体から炎を上げながらミィは近づいてくる。
その姿にミィの面影などなく、立派な化け物と化している。
その姿にすっかり腰を抜かしてしまったチィはうまく逃げることが出来ない。
そうこうしているうちにミィに追いつかれてしまった。
「ダズベゲ… ナ゙ッゴォァ… ヂィダン… 」
「ヤ… ヤァァヨォォウ!! ハナチテェェェ!! 」
がっしと右足を掴まれてしまったチィは、必死に抵抗する。
足をブンブン振りなんとか振りほどこうとするが、ミィの手は離れない。
「ハナセェェェ!!」
とうとうガスッガスッと自分の姉妹を足蹴にしてその手を振りほどいた。
しかし、その足にはミィの炎が引火してしまっている。
「アニャァァァ!! イヤァ!! イヤァァァ!!!」
半ばパニックになりながら、チィは必死に炎を消そうと自分の足を振り回す。
しかしどんどん炎は自分の毛を伝って燃え広がろうとしている。
このままではミィの二の舞だ。
「オミジュ! オミジュゥゥ!!! 」
この火を消すには水が必要。
何とか水はないか…というその時。
水の入った大きな缶が目には飛び込んできた。
「オミジュゥゥ… ケサナキャ… 」
一目散に駆け出し、チィは水の入った缶に飛び込む。
「あ、馬鹿!」
389
:
淡麗
:2007/09/06(木) 14:50:52 ID:???
⑥
ボォォォォォォン!!!!
チィが水缶に飛び込むのとモララーが叫ぶのが重なった瞬間
轟音とともに水缶から火柱が上がり、チィの体は炎に包まれた。
「ハギャァァァァァ?!?!」
何が起こったのかわからず火達磨になり、大暴れのチィ。
がたーんと水缶は倒れ、火達磨のちぃと炎が流れでる。
もうお分かりと思うが、チィが飛び込んだのはモララーが持ってきたガソリン缶だったのだ。
ガソリンを水と間違え飛び込んでしまうとは。
あきれながらも爆笑するモナーとモララーだが、炎にくるまれているチィの様子がミィとは違う。
げぇげぇと炎を吐き出している??
「ブャ゙ォ゙ゲェギャアァァァァァ!!!!」
二人が聞いたこともないような悲鳴を上げながら燃え続けるチィ。
急におなかが膨らみ始め、ジタバタもがいたと思うと
ボンッ!!
臓物を炎の中に撒き散らし破裂してしまったのだ。
その様はまるで花火のよう。
「うおぉぉ… ひどい有様モナ。」
「ガソリンを飲み込んだんだろう。こんなになるなんてな…」
さすがの二人も、爆発の様子に驚いているようだ。
すっかり動かなくなったベビたちを一瞥しながら、モナーがミュージカル役者よろしく手を振り上げ叫ぶ。
「ほんと、可哀想なベビちゃん達モナ!」
それを見てモララーは、ベビたちの遺品となったマッチを一つ取り上げシュッと擦ると、タバコに火をつける。
一仕事の後の一服か。
ふう〜っと紫煙を吐き出し、モナーは語りだす。
「そうでもないさ。
辛い労働から解放されて、ダッコでマターリできたんだから本望だろ。
それに、バイオリズムどおりの人生じゃないか。」
「…? あぁ、あれね。苦しみの次には幸せが来る…
裏を返せば、幸せの後には悲しみが来るってことモナね♪」
はははと笑いながら、モナーとモララーは立ち去る。
未だに燃え続けるベビたちを残して。
390
:
魔
:2007/09/09(日) 15:52:13 ID:???
>>143
〜より続き
天と地の差の裏話
『まとめ』
※
『今月○日午前○時頃、××商店街で中学生の少年一人が、何者かに殺害される事件がありました。
遺体は、額に鋭利な刃物で刺された痕があり、右腕が現場から消失していました。
警察は目撃者からの証言などを頼りに、捜査をすすめていく方針・・・』
うっすらとノイズが掛かったテレビから、そんなニュースが報道されていた。
「・・・チッ」
自分の部屋でそれを観ていた男、ギコはその事件の最初の被害者だった。
青い身体と濃い緑色をした瞳は、種族特有の雄々しさを放つ。
※
メイと名乗った被虐者に予想だにしない攻撃を喰らってから一ヶ月。
その間、暴君を司る男は、この一ヶ月で更におかしく、イカレていった。
『オブジェにしたモララーの腹の中に、メイを虐殺してぶち込む』のを目標にした時の事だ。
どんなに熱くなっても、自分を見失うことなんて全くないのがギコであり、
また、どんなに冷静でも頭のネジがはずれているような思考を持っているのも、ギコなのだ。
(いつ捕まえられるかわかんねェから、剥製にでもするか)
虐殺した後のモララーを見て、ギコはそう思ったのだ。
ここでは、あえて虐殺対象が一般AAだったというのは無視しておく。
普通ならば、『剥製にする過程の内で虐殺をする』という流れになるだろう。
だが、ギコは殆どの行動を自分の感情を優先として行っている。
メイをモララーの腹にぶち込む予定も、モララーをオブジェにした結果も、何のプランもない感情だけの行動で生まれた事。
メイの事がニュースで初めて報道された時は部屋を真っ赤にリフォームしたこともある。
逆に、その時のやり方が不覚にも自分好みの結果となり、それにハマッて他のことは考えなくなったりと極端だ。
タガが外れ、虐殺厨と化したギコは『暴力で繋がった仲間』を中心に、殺人を犯していた。
骨の髄まで恐怖に染め、メイを殺す為の実験台として扱ったつもりが、一般AAの殺害が齎す快感に、溺れていたのだ。
ニュースが違う内容に切り替わった所で、ギコは足元に目線を落とす。
そこには一人の男が手足を縛られ、さるぐつわを噛まされ横になっていた。
その目からはとめどなく涙が溢れ、身体は冷房をかけていないのに酷く震えている。
その男はタカラという名前を持ち、かつてギコと対立していた者だ。
※
タカラは他とは違っていた。
ギコと関わった奴らの中で唯一、力強くギコに反発した男。
その腕っ節も、ギコには及ばないがかなりのものだ。
逆鱗に触れるどころか、しょっちゅう殴りかかってもいた。
だから、ギコに関わったAAの中では病院送りになった回数がずば抜けている。
いつもすぐ退院してきたが、その回数が増える度にタカラの仲間は減っていった。
その理由は、タカラについていけなくなったり、ギコに引き抜かれたりと様々。
しかし、仲間が一人もいなくなっても、タカラは己の正義を信じてギコとぶつかり合った。
だが、今回は違った。
虐殺厨になったギコに捕まり、『虐殺』を宣言されたのだ。
暴力が襲ってくるのではなく、死が自分を穿つ。
タカラの心は恐怖でいっぱいになり、もはやギコの傀儡と全く変わりなくなっていた。
※
「最近は物騒だよなァ・・・虐殺厨の他にも殺人鬼がうろついててよ」
「・・・」
目線を落とし、涙目のタカラに話し掛ける。
案の定といったところか、タカラはこちらを見る事すらなかった。
唯ひたすら、糞虫のように震え、怯えていた。
391
:
魔
:2007/09/09(日) 15:52:46 ID:???
「・・・フン」
腰を上げ、机に立て掛けてあった棒に手を伸ばす。
赤錆に塗れたその棒は、どこかで拾った鉄パイプ。
虐殺に使われる一般的な道具だが、吸った血が他とは違っていた。
ゴリ、と床を鈍器が擦る音が響くと、タカラの身体がわずかに跳ねる。
水色の身体から溢れる脂汗は、見ていて不快でしかない。
「お前らしくねェな。いつも俺を違う意味で楽しませてくれたのによ」
パイプの先をタカラの身体に宛がい、何かを探すように這わせる。
頬から首、胸と腹を通って右腿に来た所で、手を止めた。
「・・・」
すう、と肺に酸素を集め、鉄パイプを振り上げる。
綺麗な曲線を描く、水色の腿が今から自分の手によって形を失う。
骨折の事を『新しい関節が出来た』なんて冗談、誰が言い始めたのか。
ギコはそんなことを考えながら鈍器を握りしめ、一気に振り下ろした。
「ぐぅぅッッ!!!」
許容しがたい鈍い音がして、タカラの上半身が大きく跳ねる。
直後、恐怖で震えていた水色の身体は、痛みに悶えるように暴れ始めた。
タカラの腿は鉄パイプに沿って陥没したかのようになり、そこだけが赤黒く染まっている。
切断、とまではいかなかったが、手応えからして骨は綺麗に砕いたようだ。
上半身が暴れる度、少し遅れて脚がぶらぶらと動くのがまた面白い。
「は。糞虫みてーな反応しやがって」
さるぐつわの奥でもごもごと喚くタカラを眺めながら、立ち上がる。
涙と涎をばらまく顔、脂汗だらけの身体、そして脚へと視線を流す。
皮や肉の潰れ具合から、もうそのまま引っ張ってもちぎれそうだ。
しかし、その赤黒い傷をまじまじと見詰めていると、何か引っ掛かるものが。
(・・・ああ、そうか)
あまり深く考えずとも、靄はあっさりと晴れた。
ギコはおもむろに陥没した腿を、鉄パイプの先端で押し潰す。
「んがぁぁぁぁ!! あああぁぁぁぁ!!」
ぐりぐりと捏ねるのに併せ、タカラが布に噛み付きながら叫ぶ。
もし歯と歯の間にあるものが舌だったら、既にかみちぎっているかもしれない。
ギコが連想したのは、『挽き肉』だった。
鈍器と砕けた骨が全てを破壊し、それに近いものと化していたのだ。
肉をいじるというのは、虐殺で必ずする行為だし、それを好きになれないと虐殺は行えない。
ギコは何度も鉄パイプを持ち上げ、狙いをずらしては押し潰し、捏ねるを繰り返す。
その都度聞こえるねばっこい音、骨がすり潰されていく音。
そしてなにより、その感触とタカラの悶絶ぶりが愉快でしょうがなかった。
「ううぁ、があああぁぁぁァ!!」
「ハハッ、きったねェ声・・・」
何回目かの押し潰しで、手に伝わる感触が緩くなってきた。
肉片もかなりの量が散乱し、血だまりが床を汚している。
どうやら完全にちぎれてしまったようで、 脚を触ってもタカラ側に反応はない。
当の本人は寝そべりながら天を仰ぎ、自分の脚がどうなったかを見たくないようだ。
というよりも、縛られて自由のきかない身体で、必死に痛みから逃げているような。
どちらでも構わないが、確実に疲弊はしているようだし、扱いやすくはなった。
粗い呼吸と激しい上下動をする腹部を舐めるように見詰め、余韻を楽しむ。
暫く堪能した後、邪魔になった脚を取り除く為、足を縛っていた紐を解く。
タカラから紐がするりと離れた途端、急にもう片方の脚がこちらに向かった。
「っ!?」
392
:
魔
:2007/09/09(日) 15:53:46 ID:???
ギコは身体を引く事で、それを間一髪で回避。
と同時に、その脚を軽快な音をたてて掴んだ。
タカラを一睨みすれば、そこには少しの怒りが混じった、絶望に染まった表情があった。
「・・・っ」
「悪ィ、やっぱりお前はお前だったな」
歯を見せるように笑い、足首を掴んだ手に力を込める。
骨が軋む不快な音がすると、タカラの身体がまた暴れ始めた。
鉄パイプを一度床に投げ、踵をわしづかみにする。
抵抗が酷くなる前に、ギコは一気にそれを捻ってあらぬ方向へと曲げた。
「ぐっ!!!」
皮と繊維と筋がちぎれていくのが、耳と手を通して全身に伝わるのがわかった。
対するタカラはそれが理解できないのかしたくないのか、顔面蒼白で目をひん剥いてそれを見ていた。
既に片脚を潰しているのに、その反応はかえって新鮮で、かつ滑稽だ。
「どうした? そんな驚いたカオしてよ」
ぐりぐりと取れかかった足を弄りながら、喉を鳴らして嘲笑う。
そして、そのままもぎ取り自身の腹に投げてみる。
水色の足は腹の上をそのまま跳ね、床に転がり落ちた。
「ふ・・・っく・・・」
と、唐突にタカラが涙を流し始めた。
それは恐怖に苛まれて、耐え兼ねた所に泣きわめくそれに近い。
先程より更に酷く、極寒の地に放り出されたかのように震える水色の身体。
タカラの精神は今、更に崩壊し始めようとしていた。
「そう泣くなよ。AAの身体ってのは元々壊れやすいモンだ」
タカラの左脚を持ち上げたまま、ギコは自分の感性で物を言う。
そして、床に倒していた鉄パイプを拾いあげ、それを水色の膝に宛がった。
「特に関節はな」
コンコン、と鉄パイプの先端で膝を叩き、逆手に振りかぶる。
後は居合の如く、一気にタカラの膝を打ち抜いた。
「っっあ!! がああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
凄まじい轟音がして、文字通りそれは爆発した。
まるで至近距離から銃火器で撃ち抜かれたかのように、肉と骨の破片が飛び散っている。
何も知らない他人が見れば、タカラはトラックに轢かれ、両足を巻き込まれた哀れなAAである。
だが、この惨たらしい傷は紛れも無く『ギコが鉄パイプでつけた』もの。
しかも拷問のように何度も打ち付けたのではなく、ほぼ一振りでその脚を粉々にしたのだ。
「はははっ! だから脆いって言ったろうが」
切断された脚、タカラの臑を投げ捨て腹を抱えて笑うギコ。
怯えては叫び、再度怯えてまた叫びと、スイッチを交互に切り替えているようなタカラが非常に愉快で堪らない。
もし対象が糞虫だったら、その切り替えの合間にダッコだのコウビだのと命乞いを挟むだろう。
だが、今目の前にいる芋虫は一般AAであるし、自分と対立をしていた者だ。
さるぐつわを噛ませていなければ、不快さを纏わり付かさせた罵倒しかその口からは出ないかもしれない。
(・・・さて、吉と出るか凶と出るか)
ギコは、タカラの暴れっぷりを眺めながら、小さな葛藤をしていた。
『被虐対象者の慟哭』が最も好きなギコは、虐殺厨になってからそれについて悩まされていた。
糞虫の罵倒ならば、耳にタコができるほど聞いたし、回避方法は腐るほどある。
しかし、見ず知らず、或いは自分に不満がある一般AAを虐殺する時には、少々問題ができていた。
もし対象が憎悪の目でこちらを見ていれば、心を折るのは非常に難しい。
心身共に感服させてからの叫びでなければ、本当の爽快感は得られない。
393
:
魔
:2007/09/09(日) 15:54:50 ID:???
タカラの慟哭を聞きたい。
だが、罵倒は絶対に耳に入れたくない。
『変態』とも『狂人』とも取れるギコの思考。
自分にしか理解できない賭けに挑むか、そのまま身体を破壊していくか。
(・・・でもなぁ、あの反応を見たらなあ)
聞かずにはいられない。
ギコの奇妙なこだわりは、もはや性癖と化していた。
妄想が膨らみ居ても立ってもいられなくなり、鉄パイプを投げ捨てる。
そして、さるぐつわに手をかけた。
「あ! っが・・・」
乱暴にそれを解いてタカラの顎を掴み、眼前に持ってくる。
今の自分の顔は、どんな風に相手に映っているだろうか。
血走った目で見詰めてくる、鼻息の荒い変態だろうか。
それとも、AAの皮を被った悪魔か何かだろうか。
「今、お前の眼に、何が映っているか言ってみな」
はち切れんばかりの気持ちを、必死で抑えながら質問をする。
それでも腕の震えは止まらず、いっそこのまま握り潰したいと思ってしまう。
早く答えが欲しい。一秒が十秒にも感じる。
焦らされるのは好きじゃない。興奮が憤怒に変わる前に、早―――。
「・・・ぃ」
と、タカラの口元がかすかに動いた。
ほぼ同時に聴覚に全神経を集中させていく。
対象の喉から湧き出る空気の振動をかき集める。
『こんなやつに、ころされたくない』
虚ろな目をしつつ、タカラは確かにそう言った。
「・・・ッハ」
最初に洩れたのは、渇いた笑いだった。
一瞬にして興奮は冷め、心臓も落ち着きを取り戻す。
すると、急に発情していた自分が馬鹿らしくなり、額に手を宛てて更に笑う。
狂気に満ちたものではなく、一泡吹かされた時に出るような笑いだ。
「はははっ」
やがて笑う事すらも馬鹿らしく思い、大きく息を吐いて芋虫を見詰め直す。
その顔は形を歪め、もはや表情は読み取れなくなっていた。
それは何故か、答えは至極簡単で、自分がタカラの顎を握り潰そうとしているからだ。
「あーあ、また、ハズレかよ」
吐き捨て、タカラの顎を掴んでいた手に力を込める。
骨が軋むより先に、ぐしゃ、と湿った音をたててそれは弾けた。
「〜〜〜!!!」
もう言葉でもない叫びなんて、聞いてもつまらない。
また暴れるスイッチが入る前に、そのモーターサイクル顔を拳で爆ぜさせた。
「・・・クソが」
死体を蹴り飛ばし、あいた空間に腰を落とす。
虐殺で散乱した肉片は部屋を汚し、ブラウン管の光を虫食いのように遮断していた。
ふう、と溜め息をつき、血と肉に塗れた右手を眺める。
「あの糞虫・・・」
指の欠けた手が、心の中の何かを駆り立てる。
宛もないのに、やるだけ無駄かもしれないのに、また身体が勝手に動く。
これで何度目の『我慢ならない』なのだろうか。
ギコは立ち上がり、血を拭って玄関に足を運ぶ。
そして今、失敗した虐殺の余韻を持って『メイを捜しに』出掛けた。
※
物語は止まらない。
歯車は噛み合わないと回らない。
ひかれあうのは必然的なものであり、それは運命なのかもしれない。
ギコの願い、念いは、もうすぐ叶おうとしていた。
394
:
魔
:2007/09/09(日) 15:55:48 ID:???
※
『今月○日午前○時頃、××商店街で中学生の少年一人が、何者かに殺害される事件がありました。
遺体は、額に鋭利な刃物で刺された痕があり、右腕が現場から消失していました。
警察は目撃者からの証言などを頼りに、捜査をすすめていく方針・・・』
同じ時間に違う場所で、同じ報道を見ていたAAが居た。
「・・・またか」
呟くように嘆き、眉を寄せて溜め息をつく男。
本人は自覚していないが、事件の犯人を最初に追った者であり、名前はウララーという。
ウララーは治安の悪いこの街で擬似警官を勤め、銃を握る事が許されている。
今回の件に関しては、やり方も含め被害が甚大なので、本部の方のみで捜査をしていた。
つまり、引き金を引くだけの警官、ウララーはこの事件に介入できないのだ。
しかし、今のウララーの興味と怒りは、そちらに向けたものではなかった。
ブラウン管の光が、その険しい表情を嫌らしく照らす。
※
フーに出会い、一ヶ月が経った。
その間、ウララーはこれ以上被害者を出さないようにと、化け物を追う事を決意。
しかし、この一ヶ月もの間、情報は全く手に入らなかった。
『片腕が黒い少年』の話は、ノイローゼになりそうな程あちこちで聞いた。
が、ウララーが追い求めている『化け物』の話は全く耳にしない。
まるで街全体が、化け物の事をまるまる隠蔽しているのかと疑心暗鬼になった程だ。
当の本人達なら知っているその理由も、至る所から蚊帳の外のウララーには難解な謎である。
真逆、夢でも見たんじゃないかと頬をつねっても、肩には傷、家には保護した被害者がいる。
まるで雲を掴むような捜索に、ウララーは頭を抱えていた。
と、後方から不意に自室の扉が開く音がした。
振り向くと、そこには扉にもたれ掛かったフーがいた。
「おはよ・・・」
まだ眠気が身体に残っているようで、声に力が入っていない。
「お早う」
そう言って、ウララーは座っているソファーを二回叩く。
フーはそれに反応すると、覚束ない足取りだが、確実にそこに向かう。
ソファーの前に来た所で後ろを向き、ウララーが手を握りそのまま倒れ込むように座った。
「まだ寝足りないんじゃないのか? 無理して起きなくてもいいんだぞ」
赤ん坊のように首がすわってないフーを見て、心配し声を掛けてみる。
「・・・ん」
と、生返事の直後、フーはウララーの肩に頭を置き、そのまま寝息をたてて寝てしまった。
可愛い奴だなと思いつつ、そのフサフサした肩に腕をまわす。
※
フーの眼は治らない、と医師に告げられた。
文字通り『目が潰れている』状態だったので、摘出だけしておいたとのこと。
病気や老衰以外での死が多いこの街で、しかも浮浪者を診てくれたのは本当に感謝している。
だが、本人に取ってそれは喜ばしい事だったのだろうか。
光の無い世界で生かされ、生き地獄を味わうことになってしまうというのに。
そんな悩みは、本人と会話を交える事で解消された。
最初は良くない意味で大人しかった性格も、恐らく本来のフーと思われる明るさが段々と前に出てきていった。
『光が無くなっても、まだ音と匂いが自分にはある』
助けた事への感謝の言葉の前に、フーはそう言った。
街から迫害されている者達なのに、力強く生きることを想い、願う。
ウララーは力無き被虐者に感動し、力を持った自分達を恥じた。
そして、慈悲の心は虐殺の世界では決して無駄ではない事を、再度確認した。
395
:
魔
:2007/09/09(日) 15:56:17 ID:???
※
茶の毛並みを覆う白い包帯を見て、ウララーはそんなことを思い出していた。
(音と匂いが自分にはある。・・・か)
実際、フーはその力強さを、言葉はおろか身体でも見せてくれた。
訓練せずとも一人で立ち、障害物を探らずとも避けて歩くことができたのだ。
それはフーが盲目ということを忘れさせ、大道芸のように魅入ってしまう程のもの。
『眼で見なくても、気で場所がわかる』といったマンガのような出来事だった。
流石に、指を使う細かい事や、箸やスプーンを使った食事はできなかった。
というより、箸やスプーンを扱った事がないと言った方が正しいか。
「・・・っと」
気がつけば、ニュースは既に別の内容に変わっていた。
政治やら外国との問題やら、この街にはあまり関係ないものだ。
どうせなら警察の怠慢っぷりを報道し、それに対する意識改革を狙ってほしい。
国のお偉方の粗を探るよりも、ずっと簡単だと思うのに。
「虐殺厨よりも、警察の方がまともじゃねーのにな」
ウララーは、テレビの中の政治家に向かって愚痴を零した。
「・・・んあ」
番組が終わり、時計の短針が新しい数字を指した所で、フーが起きた。
無い筈の目を、包帯の奥にある瞼をこすり、大きな欠伸を一つ。
一連の動作が終わってから、声を掛ける。
「目は覚めたか?」
「うん」
先程より返事はよくなり、勢いよく寝癖を掻いている。
「もう少ししたら、飯にするか」
※
『片腕が黒い少年』の捜査ができなくても、虐殺厨を裁く仕事に休みはない。
フーと共に朝食を摂った後、ハンドガンを片手に外へと出掛ける。
「さ、いくぞ」
「おー!」
勢いよく飛び出したフーを眺めながら、玄関を逆手で静かに閉めた。
気が重くなる仕事をやっていく中、フーの元気さには助けられる。
フーと一緒に外出するようになったのは、ほんの数日前のこと。
本来なら、盲目な者にとっては付き添いがいても外は危険だらけだ。
なるべく家の中に居させてやりたいのだが、本人が希望してきたことだ。
最初は心配だったが、手を繋いでのんびり歩くのが大半だし、万が一には銃がある。
今ではもう、ウララーが率先して誘うようにまでなっていた。
しかし、擬似警官と浮浪者という立ち位置の違いから、ちょっとした悩みが一つできていた。
「・・・なあ」
「何?」
「今日も、虐殺するのか?」
「あー、できれば・・・したい。かな」
先程の明るさより一転、沈黙が二人を包む。
会話は途絶え、歩数が増える度に気まずい空気が濃くなっていった。
だいぶ間をあけてから、ウララーは口を開く。
「いや、俺は割り切れるから別に構わないんだが」
「でも、遊びで殺すのはウララーは嫌なんでしょ?」
「・・・ああ。どっちが『悪』か、わからなくなるしな」
「警官だもんね。ウララーは」
※
被虐者を殺し、喰らって生きてきたフー。
反対に、被虐者を殺さず、裁いてきたウララー。
その価値観の違いから、このような衝突があった。
街のルールなのだから、ウララーの主張は間違いでもある。
しかし、フーは居候の身であり、あまり我が儘を言える立場でもない。
一緒にいる事が楽しくなってきた所で、別の場所で不自由さが新しく生まれてしまったのだ。
396
:
魔
:2007/09/09(日) 15:57:25 ID:???
※
「うーん・・・」
何かいい案はないかと、顎を摘んで考えるフー。
本気で問題を解決したいという気持ちが、ひしひしと伝わってくる。
その気持ちに応えようと、自分も自分なりに考えてみた。
そして、視界にちびギコが飛び込んできた所で、閃いた。
「・・・こういうのは、どうだ」
「え?」
「『悪さをしている被虐者を俺が捕まえ、お前が虐殺する』」
「それは・・・理に適ってるかもしれないけど、都合よくそんなのいるかなぁ」
「目の前に居たから言ったまでだ」
ここで待ってろ、とフーに告げ、握っていた手を街路樹に触れさせる。
そして、足早にちびギコの所に向かった。
彼等から見て天敵である自分達は、昼夜問わず至る所にいる。
だから、普通は身を守る為に物陰に隠れて生きていた。
しかしながら今、目の前にはちびギコが我が物顔でゴミ漁りをしている。
独り言を交ぜてのそれは、どんなに思いやりのあるAAでも『馬鹿』と称してしまいそうな程だ。
「何やってる」
ウララーは近付き、重く刺のある声で質問をする。
するとちびギコは渋々と振り向き、見下した表情でこう返してきた。
「何って、ゴハンを探してるデチ」
「だからって、道路にまで散らかさなくてもいいだろうが」
「そんなの知るかデチ。第一、このチビタンにゴハンをくれないヤツが悪いんデ
チ」
「・・・」
さっそく極論、いや、屁理屈で返してきた。
被虐側が怯えて生きるこの街でこんな切り返しをするなんて、珍しいにも程がある。
恐らく、隣の街か山から降りてきた、比較的運の良い生き方をしてきたのだろう。
「それに、見てたんならなんか恵んでくれるのがお前らの・・・ヒャッ!?」
自分本位な演説が始まる前に、ホルスターから音をたてて銃を抜いてみた。
ちびギコは一瞬青ざめ、驚きの声をあげるもすぐに立ち直る。
「な、なんデチか? そんなオモチャでチビタンを脅すつもりデチか?」
「ハズレだ」
ちびギコが構えるより先に、後方にまわり込む。
そして、首筋より少し上に狙いを定め、グリップの底部で軽く殴る。
「ヒギャッ!?・・・」
と、出来の悪いドラマのようにちびギコはあっさりと気を失い、その場に倒れる。
念のため頬を二、三度叩き、意識が途切れたのを確認した。
ふと、辺りに散乱したゴミを見る。
(・・・やっぱり、片付けないと駄目だろうな)
ウララーは溜め息を零し、フーを呼んでちびギコを持たせた。
そして、ゴミ捨て場にあった箒とちり取りを使ってゴミを集める。
通り掛かったAAに『偉いねぇ』と言われたが、気にしないようにした。
※
「あぁー、なんだかワクワクしてきた!」
集め終えた時には、フーの鼻息はかなり荒くなっていた。
執拗に撫でて部位を確認し、手の中でぐるぐると回したり、逆さ吊りにもしている。
そこまでされても、まだ伸びたままのちびギコには驚かされる。
(俺、そんなに強く殴ったかなあ・・・)
そんなことを考えていたら、フーは我慢できない、といった表情でこちらに顔を
向けていた。
鼻の穴がぷくりと膨らみ、既に興奮しているのがはっきりとわかり、つい苦笑し
てしまった。
「ここじゃ目立つから、近場の公園でな」
「うん!」
やはり、裁くだの虐殺だのと悩むより、フーの笑顔を眺めるのが一番良い。
元気よく返事をしたフーを見て、ウララーはそう思った。
397
:
魔
:2007/09/09(日) 15:58:00 ID:???
※
それほど時間をかけずに、公園に来た。
虫の鳴く声しか聞こえないところから、他のAAは居ないようだ。
「もしもの事があっても、俺がいるからな」
「ありがと!」
フーはもう、ちびギコを虐殺することしか頭にない。
ウララーには、威勢の良い生返事だけをしておいた。
先ずは覚醒させる為と、開始の合図としてちびギコの耳をもいだ。
「ヒギャアアアァァァ!!?」
皮と肉が裂ける音に重なり、ちびギコの悲鳴が辺りに響く。
手の中でちぎった耳を握ってみると、少しのぬめり気と弾力があった。
久しぶりの感触と音、そして被虐者特有の獣臭さはやはり心地よい。
「チ、チビタンの耳がぁ!? お、お前何するんデチ!!」
意識が戻ったと思えば、もう喚き散らし始めた。
フーはその声と、支えている左腕に掛かる動きから、ちびギコのかたちを妄想する。
が、それなりに暴れてくるので、しっかりとイメージできない。
「おっと・・・もう! 動くなってば!」
イメージするのが面倒になり、そのまま地面に押し付け、同時にしゃがむ。
持っていた耳は投げ捨て、手探りでちびギコの暴れている部分を探す。
と、手に何かがぶつかったので、反射的にそれを掴んでもぎ取ってみる。
「ギャアアアァァァぁぁ!! ぁ、足がああぁぁぁ!!」
どこをもいだのかは、本人が丁寧に教えてくれた。
掴んだ時の手応えからして、足だと予想はしていたが。
しかし、それでもなお暴れ続けるちびギコ。
先程の耳もぎで得た恍惚感も失せ、欝陶しく思える。
「あんまり煩いと、もう片方の足もなくなるよ?」
苛立ちを乗せ、面倒ながら釘を刺してみる。
すると、ちびギコの身体がびくんと跳ねた手応えの後、小刻みに震え出した。
「ひ、酷いデチ・・・ぇぐ・・・」
涙声にもなり、やっと自分の立場を理解したようだ。
恐らく、その小ぶりな顔は涙でくしゃくしゃになっている。
見る事はできなくても、今までの虐殺の記憶と重ねてイメージすれば十分だ。
「道端で悪さをしていたヤツに言われなくないなあ」
「だっ、だって・・・お前らがチビタンに、ゴハン、くれない・・・」
「でも、ゴミ捨て場で探すのは間違いだよ?」
「じゃ・・・じゃあ、どこにあるんデチ・・・」
怯えの中に、自分の言葉に対する興味の色が見えた。
取り敢えず笑顔を見せ、心では『してやったり』と笑い、こう答えた。
「目の前にあるじゃん。ほら」
先程もいだ足を、ちびギコの眼前に持っていく。
「・・・ぉ、お前は鬼、デチか? それ、それとも、悪、悪魔デチか?」
と、ちびギコの涙声に拍車が掛かり、手に伝わる震えが酷くなる。
どうやらかなりの精神的ダメージを喰らったようで、ほんのちょっぴり罪悪感を覚えた。
だが、事実は事実である。
「大真面目だよ。俺もコレ食べて生きてきたもん」
「ふ、ふざけるなデチ・・・この、虐殺厨がぁ・・・」
お決まりの『虐殺厨』発言にも、力が全く入っていない。
まだ始めて少ししか経っておらず、しかも片耳と片足をもいだだけ。
あまりにも脆過ぎる精神に、呆れ返ってしまいそうだ。
だが、死への恐怖をしっかりと把握しているようなので、見方を変えればまだ楽しめる。
(痛め付けるより、も少しイジめてみようかな・・・)
ウララーの前でねちっこい虐殺をするのは、少し気が引けるものだ。
しかし、久しぶりに行う事ができたのだから、心から楽しまなくては意味がない
。
398
:
魔
:2007/09/09(日) 15:59:03 ID:???
「まあまあ、騙されたと思って食べてみなよ」
ちびギコを押さえ付けていた手を、小さな顎の方にまわす。
窒息しない程度に緩く掴むと、その華奢な手で力無く抵抗しているのがわかった。
「い、いやデチ・・・ヤめ、やめて・・・許して、ぇ」
ぎゃあぎゃあ喚くでもなく、虐殺に身を委ねるわけでもない。
ちょうどその間の反応は期待通りでもあり、面白くて仕方がない。
「うりゃ」
半ば強引に、もぎ取った足を顔に押し付ける。
べちゃ、と湿ったものを当てた音はしたが、手応えからして口に入ってはいない。
頬にあててしまったか、本人が口を固く閉じているかの二択だ。
「む、むぐー!! むぅぅぅ!!」
ちびギコの抵抗が酷くなる。
片方しかない足はばたばたと上下に動き、爪先が自分の身体を掠める。
これも予想していた反応だし、欝陶しさなんてものはない。
寧ろ、本気で嫌がっているという事自体が、滑稽で堪らないのだ。
(・・・できれば、そのカオも見たかったかな)
細かな表情は、流石に妄想することはできない。
脂汗をだらだらと垂らしながら、力強く目をつむっているのだろうか。
はたまた、顔面蒼白で白目を剥きかけながらの抵抗だろうか。
不意に、あの時の情景が脳裏に浮かぶ。
散乱したノーネの肉体。視界の中で揺れ動く化け物。
自分の眼が潰される直前の、光を奪った化け物の鋭い爪。
「・・・っ!」
『視覚』の事を気にしたから、あの悪夢が甦ったのかもしれないが、そんなことはどうでもいい。
掘り起こしてしまったトラウマを消そうと、顔を左右に強く振る。
しかし、絶対に癒えることのない心の傷は、その真っ暗な世界にしつこくこびりつき始めた。
なるだけ早くに気を紛らわす為、フーは持っていた足を投げ捨てる。
そして、ちびギコの二の腕をひっ掴み、それぞれの方向におもいっきり引っ張った。
「ぎゃあっっあああアアアぁぁぁぁァァ!!!」
筋のちぎれる音と被虐者の絶叫が、悪夢を洗い流していく。
両腕を奪われたちびギコは、水から上げられた魚を彷彿とさせる程暴れ狂う。
時折生暖かいものが腕に触れるが、それが何なのかは考えるまでもない。
「・・・ふう、っ」
心は落ち着きを取り戻し、肉の感触と血の生臭さを再確認する。
「どうした?」
と、気にかけてくれたのか、すぐ後ろでウララーの声がした。
ちびギコの絶叫をBGMにしていても、その独特の雰囲気でしっかりと聞こえた。
「えっ!? い、いや、なんでもないよ。ただコーフンし過ぎただけだから」
振り向き、咄嗟にごまかしてみたものの、動揺が完全に露になっている。
「そうか、それならならいいんだが・・・無理はするなよ」
「う、うん」
ウララーの冷徹さからくる鈍さに助けられた。
ざ、と砂を蹴る音がして、ウララーが離れたのを確認すると、虐殺を再開する。
「あっ、ああぁ!! あぎゃあァァ!!」
まだちびギコはのたうちまわっているようで、それらしき気配と声がする。
持ちっぱなしだった腕は、足と同じように近くに投げ捨てておく。
どうせ芋虫状態だし、逃げられる心配もないので、試しに放置プレイを行ってみた。
「ああ、うあぁ〜・・・痛い、痛いデチィィ」
絶叫も段々おさまり、痛みを言葉で訴えるようになってきた。
大分疲弊もしているようだし、遊べても後少しだけだろう。
試しにその芋虫の身体を触ってみると、ぬめりとざらつきが同時に掌に伝わってきた。
399
:
魔
:2007/09/09(日) 16:00:06 ID:???
「うへ・・・きったね」
反射的に手を引き、叩いてそれを落とす。
どうやら、両腕の付け根からの出血はかなりのもののようだ。
振り撒いた血で身体を濡らし、更に砂を泥にして付着させてしまっている。
それだけの量の血が失われてるとなると、失血死はすぐそこだ。
(・・・まあ、ある程度楽しんだし、もういいかな)
フーはお別れの意を込めて、瀕死のちびギコに話し掛けた。
「ねぇ、この街には『化け物』と『殺人鬼』が居るって、知ってた?」
「痛ぁ、ぁぅ・・・そんなの・・・知らない・・・」
言葉を返すだけの余裕は見えた。
笑みをうかべ、更に話す。
「俺はね、化け物の方に襲われて、こうなった」
顔に巻いた包帯を指差し、囁く。
「ぇ・・・? ぁ、メクラ・・・」
「ナカは空っぽだよ。だから、もう何も見えない」
「・・・へ、っ・・・ざまあ、デチ」
「そうだね。お前はオレより運がいい」
「・・・」
「化け物に襲わなくて、普通に虐殺されたから・・・」
「・・・」
暫く経っても、返事はなかった。
身体に触れると、既に冷えかかっている。
掌をずらし地面に持っていくと、生暖かい水たまりがあった。
ちびギコの頬らしき個所を撫でながら、フーは呟く。
「生まれ変わるなら、次は普通のAAになれよ」
被虐者でもなく、殺人鬼でもなく、浮浪者でもなく、化け物でもない。
血と肉を見ることのない世界に生まれ落ち、平和に生きてほしい。
※
(って、何言ってんだオレは)
我にも無く、被虐者を哀れんでしまった。
どんな奴に出会っても、必ず見下し、暴言を吐いてくる種族。
そんな奴らに心を許せば、不快感だけがその場に残るというのに。
化け物に襲われてから、価値観でも変わったのだろうか。
それとも、ウララーの正義感や慈しむ心に感化されたのか。
「・・・ま、いっか」
今回は違う意味でスッキリはしたし、新しい発見があったということにしておく。
天を仰いで、肺の中の空気を全て吐き出し、余韻に浸る。
どの位時間が経ったかはわからないが、恐らくそんなに長くはない。
十分に堪能した所で、タイミングよくウララーが声を掛けてきた。
「終わったか?」
「うん。ごめんね、我が儘聞いてくれて」
「それは別に構わない。フーが満足したのなら、それでいい」
「・・・へへ」
その言葉を聞いて少し恥ずかしく、くすぐったい気持ちになった。
でも、自分ばかりというのは、やはり良いものではない。
自由の利きづらい身体だけど、いつか恩返し位はしなければ。
「さて、後片付けをしないとな」
「え?」
「え、ってお前・・・こんな公園の真ん中に死体放置してたら、子供が泣くぞ?」
「ああ、成るほど。いっつもやりっぱなしだったから、つい」
「・・・そりゃあ、普通は業者がやるけどさ」
ずる、とちびギコの身体があった所で音がした。
多分、ウララーが処理の為に持ち上げた音だろう。
「水飲み場に案内するから、お前は手を洗ってこい」
「そんなに汚れてる?」
「ああ。ケチャップで悪戯したみてーに酷い」
「ケチャップって、何?」
「・・・」
400
:
魔
:2007/09/09(日) 16:01:23 ID:???
※
そんな二人のやり取りを、敷居の外から見ていたAAがいた。
彼、ギコにとって忌まわしい思い出のあるこの公園。
本人にとってはこれ程とない屈辱を受け、あまつさえ指までも奪われた場所。
景色として視界に入る度、吐き気はおろか復讐心まで燃え上がる。
しかし、今回はその公園に興味を示してしまう。
正確に言えば、公園で虐殺を行っていた二人のAAにだ。
顔に包帯を巻いた、失明していると思われるフサギコ。
それを見守る、腿に拳銃を装備している黒いモララー。
二人を使えば、自分が今追っている者に近付く事ができるかもしれない。
それが何故なのかは、本人にもわからなかった。
ただ単にその二人に惹かれ、直感で思い付いただけだった。
「・・・クク」
頭の中で、シナリオが一気に描かれていく。
その先にあるのは、メイを殺し、目の前の二人を殺した自分の姿。
『力』を使い、『全て』を支配した血塗れのギコがいた。
※
音もなく、黒いモララーに近付く。
獲物を狙う虎のように静かに、それでいて燃え盛る炎のように素早く。
地面の上を滑るように歩けば、目標の姿はもう目前だ。
「・・・ん?」
隠す気のなかった殺気のせいで気付かれたが、もう腕の届く範囲。
銃を構えてくる前に、顎に一発軽く当てにいく。
「っ!」
殆ど死角からの攻撃を、男はあっさりと受け止めた。
素早い反応に防御の正確さといい、何より自分の殺気に負けない凄み。
腕力も決して弱くなく、タカラのそれよりも強い。
(なかなか骨のある奴だな。いや、そうでないとな)
虐殺とは違う楽しさが芽吹き、笑みが零れた。
だが、当初の目的を忘れては意味が無いので、早く事を進めるようにした。
「・・・何しやがる」
「はじめまして。俺はギコっつーもんだ」
みし、と交わった腕が軋む。
澄んでいるようで、ドロドロに濁った目がこちらを睨んでいる。
嗚呼、こいつを利用する為に生け捕るのが勿体ない。
その力強い真っ黒な眼を、苦痛と慟哭で歪めてみたい。
嬲り殺してみたいが、そこは我慢しなければ。
「悪ィな、手荒な事しかできねーんだ。俺」
「目的は何だ」
「アンタ、擬似警官だろ?」
「・・・」
男は挨拶を交わした時の表情のまま、黙ってしまった。
イエスかノーか本人が言わなくても、腿にある銃で既に把握している。
沈黙を無視し、更に続けた。
「『片腕が黒い少年』っているだろ? ソイツ殺したいんだよ」
その言葉の直後、男の表情が険しくなる。
「・・・協力しろと言いたいのか? 脅迫混じりにか?」
軽蔑の念を込めた一言。
その手前には多少の怒りが見えたが、そんなものは関係ない。
先程の興味と今の怒りが重なり、『虐殺したい』とより強く念ってしまう。
落ち着け、と自分にそう言い聞かせたものの、軽蔑からくる怒りはおさまらない。
乱暴に腕を振りほどき、男の胸倉をひっ掴んだ。
「ッ!」
「見ろよ」
右手を男の顔の前に突き出し、話を続ける。
「俺はアイツに最初にやられたんだ。この公園でな」
「・・・っ」
男は欠けた人差し指を見て、眉をひそめる。
胸倉を掴まれた不快感からか、それとも失くなった指への哀れみか。
「憎いんだよ・・・アイツは指どころか俺のプライドまでズタズタにしやがった」
「・・・いつ、やられたんだ」
「明るみになる前だ。俺が最初の被害者なんだよ」
401
:
魔
:2007/09/09(日) 16:01:52 ID:???
自分の必死さ。そこに演技はない。
溜まりに溜まったフラストレーションを、腕でなく口で発散する。
激昂せず、ひたすら低く冷たく、重く這うように言い放つ。
だが、そこまでしても男は動かなかった。
「・・・悪いが、俺は今その『少年』は追ってない」
予想だにしない言葉が、男の口から放たれた。
虚をつかれ、今度は様々な憤怒が込み上げてくる。
「ふざけンなよ。銃持てる職のくせに何言ってやがる」
「持ててもホンモノとは違うんだよ。それに・・・」
「・・・それに何だ」
「『少年』よりも凶悪な『化け物』がこの街にいる。俺はそっちを追ってる」
「・・・」
嘘を言っているようには見えない。
だが、化け物なんて言葉はここ最近聞いたことがなかった。
謎のせいで怒りも冷めたし、男の話に耳を傾ける事にする。
「お前もどうせ信じないだろうな」
「何故、少年でなくそいつを追う?」
「顔に包帯巻いたフサギコがいる。フーっていうんだが、アイツの眼はその化け物に刔られたんだ」
「・・・」
「仲間もやられたらしく、現場は悲惨だったよ。新聞に載ってもおかしくない」
次第に男から覇気が消え、自嘲混じりに話をしていく。
曰く、しっかりと化け物を見たというのに、その日以来全く情報ば入らないのだとか。
更に詳しく聞けば、どこかで耳にした都市伝説の化け物と特徴が類似していた。
男の言うことに嘘はない。
だが、銃を握れる立場であるというのに、裏側の事件しか見ていない。
それが、納得いかなかった。
「お前、化け物だけしか見ないつもりか?」
「・・・?」
「フーとかいう奴と、同じような奴をつくりたくないから追うんだよな」
「ああ・・・」
「『片腕が黒い少年』も、その化け物と同じだろうが」
「・・・どういうことだ」
男が食いつく。
先程と一緒の、冷たい怒りを放ちながら。
「被害者の身になれよ。目の前に現れれば、どっちも同じだ」
「・・・」
「見えない所にいる化け物より、目の前の殺人鬼を追えよ」
その時だった。
胸倉を掴んでいた腕が、自分の意思に反して男から離れる。
「・・・お前の言うことも、尤もだ」
「!?」
違う、離れたのではなく、離されていた。
その手首には男の黒い手があり、凄まじい力で引きはがしていたのだ。
「だがな、俺は最初から化け物しか追う気はない」
男は豹変していた。
眼には更に淀みが加わり、目線に触れなくとも凄んでしまう。
力さえも別人のように、しかも自分をも凌駕している。
「理由はお前と一緒だ。フーとその仲間の為の復讐だよ」
譫言のように呟いているその様は、吐き気を催す程悍ましい。
(・・・なんて奴だ)
触れてはいけないモノに触れてしまった。
ギコはそう思い、心の中は恐怖で染まろうとしていた。
この男は、自分と似ているどころか、全く同じだ。
ただ、己を抑制する感情の方が遥かに大きく、厚い殻となっていただけ。
それを突き、割ってしまったということは、逆鱗に触れた事に等しい。
気が付いた時には、既に立場は逆転していた。
402
:
魔
:2007/09/09(日) 16:02:38 ID:???
身の危険を感じ、男の腕を振りほどいて一歩下がる。
が、念いの為、ここで引き下がるわけにもいかない。
「・・・っ」
こんな感覚は初めてだ。
いつもヒトの上に立っていた自分が、赤の他人に怖じ気づくなんて。
だが、今は屈辱感よりも恐怖の方がそれを勝り、身体が上手く動かない。
「・・・いや、寧ろお前の方が熱意があるな」
「?」
男が唐突に喋り始める。
「ホンモノの警察に頼めと言いたかったが・・・あいつらは無能だからな」
「・・・」
「条件だ。何か『策』があって俺に頼んだのなら、少年の事、一緒に追ってやるよ」
※
先程から一転、チャンスが舞い降りた。
男から覇気も失せ、心も落ち着きを取り戻した。
崩れかかったシナリオも再構築し、また新たに描かれていく。
「ウララー? そこに誰かいるの?」
と、トイレの方から子供の声がした。
見てみれば、目元に包帯をしたフサギコが両手を濡らしていた。
「ああ、さっき知り合った・・・そういえば、申し遅れたな」
俺はウララー、と男は向き直り、軽く頭を下げた。
フサギコもこちらに歩み寄り、フーと名乗る。
「・・・?」
ちょっと待て。
この子供は、フーは目が見えない筈だ。
それなのにこちらに迷う事なく歩き、しかも杖もなしにやってのけた。
「フー・・・って言ったな」
「ん?」
それほど大きくない声にも、しっかりと反応した。
「目、見えないのによく歩けるな」
「うん。耳と鼻がいつもより敏感になったからね」
「細かい物の、位置もわかるのか?」
「指を使う事以外なら、障害物があってもいくらか大丈夫」
「・・・」
また、あの時の感覚が甦る。
初めて二人を見た時の、妙な確信だ。
描いたシナリオに上書きが施され、より形を成していく。
「話、続けようか。『策』があって、俺に頼んだんだよな?」
「・・・ああ」
ここでヘマをすれば、メイを追う事どころか、手痛いしっぺ返しを喰らう事になる。
この街に自分以外にもこんな強い奴が居たのかと確認させられたし、勉強になった。
だが、いずれはお前達も殺す。
それまでは、大人しくしておいてやる。
「俺に、考えがあるんだ」
※
この三人が噛み合った事で、事態は更に加速する。
誰が悪で、誰が正義なのかは誰にもわからない。
『正義は勝つ』なんて言葉は、この街にはない。
―――全ては、全員が出会ってから。
続く
404
:
淡麗
:2007/09/24(月) 09:53:06 ID:???
【ペット大好き♪日記】
その1
ねぇねぇ、みんなはペットを飼っている?
私は飼っているんだよ!
真っ白くて、ふわふわで、ちっちゃなベビちゃん!
え?なんでベビを飼っているか?
そうだよね、私の周りのみんなはベビちゃんを
「キモゴミのガキ」とか「糞虫ぃ」とかひどいこというけど、ベビちゃんって可愛いんだよ?!
確かに、アフォしぃはムカつくよ?
でもね、ベビちゃんの頃からしっかり教育すれば、良しぃになるってテレビでやってたもん!
だから、私がしっかり育ててあげれば、パパもママもお兄ちゃんもビックリするよ♪
それで、みんなで仲良く暮らすのが夢なんだ♪
私がベビちゃんを拾ってきたのには訳があるの。
実はこのベビちゃん、ひっどい母親に育てられていたんだ。
うちの近くにある空き地にいたしぃの親子だったんだけど、この母親はいわゆる虐待親ってヤツね。
自分のベビにはご飯もあげないで放っておくし、あまつさえ他のギコ種と交尾ばっかり!
こんな最低な母親の元にいるなんて、不幸だよね?!
確か前にもベビちゃんが何匹かいたみたいだったけど、みんないなくなっちゃっていたし。
きっと虐待の果てに死んじゃったんだよ!
そんなかわいそうな目にあわせるわけにはいかないから、私が昨日助けに行ったんだ♪
これからベビちゃんの幸せな人生が始まるんだから、私がしっかりと育ててあげなくちゃね!
405
:
淡麗
:2007/09/24(月) 09:54:11 ID:???
②
でも困ったな…
パパもママも、きっとベビちゃんを飼うのは大反対だと思うんだ。
ママなんか
「なんで糞虫ぃがいるのよぉぉぉぉぉ!!!」
ってブチ切れて、大虐殺しちゃう。
明日から学校だから、昼の間に見つかったら大変だし…
ベビちゃんは隠れることが出来るかもしれないけど、トイレの臭いとかで見つかる可能性も高いわ。
うちのお兄ちゃんは気が利かないくせににおいに敏感だし。
ひょっとしたら、私がいなくなって寂しくて泣いちゃうかもしれない。
その泣き声で見つかってしまうかもしれないし…
しっかりしつけが出来れば、私が帰ってくるまで隠れていたりする事も出来るんだろうけど、
それが出来れば苦労しないし…
あ、そうか!
なにも最初からベビちゃんが完璧に出来るわけがないんだもん!
その間だけ、しっかり私が隠しておいてあげればいいんだ!
きゃはー!いいこと考えた〜♪
406
:
淡麗
:2007/09/24(月) 09:55:52 ID:???
③【翌日】
「ただいま〜」
「あら、おかえり。今日はずいぶん早いじゃない?」
お昼を少し過ぎたくらいで帰宅した俺を母親が迎えた。
「あぁ、今日は講義が午前で終わりなんだよ。」
「まぁ、大学生はいいわねぇ〜」
「去年まで集中して講義を取ったからね。その反動で今楽できているんだよ」
やれやれ、去年まではずいぶん帰りが遅いとか言ってたのに、今じゃコレかよ。
内心苦笑しながら2階の自室へ向かう。
突き当りが俺の部屋。向かいは妹の部屋だ。
今日は平日だから、小学生の妹はまだ学校だろう。
昼食は学食で済ませたから、夕食までなんかしていようか。
課題のレポートは7割方出来上がっているから、それの推敲でもしておくか?
そう思いながらカバンを机に置こうとしたとき、いつもの場所にあるモナテンドォDSがないのに気が付く。
…また妹の仕業か。
確か去年
「私は絶対PSPが欲しいの!」とか言っていたくせに。
まぁ、夕方にでも取りにいけばいいけど、ないと分かると暇つぶしがしたくなる。
よし、さっそく妹の部屋へDSを奪還しに行こう。
隣の妹の部屋はいつ見ても「女の子の部屋」だ。
最近は勝手に入ると怒り出す、お年頃ってヤツか。
そのくせ俺の部屋にはずかずかと入ってくるのだがな…
それと妹の部屋にはベランダに続く窓のほか、大きな出窓がある。
大きな窓が二つもあるから風通しがいいことこの上ない。
それに比べて俺の部屋は…
くそ、やはりこれは兄妹間での差別か?!
まぁ、それはさておきDSはっと…
「ん??」
そうやって部屋を物色し始めた俺の鼻腔を、妙な匂いがくすぐる。
こりゃ「妙な匂い」、というより…「臭い」だな。
俺は人より鼻が利くらしく、においに敏感だ。
ひょっとしたら普通ならば気が付かない程度の臭いなのかもしれない。
くんくん、と犬よろしく鼻に集中する。
やはりこの臭い、この部屋から出ているようだ。
こんなこぎれいな部屋には似つかわしくない臭い…
臭いの元をたどると、どうやら机の下に置かれた箱からのようだ。
木製の小箱だが、なぜかふたの上には消臭剤がくくられている。
「ム゙ゥ…」
中から妙な声もする??
俺は慎重に箱を取り出し、括られている消臭剤をはずす。
フタには複数の穴が開いており、そこからむっとする臭気が上がる。
臭いの元はここから漏れてきているようだ。
…こりゃ中に何か生き物でも入れているな?
妹は動物好きだし、以前からペットが欲しいとか言っていたが…
一体何を拾ってきて隠しているんだか。
中身を確かめるべく、フタをあける
「んげぇ?!」
407
:
淡麗
:2007/09/24(月) 09:57:02 ID:???
④
中身を見ておもわず箱を落としそうになった。
強烈な悪臭が立ち上がったからだけではない。
なんともすさまじいものが中にいたからだ!
中に入れられている生き物は手足を結ばれ、口には猿轡のように布を咥えさせられた状態だ。
しかも箱の中は、こいつが脱糞したのだろう、糞尿が溢れている。
口にはめられている布は、糞尿がしみこみ汚れきっている。
己の糞尿を口に咥えさせられている、ともいえる状態だ。
呼吸のたびに、糞尿に半分埋没した鼻腔から、ブクブク〜と気泡もあげている。
一体コイツはなんだ?!
臭気に耐えながら、よくよく姿を確認すると…
ベビしぃのようだ。
ベビは突然差し込む光に眩しそうにするが、俺の姿を確認すると
「タシュケテ…」とばかりの目で俺を見つめている。
可愛そうに(藁)、ボロボロと涙もこぼし始めたではないか!
己の糞尿にまみれ、必死にもがいている姿は、まさに
糞 虫 ぃ だ な (藁)
この糞虫ぃの状態から推測するに、妹はこのベビをこっそり飼うつもりらしい。
しかし隠しておくには難しいと考え、この箱を準備。
単に箱に入れておくだけでは、箱の中で暴れ物音でバレるだろうから動かないよう手足を拘束。
さらに鳴き声が漏れないように猿轡をかましたというところか。
空気穴を開けたけどそこから臭いがばれることも考え、消臭剤も準備したのだろう…
まぁ、小学生の割にはしっかりと準備できているけど、まさかここまでの事は考え付かなかったのだろう。
所詮は小学生、といったところか。
相変わらず「ム゙ゥー」と変なうめき声のベビを一瞥し、俺はフタを閉める。
ベビは必死にもがいて助けを請うていたが、この臭いは耐えられんよ。
そして元の場所に寸分たがわず戻す。
ふたを開けたせいで、部屋に糞虫ぃの臭気が充満してしまっているので、窓を開け換気をしてやる。
俺は気の利くお兄さんだからな。
出窓を開放し、風を入れながらふぅっと一服。
やれやれ、妹はこの先一体どうするつもりだろうか。
そのうちバレるのは明白だ。
タバコを吸い終え、ぼんやりしていると、ふと面白いことを思いついた。
小学生がベビなんぞを育てきれるのか。
家族の協力は得られるわけがない。
しかしベビは成長していく。
妹はてんてこ舞いになりながら育てようとするだろう。
だが無知な小学生が提供する環境は、ベビにとって地獄になるか天国になるかは目に見えている。
妹にとっては「一生懸命のお世話」だろうが、ベビにとっては「虐殺」そのものだ。
ベビが持つか、妹が根を上げて放棄するか…
俺は何も手出しはしない。
ただ黙って様子を観察するだけ。
今日はこんな事が起こった、明日はどうなるのか、こんな事を始めるようだがどうなるのか…
これってテレビドラマ以上に展開が気になり、目が離せないことだろう。
俺は一視聴者にしか過ぎないのだ。
もう第一話はスタートしている。
この後妹が帰宅して、糞まみれのベビを発見してどうするのか。
まさか家の風呂場で洗ったりは出来ないだろうし、糞まみれのベビの体を優しく手で洗うことも出来ないだろう。
かといって放置するわけにもいかない。
妹はどうこの問題をクリアするのか。
そしてベビに降りかかる厄災は一体……
これは面白い毎日になりそうだ!
…なんか大した虐殺もありませんでしたが、一応
【続く】デス。
408
:
魔
:2007/09/24(月) 23:36:12 ID:???
>>390
より続き
天と地の差の裏話
『まとめ』
※
血塗れのコンクリで被われた空間。
雨水が溜まった取っ手のないバケツ。
赤錆だらけで使い物にならないロッカー。
片隅には無数の白骨化した被虐者達。
取り壊しもされないまま、十数年放置されている小さなビルがあった。
その中では、被虐者がよく連れてこられ、虐殺されている。
表では出来ないやり方を試す疚しい考えの持ち主が、ここをよく利用していた。
商店街とは違う意味での、虐殺スポット。
未だにここは使われている。
しかし、最近では利用する者がどうしてか激減していた。
その理由は、皮肉にも今、その原因となる者がそこを利用していた。
赤褐色の空間に、メイは腰をおろしていた。
その尻の下には、もぞもぞと蠢くものがあった。
「ぁ・・・っ、かひ・・・」
喉を鳴らし、必死に酸素を身体に取り込もうとする茶色の達磨。
四肢の付け根から漏れる血は鮮やかで、まだ新しい傷のよう。
彼の、ちびフサの手足は、既にメイに奪われていた。
目的は勿論虐殺であり、また、食事の為でもあった。
「・・・ん」
丁寧にちびフサの脚の皮を剥ぎ、そこから覗いたピンク色の肉にかじりつく。
水道がないため、血抜きを行わないで食べたものだから生臭さが半端じゃない。
しかし、その臭いと味には当の昔に慣れているので、特に気にならなかった。
「ふぐ、ぅ・・・も、もう許して・・・ぇ」
命の燭が消えかかったちびフサに乗っかり、それを眺めながらの食事。
悦に浸る程の快感は得られないものの、愉快といえば愉快だ。
火傷と片耳を、鬼の首をとったかのように馬鹿にしていた者が、
今ではそれ以下の達磨と化し、死に物狂いで生にしがみついている。
四肢を奪い、それの痛みに絶叫し、叫び疲れた所を狙って今こうしている。
酸欠に近い状態で肺を圧迫されてしまえば、苦しみは半端じゃない。
首を絞められながら、重しを乗っけられているのと同じだ。
「頑張って生きる事を馬鹿にしたくせに、死にたくないなんて我が儘だよ」
「そんな、醜い姿で・・・生きるのが、間違ってる、デチ・・・」
まるで全力疾走した後のように、呼吸を交ぜ途切れ途切れに話すちびフサ。
涙を目尻に沢山溜めながらの罵倒に場違いの根性を感じ、呆れてしまう。
命乞いをして、生を掴む方がよっぽどマシだというのに。
尤も、そんな達磨では一人で生きてはいけないけれど。
「そうだね。醜いよね。でも、キミみたいなダルマの方がもっと醜いと思う」
毛虫みたい。と付け加え、食事を続ける。
と、その言葉の直後、ちびフサは顔を赤くして反論してきた。
「ぉ、おお前が!! こん、こんな・・・こんな姿にしたんデチ!」
変にプライドが高いせいで、屈辱感はかなりのものらしい。
苦しみ、大粒の涙を流しながらも、暴言を吐くことだけは忘れない。
息を大きく吸っては吐き、時折咳込みながらのそれは、滑稽でしかない。
「だって、毛虫なのに手足があったら変だったから」
「そっ、そんな、程度のっ!・・・理由、で・・・っ!」
怒号を飛ばそうにも、圧迫され許容量の小さくなった肺では、満足に行えない。
必死だなあと思いつつ、骨つきチキンの食べ残しみたいにになった毛虫の脚を捨てる。
そして、まだ毛皮のついている残りの四肢に手を付けた。
409
:
魔
:2007/09/24(月) 23:36:44 ID:???
「・・・むう」
毛虫の中途半端な怒りを適度にあしらいながら、全ての四肢を食べ終えたメイ。
だが、いつもこの量の倍近くは食べていたので、少々物足りない。
※
ここ最近、細かく記せばVと出会ってから数日。
メイは、まともな狩りが出来ないでいた。
街中のAA達の警戒心がより高まり、行動を制限されていたからだ。
加虐者は勿論、アフォしぃすら仕留める事が出来ない日々。
ちびギコ達では量が足りず、だからといって一日に何回も狩りは行えない。
警戒が強くなった原因は、Vのせいでも警察の呼び掛けでもない。
真の原因はメイがやってきた事の積み重ね、『時間』だった。
残酷な事件が起こって、かなりの時間が経った今、住民は嫌が応でも怯えなければならない。
そして、その怯えを取り払おうと、事件の根元を絶つべく怒る住民もいた。
加虐者が狙えないのは『怯え』からくる『警戒心』で。
アフォしぃが狩れないのは『怒り』でメイを追う住民のせいだ。
※
(別の街に行こうかな・・・でもなぁ)
程よく閑散としているこの街が、ちょうどよい。
下手に人口密度が高ければ、敵が多過ぎて袋の鼠になる確率が半端じゃないし、
逆にど田舎だったりしたら、獰猛な動物や元気な高齢者が仕掛けた罠など、新しい危険が増えてしまう。
どちらの理由もこの街から抜け出そうとして、被虐者が身体をはって見せてくれたものだ。
できの悪いコントのようだったが、紛れも無い事実であり、反面教師として十分に役にたった。
選択肢が消えた事は残念だったが、自分の命とは比べるまでもない。
「ぅ・・・ぶへっ!」
毛虫の腹を一発殴り、立ち上がる。
そして、硝子のなくなった窓の方へと歩き、外を覗いた。
鉛色の空を除けば、視界の大半を被う雑木林が目に飛び込んだ。
その端に、ぽつぽつと舗装されていない黄土色の地面。
紛れも無く、ここは自分が生き延びる事を誓った公園だ。
あまり高い場所からの眺めではなかったので、妙に大きく目に映る。
できれば、戻りたくはなかった所。
AAの目を避け、なるだけ自分への意識が薄い地域を探して来た。
その逃げ道が塞がれかかった今、全く手を付けてないここに来てしまった。
あのモララーのいる、モナーのいる、ギコのいるここに。
奴らが生きていたら、血眼で自分を追って―――
「・・・?」
思考にストップを掛ける。
『生きていたら』
何故、そんな言葉が浮かんできたのだろうか。
別に死んだ瞬間を見たわけでもないというのに。
しかし、どうしてか脳裏に映るビジョンがあった。
モナーとモララーを殺し、血塗れになったギコの姿が。
『ぐぅぅぅ』
不意に、自分の腹の中の人が不満を告げる。
まだ食べ足りないのか、その声は大きかった。
毛虫の方に向き直ると、それはまだ必死に呼吸をしていた。
大袈裟に上下動する毛むくじゃらの腹部は、針でつついたら萎んでしまいそうだ。
とりあえず近付き、いろんな角度から見詰めてみる。
すると、毛虫は余裕を取り戻したのか、こう言ってきた。
「・・・フサタンの綺麗なおケケが、そんなに羨ましいデチか?」
「・・・」
こいつは本物の馬鹿なのか。
そんな言葉が頭に浮かんだが、口にはしないでおいた。
410
:
魔
:2007/09/24(月) 23:37:59 ID:???
「違うよ。どこ食べようか迷ってるだけ」
「・・・はっ?」
こいつは何を言っているんだ。そういった顔をする毛虫。
直後には喚きだし、手足がない代わりに首を振り回す。
「ふ、ふざけるなデチ! AAを食べるなんて、馬鹿、変態じゃないデチか!?」
「・・・」
もはや反論する事すら面倒なので、片方しかない耳を畳んで塞ぐ。
そして、少しだけ考え込んでから、行動に移った。
毛虫の胸、正中線上にナイフを宛てがう。
狙いを定め、あまり力を込めずに一気に腹へと引いた。
「ヒギャッ!!」
血がいくらか吹き出たが、あまり気にはしない。
切り口を開き、どの位の深さまで入ったのかを見定める。
指を這わせ、皮を引っ張る度に血が漏れ、同時に毛虫が悶える。
(まだまだかな)
目標の、皮の奥にあるピンク色の肉は見えない。
ナイフを握り直し、次は切り込みに沿って刃を走らせる。
ある程度繰り返せば、それはうっすらと顔を出してきた。
そこで、今度は刃を傾けて皮を削いでいく。
「うあ、ぁぁぁああ!! やめろデチィィィ!!」
痛みに耐え兼ねてというよりは、毛皮を想っての叫びに聞こえた。
この状況下でも、まだ自分の身なりを心配している毛虫には、違う意味で感動させられる。
もし自分が毛虫の立場なら、おとなしく死を待つというのに。
そんな事を考えていると、いつの間にか皮を剥ぎ終わらせていた。
小汚い毛皮の扉を開くと、お目当ての肉が血を滴らせながらこちらを待っていた。
毛虫の呼吸に合わせて動くそれに、ゆっくりと刃を入れる。
「あギゃっ!!」
喚く毛虫を見る限り、今度は気持ちより痛みが勝ったようだ。
円を描くようにナイフを動かし、乱暴に切り開く。
落とし蓋のようになった腹の肉を取り除けば、見慣れた物達がすし詰めになっていた。
「・・・さて」
悩んでいたものは、そこにあった。
極太のミミズのような、小腸と大腸。
小さい被虐者を狩った後、手足だけでは足りなかった時によく世話になった。
だが、それは近くに大量の水があった時だけの話だ。
流石に排泄物を食べる程切羽詰まってはないし、そんな特殊な性癖も持っていない。
―――悩んだ末、諦める事にした。
臭い飯より、生臭い飯の方がずっといい。
「ぁ・・・ぁぅぅ」
気が付けば、毛虫の方は段々と衰弱している。
折角開腹したのだから、何か一つくらいは食べないともったいない。
とりあえず、腸のまとまりより上にあるもの、肝臓に手を出した。
摘出し、そのくすんだ色と弾力のある手触りを堪能する。
肉という枠組みの中で、一番まともな美しさを持つ肝臓にも、当たり外れはある。
一度泥酔していたAAを殺し、それを取り出した時は泣きそうになった。
今回は良い方だったので、この喜びを伝えようと持ち主の毛虫に見せる。
「君のこれ、キレイだね」
「ぇ?・・・ぇ、ぇっ? ぇっ?」
虚ろな目で己の臓を見て、じわじわと青ざめる毛虫。
震えだしたかと思えば、急にうなだれて動かなくなった。
酷く端切れの悪い虐殺で終わってしまった。
あえて死因を添えるなら、ショック死だろうか。
(これで何回目だろう・・・)
ナイフ一本では、達磨か割腹ぐらいしか虐殺のメニューがない。
それではつまらないと思い、いくつか自分なりに考えてはいるが、なかなか上手くいかない。
メイは溜め息を一つ零し、手の中にあるつるつるの肝臓にかじりついた。
411
:
魔
:2007/09/24(月) 23:38:26 ID:???
食事を済ませ、虐殺も終えた。
腹の中の人も一応満足したようでなによりだ。
「さて、と」
ヒラキになった毛虫を、白骨の山に投げ込む。
無数の乾いた音が山から響き、毛虫はその中に埋もれた。
真っ白い空間に肉塊が置かれているのは、かなり違和感があった。
が、数週間もすれば、毛虫は彼らと同じ姿になるだろう。
次に身体中についた血を落とす為、バケツの方に近付く。
覗き込むと、そこそこの量の水の上に、自分の顔が映りこんだ。
「・・・」
もう、あの時のような感情は湧かなかった。
さっきの毛虫や、他の頭の悪いちびギコ達に何度も醜いと言われたこの姿。
自分で評価するとなれば、これが『本来の姿』といった所だ。
母と一緒に居た時の、両耳両目のある自分の眼は死んでいた。
だが、一人になって生きて来た今の自分は、皮肉にも生き生きとしている。
(・・・なんで今更、こんなこと)
メイはバケツの中の自分を乱暴に掻き混ぜ、身体についた血と共に思考を拭い去る。
ついでにナイフも丁寧に洗い、何度か振って水を切った。
ふと、振り返る。
顔は後ろを向いたまま、目だけを動かして辺りを見る。
特に何もなかったが、どうしてか違和感を覚えた。
その正体は、自分の呼吸が聞こえた所で理解した。
何故か、音がなかった。
クルマの走る音も、AA達が騒ぐ声も、虫や小鳥のさえずりすら聞こえない。
まるで自分だけ、異世界に飛び込んだかのような気分だ。
注意深く、窓を覗き込む。
身を乗り出しても、一般AAや被虐者の姿はみつからない。
「・・・?」
いや、見つけた。
ちょうどビルの真下で、何かを捜すようにうろうろとしている者が。
毛並みと体格からして、レッサー種ではないフサギコだろうか。
手に持った棒でごみ箱を突いたり、段ボールを殴ったりしている。
理由はわからないが、恐らく被虐者を捜しているのだろう。
両目を被うように包帯を巻いているそのAAは、紛れも無く一人だ。
身体に障害を持ちながら、のうのうとこの辺りを散策するなんて。
久しぶりに大きな肉を食べられるチャンスがやってきた。
獣に襲われるよりも、自ら命を落とすよりも先に、自分が狩ってやる。
舞い降りた幸運を、逃すわけにはいかない。
(・・・やるしかない)
※
フサギコの後を追うため、非常階段の方へ走りそこから外に出る。
錆まみれの階段は、隣の建物の屋根の近くに配置されていた。
そこに飛び降り、なるだけ音を立てずに獲物の方へ駆けた。
息を潜め、気配を殺す。
メクラとはいえ、狩りに気を抜く事はできない。
何事も本気で行かなければ、この街で生は掴めない。
メイは自分にそう言い聞かせ、じっくりと様子を窺った。
「・・・」
この街の路地裏に、抜け道なんて殆ど存在しない。
獲物はいずれ、袋小路へと身を寄せる筈だ。
そこで足を止めたら、後は一気に飛び込んでナイフを突き立てるだけ。
いつもやってきた事だ。
失敗なんて、するはずがない。
娯楽の為に殺すのとは、覚悟が違うんだ。
412
:
魔
:2007/09/24(月) 23:39:51 ID:???
時間はそんなに掛からなかった。
獲物は袋小路に入り込み、コンクリの壁を棒でつついている。
本人からすると、目の前は壁ではなく、何かが積まれているように感じたのだろうか。
だが、片目の自分が見ても、そこは紛れも無くコンクリで阻まれている。
獲物はそれに気付くことができず、丁寧に壁を調べていた。
(・・・やるなら今だ)
十数秒経ってから、メイはそう決意した。
観察のみに留めていた思考を、狩りへと移行させていく。
獲物の頭蓋へと狙いを定め、それ一点のみを見る。
視界に獲物しか映らなくなるまで集中した時、力強く地を蹴り、跳んだ。
―――その時だった。
「みぃ〜つけたっ」
跳び掛かった瞬間、獲物は振り向いてそう言ったのだ。
それは酷く小さく、虫の鳴き声にも掻き消されそうな程だった。
獲物は壁を背にするように動き、ナイフが描く軌道から離れる。
身体は引力に逆らうことなく、そのまま落ちていく。
「ッ!」
気付かれ、そして避けられた。
まるで、こちらが跳ぶタイミングに合わせたかのようだった。
思考が狩りから逃亡へ一気に切り替わる。
だが、脚が地に着かなければ逃げる事はできない。
どすん、と鈍く低い音がして、脚に衝撃が走った。
間髪入れずその場を蹴り、獲物、いやフサギコとの距離を取る。
振り向いた瞬間、そこで自分の足は動かなくなった。
「・・・っ」
フサギコが恐ろしく見える理由は、単純なものだった。
思考が狩りから逃亡に切り替わった時、同時に立場も逆転していたのだ。
『殺人鬼と被害者』から、『被虐者と加虐者』に。
更に、目を患いながら不自由なく動くというフサギコの奇抜さ。
それが感じている恐怖に拍車をかけていた。
あの包帯の巻き方からして、絶対に見えてはいない筈なのに。
奴は今、こちらにしっかりと顔を向けている。
にっこりと笑っているフサギコは、必要以上に悍ましく見えた。
「まだ、そこにいるの?」
唐突に、フサギコが口を開いた。
棒をゆらゆらと揺らしながら、じわじわと近付いてくる。
子供だと思って、油断した。
奴は最初から、自分を誘っていた。
棒で道を探しながら、耳でこちらを捜していたのだ。
(こんな、こと・・・)
Vの時とは違う恐怖が、自分を縫い付ける。
だが、奴は自ら包帯を解かないことから、本物のメクラだ。
少しだけ、ほんの少しだけ自分を奮い立たせられれば、ここから逃げ出せる。
今まで、幾重ものAAから逃げてきたんだ。
(メクラなんかに、捕ってたまるもんか!)
棒が鼻の先に触れるより先に、メイは踵を返す。
途端、更なる恐怖がメイに襲い掛かる。
「あ、待てっ!」
フサギコが棒を投げ捨て、一直線にこちらに向かって来たのだ。
「うわあああっ!!」
堪らず、叫んでしまった。
恐怖で脚が縺れて、うまく走れない。
少しでも時間を稼ごうと、辺りにあるものをナイフで倒し、進路を塞ぐ。
「わっ!?」
倒したものが上手いことフサギコの臑に当たり、よろける。
慌てようからして、流石に不意打ちには弱いようだ。
運よく隙を作らせることができ、後は猛ダッシュで走るのみだ。
413
:
魔
:2007/09/24(月) 23:40:25 ID:???
※
逃げながら、メイは考える。
狩りが失敗した、その前の出来事を。
フサギコを見つける前の、あの奇妙な感覚は何だったのだろうか。
音が消え、導かれるように窓の外を覗いてしまったアレは。
思い返してみれば、路地裏なんて窓から落ちる勢いで見ないと、視界に入らない。
それに、奇妙な感覚に陥った時の自分も、腑に落ちない。
その時の行動を反芻してみると、今まで自分が欠かさなかった警戒心が全くない。
フサギコを一目見ただけで、脳内は狩りでいっぱいだった。
全てが、自分のミスだ。
死に関係なかったからといって、無駄な行動に出た自分が、憎い。
(・・・くそっ!)
歯噛みし、路地裏をひた走る。
何度目かの曲がり角だった。
奥の方ではコンクリの壁はなくなり、道路が見えていた。
左右には木材や粗大ごみが打ち捨てられていて、見た目より狭くなっている。
「はっ・・・はあっ・・・!」
必死になりすぎて、既に息はあがっていた。
振り向いてもフサギコの姿はなく、振り切ることができたようだ。
だが、一本道であるここで休んでいる時間はない。
肺になるだけ酸素を溜め、再び駆け出す。
いや、駆け出すつもりだった。
また足が、恐怖で固まってしまった。
「残念だったな」
道路の方から差し込む光を背に、男が立っていたのだ。
影そのもののような身体の色と、特徴的な赤い線の入った耳。
そして、その手の中にはしっかりと拳銃が握られていた。
「う・・・っ」
予想はしていたし、そうであって欲しくないと願いもした。
『フサギコは囮で、他に仲間がいる』ということ。
吐き気と眩暈が同時に襲ってくるが、必死に堪える。
酸素と冷静さが欠けているが、それでもこの状況を打破する術を考える。
男との距離、周りにあるもの、後方のフサギコ、自分の脚力、ナイフ。
と、ここで男が動いた。
ゆっくりと嫌らしく、拳銃を持ち上げていく。
咄嗟に構えるものの、男はそれを無視するように口を開いた。
「何故、お前はこんなことをしてきた」
「・・・何故、って」
男の声が思ったより緩かったせいか、つい反応してしまった。
吐き気も失せ、いつの間にか思考は会話を優先していた。
「訳もなく、お前のような子供が殺人をするはずがないだろう?」
「・・・」
「復讐か? それとも唯の虐殺厨なだけか?」
「生きる・・・為だから」
自分の一言に、男は眉を寄せる。
それは怒りではなく、哀れみを含んだもののように見えた。
「食べる為に、見境なく殺してきたのか」
「うるさい!」
怒りが込み上げてきたのはこっちだった。
今更になって、同情してくるような奴が現れるなんて。
自分を捕まえて、殺すつもりでいる癖に。
「お前らみたいに、遊びで殺してる訳じゃない!!」
「食べる為に殺していい訳でもない」
「っ!・・・」
「お前はAAを『家畜』扱いしている。そうだろう?」
言葉に詰まった。
男の言う事に、間違いはない。
414
:
魔
:2007/09/24(月) 23:41:24 ID:???
だからといって、今までやってきた事を、生きる為にしてきた事を否定されては意味がない。
こいつの言うことを認めれば、自分は死んだ事に変わりはなくなる。
自分を保ってきたものが、じわじわと失われていくような感覚。
「虐殺の概念があるとはいえ、誰彼構わず殺していい筈がない」
「・・・黙れ」
呟くが、男には届かなかった。
「お前も、結局は『虐殺厨』なんだよ」
「黙れぇぇぇぇッ!!!」
言われたくない一言を言われ、怒りが爆発した。
その場にあった空き瓶を引っつかみ、壁の方に向かって投げる。
ぱあん、と空き瓶は弾け、破片達は跳ね返って男に降り懸かった。
「なッ!?」
男は腕で顔を庇うも、破片は容赦なくその黒い身体を切り裂く。
感情に身を任せた行動が、運よく相手に隙を作らせることができた。
息をつく間もなく、男の脇を縫うように駆け、路地裏を抜けた。
※
無駄な抵抗だとは、うすうす感じていた。
精神力も体力も大分削られた上、通りに出てしまった。
他に逃げ道がないのだから、仕方ない事だけれども。
広い空間では、この小さい身体じゃ不利な要素だらけだ。
追っ手の二人にも、薄皮一枚くらいのダメージしか与えられていない。
身を隠すより先に、どちらかに捕まってしまうのがオチだ。
「待てッ!」
後方で、男の声がした。
振り向かずとも、どのくらい離れているかはすぐにわかった。
それと同時に、互いの距離が早い段階で縮まっていくのも。
唯ひたすら、前を見て脚を動かす。
いくつもの柵を飛び越え、ガードレールを潜った。
それでも、男の気配は消えない。
不意に、視界にあの緑が映った。
街の中央に位置する、巨大の公園の一部。
距離が迫っていたので、身を眩ませるかどうかはわからない。
だが、今の自分に残っている選択肢は殆ど無い。
「っ!!」
ほぼ体当たりに近い動作で、植え込みに飛び込んだ。
身体にぶつかったのは枝だけだったので、運よく雑木林にすんなりと入れた。
「逃がすか!」
男も、負けじと植え込みに突っ込んでくる。
しかし、身体の大きさから引っ掛かる枝が多すぎて、遅れを取ってしまう。
距離が開いた。
辺りには自分より背の高い雑草だらけ。
上手くいけば、逃げられるかもしれない。
なるべく身を低くしながら、必死で雑草をかきわける。
(これなら・・・これならっ!)
右往左往することなく、ひたすら前に突き進む。
目標は雑木林の奥、男が自分を見失うまで。
気合いを入れ、地面を強く蹴っていく。
―――不意に、視界が開けた。
「・・・!!」
目の前には、信じたくない光景が広がっていた。
公園だ。
舗装されてない地面が、草木が全く生えていない地面。
奥には、突入した緑より遥かに大きな緑があった。
(そんな・・・!)
なにもない上、奥の雑木林まではかなりの距離があった。
一直線に駆け抜けても、先程取ったマージンだけでは足りない。
絶対に、追い付かれる。
走りながら振り返った。
自分が逃げ込んだ所は、紛れも無く雑木林。
だが、大きさを比べればその違いは一目瞭然。
それは公園という悪魔によって、親から引きはがされていたようだった。
415
:
魔
:2007/09/24(月) 23:41:53 ID:???
抜け出した所にあった植え込みが、音をたてて暴れた。
その奥には、自分を追う男の影があるのがわかった。
ばさ、と一回り大きな音がして、植え込みの中から男が出て来た。
銃口を、こちらに向けながら。
「うあっ!」
男の手元が光り炸裂音がしたのと、左足を凄まじい痛みが襲ったのは同時だった。
勢いを残したままバランスを崩したので、土の上で身体が二転三転する。
止まった時には、自分の毛は土埃に塗れ、左足はもう赤く染まっていた。
「はあっ、はっ・・・っく・・・ああっ!」
酸素が足りない上、激痛のせいで気を失いそうになる。
だが、同じ痛みにまた覚醒させられてしまい、感じる苦しみは半端じゃない。
幸い骨は砕けていなかったが、弾丸はしっかりと腿を貫通している。
気が付くと、手の中にナイフがなかった。
俯せに倒れ込んだまま、首を動かしてそれを探す。
が、視界が黒い影、男の足に阻まれたせいで見つけることができなかった。
「っあ・・・!」
「・・・観念しろ。お前はやりすぎたんだ」
冷たく、心に刺さるような声色だった。
だが、どうしてかその声の中にまた哀れみの念が込められている。
『悪い奴なんだが、殺したくはない』
そんな風な気持ちが、ごくわずかに感じ取れた。
何故なのだろうか。
こいつは、自分を捕まえて虐殺するつもりじゃないのだろうか。
いや、もしそうだとしたら、囮を使ったり撃ってきたりはしない筈だ。
「どうし、て・・・早く、殺さないの・・・っ」
自分の思考だけでは答が見出だすことができず、つい問い質してしまった。
「・・・」
返事が返ってこない。
傷口を押さえつつ、朦朧とする意識の中、顔を上げて男の顔を見た。
それは哀しみに満ち溢れていた。
銃口を向けていながら、苦虫を潰したかのような表情。
哀れみなどではなかった。
寧ろ、自分で自分を責めているかのような感じだった。
「お前とは・・・事が大きくなる前に会いたかった」
「ぇ・・・っ?」
意味深なことを告げ、男がその場から離れる。
目線を落とすと、そこには探していたナイフがあった。
自分と同じように土埃に塗れたそれは、こちらを待っているかのように見えた。
「・・・拾うか」
「・・・っ」
足の痛みを堪えながら、はいずってナイフに近付く。
男が自ら道を開けた理由なんて、この際どうでもよかった。
真意が読めないことに頭を悩ますより、抗うことを最優先としなければ。
生を諦めることなんて、絶対にしてたまるものか。
後少しで、指先に柄が触れる。
触れるはずなのに。
ナイフは自分を拒むかのように、ゆっくりと遠ざかる。
いや、拒んだわけじゃなく、ただ単に誰かが拾い上げただけだった。
人差し指が異様に短い、青い手だった。
顔を上げると、そこにまた信じられない光景が。
最も会いたくないと思っていた、AAがそこに立っていた。
416
:
魔
:2007/09/24(月) 23:42:54 ID:???
「あ・・・ああ、あ」
心の底から、信じたくなたかった。
こんな状態になってから、こいつに出会ってしまうなんて。
「久しぶりだな。コレ、返して貰うぜ?」
鉛色の空を背にした、無表情のギコが居た。
その感情のない仮面の奥に、鬼が居ること位、考えなくてもわかる。
囁くように問い掛けるその言葉は、酷くねっとりとしていた。
※
身体の傷の殆どは、モララーがつけたものだ。
実際、ギコには左眼だけしか奪われていない。
だが、虐殺されそうになった時に会った三人のAAの中で、最も恐ろしいと思ったのはギコだ。
隙を窺ってナイフを奪い、逃亡を謀った直後に唯一追って来た男。
ただ、それだけなのに。
あの時のギコの全ては、本当に恐ろしかった。
思い出し、言葉に表そうとしても、思考がストップをかける程。
トラウマを通り越し、記憶の引き出しから外されて奈落へと封印されたかのような。
しかし、それは今奈落から引き上げられ、封を解かれようとしている。
あの時の続きが、
想像したくもなかった事が、
皮肉にも、夢なんかじゃなく現実で行われようとしていた。
※
「ウララー、ありがとうよ・・・まさかこんなに早く出会えるなんてな」
ギコは黒い男の方を見て、そう言った。
もう、誰がどうかなんて考える気力は、なかった。
最悪のパターンで、死を迎えることになるなんて。
これなら、危険を犯してでも、毎日空腹に苛まれていた方が幸せだったかもしれない。
このギコが、自分を骨の髄まで苦しめて殺すのは目に見えている。
もしそうでなければ、自分はあの時眼でなく命を奪われていた。
「少年だからといって、甘くみてしまったがな」
「その腕・・・やられたのか?」
「ガラス瓶の破片をうまいこと浴びせられたよ。なに、唯のかすり傷だ」
「かすり傷程度なら、まだいい方じゃないか。俺なんて指だからな」
自分が絶望に打ちひしかれている中、二人は呑気に会話をしている。
まるでこちらが素早く動けない事をいいことに、嘲笑っているかのようだった。
こんな最期、認めたくない。
地獄の始まりなんて、信じたくない。
この出来事の落ちは、夢であって欲しい。
呪詛のように頭の中で繰り返すも、それは無駄でしかなかった。
だが、自分を保つそうするしか他にないわけで。
「ぐぶっ!?」
突然、腹部に鈍痛を覚え、身体はくの字になって宙に投げ出される。
撃たれた腿の痛みを忘れそうな位の激痛が腹を襲った。
蹴られた箇所からして、肋を何本かやられたかもしれない。
「さあて、おっ始めるとしますか・・・」
蹴り飛ばしたのはギコだった。
精神的にもいっぱいいっぱいだった為、全く反応できなかった。
ギコ以外、誰もする筈はないとわかってはいたけれど。
417
:
魔
:2007/09/24(月) 23:43:39 ID:???
青すじを顔いっぱいに立てているギコは、何者にも例えようがなかった。
それは虐殺厨という、新しい畏怖の象徴が生まれたかのようだった。
「げほっ・・・ぐ」
「ノビるのはまだ早ェぞ? コレは唯の前戯だからなァ」
そう言って、今度は左腕を掴んできた。
未だに血が止まらない火傷が刺激され、痒みに近い痛みを感じる。
しかし、既に大きなものを二回受けていたので、それ程気にならなかった。
寧ろ、虐殺の真の恐怖は、持ち上げられてからやってきた。
「ぎゃっ!?」
痂が裂けたかのように、鋭い痛みが襲い掛かる。
直後、腕の方から生暖かいものが身体へと滴り落ちてきた。
腕を切り裂いたのはナイフだった。
ギコから奪い、半身のように扱ってきたナイフ。
それが今、元の持ち主の手に戻り、こちらに牙を向けている。
「痛ぇだろ? 俺はこの痛ぇナイフで指切られたんだぜ?」
顔を近付け、ナイフを頬に宛がいながら囁いてくる。
嫌悪感など覚えている暇はなく、もはや蛇に睨まれた蛙状態だった。
身体はもう疲労と恐怖でガチガチに固まり、自分では動かすことができない。
唯一、外的刺激を与えられれば、ほんの少しだけ動いてくれる。
つまり、今の自分は『痛みに悶える』事しかできなかった。
「いっ、痛・・・っうぁ! あああっ!」
皮膚が浅く、深く、長く、短く切り刻まれていく。
そこから溢れる真っ赤な血は、身体の大部分を鮮やかに彩る。
何度目かの切り込みで、ギコの手が緩む。
身体は引力に引かれ、そのままの体制で地面にたたき付けられた。
「ぐっ!」
その衝撃で、折れたと思われる肋が体内で暴れた。
恐らく、内臓のどれか一つに刺さっただろう。
吐き気と頭痛が精神を更に苛み、気が触れそうになる。
「どうした? 逃げないのか?」
くく、と喉で笑いながら、ギコが追い打ちを掛けてくる。
先程皮膚を切り裂いた左腕に、そっと足を置いてきた。
(・・・ああ)
生きたいと強く願う中、『諦める』という想いが芽吹いた。
そのまま力強く踏み付け、潰しでもするのだろうか。
四肢を失えば、希望は費える。
ならば、もう諦めるしか他に道はなくなる。
迷う事なく死を望めば、苦しみだって―――
「おい、なんだその顔は」
途端、ギコの態度が豹変した。
悦に浸りながら、復讐を兼ねて虐待していた男に、また鬼が張り付く。
それは気を緩めた自分に対しての怒りだと、すぐわかった。
「まさかお前、死を受け入れるとか思っているんじゃねぇだろうな?」
「・・・っ」
「死にたいっていうなら無限に苦しませてやる。生きたいなら今すぐ殺してやる」
418
:
魔
:2007/09/24(月) 23:44:20 ID:???
「あまり調子こくんじゃねぇぞ?」
その言葉の後、左腕に位置していた足に力が入る。
「ッ!? あっ! ああぎゃああぁっ!!」
ほんの少ししか体重を掛けない代わりに、ぐりぐりと左右に動かしてきた。
傷口に砂粒が入り込み、痛覚神経が無理矢理に刺激されていく。
その痛みは炎に焼かれた時よりも凄まじく、気持ち悪さまで感じてしまう程。
全身の毛穴が開くような感覚を覚えつつ、その激痛を必死に堪える。
腕が足の下にあり、体制を変えられないことからも、苦しみが上乗せされる。
「あああぁぁぁァァァ!!!」
いくら叫んでも、苦痛は止まらない。
涙で視界が滲む中、ふとギコの顔が目に入る。
それは、『今人生で、最高の瞬間を体験している』といった表情だった。
滲んだ世界の中でも、くっきりと見えた吊り上がった口と、弓を張ったような眼。
無限とも取れた地獄の時間が終わる。
ギコの足が持ち上がり、腕から離れたのだ。
だが、その火傷していた腕は更に醜く、その姿を変えていた。
血と膿と、それらで溶けかけた痂に泥となった砂粒。
骨は折れていないし、こんな容姿になっても動くこの腕。
持ち主である自分でも、切り落としたくなる程醜くかった。
「あーあ・・・汚くなっちまったな。お前の腕」
まるで他人事のように話す当事者。
だが、怒る気力すら今の自分にはもうなかった。
「ぐ、ぅ・・・っは・・・あ」
呼吸を一つするだけでも、酷く苦しい。
『諦める』という逃げ道さえ、ギコは否定した。
だからといって、虐待に身を委ねるなんて事、絶対にできやしない。
モララーの所から逃げることを誓った時、出来るなら五体を差し出すなんて考えもした。
だが、あれは間違いだと、今更になって気が付いた。
無意識の内に、される筈がないと思ってから考えていた。
自分は馬鹿だ。
あの時、そのまま虐待に抵抗して死ねばよかった。
イチ被虐者が抗っても、結局はここに辿り着くんだ。
不意に、身体が宙に浮かぶ。
今度は右腕を掴まれての持ち上げだった。
「左腕のその皮、剥いでやろうか。どうせ要らないだろ?」
俺から見ても気持ち悪いしな、とギコは付け加える。
「・・・」
自分は無言でイエスと答えた。
もう何も考えたくないし、考えれば考える程、苦しみが増しそうだったからだ。
―――ナイフが、ゆっくりと左腕に宛がわれる。
続く
419
:
淡麗
:2007/09/26(水) 14:55:41 ID:???
【ペット大好き♪日記〜第2幕〜】
①
ねぇねぇ、みんなはペットを飼っている?
私は飼っているんだよ!
真っ白くて、ふわふわで、ちっちゃなベビちゃん!
え?なんでベビを飼っているか?
そうだよね、私の周りのみんなはベビちゃんを
「キモゴミのガキ」とか「糞虫ぃ」とかひどいこというけど、ベビちゃんって可愛いんだよ?!
確かに、アフォしぃはムカつくよ?
でもね、ベビちゃんの頃からしっかり教育すれば、良しぃになるってテレビでやってたもん!
だから、私がしっかり育ててあげれば、パパもママもお兄ちゃんもビックリするよ♪
それで、みんなで仲良く暮らすのが夢なんだ♪
今日はベビちゃんを飼ってから初めての学校の日。
私はベビちゃんを隠して学校にいって、授業が終わってからすぐに帰ってきたんだ
今日はベビちゃんといっぱい遊べる!
ベビちゃん、ちゃんとお留守番できてるかな?
そう楽しみにしていたのに…
今、私の目の前では酷いことが起きているの…
箱の中に隠していたベビちゃんはウンチまみれになってもがいているの…
どうして?なんでこんな事に??
慌てて箱のフタを閉めたけど、一体どうしよう?
ベビちゃんのことを洗ってあげなきゃいけないけど、お風呂場で洗うことは出来ない…
ていうかこんな状態じゃ家の中ではムリ!臭いでバレちゃう!!
どうしよう・・・
このままじゃベビちゃんが死んじゃう!
ウンチまみれで死んじゃったんじゃ、虐待と一緒だよぉ…
そうだ、近くの公園の水道で洗おう!
洗うのに必要な道具は…スーパーの100円コーナーで買えばいいか♪
そうと決まればすぐに実行!
いそがなくっちゃ。
ベビちゃん、すぐにきれいにしてあげるからね!!
420
:
淡麗
:2007/09/26(水) 14:56:58 ID:???
②
「いってきまーす!」
そういい残して、妹は慌しく外出した。
大方ベビを洗いにいったんだろう。
そりゃ当然だ。この家の中であの糞まみれを洗われたんじゃこっちが迷惑だ。
それに臭いですぐにバレるしな。
どれ、この後どう行動するのか、さっそく追跡に行くとするか。
行き先はおそらく、近場の公園を使用するに違いない。
ただ問題は、あの糞まみれの状態をどう洗うつもりなのか。
まさか素手で洗うわけにはいくまい。
ゴム手袋とか洗剤とか必要なはずだけど、家を飛び出す前に物色していた様子はない。
そうなると近所のスーパーで買い揃えるのだろう。
やれやれ、あんな糞虫ぃに金を使うとは本当に酔狂なヤツだよ。
妹が出発してから10分ほど後、俺も家を出る。
まだ残暑厳しいので車で行きたいところだが、見つかってしまう可能性が高いので徒歩で行こう。
歩いて5分ほどで目的のスーパーについた。
店の駐輪スペースには、確かに妹の自転車がある。
そして自転車カゴの中には、あの箱…糞虫ぃが閉じ込められている箱があった。
おいおい、こんな炎天下の中に放置か?
妹が家を出てから15分は経過していると思うが、この残者だ。
きっと箱の中は温度急上昇中だろう。
一応確認のため、箱に触れてみる。
…おいおい、焦げ茶色の箱はすっかり熱っつくなっているじゃないの。
糞尿の臭いと暑さと湿気…考えただけでも素晴らしい環境だ。
すでにベビは糞に茹で上げられて死んでいたりしてな(笑)
俺は向かいの本屋に入り、立ち読みするフリをしながら妹が出てくるのを待った。
待つこと15分ほどしてから妹はスーパーから出てきた。
100円ショップで購入したことを示す印字されたビニールの買い物袋を持っているけど、一体何を買ったのか、ここからではうかがうことは出来ない。
でも、予想通り近所の公園へと向かっていったのを確認。
俺もゆっくりと出発する事にしよう。
421
:
淡麗
:2007/09/26(水) 14:59:06 ID:???
③
ふぅ、やっと公園に着いたわ。
お買い物で時間かかっちゃったけど、ベビちゃん、今からきれいにしてあげるからね!
さっそく買ってきたゴム手袋を装着!
なんか給食のおばさんみたいだね♪
実はこのベビちゃんクリーン作戦は、給食のおばさんがヒントになっているんだ。
お料理とかするときに、ボールだけじゃなくてザルも一緒に使うけど、こうしたほうが
水切りとかにも便利っていうの、知ってたんだ♪
それにバケツだけじゃ水が溜まってきた時にベビちゃんが溺れちゃうしね。
さぁ、準備も出来たからベビちゃんを洗ってあげようっと。
さっき箱を持ったときに気づいたけど、なんか熱くなっているからすぐに始めないと。
きっと中も暑くなっているだろうから、シャワーをあびればすっきり気持ちいはず♪
気合を入れて箱を開けると…うわぁ…凄いにおい。
もうすっかりベビちゃんがウンチまみれ…
鳴き声が漏れないように、マスク(※一般的には猿轡)をつけたんだけど
それもウンチまみれになっちゃっているし
ベビちゃん、大丈夫かな??
箱の中からベビちゃんを取り出すと、なんだかぐったりして元気がないよぉ
そうだよね、こんなウンチまみれじゃ悲しくなっちゃうもんね…
まずは汚くなっちゃったマスクをはずしてあげなくちゃ。
ベビちゃん、新鮮な空気だよ〜
「ガハッガハッ!!」
あぁ、やっぱり苦しかったんだね。
ゴメンね、ベビちゃん…
「タチュケテクダチャイ・・・ ユルチテクダチャイ…」
ベビちゃん、相当苦しかったんだね。大丈夫、すぐに綺麗にしてあげるから!
まずはベビちゃんを洗わなきゃね。
あ、洗ってる最中に動いたりしたらきれいにならないから、まだ足は縛っておくけど大丈夫だよね。
さぁ、ベビちゃん、シャワーですよ〜
じゃばじゃばじゃばじゃば〜〜
「ヒギャアァァ!! チュメタイデチュヨウゥ!! チャムイデチュヨウ!!!」
あ、いっけなーい!
公園の水道って、いつでも冷たくて美味しいお水が飲めるようにって冷却されているんだっけ
あぁん、いつもは便利って思っているけど、こういうときは困るわ!
でもこのままベビちゃんをウンチまみれにしておくわけにはいかないわ。
心を鬼にして、洗わなくっちゃ!
じゃばじゃばじゃば〜〜
「ベビちゃん、すぐに終わるから我慢してね!」
「アニャアア!! チュメタイデチュヨウ!! ヤメテクダチャイヨウ!! 」
「きれいにしなくちゃいけないの!我慢して!!」
「モウイヤデチュヨウ!! タジュゲデ!! ゴハァッ!!」
ああもう!!洗っているのに騒いだりするからお水を飲んじゃうじゃない!
あ、直接水道の水を当てないほうがいいのかな??
それじゃ今度はバケツに水を貯めて洗わないと…
「ゲハッ ゲハァツ モウヤァァヨウ!! モウ チィヲハナチテ! オネエタンハ ギャクサツチュウデチュヨウ!!」
な・・・!
422
:
淡麗
:2007/09/26(水) 15:00:17 ID:???
④
なんですって!!
あたしが虐殺厨?!
酷い…!!
「…にが 」
「ギャクサツチュウデチュ! ギャクサツチュウハ イッテヨチ!デチュ!! モウチィヲ カイホウスルデチュ!!」
「なーにが虐殺厨よ!一体誰のせいでこんな事になったと思ってるのよ!!」
「ハ バジャバボォォボババァァァ!!!」
もう頭にきた!丁寧になんか扱うもんですか!
大体あんたが糞まみれになったのを私がこうしてきれいにしてやってるんじゃない!
それをいうに事欠いて虐殺厨ですって?!
だったらあんたが汚したこの水を飲んでからいって御覧なさいよ!! ほらほらほら!!
そんなにあたしが洗うのが嫌ならば、しっかり自分で水の中で汚れを落としなさい!!
「ダジュゲデッ!! ゴババボアッ!! バァッゴブボブオオ!!」
もう雑巾みたいにバケツの中に突っ込んではあげ、突っ込んでは上げを繰り返してやったの!
ザブザブザブザブ・・・って。
そ、何度もね。
でもね、こういう洗い方もあるのよね。押し洗いだったっけ?
前に家庭科の実習でやったのが役に立っちゃった♪
ほら、ベビちゃんの体も大分きれいになったでしょ?
さすがにベビちゃんは溺れかけているみたいだけど、さっきまで口にウンチの浸み込んだ
マスクをしていたんだから、お口の中も一緒に洗浄できるわね。
「ゲハァッ ゴハァッ ゲハァッ …ユ゙ル゙ヂデグダジャイ… モウ ヂィ、イイゴニジバジュガラァ… ユルヂデグダジャイ…」
ベビちゃんはようやくおとなしくなったみたい。
そうよね、やっぱりしつける時は厳しくしないと。
でも厳しいだけじゃダメ。
厳しさの後にはしっかり愛情を注いであげないと。
「わかった?あたしは虐殺厨なんかじゃないわよね?!」
「ハイィ… オネータンハ ギャクサツチュウナンカジャ ナイデチュ・・・」
「ん。分かればよろしい。それじゃベビちゃん、シャンプーしてあげるから大人しくできるよね?」
「ハニャァア… オミジュデ ジャバジャバチュルノ??」
「…お水以外に洗うものなんて無いじゃない。」
「ヒッ…! 」
「…なによ、文句あるの?」
「ナ、ナイデチュ… モンクナンテ アリマチェン…」
ちょっと厳しすぎたかな?
でも最初が肝心だって言うし…それに今からお湯なんて準備できないから、一気に洗ってあげたほうがベビちゃんのためでもあるわ。
それじゃもっとスピーディーに、一気に洗い上げないと!
「ハイ、それじゃシャンプーするわよ!」
「ハギャアァァァァ!! オメメニ! オメメニ チャンプーガァ!! イチャーヨォォォォゥ!!」
423
:
淡麗
:2007/09/26(水) 15:01:37 ID:???
⑤
今、妹は公園の水道で洗っているようだ。
あいつはわざとやっているのか?この界隈の公園の水道は冷却されている。
夏でもと〜〜っても冷たい、飲んでさわやかな水しか出ない。
そんな水で行水だなんて、やりたがる奴すらいない。
それにさっきまで糞の蒸し風呂状態だったのに、急に冷たい水を掛けられたら
ベビは心臓麻痺を起こしかねないのでは?!
まぁ、しぃってのはゴキブリ並みに丈夫だから、そう簡単にくたばりはしないだろうけど
それにしても…
俺と妹の距離は大体50m。これくらい離れれば、バレる心配はない。
でも…これじゃ一体何をしているのか見えないじゃないか!!
う〜〜ん、こいつは盲点。
どうしたものか…
いっそ秘密を共有、という手も無いわけではないがそれじゃつまらない。
うむむ・・・
あ、そうだ。「アイツ」がいたではないか!
うっひょ〜 こりゃ本格的な「観察日記」な日々ではないか!
きゃっほ――!!
【続く】
424
:
古爪
:2007/10/05(金) 05:49:00 ID:???
お初です。
よろしくお願いします。
『 ガランドウ 入 』
満月。
普段は大人から子供までいる賑やかな公園は、今は月明かりに照らされ青白く輝きながら、静まり返っている。
その公園のスミ、しぃ、と書かれたダンボールの中で彼女、しぃは月を見上げていた。
・・・世間では虐殺が流行りらしい。
モナーやモララーが、ちびギコや、私と同じしぃを躊躇い無くコロシテイル。
おかげで、綺麗な滑り台の青も今は彼らの血で赤く汚れている。
でも、誰も気にしない。むしろ子供たちはそれを見て、さも嬉しそうに笑う。
・・・・・・
彼女はそれを見ても、特別大きな感情は感じない。
それが、日常だから。
まるで蟻でも踏み潰すような感覚で消えていく命。
425
:
古爪
:2007/10/05(金) 05:50:12 ID:???
その出来事に
慣れてしまった。順応してしまった。
命という巨大な概念への感覚がナクナッテイク。
そんな自分に気づいて、
そんな自分が怖くなって、
もう手遅れなのに、
そんな自分になりたくない。
と、願い、しぃは自分という世界と、外の世界を切り離した。
結果、彼女は壊れた。
体はガランドウ。
精神は、浮遊霊のように意識としてある。
だが、地縛霊と同じく公園の外に出ることは出来なかった。
もう一度戻ろうと思っても、入れない。
しぃは絶望した。
ここから出られず、
体にも戻れず、惨めにこの地で永遠をイキルのか。
そう、壊れた代償は、永遠と孤独。
そのうち感情の起伏なんてものは無くなっていく。
それにも慣れた。
何も感じない、何も考えない。
それが、50年位前の話。
426
:
魔
:2007/10/21(日) 19:15:00 ID:???
>>408
〜より続き
天と地の差の裏話
『まとめ』
※
巷では殺人鬼と言われていても、本質は子供。
もし、普通の家庭で普通に育つことができたなら、
ちょうどその頃は『正義のヒーロー』に憧れてもいい歳だ。
自分がピンチになった時、颯爽と現れ悪人を倒す。
ブラウン管の中の強者は、いつだって弱者を助けてくれる。
いつも一人で生きてきた。
いつも一人で窮地から脱してきた。
そんな生き方をしてきたメイは、ある事を忘れてしまっていた。
自分にも、憧れているAAは居るということを。
超人的な力を持ち、自分の味方になってくれたAA。
殺人鬼として唯一の、理解者。
※
「・・・くくっ」
ギコは今、この瞬間を心から楽しんでいた。
一ヶ月も恋い焦がれ、追い求めていた者に出会えたからだ。
今行っている虐待は、ただのアドリブでしかない。
文字通りの前戯だし、長い間ずっと考え、熟成させた虐殺のメニューでもない。
しかし、ギコはそれでも非常に強い快感を得ていた。
「左腕のその皮、剥いでやろうか。どうせ要らないだろ?」
そして、気付いてしまった。
やり方など関係なく、単にこいつの苦しむ顔が見たかっただけなのだと。
そうと解れば、思考を切り替えなければいけない。
『どうやって殺すか』ではなく、『どうやって生かし、苦しめるか』に。
自害できないようにし、ひたすら延命させつつ、苦しませる。
そうすれば、自分はもう虐殺の為にAAを殺さなくてもいい。
こいつが居れば、他に何も要らないかもしれない。
※
―――そんな風に、ギコは油断しきっていた。
頭がおかしくなってしまいそうな程の強い快楽に、溺れてしまっていたのだ。
そんな筋肉も精神も弛緩しきった状態では、タカラの脚を止めた時のような反応なんてできる筈がない。
だから今、自分に何が起こったかなんてわからなかった。
メイを持ち上げ、ナイフを再度宛がった時の事だ。
足元を何かが通過した。
唐突に視界が反転する。
目下には空、頭上には地面。
それが更に反転し、腹から地面に叩き付けられた。
その時には既に、手の中にナイフとメイはなかった。
「ぐあッ!?」
衝撃で肺の中の空気が押し出され、出す気のない声が漏れる。
受け身も全く取っていなかったので、そのダメージは見た目より大きい。
集中し過ぎた、悪く言えば盲目になっていたせいで、自分に何があったかわからない。
二手、三手程遅れてから、やっとギコは辺りを見回す。
ナイフは近くに転がっているし、メイは自分と同じようにうずくまっている。
メイの目線はどうしてかこちらに向いておらず、気になってそれを追う。
するとそこには、耳が異様な形をしたでぃが立っていた。
虐待を邪魔された怒りが光の速さで膨張し、爆発した。
考えるより先に、身体が動いて立ち上がろうとする。
だが、どうしてか脚が全く動こうとしない。
何事かと思い、ギコは自分の下半身を見る。
―――両足は、腿のちょうど真ん中で綺麗に真っ二つになっていた。
427
:
魔
:2007/10/21(日) 19:15:32 ID:???
「え、えっ? な、うわあああぁぁぁぁ!!?」
堪らず、ギコは叫んだ。
一瞬の内にして、自分の脚が大根のように輪切りにされた。
その切り口からは、現実を突き付けるかの如く血が溢れる。
向き直ると、でぃはいつの間にか手の中に自分の脚を握っていた。
いや、よく見るとその鋭い爪に青い脚を串刺しにしている。
爪というよりは、もはや新しい刃物のような気がしてきた。
「ふふっ」
妖しく笑いながらも凄まじい殺気を放ち、その場に全員を縫い付けるAA。
でぃやびぃのようで、そうではない女の正体は、ギコ以外の者は既に知っていた。
彼女の名前は、Vと言った。
「ッ・・・」
今起きた出来事を全て把握し、理解したのはウララーただ一人。
それどころか、ギコの身体が撥ねられる直前に、Vの存在に気付いていたのだ。
しかし、気付いてからの動作が、Vより遥かに遅かったので、最悪の結果を招いてしまった。
その上とてつもない威圧感を受け、身体の自由も奪われてしまっている。
ウララーは、自分を奮い立たせようと必死になる。
一ヶ月もの間、復讐の為だけに追い続けた奴。
フーの仲間の敵が、今まさに目の前に立っているのに。
奴は今、自分に背中を見せている。
やろうと思えば簡単にやれるのに、腕があがらない。
考えたくはないが、搾取される側にまわっているのは自分達かもしれない。
身体が、精神がいうことをきかない。
「あ、ああ脚が、俺の脚があああぁぁァ!!?」
脚を切断され、喚くギコと、それを眺めるだけのV。
茶褐色のその姿は、新しい加虐者としてこの世に舞い降りた者のようだ。
「あら、あら。そんなに痛かった?」
唐突に姿を現し、場の空気を支配したVは早速我が物顔で話し始める。
全てを無視しながら言葉を紡ぐ様は、本質であるしぃに酷似していた。
「脚、脚がぁ!! 俺の脚を返せぇぇぇ!!!」
対するギコは、あまり頭を回転させずに喚き散らす。
これはこれで、ちびギコのような反応でもあった。
「でも、どうせくっつかないでしょう?」
そう言って、Vは串刺しにしていた青い脚をギコの目の前に放り投げる。
そして、くるりとメイの方に向き直った。
「ごめんね。来るの遅れちゃって」
「・・・V・・・?」
メイは既に疲弊しきっていて、片方しかない真っ黒な目は虚ろだった。
それは、早急に手当てしないと命が危ういということを物語っている。
だが、治療という概念を知らないVには通じなかった。
メイ本人も、身体の事を考えたりする事ができないでいる。
助かるのか、そうでないのかと悩み怯えるよりも、ただVの凄みに驚き、眺めるだけ。
それしか、今のメイにはできなかった。
「ホントはキミを嵌めたコを殺してすぐ行こうかと思ってたけど、懐かしい顔してたから」
428
:
魔
:2007/10/21(日) 19:16:39 ID:???
※
「・・・え?」
Vが続けて吐いた言葉。
それに興味を抱いたのは、メイではなかった。
疑問の声をあげたのは、会話に参加していなかったウララーだ。
Vはそれを知ってか知らずか、ウララーの方を一切向こうとしない。
そのまま、疲労困憊で全く動かないメイとの会話を楽しむ。
まるで、人形に話し掛けるかのように。
「大分前にそのコの眼を潰したんだけど、まだ生きてたの。驚いたわ」
「・・・」
「だからね、つい、つい懐かしんじゃって。あの時の続きが出来るんだって」
外見と、そこから漏れる殺気がなければ普通の少女のような立ち振る舞い。
そのギャップにすくみながらも、ウララーの心の奥底で何かが芽吹く。
(まさか・・・フー・・・!)
信じたくはない。
認めたくもない。
奴の言う事は、全て虚言だと思いたい。
でないと、自分が自分でなくなってしまいそうだ。
恐怖で足が竦み上がっていながら、怒りが沸々と沸き起こる。
相反する気持ちがぶつかり合い、吐き気を催す。
その中で、長い間抱いていた謎が氷解した。
何故、Vという化け物が表に出てこなかったのか。
それは小さな殺人鬼と友達のように会話しているのが、答えだった。
この二人は、仲間だったのだ。
組んでいたことは、意図的なものか、そうでないのかはわからないが。
都市伝説扱いされる程の手練であれば、姿を見せずに虐殺することも可能だ。
加害者がわからず、死体という証拠だけがあれば、今世間で暴れている者の名を挙げてしまう。
ろくすっぽに捜査しないあいつらなら、ほぼ確実にそうしてしまうだろう。
可能性として、考えつくような簡単な答えだった。
どうして、今の今まで気付かなかったのだろうか。
ギコの叫びと喚きをBGMに、Vは笑いながらなお話す。
と、ここでメイが口を開き、一方的な会話は途絶える。
同時にウララーは思考を止め、二つの感情に翻弄されながら聞き耳をたてた。
「そのコは・・・殺したの?」
瞬間、ウララーは心臓が跳ねたかのような感覚を覚えた。
聞きたかった事でもあり、聞きたくなかった事をメイがVに問い掛ける。
(やめろ・・・やめてくれ・・・っ!)
あの時に助けた命だ。
同じ者に殺されては、自分は苦しみを助長させたことになる。
弱者を救うべき者が、弱者により深い地獄に陥れるようなことがあっていいはずがない。
そこまで考えた所で、Vからメイの質問に対する答えが言い渡された。
「殺してはいないわ。殺す前に、凄い音がここでしたから、飛んできちゃったもの」
「・・・ああ、そう」
受け流すメイ。
背中を見せての、Vの発言。
殺してはいない。
確かに、そう言った。
殺してはいない、つまりは生きている。
だが、生きているということにも無数の意味が存在する。
フーが生きている現実は、ウララーにとってどういった意味になるのだろうか。
「耳も、鼻も、手足ももいで、これからって時だったの。残念だったわ」
429
:
魔
:2007/10/21(日) 19:17:13 ID:???
思考が停止した。
Vが紡ぐ出来事の中で、フーは惨たらしい状態になっていた。
唐突に脳裏にモノクロで浮かぶ、ついさっきまでメイを追い詰めた路地裏。
そこにいるのは、牙を見せて笑うVと酷く怯えるフー。
光を失った身体になりながら、更に残りの感覚も奪われる。
唯一感じるのは、『見えない恐怖』と『全身を駆け巡る激痛』。
その場にいたわけでもないのに、断片的でありながら鮮明に映し出される惨状。
「・・・ふざけンなよ」
自分の中で何かが弾け、呟く。
まだ、Vは笑いながらメイに話し掛けている。
全身が麻痺しているかのような感覚。
動かなかった右手がゆっくりと持ち上がり、ホルスターに掛かる。
そして、そこから銃を抜き、腕を地面と水平になるように上げていき―――
迷う事なく、引き金を引いた。
「ッ!」
「なっ!?」
その場にいたウララー以外の全員が、黒い塊から発せられた炸裂音に驚く。
叫んでばかりだったギコも、満身創痍なメイも目を見開いていた。
唯一、ウララーに背を向けていたVだけが、表情を変えずにいる。
それもそのはず、ウララーが狙ったのはVの頭蓋だったからだ。
しっかりと後頭部から穿たれたVの頭。
赤く開いた穴からは、ゆっくりと体液が漏れ出していく。
しかし、それでもその茶褐色の身体は崩れ落ちない。
「へェ・・・動けルんだ」
Vはゆっくりと振り向き、ウララーの方を見る。
その顔は、貫通したと思われる弾丸が上手いこと左眼を潰していた。
文字通り血涙が流れていながら、不気味に笑うその様はどんな者でも身震いしてしまうだろう。
頭蓋を貫かれていながらも、まだ動けるVはもはやAAであってAAではない。
運よく脳を損傷しなかったかもしれないが、重傷であることに変わりはない。
「ソれ、最初は怖かったけど、もう平気」
銃を指差しながら、舌足らず気味に喋るV。
それは壊れかかった人形よりも、獣としての精神が開花していくかのよう。
容姿とのギャップが消えかかりつつ、じわじわと更に殺気が濃くなっていく。
右側しか機能しなくなったVの眼は、既にウララーの喉笛しか見ていない。
「凄く速い石ころが出てくるんでしョ? しくみがワかったから、平気、平気」
「・・・」
狂気じみた言動になりつつ、悍ましさを増幅させていく。
そんなVを見ても、ウララーは全く動じなかった。
恐怖を乗り越えるどころか、飲み込んでしまったウララー。
今、ウララーが動いている理由は『フーの為の復讐』ではない。
『フーを奪われた自分の為の復讐』だ。
もし、Vの言った事が偽りであっても、怒りはその程度ではおさまらない。
何であれ、リミットを開放された瞬間から、目的を果たすか死ぬまでは止まらないものだ。
眼も据わっており、誰が何を言おうと止まりそうにない。
小さな殺人鬼も青い暴君も、息を呑んでしまう程。
大番狂わせのジョーカーは、ウララーという黒い男の中に潜んでいた。
430
:
魔
:2007/10/21(日) 19:18:14 ID:???
※
『今までやってきた事』なんて関係ない。
シリアルキラーも、カニバリストもこの場では唯の自慢でしかない。
肩書が場を支配しているのではない。
対峙している二人の能力と気迫だけが、そこにあるのだ。
「・・・」
それを見ている者は、メイとギコのみ。
互いに痛みなどとうに忘れ、黒い男と茶褐色の化け物に魅入っていた。
それぞれそんな事で麻痺する位のダメージではない筈なのに。
だが、二人は自分の目的、念い、夢を後にまわしても良い、と考えている。
AAの範疇を超えた化け物と、凶器を握った男の行く末。
それを見届けたいと、どうしてか心の底から想っていた。
「・・・ふフッ」
かり、かり、とVの爪が妖しく鳴る。
音だけでは一般AAの脚を切断するという程の業物とは思えない。
それでも、Vは自分の爪で幾人もの四肢と命を奪ってきた。
「・・・」
カチン、とウララーの握っている銃が勇ましく鳴る。
安い裁きの為に使われてきた撃鉄が、今復讐の為に起こされた。
感情だけで扱われれば、銃はこの世で最も恐ろしい武器と化す。
「あはッ」
「っ!」
無駄な時間を過ごしたくないと、先手を打ったのはVの方。
殆ど一瞬だった睨み合いは終わり、殺し合いの火蓋が切って落とされた。
瞬時にウララーの懐に潜り込み、屈む。
音もなく行われたそれは、洗練された殺しの技を思わせる。
ウララーも負けじと、一手遅れながら銃口をVに向ける。
だが、一ヶ月前のあの時と同じように、引き金はまだ引かない。
鉛玉が確実に目標を貫く為に、その機会を待つ為に。
『殺人鬼だけが、命を殺る事だけを考えているわけではない』。
と、ウララーはVに向かって無言で叫び、銃がそれを代弁していた。
Vにはそれが聞こえたのか、或いは偶然なのか。
舌足らずの嘲笑を吐き、ウララーを嘗め上げるように見上げた。
「ハハ、ははハハはっ!!」
『撃ってくる』、と感じるより先に、地面を蹴って横方向に距離を離す。
そして、飛蝗か猿かを連想させるかの如く、ウララーの周囲を跳ね、駆ける。
「くッ!」
挑発を意図した撹乱に、ウララーは歯噛みする。
砂粒で目潰しをされるでもなく、フェイントを仕掛けてきたわけでもない。
ただ格の違いを見せ付けたいが為に、大袈裟に跳び回っているようなV。
それでも、何もない所で踵を返したり、頭上を豪快に通過したりと凄まじい。
ウララー本人は自覚していないが、あの暴君であるギコを黙らせた腕力。
更に、的確な判断力とそれに応えられる瞬発力がウララーにはある。
しかし、Vにこう翻弄されてしまっては、持ち味を発揮することができない。
「きャはハははハ!!」
時折、ギリギリまで近付いては脇を通過するV。
風と一緒に薄皮を裂き、ウララーの体力と精神力をじわじわと奪っていく。
Vは既に、今の自分にウララーが何もできないということを読んでいた。
理由は至って単純で、己の武器である銃を下げていたからだ。
銃口を向けていなければ、鉛弾は身体を貫かない。
至極当たり前の事を理解し、Vは高らかに笑った。
431
:
魔
:2007/10/21(日) 19:18:34 ID:???
気迫や感情の高ぶりだけでは、『格』という差を埋められないのかもしれない。
自分の黒い身体に赤い線が走る毎に、ウララーは追い詰められていく。
Vの技と無数の小さな痛みで、段々と正気に戻されているかのよう。
「クソ・・・っ!」
良い方向に考えれば、それは冷静さを取り戻すことに繋がる。
しかし、熱が冷めてしまえば、また殺気に縫い付けられるだけだ。
無駄に弾を撃つのは自縄自縛。
辺りには文字通り何もない。
どうにかして、Vの動きを止めなければ。
でないと、自分はそのまま皮から細切れにされるだけだ。
焦りと恐怖が舞い戻る前に、解決策を―――
「ぐあっ!?」
突然、左足に激痛が走る。
咄嗟に足を押さえると、夥しい量の血が手に付着したのがわかった。
バランスを崩しかけるが、持ち直す。
だが、精神の方に受けたダメージはかなり大きい。
心の中で再度膨らみつつある、Vへの恐怖が更に加速していく。
(こんなことで・・・殺されてたまるかッ!)
武者震いでない震えを必死で止め、己を奮い立たせる。
全てはフーの為、自分の為。
ざ、と前方で砂が弾ける音がした。
同時に風を切る音も止み、静寂が辺りを包む。
ウララーは痛みを堪え、音がした方に目線を持っていく。
そこには口元を血で汚した、Vの姿があった。
牙に付着したそれをよく見ると、ウララーのものと思われる肉片だった。
「ク、ヒヒっ」
Vは器用に、牙を剥いたまま嫌らしく笑う。
先程の一撃は爪ではなく、顎でやったものと見せ付けるかのように。
「てめェ・・・」
Vの艶かしい嘲笑の直後、消えかかった怒りが再び爆発的に燃え上がる。
「どうしタの? 撃たなイの?」
肉片を吐き捨て、へらへらと頭を揺らしながらの挑発。
上半身を折り、腕を脚として扱っているその容姿は、まさに獣そのもの。
絶対的な差を見せ付けるかの如く振る舞うVは、今までにない威圧感を放つ。
だが、それが効いているのはギャラリーであるメイとギコのみ。
ウララーから見たら、単純に馬鹿にしているだけとしか取れていない。
そのせいでウララーは静かに怒り、空気は更に張り詰めていく。
再度睨み合いに持ち込んだ所で、ウララーは考える。
(・・・どうする)
このまま、また銃口を向けたとしても、Vは同じように飛び回るだけ。
繰り返されれば、自分の黒い身体が赤い身体になるのは明白。
嬲り殺しだけはどうにかして避けたいもの。
いや、何であれ命を落とす事そのものを避けなければ。
「・・・!」
そこまで思考を張り巡らせた時、不意に答えが見つかる。
しかし、それは考えとは真逆のもので、下手をすれば自分が先に死ぬ。
ハイリスク、ハイリターン過ぎるその答えは、行動に移すのに一瞬戸惑ってしまう。
だからといって、ここで動かない訳にはいかない。
元より、自分の命と復讐を天秤にかける方がおかしいのだ。
手足をもがれても、首があれば相手の喉笛くらい食いちぎる事ができる。
その位の覚悟がなければ意味がない。
※
至極簡単で、かつ危険な賭けに挑む事にしたウララー。
Vを強く睨むと、迷うことなく銃口を目標に向けた。
432
:
魔
:2007/10/21(日) 19:19:44 ID:???
「ハはッ!!」
威嚇とわかっていても、安全のマージンを取る為に回避は欠かさない。
狙いが定まるより先に跳躍し、辺りをまた縦横無尽に駆け回る。
後は最初と全く同じで、ウララーは目線だけしかこちらを追えなくなる。
(次はどこを狙おうかしら・・・首? いや、まだ早いわ)
リズミカルに地を蹴り、常識外れな速度を出しながらVは考える。
念いと怨みの為にこの公園に集った中で、唯一虐殺を優先していた。
己でも持て余す程の『力』を持ち、かつ簡単に扱える状態にある。
そうなると、その『力を持った者』が求めるのは娯楽のみ。
Vもまた、娯楽の事しか頭になく、それだけを探して生きてきた。
メイを好きになったのも、その過程の一つでもある。
今この状況にある娯楽は、『窮鼠猫を噛む』という諺の延長線上。
初めて弱い者が自分に牙を剥いてきたのだから、怒りより驚きしかそこにはなかった。
それに加え、いざ攻撃を開始した時には、簡単に嬲ることができた。
泣いて命乞いをする者もいれば、喉笛に噛み付こうと必死になる者もいる。
それを知らなかったVにとって、この瞬間は凄まじい快楽を得るものとなった。
「ヒヒ!! は、ハハははハ!!」
笑いが止まらない。
ウララーの、その力強い眼が濁り、涙で汚れていくのを想像すると、堪らなく気持ち良い。
時間をかけて、このまま皮を削いで削いで削いでしまおう。
Vはそう思いつつも、また肉を刔る体制に入る。
※
―――要は、気持ちが相反していたということ。
それは小さい事でもあり、大きな差でもある。
これが全てを覆す要因となったことは、当の本人達には理解できないわけで。
※
ウララーの方に向かって、強く跳ねた。
狙いは脇腹、また軽くその肉を頂戴する。
だが、あまり深く入ってしまっては致命傷になりかねない。
あえてここでは、爪を使ってそれを刔る。
「キヒイイィィ!!」
先程から、興奮し過ぎているせいか雄叫びのようなものが止まらない。
それは本能でもあり、理性というちっぽけなものでは抑止できなかった。
―――だから。
「カスが」
「っ!?」
ウララーが攻撃を待っていた事に気付かなかった。
自分の攻撃を、身体をはって受け止めようとしていることに。
軌道はもう修正できない。
幸い、銃口はこちらに向いていない。
爪があたってからでも、距離を取る事は遅くはない。
筈だった。
爪が肉に入り込むより先に、ウララーが跳躍する。
突っ込んでくるVに併せるように、後方に跳んだのだ。
「えっ?」
Vには一瞬、それが理解できなかった。
そして同じように、一瞬でそれを理解した。
爪が肉に触れ、ゆっくりと潜り込む。
が、己の自慢の逸品であるそれは、そこで止まってしまった。
刔るのではなく、刺さってしまったのだ。
自分の身体の一部が相手に触れたまま。
それでは、刹那を大事に動く者にとって死活問題である。
心の中で焦りと戸惑いが一気に噴き出し、Vはかなりの遅れを取ってしまう。
逆に見れば、ウララーには欠伸ができる程の余裕ができた。
その余裕を使って、ウララーはまずVにこう言い放った。
「捕まえたぜ。この糞野郎」
433
:
魔
:2007/10/21(日) 19:20:17 ID:???
※
自分の腹が貫かれていながらも、暴言を吐くのを優先する。
激痛に悶絶するどころか、微動だにしないウララー。
賭けにあっさりと勝つことが出来た今、後はVの命を取る事を考えるのみ。
「ふッ!」
空いた手で素早くVの手首を掴み、肘に銃を宛がう。
間髪入れず引き金を引くと、茶褐色の腕が弾け、真っ二つに別れた。
「キィィイイイイィ!!!」
堪らずVは種特有の叫び声をあげ、その場に崩れ落ちる。
銃口に物を密着させて撃った場合、暴発する可能性だってある。
なのに、ウララーはそれを知らなかったかのように無視して行った。
結果として良い方向に動いたものの、下手をすれば己の手が駄目になっていたかもしれない。
躊躇なく行動に移せた理由は、やはり復讐という感情が原因だった。
「キイィ!! ウウゥァァアアア!!」
無くなった腕を庇いながら、うずくまるV。
と、眼前に 何かが投げ出される。
それは紛れも無く自分の腕。ウララーに突き刺さった己の腕だ。
あの時、一ヶ月前に腹を撃たれた時に匹敵する痛み。
二度目の屈辱に怒りが込み上げ、力強くウララーを見上げる。
―――それとほぼ同時に、Vの頭は綺麗に撃ち抜かれた。
「ブぅグギゃッ!!?」
「・・・」
茶褐色の頭蓋は弾け、脳漿が飛び散る。
息をつく間もなく、二発目、三発目の炸裂音。
その度にVの身体は痙攣し、言葉では表現できない声をあげる。
「グ・・・ゥゥ、ウアアァァ」
もはや顔の凹凸は消え、穴と血と脳漿だけのボールがそこにあった。
そんな無惨な姿になっても、僅かだが動き息もあるV。
対峙している者が正常であれば、それは畏怖となるはずだった。
ふるふると震えながら、なおウララーに爪を向けるV。
それはまさに壊れかかったロボットが、必死に命令を遂行しようとしているかのよう。
そんなVを見ても、ウララーは眉一つ動かさない。
どころか、ゴキブリ並の生命力に苛つきさえ覚えてしまう。
「・・・お前さ、俺ら加虐者にやられてそんな姿になったんじゃないよな」
肘を破壊した最初の一発から数えて、これが最後。
確認の為に呟きながら、狙いを定める。
「そうだったら、俺やフーみたいに復讐を誓う筈だよな」
「ゥ、くァ・・・」
「唯一綺麗な桃色の毛皮・・・あってもなくても、本質は変わらねぇのか」
「・・・」
「糞虫はどこまでも糞虫ってことか? あ?」
何度も問い掛けるが、Vは答えない。
それ程までに痛め付けたのだから、仕方ない。
見限り、最後の言葉を渡して引き金を引く。
「テメェはもう、生まれ変わるんじゃねェ」
遊底が伸びきり、今の弾倉にある正真正銘最後の鉛玉が吐き出される。
その時の炸裂音は何故か酷く小さく聞こえ、Vの断末魔さえも耳に届かなかった。
434
:
魔
:2007/10/21(日) 19:21:28 ID:???
※
「あ・・・」
Vが、死んだ。
自分が、メイが憧れていたAAは、呆気なく死んだ。
凄まじい生命力も肉体も、鉛弾を放つ黒い塊には勝てなかった。
流れからして、次は自分の番だ。
このまま殺されてもよかったが、Vが遺してくれたものがある。
半ば芋虫と化した、ギコのことだ。
ギコが動けなくなったとなれば、生き地獄は逃れたも同然。
生か死かのチャンスが舞い降りた今、Vの死に浸る暇はない。
ギコとウララーの注意がこちらに向く前にナイフを取り返す。
Vの亡きがらを眺めている今が、絶好のタイミング。
「くっ!」
駆け出すと同時に全身が悲鳴をあげるも、堪える。
そして、転がり込むようにナイフに飛び付き、それを拾った。
「! ウララァァァぁッ!!」
「っ!」
やはり、二人はナイフを取り返した直後にこちらに気付いた。
飛び道具の事を懸念し、逃げ出すより対峙を選ぶ。
「・・・」
「この糞虫がああァ!! 無駄な抵抗してんじゃねぇぇぇ!!」
地響きを感じる程喚くギコよりも、無言を保つウララーの方が驚異である。
先程見せたあの眼に、自分には躊躇という言葉は無いものと報せていたからだ。
しかし、今のウララーは少し違っていた。
眼に変化はないものの、その気迫が薄れているのだ。
極端な殺意は感じない。
それでも、ウララーは弾の切れた銃に新しい弾倉を込め、遊底を引き直す。
ガチン、と黒い塊が唸り、張り詰めた空気を更に重くする。
「う・・・っ」
ナイフをウララーに向けるが、切っ先が震える。
体力の低下と、露骨な殺しの道具が眼の前にあるからだ。
ついさっきまでの、死にたいと願っていた自分なら、ここまで恐怖に苛まれなかっただろう。
だが、生きる道がまた見え出した今、それは最も避けて通りたい壁。
まだ死にたくないと、心が叫び、それに頭が怯える。
銃口が、こちらを向く。
酷く小さく黒い穴、そこから死が吐き出されるなんて想像できない。
「ウララー!! 早くそいつを殺せぇぇェ!!」
「・・・」
なお怒号を響かせるギコ。
それとは真逆の、沈黙を通すウララー。
二人は正に、罵声を浴びせ掛ける群集と血も涙もない処刑人のよう。
さしずめ自分は大罪を犯し、極刑を言い渡されたAA。
いや、寧ろ奴らに居場所を追われた魔女でない魔女か。
混沌としたこの街では、魔女狩りと同じで力を持った者の言葉が正しいのだ。
(・・・そうか、力か)
自分にも、ナイフという力がある。
それに、こんな醜い姿にしてくれた加虐者への怒り。
『感情』という力ならば、誰にも負けない。
AAを殺してきたのは、生きる為だけだと思っていた。
だが、加虐者とこうやって対峙して、やっと理解した。
自分は、『復讐』の為にも加虐者を殺しているのだと。
不意打ちと、逃げてばかりでそんなことを考える余裕がなかったのだ。
思考を張り巡らせていた所で、新たな怒りが込み上げる。
ナイフを握る手に力が入り、震えが止まる。
Vにウララーが抗ったように、今度は自分がウララーに抗う番だ。
435
:
魔
:2007/10/21(日) 19:21:47 ID:???
※
メイはその片目だけで、力強くウララーを睨み付ける。
「・・・」
すると、何故かウララーの眉間が緩んだ。
据わっていた眼も消え、少し前に会話した時と同じ表情になった。
「ギコ、ちょっといいか?」
ウララーは銃を下ろし、脚を失ったギコに問う。
「あァ?」
濁音が混じったその声は、不満を誰彼構わず撒き散らしているように思える。
それもそのはず、ギコの描いたシナリオは既に崩れ、重傷まで負ってしまったのだ。
それでも、絶望に打ちひしかれるよりも、納得いかないと憤怒する。
そんなギコの気持ちを知ってか知らずか、ウララーは会話を続けた。
「俺が頼まれたのは、こいつを追うことだけだったよな?」
「は?・・・い、今更何言ってんだテメェェェ!!!」
もはやギコのプライドは達磨にされた被虐者のように、ズタズタである。
―――そして、これからギコは今までで感じたことのない『恐怖』に襲われる。
「結論から言う。お前虐殺厨だろ?」
ウララーの冷たい言葉の直後、炸裂音。
鉛弾はギコの右手を穿ち、真っ赤な穴を開けた。
「っ!! うがあああぁぁっ!?」
Vに脚を奪われた時とは違い、はっきりとした激痛が右手を襲う。
空いている手でそれを庇おうとした時、また炸裂音。
今度は左手にも同じような穴が開いた。
「ギャアアアアァァァ!!」
「お前の頼み事も終え、俺自身の復讐も終えた・・・だから」
「ぐ、っううぅ・・・痛ぁぁぁァ!」
「俺は仕事を熟すだけだ」
噛み合わない会話を無理矢理繋ぐのは、やはり炸裂音だった。
ギコの耳が弾け、赤い液と肉の破片が辺りの飛び散る。
「っああああぁぁぁぁ!!!」
押さえようにも、穿たれた手ではより痛みが増すだけ。
吐き気を催す程のもどかしさに、ギコは一層叫びだす。
涙やら鼻水やら涎やらを撒き散らすその様からは、少なくとも爽快感は得られない。
暴君としてのギコは、簡単に、そして既にウララーに殺されていた。
Vの時とは全く逆のベクトルで叫び、痛みに悶えるギコ。
脚にひびくのか、のたうちまわることなく唯々泣き叫ぶのみ。
そんなギコと、無表情を貫き通すウララーをメイは交互に見て、呆気に取られた。
物事の中心である小さな殺人鬼を抜きにして、話は続く。
「最初に出会った時の暴力的な所とか、それっぽさが滲み出ていた」
「なんなんだよォっ!! こんな、こんな理不尽なことあってたまるかよぉっ!!」
「それにな、お前の身体から被虐者のものでない血の臭いもした」
「ッッ!?」
それを聞いて、ギコは一瞬動きを止めた。
それはもう暴君の反応ではなく、犯罪者が追い詰められている時のようなものだった。
「立場上、嗅ぎ分ける事くらい簡単なんだよ」
「そ、そんなことッ・・・第一、証拠が無ぇじゃねーかァっ!!」
「証拠なんていらねぇよ。ホンモノじゃあるまいし」
これまでにない醜態を晒しているギコに、追い打ちをかけていくウララー。
彼の言う事に偽りも嘲りも全くないが、十分にギコの心をいたぶっていく。
436
:
魔
:2007/10/21(日) 19:23:07 ID:???
※
ウララーが言葉を紡ぐ度、ギコは泣き叫ぶ。
仲間割れのような、そうでないようなやり取り。
それを見ていたメイは、混乱と共に心に落ち着きを取り戻す。
「ぐぎゃああああぁぁぁァ!!」
連続した発砲音がして、ギコの慟哭が強くなった。
見てみれば、肩甲骨の所に赤い穴ができていた。
もう、これでは両腕もまともに動かす事ができないだろう。
「・・・ねえ」
堪らず、ウララーに問う。
だが、ギコの慟哭が酷いせいか届かなかったようだ。
もう一度、少し声を荒げて問う。
「ねえ、なんで殺すの?」
今度はちゃんと届いたようで、ウララーがこちらを振り向く。
その眼は威圧感を放つものの、先程のように強い感情があるわけではなかった。
「虐殺厨だからだよ。爽快感欲しさに、誰彼構わず殺すような奴の事さ」
「虐殺・・・」
「加虐者であれ、虐殺厨になった奴は糞虫と同じ価値。いや、それ以下だ」
「・・・」
「勘違いするなよ。助けるつもりでやったわけじゃないからな」
冷徹に、淡々と喋るウララーは機械のように冷たかった。
Vと彼との関係はわからないが、復讐を終えた今、ウララーに点く火はないようだ。
それでも、燃え尽きてその場に崩れ落ちることなく仕事を熟すのには、寧ろ畏怖してしまう。
(虐殺・・・厨・・・)
ギコの方に目線を落とす。
余りにも醜い顔を晒し、腕のついた達磨と化したそれにはもう恐怖することはない。
泣き叫び、様々な体液を垂れ流す様は自分に新しい感情を芽生えさせた。
声には出さず、心の中で高らかに、ギコを見下ろしてこう呟く。
―――ざまあみろ、と。
「うあ、ぁぁぁ・・・ぐうううぅぅぁァ!」
地面にかじりつき、なお悶絶するギコ。
自分が眼前まで近付いても、気付く気配はない。
それほど、今感じている痛みは凄まじいのだろう。
「糞虫以下なら、何やってもいいの?」
ウララーに、二度目の質問を投げ掛ける。
「さあな」
至極短い返答。
雰囲気からして、本当の質問にも答えてくれたようだ。
再度ギコに向き直り、ナイフを構える。
「・・・僕、は。こいつの仲間にこんな身体にされた」
何故か、口を開いてしまった。
別に重要な話でもないというのに。
それでも、誰かに聞いてほしいという気持ちが、更に言葉を紡ぐ。
「だから、刃を向けるのはこいつじゃないかもしれない」
「・・・」
「でも、虐殺厨とかいう奴だったなら・・・多分、仲間も殺してる」
譫言に近いそれを、ウララーは黙って聞いているようだ。
顔が見えないから、どういった気持ちで聞いているのかわからないけど。
「・・・虐殺はしない。復讐だから、僕はこいつを殺す」
ナイフを握り締め、切っ先を目標に向けたまま掲げる。
そこで、ギコに左眼を奪われた時の事を思い出した。
眉間を狙っていた刃を少しずらし、一気に振り下ろす。
ギコは、惨めな姿のまま左眼を失って事切れた。
437
:
魔
:2007/10/21(日) 19:23:40 ID:???
※
最後の最期まで慟哭を吐いていたことから、恐らく誰に殺されたか理解していないだろう。
僕は柄が潜り込むまで刺さったナイフを抜きながら、そんなことを考える。
「・・・」
もう、この青い死体には何の感情を持つことはない。
それに、まだやるべき事は残っている。
今この場にいる加虐者の、ウララーとの決着だ。
ぽつ、と頬を何かが叩く。
仰ぎ見れば、鉛色の空が泣いていた。
誰の為に、何の為に泣いているのかはわからない。
木々もそれにざわつき始めた時、場違いな金属音がした。
振り向くと、ウララーがこちらに銃口を向けている。
「計算があっていれば、後一発残ってる」
雨音のノイズに遮られることなく、その言葉ははっきりと聞こえた。
「この弾、誰に使えばいいと思う?」
「・・・」
真意は、汲み取れない。
雨粒というスクリーンが、ウララーの心を覆ったから。
でも、雨の冷たさに打たれ、頭の冷えた僕は既にその答えを知っていた。
「少なくとも、僕に使うべきじゃないと思う」
まだ、死にたくないから。
そういった意味で、発した。
「・・・そう、だよな」
ありがとう、とウララーは続けた。
理由は、わからなかった。
わかった所で、僕にとってはなんの意味もなさないないだろうけれど。
「俺が殺すのは虐殺厨で、お前は殺人鬼。つまり、そういうことだな」
「・・・」
「もうお前を追う理由はない。行け」
その言葉を聞いて、僕の脚は動き出す。
ほんの少し前に、飛び込もうとした森の中へと、進む。
「・・・だがな」
二、三歩歩いた所で、ウララーが呼び止める。
僕は止まり、背中でそれを聞いた。
「次に何のしがらみもなく出会った時は、容赦なく殺す。いいな」
暫く、雨音というノイズに聴き入りながら、その言葉を噛み締めた。
そして、無言で頷き、緑の中へと駆け込む。
水が打つ音。
木々がざわつく音。
何も聞こえなくなるまで、僕は駆けた。
438
:
魔
:2007/10/21(日) 19:24:44 ID:???
エピローグ
『裏』
※
視界を阻む程降りしきる雨の中を、ひたすら走る。
灰色に染まった世界で、AAの気配は己以外に感じなかった。
「・・・痛、っ」
Vを仕留める為にした無茶が、やっと声をあげた。
内臓はやられていないようだが、その傷は深い。
ウララーはその傷を握るように押さえ、ひた走る。
メイに使わず、銃弾を残した理由はある。
まあ、あの時本人が死を受け入れていたならば、そこで使ってはいたのだが。
着いた所は、小さな殺人鬼を追い詰めた路地裏。
フーがここで殺されるなんて、予想できる筈がなかった所。
いや、実際は殺されてはいない。
Vの言葉が正しければ、フーは生きている。
そうでなくとも、確認をしなければならない。
一時期だけでも、己が助けた命なのだから。
段々と、足取りが重くなる。
フーの姿を見るのを、心が拒んでいる。
それでも、行かなければならない。
ホルスターにおさめた銃を握り、水溜まりを踏み潰していく。
不意に、足元の水溜まりにまだ新しい血が流れ込む。
息を呑んで、更に奥へと進んでいく。
まだ洗い流されなかった肉片や血糊が、壁にこびりついているのを眺めながら。
じわじわと、鼓動が嫌な感じに強くなっていく。
「・・・!」
見つけた。
そこにあったのは、肉塊だった。
目を凝らすと、皮を剥がされた達磨だということがわかった。
壁に横たわるように置かれているそれは、まだ生きている。
必死に腹を上下動させ、ひゅうひゅうと鳴る喉。
時折、口と思われる部分からは血と涎が一緒に流れ落ちる。
遠目に見ても、その体格はフーと同じ。
いや、もうウララーは既にその肉塊がフーだと理解していた。
肉塊の足元に落ちている赤黒い紐が、全てを語っていたからだ。
「・・・」
言葉が、見付からなかった。
もう助からないということしか、わからなかった。
歯を抜かれ、自害もできなくなったフーは何をどう思っているのだろうか。
これ以上の散策は不要か。
そう思ったウララーは銃をその肉塊へと向ける。
そして、最後の炸裂音を路地裏に響かせた。
腹すらも動かなくなった肉塊。
ウララーはそれをゆっくりと抱き上げる。
(墓・・・作ってやらないとな・・・)
黒い腕が赤く染まり、血の臭いが己を包む。
何も考えず、ゆっくりと足を動かして帰路につく。
―――途中、頬を何かがつたうのを感じた。
それは涙なのか、雨粒なのかはウララーにはわからなかった。
439
:
魔
:2007/10/21(日) 19:25:22 ID:???
エピローグ
『表』
※
視界を阻む程降りしきる雨の中を、ひたすら走る。
灰色に染まった世界で、AAの気配は己以外に感じなかった。
殆ど同じような景色を縫い、駆けていく。
すると、不意に視界が開けた。
足を止めてみれば、そこは懐かしい場所だった。
一ヶ月前に、奴らの手から逃れてきた場所。
似たような景色の中でも、ここだけははっきりと覚えていた。
「・・・う、っ」
不意に、吐き気を催す。
吐こうとすると、胸元に鋭い痛みが走った。
構わず、胃の中にあるものを押し出す。
雨が降っているさなかで、別の液体が撒かれる音。
全てを吐き、二、三度咳き込む。
胸の痛みが取れないまま、出たものに目線を落としてみる。
「あ・・・」
そこには夥しい量の血が流れていた。
愕然として、握っていたナイフが指から滑るように落ちた。
堪らず、何度も咳き込む。
口を押さえている手に、更に血が付着していく。
止まったかと思えば、立て続けに目眩が襲ってきた。
成す術なく、その場に倒れ込む。
正直、よくここまで来れたなと思う。
ギコの恐ろしい暴力のせいで、ボロボロになった身体。
あの時に、暴れた肋骨が内臓を傷付けた事には気付いてはいた。
それが今になって、揺り返しのように一気に襲ってくるなんて。
喉が熱い。
身体は冷たくなっていく。
段々と、呼吸することすらきつくなってくる。
死ぬ。
その運命は、すぐそこまで来ていた。
眼も霞み、もう何も感じることができない。
指先一つ動かせない程麻痺してきた時、ふと眼前のナイフを見遣る。
銀色の刃に雨粒が落ちては消え、まるで宝石のように輝いている。
(・・・ああ)
『生き延びる』という願いが潰えそうな今になって、いいものが見れた気がした。
思えば、このナイフがなければ、自分は何も出来なかった。
身体の一部のように、当たり前のように扱ってきて、あまり向き合うこともなかった。
今更だけれど、このナイフに感謝をしなければ。
メイは心の中でありがとうと呟き、醒めることのない眠りへと落ちた。
―――被虐者であったメイは、被虐者の運命を拒んでここまで来た。
そして、それに必死で抗ってもきた。
だが、その時はあまりにも短すぎた。
たった一ヶ月の間だけ、自分なりの冒険をした。
雨に打たれ、横たわっている今、彼は何を想っているのか。
それは、誰にもわからない。
440
:
魔
:2007/10/21(日) 19:25:58 ID:???
※
全ての歯車は、回転を止めた。
隣り合う者も、ぶつかり合った者も、砕けていった。
今、残っている歯車は一
歯車は一人では回ることはできない。
しかし、歯車がなくても街という時計は時を刻む。
街は更に新しい歯車を生み出し、壊す。
混沌とした輪廻の輪は、止まる事を知らない。
今日もまた何処かで、様々な歯車が噛み合い、回っている。
―――天と地の差の裏話。
小さなこの物語は、ここでおしまい。
441
:
魔
:2007/11/10(土) 15:33:54 ID:???
『表話』
※
世の中には様々な姿のちびギコがいる。
目の色から毛並み、尻尾の形も含めると数え切れない程だ。
そういったちびギコが産まれる理由は、同じように様々だった。
どこぞの変態がアフォしぃを犯したり、逆にアフォしぃが自分より弱い者と無理矢理交えたり。
そういった異種同士のやりとりからの発生、あるいは唯の突然変異という事と世間では言われている。
今回はその様々なちびギコ達の中でも、『より珍しい者』の話。
上記の理由をもってしても、なかなかお目にかかれない者の物語だ。
※
街の中央に位置する、雑木林を切り拓いた巨大な公園。
そこからあまり離れていない所に、被虐者の集まる空き地がある。
雑に置かれた土管やブロックもあり、雨風をしのぐ位はできる。
そんなごく普通の空き地に、物語の要はいた。
「・・・ぐぅ」
空き地の真ん中で、ブロックを高く重ねたものの上で丸くなっているちびギコ。
彼には勿論家などなく、出生もわからぬままここで暮らしている。
普通ならば、家族も名前も何もないちびギコなど仲間にまでも見捨てられるだろう。
だが、彼は違った。
誰も持っていない武器を持ち、それを最大限に利用してきたのだ。
その武器とは、『身体の色』の事だ。
ギコ種のそれよりも濃い青と、光沢さえ見えてしまう毛並み。
先の折れた耳には、一文字に鮮やかな白いラインが走っている。
瞳は身体の色と相反して、朱と紅が混じったかのように輝いていた。
あまりにも世間離れしつつ、被虐者らしからぬ艶やかさ。
何も知らない者なら、血統書つきと言われてもすぐに信じてしまう程だ。
しかし、一枚皮を剥いでしまえば糞虫と呼ばれているちびギコと全く同じ。
彼の浅はかな思考では、今の生活で精一杯、かつご満悦なのだ。
「アオ様、起きて下さいデチ」
ブロックを昇り、青いちびギコに仲間と思われる者が耳打ちをする。
それに反応し、アオ様と呼ばれた青いちびギコはゆっくりと顔を上げた。
二、三度目を擦り、大きく背伸びした後、仲間の方を向く。
「何デチか?・・・アオ様はまだ眠いデチよ」
「ご飯の時間デチ。既に準備をしてるから早く来て下さいデチ」
「ああ、なるほど。ご飯なら仕方ないデチね」
渋々とした意思を言葉に表しても、表情は嘘をつけない。
気怠さを吹き飛ばし、眼を爛々と光らせながらブロックを飛び降りる。
積み上げたブロックの、後方にある土管の裏に回り込む。
そこではまた別の仲間が数匹、残飯とおぼしきものを列べて待っていた。
彼等のちょうど真後ろ、木で出来た塀の下には、小さな穴があいている。
恐らく、あまり目立たないそこを主に、このちびギコ達は残飯探しをしているようだ。
「アオ様、これが今日のご飯デチ」
「いつもより多く肉をゲットできたデチよ」
アオ様とやらに収穫の成果を報告する彼等も、やはり様々な姿である。
しかし、その身体もゴミ漁りやら何やらで汚れてしまっている。
それに対し、アオ様はその綺麗な体毛を綺麗なままで維持できていた。
何故、同じ場所で生活をする彼等に、ここまで差があるのだろうか。
442
:
魔
:2007/11/10(土) 15:34:17 ID:???
※
答えは至極単純なものだった。
アオ様が、他の仲間に雑用等を全て押し付けていたのだ。
だが、それだけの理由では、ちびギコ達はおろか、全てのAAは納得できないだろう。
『働かざる者、食うべからず』。それを無視できたのは、やはり身体という武器が関係していた。
上流階級でもない限り、見る者全てを魅了する毛並。
物心ついた時には、住む場所もなく、家族も既にいなかった。
しかも、その派手さのせいかよく他のちびギコが寄ってきた。
本来ならば、ここで奇形だ害虫だと罵る輩が多くいる。
だが、このちびギコを見た者は、その美しさの前ににそんな言葉は口に出来なかった。
それでも、輝くものを持っていながらも所詮はちびギコ。
『弱き者は強き者に弄ばれる』という理を、脱する可能性を得たというのに。
青いちびギコは頭脳を悪い方向に、しかも稚拙に回転させた。
『ボクはマターリの神サマの、御使いなんデチ!』
群がってきたちびギコ達に、彼はそう言い放ったのだ。
勿論それはでっちあげで、本人はマターリの神など信じていない。
頭の悪い奴らを利用したいが為に、そんな嘘を吐いたのだ。
アオ様と呼ばれるようになったのも、その時に咄嗟に名付けたもの。
それから、アオは色々な嘘を作り上げては、ちびギコ達を利用した。
あまりにも無茶な注文をした時には、流石に反発する者も出てくる。
それすらも、その美しい姿に既に魅了された者達を使って排除した。
※
「ふむ・・・」
アオは、目の前に並べられた食料を品定めしていく。
肉や味の濃いものはそのまますぐに口に運び、他は乱雑に扱う。
残飯とはいえ、被虐者達から見たらそれは恐ろしい程の贅沢。
アオの傍若無人な行動に、涎をだらしなく垂らす者や、憤りを感じる者もいた。
それでも、彼等にとってアオは『マターリの神の御使い』である。
アオに不満を言ってしまえば、マターリの神から天罰が下るだろう。
そんなありもしない事に彼等は怯えつつ、アオの毛並みを眺めていた。
「今日はご苦労デチ。残りはお前らにやるデチよ」
と、品定めという名の好き嫌いをし終えたアオは、そそくさと元の場所ヘ戻る。
その場に残ったのは、汚いちびギコ達と生ゴミに近い残飯だけだった。
「・・・残りって、またコレだけデチか」
虫喰いのあるキャベツの芯を摘み、溜め息をつく者。
その横で、人参の皮をしゃぶる者も居た。
「文句も、陰口も言ったら駄目デチ。アオ様に失礼な事があったら、どうなるか・・・」
「でも、これで本当にマターリできるんデチかね・・・」
「・・・」
「信じる者は救われる。それを守るだけでいいんデチ」
「そうデチね。信じていれば、いずれアオ様がマターリへと導いてくれるデチ」
いつもと同じ流れからくるのは、いつもと同じ会話。
嘆く者がいれば、それの背中を押し助けあう。
健気ではあるのだが、やはり現実は厳しいものだった。
(フン・・・そうやって一生バカやって、僕の為に死ぬがいいデチ)
まともな敷居もないこの空き地では、そんな会話はアオの元に簡単に届く。
それを聞き、ほくそ笑みながらひなたぼっこをするのも、彼の日課。
まあ、視野を狭めればこれも『弱き者は、強き者に弄ばれる』事に等しい。
弱者は、強者の慰み物、或いは利用されるべきなのだろう。
443
:
魔
:2007/11/10(土) 15:35:14 ID:???
※
そんな被虐者達のやりとりを、影から観察する者が二人。
一人は頬がこけ、やたらとエラが目立つニダー。
職についていないものの、その肩書には守銭奴というものがある。
もう一人は、細長い髭をたくわえたシナーという男で、料理人だ。
「アイツか・・・噂通り、無駄に綺麗な奴ニダ」
ニダーの手にはいかにもといった怪しいスプレーと、袋があった。
吊り上がった細い目の奥では、アオを見詰めて爛々と光る瞳。
しかしそれは、毛並みに魅了されてのものとは違うようだ。
二人の目的は、言わずもがなアオを捕獲する事。
その筈だが、ニダーの相方であるシナーは、どこか不満げである。
「普通のちびギコじゃないアルか。あんなの、毛皮にしても価値ないアルよ」
「お前の発言は否定と肯定が混ざっててややこしいニダ」
どうやらシナーはニダーに詳しい説明を聞かされず、連れて来られたようだ。
ぶすくれて愚痴と不満を垂らしつつも、その手の中にはアタッシュケース。
中には自慢の包丁を入れており、料理ではなく虐殺に扱うものだ。
互いに相反する道具を持つ理由は、やはりニダーの考え。
そうこうしているうちに、目標であるアオはうとうととし始めていた。
「チャンスニダ! シナー、ウリの言ったように、しっかりと動くニダよ?」
「わかってるアル。寧ろそれの為に来ただけアルよ」
声を押し殺しての会話の直後、ニダーが動く。
足音をたてないように小走りをするが、枯れ葉や小石がそれを邪魔する。
地面を踏む度に乾いた音がして、これでは隠れていた意味がない。
案の定、後少しといった所でアオは目を覚まし、ニダーに気付いた。
「ん・・・誰デチか?」
(しまったニダ! でも、まだこれがあるニダ!)
アオが完全に目覚めるより前に、素早くブロックの前に走る。
そして、間髪入れずスプレーをアオに向けて、噴射。
「ひぎゃっ!? な、何・・・」
何するんデチか。そう言い終える前にアオは再び眠りについた。
ニダーが持っていたのは、睡眠薬の入った即効性のあるスプレーだった。
ふら、と倒れそうになる青い身体をニダーは上手くキャッチし、そのまま袋の中へ落とす。
「ホルホルホル。上手くいったニダ!」
独特な笑い声をあげ、ニダーはご満悦だ。
踵を返し、帰路につこうとした途端、ブロックの奥の土管の方から音がした。
ガサガサとその音は大きく、複数がこちらに向かっている。
「アオ様!?」
「そこのお前! 何やってるデチか!」
「アオ様が虐殺厨に掠われるデチ!!」
物音達はニダーに姿を見せるや否や、様々な罵声を浴びせる。
纏まりの全く感じられない発言は、ちびギコの頭の足りなさを感じさせてくれる。
それでも、アオに対する忠誠心、信仰心はかなりのもののようだ。
「煩い奴らニダ・・・」
普通ならば、こういった場合は他の者に見つかった時に『しまった』と思う筈だ。
しかし、ニダーはそう思うどころか、面倒事が増えたと歎いている。
それもその筈、ニダーは抵抗する者に対してはしっかりと対策を練っていたからだ。
まあ、実際はそこまで考え込んでの対策ではないのだが。
「シナー、出番ニダ」
444
:
魔
:2007/11/10(土) 15:35:45 ID:???
ぎゃあぎゃあ喚き立てるだけのちびギコ達を無視し、ニダーは連れの男の名を呼ぶ。
あまり間をあけずに、シナーがアタッシュケースの中身を持ち出してやって来た。
「なんと。こんな数の糞虫がここに居たのアルか」
「さ、後は頼んだニダよ」
ニダーはシナーの後ろ手にまわり、アオを入れた袋を肩に担ぐ。
それと同時にシナーは大振りの中華包丁を構え、切っ先を眼前に置く。
「直接的な恨みはないアルが、『食』の害虫として貴様等は捌いてやるアル!」
「アオ様を掠う虐殺厨め! 返り討ちデチ!」
互いに気持ちをぶつけ合うと、ちびギコは力強く地を蹴った。
それを迎え撃たんと、シナーは包丁を握り直す。
※
シナーは料理人であり、糞虫のことは人一倍嫌っていた。
アオを生け捕りにする時に不満を垂らしていたのは、この理由も含んでいる。
ちびギコは飲食店ではゴキブリと同一視されるものだから、それは仕方ないのだが。
生理的に受け付けないとはいえ、それが虐殺対象になると話は変わる。
ちびギコへのベクトルは一気に真逆を向き、虐殺には最高の相手と化す。
今のシナーは、眼に火が燈ったかのように熱くなっていた。
「はイイィィィ!!」
飛び掛かってきたちびギコに向かい、刃を振るう。
空を切り裂く音がしたかと思えば、瞬く間にちびギコの身体に赤い線が走った。
「!?」
そのちびギコは叫ぶことなく、空中で綺麗に輪切りにされた。
受け身も取れる筈がなく、そのまま肉塊として地にばらまかれる。
「ああっ!」
「そんなぁ!」
仲間が次々に驚くものの、名前らしきものは発さない。
どうやら名前を親から貰う事なく生まれ落ち、ここまで生き延びてきたようだ。
哀れむ事なんてあるはずはないし、それにこいつらには共通の名前がある。
「せめて『糞虫タン』と叫んでやるネ!!」
嘲りを含めた、気合いを込めての言葉。
包丁を振りかぶり、肩が外れんばかりの勢いで投擲。
鈍く重たい音を響かせながら、ちびギコ達の方へと包丁が飛ぶ。
「え ひぎゃブっ!?」
「ぐゃあぁがぁ!?」
軌道のど真ん中にいたちびギコ達は、首や腹を次々とかっ切られていく。
ボロ雑巾のような毛皮が、自身の血で艶やかに染まっていった。
水平に弧を画いた包丁は、軽快な音をたてて持ち主の手の中に戻る。
「ふむ。まだ生きてるアルか」
「あ、あうぅ・・・」
咄嗟に屈み、難を逃れた者が数匹。
全員、仲間の血が身体に付着しており、それが原因なのか腰を抜かしていた。
名前がないせいで馬鹿みたいな馴れ合いができず、恐怖に盲目になれていない。
シナーはちびギコ達を見てそう読み取り、次の行動に移った。
445
:
魔
:2007/11/10(土) 15:36:37 ID:???
「フム・・・」
死体を数えてみれば、思った以上のちびギコがここに居た。
一匹見れば三十匹と考えるのだが、流石に一辺に沢山集まっているのには堪え難い。
しかもニダーが狙っていたアオとやらにこき使われたのか、非常に汚い身体をしている。
より近くで見る程、毛並みはガビガビで変な方向に固まっているし、その色も凄まじい。
漂泊剤で洗うよりも、いっそペンキで塗り隠した方が楽ではないかと思われる。
ふと、ここで疑問が浮かび上がった。
身体をボロボロにしてまでアオに仕えていた様なのに、虐殺に入るとこの反応。
例えばアフォしぃによく見られる『マターリ』に関する宗教がある。
その信者達は様々な地域で活動し、酷い時には暴動や殺人を犯す者もいる。
神の為なら命懸けで尽くすというか、こいつらにはその精神が見当たらない。
自分だって、愛国心ならば誰にも負けない。
もしこいつらと同じ立場になったとしても、足首にくらいは噛み付いてやる。
(ひとつ、聞いてみるアルか)
疑問に対する一つの解答が閃いた所で、シナーは答え合わせの為にちびギコの前に進んだ。
おおざっぱな虐殺を仕掛け、残ったのは三匹。
ざ、と砂を踏む音に反応して、一匹のちびギコが驚く。
何の気無しに歩いただけなのに、この怯えっぷりには流石に呆れ返る。
「あひ・・・ひぃぃっ!」
あと一歩という所まで近付けば、糞尿を垂らして後退る。
涙も鼻水も涎もだらだらと溢れ、その様はどう見てもまともではない。
こうまでなっては、ちゃんとした会話は出来ないだろう。
そう解釈したシナーは足を早め、ちびギコの眼前まで近付いた。
そして、何も言わず包丁を動かし、そのちびギコの首を撥ねる。
「ひ、ひぎゃあああぁぁぁ!!」
真っ赤な生臭い噴水があがると同時に、側にいたちびギコが悲鳴をあげる。
仲間の血をもろに浴びたせいで、その不快感と恐怖は半端ではないようだ。
どちゃ、と首のなくなったちびギコが崩れると、つられて叫んだちびギコも泡を噴いて倒れた。
不愉快である。
何時もなら無茶苦茶な屁理屈を並べた後、自分達に虐殺されるのが定石だろう。
これではこちらがシリアルキラー、もとい悪者扱いだ。
最後の一匹に問うことが出来なかったら、ニダーに解釈を求めよう。
シナーは諦め気味にそう考え、残った者に近付いた。
「う・・・」
先程殺した者と同じような反応はしたものの、そこまで露骨なものではない。
逃げられないようにと首の後ろの皮を掴むと、すんなりと受け入れてくれた。
ひびは入っているものの、まだ精神崩壊は起こしていないようだ。
少しの余裕が見えた所で、先ずは最初の疑問を問う。
「お前、どうして真面目に助けてやらないアルか?」
「え、っ!?」
恐怖に震えあがっているちびギコの身体が、強く跳ねるのがわかった。
それと、隠し事がバレたかのような勢いで、心臓が激しく動き始めたようだ。
耳を寄せなくとも、掴んでいる手から心音が聞こえると錯覚する程。
構わず、質問を投げ掛ける。
446
:
魔
:2007/11/10(土) 15:36:56 ID:???
「アオ様とやらを、マターリを信奉してたんじゃないアルか?」
「そ、それ、は・・・その、っ」
「たった二人の加虐者が来ただけで、その信奉は崩れるものアルか?」
「あ、あう・・・」
疑問が、確信へと変わっていく。
それに倣って、ちびギコの愚かさから感じる愉快さが込み上げる。
シナーは鼻息がかかる距離まで顔を近付け、その確信を投げ掛けた。
「お前は馬鹿アル。騙されていると理解していながら、何故アオを崇め敬っていた?」
少しの間の後、ちびギコの眼が泳ぐ。
続いて身体の震えも加速し、小汚い顔は土気色でいっぱいだ。
今このちびギコは、己の弱さからくる葛藤で頭がいっぱいなのだろう。
アオの姿、加虐者の言葉、嘘か真か、自分がやってきた事は・・・と。
深く探らずとも、ちびギコの天秤には何が乗せられているか位はわかる。
真であれ偽であれ、こいつらにはマターリが必要不可欠のようだ。
だが、そのマターリはマターリでなく、しかも騙していた者があのような姿。
ならば自分達が信じていたマターリとは、一体何なのか。
ちびギコの思考など、だいたいこのような感じだろう。
(やっぱり、コレが最高アル・・・)
被虐者が己の愚かさに気付いたこの瞬間が、一番面白い。
眼の前で子供を殺された母親よりも、崩壊の度合いが違うからだ。
それに、このちびギコは中途半端な賢さのせいでこうなった。
アオの言うマターリが、嘘なのかと疑問視する位の賢さだ。
打開策を考える良さもなければ、逃避できる馬鹿さもない。
時間に余裕があれば、もっともっと遊んでいただろう。
だが、ニダーを待たせてはいけないので、ここらでお開きにする事にした。
シナーは最後にちびギコに耳打ちし、その場に打ち捨てた。
※
「二言三言で潰れるなんて、余程自分を追い詰めていたようだったアル」
「意見を表に出せない、自己主張できない奴らの末路はこれでいいニダ」
「自身で悩み、自身を責め、自身を破壊するなんて、手間のかからない良い奴アル」
「そういえばシナー、最後に糞虫に何か耳打ちをしてたニダ。なんと言ったニダ?」
「ああ、それは・・・」
二つの嵐が談笑しながら空き地から離れていくのを、一匹のちびギコだけが見ていた。
マターリの為に、アオ様に必死で仕えてきたはずなのに。
その頑張りは、虐殺厨にあっさりと砕かれてしまった。
仲間も殺され、あまつさえ御使いであるアオ様まで奪われた。
地獄よりも凄まじい世界となったこの空き地で、自分は何をしていけばいいのだろう。
恐怖と絶望と、あの虐殺厨が吐いた言葉のせいで身体が動かない。
『マターリとは、裏切りの味を濃くする為の調味料アル』
異国の訛りが入ったそれは、耳と脳にこびりついてしまっていた。
自分は死ぬまで、この惨状と言葉を脳裏に焼き付けなければならない。
そう考えてしまっても、叫ぶ気力すら失ったちびギコ。
他にある道も、後悔に後悔を重ねるだけの無限回廊。
現実と無知は、弱者にとってあまりにも残酷なものとなった。
447
:
魔
:2007/11/10(土) 15:37:58 ID:???
※
互いに結果に満足し、余韻に浸りながら帰路につく。
と、シナーはここで自分の中にまだ残っていた謎を思い出す。
「そういえば、まだ捕獲の理由を聞いてなかったアル」
「そんなに知りたいニダか」
にやにやと勿体振るニダーを見て、シナーは不満げだ。
だが、虐殺の余韻かその口元は緩んだままである。
「当たり前アル。料理人として、そのちびギコ捕獲のメリットが見付からないからアル」
「ホルホルホル。まあ、まだシナーには手伝って貰うから、今教えても支障はないニダね」
「いいから、早く教えるアル」
「わかったニダ。それは・・・」
「それは?」
稼げるものなら何でも扱う、守銭奴として名高いニダー。
そのニダーが今までやってきた事の中でも、それは一番奇抜なものだった。
「こいつを使って、マターリならぬ『健康』の信者を釣るニダ!」
その言葉の直後、シナーの眼が点になる。
訳がわからないのと、妄想についていけないという理由が半々だ。
あまりにも素っ頓狂な解答に、シナーは自分を宥める意味で掘り下げる。
「ニ、ニダー? そんな抽象的だと余計わからないアルよ?」
「これからじっくり説明するニダ」
※
要約すると、
『このちびギコを珍獣扱いして、店に出す』
『珍しさを武器に、身体の至る所に薬効があると偽る』
『客は効果のない霊薬に喜び、自分達は金に喜ぶ』
ということ。
シナーはニダーの説明に段々と食いつくも、その怪しげなやり方に不安を抱く。
その顔色を察したのか、ニダーは自分の細目を更に吊り上げてこう言った。
「質問があるならどうぞニダ。あらゆる解答、打開策はあるニダよ」
「・・・薬効がないかもしれないとケチつけられた場合はどうするアル?」
「その前に薬のもう一つの効果、『思い込み』を使うニダ」
「思い込み?」
ニダーいわく、薬の効果の半分は薬効で、残りは思い込みとのこと。
珍しいから、御利益があるから効くだろうといった事は、田舎等ではよく耳にする。
特に珍しいものに関しては、そこに医学的根拠がなくとも信じ込みやすいらしい。
今回の場合は、珍しさを全面的に押し出しての商売を狙うようだ。
「この毛並みと珍しさを利用して、『薬効があると思い込ませる』ニダ」
「ほうほう」
「更に、シナーの祖国から捕まえたと話を上乗せすれば完璧ニダ」
「・・・なぜ、私の祖国アル?」
「『脚のあるものは机と椅子以外食べる』と言われる程エキゾチックな国ニダ。そこから取り寄せたと言えば、信じ込みやすいニダ」
「・・・それは偏見アル。というか、もしかしてまだ付き合わさせるつもりアルか」
「当たり前ニダ。でも、お前に損はさせないニダ。どころか満足させてやるニダ」
「満足?」
448
:
魔
:2007/11/10(土) 15:38:19 ID:???
※
翌日。
人気の多い百貨店の横に簡易な店を設け、それは始まった。
勿論、その百貨店からの了承はちゃんと得て行っている。
「さあさあチョッパリ共! ウリの店に寄るがいいニダ!」
(こいつは真面目にする気はないのアルか?・・・)
ニダーの無茶苦茶な呼び込みに、シナーは多少不安を覚える。
だが、彼もニダーと同じ思いであり、早く客にきてほしいと心の中で願っていた。
何故ならば、見世物としてこのアオを『吊るし切り』にするからだ。
ニダーの言っていた、満足とはそのことだった。
シナーが想像していたのは、アオの写真と実物の毛皮の切れ端を肉骨粉にしたそれを袋詰めにする作業。
霊薬と呼ぶものだし、糞尿や細胞の一欠けらまで金にすると思っていた。
が、まさか一般AAの前でこんな珍しい者を虐殺するとは一片足りとも考えてもいなった。
解体ショーという相手も自分も楽しいものをしつつ、金儲けとは素晴らしいものだ。
(・・・にしても、コイツは大丈夫アルか?)
捕まえて以来、今だ眠っているアオ。
両手首をきつく縛り、そこから吊るしているというのに、本人は寝息を立てている。
ニダーの使ったスプレーが強すぎたのか、或いはこいつが鈍いだけなのか。
そんな事を考えていると、既に主婦達が店の前に集まっていた。
「あらホント。綺麗なちびギコねー」
「流石に鑑賞用に飼うなんて酔狂な事はできないけど、お薬になるならいいかもしれないわ」
「その毛並みの美しさが、私達に貰えるような薬って本当?」
「そうニダ! どころか身体の中もたちまち健康に、美しくなるニダよ!」
台本通りの説明で、食いつきはなかなかのようだが、まだ不安は全て拭えていない。
自分達だけが考えた要素だけでは、完全に保険という逃げ道を作ることはできない。
その場にいなかった者が、ごくまれに意外な目線で突っ込みを入れる事もある。
と、早速一人の主婦が疑問を持ち掛けてきた。
「念の為に聞くけど、そのちびギコってカラーひよこと同じ原理じゃないわよね?」
「どういうことニダ?」
「染めてるんじゃないかって。よくよく考えると、そんな綺麗な毛並みのちびギコっておかしいわ」
「ファビョーン!! このニダー様が用意したものに文句をつけるとはどういうことニダ!!」
「じゃあ証拠を見せなさいよ。本物だったら私達も文句は言わないわ」
「わかってるニダ!! シナー!」
短気過ぎるというか、物凄い剣幕でまくし立てるニダー。
毛皮を少しだけこちらに寄越せと、叱るように促す。
自分は呆れ気味に返事を返し、包丁を持った。
毛皮を扱う職人ではないが、トリの皮なら数え切れない程剥いできた。
それと同じ要領で、アオの臀部に切り込みを入れる。
「・・・ひぎゃっ! え、痛、痛い痛いっ!!」
と、どうやら痛みでアオが目を覚ましたようだ。
幸い暴れ始めるより先に切り離すことができたので、被害は少ない。
アオの両足首を片手で器用に掴んだ後、毛皮をニダーに渡した。
449
:
魔
:2007/11/10(土) 15:39:09 ID:???
「何す、い、いや、何デチかここは!?」
アオは喚き出すも、周りの騒々しさには勝らない。
寧ろニダーの怒りようの方が酷いと感じる位だ。
皆も気にしていないようだし、自分も無視するようにした。
「さあ、しっかりと目に焼き付けるニダよ!」
威勢よく声を出したニダーが取り出したのは、水の入ったボウルと漂白剤。
ボウルを置き、中に毛皮を入れた後漂白剤をなみなみと注ぐ。
直後、これでもかという位に乱暴に揉み洗いを始めた。
暫くそれを行った後、天に掲げるようにそれを取り出す。
「どうニダ!」
その言葉に続いて、主婦から感嘆の声。
それどころか、当たり前だと感じていた自分も驚いてしまった。
勿論色は落ちていないし、あれだけ乱暴にしておいて、毛がへたっていないのだ。
クセのようなものもなく、渡した時と同じ流れを保っている。
触った時には、そんなに硬く感じはしなかったのだが。
突然変異、偶然とはいえ、なぜそのような美しさをこんな糞虫が持っているのか。
そこだけは、やはり納得がいかない。
「まだ信じられないなら、通販で手に入るヤバイ洗剤ても持ってこいニダ!」
「誰もそこまでヒクツじゃないわよ。私買うわ!」
「ホルホルホル! そうなれば話は早いニダ!」
早速注文がやってきた。
値段はしっかりと店の前に書き記し、『1g100円』とかなりのぼったくりだというのに。
深い事を考えるより前に、誰もがこの毛並みに魅了されている。
虐殺という麻薬さえ超えたその中毒性は、どこか悍ましさを覚えた。
「シナー! 早速作るから材料を寄越すニダ!」
「了解アルよ」
作る、というのも、公平さを保つ為にアオをペーストにする事だ。
なにもかもを挽き肉より細かいものにし、後は適当な香料で臭みを消す。
主食でなく、調味料的な扱いを促せば、より嘘と気付きにくくなる。
早速取り掛かろうと、アオの脚を自由にさせる。
途端にばたばたと仰ぎ始めるも、声と一緒で周りの騒々しさに負けるもの。
あえてアオの罵声も耳にせず、包丁を逆手に構える。
後は簡単な精神統一。そして、
「はイイィァ!!」
脚を狙い、一閃。
「ひぎゃあぁぁぁあああぁ!!?」
すると、アオの甲高い悲鳴に併せてその青い脚が宙に浮く。
引力に引かれるより先に空いた手でまな板を持ち、しっかりとキャッチ。
ばたたっ、と複数の音がしたかと思えば、アオの脚は輪切りになってまな板に並んでいた。
「さ、どうぞアル」
「お見事ニダ!」
差し出せば、ニダーの褒め言葉と主婦達の黄色い声が重なる。
次いで、その奥のギャラリーからの拍手があがった。
「いあ、あああぁぁァ!! 脚、脚ぃぃぃ!!」
その中で不快に取れるものが一つ、アオの慟哭が耳に入る。
流石に脚は精神的ダメージも大きかったようで、いずれは痛みで更に叫ぶだろう。
ニダーと主婦達が喋っている間は、自分はこいつと遊ぶのもいいだろう。
「やあ、やあ。御目覚めアルか」
「な、なんなんデチかぁ! オマエはぁ!」
450
:
魔
:2007/11/10(土) 15:40:23 ID:???
「いや、なに。唯の料理人と商人アル」
「商人って! このアオ様にこんな事するのが商売デチか!?」
「そうアルね。しかも私達は君にいい事教えてるアル」
「はァ!?」
「お前、あの空き地でちびギコを利用していたアルね? マターリを巧みに使って」
その言葉の後、アオは言い留まる。
罪悪感のせいかどうかはわからないが、悪い事とは自覚していたのだろう。
まあ、そこで開き直ろうが反省しようが構わないのだが。
「そ、それがどうかしたデチか!」
「勿体ないアル。お前の毛並みは、もっと上手に扱えるアル」
「・・・え?」
と、アオは自分の発言に食いつく。
そこで、今行っている事全てをアオに教える。
勿論、詐欺ということは言わないでおいた。
※
「そ、そん・・・ふざけるなデチィイ!!!」
全てを知るや否や、怒りで泣き叫ぶアオ。
「勿体ない使い方をしたお前が悪いアル。だから、私達が教えてやってるだけアル」
「だからって! だからってぇぇ!!」
「授業料が命なのがそんなに不服アルか? まだ破格値だというのに・・・」
「シナー、早く次をくれニダ!」
「アイサー」
「あ、ちょ、待っ・・・ひぎゃあああああぁぁ!!」
脚を切り、尻尾を落とし、尻を削ぐ。
刃がアオの身体を走る度、それは心地よい音色となって返ってくる。
切り離したものをニダーに渡せば、アオはそれを拒んでまた叫ぶ。
定石である反応を示す様は、ギャラリーにも受けがよく、やっている側も気持ちが良い。
「も、もうやめてデチぃぃぃぃぃぃ!!!」
「まだまだアル。滴る血液もしっかりと金にして、ボロ儲けアルよー」
「誰かあぁぁぁぁ!! 助けるデチぃぃぃぃ!!!」
助けを呼んでも、皆亡くなっているわけで。
万が一に来たとしても、そいつにはアオの目論みも話した。
復讐に燃えるちびギコがアオを殺すというシチュエーションも見たかったが、それは心の中に仕舞うとしよう。
シナーはそう思い、なお叫ぶアオに包丁を走らせた。
※
アオがそういった毛並みだったのは、本当に偶然である。
突然変異。それが起こる確率は、天文学的な桁なのかどうかはわからない。
所詮はちびギコであるし、詳しく調べるという酔狂な科学者はいないだろう。
だから、今回の事もアオの肉の持つ成分がどうとか調べる者はいなかった。
それはニダー達にとって嬉しい誤算であり、本人は勿論気付いていない。
詐欺は誰にもバレる事なく、作戦は大成功のようだ。
―――これは、突然変異を成したちびギコの中の一人の物語。
街のどこかでは、似たような者のまた違った物語が語られているだろう。
機会があれば、それもまたいつか。
完
451
:
魔
:2007/12/13(木) 23:09:33 ID:???
『小話』(前編)
街にも忘れられた、とある廃屋。
外も内も草木が己を主張し、家としての機能を奪っている。
そんな廃屋の傍、森のようになった庭に、彼等はいた。
「・・・ふぅ」
どこか寂し気な表情を浮かべながら、毛づくろいをするちびフサ。
虐殺厨から逃れ、身を隠す為にこの土地に根を降ろしている。
家の中は使い物にならないので、彼は拾ってきた段ボールで雨風をしのいでいた。
「フサタン。そんな無理しないで、僕に一言頼めばいいデチよ」
「ちびタン・・・」
と、もう一人の住人であり、相方のちびギコがちびフサの後ろに立つ。
そして、手際よくちびフサの毛を綺麗にしていった。
ちびギコが『無理』と言ったのには、訳があった。
彼、ちびフサは加虐者に襲われ、その腕を一つ失ったのだ。
※
食糧確保の為にゴミ漁りをしていた所を、あるモララーに捕獲された時の事。
抵抗虚しく、赤子の手を捻るかのように左腕はもぎ取られてしまった。
『ヒギャアアアァァァ!!』
『今回は、これだけで勘弁してやる』
凄まじい痛みに悶える自分に、モララーははっきりとそう言った。
その後は命からがら逃げてきたものの、直後に激しい喪失感に襲われる。
身体の一部がなくなったということは、どんな事よりも辛いものだった。
同じ種族からは奇形と罵られ、自分のことすら満足に行えない。
マターリとは遠く掛け離れ、その思考を捨てるまでの時間はそんなに掛からなかった。
心にぽっかりと穴が開き、生きる理由さえ己の中から消えてしまいそうだった。
そんな自分を救ってくれたのは、ちびタンだった。
死人と何等変わりない自分に声を掛けてくれた、唯一のちびギコ。
『一人でも多く、マターリできたら嬉しいデチ』
ちびタンという、ごく普通の名前を持ったちびギコだった。
既にマターリなんて信じていなかったが、その気持ちが嬉しかった。
片腕になってから友人は皆逃げ、あまつさえ石まで投げて来た。
だが、ちびタンだけは、手を差し延べてくれた。
それから、生きようという考えが戻ったのはすぐだった。
―――だが、それもほんの少しの間だけだった。
ちびタンは身体の不自由な僕を助けてきてくれたが、まだ問題は残っていた。
心に開いた、大きな穴。
ちびタンの好意は、その穴を埋めてはくれなかった。
一時的に忘れさせてくれただけで、根本的な解決になっていなかった。
「・・・」
必死に毛づくろいをしてくれているちびタン。
嬉しいのだけれども、やはり何かが足りない。
俯いての溜め息は、これで何度目なのだろうか。
452
:
魔
:2007/12/13(木) 23:10:24 ID:???
※
夜。
ちびタンは既に夢の世界に旅立っていた。
僕はいつものように、心の穴、このもやもやした感覚と向き合っていた。
仮説も立てられない、理由づけも出来ない問題。
頭も心もずっと唸ってばかりの平行線。
埒があかないので、気晴らしに散歩でもすることにした。
ここ最近、虐殺という行為があまり目につかなくなった。
正確に言えば、表に出る虐殺厨の数が減っていただけなのだが。
だから、日中より更に安全になった夜は、散歩するのに絶好の時間だ。
虐殺が減ったという情報は、落ちていた新聞や、ラジオを盗み聞きしてのもの。
『一匹のちびギコが、無差別殺人を繰り返している』。
普通なら考えられないが、嘘の報道などすぐに忘れ去られる筈だ。
このニュースはもう一週間前から流れ、様々な場所で耳にしている。
警察が警戒も促していたし、実際に虐殺も減っていたし、事実に間違いないだろう。
(・・・会ってみたいな)
虐殺厨を虐殺し返す。
そんなちびギコがいるのなら、一度話をしてみたい。
何故、見境なくAAを殺しているのか。
どうして、虐殺厨を殺すことができるのか。
どうせなら、弟子入りも視野に入れてみようか。
虐殺厨を殺す程強いのなら、ついていけば楽に生き延びる事が出来る。
情報を耳にしてから、僕はそのことをずっと考えていた。
ふと空を見上げると、満月が出ていた。
その美しさは、空っぽな自分を癒してくれる。
マターリの神様は信じないけど、お月様はいつも僕を見てくれる。
ひとつ、お月様に願いごとをしてみようか。
流れ星のそれではないが、祈る形での願いだ。
目を閉じ、胸に手を宛てる。
「お月様、願わくばその強いちびギコに逢わせて下さいデチ」
心の底から、切に願った。
―――その時だった。
「グエっ!?」
短い断末魔が近くから聞こえてきた。
声色からして、それは虐殺厨のもの。
真逆と思い、その声がした所へと走る。
恐らく日中でも人気のない、細い道。
そこに、虐殺厨は倒れていた。
ぱっくりと裂けた首が、月光に照らされている。
そして、その影にその虐殺厨を殺した者が立っていた。
考えるまでもなく、そのAAは噂になっているちびギコ。
新聞にも書かれていた通り、ラジオで聞いた通り。
少し大きな身体をしたちびギコが、虐殺厨の血をしっかりと浴びていた。
「あ・・・」
僕は歓喜すると同時に、恐怖を覚えた。
それは、ちびギコから放たれる殺気が、僕に向けられていたからだ。
453
:
魔
:2007/12/13(木) 23:11:06 ID:???
影から出てくるちびギコ。
ゆっくりと、その身体が月光に晒される。
真っ白なその毛並みには、べっとりと血糊が付着している。
目線を上げると、地の白に茶と黒が混じっている顔。
あまりお目にかからない毛の色に、僕は少し驚いた。
ただ、負傷か虐待かはわからないけど、左目と左耳が彼にはなかった。
そして、もう一度目線を落とすと、真っ黒な腕が握るナイフがあった。
血を吸ったまま月光を反射するそれは、恐怖を感じさせる。
話し掛けようとするも、声がでない。
彼の真っ黒な眼が、とても恐ろしく思えたから。
口を開けば、手の中にあるナイフで切り殺される。
そんな幻覚さえ見えてしまった。
「・・・何か用?」
感情のない声。
彼の問い掛けに、我に返る。
「あ、その・・・キミが、噂になってるちびギコデチか?」
咄嗟に出した言葉は、当たり前の事を問うものになった。
他にも重要な質問なんて沢山あるだろう。
僕は自分に毒づくも、彼の返答を待つことにした。
「・・・」
不快だったのか、彼は無表情のまま死体に目を遣る。
そして、その死体にナイフを力強く突き立てると、そのまま切り開いていく。
ぐちゃ、と湿った気持ち悪い音が、肉塊となっていく虐殺厨から聞こえる。
照らすものが月であるせいか、溢れた血液がコールタールのように黒く見えた。
「君、片腕なの?」
と、解体に見取れていて、質問が来たのに気付くのが一瞬遅れた。
「あ、えと・・・そう、デチ」
腕のことに触れられるのは嫌だったけど、不満を言っても何にもならない。
寧ろ、片腕ということに恥ずかしささえも感じてしまった。
彼はあんな身体になっても、一人で生きているというのに。
僕は他人の力を借りて、生きている。
「・・・君達って、面白いね」
「えっ?」
思いもしない返答に、つい聞き返す。
「今まで色んなちびギコに出会ったけど、まともに話せたちびギコは皆身体の一部がなかった」
「・・・」
「そうでない人達は全員『マターリ』とか言って話が通じなかったから」
そう言うと、彼はどこか寂し気な表情を浮かべる。
庇うように左腕を握る彼を見て、僕はやっとそれに気付いた。
真っ黒な彼の左腕は、最初は毛の色だと思っていた。
だけど、それは間違いだった。
よく目を凝らすと、彼の左腕は重度の火傷。
花火やライターくらいの火ではつかない程、酷いものだった。
使えてはいるようだけど、片腕よりかなり目立つ怪我。
もしかすると、彼は僕より沢山のちびギコに馬鹿にされたのかもしれない。
それを裏付けるかのような発言が、彼の口からぽつりと零れた。
「僕もこんな身体だし、有る者には見下されても仕方ないのかもしれないね」
「・・・」
そんなことない。
そう言いたかった。
だけど、僕が言えたことではなかった。
454
:
魔
:2007/12/13(木) 23:11:46 ID:???
僕が言葉を捜していると、彼は解体に勤しむ。
どうしてバラバラにするのか、ふと疑問に思う。
だけど、その答えは聞かなくても、彼から教えてくれた。
虐殺厨の腕を切り離した彼は、更に皮を剥ぐ。
そして、露になったぬらぬらと光る肉を見詰め、それに口をつけたのだ。
一つ咀嚼し飲み込んだ後、今度は力強くかじりついた。
僕はそれを見て、一瞬寒気がした。
その直後、謎が氷解し感動という気持ちが心を染めた。
何故無差別に虐殺厨を殺してきたのか。
それは、自分の力を誇示させる為ではなかった。
彼は、『食事の為に虐殺厨を殺している』。
ゴミ漁りというハイリスク、ローリターンのそれよりも遥かに効率が良い。
先に殺せば、殺される心配もないし、手に入る量も半端じゃない。
「・・・それの為に、君は虐殺厨を殺してしたんデチか」
「うん」
感動し過ぎて、ついわかりきった事を問い掛けてしまったが、満更でもないらしい。
虐殺厨だったものを食べる彼は無表情だったけど、凄く嬉しそうだった。
だから、段々羨ましく感じてきた。
僕らより遥かに強い彼に、更に憧れを抱くようになった。
「あの・・・無理を承知で頼みたい事があるデチ」
利用する、という考えはいつの間にか吹き飛んでいた。
実際に出会ってみて、彼に心の底から魅入ったからだろうか。
或いは、同じような身体を持つからだろうか。
意を決して、問い掛ける。
「何?」
「僕も、き、君についていきたいんデチ・・・」
全て話してみた。
自身の強さに惚れ込んだこと。
虐殺厨を殺す術を教えて欲しいこと。
死に怯える日々から抜け出したいこと。
嘘偽りなく、あるがままを話した。
「ごめんね」
返ってきたのは、否定だった。
「僕も、自分だけの事で手一杯なんだ」
「・・・いや、いいんデチ。赤の他人がいきなり我が儘を言って、ごめんなさいデチ」
予想はしていたけど、少し寂しく感じた。
彼なら、僕の心の穴を埋めてくれそうな気がしたのに。
だけども、やはり片腕というハンデは大きすぎるのか。
俯くと、視界がうっすらとぼやける。
いつの間にか、僕の目には涙が溜まっていたようだ。
見られまいと顔を逸らすと、血の匂いが強くなる。
顔をあげると、彼は虐殺厨のもう一つの腕を持っていた。
「代わりと言ったら難だけど・・・これ」
申し訳なさそうに、差し出してくれた。
僕は涙をこっそりと拭い、それを受け取る。
「ありがとう・・・デチ」
「いつも食べ切れないから、残しちゃうんだ」
軽い自虐を含めながら、彼は笑う。
つられて、僕も少しだけ笑った。
455
:
魔
:2007/12/13(木) 23:12:57 ID:???
初めて虐殺厨の肉を食べた。
火を通してないせいか、残飯よりも凄く生臭い。
だけど、一度口の中に入れれば、臭いは消えて美味しさが広がる。
新しい感覚に僕はひたすら感動し、貪るように食べた。
お腹も、何ヶ月ぶりにいっぱいにすることができたし、嬉しかった。
「虐殺厨って、こんなに美味しいんデチね」
「僕も、初めて食べた時は驚いたよ」
「それで、食べる為に殺すようになったんデチか」
「うん」
「羨ましいデチ。僕にも、そんな強さが欲しいデチ」
虐殺厨も殺す事ができて、食事にも困らない。
そんな素晴らしい生活ができる彼が、本当に羨ましくて堪らない。
夢物語なんかじゃなく、それを体言しているから、より憧れてしまう。
そんなことを思っていると、彼の口から意外な言葉が発せられた。
「僕は、強くなんかないよ」
「えっ?」
流石に、一瞬で理解できなかった。
謙遜なんかじゃなく、本当にそう思っての言葉。
どういうことか聞く前に、彼が先に答えを教えてくれた。
「僕は君達と変わらない、普通のちびギコなんだ。ただ、ナイフを持ってるだけ」
次いで、ナイフと身体の傷の事も話してくれた。
虐殺厨に捕まり、生き地獄を見たこと。
「耳をもぎ取られ、腕を焼かれた。
それでも、絶対に生き延びる事を誓った。
どんな小さなものでも、チャンスだけは逃さなかった。
そして、左目を犠牲にして虐殺厨から逃げ出せる事が出来た。
その時に、このナイフを手に入れたんだ。」
坦々と話す彼。
その内容は僕が体験したものよりも遥かに辛いものだった。
ナイフを手に入れた後の話も、決してゴミ漁りより楽じゃない。
仲間も親もなく、たった一人で生き延びてきた彼。
なのに、彼自身は自分を強くないと評する。
納得がいかなくなって、僕は更に聞いてみた。
「虐殺厨を殺せるだけでも、十分に強いデチ。なのにどうして・・・」
「・・・君と、僕の違う所。わかる?」
「?」
「ナイフがあるかないか。それだけ」
ナイフという『力』。
ちびギコでも、力を持つことができる。
それを持つことができれば、後は『気持ち』次第だ。
彼はそう語ってくれた。
凄く単純なことだけど、僕はそれに心を打たれた。
『気持ち』と『力』があれば、なんでもできる。
彼だって、生き延びたいという気持ちとナイフという力だけで、虐殺厨を殺している。
段々と、僕の心の穴が埋まっていく。
高ぶる気持ちに合わせて、それは小さくなっていく。
彼についていくという事はできなかったけど、新しい道を教えてくれた。
それだけで、凄く嬉しかった。
※
暫くの間、僕等は会話と食事を楽しんだ。
二人で食べたせいか、虐殺厨は殆ど骨だけになった。
肋骨を露にした間抜けな虐殺厨を見て、一緒に笑ったりもした。
そして、彼はまた『生き延びる』為にここを離れるようだ。
僕は感謝の言葉と、また逢いたいという願いを込めて、
「またね」
と大きく手を振って言った。
名前を聞く事は、すっかり忘れてしまっていた。
456
:
魔
:2007/12/13(木) 23:13:33 ID:???
※
朝になった。
僕はあの後、ちゃんとちびタンの所に戻った。
興奮し過ぎていて、なかなか寝付けなかったけど。
今日は早速、あの彼に教えてもらったことを試すことにした。
先ずは、『AAを殺すことが出来る道具』を手に入れないと。
虐殺厨は、身体の丈夫さを武器にできる。
ならば、その丈夫さを超える力があればいいんだ。
ガラス片であれ、丸腰な虐殺厨なら上手くやれば殺せる。
小さな刃物でも、扱うことができれば十分。
あのナイフの彼だって、刃渡り十数センチの力で何人も殺してきたんだ。
「・・・ねぇ、何するんデチか? こんな所で」
僕が来たのは、大小様々な鉄くずを集めている広場。
どういう施設なのか、詳しいことはわからない。
けど、ここに来たら何かありそうな気がしたから。
「ちびタンには関係ないデチ。別についてこなくてもよかったのに」
「で、でも、片腕のフサタンはほっとけないし・・・危ないことは、しちゃ駄目デチ」
急に、ちびタンが欝陶しく思えるようになった。
僕の事を想い、いろいろとしてくれるのは素直に嬉しい。
だけど、四肢があるくせに纏わり付くのが、段々と不快に感じてくる。
彼に出会ったせいだろうか。
いつも傍にいるちびタンより、一夜だけ話した彼の方が、優しかった。
上からでも下からでもなく、同じ目線で僕を見てくれた。
「・・・」
そこまで考えた所で、僕は思考を止めた。
先に成すべきことを成してから、そこから次の問題に取り掛かろう。
僕は小さい鉄クズの山に手を置き、目当てのものを探した。
※
ガシャガシャと、鉄クズの山が唸る。
それを聞く度、ちびタンはオロオロと落ち着かない。
辺りを見回しては、いちいち耳打ちをしてくる。
「そ、そんなに音を立てたら、虐殺厨に見つかるデチよ」
「ちびタンは黙ってて欲しいデチ」
それに、虐殺厨はこんな所に来る筈がない。
僕等ちびギコが殆どいないのに、わざわざ歩きにくいここに足を運ぶことはない。
何度も説明したのに、ちびタンは全く聞いてくれない。
ガラクタを掻き分ける度、掌が汚れていく。
自慢の毛並みもくしゃくしゃだし、疲れも感じてきた。
だけど、僕の手はもう頭では止まらなかった。
帰巣本能のような、磁力のような感覚が僕の心を埋め尽くしている。
と、
「痛っ!」
指が何かに刺さったようで、咄嗟に腕を引っ込める。
ふと、痛みを感じた指を見ると、ちょっとした量の血。
それは小さな膨らみになった後、つう、と掌へと滑り落ちた。
「大丈夫デチか!?」
怪我をした僕を見て、酷く慌てるちびタン。
手を見せるよう言われたが、僕はそれを無言であしらう。
ちびタンの不快な思いやりよりも、それが気になる。
ガラクタを掻き出し、僕の手に傷をつけたものを、取り出した。
457
:
魔
:2007/12/13(木) 23:14:20 ID:???
※
それは、単なる金属片だった。
多分、何か大きな鉄の塊の一部分だろう。
金属片は引きちぎられたように伸び、そこが刃の役割をしている。
都合よく柄のような形をした部分もあり、そこを握ってみる。
翳してみると、なかなかかっこよく見えた。
ギザギザの刃は銀色に光り、他は錆で被われ、僕の毛色みたいだ。
(・・・これデチ)
求めていたものは、あっさりと見つかった。
切れ味は、どう考えてもまともではなさそう。
だけど、この金属片はどの刃物よりも僕に馴染みそうな気がした。
力を手に入れた。
まだ試してすらいないのに、漠然とそう頭の中に言葉が浮かぶ。
後は、『気持ち』。
それは既に用意してある。
僕の中で、燻っていた念い。
片腕だからという理由で、諦めていた。
だけど、これを見付けた途端、その念いは燃え盛る。
―――僕を馬鹿にした奴らへの、復讐。
好きでこんな身体になったわけじゃないのに。
僕を見る度嘲笑い、暴言や石を投げて来た奴ら。
あの時は本当に何もできなかったから、成すがままだった。
ちびタンはそんな僕を支えてくれたけど、それも今日でおしまいだ。
今の僕は、何もできないわけじゃない。
心を真っ黒な炎が包み、激しく、それでいて静かに燃え盛る。
その炎が消えてしまう前に、奴らを焼き殺してしまおう。
そう決意し、ガラクタの山から離れようとした。
その時だった。
「フサタン!」
ちびタンが、僕を呼び止めた。
その声は少し掠れていて、本人も息があがっている。
どうやら僕が物思いに耽っている間も、喚いていたようだ。
振り向き、聞き返す。
「何デチか?・・・僕は今から、することがあるデチ」
「そんな危ない物使って、何する気デチか!」
半ばヒステリックに叫ぶちびタン。
その顔は少し青ざめ、どこか怯えているように見える。
僕は包み隠さず、胸中の事を伝える。
「復讐デチよ。僕はもう、何もできないわけじゃない」
「復讐って・・・まさか!?」
「そんなに驚かなくてもいいデチ。まあ、そのまさかなんデチが」
金属片を見詰めながら、呟く。
くい、と角度を変えて刃に光を当ててみると、僕の顔が映った。
それは刃の形に沿って歪み、僕の顔そっくりな悪魔が笑っているかのよう。
暫く眺めていたかったが、ちびタンの言葉でそれは叶わなかった。
それは、あまりにも心ない言葉だった。
「はぁ、全く。何を言い出すかと思えば・・・」
「・・・ちびタン?」
「いつも僕に助けられてるフサタンが、そんなこと出来る筈ないデチ」
「・・・」
「片腕のくせに、そんなガラクタ持っただけで復讐なんて無理デチよ」
458
:
魔
:2007/12/13(木) 23:15:10 ID:???
※
最も聞きたくなかった言葉。
それは、いつも傍にいたちびタンの口から、放たれた。
「いやはや、まさか自殺するんじゃないかってヒヤヒヤしてたけど、杞憂だったデチ」
「・・・」
「下手に引き止めたりしたら、フサタンが暴れて山が崩れて生き埋めだとか、考え過ぎてたデチ」
頭の中が真っ白になった。
でも、ちびタンは構わず喋り続ける。
ちびタンは僕の為にいろいろしてくれた。
だけど、心の中では片腕の事を馬鹿にしていた。
信じたくないけれど、本人が目の前でそう言った。
片腕のくせに―――。
そこに嘲けりがなくても、僕の心は酷く傷つく。
そして、その傷から激しく炎が顔を出す。
「ちびタン・・・」
「ん、何デチか?」
「僕にやさしくしておいて・・・本当は、影で馬鹿にしていたんデチね・・・」
「馬鹿も何も、片腕を擁護する奴なんているわけないデチよ」
話を全て聞けば、ちびタンは自分の為に僕を手助けしていたとのこと。
表面上では優しくしておいて、裏で僕を見下す。
『キケイを介護してやるなんて、僕はなんて慈悲深いんだろう』と。
そこに罪の意識なんてなかったかのように、ちびタンは面白おかしく喋る。
結局、ちびタンは奴らと同じだった。
こんな奴に心を開いた自分が情けない。
得物を握る手に、力が入る。
炎が、そいつも殺してしまえと命令する。
味わわせてやる。
僕の苦しみを。
切り刻んでやる。
僕の力で。
得物を逆手に持ち直し、ちびタンに迫る。
まだへらへらと喋るちびタンは、僕の殺気に気付いていない。
目と鼻の先まで近付いて、得物を振り上げる。
そこでやっと、ちびタンは口を動かす事をやめた。
「・・・へっ?」
刃物が、自分の肩口に突き刺さっていたからだ。
僕も、いつ振り下ろし、刺したのかわからなかった程。
そのくらい、ちびタンの肉が脆いのか、得物の切れ味が凄まじかったのか。
「ひ、ヒギャアアアァァァァア!!?」
ちびタンは刃から離れるように倒れ、その場を転げ回る。
真っ赤に染まった金属片は、ぬらぬらと光る血を滴らす。
刺してしまった。
虐殺厨なんかじゃなく、同じ種族をだ。
だけど、罪悪感なんてこれっぽっちも生まれない。
生臭さと肉を裂く感触に、ちびタンの慟哭から感じるもの。
それは、他人を見下す時に得られる『幸福』だった。
459
:
魔
:2007/12/13(木) 23:16:23 ID:???
『見下す』。
その行為は、あまりした覚えはなかった。
見下されたことなら、不本意だけど腐る程あった。
沢山のちびギコが、それをしてきた訳が今理解できた。
誰かを見下す事は、この上なく気持ち良い。
僕は暴れるちびタンを止める為、脚でそのお腹を踏み付ける。
呻きが聞こえると同時に馬乗りになり、刃を首に宛てがった。
「ひい・・・っ!」
怯え、涙目でこちらを見遣るちびタン。
完全に恐怖に呑まれているようで、身体の震えが嫌というほど伝わってくる。
肩口を傷付けただけだというのに、先程の態度とは全く違っていた。
「どうしたんデチ? そんなに怯えて・・・」
「いや、やめて、デチ。こっ、殺さない、でえっ」
と、ちびタンが嗚咽を漏らしながら懇願する。
そこで、どうしてそこまで恐怖に苛まれているのかがわかった。
ちびタンの真っ黒な瞳に、僕の顔が映ったから。
それは、自分さえも竦み上がる程酷いものだった。
憎しみがそこから駄々漏れているのも、はっきりとわかる。
憎悪という化け物に睨まれて、ちびタンはこうなったんだろう。
「・・・」
だからといって、気持ちがわかったからって、手を止める理由にはならない。
寧ろ怯えてくれて好都合。ここから、ちびタンを僕の好きなように扱えるわけで。
手は傷口を押さえてて、自ら抵抗しないようにしてるのと同じ。
脚はもちろん、僕が馬乗りになっているせいで使えるわけない。
今から、得物という力を使って、ちびタンを十二分に弄んでやれる。
「殺すか殺さないかは・・・僕が受けた苦痛の大きさで決まるデチ」
刃を反し、付着していた血をちびタンの頬になすりつける。
自分の血だというのに、ちびタンは悲鳴を押し殺して顔を逸らす。
嫌がるくせに、傷口を押さえる手は動かそうとしない。
しかも、そのくらいの傷で痛がるなんて、もぎ取られた僕はどうなるのだろう。
「ご、ごめ・・・ごめんなさ・・・い」
「謝るデチか。さっきはやって当然といった物言いだったくせに」
「あ、ああぅ・・・」
「片腕に命乞いなんて、ちびタンは馬鹿デチねー」
眼はそのまま、刃を向けて嘲笑う。
すると、ちびタンにもプライドはあるのか、涙目で睨み返してきた。
倫理感に欠けるその意地は、少し不愉快ではあったけれど。
ただ殺すだけじゃあ、僕の怒りはおさまりそうにない。
だから、ちびタンにこれとない苦痛を与えるべきだ。
そこで、僕はある事を思い付いた。
恐らくそれはちびタンにとって、究極の二択かもしれない。
天秤にかける、一つの要素は命。
そして、もう一つは―――。
「ちびタン」
「え・・・?」
僕は問い掛ける。
囁くように、脅すように。
「片腕になるのと、死ぬのと。どっちがいいデチか?」
460
:
魔
:2007/12/13(木) 23:17:05 ID:???
「な、なん・・・っ!」
ちびタンが喚くより先に、得物の刃を頬に押し付ける。
そこから新しく血が流れた所で、ちびタンは喋るのをぴたりと止めた。
「文句でもあるんデチか? 断るなら、殺すかわりに『虐殺』してあげるデチ」
使う事はないと思っていた単語が、あっさりと言葉になる。
力を手に入れてからは、それが簡単に熟せそうな気もしている。
いや、今の僕は絶対に熟せる。
自分が片腕でも、ちびギコという弱い種族でも。
気持ちと力があれば、なんだってできる。
ナイフの彼が言っていた事は、本当なんだ。
「さあ、早く決めるデチ」
「うぅ・・・っく・・・」
涙をボロボロと零しながら、葛藤するちびタン。
十秒か、多分そのくらいの時間が経ってから、ちびタンは動いた。
傷口を押さえていた手を退かし、こう答えた。
「せめて・・・こっち・・・」
プライドよりも、命を選んだ。
死ぬことよりも、生き地獄を選んだ。
ただ、それは僅かな差での答だったようで、ちびタンは更に涙を流す。
身体の震えは、既に恐怖のものではなくなっていた。
「わかったデチ」
僕は、あまり間をあけずに言葉を返した。
そして、あえてゆっくりと刃を傷口に持っていく。
刃先で軽く傷口をつつくと、あわせるようにちびタンの身体は小さく跳ねた。
何度かそれを行った後、僕は囁く。
「叫んだりしたら、殺すデチ」
釘を打ったのは、決して他のAAに見つかる恐れをなくす為ではない。
単純に、ちびタンの行動を制限させる為だけのもの。
これとない激痛の上、叫ぶことができないのは、かなりの苦痛だろう。
だけど、僕はそれ以上に苦しんだわけで。
ちびタンは歯を食いしばり、右手は身体でなく地面を掴む。
どうやら、僕の言葉を綺麗に飲み込んでくれたようだ。
反論も罵倒もなく、怯えながら従うちびタンは見ていて面白い。
得物を強く握り、刃を進ませる。
先程刺した時よりも、更に深く、遅く入れていく。
ずぶずぶと入り込む感触は心地よく、肉を切断しているというのがよくわかる。
当の本人は瞼を強く閉じ、必死で痛みに堪えていた。
「よく我慢できるデチね・・・ちびタンは強いデチ」
「〜〜〜っ!!」
手応えがきつくなれば、一度引き抜いてまた入れる。
乱暴に突き刺すなんて事はせず、あえてゆっくりと行う。
長い間僕を苛んできた苦痛は、そうしないとわからないから。
また深くに刃を入れていくと、ちびタンは眼を見開いて堪える。
それでも、決して叫ぶことはなかった。
涙を零しながら、激痛に静かにかつ激しく悶えるちびタン。
その表情を見れば、絶景を眺めるより心が洗われる。
僕は網膜に嫌というほど焼き付ける為に、刃を動かす速度を更に緩めた。
461
:
魔
:2007/12/13(木) 23:17:57 ID:???
暫くして、ごつ、と鈍い手応えがあった。
一応意識しながら行ってきたけれど、こんなに硬いとは思っていなかった。
くすんだ赤や黄に塗れた肉の芯を成す、骨にぶつかったのだ。
果物を食べていて、偶然にも種を噛んでしまったような感触。
故意に邪魔されたような気がして、この上なく不快に感じた。
こんなに硬いものがあれば、出来るものも出来なくなる。
もっと、肉を切断することに浸っていたかったけれど。
僕は覚悟を促す為、口を開いた。
「ちびタン」
「っ・・・?」
「ちょっと乱暴にするけれど、大丈夫デチね?」
「・・・」
ちびタンは僕の言葉に頷く。
直後、地面を握っていた右手を口に持って行き、そのまま塞ぐ。
血や涙で汚れた顔に土だらけの掌が被さると、土埃は泥になり更に汚れる。
あまりにも汚いちびタンの顔に、僕はほんの少しだけ吐き気を催した。
だけど、ちびタンは僕の無茶苦茶な行動言動に素直に応じている。
そこだけは評価してやらないといけないかな。と僕は思った。
「・・・まあ、それが賢明デチ」
わざと口角を吊り上げながら、囁く。
ちびタンはもう、痛みを堪えるのに必死なようで、何も反応を示さなかった。
少しばかり生意気に感じたが、見方を変えたら余裕がないのと同じ。
ちびタンが壊れるのも、もう目の前かもしれない。
※
今から、ちびタンの腕を殺す。
骨はいわゆる、腕の命に等しいものだ。
それを砕けば、ちびタンの腕は死ぬ。
あの時の僕みたいに、激しい絶望感と喪失感に苛まれるだろう。
ちびタンが悪いんだ。
僕の事を影で嘲笑っていたから。
ただ馬鹿にし、石を投げるだけならここまでしなかった。
だけど、ちびタンは僕にやさしくしてくれた。
やさしくしてくれたから、『裏切り』なんてものが生まれたんだ。
※
得物を大きく振り上げる。
唯の金属片であるそれは、今だけギロチンの刃のように思えた。
罪人とも取れるちびタン専用の、断頭台でなく断腕台。
僕はそれ以上何も考えず、一気に振り下ろした。
途中、憎しみという感情が僕の腕を強く押したような気さえした。
「―――ッッ!!!!」
ばき、と凄まじい音がして、ちびタンの腕の骨が砕ける。
想像を絶する激痛だったのか、僕を振り落としそうな程ちびタンは身体を大きく跳ねさせた。
その後も、首やら脚やらをばたばたさせて酷く悶絶するちびタン。
叫ぶことができないぶん、苦しさは半端でない様子。
だけど、約束はしっかり守っていることから、まだ精神は壊れてないようだ。
こんな目にあっても、必死で自我を保とうとするちびタン。
捩曲がったその根性は何処からくるのかと、僕は心の中で毒づく。
肝心の骨は、どうやら上半分だけが割れただけのようで、完全に切断できていない。
骨の破片を刃先で取り除くと、骨髄らしきものがどろりと流れ出た。
462
:
魔
:2007/12/13(木) 23:18:18 ID:???
血が溢れ、肉が顔を出し、骨が露になっているちびタンの腕。
汚いそれが身体と離れるのは、もうすぐそこ。
もっと痛め付けてあげたかったけど、これ以上長引くと気絶させてしまいそう。
意識のないちびタンを虐めても、僕の心は晴れたりはしない。
「ちびタン、もう少しで終わるデチ。頑張るデチよ」
「・・・!!・・・!」
口を押さえて悶えるばかりのちびタン。
僕はそれを無視し、得物を振り上げ―――。
ばきん。
と、乾いた音が辺りに響き、ちびタンの骨は見事に割れた。
勢い余って、そのまま骨の下の肉も切断してしまったようだ。
「・・・やったデチ」
ちょっとした達成感に、僕はうっかり感嘆の声を漏らす。
ちびタンは眼を見開いたまま、涙をひたすら流している。
小刻みに震え、腹は上下動している所から、気絶はしていない様子。
ちびタンは今、何を考え何を想っているのだろう。
恐らくその心は僕と同じように、絶望と激痛でズタズタな筈だ。
しかも、これからちびタンは仲間と思っていたAAに見放されていく。
僕が見て来た地獄を、そっくりそのまま見てもらうんだ。
僕は立ち上がり、ちびタンから離れる。
もう、裏切り者には用はない。
「お疲れ様デチ。もう喋ってもいいデチよ」
「・・・ぅ・・・ぅあ」
何か恨み言の一つでも喋るかと思えば、それではなかった。
ただ、流す涙に合わせてえづき、鳴咽を漏らすだけ。
その様子から、十二分にちびタンの精神は傷ついたようだ。
僕は最後の仕上げに、ちびタンの耳にこう囁いた。
「ようこそデチ・・・僕が体験した『地獄』へ」
※
最初の復讐は、満足のいくものとなった。
これから、僕は更にAAを殺すだろう。
この得物を使って、僕を馬鹿にした者を片っ端から殺す。
虐殺厨と同類になっても、別に構わない。
力を手に入れた今、気持ちで突き進むだけ。
「ぁ、ぁ・・・うわあああああああああああ!!!」
広場を離れる途中、後方からちびタンの慟哭が聞こえた。
それは身体の芯にまで染み渡る程、良い声だった。
続く
463
:
淡麗
:2008/01/04(金) 20:22:21 ID:???
明けましておめでとうございます。
記憶のかなたに忘れかけているかと思われますが、
>>419
〜423の続きです。
どぞ
【ペット大好き日記!〜第3幕〜】
ただいまっと・・・
大学から帰宅した俺はわざとらしく声をかける。
返ってくる声はない。
だろうな。母親はサークル活動とやらで夕方まで居ないのを確認済み。
目標地点の主はまだ学校だ。
「いいぜ、モラ川。」
「いよいよモナ〜 なんかどきどきするモナ」
俺の後ろから入ってきたのは、大学の後輩のモラ川。
コイツの趣味は盗撮。しかし
「モラが盗撮するのは、暗躍する悪事を暴くする為モナ。エロには興味ない!」
というのが自負だとかで、その腕前はかなりのもの。
今回コイツを呼んだのは、妹の部屋でベビがどんな目にあっているのかを観察する為だ。
モラ川に状況を説明すると、初めは渋っていた。
「そんな家庭内の事なんて、どうでもいい事モナ…」
と渋っていたのだが、
無知で無謀な小学生のベビ育成観察の面白さを延々と語り聞かせること小一時間。
「…分かったモナ。でもやるからには万全体制で臨むモナ。」
と決心してくれたのだ。
さて、さっそく妹の部屋へ侵入。
ここが奴らのアジトだぜ…なんていって雰囲気を高める。まぁ、モナ川はあきれているが。
モナ川は部屋に入ると同時に、あちこち観察を始めた。
なんでも埃の状況などから家主の行動パターンなどを推測して、カメラやマイクを仕掛けるとか。
なんかよくわからん世界だからそっちの事は全てお任せしよう。
で、俺はベビを探し始める。
昨日と同様に鼻を利かせてみるが、異臭はしない。
ふむ、さすがに糞まみれ事件で何らかの対処をしたと見える…。
なかなかやるじゃないか。
でも机の下には、昨日と同様に不自然な箱が置かれている。
箱、というより蓋付きのゴミ箱といえるものだ。
そしてやはり蓋の上には空気穴と消臭剤…
ビンゴ、これに違いない。
箱に耳をつけ、中の音を確認すると「ム゙ゥゥ…」とやっぱりうめき声が。
「モナ川、おい、これ。ビンゴだぜ。」
「これ?この中にベビがいるモナ?それにしては小さすぎるというか…」
「だから小学生の考えることの面白さがここにあるんだよ♪」
「じゃあ昨日と同様に糞まみれ?」
「いや、さすがに懲りたらしくなんか対策しているみたいだ」
ワクワクしながら、蓋をオープン!
そこには・・・
464
:
淡麗
:2008/01/04(金) 20:29:03 ID:???
②
「ム゙ゥゥゥ…」
またまた猿轡を噛ませられたベビがいた。
しかし今回は糞まみれではない。
ないが…
首から下が砂に埋まった状態…生き埋めなのだ。
「…なにこれ?」
「砂に埋めてんのか??」
さすがに俺もモラ川も言葉が出ない。
というか何をしたいんだ、わが妹よ。
よくよく見ると、この埋められている砂は室内犬とかの排泄用の砂…
糞尿をしたとしても、砂が固まって回収が簡単、そして消臭剤だから臭いも気にならない
というあの商品だ。
妹はあの糞尿まみれ状態を洗ったりするのに相当難儀したんだな。
箱に隠しておくだけでは糞尿まみれになるのは目に見えているが、排便させないという事も出来はしない。
だったら排泄しても大丈夫なようにする為に…と考えた結果がこれか。
「先輩の妹は中々のインスピレーションをお持ちのようモナ」
くくく・・・と笑いをこらえながら、モナ川は称してくれた。
正直俺もこうくるとは思わなかった。
恐らく、ケツに栓でもねじ込んでいると思っていたが、こういう発想が出るとは。
大抵は行動を抑制するのが定番なのだが、なまじ
「ベビちゃん大好き!」とか言っちゃっているからこういう発想になるのかもしれない。
「…先輩、モナもなんか気になってきたモナ。
コイツ、これからどんな事されるか…ワクワクしてきたモナ」
おいおい、今までは乗り気じゃなかったってか。
ま、それでもいいさ。
「さて、頑張れよ〜ベビちゃん。お前のご主人様は素ン晴らしい方だからな〜」
笑いをこらえながら、蓋を閉めて元の場所に戻す。
それにしても、蓋を閉めるときのあのベビの表情…!
助けを請う「哀願」ってのはああいう目をすんだな(笑)
モナ川も同感なのか、笑いをこらえながら作業を進める。
小一時間後、カメラのセットも終わり一旦俺の部屋へ戻る。
セットしたカメラの状況を確認するのだ。
映像はバッチリ。音声も別にセットしているという。
しっかりレクチャーを受けながら、俺は妹の帰宅を待ちわびる。
恐らく人生で一番妹の帰宅を待ち焦がれている。
465
:
淡麗
:2008/01/04(金) 20:32:24 ID:???
③
ただいま、ベビちゃん。
今日はいい子にしていたかな?
箱を開けるとベビちゃんが私の事を待っていたかのように、大きなおめめで見つめてくれるの。
きゃは♪
うれしいな♪
「ただいま〜ベビちゃん。」
さっそく箱から出してあげるからね。
箱からベビちゃんを出してあげると、早速遊びたいのかモゾモゾするんだ
もう、あわてんぼうさんなんだから
マスクをはずして、手足のロープを外してあげるの。
一日中子の格好じゃ、やっぱり苦しいよねぇ。。。
でもベビちゃんがちゃんとお留守番できるまでの辛抱だよ?
「ぷはぁぁぁぁ!!!」
「ただいま、ベビちゃん。いい子にしていた?」
そういってあたしは優しくベビちゃんをナデナデ。
「ハ、ハニャァァァ・・・・・」
うふふっ
ベビちゃんは目をおっきく開いて、あたしを見つめてくれるの♪
ベビちゃんの大きなおめめ、本当に可愛いなあ
「さぁ、ベビちゃん。ずっと動けなくって退屈だったでしょ?これから沢山遊ぼうねぇ♪」
「オネェタン ナッコチテクレルンデシュカ?」
「ん〜〜抱っこもいいけど、少しは動かなくっちゃ。お部屋の中だけど、ベビちゃんとなら
大丈夫だよ♪鬼ごっことか、かくれんぼとか。」
「…ソレジャァカクレンボチマチュ! チィガ ニゲルデチュヨウ!」
あぁん、ロープが外れたとたん、ベビちゃんはすぐに走り出してベッドの下に隠れちゃった。
もう、さっそくかくれんぼうしたいのかな??
すぐに遊んであげたいけど、その前に箱の中をきれいにしなきゃ。
いくらネコ砂を入れているって言っても、ちゃんときれいに片付けなきゃ。
ベビちゃんが隠れている間に、お片づけしよっと。
汚れた砂を片付けて、ベビちゃんといっぱい遊んであげるんだから♪
466
:
淡麗
:2008/01/04(金) 20:35:19 ID:???
④
「ベビちゃ〜ん、どこかな〜〜♪」
掃除も終わったことだし、さっそくベビちゃんを探すの♪
ま、さっきベッドの下に入ったの見ちゃったから、探すってことも無いけどね
ベッドの下を覗くと…ほ〜ら、ベビちゃん発見♪
「み〜つけたぁぁっ!」
「イ…イヤァァァ…ッッッ!!」
もう、ベビちゃんったら、見つかったのにイヤイヤして出てこないじゃない。
簡単に見つけすぎちゃったカナ?
「ベビちゃん、見つかったんだから出て来ないと」
「ヤァァヨォォ! ヤァァヨォォゥ!!」
もう、わがままだなぁ…
あ、そっかドロケのつもりなのかな?
※ドロケ:「泥棒と警察」の略。鬼ごっことかくれんぼをミックスしたようなもの。
私も学校でやっているドロケは、見つかったあとに捕まるまで逃げ続けるのが醍醐味だしね♪
よ〜し、ベビちゃんがドロケしたいなら、こっちも一生懸命捕まえるからね!
「隠れても無駄よー!あたりは完全に包囲されているぅぅぅ!」
「ヤァァァヨォォ!! オネェタン チイヲツカマエテ ヒドイコトチマチュヨォ! イヤデチュヨゥ!!」
おっ なかなか雰囲気作りが上手ね♪
「そんなことは無い!あなたのみがらは、我々がしっかり保障する!
だから出てきなさーい!」
「イヤデチュヨゥ! アッチイッテェェ!」
むむ!なかなか抵抗する犯人ね!
それならば…
「投降しないのならば、実力行使だー!」
じゃーん!取り出したのはこのフローリングワイパー!
狭いベッドの下にも届いちゃうんだぞ〜♪
これを使って、ベビちゃん捕獲作戦開始!
「イヤデチュヨゥ! イヤデチュヨゥ!!」
あ、あれ??
うまくいかない?!確かにフローリングワイパーはベビちゃんに届いているのに、
ベビちゃんはころころってうまいこと逃げちゃっている!
う〜〜ん、なかなかすばしっこいわね!
それじゃあの「秘密兵器」の登場ね!
「犯人のベビちゃんに告ぐ!もう一度言うわよ!
無駄な抵抗は止めて、今すぐ出てきなさい!」
「イヤデチュヨォォォ!! モウ チィヲ ジユウニチテクダチャイ!!」
「くっ、しかたない!例の兵器を投入する!」
467
:
淡麗
:2008/01/04(金) 20:38:45 ID:???
⑤
投入する兵器は・・・じゃ〜〜ん!掃除機ぃ!!
狭い隙間にもするする入って、吸引力はわずかなホコリも逃さないって言うのよ?!
さぁ〜ベビちゃん、逃げ切れる?!
スイッチオン♪
ズィィイィィイィィィィンン・・・・
「チッ…チィィィィィ---!!! ヒッパラレマチュヨゥ!」
ベビちゃん、必死に抵抗するけどずるずると近づいてきているわ♪
さっすがハイパワー掃除機ねぇ
ベビちゃんが一生懸命爪を立てて踏ん張っているみたいだけど、無・駄・よ・♪
あ、でもあんまり抵抗されたら床に傷がついちゃうんだけどな。
もう少し近づけながら…
「ほ〜〜らぁ、ほら〜ベビちゃんどんどん引っ張られるわよ〜抵抗は無駄よ〜」
「イヤァァヨォォゥゥ・・・ ハニャァッ?!」
ずぼぼぼぉぉっっ!!!!
「ブギュァァアアア!!!」
キャーどうしよう!ベビちゃんが頭から吸い込まれちゃった!
ス、スイッチ!!スイッチ切らなきゃ!!!
キャー!足は出ているけど、取れなくなっちゃってるぅぅ!!しっかり頭が吸い込まれているぅぅ!!
急いで取り出さなきゃ・・・
思いっきり引っ張って…
「ム゙ム゙---!!」
あぁ、そっか。ひっぱったら痛いか!
あぁん、どうしよう?!
あ、そうだ思いっきり振ったら出てくるかも?!
えいっ!えいっ!!えいっ!!!
お願い、イチローさん、私にも力を貸してぇぇぇぇ!!!!
ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいいいいいいいいっっっっっっっっっっ!!!!!!
ブゥゥンッッッ!!!
すぽ
「あ、抜けた♪」
ベシィィィィィッッッッッ
「ブギァョッ!!」
きゃー!抜けた勢いのまんま、ベビちゃんが壁に激突ぅぅぅ・・・!!
だ、大丈夫?!ベビちゃん!!
「ブギュゥゥ…」
あぁ、なんか口から泡吹いちゃっている!
どうしよう、どうしよう…
と、とりあえずお水を持ってこなきゃ!
ベビちゃん、すぐに戻るからね!!
468
:
淡麗
:2008/01/04(金) 20:43:00 ID:???
⑥
リビングからお水をもって戻ってくると、お部屋の中にベビちゃんが居ない?!
そんな…さっきまで意識がなかったのに?!
ベッドの下をみると、ずりっずりって、ベビちゃんが這っているの。
あぁ、よかった。気が付いたんだね、ベビちゃん♪
ベッドのすぐ下にいたから、十分手が届くわね。
すっとベビちゃんを救い上げると、ベビちゃんはブルブル震えるばかり。
「イヤァァ… コナイデェェェ… ギャクサツチュウ… ギャクサツチュウゥゥ…」
私の事を虐殺厨だなんて。
きっとベビちゃんはショックで気が動転しちゃって、変になっちゃっているんだわ。
なんだか怪物を見ているみたいに、じたばたともがいているなんて…
よっぽど怖い思いをしているのね…まぁ、当然よね。
急いで正気に戻して上げなきゃ。
でもどうやって戻すんだろう??
た…確か、ショック状態の人に強い刺激を与えると正気に戻るってテレビでやっていたわね。
でも、「しろうとにはおすすめできない、もろはのつるぎ」って言ってたし・・・
ううん、やるしかないわ!
だってベビちゃんが苦しんでいるし、私がベビちゃんを育てるって決めたんだもん!
強いショックっていったら、前にパパが買ってくれた防犯用のスタンガンがあったよね。
あれを使ってみよう!
えっと、確かここの「しゅつりょく」っていうところを調節するんだったよね。
しゅつりょく、だから大きいほうがいいよね?
あ、でもベビちゃんは小さいから、あんまり大きなショックじゃ良くないかも…
う〜〜ん、よくわかんないから真ん中にしよっと。
ベビちゃん、正気にもどってぇぇぇ!!!
パリィィッッ!!
「ヒギャァァァッ!!」
正気に戻って…ベビちゃん…
って、あれ?
なんかベビちゃん、ぴくぴくってして動かないんだけど・・・
「ベビちゃん、ベビちゃん!?」
必死になって揺すってみるけど、目を覚まさない…
とりあえず息はしているみたいだから、大丈夫…だよね?
さっきのショックが強すぎたのかな?
一番弱いくらいのしゅつりょくでよかったのかな??
でも、スタンガンって受けたらしばらくは動けないって言ってたから、そのせいかな…
しばらくはベビちゃんをベッドで休ませて、様子を見ようかな。
ベビちゃん、ゆっくり休んでね…
しばらくして、ベビちゃんはスースーと寝息を立てていたんだ。
よかった。これでもう安心だね。
ベビちゃんが眠っているそばで、私はベビちゃんのベッドとかを作っていたんだ。
綿をいっぱい敷いて、ふかふかのじゅうたんを敷いたみたいな箱だよ。
トイレは別の箱を用意して…。そろそろベビちゃんにもトイレの場所とかを教えないとね。
いつまでも学校言っている間砂に入れておくわけには行かないもんね。
あ、ママが呼んでいるから下に行かなくっちゃ。
夕飯の準備かな?今日はなんだろう♪
469
:
魔
:2008/01/29(火) 23:17:23 ID:???
>>451
〜より続き
『小話』(中編)
※
あれから。
ちびタンの腕を奪ってから数日。
僕は僕を馬鹿にしていた奴らを、片っ端から殺していった。
勿論、首をかっ切る心臓を貫くなんて単純な殺し方なんかじゃない。
耳を削ぎ、腕を切断し、脚を裂き、腹を捌く。
ひたすら様々な箇所から、血を肉を空気に触れさせる殺し方。
僕は、奴らをいろんな方法で『虐殺』していった。
得物を振るう度、奴らは泣き叫んだ。
刃を走らせる度、奴らは悶え苦しんだ。
その声や表情を見ていると、えもいわれぬ心地良さが僕を包み込む。
虐殺が与えてくれる爽快感は、半端なものじゃなかった。
※
薄暗い、閑散とした商店街。
そこで今、僕はある男と対峙していた。
僕を見下し、馬鹿にしていた奴らのリーダー的存在。
『レコ』という名のちびギコの前に立っている。
「・・・」
「片腕が・・・このレコ様に何の用だコゾウ」
独特な訛りと語尾のそれは、不快で堪らない。
更に長毛種でもないのに、額に前髪のような毛を持つレコ
端から見たらこいつの方が奇形だの気違いだのと罵られそうなのに。
こいつが他のちびギコから支えられているのは、腕っ節の強さから。
アフォしぃやでぃという体格差があるAAさえも、返り討ちにすることがよくある。
僕だって、ちびタンに助けられる前は何度かボコボコにされたことがあった。
だけど、ちびタンもその事ももう過去の話だ。
今の僕は、虐殺をすることができる強いちびギコだ。
『殴る』事はできないけれど『殺す』事は出来るんだから。
「精算デチ。僕が受けてきた苦痛の、ツケを払ってもらいに来たんデチ」
「寝言は永眠してから言うべきだぞコゾウ」
指の関節を器用に鳴らしながら、近付いてくるレコ。
そんな小さい身体で凄みを出そうとするなんて、間抜け過ぎる。
僕も同じちびギコだから、口には出せないけれど。
僕はあえてその場を動かず、様子を伺う。
待ちに待った復讐で我を見失わないように、心を落ち着かせる。
頭ではわかっているけれど、これがなかなか難しかった。
「それにな・・・」
「?」
不意に、レコがまた口を開く。
「俺も、沢山の仲間をお前に殺されたんだコゾウ」
「・・・」
「復讐はお前だけのものじゃねぇんだよコゾウ」
何を言い出すかと思えば、あまりにもくだらないこと。
あんなしょうもない奴らの為に、復讐を誓うなんて。
同じ種族を馬鹿にするAAなんか死んだ方がいいのに。
「寝言を言ってるのはどっちデチかね?」
「なんだと・・・」
「それに、その気持ち悪い口癖止めてほしいデチ。虫酸が走るデチ」
僕がそう挑発するや否や、レコが物凄い勢いで飛び掛かってきた。
既にレコの怒りはトサカにきていたようで、その形相は悍ましかった。
「殺すぞコゾウ!!」
470
:
魔
:2008/01/29(火) 23:18:11 ID:???
レコはそう叫ぶと同時に殴り掛かる。
力強く振りかぶってのそれは、なかなかに重たそうだ。
だが、
「!?」
僕はあえて防がず、そのままレコの拳を顔で受けた。
鈍い音と共に、拳が右頬に減り込むのがはっきりとわかる。
だけど、レコの一撃はそこで止まった。
歯も折れていなければ、口の中が切れた様子もない。
腕っ節は確かにあるが、僕の気持ちはそれを遥かに超える。
この頬の痛みも、腕を奪われた時に比べれば痒いもの。
気持ちだけで止められる程、レコの技はちいさなものだった。
「そ、そんなはず・・・」
「・・・馬鹿デチね」
レコの考え、いや妄想では僕は今頃後方におもいっきり吹き飛んでる筈のようだ。
でも、この程度のパンチじゃあベビしぃ位しか吹き飛ばない。
間抜けなリーダーさんの目を覚ますべく、僕は反撃に移る。
レコの拳からするりと離れ、更に距離を詰める。
眼と鼻の先まで近付けば、殴る事も蹴る事も難しい。
「こ、この奇形野郎っ!」
レコはそう吐き捨て、僕から距離を取ろうとする。
まるで気持ち悪いもの見たかのような、本当に怯えている様子。
間を置いて、心を落ち着かせてから反撃に移ろうという魂胆。
全て、手に取るようにはっきりとわかった。
だけど、もう遅い。
復讐は、既に始まっている。
「なんなんだコゾ・・・ッ!?」
レコは突然、僕の得物を見て驚く。
次いで、段々と顔が青ざめていく。
何故なら、その得物の刃に真っ赤な血が付着していたから。
誰のものかなんて僕は言わない。
その答は、自ずとやってくるから。
「テメ・・・いつの、間に・・・」
「馬鹿デチ」
もう、僕はレコにその言葉しか投げ掛けないことにした。
近付いた時に、既に刃をその腿に刺したというのに。
気付くまでの時間の掛かりっぷりに、少し笑いたくもなった。
腿を押さえ、ゆっくりと崩れ落ちるレコ。
刃は通っても、鋭くはない得物のお陰で痛みはしっかりと感じているようだ。
傷口からは血が溢れ、レコの身体を赤く汚していく。
「っぐ・・・クソ、ッ!」
痛みを堪える為か、或いは攻撃された事の否定か。
レコはその場で悶え、必死に立とうとする。
しかし、深く刻まれた傷は脚の機能を奪ったようで、なかなか上手くいかない。
顔を上げては転び、崩れ落ち、悶絶を繰り返す。
そんなレコを見て、やはり僕はこう思い、更に口にした。
「・・・馬鹿デチ」
挑発ではなく、嘲笑の意を込めた発言。
それを聞いたレコは、怒りではなく恐怖で顔を歪める。
それがどうしてなのかは、自分でもちゃんと理解していた。
471
:
魔
:2008/01/29(火) 23:18:48 ID:???
※
ゆっくりと、レコに近付く。
それに合わせ、レコは空いた手を使って後ずさる。
その表情は引き攣っていて、先程の強気な所は微塵にも感じ取れない。
相反して、僕の口角はじわじわと吊り上がっていく。
レコは、『虐殺される』という未来に怯えている。
僕は、『虐殺する』というシナリオに喜んでいる。
客観的に見れば、恐らくそんな感じなんだろう。
今の自分は、自分でないようにも思えたから。
「な、何する気だコゾウ!」
自分でもわかっているくせに。
認めたくないから、そんな言葉を吐くんだ。
「馬鹿デチ」
僕は身体で理解させてやろうと、得物を強く握る。
狙うのは、傷つけていない方の脚。
まだ血に塗れていない綺麗な脚だ。
予備動作もなしに、振り下ろす。
ぶつ、と湿った音と共に、刃はレコの脚に入り込んだ。
「ッ! がああっ!?」
遅れて、レコは刃から逃げるように離れる。
急に得物を抜いた事と、鋸状のそれのせいで傷口からは血が一気に噴き出る。
飛び散った血は僕の身体を汚し、染め上げていく。
両足を攻撃され、まともに立つことができなくなったレコ。
それでも、僕から逃げるように必死で手足を動かす。
真っ黒な眼もこちらを睨んではいるものの、瞳の奥は怯えていた。
まるで、昔レコにボコボコにされていた自分が乗り移ったかのよう。
あの時僕は精神的に死んでいたから、睨みつけることはしていなかったけど。
(昔の自分がそこにいる・・・それなら)
その自分ごと、虐殺しよう。
弱かった自分と別れて、強い自分に出会う為に。
だけど、そこにいる自分を虐殺してしまったら、僕は何になるのだろうか。
心の芯から、『虐殺厨』になってしまうのだろうか。
そんな考えが頭を過ぎったけど、気にしないことにした。
自分がどうあるかより、復讐の方が大事だから。
素早く詰め寄り、得物でレコの頬を叩く。
「がっ!?」
反応が遅れたレコは、成すがままそれを受ける。
続け様に僕は刃をその白い身体に走らせ、傷を付けた。
レコの腹部には赤い線が描かれ、そこからいくらかの血が溢れる。
更にその傷に交わるように、刃で赤い線をまた描く。
「ぐッ! っあ! ああッ!」
何度も刃を動かせば、同じタイミングでレコは悶える。
単純な反応ではあるけれど、この上なく楽しく感じた。
時折レコは腹やら顔やらを庇うが、それは無意味な行動でしかない。
腕であれ脚であれ、僕は今君の皮膚を切り裂く事しか考えていないから。
だから、その些細な抵抗は滑稽にしか見えないわけで。
「はははっ! 馬鹿デチ、馬鹿デチ!」
少量の返り血が僕の身体に付着していく。
僕は赤く汚れていき、レコはひたすら悶え苦しむ。
あまりの爽快感に、声をあげて笑っている事に気がつくのが遅れてしまう程。
もはや、自分の意思で得物を振るう事は止められない。
寧ろこのままずっとやっていたいという気持ちで、僕の心はいっぱいだった。
472
:
魔
:2008/01/29(火) 23:19:09 ID:???
しかし、その快楽も長くは続かなかった。
何度目かの振り回しで、僕はレコの耳を狙う。
振りの速さで、それは一撃で削ぐことはできた。
「ギャアアアアァァァァァぁ!!!」
唯、ぶつ、といった鈍い手応えがしたのが引っ掛かる。
レコは脚に攻撃した時とは違い、すぐに反応をしてみせた。
爆竹のそれよりも激しい叫びに、僕は驚いて手を止めてしまう。
「ああぁ!! うううあぁぁぁぁァ!!!」
耳があった所を押さえ、ひたすら転げ回るレコ。
身体中につけられた切り傷に砂利が食い込もうとも、レコは止まらない。
まるで、神経が全て耳の方に行ってしまったかのようだ。
「・・・馬鹿、デチ」
僕はいつのまにかあがりきった息を調えつつ、また呟く。
目線をずらし、血と泥で汚れたちぎれた耳を見遣る。
それを得物に突き刺し、目元に持ってきて眺めてみた。
やはり、その鈍い感触は間違いではなかった。
耳にある切り口は、途中まで真っ直ぐであり、そこからは汚くささくれていた。
恐らく、得物の鋸状の部分に引っ掛かるかどうかしたのだろう。
通らなくなった刃の代わりに、勢いだけでレコの耳をちぎったようなもの。
だからレコはひたすら叫び、のたうちまわっているようだ。
切られるよりちぎられる方の痛みが凄まじいかなんて、僕も知ってる。
「あぁ、痛い、痛い・・・耳、耳がぁぁ・・・」
暫く様子を見ていれば、レコの悶絶もおさまってきた。
唯、今度は耳をちぎられた事に対し涙を流して嘆き始めた。
(・・・こいつ)
たかが耳、こんなちっぽけな肉片を失っただけで、こんな風になるのか。
あの暴力を武器に暴れまわっていたレコが、虐められっこのように泣いている。
それはあまりにも情けなさ過ぎて、こっちが涙を流したくなる程だ。
「ぎゃっ!」
レコの頬を得物で叩き、目を覚まさせる。
耳をちぎるより前に、顔にもいくつか傷はつけていた。
面と向かってそれを見直すと、様々な液体が付着しているせいか気持ち悪い。
それでいて媚びたような潤んだ眼をこちらに向けるものだから、不快さは更に増す。
僕はレコに『馬鹿』としか言わないルールを破り、話し掛ける。
「情けない奴デチね。片腕なんかにここまでやられるなんて」
「・・・ッ」
いつものような、自虐を込めた一言を放つ。
流石にそれには頭にきたのか、レコは一瞬怒りを露にする。
が、息をつく間も与えず得物を喉元に突き付ける事で、それを抑止させる。
再び泣き顔に戻ったレコは、あの時のちびタンにそっくりだった。
大の字になり、急所である喉笛と腹部を不様に晒すレコ。
まるで好きにしてくれ、と無意識に語っているかのよう。
精神は折れずとも、その身体はとうに限界を超えていたようだ。
473
:
魔
:2008/01/29(火) 23:20:46 ID:???
こころとからだが相反しては、苦痛が更に強くなるだけ。
元々肉体が弱い種族なのに、妙に高いプライドを持つからこうなるんだ。
「無理しない方がいいデチよ。変に気張っても、苦しむだけデチ」
僕は、涙目のレコに含みを持たせない言葉を投げ掛ける。
それなのに、命乞いはおろか逃げようとすらしない。
よくわからないレコの心の内は、本人自ら答えを語った。
「馬鹿、に、するな・・・コゾウ・・・」
多少えづきながらも、言葉を返すレコ。
語尾も消え消え、涙はボロボロではあるが、どこか力強さが戻ってきた様子。
突き付けた得物を更に押し、喉元の皮に軽く刺すも、その勢いは変わらない。
「・・・」
「さっき、言った筈、だ・・・」
寧ろ、その得物を自ら押し返している。
下手をすれば、そのまま喉を突き破るかもしれないというのに。
僕は、そうやって死なれては困る、という意味合いで得物を離す。
しかし、レコはそれを『怯んだ』と解釈したようで、更に力強さが増した。
相手の勘違いだけど、余裕を持たせた事は少し不愉快だ。
レコはそんな僕の気持ちを無視し、虫の息のような演説を続ける。
「復讐は・・・お前だけ、の、ものじゃない、と・・・」
最後に『コゾウ』と聞こえなかったなんてのはどうでもいい。
気が付けば、レコはしっかりと地に足をつけ、僕はレコから数歩下がっていた。
僕は自ら、レコをたきつけてしまったようだ。
そのまま虐殺していれば、素直にカタがついたかもしれないのに。
面倒事が増え、先程の高揚感とは正反対の気持ちが心を包む。
「・・・するなと言われても、馬鹿なのは馬鹿なんデチ」
ボロボロになった身体。
どう見ても満身創痍だというのに、レコは立った。
そんな状態で、どうやれば僕に復讐が出来るのだろうか。
考えれば考える程、苛々してしまう。
それに、何故自分は後ろに下がってしまったのか。
立つのもやっとなレコに、警戒する理由なんてどこにもなかったのに。
眉をひそめる僕に対し、レコは笑う。
まるで、悪役に嬲られた後に復活しだすヒーローのよう。
それがまた不快で堪らなく、怒りの意味で歯噛みする。
殺そう。
虐殺なんて遊びは止め、殺してしまおう。
屈辱を味わわせるなんて事は、もうどうでもいい。
どうせ、僕は片腕なんだから。
殺すだけの安っぽい復讐だけを、望めばよかった。
そうすれば、こんな馬鹿げたことで心を乱されずにすんだのに。
レコはその傷痕だらけの脚を、ゆっくりと動かす。
ずる、と滑るような足音は、まさに動く死体。
どうせできたとしても、僕の頬を軽く小突くくらいだろうに。
レコの足は地面を擦り、その音は止みそうにない。
つまり、歩みを止める気はないと、僕は悟る。
ならば、目覚めさせてやるしかない。
474
:
魔
:2008/01/29(火) 23:21:27 ID:???
※
「・・・何、笑ってんデチか」
先に、不満を吐く。
しかし、レコはまだ口角を吊り上げたまま。
寧ろその笑みは、僕の言葉を聞いて更に上がったような気がした。
涙で潤んでいた眼も、こちらに鋭い視線を送り、無言で威圧しているかのよう。
でも、それはハッタリだとすぐにわかった。
レコが振りかぶった拳は、あまりにも遅くて。
勢いを殺すように、出鼻をくじくように。
僕は自分の右肩をレコの腹にこつんと宛てた。
「あ・・・?」
発射されようとしたレコのパンチは、不発に終わる。
だけど、本人はそのことを思って疑問の声をあげたわけじゃない。
手に取るようにわかる。
レコの思考が、腐りきった妄想が。
自分を正義として、主人公として見た、勧善懲悪の世界。
レコの妄想は、だいたいそんな感じ。
その妄想から目を覚まさせるには、こうすればいい。
「あ、あ・・・あああああああああ!!?」
僕はするりとレコから離れ、観察を始める。
右肩を宛てる際に、既に得物をレコの腹に刺していた。
そして、レコが疑問の声をあげる時、手首を捻ってそれを切り開いた。
粘り気の強い液体が溢れるように、レコの腹から腸が零れ落ちる。
それに合わせるように、本人もがっくりと膝をついた。
顔面蒼白で、今度は涙でなく脂汗を垂らす。
声は酷く慌てているようだったが、身体は小刻みに震えるだけ。
「お、おい・・・何、何だよ、こ、これ・・・」
レコは零れ落ちた自分の中身を見てそう言った。
血に濡れた巨大な蚯蚓は、当たり前だが何も答えない。
どうやら、レコの推進力である妄想という支柱は完全に折れたようだ。
まあ、自分の内臓を自分で見て、心が壊れないなんて奴はいないと思うけど。
僕は最後の仕上げに、もう少しだけ会話すれ事にした。
「馬鹿デチ」
先ずは、自分で作ったルールから。
「コゾ・・・お、お前、何・・・」
「復讐って、お前が考えてるような甘いものじゃないデチ」
「ふ、ふざけた事・・・言、っ」
「まさかとは思うけど、殴り合うだけで命が奪えるとでも?」
その言葉の後、レコの呻き声が消える。
どうやら、図星のようだった。
構わず、僕は話を続ける。
「お前のパンチじゃあ、どんなに強く放っても青痣しか作れないデチ」
「・・・う、嘘、だ、コゾ・・・俺の・・・力は、っ」
得物を持った、『力』を手にした今、レコへの評価は変わった。
レコに好きなように殴られてた時は、仲間もパシリも沢山いて物凄く強く見えた。
だけど、その仲間を虐殺して、段々とその考えは変わっていった。
そして今、目の前で情けない姿を、醜いはらわたを晒しているレコを見て、それは確信となった。
レコは、僕より遥かに弱い。
こいつは威圧だけでリーダーにのし上がった、ただの羊だ。
475
:
魔
:2008/01/29(火) 23:22:01 ID:???
おそらく、本人も死んだ取り巻きもその事には気付いていないだろう。
強い意思なんてなかったから、奴らは無意識の内に強さの基準をレコにあわせていた。
だから、得物を持った僕に対しても、皆昔のように見下してばかり。
覇気のない僕は、勿論奴らにはナメられっぱなし。
『片腕ごときが、鉄クズを持って復讐か』。
そう言われたのはほぼ必ずだったし、何より腹が立った。
だけど、その油断のお陰で楽に虐殺する事ができた。
「お、俺、俺は・・・お、ッ」
壊れたラジカセのように、様々な単語を途切れ途切れに繰り返す。
もう、その姿には沢山のちびギコを纏めていたリーダーの面影はない。
耳は欠け、そこかしこに付けられた切り傷からは血が溢れている。
あまつさえ、腹の中の物までもさらけ出し、本人はそれにまで怯えていた。
僕は、こんな奴を『強い』と思っていた事を恥じた。
※
力と気持ちだけあれば、何でも出来る。
ナイフの彼が言っていたことは、本当だった。
片腕の僕でも、ここまで来ることが出来たのだから。
(さて、どうしよう)
赤く汚れたレコを見て、僕は考える。
腹をかっ捌いてしまったから、もう先は長くないだろう。
でも、僕ら被虐者は生きる事への執着は他の追随を許さない筈。
あの時のちびタンだって、死よりも生き地獄を選んだから。
「嘘、嘘、だ・・・こんな、事、あ、ありえな・・・」
ふと見遣ると、まだレコは現状を受け入れず、ひたすら怯えている。
どうやら目が覚めたのはほんの一瞬のようで、また妄想の世界に入り込んだ様子。
その虚ろな眼が見るのは、くすんでいながらぬらぬらと光る自分の中身。
「・・・」
僕はそれを見て、すぐに思い付いた。
復讐は、虐殺へと再度切り替わる。
先ずは空いた手が僕にはないから、得物を口にくわえる。
次に一気にレコとの距離を詰め、目と鼻の先まで近付く。
そして、そのはみ出た腸をおもむろにひっ掴んだ。
「!? ぎゃっ!!」
レコは短く叫び、肩をびくんと跳ねさせる。
だけど、僕はそれを無視して次の行動に移った。
掴んだ腸を、そのままずるずると引っ張り出していく。
「ッあ!! あ、い、痛い! 痛い! 痛いぃぃぃぃっ!!!」
凄まじい激痛がレコを苛んでいるようで、その叫び声はかなり大きい。
思わず耳を塞ぎたくなったが、出来るわけがないので我慢する。
と、少しでも痛みを和らげようとしての行動か、レコがこちらに歩きだした。
身体は既にボロボロにしてあるから、その速度はカメよりも遅い。
それに、痛みに堪えながらのものだから、ふらふらと覚束ない足取りでもある。
本人は必死なのだろうけれど、稚拙な歩き方は酷く滑稽だ。
(こてっちゃん晒してよたよた歩く・・・本当に馬鹿デチね)
476
:
魔
:2008/01/29(火) 23:22:35 ID:???
脱腸が嫌なら、掴み返せばいいのに。
そう思ったけれど、もしかしたら触るだけでも相当の痛みを感じるのかも。
あるいは、無闇に抵抗したら腸を潰されてしまうと思っている可能性もある。
「痛い痛い痛い痛い!! 痛、やッ、やめ、やめてええぇぇぇェ!!!」
大粒の涙を零し、顔を振って抑止を乞うレコ。
勿論、そんな願いなんて受け入れる筈もなく、僕はそのまま腸を引きずり出す。
レコと僕との距離はじわじわと広がり、互いを内臓が結ぶ。
想像以上に長いレコの小腸は、自重で逆さに弧を描く。
その最も沈んだ所では、腹から伝う血が雫となり、ぽたぽたと地に落ちていた。
試しに腸を軽く揺らしてみると、それにあわせてレコは叫ぶ。
まるで、触ると反応して動き出すおもちゃのようで、なかなかに面白い。
「これで、縄跳びでもしたら楽しいかもしれないデチね」
「あ、だ、駄目! やだ、やだ!! やだああぁぁぁッ!!」
冗談を本気になって止めようとする所をみると、心に余裕は無い様子。
だけど、そこまで叫ぶ気力はあるようだから、まだ精神は焼き切れていないようだ。
どうせだから、レコの限界を見てみようか。
肉体も精神も全ておかしくしてから、殺すのも悪くはない。
「ほら、ほら!」
緩い掛け声と共に、腸を強く振り回す。
肉の紐が地にたたき付けられ、暴れ狂う。
「ああぎゃ!! ああ! ヒギャあああアァァァァぁぁああ!!」
同じように、レコも激しく暴れだした。
先程まで腸を慎重に扱っていたのが嘘のように、その場でのたうちまわる。
もはや、それは自分で肉の紐をちぎってしまってもおかしくはない程だ。
何度も何度も腸を地面に打ち付け、レコの反応を楽しむ。
もし得物をくわえていなかったら、先程のようにひたすら笑っていたかもしれない。
自我を簡単に保つことが出来、少し嬉しい誤算となった。
「痛、っああぁァ! うあ・・・ぁぁぁああ!」
暫くすると、レコの暴れ方も弱くなってきた。
痛みを感じ過ぎて、いくらか麻痺してしまったのかも。
僕は一旦腕を止め、レコの様子を見る。
その場をのたうちまわったせいで、全身は砂埃に塗れていた。
腹部の穴も、暴れた反動で更に広がっていた。
傷口には砂粒が入り込んでいて、でぃのそれよりも汚く見える。
目線を腸に戻すと、これもまた酷くなっていた。
地面に打ち付け過ぎたのか、至る所が破裂したかのように裂けている。
その裂けた部分からはどろりとした何かが漏れ、辺りに飛び散っていた。
(少し、遊びすぎたデチかね)
なかなかに凄まじい状態となった空間を眺め、僕は思った。
勿論、レコにではなくこの薄暗い商店街の事を想っての事だ。
477
:
魔
:2008/01/29(火) 23:23:43 ID:???
※
レコから奪ったのは、せいぜい仲間とプライドと片耳か。
できれば、もっと四肢や歯、眼などを破壊したかった。
だけど、片腕じゃあ出来ることに限りがあるし、余裕もない。
それに当の本人も、とっくに限界にきている筈。
そろそろ決着をつけるべきだろう。
僕自身がとどめをさす前に旅立たれては、意味がないから。
「・・・」
握っていた腸をその場に落とし、大の字になって寝ているレコに近付く。
血と泥まみれの身体は、とっくに満身創痍になっていたようだ。
口にくわえていた得物も手の中におさめ、切っ先を向ける。
「ああ、痛い、痛い・・・痛いぃぃぃ」
至近距離まで近付いても、レコは僕を無視して歎いていた。
あまりの情けなさに、僕は大きく溜め息をつく。
そして、得物をその場に落として腸を乱暴に掴んだ。
「うぎゃッ!?」
と、レコは身体を強く跳ねさせる。
僕はそれを無視するように、腸をおもいっきり引っ張った。
「ヒギャああああぁぁぁぁァァ!!!」
勢いよく肉の紐がレコの腹から出ていく。
それとほぼ同時に、ぶちんと不快な音がして、腸が腹からちぎれ飛んだ。
巨大な蚯蚓は空中で少し踊った後、湿った音をたてて地面にたたき付けられる。
レコは新しい激痛に跳ね起き、再度暴れ狂う。
腹部にはぽっかりと開いた空間ができていて、そこからは新たに血が溢れている。
皮膚を切り裂いた時よりも、耳を削いだ時よりも量が多い。
その大量の出血は、身体の中を逆流して口から流れ出す。
「ぅあ、ガフぅあ!! いだ、痛い、痛いぃぃぃぃ!!」
ひたすら腹の痛みに悶絶し、のたうちまわるレコ。
逃げる事も、自殺する事もなく、ひたすら激痛に嘆いている。
僕はそれがおさまるまで、ひたすら眺めていた。
数十回目の『痛い』の言葉の後、レコは仰向けになり、腹を押さえつつ肩で呼吸をし始めた。
それでもまだ、呻きながら痛い痛いと弱く叫ぶけれど。
僕はレコの顔の横に立ち、見下ろす。
「・・・」
「痛い・・・痛・・・」
荒い息遣いが、耳をすまさなくてもよく聞こえる。
赤く腫れた瞼の中、涙で濡れた瞳に光は見えない。
何もしなくても、ほうっておけば死んでしまうだろう。
肉体も、精神も、十二分に痛め付けてやった。
殆どアドリブのような虐殺だったけど、片腕でここまでやれたから、良しとしよう。
後は、自らの手で息の根を止めてやれば、全ては終わる。
「・・・レコ、さよならデチ。次は地獄で苦しむといいデチ」
恐らく聞いていないであろうレコに、僕はささやく。
そして、得物を逆手に持ち天に掲げる。
狙うのは、心臓。
とどめとはいえ、一撃で楽にさせる気は毛頭ない。
ほんの数秒でも、最大限の苦痛を味わわせるつもりだから。
478
:
魔
:2008/01/29(火) 23:24:30 ID:???
得物を勢いよく振り下ろし、レコの胸元に突き立てる。
「―――!!!??」
ごぼ、と濁った音が、レコの喉から聞こえた。
構わず、僕は得物を引き抜いてまた突き立てる。
血が噴水のように噴き出て、身体を汚していく。
レコの悲鳴は血となって口から溢れ、辺りに飛び散る。
肋骨の砕ける音、肉が裂ける音、内臓が潰れる音、そして感触。
それら全てを無視して、僕は何度も得物を振り下ろす。
何度も、何度も、何度も、何度も、繰り返した。
視界がうっすらぼやけたけれど、それも無視した。
※
「・・・」
気がつくと、レコは肉塊になっていた。
赤黒いどろどろとしたそれは、元々が何だったかわからない程。
僕はいつの間にか、我を忘れる程腕を動かしていた。
これで、僕を馬鹿にした奴らは全員殺した。
復讐は完璧に終わった。
筈なのに。
自分の心は、何も変わっていない。
まだ何かしこりが残っているかのような、違和感。
終えたはずなのに、終わっていない。
そう考える、頭がある。
(じゃあ、誰か・・・)
殺し損ねていたのだろうか。
いや、それは有り得ない。
奴らの事は全員把握していた。
誰ひとりも、漏らすことなく殺した。
ちびタンは生きているけど、心が違うと告げる。
同じ片腕にしてやったから、もう復讐の念なんて持っていない。
一体、この感覚は―――。
※
不意に、パチパチと何処からか手を叩く音が聞こえる。
一定のリズムから成るそれは、拍手だと理解した。
僕は、その乾いた音がする方を向く。
それと同時に、身体が凍り付いた。
「っ!?」
―――そこには、モララーがいた。
しかも、見知らぬAAというわけではない。
身体的特徴なんてなかったけど、はっきりと覚えている。
あの時、あの場所で、僕の腕を奪ったモララー。
そいつが今、僕の目の前に立ち、拍手を送ってきていた。
「・・・やぁ、これは驚いたな」
手を止め、モララーは話す。
「あの時、躾る意味で腕をもいでやったちびギコが、同族殺しをしてるなんて」
「・・・」
単純なことだったけど、僕はようやっと理解した。
レコを殺しただけじゃあ、復讐は終わっていない事を。
片腕になったその元凶を殺さないと、僕の心は晴れない事を。
だけど、相手は虐殺厨だ。
体格差だってかなりあるし、力も強い。
片腕である僕が、勝てるのだろうか。
「大方、片腕だって事を馬鹿にされたから、殺したんだろ?」
「・・・」
479
:
魔
:2008/01/29(火) 23:25:27 ID:???
いや、殺そう。
相手がモララーだからって、関係ない。
僕を馬鹿にする奴は、皆殺す。
そう念って、得物という『力』を求め、得たんだから。
「短気な奴だなあ。お前がそうなったのは自業自得だろうに」
モララーはまだ言葉を紡ぐ。
時折嫌らしく笑い、眼を細めてこちらを睨む。
その都度、僕の心の中で何かが燃え広がる。
ちびタンに裏切られた時のような、どす黒い感情が。
「同族に馬鹿にされて、当たり前だと思うんだがな」
気が付くと、僕は既にモララーに飛び掛かっていた。
「うあああああああああッ!!!」
怒りという感情が身を包み、身体を動かす。
空中で得物を振りかぶり、モララーの首目掛け刃を走らせた。
「ッ!?」
が、不意打ちとは言い難い攻撃はしっかりと防がれてしまう。
それでも、相手は生身だったから、防御にまわした腕の皮を切る事ができた。
地面に着地し、モララーの方に素早く向き直る。
心の中で燃え盛る怒りの炎は、おさまるどころか更に酷くなっていく。
僕は低く重く唸りながら、モララーを強く睨む。
「殺す・・・殺してやるデチ・・・」
「・・・テメェ」
腕に赤い線を作ったモララー。
その形相にも、悍ましいものがある。
だけど、その程度で動けなくなる僕じゃない。
ナイフの彼だって言っていた。
『気持ち』と『力』があれば、何でもできると。
僕にだって、復讐という大きな気持ちがある。
得物も、元はただの金属片だけど、力であることに変わりはない。
逃げる事はできない。
僕は、この虐殺厨を殺して、復讐を終わらせるんだ。
続く
480
:
魔
:2008/02/29(金) 23:36:49 ID:???
>>469
〜より続き
『小話』(後編)
※
命は、命と出会うことで成長する。
ちびフサも、ナイフの彼と出会う事によって復讐を誓えた。
友の腕を奪い、憎い者は次々に殺していった。
しかし、その出会いというものは所詮はきっかけ。
人生の新たなレールを見付ける為の、ほんの小さな要素に過ぎない。
成長というのも、種が芽吹くくらいのちっぽけな成長。
価値観は大幅に変わるかもしれないが、本質は変わりはしない。
それをしっかりと理解していれば、或いは―――。
※
「殺す・・・殺してやるデチ・・・」
「・・・テメェ」
奴らを殺しても、僕の心は晴れなかった。
レコを虐殺しても、黒い炎は消えなかった。
復讐は復讐なんかじゃなくて、唯の憂さ晴らしだった。
モララーに再会し、溜まっていた『怒り』が燃え盛る。
心の奥底で眠っていた怒りは、僕を黒く奮い立たせる。
何も、考えることができない。
いや、考える必要なんてない。
唯、目の前にいるこの虐殺厨を殺したい。
この力と気持ちで、絶対に殺す。
「あああああああぁぁぁぁァァ!!!」
僕は怒りを得物に乗せ、モララーに向かって跳んだ。
爆ぜるようにして蹴った地面は、一瞬で遠くなる。
同時に、モララーとの距離も簡単に、素早く縮まった。
やはり、先程と同じで狙いは首。
その黄色い喉笛を、一思いにかっ切ってやりたいから。
自分の身体を自分の血で汚させてやりたいから。
(お前の死に化粧は、自身の体液デチ!)
空中で得物を振りかぶる。
モララーはこちらを睨んだままで、動こうとしない。
それが罠なのかどうかなんて、どうでもいい。
僕は、モララーの喉笛を切り裂く事だけを考えればいい。
頭に血がのぼっていたから、僕の思考は一方通行だった。
思い付く全ての結果は、とにもかくにもモララーの死。
相手の行動の予測なんて、微塵にもしていなかった。
「馬鹿か?」
「ッ!?」
渾身の一撃を回避されて、僕はようやっと我に返る。
力である刃は首でなく空を切り、乗せた感情も消え失せた。
と、身体が引力に引っ張られるより前に、空中で停止する。
同時に後方に強く戻され、モララーの眼が大きく映った。
「っ、は・・・離せッ!」
いつの間にか、僕はモララーに捕まっていた。
攻撃を避けた直後、素早く僕の腕を掴んだようだ。
ばたばたと脚を動かして抵抗するも、全く効果がない。
更に、手首のあたりを握られているから、どうすることもできない。
無理して暴れても、得物を落としてしまうかもしれない。
「ちびギコの癖に、調子に乗ンなよ」
僕の心を覆い尽くしていた黒い炎が、少しずつ消えていく。
それに相反するように、『虐殺』の不安と焦りがじわじわと滲み出す。
このままでは、モララーに殺される。
481
:
魔
:2008/02/29(金) 23:37:45 ID:???
ほんの一瞬の間に、形勢逆転されてしまった。
いや、その前に僕の方が有利だったかすら怪しい。
唯単にモララーに出会い、憤慨していただけだ。
たった薄皮一枚切り裂いただけで、殺せると思った僕が馬鹿だった。
それでも、復讐はしたい。殺したい。
動きは止められても、憎悪という感情は消える訳がない。
確かに、目の前にいるモララーの形相は恐ろしい。
だけど、睨まれるだけで畏縮するような気持ちではない。
そうでなければ、レコやその仲間を殺した意味がなくなる。
カタワにしてやった、ちびタンの事も―――。
「おい」
「!?」
唐突に、モララーが話し掛けてくる。
不安と焦りが物凄い勢いで膨れ上がり、僕を苛む。
「お前、こんな鉄クズでよく仲間を殺せたな」
「・・・っ」
「しかもその眼、俺から逃げた後に何があったのか気になる位酷ェな」
モララーは黙り込む僕を無視し、話し続ける。
時折嘲笑を混ぜたり、自問自答をしたりとせわしない。
だけど、その悍ましい表情は全くかわらなかった。
このモララーから逃げたいという気持ち。
逆に、殺してやりたいという気持ち。
虐殺されたくないという願い。
復讐を果たしたいという念い。
全てがごちゃまぜになり、僕の心を苛む。
相反する気持ち達が、全身をぐるぐると駆け巡る。
強い吐き気を催すも、歯をくいしばって押さえ込む。
「マターリとかほざく奴よりは面白いが、あまり血の気が多いのもアレだな・・・っと!」
「ヒギャッ!?」
と、突如腹部に激痛が走る。
精神を落ち着かせるのに集中し過ぎて、何が怒ったのかわからなかった。
一手遅れて、僕は地面にたたき付けられたのだと理解した。
左脇から落とされたので、衝撃はかなりのもの。
肺の中の空気と、胃液が一緒に逆流してくる。
「ぐうぇっ! ゲホっ!!」
不快感も相俟って、酷く濁った咳が漏れる。
激しい腹部の痛みもあり、僕は手の中の得物を捨てて腹を押さえる。
更に何度か咳込むと、酸っぱいものが口の中に広がった。
「おおっと、流石にキツかったかな?」
苦しむ僕を尻目に、モララーは嘲る。
今すぐ罵倒してやりたいが、痛みのせいで呻くことしかできない。
殺してやりたいと、頭は叫んでいる。
だけど、身体は逆に悲鳴をあげている。
様々な感情の渦に更に要素が加わり、肥大していく。
それらは僕の中の容量を易々と超え、暴れていた。
一旦全てを整理しようとしても、その余裕すら全くない。
何もかもが手付かずで、好き放題に自己主張する。
その間、モララーは二手も三手も先に進んでいた。
視界の隅にあった得物が、黄色い手に掴まれ宙に浮く。
必死でそれを眼で追うと、モララーの眼前で得物は止まる。
「・・・ふぅん」
482
:
魔
:2008/02/29(金) 23:38:22 ID:???
得物を手の中で回し、物色するモララー。
途中、得物と僕を交互に見遣ったりもした。
何がしたいのかは、よくわからない。
いや、考える余裕がないといった方が正しい。
いくらか痛みは治まったものの、まだ精神は苛まれている。
どうにかして、体制を立て直そうとした矢先の事だった。
「なあ、このガラクタ、試させてくれないか?」
俯せる僕に対し、モララーがそう質問する。
その直後、不快な音と共に足首に鋭い痛みが走った。
「ヒぎゃああぁァァッ!!」
堪らず、僕は叫ぶ。
全身を強い電流が駆け巡るような感覚。
脚の部分は更に強いそれを感じ、意識が飛びそうになる。
滲む視界を無視しながら、何が起きたのか確認する。
上半身をあげ、首を後ろに向けてようやく理解した。
得物が、僕の脚を穿ち、地面に磔けていたのだ。
深さもかなりのもので、柄と脚との距離は殆どない。
動かそうにも、想像以上の激痛が下半身を麻痺させる。
恐らく、得物が骨を通過した時、縦にヒビが入ったのかもしれない。
「・・・なるほど、ねぇ」
視界の端で、モララーが喉を鳴らして笑う。
片膝をつきながら、僕を観察しているようだ。
先程の悍ましさはないが、その眼はどこと無く嫌らしい。
「いい、いっ!・・・痛あああぁッ!!」
だけど、今はそんな小さな挑発にも反応できない。
ただでさえ酷く混乱しているというのに、新たな激痛が追い打ちをかける。
まるで、気持ちと力が僕に反旗を翻したかのような気分だ。
「ちびギコ達は元々が脆いから、こんなガラクタでも簡単に刺せるんだな。手応えは最悪だが」
殆ど無意識で叫んでいる僕を無視し、モララーは語る。
それらを耳にする事くらいはできたけれど、意味や言葉の裏側まで読み取るのは無理だった。
「まるで原始人が扱う石器みてーなモノなのに、お前はたいしたヤツだよ」
どれくらいの時が経ったのだろうか。
実際に流れた時間は短いかもしれないが、感覚では恐ろしく長かった。
死ぬ間際に、世界がスローモーに見えるのとは少し違うけれど。
「くぅぅ・・・っあ、ぐ」
とにかく、その精神を苛む激痛は少しだけ緩くなった。
モララーが何もせず、唯ずっと僕を見詰めていたのが、不幸中の幸いかもしれない。
もしそのまま続けられていたら、先に心が死んでしまっている。
「どうした? 叫ぶのに疲れたのか?」
と、モララーは口を開くや否や、挑発を吐き出す。
同時にその黄色い腕が頭上に伸び、視界を遮る。
何をするのかと眼で追えば、突き立てられた得物にデコピンをかました。
「ぎゃあっ!!」
その振動は骨に伝わり、痛覚神経を刺激する。
刺された時のほどではないが、やはりその痛みはなかなかにきつい。
折角落ち着いたものが、ゆっくりと振り返す。
「おお、まだ元気じゃあないか」
僕が苦痛に悶える度、モララーは笑いながら得物を小突く。
段々とそれはエスカレートし、仕舞いには脚で踏み付けてもきた。
483
:
魔
:2008/02/29(金) 23:38:42 ID:???
がつん、と鈍い音が響く度、僕は叫んだ。
その音が大きくなれば、あわせて悲鳴も苦痛も大きくなる。
「うあああァ!! 痛ああああっ!!!」
「はははッ! そんなていたらくじゃあ、10年経っても俺は殺せねェな!」
モララーの言うことは、尤もかもしれない。
初手を除けば、僕は奴に好きなようにめった打ちにされている。
ナイフの彼が言っていたことは、嘘なのだろうか。
力と気持ちだけじゃあ、種族の差はどうしても埋められないのか。
でも、ナイフの彼は僕の目の前で虐殺厨を殺していた。
あの時の出来事は、夢じゃない筈だ。
虐殺厨の血と肉の味に、彼の声と言葉。
霞も靄もなく、何もかも鮮明に覚えている。
それなのに。
やはり、片腕ということがいけないのだろうか。
もし、あの日モララーに四肢でなく別の何かを奪われていれば。
虐殺厨を殺す彼のように、なれていたのだろうか。
そう考えた所で、僕は思考を止めた。
(もう・・・嫌だ・・・)
最後の最期まで、僕は片腕という呪いに囚われ続けた。
光なんて、これっぽっちも見つけられないまま。
心に開いた穴も、痂が剥がれ落ちるようにまた開く。
せめて、この苦しみから開放されたい。
その位なら、祈っても罰はあたらないだろう。
虫の声に掻き消されそうな程の声量で、僕は願った。
「どうか・・・」
苦痛からではなく、悲しみで涙は溢れる。
そんな僕を見て、モララーは笑っているようだ。
もう、生きる意味なんてなくなったからどうでもいいけれど。
「・・・ぇ、っ?」
と、願いを口にして少し経つと、脚に違和感を覚えた。
僕を苛んでいた激痛が、嘘のように消えたのだ。
正確にいえば、痛みが緩くなっただけではあるけど。
それは決して、嬉しいことではなかった。
恐る恐る、足元に目線を持っていく。
途中、モララーの歪んだ笑顔が大きく映る。
そこで僕は確信した後、脚の先を見た。
突き立てられた得物の上には、モララーの脚。
いつの間にか、得物の柄は大分下まで落ち込んでいる。
そして、その得物の刃の奥には―――。
「あ・・・」
僕の足が、身体から離れて地に伏せていた。
「どうかしたか? 自分の身体の脆さに驚いてんのか?」
喉で笑い、モララーは続ける。
「なわけないよなァ。自分が脆いのは腕もがれた時に知ってるからなぁ」
直後、今度は腹を抱えて下品な声で笑い始めた。
甲高く、それなのに全身に纏わり付くような不気味な声。
不快だけど、絶望感にうちひしかれる僕にとってはどうでもいいことだった。
484
:
魔
:2008/02/29(金) 23:40:13 ID:???
不意に、倦怠感が僕の心と身体を包み込む。
あれだけ叫び、迷い、悩んだから当たり前だろう。
片腕がないのに、更に足さえも失った。
そうなった今、想ってしまう事が一つ。
『死にたい』
復讐の炎は、既に綺麗さっぱり消えている。
もう、虐殺に抗うどころか、もっとやって欲しいとさえ考えてしまう。
なるだけ早く、頭蓋を砕かれて死にたい。
心臓を破られて、首をかっ切られて死にたい。
その願いは、神様は叶えてくれなかった。
というよりも、モララーが叶えてくれないと表現した方が正しいか。
それもそのはず。僕を苦しめるこれは殺しでなく、紛れも無い虐殺なのだから。
「さァて、次はどこにしようかなぁ?」
僕の得物を持ち、物色するような眼で見てくるモララー。
それに対し、怒りも、恐怖さえも感じることはない。
最初のような余裕がないわけじゃあないけれど。
ただ純粋に、疲れからくる諦めが原因だろう。
「・・・」
殺して欲しい。
そう言いたいけれど、口が開かない。
カラカラに渇ききった喉は、ひゅうひゅうと力無く呟く。
「よし、ここにしようか」
不意に、モララーが宣言する。
狙われたのは、反対側の足首。
「・・・」
やはり、どうでもいいという気持ちしかなかった。
苦痛が長引くことには、少し辛さを感じたけれど。
全身の力を抜き、虐殺に身を委ねる。
腹から顎にかけて、べったりと地面に伏せる。
好きに料理してくださいと、僕は身体で応えた。
その行為は、モララーにとってあまり好ましいものではなかったようだ。
「・・・おい」
一転、刺のある声が飛んでくる。
次の瞬間には頭をわしづかみにされ、無理矢理顔を上げさせられた。
「うっ!」
長毛が引っ張られたのと、首が悲鳴をあげた事で声が漏れた。
涙も渇き、視界が鮮明になっていたので、モララーの表情がはっきりとわかる。
その顔は形を保っているものの、冷ややかな怒りを感じる。
「なんだその態度は」
「・・・」
「テメェの復讐心はそんなモンだったのか? 俺が憎いんじゃねェのか?」
どうして抗わねぇんだ、とモララーは続けた。
単純に、僕の力が及ばなかっただけなのに。
今更、復讐をしてみせろと言われても意味がない。
とうの昔に炎は消えたし、火種もどこにもない。
今の僕は、死を願うただの抜け殻なんだから。
そう言いたいのだけれど、やはり言葉にならない。
無言での返事は、モララーの神経を再度逆なでしたようだ。
「つまんねぇ奴だな。最初の勢いは何処に行ったんだ?」
顔を歪め、段々と怒りを露にするモララー。
この倦怠感と自殺願望がなければ、それは畏怖の象徴と化していただろう。
良い意味でも悪い意味でも、僕の心はもう何者にも怯えないのかもしれない。
485
:
魔
:2008/02/29(金) 23:40:59 ID:???
「ぐっ!」
突然、モララーは僕の頭から手を離して立ち上がった。
顎と地面がぶつかり、また情けない声が漏れる。
モララーは僕の横側にまわり、脇腹を足で掬い上げるように蹴る。
激しさもなく、僕は成すがまま身体をごろんと回転させた。
姿勢は俯せから仰向けになり、商店街の煤けた天井が見える。
ゆっくりと顔をあげ、脚の方を見てみた。
短い方の脚だけが、体液と土に塗れて汚れている。
足首は血だまりに寂しく転がっていて、長毛がべったりと情けなく垂れていた。
「やる気が無ぇんなら・・・せめていい声で鳴くんだな」
血だまりの奥で、モララーが告げる。
直後、脛に凄まじい痛みが襲い掛かった。
「ぎゃあッッ!!」
宣言通りの虐殺が、再開されたのだ。
今度は先刻と違い、得物は脛から抜き取られた。
かと思えば、また違う個所に刃は落ちていく。
まるで、僕がレコにトドメをさした時のような事を、モララーは行っていた。
ただひたすら腕を上下に動かし、刺しては抜きを繰り返す。
「っあ!! ひぎ!! ヒギャあっ!!」
「ほらほらァ、もっと声出せよ!」
刃が脚の中を通過する毎に、僕は喘ぐ。
痛みから逃げようにも、モララーが脚をしっかりと掴んで離さない。
耳障りな湿った音と、モララーの笑い声も同様に僕を苛む。
※
これじゃあまるで、さっきの僕とレコじゃないか。
僕がレコやその仲間にやってきた事を、モララーが僕にやり返す。
あまりにも情けない因果応報に、泣きたくなってしまう程だ。
本当は、こうなる筈じゃなかったのに。
復讐という念いが潰えた今、僕は死を望むだけなのに。
運命さえも、僕を笑い者にしているのだろうか。
死にたいのに。
唯、それだけなのに。
※
気が付くと、僕の脚は形を失っていた。
赤と黒に少しの白が入り混じり、汚い挽き肉と化している。
「は・・・テメェも脆いが、このガラクタまで脆いとはな。驚かされてばっかりだ」
吐き捨てるモララーに、僕は視線を移す。
その黄色い身体は所々赤く染まり、特に腕にかけては凄まじい状態になっている。
更にその先にある手の中で、僕の得物がひしゃげていた。
(そんな・・・)
乱暴に扱われ、酷い有様になった僕の力。
気持ちどころか、力さえも及んでいなかった。
僕はその事実に絶望するより、得物の姿に悲しんだ。
復讐の為に慣れ親しんだ者が、亡くなったような気がして。
それは、信頼していた友の裏切りよりも、もっと儚く僕の心を刔った。
刃を失った得物は、モララーの掌から投げ出される。
からん、と乾いた音がして、それは地面に転がった。
僕にはそれが、得物の悲痛な叫び声に聞こえた。
486
:
魔
:2008/02/29(金) 23:41:47 ID:???
「まあいいさ。素手でも虐殺は楽しめるからな」
そう言って、モララーは僕の腕に手を掛ける。
僕に残された最後の肢を、もぎ取るつもりだ。
死への通過礼儀とはいえ、やはり辛いものがある。
他にもまだ、目と耳と毛皮も残っている。
まだ僕は死ねないのだろうか。
そう思った矢先の事だった。
※
一迅の風に乗り、小さな影がモララーに飛び付いた。
「ぐあっっ!!?」
モララーの首筋に食らいついた影は、その勢いを殺さずに押し倒す。
僕から離れ、どうと倒れたモララーは、影と揉み合いになる。
「ガアアアアアアアァァァァァ!!!」
獣のような凄まじい咆哮をあげ、なお攻撃する影。
よく見ると、それは一匹のちびギコだとわかった。
だけど、その身体は何かが足りなかった。
「こンの・・・糞野郎がッ!!」
モララーの怒号と共に、ちびギコが蹴り飛ばされる。
空中で回転し、地面を二、三度跳ねた所でそれは止まった。
しかし、ちびギコは臆することなく素早く立ち上がり、モララーを睨む。
「!?」
そこで、僕は驚愕した。
片腕がない、ちびギコ。
―――そのちびギコは、ちびタンだった。
手の中には、長いガラス片に布を巻いたものがある。
それは、僕が使っていた得物と同じようなもの。
布は赤黒く汚れ、ガラスの部分には新しい血もついている。
モララーの方を振り向くと、首から夥しい量の出血。
恐らく、最初に飛び付いた時にちびタンがかっ切ったのだろう。
押さえている手をつたい、ボタボタと激しい音をたててそれは地に落ちる。
「糞虫の、分際で・・・っ」
「フーッ! フーッ!」
鼻息荒く、酷く興奮しているちびタン。
その形相も悍ましく、まさに修羅のような表情。
対するモララーも、物凄い怒りを露にしてはいる。
しかし、出血と不意打ちのせいで、その顔色はあまり良くない。
圧倒的に、ちびタンの方が有利だ。
根拠もなく、無意識のうちに僕はそう思っていた。
対峙しあう時間は短く、次の瞬間には二人はぶつかり合っていた。
果敢に飛び掛かるちびタンと、それを叩き落とすモララー。
何度も地面にたたき付けられようと、ちびタンはすぐに立ち上がる。
「うあああアアアァァァァ!!」
その雄叫びは力強く、地響きすら感じてしまう程。
真正面からそれを受けるモララーは、段々と劣勢に追い込まれていった。
二人の影が交差する度、血が空を舞う。
モララーの皮膚は裂け、ちびタンの身体は汚れていく。
まさに泥沼の戦いに、僕は魅入ってしまっていた。
「うっ!」
不意に、モララーが何もない所でよろめく。
ほぼ全身を濡らす程の出血で、恐らく頭に血がまわっていないのだろう。
ちびタンはその隙を逃さず、モララーへと一気に突っ込む。
弾丸のような勢いで跳躍したちびタンは、垂れ下がったモララーの頭蓋目掛け、そのガラス片を突き立てた。
487
:
魔
:2008/02/29(金) 23:42:18 ID:???
※
(な・・・)
モララーの敗因は、プライドを守ろうとしたこと。
頸動脈を切断された事に対し、全く意識を向けなかったこともある。
眉間にガラス片を突き立てられては、後は死への階段を一直線に駆け上がる。
意識が途絶えるその瞬間まで、モララーは目の前の被虐者を睨む。
が、己を殺したその被虐者は、ちびギコの皮を被った獣だった。
それに気付いた頃には、既に現実との回線は切断されていた。
※
「・・・」
全てが、白昼夢のような出来事だった。
ちびタンが現れ、僕のように武器を持ち、あまつさえモララーを殺した。
信じがたいことが連鎖して起こったので、僕は一連を把握するのに少し時間が掛かった。
「ハァ・・・ハァ・・・」
あがりきった息を、身体全体で整えるちびタン。
横たわる死体の側に立つその姿は、あまりにも恐ろしい。
背中を見せているけれど、そこから放たれる威圧感が凄まじかった。
そこで僕は悟った。
次の標的は、僕なのだと。
ちびタンが僕のように、復讐という感情で動いているのなら、きっとそう。
腕を奪った張本人である僕を、生かす筈がない。
死にたいとは願っていたけど、あんな悍ましいちびタンに殺されるのは―――。
「フサタン・・・」
「!?」
不意に名前を呼ばれ、心臓が跳ね上がる感覚を覚える。
ちびタンはゆっくりと、こちらに振り向いてくる。
先程の獣のような姿に、ただでさえ恐怖しているというのに。
その眼を、正面きって見ることなんてできる筈がない。
しかし。
「やっと・・・逢えた、デチ」
僕の予感は杞憂で終わった。
ちびタンは、その黒い眼に涙を浮かべていたのだ。
※
「もう少し、早く来れれば・・・」
ちびタンは僕の下半身を見て、そう嘆く。
そこで、僕はちびタンに復讐の念がないことに気が付く。
だけど、わからない。
僕は、ちびタンの腕を奪ったのに。
何故、泣いているのだろう。
どうして、助けようとさえしたのだろう。
「・・・なん、で?」
疑問は膨らみ、声となって弾けた。
「なんで、って・・・」
「・・・なんで、僕を助けたんデチか?」
意を決して問うものの、当の本人は呆気にとられた表情をする。
暫く間を置くと、また顔をくしゃくしゃにして涙声で話し始めた。
「僕は・・・気が付いたんデチ・・・」
「・・・何を?」
「自分の、過ちデチ・・・」
ちびタンの手からガラス片が滑り落ち、高い音をたてて転がる。
血生臭いこの空間でのその音は、酷く悲痛なものに聞こえた。
何も持たなくなった手で涙を拭うと、ちびタンは全てを話し始めた。
488
:
魔
:2008/02/29(金) 23:43:22 ID:???
※
あの時、鉄屑の山でのやり取りの後。
待っていたものは、フサタンの言葉通りの地獄だった。
仲間だった者達からは馬鹿にされ、一気に嘲笑の的になった。
石どころか、集団でよってたかってボコボコにされもした。
同じ立ち位置に立つことで、僕はやっと自分の愚かさに気付いたんだ。
身体の一部がなくなっても、本質は変わらない。
達磨になろうがなんになろうが、ちびギコはちびギコなのだと。
それなのに、僕はフサタンに酷い事をしてしまった。
同じ種族なのに、片腕と心の中で鼻で笑っていた。
(フサタン・・・)
その時、フサタンに謝ろうという気持ちが芽吹く。
復讐を誓い、鬼になった友へ謝罪をしなければ、と。
止めようというわけではなく、唯、謝りたいだけ。
だから、そのために生き延びなければ。
そう思った時、僕はいつの間にかガラス片を握っていた。
足元には僕を馬鹿にしていた奴らでできた、肉塊の山があった。
※
「後は、ずっと・・・捜して、捜していたんデチ・・・」
決壊したダムのように、ちびタンの眼からは涙が溢れている。
多少えづきながら紡ぎ出される言葉は、全て本物だった。
本気で、僕のことを想っていることが感じ取れた。
「ちびタン・・・」
寧ろ、謝りたいのは僕の方だ。
気付いてくれる可能性があったのなら、腕を奪う必要なんてなかったのに。
僕の我が儘で、ちびタンを巻き込んでしまった。
偽りの理解者は、本物の心の支えになっていた。
そのことが、嬉しくもあり、哀しくもあった。
「許して・・・くれる、デチか?」
ちびタンの言葉が、深く心に突き刺さる。
直後には、僕の視界は一気にぼやけ、込み上げてきたものが溢れた。
レコを殺し、モララーは死んだ。
僕の復讐は、結果だけを見れば終わったんだ。
だけど、失ったものはあまりにも大きい。
両足まで奪われた僕は、これからどうすればいいのか。
「・・・僕、は」
高ぶる感情の波のせいで、上手く喋ることができない。
それでも、ちびタンは僕の言葉に必死に耳を傾けている。
※
殆ど達磨のような身体で、移動すらままならない。
それに、ちびタンも僕のせいで片腕になってしまった。
このままいけば、また別のちびギコ達に馬鹿にされる生活が続く。
復讐は終わっても、生き地獄は終わらないんだ。
※
譫言のような僕の言葉を、ちびタンは静かに聞いていた。
涙で霞んだ視界では、その表情はわからなかった。
「・・・」
「もう・・・地獄は、嫌デチ・・・」
ぐちゃぐちゃになった自分の脚に恨みを込めながら、呟く。
「死にたい・・・」
489
:
魔
:2008/02/29(金) 23:45:03 ID:???
死んで、楽になりたい。
僕の本心を、吐き出した。
「・・・」
ちびタンは、黙ったままだ。
※
暫くの間、静寂が僕らを包み込む。
そして、それを打ち破るかのようにちびタンが喋った。
「じゃあ・・・」
「・・・」
「じゃあ、一緒に死のうデチ」
それは、予想だにしない返答だった。
少し驚き、僕は問い返す。
「え・・・?」
だけど、それは発することが出来なかった。
ちょっとした複雑な気持ちが、それを阻んでいたから。
言葉が出てこない僕を置いて、ちびタンは続けた。
「死んで、この身体を捨てて新しい世界に二人で行こう」
端から聞いたら気狂いのような台詞。
だけど、それは僕の心を激しく揺さ振った。
肯定も否定もなく、僕は問い直す。
「・・・行けるのかな?」
「信じれば、いいんデチ」
そういう世界があることを。
虐殺のないマターリの世界で、一緒に生きる。
死後の世界があるかはわからないけれど、信じればいい。
「信じる者は、救われるんデチ」
「・・・」
ちびタンの言葉。
全てを噛み締め、僕は頷いた。
ちびタンの手に、再度ガラス片が握られる。
「痛いかもしれないけれど、大丈夫?」
不安げに、ちびタンは伺う。
僕はそれに対し首を横に振った。
「平気。ちょっと悔しいけど、慣れてるから」
頷き、構えるちびタン。
そして、僕の胸にゆっくりとガラス片を捩込んでいく。
「・・・」
不思議な感覚だった。
そのガラス片は、するすると僕の身体に入りこんでいく。
痛みも何もなく、皮膚と肉を裂いているのだけ、感じ取れた。
(ああ・・・)
温かい。
ちびタンの温もりが、伝わってくる。
ガラス片が僕の心臓を破った時には、ちびタンの身体はすぐそこだった。
薄れゆく意識の中、僕はゆっくりとちびタンを抱く。
「ありがとう」
感謝と、謝罪を込めて。
僕はちびタンにそう囁き、眼を閉じた。
490
:
魔
:2008/02/29(金) 23:45:37 ID:???
※
フサタンの身体から、ガラス片を引き抜く。
刺した所からは血が沢山出て、僕の手を濡らした。
フサタンから少し離れると、支えを失ってゆっくりと倒れた。
眠ったような表情で、横たわるフサタン。
心なしか、笑っているようにも見える。
苦しむことなく、旅立つ事が出来たようだ。
僕はそれに安堵し、息を小さく長く吐き出す。
次は、僕の番。
「フサタン・・・待っててね」
僕も早く、追い付くから。
誰もいなくなった空間でそう呟く。
―――そして、ガラス片を首筋にあて、するりと横に滑らせた。
※
出会い。
それは、見ず知らずの他人だけにあるものではない。
慣れ親しんだ者の、見た事のない別の顔。
それもまた、新しい出会いと同じもの。
街のルールに苛まれ、死を望み、受け入れた二人。
彼等の言う、『新しい世界』がもしあったとするなら。
二人はどんな者と出会い、どんな成長をしていくのだろう。
答えは、既に空の上である。
完
491
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:02:01 ID:???
神と家畜の楽しいおしゃべり・外伝: The Way Of Maling "Mole"
1
「……こちらモララー。準備はいいかな? どうぞー」
「こちらスネェク、ダンボール箱を確保。準備は……、ごふっ!?」
「何ふざけてんだオメーは! ……あー、すんませんね所長。こちら
第一部隊。全員配置完了しましたんで、いつでもいいですよー」
「よし。んじゃ10分後に突入開始するからね。遅れないように……」
場所はどこかの、堅牢なコンクリートの建物……、しぃ族及びそれを駆逐する
関係者なら誰でも知っている、両者にとって重要な拠点・真多利教本部ビル。
そのビルの周辺で、不穏な動きが見えていた……。
一方その頃、ビル内部。
「いいわね! 明後日はかねてよりの奪回作戦を決行する! これを成功させれば
戦況は一気に私たちに有利に傾くから、失敗は絶対に許されないわよ!
塵は塵に、灰は灰に。……今こそ奴らを殲滅するっ!」
「ハイ! ……とうとう我々の悲願が達成されるときが来たのですね! リーダー!」
「あの腐れ狸共! 目にもの見せてやるわ!!」
場所はビルの一室。リーダーと思われるしぃを中心に5匹ほどが部屋の中で会議をしていた。
「そしてあなた達には、もう一度だけ言っておく。……今度の戦いが起これば、今までにない
激しい、本当の意味での全面戦争になるだろう。もしかしたら命に関わることになることは
十分に予想できる。……それでも臆さず、戦えるか?」
直前でハッパをかけるつもりか、しかしリーダーの言葉に部下しぃ達は正に愚問といった様子で
「リーダー。それは私たちを試しているわけ? ……そんなの、言うまでもないでしょ?
全力で叩きつぶすのみよ! 心配ない! 私たちが一丸になってかかれば、相手が
どんな敵だろうと関係ない! 鉄の結束は何よりも固いっ!!」
「そう! 私たち個々の力は確かに奴らには劣る。でも結束力に関しては奴らより遙かに上!
今までもこれで戦果をあげてきたじゃないの! 今更確認なんかしないでよね、リーダー!」
「お前達……!」
わぁわぁと口々に意気込みを語る部下しぃ達。勿論これは単なる精神高揚だとかではない。
現在のこの彼女らの部隊はいきなり招集していきなり編成したものではなく、まだ彼女らが
ほんのベビしぃだった頃に適性検査を経て、選び出され訓練されたいわば生え抜きで
その能力もさることながら、先程から彼女らが豪語する「結束力」、血の繋がりはないにしても
幼少時より助け合いながら任務をこなしてきたが故、それは揺るぎないと言っても過言では
ないくらいの代物であった。
“……そう。本当にこの戦いさえ上手くいけば、真多利の園が……
そうすればこの子と、……そして今は離ればなれになってしまったけど、あの人とも……”
そう頭の中で呟きながら、リーダーしぃは自分の腹を撫でた。……見たところまだ
そう目立ってはいないが、しかし確実に新しい命が宿っているその場所を。
492
:
全18区切りです
:2008/03/03(月) 18:03:10 ID:???
2
“……欲を言えばあの人とも今すぐにでも会いたいけど、でも今のご時世だと、しぃ族と
あなたギコ族を始めとした他種族が密通していることが公になったら、私の方は良くても
あなたの方が大変なことになってしまうから……。……でも、もう少し待っていてね?
もうすぐ私たち真多利教が永遠の平和をもたらすから、そうなったら………”
リーダーしぃがほぅ、と幸せそうにため息をついた、その瞬間
「! 爆音! 一体何!? ガス爆発!?」
皆が扉の方を向いたその瞬間、扉が乱暴に開かれて兵隊しぃが倒れ込んできた。
「た、大変です! 敵襲です! 『God And Livestock』の連中が……!!」
「な、何ですって!? 『God And Livestock』が!? そんな馬鹿な!!」
一瞬にして顔色を変える一団。そして
「ど、どうするの、リーダー! 早く逃げないと!!」
退避準備を取ろうとした、その時
「そ、そうです! 早くお逃げください! 今のところ、退路は我々が…… がっ!?」
同じ火薬音だが先の爆発音とは少し違う、銃声が聞こえてきた。
兵隊しぃの声……、もとい命を奪ったその銃声、誰が放ったものかといえば……
「お、お前達は……!!」
「あっはぁ! いやー、いつやっても害虫駆除ってのは胸がすっとする思いだねぇ!
そして無駄だぞゴキブリ共! 退路は完全に塞いである。つまり逃げ場は零だ!!」
後ろに武装した兵隊数人を引き連れて、先の兵隊しぃに向かって発砲したモララーが
にやにやと笑いながら、気取った様子で銃口から登る煙をふっと吹き消した。
「く……ぅ……!!」
追い詰められたリーダーしぃ及び部下達が顔を歪めると、モララーのトランシーバーが鳴る。
「……ガガッ。こちら指令部。ただいまビル内の全てを制圧、教祖も確保しました!
こちらの犠牲者は4名、引き続き捜索を続けます。どうぞ!」
「……こちらモララー。……そうか。4名もやられてしまったか……。ちっ。
分かった! こちらは少し後始末をしてから戻る! しばらく待機していてくれ!」
交信を断つと、モララーはしぃ達の方を向いた。
「事もあろうに、ゴキブリがAAを殺すとはね……。お前達はKYという言葉を知らんのか?
ゴキブリはゴキブリらしく、踏みつぶされていればよいものを……!」
「ひ……!!」
モララーの口調は比較的穏やかであったが、しかしその表情は少なくない実戦を
かいくぐってきたしぃ達でも動きを封じられるほどに強烈な憎悪一色に染まっていた。
「教祖もとっ捕まえた。本部ビルもこの通り制圧した。任務自体はこれで完了なわけだが……
当然だけど、これだけじゃあ済まさないぞ? く く く く……」
モララーが底冷えのする笑みを漏らすと、それに耐えかねたか、しぃが一匹叫び出す、が
「こ、殺すならさっさと殺せ! ……お前達の捕虜になるくらいなら、私たちは……!!」
「誰が喋っていいといったぁ! 黙れ蛆虫が!!」
直後、激高したモララーに一瞬で頭を打ち抜かれて絶命した。
493
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:05:06 ID:???
3
「……ったく、勝手にぺらぺら喋るからこうなるんだぞ、と……」
モララーはまた煙をふっと吹き消し、再度くるりとしぃ達の方を向き
「さぁて、見事に捕虜となってしまった皆さん。……ちょっと僕と遊びましょうかね?」
「!?」
端から見ても見なくても結果は見えていたが、いきなり思いも寄らぬ事を言いだした。
「カカカッ! かねてよりね! こういうときのために考えてたゲームがあるんだ。
……勿論受ける受けないは君らにまかせるけど、どうするね……?」
「…………………………」
とはいえ、こんな状況で即座に返事が出来るはずもなく、しぃ達は黙ったまま。
モララーもそれを見越していたように、ふっと小さく笑う。
「……といっても、何のゲームか分からないのにハイもイイエも言えないわな。
じゃあいいさ、とりあえずゲームの内容は後から説明するとして、まずこれを……
“前言撤回”を決めるとしますかね! …さぁしぃちゃんたち。好きな数字を言ってくれ!
目安としちゃ1〜6の間かな。ダブりは不可で。……ああ、個人的には最初は数字が
大きい方がいいと思うけど、でもそうでない場合もあるからね。ま、好きにして……」
「…………!? ??………」
いきなり何かを始めたモララーだったが、当然ながらしぃ達には状況が飲み込める
はずもない。いぶかしんだ様子でモララーを見つめるだけだ。
「……あぁ、悪い悪い。いきなりこんなこと言っても分からんよな。いいのさいいのさ。
さっきも言ったけど、後で説明してやる。今はとにかくさっき言った通り、“前言撤回”を
決定するべく 『好きな数字』 を言ってくれればいいのさ。実に簡単な事じゃあないか…?
さぁ、言ってくれ。ぐずぐずするようなら全員即座に蜂の巣にするよ?」
「!! ……3!」
「6!」 「1!」 「5!」 「2!」
モララーに促され……、もとい脅され、しぃ達が口々に数字を言うと
「1,2,3,5,6……か。てことは今回、4が “オールイン” だな。
まぁ微妙な数字だが、当たらないように祈っておくんだね……」
「……………??」
「じゃあお待ちかねのルール説明だ。これからやるゲームは、名前を
“トーチャー・バイ・ハンギング” というんだよ。これだけで分かるかな?」
モララーが嬉しそうに言うと、しぃの一匹が顔色を変え
「ハンギングって……、まさか!」
「お? 知ってたか。感心感心。でも違うよ。多分君の知ってる“ハンギング”は
“デス・バイ・ハンギング”…… “絞首刑”の方だと思うんだけど、そうだろう?」
「……………」
そのしぃが黙って首を縦に振ると、モララーは首を横に振る。
「ま、一般にはそうだろうね。でも違うんだよ。僕のこれからやろうとしている
この “トーチャー・バイ・ハンギング” は絞首刑じゃあない。そもそも名前の通り
君たちを殺すことはこのゲームの目的じゃないし……ね」
「!?」
さっぱり意味が分からない風のしぃをよそに、モララーは続けた。
494
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:05:16 ID:???
4
「まぁいい。ゲームの進行は簡単なもので、まず最初は……、ええと、リーダーの
しぃちゃんの君! まずこのゲームが始まったら、君の首をあの絞首台で吊ります!」
「!!??」
驚きのしぃ達がモララーの指さした方向を向くと、そこには先刻モララーが
用意させていた絞首台の姿が。
「………!!」
しぃ達がしばらく呆然とした表情でその絞首台を眺めていると、モララーがぱんと手を打ち
「さて、ルール説明の続きと行こうか。で、あの絞首台で首吊ってもらうわけだけど
ここが重要! さっきも言ったけど殺しはしない! 10秒経ったら降ろすから!
足が地面から離れて10秒が経ったら、また足が地面につくということさ!
んで降ろしてしばらくお休みさせたら、また10秒上げる。これの繰り返しを……
状況にもよるけど、4〜6回かな? 7回以上やったら全員の生存の保証はしてやる。
ルールはこれだけさ。実に簡単なものだろう?」
「………………………」
モララーは闊達そうに喋るが、しぃ達の反応は当然ながらいぶかしげだ。
「はは。疑ってるね。どうせ10秒経っても降ろさないとか思ってンだろ? ないない。
それはない! 何せ10秒ごとに降ろさないとゲーム自体が成り立たないんだ。
そんな20秒も30秒も、君が死ぬまで吊したらゲームはその時点で御破算さ。
というかそれじゃあ単なる絞首刑じゃないか。さっきも違うって言ったろ?
……要するに、だ。10秒息が出来ない状態とそうでない状態を繰り返すだけ
君らだって、10秒くらい息を止めることは造作もないだろ? 君らが受ける
実害というか、まぁそういうものはそれだけさ。……これでも受けない? ここで
撃ち殺されるよりは、遙かに生き延びるチャンスが増えたと思うんだけどね。
……さて、どうする?」
モララーがふうとため息をつくと、辺りは静かになった。
「………………………」
しぃ達はお互いを見回し、やがて先のリーダーしぃが前に一歩でた。
「……さっき言ったことは、本当なの? 特に私たちの解放の件……。
いざ約束となると平気で破って一方的に殺すのが、あなた達でしょ……」
「確かにそうだね。約束……、特に君らしぃ族とのそれなんて破って当然なんて
言われてるからね。とはいえ僕はそんなことはしないさ。そもそもこれもそうだけど
約束を破る必要がないんだ。メリットがない……」
「……フン。どこまで信用できたものか……。まぁいいわ。受けてあげるわよ」
「り、リーダー!」
部下しぃ達が思わず身を乗り出すが、リーダーしぃは手で制する。そして
「……心配するな。鉄の結束を誇る我が部隊。その構成員たるお前達が側に
いてくれるなら、私はどんな責め苦にも耐え得るし、また恐くはない……。
だから安心して待っていろ。私はこんなクズ共には決して屈したりはしない……!!」
「リーダー……」
「信用しろ。……さて、モララー。さっさと始めようじゃないか」
フンと鼻で息をすると、リーダーしぃは絞首台へと向かっていった。
「仲間への信頼が故強くなれる……、か。……けけけっ、まぁいい……。
随分と決断のお早いことで。……それじゃ、縄を首にかけてもらいましょうか」
モララーが合図すると、台に控えていた部下がしぃの首に縄をかける。
「……そういえば、さっきあんたが言ってた “前言撤回” だっけ? 皆に尋ねてた数字も
だけど、あれは一体……」
「ああ、あれはこの後すぐに分かる。すぐにね。 ……さて、時に今の心境を聞いておきたい
『君は今、死にたい? それとも死にたくない?』
興味津々といった様子で尋ねてくるモララーに、しぃは一瞬疑問げな表情をして
「……そんなの、決まってるじゃない。『死にたくない』よ」
「そうか。それじゃあ今回は『No→Yes』だな。……それじゃ、始めるか。
おーい。巻き上げてくれ……」
モララーが右手を挙げると、台に控えていた先の部下がハンドルを回し始めた……。
495
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:06:32 ID:???
5
“……こいつを7回乗り切れば、私たちの勝ちというわけね……。
.. . . . . . . .
ふん。他愛もない。たかだか10秒息が出来ない程度、なんてこともない……。”
心の中で毒づくしぃの両足が、いよいよ地面から離れようとしていた。
“これが一回目。10秒、か。お優しいことだ。私も訓練は積んでいる身。
その気になれば、一分くらい………”
縄が巻き上げられ、とうとうリーダーしぃの足が地面から離れた……。
「……モララー所長、いよいよですね。しかしそれにしても、たとえ10秒とはいえ
奴らよく抵抗もせずに首吊りに挑みますね。確かに10秒なら死にはしませんが……」
「だってそうじゃん。奴らも僕らも含めてさ、首を吊ってみたことのある奴っているか?
いないだろ? だから分からないのさ。たとえ短時間とはいえ首を吊るという行為が
どれほど恐ろしいか……。奴らが考えているだろう、ただ息を10秒止めていればいい
なんてものとは遠くかけ離れた……、僕なら10秒、いや5秒でもやりたくない代物さ。
ホントに奴らの脳味噌はおめでたい。いや、むしろそれが救いかな……?」
そして一方、そのモララーの言葉を代弁するようにしぃの様子が変わっていった。
「!! 〜〜!!??」
先程までの自信の満ちた表情が嘘のように崩れ、目を血走らせ口を大きく開けて
手足を踊っているように激しく振り回していた。
「首を吊るとね、縄を首にかけて飛び降りるのと地面から巻き上げる、このどちらの
方法であっても、とりあえず気道は閉まるんだ。それも一番体重がかかってね。
それに加えて頸動脈その他の血管も閉塞するだろ。…これはね、ものすごい激痛が
走るんだ。試しに親指を喉に思いっきり押し当ててみなよ。これは気道閉鎖だけだけど
何とも言えない圧迫感とかで、1秒と続かないはずだからさ。
……で、指でやっても結構キツイのにさ、首吊りはこれが全体重になるんだよ?
いやー。想像したくもないけど、半端なく苦しいだろうねー……」
モララーはそう嘯くと、しぃの方へと向き直った。
「〜〜!! !!??」
時間は、ようやく半分に差し掛かったというところか。それでもしぃは今にも
死にそうな勢いで暴れ、もがいていた。
“何も聞こえない! 見えない!! 苦しい!! 苦しい苦しい苦しい!!!
何よこれ!? 何が殺さないよ!? こんなの、今にも死ぬ!! 殺される!!
10秒なんて嘘っぱち!! こんなの絶対10秒じゃない! 1分、2分……”
と、しぃが意味不明なカウントを始めたところで時間が来たようで……
「お、そろそろ10秒だ。降ろしてくれ。」
モララーが左手を挙げると部下がハンドルを回し始め、しぃの両足が再び地面に。
496
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:07:35 ID:???
6
「〜〜!! がっは、げほ…!! ごふっ!」
地上に着いて首吊りから解放された途端、リーダーしぃは激しく咳き込み
直後ひゅうひゅうと木枯らしさながらの音を立てて息を吸い込んだ。
「はっはっは。10秒の小旅行はどうだった? 全くの未知の世界……
ただ息を止めている10秒の世界とは、全く違う世界を味わえただろう?」
嬉しそうに拍手をしながら近づいてくるモララーを、しぃは涙目で見上げる。
「……さて、現在の心境を聞いておこうか。しぃちゃん、今はどうだい……?」
にやにやと見下ろすモララーに、しぃは今度はカタカタと震えだし
「や、やめ……! 殺さ……、ないで……!!」
先程の威勢はどこへやら、しぃが涙ながらに命乞いをすると、しかしモララーは
一層嬉しそうに笑い出し
「……ほう。一回目は通過だ。よかったなぁ、君。とりあえずは通過だぞ?」
リーダーしぃではない、他の……、先程「1」と答えたしぃを指さした。
当然、指をさされたしぃは何のことだから分からない。
「ふふふ。ここで先程質問のあった “前言撤回” の説明だ。……先刻こちらの
リーダーは『心境』を訊かれたとき何と答えたか覚えているかい? そう
『死にたくない』だ。では今は? ……同じだったね。
さて、もうお分かりかと思うけど “前言撤回” とはこのことさ。最初のリーダーの
心境は『死にたくない』。そしてこれ以降今のように、僕は10秒の首吊りの後で
逐一彼女に『心境』を尋ねる。これが最初と同じ『死にたくない』ならその回は
見送りになるんだけど、そこで『死にたい!』と “前言撤回” したならば、そこで
彼女の首吊りは終了。そしてその回を指名した次のしぃちゃんの首吊りが始まるのさ。
例えば彼女がこの後、……「3」 回目で “前言撤回” して『死にたい』と言ったら
その場合、最初に「3」と答えた君……。君が絞首台にかけられるのさ」
モララーがそこで「3」と答えたしぃを指さすと、それだけでそのしぃはひぃと震えた。
「……そしてその後は同じ事の繰り返し。補足として、7回以上首吊りを耐えきったら全員
あるいは最後まで“指名”がなかった者。これらに生存の保証というわけだ。お分かりか?」
「……………………!!」
モララーが全体を見回しながら問いかけるも、しかし当然か、しぃ達からの返事はなかった。
とはいえ皆ルールはしっかり理解できたようで、一様に青ざめてはいたが。
「……ああ、あと一つ。“オールイン”について。 これはね、誰も指名しなかったところで
首吊りしぃが前言撤回した場合に適用されるものでね。今回で言えば「4」だね。
4回目で首吊りしぃが前言撤回した場合、この “オールイン” になるんだ。
んでこれが適用されるとどうなるかと言えば、その時点でゲームオーバー。全員仲良く
首を吊る羽目になるんだ。だから首を吊るしぃちゃんは気をつけないと、速攻で一巻の
終わりになっちゃうから、気をつけてね〜?」
「な、そ、そんな理不尽な……!?」
少し落ち着いた首吊りのリーダーしぃが抗議するも、モララーは首を横に振り
「何を言ってんだい? こっちが決めるのならともかく、次に誰が首を吊るもオールインに
. . . ... .... ... ......
するも、全ては君たちに決めさせてやっているじゃあないか!? 普通の虐殺中毒者なら
こうはいかんぞ? 鼻歌交じりに自分たちでご指名してオシマイさ! そこから鑑みれば
実に民主的じゃないか?」
「き、貴様……! 五月蠅い! 私は7回を突破してやる!!」
「ほう! そろそろ2回目を始めるぞ、と。……7回突破か。なぁに、物理的にはまだ大丈夫さ。
まだ『吉川線』すらも出てないんだから……」
「吉川……線? 何だそれは?」
聞き慣れない単語に疑問を示すと、モララーは待ってましたと言わんばかりに口を開いた。
497
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:07:52 ID:???
7
「……窒息死、特に絞殺の方に多いんだけど、首が絞まると生物ってのは無意識に
首を掻きむしるんだよ。こう思いっきり爪を立てて、どっかの時報みたいにがりがりとね。
こいつは喉の異物を取り除こうっていう本能的なものなんだけど、何分さっきも味わったろう
首吊りの激痛の中じゃあまともな判断なんざ出来るわけがない。少しでも苦しみを取り除こうと
際限なく掻きむしるのさ。引っ掻いて傷を作って痛みが増えることはあっても、消えるはずが
ないのにね。だけど、たとえ今はそうだと理解できても、一度首吊りの体勢にはいると首を
引っ掻き回すのをやめられないのさ。がりがりがりがり。いつもこの白い縄を使うんだけどさ
次第に赤黒く染まっていくんだよ。がりがりってねぇ〜!」
「…………!!」
「それにははは、いつだったかなぁ〜、苦しみのあまり錯乱を通り越して狂乱の域にまで達した
奴がいてね。そいつがまた凄い勢いで喉を掻きむしりだしたんだ。はははは。首の血管閉塞に
伴って頭への血流は停止してるから貧血状態にあるはずなのに、出るわ出るわどろどろと……。
面白いからそのまま見てたんだけど、いや〜、最後には血が出尽くたんだろうねぇ〜。
雪みたいに真っ白になってたんだ。文字通りの『白銀のような美白』 だったねありゃ!
あ、ちょうど今その写真持ってたんだ。ご覧よ、ほら……」
ほくそ笑みながらモララーが懐から出した写真を見ると、リーダーしぃはそれを見るや否や
「!! うっ……!!」
「あれ? ちょっとちょっと。今はものまね大会の時間じゃないですよぉ〜?」
今でさえ青ざめていた顔が、より一層のものに。
そこには、しぃとおぼしき生物が写っていた。
ただしその顔、目玉は今にも飛び出さんばかりに飛び出、下は顎の先端まで届くぐらいに
だらしなく伸びきり、そして何より、これはモララーの仕業か、明らかに毛皮が剃ってあると
いうにも関わらず、通常は桃色のはずの顔色はモララーの言葉通り真っ白であった。
変わりに、首から下は赤黒一色で染まりきっていたが……。
「ひ……ぃ……!!」
リーダーしぃの顔が引きつると、モララーは
「おやおや、どうしたのかな? まさかこの程度でびびっちゃったとか、そんなわけないよね?
それなりに軍事訓練とかも積んでるんだろ? そんな君がどこぞのアフォしぃみたいに
ガクブルしてちゃあ部下の手前、立つ瀬がないぞぉ……?」
「わ、わわ、私は………!」
「さて、第二回目を始めましょうか。……なぁに、そんなに心配することはないよ。あくまでこれは
可能性の一つに過ぎないんだから。君がこうなると決まったわけじゃないんだからさ……?」
「や、やめろ、やめてくれ…! やめてくれ……!!」
「やめてほしけりゃ7回耐えなよ。まぁこの状況が続けば無理だろうけどね。……それと皆さん。
何か応援の声でもかけてあげたらどう? 何せ皆の運命は今このリーダーさんの首吊りに
かかってんだから。特にさっき「2」を指名したあなたは、ね……?」
下卑た笑みを浮かべるモララーが指さすと、先のリーダーの苦しみぶりが脳内で蘇ったか
その「2」を指名したしぃはがくがく震えだし……
「だ、駄目!! 絶対撤回なんかしないで!! お願い!! 首なんか吊りたくない!!」
リーダーが根をあげたら次は自分、半狂乱になって「2」のしぃは叫んだ。だが
「…………………!!」
残りの三匹は、そんな2番とリーダーを違った目つきで見つめていた。
498
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:08:02 ID:???
8
「……あ、あんた達、何よその目つきは……? まさか……?」
「お、お、お前……達! まさか……とは思うが、まさか……!?」
何事か言いかけた二人だったが、モララーはそれを制しながら口を開いた。
「はい、はい、はい……と。どしたのかなその目は? まさか誉れ高き真多利教の
戦闘部隊である皆様方が、まさか……?
……とはいってもね、僕は別に否定しないよ。いや、寧ろ君らがそう言う心境に至るのは
当然のことだと思ってる。だってそうだろう? 目の前であの勇猛なリーダーちゃんが
あんなに恐ろしい目にあってさ、更にはあんな風に恐怖心を煽ってやったんだ。……それが
いずれ自分の身に降りかかるかも知れないとなったら、誰だって今君たち三人が心の中で
思い浮かべてる事を言いたくなるのは当たり前なんで……、恥ずべきことじゃない」
「………………!!」
「モララー! 貴様っ!!」
いきり立つリーダーしぃだったが、モララーは全くどこ吹く風と言った様子で続ける。
「自分の気持ちに嘘つくってのは、何とも言えない気持ち悪さがあるはずだ。それに……
本能と理性はどっちが強い? ……ま、分かるにはそんなにはかからないだろうね。
それじゃ、次行こうか。いつやめるかはせいぜい体と相談して決めてくれ。じゃあ……」
そして右手を挙げようとしたモララーだったが、そこにリーダーしぃが
「ま、待て!! 重要なことを聞いてないぞ!! ……私が前言撤回をして交代になった場合
私はどうなるのだ!? 生かされるのか、それとも……」
「……ああ、それか。今言うと興ざめになるから言わなかったんだけどさ、言っちゃうか……
大丈夫だよ、殺しはしない。特に君なら尚更にね……」
「………………!?」
「ま! 自分の命が惜しかったらさっさと前言撤回するこった。あんまり頑張りすぎると
助かるものも助からなくなるからね。……クソ麗しき仲間への信頼と愛情も良いけれど
ご自愛もどうかお忘れにならないように、ね……」
モララーはやれやれとため息をつくと、今度こそ右手を挙げた。
「ま、ま……!!」
本日二回目。リーダーしぃの別世界への旅が始まった。
「がぎゃああああ!! げべっ、ぐびぃぃぃぃ!!」
悲鳴にならない悲鳴を上げながら、リーダーしぃは首を吊る前はあれほどするまいと
決めていたのに、いつしか首に手を伸ばしていた。
がり ぎり ぎり がり
以前からある激痛に混じって、肉を爪でほじくっているようないやな感触が伝わってくる。
何とか欠片ほど残った自由意志で止めようと試みるが、今や彼女の手は彼女の命令を
拒むがごとく、勝手に喉を引っ掻き続けている。
ああああああ 出来るわけがない 出来るわけがない!! こんなのをあと5回もだと!?
悪い冗談だ! 悪夢だ! 今だって何度死神の姿が見えていることか!!
うわぁぁぁあああ!! 恐い!! 恐い恐い恐い!! あいつが余計なことを吹き込んで
くれたせいで、余計なものを見せてくれたおかげで、恐くて仕方がない!!
白銀のような美白!? 赤黒く染まった白縄!? それだけじゃない、何もかもが恐い!!
激痛と呼吸困難と恐怖と! これだけで気が狂う!! でもやめられない! やめたが
最後仲間が同じ目に遭わされるし、自分だってどうなるか分かったものじゃない!!
それに何より、お腹には子供だっているのに!! 死にたくなんかない!!
でももういやだ! こんな苦しいのはもう嫌だ!! 助けてぇぇぇ!!
「……ほら見たことか。まだ2回目だってのに死にそうな顔しちゃってねぇ……?
これじゃ7回なんて夢のまた夢。下手すりゃここで決まっちゃうかもねぇ……?
さて、10秒が来た。お楽しみの時間だぁ……!!」
モララーが左手を挙げ、リーダーしぃの体が地面に降ろされた。
499
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:11:52 ID:???
9
「がはっ、げはっ、ぐほっ……!!」
もはや力一杯咳き込む気力も体力も失せたのか、体をびくびくと震わせながら
リーダーしぃはそれでも必死に呼吸しようと喘いでいた。そこに
「さぁてリーダーさん。今のご心境は? もうやめる!? それとも継続!?
三匹にあやふやな希望を与えるか、一匹にくっきりとした希望を与えるか!?
三匹に限定付きの絶望を与えるか、一匹に間違い無しの絶望を与えるか!?
僕はどちらでもかまわんぞ!? さぁどっち!?」
モララーがリーダーしぃを飲みこまんばかりの勢いではやし立てると、リーダーしぃは
恐怖で真っ白になった顔でモララーを見つめ
「やめてくれ……! お願いだ、殺さないでくれ……! お願いだ……!」
それは、どれだけこの首吊り遊戯が恐ろしいものかを如実に物語っていた。
恐怖という本能の前には、プライドという理性はいとも簡単に崩れ去る。
剛健なるリーダーしぃはいつしか追われる兎のように怯え、しかしモララーは
相変わらず恐怖を疫病のごとくまき散らし続ける。
「……よかったねぇ〜? 「2」番ちゃん! リーダーに感謝しなよ?」
モララーが話しかけてくるも、しかし先程の10秒余りで気力を使い果たしたか
「2」のしぃは今やリーダーに負けないくらい荒い呼吸をしていた。
そして当たり前というべきか? その2番しぃの横では
「あ………、う……!」
「うっふっふ……。言葉には出さねど目で語ってるね。大方こんなところかな?
『ああ、このくそったれのリーダーはまた駄目だった。さっさと降参してくれないと
私たちが危ないのに、何考えてるんだ』……とか」
「モラ、ラー……!! やべ……ろ! これ以上……、くだら……ないこと……を
吹いたら、容赦しない……ぞ!!」
しかしそんな必死のリーダーしぃとは裏腹に、部下しぃ達の目は泳ぎに泳いでいた。
「あっはー、まーだ間で宙ぶらりんか。でも大分揺れ動いてるみたいじゃあないか……。
だけどね、言っておこうか。この状況下で主導権を握っているのは誰だ? ……それは
もう、そこでぜーぜー言ってるリーダーちゃんじゃないんだ。僕なんだよ。そしてその僕は
こういう見苦しい嘘をつく輩が大嫌いでね……。さて、ここまで言えばもういいだろ?
主導権握ってる奴に反した行動ばかり取っても、損するだけでろくな事はないと思うけど?」
「……………!!」
「……で、2番ちゃん。どうよ? 今生きてるって実感があるだろう? ……ありゃ
それどころじゃない、か? まぁいいさ。リーダーちゃん。あんたの方は……、あれ?」
モララーがおやおやといった顔をしたその先には、突如顔が真っ白にしてがたがた
震え始めた、いわゆるショック状態のリーダーしぃが。
「なんだなんだ。たった2回でこの様か? あんたはリーダーなんだろ……?
ひひひっ。脆い脆い脆い。程度の差はあってもしぃ族の覚悟なんざ皆この程度。
見た目はまさしく勇猛果敢であったとしても、ちょっと恐怖を与えてやればすぐに
メッキがぼろぼろ剥がれ落ちる。なぁ? ひぃっひひひひぃぃ!! ……そして
部下の君たち! ねー、見えるだろ? 勇ましい君らのリーダーでさえも、たった
二回でこの様にしちゃうんだぜ? しかもこいつは将来的には他人事じゃなくなるんだ。
……恐ろしいとは思わないのかな? まだ嘘ついて虚勢を張るつもりなのかな?
けけけっ。まーよく考えておいてくれ。そして……」
満足そうな笑みを浮かべたモララーは、次いでリーダーしぃの元へと歩を進める。
「……あーあー、アマチュアならまだしも、戦人のキミでもこの様か。恐いねー。
何にしても今のキミを吊せばショック死する可能性もあるということだ。従って…」
モララーが指を鳴らすと、部下が一人リーダーしぃの元へ駆け寄り注射を打つ。
すると先程まで真っ白だったリーダーしぃの顔色が、みるみるうちに回復していった。
「はーい。新型の抗ショック薬のお味は如何かなー!? お前の心を食いつぶそうと
. . . .
していた恐怖が一時的にとはいえ消え去ってくれるんだ。ありがたいだろう?
……おやぁ? ちょいとばかり効果がありすぎたか? けぇっけけけけけ?」
呆れた顔のモララーが言う通り、リーダーしぃは今は顔を真っ赤にして、先とは
別の意味で様子がおかしかった。
500
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:12:10 ID:???
10
「ひひぃ! おまけとしてこれまた新型興奮剤混ぜ込んでおいたけど、そいつらが
どうやら効きすぎたようだね! 血流も促進させまくるから、顔がいつしか茹で蛸か!
ひゃははは! おいおい、僕の声聞こえてるか? おーい?」
「………ひっ! ふぅぅっ! ……はぁぁ……!!」
……モララーの問いかけもどこへやら。完全にモララーの言う「茹で蛸」状態の
リーダーしぃは、高熱でもあるかのようにふらふらとしていた。
「……あーあ。血流が促進されすぎて、完全に頭に血が上っちゃってらぁ……。
そんな状態じゃあまともに頭を使うことも叶うまい。というわけで………」
「ふ、ふふぅ、ふぅぅ……、がっ!!?」
モララーが右手をぱっと挙げ、部下が急いでハンドルを巻き上げる。
. . .
「頭を冷やす手助けをしてやらないといけないなぁ…? きりきりィきりィィ…!」
再びつり上げられたリーダーしぃの顔色は、早くも青ざめてきていた。
「ひははは!! 美しい! 美しいぃぃ!! 世の中にこんな美しいものが他に!?
心臓や肝臓に一発、生命の証が流れ落ちて青ざめながら殺せる刺殺もいい。
以前は美の女神かと見まがうほどの美しきを、一瞬にしてぐしゃぐしゃの肉塊に
変えてしまう、出来上がった造形を完膚無きまでに粉砕出来る撲殺もいい。
自分が文字通りに料理される、白い柔肌を一瞬に黒炭に変えられる焼殺もいい。
人差し指をひくという最小限の労力で、生体を人形に変えられる銃殺もいい。
輝かしい命という華を、文字通りに花火のように散らせられる爆殺もいい……、が!
窒息しかけてもがいている蛆虫ほどそそらせ、たぎらせ、湧き踊らせるものはない!!
血反吐を、涎を、涙を、鼻水を! 汗を、小便を、糞を! 際限なく臆面もなくだらだら
垂れ流し! それでいて必死にか細い生命の綱、文字通りの命綱にすがりつくんだ!
. ... . . . . ...
他のどの死に方よりも強く! ほしい玩具を手放さぬだだっ子のようにしっかりと!
……そしてそんな必死こいてる奴らを、縄から手を放させるでもなく登らせるでもなく
ぎりぎりの狭間で宙ぶらりんにしてやるのが僕の務めさ。 ぎりぎりぃ、とね……
さぁ、もがけもがけ。お前の死の寸前で足掻くその顔が、僕に生を実感させるんだぁ…。
夢に出てきたら間違いなく夢精するくらい、僕をたぎらせるんだぁ……!!
さぁて、10秒だ! 今度の彼女の返答や如何に?」
アヒャり気味とも言えるモララーが左手を降ろすと、リーダーしぃの体は乱暴に落とされた。
「さーて、大分縄も赤黒くなってきたねぇ。ついでに君の喉の線も大分増えてきた……。
それとさっきからこいつらに君のポラロイド写真撮らせてたんだけど、いい出来だよ?
見てみるかな? ほぉら………」
最初こそリーダーしぃは目を背けていたものの、モララー達によって押さえつけられ
目を開かされ、見たくもない自分の表情を見る羽目になった。
「う……わぁ……!!」
「ご覧よ。君も平常時なら凛々しく愛らしいお顔をしているんだがねぇ…? それが一旦
たかだか10秒程度息が出来ない状況におかれた程度でこの様だ。醜いねぇ…?」
これが自分かと見まがうほどに醜い写真を見せられ、リーダーしぃが心から絶望すると
「な、なに……、!! けふっ……、ごぼっ!?」
突然、目の色を変えて咳き込み始めた。……勿論文字通りに真っ赤にして、である。
しかもそれだけではなく、顔をまた真っ赤にして、奇妙な音を立てて息を吸っている。
明らかに、吊されていないにも関わらず呼吸困難の状態に陥っていた。
501
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:12:56 ID:???
11
「あーらら、結構お早いことで……。もう少しはもつかと思ってたんだがねー」
「な、なん……だ? これは……!? お前……、何か……!?」
「違う違う! 僕はそういうことは何もしちゃいないさ。強いていえば君の体が勝手に
そうなった、というべきかな?」
「………!? どういう……ことだ…!?」
モララーの言葉にリーダーしぃは、喉を掌で押さえて咳き込み始める。
「いやねぇ、首吊りするとさ、気道がモロに圧迫受けるじゃない。そうすると気管支とか
声帯に傷が出来るわけよ。それだけでも結構やばいんだけどさ、首吊りするやつって
さっきの君みたいに、声にはならないけど縊り殺される鶏みたいなとんでもない悲鳴を
上げるわけなんだよね。それはねー、唯でさえ壊れかけで煙吹いてる機械を無理矢理
動かすようなもんでさ、声帯がオーバーヒート起こすわけよ。つまり炎症が起こる……。
炎症が起これば組織は腫れ上がる。それが気道で起こった場合はどうなるか、説明の
必要はあるかな? 過去の実験データによれば、君らしぃ族の場合なら大体2〜3回で
気道が炎症を起こし始めて、4〜5割が塞がれる計算になる。それ以上進めると……
さぁて、どうなるのでしょうか? ああ、ちなみに死ぬまではいかないよ。いかないけど…
……ま、どうなるのかな? さしずめ末期のゾナハ病みたいになるだろうけどね……?
..........
何もしなくても白目をむいて、喉に手を当て必死にぜひぜひ呼吸するんだよなぁ〜!
さぁ〜! それじゃさっさといこうか! きりきりきりきり、ぎぇあはははははぁぁ!!
……と、何だその目つきは? もしや前言撤回か? なら言うなら今のうちだぞ?」
尚も自分を見つめ続けるリーダーしぃに、モララーはニパァと阿鼻谷スマイルを浮かべる。
「個人的にはさっさと前言撤回しちまう方がいいと思うがね。……仲間を裏切るのが嫌か?
別にいいじゃないか? だってあいつらを見てみなよ。現にさっきもそうだったように
口には出しちゃいないけど、もう心の中じゃ自分だけが生き延びたいっていう欲望に目を
ぎらつかせて、他の奴のことなんざなーんにも考えちゃいないぞ? それがわからんほど
キミは部下を見る目がないわけじゃあるまい? そんな奴らのために苦痛を受ける理由が
どこにある……? 仲間のために命を張るのは理解できるが、ゴミのために命を張る
なんてのは……ね? 苦しいんだろ? いいじゃないか。誰も責めはしない! 自分の命が
かかってるんだぞ? ここで君が前言撤回したところで、誰にも君を非難することなんて
出来やしない! 誰一人として、ね……!!」
「……馬鹿を言え! お前には分からないだろうが、………!!」
「ハイハイ。奴らと一緒に暮らしてきた思い出が、あの美しき日々が忘れられないっての?
…だけどね。多分そんなのをいまだに心に留めてるのは多分君だけだよ。…見なよ」
モララーが促したその先には、それが何であるか分かりきった “何か” を期待して
毒々しくぎらぎらと目を光らせている部下しぃたちがいた。
「…ありふれた台詞だけどね。こういう状況では過去をどう処理するかがポイントなのさ。
その過去に囚われて朽ち果てるか、それとも……」
文字通りのモララーの悪魔の囁きに、リーダーしぃの心は滅茶苦茶にかき回されていた。
502
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:13:38 ID:???
12
“……やめろ! やめろやめろ、そんなのは……!!
確かに今のあいつらはややもすれば見苦しいさ! だけど私が同じ立場におかれたと
したら、同じ事をしないなんて言えない! 同じように醜く足掻いていただろう……!
あああ、どうしろというのだ!? このままあいつらのために7回を耐え抜くか?
でもそれだとお腹のこの子は……、ショックで最悪の場合、流産なんてことも……!!”
頭を抱えて苦悩するリーダーしぃは、モララーの方をちらりと見た。
その視線に気づいたモララーも、相変わらず見た目は爽やか内側ドロドロのアヴィスマイルで
「く く く。なまじ良しぃの理性があるから苦悩する羽目になるんだ。こういうところはアフォしぃ
みたいに、頭を使わなければいいんだよ……。
ねぇ? 君にとって大切なものって何だい? いわゆる命がけで護りたいものって何だい?
その迷った表情から鑑みるにおそらく複数あるんだろうけれど、それはあいつら? それとも
別の何か? それが何かは知らないけど……、“虻蜂取らず”、“二兎を追うもの一兎も得ず”
欲張りは身を滅ぼすってのが昔からの常。……分かり切ったことなのに、大概の輩は
目が見えちゃいない。引き返せないところまで来て初めて気づき、そして破滅する……。
ねぇ? 実に愚かだと思わないか? 端から見てればこれほど滑稽なものはないんだよ?」
「わ、私にとって、大切なもの……」
ようやく思考能力が回復してきたか、リーダーしぃは目つきが落ち着いてきた。
“……あいつが今気づいているかどうかは知らないが、確かに大切なものは複数ある……。
それはあいつらと、この子との二つ。二つとも手放したくはないものだが……!”
リーダーしぃは息をごくりと呑むと、囚われの仲間の方を向く。……そしてそこの三匹が
そんな目をして自分を目を合わせてきたかは、言わずもがな……
“リーダー! 次! 次で撤回して! お願い、次よ!!”
“何言ってるの! 次だけは駄目! 次だけ耐えてくれたらそれでいいから!”
“というより、7回耐え抜け! リーダーなんだからそれくらいやって当然よ!!”
そこには心の中だけという縛りはあれど、良しぃの良識やどこへやら。完全に巷のアフォしぃと
何ら変わりのない、本性丸出しの “良しぃ” の仲間がいた。
“……認めたくはないが、私は今こいつらを醜いと思っている。生きる価値がないとも……!
こんな欲望まみれの野獣共に比べれば、自分の子供はどれだけ大切か、とも……!!
だが、それでも奴らを切ることなど出来ない。……このモララーの言うように、クズはクズ
宝は宝と割り切ることが出来れば、どれだけ楽だろう……! でも……!!”
「くっく く く く。ここまで迷ってる様子を見ると、いい加減歯がゆくなってくるねぇ……!
今のあいつらなんて、全角喋るだけのアフォしぃに過ぎないのに。僕なら自分の手で
ぶち殺してるところだぞ……? …とは言っても、それがそんなに簡単に出来るしぃなんて
まずいないか。……後押ししてやらないと決断は出来ないとは、面倒くさいことだ……。
友人を切るならまだしも、ゴミを捨てるのに何故戸惑いが発生する? 使えないと
いうならまだしも、あんな醜い本性を持った部下など癌にしかならんのに……」
にやにやとひとりごちるモララーの傍らでは、相変わらずの視線を交えての言い合い。
“お願いよリーダー! まさか部下を切って自分だけ助かろうなんて思ってないわよね?
リーダー何ら自分の身を呈しても、部下の命を救ってくれるものでしょ?”
“リーダー! 頑張ってよ! アンタは似非のリーダーなんかじゃない、本物なんだから!”
“そうよ! あと4回! あとたった4回なのよ!!”
どこまで行けば終わりが来るのか。どんどん醜い欲望の本音は強くなっていく。
503
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:13:54 ID:???
13
“こいつら……! これが本当に、あの鉄の結束を誇っていた真多利教の部隊の
一員なのか!? つい先程まで、モララー達が来るまでのあの結束は所詮まやかし
だったとでもいうのか……!?”
リーダーしぃが怒りで体を震わせると、そこでもやはりモララーが絶妙に絡んできた。
「……ねぇ、わかるだろう? あんなゲス共と違って、キミはいい子なんだ。いつまで意地
張ってるんだい? 僕はキミを、キミだけを大切にしたいんだ。なるべくなら傷つけたくは
ないんだよ……? だからね……」
「う、うるさい、うるさい! うるさい!!」
モララーの囁きが契機になったか、必死で振り払ったリーダーしぃは、とうとう
“言葉”を以て自分も心に秘めていた感情をぶちまけた。
「貴様らっ! 何を勝手なことをほざいているっ!! それではアフォしぃと何ら変わりが
ないじゃないか! 今の自分の顔を鏡で見てみろっっ!!」
『本性を現して』 部下を一喝するリーダーしぃだったが、それに返ってくるのは……
「うるさいっ! そんな下らない誇りなんかよりッ、命の方が大切だっ!!」
「そうよ! それよりさっさと首吊りしなさいよ! そして7回耐えろ! 途中で
撤回なんて許さないからね! 早くしろ!!」
「可愛い部下のために命を使えるなら本望でしょ!? さぁ、早く吊れっ!!」
「………!!」
予想していたとはいえ、思わず呆然となるリーダーしぃ。モララーは嬉しそうに手を叩く。
「ひゃっひゃっひゃ! 出ました! つーいに出ちゃいました! 本性暴露!
あー、最高! もうオシマイだ! 一回歯止めが利かなくなったら、もう止まるもんか!
“熱しやすく、冷めやすい”!! 所詮これが君らの現実さ!!」
「う……む……っ!!」
歯がみするリーダーしぃだったが、部下達の暴走はこれでは終わらない。
事もあろうに既に 『終わった』 1,2番の方を向くと、一斉にまたがなり始めたのだ。
504
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:14:07 ID:???
14
「お前らもっ! すっかり自分たちは部外者みたいな面しやがって!! 覚えてろ!?
もしあのクソが私を指名して吊られることになったら、真っ先にお前を指名してやるぞ!?」
「はははっ! そうだそうだ! 裏切り者! 裏切り者! 裏切り者がっ!!」
「覚悟しておけ!? たとえ私たちが死んだとしても、お前らを永遠に呪ってやるぞっ!!」
見るにも聞くにも堪えない怨嗟の声。当然二匹もただ黙って言われるままであるはずがなく
「だったら私らが指名されたら、今度はお前らの番!! 覚悟すんのはそっちの方だよ!!」
「そうよ!! 私が吊されることになったら、次にお前達を指名して……、そうだ! もっと
より残酷な方法で吊すようにモララーに提案してやる!! ぎゃはは! いい気味だ!
おい、モララー! この提案を受けるよな! 受けるよな!?」
「…………………………」
まさか被虐側からこんな提案が来るとは思っていなかったか、モララーすらもが
呆れ顔で両手を広げながらため息をつく。
「……僕も長いことしぃ族をぶち殺してきたけどさ、こんなのは前代未聞だよ……?
いやー、ある意味では彼女らも欲しい逸材だ。ある意味ではね……」
「あ、ああ、あううぅ……!!」
目の前で部下が繰り広げる醜い争いに、リーダーしぃはがっくりうなだれた。
「…いい加減、分かったろ? 君らの言う “鉄の結束” なんてものはね、恐怖という
圧倒的な濁流の前には為す術もないんだよ。君らの結束はどこまで行っても、所詮は
理性に根付いたもの。対して恐怖は本能に根付いたもの。……理性の歴史がたかだか
数万年なのに、本能の歴史は数十億年。この二つがかち合ったところで勝負は目に
見えてるじゃないか。……恐怖、それも死の恐怖にぶつかって、どんな生物が理性を
保てるっていうんだい? 僕だって無理だぞ?」
「……………!!」
「……うっふっふ。ちなみにね、次が “オールイン” だってことは覚えてるかな?
他でもないやつら自身が決めた、皆殺しの数字のお出ましだ……」
相変わらずの冷えた微笑を浮かべるモララーだったが、しかし次の瞬間
「…安心しな。君の決断で連中が何をどう騒ぎ立てたところで、奴らにゃ太陽を
二度と見せない。……たとえキミがオールインを選択しなかったとしても、ね……」
「…!?」
モララーは今までの底冷えとはまるで格が違う、挑発するような笑みも煽りも
一切含まれていない、本当に暗黒の凍るような表情を浮かべた。
505
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:16:42 ID:???
15
「な、何? どういうことだ……!?」
「こればっかりはキミを騙してたみたいで悪いんだけど、最初からこのつもりだったのさ。
僕はキミとは「生存の保証をする」と約束をしたけど、奴らとは何の約束もしてないだろ?
……奴らをここで縊り殺してやったところで、なーんの問題もないわけさ」
「ば、馬鹿な! 7回以上首吊りを耐え抜いたら全員解放すると……!」
「そんなの、どこに証拠がある? 奴らがピーチクパーチク騒いだところで所詮は水掛け論。
まぁそれも、キミがどうしても奴らを助けたいというのであれば話は別さ。キミがそう願うなら
従来通りのルールに戻してやってもいいんだけど……、さて、どうするね?
キミは今でもこんな拷問を耐え抜いて、あいつらを救ってやりたいと思うのかな……?
…ま、あいつらを見限る覚悟が出来たらいつでも遠慮なくいえばいい。うぅっふっふ……。
捨てるときは、切るときはひと思いにやるのがコツだからね……」
「……………………」
リーダーしぃは、静かに目をつぶった。目をつぶった自分の脳裏に浮かぶはかつての思い出…
“だめでちゅよぅ! こんなところでとまったら、おこられまちゅよぅ!”
“あい! ちぃのあげましゅ! これでげんきだしてくだちゃい!”
本当に小さな、文字通り物心つく頃から一緒にいた仲間達……。
数え切れないほどの月日を共に過ごし、研鑽しあっていた仲間達……。
“だ、大丈夫か!? すぐに救護所に連れて行ってやる!”
“何言ってるの! 私を助けてる暇なんてあったら、早く先に進んで!”
“し、しかし……”
“いいから! どっちが重要か考えなさいよ! こんなの、私はちっとも恐くないから!
ここでたとえ……”
実際の任務でも、お互いに助け合いながら成功させてきた。……何度失敗を覚悟した
任務をそれのおかげで乗り越えてきただろうか……、だが……
「オラ! どうした! 早く吊れ! 早くしろ!!」
「あと4回! それが出来なきゃお前は単なる張り子の虎だ! さっさと吊れ!!」
「私たちはリーダーのこと信じてるのに、リーダーは裏切るつもりなの!?」
…これが大人になってから集められた部隊というなら、まだ分かる…。だが奴らは
ベビしぃの頃から集められて英才教育を施されてきた。それだけ分培われてきた
絆も、真多利教への忠誠心も強いはずなのに……、何だ、これは?
良しぃと銘打っても、幼き頃から教育をしたとしても、所詮しぃ族はしぃ族なのか…?
忌み嫌われ、軽蔑の対象となっているアフォしぃとやはり変わらぬということか…?
ということは、私のこの子供達も………、いや……!!
ど く ん
……愛するわが子を、こんな醜い姿にしてたまるものか……!!
あれで何が良しぃだ! 何が真多利教本部直属の戦闘部隊だ!
成る程、そうか……。そうなんだな……! しぃ族の中でも最高峰の組織と
されている、真多利教。その真多利教の最高の教育を幼少より受けてきた
こいつらでこうなのだから……。ならば!
「………。モララー……」
「ん……?」
目をつぶっていたリーダーしぃは、ゆっくりと目を開けモララーの方へ振り向く。
.. .
「……“オールイン”、だ。 今を以て私は真多利教本部直属部隊、リーダーしぃとして
前言撤回……、死を選ぶ!」
次の瞬間にはモララーは歓喜の、部下しぃ達は絶望とでそれぞれ表情を激変させた。
506
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:17:44 ID:???
16
「ほぅ。……ブラボゥといっておくかな……?」
「jioihaーwehnuhdsiuciuedcoipodcpw!!??」
この上なく嬉しそうに微笑むモララーと、もはや何を喋っているか分からない部下達と。
「よくぞ決断した……、ね。しかしどういった経緯だい? やっぱり……」
手を叩きながらリーダーに近づくモララー。リーダーは複雑な顔をしてため息をつく。
「皮肉なものだな。過去の奴らが美しすぎたが故に、今のあいつらの醜さが一層
際立つとは……。所詮やはり過去は過去、現在もそうあるわけではないのだな……」
「“今もそうあれかし” 皆そう思うんだけど、そうはいかないのが現実というもの。
過ぎ去った思い出は懐かしむだけに留めておくこと。それがコツさ……」
「……………………………」
「……さて、それじゃあ今後について、だ。キミには生存の保証はしたんだから……
ああ、とは言っても実験動物としてとか、真多利教の情報を引きずり出すまでの
生存とか、そういうんじゃないから。馬鹿なことしなけりゃ天寿は全うできると思うよ」
「フン。まぁ今はよろしくお願いしますとしか言えないがな……」
「うふふ。時に僕はこれからこいつらを吊すけど、キミどうする? 見ていく? それとも……」
「……いや。見たくはない。何だかんだと言っても奴らは私の部下だった。どれだけ本性が
醜いとはいえ、奴らが苦しむ姿は見ていたくはないのでね……」
「分かった。それじゃあ先に行ってなよ。僕もそんなに時間はかからないと思うからね……」
部下の兵隊AAを促して、リーダーしぃを連行?しようとするモララー。しかしそこでリーダーが
「ちょっと待ってくれ。……モララー。急で悪いが条件を一つ付けさせてくれ」
「条件? 一体どういう?」
「ああ。実はだな………」
………………………………………………………………
「や、や、やめて! おながぁぁいい!!」
「さーて。お楽しみの時間でございまぁす。今回はオールインってことで、君らの生存確率は
零でございます。それも一発で殺しはしません。さっきのリーダー見てたね? 君らには
アレを死ぬまで繰り返します。即ち10秒首吊りと僕の言葉責め、とをね……。
さぁ!! 楽しいゲェムの幕開けでぇす! せいぜいいい悲鳴を上げて楽しませてください!」
この時点でも悲鳴にならない悲鳴を上げるしぃ達。モララーは満足そうに右手を挙げた。
「うわぉ。さっきから中継で見てたが、実際醜いモンだなー」
「! その声は……」
モララーが振り返ったその先には、副所長・ギコの姿が。
「……おや、ギコじゃないか。来てたのか?」
「お前が面白そうなことやってるって聞いたもんで、ついさっきな。……ああ。あの
リーダーちゃんだが、今俺んとこで検査してる。しかしお前から報告は受けてたが……」
「ああ。それが面白いんだ。連れて行く直前に条件としてね、こんな事言い出したわけよ。
“今私の妊娠している子供の教育について、私たち真多利のやり方ではああだったから
お前達に一任したい。とはいえ完全にお前達だけに任せるわけではなく、私も母親として
やらせてもらう”、とさ」
「ほー。そんなことを……」
「正直妊娠ってのは予想外だったが、だからこそ割合簡単に落ちたのかもな。
お受験然り塾通い然り、女ってのは男じゃ分からないくらいに子供に愛情を注ぐからねー。
奴の場合は特にあんなもん見ちまったせいか、教育にも熱が入るものさ。
それよりギコ。妊娠してんだから投薬なんかは慎重に頼むよ。奴さんの子供も貴重な
人材なんだからね……」
やや不安げな様子のモララーだったが、ギコは心配するなと胸を張る。
「そこんとこは心配すんな。ニダーと相談してなるたけ少なく済ませてみせるからよ。
……それにしてもモララー。工作員作るためだけにしちゃ随分とまどろっこしいこと
してんだな。以前みたくかっさらって薬漬け、洗脳しちまえば早いんじゃね? 現に
本部だってこの様なんだしよ……?」
. . ...
「ああ。本部までならそれでいいんだ。本部までならね……」
「? どういうこった?」
突然のモララーの意味ありげな発言。ギコも思わず首を傾げた。
507
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:17:57 ID:???
17
「最近分かったことなんだけどね。実は………………」
「ほう……。なーる。そんなことが……」
モララーがひそひそ話しかけると、ギコは合点がいったような顔をした。
「この場合だとね。以前のような作り方じゃあ駄目なんだ。徹底的に、それこそ
髪の毛ほども不自然さがあっちゃあいけないんだ。つまり無理矢理作り替える
洗脳はどれだけ上手くやったとしても、その時点で完全にアウトなのさ」
「……だから寝返ってもらわないと駄目だ、ってか?」
「そ。だけどこれもただ恐怖とかを与えたり人質を取ったりで無理矢理寝返らせたんじゃ
駄目。それじゃ結局洗脳と変わりないからね。……じゃあどうすればいいかってことで
一番手っ取り早いのがこの方法さ。うっふっふっふ………!!」
悦に入ったか、モララーが酷く嬉しそうに、不気味な笑い声を出した。
「……確かにまー、そうだろーなー……」
「…心に何かしら支えのある奴は、それが存在している限りは籠絡は至難の業になるんだが
だが裏を返せば、支えがなくなればこれほど脆いものもない。まぁ考えてみりゃ当然なんだけど
教団内で地位が高い奴はおしなべて忠誠心も高いわけで、それだけ教団を信じてるのさ。
……強いんだけど、弱い。 そいつを僕はよーく知ってるからね……。より効果的にするために
最初に恐怖で味付けして、最後に信じていたものを崩壊させるべく一押しする……。つまり
自分同様、身も心も真多利教に捧げていたと信じていた部下の正体見たりアフォしぃ。
さて、この場合彼女に選ぶことが出来る選択肢は?」
「ま、直接的ではないにしても信じていたものに裏切られたとあっちゃあ、もう一つしかないな。
英語でDespair、スペイン語でDesesperacion、韓国語でジョルマン、そして大陸語でjue-wang…」
「そう、それ。そして目論見は成功しました。……というわけで、これから最後の……」
モララーがくるりと振り返ると、目の前には吊され、今は降ろされているしぃ達の姿が。
初っぱなからクライマックスといった風に、皆が皆今にも倒れんばかりにぜいぜい息をしていた。
「おいおい。まだ一回目だろ? さっきのリーダーより皆酷いことになってるじゃないか……。
さて、言いかけた台詞……。その目論見に役立ってくれた貢献者、彼女の部下だった
しぃちゃん達にも“それ”をあげないといけないからねー。ただし性質は全く別物になるけどなっ!!
さー、二回目行くぞ! 何回目で君らは死ぬのかなー!?」
……………………………………………………
508
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:18:22 ID:???
18
後日
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
報告書
主題:新技術「トーチャー・バイ・ハンギング(苦痛の絞首)」に関して。
開発者:モララー(産軍複合研究所 『God And Livestock』 所長)
ギコ(同研究所副所長 兼薬学・医学部部長)
内容に関しましては、添付してある動画及び解説書をご覧になればお分かりかと
思いますが、開発者直々に試行してみたところ、被験者の精神状態もしくは執行者の
力量次第という条件付きであるものの、かねてよりの『懐柔作戦』に絶大な効果を
発揮することが判明しました。 つきましては後日会議を開催したいと思いますので
『God And Livestock』本部までお越し頂くようお願い申し上げます。
※日程に関しては後日またメールをお送りいたします。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「そう……。そうなんだよ。自画自賛なんかじゃない、絶大なんだ……」
メールの送信ボタンをクリックして、モララーはぽつりと呟いた。
「……カリオストロ気取りか? 箱庭の中で大人しくしていればよかったものを
少々おイタが過ぎたようだな。……とはいえ、この程度で収まってしまうのが
あいつなんだよな。この程度の規模じゃあ、所詮子供のびっくり箱だ。大人を
驚かせるにはまだまだ足りないね……」
そしてパソコンを閉じると、夜景の映る窓へとくるりと向きを変えて……一言。
「家畜は家畜らしく、いずれ食われる日まで神の掌の中で遊んでいればいいのさ……」
終焉
509
:
魔
:2008/04/04(金) 23:43:10 ID:???
『裏話 〜後遺症〜』
※この物語は、『天と地の差の裏話』の続編にあたります
今から少し前に、街を脅かす事件があった。
あるちびギコが猟奇的連続殺人を侵すという、未曾有の事件。
全てを知っている者は、一人だけしかいない。
関わった者は彼以外、皆死んでいったからだ。
AAの命が軽いこの街では、事件の意外性はあっても、関心はあまり向かなかった。
何も知らない者達は、何も知ろうとしないまま。
知ろうとした者達は、何もつかめないまま。
そして、その事件が遺した爪痕は忘れ去られていった。
全てを知る、一人のAAを除いて―――。
※
ポストにあった新聞を手に取り、部屋に戻る。
崩れ落ちるようにしてソファに座ると、それをテーブルに拡げた。
「・・・」
じっくりと、なめ回すように新聞を見る。
お目当てのニュースがなければ、項をめくって更に探す。
羅列された文字達が伝えるのは、政治と芸能の話ばかり。
どれもこれも、ちょっとしたお偉方の失言を叩いたもの。
やはり、これらを見ていつも思う事は、『他に報道すべきものが沢山あるだろう』。
新聞を読んでいる男、ウララーはそう心の中で歎いた。
※
あの凄まじい出来事から、一週間。
その間、片腕が黒い少年や化け物を扱ったニュースは、殆どなかった。
半ば国から忘れ去られた街とはいえ、大量の無差別殺人が起きたというのに。
公園にも、ギコと化け物という証拠を放置していた。
それなのに、メディアはおろかネットですら話題にならなかったのだ。
もし業者が処理したとしても、ギコはともかく化け物に対して何かを感じる筈だ。
あの刀のような爪を持っていた、VというAAに。
死体がそのまま放置されている、という理由は自分が否定した。
後日、しっかりと己の眼で確認したからだ。
勿論、Vはおろかギコの脚もしっかりと片付けられていた。
血も、あの大雨で全て洗い流されている。
※
証拠というものが殆どなくなってしまい、今に至る。
もう終わったことなのだから、気にしない方がいいのかもしれない。
しかしそれでも、自分以外の誰かが見つけた爪痕を探すことはやめない。
でないと、自分が自分でなくなってしまいそうな気がして。
「・・・無い、か」
自分以外誰もいない空間で、一人呟く。
余す所なく新聞を漁ったが、それらしいものは見当たらなかった。
それなりの時間が経っているので、当たり前ではあるが。
溜め息をつき、腹に巻かれた包帯に触れる。
あの出来事が夢ではないと教えてくれる、唯一の証拠。
残ったものは、その傷ともう一つ―――。
510
:
魔
:2008/04/04(金) 23:43:58 ID:???
※
愛用の銃を、弾倉と一緒に引き出しから取り出す。
弾倉に銃弾が入っているのを確認したら、それをグリップの中に入れる。
「・・・」
ふと、手の中でそれを翻してみる。
ひたすら黒く、それでいて鈍く光を反射する銃。
思えば、自分の身体に似た色という理由で、銃に惹かれたことがある。
扱ってみると、想像以上に容易にAAの命を奪う代物。
それを、その力を自分以外の者の為に使うという理由で、擬似警官になった。
殺伐としているが、この街にはヤクザはいない。
だから、銃という武器は虐殺に溺れた者に非常に有効だった。
それにでぃやびぃのような危険なAAにも、距離を離して対応できる。
鈍器や刃物しかない地で、銃は圧倒的な力を持つ。
その為、使い方を誤れば恐ろしい兵器と化す。
「・・・」
ウララーは少しの間銃を眺めた後、ホルスターにおさめる。
更に引き出しから小物とウエストポーチを取り出し、ゆっくりと静かに外に出た。
―――その心に、飢えと渇きを以って。
※
出掛けた先は、街の顔ともいえるあの公園。
今ではすっかり、賑わいを取り戻している。
被虐者も一般AAも、それぞれの楽しみの為に遊んでいた。
「・・・」
ウララーは、そんなAA達を軽く観察しながら公園を散策する。
ベンチに座り、肩を寄せ合うカップルもいれば、ボールを蹴りあう子供達もいる。
この遊具が多い区域だけは、地上の楽園と感じてしまうほど、平和だった。
ある程度そこを観察した後、踵を返す。
次は、雑木林の多い区域を目指し、足を動かした。
先程の区域と違い、この辺りは街らしさが垣間見える。
雑木林が間近にあることから、被虐者が身を潜める為によく利用している。
林の中に足を運べば、路地裏以上に被虐者が見つかることもよくある話。
だから、虐殺もよく行われる上、それが絡んだ事件も多発する。
擬似警官として、この区域は必ず見回らないといけない。
だが、今回だけは擬似警官ではなく、イチAAとしてもここに来た。
あの出来事で遺った、爪痕の埋め合わせの為に。
「ん・・・?」
ふと、足を止めてみる。
視界の隅で見つけたのは、不自然な形をしている植木。
垣根の役割をしている筈のそれは、AA一人が通れる位の隙間を作っていた。
形の崩れ方からして、人為的なもの。
誰かがここを、林への入り口にしてしまっている。
まさかとは思うのだが、念のためにとウララーは身を運び、中へと進んだ。
511
:
魔
:2008/04/04(金) 23:44:40 ID:???
※
雑草が自分の腰ほどまでに伸び、枝葉が進路を塞ぐ。
それが雑木林の本来の姿なのだが、手でそれらを掻き分けずとも難無く進めた。
被虐者が隠れ家として、ここを切り開いたのなら構わない。
が、擬似警官の持つ勧か、違和感はその答えを否定する。
「これは・・・」
視界に奇妙な色彩を持つ葉が飛び込み、目線を持っていく。
足を止めてそれをじっくり眺めると、血が付着しているということがわかった。
親指でこすってみると、僅かなぬめりを感じつつ、指にこびりつく。
まだ、新しいものだ。
匂いを嗅いでみると、被虐者のものではない。
「当たり、か」
ウララーは事実に溜め息をつき、林の奥へと進んでいく。
奥に進むにつれて、その血の跡は確実に増えていった。
雑ながらけもの道を作り、かつ痕跡を遺している。
犯人は、己の保身よりも虐殺が齎す快楽を優先して行動しているようだ。
虐殺厨ともなれば、そんな余裕などないのだろう。
暫く歩くと、血の匂いが強くなる。
加えて、眼の前には壁のように進行を阻む草木。
葉の隙間から見えるのは、ちょっとした広い空間。
その中に、一つの人影があった。
人影はその場に屈み、湿っぽく粘っこい音をたてている。
そこで、これ以上息を潜める必要はないとウララーは踏み、草木を掻き分けた。
「何やってンだ」
「!?」
ウララーが声を掛けると同時に、女は驚く。
女のその朱色の身体は、どこを見ても赤く汚れていた。
足元には赤黒い塊が、血だまりの中に横たわる。
恐らく、女が持つ包丁で挽き肉になるまでめった刺しにされたのだろう。
「何、ッテ・・・見テワカンネェノカ? 虐殺ダヨ」
と、女は罪悪感など全くないようなそぶりで応える。
どうやら、ここまで死体の形を奪えば、一般AAか否かを見分けられないと思っているようだ。
だが、ウララーは既にこれが被虐者ではないと理解している。
血の匂いがそれなのだが、己以外に通用しない証拠だ。
言い逃れを防ぐ為、ウララーはカマを掛ける事にした。
「虐殺、ね・・・わざわざこんな所まで運んでやるものか?」
「アンナ広イ場所デヤッテモ、無駄に目立ツダケダカラナ」
「・・・だろうな。そんな緑の体毛のAAを公の場で虐殺するのは、注目の的だろうな」
「ッ!」
女が、言葉を詰まらせる。
体毛の色なんて、既に真っ赤に染まってウララーには判別できない。
単なるでまかせだったのだが、運よく当たったのだろう。
もし外れたとしても、それが被虐者でないと理解していることを仄めかせばいいだけだ。
「何故・・・ワカッタ」
女の表情が強張る。
それは寧ろ、開き直るといった感じだった。
女はゆっくりと包丁を持ち上げると、切っ先をウララーの喉に向ける。
「半信半疑だったんだがな。いや、お前が正直者でよかったよ」
包丁の刃を向けられているのに、あえて煽るウララー。
同じように、ホルスターから銃を静かに引き抜く。
512
:
魔
:2008/04/04(金) 23:45:01 ID:???
得物の差は歴然としているのに、女は刃を向けてきている。
それは裁かれたくないというあがきなのか、或いは己の身体能力に余程の自信があるのか。
「・・・何故、刃を向ける?」
答は自分の中でかたまりつつあるが、あえて問うウララー。
「単純ナ理由サ。追ウ者ヲ殺セバ追ワレズニスム」
女は口角をつりあげ、目を細めて笑う。
直後、素早く屈んだかと思うと、地面を蹴ってウララー目掛け飛び込んだ。
「!」
虐殺厨を裁く時、擬似警官は逆に襲われることも珍しくはない。
人質をとる強盗と同じで、奴らはひたすら抗うのだ。
だから、こういったシチュエーションにウララーは馴れている為、冷静でいられた。
飛び掛かってきた女が振るった包丁を身体を反らして避け、擦れ違い様に一発。
包丁はウララーの肩の皮を裂き、鉛弾は女の腹部を貫いた。
「ガアァッ!?」
突然の激痛に女は対応できず、地面に滑るように倒れ込む。
ウララーはそれとは逆に、追い打ちを掛ける為にと女の方へ踵を返した。
「無駄な事をするから、無駄に苦痛が増えるんだよ」
「ッッ・・・テメ―――」
動きを止めたら、後は仕事を熟すのみ。
ウララーは女の言葉を無視して、その頭蓋を狙って炸裂音を響かせた。
※
「・・・ふぅ」
短く息を吐き、銃をホルスターにおさめる。
その場に残ったのは、女が虐殺していた肉塊と女の遺体。
あとは木々が風に揺られて、ざわめいた合唱が聞こえるだけ。
ここなら、都合が良い。
擬似警官としての行動は終えた。
次は、イチAAとして動くのみだ。
用があるのは、女の遺体。
先ずは作業しやすいようにと、仰向けに姿勢を整える。
確認するまでもない事だが、瞳孔はしっかりと開いている。
「・・・」
次に、ウララーは家を出る際に用意していたウエストポーチに手を掛ける。
片手で器用にそれを開け、取り出したのは刃渡り十数センチのナイフ。
この街では、虐殺の為ならナイフは非常に便利な道具。
反面、虐殺以外では殆ど用のないものである。
だから、擬似警官が持つ事は寧ろあまり好ましいものではない。
それなのに、ウララーはナイフを握る。
虐殺厨の遺体も、普段は裁いた後は触れずにおくもの。
何故ウララーは擬似警官でありながら、このようなことをするのだろうか。
答は前述の通り、自分自身の為。
それは、あの出来事がウララーに刻んだ傷。
爪痕を埋めるものが、虐殺厨の遺体にあるからなのだ。
513
:
魔
:2008/04/04(金) 23:46:17 ID:???
ナイフを逆手に持ち、女の胸に突き立てる。
景気よくそれは肉を裂き、肋骨をいくつか砕いた。
不快な音と感触が、それぞれ耳と手に残るが、気にしてはいられない。
ウララーは更に刃を走らせ、乱暴に解剖を続けた。
「・・・っ」
自分は医者でもないし、扱っているものはメスですらない。
だから、女の胸は獣が食い散らしたかのように切り開いてしまった。
ただでさえ内臓に不快感を覚えるのに、これでは自縄自縛を行っている。
うっすらと胸やけを感じるが、背に腹は変えられない。
爪痕を埋める為には、なんとしてでもそれにたどり着きたいのだから。
折った肋骨と剥いだ皮を一緒に切除し、肉塊の上に投げ捨てる。
べしゃと湿った音がして、少量の血が辺りを汚す。
次いで、肋骨に守られていたそれらを分け、取り出していく。
その先にあるものは、生命を支える赤いモノ。
「・・・あった」
動かない心臓を見つけ、ウララーは喜びと共に呟いた。
※
あの出来事以来、ウララーの精神を苛むものが芽吹く。
原因はおそらく、フーの亡きがらを抱いて帰路についた事。
視界を阻む程降りしきる雨の中でも、その臭いはした。
皮膚を失い、露になった肉から漏れる血の腥ささ。
それを、否応なしにウララーは身体の中に入れてしまったのだ。
虐殺を好む者にとって、被虐者の悲鳴は高揚感を煽る音楽。
さしずめ、はらわたや血の臭いは煙草の煙のようなもの。
科学的に証明されていないものの、それらには妙な中毒性があった。
それがウララーの心を蝕むようになるまでに、時間は掛からなかった。
喉を掻きむしりたくなるような渇きを潤すには、元である血が必要になる。
しかし、自分は擬似警官という立場である為、虐殺は行えない。
渇きを抑える為に自らの血を飲んだこともあるが、どうしてか効果は全くなかった。
半ば命懸けの折衷案も、身体はうんともすんとも言わなかった。
そして、ウララーが行き着いた答が、虐殺厨の血を貰うこと。
だが、それでは裁く事の意味がなくなってしまう。
死体を漁ることをしてしまえば、それは虐殺と変わりない。
擬似警官という肩書を殆ど踏み外したような結論だが、本人にはそれ以外に道がないのだ。
※
「・・・」
血管を切断し、女の身体から心臓を切り離していく。
中身を、血液をなるだけ零さぬように慎重に。
上手いこと切り離して、ウララーはそれを掲げる。
その血の詰まった肉の袋は、それなりの弾力をもっている。
取り出す際に漏れた赤い液が、艶かしく滴り落ちる。
奇妙な妖艶さをウララーは感じ、ついそれを眺めていた。
ふと我に返ると、やるべき事を思い出し行動に出る。
何度かやってきたことだが、多少ながら躊躇ってしまう。
それでも、方法はまだこれしかないのだから、やるしかない。
ウララーは心臓の穴の開いた所に口をつけ、一気に煽った。
514
:
魔
:2008/04/04(金) 23:46:58 ID:???
「っ!!」
最初は、鉄分の味。
直後、むせ返る程の腥ささが鼻をついた。
独特のぬめりが喉に絡み付き、それを身体が拒絶する。
内臓までも戻しそうな勢いで吐き気が込み上げてくる。
ウララーは中身がなくなった肉の袋を投げ捨て、両手で口を塞ぐ。
逆流してきた胃液と血を、必死で押し込めようとする。
「―――!」
身体は受け付けなくとも、精神がそれを欲しているのだ。
吐き出してしまっては、元も子もないわけで。
脂汗と涙が溢れ、全身が殆ど痙攣しているかのように震え出す。
それでも、ゆっくりと、確実に血を飲み込んでいく。
ほんの少量でも、喉を通過する度に酷い不快感を覚える。
胃はそれを押し出そうとしているのに、無理矢理詰め込もうとしているからだろうか。
気絶しそうな程の胸やけを感じながら、渇きは確実になくなっていった。
口の中のものを全て胃におさめても、両手はそのまま。
姿勢も足の指一本動かすことなく、状態を維持する。
下手に行動すると、また胃液が逆流しかねないからだ。
ウララーは石になったかのように、その場からぴくりとも動かなかった。
※
どれくらいの時間が経っただろうか。
無限とも感じ取れる時の中、気絶と覚醒の境目を覚束ない足取りで歩いていたような。
そんな奇妙な感覚も消え、胸やけも何もかもがおさまった。
「はあ、っ」
ウララーはとりあえず、緊張を解く為に息を大きく吐いた。
直後、自慰の後のような倦怠感が、全身を包み込む。
やっと冷静になることができた今、今後の事を考えなければ。
ほぼ殺人と同じ事をする為、人目のつかない所で虐殺する虐殺厨。
そいつらを追う事で、自分も人目のつかない所で血を啜る事ができる。
だが、そんなことばかりしていては、いずれ誰かにバレてしまうだろう。
虐殺厨が自分に見つかるように、恐らくは、同業者に。
いっそのこと、自殺してしまおうか。
そう考えはしたけれど、それではフーにあわせる顔がない。
家庭も何もなく、その上眼まで亡くしたフーでさえ、生を望んだからだ。
それに、あの少年だって被虐者という立場でありながら、彼なりの生を探していた。
片腕を焼かれる程の、凄まじい虐待を身に受けても、だ。
そんな彼等がいるというのに、くだらない精神の病に侵されているだけの自分が、自殺していいのだろうか。
「・・・いや」
自分だけが、逃げていい筈がない。
ヒトの命が軽いこの街で、自殺という選択肢を選んでいいわけがない。
たとえ狂ってしまいそうな程の苦痛を感じても、生き延びる。
皮を剥ぎ取られようが、全身の骨を砕かれようが、はらわたを焼かれようが。
自分は、フーの為にも自身の為にも、生き延びなければならない。
515
:
魔
:2008/04/04(金) 23:47:33 ID:???
渇きも失せ、精神も持ち直した。
自身が今するべきことは、特にない。
せいぜい、身体に付着した血糊を落として帰路につく位だ。
「・・・」
何と無く、辺りを見回してみる。
風に揺られ、優しく踊る木々達に囲まれた空間。
外からは見慣れていたこの雑木林も、中から見るとまた違った印象だ。
どうせ、家に帰ってもすることは何もない。
せっかくだから、この雑木林の中を歩き回ってみようか。
広大な公園とはいえ、迷うことは滅多にないだろう。
と、あいた時間を潰す為、ウララーは雑木林の更に奥へと足を運んだ。
※
自分の腰のあたりまで伸びた雑草。
所狭しと生えている電信柱ほどの太さの木々。
それにこれでもかという程絡み付く蔦。
奥に進む度に、段々と雑木林は濃さを増していく。
もはやそれは、樹海と勘違いしてしまいそうな勢いだ。
まるで異次元に入り込んだような感覚。
そこまで広くないと思っていたのに、これはとんだ誤算だった。
(・・・自殺しないって決意したばっかりなのにな)
万が一のことを想像して、鼻で自身を自嘲する。
だが、林の中は被虐者はおろか虫の気配すら全くしない。
先程から感じている異次元というそれも、あながち間違いではないのかも。
そんな無駄な妄想をしつつも、足を動かす事は止めない。
暫くして、視野が広がった。
「ここ・・・は?」
予想だにしないものが視界に飛び込んだので、思わず声に出す。
木と雑草しかない筈のこの雑木林の中に、建物があったからだ。
土色になり、ヒビと蔦にまみれたコンクリの壁。
ガラス窓は全て割れていて、カーテンが無惨な姿を露にしている。
何十年もの間放置されたようで、損傷は激しかった。
建物自体の大きさはあまりなく、周りの木々よりも背は低い。
存在する場所も兼ねて、その建物は不気味だった。
本当に、異次元に入り込んだような気にさえなってしまう程。
不用意に近付くのは危険だろう。
「・・・!」
そう警戒した矢先のことだ。
建物の入り口付近に、血の痕。
色合いからして、まだ新しいもの。
雑草を掻き分けてそれに近付き、血糊を調べる。
指で掬い臭いを嗅いでみるも、一般AAではなく被虐者のものだ。
自分が動く必要は、なさそうだ。
(だが・・・)
入り口に立つと、奇妙な感覚が更に強まる。
今度はこの建物自体が、自分を誘っているような。
しかし、こんな不気味な建物に易々と入ってはならない。
不確定要素が多過ぎる上、思考が警鐘を鳴らしている。
―――入れば、また自分は大きな事件に巻き込まれてしまう。と。
どうしてそう考えてしまっているのかは、わからない。
あの出来事でさえ、フーの悲鳴を耳にしただけの話。
いつどこで、何が起きるかなんてわかる筈がないのに。
516
:
魔
:2008/04/04(金) 23:47:55 ID:???
※
複雑な気持ちの中、建物に入る事にした。
血糊は、奥の方に点々と落ちている。
あたかも自分を誘っているかのように。
「・・・」
意を決して、血の痕を追って歩いていく。
驚くことに、建物の中には光があった。
天井の蛍光灯は全て沈黙していたが、足元の非常用照明は生きている。
内も外も棄てられたこの建物を、必要としている者がいるのだろう。
(だが、ここは・・・)
一体、何に使われているのだろうか。
パッと見た感じでは、病院のような構造。
所々にある部屋を覗くと、医療器具らしきものとベットがある。
どれも赤錆と埃にまみれていて、使い物にならないが。
他にも、奇妙な形をしたフラスコや蛍光色の液体が入ったビーカー。
何に使うのか全く想像できない大きな機械まである。
揚げ句の果てには、診療台の上で白骨化したAAまでもがいた。
そこまで見て、ウララーはある事を思い出す。
都市伝説として聞いた、Vという化け物の話。
Vが存在したというのなら、研究所も実在しているということ。
もしかしたら、ここはVが造られた研究所ではないだろうか。
そう考えるのは安直過ぎるが、他にまともな答が見つからない。
病院だとしても、不必要なものがあまりにも多過ぎる。
解きたい疑問と知りたくない答という、相反する気持ちを抱きながら、ウララーは更に血の痕を追う。
赤錆とヒビに塗れた建物の廊下を、ゆっくりと踏み締めながら。
外から見た時よりもずっと広く、入り組んだ空間。
ふと、前方の突き当たりを見ると、強い光が漏れているのがわかった。
非常用照明なんかよりもずっと明るい上、血の痕もそこに進んでいる。
「・・・」
その光から感じるのは、光の色とは正反対のどす黒さ。
認めたくはないが、それはVの放つ殺気と全く同じだった。
だが、ウララーは冷静だった。
先程から感じている違和感が、思考を麻痺させていたからだ。
殆ど導かれるがままに動いてきたウララーにとって、それは障害にすらならない。
何も考えず、突き当たりを曲がって光を見る。
そこには、割れたガラスで隔たれた巨大な空間があった。
例えるなら、水族館にある大きな水槽。
その中にあるものを全て取っ払ったようなもの。
天井にある円い蛍光灯が、その空間を激しく照らしている。
「・・・ッ」
その空間の中は、凄まじいものだった。
ほぼ全体が、血糊と思しきもので黒く塗り潰されている。
白骨化したAAも、半ば形を失いつつそこらじゅうに散らばっている。
研究員のものと思われる、血みどろの白衣も紛れ込んでいた。
517
:
魔
:2008/04/04(金) 23:48:57 ID:???
都市伝説として、聞いた通り。
あまりにも類似した点がありすぎて、不気味なことこの上ない。
うっすらと吐き気を催しながら、ガラスの壁の下部にあったパネルを見つける。
それは埃と乾いた血糊で酷く汚れていた。
よせばいいのに、気が付いた時にはその汚れを指で払いのけていた。
「・・・嘘、だろ」
もはや、感情なき笑いしか込み上げてこない。
そのパネルの真ん中に、小さくも凛々しく彫られた文字が一つ。
―――『V』
あの化け物は、ここで育てられた。
疑問が、確信となってしまった。
なにもかもは、遠い過去のこと。
だが、ウララーはやり場のない怒りを覚えていた。
あの出来事の片棒を担いだ者は、既にこの街で産声を上げていたのだった。
全ては終わってしまった話。
それなのに、子供が吐く負け惜しみのような気持ちが溢れ出す。
もっと早くここに気付き、Vが育つ前に殺していれば。と。
ウララーはその場に崩れ落ち、パネルに恨めしく爪をたてる。
がり、というそれを引っ掻く音は、燻り始めた復讐心の声のようだった。
同時に、フーと一緒に過ごした日々がフラッシュバックする。
更にそれに呼応して、あの出来事もコマ送りで再生されていく。
涙が溢れているということに気付くのには、少し時間が掛かってしまった。
※
不意に、物音がした。
咄嗟に涙を拭い、物音がした方を向く。
少しだけ開いた扉の奥で、すう、と影が動くのが見えた。
大きさからして、ちびギコかその位のAAのようだ。
こんな廃墟に用のある子供なんていないだろうに。
そう考えたが、もしかするとホームレスの類かもしれない。
雨風をしのぐだけなら、ここは都合の良い場所になるだろう。
被虐者という線もあるが、無駄に思考を張り巡らせても意味はない。
「・・・」
とりあえず自分の眼で確かめようと、ウララーは立ち上がる。
念のため、銃の中に弾が込められていることを確認してから、扉へと向かった。
きい、と不快な音をたてながら扉を開く。
用心に用心を重ねつつ、ゆっくりと中に入る。
中は先程見てきた部屋達と、なんら変わりないものだった。
節操なく並べられた怪しい道具や薬品、そして白骨。
ただ唯一、散らばっている血糊がまだぬめりを持っている所が違っていた。
「これは・・・」
被虐者という答は、間違いだと悟る。
赤い液体をばらまく者は、決まって加虐者しかいないからだ。
残る選択肢は、危険を孕むものばかり。
だが、それでも確認せざるを得ないわけで。
抜き足差し足と、部屋の奥へと進む。
ふと、妙な音がかすかに聞こえた。
ウララーは一端動くのを止め、音を拾う事に集中する。
その音はどこか湿った感じのもので、咀嚼に近いものだった。
518
:
魔
:2008/04/04(金) 23:49:50 ID:???
更に耳をすますと、それは部屋の角から聞こえてくる。
慎重に、ホルスターの中の銃に手を掛けつつ、近付く。
「・・・」
そこには、子供がいた。
部屋の隅っこで、肉塊をゆっくりと咀嚼していた。
こちらに背を向けているので、顔は見えない。
影の正体はわかったものの、肝心の答が出てこない。
何故なら、子供は見たことのない容姿をしていたからだ。
ギコ種よりも濃い青をした身体に、特徴的な丸耳。
ちびギコじゃないかと思ったが、こういった雑種は前例がない。
「・・・?」
と、不意に子供がこちらを振り向く。
その顔立ちは、黒目がちなちびギコといった様子。
マスコットのような感じなのだが、口元の血が物凄いギャップを与えている。
自分も身体を血糊で汚しているから、あまり言えたことではないが。
「あなたは、誰ですか?」
「えっ?」
問い掛けようとした矢先、質問をされてしまう。
出鼻をくじかれたような気分だが、質問を質問で返すわけにはいかない。
とりあえず、自分の名前と身分を軽く説明しておいた。
「ウララー、さん。ですか」
「ああ」
ここに来た経緯はぼかして説明したが、言及はされなかった。
馬鹿正直に話しても、通じはしないと判断しての事だ。
子供からの質問が途切れた所で、今度はこちらから問い掛ける。
「お前はここで何をしている?」
「え?・・・えっと、生活?」
「どういうことだ?」
※
曰く、彼はこの研究所で産まれ育ったとのこと。
両親は試験管か、或いは血の繋がっていない科学者か。
そんな事が思い浮かんだが、一端それは保留することにした。
更に聞いていくと、研究所がこんな姿になったのは数カ月前だとか。
自分と同じ境遇のAAが、ある日暴走し出して研究員を虐殺。
生き残ったのは自分と、他の自分と同じ者達のみ。
その者達は数日してここを出たが、自分だけはここに残った。
※
「―――そして、今に至ると」
「うん。お腹がすいたら、『しぃ』っていうAAを捕まえて食べてた」
意外な言葉。
被虐者とはいえ、こんな子供が体格差のでかいAAを補食できるのだろうか。
もしかすると、この子供も強暴な一面を持っているのかもしれない。
かのVを研究していた所でもあるし、白だとは言い難い。
が、あえて言及することは避けた。
何故なら、そんな強暴性があったとしたら、今自分は生きていないだろうから。
それに、Vのような力を持っていたら、少なからず殺気が漏れる筈。
(『しぃ』か・・・)
被虐者だが、AAの肉を漁っていると話す彼。
容姿もあってか、ふとあの少年の影が垣間見えた。
519
:
魔
:2008/04/04(金) 23:50:32 ID:???
子供が一人で、こんな廃墟で生活をしている。
その事実は、自分にとって少しばかり心が痛む。
昔から、周りのAAからは情に脆いと言われていた。
しまいには『お前のヒトの良さはいつか身を滅ぼすぞ』とまで忠告されたような。
だが、それが自分である。
たとえ偽善と罵られようが、無駄な行為と評価されようが。
目の前にいる不幸を背負った者を、助けずにいられようか。
「なあ、お前」
「はい?」
「出会った事も何かの縁だし、俺の家に来ないか」
「・・・?」
言ってる意味がわからないとでも言いたげに、子供は首を傾げる。
世間から隔離された世界で生きて来たのだから、当たり前か。
「ここで生活するのは何かと不便だろう。俺が飯と寝床を用意してやるよ」
「・・・いいの?」
「ああ」
と、子供の表情が一変する。
そこには喜びと、ほんの少しの戸惑いが見えた。
話がある程度進んだ所で、ふとある事を思い出す。
「そういえば、名前を聞いていなかったな」
「名前・・・」
会話が途切れる。
最初は何かわからなかったが、反応からしてどうやら名前を貰っていない様子。
どうしたものかと考え、先程のVのパネルを思い出す。
「あー、悪い。今のはなかったことにして、お前の部屋に案内してくれ」
「うん」
※
先程いた場所と、さほど離れていない所に彼の部屋はあった。
Vの部屋ほど荒れていないが、建物自体が傷んでいるのでやはり見てくれは悪い。
「ここです」
彼にそう促され、相槌をうった後パネルを探す。
案の定、それはガラスの壁の下部に同じようなものがあった。
指で擦り、こびりついた汚れを落とす。
そこにはアルファベットでこう彫られていた。
―――『 P O R O R O 』
意味はわからないが、恐らくこれが彼の名前。
ちゃんとここに名前があるというのに、彼自身が知らないというのは少しおかしいが。
研究員達は、付けるだけ付けておいて彼をその名で呼ばなかったのだろうか。
そうだとすると、少し惨いような気さえする。
とりあえず、深く考えるのは止めておき、そのままの読みで彼の名前にすることにした。
「一緒に暮らすようになったら、お前の事は『ぽろろ』と呼ぼう」
「ぽろろ?」
「ああ、お前の名前だ」
「名前・・・」
彼、いやぽろろは少し考えたそぶりを見せた後、小さく笑った。
つられて、自分も笑みで返す。
520
:
魔
:2008/04/04(金) 23:51:02 ID:???
名前も決まり、後は家へと帰るのみ。
研究所を出た二人は、林の中を真っ直ぐ歩いていく。
道中、互いの名前を呼び合いながら笑って話した。
行きは恐ろしく広く感じたこの林も、帰りとなるとそうでもなかった。
あっさりと舗装された道を見つけると、寄り道せずに帰路についた。
新しい生活を想像し、それに心踊らせながら。
※
研究所がなぜ雑木林の中にあったのか。
そこでVやぽろろが飼育されていた理由は。
あの研究所を扱っていた組織は。
語るには、謎が多過ぎる。
その謎に、ウララーはまた大きな事件に巻き込まれる羽目になる。
あの出来事が霞む程の、闇で生きる者に牙を剥かれて。
―――白昼夢は、悪夢へと姿を変える。
続く
521
:
ロディウェイ
:2008/04/26(土) 11:39:48 ID:SOOVd3uQ
小説書くの初めてです。よろしくお願いします。
『残酷サイボーグ シーン』
僕はシーン、だだし、普通のAAじゃない。
虐殺好きのモララー種が作った虐殺用のサイボーグだ。
力は60キロの物を持ち上げ、目にはズーム機能と暗視スコープ機能、
足には、ローラーダッシュと呼ばれる車輪があり最高時速70キロのスピードがでる。
これから僕は、ちびギコやアフォしぃが暮らすマターリシティに来た所からはじまる。
ACT1「初めての虐殺」
12時28分、僕はマターリシティに着いた。
黒いマントを身に付け、右手には重さ31,4キロあるM-TK0334ライフルを持ちながら町に入った。
公園では、ちびギコがべびギコと砂場で遊び、ビルが並ぶ道では、アフォしぃが
「キョウモゲンキニシィ〜シィ〜シィ〜、ミン(以下略)」
と歌いながら歩いている。
僕が道のすみを歩いていると、一人のしぃが来た。そして、
「ハニャ!!ダッコ!!」
と言ってきた。だが僕はそんなのに構わず無視しようとした。だが、
「シィヲムシスルナンテコノ、ギャクサツチュウ!!」
この言葉に反応し、僕はそのしぃの耳をつかんで至近距離からこう言った。
「虐殺厨・・・、人聞きが悪い。僕はそんなのに興味はない。」
そう言い放ち、しぃの両耳をもいだ。ブチッと鈍い音がした。
「シィィィィィ!!イタイヨーー---------ー!!カワイイシィチャンノオミミガーー---------!!」
アフォしぃは、手足をじたばたさせながら泣き騒いだ。
つまらない・・・そう考えた僕は、100mほど離れてから、ポケットから弾を2つ出し、ライフルに詰めて構えた。
標準をしぃの右胸に合わせて一発撃った。
しぃの右胸から綺麗な赤い血が花びらのように散った。それから間を開けずに頭を撃った。
そして、額に10円玉ほどの穴が空き、何も言い残す事なく死んだ。
そうか・・・これが、これが虐殺・・・。
僕は、心にそう感じながら後にして先に進んだ。
続く
522
:
ロディウェイ
:2008/04/26(土) 15:02:56 ID:SOOVd3uQ
>>521
続きいきます。
『残酷サイボーグ シーン』
ACT2「武器商人」
アフォしぃを一人倒してから10分、僕は自動販売機で水を買い、近くにあったベンチに座って休んでいた。
そんな時。
「ワチョーーーjはふおdsfぴっす9あ0c・・・」
僕のセンサーからこの叫び声が聞えてきた。どうやら、1kmさきのスクラップ工場かららしい。
とりあえず、興味があるので警戒しつつスクラップ工場に向かった。そこには、
無残な姿で死んでいるオニーニが残っていた。体中にマシンガンでも食らった感じだった。
しかし、誰の仕業だろう・・・
そう考えていた時。
「ウワアアアアアアァァァン!オトウトーーーーーーーー!!」
正面から別のオニーニがきた。どうやらやつの弟らしい。
「シッカリシロオトウト!!オトウトー!!」
そう泣きさけんでいたが、やがて僕に気付いたようでこう言ってきた。
「オマエガオトウトヲコロチタンワチョ!?ゼッタイニ、ゼッタイニユルサナイデチーー!!」
勘違いされているようだ。だが説明してもわからないだろう。
そうしてる内に僕に仕掛けてきた。
「オトウトノカタキーーーーーー!!」
僕は足のローラーで後ろに下がった。オニーニは、なにかにつまずいて倒れた。
「ワヒョヒャーーーーン!イタイワチョー!!」
特に怪我はなさそうなのだが・・・とりあえずオニーニに近づき、海苔をはがした。
「アアアアーーー、ノリヲカエスワチョーー!!」
オニーニは、海苔がないと中の具(いわゆる脳の事)が出てしまうらしい。
それで僕は、足払いを掛けた。
「ワギャッ」
中の具が飛び出し、それっきり動かなくなった。だが、
「イマワチョ!!」
後ろのごみの山の上からまたオニーニが出てきた。しかも右手に包丁、左手にクローを装備している。
いくら僕でも防げない。初めての深くだった。
覚悟を決めて目を閉じたその時。
ドガガガガ!!
銃声が響いた。
「ジョーーーーーー」
それで3匹目のオニーニが撃たれた。
「やあ、危ない所だったね。君もなかなかやるじゃないか。」
「!?誰だ!!」
振り向くとそこには、ソ連製のマシンガンをもった男がいた。
年齢は40才ぐらいだ。
「いや失礼した、私は武器商人をやってるモラソール・エレダン。
このスクラップ工場の近くに住んでいるんだ。どうだい、ここじゃ難だから
私の家で話をしません?」
「ああ。」
やる事を決めてないのでとりあえず甘えてモラソールの家に行く事にした。
ここから大きな組織と戦う運命とも知らずに・・・
続く
523
:
ロディウェイ
:2008/04/27(日) 10:37:46 ID:l3U/M5Mg
>>521
続きいきます。
『残酷サイボーグ シーン』
ACT3「過去」
僕はモラソールに案内されて彼の家に着いた。
隠れ家的な感じだが重火器を取り扱う店らしい。
そして家の中に入り、椅子に座って会話を始めた。
「いや〜、このスクラップ工場で普通の人が来たのは3年ぶりだよ。
あ、それより君、虐殺暦はどれくらいかな?私は10年だよ。」
「ここに来てしぃとオニーニ各一匹ずつ。」
「へえー、そうか。んでそのライフルはどこで買ったんだい。ぜひとも買いたいのだが。」
「これは売り物じゃない。」
「冗談だよ。」
と僕を興味深い感じで見ながら話していた。途中、座り直ったと思ったら
今度は真面目な顔をしてこう話かけた。
「君の過去に興味がわいてきた。良かったら聞かせてくれないかな。」
僕は一瞬戸惑ったが話しても大丈夫だと思い、話をした。
「それは一週間前・・・」
一週間前、僕は目覚めた。
周りにはよくわからない機械がおいてありライトがチカチカしていた。
その時声がした。
「開発成功だ!とうとう夢がかなった!!」
と大きい声で言っていた。僕は声のした方向に向いた。
そこには、ガラス越に白い服を着た男がいた。
「気がついたかね、君は今、虐殺サイボーグとしてこの世に生まれてきたのだよ。」
虐殺サイボーグ・・・いったい、いったい僕は何なんだ?
そう考えていた時、男が言った。
「いきなりですまないが、俺はもう行かなくてはならない。
そこに君の説明書とM-TK0334ライフルがある。これをを持ってマターリシティに行き、
アフォしぃ、オニーニ、ちびギコの虐殺を行なうのだ。」
そう行って立ち去った。
「待ってくれ!まだ聞きたい事が・・」
だが僕の声はこの部屋に響いただけだった。
しばらく立ち止まっていたが、このままでは始まらないので説明書を読み、
ドアを見つけて外に出た。
そこには草原が広がっており、遠くに町が見えた。おそらくマターリシティのようだ。
「虐殺、マターリシティ・・・何があるんだ。」
そして、僕はローラーダッシュで町に向かった。
続く
524
:
魔
:2008/04/27(日) 17:31:55 ID:???
>>509
〜より続き
『裏話 〜後遺症〜』
ひょんなことから、ウララーはぽろろというAAと一緒に暮らすことになった。
謎だらけの建物の中で出会った、謎だらけのぽろろ。
ウララーは、その謎については言及しなかった。
無駄なしがらみが増えるかもしれない、と考えてのことだ。
しかし、ウララーのその考えはいずれ自身を滅ぼしてしまう。
気がついた時には、既に手遅れになっているだろう。
忠告する者もなく、ウララーは悪夢に巻き込まれていくのだ。
―――その話は、少しばかり先の話。
※
新しい生活。
ぽろろは新たな家族に歓迎され、ウララーは新たな家族を招待する。
これから、賑やかな毎日が始まっていく。
そう想っていたのもつかの間。
家族が増え、愉しい未来が待っていようが、爪痕には是非もない。
ウララーに飢えと渇きが再び襲い掛かってきたのは、すぐのことだった。
朝。
久しぶりに、ラジオの音に更に声を重ねての朝食。
飛び交うのは自身とDJ、そしてぽろろの言葉。
賑やかとまではいかないが、一人とラジオのみよりは遥かに良い。
だが、それらを邪魔するかのように精神が疼く。
水分で補うことができない喉の渇きを、訴えていた。
まるで心の中に潜み、小さく暴れる悪魔のよう。
平然を装おうとするも、やはり顔にはうっすらと滲み出るようで。
「・・・ウララー?」
「ん? どうかしたか」
「いや・・・どこか、具合でも悪いのかなって」
「別に、何ともないが」
会話を重ねる度、心配される回数が少しずつ増えていく。
それは渇きが強まっていくのと、殆ど同じ早さだった。
ぽろろに余計な負担を掛けまいと、毎日虐殺厨を捜した。
だが、あの日出会った女の次は、未だにない。
路地裏も公園も、血塗れの廃屋にすら虐殺厨はいなかった。
もう既に少年の話は耳にしないし、新たな殺人鬼が生まれた事も聞いたことがない。
自分の知らない誰かに怯えているのか、或いは少年が遺した事件の名残か。
虐殺厨がいない理由を、様々な憶測を並べて考える。
だが、渇きのせいで思考も鈍り、ちょっとした推理すらままならない。
あがけばあがく程、渇きはゆっくりと精神を蝕んでいった。
※
ぽろろと出会ってから、何日目かの遅い朝。
もはや渇きを隠し通す事は出来ず、しっかりと顔に出てしまっている。
とりあえず疲労のせいにはしておいたが、家主がこれで良いわけがない。
擬似警官を取るか己を保つ事を考えるべきか。
迷った揚げ句の答を、今日実行することにした。
いつもと同じ物を持ち、いつもの時間に外に出る。
「それじゃ、出掛けてくるから」
「うん。いってらっしゃい」
ぽろろに見送られた後、ゆっくりと玄関の扉を閉めた。
525
:
魔
:2008/04/27(日) 17:32:34 ID:???
※
ふらふらと宛もなく歩き、街を散策する。
晴れと曇りがはっきりしない空模様は、まるで自分の心のよう。
辺りには、虐殺はおろか行き交うAAすらいない。
休日でもあるし、店にはシャッターが下りている。
聞こえるのは虫と鳥の声に、風でそよぐ草木の音のみ。
皆が皆寝静まっているような時間でもないし、その静寂は不気味だった。
「・・・」
だが、それはウララーにとって寧ろ好都合。
目的を、何の心配もなく熟せそうだからだ。
※
やってきたのは、商店街。
ただでさえ閑散としているここは、街全体の静けさもあって静寂が更に濃い。
虫の声も草木が踊る音も、ミュートを掛けたかのように全く聞こえなかった。
そんな半ゴーストシティの中を、ひたすら練り歩く。
路地裏から、補修不可能な位傷んだ廃屋まで。
どうにもできない渇きを潤す為に、ウララーはとことん足を動かした。
もう、精神的に余裕はないのだ。
前回の女のように、都合が良すぎる事を願う暇はない。
―――誰でもいい。
喉元を掻きむしり、頸動脈を引きちぎりたくなるような感覚の中。
頭の中を過ぎる、擬似警官としてあるまじき思考。
実行すると決意はしたが、やはり踏み止まってしまう。
擬似警官という立場を守りたいと想う心。
血が欲しいと叫び、喚き立てる精神。
どちらもあまりにも強い、折れないものとしてぶつかり合う。
「・・・クソ、っ」
芽吹くのは、やり場のない怒りと苛立ち。
滲み出る脂汗が頬を伝い、顎から雫となって地に落ちる。
どうにかしてこの渇きを抑えたい。
そう考える内に、段々と欲求の方が強くなってくる。
麻薬中毒者の気持ちが、何と無くわかったような気がする。
そんな自虐をする余裕も、やがて無くなっていく。
自我が崩壊する前に、早くこれを―――。
「!」
うっすらと目眩を感じる中、路地裏にあった段ボール。
その中に寝ているちびしぃを見つけ、思わず心臓が跳ねる。
出合い頭でもないのに、余程切羽詰まっているのだろうか。
己の情けなさを呪いたくなったが、事を成すのが先だ。
心臓の鼓動が、破裂しそうな程勢いを増す。
焦燥感が激しくなりつつも、ちびしぃを起こさないように静かに行動する。
ゆっくりと手を伸ばし、その華奢な首元をそっと掴んだ。
「・・・」
そのまま持ち上げ、じっくりと眺める。
寝顔は人形のように可愛いのだが、自分には血の詰まった風船にしか見えない。
今すぐにでも腹をかっ捌いて喉を潤したいが、こんな所では行えない。
万が一、通行人に見られでもしたら、後は泥沼に嵌まっていくシナリオしか見えないわけで。
どうしようかと迷っていると、背後から物音。
咄嗟に振り向くと、そこにはちびしぃの親と思わしきAAがいた。
526
:
魔
:2008/04/27(日) 17:33:10 ID:???
「チョット! ワタシノムスメニナニシテルノ!?」
出会って早々甲高い声で罵声を浴びせてくるアフォしぃ。
苛立ちもあり、種特有の不快感がそれを更に煽る。
慈悲の心もへったくれもない今、気が付けば手の中にはちびしぃでなくナイフがあった。
「・・・」
「シィィィッ!!?」
煩いこのアフォしぃを黙らせようと、身体が勝手に動いてしまう。
空いている手でアフォしぃの首を掴み、壁に押し付ける。
間髪入れず、身動きの取れなくなったアフォしぃの眉間目掛けナイフを突き立てた。
ナイフはアフォしぃの皮膚を裂き、頭蓋骨を砕いて脳を突く。
何とも言えない不快な音と感触が全身に伝わり、苛立ちが萎縮する。
「あ・・・ッ」
直後、罪悪感が押し寄せ心を一気に塗り潰す。
両手の力が抜けると同時に、二、三歩後退る。
支えのなくなったアフォしぃは、ややあってどうとその場に倒れ込んだ。
多少の痙攣と、ナイフと頭蓋の隙間から流れ出る赤い体液。
アフォしぃは既に肉塊となって事切れていた。
殺してしまった。
唯の一時的な、くだらない感情のせいで。
理性を失いかけていたとはいえ、相手が被虐者とはいえ。
擬似警官である自分が、銃で裁かずにナイフで殺害した。
体裁すら、保てなくなってきている。
白か黒かどっちつかずの位置をさ迷い続けてきたが、これではっきりした。
自分はもう、擬似警官ではいられない。
既に死肉を漁ってい時点で、本来は辞めるべきなのだが。
心が認めてはいないが、頭はしっかりと悟っている。
自分が銃を握ることは、もう赦されないのだと。
「っ・・・」
弱きを助け、強きをくじく。
それを身上としてきたのに、この様だ。
自身の不甲斐なさに、涙が滲んでくる。
この先どうすればいいのか。
目の前が真っ暗になり、立ちくらむ。
頭の中を無数の虫が暴れ回る中、ただ一人佇むような感覚。
悪が蔓延る世界で、己の正義を貫こうとしてきたのに。
虫達は、それを嘲笑うかのように蠢く。
絶望とはこういうことを言うのだろうか。
やはり、蝕まれる前に死んだ方が良かったかもしれない。
自暴自棄になりかけた時、ぽろろの事を思い出す。
(・・・そうだ)
自身の信念を貫き通すことは出来なくなったが、ぽろろがいる。
せめて、ぽろろ位は自分が護らなければ。
擬似警官としてやっていけなくとも、家族の為に頑張ればいい。
精神を蝕む病は自分の志を殺したが、ぽろろまでは殺せない筈。
そうと決めたら、早くこの渇きを抑えなければ。
目尻にうっすらと溜まった涙を拭い、こめかみを小突く。
それで軽く目を覚ましたら、足元の死体からナイフを引き抜いた。
「・・・」
柄も赤く汚れていたし、抜く時の感触もあった。
だが、不思議と刺した時よりも不快感はない。
開き直ったせいなのだろうか、どちらにせよ心への負担が少なくなった。
527
:
魔
:2008/04/27(日) 17:33:34 ID:???
「さて・・・」
残った課題は、ちびしぃだ。
今すぐここで解体し、赤いそれを飲み干したい。
が、やはり万が一の事を考え、家に持ち帰るべきだ。
辺りを見回すと、手頃な大きさの紙袋があった。
拾い上げ、穴が開いてないかどうかを確認する。
幸いにも触った感触からしてあまり古くなく、まだ使えそうだった。
とりあえずまだ寝ているちびしぃを抱え上げ、紙袋の中に入れる。
帰宅途中、今更かと言いたくなるように様々なAAが街を歩いていた。
紙袋があって本当によかったと、心底安心する。
同時にタイミングが良すぎた所に、少しだけ身震いした。
※
家に帰り着く頃には、また渇きが振り返していた。
アフォしぃを殺した時は、少しばかりおさまっていたのに。
ふと、嫌な想いが頭を過ぎったが、掘り下げないようにした。
これ以上悩みや何やらを増やしてしまっては、身体がもたない。
それに、何度も余計なことに振り回されては、事を成すことが出来なくなる。
「ただいま」
あえて小声で帰宅を告げる。
少し待ってみるが、返事を返す者はいない。
一応、家の中にぽろろの姿があるかを確認する。
と、居間のソファの上でタオルケットを被り、寝息をたてているぽろろがいた。
それを確認した後、作業を始める為台所へと向かう。
台所に入り、とりあえず紙袋をテーブルの上に置く。
次に袋の口をなるだけ音をたてないように開く。
そして、多少乱暴ではあるが、ちびしぃの首根っこを掴んで紙袋から取り出す。
「・・・」
まだ寝たままであるちびしぃ。
試しにゆさゆさと身体を軽く揺さ振ってみるが、何も反応がない。
まるで麻酔を打たれたかのように眠るちびしぃに、無駄な神経の図太さを感じる。
もしここがアフリカか何処かであれば、真っ先に餌になっていただろうに。
まあ、それだけよく眠っているということは、作業がよりしやすくなるだけなのだが。
そう思いながら、ウエストポーチに仕舞ったままのナイフを取り出す。
血を拭わずにそのまま仕舞っていたから、ナイフの鞘やポーチに血糊が少し付着している。
(ああ、後で洗わないと)
今はその場しのぎでナイフのみを洗う。
血糊が落ち、刃の上の雫が銀色に光る。
その刃で狙うのは、ちびしぃの頸動脈だ。
※
小柄なAAだと、臓器は勿論その容量も小さい。
わざわざ心臓を摘出していては、他の所から血が失われていく。
だから、ポンプである心臓を動かしたまま、別の所から血だけを抜き取る。
血の量は少ないが、一々解体する手間も省けて良い。
528
:
魔
:2008/04/27(日) 17:34:53 ID:???
「・・・」
だが、被虐者の血を呑むのは今回が始めてだ。
今までは虐殺厨の亡きがらを漁っていたから、生きたままというのも始めてである。
不安材料は多量にあるが、なりふり構っていられないのはとうの昔から。
それに、場合によってはこれを皮切りに新たな生活を始めても良い。
精神を苛まれながらの多少苦痛を伴う生活だが、付き合っていくしか他にないのだ。。
先ずは覚醒して暴れないようにする為、両手足をきつく縛る。
次にシンクの淵に、半身だけ乗り出させて寝かせる。
そして、首元にあわせて大きめのコップを置く。
簡易な下準備が出来、後はちびしぃから血を貰うだけ。
「〜〜〜ッ!」
途端、ナイフを持つ腕が震え出す。
ここに来て様々な感情が一気に爆発する。
躊躇い、戸惑い、外的刺激、体裁、理性、欲望。
もう後戻りなんて出来る筈がないのに、今更になって。
半ば暴走する腕に、頭で無理矢理命令する。
早く、このちびしぃから血を抜き取れと。
『ざくっ』
眼を強く閉じたまま、ナイフを動かしたらそんな音がした。
次いで、ぼたぼたと液体が撒かれる音。
恐る恐る眼を開けてみると、真っ先に赤が飛び込んだ。
ちびしぃの頸動脈は裂け、そこから溢れんばかりに血が流れ出ていく。
幾分か血がいろんな所に飛び散ったらしく、本人や自分の身体もそれなりに汚れていた。
その勢いの良さは非常にグロテスクであり、とてつもない不快感を覚える。
それから数秒位だろうか。
生臭さが鼻についた頃、ちびしぃに動きが。
「ハニャ・・・ッッ!?」
最初は虚ろだった眼を急に見開き、口を大きく開ける。
そこから悲鳴が漏れる前に、咄嗟にナイフをシンクに投げ捨ててちびしぃの口を塞ぐ。
流石に痛みを感じ取ったのだろうか、その覚醒は素早かった。
もし一手でも遅れていたら、凄まじい叫び声が辺りに響き渡るだろう。
一応押さえることはできたのだが、安堵するにはまだ早い。
「ムゥゥゥゥッ!」
両手足を縛られながらも、なお暴れようとするちびしぃ。
力は強くないものの、無駄な焦りのせいで上手く押さえ付けることができない。
少しばかりそれに苦戦するも、ふとある事に気付く。
眼を見開き、涙を流しながら身体で抗議している。
その潤んだエメラルドグリーンの瞳と、血が失われていき青ざめる顔。
様々な相反する要素が入り交じり、そういった意味でちびしぃはせわしない。
着実に死に向かいつつも、死に物狂いで抗う様。
少し前の自分なら、それに嫌悪を感じただろう。
弱者は、強者が守るべき者なのだから。
それなのに。
いや、それは間違いだ。
この街では、弱き者は強き者に弄ばれる。
汚染された精神が念うのは、吹っ切れかけた自分がちびしぃに感じるものは。
―――ほんの少しの、愉快さ。
529
:
魔
:2008/04/27(日) 17:35:46 ID:???
血の欲しさに闇雲に走ってきたさなか。
見出だしたくもなかった、新たな感覚。
力無く、それでいて必死に抵抗している様。
涙でどろどろに、痛みでくしゃくしゃになった愛くるしい顔。
ちびしぃの命を扱う権利を、今まさに己が所持しているということ。
征服感。
下半身が熱くなり、胸のあたりに何かが込み上げる。
未成年がタバコや酒の良さを知ってしまったような気分。
駄目だと頭では理解していても、身体や心が勝手に動く。
「ムグ・・・ゥ、ゥ」
ふと、気がつくとちびしぃは顔面蒼白となっていた。
シンクには夥しい量の血が流れていて、コップは真っ赤な塊のよう。
虐待の快楽に溺れるよりも、やはり渇きを癒す方が先。
ちびしぃももはや満身創痍だし、手を離しても問題ないだろう。
シンクに落ちない程度にちびしぃをずらし、両手足を縛ったまま、自由にさせてみる。
口を押さえていた掌にねっとりとした唾液がこびりついていたが、気にしないでおく。
「・・・っ」
ちびしぃの荒い呼吸を聞きながら、コップを持つ。
途端、先程の快楽は遥か彼方に吹き飛ぶ程の不快感。
特有の生臭さが飲まずとも鼻をつき、喉を塞ぐ。
飲まなければ、今だ残る問題を消化できないというのに。
どうしてか、虐殺厨のそれよりも酷い拒絶反応。
欲しかったのではないのか。と自分の身体に問いたくなる。
(クソッ!)
吐き気を催しながら、まどろみの世界に入り込む前に。
己に喝を入れ、一気にちびしぃの血を口の中に流し込んだ。
生臭さが体内を暴れ回り、中から外へ鼻を刺激する。
粘膜がやられてしまいそうな錯覚を覚える程の、強烈な臭い。
アンモニアのそれとは桁外れのような気さえしてしまう。
と、
「うっ!?」
遅れてやってきた、いつもどおりの凄まじい拒絶。
だが、今回は何故かその拒絶のレベルが異常だった。
口と鼻を掌で被っても、無理矢理外に出ようとする血液。
指と指の隙間から細く溢れていき、手を汚していく。
窒息しそうな位の力で必死に留めようとするが、上手くいかない。
まるで、胃そのものが存在しなかったように、逆流する。
堪え切れず、両手で口を塞ぐ。
持っていたコップは、一瞬宙に浮いてからすぐ床に叩き付けられ、音を立てて割れた。
(飲め! 飲み込めって!!)
頭の中ではそう叫んでいるが、身体が全くいうことを聞かない。
相反する思考がぶつかり合い、血の気が引いていく。
追い打ちで全身から嫌な汗が吹き出し、涙が滲んでくる。
苦しさに膝をつきながらも、顔は上を向ける。
少しでも、胃の中に入れてしまいたいからだ。
と、その体制が巧を奏したのか血が喉の奥に流れ込む。
チャンスを逃すわけにもいかず、そのまま躊躇せず一気に喉を鳴らした。
530
:
魔
:2008/04/27(日) 17:36:25 ID:???
「っ!! ぶは・・・」
血と涎でべとべとになった両手を顔から離し、息を大きく吐く。
前回よりも量は少ないが、なんとか渇きを癒すことができた。
だが、我に返って台所を見直すと、酷いものがある。
そこらじゅう血塗れだし、落としたコップが割れて破片が散乱している。
まるで殺人事件が起きたような惨状で、目を覆いたくなってしまう。
後始末が非常に面倒な事になり、溜め息をつく。
その時だった。
「うぶっ!?」
吐いた息に合わせるように、胃の中のものが逆流してくる。
迂闊だった。
何時もなら完全におさまるまで待っていたが、今回は自分のミスだ。
あまりにも酷い苦痛を感じ、それから抜け出した途端、つい気を緩めてしまった。
口を押さえようにも、もう遅い。
鉄砲水のように押し出される血と胃液は、鼻から口から物凄い勢いで流れ出る。
びしゃ、と汚い音を立て、汚れていた床を更に汚す。
「がっは!! ぅあ・・・!」
頭が割れそうな程の痛みを覚えつつ、何度も咳込んだ。
吐瀉物の上に胃液を撒き散らし、嘔吐はまだ止まらない。
苦痛は上塗りされ、今までとは比べものにならない程の渇きを覚える。
呻き声が喉から漏れ、首を絞めない程度に押さえ付ける。
(なぜ・・・!)
朦朧とする意識の中でも、死に物狂いで答を探してみる。
血を吐いたからなのか、或いは被虐者のものでは駄目なのか。
様々な謎が浮かび上がるも、答を告げる者はいない。
と、廊下の方で物音がした。
「・・・ウララーさん?」
ぽろろだった。
どうやら、コップの割れた音か何かに反応して起きたのだろう。
霞む視界の中にぽろろを見つけると、頭が揺れた。
渇きに苛まれていた身体が、すんなりと動く。
立ち上がり、シンクの中に落としたナイフを引っつかむ。
―――既に、目の前に居たぽろろはAAとして見えなかった。
自分専用の輸血パックか、または血の詰まった風船か。
ナイフを持ち、立ちくらみがした時にはぽろろの頸動脈は切れていた。
「ぎゃああっ!!?」
濁った悲鳴は、ぽろろの声。
間髪入れず頸動脈の裂け目にかじりつき、血を吸う。
桁外れの渇きを覚えているせいか、ぽろろの血は臭いと感じなかった。
「あああァ!! 痛い痛い痛い痛いぃっ!!」
何が起きたのか理解したらしく、ぽろろは抵抗し始める。
だが、子供に出来る事はせいぜい爪をたてて叫ぶだけ。
邪魔にはならないが欝陶しいので、片腕でぽろろの腕と身体を纏めて拘束する。
もう片方の腕はぽろろの頭を掴み、裂け目を拡げるよう傾けさせた。
喉を鳴らす度、癒されていく。
生臭い筈の血が胃におさまる程、気持ち良くなっていく。
ぽろろの叫び声が、なお抵抗する様が、面白くてたまらない。
脳味噌がとろけてしまいそうな程の快楽を感じる。
それをもっと感じたくて、ぽろろの頸動脈に歯を立て、拘束させている腕に力を込める。
ぽろろの腕から、バキバキと骨が砕ける音がした。
「あああああああああああああ!!!」
531
:
魔
:2008/04/27(日) 17:36:48 ID:???
※
ぽろろの一際大きな悲鳴を聞いた後、そこから意識はなかった。
気が付くと、血塗れになった台所と自分、そしてぽろろが形を崩して横たわっていた。
「あ・・・?」
首は裂け、腕は万力に押し潰されたかのようになっているぽろろを見て。
ようやっと、自分が何をしでかしたのかを理解する。
―――ぽろろを、殺してしまった。
まだ出合って間もない、幼いAAを自分の手で。
自我を失っていたとはいえ、信じたくない行為。
絶望感にうちひしかれながら、両手を床につける。
床の血溜まりには、赤く汚れた醜い自分の顔が写っていた。
青ざめながらも、眼は獣のように血走っている。
まるでVのような、化け物そのものの眼だった。
もはや、擬似警官だの何だのと悩む意味はない。
何の罪もないAAを殺し、いや、虐殺してしまったのだ。
こうなってしまうのなら、もう自殺するしかない。
渇きに翻弄され、己が新しい虐殺厨になる前に。
胸元を締め付けられるような不快感を堪え、上半身を持ち上げる。
次いで、血溜まりに落ちていたナイフを拾い上げ、自分の首に宛がう。
「ぽろろ・・・」
すまない。と謝りたかったのだが、言葉にならなかった。
ナイフを握る手に力を込め、歯を食いしばる。
その時だった。
「・・・どう、しました?」
ぽろろの亡きがらが、そう喋ったのだ。
いや、それどころか動いている。
ゾンビのようにぎこちなく、ぽろろはこちらを向いて立ち上がった。
「!?」
衝撃的な出来事に、思わず驚いて後退る。
ぽろろの首元はざっくりと切れていて、腕はぷらぷらと垂れ下がっている。
ほぼ全身真っ赤になり、誰がどう見ても死んだと思う筈なのに。
生きている。
こちらを見て、笑っている。
「あ・・・う・・・」
悍ましさに、言葉が出てこない。
呼吸が乱れ、思考が鈍る。
混乱する自分を無視し、ぽろろは首を傾げる。
「どうして、怯えてるんです?」
ぽろろがそう言ってくるのと同時、ぽろろの身体に異変が起きた。
首元の傷が真っ青な泡に包まれ、ぶくぶくと異様な音をたてる。
それが萎み、無くなった時には傷も一緒に消えていた。
続いて、腕にも青い泡が発生し、同じように元通りに。
それを見た時には、恐怖はどこかに吹き飛んでいた。
寧ろ、呆気に取られてしまっていた。
「ど、どうなっているんだ? その身体は・・・」
「え? ああ。そういえば、説明していませんでしたね」
532
:
魔
:2008/04/27(日) 17:37:50 ID:???
※
Vのいた、あの研究所出身ということを、やはり疑問に思うべきだった。
先に聞いておけば、無駄に驚く必要もなかっただろう。
ぽろろ曰く、自分は『究極の被虐者』を目指す為に生まれたとのこと。
ちびギコのような外見を持ち、脆さもそれに近い。
被虐者との明確な違いは、凄まじい自己再生能力を持っているとか。
たった一人の被虐者だけで、一生分の虐殺ができる。
子供の妄想じみた理論を、そのまま体言したのがぽろろ。
あまりにも現実離れしている話だが、疲弊した精神では否定する余裕はない。
まあ、Vという前例もあるし、受け入れない要素なんてないのだが。
しかし、
「虐待され続けるのは、流石にきついんじゃあ・・・」
虐待専用として生まれたAAとはいえ、誰しも傷つくのは嫌な筈。
身体は無事だとしても、心は堪えられるのだろうか。
そう心配したのだが、ぽろろの返答はこうだった。
「確かに虐待されるのは苦痛だけど、されないと僕が存在する理由が無くなるから」
自虐なんてものはなく、すっきりとした笑顔でそう言った。
そこに、ぽろろの強さをはっきりと感じた。
これ以上心配しては、余計なお世話になってしまうだろう。
とりあえず、ぽろろは死んではいない。
今はそのことに安堵しておこう。
「でも・・・」
「?」
「血を飲むって虐待は、ウララーさんが初めてしてくれましたよ」
不意をつかれた一言。
少しの間の後、互いに笑いあった。
同時に、恥ずかしさが込み上げてもきたが。
打ち明けるべきだろう。
ぽろろは自分の身体の秘密を教えてくれたのに、こちらも話さないと不公平だ。
だが、その秘密に良い情報なんてどこにもない。
長く息を吐いて、意を決する。
嫌われた時は、その時だ。
「実はな・・・」
全てを話した。
己を苛む渇き、血を飲むとおさまる事、飲まないと気狂いになる事。
何もかもを包み隠さず、正直に話した。
「・・・」
沈黙。
ぽろろは何かを考えてるようだが、静寂が耳に痛い。
やはり、精神におかしなものを抱えた者とは、一緒にいたくないのだろう。
諦めかけたその時、ぽろろが口を開いた。
「つまり、こういうことですよね」
「えっ?」
「ウララーさんが僕にご飯とふとんをくれるかわりに、僕がウララーさんに血をあげると」
「・・・」
無垢な表情をしながらの発言。
つい堪えきれず、吹き出してしまった。
笑う自分につられて、ぽろろもくすくすと笑う。
他人から見れば、頭のおかしい者同士の会話だと思うだろう。
しかし、自分にとってそれは、ぽろろなりの優しさが凄く身に染みた。
笑みと共に涙が溢れてきたが、掌で目元を被って適当にごまかした。
533
:
魔
:2008/04/27(日) 17:38:13 ID:???
ひとしきり笑いあった後、台所を見直す。
「さて、後片付けしないとな」
ちびしぃとぽろろの血、割れたコップの破片が辺り一面に散らばっている。
飛び散った血糊は、台所にあるものほぼ全てに付着していた。
芸術と例えて現実逃避したくなる程凄まじい惨状だったが、放置しておくわけにはいかない。
切羽詰まっていたとはいえ、面倒なことをしてしまったなと思った。
『ぐぅぅ』
不意に、ぽろろの腹から何かを訴える声。
顔を赤らめ腹をおさえるぽろろに、愛くるしさを覚える。
「・・・そういえば寝起きだったんだよな。何を食べたい?」
「え、えっと・・・」
辺りを見回して、ぽろろはある所を指差す。
指した方向を見てみると、そこにはちびしぃの死体。
初めて会った時にも、しぃを食べていたぽろろ。
やはり、食べ慣れたものがいいのだろうか。
立ち上がり、ちびしぃの形をした肉塊を渡すと、嬉しそうに食べ始めた。
「おいしいか?」
「うん」
ちびしぃを食べている、という事に不快感はなかった。
寧ろ、血で顔を汚しながらももくもくと食べる様が可愛くて。
台所を掃除する前に、先にぽろろの食事姿を眺めることにした。
※
一日を一言で現すなら、突然。
予想だにしない出来事が沢山、津波のように起こっていった。
悪い事だらけだったが、良い事も少なからずあった。
なにより、ぽろろとの関係が終わらなかった事が幸いだった。
失ったものは、多過ぎた。
だが、新たに得たものもある。
もう後戻りはできないが、前にはしっかりと道は続いている。
これから、その道をぽろろと一緒に歩んでいけばいい。
奇妙な関係だが、これから。
ずっと―――。
続く
534
:
ロディウェイ
:2008/05/03(土) 16:19:50 ID:fymts1Is
>>523
続きいきます。
『残酷サイボーグ シーン』
ローラーダッシュで町に行く間、説明書をもう一度見た。
僕の血液は特殊AA液で三ヶ月間、補給なしで活動でき、補給は水分なら何でも良いとのことだ
人口筋肉は凝縮機能で力加減が出来るとのことだった。
そして、マターリシティを休まず目指した。
「そうだったのか、なかなか面白い話だったよ。・・・そうだ!
良かったら私の家に住まないか?わからない事は、出来る限り教えるよ。」
モラソールは、そう誘ってきた。確かにまだわからない事が沢山あるからその言葉に甘えることにした。
「わかりました。お言葉に甘えてお世話になります。これからよろしくお願いします。」
そして僕とモラソールは握手を交わした。
ACT4「店番」
3日後、僕はモラソールの店で武器の整備などを手伝っていた。PA8:24
突然、電話(モラソールから教えてもらった)のベルが響き、モラソールが受話器を取った。
「あ、もしもし・・はい、はい、わかりました。すぐに行きます、では。」
と電話をきって出かける準備をした。僕は気になるので聞いてみた。
「モラソールさん、これからどこ行くんです?」
「ああ、急用が出来たからこれから出かけるよ。あ、
ついでに店の入り口の水撒きをしておいてくれ、じゃあ行ってくるよ。」
そう言ってモラソールは出かけた。僕は言われた通りにホースで水撒きをした。
水撒きが終わったのでしばらく休んでいると、右の道からベビオニーニ3匹がきた。
「ワチーワチー」「ワチョ?」「ワチー!」
どうやら道に迷ってここに来たようだ。
ベビオニは、僕を無視して店の入り口に向かおうとしていた。
店で糞尿をされては大変だ。僕はホースがある所にあったバケツをもってベビオニに近づいた。
「ワチワチ?」「ワッチョー」「ワチ?ワッチョー!」
と高い声で僕に近づいてきた。僕は一匹づつバケツに入れ、
ボースをバケツに向けた。
「ワチワチ?」「ワッチョー」「ワチョ?」
と状況を把握してなかった。そして僕は蛇口を全開にして水を流した。
535
:
ロディウェイ
:2008/05/03(土) 16:42:19 ID:fymts1Is
ベビオニーニは、三匹そろって「ワチョー!!」と言い残しおかゆになった。
そこに今度はベビオニの親のオニーニが来た。
「ベビチャーーン!!ドコニイルワチョー!!」
そう叫んでいた。が、僕に気付いて接近し、質問してきた。
「ボ、ボクノベビチャンシラナイワチョ?!」
「いいえ、知りませんが?」
僕はそう答えた。だが、
「ワチョ?アノバケツニナニカハイッテルワチョ?!」
親オニーニはそういってバケツに近づこうとしたが、僕はそのオニーニを反対側に投げて、
ホースで手足を溶かした。
「ワチョーーーー!!イキナリナニスルウ、ン゛ブムムムムム」
僕は口を抑え、海苔を剥がした。
「クハ!、ワ、ワチョーー!!ノリカエシテーーーー!!」
そう叫んだが、僕は海苔を四枚に破った。
「アアーーーー!ノリガ、ノリガーーーー!!」
そう叫びながら涙と鼻水をたらしていた。
それから間入れずに肛門に手を入れて大腸を取り出した。
「アッガガイギュウーー!!オナカガヘンワチョーー!!」
親オニーニは苦しそうにもがいていた。
そして親オニーニをつかんでバケツの真上に上げた。
僕はこう言った。
「あなたの子供は地獄かバケツの中だと思います。」
そう言って親オニをバケツに落とした。
しばらくしてから、モラソールが戻ってきた。
「ただいまー、お仕事ご苦労さん。今日はもう休んでていいよ。
後は私がやっておくから。」
モラソールは机に向かい、カバンから何かのファイルを入れた。
特に気になるようじゃないので僕は、ソファーに寝っころがった。
続く
536
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:23:51 ID:???
前編の際にコメントを下さった方々と、読んで下さった方々全てに感謝を込めて。
【流石兄妹の華麗なる休日〜百ベビ組手〜 後編】
「それにしても」
場所は、やはり競技場ゲート前。ひとしきり弟者の労を労った後、兄者が再び口を開いた。
「最後のグランドフィナーレは、凄まじかったよな・・・」
「ああ、全くだ」
「本当に凄かったのじゃ」
弟者と妹者も兄者に賛同する。
「最後に何かあるとは思っていたが、まさかあんな展開とはな・・・」
「うむ・・・」
そこで、3人はもう一度、閉会式を回想してみる事にした。
「―――特別審査賞は・・・挑戦者NO.09!料理人モナー選手です!!」
司会者の1人、ガナーが最後の入賞者を発表した。
いかにもコックといった姿のモナーが出てきて、もう1人の司会者、モララーから賞状を受け取る。
そして、そのまま4位入賞の弟者の横に並んだ。
表彰台の頂点にはトロフィーを掲げたつーが君臨している。その左隣、2位の席には銀色に輝くメダルを首から下げたおにぎりの姿が。彼は地元でも有名な虐殺者だ。
つーの右隣、3位の場所にいたのは、最初に虐殺を行ったラグビー少年のフサギコだった。やや緊張した面持ちで、ブロンズで出来たメダルを撫でている。
なお、5位に入ったのは自衛隊所属の丸耳ギコだった。彼の顔からは『何とか入れて良かった』という安堵感が滲み出ている。自衛隊の仲間と賭けでもしていたのだろうか。
全ての賞を発表し終えた司会者2人は、再びマイクを構え直した。
「以上で、結果発表を終わります!」
「入賞した方々と、惜しくも入賞を逃した選手の皆様にも、どうか暖かい拍手を!」
パチパチパチパチパチパチパチパチ!!
客席から大きな拍手が聞こえて来た。
拍手が大方止んだ所で、モララーが口を開く。
「それでは、このままグランドフィナーレへと移行させて頂きま〜す!」
その瞬間、観客席から凄まじいほどの大歓声が聞こえて来た。どうやら、相当楽しみにしていたようだ。
弟者が驚きながら周りを見渡すと、出場者達が全員、体をほぐしたり、武器を取り出したりと、何やら準備を行っている。
彼は慌てて、既に表彰台から降りているつーをせっついた。
「なあ、今から何をするんだ?何も聞いてないんだが・・・」
「アヒャ?アア、弟者ハ飛ビ入リダカラ知ラナイノカ。
・・・マア、見テロッテ。スグニワカルサ」
「・・・?」
弟者が変わらず首を傾げていた、まさにその時。
『あの』声が、スタンドに響き渡った。
「シィィィィィィィィ!ハナシナサイヨ、ギャクサツチュウ!」
537
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:24:21 ID:???
骨髄まで到達しそうなほど不快感がびりびりと響く甲高い声。
スタンド中の視線が、フィールドへの入場口へと注がれる。
そこには、競技中に特別席で我が子の死に様をじっくりと観察させられた親しぃ達の姿があった。
その数、弟者から見えてるだけでも100匹以上。実際は倍以上いるだろう。それだけの数のアフォしぃが、
「ハニャーン!ハニャーン!ハナシテヨゥ!」
「シィノベビチャンヲ カエシテヨゥ!」
「シィチャンニ ナニカシタラ マターリノカミサ(ry」
「ダッコダッコォォォォォォ!!」
―――などと喚き散らしているのだから、五月蝿い事この上無い。
出場者達が、一様にニヤリと笑みを浮かべる。その瞬間、弟者は全てを理解した。
「・・・ナ?モウワカッタダロ?」
「ああ、よ〜くわかったよ」
弟者は言いながら、レンタルテーブルから先刻使用した小剣とハンドガンを引っ掴んだ。
「皆様、準備はよろしいでしょうか?」
ガナーの問いに、出場者達は『オーッ!』と一斉に返す。
ニヤニヤ顔のモララーが、一歩前に出た。
「それでは・・・グランドフィナーレ・開始っ!!
思う存分殺りまくれェェェェェェェェェェェッ!!」
モララーの叫びと同時に、司会者2人がバックステップで司会席に戻る。
そして出場者達は、既にフィールド中央付近まで歩いて来ていた親しぃ達に、一斉に飛び掛った。
「ハニャッ!!?」
一番先頭に居た親しぃの短い叫び。それが、彼女の最期の言葉となった。
「アーッヒャッヒャッヒャ!!」
いの一番に飛び出したつーの放ったナイフが、その心臓を正確に抉ったからだ。
グシャッ!!
「ギャッ・・・」
そのまま親しぃはばったりと倒れ、もう動かなくなった。
「シィィィィィィ!?ギャクサツチュウダヨー!!」
「タスケテェェェェェェ!!」
「ベビチャンヲ カエシテェェェェ!」
「ハニャーン!ハニャーン!!」
「ハヤクシィチャンヲ ダッコシナサイヨ!」
怖がって逃げ出すしぃも居れば、今の一撃が見えなかったのか、横柄な態度を取るしぃも居る。
しかし、相手の事など関係なかった。どっちにしろ、殺すのだから。
「よし・・・つーに続くか・・・」
パァン!
弟者の狙い澄ました射撃が、ダッコを要求していた親しぃの眉間にぽっかりと風穴を穿たった。
「ダゴォォォ!?」
頭から血を噴きながら、しぃがその場に倒れ伏す。
それによって、その場に居た親しぃ達の殆どが状況を理解したようだ。
「ハニャァァァァァン!タスケテェェェ!!」
「ダッコスルカラ・・・ネ?マターリシヨ♪」
「コウビモシテアゲルカラ・・・」
「シィチャンヲ コロシタラ マタ(ry」
次々とお決まりの台詞を吐いていく―――全てが無駄だとも知らずに。
その瞬間、20人の選手達は、一斉に『虐殺者』の牙を剥いた。
「シィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!?」
538
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:24:43 ID:???
それはまさに地獄絵図だった。
際限なく飛び散る鮮血が、まるで雨のように大地を濡らす。
血だけじゃない。腕が。足が。耳が。上半身が。下半身が。首が。肉片が。
ありとあらゆる親しぃ達のパーツが、フィールドをデコレーションしていった。
出場者20人全員が全員、それぞれ違った方法で親しぃ達を次々と屠っていく。
例えば―――
グチャッ!グチャッ!!
「ハギィィィィィ!!ヤベテェェェェェ!!」
スパイクシューズを履いた足で、何度も何度も親しぃの腹を踏み潰すフサギコ。
しぃの腹部からは血が溢れ、見ても分かるくらいにブヨブヨと柔らかくなっている。内臓にも影響が出ているようだ。
ジュゥゥゥゥゥゥ!
「ア゙・・・ギャァァ・・・ギ・・・」
親しぃの腹部を切り裂いて腸を引きずり出し、その体と繋がったままの腸のみを油で揚げている料理人モナー。
体の内部にある筈の物をを高熱に晒す苦痛は想像し難い程だ。凄まじいという事はわかるが。
ブシュゥゥゥゥゥゥゥ・・・
「ジギャァァァァァァァァ!!イダイヨォォォォォ!!タスケテェェェェェ!!」
ドラム缶くらいの大きさの巨大ビーカーになみなみと濃硫酸を入れ、その中に親しぃを放り込んだ科学者じぃ。
もうもうと煙が立ち上り、水面には気泡を発する肉片がいくつも浮いている。親しぃ本体は、既に筋肉組織が露出して、それも半解している為かなりグロテスク。
ブリュリュリュリュ!!
「シィィィィィィ!!オシリガ イタイヨォォォォォォ!!」
ここでも自慢の唐辛子ペーストを使用して、親しぃをジェット機にして見せたニダー。
親しぃの脱肛した肛門からは津波の如く糞が噴出している。数秒後、その親しぃは猛スピードで壁に激突して潰れた。
ダッダッダッダッダッダ!!
「アギュゥゥゥゥゥ!!ハギャァァァァァ!!」
手にしたマシンガンで、しぃの体のパーツを1つずつ蜂の巣へと変えていく自衛隊丸耳ギコ。
両腕と片足は、すでにマトモな皮膚が弾痕に隠れて見えない。
ドグシャッ!
「ハギッ・・・」
両手持ちの大きなハンマーで、親しぃの頭部を一撃で砕いた銀メダリスト・おにぎり。
横薙ぎに振るわれた大槌は、しぃの頭をまるで力を入れすぎた西瓜割りのように粉々に吹き飛ばした。
「アーッヒャッヒャッヒャッヒャァァァァァ!!」
ザシュッ!グシャッ!!ブシャッ!!
「ギニャァァァァァァァァァ!!シィチャンノ カワイイ アンヨガァァァァァァァァァ!!」
若き覇者・つーは親しぃの足をつま先から千切りにしていく。
肉片が積み重なるたび、親しぃの悲鳴も増量していく。
スパァッ!ブッシャァァァァァァァ・・・
「ジィッ!・・・ア・・・シィィィィ・・・」
弟者は、持っていた剣で親しぃの頚動脈を見事に切り裂いた。鮮血が噴水の如く噴き出す。
さらに彼は、血を噴くしぃを抱えると、別の親しぃに向かってその大量の血を浴びせかけた。
「ハニャァァァァァァァァ!?ヤメテェェェェェェェェ!!キモチワルイヨォォォォォ!!」
悲鳴を上げるしぃ。あっという間に彼女の全身は真っ赤に染まった。
その他、選手達は多種多様な方法で親しぃ達を次々と我が子の元へと送ってゆく。
そう考えれば、それはある意味慈悲なのかもしれなかった―――送られる先が、多分地獄であるという事を除けば。
539
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:25:02 ID:???
数百匹居た筈の親しぃ達は、僅か5分程度で肉塊の山と化した。
フィールドは大量の肉片とおびただしい量の血液、そしてどぎつい異臭に覆われていた。
かなり劣悪な環境だったが、選手、観客共に大満足の表情だった。
「それでは、これで『百ベビ組手大会』を終了と致します!」
「選手の皆様も、観客の皆様も、本日はありがとうございました!
また来年、このフィールドでお会いしましょう!!」
司会の2人が締めの言葉を発し、大会は閉幕となった。
閉会宣言の後も、暫くの間、盛大な拍手が絶えなかった。
―――以上、回想終わり。
暫くの間黙っていた3人だが、弟者が不意に口を開いた。
「・・・うん。やはり凄かったな」
「ああ」
兄者が答えた。とにかく凄かった―――それが3人の感想だった。まあ、的確といえば的確か。
ふぅ、と息をついてから、兄者が再び口を開く。
「・・・ま、なんだ。とりあえず何か食べに行くか」
言いながら、彼は時計を覗き込んだ。既に12時を回っている。
妹者が腹部を押さえながら呟いた。
「そういえばお腹空いたのじゃ・・・」
「そうだな・・・そうするか」
弟者も賛同した。実際、あれだけ運動すれば腹も減るというものだ。
兄者が先頭に立って歩き出そうとしたその時、後ろから声が掛かった。
「ヨウ!3人揃ッテナニシテンダヨ?」
振り返るまでもなく、3人にはその正体が分かった。この高い声、間違いない。
「おっ・・・チャンピオンのお出ましだな」
弟者が言いながら振り返ると、そこには顔を真っ赤にして恥らった様子のつーの姿が。
「ダ、ダカラソウヤッテ呼ブナヨ・・・恥ズカシイッテノ・・・」
「つーちゃん、おめでとうなのじゃ!」
妹者からの賞賛に、まだ顔を赤らめながらもつーが答える。
「アア、アリガトナ。弟者モ、初メテニシテハヤルジャネーカ。
コレナラ、ゴキブリノ刑ハ勘弁シテヤルカ」
後半は弟者に向けられたものだ。
弟者は、頭を掻きながら苦笑。
「ははは・・・それは良かったよ。
それより、つーはこれから何か用事でも?」
つーは即答した。
「イイヤ。暇デショウガナカッタトコロダゼ」
じゃあ、と兄者が言った。
「これから俺達は昼食なんだが、つーも一緒にどうだ。
優勝記念だ、奢ってやるぞ?」
つーは、顔をぱっと輝かせた。
「ホントカ?ジャア、オ言葉ニ甘エヨウカナ」
「じゃ、行きますか、と」
返事を聞き届けた兄者が、踵を返して歩き出した。
弟者、妹者、つーの3人は、慌ててその後についていった。
540
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:25:20 ID:???
「・・・おい・・・」
兄者が苦悶の表情をしながら言った。弟者は呆れ顔、妹者は驚愕の表情を浮かべている。
「アヒャ。ナンダ?」
つーがご機嫌な様子で答える。
「・・・俺は、確かに昼食を奢ると言った」
「アア、言ッテタヨナ。アリガタク、ゴ好意ニ甘エテルゼ」
そこで兄者は、ふぅぅぅぅぅぅ、と長い長いため息をついた。
「だがな・・・」
一度言葉を切り、彼はそのまま続けた。
「―――食べ放題だなんて、一言も言ってないんだぞ・・・」
言い切ってから、彼は頭を抱えてしまった。
つーの目の前には、大量の空になった皿やら器が積み重ねられている。軽く二桁。
恐らく、これだけで状況を大体理解して頂けたと思う。
場所は、流石兄妹が来たときに休憩に使ったレストハウス。4人はここへ昼食を取りに来たというわけだ。
兄者、弟者、妹者は、それぞれ1品ずつ。弟者は少し多めに頼んでいたようだが、まあ普通だろう。
―――だが。つーの注文量は尋常では無かった。
何せ、注文を店員に伝える時の言葉が、
「メニューノ端カラ、全部1ツズツ!」
だったから。兄者だけでなく、弟者に妹者もこれにはぶったまげた。
自分たちよりも明らかに背格好の小さい(妹者は別だが)少女が、これだけの量を注文するなんて。
そして、彼女は店員が困惑の表情で運んできた料理の数々を全て平らげてしまった。
これだけの量だ、金額も相当なものになる筈だ。兄者は、己の軽率な発言を深く深く後悔した。
彼にとって不幸中の幸いと言えるのは、ここのメニューの数があまり多くなかった事か。
兄者が、げんなりした様子で財布を覗き込む。
足りるかどうか―――弟者も少し不安になった。いざとなれば、自分も資金援助をしなければならないかも知れない。
で、当の本人はというと―――ご満悦の表情で腹を撫でている。その顔に罪の意識は無く、兄者は怒る気にもなれなかった。彼女は天然だ。
―――5分後。外で待つ3人の元へ、何だか少しやつれた様子の兄者が戻ってきた。店員がついて来てない様子を見ると、資金はどうやら足りたようだ。
「アヒャ?兄者、ドウシタ。調子悪イノカ?」
兄者がげんなりしている様子を見たつーが、心配そうに声を掛ける。その声に悪意は感じられず、自分自身がその原因だという事にどうやら気付いていない。
彼女は、やはり天然だ。
「い・・・いや、大丈夫だ。気にしないでくれ」
兄者が片手を上げて答えた。とても大丈夫には見えないが、とりあえずこの後も広場を見て回る元気は何とかありそうだった。
弟者はそう判断し、すたすたと歩き出した。その後を元気に妹者とつーが、よれよれと兄者がついてくる。
「さて・・・次はどこへ行くかな」
少し歩いた後、弟者がそう呟いて辺りを見渡した。その時、不意に妹者がある方向を指差した。
「ちっちゃい兄者。あれは何なのじゃ?」
3人が一斉に、妹者の指差した方向へ視線を持っていく。
その方向には、何やらでっかいガラス製の水槽のような物があり、中には透明な液体がたっぷりと入っている。
その手前には何やら大きな箱が置いてあり、傍らには白衣姿の女性が1人立っていた。
弟者は、その人物に見覚えがあった。
「あ。あれは・・・」
「『百ベビ組手』ニ出テタヨナ、アノ人」
つーも気付いたようだ。
そこに居たのは、『百ベビ組手』にも出場していた、科学者のじぃだった。
「何か店でもやってるのか・・・?」
何だか気になった4人は、彼女の元へと歩いていった。
541
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:25:38 ID:???
4人がその場所へ歩み寄ると、それに気付いたじぃが彼等の方を向いた。
「いらっしゃい・・・あら」
どうやら彼女も覚えていたらしい。まあ、片方は優勝者だから当たり前かも知れないが。
「さっきはどうも。2人とも、凄かったわよ」
ニコリと笑ってじぃが言った。弟者が一礼してから、口を開く。
「いやいや・・・貴方の方も、硫酸を使用しての『見せる』虐殺、見事でしたよ」
それを聞いたじぃは『ありがとう』と答える。
彼女は競技の時も白衣姿だった。歳は―――二十歳前後か。
その後聞いた話によれば、彼女は近くの研究所で働いているらしく、薬品の扱いにかなり長けているようだ。薬剤師の免許も持ってるとか。
暫く会話を楽しんだ後、弟者が訊いた。
「ところで、ここで何をしてらっしゃるのですか?」
質問を受けたじぃは、背後の巨大水槽を指差しながら答える。
「ちょっとした商売ね。簡単に言えば、景品つきくじ引きかしら。
あの水槽も商売道具。ところで、あの中身・・・何が入ってるか、わかる?」
4人は少しの間シンキング・タイム。数秒の後、つーがおもむろに口を開いた。
「ヒョットシテ・・・アレモ硫酸?」
それを聞いたじぃは、パチンと指を鳴らして『ピンポーン!正解!』と言い放った。
そこで兄者が、ポンと手を打った。
「なるほど・・・大体読めたぞ」
「あら、お兄さんはわかっちゃったようね」
微笑を浮かべながら、じぃが言った。
ここで、じゃあ、と切り出したのはまたも弟者。
「その箱は一体・・・?」
弟者が言ったのは、水槽の傍らに置かれている大きなダンボール箱の事だ。蓋が閉じていて、中身は見えない。
そこで兄者が、ハイ、と手を上げた。
「弟者よ、俺が答えよう。間違ってたらスマン。
その中身は恐らく―――」
兄者は一旦そこで言葉を切った。そして、そのまま続ける。
「―――ベビしぃ、ですね?」
「ご名答!!」
じぃが言いながら、ダンボールを開けた。それと同時に、箱からひょっこりと数匹のベビしぃが顔を出した。
そして、身をこっちに乗り出しながら、両手を突き出して、
「ナッコ♪」
お決まりの台詞。見れば、箱の中には数十匹のベビしぃが詰まっている。
口々にチィチィ、ナッコ、コウピ、と鳴いている。百ベビ組手を髣髴とさせる光景だった。
よく見ると、ベビしぃの背中にはそれぞれ番号が書かれている。
「ベビしぃに硫酸、そしてくじ引き・・・ああ、そういう事か!」
弟者もどうやら答えを見つけたようだ。
「ところで、幾ら?」
兄者が訊くと、じぃはピースサインを作りながら笑顔で言った。
「一回200円!・・・と言いたいところだけど。
せっかくだから、半額におまけしちゃう。貴方達だけよ?」
ここまで言われては引くしかあるまい。4人は、彼女の好意に甘える事とした。
542
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:25:55 ID:???
4人で合わせて400円をじぃに手渡すと、彼女は小さめのホワイトボードを取り出した。
そこにはマス目が書かれており、端から順に番号が振られている。所々の番号の所に、マグネットが張られている。
「じゃあ、お好きな番号をどうぞ♪」
4人は少しだけ考えてから、それぞれ番号を決定した。
「う〜ん・・・16番」
「じゃあ、5番で」
「12番デ」
「25番なのじゃ!」
じぃは『了解!』と呟いてから、4人のコールした番号の所にマグネットを張り、それから箱を再び開ける。
中からチィチィと聞こえて来る箱に手を突っ込み、それを出した時には、彼女の手に1匹のベビしぃが。背中には『16』と書かれている。
「アニャーン ナッコチテ♪」
じぃの手に掴まれながら、ベビしぃが言った。
箱を閉じてから、彼女が再び何かを取り出す。今度はパネル。
そこには、簡単なイラストと一緒に賞の内容が書かれていた。
それによると、灰色の玉がハズレ、緑が5等、紫が4等、青が3等、黄色が2等、赤が1等。
景品が何なのかは書かれていない。当たってからのお楽しみ、という事だろう。
「でも、その玉とベビしぃと、一体何の関係があるのじゃ?」
妹者が首を傾げた。
兄者は、「見てればわかるよ」とだけ言い、じぃの次の行動を待つ。
彼女はその手にベビしぃを掴んだまま、硫酸入り巨大水槽の前に立った。
そして、ベビしぃを両手で持ち直す。
「ハナーン・・・ナッコデチュ・・・」
ベビしぃがうっとりと呟いた。まさに、嵐の前の静けさ。
じぃが、まるでバスケットボールをシュートするようにして、ベビしぃを掴んだ両手を顔の前へ持っていく。
そして彼女は、膝を軽く曲げ、十分反動を付けてから―――
ヒュッ!
―――ベビしぃを投げた。水槽の中へ向かって。
「アニャーン!」
投げられたベビしぃは弧を描き、ある程度上昇した後、一直線に水槽の中―――硫酸プールへ落ちていく。
ドボーーン!!
ベビしぃが強酸性の飛沫を上げながら、透明な液体の中へ飛び込んだ。次の瞬間。
ブッシャァァァァァァ!!
もうもうと上がる煙。そして、
「ヂュギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!??」
即座に聞こえて来る、ベビしぃのあまりに悲痛な叫び。
543
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:26:17 ID:???
「おお〜っ・・・」
弟者が感嘆とした様子で呟いた。
今まさに、水槽の中ではベビしぃが強力な酸によって溶かされている。
既に全身の毛皮は完全に溶解して消滅、もがいている為に酸に浸かったり浸からなかったり、の上半身はまだ見られるが、
ずっと浸かりっぱなしの下半身は表皮のみならず真皮まで溶解を始めている。筋肉組織がまる見え、ああグロテスク。
「マンマァァァァァァァァァ!!ダヂュケテェェェェェェェ!!!!ナゴナゴォォォォォォォ!!!」
ベビ自身から噴出した血液で少しだけ赤く染まった水槽内の硫酸。
バチャバチャともがくベビの周りには、既に体から離れてしまった肉片がプカプカと浮き、それすらも煙を上げて溶けている。
見れば、ベビしぃの足は既に肉が消滅して白い骨がまる見え、そして溶解を始めている。
ベビしぃは一刻も早くこの生き地獄から逃れようと、硫酸に塗れた手で水槽の壁面を引っかくが、半溶解した手でツルツルしたガラスを登る事など到底不可能。
「ナゴォォォォォ!!ナッゴォォォォォォォォォ!!!!ヂィィィィィィィィ!!!」
ベビしぃの足は既に消滅していた。付け根が辛うじて残っている程度だ。
やがて、ベビしぃの下半身から紐状の何かが出てきた。
よく見るとそれは、下半身が溶解したために体外へと零れ出てきた腸だった。
全身を強酸で焼かれるという激痛に、更に内臓を溶かされる苦痛が追加。さあ大変。
「ナ、ナ、ナ、ナッギュォォォ・・・アギィィィ・・・ヂ・・・」
あれほど五月蝿かったベビしぃがやけに静かになり始めた。命の灯火もそろそろ消える頃か。
はみ出していた腸も既に溶解し、腕の骨も露出し、顔に至っては口の形が完全に崩壊し、眼球は片方が潰れて目漿が流れ出している。
ベビしぃが再び叫びを発しようとして崩れた口を抉じ開けた瞬間、歯が何本もぼろぼろと落下した。歯茎が溶けているらしい。
「・・・うぅ〜・・・」
妹者が口元を押さえて、水槽から顔を背けた。11歳の少女にこの光景は流石にショッキング過ぎた様だ。
兄者はよしよし、と妹者の頭を撫でてやってから、水槽の中で確実に消え行くあまりに矮小な命を見つめた。
「ギャ・・・ヴィィィィ・・・ビャ・・・ヂ・・・」
どろどろに溶けた口では、まともに発音する事も出来やしない。
開いた口から硫酸が喉へ流れ込み、声帯までも潰されたらしいベビしぃは、
「・・・ガァ・・・」
と呟いたのを最後に、喋らなくなった。
それと同時に、パタパタと動いていた腕もその動きを停止し―――ベビしぃはついに、抗う事を止めた。
口がパクパクと動いている事からまだ生きているようだが、最早その体はただ溶かされるのを待つだけ。
ベビしぃの全身を気泡と煙が包み込み、『ジュワァァァァァ』という音が一層激しくなって、やがて―――
シュゥゥゥ・・・
ベビしぃは完全に『消滅』してしまった。骨の一欠片も残さずに。
―――否。ベビしぃのいなくなった水面に、何かが浮かんでいる。
それは、5等に当選した事を示す、緑色のガラス玉だった。
544
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:26:34 ID:???
兄者に『もう大丈夫だぞ』と声を掛けられた妹者を含めた4人は、暫くの間水槽を見つめていたが、
「は〜い、おめでとう。5等当選ね」
パチパチと手を叩きながらじぃが言ったので、そっちを振り向いた。
「5等の景品は―――はい。モナ・コーラ2リットル3本よ。
あんまり揺らさないように持って帰ってね」
そう言って、彼女は兄者に大きなペットボトルが3本入った袋を渡した。
兄者は軽くお辞儀をしながらその袋を受け取る。そこでじぃは、再び箱に手を突っ込んだ。
そして彼女は、一度に3匹のベビしぃを掴み出した。それぞれ背中には「5」「12」「25」と書かれている。
「ナッコ!ナッコ!」
「チィヲハヤク ナッコシナチャイ!」
「ナッコチテ チィタチニ チュクシナチャイ!コノ カトウセイブチュドモ!」
口々に喚くベビしぃ達。つーはその言動に早速キレかかっているらしく、ナイフを取り出そうとして弟者に止められた。
「まぁまぁ」と苦笑しながらつーを宥めつつ、じぃがベビしぃを掴んだ手を軽く振った。
「どうせすぐにGo to hellなんだから、少しくらい言わせてあげたっていいじゃない」
そして、水槽に向き直った。
その横で、妹者が兄者に問いかける。
「兄者、あのガラス玉はどこから出てきたのじゃ?」
兄者が答えた。
「簡単な事だ、妹者。ベビしぃが溶けた後に、その場所にあの玉が現れたんだ。
となると、どこから来たかなんて訊くまでも無いだろう?」
妹者がハイ!と手を上げた。
「わかったのじゃ!あのベビしぃのお腹の中!」
「ピンポ〜ン!」
兄者の代わりにじぃが正解を告げ、それと同時にベビしぃ達を順番に水槽へ放っていった。
「チィィィィィィィ!」
「ナッコォォォォォ!!」
「ハナーン?」
宙を舞うベビしぃ3匹。迫る水面。それはベビしぃ達を確実に冥府へと誘う、地獄への入場門。
そして―――
ドボドボドボォォォォン!!
弟者が選んだ5番のベビしぃは水槽の中央よりやや右寄りに、つーが選んだ12番のベビしぃは水槽の中央付近に、
妹者の選んだ25番のベビしぃは水槽の左端に、それぞれ飛び込んだ。
ブッシュゥゥゥゥゥゥゥ!
その瞬間、同時に3箇所から煙が立ち上り、
『ヂギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!???』
三重奏(トリオ)の悲鳴が、5人の耳を打った。
545
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:26:56 ID:???
「( ゚д゚)トケター」
つーが呟いている間にも、ベビ達の肉体は溶解してゆく。
最初の犠牲者であるベビと同じように、表皮、そして皮膚がどろどろに溶けて内部組織がまる見えだ。
「ヂギィィィィィィィィィ!ナゴォォォォォォォ!」
濃硫酸で溺れるベビ達の悲痛な叫び。そんなに大口開けて、口から硫酸が流れ込んだらどうするのか。
―――まあ、どちらにせよ死ぬからそんなに変わりは無いか。
と、ここで珍事が起きた。
「ヂィガタスカルノ!アンタガ ヂニナヂャイヨォォォォォ!」
「ヂュィィィィィ!!ガブッ、モゴボゴゴゴゴ・・・」
12番のベビが、5番のベビの上に乗っかるような形になっている。つまりは、自分が溶かされる苦痛から逃れるための足場になれと言う事だ。
何と、この極限状態においても自らが助かる為の醜い争い。だから、どっちにせよ死ぬんだってば。
で、どうなったかと言うと―――
「ゴボォォォォォォ・・・モギィィィァァァ・・・」
「ヂィィィィィィ!ナンデ シズムデチュカァァ!?マターリ デキナイデヂュヨォォォォ!!」
乗っかられたベビは全身が硫酸の海に沈み、まともに身動きも出来ぬまま硫酸攻め。
殆ど無事だった顔面も酸に浸かり、溶解を始めた。口、目にも硫酸が流れ込んだ。恐らく、もう目は見えまい。
乗っかった方のベビも、引き続き濃硫酸に悶え苦しむ結果に。
当然である。いくら浮力があるとは言え、ほぼ同質量のベビが乗れば沈むのは必定だ。
耐え難い苦痛によって冷静な判断力を失ったベビに―――いや、そうでなくとも、ベビしぃ如きにそれを考える事など不可能だった。
「ヂュァァァァァァ!ダヂュゲデェェェェェ!!」
乗っかっていた12番のベビがついに5番のベビの上に乗っていられなくなり、再び硫酸プールに全身を放たれた。
5番のベビはようやく解放された訳だが、もう遅すぎた。
際限なく浮き沈みを繰り返し、何も見えず、声も出せず、ただ溶かされるだけの肉塊となっていた。
どろり、と目があった位置に空いている穴から、半熟卵を思わせる様子で半解状態の眼球が流れ落ちた。
全身から泡を発し、浮き沈みを繰り返す物体。それはまるで―――
「―――天ぷら揚げてるみたいだな」
弟者がぼそっと呟いた。その横で、じゅる、とヨダレを啜る音が聞こえたので見ればそれは妹者で、彼女は弟者の腕を引いて、
「ちっちゃい兄者、今日の晩御飯は天ぷらがいいのじゃー」
と言った。水槽内で繰り広げられる地獄絵図とはまるでそぐわないほのぼのした台詞で、皆の笑いを誘った。
先程はそのグロテスクな光景に顔を苦くした妹者だったが、もう平気らしい。
精神の足腰の強さも母者譲りだな・・・と、兄者と弟者はこっそり顔を見合わせ、小さく肩を竦めたのだった。
546
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:27:15 ID:???
「ギュガァァァァァァァ・・・」
12番のベビが、およそベビしぃらしからぬ奇声を上げる。
耳が溶けて無くなった丸い顔。内臓がはみ出した腹。黒目が無くなり、常に白目を剥いた目。
奇声を発する為に開けた口から多量の硫酸が流れ込んだ。最初のベビと同じパターンだ。これでもう奴は喋れない。
硫酸を飲み込んだベビしぃは、喉を焼かれるショックでついに最後の体力を使い果たしたらしく、
「・・・グゲェ・・・」
と発したのを最後に、うつ伏せ状態で沈んでいった。
「終わったな」
「ああ、後は結果待ちだな」
兄者と弟者の会話。ベビ達はもう全員息絶え、後は肉体が滅するのを待つだけだった。
―――あ、そうそう。25番のベビは、水槽の隅っこで誰からも注目される事無く孤独に生涯を終えてましたとさ。(w
シュゥゥゥゥゥゥ・・・
暫くは皆無言で、肉の溶ける音を黙って聴いていた。
やがて煙が晴れ、音も止んだ。それは、ベビしぃの肉体の完全消滅を表していた。
兄者以外の3人は、自分自身が選んだベビしぃが居た位置へ視線を走らせた。
弟者が選んだ5番のベビが居た所には、灰色のガラス玉。
「む、外れたか・・・」
ちょっと残念そうに、弟者が呟いた。
「残念だったわね。そうそう、ハズレの場合はポケットティッシュなんだけど・・・せっかくだし、多めにあげちゃおうかな」
そう言ってじぃは、ポケットティッシュを弟者に10個も渡した。おそらく通常は1個か2個だろう。
「ど、どうも・・・」
弟者は苦笑しながら、それを受け取った。手からこぼれて落ちそうになったティッシュを慌ててキャッチする。
一方、つーが選んだ12番のベビが居た場所。そこには、青色のガラス玉が浮いていた。
「アヒャ!当タッタミタイダナ!何等?」
嬉しそうにつーが訊いてくるのを聞き、弟者が先刻じぃが出したフリップに目を走らせる。
「えーと・・・青は3等だな。良かったな、つー」
「アッヒャッヒャッヒャ!今日ハツイテルナー」
笑うつーの元へじぃが駆け寄った。
「おめでとう!3等はこれよ」
そう言って彼女が差し出したのは、3000円分の食事券だった。
思わずビクンッ!と兄者が体を竦ませた。先刻の昼食時の悲劇を思い出したのだろう。
「・・・なんつーか、ベストチョイスだな。偶然ではあるけどさ」
弟者が兄者とつーを交互に見ながら苦笑した。
「アリガ㌧!コレデ、後デ何カ食ベテクルゼ」
まだ食べる気なのか、と兄者は、別に自分が奢る訳では無いのに肩を落とした。
547
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:27:31 ID:???
残るは妹者の選んだ25番のベビだ。水槽の端に投げられ、誰にも気付かれず死んだとあって、ここからではガラス玉を確認出来ない。
「こっちの方か?」
兄者が先頭で、水槽の右側に周った。
「お、あったあった・・・おおっ!」
兄者がガラス玉を確認すると同時に、驚きの声を上げた。
水槽の壁面に水飛沫がやたら跳んでいた。恐らくここが、ベビしぃが絶命した場所と見て間違い無いだろう。
そしてそこには―――
「―――赤い、ガラス玉・・・て事は、1等か!?」
そう、そこには赤いガラス玉があった。
つーが持ってきたフリップを見ると、確かに赤い玉の横には『1等』と書かれている。
「わーい、やったのじゃー!」
ピョンピョンと飛び跳ね、全身で喜びを表現する妹者。
「おめでとー!1等当選者は初めてよ」
じぃが、何時の間にか取り出したハンドベルをチリンチリンと鳴らした。
ひとしきり鳴らし終えると、彼女は水槽の反対側へ姿を消し、すぐに戻ってきた。その手には小包。
「1等景品は何と!最新ゲーム機のニソテソドーGS!はい、どうぞ」
「良かったな、妹者」
説明しながら、彼女は小包を妹者へ差し出した。
「ありがとうなのじゃ!」
喜色満面、という四字熟語がこれ以上似合う表情も無いだろう、というほどの笑顔で包みを受け取る妹者。
パチパチパチパチパチ!
何時の間にやら集まっていたギャラリーから暖かい拍手。
百ベビ組手会場に続き、再び拍手喝采を浴びた妹者は、またも顔を真っ赤にして兄者の影へ隠れてしまった。
観衆からどっ、と笑いが起こった。
548
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:27:57 ID:???
「それじゃ、色々どうも有難う御座いました」
「バイバイなのじゃ!」
「また会いましょうね。それと、薬を使う機会があったら、うちの薬をヨロシク!」
そんな会話を最後に科学者じぃと別れた4人。
少し歩いてから、兄者が3人を振り返って尋ねた。
「さて、これからどうする?」
「もう少し遊びたいのじゃ!」
妹者が即座に答えた。
「まあ、時間もまだあるし・・・もう1箇所くらいなら周れるんじゃないか?」
弟者が言いながら、腕時計を確認する。時刻は午後3時。
「ン、モウソンナ時間ナノカ・・・悪イ、モウ帰ラナイト」
つーの言葉に、妹者が残念そうに唇を尖らせた。
「えー、もう帰っちゃうのじゃ・・・?」
「引キ止メテクレルノハアリガタイケド、用事ガアルカラナ・・・マタ遊ンデヤルカラ、勘弁シテクレッテ」
つーが言いながら、妹者の頭を撫でる。
「・・・わかったのじゃ。また遊んで欲しいのじゃ!」
「ワカッタヨ、約束スル。ソレジャ、マタナ」
つーは今度は兄者と弟者の方を向く。
「ああ、また明日、学校でな」
「またな。・・・言っとくが、今度は奢らないぞ・・・」
笑顔で返した弟者と、ややげんなりした顔の兄者。
「アヒャヒャ!マタ会オウゼッ!」
対照的な2人の表情に思わず笑ってしまってから、つーは3人に背中を向けた。
彼女の小さな背中が人混みに紛れ、完全に見えなくなるまで見送ってから、弟者が切り出した。
549
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:28:27 ID:???
「さて、俺達はどうしようか?」
「まだ遊びたいのじゃ!」
妹者が即座に返した。
だろうな、という表情を作ってから兄者は、
「そうだな・・・もうあまり時間も無い。短い時間で楽しめるような出し物でもあればいいが・・・」
そう呟きながら、パンフレットに載っている地図を人差し指でなぞる。
その指が、ある一点で止まった。
「ん?『妊娠しぃdeお御籤』てのがあるぞ。何やら気になるな・・・」
「どれどれ」
弟者が横合いから地図を覗き込んだ。
「お、ここからすぐ近くじゃないか。せっかくだ、行ってみるか?」
「さんせーなのじゃ!」
妹者も即決だった。
かくして3人は、地図を頼りに再び歩き出した。
「ここだな」
兄者が言った。
地図上の場所へ行くと、運動会なんかで使用される白テントが張ってあり、テーブルが1つ、2つ。
そこには受付兼案内役らしい1さんが座っている。『お御籤』の名を冠するに相応しく、袴姿だ。
「いらっしゃい。『妊娠しぃdeお御籤』へようこそ。やってくかい?」
3人に気付いた1さんがにこやかに笑いかけながら口を開いた。
「宜しくお願いします」
兄者が頭を下げ、弟者と妹者もそれに倣う。
しかし、兄者はここで妙な事に気付いた。
テントを見渡しても、その肝心のしぃの姿が1匹もいないのだ。
『妊娠しぃ』と言うからには当然しぃを使うのだろうが、姿が見えない。何故だろうか。
しかし、その疑問はすぐに解消される事となった。
すっく、と1さんが立ち上がりながら言った。
「それじゃ、ついてきてくれるかな」
そして彼はテントを出、その裏に回った。
3人は慌ててその後を追っていく。
550
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:28:49 ID:???
テントの裏に回った3人が見たもの。それは―――
「ハニャーン!ハニャーン!ハナシナサイヨゥ!」
「シィチャンニ コンナコトシテ タダデスムト オモッテルノ!?」
「ハヤク コノナワヲ ホドイテ ダッコシナサイ!」
耳から入って直接脳を刺激するストレス。アフォしぃ特有の甲高い声だ。
それは、異様な光景だった。
そこら中に木が生い茂っている、ちょっとした林のようなエリア。
その木にはロープが括り付けられ、その先には何と、しぃが吊り下げられているのだ。
しかも、どのしぃも腹が大分膨らんでおり、一目で妊娠しているとわかった。膨らみ具合からして、もう数日もしない内に生まれるだろう。
ロープはしぃの両腕と両足に括られ、大の字をさせるような格好だ。
「・・・なるほどね。大体読めたぞ」
「お、お客さん、勘がいいね」
兄者の呟きを聞いた1さんが笑顔を見せる。兄者の勘の良さはここでも冴え渡っているようだ。
「ねーねー、どうするのじゃ?」
妹者が兄者の腕を引きながら尋ねると、
「今説明してくれるみたいだぞ」
代わりに弟者が答えた。
551
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:29:08 ID:???
「えと、じゃあ説明しますね。と言っても、そちらのお兄さんはもう解ってしまわれたようですが・・・」
1さんが苦笑しながら続ける。
「やり方は簡単です。あそこにぶら下がっているしぃの腹部を、思いっきりどついて下さい。
どんな方法をとっても結構です」
「え?え?えっと、つまり・・・」
妹者が考えながら言った。
「あのしぃのお腹を、叩いたり蹴ったり、すればいいってことなのじゃ?」
「その通りですよ、お嬢さん」
1さんがまた笑顔を見せる。
「それが、どう『おみくじ』と関係があるのじゃ?」
妹者が首を傾げたが、弟者が言った。
「まあ、やってみればわかるさ。ほら妹者、お前が一番だ」
「わ、わかったのじゃ!」
妹者は一旦考えるのを止め、吊り下げられたしぃの内の一匹に向き直った。
552
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:29:31 ID:???
「ハニャ!ナンナノヨ!シィチャンニ ナニカシタラ ユルサナインダカラネ!」
「ダッコシナサイヨ!ダッコダッコダッコ!」
「コンナンジャ ベビチャンモ ウメナイジャナイノ!」
「ソウヨ!シィチャンタチハ カワイイ カワイイ ベビチャンヲ ウンデ マターリスル ギムガアルノヨ!」
「ハニャーン!ハニャーン!」
「う、うるさいのじゃ・・・」
妹者が耳を軽く塞ぐ。
弟者が「まあまあ」と言いながら、妹者の肩をポン、と叩いた。
「これから黙らせてやればいいじゃないか。思いっきりやってこい!」
「りょーかいなのじゃ!」
妹者は手を耳から離すと、気合の入った表情を作った。
そして未だハニャハニャと騒ぐ左端のしぃを向き、いきなり走り出した。
ちなみに妹者はかなり足が速い。50m走を7秒3で走る。クラスどころか学校一の俊足だった。
彼女の体育の成績は、1年生の1学期から常に『5』だ。
「ハ、ハニャ!ナンナノヨ!コッチ コナイデヨゥ!」
妹者の剣幕に、しぃが怯えの表情を見せた。
「ひぃぃぃぃぃっさつぅぅぅ・・・」
妹者が叫びながら、あっという間にしぃとの距離を詰めた。
そして、あと僅か2,3mの所で、妹者は跳躍した。
「妹者ドロップ、なのじゃぁぁぁぁっ!!」
妹者の気合の叫び。そして―――
553
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:29:48 ID:???
ドギュゥッ!!
思いっきり肉を打ったような、それでいて何かが圧迫され、軋むようなくぐもった音がした。
妹者の両足が、深々としぃの膨らんだ腹部にめり込んでいた。何とも華麗なドロップキック。
「グギュゥゥゥゥ!?」
しぃが眼球が零れ落ちそうなほど大きく目を見開き、これまたくぐもった悲鳴を上げる。
しかし、妹者の攻撃はこれで終わらなかった。
片膝をついて着地した妹者は素早く立ち上がると、左手を右手に被せるようにし、肘を広げた。
しぃに対して横を向くような形だ。
その瞬間だった。妹者が、動いた。
「ひじうちっ!!」
ドムッ!!
「ゴギョォオォォォ!!?」
叫びと共に放たれた肘打ちは、これまたしぃの腹部に深々と突き刺さった。
異様な悲鳴を上げるしぃ。
さらに妹者は、スカートの裾を翻しながらその場でくるりと一回転。
「うらけんっ!!」
ドグチュッ!!
「オギィィィィィ!!?」
回転しながら放たれた見事な裏拳。しぃの横腹に強烈な一撃。
この時から、打撃された際の効果音に、何やら柔らかいものが潰れたような音が混じりだした。
さらにさらに。妹者は裏拳ついでに、再びしぃを正面へと見据えた。
肘打ちの状態から270°回転した形だ。
間、髪入れず、妹者の右腕が唸りを上げた!
「せいけんっ!!」
ドブチョッ!
「アギィェェェェェェッッ!!!?」
妹者の正拳突きは、これまたしぃの妊娠っ腹にクリーンヒット。
聞くに堪えない悲鳴を上げ、身悶えするしぃ。のた打ち回ろうにも、ぶら下がっているのだから出来る筈も無い。
だが、まだ終わらない。
妹者は突き出した右手を戻すと、最後の攻撃を繰り出すべく、息を大きく吸った。
「ジィィ、モ、・・・モウ、ヤメ・・・」
しぃが微かに呻くような声を上げたが、その瞬間の妹者の叫びに掻き消された。
「とぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁ、なのじゃっっ!!!!」
妹者の必殺の蹴りが、しぃの腹部に詰まった、小さ過ぎる命を完全に叩き潰した。
グブチャッッ!!!!
554
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:30:09 ID:???
「ギュァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!!??」
しぃの醜い悲鳴が木霊する。そして、苦痛を既に通り越したような凄まじい表情を浮かべた。
「・・・た、たくましいお嬢さんですね・・・」
呆気に取られた1さんが、ははは、と笑いながら言った。兄者と弟者は顔を見合わせた。
「・・・弟者よ」
「・・・なんだ、兄者」
「俺達が思っていたより、妹者の中の母者の遺伝子は濃いようだな・・・」
「・・・ああ、俺もそう思う。末恐ろしいな、これは・・・」
ぼそぼそと会話を交わす2人の元へ、素晴らしく晴れやかな表情の妹者が駆け寄った。
「い、妹者・・・楽しかったか?」
兄者が訊くと、妹者は今現在のしぃとは対極的なとても爽やかな笑顔を浮かべて、
「うん!スッキリそーかい、なのじゃ!」
そう言いながら、頬を伝った汗を手の甲で軽く拭った。
ニコニコと笑う妹者はいつもの妹者で、先程までの武道家を思わせるような気迫は微塵も感じられない。
と、その時だった。
「イギィィィィィィ・・・ア・・・ウ、ウマレルゥゥゥ・・・」
妹者にフルボッコにされたしぃが、呻くような声を上げていた。凄まじい衝撃を腹部にあれだけ何発も叩き込まれれば、流石に産気づくというものだ。
「おや、お御籤の結果が出ますよ?」
それに気付いた1さんが3人に向かって言った。
555
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:30:25 ID:???
「ハニ゙ャァァァァ・・・ア゙ア゙ァァァァァ・・・ジィィィィィ!!」
先程までは丸く大きく膨れていたしぃの腹は、今やボコボコだった。
そこここに隆起や凹みが見られ、皮が剥けていたり、痣が出来てたり。
中に詰まっているのは、言うまでも無くベビしぃだ。無論、とても柔らかい。
あの腹の変形具合を見ずとも、中身がどうなっているかは容易に想像が付いてしまう。
「ハギャァァァァァン!!ウギャァァァァァァ!!」
しぃの悲鳴が段々と大きくなっていく。妹者は再び、耳を軽く塞いだ。
4人が固唾を飲んで見守る中、ついにしぃはその時を迎えた。
「アァァァァァ・・・ハニャァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」
その絶叫と共に、しぃの股間から何かが溢れ出した。
『それ』は見た目にはまるでヘドロのような流動性の物体。
そして―――
グチャッ!!
―――落下。吊り下げられたしぃの真下に、『それ』は落ちた。
「ギィィィィィ・・・ジギャァァァァァァ・・・」
不自由な手足を蠢かせ、尚も力むしぃ。股間からは、まだまだその物体が溢れ出てくる。
ビチャビチャビチャッ!!
出てくる傍から、次々と落下していく物体。すぐに、辺りを異臭が漂い始める。
「ハギャァァァァァァァ!!」
まるで断末魔のような悲鳴を上げて、そのしぃは腹に残った物体を全てぶちまけた。
ベチョッ!
最後にそう音を立てて、『それ』の落下は止まった。
556
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:30:51 ID:???
「シヒィィィィィィィ・・・シヒィィィィィィィィィ・・・」
肩で息をするしぃ。激痛を伴った『出産』に、殆どの体力を奪われたようだ。
そのしぃの周りに、4人が駆け寄った。勿論、落下した『それ』を確かめるためだ。
「うえぇぇ・・・気持ち悪いのじゃ・・・」
妹者が口元を手で押さえた。当然のリアクションと言えるだろう。
そこに落ちていた物―――今そこで吊られているしぃの、腹の中にあったもの。
つまり、ベビしぃ―――いや、正確には、『ベビしぃになるはずだった物』―――。
―――ヘドロか、はたまた何かの肉のミンチか。
正直な話、何も知らなければ、それにしか見えない物体。
赤や茶色を中心とした色彩の、半固体、半液体の流動性の物体。
所々にアクセントを加えるように混ざる白色は、骨や歯だろう。また、非常に分かり難いが、耳の様な物も確認出来る。
そんな異形の物体の中に、兄者はベビしぃの出来かけの目玉を見つけた。それだけでは無く、その不気味な目玉とまっすぐ目が合ってしまい、思わず兄者は素早く目線を逸らした。
『百ベビ組手』や、先刻の『景品付きベビしぃくじ』を体験した3人が見ても、最早ベビしぃの原型は殆ど留めていない。また、これが何匹分のミンチなのかも。
しかし、こういった仕事に慣れているらしい1さんは、「ひい、ふう、みい・・・」と数えていく。
そして数え終わったらしい彼が、妹者に笑顔を向けた。
「お疲れ様でした。全部で6匹、腹の中にいたようですね」
「ろ、6匹も・・・なのじゃ?」
「おいおい、6匹だって?」
「いくらアフォしぃでも、6匹も一度に生むってのは、かなり珍しいんじゃないか・・・?」
驚きの表情を浮かべる3人。だが、それも頷ける。
いくらしぃの繁殖力が凄まじいとはいえ、一度に生む数は平均的に2〜3匹が多い。4,5ならまだしも、6匹も一度に生むというケースはかなり珍しいのだ。
「6匹もいたというのは、とても珍しいですからね・・・普通のお御籤で言えば、これは確実に大吉、でしょうな」
1さんがそう告げると、妹者はパッと顔を輝かせた。
「ホントなのじゃ!?」
「良かったな、妹者」
弟者がそう言うと、1さんはさらに続けた。
「徹底的に叩き潰されてますね。これは健康運が高まっている証拠なんですよ」
「うん!元気もりもり、なのじゃ!」
「まあ、あれだけ暴れられるならな・・・」
兄者の苦笑。
「しかも、目玉が潰れずにちゃんと残っている。これは金運が素晴らしいですね」
1さんの言葉を聞き、妹者が何かに気付いたような表情を浮かべる。
「そういえば、ゲームが当たったのじゃ!」
そして、先刻じぃから貰ったゲーム機を見せると、1さんは満足げに頷きながら言った。
「おお、それはそれは。あながち間違っていないでしょう?」
「それどころか、バッチリ当たってるよな・・・」
弟者が驚き半分、苦笑半分といった表情を浮かべた。
はははは、と笑いあう4人。その背後で、
「シィィィィィ・・・ハッ!ベビチャン!シィチャンノ カワイイ ベビチャンハ!?」
半ば放心状態だったしぃが、目を覚ました。
557
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:31:16 ID:???
「あ〜あ。目を覚まさない方が幸せだったかもしれないのにな・・・」
兄者がぽそりと呟いた。
と、1さんが「ベビチャンベビチャン」と騒ぎ立てるしぃに歩み寄り、言った。
「ベビちゃんに会いたいですかな?」
「ハニャ!サテハ アンタガ シィチャンノ ベビチャンヲ カクシタノネ!?
ハヤク コノ カワイイ シィチャンノ カワイイ ベビチャンニ アワセナサイヨ!アトダッコ!」
憮然とした表情でしぃが捲し立てる。最後にきっちりダッコを要求するのがなんとも。
「・・・わかりました。そこまで仰るのなら・・・」
1さんがそう言いかけた時、弟者が1さんにステンレストング(要するに空き缶拾いに使うアレ)とスコップ、そしてバケツを渡した。テントから持って来たらしい。
これで、直接手で触れることなく、ベビしぃ―――しぃの真下に散乱する物体―――を集め、持ち上げる事が出来る。
「お、これはどうも。―――それじゃ、暫しお待ちください」
「ハヤクシナサイヨ!マッタク コレダカラ カトウAAハ テギワガワルクテ コマルワ!」
減らず口を叩くしぃをスルーし、1さんは吊るされたしぃの体の下に潜り込んだ。
そしてスコップを駆使し、素早くドロドロした残骸を集めていく。
「妹者も手伝うのじゃ!」
妹者がそう1さんに言うと、1さんは笑顔を投げかけながら、
「有難う御座います。しかし、お気持ちだけで十分ですよ。ここは私にお任せを。
そのお可愛らしいお洋服が汚れてしまうかも知れませんし、ね?」
優しい口調で答えた。その手には、彼の口調にはまるで似合わないおぞましい物体。
最後に、ギリギリで形を保っているように見える、ベビしぃの頭蓋骨のような物をトングでバケツに放り込み、1さんの作業は完了した。
残骸があった場所には血や羊水等の体液によって作られた染みが生々しく残っており、まだ肉片も所々に残っていたが、殆どの残骸がバケツの中へと移植されていた。
ふぅ、と一息ついてから、1さんはしぃに声を掛けた。
「―――お待たせ致しました」
558
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:31:37 ID:???
「ズイブント ジカンガ カカッタジャナイノ!」
文句を垂れるしぃに対して、1さんは笑顔を作る。
「申し訳御座いません。あなたのベビちゃんがあんまり可愛らしかったので、つい見とれてしまいまして」
「フン!コノ カワイイシィチャンノ ベビチャンナンダカラ トウゼンヨ!アンタミタイナ カトウAAニ ジロジロミラレタラ ベビチャンノ キョウイクニ ワルイワ!
・・・マア、イイワ。シィチャンハ ウチュウイチ ヤサシイカラ ユルシテアゲル。ハヤク ベビチャンヲ ミセナサイ!」
好き勝手に喚き散らすしぃに対し、妹者が怒りの表情を見せた。
「む〜。1さんにあんな事言うなんて、許せないのじゃ!もう一回、妹者ドロップを・・・」
そして、しぃに向かって行こうとする妹者を、弟者が止めた。
「ま、まあ待て妹者よ。ここは1さんに任せようじゃないか」
「・・・わかったのじゃ」
そう言って彼女は、素直に再び弟者と兄者の横へ戻った。
当の1さんはと言うと、好き勝手に言われながらも表情1つ変えず、しぃに見えないように、バケツを自分の傍へと寄せていた。
「それじゃ、今お見せしますからね」
1さんの言葉に、
「ハニャーン♪ベビチャン、イマ オカアサンガ ナッコシテ アゲルカラネ♪」
しぃの表情が緩む。先程から「チィ」や「ナッコ」の一言も聞こえないのに、まるで疑っていない。
1さんがバケツを持ち上げる直前、彼は3人の方を向き、ウインク1つ。
「は〜い、ごたいめ〜ん!」
「ハニャーン!ベビチャ・・・」
シィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!???????
559
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:32:21 ID:???
1さんがしぃに向かって差し出した、例の物体入りのバケツ。
その中身を直視したしぃは、『百ベビ組手』の観客達全員分の歓声並みの絶叫を上げた。
「ナ・・・ナッ、ナッ・・・ナニヨ、コレェェェェェェェェェ!!!?」
「何って・・・あなた、自分で言ってた事も忘れてしまわれたのですか?あなたのベビちゃんですよ」
1さんがしれっと答える。しぃはまだ信じられないといった表情で続けた。
「ウ、ウソヨ、ソンナノ!!シィノ ベビチャンガ コンナ グチャグチャノ モノナワケ ナイジャナイノ!!!!」
「そう言われましても、私達はちゃんと見てたんですよ。あなたが、これを産み落とす所を」
「ソ、ソンナ・・・ウソ・・・ウソヨ・・・・!ド、ドウシテ・・・」
絶望の色がありありと浮かぶ表情のしぃ。声が震えている。
「いやあ、もうすぐ生まれるって時に、あれだけお腹に攻撃されたら・・・必然的にこうなるでしょうねぇ」
「!!!!」
この時、ようやくしぃは妹者に攻撃された事を思い出したらしく、妹者をキッと睨み付けた。
対する妹者もむっとした表情を作り、握った右手を左手に打ちつけた。彼女も、先刻抱いた怒りを忘れてはいなかったようだ。
パンッ!!
小気味良い音が響くと、しぃはビクリと体を竦ませた。どうやら、その時の耐え難い苦痛も一緒に思い出したようである。
「ハ、ハニャ・・・」
すっかり意気消沈した感のあるしぃに向かって、1さんはさらに続ける。
「・・・というわけで、これがあなたのベビちゃんです。お気の毒でしたね」
すると、しぃが顔を上げた。
「ウ・・・ウソヨ!ソンナノ ゼッタイニ ウソヨ!!シィチャンノ ベビチャンガ アンナ ドロドロニ ナッタナンテ、シンジナイワヨッ!!」
認めたくないらしいしぃが、悪あがきにしか聞こえないような口調で1さんに迫った。
「はぁ・・・まだそんな事を。お気持ちはわかりますが、現実を受け入れて下さい」
1さんが呆れ顔で言うが、しぃは一歩も引き下がらない。
「ソンナコトイッテ、マダドコカニ シィチャンノ ベビチャンヲ カクシテルンデショ!?イクラ シィチャンノ ベビチャンガ カワイイカラッテ ソンナコトシテ ユルサレルト オモッテルノ!?
イマスグニ シィチャンニ カワイイベビチャンヲ カエシタラ ダッコ ジュウマンカイデ ユルシテアゲルワ!サア、ハヤク ベビチャンニ アワセナサイ!ベビチャンヲ ナッコサセナサイヨッ!」
しぃは未だに、自分のベビがちゃんとした姿形でまだ何処かにいて、「ミィミィ」等と鳴きながら寄って来てくれると思っている。
そんな現実を受け入れられないしぃの言葉に、1さんは「やれやれ」といった表情を作った。
「・・・そんなにベビちゃんをダッコしたいですか?」
「アタリマエジャナイ!ヴァカジャナイノ!?ハヤク コノ ウチュウイチ カワイイ シィチャンノ ウチュウイチ カワイイ ベ(ry」
先程から何度も言っているような事を怒鳴り散らすしぃに向かって1さんは、
「・・・わかりました。そこまで仰られるのなら・・・」
静かな口調で呟きながら、再び足元のバケツを掴み上げた。そして―――
「―――お好きなだけ、ダッコなさいっ!」
ドバッシャァァァァァァァン!!
バケツの中身を全て、しぃに向かってぶちまけた。
「シギィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!??」
これまた聞くに堪えないような悲鳴を上げるしぃ。
その縛られた手足からは、滴ると言うにはドロドロし過ぎているような血肉がボタボタと垂れている。
560
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:32:48 ID:???
「ハニ゙ャァァァァァァァァァァァ!!!??ナニヨ コレェェェェェェェ!!!??」
大音量で叫ぶしぃに対し、1さんが冷静に言った。
「何って・・・あなたの望みを叶えて差し上げたんですよ。
如何ですかな?6匹分のゲル状ベビちゃんとのダッコのお味は」
「コ・・・コンナノ、ダッコジャナ・・・イヤァァァァァァァァァァァァァ!!!」
半狂乱となったしぃの叫び声に、妹者はまた耳を塞ぐ。本日3度目だ。
「アアアアアァァァァァァァ・・・ベビチャン・・・ベビチャン・・・ハニャァァァァ、ァァァァ・・・」
明らかに狂いかけているとわかるしぃの声。目は血走り、その全身は、自らの血を分けて作られた物に塗れている。
「いやあ、俺も長年しぃという生き物を見てきたが・・・こんなに血生臭いダッコは初めて見たな」
「ダッコというものは俺も元々不快な物だと思ってはいたが・・・これは凄い。不快ってレベルじゃないな」
「『気持ち悪い』って、こういう時のために作られた言葉なのじゃ、きっと」
兄妹の言葉に、しぃが反応した。
「ア゙ァァァァァァ・・・ダッコ・・・ダッゴォォォォォォ・・・ベビチャ・・・ジィィ・・・」
最早バイオハザード化したしぃの声。その顔は醜く歪み、強気でダッコをねだっていた時の面影は欠片も無い。
そしてしぃは、
「ウァァァアァ・・・ダッゴ・・・ダコダコダコダコダコダコダコダコダコ・・・ベビチャンベビチャンベビチャン」
まるで壊れたテープレコーダーのように同じ単語ばかりを繰り返した後―――
「ベビチャンベビチャンベビチャンベビベビベビダコダコダコ・・・ヴァァァァァァウjdンbyhベクィpwンwcンプbccクヌbybジガヒhjp;」
―――異常な叫び声を上げ、やがて静かになった。
561
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:33:24 ID:???
「・・・どうやら、逝ってしまわれたようですね」
1さんが言った。
がっくりうなだれたしぃの顔には生気が全く感じられない。白目を剥き、顔中の穴と言う穴から液体を垂れ流している。
「ショック死、か―――まあ、しぃってのは元々精神の足腰も脆いらしいからな」
兄者の言葉に、弟者もうんうんと頷いた。
「―――というわけで、『妊娠しぃdeお御籤』は以上で御座います。お疲れ様で御座いました」
1さんがそう言って深々と頭を下げる。慌てて3人も頭を下げた。
互いが頭を上げてから、弟者が言う。
「後片付け、手伝いましょうか?」
しかし1さんは、それを丁重に断った。
「有難う御座います。ですが、私一人で大丈夫ですから・・・お客様にご迷惑をおかけする訳には」
笑顔で言う1さん。無理に食い下がる事も無いだろうと思い、3人は彼の好意に甘える事とした。
「どうも、有難う御座いました」
「バイバイなのじゃ〜」
「どうかお気をつけて・・・あ、私、この近くの『壱ノ宮神社』で働いておりますので、何か御用のときはいつでもお越し下さい」
挨拶を交わして、3人は1さんと別れた。
空を見上げると、もう微かにオレンジ色に染まり始めている。
今から家路に着くであろう人々の群れが、大移動。出店も閉まっている所が目立った。
やがて聞こえて来る、『間も無く終了時刻です。本日は『百ベビ組手』大会にお越し頂き、誠に有難う御座いました』のアナウンス。
「・・・んじゃ、帰るか」
「ああ、そうだな」
「そうするのじゃ。もう流石に疲れたのじゃ・・・」
そう会話を交わし、歩き出そうとしたその時。不意に兄者が言った。
「妹者、今日はもう疲れただろう。俺がおんぶして行ってやるよ」
「え、ホントなのじゃ!?」
「お、頭脳派の兄者が肉体労働とは・・・珍しいな。明日は雨か?」
喜ぶ妹者と、からかうような口調の弟者。それを聞いた兄者が憮然として答える。
「一言どころか全文余計だ、弟者。俺はただ、疲れきっているであろう妹をこれ以上歩かせたくないだけだ。お前は荷物もあるしな・・・」
それを聞いた弟者は、苦笑。
「冗談だ、兄者。時に落ち着け。―――妹者。兄者もああ言ってるし、おぶってもらうといい」
「わーい、ありがとうなのじゃ!」
嬉々として、妹者が兄者の背中に飛び乗る。
「それじゃ、帰るぞ。弟者、はぐれるなよ!」
「それはこっちの台詞だ、兄者・・・」
今朝の事を思い出した弟者が、また苦笑した。
そして3人は、人の波の奔流に巻き込まれぬよう、慎重に出口を目指した。
562
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:33:56 ID:???
―――広場の外。
無事に脱出を果たした3人は、家路に着いた。
歩を進める内に、同じように近くを歩いていたAAの数もどんどん減っていき、やがて自分達だけとなった。
「それにしてもだ、兄者」
歩きながら、『百ベビ組手』で貰った賞状と盾、そして副賞のナイフを抱えた弟者が言った。
「何だ、弟者よ」
妹者を背負った兄者が答える。
「今日の妹者だがな・・・あんな技、どこで身につけたんだ?ドロップキックはともかく、その後のコンボ。何やら叫んでたし・・・」
それを聞いた兄者は、ばつが悪そうに言った。
「む・・・まあ、その、以前、妹者と共にとあるアニメを一緒に見てだな。それで・・・」
「まさか・・・おいおい、あれを妹者に見せたのか?」
その『アニメ』の正体が分かったらしい弟者が、怪訝な顔をする。
「い、いや・・・もうすぐ夏だし、熱くなれるアニメが見たくなってな・・・。
俺がレンタルビデオ屋から借りてきて、いざ第1話を見ようとしたら、妹者がやってきて『暇だから一緒に見るのじゃ!』と」
「それで・・・影響された、と」
「影響どころか、俺よりハマってたみたいなんだこれが。その日一日、俺の事を『師匠』って呼んだり・・・なぁ、妹者」
兄者は不意に妹者に話を振った。だが、妹者からの返答は無い。
「・・・妹者?」
弟者が声を掛けた。が、その理由はすぐに分かった。
「―――すぅ・・・すぅ・・・むにゃむにゃ・・・」
「―――寝てしまったか。まあ、1日中遊びまわったんだ、無理もなかろう」
兄者がハハハ、と笑った。
と、その時。妹者が声を発した。
「うにゃ・・・ちっちゃいあにじゃが、ゆうしょうなのじゃ・・・むにゃむにゃ・・・」
それを聞いた兄者が、再び笑う。
「ははは、妹者の夢の中では、弟者は優勝しているらしいな」
「ぬぅ、4位で勘弁してくれ・・・」
ちょっと顔を赤くした弟者はそう呟いていたが、不意にポン、と手を打った(実際は荷物が邪魔で少し苦労していたが)。
「そうだ。妹者の希望を叶えてやらんとな・・・」
言いながら携帯電話を取り出し、電話をかける。通話先は―――自宅。
「もしもし、母者か?うん、俺だ。兄者と妹者も一緒だ。今から帰るよ」
電話には母者が出たようだ。弟者はこれから帰る旨を伝えた。しかし、そこで電話を切ろうとはせず、言葉を続けた。
「あ、スマンが母者、一つ要望があるんだ。聞いてくれるか?・・・うむ、サンクス。あのだな・・・」
弟者はそこで一旦言葉を切り、安らかに眠る妹者の顔をちらりと見る。そして、電話の向こうの母者に告げた。
「―――今日の夕飯は、天ぷらを頼む」
【完】
563
:
ロディウェイ
:2008/05/06(火) 13:02:31 ID:vE..VX8Q
>>535
続きいきます。
『虐殺サイボーグシーン』
ACT5「ちびギコ」
この町にきて一週間になる日、僕は、自分のライフルを磨いていた。
そこにモラソールがやってきた。
「やあ、いつもここにいると暇だろうから、たまには外で散歩でもしたらどうだい?」
「・・・はい、とりあえず近くを散歩してみます。」
僕はライフルを大型ケースに入れて外へでた。
僕はここから右にある住宅街を歩いた。時々、それぞれの家から
「ハニャーン♪ダッコハイイ♪」
と聞えてくる。この日に天気は雲一つない晴れだった。
しばらく歩いてるうちに公園が見えた。プレートには、
〔ハニャンマタール公園〕
と書かれていた。とりあえずここで一休みすることにしよう。
公園には、様々な遊具があった。しかし、誰が作ったのだろうか・・・
(アフォしぃでは無理なんだが)
しばらくしてからちびギコ三匹がやってきた。
「キョウハナニシテアソブデチカ?」
「ボクガボールヲモッテキタデチ。」
「ジャア、ボールアソビヲスルデチ!」
とキャッチボールをし始めた。
ふと僕の頭の中で思った。そういえば、ここに来てちびギコを虐殺していなっかたな。
せっかくの良い機会なのでやってみる事にした。
564
:
ロディウェイ
:2008/05/06(火) 13:37:18 ID:vE..VX8Q
僕が動くまでもなかった。ちびどもが投げたボールが僕の足元に落ちた。
そして、一匹が近づいてきた。
「ソコノシラナイオッチャン、ボールヲトルデチ。」
これは明らかに命令してしる言葉だ。僕はボールを足で潰した。
ボールは ペシャッ と音がして平たくなった。当然、ちびが怒る。
「ナニボールヲペシャンコニスルンデチカ!ボクチンモウオコッタデチ!!
ボコボコニシテヤルデチ!!」
そういって右手で殴りかかってきた、たいした腕力はないので左足で防御した。
それから僕は動きが止まったちびを足裏のローラーで顔をミンチにした。
キュイイイイイイィィィィィーン
「ミミオアウウイアjf8オウジャソhjdfハウイアsjヅイhsジsジダs」
ちびの顔からは、皮膚、肉片、血などが火花のように飛び散った。
そして、足をあげると、もう原型はとどまっておらず、ひどい状態でもう、
虫の息だった。
それから、ミンチされたちびの死体を残りの二匹に投げつけた。
ちびギコ二匹は、さきほどのちびを見て、完全に腰が抜けていた。
まず左のやつに近づいて(ローラーはさっきのミンチで滑りにくくなってる。)
右腕、左腕を雑巾のように絞った。
「アアアアアアアアア!!イタイデチーーーーー!!」
両腕の骨が砕けるなか、こいつの断絶間が響いた。
続いて両足をいっきに絞った。
「アアアアアアアアアアAAAAアアアアア!!アンヨガーーー!!」
また断絶間が響いた。となりのちびは、ただただ耳を塞いで震えていた。
そして首に手をかけた時、ちびが言った。
「ナンデ、ナンデ!・・・ボクタチガナニシッタッテユウンデチカ!?」
僕はこれに対するように言った。
「ボール遊びをしていた。」
そして、首の骨を折ってもう一匹のやつに視線を向けた。
そいつは、恐怖の真っ只中にいるような顔をしていた。
565
:
ロディウェイ
:2008/05/06(火) 13:53:43 ID:vE..VX8Q
僕は、残ったちびの足をもぎ取った。
ブチュッ と音がした。しぃの耳をもいだ時と結構違う。
「ウアアアアアアアアア!!ヤメテデチ!!コロサナイデ!!」
そう言って、なめくじのように逃げ始めた。
「ニゲルデチ、ニゲルデチ」
精神的にかなり疲労しているようだ。僕はベンチに置いておいたケースから
ライフルを手にとり、胸ポケットから弾丸を出して、ライフルに詰めた。
そして、ライフルのスコープと目のズーム機能で標準をセットし、撃った。
バンッ と銃声が鳴ったと同時にちびが動かなくなった。
これでアフォしぃ、オニーニ、ちびギコの三種を倒しことになった。
ライフルをケースに戻し、公園を後にした。
帰る途中、茶色の服を着た女性と肩がぶつかった。
「アッ、ス、スミマセン」
「いえ、こちらもすみませんでした。」
それで何事もなかったように歩いた。
おかしい、あれはアフォしぃじゃない・・・。いったいなんだ?
アフォしぃではあの反応は絶対ないはずだ!この町には何かある、何かが・・・
僕の心には、悪い予感が来ると感じた。
続く
566
:
魔
:2008/05/14(水) 21:40:19 ID:???
>>524
より続き
『裏話 〜後遺症〜』
吹っ切れてから後は、早いものだった。
ウララーは擬似警官を辞め、銃を持つ事を辞めた。
素直に虐殺に向き合い、実行し、楽しみもした。
堕ちた、と言ってしまえばそこでおしまい。
寧ろ、堕ちたというよりリバウンドと形容した方が正しいだろう。
いつも正義とは悪とは何かと考え悩んでいたウララーが、今や虐殺を素直に受け入れている。
その表情は見違える程清々しく、あるべき姿とさえ錯覚してしまう程。
街を受け入れ、街に歓迎されたウララーは自身の身体を血で汚す。
被虐者のものでも、ぽろろのものでも構わず浴びた。
ひたすら、虐殺を楽しんでいた。
※
「う、く・・・んっっ!!」
ソファの上に俯せになり、頭をこちらに向けて背中を見せるぽろろ。
ウララーはその小さな背中に、ひたすら画鋲を刺していた。
「まだ沢山あるからな」
掌の中のプラスチックの箱に、金に光る画鋲。
じゃらと音を立ててぽろろにそれを見せ、また一つ取り出して刺す。
画鋲をぽろろの背中に埋める度、ぽろろは身体を小さく跳ねさせる。
顔を赤らめ、涙を目尻に溜めながら堪える様は、そそるものがある。
時折堪えきれなくなるのか、ソファに強く爪を立てる事もあり、それもまた良い。
「あうッ!」
ぽろろの反応や、喘ぎ声のバリエーションは様々だ。
ウララーはそれに応えるようにと、画鋲を刺すという事に一工夫加える。
時間を掛けてゆっくりと刺していく時もあれば、一気に押し付けたり。
或いは捩込むように指でくるくると回しながら刺しもした。
(・・・)
ぽろろの性分は、虐待虐殺されること。
虐殺の楽しさを見出だせた自分にとっては、嬉しくも悲しくもある。
人目を気にしなくて良いのだが、一緒に暮らす者を虐待するなど。
最初はそう思ったのだが、一度虐殺に溺れた身。
後ろめたい事など、当の昔に失っている。
それに、
「ぐ・・・ううぅっ!」
呻き声をあげ苦しみつつも、垣間見るぽろろの表情。
歯を食いしばりながら、一瞬だけそれが恍惚にシフトする。
性行為をするよりも気持ち良さそうなぽろろを見て、安心を覚えてしまったのだ。
ここまでくると、もう感情論は必要ない。
互いの好きな事を、互いに息をあわせて行うのみ。
自分は坦々と画鋲を刺し、ぽろろはそれにひたすら喘ぐ。
「お前の背中、金色に光って綺麗だな」
「あう・・・ッ! うあああああんっ!!」
画鋲まみれの背中を撫でてやると、ぽろろは激しく悶えだす。
無数の突き刺さった針が、傷口の中を刺激しているのだろう。
辛子でも塗ってから刺してやれば、もっと喜んだだろうか。
そう思いながら、画鋲に覆われたぽろろの背中を沢山撫でてやった。
567
:
魔
:2008/05/14(水) 21:43:49 ID:???
隙間なく並んだ画鋲達は、豪華な衣装のようにも見える。
身体とそれの境目では血が少しながら流れていて、そのコントラストも美しかった。
「これで全部だ。頑張ったな」
「・・・」
ぽろろからの直接な返答はなかったが、小さく頷いてくれた。
地味な虐待とはいえ、感じる痛みは決して易しいものではない筈。
凄まじい苦痛、いや快楽に苛まれ、反応する事がやっとという所か。
そう考えると、今のぽろろはエクスタしぃとやらに似ている気がする。
だが、奴らは痛みを痛みとして認識していないと聞く。
それにぽろろ自身も、痛いと感じた時はしっかりと『痛い』と言っている。
「・・・う、ウララー、っ」
「ん?」
「もう・・・や、やめ・・・」
ふと、ぽろろの言葉で我に返る。
気を抜くとすぐに考察したがるのは、悪い癖か。
全て聞こえなかった所から、どちらを願っているのかわからない。
止めて欲しいのか、或いは遠回しに続きを欲しているのか。
どちらにせよ、自分の中には答は一つしかないのだが。
「いや、まだ続きがあるぞ」
ぽろろの耳元で囁き、テーブルに用意してあったものを取る。
何の変哲もない、唯のガムテープ。
それを見て何をされるのか理解したのか、ぽろろの顔が青ざめていく。
「さっきはチクチクするだけだったが、これだとどうなるか俺にも想像できない」
別に言葉で責めているつもりはないが、ぽろろはより怯えだす。
赤らんだ頬に小さな冷や汗が一筋伝い、顎から離れてソファに落ちる。
しかし、身体は震えていても、その眼だけは爛々と光っていた。
早くやってほしいという気持ちではなさそうだが、期待のようなものを感じる。
恐怖に怯える被虐者のようにありながら、やはり何か違うぽろろ。
よくわからないギャップのようなものは、己を駆り立てる。
―――酷く、興奮してしまう。
ガムテープの切れ端を摘み、景気よく引っ張る。
適度な長さの所でそれを破り、画鋲の衣装の上に貼付ける。
綺麗だった金の衣装は茶色の紙に隠され、みすぼらしく見えた。
「いくぞ」
短く呟き、ガムテープの端を摘む。
そして何も考えずに、腕を思いっきり振り上げた。
「っっぎゃあああああァァァァァ!!!」
ばりばり、と激しい音がしてガムテープは剥がれ、次いでぽろろの絶叫。
どちらも耳をつんざく勢いで、予想外のボリュームに心臓が跳ねた。
「うああああああああっっ!!!」
海老反りになり、ソファの上で転がり回ろうとするぽろろ。
流石に耐え切れなかったのか、その苦しみっぷりは気狂いのよう。
激痛を訴えるのが背中ということもあり、庇えないもどかしさもあるのだろう。
剥がしたガムテープを覗くと、こちらも凄い事になっている。
赤く汚れた画鋲がびっしりと敷き詰められ、所々肉のようなものもある。
一部画鋲が付いていない所があったが、恐らくまだぽろろの背中に刺さったまま。
ぽろろが落ち着いたら、抜いてやるとしよう。
568
:
魔
:2008/05/14(水) 21:44:27 ID:???
※
「うぐ・・・」
余程痛かったのか、ぽろろが大人しくなるまで大分時間が掛かった。
その間、悶える様を観て十二分に楽しめたのだが。
今のぽろろは、痛みが引いたというよりも満身創痍といった方が正しいようだ。
涙を溜めた目は虚ろだし、だらし無く開いた口からは涎が際限なく溢れている。
俯せでありながら、必死に身体全体で呼吸をしてもいた。
仰向けになればいくらか楽になる筈だが、穴だらけの背中をどこにも触れさせたくないのだろう。
(しかし・・・)
我ながら、なかなか悪意のある事をしてしまったなと、ぽろろの背中を見て思う。
蓮コラのそれよりは小さいが、穴という穴からは体液が沢山漏れている。
所々大きく肉が刔れていたりして、痛々しさは半端じゃない。
思わず、目を背けたくなる。
そうありながら、ずっと眺めていたいような気持ちにもなる。
ぽろろの可愛らしい背中にある無数の穴と流れる血液。
悍ましくもあり、また、僅かだが美しくあった。
「痛かったか?」
「・・・う、ん」
『痛い』。
その言葉は、そのまま『気持ち良い』にシフトはしないようだ。
歯を食いしばり、なお苦痛に悶えるぽろろ。
(・・・可愛い、な)
いい意味で、胸が締め付けられる。
ぽろろの両脇に手を突っ込み、そのまま持ち上げる。
そして、成すがままのぽろろを自分の腿の上に座らせた。
「・・・?」
赤らんだ頬に、涙と涎でくしゃくしゃになった顔。
嫌悪感など微塵とも感じるわけがない。
この表情が、己を酷く駆り立てる。
ぽろろも、喜んでいる。
自分がぽろろを虐待する度、虐殺する度。
「ぽろろ」
「えっ?・・・ッ痛! 痛い、痛いっっ!!」
気持ちが高ぶり、思わず抱きしめる。
傷だらけの筈のぽろろの背中に、爪を立てる。
弱々しく抵抗し、強く泣き叫ぶぽろろ。
耳元で聞こえるその悲鳴で、イッてしまいそう。
心が、精神が、おかしくなってしまいそうだ。
「ずっと、聞いていたいな・・・そう、お前の、声」
「うあっ! く、痛あっッ!!」
ねっとりとしたものが、両手に付着する。
このまま、共に快楽の海に溺れていきたい。
むせ返るような血の臭いに、ぽろろの悲鳴という音楽を聴きながら。
―――電子音。
インターホンが鳴り響き、快楽の海から引き上げられる。
同時に深い憤りと気だるさを覚えつつ、ぽろろを腿から下ろす。
「・・・悪い、ちょっと出てくる」
「・・・」
玄関に向かう途中、振り向き様に見たぽろろの表情。
どこか、不快感を静かに露にしているように見えた。
569
:
魔
:2008/05/14(水) 21:45:11 ID:???
※
もし訪ねてきたAAが勧誘か何かだったら、殴り殺してしまいそうだ。
そんな毒を心の中で吐きつつ、苛々を床に押し付ける。
どすどすとわざとらしい音を立て、玄関の前に立つと乱暴に扉を開けた。
「どちら様で・・・ッ!」
刺のある声で応対した者は、銃口だった。
咄嗟に屈み、同時にその銃が吠える。
頭上を殺意が通過したかと思うと、後方で何かが破裂する音がした。
「な・・・!?」
突然の事に驚愕し、次いで怒りが込み上げる。
が、銃口を向けていた者の顔を見てみると、また驚愕。
そこにいたのは、擬似警官だった。
「久しぶりだな。ウララー」
「エ・・・エゴ?」
男は紫の身体に、耳に青い線が走っている。
その特徴を持った擬似警官は、エゴという名。
自分とは同期の者だ。
「お前には失望したよ。銃を持つのを辞めたって聞いて、来てみたらコレかよ」
エゴの言葉を聞き、ふと己の両手を見遣る。
本来黒い筈の自分の腕は、血で真っ赤に染まっていた。
「あ・・・いや、これは」
「しらばっくれンな! 臭いも被虐者のそれじゃねェ。何考えてんだ!!」
鬼の形相で、エゴは責め立ててくる。
擬似警官だから、この反応は当たり前か。
エゴのような直情的な者に、全てを話そうとしても無駄かもしれない。
たとえ信じても、エゴは元々虐殺そのものを嫌っている。
予想だにしなかった、最悪の展開。
ぽろろを置いて、まだ死ぬわけにはいかないのに。
どうにかして、この場を切り抜けなければ。
場合によっては、最悪を最悪で返してやってもいい。
(殺すか・・・?)
AAの命が散る瞬間なんて、腐る程見て来た。
自らが殺める事も、既に堕ちた身。躊躇う必要はない。
問題なのは、エゴが持つ得物と丸腰の己との差をどう埋めるかだ。
「どうしたんだよ。何か言えよ!」
「・・・」
が、どうやらエゴは話し合いたいようだ。
意図はよく掴めないが、考える余裕はできそうだ。
爆発させない程度に、真実を述べてみるか。
「・・・悪いが、俺はまだ虐殺厨にはなっていない」
「両手濡らしといて、まだ言うのかよ」
「落ち着け。信じられねえかもしれないが、この血は被虐者のモノだ」
「・・・は?」
と、エゴの額に青すじがいくつも現れる。
このままいくと、本当に爆発させてしまいそうだ。
だが、真実を述べないで死ぬのも御免だ。
肚をくくるつもりで、続ける。
「アフォしぃでもちびギコでもない、新しい被虐者だ。殺しても死なない」
「・・・」
返事を待つが、エゴの口は開かない。
ただ、その表情が歪み、歯ぎしりの音が大きく聞こえたのと、
銃を握っている手の人差し指が動いたのは、確認できた。
570
:
魔
:2008/05/14(水) 21:46:44 ID:???
「!?」
炸裂音。
場の空気が、凍り付く。
(・・・?)
死が自分に襲い掛かると思って、咄嗟に目をつむった。
が、痛みはどこにも感じず、違和感も何もない。
恐る恐る目を開けると、奇妙な光景が飛び込んできた。
エゴの銃を、青い紐のようなものが縛り上げていたからだ。
銃口は天井を向き、弾痕も天井にできている。
紐は自分の後方から伸びているようで、目線でそれを追う。
振り向くと、背中のあたりからその紐を出しているぽろろがいた。
「な、何だ、こいつ・・・ッ!?」
エゴが驚愕の声を上げるや否や、更に二本の紐がエゴを襲う。
紐はするりと巻き付き、エゴの身体の自由を奪った。
よく観察してみると、紐というより触手と表現した方が正しいかもしれない。
エゴの両腕と胴体を纏めて縛りながらうねうねと動くそれは、気持ち悪い事この上ない。
「ぽろろ、一体これは・・・」
ぽろろの方に向き直り、問い掛ける。
が、届かなかったようで、俯き加減で何やら呟いている。
「邪魔した・・・ウララーさんを、殺そうと・・・」
呪詛のようにエゴへ怨みの言葉を吐き、触手を暴れさせるぽろろ。
虐待を中断させられたのが余程不快だったのか、非常に悍ましく感じる。
そのせいで、背中の触手はすんなりと受け入れる事ができた。
ぽろろやVに驚かされ続けてきたから、耐性がついただけなのかもしれないが。
「う、ウララー! なんなんだよコレ!?」
自分とは相反するように、エゴはひたすら焦り、怯えている。
それを無視し、ぽろろは器用に触手を動かしてエゴを宙に浮かせる。
次の瞬間には、天井、床の順にたたき付けた。
「ぶぐっっ!!」
鈍い音と湿っぽい音がして、エゴは俯せに寝かされる。
遅れて、どこかで宙を舞った銃が音を立てて落ちた。
ふと気が付くと、いつの間にか形勢逆転してしまっていた。
「邪魔・・・邪魔・・・」
「ぽろろ、一旦落ち着け」
とりあえずぽろろを宥め、次にすべき事を考える。
触手については、全てを終わらせてから聞こう。
「あ・・・っ、が」
エゴの顔を覗き込むと、床に顔から突っ込まされたようで、鼻血が出ていた。
痛むのか涙目にもなっていて、先程とのギャップに思わず笑いそうになる。
そこで、ある感情が芽吹いてしまう。
本来は犯罪である筈だが、心がしたいと叫んでいる。
堕ちた者は何処まで堕ちていくのか。
理性はそう遠回しに警告するが、本能は既に点火していた。
対峙した時にも、それに近いものを念っていた。
だから、戸惑う理由なんてどこにもない。
囁くように、ぽろろに伝える。
「ぽろろ」
「はい?」
「今から、こいつを虐殺しようか」
571
:
魔
:2008/05/14(水) 21:47:30 ID:???
「んな・・・!?」
エゴの顔を覗き見ながら言ったので、表情の変化がしっかりと確認できた。
一気に青ざめ、焦りを強くするエゴは滑稽で堪らない。
そんなエゴに追い打ちを掛ける為、少し言葉を交わす。
「ああ、こういう事は俺も初めてだから。ぽろろを怒らせた自分を呪えよ?」
「待っ・・・ふざけんな! やっぱり虐殺厨だったんじゃねぇか!!」
「一般AAを虐殺したことなんて無いんだが。まあ、殺した事はあるけどな」
「テメェっっ!!」
ひたすら怒号を浴びせ掛けてくるエゴ。
しかし、その必死さの奥には怯えが垣間見える。
怒りをぶちまけなければ、自我を保てないのだろうか。
「もう俺は堕ちたんだよ。手だって、文字通り血に染まってやがる」
「こんな・・・こんなことッ!」
嘆くエゴを無視し、耳を掴んでぐいと上に引っ張る。
鼻息が掛かるま位置まで顔を近付け、吐き捨てるように囁く。
「悪いが、俺はお前を虐殺して、初めて虐殺厨になる」
※
なかなか便利な身体だなあと、ぽろろを見てつくづく思う。
聞くところによると、触手は治癒能力の延長線上のものだとか。
自在に操ることが出来る上、蜥蜴の尻尾のように切り離す事も可能とのこと。
体格差のある被虐者を捕らえる事ができたのも、この触手のお陰なのだろう。
その触手はエゴをテーブルの上に大の字に縛り上げ、しっかりと固定されている。
溶けているかのようにテーブルにくっついており、スライムのようにも見えた。
「〜〜〜!!」
触手はご丁寧に口に詮までしていて、エゴは喋る事すらままならない。
怒りかはたまた恐怖感か、首を必死に動かして抵抗している。
正しくは、『抵抗しようとしている』と表現した方がいいかもしれない。
「さて、先ずは何をしてやろうかな・・・と、そうだ」
思考を張り巡らせる前に、視界の中に先程扱っていた画鋲まみれのガムテープがあった。
それを拾い上げ、エゴの腹の上にそっと置く。
と、エゴのくぐもった声と、無駄な抵抗がより激しくなった。
「ぽろろ、この上に乗ってみろ」
「!!?」
焦るエゴを無視し、ガムテープを指差してぽろろにそう伝える。
頷くぽろろと激しく拒むエゴの対比は、なかなかに面白い。
ゆっくりとテーブルの縁に立ち、ガムテープに視線を落とすぽろろ。
次に素早く屈み込み、エゴの腹部に力強く飛び乗った。
「ふんっ!」
「ぶぐふっッ!!!」
ぽろろの掛け声と、鈍い音が重く響くのは同時だった。
直後、肺を圧迫されたわけでもないのに肉の詮がエゴの口からすぽんと発射された。
あまりにも間抜けな展開に、思わず吹き出しそうになる。
肝心のエゴは腹の中の衝撃と、腹の上の無数の痛みに悶絶している様子。
何度も咳込み、その合間合間に叫喚を交えて苦しんでいた。
572
:
魔
:2008/05/14(水) 21:48:13 ID:???
「ック・・・ぽ、ぽろろ。エゴの口から何か飛んだぞ・・・くくっ」
必死に笑いを堪えながら、話し掛ける。
当の本人はしてやったり顔で、エゴを見下ろしていた。
「面白かったですか?」
「ああ、ああ・・・なかなか、だ。くっくく」
「じゃあ、もう一回」
そう言って、ぽろろは背中から触手を出して再度エゴの口に突っ込む。
突っ込む直前、エゴは何か言いたそうだったが、やはり肉の詮が邪魔をした。
顔色も悪く、唾や涎が自らの顎を汚している。
ぽろろが飛び上がる構えをすると、目を見開き首を起こすエゴ。
もごもごと篭った声は、罵倒か抑止かどうかわからなかった。
「せーのっ!」
ズン、と重い響きがテーブルを軋ませる。
「ぐぶああぁっ!!」
今度は先程のように肉の詮が飛び、加えて胃液らしきものが飛び散る。
びちゃびちゃと湿った不快な音と、エゴの濁った咳が耳に障る。
腹を踏むと、口から汚物を盛大に吐き出す。
なんとも醜い遊び道具を、ぽろろは気に入ったようだ。
喜々としてジャンプを繰り返し、何度も踏み付けた。
笑いも止まり、落ち着いた所で虐待を眺める。
もはや画鋲ガムテープは、それのおまけといった所だろうか。
腹の皮を無数の針が突き破るよりも、内臓をシェイクされている方が辛そうだ。
「よっ! とっ!」
「いいぞぽろろ。その調子だ」
リズミカルに跳ねるぽろろに合わせ、手拍子を入れてみる。
エゴの阿鼻叫喚と鈍い音の拍子が重なり、音楽になる。
殆ど不協和音のそれに近いが、苦痛に悶えるボーカルの声に聴き入ってしまう。
「んぎっ! ッぶ! あ、ぶぐぅぅ!!」
腹を踏み付けられて数十回目の事。
エゴの吐瀉物に、赤いものがが混じり始めた。
恐らく内臓が破裂したか、或いは喉を潰してしまったか。
これ以上続けると、このまま死んでしまうかもしれない。
一旦ぽろろにジャンプを止めさせ、様子を見る。
「げほげほっ! が、っぐ・・・」
呼吸は荒く、顔色も悪い。
試しに画鋲つきガムテープの両端を持ち、一気に剥がしてみる。
が、エゴは少し身体を跳ねさせるだけで、対した反応はしなかった。
そのかわり、小さな穴と血だらけになった腹の一部が不自然に盛り上がっている。
気になり、そこを指で強く圧してみる。
「うがああああああああっ!!」
すると、先程と打って変わり凄まじい叫び声。
どれかはわからないが、やはり内臓が破裂したのだろう。
ガムテープを剥がしても反応が薄かったのは、これが原因か。
身体の一部分が酷く痛めば、他の部分の小さな痛みは感じなくなる。
ということは、細かい虐待をしても面白みがないかもしれない。
しかも内臓が破れているとなると、そう長くは持たないだろう。
(次のメニューは、どうしたものか・・・)
そう考えるや否や、ぽろろの腹の虫が雄叫びをあげた。
573
:
魔
:2008/05/14(水) 21:48:35 ID:???
「あ」
ぽろろはハッとして腹を押さえる。
なかなか大きな音だったので、流石に恥ずかしかったようだ。
「お腹すいたのか?」
「う、うん」
「まあ、これだけはしゃいだらそうなるな」
ぽろろにそう言って、エゴの腹をまた突く。
と、必要以上の苦痛の声が聞こえ、思わず手を引っ込めた。
今から食事の準備、というのも何だか気が引けてしまう。
汚物や血に塗れた部屋で食べ物を眺めるといった、図太い神経は持ち合わせていない。
下手をすれば、変にトラウマになってしまいそうだ。
(・・・そうだ)
ふと、思い付く。
「ぽろろ」
「はい?」
「その・・・なんつーか、こいつ食べるか?」
※
「う、ウララー・・・っげ、てめぇ、ッ」
「いいの?」
人間性を問われそうな妙案に、意見が二つに別れた。
眼を輝かせ、こちらを見て喜ぶぽろろと、掠れた声で抗議しようとするエゴ。
勿論、これから死ぬ者の意見など聞く理由はない。
わざとらしくエゴを無視し、ぽろろに促す。
「どうせ死体になったら処理しないといけないし、ぽろろが嫌じゃないなら」
「・・・じゃあ、お言葉に甘えて」
謙遜気味だったが、後押しされたのかすぐに表情を変える。
ニコニコと嬉しそうなぽろろを見て、自分にもやる気が湧いてきた。
「よし。じゃあ早速解体に移るぞ」
席を外し、包丁を取りに台所へ。
途中エゴの雄叫びのような罵声が何度も聞こえたが、濁りすぎていて聞き取れなかった。
棚から包丁を取り出し、ふと気付く。
腕についていたぽろろの血を、まだそのままにしていた。
大分時間が経っているので、少しくすんでカサカサになっている。
「・・・」
臭いを嗅ぎ、舌で舐め取ってみる。
血は唾液に溶かされ、口の中へと入る。
少量だったせいか、いつものような生臭さは皆無。
そのかわり、血の表現でよく聞く鉄のような味が、舌の上で広がって消えた。
美味くはないが、吐く程不味いというわけでもない。
(そろそろ喉が渇く頃だろうな)
そう思いつつ、両腕の血を洗い流す。
腕から赤が落ちていき、見慣れた黒が顔を出した。
水を切ってハンドタオルで拭き取ると、包丁を持って部屋に戻る。
部屋に戻ってくると、エゴが口まわりを更に赤く汚していた。
大袈裟に上下動する腹と、ひゅうひゅうと鳴っている喉。
横では、ぽろろが背中から触手を一本出してこちらを見ている。
「どうかしたのか?」
「いや・・・こいつが、ウララーの悪口ばっかり言うから」
そう言って、ぽろろは触手で空をつつく。
どうやらエゴを黙らせる為に腹を押すか何かしたのだろう。
「・・・そうか」
574
:
魔
:2008/05/14(水) 21:49:35 ID:???
気持ちは嬉しいのだが、エゴの事が少し心配になる。
腹を突くだけで、こうも血を吐くものだろうか。
腹内部の出血がそこまで酷いとなると、文字通り長くは持たない。
ならば、なるだけテンポ良くエゴを弄って遊んでやらなければ。
ただ死なさせるだけでは味気無い。
※
エゴの二の腕の、肩に近い所に羽を入れる。
「っぐ・・・!」
多少身もだえするものの、その動きに力はない。
気にせず包丁を動かし、腕の肉に切り込みを入れていく。
包丁が血に塗れ、腕に大分深く潜るようになった時。
ゴリ、と固いものにぶつかった手応えがあった。
切るだけならば、包丁を振り下ろして叩き割るのが良い。
が、これは虐待も含めての解体だ。普通に切り離すのでは意味がない。
そこで、
「ふんっ!」
「が! っぎゃ、うがあああッ!!」
体重を乗せながら、ぐりぐりと包丁を鋸のように動かす。
と、骨に掛かる圧力が激痛となったのか、エゴは火がついたかのように叫び出す。
ミシ、と軋む音に小さく砕ける音が混ざって聞こえる。
更にそれに重ね、エゴの掠れた悲鳴が耳を刺激した。
なかなか良い手応えと悲痛の歌に、つい笑みが零れてしまう。
しかし、楽しみもつかの間。
破裂するような音と共に、手応えが一気に霧散する。
勢い余った力は、そのまま残りの肉を裂き、テーブルに包丁を突き刺した。
エゴの骨は、思ったより早く折れてしまった。
「ぐぎゃあああああああ!!」
一手遅れて、エゴがより激しく叫ぶ。
痛みの度合いが腹部のそれに勝ったのか、かなり煩い。
構わず切り離した腕を、エゴを縛っている触手から抜き取りぽろろに渡す。
ぽろろは腕を貰うと、喜々として切り口にかじりついた。
「美味いか?」
「うん。『しぃ』ってAAより、断然」
「ほう」
それを聞いて、ふとあの少年の事を思い出した。
AAを喰らう者から見れば、被虐者より加虐者の肉の方が質がいいのだろうか。
自分も少し、試してみたくなってきた。
途端、じわりと強くなる渇き。
身体が、血を欲している。
エゴの方に向き直り、腹を再度観察する。
一部分だけぷっくらと膨れた腹は不自然で、かつ醜くあった。
(・・・どれ)
包丁を持ち直し、瘤状に膨れたそれに十時に切れ目を入れる。
エゴの身体が少し跳ねるものの、刃は瘤の上を綺麗に通過。
切れ目から赤い線が浮かび上がると、再び刃を入れていく。
すると、切れ目からエゴの体液が勢いよく流れ出た。
結構な量の血はテーブルまで汚し、ばたばたと床にまで零れ落ちる。
それがおさまった時には、瘤も形を失っていた。
一旦包丁をテーブルの端に置き、切れ目に指を突っ込む。
エゴの悶絶ぶりは加速し、また生気が戻ってきたかのよう。
575
:
魔
:2008/05/14(水) 21:50:14 ID:???
切れ目から腹の皮をめくり、中身を覗く。
内臓を薄く浸す程だが、まだ血は残っていた。
それを腹の中に掌を捩込むようにして、掬い取る。
「〜〜〜!!!」
もはや言葉どころか、声にすらならないエゴの悲鳴。
詰まりかけた排水口のように、ごぼごぼと喉を鳴らしている。
掬いあげた血は少ないが濃く、特有の赤黒さがあった。
いつもはここで躊躇するが、どうしてか生臭い匂いはしない。
恐らく、虐待を続けていたお陰で鼻が麻痺したのだろう。
出来ればこの調子で、慣れていきたいものなのだが。
「・・・」
意を決し、エゴの血を煽る。
口の中でそれを堪能してみるが、やはり駄目だった。
吐き気が爆発的に込み上げ、咄嗟に口を押さえる。
幸い少量だったので、すぐに飲み込む事でしのぐことができた。
(駄目か・・・)
虐殺を受け入れたからといって、誰彼の血でも構わないという訳ではなさそうだ。
ぽろろが肉を食べながら、自分は喉を潤そうと思ったのだが。
それはまだ、ぽろろに頼るしかなさそうだ。
ふとぽろろを見遣ると、あげた腕はもう骨だけになりかけていた。
おかわりが来る前に、先に切り離してしまわなければ。
包丁を持ち、反対側に回り込む。
そして、虫の息のエゴを少し眺めてから、作業に移った。
※
エゴが死んだのは、三つ目の四肢、つまり脚に取り掛かった時だ。
肉を切ろうが骨を砕こうが全く反応がなかったので、面白みは皆無だった。
そのかわり、ぽろろの食事風景を眺める事ができたので、よしとしよう。
今現在、エゴの形が残っている部位は胸と頭のみ。
他は全て、ぽろろの胃袋の中におさまっている。
つまりかなりの量を食べたことになるのだが、ぽろろの腹はそこまで大きくなっていない。
色々と気になったが、とりあえずその疑問は飲み込んでおいた。
「・・・ウララーさん」
不意に、ぽろろが話し掛けてきた。
「うん?」
「まだ、血は飲まなくていいんですか?」
「・・・ああ。今の所は、大丈夫だ」
「そうですか」
そう言うと、ぽろろはまた食事に勤しむ。
細かく切ったはらわたを、ひょいひょいと口に運んでいく。
※
これから、こういった生活が続く事を考えると、期待と不安が混ざり合う。
擬似警官に追われる身にはなったが、ぽろろの秘めていた能力を発見する事ができた。
敵は虐殺厨から擬似警官へとシフトしたが、共に戦える者もいる。
とことん堕ち、この街に完全に染めあげられてしまった今。
渇きも虐殺厨の肩書も受け入れ、生きていくしか他にない。
―――街に弄ばれるのは、もう御免だ。
完
576
:
古爪
:2008/05/17(土) 04:24:15 ID:???
お久し振りです
最近忙しく、書く暇もなかなか無かったので全然来れませんでした
今回から、少し続き物を書こうと思うので、感想などよろしくお願いいたします
では
『油断大敵』
背の高いフェンスとそれに絡みつくようにして張られた有刺鉄線で作られた『檻』の中に二人のAAがいる
一人は立っており、右手でもう一人の頭を掴んで地面にこすりつけているようだ
もう一人は成す術もなく顔面をアスファルトに削られながら懸命に手足をばたつかせて脱出を試みようとしている
…だが逃げられるはずもない
何故なら、逃げる方法など初めからないのだから…
・・・削る
白い生物を右手で掴み、それをそのままアスファルトの凹凸にこすりつける
「〜〜〜〜〜〜!!?」
しぃが痛いという意思表示か、体をくねらせ、手足をばたつかせながら、くぐもってよく聞こえない声で何かを叫ぶ
五月蝿い。黙れ。喋るな。
右手に力を込めてしぃの顔面をより強く、より痛むように右手で螺旋を描くようにしながら、大根おろしの要領でピストン運動のように繰り返し繰り返し削っていく
頭を上へ向けて空を眺める
もちろんその間も手は休めない
目のある生き物の大半は外部からの情報の80%を視覚情報から取り入れるという
それを思い出したのだ
視覚を覗いた場合、どのような気分で虐待出来るのか…
試してみないことに分からない
無論、その標的となるのは力のない被虐生物、チビギコや、しぃなどだ
今回は、運悪くその辺をふらついていたしぃを捕まえた
さて、視覚に頼らない状態で作業を繰り返していると、なるほど面白い
視覚に頼らない分、腕に伝わる感覚がダイレクトに伝わってくる
最初はまだ粘り強く肉が残っているため、ハンバーグの形を作ってるような感触だろうか
この時はこの時で爽快感とは違う、支配感に近い『肉』の感覚が楽しめるため別の満足感が得られる
その時といったら、自然と頬の表情筋が緩み、脊椎をなんともいえない、電流のようなものが流れるような感じ
相手を一方的に支配しているという悦び
これも虐待・虐殺ならではといえる喜悦の一つだろう
「ッ…!?」
右腕に伝わる感覚の質が変わった
今までのぐちゃりとした感触ではない
硬い、石をこすりつけているような
「ヒ…!?ア…ヒヒャ…!??」
どうやら鼻の肉が完全に削がれて骨に達したらしい
しぃはその事実が耐えがたいらしく、何度も何度も無い鼻を捜している
さぁ、ここからが本番である
少し腕の動きを緩める
力が抜かれて少し安心したのかしぃの体に入っている力が少し抜けたのが腕を通して解る
だが、そうはいかない
死ぬまで付き合ってもらわないと満足できないじゃないか…
口には出さず、それを右手で示すことにした
右手に力を込める
腕に血管が浮かび、筋肉が盛り上がる
瞬く間に腕の太さは丸太のようになってしまった
無論、見掛け倒しなどではなく力も跳ね上がっている
そして、こすりつけるスピードは緩めたままに、込める力を先の倍でアスファルトにしぃの顔をこすりつけた
刹那、『ゴリッ』という破砕音とともにしぃの絶叫が辺りに響いた
「ウジィィィィィィィィェェアァァ!!!??!」
その声を聞いて思わず身震いが出てしまった
やはり、楽 し い
無抵抗の相手を蹂躙して、その存在を侵す
最高だ…!
早く殺せという体の疼きを理性でなんとか押し込める
ここで殺してしまっては今の気分が台無しだ
だが、体の疼きは止まらない
まるで一度起こってしまった性欲の如く、それは体に浸透していった
殺さない程度に…痛めつければ、いい…
それこそ、目以外は無くても、構わない
だったら…決まってる…
バラ
解体すんだ…!
破壊衝動は理性という壁をあっさりと破り、自身もまたその衝動に身を委ねた…
577
:
古爪
:2008/05/17(土) 04:27:55 ID:???
しぃは顔を血で真っ赤にして泣いていた
もう自分の鼻はなく、そこには血で汚れた鼻の骨がひびの入った状態で覗いているだけである
翠の綺麗な眼も今は血が入って濁ってしまっている
状態的に言うならば、顔だけなら軽く「でぃ」や「びぃ」よりも酷い状態であるだろう
肉は削げ、骨は露になり、顔はホラー映画さながら、真っ赤っ赤だ
頭の中に逃げるという方向性が生まれる
だが、頭をがっちりと掴まれた状態では逃げるどころか、瑣末な反撃すらも出来ないのだ
更にまわりは、有刺鉄線つきの高いフェンス
しぃ程度の身体能力で逃げれる状態でも、場所でもなかった
ふ、と相手、モララーの腕が止まった
さっきはその後であまりの凄惨なことになった
思わず体が硬直する
だがいつまで経っても顔がアスファルトにつくことはなかった
腕に違和感
何かが差し込まれた
針…?オ注射かな…?
しぃにそんな考えが浮かんでい時、既にモララーの作戦は成功していた
糸売
短くてすみません;
581
:
なんてことっ
:2008/11/23(日) 08:28:29 ID:Iw0NRrdA
「グフゥッ・・・・ガハッ・・・・・」
いつも蹴り飛ばされていたときとは、明らかに違う音がした。体のどこかで何かが折れたような感じがする。
「・・・・・・?」
『やっちゃった』って親の顔。コレが僕の唯一つの父親の記憶。僕は幼いころから殴られ蹴られ生きてきた。
道端で肋骨を初め何本か骨折した状態で発見され、病院に運ばれてからは一度も父の姿を見ていない。
母はしぃ族であったので、とうにアフォシィと間違えられて殺されていた。
僕は知っている。父が僕を殴るのは、僕が母に似ていたから、父が僕を蹴るのは母と全く違うからだってこと。
友達もなく、自尊心もズタズタにされた僕が自身を取り戻すためには、弱い種族を虐待するしかなかった。
僕が毎日痛い思いをするのは、母を殺したアフォシィであることに変わりはない。
だから僕は暴力に屈するたびに日に2つずつアフォシィの命を奪った。
正確に言うと、初めは2日に1匹だったものが、3日に2匹になり、一日に1匹になって、確実に増えていた。
知っている。コレは依存というのだ。僕は依存している。生き物の命を奪うことに依存しているのだ。
「おーい、もらー」
もなが呼んでいる。僕の罪の意識を共有してくれる、生まれて初めての友達。
「チビギコの巣くつ、見つけたモナ。早く来るモナ!」
僕が父の血でまみれているところを助けてくれた、唯一の友人。
「よっし漏れ頑張っちゃうぞw!」
僕は笑って見せて、わくわくしながらもなの後をついていった。アフォシィだけじゃ足りない。殺し足りない。
草むらをのけたとき、ものの見事に肥大したチビギコの巣が見つかった。
一瞬の躊躇があったが、チビギコはもなの手に握られた金属バットで、ようやく自分の置かれた状況を把握できたらしい。
「殺るモナ!」
「おう!」
勢い良く飛び出し、僕の手はチビギコの汚らしい耳を鷲掴みにした。
続く
初めてでもう見てられないくらい駄文ですが頑張って書きました。
叩かないでくださると嬉しいです。
582
:
cmeptb
:2009/01/07(水) 13:08:56 ID:???
HDD飛んでから初投稿……。
やっぱりバックアップは取っておかないといけませんねぇ…。
まして完成間近で飛ばれると悲しさも一塩で。
というわけで(期待している人がいるなら)期待の代物はまだです。
今回のは奇跡的に別のパソに残ってたのを書き直した代物です。
「めんたるぶれいく 前編」
「はーっ。…なぁギコ。俺さ、身体的虐待はちーっとやめるわ」
「……ハァ?」
開口一番、ギコを目の前にしてモララーはとんでもないことを言ってのけた。
「ちょ、ちょっと待てよ! お前が虐待やめるって……」
モララーの言葉を聞いたギコは思わず驚きが隠せない風を見せたが、それも
そのはず。今自分の前にいるモララーは虐待虐殺の界隈ではかなりの名を
馳せている一人だからだ。…もちろん、名を馳せるというからにはただ単に
耳もぎ手もぎなどの単純な手法で殺しているのではない。それを全部書いて
いくとキリがないので割愛するが、時には被虐者のみならず加虐側も吐き気を
催すようなむごいやり方をするようなおぞましい方法をとってきたのである、が
そんな殺戮の申し子とも呼べるような彼の、突然の発言。あたふたとするギコ
だったが、そんな彼にモララーはちちちと指を振った。
「おいおい、早とちりすんなって。俺は引退するなんて言ってないぞ。ただ…
“身体的” 虐待はちっとやめるって言っただけだぜ? 虐待虐殺そのものは
やめないさ。というかやめられないって」
「へ? あ、ああ、そうなのか。…でも、どういう意味だ…?」
とりあえずは一安心とほっと息を吐くギコだったが、しかしモララーの言うことの
意味が未だ分からずに首を傾げると、モララーはにやりとどこか底冷えのする
寒気を感じさせる笑みを浮かべて口を開いた。
「なにね。お前も俺が虐殺始めてから今に至るまでどれだけの数をぶち殺して
きたかは知ってるだろ? 一日最低十匹をモットーにして、それを忠実に
こなしてきたから、通算…2,3万匹はあの世に送ってきた計算になるかな?
…だからね、どうしてもそれだけの数を屠ると飽きがくるんだよ。あらかた
殺害と呼べる方法は強弱合わせてやり尽くしちゃったからね。というわけで
新ジャンル開拓に迫られるわけだ。これで分かっただろ?」
「……ああ。そういうことか……」
モララーの説明を受けて、ようやく納得がいったような顔をしたギコ。確かに
百かそこらならともかく万を殺せばいい加減マンネリと言うべきか、食傷気味に
なるのも当然といえる。しかし、となると彼の言う “新ジャンル” に移行するわけ
だが、一体どんなものを…? ギコがそう言いたげな顔をしていると、それに
気づいたモララーはびっとギコに向かって指を指した。
「それじゃあギコ。それを見せてやるから一つ頼まれてくれないか? …なーに
簡単なこった。チビギコでもアフォシィでも何でも構わん、なるべくクソ生意気な
お前が一瞬で息の根を止めたくなるような奴を一匹、ここに連れてきてくれ」
「あ、ああ。分かった。ちょっと待っててくれ……」
モララーの真意は未だ掴めないままであったが、しかしその目がぎらぎらと怪しく
輝いているところから鑑みても相当なものが期待できそうだ。ギコはそう独りごちて
早速哀れな標的を捕獲するべく、だっと走り出した…。
583
:
cmeptb
:2009/01/07(水) 13:09:46 ID:???
2
「はいよ、お望みの奴をつかま……もとい連れてきたぜ?」
「フン! わざわざこのチビタンをここまで歩かせるなんて、何考えてるデチか!?」
それから少し後、ギコは約束通り…、気の短い者ならこの時点でその首をねじ切って
いるだろう、それはそれは身の程知らずの口をきくチビギコを連れてきた。
「いやー、ありがとさん。実に “望み通り” のチビギコちゃんだよ……」
「望み通り…? クソ狸が何を言うデチか! お前たちがチビタンたちに望みを
言うなんて、百億万年早いデチ! 身の程を知れデチ!!」
「……………………!!」
…知らぬが仏とはよく言ったもので、このチビギコに限ったことではないが、何故か
一概に被虐AAは自分の立場を分かっていない行動を打算とかそういうのを抜きに
してとる。まぁ言ってみれば馬鹿だと言うことで…、チビギコの後ろで早速ギコは
額に青筋を浮かべてぴくぴくと震えたが、モララーはすっと手で制した。
「…成る程。それじゃあちびちゃん、悪いんだけど、少し俺たちのお遊びにつきあって
くれないかな? もちろん後でお菓子でもお肉でも、お礼は何でもするからさ……?」
「…フン。まぁチビタンは忙しいデチけど、馬鹿のお遊びにも付き合ってやるデチか…」
穏やかな微笑みを携えて話すモララーと、フンと鼻で笑うチビギコと。今すぐ自分が
血祭りに上げてやりたい衝動を何とか抑えつつ、しかし今日の主役はモララーだからと
血が飛び散ったときなどのためのビニールシートなどを準備するギコ。しかしそんな彼を
見ると、モララーはギコの肩に手を乗せて口を開いた。
「…ああ、ギコ。そんなのは準備しなくていいよ。さっきも言ったろ?今日これからやる
やつは身体虐待じゃないって。つまり血はほとんど出ないんだよ…」
「え!? …あー、そうだったそうだった。でもそれじゃあ、何する気だ……?」
「何をぶつぶつ喋ってるデチか! 早くするデチ!!」
相変わらず分からない顔をするギコと、減らず口をたたくチビギコと。モララーは
ようやく開始と、ギコを脇にどけてチビギコにぬっと手を伸ばした。
「そいつはな……、こういうことっ!!」
………………………………………………
584
:
cmeptb
:2009/01/07(水) 13:10:27 ID:???
3
「な、何デチかこれはぁぁ!? 早く解放するデチぃぃぃっ!!」
数分後。かの命知らずでクソ生意気なチビギコちゃんは見事に椅子に縛り付けられ
加えて目隠しをされて蠢いていた。
「解放? お馬鹿さんだねぇ君は。これからこのモララーお兄さんが新しいお料理の
フルコースを食わせてやろうってのに、前菜も食わないうちから帰るつもりかい?
…しかしまぁ、かねてより不思議だったんだけど…、君たちってどうしてそんなに
見分不相応に不遜な態度をとるんだい? そんな態度が一層虐殺者に火をつける
ということも分かんないのかな? それともどうせ殺されるならせめてもの抵抗…
って魂胆かな? まぁ何でもいいんだけどね。…それじゃ、始めるよ」
「フルコース、か…。どんな惨劇が起こるか、実に楽しみだと言わざるを得ないねぇ…」
先程まで散々いらつかされたチビギコにモララーがようやく執行の姿勢を見せてくれた
のでにやつくギコと、これからどれほどの虐待を繰り出そうとしているのか、嫌らしい
笑みを浮かべるモララーと、逆に焦り出すチビギコと。三者三様で色々な動きを見せる
中で、モララーはすっとチビギコの前に立った。
「は、早く放せェェェ! そしてチビタンに謝罪と賠償の印を……ヒギャッ!!」
「……DIE YOBBO(糞虫は死ね)」
目隠しをされて、目の前で恐ろしげな会話をされて一層大きな聞き苦しい叫び声を
上げるチビギコに次の瞬間、モララーは英語の1フレーズを呟きながら裁縫針…
しかもぐにゃぐにゃに歪んでいる、を取り出して、チビギコの頬に突き刺した。
「ひ、ひぐっ!? チビタンのほっぺにビンタ? な……ひぃっ!?」
「ふーっ、ふぅぅぅ……」
痛みは感じるだろうが所詮は針なので物理的な損傷は少ないものの、突然の攻撃に
思わず身じろぎするチビギコに更なる一手が。…それはどういう考えによるものだろうか
モララーはチビギコの耳に熱い食べ物を冷ますような感じで、ふぅふぅと息を吹きかけ
始めたのだ。ふーっ、ふぅぅ、と……
585
:
cmeptb
:2009/01/07(水) 13:12:06 ID:???
>>584
ビンタじゃないですわ。書き間違いです……
4
「おいおい、何だかんだで結構血ぃ出るんじゃねぇか? …それにしても嫌だねぇ。耳に
息を吹きかけるなんて気持ち悪ィ…。それに 『DIE YOBBO』 って、お前どこの黒耳の
悪魔だよ。ハハハ……」
ギコが呆れ顔で肩をすくめるその一方、モララーの “攻撃” はまだ続いていた。
「ふぅーっ、…DIE YOBBO. DIE YOBBO…!」
「へげっ!? や、やめ、ふぎっ……!?」
耳に息を吹きかけて、適当なところで耳や肩など致命傷にはならない部分に針を刺して
また息を吹きかけての延々のローテーション。…随分と生っちょろいことをやっているように
見えるかも知れないが、しかし当のチビギコを見てみると、到底そんな風には見えなかった。
「ヒギャ、ヒギッ……! も、もう嫌デチ! やめてくれデチィィ!!」
「ふふふ。痛いかな? ごめんねぇ? 針がまっすぐならもっと痛くないんだろうけどさ…。
僕の奥さん、乱暴者でねぇ? ちょっとでも怒るとすぐに家財道具をめちゃくちゃに
しちゃうのさ。その針も指で曲げたんだからねぇ……?」
“嘘付け、馬鹿! 年齢=彼女いない歴のくせしてよ……”
ただ単なる、針刺し。チビギコに与えられている攻撃はこれだけであるはずなのに
歪んでいるから肉をえぐり、確かに痛みを増加させることはさせるだろうが、他の虐待
虐殺に比べれば児戯のようなものなのに、何故かチビギコの絶叫はある意味それら
以上に酷いものになっていた。…おそらくおわかりだとは思うが、針刺しだけが決め手
なのではない。それが目隠しされた状態でされているのが決め手なのだ。
某格闘漫画のロシア人死刑囚の通り、いつどこから来るか分からない攻撃ほど相手に
恐怖を感じさせるものはなく、今のチビギコは目隠しをされているので、モララーが
針刺しを仕掛けてくるタイミングが分からない。加えて耳に息を連続して吹きかけ
られると、独特の気色悪さを感じるとともに平衡感覚まで失われる。今のチビギコは
言ってみれば右も左も上も下も分からない闇の中で、一方的に攻撃を加えられている
状態にあり、この時点でどれほどの恐怖とストレスを感じているかは言うまでもない。
「チビタンが悪かったデチ! これからは生意気なんて言わないデ…ビギャッ!?」
「ふーっ、…DIE YOBBO!! ふーっ……」
もはや涙のみならずよだれや鼻水までこぼしてチビギコは哀願したが、当然ながら
モララーは聞く耳を持たず。普通なら興奮して連続して攻撃したりあるいは拳で殴り
つけそうなものだが、彼はあくまで淡々とした表情で “それ” を続け、…なまじ威力が
さほどのものではない針の攻撃だからであろうか、時間が経つに連れてチビギコの
悲鳴はより一層のものへとなっていった。
「うぐ…。み、見てるこっちがおかしくなりそうだな……」
それから20分、30分。モララーが延々とチビギコをはたき続ける光景に、ギコは
自分もそれなりに虐殺慣れしているはずなのだが、おそらく肉体は殆ど壊れていない
のにまるで致命傷を負わされたように絶叫するチビギコに違和感を感じさせられたの
だろう、思わず吐き気を覚えずにはいられなかった。
「しかもこいつが、まだ前菜だぁ……? この後一体、何があるってんだ…?」
そしてその後、実に3時間が経過してようやく終わった……。
……………………………………………
586
:
cmeptb
:2009/01/07(水) 13:13:23 ID:???
5
「ふふふっ、お疲れだねぇチビギコちゃん? どうだったかなー?」
「ひ、ひ…! も、もう許してくだちゃい……!」
「…………………………」
モララーの話によればまだ前菜が終わったに過ぎないのだが、しかし今のチビギコは
とっくにデザートまで達しているような顔をしてしくしくと泣いていた。
「まぁまぁ、ちびちゃん。さっきはあんなにぷすぷす刺しちゃってゴメンねぇ? …ふふ。
ちびちゃんも疲れたろ? だからね、ちょっとこれからは僕は何もしないことにするよ…」
「! ほ、本当デチか!? もう…刺さないんデチか!?」
モララーの言葉を聞いて、目隠しをされてはいたがチビギコの顔がぱっと明るくなった。
おそらく今チビギコの脳内は安堵でいっぱいなのだろうが、傍で見ていたギコはふっと
笑みを零した。これで終わるはずがないと…。…そして、そんな彼の考えをそのままに
モララーはチビギコの首に、何かを取り付けた。
「? い、今チビタンの首に何を着けたんデチか?」
「なーに、気にするこたぁない。…さて、ギコ。僕はちょっと隣の部屋で準備してくるから
少しの間、このおちびちゃんを見ていてくれないか? ああ、もちろん手は出さないで…
いや、僕が注意するまでもなく手を出さないと思うけどね。ちょっぴりおやつを用意して
おいたからさ。ふふ……」
「? まぁいい。分かった。見張ってりゃいいんだな?」
「そ! …んじゃ、よろしくねぇ? すぐに戻るからさ……」
結局チビギコの疑問には答えず、任せたと言わんばかりにギコの肩をぽんと叩いて
モララーは部屋から出て行った……。
“…にしてもあいつ、何考えてやがる? おやつとか何とか言ってたが…、次の拷問の
ための体力回復か? だとするとさっきチビギコの首につけてたのは、一体……?”
部屋に残って、数分。ギコは先程のモララーの行動にまた色々と考えを巡らせていると
先程のアレで疲れたのだろう、チビギコがうつらうつらと船を漕ぎ始めた。…思わず
ギコは水でもぶっかけてたたき起こそうとしたが、先ほどモララーに一切の手出しを
止められていたことを瞬間的に思い出し、どうにか手を引いたその時
「!! ヒギャアァッ!?」
「!? な、何だぁ?」
突然、電気でも走ったかのような勢いで眠りかけていたチビギコがびくりと飛び跳ねたのだ。
何か電気いすのような仕掛けでも施したのかと、驚いたギコはチビギコに近づいて辺りを
調べてみたが、椅子にコードもなければ何も妙な仕掛けは……、いや、あった。チビギコの
首に巻き付いているものが。
587
:
cmeptb
:2009/01/07(水) 13:13:50 ID:???
6
「あん? こりゃ…、太い…ミシン針が首輪に…? ! そういうことか……!」
ようやく合点がいったと、にんまりと微笑むギコ。そう。先程モララーがチビギコに施した
仕掛けとは、針付きの首輪だったのだ。首輪から突き出た針はチビギコの顎に先端が
向けられており、彼が眠気に負けて頭を垂らすと仕掛けられた針が顎に刺さるわけだ。
つまり、眠りたくても眠れない。それどころか頭を揺らすことすら出来ないのだ。
オーソドックス
「シシシ…! この類の責めじゃあ “昔ながら” だから確かにおやつだわな。とは言っても
まぁこいつで狂っちまったら元も子もねぇが、あいつのことだからその辺はきっちり計算
してるに違いねぇ。俺は見張りがてら、じっくり見物でもさせてもらうとしましょうかね……」
やれやれとため息をつきながらギコは椅子に座ると、煙草を取り出して一服を始めた。
当然その間もチビギコの悲鳴は、絶え間なく響いていたが。
「ハァッ、ハァッ…! な、何でデチか…? チビタン、おねんねしたいのに……!?」
「………………………………」
普段だったら苦しむチビギコの恐怖をあおったり挑発したりと、とにかく言葉をかけていた
だろうが、ここではギコは沈黙に徹した。何せ会話をすればその分チビギコを覚醒させる
ことになり、今やっている “お楽しみ” の威力が半減してしまうことになる。なのでここでは
ただ黙って、戸惑いながら涙をこぼすチビギコをにやにやと見守り、針が刺さってヒギャアと
飛び跳ねればぱっと表情を明るくして声にならない笑い声を上げて。ギコも何だかんだで
モララーの考えに上手く乗っかって、アシスタント的な役割をきっちりと果たしていた。
「だ、誰か…いないんデチか!? チビタンのこの首輪……とってくだちゃい……!
もうチビタン、へとへとなんデチ…! 頭もぐるぐるして、気持ち悪いんデチ……」
“誰が取るか、アホ! …しかし春眠、暁を何とやら…。でも今のあいつにゃ睡眠すらも
出来そうにねぇな。カカカ……! 眠りたいのに眠れない、これ案外キッツイんだよなー…”
睡眠は、その本人に休息をもたらす。また疲労していればしているほどその導入も早く
そして強力なものになるのだが…、そこでもし眠ることが出来なかったら? 睡眠による
休息を何よりも望んでいるのに、何らかの要因で睡眠が妨げられたらどうなるのか?
…答えは、簡単。後は泥沼の無限地獄へ真っ逆さま……。
「ピギャッ! ヒギッ! ギギギ…! …も、もう許してくだちゃい!! チビタンにおねんね
させてくだちゃあああああああいぃぃぃぃいい!!」
“はっはっは……! おやつと前菜でこの様か。まったく、“初志貫徹” しねぇ奴だな……”
まさに絶叫と叫びまくるチビギコと、声を出さずに笑うギコ。まだまだ宴はこれからである…。
続くよ
588
:
名無し@耳もぎ大好き
:2009/02/01(日) 20:57:10 ID:???
初張りです。
『バイオミック・シィ』
カタカタカタカタカタカタ…………
暗闇の中でパソコンの、キーボードをたたく音が聞こえる…どうやらモララーのようだ。
パソコンと向き合い、必死にキーボードをたたいているモララーの元に電話がかかってきた。
「はい。もしもし、モララーですが…」
「あ、もしもしモララー君?私だ、ウララーだ。」
「ウララー博士。どうしたんですか?今※落胆型思考脳変異しぃについての論文を書いてる途中
だったんですけど…何か用ですか?」
※通称―アフォしぃ(一々言うの面倒なのでこれからはアフォしぃと変換させてもらいます)
「ほぅ…それは好都合…で、どこまで進んだかね?」
「はい。現在の所3分の2って所ですかね後はアフォしぃの総合的な、潜在能力の分析ぐらいなんですけど…」
「結構進んでるな……それはさておき、至急、私の研究所に来てくれないか、アフォしぃに関係することんだが…」
「分かりました…」
そういってモララーは電話を切り自分の研究室から出ていった…
この世界では、虐待・虐殺が頻発に起こっている。もちろん罪には問われない(例外はある)基本的にはしぃ、チビギコと言ったところだが、
たまにモララー達も虐殺されることがある。ウララー博士は、しぃ、チビギコなどの研究をしている。
私は、生物学についてだ…基本的にしぃを対象にしている。
今日もあちこちで虐殺が行われている。耳もぎ、足もぎ、顔を切り刻み、抵抗するしぃを殴り、蹴りを入れ、
動かなくなってもなお生き続けるしぃを虐待している光景を毎日見ている。
私は以前まで、吐き気がして、ものすごくイヤな気分になっていたが今では平気で生活をしている。
そうこうしているうちにウララー博士の研究所に着いたようだ…
ウララー博士の研究所は私の研究所の5倍くらいはある。
それもそのはずウララー博士は去年モナーベル発明賞をとった。
内容は、アフォしぃに飲ませるで、一時的に、通常のしぃと同じような状態にさせると言うアフォード、アボーンを開発した。
おっと…話が長くなりすぎた。
589
:
名無し@耳もぎ大好き
:2009/02/01(日) 20:58:11 ID:???
研究所の門を通り、入り口についた。ぎぃぃぃぃぃ…とイヤな音を立て扉を開けた
「ウララー博士〜。モララーです」
「おぉ、来てくれたか…いや、実はな…えぇっと、どこから話せばいい物か…単刀直入に言おう。
アフォしぃを永遠に知識を維持出来る薬が出来たんだ…」
「えぇぇ!??だってモナーベル賞を取ったアフォード、アボーンでも約一週間しか効き目がなかったのに、
一生なんて…ものすごい発明ですよ?」
「うむ…だがそこに問題があるんだが…」
「どうかしたんですか?」
「前のはは服用製だったのだがこれはバイオ液に浸して約一週間ほど放置しておく物なんだ。
そして一週間目にバイオ液を全て抜いて、5分ほどで目が覚めるんだが、目を覚まして始めてみた物を父親のように感じる。以前のことは全て忘れてな。」
「バイオ液ですか…それは少し厄介ですね、でもそれのどこが問題なんですか?」
「よく言ってくれたな…実は、知識を増幅させるだけではなく、戦闘能力も高めるためにポロロのDNAを使ったんだがそれがまずかった…
ストレスを感じ怒りのボルテージが満タンになった場合周りの物、全てを殺そうとする…まぁ3分ほどで収まるがな…」
「うーん…ぽろろのDNAを使ったとなればかなり戦闘能力は高くなるはずですが…どれぐらい強くなるかは分かっていますか?」
「いいや、まだ分かっていない、人体実験は行っていないんでね…そこで君の力を借りたいんだ…」
「分かりました…アフォしぃを捕まえて、実験をしてくれと言うのですね?」
「よく分かってるじゃないか。じゃあこれから薬を渡すこれをAF−GPXに約80〜100対1の日で割ってくれ。」
「そんなに薄くていいんですか?それじゃあまり効果が出ないんでは…あっ!!」
「そのとおり、ポロロのDNAを投与しているため、多すぎると、暴走してしまうからな…ではよろしく頼むよ。」
「はい。」
590
:
ひよこ虐殺者
:2009/02/01(日) 20:58:54 ID:???
僕は、研究所を抜けて、手頃なアフォしぃは居ないかと探したが、居るのはチビギコだけ…
来る時はうじゃうじゃ居たのに…と思ったが何故居ないのかその疑問は一発で吹き飛んだ
町の中心部にはアフォしぃの市街が無数にあった。おおかたモララーや、モナー達に虐殺されたのだろう…
「こりゃ絶望的だな…」と僕は落胆した…
研究所に戻ろうとして僕の研究所に着いたとたん、いた!二匹とベビが一匹。一匹は妊娠しているようだ…
「妊娠していない方を実験に使うか…」そう思った時アフォしぃが僕を見つけたらしく高くてキンキン響くアフォしぃ特有の声で僕に喋りかけてきた
「ソコノクソモララー! カワイイ2チャンノアイドル シィチャント、キュートデ、テンシノヨウニヤサシイベビチャンニ アマクテ(略」
お決まりの台詞が僕の耳に響く…
「そんな物持ってないよ…」と言ってジリジリとしぃに近づいていく…
「ナニヨ!クレナイナラギャクサツ(略」
「チィチィチィ ナッコナッ(略」
「モッテイナイナラセメテコノベビチャンヲ100マンカイダッコシ(略」
「うるさいよ…この糞野郎共が!!」と言って僕は思いっきりベビの頭を踏みつぶした。
「ギィギャァァァァァァ…………」といってベビは動かなくなった。そりゃあそうだ脳みそをつぶしたんだから一発であの世逝きだろう(藁
「シィィィィィィ!!!??シィノベビチャンガァァァァ!!」どうやら殺したベビは妊娠している方のだったらしい。それならなおさらだ!
「オォォォォオラァァァァァアア!」僕は思いっきり妊娠している方の腹を思いっきり殴り、それからも何発も殴り続けた。
「ハギィィィィィィィイイイ!!!!イギィィィィィ!!!!」と言ったところでとどめのキックを食らわした
「おらぁぁぁぁ!!!!」僕の足が思いっきりアフォしぃの腹にあたった
「ジィィィィィィィィィィ!!」と言って吹っ飛ぶアフォしぃ「シィミチャン!」どうやら妊娠しているアフォしぃはシィミとか言うらしい
「ア…グゥゥゥゥゥァァァァァァアアアアアアア」ビタチャチャチャビチャ…おや?どうやら出産したらしいが…アララ、どろどろにミンチ化しちゃってるよプッ(´<_,`)
「ハァハァシィノアカチャン!」コイツ、今の自分の状況理解してねえよ…御!どうやら我が子とのご対面みたいだな(藁
「シィィ!???ナヤノコノジュースハ!?? !マサカシィチャンノ アカチャン!??イヤァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
「うるさいよ!!」と言って僕は思いっきりしぃの頭を蹴った「ハギィィィィィ……………」と言って喋らなくなった。と思ったら首がボロッとおちた
アララ…蹴った衝撃で首が取れたみたい。こいつらホント脆いなHAHAHA♪♪
その時僕の頭に激痛が走った。「痛っ」
591
:
名無し@
:2009/02/01(日) 20:59:25 ID:???
「フフン シィチャンタチヲ ギャクサツスルカラ コウナルノヨ」くそ…実験に使うしぃを忘れてた。
僕はアフォしぃの後ろにまわり、思いっきり首を絞めた。
「アグゥゥ!??シィィィィィ………………………」動かなくなった…死んでるわけではない。気絶させただけだ。
「こんな物で(・∀・)イイかな?」
しぃを引きづりながら、僕は研究所に入って億の研究室に連れて行った。アフォしぃをそこら辺に置き、バイオ液の準備をした。が、サイズが足りないというピンチに陥った。
何か無いかと必死に探したがしぃがまるまる一匹はいるバイオ液はなさそうだ。
「しぃ位のサイズのバイオ液なんか無いよ…」どうしよう…何でこんな内容にしたんだ作者は…問いつめたい、小一(略
何か良い考えはないか…そう考えた僕にある提案が浮かんだ。
「そうだ…昔、親父がしぃ丸々一匹はいるバイオ液を持っていたはず!」
僕は研究所を抜け出した。気がつくと外がもう真っ暗になっている、研究所の裏の倉庫にたどり着いた。
ここには昔親父が使っていた道具や、もう使わない道具、古くなって使えなくなった物…色々な物が入っている。
「えぇっと確かここらに…あった!!」
見つけた…俺の1.5倍はあるバイオ液を…早速研究所に持っていk…「重っ!!!」僕は仕方なくローラーで運んだ…
早速機械に取り付け400:4の(AF−GPX:新薬)比で割ってその中にアフォしぃを入れたとたん気がついたようだ。必死で出ようとするが、バイオ液の中は
100%液体ですよHAHAHA♪♪あら?動かなくなった…後はこのまま一週間様子を見るだけだ…
ゴーン、ゴーン!!
時計の鐘が鳴った。今日この音聞いたの初めてのような気がするwww
時計に目をそらすと時計は11時を指していた。時計の音を聞いて僕は軽い睡魔に襲われた。
「もう寝ようか………」
僕は、研究所の隣の寝室に行き、軽く日記をつけた後ベッドに潜ってそのまま眠った
モララーの日記○月△日
今日はウララー博士から新しい新薬の実験を頼まれた。
正直言って不安がいっぱいだが、うまくいくことを願う。
そうだ、新しく生まれてくるしぃの名前は何にしようか…
『バイオミック・シィ』……………………………………
ありきたりだな…普通にしぃと名付けておこう。
592
:
Nacht
:2009/02/08(日) 01:41:14 ID:???
『zwilling』
―schwarz side.
―ごしゃり。
ソレは骨の砕ける感触で覚醒した。
手には真っ赤でぬらぬらとした血液がべったり。
頭蓋骨を顕にし、脳漿を曝け出した頭部は、およそ原型をとどめていないほどひしゃげている。
凶器は己が拳。
岩のような硬さを持つ、異常な左の拳。
それによって飛び散った脳漿はあたかも蛆虫のよう。
足は、ない。
残ったパーツはことごとく曲がり。
無貌の死体は奇妙なオブジェとなっている。
それを見下ろして。
ツマラナイ、と漏らして。
―ソレはニヤリと、不適に嗤った。
593
:
Nacht
:2009/02/08(日) 01:42:00 ID:???
―weiβ side.
―――寒い。
吐く息は白く、歯は根が合わず、絶えずカチカチと音を鳴らしている。
道を行く人々は皆暖かそうなコートなどに身をうずめ、それでもなお縮こまって通り過ぎていく。
別に、寒い格好をしているわけではない。
そう。
これは寒さなどではない。
暦は九月。もう夏の終わりが見え出している。
―――吐き気がする。
震える自分の肩をかき抱き。
手に残る生暖かさ、ぬるっとした粘着感が払拭できない。
両手を見れば、赤く染まっている。そんな錯覚。
馬鹿らしいと、かなり強引に、思考を覚醒するためにシフトさせる。
現在位置。不夜城めいた街の、ある一角。
薄汚れたゴミ溜めのような場所に彼、モララーは居た。
「うっ…ぐ…。目覚めは、最悪だね、こりゃ。」
呼吸が整ってから発した第一声はそんな事だった。
白い体は砂で薄汚れてしまっていた。
「うーん?なんでこんなところに…。」
近くに人は居ない。
娯楽だらけで明るい街とは対照的なここには、ほとんど人は寄り付かない。
治安が悪いのもあるだろうし、まず第一に何も無いからだ。
ここは、過去被虐対象だった者達が住まう一種の禁制区域。
かつて世界的に流行した虐待虐殺。しかし、それも所詮娯楽。理性を持った動物である限り必ず飽きはくる。
結果、虐待虐殺は10年間は世界を、輝きと血で満たしたが、その後はすぐ下火になった。
やがて、世界的大恐慌が発生。世界は経済社会の崩壊に直面し、各国の政府もそんな状態では立ち行かず。
多くの企業等と運命を共にするかのように崩壊した。
そして、国民達が自主的に新政府と名乗りを上げ、紛れも無い国民運営による迅速かつ国民視点による様々な政策が功を成し。
最初に立ち直ったその国を筆頭に、真似をする別の国や、そういった国から援助してもらうことで立ち直る国。
世界的な危機的状況に入って初めて、人々は【協力】という事を感覚で感じ取ったのかもしれない。
大恐慌からわずか半年。崩れ去った秩序は新たな秩序を以って再動した。
そして、その新政府からすべての国の、すべての国民に提示された一つの法案。
それは、「最低限度の完全なる平等」
その意味するところはつまり。
―虐待虐殺を世界が否定する。
594
:
Nacht
:2009/02/08(日) 01:42:45 ID:???
結果としては、賛成八、反対二で可決。
もしもこれを破ってしまった場合、最低十年以上の懲役、又は罰金五十万。
被虐対象となっていた者達は異様に体が脆かったため、強引に手を引っ張った際にすっぽ抜けて傷害罪。なんてこともあった。
新政府はこれに対して、彼ら専用の居住スペースを提供すると決定。
それがここ。
結局。世界が認識を変えても。徹底的な弱者は、徹底的なまでに環境がそこから這い上がることを辞さないらしい。
なんて、報われない。
だから、誰も寄り付かない。近くに居ても迷惑を被るのは自分たち。
そんなだから彼らが日陰に追いやられるのにそう時間はかからなかった…。
「…つっても昔と比べて考えりゃ破格の待遇だよなぁ。」
つーか、普通のやつの方が生活に困窮してる状況ってどうなのか。
彼らにはそれぞれ住居もあれば、職もある。人並みに生きることに関して言えば、一般AAよりもはるかに楽なのだ。
ちなみに俺は現在、仕事が無く、金も無いのでかれこれ三日間食い物を欠片でも口に放り込んだ記憶がない。
あるのは公園の水道水くらいか。我ながらなんとも情けない。
「いつまでも座ってるわけにはいかねぇし…。そろそろ起きて仕事探すかぁ。」
と、立とうとした瞬間。
「へぶぉっ!?」
顔面から勢いよくコンクリートの大地と熱ぅい接吻。
「つぅ〜〜〜…!」
倒れ伏したまま、鼻を押さえながら頭だけ動かす。
どうやら、三日間の断食はこの身には辛かったようである。
俺の足は栄養が足りないせいで自分の役目を忘れてしまったらしい。
あー。目まで霞んできた。ヤバイ。ヤバイです、神様。このままじゃ俺死にますよ?いいんですか哀れな子羊がこんな薄汚いところで野たれ死んでもっ!!
と、心で叫んだところで神様が助けてくれるわけではなく。こうして、また一人、人知れず一人のAAの人生は終わりを迎えるのだ―。
諦めて目を閉じる。その瞬間。
神が与えた一筋の光が見えた。
「どうして、そんなところで寝てるんですか?」
きょとん。と。
実に可愛らしい動作で、一人の少女が俺を見ていた。
595
:
Nacht
:2009/02/08(日) 01:44:04 ID:???
「どうして、そんなところで寝てるんですか?」
俺にとっての天使は無邪気に浮かんだ疑問をカタチにしてきた。
さて、我が天使。見た目、十代の中ごろ、思春期真っ盛りといった感じの少女。種族はしぃ。
ガラス細工を彷彿とさせる無邪気に輝く碧眼。
眩しいです。神様。
なんか本当に世の中変わったもんだ。
「えーとだね、お嬢さん。実は仕事が無くて三日間飯を食ってないわけさ。それで立とうとしたら、まぁ、その、情けない話、バタン、キュー…じゃない、グー。か。
ってわけ。」
「わぁ。大丈夫…?」
「見ての通りですが、何か?」
さて、どう動く?とりあえず懇願の目だけはデフォだな、うん。
少女は難しそうな顔でうーん、と顎に手を当てて考え込んでいる。
こちらとしてはこのまま野垂れ死ぬか、運良く生き残るかという死活問題である。
そして、結論が出たのか。こちらに近づいてきてすぐ傍でしゃがみ込む。そして、俺にそっと
「大変そうだけど頑張ってね。」
…天使からの死刑宣告。じゃあ、大人しく死のうか。ははは。
って、オイ!?
「いやいやいや!!待て!いや、待って!待ってください、お願いします!!」
三度目にしてようやく足を止めてくれた。
しかし、彼女はきょとんとするばかりである。
「いや、今の場面って『家に来ますか?』とか、どうぞこれでも食べて頑張ってください』とか言うところじゃないかい、THE・現代っ子!?」
テンション上がりすぎて空腹を忘れたのか、立ち上がって両手でゲッチュ!!(・∀・)少女に向けていた。
対して少女はなんか冷えた目でこちらを見ている。ように見えた。
しかし、それは俺の思い込みだったのか。少女は太陽のようににっこりと笑うと。
「なんだ。そんなことだったんですか。それなら最初から言ってくれれば良かったのに。あと、そのTHEなんたらはやめてくさい。」
なんとっ!?
この少女何気に凄いぞ!?警戒心が無いのか!?てゆーか年下に怒られてまったゼ☆
ま、とにかくだ。
596
:
Nacht
:2009/02/08(日) 01:44:49 ID:???
「えーっと。飯食わせてもらえるんですかね…?」
「えぇ、いいですよ。でも、そっちこそ大丈夫なんですか?」
「…?何が?」
「やっぱりなんでもないです。とにかく食べられるならいいんですよね?」
「オーイエス。」
交渉成功。
とりあえず今日一日は生き延びた。
でも、問題がある。
「俺、動けないんだけど…」
「みたいですね。」
当然でしょ。という感じの返し。
「え…っとどうしよう…?」
「這ったら大丈夫でしょ?」
前言撤回。こいつは天使じゃねぇ。
「大丈夫です。ここから五分とかかりませんから。」
…確かに五分とかからなかった。
必死に這うこと三十秒。
「着きましたよ。」
「は…?」
顔を上げれば、普通の一軒家。
愕然とした。
新政府…。ぬぁにが最低限度の完全なる平等か。これ、明らかに格差ですよ?
しかし、本当にすごい。新政府はなかなかやることが立派だ。だが、その分彼女らに娯楽はほとんど無いのだろう。
…偏ったバランスだなと思う。
ぼーっとしてる間によいしょと立たされ、服についた汚れを一通り落とされる。…あぁ、情けなきかな俺。
そのまま短い廊下を突っ切ってリビングに到着。そのまま真ん中にある食卓の椅子の一つに俺をおろすと、早足にどこかへ消えてしまった。
とりあえず水飲も。
597
:
Nacht
:2009/02/08(日) 01:45:39 ID:???
「………。」
水を飲みながらぼーっと室内を眺めてみる。
やや狭いものの、なかなか小奇麗な部屋で、飾ってある花なども含めて、調度品の手入れも行き届いている。
なかなかに強者だな。
うん。なんか暇だし、一人自己紹介でもしようか。
「やぁ、俺モラリア。メンドイからモララーでいいゼ☆…って誰に話してんだ俺。これじゃ痛い奴じゃん。」
既に痛い。しかも思いつきはものの十秒足らずで終了。
テーブルに突っ伏して飢えと戦闘開始。
頑張れ、理性!まだ空腹で暴れるには早いぞ!
最初は両者お互いに均衡。しかし、時間がたてばたつほど、有利になる空腹サイド。じわりじわりと理性を押し返していく。そしてトドメとばかりに、いい匂いが鼻を…。
いい匂い!?ここにきて両者の力関係は逆転。だが、本能も負けていない。先に屈服させようとかみついてくる。
あー、もう無理かなーと思った矢先。
「はい、お待ちどうさま。」
念願の。三日ぶりの食事が。目前に広がって、いた。
「お…おぉぉ…お…。」
あまりの感動に言葉すらまともに発せない。
メニューはご飯、玉子焼き、魚の塩焼き、多分鯵、と味噌汁。
どこぞの国の鉄板メニューだった。美味そうだ。今すぐにでもがっつきたいが、さすがにそれは人様の家で失礼だし。いや、既に飯を食わせてもらってる時点でアウトなんだが、とにかく、何故箸がない?
「あぁ。食った食った。いやぁ、本当助かったぜ。」
「そうですか。それは良かったです。」
箸は割り箸を使った。
柔らかく微笑みながら食器を片付けていく、しぃ。
何だかこっちが照れてしまいそうな状況だった。
「………?」
すん、と。
何か今、一瞬凄く嗅ぎなれた臭いがしたような。
この鉄臭い臭いは―。
…いや、気のせいだろう。というかそういうことにする。
こういうことは、見て見ぬフリが一番。
「どうかしましたか?」
「ん?いや、別に。」
「あの、ちょっとお話があるんですけど―、聞いてもらえますか?」
なるほど。厄介な場所だ、此処は―。
598
:
Nacht
:2009/02/08(日) 01:46:21 ID:???
―schwarz side.
肥大化する精神。
麻痺していく道徳感。
そして増長し、止まるところを知らない底なしの快楽。
このカラダは人に非ず。その在り方は秩序を乱す反乱分子。
黒く、黒曜石の如く。鋭利で鋭く。軽くも重い。
ソレの振るう拳はすでに拳などではない。
巻き起こす風は凶刃となって周囲を斬り刻み。
破壊の対象にされれば、命乞いする時間もなく、肉に成り果てるのみ。
その拳は既に【拳】というカテゴリをはずれ、凶器を超えて兵器の域に達していた。
あまりにも理不尽すぎる、ワンサイドゲーム。
丸腰の人間が銃を持った相手に勝つなどまずありえない話である。
だから、ソレは。
「今から十分やる。その十分間せいぜい上手く逃げて隠れて、俺をやり過ごしてみろ。そしたら見逃してやる。」
ほんの思いつきで命を弄んで遊べる。
ギコ種の青年はわき目も振らず、必死の形相で走り去る。
それをさも愉快そうに眺める悪鬼。
これで少しは楽しいかな、などと考えて。
勝負は五分とかからなかった。
流石はギコ族。わずか十分で二キロも逃げた。
だが、それでもまだまだソレには遠く及ばない。
なにせ、彼が十分かけた道を一秒で通過したのだから。
「く…来るなッ!!それ以上俺にちかづくんじゃねぇッ!!」
叫び声さえ、快感物質。
あぁ、生きている。活きている。
だから、お前の生を俺に―――。
599
:
Nacht
:2009/02/08(日) 01:46:52 ID:???
―weiβ side.
「―で、ですね。最近物騒だってことが分かりますか?」
所変わってしぃ宅。
俺は小一時間ほど問い詰め…じゃなくて、このあたりの最近の治安状況を説明されていた。
と言ってもあまり頭に入ってないが。
「あー、うん。分かった。…で?」
「で?ってなんですか。ですから、貴方に手伝って欲しいんです。」
「えぇー!?なんで俺がー。」
「………。」
うわっ。すっごいジト目。なんか迫力あるし。
「ふーん…。誰のおかげで満足な食事がとれたんでしょうね?」
「ギクッ!!そ…それは、その…。」
「いえいえ、いいんです。あれは私が良かれと思ってやったことですし。えぇ、全く気にしてないです。」
「うっ…。」
くそぅ。これは既に回避不能フラグが立ってるじゃないかっ。
まぁ、実際断ればかなり後味は悪いんだろう。…でも、ヤだなぁ。
「あー、もう分かりましたごめんなさいっ!手伝えばいいんでしょう、手伝えばっ!!」
「あら。ありがとうございます。」
にっこりと。次からは絶対騙されんぞ、この悪魔。
「で?何したらいいのさ。言っとくけど危ないのはごめんだからな。」
「あぁ、それでしたら大丈夫ですよ。貴方には張り込みをお願いします。」
「張り込み?それだけ?」
「はい。簡単でしょう?」
「簡単だけど…。」
それは、別に自分でなくとも親しい者にやらせればいいのではないのか?
いや、危険があるから、親しい者に頼まないのか。
「まぁ、万が一危なかったら即逃げればいいわけですし。ちゃんとお金ぐらい出しますよ?」
そう言って指を三本立てる。
それは三万か、三十万か。それとも三百万か。どれにせよ三万でも十分ありがたい。
どうせ、危なくなったら逃げればいいんだし。
断る理由は、もう無かった。
600
:
Nacht
:2009/02/08(日) 01:47:17 ID:???
で。
「暇すぎる…。」
ぷっかぷっかと闇に昇っては消える白煙。
現在、9月11日の午後11時23分。
張り込みに入ってから既に六時間経過。
見張ってる場所には、人どころか猫の子一人やってこない。
なんとも時間の浪費である。
というか、なんで金払ってまで見つけたいのか分からない。
暇だし、さっき教えられた情報をおさらいしてみよう。
1.被害者の体のパーツは必ず欠損している。
2.残っている部分はほとんど原型を留めていない。骨まで粉々に砕かれている。
3.現場には被害者以外の血液。
4.左の拳が異様に大きいらしい。
5.残っていた足跡は非常に巨大。恐らくかなりの大柄。
こんなところか。
「微妙…。どう考えたって4と5以外は、犯行後でしか判別できないし。参ったな…。」
「ん…?」
少しまわりが明るくなったような気がして空に顔を向けた。
底の知れない闇の大海原を照らす、黄金の月。
もう少しで半月になろうかという歪な月。
しばし、その輝きに見入り。
腕時計で時刻を確認。11時53分。
あともう少ししたら、今日は切り上げよう。
お月さんだって許してくれるさ。
601
:
Nacht
:2009/02/08(日) 01:48:47 ID:???
―schwarz side.
「いぎぃっ!?あぎ、やあぁぁぁぁぁぁぁっ!!?
あ、あああ足がっ!?お、俺、俺の足が…っ!!」
狭い、路地裏。
普段は滅多に人の居ないこの空間。そこには今だけ、二つの影があった。
一つは、白い体を自らの血で朱に染め上げながら、もう絶対に戻らない部品を必死にひきずる青年。
対して、もう一つの影。
こちらは、ソレ自体が闇かと誤認してしまうような、闇に溶け込む漆黒の巨躯を持ったナニか左手だけが異常に大きい。
今は、その左の拳は血を滴らせている。
青年の叫び、悲鳴など一切意に介さず、悪魔もぞっとするような狂気的な笑顔。
「お前も…脆いんだな。残念だよ。」
「な…なんなんだよ、テメェはぁっ!!俺に何の恨みがあるってんだよ!?」
「恨みなんかない。ただ、ツマラナイのと、空腹なだけ。」
ニヤリ、と。
異様に尖ったその犬歯を見せ付ける。
暗闇の中に浮かぶ二つの紅い光。
―その時点で青年も理解した。
これは、理性のある同じ生物のやりとりなどではない。状況はもっと簡単だ。
そう。アレは狩りをする獣で、自分は狩られる側。
左足、損傷甚大。逃走不可能。今考えられる結末は―。
「カタくなるなよ?不味いから。」
紅の魔眼に射抜かれる。
「………っ!?」
身体が動かない。否、主観の物言いはおこがましい。既にこの身体は自分のものではない。
哀れにも青年は理解してしまった。現状も。起こるであろう結末も。
唯一。わからないことは、目の前のモノがなんなのか。
602
:
Nacht
:2009/02/08(日) 01:51:45 ID:???
お。なんだ、諦めたのか。潔いねぇ。ご立派ご立派。だが…。」
紅が燃える。
「―つまらねぇ。」
身体ごと持ち上げられる。
こちらを睨みつける瞳の中は、燃えていた。
「怯えろよ。叫べよ。泣けよ。喚けよ。薄汚く生に執着してろよ、下等生物がよぉ…!
なんで、平然としてやがる。気にくわねぇ。気にくわねぇ…!」
そのまま突然に放り投げられる。
身体の指揮系統は握られたまま。
受身をとるどころか、指一本だって動かせない。
―黒い悪鬼は激昂していた。
腕を掴まれ、そのまま、握り、潰される。
がりっ。ばきゃびきっ。
普通なら絶対耳にすることのない嫌な音。
その時点で既に骨はばらばら。一部はもう皮膚を突き破っている。
それでも、まだ、砕かれる。
腕が。肉が裂けていく。
ミチミチ、と筋肉繊維の切れる音がする。
頭にはスパーク。呼吸は乱れ、視線は定まらない。
それでも悲鳴は上がらない。自分でも驚く。
こんなに痛いのに。こんなにも怖いのに。
俺はこの哀れな鬼に同情してしまっている。
何故かは、自分でもよくわからない。
ただ、可愛そうに思えただけ。
…そういえば、さっきから彼は何をやっている?
身体の感、覚がクリア、になっ…て…?
青年は最後の疑問に答えを見つけられなかった。
何故なら。
彼は既に死んでいたのだから―。
Auf Wiedersehen. Bis morgen….
603
:
Nacht
:2009/02/08(日) 02:13:03 ID:???
―マダ、タリ、ナイ………。
―糸売―
604
:
魔
:2009/06/23(火) 19:02:35 ID:???
――次は何をされるのだろう。
モララーに、何をされるのだろう。
初日は、公園で踊っている私を気絶するまで殴られ、拉致監禁された。
二日目は、基本だと訳のわからないことを呟きながら、耳と尻尾をちぎられた。
三日目は、逃げ出さないようにと両手足の落とされて切り口を焼かれた。
四日目からは、慰み物として扱われた。
乱暴に肉棒で中を掻き回され、痛みしか感じず、溢れるのは愛液じゃなくて血ばかり。
叫んでしまえば行為は一度止み、代わりにひたすら殴られるだけ。
だから、悲鳴を必死で噛み殺して激痛に耐え、モララーが果てるまで我慢した。
五日目には、ペンチで歯を全て抜かれ、口の中を犯された。
生臭さと自分の血の味が酷く気持ち悪く、行為の直後は胃液から何から吐いた。
咽び泣いたけれど、この日のモララーはそれを見ても何もしてこなかった。
六日目、七日目、八日目……モララーは何度も犯しにやってきた。
九日目以降は、残飯を私に投げ付けるだけ。
それ以外は、暴言を吐くとかその程度。
歯が無いから、軟らかいものすら食べられなかったけれど。
十五日目には、お腹が大きくなっていた。
四日目に犯された時に、出来ていたのだろう。
初めての赤ちゃんという嬉しさも、モララーとの間に出来たという悲しさも、感じることは出来なかった。
なぜなら、この日のモララーは細長い鉄の棒を持って来て、先に私の中をぐちゃぐちゃにしてしまったから。
重い吐き気、尋常でない悪寒、全身を電流が駆け巡るような感覚、頭蓋骨が割れそうな程の頭痛。
何もかもが混ざり合い、痛みとなって私を襲い、苛んでいった。
思考なんて、既に麻痺していた。
―――そして二十日目。今日。
私のお腹から出て来たのは、血と肉の塊だった。
予想はしていたし、涙なんてモララーの虐待のせいで枯れ果てているもの。
今の私に出来ること。
虐待を待つこと。犯される事に耐えること。呼吸をすること。
……せいぜい、その程度。
そして、モララーが部屋に来た。
さあ、今日は何をされるのだろう。
その手の中で銀色に光る、包丁で何をされるのだろうか―――。
605
:
死ぃ電鉄
:2009/07/18(土) 13:06:31 ID:zkmR7LAI
過去スレの改造です。 無視するなりなんでもしてやってください
JRモナという会社がある。
そこでショボーンとモナーが働いてる。
彼らは幼稚園から大の仲良しであった。
そして鉄道専門学校を卒業し。
しかも同じペアになった。 ショボーンは運転。モナーは車掌担当になった。
ショボーン「モラ島本線774M・・・これで終わりか。」
モナー「いい加減モラ陽本線もやりたいな・・・終わったら伝えるかな」
ショボーン「そんなことより着ましたよ。 」
モナー「じゃよろしくモナ!」
そして乗務が始まった・・・ あの事故が起こるとは知る由もなく・・・
〜6日前〜
しぃ「ハニャーン。 ハヤクノラナイト」
ブーン駅員「モナ福岡行き快速電車出発します。 ご注意ください!」
ホーン・・・プシューガタン シュー
しぃがかすかに動き出した電車にぶつかった。
しぃ「カワイイシィチャンヲノセナサイヨ! ギャクサツエキイントギャクサツデンシャ!」
ノーーンピュイーーーン・・・・
独特のモーター音で電車はあっという間に通り過ぎた・・・
ブーン駅員「危なかったですよ。 3cmずれてたら線路に落ちてたところでした。
駆け込み乗車はやめましょうよ。 線路に落ちちゃいますよ?」
しぃ「ハニャーン! コノカワイイシィチャンヲノセナイデンシャガワルイノヨ!」
国鉄時代から働いてるブーン駅員は。 しぃの態度からして無賃だと判断し。
ブーン駅員「あとお客さん。 無賃乗車してませんか? 切符を見せてください」
しぃ「カワイイシィチャンナンダカラキップナンテヒツヨウナイノヨ!」
もちろん。美くしくあろうとも。切符を買わないといけない
ブーン駅員「ちょっと駅長室までこい!」
しぃ「ナンデイカナキャイケナイノヨ!コノカワイイシ(ry」
しぃが旅客料金の3倍を払ったのはとっくのとうに言うまでもない
そして。2チャソにこんなスレがたった
【ギャクサツガイシャ】JRモナヲアボーンスルスレ【イッテヨシ】
1 :カワイイシィチャン :09/02/16 22:44 ID:dakkodakko
JRモナヲアボーンシル!!!
2:名なシィのシィ :09/02/16 22:45 ID:koubi000
>>1
グットジョブダヨ。
3:名なシィのシィ :09/02/16 22:45 ID:mata-ri
カワイイシィチャンガ2ゲット
4:名なシィのシィ :09/02/16 22:49 ID:koubimanse-
ドウヤッテアボーンスルノ?
5:カワイイシィチャン :09/02/16 22:50 ID:dakkodakko
クワシイナイヨウヲセツメイシチャウヨ。
シィノノレナカッタアノデンシャニオキイシヲスルヨ。
オキイシヲスウクカンハヒミツダヨ。ミンナタノシミニシテネ。
6:名なシィのシィ :09/02/16 23:00 ID:gikokunLOVE
ハニャーン!!!スゴイ。
7:名無しさん@ゴォゴォゴォ! :09/02/16 23:01 ID:gomimusisine
通報しますた。というか時刻表把握すればよかっただけだろ
〜終了〜
8:マターリノシンボルシィチャン :09/02/16 23:02 ID:kawaiibebi
>>7
ノセナカッタデンシャガワルイノヨ!コノギャクサツチュウ!!!
・・・
606
:
耳もぎ名無しさん
:2009/07/18(土) 13:21:41 ID:???
モナー「まもなく 終点ギコ日市です。」
この電車全体に放送が行き渡る。
ショボーン「プヮァァァァン ギコ日市にもうすぐつくよ」
そのときモナー車掌は線路にある何かを見つけた
モナー「置石だぁああああああああああ! 非常コックだもな!」
だが。非常コックで急停止させても。 なすすべなく乗り上げ 6両編成の内前1両が脱線し。
見苦しい姿となった
モナー「ショボオオオオオオオオオオン!大丈夫か!」
運転席はガラスの破片や線路にがんばって生えていたクローバーが散らばってた。
そして。 目を少したりとも開けず。血液が付着していたショボーンがいた
そしてモナーは悲しさと涙にあふれ。 気を失って倒れた
ギコ「モナーさん!モナーさん! 大丈夫でしたか!」
モナー「あの・・・ここは・・・」
ギコ「君が線路で気を失っていたから。 ショボーン運転士と一緒に病院に運んでたんだよ
今ショボーン運転士は手術中だと思うが・・・」
そしてギコは周りの乗客から聞いた事情を全て話した
幸。 マイクの電源がつけっぱなしだったため。 全車両に伝わり避難できたため。
怪我人はいなかった。
ショボーンを手術していたやる夫医師が来た。 そして悲しい報告を聞いた
やる夫医師「ご愁傷様です。 ショボーン運転士は運悪くガラスが心臓部に刺さったため。お亡くなりになりました」
モナーは涙をたくさん零した。
そして自分自身で決心する。「(ショボーンを殺した置石犯をぶちのめしてやる)」 と
病院を退院し。 2チャソを見た。 そしたら・・・
言わんばかりに見た。
早速家のパソコンでそのスレッドを見てみた。
【ギャクサツガイシャ】モナーデンテツヲアボーンスルスレ【イッテヨシ】
【ギャクサツガイシャ】JRモナヲアボーンスルスレ【イッテヨシ】
1 :カワイイシィチャン :09/02/16 22:44 ID:dakkodakko
JRモナヲアボーンシル!!!・
・
・
モララー「なんだこれは!?」
スレッドには続きがあった。
615:カワイイシィチャン :09/03/ 01 17:07 ID:dakkodakko
ホントバカナヤシラ。ウンテンシュガアボーンシテイイキミ、ハニャーン
616:名なシィのシィ :09/03/ 01 17:20 ID:uho,iigiko
ダッセンシタアノデンシャヲシイガセンリョウスルoffカイアシタヤロウヨ!!
617:名なシィのシィ :09/03/ 01 17:27 ID:gikokuntomuriyarikoubi,haahaa
ハニャーン、シィモイクーー
報復の時間が来た。
607
:
耳もぎ名無しさん
:2009/07/18(土) 13:32:10 ID:zkmR7LAI
しぃのオフ会の乗務をワンマンに変えてする。 といってたので。
ワンマン運転をすることにした。
ギコ下駅始発だ。
バカな奴らだ。
復讐されるとは知らずに次々しぃが乗っていく。 あいつはガキ5匹つれて乗ってる。
おめでてー奴らだ。
「ダッセンシテトウゼンヨ!」
「カワイイシィチャンヲイジメタツミヨ!」
車内放送を始める
「最後尾の4号車はコウビ専用車となりました。 たくさんのギコが待っています。」
「ハニャ!ギコクーン!」
「コウビシテクレルナンテイイカイシャネ! カイシンシタンダワキット!」
ふふ・・・バカな奴らめ。 4号車の貫通扉の鍵を閉めた。 これでにげられまい
「失礼しました 最後尾の4号車は虐殺専用車でした」
「ちなみに貫通扉閉まってるので脱出はできません。」
「ハニャ! シニタクナイヨォオオオ!」
「ダッコスルカラタスケテェエエ!」
馬鹿だな。親友の命が金の価値だとしたらダッコなんざそこらの石より価値が低いんだよ。
そして。 隠してあったマシンガンでしぃを次々撃って行く。しぃが全滅し。
無事乗務も完了した。
gdgdだけど 終わり
608
:
耳もぎ名無しさん
:2009/07/22(水) 19:14:16 ID:???
彼の名はモララー。
今日は朝一の電車で旅をしていた。
みんなの憧れ。 1人のみの電車だった。
次の蜂王子で。 ベビワッシィとワッシィが乗ってきた。
そしてそいつらが大声でお話をした。
折角国鉄らしい鉄道で旅してんのに台無しじゃねーか。 しかも朝っぱらから下品な話
「ベビギコトコウビシヨウネ!」「ハナーン コウピ!コウピ!」
丁度(・∀・)イイ!!!!タイミングで放送が
「親子連れの方にお願い申し上げます、車内で不適切な話題をいたしますと。そちらの子供が落ちこぼれになります」
ははは。 最近はノリの良い車掌がいっぱいいますなぁ
すると親子が逆ギレし始めた。
「ナニヨ!コウビノハナシクライイイデショ!ギャクサツチュウノデンシャナノ!」「ワチィワチィ!」
カチッときた。 窓を全開にして
「コウビの相手は・・・」親子を持ち
「窓の外にいるよ!」と言い。外へ投げた。一人だけなので、 車掌が放送で
「そこのお客様 グッジョブでございます!」と放送した。 いや お前のほうがグッジョブだ!
次の東ぃ仮名川で
ベビギコとベビシィが乗車した。
朝っぱらの始発でガキだけで電車に乗るのか。 おめでてーな
609
:
耳もぎ名無しさん
:2009/07/22(水) 19:53:42 ID:???
そして電車は104km/hで走っている。
そして俺の目の前でガキ2人組はコウビをし始めた。
朝っぱらから気持ち悪い。
しかも公共の場所でだ。
「ミュウウミュウウウウ!」「アニャーアニャニャーモトシテー」
・・・カチン
「はいはい!」 ベビギコを持ち
「コウビは!」 ベビシィを持ち
「あの世でやろうねぇ!」 両方を窓からぶん投げた。
「ミギィイイイ!」「ギヂィイイイナコチュルカラユルチテェ!」
しぃのワンパターンである「ダッコするから」だ。 それを聞くと大笑いしてしまう。
真熟で。通勤ラッシュ帯の時間が来た。
アフォしぃ親子 フサしぃ親子が乗車。 その他104名が乗車した。
「兄者ー!あの電車なんなのじゃ?」「あれはね・・・305系というんだよ」「すごいのじゃ!」
「んでさモナー。 会社終わったら飲み会行こうぜ!」「いいよな今日休みの香具師って!」
にぎやかな会話だ。 だがその後。 運転席から大音量のブザーが聞こえ。
電車は揺れつつも、急停止してゆく。
「なにがあったのじゃ?」「ん?なんだ」「遅刻できるだけでも幸せだ」
「おいモナー。 何が起きた」「そんなこと聞かれても知らないモナ!」
そしてアナウンスが流れる
「先ほど。異常を知らせるスイッチが3号車から押された為急停止しました 異常がありましたらお知らせください」
610
:
耳もぎ名無しさん
:2009/07/22(水) 20:03:20 ID:???
乗客は皆キョロキョロしている。 そして目についたのがアフォシィ親子
あいつ等。3号車のSOSボタンに・・・ まさか
そんな時にあいつ等は騒ぎ出した
「ダッコシテモラエルボタンダトオモッタノニ!ダマシタワネギャクサツデンシャ!」
は?思い込むからいけねーんだろ。 消防かこいつら
そして客達は怒りだした
「この野郎・・・ふざけたマネしやがって!」「会社に早めに着くと思ってたのに!」
「ダッコしてもらえるボタン? そんなのあったら今頃糞虫わきまくりだし?」
そして妹者がインターフォンにて
「アフォしぃ親子によるいたずらだったそうじゃ!」と言い。 運転再開をした
そしてしぃ親子は小便をたらしながらこう言った
「ダッコシテアゲルカラ・・・ネ?」「チィチィナコー!」
妹者がこう言った。
「ダッコごときで許されるとおもうな! やれーっ!」
乗客はアフォしぃを蹴る。殴る。唾をかける。耳をもぐ。 いろんな事をした
たちまちしぃ親子は死んだ。 死体も綺麗に処理されている。
当たりの電車のようだな。 これ
そしてアフォしぃが乗車しようとすると
「糞虫は乗車できませぇーん」 と言い。 アフォしぃを対向電車の線路に蹴って落とす。
やがて 終点に着いた。 そこには青い客車が止まっていた。
俺はそれに乗るために朝一を選んだのだ。 ちゃんと券だって持ってる。
「さーてA寝台でゆったりしちゃうぞー!」 と言い乗車した
23時間の旅がここで始まる。 糞虫にも邪魔されずに・・・
〜おわり〜
611
:
耳もぎ名無しさん
:2009/08/05(水) 13:33:44 ID:???
〜しぃ学校〜
ある日。 郵便が届いた。
「ハニャ? オトマリカイ? ハニャーン! チビチャン!ベビチャン! オトマリカイダッテ!」
「ミューミュミュー!」
「ハナビガイパーイトンデ コウビモアルッテ!ダッコマデ!」
「チィ!ナコー!」
「楽しみですね!お母さん」「楽しみデチ!」
チラシにはダッコされてる写真やチビギコとチビシィの交尾写真が載ってた。
明日。先生に提出させた。
そして当日。
いっぱいのチビやベビがいた。
教師達はヒソヒソ話をしていた。
「ったく・・・ 正気か?糞虫共を合宿会につれてくなんて。にしても聞こえてないか?」
「大丈夫モナ! あいつら今の話すら聞かずに荷物の確認させてるし。」
「一応。バスで海岸のキャンプまで行く。あいつら歩かせてたらアンヨイタイだのナッコシテヨだのウンチサンシタイ!だのうっせぇからな」
そして。 親達が何も知らずにチビやベビを見送った
「イッテラッシャーイ!」「イッパイコウビシテコドモウンデキテネ!」「いってらっしゃい!お姉ちゃん」「チィチィナコ!」「カエッタラウンチサンノゴチソウダヨ!」
一方。 騒がしいバス内では。
「けっ! 何がイッパイコウビシテネ!だ!ナッコだ!ウンチサンゴチソウだ!」「あいつら。何も警戒せずに見送ってやがらwおめでてーな」「あのチビ。あいつの妹だったなんて信じられねぇな」
「まったくだモナ」 バスは青空と競争しつつ。 海岸へ行く
612
:
耳もぎ名無しさん
:2009/08/05(水) 13:37:54 ID:???
一方。 チビやベビ達は
「ワッチィたん!交尾の時間に一緒に交尾するデチ!」
「あー! それ俺のデチ!」
「ねぇチビミケ君!私と交尾しようよ!」
「チィ!コウピ!」「ミュミュー!」
そして。 教師達。
「こいつら。 交尾のことしか頭にねーんだな。(プゲラ」
「何も警戒せずにノロノロついてくのがしぃらしくて面白いモナ」
「お、 もうすぐ到着ですよ。」
出発から45分ほどで。海岸のキャンプに着いた
613
:
耳もぎ名無しさん
:2009/08/05(水) 14:10:55 ID:???
【アフォしぃはどんだけ虐殺しても犯罪にはならないんですよ? だから私は急停止どころか通報もしませんでした 兄者運転士】
[生死リスト]
ワッシィ ワッチィ梅:生存 ワッチィ鮭:生存
ベビしぃ ベビ実:生存 ベビ甘:生存 ベビ子:生存 フサ代:生存
ちびしぃ しぃ来:生存 しぃ抱:生存 しぃ尾:生存 フサ路:生存
チビギコ フサ:生存 チビ:生存 ミケ:生存 レコ:生存
ベビギコ フサミュー:生存 ベビ:生存 ミケ赤:生存 レコ朗:生存
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
そして。食事の時間になった。 準備と見せかけた時間の間。 先生は会話をしていた
「ワッチィってなんかむかつくよな!」「ああ。 おにぎりの面汚しだよね」
「あいつらが交尾交尾うっさいから。おにぎりどころか。米を食べたら逆戻しするよ。 あいつらのせいだわ」
「んじゃメッタメタにしてやるのはワッチィ共か! よし把握!」
そのころ。 しぃ達は
「どんなご飯かなぁ。」「ぼくはかわいいからきっと肉がくるデチ!」「ワチー!キットニクカアマイモノヨ!」
「ご飯の後の交尾が楽しみでち!」「チィハアマクテヤワラカイモノジャナケレバウミニオトチュ!」「ミューミュミュー!」
ご飯が来た。
今日のご飯は先生が作った塩ラーメン。
しかしベビ甘が。
「チィハアマクテヤワラカイモノシカタベナイノヨ!フジャケテルンデチュカ!カエッタラママニイイチュケマチュヨウ!」
といい。皿を砂に落とし。運悪く大きな石にぶつかり。 割れた
言うまでもなく、ラーメンはそこらに散った。 ギコ先生の怒りが爆発した
「てめぇ・・・」 一歩「丹精込めて作ったラーメンを・・・」また一歩「甘くて柔らかいごときで粗末にするな!」
ベビ甘を思いっきり蹴った。 ベビ甘は15m程跳び。フカヒレ用に養殖しているのだろうか。
サメの生簀に入り。食べられ死んだ。 そしてギコ先生は
「皆! あの四角いのに入ると こうなっちゃうぞ!」 と言い。
皆ははーいと返事した。
614
:
耳もぎ名無しさん
:2009/08/05(水) 14:24:01 ID:???
【こいつらの態度には頭にきてるのでこの企画をやりましたが何か? モララー先生】
[生死リスト]
ワッシィ ワッチィ梅:生存 ワッチィ鮭:生存
ベビしぃ ベビ実:生存 ベビ甘:サメに食われ死亡 ベビ子:生存 フサ代:生存
ちびしぃ しぃ来:生存 しぃ抱:生存 しぃ尾:生存 フサ路:生存
チビギコ フサ:生存 チビ:生存 ミケ:生存 レコ:生存
ベビギコ フサミュー:生存 ベビ:生存 ミケ赤:生存 レコ朗:生存
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
皆は塩ラーメンを食べ終わり。 お昼の交尾の時間になった。
みんな楽しそうに交尾をしている。 その間に先生達はまた会話をしていた
「あいつらはあんな時間帯でも平気で交尾するんですね。」「それよりもギコ先生!さっきのキックはナイスキックでしたなぁ。好き嫌いはやっぱよくないですよね!」
「まぁそうだわな。あいつらは、甘くて柔らかいものしか食べないとかいいながら。排泄物を平気で食うんですね。他人に対して贅沢すぎますよ」
「まったくですよ。」 会話が終わり。 モララー先生が合図をした
「皆ー! 交尾タイムは終了です! 皆でおやつを食べましょう!」
ほとんどの人が交尾をやめ、返事をした。
そしておやつの時間。 今日は甘くて柔らかいわたがしだった。 もちろんセルフサービス
だがフサ路は、ミケとまだ交尾している。
「ねーねー。 甘くて柔らかいわたがしだよ? 食べないの?」と質問した
そしたら
「やだ!交尾がいいの!」「そうデチ!」「交尾を中断してわたがしを食べてる出来損ないは交尾の良さが分からないアフォなのよ!大体しぃはか(ry」
モララー先生は麺切り用の包丁を持ち。
「そんなに交尾がいいなら天国でやりな!」 と言い。 2匹を刺した。 暴れて海に落ち。
沁みたためさらに暴れ、方向が分からなくなり結局溺れた。
そして4時のダッコの時間になった
615
:
耳もぎ名無しさん
:2009/08/05(水) 14:35:42 ID:???
【普通のしぃは大好きなんですよ。 でもこいつらみたいなアフォしぃは大嫌いなんです モナー先生】
[生死リスト]
ワッシィ ワッチィ梅:生存 ワッチィ鮭:生存
ベビしぃ ベビ実:生存 ベビ甘:生存 ベビ子:生存 フサ代:生存
ちびしぃ しぃ来:生存 しぃ抱:生存 しぃ尾:生存 フサ路:溺れて死亡
チビギコ フサ:生存 チビ:生存 ミケ:溺れて死亡 レコ:生存
ベビギコ フサミュー:生存 ベビ:生存 ミケ赤:生存 レコ朗:生存
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
全員ダッコし終わると。合宿用の部屋で布団を敷く事になった。
森を渡ってる最中。チビがこう言った。
「歩きなんて論外デチ! さっさと車で行くデチ!チビたん達はかわいいから車がいいんデチ!もちろんリムジンでデチ!」
ベビ実 しぃ来 しぃ尾 レコ朗も賛成した
「ソウダヨ!チィタンタチハカワイクテ2チャンノアイドルナンダカラリムジンダチテヨウ!だチャナイトギャクサツチュウデチヨウ!」
「そうだそうだ!しぃちゃんは可愛いんだからね!今回はリムジンで許してあげるわ!」
「そうだよ虐殺厨!100歩譲ってリムジンにしてあげてるんだから感謝しなさいよ!」
「ソウダドコドー!」
先生はストレスの限界に達し。今にも飛行機をぶち破りそうな瞳で
「てめーらなぁ! リムジンだとか贅沢すぎるんだよ!てめーらは三輪車で十分だモナ!」
4匹を投げ。 見事4匹ともスズメバチの巣にあたり。 スズメバチが4匹を襲った。
「ギジィイイイ!ナコチマスカラヤメテヨウ!」「やめてぇええ!」「ジィイイイイイ!」「ゴドォオオオオオオ!」
モナ先生とギコ先生は大爆笑した
616
:
ベビ&チビしぃ・ギコ虐
:2009/08/05(水) 15:01:55 ID:???
【何でもダッコで済ませ様としたり。贅沢のハードルが高かったり。アフォしぃは見ただけでイラっと来ますよ モナー先生】
[生死リスト]
ワッシィ ワッチィ梅:生存 ワッチィ鮭:生存
ベビしぃ ベビ実:スズメバチに刺され死亡 ベビ甘:サメに食われ死亡 ベビ子:生存 フサ代:生存
ちびしぃ しぃ来:スズメバチに刺され死亡 しぃ抱:生存 しぃ尾:スズメバチに刺され死亡 フサ路:溺れて死亡
チビギコ フサ:生存 チビ:生存 ミケ:溺れて死亡 レコ:生存
ベビギコ フサミュー:生存 ベビ:生存 ミケ赤:生存 レコ朗:スズメバチに刺され死亡
(先ほどの書き込みでしぃ甘を生存にしたままでした。 正直スマンカッタ)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
部屋に着き。 布団を敷いた。 布団を敷いたら。 花火大会準備の時間まで自由時間だ。
もちろん夕飯も自由時間で済ませるよう言った。
先生は近くの乗り物室で話をした
「さっきの贅沢4匹組。 交尾優先の2匹組。自己中なしぃ甘。 あいつらは今頃天国で楽しくしてるだろうねw」
「してるよ。 きっと だってあいつ等だもんねw」
「なんか合宿室が騒がしいな。」 「だな。 ちょっと見てくか」
合宿室を見た時に。 ワッチィ梅がフサ レコ ベビ ミケ赤と交尾をしてた。
「おうおうw 布団の上で5Pかw おめでてーな」
「あのな。 出発の時に交尾の時間以外の交尾は禁止っていってたよな?」
するとレコが口応え。
「うるせーぞコゾウ!交尾の良さがわからないお前はそうやって交尾を止めようとしてるんだろコゾウ!」
「ちゃんと言ってたよねぇ? 交尾の時間以外は交尾禁止って。」
「交尾がしたいんなら。 連れてってやるよ。」
5Pをしていた全員が乗り物室に連れてこられた。
「てめーらキモゴミはそこの線路で交尾してな」
ワッチィ梅が口応え
「線路デコウビガデキルワケナイワッチィ!」
するとギコ先生が運転していた。博物館とかでよくある小さい電車が5Pをしていた全員を轢いた。
「えー 君達そんなところにいたのー ダメじゃないか線路であそんじゃー」
そういいながら。死体をゴミ袋に入れゴミ箱に入れた。
「もしかしたらまだいるかもよ!くだらん事しているキモゴミが! おっしゃ調べるか!」
617
:
ベビ&チビしぃ・ギコ虐
:2009/08/05(水) 15:29:43 ID:???
【アフォしぃの悲鳴? 面白かったですよ。大爆笑です 清掃係のドクオ】
[生死リスト]
ワッシィ ワッチィ梅:電車に轢かれ死亡 ワッチィ鮭:生存
ベビしぃ ベビ実:スズメバチに刺され死亡 ベビ甘:サメに食われ死亡 ベビ子:生存 フサ代:生存
ちびしぃ しぃ来:スズメバチに刺され死亡 しぃ抱:生存 しぃ尾:スズメバチに刺され死亡 フサ路:溺れて死亡
チビギコ フサ:電車に轢かれ死亡 チビ:生存 ミケ:溺れて死亡 レコ:電車に轢かれ死亡
ベビギコ フサミュー:生存 ベビ:電車に轢かれ死亡 ミケ赤:電車に轢かれ死亡 レコ朗:スズメバチに刺され死亡
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
合宿室に着たら。 生存者は怖がった。
ベビ子が小便を垂らしながら
「ビエーン!チィハマダシニタクナイヨー!」と言った。 布団に小便が付着し。 臭くなった。ベビ子はこの事を知ってたのか・・・
さらにしぃ抱はゴミ箱から死体を出し。 復活してくださいを連発し。全員生き返らせた
あと排泄物で汚れた布団はモナー先生が洗った。
その時。合宿室のドアは皆鍵を閉められた。 ギコ先生が「あのゲーム!」と呟いていたから。
あのゲームをする事にした。
「皆にチャンスをやる。 俺は目を瞑って40秒数えてやる。 そして数えてから見つけた者は容赦なく倒す。」
「花火の時間までに見つからなかったら。そのままにしてやる。 見つからなかったら・・・ね」
と。ゲームの開始を宣言し。 目を瞑って40秒数えた。 皆はいろんなところに隠れ始めた。
618
:
ベビ&チビしぃ・ギコ虐
:2009/08/05(水) 15:51:58 ID:???
【あの命がけのゲーム。 クリアできる者は必ずいないでしょう。 ギコ先生】
[生死リスト]
ワッシィ ワッチィ梅:復活呪文により生存 ワッチィ鮭:生存
ベビしぃ ベビ実:スズメバチに刺され死亡 ベビ甘:サメに食われ死亡 ベビ子:生存 フサ代:生存
ちびしぃ しぃ来:スズメバチに刺され死亡 しぃ抱:生存 しぃ尾:スズメバチに刺され死亡 フサ路:溺れて死亡
チビギコ フサ:復活呪文により生存 チビ:生存 ミケ:溺れて死亡 レコ:復活呪文により生存
ベビギコ フサミュー:生存 ベビ:復活呪文により生存 ミケ赤:復活呪文により生存 レコ朗:スズメバチに刺され死亡
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
辺りを見渡した。 あそこのロッカーで喧嘩をしている声が密かに聞こえる。
「チィ・・・タ・・・チュ・・・ヨ!」「ミュ!・・・ミュミュ!」
ロッカーに行ったら案の定。 フサミューとベビ子がいた。
「喧嘩するからみつかっちゃうんだよー?わかったぁ?」
と言い。2匹をぶつけ潰しをした。遺体はゴミ袋に入れるというルールだ。
自分の手で殺り。自分で死体の処理をしているから優しいな。最期の優しさ ってか(プゲラ
小学校時代の隠れの王道。 カーテンを捜索。 ワッチィ2匹組を見つけた。
「みーつけた。 もっと判りにくいところに隠れてもいいのに。」
ワッチィ2匹組は自分で食べた。 ワッチィウマー。
いきなりガチャン と音がした。音はでっかいおもちゃ箱からだった。
おもちゃ箱をあけ。ひっくり返すと
妊娠していたしぃ抱とチビがいた。
「ほほーう。 隠れてる間に音を立てずに交尾かー。えらいでちゅねー」
「や・・・やめて!私の大事なあかちゃんがいるの!」
「じゃあ。チビを先に殺ってあげるよ。」
「い"や"ぁ"ぁ"ぁ"!!! チビシィだああああん!」
チビの叫びを無視しつつも引っ張る。
チビを引き裂き。ゴミ袋に入れた。
「ううっ・・・チビさん・・・」
「さあ!そろそろ子供産めよ!」
「いやです! 私の子供は貴方にあげません!」
「ほー・・・ そう。 君は死産してほしい という訳だね。」
「違いま・・・ いやあああああ!」
しぃ抱の腹を蹴った。
「あんな口応えしなければ。 あんなことにはならなかったのにね」
泣き崩れるしぃ抱から。死亡した赤ちゃんが4匹出てきた。
「いやぁあああ!私の赤ちゃああああああん!」
「これで勉強しただろ? 人には優しくしろって。 でももう遅いがな! 天国で赤ちゃんの子育てがんばれよ!」
そういい。首を思いっきり踏み。ゴミ箱に入れた
619
:
ベビ&チビしぃ・ギコ虐
:2009/08/05(水) 16:16:43 ID:???
【あの命がけのゲーム。今度しぃをたくさん集めてやろうかと考えています 部屋管理係の弟者】
[生死リスト]
ワッシィ 全滅
ベビしぃ 全滅
ちびしぃ 全滅
チビギコ フサ:復活呪文により生存 チビ:見つかって死亡 ミケ:溺れて死亡 レコ:復活呪文により生存
ベビギコ フサミュー:見つかって死亡 ベビ:復活呪文により生存 ミケ赤:復活呪文により生存 レコ朗:スズメバチに刺され死亡
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「ったく・・・どいつもこいつも交尾交尾うざってぇんだよ!」
といいながら。フーンドウギコミコンを投げた。
鈍い音がし。
「いてーぞコゾウ!」と叫んだ。 落下した地点は手前から4枚目の布団だ。
「シーッ!静かに!」としゃべってるのも聞こえた。
「お・・・おれはただのフトンムシだぞコゾウ・・・」
と言ってる最中に布団をめくり。
「みーつけた。 痛くても黙ればみつからなかったのにね 残念!」
レコとフサの顔面をもぎ。 ゴミ袋に入れた 花火の時間まであと4分。
2分に1匹見つけなければ絶望的だ。
だが。神様は微笑んでくれた。 テレビの端から2つの尻尾が見えた。
テレビの後を見ると。残りの2匹が見つかった
「頭かくして尻隠さず! 残り4分だったのにね! 残念だったね!」
2匹を潰し。ゴミ袋にいれ。 室内電話で事務室に電話する。
「皆さん! チビ ベビギコしぃ全員見つけましたよ!」
事務室の歓声が電話を通じて渡って来る。
「じゃあ言い訳の手紙書いとくから適当にパーティでもやってくんな!」
「分かりました!」
「では! プツッ」
部屋は不気味なほど静かだ。
620
:
ベビ&チビしぃ・ギコ虐
:2009/08/05(水) 16:43:38 ID:???
【参加者のしぃが全員普通のしぃでしたら楽しい企画を立てます。アフォしぃだったら職員が楽しみます モナー先生】
[生死リスト]
ワッシィ 全滅
ベビしぃ 全滅
ちびしぃ 全滅
チビギコ 全滅
ベビギコ 全滅
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
明後日の午後。
「ベビチャントチビチャンマダコナイワネ・・・」
そこに1つの手紙が来た。
「ハニャ? ナンダロ。」
手紙にはこう書かれていた。
「花火大会の準備の時。花火の機材を積み込んでたトラックが無人暴走していたトラックが来て。
避けようと努力しましたが、花火が作動してしまい。ベビ達にも逃げろと言ったのですが。間に合わず
色の付いた火と共に。夜空へ散ってしまいました。 骨も残ってなかったため。
ベビ達が昼に食べた物の食器をお送りします。 ご愁傷様でした。」
「ハニャーン!ベビチャーン!チビチャーン!」 そして数時間後。
ベビやチビの親達は。しぃ学校へと文句を言いに急ぎましたが、閉校しました。と張り紙が門にとりつけられ。
そこにはコンクリートの建物がぽつんと建ってるだけだった。
地獄の合宿会が終わり。また隣の市で学校を建てていた。
「いやー。モララー先生。あの子達返してたらあのことを言いつけて。しぃ達が来なくなっちゃうから、必死で全員探してたのか?」
「そうだな。 あとしぃ甘は最高にウザかったな。甘くて柔らかいものって・・・贅沢すぎるよな。」
「あとさ。最高におもしろかったのが。妊婦しぃかなw あいつ。都合がいいときは威張って。赤ちゃんが危険になると必死になるから面白かったわ。」
「んで腹けってさぁwそして赤ちゃんが死産したら「いゃあああああ!私の赤ちゃん!」なんて言ってんのw」
「マジでうけたよ。ガキが子供産むなんて早すぎるっつのw」
その時にギコ先生が
「モナー先生!モララー先生!パンフレット完成しました!」
そのパンフレットには満足げな笑顔をしたベビしぃがダッコされる写真があり。「合宿中にダッコの時間を設けています!愛情を注いでダッコします!」の文字。
そしてチビの交尾写真。「交尾の時間も設けてます。好きなだけ子供を産めますよ!帰ってきたころには新しい家族が入ってきます!」
そして次のページに。ベビしぃとベビギコが交尾している写真があり。
「愛情いっぱい!コウビ祭りや。昼食後のダッコもあります!プロ保育士になりたい新米保育士さんもここで研究をします。」
と書かれてあった。
「あんな糞虫に愛情を注いでダッコだの子供を産ませるだのゴミにはいらねーな。」
その時後で。ベビしぃが「コウピ!」と近くにいたベビギコに言い。「ミュ!」と言いながら
交尾をした。「ミュミュ!」「アニャーン」 交尾を終え。ベビしぃが「コウビノアトノナコ!」と言った。
当然スルーした。「アニャーン!ナッコシナイヤシハギャクサツチュウデチュヨー!6ネンセイヤママニイイチュケマチュヨウ!」と言った。
カチっと来て。 またあのイベントを開催した。
いろんな家にパンフレットを届けた。 その頃。6年生に言いつけようとした母は。
「イッパイダッコシテモラエルカナー・・・ ハニャ? ユウビンバイクサンダ!」
(
>>611
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621
:
(’A`)ウオアー
:2009/09/09(水) 22:02:45 ID:???
「ベビチャン! チビチャン! イヤァアアアアアアッ!」
しぃの断末魔は、薄暗い部屋に響いた。
俺の名前はモナー。
今日は仕事が休み、久々で公園でマターリ、といっても昨日は調子にのって遅くまで起きていた・・・
公園で寝るのも悪かぁないか。
ふと目を閉じたその後、モナーの腹に小さな衝撃が走った。
「んぁあ・・・・? 何だよ・・・」 目線の先にはちびミケやちびギコ。
ベビギコやちびしぃ、おまけに妊娠したしぃがいた。
「な・・・何だ! いつの間にか糞虫ぃが・・・」
「ここでねないでほしいニャン! この公園は私たちのものニャン!」
「そうよそうよ! 5つ数えるうちに出なさい! 命だけは助けてあげるわ・・・」
生意気なガキ共だ。 久々に虐殺の血が騒ぐ・・・
ここで虐殺するのも悪くはないが、連れ去って虐殺もよさそうだ・・・
そうだ! 連れ去りだ!
「ごめんなさい! すべて漏れが悪かったモナー! お詫びに家まで送ってやるモナー!」
案の定、公園にいた糞虫ぃはゾロゾロとやってきた。
虐殺される事を警戒もせず・・・
622
:
(’A`)ウオアー
:2009/09/09(水) 22:26:54 ID:???
時は経ち、 モナーの家の防音室・・・
地下かつ防音、ここなら断末魔も外へは漏れない。
昼寝してる人への配慮・・・ってとこかな。
一応扉には鍵をしている。
「さて、糞虫ぃ共! 公園でのマターリを邪魔した分、きっちり償ってもらうモナ!」
「ハニャーン!アンタガボーットシテノガイケナインデショ!」
「ええ、 こっちも自宅で寝なかったのが悪かったモナ。 でもな・・・」
「故意にボールをぶつけやがったミケも悪いモナ!」
「その事は謝るから 早く出してほしいニャン!」
「(゜д゜)ハァ? ごめんで済むんならこんな所に連れてくるはずないモナ!」
「ハニャ!? ジャ・・・マサカ・・・」
「そう。 そのまさかモナ!」
「チビチャン!ベビチャン! ニゲテー!」
・・・と言っても ベビはただミューミューチィチィ鳴いてるだけで 何もしない
「無駄無駄。 ドアには鍵をかけてるモナ」
「ハニャ! ナンデスッテ!」
「虐殺厨め! httpレーザー! あ・・・」
「ちょっと待つモナ・・・」
俺はとっさにフサベビを持った
623
:
(’A`)ウオアー
:2009/09/09(水) 22:37:40 ID:???
「ちょっと待つモナ・・・」
「な・・・何よ! 最後の遺言?」
「レーザーを発射したら どうなるかわかるよな・・・」
さすがに糞虫ぃも気付いたようだ。
「べ・・・ベビちゃん!」
「発射してしまえば、 この赤ちゃんも道連れモナ!」
「くっ・・・」
この親www子www愛wwwwwww すげえwwwww笑えwwwるwww
ちびしぃは ベビを離した瞬間撃つだろうからずっと持っておこう。
もちろんご飯の時もだ・・・
「ももも・・・モナーさん、 そのベビちゃん 喉渇いてるみたいですよよ・・・」
考えはお見通しだ、俺はフサベビを持ちつつ水を飲ませた。
「な・・・」
ちびしぃは唖然としている。
624
:
cmeptb
:2009/09/21(月) 11:58:06 ID:???
>>582-587
の続き
めんたるぶれいく 中編
1
「さってっと! どーかなチビちゃん? よーくお休みできたかな?」
「ひぐっ…! ひ、ひぎぎ、ひひ……!!」
それから、しばらく。おそらく準備を終えたのだろうモララーが部屋に入ってくると
その姿を見たチビギコは、先程まで虚ろな目つきで涎を垂らしていたのがかっと
目を見開いて、悲鳴にならない悲鳴をあげ始めた。
「うふふふ…。まぁまぁ、そんなに怖がらないで。今度はチビちゃんにさ、いいもの
…映画を一本見せてあげようと思って…ね? 持ってきたんだ…」
そして怯えるチビギコとは対照的に、モララーは実に嬉しそうに笑顔を浮かべ
その手に彼の言う “映画” が入ったモノなのだろう、ディスクをひらひらさせていた。
「え、映画…? 何デチかそれは……?」
「うっふっふ…。まぁ内容は見てのお楽しみなんだけれど、きっとチビちゃんも
気に入ってくれるはずだよ? 選りすぐりの映像ばかり入れてあるんだ…。
…というわけで、ギコ。テレビとデッキの準備を頼むよ」
「お、おう。じゃあ…ちょっと待っててくれ、ゴルァ」
…モララーの言う “選りすぐりの映像”。それが何であるかはまだ明言されたわけ
ではなかったが、今までの動向からしておおよその予想は付いていたのだろう。
チビギコは不安げな表情をして体を小さく震わせ、ギコは準備しがてらその顔に
これから起こることに期待を寄せる、邪悪な微笑みを浮かべていた……。
……………………………………………………
「お待たせしたな、準備出来たぞ!」
「ご苦労さんね、ギコ。…それじゃあ映画鑑賞といこうか、チビちゃん?」
それから、数分後。ギコがデッキとテレビの準備を終えると、モララーはやはり
気味の悪い笑顔のまま、椅子に拘束されているチビギコをテレビの方へ向けた。
「さ、て、と。待たせてゴメンねェ、チビちゃん? お楽しみの始まりさァ…。
めくるめく夢の世界へと、ご招待ィィ〜ッ!!」
「……………………!!」
じゅるり、と舌なめずりまでするモララーを前に、チビギコはひっと息を呑んだ。
一体これから、どんなものを見させられるのか? 緊張に身をこわばらせ
“ようとした” が、もはやそんな暇もなかった。何故なら……
「ダダダダダダッとぉ! おらおらクソチビ共、さっさと逃げてみろよォ!?」
「ヒッ、ギャアアアアアアア!! たすけ、助けてくだちゃああいッ!!」
「あーあ、アンヨがぼろ雑巾みたいになっちゃいまちたね〜? それじゃ
もう満足に歩くことも出来ないだろうから、手伝ってあげるよ!
ほら、ケツの穴に特性の激辛溶液をぶち込んで……」
「ギッ! グギャアアアアアアアッッッ!!」
…開始早々数秒後で、そのディスクの中身は嫌と言うほど理解できてしまった。
絞殺、銃殺、あるいは爆殺…。とにかくありとあらゆる方法で画面の奥では
同族のチビギコが虐殺されていき…、目を見開いたまま硬直しているチビギコの
肩をぽんと叩くと、モララーはそれはそれは嬉しそうにささやきかけた…。
「すごいだろう、チビちゃん? これを手に入れるのは大変だったんだからねェ…?
何せこのディスクに収録されてるのは、あんまりにも残酷すぎるからって理由で
虐殺映倫でさえもがOK出さなかった映像ばかりでね。言うなら幽○白書の
『黒の章』 みたいなもんかな? …まぁとにかく、闇ルートから高い金払って君の
ために入手したんだ。存分に楽しんでくれよ……?」
625
:
cmeptb
:2009/09/21(月) 11:58:41 ID:???
2
「あ、ああ、ひ……!」
…凄惨な拷問の末、最期の瞬間に笑うことを強要され…、助かるものだと必死に
引きつった笑顔を作ったその瞬間。頭に斧を叩き込まれて、びくんびくんと絶命。
あるいは5日以上の絶食の末、目の前に強化ガラスの覆いをつけたご馳走を出す。
もはや一心不乱の必死の形相でガラスをたたき割り、やっとありつけたと思ったら
その実猛毒入りで、血を吐いて死にゆく様を大笑いしながら見物しているAA達…。
また一匹また一匹と、モララーの言ったとおり凄惨極まりない方法で目の前では
同族の命が消えていく…。もはや身動き一つ取れないでチビギコはテレビの前で
固まっていたが、それはチビギコだけではなく……
「ぐ、むぅ…。わ、悪いがモララー。俺はちっと外で休んでるわ。刺激が強すぎる…」
「お、そうか。…まぁ発禁食らった映像だから、強すぎるのも無理はないよな」
その映像の苛烈さは、虐殺する側であるはずのギコでさえも直視できないもので
あり。チビギコに負けず劣らず真っ青な顔をして口元を押さえると、逃げるように
部屋から外へと出て行った…。
「あ〜ら〜ら、っと…。勿体ない…。でもまぁ虐殺愛好家でも気が触れるような
映像ばっか納めてるんだ。まともな神経してるあいつじゃ仕方ないさ……」
…この状況でにこりにこりと満足そうに微笑むその姿からは、“まともさ” は
微塵も感じられない。…もっとも本人もそれは自覚しているようだが、とにかく
しばらくチビギコの様子を見た後に、彼の元へと歩み寄っていった。
「さて、それじゃ第二段階へと移るとしましょうかね……。
…お〜い、チビギコちゃん? 楽しんでみてもらってるかな〜?」
今の段階でも十分に過ぎるのに、この上まだ先があるのか? そんなモララーの
思惑など露知らず、チビギコは後ろからかけられた声にはっとなって振り返り
モララーの姿を確認した途端、ぶわっと涙を溢れさせた。
「お、お願いデチ…! もうチビタン、この映画を見たくないんデチ…! チビタン
見てると頭がぐちゃぐちゃになってきて、おかしくなりそうなんデチ…!
お願いデチ! お願いデチから、許してくだちゃい……!!」
虐殺者のギコでさえも見るに堪えかねた映像ならば、チビギコがそれを見れば
どうなるかは言うまでもなく、かと言って目を閉じればその時点で首が地面に
落ちるかもしれない。哀願、哀願。モララーを救いの天使だと言わんばかりに
涙や涎をぼろぼろと零しながら懇願を繰り返す。
「…ふ〜ん、そうなの。チビちゃんはこの映画、もう見たくないんだ……」
「そ、そうデチ! お願いデチからこの映画を…!」
被虐者が虐殺者へ哀願。通常、この展開は揺るぎない死亡フラグが立てられる
ことになる。…そしてそれが証拠と言うべきか、モララーは傍の机の引き出しを
漁りだした。さて、一体どんな処刑道具を取り出してくるのか。振り向いた彼の
その手の中には…!?
「…! そ、それ、目隠し…デチか…?」
…何とモララーが取り出してきたのは、紛れもない目隠し。それも特に何の
細工もなされていない、一般に市販されている目隠しである。
「そ〜うなんだよねェ。チビちゃんがあんまり悲痛な声で泣くから、僕も…ね?
まぁオメメを閉じてくれても良かったんだけれど、まぁいいや。僕からの
贈り物だよ。つけてくれるかな?」
「! は、ハイデチ! は、早く着けてくだちゃいデチ!」
…それは、異様な光景であった。特に何の細工もなされていない目隠しを
ただ被虐者の望み通りに装着させる…。この時点では虐待虐殺のぎの字も
見えず、まさかとも思われたが……
「あ、見えなくなったデチ。これで……、ッッ!!?」
…もちろん、そんなはずもない。目隠しをつけたほぼその直後、チビギコは
体をびくんと大きく震わせた…。
626
:
cmeptb
:2009/09/21(月) 11:59:11 ID:???
3
「あ、ああ…! おと…、悲鳴…! 叫び声…! ヒギャアアアア!?」
チビギコがそれに気付いたときは、もう遅かった。…目隠しをしたことで確かに
映像は遮断された。しかし音声は…? 目はふさがれていても、耳は全くの
素通り状態。手が拘束されている状態では耳に手を当てることも出来ない。
“お馬鹿さんだよねェ。目先の餌に安易に手を出すから余計に苦しむ羽目に
なる…。直視するよりも苦しい “想像の世界”。存分に味わってもらうかな…”
…視覚と聴覚が両立している場合に比べ、聴覚だけが機能している状態は
その本人が望む望まないにかかわらず、入ってくる音声情報から目の前に
あるのはどんな光景だと、想像力が大きく働くことになる。つまり今回も同様に…
「さぁチビちゃん! この白いの何か分かる!? …チビちゃんの脊髄なんだよ!?」
「ギ、ヒギッ!? あ、アンヨが…、アンヨが動かないデチ…!?」
「そりゃそうさ! 脊髄引っこ抜かれて動けるはずもないだろ…? それじゃあ
今度は、この脊髄でスープを作ってチビちゃんにご馳走してあげるよ!」
…映像として見てもおぞましい光景であるが、音声だけだとこれが更に増幅する。
即ち、脊髄をえぐり出された…。それはどんな方法で? 傷は? 出血は?
また、その脊髄でスープを作る? これも方法は? どんなスープを作るのか!?
…百聞は一見にしかずとはよくいったもので、一見すればそれで固定化される
情報も、聞くだけでは百通りにも分散される。つまり、映像を見るよりも遙かに
凄まじい光景が脳内では映し出されることになり……
「た、助け…! お願いデチから、目隠しとって…!!」
「な〜に言ってんの。さっきまでは映画を “見たくない” って言ってたじゃない?
なのにもう “目隠しはずしてください” だって? …自分で自分の言ったことに
責任持てないでどうするんだい…。なぁ?」
「ひ、ひぐぅっ…! そんな…、そんな……!!」
救われたと思った目隠しが、まさかこんな恐ろしいことになるとは。しかしチビギコが
気付いたときにはもう遅い。必死にこれをはずすように願うが、当然モララーが
応じるはずもなく……
「…ま、そう言うわけで。し〜ばらくはそのまんま楽しんでいて頂戴! 僕はちょっと
外でコーヒーでも飲んでくるからね。…あ、ちなみに言っておくとそのディスクは
ブルーレイなんだ。つまりまだまだ映画は続くから、存分に堪能してくれ給へ!」
「!! ぶ、ブルーレイ!? ま、待って! 行かないでくだちゃい! 待っ……」
…ブルーレイディスクは、DVDの数倍の容量を持つ。つまりやり方によっては
延々何十時間もの映像や音声を入れることも可能であり…。チビギコにしては
情報に通じていたのか、ブルーレイと聞いたら元々青かった顔色を更に青白く
変えて必死にモララーに向かって手を伸ばしたが、当然その手は届くはずも
ない。チビギコの耳には扉が閉じられる絶望の音が聞こえ……
直後は再び、阿鼻叫喚の大嵐。もはや止める者はどこにも、いない…。
続く
627
:
moudamepo
◆Lzp0ByQK6o
:2009/10/01(木) 23:15:17 ID:???
diary様のベビしぃ飼育が元ネタの小説です
※diary様とはまったくもって別人です※
公園で 3匹のレッサーギコが争っている
「ちびしぃは俺のだぞコゾウ!」
「いや! ちびたんはフサのものでち!」
どうやら そこにいるちびしぃをめぐっての喧嘩である。
「もうやめましょうよ・・・ ほら マターリマターリ」
ちびしぃが抑止しようとしても二人は聞く耳を持たない。
正にちびギコの耳に念仏 である。
「ウニャーン! ケンカスルノハヤメテクダチャイヨウ!」
ベビしぃが勇気を振り絞って喧嘩をした。
しかし 現実はそう簡単にはいかない
「うるさいぞコゾウ! 黙っててろコゾウ!」
何と 信じられない行為をした
注意をしたベビしぃを草むらに向かって蹴ったのだ。
「いやぁああああ! ベビちゃーん! ひどい!ひどすぎるよ!」
ちびしぃが悲鳴をあげた。
流石に好きなのは誰だ という為だけに子供を蹴り飛ばした。
精神的なショックを受けた。
「ほら! レコたんはああやって乱暴をするから 好きにならないほうがいいデチ!」
フサがうまい所でチャンスを狙った。
「んだと! コゾウ!」
レコがキレた
「やるデチか!?」
フサもキレた
628
:
moudamepo
◆Lzp0ByQK6o
:2009/10/01(木) 23:17:06 ID:???
そして、ちびしぃをめぐった決死の決戦が始まった。ちびしぃは現在の状況を理解できない。
「ちびは俺のだコゾ・・・ ギャアアアア!」
第一ヒットはフサのキックだった。
「コゾウコゾウいって もうギブアップデチか? だらしないでちねぇ・・・」
モララーからにとっては ポコポコぐらいのキックだが。
レッサーギコ種にとっては口内炎よりもとてつもなく痛いキックだった。
さすがのリーダー格のレコでも これだけは避けれなかった
「さっきはよくもキックしてくれたなコゾウ・・・」
「これは お礼だコゾウ!」
モナーも倒すほどの体当たりが ちびフサに直撃した
「イ"ダイ"デヂィイイイイ!!!!」
ちびフサは大きな断末魔を上げている。
「あんなに粋がってたのに もう終わりかコゾウ?」
レコは優越感を得ている。
「・・・・サナイデチ・・・・」
「負け惜しみの独り言かコゾウ?」
「・・・・ロスデチ!」
フサが 落ちていたハサミを拾うと、ちびしぃはやっと今の状況を理解できた。
「いやああああっ! 私をめぐっての争いはもうやめて!」
「イヤでち・・・」
フサが注意を無視した時・・・ちびしぃは衝撃な発言をした。
「私は レコくんが好きなのよ! フサくん いっつも気持ち悪かったわ!」
フサは 唖然した。殺気な空気の中 ターゲットはちびしぃになった
「なんでちと・・・・これは裏切った分でち!」
629
:
moudamepo
◆Lzp0ByQK6o
:2009/10/01(木) 23:18:16 ID:???
グサッ・・・
フサはハサミで ちびしぃの胸を刺した
「イ"ダイ"!イ"ダイ"! あやま"る"がらゆるじで・・・ ぇ・・・」
定番の命乞いだが もちろん何があろうと命だけは助からない
そして 1分足らずでちびしぃはあっけなく亡くなった・・・
あの一言がなければ 彼女は今 平然と生きていただろう・・・
「ヒャヒャヒャ・・・ ヒャヒャヒャヒャゴゾゾゾゾ!」
レコが狂いだした 目の前で恋人が殺されちゃ それは平気でいられない。逆に 平気でいるほうがとてつもなく恐ろしい。
「アヒャヒャ・・・ ヒャ・・・ フサアボーン! ヒャヒャヒャ!」
フサからハサミを奪い取り フサ目掛けて刺した。
「ヒギャアアアアアアアアアア! イタイデチッ! イタイデチッ!」
「ヒャヒャヒャ!!! モットアボーン コゾゾゾゾ!」
狂いだした彼にはおそらく、他人の言葉はただの音だろう・・・ 通じることもなく
ただグサグサとハサミで刺してゆくだけだった・・・
刺してから2分経ち フサは死んでいた。そして・・・
「アヒャヒャヒャ・・・・ マターリ! コジョヨヨヨ!」
信じられないことをしていた 自分の首を自分の持っているハサミで刺した。
いうまでもなく 即死になった。
所変わって・・・
【虐待・虐殺小説スレッド diary様のベビしぃ飼育小説へ続く】
630
:
しぃちゃんの夏休み
:2009/12/26(土) 20:14:20 ID:???
7がつ20にち はれ
きょうからなつやすみ しぃは なかよしのしぃみちゃんのおうちにあそびにいきました
すると しぃみちゃんのいえには おまわりさんがたくさんきていました
しぃが しぃみちゃんにあえますかときくと おまわりさんはだめだといいました
しぃみちゃんとおやくそくしたことをはなしましたが
おまわりさんは しぃをおいて おうちのなかにはいっていきました
きんじょのギコおじさんは しぃみちゃんのいえは おかねがないから
いっかちんじゅうしたんだって おしえてくれました
でも いっかちんじゅうがなんなのか しぃにはわかりませんでした
おかねがないと いっかちんじゅうしなきゃいけないの ときくと
ギコおじさんは しぃみちゃんのおかあさんは おやちんがはらえなくて
でていかなければならなかったんだよ とむずかしいことをいいました
しぃみちゃんはとおくにいっちゃったの ときくと
そうだ とおじさんはいいました
631
:
しぃちゃんの夏休み
:2009/12/26(土) 20:14:49 ID:???
ギコおじさんは かちたおかねがもどってこないといって おこっていました
しぃは ギコおじさんのおしごとをあまりしりません
ほかのひとにおかねをかひゅと それがいっぱいになってもどってくるそうです
しぃのちょきんばこも いっぱいになってもどってくるのかな
そうすれば おかあさんも まいにちはたらかなくていいのにな
おうちにかえったしぃは てをあらって おかあさんに
しぃみちゃんはいっかちんじゅうしたんだって といいました
おかあさんは なにもいわずに どーなつをだしてくれました
しぃは どーなつがだいすきです
しぃは どーなつをたべながら うちもおかねがないからいっかちんじゅうするの とききました
おかあたんは なにもいわずに しぃをだっこしてなきました
へんな おかあさん
632
:
耳もぎ名無しさん
:2010/06/13(日) 10:23:21 ID:???
SHOWCASE
志井駅中央口は思いがけないほどひっそりとしていた。
夏の行楽シーズンだというのに人はおろか、烏一匹すらいない。
かつてはタクシーやバスがひっきりなしに往来していたであろうロータリーがこの場に不相応なほど堂々と構えてある。
「これは凄いですね。ある種の秘境ですかね…。」
モララーは言いながらロータリーの中央にポツンと置いてあるバスの時刻表を見に行った。
「どうだ?」
「…ホントに秘境ですね。バスが一日3往復。次に来るのは3時間後ですね。」
モララーは唖然としていた。奴が都会っ子だからか、それともまだ取材の経験があまり無いから分からなかったのだろうか、。
一日3往復のバスなど田舎に行ってみればゴマンとある。俺に言わせてもらえばこんなことで驚くような者にレポーターは勤まらない。
「じゃあ、ハイヤーでも呼べばいいだろ。」
「あれ、ギコさんハイヤーの番号知ってるんですか?」
「そこら辺の電話ボックスにある電話帳で探してこいよ。お前電話帳も知らないのか?」
「あ、ハイ!!分かりました!!探してきます!!」
モララーはそう言うと、ドタバタと駅の東口の方へと駆けていった。コイツは返事だけはハッキリとしている。
「志井町か…。」
俺はそばにあったボロボロのベンチに腰を下ろした。
実を言うと、俺は前にもこの町に来たことがある。今からざっと20年前のことだ。
このころ志井町には万博が開かれていた。国はこの万博に総力を挙げ、当時の国の最新技術をここぞとばかりに見せつけた。
日本は勿論のこと、世界の各国からも様々な人が訪れた。
駅舎も豪華なものに立て替えられ、送迎バスを到着させるロータリーも作られた。
俺達取材陣は当時この町の住民にインタビューをしたことがある。その住民は
「今後の志井町の発展が楽しみです!!」
と、笑みを絶やさずに語ってくれたのだった。
しかし、この状況はとある一つの建物によって一変した。
国は万博終了後、会場跡地に「全国公正不能保護観察しぃ族院」が設置されたのだ。
そして、この施設が出来てから何故だか分からないが、町はみるみる衰退し、
しぃ族院と駅舎とロータリーだけが国の置き土産のごとく残った。
「この町も万博バブルによってやられたのか…それとも…」
633
:
耳もぎ名無しさん
:2010/06/13(日) 10:24:05 ID:???
俺が言いかけたその時、モララーが息を切らしながら戻ってきた。
「すいません遅れました。ハイヤーが一軒あったので、こっちへ来るようにと連絡を入れてきました。」
「おう、ご苦労さん。」
俺達はしばらくボロボロのベンチに座り、ハイヤーが来るのをじっと待っていた。
ロータリーの先には険しい山が聳え立っていて、その向こうに「全国公正不能保護観察しぃ族院」は存在する。かつて万博会場だったところだ。
万博実行委員会にとって、この山は相当の難題だった。
当時志井駅周辺には商店街、住宅街が広がり、とても万博など実行できるスペースは無かった。
よって、交通の便が悪く住宅もあまり存在しない山の向こうを会場にすることにした。
しかし、志井駅から山を通り抜け会場に至るには小型バスで約2時間。世界各国から集まる大勢の客は到底運べたものではない。
そこで委員会が思いついたのが、トンネルだった。
トンネルをまっすぐに掘ることによって、向こうへの到着は約20分、1時間半以上も短縮できるのだ。
委員会は総力を挙げて国中の一流建設会社に工事を以来、青函トンネル以来の大トンネル工事となったのだ。
トンネルはかなり広く作られていた。万博当時は何台もの大型バスがひっきりなしにすれ違っていたのだ。
しかし、ロータリー同様かなり閑散としていた。今トンネルを走っている車は俺達を乗せているハイヤーだけだ。
「…。」
運転手は行き先を伝えてから何も話さなかった。むしろ俺達の顔を見て不快感でも覚えたかのような表情をしていた。
「ギコさん、この運転手無愛想だと思いませんか。」
「まあな。」
俺は特に気にも留めなかった。「お前無愛想だぞ」と運転手に言ったところでどっちも不快になるだけだ。
すると、運転手がとうとう口を開けた。
「あんたらさあ…。」
「はい?」
「あんたらさあ…。」
運転手は言葉が思いつかないのか、同じ言葉を二度発した。
「何でしょうか。」
「あんたらさあ、やっぱり『虐殺』しに行くわけ?」
運転手の言葉には相当の倦怠感が混じっていた。
俺は少し頭にきた。もちろん俺達は取材をしに行くのである。虐殺などという低俗な行為をするためにわざわざお前を呼んだのではない。
「違いますが。」
するとミラーに映る運転手の表情は一変し、不快感をあらわにした表情から喜びの表情へと変わった。
「ああ、よかったあ!!」
運転手の叫び声は相当な五月蝿さだった。おそらく今までたまっていた鬱蒼感を一気に吹き飛ばしたかったのだろう。
「実はね、ここ数年虐殺ブームでしょ?だからしぃ族院に虐殺しに行くから連れてけってやつが増えてきてね。行きはいいんだけど帰りはシートに血つけちゃったりしてさあ。洗うの面倒なんだよね。」
運転手の声は急に快活になっていた。なるほど、そういうことか。
「お客さんが虐殺しに行くっていうんであれば、金は返すから乗らないでくれ、って言うところでしたよ。いやあよかったなあ。」
黒いハイヤーは暗いトンネルの中を溶け込むようにして走っていく。
続く
634
:
耳もぎ名無しさん
:2010/06/17(木) 20:27:59 ID:???
SHOWCASE 2
やたら長いトンネルを抜けると、そこには何も無かった。
本当に何も無い。
建物はおろか電線も無く、挙句の果てには木一本も生えていない。
存在が確認できるのは今ハイヤーが走っているこの一本道だけ、というひどい有様だった。
「すごいですねこれは。昔の小説ですけど、それこそ『トンネルを抜けるとそこは雪国…』みたいな、
普通は興味をそそられるような光景が広がっていたりするんですが…」
モララーが言った。正直それは小説の読みすぎだとは思うが、言いたいことはなんとなく分かるような気がする。
あまりにも殺風景なのだ。というより無機質に近い。とにかく何も伝わってこない。
次第にそれは不快感を催すものに変わり、激しく俺を苛立たせた。
公園の駐車場に着いたところで俺達はハイヤーを降り、約四千円を支払った。ぼったくりが問題化しているタクシーもといハイヤー業界の中ではまだ良心的な値段の方だろう。
さてここからしぃ族院までは徒歩五分足らずで着くのだが、取材開始時刻までは後一時間近くあった。
ただ院の前でぼーっとしているのもアレなので、俺達は広大な万博公園の中を散歩してみることにした。適当な時間つぶしにはなるだろう。
駐車場を出ると俺達を歓迎するかのようにいくつかのモニュメントが置かれていた。
「平和」を表すモナーの像
「情熱」を表すギコの像(そうか、俺は情熱なのか)
「表裏」を表すモララーとウララーが対になっている像
など、多種多様にわたって作られていた。
635
:
耳もぎ名無しさん
:2010/06/17(木) 20:28:32 ID:???
その中でも明らかに浮いているものがあった。しぃの像である。
白目を向き、この世の終わりとでもいうような絶望的な表情をし、桃色でなく、真っ赤に塗られている。
しかも驚くほど生々しく、顔を醜く歪めている皺の綿密さといい、まるで作り物とは思えないほどだった。
「なんだこれ。悪趣味な奴もいるもんだなあ。」
モララーが能天気に言った。
「しかしこの気味の悪さは悪趣味だけじゃ済まされないだろう。」
「ですよね。なんだか変な生々しさがあって…。
それにどうもこの赤いペンキ、どうも普通じゃない気がするんですよね…。」
「馬鹿野郎、赤は元々普通じゃない色だ。」
赤は白や黒、そして青などと並び、古代から現在にかけて、もっとも普遍的な色として親しまれてきた。
しかし、現在では信号など、危険を知らしめるための色としての印象も強い。赤は「普遍的な危険色」なのだ。
では、赤を危険色に仕立て上げた元凶というのは一体何だろうか。
普遍的かつ、危険。よく見るが、その度に見てはいけないようなものを見てしまったような感情に襲われるもの。
一体―
636
:
耳もぎ名無しさん
:2010/06/17(木) 20:28:53 ID:???
あまりにも奇異だったのでしばらくその像を眺めてみることにした。
すると、像の方からうめき声のような音が聞こえてきた。
「・・・シ・・・・・・・シ・・・イ・・・。」
俺がこんな声など出すわけないし、モララーだってそうだ。となると、あの声はこの像が出したことになる。
事実、奴の口は微かに動いていた。それこそほんの些細に動いただけだったが、間違いなく奴は開閉運動をしていたのである。
「う、うわああああっ!!」
モララーは叫び、後ずさりしていが、俺は長年勤めてきたマスコミとしての習性か、それとも「情熱」のせいか、自然と像の方に近寄っていた。
よく見てみると、像に塗られている赤いペンキは今もダラダラと流れ続けている。まさか20年前に塗られたものが今も乾いていないわけないし、最近塗りなおしたとしても公園側がこんなずさんに行うわけないだろう。
これは血だ。この像は出血しているのだ。
「う、うわわわわわ!!」
これには流石に俺の習性も情熱も敵わなかった。思わず俺も10歩ほど後ずさりしていた。
生きていた。
これは像などではなく、無残に「虐待」され放置されたしぃを像に見立てて放置していただけだったのである。
後ずさりしてしばらく経ち、段々とこのしぃも見慣れてきたので、俺は改めてよく観察してみることにした。
しぃの尻には棒が突き刺されていて、それが地面に差し込まれていた。どうやら棒は肺の付近にまで来ているようで、呼吸しているのがやっとらしい。もっとも突き刺されていなくても虫の息だろうが。
俺はしぃの全体をカメラにおさめ、その場を立ち去ることにした。
モララーは
「このまま放っておく気ですか?」
と言っていたが、俺が
「放っておかないところで俺達には何もできねえよ。」
と言うと、それっきり黙った。しかし、像の前を横切るとき
「やっぱり悪趣味な像だ。」
と呟いていたのは聞こえた。
649
:
耳もぎ名無しさん
:2013/08/01(木) 13:43:13 ID:???
村人たちは困っていた
「あのツルポとか言うのはどうしたらいいかね?」
「うちの田んぼも奴に荒らされたべ、狸の方がまだかわいげがあるべ」
モララーの発言にギコも答えた
「おまけに臭いしどこにでもクソ巻き散らかすしでロクなことないわ」
しぃも困り果てていた
「そうだ!漁師のみっちんさんにたのむってのはどうだモナ?」
「賛成!」
モナーの意見にみんな賛成し、みっちんのところに依頼に行った
「ってな訳で村人全員困ってるモナ」
「なるほど、その依頼受けたミチ」
みっちんはさっそくツルポ討伐へと出かけた
650
:
耳もぎ名無しさん
:2013/08/01(木) 13:48:03 ID:???
「ツルポ!ツルポ!ハッハッハッ!」
しばらくしてみっちんは糞を撒き散らしながら小さいちんちんで射精しているツルポを見つけた
「あれがツルポみちね、あいかわらず醜悪な顔みち」
みっちんは毒矢を構え、物陰に隠れた
「フフフ、バカナミッチンネ、ソレデカクレタツモリ?」
ツルポの気持ち悪い声が周りに響き、動物たちは逃げ出していった
もっともツルポの悪臭を嗅いで大半の動物は逃げ出していたが
「ソウダ!アノアホニモイイモノアゲヨウ!」
ツルポは自分の糞尿と精液を混ぜた物を持ってみっちんに近づいて行った
「ムラノヒトモヨロコンデタシキットヨロコブワ!」
身の危険を感じたみっちんは矢を手に持ち、ツルポを刺した
「ツルポオオオオオオオオオオオオオ!」
ツルポはのたうち周り、倒れこんだ
651
:
耳もぎ名無しさん
:2013/08/01(木) 13:54:59 ID:???
「ただ気絶してるだけミチね、でもこれからが本番みち」
みっちんは念のためツルポの頭を岩で殴り、捨てられた山小屋へと連れて行った
「アレ?ツルポコンナトコロデナニシテルノ?カラダモシバラレテルシ」
「お目覚めのようミチね」
「ア!サッキノアホ!」
「アホはお前ミチ!」
みっちんはツルポの顔に火を近づけた
ツルポの顔はあっと言う間に燃えていった
「これで少しはまともな顔になったみち」
「ツルポオオオオオ!ツルポノカワイイオカオガーーーー!」
(糞を撒き散らかされたら困るから尻の穴を縫い合わせておいたミチ
ちんちんもちょん切って穴を焼いておいたミチ)
「ヨクミタラチンチンナイヨオオオオオオオ!」
「それのせいでみんな迷惑してたからちょん切ったミチ」
「ウェエエエエエエエン!ツルポハミンナニスカレテルノニーーーーー!」
「嘘つけこの変態!」
みっちんはツルポの腹に手を押し込み、腸を引きずりだした!
「おまえのせいでみんな困ってるんだ!」
みっちんはツルポの体を棒で殴り始めた!
652
:
耳もぎ名無しさん
:2013/08/01(木) 13:58:07 ID:???
みっちんによるツルポの拷問が始まってから数時間が経過した
「やったみちね…」
ツルポの両目は潰され、鼻もそがれ、歯は全部抜かれていた
四肢もあらぬ方向に曲げられた後、切り落とされていた
床には肝臓や膀胱が散らばっていた
「ツル、ポ…」
「まだ生きてるミチ、とどめを刺すミチ」
みっちんはツルポの胸に手を突っ込んで、心臓を握った
「ツルポオオオオオオオオオ!」
そしてツルポの心臓を思いっきり引っ張り出した
「ツルポオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「これで終わったミチ」
ツルポは大量の血を吹きだした後、息絶えた
653
:
耳もぎ名無しさん
:2013/08/01(木) 14:04:02 ID:???
小屋の片づけを終え、川で体を洗いながらみっちんは考えていた
「あのツルポ、何から何まで醜悪だったが内臓はちゃんとあったミチ
場所は他の動物と大体同じだったミチ」
「ターヘル・アナトミアって本には人間の内臓の位置が書いてあったミチ
あれを日本語に訳せたらいいミチね」
654
:
耳もぎ名無しさん
:2013/08/01(木) 14:06:16 ID:???
みっちんは村に帰り、内臓の研究をした
「みっちんさん!醜いツルポをたくさん連れて来たべ!」
ギコはツルポを網に入れてみっちんの所へ持ってきた
「こっちも壺に入れて来たわ!」
「こっちは俵に押し込んで来たぜ!」
「こっちは引きずって来たモナ!」
ツルポは捕獲され、実験動物にされた
しかしそのおかげで医療は進歩した
655
:
耳もぎ名無しさん
:2013/08/01(木) 14:10:46 ID:???
そうして現代
「新しい薬の実験をしてるモナ」
「ツルポオオオオオ!オメメガミエナイヨーーーー!」
ツルポは完全に実験動物になっていた
動物愛護団体も他の動物とは違い、害獣を始末していると言う点に賛同し、誰も文句を言わなかった
むしろ他の動物が助かっていると持ち上げていた
「毎度毎度うるせえな、品種改良しないといけないモナね」
糞尿を出さないよう食事は栄養剤のみ、生まれた時に去勢する
一部の実験用や生殖用個体を除き、このような扱いになっていた
それでも目を離すと性行為を行おうとするため、一匹一匹狭い部屋に押し込まれていた
「本当みっちんさんは偉いモナ」
みっちんは医学を進歩させた英雄として伝えられていた
656
:
耳もぎ名無しさん
:2013/08/01(木) 14:15:16 ID:???
「それ!キックオフ!」
「ツルポオオオオオ!」
「それ!ホームラン!」
「ツルポオオオオオオ!」
ツルポはストレス発散生物としても使われるようになっていた
子供だけでなく大人にまで幅広く支持されていた
「うわっ、こいつもう使えねえな」
「よし!解体しよう!」
ツルポを使ったストレス発散のおかげでいじめや戦争、犯罪も無くなり、世界は平和になった
ある一つのことを除いて…
「しかしツルポは食糧にならないのが欠点モナ
臭いし栄養無いしまずいしで欠点だらけモナ、食べたら絶対吐くモナ」
そう、平和になったおかげで人口が増え、食糧問題が危惧されていた
しかしツルポでストレス発散されるため、戦争は起きなかった
食糧問題は解決していない、未来を救うのは君たちだ!
終わり
657
:
耳もぎ名無しさん
:2013/08/24(土) 18:55:24 ID:???
= ベビつーとボク =
茂名小学校 緋月堂 亜火屋ノ真
7月25日
「ただいまー」
終業式が終わって家に帰ったら、今にダンボール箱が置いてあった・・・。
「なんだろう・・・。」
バリッ!
ダンボールのフタを開けてみると・・・・。
「アヒャ!」
なんと、中にはベビつーが・・・
「もう開けたのか・・・。びっくりさせようと思ったのに・・・。」
「父さん!」
実は、モラ男君のベビギコを見てから、ずーっとベビギコが欲しかったので、父さんにお願いしていたのだ・・・。
それで父さんは、ボクの誕生日プレゼントとしてベビつーを買ってきてくれたのだ・・・。
「よーし。よろしくな。『すぅ』」
「アヒャ♪」
「大切に育てるんだぞ。」
∧_∧
ベビつーの名前は、「すぅ」にした。
明日、さっそくモラ男君に電話をしてみようと思った・・・。
= つづく =
661
:
耳もぎ名無しさん
:2020/07/29(水) 11:27:43 ID:???
こ
1001
:
耳もぎ名無しさん
:2022/02/12(土) 12:46:05 ID:???
サルベージされた作品を見てたらふと思いついたので
【ベビギコとボブ(5)】
13 August
ハァーイ!ボブでェース!
なんと、マイクたちの墓の前で悲しんでいたミーの前に新しいベビギコが現れたのでース!
今度こそ、観察ダイアリーを成功させようと思いまース!
バット、今度のマイク四世はなんだか雰囲気が違いまーす!
前のマイクたちと違ってなんだか元気がいいデース!
「コドー!」
14 August
グッモーニン!
今日は、マイク四世とお散歩に行きまーした!
四世はとても元気がいいデース!これならミーにでも育てることが出来そうDEATH!
「HAHAHA!イイ走リデースネマイク!」
「コドー!コドー!」
いっぱいお散歩したご褒美として、マイク四世にアイスクリームをあげまーシタ!
「チョコアイスデース!タップリ味ワッテ食ベテクダサーイ!」
「コドー♪」
15 August
NOOOOOOOO!
今朝起きたら、マイク四世が死んでいたんDEATH!
あれだけ元気だったのにどうしてこンな事になるのか、ミーには理解できませーン!
「マイク!?マァァァァイクゥゥゥゥゥ!!!」
(チョコレートは大半の生物に有毒です。良き飼い主の皆さまはペットに与えないようにしましょう。)
1002
:
耳もぎ名無しさん
:2025/05/16(金) 00:26:42 ID:YmquRJsc
ええやん
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