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( ^ω^)達は今が楽しければなんでもいいようです
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ぼちぼちながらでのんびりと
エログロ諸々過激描写あるかも
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( ^ω^)「これが君の望んでいたものなのかお?」
眼下に広がる景色は、最早見慣れた日常風景であるように思えた。
本来土色であるはずのグラウンドは赤く、文字通り死屍累々が広がっていた。
ぼくと、彼は、それをフェンス越しに、屋上から見下ろしている。
うず高く積み上げられた死体の山を間近で見れば、きっと彼等の個性が手に取るように解るのだろう。
泣き喚きながら頭を撃ち抜かれた者。
気が触れ、笑い声を上げながら首を掻き切られた者。
苦痛に耐えながら撲殺されていった者。
その一つ一つの表情から彼等の死に際について考察することは、或いは有益なことなのかもしれない。
しかし、今はそうする気分にはなれなかった。
暫く伸ばしっぱなしにしていた鬱陶しい前髪が、生温い風に靡く。
それを煩わしく思い、ぼくは前髪を掻き上げ、隣でセブンスターを喫うドクオの方を見た。
('A`)「まさか。俺には死体の腑を食う趣味なんて無いし、あんな生肉の塊をジロジロ眺めて興奮するニッチな性癖もねぇよ。ただ、俺が欲しいものを手に入れようとしたら、その副産物としてあれが出来上がった。ただ、それだけさ」
グラウンドに転がる数多の死体。
彼はそれを望んでいたわけでもなく、逆に嫌悪するでもなく、本当にどうにも思っていないようだった。
彼が今喫っているセブンスターが、彼の身体にどのような害を齎すか。
それと同じように、どうでもいいことなのだろう。
少なくともぼくには、そのように見えた。
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( ^ω^)「そうかお」
ぼくはドクオとの対話を諦めた。
いや、或いは、最初からぼくは彼と解り合おうなどと思っていなかったのかもしれない。
ブレザーを脱ぎ捨て、シャツの袖を捲り上げると、生温い風は上半身を舐り回してきた。
まるで死臭を間接的に塗りたくられているようで、いい気分にはなれなかった。
もっとも、ここが空気の澄んだ見晴らしの良い大草原だったとしても、ドクオが今まで成してきた過程が変わらない限り、いい気分になどなれないのだろうけれど。
('A`)「殺る気満々、て顔だな。もっと肩の力を抜けよ。この学園の唯一の校則を忘れたのか?」
ドクオは薄ら笑いを浮かべ、煙草を咥えたまま拳銃を抜き、こちらに向けた。
ぼくはアレが何度も人の命を刈り取るのを見たし、アレの脅威については恐らく、この世界でドクオの次によく知っている。
けれど、不思議と恐怖心は湧かなかった。
心臓の鼓動が頭に響く。まるで脳と心臓が繋がっていて、ぼくという存在がその二つによってのみ形成されているみたいだった。
一定のリズムを刻むその重低音とドクオの声のみが、今のぼくの世界の全てだ。
汗ばむ掌を固く握り、彼の得物の銃口を深く見据える。
( ^ω^)「【今を、全力で楽しむこと】だお」
きっと疑うまでもなく、ぼくはその校則を守れている。
唐突に引き起こされたジェノサイド。
その犯人は、今ぼくの目の前で薄ら笑いを浮かべながら銃口をこちらに向けている。
どうやらぼくは人間が出来ていないようで、こんな状況が楽しくて楽しくて仕方がないらしい。
それはたった今気付いたことだけれど、まるで産まれた時から持ち合わせていた価値観であるかのように、ぼくの脳に馴染んだ。
ドクオの銃が、火を噴いた。
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( ^ω^)達は今が楽しければなんでもいいようです
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一話「乞食が出したアンサー。対価として得たもの。失ったもの。」
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はじめまして。内藤ホライゾンです。今日から皆さんと一緒に過ごさせていただきます。よろしくお願いします。
だとか、少し謙り過ぎな気もするけれどありきたりな挨拶をしようと思った。
( ^ω^)「はじめましーー」
銃声が鳴り響き、ぼくの声を掻き消した。
ぼくの耳のそばで黒板が弾け飛んだらしい。
銃声の元へ目を向けると、机に座った男がにやけ面を浮かべてぼくに銃を向けていた。
一瞬の出来事で、脳が上手く現状を処理してくれなかった。
が、その三秒後に、その男はもう一度鳴った乾いた破裂音と共に脳漿を撒き散らして死んだ。
銃は固く握ったままだった。自分がどこかから撃たれたことにすら気付かずに死んだのだろう。
ぼくは転校初日の自己紹介を諦め、そのまま無言で指定された席についた。
なんて酷い学校なんだと内心驚いていたし、きっと一週間後には、ぼくもあの男のように生命活動を終えるのだろうと思った。
ただ、それだけのことだった。
それがぼくがVIP学園に転入した初日の出来事で、思えばその時から、ぼくは真っ当な人間になることを諦めたのだろう。
一応、形式上の授業は行われるが、まともにそれを受ける酔狂な者は少なく、生徒の大半がこの広い学校の敷地内で、各々好きなことをしている。
ぼくもそれに倣い、二限目が始まる頃には食堂でラーメンを啜っていた。
隣で焼き鯖定食を食べていた女が急に喉を掻き毟りながら呻き、泡を吹きながら倒れたのを見て、ぼくはラーメンの丼をリノリウムの床に放り投げた。
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('A`)「よう転校生。調子はどうだ? 学校生活を謳歌してるか?」
( ^ω^)「ぼちぼちだお。お気遣いありがとうだお」
VIP学園に転入して一週間後。
意味もなくベンチに座って惚けていると、小柄な男がぼくの隣に腰掛けてきた。
横顔をちらりと覗いてみると、その男が爬虫類のような顔立ちであることがわかった。
痩せ細った小柄な体躯とその顔はあまりにアンバランスで、どこか不気味な印象を与える。
('A`)「鬱田ドクオ」
( ^ω^)「内藤ホライゾン。ブーンでいいお」
('A`)「ブーン? なんだそりゃ」
( ^ω^)「ここに来る前にぶち込まれた見世物小屋でそう呼ばれてたんだお。なんでそう呼ばれてるのかは、ぼくもよく分からなかったお」
('A`)「へぇ……」
ドクオはブレザーの胸ポケットから煙草を二本取り出し、一本は自分で咥えてもう一本をぼくに差し出してきた。
ぼくが煙草はやらない、と言うと、ドクオは大して興味もなさそうに、その煙草を握り潰して地面に捨てた。
代わりに、腰に巻いたポーチからガムを一枚取り出し、ぼくに差し出してきた。
( ^ω^)「……ありがとうだお」
ぼくは少し悩み、それを受け取って包装を剥がした。
一週間前、定食を食べて死んだ女子生徒の顔が頭を過ったからだ。
しかしぼくがガムを噛んで死ぬのも、ドクオの好意を蔑ろにした挙句反感を買って殺されるのも、大した違いは無いだろうと判断したのだ。
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( ^ω^)「おっ、普通に美味しいお」
('A`)「なんだ。毒でも入ってると思ったのか?」
ガムはぶどう味だった。
ここに来てからというもの、食事は全て食べた気がしなかった。
水道の水ですら誰かが毒を混ぜているのではないかと思うと、気が気ではない。
自宅から通っている生徒は、放課後各々の安息が待っているのだろうが、寮で生活しているぼくにその安息は無い。
そんな具合に、常に気を張ってきたものだから、誰ともまともな会話をしていない。
つまりこれが、ぼくにとって学校生活初めての会話ということになる。
そう考えると、どこか感慨深かった。
('A`)「お前はどうしてこの学校に来たんだ?」
( ^ω^)「この学校に、何か目的意識を持って通ってる生徒なんているのかお?」
('A`)「ははっ、そうきたか。確かにそうだな」
ドクオはからからと笑った。
それを見てぼくは、初めてドクオに対して、人間なのだなという感想を抱いた。
それほどまでに彼の一挙一動は無気力で、風に吹かれる柳のように捉えどころが無かった。
しかし彼が血の通った人間であると認識した今なら、何の意味も持たない身の上話も悪くはないなと思えた。
( ^ω^)「ぼくの家は元々、それなりに裕福なところだったお」
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('A`)「なんだ。金持ち自慢か? それならお天道様にでも話しててくれ。他人の自慢話は退屈だ」
( ^ω^)「まぁ只の気まぐれだしそれでも構わないけど、出来れば聞いてほしいお。それにこれは自慢じゃなくて喜劇だお」
('A`)「へぇ……」
ドクオは短くなった煙草を靴底で擦って火を消した。
そしてそれを指で弾いた。妙なところで几帳面だと思った。
しかし、それについて深く考察するのはきっと無益なことなのだろう。
彼の無気力な佇まいを見ていると、その行動の全てが無意味なことであるように思える。
爬虫類のような顔立ち。
一重瞼にしては大きい蛇のような双眸は、目尻が大きく垂れ下がっていて、酔いどれの据わった瞳を連想させる。
ブレザーの袖から伸びた手の甲は骨張っていて、緑色の血管が浮き出ていた。
ぼくは、それを眺めながら口を開いた。
( ^ω^)「ぼくの家は軍需産業に携わる会社を経営してたんだお。二茶(ふたさ)重工って知ってるお?」
('A`)「二茶重工ってお前……国内シェアトップの武器会社じゃねぇか」
武器会社、とチープな言い方をするには少し複雑なところだったが、ドクオの認識で話を進めるのに支障は無かったので、ぼくは訂正しなかった。
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( ^ω^)「まぁ、そうだお。じゃあ二茶が三年前に経営破綻したのは知ってるかお?」
('A`)「ああ、なかなか悪どいことをやってたみたいだしな。それを正そうとした革新派を抑える為の内ゲバから徐々に傾いていったとか、そんな感じだったっけな」
( ^ω^)「そう。まぁその辺りはどうでもいいお。つまり二茶重工は崩壊して、ぼく達は多額の借金を抱えて路頭に迷うことになったお。母親はすぐに父親に売り飛ばされたし、そこからあの人がどうなったのかは知らないお」
強面の男に連れられ、鬼のような形相でぼく達を睨み付けた彼女の最後の言葉は、末代まで呪ってやるだとか、そういったありきたりな言葉だったと思う。
それも今となっては、ほんの些事でしかない。
( ^ω^)「それからぼくが悪辣な作業現場に売り飛ばされたのはすぐのことだったお。タコ部屋みたいなあの場所では医者もいなくて、衛生環境も最悪。気が触れた男色家もいたし、まさに地獄だったお」
('A`)「そこでお前はバージンを捨てたと、そういう話かい?」
まさか、とぼくは笑った。気持ちの良い笑いではなかったが、自然と漏れた笑いだった。
ドクオも、シニカルな笑みを浮かべていた。
咥えた二本目の煙草に火が点き、煙が舞う。
( ^ω^)「ぼくは肉体労働が得意じゃなくて、その割にはガタイがいいからあちこちにたらい回しにされてたんだお。お陰で地獄に馴染んで擦り切れることはなかったお。でも最後に辿り着いたところが最悪だったんだお」
('A`)「さっき言ってた見世物小屋ってやつか」
( ^ω^)「だお」
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しえん
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( ^ω^)「あそこに集められた人達は皆健常者だったし、特に秀でた芸を持ってるわけじゃあなかったお。そんな人達が見世物小屋に集められたらどうなるか、わかるかお?」
('∀`)「おう、それはなんとなくわかるぜ。見せるところが無い奴なら見世物にしちまえばいいんだろ? たとえば手足を切り取って達磨にしちまうとか。それ股ぐらに縫合して三つ足にするのもいいな」
( ^ω^)「おっおっ、察しが良くて助かるお。ずばりそういうことが日常的に行われてたお。乳房を六つつけてストリップショーをやらされる子を見たときは、流石に三日は食欲が無くなったお」
ドクオが卑しい笑みを浮かべていたから、ぼくもそれに合わせて笑った。
その行為自体に意味など無いが、なぜかそうすることが適当であるように思えたのだ。
喉の奥の辺りが、少しだけ苦しかった。
( ^ω^)「ぼくは自分が切り刻まれる前に逃げたお。身体を弄られる代わりにそこでは生活が保障される。けど外に逃げ出せば明日の食い扶持も保障されてない。まぁこの学校も似たようなもんかお? とにかく、そういう環境だったから逃げ出す人は少なかったし、監視の目なんてあって無いようなものだったから、抜け出すのは簡単だったお」
それから、ぼくは富裕層に媚びる乞食として生計を立てていた。
スカベンジャーみたいなこともやったし、同じような仲間と残飯を分け合う生活には、脚色さえすればドラマとなり得る中身があるのかもしれないが、少しばかり長くなりそうなので省略する。
( ^ω^)「ある日、ぼくはいつものように金を持ってそうな人に傅いて食べ物をねだったお。その相手がフォックス学長だったんだお」
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爪'ー`)y-
('A`)「へぇ、あのおっさんが乞食のうろつくようなところを出歩くんだな。それともお前の運が良かっただけか」
( ^ω^)「恐らく後者だと思うお。ぼくはあの人に連れられて風呂に入れられて、その後たらふく飯を食ったお。あの時の分厚いステーキの味は今でも忘れられないお」
可哀想に、そんなに汚れてーー
君、名前は? ブーン? そうか、変わっているが、いい名前だーー
勿体無い。君みたいな利発な子は小綺麗にしておかないとーー
そうだブーン。君、最後に肉を食べたのはいつだい? 俺が死ぬほど美味い肉を食わせてあげようーー
全てを赦し、包み込むような声。薄汚れた乞食の手を、何の躊躇いもなく握ってくれた温もりを、今でも簡単に思い出せる。
( ^ω^)「夢みたいな一日の終わりにあの人はぼくに、この学校に来ないかと提案してきたお。この学校に在籍しているうちは、寮で衣食住の保障もしてくれるし、無事卒業出来ればそれなりの就職口も回そう、と。そうしてぼくは、ゴミみたいな生活からこの学園生活を手に入れたんだお」
ドクオは黙って煙草の煙を吐き出した。
そして、先程と同じように靴底で短くなった煙草を擦った。
('A`)「なるほどね。ゴミ溜めからゴミ人間の溜まり場に移ったわけだ。ま、前半に関してはありがちな話だな」
彼は立ち上がり、尻を軽くはたいた。
そして、ベルトに吊った皮のホルスターから、黒い拳銃を抜く。
三秒後にぼくの頭を撃ち抜くのだろうかと思ったが、それは違った。
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从 ゚∀从「どおおおおおくううううおおおおおおおっ!!!」
それは獣の雄叫びだった。
ぼくらの意識の隙間を縫うように、彼女はぼくを、ドクオを手にかけられる距離に飛び込んできていた。
コマ送りのように流れる視界。
銀色の挑発と、ブレザーの裾を棚引かせながら、彼女は鈍く光るナイフでドクオの首筋を掻き切ろうとしていた。
('A`)「死んどけ」
彼女の動作は速かった。
しかしドクオはそれを更に上回った。
空気を震わせるような雄叫びに怯むことなく、的確に重厚を彼女の頭部に定め、引き金を引いた。
銃の発砲音とは思えない、重く、湿った音とほぼ同時に、ナイフの少女の頭が吹き飛んだ。
脳漿混じりの血肉がぼくの制服を汚す。
ああもう……慣れてしまったよこんな光景。
('A`)「はい先ずは一死に。あと五回くらい死んどくか?」
一歩踏み込み、腰を捻って頭部を失った彼女の身体を蹴り飛ばす。
意思を失った物体はその力に押され、宙を舞った。
あの細身のどこからあんな力が出るのだろうか。
そんなことを、ぼんやりと考えていた。
少女の身体が放物線の頂点に到達するのとほぼ同時に立て続け鳴り響く重く湿った四発の銃声が響き、弾丸が両手両足を吹き飛ばす。
空気の壁に押し込まれるように、達磨になった身体は中庭の際の花壇まで飛ばされた。
ここまで的確な射撃技術、まるで芸術のようだなと思った。
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ドクオは表情を変えずに、手早くポーチから何かを取り出し、血を撒き散らす達磨に向かってそれを投擲した。
それが着地して二秒後、ポップコーンが弾けるような音と共に花壇が瓦礫と化した。
その中心にいた達磨がどうなったかは、考えるまでもないだろう。
( ^ω^)「容赦無いお」
('A`)「こちとら舐めプで命差し出すほどお人好しじゃあねーんだ」
軍需産業に携わる家にいながら、こういった武器についてはよく知らない。
が、素人目に見ても分かる超大口径の弾丸を五発に小型の爆弾一つとは、一人を殺すには些か大仰過ぎるのではないかと思う。
そんな常識の範疇を出ない考えは、すぐに消え去った。
从::∀从「はっはっはァ〜〜いいねぇェ! そんな情け容赦無いとこが好きだよドクオぉ〜〜」
噴煙が風に流され、達磨だったものがうねうねと動くのが見えた。
血の泡が四肢の断面から噴き出し、手足を象ってゆく。
それは十秒と待たないうちに肉を形成した。
頭部は手足よりも時間がかかり、筋肉が露出したグロテスクな顔面に埋め込まれた赤色の瞳が爛々と輝く。
('A`)「ハインリッヒ、吸血鬼の祖だ。噛まれて眷属となった奴はイノヴェルチとか言うんだっけか? あいつはロードとかいう正真正銘の化け物さ」
スカベンジャーの仲間に聞いたことがある。
自警団のいない地域では、夜にはイノヴェルチにもなれなかった卑しい存在、グールが血肉を求めて徘徊していることがあるので、その警告と一緒に聞いた話だ。
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支援しよう
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ファンタジーめいてきた
支援
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( ^ω^)「グール、イノヴェルチがいることから存在が証明されたけれど、その存在はほぼほぼ架空の域を出ない……そんな人までここで普通に学生やってるのかお……まぁぼくみたいな乞食も受け入れてくれるくらいだから、相当受け入れ口は広いと思ってたけど……」
('A`)「ま、クソッタレな環境だよここは」
俺が手を叩いたら目を瞑れ、と、ドクオは言った。
ぼくは無言で頷き、元の形を取り戻したハインリッヒに視線を戻す。
('A`)「乞食、ジャンキー、ギャング、殺し屋、超能力者、化け物、何でもござれだ。少なくとも退屈だけは、しなさそうだけどな」
ブレザーの袖に仕込んでいたのだろうか、ドクオはいつの間にか握り締めていたナイフをハインリッヒに向けて投擲する。
从 ゚∀从「遠慮すんなよドクオぉ。もっと熱いのぶち込んできてもいいんだぜ?」
それを素手で掴んだハインリッヒは、おもむろにその刃を自分の首筋に突き立てた。狂っていると、思った。
('A`)「精々楽しめよブーン。俺たちみたいなのはどう足掻いたって長くは生きられないんだ。だったら、今を全力で楽しまなきゃ損だろ?」
それはフォックス学長が入学前のぼくに言ったことだった。
この学校の唯一の校則は、今を全力で楽しむことだ。
どうか校則を守れる模範生となってくれよ?
('A`)「ようこそ、どこよりも楽しい世界へ」
ドクオは両手を叩いた。
ぼくは先程彼が言った通りに、目を瞑った。
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直後、盛大な爆発音が耳を劈く。
しかし熱も衝撃も無い、けれど、怖くなったぼくは奥歯を噛み締め、それから数秒目を瞑ったままでいた。
(;^ω^)「おっ……?」
恐る恐る目を開けてみると、足元に先程ドクオがハインリッヒに向けて投擲したものと同じような球体が転がっているのが見えた。
なるほど、スタングレネードというやつか。
実際にその効果を体験したことは無かったし、そもそも実物を見るのも初めてだ。
強烈な音と光で相手の動きを封じる兵器。
つまりはこれを利用して、またハインリッヒを肉塊に変えたのだろう。
从 ゚∀从
( ^ω^)「は?」
頭が固まった。
ハインリッヒは目をぱちくりさせてこめかみを叩いているだけで、何の外傷も負っていない。
常人ほどではないがスタングレネードはその効果を発揮したようで、彼女は何やら覚束ない足取りでこちらに歩み寄ってくる。
( ^ω^)「は? は? は?」
脳の処理が追いつかない。
ドクオは? ドクオはどこに行ったのか。
まさか…………
まさか……
まさか、まさか…………
从 ゚∀从「おいお前」
(;^ω^)「おっ……」
从 ゚∀从「殺り逃げされて不機嫌なハインちゃんがお前に質問するぜ? よぉ〜く考えて答えろよ?」
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ハインリッヒはぼくの目の前まで来ていた。
ボロボロのブレザーとスカートの隙間から、バター飴のような白い肌が露出していて、こんな状況であるにも拘らずどぎまぎしてしまう。
片脚でベンチの背もたれを踏みつけ、ぼくに覆い被さるようにして、ハインリッヒはその細い指をぼくの顎に這わせた。
それはとても冷たくて、蛇がちろちろと舌を這わせているように思えた。
(;^ω^)「は、はい……なんですお……」
大きくめくれたスカートの奥に、黒色の下着が見えた。
ちっとも嬉しくなかったし、催すこともなかった。
黒い下着から伸びた嫋やかな太腿から足先にかけて、その一本の足は、ぼくの動きを完全に拘束する縄となり得た。
从 ゚∀从「ドクオが何処に行ったか見なかった? まさか知らないなんて言わねぇよなァ。お前らあんなに仲良さそうに話してたもんな?」
想像通りの質問だったが、ぼくはこれに対する的確なアンサーを持ち合わせていない。
つまり、ドクオにまんまとしてやられたわけだ。
( ^ω^)「…………」
無事卒業出来るだろうか。
そもそも、五分後に生き残ることは出来るだろうか。
確かに退屈はしなさそうだ。
しかし、楽しめるかと言われると首を縦に振ることは出来ない。
今を全力で楽しめーー
ぼくは、大きく息を吐いて、空を見上げた。
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取り敢えず一話終わりということで今日は終わり
思ったより長引いたな、誤字脱字チェックしてくるぁ
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>>14
訂正
×挑発
○長髪
×重厚
○銃口
×立て続け鳴り響く重く湿った四発の銃声が響き
○立て続けに重く湿った四発の銃声が響き
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メチャクチャ面白いじゃねえかよ!!!
内藤が窮地をどう切り抜けていくのか楽しみだ
乙
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クッソ面白いな
支援
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こないだながらで書いてめっちゃきつかったから今度はしっかり書き溜めたぜ
というわけで二話目さくさく投下
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第二話「整うことのない舞台。小さな決意は雫のように落ちた。」
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MCバトルという文化がある。
ラッパー同士がその場で流れるビートに合わせ、即興で作ったラップで交互にディス(ディスリスペクトの略称)をぶつけ合ったり、互いをリスペクトするラップで研鑽し合い、オーディエンスの歓声の大小で勝敗を決める文化だ。
ぼくはそれを生で見たことは無いし、裕福な生活を送っていた際にとあるバトルの動画をパソコンで見たときは、ただ喋っているだけじゃないかと、五分後には関心を失っていた。
だが、本物のMCバトルはこの学園にあった。
( ^ω^)「おっ……」
从 ゚∀从「んん〜? よく見るとお前の血も、なかなか美味そうだな?」
ハインリッヒは更に深く身を寄せてきた。
彼女の顔面はぼくの鼻先から数センチと離れていない距離にあって、ぼくは彼女の艶かしい息遣いを、肌で感じることが出来た。
ほんのりと赤くなった頬は、彼女の真紅の瞳とは違ったグラデーションを描いていて、しかしどちらも、見る者を惹きつけるのだろう。
このぼくでさえ、生殺与奪を彼女に握られていながら、その美しさに息を飲んだのだから。
从 ゚∀从「何だ童貞坊や。こんな状況で興奮してんのか? よくわかんねぇにやけツラしてるわりには、しっかり欲情すんのな? ぎゃっはははははッ!!」
彼女の冷たい指先が、ぼくのズボンの、股間の辺りに伸びる。
その冷たさは布越しで分かり、ぼくは彼女が氷で出来ているのではないかとすら思えた。
ぼくは、勃起していた。
-
从 ゚∀从「これから俺に殺されようってのにイチモツおっ勃てる奴は初めてだぜ。よし、気に入った。お前、俺に血をよこしな? 大半は生ゴミくせぇグールになっちまうが、運が良ければイノヴェルチとして生まれ変われるぜ? 日焼けがめちゃくちゃ痛ぇらしいけどなァ! あっははははは!!」
(;^ω^)「おおおおおおおおお勘弁ですお! ドクオの居場所は知らないけど、他に何か手伝えることがあったら何でもしますお!! お願いですお!」
心臓が跳ね上がる。
うなじの辺りが燃えるように熱く、しかし冷や汗が止まらない。
ズボン越しにぼくの性器を撫でられ、下半身だけがだらしなく弛緩していた。
从 ゚∀从「何でもします、だ? こここんなに大きくしちまって、何の説得力もねェな。だったら今すぐ私の首に刺さったナイフを引っこ抜いて自分の胸に突き立ててみろよ」
ハインリッヒは言いながら、目を細めた。
ぼくという人間を値踏みするように、頭から足先まで、視線で舐め回す。
この感覚はどこか懐かしかった。
乞食時代、ぼくは常にこんな視線に晒されて、時には道化となって、時には畜生になって、パンをねだったのだ。
つまり彼女は主、ぼくは奴隷。
あるいはもっと絶望的な上下関係が形成されているのかもしれないが、それを言い表すだけの語彙を、ぼくは持ち合わせていない。
从 ゚∀从「お前にそれが出来るのか? 出来ねぇだろ。お前の言葉は俺の耳に響かねぇ。薄っぺらいんだよ。だからお前はここで無様にくたばる。理解出来たか?」
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吸血鬼の尺度でものを語られても、僕には全然ぴんとこなかった。
けれどここでぼくの命が終わるということは解る。
富豪の家に生まれ、無駄に広い敷地の中だけで十数年を過ごした。
旅行なんて一度も無かったし、家の外の世界がこんなに腐臭に溢れているとも知らなかった。
世界的な大恐慌。
大陸間で行われる戦争。
暗躍する異能なる者。
全て、家の書物やインターネットを介して知り得た、リアリティの無い情報だった。
家が崩壊してそのリアルに打ちのめされたぼくは、乞食としてではあるけれど、それなりに上手くやれていたと思う。
けれどそれは思い違いだった。
一度も飛んだことが無い、飛ぼうとしたことのない鳥がどれだけ身体を肥やそうとも、その厳しさを経験から学ばなければ飛ぶことは敵わない。
その一度目の失敗によって、ぼくは今日、ここで死ぬ。
( ^ω^)「…………」
唇を固く結ぶ。
ハインリッヒの瞳と真正面から向き合った。
そして…………
从;>∀从「あがっ……」
何故そうしたのか、自分でも解らない。
気付くとぼくの足は勝手に動いていて、ハインリッヒの鳩尾の辺りを蹴り上げていた。
靴越しに、彼女の肉を打つ感触が足に伝わってきた。
こんなに強く、本気で、人に暴力をふるったのはいつぶりだろうか。
そもそも、そんな経験がぼくにあっただろうか。
(#^ω^)「死ねおおおおおおっ!!」
よろめいたハインリッヒの顔面に、固く握った拳を撃ち抜く。
頬の骨が砕けたのだろうか。
小気味の良い音と共に、今まで触れたことのない感触が拳に伝わった。
-
してやった。
汗がどっと噴き出てきた。
今まででっぷりと肥え太った富豪に傅き、媚びたようなにやけツラを浮かべて揉め手をするだけだったぼくが、人間相手に生殺与奪を握る吸血鬼の祖の顔面に、一発入れてやった。
从# ゚∀从「てめぇ……」
長い銀髪で隠れていた左眼が露わになる。
金色の瞳だった。
猫の瞳孔のようなそれが、明確な殺意をもってぼくを捉えているのは、すぐに解った。
( ω )
こういう時、我が生涯に一片の悔い無しとでも言えばいいのだろうか。
今にも泣き出してしまいそうなくらい怖かった。
けれど不思議と涙は零れなかったし、心臓の鼓動は酷く平坦だった。
むしろ、清々しい気分だ。
このようにして、乞食はその人生を終える。
そんな風にぼくの生涯にピリオドを打とうとしたその時、何かを引っ掻き回すような爆音が鳴り響いた。
「Bring the beat!!」
その威勢の良い掛け声の直後に、腹の底まで響く重低音のビートが始まった。
( ´_ゝ`)「ぃいいいやっほおおおおおうっ!!」
再びコマ送りで流れる視界。
先程ドクオが蹴り飛ばしたのと同じように、ぼくらの視界に飛び込んできた大柄な男が、楽しそうに叫びながらハインリッヒを蹴り飛ばした。
ドクオの時とは比べものにならない衝撃だった。
間近でその蹴りを見ていたぼくの前髪を、凄まじい風圧が巻き上げる。
ミサイルが突っ込んだと言われても何ら不思議に思わないだろう。
とても人体が起こしたとは思えない衝撃音と共に、ハインリッヒの身体は先程砕け散った花壇を軽々と越え、校舎の壁にぶち当たり、亀裂を入れた。
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ちょっと待ってNGワードが入ってますとか言われてんだけど
何がひっかかってんのかわかんねぇ…
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(;^ω^)「はぁっ!? コンク○ートだおあの校舎! 化け物ってレベルじゃないお!?」
( ´_ゝ`)「yo! 俺がフリークス? 間違いねぇだが俺はラップフリークス。レペゼンVIPからかます先制ジャブならこんな感じ hey!yo!! ヒップホップ界一問題児」
気の抜けた声でラップをするその男はとにかく大きかった。
目測でも百九十センチは越えることが分かる。
太い学生ズボンの上には赤色のパーカーを羽織っており、つばが平たい赤色キャップを目深に被っていて、表情はよく分からない。
( ´_ゝ`)「相手はハインリッヒ。ヴァンパイア界一問題児。ならば俺は沸かすだけだアンパイア。張っとけ俺へのベッドは安牌だ」
どこからともなく聞こえるビートに、彼のラップは完全にハマっていた。
それがこの場においてはシュールでしかなく、ぼくは思わず笑いそうになってしまう。
从# ゚∀从「流石の兄貴ぃ〜〜……てめぇミンチにされてぇのか? お前、今ので俺のアバラが二本イッたぞ? 倍折られる覚悟は出来てんのか? あぁっ!?」
( ´_ゝ`)「俺をミンチ? そいつは無理だ、何故なら俺のがやべぇから。格なら倍は違う俺がVIPで一番ヤバい赤いやつ。みたいな感じだわかるか? お前を殺して獲る天下、点火して撃つAK-47」
即興なのだろうか。
ハインリッヒの罵声ときっちりラップで対話していることに、思わず拍手したくなる。
そんなぼくの心の昂りに気付いたのだろうか。
流石の兄貴と呼ばれた男は、ぼくの方をちらりと見て、満足げに笑った。
-
从 ゚∀从「しゃらくせぇラップごっこはお終いだ。俺が纏めてぶち殺してやっから辞世の句でも詠んでごはっーー!?」
再び衝撃。
もう一つ、流石の兄貴とやらよりも小さな影が、ハインリッヒの頭上から舞い降りた。
いや、舞い降りたというよりも、着弾したと言った方がいいだろうか。
それはハインリッヒを背中から踏み潰し、地面に大きな亀裂を入れた。
校舎のコンク○ートの壁もより一層震え、このまま倒壊してしまうのではないかと思った。
(´<_` )「ラップに対するアンサーならまずラップで返せ。つまりお前は基本が出来てない からそこんとこ叩き込んでくぞ」
拳を振り上げ、ハインリッヒに向けて叩き落とす。
ぐちゃりと、生々しい音が混じった殴打音は、どこからともなく聞こえるビートを支える重低音に混じった。
(´<_` )「まずイルな韻を踏む。そしてフロウする。ゆっくりビートに乗る。そしたらテンポ上げる倍速。何が辞世の句? つまらんな足りんパンチライン。お前の需要はパンチラだけだ。なんなら真っ裸になってみるか? わっぱかける俺like a FBI。お前はワックにもなれない大失態」
( ´_ゝ`)「yo! yo! yo! お前の言うことマジで間違いねぇ! 倍速なら負けねぇお前イルだが俺はもっとイル。つまりこの場でキルするイキる雑魚。こいつはまだ至らねぇ見たまえ転校生のツラ。俺たちのスキルに呆然そりゃ当然だ何故なら俺たちレペゼンVIPだ」
( ´_ゝ`)「流石だよな俺たち!」(´<_` )
-
圧巻だった。
それ以外に言葉が出なかった。
ドクオの徒手戦闘技術。
あの芸術的な射撃スキル。
一切の躊躇が無い殺意。
それらもまた圧巻されたが、この二人はまた違った方向性で、それもドクオを上回る凄味があった。
ぼくは対峙して、身体を動かすことすら満足にいかなかった圧倒的オーラを放つハインリッヒを相手に、二人掛かりとはいえ完全に玩具で遊んでいるような立ち振る舞いだ。
( ´_ゝ`)「さてさて、転校生。お前のビーフ見せてもらったよ。俺らは確かにつえーがあんな死に損ない相手にするなんざ本来御免だ。何回挽肉みたいにしてもくたばんねーんだもん」
目深に被っていたキャップを脱ぎ、それをぼくに被せて三度、頭を叩いてきた。
そんな経験は無いが、親にあやされるのはきっとこんな気分なのだろうと思った。
( ´_ゝ`)「でもお前の勇敢さを見て気が変わった。あのへなちょこパンチは俺たちの胸にズドンと響いたぜ。強烈なパンチラインだ」
(´<_` )「兄者、ウダウダ言ってないで手伝え。こいつもう再生してる。抑えきれんぞ」
( ´_ゝ`)「まぁ待てよ。このニューカマーに俺たちの名前を覚えてもらわなきゃな」
そんな呑気なやり取りをして、兄者と呼ばれた男はその大きな手をぼくに差し出してきた。
少し遅れて、ぼくはその手を握り返す。
ごつごつしたその感触は、熊の手のようだった。
( ´_ゝ`)「俺は二年生の流石兄者。あっちも同じく二年生の流石弟者だ。よろしくなマイメン。お前の名前は何て言う?」
( ^ω^)「内藤ホライゾン。ブーンでいいですお。ブーンの由来については聞かないでほしいお」
( ´_ゝ`)「何だそりゃ。まぁいいや、よろしく頼むぜブーン」
-
从 ゚∀从「だぁらっしゃあああああああああああっ!!」
(´<_`;)「うおっ!?」
獣のような咆哮と共に、弟者の身体が吹き飛ぶ。
やはり、先ほどの圧倒的暴力を持ってしても吸血鬼の祖は倒せないらしい。
弟者は空中で何度か身体を捻りながら、流れるように着地した。
( ´_ゝ`)「おっともう復活かい。まぁこのまま死んでくれるとは思ってなかったけどよ」
(´<_` )「お前がそこの転校生と馴れ合ってなければいけたかもしれんがな。ブーンとか言ったか? 死にたくなかったら離れてろ」
(;^ω^)「は、はいですお……」
弟者は兄者と同じ服装で、色だけが違った。
兄者は赤色で弟者は緑色。
こうして並んでいるのを見ると、カラーギャングのようだった。
そして、弟者の方は兄者と比べると随分小柄で、少女のような体躯のハインリッヒともそう変わらないくらいの背丈だ。
が、恐らくその感想をありのまま述べれば、ぼくは挽肉にでもなって、食肉加工された後に悪どい飲食チェーン店のセントラルキッチンにでも流れるのだろうと思った。
从 ゚∀从「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すぶっ殺す。流石兄弟…………お前らも俺の眷属にしてやろうと思ってたが撤回だ。一滴残らず血を吸い付くして、出涸らしになったお前らを屋上に吊るして干物にしてやるよ。なんなら三枚におろしてやろうか? あ? 聞いてんのかああっ!?」
ハインリッヒは完全に"キレて"いた。
ぼくに覆い被さった時の淫靡な雰囲気は欠片も無い。
-
(´<_` )「来るぞ」
( ´_ゝ`)「ああ」
身構える兄者と弟者。
三人が対峙すると、まるで空間そのものが熱を持って蠢いているように思えた。
ぼくはそれに耐えかねて、ベンチを離れる。
しかし、伴天連ラッパーと異形の者がぶつかり合うその瞬間を、見届けたい。
そう思ってしまうのは男として生まれたがゆえの性だろうか。
ぼくは、自分の命を危険に晒すと知りながらも、一目散に逃げ出すことが出来なかった。
粘つく空気を肌で感じながら、修羅同士が切り結ぶその瞬間を待っているその時ーー
川 ゚ -゚)「動くな。その首を貰う」
その直後の出来事を、ぼくはどう形容していいのか分からなかった。
もう夏も近付き、暑くなってきたこの六月中旬に、学校指定のブレザーの上から黒いコートを羽織ったその少女は、身の丈以上もある黒塗りの鞘から、一振りの刀を抜刀した。
ドクオも、ハインリッヒも、兄者も弟者も、彼等の戦闘スキルは、凡人のぼくには理解の範疇を越えたものだった。
しかし、彼女のそれは、彼等のスキルを大きく上回っていた。
川 ゚ -゚)「哭け。鬼切九郎丸ーー」
ぼくの世界は停止した。
一閃の煌めきだけが、ぼくが認識出来る全てだった。
-
再び世界が動き始めたその頃には、ハインリッヒの首が胴体と分かれていた。
夥しい鮮血が噴水のように噴き出し、地面を濡らす。
(;´_ゝ`)「やっべ! クー会長だ! ずらかるぞ!」
(´<_`;)「ここらで真打登場か? 認めるしかねぇなその真価。like a ナラシンハならば突破するヴァンパイア。紛いない間違いないハスラークールを前に一目散散開」
(;´_ゝ`)「やっとる場合か! くっそ頭が飛んでやがる。わりぃなブーン! 生きて帰ってこいよ!」
(;^ω^)「おっ!? ちょっ、まっ……」
兄者は弟者を連れて一目散に逃げ出してしまった。
その様子を惚けて眺めていたが、迸る殺気がぼくの視線を強制的に"あちら側"に引きずり込む。
川 ゚ -゚)「ハイン。少しはマトモな技を身につけたらどうだ? 生徒を殺すなとは言わん。だがやたら無謀な特攻をして飛び散ったお前の肉片が臭いとクレームが入ってるんだ」
从# ゚∀从「っざけんな! 人を生ゴミみてぇに言いやがーー」
頭部が復活したと思いきや、また一閃の煌めきがハインリッヒの首を刎ねた。
今度は、クー会長と呼ばれた彼女の所作すら目で追えなかった。
川 ゚ -゚)「お前の聞き分けがないせいでまた生ゴミが増えた。私にお前は殺せないかもしれないが、逆もまた然りであることくらいそろそろ学習したらどうだ?」
从# ゚∀从「ぶっこーー」
三つ目の生首が、今度は微塵切りになって地面に飛散した。
-
川 ゚ -゚)「内藤ホライゾン」
ロングコートのポケットに手を突っ込み、彼女はその仮面のような無機質な顔をこちらに向け、ぼくの名前を呼んだ。
川 ゚ -゚)「この学園で生き残りたければ、ドクオを頼るといい。ハインから逃げたのは大方面倒臭くなったとか、そういう理由だろう。だが根はお節介な奴だ。仲良くしておいて損は無い」
そう語る彼女の真横で、ハインリッヒは何度も再生して彼女に飛び付こうとしていた。
が、その度に不可視の斬撃によって首を落とされていた。
何度目の斬首だろうか。
最早数える気にもなれない。
鬼切九郎丸と呼ばれた長刀は、鞘に収まったままだ。
彼女の抜刀術のメカニズムについて深く考えるには、ぼくの経験はあまりに浅いのだろう。
これはもうそういうものなのだと、彼女は誰の理解の範疇をも超越した強さを持っているのだと、思考停止して受け入れるしかないらしい。
ハインリッヒの脅威が、彼女の力によって掻き消されたからか、先程より幾分か冷静に、今の状況について熟考することが出来た。
あちらこちらに飛散したハインリッヒの肉塊は、泡のように溶けて、煙のようなものを上げている。
一番近くにあった肉片に近付いてみると、目が痛くなるような腐臭が漂ってきた。
ぼくはそれを蹴飛ばし、コートの彼女に礼を言う。
( ^ω^)「ありがとうございますお。こんな学園に貴女みたいな正義のヒーローみたいな人がいてくれて、奴隷乞食からしてみれば本当に助かりますお」
川 ゚ -゚)「正義のヒーロー? 笑えない冗談だな……」
彼女は、仮面のような表情を少しだけ崩して、微笑んだ。
とても綺麗だと思った。
彼女の長い黒髪、身体、手足、そして長刀、彼女を形成する全てが、その微笑みに似合うように取り付けられたものなのかもしれない。
そう思えるくらいに、彼女は美しかった。
川 ゚ -゚)「まぁ、追い追い学んでいけばいいだろう。素直クール。三年、この学園の生徒会長だ。クー会長と呼ばれることの方が多いな。死んでなければまた会おう」
( ^ω^)「ブーンでいいですお。由来については聞かないでほしいお」
-
一礼して、彼女に背を向けた。
その直後、稲光のような光と同時に轟音が鳴り響いた。
恐らくクー会長がやったものなのだろう。
ぼくは振り返って、惨状を確認しようとは思わなかった。
( ^ω^)(一生分汗かいた気がするお……)
ドクオ、ハインリッヒ、流石兄弟、クー会長。
彼等からは、他の気狂い達とは違った人間味のようなものを感じた。
ハインリッヒは吸血鬼であって、人間ではない。
けれど、ぼくが言いたいのはそういうことではない。
対峙しただけで胸の奥がちりちりと焦げるような……覇気とでも言うのだろうか。
箱庭のような二茶の家にも、ゴミに埋れた寝床にも無かった……心地良い緊張感。
或いはぼくも、彼等のような化け物と同じなのだろうか。
( ^ω^)(やめとくお……自惚れでしかないお)
猛毒が含まれた、一滴の甘い蜜に舌を伸ばすような下卑た感覚。
きっとそれに身を染めてしまえば、ぼくはもう二度と人間には戻れないのだろう。
或いは、人として短い生涯を終えるか。
どちらにしても、そうなるには早すぎる。
編入初日、自己紹介の最中に人が死んだのを見た時点で、ぼくはいつ死んでも構わないと、心のどこかで自分の人生の落としどころを定めようとしていた。
けれどどうやらそれは、この学園の校則には即していないようで……
( ^ω^)「今を、全力で楽しむ……」
アテは無い、けれどぼくは歩く。
晴天の空に、二度目の稲光が走った。
衝撃と共に吹き荒ぶ風を背に受けながら、ぼくはドクオを探す為に、地を踏み締める。
-
VIP学園某所ーー
(,,゚Д゚)「【真祖】と【第二王位】がやりあってる?」
寂れた空き教室に佇む少年。
短く刈り上げた黒髪を雑に掻きながら、彼は眉を顰めた。
「殺り合ってる、と言うべきか。僕には戯れ合っているだけのように見えたけどね」
もう一つの声の主の姿は見えない。
その声色はまるで、歌でも歌っているような、仰々しく全てを包み込む朗らかさがあった。
「ギコ、ここ最近はどんな諍いに対してもだんまりを決め込んでいたみたいだが、君が出張るのに不足は無いんじゃないかい? そろそろ顔出してやらないと、【第八王位】の座をひっくり返されるかもしれないよ?」
(,,゚Д゚)「俺は王位になんか興味ねぇよ。ただ気に入らない奴をぶん殴ってたら、この椅子に座れと言われた。それだけだ。欲しけりゃくれてやるさ」
「ドクオ辺りに聞かせてやりたいね。一年生の中で、一番王位に執着を抱いているのは恐らく彼だろう」
(,,゚Д゚)「期待のホープ、か……」
ギコと呼ばれた少年は深く椅子の背もたれに背を預け、腕を組んだ。
そして目を閉じ、深く息を吐く。
「真祖も彼には期待しているようだしね。早ければ今年の夏には、【第十王位】がひっくり返されてるかもしれない」
(,,゚Д゚)「その口ぶりだと、あんたも結構な期待を寄せてるみたいだな」
声の主を卑しく嗜めるように、ギコは口角を上げて笑った。
教室の空気が一変し、窓も戸も締め切っているにもかかわらず、机や椅子が小刻みに揺れ始める。
-
「ドクオには期待してるよ。でも、もっと面白そうな玩具を見つけたんだ」
(,,゚Д゚)「ドクオ以上の逸材? ミルナ辺りか。奇遇だな、俺もドクオよりかは骨がある奴だと思ってるぜ」
「いや……」
声の主は言葉を止め、含み笑いを漏らした。
ギコはそれが気に入らないようで、舌打ちをする。
(,,゚Д゚)「勿体ぶってないで言えよ。そんなに面白い逸材がいるなら、俺が一枚噛んでやってもいい」
「いや、やめておくよ。ただこれだけは断言出来る。今は取るに足らない塵芥かもしれないが、彼は確実にドクオを上回る逸材だ。或いは、彼の目覚めが早ければ、ぼくが卒業するまでにこの椅子に王手をかけてくるかもしれないね」
歌うような語り。
ギコは、目を丸くしていた。
普段の表情は精悍な顔付きだが、今ばかりは鳩が豆鉄砲を食らったような間抜け面だった。
(,,゚Д゚)「届くっていうのか? あんたに……【第一王位】に」
届くかもしれないし、明日には死んでいるかもしれない。
見えない声の主は、それだけ言い残して、それ以降ギコの呼び掛けに答えることは無かった。
ギコはもう一度腕を組み直し、深く目を閉じた。
それは、彼が何か考え込む時の癖だった。
そうすることで彼は有象無象が騒ぎ立てる世界から抜け出し、清流のような穏やかな思考を以って、回答に辿り着くことが出来たのだ。
(,,゚Д゚)(見えない、か……)
仄暗い空き教室に、溜息の音が一つ、響いた。
-
二話終わり
まさかこんなNGワードがあるとは思わなんだ
わかるとは思うけど○の中はクで補完しといて
誤字脱字チェックしてくるぁ
-
特に誤字脱字無かったので今日は終わり、俺乙。また近々投下する
-
乙。こういうの好きだわ
-
おつ!
セルフ乙すんなw
待ってるぜ
-
めっちゃかっけえ乙
期待してる
-
今夜か明日にでものんびり投下
-
こういうの好きだわ
-
さて、投下するか
-
VIP学園は全国の、いや、世界中の高校を含めても最大規模の学園だ。
学園は八つのエリアに分けられ、それぞれ第一ブロック、第二ブロックといった具合に、数字が振られている。
ぼくが今いるのは第四ブロック。
先のハインリッヒと猛者たちの交戦の場は第二ブロックでそこからバスで数分走った先の区間だ。
世界的大恐慌の中、ここまでの敷地面積、充実した設備を整えられるだけの潤沢な資金源は、恐らく軍事兵器、兵力の輸出だろうと、ぼくは睨んでいる。
フォックス学長が言ったそれなりの就職口とは、そういうところだろう。
無事この学園を卒業出来れば、今度は硝煙の匂いに満ちた戦場に送られるか、或いはブローカーとなって、死の商人と揶揄されながら生きるか。
どちらにしても、明るい未来は見えてこない。
それでも、ぼくはフォックス学長に対して怒りを抱いたりはしなかった。
誰もが資本主義の夢を抱き、それに向かって努力する時代はとうの昔に終わったのだ。
今は世界的な大富豪として名を連ねる者も、少し探れば過去に身売り経験があったり、仲間を売った金を種にして一山を当てていたり、つまり、今はそういう時代なのだ。
貧民として生まれた者が栄光を勝ち取る為には、社会のルールという錆れた枠を踏み越えなければならない。
( ^ω^)(生まれた時代が悪かったと言えば、それで片付けられることだお)
愚痴を吐いて口を動かすか、身体を動かして行動で示すか。
どちらを選んだ方が利口かは、社会に対する不平不満に満ちた乞食のコミュニティの中で嫌というほど学んだ。
愚痴を吐きたいが為に手を止めた者から死んでゆく。
あそこはそういう世界だったから。
-
( ^ω^)「おっ、ちゃんと立ち寄ったのは初めてだけど凄いところだお」
第四ブロックは商業区域だ。
武器、雑貨、薬、食料、嗜好品、書物。
このアンダーグラウンドな学園の中で生活するのに必要なものは、ここで一通り揃うらしい。
入学前のパンフレットでそう書いてあるのを見たが、贅沢を言わなければ第一ブロックの寮と第二ブロックの校舎群の往復で何ら不自由のない生活を送れるし、わざわざこんな人が多そうなところに出向く気にはなれなかった。
しかし、人探しとなれば話は変わってくる。
閑散としたところをちまちまと回るよりかは、こういうところを当たった方が早い。
人が集まるということは、集まるだけの理由があるのだから。
( ^ω^)(ドクオが行きそうなところ……どこだお?)
考えるのも馬鹿らしい話だ。
ぼくと彼の付き合いなど一時間にも満たない。
彼という人間について深く考察し、合わせ鏡のように自分に置き換えて彼の行動を推測したところで、見えてくる答えなど、ジャンキーの溜まり場になっている第八ブロックには行かないだろうな、ということくらいだ。
ふと、ぼくはどうして、ここまでドクオに固執しているのだろうと疑問に思った。
確かにクー会長にはドクオを頼るようにと言われたが、凡ゆる観念、常識が不安定なこの場所で、今日出会ったばかりの人間に今日出会った人間を頼るようにと言われて、なぜぼくはその通りにしているのだろうか。
(;^ω^)(やめるお……)
それは何の生産性も無い疑問だった。
僅かに芽生えたこの感情に従って足を止めたところで、ぼくは何も掴めはしない。
だから、ぼくは再び歩き始めた。
-
ドクオは思いの外早く見つかった。
('A`)「お、おお……お前生きてたのか」
ペストとかいう、飲食店には明らかに相応しくない名前のレストランに、彼はいた。
飲食店が建ち並ぶ通りを練り歩いていて、たまたま彼がそこの窓際の席で仏頂面を浮かべているのを見つけたのだ。
( ^ω^)「お陰様でスリリングな体験が出来たお」
('∀`)「皮肉が吐けるようになったか。この短時間で肝が座ったな。ハインに童貞を奪われたか?」
無愛想な顔付きの割りには、よく喋るやつだと思った。ウエイトレスが差し出してきた水を受け取り、一気に飲み干す。
じりじりと照り付ける太陽に晒されながら歩いた身体に、染み込んでいった。
一応メニューを手に取り、少し考えるふりをして、ウエイトレスには後で注文すると告げた。
何の変哲もないメニューだったが、料金設定は明らかに高かった。
どうせこの学園の、寮以外で出されたものには口をつけないつもりだったのでかまわないが、店内の様子を見ても他の店より繁盛しているようで、どうにもその理由が判然としないのが気持ち悪い。
('A`)「なんか食えよ。ここはこの学園の飲食店で唯一、毒物混入の心配が一切無い飯屋だ。従業員の腕っ節もそれなりで、騒ぎを起こそうもんならつまみ出されるから落ち着いて飯が食える。それに、高い金を取るだけあって美味いぞ」
そういうことか、とぼくは独りごちた。
この学園で、外の飯屋と同じように安心して食事が出来る環境というのはニーズが高いだろう。
通常の倍の額を払うことになっても、ぼくならばその金を惜しまない。
しかし学園に入学したばかりで、今後どんな出費があるか分からない……
-
( ^ω^)「確かに魅力的な話だけど、遠慮しとくお。支給されてる娯楽費もそんなに多くはないし……」
('A`)「ちっ……相席してる奴が水飲んでるのに一人で飯食うなんて気まずいこと出来るかよ。仕方ねぇな……今日は奢ってやるから今度なんか奢れ」
奢りというなら話は別だ。
ぼくはすぐに店員を呼びつけ、ペペロンチーノとハンバーグステーキとビーフカレーと天ぷらの盛り合わせ、それとコーンスープとマンゴーラッシーを注文した。
(;'A`)「お前マジで肝が据わったな……」
( ^ω^)「ごちそうになりますお」
生憎だがぼくは元乞食だし、その性根は今となっても変わることは無い。
食える時に食う。飲める時に飲む。
明日の食い扶持も保証されない世界で、生き残る為の鉄則だ。
向こう三日は何も食べる気になれないくらい、胃に詰め込んでやろう。
三分と待たないうちにドクオが注文していたらしいハンバーガーとホットスナックプレートが運ばれてきた。
掌ほどある大きなバンズに挟まれたパテは、ハンバーグというよりは重厚なステーキで、ナイフを入れるまでもなく胃を刺激する肉汁の匂いが漂ってきた。
ぼくもこれを頼んでおけば良かったと思った。
('A`)「じろじろ見るんじゃねぇ。食いにくいだろうが」
ごもっともだが、ぼくはハンバーガーから視線を外せなかった。
バンズとみずみずしいトマト、レタスに挟まれたあの肉の壁の内側の、旨味と肉汁が空気に触れ、彼の口の中に収まる瞬間を見たい。
腹の虫が止まらない。
しばらく気を張らずに食事をする、という機会に恵まれなかったぼくにとって、この光景は最早視る麻薬だ。
-
ドクオは口を大きく開け、ハンバーガーに齧りついた。
バンズの間から零れ落ちそうになるハンバーグパテを器用に手で抑えながら、レタスとトマトの水気と一体になったハンバーグを咀嚼する。
デミグラスソースのまろやかな匂いの中に、棘のように見え隠れする肉汁の匂いがぼくの脳を犯す。
( ^ω^)(ええい、ぼくの分はまだかお……まだ何も来てないのにおかわりのことしか考えられないお……)
ドクオが合間にぶつぶつと何か喋っていたが、何も頭に入ってこなかった。
少し待って、ペペロンチーノが運ばれてきた。
ぼくはそれを、次の皿が運ばれて来る前に完食した。
最早冗長な感想を並べ連ねるのは無粋だろう。
美味かった、その一言に尽きる。
(;'A`)「うわぁ……」
ドクオの手の中のバンズから、肉が零れ落ちた。
( ^ω^)「はむっはふっはふっ! うめぇ!! カレーうめぇ! このカレーは飲めるお!」
ぼくは続けてハンバーグステーキを持ってきたウエイトレスにカツ丼とクリームシチュー、それと海鮮丼を注文した。
('A`)「お前が飯食ってるとこ見てると汗かいてくるわ」
(^ω^)「ばっばだべばばぶふぉっばーばぱぱばーばままぼぶはばーばばば(だったら冷たいデザートでも食べるといいお。ぼくも後で注文するお)」
(;'A`)「きたねぇから口にものを入れたまま喋るな。つーかこっち見るな」
-
一週間は飲まず食わずでも生きられそうなくらい、食べ物を胃に詰め込み、ホットコーヒーを啜りながらデザートを待つ。
ドクオは長財布を開き、中身と睨めっこしていた。
(;'A`)「薬莢も火薬もくそ高いってのに……そもそもこれ足りるのか……? クソッタレが……お前には二度と奢るなんて言わねぇ」
( ^ω^)「そう言わず、週一くらいで奢ってくれてもいいお。仲良くしようお」
ざっと二万キロカロリー弱くらいだろうか、もう少し詰めることも出来たが、美味しく料理を食べられる限界ラインはこのくらいだ。
本当に、今日一日でぼくは随分とこの環境に馴染んだと思う。
お陰で、今までは自分の手の届く範囲くらいにしか向かなかった意識も、この店内を見渡して、人々の表情に目を向けられるくらいには広がった。
ξ゚⊿゚)ξ
トレイを持った、コックコートの少女がこちらに近付いてくるのが見えた。
ウエイトレスは給仕用の制服を着ている。
恐らく彼女は厨房の従業員だろう。
わざわざホールに出ているということは、人手が足りていないのだろうか。
ξ゚⊿゚)ξ「はい、ドクオは抹茶アイス。そっちのお客さんはチョコバナナパフェとチーズケーキね」
ぼく達の手元に皿を置き、彼女は腕を組んでぼくを見下ろしてきた。
一見無愛想にも見える所作だが、彼女が呆れたような笑みを浮かべて頬を綻ばせると、その印象は一瞬で掻き消された。
-
ξ゚⊿゚)ξ「一人で尋常じゃない量食べるお客さんがいるって聞いたから興味本位で来てみたら……ドクオ、あんたのツレだったのね」
('A`)「今日知り合った仲だけどな」
ξ゚⊿゚)ξ「あら珍しい。あんたって知り合ったばかりの人と食事するようなフレンドリーなキャラだったっけ?」
('A`)「無愛想なのは自覚してらぁ。
ほっといてくれよツンさん」
一時間ほど前よりもこの環境に順応した目でドクオを見る。
どうやら彼は異性にからかわれるのがあまり好きではないようで、本当に嫌そうな顔をしている。
ξ゚⊿゚)ξ「そんなに嫌そうにしなくてもいいじゃない。軽い冗談よ。んでそっちのニコニコくん」
( ^ω^)「ニコニコ……ぼくかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「そうよ、にやけ面だからニコニコくん。私はここの料理長を務めるツンよ。こんなに食べてもらえて、料理人冥利に尽きるわ。今後ともご贔屓にね」
( ^ω^)「内藤ホライゾン。ブーンでいいですお。由来については聞かないでほしいお」
ξ゚⊿゚)ξ「なにそれ……? まぁいいわ、よろしくねブーン。それと敬語はいらないわ。あなた一年生でしょ? 私も同い年だから」
素直に驚いた。
ぼく達と同い年でありながら、一店舗の料理長を、それもこんなところで務めるその人生背景が少し気になった。
けれどそれを聞くにはまだ早過ぎるだろう。
或いは今後彼女との交流を深めることがあれば、その時に。
-
ツンさんと少し談笑して、ぼくはドクオにあれ以降の出来事を話した。
流石兄弟と、クー会長と出会ったことだ。
クー会長が、ぼくにドクオを頼るようにと告げたことも話した。
その最中に、窓の向こうで集団リンチが行われているのを見て、嘆息を混じえた。
ξ゚⊿゚)ξ「クォルアアアアア!! 客が逃げるでしょうがよそでやれやヴォケがああああ!!」
中華鍋を振り回しながら、通りのリンチ集団に突っ込んでいくツンさんが見えた。
本当に、強い女性だなと思った。
('A`)「クー会長……ね。別に俺はそんな大層なもんじゃねぇっての。めんどくせぇな」
( ^ω^)「面倒臭がりだけど根はお節介、とも言ってたお」
('A`)「ほっとけ」
ドクオは一年生で、クー会長は三年、それも生徒会長だ。
普通に過ごしていれば接点は無さそうだが、この二人の間には何があったのだろうか。
思い切って、聞いてみることにした。
('A`)「ああ、俺とあの人は幼馴染なんだ。あんまり人には言うなよ、ただでさえ一部の奴等の間では目立っちまって動きにくいんだ。【第二王位】と顔なじみなんてバレた日にゃ身動き取れなくなっちまう」
( ^ω^)「第二王位?」
聞きなれない言葉が耳に引っかかり、おうむ返しする。
('A`)「そうか、お前は編入してきたばかりだから知らねぇよな。第二王位ってのはこの学園内での強さの序列のことで、単純にクー会長がこの学校で二番目に強いってことさ」
-
('A`)「昼間にお前は言ってたよな。この学園に目的意識を持って入学してきた奴なんていたのかって」
( ^ω^)「おっ、言ったお」
('A`)「その答えだが、大半はねぇだろうよ。単純に刺激が欲しいだけの奴ばかりだ。だが……中にはいる。俺を含め、そういう人間の目的が……この学園の上位十人のみが座ることの出来る、【十席の王位】だ」
( ^ω^)「十席の王位……」
再びおうむ返し。
学力や、コミュニケーション能力ではなく、力でのみ序列を設ける。
やり方や環境こそ無秩序ではあるが、ここもまた、確かに学校というコミュニティなのだなと思った。
('A`)「十席の王位を継承し、この学園を卒業した者は、闇の稼業の界隈においてその未来が確約される。それはつまり、このクソッタレな世界で好き勝手出来るってことだ」
( ^ω^)「…………」
何か喋ろうと思ったが、上手く言葉にならなかった。
十席の王位……闇の世界の頂点……
そしてクー会長の、絶対的な強さ。
流石兄弟の大きな背中。
ハインリッヒの凶暴性。
うなじの辺りがちりちりと熱い。
ぼくは、彼等のような舞台の花形とも言うべき圧倒的な悪のカリスマに、自己投影している自分に気付いた。
-
( ^ω^)「ぼくも……その王位を継承出来るかお?」
ドクオは面食らった。
少なくともぼくには、そのように見えた。
目をまんまるに見開き、静止していた顔の筋肉が徐々に歪み、破顔する。
('∀`)「お前が王位? やめとけよ、お前の命がコンビニでワンコインで売ってるような代物なら、試してみるのもいいかもな」
( ^ω^)「おっおっwww冗談だおwwww」
テーブルの下に潜らせた拳を固く結ぶ。
悔しくはなかったが、自分の口から零れた言葉が本心ではないことが、どこかやるせなかった。
ドクオは、テーブルの下で固めたちっぽけな決意に気付いただろうか。
身体の中で燻る熱を冷ますため、冷めてしまったコーヒーを呷り、ドクオの目を見る。
爬虫類を思わせる不気味な笑みは、消え失せていた。
('A`)「仮に、お前が本気で王位を目指すってんなら……」
ドクオの双眸から放たれる視線が、槍のように鋭くなるのが手に取るように解った。
そして、その次に紡がれる言葉も……
('A`)「俺は、いつかお前を殺さなきゃいけねぇな」
( ^ω^)「…………」
仮に、仮にだ。
今後ぼく達が交流を深め、互いに親友と呼ぶのに一抹の躊躇いも無い仲になったとする。
それでも、ぼくが本気で王位を目指すと口にすれば、彼はその三秒後、あの黒い銃をぼくの額に突き付けるだろう。
乞食からここに流れ着き、適当なところで死ぬのも構わないと、生きながらにして死んでいたぼくと、闇の世界を手中に収めんと、自ら戦場に飛び込んだドクオ。
ぼくと彼を致命的に分つ、人としての一貫性というものを突き付けられた気分だ。
-
('A`)「ま、純粋に王位に興味があるなら色々と調べてみるといいさ。ただ死んだように死ぬまでをここで過ごすよりかは有意義だろ。実を言うと俺も、第二王位のクー会長と第九王位のショボン以外誰が王位を継承してるのか知らねぇんだ」
( ^ω^)「ショボン? どんな人なんだお?」
('A`)「そうだな……あいつを一言で言い表すとするなら……」
ドクオは少し悩むような所作で、先ほどぼくがしたのと同じように、カップに残ったコーヒーを呷った。
('A`)「怖がりだ」
肩透かしを食らった気分だった。
この学園で九番目に強いと聞いただけで、ぼくは筋骨隆々な大男を思い浮かべていた。
もっと深く言及しようとしたが、ドクオは立ち上がり、伝票を手に取っていた。
('A`)「ギブアンドテイクだ。何か聞きたいことがあるならここに連絡してきな。お前も王位について何か分かったら、こっちに流してくれよ」
一枚の紙切れをテーブルに放り、ドクオは立ち去っていった。
残された紙切れは、厚紙で出来た名刺だった。
殺し屋ドクオーー
それだけ書かれた厚紙には何の装飾もなく、裏面には携帯電話の番号が記されていた。
学校外での家業だろうか。
ぼくはそれをブレザーの胸ポケットに収め、店内を一瞥した。
( ^ω^)「死なない程度にやってみるお」
-
慌ただしい店内では、ぼくと同い年か、一つ上くらいであろう少女が酒を呷っていた。
パーカーのフードをすっぽりと被ったいかにも怪しい男が、一人で広いテーブルを占拠し、ノートパソコンを弄っていた。
坊主頭のチンピラ二人組が、腕っ節自慢を語りながら大口を開けて分厚いステーキを頬張っていた。
この店から一歩外に出れば、羽目を外している女達は強姦された挙句嬲り殺されるかもしれない。
窓の向こうの通りに視線を移す。
先ほどツンさんに迎撃されたリンチ集団が残した血痕が、ここからでもよく見えた。
窓という境界線を踏み越えたドクオが、煙草を咥えながら過ぎ去ってゆくのを見送って、ぼくは……
( ^ω^)「…………」
何か言いかけて、言葉を飲み込んだ。
判然とはしないが、確かに存在する自分自身の気持ちの、昂りのようなもの。
気持ち悪さと、漠然とした心地良さの両方を内包したぼくは、誰よりも矛盾した存在なのかもしれない。
しかしそれもまた良いだろう。
判然としないのが人間。
矛盾しているのが人間。
うんと伸びをしてテーブルを立つ。
客の波が盛り返してきた店内は慌ただしくなってきた。
汗をかきながらホールを駆け回るツンさんとすれ違ったので、ご馳走様と一礼したが、あくせく働く彼女の耳には届かなかったようで、返事は無かった。
-
(´・ω・`)「…………」
少年は血に濡れた長棒を肩で支え、ベンチに座り込んでいた。
八の字に垂れ下がった眉と、色白の肌は、柔和な印象を与える。
少年の表情はどこか憂いを帯びていて、哀愁すら感じられる。
彼の視線の先には、胴に大きな穴を開けて、臓器を露出させた死体が三つ。
(´・ω・`)「やれやれ、やめてほしいよね。僕は好きでこの学園に入学したわけでもないし、好きで王位を継承したわけでもないんだから」
渇いた銃声が、一発ーー
弾丸が、少年が持っていた棒にぶつかり、火花を上げて弾かれる。
彼は狙撃されたのだ。
狙撃手の狙いは的確に彼のこめかみを捉えていた。
真っ直ぐ彼の頭部に飛んできた銃弾を、彼が超人的反射神経で防いだのだ。
(´・ω・`)「王位が欲しいなら十位を狙えばいい。何故九位の僕なんだ。僕はただ、穏やかに生きてゆきたいだけなのに」
ベンチから立ち上がり、棒を一振り。
長棒は八つに分かれ、鎖によって繋がったリーチの長い武器に変わる。
目測で十数メートルほどだろうか、元々三メートルほどあった長棒だが、それを器用に振り回しながら操る様は、高度の知能を持った大型の蛇を飼い慣らしているようだった。
(´・ω・`)「狙撃なんて、怖いことをする人がいたもんだ」
達人の演武のように、八の字眉の少年は得物を振るい続ける。
時折棒の部分が周囲の壁を抉り、瓦礫が飛散した。
-
(´・ω・`)「そこか」
少年の瞳に殺気が宿る。
大きく一歩踏み込み鎖で結ばれた棒を振るう。
その軌道は弧を描きながら、彼から少し離れた位置にある草木の茂みの中に突っ込み、何かを絡め取って楕円を描きながら彼の間合いの範囲に手繰り寄せられてゆく。
「う、うわああああああああっ!?」
一人の男が、八の字眉の頭上に放り出された。
狂乱しながら長身の銃を発泡するが、その弾丸は空虚を切る。
(´・ω・`)「覇山龍爪ーー」
手元の棒身を、腰を起点に一回転させ、分かれた残りの七つの棒身を手繰り寄せ、元の三メートルほどの長棒に戻し、彼は深く腰を落とし、構えた。
(´・ω・`)「一薙ぎ!!」
一本背負いの要領で、宙に浮かぶ男の胴を目掛けて振るい落とす。
的確に腹部を捉えた棒は半円を描き、地面を穿つ。
その軌道に取り残された男の身体は、宙で真っ二つに分かれ、血の雨を降らせた。
-
血の雨を浴びながら、少年は深く溜息を吐いた。
(´・ω・`)「おかしい……おかしいよこんな世界……狂ってる」
二つに分かれた、人間だった肉塊は地面に落ち、鈍い音を立てた。
少年はそれに目もくれず、空を仰ぐ。
その両目にはうっすらと涙が溜まっていた。
(´・ω・`)「僕達はいつまで殺し合わなきゃならない? 何故一人で完結する道を歩もうとしないんだ? ほんの少しの私利私欲を抑え、ぶつかった肩に向ける憎しみを抑えれば、皆笑って生きていけるというのに……」
溜まっていた涙が零れ落ち、彼の血に濡れた頬を濡らした。
(´・ω・`)「怖い…………怖い、怖い怖い怖い怖い怖い……勝てないと解っていながら命を賭してくる弱者が怖い。弱者を贄としか思っていない強者が怖い……」
(´゚ω゚`)「何故僕がこんなに怖がらなきゃいけないんだ!! 怖い、怖い怖い怖い……! 全てが怖い! お願いだから僕を放っておいてくれ!」
突然狂乱した彼は、空に向かって吠えた。
視線の先の太陽は地平線に差し掛かり、空は橙と青色で混じり合い、その境界線は曖昧に蕩けていた。
煌めく陽の光はどこか神々しく、しかし、それでも彼にとっては恐怖の対象でしかないのかもしれない。
(´゚ω゚`)「おおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
目に映る全てが怖い。
雄叫びを上げる彼が心を赦すものなど、この世には無いのだろう。
その慟哭は、風に運ばれ、ここではない何処か遠くへと、消えていった。
-
やっべタイトル投下するの忘れちった
第三話「窓越しの非日常。皿の上の料理と、テーブルの下で握り締めたもの。」
で補完おなしゃす
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ということで今日は終わり
一レスに詰め込み過ぎて目が疲れそうだな
中身に関しては書きたいもの書きたいから反映出来ないかもだけど、文字数とかで少ない方が読みやすいとか多い方が読みやすいとかあったら言ってくれるとありがたい
俺乙、また近々
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すげえ面白い
乙
-
乙
-
乙
こんな怖がりにどうやって接触すんだよ
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乙。こういうの最近なかったからよいね。部活動を彷彿させる
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確かに部活動を思いだしたが、一味違う面白さがあって素晴らしい。なるべくならこのブーンとドクオには生き残ってほしいな……
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さあ投下するか
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第四話「月明かりの下で。弾丸と刃の存在理由について。」
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午前四時、まだ辺りは闇夜に包まれていて、数メートル先の視界も朧げだ。
そんな中ぼくは……
(;^ω^)「はっ……はっ……はっ……」
黙々と走っていた。
ドクオと解散してから、ぼくは今の自分に何が出来るかを考えてみた。
王位について調べるにしても、不用意に嗅ぎ回るのは危険だろう。
アウトロー達との交流を図るにしても、何らかの防衛手段は欲しい。
そのためには何らかの技を学ばなければならないのだろうが、ぼくにはそれを成すだけの基礎体力が備わっていないように思う。
だからこその早朝ランニングだった。
これは、ゴール地点すら分からない長い道のりを歩み切る、その第一歩なのだ。
毎朝フルマラソンすると決めた。
本当は四時に起きて、それから支度を整えて走るつもりだったのだが、気が急いてしまい、予定より一時間早く目が覚めてしまった。
しかし思っていたよりもタイムは遅く、早く目覚めたことは好都合だったようだ。
第一ブロックから第七ブロックまでを真っ直ぐ走り抜け、第八ブロックの手前で折り返す。
それでほぼほぼフルマラソンの距離になる。
昨日の夜、事前にサーチして経路を決めたので、第五ブロックに到達した今のでも物騒な人集りとはまだ遭遇していない。
珠のような汗をリストバンドで拭い、動く足ではなく、ただ己の呼吸にのみ意識を向ける。
第図書館を中心に造られた第五ブロックは、中世のイメージをモチーフにしているからなのか、足元が石造りだ。
足首にじわじわと蓄積してゆく負荷には、出来る限り目を向けないようにしていた。
-
黙々と走る。
まだ定めた目標の半分にも到達していないのだと思うと、途中で足を止めたくなった。
その辺の自販機でスポーツドリンクを買い、ベンチに座り込んでしまえば、きっと極上の開放感を得られるのだろう。
気がつくと口の端から涎が垂れそうになっていたので、それを拭い、前をしっかり見据えると、何やら蠢く影があることに気付いた。
从 ゚∀从
(;^ω^)「おっ……!」
影の正体に気付き、ぼくは咄嗟に身を屈めた。
激しく暴れ狂っていた心臓は、一段と大きな鼓動を立てた。
从 ゚∀从「……よぉ」
ハインリッヒは、力なく両手を上げて振った。
从 ゚∀从「こんな時間からご苦労なこった。取って食ったりしねぇから、少し話そうぜ」
赤いワンピースの裾を掴み、ベンチに積もった埃を払うと、彼女はそのままちょこんと座り込んだ。
( ^ω^)「…………」
彼女からは、昼間のような殺気は感じられない。
無論それをぼく程度の素人に気どられないように隠すことなど、児戯に等しいのだろうが、そういった理屈を抜きにして、直感が今は安全だと告げていた。
( ^ω^)「わかりましたお」
ぼくは首に巻いたタオルで首から上の汗を丁寧に拭き取り、ジャージを脱いだ。
-
近くの自販機で飲み物を二人分購入し、一本をハインリッヒに手渡した。
从 ゚∀从「おう、気が利くねぇ……ってなんだこりゃ、トマトジュース? 喧嘩売ってんのか?」
(;^ω^)「おっおっ、違いますお。決して変な理由があるわけではなく……」
ーーーー
自販機の前で立ち止まり、ぼくは数十秒ほど悩んだ。
( ^ω^)(吸血鬼ってなに飲むんだお……?)
ーーーー
自販機の中の十数種類から辿り着いたぼくなりの解答がこれだったのだ。
トマトジュースイコール血液という安直な考えだけでなく、トマトに含まれるリコピンは紫外線をカットしてくれる効果がある。
その効力は飲む日焼け止めと言われるほどだ。
そういう、栄養的な見地から見てもハインリッヒに渡す飲み物はこれが最適解であると判断したのだ。
( ^ω^)「そんなことより、あれから大丈夫だったんですかお? ハインリッヒさん」
从 ゚∀从「ハインでいいよ。呼びにくいだろ」
( ^ω^)「ハインさん」
从 ゚∀从「さんもいらんじゃろ」
( ^ω^)「わかったお。ハイン」
从 ゚∀从「よろしい」
ハインは人懐っこい笑みを浮かべ、ベンチを叩き、ぼくに座るように促してきた。
ぼくはそれに従って、先ほど彼女がしたように、ベンチの埃を払って座った。
-
从 ゚∀从「さっきの質問だが……あの後大丈夫だったと思えるならお前は飛び抜けた楽天家だよ。五十回殺された辺りでもう数えるのはやめた」
(;^ω^)「ごじゅっ……」
恐らく痛覚はあるのだろう。
にもかかわらず、彼女は五十回以上、死に至る痛みを与えられたのだ。
それがぼくなんかには到底想像出来ない苦しみであることは考えるまでもなく解る。
それでも、何事も無かったかのようにけろっとした顔で笑うハインが、やはり人外であることを再認識させられた。
从 ゚∀从「おかげで制服がズタボロだ。ここに入って何着目だぁ? もう買い換えるのも面倒になってきたぜ」
赤いワンピースに赤いピンヒール。
それは色白で、繊細な彼女の容姿によく似合った。
街灯に照らされた銀髪は艶を帯びて輝き、小さく尖った顎先まで真っ直ぐ降りている。
それは彼女の表情を隠す絹のカーテンのようだった。
視線を徐々に落とし、細い鎖骨から胸元を通り、ワンピースの裾を抜ける。
(✳︎^ω^)「…………」
ベンチの上で小さく畳んだ足は細く、太ももですらぼくの二の腕とそう変わらないくらいに細かった。
きゅっと締まった細い足首で存在を主張する、銀色のアンクレット。
彫刻のような美しさだった。
今、この時を止め、彼女を額縁に収めることが出来れば、ぼくは芸術家として名を轟かせることが出来るだろう。
-
( ^ω^)「ハインも、王位を狙ってるのかお?」
从 ゚∀从「王位? 興味ねーよそんなもん」
不意に滾り始めた情欲を抑える為に、ぼくは質問を投げかけてみた、が、返ってきた答えは予想とは真逆だった。
从 ゚∀从「俺はこの通り、切られても撃たれても死にゃしねーし、あんなくだらねぇ箔なんか無くたって外で好き勝手やれるしな」
( ^ω^)「まぁ、確かに……」
从 ゚∀从「そもそも俺から言わせてみりゃ順序がちげーんだよな。十席の王位を継承出来るだけの連中なら、その時点で外に出ても好き勝手出来らぁよ。お前もそう思わないか?」
ごもっともだ。
第二王位のクー会長の一閃。
あれを初見で躱しきる者など、少なくとも人間の中にはいない気がする。
乞食として眺めていたあの世界は、体裁としての社会のルールがあった。
その枠に縛られた人々が、王位の継承者をどうこう出来るとは思えない。
-
从 ゚∀从「ようするに、王位なんて分かりやすい動機をつけたがるのは、暴れるのに理由をつけなきゃ何も出来ないチキン野郎ってこった。どうしてこう、もっとスカッと生きられないかね。ドクオなんか見てるとつくづくそう思うよ」
ハインは深々と溜息を吐くと、トマトジュースを一気飲みし、濡れた口元を手の甲で拭った。
その所作はどこか艶めかしかった。
( ^ω^)「でもぼくは、彼のそういう一貫性を、かっこいいと思いますお」
从 ゚∀从「かっこいい……かっこいいか、はははっ、そりゃいいぜ。傑作だ」
ハインは犬が付着した水を払うように、ぶんぶんと首を振った。
小柄な身体でそれをするものだから、小動物のような印象を与える。
从 ゚∀从「あのいけすかねぇ糞会長を見たお前ならわかるだろ? 王位を獲ろうってんならあいつはあのままじゃ無理だ。どこかで人間を辞めなきゃなんねぇ」
从 ゚∀从「だったら俺に賭けてみりゃいいんだよ。このまま足掻いて王位を夢のままで終わらせるか……俺の眷属となってイノヴェルチとして生まれ変わり、化け物として王位を食うか」
从 ゚∀从「本気で王位を狙うなら、イノヴェルチになる道に賭ける。そういう現実的なやり方ってのが、お前の言う一貫性ってやつなんじゃねぇか?」
( ^ω^)「そりゃねーお。ぼくらは人間だお。腐っても、人間のままでいたいんだお」
-
自分がどうしてこんなに怒っているのか解らなかった。
許されるなら、ハインの髪の毛を掴んでそのままベンチに顔面を叩きつけたかった。
でも大丈夫、大丈夫だーー
このくらいなら、ぼくはそれを行動に移すことなく、怒りを喉の奥で押さえ付け、飲み込むことが出来る。
从 ゚∀从「言ってくれるな? つまりはヴァンパイアロードであるこの俺は、お前らよりも卑しい存在であると? お前ら人間様は、手放しに俺のような化け物を見下せるほど尊いと? そういうことか?」
( ^ω^)「……すみませんお。ぼくが浅はかでしたお」
ハインの言い分が大仰だとは思わなかった。
ぼくの言い方だと、確かにそのように解釈されてもおかしくはない。
昼間は脳みそに血が溜まっているのではないかと思うほどガサツだった彼女だが、何故か今は、少なくともぼくよりかは寛容的だった。
-
从 ゚∀从「まぁいいや、どうせ俺にはお前を殺せねーんだし、んなことでいちいち怒ったってイライラするだけだ」
( ^ω^)「お? どういうことだお?」
从 ゚∀从「言われたんだよあの糞会長に。内藤ホライゾンに手を出したら、二度と動けないように身体をバラバラに引き裂いて地下百メートルに埋めてやるって」
想像しただけでぞっとする話だ。
吸血鬼であるハインは死ぬことが出来ない。
そんな彼女が、地下深くに埋められて置き去りにされたら……
从 ゚∀从「いくら死なねぇ身体っつっても生き埋めは勘弁だ。あの女なら本気でやりかねねぇしな。つーわけで俺はお前を殺せない。何なら二、三発ぶん殴っとくか? 憂さ晴らしに一発この俺で抜いたって手出ししねぇよ」
わざとらしくワンピースの裾をつまむ彼女は、どこか自棄になっているように見えた。
それほどまでに、クー会長の抑制力は強い、ということだろう。
-
( ^ω^)「遠慮しとくお。でも、もしもハインがいいならぼくの頼みを聞いてほしいお」
从 ゚∀从「あ? 何か知らねぇけど聞くだけなら聞いてやんよ」
クー会長がなぜ、ドクオではなくぼくに手を出さないようにと釘を刺したのかは解らない。
彼女とぼくは以前に面識があったわけでもないし、彼女のようなアウトローのカリスマからすれば、ぼくなんて彼女の思考の範疇にすら入れない塵芥のようなものだと思う。
彼女の言動の理由は解らないが、ハインがぼくに手を出せないという現状を、上手く利用しない手は無いだろう。
( ^ω^)「ぼくの師匠になってくれないかお?」
从 ゚∀从「へっ?」
ハインは目を丸く見開いて、ぼくを見た。
デッサンで描いた目をそのまま切り抜いて貼り付けたような、造形美とすら思える整った右目に、ぼくは飲み込まれそうになった。
-
( ^ω^)「ドクオには言えないけど、ぼくも王位に興味を持ったお。元乞食の凡人が、この学園でどこまでやれるか。確かに考えは浅いかもしれないけど、試してみたいんだお」
志半ばにして倒れるかもしれないし、そもそもこんな漠然とした動機を志と呼ぶことすら烏滸がましいのかもしれない。
しかし、ぼくは王位を目指さなければならない。
そうしないと、ぼくは胸の中で燻るこの熱量に焼かれ、ぼくでは無い卑しい何かになってしまうような気がした。
从 ゚∀从「…………」
从 ゚∀从「師匠……師匠……うん、悪くない……師匠……師匠…………」
ハインは子鹿のように震え、ひたすら師匠と呟いていた。
塗り固めたような真っ白な肌が高揚していくのが手に取るように分かった。
それをまじまじと観察していると、彼女は突然ぼくに抱き付いてきた。
(;^ω^)「ぶおっ!?」
从 ゚∀从「いいねぇ〜〜〜! 師匠って響き! いいぜ! 今日から俺がお前の師匠だ!」
-
その小柄な体躯からは見当もつかない、強い力でぼくは羽交い締めにされてそのまま倒れ込んだ。
ベンチの角で後頭部を打ち付ける。
これは、手を出しているとは言わないのだろうか。
(;^ω^)「痛いお! 離してくれお! 息が出来んお!」
从 ゚∀从「っと……あぶねぇ。普通の人間ってのはどれくらい力を込めたら潰れちまうんだ? どうも加減が上手くいかねぇな」
昼間の光景だけみると、吸血鬼の身体の方が随分と脆いように見える。
がその冗談は、言ってはいけない部類の冗談だということは分かっていたので、ぼくは敢えて口を噤む。
从 ゚∀从「まぁいいぜ。お前がどうしてもってんなら? その願い、聞いてやってもいいぜ?」
言葉とは裏腹に、彼女の表情は無邪気を絵に描いたようなものだった。
( ^ω^)「よ、よろしくお願いしますお……」
从 ^∀从「おう! 今日からお前は俺の弟子だ! ビシバシ鍛えてやるから覚悟しとけよ!」
-
屈託のない笑みを浮かべる彼女を、素直に可愛いと思ってしまった。
氷のように冷たい彼女の肌だが、何故か、ほんの少しだけ温かい。
( ^ω^)「ありがとうだお。それはいいけど、そろそろ離れてほしいお……」
从 ^∀从「なんだ師匠に向かってその口の聞き方は! 敬語使え敬語!」
(;^ω^)「ええ…………そりゃないお」
从 ^∀从「です! ます! ございますだ!」
(;^ω^)「はいはい、ですますございますお」
何はともあれ、ようやく進むべき道が見えてきた気がする。
少しばかり気疲れが多そうだが、昼間はあんなに怖かった吸血鬼の彼女が、こんなに嬉しそうに笑ってる。
それだけで、気疲れは吹き飛んでしまいそうだった。
-
ブーンとハインが抱き合っているのと同時刻。
('A`)「やれやれ……中華マフィアの暗殺とは、後引きそうな依頼だぜ」
ドクオは咥えていた煙草を吐き捨て、長身のスナイパーライフルの先に銃剣を取り付けた。
とあるビルの最上階にいるドクオは、そこから見下ろせる位置で、一箇所だけ灯りついている向かいのビルの窓をじっと見据える。
距離にして、ドクオからその窓まではおよそ三百メートルほど。
ビルが建ち並んではいるが、ドクオと窓の間には、都合良く障害物は存在しなかった。
('A`)「シナー……あいつだな」
( `ハ´)
ドクオの目は、窓の向こうにいる一人の男を捉えていた。
彼の元に舞い込んできた依頼は、ここらでドラッグを流している中華マフィアの幹部、シナーの暗殺。
彼は、今ここに、シナーを殺す為に立っている。
-
ドクオは狙撃が得意ではない。
というより、好きではないと言った方が正しいか。
闘いとは、己と相手の駆け引き、意志のぶつかり合いがあってこそ成り立つもの。
狙撃という、集中力をひたすら研ぎ澄ませる、己との闘いとしての性質を持つやり方より、ドクオは前者を好んだ。
('A`)(ま、単純に芸が無いって話だわな)
内心、自分を茶化すドクオ。
その心の隅、ドクオ自身すら把握出来ていない領域に巣食う、己と向き合う、或いはそれに準ずる行為を無意識に避けている自分に気付くことはない。
('A`)(ワイヤーは、まぁ届くだろうな。窓をぶち破り、ここからターゲットの元に辿り着くまで……およそ十六秒ってところか……)
建ち並ぶビル群を一瞥し、ドクオはスナイパーライフルを固定台から構え、トリガーを絞った。
この狙撃は、ほんの序幕でしかない。
彼が着込んだ襟長の下には、強襲用のアサルトライフル、いつも持ち歩いている黒銃、そして二本のツイストダガーが息を潜めていて、獲物を狩る時を、鈍い輝きを放ちながら待っている。
-
深く息を吐き、ドクオはライフルのトリガーを引いた。
('A`)(スタート……!)
三百メートル先のビル内で、どのように人間が配置されているのか、内部がどういった構造なのか、ドクオは知らない。
だが、そんな瑣末な情報をわざわざ収集せずとも、ドクオにはこの強襲を成功させる自信があった。
固定台からスナイパーライフルを取り、ドクオは全速力で屋上を駆け、そして飛び降りた。
ドクオのコートの袖からワイヤーが伸び、一番近くのビルの縁に先端の鉤爪が引っかかる。
身体の力を抜き、黒銃を抜いて発砲。
ドクオは風に煽られながら、弾丸が抉った壁の部分に到達した。
そして抉られた壁にツイストダガーを力いっぱい突き立てると同時に、二本目のワイヤーが更に奥のビルの縁を捉えていた。
闇夜に紛れ、暗躍する彼の一連の動作は人間業とは思えないほど素早く、鷹の滑空を思わせる。
('A`)「……あ?」
狙撃地点から目標地点へ、丁度半分ほどの距離に差し掛かろうとしたその時、ドクオの頭上に一つの影が舞い込んだ。
-
( ゚д゚ )「お前はここで詰みだ」
影は月明かりに照らされる。
正体は着流しに身を包んだ男だった。
その手には鞘から抜いた刀が握られており、その切っ先は、ドクオの喉元に向けられており、妖しい光を放っている。
('A`)「ちっ……」
咄嗟に背負ったスナイパーライフルで、その剣撃を受ける。
高層ビル群の、人の足が届かぬ上空で、二人の修羅が切り結ぶ。
(# ゚д゚ )「おおおおおおおおおおおおおっ!!」
(#'A`)「だぁらあああああああああっ!!」
ドクオが両手の力を込めて着流しの男を弾き飛ばそうとしているのに対し、彼はそれを片手で押し戻し、空いた手でがっちりとドクオのコートの袖から伸びたワイヤーを握り締めていた。
二つの影がよろめき、ビルの縁に掛かっていたワイヤーの鉤爪が外れる。
軌道が下方にずれ、二人はそのままビルの窓ガラスに突っ込んだ。
-
盛大な音を立てて、二人の影がオフィスビルの室内を荒らす。
デスクが転がり、ガラス片がパソコンを傷付け、束になっていた書類が盛大に巻き上がる。
( ゚д゚ )「しッ……!」
力強く息を吐き、着流し男は受け身を取って立ち上がろうとするドクオに斬りかかる。
('A`)「まさかお前が邪魔してくるとは思わなかったぜ……ミルナ!」
コートの裾からツイストダガーを抜き、その捻れた刀身で斬撃を受ける。
ゼロ距離の間合い。
ミルナと呼んだ男の死角から雑な膝蹴りを入れる。
鈍い音、骨が軋む手応えを感じながらも、ミルナの力が弱まらなかったのでもう一度同じように、脇腹に蹴りを入れた。
(; ゚д゚ )「ぐふっ……」
短く息を漏らし、ミルナはドクオから距離を取る。
それを見逃すドクオではなかった。
('A`)「喰らいなっ!」
強襲用のアサルトライフルを抜き、弾幕を張る。
オフィス内のあらゆる電子機器が撃ち抜かれ、焦げ臭い匂いを立てる。
-
('A`)(ワイヤーは……まだ使えるな)
強襲は失敗に終わった。
その事実を冷静に受け止め、ドクオは今自分がやるべきことを脳内で弾き出し、優先順位をつけてゆく。
先ず第一に、生き残ることだ。
ミルナはVIP学園の一年生であり、十席の王位には達していないものの、ドクオと対をなすように比較され、二人で一年のホープと囁かれている。
そんな強者と対峙して、この第一条件を満たすということは、常人では成し得ぬ難題だ。
第二に、依頼の遂行。
殺し屋稼業、それもフリーランスとなれば、引き受けた依頼を遂行出来なかったという噂が出回れば、そのたった一度のミスで廃業もあり得る。
それだけで済めばいい。
殺しを依頼するということは、クライアントも当然その筋の者であることが多い。
出来ませんでしたとのこのこ帰ってきて、よくぞ無事生きて帰ってきたと手厚く迎え入れてくれるような人間ではない。
そして第三、相対するミルナを討つ。
或いはこれが一番の難題かもしれない。
-
ドクオは決して奇襲に特化した殺し屋、などではない。
必要とあらば徒手での殴り合いもこなすし、その場のありとあらゆる小道具を用いて、戦闘を彩る。
己の闘いの美学にさえ反していなければ、その場に応じて最適解を選ぶオールラウンダーだ。
そこに殺意のぶつけ合いがあれば、かれにとっては何でもいい。
だがそれは裏を返せば、特に秀でたところが無い器用貧乏とも言える。
一般的水準でものを言うならば、それは全てが高水準であると言えるのだろうが、VIP学園の生徒同士という、常識の範疇を越えた闘いの場においてはそう言い難い。
('A`)(少し……分が悪いか)
対峙するミルナは己の間合いにおいて絶対的な強さを誇る。
( ゚д゚ )「ゆくぞ」
そしてこの三十平方メートルほどのオフィス全体が、彼の間合いの範囲なのだ。
ミルナは抜刀した太刀を、両手で振り抜いた。
(;'A`)「ちっ……!」
その動作を確認する前にドクオは身を屈めた。
直後、彼の髪の毛先を剣圧が掠め取り、背後の壁に真一文字の斬痕を残した。
-
('A`)「相変わらず読めねぇ間合いだな。侍が飛び道具なんて、少しせこすぎるんじゃねぇか?」
( ゚д゚ )「ほざけ」
ドクオは再びアサルトライフルで牽制射撃する。
しかしミルナからしてみれば、それは鬱陶しい蝿がたかってきているようなもので、腕を突き出し、数回太刀を振るうだけで全ての弾丸を弾き飛ばしてしまう。
('A`)(確かに速いが……)
ドクオは幼い頃に何度も打ち込まれた斬撃を思い出した。
('A`)(あの女の剣に比べりゃまだまだぬるいぜ……!)
川 ゚ -゚)
それは幼馴染にして、VIP学園の王位を継承する素直クールの斬撃。
今よりずっと昔に打ち合った時ですら、彼女の剣は今のミルナを上回っていた。
無論、当時のドクオは彼女に一太刀も浴びせることが出来なかったが、神域の斬閃を見続けた彼の目には、常人には見えないものが、ミルナの風を打つ斬撃が見えている。
-
( ゚д゚ )(……やはり避けてくるか。侮れん奴だ)
ミルナはその、力強く獲物を射抜く双眸で、ドクオを捉えている。
彼は、自分よりも小柄で、近接戦闘に限っては自分よりも大きく劣る筈のドクオに対して、言葉には表せない畏怖の念に近い感情を抱いていた。
二人が初めて切り結んだのは入学式の日だった。
すれ違いざまに、ドクオの手が彼の帯刀する太刀に触れた。
侍にとって刀とは誇り……即座に切り捨てるとまではいかずとも、彼に対して憤りを覚えたミルナは、努めて平静に、ドクオに謝罪を求めた。
しかしドクオのアンサーはなく、一発の弾丸がミルナの頬を掠めた。
それが、最初の死合いの契機だった。
入学初日から達人レベルの闘いを見せ付けた二人は、それ以降一年生のホープとしてまことしやかに囁かれる。
周囲が自分とドクオを比べて評価するように、ミルナ自身も、日頃の鍛錬で常にドクオの幻影のようなものを意識していた。
-
( ゚д゚ )(出来れば……お前とは王位を賭けてやり合いたかったのだがな)
しかしそれは叶わないことだ。
ドクオが仕事でシナー暗殺を遂行しようとしているように、ミルナもまた、シナーを外敵から守る任務を受けてここに立っているのだから。
己の私利私欲の為にクライアントを裏切るほど、彼もドクオも俗ボケしていない。
( ゚д゚ )(初手の【風斬り】は躱された。二太刀目には逆手に取られるだろうな……)
ならばーー
ミルナはその場で身を捩り、手首を振りながら力を込めて斬撃の円を描いた。
( ゚д゚ )「風穿ち」
それはミルナを砲台として放たれた竜巻だった。
いや、竜巻などという生易しいものではない。
それは鋭利な鎌鼬の渦となり、ドクオを飲み込まんと駆る。
(#'A`)「しゃらくせぇーーッ!」
殺意と殺意による対話。
ドクオのアンサーは、その殺意の渦に真っ向から飛び込むことだった。
-
渦に巻き込まれた瞬間、ドクオの頭に耳鳴りが響き、針の筵に閉じ込められたような鋭い痛みが彼の身体を舐めた。
(#'A`)「ーーーーっ!」
彼の咆哮は最早声にすらなっていなかった。
ぶつぶつと皮膚が裂け、風は肉を穿つ。
それでもドクオはその刃に逆らい、ツイストダガーを投擲した。
( ゚д゚ )「無駄だ」
ミルナはそれを、僅かに首を動かすだけで躱す。
風穿ちはミルナが有する奥義の中でも最上級の威力を誇る技だ。
それに真っ向からぶつかったドクオに勝ちの目は無いと、ミルナは確信していた。
だがーー
(#'A`)「こんなんじゃ全然足りねぇんだよおおおおおおおっ!!」
身を屈め、獅子のように突っ込むドクオの手に握られているのは、いつも彼がホルスターに吊って持ち歩いている愛用の黒銃。
あれは見て躱すことは敵わない。
コンマ一秒単位で目まぐるしく動く思考。
そう判断したミルナは腰を落とし、殺意の線を瞬時に察知し、刀の刃を銃弾の軌道に合わせた。
-
重く、湿った銃声と同時にミルナの手首に重い衝撃が走る。
それは彼の刃がドクオの銃弾をしっかりと弾いた衝撃だった。
( ゚д゚ )(勝ったーー!)
ミルナは改めて勝ちを確信する。
だが、それはコンマ一秒の世界を駆るドクオが腕を伸ばした先にあった得物を見て覆った。
二人がこのオフィスに突っ込んだ際に、ドクオが手離したスナイパーライフルがそこにはあった。
その銃身の先には銃剣が取り付けられており、その刃は妖しく輝いた。
ミルナの脳内で警鐘が鳴り響く。
だが身体は動いてくれなかった。
一瞬、ほんの一瞬の、勝利を確信したが故の気の緩み。
それは筋肉の弛緩と変わり、ミルナの身体を縛る枷となる。
('A`)「ーーーー!」
( ゚д゚ )「ーーーー!」
握り締めたライフルを大きく振り上げ、ドクオはミルナの胴を目掛けてそれを振り下ろした。
厚手のコートの胸元はざっくりと裂けていて、そこから夥しい出血が見える。
コートを脱がせれば恐らく、彼の身体が赤い服を着ているかのように、真っ赤に染まっているのがわかることだろう。
-
身体を動かすだけで、全身が細切れになるような痛みを伴うだろう。
それでもドクオは止まらなかった。
鈍く輝くその刃を、真っ直ぐ振り下ろす。
(# ゚д゚ )「うおおおおおおおおおおおおっ!!」
ミルナは咆哮を上げた。
自分の身体を縛る驕りの鎖を引き千切り、急所を的確に狙っていたドクオの刃から、僅かに身を反らせた。
直後、肩に走る激痛に耐えながら、ミルナはがっちりと、突き刺さったライフルを握り締める。
今度は驕りではない。
もう片方の手で握り締めた太刀を、懐のドクオの首筋目掛けて振るう。
そこで彼は見た。
ドクオのコートの袖から、ワイヤーが伸びているのを。
-
ミルナがしっかり掴んでいたライフルを、ドクオはあっさり手離した。
合理的に考えれば何ら不思議ではないその行動。
しかし、自分が帯刀する刀に誇りを持つ、侍のミルナにその考えはあまりにも馴染んでいなかった。
( ゚д゚ )「くっ……」
太刀は頭の数ミリ上を空振り、ドクオの身体はワイヤーに引っ張られ、不自然に軌道を歪めた。
('A`)「悪いな、勝負はお預けだが……仕事では勝たせてもらうぜ」
ドクオの身体が窓ガラスを突き破り、闇夜に溶けてゆく。
(# ゚д゚ )「くっそおおおおおおおおおお!!」
その後ろ姿を、ミルナは呆然と眺めることしか出来なかった。
-
( ;`ハ´)「だ、だだだだだだだ大丈夫アル! わざわざ高い金を払って用心棒を雇ったんだから……しっかり仕事してもらわないと困るアル!」
借りていたホテルの部屋のガラスが何者かの狙撃によって割られ、シナーは焦っていた。
明日はこのシマのマフィアとの会合。
それに備え、彼は用意されていたホテルに泊まっていたのだ。
しかし会合先のマフィアが、自分を殺す為にヒットマンを雇ったと、そんな黒い噂を耳にし、シナーはVIP学園きっての用心棒を雇った。
手早く整えた書類だけを抱え、シナーはホテルを後にしていた。
ビル群の隙間から覗く地平線はうっすらと白みかけていて、夜明けを告げようとしている。
それはシナーの心を少しだけ落ち着かせた。
明るくなればきっと自分は助かる。
そんな、何の根拠も無い安心感を抱いていた。
-
大丈夫だーー
きっとミルナが曲者を切り捨ててくれている。
明るくなったらその辺りの喫茶店でコーヒーを飲んで落ち着こう。
そしてミルナを呼びつけ、曲者の首を持ってこさせるのだ。
そしてーーーー
そしてーー
そし
-
重く、湿った銃声が一発。
( `ハ´)「ーーーー」
シナーの頭の右半分が弾け飛んだ。
電気信号を発する脳を失った彼の身体は、数歩よろめいて盛大に倒れこんだ。
('A`)「任務完了……だ」
ドクオは黒銃をホルスターに収め、シナーの生死を確認する前に地に膝をつけ、そのまま倒れこんだ。
('A`)「ちくしょう……血ぃ流し過ぎたか……頭がガンガンしやがる……」
力を振り絞り、コートの胸ポケットに手を伸ばす。
セブンスターを一本と、オイルライターを抜き取り、覚束ない手つきでそれを咥え、火をつけた。
-
ニコチンが頭の中を渦巻くような錯覚を感じ微睡みながら、ドクオは自分に近付いてくる一人分の足音と、遠くから聞こえる複数の叫び声を聞いた。
('A`)「やれやれ……一服くらいさせてくれよ」
首をもたげようとしても力が入らず、ドクオは目を閉じた。
そして、そのまま意識を手離した。
それと同時に、彼を中心に血黙りが広がり、地面を濡らす。
川 ゚ -゚)「未成年喫煙なんかするからそんな醜態を晒す羽目になるんだ。まだ死なせてはやらんからしっかり反省しろ」
ドクオが身を包むそれとよく似たロングコートを羽織った少女。
素直クールはドクオが意識を手離したのを確認すると薄くなってきた半月を仰ぎ、微笑んだ。
そして、段々と近付いてくる粗暴な叫び声がする方へと視線を移し、腰に差した長刀に手をかけた。
-
おおおおおおちょっぴり書き溜めを小分けしてみたら投下が大変だなこりゃ
四話終わり、俺乙
疲れたので誤字脱字チェックはまた余裕があるときに。また近々
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乙
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おつおつ
-
乙
ブーンがどんな成長するか楽しみ
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面白いからぜひ完走してください
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案外おもしろいんだよな
殺人鬼や学園都市とか思い浮かべるわ
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あと一時間後くらいに投下する
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まってる
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さぁ今日も張り切って投下するべ
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第五話「心に宿す刃の鋭さ。雨に紛れた涙の理由。」
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ひたすらナイフを振るう。
一日一万回以上は振っているだろうか、腕の筋肉は悲鳴を上げ、膝は慢性的に震えている。
(;´ω`)「し、死ぬ……っ、死んでしまうおっ……」
从 ゚∀从「無駄口叩いてる暇があったらちょっとは工夫してかかってこいや。欠伸が出ちまうぜ」
ハインの右目に向けて突きを入れるが、予めそこに刺突が来ることが解っていたかのように、あっさり躱される。
从 ゚∀从「そぉらよっと!」
器用に後ろ向きに走りながらも、ハインは時折鋭い蹴りを放ってくる。
彼女からしてみれば手は抜いているのだろうが、その一撃が直撃すれば即座に卒倒してしまう。
この蹴りに、ここ一週間で何度意識を飛ばされたか分からない。
ハインに稽古をつけてもらうとと決めたその日から、この地獄のような特訓は始まった。
毎日フルマラソンの距離を完走する。
それに加えて、彼女が併走してくるのだ。
そしてぼくの意識が緩んだところに蹴りや突きを放ってくる。
それを躱しながらのフルマラソン。
原則として、ぼくが攻めに転じている時は、彼女は手を出してこない。
仮に彼女に一度でも傷を入れることが出来れば、マラソンはその場で終了する。
-
意識を飛ばされたくなければ、絶え間なくナイフを振るい続けるしかない。
しかしそれをフルマラソンと並行で行わなければならない。
実際にやろうとせずともその過酷さは容易に想像出来ると思う。
呼吸が整う暇が無いのだ。
常に心臓は暴れ狂い、足を止めようものならハインの鉄拳が雨のように振ってくる。
( ´ω`)「はっ……はっ……はっ……」
きっと今のぼくは、この学園で誰よりも情けない顔をしているのだろう。
ドラッグを決めて涎を垂らしたジャンキーの方が、まだ見られる顔をしていると思う。
それでも、ここ一週間でかなり進歩した方だと思う。
初日は大粒の涙を零し、涎を撒き散らしながらわんわんと泣き喚いていたのだから。
从 ゚∀从「なーんかリアクション薄くなってきたしつまんねーなー」
そんな安い挑発に乗る気力など、とっくに消え失せていた。
走るペース、ナイフを振るう頻度を、無理なく一定にとどめておけば、今のぼくなら軽々と完走出来るかもしれない。
けれどハインがそれを許さない。
惰性に身を任せようとした意識を引きずり起こすように、その意識の隙間に痛烈な蹴りを見舞ってくるからだ。
そうこうしている内にまた一発、蹴りが飛んできた。
感覚すら薄れてきた腕でそれを受け、ナイフを振るう。
-
早朝から午前中を丸々潰してフルマラソン訓練を終え、ぼくとハインはペストに来た。
寮でシャワーを浴びて再集合し、談笑しながら向かったので、店に着く頃には昼のピークタイムは終わっていた。
ξ゚⊿゚)ξ「あんた達最近仲良いわよね。もしかして付き合ってんの?」
(;´ω`)「ぶふぉっ!?」
从 ゚∀从「あっちゃ〜〜バレた? こいつがどうしてもって頼み込んでくるもんだからさぁ」
( ´ω`)「勘弁してくれお……」
この一週間、ハインと共に過ごしてみて分かったのだが、彼女はとても気まぐれだった。
その場その場で彼女はころころと表情を変え、時には根も葉もない嘘を吐く。
どうしてそんなことをするのか。
考えるのも馬鹿らしかった。
彼女は今が楽しければ何でもいいのだろう。
だから面白そうだと判断すれば、人の学園生活を脅かすような嘘も平気で吐くし、銃弾が飛び交う危険地帯にも鼻歌混じりに突っ込んでゆく。
-
我儘で、気まぐれで、横柄で、彼女と話すのはそれだけで疲れる。
从 ゚∀从「なんだジロジロ見やがって。目ん玉フォークで刺してやろうか」
( ^ω^)「そういう脅し、君が言うとちっとも面白くないからやめてほしいお」
从 ゚∀从「脅し? は? 何の話だよ」
どうやらほぼほぼ本気だったらしい。
ぼくの皮肉は伝わらなかったようで、彼女は綺麗にクリームパスタを巻き取り、一口一口控えめに食べ進め、時折トマトジュースで流し込む。
一週間前は喧嘩を売っているのかと言われたが、どうやら気に入ったようで、彼女が飲み物を飲んでいるのを見る時は、大体トマトジュースを飲んでいた。
改めて吸血鬼がトマトジュースを飲んでいるのを見ると、それはシュールでしかなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「身体張ったギャグ?」
ああもうツンさん。
そうやって無自覚でハインを刺激するのはやめてくれ。
-
こうして彼女について、あれやこれやと考察してみると、どうしても不平不満が多く漏れてしまう。
けれどもぼくは思う。
今の関係がクー会長の抑止力の上でしか成り立たないものだったとしても、彼女は、決して悪い"人間"ではないと。
善悪の基準を定める倫理観自体が形成されておらず、ただ純粋に面白さだけを求める。
ぼくには、ハインリッヒというものが、そんな赤児のような無垢な存在に見えた。
或いは、彼女こそがこの学園の規則を真っ当出来ている模範生なのかもしれない。
綺麗にパスタを巻き取るその食事作法は、粗暴な言葉遣いには似つかわしくない。
それだけではなく、ぼくは彼女の不意の仕草に、自分のような乞食では触れることも許されないと思えるほどの、品の高さを感じることが出来た。
大人としての品格、子供としての無垢。
その両方を内包した彼女は、ぼくのような子供にとって、手が届きそうで届かない、憧れのようなものに変わってゆくような気がした。
( ^ω^)「ハイン」
从 ゚ー从「んー?」
( ^ω^)「呼んでみただけだお」
フォークが飛んできた。
品があるなんて言葉は撤回しようと思う。
-
午後の特訓も壮絶だった。
それでもこの一週間で、随分と体力がついたと思う。
最初の二日は食事も出来ないほどに疲弊していたが、今となっては昼食を多めに食べても吐かずにこなせていた。
从 ゚∀从「だぁから何度言ったらわかるんだこのノロマぁ!」
(;´ω`)「は、はいいいいいいっ!!」
从 ゚∀从「ガン! ズガン! ズドン!! だ!!」
(;´ω`)「ガンだおズガンだおズドンだお!!」
从 ゚∀从「違う!! ガン! ズガン! ズドン!! だ!! おんなじことを何回も言わせんな豚野郎!!」
(;´ω`)「ぶひいいいいいい!!」
時折自分が何をやっているのか分からなくなる。
それでも一人でひたすら走り込むよりかは有意義だ。
ぼくは現時点でどれだけ強くなっているのだろうか。
そう言えばこの一週間、ドクオの顔を一度も見ていない。
ぼくとドクオの間にある長い隔たりは、どれだけ埋まっただろうか。
-
从 ゚∀从「お前とドクオの差ぁ?」
言いながら、ハインは大の字で地面に仰向けになったぼくに、バケツで水をかけた。
汗で火照った身体が急速に冷えてゆく。
夜風がジャージから露出した肌を舐め、心地良い冷気を与えてくれる。
从 ゚∀从「正直あいつの実力がイマイチ把握出来てねぇから何とも言えないんだわな」
( ^ω^)「そうなのかお?」
ううむ、と仰々しく考え込むように唸りながら、ハインはスポーツドリンクを手渡してくれた。
こういう細かい気配りまで出来るのだから、ぼくは本当に彼女というものが分からない。
从 ゚∀从「今まで何回か殺り合ったことはあるけど……あいつも俺も本気を出したことはねぇからなぁ」
ぼくが見たドクオの身のこなしも、まだまだ本気ではなかったということか。
それだけで、ぼくは彼と自分の差を痛感させられた。
だがドクオはハインと違って、ぼくと同じ人間だ。
彼に出来て、ぼくに出来ない道理は無い。
-
从 ゚∀从「そもそもお前と俺を比べるのと同じようにナンセンスなお話だと思うんだよな。凡人と、人を殺すべくしてそれに必要なものを持って生まれた人間。吸血鬼と人間……とまではいかねぇけども、そもそも土俵が違うと思うね」
( ^ω^)「つまり、ぼくはドクオと同じように強くはなれないということかお?」
从 ゚∀从「ああ、そうだ」
解ってはいた。
だがこうして面と向かって言われると、ショックを受けずにはいられなかった。
ではどうしてハインはぼくに稽古をつけてくれているのだろうか……と、考えるまでも無かった。
それが単純に楽しいからだ。
学園の強者達からすれば、ぼくの努力など虫の足掻きのようなもの。
それをまじまじと眺める事に楽しみを見出すことがあっても、何ら不思議ではない。
( ^ω^)(疲れて、少し卑屈になってるだけだお)
濡れた髪の毛を掻き回しながら、夜空を見上げる。
湿気が多いこの時期にしては、星がよく見えた。
-
从 ゚∀从「まぁそうがっかりしなさんな。何もドクオと同じように強くなる必要はねぇよ。それに……凡人がよくこんなメニューについてこれてるなと思うね俺は」
視界に広がった星の絨毯を、ハインの顔が遮った。
冷たく、細い指がぼくの額から頬を伝って滑る。
从 ゚∀从「こういう身の丈を越えた努力は、俺もドクオも出来ない。そういう意味じゃお前は俺らより優れてるのかもしれねぇぜ? 飲み込みもメチャクチャはえー方だしよ」
こういう時、涙でもこぼせば少しは絵になるのだろうか。
ぼくの感性はどうやら役者には向いていないようで、彼女の口から紡がれる言葉を淡々と受け止めていた。
从 ゚∀从「"人間"ってやつは皆違って皆良いんだろ? 強さの種類も一つじゃねぇさ」
それはある種の自虐なのだろうか。
一週間前、腐っても人間でいたいと言ったぼくを、ハインはどう思ったのだろうか。
それを考えるには、あまりにも疲れ過ぎていた。
( ^ω^)「ハインは……優しいお」
从 ^∀从「おう、慣れねぇこと言ったせいで牙がムズムズしてらぁよ」
ハインは口元を緩め、少しだけ長い犬歯を見せた。
もっと早く、早く強くなろうと、思った。
-
ミルナは第八ブロックを歩いていた。
昼間でも閑散とした雰囲気のせいで、ここは常に薄暗い。
夜になれば、崩れた瓦礫を揺らすのはグロッキーになったジャンキーだけで、この場所で得られるものは何も無い。
専ら末期のジャンキーの溜まり場になっているここは、元々プールやジムなどの施設が集まる区域だったのだが、かつてここで十席の王位を継承する者同士がぶつかり合った際に廃墟と化し、施設は軒並み第七ブロックに移された。
( ゚д゚ )「臭いな」
他のブロックでの軽い小競り合いによって生じた血痕や破損物は、生徒会が率いる作業員によって処理されるのだが、ここだけは例外だ。
廃墟と化し、ジャンキーが集うようになったこの区間では、日夜強姦やリンチが行われており、腐乱死体が転がっていることもある。
そんな荒んだ空間にいるにはあまりに場違いな、凛とした侍。
ミルナは、とある目的を果たすため、ここに立っていた。
-
( ゚д゚ )「にわかには信じられんな。こんな吹き溜まりに第三王位がいるとは」
彼の目的とは、第三王位と切り結ぶことだ。
( ゚д゚ )「ジョルジュ長岡……楽しみだ」
一週間前、ドクオに刺された傷が疼き、ミルナは肩口を抑えた。
一瞬の隙を突かれ、取り逃がしたものの、自分の戦闘能力はドクオを上回っていると、ミルナは確信していた。
一年生で他にめぼしい者は数人いるが、彼から見て、実際に切り結ぶに値する者はドクオだけだった。
つまり、今の彼には、自分がVIP学園一年生の中で最強であるという自負がある。
ドクオとの闘いの後、ミルナは中華マフィアに追われる身となったが、その日のうちに仕向けられた刺客を斬り捨てると、追っ手は来なくなった。
それから彼が着手したのは、十席の王位についての調査だった。
-
誰が十席の王位を継承しているのか。
入念に調べ、他学年の猛者にも聞き込めば何人かはそれで見つかるだろう。
だが学園の顔、生徒会長として公に立っている第二王位素直クール以外は、基本的にその存在を隠している。
時には暴力沙汰に発展しながらも、この一週間を調査に費やしたミルナは、ついに第三王位ジョルジュ長岡に辿り着いた。
_
( ゚∀゚)
竹を割ったような痛快な性格であること。
彼は第八ブロックのとある廃墟を居城として構え、そこに溜まるジャンキーの世話を焼いたりしていること。
そして、彼と闘った者は皆、現存する如何なる兵器を用いても、彼に傷一つつけられなかったことを知った。
しかし彼に下克上を仕掛けた者の中に、死者は一人も出ておらず、皆何かしらの傷を負ってはいるものの、学園生活に復帰しているらしい。
( ゚д゚ )(今夜は……胸を借りるつもりで挑むさ)
今のミルナにとって、好都合な相手だった。
仮に今夜、王位に敵わずとも、自分に何が足りないかを学び、次に生かすことが出来る。
-
待ってました支援
-
その廃墟に近付くと、大きな歓声のようなものが聞こえてきた。
ジャンキー達がドラッグパーティでもしているのだろうか。
時折外に漏れる照明の光は途切れるが、ここだけ電気系統は生きているらしい。
( ゚д゚ )(今宵の宴は少しばかり刺激が強いぞ)
錆びれた戸に手をかけ、ミルナは一呼吸置き、勢い良く開いた。
_
( ゚∀゚)「やれやれ、折角のパーティが興醒めだ。外からでもビンビン伝わってきたぜ、お前の殺気」
ミルナが敷居を跨ぐと、ジョルジュは深く溜息を吐きながら言った。
金髪に染め上げた髪は肩甲骨まで届き、毛先は針鼠の体毛のように鋭い。
細身のジーンズだけを履き、上半身には何も纏っておらず、やや痩せ気味の骨格が浮き彫りだ。
一見頼りなくも見えるその身体には、トライバルのような刺青が彫り込まれていた。
薄汚れたソファに寝そべった彼の周りには、頬を弛緩させた数人の女が裸同然の姿で群がっている。
部屋の隅で性交に汗を流す男女を見つけ、ミルナは斬り捨ててやりたくなる衝動に駆られたが、視線を今宵の相手に戻した。
-
( ゚д゚ )「第三王位、ジョルジュ長岡と見受ける」
ミルナは腰に差した太刀を抜き、半身をジョルジュに向け、腰を深く落とす。
ドクオの身体を切り刻んだ【風穿ち】の構えだ。
( ゚д゚ )「今宵は貴様の首を取りに来た!」
手首を揺らし、渾身の力を込めて眼前に円を描く。
同時に巻き起こる突風。
風の刃はジョルジュの周りのジャンキーをも巻き込み、物言わぬ肉塊に変えてしまうだろう。
構うものかと、ミルナは思った。
志しも無く、目の前の快楽を貪ることしか考えられない輩に生きる価値は無い。
彼女らが自分の刃に巻き込まれ、命を絶とうと、ミルナの良心は微塵も痛まない。
_
( ゚∀゚)「やれやれ、スマートじゃないねぇ。ビッチ達が怪我しちまうだろうが」
ジョルジュはソファに寝そべったまま指を鳴らした。
彼の所作はそれだけだった。
-
ジョルジュとジャンキーの少女達を守るように、炎の壁が舞い上がった。
(; ゚д゚ )「なっ……」
足元に火を噴出する装置を隠していたのだろうか。
ミルナは自身の奥義を、予想の斜め上をゆく手段で防がれたことに動揺し、現状を考察する判断能力を掻き乱されていた。
炎が噴き出す足元には何の仕掛けも無い。
それに気づかないどころか……
_
( ゚∀゚)「いーい刀だ。どれ、ちょっと貸してみ」
ジョルジュが自分の眼前に飛び込んできたことにすら気付けなかった。
(# ゚д゚ )「しっーー!」
短く息を吐きながら、ミルナは袈裟斬りを放つ。
無駄の無い一閃だった。
_
( ゚∀゚)「おう、ありがとな」
-
鉄をも断つ彼の斬閃は、敵意なく伸ばされた掌であっさりと受け止められた。
ミルナには、今何が起こっているのか理解出来なかった。
突如噴き出した炎。
自分の渾身の一太刀が、掌であっさりと受け止められたこと。
これまで股にかけてきた数々の修羅場の、どの敵を当てはめてみても、何が起きているのか検討もつかない。
_
( ゚∀゚)「はぁ、刀ってのはかっちょいいねぇ。このスッとしたフォルム、ギラギラした輝き、刀剣コレクションなんてのも面白いかもな。ただ……」
ミルナは刀の柄を握る掌に、鋭い熱を感じた。
(; ゚д゚ )「なっ!?」
気づけば反射的に刀から手を離し、ジョルジュから身を引いていた。
_
( ゚∀゚)「こんなオモチャで喧嘩しようって発想は、俺にはねぇかな」
-
ミルナの愛刀が、ジョルジュの手の内でどろどろと溶けていた。
鈍色の雫を落としながら、刀だったものは銀色の泥に変わってゆく。
_
( ゚∀゚)「何が起こったのかわかんねぇって面してんな兄ちゃん。わざわざこんな廃墟くんだりまでやってきて、俺に挑んだ威勢は買ってやるよ。土産話に持って帰っときな」
刀の柄が発火し、火の玉となって床に落ちる。
_
( ゚∀゚)「VIP学園三年、第三王位ジョルジュ長岡。現存する魔術師の系譜の中で最古にして最強の系譜、セントジョーンズの血を引く者だ」
セントジョーンズの系譜。
魔術師。
最古にして最強。
ジョルジュの言葉はミルナの耳に、断片的にしか入ってこなかった。
(; ゚д゚ )「ふっ……ふっ……」
勝てる自信など無かった。
だが、侍である自分が、愛刀を手放してまで生きながらえようと身を引くとは……
それは命の危機を本能が察したがゆえの、咄嗟の行動。
これまで体験してきた修羅場に、彼をここまで恐怖させるものは無かった。
-
_
( ゚∀゚)「じゃあな期待のルーキー。少しばかり熱いからしっかり逃げろよ」
(; ゚д゚ )「……っ!」
ミルナは突如巻き起こった熱気のようなものが自分の肌を舐め、ジョルジュの方へと収束してゆくのを感じた。
不味いーー
脳が警鐘を鳴らすよりも速く、ミルナの身体は動いていた。
開いた戸から一目散に外へと飛び出した。
その直後、強烈な熱気がミルナの背中を舐めた。
(; ゚д゚ )「おおおおおおおおおおおおっ!!」
喉が張り裂けんばかりに叫びミルナは全力で駆けた。
途中で躓きそうになり、片方だけ下駄が脱げた。
走りにくさを感じてもう片方も脱いだ。
腐乱死体の肉片を踏んだが、それに構う余裕は無かった。
-
侍としてのプライド。
培ってきた経験。
強者としての矜恃。
それらを、まるで血気盛んな子犬を軽く愛でるような態度で一蹴されてしまった。
刀はあっさりと溶かされてしまった。
それはミルナにとって重大なことだったが、それよりも重大なもの……
ミルナの心の刃が、へし折られてしまった。
-
_
( ゚∀゚)「はっはっはっはっ。逃げろ逃げろぉ。命あっての物種だぞぉ」
ジョルジュはミルナを追う事はせず、ただその場でからからと笑っていた。
結果として相手はあっさりと逃げ出したが、久々に挑戦者が現れたことが、ジョルジュは純粋に嬉しかった。
それも相手は一年生。
自分が第三王位であることを知りながら、敵わないことを知りながら、正々堂々と不意も打たずに正面から切りかかってきたのだ。
_
( ゚∀゚)「ミルナか……お前は絶対強くなるぜ。その命、大切にしろよな」
ジョルジュは入学当時の自分とミルナを重ねていた。
必ずこの学園のトップに立ってやると、崇高な志しを胸に学園の門扉を開けた自分。
得意の魔術を行使し、第三王位に上り詰めた彼は、いつの間にか挑戦する心を忘れてしまっていた。
_
( ゚∀゚)「少しばかり、怠け過ぎていたのかもしれねぇな」
-
第三王位という地位に甘んじ、ジャンキーを見下してドラッグパーティに浸る日々。
こんなものは、彼が心の底から望んでいたものではなかった。
ジョルジュはジーンズのポケットから携帯電話を取り出し、発信する。
_
( ゚∀゚】「あ、もしもしクー? うるせぇな、どうせ起きてたんだろ」
電話の相手は素直クールだった。
生徒会長にして第二王位を継承し、彼の一歩上をゆく少女。
_
( ゚∀゚】「用ってほどじゃねぇけどよ……まぁ宣戦布告ってやつだよ」
飄々とした表情を浮かべながらも、ジョルジュはその拳を固く握っていた。
_
( ゚∀゚】「近々お前の椅子ひっくり返してやっからよ。首洗って待ってな」
ジョルジュは電話の向こうのクーの返事を聞き、別れの挨拶も無く電話を切った。
ぎらついた艶を持った彼の金髪が闘気に煽られ、逆立っていた。
-
夜、ハインと語った日から一週間が経った。
( ^ω^)「雨、かお」
いつもの通りハインとの待ち合わせ場所に走り出す。
滝のような雨が降り注いでいたが、雨が降ろうが降るまいが、どうせ汗で全身を濡らすことになるのだ。
雨音で自分の足音すら描き消えるのに少し違和感があったが、身体が雨に打たれることは大して気にはならなかった。
( ^ω^)「最初は死ぬかと思ったけど、随分体力がついたお」
ここからハインの元まで全力で駆け抜けても、ウォーミングアップにすらならないだろう。
目に見えて分かる自分の成長に、時折武者震いすることすらあった。
-
成長に確信を持てたのは先日のことだった。
ーーーー
从; ゚∀从「うおっと!?」
( ^ω^)「おっ……やったおおおおおおおおおお!!」
四十二キロを完走するか、ハインに一太刀入れるまで終わらない地獄のフルマラソンを、ついに先日、ハインに一発入れる方法で終わらせられたのだ。
ナイフを突き出してからの上段蹴り、それをフェイントとして地面すれすれに放った足払いが、ハインを転ばせた。
ーーーー
あの時の感覚を、今でも鮮明に思い出すことが出来る。
その日の終わりに、ハインはそろそろ修行メニューを変えるかとぼやいていた。
もしかしたら、今日は今までの訓練など準備運動だと言わんばかりの訓練が待ち構えているかもしれない。
だが恐怖も、焦りも無かった。
ぼくはドクオにもハインにもなれない。
しかし確実に強くなっている、ぼくという人間としての最終形に近付いている。
拳を固く握ると、高揚した熱が篭るのが分かった。
-
(゜3゜)「おら暴れたって無駄だ!」
*(‘‘)*「ひっ……」
大通りから一本路地に入って、近道を通り抜けようとした。
そこにはずぶ濡れになった一組の男女がいた。
あどけなさを残す可愛らしい少女の上に、屈強な大男が覆い被さり、拳を振り上げていた。
これからこの場で何が行われようとしているのか、その光景を視界に収めると同時にぼくは理解した。
( ^ω^)「待つお」
ぼくが静かに呼びかけると、大男は振り上げた拳を止め、こちらを見た。
(゜3゜)「なんだ兄ちゃん。見りゃわかんだろ、お取り込み中だ。怪我したくなかったらとっとと失せな」
男は下半身を露出していたが、ズボンを履き直し、立ち上がった。
*(‘‘)*「あがっ……」
小柄な少女を腹を踏み付けて。
-
( ^ω^)「……下衆が」
恐怖は微塵も無かった。
以前のぼくなら、気付かれないように回れ右をして退散していただろう。
拳を握り、一歩踏み出し、自分よりも一回り大きい男の、下卑た顔を見上げる。
(゜3゜)「死ねクソガキ」
何の予兆も無く飛んできた拳を、頬に当たる直前で左腕で受ける。
衝撃はかなりのもので、腕は痺れた。
だが受けられないことはない。
( ^ω^)「はっ……!」
手刀を男の首筋目掛けて放つ。
何の捻りもない一撃は当然あっさり受け止められるが、それはフェイントだ。
身を翻して放つ後ろ回し蹴りを、胴にーー
-
(゜3゜)「ちっ……」
手刀を受けた左腕を真っ直ぐ降ろし、男はぼくの蹴りを上手く受けた。
( ^ω^)「甘いお!」
だがそれもフェイントだ。
本命はこっち、蹴りの反動を殺さず放つもう片方の飛び蹴りだ。
ぼくの身体は宙に浮かび、足の軌道は的確に男のこめかみを捉えていた。
足の甲がびりびりと痺れる感覚が心地いい。
完全に捉えた。
(゜3゜)「終わりか? 兄ちゃん」
(;^ω^)「おっーー!?」
男のにやけ面を視覚すると同時に頭に衝撃が走った。
-
(゜3゜)「弱っちぃ癖に突っかかってくんじゃねぇよ。ここVIPだぞ? 分かってんのか?」
( ω )「…………」
何度殴られただろうか。
朝食に食べたトーストは早々に吐き散らしたし、首から上の感覚が麻痺し始めた頃には泣いて許しを乞うたような気がする。
男はぴくりとも動けないぼくを見て満足したのか、腹を踏み付けられて項垂れる少女の元へと戻り、髪の毛を引っ張った。
*(‘‘)*「いっ、いやだっ……たすけっ……」
( ω )「…………ごめんお」
喉から声を絞り出し、ぼくは彼女に詫びた。
その声は彼女に届いただろうか。
泣きじゃくる彼女の表情の中に、恨めしそうな眼光を見た。
髪の毛を引っ張られ、遠くに連れられてゆく彼女から目を背けるように、ぼくは目を閉じた。
-
从 ゚∀从「いつまで待ってもこねーから探してみりゃ……随分と男前なツラになってんな」
全身が痛みで軋み、寝返りすら打てない。
雨に打たれながら無力に悔いているところに、ハインは現れた。
今日の服は白いワンピース……いや、白かったであろう赤いワンピースだった。
( ω )「その血は……?」
从 ゚∀从「そこ抜けたとこの路地裏で屍姦してるきもちわりー男がいたからぶっ殺してきた」
( ω )「そうかお…………」
屍姦、ということは、彼女は暴行の末に命を落としたのだろう。
痛かっただろう、苦しかっただろう、悔しかっただろうーー
何か言葉を搾り出そうとしたが、胸の奥に何か詰まったように苦しくて、声が出なかった。
-
ハインは何も言わず、雨でぬかるんだ地面に躊躇なく膝をつけ、その小さな両膝にぼくの頭を抱えて乗せた。
( ω )「ハイン……ぼく……は……」
从 ゚∀从「喋んなよ。分かってるから」
冷たい指先がぼくの頭を撫でる。
血も通ってないのに、身も凍るほど冷たいのに、どうして、どうして彼女はこんなに温かいのだろうか。
目の奥が熱くなる。
ただでさえ情けないのに、こんなところを、彼女には見せたくないのに……
親に売られた時にすら湧かなかったものが、じわりと染み出してゆくのが分かった。
从 -∀从「ほら、痛いの痛いのとんでけーってな」
滲んだ視界いっぱいに、彼女の顔が映り込む。
少しだけ長い犬歯を見せて、ハインは微笑んでいた。
-
どうしてーー
どうしてこんなに弱く、矮小なぼくに、彼女は優しくしてくれるのだろうか。
そんなことをされたら、ぼくは……ぼくは……
( ;ω;)「つよく……つよく……っ」
从 -∀从「わーってるって」
優しく頭を撫でてくるハインが、記憶の中で埃被っていた母親の姿と重なった。
もっと、もっともっともっと……
( ;ω;)「つよくなりたいお!!」
零れ落ちる涙は止められなかった。
喉の奥から込み上げる空気が、嗚咽となって零れるのを抑えられない。
从 ^∀从「今日はいい天気だな。雨のせいでお前の顔がよく見えねぇし、何言ってんのかわかんねーや。ごめんな?」
そう言って、ハインは薄暗い空を見上げた。
ぼくは十年ぶりに、声を上げて、泣いた。
喉が張り裂けるほどに、大きな、大きな泣き声を上げた。
-
はい今日はこれでおしまい。俺乙。
ついつい話数重ねるごとにレスが長くなってしまうな、さくさくいこう
んじゃまた近々
-
おつ
ハインはやっぱ可愛いなー
-
乙
次回も楽しみにしてる
-
乙
ドクオがミルナより劣るという風潮やめろマジやめろ……アルファの罪は重い
-
お前乙
-
乙
冒頭の場面にはいつ繋がるんだろうか
-
>>148
この作品でもアルファでもそんな明確な優劣無いだろ
ビルではドクオ逃げ切ったし、そもそもミルナを殺すのが目的では無かったわけだし
アルファでも智略ならミルナは後手後手、武力も純粋な一騎討ちなら別な結果だったでしょ
-
他作品の名前出しはやめとこうな
乙
ハインかわいい
-
乙。ブーンとハインの関係よいね
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いつ冒頭の場面来るんだろうな楽しみだ
-
乙
人外だけど優しい師匠のハイン×強くなりたい弟子のブーンでなんとなくconnect思い出した
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百物語で盛り上がってる中空気を読まず投下
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第六話「掌の中の戦争。コーヒーカップに湛えた殺意。」
-
ドクオはミルナに斬られ、ミルナはジョルジュに手折られ、ジョルジュはクーに宣戦布告をし、ブーンは自分の無力を悔いた。
その他にも、学園内では様々な思惑が交錯し、時に崇高な決意は不条理な暴力によって踏み躙られる。
あらゆる体裁が雑多に放り投げられたような空間。
だが、だからこそ流石兄弟はここが本来あるべきシンプルな世界なのだと思っていた。
( ´_ゝ`)「先ずはワンバース、決めるビギナーズラックじゃないリリックサグ。ジグ、ザグ、な道、を駆け、抜け、小節間は直感で突き抜ける俺は無頼漢」
(´<_` )「お前が無頼漢ならば俺ライカブライアンアダムス。つまりその固いライムをほぐすフロウする。押韻だけがラップじゃねぇゴーイングマイウェイ、俺のが道進んでるぜ」
( ´_ゝ`)「押韻だけがラップじゃねぇ。確かにそうだがお前超だせぇ。ありきたりなフロウなら期待値無いし、ここらで切り上げるぜジャイアントキリング!」
交互にお互いを貶すラップをぶつけ合い、的確な押韻やビートに乗ったフロウが飛ぶたびに、オーディエンスの歓声が沸く。
-
第五ブロックには娯楽施設が集結していて、その中でもライブハウスの集合地帯では、昼夜を問わずビートに乗り踊る者やギターを掻き鳴らす者で溢れかえっていた。
その中でも一際異彩を放つ流石兄弟。
彼等のサイファーやMCバトルの人気は絶大で、ふらりとハコに顔を出してラップをすればチケットは即ソールドアウト。
狭いハコならばオーディエンス席は寿司詰め状態になる。
<_プー゚)フ
沸き上がる歓声の中、一人壁に背を預けて鋭い目付きでステージの流石兄弟を見据える男がいた。
彼の名はエクスト。
VIP学園第十王位を継承する者であり、第五ブロックのロックスターだ。
日頃ライブに明け暮れ、暴力沙汰とはほぼほぼ無縁でひたすらギターを掻き鳴らす彼が、王位の継承者であると知る者はコアなファンの中でも極一部だ。
ロックバンドを生業としている彼がなぜ水と油のようなクラブイベントに、客として訪れているか。
それは、流石兄弟が彼を特別ゲストとして招いたからだ。
-
<_プー゚)フ「いいバトルだったよ。ヒップホップ畑のことはよくわかんねーが、客の顔見りゃお前らが熱い奴等だってことはよくわかる。いいもの見せてもらったよ」
(´<_` )「ありがとな。今度あんたのライブにも呼んでくれよ。あんたの囲い全員掻っ攫ってやるさ」
( ´_ゝ`)「オファー代はいらねぇぜ。俺たちもうマイメンだからな」
エクストと流石兄弟は握手を交わし、笑い合った。
ライブハウスの外には三人が並んでいるのを拝もうと、人だかりが出来ている。
昼と夜とでは、やはりこういうイベントは夜の方が盛り上がるものなのだが、正午に行われたこのイベントには、ここ半年で一番の数の観客が足を運んできていた。
<_プー゚)フ「じゃ……」
背負っていたギターケースを傍に置き、エクストは咳払いした。
<_プー゚)フ「そろそろ本題に入ろうか」
-
ギターケースのネック部分にブレザーを掛け、エクストは鋭い眼光で流石兄弟を睨む。
先ほどまでの友好的な空気から一変し、両者ともに臨戦態勢に入ったことに、オーディエンスも気付いていた。
小柄で、サイドの髪を長く伸ばしたその容姿は、やや幼い顔立ちもあり、美少年といった印象を与える。
だが、今エクストが放つ闘気は、そんな生易しい印象を吹き飛ばすだけな凄味があった。
(´<_` )「本題? 何の話だ」
<_プー゚)フ「とぼけるんじゃねぇよ。俺とお前らの間で、きな臭い探り合いなんて抜きだぜ」
エクストよりも小柄な弟者が一歩前に踏み出し、威嚇するような目付きでエクストを睨む。
そしてそれを意に介さないエクスト。
一触即発の空気でありながら、彼等の間に怨恨や憎しみといった感情は無い。
<_プー゚)フ「俺の椅子が欲しいんだろ? VIP学園第十王位がよ」
三人を囲む人だかりが、波打つようにざわめいた。
-
( ´_ゝ`)「話が早くて助かるよ。ここにいる観客達が伝説の生き証人となるわけだ。今日あんたは俺たちに負け、俺たちが王位を継承する」
<_プー゚)フ「王位は一席につき一人しか座れねぇぞ? まぁ俺は二人がかりだろうと構わねぇし、負けるつもりなんてさらさら無いけどよ」
(´<_` )「王位の椅子には兄者が座る。俺たちはいつだって二人で一つ、どっちが称号を得ようと同じことだ」
( ´_ゝ`)「そういうこった。んじゃ、早速始めようか。ここからが俺たちのライブの本番だ」
薄っすらと曇った空、吹き付ける風。
自然すらも、三人の戦いを厳かに彩った。
兄者が一歩踏み出す。
空気がびりびりと震え、三人を囲っていた人だかりが一斉に距離を置いた。
エクストが一歩踏み出す。
強く地面を踏み締めた足を中心に、クレーターが生じた。
ライブハウスが安定した基盤を失い、みしみしと音を立てる。
-
( ´_ゝ`)「bring the beat!!」(´<_` )
二人は掛け声と共に二手に分かれ、閃光の如く駆け回った。
常人には視覚することもままならないその軌跡は、うっすらと赤と緑の幻影を残し、一対の蛇のようにうねり狂う。
<_プー゚)フ「速いな……」
片方ずつを相手取るならば、素直に軌道を目で追い、首根っこを掴んでやればいいだろう。
だがエクストは、その行為が悪手であることを理解していた。
どちらかを手にかけようとすれば、もう片方の閃光が自分の死角から決定打を狙ってくるだろう。
反応が遅ければ、それは狙い所次第で即死に至る一撃となる。
ここまでの手練れともなれば、当然一撃を打ち込める隙があれば躊躇いなく正中線、人間を死に引きずりこむ急所のラインを狙ってくるはずだ。
( ´_ゝ`)「よっとーー!」
足元の地面の砂が舞うと同時に、エクストは受けの構えを取った。
両手で身体を支えながら、カポエイラの要領で放たれた兄者の蹴りを顎に届く寸前で防ぐ。
-
<_プー゚)フ「ひゅー……こいつぁ痺れるぜ」
初手は最初から譲るつもりだった。
その一撃で全てを見定め、自分が力を振るう価値の無い者だと判断すれば、一瞬でその首を獲ろうと、そう決めていた。
兄者の蹴りはまだまだ本気ではない。
それでも、エクストの期待を大きく上回るものを持っていた。
(´<_` )「次はこっちだ」
緑色の閃光が視界を掠める。
声は、エクストの背後から響いた。
考えるよりも速く、エクストの腕が反射的に動いていた。
弟者の声から、振り向かずして彼の首が自分の背後のどの位置にあるのかを瞬時に判断し、刈り取るように掴みにかかる。
細い首を掴む感覚が、エクストの掌に走った。
-
<_プー゚)フ「捕まえたぜチビ!」
エクストは丹田に力を込め、自身の"特異体質"から成る必殺の一撃を放とうとした。
(´<_` )「捕まえたのは俺の方だ」
エクストの意識の隙間を縫うように、弟者の小柄な体躯が彼の腕に巻き付いた。
(´<_` )「まずは左腕」
まずいーー
咄嗟に弟者を振り払おうとしたが、遅かった。
それはいやに小気味の良い音だった。
エクストの左肘から先が、本来曲がる方向とは真逆の向きに折れた。
<_フ;゚ー゚)フ「ちっ……!」
一瞬で冷や汗が溢れ出る。
それはあくまで人体としての当然の反応で、腕が折れた痛みくらいならば、エクストは楽に耐えることが出来た。
しかし腕を折るだけでは飽き足らず、そのまま蛇のように首に足をかけ、巻き付いてくる弟者を振り払えない。
それは、エクストにとって致命的な隙となり得た。
-
( ´_ゝ`)「っしゃあああああ!! 上げてくぜ俺たちのバイブス!!」
赤い閃光がエクストの頭上に舞い込んだ。
縦に回したコマのような遠心運動
足刀が、エクストの頭部を両断する鎌となり、頭頂部を的確に捉えた。
<_フ; ー )フ「がーーっ!」
常人ならば文字通り頭が弾け飛んでいただろう。
だがエクストは、兄者の踵が頭に当たる寸前に首を下げ、衝撃に逆らわないことによって致命傷を避けた。
(´<_` )「ふんっ!」
弟者はエクストの好判断に、兄者より先に気付いていた。
全体重をかけ、エクストを引きずり倒し、そのままもう片方の腕を固める。
-
<_プー゚)フ「調子に乗んのも……大概にしとけ……!!」
発光ーー
エクストの髪が逆立ち、彼にまとわりつくように視覚可能なほどの威力を持った電撃が発生した。
当然、彼の腕を固めていた弟者はそれに巻き込まれる。
( <_ ;)「ぐーーっ、ああああああああっ!?」
あくまで人間を相手にしているという認識を捨てきれていなかった弟者は、突然の衝撃に備えることが出来なかった。
不意を打つように突如現れた電撃が弟者の身体を刺す。
弟者の拘束から解放されたエクストは折れていない片腕を地面につき、その力だけで飛び上がり、復帰する。
( ´_ゝ`)「弟者!」
(´<_`;)「構うな! 大したことない!」
-
<_プー゚)フ「今のはほんの一割程度だ」
逆立った髪が針鼠の毛のように鋭くなる。
怒髪天を衝く、とはまさにこのことだろう。
<_プー゚)フ「次は五割……お前らに受けきれるかな?」
一際大きな発光。
囲っていたオーディエンスはとうに安全な場所に退避していた。
何人か残っていた命知らずも、エクストが纏う紫電を見るや、すぐに退散してしまう。
(;´_ゝ`)「スーパーサイヤ人かよ……」
その姿は異形なる者。
学園の異形代表として真っ先に挙げられるのはハインリッヒだ。
ヴァンパイアロードである彼女は自身の異能性を隠すことなく、我が物顔で学園生活を送っていた。
彼女のように、表立って行動する異能者はむしろイレギュラーな方だ。
爪を見せた鷹は、二人を捕食せんと、その眼光を鋭く光らせた。
-
<_プー゚)フ「くたばりな!」
クレーターとなった地面を踏み締め、腰を落とす。
次の瞬間、エクストの姿が文字通り消えていた。
(;´_ゝ`)「うぐっ……」
エクストの拳が兄者の鳩尾を捉える。
反応することすら敵わなかった兄者は、ノーガードで拳を捻じ込まれたことによって、胃液をぶちまけそうになった。
<_プー゚)フ「第一回路突破(ファースト)!!」
エクストを取り囲む紫電が、兄者に捻じ込んだ拳に収束し、耳を劈くような音が上がる。
雷撃に身体を舐められた兄者は堪らず声を上げ、反撃しようとするが筋肉が硬直して身体が動かない。
(´<_` )「こっちだ!」
エクストの背後、弟者が飛び蹴りを放つ。
-
<_プー゚)フ「第二回路突破(セカンド)!」
その掛け声は、エクストの能力のリミッターを外す鍵語のようなものだった。
彼はハインリッヒのような、古くから伝わる正真正銘の化物でも、ジョルジュのような、儀式的段階を踏んで異能力を獲得した超能力でもない。
それは突然変異だった。
彼の細胞の一つ一つが、電気エネルギーを発生させる。
そのようにして生まれた時から備わっていたこの力と生きてきたエクストは、それを抑える為のリミッターを天然自然に獲得した。
そして彼は、今自身の敵を狩る為に、その制限を完全に外そうとしている。
(´<_`;)「消えた……!?」
<_プー゚)フ「こっちだ。欠伸が出るぜ」
弟者が振り返るよりも速く、飛び蹴りの構えで無防備になった彼の背中に前蹴りを放つ。
弟者の身体はライブハウスの楽屋の壁にぶち当たり、煉瓦で出来たそれを砕いて中に突っ込む。
-
<_プー゚)フ「ひゅーー……いい球が飛んだな。死んだんじゃね?」
蹴りの姿勢を崩さぬまま、エクストは瓦礫の向こうで倒れ伏しているであろう弟者を案ずる。
<_プー゚)フ「ちょいと本気出したらこんなもんだかんな。気ぃ遣いながらやる喧嘩ってのは疲れるぜ。そこいらのゴロツキなら構いやしねーが、お前らみたいな気持ちのいい奴を殺しちまったら明日の目覚めが悪くなっちまうわ」
右足を前に突き出したまま、左足だけで二、三度跳ねる。
そこの所作、言動に、最早先ほどのような鋭い敵意は無かった。
( ´_ゝ`)「…………」
<_プー゚)フ「ほれ、はやく手当てしてやれ。俺には敵わないってわかったろ」
兄者はキャップを深く被り、依然動かぬままエクストを睨む。
-
深く息を吸い、吐く。
また吸い、吐く。
それを何度か繰り返し、兄者は口を開いた。
( ´_ゝ`)「俺たちマイメン、だが時に対面、そして交わす拳。フットワーク軽くぶっ飛ばす意気込み、勝つか負けるか分からない? だがここらで勝利を決意したい」
小躍りを交えながら、兄者はラップを紡ぐ。
それは自身を鼓舞する歌。
絶対に負けられないと、そう決意しているからこそ、兄者は絶対にエクストから目を切らない。
( ´_ゝ`)「相手はエクスト不足はねぇ。ライカ亜空間殺法、なら俺は頂くぜ飛車角両方。そういう感覚見たことねぇか? だったらここで楽しめばいいさ。交わすバイブス沸かすオーディエンス。それが俺らのやり方だろ?」
エクストはただ黙って、兄者のアンサーを見届けていた。
そしてーー
爆ぜる瓦礫の山。
-
(´<_` )「全然足らんならパンチライン。遊びに来てるわけじゃねぇってことを、この場で軽く分からせるだけだ。王位の中でも最下層? ならこれくらいがそう丁度いいハンデ。ここらで見せよう阿修羅道、俺のが似合う王様の称号」
弟者は静かに瓦礫の山から歩み寄ってきた。
その背には瓦礫の破片がところどころ突き刺さっており、額からは決して楽観視出来ないくらいの量の血が流れている。
<_プー゚)フ「……おもしれぇ」
エクストの心臓の鼓動は高鳴っていた。
ここまで自分の気持ちを昂らせてくれる挑戦者が、今までいただろうか。
再びエクストの髪が逆立ち、先ほどまでとは比較にもならない大きさの紫電が巻き起こる。
<_プー゚)フ「最終回路突破(トップギア)!!」
眩い光を伴いながら落ちてきた稲妻がエクストの身体を打つ。
それは彼の最後の鍵が落ちる契機。
エクストが、流石兄弟を好敵手として認めた証だった。
-
爪'ー`)y-「いやぁ、今日も今日とて、盛り上がってるねぇ。いい事だ。自分の感情に任せて好き勝手出来るのは、子供の特権だからね」
VIP学園第三ブロック校長室。
フォックスは、エクストが映し出されたモニターを眺めながら満足げに笑うと、高価そうなソファにどっしりと背を預けた。
川 ゚ -゚)「今を全力で楽しむ、ですか」
フォックスの対面に座るのは素直クール。
普段着込んでいるロングコートは綺麗に畳んで傍に置いてあり、普段は中々目にかかれない制服姿を露わにしている。
無機質な表情、シミや傷一つ無い肌は、命を持たない人形を思わせる。
腰まで伸ばした黒髪は枝毛すら無く、きめ細かな布のように、彼女の上半身に纏わり付いていた。
-
爪'ー`)y-「その通り、君は生徒会長として面倒な雑務も引き受けてくれて、本当によくやってくれてると思うよ。けど……」
フォックスは煙を吐き出し、まだ長い葉巻を灰皿の上に置いた。
爪'ー`)y-「この学園の校則、きちんと守れているかな?」
四十半ばにしては達観し過ぎている目。
それがクーを真っ直ぐ捉えていた。
全てを見透かすような眼光を前にして、クーは中途半端な言葉ではぐらかす選択肢を奪われた。
川 ゚ -゚)「正直なところ、私はその校則を守る必要性を感じていません」
爪'ー`)y-「ほう、何故?」
川 ゚ -゚)「何者かに強制されて楽しむことを選択する。どう考えても矛盾しています」
結局のところ自分たちは大人達の掌の上で、餌の如く雑に差し出された自由を貪る家畜でしかないのだ。
それがクーの考えだった。
-
川 ゚ -゚)「フォックス学長。貴方は私達子供を手の上で転がして、どうしたいのですか?」
爪'ー`)y-「なに、どうもしないさ。俺は君達子供が各々自由に過ごせる場所を提供し、そこで才能の芽が開花するのを見るのが好きなだけさ」
川 ゚ -゚)「嘘ですね」
クーはソファの背凭れに身を預けた。
背凭れの上に置かれた鬼切九郎丸の鍔が音を立てる。
帯刀せずとも、この位置取りならばいつでも抜ける。
川 ゚ -゚)「この学園の象徴とも言える十席の王位のシステム。これは学校側が組み込んだものではないでしょう。ただ、これを学校側が黙認しているということは、事実上この学校は生徒同士を暴力で競わせ、序列をつけることを推奨しているということです」
十席の王位、その第二席から学園全体を見渡せるクーだからこその見解。
川 ゚ -゚)「これでは貴方の望みとは矛盾してしまう。芽吹くべき才能は、蔓延る暴力に潰されてしまうだけです。実際に、この学園で命を落とした者の中には力以外に突出した才能を持つ者もいたでしょう」
フォックスは無表情のまま語られるクーの見解を聞き、喉を鳴らして笑う。
-
川 ゚ -゚)「何がおかしい」
少しだけ、クーの語気が強まった。
爪'ー`)y-「くくく……随分と猜疑的だなと思ってね」
フォックスは挑発的な笑みを浮かべ、テーブルの上ですっかりと冷めてしまったコーヒーに口をつける。
爪'ー`)y-「確かにさっきのは建前だ。俺の目的は他にあって、そのためにこの学園を運営している」
川 ゚ -゚)「ならばーー」
問いただしかけたクーの言葉を遮り、フォックスはずい、と対面のクーに向かって身を寄せた。
爪'ー`)y-「だがそれを子供の君が知る必要は無い。子供は大人の目の届くところでのびのびと遊びなさい。或いは、そこの鬼切九郎丸を使って力づくで問い詰めるかい?」
川 ゚ -゚)「…………」
クーは反射的に鬼切九郎丸の柄に手をかけていた。
だが、フォックスの言葉通りその刃を彼の首に突き付けることは出来ない。
-
爪'ー`)y-「そう、それでいい。子供が大人に歯向かうというなら、大人はそれ相応の毅然とした対応を取らなければならない。それはとても心苦しいことだし、子供は素直なほどいいのさ」
悍ましい。
その一言に尽きる。
クーには、フォックスの周りの空間が捻じ曲がっているように見えた。
それは見えない威圧感。
自分は得物をいつでも抜ける状態にあるというのに、実際に刃を首に突き付けられているのは、自分だと、クーは焦燥していた。
舌の付け根の辺りを強く噛み、クーは飲まれそうになる自分の心を立て直した。
川 ゚ -゚)「……また来ます」
爪'ー`)y-「やれやれ、これで最後にしてくれと、この前も言ったつもりだけどね」
クーは立ち上がり、畳んでいたコートを肩に羽織る。
鬼切九郎丸をスカートに巻きつけたベルトに帯刀し、真っ直ぐドアに向かった。
-
川 ゚ -゚)「そうだ。言い忘れていました」
ドアノブに手をかけ、クーは首から上だけをフォックスの方に向ける。
爪'ー`)y-「なんだい?」
フォックスは新しい葉巻を咥え、火を点けていた。
川 ゚ -゚)「私は大人達の思い通りになってやるつもりはありません。私だけじゃない……これからの子供達もだ」
ドアを開き、敷居を跨ぐ。
「それが私にとっての、今を全力で楽しむということです」
そう言い遺して、クーは校長室を後にした。
爪'ー`)y-「やれやれ。反抗期の子供は怖いね」
煙を吐き出し、フォックスは下から軽くテーブルを蹴り上げた。
テーブルの上の二つのコーヒーカップは、真横に分かれ、真っ二つになった。
カップの中の液体がテーブルを濡らし、フォックスのスーツの裾に零れた。
-
終わりじゃ!
百物語書きたいから次は遅くなるかも、とか言いつつ何も思い浮かばず普通に三日以内に次話投下してる未来がうっすらと見えた
-
おつおつ
-
追いついた
面白いな
-
今夜の酒のアテだな
-
今夜か明後日に投下
-
第七話「物語の母胎。核心に至る過程、その始まりのようなもの。」
-
何百回打たれただろうか。
何百回打っただろうか。
<_プー゚)フ「いいねいいねぇ! さいっこうだよお前ら!!」
煉瓦の壁に、真横に張り付いたエクストを見据え構えながら、兄者は気を抜けば離れそうになる意識の綱を握り締めていた。
血にまみれたエクストは最早折れた腕を庇おうともせず、破れたワイシャツから覗く腕は紫色に鬱血し、腫れ上がっているのが見えた。
( ´_ゝ`)(化け物かよ……)
事実、第十王位の座を継承するエクストを、人間の範疇で考察しようとすることは、無意味なのだろう。
それでも彼に立ち向かおうとする自分は、弟は一体何者なのか。
徐々に高まる心臓の鼓動音に意識を揺られながら、兄者はそんなことをぼんやりと考えていた。
-
それは脈動ーー
自身の中でふつふつと湧き上がる衝動の渦を認識しながらも、兄者はその波に身を委ねることなく、しっかりと二本の足で地面を踏み締めていた。
コロセーー
( ´_ゝ`)(黙れ……)
クラエーー
( ´_ゝ`)(うるさい……)
コロセーー
コロセ、コロセ、コロセ、コロセコロセコロセコロセコロセーー!
( ´_ゝ`)「黙れっつってんだろ!!」
兄者は愚直にエクストに向かって突っ込んだ。
<_プー゚)フ「馬鹿が!」
エクストを中心に雷撃の嵐が巻き起こり、何の策もなく突っ込んだ兄者はそれに巻き込まれ……
( _ゝ )「が……っ、はっ……」
地に膝をつける。
意識がどんどん薄くなってゆく、が、殺せと命じる彼の中の衝動の渦は強まるばかりだった。
-
(´<_` )(兄者……)
何百回もエクストと拳を交わしているうちに、弟者は兄者の小さな変化に気付いていた。
それは例えるなら巨城の壁に生じた数ミリ程度の亀裂だった。
考えても詮無いことだし、無事に二人で生き残れたらその疑問の正体について言及すればいい。
そもそもそれまで覚えているかも怪しい。
その程度の変化。
(´<_` )「兄者、少し休め。俺がいく」
闘いの序盤、二人は多彩な連携を見せてエクストを翻弄した。
しかしエクストは身体から発生する電気を応用しているのだろう。
その超スピード、超反応、そして、超威力の放電現象を自在に駆使し、二人の連携を崩していった。
やがて目が慣れたのだろう。
二人の連携が息を吐くかの如く軽く捌かれるのを体感し、彼等はやがて交互に一体一の徒手戦を挑むようになった。
-
これは技のぶつけ合いではなく、魂と魂のぶつけ合い。
言わば、精神力の勝負だ。
先に勝てないと、心を折られた者が敗北する。
<_プー゚)フ「ちっくしょう……埒が明かねぇな……」
こんなに長くトップギアをキープし続けたのはいつぶりだろうか。
エクストは、自身を蝕む雷の侵食にひたすら耐えていた。
彼の能力は言うなれば諸刃の剣。
雷撃が一度トップギアに入れば、その力は自身を守る盾にもなるし、敵を穿つ槍にもなる。
汎用性は高く、その力の全てを守りに費やせば、あの素直クールですら迂闊には切り込めない雷の防壁にもなり得るのだ。
だが、その力を行使すればするほど、彼は自分の内臓を傷付けることになる。
-
皮膚は何度も再生を繰り返し、鎧のように硬くなることだろう。
筋肉も、神経もそうだ。
血の滲むような訓練を積めば、痛覚すらも自身で制御出来るようになる。
だが、内臓だけは鍛えようがない。
<_プー゚)フ(……十分……いや、七分持つか……もっと短いかもしれねぇな)
絶大な威力を誇る雷撃は、彼の内臓、特に心臓を蝕んでいた。
このまま殴り合えば、たとえ勝てたとしても今後の生活に支障を来すレベルの後遺症を背負う羽目になるかもしれない。
構うものか、と、エクストは胸の中で吐き捨てた。
熱いものを秘めた男二人が、自分はその全てをぶつけるに足る男だと認め、果敢に挑んできたのだ。
それに対してまず保身を考え、闘いが終わった後のことを考えるなど、男の顔に泥を塗る行為だ。
<_プー゚)フ(そんなの……全然ロックじゃねぇよな)
張り付いていた煉瓦の壁から手を離し、しっかりと地面を踏み締める。
少しよろけそうになるが、視線は弟者をしっかりと捉えていた。
-
(´<_` )「この後に及んでまだ笑う余裕があるのか。正真正銘の化け物だな」
<_プー゚)フ「お前も顔が緩んでるぞ。手鏡でも持ってりゃそのブサイクなツラを拝ませてやれるんだけどな」
エクストも、弟者も、顔中に痣を作っている。
二人は、同じようにうっすらと頬を緩ませていた。
<_プー゚)フ「楽しいか?」
(´<_` )「ああ」
<_プー゚)フ「そうか、俺もだ」
王位など関係ない。
これは一切の憎しみも無い闘いだ。
握り締めた拳から滲み出る、己の存在の証明。
それをぶつけ合う、男同士の喧嘩だ。
エクストも、弟者も、その認識は同じだった。
それぞれ違う環境で育ち、違うものを見て、違う考えを持った男同士が、一つの強靭な意志を共有してこの場に立っている。
-
( _ゝ )「弟者」
三人の中で、兄者だけが違った感覚を持っていた。
彼の本来の性格からすれば、この闘いを率先して楽しめそうなものだが、その表情は暗い。
(´<_` )「喋るな。多分肋骨が折れてる。心配するなよ、美味しいところを持っていくような真似はしない」
( ´_ゝ`)「違う……違うんだよ……」
(´<_` )「何がだ」
弟者は内心苛立っていた。
全身は傷だらけで満身創痍。
だがそれを支える気持ちだけが熱を持って、自分の頭から爪先まで真っ直ぐ伸びている。
身体の芯以外が蕩けてしまって、純粋な闘争心だけが剥き出しになったような感覚。
その麻薬のような心地良さを噛み締めているところに、冷や水をかけられたような気分になった。
( ´_ゝ`)「三分……三分稼いでくれ、そしたら何か掴めそうな気がするんだよ」
兄者の心臓が、強く鳴り響いた。
-
<_プー゚)フ「つまりこの三分が俺の正念場ってわけだ」
エクストは電気の力を足に収束させ、地面を蹴った。
それは人間の筋肉だけでは再現できない超スピード。
(´<_` )「ーーっ!」
反応すると同時に、エクストの拳は弟者の頬を打っていた。
<_プー゚)フ「こちとら時間があまりないんでね!!」
反応が追いつかないほどのスピードを伴った打撃とは、ゲームのように都合良く破壊力が下がり、スピード重視になるわけではない。
加速による相乗効果で更に重くなった拳が、容赦無く弟者の身体を抉る。
(´<_`;)(三分……持つか……?)
弟者の背中を冷や汗が伝う。
既に、四肢の感覚が薄れるほど身体は磨耗しきっていた。
-
( ´_ゝ`)
時間の流れが加速してゆく感覚。
やがて完全に世界が静止したのを確認すると、兄者は目を閉じた。
( ´_ゝ`)「…………」
再び目を開けると、そこには荒野が広がっていた。
心象風景の具現化、とでも言うのだろうか。
実際に兄者がそういう場所に立っているのではなく、心に巣食う破壊衝動が望む世界に、彼は今自身の心を置いていた。
( ´_ゝ`)「なにやってんだ俺。こんな大事な時に」
吹き荒ぶ風は鋭い。
血の匂いが混じっていて、あまり長くいると吐き気を催しそうだな、と、兄者は大きな溜息を吐いた。
『気付いてたんだよね?』
それは優しげな、女の声だった。
どこから聞こえてくるのか分からないが、それでも確かに自分と意思疎通を図ろうとするその声に対して、兄者は深く頷いた。
-
( ´_ゝ`)「あんたは一体何なんだ。エクストとやり合ってる時、ずっと俺に話しかけてきてただろ。超能力か何かか? 念話で話しかけられてる気分だった」
『残念ながらそれは見当違い。何から何まで間違ってるわ。私は超能力者なんかじゃないし、貴方が彼と戦う前から、私はずっと貴方に話しかけていた』
( ´_ゝ`)「……? 確かにここ数ヶ月、たまに今みたいに胸がざわざわすることはあった。それのことか?」
『いいえ、それよりもずっと前から。私は、貴方が生まれた時からずっと貴方のことを見ていたわ』
兄者の視界がねじ切れてしまいそうなくらいにゆがんでゆく。
赤茶けた大地と淀んだ空の色が混ざり合い、黒い渦となる。
それは再び引き伸ばされ、またとある風景を作り上げた。
兄者が見たのは、幼い頃に弟と二人で過ごした自宅の一室だった。
-
「おい弟者! 向こうで喧嘩やってるらしいぜ! 混ざりに行くぞ!」
「おう! どっちがはやく相手を泣かせられるか勝負な!」
( ´_ゝ`)
それは幼き日の幻影。
二人で色んな場所を駆け回った記憶の幻影が、その部屋の中で現れては消えてゆく。
それはまるで、泡沫の夢のようだった。
『兄者も弟者も、いつだって元気いっぱい。私は二人を見ていると、いつだって楽しい気持ちになれた』
( ´_ゝ`)「わけわかんねぇ……」
兄者は舌打ちし、幻影が作り上げたソファの上に座り込んだ。
ところどころ破れていて、固く、長時間座っていると尻が痛くなりそうな質感。
彼の自室のソファと、全てが同じだった。
( ´_ゝ`)「ガキの頃からずっと俺のことを知ってるのは弟者だけだよ。母者も父者も放任主義、妹者は年が離れちまってるしな。でも弟者とは、あいつとはずっと一緒だった」
-
( ´_ゝ`)「でもあんたは弟者じゃない。じゃああんたは誰なんだ? 俺の知り合いに、あんたみたいに眠たくなりそうな喋り方をする女はいなかった」
声の主はくすくすと笑った。
その姿は兄者には見えないが、少なくとも兄者は、そのように判断した。
( ´_ゝ`)「もういいだろ。何処なんだここは。俺をはやく解放してくれ。エクストが、弟者が待ってるんだ」
声色は平坦だったが、兄者は苛立っていた。
この声の主と話していると、自分が地面に足をつけて雲を掴もうと必死に手を伸ばしている気分になる。
掴み所がなく、それでもその存在は確かに感じられる。
夢幻のようなものを相手にしているようだ。
『思い出して。貴方は私を知っている。だって、生まれた時からずっと一緒だったんだから』
視界が歪み、座っていたソファが泥のように崩れてゆき、兄者はその場で尻餅をついた。
視線を上にずらすと、そこには黒い、うっすらと人を模った靄のようなものが浮かんでいた。
-
『思い出して』
視界を築き上げていた絵の具が入り混じり、そこには混沌が渦巻いていた。
乱雑に描き殴ったような、黒い腕が兄者の身体に伸びる。
(;´_ゝ`)「おい!」
自分の肩を掴む黒い腕を振り払おうと身体を揺すった。
だが、自分の身体がそれに合わせて粉のように崩れてゆくのに気付き、兄者は焦燥する。
黒い腕が一本、また一本と、靄の集合から伸びてゆく。
コロセ、コロセ、コロセ、コロセ、コロセ、コロセ、コロセ、コロセ、コロセ、コロセ、コロセ、コロセ、コロセ、コロセ、コロセコロセコロセコロセコロセーー!!
呪いのような言葉の渦の奔流に呑まれる最中、兄者は見た。
从'ー'从
純白のドレスに身を包んだ、可憐な少女を。
从'ー'从「 」
彼女は静かに微笑み、コロセと、口を動かした。
-
ブーンはあの日以来、いつもの待ち合わせ場所に顔を出さなくなった。
俺が出向いて探してやってもよかったが、あいつの為にそこまでするのは癪だったので、何をするでもなく学園内をうろちょろしている。
昼過ぎに目を覚まし、ペストで昼食を食べた。
正直人間が食べるものはあまり好きじゃない。
食べられない、というわけではないが、やはり生き血を啜る方が性に合っている。
でも、あいつと食べるペストの飯は、悪くなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「なに黄昏てんのよ」
从 ゚∀从「黄昏てねぇよ。仕事しろ仕事」
ペストの店主、ツンは堂々と俺が座っているテーブルの対面で、オレンジジュースを飲みながらくつろいでいた。
ランチタイムのピークは過ぎ去り、客足は落ち着いているので問題は無いみたいだ。
サンドイッチと一緒に頼んで、結局一口も飲まなかったトマトジュース。
露で濡れ、赤い液体を湛えたグラスを眺めていると、弟子にしてくれと頼んできた、あいつの顔が思い浮かぶ。
-
最初に見たときは何故か気に入らないやつだと思っていた。
しかしその翌日の朝には、あいつの顔つきが変わっていた。
あのいけすかない生徒会長に、手を出すなと言われたので、元々痛め付けてやるつもりは無かったが、そのことは伏せて少し脅かしてやろうと思ったのだ。
あのにやけ面のずっと奥に、俺は何かを垣間見たような気がする。
それはとても冷たくて、この世のものとは思えなくて、得体の知れない、言葉で言い表すことすら馬鹿らしくなるような何か。
どこかで、自分と重ねていたのかもしれない。
今になって思うと、らしくなかったような気もする。
あいつと修行を積んだ短い期間は、満更でもなく楽しかった。
俺からしてみれば子供の戯れ合いのようなものだが、あいつは凡人なりに頑張っていたと思うし、最初はどこか他人事のように考えていたにもかかわらず、気付けば俺は、次はどんな稽古をつけてやろうかと、常々考えるようになっていた。
-
ξ゚⊿゚)ξ「ブーンのこと、心配なの?」
从 ゚∀从「馬鹿言ってんじゃねぇよ。なんで俺があんなトロくせぇやつのことを心配しなきゃいけねぇんだ」
ξ゚⊿゚)ξ「仲良しじゃない。口じゃそんなこと言っててもわかるわよ」
从 ゚∀从「俺のどこを見てそんな的外れなこと言ってんだ」
ξ゚⊿゚)ξ「人間の食事なんか好きじゃなかったんでしょ? あいつとつるむようになってからここに来始めて、今日も一人で食べに来てる」
俺は何も言い返せなかった。
わざわざ金を出して不味い飯を食うくらいなら、その辺のゴロツキをぶん殴って血を頂いた方がいい。
それなのに、俺はブーンに合わせる必要が無くなった今でも、あいつと一緒に昼飯を食べていた時と同じようにここに来ている。
或いは、ここで時間を潰していれば、またあいつが来るかもしれないと、そう思ったからだ。
-
ξ゚⊿゚)ξ「それにしても」
ツンは俺が押し黙っているのを見て、少しだけ間を置いてくれた。
少し前までは、人の分かりにくい気遣いなんて気付かなかったし、そもそも知ろうともしなかったのに、今はこいつの配慮がわかる。
ξ゚⊿゚)ξ「ロードは生命活動に生き血を必要としてないんだったら、なんで血を吸おうとするのかしら」
話題は切り替わると思っていたが、思ってもみない方向に切り替わったので面食らった。
从 ゚∀从「んなもん、血がうめぇからに決まってらぁよ。正確には、イノヴェルチも生きるだけなら血はいらないけどな」
ξ゚⊿゚)ξ「そうなの?」
从 ゚∀从「ああ。ただあいつらは定期的に血を補給しないと、慢性的な頭痛に見舞われちまうんだ。何をするにも気怠い……風邪で寝込んでる時の感覚がずっと続く感じだ」
-
ξ゚⊿゚)ξ「へぇ……ていうか、吸血鬼の真祖も風邪引くのね」
从 ゚∀从「んなもん引くわけねぇだろ。ロードともなりゃ……あっ」
そこまで言いかけて、俺は自分が墓穴を掘ったことに気付いた。
ξ゚⊿゚)ξ「なに、あんたロードじゃないの?」
俺の言葉の矛盾を即座に拾い上げ、ツンは言及してきた。
俺は観念して、深く溜息を吐いた。
从 -∀从「正真正銘のヴァンパイアロードだよ。元イノヴェルチ、いや、元人間のな」
ξ゚⊿゚)ξ「はぁ? えっ、えっ? ちょっと頭が追い付いてこないんだけど」
別に隠しているわけではないので、俺は正直に白状した。
少し前までなら、うるさい黙れの一言で終わらせられたのに、本当に、俺はどうしてしまったのだろうか。
-
从 ゚∀从「真祖って言われてるし、正真正銘のロードだけど、俺より古い吸血鬼は腐るほどいるんだよ。真祖ってのは吸血鬼の祖先ってわけじゃない。ロードからロードの力を継承した奴がそう呼ばれるだけだ」
ξ゚⊿゚)ξ「なら、ロードはあんた以外にもいるの?」
从 ゚∀从「んにゃ、俺だけだ。ロードは力を明け渡したら死んじまうんだよ」
あいつはその力を俺に明け渡して死んだ。
人として一度死に、イノヴェルチとしてもう一度死んだ俺に、あいつは二度も命をくれたのだ。
あの時の"私"から、俺は、少しは進歩しただろうか。
ξ゚⊿゚)ξ「なんか……話が壮大過ぎてよく分からないわね。あんたを見てから、創作の吸血鬼と実際の吸血鬼は全然違うなと思ったけど……」
从 ゚∀从「そんな大したもんじゃねーよ。ちょっと死ににくい人間くらいの解釈でいいさ」
-
从 ゚∀从「六つの頃までは普通の人間だった。そこでロードに噛まれてイノヴェルチになった俺は、十二の時にそいつから力を継承してロードになった。そんだけだ」
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、あんたは何千年も生きてる吸血鬼ってわけじゃないのね」
从 ゚∀从「はぁ? なんだそりゃ。吸血鬼が天然自然に死なねぇっつっても長生きして三百年くらいなもんだよ。大体は百年生きる前にエクソシストだのヴァンパイアハンターだのに殺されちまうからな」
ξ゚⊿゚)ξ「だって真祖って言うから……」
俺にロードの力を渡したあいつは、二百年以上生きていたらしい。
最早生きることにも飽きたと言っていたが、死ぬことを大らかに受け入れ、自分の意志で死ぬことを選ぶ感覚とはどういうものなのだろうか。
真祖ともなれば、ハンター特製の銀の弾丸や霊装で固めた武器をもってしても死ぬことは出来ない。
つまり、力を継承させることでしか死ねないのだ。
生きようという気持ちがあれば、或いは歴代のロードなら千年単位で生きられるだろう。
だが彼らの中で、そこまで長く生きた者はいないらしい。
-
どういった想いを経て、この力は継承されてきたのか。
从 -∀从(ま、どうでもいいわな)
俺はそこまで考えて、トマトジュースに口をつけた。
トマトの酸味の中に混じる青臭さが、どうにも好きになれない。
ξ゚⊿゚)ξ「あんたも色々苦労してんのねぇ……」
从 -∀从「やめろよそーゆーの。俺のキャラじゃねぇし、俺は折角貰った死なない身体で楽しいことを楽しむだけだ」
俺は今、楽しんでいるだろうか。
自分の思考の水を湛えた器のようななものを前にして、俺は小さな石を握り締めている。
それを器に投じることは出来なくて、俺は、昼下がりのこの時間を、何をするでもなく、何を考えるでもなく、死んだように、過ごしていた。
-
気弱な少年をナイフで脅し、金を毟り取ろうとしていた男を殴った。
三人がかりでジャンキーの少女をレイプしようとしていた男達を一人ずつ殴り、動けなくなったところを全身の骨が折れるまで踏みつけた。
それでもぼくは全然満たされなかった。
こんな子供騙しな実践では、強くはなれない。
婦女暴行から解放された女は、ぼくを見て、鬼、と呟いた。
どうやら力のない者から見ると、ぼくはそのように見えるらしい。
でも足りない。
まだ足りない、全然足りない。
殺されてなお、身体を犯され続けたあの子は、ぼくにとって赤の他人以外の何物でもなかった。
でも、ぼくは確かに悔しかったのだ。
あんな惨めな思いを、繰り返したくはない。
強く、強く、強くーー
もっと強くなりたい。
-
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン……」
久しぶりにペストを訪ねてみた。
時刻は午後十一時、閉店まで残り一時間で、客も残ってはいない。
もう片付けの準備に取り掛かっていのかもしれない。
少し申し訳なく思ったが、ツンさんは嫌味一つ言わず、ぼくを厨房の近くのテーブルに案内してくれた。
ξ゚⊿゚)ξ「久しぶりね。昼過ぎにハインが来てたわよ」
( ^ω^)「それは奇遇だお。今度来たらぼくは元気にやってると伝えておいてほしいお」
ξ゚⊿゚)ξ「ボロボロじゃない。どう見たらそれで元気に見えるのよ」
今日の喧嘩相手は少し手強かった。
お陰で服もボロボロで、自分で見える部分だけでも傷だらけなのがわかった。
( ^ω^)「ハンバーグと水を」
ξ゚⊿゚)ξ「……食べたら真っ直ぐ帰ってちゃんと休みなさいよ」
この傷の原因を深く追求することを、ツンさんはしなかった。
別に隠す理由も無いし、一番知られたくないドクオには、彼女は他言したりしないだろう。
無関心とはまた違う、他人のパーソナルスペースを上手く見定めた距離の置き方。
彼女のそれが、今は心地よかった。
-
やってきたハンバーグを五分で食べ終え、水で口の中のソースを流し込む。
ツンさんの料理は美味しかったが、どこか物足りなかった。
その理由は考えずとも分かる。
いつも対面に座っていたハインがいないからだ。
それはどこかリアリティの欠けた、あまりに飛躍し過ぎている感情なのかもしれない。
けれどこの空虚感の理由に自分で辻褄を合わせるとするならば、認めざるを得ないだろう。
ぼくには、ハインが必要だ。
乞食として一人で生きてきたことに、ぼくはどこか矜恃のようなものを抱いていたのかもしれない。
しかしその本質は、他人の施しに縋る卑しい豚。
それを処世術と言うには、少しばかり楽観的過ぎるようだ。
どうやらその卑しい気質は、乞食をやる必要が無くなった今となっても抜けていないようで、本当の意味で孤高に徹する事が出来ないぼくは、差し伸べられた手を、間を置かず取ってしまう。
-
人はそれを素直、とでも言うのだろう。
けれど、今のぼくには、そんな自分の一面が許せなかった。
あの雨の日、ハインは優しく微笑んでくれた。
吸血鬼である彼女の身体は氷のように冷たかった。
けれど暖かかった。
ぼくは、その温もりを手放したくないと思ってしまった。
両者がそれぞれ一人でもやっていける。
それでいて、あくまでその人と一緒にいたいから共に行動する。
それこそが、真っ当な人付き合いというものだと、ぼくは思う。
互いが互いの存在なくしては生きてゆけない。
だから寄り添う。
聞こえは良いが、その末路にあるのは深く、淀んだ共依存の沼だけだ。
片方がそう思ってしまえば、その先にあるのは関係の崩壊。
人は人の荷物をずっと背負っていられるほど強くはない。
だから、一人でも生きてゆけるように、敬愛する人を押し潰してしまわないように、強くならなければならないのだ。
-
( ^ω^)「芯も軸も、ブレ放題だお」
ぼくは自嘲を込めて、溜息を吐いた。
ただ、目の前で繰り広げられる高次元の闘いを見てそれに憧れ、強くなりたいと思った。
凡人のぼくがどこまでやれるか試したい。
そんな、取ってつけたような動機を添えて。
その舌の根も乾かぬうちから、今度は敬愛する者と肩を並べられるよう、強くなりたいと思った。
何から何まで、ぼくという存在を考察するにあたって、リアリティというものが無かった。
フィルムに焼き増しされた映像を、どこか他人事のように、内藤ホライゾンという人形の右肩の辺りから眺めている。
それがぼくの人生だ。
物語に血を、肉を宿すには、リアリティが欠けている。
ぼくという人間が、本当はどこに行きたいのか、その指標を定めるだけの動機が欲しい。
強くなりたい。
強く、強くーー
視線を厨房の方に向けると、ツンさんと目が合った。
彼女は、少しだけ寂しそうな顔をしていた。
-
( ´_ゝ`)「なぁ、エクスト」
時刻は午前零時。
日が沈み、夜が更けても続いた闘いは終わった。
立っているのは兄者だけ。
弟者は、瓦礫の山の上で、その意識を手放して深く眠っている。
兄者は自分の足元にある"モノ"を見下ろして、小さく呟いた。
( ´_ゝ`)「俺は強かったか?」
エクストの身体は、上半身と下半身で、二つに分かれていた。
血溜まりが地面を濡らし、それは月夜に照らされて、少しだけ煌めいた。
中性的な顔があった部分は、潰れたトマトのような肉塊に変わっていて、血溜まりと混じり合っていた。
気付いたらこうなっていた。
兄者からすれば、それ以外の感想は無い。
数時間、命のやり取りを繰り返した末に今があるのだろうが、肝心のその過程が、兄者の記憶から抜けていた。
( ´_ゝ`)「なぁ、返事してくれよ。俺はお前に何をしたんだ。なぁ」
ふらふらと、月に向かって歩み始める兄者。
彼の問いに返す者は一人もいない。
結末はあまりにあっけなかった。
ここに王位は継承され、第十王位流石兄者が生まれた。
事実は、それだけだった。
-
おわり、俺乙
また近々
-
おう乙
盛り上がってるな
ブーンがどこへ向かっていくか楽しみ
-
兄者まじか
弟者は無事なのかな
-
エクスト殺されたのか…
弟者は深く眠ってるっていってるしまぁ大丈夫じゃね
-
おおおお続き気になる乙!
兄者の中にいる?誰かは一体何者なんだ…
-
今の現行では1番勢いあるね
-
今夜投下する
-
おっ
-
第七話「それは嵐のような夜だったと彼は言った。」
.
-
暫くふらふらと歩いたところで、兄者は弟者を置いてきてしまったことに気付いた。
( ´_ゝ`)「……戻るか」
そんなに時間は経っていなかったが、身体を動かしていると、朦朧としていた意識がはっきりとしてくるのが、兄者にはわかった。
それと同時に、彼は全身の筋肉が悲鳴を上げ、痛みを訴えていることに気付く。
(;´_ゝ`)「身体が千切れそうだ……一体何が起きたっていうんだ」
大きく深呼吸をして、一歩踏み出す。
足首が強く痛んだが、歩けないことはなかった。
ζ(゚ー゚*ζ「お困りのようですね。流石兄者さん」
痛みに耐える彼の前方に、少女が一人。
-
(;´_ゝ`)「お前は……?」
ζ(゚ー゚*ζ「第四王位を継承する、デレと言います。以後お見知りおきを」
黒のゴシックドレスが、彼女にはよく似合っていた。
朧げに夜闇に溶け込むそのシルエットはどこか妖艶で、白く、きめ細やかな肌で作られた顔立ちは、人形のように整っている。
二つに結わえたブロンドの髪も、その顔に誂えたように、彼女に馴染んでいた。
彼女から醸し出される雰囲気に人間らしい生気は感じ取れない。
彼女と同じオーラを放つ者が、この学園にはもう一人いる。
( ´_ゝ`)「お前……ハインリッヒと同じ……」
ζ(゚ー゚*ζ「ええ、私は吸血鬼です。ハインお姉様に噛まれ、イノヴェルチになりました」
ドレスの裾を摘まんで、深々と頭を下げる。
その所作すらも、人間味が欠けていた。
そして頭を上げた彼女の、紅く、澱んだ瞳が真っ直ぐ捉えていた。
-
ζ(゚ー゚*ζ「先程の闘いでお疲れでしょうが、ご同行願います。貴方の弟はこちらで保護しました。少し時間が遅いので応急処置程度の手当てしか出来ませんが、命は保証します」
( ´_ゝ`)「それは、俺の返答次第で、てことか?」
ζ(゚ー゚*ζ「いえ、貴方が私の要求を拒んでも、きっちり治療させていただきます。ただ……貴方は拒めません。拒めない理由があるからです」
( ´_ゝ`)「どういうことだ」
ζ(゚ー゚*ζ「彼女を見たのでしょう? あの闘いの中で」
( ´_ゝ`)「ーーっ!」
デレの言葉を契機に、兄者の表情は強張った。
夢想するまでもなく脳裏を過る、彼女のシルエット。
( ´_ゝ`)「知っているのか? あの女を……」
ζ(゚ー゚*ζ「ええ、そのことについても説明します。着いてきてください」
-
なるほど確かに、俺は彼女に着いていくしかないようだ。
と、兄者は胸中で呟いた。
( ´_ゝ`)「オーケーわかった。着いてゆこう。ただ一つ頼みがある」
ζ(゚ー゚*ζ「……? なんでしょう」
( ´_ゝ`)「肩を、貸してくれないか。気付いた時には闘いは終わってて、何故か全身が千切れそうなほど痛いんだ。筋肉が悲鳴上げてやがる」
言いながら、兄者は弱々しく手を伸ばした。
デレに向かって一歩踏み出したが、膝が揺れ、足がもつれそうになるのを寸前で堪える。
デレはその様子を冷たい瞳で見つめた後に、少しだけ口元を弛めた。
ζ(゚ー゚*ζ「お安い御用ですよ。少し待ってくださいね」
ドレスの袖から三十センチほどの気で出来た杖を取り出し、彼女はそれを身近にあった瓦礫の山に向けて三度振った。
-
ζ(゚ー゚*ζ「おいで」
瓦礫の山が纏めて宙に浮遊する。
一つ一つの破片が意志を持った生き物のように動き回り、それぞれがぶつかり合ってその身を削り、大きな"モノ"を形成する、一つ一つのパーツへと変貌してゆく。
ζ(゚ー゚*ζ「ゴーレム」
ある破片は球状に、ある破片は円状に、寸分の狂い無く作り上げられたパーツは組み上がってゆく。
そして、三メートルほどの巨大な石人形が出来上がった。
|::━◎┥
(;´_ゝ`)「おいおいおいおい……なんだこりゃあ……俺はファンタジーの世界にでも迷い込んじまったのか?」
石人形は兄者のパーカーの襟を掴み、あっさりと持ち上げる。
(;´_ゝ`)「お、おいっ……」
ζ(゚ー゚*ζ「取って食べたりはしませんよ。安心してください」
デレはいつの間にか石人形の右肩に立っていた。
人形は兄者を自身の左肩に乗せ、直立姿勢に戻り、動かなくなる。
-
( ´_ゝ`)「吸血鬼にして魔術師……化け物かよお前は……そう言えばこの学園の十席の王位の中に魔術師がいると聞いたことがあるな」
ζ(゚ー゚*ζ「多分ジョルジュさんの事でしょう。セントジョーンズの系譜を継ぐ彼の方が、その界隈では有名でしょうし」
( ´_ゝ`)「セントジョーンズの系譜?」
ζ(゚ー゚*ζ「魔術師とは訓練次第で誰にでもなれるようなものじゃありません。太古に存在した七人の魔術師、彼等の血を引く者が、己の血を自覚し、鍛錬を積んで初めてなれるものなのです」
機械的に答えるデレは、石人形の頭部に杖を向け、宙に何かを描いている。
軌跡に光の線を残し、複雑な模様の陣が刻まれてゆく。
ζ(゚ー゚*ζ「セントジョーンズの系譜とは、太古の七大魔術師の中でも最強と謳われたセントジョーンズの血の事です。それを継承するジョルジュさんは現存する最強の魔術師と呼ばれています。彼の王位は三位でしたね」
三位、と聞いて、兄者は第二王位を継承する素直クールを連想した。
良くも悪くも、彼女は名高い。
普段は物静かで、他人に害を与えるような人間ではないのだが、彼女の中で絶対的に定められた法に触れた者は、並べて彼女の刃の錆となる。
-
ζ(゚ー゚*ζ「飛びますよ。しっかり捕まっててください」
石造りの人形の背の膨らみが広がり、翼になる。
デレが杖でゴーレムの肩を軽く叩くと、身体全体が小刻みに震え始めた。
( ´_ゝ`)「ウイングガンダムかよ……」
地を蹴り、飛翔するゴーレム。
エクストの帯電能力、ハインリッヒの不死の特性。
既に色んな非現実的な光景を目にしてきた兄者だったが、魔法という神の域にすら届き得る叡智を目の当たりにして、兄者はただただたじろぐばかりだった。
(;´_ゝ`)「ああああああああああ!? ちょっ、ちょっと待ってこれ速くね!? まっ、待って待っておああああああああああああ!!」
急速にエルロンロールするゴーレムの肩にしがみつき、兄者は夜闇に浮かぶ月に向かって絶叫した。
ζ(゚ー゚*ζ「そんなに叫んでると舌噛みますよってほら言わんこっちゃない」
嘆息しつつも、デレは杖でゴーレムの肩を叩き、その巨体を更に加速させた。
-
川 ゚ -゚)「やぁ流石兄者。何も無いところだが、遠慮せず掛けてくれ」
('、`*川「あたしの家なんだけど」
兄者がデレに案内された部屋に入るなり、そんな一見和やかな掛け合いが行われた。
だが兄者の緊張がそれによって解れることは無い。
案内された場所が、デレのゴーレムが千体は収納出来るほどの広大な敷居面積を誇る大豪邸であることもそうだったが、なにより……
川 ゚ -゚)
_
( ゚∀゚)
ζ(゚ー゚*ζ
( <●><●>)
(`・ω・´)
('、`*川
(,,゚Д゚)
(´・ω・`)
広い円卓に用意された十つの椅子に鎮座する八人。
その全員が、並々ならぬ闘気を漂わせていることが、兄者の緊張感を高めていた。
-
兄者は空いていた二つの椅子の内の一つに座り、八人を一瞥した。
そして悟る。
ここに集まっているのは全員、VIP学園十席の王位の人間であると。
川 ゚ -゚)「まずは王位継承おめでとう、と言っておこうか。私の自己紹介は必要ないと思うが、第二王位を継承する素直クールだ」
_
( ゚∀゚)「おっ、流石の兄貴じゃねぇか。お前のライブ、一回見に行ったことあるぜ。三位のジョルジュだ。まぁ仲良くしようや。それとも天下を賭けて殺り合おうか? くくく……」
ロングコートを纏うクーの隣に腰掛けたジョルジュは、素肌の上に仰々しいファーがついたコートを来ていた。
この時期に二人が並ぶと暑苦しく見える。
( ´_ゝ`)(こいつが最強の魔術師か……)
兄者はジョルジュの身体に刻み込まれたトライバルを眺めた。
獲物を値踏みするような笑みは不敵で、人間とは違う高位の存在であるように、兄者は感じた。
-
ζ(゚ー゚*ζ「ジョルジュさん。今日はそういうのやめましょうってクーさんも言ってたじゃないですか」
_
( ゚∀゚)「ちっ、うるせぇなぁ。何かありゃクーさんクーさんって、お前は不感症女の腰巾着かよ」
ジョルジュは円卓の上に足を上げ、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
横柄な態度ではあるものの、クーの抑止力は彼にも効果があるようで、それ以降彼が兄者を威嚇することは無かった。
ζ(゚ー゚*ζ「私は……さっき自己紹介したからいいですね。ワカッテマスさん、どうぞ」
( <●><●>)「五位、二年生ワカッテマスです」
一人だけVIP学園の制服姿の、黒目が大きく無機質な表情の少年。
ワカッテマスと名乗った彼は、簡潔な自己紹介を終えると、椅子の背もたれに身を預けて深く目を閉じた。
(`・ω・´)「次は俺か……三年生のシャキンだ。王位は六位。面倒ごとは嫌いでね、俺に挑戦することがあればシンプルな形で頼むぜ」
細く、尖ったような、尻に向かって上に上がる眉が特徴的な少年だった。
薄手のジャケットにジーンズというありきたりな服装だが、彼が背を預ける椅子の後ろには、物々しい黒の大鎌が立てかけられていた。
その鎌で一体どれだけの命を奪ったのだろうか。と、兄者は内心震え上がった。
-
('、`*川「はい、七位のペニサスよ。学年は三年。二年坊やにも抜かれちゃって、はっきり言って戦うモチベーションなんて枯れちゃってるからあたしに挑んでこないでね。雑魚をあしらうのも疲れるのよ」
ペニサスは長い金髪を掻き上げながら、気怠そうに口を開いた。
美人ではあるのだが、その緩慢な所作と、目の下に出来た大きなクマが全てを台無しにしている。
ここにいる全員、それなりにきちんと服を着込んでいる中で、一人だけ裸同然の部屋着姿なのも、その印象を助長させていた。
(,,゚Д゚)「次は俺か」
ペニサスとは対照的に、短く刈り上げた黒髪、精悍な顔付きが与える清潔感が印象的な少年。
(,,゚Д゚)「二年のギコ。第八王位だ。王位には興味無いが、喧嘩ならいつでも買うぞ」
ぶっきらぼうな物言いだが、今のところ一番まともそうだと、兄者は思った。
ギコは自己紹介を終えると、腕を組み、ワカッテマスと同じように深く目を閉じた。
-
(´・ω・`)「九位、二年のショボン。これでいいかい」
( ´_ゝ`)(こいつもマトモそうだな……)
薄手のカーディガンを羽織った、一見病弱そうにも見える、色白で、柔和な雰囲気を醸し出す少年。
バラバラに分解されたヌンチャクのような棒を弄り、兄者の方を一度も見ずに自己紹介を終えた。
(´・ω・`)「もういいかい? いつまで僕を拘束するつもりなんだ? いいだろ、もういいよね?」
ショボンは突如、自分の頭を掻き毟りながら、うわ言のように呟き始めた。
ζ(゚ー゚*ζ「どうするんですかこれ」
川 ゚ -゚)「いかんな。すっかり忘れていた」
クーが嘆息する。
-
(´゚ω゚`)「兄さん!!」
人の良さそうな表情が一変し、目を見開いた獣のようになる。
その視線は、真っ直ぐシャキンを捉えていた。
(`・ω・´)「そうなるよな。だから来たくなかったんだよ俺は」
気怠そうに、シャキンは得物の大鎌を手に取った。
ショボンは既に、自分の得物を組み上げ、円卓の上に乗り出していた。
(´゚ω゚`)「奇遇だねぇ兄さぁん!! 僕も王位が集まる会合なんて怖くて来たくなかったよ! でも王位が集まるってことは兄さんも来るってことでしょ? 無理を推して来た甲斐が会ったよ! やっと会えたね兄さぁぁん……同じ学園にいるのに全然会えないんだもん、何処に隠れてたのさ? うふふふふふ……まぁどうでもいいや。こうして今巡り会えたんだもん! 言葉なんて必要無いよね!? さぁ、僕と殺し合おうよ兄さん!!」
白目を剥き、涎を垂らしながら、ショボンはシャキンに向けて棍を振るう。
シャキンの大鎌とぶつかり合い、二人の得物は甲高い音を立てた。
( ´_ゝ`)(な、なんじゃこりゃ……)
兄者は咄嗟に身を屈めたが、他の王位達は身動ぎ一つせず、椅子に座ったままだ。
兄者は、自分がこの場で一番まともであることを悟った。
-
(`・ω・´)「羅刹棍……また速くなってるな……」
(´゚ω゚`)「兄さんと殺し合う為なら!! 僕は!! どこまでも速くなるさ!! あっははははははははは!! ほら、兄さんももっと撃ち込んでよぉ……ここだよここ! 僕の首にそれを突き立ててよ兄さあああああん!! やっぱり兄さんと殺し合うのは楽しいなぁ〜〜! ほら兄さん、もっと笑ってよ……こんなに楽しいんだからさぁ! 笑えよっ、笑えっつってんだろうがああああああ!!」
何度も何度も撃ち込む棍撃。
気怠そうに捌くシャキンにはまだ余裕がありそうだが、彼は自分がこの場で本気を出せば、ショボンもそれに合わせて、自分の限界を越えた力を引き出してくるだろうという確信があったので、それをしなかった。
第九王位という格下でありながら、自分という標的を一度見定めれば、その潜在能力を爆発させてこの位置まで到達する。
(`・ω・´)「お前は本当に面倒臭い奴だ……な!」
鍔迫り合った棍と鎌が弾き合う。
シャキンが鎌をショボンの首筋目掛けて振るうが、ショボンはそれを、大きく後ろに跳躍して躱した。
-
(´゚ω゚`)「いいねェ〜〜〜!! 今のは痺れたよ! 兄さんの愛がひしひしと伝わってきたよ!! 僕もその愛に応えないとねぇ〜〜〜……」
刹那、二人分の影が飛び、それぞれがショボンの両腕を掴んだ。
('、`*川「はいはいそこまで。ここあたしん家だからね? 喧嘩なら別の機会にやりなさいって」
( <●><●>)「これでは話が進まないのはわかってます。少し大人しくしてください」
二人同時に前のめりにショボンを押し倒し、腕を極める。
羅刹棍が床を転がり、ショボンは奥歯を砕けんばかりに噛み締めた。
(´゚ω゚`)「離せごみ虫共が! 兄さんを返せ! 兄さんは僕が殺すんだ!!」
-
_
( ゚∀゚)「はっはっはっ。いいねぇ、兄弟愛ってのは。そういやお前にも妹がいたっけ。お前ん家もあんな感じなのか?」
川 ゚ -゚)「ヒートか……あいつがこんな風に戯れてきたら叩き切ってしまいそうだな」
(;`・ω・´)「行儀の良さそうな妹で羨ましいぜ……」
(;´_ゝ`)「お、おい! あれ大丈夫かよ! 首極まってんぞ!」
(´゚ω゚`)「うがあああああああああああああ!! 兄さん! 兄さあああああああああああん!!」
(,,゚Д゚)「ちっ……うるせぇな。一発ぶん殴ってやろうか」
(´゚ω゚`)「やってみろよごみ虫が!! 僕の兄さんへの愛はそんなんじゃ止まらない!!」
-
(,,゚Д゚)「うし……決めた。ちょっとあいつぶん殴ってくるわ」
ζ(゚ー゚*ζ「これ以上騒がしくしてどうするんですか……」
('、`*川「ちょっとどんだけ力強いのよこいつ!」
( <●><●>)「シャキンを見て箍が外れているのはわかってます。一旦落としますよ」
(;´_ゝ`)「は、ははは……頭が痛くなってきたぜ……」
部屋に入った時の、喉がひりつくような緊張感とはまた違う、大勢の子供が好き勝手に暴れ回っている時の雑多な感覚に、兄者は目眩を催していた。
「楽しそうにやってるねぇ」
そこに水を差す、歌うような声。
( ・∀・)「ひーふーみー……もう全員揃ってるのか。皆早いねぇ」
-
川 ゚ -゚)「三十分遅刻だ」
( ・∀・)「集合時間から一時間まではセーフだろ? そうカリカリしなさんなって」
この世のものとは思えないほどに、全てが完成された少年だった。
肩まで伸ばした長髪は鬱陶しさを感じさせず、長身で細身の体躯、整った目鼻立ちは、大衆が思い描く理想の男性像をそのままトレースしたような、絵に描いた美少年。
( ・∀・)「よっこらせっと……おお……兄者くんじゃないか。こんなに早く王位がひっくり返るとは思わなかったけど、まさか君がねぇ……」
円卓の椅子に座り、足を組む。
一つ一つの所作に、光が帯びて見えそうな佇まいだった。
( ´_ゝ`)「あんたは……?」
静まり返った部屋。
あれだけ騒がしかったショボンですら、ペニサスとワカッテマスの下で黙りこくっている。
誰もが、彼に圧倒されていた。
-
( ・∀・)「三年。第一王位のモララーさ。王位継承おめでとう、兄者くん。ここからだぜ、この学園が楽しくなるのは」
人が素直クールを目にした時、無条件に身体が強張り、緊張に包まれる。
そして彼を目にした者は、無条件に傅きたくなるのだ。
この男には絶対に敵わない。
逆らってはならないと、本能で解らせる絶対的な風格。
まさに彼は、王だった。
( ・∀・)「クー、【龍】の話はしたかい?」
川 ゚ -゚)「まだだ。シャキンとショボンの事を忘れてたからな」
( -∀・)「やれやれだ。こういうのは僕より君の役目だろう? ま、喋るのは好きだから構わないけどさ」
川 ゚ -゚)「……ああ、頼む」
雲の上のような存在だったクーが、兄者には近く感じられた。
否が応でも実感させられる、明確な力量の上下。
ただただ言葉少なくたじろぐクーが弱いのではない。
モララーが放つ絶対的な存在感が、余りにも強過ぎるのだ。
-
( ・∀・)「兄者。君は見たんだろう? あの闘いの中で。自分の中にいる彼女を」
( ´_ゝ`)「お前も知ってるのか?」
( ・∀・)「知ってるも何も、ここにいる全員は彼女と話したことがあるよ。あの子はこの十人全員の中にいる」
(;´_ゝ`)「……は?」
( ・∀・)「ってなるよねぇ。あの子については僕らもまだよく分かってないんだな。分かっていることは……あの子と対話した者はそれを契機に絶大な力を手にするということだけだ」
長い前髪を指先で弄りながら、モララーはにやにやと不敵な笑みを浮かべた。
-
( ・∀・)「これまで、王位を継承した中であの子を見ていない者もいた。けれど皆敗れ去っていったよ。エクストもそうだったみたいだね」
( ・∀・)「つまりあの子を見る、ということは本当の意味で王位を継承する為の条件なんだ。僕達はあの子と対話して力を得る現象を便宜上、【龍との謁見】と呼んでいる」
( ´_ゝ`)「龍……? 何故龍なんだ?」
( ・∀・)「君の右手の甲を見てみろよ。それで分かる」
兄者は言われるままに、自分の手の甲に視線を移した。
そこには、痣のような九つの足を持つ龍の模様がくっきりと浮かび上がっていた。
( ´_ゝ`)「……なんだこの痣」
( ・∀・)「あの子を見た者は、身体のどこかにその痣が発現する。君みたいに分かりやすい場所に発現するのは珍しいけれど、ま、参考程度に覚えておくといい。いずれ君を狙う者の中に、その痣を持つ者が現れるかもしれないしね」
-
( ・∀・)「あの子が一体何者なのかは、僕達にも分からない。そうだな……クーとデレ辺りが色々調べてるみたいだし、現状はその情報待ちってところだ。彼女についてのお話は以上」
川 ゚ -゚)「おい……モララー」
( -∀・)「黙ってろ、余計な口を挟むな。今僕が話してる」
川; ゚ -゚)「…………」
クーは何かを言いかけて、それを飲み込んだ。
痣の意味を知る上で重要な事項。
それに気付いている者が、何人いるだろうか。
クーがそれに気付いたのは最近の事だった。
知っているのと知らないのとでは、この学園での立ち振る舞いが大きく変わる情報。
クーはそれを自分だけが抱える事を良しとしなかった。
ので、この機会に王位を持つ者全員に伝えようとしたのだが……
( -∀・)「話を戻そうか」
モララーはクーに目配せして、妖しく微笑んだ。
-
川 ゚ -゚)(何の意図があるんだ……モララー)
漠然とした、言いようのない不穏を、クーは感知していた。
だがこの場で王として君臨するモララーの言葉には、誰も介入出来ない。
彼女とて、例外ではない。
伝えるべき言葉を飲み込み、クーはそれきり口を開かなかった。
( ・∀・)「ここに君を含めて集まってもらったのは、僕達から君へのプレゼントって意味合いが大きい」
( ´_ゝ`)「プレゼント?」
( ・∀・)「そう、プレゼント」
モララーは人差し指を立てて、くるくると回した。
( ・∀・)「誰が王位を継承しているか。上から見れば分かるのに、下から見ても分からないのはフェアじゃないだろう? 誰が何位を継承しているのかを新参の王位に教えるのが慣例でね」
-
くるくると回していた指を兄者に向けて指し、モララーは口角を歪めた。
( ・∀・)「君へのプレゼントとして与えたこの情報をどう使うかは君次第だ。この中の誰を狙って上に行くか……或いは自分の力量を知り、大人しくするか」
( ・∀・)「まぁ、後者はオススメしないね。第十王位っていうのは歴代を遡っても一番安定しない椅子だし、王位に立ち続けたければ、死に物狂いで上を目指すことだ」
( ´_ゝ`)「それはなんとなく分かるさ。こうしてここにいる以上、ゆくゆくはあんたの首を狙って行くつもりさ」
( ・∀・)「それは楽しみだ。上を目指す加減を間違えて、死ななければいいけどね」
言って、モララーは円卓上を一瞥した。
-
川 ゚ -゚)
_
( ゚∀゚)
ζ(゚ー゚*ζ
(`・ω・´)
(,,゚Д゚)
そして、くんずほぐれつになっている三人を。
( <●><●>)
('、`*川
(´゚ω゚`)
最後にーー
( ´_ゝ`)
-
( ・∀・)「夜分遅くに引き止めて悪かったね。伝えたい事はそれだけだ。今日のところは皆友好的に接してくれるだろうさ。何か補足してもらいたければ話を聞いてみればいい。弟者くんは……ペニサス、どこだ?」
('、`*川「隣の部屋に寝かしてる」
( ・∀・)「だ、そうだ。はい、今日はおーひらき。各自かいさーん」
そう言って、モララーが指を弾いた瞬間、ショボンが雄叫びを上げた。
(´゚ω゚`)「兄さああああああああん!!!」
(;-∀・)「君は少し寝てろ」
身構えたシャキンと飛び掛かるショボンの間に割って入るように潜り込み、モララーはショボンのこめかみを指で弾いた。
ショボンは身体ごと壁に突っ込み、そのまま昏倒する。
モララーの一連の動きを目で追えたのは、ジョルジュとクーだけだった。
-
( ・∀・)「クー、夕飯は食べたかい?」
川; ゚ -゚)「……いや、食べてない」
( ・∀・)「そりゃ良かった。今からファミレスに行くから付き合ってくれよ」
クーは神妙な面持ちのまま腰を上げ、鼻歌交じりに去ってゆくモララーの背を追って行った。
二人が部屋を後にしたと同時に、全員の間で張り詰めていた緊張の糸がぷつりと切れた。
_
( ゚∀゚)「話ははえーけど……超こえーよなぁ、あいつ……」
苦笑いを浮かべたジョルジュの一言に対して、ショボン以外の全員が同じように頷いた。
(;´_ゝ`)「俺はもう疲れた……帰って寝るよ」
まるで嵐のような人だと、兄者は思った。
駄目押しの兄者の一言で、部屋の中は乾いた笑いに包まれた。
-
おわり
百物語あったとはいえまさか一週間も空けてしまうとは思わなんだ
んじゃまた近々、俺乙
-
そして一応王位まとめ
一位( ・∀・)三年
二位川 ゚ -゚) 三年
_
三位 ( ゚∀゚) 三年
四位ζ(゚ー゚*ζ 二年
五位( <●><●>) 二年
六位(`・ω・´) 三年
七位('、`*川 三年
八位(,,゚Д゚) 二年
九位 (´・ω・`) 二年
十位( ´_ゝ`) 二年
-
乙!
-
兄者がんばれ!!応援してるぞ乙!
-
弟者に注目だな
-
やっぱりモララーかぁ。まぁ、定番だよなあ
-
弟者はエクストとの戦いで負傷したのか
兄者のバーサク状態に巻き込まれてしまったのかどっちなんだろう
-
第四王位にお姉さまと呼ばれるハインさんまじぱねぇっす
乙
-
真祖だからな
というかハインに噛み付かれたからこそ4位になれたんだろ
-
今気付いた。話数カウントズレてたわ
19日投下分が八話な
-
ギコはモララーと普通に会話してたよな
-
やっぱモララーはしっくりくるな
-
投下じゃ、今日は少し短い
-
第九話「盛大な茶番の始まり。抱いたものの行く末。それに至る一歩。」
.
-
( ゚ω゚)
( ゚∋゚)
人体を壊す方法なら、戦いの中で学んだ。
見上げるほどの大男でも、目を狙えば、金的を狙えば、そのアドバンテージは消し飛ぶ。
( ゚∋゚)「かはっ……」
三撃目を受ける時のガードが少し甘過ぎた。
それさえなければ、あと一分は短縮出来ただろう。
ぼんやりとそんな事を考えていると、クックルと名乗った大男は血反吐を吐き、倒れた。
( ^ω^)「ふぅ……」
実戦という生きるか死ぬかの瀬戸際に身を置くことで得られるものは大きかった。
相手の殺気に合わせて、自分の感覚が平常時とは違うものに切り替わる感覚。
ギアチェンジとでも言うのだろうか。
戦いの中には、確かに普段の自分の感覚も存在していて、その自分が戦いにのめり込む自分を俯瞰しているような感覚が、どこか心地良かった。
-
( ^ω^)「……次は銃を使う人に挑んでみるかお」
問題は無い。
頭の中で何度も何度もイメージトレーニングを重ねてきた。
銃という武器を、銃口から長距離まで槍が伸びるものであると捉え、対面しないように立ち回る。
不規則な軌道を描く人間の拳よりも、相手にするのは容易い。
立ち回りのミスが即座に死に直結する恐怖。
それさえ拭い去ることが出来れば……
从 ゚∀从「よぉ」
血で濡れた自分の拳を見つめながらぼんやりと考えていると、一番会いたくない人が傍に立っていることに気付いた。
( ^ω^)「……久しぶりだお」
从 ゚∀从「どこかの誰かさんが全然顔見せねぇからな」
第八ブロックの寂れた廃墟。
昼間であるにもかかわらず、うら寂しい雰囲気に包まれたこの場所で、ぼくとハイン、そしてのびた大男だけが、呼吸をしていた。
-
从 -∀从「あーらら、コテンパンにやられてら。目潰し、金的、頚椎打撃……鼓膜打ちまでずっぱしキマってんな。極め付けは胸部への打撃か」
从 ゚∀从「随分と可愛げの無いやり方だ」
( ^ω^)「アウトロー相手に正攻法で挑めるほど余裕が無いんだお」
要所で的確な選択をすれば、自ずとこういう戦い方になる。
実際にはそこまで論理的に身体を動かしているわけではなく、ほぼほぼ直感で動いているのだが、ハインに教わっている時と比べて、自分が攻撃的になっていることは否めなかった。
从 ゚∀从「……強くなったなぁ」
そう言われても、素直に喜べなかった。
( ^ω^)「……ありがとうだお」
ハインは、どこか寂しげな表情を浮かべていたから。
-
( ^ω^)「何か用があったのかお?」
从 ゚∀从「あ? 別に用なんてねーよ。たまたま見かけたから声かけてみただけだ」
少しだけ、棘のある物言いだった。
非は全面的にぼくにあるのだが、一度距離を置いてしまった手前、スムーズに会話が出来ない。
自分の弱さから来る劣等感を払拭出来なければ、彼女と対等に会話出来ない。
そう思って敢えて距離を置いたのに、これでは本末転倒だなと思った。
ハインの銀髪が、不機嫌に揺れる。
ぼくは、苦し紛れに言葉を絞り出すことも出来なかった。
从 ゚∀从「そういや……ドクオが学校に来てるよ。外での仕事中に怪我して来れなかったみたいだ」
( ^ω^)「話したのかお?」
从 ゚∀从「まーさか。俺は嫌われてっからなぁ。チラッと見かけただけだし、その話も人伝てに聞いただけだよ」
-
(;^ω^)「まぁ……ハインは絡み方がちょっとアレだから……」
殺しにかかっているのか、或いは自分の眷族にしようとしているのか、いまいち意図は分からない。
けれど、あのアプローチに対して友好的な反応を取る者はいないだろう。
ぼくは、ドクオとハインに初めて会った日の事を思い出していた。
一瞬で肉塊に変わり、すぐに再生するハイン。
その光景はおぞましかったが、同時に内包する、吸血鬼の神秘性のようなものに、ぼくは確かに惹かれているような気がする。
从 ゚∀从「まーたジロジロ見やがって。言いたいことがあるならハッキリ言えや。そんな調子で突然居なくなられるこっちの身にもなってみろ、めっちゃムズムズするんだからな」
( ^ω^)「…………」
茨を持つ可憐な花に手を伸ばすような下卑た感覚だ。
ぼくは、ぼくはーー
ハインをどうしたいのだろう。
ハインに、どうされたいのだろう。
-
暫く黙っていると、ハインは面倒臭そうに溜息を吐いて、割れたガラス窓から外を眺めていた。
着崩した制服とは不釣り合いな、透き通るような銀髪が揺れる。
ハインが制服を着ているのを見たのも、そう言えば最初に会った時ぶりだ。
その後ろ姿は可憐で、どこか親しみがあって、しかし触れてしまうのは何故か憚られる。
目に見えない、壁のようなものがぼくと彼女を隔てているように思えた。
その壁は、押せば簡単に崩れてしまうけれど、踏み越えてしまえば戻ってはこれないような気がしてーー
ぼくは。
ぼくはーー
ぼくは?
-
从 ゚∀从「あ……」
( ω )「…………」
ぼくは、一体何をしているのだろうか。
どうしてハインは、ぼくを突き飛ばさないのだろうか。
後ろから、ハインの腹に手を回し、少しだけ体重をかける。
後ろから抱き締めて、制服ごしでも彼女の身体の冷たさは伝わってきた。
こんなに冷たいのに、ハインは生きている。
背中越しに伝わるぼくの温度を、ハインはどんな風に感じているのだろうか。
( ^ω^)「ハイン」
声が震える。
そこから先を、告げていいのだろうか。
彼女の容姿に、あの雨の日の一瞬の優しさだけに惹かれた仮初めの感情なのかもしれない。
自分の気持ちに、確固たる自信が持てなかった。
-
ハインの手が、お腹の前で結んだぼくの両手と重なった。
ぼくは自分の手が震えていることに気付いた。
胸につっかえたしこりのようなこの気持ちを、曖昧模糊とした不安定な形で、彼女にぶつけていいのだろうか。
そんな猜疑心すら優しく包むように、ハインは、血に濡れたぼくの手を撫でるようにして握った。
だから、ぼくはーー
( ^ω^)「好きだお」
二茶の箱庭に閉じ込められて過ごし、それが壊れ、何も持っていないぼくは、誰からも見向きもされず、生きてきた。
一緒に食事をしたり、何の意味も持たない雑談に興じたり、他人からこんな風に肯定される実感が、新鮮だった。
雛鳥が生まれてすぐ、親の顔を認識するのと同じような感覚なのだろうか。
この心地良い感覚がいつか無くなってしまうのが、恐ろしく思えるようになったのはすぐだった。
だから、自分から切り離した。
ハインを引き留められるだけの強さを身に付けるまで。
-
それなのに、それなのに、どうして君はぼくの目の前に姿を現したのか。
何の考えもなく、気まぐれで遊ぶような気持ちで、どうしてぼくの前に現れたのか。
呪詛の言葉のように、整理出来ない自分の気持ちを誤魔化す、八つ当たりのような衝動が込み上げてくる。
手の震えが大きくなりそうなくらい気持ちが昂り、その度にハインの手の感触を認識し、落ち着きを取り戻す。
その繰り返しが、しばらく続いた。
从 ∀从「……うん」
そして、ハインはようやく口を開いた。
从 ∀从「ありがとう」
ハインを包むように結んだ両手の指が、彼女の指で一本ずつ解かれてゆく。
拒絶するでもなく、受け入れるでもなく、静止した世界の中で、ぼくの指が一本ずつ解いてゆく。
それを止めることも、抵抗することも敵わず、ぼくは……
-
从 ∀从「私、もう行くから」
全ての指が解け、ハインの身体はするりとぼくの手元から抜けていった。
割れたガラス窓を軽々と飛び越え、猫のようなしなやかな動作で、彼女は去ってゆく。
小さくなってゆくハインの背中を眺めながら、ぼくは身体に移った残り香に、喪失感のようなものを見出していた。
ぼくは……
( ^ω^)「何がしたかったんだお?」
自分に問い掛ける。
その答えが返ってくることはない。
自分自身が答えを見出さなければ、永遠に辿り着くことはないと知りながら、ぼくは思考停止した頭に問い掛け続けるのだろう。
誰かの声が聞きたい。
今は、ただそれだけだった。
-
なんで泣いているのだろう。
自分の気持ちが解らない。
ブーンが好きだと言った時、俺の心臓が跳ね上がったのことに、あいつは気付いただろうか。
柄にもない、こんな事で、こんなにも揺らいでしまう自分が、自分の知っている自分が違うものに変わってしまったような気がして、余計に混乱する。
近くの廃墟の屋上に跳び、誰もいないことを確認した。
大きく息を吐いてから涙を拭うと、少しだけ落ち着けたような気がした。
从 -∀从「は〜〜〜〜〜〜〜〜……」
こういう時、人間ならばきっと耳まで熱くなっているのだろう。
だが俺の身体に熱は無い。
真祖も、グールもイノヴェルチも、吸血鬼である以上、人間らしい温もりは棄てなければならない。
感傷的になっている自覚があった。
だから両手で数回、自分の頬を叩いた。
何かを茶化すような自分の所作。
何か、など、最早考えるまでもないだろう。
そういう自覚がありながらも、そうしていると幾分か落ち着いてきた。
きっと軽口も叩ける。
いつも通りだ。
-
「楽しそうですね。お姉様」
背後から、呼ぶ声が一つ。
甘ったるい声だった。
振り返るまでもなく、その声の主が誰なのか分かった。
俺のことを"お姉様"と呼ぶ女は、この世に一人しかいない。
从 ゚∀从「デレか」
ζ(^ー^*ζ「お久しぶりです、お姉様。お話したかったのに中々一人になってくれないんですから」
从 ゚∀从「俺はお前の顔なんか見たくねーけどな」
ζ(゚、゚*ζ「どうしてそんな非道いことを言うんですかぁ? 私を噛んだ時、あんなにも可愛がってくれたのに……」
はだけた服の胸元から首にかけて舌を這わせ、震えるこいつの身体を押さえ付け、噛んだ。
あの時のことは、今でも鮮明に思い出せる。
ζ(゚ー゚*ζ「あんなに格好良くて、あんなに綺麗だった。私にとってお姉様は孤高の、憧れの存在だったのに」
-
ドレスの裾から杖を取り出し、デレは一度振った。
一瞬だけ煌めいた光と共にその姿が消え、自分の背中によりかかる重みを感じた。
ζ(゚ー゚*ζ「最近はつまらなそうなオトコノコに夢中みたいで……私は少しがっかりです」
首からだらりと手を回し、デレは俺の耳元で囁くように言った。
从 ゚∀从「俺がどこで何しようと勝手だろ。ぶっ殺すぞ」
回してきた腕を掴み、そのまま握り潰した。
骨が砕け、肉が手の中で擦り潰れていくのが分かった。
コップから零した水のように、デレの血が俺のスカートを濡らした。
-
ζ(゚、゚*ζ「あら、右手が潰れてしまいました……」
骨ごと握り潰した手首を、そのままねじ切って放り投げてやった。
手首の断面から血の泡が溢れ出し、手の形を作り上げる。
从 ゚∀从「借り物の力で随分偉そうにしてるみたいじゃねーか。猿山のてっぺんの眺めはどうだ?」
ζ(^ー^*ζ「まぁまぁですよ。是非お姉様と二人で眺めたいものですね」
泡から"肉"に変わり、形を取り戻した右手で俺の頬を撫で、デレはより一層強く俺を抱いた。
デレの身体は氷のように冷たかった。
自分の身体の冷たさを、再認識させられているようだった。
从 ゚∀从「やっぱお前ムカつくわ」
-
右手に力を込めると、爪が伸びた。
真祖の特性の一つだ。
伸びた五本の爪を、デレの左胸に突き刺してやった。
少し中を掻き回してやると、心臓の鼓動が爪越しに伝わってきた。
これは同族を殺す為の爪。
鋭利な刃物と化した爪で心臓を抉り出す。
そうして心臓を失った状態で、頭を潰してやれば、イノヴェルチは死ぬ。
ただ心臓を抉り出すことのみに特化した、この湾曲した爪は、真祖の象徴の一つだ。
ζ(^ー^*ζ「うふふふ……気持ちいいですよお姉様。私の心臓を掴んでどうするんですか? ほら、こっちを向いてくださいよ。意地悪な顔を私に見せてください」
俺の頬を撫でるデレの手に、少しだけ力が加わる。
それに促されるまま、デレの顔を見た。
俺の右目と同じ、深く淀んだ赤い瞳が二つ、妖しい輝きを放ちながら俺を捉えていた。
从 ゚∀从「ほんっとにイラつく女だなお前は」
-
心臓と頭を同時に潰せば死ぬイノヴェルチ。
心臓を掴むというアドバンテージを得たところからやり合っても、俺はこいつには勝てない。
並みの人間がイノヴェルチになったところで、俺の眷族になるのがオチだ。
何故なら、それは単純に俺の方が強いから。
だがこいつは俺より強い。
元々は魔術師だが潜在的な強さはパッとしない、その程度の女だった。
だが吸血鬼の性質と、自分が扱う魔術の特性の相性の良さを生かし、こいつは第四王位にまで上り詰めた。
俺が噛んだ中で唯一、俺の眷族にならなかった女だ。
ζ(^ー^*ζ「ほら、お姉様。もっと可愛がってくださいな」
デレの唇が、俺の唇に触れた。
从; ゚∀从「……っ!」
触れた瞬間に舌が入り込もうとしてきたのを歯で塞ぎ、咄嗟に心臓を抉り出しながら身を引いた。
-
未だ手の中で脈打つデレの心臓を握り潰し、俺は視線をあいつに移した。
ζ(^ー^*ζ「うふふふ……お姉様ったらそんなに慌てて、可愛いなぁもう」
自分の胸から夥しい血が溢れ出ていることなど微塵も意に介していない。
ζ(゚ー゚*ζ「こんなに可愛いお姉様を独り占めしようとするなんて、許せませんよね。あの内藤ホライゾンって子」
その目に、さっきまでの妖しい輝きは無かった。
深く澱み、腐敗しきったような、鈍色。
三度、デレは杖を振るった。
その目に宿った悍ましい殺意に気圧され、反応が遅れてしまった。
从; ゚∀从「ちっ……!」
廃墟の、俺が身体を預ける足場の一部が崩壊する。
それだけじゃない。
彼方此方から浮遊し、集ってきた瓦礫の破片が、デレの背後で意志を持っているかのように、組み合わさってゆく。
-
大きく跳躍し、倒壊する建物から離れる。
しかし、デレの背後で組み上がり、その巨大な掌に彼女を乗せた巨人からは目を離さない。
从 ゚∀从「……ゴーレムか」
デレが人間だった頃、彼女が切り札として使役していた。
これまでに何度か殺し合った俺は、当然この術について熟知とまではいかずとも、それなりの対策を有している。
ζ(^ー^*ζ「そんなに身構えなくても大丈夫ですよお姉様。愛するお姉様の血を一滴残らず啜りたい気持ちは山々ですが、それはこんな薄汚い場所じゃない。もっと相応しい場所があるでしょうから」
从 ゚∀从「だったらどういうつもりだ。のんびり茶ぁしばいて話すような態度じゃねぇわな」
ζ(゚ー゚*ζ「うふふ、一応お姉様に断りを入れておこうと思っただけですよ」
デレの表情が悍ましく歪んだ。
ζ(^∀^*ζ「あの薄汚いクソガキ……内藤ホライゾンをぶっ殺すとね!」
-
ぞわりと、鳥肌が立った。
俺の身体にまだこんな機能が残っていることに驚いた。
思考するよりも身体が駆け出していた。
デレが、自分の胸に空いた穴に手を突っ込むのは、それとほぼ同時だった。
ζ(^ー^*ζ「ではお姉様、また会う時までお元気で」
デレが胸から手を引き抜くと、夥しい血が一本の線となって噴き出した。
大鎌の形となり、液体だったそれはデレの手で固体化される。
从 ゚∀从「ちっ……」
大きく振りかぶり、血で形成された大鎌を一閃。
俺はそこから引き起こされる事象を知っていた。
血の鎌から無数の斬撃を具現化したような、半月型の血の結晶の群れが飛んでくる。
先頭の刃をぎりぎりまで引きつけて躱すが、それは風切音を立てながら、フリスビーのようにこちらに舞い戻ってきた。
-
遅れて第二、三の刃が突っ切ってくる。
挟撃される形になったが、両方を引きつけて頭を下げる。
血の刃同士がぶつかり合い、金属のような甲高い音を立て、間抜けに宙で回転した。
从; ゚∀从「くそったれ……ッ!」
一、二、三の刃を躱したところで終わりではない。
後続の無数の刃、それを何も考えず、ひたすら感覚だけに任せて避ける。
ζ(゚ー゚*ζ「行くよ、ゴーレム」
从; ゚∀从「待ちやがれ糞売女!」
ゴーレムが動く。
デレは血の鎌を携えたままだ。
ブーンを殺すという言葉はどうやら本気らしい。
もとより、あの女が俺絡みの事でそんな下らない嘘を吐くとは思っていなかったが、危機感が現実味を帯びてゆく。
-
デレの背中はあっという間に小さくなっていって、見えなくなった。
やられた。
命の無いものを自分の意のままに操る魔術。
それにブーンが抗い、打ち勝つヴィジョンなど見えない。
それに、あの女は"鎌"を持っている。
从 ∀从「…………」
何度も自律した動きで肉を切り裂こうとする刃を避けた。
力技で、刃を受け止めた。
だが刃はデレの意志をそのまま反映させ続けているかのように、的確に逃れようとする俺の行動を潰してくる。
一歩踏み出し、血の刃を受け止めた。
掌を裂き、二の腕まで食い込み、切り裂かれた部分は真っ二つに分かれて血が噴き出る。
さらにもう一歩踏み込む。
頭上から降り注いできた三本の刃が、両肩と腰を穿ち、俺はそのまま地面に串刺しにされる。
-
从 ∀从「痛くねぇわけじゃねぇんだからな……ちくしょう……」
出し惜しみしている場合ではないみたいだ。
少しばかり見てくれが悪くなるが、このままブーンが嬲り殺されるのを黙って見過ごせるほど、俺は"人間"が出来てはいない。
左目が疼く。
腰を貫かれ、振り向くことは出来ないが、背後で血の刃が風を切る音が聞こえる。
一本ではない、恐らく、数十本単位だ。
生命の危機などではなく、身体を嬲られる屈辱に、自分の左目が疼き、怒っているのが解った。
力を使えーー
左目から、自分のものではない神経が伸びているような感覚に飲まれそうになる。
その時だった。
-
「どいつもこいつも人遣いが荒いぜ」
気怠そうな、男の声だった。
「こんな茶番で表立ちたがるほど、酔狂な人間じゃねぇっつーの俺は」
背後から俺の身体が切り刻まれることはなかった。
左目の疼きは、鎮まっていた。
固い刃が、不条理で、圧倒的な力で打ち砕かれる音が聞こえた。
.
-
おわり
好きな子にLINEブロックされたその日になんでシーンを書いてんだろうな俺は
俺乙、ほんとに乙
-
乙
-
乙!
-
ブーン強くなったなあ
-
おつおつ
まあ頑張れ他にもいい子はいるさ
それにしても今回は熱かったな
-
自分語りは程々にな
折角面白いわけだし
-
やっぱハインといえど第四王位は従えられないのか
おつ
-
ついに左眼が疼き出したか……
やっぱり王道厨二バトルっていいもんですね
-
今夜か明日の夜にでも投下
-
おっふぉうまってるぅ
-
第十話「加速する物語。水面下の大きなもの。名も知らぬ誰か。」
.
-
( ^ω^)「さて……」
涙は零れなかった。
やはりぼくは感情の起伏に乏しいのだろう。
例えば、ぼくが語り部となる物語があるとすれば、それはきっと平坦で、味気のない退屈なものになると思う。
そのような下らない考察に浸れるくらいには、落ち着きを取り戻していた。
あの雨の日、ぼくは自分がどういう時に泣くのかを知った。
きっとそれはハインのお陰なのだろうし、自分にも人間らしい感情が、申し訳程度に備わっていると知れただけでも、この学園に来て良かったと思う。
しかし、長々と思い耽っているのはあまりにも不毛だ。
一度寮に戻ってシャワーを浴び、ペストで軽食を摂るか、或いはジムのシャワーを借りてトレーニングするか。
どちらかと言えば前者がいい。
今は人と話したい気分だ。
ペストに行けば、ピークタイムを避けておけばツンさんが話し相手になってくれるだろう。
もしかしたらドクオにも会えるかもしれない。
ぼくは携帯電話を持っていないので、ドクオに貰った名刺で彼に連絡を取ろうとすれば、寮の電話を使うしかない。
-
そうまでして彼と話したいかと聞かれればその答えはノーだ。
あくまで自然に、例えば共通の行きつけの店で、待ち合わせもせずにたまたま鉢合わせる。
そういう出会い方がいい。
( ^ω^)「我ながら、気難しい性格だお」
立ち上がって三秒、ぼくは大きく溜息を吐いた。
と同時に、廃墟が揺れた。
(; ゚ω゚)「おっおっおっ!? なんだお!?」
砂埃のような細かい礫が、天井から舞い落ちる。
地震かと思い咄嗟に身を屈め、転がるようにして、ハインが通った後の、割れたガラス窓を突っ切った。
そしてぼくは、この揺れの正体が地震ではないことを知る。
|::━◎┥
(; ゚ω゚)「なっ……なっ……なっ……」
なんだあれは、と、言葉を絞り出すことも出来なかった。
大戦前に大陸の方から配給会社が仕入れてきたスペクタクル映画が一世を風靡したが、それに誂えても何ら違和感の無い、巨大な石人形がそこにいた。
-
待ってた
支援
-
ζ(゚ー゚*ζ「ごきげんよう、内藤ホライゾンくん」
視線を切らず、バックステップで廃墟の屋上に鎮座する石人形から距離を置く。
本能が逃げろと告げていた。
あの石人形にはどう足掻いても太刀打ち出来ない、が、逃げ仰せることは可能だろう。
だが、アレの肩の上に立つあの女はまずい。
勝ち負けの次元では無い。
選択を間違えた瞬間死ぬぞ、と、脳が警鐘を鳴らしていた。
( ^ω^)「あなたは……?」
呼びかけながら、それでも少しずつ後退る。
あの廃墟の中には、ぼくが倒した大男がいる。
急所は突いたが、致命傷になり得るほどの一撃は加えていない。
もしかしたら、そろそろ目を覚ます頃だろうか。
-
一目散に逃げたところで、あの石人形はともかく、女から逃げ切れる自信が無かった。
もしもあの大男が目を覚まし、廃墟の中から彼女の眼下に現れた場合は、それに気を取られている隙に全力で逃げよう。
そう考えていた。
それ以外に、命を繋げる可能性がある妙案は思いつかなかった。
それすら、あの大男が起きる確証も無く、不確定要素が自分にとって都合のいい方向に転がって初めて成立する、神頼みのようなものだ。
ζ(゚ー゚*ζ「第四王位デレ。よろしくね……と言っても」
悠長な自己紹介は、声色だけ窺えば、敵意のない穏やかなものだった。
けれど、それに安堵出来ないことなど、とうに理解している。
あの女がぼくを視認したが瞬間から今に至るまで、携える真紅の鎌の切っ先を、ぼくに向け続けているのだから。
ζ(゚ー゚*ζ「ここで死んでもらうんだけどね!」
世界の速度が、引き延ばされてゆく。
-
大きく鎌を振りかぶったデレの体躯が、陽の光に照らされて煌めいた。
漆黒のドレスに身を包んだそのシルエットは逆光を帯び、神秘を纏う。
第四王位ーー
彼女はそう名乗った。
王位を警鐘する者が出張り、手ずからぼくを殺めようとする理由など解らない。
どこで間違えたのか。
最近の、道場破り紛いのストリートファイトに目をつけられてしまったか。
どちらにしても……
(;^ω^)
ぼくは、死ぬ。
振りかぶった鎌の切っ先が、ゆっくりとぼくの方を向いて降りてくる。
どう見てもリーチはこちらに届かない。
けれど死ぬ。
それは確信めいた予感……
-
目を閉じかけたその瞬間ーー
轟音が鳴り響いた。
.
-
石人形の右肩が爆ぜ飛んだ。
熱と、火を伴って。
その直後、乾いた発砲音が鳴り響く。
軽機関銃の乱射だと気付いたのは直ぐだった。
('A`)「なんだこりゃ。ブーン、何でお前がここにいる?」
空中で逆さに浮かぶ黒い影が、ぼくに語りかける。
野暮ったい髪を靡かせながら、ドクオは不安定な体勢のまま、半壊した石人形に向けて何かを投擲した。
それは盛大な爆発を放ち、人形の足元の廃墟ごと吹き飛ばした。
( ^ω^)「いいとこに来てくれたお!」
つい大声を出してしまう。
けれど状況は対して変わっていないことを、すぐに悟る。
相手は第四王位と名乗った。
恐らくそれが騙りであるという線は薄いだろう。
ドクオがぼくより遥かに強いとしても、一年生二人で、この学園で四番目に強い者に敵うとは思えなかった。
-
宙に身を投げる形で浮いていたドクオが消えた。
正確には、まるで何かに引きつけられるような、単体では絶対に再現し得ない軌道を描いて……
('A`)「状況が飲み込めん。説明しろ」
ぼくの隣に到達した。
倒壊し、土埃を上げる廃墟から目を離さず、ぼくはそのまま状況を整理した。
(;^ω^)「第四王位を名乗る人にわけもわからず襲われてこんな状況だお。ぼくにも何が何やら……」
('A`)「何もわからねぇってことか……」
ドクオは舌打ちをして、土埃の向こうを見た。
ぼくには濃い雲のような粉塵の集まりしか見えないが、ドクオには、ぼくと違うものが見えるのだろうか。
デレと名乗った女は、今のところ何の反応も見せていない。
ぼくが倒した大男は、きっとあの爆発に飲まれて死んだだろう。
だが、あの女があの程度で死ぬとは思えない。
-
ζ(゚ー゚#ζ「やってくれますね。初対面の女の子に向かって名乗るよりも先に鉛玉飛ばしてくるなんて……」
('A`)「普通はそれだけ鉛玉食らったらそんな減らず口は叩けねぇんだがな……」
土煙の中から、悠然と歩んでくる。
黒のドレスは所々破れ、白い陶磁器のような肌が大きく露出している。
それでも扇情的な雰囲気は微塵も感じられない。
生気が、致命的なほどに欠けているのだ。
('A`)「なるほどね、お前も吸血鬼ってわけか」
血の泡を撒き散らしながら、デレは玩具のように、巨大な大鎌を軽々と振り回している。
ドクオに弾丸を撃ち込まれた箇所が、肉を取り戻してゆく。
ζ(゚ー゚*ζ「ええ、その通りです。今後役に立たない情報ですけどね!」
真紅の鎌を大きく、横に薙ぐ。
そのモーションの出がかりの時点で、ぼくは大きく身を引いていた。
斬撃を具現化したような、半月型の赤い刃が一閃、ドクオを捉えていた。
-
( ^ω^)「ドクオ!」
駆け付けてどうこうしようにも、そもそも身体が反応しきれていなかった。
代わりに大声でドクオを呼ぶが、ドクオは、左手でぼくを制するような所作を取った。
ぼくに向けられた掌には、薄い、シミのようなものが刻まれていた。
('A`)「しっーー!」
短く力を込めるような発声。
小さく身を屈め、ドクオはデレの元へと駆けた。
軽機関銃は放り投げていた。
無用の長物と判断したのだろう。
真紅の刃がドクオの頭上を通り過ぎると、それは軌道を変え、ぼくの方へと向かってきた。
(;^ω^)「なんだおこれ!」
ドクオがそうしたように、ぼくも身を屈めてそれを躱す。
髪の毛を掠めた刃は大きく上空に逸れ、軌道の頂点に達すると、急降下した。
その先にいるのは、ドクオ。
(;^ω^)「上だお! ドクオ!」
刃がドクオの脳天を貫く寸前で、彼の身体が大きく横に逸れる。
動いているとは思えないほど脱力した姿勢で、十数メートル先の、崩れかけのビルの壁に吸い寄せられてゆく。
-
なんだあれは、と思案するのはまたの機会でいいだろう。
ドクオは何らかの、超高速移動手段がある。
ならば当然ぼくはぼくで、自分の身を案じるべきだ。
赤い刃は地面に突き刺さったかと思うと、僅かばかりの土を抉り取り、ビルの壁に張り付くドクオの元へと飛んでゆく。
ζ(゚ー゚*ζ
デレもドクオの方を見据えていた。
ぼくなど、意識を向けるまでもなく、いつでも殺せるということだろうか。
恐らく彼女から見たその評価は妥当だ。
どう足掻いたってぼく単体では彼女に抗えそうもない。
だがーー
('A`)「そらよ! こっちはどうだ!」
ドクオのサポートに徹したら、彼が何を考え、どこで何を求めているのかを汲むことが出来れば……
ζ(゚ー゚*ζ「何発でも撃ってごらんなさいな。私がイノヴェルチであることを忘れてはいませんか?」
('A`)「お前らの身体張った自爆芸にはいい加減食傷気味だわな。すぐに殺してやるから見とけ」
もしかしたら、本当にもしかしたらだけれど、その喉元に、刃を突き立てることが出来るかもしれない。
-
ブーンとハインの邂逅より時は遡る。
デレが殺意を煮詰めて、戦いの兆しを醸し出している頃。
全てを事前に察知していた者がいた。
川 ゚ -゚)「やれやれだ……」
第二ブロック、校舎街。
クーはスマートフォンを耳に当て、発信先の男に繋がるまでの数秒の間に、深く溜息を吐いた。
聳え立つ塔のような校舎そのものが、クーが所属するクラスの教室になる。
それぞれのクラスが独立して校舎を構えなければ、生徒間の抗争は最低限の生活すらままならないほどに激化してしまう。
それを防ぐ為に、普通は学年で区切る校舎を各クラスによって区切り、結果として校舎塔は一つの街と呼び得るまでに増えた。
第二ブロック校舎街が出来た背景には、そのような事情があった。
その背景を思い返しながら、クーは塔を伝い、空を見上げた。
空は澱んでいた。
雨は降りそうで降らない。
きっとこのまま中途半端な空色のまま、雨は降らないままだろう。
少し強い風がクーの髪を撫でる。
腰に差した鬼切九郎丸の柄を弄りながら、クーはもう一度溜息を吐いた。
-
川 ゚ -゚】「ああ、私だ。なに? 寝てた?」
川 ゚ -゚】「すぐに起きて支度しろ。三分以内だ。家を出たら第八ブロックに急げ。多分デレがいるから一発殴ってこい」
川 ゚ -゚】「行きたいのは山々だが私は無理だ。厄介な奴に絡まれた」
川 ゚ -゚】「さっさと済ませろ? 馬鹿言うな。生きるか死ぬかもわからん相手だ。ついでに葬式の準備も整えてほしいくらいだ」
川 ゚ -゚】「私がそんな下らん嘘を吐いたことがあるか? まぁいい、生きてたら礼はする。急いでくれ」
通話を切り、クーは自分に向けられた視線の方を向いた。
川 ゚ -゚)「待たせたな」
_
( ゚∀゚)「やれやれ、焦らす女ってのはどうにも好きになれねぇや」
川 ゚ -゚)「そう言うな。色々と手を打っておかないと、私が死んだ後の事を考えると全力で望めないからな」
-
_
( ゚∀゚)「くっくっくっ……よく言うぜ。死ぬつもりなんか微塵もねぇくせによ……」
川 ゚ -゚)「無論、私とて全力で生きるつもりさ。その想いがぶつかり合った末、どちらかが手折られる。闘いとは往々にしてそんなものだろう?」
_
( ゚∀゚)「ちげぇねぇよ。そういう意味じゃあ、俺はここ暫く闘うことすらしてなかったのかもな」
川 ゚ -゚)「私も、同じようなことを考えていたよ」
いつからだろうか。
敵から向けられる純然たる殺意を受けて、欠伸すら漏れてしまうようになったのは。
いつからだろうか。
闘いの後に自分が何をするかを、何の疑問もなく考えるようになったのは。
こんなものは、子供の戯れ合いでしかない。
クーは退屈であると同時に飢えていた。
闘いの本質を噛み締めることに。
自分の闘争本能という、衝動のような飢えを満たす者の存在に。
-
川 ゚ -゚)(或いは……それも詭弁でしかないのかもな)
本当に、心の底からそれを求めるのならば、モララーに挑めばいい。
十席の王位の頂点に座すモララーならば、自身の闘争本能など嫌というほど満たしてくれるだろう。
それが明確であるにも拘らず、そうしないのは、自分が手頃な相手を見繕って退屈を紛らわせることしか出来ない三流であることの証明、なのかもしれない。
そのように考え、自嘲の笑みを漏らす。
すっかり鈍ってしまった刃が、紅蓮の闘志を燃やすジョルジュに通用するのだろうか。
川 ゚ -゚)(やめよう……)
こんな風に算段を立てる闘いに、何の意味があるだろうか。
今は、今だけは、闘いという、この世で最も簡潔なコミュニケーションを、楽しもうではないか。
クーは、あらゆる思案を飲み込み、ジョルジュと向き合った。
ここでやり合えば、校舎塔にも被害が及ぶかもしれない。
けれど、構うものかと、クーは思った。
-
ジョルジュの真横に、一筋の光が走った。
同時に足元のアスファルトが深く裂け、礫を巻き上げる。
ジョルジュは舞い上がる髪を押さえ、口笛を鳴らした。
納刀状態から、常人にはその所作の一部始終を視界に収めさせない超高速の居合い。
居合いという動作を、人類で最も零に近付けた女の技に、心からの賞賛を視線で送る。
_
( ゚∀゚)「退魔刀鬼切九郎丸真打、か。こないだカチコミに来た一年坊の刀もかっちょ良かったが……痺れるねぇ」
強い刀、強い持ち主。
自分の"魔"と対等に切り結ぶには、十全たる相手だ。
ならば、武人として全力の魔を以って応えるのが礼儀だろう。
-
_
( ゚∀゚)「第三王位ジョルジュ」
川 ゚ -゚)「第二王位素直クール」
ジョルジュが顔の前で拳を作ると、それはインクを塗りたくったような、血の色をした炎を纏った。
クーは鬼切九郎丸を抜刀し、腰を深く落とし、腰の高さで真横に構える。
「推して参るッ!!」
二人の声が重なると同時に、その姿は消えた。
否、正確には、誰の目にも捉えられない超高速移動が展開された。
_
( ゚∀゚)「ハッハーッ! Blastォッ!!」
二人同時に校舎塔の壁を駆け上がり、遙か上空に跳躍。
九郎丸をジョルジュの肩口目掛けて薙ぐクー。
ジョルジュはその手首を片手で掴み、空いた右手をクーの眼前に突きつけた。
川 ゚ -゚)「ーーッ!」
発火、と同時に爆炎が直線上に駆け抜けた。
咄嗟に上体を逸らしたクーの髪を少し焼き、炎は風に流される。
_
( ゚∀゚)「Chew on this!!!」
クーの手首を押さえた腕を軸に、ジョルジュは身体を捻って腰に足刀を捩じ込む。
と同時に、衝撃部分が爆ぜ、クーの身体はアスファルトに突っ込んでゆく。
-
川 ゚ -゚)「はッ!」
地面との直撃を両足をつき、踏ん張って力づくで制する。
上空で腕を翳すジョルジュは全身に炎を纏っていた。
さながら火の玉のようだ。
ならばーー
川 ゚ -゚)「掻き消すまでだ」
手首の力を極限まで抜き、半身だけジョルジュと正対した形から、一文字に九郎丸を振るう。
一陣の風が巻き起こり、それは周囲の大気を巻き込み、確固とした力を孕む風の渦となった。
_
( ゚∀゚)(これは、あの一年坊やの……? いや……)
理屈はほぼほぼ同じ。それはクーの動作を見て瞬時に理解出来た。
だが、ミルナの風穿ちとは規模が違い過ぎる。
例えるならミルナのそれが吹き付ける突風だとしたら、この一撃はさながら塵旋風。
正対し、直撃すれば遥か上空まで吹き飛ばされるか、或いは全身をバラバラに切り刻まれるか。その両方か。
どちらにしても、禍々しい渦とも取れるこの風が、対軍兵器よりも絶大な殺傷能力を持っていることに変わりはない。
-
眼前に迫る風の渦。
自分の身は宙に。
回避行動を取ることは出来ない。
ならば、やることは一つだ。
_
( ゚∀゚)「喰らうまでだ」
ジョルジュの右腕が吼えた。
それは爆炎の轟き。
全てを飲み込む炎が、風を喰らい尽くし、クー目掛けて直下する。
川 ゚ -゚)「ーーっ!」
受けきれない。
そう判断したクーは身を翻し、大きく横に跳躍した。
クーがいた場所のアスファルトが、溶けた。
一点だけを集中的に焼き尽くした火は消えず、そのままの形でうねり、とぐろを巻く。
_
( ゚∀゚)「いーい判断だ。そのまま受けてたらお前、食われてたぜ」
炎の渦の中心に、ジョルジュは着地した。
炎の熱で空気が歪み、クーにはジョルジュの顔が大きく広がって見えた。
炎はまるで筒に通した水のように明確な形を帯び、その内部には気泡のようなものが蠢いている。
-
巨大な炎の蛇。
クーは久々に目にしたジョルジュの"奥の手"を目の前にして武者震いしていた。
川 ゚ -゚)(取り敢えず引き摺り出せたか……)
_
( ゚∀゚)「火龍ファフニール。お前に見せるのは初めてだったか」
川 ゚ -゚)「いや、遠巻きにだが一度だけ見たよ」
_
( ゚∀゚)「へぇ? そんな機会があったっけか?」
川 ゚ -゚)「お前がデレに挑まれた時だ」
_
( ゚∀゚)「そうかいそうかい。なら話ははえーや。お前、死んだぜ」
川 ゚ -゚)「なに、そう結果を急ぐな。どうにでもやりようはあるさ」
茹だるような熱が伝わってくる。
クーは眉を顰め、九郎丸の切っ先をジョルジュに向け、思案する。
-
川 ゚ -゚)(ファフニール、引き摺り出せたはいいものの……さてどうしたものかな……)
火龍の脅威について、クーは直接その荒れ狂う力を目にしたこともあり、よく知っていた。
去年の暮れ、デレが第四王位を継承してすぐのことだった。
彼女がジョルジュに挑む形で、その闘いは始まった。
序盤はデレが圧倒していた。
自身の血を媒体にした追尾する刃がジョルジュの反撃を許さなかったのだ。
しかし刃が数百に及び、見切ったところで躱すことが不可能になったところで、ジョルジュは火龍を召喚した。
火龍は血の刃を全て飲み込み、デレの"奥の手"すら、最初からそんなものは無かったかのように一瞬で食らい尽くした。
火龍が召喚されてから三分と経たずに、デレは炭化した塊に変わっていた。
吸血鬼だから一命は取り留めたものの、デレはそれから暫く、恐怖で気が触れたようになっていた。
先日の会合のように、まともにジョルジュと話せるまでに回復したのは奇跡と言えるだろう。
-
川 ゚ -゚)(取り敢えず触ってみるか)
刃を三度振り、不可視の斬撃を飛ばす。
当然その動作も零に限りなく近い刹那の間に完了しており、傍から見るとクーが一瞥した箇所に不可避の斬撃が発生したようにしか見えない。
とぐろを巻き、主人を守る火龍の胴が四等分に切り分けられるが、すぐに繋がった。
川 ゚ -゚)「この手応えは……」
_
( ゚∀゚)「そう、こいつには実体があるし、掴みようのない炎でもある」
_
( ゚∀゚)「つまり……」
硬い鱗を持った蛇を切ったような感触だった。
きっと龍が実在するとしたら、こういう感覚なのだろう。
クーは、実体があることの恐ろしさについて、考察を始める。
_
( ゚∀゚)「お前がどれだけ頑張っても、こいつを排除することは不可能。だが無視出来るほどヤワな代物じゃねぇ」
_
( ゚∀゚)「お前じゃ勝てねぇってこったな」
今のクーに軽口を叩く余裕は無かった。
-
( ・∀・)「さて、と……」
第一王位モララー。
彼は今、VIP学園にはいなかった。
それどころか、"本国"にすらいない。
彼は今、ラウンジ国とオープン国の戦線の渦中にいた。
VIP学園のアウトロー達の中には、戦争孤児となった者も多く、ブーンのように寮で過ごす者もいるが、大半は下宿先や、自宅を設けている。
そういった者達の大半は、アウトローと呼ばれる所以たる稼業で生計を立てている。
モララーもその一人だ。
( ・∀・)「しかしここは寒いねぇ。はやく本国に帰還して、あったかいココアでも飲みたいな」
オープン国の兵士が数十人、モララーを取り囲む形で陣を敷き、銃を構えている。
銃口を向けられている自分すら客観視するような楽観的な態度に、その場のモララー以外全員が不気味なオーラを肌で感じ取っていた。
-
( ・∀・)「ねぇ君たちさ。さっきから僕のことを囲って何がしたいのかな。オタサーの姫なんて柄じゃないんだけど」
モララーはそう言って、自分を囲む兵士達を一瞥した。
モララーの行動は、それだけだった。
モララーを囲っていた兵士達はドミノ倒しのように倒れ伏してゆく。
彼等は全員、既に息をしていなかった。
超スピードで彼等全員を屠ったわけではない。
本当に、ただ"見た"だけで、モララーはこの場にいる全員を殺したのだ。
彼等の生死を確認せぬまま、モララーは上空を見やる。
遥か上空に一筋、煌きを確認する。
( ・∀・)「へぇ……ミサイルか。この中の誰かが座標を送信したってわけだね。その為だけに死んだわけだ。涙ぐましい神風特攻だね」
ミサイルが風を切る轟音は段々と近付いてくる。
自分の命を狩らんと疾駆する物体が目視可能な地点に到達すると、モララーは右手で銃の形を作り、照準を定めた。
-
( ・∀・)「もし、万が一この中に生存者がいたら本営に伝えておいてよ」
( ・∀・)「僕を殺したいなら、核兵器を使えってね」
それでも負ける気はしないけど。と付け加え、モララーは自身の意識を指に集中させる。
体内を巡る自分の闘気を御し、循環させる。
循環速度を高め、巡る闘気の練度を深めるイメージ。
そのイメージが頂点に達した時、モララーは練られた闘気を指に集めた。
彼のイメージの中でしか存在出来なかった闘気は、光となり、彼の指先に収束し、光弾という形で顕現し、そしてーー
射出された。
誰の目にも目視出来るところまで近付いていたミサイルと正面からぶつかり、遥か上空で不恰好な花火を上げる。
大国同士の戦争の最前線に単騎で乗り込み、剰えおよそ個人に向けるような代物ではない殲滅用ミサイルまで撃ち落としてしまった。
しかしモララーは自分がした事が、あたかも誰にでも出来ると言わんばかりに、余裕綽々な鼻歌を歌い始める。
-
( ・∀・】「もしもし、フォックスさん?」
( ・∀・】「うん、終わりましたよ。これで事実上オープン国は崩壊。ラウンジが残党を狩れば、オープンは地図から消えることになる」
( ・∀・】「怖い怖いってなんですかそれ。貴方が僕に依頼したんでしょう」
( ・∀・】「口座に振り込んでくれればいいですよ。ところで貴方自身には一体いくら入るんですか? 一国を落とす依頼の報酬ともあれば、億はくだらないんでしょう?」
( ・∀・】「ちぇっ、また貴方はそうやってすぐにはぐらかす。そうやって白とも黒ともつかない発言ばかりするから、クーに探られるんでしょう」
荒廃した土地に一人佇むモララー。
傍から見るとそれは、彼の丹精な容姿もあり、神々しさすら垣間見えるのだろう。
だが、電話を通じてフォックスと会話する彼の声色は脳天気で、全てを台無しにしている。
( ・∀・】「クーを殺すって貴方……そりゃまた強気に出ましたね」
-
お前なら、やれないことはないだろう?
国を隔て、通話で繋がったフォックスは、滑り気を孕んだ声で、そう言った。
( ・∀・】「現実にあり得て欲しくはないシチュですけどねぇ。ま、全て貴方の意の通りに。その際はご心配なく」
モララーは夢想する。
自分と素直クールが切り結び、命の駆け引きをしている場面を。
そして彼は、大きな欠伸を漏らした。
( ・∀・】「"戦神"についてはどうします? どうやらきな臭い面子と順調に繋がりつつあるみたいですけど」
( ・∀・】「はぁ、それは残念です。僕としては一度手合わせ願いたいところなんですけどね」
身近にあった大きな石の上に腰掛け、モララーは優雅に足を組み、空を仰いだ。
本国と繋がっている、空を。
( ・∀・】「ま、僕も武人の端くれですからね。機が熟した際には、胸を借りる思いで挑ませてもらいますよ。それじゃ……」
-
( ・∀・)「ふぅ、お待たせ。僕の主は少しマイペース過ぎるのが玉に瑕でね。
浅い川辺の近くの大岩に向かって、モララーは語りかける。
少しだけ視線をずらし、川の流れを見やると、薄っすらと赤く濁った箇所がちらほらと見受けられる。
上流の方でも、残党が血みどろな激戦を繰り広げているのだろうか。
モララーはぼんやりと考えていた。
( ´ー`)「いつから気付いてた?」
( ・∀・)「最初からさ。尻尾を巻いて逃げると思いきや、こんなに殺意を尖らせて留まるとは思わなかったけどね」
緩慢な動作で、目付きの悪い男が岩陰から出てきた。
戦場の兵士達とは違い、武装は一切纏っていない。
厚手のコートを着込んだ細身の男は、獣のような目付きでモララーを見据えていた。
( ´ー`)「こんな激戦の渦中に丸腰で乗り込んでくるとは、なかなかお目にかかれない命知らずだ」
( ・∀・)「それはお互い様だろう? しかし寒いね。君みたいにコートを着てくれば良かったよ」
( ´ー`)「心配すんな。じきに寒さも感じなくなる」
( ・∀・)「そうだね。さっさと帰って温かいココアでも飲むとするさ」
( ´ー`)「大層な雄弁家らしいが、戦場では身の程知らずから先に死んでいくんだぜ」
( ・∀・)「君のように、かい?」
-
年齢は自分より少し上だろうか。
弱冠二十歳そこそこの若者が、どうして戦場でこうも堂々と、それも丸腰で立ち振る舞えるのだろうか。
モララーには分からなかった。
理解し難いことではあるが、同時に詮無い事だとも考えていた。
( ´ー`)「お前、VIP学園のOBだろ。機関銃の弾が飛び交うこんな戦場で丸腰ってのは、大層腕に自信があるとみた」
( ・∀・)「へぇ、そういう君はVIPの関係者かい?」
( ´ー`)「お前と同じだよ。在学中は第三王位を継承していた。今では伝説の傭兵、なんて呼ばれてるぜ」
( ・∀・)「伝説……へぇ。その名前、君の肩には少しばかり重いんじゃないの?」
( ´ー`)「次に安い挑発をしてみろ。その首を掻き切ってやる。三度目は無いからな」
( ・∀・)「ご自由にどうぞ。大層な雄弁家らしいね」
( ´ー`)「……殺す」
拳を固く握り、眼前に突き出す。そして左手は平手で、腰の横に添え、深く腰を落とした。
今も大きく門を構える流派の構えであると、モララーはその所作を見てすぐに分かった。
だが肝心の流派名が出てこない。
しかしどうでもいいことだと、モララーは頭の中の靄を一蹴する。
-
男の眼光は鋭い。
幾千もの戦場を渡り歩き、取捨選択を繰り返した末に手に入れた鋭さだろう。
敵を屠る。
その行動において、彼は極地に立っている。
その集大成が今、自分に向けられている。
そう考えると、モララーは笑いを堪えきれなかった。
( ´ー`)「何がおかしい」
( ・∀・)「そうだ。冥土の土産に教えてあげよう。僕はOBではなく在学生だ。ふっ……ふふふ……」
(# ´ー`)「何がおかしいと聞いている!」
( ・∀・)「ふふふ……これは失礼……」
男の右手の、肘から先が無くなった。
驚く間もなく、男の視界がひっくり返る。
左足が無くなり、身体がバランスを崩して倒れたからだと、彼は知る由もなかった。
それに気付く前に、彼の意識はこの世から消え去った。
( ・∀・)「もう死んでることに気付かないのが面白かったんでね」
-
四肢を捥がれ、首を失った胴は、血溜まりの中心で僅かばかりの熱を発している。
男が着ていたコートは風に煽られ、ふわりとその上に舞い落ちた。
( ・∀・)「傭兵程度じゃ僕には勝てない。どれだけ強くなっても、それは結局雇われて戦争の歯車の一つになっているに過ぎないんだから」
その強大な力を惜しみ無く振るえば、モララーの力は一国家に比肩し得る。
クーも、ジョルジュも、どれだけ強くてもこの域に達することは出来なかった。
彼等は強者という域の上澄みで、燻っているに過ぎない。
モララーはそう考える。
一個人として観測するにはあまりに大き過ぎる存在。
力という概念そのものが一人歩きしているようなその様は、まさに破壊の事象そのもの。
VIP学園から一歩外に出れば、モララーはこのような紛争地域の粛清に精を出している。
金の折り合いさえつけば誰でも構わず、無差別に、だ。
とある筋の人間は、畏怖の念を込めて彼をこう呼んだ。
戦争請負人、とーー
-
身体が軽い。
恐怖は無い。
まるで全ての動きが、成功が約束された作業のように思える。
('A`)「今だ。思い切りぶん殴ってやれ」
( ゚ω゚)「おおおおおおおおっ!!」
渾身の右ストレートが、デレの頬を捉えた。
頬骨を砕く感触が、拳越しに伝わってくる。
大きくよろめいたデレだが、その瞳が、しっかりとぼくを捉えているのは分かった。
ζ(゚ー゚#ζ「こっの……!」
少しだけ長い爪を自分の首に突き立て、切り裂く。
噴き出す血は外気に触れると同時に凝固し、携えた大鎌と同じ形の刃に変わる。
自動追尾する刃の恐ろしさはもう知っている。
だけど、今のぼくにとって、それは障害にはなり得ない。
-
('A`)「あぶねぇな。没収だ」
ぼくの首筋に狙いを定めていた血の刃が遥か上空に舞う。
ドクオの手の、指の動きに合わせて、それは暴れ狂いながら彼の足元に着地した。
ζ(゚ー゚#ζ「ほんっとうに小賢しい糸ですね!」
大鎌は、この至近距離ならば無用の長物にしかならない。
それでもデレは器用に立ち回り、隙あらばぼくの首を狙ってくる。
勿論ぼくとてこの短い期間ではあるものの、腐っていたわけではない。
自分なりに自分を鍛えてきたつもりだ。
安定しない体勢から放たれる一撃など、躱すのに何の苦労も無い。
脇を小さく畳んだ最速の一撃がぼくの胴を狙う。
躱すまでも無い。
この位置取りなら、彼の領域だ。
('A`)「もう一発お見舞いしてやれ」
( ^ω^)「いくお!」
デレの右手が吹き飛んだ。
持っていた鎌ごと、腕は宙を舞い、彼女を守るものは何も無くなる。
最初に肘鉄を頭頂部に当てた。
大きく前のめりになり、擡げた頭を狙って膝蹴りを見舞う。
膝が顎を砕く感触に浸る間もなく、上体を逸らし、浮いて砕けた顎を蹴り上げた。
-
デレの身体は宙で二回転した。
盛大に着地する前に、五発の湿った銃声が鳴り響く。
残ったもう片方の腕と、両足が血を撒き散らしながら爆ぜ飛び、胴からも血が噴き出た。
('A`)「ちっ……頭は外したか」
煙草を取り出し、手早く火をつける。
全ての動作が澱みない。
圧倒的だった。
ζ(゚ー゚*ζ「おいで、ゴーレム」
地面を滑りながら、上半身にぼろ切れを纏ったあられもない姿。
それでも、その顔付きは、第四王位の風格を失っていなかった。
|::━◎┥
ほんの瞬きの間に、石人形が現れた。
(;^ω^)「ーーっ!」
ドクオの背後に。
('A`)「すっこんでろ木偶人形が」
石人形の両手がドクオの身体を、蚊でも潰すように挟もうとしたその刹那、人形は足元から爆発と共に崩れ落ちた。
-
('A`)「チャチなテルミット爆弾でもここまで派手に崩れてくれるとは、相当苛立ってるらしいな」
石人形が崩れ落ちる様を振り向いて確認する素振りも見せず、ドクオは淡々と黒銃に弾を込め直した。
ζ(゚ー゚#ζ「人間風情がいちいち鼻につくことばかり……本当に苛々してますよ」
('A`)「真祖でもない異形のなり損ないが。人間様を甘く見ると痛い目に遭うぜ?」
( ^ω^)「おっおっ。大人しく退いてくれませんかお? これ以上はお互い不利益にしかならないと思いますお」
ζ(゚ー゚#ζ「自分の立場を弁えて発言しましょうね。この場で何も解っていないのは貴方だけですよ」
血の泡を撒き散らしながら下半身を再生させる。
その最中にドクオの銃が火を噴き、再生箇所を吹き飛ばした。
( ^ω^)「貴女が追い詰められているっていうことは分かりますお」
('A`)「違うなブーン、間違っているぞ。追い詰められてんのは俺たちだ」
-
(;^ω^)「おっ、どういうことだお?」
('A`)「……バカが。何発かくれてやったくらいで強くなった気でいるんじゃねぇよ。俺の"糸"も弾も有限だ。まだまだ在庫はたんまり残ってるがそれもいつかは尽きる。だがこの女の再生は無限だ」
('A`)「かと言ってやすやすと逃がしてくれるとも思えねぇしな。このままじゃジリ貧。いつかやられるぞ」
(;^ω^)「…………」
ζ(゚ー゚*ζ「その通り」
茹だるように浮ついていた頭が急速に冷えてゆく。
と同時に鳥肌が立った。
ドクオが指摘した通りだ。
ぼく、何の根拠もなく、自分はやれると信じ込んでいた。
ぼくが彼女と渡り合えていたのは、半ば手のひらで転がすような、ドクオの神懸かったサポートがあってのことだったのに。
だったらどうしたら……
助けを求めるように、ドクオと目を合わせる。
先ほどのような安心感は無かったけれど、彼は掌を突き出し、ジェスチャーで心配するなとぼくに告げていた。
さっきの会話の流れから、それがから元気であることは明らかだ。
けれど、彼の掌に出来た奇妙な"痣"を見つめていると、心なしか落ち着いた気がする。
-
('A`)「ま、どうにかしてみようかね。結局はなるようにしかならねぇ」
('A`)「気楽に行こうや」
('A`)「但し気は抜くなよ?」
彼の言葉は力強かった。
ナイフを一本、握り締め、ドクオの身体が地面を滑る。
その表現は、人間が地面を移動するのを言い表すには適切ではないのだろう。
だが彼の動作はまさに滑るとしか形容出来なかった。
彼の人間離れした動作の正体は"糸"
ぼくには見えないけれど、極細のワイヤーのようなものを一体に張り巡らせ、このような空間を支配する動きを可能にしているらしい。
デレは早々にそれを見切っていたが、分かったところでどうしようもない。
この場でぼくが察する限りでも、糸の耐久度が尋常じゃないのだ。
しかし、先の彼の発言の通り、いつかは切れるし、いつかは無くなる。
或いは既に張り巡らせた糸の内の何割かは切れてしまっているのかもしれない。
そのくらい深刻に考えておいた方が懸命だ。
身を小さく屈め、デレに向かって駆ける。
どれだけやれるかは分からない。
けれど、ドクオがそうしたように、ぼくもドクオのサポートをしなければ。
-
(;^ω^)「おっ!?」
駆け出した直後、地面が大きく揺れた。
何故地面が崩れているのだろうか。
視線を下に移すと、その答えは見えた。
石人形が、ゴーレムが、その巨大な腕だけを地中から突き出し、ぼくの身体を容易く握り潰せるくらいに大きく掌を開いていた。
気を抜くなと言われたばかりじゃないか。
くそ、ぼくはどうして、どうしてこんなに間抜けなんだ。
「ったく、ギリギリ間に合ったか」
その声はドクオじゃなかった。
ドクオよりも少しだけ低く、荒ぶった声。
(,,゚Д゚)「どいつもこいつも人遣いが荒いぜ。手前の尻も手前で拭けない連中を、どうして守る必要があるんだ」
ゴーレムの巨大な掌が砕け散り、粉々になった瓦礫の破片がぼくの視界を覆った。
深く抉れた地面の底で身体を打ち付け、痛みがじわりと手足にまで広がった。
(,,゚Д゚)「よう」
ぼくを見下ろす誰か。
彼の名前をぼくは知らない。
-
終わり、俺乙
はやいもんでもう十話終わりか
丁度いい区切りだしなんかあったら気付き次第答えるわ
これから十話区切りくらいでこういうの設けることにしよう
ほいたらまた近々
-
おつ!
-
乙乙!
やっぱりドクオにも「痣」があるんだな
質問といえば、>>255が自分も気になってる
-
乙
-
>>338
エクストとやり合ってるうちに負傷して、最後の最後に兄者の変貌に気圧されて気を失ったって感じ
あまり深く触るつもりも無かったしここで言及出来てよかった。描写不足だ
-
イノヴェルチは戦意喪失させるしかないのか
-
>>341
脳と心臓を同時に潰せば死ぬがあまり知られてない上片方だけ潰しても再生が終わるまでにもう片方を潰さなきゃ殺せないからなかなか死なないという感じ
吸血鬼関連については結構深く話に絡むから追い追い言及していくつもり
-
乙乙
-
デレさんは百合ですか!?
-
>>344
女の子好きというよりハイン好き
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ブーンの由来はいずれ明らかになる?何かの伏線だから隠してるのかな?
-
>>346
由来というかブーンである意味は後々明らかになる。わりかし大事。
-
モララーだけなんで飛び抜けて強いの?
-
クーがギコに助けを求めたのはドクオがいるからなのかブーンがいるからなのかどっちなんだろう
-
クーはハインにもブーンに手出ししないように言ってたからブーンになんかあるんだろうな
-
>>348
これはもうそういうものだという気持ちで見てもらえれば。
一応それらしい理屈はあるけどそれはまた追い追い。
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なんで飛び抜けて強いのって
創作物でそれいったら例えば範馬勇次郎はなんで飛び抜けて強いのって話になるぞ
そういうものだから以外に理由ないだろwww
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勇次郎が強い理由もあるだろ
ただその理由が話の根幹に関わったり醍醐味だろうから聞くことが若干短絡的なのは間違いない
-
そういや学園の教職員はどれくらいいるんだろ?
んで授業内容とかどんなのかな
-
>>353
そうじゃなくて、そういう背景も含めて物語としてそういう設定だからとしか言えなくねってこと
そういう風に作ってんだから
-
>>354
少し待って
バッチリ考えてるしちょうど小ネタ挟みたいと思ってたからおまけの日常回みたいなの作る
-
まじかよ期待
-
>>355
なぜその背景をモララーが持ったのか
そもそもなぜそういう背景になったのか、作者の物語設定の理由を聞かれていたりしていたら別段おかしな質問に見えないけどね
質問者のいない場で話しても仕方ないことだが
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後々明かされるんだから待とうな
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待機
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どっちの場面も楽しみで待ちきれん
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SWに入ったしそろそろこないかなー
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だんだん投下間隔が空いてきて不安になる
-
あたしまーつーわ
-
いつーまでーもまーつーわ
-
とっても大好き
-
一ヶ月経ったっちゃ
-
来ないからもう内容忘れた
-
最初は勢い良かったのにな
もったいない
-
今夜投下する
多分21時前後くらい
それまでに番外編書き終わったら一緒に投下する
間に合わなかったら今週末中にでも
良かったらリアルタイムでよろしく
-
期待してるぜ
-
リアルタイムでってことは何かある予感!期待!
-
楽しみだ
-
これは嬉しいね
-
yo yo yo
ぼちぼち投下しますかね
-
第十一話「流転の塔。乖離する自分と掌から零れ落ちた空。」
.
-
(;^ω^)「あ、貴方は……?」
(,,゚Д゚)「二年生、第八王位のギコだ。別に覚えなくてもいい」
制服をかっちりと着込んだ誠実そうな人だ。
男らしい端正な顔立ちを見るに、きっと異性に好意を寄せられることは多いだろう。
そんな事を考える余裕が沸くくらいに、この人には安心感があった。
皮の指抜きグローブを嵌めた手を差し出してきたので、握り返して立ち上がる。
大きな柱に寄りかかっているみたいに、頼もしい。
よく分からないが、ゴーレムに潰されかけたぼくを助けてくれたことは間違いないようだし、先程の守るという発言から察するに、助っ人ということだろう。
( ^ω^)「内藤ホライーー」
(,,゚Д゚)「内藤ホライゾン、ブーンとか呼ばれてるんだろ。知ってるよ。お前は俺の知人のお気に入りだからな」
(,,゚Д゚)「ま、興味ないけど」
馴れ合うつもりはない。
と、態度が示していた。
このやり取りの中で、彼は一度もぼくと目を合わせなかった。
ひたすら、泡を撒き散らして再生するデレを見据えていた。
-
(,,゚Д゚)「よう。随分と風通しの良さそうなファッションじゃねぇか。いつもの暑苦しいドレスよりずっとキュートだ」
ζ(゚ー゚*ζ「ギコさん……ですか。よりにもよって何で貴方が? 私ごときの戯れに首を突っ込まないでくださいな」
(,,゚Д゚)「俺だって関わりたくは無いさ。ただクー会長を筆頭に、王位の連中はこいつを死なせたくないらしい」
(,,゚Д゚)「ペニサスやワカッテマスも同意見らしい。さっきペニサスから。それとクー会長直々に連絡があったよ。お前を止めろってな」
ζ(゚ー゚*ζ「……クーさんが、ですか」
(,,゚Д゚)「そう、お前の大好きなクー会長が言ったんだ。それでもやるってんなら、めんどくせぇが俺はお前をぶん殴らなきゃいけねぇ。さぁどうする?」
ζ(゚ー゚*ζ「愚問ですね」
(,,゚Д゚)「そうかい。お前は真祖が絡むといつもそうだ。お高く止まってつんとしておきながら、誰よりも厄介なことをやらかしやがる。そして尻拭いをするのはクー会長や暇な俺だ」
(,,゚Д゚)「暇っつってもよ、俺はこう見えて色々考えてんだ。血の気の多いお前らは暴れられりゃそれでいいかもしれないけどよ……ったく」
-
ギコさんはぶつぶつと、恨み言のような愚痴を吐き散らしていた。
彼が何に憤っているのか、どういう理由でここにやってきたのか。
その一切がまるで見えてこないので、ぼくは緊張の糸をきることも出来ず、ただ呆然と彼とデレを交互に眺めることしか出来なかった。
('A`)「おい」
そこに、一石を投じるドクオ。
('A`)「なんだって王位がのこのこと二人も現れてんだ。こっちが必死こいて探してる内は尻尾すら出さなかったってのによ……」
黒銃の銃口をデレに向けたまま、ドクオは懐からもう一丁の銃を取り出し、ギコに向けて構えた。
その銃も型式などは見ても分からなかった。
或いは、原型など留められないほどにカスタマイズされているのかもしれない。
灰色の銃だ。
(,,゚Д゚)「…………」
ギコさんは対して興味なさそうにドクオを一瞥し、すぐに視線をデレの方に戻した。
ζ(゚ー゚*ζ「…………」
裸同然のぼろ切れを纏ったデレの反応も似たようなものだ。
先程までドクオに向けられていた悍ましいほどの殺意、諸々が、今は静かに、ギコさんにだけ向けられている。
('A`)「ちっ……」
ドクオはそれが気に入らなかったのか、忌々しそうに舌打ちをすると、灰色の銃を懐に戻した。
そして、黒銃の引き金をデレに向けたまま、絞る。
-
湿ったような重い発砲音と同時に、デレは大きく横っ跳びした。
血の泡が、彼女の身体を取り囲むように宙で蠢いている。
大鎌が生成される。
それを手に取り、大きく一薙ぎ。鎌から分かたれた斬撃の刃が直進する頃には、ドクオの身体は遥か上空に浮いていた。
(,,゚Д゚)「へぇ……」
ギコさんは大仰に口笛を鳴らし、目を丸く見開いた。
(,,゚Д゚)「面白そうだ。一度拳を交えてみるのも悪くない。悪くない……が、あいつに背中を預けてみるのはもっと楽しそうだ」
彼が見据える先にいるドクオは身体を捻り、立て続けに発砲音を鳴らした。
発砲とリロードが絶え間無く繰り返されているのだろう。
大口径の銃から発砲音が絶えることは無い。
無差別に降り注ぐ銃弾の雨を見てから躱すだけの反射神経を、ぼくは持ち合わせていない。
その場でなるべく身体を動かさないように立ちすくんでいると、やはりと言うべきか弾丸は紙一重でぼくの側を何度か通り抜けた。
ドクオは、あの体勢からあの速度で射撃を繰り返して尚且つ、狙いを的確に定めている。
-
しかしデレとて第四王位、いくら的確に狙いを定めようとも、降り注ぐ銃弾の雨を、極細の針の穴に身を通すような滑らかな動きで躱してゆく。
(,,゚Д゚)「そっちは詰みだぜ」
ぬるりと、威圧感がぼくの背中を舐めた。
ほんの瞬きの間に、彼は銃弾の雨を避けるデレの懐に潜り込んでいた。
構えも何もない、握り拳を振りかぶっただけの雑な体勢。
通るーー
ぼくがそう確信したのと、ギコさんの拳がデレの頬を撃ち抜いたのはほぼ同時だった。
それはギコさんの拳から、人間大の銃弾が射出されたように見えた。
肉眼で辛うじて追えるほどの速度でデレの身体は吹っ飛び、廃墟の瓦礫に突っ込んで砂埃を巻き上げる。
なんだこれはーー
( ^ω^)「人間じゃねぇ……」
ナンセンスな呟きだと、自分でも思った。
-
ζ(゚ー゚*ζ「相変わらず人間辞めちゃってますね……なんですかその馬鹿力」
(,,゚Д゚)「お互い様だな。普通の人間なら今ので首から上が無くなって御陀仏だ」
右頬を中心に潰れ、骨が剥き出しになった肉塊が泡を噴き、再生してゆく。
再び、弾丸の雨が降り注いだ。
('A`)「のらりくらりと見合って見合ってじゃテンポが悪いぜ。ここは爺婆の茶飲み場か?」
廃ビルの壁に張り付いた体勢で、ドクオは薄ら笑いを浮かべていた。
この状況をどこか客観視している自覚があるぼくでさえ、あの表情には違和感を覚えた。
何故、この状況下で笑っていられる?
その答えは、すぐに明らかになった。
デレを見ていない、彼の視線をゆっくり辿ってみる。
ぼくと別れたハインが駆けていった方向。
今後顔を合わせることは無い、とまでは言わないが、それでも暫くは視界に収めることは無いと思っていた彼女が、そこにいた。
-
从 ゚∀从「怪我は無いか」
从 ゚∀从「ブーン」
どこかばつが悪そうなその表情、今のぼくにとってこれほど安心出来るものは無い。
( ^ω^)「……なんとか」
ぼくは今どんな顔をしているのだろうか。
いや、考えるまでもない。
きっと彼女と同じような顔をしているのだと思う。
きっと彼女は今の状況をなんとかするのが先決だとかこつけて、あの出来事についてははぐらかすのだろう。
確信などどこにも無いが、少なくともぼくには彼女がそうするように思えた。
それはそれで都合がいい。
ぼくも丁度、そのようにしたいと考えていたところだ。
(,,゚Д゚)「トロくせぇぞ真祖。お前が来る前にやっちまうところだったぜ」
从 ゚∀从「イノヴェルチがどうすれば死ぬのかも分からねぇのにどうやってとっちめるつもりだったんだよお前は」
(,,゚Д゚)「ぶん殴ってりゃいつか心が折れるだろ」
彼なら本当にやってのけそうだと思った。
-
从 ゚∀从「流石は王位ってとこかねぇ。俺は自分がイかれてるっていう自覚があるが、お前らを見てると本当にそうか? て頭を抱えちまいそうだ」
(,,゚Д゚)「御託はいいからさっさと教えな。"弱い"お前に代わって俺が手を下してやるよ」
ζ(゚ー゚*ζ「…………」
そのやり取りを前にして、デレは無言で佇んでいた。
不気味なくらい、静かに。
その視線は真っ直ぐ、ハインに向かって伸びていた。
ロードとイノヴェルチの関係。
イノヴェルチを殺す方法。
どちらに着眼しても、彼女にとって思うところはあるのだろう。
十秒後には語られる自身の弱点。
それを当たり前に妨害するでもなく、デレは、静かにハインを見ていた。
ぼくはもう一つ、この場でただならぬ動きを見せている影に目をやる。
('A`)「…………」
ドクオだ。
先程ビルの壁に張り付いていた彼は、まるで糸に絡め取られた虫のような歪な姿勢で、宙に浮いていた。
逆さになった体勢のまま、腕だけは真っ直ぐ伸び、握った銃はデレの方に向けられている。
先ほどの軽口とは打って変わって、彼は口を真一文字に閉じ、静観している。
何を、何を見定めている?
デレの沈黙以上に、今はドクオのそれが不気味だった。
-
从 ゚∀从「心臓と脳だ。片方を潰しても駄目。どちらかが再生する前にもう片方も潰す。或いは両方潰す。それでイノヴェルチは死ぬ」
言い終わるよりも速く、ギコさんはデレの前で大きく身を翻していた。
軽く飛んだ体勢からの後ろ回し蹴り。
見事だと、両の手を合わせて拝みたくなる体捌きだ。
ζ(゚ー゚*ζ「残念です」
鋼鉄を打ったような硬い音が鳴り響く。
デレを守るように、彼の眼前でインクをぶちまけたような雑な形をした赤い壁が浮遊していた。
ギコさんの足刀はそれに阻まれ、弾かれる拍子に彼は大きく後ろに退いた。
(,,゚Д゚)「ちっ……かてぇ……」
デレはそれを追うことはせず、携えた大鎌を逆手に持ち替え……
半月を描くように自分の腹を抉った。
これまで流してきた彼女の血とは違っていた。
それは当然のことなのだけれど、彼女の腹部から腸と一緒に噴き出したそれが彼女に流れていた血潮なのだと、鮮明に実感することが出来た。
その理由は、立ち込める死臭。
否が応でもその生臭さを直感的に認識させられてしまう。
それは彼女が今まで流してきた血とは違うものだった。
鼻腔をくすぐるこの死臭が彼女のものなのか、或いは、他の誰かのものなのか、ぼくには分からない。
-
ζ(゚ー゚*ζ「私は、とてもがっかりしています」
ζ(゚ー゚*ζ「お姉様が私の事を嫌っているのは解っていました」
ζ(゚ー゚*ζ「だからお姉様は私を殺そうとする。私もそれに応える。私はお姉様を殺そうとする。お姉様はそれに応える。そんな風に、そんな風に確かめ合う愛の形があってもいいんじゃないかって」
ζ(゚ー゚*ζ「それをこんなゴミを間に挟んで濁すなんて……」
噴き出した血が拡散し、凝固した。
甲高い音を立て、広がりながら固まるそれは、花のようだった。
その開花の初動を見るや、ぼくは大きく横っ飛びした。
デレを中心に開花し、広がった花の花弁は鋭く、ぼくが元いた地点にまで広がっていた。
ギコさんの方を見る。
花弁が彼の元にまで迫っていたのは、初動を見ても花の広がり方を見ても分かる。が、彼の周囲の花弁は大きくひしゃげ、彼の身体を突き抜くには至らなかった。
(,,゚Д゚)「ここでフルスロットルってやつか……」
眼前に突き出した拳から煙のようなものが立ち上がっていた。
厚い布を水に浸して絞ったように、拳骨の部分から血が音を立てて滴っている。
視線をハインに流す。
一瞬だけ目が合った、が、彼女はじっとデレの方だけを見た。
彼女の地点にまで至る花びらは、彼女を避けるように歪に軌道を変えていた。
一歩、ハインは踏み出した。
そしてデレと彼女の間にある隔たりに敷き詰められた、赤い花の壁に手をかける。
从 ゚∀从「……分かってるよ」
彼女の前方を始点に花の結晶は霧散した。
-
きたこれしえん
-
この中で唯一安全な場所に留まり、静観している者がいる。
('A`)「…………」
先の衝撃で張り巡らせた糸が幾つか切れたのだろうか。
彼の体勢は逆さ吊りの状態から、揺りかごに揺られる赤子のような姿勢になっていた。
その状態でだらりと伸ばした腕に携える銃口は、変わらずデレに向けられている。
酷くリラックスしているようにも見える。
先程の薄ら笑いは、ハインの合流を察知してのことでは無かったらしい。
何かが、この戦場にはまだ、何かがある。
王位にも、真祖にも及ばぬところにそれは潜んでいて、機を窺っている。
それがドクオの策なのか、或いは偶発的な、自然現象のようなものなのか、ぼくには分からない。
('∀`)
( ^ω^)「……っ!」
ドクオが醜く口角を歪めた。
と同時に、覚醒半ばだった赤い花が、一層激しく咲き乱れた。
そして、閃光がぼくの目を焼いた。
焼いたーー
.
-
支援
-
デレ達が攻防を繰り返している最中、その遥か上空で彼と彼女はその戦いに介入するでもなく、ただ静観していた。
('、`*川「ギコを先に差し向けてはみたけど、どうも退屈よね」
( <●><●>)「……俯瞰とは、往々にしてそういうものです」
第五王位と第七王位、VIPの頂点の一角を担う二人は、揃って退屈そうな表情を浮かべ、肩を並べていた。
二人はそれぞれ、滞空状態にある流線型の翼に座り、両足を垂れ下げている。
それは鋼鉄か、或いは同等の強度を持つ材質で構成されているようで、二人が腰掛けるにはやや狭い面積ではあるものの、微動だにせず滞空状態を保ち、二人を支えている。
一切の無駄を省いたその形状は、銀色の滑らかな刃のようだ。
二人ともVIP学園指定の制服に身を包んでいた。
ワカッテマスはきっちりと、そのまま写真を撮ってパンフレットの表紙を飾らせても何ら問題無いくらいに固く着こなしている。
それとは対照的に、ペニサスはだらしなく制服を着崩していた。
胸元は大きくはだけ、一つもボタンをかけていないブレザーは強い風に煽られてはためいている。
短いスカートからだらりと伸ばした足と同じように伸ばした手。
握っているのは彼女を支える銀の翼とどこか似たデザインの、ライフルだった。
('、`*川「ま、そんな偉そうなもんでもないけどさ。一年歳下のあの子にすらあっという間に追い越されて、こうやってコソコソと機を窺わないと到底対等には渡り合えないってだけ」
自嘲めいた溜息を漏らす。
ワカッテマスは腕を組み、目を見開いたまま微動だにしない。
根本的に、彼は他者に対する関心が薄いのだ。
-
('、`*川「あんたはまだまだ見込みアリって感じじゃないの。あの子とは同学年、序列こそ今は一つ下だけど……単純な"人間"としての素養で言うなら頭一つ抜けてるじゃない」
( <●><●>)「人から見た評価はそうなんでしょうね。あまり興味がありません」
('、`*川「まーたあんたはそれ。興味無いってやめてよ。それやられると話続かないんだから」
( <●><●>)「私はそれでも構いませんが」
('、`*川「あたしが構うっつってんだわ。たまには先輩敬いなさいって」
言いながらも、ペニサスの視線はワカッテマスではなく、自分達の遥か下方で攻防を繰り広げているデレ達に向けられている。
ライフルの銃口は、常にデレの上体のどこかには定められていた。
最初からワカッテマスと実のある談笑など不可能であると、理解しているからだ。
( <●><●>)「では、生意気な後輩が一つお世辞でも」
('、`*川「……? 珍しいわね。あんたが? 今日はダムダム弾の雨でも降るのかしら」
( <●><●>)「なに、至らない若輩者の考察とでも思っていただければ」
('、`*川「へぇ……」
-
( <●><●>)「あのイノヴェルチは第四王位。私は第五王位、そして貴女は第七王位。序列だけでものを言うならば貴女は私達の中で一番劣る。しかし貴女の身体なら、その差が一夜にして覆ることがあっても不思議じゃない」
抑揚の無い語り口調。
原稿にでも用意されたありのままの事実を、淡々と読み上げているような印象を与える。
( <●><●>)「或いはあの第一王位の喉に刃を突き立て得るだけの力を得るかもしれない。人間の、段階を経る成長スピードの遥か上をゆくチューンアップ。それを加味した上での貴女の強さは、およそ人間如きに推測し得るようなものではないと思います」
( <●><●>)「"ヴァルキリーシステム"……最後に他人に見せたのはいつでしたか? まさかその時から一度も改良の手が加わってない、ということは無いでしょう」
('、`*川「まるであたしが人間じゃないみたいな物言いね」
( <●><●>)「私には、貴女が人間であるようには見えませんが」
お互いの語気が少しだけ強くなる。
だがペニサスは基本的には日和見主義。
ワカッテマスは他人に関心が無い。
二人が衝突することは無かった。
('、`*川「まぁ、あんたの推測も行き過ぎってわけじゃあないわ。より上の王位なんて興味無いけど、あたしらの人生、この学校を卒業したら終わりってわけじゃないもの。毎日ケンサンよケンサン」
貴女が口にすると違和感がある。
と、ワカッテマスは言わなかった。
-
('、`*川「出来ればそうね……そこそこ腕が立ち、向上心旺盛なまだ痛い目を見てない一年生。そういう子が喧嘩売ってくれればいい具合にテスト出来たんだけど」
( <●><●>)「ドクオくん……ですか」
('、`*川「そうね……ミルナと二人で今年の一年生のツートップなんて言われてるから少しからかってやろうかと思ったんだけど……天下の素直クール生徒会長の幼馴染となれば迂闊に手は出せませんわ」
( <●><●>)「意外ですね。貴女が彼のことを目に留めていたとは思いませんでした」
ワカッテマスは腕を組んだまま、視線をペニサスから下方に移す。
その瞳に映るのは、逆さ吊りのような姿勢で微動だにしないドクオの姿。
目が合ったような気がした。
気の所為だと決め付け、脳がほんの一瞬だけ芽生えた不気味さを掻き消したことに、彼は何の疑問も覚えなかった。
認識することも無かった。
('、`*川「こう見えて先見の明には自信あんのよ。それにしても……」
彼、ちょっと強過ぎない?
その言葉を吐きかけて、ペニサスは口を噤んだ。
('∀`)
静観を決め込み、比較的安全な立ち位置をキープしているとはいえ、王位二人を前にして彼は笑っていたのだ。
ワカッテマスは彼の表情を見ただろうか。
視力的にも凡人よりは優れているだろうが、自分より優れているというのはあり得ないだろう。
自分だけが知り得た彼の異常性。
それをそのままこの場で吐いてしまっていいのか、ペニサスには分からなかった。
-
「なぁ、あんた」
('、`;川「ーーっ!」
それはドクオの声だった。
二人を隔てる距離は途方もなく、普通ならば会話などままならない。
しかしペニサスはドクオの声を確かに聞いた。
それは声であって声ではない。
ライフルをデレに向けるペニサス。
黒銃をデレに向けるドクオ。
共通の得物で共通の獲物を見定める二人だからこそ共有し得る、あらゆる物理法則を凌駕した感覚。
互いが常人の域を越えているからこそ起こる現象だった。
「えらい高いところから見下ろしてくれてるな。糞の上を飛び回る蝿の気分はどんなもんだ?」
「悪くないわね。死臭たっぷりってとこが最高だわね。あんたはどう? 王位二人に並んで戦ってる感想。今までのごっこ遊びとは段違いの刺激があるんじゃない?」
「なぁに、そう大差はねぇよ。あんたやこいつらから見りゃ俺は糞ほどにしか見えねぇんだろうな。だが不思議と……」
そこで、ペニサスは自分の首元に、何か冷たいものを突きつけられたような錯覚に陥った。
「怖くない」
('、`*川「ふふっ……」
やる気は十二分ということか。
それでこそ新進気鋭のホープ。
ペニサスは、隙あらば自分の首すらも取らんと目を光らせる、鋭い戦意を前に思わず身震いした。
サシでやり合えば十中八九自分が勝つ。
しかし彼は、自分には無いものを持っている。
それはある種の羨望のようなものだった。
-
('、`*川(ヴァルキリーシステム……これを手にした時点であたしは多分、人間としての成長を止めた)
単純な戦闘スキルだけで言えば、恐らくワカッテマスの推測通りこれからも向上していくだろう。
だがペニサスはそれだけでいいとは、思っていなかった。
血湧き肉躍る命と命のやり取り。
脳を通った血管が引き千切れんばかりに目まぐるしく動く場面。
刃越しに、向けあった銃口越しに混じり合う互いの背景。
この世で最も単純明快なコミュニケーション。
強さと引き換えに、ペニサスが捨ててきたものだ。
それらがどう尊いのか、何故現状が完全であると断言出来ないのか、彼女はその理由を説明する術を持ち合わせていない。
デレ、ワカッテマス、と、年下の王位に越されても、どこか下卑たような態度で、どこか達観したような態度ではぐらかすその姿勢が、彼女の無意識下の証明なのだろうか。
-
「ねぇ、あんた」
「なんだ?」
「あたしと力比べしてみない?」
殺し合いではなく、力比べ。
単に言葉に発するだけでは絶対に伝わることはないペニサスの意図。
ドクオは、超常的な感応現象とも言えるこの状況だからこそ、全て察することが出来た。
暫しの沈黙。
「いいぜ。女の誘いは受けないタイプなんだがな。お前、運がいいよ」
「誘われない、の間違いじゃないの? あたしが物好きで良かったわね。せいぜい上手く踊ってみなさいな」
「言ってろ。もつれて転んでも拾ってやらねぇからな」
「童貞坊やにしては威勢がいいじゃない」
「脳みそお花畑な女はすぐにそうやってセックスの話にすり替える。せいぜいがっかりさせてくれんなよ」
-
( <●><●>)「おや……出陣ですか」
('、`*川「ええ、早漏がはやく挿入たいって駄々こねてるから」
銀色のライフルを構え直し、トリガーを引いた。
放たれるのは弾丸ではなく、熱と破壊力を孕んだ光線だった。
そしてペニサスは無造作にライフルを放り投げ、まるで小高い段差から飛び降りるかのように、銀の翼から身を投げた。
ペニサスの身体は落下する。そしてその後を追うように翼は彼女を中心に回転しながら、同じ速度で空を滑る。
先程投げたライフルが、ペニサスの目線の先でばらばらになった。
霧散した部品が翼に取り巻き、その翼も数個のパーツに別れ、別の形を成してゆく。
ライフルから発射した光線はうっすらと筋になって残っていた。
それが伸びる先を見やると、黒く焼け焦げた地面が広がっていた。
翼は対になった、一回り小さな翼に姿を変えた。
ペニサスの腰周りに突き刺さり、硬い連結音が鳴り響く。
それは銀翼をはためかせる天使だった。
うっすらと伸びた光の筋を辿り、ペニサスは空を駆る。
標的を、駆逐するために。
-
焼け焦げた地面を中心に、ドクオ以外の四人は一斉に散開した。
(,,゚Д゚)「動くな!」
一歩出遅れ、他の三人に倣って駆け出そうとしたブーンは、ギコの一声で足を止める。
そういうギコは間隔狭く並んだ建物の壁を蹴り、木登りをする猿のような滑らかな動作で登ってゆく。
そして俯瞰し、状況を整理する。
あの一撃はこの中の誰のものでもない。
あの規模の熱線を放出する攻撃手段を持ち合わせている者は、ギコの頭の中でもそう多くは無かった。
(,,゚Д゚)「あのやろう……人を使いぱしっておいて結局来たのかよ……」
まずギコはハインを視界に収めた。
熱線が襲いかかる前とさほど距離を取っておらず、左目を抑えている。
異変を感じたが、落ち着いた佇まいから今気に留めることではないと判断し、ギコはデレを探す。
(,,゚Д゚)「ちっ……」
余計なことをしてくれる。と内心毒づく。
戦力として頭数に入れるならば自分よりも強く、十人分は働いてくれるだろう。
だがペニサスの行動は、今のギコにとっては邪魔だった。
クーから申し付けられた命令は内藤ホライゾンを守ること。
静観が基本的スタンスである彼にとって、その命令を聞き入れる義理などないが、王位の間でも、ヒエラルキーから成る主従関係のようなものはある。
ギコはモララーとは個人的な付き合いがあるが、その行動の胡散臭さを払拭することは出来なかった。
第八ブロックに入り浸るような人格破綻者のジョルジュ、自分と同い年のデレに傾倒するくらいならばと、ギコはクーが抱える派閥に寄っていた。
-
ともかく、そのクーが内藤ホライゾンを守れというのだから、今のギコにとって最優先事項は彼に迫る危機を速やかに排除することだ。
彼がデレと直接拳を交えている内は、たとえ彼の王位がデレよりも格下であるとしても、そうやすやすと奇襲を許しはしない。
デレのスタイルはイノヴェルチの圧倒的タフネスを存分に利用した受け身の戦闘。
そして疲労した相手を自身の血を媒体とした魔術とゴーレムを利用した圧倒的殲滅力で屠る。
奇襲、一点突破に向いたスタイルとは言えないそれを相手に、打ち勝つのではなく守る。
決して不可能なことではないと思っていた。
(,,゚Д゚)「俺の出番はもう終わりってか。不完全燃焼だなおい」
ブーンから目を離さない。
それが今自分がやるべきことだと判断したギコは、崩れかけた建物の屋根の上で腰を落とした。
( ^ω^)「あ、あの……」
(,,゚Д゚)「死にたくなかったらそこで突っ立ってろ。それが今のお前に出来る最良だ」
下から見上げ、おずおずと話しかけようとしたブーンを冷たく突き放し、ギコは腕を組んだ。
(,,゚Д゚)「あの女……最初からヴァルキリーを使う気だ。もしかしたらこりゃ、序列がひっくり返っちまうかもな」
宙に浮いていたはずのドクオの姿が無いことに気付いたが、ギコは気に留めなかった。
面白いとは思ったものの、ペニサスがヴァルキリーシステムを起動した今、彼程度の実力で出来る事は何も無い。
ギコの判断は至極真っ当だった。
-
速い、速い、速い、速い、速い、速い、速い、速い、速い、速い、速い、速いーー
速いーーーー
ζ( ー *ζ 「くっ……!」
デレの身体は地面すれすれの低空を滑る。
('、`*川「暫く闘ってるとこ見てなかったけど、あんた遅くなってない?」
滑るデレを追うペニサスは、腰に結合した銀翼をはためかせ、彼女と同じ軌道を駆る。
自分の周囲に展開した球の形をした複数のユニットから一斉に熱線を放ち、デレを狙う。
咄嗟に血の障壁を発生させ、熱線を受けるが、加速したペニサスは強固な壁と化したデレの血に突っ込み、そのまま打ち砕く。
ζ(゚ー゚*ζ(んん……まだまだ血が足りませんね……)
鳩尾に強烈な蹴りを見舞われ、デレは寂れた建物の壁にぶち当たった。
破片が肩の肉を食い破り、筋繊維がぶちぶちと引きちぎれる音を聞きながら、静かに息を整える。
('、`*川「どうしたもんかねぇ……こうやっていたぶったところであんたが負けを認めなきゃどうしようもないし……」
崩れかけた壁に寄りかかる形で座り込むデレを、ペニサスはその前方で俯瞰していた。
腰に結合した翼は、生物の翼のように滑らかに動いている。
彼女を取り巻く無数の小さなユニットは忙しなく飛び交い、連結し合っては形を変え、分散したりを繰り返している。
-
ζ(゚ー゚*ζ「ヴァルキリーシステム……性能が上がってますね……」
('、`*川「お陰さまでね。身近に良質な戦闘サンプルが腐る程いるから、伸び代に関しては製作者のあたし自身が太鼓判を押すよ」
ユニットが繋がり合い、先ほどペニサスが熱線を射出したライフルの形を成す。
それを手に取り、デレに向けて構え、ペニサスは引き金を絞った。
ζ(゚ー゚*ζ「自分の身体の大半を機械にして弄り回す……その結果がこれですか。改めてこうしてその力と対面してみると……気が狂ってるようにしか思えませんね」
('、`*川「ゾンビもどきに言われたくありませんわな。サイボーグもイノヴェルチも、人としての品格を比べ合ったところでどっこいどっこいでしょ」
トリガーを引く。
それと同時にペニサスを取り巻く極小ユニットも一斉に火を吹いた。
ζ(゚ー゚*ζ「ま、私も不毛な議論をするつもりはありませんよ」
それらを弾丸のような形で生成した無数の血の礫で弾き返す。
力と力のぶつかり合いには最少限の音しか発生しない、静かな拮抗だった。
-
血飛沫が一瞬で固まり、弾丸に変わる。
熱線がそれらを弾き飛ばす。
時折二人は鍔迫り合う。
戦闘用に開発されたペニサスの皮膚はデレの大鎌を持ってしても両断することは出来ない。
ζ(゚ー゚*ζ(いい具合に血生臭くなってきましたね……)
ペニサスの銀翼から噴出口が現れ、火を噴く。
その推進力を乗せたまま、身体を捻り、足刀を振るった。
デレは鎌の刃の腹で受け止めたが、その衝撃を完全に殺すことは出来ず、更に強く踏ん張ることでなんとか耐えた。
('、`*川「これを受けるんだ。やるじゃん」
ペニサスの右足、ローファーの踵部分が割れ、中から小さな噴出口が現れる。
翼のブースターと同じ要領でそれは火を噴き、一度は踏みとどまったデレの身体を脆くなった建物の壁に押し込んだ。
右脚部のブースターから発せられた推進力を殺さず、独楽のように回転し、ペニサスは自分の周囲に熱線放射ユニットを無数に展開させる。
壁に叩きつけられたデレを守るように、血の障壁が彼女の身体を覆う。
血と熱線はぶつかり合い、そこには何も残らず、より濃くなってゆく血生臭さだけが漂う。
-
('、`*川(何もかも拍子抜けだわね……確かにどれだけ撃ち込んでも死なないのは厄介だけど、あたしを殺せる脅威にはなり得ない……)
('、`*川(ギコやあの坊やならジリ貧ってとこかしら……まぁ無理も無いかな、体力、集中力なんて無限じゃないんだし……)
人間である限り、耐久力の比べ合いでイノヴェルチに勝てる者などそうはいない。
ペニサスの記憶の中でデレと真っ向から戦って勝利した者は二人いる。
ジョルジュとクーだ。
クーはまず彼女の首を刎ね、再生が終わり、彼女が言葉を発するタイミングを見計らってまた首を刎ねた。
それを、凡そ半日ほど続けた。
近くにあったソファに腰掛け、しまいにはその最中に読書まで始めてみせたのだ。
凡そ自分には辿り着けない領域、クーは自分がそういうところにいると、その行動で彼女の身体に解らせた。
ジョルジュは徹底的に遊んだ。
初めはデレの力量に合わせて火を散らし、彼女の感情の昂ぶりに合わせてその火力を高めてゆく。
届きそうで届かない、だが手を伸ばせば或いは……
そういう幻想を彼女に見せたのだ。
そしてデレがそのまやかしの光に手をかけた瞬間、あの悍ましい火龍の咆哮を上げ、彼女の心をへし折った。
どちらもじっくりと時間をかけ、殺すのではなく心を折った。
彼等と同じようにすれば勝利することも可能なのだろうが、心を折る為のカードが、圧倒的力量の差を示すものがペニサスには無い。
格上相手に多勢でぶつかっている時点で、デレの胸中には上手く立ち回れば敵を殲滅という自信が根付き続けるのだ。
負けはしないが勝ちもしない。
ペニサスからすればそれが歯痒かった。
-
限りなく薄い可能性が、デレの心をへし折るカードがあるとすれば、それは自分自身の力ではなく、ワカッテマスの力だろう。
ペニサスは現状からそのように結論付けていた。
( <●><●>)
立ち振る舞いこそ地味で目立たず、闘志を露わにしていない彼を観察していると、本当に王位であるのかと疑ってしまいたくなるほど覇気が無い男だ。
はっきりとした目鼻立ちは整っているものの、その黒い瞳からは何かを成そうとする志など微塵も感じられず、傷付き、くすんでしまったガラスのような印象を与える。
だが……
('、`*川(あの子は"ホンモノ"だしね……あたしがヘマこいても、ワンチャンどうにかなるっしょ)
VIP学園十席の王位の中で、モララーに届き得るだけの可能性を秘めているのは彼だけだと、ペニサスは考察する。
クーやジョルジュは確かに強い。
ヴァルキリーシステムをどれだけ改良してもあの域には到達出来ないのではないだろうか。
そう思うことさえある。
だが、ペニサスからしてみれば、その強さには凄味が無いのだ。
対面した際に心が震え上がるような恐怖、敵意。
強さを修飾した凄味だけで他の王位を寄せ付けないモララーと同じ力。
ペニサスは、その片鱗をワカッテマスに垣間見ていた。
しかしその重い腰を上げるまでが長い。
その点も、彼とモララーはよく似ていた。
ζ(- -*ζ 「何を待ってるんですか?」
崩れた壁にもたれたまま、デレは項垂れていた。
敗色濃厚にすら見えるその姿勢でも、その声色に焦りや動揺は無かった。
-
('、`*川「お姫様は冗長な作業に退屈してるんでね。そろそろ素敵な王子様が迎えに来ないかなーなんて考えてただけよ」
ζ(゚ー゚*ζ「言ってて恥ずかしくないんですかそれ」
('、`#川
無言でビームライフルを撃ち込んだ。
デレの半身が吹き飛んだが、血の泡は瞬く間に元の形を形成した。
全裸同然の姿を曝け出しているにもかかわらず、デレにはほくそ笑むだけの余裕があった。
ζ(゚ー゚*ζ「ワカッテマスくんがいるんでしょう? わかりますよそれくらい」
そこらじゅうに飛散したデレの血の一部が蠢き、鎌の形を成して彼女の手元に収まる。
それを杖代わりにして立ち上がり、徐に自分の腹にその刃を引っ掛けた。
ζ(゚ー゚*ζ「妖怪大戦争かなにかですかこれは。確かにギコさんにお姉様に貴女、それにどこで修行したのか知りませんがあれだけ強くなったドクオくんがいる上にワカッテマスくんまで来たとなれば、私も本気で腹を括らなきゃいけないでしょうね……」
ζ(゚ー゚*ζ「特別貴女達の反感を買うような真似をしたつもりは無いんですけどね……内藤ホライゾンを殺す。それによって貴女達にどんな不都合があるんですか? 私には全然検討も付きません」
ζ(゚ー゚*ζ「まぁ、いいですよ……こちらとてはいそうですかと引き下がるつもりもありませんし……」
面倒な蝿がたかってくる前に、一匹ずつ潰すだけです。
その言葉が発せられた直後、ペニサスの背後に彼女を飲み込まんとする血の波が現れた。
幾度も流したデレの血が彼女の意志によって集い、飛散し、蒸発したものも含めてペニサスを殺す武器と化した。
-
目にも見えない粒子レベルで空気中を漂うデレの血は、この辺り一帯を覆い、ペニサスを完全に掌握するには充分過ぎるほどの量に到達していた。
何の前触れもなく背後に現れた血の波に、彼女は反撃に移れるだけの速さで反応することが出来なかった。
('、`*川
油断した、と思考する時間すら無かった。
それよりも先に、デレの眼前を極細のワイヤーが横切り、それに少し遅れて同じ軌道を横切った人影が、デレの喉を掻き切った。
('A`)「悪いな、女の扱いには慣れてねぇんだ。待たせちまったが文句は聞かねぇぜ」
ドクオの手の中で輝くナイフはデレの血で尾を引いていた。
ワイヤーを伝い、空中で翻るドクオの服の隙間から大量の銃火器が顔を覗かせている。
('、`*川「お生憎様イノヴェルチさん。どうやら不細工な王子様の到着の方が早かったみたいだわね」
ヴァルキリーシステムのメインウェポンであるビームライフルと、ドクオの黒銃が同時に火を噴いた。
それとほぼ同時に、ペニサスの背後で形成されていた血の波が垂直に落下し、崩れ落ちた。
今年の一年生も捨てたものではない。
ドクオは必ず王位に食い込んでくる。
そしていずれは、自分など軽々と乗り越えてゆくのだろう。
ペニサスはそう確信していた。
そして……
('、`*川(ブーン。あんたもね)
両脚部のブースターを開き、ペニサスは加速する。
彼女を取り巻くユニットと重なるように、無数のワイヤーが煌めいた。
-
高く、高く、高くーー
彼女は遥かなる高みを目指して、ひたすら真っさらな塔の壁に軌跡を刻み込んで登り続けていた。
その頂きには何があるのかも分からない。
もしかしたら、そんなものはなく、自分はこのようにして死ぬまでの時間を、この行為に注ぐのかもしれない。
そんな風に考えることもあった。
だが不思議と悪い気はしなかった。
先人の軌跡などとうに消え失せ、自分が刻む側になった。
そんな退屈な日常に変化が訪れたのは、モララーという存在を認知してからだ。
彼の軌跡を辿り、塔を登り続ける。
その軌跡を、たまに首を上げて上へと辿ってみるが、雲の上まで続くそれの終着点は、彼女の視界には収まらない。
お前はもう、この塔を登り終えているのか?
彼女は尋ねた。
モララーは、静かにほくそ笑むだけだった。
がむしゃらになって彼の軌跡を追い続けた。
その過程で、彼女の肩には次第に重りが積み重なっていった。
生徒会長。
帝国最強の剣士。
裏世界で約束された王位。
いつしか純粋に力を追い求めていた頃の邁進は影を潜め、塔をよじ登る手の動きは緩慢になっていた。
-
肩の荷は増え続ける。
塔をよじ登ることをやめ、彼女は上だけ見ていた視線を、ふと足元に向けてみた。
大地はまるで模型でも眺めているように、リアリティすら霞んでしまうほどに小さく見えた。
気付けば、彼女は降りることも登ることも出来なくなっていた。
増え続ける肩の荷の重みに耐え、吹き付ける強風に曝される自分の身体を温めることも出来ず、モララーの影を視界に収めることも出来ず、遥か下から見上げる愚衆にその存在を示すだけの、飾りと成り果てた。
そんな自覚も持たず、彼女はただそこに在り続けた。
あたかも自分の意志でそこにいるかのように。
自分で選んでここにいるのだから、降りることなど造作も無い。
そしてまた、この場所に上り詰めることも同じだ。
慢心だった。
刻み続けた自分の軌跡を、人々はただ眺めているだけではない。
志高く持つ者ならば誰でも、一度は力を示すその塔を登ろうと決意する。
力ある者がいれば、自分と同じように軌跡を残すだろう。
頂きに近付くだろう。
そんな当たり前のことすら忘れてしまうほどに、彼女は遥かなる高みでの孤独に慣れ過ぎていた。
取り囲んでいた雲は不思議と晴れ渡っていた。
塔の壁が遠くなってゆく。
真っさらな壁を掴もうと伸ばした両手は空を掴む。
開けば空は彼女の掌からするりと逃げてゆき、何も残らなかった。
遠く、遠く、空はどんどん遠くなってゆく。
彼女は、下を見る気にはなれなかった。
-
川 ゚ -゚)「見誤ったか」
クーは空を仰いだ。
空は、あまりにも遠かった。
校舎塔の壁に首から上を預け、彼女は仰向けに倒れていた。
腰まであった長い黒髪は毛先が焼け焦げており、彼女の象徴とも言える黒コートはボロ切れ同然になっている。
白い肌を黒い煤が汚し、それは頭部から流れる夥しい血で滲んでいた。
熱と痛みを孕んだ自分の腹部に視線を移す。
長年自分の命を預けてきた鬼切九郎丸真打。
刃の真ん中で真っ二つに折れたそれはクーの腹部に深々と突き刺さっていた。
片割れの割れた切っ先は、彼女の数歩先に突き刺さっていた。
クーは、自分の視界が端の方から滲んでいくのを感じることが出来た。
泣いているのだろうか。
彼女には分からなかった。
目の奥に篭った熱は、彼女の周囲で未だ煌々と燃え盛る炎の熱に掻き消されていた。
皮膚は焼けるほど熱いのに、不思議と彼女は自分の中の芯のようなものが、生温い自身の血溜まりに浸されて心地良く揺蕩っているように思えた。
負けた。
ようやく、ようやく彼女は自覚した。
-
ついさっきまで自分がいた筈の高みが、遠く、遠く見える。
悪い気はしない、と彼女は口角を上げた。
誰に向けるでもなく作られたその笑みは弱々しかったが、心は折れていなかった。
まだ自分は生きている。
数分後には大量出血によって死に至るかもしれない。
五体満足で復帰することは不可能かもしれない。
知ったことかーー
自分の脳内をめまぐるしく動き回る合理的思考の一切をかなぐり捨て、彼女は、今自分が浮かべている笑みを絶やさないことだけに注力した。
川 )「ふふ……ふふふふ…………」
もう一度牙を研ごう。
鋭く、より鋭く、滑らかな塔の壁に印を刻みやすいように。
川 )「楽しいな……楽しいぞ……全てがどうでもよくなってしまいそうだ……」
絞り出すように放たれたその言葉は、煌々と燃え盛る炎にかき消された。
彼女はずっと笑い続けた。
その意識が絶えるまで。
ずっと
ずっと
ずっとーー
-
季節の変わり目ってのはどうもいかんな、投下中に具合悪くなってきたぜ
最後に投下して一ヶ月ちょいくらいか、待たせて申し訳ない
また近々?かな、俺乙
-
クー!?乙!
おまけもあるんだよな!
-
明日か明後日辺りに投下するよ、今日は鼻詰まりと格闘してくる
-
乙
-
乙!
-
乙
今後の展開が気になるところ
-
これでジョルジュが2位か
-
乙
-
おつ
-
今回も面白かった!
-
待ってた
メカっ娘まででてきたか
-
舞台設定の説明を兼ねた番外編、今日中には投下出来そうだ。
時間はまだ未定だけど遅めになりそう
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うおー楽しみー
ジョルジュとクーの戦闘過程もみたいなぁ
-
投下の時間だおらァ!!
-
来たか
-
とある日曜日
川 ゚ -゚)「……………………」
川 ゚ -゚)「…………」
川 ゚ -゚)「暇だな」
川 ゚ -゚)「どうしたものか。図書館に行ってもいいが先週もそれで一日潰してしまったしな」
川 ゚ -゚)「鍛錬をする気にもなれん……んむ……お? 電話か」
川 ゚ -゚】「もしもし」
ノパ⊿゚】「おー姉ちゃんやっと出てくれたか! 家にも帰ってこないしもう死んじゃったのかと思ったぞ!」
川 ゚ -゚】「頼むから声のトーンをあと二回りほど落としてくれ。頭が痛くなりそうだ」
ノパ⊿゚】「小声で喋ってると喉がイガイガするんだ!」
川 ゚ -゚】「普通に喋ってくれたらいいんだ、頼む」
-
川 ゚ -゚)「まぁそんなこんなで妹のヒートから連絡を受けて学園の校門の前で待機してるわけだが……」
川 ゚ -゚)「何だって急に学園の案内をしてほしいだなんて言い出したんだあいつは」
ノパ⊿゚)「来年は私もここに入学するんだ! 敵陣を前以て調べておくのは戦の基本だぞおおおおおお!!」
川; ゚ -゚)「うおっうるせ」
ノパ⊿゚)「なんだなんだ、怠そうな顔してるな姉ちゃん。ちゃんとご飯食べてるか? 体調管理は戦士の基本だぞ」
川 ゚ -゚)「五秒前まではすこぶる体調は良かったよ」
ノパ⊿゚)「……? よくわかんないけど風邪かなんかか? 気合いが足りないぞ姉ちゃん!!」
川 ゚ -゚)「ああもう……頼むから……頼むから……」
-
第一ブロック 居住区
川 ゚ -゚)「見ての通り、このブロックは寮の集合区域だ。学園の寮生はこの中で割り振られた寮で寝泊まりすることになる」
ノパ⊿゚)「おぉ……寮っていうかホテルみたいだ」
川 ゚ -゚)「一つのブロックでちょっとした街程度の規模だからな。数百の寮で形成されたこの区間は居住区とも呼ばれてる」
ノパ⊿゚)「でもこの学校って全寮制じゃないんだしさ、あそこの立派なホテルみたいな寮……あれくらいのやつが十軒もあれば事足りるんじゃないの? 一人一部屋割り振ってもお釣りが来るぐらいだろ」
川 ゚ -゚)「まぁ普通ならな。その寮に割り振られてる生徒の数は一人だ」
ノパ⊿゚)「……は?」
川 ゚ -゚)「こんな学園だ。素性も知れないどこぞの馬の骨と同じ屋根の下で住みたくはないだろう」
川 ゚ -゚)「金さえ出せばそこらの寮全てを自分の部屋として独占することも出来る。外のホテルやマンションと比べても割がいいしな、寮生以外にも部屋を確保してる生徒はいるぞ」
-
ノパ⊿゚)「高校生とは思えない金の使い方してんなぁ……」
川 ゚ -゚)「まぁ、身寄りの無い生徒にも最低限のスペースは保証されてる。個別で物件を借りる余裕が無い者はお前が思い描いていたような、数人で同じ屋根の下慎ましく過ごす寮生活を送っているな」
川 ゚ -゚)「いや、慎ましくはないか……寝食スペースを巡って殺し合いに発展するケースも無くはない」
ノパ⊿゚)「つまり強い奴は贅沢な暮らしが出来るってことだ?」
川 ゚ -゚)「まぁそういうことになるな」
ノパ⊿゚)「なぁんだ、そう考えると分かり易いな! 私も来年はあれくらいでっかいホテルで豪遊してやるぜ!」
川 ゚ -゚)「お前まさか、寮生になる気か?」
ノパ⊿゚)「だって姉ちゃん帰ってこないし実家にいても退屈だしさぁ……来年はよろしく頼むよ!」
川; ゚ -゚)「やれやれ……先が思いやられるな。私は今年度いっぱいで卒業だぞ」
ノパ⊿゚)「あっ!!」
川 ゚ -゚)「本気で気付いてなかったのかお前は……」
-
ノパ⊿゚)「そういや姉ちゃんの部屋はどれなんだ? 姉ちゃんレベルになると高層マンションみたいなとこに住んでんだろうなぁ……」
川 ゚ -゚)「ああ、まぁそれなりにいいところには住んでるよ。あのずっと向こうに建ってる一際大きな建物があるだろ?」
ノパ⊿゚)「おおおおおおお! あの一番デカいやつか!! やっぱ姉ちゃんは凄いや!!」
川 ゚ -゚)「あそこから……」
ノパ⊿゚)「え?」
川 ゚ -゚)「向こうまでの建物全てが私の部屋だ」
ノパ⊿゚)
ノパ⊿゚)「え?」
川 ゚ -゚)「生徒会の作業員全員の安全も確保してやらなければならないし、自分の敷地内で管理してしまうのが手っ取り早いんだ。大半は下の者に無償で貸し与えてるよ」
ノパ⊿゚)「…………」←引き過ぎて声が出ない
川 ゚ -゚)「まぁ居住区の説明はこんなものでいいだろう。言い忘れていたが寮は卒業生から引き継ぐことも出来る。寮費を継続して払えるならお前が入学した時に譲渡してやってもいい」
ノパ⊿゚)「あ……うん、ありがと……」
-
第二ブロック 校舎塔
川 ゚ -゚)「ここが第二ブロック、通称校舎塔だ。生徒は原則、朝から夕方までここで過ごす事になってる。まぁ、あくまでそういう過ごし方もありますよ、という提示でしかなく、強制はされてないな」
ノパ⊿゚)「へぇ、ここではどんなことをやるんだ?」
川 ゚ -゚)「ここ学校だぞ、勉強に決まってるだろう」
ノパ⊿゚)「べ、べべべべべ勉強!? VIP学園って勉強しなきゃいけないのか!?」
川 ゚ -゚)「まぁ、ここで定められてる校則は一つ。今を全力で楽しむ、だけだ。つまり授業を受けたい生徒は受ければいいし、受けたくない生徒は外で好きなことをすればいい」
ノパ⊿゚)「ほえ〜〜……でもそんなんじゃ授業を受ける生徒なんていないんじゃないの? それなのにわざわざ先生が出向いて授業やるって、なんか虚しいな」
川 ゚ -゚)「授業は全て各教室に設置されたモニター越しに行われてる。学園創立初期は教師が生徒に惨殺されるという事件が絶えなかったらしいからな。その時の反省を活かしての処置だろう」
川 ゚ -゚)「教室が無人であれば教師は事務作業に向かうだけだし、教職員の数はそれほど多くはない。後で向かうが職員居住区で引きこもってモニターで生徒を観察してる酔狂な輩ばかりだ。生徒の中には教師を見たことがないという者もいるくらいだ」
ノパ⊿゚)「つまり腰抜け連中ってことだな」
川 ゚ -゚)凸「そういうことだ。そこの監視カメラに中指でも立ててやれ。あいつら変態だから喜ぶぞ」
ノパ⊿゚)凸「へーい! ふぁっくふぁっく!」
川 ゚ -゚)「よし」
ノパ⊿゚)「よし」
-
第三ブロック 職員居住区
川 ゚ -゚)「ここはさっき言った職員居住区だ。生徒の出入りは禁止されてはいない。が、ここでしか出来ないことなどそんなに無いし、立ち入るのは私くらいだろうな」
ノパ⊿゚)「腰抜け共の街ってことか。姉ちゃんは何でここに出入りしてるんだ?」
川 ゚ -゚)「フォックス学長と少し話す程度だ。どうもここは他のブロックよりも監視カメラが多くて息苦しい。出来ればあまり近寄りたくはないな」
ノパ⊿゚)「フォックス学長ってこの学園で一番偉い人だろ? 姉ちゃんそんな人と話したりすんのか?」
川 ゚ -゚)「まぁ、世間話程度だ。もしかしたらその内お前も交えて話をすることもあるかもな」
ノパ⊿゚)「お? 喧嘩か? それなら任せとけ!」
川 ゚ -゚)「そうだな、その時は思い切りあのおっさんの顔をぶん殴ってやれ」
ノパ⊿゚)「おう! 右ストレートでぶっ飛ばす! まっすぐいってぶっ飛ばす!」
川 ゚ -゚)「その意気だ。よし、次行くぞ」
ノパ⊿゚)「おう!」
-
第四ブロック 商業区域
ノパ⊿゚)「おおおおおおおおおお!! なんだこれ! 美味そうな飯屋にカラオケ! テーマパーク! 雑貨屋に武器屋! なんでもあるぞ!」
川 ゚ -゚)「第四ブロック、通称商業区域だ。文字通り商業施設の大半はここに集められている。規模も面積も他のブロックと比べて圧倒的に大きいな」
ノパ⊿゚)「なぁ姉ちゃん! もう昼時だし昼飯にしようよ! 私お腹空いちゃったよ!」
川 ゚ -゚)「まぁ……そんな時間だな。私も小腹が空いてきたしペストにでも行くか」
ノパ⊿゚)「ペスト? なんか不衛生そうな名前だな」
川 ゚ -゚)「味も衛生面もこの学園でダントツだ。ツンさんにもお前を紹介しておくか」
ノパ⊿゚)「ツンさん?」
川 ゚ -゚)「私がこの学園で一番尊敬している人だ。くれぐれも粗相の無いようにな」
ノパ⊿゚)「おおおおおおおお! そんな凄い奴がいんのか! 私も一度やり合ってみたいぞおおおお!」
川 ゚ -゚)「昼飯抜きにするぞ」
ノパ⊿゚)「はい、ごめんなさい」
川 ゚ -゚)「よし」
-
ペスト 店内
ξ゚⊿゚)ξ「いらっしゃいませー……って、クー会長じゃない。そっちの子は?」
川 ゚ -゚)「妹のヒートだ。来年にはこの学園に入学するだろうし、今日は学校見学も兼ねてツンさんにも挨拶させとこうと思ってな」
ノパ⊿゚)「おおおおおおお! 疾風迅雷颯爽見参素直ヒートだ! です! 今日はVIPで一番美味い飯を作るツンさんに挨拶に伺いに来たぞ! ます!!」
川 ゚ -゚)「まぁこんな感じの手がかかる妹だ。来年はよろしく頼むよ」
ξ゚⊿゚)ξ「はぁ……しかしまぁ姉妹でここまで性格が真逆になるものなのね」
川 ゚ -゚)「私は今でもこいつは橋の下から拾われてきたんだと思ってるよ」
ノパ⊿゚)「よくわからんが多分そうだ! はっはっはっ!」
川 ゚ -゚)「お前は本当に幸せそうだな」
ξ゚⊿゚)ξ「幸せそうね」
-
ノパ⊿゚)「おおおおおおお! このパスタもハンバーグもサラダも! 全部美味いぞおおおおおおお!! 一口目からおかわりのことしか考えられない!」
川 ゚ -゚)「頼むから食事の時くらいは口を閉じてくれ。ほら、ツンさんも凄い顔してこっち見てるから」
ノパ⊿゚)「口を開けないとご飯が食べられないだろ! 姉ちゃんは馬鹿だなぁ!」
川# ゚ -゚)「論理武装を捨てた馬鹿の煽りというのはこんなに腹が立つものなのか……」
ノパ⊿゚)「つまり私が一番強いってことだな!!」
川 ゚ -゚)「そうだな、お前と話してると汗かいてくるよ私は」
ノパ⊿゚)「おう! 汗をかくのはいいことだ!!」
川 ゚ -゚)「そうだな、そうだな、うん、そうだそうだそういうことにしよう」
川 ゚ -゚)「ああ……サンドイッチ美味しいなぁ」
ξ゚⊿゚)ξ(なかなか濃い妹さんね……)
-
第五ブロック 娯楽施設群
川 ゚ -゚)「ここも商業区域と並んで規模が大きい。第五ブロック、通称娯楽施設群だ」
ノパ⊿゚)「おお……なんか昼間なのに煌びやかで目がチカチカするぞ……」
川 ゚ -゚)「見上げて歩くな。田舎から都会にやってきたおのぼりさんみたいになってるぞ」
ノパ⊿゚)「おら帝都さやってきたぞおおおおおおおおおおおおお!!!」
川 ゚ -゚)「てめえいい加減にしろよぶち殺すぞ」
ノパ⊿゚)
川 ゚ -゚)「はっ、この三秒間の記憶が無い。何を言ったんだ私は」
ノパ⊿゚)「おまけだから許される発言もあると思うぞ」
川 ゚ -゚)「あ、あぁ……そうだな……」
川 ゚ -゚)(なんか知らんがフォローされた……)
川 ゚ -゚)「うん、ここは見ての通り。ライブハウスやクラブ、アミューズメント施設が立ち並んでる。はい、次」
ノパ⊿゚)(メチャクチャびびった……)
-
第六ブロック 図書館
ノパ⊿゚)「あっ、私ここ無理だ、本能が拒否してる。ここに近付いちゃいけないって言ってる」
川 ゚ -゚)「第六ブロック、通称図書館だ。本来の図書館と違って校閲もなく、世界中の本がこの図書施設群に集められてる」
川 ゚ -゚)「中には命知らずな外部の人間がここの蔵書目当てに訪れることもあるな。半数はこの学園の敷地内でミンチになってるが」
ノパ⊿゚)「なぁなぁ、生徒同士で喧嘩して死人が出るのはまぁいいと思うんだけどさ、迂闊に外の人間ぶっ殺しちゃって大丈夫なのか? 警察とかさ」
川 ゚ -゚)「五十年前に民営化されて実質富裕層の用心棒と化した組織がなんだって? まぁその点は問題無いさ。このVIP学園、正式には国として認可されているからな」
ノパ⊿゚)「あ、それ聞いたことあるぞ。【委員会】の認可が正式に降りたんだってな」
川 ゚ -゚)「まぁ、地域を国として認めるか否か、そんな途方もない事柄における判断権がたった五人の【委員会】に委ねられてる現状はどうも納得しかねるがな。そのお陰でこの学園の敷地内は法治国家の温い鉄柵の影響を受けないわけだ」
ノパ⊿゚)「当の国の主が何でもアリって言っちゃってるからなぁ」
川 ゚ -゚)「国というものは平等な秩序の元で成り立つものだと思うんだがな……まぁお前にそれを論じても不毛だな。きな臭い男だよフォックス学長は」
-
川 ゚ -゚)「ちなみにこの学園で優秀な成績を修めた者は卒業後も国籍をここに置くことが出来る。つまりどういうことか分かるか?」
ノパ⊿゚)「んん? 死ぬまでVIP学園の生徒ってことか?」
川 ゚ -゚)「まぁ、つまりはそういうことだ。国籍はVIP学園、つまりこの無法地帯の法律で裁かれることになる。つまり外で何をしても、武力以外で裁かれることがないということだ。治外法権というやつだな」
ノパ⊿゚)「おおおお、凄いな。なんかよくわかんないけど凄いな。でも成績優秀ってどうやって判断するんだ? 学校の授業なんて機能してないじゃん」
川 ゚ -゚)「十席の王位だ。お前もここに来るなら覚えておけよ」
川 ゚ -゚)「この学園で卒業時に王位を継承していた者が成績優秀者として選ばれるのが慣例になっている。つまりこの王位継承者は、卒業後に好き放題やれる未来が約束されてるというわけだ」
ノパ⊿゚)「ダメだ、もう覚えらんね」
川 ゚ -゚)「まぁ、お前はそのままでいいと思うよ。充分好き勝手やってるだろうしな」
ノパ⊿゚)「おう! つまり私が一番強いってことだな!」
川 ゚ -゚)(最悪これで流せるしこいつと話すの、案外楽かもわからんね)
-
第七ブロック 修練街
ノパ⊿゚)「おお、なんかこの街私好みな気がする。直感がそう言ってる」
川 ゚ -゚)「まぁ、お前好みかもな。第七ブロック、通称修練街だ。道場、スポーツジムが立ち並んでいる。正統派武道に身を置いて修行に励む者が多いな」
ノパ⊿゚)「スポーツかぁ……武道とかそういうのってどうも苦手なんだよなぁ、喧嘩にルール付けるのってまどろっこしいじゃん」
川 ゚ -゚)「競技武術にも良さはあるさ。一つの流派を達人レベルまで極めた者は当然、ルール無用の殺し合いにも強い」
ノパ⊿゚)「へぇ、なんか甘っちょろいイメージが強いんだよなぁ」
川 ゚ -゚)「そういう人間と立ち会ってみれば考えも変わる。私はそういう人間をこの学園で見たことがあるぞ」
ノパ⊿゚)「ほえ〜〜……」
川 ゚ -゚)「名はミルナと言う。まだまだ荒削りだが、お前が入学する頃には確実にVIPの中核を担う男になるだろうな」
ノパ⊿゚)「つまり私にぶっ飛ばされる運命ってことか。可哀想な奴だな!」
川 ゚ -゚)「その意気だ。まぁ、その点ではお前には一切の心配はしてないな」
ノパ⊿゚)「おおおおおおお!! 私は強いからな!」
-
第八ブロック ジャンキーの溜まり場
川 ゚ -゚)「ここは案内する必要もないと思うんだがな……まぁ見ての通り、廃墟が延々と並んでるだけだ。アウトローの溜まり場だな」
川 ゚ -゚)「元々は第七ブロックのような施設が立ち並んでいたんだがな、王位同士の決闘でこの辺り一帯は廃墟になってしまった」
川 ゚ -゚)「って……ヒート?」
川 ゚ -゚)
川 ゚ -゚)
川 ゚ -゚)
川 ゚ -゚)「しまった。はぐれた」
-
Ω「見ねぇツラだな。ここがどこだか分かってんのか?」
Ω「女一人でこのジャンキーストリートでうろつくたぁ、度胸だけは大したもんだ」
ノパ⊿゚)「…………」
クーに連れられて第八ブロックに来たヒートは、はぐれてしまった。
はぐれたのに明確な理由などない。
日は暮れてきて、長時間の移動を経て疲れていたヒートはうつらうつらとクーの影を追って歩いていたが、やがて散漫とした意識は、袋小路へと彼女を誘っていた。
一目で危険だと解る見なりの男複数人に囲まれたヒートは、特に危機感を見せることもなく、腕を組んだまま大きな欠伸をした。
ノパ⊿゚)「なぁあんたら、姉ちゃん知らない?」
リーダー格とおぼしき男が一歩前に踏み出し、彼女の質問に答えず……
Ω「知る必要はねぇわな。お前、今からこの場で俺たちに犯された挙句殺されるんだからよ」
下卑た言葉を吐き出し、ヒートの頬を容赦無く殴りつけた。
打たれたヒートは直立不動で腕を組んだまま、殴られた勢いに任せて髪を振り乱した。
ノパ⊿゚)「…………」
Ω「ははっ、こいつビビって声も出ないらしいぜ。今日のパーティの肴は苦労なく収穫出来そうだな。なぁ? お前ら!」
ΩΩΩ「違いねぇな! はははっ!」
下卑た笑い声を上げる男達を尻目に、ヒートは密かに眉を顰めた。
-
ノパ⊿゚)「ああ……あんたら……そういうことか……」
ヒートは笑い声の渦の中心で、腕を組んだまま三度頷く。
ノパ⊿゚)「あんまにもベタ過ぎてわかんなかったよ。つまりあんたら、私に喧嘩売ってるってことだな?」
Ω「はーー?」
ヒートの近くにいた男の歯がポップコーンのように弾け飛んだ。
上体が大きく逸れた状態の男の頭部を、一陣の風の如くヒートの足刀が攫ってゆく。
全ての動作が、常人の彼らにはちぐはぐなコマ送りのように見えた。
瞬きの直後には一人、また一人と吹き飛ばされてゆく。
壊されてゆく。
Ω「ちょっ、まっーー」
待ってくれ。
そう訴えようとした最後の一人は、言い終わる前にこの世で最も済んだ音を聞いた。
それは自分の首が綺麗に圧し折られる音だった。
ノパ⊿゚)「なーんだ、つまんないの」
両足を挟み込んで圧し折った首を胴体ごと浮かせ、器用に両手で地面に着地すると逆立ちの姿勢のまま廃墟の壁に放った。
彼等を屠ったヒートの一連の動作には、微塵も美しさが無かった。
手の甲に止まった蚊を一打で潰すような、何の感慨も湧かない動作。
それと同じ感覚で、この若干十五歳の少女は第八ブロックのアウトロー複数人を、一瞬のうちに叩き潰したのだ。
-
川 ゚ -゚)「素晴らしい」
傍らから姿を表したクーは、実直な賛辞の言葉をヒートに送り、拍手した。
黒のコートは春先の強い風に靡き、彼女の身体の一部、翼になったかのように滑らかに揺らめいている。
彼女がVIP学園の第二王位だと知らない者でも、この佇まいを見れば恐れをなして逃げ出すことだろう。
その威圧感は、視覚可能な闘気の流れとなって辺り一面に奔流する。
ノパ⊿゚)「なんだよ姉ちゃん。見てたなら助けてくれりゃいいのに」
川 ゚ -゚)「誰が自分よりも"強い"者を助けようとするんだ。はぐれたのはお前だ。尻拭いは自分でやれ」
ノパ⊿゚)「ちぇっ、そこは姉貴らしい優しさを見せてくれたっていいじゃんよ」
悪態をつくヒート。
言葉とは裏腹に、好戦的な瞳は爛々と輝く。
赤く染め上げた長髪は風に靡き、辺りを流れるクーの闘気を煽る。
視線は真っ直ぐ、クーが腰に差している退魔刀、鬼切九郎丸真打に向いていた。
ノパ⊿゚)「今日は案内だけしてもらうつもりだったけど気が変わったよ。たまには遊んでくれたっていいだろ?」
川 ゚ -゚)「悪くない。今そんな気分だ。鈍った刀を存分に研がせてもらうよ」
クーが九郎丸の鞘に手をかけると同時に、辺りの建物が同じ高さで両断された。
煌きが残した光の尾をなぞるように、建物は倒壊してゆく。
ノパ⊿゚)「負けた方が夕食奢りな!」
クーの頭上で身体を捻る。
スカートから覗く彼女の太ももで、龍の痣が静かに笑っていた。
-
丁度ゾロ目レス番で終わりじゃ!乙!
-
支援
-
乙
ヒートにも龍の痣があるのか
-
乙
ブーン君今のところラブコメしてるだけだけどこれから活躍していくのかな
-
今週中に投下出来そうだ。早ければ今夜にでも。
-
早くて嬉しいぜ!毎回楽しみにしてる
-
おああああああああああ!!!!投下(イ)くぞっ!!!
-
第十二話「幻影。掴めない背中とーーーー」
.
-
深く、深く潜るーー
水面に頭の先が触れた瞬間から、非日常が身体を舐める。
最初は緩やかに、流れを手に取り、見えもしない底を見る。
流されないように、鎖をかける。
水を蹴り、より深く、深く潜ってゆくーー
深くーー
深くーー
深くーー
-
ブーンは隕石が落下したのかと思った。
膨大な土煙を上げ、着地(というよりは着弾か)したそれは、両腕を組んだまま直立不動で佇んでいた。
( <●><●>)
ギコにも、ブーンにもハインにも目をくれず、ワカッテマスはただ一点、数百メートル先のビル群を見据えていた。
(,,゚Д゚)「おいおいおいおい……あんたまでお出ましかよ。本格的にわけがわかんねぇぞ……」
ブーンの側の建物の屋根から飛び降り、ギコはワカッテマスの肩に手を置いた。
その手を払うでもなく、友好的に握り返すでもなく、彼は視線すら動かさずに口を開く。
( <●><●>)「よく分からない時は叩いてみる。大体のことはそれで見えてきますよ」
二人が並ぶと、系統の違う好青年が肩を寄せ合っているようで、絵になる構図が出来上がった。
特にワカッテマスの、状況の緊迫を匂わせない涼しい表情は、その印象に拍車をかける。
( <●><●>)「ご心配なさらず。恐らくこの場にいる全員が状況を理解出来ていないと思います」
だから叩く。揺さぶってみる。
彼の思考は至ってシンプルだった。
竹を割ったような単細胞ではなく、冷静に、頭の中で乱雑に結ばれた理屈の紐を解いてゆくように、右腕が伸びた。
-
指先は小銃のような形を作る。
伸びた指先を始点に、空気がうねり、歪んでゆく。
本来不可視である人としてのポテンシャル、所謂闘気が人間の不可視領域を突き破り、滲み出ているように、ギコは思った。
(,,゚Д゚)(モラと同じ龍王気……同い年とは思えねぇな……)
第一王位であるモララーと、唯一個人的な交流が深いギコは、彼の力の根源や形態について、他の者より深く知っていた。
そんな彼がワカッテマスを見て思うのだ。
こいつは、モララーと同じだとーー
( <●><●>)「やはり彼ほど上手くはコントロール出来ませんね」
表情を崩さぬまま呟く。
収束した闘気の弾は、ワカッテマスの視線の先、ビル群に向かって直進した。
辛うじて原型を保っていた廃墟は潰れたトマトの肉片のように弾け飛び、それに呼応するように、爆心地から直線の光の尾が空に伸びた。
( <●><●>)「あそこですね。私は行きますが、貴方達はどうしますか?」
目の前で起きた事を脳が処理しきれず、三人は揃ってぽかんと口を開けていた。
( <●><●>)「……そうですか。ではこれで失礼」
-
ワカッテマスは悠然と歩み始めた。
三人はその背が小さくなってゆくのを、ただ茫然と眺めている。
(,,゚Д゚)「おい、ブーンとやら」
( ^ω^)「は、はい」
(,,゚Д゚)「王位を持たないお前から見て、あいつはどういう風に見える?」
( ^ω^)「どう、とは……」
(,,゚Д゚)「何でもいい。強そう、だとか怖いとか、そういう、ありのままの感想を聞かせてくれ」
ブーンは質問の意図を測りかねていた。
しかしギコがありのままの感想を教えろというのだから、それに従うしかない。
( ^ω^)「強いですお。とても、とても」
それ以上の言葉で彼を修飾するのは失礼だと、ブーンは思った。
絞り出すような、強いの一言。
それが、今の彼に送れるワカッテマスに対する最大の賛辞だ。
-
( ^ω^)「ただ……」
(,,゚Д゚)「ん?」
( ^ω^)「ぼくもいつかはああなりたい、と思いました」
付け加えたブーンの言葉は、ギコの脳を少しだけ揺さぶった。
自分ですら否が応でも実感させられてしまう才能、いや、もっと根本的な存在としての本質の差。
非力で矮小なブーンからすれば、最早具体的イメージも湧かないほど大きな壁に見えることだろう。
その壁を前にして、強がりや虚栄心ではなく、心の底からそう思えるのが、ギコの心を擽った。
(,,゚Д゚)「ほう……」
何故クーとペニサスがブーンに固執するのか、少しだけ分かったような気がした。
大抵の事には首を突っ込まないから客観的に見ることが出来る。
それが自分の長所だと思っていたギコも、この時だけは考えを改める。
自分が観察し得ない何かを、クーとペニサスは見ているのだ。
それがギコには歯痒く思えたが、同時に胸の内でふつふつと湧き上がる高揚感もあった。
(,,゚Д゚)「なら死ぬ気で這い上がってこい。絶対に王位を継げ。俺がこの学園にいる間にだ」
ギコの言葉は力強かった。
彼の言葉の芯が強いからこそ、それはブーンの胸に、すっと溶け込んでいった。
-
ギコはブーンが王位を継承出来るとは思っていなかった。
が、クーやペニサスが何か思い入れるこの男に、自分という存在を一枚噛ませてみたい。
そう思ったのだ。
這い上がってこい。
この言葉が、ブーンにとってどれほどの影響を与えるものになるのか、或いは、全く影響を及ぼさないかもしれない。
しかし、こう言うことが、何か大きな力の流れ、物語とでも言うのだろうか。
その流れに、自分という存在を刻み付ける杭となると、ギコは思った。
( ^ω^)「はい」
ブーンは静かに、しかしそれでいて力強く頷き、答えた。
固く結んだ拳は、彼にしか分からないほど小さく、微かに震えていた。
从 -∀从「さて」
多くの荒波が通り過ぎ、穏やかな清流となった空気に、彼女は一石を投じる。
从 ゚∀从「どうしたもんかね。あいつはあのまま野放しにしとけばまたブーンを狙うかもしれねぇしよ」
从 ゚∀从「あいつにゃ個人的な怨恨も腐る程ある。そんな私事にあんたら王位連中を巻き込むのは本意じゃねぇが……ここらでトドメを刺しておきたいんだよな」
ごく自然に、ギコとブーンが目を背けていた事実に、ハインは踏み込む。
-
初遭遇
支援支援
-
(,,゚Д゚)「元はと言えばあの化け物を産んだのはお前だろうに。えらく身勝手なことを言ってくれるな」
从 ゚∀从「返す言葉もございませんって感じだわな」
从 ゚∀从「しかしどういうわけか、あんたら王位連中はこの件に関しては何故かやたらとブーンに肩入れしてやがる。つまりあいつがブーンを殺しちゃ、あんたらの中の誰かが困るってことだ。多少なりとムカつく気持ちは分かるが、選ばなきゃいけない選択肢は自ずと減ってくるわな」
ハインは左目を手で覆ったまま、ギコの方を向いた。
掌から手首にかけて、普通の人間ならば苦痛でのたうち回るであろう量の出血が見て取れる。
(;^ω^)「ハイン? その血は……」
从 ゚∀从「気にすんな、こういう仕様だ」
と、ブーンを制すが、四肢を撃ち抜かれても、首を跳ね飛ばされても顔色すら変えない彼女が、今は白い肌を青くして、歯をがちがちと鳴らしている。
只事では無いということは、ブーンから見ても一目瞭然だった。
(,,゚Д゚)「……とことん人を食ったような事ばかり言いやがるな」
从 ゚∀从「そらそうだ。俺を何だと思ってる? 吸血鬼だぞ?」
-
从 ゚∀从「幸いにも数の上ではこっちが優勢だ。俺はデレについてはよく知ってるが、あのギョロ目の兄ちゃん一人でやり合っても勝敗自体はほぼ五分五分だと思う」
从 ゚∀从「それとさっきでかい弾ぶち込んできやがったもう一人、姿形は見ちゃいねぇけども、あいつも王位だろ? しかも相当の手練れとみた」
从 ゚∀从「ドクオもなんか知らんが相当強くなってる。あんたも王位、ブーンだって決して弱くはない。自衛くらいなら、最低限はこなせる筈だ。それに俺も、本気であいつとやり合うとなれば、それなりの奥の手はある」
从 ゚∀从「あんたがここで留まってる理由はなんとなく分かるよ。目的はあくまでブーンを守ること。別にデレを殺すとか、そういうおっかない目的じゃあない。あちらさんでやり合ってるうちに、こっそり家に送り届けようって魂胆だろ?」
少しだけ早口で、ハインはまくし立てた。
途中で余計な口を挟まれれば、伝えたい意見を伝え損なってしまう。
自分がそこまで弁が立つ部類の人間ではないということを、本能で理解しているからこその語り口調だった。
从 ゚∀从「それじゃダメなんだ。あいつは何度でも生き返る。あいつの熱が冷めるのなんて待ってちゃブーンは百回殺されちまう。仲良しこよししようとは言わねぇけどよ、お互いブーンが死ぬのは困るんだ。ここは結託して全員であいつをとっちめるってのが賢いんじゃねぇの?」
(,,゚Д゚)「ふざけるな。俺はこの場でこいつを守れとは言われたが、それ以降のことなんか知らねぇな。仮にも王位を目指す男なら、自分の身くらい自分で守れって話だ」
(,,゚Д゚)「今日は特例中の特例。次にあの女から狙われるようなことがありゃ自分でぶん殴って追い払えばいい。それが出来なくても"俺"は困りはしない。ここVIPだぞ? 頭の中に花でも咲いてんじゃないのか?」
-
(;^ω^)「あの……」
互いの語気が強くなり、まさに一触即発の空気の中、ブーンが恐々と口を開く。
ブーンに死なれては困る。
そんなニュアンスで言葉を濁したものの、いつの間にかブーンを守りたいという意志を露わにしていたことを自覚したハインは、口を挟んだブーンを咎めようと何か言いかけたが、口籠った。
( ^ω^)「ギコさんの言う通りだと思うお。上手く言葉には出来ないけど、ここはVIPなんだお」
( ^ω^)「強い人は生きられるし、贅沢も出来る。その分、弱い人は肩身の狭い思いをして、死んでいくんだお。そういう風に出来てるから。百の"楽しい"がここにあるとしたら、その数は絶対に変わらないんだお。平等に分け合う道が無い以上、奪い合うんだからそういう風になるんだお」
(;^ω^)「えっと、だからして……つまり……」
とっ散らかったブーンの言葉を、ハインはきょとんとして聞いている。
ギコはその一言一句を手に取り吟味するように、腕を組み、瞼を閉じて、深々と頷きながら聞いていた。
( ^ω^)「力の元で平等なこの世界で、そんな風に守られ続けるのは多分、ルール違反なんだと思うお」
( ^ω^)「ギコさんやあの人に結果として救われたけど、ぼくはこの借りをいつか絶対に返さなきゃいけない。それは多分、ありきたりな感謝の言葉とかそういうのじゃなくて……」
小刻みに震えた拳を振り上げ、そして、ギコに向ける。
( ^ω^)「この拳で」
-
ギコは瞼を開き、腕を組んだままブーンの拳をじっと見据えた。
それは時間にすればほんの数秒の沈黙だった。
だがブーンにとっては、人生の中で最も長い数秒間で、薄く引き伸ばされたその数秒の時の流れは、数時間にも思えた。
(,,゚Д゚)「その通りだ」
突き出したブーンの拳に自分の拳を合わせた。
指抜きのグローブに覆われた拳骨が、ブーンには大きく思えた。
(,,゚Д゚)「お前の潔さに免じて教えてやる。俺にお前を守れと命じたのはクー会長と、さっきの爆発を起こしたペニサスって女だ」
(,,゚Д゚)「あいつらがお前の何を見込んでそうしたのかは分からない。だから示してみろ。お前自身が、その拳で」
合わせた拳を押し込む。
ここに誓いは成されたと、ブーンは、ギコは、互いの目を見て頷いた。
-
('A`)「オラオラオラオラオラァッ!!」
ネズミ花火のように暴れ狂い、四方八方に銃弾を撒き散らすドクオ。
相手の間合いの外から攻撃出来るという銃の利点を一切放棄し、距離を取ろうとするデレに詰め寄り、時にワイヤーを手繰り寄せて背後に回り、銃を撃つ。
それはまるで銃弾で殴り付けているようで、確実に本来の用途とはかけ離れた使い方ではあるものの、銃はドクオの身体の一部となって火を噴き、圧倒的制圧力を見せていた。
ζ(゚ー゚*ζ「ーーッ!」
真紅の鎌がドクオの首を狙う。
しかしドクオの方が速かった。
即座にワイヤーを手繰り、距離を取ると、ドクオは空中でライフルを組み上げ、その銃口をデレに向ける。
対して、デレは血の礫をドクオに飛ばした。
ドクオの銃弾が一発に対して、赤い弾丸と化したそれはゆうに数十発を超える。
('、`*川「残念、それは通さないよ」
ヴァルキリーシステムのユニットから発された無数の光線が真横から真紅の礫を焼き払う。
熱線が薄れ、光の尾を残す。
デレの視界に飛び込んできたのは一発の銃弾だった。
-
心臓の真上の辺りの肉を穿ち、弾丸はデレの体内で爆散する。
鎖骨を粉々に砕き、その破片は筋繊維をぶちぶちと引き裂いた。
無数の血管が悲鳴を上げ、神経はその機能を停止させる。
使い物にならなくなった左腕はだらりと下がり、真紅の鎌が宙で数度回転し、液体になった。
('A`)「ちっ……見えにくいんだよ。もう少しスマートな弾はねぇのか」
('、`*川「今度の改良で検討しとくわ。ほら次来るわよ」
|::━◎┥
液状化した鎌の血に包まれ、デレは破損した部位を再生させながら落下している。
丸腰になった彼女を守るように現れたのはゴーレムだった。
ドクオとブーンの二人で戦っていた時に現れたゴーレムよりやや小柄ではあるが、人型として洗練されたフォルムのそれはドクオが爆弾で葬ったものよりも機敏な動きを見せる。
('、`*川「あら、次はこっち?」
ドクオの眼前まで迫ったゴーレムは腕をペニサスに伸ばし、滞空する銀翼をもぎ取ろうとする。
石造りの手が翼に触れた瞬間、ゴーレムの手首から先が切り取られ、落下した。
ペニサスが切断面を確認すると、一瞬だけ細い糸のような煌めきが走った。
-
('、`*川「そういう使い方も出来るのね。うちに来て毎朝パンを切る仕事をしない? 福利厚生完備、手取りはあんたの言い分でいいよ」
('A`)「生憎不器用なもんでね。人間より小さいものは上手く切れねぇんだ」
ドクオの指先が動く。
それに呼応して、ゴーレムを取り巻く無数の糸が煌めいた。
一瞬にして輪切りになったゴーレムの胴体に向けて、ペニサスがビームライフルを構える。
予めそうなることが分かっていたかのように。
目配せや言葉による意思疎通すらも必要とせず、二人は"解り合って"いた。
('、`*川「燃えなさいな」
吐き出された熱線が石造りの身体を焼き尽くす。
塵芥すらも残さず、デレを守護するゴーレムは一瞬にして陥落した。
ζ(゚ー゚*ζ「溺れなさい」
再生を終えたデレが両手を上げた。
その動作に呼び起こされるように、前触れもなく足元から現れた赤い渦が、ドクオとペニサスを飲み込まんと口を開ける。
-
しかし二人の反応の方が速かった。
散り散りに別れた二人はそれぞれ、安全地帯の建物を素早く見繕い、屋根に着地する。
ζ(゚ー゚#ζ(どうしてーーッ!)
余力はまだある。
だからといって手を抜いているわけではない。
王位継承者であるペニサスが自分の攻撃についていけるのは解る。
ヴァルキリーシステムに搭載されている装備を全て把握しているわけではないが、熱源感知センサーの一つや二つついていてもおかしくはない。
しかし、どうしてドクオまでもが自分の速度についてこれているのか。
デレには解らなかった。
常時監視しているわけではない。
だが王位になる可能性を秘めている者は定期的にチェックしていた。
校外でミルナと戦ったのがつい先日、それからどう足掻いてもこうはなり得ない。
【龍との謁見】を加味したとしてもだ。
変わったことと言えば、以前は鋼鉄繊維を束ねた頑強なワイヤーを装備として好んでいた。
それが無くなり、代わりにこの極細の不可視ワイヤーを扱っている。
自分の周囲にそれが張り巡らされているのは、幾度か目にした糸の煌めきで分かっている。
だがそれが一体どの程度の規模で、どこまでを覆っているのか。
最大範囲はデレにも未知数の領域だ。
-
先の気弾で辺り焼き払われた。
ワカッテマスが放ったものだろう。
咄嗟に頭部を守ることでデレは絶命を免れた。
ペニサスも何らかの方法であれを察知し、避けたのだろう。
何ら不思議ではない。
('A`)
ζ(゚ー゚*ζ「なんで……?」
何でお前は平然とした顔をしていられる。
どうしてお前は生きて、私に銃を向けている。
先日、兄者が第十王位を継承した。
仮にドクオと兄者が、いや、ドクオと流石兄弟が王位を賭けて本気で殺しあったとして、デレにはドクオが負ける絵が思い浮かばなかった。
('A`)「そんな恥ずかしい格好でジロジロ見るなよ。こちとら童貞だぞ」
ζ(゚ー゚*ζ「…………」
軽口を叩いて挑発をしているつもりなのだろうが、そこでやすやすと攻めに転じるほど彼女は馬鹿ではない。
デレの意識が一瞬でもドクオに集中すれば、死角からペニサスのレーザーが飛んでくるだろう。
-
せめてどちらか一人を仕留められれば、一対一の状況にさえ持ち込むことが出来れば、これだけ血を撒き散らしている今ならばこんな格下など数秒で屠ることが出来るのに。
そうは思ったところで、どうしようもない。
二人が結託し、阿吽の呼吸で連携攻撃を仕掛けてくる以上、もうそれは二人を強大な一と見做し、立ち回るしかないのだから。
しかしぼんやりとしている暇も無い。
殆ど現れもしない隙を窺って防戦に徹するにはあまりにも状況が悪過ぎる。
ζ(゚ー゚;ζ「のんびりしてられませんね」
何故ならーー
( <●><●>)「私が来るから、ですか?」
ペニサスのセンサーを、ドクオのワイヤーを、デレの目を掻い潜り、彼はデレの懐に潜り込んでいた。
ブレザーを翻し、全裸のデレの胸元に手を添える。
('A`)「ーーーーッ!」('、`*川
それは波紋だった。
軽く胸に触れた彼の手を始点に、空間そのものが波打つ。
辛うじて原型を留めていたビル群が、不可視の波に飲まれ、崩れ落ちてゆく。
-
それは衝撃の余波でしかなかった。
その中心にいたデレは口を開くことすら許されず、真っ直ぐ吹き飛ばされる。
建ち並んでいたビルの壁を何枚も破り、直進してゆくその姿はさながら弾丸のようだ。
ζ(゚ー゚;ζ(終わったーーッ!)
飛び回る蠅を相手にしながら、これを相手にすることは不可能だ。
自分よりも格上のジョルジュやクーでさえも怪しい。
壁にぶち当たる度に赤い華を咲かせるデレの背中は、原型を留めていなかった。
傘状に変形し、直進しながら肉片を撒き散らす血の弾丸。
再生に注力し、彼女は自分が辿った軌道の先を見据える。
( <●><●>)
無表情のまま、指先をデレに向けている。
収束する光。
デレの思考はシンプルだった。
ζ(゚ー゚*ζ(退くーーッ!)
上体を無理矢理逸らし、自分の身体の軌道を変える。
そして、振り返った。
-
_
( ゚∀゚)「よう、なんだお前か」
何故ーー
ドクオ、ギコ、ペニサス、ワカッテマス、そして何故、ジョルジュまでも自分に牙を剥くのか。
ζ(゚ー゚*ζ(内藤ホライゾン……貴方は……)
一体何者なんだ。
_
( ゚∀゚)「よくわかんねぇな。わかんねぇが、こうしろってことだろ」
_
( ゚∀゚)「上手く逃げろよ。殺す気で撃つ」
ジョルジュの右腕が燃える。
デレにとっては因縁深い、絶対に忘れようがない光景だ。
不死のイノヴェルチである身体が、頭の先から爪先までが、全力で警鐘を鳴らす。
ζ(- -*ζ 「……参りましたよ」
デレは諦めた。
生きてさえいれば、必ずチャンスは巡ってくるだろう。
ハインリッヒの殺意を、愛情を、独占出来るチャンスが。
刹那、龍王気と火龍がぶつかり合った。
-
爪'ー`)y-「どうですか? うちの生徒は」
/ ,' 3「悪くない」
学長室のモニターには火龍と龍王気の衝突が鮮明に映し出されていた。
それを眺めるのはフォックスと、白髪の老人。
着流し姿の細い体躯は弱々しいが、豪奢なソファに鎮座するその佇まいは厳かで、眼光は修羅の如く鋭い。
/ ,' 3「あのギョロ目の小僧、龍の使い方を心得ておるな。加えて格上に対して表情一つ変えず先手を打つ胆力。まだ若いのに大したものじゃて」
爪'ー`)y-「ワカッテマスですか。俺も彼には一目置いています。モララーに万が一の事があれば、彼が代替になるでしょう」
/ ,' 3「彼奴の替えなど何処にもおらんて。儂等を潰したくば、丁重に育てることじゃのう」
爪'ー`)y-「驚異となる前に先手を打たれては、こちらとしてはどうにもなりませんからね。代替案は三つあります。むしろそっちが本命かな?」
それはブラフだった。
フォックスの計画においてモララーの存在は重要なキーだ。
彼が重要であるという事実を隠そうとはしない。
だがその度合いを、老人に悟られるわけにはいかなかった。
最悪、モララー無しでも事は起こせると、老人達に思わせる必要があった。
-
/ ,' 3「かっかっかっ。自惚れるなよ小僧。驚異? VIPが総力を上げて儂等を狙おうと、この椅子は絶対に覆らんわい」
爪'ー`)y-「しかしVIPが戦神を抱えているにもかかわらずそこにメスを入れることが出来ないのは、迂闊に手を出せない理由があるからじゃないですか?」
/ ,' 3「ふん、理由など至極明快よ。子供達が戦いに飢え、剣を振るい続けるように、儂等とて遊び相手を欲しておるだけじゃ」
/ ,' 3「しかし果実はまだ熟れておらん。腹を空かせ、喉を乾かせて噛り付いた果実が渋いとなると、これほど興醒めな事はないからのう」
/ ,' 3「VIPは儂等への供物を育てる餌場に過ぎんわ。貴様が裏できな臭く嗅ぎ回っているのは知っとる。せいぜい儂等を愉しませてみよ」
フォックスを睨む眼光は鋭い。
暫し睨み合う時が続いたが、やがて興味が無くなったのか、老人はモニターに視線を戻す。
-
/ ,' 3「しかし子供というのはいいものじゃのう」
爪'ー`)y-「……それに関しては同意です」
/ ,' 3「ふむ、好む動機は相容れそうにないがのう。貴様の歪んだ愛情のせいで、これからどれだけ多くの子供達が駒として散ってゆくことやら……」
爪'ー`)y-「子供を自分の腹を満たす餌としか見ていない貴方がそれを言いますか……」
フォックスは苦笑いを浮かべた。
愛想を取り繕ったような笑みだったが、テーブルの下に潜り込ませたこぶしは、固く結ばれていた。
爪'ー`)y-「俺はただ、子供達を広い世界で自由に遊ばせたいだけですよ。こんな限られた場所で、見るものも、手に取るものすらも大人に選ばれる……そんな息苦しい箱庭から出してやりたい」
怒りを咬み殺したフォックスの苦痛が、老人には手に取るように分かった。
明確に自分に向けられた敵意。
それは、老人にとっては愉悦でしかなかった。
-
/ ,' 3「子供じゃのう、貴様も」
爪'ー`)y-「ええ、俺も見てみたいですから。箱庭の柵から解き放たれた世界をね」
飲み下した怒りを消化し、フォックスは口角を上げた。
先程の繕った笑みとは違い、どこか自信が滲み出ているような、柔らかい表情だった。
爪'ー`)y-「荒巻さん、貴方がこちら側についてくれればこんな回りくどいことをせずに済んだのですがね……」
/ ,' 3「儂はただ、強い者を食えればそれでいい。お前が語る理想とやらはどうも退屈でのう」
凡ゆる思惑を、信念を、志を、欠伸混じりに噛み砕いてしまう。
老人、荒巻の肩の辺りから滲み出る闘気は、そんな禍々しい形をしていた。
大口を開けて目を細めるその姿は、鬼と形容するに相応しかった。
-
/ ,' 3「戦神とはそんなもんじゃ。行動するのに大層な理屈なぞ必要ない。強い者と戦えればそれでいい。"今が楽しければなんでもいい"。そうじゃろ?」
爪'ー`)y-「今代の戦神はそうはなりませんよ。そうならないようにする為の龍です。彼女の意志はもう貴方達の認識の範疇を超えている。俺とて、同じ失敗を繰り返すつもりはない」
/ ,' 3「その為のモララーかえ? アレは貴様の倅じゃろう。歪んだ愛情よ」
爪'ー`)y-「あいつは自分の意志でそうなる道を選んだ。それだけですよ、荒巻さん。いや……先代のブーン」
/ ,' 3「くっくっくっ……そう呼ばれんようになって久しいのう。足掻け足掻け、儂等の贄じゃ。大切に育てよ」
荒巻は喉を鳴らして笑い、テーブルの上のカップに手をつけた。
常人なら胃が爛れてしまう酸性の紅茶を一口で呷り、老人は笑う。
ただ、笑うーー
-
粉塵が風に流されてゆく。
最早建ち並んでいたビル群の原型はなく、瓦礫の山だけがうず高く積もっていた。
これが王位同士の戦いか。
ドクオは全てが終わって、すっかり変わってしまった景色を眺めてやっと、自分がとんでもない高次元の戦いに介入していたのだと実感した。
('A`)(まだまだ実力不足……本気で王位を取るには、こいつらと単騎で張り合わなきゃいけねぇんだ)
相手が第四王位だとはいえ、所詮は多勢に無勢。
自分は多勢に乗っかり、相手と同じ次元の味方の助力を受けていただけに過ぎないのだ。
少し前にブーンに窘めている自分を思い返し、ドクオは苦笑いを浮かべそうになる。
('、`*川「…………」
( <●><●>)「…………」
_
( ゚∀゚)「……へぇ」
-
まだ足りない。
ドクオは更なる精進に励もうと誓った。
何か、何かが引っかかるような、首筋の辺りで、自分ではないが、けれども確かに自分の一部である何かが、まだやれると暴れ狂っている。
ドクオ以外の三人の王位は、彼が自身に下す評価とは真逆の評価を下していた。
('、`*川(なまじ向上心が高そうな分……今後はあまりお近付きになりたくないタイプだわね……次に会合以外で鉢合わせたら折角のパーツがお釈迦にされそうだし……)
( <●><●>)(風格が違いますね。今年の一年の代では抜きん出ている)
_
( ゚∀゚)「よう、新たな王位。誰も文句はねぇわな? 今し方欠番が出ちまったかもしれねぇんだわ」
誰もが言葉を思案の渦の中に押し込めている中、ジョルジュは飄々と語りかける。
-
('、`*川「あんた、その傷……」
ジョルジュの表情はいつも通り、飄々としているが、脂汗をかいている。
その理由は誰が見ても明らかだった。
仰々しいファーがついたコートの、胸元から覗く大きな傷。
よく見れば負傷はそれだけではない。
裾から伸びた指先からは血がぽつぽつと滴り落ちており、左耳は千切れかかっている。
('、`*川「……クーが負けた?」
(;'A`)「ーーっ!?」
ドクオは口には出さなかったが、動揺を隠しきれなかった。
あの女が? ずっと背中を追い続けてきた完全無欠の剣士が?
_
( ゚∀゚)「"第二王位"ジョルジュだ。よろしくな」
にやりと口角を歪める。
脂汗に塗れた痛々しい笑みだったが、王者としての尊厳は微塵も損なわれていなかった。
('、`;川「はぁ……目眩がしてくるわ。死んでるのは確認したの?」
_
( ゚∀゚)「んなまどろっこしいことするかよ。生きてりゃまたやり合えるんだろ? 俺としてもそっちの方が万々歳だしな」
-
_
( ゚∀゚)「まぁ、見るだけ見てみろや。死んでりゃこいつが第十王位だ。文句は言わせねぇ。もしかしたら、お前んとこのメディカルマシーンなら治せるかもな」
('、`*川「言われなくてもそうするわ。会長さんがいなきゃメチャクチャ面倒なことになりそうだもの、このガッコ」
( <●><●>)「手を貸しましょうか?」
('、`*川「無論ですわ。ほら肩掴んで」
銀翼が大きく広がり、噴出口が青い炎を吐き出した。
空気と熱が排出されるジェット音と共に、二人の姿はみるみるうちに遠くなってゆく。
_
( ゚∀゚)「さて……」
邪魔者はいなくなった、と言わんばかりに、ジョルジュは煙たそうに噴煙を手で払い、ドクオを見た。
_
( ゚∀゚)「そいつぁ何の真似だ?」
('A`)「…………」
ドクオは黒銃をジョルジュに向けていた。
分かっている。
こんなものは、この男にとってなんの脅威にもなり得ないことくらい。
それでも、ドクオはそうしなければならないような気がした。
-
('A`)「わかんねぇ、わかんねぇんだけどよ」
('A`)「どうしちまったんだろうな俺は。手負いのあんたにすら勝てない。そんなことは百も承知なんだよ」
('A`)「でもどうしてだろうな。あんたのツラ見てるとさ……ムカついてムカついてしかたねぇんだ」
銃を握る手が震えてしまいそうになるのを、奥歯を噛み締めて抑え込む。
ぎりぎりと頬の肉が歯に挟まれ、ドクオの口の中に鉄の味が広がる。
_
( ゚∀゚)「ふぅん……」
顎をしゃくり上げ、ジョルジュは値踏みするようにドクオを見据える。
身体中の傷口から血が滴り落ち、足元には血溜まりが出来上がっていた。
_
( ゚∀゚)「いいね……俺はお前が好きだ」
(;'A`)「勘弁してくれ気持ち悪い」
_
( ゚∀゚)「そう言うなよ。なかなか美味そうなツラしてーー」
重く、湿った発砲音がジョルジュの言葉を遮った。
弾丸はジョルジュの頬を掠め、うっすらと赤色の線を刻み付ける。
-
('A`)「次は当てる」
_
( ゚∀゚)「当ててみろよ。そんな断りが喧嘩に必要か? ここVIPだぞわかってんのか?」
(;'A`)「…………」
出来るはずも無かった。
銃を下ろし、薬莢を吐き出す。
甲高い音を立てて地面にぶつかったそれは、不自然な蒸気を上げ、小さく発火した。
_
( ゚∀゚)「へへへ……まぁ後輩いびりもこれくらいにしといてやるよ。じゃあな。未来の王様」
力なく手を振り、ジョルジュはドクオに背を向けた。
きっと何の警戒もしていないのだろう。
ドクオは直感でそう思ったが、弾を詰め直して引き金を引く。
その一秒にも満たない所作を、行うことが出来なかった。
赤い尾を引きながら、小さくなってゆくジョルジュの背中を、ただ見つめる。
('A`)「クー……」
ずっと、ずっと、見つめる。
背中が、見えなくなるまでーー
-
ふぅ……毎度毎度投下のたびに広告タップしてしまうな
そろそろラップ書きたいぜ、俺乙
そしておやすち
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乙乙。
-
乙
そしておやすち
-
面白かった!
そしておやすち
-
乙。もうね、ほんと面白い。
そしておやすち
-
>>467の辺り焼き払われたって所脱字してる?
そしておやすちワロタ
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やべぇ誤字ってるな
辺りは焼き払われた、で補完おなしゃす
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ブーン世襲制説
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話が広がってくね
すげーわくわくする
デレは完全に退場なのかな?
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酸性の紅茶で笑ってしまった
なんでそんなもん飲んでんだよ
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今日か明日投下
今夜が濃厚、大穴は今日明日ダブル投下、はちょいと厳しいかな
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いいねいいね
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ハイペースだな!いかすぜ!
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投下する
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第十二話「彼と彼女の事情。片側二車線を走る彼とぼくの事情。」
.
-
('A`)「よう」
フルーツの詰め合わせを提げ、ドクオは開きっ放しのドアの境を潜った。
消毒液の匂いが少しだけ強くなる。
包帯の交換でもしたばかりなのか、とドクオは鼻を擦った。
川 ゚ -゚)「なんだ、来てくれたのか」
クーの言葉を無視し、ドクオはフルーツの籠をぶっきらぼうに備え付けの冷蔵庫の上に放り投げ、パイプ椅子を立てて座り込む。
こんな彼女の姿は、出来れば見たくなかった。
ドクオは、自分が今どういう顔をしているのか気になり、クーから目を背けて窓を見た。
愛想の無い仏頂面が眠たそうな目で自分を見ていることに、安心する。
('A`)「友達なんか作る柄じゃねーだろ。一人で退屈してんだろうなと思ってよ」
川 ゚ -゚)「気苦労が増えたよ。頻繁にうるさい客が来るんだ」
('A`)「ヒートか?」
川 ゚ -゚)「ああ」
('A`)「はっ……同情するぜ」
そして、沈黙ーー
-
言いたいことならば山ほどあった。
だがドクオは口を噤み、暫く窓から外の景色を眺めていた。
それにも飽き、やがて徐に着ていた袖無しのベストの胸ポケットからナイフを、肩から提げていた鞄からオイルと布を取り出し、手入れを始めた。
慣れた手つきで刃の汚れを拭き取り、新たに取り出したブラシで細かく油分や埃等を落とす。
薄くオイルを塗った布で丁寧に拭きあげると、鈍い輝きを放っていた刃は、純銀にも比肩し得る眩い輝きを孕んだ。
川 ゚ -゚)「綺麗だな」
('A`)「自分の得物は自分できっちり磨いてやらねぇとな」
そう言って、ドクオは視線をナイフからクーの肩の向こう側に移した。
刃の腹の中心で真っ二つに折れた鬼切九郎丸が、鞘と一緒に壁から紐で吊るされていた。
三本の長物が雑に一括りにされたその様は、つい先日まで剣の達人に愛されたものとは思えない。
('A`)「あーあ、こんなにしちまって……」
立ち上がり、九郎丸の前で中腰になり、じっと見つめる。
薄っすらと埃が積もった刃を、指でそっと撫でてみた。
埃の中から顔を出した輝きの筋が、ドクオには九郎丸が泣いているように見えた。
-
('A`)「ほんとに、いい刀だったんだな」
川 ゚ -゚)「そうだな」
('A`)「なぁクー、なんで負けちまったんだよ」
川 ゚ -゚)「なんで、とは?」
('A`)「そのままの意味だよ。なんでお前が、負けちまったんだ」
川 ゚ -゚)「おかしなことを言うな。負けるつもりなど無かったさ。ただ真っ直ぐ勝負して、私は負けた」
川 ゚ -゚)「なんでかと言われれば、私の力不足と言うしかあるまい」
所謂騎士道精神、武士道といった、スポーツのようなフェアな精神に則って、お互いが存分に力を吐き出し、その結果クーは負けた。
彼女の人生において、一番の敗北だった。
清々しかった。
そして、最も誇れる勝負だった。
だからこそクーは、再起を急ぐでもなく、燃え尽きた灰のように呆然と意識だけを切り離し、この白の空間の中を亡霊のように彷徨っている。
-
再燃するための火種は充分にある。
当然このまま終わるつもりは無い。
ただ今は、夢想の波に身を委ねるようなこの時間が、クーにとっては愛おしかった。
川 ゚ -゚)「ナイフを貸してくれないか」
('A`)「…………」
ドクオは吐き出そうとした言葉を飲み下し、ナイフの柄を向けてクーに手渡す。
受け取ったクーはそれを何度か指先で回し、無言のままフルーツ籠を見た。
('A`)「いいよ、使っても」
七、八年ほど前なら、ナイフを渡した時点でフルーツ籠も一緒に渡していただろう。
言葉を交わさずとも、お互いが何を望んでいるのかが解る。
そういう関係だった。
少なくともドクオは、そのように思っていた。
脇腹の傷を庇いながら上体を屈め、林檎を手に取るクーの指先を視線でなぞりながら、その頃が懐かしいと夢想する。
皿を使わず、今日に掌の中で切り分けられてゆく林檎。
一片ずつ欠けてゆくそれは、どこか他人行儀になってしまった自分達の関係のようだと、そんな風に考え、ドクオは目を伏せた。
-
川 ゚ -゚)「ウサギにしようか?」
('A`)「よせやい。もう子供じゃないんだ」
自分らしくない照れ笑いだなと、ドクオは思った。
別に林檎が好きなわけではなかった。
クーの家は代々アウトローの頂点を取り仕切る家で、血生臭い無法の世界に、力で法を敷く家だった。
それは膨れ上がった欲望に、世が押し潰されない為の抑止力。
任侠の徒というやつだ。
当然抑止となる絶大な力の元には金が集まる。
実家の広大な庭には大層立派な林檎の木があって、ドクオは彼女の稽古の合間に、よくそこで落ち合って遊んでいた。
「美味そうな林檎だ」
「食べたいの? あげようか?」
「いいのか!?」
「うん、私の家の林檎だし」
スリを生業とする孤児のドクオにとって、果物は貴重な甘味だった。
林檎の木に実が熟れば、クーはそれを取ってドクオと分けた。
-
ある日、クーはほんの遊び心のつもりで、切り分けた林檎の皮をウサギの形に切り、ドクオに渡した。
「……うんめぇ」
ドクオはそれを大層気に入った。
味など変わるはずもないのに、薄汚れた彼には、人がわざわざ"自分のため"に手をかけたものを分けてくれることが、嬉しかったのだ。
やがてクーの親は二人が密かに落ち合っていたことを知る。
ものを分け合う二人の慎ましげな姿を気に入り、それからドクオはしばしばクーの家に厄介になるようになった。
彼女がVIPに入学してから初めた暗殺稼業は、世話になったクーの両親に見せられるようなものではない。
後ろめたく思ったドクオはそれきり、彼女とも彼女の家とも疎遠になっていった。
('A`)「懐かしいな」
几帳面に、きっちり左右対称で耳を伸ばしたウサギ型の林檎が、紙皿の上に並べられる。
ドクオはその一つを手に取り、尻から頬張った。
自分で食い扶持を稼げるようになり、好きなものを食べられるようになった。
林檎は、特別好きな食べ物ではなかった。
クーがくれた林檎だから、クーが剥いてくれた林檎だからーー
('A`)「……うんめぇ」
九郎丸の手入れ用の布で、汁がついたナイフの刃を綺麗に拭き取り、ドクオに返す。
川 ゚ -゚)「変わらないな」
窓から射し込んだ日の光が、クーの顔を照らした。
ほんの少しだけ微笑んでいた。
少なくともドクオには、そのように見えた。
-
林檎を食べ終えて、二人は暫く無言だった。
たまに目が合うと、視線を逸らすでもなく見つめ合う。
ただ、それだけ。
何の起伏も無い穏やかな時間を、二人は噛みしめるようにして共有していた。
('A`)「帰るわ」
川 ゚ -゚)「もう行くのか? 久しぶりに二人で話すのに。もう少しゆっくりしていけばいいじゃないか」
時刻はまだ正午にもなっていなかった。
('A`)「ブーンに呼ばれてるんだ」
川 ゚ -゚)「そうか……まぁ、また来いよ」
('A`)「おう、またな」
微塵の名残惜しさも見せず、ドクオはクーの顔を見ないままドアを締めた。
川 ゚ -゚)「満更でもなさそうじゃないか。友達……か……ふふっ」
第三王位、生徒会長、任侠の娘、帝国最強の剣士。
あらゆる肩書き捨てて乞食にでもなれば、また昔みたいに……
そこまで考えてクーは目を瞑り、横たわった。
-
(ヽ´ω`)「ドク……オ……はやく……」
それは真綿で首を絞めるように、ゆっくりとぼくを蝕んでいった。
気付いた頃にはどうにもならなかった。
自暴自棄になったし、その日の夜は布団を被って、声を殺して泣いた。
やがて込み上げてきた感情を抑えきれず、気付けばぼくは幼子のように咽び泣いていた。
天井を見つめる。
視界の端が、少し曇ってきたような気がする。
鼓動の音が近い。
まるで、ぼくの拳大の心臓が、頭と繋がっているみたいだった。
死の予兆を、こんなにもリアルに感じたのはいつぶりだろうか。
少なくともこのVIP学園に入学してからは、これほどの危機を感じたことは無かった。
初めてハインと出会った日も、デレに襲われた日も、もしかしたら、ぼくは頭の片隅ではその事柄を客観視していて、どうせ助かるにきまっていると高を括っていたのかもしれない。
しかしこうなってしまったのも、元はと言えばぼく自身に原因がある。
それは因果応報で、だからこそぼくは、自分に襲いかかった悲劇を徒らに責任転嫁することも出来ず、こうして呻いているのだ。
支給される生活費が底をついた。
ぼくは、もう二日も何も食べていなかった。
-
( ´ω`)「ひもじいお……助けてくれお……」
('A`)「何やってんだお前」
( ´ω`)
( ゚ω゚)そ
( ゚ω゚)「ど、ど、ど、どくお……」
('A`)「手ぶらってのもアレだしよ、丁度外に出る用事があったから菓子買ってきたぞ」
レジ袋を手に提げたドクオが、今のぼくには後光が差して見えた。
ありがとう、クー会長。
貴女が言った通り、ドクオはぶっきらぼうだけれど、面倒見の良い人らしい。
ぼくは半ば毟り取るように、レジ袋を受け取った。
手を突っ込んで一番最初に触れたポテトチップスの袋を引き千切り、一口で中身を全て流し込む。
一生、ドクオと仲良くしようと決めた。
-
('A`)「はぁ、生活費が底をついたから何かいいバイトは無いか、と」
( ^ω^)「頼むお。出来るだけ割の良いようなやつで」
('A`)「ペストで皿洗いでもすりゃいいじゃねーか。求人出してたぞあそこ」
( ^ω^)「時給630レスだお」
( ^ω^)「一時間働いて、ペストではコーヒー一杯も飲めないんだお」
( ゚ω゚)「ふざけんじゃねーお! ブレンドコーヒーが一杯1,000レス! 一番ちんまいナポリピッツァが一枚7,000レス! ハンバーグなんて食おうもんなら20,000レスが吹っ飛ぶんだお! そんな法外な値段設定の飯屋がこの学校で唯一マトモな食事が出来る場所って、そりゃないお! こんなんじゃ第八ブロックのギャングに撃たれるよりも先に餓死してしまうお!」
('A`)「お前はその法外な値段設定の店で、初対面の俺の奢りで十万レス以上食い潰したんだけどな」
( ゚ω゚)「んなことはどうでもいいんだお!」
('A`)「お前、日に日に態度が横柄になってきてんな」
-
('A`)「しかしよりにもよって何で俺を当たるかね。確かに俺の仕事は一口百万レスから、太いっちゃ太いが汚れ仕事ばかりだぞ」
( ^ω^)「当然他の人にも当たってみたお。実は流石の兄者さんを頼ってみたんだお」
('A`)「流石兄弟? 大層な奴と絡んでんだなお前は。んで、どうだったんだ」
( ^ω^)「今こうやって君に頭を下げてることから全てを察してほしいお」
('A`)「頭を下げてるかは別として、まぁ……俺が悪かったよ」
( ^ω^)「あの屈辱……忘れもしないお……ぼくは絶対あの人にものを頼んだりしないお」
( ゚ω゚)「ああああああああああ!! 思い出しただけでイライラしてきた! ふぁっく! ふぁっく!」
(;'A`)「落ち着け、ほら、コーラでも飲め」
( ゚ω゚)つ日 ぐびっぐびっ
( ^ω^)「ふぅ……」
-
( ´_ゝ`)「なに、金が無い? そんなら稼ぐしかあるめぇよ」
( ^ω^)「ですよね……何かいい仕事はありませんかね」
( ´_ゝ`)「おいおい俺にそれを聞くなら道は一つしかないだろ。金が無い学が無い奴はこのマイクロフォン一本で稼ぐ。それがヒップホップだぜ?」
( ^ω^)「と、言いますと……」
( ´_ゝ`)「今夜俺のマイメンが主催するイベントでMCバトルトーナメントをやる。優勝賞金は300,000レスだ。ペストで鱈腹飯が食えるぞ」
( ^ω^)「あの……でもぼくラップなんてやったことなくて……」
( ´_ゝ`)「やったことないなら今から練習だ。イカしてんじゃねぇか無一文、経験無しの男の下克上なんてよ」
( ^ω^)「いや、あの」
( ´_ゝ`)「おら、早く来いよ。やらなきゃ飢え死にだ」
-
( ゚ω゚)「ぼっ、俺はこの通り素人だけど韻踏むと、あっ、あっ……あー! あぁ……あ、ちょっとふぁっく!」
( ´_ゝ`)「はいはい"失笑" ビートに乗れないその"姿" "ならば"この俺のdisの"対象" お前の首をchop "down" と洒落込む前に先ずは"名乗ろう"」
( ´_ゝ`)「"灼熱"の"バイブス"と"卓越"した"スキル"をまずは"見せよう" "着火""メカ""ファイアー"from VIP"サイファー"からやって"きました""高速"ライマー" a.k.a "兄者"とは俺のこと "プライド"ならば"like" a "ライオン" ちげーんだよ熱量使い捨て"カイロ"とはな」
( ´_ゝ`)「何が"ふぁっく"? 言わせてもらうがお前は"ワック" それじゃ"ロック"は無理だし得られない"プロップス" まるで子豚の"一本調子"お前はビート上で"一旦停止" つまり、"イルな遺伝子"継いでる俺こそが似合う王様の"称号" "トーシロ"なお前とは違うさながら"神の申し子" って"パンチライン"でお前に見せる"デッドライン"」
( ゚ω゚)「ああああああああああああああああああああ!! ふざけんじゃねぇお!!」
( ´_ゝ`)「キwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwレwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwたwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
( ゚ω゚)「帰る!!!!!」
( ´_ゝ`)「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwライブ見にこいよ、打ち上げで飯くらいなら奢ってやるよ」
-
('A`)「で、アホみたいに煽られてブチ切れて帰ったくせにちゃっかり打ち上げで飯はいただいたと」
( ^ω^)「兄者さんの顔が青ざめるまで食ってやったお」
('A`)「同情するぜ」
( ^ω^)「分かってくれるかお?」
('A`)「兄者にだよ」
ドクオはすっかり呆れてしまったようで、ぼくの弁明に一切耳を傾けようとしなかった。
チョコバーを齧り、ちびちびとコーラを飲みながら、仏頂面でタブレットを弄り始める。
制服着用の義務など無いが、ドクオは平日と休日できっちりと服装を分けているので、土曜日の昼下がり、私服のドクオを見るのはどこか新鮮だった。
白いTシャツの上に袖無しのベストを合わせ、草色のハーフパンツを履いている。
それが今の流行なのか、ぼくにはとんと分からないが、少なくともジャージか制服で過ごすぼくよりも幾分かは、"最近の若者"らしいのだろうと思った。
-
('A`)「そうだな……お誂え向きな仕事も無くはないぞ。お前、これやってみるか?」
( ^ω^)「おっ、聞かせてくれお」
('A`)「グールの掃討だ」
('A`)「クライアントは……ヒッキーか。そこそこの地主だな。あの辺りは興業も栄えてなくてベッドタウンになっちまってるからな。自警団を配備する余裕も無いんだろう」
ヒッキーの名前はぼくも聞いたことがあった。
一昔前に不動産を転がし、蓄えた資金で辺りの安い土地を片っ端から買い叩き、抱え込んだやり手の地主だ。
土地が高騰した今となっては、抱えた土地は徹底的に出し渋り、近隣の人間からは成金と揶揄され、嫌われていた。
( ^ω^)「折角財を成しても、本丸の周りがグールに食い荒らされちゃ元も子もないって話だおね」
('A`)「そういうこった。この野郎、足元見てケチな報酬を提示してきたもんだから断ってやろうと思ったんだが……」
( ^ω^)「やるお」
('A`)「だろうな」
-
自分の私利私欲の為に人を殺す事が平然と罷り通る学園にいながら、ぼくは人を殺したことが無い(間接的に殺してしまったことはあるが、ノーカウントとしても差し支えは無いだろう)。
今更その行為自体を嫌悪するわけではない。
その程度にはぼくの倫理観というものも崩壊してはいるが、やはり自分から進んでそのような行為を犯す気にはなれないのだ。
或いは、ぼくのように思う生徒もそう少なくない数いて、決して物珍しいものではないのだろう。
だからドクオはアルバイトとして、グールという人外の掃討を提示した。
少なくともぼくは、そのように解釈した。
本当に、面倒見のいいやつだと思う。
だからこそ、彼がどうしてこんな汚れ仕事の世界に積極的に足を踏み入れているのか、よく分からなかった。
( ^ω^)「……取り敢えずは次の支給日まで食い繋げそうだお。ありがとう」
('A`)「気にすんな。報酬は折半だしその分お前にはしっかり働いてもらうからな」
('A`)「俺はお前に手伝いを頼む。お前がそれをこなすから相応の報酬を支払う。それだけだ」
素直に礼を受け取ってくれればいいのに、彼はそんな風に濁した。
もう少しそのつっけんどんな性格が改善されれば、女の子にも言い寄られるだろうに。
というのは流石に、ぼくが言えたことではないだろうか。
-
('A`)「まぁ話ははえー方がいいよな。早速今夜ヒッキーのとこに行くわ。お前も支度しとけよ、迎えに行くから」
( ^ω^)「あ、ちょっと待ってくれお」
なかなかこういう機会は無い。
夜にはアルバイトがあるとしても、少しくらい汗を流してもいいだろう。
( ^ω^)「ちょっと稽古に付き合ってくれないかお?」
命を取り合う真剣勝負のような実入りは無くとも、得られるものは大きいだろう。
第四王位と対等に張り合ったドクオと手合わせ出来るとなると見えてくるものはきっと多い。
('A`)「熱心だな」
( ^ω^)「この世で一番物騒なところにいるんだから、当然だお」
まだ死にたくはないし。
そう付け加えた。
取って付けたような動機だと思った。
ぼく自身は、やがては王位に立ちたいという欲求を、自分で理解しているからこそそう思うのだけれど、ドクオの目に、ぼくはどのように映っているのだろうか。
単純に自衛の為の訓練、と解釈してくれればそれはそれで好都合だけれど、そう片付けられるのは、ほんの少しだけ物寂しい。
-
('A`)「いいぜ。いっちょやるか」
と、ドクオは銃を構えた。
ぼくはその所作が終わるよりも速く、窓ガラスに突っ込んでいた。
(;^ω^)「いきなり過ぎだお!」
と叫ぶぼくの声が、ドクオが元いた位置に届くよりも速く、影は頭上まで迫ってきていた。
二階から飛び降りたが上手く受け身を取ったおかげで硬直は少なかった。
素早く前転して影を躱し、すぐに向き直る。
('A`)「向き合って礼から始まる稽古なんて実践じゃ役に立たないだろ」
ごもっともだ。
言いながら向けてくる銃口の直線上から身を逸らし、ぼくは彼が左手に持ったナイフを注視した。
近接戦に持ち込めば厄介になるのは銃よりもむしろあっちだ。
すかさず照準を定め直してくるのに合わせて、どうにか身を逸らし続ける。
まるで、ドクオに踊らされているようだ。
('A`)「やるじゃん」
発砲。
乾いた銃声だ。
頬を掠めた弾丸の熱が、やけに熱く感じた。
何度もシミュレーションしたように、上手く躱せた。
銃口から目を背けてしまいそうになる恐怖心を噛み砕き、一気に懐に潜り込む。
身体を小さく畳み、ナイフによる致命傷を避ける。
この際多少の傷は致し方ないだろう。
-
( ゚ω゚)「ふおおおおおおおお!」
地面を滑りながら、足を振り上げた。
ドクオの右手首を目掛けて。
ナイフはぼくの方を向いていなかった。
('A`)「つっ……」
銃が宙を舞う。
すかさず手を伸ばして銃を掴もうとするドクオの腹に目掛けて、思い切り体重を乗せたタックルをしかけた。
それは柳のような感触だった。
手応えなく、するりとドクオの身体をすり抜けてしまったかと思うと、ぼくの視界は逆さになった。
( ゚ω゚)「え……?」
ちらりと、ドクオと目が合った。
('A`)「気張り過ぎ。もっと楽しめよ」
直後に、背中を打たれた。
地面にだ。
仰向けの状態で叩きつけられたところにすかさず、銀色のナイフが首元に突きつけられる。
('A`)「一回死亡。あと何回死ぬ?」
(;^ω^)「参りましたお……」
-
やはりドクオは強かった。
それから休憩を挟んで何度か同じようにやり合ったが、とうとうまともに一発お見舞いすることも出来なかった。
( ´ω`)「そのガリガリな身体のどこにそんな力があるんだお……」
('A`)「そんなに腕っ節に自信がある方じゃないんだがな」
鍛錬意欲を削ぐ発言だ。
('A`)「しかし強いなお前。センスがあるよ。身のこなしがこの数回の間に格段に良くなってる」
( ´ω`)「お世辞でも嬉しいお。ありがとう」
('A`)「お世辞じゃねぇんだけどな。普通はこいつを前にしちゃブルって動けやしないよ」
と言って、ドクオは再び銃口を向けた。
そして、発砲した。
直線上にいたぼくは考えるよりも先に、身体を動かしていた。
弾丸は紙一重で、ぼくの髪の毛を数本むしり取っていった。
('A`)「やっぱりな。センスの塊みてぇな動きだ」
(*^ω^)「おっ……」
と、頬を緩めかけた瞬間、重く、湿った発砲音が鳴り響いた。
-
(;^ω^)「…………」
顔面の筋肉が一瞬にして強張る。
ぼくが認識出来たのは、装填、構え、射出が行われた後の、硝煙を上げる黒銃の妖しい輝きだけだった。
('A`)「あと一年訓練すれば、こっちじゃなきゃ相手出来なくなるかもな」
銃弾を見てから躱せる自分の反応速度にも驚いたが、黒銃の弾丸は目で追うことも出来なかった。
デレはこんな化け物を相手にしていたのか。
(;^ω^)「今でも充分闇稼業のトップ取れそうだお」
('A`)「まだまだ未熟さ。でもまぁ……最近はすこぶる調子がいいな。たまには訓練してみるか」
これ以上強くなってどうするんだ。
と言いかけたが、それはあまりにも無粋なのだろう。
王位とは、無条件に憧れを抱かせる後光のようなものを帯びている。
求道者の到達点のようなものなのだから。
-
夕陽は殆ど沈みかけていて、うっすらと橙色の光が地平線の向こうで泳いでいる。
( ^□^)「ぁ……あ……」
夜はグールが辺りを徘徊する。
早めに家に帰らなければ。
そう思っていた矢先だった。
普段は使わない裏道を駆け足気味に歩いていると、一人の可憐な少女が声をかけてきた。
ζ(゚ー゚*ζ「酷い顔してますね」
路地に差し込む僅かな夕陽に照らされたデレは朗らかに微笑む。
口元を血で染めて。
(;^□^)「お、お前……」
焼けるように熱い肩を抑え込むことも出来ず、男は青褪めた表情でデレを見る。
ζ(゚、゚*ζ「ぁむ……やっぱり男の人の血肉って美味しくないんですよね。まぁ贅沢も言ってられませんよね」
痛みに膝を折り、絶望して項垂れる男など、デレの目には不味そうな餌としか映らなかった。
黒いドレスの袖から伸びた指先が、男の頭に触れる。
( ^□^)「ひっーー」
男が悲鳴を上げるよりも先に、デレは軽々と男の頭を掴み上げ、壁に叩きつけた。
男が痛みを感じた直後に、手足の関節が鋭い杭のようなもので砕かれ、壁に穿たれる。
-
ζ(゚ー゚*ζ「次は女の子がいいですね。出来れば小さくて柔らかい子」
ζ(゚ー゚*ζ「貴方は不味いですけど……まぁ美味しく料理すればなんとか食べられるでしょう」
料理、と聞いて、男は嫌な予感しかしなかった。
赤い瞳、白い肌。
これだけの情報で、自分の末路は容易く想像出来た。
ならばいっそ一思いに殺してくれ。
そう嘆願することも、デレは許さない。
ζ(^ー^*ζ「美味しくしてあげますから、静かにしててくださいね」
手頃な石を拾い上げ、壁に貼り付けられた男の口に無理矢理ねじ込む。
歯が乱暴に砕かれる痛みに、奥歯を噛み締めて堪えることも出来ない。
男は呻きながら涙を流し、顔を真っ赤にして身を震わせる。
だがその行為も、関節に穿たれた杭のせいで自分を苦しめることにしかならない。
ζ(゚ー゚*ζ「貴方がこれからどうなるのか分かります? まずは私の血を混ぜるんですよ。嬉しいですか? イノヴェルチである私の血を流し込まれて、貴方は人間を遥かに凌駕する生命力を得るんです」
自分はグールになってしまうのか。
人としての意識も失い、夜を彷徨う悪鬼に。
男は、想像し得る末路を具体的に思い描き、更に涙を流す。
-
ζ(゚ー゚*ζ「あー……多分貴方が想像してるのと違いますよ」
デレの手元に赤い液体が収束する。
事前に流していたのだろう。
彼女の血は小振りなナイフの形を成し、凝固する。
その赤い刃を男の首元に突きつけ、真っ直ぐ下ろした。
男のシャツが二つに裂かれ、薄い胸板に赤い線が一筋現れた。
それを下からじっくりと舐め取り、デレはその冷たい指先で、男の胸を無作為になぞる。
氷のような吐息は喉仏から、食い千切られた肩口を辿り……
ζ(- -*ζ 「んっ……」
そこに牙を立てる。
男は苦痛で悶えた。
暴れる度に、関節に穿たれた杭の隙間から血が吹きこぼれる。
お構いなしにデレは、湿った音を立てながら、血を吸い、時に唾液で傷口を濡らし、肉の凹凸の表面を舐めた。
そして血を混ぜる。
自身の呪われた血を。
細い指で男の首を緩やかに締めながら、ひたひたと音を立て、呪いの儀式は進む。
-
ζ(゚ー゚*ζ「ふぅ……」
口の端から零れる血を舐め取り、デレは真紅の瞳で男の目を見つめた。
男の瞳の端が、薄っすらと赤く染まっていた。
ζ(゚ー゚*ζ「これで貴方はグールでもイノヴェルチでも人間でもない半端な存在になりました。まぁ、イノヴェルチになることはないでしょうね。放っておけば今夜にはグールになることでしょう」
ζ(゚ー゚*ζ「さて、問題です。私は貴方をグールにするつもりはありません。この場で料理として頂くつもりです。貴方はどのように調理されるでしょうか?」
男は考えることを放棄していた。
ただ痛みに悶え、石で塞がれた口から漏れる呻き声で、必死に殺してくれと嘆願する。
ζ(゚、゚*ζ「あらいけない。口を塞いでたんでした。まぁいいです……じゃあ教えてあげますね」
ζ(^ー^*ζ「正解は、生きたまま皮を剥かれる、でした」
赤く、薄い刃の切っ先が、妖しく輝いた。
-
先ずは指先の皮に手をかけた。
爪の根元からそっと刃を入れ、身を厚く切ってしまわないように、薄く、薄く、丁寧に剥く。
痛みにもがき、暴れる手を抑えつけ、五本の指の皮を剥き終えた。
肉が露出した指は、拳から先が真っ赤に染まり、まるではだいろのグローブを嵌めているように見える。
拳に刃を添え、手の甲をするりと剥く。
刃は抵抗なく皮膚の下を滑り、二の腕の皮まで駆け抜けた。
ζ(^ー^*ζ「上手いでしょ? 少し痛いかもしれませんけど、多分他の人がやるともっと痛いと思いますよ」
デレの言葉は男の耳には届いていなかった。
白目を剥き、砕けた歯で必死に石を噛んで痛みに耐えているせいか、男の口の端からは血の泡が吹きこぼれている。
垂れ下がった長い皮をぷつりと切り落とし、デレは黙々と、同じようにくまなく男の右腕の皮を剥いてゆく。
僅かに残った拳の部分の皮は既に真っ赤に染まっていて、肉が露出した部分とそう大差は無い。
ζ(゚、゚*ζ「少しだけつまみ食いしちゃいましょうか」
綺麗に剥かれた新鮮な生肉に牙を立て、食い千切る。
デレの口の中で湿った音を立てながら咀嚼されてゆく男の肉は、ずたずたに引き裂かれていた。
ζ(゚ー゚*ζ「あんまり美味しくないですね……まぁ顔周りは食べるところは少ないけれど美味しいし、脳もちゃんと食べますね」
ζ(゚、゚*ζ「そういえばこの状態で脳を食べたらどうなるんだろう。全部食べちゃったら死んじゃいますよね……半分ほど残したらどうでしょうか……」
ζ(^ー^*ζ「気になります? 気になりますよね? じゃあ試しにやってみましょうか!」
そう言って、デレは無邪気に笑いながら男の眼球に刃を突き立てた。
男は、まだ死ぬことを許されなかった。
-
夕飯としては物足りないけれど、ドクオが持ってきてくれたビーフジャーキーを軽くつまんだ。
これからグール退治に向かうのだから、吐き気を催すような場面に出くわすかもしれない。
そう考えると、あまり多くものを食べる気にはなれなかったので丁度いい。
一応シャワーも浴びてきたが、どうせ一仕事終えてまた浴びなければならないだろう。
無駄なことをしたと後悔した。
('A`)「なぁブーン!」
ドクオは風の音に掻き消されないよう、大声を張り上げた。
( ^ω^)「なんだお!」
ぼくも負けじと大声で返す。
ぼくらはドクオが所有するバイクに二人乗りして、片側二車線の空いた道路を時速八十キロほどで走行していた。
('A`)「お前! あれからデレに狙われたりしなかったのか!」
( ^ω^)「してないお! というか生きてることもしらなかったお! もう死んだのかと思ったお!」
目と鼻の先にあるドクオの小さな背中に向かって、こんなに大声で話しかけているのが少しだけ面白かった。
対向車線を通り過ぎたパトカーは、ノーヘルメットで二人乗りをするぼく達を無視した。
彼等は金持ちに害を成すアウトローにしか興味がない。
不思議な光景ではなかった。
-
('A`)「ハインが言ってた! まだ生きてるってよ!」
( ^ω^)「あれからハインに会ったのかお!」
('A`)「ああ! 一度だけ飯食いに行ったよ!」
なんて意外な組み合わせなんだ。
二人が談笑しながら同じテーブルで食事をしている姿が、ぼくにはいまいち想像出来なかった。
('A`)「あいつ変わったな! お前と知り合ってからかなり社交的になってやんの!」
( ^ω^)「あんなもんじゃなかったのかお!」
('A`)「初対面の時いきなり切りかかってきたろ! あんな感じだよ! まさか真祖と飯食う日が来るとは思わなかったよ!」
('A`)「しかもあいつ! トマトジュース頼んでたんだぜ! 吸血鬼がトマトジュースって何のギャグだよって感じだよな! 笑えるだろ!」
( ^ω^)「おっ……」
軽く笑い飛ばすことが、出来なかった。
-
( ^ω^)「ドクオは、ハインのことどう思ってる?」
('A`)「あ!? なんだって!?」
ぼくではない誰かと仲良く談笑して、食事をして、そんな彼女を上手く想像出来なかった。
仏頂面を浮かべているのだろうか。
笑っているのだろうか。
彼女が誰とどう過ごそうと、それを咎める権利などぼくには無いのだけれど……
胸が痛かった。
けれど同時に、ほんの少しだけ、嬉しかった。
( ^ω^)「ハインと、仲良くしてほしいお」
('A`)「なに言ってんのかわかんねーよ! もっとハッキリ喋ってくれ!」
叫びながら、ドクオはヘッドライトをつけた。
すっかり陽は沈み、二車線の道路の向こうには深い闇が広がっていて、ライトの光の先で地平線が揺らいでいた。
( ^ω^)「アルバイト頑張るお!!」
('A`)「うおうるせっ! 声でかいんだよ!」
-
バイクの車体がほんの少しだけ傾いた。
肌を舐める風が、少しだけ生温かく感じた。
.
-
終わり!!!
全力で趣味に走った一話だった!!!!!最高!!!!!!!
ねむい!!おやすみ!!!おやすちじゃなくておやすみ!!!!!!!れ!!!
-
誤字、れ!!じゃなくて!!!で補完よろ
-
次も楽しみにしてるぜ
おやすち
-
>>500の今日にって所と>>503の肩書き捨ててって所はミスかな乙
-
今日にじゃなくて器用に、に訂正
あと肩書き捨てては肩書きを捨てて、に訂正
いかんな、投下したい気持ちがはやるばかりに誤字脱字がやばい
ありがとうおやすみ
-
来てると思ったら終わってた
乙
-
クー生きてたんだな
-
>>502
>彼女がVIPに入学してから初めた暗殺稼業は、世話になったクーの両親に見せられるようなものではない。
ここの彼女ってところはドクオのことだよね?
ドクオは実は女なのか!?
-
あー確かにまどろっこしいな
彼女、じゃなくてクーにしとけば良かったな
-
はやければ今夜投下
今日か明日かな
-
まだかなー(^ω^)
-
何て速度なんだ俺は感動している
-
まったり投下しましょうねー
-
第十三話「歓喜に震える彼。箱庭にいた彼と泥を啜る彼の果て。」
.
-
从 ゚∀从「あ? グールの脅威?」
唐突に尋ねられたハインリッヒは、露骨に不機嫌そうな顔をして答える。
以前の彼女ならば、問答無用でその首を刎ねていただろう。
从 ゚∀从「そうだなぁ。あいつら、人間の腐ったようなのみたいな見た目してっけど、だからといって人間より劣ってるわけじゃないからな」
从 ゚∀从「肉は腐っちまって動きは単調。骨なんてスカスカだ。大の大人が思い切り握ってやればへし折れちまう」
从 ゚∀从「ただ、それでも劣化人間にならねぇのは、そういうパラメータを全部膂力に振ってあるからだろうな」
普段頭を使うことに慣れていないのだろう。
彼女なりに冷静な分析を試みているのは、その難しげな表情からありありと分かる。
黒のワンピース姿で堂々と胡座をかき、裾から覗く太ももに肘をつき、頬杖をついた。
从 ゚∀从「あいつらが石の壁をぶん殴れば穴が空く。勿論耐久力なんて紙みてぇなもんだから、そうなれば自壊する羽目になるんだがな」
从 ゚∀从「しかしあいつら、自分の身体がどうなろうと知ったこっちゃねぇからよ。餌を動けなくする為に自分の両腕をダメにしちまっても、這い蹲って餌を食う。それさえ出来ちまえば、あいつらはそれでいいんだ」
-
从 ゚∀从「しかもあいつら、基本的に一匹沸けばその辺からうじゃうじゃ集まってくるからよ」
群れを成して狩りをする、ということか。
あの下賤な生き物が、そんな合理性の元に行動するということが興味深かった。
从 ゚∀从「ばっか。ちげーよ、そんなんじゃない」
からからと笑って、ハインリッヒはその考えを一蹴する。
从 ゚∀从「同族の血の匂いに集まってくるんだ。お前、例えば袋小路で一匹のグールに鉢合ったらどうする?」
決まっている。
逃げられないのならば抵抗するまでだ。
幸いにも絶大な膂力こそあれど動きは単調。
それに加えて身体は脆いときた。
冷静な判断力さえ失わなければ、成人男性ならばその脅威から逃れることが出来るだろう。
从 ゚∀从「だろ? お前は抵抗する。あいつらは脆いから、お前の拳を食らっちまえば生臭い血を撒き散らしながら死ぬ」
ハインリッヒがそこまで言ったところで、彼等の習性がどういう理屈で形成されたのかが解った。
从 ゚∀从「同族の血が匂うところに行けば餌がいる。それも、あまりよろしくない状況下に置かれてる状態でな」
-
从 ゚∀从「あいつらはそれを本能で理解してるんだ」
恐ろしい話だ。
本能に忠実だからこそ、彼等の行動はシンプルで、理に適っていて、最適だ。
ならば、運悪くグールに出くわしてしまった場合は、どうすれば良いのだろうか。
从 ゚∀从「んーー。諦めろっつったって納得しそうにねぇツラだな」
从 ゚∀从「取り敢えず逃げろ。逃げられないならどうにもなんねぇよ。曲がり角が多いところなら助かるかもな。あいつら、馬鹿だから一度視界から獲物を外したら何処に行ったか推測する頭もねぇんだ」
あまり世に出回っておらず、かなり有益な情報だ。
持ち帰り、纏めて然るべきところに提出すれば、一定以上の評価を得られそうだ。
从 ゚∀从「お、おお……役に立ったか。なら良かったよ。しかしお前運がいいな、余所者だろ?」
私は無言で頷いた。
吸血鬼の真祖ハインリッヒは、物珍しそうな面持ちで、しげしげと私を視線で舐め回した。
-
透き通るような銀色の髪。
濃厚なワインを湛えたような真紅の瞳。
バター飴を溶かして覆ったような白い肌。
絵本から飛び出してきたかのような、完成された造形だ。
吸血鬼の真祖がVIP学園に在籍していると聞き、私はいてもたってもいられなくなった。
ハインリッヒを訪ねると言うと、知人や家族は口を揃えて反対した。
お前は命知らずの大馬鹿ものだと叱責した。
しかし実際に蓋を開けてみればどうだろう。
言葉遣いや態度は乱暴ではあるものの、彼女の対応はあの悪名高いVIPの中では常識的で、むしろ無知に対する配慮すら感じられる。
確かに私は幸運だ。
御伽噺の住人のような、気高い吸血鬼の真祖と会話ができたのだから。
ありがとう、友人よ。
そう言って、私は彼女に握手を求めた。
-
从 ゚∀从「俺の機嫌が悪くなくて良かったな。普通なら今頃ミンチだぜお前」
ハインリッヒは私の手を握り返してくれた。
氷のように冷たい手だった。
私の触覚が、彼女という存在を全力で拒否しているように思えた。
指先を伝い、悍ましい冷気は肩口まで震わせる。
逃げるように手を解き、私は努めて冷静に、また会える日を楽しみにしている、と告げた。
それは本心だった。
从 ゚∀从「やめとけよ。腹が減ってる時にお前みたいなつまんなそーな奴に話しかけられちゃ、問答無用で食っちまうよ」
从 ゚∀从「あんたは金輪際俺に関わらずに生きていくんだ。ほら、回れ右してとっとと帰んな。夜道にゃ気をつけろよ」
从 ^∀从「今日は湿っぽい。グールが活発な夜になりそうだからよ」
あれほど冷たかった自分の手が、じわりと汗ばんでいるのが分かった。
ありがとう、さようなら。
奇妙な隣人よーー
そんな風に、私は彼女に別れを告げた。
彼女は何も答えなかった。
-
夕陽の黄昏の中を、私は歩く。
後ろで、調子の良い鼻歌が聞こえてきた。
私は振り返らなかった。
.
-
ヒッキー邸は最寄り駅から徒歩十分ほどの場所にある。
駅のコインロッカーに荷物を預け、厳選した装備だけを整えて発つ。
( ^ω^)「コインロッカーなんかに武器を預けて大丈夫かお? 乞食が漁りに来そうだけども」
('A`)「単純に貴重品を預けるだけならやべぇかもな。だが薬や武器をかっぱらって、万が一足が付きでもしたら間違いなく命はねぇだろ。連中、そこんとこは弁えてるらしい」
駅で着替えたドクオは、洗練されたスーツ姿になっていた。
細身で、光沢が映えるファッショナブルなスーツだ。
袖の重ねボタンは金色に輝いていて、目を引く。
律儀にチーフまで胸ポケットに突っ込んである。
これから商談に向かうと言われても、何ら違和感は無いだろう。
('A`)「そういう事情は、俺よりもお前の方が詳しいんじゃねぇのか?」
言いながら、男物にしては珍しいファー付きの細いコートを羽織る。
この初夏の中、よくもまぁそんな暑苦しい格好が出来るものだと感心する。
恐らくは、武装を隠す為のものだろう。
-
( ^ω^)「コインロッカー漁りはよくやってたお。でもぼくは中身が武器だろうが怪しい薬だろうが、構わず盗んで売り払ってたお」
('A`)「よく今まで生きてこれたな。ほんと、のっぺりしたツラのくせに肝は太いぜ」
( ^ω^)「盗みなんてやってる時点で多少は肝が太くないとやってられないお」
( ^ω^)「まぁ……ぼくからしてみれば中流家庭の食料や金品も、ギャングやマフィアの武器も、盗むリスクっていう点で見ればどっこいどっこいだお」
('A`)「へぇ……」
オイルライターを擦りながら、ドクオは関心深そうな声を漏らした。
ドクオにこんな声を出させることが出来る会話の引き出しなど、ぼくにはこの手の話しかないことが少し惨めな気もする。
( ^ω^)「元々乞食に人権なんて無いし、何もせずとも市民の機嫌一つで殺される身分なんだから、今更アウトローに"だけ"怯えるなんて荒唐無稽な話だお」
('A`)「最近はそうでもねぇって聞くけどな」
-
( ^ω^)「ホームレスの一斉駆除の話かお? まぁぼくが乞食になるずっと前の話だからそこらへんの背景はよくわかんないけど」
('A`)「俺だってそんなに詳しくねぇよ。ただ、話に聞く酷かった時代みたいな惨状は今のところ見たことねぇな」
( ^ω^)「それは多分運が良かったんだお。ぼくがいた地域では、夜な夜なホームレスがとっ捕まえられて新薬の実験台にされたり、銃の的にされてたお。グールが少ない分、夜は人の悪意が充ち満ちてたお」
('A`)「ああ……俺もガキの頃は孤児でその辺ふらふらしてたが、グールが多い地域なもんでそこんとこは上手く人間同士で連携してたな」
( ^ω^)「ま、どっちが住みやすいかと言われると甲乙つけがたいところだけども……」
('A`)「グールの連中は頭が弱い分、人間の脅威が少ないこっちはぎすぎすした世渡りはせずに済んだかな」
ドクオが吐いた煙草の煙が、鼻腔をくすぐる。
この御時世、どこにでもありがちな、身の上の苦労話だった。
-
( ^ω^)「話が逸れたけど、ともかくぼくがいた地域では市民もギャングも皆乞食の敵で、捕まれば死ぬのは免れなかったお」
('A`)「どっちにしても死ぬなら、金になりそうなアウトローの荷物は絶好の餌だってことか」
( ^ω^)「そういうことだお。何もしなくても死ぬ。捕まれば死ぬ。だったら安い芋を盗んで死ぬより分厚いステーキを盗んで死ぬ方がずっといいお」
('A`)「ははっ……やっぱり肝が太いわお前」
どちらが得かはこのように考えれば明らかなのに、呆れたような顔をするドクオが、ぼくにはよく分からなかった。
('A`)「んな理屈並べたってアウトローは怖い。そういう染み付いた認識ってのはなかなか払拭出来ないもんさ」
ああ……と、間抜けな声を漏らしてしまった。
普通の人には出来なくて、ぼくには出来る。
その理由は単純だ。
乞食になる以前に、あの箱庭の中で得た知識は全てリアリティに欠けていて、アウトローの脅威すら、ぼくにとっては他人事のような、何の実感も湧かない事実だったから。
-
('A`)「おら、着いたぞ」
( ^ω^)「おっ」
ヒッキー邸は想像していたような豪奢な造りでは無かった。
ただ敷地面積はとんでもなく広く、平屋の造りは厳かで、物静かだな印象を与える。
庭は手入れが行き届いていて、視覚にダイレクトに訴えかけるような豪華さは無いが、ぐるりと見渡してみるだけで、この家主がどれほどの財を成してきたかが窺える。
(-_-)「こちらへ」
平屋の中へ案内される。
ヒッキーは見るからに寡黙そうな男だった。
猫背で、覇気の無い佇まい。
眠たそうに下がった瞼を擦りながら、ぼくらの先を歩く。
どうやらこの家では靴を脱ぐ習慣があるらしく、ぼく達はそれに倣った。
ドクオは特に変わった態度を見せることなく、革靴を玄関で脱いだ。
ぼくはどうにもその習慣に違和感を拭い去ることが出来ず、靴下越しに伝わる床の冷たさに、思わず身震いしてしまった。
('A`)「しゃんとしろよ。みっともない」
ぼくよりも一回り小さいドクオが、随分と大人に見えた。
もっとも、こういう事において、彼がぼくよりもずっと多くの場数を踏んできたことは確かだろうが。
-
客間に案内されたぼく達は、用意された茶菓子をつまみながら時計の針の音を数えていた。
('A`)「ったく段取りが悪いな。いつまで待たせる気だ」
茶菓子を全て食べ終え、ぼくは棚の上に並べられた酒瓶をぼんやりと眺めていた。
原則、二十歳未満の飲酒は法律で禁止されているので(とはいえ、最早体系だけのザル法だが)、ぼくは酒を飲まない。
銘柄などは全然分からないが、様々な色のボトルに湛えられた液体をじっと観察するだけでも、幾分か気が紛れた。
( ^ω^)「ドクオは酒飲むのかお?」
('A`)「少しな。寒い日に体を温める程度だ」
そう言って、ドクオも同じように酒瓶の方を見た。
('A`)「へぇ、高そうなの溜め込んでんな」
( ^ω^)「そうなのかお?」
('A`)「ああ。俺もそんなに詳しい方じゃないが、ヒッキーが無類の酒好きってのはよく分かる」
とは言うものの、酒瓶の多くは殆ど手が付けられていないようで、うっすらと埃が積もっている。
こんなものか、と、ぼくは特に気に留めないことにした。
-
(-_-)「最近はどうも酔えなくなってね」
ぼく達の話を聞いていたらしく、ヒッキーは何枚か書類を持って、入ってきた。
(-_-)「食事も二日に一回取るくらいになってしまった。どうにも受け付けないみたいだ」
( ^ω^)「ご病気ですかお?」
(-_-)「まさか。この通りぴんぴんしてるよ」
この通り、と言われてもいまいちぴんとこない。
長机を前に、行儀良く正座をしているが、覇気の無い目つきと極度の猫背のせいで、どうしても不健康なイメージを払拭出来ない。
('A`)「齢五十にしては若々しいしな。昔写真で見たことあるが、それよりもずっと若く見える」
(;^ω^)「ご、五十!?」
ぱっと見、三十半ばと言われても違和感の無い容姿だ。
皺もなく、むしろ瑞々しさすら感じられる肌に、老いは微塵も無かった。
-
(-_-)「はは……そう言ってもらえると嬉しいよ。だが苦労を知らない引きこもりほど年を取っても若々しいと言うしね。自分で言うのもなんだが、落ちぶれた生活だ」
('A`)「こんなご時世、好きなように生きたもん勝ちだ。怠けて生きて若々しくいられるなんて万々歳じゃねぇか」
(-_-)「そうか、そうだね……はは……」
('A`)「飲み食いも少なく、金もかからない。それで老けこまない、か。俺もあんたと同じくらいになる頃には、そんな風になりたいね」
(-_-)「……褒め言葉として受け取っておくよ」
( ^ω^)「…………」
ドクオの口調にはやけに棘があった。
どうしてだろう、と考えたが、その答えはすぐに見つかった。
元々彼はこの依頼を受けるつもりではなかったのだ。
ぼくが頼んだから受けただけであって、安い報酬でふっかけられた(金額がいくらなのかは聞いていないし、ぼくも頼んでいる身分なので彼が出した給料を一発サインで受け取るつもりだった)彼からすれば、依頼人のヒッキーには一言物申したくもなるのだろう。
-
しえんしえん
-
この気の弱さで、よくもまぁVIPの殺し屋に安値をふっかけたものだ。
身の丈を弁えない馬鹿なのかもしれない。
しかしその盲目さが、彼が財を成した背景にある重大な要素の一つなのかもしれない。
何食わぬ顔で圧倒的不利益な交渉を持ちかけられた時、それはもうこういうものであって、このテーブルは公正なテーブルなのだと、自分が信ずる理を放棄して流される輩はそう少なくはない。
当時、ヒッキーの側で、彼が財を成す経過を見守っていたわけではないので結局のところそれは不毛な推測でしかないのだが、或いはそのような場面もあったのかもしれないなと、ぼくはぼんやりと考えていた。
ぼく達はヒッキーの車に乗せられ、彼が所有する不動産で、"使い物にならなくなった"物件に向かっていた。
立地条件、建物自体の価値は申し分無いが、日中の日当たりが悪過ぎるが故にグールの巣窟となってしまった建物だ。
-
素晴らしい速度
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取り壊そうにもグールが住み着いているため、敵わない。
とにかくグールのせいで手のつけようが無くなっているせいで、ただ持っているだけで税金を取られる負の資産と化しているのだ。
グールの脅威は、どの地域だから発生しやすいといった傾向がまるで無く、それを産み出すロードとイノヴェルチの気分に依るところがある。
ヒッキーがその物件を購入した当時は、この辺りはグールが少ない地域だったのだろう。
(-_-)「どうもタチの悪いイノヴェルチが現れたみたいでね」
彼の話を聞く限り、この辺りのグールは増え続けているらしい。
恐らくは、グールを産み出しているイノヴェルチがまだ潜んでいるのだろう。
とすれば、元凶であるイノヴェルチを討伐しなければ根本的な解決にはならないような気もするが、今回の依頼はあくまでグールの掃討。
まぁ、抱えた不動産の運用の仕方から察するに、出来る限り金は出したくないということなのだろう。
-
あくまで自分の資産を食い荒らすグールを潰すだけで、周辺はどうでもいい。
そんなに長い目で見なくとも、それが自分にとって不利益な選択であることは解ると思うのだが、それはぼくが口を挟むことではないのだろう。
('A`)「きな臭いな」
ドクオが、窓から外を眺めながらそう言った。
何に対しての言葉なのか、ぼくには分からなかったし、ヒッキーもそれを掘り下げようとはせず、運転に集中していた。
ドクオに倣って外を見る。
VIPの第四ブロックならば、この時間でも煌びやかな明かりで満ちていて、活気に溢れているのだが、この街は閑散としていて、まるで街という一つの生き物が、くたびれ果ててぐったりと横たわっているように思えた。
ぽつぽつと灯った街灯を目で追う。
それらは光の線となって、ぼくの視界の端から端までを数瞬で駆け抜けてゆく。
手を伸ばしても届かない星々の欠片が消えてゆくのを、ぼくは本当に何も考えずに、ただぼんやりと眺めていた。
-
('、`*川「あら珍しい。あんたの方から訪ねてくるなんていつぶりよ」
( <●><●>)「私から訪ねるのは今日が初めてだと記憶しています」
('、`*川「あっれ〜〜、そうだっけ? まぁ適当に座んなさいよ」
とは言うものの、ペニサスの個室は広いがそれすらも軽く埋め尽くすほど物で溢れかえっていて、夜中にもかかわらず電気すらつけていないので足の踏み場が無かった。
('、`*川「うお、まぶしっ」
ゴミ屋敷同然の部屋の中からどうにかリモコンを探し当て、ワカッテマスは部屋の明かりを点けた。
ペニサスが露骨に嫌そうな反応を示したので、彼は珍しく表情を変え、嘆息する。
( <●><●>)「人が住む環境とは思えませんね」
食べ散らかしたスナック菓子の袋。弁当の容器。殆ど袖を通していないことが一目で分かるほど真新しいのに、ジュースのシミのせいで台無しになっている衣類。乱雑に投げ出された女性ものの下着。半分ほど中身が入ったペットボトル。小難しい機械工学の本。
極めつけに、異臭を隠す為に適当に振りまかれたであろうルームフレグランスの匂いが、普段徹底的に無表情を貫いているワカッテマスの眉間に皺を寄せさせるに至った。
-
('、`*川「散らかってるように見えて整理されてんのよ。あんまり物の配置変えないでよ」
( <●><●>)「……立ったままでいいです」
そのように釘を刺されてしまったらどうしようもない。
多少の整頓すら拒むのであれば、この部屋で人間が座ることなど不可能だ。
一箇所だけ、それが可能な場所がある。
ペニサスが横になっているキングサイズのベッドの上だ。
('、`*川「こっちに来ればいいじゃんよ」
とは言うものの、ペニサスは下着の上からワイシャツを羽織っただけの、目のやり場に困る姿で、不用意に近付く気にはなれなかった。
同年代の男がそばにいるというのに、ペニサスはその姿で、仰向けに寝たまま膝を折り、太ももを台代わりにしてノートPCを忙しなくタイプしている。
ワカッテマスの位置から、彼女の秘部を覆う下着は丸見えだった。
-
ペニサスはノートPCを閉じ、起き上がってその場で胡座をかいた。
( <●><●>)「いちいち行動がふしだらなんですよ」
('、`*川「なになに? もしかして催してんのあんた」
くまが出来た眠たそうな目をにんまりと細め、ペニサスは意地悪そうに微笑む。
わざとらしくワイシャツを更にはだけさせ、胸元を大きく露出させた。
('、`*川「こんなどこが生身かも分からないような身体のどこがいいのかな〜〜? ん〜〜?」
( <●><●>)「そのような考え方は、あまり好きではありません」
観念し、ワカッテマスはそろそろと足の踏み場の無い獣道を歩き、キングサイズのベッドに腰掛けた。
( <●><●>)「最早人間と呼ぶのも憚られる身体ですが、真人間よりも魅力で劣っているということは無いでしょう」
-
('、`*川「嬉しいこと言ってくれるじゃない。可愛い後輩ですこと」
気を良くしたペニサスは、大きく露出したその姿のまま、ワカッテマスの背中から胸にかけて腕を回し、首元に口を近付ける。
その動作は蛇のように滑らかで、官能的だった。
( <●><●>)「あまりべたべた触らないでほしいのですが」
つれない男だ、とペニサスは思った。
機械の自分以上に、ワカッテマスという人間は人間味が薄い。
他の王位も、彼の龍王気に一目を置くことはあっても、彼という人間に関心を向けることは無かった。
それでいい、と本人も思っているのだろう。
だが、他者との交流を徹底的に排除しておきながら、彼はペニサスとだけはまともに口を交わしていた。
それでも、常人の感覚で言う交流と比べるとあまりにも些細なやり取りなので、ペニサス以外の誰もがそれについて違和感を覚えることも無かった。
-
('、`*川(可愛いやつめ)
どれだけ無表情、無関心に徹したところで、ずっと観察していれば透けて見えてくるものもある。
('、`*川「あんたは、あたしのことどう思ってるの?」
波風一つ無い水面に、一石を投じる。
それによって見えてくるものを、彼女は知っている。
彼女にとってそれはたまらなく愛おしいものであり、それと同時に、自由奔放な彼女を縛り付ける情欲の鎖でもあるのだ。
( <●><●>)「魅力的な女性だと思っています」
('、`*川「だめ」
どうにでも解釈出来る言葉で濁そうとしたワカッテマスを窘める。
他者に関心が無いワカッテマスは、言葉を濁すという行為を基本的にしない。
人からどう思われてもいいのだから、思ったことをそのまま伝える。
そういう男だ。
ペニサスに対してもそのスタンスが基本なのだが、彼女にだけ、たまに見せるこの繊細な揺らぎを、彼女はたまらなく愛おしく思うのだ。
-
('、`*川「ダメだよ。あたしが今聞きたいのはそういうつまんない答えじゃないの」
('、`*川「わかるでしょ?」
回した腕が、少しだけきつく締まる。
ペニサスは、ワカッテマスの体温が、脈拍が、ほんの少しだけ上昇するのを見逃さなかった。
「……好きですよ」
ワカッテマスは観念して溜息を吐いた。
そして、ペニサスの顔を覆う、垂れ下がった長い髪を指で掬い、彼女の耳にかけた。
濡れた瞳がそこにあった。
すこしの間、二人は見つめ合った。
言葉も交わさず、ただ無言で、何かを確かめ合うように。
そして、二つの唇が重なった。
二つの身体はもつれ合い、真っ白なシーツの上で、一つの影となった。
部屋の明かりが消える。
やがて、湿った音がひたひたと部屋に響いた。
-
行為は三回に及んだ。
終えた後の二人は味気ないほどに淡白で、乱れた衣服の痕跡さえ除けば、何も無かったと言われても違和感は無い。
再び明かりを点ける。
ペニサスは布団を被り、頭だけを出してワカッテマスの腰周りを見つめている。
( <●><●>)「今更恥ずかしがるような性格でもないでしょう」
('、`*川「あんたってそういうとこほんとダメよね。絶対付き合いたくないタイプだわ」
( <●><●>)「貴女がこの部屋を一人で片付けられるようになるまでは絶対にその気は起こしませんのでご安心を」
('、`*川「だから散らかってるように見えて整理されてんだっつーの。凡人にはわかんないかねぇ、この完成された物の配置が」
ペニサスの戯言を無視し、制服のネクタイを締め直し、ワカッテマスはシーツの上に垂れたペニサスの髪を一束掬い、その感触を指の腹でなぞって確認している。
-
('、`*川「んで、なにしに来たのよ。ムラっときたから立ち寄っただけってこたないでしょ」
( <●><●>)「その通りだと言ったらどうします?」
('、`*川「ま、それでもいいけど」
交際関係にあるというわけではない。
気付いたら二人は互いを憎からず思っていて、たまたまそういう雰囲気になったから事に及んだだけ。
その行為自体に契りや合一といった感情は含まれておらず、ただお互いが嫌じゃないから。
芽吹きのような、ほんの些細な疑問一つで全てが壊れてしまいそうなこの関係が、ペニサスには心地良かった。
人間を辞め、ヴァルキリーシステムの端末として生まれ変わった時点で、そのような俗物的恋愛思考とは無縁の生涯を歩むのだろうと受け入れていたからだ。
('、`*川「今後、誰に傾倒するかってとこでしょ。クーのやつ、ジョルジュに負けちゃったし」
( <●><●>)「お見通しなのですね」
('、`*川「このタイミングだもん。当然だわね」
-
('、`*川「別にあたしに合わせなくてもいいんだよ。あたしだって深く考えちゃいないよ」
('、`*川「モララーは何考えてんのかよくわかんないし、ジョルジュは何も考えてないし、年下の吸血鬼に従うのもなんか癪だし、クーに寄ってんのは消去法だし、王位が逆転したって変わりゃしないよ」
( <●><●>)「そうですか。では私も引き続きクー会長を支援しましょう」
('、`*川「だーかーらー。もう、ほんとダメダメだわねあんたは」
( <●><●>)「貴女の判断に異を差し込む余地があるとは思いません」
('、`*川「そういうんじゃないっての。女の子ってのはさぁ、なんだかんだ引っ張ってほしいもんなのだわさ」
( <●><●>)「……? 意味が分かりませんね」
('、`*川「童貞かよあんたは」
-
('、`*川「モラ、ジョル、クー、デレ。この四択ならあたしはクーを選ぶよって話さ」
('、`*川「でもその選択肢の中にあんたが出張ってくるなら、あんたがこのギスギスした王位間の鬩ぎ合いの中で、個人として旗を上げるなら……」
('、`*川「あたしはそれに乗っかってもいいよってこと」
( <●><●>)「…………」
('、`*川「もしあんたがそうするんならあたしはあんたに従うよ。そして抱えてる知識、情報を全部あげる」
('、`*川「クーがどうしてあたしとギコ、二人の王位をけしかけてまで内藤ホライゾンを守ろうとしたのか。この王位ってシステムが何の為に存在するのか。あたしらがこの学園で生き残った果てに、何と闘わなきゃならないのか」
('、`*川「あたしの全部をあんたにあげるよ」
ペニサスが何を言っているのか、ワカッテマスはその三割も理解出来ていなかった。
ただこれだけは分かる。
どの道を選ぶにせよ、ペニサスが抱えている大きな情報は、きっと自分が今後歩んでゆく道の障害に纏わるもので、それは決して無視して通ることは出来ないものなのだと。
-
( <●><●>)「……考えておきます」
今はまだ、決定を下す時ではない。
単純な力比べで全ての物事の白黒が決まればいいのに。
ワカッテマスは常々そう思っていた。
自分の力が至らなければ、それによって押し付けられる不条理の全てを分かりましたと思考停止した上で受け入れることが出来る。
しかし世の中はそんな風に、単純には出来ていないらしい。
VIPが不法地帯だとしても、人が人である限り、そこに考える余地が無くならない限り、思惑というものは纏わり付いてくる。
そこで駄々を捏ねるほど、ワカッテマスは子供ではなかった。
そういった現状をありのまま受け入れた上で、彼なりに熟考した上で、答えを先延ばしにすることを選んだ。
('、`*川「いい返事を待ってるよ」
ペニサスは布団を被ったまま、妖しく微笑んだ。
ワカッテマスは何も言わず、布団からはみ出した頭を撫でた。
( <●><●>)「生きにくい世の中ですね」
('、`*川「まったくだよ」
二人の目が合うと、ペニサスは目を細めた。
ワカッテマスもそれにつられるように、ほんの少しだけ、口角を緩めた。
-
(-_-)「到着だ。乗り心地は良かったかな?」
('A`)「眠たくなっちまいそうだ。帰りはもう少し飛ばしてくれ」
(-_-)「はは……手厳しいな。そうするよ」
ドクオがドアを開けると、生温い風が車内に入り込んできた。
もう一週間もすれば、寝苦しい夜が訪れそうだ。
(-_-)「じゃあ、手筈通りに……日が昇ったら迎えに来るよ」
('A`)「おう、帰れ帰れ。今日の俺のノルマはスーツに汚れを付けずに仕事を終えることだ。悪いがトーシロ抱えてやり切れる気はしない」
( ^ω^)「似合わないくせにそんな高いスーツ着てくるからだお」
('A`)「男には見栄っつーもんがあるんだよ。くたびれたスーツ着たガキに誰が仕事を頼みたいと思うんだよ」
ドクオの言うことはごもっともだが、普段の彼のイメージが強過ぎて、きちんとスーツを着こなしている姿を見ると、どうも笑いが込み上げてしまう。
もっとも、ヒッキーからすればジャージで乗り込んできたぼくの方が滑稽なのだろうが。
-
(-_-)「余裕綽々だね。頼もしいよ」
( ^ω^)「いえいえ、後はぼく達にお任せ下さい。帰り道にお気を付けて」
(-_-)「ありがとう。ご武運を」
ドクオがぶっきらぼうな対応しかしないものだから、せめて別れ際くらいはと取り繕ったような挨拶をする。
箱庭時代にも乞食時代にも、こういった格式張った挨拶や社交辞令を交わしたことが無いので、どうも歯が浮くような気分になってしまう。
ヒッキーが運転するセダン車は一番近くの曲がり角を右折し、見えなくなった。
('A`)「さて、行くか」
ドクオは滑り止めの手袋をはめ、ナイフを数回振る。
感覚を確かめるような動作だ。
それを終えると今度はコートの内側から吊ったマシンガンを取り、ぼく等の目の前に立ちそびえるビルに向けた。
-
( ^ω^)「装備はそれだけかお?」
('A`)「何丁か自前の銃は持ってきてるがアリアドネとザンナは持ってきてねぇな。あいつらは金を食うからよ。その分お前が頑張ってくれ」
アリアドネとザンナが何を指しているのか分からなかったが、メインウェポンは持ち込んでいないらしい。
しかしドクオならばグールの掃討など容易くやってのけるだろうし、ぼくとてただ怠けて過ごしていたわけではない。
王位と比べると自信を無くしてしまうが、仕事で足を引っ張るようなヘマをするつもりは毛頭無い。
( ^ω^)「早速来たお」
ビルの中から幾重にも重なった呻き声が聞こえる。
開きっぱなしの入り口から、二体のグールが躍り出た。
生前から着ていたであろう服は血に濡れて黒ずんでいて、露出した皮膚はぐずぐずに崩れてしまっている。
夜闇に覆われているせいで顔立ちまでははっきり確認出来ないが、この時点で視認出来る限りでも、それ以上見ない方が精神衛生的にいいだろうと思った。
-
( ^ω^)「右」
('A`)「左」
駆けてくる二体のグール。
右側の一体に意識を集中させ、ぼくは姿勢を低くして一気に懐に潜り込んだ。
グールは咄嗟に身体を逸らそうとしている。
思ったよりも反応が速い。
地面に両手をつき、バネにする。
そして跳ね上がると同時に両足でグールの顎を蹴り上げた。
トマトを潰したような感触だった。
グールの頭の肉片は飛散する。
頭を失ったグールの胴をそのまま飛び越え、ぼくはドクオの方を見た。
丁度ドクオとグールの影が重なり合った。
ドクオの頭を目掛けて拳を振るうグールの傍を、彼はただ通り過ぎた。
その瞬間グールは拳を振り上げた体勢のまま、何等分かの輪切りの肉に変わった。
腐った血肉が地面にぶつかる時には、既にドクオはその血飛沫の射程範囲外をのそのそと歩いていた。
('A`)「お前、仕事終わってもシャワー浴びるまで俺に触んなよ」
(;^ω^)「……もっと精進しますお」
-
拳を固く握る。
震えが止まらなかった。
これから常人ならば紛れ込んだ時点で生きることを諦めるような死地に向かうというのに……
ぼくは、胸の底から湧き立つ興奮を、抑え込むことが出来なかった。
.
-
終わり
ロボットおまんまんってどんな具合なのかな、もうえっちなことしか考えられないな
どうでもいいけど成人の男が素でえっちなことしか考えられないな、とか発言しちゃうのって気持ち悪さの最上位って感じでなんか"良い"よね
俺乙
-
おつおつ
-
地の文うまくなってて嫉妬を抱きつつおつ!
-
おつおつ
-
乙
読み終わって余韻に浸れそうな所をロボットおまんまんで台無しにされたわwwww
>>551の物静かだなって所は誤字かな
-
ああああ物静かな、に訂正だ
たまには誤字脱字無しできっちり投下してえなあ
推敲する前に投下したくてノータイムでぶち込んじゃうんだよな
-
地の文上手すぎ
乙
-
毎回投下終わるたびに次はいつですかって聞きたくなるおつ
-
ちょっとずつキャラが掘り下げられて人間味がでてきた
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今回で完全にはまった、大好きだわこの作品
乙
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昔書いた中編をブーン系に移植するかハロウィンに誂えた短編書くので次はちょいと遅くなるかも?
とか言いつつ何食わぬ顔で週末辺りに投下してる気もするけど。
まぁもし間が空いたらなんかやってるんだなと思ってくれれば
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なんか色んな作品が来ててテンション上がったのでながらで眠くなるまでやっちゃう、ヤケッパチだ
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イイゾイイゾー
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第十四話「吸血衝動。罹る病のようなもの。」
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開きっぱなしの入り口を潜ると、真横の方から殺気を感じた。
考えるよりも先に裏拳を振るう。
グールの肉が潰れる感覚が、先程足で感じるよりも鮮明に伝わった。
命の危険は感じない。
ただ、ある程度は覚悟していたものの、恐らくこの感触に慣れることはないだろう。
さっさと終わらせて近くの川で血を洗い流してしまいたい。
恐らく屋上ならばグールの手もあまりかかっていないだろう。
そこで朝まで過ごせばアルバイトは終わりだ。
睡眠時間が確保出来れば、朝のうちに帰宅してシャワーを浴び、すぐにトレーニングにも移れる。
('A`)「外から見るより広く感じるな」
( ^ω^)「だおね。なかなかどうして時間がかかりそうだお」
日付が変わるまでに殲滅出来ればいいのだが……
まぁ、ぼくだけならともかく、ドクオがいるのだ。
もしかしたらそれよりもずっと早く終わるかもしれない。
( ^ω^)「よっと」
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前方、三体のグール。
それは感覚的なものなのだけれど、ぼくは三箇所の朧げな光の点のようなものをそこに見出すことが出来た。
身を屈めて突っ込んでくる者、両手を振り上げて突っ込んでくる者、その二体の影に隠れて睨み付けてくる者。
異なる体勢の三体にそれぞれ出来た隙だ。
( ゚ω゚)
目を凝らし、構える。
敵に半身だけを晒す形で立ち、右腕は脇を極端に絞り、肘を腰に入れる形で、拳は固く握った。
左手は攻防一体。
鉤手の如く構え、牽制と払い、受け、どれにも対応出来るように、肘を軽く折って前に出す。
この鉤手が、理性ある敵からすれば実物より一層大きく見える壁になることを、ぼくは知っている。
下半身は、一歩半下げた右足に比重を置く。
必殺の右を繰り出す際に、体重移動による破壊力の増加を促す為だ。
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顎は引き、絶対に目は逸らさない。
目の前の敵がどれだけ巨大でも、醜悪でも、その一挙手一投足に視神経の全てを向ける。
教わったわけでも、研究して編み出したわけでもない。
実践の中で鍛錬を積むことで、自然と身体に馴染んだ構えだ。
理屈は後からついて来たに過ぎない。
( ゚ω゚)「破ーーッ!!」
だが、だからこそぼくはその理屈を、戦闘理論を百パーセントに近い形で再現することが出来る。
撃ち込んだ右の拳を貫いたグールの胸から引き抜き、視界の端から飛び込んでくるもう一体のグールの拳を鉤手で弾く。
力は絶大だ。
だが愚直で、軽く手首を弾いてやるだけで起動は大きく逸れた。
そのまま顔面を殴り潰し、屈んでいたグールの頭を蹴り上げる。
頭を失った二体のグールの身体を掴み、更に前方の群れに押し込んでやると、腐乱した波は盛大な音を立てて崩れてゆく。
-
間を置かず、断続的に響く乾いた発砲音。
巻き上がる弾幕。
済し崩しに倒れゆくグールの群れを、ドクオのサブマシンガンが掃討してゆく。
( ^ω^)「呆気ないお」
('A`)「気を抜くな。どうも建物の構造が複雑みたいだ。曲がり角やドアを開ける時に奇襲されかねん」
僅かに生き残った数体のグールが膝を折り、呻き声を上げている。
死体を投げ付けてそのまま踏み潰してやろうと思ったが、掴んだグールの頭が想像以上に脆く、首から引きちぎれてしまった。
気にせずそのまま投げ付けてやると、首の断面からはみ出た骨が呻くグールの頭に突き刺さる。
脆すぎる。
"元"人間の群れを相手に暴れているという感覚は無かった。
最も近い感覚を挙げるとするならば、取り壊しの作業だろうか。
力いっぱい暴れて壊す、壊す、壊す。
-
('A`)「様になってるじゃねぇか」
( ^ω^)「自分でもそう思うお」
或いは、極度の緊張に縛られていない状態での戦闘行動は、誰もが自分にとって一番馴染むスタイルなのかもしれない。
具体的に言うならば、格上や実力が拮抗した敵ではなく、塵芥のような弱者を蹂躙する時の所作。
どう潰してやろう。
どう打ち込んでやろう。
そんな風に、楽しみながら刹那を思考で埋め尽くすのがたまらなく気持ちいい。
( ゚ω゚)
向上心で刃を研ぐことも有意義な時間だったと思う。
しかしこれもまた、なかなかどうして有益だと思う。
まるで敵の血肉が、そのまま自分の糧となるようだ。
手近にあったドアを蹴破る。
心地良い足の痺れと同時に分厚い鉄の板が、向こう側にいたグールの群れに突っ込んだ。
ドクオがサブマシンガンを構える音が聞こえた。
( ゚ω゚)「ぼくがやるお」
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手を振り、ドクオを制止する。
真っ赤に血走った眼光が幾つも、ぼくを捉えていた。
その輝きが、彼等もハインやデレの同種であることを実感させる。
真祖とその眷属の洗礼を受け、厳選されて生き残った者だけが、あの真紅を手に入れることが出来るのだ。
彼等は、ロードとイノヴェルチの足元に散らばった食べ滓のようなもの。
( ゚ω゚)「せめて潔く死ね」
打つ。
打つ。
打つ。
爛れた肉を打つ感触が断続的にぼくの腕を舐める。
それは空気の如く、ぼくの脳にしっくりと馴染んだ。
弱者を圧倒的力量差という絶望の槌で叩き潰す。
なんて気持ちいいのだろうか。
箱庭の人形でも、乞食でもなく、ぼくはこうして弱者を叩き潰す為に産まれてきたのではないだろうか。
酔っている。
ぼくは酔っている。
噎せ返るような血の匂いに、恍惚を見出しながらーー
-
しえん
-
('A`)「止まれ」
ドクオの一声で、ぼくははっと手を止めた。
振り上げていた拳から手首を伝い、薄汚れた血が垂れている。
急速に酔いが醒めてゆく感覚だ。
背筋を震わせるような血と肉の感触が、今では虫が這っているようで気持ちが悪い。
左手で掴んでいたグールに目をやる。
既にそれは人型を留めておらず、ずたずたに切り裂いた枝肉のようになっていた。
('A`)「分岐だ」
枝肉を放り投げ、ジャージの上着を脱いで内側で顔に付着した血を拭う。
見ると、ドクオの言うとおり二通りに別れた道があった。
( ^ω^)「どうするんだお?」
ここでぼくを呼び止めるということは、つまりそういうことだろう。
望むところだと、ぼくは大きく息を吸って、吐いた。
-
('A`)「まぁ待てよ。そう鼻息を荒くしなさんな」
煙草に火を点け、ドクオは何度か屈伸をした。
('A`)「お前が言いたいことは分かるぜ。力試しにお誂え向きだ。ここは二手に分かれてやろう。自分だけでもやれると、それだけの鍛錬を積んできたつもりだと」
('A`)「そんなところだろう」
( ^ω^)「その通りだお」
それの何がいけないというのか。
絶対にヘマをしない自信がある。
グールがあと何百、何千体いたところでぼくは傷一つ負わない。
仮に神の悪戯とも言うべき、あまりにも理不尽で不都合な事象が重なってぼくが死んだとしても、或いは死んだ方がましだと思えるような目にあったとしても、ドクオを恨んだりはしない。
自己責任だ。
そもそも元はと言えば、ぼくはドクオに無理を言ってアルバイトとして同行させてもらっている身だ。
仕事が終われば給料を貰うのだから、ぼくがいるからこそ出来る作業の効率化を選んでもいいだろう。
いや、選んだ方がいいに決まってる。
('A`)「だから話を聞けっつってんだろ。こっちを見ろ」
( ^ω^)「聞いてるお」
-
('A`)「だったら三回屈伸して深呼吸をしろ」
( ^ω^)「何が言いたいんだお。そんなことしたってーー」
('A`)「いいからやれ」
サブマシンガンの銃口が、ぼくに向いた。
茹だるような恍惚の後に、虫が這うような不快感。
そして今は、生殺与奪を握られているという悪寒。
(;^ω^)「…………」
頬が引きつっている。
口の裏側の痙攣は自分の意思ではなく、止められなかった。
ドクオは消えてしまった煙草の火を点け直した。
オイルライターの火の向こう側に浮かんだドクオの表情は氷のように冷たく、蛇のような眼が、真っ直ぐぼくを捉えていた。
(;^ω^)「……分かったお」
言う通りに、三度屈伸した後に深呼吸をする。
ぼくは先程深く吸った息とは違う、新鮮な空気が肺を満たすのを感じることが出来た。
-
両手を握って、開いて、それを何度か繰り返す。
自分のものとは思えないほどに軽かった両腕が重みを帯び、痺れた指先に罹った見えない鎖が、じわじわと解けてゆく。
( ^ω^)「……ごめん」
どうかしていた。
箱庭育ちだから、なんて生温い言い訳をするつもりはない。
ぼくはドクオに雇われているのだ。
雇い主であるドクオの考えすら飛び越えて、出過ぎた意見をするなど言語道断。
お互いが見知った仲でなければ即解雇だ。
('A`)「あいよ」
それ以上ぼくを叱責することはなく、ドクオは煙草を喫っている。
しきりに辺りを見渡してみたり、わざとらしく耳を欹ててみたり。
('A`)「うっし、じゃあ耳の穴かっぽじってよーく聞けよ」
('A`)「この建物、イノヴェルチがいるぜ」
( ^ω^)「……は?」
再び、背筋が震えた。
-
みてるお
-
('A`)「まぁ色々と判断要素はあったんだが、それを説明したって仕方ないからここにイノヴェルチが潜んでるって仮定した上で話すぞ。いや、いる」
('A`)「この建物は六階建てだ。それにこの一階を周ってみて分かる通り、各フロアはなかなか広いし部屋も多い。ここで二手に分かれちまったら、なかなか気軽には合流出来ないだろう」
完全に頭に血が上っていたせいで、ここまでの道のりでの部屋の数を把握しきれていない。
ぼくはまた、自分の行動の愚かさを悔いた。
( ^ω^)「必然的に、イノヴェルチとはぼくらのうちどちらか一人で闘うことになるってことかお」
('A`)「二手に分かれるとするならな」
失念。
まだ頭の血が抜け切っていないようだ。
未だに一人でこなしてみせるという、意固地な子供心が燻っている。
( ^ω^)「じゃあ、ここは少し時間がかかるけど二人一緒に……」
('A`)「そうだな。それが得策だ」
-
('A`)「得策なんだが……」
一瞬口ごもり、そこまで言いかけて一呼吸置く。
('A`)「イノヴェルチとサシでやり合って、お前は生き残れる自信があるか?」
心臓が高鳴った。
鼓動が背中を押し、舞い上がった熱がうなじの辺りをちりちりと焼く。
しかし思考は幾分か冷静だった。
イノヴェルチと聞くだけで否が応でも連想してしまう第四王位デレ。
ぼく一人では到底敵わないあの絶対的な力を担う重大な要素となっているのが、"半"不老不死能力だ。
あれと同じ力を持つ者と、一対一で闘う。
ぼくはーー
( ^ω^)「生き残れるお」
いや、違う。
それは正しくはない。
きっとドクオが求めているアンサーはーー
( ^ω^)「……勝つお」
暗闇で塗り潰されたドクオの表情は分からない。
しかし、ぼくには彼が笑っているように思えた。
煙草の火が、一瞬煌めいた。
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あかんもう無理だ、気を抜いたら指が勝手にちんぽとか打ってる
色んな作品が来てるから乗っかって朝起きて板を見た人のテンションが上がったらそれは素敵だなと思ったんや……
続きは書き溜め次第すぐ吐くわ、おやすち
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乙!
おやすち
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_i⌒r-.、
,,-'´ ノ
./ .l
/ l チ
(( ◯ .l l ン
.ヽヽ、l i .l ポ
\ヽ l l )) コ
,-'´ ̄`ゝ´ ̄`ヽ ノl ポ
.,' .,' ◯ニ.ンl .ン
i i .i
ヽ、 丶 .ノ
`'ー-.'´`'ー- ''´i .|
凵 .凵
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昨日の夜めっちゃ来てたよなー
おつです
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素晴らしい
乙
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気になる話題が満載!
http://qq1q.biz/oKrG
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ドクオほんとに面倒見いいな
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おつちんぽ
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今夜か明日続き投下
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いいねいいね超待ってる
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投下する
前回投下分合わせて今話長いわ
のでのんびりまったり投下していく
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('A`)「オーケーオーケー」
気の抜けたような声だった。
身体に纏わりつく粘膜のような違和感がすっと抜け落ちる。
('A`)「何があっても自己責任だ。死んでも屍は拾ってやらねぇからな」
( ^ω^)「了解だお」
拳を固く握る。
ぼくは右へ。
ドクオは左へ。
顔を拭ったジャージを羽織り直し、ドクオの革靴が鳴らす甲高い足音を聞きながら、ぼくは闇の底を深く潜ってゆく。
健闘を祈る、だなんて言葉は、ぼくがドクオに送るには相応しくない言葉だろう。
それでも、別れ際に何か言葉を交わそうとしたのだが、適切な言葉は思いつかなかった。
それは気まずさや不安から来るものではなく、絶対的な安心感。
同じように何も告げなかったドクオは、何を思ったのだろうか。
今のぼくならば、戦いに溺れず正常な判断を下せるぼくならば問題は無いと、そのように思ってくれていたのならば、ぼくは更に強く、正しく立ち回れる気がする。
-
やがて見えてきた階段を、一段ずつ踏みしめる。
闇は深く、ぼくの視界の端の方を、じわじわと汚していくような気がした。
.
-
ドクオの推測は正しかった。
ブーンがヒッキー邸の棚に並べられた酒瓶を眺めていて、それに倣うように、何気なく視線を酒瓶に移した時から、猜疑は芽吹いた。
('A`)「ほらよ」
死角から口を開けて飛び掛かってきたグールの喉笛を切り裂く。
返り血が噴き出す角度にも繊細な注意を払い、ドクオは滑るように廊下を歩く。
非の打ち所がない完璧な立ち回りだった。
出来る限り銃は使わず、ナイフで危険を処理する。
刃こぼれしないように、刃が通りやすい急所を的確に突き、暇さえあれば血と脂は振り払う。
グールが束となるここぞという時に、必要最小限の弾幕を張る。
彼が通る道には無尽蔵のグールの死体が積み重なり、呻き声の一つも漏れない静かな肉の道が出来上がっていた。
煙草を取り出し、咥える。
不意に胸の奥からこみ上げてきた欠伸を咬み殺そうとするも、緩んだ口元から煙草が落ちた。
拭い去れない怠惰感との格闘。
彼にとってこの仕事は、その程度の緩いルーチンワークだった。
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最早グールの処理など、身体を思考から切り離し、惰性でこなしても問題は無い。
ドクオは完全に開花した猜疑が、芽吹きからその花を開くまでの過程を遡る。
ヒッキー邸に並んでいた酒瓶は、その手の話に明るくないドクオですら名前は聞いたことがあるような、銘酒ばかりだった。
無類の酒好きなのだろう。
最初はコレクション目的かと思った。
だがそれらには飲んだ形跡があり、それと同時に、もう関心を失ったことを思わせる積もった埃が目に入った。
ドクオの推測通り、ヒッキーは酒好きだったが飲まなくなったと自己申告していた。
では、それほどの酒好きが何故その熱意を失ったのか。
ブーンはその思考に至る前に、考えることを辞めていた。
それに関して、ドクオは彼に対する評価を落としたりはしない。
酒を嗜まないことは分かっていたし、このような汚れ仕事を引き受けることなど無かったのだ。
その発想に至るように努力しろと言うのはあまりに酷だ。
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付け入る隙があればそこから侵食する。
押し潰せそうならば脅迫する。
闇社会における仕事や交渉など、お互いが一方的に搾取するという理想形に近付こうとする、その思惑の鬩ぎ合いのようなものだ。
喰われないように、喰う為にドクオは賢しく立ち回る。
一方的にクライアントの家に押し入り、財産を強奪することなど彼にとっては容易い。
しかしそれをしないことには理由があった。
そうなってしまえばそれはただの強盗であり、そのようにして成した財は無価値だからだ。
アウトロー個人がこの世界でなし得ることなどたかがしれていて、彼の思い描く到達点はその向こう側にある。
素直家のような大きな土台を着実に築き上げ、ドブを掬い上げて固め、それを磨くように、悪の華を咲かせる。
そのようにして勝ち取る黒く、それでいて光り輝く名声が欲しいのだ。
だから手ずからその道を外れ、形を成すことも出来ず暗渠の底を佇む泥に成り下がるような真似はしない。
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閑話休題。
つまりドクオは気付いていた。
この仕事にヒッキーが齎した無粋は、相場よりも安い報酬の提示だけではない。
写真よりも遥かに若々しいヒッキー。
直接この建物を指定し、ドクオ達を向かわせればいいのに、わざわざ危険を冒してグールが闊歩する夜の街の中、手ずからドクオ達を送り届けた彼。
この二つの符合から逆算して辿り着く、彼が酒を辞めた理由。
それはーー
('A`)「あんたなんだろう? この辺りにグールをばら撒いているイノヴェルチは」
吸血鬼が人の食事を好まないということを、ドクオはハインと食事をした際に知った。
全てのピースを然るべき場所に当てはめていけば、自ずとその答えに辿り着くのだ。
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待ってた支援
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深い闇を切り裂きながら歩く。
そして、何処かで聞いているかもしれないヒッキーに向けて、少しだけ声を張る。
('A`)「あんたの思惑までは知らねぇし、深入りするつもりはねぇよ」
('A`)「あんたが自分で産んだグールを俺達に駆除させ、金を払うというなら一向に構わない」
('A`)「ただーー」
('A`)「踏み倒そうってんなら、あんた自身が、"あんたが俺に頼んだ仕事"の邪魔をしようってんなら……」
('A`)「相応の結果が待ってると思え」
ドクオは本能のまま、波に揺られるように動く数多のグールの気配に紛れた、理性ある人の意志を、気配を確かに感じ取っていた。
前方に階段を視認する。
それと同時に、段差を転げ落ちるように駆けてくるグールの群れも。
('A`)「vsイノヴェルチ第二ラウンドってか。まぁいいさ。あんたを踏み越えて、俺はあいつを倒す鍵を掴む」
身を屈め、コートの裾を翻す。
その姿はまるで、四足歩行の獣のようだった。
-
まず最初に目指すのは最上階。
ドクオと分かれた時点でぼくはそう決めていた。
ドクオは複雑な構造をしていると言っていたが、都合良く、ぼくが登る階段は通常の構造通り、最上階まで繋がっているようだ。
恐らくドクオは下の階から順にグールを掃討してゆくだろう。
決して急がず、じっくりと安全地帯を拡げながらだ。
ここがイノヴェルチが構える巣になっているならば、外から新たにグールが戻ってくる可能性も大いにある。
その他諸々の危険因子の全てをドクオに任せた。
ぼくは逆に最上階から下の階に向かってグールを潰すことにした。
効率やスピードを重視するならばその方が都合がいい。
ぼく達が同じ階にいれば殲滅力が重複してしまう。
非常に機械的な発想ではあるが、ぼく達の殲滅力を分散させて群れを取りこぼすことなどほぼほぼ皆無と見ていいだろう。
それに、この建物に潜んでいるイノヴェルチを、自分の手で仕留めたいという欲があった。
-
踊り場に点在するグールを一匹ずつ、素早く潰してゆく。
大丈夫だ。
ぼくの思考は闘いの渦の中にはいない。
右肩の上の辺りで、操り人形のように自分の身体を動かすぼくは、寸分狂わぬ最適な動作を選択することが出来ている。
心臓と脳を同時に潰す。
デレに強襲された日、ハインがギコさんに行っていたことを思い出す。
相手はグールではなく、理性を以って敵対するイノヴェルチだ。
そんな敵を相手に脳と心臓を同時に潰すような攻撃の選択肢は、そんなに多くはない。
遥か上空から針の筵に飛び込み、一点だけ空いた平らな部分を見出すようなものだろう。
選択を違えば、逆にこの心臓を貫かれることになる。
( ゚ω゚)
五階ーー
踊り場の床を踏んだ瞬間、死角からグールが飛び出してきた。
頭を掴み、そのまま床に叩きつける。
すぐに体勢を整え、背中から心臓を踏み砕いた。
もっとハヤクーー
もっとツヨクーー
大丈夫、ぼくは冷静ダ。
-
最上階に到達した時点で、グールとは異なる息遣い、気配のようなものを感じ取った。
( ゚ω゚)
目を見開き、暗渠の底のような深い闇を掻き分け、進んでゆく。
一度薙ぎ払えば、グールの首が三つは飛んだ。
冷静だ。
冷静に、敵をコロス手段を選択出来ていル。
( )
( ゚ω゚)「何であんたがここにいるんだお?」
最後の一匹のグールの首を掴んで、そのまま握り潰す。
最上階のフロアは大広間になっていて、彼はその中心で静かに鎮座していた。
(-_-)「やれやれだ。少しでも疲弊してくれれば良かったのだが……グールでは何のタシにもならなかったみたいだね」
部屋の照明が一気に点く。
暗順応していた瞳が焼かれるような錯覚に陥り、一瞬だけ瞼を伏せてしまう。
-
( ゚ω゚)
( ω )
( ^ω^)
( ^ω^)「話が見えませんお」
というのは建前。
半分は本当だが、そんなことはどうでも良かった。
ヒッキーが何を思ってぼく達に仕事をよこしたか。
どうして、グールの巣窟であるこの建物の最上階で、優雅にソファに座り、"グラスに注がれた赤い液体"を呷っているのか。
その理由はぼくには分からないし、だからといって深く考察するつもりは無かった。
ソファから投げ出した両足は、透明な長テーブルの上で組まれている。
針金細工のような細い身体を取り巻く、服の上から纏った鉄甲のようなものが、照明の光を浴び、艶を帯びて輝いた。
-
本当に、どうでもいいことなのだ。
( ^ω^)「簡単な質問をしましょう」
歩み寄り、透明なテーブルの上に立つ。
そこで中腰になり、ぼくは優雅に佇むヒッキーを見下ろした。
ヒッキーはぼくを見上げていた。
前髪の先を伝い、雫となった返り血が、その生気の無い痩けた頬に、落ちた。
( ^ω^)「貴方はぼくの敵ですか?」
(-_-)「そうだね。そして君と君の友人の主になる者だ」
そう言って、彼はグラスを放り投げる。
それが床にぶつかって割れる音は、遥か遠くから聞こえているような、そんな小さな音だった。
股とソファの肘掛けで挟み込むようにして携えた小太刀の柄に手をかけ、彼は細い目に指を当てがった。
それがコンタクトレンズを外す所作だと気付き、ぼくは小太刀を視界の隅に収めたまま、彼の両目を見る。
-
その瞳は赤く、黒く、澱んだ光を帯びていた。
( ゚ω゚)
小太刀が鞘から抜かれる。
それは、ぼくの目にはコマ送りの静止画のように映っていた。
滑らかに流れる静止画に、敵意を差し込む。
刃が頬に触れる手前で、ぼくは小太刀を握るヒッキーの手首を掴んでいた。
( ゚ω゚)「イノヴェルチということは……」
強く、強く握り締める。
熟れたトマトのように脆いグールの肉、骨とは違い、ヒッキーの手首は硬かった。
構うものか、と、ぼくはひたすら握る。
掌いっぱいに広がる彼の骨の抵抗すらも食い潰す。
( ゚ω゚)「うっかり壊してしまっても問題無いということですね?」
(;-_-)「やれやれ……どっちが化け物か分からないね」
ヒッキーの皮膚の内側で骨が暴れ狂い、肉を引き裂きながら砕ける音が、掌に伝わった。
-
小太刀が指先から離れる。
弾き飛ばしてやろうとしたが、もう一本の腕が伸びたのを察知し、咄嗟に身を引いた。
空中で回収された小太刀の刃がぼくの鼻を掠めたらしい。
つんと刺されたような痛みの直後に、鼻先を羽虫が這うようなむず痒さを感じることが出来た。
長テーブルを蹴り飛ばしてやる。
牽制にぶつけてやるつもりだったが力加減を間違えてしまい、透明の破片が飛散し、宙を舞う。
( ゚ω゚)「破ッーー!」
(-_-)「ーーッ!」
体勢は覚束ない。
急所はガラ空きだ。
どのような打撃を選択するか、考えるまでも無かった。
速く、速く、速く拳を打つ。
ヒッキーの反応は遅い。
齢五十にしてはよく動く。
その程度だ。
ぼくの拳が鉄甲の継ぎ目の関節部を打った後にようやく身体が反応している。
目ですら追えていないのは明白だ。
鉤手で喉仏を突き、前のめりに崩れたヒッキーの目にーー
-
( ゚ω゚)「挨拶代わりだ」
二本貫手を形作った右を、渾身の力で振り抜く。
人差し指と中指が、水を湛えたような柔らかい眼球を貫き、肉の壁を穿つ。
その感触が第二関節まで到達すると同時に、宙を舞っていた透明の破片が塵と化して弾け飛んだ。
(;¨_-)「いぎっ……」
間抜けな声だ。
雑に振り回す小太刀の軌道はぶれていて、注視するまでも無かった。
たまたまぼくの首を射程に収めた小太刀の刃を左の指二本で挟んで止める。
( ゚ω゚)「…………」
思い切り鳩尾を蹴り飛ばすと同時に、右眼を貫いた指を引き抜く。
粘膜が混じった血が宙で尾を引き、吹っ飛ぶヒッキーの身体の軌跡となった。
なんだこれは。
ヨワイ、弱過ぎる。
-
(つ_-)「ひひっ、ひひひ…………痛いなぁ……」
身を屈め、左目ではっきりとぼくを捉えていた。
笑みを取り繕おうとしているが、その表情が苦痛に歪んでいるのははっきりと見て取れた。
右眼を抑える指の隙間から、血の泡が吹きこぼれている。
ハインやデレよりも再生が遅いと思った。
吸血鬼としての固有能力は使い手の質に依存するものなのだろうか。
蹴り飛ばした際に肋骨も二本ほど貰った。
完治するまでにかかる時間は、凡そ三十秒といったところだろうか。
想像していたよりも温い。
頭を完全に潰したとなれば、再生時間はもっと遅いとみていいだろう。
希望的観測で言えば凡そ一分と少し。
その間に、頭を失った胴の心臓を潰すことなど児戯に等しい。
( ゚ω゚)
さてどうする?
一思いに潰してやるのもいいだろう。
だがそれはそれでどこか味気ないような気もする。
大丈夫、冷静ダ。
ぼくハ冷静ダカラ……
-
(;-_-)「ひひっ……容赦ないね。でもこの通り、僕の身体はちょっとやそっとじゃ壊れないんだよね」
再生が終わった。
次はどこを潰してやろうか。
(-_-)「動くな」
ぼくが一歩踏み出すと、ヒッキーはぴしゃりと言い放った。
抜き身の小太刀を雑に構えたまま、銃を向けている。
(-_-)「君が腕っ節に自信があるのは分かったよ。しかしこちらも遊びじゃないんでね」
( ゚ω゚)「……どういうつもりだ」
(-_-)「ひひひっ……君ほど武に長けた者ならイノヴェルチとして、ぼくの眷属として生まれ変われるだろう。いいよ……君はこれから僕の右腕となる男だ。教えてあげよう」
ぼくの意図とは異なる言葉の解釈をしたヒッキーは、饒舌に語り始めた。
(-_-)「この通り、僕は吸血鬼だ。不死の力を得た闇の王……」
-
(-_-)「この力さえあればこの世を統べることすら可能だろう。しかし、こうして吸血鬼として生まれ変わるには、ぼくの身体は少し老い過ぎていたみたいだ」
(-_-)「不死である僕は誰にも負けはしない。しないが、そうやって地道に眷属を増やしたところで、イノヴェルチとして覚醒するのはごく一部のようでね」
(-_-)「だからこうしてグールの掃討と称して、君みたいな腕に覚えがある命知らずを呼び寄せたわけだ」
(-_-)「ひひっ……まるで飛んで火に入る夏の虫! しかし安心したまえ! 僕の眷属となった以上、君は僕の命令には逆らえはしない。だがそれなりの自由を与えよう! 生まれ変わった君達に若い女の血を啜らせてやろうじゃないか!」
(-_-)「臓物に染み入るようなあの濃いコク! 口の中を満たし、鼻腔を抜ける背徳の香り! どうだ? ひひっ、ひひひひひ! 楽しみだろう? 楽しみだと言え!」
( ゚ω゚)「まず一つ」
膝の力を抜き、崩れ落ちるように身を屈める。
ヒッキーの醜悪な笑みが、よく見えた。
-
( ゚ω゚)「ぼくが聞いたのは貴方の行動の動機ではなく……」
全体重を足に乗せ、バネのようにしならせる。
猪突ーー
そう形容するに相応しい、愚直で、ただ力強い踏み込みだ。
( ゚ω゚)「こんな"玩具"でぼくをどうするつもりなのかと聞いたんだ」
懐に潜り、銃身をがっちりと握り締めてやる。
銃口はぼくの右肩の向こう側に向くようにして。
(;゚_゚)「ひっ……」
(;゚_゚)「ひはははははははははッ!!」
銃口が火を噴く。
硝煙の匂いが鼻を突く。
闇雲にトリガーを引くという役割だけをこなす機械のような指を、銃身をヒッキー側に向けることによってへし折ってやる。
(;゚_゚)「あがっ……」
痛みに耐えかね、咄嗟に指を抜いたまでは正解だった。
そうしなければぼくはそのまま指をねじ切っていただろう。
( ゚ω゚)「お返しします」
もぎ取った銃をヒッキーの顔面に向けて構え、引き金を引く。
声にならない悲鳴の直後に、ヒッキーの歯がポップコーンのように弾け、血肉の華が開いた。
-
頭を失ったヒッキーの身体は数歩よろめき、倒れた。
すぐに爆ぜた肉の断面から泡が吹きこぼれる。
( ゚ω゚)「痛いだろ。それが撃たれるっていうことですよ」
( ゚ω゚)「貴方は見誤った。闘うということは、他者から奪うということは、その痛みと対価で得るということだ」
( ゚ω゚)「さぁ、何度でも立ち上がればいい。その痛みを越えた先にぼく達はいる」
( ゚ω゚)「立て」
( ゚ω゚)「立て」
( ゚ω゚)「立てッ!!」
頭が出来上がり、ヒッキーが立ち上がるまで、ぼくは一切手を下さず、腕を組んで待ち続けた。
-
狂乱した叫び声を上げながら、ヒッキーは切りかかってきた。
受けるも躱すも選択肢に無かった。
袈裟斬りの体勢でがら空きになった胸部目掛けて思い切り突く。
突くーー
突くーー
三度の突きの後によろめいた足を払ってやる。
あっさり体勢を崩したヒッキーの頭を掴み、何度も何度も膝で打った。
空気が馴染む。
身体にまとわりつく目に見えない数多の何かが、ひたすらぼくに殺せと命じている気がした。
( ゚ω゚)「くひっーー」
何故ぼくは笑っている?
冷静だ。
ちゃんと、上手くやれている。
身体には傷一つ無いのに、何故か血で汚れていて……
(;゚_゚)「ああああああああああああああああッ!!」
耳元で、何かが砕けるような音が断続的に響いている。
これまで均衡を保っていた世界を覆う、目に見えない膜のようなものが、ぱりぱりと音を立てて崩れてゆく気がした。
-
喚ケ。
叫べ。
憎メ。
狂エ。
ソシテ傅ケ。
ココハボクノ世界ーー
ダカラーー
ダカラーー
.
-
ドクオは焦っていた。
('A`)(ここまで来て遭遇しねぇってことは……イノヴェルチは最上階か……)
ともすれば、ここまでブーンと再合流していないことから鑑みるに、彼とヒッキーが既に交戦状態であるとみていいだろう。
そのように結論を弾き出したドクオは、多少の殺し損ねは無視し、早足で最上階を目指した。
('A`)(並大抵の奴なら負けはしねぇ筈だ……不死の能力とはいえ心臓と頭を潰せば死ぬ。あいつもそれは知ってるはず……)
ヒッキー単体である限り、負けはしない。
幸いその他に怪しい気配は無いので、少し気掛かりだと、その程度の心配だった。
('A`)「あ?」
階段の踊り場で踏みとどまる。
そして注視した。
閉ざされた扉の隙間から、人工的な光が漏れ出しているのに。
ブーンはあの向こうにいる。
ドクオは確信した。
しかし交戦中ならば、物音の一つくらい聞こえてきてもいいはずなのだが、不気味なほどに静かだった。
-
そこから考えられる、一つの答え。
('A`)(一人でやりやがったか……?)
まさか、とは思ったが、可能性はゼロではない。
負けることは絶対に無い。
だが勝つことは難しいだろう。
それがドクオの見解だった。
仮にブーンが自分よりも先にイノヴェルチと鉢合ったとして、自分が駆け付けるまで善戦してくれればトドメは自分が貰う。
そしてブーンには然るべき評価を下し、給料を上乗せしてやろうか。
その程度に考えていた。
('∀`)「はっ、センスだけは化け物じみてるかもな」
思わず笑みが漏れる。
悪くない。
ブーンが成長してゆくのを見るのが、まるで手駒をシミュレーションゲームで育成しているような感覚だった。
そんな風に、楽観視して、彼は扉に手をかけた。
-
そこに広がっていたのは
地獄だった。
.
-
赤い部屋だった。
照明に照らされた床は赤く、赤く濡れていて、臓物の山があちらこちらに飛散している。
ドクオは部屋の中に、強烈な死の匂いを感じることが出来た。
そして、五感を刺激する全てが、この世から隔離された異なる世界のものであるように、錯覚する。
禍の中心、特異点とも言える場所。
そこにいたのは、首を失ったヒッキーの腹を踏みつけ、小太刀を携えて見下ろすブーンだった。
血の泡が首から上を形成する。
その過程で、ブーンはヒッキーの脇腹に小太刀を突き立てた。
(:;,_゚)「ハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」
濡れた音を立てて。
(:;,_゚)「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」
冷たい刃は肉を穿ち、抉る。
-
魅せ方うまいなー
-
(:;,_゚)「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」
.
-
('A`)「どけ」
ドクオはサブマシンガンを構え、壊れて笑い声を上げるだけの肉塊と化したヒッキーを射撃した。
ブーンはぴくりとも動かなかった。
元よりブーンがどかなかったとしても、それで誤射してしまうほどドクオの射撃は甘くは無い。
ブーンの足元で、笑い声を上げる肉塊が崩れてゆく。
笑い声が止まっても、ドクオは弾が切れるまで撃ち続けた。
( .:;ω゚)
床が爆ぜ、巻き上がった粉塵の中で、ブーンは身を屈めて佇んでいる。
普段の胡散臭い商人のような、貼り付けた笑みではなく、真っ直ぐ、射抜くような眼光をドクオに向けていた。
ドクオは弾が切れたマシンガンをしまい、腰に吊ったホルスターから拳銃を抜き、構えた。
('A`)
( ゚ω゚)
銃口と、ブーンの目が合った。
-
( ゚ω゚)「イノヴェルチの殺し方、もう一つ見つけたよ」
低く、粘りつくような声だった。
ドクオは何も答えない。
( ゚ω゚)「こいつら。死なないだけで、痛くないわけじゃないんだ」
臓器も何もない、ただの肉と化したヒッキーの塊の一部に手を突っ込み、ブーンはドクオを見たまま、それをかき混ぜるようにすり潰してゆく。
( ゚ω゚)「何度も、何度も何度も壊せばいい。もう死んでしまった方がましと思えるくらいに、何度も何度も壊して」
( ゚ω゚)「"地獄"を見せてやればいいんだ」
こいつは何だ?
今自分の目の前で何か宣っているこいつは、なんなんだ?
ドクオには分からなかった。
認めたくない、認めてはならない感情が自分の中に芽生えていることに気付き……
(;'A`)「ーーーー」
声にならない声を漏らし、引き金を引いていた。
-
弾は真っ直ぐ、ブーンの眉間目掛けて射出された。
刹那、ブーンの上体が逸れる。
紙一重で弾丸はブーンの髪を掠め取ってゆき、彼は糸が切れたように項垂れた。
( ω )
(;'A`)
( ω )
( ^ω^)
(;^ω^)「な、なにすんだお! 今のは流石に死を覚悟したお!」
首をもたげ、ブーンは声を震わせながら張り上げた。
目を細めた胡散臭い作り笑いで頬の筋肉が凝り固まった、いつものブーンの表情だった。
(;'A`)「お、おう……」
ブーンは自分が手を突っ込んでいた肉塊を一瞥し、不愉快そうに眉を顰める。
わざとらしく嗚咽を漏らすような仕草を見せながら、全身に塗れた血を振り払い、つかつかとドクオの元へと歩み寄る。
すまない、としおらしく謝るドクオに対して数度手を振り、気にしていないと意思表示する。
先程の修羅のような形相は、完全に影を潜めていた。
-
少し長い、彼の髪の毛がその温厚な表情を覆うたび、ドクオは不安になった。
血で濡れた髪の隙間から覗く瞳が、あの修羅の眼にもなっていたら……
何か声をかけようと思った。
だがドクオの喉は、綿を詰めたようにぎこちなく、少量の息を漏らすことしか出来なかった。
「ーークオ」
( ^ω^)「ドクオ!」
(;'A`)「お、おう……」
( ^ω^)「なんなんだお。さっきからおかしいお。深呼吸した方がいいのはそっちなんじゃないかお?」
(;'A`)「すまん、聞いてなかった」
( ^ω^)「だから、依頼人殺しちゃったの、どうすりゃいいんだお? 死なないように気をつけてたのに、これじゃあ給料はパーだお」
('A`)「死なないように?」
( ^ω^)「ハインが言ってたお。心臓と頭を潰せばイノヴェルチは死ぬって。だから片方を潰して、再生が終わった直後にもう片方を潰して、それを繰り返してたんだお」
('A`)「お前……さっきイノヴェルチの殺し方って……」
( ^ω^)「……?」
-
(;^ω^)「もしかしてどこかで頭でも打ったのかお?」
('A`)「いや、いい……少し疲れちまっただけだ」
ドクオは煙草を咥え、手近にあった窓を拳銃で撃ち破った。
熱気と噎せ返るような血の匂いで満ちた部屋に風が吹き込み、露出した肌を撫でる。
('A`)「給料……だったな。ちゃんと払うさ。ちょっと手伝えよ」
( ^ω^)「お?」
('A`)「ヒッキー邸に戻る。金になりそうなもんは全部かっ払っていくぞ」
( ^ω^)「それだったら最初から屋敷にいた時点で強奪しちゃえばよかったのに……」
('A`)「と思うだろ? まぁこっちにも色々事情があんだよ。先手切ってそんな野暮なことはしねぇさ」
オイルライターで煙草に火を点け、一口だけ喫う。
そして、吹き曝しになった窓から外を見下ろした。
('A`)「なんだこりゃあ……グールがわんさかいやがる」
( ^ω^)「連中、この血の匂いにつられてる、なんてことは無いのかお?」
('A`)「んな習性聞いたことねぇが……無いとも言い切れないな。ま、ヒッキーの車を拝借していくか」
-
闇に蠢くグールの群れは、この最上階でもその動向が伺えるほどに大きかった。
一体どれだけの人間を噛んだのだろうか、そんか思案に更けながら煙草を喫っていたドクオの顔が、青ざめる。
(;'A`)「おい、おいおいおいおい……」
スマートフォンを取り出し、カメラを起動してフラッシュを焚く。
そして画面を拡大すると、辛うじてヒッキーが曲がり角のすぐ奥で乗り捨てたであろうセダン車が映った。
しかし車は見る影もなくひしゃげていて、グールが数体、何かを物色するようにエンジンルームを殴打していた。
( ^ω^)「どうしたんだお?」
(;'A`)「帰りは駅まで徒歩だ」
(;^ω^)「えぇ……」
二人は目を合わせて、同じように苦々しい表情を浮かべた。
-
( ・∀・】「ええ、一瞬ですけど開きました」
( ・∀・】「残念ながら、"冥道"ですね。あの禍々しい闘気は、僕が話に聞いてイメージしていた"天道"とはかけ離れてますから」
( ・∀・】「僕としては嬉しい限りなんですけどね。冥道を開く戦神を御す為に、僕の"覇道"があるんだから」
( ・∀・】「大丈夫ですって。全ては貴方の意のままに。僕は一人の武人である前に……」
そこまで言いかけて、モララーは口を噤む。
( ・∀・】「いえ、なんでもないですよ。じゃ、僕はそろそろ帰りますね」
一方的に通話を切り、モララーはスマートフォンをワイシャツのポケットにしまった。
僕は一人の武人である前にーー
( -∀・)「貴方の息子なんですから。ね、父さん」
先程言いかけた言葉を夢想し、続きを呟く。
その声は誰にも届かない。
それでいい。
だからこそ、吐き出す気になる。
-
ブーン達が暴れ回った建物の屋上。
モララーはそこにいた。
しかし彼は、ブーン達に一切干渉することなく、そして気配を悟られることもなく、ただそこで観測し続けた。
( ・∀・)「もうすぐ夏休みだね、ブーン。そしてドクオ」
( ・∀・)「ふふふ……はやく目覚めておくれ。高校生活最後の夏休みくらい、楽しませてほしいもんだよ」
お前が目覚めてこそ、自分は自分という人間の有用性、存在価値を証明することが出来る。
モララーは空を仰ぎ、月の光を目一杯浴び、安らかに目を閉じた。
( -∀-)「関係ない。王位も、戦神も、委員会も、学園も、龍も、全部関係無い」
( ・∀・)「最後に笑うのは僕だけだ」
だからせめて今だけはーー
必死にもがいて、楽しませておくれーー
唄うような声は風に流されて、消えていった。
-
おわり!!
カレー食う!!
-
乙
-
ブーンだけじゃなくてドクオも期待されてんのか
ほんと続きが気になるわおつ!
-
乙。今回も面白かった!
ブーンとドクオの覚醒が楽しみすぐる
-
おつおつ
今後の展開がマジで楽しみだわ
-
乙
ブーン末恐ろしいな……
>>649のそんかって所は誤字?
-
誤字だあああああ
そんなに訂正
あと気分転換に酉つけるわ
今度からこれで投下する。多分すぐ忘れるだろうけとま
-
ゆゆ
-
ゆゆ式2期はよ
-
天上天下好きなのかしら
-
あぁあれも序列あったな
文七が好きだ
-
おつんぽ
-
「突くーー」とか「だからせめて今だけはーー」みたいな部分で―じゃなくてーを使ってるのは仕様なのかな
http://i.imgur.com/cqxBxSU.png
PCからだと↑の画像みたいな感じで伸ばし棒としか認識できなくて大分気になる
-
ありがとう。今まで指摘受けたことが無くてずっとそれ使ってたわ恥ずかし、そんな風に見えてたんだな。次に投下するまでに直しとく!
-
スマホだと全然違い分からないんだよな
言われなきゃ気付けないつらさ
-
おなじく以前のスマホでは判別不能だった
いまは入力するときに(長音)とか(ダッシュ)のルビがあるから助かる
-
お粗末な感じだけどざざっと描いてみた。イメージ崩れたらごめんね。
( ^ω^)擬人化注意
http://uploda.cc/sp/detail?id=471111
-
金玉どこいった
普通のイケメン出てきたぞ
-
こいつが くひっ とか笑ってるの想像したらキュンと来た
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おかしいな金玉がいないぞ
-
今夜か明日投下
-
楽しみ
-
すばらしいぺーすでうれしい
-
はい
-
第十五話「全てをひっくり返したような火。」
.
-
爪'ー`)y-「やれやれ。第二王位の枠っていうのは誰が就いても不躾になるものなのかねぇ」
学長室は血に染まっていた。
平然と、一切の武装もなく堂々と正面から突っ込んできた侵入者一人を相手に、完全武装した教職員達が一方的に惨殺された成れの果てだ。
_
( ゚∀゚)「手土産だ」
強引にねじ切った生首を掲げ、ジョルジュはフォックスと対面する形でソファに座り込んだ。
そして、二人で挟んだテーブルに、血が滴る生首を放る。
断末魔を上げて死んでいったのだろう。
生首の形相は人のものとは思えないほどに、醜く歪んでいた。
目を見開き、大口を開け、死してなおこのようにして晒し上げられる。
VIPでの弱者の末路としては適当だった。
爪'ー`)y-「ご丁寧にどうも。茶でも出してやりたいが、生憎丁度茶葉を切らしていてね」
_
( ゚∀゚)「いいよおっさん。ガキ相手にそう畏まらなくても」
ジョルジュは太い眉を歪ませ、破顔する。
そして何も纏っていない上半身に付着した返り血を指で掬い取り、テーブルの上の生首の髪で拭き取った。
-
_
( ゚∀゚)「それに大した用事でもねぇしな」
爪'ー`)y-「と、言うと?」
_
( ゚∀゚)「なに、園内放送を使わせてくれや、それだけでいい。あ、そうだ……」
_
( ゚∀゚)「街頭モニターの管理ってここから出来るんだっけ? 出来るんなら使わせてくれ。それと、お茶の代わりに生徒名簿を出してくれると助かる。写真付きでな」
早口で要件を伝え、ジョルジュは生首の上に足を投げ出し、丁度つむじの辺りに踵を乗せて組んだ。
ノーとは言わせない。
表情は不敵に微笑んではいる。
だが瞳はくすんだように据わっていて、彼が意図的に圧力をかけているのは、誰の目にも明らかだった。
-
爪;'ー`)y-「最近の子は腕白過ぎるねぇ……」
言いながら、フォックスは短くなった煙草を灰皿で揉み消し、新しい煙草を咥えた。
わざとらしく戯けて見せるが、フォックスもまた、瞳は据わっていた。
咥えた煙草の先が発火して、フォックスは思わず身じろぎする。
爪'ー`)y-「……どうも」
_
( ゚∀゚)「気が利くだろ? へへへ……」
煙草を咥えたまま、フォックスは作業机の引き出しを漁り始めた。
そして指を目いっぱい広げたほどの厚さがある生徒名簿を引っ張り出し、ジョルジュに投げ渡した。
受け取ったジョルジュは適当なところでページを開く。
かび臭さに眉を顰めたが、すぐに慣れたようで、五十音順に並んだ生徒名から、目当ての生徒のページを索引してゆく。
-
爪'ー`)y-「そんなものを引っ張り出してどうするつもりだ? まったく……職員の補充も楽じゃないというのに……」
_
( ゚∀゚)「この学園を在るべき姿に変えてやるのさ」
爪'ー`)y-「在るべき姿?」
_
( ゚∀゚)「そう」
ページを捲る手を止め、ジョルジュはフォックスの方に視線を向けた。
_
( ゚∀゚)「序列の意味を、取り戻すんだ」
フォックスは、彼の真意を読み解こうとはしなかった。
フォックスにとってジョルジュの存在など取るに足らないもので、彼が思い描いている大きな流れを汲んだ物語に、ジョルジュの名は刻まれていない。
だが、それでも――
そんな矮小な存在が、何を成そうとしているのか。
純粋に、興味はあった。
-
爪'ー`)y-「好きにしたまえ」
_
( ゚∀゚)「そうさせてもらうさ」
名簿から九枚のページを破り取り、フォックスの作業机に歩み寄る。
卓上のマイクとカメラを確認すると、ジョルジュはフォックスと入れ替わる形で、椅子に腰掛けた。
爪'ー`)y-「学園の生徒全員に様子が伝わればいいんだな?」
_
( ゚∀゚)「そういうこと。もういいか?」
爪'ー`)y-「待て、まだ繋がってない」
マイクから作業机の足元に伸びた配線を弄りながら、フォックスはほくそ笑んでいた。
爪'ー`)y-(順位が逆転してもスタンスは変わらないと思ったが……やはり一位に王手をかけると躍起になるものか……)
爪'ー`)y-(精々楽しませてくれ。VIPが荒れれば荒れるだけ、戦神の覚醒は早まる。時が来ればモララーがお前の首を刎ねるだけだ)
-
爪'ー`)y-「右手側にスイッチが二つあるだろう。青い方を押せば繋がる。切る時は赤い方を押してくれ」
_
( ゚∀゚)「スイッチ……これか。よしよし」
ジョルジュは二つのスイッチを確認すると、十枚の紙をテーブルに並べた。
( ´_ゝ`)
(´・ω・`)
(,,゚Д゚)
('、`*川
(`・ω・´)
( <●><●>)
ζ(゚ー゚*ζ
川 ゚ -゚)
( ・∀・)
自分以外の王位継承者の顔写真が丁寧に糊付けされた紙だ。
誰もが無機質な表情を貼り付けて、正面を向いている。
監視カメラで随時素行を確認しているのだろう。
職員(或いはフォックス個人)から見た生活態度、功績諸々が簡潔に記されている。
_
( ゚∀゚)「よし……」
一頻りそれらを眺めて口角を釣り上げる。
そして、スイッチを押した。
-
_
( ゚∀゚)「ごきげんよう、VIPのゴキブリ共」
_
( ゚∀゚)「先日第二王位を継承したジョルジュだ。この時期になって王位の意味が分からないやつはそのまま聞き流してくれて大丈夫だ。どのみち死ぬからな」
_
( ゚∀゚)「知っての通り、この学園は好き放題やれるって謳ってやがんのに、生徒会長の素直クール率いる生徒会の暗躍もあってか、どうも燻ってる奴が多いって印象なんだよな」
_
( ゚∀゚)「まぁそれもまた一つの自由の形だろう。強い奴がルールを敷く。弱い奴が従う。シンプルな構図だ」
_
( ゚∀゚)「それが気に入らなきゃぶっとばしてやればいい。しかし統治する素直クールは化け物ときた」
_
( ゚∀゚)「気に入らねぇよなぁ? 自分は生徒会長に敵わない。生徒会長に平伏すのは大いに結構だ。だが……」
_
( ゚∀゚)「どうしてクーが敷いた法のせいで、自分より弱い奴すらぶっ飛ばせなくなるんだ?」
-
_
( ゚∀゚)「胸に手を当てて自分に聞いてみろ。商業区でドンパチやらかそうものならすぐにあの鬼会長が飛んでくる。お行儀良くなんて出来ないからVIPに来てんのに、外の世界と同じように、こそこそ路地裏で女を輪姦さなきなならねぇ。ふと思い立ってその辺の人間の頭をすっ飛ばしてやりたい。そんなタブーとされる欲求すら満たされるのが、VIPだったんじゃねぇか?」
_
( ゚∀゚)「暴れ足りねぇだろ。殺し足りねぇだろ。お前ら、まさか此処でお利口さんに三年間を過ごせたらそれでいいなんて考えちゃいねぇだろうな」
_
( ゚∀゚)「俺が許す。欲望の赴くままに踊れ。ケチ臭い生徒会は、今この時を以って第二王位である俺が解体を宣言する」
_
( ゚∀゚)「そして王位の連中、俺はお前らにも言いたいことがある」
_
( ゚∀゚)「モララーにつくか、クーにつくか、俺につくか、なんだそれは? その小賢しい思考はどこから湧いてくる? お前達の拳は何のためについてるんだ?」
_
( ゚∀゚)「自分以外の人間に従うことに何の疑問も抱かないなら、そんな奴が王位だっていうなら、俺が殺してやる。そんな奴は王位にはいらない」
-
_
( ゚∀゚)「足元を見てみろ。VIPに、十席の王位に相応しい奴は、腐る程いるんだぜ?」
.
-
日用品は全て新調した。
服も垢抜けないジャージと部屋着だけじゃなく、最近の若者が好みそうなものを買った(とはいえ、自慢ではないが自分のファッションセンスは壊滅的だという自覚があるので、取り敢えず高くて生地の触り心地が良いものを選んだ)。
食事はきっちり三食食べられる。
それだけ散財しても、ぼくの懐にはまだ余裕があった。
( ^ω^)「三時のおやつにピザ。貴族の嗜みだおね」
ペストで昼食を食べた際に、持ち帰り用に作ってもらったものだ。
喧騒で賑わう商業区から離れ、第二ブロックに来たぼくは、簡素な作りの公園で時間を潰していた。
ショルダーバッグからピザを取り出すと、中からチーズとベーコンの匂いがむっと漂ってきた。
買ったばかりのバッグに匂いがついてしまうことは嘆かわしいが、ぼくの性分からして私物がジャンクフードの匂いに塗れるのは遅かれ早かれ免れないことなので、気に留めないようにする。
プラスチックの容器の蓋を開け、一切れ掴むと、固まりかけのチーズが糸を引いた。
見ているだけで腹の虫が嘶きそうなので、即座に頬張る。
( )^ω^)「幸せだおー……」
二、三度噛んで飲み込み、喉に引っかかるピザの感触をコーラで流し込む。
ぼくは多分、今世界一幸せだ。
-
流れてゆく時間を有効活用しようともせず、食べたいものを食べてのびのびと過ごす。
トレーニングの合間のこの時間は、金さえあれば楽園のようなひとときだ。
( ^ω^)「どれどれ……」
バッグの外ポケットから携帯電話を取り出す。
先日ドクオに勧められて、外で契約してきたものだ。
流石に電話としての使い方は知っているものの、箱庭時代には外と連絡を取ることが無かったし、自宅のPCでやりたいことは全て出来たので、こうして初めて手に取る端末は触っているだけで新鮮だった。
ペストの電話番号も登録してあるが、互いの連絡先を交換するという意味では、この端末に入った連絡先はドクオだけだった。
勿論着信やメールは届いていない。
どういう勝手で使っていいものか未だに分からないが、このまま手持ち無沙汰にするのも勿体無いので、ドクオにメールを送ることにした。
-
宛先:どくお
件名:げんきですか
ぼくはげんきですか。きようはてんきがいいです。しやしんはおやつのぴざです。
( ^ω^)つ■「えーと……写真ってどうやって貼るんだお? 小さい文字の打ち方がわかんない……まぁいいや」
悪戦苦闘していると、たまたま指が触れたところに画像選択と書かれていたので、直感で操作していたらどうにか写真を添付することが出来た。
メールを送信して携帯電話をベンチの上に置く。
ピザをもう一切れ掴み、先程と同じようにコーラで流し込んでいると、携帯電話が鳴った。
-
どくお
件名:Re:げんきですか
は?
(;^ω^)「…………」
どうやらぼくにはメールでのやり取りは向いていないらしい。
今度ツンさん辺りと連絡先を交換して、色々と教えてもらおう。
ドクオへの返信を考えたが、適当な文面を打ち込む作業が億劫になり、やめた。
その直後に、携帯電話がけたたましく鳴り始める。
(;^ω^)「おっ、おっ、これは電話だお……取り方は……」
四苦八苦した挙句どうにか出ることが出来たぼくは、ケータイのマイク部分を口に向ける。
(;^ω^)「こちらブーンですお! どうぞー!」
すかさず耳に押し当てて相手(ドクオ)の発言を待った。
-
「……お前まさか……電話を無線かなんかと勘違いしてねぇか」
( ^ω^)「何のことだお? どうぞー!」
「…………」
十数秒ほど、ぼく達は無言だった。
「……耳に当てたまま喋っても聞こえるからな」
と言われて、自分の耳が熱くなるのを感じた。
最初に間違えた相手がドクオでよかったと、心から思う。
きっとメールの件でも、「は?」の二文字で訝られるだけの失態を、無自覚で冒してしまっていたのだろう。
説明書をもっとしっかり読み込もうと思った。
「まぁいいや……お前今どこにいる? 近くに街頭モニターはあるか?」
( ^ω^】「お? 二のA校舎塔のとこの公園だお?」
「二のAか……D塔とC塔の間に確かモニターがあったろ。ちょっとひとっ走りしてくれ」
-
言われるがままにピザの残りをしまい、コーラを飲み干してショルダーバッグを背負う。
途中でドクオが急げというものだから、全速力でD塔下モニターに向かった。
(;^ω^)「え……」
絶句するしかなかった。
モニターに映っていたのはジョルジュと名乗る第二王位の男。
ドクオから小噺程度には聞いていた。
ぼくがデレに襲われた日、同じようにクー会長も戦っていたこと。
そして、その末に敗れ、第三王位に下ったということ。
その男が、モニターを通じて学園全体に向けて告げている。
殺し合え、俺が許す。と――
うなじの辺りに虫が這っているような、或いは身体の奥の奥、芯の部分が煌々と熱を持つような、筆舌に尽くし難い感覚が他の凡ゆる感覚を薄めてゆく。
電話越しにドクオが何か言っている。
決して聞き取れていないわけではないのに、ぼくの耳から頭に入った言葉はそこで何の処理もされずに、逆の耳から筒抜けてゆく。
-
何処か遠くで
銃声が鳴り響いた。
.
-
ペニサス邸
('、`*川「あーらら。大人しくジャンキー相手に遊んでりゃいいものを……」
( <●><●>)「どうするんですか?」
('、`*川「どうするんですか? じゃないわよ。あたしらみたいなのの事を名指ししてるようなもんだわね」
('、`*川「ま、あたしは単独であれこれするつもりは無いけどさ。あんたはどうすんのよ。ああ言われて、まだクーに倣えのあたしに合わせる気?」
( <●><●>)「…………」
('、`*川「はーぁ……顔写真まで公開しちゃってさ。暫くは下の連中の奇襲が絶えそうに無いわ。ジョルジュもヌルい連中は殺る気満々っぽいし」
( <●><●>)「……クー会長は今どこに?」
('、`*川「外の病院。あたしんとこが経営してるとこ」
-
( <●><●>)「すぐに保護して別の場所に移した方がいいのではないでしょうか」
('、`*川「今院長にメール打ってる。けど、多分大丈夫じゃない?」
('、`*川「最初から自分のやりたいようにやるってんなら、あの日にクーにトドメ刺してるでしょ。それをしないっていうことは……」
( <●><●>)「より激しい戦いを望んでいる、ということでしょうか」
('、`*川「そゆこと。やーねぇ過激派って」
('、`*川「でも、あんたはわりかし共感出来るんじゃないの?」
( <●><●>)「さぁ、どうでしょうね」
('、`*川「可愛くないやつ」
( <●><●>)「そうですね」
('、`*川「可愛くない」
( <●><●>)「…………」
-
支援
-
第七ブロック ジム
(,,゚Д゚)「……とのことだ」
( -∀-)「…………」
(,,゚Д゚)「あんたはどうするんだ? あいつの言うことが罷り通るんであれば、一位のあんたがあいつを叩き潰したって誰も文句はねぇよな」
( ・∀・)「どうでもいいよ」
( ・∀・)「序列外の連中が騒いだところで一位の僕に手を出そうと考える輩はそうはいないだろう。それに、動こうが静観しようが、序列が僕の方が上である以上、彼とて迂闊に手を出しようがないだろうしね」
(,,゚Д゚)「対岸の火事ってことか」
( ・∀・)「そういうこと。人の心配をする前に自分の立ち振る舞いをハッキリさせておいた方がいいんじゃないのかい?」
(,,゚Д゚)「……出来る限り上を目指してはみるさ。今まで通りってわけにもいかねぇ。あいつの反感を買って制裁、となった日にゃ……悔しいが俺はあいつには敵わないだろうしな」
-
( ・∀・)「君の上はペニサスだったかな。勝機はありそうかい?」
(,,゚Д゚)「いや、全然だ」
(,,゚Д゚)「修行するしかねぇだろうな。それにしたってあいつのアップグレードに追い付けるかは分からねぇが……」
( ・∀・)「と、考えるのは君だけじゃない。足元を掬われないようにね」
(,,゚Д゚)「あのしょぼくれ眉が狙ってくるってか? そりゃあり得ねえだろうよ」
( ・∀・)「あの子はシャキン以外眼中に無いだろうからね。僕が言ってるのは序列外の連中の事さ。なかなか粒揃いだろう?」
-
(,,゚Д゚)「ああ……」
(,,゚Д゚)「ミルナ、ドクオ、それに……」
( ・∀・)「ブーン」
(,,゚Д゚)「あんたが前に言ってた楽しみな奴って、あいつの事だろ?」
( ・∀・)「まぁね。どうだい? 先見の明はあると思ってるつもりだけど」
(,,゚Д゚)「ああ……間違いない、と断定は出来ないけど……」
(,,゚Д゚)「なんでだろうな。あのチンケなガキが……何故かデカいことやってくれそうな気がするんだ」
( ・∀・)「そうだね」
( -∀-)「僕もそう思うよ」
-
商業区
('A`)「んだ……あいつ。切りやがった」
从 ゚∀从「よぉ、童貞」
('A`)「よう腐れビッチ。今のモニター見たか?」
从 ゚∀从「見たも何も、向こうの方はパニックだぜ。早速街中でショットガンぶっ放す馬鹿が出てきたよ」
('A`)「あくまで長いものに巻かれるスタンスなんだな……くだらねぇ」
从 ゚∀从「つっても、お前にとっちゃこっちの方が性に合ってんじゃねぇか?」
('A`)「どのみち俺がやることは変わんねぇよ。俺は王位を狙うだけだ」
('A`)「ま、あの太眉野郎がお誂え向きに全王位を大々的に公表してくれたんだ。ありがたく活用させてもらうさ」
-
从 ゚∀从「というと? やっぱ流石の兄貴から狙ってくのか?」
('A`)「いや、あいつに手を出せば必ず弟が出張ってくる。俺のやり方じゃああの暴れん坊二人を相手にすんのはキツいわ」
从 ゚∀从「ショボンか」
('A`)「実はな、前々からショボンに関しては色々調べてんだ」
('A`)「見てな。次に会う時は第九王位だ」
从 ゚∀从「知らねぇよんなもん。好きにしてくれ」
('A`)「はいはい。んで……お前はどうすんだ?」
从 ゚∀从「いつも通りさ。のらーりくらーりとやりたいようにやるだけさ」
-
('A`)「ブーン」
从 ゚∀从
('A`)「お前と仲良いよな? お前にしちゃ珍しいじゃん。まぁこうやって俺が話してるのも、少し前には考えられなかったけどよ」
从 ゚∀从「…………」
('A`)「あいつ、誰かが見てやらねぇと駄目になっちまうぜ。半端に力を付けちまった。いい夢を見れそうな程度にな。どこのどいつが手解きしたのか知らねぇけどさ」
从 ゚∀从「……気になるなら、お前が見てやりゃいいじゃんよ」
('A`)「生憎、これからはそんな余裕もなさそうだ。お前どうせ暇なんだろ?」
-
从 ゚∀从「……暇だけどさ」
('A`)「けどなんだよ? 気持ち悪い声出しやがって」
从# ゚∀从「うるせーなぶっ殺すぞ!」
从# ゚∀从
从 ゚∀从「……はぁ」
('A`)「……はぁ?」
从 ゚∀从「いいよ、多分あいつは俺のこと嫌いだからさ」
('A`)「……ますます意味わかんねぇよ。まぁ好きにしてくれ」
从# ゚∀从「死ね!」
(;'A`)「うわっ、爪立てんなバカ!」
-
商業区 某喫茶店
ζ(゚、゚*ζ「あーあ、ジョルジュさんやっちゃいましたね」
(`・ω・´)「やっちまったな」
ζ(゚、゚*ζ「んで、どうするんですか 正直私、シャキンさんって王位の中でどういう立ち位置なのかよく分かってないんですよね」
(;`・ω・´)「遠回しに影が薄いと言われて流ような気がするんだが……」
ζ(゚ー゚*ζ「いや、実力に関しては尊敬してますよ。"デスサイズ"でしたっけ? あまり戦いたくないですし」
(`・ω・´)「しかしやれと言われればやるんだろ?」
ζ(゚ー゚*ζ「それは、まぁ……」
ζ(゚ー゚*ζ「でも貴方は勝ちの目が薄い戦いはしない。そうでしょう?」
-
(`・ω・´)「まぁ、メリットとデメリットを天秤にはかけるさ。俺だって無駄死にはしたくない」
ζ(゚、゚*ζ「メリットが上回ればやるってことですか?」
(`・ω・´)「そうだな……」
(`・ω・´)「だが、リスク云々を語って、こんな不条理を突き付けられたまま退くほど男を捨ててはないつもりだ」
ζ(゚ー゚*ζ「へぇ、なんか物凄くバカっぽいですね。男らしさって」
(`・ω・´)「はは、そうかもな。女から見たら、男ってのは皆馬鹿なのかもしれない」
ζ(゚ー゚*ζ「大馬鹿ですよ。まったく……ジョルジュさんも」
-
(`・ω・´)「しかし、そんな馬鹿に付き合ってみるのも一興だとは思わないか?」
ζ(゚、゚*ζ「と、言いますと?」
(`・ω・´)「単刀直入に言う。お前、俺と手を組め」
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚;ζ「はい?」
(`・ω・´)「まぁそう構えるなよ。俺だって二人で神風特攻してくれと言ってるんじゃない。ちゃんと考えがあって言ってるんだ」
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚*ζ「はぁ……」
ζ(゚ー゚*ζ「でも、何で私に?」
(`・ω・´)「お前が一番、王位の中では打算的な性格っぽいからな」
ζ(゚、゚#ζ「うわっ、なんかその言い方棘がありますね」
(`・ω・´)「まぁそう気を悪くするな。何か注文しろよ。奢ってやる」
-
第五ブロック スタジオ
( ´_ゝ`)「yeah from王位 だがならねぇぜ客寄せパンダ まずはしっかりかませやライミング 俺がこの場の台風の目 俺に勝ちたきゃ韻を倍踏んどけ」
( ´_ゝ`)「俺が来たからにゃお前は終わり ステージの上から飛び降りろ 持ってくぜお前をゴミ処理場 圧勝して一躍時の人」
(´<_` )「e yo お望み通り倍の倍踏んでやるぜ見せるぜ気合の違い これがライムのド突き合い」
(´<_` )「お前はそのマイクが特技かい? ぱっと見特に無いな印象 お前は俺には勝てない一生 それじゃロックは出来ない会場」
( ´_ゝ`)「はいはい出ました特に無い印象 誰にでも出来る浅いバイブスで気取るダサいヤツ そういうとこがネタくせーんだよ like a ひきわり納豆」
( ´_ゝ`)「ぶちかますこいつに右ラリアット いきなり圧倒しちまって悪いな? 浅はかなお前の頭1mm大にカット」
-
( ´_ゝ`)「はぁ……」(´<_` )
( ´_ゝ`)「なんだ弟者、そんな溜息吐いて」
(´<_` )「そういう兄者も溜息吐いてるじゃないか」
( ´_ゝ`)「だってそりゃそうだろうよ。なんだよこれ、俺が王位になった途端全面公表って」
(´<_` )「夜道には気を付けないとな」
( ´_ゝ`)「だよなぁ……マイメンに背中刺されるなんざ、考えたくもねぇよ」
(´<_` )「そうならないようにどうにかしないとな」
-
( ´_ゝ`)「どうにかってどうするよ」
(´<_` )「当面は、それを考えることになるだろうな」
(´<_` )「王位の連中の中には、話出来そうな奴はいないのか?」
( ´_ゝ`)「モララーとギコ辺りかなぁ……つってもよく知らねぇし、連絡先なんてわかんないからなぁ」
(´<_` )「つまり当面は受け身でやり繰りするしかないってことだ」
( ´_ゝ`)「そゆこと」
( ´_ゝ`)(´<_` )
(;´_ゝ`)「はぁ…………」(´<_`;)
-
ジョルジュは放送を切った後、作業机に鎮座したまま、腕を組んで満足そうに監視モニターを眺めていた。
_
( ゚∀゚)「はっはっはっ。いーねいーねぇ、絶景だ」
モニターに映し出されているのは、過激派の生徒が街で暴動を起こしている場面だ。
初めは一発の銃声だった。
蜘蛛の子を散らしたように、パニックを起こして逃げ惑う生徒の波の中で、同調して気を狂わせる者、そんな彼等を止めようと果敢に挑む者とが入り乱れ、大多数の力を持たない生徒達は蹂躙されてゆく。
爪'ー`)y-「革命家にでもなるつもりかい?」
_
( ゚∀゚)「はっ、まさか」
フォックスの皮肉を軽く笑い飛ばし、ジョルジュは腹筋の力だけで座った姿勢のまま机を飛び越えた。
-
_
( ゚∀゚)「革命ってのはよ、この世で一番の大罪だと思うんだよ」
爪'ー`)y-「その通りだ」
人類の歴史を紐解けば、大量の死人を出した咎はいくらでも出てくる。
大量殺人。暴動。戦争。etc...
それらを引き起こす主たる原因は、革命、変化を望む心だ。
現状を統治する者、賛同する全ての者を滅ぼし、礎だけが残った母体に取り残された生き残りは、やがて激動する環境に淘汰され、並べて滅びる。
蓋の無い、水を湛えたバケツをひっくり返したところで、底と頂点が入れ替わるわけではない。
残るのは、バケツをひっくり返した者だけだ。
_
( ゚∀゚)「俺がやってるのは革命じゃなくて扇動だ。VIPっていう母体も、形作る要素も嫌いじゃねぇぜ」
-
_
( ゚∀゚)「水が入ったバケツをそのままにしたってよ、底に塵が溜まっちまうだろ? こうやってさ、定期的にかき混ぜてやらねぇとな」
爪'ー`)y-「なるほどね」
フォックスは異論を唱えようとはしなかった。
ジョルジュの論はあまりにも抽象的で、幼稚なものだった。
深く考えず、ただ自分の気の赴くままに動く。
だからこそ捉えられる本質もある。
爪'ー`)y-「……面白い。素直クールを屠らず、敢えて一緒くたにかき混ぜてやるわけだ」
湛えた水が多ければ多いほど、波は大きい。
素直クールという水をかき混ぜて起こる波がどれだけ大きいか、フォックスは純粋に興味を抱いていた。
だから彼はジョルジュに一切口を挟まない。
所詮彼もかき混ぜられる水に過ぎないのだと、フォックスは言わなかった。
-
その翌日――
第九王位の椅子が覆った。
.
-
おわり。何が書きたかったかというと可愛いブーンが書きたかった。でもこの御時世オフでプライベートで使わないよね。あと天上天下好きです。おやすみ。
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乙
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いつの間にか弟者合流してたんだな乙
>>682は九枚しか顔写真ないのに十枚の紙って書かれてるのは仕様なんだろうか……
あと>>703の流ようなって所も誤字ってるっぽいな
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毎回毎回いちいち細けえ野郎がいるなwww
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あれー…ここ手直しした記憶あったのに寝ぼけてたんかな。
一応名簿から十枚(自分のを含めて)破ってるけど並べてるのは九枚でよろしく。
あと流は「る」の誤変換かな
カーチャン毎日誤字るからね……カーチャンそそっかしくてね……まぁ毎回指摘くれるから心置きなくノーチェックでぶち込んでる感はある、いつもあんがと
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ジョルジュ一番好きだなぁ
小物で終わらないでほしい
おつ!
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おつ次もわくてか
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本当にクソ細けえなwww
察して終わりでいいだろうとww
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http://i.imgur.com/M6OReBQ.png
イメージを損ねまして申し訳ない
キャラが魅力的で読みやすくて面白い
次も楽しみにしてます
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>>721
うまい
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そりゃブーンも惚れるわ
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シャキンの存在割と忘れてた
ところで過去作とかある?
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支援絵ありがとう、すごく嬉しい
ケータイの待ち受けにしちった。
もしよかったらツイッターのアイコンとかで貰い物ですって記載して使ってもええかな
過去作は百物語で投下したある呪いのあとのようですってやつと今創作板に残ってる生きるようですってやつ、あと総合短編で投下したζ(゚ー゚*ζピロートークのようですってやつと現行で今やってるo川*゚ー゚)o宇宙からの侵略者のようです('A`)ってやつ。
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某犬の絵を思い出した
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ほんと筆速いな
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>>725 ドゾ 光栄です
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ショボン負けたのかよ
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>>721
すげぇ
恐さとエロさが
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最後の一文だけで引き込ませるよな
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面白い。
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明日か明後日辺りに投下
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よく二作品平行でペース保てるな……
楽しみに待ってる!
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よよよ
-
第十六話「至る領域。それに伴う一陣の風。」
.
-
逃げて、逃げて、逃げて、逃げ続けた十六年間だった。
.
-
(´・ω・`)「やれやれだ。今日で何人目だい? 君には見えないのかな。この、足元に散らばる野蛮な人達の亡骸が」
ショボンは嘆息する。
うんざりしていた。
昨日のジョルジュによる王位の公表を境に、自分の顔を見るなり飛び掛かってくる輩が後を絶たないのだ。
ショボンの足元には強い衝撃で打たれ、潰れたトマトのような肉片と化した骸が三体転がっていた。
それらの上に垂らすように、鎖で連なる羅刹棍がとぐろを巻いている。
ワイシャツとニットのベストはたっぷりと血を吸っていた。
一歩、また一歩とショボンは踏み出す。
その度に滴り落ちる血、羅刹棍が引き摺る血が、彼の凄惨な足跡を刻む。
( ゚д゚ )「亡骸などとうに見飽きたわ」
校舎塔の窓の縁に張り付く形で、ミルナは、修羅の如き闘気を迸らせるショボンを見下ろす。
着流しの胸元から右腕を抜き、露わになった何も纏わぬ右上半身をショボンに向け、腰に差した刀の鞘に指をかけた。
-
校舎塔からミルナの姿が消え、ショボンは身構える。
抜刀――
刹那に煌めくその一閃から、ショボンは彼の動きを察知していた。
羅刹棍を引き、身を翻す。
鎖に手繰られたヌンチャク状の棍が連結し、長棒へと姿を変える。
不可視の斬撃がショボンの肩を僅かに掠め、散らばっていた肉片が吹き飛び、血飛沫が舞い散った。
(# ゚д゚ )「破ッ――!!」
頭上から唐竹割り。
その太刀筋はショボンの正中線を沿って、彼の胴体を真っ二つに分かつように振り下ろされた。
(´・ω・`)「破岩龍爪――」
ショボンは受けの構えを取らない。
上体を大きく引き、無防備になった身体をミルナの太刀の軌道に曝け出す。
腰を深く落とし、羅刹棍を握る手に力を込める。
-
まさかのミルナ
-
(´・ω・`)「一薙ぎ――」
背負い投げの要領で、背後に構えた羅刹棍を半円状に振り下ろす。
細く、真っ直ぐな軌道が、ミルナの太刀と重なる。
( ゚д゚ )「――ッ!」
刃と羅刹棍が触れ、火花が散る。
ショボンの一撃は速い。
速いが、愚直ゆえに読み易かった。
手首を押し出し、羅刹棍が太刀を叩き折るその力に逆らわぬよう、刃を滑らせる。
身を捻り、棍の軌道から身体を逸らす。
地面を砕いた棍が礫を撒き散らし、ミルナの姿を覆う。
( ゚д゚ )「昇り疾風――」
懐に潜り込んだ。
羅刹棍は無用の長物と化す。
舞い上がるように太刀風が吹いた。
-
羅刹棍が分裂し、鎖が露わになる。
ミルナの脇の横で折れた棍を引き寄せ、ショボンはミルナの逆袈裟斬りを受けた。
(´・ω・`)「ちっ――」
太刀風はショボンの前髪を揺らした。
激しく散った火花が消えるよりも速く、ショボンはミルナを押し返す。
ミルナはそれに逆らわない。
風に煽られる木の葉の如く、押し返してくる力に乗って後ろに大きく跳躍した。
( ゚д゚ )
(´・ω・`)
暫し、見つめ合う。
達人と呼ばれる手合い同士の戦いにおいて、瞳とは口以上にものを語る。
一人、また一人と屠り、骸の山を足元に築き上げる過程で、誰もが自然と身に付けるコミュニケーションだ。
-
( ゚д゚ )「王位ともあろう者が……」
太刀を鞘に納め、ミルナは腰を落として居合の構えを取る。
( ゚д゚ )「えらく逃げ腰なのだな」
そして侮蔑の言葉を吐く。
だが、同時にショボンの強さは認めていた。
一合の斬り合いという刹那の中でもありありと伝わってきた、彼の思念。
戦いたくないという逃げの姿勢は、生への強い執着心か、或いは他者を徹底的に排斥する唯我への求道か。
歪だが、固い強さの形。
それがミルナの求道に反するものだとしても、認めざるを得なかった。
(´・ω・`)「挑発のつもりかい?」
羅刹棍を解体し、真上に振るう。
ヌンチャクのように鎖で連なる棍は、ショボンの頭上で蛇のようにうねる。
-
(´・ω・`)「どいつもこいつも王位王位、身の程知らずはこっちの都合なんて考えもせず、ずけずけと踏み込んでくる」
(´・ω・`)「果敢な挑戦、なんて都合のいい感覚に託けてやれ戦え、首を貰うだの……」
( ゚д゚ )「貴様もそのようにして今の椅子についたのではないのか?」
(´・ω・`)「はっ、憶測だけでものを語らないでくれないかな。僕の目が気に入らない。そんな理由で因縁をつけてきたゴミを払ったら、いつの間にか王位だのなんだのと祀り上げられていただけだよ」
(´・ω・`)「こんな血濡れの薄汚い椅子……最初から興味なんて無い」
足元の肉片に唾を吐き捨て、ショボンは不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。
もう勘弁してくれと、何度毒づいただろうか。
彼が生涯の中で、自発的に殺したいと願う男はただ一人、兄のシャキンだけだ。
モララーやクーでさえも、彼にとっては理解する気も無い有象無象の一つでしかない。
-
( ゚д゚ )「ならばその得物を納め、俺に王位を譲ればいい」
( ゚д゚ )「戦う意志が無い者に王位の座は相応しくない。そうは思わんか?」
鋭く言い放つ。
それはミルナの、自分自身に対する戒めでもあった。
ドクオを相手に五分以上に立ち回り、慢心していた。
前評判から負けても命を取られることは無いだろうと、そんな卑しい打算を元にジョルジュに挑み、剰え無様に背を向けて逃げ出した自分。
それはミルナにとっての汚点であり、同時に力の礎となった。
一度折れた刀は打ち直しても元には戻らない。
だが心の刃は、何度折れても、完膚無きまでに打ち砕かれようと、幾度でも蘇る。
そのようにして、闘志とは練度を増す。
そのようにして、心に"龍"は宿る。
コロセ――
うなじをちりちりと焼く衝動を噛み砕き、ミルナはそれを己が闘志に変換する。
-
(´・ω・`)「ふん……」
羅刹棍を牽制するように振り回しながら、ショボンは鼻を鳴らした。
(´・ω・`)「聞き飽きたよその言い分は。飽くなき挑戦こそ美徳。それが出来ない者は去れ」
(´・ω・`)「盗人猛々しい。結局はこの椅子が欲しいだけじゃないか」
(´・ω・`)「王位になんか興味は無い。けれど一人で誰の自由も脅かさずに生きているこの僕が……」
(#´゚ω゚`)「お前らみたいな俗物にこれ以上譲歩してやる義理はねェんだよ!!」
( ゚д゚ )「――ッ!!」
咄嗟に身を屈める。
ミルナの頭上を鎖が掠めてゆく。
(´゚ω゚`)「死ねや!!」
既に眼前に迫ったショボンの蹴りに、ミルナは反応することも出来なかった。
顎を打たれ、大きく宙に浮いたミルナに次の手が迫る。
-
(´゚ω゚`)「破岩龍爪――」
六つの棍がショボンの手に集まり、連結される。
それでも鎖は長く、宙のミルナを射程に捉えるように、左右に二つの棍を飛ばす。
(´゚ω゚`)「二噛みッ!!」
棍を引き上げる。
両端の棍の軌道の先にはミルナ。
(; ゚д゚ )「ちっ――」
太刀を鞘ごと抜き、身を捻って右手側から迫る棍と対面する。
それを鞘で受けると同時に、ミルナの肩に衝撃が走った。
骨が軋むような嫌な音がした。
衝撃は波のように、打点を中心に爪先まで広がる。
脳が揺れ、息が詰まり、ミルナの視界の端は一瞬だけ滲んだ。
そのまま大きく薙ぎ払われる。
地面に叩きつけられるすんでのところで受け身を取り、棍から逃れるように転がった。
-
地面が砕かれる。
飛び散る礫の向こう側、間合いの中に、ミルナは激昂するショボンを見た。
(´゚ω゚`)「おらおら休んでんじゃねェぞ糞ガキがああああああッ!」
(´゚ω゚`)「六穿ちッ!!」
ショボンの手元の棍から伸びる鎖はミルナの頭上に。
分かれた六つの棍が降り注ぐ。
(´゚ω゚`)「死にくされええええええッ!!」
それは上空から降り注ぐ爪。
岩をも破る龍の爪だ。
その爪にかかれば、刃を持たない棍といえど、容易くミルナの身体を貫くだろう。
( ゚д゚ )
ミルナは呼吸することすらままならなかった。
目を見開き、降り注ぐ龍の爪を見る。
激昂に形相を歪めるショボン、舞い散る粉塵。
刹那で命のやり取りをする世界を乗り越えてゆく。
その原動力は、覚悟。
鞘から、刃は居抜かれた――
-
校舎塔の最上階。
本来ならばここは二年生の校舎塔であり、一年生であるドクオが堂々と居座って煙草を喫っている姿を見て、訝る者は少なくない。
だが、そのようにして彼に視線を向けた者は、皆射殺された。
('A`)「手間かけさせんなよ。……ったく」
革のトレンチコート。
真っ黒なそれは返り血を浴びてもあまり目立たない。
全力で臨む戦闘における、彼の一張羅だ。
その内側に隠された無数の武器を使うまでもなく、この階を通ろうとした者はナイフ一本で皆惨殺された。
足元には五体の死体が転がっている。
そのうち一つの頭を掴み、胸元から腹部にかけて、深く刺し込んだナイフで縦に裂く。
中から顔を出した内臓が零れないように腹部を上にして抱きかかえ、階段の踊り場へ放り投げた。
階段を転げ落ちるごとに腸を撒き散らす。
階段にへばりついた腸はロープのように、段差に張り付いた。
踊り場には血と内臓がぶち撒けられ、断末魔を上げる前に首を切られた男の悲痛の表情。
これを見て、それ以上歩を進める輩はいないだろう。
見開いた眼だけが、ドクオを見上げていた。
-
('A`)「どれどれ……」
窓を開け、サッシに足を乗せた状態で見下ろす。
ミルナとショボンの鍔迫り合いを。
遥か下方で戦う二人は、ドクオの手の中に収まるほど小さかった。
達人同士の死闘。
高尚な命のやり取り。
会話を越えた極限の意思疎通。
くだらない――
ドクオは真っ直ぐ下方に伸ばした手を握り、視線の向こうの二人を握り潰した。
力の比べ合い。
そういう意味での戦いについては、ドクオ自身も望むところだ。
だがそれはあくまで、個人間の優劣を決める手段でしかない。
そこに高尚な意義や志を見出すことに、彼は共感出来なかった。
-
力を追い求める求道者にも、血に飢えた修羅になることも出来ない。
そしてドクオ自身も、それを望んではいない。
殺し屋として、時には残忍な手口で無抵抗の人間を殺すことすらあった。
より高みを目指す為、リスクを冒して不利な状況下に飛び込むこともあった。
しかしそれは、あくまで王位に到達する為の手段でしかない。
クライアントからより残忍な殺しを頼まれればその通りにする。
それは王位を取る為の活動資金を稼ぐ為だ。
リスクを冒してまで高みを目指す。
それは王位を取るのに力が必要だからだ。
何もせず、ただ善良な一生徒として過ごしていれば自然に王位を継承出来るというなら、闇社会を牛耳ることが出来るというなら、彼はそのようにする。
波風立てず、ブーンと毎日ペストで談笑しながら、呑気に生活することを選ぶだろう。
-
そして今、彼は王位を取る為にここにいる。
以前より綿密にショボンについて調べていた。
破岩龍爪棍術――
その起源は戦国の世まで遡る。
一対多数を前提とした、実践に即した武術だ。
だがその人間離れした動きを要求される型。
複雑な構造で、扱う際には瞬時の状況判断と手捌きが求められる羅刹棍を扱う武術故に、細く、実しやかに受け継がれてきた。
ショボンが何故そのような武術に精通しているのかまでは、ドクオには分からなかった。
だがこの流派の真髄は、今までに彼が窺ってきた小競り合いのような戦闘の中でも見て取れた。
近、中距離間の戦闘において無類の殲滅力を発揮する破岩龍爪棍術。
ドクオは、自分だからこそ彼に勝てる。
そのように判断した。
-
ミルナにショボンは倒せない。
ミルナと戦ったことがあるドクオだから弾き出すことが出来る解答だ。
破岩龍爪の八本の爪は、まさに空間を掌握する巨大な龍の爪。
ショボンほどの達人ともなれば、その爪を自分の身体の一部であるように行使することなど容易いだろう。
どれだけ速く動こうと、どれだけ速く剣を振ろうと、一本の刀で龍の爪を全て受けることは出来ない。
('A`)「精々頑張ってくれよミルナ。生きてりゃ、いつか第九王位を賭けて戦ってやるよ」
下方の鍔迫り合いに向けて、呟く。
結果は見えている。
だがミルナが善戦すればするほど、彼の直後に奇襲を企てている自分にとっては都合が良い。
捨て身で腕の一本でももぎ取ってくれれば――
絶望的な相性の悪さを覆し、一矢報いる腹切り精神。
それを潔いとも、高貴だとも思わない。
だが侍にのみ許される死に様だ。
ミルナの性格をよく知るドクオは、その最高に都合の良いケースが起きる可能性が、そう低くはないと考える。
不敵な笑みを、抑えることが出来なかった。
-
刀の呼吸が聞こえる――
その表現が適切ではないことを、ミルナは理解していた。
だがそうとしか形容出来ない。
今まで、経験したことがない感覚だった。
(´゚ω゚`)「貴様……」
六つの爪が振り降ろされ、粉塵は遥か上空まで立ち昇っていた。
ミルナの姿はその土煙の向こう側で、霞んでいる。
しかし、平然と立ち尽くしていることは分かった。
(´゚ω゚`)「何をした……?」
羅刹棍を引き、連結させたそれを大きく横に薙ぐ。
発生した突風が土埃を払った。
(´゚ω゚`)「何をしたと聞いている!!」
怒号。
芯は太く、聞く者をすくみ上がらせる声。
しかし、その声が僅かながら震えていることを、ショボン自身が自覚していた。
-
( ゚д゚ )
(´゚ω゚`)
刹那を薄く引き伸ばしたような感覚。
ショボンの怒号さえも、ミルナにはか細く聞こえた。
音が、視覚が、太刀を握る手の感触が、瞬く間に薄くなってゆく。
遮るものがない、大量の水を湛えた器に身を投じて微睡めば、きっとこのような感覚になるのだろう。
ミルナの思考は既に身体から乖離し、遥か上空で見下ろす神の視点に至っていた。
それは原点回帰。転生。
そうだ。ここは海だ――
そんな突飛な思考を皮切りに、ミルナの時間が加速する。
ペンキをぶち撒けたような視界が歪に生まれ変わる。
海。花畑。悠久なる山脈。深き地の底。建ち並ぶビル群。空に浮かぶ城。
全て、全てを超越する。
世界のアルゴリズムに溶け込む。
純白の羽根が視界を覆い、弾けた――
-
从'ー'从「おはよう」
見渡す限り広がる大草原だった。
遥か向こうの地平線がはっきりと見える。
空は、海をそのまま移したように、青く澄んでいる。
風が吹き、ミルナの髪を撫でる。
つんと草の匂いが香ってきた。
( ゚д゚ )
ここはあの世なのだろうか。
そう錯覚してしまうくらいに、五感を満たす凡ゆる要素が、ミルナの心に安らぎを与える。
降り注ぐ陽射しを、ミルナの背後に聳え立つ大樹が遮る。
枝葉の隙間から僅かに差し込んでくる木漏れ日は、ミルナの隣で座り込んだ純白のドレスの少女の頬を燦々と照らした。
-
( ゚д゚ )「お前は……?」
从'ー'从「名乗る必要は無いと思うの。貴方はもう、私を知ってるから」
( ゚д゚ )「…………」
聞く者全てを微睡みに誘うような、優しい声。
普通ならば怪訝に思うその返答さえも、胸にすっと染み入ってくる。
( ゚д゚ )「そうかもしれないな」
抜き身の太刀を鞘に納め、ミルナは少女の隣に座り込んだ。
風が、少しだけ強くなる。
少女の、透き通るようなブロンドの髪がミルナの肩をくすぐるように靡く。
手招きをしているようだと、ミルナは思った。
从'ー'从「ミルナはいつも誠実で、曲がったことが大嫌い」
不意に自分の内面について言及され、ミルナは少女の方を見た。
同じように、少女もミルナを見つめていた。
二人の視線が真っ直ぐ、お互いに触れ合う。
少女は微笑んだ。
-
从'ー'从「世界はこんなに歪んでいるけど、道は見えなくなるけれど、刀は、きっと真っ直ぐ道を示してくれるって信じてる」
( ゚д゚ )「その通りだ」
少女に応え、ミルナは鞘を強く握った。
ミルナの意志を汲むように、鞘の内側が少しだけ温かくなった。
少なくともミルナには、そのように感じられた。
从'ー'从「不安で押し潰されそうな時は、人と解り合えない時は、その子をぎゅっと握りしめるの」
从'ー'从「そうすることで、抱きしめてもらえた時みたいに、安心することが出来るから」
( ゚д゚ )「…………」
ミルナの目付きが変わる。
少女の頬を刺すのは、射抜くような鋭い視線だ。
少女の薄い唇が、少しだけつり上がる。
从'ー'从「寂しがりやなミルナ。可哀想なミルナ。大丈夫だよ。貴方はもう知ってるの」
从'ー'从「抱きしめられる温もりを。小さな自分すらも認めてくれる、暖かい光を」
-
二人は見つめ合う。
ミルナは、少女の言葉を違うと否定することが出来なかった。
最適解を探す思考すらも億劫になり、感覚は微睡んでゆく。
風は強くなった――
从'ー'从「大丈夫、大丈夫、大丈夫」
大樹の幹が、みしみしと音を立てて崩れ落ちてゆく。
ミルナの視界には少女の、貼り付けたような笑みしか映っていない。
だが大樹が崩れてゆくのは、手に取るように分かった。
風が吹く。強く、強く――
从'ー'从「世界は貴方が思うほど歪んでないから。道が途切れる事に怯えなくていいから」
視界の端が滲み、手足が溶けてゆく。
不安は無かった。
元からそうであったように、あるべき姿に帰るように、その変化の果てに何があるのか、ミルナは産まれた時から知っていた。
-
从'ー'从「全部、繋がってるんだよ。同じなんだよ。私も、ミルナも、世界も」
殺せ――
从'ー'从「もう誰かの手を握らなくても大丈夫。いつだって私は見てるから」
殺せ、殺せ、殺せ――
从^ー^从「全ては貴方の為にある。だから、怖くないよね?」
殺せ。
コロセ。
コロセ。コロセ。コロセ。コロセ。コロセ。コロセ。コロセ。コロセ。コロセ。コロセコロセコロセコロセコロセコロセ!!
コロセ――
( ゚д゚ )「ああ」
既に五感は正常に機能していなかった。
空っぽな頭の中に、次々にぶち撒けられた様々な色。
身体は包まれている。
繭に、覆われている。
ここから出る方法を、ミルナは知っていた。
だから手を伸ばした。
コロセ。
何処までも遠く、遠くへ――
-
(# ゚д゚ )「ああああああああああああああああああああああああッ!!」
天まで届かんばかりの咆哮を上げる。
にじり寄っていたショボンは思わず足を止めてしまった。
(´・ω・`)「――っ!」
大気が痺れるのを肌で感じる。
そして即座に悟る。
彼は既に、数秒前までのミルナとは異なる存在に変貌したのだということを。
(´・ω・`)「龍と会ったか」
つまらない男だと思っていた。
型にはまった強さの域を出ない剣客風情。
せめて一思いに殺してやろうとすら考えていたほどだ。
ここから先は、人間とはこのような生き物だと、そうして定められた絶対的な領域から外れた者同士の戦い。
面倒なことになったと、ショボンは胸中で毒づいた。
だが、油断や慢心は微塵も無い。
-
(´゚ω゚`)「うぜぇうぜぇうぜぇうぜぇうぜぇうぜぇうぜぇうぜぇうぜぇうぜぇッ!! 大人しく僕にぶち殺されろ!」
羅刹棍を引き、四分割に組み替える。
一本の棍を強く握りしめ、ショボンは地面を蹴った。
(´゚ω゚`)「破岩龍爪、三搦めッ!」
三本の爪を投擲する。
龍の爪はミルナの胴を捉えんと宙を疾駆した。
真っ直ぐ迫る爪は、相手から見ると実際よりも大きく見える。
左右に逃れる一歩を踏み込む地点に向かって二本の爪が飛び、真っ直ぐ、速く飛ぶ爪は後退を許さない。
音が鳴る――
凛とした、鈴の音に似たような、世界に波紋を落とすような、澄んだ音だった。
-
三本の爪が弾け飛んだ。
振動はショボンの手まで伝わり、痺れるような感覚に思わず羅刹棍を引く。
(;´゚ω゚`)「……っ!」
風が吹く。突風だった。
頬に刺すような刺激を感じ、指先でなぞる。
一筋の傷が出来ていた。
( ゚д゚ )「…………」
ミルナは四足獣の如く、地面すれすれまで垂らした頭を擡げ、鋭い目付きでショボンを捉えている。
柄に僅かに触れた指先。
固く鞘を握る左手には血管が浮き出ている。
剣客ミルナの、最も馴染む臨戦態勢だった。
(´゚ω゚`)「…………」
ショボンは大きく後退した。
鬼のような形相を浮かべていながら、思考は透き通るほど冷静だった。
-
間合いはどこだ。
初撃の、飛ぶ斬撃ならば楽に捌ける。
だがその他の攻撃手段が測りかねる。
振り下ろし。薙ぎ。払い。突き。逆風。
どのようにして詰める?
どのようにして受ける?
(´゚ω゚`)「破岩龍爪――」
導き出した答え。
それは己が持つ技の中で最上のカウンターだった。
破岩龍爪四食み。
棍を四本に分け、握り締めた二本を相手に突き出す。
そこから垂れた対の爪は相手の牙を薙ぐ爪。
どのように攻めてこようと、その斬撃はショボンの手首の動き一つで捌かれる。
そして、奥で控える二段構えの爪が敵を穿つ。
-
(´゚ω゚`)「四食みッ!!」
羅刹棍を振り下ろす。
不可視の斬撃とぶつかったそれを中心に、大気の壁が弾け飛んだ。
地面を蹴り、八つの牙を纏う。
( ゚д゚ )
穿つ――
狙いを定めて駆る。
完全に視線で捉えていたはずのミルナは――
ショボンの視界から消えた。
切り返す余裕など無かった。
それに気付いた直後、ショボンの視界は下の方から赤く染まった。
それが自分の胸から吹き出した血だと気付いたのは数瞬後のこと。
(´゚ω゚`)「な…………」
( )「風斬り……」
ミルナはもう一度、己が牙の名を告げる。
背後からミルナの声が聞こえるのに、振り向くことが出来ない。
ショボンの爪は宙を舞う。
-
ミスった
-
力を示してみろ。
龍に見染められて得たその力を。
その牙すらも叩き折り、唯我に近付くだけだ。
(´゚ω゚`)
( ゚д゚ )
対峙する二人の闘気は大気を震わせる。
二人の世界には、死が蔓延っている。
牙で闇を食み、爪で引き裂く。
全てはその先にある生の光を掴み取る為に。
( ゚д゚ )「風斬り――」
抜刀。
最早その速度は目で追えるようなものではない。
人の域を超越し、龍として飛翔する男が放つ超神速の一撃。
それは眩い光のように見えた。
ショボンは退かない。躱そうともしない。
刹那、地を這う不可視の斬撃――
-
>>765と>>767は順番が逆
-
( ゚д゚ )「黒旋(くろつむじ)」
.
-
ミルナの納刀と、ショボンが膝を折るのは同時だった。
胸から発せられる痛みと熱に顔を歪めながら、ショボンは自分の周囲の空気が切り裂かれる音を聞いた。
(´゚ω゚`)(初撃はフェイク……くそっ……)
不可視の斬撃は牽制に過ぎなかった。
それを防ごうが防ぐまいが、本命のつむじ風が襲いかかる二段構え。
そんな小細工さえも叩き折ってやる自信はあった。
ただ、風はショボンの想像を上回るほど速かった。
それだけだ。
(´゚ω゚`)(クソが…………)
上体が傾く。
ここで倒れるのか?
否、そんな結末は認めない、断じて認めない――
(´゚ω゚`)「クソがああああああああああッ!!」
ショボンは自分の脇腹にある痣が熱く、燃えるような熱を孕むのを感じた。
-
まだだ――
片膝をついた状態で羅刹棍を振り上げる。
龍の爪は折れてはいない。
兄を、シャキンを殺すまでは死ぬわけにはいかないのだ。
何度でも何度でも立ち上がる。
無様に食らいつく。
そして生き延びる。
襲いかかる刃は全て叩き落とす。
(´゚ω゚`)「あああああああああああああああああッ!!」
ショボンの咆哮に応じるように胸から血が吹きこぼれる。
構うものかと、ショボンは痛みを咬み殺す。
そして、立ち上がった。
背後で佇む清廉なる闘気にぶつける修羅の覇気。
肉体の限界など、この修羅には存在しない。
力強い足取りで振り返る。
( ゚д゚ )「天晴れだ」
ミルナは心からの賛辞を送り、刀を抜いた。
-
切り結ぶ二人の修羅――
這い寄る影は、一つでは無かった――
.
-
はっぴー?はろうぃん。お菓子代わりの投下だ。おやすみ。
-
気になるところで!!!!!
乙!
-
てっきりどっくんがやったのかと
乙
-
ショボンがかませなのはちょっと残念だな
-
なんちゅう所で切りやがる……
乙!!!
-
ドクオ涙目な展開に期待おつ
-
ショボンが思ったよりもかませで弱かったなぁ……
9だし妥当か
-
ショボンは咬ませくさいが、兄者の王位戦から見ても順当か。
-
龍がチートすぎるだろ
別人レベルになるじゃねーか
-
何となくミルナが好きになれない今日この頃
-
俺もこのミルナはなんか好きくないな
-
俺がいる
特に悪いところないのになんでだろうな
悪いところがないからか
ショボン応援しちゃうわ
-
そう、悪いとこがない。個性が薄くてね。ただ強いだけみたいな。
-
しかもクーの下位互換的な。
言われたい放題カワイソス
-
何と無く敬遠してたけどここまで一気読みした
バトルの中じゃ稀に見るハイクオリティだな
-
続き気になるわー
-
今が楽しければもピザ推しか
ピザ食いたいし続きも期待
-
ミルナは兄者よりもハッキリと龍と会話してるよな
そういうのもなんか関係あるのかな
-
ただの風邪と思いきや予想以上に体調不良が長引いてるのでちゃんと治るまで少し休みます。侵略者の方も少しお休み。
-
お大事に。ゆっくり休んでください
擬人化注意 ( ^ω^)
http://i.imgur.com/etHNBkA.jpg
-
ゆっくりでいい
待ってる
-
いきろ!
-
>>792
かっこいいなあこれブーンか
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めっちゃ楽しみに待ってるけど、まずはゆっくり身体治してな
-
乙
-
乙!
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幾分か具合も良くなったので書き溜め始める。
-
year
-
odai-ziny
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あんまり無理して根気つめて書け
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ろくろ首になりそうに待ってた、クッソ楽しみ
-
wktk
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まだっあああああおおお?
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次はクリスマスプレゼントかな?
-
ダメなのか
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待ちきれないよおおおおおおおお
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これでクリスマスに投下来たら最高なんだが…
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だめか
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ピタッと止まったなー
-
まだかな…(´・ω・`)チラッ
-
来たのかと!!!!来たのかと!!!!!!
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来たのかと思ったじゃねぇかフザケンナ
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3レスついてたから予告でも来たのかと思ったわちくしょう
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あげんなとしつこく言われる理由がわかった
わかったか>>1!!早く投下しろ!!
手遅れになっても知らんぞーーーーー!!
-
お前らもレスすんなよ
勘違いしちゃったじゃんかあああああああああ
-
ここまでブーメラン大会
そして俺は新しいブーメラン投擲者を釣るための罠師
-
そろそろ3ヶ月経つのか
-
支援曲?を作りました。
再開を楽しみにしてます。
https://youtu.be/-c3XqxQ_j2A
-
歌付きの支援曲ってスゲーな
-
すごすぎワロタ
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かっこいいなおい、映画化テーマソングかよ
-
sageはメール欄な
-
かなりこの作品のイメージに近い。完成度もだし、なにより情熱が伝わってきて素晴らしい
>>1に届いてるといいな
-
すげぇえなこの歌w
がちなやつじゃねーか
-
ガチ過ぎるブクマした
-
程よい厨二感、嫌いじゃない
-
ここまでガチの支援初めて見た
-
こんな情報を入手しました!
極秘情報です。
マイナンバーの○○○
↓↓↓↓↓↓↓
http://www.girlsheaven-job.net/11/spa_fckagoshima/blog/17905452/
-
《《《《号 外》》》》
こんな情報を入手しました!
極秘情報です。
【清原和博と○薬】の秘密動画・・・。
↓↓↓↓↓↓↓
http://www.girlsheaven-job.net/11/spa_fckagoshima/movie/
-
☆★☆★号 外★☆★☆
この中に昔の過去が見れる。
探してね!
【ベッ○ー】大学時代の画像GET・・・。
↓↓↓↓↓↓↓
http://www.cityheaven.net/km/spa_fckagoshima/A6ShopMovieList/?of=y
-
BIGGER THEN BIGGER ILLでILLER ILLな秘訣は知ってるから これサンプリング こんなサプライズ受けて書かなきゃワックMC つまり一週間 あれば充分じゃん? それまでにまたここに投下するBOMB
-
訳:待たせてさーせん。曲聴きました。めっちゃイルでびびりました。これ聴いてモチベ上がらずにはいられねえだろ!!!!て感じなので一週間以内に投下ぶち込みたいと思います。チェキ)
-
キターーーー
ナイス支援曲
-
これは支援曲に最大限の感謝をせねばなるまい
-
まじかよ
-
曲の人ナイス��
-
つまり支援曲を投下すれば一話投下してくれる…?
-
つまりbigger thenじゃなくてthanだってこと?
-
曲凄いなあ……
投下楽しみに待ってます
-
待機
-
今日投下予定だったけど明日になるかも。今日か明日投下
-
っしゃあ今日でも明日でもできれば今日こいやぁ!!!!!
-
3ヶ月以上待ってるから、1日くらいなんて誤差にも入らん
-
イルに投下しよう
-
ここまで追い詰められたことがあっただろうか。
ショボンは目まぐるしく加速する思考の中で、今まで自分が下してきた有象無象の最期を思い返す。
(´゚ω゚`)(浸ってる場合じゃないな……)
この場において、過去自分が切り抜けてきた修羅場から活路を見出そうとすることが、どれほど無益なことかを彼は知っている。
掻き消した思考を、"今"で塗り潰す。
破岩龍爪は最強の武術。
型に嵌った旧態依然とした剣術などに負けはしない。
そのように、自分を鼓舞する。
胸の傷はどれだけ深いだろうか。
或いは、この一撃は既に致命傷と呼べる傷に至っているのかもしれない。
関係無い――
そう吐き捨てる。
そして気付いた。
どのような言葉で繕ったところで、自分も武人の端くれなのだと。
鬱陶しい蝿のような有象無象ではなく、本気で自分の首を狙おうとする"龍"が、こうして対峙していることに。
筆舌に尽くし難い心の高揚を感じていた。
-
しくったタイトル忘れた、仕切り直し
-
キター!
-
第十七話「貴方の時が止まればいいのにと誰かが望んだ。」
.
-
仕切り直し好き
-
ここまで追い詰められたことがあっただろうか。
ショボンは目まぐるしく加速する思考の中で、今まで自分が下してきた有象無象の最期を思い返す。
(´゚ω゚`)(浸ってる場合じゃないな……)
この場において、過去自分が切り抜けてきた修羅場から活路を見出そうとすることが、どれほど無益なことかを彼は知っている。
掻き消した思考を、"今"で塗り潰す。
破岩龍爪は最強の武術。
型に嵌った旧態依然とした剣術などに負けはしない。
そのように、自分を鼓舞する。
胸の傷はどれだけ深いだろうか。
或いは、この一撃は既に致命傷と呼べる傷に至っているのかもしれない。
関係無い――
そう吐き捨てる。
そして気付いた。
どのような言葉で繕ったところで、自分も武人の端くれなのだと。
鬱陶しい蝿のような有象無象ではなく、本気で自分の首を狙おうとする"龍"が、こうして対峙していることに。
筆舌に尽くし難い心の高揚を感じていた。
-
支援
-
(´ ω `)「破岩龍爪――奥義」
皮肉なものだと、ショボンは自嘲の笑みを零した。
今まで絶対だと信じてやまなかった己が在り方が如何に脆いものか、こうして死に瀕することで気付かされたのだから。
(´・ω・`)「終の大蛇」
羅刹棍を解体し、脇差ほどの長さになった八本の棍を手繰る。
鎖を首の後ろにかけ、腕に巻き付ける。
この技を実践で使ったのはいつぶりだろうか。
そのように記憶を辿っても、明確な場面が浮かばないくらいには昔の話だった。
だが、身体に纏わり付かせた鎖は、最初からそうあるべきであったかのように、ショボンに馴染んだ。
鎖の冷たさが肌に馴染み、ショボンは拳を固く握った。
そして視線をミルナの目に向ける。
何も言わずとも、その視線は「来い」とミルナを煽っていた。
-
ミルナが消えた。
不規則な風を巻き起こし、決してその姿を掴ませず、数十にも及ぶフェイクの太刀筋をちらつかせる。
( ゚д゚ )「――ッ!」
背後、右脇から首筋に至る逆袈裟。
声は上げず、短く息を吐く。
抜刀時点でショボンはミルナに背を向けたままだ。
討ち取った。
ミルナは確信した。
太刀の軌道上に、鎖を巻いた腕が伸びるまでは。
反応出来る筈が無い。
そんな動揺の思考すらも超越した速度で放たれる斬撃は鎖とぶつかった。
甲高い金属音が鳴り響き、火花が散る。
ミルナの身体が大きく傾いた。
身を屈めたのではない。
意識の外から足首に巻き付いてきた鎖が、そのままミルナの足を引いたのだ。
-
(´゚ω゚`)「おらァ!」
全体重を乗せた倒れ込むような重い前蹴りがミルナの鳩尾を捉えた。
衝撃は打撃点だけではない。
そこを中心に、鈍い痛みは波のように広がる。
内臓を吐き出してしまいたくなるような嗚咽感を咬み殺す。
ミルナは咄嗟に、後方に飛ぶ勢いに逆らわず受け身を取ろうとしたが、彼の身体が地面に叩きつけられることはなかった。
(; ゚д゚ )「――!」
いつの間にか肩に巻き付けられた鎖が伸び切り、ミルナの身体を持ち上げる。
そして鎖は引き戻す。
ミルナを、敵を、主の元へ。
(´゚ω゚`)「ヒャッハハハハハハハ!」
-
(´゚ω゚`)「おら死ね死ね死ね死ね死ねェ!!」
鎖を手繰り、ミルナの頭を片手で掴み、そのまま地面に叩きつける。
亀裂が蜘蛛の巣のように広がり、轟音が鳴り響いた。
常人ならばこの時点で肉片になっているだろう。
ミルナはそうはならなかった。
だがそれがどうしたというのか。
そう言わずにはいられないほどに、ショボンの蹂躙は苛烈だった。
倒れ伏したミルナの背中を何度も何度も踏みつけた。
その度に鈍い音が響く。
ミルナは声を上げることもままならず、最早痛みを正しく痛みとしてとらえることすらも出来ていなかった。
よく分からない、途轍もない衝撃がひたすら自分の身体を通り抜けている。
その認識が狂っているということを自覚した時。
( ゚д゚ )
ミルナは死の匂いに触れた。
-
ショボンの踏撃の隙間に差し込まれた一筋の煌めきはミルナの抜刀だった。
掌の中に収まる程度の肉片が弾け飛び、血が噴き出す。
(´゚ω゚`)「てめェ…………」
左耳を、左耳があった箇所を抑える。
飛んだ耳に目もくれず、ショボンは怒りに顔を歪めた。
身体の一部を失った喪失感など、興奮が搔き消した。
( ゚д゚ )「――っ!」
耳を斬り飛ばした拍子に生じた隙に差し込む最速の刺突。
踏み潰された四肢は青く腫れ上がり、刺突の動作に耐え切れず悲鳴を上げる。
ミルナは自分の肩の骨が、腕の骨が、肉の内側で砕けるのを理解した。
-
こっちも来てるなしえゆ
-
( ゚д゚ )「うおおおおおおおおおおっ!!」
喉が張り裂けんばかりに吼えた。
身体が壊れようと、この先剣を握れぬ腕になろうと。
利き腕が壊れたならば逆の手で、両手すら壊れたのならば口で剣を操ろう。
命さえあれば剣は握れる。
剣を握る為に勝つのだ。
勝って、生を打ち立てるのだ。
そして、王位を――――
刀を握る指の感覚が薄れる。
まるで自分の手が液状化して零れ落ちてゆくようだと、ミルナは思った。
解けてゆく指先の感覚を、必死に手繰り寄せる。
切っ先の輝きが揺らめいた。
(´゚ω゚`)
( ゚д゚ )
-
(´゚ω゚`)「見事だ…………」
刃はショボンの鎖骨を砕き、胸骨付近に深々と突き刺さっていた。
完全に見切った。
その上で、ミルナの速さに負けたのだ。
痛みを超越した何かがショボンの身体を包み込む。
刀の柄を握るミルナの腕から、血が噴水のように吹き出した。
ぷつりと小気味の良い音を立てながら舞うミルナの血。
それは彼の腕の筋繊維さえもが、彼がイメージし、トレースした動きの速度に耐えられずに崩壊する音だった。
(´・ω・`)「おいお前、もう一度名乗れ」
怒気に満ちていたショボンの表情に柔らかさが戻る。
( ゚д゚ )「……ミルナだ」
(´・ω・`)「…………」
ショボンは今一度、彼の名を胸に刻み込んだ。
-
(´・ω・`)「感謝する」
弱々しい声色だが、簡潔なその言葉は途切れることなくミルナの脳内を突き抜けていった。
同時に、ショボンの口から少量の血が噴きこぼれる。
長い夢を見ていたようだと、ショボンは思った。
刃はショボンの背を貫通していた。
引き抜けばたちまち、夥しい量の血が噴きこぼれ、ショボンは失血死に至るだろう。
だが……
(´・ω・`)(生き延びることを考えるあまり、自分が人である前に一人の武人であることすら忘れかけてたみたいだ)
(´・ω・`)(無論、今でも死ぬつもりは毛頭無いけどな)
(´・ω・`)「負けたよ、完敗だった。終の大蛇がその牙を剥くよりも速く、お前はその刃を僕に刺せた」
-
純粋な賛辞だった。
今まで、これほど手放しに他人を褒め称えたことがあっただろうか。
ショボンは夢想する。
それは遥か昔、幼少時の頃だった。
「やっぱり兄さんは凄いや!」
(´・ω・`)(ちっ……)
思い出したくない記憶が滲み出し、ショボンは眉を顰めた。
今となっては不快でしかない思い出を噛み砕き、思考の奥底に追いやる。
(´・ω・`)「勝負には負けた。腕では僕の負けだ。それでも最後に立つのは僕だ」
(´・ω・`)「たとえ死んでも成し遂げなければならないものがある。それが僕とお前の違い。そして生と死の境目だったんだろうな」
( ゚д゚ )「…………」
ミルナは刀を引き抜こうとしたが、既に感覚が無くなった腕は柄から離れ、再び掴もうとしても重力に抗うことすら敵わなかった。
( ゚д゚ )「悲しいな」
ミルナの表情が緩む。
ぽつりと漏らしたその一言が何を指しているのか、それは、彼とショボンにしか分からない。
(´・ω・`)「生憎、こういう生き方しか出来ないんだ」
羅刹棍を振り上げ、ショボンはミルナの脳天を目掛けて下ろした。
頭蓋を叩き割る音が、鳴り響いた。
-
夥しい返り血を拭うこともせず、ショボンは羅刹棍を手繰り寄せた。
棍を濡らす血が飛沫となって舞い散る。
鎖が伸びきり、一本の棒になる頃には付着した殆どの血が払われていた。
鎖骨から背に貫通した刀を強引に引き抜き、血が吹きこぼれる傷口を手で覆いながら、ショボンは片膝を地面についた。
(´ ω `)「ちっ……寒くなってきた……」
鈍った闘争心を叩き起こすにはいい薬だ。
傷は深い。痛みは強い。
だが、得たものは大きい。
大きな収穫だ。
"これから"自分が前進する為に、兄を殺すという大義を成し遂げる為に。
この傷は、その礎となるだろう。
(´ ω `)「くそっ……寒い……さむ……い……」
羅刹棍を手放し、ショボンは地面に突っ伏した。
荒く、早い鼓動と共に漏れていた吐息はか細くなっていき……
(´ ω `)「俺は……生き……」
止まった。
-
('A`)(今だ……っ!)
ドクオは一部始終を観察していた。
ミルナの刃がショボンに届き、そして、ショボンはその刃の強さをも上回った。
振り下ろされる羅刹棍。
勝負はあった。
漁夫の利を得るような浅ましいやり口に、ドクオは自己嫌悪に陥ったりはしない。
彼の志は、目指すものは、誇りや尊厳の向こうにある。
策に溺れ、鍛錬を怠るつもりは無かった。
常に自分の限界点を塗り替えた上で、万全の策を高じる。
気を抜けば一瞬で命を刈り取られるこの場所で、それは王道とも呼べる処世術だった。
窓のサッシに足をかけ、ガラスを破ろうと拳を振り上げた。
その時……
「動いたら殺す」
重く、のしかかるような冷たい声が、ドクオの背後から響いた。
-
(`・ω・´)「念のためもう一度言うぞ。動いたら殺す」
首筋に冷たい感触。
背後でドクオを威圧するのはシャキンだった。
得物のデスサイズの鎌をドクオの首に当てがいながら、シャキンはセブンスターを咥え、火を点ける。
振り向くことすら許されていないドクオには、その一部始終を視認することは出来なかったが、彼は、自分の生殺与奪が顔も見えないこの男に委ねられているということを即座に悟った。
('A`)「同じ銘柄だ」
窓に薄っすらと映り込んだ、自分よりも少しばかり大柄なシャキンの体躯を眺めながらドクオは呟いた。
顔は、見えない。
だが彼にとってそれは大した問題ではなかった。
(`・ω・´)「煙草か」
('A`)「ああ」
(`・ω・´)「吸い過ぎは身体に良くないぞ」
('A`)「あんたもな」
-
ドクオは思考する。
この男の目的は何だ?
自分の命が目的ならばこんなやり取りをさせる余地などは無いはずだ。
今この瞬間、生きて意思疎通が出来ているということは、何らかの目的があって自分に干渉してきたのか……
(`・ω・´)「自惚れるな」
頭の中を駆け巡る思案が、その一言によって掻き消された。
('A`)「な……なにを……」
(`・ω・´)「どうして考えていることが分かるのか、か? 何百何千と命のやり取りをしてるとな、自然と見えてくるんだよ。何も不思議な力を使ったとか、そういうものじゃない」
シャキンは紫煙を吐き出し、舞い上がる煙をぼんやりと眺めながら、僅かに頬を緩ませた。
(`・ω・´)「そうだな……特に意味のある話じゃない。聞き流してくれてもいいだろう」
ドクオは、首に当てがわれた刃がほんの少し、肉に食い込むのを感じることが出来た?
-
(`・ω・´)「これはあくまで俺の推論だが、こんな風に似たような命のやり取りを繰り返していると、そのうちパターン化されてくるんだ。こいつはこうするとこういう風に反応した。だから次はこうする可能性が高い……って具合にな」
(`・ω・´)「それが当てはまる時もあるし当てはまらないこともある。だがその推測はどんどん精度を増してゆく。修羅場を繰り返す毎にな」
(`・ω・´)「超感覚、とでも呼ぼうか。やがてその先読みの力は日常にも反映されてくる。カウンターの隣に座ったこいつは少し悩んでスパゲッティナポリタンを注文する、といった具合にな。戦いと日常の垣根が薄まれば薄まるほど、超感覚は更に鋭い何かへと昇華する」
オカルトじみた話だと、ドクオは思った。
しかし偏に否定する気も無かった。
魔術師や吸血鬼が好き放題しているこの学園に、ESPを使いこなす超能力者がいたとしても、何ら不思議ではないだろう。
(`・ω・´)「疑わしいかもな。だが俺は断言出来る。これこそが武の極致だと。次にお前は、こんな話を持ち出して何が言いたいんだと考える」
こんな話を持ち出して何が言いたいんだとドクオが思考するのと、シャキンがそう言い終わるのはほぼ同時だった。
-
(`・ω・´)「つまり何が言いたいかだって? お前は何千もの修羅場を経て形成された、ありふれたパターンの中に該当する程度の男でしかないってことだよ」
('A`)「好き放題言ってくれるじゃねぇか」
ドクオも負けじと語気を強める。
この窮地から脱する策の一つや二つ、無いこともない。
首に触れた刃が肉を裂くのと、自分の動作のどちらが速いか、比べ合ったとして、確実に負けるとも思わなかった。
(`・ω・´)「腕に自信があるようだな。俺も、聞いた噂ではやる奴だと思っていたよ、ドクオ。だが……」
鎌を握るシャキンの力が、僅かに強まる。
ドクオも、それを首筋の皮膚越しに感じていた。
(`・ω・´)「正直、がっかりだ。どうかすれば、件の乱痴気騒ぎに混じることも出来ると思っていたが、その程度の器じゃないみたいだな」
鎌が、動く――
-
('A`)「――っ!」
ドクオは咄嗟に身を逸らそうとした、が、その動作が初動に移る直前に、彼の身体は鉛を詰められたかのように、不自然に硬直した。
(`・ω・´)「俺の名はシャキン。第六王位継承者だ。ここでの遊び方を覚えたら、また会おう」
それは大蛇に身体を雁字搦めにされているような感覚へと変化していった。
首に当てがわれた刃が皮膚から離れ、迸るような殺気は影を潜めた。
にも拘らずドクオを押し潰そうとする、形容し難い重圧は、霧散することはない。
(;'A`)
首の裏が熱を持ち、頸を焼く。
膝が、僅かに震えていた。
(;'A`)「何故殺さない……何が目的だ……」
(`・ω・´)「何度も言わせるな。自惚れるなと言ってるだろ」
ドクオが渾身の力を振り絞って出した声を塗りつぶすように、シャキンはぴしゃりとドクオを窘める。
-
待ってた!しえん
-
(`・ω・´)「俺はそこでくたばってる可愛い弟に用があるだけだ。お誂え向きな特等席にたまたまお前がいたから話しかけてみた。それだけだよ」
身の丈を越える大きさのデスサイズを軽く振るうと、ドクオが割ろうとした窓ガラスに無数の亀裂が走った。
(`・ω・´)「殺さない理由は……特には無いが、それではお前の面子が立たないだろうし、そうだな……」
デスサイズを振るい、伸びきった腕を床に向けて垂らす。
刃がリノリウムの床に当たり、小気味の良い音を立てた。
(`・ω・´)「お前が俺と同じタバコを喫っていたから。それでいいだろう。運が良かったな、お前」
言い終わると同時に亀裂の入ったガラスは音も立てずに崩れ去り、窓は吹き抜けになった。
ドクオの肩をすり抜け、シャキンは一切の躊躇なく、吹き抜けから地上へと飛び降りる。
('A`)「…………ぜってぇ殺す」
ドクオはか細く呟く。
だが、彼はすれ違いざまにシャキンの顔を見ることすら、出来なかった。
-
そこに転がっているのは、最早人間ではなかった。
生命活動を終えた、人間二人分程度の肉塊だ。
厳密に言えばまだ辛うじて息はあるのかもしれない。
だが復活の見込みも無く、物を言うことすら敵わないそれを、生きた人間と呼ぶことは出来ないだろう。
風に曝された肉塊を見下ろす一つの視線。
(`・ω・´)「なぁ、お前の人生ってなんだったんだ?」
シャキンは闘いの果てに命を落とした実の弟の骸を見下ろし、そう吐き捨てた。
足元に流れる血の半分は、自分と同じものなのだと、シャキンは哀愁に浸るように目尻を下げ、溜息を吐く。
(`・ω・´)「安らかなツラしやがって。俺を殺すんじゃなかったのかよ」
実の兄弟でありながら、殺意でしか繋がることが出来ない、自分達の不器用さに対する皮肉。
シャキンは、これから自分がやろうとしていることがどういうことかを理解しているからこそ、自身を窘めずにはいられなかった。
-
「貴方と言えど、実の弟を利用するのは心が痛みますか?」
透き通った高い声が、鈴の音のように響いた。
不純なものを一切感じさせないその音色が与えるのは、安堵感でも開放感でもない。
純度の高い悪意に満ち、透き通ったその声の主は、遥か上空から、音も無くシャキンの隣に着地した。
ζ(゚ー゚*ζ「そんなに想っているのなら、素直になればいいのに。お互いに」
漆黒のドレスの裾をたなびかせながら、デレはヒールの先で足元の肉塊を踏み付けた。
シャキンは一瞬、眉間に皺を寄せた。
(`・ω・´)「それが出来ないのが男っていう生き物なんだよ」
ζ(゚ー゚*ζ「ふぅん……男ってよく解らない生き物なんですね」
(`・ω・´)「男に限ったことじゃない。人間ってのはよく分からん生き物だ」
ζ(゚ー゚*ζ「みたいですね。まぁ、私には関係ない話ですけど」
-
デレの興味はシャキンには向いておらず、踏みつけていた肉に、視線は注がれていた。
しゃがみ込み、ドレスの裾が血に濡れるのも厭わず、彼女は恍惚が入り混じったような不適な笑みを浮かべて、安らかな顔で眠るショボンの両頬を撫でた。
ζ(゚ー゚*ζ「悦びなさい、哀れな子羊。志半ばで失った命、私が呼び戻してあげましょう」
薄い唇を、ショボンの首筋に当てる。
舐るように肉の冷たさを確かめ、デレは自身の犬歯を血管に突き刺した。
それは吸血行為ではない。
自身の眷属を増やす為に行なう、血を分ける儀式。
最後の最後に武人としての誇りを取り戻し、前のめりに倒れて散ったショボンを嘲笑うように、その儀式は行われた。
(´ ω `)「――――――っ! ――――っ!?」
声にならない野太い悲鳴が木霊する。
ただの肉塊が息を吹き返し、傷口から血を噴きこぼす。
それは万象の法則に逆らう反魂の禁忌。
全身を刺す痛みに悶え、ショボンは身をよじらせる。
-
ζ(゚ー゚*ζ「元気な産声ですね」
首筋から唇を離し、新しく出来た二つの傷に舌を這わせる。
氷のように冷たい舌に舐られる不快感など一瞬で消し飛んでしまうような激痛に悶えながら、ショボンは怒声を撒き散らす。
(´ ω `)「――っそ!」
滲む視界。
死の淵から無理矢理引き戻されたショボンには、誰が自分の身体を羽交い締めにしているのかも分からない。
何もかもが歪んだ世界の、その視線の先に薄っすらと浮かび上がる男を睨み、ショボンは咆哮を上げる。
(´ ω `)「糞がああああああああああああっ!!」
耳を劈くような怒号に、シャキンは目を伏せた。
デレは新たな眷属の誕生に、満足気な表情を浮かべる。
ショボンを抱き締めながら、もう一つの死体に視線を落とし、妖しげに目を細めた。
-
歪んだ運命すらも、筋書き通りだとせせら嗤う。
誰が? と、問いかける者はいなかった――
.
-
俺乙
ちんちんかゆいね
-
乙
-
おつ!
ショボン退場してほしくないとは言ったけれど!!!
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乙。面白くなってきたね
-
乙
死んだと思ったのにびっくりだよ
次も頼むぜ
-
すげぇ、相変わらず面白いし楽しい
-
乙
キャラの死に様がいいね、それを無にする無常観も魅力的
面白かった
-
乙んこ
-
乙
相変わらず面白かった
次回の投下も期待してます
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乙です、面白かったです!
クールのつもり
http://imepic.jp/20160224/116830
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九位は誰になるんだ……?
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乙!面白かった
>>887
カッコいいクールで良いな
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ショボン殺されそうだったからよかったー
相変わらずデレが憎々しいな
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ショボン様人外化かあ……
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おつ、1話から一気に読んできたよ
荒廃で無法だからこそクーとミルナが良い。
これまでの戦いも読んできてミルナには生きて武人貫いてほしいなあって思ってたから、最後ちょっと複雑
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>>887
クー姐さんかっこよよよ
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一応告知しとくわ
今度の紅白、参加するつもりなかったけどノリで表明しちゃったから短編書き上がるまで多分そっちに専念するんで投下はしばしお待ちを
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あああああああああああ焦らすなああああああああああ
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んっほおおおおおおはあああああああああぬふううううううう
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何書いたんだい?
はい俺ー求む!
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今楽は夢想だよ
結果は芳しくなかったかもしれないけどほんとに好きな作品だったし、想像小説も楽しみにしてるからな
もちろん今楽も頼むぞ
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あ、夢想です。
なんだかんだ天狗になってたようなところがあるなと思い返しつつ、見せつけられた現実的な数字と結果を受け取り、初心を思い出して邁進しようと思いました。
今楽に関しては現在3話ほど書き溜めがあります。
しこしこ書き溜めて、少し前に連日投下してたようなスピードでガンガン投下しようかなと。
想像小説の進捗は新しく1話書き下ろし、もう1話過去作を加筆修正すれば出来上がり、といった感じですね。
語られなかった話に関しては、現在慢性的な体調不良につきなかなか執筆自体が捗っていないので、これをながら投下しつつリハビリ(というのも変なお話か?)していこうかなと思います。
語られなかった話をしよう、はそんなに長い話ではなく、すぐに完結すると思うのでそれくらいを目処に他現行に着手します。
宇宙からの侵略者は単純に自分のスキル不足を実感しており、今の自分の筆力であの話の話数を重ねるのは心苦しい、といった気持ちが正直なところです。
その課題クリアを語られなかった話を完結させることで果たせたらなー……と。
夢想を読んで高く評価してくれた方々に「お前らが好いてくれた作品に間違いは無かった」と、言えるくらいイルな奴になってみせると、少し長くなりましたが決意表明も兼ねてここに置いておきます。
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素晴らしい作品書いたら三島先生に奪われるから気を付けてな
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投票後に読んだが夢想面白かったぜ
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まだっかなー
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読み返している途中だけど>>541以降でハインと会話している人物って誰なのか判明している?
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>>903
ヒッキーだと勝手に思ってた
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せめてオープニングのシーンまでいってほしいなぁ
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今週末のどちらか投下
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よしきた
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きったこれ
ファイナルの方も読んでるよ
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http://plus.shonenjump.com/rensai_detail.html?item_cd=SHSA_JP01PLUS00003673_57
ジャンプ+の天下一ぶっ殺し学園って読み切り
テイストはギャグだけどノリが近くて今楽好きならオススメ
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唐突な宣伝に草
読まないけど
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今楽読んだ奴が書いたんじゃないのこれ
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読んできたわ、今楽とは違うと思うけど....てか人体脆すぎ
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まあ殺し合いが許可された学園って設定は今楽だけじゃないしねー
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ギャグで進む展開だったからノリも全然違うように感じたわ
上が言ってるように設定が似てるだけで今楽好きならこれも好きそうってのはちょっと違う
殺しあい系が好きならピッタリかもしれないが
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そろそろ来るかな
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さっき帰ってきたばっかだからもうちょい待って
風呂入りながらちょこちょこ訂正してく、多分日付が変わるまでにはいける
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やったー!!
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あっふううううええっへへへ
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第十九話「その刃は雄弁に語る」
.
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第九王位が覆ったという噂は瞬く間に広まった。
その一部始終を観察していたドクオには、何故ショボンがミルナに王位を譲ったのか意味が分からなかった。
シンプルな勝敗の定義として、最後に立っていた者を勝者とするならば、あの場ではショボンが勝者の筈だ。
ショボンとミルナは死んだ。
だが二人はデレの手によって蘇生した。
恐らく、彼女の眷属として。
幾千もの修羅場を潜ったドクオでさえも、その光景は見るに耐えなかった。
大の男が断末魔のような悲鳴を上げてのたうち回り、それが終わった直後には、生気を失ったような佇まいで、主に従する。
それまでに培ってきた技も、人間としての感性も、全てくだらないと一蹴するかのように。
捨てた命を拾うという禁忌の代償は、余りにも大きいと、ドクオは思った。
('A`)「おいクー。差し入れ持ってきたぞ」
ノックもせずに病室に入る。
本来そこまでデリカシーの無い男ではない筈だが、先日の光景が少なからず精神を揺さぶっているようで、細かなところで冷静な判断を欠いていた。
-
川 ゚ -゚)「ドクオか。わざわざすまないな……だが」
('A`)「あぁ? お前その格好……」
川 ゚ -゚)「ああ、少し早いが退院だ」
新調したコートに身を包み、へし折れた九郎丸を鞘ごと保管用のケースに投げ込み、引っ提げる。
一つ一つの動作や足取りに、傷を庇うような違和感は無かった。
ドクオが持ってきたフルーツかごの中から林檎を一つ手に取り、そのまま大きな口を開けて齧る。
('A`)「傷、大丈夫なのか」
川 ゚ -゚)「林檎を丸齧りしたら歯茎が痛む程度だ。問題ない」
('A`)「そりゃお前、別の病院行った方がいいぜ」
川 ゚ -゚)「冗談だ。本気にするな」
('A`)「お前の冗談はわっっかりにくいんだよ」
ドクオは、手荷物を全て纏めて足早に病室を出て行くクーに着いて行く。
-
('A`)「自主退院かよ……学校じゃねぇんだぞ」
川 ゚ -゚)「いいよ。私の身体のことは私が一番よく知ってる。その私がもう大丈夫と言ってるんだから大丈夫だ」
('A`)「はぁ……さいですか。んで、お前はそんなに急いでどこに行くつもりだよ」
川 ゚ -゚)「王位辞めてくる」
('A`)「そりゃまた急な話で……一体誰がお前の後釜を……」
('A`)「は?」
川 ゚ -゚)「そんなもの、どうにでもなるだろう。何ならお前がやるか? 第三王位」
-
ドクオは口を開け、間抜けな表情で固まっていた。
それに対して反応を示すでもなく、クーは携帯端末を弄っている。
川 ゚ -゚)「そんなわけで、会長職も辞任だ。今日は色々とやることがあるだろうが、明日からは晴れて自由の身だな」
川 ゚ -゚)「どうだドクオ。一緒に外食なんて久しいだろう。明日にでも一緒にペストに行かないか?」
王位を、捨てる。
ドクオには、彼女の思考の真意が全く解らなかった。
いや、理解しようとすることを、他でもないドクオ自身の意志が、否定していた。
('A`)「辞めて……どうすんだよ」
ドクオの拳が固く握られていることに、クーはすぐ気がついた。
川 ゚ -゚)「さぁな。暫くは学園生活を楽しんでみるさ。今が楽しければ何でもいい。そうだろ?」
-
('A`)「あんたがそんなことを口にするとは思わなかったよ」
川 ゚ -゚)「幻滅したか?」
('A`)「いや……」
帝国最強の剣士。第二王位。VIPの女帝。
そんな風に、クーは常にその肩に荷を背負っていた。
それは何もVIPに纏わることだけではない。
産まれた家が、身を置く境遇が、彼女を祀り立てることを止めなかったのだ。
彼女自身に付きまとう様々な肩書き、名声は、見る者に近寄り難い印象を植え付けるほどの覇気を帯びて、鋭い刃の如く昇華していった。
そして、刃は折れた。
('A`)「変わらねぇよ。俺にとってお前は、今でもデカい壁だ」
それでもなお、研ぎ澄まされてゆくのだ。
清廉な流れの如くクーを包み込む闘気に、ドクオは身震いした。
負けて自暴自棄になっているわけではない。
この女は、必ず何かをやってのけると、ドクオは確信めいた予感を飲み込み、口を閉じた。
-
クーさんが退院したという話を、ドクオ伝てに聞いた。
ぼく自身それほど彼女と親しいわけではないのだけれど、最近起こった出来事の中で、彼女が"元"第三王位に敗北したことは、否応無しにぼくの脳にこびり付いていた。
どうなったのだろうか、と探りを入れようかとも思ったが――
( ^ω^)「ふ……ッ!!」
(;'”•A•)「うぐっ……」
このように、面識などまるでない連中から四六時中奇襲をかけられるのだから、それどころではない。
誰もが同じような顔をしているし、そもそも風貌すら確認せずに殴り飛ばした者も多く、最早ゴミ掃除のような感覚だった。
徒党を組んで襲いかかってきた十数人のうちの、最後の一人がぼくの足元で蹲る。
頭を踏み付け、土に擦り付いたそれを、頭頂部から思い切り蹴飛ばした。
( ^ω^)「チンピラの喧嘩がしたいのなら他を当たって欲しいお」
-
振り返った先、佇む男を見据える。
( ゚∀゚ )「ひゃっひゃ、おもしれぇなぁ。人がバッタバッタと吹っ飛ばされてやがる! あっひゃひゃひゃっ!」
下卑た笑みを浮かべ、男は仰々しく手を叩いた。
両耳、眉、口、鼻と、いたるところに開いた銀色のピアスが痛々しい。
細身の衣服に身を包み、長い前髪を横に流して垂らしている。
エレキギターでも持たせるのがお誂え向きだろうなと思った。
( ゚∀゚ )「なかなかやるじゃん。こいつら、その筋の中では腕が立つことで有名な連中なんだけどな。ひひっ」
( ^ω^)「居合わせた時点で分かるお。体捌き、構えの一つを取っても、血の滲むような鍛錬が透けて見えるほどに」
拳を固く握り直す。
達人の域を目指し、弛まぬ努力を積んだ武人。
ただ直向きに、強さという概念の根源へと辿り着こうとする求道者。
自ずから修羅の道を進むその強靭な意志すらも嘲笑い、意味の無いものだと蹴落とすのが、このVIP学園だ。
-
或いはこの男も、弛まぬ努力など及ばない次元に立つ、"蹴落とす側"の人間なのだろうか。
( ^ω^)「VIP学園一年、内藤ホライゾン」
パーカーのフードを脱ぎ、ピアス男と正対する。
痺れるような闘気の奔流を肌で感じる。
心地良さすら感じてしまう。
きっとぼくは、もう引き返せないところまで来ているのだろう。
( ゚∀゚ )「VIP学園二年、アヒャだ。いずれ王位を取る男の名前だ。覚えときな」
風が靡く。
闘気の奔流とぶつかり、空間が歪むような感覚を、肌で味わう。
( ゚∀゚ )「もっとも、十分後に生きてるかもわかんねぇけどな。ひひっ!」
来る――――
その予感とほぼ同時、アヒャが一歩踏み出すのが見えた。
-
懐に潜り込まれたと気付いた時には、鋭い光を帯びた刃物の切っ先が、ぼくの頬の側まで迫っていた。
( ^ω^)「――――ッ!」
発破の声を上げることもままならない。
短く息を吸い、上体を反らしてそれを躱す。
牽制の前蹴りを繰り出すが、当然見切られる。
右か? 左か?
刹那は極限まで引き延ばされる。
目を見開き、得物を、その軌道を確認した。
( ^ω^)(ナイフ、左!)
それがどれ程の殺傷能力を持っているのか。
そんなことはどうでも良かった。
とにかく当たらないように。
さもなくば死ぬと騙した自分の脳が、液状に溶けてゆくような錯覚に陥る。
-
( ゚∀゚ )「やるじゃん。あとどれくらい持つか……な!」
よくもまぁ、こんな俊敏な動作と同時に舌が回る奴だと思った。
間を置かず、ナイフがぼくの急所を的確に狙ってくる。
二度、三度、躱す。
そして鼻先に向かって来るナイフ。
手首を叩き、その得物を叩き落とした。
( ゚∀゚ )「ちっ」
一瞬だけ、彼が見せた苦悶の表情。
それがフェイクだと知るのは一秒後。
落下するナイフを逆の手で拾い、すかさず刺突。
(;^ω^)「――――っ!」
避ける事は不可能。
首筋に、熱が溜まってゆく。
だが、だけれど、ぼくは、それを待っていた。
-
( ^ω^)「待ってたお」
上体を引きながら、伸びかけた腕の中心を目掛けて蹴りを放つ。
爪先に伝わる破壊の感触が、勝利の確信を固める。
アヒャの苦悶の表情が、切り取られたように動かない。
ああ、そうか。
だってぼく達は――――
刹那の中で、命のやり取りをしているのだから。
( ^ω^)「ふっ――――!」
発声すらままならない一瞬。
懐に潜り込み、アヒャの胸倉を掴み、足を払いながらその状態を背負い込んだ。
腰に伝わる男一人分の重みを確かめ、身を屈めながら背負い投げる。
-
地面に叩きつけ、即座に腕の関節を極めようとした、その時だった。
( ゚∀゚ )「知ってた♪」
アヒャの掌が、ぼくの肘に纏わりつく。
そして――――
(;^ω^)
ぼくの視界は逆さになり、刹那、大空が目の前に広がった。
ふわりと、内臓が揺れるような感覚の直後、痛みと共に背中を中心に走る衝撃。
堪らず息を漏らしてしまうが、肺が揺さぶられているような感覚が邪魔をして、反射のような呼吸すらままならない。
間を置かず、身を翻すと同時にナイフがぼくの目を目掛けて、飛んでくる。
右に、左に、咄嗟に身をよじらせてそれを避け、空いた懐に渾身の蹴りをぶつける。
-
( ゚∀゚ )「ちっ……なかなかしぶといねぇ……」
( ^ω^)「その減らず口をどうにかすれば死んでたかもね」
( ゚∀゚ )「……生意気な奴だなぁ」
小気味好く血を蹴る音。
ぼくは目で捉えることを放棄した。
身を屈め、直感で捉えた彼が狙うであろう急所――ぼくの目があった位置を、思い切り蹴り上げる。
( ゚そ)「ご……っ!」
完全に捉えた。
致命傷とはいかないだろう。
だが、脳を揺さぶり、少しの間彼の動きを止めるだけのダメージは与えた。
(;^ω^)「……っし!」
水に包まれたような、引き延ばされた時間を抜け出し、ぼくは足元に転がる長棒を回収する。
と、同時に、風を切る刃――――
アヒャが投擲したナイフを棒で弾き、牽制の構えを崩さぬまま数回得物を振り、手に馴染ませる。
-
(# ゚∀゚ )「いってぇ……」
口に開いたピアスが千切れ、鼻から下が血塗れになった彼の表情は、まさに鬼の形相だ。
流石に効いたらしく、足元が覚束ない。
しかしぼくとてノーダメージではなく、深く息を吸おうとすると、胸が痛む。
なまじ痛みが影を潜めている分、咄嗟の行動の際に顔を出した痛みが致命的なラグを招くことにならないか。
( ^ω^)「今度はぼくから」
それは茶番のような掛け合いだけれど。
確実に決める。
ぼくはただそれだけに注力し、そのイメージを固める。
地を蹴り、ぼくは長棒を振るった。
-
胸に走る鈍痛を堪え、ぼくは疾駆する。
得物を使って闘うことに慣れてはいないけれど、それでも、ぼくはこの得物を長年使っていたかのように、自在に操ることが出来た。
大きく薙ぎ、アヒャがそれを躱す。
当然想定済みだ。
手首を返し、頭上から叩きつけにかかると、彼はそれを果敢に素手で受け止めた。
( ゚∀゚ )「腰が入ってねぇな!」
にやりと、血にまみれたアヒャの表情が歪む。
懐目掛けて飛び出してくる彼すら、ぼくは、想定済みだ。
蹴り上げた、というより、アヒャが全力でぼくの足に吸い付いてきた、と表現する方が適切なくらい、足は、彼の顎を的確に捉えた。
-
後ろに吹っ飛ぼうとする彼を、許さない。
( ^ω^)「こんなもんじゃねえお」
地に穿つように、長棒の先でアヒャの胴を叩きつけ、立て続けにスタンプを放つ。
胸倉を掴み、引き摺り上げた後に五、六発殴った辺りで、既に意識を手放していることに気付き、骸と大差無いそれを放り投げた。
( ^ω^)「もしかして」
二年生の、そこそこの手練れともまともにやり合えるようになった。
便宜上闘気と呼ぶ、あの喉が貼りつくような空気を持つ手合とも。
( ゚∀゚ )
だらしなく仰向けに倒れたアヒャを一瞥し、ぼくは大声を上げたくなる衝動を噛み殺し、静かに呟いた。
自分を鼓舞する為に、次に繋げるために。
( ^ω^)「ぼく、強くなったかお?」
強く握り締めた自分の拳だけが、答えを返してくれた。
-
第八ブロックは静まり返っていた。
普段ならば夜闇に塗り潰された瓦礫の上で、アウトロー達が呻き声にも似た命の音を立てるのだが、今日はそれすらも影を潜めている。
命を刈り取る者の存在を、誰もが本能で予感していたのだろうか。
ζ(゚ー゚*ζ「ふぅ」
瓦礫の山に降り立った彼女は、纏ったドレスの裾を持ち上げ、月を仰ぐ。
ζ(゚ー゚*ζ「お身体は、大丈夫ですか?」
夜闇の奥の奥、そこで静かに佇む者に、デレは言葉を投げかける。
ζ(゚ー゚*ζ「クーさん」
-
川 ゚ -゚)「そこそこだ。動く分には問題無い」
彼女が言葉を発する事で、空気が張り詰める。風が揺れる。
その鋭い眼光は、真っ直ぐドレスの少女を捉えていた。
ζ(゚ー゚*ζ「穏やかではないですね。件の制裁、でも始まるんですか?」
川 ゚ -゚)「お前の返答次第だな」
敵意を包み隠すこともせず、クーは腰に下げた刀の柄に手をかけた。
鬼切九郎丸よりも少し尺が短いその一振りは、彼女によく馴染んだ。
刀を持つために生まれてきたような人間なのだ。
小太刀であろうと野太刀であろうと、彼女はそれを自在に操る。
たとえ吸血鬼であろうと、戦神であろうと切り捨てる為の刃。
だが、デレも臆してはいなかった。
-
ζ(゚ー゚*ζ「鈴、ついてないんですね」
薄っすらと浮かべた笑みは涼しげで、元第二王位に捕捉されているなどとは微塵も感じさせない。
それどころか、或いは自分よりも格下の弱者を見下ろすような余裕すら感じられる。
川 ゚ -゚)「…………」
ζ(゚ー゚*ζ「退魔刀鬼切九郎丸真打。どうしたんですか? もしかして……」
それはクーの力を最大限に出力する媒体。
デレは、彼女の腰の得物が九郎丸ではないことを察知していた。
ζ(゚、゚*ζ「折れちゃいましたぁ?」
その下卑た笑みは、確実にクーの胸を撫でつけている。
暗に、今のお前がしゃしゃり出てもただでは済まないと。
-
デレのウザさが増しているーぅ
-
川 ゚ -゚)「折れたが、関係のないことだ」
ζ(゚ー゚*ζ「その俗な得物で私を刺せる、と? 忌々しい刀が無いお陰で、今日は幾分か愛らしいですね、クーさん」
川 ゚ -゚)「……それが答えらしいな」
ζ(^ー^*ζ「ええ。私を殺し得る方に従うのは道理ですが、そうじゃない方に従う義理は無いですから」
川 ゚ -゚)「やれやれ」
片足で地を蹴り、クーのコートの裾が靡く。
次の瞬間、彼女の姿は闇に消えていた。
ζ(゚ー゚*ζ
デレは即座に周囲の瓦礫を魔術で手繰り寄せる。
それは条件反射の如き速さで、飛び交う岩は彼女の身を守る。
-
川 ゚ -゚)「ふっ――――!」
刃と、岩がぶつかり合う。
九郎丸ならば豆腐を切るように裂けていたであろう岩は飛び散り、礫を飛ばす。
咄嗟に刃を滑らせ、クーは大きく身を屈めて鋭く腕を振るった。
ζ(゚ー゚*ζ「あら」
足払いの如くデレの足を裂かんとする空気の刃。
デレは涼しげな表情を絶やさぬまま、ドレスの裾を掴んで軽く跳躍し、それを飛び越える。
川; ゚ -゚)「ちっ……」
あらゆる状況にそれぞれ応じて最適な剣術を修めた。
だが、その多くはただの刀には負担が大き過ぎる。
九郎丸さえあれば露払いと同然に打てる技すら制限されているクーの表情は険しかった。
-
川 ゚ -゚)「実家で習った技の殆どが使い物にならないな」
ζ(^ー^*ζ「そんなに急ぐこともないでしょう? 私が相手では物足りませんか?」
川 ゚ -゚)「小洒落た踊りは性に合わないんだ。ドレスコードが死ぬほど嫌いで……ね!」
飛散する礫を、岩を躱し、常にデレの懐を制する。
迂闊に斬り込めないことも、クーの刃を鈍らせる要因の一つだった。
確実に動きを止める一撃を打ち込めなければ――
生半可な斬り込みで血を流させれば手に負えない事態になる。
かと言って間合いを取るわけにもいかない。
クーが斬り込まないのであれば、デレには自傷という手段がある。
闘いの中の、刹那の選択肢はデレの方が圧倒的に多い。
-
デレの首を刎ねる事にのみ注力した斬撃が数度飛んだ。
ζ(^ー^*ζ「あはっ」
あろうことか、デレはその刃を素手で受け止めようとする。
川; ゚ -゚)「ちっ……」
刃を引き、礫を躱す。その繰り返しだ。
川 ゚ -゚)(母さんにこんな無様なところを見られていたら、監禁では済まないだろうな……)
九郎丸に頼り過ぎていた自分を呪う。
或いは、妹のヒートにすら、見られた日には大笑いされるだろうとクーは心の中で悪態を吐く。
普段選べる選択肢が多過ぎて、これまでにない戦い辛さに苛立つ。
-
――
――――
――――――
o川*゚ー゚)o「直すべきところを挙げたらキリがないけど、まず大振り過ぎるよね」
川; ゚ -゚)「…………」
素直の家が所有する土地の一角にて、二人は稽古に励んでいた。
視界一面に広がる原っぱは皮肉なくらい青々としているが、疲れ果てたクーはその景色を眺めることにすら神経を回す余裕が無かった。
滝のように身体中から流れ出る汗を拭う事もせず、彼女は仰向けに倒れる。
o川*゚ー゚)o「もーうへばっちゃったかぁ」
クーの母キュートは少しばかり乱れた浴衣を、袖を引いて整え、汗ひとつ掻いていない嫌味な笑顔をクーに向ける。
o川*゚ー゚)o「ほら、若いんだからしゃんとしなさい!」
川; ゚ -゚)「母さんより若くないかもしれないです……」
o川*^ー^)o「そう? 褒めたって稽古の時間は減らないよ」
クーは嘆息し、容姿だけならば中学生にしか見えない実年齢四十歳の母親を忌々しげに睨んでいる。
-
生物学的にも物理学的にも異常な母親を、クーは尊敬こそしているものの、親子として慕ってはいなかった。
天賦の才を持ったクーが何年もの期間剣を振れば、力の道理というものも見えてくる。
それ即ち、人の限界――――
その高みに、近付いているという自負がクーにはあった。
だが、母親の強さはそんな道理の及ばないところに位置している。
クーはそれを妬ましく、そして恐ろしく思っていた。
o川*^ー^)o「九郎丸を継いで強くなった気分になるのは分かるよ。ぼくもクーちゃんくらいの歳の頃はそうだったもの」
川 ゚ -゚)「…………」
クーはその言葉に、微塵も親近感を見出せなかった。
彼女の強さはイレギュラーで、この世の道理や常識から外れていて、初めからそのような存在だったと言われれば、クーはどれだけ清々しただろうか。
-
o川*゚ー゚)o「でもそうじゃない。ぼく達剣士は剣に頼るだけじゃ、剣よりも強くはなれないんだから」
手ぶらの浴衣姿に、長く艶やかな髪を結わえたその身なりだけを見れば、闘気など感じられない。
しかしその凜とした表情はクーのそれとよく似ていて、意志の強さが滲み出ている。
何も無い彼女の腰に、クーは見えない刀を"見た"。
o川*゚ー゚)o「クーちゃん。剣は何も切れる刃のことだけを指すんじゃないからね。それを操る技、自分の精神、全てを総称して、ぼく達は剣と呼ぶんだから」
一陣の風が吹き付ける。
そして、辺り一面の緑が全て舞い上がった。
根こそぎ刈り取られた地面の上で、草っぱは盛大に踊る。
-
o川*^ー^)o「VIPに入っても、それを忘れないでね」
キュートは十代の少女のようなあどけない笑みを浮かべて、舞い散る緑の中から細い腕をクーに向けて伸ばした。
途方も無い高みに、いつ辿り着けるだろうか。
皆目検討もつかないクーはただがむしゃらに、差し伸べられた手を取った。
――――――
――――
――
-
アラフォーのぼく女とか確かに異次元だわ……
-
川 ゚ -゚)(走馬灯じゃあるまいに……)
かつての強者の幻影を、夢想する。
思わず舌打ちをしてしまう自分に気付いて、クーは眉間に皺を寄せた。
九郎丸が無ければこんなものか。
一瞬だけ頭を過ぎった言葉を噛み殺し、鋭い眼光で、デレを射抜く。
ζ(゚、゚*ζ「――――?」
デレは一瞬で異変を察知した。
自身の肌を舐めたのは、かつての刺すような鋭い闘気ではない。
清流のような、限りなく無色透明に近い闘気だと。
川 ゚ -゚)「雪華陣――――」
真横に、ただ愚直に、薙ぐ。
その初速は、引き延ばされた時の中でなお鋭く、或いは稲妻の如く、デレの首を狙う。
ζ(゚ー゚;ζ「――――」
息を飲む間もなく、咄嗟に腕を上げて首を守るデレ。
刃が、腕に触れた。
-
そして、刃は腕を"すり抜ける"。
.
-
川 ゚ -゚)「菖蒲崩し――――」
すり抜けた刃はデレの首を刎ね飛ばした。
鮮血が切断面から噴き出し、コートを濡らすよりも速く、クーは間合いを取り、心臓を目掛けて刺突の構えを取る。
そして――――
川; ゚ -゚)「――――っ!」
構えを崩し、大きく跳躍する。
その直後、クーが立っていた地点に何かが飛び込み、轟音を上げて土煙を上げた。
(´・ω・`)「ちっ、今のを避けるかよ」
クーは煙の奥の彼を捕捉し、眼を凝らす。
月明かりの下に浮かぶショボンの顔は青白く、悪態には似つかわしくないくらいに生気が無い。
(´・ω・`)「……ったく、生きた心地がしねぇ。あーあーあーああああああああ!!」
(´゚ω゚`)「すーーべてが面倒くせえ! さっさと死なせやがれ! ついでにどいつもこいつも全員纏めて死ね!!」
ショボンの得物が分離し、鎖が擦れ合う音が響く。
羅刹棍は的確にクーの胸元に向かって飛ぶ。
-
川; ゚ -゚)「お前……」
一瞬で察した信じ難い事実が、クーの反応を鈍らせる。
それは一秒にも満たず、それでいて、致命的なラグだった。
羅刹棍と刀がぶつかり、甲高い金属音と――――それに遅れ、破砕音が、鳴り響いた。
(´゚ω゚`)「あんたに恨みは無いが死ね! 死なねえなら殺せ!」
支離滅裂な雄叫びを上げながら、ショボンがクーの懐に潜り込む。
折れた刃をかなぐり捨て――――
川; ゚ -゚)「――――――――」
思い描く。
自身が目指す究極を――
o川*^ー^)o
崩れかけた姿勢のまま、クーは手を伸ばした。
そして、何かを手繰り寄せるように、その手を引く。
閃きが、ショボンの胴をなぞった。
-
川; ゚ -゚)「お前……」
一瞬で察した信じ難い事実が、クーの反応を鈍らせる。
それは一秒にも満たず、それでいて、致命的なラグだった。
羅刹棍と刀がぶつかり、甲高い金属音と――――それに遅れ、破砕音が、鳴り響いた。
(´゚ω゚`)「あんたに恨みは無いが死ね! 死なねえなら殺せ!」
支離滅裂な雄叫びを上げながら、ショボンがクーの懐に潜り込む。
折れた刃をかなぐり捨て――――
川; ゚ -゚)「――――――――」
思い描く。
自身が目指す究極を――
o川*^ー^)o
崩れかけた姿勢のまま、クーは手を伸ばした。
そして、何かを手繰り寄せるように、その手を引く。
閃きが、ショボンの胴をなぞった。
-
(´゚ω゚`)「ぎっ――!」
ベストが裂け、肌が露出する。
そこに確かに刻まれた傷から、血が漏れた。
浅い、が、その動きを止めるには充分な一撃だった。
川 ゚ -゚)「悪いが、死人に構う暇は無い」
乱雑に、傷口の辺りを蹴り飛ばす。
彼を起点に発生した衝撃波はクーの髪を撫でつけ、ショボンの細い体躯は盛大に吹っ飛んだ。
そして立て続けに、真紅の刃が飛ぶ。
咄嗟に身を屈め、その刃が飛んできた方向に視線を向ける。
ζ(゚ー゚*ζ「いけると思ったんですけどね」
血の鎌を携えたデレは、忌々しげにクーを睨み付けていた。
すっかり修復された切断面には、噴き出していた血がこびり付いていて、漆黒のドレスはぐっしょりと血塗れている。
-
ζ(゚ー゚*ζ「お互い、これ以上は得しませんね。今夜はこれにてお開き、ということで一つ」
川 ゚ -゚)「逃がすと思うか?」
ζ(゚ー゚*ζ「ええ、貴女はそうするしかない」
下卑た笑みを浮かべ、デレは小さく会釈をする。
クーはそれを見ていなかった。
振り返ると同時に、回し蹴りを放つ彼女の足を……
(;`・ω・´)「電波でも受信してるのか」
大鎌の柄で受け止めるシャキンが、引きつった笑いを浮かべている。
川 ゚ -゚)「……なるほど」
クーはコートの裾を踊らせるように傍に跳び、片手で着地しつつ体勢を整えた。
川 ゚ -゚)「一人で来いと言ったつもりだが、ここまで開き直られるとこちらも窘めにくいな」
ζ(^ー^*ζ「叱られるのには慣れていないので」
瓦礫が、宙を舞う。
-
無数の瓦礫が折り重なり、この場にいる誰もが見慣れたシルエットを作り上げる。
|::━◎┥
ζ(゚ー゚*ζ「まぁ、いいでしょう。あの忌々しい九郎丸が失われていたのは嬉しい誤算でした。この場で勝ちの目が確実ではない勝負に出る必要はありませんし」
川 ゚ -゚)「…………」
ζ(^ー^*ζ「では、また近いうちに」
デレがゴーレムに飛び乗ると、その巨大な腕が重々しく伸びた。
未だ晴れない土埃の中で屈むショボンを掴み上げ、自身の翼を広げる。
追い掛けて何かしら妨害することはクーにとって容易い。
だが、傍らに立つシャキンの苦々しい表情を見て、彼女は戦意を鞘に収めた。
川 ゚ -゚)「ちっとも思惑が見えないな」
(`・ω・´)「互いに、な」
大鎌の刃を地面に突き刺し、シャキンは手ぶらでクーの元に歩み寄る。
クーもまた、握り拳を開いて、同じようにした。
-
おわりです、少なくてごめんなさい
-
乙乙
キュートも登場したか
-
やっぱこれ面白いな次も期待して待ってる
-
乙
クー良いな
>>948
ワロタ
-
おつ
全く毎回逐一熱いんだよ畜生
-
やっぱり最高だな。ブーンの動きが目に見えるようだった
乙
-
http://3step.me/3cva
国際テロで日本人の犠牲者が出た!
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半端にレスが余ってて次の話が収まるかびみょい、ので何か解決案募集
前みたいに少し質問的なアレをやるか、他に面白そうなことがあれば
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間が空いたしキャラ設定表とかあらすじとかどうよ
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キャラ設定いいっすね。どうでもいいことも含めて万辞苑みたいな感じでやったら楽しそうなんでバババっと書いてタタタっとやります
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やったぜ待ってる
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いいねーショボンの武術の詳細とか気になる
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読んだ!相変わらず面白いなー、乙です
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デレってなんでハインに従わないんだっけ?
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ショボンがいいキャラしてんのよ
-
次スレ立つかな、面白い!
-
まーだかな
-
今日、明日、明後日のどこかで投下
-
待ってる
-
おおおおお!
-
スレを跨ぐので少し手間取るかも。
次スレはファイナル板でよろしく。
ほいたら投下。
-
よっしゃ!!
-
第二十話「偽りの座で会いましょう」
.
-
よっしゃ!
-
風が、吹き抜ける。
夜闇よりも深く濃い深淵のように、クーの髪が妖しく揺らめく。
シャキンには、それが途轍もなく不気味に思えた。
(`・ω・´)「そうかっかしなさんな。俺の首なんていつでも取れるだろう」
彼の内心とは裏腹に、凡ゆるものに対する達観のような、或いは、自分の生殺与奪が誰に握られていようと知ったことかと言わんばかりに投槍な口調。
川 ゚ -゚)「私はお前が思うより、ずっと短気だと思うが」
握り拳をシャキンに向け、そして開く。
彼は、クーの掌からうっすらと光の帯が伸びているのを視認することが出来た。
そして、それが武の極みに至る者にしか見えない闘気の帯だということを知っていた。
(`・ω・´)「刃は健在、ってわけか」
大鎌を携えてはいるが、構えるつもりがないことは、明確だ。
あくまで対峙者としてではなく、傍観者としての眼差しを飛ばしながら、彼は、「いや」と、自身の言葉を否定した。
(`-ω-´)「お前自身が、刀そのものなのかもな」
川 ゚ -゚)「そんな大層なものじゃない。鞘に収まってやるつもりもないしな」
互いに、喉を鳴らして笑う。
言うまでもないことだった。
鞘に収まる気がある者ならば、最初からこの掃き溜めには、いない。
-
川 ゚ -゚)「で、お前たちは徒党を組んで何がしたいんだ。行動そのものは自然だが……」
見当はついていた。
先日の、"第二王位"ジョルジュの声明を受けてのことだろう、と。
そこまで解ってはいるが、クーには彼等の組み合わせがあまりにも適当からはかけ離れているように思えた。
川 ゚ -゚)「この世で最も忌み嫌われる存在である吸血鬼と、この世で最もいがみ合っている兄弟。しかも片方は吸血鬼の眷属となった死人。どこぞの神話にでも出てきそうな組み合わせだ」
その神話はきっと邪教のものだ、と、シャキンは笑った。煙草を咥え、火をつける。
クーはドクオと同じ臭いを放つ彼に対して、ほんの少しだけ警戒を緩めた。
(`・ω・´)「そのちぐはぐな関係がいいんだよ。俺たち王位はどこまで行っても所詮は人間。意外性に虚をつかれない奴なんていやしないんだ。たとえモララーであってもな」
川 ゚ -゚)「意外性」
(`・ω・´)「そう、意外性」
夜闇に、煙草の赤い光だけが朧げに浮かぶ。
-
(`・ω・´)「お前だってそうだろう。普段の王位達のやり取りを見聞きして、誰もそうだなんて言ってないのに、勝手に自分の尺度で俺たちを括ってる」
川 ゚ -゚)「…………」
(`・ω・´)「ギコとモララーは仲が良い。俺とショボンはいがみ合ってる。ペニサスとワカッテマスは性格こそ真逆だが、妙に息が合ってる。デレは格上の犬。だが隙あらば寝首をかく気でいる」
(`・ω・´)「お前から見たら俺はどんな風に映ってるんだろうな? 事勿れ主義の木偶の坊。牙はもう鈍ってるように見えるかな」
川 ゚ -゚)「……さあな」
(`・ω・´)「冗談だよ。自虐するつもりは無かった」
敢えて言葉を濁したクーの反応こそが真実だと、シャキンは自分の頼りなさを再認識した。
王位とは名ばかりなのかもしれない。
物見遊山の気分で、当時王位だった者に挑んだら呆気なく勝ってしまった。
この高みに辿り着いた過程で思い浮かぶことなど、その程度のものだった。
にじり寄ってくる虚無感を、煙草の煙と共に体外に追い払い、シャキンは小さく咳払いをした。
(`・ω・´)「あいつも、ジョルジュもそうなんだ」
今、この瞬間まで、シャキンは躊躇っていた。
自分が起こそうとしている奇跡を、クーに話すことを。
だが、自分の脆弱を、こんな些細なことで再認識した今、途端に馬鹿らしくなったのだ。
-
待望。歓喜。愉悦。故に支援
-
(`・ω・´)「ジョルジュなんてお前よりも、俺たち格下になんか興味無いさ。同年代でこの立ち位置に収まってる俺に、足元を掬われるなんて夢にも思ってない」
(`・ω・´)「あいつの中の俺たちは、あいつの勝手な認識で凝り固まってるんだろうさ。あるいはそれも、俺の中のあいつに対する勝手な認識なのかもしれないが、確実に言えることが一つだけある」
川 ゚ -゚)「……それは」
(`・ω・´)「あいつは確実に、俺のような事勿れ主義の人間が事を率先して、自ら死ぬ気で突っ込んで来るとは思ってない」
シャキンが言う前に、クーは察していた。
しかし、いざこうして彼の本意を聞いた今、返す言葉が見当たらなかった。
武に殉じて死ぬ。
それが華々しい散り様であると崇められるのは、正統な武の系譜の中だけの話。
とうに理から外れたクーをはじめとする王位の面々にとって、死ぬこととは死ぬことで、それ以外のなにものでもなかった。
-
川 ゚ -゚)「…………」
(`・ω・´)「そんな顔するなよ。下の連中が見たら腰抜かすぞ」
言われて、クーは慌てて口を真一文字に噤んだ。
何度か意識的に瞬きをして、右手首を回して骨を鳴らす。
川 ゚ -゚)「……どんな顔をしていた?」
(`・ω・´)「さあな、忘れちまったよ。暗くてね」
彼らしい返答だと、クーは思った。
しかし、彼の口から聞いた本意はあまりにも想像していた彼の人物像とはかけ離れていて、クーはそれを拭い去れずにいた。
川 ゚ -゚)「不思議桃太郎一行が結成されたのは、あくまで意外性を追求した結果、というわけか? お前の覚悟は賞賛したいが、その程度の小細工は圧倒的な力の前には踏み潰されるだけだぞ」
(`・ω・´)「愚問だな。俺にだって考えの一つや二つはある」
川 ゚ -゚)「だったら、関係の無い私に話すべきではなかったんじゃないか?」
(`・ω・´)「関係の無い? 笑わせるなよ」
川 ゚ -゚)「…………」
クーが何も返さずに黙っていると、シャキンもそれ以上詰め寄ることも無かった。
-
(`・ω・´)「で、お前はどういう了見でデレを呼びつけたんだ。まさか退院後の腕慣らしってわけでもないだろ」
川 ゚ -゚)「それもある。むしろそうだと解釈してもらっても構わない」
(`・ω・´)「それこそ笑わせるな、だ。王位で、それも生徒会長ともあろうお前がそんな気まぐれみたいなこと……」
川 ゚ -゚)「やめるよ、生徒会長」
(`・ω・´)「は?」
川 ゚ -゚)「やめる。会長も、王位も、肩書きは全部捨てていく」
(`・ω・´)「捨ててどうするっていうんだ」
川 ゚ -゚)「さあな。何かを成したいから荷物は置く。自然な考えだろう?」
(`・ω・´)「お前じゃなければな」
-
あるいはそれも、お前の勝手な認識、先入観だろう、と、クーは言わなかった。
川 ゚ -゚)「デレが本当に一人で来たら、第三王位をくれてやろうと思っていたんだ」
シャキンの指から、煙草が落ちた。
(`・ω・´)「嘘、じゃないんだな」
川 ゚ -゚)「そんなくだらない嘘をつくか」
(;`・ω・´)「分かってるのか? この学園で申し訳程度の秩序が保たれてるのは、お前っていう存在ありきだってことが」
川 ゚ -゚)「自惚れにならない程度には自覚しているさ。それに、今そうだとしても、この先その薄っぺらい秩序など崩れてしまうことも」
(`・ω・´)「そんなこと……」
川 ゚ -゚)「あるさ。どんな強者であっても、上にいる限りいつかはその椅子を明け渡さなければならない」
-
川 ゚ -゚)「私は椅子から降りる時くらい自分で決める。そして、再びその椅子をもぎ取る時もな」
それは第二王位を奪われた彼女の、ささやかな負け惜しみだった。
鉄の仮面を被った彼女がこんな風に、自分の血の苦味に悔やむことを、シャキンは初めて知った。
彼が知らない彼女だった。
認識の外にあったクーの一部分が、シャキンの中で結びつき、人間を模る。
(`・ω・´)「やれやれだ。お前は"最悪"のタイミングで出張ってきて、全て掻き乱してくれそうだったんだがな」
クーの意志を概ね汲み取った今、どうしてそれを阻むことが出来ようか。
シャキンは"想定しうる"イレギュラー、切り札のようなものとして扱おうとしていた彼女のことを諦めた。
同時に嬉しくも思う自分に気付き、どこまで腐ろうと武人のはしくれなのだな、と、卑下する。
(`・ω・´)「王位を辞退するっていうのは今まで聞いたことが無いな。そもそも補填式で埋められる席じゃないだろう。この場合はどうなるんだ?」
川 ゚ -゚)「気にするな。後釜ならちょうどいいやつがいる。お前でも"読めん"やつがな」
クーはうず高く積み上げられた瓦礫を、その頂に佇む一人の影に視線を向けた。
-
.
-
(;`・ω・´)「おいおい。お前が呼びつけたのか?」
川 ゚ -゚)「どうせこうなるだろうと思ってたからな」
佇む少女は眉ひとつ動かさずに、二人を見下ろしていた。
川 ゚ -゚)「話は聞いていたな。この学園の流儀に即したやり方で、この椅子をくれてやろう」
第四王位デレのものとよく似ているが、それよりも洗練された黒色のドレスの裾が風に靡く。
少女の表情は硬い。
長く伸びた銀色の前髪を指で掴み、そっと耳にかける。
金色の瞳が、クーを捉えていた。
从 ゚∀从
空気は、流れるというよりも蠢いている。
从 ゚∀从「恩着せがましいやつだな。椅子そのものになんか、俺は興味ねえんだよ」
ハインの左肩から黒い霧のようなものが噴き出す。
それは絶えず蠢き、翼の形となって巻き込むようにして彼女の左半身を覆う。
そして振り下ろすようにクーに向けて伸ばした右腕からも黒い霧は噴き出し、それはそのまま腕に巻きつき、獣の腕のような悍ましい姿を模る。
-
川 ゚ -゚)「本気のお前とやり合うのは初めてだな」
从 ゚∀从「よく言うぜ。お前だって、今までちっとも本気出すつもりなんて無かったくせに」
川 ゚ー゚)「それは今も同じかもしれないぞ?」
从 -∀从「はっ。出し惜しみは負けた理由にはなんねえんだからな」
飛翔――
ハインを覆っていた翼が開き、黒い雨が降り注ぐ。闇夜に溶け込む黒色のドレスの裾がはためき、クーの元へと降下する。
川 ゚ -゚)「まるで魔物だな」
手を伸ばす。
一直線に向かってくるハインに向かって、最早刀剣という媒体すら必要としない不可視の斬撃が飛ぶ。
-
斬撃がハインの肩を抉る。
鮮血が散るが、彼女の勢いが止まることはない。
黒を纏い、異形となった右腕がクーの頭を狙う。
川 ゚ -゚)「前も言っただろう。お前には技が無い。無闇な特攻はやめろ」
異形の右腕が、クーの頬に触れる直前でばらばらに切り裂かれる。
霧と化し、風に流された右腕。だがハインは止まらなかった。
从 ゚∀从「だぁらあああああああ!!」
切り裂かれ、散った異形の腕が、一瞬で復活する。
虚を突かれたクーは咄嗟に腕で頭を庇い、受けることしか出来ない。
川 ゚ -゚)「ちっ」
重い一撃。
洗練された武人の突きとは違う、ただ質量に任せた暴力的な突きだ。
从; ゚∀从「ぐっ……」
異形の腕がクーを捉えると同時に、ハインの腹が避け、腸がまろび出た。
だがハインはそれでも手を止めない。クーに防がれた掌を開き、肩を掴む。
-
川; ゚ -゚)「それがお前のスタイルか」
从 ∀从「技、なんてもんは……小賢しい弱者のやることだ」
クーの胴を捉え、握り潰すには十分過ぎる手に力が籠る。
常人ならばこのまま赤い花を咲かせていただろう。
だが、無数の斬撃が手を切り裂き、クーの身体を解放した。
川 ゚ -゚)「確かに。お前には必要のないものかもな」
吸血鬼の不死性。圧倒的膂力。
それと対を成すのは人としての限界すらも凌駕し、究極形に至った技の集合体のようなもの。
これは異なる方向へと突き進んだ二つの力のぶつかり合い。
そしてその果てにあるのは求道の解答。
-
川 ゚ -゚)「その目、いつまで持つ?」
从 ゚∀从「知らねえな。てめえで見定めてみな」
ハインの金色の瞳は強く、煌々とした光を放つ。
だが涙のように流れる一筋の血が、彼女がこの力の為に支払った代償の大きさを物語る。
川 ゚ -゚)「……よかろう。だが早々に壊れてくれるなよ。ジョルジュの火は、お前ら吸血鬼の心すら圧し折るぞ」
先のショボンとの斬り合いにて、放り捨てた刀の柄を拾い上げ、二、三度振るう。
可視化された闘気の粒がまとわりつき、それは一本の闘気の刃を創り上げた。
从 ゚∀从「化け物はどっちだか……」
川 ゚ -゚)「素直の家でまともな人間などおらんさ」
修練の身であった頃、母親が見せた剣の極致。
クーは今、その領域への覚醒を遂げようとしている。
-
目覚めは些細なこと。
闘いの渦中での夢想が、壁を越える後押しとなった。
クーは考える。
もしも今この手に九郎丸があれば、刀剣を模る一切の揺らぎのないこの闘気を、退魔刀に注ぐことが出来たのなら、一体どれだけの力を振るうことが出来るのだろうか。
川 ゚ー゚)「王位などくれてやる。私は更なる高みへ」
闘気の刀を真っ直ぐ振り上げる。
从 ゚∀从「ちっ!」
身体の中枢諸共の両断ともなれば、今の状態とはいえ数秒を要してしまう。
ハインは危険を察知し、咄嗟に後ろへ飛んだ。
波のように流れ出ていた闘気がぴんと張り詰め、二人の間の時が、止まる。
-
川 ゚ -゚)「月華陣――」
ここまで傍観者として闘いを眺めていたシャキンは、その言葉を聞いた瞬間身の危険は自分にも及んでいることを察知した。
(;`・ω・´)「おまっ、ちょっ……!」
その先に紡がれる言葉を、シャキンは知っている。
クーを取り巻く周囲の空間を無差別に切り裂くその剣技の名は――
川 ゚ -゚)「薊繚乱――!」
振り下ろされる闘気の剣。
シャキンは自身が動ける全身全霊の速さで、その場から離れる。
闘気の収束、収束、そして、解放――
从 ゚∀从「――――」
ハインは何か言いかけて、自身の前で渦巻く闘気の動きを見て口を噤む。
そして、腰を深く下ろした。
-
闘気の刃が四方八方に飛び交う。
その速度は最早常人では目で追うことすら敵わず、闘気の光が駆け抜けた、と表現する方が適当だろう。
そしてそれはかつて、クーの母親であるキュートが大草原で見せた剣技。
洗練された闘気は圧倒的物量を以て、それでいて彼女の意のままに、一帯を刈り尽くす。
その刃の一つ一つが彼女の意識下にあることから、クーは到底信じ難い目の前の光景も、すんなりと受け入れることが出来た。
川 ゚ -゚)「母さんの技には、まだ及ばないな」
うず高く積み上げられた瓦礫の山すら粉微塵に、辺り一帯は文字通り平地と化していた。
川 ゚ -゚)「それにしても驚いた。お前にこれを捌ききる腕があったとはな」
平地に立つ影が、一つ。
纏ったドレスには、先程クーが切り裂いた腹部以外には塵もついていなかった。
从 ∀从
川 ゚ -゚)「見えているのか? その目には」
まだ異形と化していない左手で、ハインは左目を抑えている。
指の隙間から血が流れているのを、クーは見逃さなかった。
-
从 ∀从「いってえ……くっそ!」
よろめき、異形の右手を強く握り締める。
それに呼応して彼女の左肩の黒い翼はより大きく広がり、空すら覆わんと伸びていた。
从 ∀从「さっさと終わらせるぞ……帰って二、三人ぶっ殺してメシにしてやる。こんな茶番は終いだ」
力任せに地面に右手を叩きつける。
地鳴りのような衝撃が走り、大きな亀裂が広がった。
川 ゚ -゚)「良い試し切りになったよ。私の跡を継ぐには申し分ない」
刀の切っ先をハインに向け、半身で構える。
川 ゚ -゚)「今の私の全力を以て応えよう。その陳腐な不死性ではなく、己の力で乗り越えてみせろ」
从 ∀从「ぶっ殺してやる……!」
よろめきかけた身体を両足で支え、ハインは右手を振りかざしながら真っ直ぐ駆けた。
-
おわりです。ありがとうございました。
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