したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が1スレッドの最大レス数(1000件)を超えています。残念ながら投稿することができません。

( ^ω^)達は今が楽しければなんでもいいようです

408名も無きAAのようです:2015/10/09(金) 21:44:05 ID:69Q0LYq60
 肩の荷は増え続ける。
塔をよじ登ることをやめ、彼女は上だけ見ていた視線を、ふと足元に向けてみた。

 大地はまるで模型でも眺めているように、リアリティすら霞んでしまうほどに小さく見えた。

 気付けば、彼女は降りることも登ることも出来なくなっていた。

 増え続ける肩の荷の重みに耐え、吹き付ける強風に曝される自分の身体を温めることも出来ず、モララーの影を視界に収めることも出来ず、遥か下から見上げる愚衆にその存在を示すだけの、飾りと成り果てた。

 そんな自覚も持たず、彼女はただそこに在り続けた。
あたかも自分の意志でそこにいるかのように。

 自分で選んでここにいるのだから、降りることなど造作も無い。
そしてまた、この場所に上り詰めることも同じだ。

 慢心だった。

 刻み続けた自分の軌跡を、人々はただ眺めているだけではない。
志高く持つ者ならば誰でも、一度は力を示すその塔を登ろうと決意する。
力ある者がいれば、自分と同じように軌跡を残すだろう。
頂きに近付くだろう。

 そんな当たり前のことすら忘れてしまうほどに、彼女は遥かなる高みでの孤独に慣れ過ぎていた。

 取り囲んでいた雲は不思議と晴れ渡っていた。
塔の壁が遠くなってゆく。
真っさらな壁を掴もうと伸ばした両手は空を掴む。
開けば空は彼女の掌からするりと逃げてゆき、何も残らなかった。

 遠く、遠く、空はどんどん遠くなってゆく。

 彼女は、下を見る気にはなれなかった。




掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板