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( ^ω^)達は今が楽しければなんでもいいようです
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ぼちぼちながらでのんびりと
エログロ諸々過激描写あるかも
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( ^ω^)「これが君の望んでいたものなのかお?」
眼下に広がる景色は、最早見慣れた日常風景であるように思えた。
本来土色であるはずのグラウンドは赤く、文字通り死屍累々が広がっていた。
ぼくと、彼は、それをフェンス越しに、屋上から見下ろしている。
うず高く積み上げられた死体の山を間近で見れば、きっと彼等の個性が手に取るように解るのだろう。
泣き喚きながら頭を撃ち抜かれた者。
気が触れ、笑い声を上げながら首を掻き切られた者。
苦痛に耐えながら撲殺されていった者。
その一つ一つの表情から彼等の死に際について考察することは、或いは有益なことなのかもしれない。
しかし、今はそうする気分にはなれなかった。
暫く伸ばしっぱなしにしていた鬱陶しい前髪が、生温い風に靡く。
それを煩わしく思い、ぼくは前髪を掻き上げ、隣でセブンスターを喫うドクオの方を見た。
('A`)「まさか。俺には死体の腑を食う趣味なんて無いし、あんな生肉の塊をジロジロ眺めて興奮するニッチな性癖もねぇよ。ただ、俺が欲しいものを手に入れようとしたら、その副産物としてあれが出来上がった。ただ、それだけさ」
グラウンドに転がる数多の死体。
彼はそれを望んでいたわけでもなく、逆に嫌悪するでもなく、本当にどうにも思っていないようだった。
彼が今喫っているセブンスターが、彼の身体にどのような害を齎すか。
それと同じように、どうでもいいことなのだろう。
少なくともぼくには、そのように見えた。
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( ^ω^)「そうかお」
ぼくはドクオとの対話を諦めた。
いや、或いは、最初からぼくは彼と解り合おうなどと思っていなかったのかもしれない。
ブレザーを脱ぎ捨て、シャツの袖を捲り上げると、生温い風は上半身を舐り回してきた。
まるで死臭を間接的に塗りたくられているようで、いい気分にはなれなかった。
もっとも、ここが空気の澄んだ見晴らしの良い大草原だったとしても、ドクオが今まで成してきた過程が変わらない限り、いい気分になどなれないのだろうけれど。
('A`)「殺る気満々、て顔だな。もっと肩の力を抜けよ。この学園の唯一の校則を忘れたのか?」
ドクオは薄ら笑いを浮かべ、煙草を咥えたまま拳銃を抜き、こちらに向けた。
ぼくはアレが何度も人の命を刈り取るのを見たし、アレの脅威については恐らく、この世界でドクオの次によく知っている。
けれど、不思議と恐怖心は湧かなかった。
心臓の鼓動が頭に響く。まるで脳と心臓が繋がっていて、ぼくという存在がその二つによってのみ形成されているみたいだった。
一定のリズムを刻むその重低音とドクオの声のみが、今のぼくの世界の全てだ。
汗ばむ掌を固く握り、彼の得物の銃口を深く見据える。
( ^ω^)「【今を、全力で楽しむこと】だお」
きっと疑うまでもなく、ぼくはその校則を守れている。
唐突に引き起こされたジェノサイド。
その犯人は、今ぼくの目の前で薄ら笑いを浮かべながら銃口をこちらに向けている。
どうやらぼくは人間が出来ていないようで、こんな状況が楽しくて楽しくて仕方がないらしい。
それはたった今気付いたことだけれど、まるで産まれた時から持ち合わせていた価値観であるかのように、ぼくの脳に馴染んだ。
ドクオの銃が、火を噴いた。
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( ^ω^)達は今が楽しければなんでもいいようです
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一話「乞食が出したアンサー。対価として得たもの。失ったもの。」
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はじめまして。内藤ホライゾンです。今日から皆さんと一緒に過ごさせていただきます。よろしくお願いします。
だとか、少し謙り過ぎな気もするけれどありきたりな挨拶をしようと思った。
( ^ω^)「はじめましーー」
銃声が鳴り響き、ぼくの声を掻き消した。
ぼくの耳のそばで黒板が弾け飛んだらしい。
銃声の元へ目を向けると、机に座った男がにやけ面を浮かべてぼくに銃を向けていた。
一瞬の出来事で、脳が上手く現状を処理してくれなかった。
が、その三秒後に、その男はもう一度鳴った乾いた破裂音と共に脳漿を撒き散らして死んだ。
銃は固く握ったままだった。自分がどこかから撃たれたことにすら気付かずに死んだのだろう。
ぼくは転校初日の自己紹介を諦め、そのまま無言で指定された席についた。
なんて酷い学校なんだと内心驚いていたし、きっと一週間後には、ぼくもあの男のように生命活動を終えるのだろうと思った。
ただ、それだけのことだった。
それがぼくがVIP学園に転入した初日の出来事で、思えばその時から、ぼくは真っ当な人間になることを諦めたのだろう。
一応、形式上の授業は行われるが、まともにそれを受ける酔狂な者は少なく、生徒の大半がこの広い学校の敷地内で、各々好きなことをしている。
ぼくもそれに倣い、二限目が始まる頃には食堂でラーメンを啜っていた。
隣で焼き鯖定食を食べていた女が急に喉を掻き毟りながら呻き、泡を吹きながら倒れたのを見て、ぼくはラーメンの丼をリノリウムの床に放り投げた。
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('A`)「よう転校生。調子はどうだ? 学校生活を謳歌してるか?」
( ^ω^)「ぼちぼちだお。お気遣いありがとうだお」
VIP学園に転入して一週間後。
意味もなくベンチに座って惚けていると、小柄な男がぼくの隣に腰掛けてきた。
横顔をちらりと覗いてみると、その男が爬虫類のような顔立ちであることがわかった。
痩せ細った小柄な体躯とその顔はあまりにアンバランスで、どこか不気味な印象を与える。
('A`)「鬱田ドクオ」
( ^ω^)「内藤ホライゾン。ブーンでいいお」
('A`)「ブーン? なんだそりゃ」
( ^ω^)「ここに来る前にぶち込まれた見世物小屋でそう呼ばれてたんだお。なんでそう呼ばれてるのかは、ぼくもよく分からなかったお」
('A`)「へぇ……」
ドクオはブレザーの胸ポケットから煙草を二本取り出し、一本は自分で咥えてもう一本をぼくに差し出してきた。
ぼくが煙草はやらない、と言うと、ドクオは大して興味もなさそうに、その煙草を握り潰して地面に捨てた。
代わりに、腰に巻いたポーチからガムを一枚取り出し、ぼくに差し出してきた。
( ^ω^)「……ありがとうだお」
ぼくは少し悩み、それを受け取って包装を剥がした。
一週間前、定食を食べて死んだ女子生徒の顔が頭を過ったからだ。
しかしぼくがガムを噛んで死ぬのも、ドクオの好意を蔑ろにした挙句反感を買って殺されるのも、大した違いは無いだろうと判断したのだ。
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( ^ω^)「おっ、普通に美味しいお」
('A`)「なんだ。毒でも入ってると思ったのか?」
ガムはぶどう味だった。
ここに来てからというもの、食事は全て食べた気がしなかった。
水道の水ですら誰かが毒を混ぜているのではないかと思うと、気が気ではない。
自宅から通っている生徒は、放課後各々の安息が待っているのだろうが、寮で生活しているぼくにその安息は無い。
そんな具合に、常に気を張ってきたものだから、誰ともまともな会話をしていない。
つまりこれが、ぼくにとって学校生活初めての会話ということになる。
そう考えると、どこか感慨深かった。
('A`)「お前はどうしてこの学校に来たんだ?」
( ^ω^)「この学校に、何か目的意識を持って通ってる生徒なんているのかお?」
('A`)「ははっ、そうきたか。確かにそうだな」
ドクオはからからと笑った。
それを見てぼくは、初めてドクオに対して、人間なのだなという感想を抱いた。
それほどまでに彼の一挙一動は無気力で、風に吹かれる柳のように捉えどころが無かった。
しかし彼が血の通った人間であると認識した今なら、何の意味も持たない身の上話も悪くはないなと思えた。
( ^ω^)「ぼくの家は元々、それなりに裕福なところだったお」
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('A`)「なんだ。金持ち自慢か? それならお天道様にでも話しててくれ。他人の自慢話は退屈だ」
( ^ω^)「まぁ只の気まぐれだしそれでも構わないけど、出来れば聞いてほしいお。それにこれは自慢じゃなくて喜劇だお」
('A`)「へぇ……」
ドクオは短くなった煙草を靴底で擦って火を消した。
そしてそれを指で弾いた。妙なところで几帳面だと思った。
しかし、それについて深く考察するのはきっと無益なことなのだろう。
彼の無気力な佇まいを見ていると、その行動の全てが無意味なことであるように思える。
爬虫類のような顔立ち。
一重瞼にしては大きい蛇のような双眸は、目尻が大きく垂れ下がっていて、酔いどれの据わった瞳を連想させる。
ブレザーの袖から伸びた手の甲は骨張っていて、緑色の血管が浮き出ていた。
ぼくは、それを眺めながら口を開いた。
( ^ω^)「ぼくの家は軍需産業に携わる会社を経営してたんだお。二茶(ふたさ)重工って知ってるお?」
('A`)「二茶重工ってお前……国内シェアトップの武器会社じゃねぇか」
武器会社、とチープな言い方をするには少し複雑なところだったが、ドクオの認識で話を進めるのに支障は無かったので、ぼくは訂正しなかった。
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( ^ω^)「まぁ、そうだお。じゃあ二茶が三年前に経営破綻したのは知ってるかお?」
('A`)「ああ、なかなか悪どいことをやってたみたいだしな。それを正そうとした革新派を抑える為の内ゲバから徐々に傾いていったとか、そんな感じだったっけな」
( ^ω^)「そう。まぁその辺りはどうでもいいお。つまり二茶重工は崩壊して、ぼく達は多額の借金を抱えて路頭に迷うことになったお。母親はすぐに父親に売り飛ばされたし、そこからあの人がどうなったのかは知らないお」
強面の男に連れられ、鬼のような形相でぼく達を睨み付けた彼女の最後の言葉は、末代まで呪ってやるだとか、そういったありきたりな言葉だったと思う。
それも今となっては、ほんの些事でしかない。
( ^ω^)「それからぼくが悪辣な作業現場に売り飛ばされたのはすぐのことだったお。タコ部屋みたいなあの場所では医者もいなくて、衛生環境も最悪。気が触れた男色家もいたし、まさに地獄だったお」
('A`)「そこでお前はバージンを捨てたと、そういう話かい?」
まさか、とぼくは笑った。気持ちの良い笑いではなかったが、自然と漏れた笑いだった。
ドクオも、シニカルな笑みを浮かべていた。
咥えた二本目の煙草に火が点き、煙が舞う。
( ^ω^)「ぼくは肉体労働が得意じゃなくて、その割にはガタイがいいからあちこちにたらい回しにされてたんだお。お陰で地獄に馴染んで擦り切れることはなかったお。でも最後に辿り着いたところが最悪だったんだお」
('A`)「さっき言ってた見世物小屋ってやつか」
( ^ω^)「だお」
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しえん
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( ^ω^)「あそこに集められた人達は皆健常者だったし、特に秀でた芸を持ってるわけじゃあなかったお。そんな人達が見世物小屋に集められたらどうなるか、わかるかお?」
('∀`)「おう、それはなんとなくわかるぜ。見せるところが無い奴なら見世物にしちまえばいいんだろ? たとえば手足を切り取って達磨にしちまうとか。それ股ぐらに縫合して三つ足にするのもいいな」
( ^ω^)「おっおっ、察しが良くて助かるお。ずばりそういうことが日常的に行われてたお。乳房を六つつけてストリップショーをやらされる子を見たときは、流石に三日は食欲が無くなったお」
ドクオが卑しい笑みを浮かべていたから、ぼくもそれに合わせて笑った。
その行為自体に意味など無いが、なぜかそうすることが適当であるように思えたのだ。
喉の奥の辺りが、少しだけ苦しかった。
( ^ω^)「ぼくは自分が切り刻まれる前に逃げたお。身体を弄られる代わりにそこでは生活が保障される。けど外に逃げ出せば明日の食い扶持も保障されてない。まぁこの学校も似たようなもんかお? とにかく、そういう環境だったから逃げ出す人は少なかったし、監視の目なんてあって無いようなものだったから、抜け出すのは簡単だったお」
それから、ぼくは富裕層に媚びる乞食として生計を立てていた。
スカベンジャーみたいなこともやったし、同じような仲間と残飯を分け合う生活には、脚色さえすればドラマとなり得る中身があるのかもしれないが、少しばかり長くなりそうなので省略する。
( ^ω^)「ある日、ぼくはいつものように金を持ってそうな人に傅いて食べ物をねだったお。その相手がフォックス学長だったんだお」
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爪'ー`)y-
('A`)「へぇ、あのおっさんが乞食のうろつくようなところを出歩くんだな。それともお前の運が良かっただけか」
( ^ω^)「恐らく後者だと思うお。ぼくはあの人に連れられて風呂に入れられて、その後たらふく飯を食ったお。あの時の分厚いステーキの味は今でも忘れられないお」
可哀想に、そんなに汚れてーー
君、名前は? ブーン? そうか、変わっているが、いい名前だーー
勿体無い。君みたいな利発な子は小綺麗にしておかないとーー
そうだブーン。君、最後に肉を食べたのはいつだい? 俺が死ぬほど美味い肉を食わせてあげようーー
全てを赦し、包み込むような声。薄汚れた乞食の手を、何の躊躇いもなく握ってくれた温もりを、今でも簡単に思い出せる。
( ^ω^)「夢みたいな一日の終わりにあの人はぼくに、この学校に来ないかと提案してきたお。この学校に在籍しているうちは、寮で衣食住の保障もしてくれるし、無事卒業出来ればそれなりの就職口も回そう、と。そうしてぼくは、ゴミみたいな生活からこの学園生活を手に入れたんだお」
ドクオは黙って煙草の煙を吐き出した。
そして、先程と同じように靴底で短くなった煙草を擦った。
('A`)「なるほどね。ゴミ溜めからゴミ人間の溜まり場に移ったわけだ。ま、前半に関してはありがちな話だな」
彼は立ち上がり、尻を軽くはたいた。
そして、ベルトに吊った皮のホルスターから、黒い拳銃を抜く。
三秒後にぼくの頭を撃ち抜くのだろうかと思ったが、それは違った。
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从 ゚∀从「どおおおおおくううううおおおおおおおっ!!!」
それは獣の雄叫びだった。
ぼくらの意識の隙間を縫うように、彼女はぼくを、ドクオを手にかけられる距離に飛び込んできていた。
コマ送りのように流れる視界。
銀色の挑発と、ブレザーの裾を棚引かせながら、彼女は鈍く光るナイフでドクオの首筋を掻き切ろうとしていた。
('A`)「死んどけ」
彼女の動作は速かった。
しかしドクオはそれを更に上回った。
空気を震わせるような雄叫びに怯むことなく、的確に重厚を彼女の頭部に定め、引き金を引いた。
銃の発砲音とは思えない、重く、湿った音とほぼ同時に、ナイフの少女の頭が吹き飛んだ。
脳漿混じりの血肉がぼくの制服を汚す。
ああもう……慣れてしまったよこんな光景。
('A`)「はい先ずは一死に。あと五回くらい死んどくか?」
一歩踏み込み、腰を捻って頭部を失った彼女の身体を蹴り飛ばす。
意思を失った物体はその力に押され、宙を舞った。
あの細身のどこからあんな力が出るのだろうか。
そんなことを、ぼんやりと考えていた。
少女の身体が放物線の頂点に到達するのとほぼ同時に立て続け鳴り響く重く湿った四発の銃声が響き、弾丸が両手両足を吹き飛ばす。
空気の壁に押し込まれるように、達磨になった身体は中庭の際の花壇まで飛ばされた。
ここまで的確な射撃技術、まるで芸術のようだなと思った。
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ドクオは表情を変えずに、手早くポーチから何かを取り出し、血を撒き散らす達磨に向かってそれを投擲した。
それが着地して二秒後、ポップコーンが弾けるような音と共に花壇が瓦礫と化した。
その中心にいた達磨がどうなったかは、考えるまでもないだろう。
( ^ω^)「容赦無いお」
('A`)「こちとら舐めプで命差し出すほどお人好しじゃあねーんだ」
軍需産業に携わる家にいながら、こういった武器についてはよく知らない。
が、素人目に見ても分かる超大口径の弾丸を五発に小型の爆弾一つとは、一人を殺すには些か大仰過ぎるのではないかと思う。
そんな常識の範疇を出ない考えは、すぐに消え去った。
从::∀从「はっはっはァ〜〜いいねぇェ! そんな情け容赦無いとこが好きだよドクオぉ〜〜」
噴煙が風に流され、達磨だったものがうねうねと動くのが見えた。
血の泡が四肢の断面から噴き出し、手足を象ってゆく。
それは十秒と待たないうちに肉を形成した。
頭部は手足よりも時間がかかり、筋肉が露出したグロテスクな顔面に埋め込まれた赤色の瞳が爛々と輝く。
('A`)「ハインリッヒ、吸血鬼の祖だ。噛まれて眷属となった奴はイノヴェルチとか言うんだっけか? あいつはロードとかいう正真正銘の化け物さ」
スカベンジャーの仲間に聞いたことがある。
自警団のいない地域では、夜にはイノヴェルチにもなれなかった卑しい存在、グールが血肉を求めて徘徊していることがあるので、その警告と一緒に聞いた話だ。
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支援しよう
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ファンタジーめいてきた
支援
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( ^ω^)「グール、イノヴェルチがいることから存在が証明されたけれど、その存在はほぼほぼ架空の域を出ない……そんな人までここで普通に学生やってるのかお……まぁぼくみたいな乞食も受け入れてくれるくらいだから、相当受け入れ口は広いと思ってたけど……」
('A`)「ま、クソッタレな環境だよここは」
俺が手を叩いたら目を瞑れ、と、ドクオは言った。
ぼくは無言で頷き、元の形を取り戻したハインリッヒに視線を戻す。
('A`)「乞食、ジャンキー、ギャング、殺し屋、超能力者、化け物、何でもござれだ。少なくとも退屈だけは、しなさそうだけどな」
ブレザーの袖に仕込んでいたのだろうか、ドクオはいつの間にか握り締めていたナイフをハインリッヒに向けて投擲する。
从 ゚∀从「遠慮すんなよドクオぉ。もっと熱いのぶち込んできてもいいんだぜ?」
それを素手で掴んだハインリッヒは、おもむろにその刃を自分の首筋に突き立てた。狂っていると、思った。
('A`)「精々楽しめよブーン。俺たちみたいなのはどう足掻いたって長くは生きられないんだ。だったら、今を全力で楽しまなきゃ損だろ?」
それはフォックス学長が入学前のぼくに言ったことだった。
この学校の唯一の校則は、今を全力で楽しむことだ。
どうか校則を守れる模範生となってくれよ?
('A`)「ようこそ、どこよりも楽しい世界へ」
ドクオは両手を叩いた。
ぼくは先程彼が言った通りに、目を瞑った。
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直後、盛大な爆発音が耳を劈く。
しかし熱も衝撃も無い、けれど、怖くなったぼくは奥歯を噛み締め、それから数秒目を瞑ったままでいた。
(;^ω^)「おっ……?」
恐る恐る目を開けてみると、足元に先程ドクオがハインリッヒに向けて投擲したものと同じような球体が転がっているのが見えた。
なるほど、スタングレネードというやつか。
実際にその効果を体験したことは無かったし、そもそも実物を見るのも初めてだ。
強烈な音と光で相手の動きを封じる兵器。
つまりはこれを利用して、またハインリッヒを肉塊に変えたのだろう。
从 ゚∀从
( ^ω^)「は?」
頭が固まった。
ハインリッヒは目をぱちくりさせてこめかみを叩いているだけで、何の外傷も負っていない。
常人ほどではないがスタングレネードはその効果を発揮したようで、彼女は何やら覚束ない足取りでこちらに歩み寄ってくる。
( ^ω^)「は? は? は?」
脳の処理が追いつかない。
ドクオは? ドクオはどこに行ったのか。
まさか…………
まさか……
まさか、まさか…………
从 ゚∀从「おいお前」
(;^ω^)「おっ……」
从 ゚∀从「殺り逃げされて不機嫌なハインちゃんがお前に質問するぜ? よぉ〜く考えて答えろよ?」
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ハインリッヒはぼくの目の前まで来ていた。
ボロボロのブレザーとスカートの隙間から、バター飴のような白い肌が露出していて、こんな状況であるにも拘らずどぎまぎしてしまう。
片脚でベンチの背もたれを踏みつけ、ぼくに覆い被さるようにして、ハインリッヒはその細い指をぼくの顎に這わせた。
それはとても冷たくて、蛇がちろちろと舌を這わせているように思えた。
(;^ω^)「は、はい……なんですお……」
大きくめくれたスカートの奥に、黒色の下着が見えた。
ちっとも嬉しくなかったし、催すこともなかった。
黒い下着から伸びた嫋やかな太腿から足先にかけて、その一本の足は、ぼくの動きを完全に拘束する縄となり得た。
从 ゚∀从「ドクオが何処に行ったか見なかった? まさか知らないなんて言わねぇよなァ。お前らあんなに仲良さそうに話してたもんな?」
想像通りの質問だったが、ぼくはこれに対する的確なアンサーを持ち合わせていない。
つまり、ドクオにまんまとしてやられたわけだ。
( ^ω^)「…………」
無事卒業出来るだろうか。
そもそも、五分後に生き残ることは出来るだろうか。
確かに退屈はしなさそうだ。
しかし、楽しめるかと言われると首を縦に振ることは出来ない。
今を全力で楽しめーー
ぼくは、大きく息を吐いて、空を見上げた。
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取り敢えず一話終わりということで今日は終わり
思ったより長引いたな、誤字脱字チェックしてくるぁ
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>>14
訂正
×挑発
○長髪
×重厚
○銃口
×立て続け鳴り響く重く湿った四発の銃声が響き
○立て続けに重く湿った四発の銃声が響き
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メチャクチャ面白いじゃねえかよ!!!
内藤が窮地をどう切り抜けていくのか楽しみだ
乙
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クッソ面白いな
支援
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こないだながらで書いてめっちゃきつかったから今度はしっかり書き溜めたぜ
というわけで二話目さくさく投下
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第二話「整うことのない舞台。小さな決意は雫のように落ちた。」
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MCバトルという文化がある。
ラッパー同士がその場で流れるビートに合わせ、即興で作ったラップで交互にディス(ディスリスペクトの略称)をぶつけ合ったり、互いをリスペクトするラップで研鑽し合い、オーディエンスの歓声の大小で勝敗を決める文化だ。
ぼくはそれを生で見たことは無いし、裕福な生活を送っていた際にとあるバトルの動画をパソコンで見たときは、ただ喋っているだけじゃないかと、五分後には関心を失っていた。
だが、本物のMCバトルはこの学園にあった。
( ^ω^)「おっ……」
从 ゚∀从「んん〜? よく見るとお前の血も、なかなか美味そうだな?」
ハインリッヒは更に深く身を寄せてきた。
彼女の顔面はぼくの鼻先から数センチと離れていない距離にあって、ぼくは彼女の艶かしい息遣いを、肌で感じることが出来た。
ほんのりと赤くなった頬は、彼女の真紅の瞳とは違ったグラデーションを描いていて、しかしどちらも、見る者を惹きつけるのだろう。
このぼくでさえ、生殺与奪を彼女に握られていながら、その美しさに息を飲んだのだから。
从 ゚∀从「何だ童貞坊や。こんな状況で興奮してんのか? よくわかんねぇにやけツラしてるわりには、しっかり欲情すんのな? ぎゃっはははははッ!!」
彼女の冷たい指先が、ぼくのズボンの、股間の辺りに伸びる。
その冷たさは布越しで分かり、ぼくは彼女が氷で出来ているのではないかとすら思えた。
ぼくは、勃起していた。
-
从 ゚∀从「これから俺に殺されようってのにイチモツおっ勃てる奴は初めてだぜ。よし、気に入った。お前、俺に血をよこしな? 大半は生ゴミくせぇグールになっちまうが、運が良ければイノヴェルチとして生まれ変われるぜ? 日焼けがめちゃくちゃ痛ぇらしいけどなァ! あっははははは!!」
(;^ω^)「おおおおおおおおお勘弁ですお! ドクオの居場所は知らないけど、他に何か手伝えることがあったら何でもしますお!! お願いですお!」
心臓が跳ね上がる。
うなじの辺りが燃えるように熱く、しかし冷や汗が止まらない。
ズボン越しにぼくの性器を撫でられ、下半身だけがだらしなく弛緩していた。
从 ゚∀从「何でもします、だ? こここんなに大きくしちまって、何の説得力もねェな。だったら今すぐ私の首に刺さったナイフを引っこ抜いて自分の胸に突き立ててみろよ」
ハインリッヒは言いながら、目を細めた。
ぼくという人間を値踏みするように、頭から足先まで、視線で舐め回す。
この感覚はどこか懐かしかった。
乞食時代、ぼくは常にこんな視線に晒されて、時には道化となって、時には畜生になって、パンをねだったのだ。
つまり彼女は主、ぼくは奴隷。
あるいはもっと絶望的な上下関係が形成されているのかもしれないが、それを言い表すだけの語彙を、ぼくは持ち合わせていない。
从 ゚∀从「お前にそれが出来るのか? 出来ねぇだろ。お前の言葉は俺の耳に響かねぇ。薄っぺらいんだよ。だからお前はここで無様にくたばる。理解出来たか?」
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吸血鬼の尺度でものを語られても、僕には全然ぴんとこなかった。
けれどここでぼくの命が終わるということは解る。
富豪の家に生まれ、無駄に広い敷地の中だけで十数年を過ごした。
旅行なんて一度も無かったし、家の外の世界がこんなに腐臭に溢れているとも知らなかった。
世界的な大恐慌。
大陸間で行われる戦争。
暗躍する異能なる者。
全て、家の書物やインターネットを介して知り得た、リアリティの無い情報だった。
家が崩壊してそのリアルに打ちのめされたぼくは、乞食としてではあるけれど、それなりに上手くやれていたと思う。
けれどそれは思い違いだった。
一度も飛んだことが無い、飛ぼうとしたことのない鳥がどれだけ身体を肥やそうとも、その厳しさを経験から学ばなければ飛ぶことは敵わない。
その一度目の失敗によって、ぼくは今日、ここで死ぬ。
( ^ω^)「…………」
唇を固く結ぶ。
ハインリッヒの瞳と真正面から向き合った。
そして…………
从;>∀从「あがっ……」
何故そうしたのか、自分でも解らない。
気付くとぼくの足は勝手に動いていて、ハインリッヒの鳩尾の辺りを蹴り上げていた。
靴越しに、彼女の肉を打つ感触が足に伝わってきた。
こんなに強く、本気で、人に暴力をふるったのはいつぶりだろうか。
そもそも、そんな経験がぼくにあっただろうか。
(#^ω^)「死ねおおおおおおっ!!」
よろめいたハインリッヒの顔面に、固く握った拳を撃ち抜く。
頬の骨が砕けたのだろうか。
小気味の良い音と共に、今まで触れたことのない感触が拳に伝わった。
-
してやった。
汗がどっと噴き出てきた。
今まででっぷりと肥え太った富豪に傅き、媚びたようなにやけツラを浮かべて揉め手をするだけだったぼくが、人間相手に生殺与奪を握る吸血鬼の祖の顔面に、一発入れてやった。
从# ゚∀从「てめぇ……」
長い銀髪で隠れていた左眼が露わになる。
金色の瞳だった。
猫の瞳孔のようなそれが、明確な殺意をもってぼくを捉えているのは、すぐに解った。
( ω )
こういう時、我が生涯に一片の悔い無しとでも言えばいいのだろうか。
今にも泣き出してしまいそうなくらい怖かった。
けれど不思議と涙は零れなかったし、心臓の鼓動は酷く平坦だった。
むしろ、清々しい気分だ。
このようにして、乞食はその人生を終える。
そんな風にぼくの生涯にピリオドを打とうとしたその時、何かを引っ掻き回すような爆音が鳴り響いた。
「Bring the beat!!」
その威勢の良い掛け声の直後に、腹の底まで響く重低音のビートが始まった。
( ´_ゝ`)「ぃいいいやっほおおおおおうっ!!」
再びコマ送りで流れる視界。
先程ドクオが蹴り飛ばしたのと同じように、ぼくらの視界に飛び込んできた大柄な男が、楽しそうに叫びながらハインリッヒを蹴り飛ばした。
ドクオの時とは比べものにならない衝撃だった。
間近でその蹴りを見ていたぼくの前髪を、凄まじい風圧が巻き上げる。
ミサイルが突っ込んだと言われても何ら不思議に思わないだろう。
とても人体が起こしたとは思えない衝撃音と共に、ハインリッヒの身体は先程砕け散った花壇を軽々と越え、校舎の壁にぶち当たり、亀裂を入れた。
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ちょっと待ってNGワードが入ってますとか言われてんだけど
何がひっかかってんのかわかんねぇ…
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(;^ω^)「はぁっ!? コンク○ートだおあの校舎! 化け物ってレベルじゃないお!?」
( ´_ゝ`)「yo! 俺がフリークス? 間違いねぇだが俺はラップフリークス。レペゼンVIPからかます先制ジャブならこんな感じ hey!yo!! ヒップホップ界一問題児」
気の抜けた声でラップをするその男はとにかく大きかった。
目測でも百九十センチは越えることが分かる。
太い学生ズボンの上には赤色のパーカーを羽織っており、つばが平たい赤色キャップを目深に被っていて、表情はよく分からない。
( ´_ゝ`)「相手はハインリッヒ。ヴァンパイア界一問題児。ならば俺は沸かすだけだアンパイア。張っとけ俺へのベッドは安牌だ」
どこからともなく聞こえるビートに、彼のラップは完全にハマっていた。
それがこの場においてはシュールでしかなく、ぼくは思わず笑いそうになってしまう。
从# ゚∀从「流石の兄貴ぃ〜〜……てめぇミンチにされてぇのか? お前、今ので俺のアバラが二本イッたぞ? 倍折られる覚悟は出来てんのか? あぁっ!?」
( ´_ゝ`)「俺をミンチ? そいつは無理だ、何故なら俺のがやべぇから。格なら倍は違う俺がVIPで一番ヤバい赤いやつ。みたいな感じだわかるか? お前を殺して獲る天下、点火して撃つAK-47」
即興なのだろうか。
ハインリッヒの罵声ときっちりラップで対話していることに、思わず拍手したくなる。
そんなぼくの心の昂りに気付いたのだろうか。
流石の兄貴と呼ばれた男は、ぼくの方をちらりと見て、満足げに笑った。
-
从 ゚∀从「しゃらくせぇラップごっこはお終いだ。俺が纏めてぶち殺してやっから辞世の句でも詠んでごはっーー!?」
再び衝撃。
もう一つ、流石の兄貴とやらよりも小さな影が、ハインリッヒの頭上から舞い降りた。
いや、舞い降りたというよりも、着弾したと言った方がいいだろうか。
それはハインリッヒを背中から踏み潰し、地面に大きな亀裂を入れた。
校舎のコンク○ートの壁もより一層震え、このまま倒壊してしまうのではないかと思った。
(´<_` )「ラップに対するアンサーならまずラップで返せ。つまりお前は基本が出来てない からそこんとこ叩き込んでくぞ」
拳を振り上げ、ハインリッヒに向けて叩き落とす。
ぐちゃりと、生々しい音が混じった殴打音は、どこからともなく聞こえるビートを支える重低音に混じった。
(´<_` )「まずイルな韻を踏む。そしてフロウする。ゆっくりビートに乗る。そしたらテンポ上げる倍速。何が辞世の句? つまらんな足りんパンチライン。お前の需要はパンチラだけだ。なんなら真っ裸になってみるか? わっぱかける俺like a FBI。お前はワックにもなれない大失態」
( ´_ゝ`)「yo! yo! yo! お前の言うことマジで間違いねぇ! 倍速なら負けねぇお前イルだが俺はもっとイル。つまりこの場でキルするイキる雑魚。こいつはまだ至らねぇ見たまえ転校生のツラ。俺たちのスキルに呆然そりゃ当然だ何故なら俺たちレペゼンVIPだ」
( ´_ゝ`)「流石だよな俺たち!」(´<_` )
-
圧巻だった。
それ以外に言葉が出なかった。
ドクオの徒手戦闘技術。
あの芸術的な射撃スキル。
一切の躊躇が無い殺意。
それらもまた圧巻されたが、この二人はまた違った方向性で、それもドクオを上回る凄味があった。
ぼくは対峙して、身体を動かすことすら満足にいかなかった圧倒的オーラを放つハインリッヒを相手に、二人掛かりとはいえ完全に玩具で遊んでいるような立ち振る舞いだ。
( ´_ゝ`)「さてさて、転校生。お前のビーフ見せてもらったよ。俺らは確かにつえーがあんな死に損ない相手にするなんざ本来御免だ。何回挽肉みたいにしてもくたばんねーんだもん」
目深に被っていたキャップを脱ぎ、それをぼくに被せて三度、頭を叩いてきた。
そんな経験は無いが、親にあやされるのはきっとこんな気分なのだろうと思った。
( ´_ゝ`)「でもお前の勇敢さを見て気が変わった。あのへなちょこパンチは俺たちの胸にズドンと響いたぜ。強烈なパンチラインだ」
(´<_` )「兄者、ウダウダ言ってないで手伝え。こいつもう再生してる。抑えきれんぞ」
( ´_ゝ`)「まぁ待てよ。このニューカマーに俺たちの名前を覚えてもらわなきゃな」
そんな呑気なやり取りをして、兄者と呼ばれた男はその大きな手をぼくに差し出してきた。
少し遅れて、ぼくはその手を握り返す。
ごつごつしたその感触は、熊の手のようだった。
( ´_ゝ`)「俺は二年生の流石兄者。あっちも同じく二年生の流石弟者だ。よろしくなマイメン。お前の名前は何て言う?」
( ^ω^)「内藤ホライゾン。ブーンでいいですお。ブーンの由来については聞かないでほしいお」
( ´_ゝ`)「何だそりゃ。まぁいいや、よろしく頼むぜブーン」
-
从 ゚∀从「だぁらっしゃあああああああああああっ!!」
(´<_`;)「うおっ!?」
獣のような咆哮と共に、弟者の身体が吹き飛ぶ。
やはり、先ほどの圧倒的暴力を持ってしても吸血鬼の祖は倒せないらしい。
弟者は空中で何度か身体を捻りながら、流れるように着地した。
( ´_ゝ`)「おっともう復活かい。まぁこのまま死んでくれるとは思ってなかったけどよ」
(´<_` )「お前がそこの転校生と馴れ合ってなければいけたかもしれんがな。ブーンとか言ったか? 死にたくなかったら離れてろ」
(;^ω^)「は、はいですお……」
弟者は兄者と同じ服装で、色だけが違った。
兄者は赤色で弟者は緑色。
こうして並んでいるのを見ると、カラーギャングのようだった。
そして、弟者の方は兄者と比べると随分小柄で、少女のような体躯のハインリッヒともそう変わらないくらいの背丈だ。
が、恐らくその感想をありのまま述べれば、ぼくは挽肉にでもなって、食肉加工された後に悪どい飲食チェーン店のセントラルキッチンにでも流れるのだろうと思った。
从 ゚∀从「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すぶっ殺す。流石兄弟…………お前らも俺の眷属にしてやろうと思ってたが撤回だ。一滴残らず血を吸い付くして、出涸らしになったお前らを屋上に吊るして干物にしてやるよ。なんなら三枚におろしてやろうか? あ? 聞いてんのかああっ!?」
ハインリッヒは完全に"キレて"いた。
ぼくに覆い被さった時の淫靡な雰囲気は欠片も無い。
-
(´<_` )「来るぞ」
( ´_ゝ`)「ああ」
身構える兄者と弟者。
三人が対峙すると、まるで空間そのものが熱を持って蠢いているように思えた。
ぼくはそれに耐えかねて、ベンチを離れる。
しかし、伴天連ラッパーと異形の者がぶつかり合うその瞬間を、見届けたい。
そう思ってしまうのは男として生まれたがゆえの性だろうか。
ぼくは、自分の命を危険に晒すと知りながらも、一目散に逃げ出すことが出来なかった。
粘つく空気を肌で感じながら、修羅同士が切り結ぶその瞬間を待っているその時ーー
川 ゚ -゚)「動くな。その首を貰う」
その直後の出来事を、ぼくはどう形容していいのか分からなかった。
もう夏も近付き、暑くなってきたこの六月中旬に、学校指定のブレザーの上から黒いコートを羽織ったその少女は、身の丈以上もある黒塗りの鞘から、一振りの刀を抜刀した。
ドクオも、ハインリッヒも、兄者も弟者も、彼等の戦闘スキルは、凡人のぼくには理解の範疇を越えたものだった。
しかし、彼女のそれは、彼等のスキルを大きく上回っていた。
川 ゚ -゚)「哭け。鬼切九郎丸ーー」
ぼくの世界は停止した。
一閃の煌めきだけが、ぼくが認識出来る全てだった。
-
再び世界が動き始めたその頃には、ハインリッヒの首が胴体と分かれていた。
夥しい鮮血が噴水のように噴き出し、地面を濡らす。
(;´_ゝ`)「やっべ! クー会長だ! ずらかるぞ!」
(´<_`;)「ここらで真打登場か? 認めるしかねぇなその真価。like a ナラシンハならば突破するヴァンパイア。紛いない間違いないハスラークールを前に一目散散開」
(;´_ゝ`)「やっとる場合か! くっそ頭が飛んでやがる。わりぃなブーン! 生きて帰ってこいよ!」
(;^ω^)「おっ!? ちょっ、まっ……」
兄者は弟者を連れて一目散に逃げ出してしまった。
その様子を惚けて眺めていたが、迸る殺気がぼくの視線を強制的に"あちら側"に引きずり込む。
川 ゚ -゚)「ハイン。少しはマトモな技を身につけたらどうだ? 生徒を殺すなとは言わん。だがやたら無謀な特攻をして飛び散ったお前の肉片が臭いとクレームが入ってるんだ」
从# ゚∀从「っざけんな! 人を生ゴミみてぇに言いやがーー」
頭部が復活したと思いきや、また一閃の煌めきがハインリッヒの首を刎ねた。
今度は、クー会長と呼ばれた彼女の所作すら目で追えなかった。
川 ゚ -゚)「お前の聞き分けがないせいでまた生ゴミが増えた。私にお前は殺せないかもしれないが、逆もまた然りであることくらいそろそろ学習したらどうだ?」
从# ゚∀从「ぶっこーー」
三つ目の生首が、今度は微塵切りになって地面に飛散した。
-
川 ゚ -゚)「内藤ホライゾン」
ロングコートのポケットに手を突っ込み、彼女はその仮面のような無機質な顔をこちらに向け、ぼくの名前を呼んだ。
川 ゚ -゚)「この学園で生き残りたければ、ドクオを頼るといい。ハインから逃げたのは大方面倒臭くなったとか、そういう理由だろう。だが根はお節介な奴だ。仲良くしておいて損は無い」
そう語る彼女の真横で、ハインリッヒは何度も再生して彼女に飛び付こうとしていた。
が、その度に不可視の斬撃によって首を落とされていた。
何度目の斬首だろうか。
最早数える気にもなれない。
鬼切九郎丸と呼ばれた長刀は、鞘に収まったままだ。
彼女の抜刀術のメカニズムについて深く考えるには、ぼくの経験はあまりに浅いのだろう。
これはもうそういうものなのだと、彼女は誰の理解の範疇をも超越した強さを持っているのだと、思考停止して受け入れるしかないらしい。
ハインリッヒの脅威が、彼女の力によって掻き消されたからか、先程より幾分か冷静に、今の状況について熟考することが出来た。
あちらこちらに飛散したハインリッヒの肉塊は、泡のように溶けて、煙のようなものを上げている。
一番近くにあった肉片に近付いてみると、目が痛くなるような腐臭が漂ってきた。
ぼくはそれを蹴飛ばし、コートの彼女に礼を言う。
( ^ω^)「ありがとうございますお。こんな学園に貴女みたいな正義のヒーローみたいな人がいてくれて、奴隷乞食からしてみれば本当に助かりますお」
川 ゚ -゚)「正義のヒーロー? 笑えない冗談だな……」
彼女は、仮面のような表情を少しだけ崩して、微笑んだ。
とても綺麗だと思った。
彼女の長い黒髪、身体、手足、そして長刀、彼女を形成する全てが、その微笑みに似合うように取り付けられたものなのかもしれない。
そう思えるくらいに、彼女は美しかった。
川 ゚ -゚)「まぁ、追い追い学んでいけばいいだろう。素直クール。三年、この学園の生徒会長だ。クー会長と呼ばれることの方が多いな。死んでなければまた会おう」
( ^ω^)「ブーンでいいですお。由来については聞かないでほしいお」
-
一礼して、彼女に背を向けた。
その直後、稲光のような光と同時に轟音が鳴り響いた。
恐らくクー会長がやったものなのだろう。
ぼくは振り返って、惨状を確認しようとは思わなかった。
( ^ω^)(一生分汗かいた気がするお……)
ドクオ、ハインリッヒ、流石兄弟、クー会長。
彼等からは、他の気狂い達とは違った人間味のようなものを感じた。
ハインリッヒは吸血鬼であって、人間ではない。
けれど、ぼくが言いたいのはそういうことではない。
対峙しただけで胸の奥がちりちりと焦げるような……覇気とでも言うのだろうか。
箱庭のような二茶の家にも、ゴミに埋れた寝床にも無かった……心地良い緊張感。
或いはぼくも、彼等のような化け物と同じなのだろうか。
( ^ω^)(やめとくお……自惚れでしかないお)
猛毒が含まれた、一滴の甘い蜜に舌を伸ばすような下卑た感覚。
きっとそれに身を染めてしまえば、ぼくはもう二度と人間には戻れないのだろう。
或いは、人として短い生涯を終えるか。
どちらにしても、そうなるには早すぎる。
編入初日、自己紹介の最中に人が死んだのを見た時点で、ぼくはいつ死んでも構わないと、心のどこかで自分の人生の落としどころを定めようとしていた。
けれどどうやらそれは、この学園の校則には即していないようで……
( ^ω^)「今を、全力で楽しむ……」
アテは無い、けれどぼくは歩く。
晴天の空に、二度目の稲光が走った。
衝撃と共に吹き荒ぶ風を背に受けながら、ぼくはドクオを探す為に、地を踏み締める。
-
VIP学園某所ーー
(,,゚Д゚)「【真祖】と【第二王位】がやりあってる?」
寂れた空き教室に佇む少年。
短く刈り上げた黒髪を雑に掻きながら、彼は眉を顰めた。
「殺り合ってる、と言うべきか。僕には戯れ合っているだけのように見えたけどね」
もう一つの声の主の姿は見えない。
その声色はまるで、歌でも歌っているような、仰々しく全てを包み込む朗らかさがあった。
「ギコ、ここ最近はどんな諍いに対してもだんまりを決め込んでいたみたいだが、君が出張るのに不足は無いんじゃないかい? そろそろ顔出してやらないと、【第八王位】の座をひっくり返されるかもしれないよ?」
(,,゚Д゚)「俺は王位になんか興味ねぇよ。ただ気に入らない奴をぶん殴ってたら、この椅子に座れと言われた。それだけだ。欲しけりゃくれてやるさ」
「ドクオ辺りに聞かせてやりたいね。一年生の中で、一番王位に執着を抱いているのは恐らく彼だろう」
(,,゚Д゚)「期待のホープ、か……」
ギコと呼ばれた少年は深く椅子の背もたれに背を預け、腕を組んだ。
そして目を閉じ、深く息を吐く。
「真祖も彼には期待しているようだしね。早ければ今年の夏には、【第十王位】がひっくり返されてるかもしれない」
(,,゚Д゚)「その口ぶりだと、あんたも結構な期待を寄せてるみたいだな」
声の主を卑しく嗜めるように、ギコは口角を上げて笑った。
教室の空気が一変し、窓も戸も締め切っているにもかかわらず、机や椅子が小刻みに揺れ始める。
-
「ドクオには期待してるよ。でも、もっと面白そうな玩具を見つけたんだ」
(,,゚Д゚)「ドクオ以上の逸材? ミルナ辺りか。奇遇だな、俺もドクオよりかは骨がある奴だと思ってるぜ」
「いや……」
声の主は言葉を止め、含み笑いを漏らした。
ギコはそれが気に入らないようで、舌打ちをする。
(,,゚Д゚)「勿体ぶってないで言えよ。そんなに面白い逸材がいるなら、俺が一枚噛んでやってもいい」
「いや、やめておくよ。ただこれだけは断言出来る。今は取るに足らない塵芥かもしれないが、彼は確実にドクオを上回る逸材だ。或いは、彼の目覚めが早ければ、ぼくが卒業するまでにこの椅子に王手をかけてくるかもしれないね」
歌うような語り。
ギコは、目を丸くしていた。
普段の表情は精悍な顔付きだが、今ばかりは鳩が豆鉄砲を食らったような間抜け面だった。
(,,゚Д゚)「届くっていうのか? あんたに……【第一王位】に」
届くかもしれないし、明日には死んでいるかもしれない。
見えない声の主は、それだけ言い残して、それ以降ギコの呼び掛けに答えることは無かった。
ギコはもう一度腕を組み直し、深く目を閉じた。
それは、彼が何か考え込む時の癖だった。
そうすることで彼は有象無象が騒ぎ立てる世界から抜け出し、清流のような穏やかな思考を以って、回答に辿り着くことが出来たのだ。
(,,゚Д゚)(見えない、か……)
仄暗い空き教室に、溜息の音が一つ、響いた。
-
二話終わり
まさかこんなNGワードがあるとは思わなんだ
わかるとは思うけど○の中はクで補完しといて
誤字脱字チェックしてくるぁ
-
特に誤字脱字無かったので今日は終わり、俺乙。また近々投下する
-
乙。こういうの好きだわ
-
おつ!
セルフ乙すんなw
待ってるぜ
-
めっちゃかっけえ乙
期待してる
-
今夜か明日にでものんびり投下
-
こういうの好きだわ
-
さて、投下するか
-
VIP学園は全国の、いや、世界中の高校を含めても最大規模の学園だ。
学園は八つのエリアに分けられ、それぞれ第一ブロック、第二ブロックといった具合に、数字が振られている。
ぼくが今いるのは第四ブロック。
先のハインリッヒと猛者たちの交戦の場は第二ブロックでそこからバスで数分走った先の区間だ。
世界的大恐慌の中、ここまでの敷地面積、充実した設備を整えられるだけの潤沢な資金源は、恐らく軍事兵器、兵力の輸出だろうと、ぼくは睨んでいる。
フォックス学長が言ったそれなりの就職口とは、そういうところだろう。
無事この学園を卒業出来れば、今度は硝煙の匂いに満ちた戦場に送られるか、或いはブローカーとなって、死の商人と揶揄されながら生きるか。
どちらにしても、明るい未来は見えてこない。
それでも、ぼくはフォックス学長に対して怒りを抱いたりはしなかった。
誰もが資本主義の夢を抱き、それに向かって努力する時代はとうの昔に終わったのだ。
今は世界的な大富豪として名を連ねる者も、少し探れば過去に身売り経験があったり、仲間を売った金を種にして一山を当てていたり、つまり、今はそういう時代なのだ。
貧民として生まれた者が栄光を勝ち取る為には、社会のルールという錆れた枠を踏み越えなければならない。
( ^ω^)(生まれた時代が悪かったと言えば、それで片付けられることだお)
愚痴を吐いて口を動かすか、身体を動かして行動で示すか。
どちらを選んだ方が利口かは、社会に対する不平不満に満ちた乞食のコミュニティの中で嫌というほど学んだ。
愚痴を吐きたいが為に手を止めた者から死んでゆく。
あそこはそういう世界だったから。
-
( ^ω^)「おっ、ちゃんと立ち寄ったのは初めてだけど凄いところだお」
第四ブロックは商業区域だ。
武器、雑貨、薬、食料、嗜好品、書物。
このアンダーグラウンドな学園の中で生活するのに必要なものは、ここで一通り揃うらしい。
入学前のパンフレットでそう書いてあるのを見たが、贅沢を言わなければ第一ブロックの寮と第二ブロックの校舎群の往復で何ら不自由のない生活を送れるし、わざわざこんな人が多そうなところに出向く気にはなれなかった。
しかし、人探しとなれば話は変わってくる。
閑散としたところをちまちまと回るよりかは、こういうところを当たった方が早い。
人が集まるということは、集まるだけの理由があるのだから。
( ^ω^)(ドクオが行きそうなところ……どこだお?)
考えるのも馬鹿らしい話だ。
ぼくと彼の付き合いなど一時間にも満たない。
彼という人間について深く考察し、合わせ鏡のように自分に置き換えて彼の行動を推測したところで、見えてくる答えなど、ジャンキーの溜まり場になっている第八ブロックには行かないだろうな、ということくらいだ。
ふと、ぼくはどうして、ここまでドクオに固執しているのだろうと疑問に思った。
確かにクー会長にはドクオを頼るようにと言われたが、凡ゆる観念、常識が不安定なこの場所で、今日出会ったばかりの人間に今日出会った人間を頼るようにと言われて、なぜぼくはその通りにしているのだろうか。
(;^ω^)(やめるお……)
それは何の生産性も無い疑問だった。
僅かに芽生えたこの感情に従って足を止めたところで、ぼくは何も掴めはしない。
だから、ぼくは再び歩き始めた。
-
ドクオは思いの外早く見つかった。
('A`)「お、おお……お前生きてたのか」
ペストとかいう、飲食店には明らかに相応しくない名前のレストランに、彼はいた。
飲食店が建ち並ぶ通りを練り歩いていて、たまたま彼がそこの窓際の席で仏頂面を浮かべているのを見つけたのだ。
( ^ω^)「お陰様でスリリングな体験が出来たお」
('∀`)「皮肉が吐けるようになったか。この短時間で肝が座ったな。ハインに童貞を奪われたか?」
無愛想な顔付きの割りには、よく喋るやつだと思った。ウエイトレスが差し出してきた水を受け取り、一気に飲み干す。
じりじりと照り付ける太陽に晒されながら歩いた身体に、染み込んでいった。
一応メニューを手に取り、少し考えるふりをして、ウエイトレスには後で注文すると告げた。
何の変哲もないメニューだったが、料金設定は明らかに高かった。
どうせこの学園の、寮以外で出されたものには口をつけないつもりだったのでかまわないが、店内の様子を見ても他の店より繁盛しているようで、どうにもその理由が判然としないのが気持ち悪い。
('A`)「なんか食えよ。ここはこの学園の飲食店で唯一、毒物混入の心配が一切無い飯屋だ。従業員の腕っ節もそれなりで、騒ぎを起こそうもんならつまみ出されるから落ち着いて飯が食える。それに、高い金を取るだけあって美味いぞ」
そういうことか、とぼくは独りごちた。
この学園で、外の飯屋と同じように安心して食事が出来る環境というのはニーズが高いだろう。
通常の倍の額を払うことになっても、ぼくならばその金を惜しまない。
しかし学園に入学したばかりで、今後どんな出費があるか分からない……
-
( ^ω^)「確かに魅力的な話だけど、遠慮しとくお。支給されてる娯楽費もそんなに多くはないし……」
('A`)「ちっ……相席してる奴が水飲んでるのに一人で飯食うなんて気まずいこと出来るかよ。仕方ねぇな……今日は奢ってやるから今度なんか奢れ」
奢りというなら話は別だ。
ぼくはすぐに店員を呼びつけ、ペペロンチーノとハンバーグステーキとビーフカレーと天ぷらの盛り合わせ、それとコーンスープとマンゴーラッシーを注文した。
(;'A`)「お前マジで肝が据わったな……」
( ^ω^)「ごちそうになりますお」
生憎だがぼくは元乞食だし、その性根は今となっても変わることは無い。
食える時に食う。飲める時に飲む。
明日の食い扶持も保証されない世界で、生き残る為の鉄則だ。
向こう三日は何も食べる気になれないくらい、胃に詰め込んでやろう。
三分と待たないうちにドクオが注文していたらしいハンバーガーとホットスナックプレートが運ばれてきた。
掌ほどある大きなバンズに挟まれたパテは、ハンバーグというよりは重厚なステーキで、ナイフを入れるまでもなく胃を刺激する肉汁の匂いが漂ってきた。
ぼくもこれを頼んでおけば良かったと思った。
('A`)「じろじろ見るんじゃねぇ。食いにくいだろうが」
ごもっともだが、ぼくはハンバーガーから視線を外せなかった。
バンズとみずみずしいトマト、レタスに挟まれたあの肉の壁の内側の、旨味と肉汁が空気に触れ、彼の口の中に収まる瞬間を見たい。
腹の虫が止まらない。
しばらく気を張らずに食事をする、という機会に恵まれなかったぼくにとって、この光景は最早視る麻薬だ。
-
ドクオは口を大きく開け、ハンバーガーに齧りついた。
バンズの間から零れ落ちそうになるハンバーグパテを器用に手で抑えながら、レタスとトマトの水気と一体になったハンバーグを咀嚼する。
デミグラスソースのまろやかな匂いの中に、棘のように見え隠れする肉汁の匂いがぼくの脳を犯す。
( ^ω^)(ええい、ぼくの分はまだかお……まだ何も来てないのにおかわりのことしか考えられないお……)
ドクオが合間にぶつぶつと何か喋っていたが、何も頭に入ってこなかった。
少し待って、ペペロンチーノが運ばれてきた。
ぼくはそれを、次の皿が運ばれて来る前に完食した。
最早冗長な感想を並べ連ねるのは無粋だろう。
美味かった、その一言に尽きる。
(;'A`)「うわぁ……」
ドクオの手の中のバンズから、肉が零れ落ちた。
( ^ω^)「はむっはふっはふっ! うめぇ!! カレーうめぇ! このカレーは飲めるお!」
ぼくは続けてハンバーグステーキを持ってきたウエイトレスにカツ丼とクリームシチュー、それと海鮮丼を注文した。
('A`)「お前が飯食ってるとこ見てると汗かいてくるわ」
(^ω^)「ばっばだべばばぶふぉっばーばぱぱばーばままぼぶはばーばばば(だったら冷たいデザートでも食べるといいお。ぼくも後で注文するお)」
(;'A`)「きたねぇから口にものを入れたまま喋るな。つーかこっち見るな」
-
一週間は飲まず食わずでも生きられそうなくらい、食べ物を胃に詰め込み、ホットコーヒーを啜りながらデザートを待つ。
ドクオは長財布を開き、中身と睨めっこしていた。
(;'A`)「薬莢も火薬もくそ高いってのに……そもそもこれ足りるのか……? クソッタレが……お前には二度と奢るなんて言わねぇ」
( ^ω^)「そう言わず、週一くらいで奢ってくれてもいいお。仲良くしようお」
ざっと二万キロカロリー弱くらいだろうか、もう少し詰めることも出来たが、美味しく料理を食べられる限界ラインはこのくらいだ。
本当に、今日一日でぼくは随分とこの環境に馴染んだと思う。
お陰で、今までは自分の手の届く範囲くらいにしか向かなかった意識も、この店内を見渡して、人々の表情に目を向けられるくらいには広がった。
ξ゚⊿゚)ξ
トレイを持った、コックコートの少女がこちらに近付いてくるのが見えた。
ウエイトレスは給仕用の制服を着ている。
恐らく彼女は厨房の従業員だろう。
わざわざホールに出ているということは、人手が足りていないのだろうか。
ξ゚⊿゚)ξ「はい、ドクオは抹茶アイス。そっちのお客さんはチョコバナナパフェとチーズケーキね」
ぼく達の手元に皿を置き、彼女は腕を組んでぼくを見下ろしてきた。
一見無愛想にも見える所作だが、彼女が呆れたような笑みを浮かべて頬を綻ばせると、その印象は一瞬で掻き消された。
-
ξ゚⊿゚)ξ「一人で尋常じゃない量食べるお客さんがいるって聞いたから興味本位で来てみたら……ドクオ、あんたのツレだったのね」
('A`)「今日知り合った仲だけどな」
ξ゚⊿゚)ξ「あら珍しい。あんたって知り合ったばかりの人と食事するようなフレンドリーなキャラだったっけ?」
('A`)「無愛想なのは自覚してらぁ。
ほっといてくれよツンさん」
一時間ほど前よりもこの環境に順応した目でドクオを見る。
どうやら彼は異性にからかわれるのがあまり好きではないようで、本当に嫌そうな顔をしている。
ξ゚⊿゚)ξ「そんなに嫌そうにしなくてもいいじゃない。軽い冗談よ。んでそっちのニコニコくん」
( ^ω^)「ニコニコ……ぼくかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「そうよ、にやけ面だからニコニコくん。私はここの料理長を務めるツンよ。こんなに食べてもらえて、料理人冥利に尽きるわ。今後ともご贔屓にね」
( ^ω^)「内藤ホライゾン。ブーンでいいですお。由来については聞かないでほしいお」
ξ゚⊿゚)ξ「なにそれ……? まぁいいわ、よろしくねブーン。それと敬語はいらないわ。あなた一年生でしょ? 私も同い年だから」
素直に驚いた。
ぼく達と同い年でありながら、一店舗の料理長を、それもこんなところで務めるその人生背景が少し気になった。
けれどそれを聞くにはまだ早過ぎるだろう。
或いは今後彼女との交流を深めることがあれば、その時に。
-
ツンさんと少し談笑して、ぼくはドクオにあれ以降の出来事を話した。
流石兄弟と、クー会長と出会ったことだ。
クー会長が、ぼくにドクオを頼るようにと告げたことも話した。
その最中に、窓の向こうで集団リンチが行われているのを見て、嘆息を混じえた。
ξ゚⊿゚)ξ「クォルアアアアア!! 客が逃げるでしょうがよそでやれやヴォケがああああ!!」
中華鍋を振り回しながら、通りのリンチ集団に突っ込んでいくツンさんが見えた。
本当に、強い女性だなと思った。
('A`)「クー会長……ね。別に俺はそんな大層なもんじゃねぇっての。めんどくせぇな」
( ^ω^)「面倒臭がりだけど根はお節介、とも言ってたお」
('A`)「ほっとけ」
ドクオは一年生で、クー会長は三年、それも生徒会長だ。
普通に過ごしていれば接点は無さそうだが、この二人の間には何があったのだろうか。
思い切って、聞いてみることにした。
('A`)「ああ、俺とあの人は幼馴染なんだ。あんまり人には言うなよ、ただでさえ一部の奴等の間では目立っちまって動きにくいんだ。【第二王位】と顔なじみなんてバレた日にゃ身動き取れなくなっちまう」
( ^ω^)「第二王位?」
聞きなれない言葉が耳に引っかかり、おうむ返しする。
('A`)「そうか、お前は編入してきたばかりだから知らねぇよな。第二王位ってのはこの学園内での強さの序列のことで、単純にクー会長がこの学校で二番目に強いってことさ」
-
('A`)「昼間にお前は言ってたよな。この学園に目的意識を持って入学してきた奴なんていたのかって」
( ^ω^)「おっ、言ったお」
('A`)「その答えだが、大半はねぇだろうよ。単純に刺激が欲しいだけの奴ばかりだ。だが……中にはいる。俺を含め、そういう人間の目的が……この学園の上位十人のみが座ることの出来る、【十席の王位】だ」
( ^ω^)「十席の王位……」
再びおうむ返し。
学力や、コミュニケーション能力ではなく、力でのみ序列を設ける。
やり方や環境こそ無秩序ではあるが、ここもまた、確かに学校というコミュニティなのだなと思った。
('A`)「十席の王位を継承し、この学園を卒業した者は、闇の稼業の界隈においてその未来が確約される。それはつまり、このクソッタレな世界で好き勝手出来るってことだ」
( ^ω^)「…………」
何か喋ろうと思ったが、上手く言葉にならなかった。
十席の王位……闇の世界の頂点……
そしてクー会長の、絶対的な強さ。
流石兄弟の大きな背中。
ハインリッヒの凶暴性。
うなじの辺りがちりちりと熱い。
ぼくは、彼等のような舞台の花形とも言うべき圧倒的な悪のカリスマに、自己投影している自分に気付いた。
-
( ^ω^)「ぼくも……その王位を継承出来るかお?」
ドクオは面食らった。
少なくともぼくには、そのように見えた。
目をまんまるに見開き、静止していた顔の筋肉が徐々に歪み、破顔する。
('∀`)「お前が王位? やめとけよ、お前の命がコンビニでワンコインで売ってるような代物なら、試してみるのもいいかもな」
( ^ω^)「おっおっwww冗談だおwwww」
テーブルの下に潜らせた拳を固く結ぶ。
悔しくはなかったが、自分の口から零れた言葉が本心ではないことが、どこかやるせなかった。
ドクオは、テーブルの下で固めたちっぽけな決意に気付いただろうか。
身体の中で燻る熱を冷ますため、冷めてしまったコーヒーを呷り、ドクオの目を見る。
爬虫類を思わせる不気味な笑みは、消え失せていた。
('A`)「仮に、お前が本気で王位を目指すってんなら……」
ドクオの双眸から放たれる視線が、槍のように鋭くなるのが手に取るように解った。
そして、その次に紡がれる言葉も……
('A`)「俺は、いつかお前を殺さなきゃいけねぇな」
( ^ω^)「…………」
仮に、仮にだ。
今後ぼく達が交流を深め、互いに親友と呼ぶのに一抹の躊躇いも無い仲になったとする。
それでも、ぼくが本気で王位を目指すと口にすれば、彼はその三秒後、あの黒い銃をぼくの額に突き付けるだろう。
乞食からここに流れ着き、適当なところで死ぬのも構わないと、生きながらにして死んでいたぼくと、闇の世界を手中に収めんと、自ら戦場に飛び込んだドクオ。
ぼくと彼を致命的に分つ、人としての一貫性というものを突き付けられた気分だ。
-
('A`)「ま、純粋に王位に興味があるなら色々と調べてみるといいさ。ただ死んだように死ぬまでをここで過ごすよりかは有意義だろ。実を言うと俺も、第二王位のクー会長と第九王位のショボン以外誰が王位を継承してるのか知らねぇんだ」
( ^ω^)「ショボン? どんな人なんだお?」
('A`)「そうだな……あいつを一言で言い表すとするなら……」
ドクオは少し悩むような所作で、先ほどぼくがしたのと同じように、カップに残ったコーヒーを呷った。
('A`)「怖がりだ」
肩透かしを食らった気分だった。
この学園で九番目に強いと聞いただけで、ぼくは筋骨隆々な大男を思い浮かべていた。
もっと深く言及しようとしたが、ドクオは立ち上がり、伝票を手に取っていた。
('A`)「ギブアンドテイクだ。何か聞きたいことがあるならここに連絡してきな。お前も王位について何か分かったら、こっちに流してくれよ」
一枚の紙切れをテーブルに放り、ドクオは立ち去っていった。
残された紙切れは、厚紙で出来た名刺だった。
殺し屋ドクオーー
それだけ書かれた厚紙には何の装飾もなく、裏面には携帯電話の番号が記されていた。
学校外での家業だろうか。
ぼくはそれをブレザーの胸ポケットに収め、店内を一瞥した。
( ^ω^)「死なない程度にやってみるお」
-
慌ただしい店内では、ぼくと同い年か、一つ上くらいであろう少女が酒を呷っていた。
パーカーのフードをすっぽりと被ったいかにも怪しい男が、一人で広いテーブルを占拠し、ノートパソコンを弄っていた。
坊主頭のチンピラ二人組が、腕っ節自慢を語りながら大口を開けて分厚いステーキを頬張っていた。
この店から一歩外に出れば、羽目を外している女達は強姦された挙句嬲り殺されるかもしれない。
窓の向こうの通りに視線を移す。
先ほどツンさんに迎撃されたリンチ集団が残した血痕が、ここからでもよく見えた。
窓という境界線を踏み越えたドクオが、煙草を咥えながら過ぎ去ってゆくのを見送って、ぼくは……
( ^ω^)「…………」
何か言いかけて、言葉を飲み込んだ。
判然とはしないが、確かに存在する自分自身の気持ちの、昂りのようなもの。
気持ち悪さと、漠然とした心地良さの両方を内包したぼくは、誰よりも矛盾した存在なのかもしれない。
しかしそれもまた良いだろう。
判然としないのが人間。
矛盾しているのが人間。
うんと伸びをしてテーブルを立つ。
客の波が盛り返してきた店内は慌ただしくなってきた。
汗をかきながらホールを駆け回るツンさんとすれ違ったので、ご馳走様と一礼したが、あくせく働く彼女の耳には届かなかったようで、返事は無かった。
-
(´・ω・`)「…………」
少年は血に濡れた長棒を肩で支え、ベンチに座り込んでいた。
八の字に垂れ下がった眉と、色白の肌は、柔和な印象を与える。
少年の表情はどこか憂いを帯びていて、哀愁すら感じられる。
彼の視線の先には、胴に大きな穴を開けて、臓器を露出させた死体が三つ。
(´・ω・`)「やれやれ、やめてほしいよね。僕は好きでこの学園に入学したわけでもないし、好きで王位を継承したわけでもないんだから」
渇いた銃声が、一発ーー
弾丸が、少年が持っていた棒にぶつかり、火花を上げて弾かれる。
彼は狙撃されたのだ。
狙撃手の狙いは的確に彼のこめかみを捉えていた。
真っ直ぐ彼の頭部に飛んできた銃弾を、彼が超人的反射神経で防いだのだ。
(´・ω・`)「王位が欲しいなら十位を狙えばいい。何故九位の僕なんだ。僕はただ、穏やかに生きてゆきたいだけなのに」
ベンチから立ち上がり、棒を一振り。
長棒は八つに分かれ、鎖によって繋がったリーチの長い武器に変わる。
目測で十数メートルほどだろうか、元々三メートルほどあった長棒だが、それを器用に振り回しながら操る様は、高度の知能を持った大型の蛇を飼い慣らしているようだった。
(´・ω・`)「狙撃なんて、怖いことをする人がいたもんだ」
達人の演武のように、八の字眉の少年は得物を振るい続ける。
時折棒の部分が周囲の壁を抉り、瓦礫が飛散した。
-
(´・ω・`)「そこか」
少年の瞳に殺気が宿る。
大きく一歩踏み込み鎖で結ばれた棒を振るう。
その軌道は弧を描きながら、彼から少し離れた位置にある草木の茂みの中に突っ込み、何かを絡め取って楕円を描きながら彼の間合いの範囲に手繰り寄せられてゆく。
「う、うわああああああああっ!?」
一人の男が、八の字眉の頭上に放り出された。
狂乱しながら長身の銃を発泡するが、その弾丸は空虚を切る。
(´・ω・`)「覇山龍爪ーー」
手元の棒身を、腰を起点に一回転させ、分かれた残りの七つの棒身を手繰り寄せ、元の三メートルほどの長棒に戻し、彼は深く腰を落とし、構えた。
(´・ω・`)「一薙ぎ!!」
一本背負いの要領で、宙に浮かぶ男の胴を目掛けて振るい落とす。
的確に腹部を捉えた棒は半円を描き、地面を穿つ。
その軌道に取り残された男の身体は、宙で真っ二つに分かれ、血の雨を降らせた。
-
血の雨を浴びながら、少年は深く溜息を吐いた。
(´・ω・`)「おかしい……おかしいよこんな世界……狂ってる」
二つに分かれた、人間だった肉塊は地面に落ち、鈍い音を立てた。
少年はそれに目もくれず、空を仰ぐ。
その両目にはうっすらと涙が溜まっていた。
(´・ω・`)「僕達はいつまで殺し合わなきゃならない? 何故一人で完結する道を歩もうとしないんだ? ほんの少しの私利私欲を抑え、ぶつかった肩に向ける憎しみを抑えれば、皆笑って生きていけるというのに……」
溜まっていた涙が零れ落ち、彼の血に濡れた頬を濡らした。
(´・ω・`)「怖い…………怖い、怖い怖い怖い怖い怖い……勝てないと解っていながら命を賭してくる弱者が怖い。弱者を贄としか思っていない強者が怖い……」
(´゚ω゚`)「何故僕がこんなに怖がらなきゃいけないんだ!! 怖い、怖い怖い怖い……! 全てが怖い! お願いだから僕を放っておいてくれ!」
突然狂乱した彼は、空に向かって吠えた。
視線の先の太陽は地平線に差し掛かり、空は橙と青色で混じり合い、その境界線は曖昧に蕩けていた。
煌めく陽の光はどこか神々しく、しかし、それでも彼にとっては恐怖の対象でしかないのかもしれない。
(´゚ω゚`)「おおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
目に映る全てが怖い。
雄叫びを上げる彼が心を赦すものなど、この世には無いのだろう。
その慟哭は、風に運ばれ、ここではない何処か遠くへと、消えていった。
-
やっべタイトル投下するの忘れちった
第三話「窓越しの非日常。皿の上の料理と、テーブルの下で握り締めたもの。」
で補完おなしゃす
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ということで今日は終わり
一レスに詰め込み過ぎて目が疲れそうだな
中身に関しては書きたいもの書きたいから反映出来ないかもだけど、文字数とかで少ない方が読みやすいとか多い方が読みやすいとかあったら言ってくれるとありがたい
俺乙、また近々
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すげえ面白い
乙
-
乙
-
乙
こんな怖がりにどうやって接触すんだよ
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乙。こういうの最近なかったからよいね。部活動を彷彿させる
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確かに部活動を思いだしたが、一味違う面白さがあって素晴らしい。なるべくならこのブーンとドクオには生き残ってほしいな……
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さあ投下するか
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第四話「月明かりの下で。弾丸と刃の存在理由について。」
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午前四時、まだ辺りは闇夜に包まれていて、数メートル先の視界も朧げだ。
そんな中ぼくは……
(;^ω^)「はっ……はっ……はっ……」
黙々と走っていた。
ドクオと解散してから、ぼくは今の自分に何が出来るかを考えてみた。
王位について調べるにしても、不用意に嗅ぎ回るのは危険だろう。
アウトロー達との交流を図るにしても、何らかの防衛手段は欲しい。
そのためには何らかの技を学ばなければならないのだろうが、ぼくにはそれを成すだけの基礎体力が備わっていないように思う。
だからこその早朝ランニングだった。
これは、ゴール地点すら分からない長い道のりを歩み切る、その第一歩なのだ。
毎朝フルマラソンすると決めた。
本当は四時に起きて、それから支度を整えて走るつもりだったのだが、気が急いてしまい、予定より一時間早く目が覚めてしまった。
しかし思っていたよりもタイムは遅く、早く目覚めたことは好都合だったようだ。
第一ブロックから第七ブロックまでを真っ直ぐ走り抜け、第八ブロックの手前で折り返す。
それでほぼほぼフルマラソンの距離になる。
昨日の夜、事前にサーチして経路を決めたので、第五ブロックに到達した今のでも物騒な人集りとはまだ遭遇していない。
珠のような汗をリストバンドで拭い、動く足ではなく、ただ己の呼吸にのみ意識を向ける。
第図書館を中心に造られた第五ブロックは、中世のイメージをモチーフにしているからなのか、足元が石造りだ。
足首にじわじわと蓄積してゆく負荷には、出来る限り目を向けないようにしていた。
-
黙々と走る。
まだ定めた目標の半分にも到達していないのだと思うと、途中で足を止めたくなった。
その辺の自販機でスポーツドリンクを買い、ベンチに座り込んでしまえば、きっと極上の開放感を得られるのだろう。
気がつくと口の端から涎が垂れそうになっていたので、それを拭い、前をしっかり見据えると、何やら蠢く影があることに気付いた。
从 ゚∀从
(;^ω^)「おっ……!」
影の正体に気付き、ぼくは咄嗟に身を屈めた。
激しく暴れ狂っていた心臓は、一段と大きな鼓動を立てた。
从 ゚∀从「……よぉ」
ハインリッヒは、力なく両手を上げて振った。
从 ゚∀从「こんな時間からご苦労なこった。取って食ったりしねぇから、少し話そうぜ」
赤いワンピースの裾を掴み、ベンチに積もった埃を払うと、彼女はそのままちょこんと座り込んだ。
( ^ω^)「…………」
彼女からは、昼間のような殺気は感じられない。
無論それをぼく程度の素人に気どられないように隠すことなど、児戯に等しいのだろうが、そういった理屈を抜きにして、直感が今は安全だと告げていた。
( ^ω^)「わかりましたお」
ぼくは首に巻いたタオルで首から上の汗を丁寧に拭き取り、ジャージを脱いだ。
-
近くの自販機で飲み物を二人分購入し、一本をハインリッヒに手渡した。
从 ゚∀从「おう、気が利くねぇ……ってなんだこりゃ、トマトジュース? 喧嘩売ってんのか?」
(;^ω^)「おっおっ、違いますお。決して変な理由があるわけではなく……」
ーーーー
自販機の前で立ち止まり、ぼくは数十秒ほど悩んだ。
( ^ω^)(吸血鬼ってなに飲むんだお……?)
ーーーー
自販機の中の十数種類から辿り着いたぼくなりの解答がこれだったのだ。
トマトジュースイコール血液という安直な考えだけでなく、トマトに含まれるリコピンは紫外線をカットしてくれる効果がある。
その効力は飲む日焼け止めと言われるほどだ。
そういう、栄養的な見地から見てもハインリッヒに渡す飲み物はこれが最適解であると判断したのだ。
( ^ω^)「そんなことより、あれから大丈夫だったんですかお? ハインリッヒさん」
从 ゚∀从「ハインでいいよ。呼びにくいだろ」
( ^ω^)「ハインさん」
从 ゚∀从「さんもいらんじゃろ」
( ^ω^)「わかったお。ハイン」
从 ゚∀从「よろしい」
ハインは人懐っこい笑みを浮かべ、ベンチを叩き、ぼくに座るように促してきた。
ぼくはそれに従って、先ほど彼女がしたように、ベンチの埃を払って座った。
-
从 ゚∀从「さっきの質問だが……あの後大丈夫だったと思えるならお前は飛び抜けた楽天家だよ。五十回殺された辺りでもう数えるのはやめた」
(;^ω^)「ごじゅっ……」
恐らく痛覚はあるのだろう。
にもかかわらず、彼女は五十回以上、死に至る痛みを与えられたのだ。
それがぼくなんかには到底想像出来ない苦しみであることは考えるまでもなく解る。
それでも、何事も無かったかのようにけろっとした顔で笑うハインが、やはり人外であることを再認識させられた。
从 ゚∀从「おかげで制服がズタボロだ。ここに入って何着目だぁ? もう買い換えるのも面倒になってきたぜ」
赤いワンピースに赤いピンヒール。
それは色白で、繊細な彼女の容姿によく似合った。
街灯に照らされた銀髪は艶を帯びて輝き、小さく尖った顎先まで真っ直ぐ降りている。
それは彼女の表情を隠す絹のカーテンのようだった。
視線を徐々に落とし、細い鎖骨から胸元を通り、ワンピースの裾を抜ける。
(✳︎^ω^)「…………」
ベンチの上で小さく畳んだ足は細く、太ももですらぼくの二の腕とそう変わらないくらいに細かった。
きゅっと締まった細い足首で存在を主張する、銀色のアンクレット。
彫刻のような美しさだった。
今、この時を止め、彼女を額縁に収めることが出来れば、ぼくは芸術家として名を轟かせることが出来るだろう。
-
( ^ω^)「ハインも、王位を狙ってるのかお?」
从 ゚∀从「王位? 興味ねーよそんなもん」
不意に滾り始めた情欲を抑える為に、ぼくは質問を投げかけてみた、が、返ってきた答えは予想とは真逆だった。
从 ゚∀从「俺はこの通り、切られても撃たれても死にゃしねーし、あんなくだらねぇ箔なんか無くたって外で好き勝手やれるしな」
( ^ω^)「まぁ、確かに……」
从 ゚∀从「そもそも俺から言わせてみりゃ順序がちげーんだよな。十席の王位を継承出来るだけの連中なら、その時点で外に出ても好き勝手出来らぁよ。お前もそう思わないか?」
ごもっともだ。
第二王位のクー会長の一閃。
あれを初見で躱しきる者など、少なくとも人間の中にはいない気がする。
乞食として眺めていたあの世界は、体裁としての社会のルールがあった。
その枠に縛られた人々が、王位の継承者をどうこう出来るとは思えない。
-
从 ゚∀从「ようするに、王位なんて分かりやすい動機をつけたがるのは、暴れるのに理由をつけなきゃ何も出来ないチキン野郎ってこった。どうしてこう、もっとスカッと生きられないかね。ドクオなんか見てるとつくづくそう思うよ」
ハインは深々と溜息を吐くと、トマトジュースを一気飲みし、濡れた口元を手の甲で拭った。
その所作はどこか艶めかしかった。
( ^ω^)「でもぼくは、彼のそういう一貫性を、かっこいいと思いますお」
从 ゚∀从「かっこいい……かっこいいか、はははっ、そりゃいいぜ。傑作だ」
ハインは犬が付着した水を払うように、ぶんぶんと首を振った。
小柄な身体でそれをするものだから、小動物のような印象を与える。
从 ゚∀从「あのいけすかねぇ糞会長を見たお前ならわかるだろ? 王位を獲ろうってんならあいつはあのままじゃ無理だ。どこかで人間を辞めなきゃなんねぇ」
从 ゚∀从「だったら俺に賭けてみりゃいいんだよ。このまま足掻いて王位を夢のままで終わらせるか……俺の眷属となってイノヴェルチとして生まれ変わり、化け物として王位を食うか」
从 ゚∀从「本気で王位を狙うなら、イノヴェルチになる道に賭ける。そういう現実的なやり方ってのが、お前の言う一貫性ってやつなんじゃねぇか?」
( ^ω^)「そりゃねーお。ぼくらは人間だお。腐っても、人間のままでいたいんだお」
-
自分がどうしてこんなに怒っているのか解らなかった。
許されるなら、ハインの髪の毛を掴んでそのままベンチに顔面を叩きつけたかった。
でも大丈夫、大丈夫だーー
このくらいなら、ぼくはそれを行動に移すことなく、怒りを喉の奥で押さえ付け、飲み込むことが出来る。
从 ゚∀从「言ってくれるな? つまりはヴァンパイアロードであるこの俺は、お前らよりも卑しい存在であると? お前ら人間様は、手放しに俺のような化け物を見下せるほど尊いと? そういうことか?」
( ^ω^)「……すみませんお。ぼくが浅はかでしたお」
ハインの言い分が大仰だとは思わなかった。
ぼくの言い方だと、確かにそのように解釈されてもおかしくはない。
昼間は脳みそに血が溜まっているのではないかと思うほどガサツだった彼女だが、何故か今は、少なくともぼくよりかは寛容的だった。
-
从 ゚∀从「まぁいいや、どうせ俺にはお前を殺せねーんだし、んなことでいちいち怒ったってイライラするだけだ」
( ^ω^)「お? どういうことだお?」
从 ゚∀从「言われたんだよあの糞会長に。内藤ホライゾンに手を出したら、二度と動けないように身体をバラバラに引き裂いて地下百メートルに埋めてやるって」
想像しただけでぞっとする話だ。
吸血鬼であるハインは死ぬことが出来ない。
そんな彼女が、地下深くに埋められて置き去りにされたら……
从 ゚∀从「いくら死なねぇ身体っつっても生き埋めは勘弁だ。あの女なら本気でやりかねねぇしな。つーわけで俺はお前を殺せない。何なら二、三発ぶん殴っとくか? 憂さ晴らしに一発この俺で抜いたって手出ししねぇよ」
わざとらしくワンピースの裾をつまむ彼女は、どこか自棄になっているように見えた。
それほどまでに、クー会長の抑制力は強い、ということだろう。
-
( ^ω^)「遠慮しとくお。でも、もしもハインがいいならぼくの頼みを聞いてほしいお」
从 ゚∀从「あ? 何か知らねぇけど聞くだけなら聞いてやんよ」
クー会長がなぜ、ドクオではなくぼくに手を出さないようにと釘を刺したのかは解らない。
彼女とぼくは以前に面識があったわけでもないし、彼女のようなアウトローのカリスマからすれば、ぼくなんて彼女の思考の範疇にすら入れない塵芥のようなものだと思う。
彼女の言動の理由は解らないが、ハインがぼくに手を出せないという現状を、上手く利用しない手は無いだろう。
( ^ω^)「ぼくの師匠になってくれないかお?」
从 ゚∀从「へっ?」
ハインは目を丸く見開いて、ぼくを見た。
デッサンで描いた目をそのまま切り抜いて貼り付けたような、造形美とすら思える整った右目に、ぼくは飲み込まれそうになった。
-
( ^ω^)「ドクオには言えないけど、ぼくも王位に興味を持ったお。元乞食の凡人が、この学園でどこまでやれるか。確かに考えは浅いかもしれないけど、試してみたいんだお」
志半ばにして倒れるかもしれないし、そもそもこんな漠然とした動機を志と呼ぶことすら烏滸がましいのかもしれない。
しかし、ぼくは王位を目指さなければならない。
そうしないと、ぼくは胸の中で燻るこの熱量に焼かれ、ぼくでは無い卑しい何かになってしまうような気がした。
从 ゚∀从「…………」
从 ゚∀从「師匠……師匠……うん、悪くない……師匠……師匠…………」
ハインは子鹿のように震え、ひたすら師匠と呟いていた。
塗り固めたような真っ白な肌が高揚していくのが手に取るように分かった。
それをまじまじと観察していると、彼女は突然ぼくに抱き付いてきた。
(;^ω^)「ぶおっ!?」
从 ゚∀从「いいねぇ〜〜〜! 師匠って響き! いいぜ! 今日から俺がお前の師匠だ!」
-
その小柄な体躯からは見当もつかない、強い力でぼくは羽交い締めにされてそのまま倒れ込んだ。
ベンチの角で後頭部を打ち付ける。
これは、手を出しているとは言わないのだろうか。
(;^ω^)「痛いお! 離してくれお! 息が出来んお!」
从 ゚∀从「っと……あぶねぇ。普通の人間ってのはどれくらい力を込めたら潰れちまうんだ? どうも加減が上手くいかねぇな」
昼間の光景だけみると、吸血鬼の身体の方が随分と脆いように見える。
がその冗談は、言ってはいけない部類の冗談だということは分かっていたので、ぼくは敢えて口を噤む。
从 ゚∀从「まぁいいぜ。お前がどうしてもってんなら? その願い、聞いてやってもいいぜ?」
言葉とは裏腹に、彼女の表情は無邪気を絵に描いたようなものだった。
( ^ω^)「よ、よろしくお願いしますお……」
从 ^∀从「おう! 今日からお前は俺の弟子だ! ビシバシ鍛えてやるから覚悟しとけよ!」
-
屈託のない笑みを浮かべる彼女を、素直に可愛いと思ってしまった。
氷のように冷たい彼女の肌だが、何故か、ほんの少しだけ温かい。
( ^ω^)「ありがとうだお。それはいいけど、そろそろ離れてほしいお……」
从 ^∀从「なんだ師匠に向かってその口の聞き方は! 敬語使え敬語!」
(;^ω^)「ええ…………そりゃないお」
从 ^∀从「です! ます! ございますだ!」
(;^ω^)「はいはい、ですますございますお」
何はともあれ、ようやく進むべき道が見えてきた気がする。
少しばかり気疲れが多そうだが、昼間はあんなに怖かった吸血鬼の彼女が、こんなに嬉しそうに笑ってる。
それだけで、気疲れは吹き飛んでしまいそうだった。
-
ブーンとハインが抱き合っているのと同時刻。
('A`)「やれやれ……中華マフィアの暗殺とは、後引きそうな依頼だぜ」
ドクオは咥えていた煙草を吐き捨て、長身のスナイパーライフルの先に銃剣を取り付けた。
とあるビルの最上階にいるドクオは、そこから見下ろせる位置で、一箇所だけ灯りついている向かいのビルの窓をじっと見据える。
距離にして、ドクオからその窓まではおよそ三百メートルほど。
ビルが建ち並んではいるが、ドクオと窓の間には、都合良く障害物は存在しなかった。
('A`)「シナー……あいつだな」
( `ハ´)
ドクオの目は、窓の向こうにいる一人の男を捉えていた。
彼の元に舞い込んできた依頼は、ここらでドラッグを流している中華マフィアの幹部、シナーの暗殺。
彼は、今ここに、シナーを殺す為に立っている。
-
ドクオは狙撃が得意ではない。
というより、好きではないと言った方が正しいか。
闘いとは、己と相手の駆け引き、意志のぶつかり合いがあってこそ成り立つもの。
狙撃という、集中力をひたすら研ぎ澄ませる、己との闘いとしての性質を持つやり方より、ドクオは前者を好んだ。
('A`)(ま、単純に芸が無いって話だわな)
内心、自分を茶化すドクオ。
その心の隅、ドクオ自身すら把握出来ていない領域に巣食う、己と向き合う、或いはそれに準ずる行為を無意識に避けている自分に気付くことはない。
('A`)(ワイヤーは、まぁ届くだろうな。窓をぶち破り、ここからターゲットの元に辿り着くまで……およそ十六秒ってところか……)
建ち並ぶビル群を一瞥し、ドクオはスナイパーライフルを固定台から構え、トリガーを絞った。
この狙撃は、ほんの序幕でしかない。
彼が着込んだ襟長の下には、強襲用のアサルトライフル、いつも持ち歩いている黒銃、そして二本のツイストダガーが息を潜めていて、獲物を狩る時を、鈍い輝きを放ちながら待っている。
-
深く息を吐き、ドクオはライフルのトリガーを引いた。
('A`)(スタート……!)
三百メートル先のビル内で、どのように人間が配置されているのか、内部がどういった構造なのか、ドクオは知らない。
だが、そんな瑣末な情報をわざわざ収集せずとも、ドクオにはこの強襲を成功させる自信があった。
固定台からスナイパーライフルを取り、ドクオは全速力で屋上を駆け、そして飛び降りた。
ドクオのコートの袖からワイヤーが伸び、一番近くのビルの縁に先端の鉤爪が引っかかる。
身体の力を抜き、黒銃を抜いて発砲。
ドクオは風に煽られながら、弾丸が抉った壁の部分に到達した。
そして抉られた壁にツイストダガーを力いっぱい突き立てると同時に、二本目のワイヤーが更に奥のビルの縁を捉えていた。
闇夜に紛れ、暗躍する彼の一連の動作は人間業とは思えないほど素早く、鷹の滑空を思わせる。
('A`)「……あ?」
狙撃地点から目標地点へ、丁度半分ほどの距離に差し掛かろうとしたその時、ドクオの頭上に一つの影が舞い込んだ。
-
( ゚д゚ )「お前はここで詰みだ」
影は月明かりに照らされる。
正体は着流しに身を包んだ男だった。
その手には鞘から抜いた刀が握られており、その切っ先は、ドクオの喉元に向けられており、妖しい光を放っている。
('A`)「ちっ……」
咄嗟に背負ったスナイパーライフルで、その剣撃を受ける。
高層ビル群の、人の足が届かぬ上空で、二人の修羅が切り結ぶ。
(# ゚д゚ )「おおおおおおおおおおおおおっ!!」
(#'A`)「だぁらあああああああああっ!!」
ドクオが両手の力を込めて着流しの男を弾き飛ばそうとしているのに対し、彼はそれを片手で押し戻し、空いた手でがっちりとドクオのコートの袖から伸びたワイヤーを握り締めていた。
二つの影がよろめき、ビルの縁に掛かっていたワイヤーの鉤爪が外れる。
軌道が下方にずれ、二人はそのままビルの窓ガラスに突っ込んだ。
-
盛大な音を立てて、二人の影がオフィスビルの室内を荒らす。
デスクが転がり、ガラス片がパソコンを傷付け、束になっていた書類が盛大に巻き上がる。
( ゚д゚ )「しッ……!」
力強く息を吐き、着流し男は受け身を取って立ち上がろうとするドクオに斬りかかる。
('A`)「まさかお前が邪魔してくるとは思わなかったぜ……ミルナ!」
コートの裾からツイストダガーを抜き、その捻れた刀身で斬撃を受ける。
ゼロ距離の間合い。
ミルナと呼んだ男の死角から雑な膝蹴りを入れる。
鈍い音、骨が軋む手応えを感じながらも、ミルナの力が弱まらなかったのでもう一度同じように、脇腹に蹴りを入れた。
(; ゚д゚ )「ぐふっ……」
短く息を漏らし、ミルナはドクオから距離を取る。
それを見逃すドクオではなかった。
('A`)「喰らいなっ!」
強襲用のアサルトライフルを抜き、弾幕を張る。
オフィス内のあらゆる電子機器が撃ち抜かれ、焦げ臭い匂いを立てる。
-
('A`)(ワイヤーは……まだ使えるな)
強襲は失敗に終わった。
その事実を冷静に受け止め、ドクオは今自分がやるべきことを脳内で弾き出し、優先順位をつけてゆく。
先ず第一に、生き残ることだ。
ミルナはVIP学園の一年生であり、十席の王位には達していないものの、ドクオと対をなすように比較され、二人で一年のホープと囁かれている。
そんな強者と対峙して、この第一条件を満たすということは、常人では成し得ぬ難題だ。
第二に、依頼の遂行。
殺し屋稼業、それもフリーランスとなれば、引き受けた依頼を遂行出来なかったという噂が出回れば、そのたった一度のミスで廃業もあり得る。
それだけで済めばいい。
殺しを依頼するということは、クライアントも当然その筋の者であることが多い。
出来ませんでしたとのこのこ帰ってきて、よくぞ無事生きて帰ってきたと手厚く迎え入れてくれるような人間ではない。
そして第三、相対するミルナを討つ。
或いはこれが一番の難題かもしれない。
-
ドクオは決して奇襲に特化した殺し屋、などではない。
必要とあらば徒手での殴り合いもこなすし、その場のありとあらゆる小道具を用いて、戦闘を彩る。
己の闘いの美学にさえ反していなければ、その場に応じて最適解を選ぶオールラウンダーだ。
そこに殺意のぶつけ合いがあれば、かれにとっては何でもいい。
だがそれは裏を返せば、特に秀でたところが無い器用貧乏とも言える。
一般的水準でものを言うならば、それは全てが高水準であると言えるのだろうが、VIP学園の生徒同士という、常識の範疇を越えた闘いの場においてはそう言い難い。
('A`)(少し……分が悪いか)
対峙するミルナは己の間合いにおいて絶対的な強さを誇る。
( ゚д゚ )「ゆくぞ」
そしてこの三十平方メートルほどのオフィス全体が、彼の間合いの範囲なのだ。
ミルナは抜刀した太刀を、両手で振り抜いた。
(;'A`)「ちっ……!」
その動作を確認する前にドクオは身を屈めた。
直後、彼の髪の毛先を剣圧が掠め取り、背後の壁に真一文字の斬痕を残した。
-
('A`)「相変わらず読めねぇ間合いだな。侍が飛び道具なんて、少しせこすぎるんじゃねぇか?」
( ゚д゚ )「ほざけ」
ドクオは再びアサルトライフルで牽制射撃する。
しかしミルナからしてみれば、それは鬱陶しい蝿がたかってきているようなもので、腕を突き出し、数回太刀を振るうだけで全ての弾丸を弾き飛ばしてしまう。
('A`)(確かに速いが……)
ドクオは幼い頃に何度も打ち込まれた斬撃を思い出した。
('A`)(あの女の剣に比べりゃまだまだぬるいぜ……!)
川 ゚ -゚)
それは幼馴染にして、VIP学園の王位を継承する素直クールの斬撃。
今よりずっと昔に打ち合った時ですら、彼女の剣は今のミルナを上回っていた。
無論、当時のドクオは彼女に一太刀も浴びせることが出来なかったが、神域の斬閃を見続けた彼の目には、常人には見えないものが、ミルナの風を打つ斬撃が見えている。
-
( ゚д゚ )(……やはり避けてくるか。侮れん奴だ)
ミルナはその、力強く獲物を射抜く双眸で、ドクオを捉えている。
彼は、自分よりも小柄で、近接戦闘に限っては自分よりも大きく劣る筈のドクオに対して、言葉には表せない畏怖の念に近い感情を抱いていた。
二人が初めて切り結んだのは入学式の日だった。
すれ違いざまに、ドクオの手が彼の帯刀する太刀に触れた。
侍にとって刀とは誇り……即座に切り捨てるとまではいかずとも、彼に対して憤りを覚えたミルナは、努めて平静に、ドクオに謝罪を求めた。
しかしドクオのアンサーはなく、一発の弾丸がミルナの頬を掠めた。
それが、最初の死合いの契機だった。
入学初日から達人レベルの闘いを見せ付けた二人は、それ以降一年生のホープとしてまことしやかに囁かれる。
周囲が自分とドクオを比べて評価するように、ミルナ自身も、日頃の鍛錬で常にドクオの幻影のようなものを意識していた。
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( ゚д゚ )(出来れば……お前とは王位を賭けてやり合いたかったのだがな)
しかしそれは叶わないことだ。
ドクオが仕事でシナー暗殺を遂行しようとしているように、ミルナもまた、シナーを外敵から守る任務を受けてここに立っているのだから。
己の私利私欲の為にクライアントを裏切るほど、彼もドクオも俗ボケしていない。
( ゚д゚ )(初手の【風斬り】は躱された。二太刀目には逆手に取られるだろうな……)
ならばーー
ミルナはその場で身を捩り、手首を振りながら力を込めて斬撃の円を描いた。
( ゚д゚ )「風穿ち」
それはミルナを砲台として放たれた竜巻だった。
いや、竜巻などという生易しいものではない。
それは鋭利な鎌鼬の渦となり、ドクオを飲み込まんと駆る。
(#'A`)「しゃらくせぇーーッ!」
殺意と殺意による対話。
ドクオのアンサーは、その殺意の渦に真っ向から飛び込むことだった。
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渦に巻き込まれた瞬間、ドクオの頭に耳鳴りが響き、針の筵に閉じ込められたような鋭い痛みが彼の身体を舐めた。
(#'A`)「ーーーーっ!」
彼の咆哮は最早声にすらなっていなかった。
ぶつぶつと皮膚が裂け、風は肉を穿つ。
それでもドクオはその刃に逆らい、ツイストダガーを投擲した。
( ゚д゚ )「無駄だ」
ミルナはそれを、僅かに首を動かすだけで躱す。
風穿ちはミルナが有する奥義の中でも最上級の威力を誇る技だ。
それに真っ向からぶつかったドクオに勝ちの目は無いと、ミルナは確信していた。
だがーー
(#'A`)「こんなんじゃ全然足りねぇんだよおおおおおおおっ!!」
身を屈め、獅子のように突っ込むドクオの手に握られているのは、いつも彼がホルスターに吊って持ち歩いている愛用の黒銃。
あれは見て躱すことは敵わない。
コンマ一秒単位で目まぐるしく動く思考。
そう判断したミルナは腰を落とし、殺意の線を瞬時に察知し、刀の刃を銃弾の軌道に合わせた。
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重く、湿った銃声と同時にミルナの手首に重い衝撃が走る。
それは彼の刃がドクオの銃弾をしっかりと弾いた衝撃だった。
( ゚д゚ )(勝ったーー!)
ミルナは改めて勝ちを確信する。
だが、それはコンマ一秒の世界を駆るドクオが腕を伸ばした先にあった得物を見て覆った。
二人がこのオフィスに突っ込んだ際に、ドクオが手離したスナイパーライフルがそこにはあった。
その銃身の先には銃剣が取り付けられており、その刃は妖しく輝いた。
ミルナの脳内で警鐘が鳴り響く。
だが身体は動いてくれなかった。
一瞬、ほんの一瞬の、勝利を確信したが故の気の緩み。
それは筋肉の弛緩と変わり、ミルナの身体を縛る枷となる。
('A`)「ーーーー!」
( ゚д゚ )「ーーーー!」
握り締めたライフルを大きく振り上げ、ドクオはミルナの胴を目掛けてそれを振り下ろした。
厚手のコートの胸元はざっくりと裂けていて、そこから夥しい出血が見える。
コートを脱がせれば恐らく、彼の身体が赤い服を着ているかのように、真っ赤に染まっているのがわかることだろう。
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身体を動かすだけで、全身が細切れになるような痛みを伴うだろう。
それでもドクオは止まらなかった。
鈍く輝くその刃を、真っ直ぐ振り下ろす。
(# ゚д゚ )「うおおおおおおおおおおおおっ!!」
ミルナは咆哮を上げた。
自分の身体を縛る驕りの鎖を引き千切り、急所を的確に狙っていたドクオの刃から、僅かに身を反らせた。
直後、肩に走る激痛に耐えながら、ミルナはがっちりと、突き刺さったライフルを握り締める。
今度は驕りではない。
もう片方の手で握り締めた太刀を、懐のドクオの首筋目掛けて振るう。
そこで彼は見た。
ドクオのコートの袖から、ワイヤーが伸びているのを。
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ミルナがしっかり掴んでいたライフルを、ドクオはあっさり手離した。
合理的に考えれば何ら不思議ではないその行動。
しかし、自分が帯刀する刀に誇りを持つ、侍のミルナにその考えはあまりにも馴染んでいなかった。
( ゚д゚ )「くっ……」
太刀は頭の数ミリ上を空振り、ドクオの身体はワイヤーに引っ張られ、不自然に軌道を歪めた。
('A`)「悪いな、勝負はお預けだが……仕事では勝たせてもらうぜ」
ドクオの身体が窓ガラスを突き破り、闇夜に溶けてゆく。
(# ゚д゚ )「くっそおおおおおおおおおお!!」
その後ろ姿を、ミルナは呆然と眺めることしか出来なかった。
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( ;`ハ´)「だ、だだだだだだだ大丈夫アル! わざわざ高い金を払って用心棒を雇ったんだから……しっかり仕事してもらわないと困るアル!」
借りていたホテルの部屋のガラスが何者かの狙撃によって割られ、シナーは焦っていた。
明日はこのシマのマフィアとの会合。
それに備え、彼は用意されていたホテルに泊まっていたのだ。
しかし会合先のマフィアが、自分を殺す為にヒットマンを雇ったと、そんな黒い噂を耳にし、シナーはVIP学園きっての用心棒を雇った。
手早く整えた書類だけを抱え、シナーはホテルを後にしていた。
ビル群の隙間から覗く地平線はうっすらと白みかけていて、夜明けを告げようとしている。
それはシナーの心を少しだけ落ち着かせた。
明るくなればきっと自分は助かる。
そんな、何の根拠も無い安心感を抱いていた。
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