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バトルロワイアルぺティー

1リズコ:2004/03/06(土) 01:06 ID:1Nf1VncU
男子
 1番 荒瀬達也(あらせ・たつや)
 2番 大迫治巳(おおさこ・はるみ)
 3番 国見悠(くにみ・ゆう)
 4番 塩沢智樹(しおざわ・ともき)
 5番 柴崎憐一(しばさき・れんいち)
 6番 島崎隆二(しまざき・りゅうじ)
 7番 田阪健臣(たさか・まさおみ)
 8番 田辺卓郎(たなべ・たくろう)
 9番 千嶋和輝(ちしま・かずき)
10番 中西諒(なかにし・りょう)
11番 仲田亘佑(なかた・こうすけ)
12番 永良博巳(ながら・ひろみ)
13番 那須野聖人(なすの・せいと)
14番 新島敏紀(にいじま・としのり)
15番 初島勇人(はつしま・ゆうと)
16番 姫城海貴(ひめしろ・かいき)
17番 飛山隆利(ひやま・たかとし)
18番 峰村陽光(みねむら・ひかり)
19番 御柳寿(みやなぎ・とし)
20番 梁島裕之(やなしま・ひろゆき)
21番 代々木信介(よよぎ・のぶすけ)

女子
 1番 天野夕海(あまの・ゆみ)
 2番 新井美保(あらい・みほ)
 3番 有山鳴(ありやま・めい)
 4番 伊藤愛希(いとう・あき)
 5番 井上聖子(いのうえ・しょうこ)
 6番 植草葉月(うえくさ・はづき)
 7番 内博美(うち・ひろみ)
 8番 梅原ゆき(うめはら・ゆき)
 9番 大島薫(おおしま・かおる)
10番 小笠原あかり(おがさわら・あかり)
11番 香山智(かやま・とも)
12番 黒川 明日香(くろかわ あすか)
13番 紺野朋香(こんの・ともか)
14番 笹川加奈(ささがわ・かな)
15番 三条楓(さんじょう・かえで)
16番 鈴木 菜々(すずき なな)
17番 高城麻耶(たかぎまや)
18番 高田望(たかだ・のぞみ)
19番 濱村あゆみ(はまむら・あゆみ)
20番 望月さくら(もちづき・さくら)
21番 冬峯雪燈(ゆきみね・ゆきひ)
22番 吉野美鳥(よしの・みどり)



始めに


一九九九年、BR法一時廃止。


理由はこの実験の対象となった優勝者達が精神に異常を冒し、犯罪に走るケースが多く見られたため。
まあその前から少しずつ反対派が出始め、BR法によって家族を失った被害者の会が設けられたりして、段々BR法を推進していた政府も肩身が狭くなったのであろう。
しかし、政府にはバトルロワイアルを続けて欲しい理由があった。BRの優勝者を賭けることで、たくさんの裏金が動いていたのだ。

最近ではかなりの高額になっており、もし優勝者の大穴を当てたのなら、それこそ冬のボーナスよりよっぽど、金がもらえるということも稀ではなかった。
よって政府には主流の遊びになっていたのだが、反対派が賛成派を上回り、野党からのブーイングにもそろそろ耳が痛くなってきたので(この賭けをするのは与党のみとなっていて、野党は参加することが出来なかった)、ついに廃止ということになったのだ。


だが、政府がそんなに簡単においしい話を手放すわけがないのは明らかだろう。政府は極めて無難な方向に逃げたのだ。

つまり、とりあえずはBR法を廃止する方向に持っていく、しかし数年たったらまた再会する可能性はある―――と。
また、“まだ中学生だというのに、その多感な時期に殺しあいをさせるなんて、精神に異常をきたすのも無理はないじゃないか”という意見も多くえられたので、対象年齢を若干あげよう―――と。
「そしてその試験プログラムは近々行うかもしれない」と発表した。

やや不満意見はあったものの、とりあえずだいたいの賛成を得て、BR法は廃止となった。めでたしめでたし。これで全国の中学生も平和になったわけだ。

・・・ん?

果たして本当にそうだろうか。この話には続きがある。

2リズコ:2004/03/06(土) 02:16 ID:1Nf1VncU
 プロローグ


 やっと動き出した。渋滞にはまっていたバスがまたゆったりと動き出したので、千嶋和輝(男子九番)はため息をついて、外を見渡した。
 二〇〇五年、七月十六日。この日は、とても暑かった。クーラーが効いた車内の中で、四十二人の生徒が騒いでいた。

 三日間の林間学校の初日。定期試験明けで、生徒達の顔は皆、はればれとしていた。和輝も、あらかた同じ気持ちだった。ただ、この後に返ってくる成績表のことを考えると、頭が憂鬱になったが。

 それにしても、何で俺がこんなだるい行事に参加しなきゃいけないんだ。アスレチックとか、オリエンテーションとか、登山とか。そんな疲れることやんなくていいから、普通に宿で休ませてくれよ。窓の外に広がっている、大して面白くもない都内の景色を見ながら、和輝は思った。
一日目から、どこかの公園でオリエンテーションをやるらしい。面倒だな。和輝は体勢を変えて、眠りにつこうとした。


 ―――うるさくて眠れない。和輝が怪訝な表情で目を開けると、隣に座っていた友人の大迫治己(男子二番)の背中が見えた。
 大迫治己と和輝は、中学の時からの付き合いだった。家が近いこともあって、和輝は大抵、治己と一緒にいた。
それについては、特に疑問を持つことはなかった。ごく自然で、嬉しくも悲しくもない。要するに、当たり前のことだった。
 元サッカー部のエースの治己は、細めだが引き締まった体つきをしていた。やや焼けた肌と、嫌みのない笑顔は、まさしくさわやかなスポーツマンといった印象であろう。
和輝とは外見も性格も正反対だった。
和輝は色が白くて、不健康そうだとよく言われていた。スポーツなどあまりやらない。家に帰ってゲームをしたり、寝ている方が幸せな男だった。落ちついているように見られがちだが、実はただボーっとしているだけだった。
一歩間違えれば暗い奴なのだが、外見に助けられていた。二重の優しげな目。少し面長の小さな顔。色素の薄い、猫っ毛。
和輝は割合、女性にもてる顔立ちをしていた。だがあまり女子と話さなかったので、クラスでは、物静かで硬派な人だという誤解を受けていた。

治己は周囲にいつも言っていた。
「和輝はさー、クールそうに見えてただのバカだから。何か色々考えてそうに見えて実際は何も考えてないから。オレの方がずっと色々考えてるし」
余計なお世話だ。和輝はいつもそう思ったが、特に訂正する必要性を感じなかったので言わせておいた。治己の言っていることも、あながち間違いではなかったらしい。

3リズコ:2004/03/06(土) 02:24 ID:1Nf1VncU
 その治己は、同じく友人の、柴崎憐一(男子五番)と話していた。憐一は、たれ目でいつも笑んでいるような眼差しの、整った顔立ちをしていた。オレンジがかった茶髪。耳にはピアス。今風の、ごくごく普通の男子だった。まあ、相当のタラシで、常に不特定多数の女と付き合っているという事実を除けば。
和輝は二人の話に聞き耳を立てていた。どうやら話題は、クラスの女子の外見の話だった。
「やっぱ伊藤だろー」
「ああ、やっぱな。でも彼氏いるし」
「まあな。ってか内さんも美人だよな」
「ああ!あとオレ的にはー、冬峯とか、高城さんも」
「うん。可愛い可愛い」

 二年A組は、可愛い女子が多かった。その代表が、伊藤愛希(女子四番)や内博美(女子七番)だった。愛希は、栗色の柔らかそうな髪に、大きなガラス細工のような瞳をした、まさしく“超”がつくほど可愛い女の子だ。当の本人は、友人の新井美保(女子二番)や、紺野朋香(女子十三番)と談話していた。なるほど。和輝もこっそり納得した。
 一方、博美はイギリスのクォーターだった。灰色がかった茶髪に、いつも美しいシルバーアクセサリーを身につけていた。少しとっつきにくい印象があったが、きりっとした端正な顔立ちは、伊藤愛希とは違うよさがあった。
 ・・・ふーん。和輝はまた、一人で納得していた。
 それからも、二人は色々な女子の名前をあげ、自分の好みのタイプと比較しては、熱く討論していた。

「てゆーか暇だから、和輝の顔にでも落書きしよっかー」
 唐突に憐一が言ったので、和輝はギクリとしてそっぽを向いた。
が、遅かった。二人は寝たふりをしている和輝の顔を無理やり自分達の方向に向けて、マジックで何かを書こうとしていた。
高二にもなって、そんな悪戯しか思い浮かばねーのかよ。和輝は少し悲しくなった。このままでは自分の鼻の下に、鼻毛を描かれてしまう。

「やっめろよバカ!」
和輝が目を開けて怒鳴ると、治己と憐一は、同じ表情でニヤリと笑った。
「和輝くーん。起きてるなら一緒に遊びましょー」憐一がおちゃらけた調子で言った。
 ・・・げっ。だから嫌だったんだ、この二人の隣に座るのは。和輝は助けを求めに、椅子の上から顔を出した。

自分達の斜め後ろの席には、友人の田阪健臣(男子七番)と荒瀬達也(男子一番)が、悠長に座っていた。
達也は寝ていた。健臣はふと顔をあげると、和輝を見て苦笑した。よほど恨みがましい目をしていたのだろう。
 はあ、出来れば変わってほしい。和輝は健臣を少し怒ったような表情で見た後、自分よりも大分前の席に視線を動かした。

 笹川加奈(女子十四番)が、他のクラスメイトの隙間から少しだけ見えた。親友の小笠原あかり(女子十番)と、談笑していた。
今日は、肩まである髪を二つに結んでいた。まあどこにでもいるような、普通の女の子だった。しかし、やや幼げな瞳や、あどけない笑顔、飾らない雰囲気が誰よりも可愛らしく見えた。
最近、二人は以前より仲良くなっていた。実は、ずっと前から気になっていた。ただ、それが恋であることに気づいたのは、やはり結構前だった。

 俺もいい加減勇気出さなきゃな。和輝はある決意をしていた。夜は、散歩にでも誘ってみるか。それで・・・告白。
やや緊張しつつも待ち遠しく思いながら、和輝は眠りにつこうとしていた。

 そのころ、治己と憐一は、後ろの席のギャル系の女子、天野夕海(女子一番)、有山鳴(女子三番)、望月さくら(女子二十番)と、スポーツマン系の男子、島崎隆二(男子六番)、永良博巳(男子十二番)、新島敏紀(男子十四番)、初島勇人(男子十五番)達と大騒ぎをしていた。

永良博巳(男子十二番)と新島敏紀(男子十四番)は、バスケ部で活躍していた。二人ともタイプは違うが、女子の間でも結構な人気があった。それに乗じて女遊びをしているという噂があったが、本当かどうかは和輝の知るところではなかった。
そして、初島勇人(男子十五番)は二人の友人で、同じくバスケ部だった。だが、二人と違って特別うまいわけではなかった。長身で、人のよさそうな顔立ち。もてないわけではないだろうが、女子との噂は聞かなかった。
何となく、和輝は勇人に親近感があった。どことなく、自分に似ているものを感じていたのかもしれない。


前の席から後ろの席へと、声が飛び交って、和輝の近くは、渋谷の街並みのようにざわざわとしていた。
 少しは声抑えろよ。車酔いのため、前の席で休んでいる那須野聖人(男子十三番)がいない分、ほんの少しだけ声が抑えられているが、それでも、和輝の睡眠の妨害には充分すぎるほどの音だった。

普通はこの騒音の中で眠ることは出来ないはずだが、それでも和輝は強靱な睡眠欲を発揮して眠った。

4リズコ:2004/03/06(土) 02:29 ID:1Nf1VncU
悪寒がして目が覚めると、先ほどの車内の風景が広がっていた。夢を見ていた気がするけど、思い出せなかった。和輝はホッとして、ため息をついた。騒音の中、また眠りについた。

―――生徒達ははしゃいでいた。だが、誰一人として、このバスの行き先を知るものはいなかった。バスは四十二人の生徒を乗せ、スピードをあげて、目的地に向かって走っていった。

5リズコ:2004/03/06(土) 02:31 ID:1Nf1VncU
べらぼうに長いため、その分更新は豆にする予定です。感想などカキコしていただけると嬉しいです。

6リズコ:2004/03/06(土) 14:04 ID:1Nf1VncU
和輝が顔に描かれた落書きを必死で落としている間、バスはトンネルの中に入っていた。ガイドの若いお姉さんは底抜けに明るい声で言った。
「もうすぐ着きますからね!準備してくださーい!」
騒いでいた生徒達もだんだんと席に着いて、これからの予定について話していた。平和な光景だった。
 うんと長いトンネルを抜けると、そこからは山道に入った。曲がりくねった険しい道を抜けると、景色が変わったように深い森林が広がっていた。
そこを更に抜けると、古ぼけた看板があった。蔵ヶ浦公園。そう書いてあった気がしたが、生徒達にはよく見えなかっただろう。そこでバスは止まった。
「目的地に到着しましたよ!皆さん気をつけてくださいねー」
その声と同時に、生徒達はバスを降り始めた。全く、元気な子達。ガイドのお姉さんはそう思って苦笑した。でも、こんなところで何するんだろ。お姉さんは首をかしげた。

降りる順番待ちをしていた。和輝のすぐ前には、代々木信介(男子二十一番)がいた。学年で一番頭がいい。クラスでは小柄な方で、色白で、おしゃれな眼鏡をかけていた。
その信介の前では、仲田亘佑(男子十一番)が割り込みをしようとしていた。190近い身長に、強面で、鋭い目が信介を見た。信介はビクッとして、小声で和輝に囁いた。「ごめん。もうちょっと待って」
「ううん。いいよ」和輝も答えた。
仕方ないだろう。仲田はかなりの不良で、親がやくざの幹部だという噂まである奴だ。誰だって怖い。
仲田は無表情で、奥にいた塩沢智樹(男子四番)、田辺卓郎(男子八番)、中西諒(男子十番)に言った。「早く出ようぜ」そして、通路に手をかけて、道を塞いだ。自己中なヤツ。和輝はそう思った。
「ああ。悪い」そう言って、中西諒(男子十番)が出てきた。こいつも背が高い。この二人が並ぶと、凄い威圧感があった。
 中西はこのグループのリーダー格だった。やや強面だが、いい男だ。だが、喧嘩はかなり強いらしかった。何と言っても、中学の時に高校生数人に大怪我を負わせて、傷害事件で捕まったといういわくつきの男だった。口調は柔らかめだが、それがかえって怖さを感じさせるらしく、皆あまり近寄らなかった。中西は授業中や休み時間に寝ていることが多いので、“眠れる獅子”という、妙な異名を持っていた。
 次に塩沢智樹が出てきた。派手な茶髪のオールバックに、いつも灰色のコンタクトをしているおしゃれな奴だった。手の甲には蝶の刺青。校則で許されているのか、和輝は激しく疑問に思った。
「めっちゃ渋滞してるじゃーん。プップー!」塩沢はラリったような口調で言った。こいつ、薬中か?和輝は呆れた。治己も同じことを考えていたらしく、小さいため息が聞こえた。
 信介の後ろからは大行列が出来ていて、どことなく苛々している雰囲気が感じられた。しかし、誰も文句を言わなかった。特に仲田は、下手に目をつけられると何をされるかわかったものではなかった。よって皆黙っていた。
一番奥にいた田辺卓郎(男子八番)は、すばやく通路側に来た。「ごめん。待たせたみたいで」信介と和輝に謝って、バスを降りていった。
田辺は、他の三人とはどことなくタイプが違っていた。普通の男子だ。明るくて、お人よしで、他のクラスメイトとも普通に話をしていた。なぜ中西達とつるんでいるのかというのは、誰もが不思議に思っていたことだった。
しかし、田辺はまだわかるとして、他の三人が林間学校に来るのは、少し意外なことだった。まあ、行かないと毎日補習があって、下手すれば単位がとれないという噂があったから、来たのかもしれない(なんて横暴な学校なんだ、と和輝は思った)。
それはともかく、やっと列が動き出した。ほっとしたような空気が流れ、皆足早にバスを降りていった。生徒達は皆、これからの予定に胸を躍らせていた。

ただ、担任の森だけは、これから起こる悲劇を想像して、一人悲しんでいた。誰もいないバスの中で、自分のふがいなさと、どうにも出来ない無力感に頭をかかえた。
 仲田達を修学旅行に呼んだのは森だった。なぜなら、ゲーム不参加者は、有無を言わさず射殺されるからだ。森は仲田の両親に理由を話して、行くように説得してもらった。二人とも辛そうな顔をして、黙って聞いていた。森を攻めることもせず、ただ息子の運命に涙を流していた。やくざと言っても、一人の人間であり、親なのだ。森は離婚した妻の間にいた一人娘を思い出した。自分はどれだけ残酷なことを言ったのかと思うと、胸が張り裂けそうになった。
こんな法律がまた蘇るなんて・・・。しかも、何で自分の学校の、よりにもよって自分のクラスなんだ。俺は、生徒の命よりも自分の命を取ったんだ。
「すまない、皆・・・」三十代後半の男性教師は、涙ぐんでいた。

7リズコ:2004/03/06(土) 14:18 ID:1Nf1VncU
そこはとても広い公園だった。そしてとても不思議な場所だった。森林が広がっているかと思ったら原っぱがあったり、酷く場違いな、白い大きな建物があったりした。ここの公園は昔、テーマパークが出来る予定だった。建築中に会社が倒産したから工事が中断した。そして、今回のゲームの会場になったのだ。しかし、そんなことを全く知らない二年A組の生徒達は、呑気に歩いていた。
 今日はここで自由行動の後、バスで宿泊する予定のホテルまで行く予定だった。それにしても、他のクラスが全く見あたらないのは、どうしてだろうか。生徒達は口々にそのことを口にしていたが、大した問題ではなかったらしく、すぐに話題は別のものに変わっていった。
和輝の隣で、治己が言った。「こんなへんぴな公園でバーベキューだって。うちの学校のやることもよくわかんねえな」
「確かに。でもまあ、いいんじゃない」
「まあいいけどさ。この後ここに閉じこめられて、帰って来れなくなったりしてな」
「そんなわけないじゃん。漫画や小説じゃないんだからさ」和輝がそう言うと、治己もそうだな、と言って苦笑した。

 集合写真の後は自由行動だったが、殆どの人達は昼のバーベキューの準備を手伝わされていた。そんな中、和輝は一人、川の前でさぼっていた。
あー疲れた。皆若くていいな。やけに年寄りくさいことを考えつつ、ボーっとしていると、川を挟んだ向こう岸から、誰かが走ってくるのが見えた。えーっと、あの子の名前何だっけ。人の名前覚えるの苦手だからな―――
あっ、井上さんだ。和輝が思い出したのと同時に、井上聖子(女子五番)は和輝に気がついた。少し笑顔になって、言った。「晴れてよかったね」
「あっ、うん」話しかけられたのは、正直意外だった。和輝が何かを言おうと思って迷っていると、いつの間にか聖子はいなくなっていた。随分足早いな。和輝はそう思った。
聖子はおっとりとした印象で、こんなに足が速いとは思わなかったのだ。和輝の中に、やけに大きくその印象が突き刺さった。まあ、その後すぐに忘れてしまうのだが。

「かーずき!」後ろで突然声がして、驚いて振り返った。
「・・・笹川か。ビックリした」
加奈は和輝を下の名前で呼んでいた。いつからそうなったのかは思い出せなかったが、随分前からだったような気がした。今は、その呼び方が当たり前になっていた。
「笹川か、とは何よ。誰ならよかったの?」加奈は言った。
「いや、別に・・・」お前でいいよ。和輝はそう思った。
加奈は笑顔で言った。「サボってないで手伝って!はい、立った立った!」
「面倒くせーな。何やんの?」
「私はご飯炊く係。和輝も何か言われたでしょ」
「・・・言われたっけ。覚えてない」
「もー。じゃあ聞きに行こ!」
加奈はそう言って和輝の手を引っ張った。和輝は少しドキッとした。加奈は、スキンシップを取るのが好きみたいだった。性別などは関係なかった。それでいて、不快な気分にさせないのは、加奈のさっぱりとした人柄故だろう。

 川の下流では、野菜を洗ったり、米を研いでいる人がいた。加奈が辺りを見回して言った。
「森先生いないね」
「もうどーでもいいじゃん。働きたくない」
「駄目!働かざるもの食うべからず!」加奈はそう言って、何かを考えていた。「そうだ!キャンプファイヤーの準備するって言ってたから広場の方かも。行こう!」
「広場ってどこだよ」
「わかんない」
「・・・俺もわかんないよ」
加奈は和輝を見た。「・・・じゃあいっか」加奈はその場に座った。「私もサボっちゃおー」
人のこと言えないじゃん。和輝はそう思った。いや、今はそんなことどうでもいい。心臓が、大きく音を立てた。言うぞ。言うぞ。「あ、のさー」
「何?」加奈は和輝を見上げた。
「えーっと・・・」加奈はまっすぐに和輝を見ていた。
「・・・夜さ、散歩行かない?宿の近くにでっかい土産物屋があるんだって」
加奈の目が少し見開いて、また元に戻った。「治己くんとか、柴崎君達と行かなくていいの?」・・・断られるかな。全身の血がサッと引いていくのを感じた。
和輝は言った。「あいつらと行くと、うるさいから」
加奈のふっくらとした形のいい唇が、笑みの形を作った。
「いいよ!行こう!宿の近くに心霊スポットがあるって聞いたんだけど。そこにも行きたい!」
げっ。嬉しいけど、心霊スポットは微妙に嫌だ。でも・・・「いいよ。怖がんなよ」
加奈は笑った。「大丈夫だよ。じゃあ夕飯終わったらロビーで待ち合わせね!」
「あっ、仕事戻らなきゃ!じゃあね!」
加奈の後ろ姿を見送りながら、和輝は少し笑った。もしかしたらイケるかもしれない。期待を胸に、和輝は今夜のシナリオを練っていた。

8蜜 </b><font color=#FF0000>(u5UmjW1o)</font><b>:2004/03/06(土) 14:49 ID:BULPx9lw
名簿完成、そして本編開始おめでとうございます。
一気に読ませてもらいました。高校生が対象なんですね。
会話とか行動が年相応でリアルだと思いました。
これからも頑張って下さい。続き楽しみにしてます。

9リズコ:2004/03/06(土) 14:50 ID:1Nf1VncU
「かーずき!」後ろで突然声がして、驚いて振り返った。
「・・・笹川か。ビックリした」
加奈は和輝を下の名前で呼んでいた。いつからそうなったのかは思い出せなかったが、随分前からだったような気がした。今は、その呼び方が当たり前になっていた。
「笹川か、とは何よ。誰ならよかったの?」加奈は言った。
「いや、別に・・・」お前でいいよ。和輝はそう思った。
加奈は笑顔で言った。「サボってないで手伝って!はい、立った立った!」
「面倒くせーな。何やんの?」
「私はご飯炊く係。和輝も何か言われたでしょ」
「・・・言われたっけ。覚えてない」
「もー。じゃあ聞きに行こ!」
加奈はそう言って和輝の手を引っ張った。和輝は少しドキッとした。加奈は、スキンシップを取るのが好きみたいだった。性別などは関係なかった。それでいて、不快な気分にさせないのは、加奈のさっぱりとした人柄故だろう。

 川の下流では、野菜を洗ったり、米を研いでいる人がいた。加奈が辺りを見回して言った。「森先生いないね」
「もうどーでもいいじゃん。働きたくない」
「駄目!働かざるもの食うべからず!」加奈はそう言って、何かを考えていた。「そうだ!キャンプファイヤーの準備するって言ってたから広場の方かも。行こう!」
「広場ってどこだよ」
「わかんない」
「・・・俺もわかんないよ」
加奈は和輝を見た。「・・・じゃあいっか」加奈はその場に座った。「私もサボっちゃおー」
人のこと言えないじゃん。和輝はそう思った。いや、今はそんなことどうでもいい。心臓が、大きく音を立てた。言うぞ。言うぞ。「あ、のさー」
「何?」加奈は和輝を見上げた。
「えーっと・・・」加奈はまっすぐに和輝を見ていた。
「・・・夜さ、散歩行かない?宿の近くにでっかい土産物屋があるんだって」
 加奈の目が少し見開いて、また元に戻った。「治己くんとか、柴崎君達と行かなくていいの?」・・・断られるかな。全身の血がサッと引いていくのを感じた。
和輝は言った。「あいつらと行くと、うるさいから」
加奈のふっくらとした形のいい唇が、笑みの形を作った。
「いいよ!行こう!宿の近くに心霊スポットがあるって聞いたんだけど。そこにも行きたい!」
げっ。嬉しいけど、心霊スポットは微妙に嫌だ。でも・・・「いいよ。怖がんなよ」
加奈は笑った。「大丈夫だよ。じゃあ夕飯終わったらロビーで待ち合わせね!」
「あっ、仕事戻らなきゃ!じゃあね!」
加奈の後ろ姿を見送りながら、和輝は少し笑った。もしかしたらイケるかもしれない。期待を胸に、和輝は今夜のシナリオを練っていた。

 バーべキューが終わった。五時半からキャンプファイヤーとオリエンテーションが始まるから、七時半にはホテルに行って、それからだから八時だな。
「何浮かれてんの?怖いんだけど」隣で治己が言った。
「・・・浮かれてないよ。トイレ行きたいだけ」
「じゃあ早く行けよ」
治己に言うと、憐一に知らせて後をつけられるかもしれない。いや、下手したら、田阪と達也も一緒にくるかもしれない。―――絶対嫌だ。和輝はそう思って嘘をついた。

 連絡の際に、森は、生徒達を前にして言った。「いいか。今日と言う時間はもう帰ってこないんだ。悔いなく遊んだか?俺が許すから、今日は好きなだけ楽しめ!男子は女子の部屋に夜這いにでも行け!」
生徒達は皆、あっけにとられて聞いていた。
「何言ってんだよ、森のヤツ・・・」治己が言った。
「さあ。奥さんに逃げられておかしくなったんじゃないの?」
「ああ、そっかあ。可哀相に」
和輝と治己が呑気な会話をしている時、森は呟いていた。マイクでも拾えないような、小さな声だった。「・・・頑張れ、頑張れよ」
そして、二年A組の夜は更けていった。【残り43人】

10リズコ:2004/03/06(土) 14:53 ID:1Nf1VncU
ああ!ありがとうございます♪感想もらえると嬉しいものですね(^−^)

11リズコ:2004/03/06(土) 15:09 ID:1Nf1VncU
ゲームスタート


和輝達がいたのは、古ぼけた教室の中だった。あれ、何で教室に―――。あっ、そっか。補習だっけ。俺だけじゃないんだな。クラス全員いるのかな。空いている席がない。千嶋和輝(男子九番)は斜め前を見た。あれ、代々木も・・・?あいつ頭いいのに。まだ勉強したりないんだ、スゲー。代々木信介(男子二十一番)も、他の生徒と同じで、机に突っ伏していた。

何気なく前を見ると、男が立っているのが見えた。まだ若い。和輝は男をぼんやりと見つめていた。男が気がついたように和輝を見た。笑顔のような、困惑しているような、曖昧な表情。どこかで見たことがある顔だった。
男を見ているうちに、だんだん覚醒してきた。これは、補習じゃない。俺達林間学校に行ってたはずなんだ。キャンプファイヤーが終わって、後片付けをして、バスに乗り込んで―――そこからの記憶がない。

和輝は首にまとわりつく重苦しい感触に気がついた。手をやった。冷たくごつい物が首に巻かれていた。
・・・首輪だ。
和輝は辺りを見回した。すぐ後ろで寝ている中西諒(男子九番)の筋の通った首筋にも、一番後ろの席で眠っている笹川加奈(女子十四番)の細い首にも、その銀色の物体はあって、いやらしい光を放っていた。
―――もしかして!和輝は立ち上がって、加奈の席まで歩み寄ろうとした。

 鼓膜がはじけそうになるほどの爆竹の音が、近くで響いた。和輝がおそるおそる振り返ると、先ほどの若い男が、銃を握っていた。その音に生徒達は驚いて、次々に目を覚まし始めた。
「勝手に席立っちゃ駄目だよ」男は甘いマスクに笑みを浮かべて、言った。和輝の顔からは、血の気が失せていった。

冬峯雪燈(女子二十一番)が、小さな叫び声をあげた。「何これ・・・どういうこと?」辺りがざわめき始めた。ライフル銃を持った兵士が四人、教室の端の四方に立っていた。全員、内側に銃を向けていた。ざわざわとした教室を制すように、一発の銃声が聞こえた。「きゃあっ!」女子の悲鳴が聞こえて、クラス全員が銃声のした方向を見た。

「静かに。大人しくしていれば危害は加えない」若い男は銃を天井に向けていた。天井からぱらぱらと、破片がこぼれ落ちた。隣にいた丸顔の兵士が言った。「今から一言でも口きいてみろ。殺すぞ?」ニヤリと笑った。
 和輝を始め、クラスメイト達は全員静まり返った。相手が本気だということを悟ったからだろう。そしてクラスの殆どが、もしかして、という思いに包まれていた。
「聞き分けがいいね」若い男が口を開いた。「じゃあ説明するな。君達にはこれから、殺し合いをしてもらいます」

クラス中が重苦しい沈黙に包まれた。皆、絶望していた。何で・・・あの法律はなくなったはずなのに。

「あれ、反応薄いなあ。皆もっと驚かないの?」男は言った。生徒達は沈黙していた。言葉を忘れてしまったかのようだった。
周りのクラスメイト達と目を合わせては、そらした。和輝はじっと男を見つめていた。バトルロワイアルだ。あの法律が復活したんだ!

「喋ったら殺すって言われてるのに喋るバカはいないだろ。皆自分の命は惜しいし」誰かが言った。生徒達はその人物を見た。
「あー、そうだよなー。お前、いい度胸だな。えーっと、千嶋」
和輝は驚いた。自分だということに気がつかなかった。自分の意思とは別に、勝手に声が出ていたように感じた。動揺しすぎて、わからなかったのかもしれない。

「じゃあうるさくしない程度に三分間話させてやる。三分経ったら一斉に黙ってね。あっ、ちなみに、オレは北川哲弥。今回のゲームの管理官だからヨロシク」
和輝は眉をひそめた。大迫治己(男子二番)を見た。治己も和輝の方を見て、驚いたような表情をしていた。
北川が言った。「俺、お前もお前も知ってる」治己と和輝を交互に指差した。「加奈と仲よかったろ」
和輝は後ろを振り向いて、加奈の方を見た。加奈は固まった表情のまま、口は何かを言いたげに開いていた。しぼりだすように、言った。「何で―――」唇が震えていた。泣いているのかもしれない。和輝はかすかにそう思った。
「まあ色々あってさ。元気だった?加奈」北川は優しい口調で言った。和輝は焦りを募らせていた。北川が、俺達の担当官だなんて。

12リズコ:2004/03/06(土) 16:06 ID:1Nf1VncU
やばい、かぶっちゃった。7と9の内容が一部一緒になってました。すいません。

13リズコ:2004/03/06(土) 20:41 ID:1Nf1VncU
中学時代の北川を思い出していた。北川哲弥は有名人だった。バスケ部のキャプテンであり、チームを全国大会へ連れていくほどうまかった。更に、たった一ヶ月の間入っていた柔道部の大会で優勝した経験もあり、模試の時は必ず成績優秀者の欄に載っていた。要するに、完璧だったのだ。更に付け足すと、北川は背が高く、美形だったので、学校一のモテ男だった。同じクラスだった女子の殆どが、北川に憧れていた。そんな―――凄い奴だった。
和輝は更に思い出していた。笹川は女子バスケ部に所属していて、二人はよく話していた。どういう経過で仲良くなったのかは知らなかったが、付き合っているという噂まで、あった。少なくとも、笹川は北川が好きだった。それはわかる。そして、それに気づいた時、自分が強い苛立ちと、悲しみを覚えたことも。
和輝は二人を見比べた。見つめあっていた。加奈は何の言葉も発していないようだった。北川は笑みを浮かべて頭を掻いた。「じゃあ、今から三分ね。用意、スタート」
 北川の言葉と共に、生徒達は少しずつ声を出し始めた。泣きそうになっている生徒も、興奮して声を抑えきれない生徒もいた。和輝は、静かに今の現実を考えていた。
 殺し合い。クラスメイト同士で殺しあう。それがどういうことなのかは、うまく呑み込むことが出来なかった。ただ、言えることは、もの凄く怖い、ということだけだった。和輝は震えていた。そんな―――俺がもうすぐ死ぬかもしれないなんて。しかもクラスメイトに殺されるかもしれないなんて。学校に到着した時は考えもしなかった。バスに乗っていた時、本当は楽しみだった。それがこんなことになるなんて―――
「はーい三分終わり。今から喋ったら命ないかもしれないから、喋んない方がいいよ」北川は言った。少しの間の後に声は途切れ、静寂が訪れたように思えた。

「・・・嫌だ、怖いよ!死にたくないよ!」生徒達の顔が強ばった。幼児の言葉のように、島崎隆二(男子六番)はそう言い続けた。涙を流していた。自分でも、制御できないのかもしれない。「島崎!」永良博巳(男子十二番)が叫んだ。
「喋るなっつっただろ。これでも食らえ」北川の横にいた丸顔の兵士が言った。四方にいた兵士が、隆二に銃を向けた。撃たれる!和輝は隆二に声を止めるように祈った。

「横山さん待って!」北川が手を上げて、兵士を制した。横山と呼ばれた丸顔の兵士は、チッと舌打ちをして、銃を下げた。

北川は隆二の席に近づいて、話しかけた。「静かにしろ。この次はないぞ」隆二は首を振りながらも、必死で自分の喉を押さえた。喉を鳴らすような音が聞こえた。
 北川は無言で、隆二の首を掴んだ。隆二は、苦しそうな顔をして、かすかに呻いた。「死にたくなきゃ声を出すな。できるだろ?」隆二の顔からは、脂汗が出ているのがわかった。やがて、絞りだすような声が、かすかに聞こえた。「・・・はい」北川は手を離した。隆二は激しくむせながら、北川を見上げた。

「説明を続けます」北川はそう言って、定位置に戻って続けた。

14111:2004/03/06(土) 20:47 ID:.S4MXpVs
聞きたいんですがメインキャラって誰ですか?

15リズコ:2004/03/06(土) 20:49 ID:1Nf1VncU
えっと、千嶋君ですね。で、ヒロイン(?)は笹川さんです。

16111:2004/03/06(土) 20:56 ID:.S4MXpVs
わーいやったMyキャラヒロイン!?
もう作者共々応援しちゃいます

17リズコ:2004/03/06(土) 21:10 ID:1Nf1VncU
「ルールを説明します。ルールは簡単。とにかく殺し合うことです。武器は今から配るデイバックに入ってるからそれを使うように。元々ナイフなどを所持している人は・・・持ってていいです。デイバックには武器の他にも、水二本、食料、地図、懐中電灯、磁石、時計が入っているから、もらったらちゃんと中身を確認するように。エリアはこの学校を出ると公園があるから、そことその付近の民家数軒がエリア。勿論中の人には出ていってもらったから気にせず汚していいですよ。そして、そこを越えると、君達の首にある首輪が爆発するから出ないようにしてください。あと、夜中の十二時、朝の六時、昼の十二時、夕方の六時と放送をして、その時点での死亡者と禁止エリアを発表します。地図を見ればわかるだろうけど、地図にはそれぞれのエリアの番号が入ってるから。たとえばこの学校はエリアH=2。ここは出発してから二十分後に禁止エリアになります。二つの首輪の他は絶対に入ることが出来ないからさっさと出ましょう。もし、入ろうとしたら首が飛びます。他の場所もそう。こっちは時間になってもまだいると、問答無用で首が吹っ飛ぶから、覚えておくように」

 北川の声以外は、何も聞こえなかった。時々、兵士の咳払いと、誰かの、鼻をすするような音が聞こえるだけだった。和輝は聞きながらも思った。島崎は大丈夫なのかな。青ざめていて、首の周りに爪のような痕があるのが目についた。和輝は自分の心臓の音が、だんだん大きくなっていくのを感じた。
横目でクラスメイト達を見た。ゲームに乗る奴。わからない。中西達が一番危ない。あとは、梁島裕之(男子二十番)。クラスで仲のいい人間はいなかった。何を考えているかもわからない。それを言うなら、国見悠(男子三番)もそうだ。女子は・・・よく知らない。俺は誰の人間性も何も知らない。
「じゃあ、皆自分のバックを机の上に出して」唐突な北川の言葉に、生徒の顔が動揺していた。「バックは取りあげないよ。携帯を没収します」クラス全員が「えー」と言う声を、心の中であげた(に違いない)。
「携帯を出さない人は、バックの中身を調べるから先に出した方がいいよ。持ってない奴も一応調べることになるから。じゃあ、没収します」そして、一人ずつ、携帯を回収していった。
 高城麻耶(女子十七番)の番になった。麻耶は北川を睨んで、はっきりと言った。「私は携帯なんか持ってない」
「そっか・・・でも、一応調べさせてもらうから」北川はそう言って、通学用バックに触れようとした。
「やめて!」麻耶は急いでバックを掴んだ。両手で抱え込んで、北川を睨んだ。
「あのね。君だけ特別ってわけにはいかないんだよ。早く出して」
「嫌っ!持ってないって言ってるでしょ!」麻耶の声が響いた。
生徒達はあっけにとられて、麻耶の行動を見ていた。北川は困ったような顔をした。「すぐ終わるから。何か見られちゃいけない物でも入ってんの?」
麻耶の顔が歪んだ。「入ってないけど・・・触られたくないの!あんた達なんかに!」
「あんだとこのガキャア!」横山が銃を向けたが、北川がそれを制した。「何でだよ。こんなガキ殺したって・・・」横山は不服そうに言った。
「いやー、何か凄い勇気だから殺すのもったいないかなって」北川は言った。
「あんたは所詮バイトだろ?オレたちの方が慣れてるんだよ」そう言って、四方の兵士に合図をした。一斉に、銃口が麻耶を取り囲んだ。麻耶はびくっとした。
「待ってください!」後方の席にいた飛山隆利(男子十七番)が叫んだ。「そいつ本当に携帯なんか持ってないです!お願いだから、殺さないでやってください!お願いします!」頭を下げた。横山と北川は隆利を見た。北川は言った。「横山さん。なるべく生徒同士で殺させましょうよ。ねっ?」
「でも・・・」横山は納得がいっていないようだった。北川は、生徒に聞こえないように呟いた。「それに、この子結構人気あるでしょ。今殺したら非難がきますって」
「・・・なるほど。そうだな」横山が銃を下げた。それと同時に、四方の兵士達も銃を下ろした。
「今度なめた真似しやがったら有無を言わせず射殺だからな」横山は、麻耶にそう浴びせた。和輝はホッとした。北川は隆利に言った。「いい度胸してるね。まあ頑張ってよ」
「あ、はい」隆利は腰を下ろした。心から安堵した様子だった。

18リズコ:2004/03/06(土) 21:16 ID:1Nf1VncU
「じゃあ、何か質問ある?」北川が言った。少しの沈黙。その後、一人の女子生徒が手をあげた。「あの・・・」
「はい、・・・黒川さん」
背が高く、モデルのようにスタイルがよかった。頭もいい。ややきつい顔ではあるが、なかなか美人だった。黒川明日香(女子十二番)は、青ざめながらも、しっかりとした口調で訊いた。「BR法って、廃止されたんじゃないんですか?」
「あー・・・」北川の表情が曇った。「その予定だったんだけど、今年試験プログラムを行うことになったんだよ。ルールは以前とあまり変わらないけど、若干の訂正があるってことはさっきも説明したとおり。もう一度言うけど、男子一名、女子一名に特別な首輪をつけさせてあります。それが誰だかはまだわからないけど、二日目に業者から連絡が来るから、その日の昼の放送で発表する予定です。それまでに死んでたらもうアウトだけど。該当した人は学校だけが禁止エリアから解除されるから、この学校に戻ってくるように。その二人は生還できます。以前のルールより生き残る確率が高くなったんだから、頑張ってね」北川はぼんやりとした、危機感のない口調で話した。

それを聞いた和輝は思った。たくさん殺して生き残れって・・・。そこまでして生き残ることに意味はあるのか?それに、いくら生き残ったとしても、クラスの殆どは死んでるんだ。そんな現実に、俺は耐えられないかもしれない。絶望的だった。北川が、信じられなかった。政府という名の元で、平気で他人を殺そうとしている輩がいる。
最低だ。こいつも、そのうちの一人だ。これが、中学の時に、誰もが憧れていた先輩だとは思いたくなかった。【残り43人】

19リズコ:2004/03/06(土) 21:21 ID:1Nf1VncU
次から出発します。本当長くてすいません。
始めに紹介されたキャラほど重要度は高いです。でも、全体的に、どのキャラも結構スポット当てられてるはず(例外もありますが)なので・・・(だから何)

20リズコ:2004/03/06(土) 21:23 ID:1Nf1VncU
ありがとうございますw頑張りますw>111さん

21GGGD:2004/03/06(土) 21:51 ID:e49G4Aw2
ガンバテクダサイ!!(死ぬなよー島崎、達也、智・・・・サビシイ。。

22GGGD:2004/03/06(土) 22:12 ID:e49G4Aw2
age

23リズコ:2004/03/06(土) 22:53 ID:1Nf1VncU
「それでは今から出発します。順番は・・・」北川はくじの入った箱を取り出させると、その中から紙を取り出した。
「三番、有山鳴」鳴は驚いたように、辺りを見回した。「はい、早く出発!」横山が銃を突きつけて叫んだ。
北川は鳴にデイバックを差し出した。「私達は殺し合いをする」北川が言った。「って言ってから行こうね。それが決まりだから」
鳴は黙っていた。「早く言え」北川は銃を向けた。
「・・・私たちは、殺しあいをする」鳴は静かに呟いた。「はい。よく出来ました」

北川は、次の国見悠(男子三番)にも同じことを言わせた。そして、二分ごとの点呼に合わせて、続々と生徒が出発していった。

和輝は考えていた。出来れば、笹川と一緒に行動したい。でも、笹川は俺の八人後か。それまで学校の前で待てるだろうか。出席番号が遠いのが恨めしかった。何と言っても、次々に人が出てくる。その中にずっと残っているということは、つまりいつ出くわした生徒と争うかわからないのだ。でも時間にしてたったの二十分だ。大したことない。和輝はそう言い聞かせた。

「九番、千嶋和輝」
いつの間にか、自分の番がきていたようだ。心臓がギリッと痛んだ。和輝は黙って立ち上がった。

「私達は殺し合いをするって言いましょう。はい」北川が言った。和輝は北川を見た。あのころの面影より、若干大人びていた。「早くしろよ!時間がないんだよ」横山がイライラした口調で言った。
「・・・私たちは、殺しあいをする」かすれた声が出た。
ここで死ぬわけにはいかなかった。

「はい。じゃあこれ持ってってね」北川はずっしりと重いデイバックを和輝に渡した。

後ろを振り向くとクラスのメンバー、そして加奈がこちらを見ていた。皆、とても不安そうな顔だった。和輝は加奈を見つめた。『頑張れ』と口の形だけで囁いた。加奈はそれを見ると、目に涙を浮かべながらも頷いた。

「早くしろ」後ろから北川が言った。和輝はドアに向かった。教室を出ていく時に、前の席にいた大迫治己と目があった。治己は寂しそうにフっと笑った。その笑みの真意は和輝にはわからなかったが、もしかして、治己はもう生きることを諦めたのかもしれない。そう一瞬思って、ぞっとした。あいつに限って、そんなはずはないと言い聞かせた。

24リズコ:2004/03/06(土) 23:21 ID:1Nf1VncU
暗い廊下を歩いていた。ところどころ蛍光灯がついていたが、何となく陰気な光を放っているように感じた。和輝はデイバックをしっかりとかかえて、中身を探った。
よく見えない。和輝は武器を探した。銃は入ってるんだろうか。それとも、刃物が多いのかな。もし銃が武器に入っているのなら、銃がいいと思った。

堅く、冷たい感触がした。和輝はそれを取り出した。
・・・やった。銃だ。和輝はホッとしながら、その自動拳銃を見つめた。

中に入っていたのは、S&W M59オートだった。和輝には、銃の名称など、わからない上にどうでもよかったが、大体どうすれば撃てるかはわかっていた。
更にデイバックを確認すると、小さな箱があった。中には銃弾と説明書が入っていた。とりあえず、これでやるしかない。和輝は長い廊下を足早に歩いた。

廊下を出たらすぐ、下駄箱があった。和輝はきょろきょろしつつ、慎重に歩いた。外には、ぼやっとした明かりがついていた。
もうすぐ、殺し合いが始まる。和輝は気を引き締めて、下駄箱を出ようとした。


「うわっ、やめてくれー!」男子の叫ぶ声が聞こえた。
和輝は驚いて、それでも外に出た。

田辺卓郎(男子八番)と、大島薫(女子九番)が争っていた。卓郎は和輝に背を向けた状態で、地面に座り込んでいて、薫はその卓郎に銃を突きつけていた。卓郎の人の良さそうな顔には、冷や汗が浮かんでいた。
「あっ、千嶋!助けて!」卓郎は後ろを向いて、幾分ホッとしたように和輝に言った。「お願いだ。おれは諒と仲田を待ってただけで、人を殺す気なんて・・・」

「た、田辺!」和輝は上ずった声をあげた。
危ない。そう言おうとしたのと同時に、薫が卓郎に銃を発射していた。


二発の大きな音が聞こえて、卓郎の体から血が飛び散った。
「うっ・・・」と言って、地面に倒れた。

薫は冷静な表情で、茫然としている和輝にも銃を向けた。ごちゃごちゃ考えている暇なんてなかった。和輝は銃を取り出した。


「きゃあ!」背後で声が聞こえて、薫の視線がそちらに移った。

薫は一瞬悔しそうな顔をして、そのまま銃を収めて走り去っていった。


和輝はやっと、背後の人物を見た。まあ見なくても、誰だかはわかっていたが。

小笠原あかり(女子十番)は、怯えた表情で和輝に聞いてきた。「千嶋君。どういうこと?」
「大島さんが、田辺を」そこまで言って、和輝は卓郎にかけよった。「そうだ!田辺!大丈夫か?」


卓郎は少しだけ目を開けた。生きていたが、運の悪いことに、薫の銃弾は心臓を貫いていたようだ。あかりもそっと近寄ってきた。

「ごめん。俺が、もっと早くきてれば・・・」和輝は言った。中西達とつるんではいたが、悪い人間でないことはわかっていた。
卓郎は言った。「何で謝るんだよ。お前、いい奴だな」少しだけ笑んだ。

「おれが悪かったんだよ。不用意に声をかけるべきじゃなかったんだ。クラスメイトで殺し合いなんか、できるわけない・・・って思ってたけど、間違いだった」卓郎はそこまで言うと、うわ言のように呟いた。
「ごめん早苗。兄ちゃん、もう、負けちった」


「田辺?」和輝は卓郎の体を揺すった。後ろであかりが泣き出した。
「嘘だろ・・・」和輝は信じられない思いで、卓郎を見つめた。


顔色は血の気が抜けたようになっていて、眠っているように目は閉じられていた。
しかし、死んでいた。


「田辺!」叫びながら思った。もう、人が死ぬなんて。始まってまだ一時間も経ってないんだぞ。和輝は絶望していた。

背後であかりが言った。「千嶋君、逃げようよ。もうすぐ、中西がくるよ。うちらが殺したと思われたら・・・」


あかりが和輝のワイシャツを強く掴んだ。和輝は顔を上げた。
「きゃあ!」あかりは叫ぶと、そのまま逃げていった。

25リズコ:2004/03/06(土) 23:46 ID:1Nf1VncU
更新早すぎるかな?

26御徒町:2004/03/07(日) 00:00 ID:vqwzskMA
大丈夫です^^
早くて困る人は居ないでしょうし、むしろ早く読みたくなります( ´∀`)ノ
頑張って下さい〜

27御徒町:2004/03/07(日) 00:02 ID:vqwzskMA
あとつけたし、
『治己』じゃなくて『治巳』です^^;

28リズコ:2004/03/07(日) 01:03 ID:1Nf1VncU
あっ、すいません!次から直しますねm(_)m

29リズコ:2004/03/07(日) 01:45 ID:1Nf1VncU
そこには、中西諒(男子十番)と、和輝だけが残された。和輝も、血の気がサーッと引いていった。やばい、殺されるかも。


諒は卓郎の死体を見て、駆け寄ってきた。
「卓郎!どうして・・・」
冷たくなった卓郎の手を掴んで、そのまま下を向いて泣いていた。

和輝はそれをジッと見ていた。いささか呑気なことだが、珍しいものを見たという思いがあった。


諒は顔を上げて、和輝に詰め寄った。
「お前が、殺したのか!?」苦しそうに叫んだ。

「いや、俺じゃないよ。俺がきた時には・・・争ってて」薫のことを言おうか迷った。諒は少しの間沈黙した後、口を開いた。

「じゃあ、お前じゃないんだな?」和輝はこくりと頷いた。
「誰が殺したんだよ?」諒は言った。ある決意に燃えた顔だった。

和輝は言いにくそうに呟いた。「・・・大島」


諒はのろのろと立ち上がった。
「わかった。悪かったな」惚けたように呟くと、デイバックを持ち直した。
「早くここから出た方がいい。疑われるぞ」諒は言った。


和輝は意外に思った。有無を言わせず殺されるのかと思っていたが、諒は冷静に状況を判断していた。
卓郎と諒は、タイプが違ったが、なぜかとても仲がよかった。その卓郎が死んだのだ。本当は凄く犯人が憎いのだろう。しかし、和輝を犯人ではないと判断したようだ。和輝は諒を少し見直した。



和輝がその場を去った後、諒は一人、そこに残った。
卓郎に別れの言葉を言っていた。誰からも怖がられている自分に、普通に接してくれた奴なんて、こいつが初めてだった。

香山智(女子十一番)が出てきて、短い悲鳴をあげた。諒が振り向くと、智は泣きそうな顔をして逃げていった。


諒はその場に腰を下ろした。次に出てくる男を待っていた。
―――足音が近づいてきた。

仲田亘佑(男子十一番)は、諒と卓郎の姿を見ると、驚いた表情をした。

「これはどういうことだよ?」と、叫んだ。
諒は言った。「殺されてた。犯人は、大島って奴だって」

亘佑は鋭い目を細めた。「わかった。行こう」亘佑は独特の低い声で言った。
諒は立ち上がった。じゃあな、卓郎。心の中で呟いて、その場を後にした。【残り42人】

30:2004/03/07(日) 17:57 ID:e49G4Aw2
age-がんばてくだせえ。

31リズコ:2004/03/07(日) 23:25 ID:1Nf1VncU
植草葉月(女子六番)は、井上聖子(女子五番)と待ち合わせをしていて、今はここ、H=5にいた。
聖子は危険を冒して、葉月を待っていてくれた。葉月はホッとしていた。聖子なら信用できる。そう思っていた。

葉月と聖子は家が近所で、昔からの友達だった。

葉月はこの辺りの地区では、かなりの金持ちの家の子供だったが、小さいころから甘やかされ続けて育ったせいか、よく言えば、素直で正直で、悪く言えば、わがままで気の強い性格に育ってしまった(まあ、本人は全く自覚がなかったが)。

だから、友達は少なかった。皆、葉月の性格についていけなくなって、離れていってしまうのだ。そして、いつも孤立してしまう葉月に、珍しくしぶとくついていった子が、井上聖子だった。

聖子はおとなしいけれど、芯が通っていて、葉月が間違ったことを言っていたり、していたりすると、必ず「そうじゃないよ。葉月」と、忠告してくれたのだった。
初めは腹が立った葉月も、次第に聖子の言葉にだけは耳を貸すようになった。ただ、やはり、葉月のわがままと気の強さだけは、今でも健在だったが。


そして、この日も二人は一緒にいた。だが、聖子の様子は、どことなくおかしかった。葉月がこれからどうしようかと話をしても、黙って聞いているだけで(もしかしたら聞いてないのかもしれない)、何も言おうとしなかった。
次第に葉月も喋るのに疲れて、水を飲んでいた。


聖子が、不意に口を開いた。

「ねえ葉月、私達これ以上一緒にいない方がいいんじゃない?」
葉月には、凄く意外な言葉だった。「何で?」葉月は訊いた。

聖子は静かに息をついて、話し始めた。

「私は生き残りたいの。そのためには、一人の方がいいんだ。葉月がいると、正直、足手まといなの。だから、ここで別れよう」

「嫌だよ!」葉月は強い口調で言った。「もし敵が襲ってきたって、一人でなら勝てないけど、二人なら勝てるかもしれない。夜だって二人でいれば、代わる代わる見張りをして、寝ることだって出来るよ。とにかく私は一人ではいたくない!怖いもん」

聖子は一通り聞いていたが、ふう、とため息をついて、「仕方ないなぁ」と言った。
葉月はホッと胸を撫で下ろした。やった、わかってくれたのね。


だが、それは一瞬の安堵でしかなかった。聖子が、葉月に銃を向けていたので。

32tp-18:2004/03/08(月) 01:34 ID:SxiXzQiE
おおマイキャラがメインっすか!?ありがたいですね
諒さんが意外にいい人なのがいいですね
更新早くていいと思います
続きがんばってください

33リズコ:2004/03/08(月) 17:00 ID:1Nf1VncU
「ど、どうして?」震える声で葉月は訊いた。
「だって、納得してくれないんだから仕方ないでしょ。まあ、最初から殺そうとは思ってたけどね」

葉月は愕然とした。今、私の目の前にいるこの子は誰なの?こんなの聖子じゃない。
「嘘!冗談でしょ?ちっとも面白くないんだから!」


そうわめく葉月に、聖子はやや呆れたような笑みを浮かべると、引き金を引いた。



たった一発だった。


だが、その一発は確実に葉月の頭を撃ち抜き、葉月の頭の一部は周りに飛び散った。
そして、葉月は地面にどっと倒れ、血がとろとろと流れ出した。



あーあ、随分変わり果てた姿になっちゃったわね。聖子はそう思いながら銃を置くと(コルトバイソンM357マグナムだった)、葉月のデイバックの中身を調べた。葉月を待っていたのは、デイバックの中の武器と食料を頂くためだった。

あら、この子いい武器持ってるじゃない。そこに入っていたのは、かつてのバトルロワイアルで桐山和雄が所持していた武器、イングラムM10SMGだった。

聖子はそれを握りしめると、自分のデイバックに銃を入れ、頭が半分なくなっている葉月を数秒見つめた後、別の方向に急いだ。【残り41人】

34リズコ:2004/03/08(月) 17:02 ID:1Nf1VncU
もうそろそろ、二十分経つ。千嶋和輝(男子九番)は注意深く、公園の門から出てくる人間を見ていた。
学校はもう禁止エリアになっていて、入ることが出来なかった。そして、笹川加奈(女子十四番)が、もうすぐここを抜けて来るはずなのだ。

学校を南側に抜けると、もうエリア外だし、J=3も、I=2も、殆どエリアの中には入っていなかった。ならば、よほどの変わり者でない限り、I=3にある、公園入り口(今和輝はここにいる)を通るはずだった。
現に、生徒の殆どはここを通って広場の方や、森、池の近くに向かっていた。だから加奈も、学校で殺されたのでもない限り、ここを通るだろう。

和輝はもしものことを考えて、ぞっとした。駄目だ、弱気になるな!笹川はもうすぐ出てくるんだ。絶対。和輝は唇を噛みしめた。



その時、学校を通り抜ける途中の草むらから、ざっ、ざっ、という音がした。
和輝は考えた。さっき、新島敏紀(男子十四番)が通り抜けたから―――。
淡い期待が、現実になるのを待った。


そこには、長い間見てきた懐かしい顔があった。笹川だ。和輝は感動して涙が出そうになった。
奇跡だ。笹川も俺も生きてる!ばんざーい!
二十分も同じ姿勢で神経をすり減らし、ややおかしくなっていたのかもしれない。



加奈は不安そうな顔で歩いていた。長い間(と言っても、たったの二十分だったけど)喋っていなかったために掠れてしまったが、出来る限り声を振り絞って、和輝は言った。

「笹川」加奈はビクッと体を震わせて、「誰?」と叫んだ。
「俺だよ。千嶋だよ」草むらから顔を出し、和輝は言った。


「和輝?」加奈は驚いたようにこっちを見た。
「どうして?」
「待ってたんだ。心配だったから」
そう言うか言わないかの間に、加奈は、和輝のいる方向に向かって走ってきて、和輝に抱きついた。
予期せぬ出来事にかなり驚いたが、加奈の表情を見て、気づいた。
加奈は泣いていた。

「怖かった。一人で、このまま死んじゃうのかと思ってた。よかった・・・」
何度もそう呟いている加奈を抱きしめながら、和輝の中に、愛おしさがこみ上げていた。【残り41人】

35リズコ:2004/03/08(月) 18:31 ID:1Nf1VncU
プログラムを知ってるかい?プログラムっていうのは、全国の中学三年生のクラスから毎年五十組を選んで、クラス内で殺し合いをさせるという法律だ。正式名称は、戦闘実験第六十八番プログラム。別名バトルロワイアル。おっと、そんなことはどうでもいいか。

でも、このプログラムは、道徳的にも社会的にもよくないんじゃないかってことで、99年に廃止になったんだ。

はー、一安心。皆そう思った。しかし、それは全面的に廃止されたわけじゃなかった。政府はずっと新しい案を練っていた。そして、ついに施行されたんだ。


二〇〇五年、七月。新BR法試験プログラム。第一回。対象クラスは、県立第三高校英文科、二年A組。総勢43人。


そして僕は―――その中の一人、男子十三番那須野聖人さ!



聖人は地図を見た。ここはH=4だ。雑木林に一本の道が、中央の広場に続いていた。だが、そんなことは、聖人には全くわからなかった。

ただ、落ちついていられなかった。プログラムだって?何でそんなものにオレが巻き込まれなきゃいけないんだ!誰だよ、対象年齢をあげようとかほざいた奴は!殺してやる!てゆーかお前が参加しろ!

聖人は息がつまりそうになるほど怯えていた。もう人は死んでる。聖人は、門を出る途中、田辺卓郎(男子八番)の死体が、無惨にも転がっていたのを見てしまったのだ。

気づけば、恐ろしくなって、やみくもに走り出していた。そして、疲れてやっと立ち止まった時には、よくわからない森の中に入ってきてしまった。

どこなのかはわからなかった。時折聞こえる鳥の鳴き声の他は、シーンと静まりかえっていて、不気味な感じがした。

何か出そうな森だなオイ。まあ、今一番怖いのは、幽霊よりも、むしろ人間だろうけど。
でも、やっぱりここは怖いな。もっと明るい場所に行こうか。でも公園の中心の池の周りは、目立つ。ここで朝が来るのを待とう。聖人はそう思い、腰を下ろした。


ふー。しっかし、何でオレがこんな目に遭わなきゃいけないんだよ!オレ、何も悪いことしてないじゃんか!聖人は怒っていた。
でも、とりあえず参加することになったわけだし、やるしかないよな・・・


聖人は懐中電灯でデイバックを照らしながら、中身を探った。
おっ、軍用ナイフだ。銃じゃないのは残念だけど、相手も銃じゃないなら、十分勝ち目はあるよな。


軍用ナイフを手元に置いて、聖人はボーっとしていた。だんだんと、睡魔が襲ってきていた。
ヤバい。眠くなってきた。でも、寝てる場合じゃないな。生き残るためには睡眠時間を削らなきゃ。でも、人間って寝ないと死ぬんだよな。
あれ?どの程度寝ないと死ぬんだ?いくらなんでも三日じゃ死なねーよな。


呑気なことを考えていると、その耳に不可思議な音が響いてきた。

「うわっ!」聖人は怯えた。逃げなきゃ、早く!
そう思っていても、足が動かなかった。それでも、意を決してやっと立ち上がった。
しかし、もう遅かったようだ。

36伊織:2004/03/08(月) 20:03 ID:Z1FdK0qg
お疲れ様です。故・葉月、塩沢、麻耶がナイスなキャラに仕上がっていて嬉しいです。
更新の早さと展開のおもしろさにドキドキするばかりです。これからも頑張って下さい!

37:2004/03/08(月) 20:27 ID:uZ4OyVdI
おもしろい!
の一言です!
Myキャラけっこういい仕事してますね〜
楽しみです。
頑張ってください

38リズコ:2004/03/08(月) 21:05 ID:1Nf1VncU
感想下さった皆さんありがとうございます!
頑張って更新しますね♪

39GGGGD:2004/03/08(月) 21:19 ID:e49G4Aw2
がんばってくだせえ。早くつずきが見たいッス!!

40リズコ:2004/03/08(月) 21:32 ID:1Nf1VncU
160センチに満たない小柄な身体。分厚い眼鏡の奥で、ぎょろぎょろとした目が光っていた。

峰村陽光(男子十八番)は、聖人を見た。聖人はあっけにとられて、峰村を見ていた。暗闇で、深い表情まではよく見えなかったが、眼鏡の奥の瞳が、ギラリと、凶器じみた光を放ったような気がした。


二年A組の中には、アニメが好きな、いわゆるおたく系の男子はいなかった。峰村は、国見悠(男子三番)と代々木信介(男子二十一番)とはたまに話していたが、信介はどちらかと言うと勉強家で、それ以外は、特に変わったところのない普通の男子だったし、悠は、無口で、あまり人とのコミュニケーションはとらないタイプだった。
峰村は主に別のクラスの友人と行動していた。そして、暗くておたくのような外見の峰村を、聖人は普段からよくからかっていた。
・・・もしかして、日ごろの恨みをはらそうとしているのか?


その通りだった。峰村はニヤっと笑うと、聖人に飛びかかってきた。


意表を疲れた聖人は、とっさに近くにあった石を峰村に投げつけた。
石は見事に顔に命中した。峰村はうなり声をあげて、顔を押さえた。


ざまあみやがれこのヲタク野郎!
聖人は少し得意げになって、峰村の傍に駆け寄った。手には、軍用ナイフが握られていた。

いくら峰村だからって殺したくはないけど、こうなったらやるしかないよな。
聖人は軍用ナイフを天高く持ち上げ、とどめをさそうとした。


聖人の目が見開いた。峰村は背中にかけていたボウガンを取り出し、聖人の足に目がけて、矢を放った。



ヒット!右足に矢が刺さり、聖人は倒れかけた。


ぐはっ。痛みと同時に、聖人は思った。ボウガン持ってるんなら、最初から使えよ。


峰村は間を置かずに、もう一度矢を放った。
クリティカルヒット!矢は聖人の腹に、ぶすっと刺さった。


手からは軍用ナイフが離れ、聖人は、地面に這いつくばった。腹を押さえた。大量の血が右手についていた、それを見て、意識が薄まりかけた。

チクショウ。こんな奴にやられるなんて。聖人は悔しさで涙が出そうになっていた。
腹の皮は裂け、ドクドクと血が流れてきた。湿った土に、じわじわと吸い込まれていった。



峰村は言った。「ざまあ見ろ。猿回しの猿め」
「何だとこら・・・ゴホッゴホッゴホ・・・」
聖人の口から、血がごぼごぼと出た。峰村は、さもおかしそうに笑った。

軍用ナイフとデイバックを拾い上げ、峰村はその場から立ち去っていった。

41リズコ:2004/03/08(月) 21:36 ID:1Nf1VncU
聖人は仰向けになった。

腹には銀色の太い矢が刺さっていた。抜こうとしたが、力が入らなかった。肺が裂けて、呼吸をするのも苦しい状態になっていた。


聖人は、自分がもう長くないだろうと悟った。

チクショウ、短い人生だったぜ。しかも峰村にやられるなんて。聖人にとっては、怒りを通り越して、むしろ意外な事実でもあった。

からかっていたのは自分にとってみれば、大したことじゃなかったけど、当の峰村は傷ついてたのかもしれない。そう考えると、聖人は少し反省した。
最期に気づかせてくれてありがとう。峰村。


・・・おい待て。何で、礼を言わなきゃいけないんだよ。オレはあいつに殺されたんだぞ?(まだ死んでないけど)むしろ恨むべきだよ。そうだよ。

だが、怒る気力すら失せていた。腹が裂けるような痛みが、聖人を襲っていた。
泣きそうになっていた。


イテー、イテーよ。まだ生きたかったんだよオレは。何でこんなゲームに参加させられて、しかも、こんなあっけなくやられなきゃいけないんだ。

こういうのは普通、雑魚キャラの運命だろ。峰村とか、国見とか。女子で言うと、高田とか香山なんかだな。それで、仲田達は悪者で、普段の恨みをここではらされるんだ。


・・・待てよ?はらされてんのはオレじゃん!オレは、雑魚キャラの上に悪者キャラ?
そんなのやだ。どうせなら、友達とか好きな女を守って死ぬとかがいいよ。

・・・待てよ。ここで感動するセリフを言えば、雑魚キャラじゃなくなるかも。
えーっと。えーと・・・

・・・思いつかねーよ!
そんなことを悶々と考えていたら、気が遠くなってきた。


「那須野君」女の声が聞こえた。可愛い声だ。誰だろう。
でも、今はそれどころではなかった。いかに最期をうまく決めるか、考えていた。


「那須野君」何だよ、うるさい。


聖人は目を開けた。
「何か用かよ!オレはもうすぐ死ぬんだよ。そっとしといてくれよ!雑魚キャラでも綺麗に死にたいんだよ!悪かったな、どうせオレは雑魚キャラで・・・ゴホッゴホッゴホ」


「そっか。ごめんね」井上聖子(女子五番)は、聖人のすぐ傍に立っていた。
おおっ。パンツ見えそう。聖人は少し、元気になった。

聖子は座り込んで、聖人に言った。「大丈夫?」
大丈夫なわけあるか。聖人はそう言い返したかったが、せっかく心配してくれているのだ。「駄目っぽいな」そう言って笑った。
口から血が垂れた。死にそうだった。

聖子は言った。「一つ、訊いていい?」頷いた。
「誰にやられたの?」
「みねっ、むら・・・」声を出すのが辛かった。
 聖子は悲しそうに、頷いた。

「ごめんね。もう一つ」続けた。「峰村君は、どっちに行ったの?」
「えーっと、確か右方向に・・・」聖人は震える手で上を指差した。
聖子はフッと笑った。「わかった。ありがとうね」

そして、聖人を見下ろす体勢になって、顔を近づけた。
おっ。
ちょっと、ドキドキした。こうやって見ると、井上さんって可愛いな。いや、元々可愛いんだけど。


 聖子はゆっくりと言った。「那須野君は雑魚キャラなんかじゃないよ。クラスの人気者じゃない」
そうかな?ははは・・・聖人はそう言ったつもりだったが、声には出てなかった。

聖子は更に続けた。「私ね、面白い人好きなんだ。だから、那須野君は結構好き」


コクられちゃったよ!いやー、オレだって井上さんは・・・よく知らないけど、でも、結構可愛いし、付き合うなら即オッケー?みたいな。
あっ、でもオレ、もう死ぬんだ。がっかり。

「ありがと・・・ゴホッゴホ」
「無理しないで」聖子は柔らかい口調で言った。


「痛いよね。可哀想に」少し間を置いて、笑顔を向けた。優しいんだな、井上さんって。小さいし可愛いし。

こんな子に殺し合いゲームなんて、出来るんだろうか?聖人はそう思った。
オレが、守ってやりたかった。



「今楽にしてあげる」聖子は銃を取り出して、撃った。



ドン。ドン。



大きな銃声がしたが、聖人には、聞こえることはなかっただろう。
聖人は少し笑みを浮かべた表情のまま、死んでいた。


聖子は聖人の目を閉じると、立ち上がって言った。「でも、那須野君が雑魚キャラなのは、間違いなさそうだね」【残り40人】

42紅桜 </b><font color=#FF0000>(GVAYuYFg)</font><b>:2004/03/08(月) 21:39 ID:Gw03.CZo
聖子ちゃん、天使な悪魔ですねぇ〜(何
ちょっと怖いです・・・・・・・。
更新ペースが早いので、読んでてストーリィが理解しやすいです。
次回も頑張って下さい。

43GGGGD:2004/03/08(月) 21:55 ID:e49G4Aw2
聖子ちゃんヤベーヨ。相馬さんみたいだ。

44GGGGD:2004/03/08(月) 21:55 ID:e49G4Aw2
聖子ちゃんヤベーヨ。相馬さんみたいだ。

45GGGGD:2004/03/08(月) 21:56 ID:e49G4Aw2
うわ、二つ書いてた・・・スマソン(_ _)ペコリ

46リズコ:2004/03/09(火) 15:26 ID:1Nf1VncU
笹川加奈(女子十四番)は、泣き腫らした目で辺りを見回した。周りは暗く、自分達を照らしている月明かりの他は、一点の明かりも見えなかった。あそこにいると危ないからと、千嶋和輝(男子九番)に言われてここまで歩いてきたのだ。

加奈は、かつて好きだった先輩が今は政府の部下になっていたこと、これから殺しあいをしなければならないこと、そして、その結果、自分が死んでしまうかもしれないということに、深く絶望していた。
私、まだ生きたかった。やりたいことがたくさんあったのに・・・
そう考えると、一回止まった涙が、いくらでも溢れてきた。

加奈が泣いている間、和輝は黙って、何かを考え込んでいるように見えた。和輝は、こんな私に呆れてるのかも。加奈はそう思って、涙を拭いた。


まさか、和輝が待っていてくれるなんて思わなかった。自分と千嶋和輝は、中学が一緒で、それなりに仲がよかったが、何せ出席番号が離れているので、危険を冒してまで(現に田辺卓郎が門の前で死んでいた。きっと誰かを待っていたのだろう)二十分も待つなんて、ありえない。そう思っていた。
だが、その危険を冒して待っていてくれた。加奈は意外なほど嬉しかったので、余計に涙が止まらなくなってしまったのだ。

こんな殺し合いゲームの中で仲間が出来た。それだけで、安心した。勿論、その仲間が信用できるかどうかはまだわからないけど、和輝なら大丈夫だろう。多分。きっと。


和輝が、口を開いた。「まさか、こんなことになるとは思わなかったよな」加奈は頷いた。「しかも北川が絡んでるなんて」和輝はフッと笑いを漏らした。
多分、絶望で笑うしかないのだろう。

北川先輩。その名前を聞いただけで、加奈の心はズキっと痛んだ。ずっと好きだった。頭がよくて、スポーツが出来て、優しくて・・・
加奈にとっては永遠の憧れの人だった。勿論、私なんかじゃ釣り合わなかったけど。
その先輩が、政府の犬になってたなんて・・・

そう思うと、また目に涙が滲んできた。

加奈の様子を見て、和輝が言った。「俺、絶対お前には生き残って欲しい。だから、もし俺達を狙う奴がいたら、遠慮なく殺すと思う。それでも、いいかな?」

和輝がいつになく真剣なので、加奈は少し驚いた(まあ、当たり前か)。
「うん。勿論だよ」強く頷いた。

この夜の暗闇の中で、クラスメイトは、既に殺し合っていた。恐怖に震えながら、加奈は、また涙が出そうになった。
でも、いつまでも泣いてちゃ駄目だ。新たな決意を元に、夜の月を見上げていた。【残り40人】

47リズコ:2004/03/09(火) 15:45 ID:1Nf1VncU
聖子ちゃんは役割的には、どっちかって言うと桐山ですねw>GGGGDさん
加奈ちゃんめっちゃヒロインしてるわ・・・(;´∀`)

48リズコ:2004/03/09(火) 17:16 ID:1Nf1VncU
峰村陽光(男子十八番)は、那須野聖人(男子十三番)と争った場所から北へと向かいながら、心臓の高鳴りを抑えるのに苦労していた。

俺は人を殺した!すげえ!やれば出来るんだ!
とどめをさしていなかったことに気づいたが、もうどうでもよかった。腹に穴を空けられて、長く生きてられる奴はそういないはずだ。

ふっ、あのいけすかねえ野郎を、ついにやったぜ!


陽光は元々負けず嫌いで、自分を馬鹿にする人間が許せなかった。陽光の心には、後悔の心は、みじんもなかった。それどころか、胸をワクワクさせていたのだ。

人間って案外脆いもんだな。この調子でいけば、十人くらい目じゃないだろ。生き残るために俺は人を殺す。まあしょうがないじゃないよな。陽光は割り切って考えていた。


陽光は足を止めた。でも、今はとりあえず腹ごしらえだ。腹が減っては戦は出来ぬ。その通りの言葉だな。一人で納得しながら、陽光はデイバックの中からパンを取りだした。

顔をしかめた。まずそうだな。生き残ったら、真っ先にレストランに行って、おいしい料理を喰うぞ。陽光はそう思いながら、パンの袋を開けようとした。



ぱらぱらぱら。古びたタイプライターのような音がするのが聞こえた。

そして、陽光のデイバックと食料は、ぐちゃぐちゃになっていた。
あっ、俺のパンが。

振り返ると、そこには、小柄な体型に幼げな可愛らしい顔。小さな手に似つかわしくない、大きな箱のような物を持った、(陽光には名前がわからなかったが)井上聖子(女子五番)が立っていた。

よくも、俺のデイバックを。「てーめー!何すんだよ!」陽光は叫びながらボウガンを掴み、矢を放とうとした。
聖子は顔をしかめた。


もう一度ぱらぱらぱらという音が聞こえ、陽光の体には穴が三つ開いた。

くう・・・。
陽光は恨めしげに聖子を見たが、そのままばたんと倒れた。



聖子は、峰村陽光が死んでいるのを確認すると、辺りを見回し、武器を拾った。
軍用ナイフにボウガンか・・・もらっておくべきかな?

ボウガンは幅を取るから却下。軍用ナイフは・・・一応取っておくか。何が起こるかわからないのが世の中だしね。聖子は鼻歌を歌いながら、その場を去っていった。
【残り39人】

49GGGGD:2004/03/09(火) 20:35 ID:e49G4Aw2
桐山さんでっか・・・・桐山さんでっか・・・・・・桐ドン!!ドン!!(謎

50ダブル </b><font color=#FF0000>(ZeMEOFXA)</font><b>:2004/03/09(火) 20:39 ID:MMGrCXv6
聖子ちゃん、すごいですね。
このゲームは聖子ちゃんが引っ張っていくんでしょうか。
面白いです!!頑張ってください☆

51GGGGD:2004/03/09(火) 20:39 ID:e49G4Aw2
所でぺティーってなんすか?

52リズコ:2004/03/09(火) 21:37 ID:1Nf1VncU
小笠原あかり(女子十番)は、G=5の西側にいた。
暗い森を通り抜けながら、怯えていた。お守りのように、両手で、大型の自動拳銃を握り締めていた。


怖いよー。帰りたいよー。
あの時、逃げないで千嶋君と一緒にいればよかったのかな。千嶋君はあのまま中西にやられたのかな。もしそうだったら、私ってサイテーだ。一人だけ逃げてくるなんて。どうしよう。でも、仕方ないよね?これはそういうゲームなんだもん。
あかりは、自分にそう言い聞かせた。


疲れ果てて、とりあえずその場に座り込んだ。あかりは思った。このまま一人で、ずっとこうしてるのかな。そして、誰かに殺されるのかな。まだ死にたくないのに!

仲間を作ろうかと考えたが、誰が信用できるのかわからなかった。
普段仲のいい女子を思い浮かべた。加奈。楓。明日香。博美ちゃん。薫・・・


大島薫(女子九番)の顔が浮かんだ。痩せ型で、大人びた表情をしていて、長い髪をポニーテールに縛っていた。

薫はゲームに乗ったんだ。何で?人殺しなんか出来るような子じゃなかったのに。
頭がよくて、優しくて、努力家だった。その薫が―――

このままだと、誰が信用できるかなんてわからない。あかりは体を強ばらせた。



ガサッ。草むらを踏み分けるような音がして、あかりの心臓は飛び上がった。
あかりは自分から十メートルほど離れた場所から、男子生徒がくるのを見た。

だ、誰かくる。どうしよう。逃げなきゃ。殺されちゃう。やだ!

あかりは逃げようとしたが、足がすくんで動けなくなっていた。



「あっ、小笠原さんか」新島敏紀(男子十四番)は、落ち着きのある声で言った。


あかりの頭の中は恐怖心でいっぱいになった。新島君だ。殺されちゃう!
いつも冷静で、笑っているところなど見たことはなかった。不良というわけではなかったが、冷たそうなイメージしかなかったのだ。


撃たなきゃ。あかりは震える手で銃を持ち上げた。
敏紀の表情が、少し変わるのがわかった。


こんな時でも冷静なんだね。そんなのおかしいよ。絶対おかしい。
あかりはそう思い、引き金を引こうとした。



・・・あれ?引き金が引けない。どうして?あかりは半狂乱になって、引き金を引こうとした。しかし、固いそれは、あかりの力でどうなるものではなかった。


あかりは泣きそうになって、敏紀を見た。暗闇の中、敏紀の表情は、よく見えなかった。あかりにはそれがとてつもなく恐ろしいことに感じた。



敏紀はかがんで、それから視線を下げた。まっすぐに、右手をあかりへと伸ばした。
嫌っ!あかりはびくりと体を振るわせた。



「あのね」敏紀は座り込んで、あかりの銃に手をやった。
「ここの安全装置を外さなきゃ、引き金は引けないよ」そう言って、安全装置を指差した。「わかった?」

「へっ・・・うん」そっか、それで引けなかったのか。納得。

でも―――あかりは敏紀を見つめた。
「随分震えてたみたいだけど。落ちついた?」敏紀は言った。
あかりは黙っていた。どういうつもりなんだろう。さっぱりわからなかった。

敏紀は次の瞬間、少し笑んだような気がした。「大丈夫だよ。俺は人殺す気なんて、ないから」そう言って腰を下ろした。あかりはビクッとした。


「でも・・・」
「信じられない?」
あかりは首を振った。「私、銃を向けたのに」
「仕方ないよ。こんなゲームの中だもん」敏紀は笑った。


敏紀が口を開いた。「何かさ、皆怖いと思ってるじゃん。だから、俺には敵意がないってことを、誰かに教えたかった。そうすれば、殺し合いなんて起きないかもしれない」
「でも、これはそういうルールだよ?それに、私がゲームに乗ってたらどうするの?」
あかりはそう言った後、「勿論、乗ってないけど」とつけ加えた。

「まあ、ちょっとビビったけどね」両手を合わせて、伸びをしながら言った。
「でも、凄い震えてたから、きっと怖いんだろうって思って。それに・・・小笠原さんなら大丈夫だろうと思った」


あかりはしゃがみこんで、ため息をついた。
何か、そこまで信用してくれたのに、悪いことしちゃったな。他の人だったら、あそこで殺されてたかもしれない。

そして、敏紀を見た。冷たそうに見えたけど、そんなことなかったんだね。ごめんなさい。あかりは反省した。

53リズコ:2004/03/09(火) 23:48 ID:1Nf1VncU
読んでくださってる皆さん、そして感想を書いてくれる皆さんありがとうございます。
とても嬉しいです。これからも頑張りますね♪

ぺティーは「とりとめのない・くだらない」みたいな意味だったと思います(うろ覚え)>GGGGD

54蜜 </b><font color=#FF0000>(u5UmjW1o)</font><b>:2004/03/10(水) 00:30 ID:BULPx9lw
素晴らしい更新頻度ですね!見習いたいものです。
聖子ちゃん、なかなかすごいですね。
まだプログラムが始まってそんなに経ってないのに結構な好成績で。
これからもどんな活躍するのか楽しみです。

55リズコ:2004/03/10(水) 16:36 ID:1Nf1VncU
元々あった奴をちょっと変えてるだけですからね^^;
でも結末は変えるかもしれないですw>蜜さん

自己あげ(ノ´o`)ノ

56多島さん・・・?:2004/03/10(水) 20:03 ID:e49G4Aw2
おお!!ペティーとはソウユウコトだったのか!!
俺もペティーのような人生を送らないように(ぇ
  a g e

57リズコ:2004/03/10(水) 21:39 ID:1Nf1VncU
「ごめんね、ありがとう。私なんかを信用してくれて」
「ううん」敏紀はそう言った後、気まずそうに続けた。「あのさ・・・そんなこと言っといて、実は怖かったりするんだよね。一緒にいてくれない?」
あかりはフッと笑った。「全然いいよ」


「あー、よかった。ところでさー・・・」
敏紀は視線を下に動かした。
「さっきから、ずっと虫が」


・・・虫?あかりはぎくりとして下を見た。自分の太ももに、緑色の毛虫が、我が物顔でよじ登っていた。


「きゃああああああ!」あかりは叫んで、敏紀に抱きついた。
「とってとってとって!追い払って追い払って追い払って!」
 虫は大嫌いだった。特に毛虫など、テレビで見るだけでぞっとする。
「早くとってー!」


敏紀が少し呆れの入った調子で言った。「・・・もう、いないけど」


あかりはおそるおそる、自分の足を見た。
・・・いない。はあ、よかった。ホッとしていた。



気がつくと、敏紀があかりをじっと見ていた。
「あっ、ごめんね」あかりは恥ずかしくなって、敏紀から離れようとした。

敏紀は物珍しそうに言った。「小笠原さんってさー・・・アイドルの花川愛に似てるよね」

えっ?「へっ、そうかな?何か結構言われるんだけどね」
「うん。似てるよ」えへへ。実はそう言われるのは嫌ではなかった。

「新島君はニホンオオカミに似てるよね」
「何それ。初めて言われたんだけど」
「えー、似てるよー」
あかりは笑った。仲間が出来てよかった。このゲームの中で、自分が笑えるとは思わなかった。

しかし、それはそうと―――



あかりは遠慮がちに言った。「あの、離してくれないかな・・・」


敏紀は少し笑みを含んだ口元で言った。「でもさ、俺―――」




ざくっという、どこか歯切れのよい音が聞こえた。あかりには、それが、何の音かはわからなかった。

ただ、首に、何とも形容しがたい、強い痛みが広がったことしか、理解できなかった。


ガッ。今度は骨付き肉を切るような音がした。


血が、一瞬、もみじのような形を成して飛び散り、そのまま、ぷしゅーっと広がった。

あかりの首と、そこから不自然に生えている銀色の物体にも、そして、それを握りしめていた敏紀の左手にも、その生温かい血は流れていた。



敏紀がナイフを引くと、地面に斜線のような赤い染みが広がった。
手を離すと、あかりは横ざまに倒れた。



「―――花川愛嫌いなんだよね」
敏紀は静かにそう言うと、あかりが置きっ放しにしていた銃を手に取った。あかりの支給武器は、べレッタ92Fだった。
敏紀はその性能を確かめ、それから、あかりの死体も見た。

この女に銃を向けられた時はちょっとやばいと思ったけど、思い切って、近づいてみてよかった。

「はは・・・」敏紀は声を抑えて笑い出した。人を殺すのは、思っていたよりも、ずっと、簡単なことだった。
【残り38人】

58リズコ:2004/03/10(水) 21:45 ID:1Nf1VncU
紺野朋香(女子十三番)は、エリアF=7に入っていた。ゲーム開始からずっと歩き続けていたので、もうくたくただったが、それでも歩いた。

辺りを見渡した。誰もいないようだった。朋香は小さく舌打ちをした。

朋香はある決意をしていた。絶対に、会いたい人物がいたのだ。そう、あの女。


朋香はあの女が嫌いだった。嫉み、というものも、少しはあったのかもしれない。だが、殆どは違う理由だった。

思った。あいつの目を見ればわかる。あいつは、あたしのことを友人とも思っていない。勿論、他のクラスメイトのことも。ただ、孤立するのが嫌だから、とりあえず一緒にいるだけだ。


そして、たくさんの男に囲まれていても、誰一人本気で愛していない。朋香はそれに気づいていた。しかし、朋香以外の人間はそれに気づいていないようだった。それにも、腹を立てていた。

はたから見れば、可愛くて、性格がよくて、少し頭が悪い。まさしく、男の妄想の中によく出てくる類の女なのだろう。


しかし、裏では複数の男がいて、貢がせて、飽きたら捨てるという女だった。気に入らない同姓には男を使って嫌がらせをする。とりあえず金を持っている男には、平気で取り入ろうとする。プライドってモノがないんだ。
外見しか取り柄がないくせに。朋香はそう思った。


伊藤愛希(女子四番)の本性を、誰も知らない。あいつは馬鹿のふりをして、頭の回転がいい。貢いでいる男も、嫌がらせをされた女も、愛希の仕業とは、全く気がついていなかった。
愛希ちゃんがそんなことするわけないじゃん。皆そう言った。僻んでるの?と言われたこともあった。
悔しかったので、二度と騙された奴らには、本当のことを言わなくなった。


騙される奴が悪いの。愛希はそう言っていた。確かに、そうかもしれない。今付き合っている姫城海貴(男子十六番)も、見事に騙されているのだろう。あんな女に。


朋香は唇を噛みしめた。この高校に入学して、初めて好きになった男だった。しかし、それに気づいた愛希は海貴に近づいた。
愛希は面白半分で、人の好きな男や、彼氏を取ることを趣味にしていた。そうして、愛希と海貴は付き合うことになったのだ。

ショックだった。まあ、もう昔の話だけど。

そして、それから半年後、初めて出来た彼氏も愛希に取られた。愛希は朋香の恋人を寝取って、たった一週間で捨てたのだ。
それを聞いた時、朋香は頭をミサイルで爆破されたような気持ちになった。
まあ、もう昔の話だけど。


朋香は愛希と離れたかったが、愛希の男達の嫌がらせが怖かったのと、あることをばらされるのを怖れて、離れることができなかった。
でも―――



あんな腐った女、殺した方がいい。腐った遺伝子がこれ以上ばら撒かれる前に。そう、決意していた。


手にしていた武器を、もう一度しっかりと握り直した。
朋香の武器は、S&Wチーフスペシャルだった。説明書もよく読んで、使い方もわかっていた。
あとは、愛希を捜すのみだったが、やはり、これだけ広いエリアの中で、たった一人の人物を捜すのは、とても困難なことであった。

ここまで歩いてはみたものの、あまり人はいなかった。朋香が出会ったのは、校門にあった田辺卓郎(男子八番)の死体と、森をぬける時に見た、峰村陽光(男子十八番)の死体と、G=5の川沿いに、一瞬人影が見えたくらいだ(あれは、鈴木菜々だっただろうか)。

いない方がいいのだろうが、どうしても愛希に会いたかった。

―――会って殺す。朋香の決意は固かった。


朋香は愛希を殺すことだけを目的にして、平静を保っていた。【残り38人】

59ヤム </b><font color=#FF0000>(PV40Bkpg)</font><b>:2004/03/10(水) 22:53 ID:MoiWTSpM
応援age

60影虎:2004/03/10(水) 23:08 ID:rnKnoYug
ペティーってそういう意味だったんですね!
なんか今夜はよく眠れそうです(笑

そんなこんなで小説頑張ってくださーい!

61リズコ:2004/03/11(木) 20:32 ID:1Nf1VncU
中西諒(男子十番)と、仲田亘佑(男子十一番)は、H=6にきていた。北西の方角には、白い廃城が見えていた。小さな小屋があったので、そこに入ることにした。


部屋で腰を下ろすと、仲田が言った。「つーかさー。オレ、思ったんだけどー」
「何だよ」
「大島って誰?男?女?」

諒は少し沈黙した後、考え込んだ。やがて言った。「・・・わかんない」
「それじゃ捜しようがねーじゃねーかよ!」仲田は叫んだ。


そう、二人とも、クラスメイトとはあまり関わりがなかったので、大島薫(女子九番)が、誰だかわからなかったのだ。しかも、千嶋和輝(男子九番)は下の名前を言わなかったので、性別すらもわからないという非常事態(?)が発生していた。

「誰かに訊く?」
「絶対に逃げられるだろ」
「そっか。そうだな」

二人は考え込んだ。

「あっ、名簿とか入ってないの?」
「あっ!」
諒はデイバックの中を探した。地図と一緒に、薄っぺらい紙があった。
「プログラム参加者名簿・・・あった!」

二人は紙に書いてある生徒の名前を観察した。

「・・・・・・・・・・・・・いた!女子九番大島薫。でも顔はわかんない」
仲田は言った。「まあいいよ。女ってことはわかったんだから。誰でもいいからとっ捕まえてーヤっちまおーぜ!」
諒は少し考えた。仲田のことだから、本気でやりかねない。


「待て。落ちつけ」
「何だよ!お前も卓郎の仇打ちたいだろ」
「だれかれかまわず殺したら敵討ちにならないじゃん」
「んなこたあどーでもいいんだよ!誰かが殺したんだろ?下手な鉄砲も数うちゃあたるっていうじゃん!もしかして犯人かもしれないし・・・」
「・・・」
それは駄目だ、と諒は思った。


諒は言った。「そういうのは趣味じゃないから嫌だ」
「オレだって趣味じゃねーよ。でもさー、こんなゲームの中だし、仕方ないじゃん?」そう言った後、仲田は小声で囁いた。
「・・・」諒は考えた。でも・・・

諒は強めの口調で言った。「そんなん嫌だよ」

仲田はやや呆れたような笑みを浮かべた。
「あー、わかったよ。でも、何でそんなに拒否ってんの?」

「親父と同じになっちゃうから、やだ」
「ああー」仲田は納得したように頷いた。
諒は更に言った。「それに、可哀相だろ。関係ない奴を巻き込むとか」

「・・・だな。そんなことより大島って奴をどうやって捜すか考えようぜ」仲田は言った。



亘佑は顎に手を当てた。思った。諒は昔っから、どっか甘いと言うか、フェミニストと言うか、生ぬるいところがある。
そこがあまりにも普通すぎて、亘佑は時たま物足りなさを感じることがあった。

しかし、喧嘩は亘佑よりずっと強かった。どこで覚えたのは知らない。諒は誰にも話そうとしなかったからだ。

亘佑が諒から聞いたのは、自分の親父を異様に嫌っていることと、誕生日が五月だということ。それだけだった。その他は又聞きしたことなので、省いておく。

そこにも苛立ちを覚えることがあった。自分のことはあまり話さない。仲間なら、腹を割って話すべきだろ?


そういう部分では、亘佑は熱かった。親がやくざなせいか、強さに最もこだわった。
そして、喧嘩で負けた以上、諒を自分より上の存在だと認めていた。親父も、諒のことは気に入ってる。オレも、こいつの強さには憧れてる。

ただ―――

62リズコ:2004/03/11(木) 20:33 ID:1Nf1VncU
「とりあえず、大島を捜そう。女子の、単独で行動している奴に名前を訊く。これしかないよな」諒が言った。
「でも、それじゃしらばっくれられちゃうだろ」
「・・・それが問題なんだよな。どうしよう」
亘佑は言った。「顔知ってる女子に、大島を一緒に捜してもらうのは?」
「いいけど。おれ、女子の顔と名前、ほっとんど一致しねーよ」
「・・・誰がわかる?」
諒は名簿を見て、指を差した。
「有山って子は最初に出発したから何となく覚えてる。あと新井も知ってる。それから、小笠原ってのは、今日千嶋と一緒にいた子だと思う。あとは伊藤。内ってのはハーフっぽい子だろ。あとは、冬峯と濱村と鈴木さん。残りは・・・わかんねえ」
「それだけわかれば上等だ。とりあえず捜してみようぜ」亘佑はそう言って、続けた。「午前中と午後に分かれて、一人ずつ捜しに行こう。で、時間がきたらここに戻ってくる。いいだろ?」
「ああ」諒は頷いた。それから、ちょっと笑みを浮かべた。「何か頼もしいじゃん」
「まあ、ここの出来が違うから」
 亘佑は自分の頭を指でつついた。少し得意げになっていた。

「じゃあ、どっちが先に行く?」
「お前が行けよ」

二人の間に、短い沈黙が流れた。それから十分間言い争って、挙げ句の果てに、単純にじゃんけんで決まった。

結局亘佑が行くことになってしまった。
亘佑はチッと舌打ちをした。まあいいか。どーせ行くことになるんだし。

「あっ、そうだ、諒・・・」
「あん?」諒は亘佑を見上げた。

「・・・何でもない」
自分の考えを言うのはやめておいた。まだ、時間はある。

亘佑は支給武器のゴルフバットを肩にかけた。「じゃあな」そう言って、小屋を後にした。



亘佑は思った。卓郎は殺された。諒は復讐をしたいと言ってる。だが、あいつはゲームに乗ることなんて考えてないんだろう。

いくら喧嘩が強くても、お前には大事なもんが抜けてるぜ。もっと、空気を読んだ方がいい。

オレが・・・お前の言うとおり、大人しく大島を捜そうとしてると思ってんのか?


亘佑は呟いた。「残念ながら、オレは最初からゲームに乗るつもりだったんだよ」


涼しい夜風が、亘佑の背中を叩いていた。今まで経験したことのない緊張感が、亘佑を襲っていた。
【残り38人】

63リズコ:2004/03/11(木) 20:41 ID:1Nf1VncU
今流行りの(?)トリビアと同じ意味ですねw>ぺティー

64リズコ:2004/03/11(木) 20:45 ID:1Nf1VncU
永良博巳(男子十二番)は、E=5の木陰で休憩をとっていた。恐怖心とは関係なく襲ってくる眠気と戦っていた。

こんな切羽詰った非常事態でも、眠くなるしトイレにも行きたくなるんだな。人間の本能だもんな。
ああ、眠い。博巳はうつらうつらしていた。でも、寝ている合間に誰かきて、殺されたらたまったもんじゃない。
そう思っていたが、頭の中の考えとはうらはらに、博巳の大きな二重まぶたは、下のまぶたとくっつきそうになっていた。


やべえ、起きろ!起きろってば!博巳は目を思いっきり開けた。しかし、すぐに重力に勝てずに降りてくる。

だめだー。眠すぎる。どこか人のいない場所で休むしかない―――

でも、動けない―――


博巳はバタリと倒れた。



一時間後。博巳は不意に目を覚ました。
あれ。ここどこだ?何してたんだっけ・・・

寝ぼけ眼に、自分に背を向けて、東の方向へ進もうとしている男子生徒が見えた。

十メートル程先なので、下手をしたら気づかれるかもしれなかった。誰だかはわからなかったが、向こうがやる気になっていたら困るので、博巳は身を潜めた。


その時、男子生徒は行き先を変え、あろうことか、博巳の方へ向かってきた。


うおー。どうしよう。博巳は支給武器の、催涙スプレーを手に持った。

もし藪の中を覗かれたら、これを噴射して逃げるしかないな。博巳は外装のフィルムを取ろうとした。


ぴりぴり・・・

プラスチックフィルムを破る、間抜けな音が響いた。普通なら聞こえないような音だが、辺りがあまりにも静かなので、その音は妙に大きく聞こえた。
「うわっ」博巳は思わず声を出した。


「誰かいるのか?」


聞いたことのない声が聞こえた。高くも低くもない、それでいて芯の通ったいい声。
博巳は怯えた。
・・・誰だ?仲田とか中西だったらどうしよう。


その人物は、藪の中でダンゴ虫のような格好をしてうずくまっている博巳を見て、不可思議な顔をしていた。

「何してんだ・・・?」


少し褪せた色の黒髪は無造作に伸びていた。高校生というより、どこかのフリーターか作家でもやっている方がお似合いな様子の、クラスではあまり喋らない男だった。


「やる気になってんのか?」梁島裕之(男子二十番)は、博巳に問いかけた。
持っていたマシンガンを、博巳に向けた。


「うわあああ!ごめんなさい。殺さないで」博巳は驚いて、素っ頓狂な声を出して謝った。

梁島は何を考えているのかもよくわからない表情で、博巳を見た。
博巳には、この男が、別世界の、何か得体の知れない生き物のように思えた。



「おれは、ゲームに乗る気はないんだけどな」そう言って、博巳の近くまできた。
博巳はビクッとした。梁島は学ランのポケットから煙草を出して、ジッポで火をつけた。


梁島は煙草を吸って、ふーっと口から煙を出した。
ため息をついて、博巳に向かって言った。
「あんたもいる?」大きな唇が横に広がった。梁島はニッと笑った。

それが、博巳が初めて、いや、二年A組の生徒が初めて見た、梁島裕之の笑顔であった。
【残り36人】

65紅桜 </b><font color=#FF0000>(GVAYuYFg)</font><b>:2004/03/11(木) 21:06 ID:Gw03.CZo
面白いですね!
最初っからどんどんこの世界に引きずり込まれて来ました。
人々の想いや、行動が鮮明に頭に蘇ります。
終わりまで応援したいと思いますので、頑張って下さい。

66リズコ:2004/03/11(木) 23:42 ID:1Nf1VncU
いえいえとんでもないですよ!
終わりまで応援したい」って言うのは凄く嬉しいです。
頑張って更新するのでよろしくお願いします(^−^)> 紅桜さん

67ヤム </b><font color=#FF0000>(PV40Bkpg)</font><b>:2004/03/12(金) 17:39 ID:kwwlFcPc
とても面白いです!
これからも応援してますよ。
ageます!

68GGGGD:2004/03/12(金) 20:24 ID:e49G4Aw2
がんばてくださいーー、、、、、、揚げ

69リズコ:2004/03/13(土) 01:20 ID:1Nf1VncU
天野夕海(女子一番)と望月さくら(女子二十番)は、二人で行動していた。スタートは女子三番の有山鳴からだったので、さくらの後は、ほんの三人(梁島裕之、冬峯雪燈、代々木信介)しかいなかったためだ。そして、その次は夕海。

それでも待つのは危険なことだとわかっていたし、すぐ傍には死体があって怖かったが、一人でいるのは、もっと怖かった。

さくらは、いつも夕海と鳴と一緒にいた。鳴は一番最初に出発してしまったので、さくらは夕海一人を待つことになった。
しかし、鳴がいないのは何か物足りなかった。ジグソーパズルの残り一ピースがないような気持ち悪さを感じていた。まあ、さくらはジグソーパズルなんてしないのだが。


てゆーかなんであたしがこんなゲームに参加しなきゃいけないの?
さくらは不満で仕方なかった。委員会で嫌な役を押しつけられる時に、じゃんけんに負けた時によく似ていた。さくらは前にそれで風紀委員をやらされたことがあった。どう見ても、校則を一番やぶっているのは自分なのに。

でも、それよりもずっと貧乏くじをひいた気分。きにいらない。さくらはそんな理由で怒っていた。



「ねえ」夕海がさくらに話しかけてきた。
「なに?」
「ここのエリアってどこだっけ?」
「はあ?地図みなよ」視線を下げた。夕海は既に地図を持っていた。
「みたってわかんないじゃん」

こんなことでこの先大丈夫なのか、実に心配である。

70リズコ:2004/03/13(土) 01:22 ID:1Nf1VncU
ふと気になって、さくらは夕海に訊いた。「あたしアイラインおちてない?鏡かしてよ」
どんなときでも身だしなみは大事にしなきゃね。すっぴんじゃはずかしくて、外でれないし。

さくらは夕海から鏡を借りて、自分の顔をチェックした。少し小さめの奥二重の上下に太めに引いたラインは、やや滲んではいたが落ちてはいない。まつげも綺麗にカールしていた。ふう、大丈夫っぽいな。

「だいじょぶだよ。それよりさー、さくらのぶきなに?」

ぶき?武器か、なんだろ。さくらは、そこで始めてデイバックを開けた。ごそごそと中を探った。
何か、尖ったものが、手の先に当たったのがわかった。
勢いよく引っ張り出したら、他に入っていた物がこぼれ落ちた。

「あー、これアイスピックじゃない?」その通り。さくらの武器は、アイスピックだった。
これって、武器の中ではどうなんだ?さくらにその価値はわからなかったが、夕海にも訊いてみた。
「夕海のは?」

「ゆみのはねぇ・・・」
夕海はあたしより頭が悪い。さくらはそう思っていたが、はたから見れば、どっちもどっちだった。

「ゆみのは、なんか、ちかんにびりりってやるやつだよ!」
夕海の武器は、スタンガンだった。さくらはあまりいい武器ではないと思ったが、それでも、夕海は十分満足しているようだった。ま、いっか。


その時、さくらはポケットに入れていたリップクリームが、地面に落ちていたのに気づいた。やばいやばい、これがなくちゃ唇荒れちゃうじゃん。さくらは膝を屈めて、リップクリームを拾おうとした。



どん。

近くでとても大きな音がした。それは多分、銃声だとさくらは気づいた。
銃弾はちょうどさくらの頭上を通り、近くにあった木に小さな穴が空いた。

71リズコ:2004/03/13(土) 01:23 ID:1Nf1VncU
だれ?振り返ると、そこには井上聖子(女子五番)が銃を握って立っていた。

さくらは猛烈に腹が立った。
なにこいつ?おとなしそうな顔してうちらのこと殺そうとしたの?

さくらは細い眉毛をつり上げて、言った。「ちょっとあんた、危ないじゃないのよ」
聖子は、やや身じろいで言った。「違うの。私怖かっただけなの。それで、つい・・・」

「はあ?こわかったですむはなしじゃないでしょ?」横から夕海が言った。「マジ、しんだらどうせきにんとってくれんだよ」
これは、そういうゲームなのだが。

「ごめんなさい」聖子は泣いていた。

こういうタイプの女は嫌いだった。華奢な体に女の子らしい顔。こういうタイプの奴が、ちゃっかり男持ってくんだよね。

かつて付き合っていた男に、浮気をされたことを思い出した。相手の女は確か、こういうタイプ。そして、さくらをふってその女の方に行ったのだ。まあ、もう昔の話だけど。

しかし、相手がどんな人間でも、さくらは人殺しはしたくなかった。思った。あたしは、こう見えてもやさしいの。人殺しなんかやるような人間じゃない。でも、このままにしとくのはだめだ。罰をあたえなきゃね。


さくらは言った。
「じゃあさ、あんたの持ってる武器ちょうだいよ。そしたら許してあげる」
「さくらあたまいい!」隣で夕海が言った。
まああたりまえってゆーか?さくらは得意げになっていた。


聖子は小さく頷くと、すごすごと武器を渡した。
「じゃあさ、夕海がもってなよこの銃」
「えーやった!チョーラッキーじゃない?」
そして、さくらは後ろを向いて、夕海に武器を渡そうとした。

72リズコ:2004/03/13(土) 02:59 ID:1Nf1VncU
ありがとうございます!頑張って毎日更新します( ´▽`)>ヤムさん、GGGGDさん

73リズコ:2004/03/13(土) 18:29 ID:1Nf1VncU
ドスッ。


いい音がした。まるで、ダーツの的に矢がささったときみたいな。いや、もっと大きい音かな?魚にほうちょうをたてたときみたいな。いや、ちがうな・・・

さくらはなぜか、ぼんやりと呑気なことを考えていた。
夕海が「あ、あわわわわ」と言うのが、遠くで聞こえた。


ふと我に返った時には、背中に強い痛みが突き抜けた。
さくらの背中には、軍用ナイフが突き刺さっていた。

こいつ、あたしをさしやがった!
さくらの傷は致命傷に達していて、もう長くはなかったが、最後の力を振り絞り、聖子に襲いかかろうとした。


聖子はさくらを刺した時に、さくらが落としていた銃を瞬時に拾っていた。
そして、その銃を撃った。


ドン。


その一発は、見事に頭をぶち抜いていた。さくらは地面に倒れた。そして、倒れた時には、もう事切れていた。
【残り37人】

74リズコ:2004/03/14(日) 01:38 ID:1Nf1VncU
「やだぁ!」天野夕海(女子一番)は叫んだ。目の前で人が死んだという事実と、それが自分の友達だという事実が、にわかには信じられなかった。

夕海は、頭が半分なくなってしまった望月さくら(女子二十番)の死体に歩み寄った。

そんな・・・さくらがしぬなんて。ころしてもしなないとおもってたさくらが!

井上聖子(女子五番)は、驚きのあまり大きな目を見開いている夕海を見て、クスっと笑った。

・・・ころされる!



夕海は、さくらが握っていたアイスピックを奪い取って、聖子につきつけた。
「それいじょうちかづかないで!」

だが、聖子は別段動じた風も見せなかった。それどころか、笑いながらこっちに近づいてきたのだ。夕海の頭の中は、恐怖心でいっぱいになった。

「それいじょうくるとさすよ!」夕海は叫んだ。聖子は、不思議に優しい声で言った。
「あんたには無理よ」

なんで?なんでよ?夕海は泣きそうになっていた。


聖子は銃口を夕海に向けた。


しにたくないよお、たかし。夕海は、二歳年上の恋人のことを思いだしていた。二人は先月でちょうど交際一年目で、この前、そのお祝いをしたのだった。
たかし、たすけて。

しかし、それは無理な願いであった。



聖子の撃った弾は、夕海の額のど真ん中に、綺麗に穴を空けた。
たかし―――

二度と会うことの出来ない恋人を思いながら、天野夕海は死んだ。
【残り36人】

75リズコ:2004/03/14(日) 03:31 ID:1Nf1VncU
かなり今更なんですが、キャラのプロフとか情報とか書いた方がいいですか?
ご意見聞かせてください。

76GGGGD:2004/03/14(日) 22:34 ID:e49G4Aw2
挙げー。(ケンキョ)

77リズコ:2004/03/15(月) 18:04 ID:1Nf1VncU
刻々と、朝が近づいてきていた。夜には何度か銃声が聞こえたが、今はひっそりと静まりかえっていて、何も聞こえなかった。

千嶋和輝(男子九番)は、朝日が昇ろうとしている空を見ていた。隣には静かに寝息を立てて眠っている、笹川加奈(女子十四番)がいた。

和輝は思った。穏やかだな。これが、あの殺し合いゲームの最中の光景なんて、誰が思うだろうか。
もしこれがなんでもない日常生活の、ある日の一瞬であったら、和輝にとって、これほど幸せなことはないだろう。

だが、これから殺し合いが始まるのだ。

和輝は銃を片時も離さなかった。首輪の幸運を信じるなら、それまでは必ず生き延びなくてはならなかった。でももう殺しあいは始まっていて、和輝の知る限り、一人が既に死んでいた。

ヤル気になっている奴がいるんだ。俺は絶対に笹川を守る。和輝は、穏やかな顔で寝ている加奈を見ながら思った。

和輝はふと、大島薫(女子九番)のことを思い出した。出席番号が同じだったから、よくテストの内容やわからないことを訊くことがあった。あまり女子と話さない和輝が、加奈の次の次くらいに話していた女子だった。

だが、田辺卓郎(男子八番)を撃った時、そして、和輝に銃を向けた時の薫の表情を、和輝は忘れることが出来なかった。何の感情もこもっていない目だった。今までの薫からは、想像もつかなかった。
とにかく大島には要注意。なるべく会わずに済めばいいけど―――


そんなことを考えていると、加奈が目を覚ました。加奈は寝ぼけ眼で、あれ、ここどこ?という顔をした。
そして、目を細めたまま数秒考えた後、思い出したらしく、あー、と言った。そして、殺し合いの途中だということも思い出したらしく、顔を強ばらせた。
和輝はつい笑ってしまった。

加奈は恥ずかしそうに言った。「寝ちゃった、ごめんね」
「ううん、いいよ。ここの辺りは誰も来ないらしい。穴場なのかな」和輝も答えた。


和輝達がいるエリアは、J=4だった。このまま禁止エリアが来なかったら、ずっとここにいてもいいな。和輝はそう思った。
バトルロワイアルにおいて生き残るコツは、なるべく人に会わないということだろう。そのためには、同じ場所でジッとしているのが望ましかった。

78リズコ:2004/03/15(月) 18:12 ID:1Nf1VncU
「このまま、ずっとここにいられればいいのにねー」
加奈も同じことを考えているらしかった。

こんな形でさえ、加奈と一緒にいられるのは和輝には嬉しいことだったが、果たして加奈はどうなのか、疑問に思った。


何せ、中学の一、三年、そして高校で二年間一緒であるにも関わらず、加奈の考えは、和輝には読めることがなかった。
しかし、加奈の好きな人が北川哲弥であることは、ゲーム開始時の加奈の反応を見て、わかってしまっていた。

そして、北川の反応にも、和輝はある種の違和感を覚えていた。根拠はないのだが、ただの先輩と後輩の間柄ではない。そう感じていた。



和輝はふと訊いてみたくなった。「笹川ってさ、今、好きな奴いるの?」
加奈は驚いたような表情をした。「どうしたの?突然」
「いや、何か気になってさ」和輝はそう言って、気まずそうに頭を掻いた。
やっぱ、まずかったかな。

加奈は一瞬、何かを考えるような表情をした。
「うーん。今は・・・和輝かな!」


「・・・冗談ならやめてくれ」
「あはは、ごめーん」
冗談かよ。和輝は少しがっかりした。


加奈は話し始めた。「よくわかんないんだ。好きっていう感情がわかんなくなっちゃった。だから、この人いいかなーって思っても、それが恋なのかわかんないの」
それから少し間を置いて、小さな声で言った。「北川先輩以来、そうなっちゃったのかも」

和輝は唾を飲み込んだ。北川と、何かあったの?そう訊こうとした。


今度は加奈が訊いてきた。「和輝は、彼女とかいないの?」
「えっ、い、いないよ」どもってしまった。
加奈はフッと笑った。
「そっか。中学の時とか、結構モテてたのに、誰とも付き合わなかったもんね」

驚いた。何?俺ってモテてたのか?知らなかった。
「そういうとこが、また人気だったらしいよ」
「そうなんだ。言ってくれればいいのに」
まあ告白されたことならあるけど、せいぜい二、三回だ。それでモテてるなんて、気づかないさ、普通に。

「密かに人気あったんだよ。でも近寄りづらいって言ってた。加奈がいるから仕方ないかーとか言われちゃったりして」
「何それ?」和輝は興味津々になって、訊いた。

「なーんかね、付き合ってるって誤解してる人がいてね。羨ましがられてた。気分よかったから否定しなかったけどねー」

・・・しろよ。お前は北川が好きなんだろ。期待させるようなこと言うな。和輝は、加奈の気持ちが、余計にわからなくなった。

「あっ、何か怒ってる?顔怖いよ」加奈は少し怯えた表情になって、言った。「もしかして、私なんかと噂立てられてフザケンナって感じ?」
「・・・別に。ってか、北川先輩とも噂立ってたじゃん」

加奈の表情が、曇ったような気がした。

「あれは誤解だよ。困っちゃうよねー。嫌がらせとかされちゃったし」

「・・・へー」そういえば、中一の時、加奈は、休み時間いつもいなくて、帰ってくると泣き腫らした目をしていたことがあった。女子って怖いな。和輝は思った。

「でもね、北川先輩のことは好きだった。もうとっくに諦めたけどね」そう言った加奈の顔は、なぜか晴れ晴れとしていた。「今は彼氏募集中!どっかにいい男いないかなー」

「俺がいるじゃん」そう言って、和輝はためらいがちに、加奈を見た。
加奈の笑顔が、真顔になった。


それからすぐに、笑顔に戻った。「そうだね!私が、男に飢えてて飢えててしょうがない時は、和輝に頼むから!」

「・・・そうそう!俺も飢えてるしね!」乾いた笑いが響いた。


 クソッ。鈍すぎる、こいつ。肩透かしを食らわされたような気持ちで、和輝は空を見た。直球で言わなきゃ、伝わらないかもな。
夜の散歩がこのクソゲームで潰された以上、ここで自分も加奈に思いを打ち明けてしまおうか、という気持ちが芽生えていた。何と言っても、いつ死ぬかわからないゲームの中だ。迷っている暇はない。と思いつつ、躊躇していた。

79伊織:2004/03/15(月) 19:21 ID:Zun6OF1A
和輝君と加奈ちゃんの関係が良い意味でもどかしくて素敵ですね。先が気になります。
キャラのプロフ情報も個人的に見てみたいです。

80紅桜 </b><font color=#FF0000>(GVAYuYFg)</font><b>:2004/03/15(月) 19:27 ID:LQFv/4jI
なんか和輝君たちの絡みに青春を感じましたw
とっても面白いです、次回も頑張って下さい。

あ・・・それと、伊織さんと同じくキャラプロフ見たいです。

81GGGGD:2004/03/15(月) 20:20 ID:e49G4Aw2
俺もキャラプロフ見たいレフ。。。。。

82リズコ:2004/03/15(月) 21:24 ID:1Nf1VncU
既に、夜は明けていた。和輝は時計を見た。時刻は六時二分前だった。

思った。もうすぐ、一回目の放送があるな。一体どれだけの人が死んだんだろう。自分達がここで呑気に話している間にも、人が死にかけているのかもしれなかった。
大迫治巳(男子二番)のことも、思い出した。はあ。治巳は元気かな。あいつにも会いたい、かも。


「皆さん、おはよー!」


和輝はかなり驚いた。いささか場違いな、アニメ声の、可愛い子ぶった女の声が、大音量で聞こえた。
うるせーな。マイク調整くらいしろよ。

「皆元気に殺し合ってますかー?睡眠も大事だけどね、一日一殺、これを目標に、頑張ってねー!」
ふざけんなよ。和輝は猛烈に腹が立った。こういう喋りの女は嫌いなんだよ。

「じゃあ死んだ人を発表しまーす」
和輝はまだイライラしていたが、その次の言葉に、唖然とした。

「男子八番田辺卓郎くん、十三番那須野聖人くん、十八番峰村陽光くん、女子一番天野夕海さん、六番植草葉月さん、十番小笠原あかりさん、二十番望月さくらさんでーっす!」


「・・・あかり」加奈が呟いた。加奈の親友の、小笠原あかりの名前があった。
加奈は茫然とした状態で、その後の放送は、何も聞こえていないようだった。

和輝は黙って見ていた。何を言っていいのか、わからなかった。安っぽい、気休めにもならない言葉しか思いつかなかった。


そして、既に七人のクラスメイトが死んでしまったことに、絶望と、一種の恐怖心が生まれていた。死んだクラスメイト達の顔が、浮かんでは消えていった。


「もっと殺し合わなきゃ駄目だぞー?頑張ってねー」
やはりノーテンキな女の口調に腹が立ったが、そんなことを気にしている場合ではなかった。和輝は死んだ生徒に、冥福を祈った。

「それでは、禁止エリアの発表でーす。メモしてね?」
和輝は地図と取り出し、メモの準備をした。

「七時からB=9・・・」
B=9は、殆どエリア外に入っていた。そして、和輝達がいる場所からは、離れていた。よし、ここは平気だ。


「次ぃ、九時にJ=4ね」

―――マジかよ。やはり物事は、そううまくはいかないのか。


「最後、今から五時間後の十一時はF=2。メモりましたかー?じゃあ今日も一日、生きてるといいわね。バイビー」腹立たしい言葉を残し、放送は切れた。


和輝は加奈を見た。地面に顔を埋めて泣いていた。普段からのボキャブラリーの不足が、こういう時に仇となった。
何を言うべきか迷っていたが、和輝はとりあえず、加奈に近づいた。

「・・・大丈夫か?」
加奈の肩に手をかけた。あかりの名を口にしようとして、やめた。軽々しく口にするべきではないと思ったのだ。


六時間ほど前、和輝に「逃げようよ」と言った、あかりの顔が思い浮かんだ。あの時、もしあかりがこなかったら、和輝は大島薫に射殺されていたのかもしれない。


加奈は少しの間泣いていたが、ふと起き上がった。

涙を拭って、和輝に笑顔を向けた。「ごめんね、もう大丈夫。早く移動しよ」

―――強いな。和輝はそう思った。自分が今まで思っていたよりも、ずっと、加奈はたくましいのだと感じた。和輝は気を引き締めた。俺も、しっかり笹川を守らなきゃ。

二人は移動した。
あかりの死を聞かされてから数分後、加奈はいつもの通りにふるまっていた。

もう二度と泣かせたくない。和輝はこの法律と、そして政府に、深い憎しみと不信感を募らせながら、細い道すじを歩いていた。
【残り36人】

83リズコ:2004/03/15(月) 21:26 ID:1Nf1VncU
わかりました。できれば今日か明日中に載せたいと思います。
これからもよろしくお願いします(^ー^)b

84リズコ:2004/03/16(火) 20:17 ID:1Nf1VncU
キャラクター情報

男子
 
1番 荒瀬達也
[身長]173cm
[外見]とりあえず普通の男子らしい。髪は何となく黒いイメージ。
[性格]柔和。温和。あまり怒ることはない。
[家族構成]四人家族。兄がいる。
[支給武器]グロック19
[その他の情報]結構勇気はあるかも。

2番 大迫治巳
[身長]178cm
[外見]爽やか系スポーツマン風味。歯は白いに違いない(何
[性格]明るくてお調子者。終始アホっぽいが、実際はアホではない。
[家族構成]父、母、兄、妹がいた。
[支給武器]?
[その他の情報]和輝の親友。

3番 国見悠
[身長]182cm
[外見]巨体。大漢(←と意味は同じ)
[性格]せっかち。小心者。
[家族構成]三人家族。一人っ子。
[支給武器]ハリセン
[その他の情報]クラスに親しい友人はいない。

4番 塩沢智樹(しおざわ・ともき)
[身長]179cm
[外見]茶髪のオールバック。手の甲には蝶の刺青がある。派手好きっぽい。
[性格]短気。鬼畜?でも小心者かも。
[家族構成]?
[支給武器]斧
[その他の情報]中西達のグループにいる。

5番 柴崎憐一(しばさき・れんいち)
[身長]176cm
[外見]タレ目にオレンジ色の茶髪。まあ格好いいだろう。
[性格]女好き。実は冷たいらしい。
[家族構成]四人家族。姉がいる。
[支給武器]?
[その他の情報]鳴と・・・

6番 島崎隆二
[身長]181cm
[外見]がっしりとした体。
[性格]熱血。いい人。
[家族構成]六人家族。弟と妹がいる。
[支給武器]ケーキナイフ
[その他の情報]ラグビー部所属。

7番 田阪健臣
[身長]178cm
[外見]モデルのように整った顔立ち。やや冷たそうに見える。
[性格]無関心。クール。実は優しい。
[家族構成]三人家族。一人っ子。
[支給武器]S&W M19・357マグナム
[その他の情報]和輝達の友人。

8番 田辺卓郎
[身長]174cm
[外見]茶髪。やや童顔で丸顔。
[性格]優しい。能天気。明るい。素直。
[家族構成]父、母、妹がいる。
[支給武器]?
[その他の情報]諒の親友らしい。最期に呼んだ「早苗」とは、妹のこと。

9番 千嶋和輝
[身長]175cm
[外見]ぽやーっとしている。癒し系なイメージ。
[性格]根暗かも・・・ あと一途。
[家族構成]三人家族。一人っ子。
[支給武器]S&W M59オート
[その他の情報]主人公です。

10番 中西諒
[身長]180cm
[外見]赤黒い髪を立てていて、右サイドには銀色のメッシュが入っている。
[性格]?
[家族構成]父親がいた。その他は不明。
[支給武器]?
[その他の情報]父親を憎んでいるらしい。

85リズコ:2004/03/16(火) 20:19 ID:1Nf1VncU
11番 仲田亘佑
[身長]185cm
[外見]鋭い目。強面。
[性格]意外に熱い。仲間意識が強い。獰猛。
[家族構成]三人家族。一人っ子。父親はやくざ。
[支給武器]ゴルフバッド
[その他の情報]諒の友人だが、その胸中は複雑らしい。

12番 永良博巳
[身長]164cm
[外見]茶髪。どちらかと言うと可愛い系。薄幸の美少年?
[性格]明るい。無邪気。
[家族構成]四人家族。妹が二人。
[支給武器]催涙スプレー
[その他の情報]バスケ部のエースで、上級生にも下級生にもモテモテ。

13番 那須野聖人
[身長]168cm
[外見]?
[性格]明るい。お調子者。面白い。ちょっと無神経。
[家族構成]五人家族。末っ子。
[支給武器]軍用ナイフ
[その他の情報]主役になりたかったらしい。

14番 新島敏紀
[身長]176cm
[外見]黒髪。ニホンオオカミに似ているらしい。
[性格]冷静沈着。クール。気まぐれ。
[家族構成]五人家族。兄と姉がいる。
[支給武器]果物ナイフ
[その他の情報]バスケ部エース。足が速い。昔ある女と付き合っていた。

15番 初島勇人
[身長]178cm
[外見]お人よし顔。
[性格]優しい。お人よし。優柔不断?
[家族構成]四人家族。兄がいる。
[支給武器]SIG P226
[その他の情報]バスケ部に所属しているもののあまりうまいわけではない。

16番 姫城海貴
[身長]175cm
[外見]美形っぽい。イメージ的にハーフ顔。
[性格]やや子供っぽい。純粋らしい。
[家族構成]三人家族。一人っ子。
[支給武器]?
[その他の情報]伊藤愛希の彼氏。

17番 飛山隆利
[身長]177cm
[外見]普通かな。
[性格]能天気。明るい。
[家族構成]三人家族。一人っ子。
[支給武器]日本刀
[その他の情報]麻耶の幼なじみ。昔から剣道をやっていた。

18番 峰村陽光
[身長]156cm
[外見]平成教育委員会のキャラみたいな。
[性格]プライドが高い。意地と誇りを持っている。結構残酷。
[家族構成]四人家族。兄がいる。
[支給武器]ボウガン
[その他の情報]ヲタクではないらしい。

19番 御柳寿
[身長]176cm
[外見]割と端整。髪の色は濃い茶色。
[性格]無邪気。一途。
[家族構成]七人家族。姉が二人いて、下に弟と妹がいる。
[支給武器]ブーメラン
[その他の情報]鈴木菜々の彼氏。

20番 梁島裕之
[身長]177cm
[外見]老けているらしい。不健康そうらしい。
[性格]?
[家族構成]?
[支給武器]UZISMG9mm
[その他の情報]新潟から引っ越してきた。

21番 代々木信介
[身長]165cm
[外見]小柄。色白。眼鏡をかけている。
[性格]真面目。小心者?
[家族構成]四人兄弟。兄がいる。
[支給武器]レミントンM31
[その他の情報]学年で一番成績が優秀。

86リズコ:2004/03/16(火) 20:30 ID:1Nf1VncU
女子

1番 天野夕海
[身長]155cm
[外見]ギャル系だけど女の子らしい感じ。目がでかい。
[性格]バカ。でも一途。
[家族構成]五人家族。妹二人。
[支給武器]スタンガン
[その他の情報]高校に入る前は普通の子だった。

2番 新井美保
[身長]160cm
[外見]フィギア並のプロポーション。やや童顔。
[性格]一見おっとりしていて優しい。
[家族構成]三人家族。母は他界。兄がいる。
[支給武器]?
[その他の情報]昔・・・

3番 有山鳴
[身長]161cm
[外見]美人系。赤茶のストレートヘアー。
[性格]芯が強くて頑固。一途。外見に反して古風。
[家族構成]五人家族。姉と妹がいる。
[支給武器]ワルサーPPK9mm
[その他の情報]憐一が好き。

4番 伊藤愛希
[身長]158cm
[外見]目が大きくて髪は栗色のパーマヘアー。フランス人形のようらしい。
[性格]非常に冷めていて、常に不特定多数の男をはべらかしている。自意識過剰。
[家族構成]三人家族。一人っ子。
[支給武器]両刀ナイフ
[その他の情報]いい子ちゃんを装っている。

5番 井上聖子
[身長]152cm
[外見]黒髪、肩までのショートヘアー。童顔。可愛らしい顔。
[性格]?
[家族構成]?
[支給武器]コルトバイソン M357マグナム
[その他の情報]?

6番 植草葉月
[身長]156cm
[外見]ややつり目だが童顔。
[性格]少々わがまま。強気。
[家族構成]四人家族。弟がいる。
[支給武器]イングラムM10SMG
[その他の情報]家が金持ち。

7番 内博美
[身長]166cm
[外見]貴族的で端整な顔立ち。灰色がかった茶髪。クォーター。
[性格]少々思い込みが激しい。
[家族構成]父とは離縁。母は他界。
[支給武器]?
[その他の情報]クリスチャン。

8番 梅原ゆき
[身長]155cm
[外見]黒髪でややくせっ毛。
[性格]一途。少々妄信的。
[家族構成]三人家族。一人っ子。
[支給武器]金槌
[その他の情報]二年からこのクラスに転校してきた。

9番 大島薫
[身長]164cm
[外見]痩せ型。ポニーテール。
[性格]真面目。努力家。繊細。
[家族構成]五人家族。兄と姉がいる。
[支給武器]ジグ・ザウエルP230
[その他の情報]成績優秀。

10番 小笠原あかり
[身長]157cm
[外見]アイドルの花川愛(架空)に似ているらしい。
[性格]素直。騙されやすい。
[家族構成]三人家族。一人っ子。
[支給武器]ベレッタM92F
[その他の情報]加奈の親友。

11番 香山智
[身長]153cm
[外見]おとなしげな顔立ち。小柄。
[性格]大人しい。ネガティブ。
[家族構成]両親は離婚。今は父親と二人で住んでいる。
[支給武器]ヌンチャク
[その他の情報]田阪に片思い中。アニメと漫画が好き。

87紅桜 </b><font color=#FF0000>(GVAYuYFg)</font><b>:2004/03/16(火) 20:30 ID:4cUhqaxk
おおう!
プロフィールですね!女子も楽しみですw

88リズコ:2004/03/16(火) 20:33 ID:1Nf1VncU
12番 黒川 明日香
[身長]170cm
[外見]ロングヘアー。手足が長い。
[性格]やや人見知り。プライドが高い。
[家族構成]四人家族。弟がいる。
[支給武器]フォーク&シーナイフセット
[その他の情報]何をやらせても、なかなか出来る。

13番 紺野朋香
[身長]162cm
[外見]まあ普通に可愛い子。
[性格]恨みが深い。友情を大事にする。全てに関して一途。
[家族構成]三人家族。だが、今は祖母の家に住んでいる。
[支給武器]S&Wチーフスペシャル
[その他の情報]愛希に弱みを握られているらしい。

14番 笹川加奈
[身長]154cm
[外見]セミロング。やや童顔。可愛らしいと思う。
[性格]無邪気。お茶目。明るい。
[家族構成]三人家族。一人っ子。
[支給武器]?
[その他の情報]ヒロイン。

15番 三条楓
[身長]155cm
[外見]?
[性格]お調子者。誰とでもすぐ打ち解けられる。
[家族構成]五人家族。姉と妹がいる。
[支給武器]サバイバルナイフ
[その他の情報]加奈達の友人。

16番 鈴木 菜々
[身長]159cm
[外見]肩まで切り揃えられた茶髪。きりっとした目。
[性格]意志が強い。素直。優しい。
[家族構成]三人家族。一人っ子。
[支給武器]?
[その他の情報]濱村あゆみ、冬峯雪燈と仲がよかった。

17番 高城麻耶
[身長]157cm
[外見]日本人形のような和風美人。
[性格]プライドが高い。気が強い。あまのじゃく。
[家族構成]両親とは幼いころに死別。
[支給武器]文化包丁
[その他の情報]自称不思議な力を持つ少女。

18番 高田望
[身長]165cm
[外見]?
[性格]?
[家族構成]?
[支給武器]?
[その他の情報]?

19番 濱村あゆみ
[身長]156cm
[外見]小柄で愛らしい。髪はパーマがかかっている。
[性格]利己主義。快楽主義。
[家族構成]四人家族。父は死去。兄と姉がいる。
[支給武器]?
[その他の情報]売春をしている。

20番 望月さくら
[身長]162cm
[外見]大人っぽい。ギャル系。
[性格]面倒くさがり。やや自己中。姉御肌。
[家族構成]五人家族。妹と弟がいる。
[支給武器]アイスピック
[その他の情報]飽きっぽく彼氏が出来ても続かない。

21番 冬峯雪燈
[身長]160cm
[外見]キュッと上がった猫目にオパール色の瞳。小悪魔系で愛くるしい顔立ち。
[性格]傷つきやすい。寂しがりや。
[家族構成]父は幼いころに蒸発。母と妹がいる。
[支給武器]ブローニングハイパワー9mm
[その他の情報]傷だらけ。諒と・・・

22番 吉野美鳥
[身長]162cm
[外見]縁なしの眼鏡をかけている。
[性格]?
[家族構成]二人家族。
[支給武器]?
[その他の情報]元々私が作っておいたバトロワ小説にはいなかったキャラ。

89リズコ:2004/03/16(火) 20:34 ID:1Nf1VncU
おまけ

北川哲弥
[年齢]19歳
[身長]178cm
[外見]ミスターパーフェクト。
[性格]?
[仕事]プログラム担当官。
[その他の情報]和輝、加奈、治巳の中学の先輩。

橘夕実
[年齢]21歳
[身長]162cm
[外見]不二子ちゃん。
[性格]?
[仕事]プログラム担当官。
[その他の情報]放送のアニメ声の女はこの人です。

横山豪
[年齢]27歳
[身長]171cm
[外見]青ひげ面。丸顔。
[性格]短気。実は真面目。
[仕事]専守防衛軍兵士。今回のプログラムの中では兵士の長。
[その他の情報]「よこやま・ごう」と読む。

森直行
[年齢]38歳
[身長]170cm
[外見]悩める中年。
[性格]弱気。割合生徒思い。
[仕事]二年A組の担任。英語教師。
[その他の情報]奥さんと離婚したため、一人娘になかなか会えない。

90リズコ:2004/03/16(火) 23:55 ID:1Nf1VncU
日は昇って、既に暖かい空気が辺りを包んでいた。時刻は六時四十三分。梅原ゆき(女子八番)は、今日は暑くなりそうだなと思った。

何と言ったって、もうすぐ七月の半ばなのだ。風も、陽も、初夏の訪れを予感していた。
あーあ、これから少し、つまらない学校の授業を我慢すれば、夏休みだったのに。ゆきの心がチリっと痛んだ。

ゆきは夏休みをとても楽しみにしていた。友達と海に行ったり、家族と旅行したり・・・したかったな。

何でこんな学校の行事の中で、しかも、プログラムでクラスメイトと心中しなきゃいけないのよ。ゆきは、言い様のない怒りを感じていた。


ゆきは学校が好きではなかった。あまり気の合う女子がいなかったのだ。人見知りする性格もあって、友達というものがいなかったと言っても、過言ではなかった。

二年でA組の英文科に入ったのだが、普通科と違って一クラスしかなく、その代わりに人数が多い。それに、大人っぽい女子が多くて気後れしていた。

既に仲良しグループは出来ていた。自分だけ除け者にされているような気がしていた。最初は話しかけてくれる女子も多かったが、うまく話せなかった。
結局、ゆきは休み時間などは一人でいることが多くなった。


・・・でも、ここで死ぬんだったら、そんなことどうでもいいか。ゆきの中には、諦めの気持ちがあった。
でも、自殺する気はないし、やれるところまでやってみるか。ゆきは思った。

とりあえず、ここは陽があたって眩しいから移動しよう。そばかすが増えるのは困るし。

I=3を抜けて、I=4に入ろうとしていた。

91リズコ:2004/03/18(木) 10:14 ID:1Nf1VncU
あんまり役に立たないプロフですいませんw>紅桜さん



※褒め言葉でなくてもいいし、一言でもかまわないので感想をいただけたら嬉しいです。
それが励みになるので・・・


豚キムチ丼食いたいage(・∀・)

92:2004/03/18(木) 20:04 ID:sJ4mhmAY
豚キムチ丼喰った!
牛飯はそれほどうまくなかった気がする!

93GGGGD:2004/03/18(木) 20:11 ID:e49G4Aw2
あげー。
プロフわかりやすかったれふ。

94リズコ:2004/03/18(木) 21:32 ID:1Nf1VncU
I=4は草むらで、ゆきの目線の先には森が見えた。あそこの辺りは、九時から禁止エリアになるはずだ。行かないようにしようっと。

ゆきはそう思いながら、武器をきちんと握りしめているかどうか確認した。
ゆきの支給武器は金槌だった。贅沢を言えば銃がよかったのだが、まあ仕方あるまい。


汗でべとついてきた金槌をもう一度しっかり握り直しながら、ゆきは更に東に向かっていた。
動かない方が安全だということはわかっていたが、ゆきには、動かなくてはならない理由があった。どうしても、会いたい人がいたのだ。


男子九番、千嶋和輝。背はやや高めで、あまり口数が多くなく、ギャーギャー騒ぐタイプではなかったが、どこか他の人とは違う雰囲気があり、たまに見せる笑顔がかっこよかった。
それに―――


あれは、もう一年も前のことになるだろうか。高校に入って初めての定期試験も終わり、夏休み前で浮かれていた時のことだった。

ゆきは私立の高校に通っていた。
その日は、学校の近くから出ているバスの停留所で、次のバスを待っていた。友人達と長時間井戸端会議をしていたせいで、すっかり遅くなってしまっていた。
停留所には、ゆきと、違う高校の制服をきた男子がいただけだった。

ゆきは思った。ここのバス停って殆どうちの高校の生徒しか乗らないのに。
誰だろう?ゆきはその男子をチラッと見た。結構、格好よかった。目があったので、ゆきは少しドキドキした。

その男子は、思い切ったように近づいてきた。

・・・えっ?何?ゆきは焦った。

男子は言った。「あの・・・ここから○○駅に行くには、どうやって行けばいいんですか?」

○○駅!?全然違う地区じゃん。

ゆきは言った。「・・・一時間くらいかかりますよ」
「えっ、そんなに・・・」男子高生は落ち込んでいた。


「で、そうしたらコモディタケダがあるから、そこを左に曲がって・・・」
「・・・すいません。もう一回最初からお願いします」

埒があかない。ゆきは言った。「案内しますよ。ここから一番近い駅まで二十分くらいだから、そこから乗り換えて三十分くらいかな」
「すいません!ありがとうございます」男子高生は丁寧に頭を下げた。何となく育ちがよさそうだ。ゆきはそう思った。

名前は聞かなかったが、その男子高生は友達に置いてけぼりにされて、道に迷っているうちにここにきてしまったと言っていた。

他に何を話したかは、覚えていなかったが、とりあえず最寄の駅まで送って、ゆきは男子校生と別れた。

名前と学校くらい訊いておけばよかった。ゆきは少し、いや、かなり後悔していた。



一年の三学期、ゆきの父の会社が倒産してしまったので、ゆきはこれ以上私立の高校に通うことが出来なくなってしまった。
そうして編入したのが、県立第三高校だった。女子の制服が可愛かったことと、英文科があるということで、ゆきはそこに決めた。

そこで、ゆきはいつかのバスの男子高校生に、もう一度会うことになった。



千嶋和輝は、ゆきの顔を見た時、特に表情を変えなかった。もしかして、忘れられてるのかな。少し寂しかったが、まあ仕方ないかと納得した。

だが、ゆきが紹介されて席についた後、休み時間に和輝がゆきに話しかけてきた。

「梅原さんって言うんだ。あの時は、どーも」少し恥ずかしそうに言った。
それから、小声で言った。「あの時のことは、誰にも言わないで」
「えっ、何で?」
「またからかわれるから。あいつだよ。俺を置いてった奴」小さく指を差した。
ゆきは笑った。

色素の抜けた茶髪で、明るい感じの男子。それは、大迫治巳(男子二番)だった。


運命かもしれない。そんなことを、つい考えてしまっていた。ずっと、もう一度会いたいと思っていたのだ。嬉しかった。そして、すぐに、その感情は恋に変わった。

95リズコ:2004/03/18(木) 21:35 ID:1Nf1VncU
ありがとうございますw>GGGGDさん

肉が薄くてがっかり・・・(ぇ>瞳さん

96リズコ:2004/03/18(木) 21:38 ID:1Nf1VncU
ゆきが行きたくもない学校に毎日休まずに通っていたのは、和輝の顔を見るためだったと言っても、過言ではなかった。
夏休みは楽しみではあったが、和輝に会えないのは、少し辛かった。まあ、その夏休みはもう、永遠にこないのかもしれないが。

 千嶋君に会いたい―――。ゆきの目からは、涙がこぼれ落ちていた。今、どこにいるんだろう。何で、勇気を出して待たなかったんだろう。
実を言うと、ゆきはスタートの時に和輝を待っていた。だが、田辺卓郎(男子八番)が、後からきて、門の前を陣取り始めたので(全く迷惑なヤツだ)、早々に通りすぎてしまったのだ(大島薫と卓郎が争い始めたのは、それからほんの三十秒後のことだった)。
あれから、やっぱり待っておくべきだったと後悔した。

千嶋君は、生きてるかな。ゆきはそう考えて、すぐに首を振った。生きてるに決まってる。でも、もし、たった今、誰かに襲われてたら。
ぞっとした。そんなの嫌だ。死なないでね。お願いだから。ゆきは祈っていた。



物音がして、ゆきは驚いて顔を上げた。

向こうから、人が走ってくるのが見えた。顔はよく見えなかったが、男子だ。背の高さも同じくらいだった。
もしかして―――ゆきの胸を期待がよぎった。


その期待は、一瞬にして裏切られた。走ってきたのは、新島敏紀(男子十四番)だった。
何だ、違った。ゆきは和輝以外の生徒を信用する気がなかったので、身を翻し、逃げようとした。
が、もう一度敏紀の方を振り向いた。一瞬、敏紀が銃をこちらに向けるのが見えた。


何よ、私何もしてないじゃない。ゆきはそう思ったが、敏紀はためらいもなく、引き金を引いた。


ぱん。

「きゃあ」


ゆきは叫んだ。近くの草むらに、ボコッと穴が空いた。


何こいつ、怖い。ゆきは夢中で逃げだしていた。

敏紀はゆきを追わずに、もう一度引き金を引いた。


今度は当たったらしかった。逃げているゆきの肩を、強い痛みが襲った。


嫌、死にたくない、死にたくない!ゆきの頭は恐怖でいっぱいになった。



逃げるゆきを、敏紀は遠目で見ていた。思った。ふうん。撃ったことなかったけど、案外当たるもんなんだな。衝撃が凄いけど、すぐ慣れるだろ。そう思いつつ、銃をしまった。

次は、殺してやる。敏紀にとって、これはゲームの延長線上だった。

こういう男が、実は一番やっかいなのかもしれなかった。【残り36人】

97GGGGD:2004/03/20(土) 10:47 ID:e49G4Aw2
age-

98リズコ:2004/03/20(土) 13:25 ID:1Nf1VncU
永良博巳(男子十二番)は、梁島裕之(男子二十番)の話をじっと聞いていた。梁島は意外によく喋る男だった。
このゲームについて、それから、自分が今までどうしていたのか。その他、とりとめのない話をしていた。梁島の話は実に合理的で、うまくまとまっていて、適度な速さと音階で聞きやすかった。

梁島は言った。「あんた、名前は何て言うの?」
博巳はガクッときた。殆ど話したことはないけど、それでも一応、一年と四ヶ月半、共に椅子を並べてきた仲じゃないか。まあ、いいけどさ。

博巳は言った。「永良。永良博巳」
梁島はふーん、と言うと、独り言のように、いい名前だな、と言った。
そんなことを言われたのは初めてだった。新鮮で、少しくすぐったかった。

「ところで、永良はこんなところで何してたの?」梁島が訊いた。
「えーっとね、・・・寝てた」
「へー。凄い神経だな。尊敬するよ」
「・・・馬鹿にしてんのか?」
博巳の問いに、梁島はやんわりと首を振った。「このゲームじゃそっちの方がいいよ。あんた大物になるぜ」
「いやー、あはは」博巳は頭を掻いた。

梁島は突然、立ち上がって言った。「でも、ここの場所は涼しいけど、ちょっと人目につきやすいかもな」その後、独り言のように呟いた。「移動すっか」


ズボンの尻についていた埃をはらった。そのままデイバックを肩にかけて、歩き出そうとした。
博巳はぎょっとした。置いてけぼりかよ。放置プレイかよ。何か言ってけよ。


梁島が振り向いた。「永良は、この後どうすんの?」

「えっ・・・どうもしないよ。もし人がきても、こんな武器じゃ殺されちゃうかもしれないし」催涙スプレーを見せた。
梁島はふーんと頷いた。
博巳は少し、ついていきたいという意思表示をしていた。いや、ついていきたいと思っていた。


梁島はあの独特の笑みを見せた。「くる?行き先は、結構遠いけど」
「行く!」博巳は即答した。梁島は笑った。「じゃあ行くか。足引っ張るなよ」
「わかってるって!」
やったー。仲間が出来た。博巳は安堵していた。

99リズコ:2004/03/20(土) 13:28 ID:1Nf1VncU
梁島が行きたいと言ったのは、エリアC=7だった。すぐ近くに休憩所があるから、そこの近くで過ごそう。梁島はそう言った。なぜ休憩所で休まないのかは疑問だったが、博巳は大して問題にもしなかった。



少しの間、二人は慎重に歩き続けた。



梁島の眉がぴくりと動いた。「誰かきた」
へ?博巳は辺りを見回した。「隠れろ」梁島は言った。

すぐに博巳を木陰に引っ張って行き、ドンと押した。博巳は転んだ。
いってーな。何すんだよ。博巳は恨みがましい目で梁島を見た。
梁島は隣で息を潜めていた。

耳をすました。かすかに、誰かの歩いてくる音がした。梁島は銃を装備した。梁島はチラッと博巳を見た。

通り過ぎるまで大人しくしていろという意味合いのものだったが、博巳には伝わらなかったようだ。

「殺すの?」博巳は言った。
「馬鹿!声出すな」梁島は声を抑えて言ったが、すぐにやばいという顔をした。

二人は藪から外を覗いた。


そいつが、近づいてきた。足元しか見えない。ゆっくりと、しかし、迷っているかのように少し戻り、また踵を返してこっちにきた。

やがて、怯えたような声が聞こえた。「誰かいるのか?おれは争う気なんかない。仲間を探してるんだ。もしそっちも争う気がないなら・・・出てきてくれ」

博巳はその声に聞き覚えがあった。少し声音は変わっていたが、普段一緒にいる仲間だと気づいた。

「勇人!」博巳は藪から顔を出した。隣で梁島が、あーあ、という顔をしていた。



初島勇人(男子十五番)は、一瞬心から驚いたようだったが、博巳を見ると歓喜の声を出した。「・・・博巳。よかった。仲田とかだったらどうしようかと・・・」
勇人は力が抜けたように、そのまま座り込んだ。


少し間を置いて、梁島が出てきた。
「永良、いきなり飛び出すなよ。もし撃たれでもしたらどーするつもりだったんだ?」
それから、博巳のすぐ近くにいる男子生徒を見た。

博巳は言った。「大丈夫。おれの友達だよ。信用できるって!おれが保証する」そして、絶対に名前を知らないだろうな、と思って付け加えた。「男子十五番、初島勇人だ」

梁島は勇人をじろじろと見た。「本当に信用できるのか?ゲームに乗ってない証拠なんてないだろが」
博巳は少しむきになって言った。「そんなことないよ。なあ梁島、こいつも仲間にいれてやろうぜ。勇人、お前敵意なんかないだろ」

勇人は頷いた。「信用できないなら、おれの武器やるよ。それならわかってくれるだろ?」そう言って、武器を差し出した。
梁島は目を丸くした。
「・・・そんなことして、もしおれが実はやる気になってたらどーするんだよ」

あっ・・・。勇人は気まずそうに梁島を見た。
やがて、言った。「博巳の仲間だろ?信用するよ」

梁島はぷっとふきだした。そして笑い出した。
二人はあっけにとられて、梁島を見ていた。

梁島はくくく、と声をあげながら、勇人を笑んだ目で見た。
「あんたら、二人揃って、お人よしだね」そう言って、立ち上がった。
「仲間か・・・それも、悪くないかもな」


梁島は言った。「いいよ。信用してやるよ。人目につく前に、早く行こう」
「・・・ああ」勇人は嬉しそうに顔を上げた。

「それから・・・」梁島は地面に落ちていた銃(SIGP226)を拾って、勇人に渡した。「これはあんたが持ってな」
そして、背を向けて、行くぞ、と言った。


勇人が博巳に話しかけてきた。「梁島ってあーゆー奴なんだな。何か、意外かも」
博巳は笑った。「きっと悪い奴じゃないよ」そう、思っていた。

そうこうして、三人の男子生徒は、C=7へ向かっていった。
【残り36人】

100リズコ:2004/03/20(土) 15:09 ID:1Nf1VncU
「やだ!こないでよ!」濱村あゆみ(女子十九番)は、叫んだ。
どうしていいのかわからなかった。支給武器も、役に立たなかった。

あゆみは、どう考えても、ゴルフバッドと、その武器を持った猛獣のような男、仲田亘佑(男子十一番)には、勝てそうにもなかった。

「騒ぐなよ。このアマ」仲田は言った。
「訊くけど、あんた大島って奴どこにいるか知らない?」
あゆみは震えながら首を振った。「・・・知らない」
「ふーん」仲田はそう言って、あゆみに向かってきた。


やだ、怖い。あゆみは震えていた。


あゆみは仲田達と話すことが割とあった。あゆみと冬峯雪燈(女子二十一番)、二人はどちらかと言うと、不良の仲田達と似た空気を持っていたから、気があったのだ。


あゆみは、家にあまり帰らず遊び歩いていた。そこで知り合った男と一夜を過ごし、金や金品を奪ったりして暮らしていた。
それに、売春をしていた。高校に入ってからは、殆ど毎日のように援助をしてもらった。雪燈は体を売ることをやめたそうだが、あゆみはまだやめられなかった。
そのことをクラスメイトは知らなかったが、仲田達は、もしかして知っているのかもしれない、あゆみはそんな気がしていた。
だが、どうでもよかった。知っていたところで別に何も変わりはしない。偉そうに説教できる立場じゃないでしょ。そう思っていた。
しかし、今は、そんなことを言っている場合ではなかった。


「大人しくしてろよ」仲田はあゆみの顎を掴んだ。右手にはゴルフバッドを持っていた。

殺される!恐怖心でいっぱいになった。

「・・・お願い。助けて」震える声で、言った。
もし助かるのなら、何をしたってかまわない。あゆみは仲田の肩に手をかけた。

「・・・好きにしていいから。あたし、何でもする」


仲田は言った。「誰が・・・お前みたいな女相手にすっかよ。オレは、金のために体を売るような奴は嫌なんだよ。こう見えても潔癖症だからな」


あゆみの目が見開いた。悔しい。こんな奴に馬鹿にされるなんて。でも、それよりも、恐怖の方が勝っていた。

そして、仲田のゴルフバッドが動いた。やだ、殺されてしまう。恐怖がうじ虫のように体中を駆け巡った。

101リズコ:2004/03/20(土) 15:11 ID:1Nf1VncU
仲田は、ゴルフバッドを見つめて、それからあゆみを見た。少し、冷や汗が浮かんでいた。
こいつ、今迷ってる。あゆみはそう予測した。早く、逃げなきゃ。


あゆみは湿った土を握り、仲田に投げつけた。
「うっ・・・」仲田は目をつぶった。

その隙に、あゆみは立ち上がって、反対方向に向かった。


「クソッ。待て!」後ろで、仲田の焦ったような声が聞こえた。



亘佑は、あゆみの通学用カバンからティッシュを取り出して、神経質に何度も拭いた。あとで洗いに行こう。亘佑はそう思った。
まあ、その前に追いかけなきゃな。亘佑はティッシュをその場にポイ捨てした。


ふと、背後に異質な空気を感じた。誰かいる。亘佑はバッと振り向いた。


セミロングの髪、垂れ目で睫毛が長い。その子は、グラビアアイドルを細くしたような、少年漫画に出てくる女の子のような体型をしていた。
新井美保(女子二番)は、亘佑を見た。


亘佑は怪訝な顔で言った。「何だお前、殺されてーのか?」ゴルフバッドをかまえた。


「早く!あゆみが逃げちゃうよ!」そう言って亘佑の腕を掴んだ。
「こっち行った!」あゆみの逃げた方向に指を差した。

「はあ?」
何だこの女。しかし、かまってる暇はなかった。こいつは、あとで殺そう。


「お前もこい!」美保の腕を掴んで、あゆみが逃げた方向に走り出した。

102リズコ:2004/03/21(日) 17:04 ID:1Nf1VncU
早く逃げなきゃ!早く!殺されちゃう!
あゆみは必死で逃げた。足がもつれて転びそうになっても、とにかく、逃げた。

「待て!このクソアマ!」声がして、あゆみはびくりと震えた。

―――きた!恐怖を感じて、背後を振り向いた。


仲田と、それに、腕を掴まれて一緒に走っている新井美保がいた。
美保?何で?もしかして、仲田に捕まったの?


しかし、悪いがそれどころではなかった。あゆみはあまり体力がなかったのだが、それでも、死にたくないという気持ちだけで、走った。


距離が縮まってきていた。やだ!追いつかれる!あゆみは泣き叫びそうになっていた。ふと背後を見ると、仲田がすぐ近くまで迫っていた。


仲田はあゆみ目がけて、ゴルフバッドを振り上げた。


ゴルフバッドの先が当たって、あゆみはその場に昏倒した。



あゆみは頭をあげた。殴り飛ばされて、頭からは血が出ていた。しかし、多分軽傷だった。
仲田は激しく息をついていた。「手間かけさせやがって」

もう一度、ゴルフバッドを振り上げた。いやっ!あゆみは思わず目をつぶった。


「待って、仲田君!」美保が、仲田の腕に捕まった。
「やめろ、バカ!」
仲田は力任せに美保を振り払おうとした。それでも、美保は離れようとはしなかった。
おっ、いいぞ。美保!あゆみは応援した。ここで美保に頑張ってもらわないと。立ち上がって、美保に応戦しようとした。


美保のあまりの粘り強さに、亘佑は思わず手を離してしまった。
ゴルフバッドごと、美保は地面に投げ出された。

やべえ。亘佑は武器がなくなっていることに恐怖を覚えた。でも、相手は女だし、自分はこぶしでも十分いける。亘佑はかまえた。


美保は立ち上がって、あゆみを見た。「大丈夫?」
「・・・うん」

そして、美保は亘佑を見た。「近寄らないで!」そう言ってゴルフバッドを振り回した。

「チッ」亘佑は舌打ちをした。
いくら亘佑でも、これでは、手も足も出ないだろう。近寄ると、ゴルフバッドが当たるからだ。
よかった。助かった。あゆみはホッとしていた。



美保は亘佑に言った。「手出さないで」

亘佑は不可思議な表情をしていた。

美保は、あゆみに向けて、まっすぐにゴルフバッドを伸ばしていた。

・・・え?


あゆみは、自分のおかれている状況が、理解できなかった。
美保がゴルフバッドを振り上げた時には、まだ、安堵の笑みを浮かべていた。

103リズコ:2004/03/21(日) 22:19 ID:1Nf1VncU
いつもageありがとうございます。>GGGGDさん

104伊織:2004/03/21(日) 23:15 ID:d65MDcAU
美保ちゃん・・・もしかして聖子ちゃんに並ぶキラーガールなんでしょうか。続きが気になるばかりです。
一人一人のキャラのプロフィールの個性の幅広さに思わずビックリしました。お一人でこれだけのキャラを書き分けられるなんてすごいと思います。

105リズコ:2004/03/21(日) 23:50 ID:1Nf1VncU
バコッと鈍い音がした。
亘佑の手に収まってしまいそうなほど小さなあゆみの顔は、力いっぱい殴られたせいか、ぼこっとへこんだ。


美保は、更にゴルフバッドを振り下ろした。


もう一つのへこみが出来て、血が飛び散った。
既に絶命しているのにもかかわらず、何かにとり憑かれたように、殴り続けていた。



亘佑は意味がわからず、唖然としながらその光景を見ていた。




あゆみの体は、壊れたマリオネットのようになっていた。手足はおよそありえない場所で曲がりくねり、骨が折れていた。顔つきは凄惨で、眼球が少し飛び出していた。人間の顔は、こうも歪むのかという感じがした。
唯一原型をとどめていた、小さく愛らしい口元からは、血が、細くゆるゆると流れ出していた。

とにかく、凄かった。気分が悪くなった亘佑は、目をそらした。



美保は笑みを漏らして、亘佑に近づいてきた。

何だ、この女。何が目的なんだよ。亘佑は少し怯えた。美保の真意がわからなかった。


美保はゴルフバッドに触れた。真っ赤な血が、美保の白い手を濡らした。
「そんなに怖い顔しないでよ」美保は言った。

亘佑をまっすぐに見つめた。ふくよかな唇が、笑みの形を作った。

「全部聞いてたの。大島さん、私も一緒に捜してあげる」


美保の様子を見て、亘佑は背筋にぞわりとしたものが通り抜けた。



ゲームに乗って、優勝する。美保も、多分同じ願いを持っているはずだった。

しかし、ここで仲間を増やすことも悪くないかもしれないと考えた。このような危険人物を、敢えて仲間にする。そして、確かに人数を減らすこと、居場所を確保すること。
いけるかもしれない。


「へー。・・・オレが怖くないの?」亘佑は言った。
「怖いよ。でも、今私を殺さなくたって、まだ時間はあるでしょ。それに、怖がってるのはそっちだと思うけどな」見破られていた。亘佑は気まずい思いで、美保を見た。


美保は少し間を空けて、また続けた。
「私達が組めば、結構イケると思うんだけど。間違いかな?」
「そんなのわかんねーよ。それに、オレは中西と一緒に行動してる。あいつはゲームに乗ってないよ」
美保はそれを聞くと、いたずらっぽく笑みを浮かべた。
「それは好都合だね」そう呟いたが、亘佑には聞こえなかった。


「まあいいや。組んでやってもいいぜ。ただし、命の保障はしないよ」
「それでも、いいよ」それから美保は亘佑の肩に手をかけて、小声で囁いた。「中西君に、会わせて」



よくわからない女だった。少女というより、もう大人になってしまった、女という形容詞の方が似合っていた。
顔が大人っぽいというわけではなかった。年相応か、またはそれよりも幼く見えた。しかし、何か不健康な色気があり、それが亘佑には新鮮で、よく理解できないものに映っていた。


興味が湧いた。
「いいよ。あいつは単純だからお前のことを疑ったりしねーよ」
美保は笑んだ。「よかった。強そうな味方が出来た」と言った。



美保の本心に、亘佑はまだ気づかなかった。いや、生涯、死ぬ瞬間でさえも、亘佑は美保の本心に気づくことはなかっただろう。
【残り35人】

106リズコ:2004/03/22(月) 10:58 ID:1Nf1VncU
うーん・・・かなりたちの悪いキャラにしあがってますw
ありがとうございます。ここ最近やる気をなくしてたんですが、伊織さんのレスで少し勇気付けられました。
がんばって完結まで行きたいと思ってます。>伊織さん

107リズコ:2004/03/23(火) 01:29 ID:1Nf1VncU
梅原ゆき(女子八番)は、痛みをかかえた左肩を庇いながら、南へ向かっていった。
森の近くまできて、ゆきはハッとした。

そうだ、森の奥は禁止エリアだ。これ以上向こうへは行けない。元来た道を戻ろう。そばかすがどうとか気にしている場合じゃない。
でも、もう息が切れて限界だった。ゆきは背後を振り返った。幸い、新島は追ってきていないようだった。

ゆきはゼーゼーと息を荒げながら、木の陰に隠れ、やっと腰を下ろした。陽はもう高く上っていて、熱かった。

ゆきはデイバックから水を取り出して飲んでいた。おいしかった。それから、フッと息をついた。


その時、また森の奥のから足音が聞こえた。
また人だ。ゆきはチッと舌打ちをして、立ち上がろうとした。


今度は誰?怪訝な表情のゆきの目は、思ってもみなかった人物の登場で、大きく見開かれた。
そこには、ゆきが会いたくてたまらなかった、千嶋和輝(男子九番)が、いた。

108リズコ:2004/03/23(火) 01:30 ID:1Nf1VncU
 ―――やっと会えた。嬉しい。ゆきの目には、涙がたまっていた。
ついさっきまであれほど探していたのに、新島敏紀(男子十四番)の襲来で、ほんの少しの間忘れていたのだ。ゆきはそんな自分を反省した。

千嶋君に頼んで、一緒にいさせてもらおう。ゆきは疲れた体に鞭を打って、もう一度走り出そうとしていた。



だが、その足はそのまま、動けなかった。「大丈夫?」和輝が後ろにいる人物に声をかけその人物が出てきた。

「うん。もう大丈夫。ありがとう」そこにいたのは、笹川加奈(女子十四番)だった。

ゆきは二人から見て、ちょうど死角に当たる場所にいたので、二人とも、気づいていないようだった。ゆきは不安にかられた。何で、千嶋君と笹川さんが一緒にいるの?


この二人のことは、前から気になっていた。そして、随分前に加奈に訊いていたのだ。

「笹川さんって、千嶋君と付き合ってるの?」
加奈は笑顔で答えていた。「えー、付き合ってないよ。中学が同じだったからよく話すだけ」

でも、今二人は一緒にいる。たまたま会っただけなの?それとも―――


「でも、和輝がいてくれてよかったな」追い打ちをかけるように、加奈が言った。「私一人じゃ、どうしていいのかわからなくて、今ごろ死んでたかもしれない」

和輝は木の枝や石がたくさんあり、かなり歩きづらい道で加奈を助けながら、言った。「あの時待っててよかったよ」


・・・待ってた?もしかして、門で待ってたの?
だって、あそこには田辺君がいたのに。しかも、千嶋君と笹川は出席番号が離れてる。その間を、ずっと待ってたって言うの?

和輝がそこまでして笹川加奈を待った理由は、ゆきにはもうわかってしまっていた。



頭が、真っ白になった。自分が新島敏紀に襲われて、必死に逃げ惑っていた時に、自分が会いたくてたまらなかった千嶋和輝に守られて、ぬくぬくと過ごしていたわけだ。あの女は。


ゆきの目には、たまっていた涙が溢れだした。もっとも、これは嬉し涙ではなく、深い悲しみと、憎しみの涙だった。
もう、何も考えることが出来なかった。ただ、あいつを殺したいと思っていた。笹川加奈を、殺したい。



ゆきは、自分の右手を見た。自分がまだ、かろうじて金槌を握っていたことに気づいた。怪我をしている肩とは逆の手だ。
ゆきは少し笑った。大丈夫、殺れる。しっかりと金槌を握り直し、二人のいる方向へと、走り出した。
【残り35人】

109GGGGD:2004/03/23(火) 20:47 ID:e49G4Aw2
おわー、ゆきちゃん・・・・・・・・ガンバテクダサイ

110GGGGD:2004/03/23(火) 20:49 ID:e49G4Aw2
ついでに100突破オメデトウございます。。。。。(´,_ゝ`)

111最終便:2004/03/23(火) 20:53 ID:7wLn8sCk
(´,_ゝ`)ふふふ・・・
おめでとうございます
更新スピード速いですね

112リズコ:2004/03/23(火) 23:50 ID:1Nf1VncU
 千嶋和輝(男子九番)は、笹川加奈(女子十四番)と一緒に歩いていた。さすがにもうエリアJ=4は抜けて、I=4に入っているはずだった。

でも、ついさっき、近くで銃声が聞こえた。ここは危険かもしれない。

和輝達は、銃声が聞こえた場所から、更に東のI=5へ向かおうとしていた。


加奈が言った。「熱いねー。やんなっちゃう」髪をかきあげて、汗を拭った。
それから、和輝に向き直って、言った。「何で和輝って汗かかないの?」
「知らない。体質じゃん?」
「いいなー。でも、私テレビで見たよ。汗かかない人って不健康なんだって!」
「・・・ああ。まあ不健康かも、ね」
「だよねー。いかにもって感じ」
悪かったな。和輝は言った。「まあ、俺は誰かさんみたいに、ダイエットのしすぎで貧血起こして、朝礼中に倒れたりはしないけどね」
加奈は赤くなって言った。「そんな昔のこと忘れてよー!」
和輝は笑った。
しかし、加奈が、無理にはしゃいでるような気がしてならなかった。

和輝は訊いた。「笹川、もう大丈夫なの?」
加奈は笑顔になって答えた。「大丈夫だよ。ごめんね、心配かけて。ありがとね」

お前が元気でいてくれるなら、それでいいんだ。
・・・そんなセリフは、死んでも腐っても言えないだろう。

和輝は加奈の方を向いて、何かを言おうとした。

加奈は横を向いて、何かに気づいたように言った。

「あっ、梅原さんだ」



梅原ゆき(女子八番)が走ってきた。自分より数分前に学校を出た子。だが、目が普通ではなかった。いつも、穏やかな印象を受けたゆきからは想像もつかないようなつりあがった眉に、目は大きく見開かれていた。
そして、左肩から腕までは大量の血が腕を濡らしていて、右手には金槌を握っていた。


ゆきは加奈の方に飛びかかって、金槌を振り回してきた。


「・・・加奈!」和輝は叫んだ。


バキッと音がして、和輝の左腕を、衝撃が走った。和輝は加奈の前に立ちはばかるようにして、加奈を庇った。

和輝は左腕を押さえた。左腕は力が入らなく、ジンジンと鈍い痛みがあった。でも、幸い利き手とは逆の腕だった。
ゆきはそれを見て少したじろいようだった。

113リズコ:2004/03/24(水) 00:00 ID:1Nf1VncU
GGGDさん>
100突破だー!ありがとうございます(´,_ゝ`)これからもがんばります

最終便さん>
ありがとうございます。話が無駄に長いので早めに更新しないとだれてしまうんで・・・(^^;

114リズコ:2004/03/24(水) 00:02 ID:1Nf1VncU
GGGGDさんの間違いでした。すいません。

115:2004/03/24(水) 20:03 ID:fuIRy2c2
おもしろいですぅ〜(^^♪
頑張ってください!

116リズコ:2004/03/24(水) 20:43 ID:1Nf1VncU
その瞬間、和輝はゆきの凶器を奪いにかかった。

「きゃあああ」ゆきは悲鳴をあげながら、凶器を取られないように逃げ回った。明らかに精神がまいってしまっているようだった。

「落ち着けよ梅原!」和輝は説得を試みようとしたが、ゆきは凄い形相で、何と言っているのかもわからないような叫びをあげながら、金槌を加奈の方へ投げた。
和輝は驚いて、加奈の方を見た。


金槌はまるでブーメランのように回り、加奈に目がけて飛んでいった。



「きゃあ」加奈はかろうじて避けて、後ろにしりもちをついた。

金槌は、加奈の前に、ドスッと音を立てて落ちた。


よかった、当たらなかった。和輝はホッとしたが、梅原ゆきを捕まえなくてはならないと思った。


ゆきは魂がぬけたかのように茫然と立っていた。また、笹川に飛びかかってくるかもしれない。和輝はゆきに、銃口を向けた。


ゆきはビクッとして、こちらを見た。「千嶋くん、なんで?」絞り出すような声で呟いた。
和輝は言った。「今すぐここから消えてくれ。そうじゃないと容赦しない」

後ろでは、加奈が心配そうな顔をして見ていた。そうだ、これは殺し合いゲームだ。
ゆきはこのゲームの中でおかしくなっていたのだが、同情することは出来なかった。

ゆきは今にも泣き出しそうな顔をして、森の中へと走っていった。

117リズコ:2004/03/24(水) 20:46 ID:1Nf1VncU
 しばしの静寂の後に、やっと加奈が口を開いた。「梅原さん、どうしちゃったんだろ。いつもの顔じゃなかった。怖かった・・・」
加奈のすぐ傍には、金槌が草むらの土に少し食い込んでいるのが見えた。

和輝は答えた。
「まあ、こんなゲームの中じゃな。誰がああなってもおかしくないってことだよ」



それは、大島薫(女子九番)にも言えることなのかもしれなかった。


思った。殺らなきゃ殺られる。もしかして、自分は梅原を殺した方がよかったのか?それが、このゲームのルールなんだから。
和輝は、ゆきを狂わせた原因が、自分であることに気づいていなかった。



「そうだ!腕大丈夫?」加奈がかけよって、左腕に触れた。
いてっ。和輝の顔が歪んだ。
「・・・触るな」和輝は言った。

加奈はハッと手を離して、しょんぼりとした様子で言った。「ごめんね、私のせいだよね・・・」
やばい。言い方がきつかったかな。だって痛かったし。

それでも、和輝は言った。「ごめん。大丈夫だから、これくらい」笑ってみせた。
「大丈夫じゃなさそーだよ」加奈は言った。
左腕には青あざのような物が広がっていて、力が入らなかった。
「大丈夫だよ。冷やせば全然、ばっちり動かせるから」
「でも、バキッて音したよ?」
和輝は重く息をついた。「心配すんな。それより・・・」


お前が無事だった。もしさっきの金槌が当たっていたら、笹川の頭にはひびが入っていたかもしれない。よかった。笹川が、生きててよかった。

安堵の中で、和輝は、ゆきの向かっていった方向がもうすぐ禁止エリアに入るのだということを、すっかり忘れてしまっていた。
【残り35人】

118リズコ:2004/03/24(水) 20:52 ID:1Nf1VncU
瞳さん>
いつも読んでくれてありがとうございます!嬉しいです(^▽^)


何か寂しいな・・・

119GGGGD:2004/03/25(木) 18:28 ID:e49G4Aw2
バーベル上げ

120GGGGD:2004/03/25(木) 18:32 ID:e49G4Aw2
面白伊出酢。派屋区津図樹我未田伊出酢。

121リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/03/26(金) 09:35 ID:1Nf1VncU
 新島敏紀(男子十四番)は、H=4の南西の方角にいた。疲れたので、とりあえず休むことにした。敏紀は鼻歌を歌いながら、腰を下ろした。


何か眠くなってきたな。やっぱ睡眠時間三時間じゃきついかー。敏紀はあくびをした。
通学用バックの中から鏡をとりだし、耳につけていたピアスを外した。邪魔になるから、取っておこう。そして、バックの中にピアスを放り込んだ。

敏紀はバスケット部のエースで、同じクラスの永良博巳(男子十二番)とコンビを組んでいた。一部の女子の間では、二人はアメとムチと評されていた。

自分がなぜムチなのかは納得できないことであったが、何はともあれ、敏紀は、なかなかもてていた。まあ、博巳に比べると数は少なかったが。

敏紀は田阪健臣(男子七番)や、姫城海貴(男子十六番)のような、よくいる美形とはタイプが違っていた。キッと伸びた鋭く強い目、それはある種、猫の目を連想させた。
そして、その顔に伴って、敏紀には、一種の狂気のような、触れてはいけない棘のようなものがあった。不思議な人だと、よく言われた。もしそんな敏紀に惹かれる女がいたならば、それは、その狂気に惹かれていたのかもしれない。


敏紀は無造作に立ち上げたつやのある黒髪を掻いた。かっゆー。昨日頭洗ってねーもんな。ワックスつけっぱなしだし。
ため息をついた。帰りたい。ほのかに、そんな感情があった。



人影を見つけて、敏紀は走り出した。動体視力には自信があった。遠かったが、はっきりわかった。男子で、背が高くて、がっちりとした体型。俺のカンが正しければ―――


敏紀は足が速かった。昔は陸上部に入ろうと思っていたくらいだ。入らなかったけど。



敏紀はその人物のすぐ後ろに立って、その人物をまじまじと見つめた。
「ほらな。やっぱりお前だ」



声に驚いて、その人物は振り向いた。
島崎隆二(男子六番)は、敏紀を見た途端、「うわっ」と声を出して後退した。

「新島・・・」
敏紀は黙っていた。ただ、目だけで笑った。


隆二は突然早口で話し始めた。
「お、お前はゲームに乗ってないよな!大丈夫だよな!おれのこと、襲ったりしないよな!」
敏紀は少しだけ眉毛を持ち上げた。「・・・ああ。乗ってないよ」

嘘だった。


「本当か?なあ、おれ怖くて怖くて・・・マジであの時殺されるかと・・・」
「ああ。北川って奴に?」
「そう。でも、よく考えたら、あれは助けてくれたのかなーって思って」
敏紀は呆れた。能天気な奴だ。

「・・・政府のやってることなんて殆ど気まぐれだよ」
「そうだよな。で、でも、とりあえずおれは今生きてるってことで・・・」
何が言いたいんだ、こいつ。


隆二は身振り手振りをつけて話した。「一緒に抜け出す方法探さないか?こんなとこで死にたくないし、殺されたくないし、殺したくもないだろ?」
敏紀は驚いた。隆二の目を見た。真剣な表情だった。

敏紀はぷっとふきだした。「無理に決まってるじゃん。お前、どーやって抜け出すんだよ。方法って言ったって、そんなもん・・・」
あるわけない。敏紀は思った。

「何で笑うんだよ。ないとは限らないだろ。なあ、お前だってみすみす死にたくないだろ。里伽さんにだって、会いたいだろ?」

敏紀の笑いがとまった。「あいつの話はするな」静かに言った。

「ああ!ごめん。でもさ・・・皆殺し合いなんかやりたがるわけないって!」

敏紀はゆっくりと言った。「・・・そうか?わかんないじゃん。俺は、やりたいよ」


隆二の表情が固まった。わかりやすい奴だ。反応もわかりやすかった。

どもったように言った。「ま、ま、まさかお前、人殺したんじゃ・・・」数歩後退した。「おっ、おれのことも殺す気なのか!?」隆二は叫んだ。


敏紀は舌打ちをした。「・・・大声出すなよ。ああ、殺す気だよ。お前なんかあの時に死ねばよかったんだ。その方が人が減ってよかったのになあ!」

隆二の目が見開いた。「・・・よくもそんなことが言えるな」
ぽろぽろと、涙を流した。わかりやすかった。

「死んでいい人間なんて、一人もいないんだぞ!馬鹿野郎!」


隆二はそう叫んで、敏紀に掴みかかろうとした。

122リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/03/26(金) 09:43 ID:1Nf1VncU
ぱん。大きな衝撃音がして、隆二の頭は吹っ飛んだ。



スプレーのように血が飛び散って、隆二は地面に強く打ちつけられた。

一瞬の間の後、血がぽたぽたと、地面に落ちた。


多分、隆二は、敏紀のことを少し怒鳴ってやりたかっただけだったのだろう。そして、いさめてやろうと思った、だけなのだろう。まさか、自分が敏紀のことを殺すだなんて、夢にも思っていなかったのだろう。
まあ、でも、そんなことは、敏紀にはどうでもいいことだった。



敏紀はデイバックの中から水とパンを取り出した。長期戦になるなら、持っておいた方がいいだろう。
それから、隆二の支給武器を取り出して、その刃を太陽にかざした。眩しい光を、強く跳ね返してきた。
ケーキナイフか。いらねーな。敏紀はナイフを放り投げた。そして、踵を返して、元の場所に戻るつもりだった。

敏紀はふと、隆二の死体を見下ろして、言った。「脱出する方法か。見つかればいいね。まあ、もう関係ないだろうけど」
【残り34人】

123リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/03/26(金) 09:44 ID:1Nf1VncU
やばい。オチ(?)が見えちゃいますね。すいません。

124リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/03/26(金) 18:34 ID:1Nf1VncU
>面白伊出酢。派屋区津図樹我未田伊出酢。

おもしろいです。はやくつずきがみたいです。

いやはや、ありがとうございますw>GGGGDさん

125リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/03/27(土) 21:42 ID:1Nf1VncU
以前の行動 >>112から>>117まで

梅原ゆき(女子八番)は、森の奥深くに入ってしまっていた。そして、先ほどやってしまったことを、必死に思い出そうとしていたのだ。

だが、信じられなかった。本当に、自分が、千嶋和輝(男子九番)と、笹川加奈(女子十四番)を襲ったのだろうか?
嫉妬に任せて、とんでもないことをしてしまったと、思った。そのせいで、千嶋君は怪我をしたんだ。こんなはずじゃなかったのに―――
ゆきに後悔の気持ちが押し寄せていた。

私は少しの間、おかしくなっていたんだ。そう、ほんの少しの間―――

でも、もう正気を取り戻した。

ゆきはやっと顔をあげた。―――これからどうしようか。武器もないし、絶望的だ。
ゆきは考え、ふと思い出した。

この公園には、いくつかの小屋があるはずだった。そこには、カマや、包丁なんかがあるかもしれない。
でもそこだと遠すぎるかも。公園の外には数軒の民家があって、そこもエリアに入っていたはずだ。そこで武器を探すしかない。

ゆきは決心した。地図を確認しようとしたが、デイバックを置いてきてしまっていることに気づいた。
どうしよう、戻るしかないか。和輝達と鉢合わせするかもしれないのは嫌だったが、さすがにあれから三十分も経っているのだ。もう移動しているだろうと思った。ゆきは立ち上がって、元来た道を戻ろうとした。

ゆきは首をかしげた。頭の中に、何かが引っ掛かっているような気がした。何だろう?思い出すことが出来ないことなら、大したことではないのかもしれない。


ゆきは殆ど無意識のうちに時計を見た。八時五十四分だった。


頭から、血の気が、サーッとひいていった。やっと思い出した。

ここは、九時から禁止エリアに入る区域だった。




すぐさま踵を返した。何で今の今まで忘れていたのだろう。
ゆきは走り出した。もう何回も走っているので、すぐに脇腹が痛くなってきたが、走らなければ首輪が爆発するという恐怖心で、懸命に走った。

あと六分でエリアを抜けれるかな。私は森の奥まで入ってきてしまった。
急がなきゃ。今度こそ、本当に死んでしまう。


ゆきは夢中で走った。肩の傷のことも、蒸し暑さも、もう気にならなくなっていた。
つまずいたり、転びかけたり、足が痛くなっても走り続けた。


今の時刻は八時五十六分、あと四分!

必死で走りながらも、ゆきはやはり、千嶋和輝のことを考えていた。


最後に(もう最期になるかもしれない)嫌われたくなかった。
何で、私は笹川さんを攻撃しちゃったんだろう。
冷静に考えれば、二体一で、しかも銃と金槌では自分に勝ち目がないことくらい気づいたはずなのに。私は、千嶋君に余計な怪我をさせてしまった。

泣き出しそうになっていた。何もかも、最悪だ。それでも、死にたくなかった。


ゆきは走っていた。もうすぐだ。もうすぐ森を抜けれる。
ただ、森を抜けてもそこがJ=4を抜けているとは限らなかった。
ゆきの胸は、恐怖心でいっぱいになった。スピードをあげた。

限界に近づいていた。何度も時計を見た。五十九分を秒針が少し、上まわっていた。

あと一分!ゆきは疲れた体に鞭を打って、更にスピードを上げた。
もう止まってしまいたいと言う気持ちと、死にたくないと言う気持ちで滅茶苦茶だった。


周りの景色が変わった。木々がなくなり、黄緑色の草の上にきていた。
森を抜けたんだ。ゆきは思った。

それでも、走り続けた。時計の針が九時を回った時、ゆきはまだ走り続けていた。



必死で時計を確認した時には、九時と、四十秒を少し越えていた。
ゆきは倒れるように、その場にへたり込んだ。


生きてる―――息が切れて、苦しかった。
でも、もし諦めて止まっていたら、自分は今ごろ、首輪ごと首を吹っ飛ばされていただろうと考えて、心を落ちつかせようとした。

それに比べれば、これくらいのこと―――そう思いながらも、ゆきは、心臓が破裂してしまいそうな痛みに耐えていた。
【残り34人】

126リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/03/27(土) 22:15 ID:1Nf1VncU


姫城海貴(男子十六番)は、J=6を歩いていた。人は、いないようだった。でも、安心は出来ない。海貴は辺りを見回した。

あーあ、俺も、もうすぐ死ぬのかなあ。そのことを考えると、胸がちくりと痛んだ。
死にたくなかった。

海貴の人生は、今まで、割と順調に進んできた。植草葉月(女子六番)ほどではないが、家は結構な金持ちだったし、勉強も苦痛ではなかった。高校にも、推薦で受かった。気の合う友人もそれなりにいたし、伊藤愛希(女子四番)という、可愛い彼女もいた。

そんな海貴にとって、このゲームによる死の宣告は、耐え難い苦痛だった。
自分の運の悪さに愕然ときた。

もうすぐ、死ぬかもしれない。それは、明るかった世界が、全て真っ暗になってしまったようだった。

海貴は座り込んで、恐怖と戦っていた。頭をかかえた。何も喉に通らなかった。今まで友人だった人間や、もしかして、愛希とも戦うことになるかもしれない。
絶望していた。

海貴は顔を上げた。
今まで気づかなかったが、臭かった。生臭い。何だか鼻につく臭いだった。


立ち上がった。よくわからないが、確かめなければいけないという義務感に苛まれていた。いいものではないという予感がしたが、それでも、何かに引っ張られるかのように、臭いをたどった。


鼻が利かなくなってきた。海貴は鼻をこすった。ここじゃないのかもしれない。でも、どこから臭うのかもよくわからなくなっていた。

しばらく彷徨った。

もう諦めてしまおうかと考えた時に、遠くで、一人の女子生徒がいるのが見えた。
やめておいた方がいいと思いながらも、海貴は進んだ。



すらっとしていて、足が長い。つややかな黒髪に、一部分だけ、褪色した茶色い髪が覗いていた。女子生徒は、茫然と突っ立っていた。
だが、その女子生徒よりも海貴の目を釘付けにしたのは、座り込むようにして投げ出され、死んでいる、もう一人の女子生徒だった。


女子の制服に、パーマのかかった、長い髪。女子だと判断できたのはそこまでだった。
顔はぐちゃぐちゃに潰されていて、体がぐにゃりと曲がっていた。

似ていた。おそらく、海貴が今まで愛していた女に。
もしかして、愛希?


「嘘だろ!」海貴は思わず叫んだ。

127GGGGD:2004/03/29(月) 09:24 ID:e49G4Aw2
うp−!!

128リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/03/29(月) 16:22 ID:1Nf1VncU
女子生徒が振り向いた。目尻がきゅっと上がった特徴的なバンビ目に、これまた特徴的なオパール色の大きな瞳。彼女は、涙を流していた。


海貴は慌てた。少し怖くも感じたが、言った。「お前が殺したの?」

女生徒の目が見開かれ、それからすぐに不服そうな表情に変わった。
「失礼なこと言わないでよ。あたしは・・・通りがかっただけ」

海貴は吐き捨てるように言った。「わかるもんか」
もし相手がやる気になっているのなら、さっさと逃げた方がいいのだろう。しかし、反発心(?)が、それをためらわせていた。


冬峯雪燈(女子二十一番)は声を荒らげた。「何言ってんのよ!あたしが殺すわけないでしょ!あゆみは・・・友達だったのに」そう言って、また少し涙ぐんだ。


えっ―――

「・・・濱村?」海貴は死体をまじまじと見つめた。
よく見ると、髪の色や質感が、愛希とは全然違っていた。

愛希でなかったことに安堵したが、あゆみに失礼だと思い、そんな自分を反省した。


「誰が、こんなに惨いこと・・・」
海貴は沈痛な思いで二人を見ながら、雪燈の涙を初めて見たことを意外に思った。ちょっと可愛いなと思って、そんな自分をまた反省した。


海貴は言った。「元気出せよ」
「うるさいよ。疑ってたくせに」
 ムカッ。海貴はむきになって言った。「だって目の前に死体があって、すぐ傍に人がいたら疑うのも当たり前だろ」
「何でよ。あたしの武器は銃だもん。それに、あたしはこんな酷いことしないし!」
「そう?俺は冬峯ならやりかねないと思ったけど」
「何だとこら!」

その後、二十分間口喧嘩をして、二人は疲れて座り込んだ。


雪燈が言った。「てゆーかさ、話すの久しぶりだよね」
「・・・そうだね」海貴はくぐもりながら言った。
 雪燈はまた、不服そうな表情をした。
「何よ、人がせっかく友好的な態度で接してあげてるのに」
「別にそんなんいらねーよ、バーカ」
「あんた小学生?馬鹿はそっちだっつの!」

それから二十分間言い争って、二人はまた疲れた。


海貴は言った。「・・・とりあえず、ここは人がくるかもしれないから、移動しない?」
「はあ?何であたしがあんたなんかと一緒に行動しなきゃいけないんだよ」
「そんなこと一言も言ってねーだろ。ただ人のこない場所で、決着つけようって言ってるだけだよ!」
「いらねーよそんなもん!馬鹿かお前」
「あんだとこら!」

それから二十分言い争って、二人は今度こそ疲れて、黙り込んだ。

129リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/03/29(月) 16:33 ID:1Nf1VncU
雪燈が呟いた。「あゆみ、誰にやられたんだろ。酷い、あんなの。酷すぎるよ・・・」
確かに、酷かった。どれだけ殴られたのだろうか。その瞬間、あゆみがどれだけ痛かったのかとか、辛かったのか、想像も出来なかったし・・・したくもなかった。

「そもそも、何でこんなことになったんだろうな。まだ生きたかったのに」海貴は呟いた。
「・・・天罰かな」雪燈は呟いたが、海貴にはよく聞こえなかった。

「ん、何か言った?」
「・・・何でもない。そんなことより、あんたいつまでここにいんだよ」

何でこいつは、こんなに喧嘩腰なんだ。確かに疑ったのは悪かったかもしれないけど、あの状況じゃ仕方ないだろ。海貴はそう思った。
「・・・別に、俺がどこにいようと俺の勝手だろ」
「勝手じゃないよ。邪魔なの。あっち行って」
「お前に指図される覚えなんてないんだよ」
雪燈は海貴を睨んだ。「何よ。じゃああたしが行くからいいよ」
最初からそうしろよ。

海貴は思った。でも、俺もここにいる理由なんてないんだよな。むしろ、すぐ傍に死体がある場所で過ごすのは、怖いかも。


ふと、海貴は立ち上がって、あゆみの死体に歩み寄った。少し気味が悪かった(失礼かもしれないが)が、すぐ近くに置いてあったデイバックを開けた。

「あっ、ちょっと何すんのよ!」後ろで雪燈が怒鳴った。
雪燈はデイバックの上に、遮るように乗っかって言った。「やめてよ。何する気?」
「武器もらおうと思って」
 雪燈は、はあ?と言った。「何であんたにあげなきゃいけないのよ」
「いいじゃん。もう・・・使わないだろ」
「駄目!あんたにあげるくらいなら・・・あたしがもらうから!」
何だよそれ。「早い者勝ちなんだよ!」
「やーだー!」

五分間デイバックを引っ張りあって、とりあえず開けてみようということになった。


雪燈は言った。「いい?どんな武器でも出たらまずじゃんけん。勝った方が武器をもらえる。絶対に負けた方に攻撃しない。約束してよ」
「うん。わかった」
雪燈は少し笑った。デイバックのジッパーに手をかけた。デイバックを開け、中から武器らしきものを探した。

「・・・なくない?」
「ないね」
デイバックの隅から隅まで探したつもりだった。しかし、武器らしきものはなかった。

「何でないのー」雪燈は唇を尖らせて、あゆみの死体を見て言った。
「あゆみ・・・武器、持ってかれちゃったのかな」
「そうかもね」
骨折り損のくたびれもうけだった。
海貴は立ち上がって、この場所から立ち去ろうとしていた。

130リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/03/29(月) 16:37 ID:1Nf1VncU
「待って!どこ行くの?」雪燈が言った。
「お前ここにいたいんだろ。いろよ」
雪燈は言葉をつまらせた。「・・・そうだよ。ただ、武器ってこれじゃないかと思って」
「へ?」海貴は雪燈の元に戻ってきた。
「・・・これか」
雪燈が手にしていたのは、軟膏だった。


何だか腹が立った。銃で撃たれたり、刃物で刺された傷が、こんなもんでそう簡単に治るわけねーだろ。自然治癒するまでに何日かかるんだよ。ふざけやがって。

しかし、雪燈は言った。「・・・これ、あたしがもらってもいい?」
「ああ?いいよ、そんなもん」
「やった!」雪燈はなぜか嬉しそうだった。
よくわかんない女。


とりあえず、ここから立ち去ろうと思った。何の収穫もなかった。ただ、厳しい現実を見せつけられただけだった。

「待って、姫城」雪燈に呼び止められた。
「何?」もうここを離れたいんだけど。

雪燈は少し上目遣いになって、言った。「ありがと、譲ってくれて」

海貴は何だかくすぐったく感じた。やっぱり、よくわからない女だった。

そうして立ち去ろうとした海貴だったが、その思考は、唐突なベルの音にかき消された。



自転車の全く似合わない男が、自転車のベルをかき鳴らしてやってきた。



「な、何?」雪燈は海貴の袖を掴んだ。
「・・・離せよ。逃げらんないだろ」
「何で逃げんのよ。戦えよ!」
「銃持ってんだからお前が戦え。俺の武器はな・・・」
男がだんだん近づいてきた。


「ハズレ武器なんだよ!」海貴は雪燈を振り払って、逃げ出した。


「待ってよ!」雪燈が追いかけてきた。
「酷い!女の子を置き去りにするなんて!」

何とでも言え。今はそれどころではなかった。

131リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/01(木) 20:44 ID:1Nf1VncU
 塩沢智樹(男子四番)は、不敵な笑みを浮かべながら、海貴と雪燈のあとを追いかけてきていた。手にはオノを持っていた。

「アヒャヒャヒャヒャ・・・待てよ!アッヒャヒャヒャ・・・」
やばい。完全におかしくなってる。元々おかしい奴だったけど。


「何でついてくるんだよ!」
「道がわかんないんだもん!とりあえず、今はそれどころじゃないでしょ!」
「確かに。あれから逃げなきゃ・・・」
しかし、自転車と走りでは、圧倒的に不利だった。


砂利道で、雪燈は大きな石につまずいて、頭から転んだ。
うわ・・・痛そー。海貴はチラッと見て思った。

海貴が歩み寄ろうとする前に、塩沢が、自転車に乗ったまま雪燈に突っ込んできた。

海貴はその光景を、あっけにとられて見ていた。雪燈の悲鳴が聞こえた。怪我をしたらしく、体中に痣ができていた。


塩沢は自転車から降りると、雪燈の髪を引っ張って起こさせた。

「痛い!離してよ!」

塩沢は雪燈の耳元に顔を近づけて、言った。
「雪燈ちゃん。一体いつヤラせてくれるのー?オレずっと待ってたんだけど」
「やめて!誰があんたなんかと・・・」

塩沢の表情が変わった。「アイツとはヤッたの?何でオレじゃ駄目なの?教えてよ・・・」
そう言って、雪燈の制服のスカートをたくし上げようとした。

そして海貴に言った。
「命が惜しければ行けよ。オレは雪燈ちゃんと二人で・・・話がしたいからさー」
更に続けた。「とりあえず、たっぷり楽しんでから・・・それからどうなるかはわかんないけどねー」


雪燈は言った。「何で姫城だけ逃がすのよ。ずるい!」何だそれ。
「そっか。雪燈ちゃんは、アイツ殺してほしい?雪燈ちゃんが言うなら殺したげるよ」


・・・まずい。海貴は逃げようとして、踵を返した。


雪燈が声をあげた。
「待ってよ!一人で逃げるなんて最低!ヘタレ!鬼畜!人間のクズ!」
「雪燈ちゃーん。たーっぷり可愛がってあげるからさー」
「触んないでよ!こら、助けろー!・・・姫城のバカー!」



雪燈の声が遠くで響いた。海貴は逃げ出していた。

思った。ちょっと可哀相だけど、まあ仕方ないだろ。これは、そういうゲームなんだし。悪いな、冬峯。

海貴はふうっとため息をついた。百メートルほど、離れたのだろうか。海貴は振り返った。二人はもう見えなかった。


心にモヤモヤとしたものがあった。多分、冬峯は、強姦されて・・・殺されるんだろう。不憫だけど、仕方ない。

―――仕方ない?本当に?何度も同じ問いが頭の中を回った。


海貴はその場に座った。俺だって死にたくないんだ。まだ十七だし、人生はこれからなんだよ。戻って、塩沢に勝てるわけがない。こんな武器で―――

海貴はふと、デイバックを見つめた。
ありがと、譲ってくれて。そう言った時の、雪燈の顔が浮かんだ。

海貴は頭をかかえた。仕方ない・・・俺は死にたくないんだ。でも・・・

「仕方ない―――わけないだろ」海貴は呟いた。立ち上がって、デイバックを掴んだ。

132リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/01(木) 21:16 ID:1Nf1VncU
冬峯雪燈は泣き叫んでいた。「やだってば!離して!」
塩沢は上に乗っかって、無理やり雪燈の制服を脱がそうとしていた。
「大人しくしないと、頭が割れるよー」そう言って、オノに手をかけた。
雪燈は喉をしゃくりあげて、ブラウスを両手で押さえていた。

うるさい女だ。遠くからでも、どこにいるのかすぐにわかった。



「ゆーきみねっ」海貴は間の抜けた声を出した。二人は海貴を見た。「助けにきたよー」


雪燈は悲痛な声を上げた。「おっせーんだよバカ!早く助けてよ!」
・・・可愛くねーな。
海貴はゆっくりと言った。「やっぱ、やめようかなあ・・・」
「やっ。お願いだから、助けて!」雪燈の目には、涙がたまっていた。

海貴は塩沢に向き直って、機械的に言った。
「とゆーことで、僕は冬峯さんが好きなんです。彼女を返してください」

「ざけんなよ!てめー逃げたじゃねーか!冬峯はオレがもらうんだよ。大体にして、あんな可愛い彼女がいるのに・・・女一人占めしてんじゃねーよ!」

海貴は思った。別に、一人占めなんかしてないけど。
―――愛希は、俺のことなんか見てくれてないだろうし。

海貴は少し笑みを浮かべて、言った。「じゃあ仕方ないなあ。三人で心中しようか」

「なっ、何言ってんの、姫城・・・」雪燈が怯えた声を出した。


 海貴は手榴弾を、高々と二人に向けて示した。


「やっ、やめろ!コルクを抜くな!」
「冬峯・・・あの世では一緒にいようね」海貴は少し悲しそうに言った。
「ちょっとやめてよ・・・そんな助けられ方・・・嬉しくない」雪燈は消え入りそうな声で、呟いた。

 海貴はコルクを抜く仕草をした。



「うわあああああああ!」
 塩沢は雪燈を振り払って、一目散で逃げていった。


海貴は自転車を引っ張り、雪燈の手を掴んだ。
「やだー!離してよ、姫城のバカー!」雪燈は海貴の手を必死で振り払おうとした。

「バカ、おもちゃだよ」
「へ?」雪燈は海貴を見た。
「コルクを抜いてから十秒で音と煙が出るんだって。まだ抜いてないけど」
「・・・本当に?」
 海貴は頷いた。

自転車にまたがり、雪燈には、後部席に乗るように言った。
塩沢の逃げていった方向とは別方向に、自転車を発車した。



二人は、J=7にやってきた。薄暗く、誰もいない。

海貴は自転車を降りて、その場に腰を下ろした。


雪燈が言った。「でも、ハズレ武器じゃなかったよね」
「バカ。ばれたら何の役にも立たない武器だろ」
「ばれなかったじゃん・・・」雪燈は不満そうな顔をした。

しかし、海貴のすぐ近くに寄ってきて、言った。「でも、助けてくれてありがとう」
海貴は雪燈を見た。涙ぐんでいた。
「すっごい、怖かったんだからね・・・」雪燈は泣き出した。


「・・・]ほんの少しだけ、こいつ、可愛いかもしれない、と思っていた。
【残り34人】

133リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/01(木) 22:26 ID:1Nf1VncU
内容が微妙に恥ずかしいのでsageで書きました。

134リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/02(金) 22:34 ID:1Nf1VncU
 千嶋和輝(男子九番)は、辺りを見回した。よかった。幸い誰もいないらしかった。
息をつくと、左腕を上げてみた。まだじんわりとした痛みがあった。でもまあ、何とかなるだろう。

和輝は、笹川加奈(女子十四番)と一緒に、I=5にきていた。ここは、近くに小さな池があった。
周りは草むらだったが、向こう側に殆ど壊れかけの、ふるぼけた家があった。あそこまで行ってみるか。和輝は加奈にそう提案した。加奈も頷いてくれた。


加奈がぽつりと言った。「梅原さん、何で私を狙ったのかなー・・・」

そうだ、梅原は明らかに、加奈に攻撃をしかけているように見えた。何かあったのかな。
「さあ、本人に訊いてみないとわかんないな。倒せそうな方を狙ったとかじゃないの?」
「そうかな・・・」
加奈が曇った顔で呟くので、和輝は、梅原ゆき(女子八番)のことを、思い出してみた。

まあ、ごくごく普通の女子だったような気がする。あまり、クラスに打ち解けられないみたいだった。
以前世話になったこともあるし、出席番号が近いので時々話すことがあった。

少し、小笠原あかり(女子十番)と似ている子だった。

そこまで考えたところで、和輝はふと思い出した。
「そうだ、梅原が入ってったところって、禁止エリアじゃないのか?」
和輝が言った言葉に、加奈も驚いたように、目を開いた。

ゆきが入っていった森は、その前に、和輝達がいた場所だった。
そして、九時をとうにすぎた今、そこはとっくに禁止エリアになっていた。

和輝は後悔した。何で、思い出さなかったのだろうか。いくら自分達を襲ったからだと言って、見殺しにはしたくなかった。田辺卓郎(男子八番)のように。


「でも、もしかして移動してるかもしれないよー?」加奈が言った。
そうだよな。梅原だって放送は聞いていただろうし。
でももし自殺するつもりだったとすれば―――

考え込んでいる和輝を見て、加奈は笑顔で言った。「大丈夫だよ。あんな大音量で流れてたのに、放送を聞き流す人なんていないって」
「・・・そうだよな。大丈夫だよな」和輝はうわ言のように呟いた。


加奈は和輝の顔を覗き込んだ。「そんなに、心配?」
「いや、やっぱ見殺しにするのは・・・」
和輝の言葉を遮って言った。「優しいんだね。でもね、そういうの―――」加奈は少し、息をついて、続けた。「お人よしっていうんだよ」

和輝は驚いた。そう言ってのける加奈の顔は、今までに見たことのない顔だった。遠い目をした、大人の顔。
和輝は、急に自分だけが置いてけぼりにされたような気がした。


そして、思った。笹川の言うこともわかる。でも、もしかして、梅原にも理由があったのかもしれない。なら、見殺しにするのは酷すぎるんじゃないか。
しかしそれを言おうとして、また、ある考えが浮かんだ。

・・・俺って結局甘いんだよな。遠慮なく殺すなんて言っといて、何も出来なかった。笹川を守るなんて偉そうに言ってたけど、全然、出来てなかった。


「やだ!そんなに考え込まないでよ!」加奈は言った。
「俺、甘すぎるかな」和輝は少し不安になって、訊いた。言った直後、少し後悔した。

だが、加奈はニッコリと笑って答えた。「大丈夫だよ。そこが・・・和輝のいいとこなんじゃないかな。少なくとも信用できるもん」
「・・・そっか」

嬉しかったのだが、その分、何となく不甲斐ない気持ちがした。今度こそは、しっかりしなきゃな。和輝はそう思い直すと、右手に握っていた銃を、もう一度握り直した。
【残り34人】

135:2004/04/03(土) 19:25 ID:CXH0EDmY
面白いです!
ガンバッテ!

136リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/03(土) 23:20 ID:1Nf1VncU
 伊藤愛希(女子四番)は、大きな岩の上に座って鏡を見ていた。なぜこんなところに岩があるのかはわからなかったが(ここはエリアE=8に当たる)、休憩するのには、ちょうどいい場所だった。
周りは木が生い茂っていて、他の場所よりも涼しかった。我ながらいい場所見つけたもんだわ。さすがあたし。愛希はフッと笑んだ。

愛希は、自分の、まるでガラス玉のような茶色い瞳を覗き込みながら、化粧直しをしていた。
化粧と言っても、天野夕海(女子一番)や、望月さくら(女子二十番)のような、塗ればいいと思っているかのようなメイクは嫌いだった。

あんなに目の周りを黒くしなくたってあたしの目は十分大きいし、大体あそこまで化粧を濃くしなくたって、あたしは十分可愛いもんね。愛希はそう思っていた。

これだけ自画自賛するだけのことはある。確かに、愛希の美しさは並大抵ではなかった。色白の肌に(内博美には叶わなかったが)、小さく引き締まった顔、大きな愛らしい目に、ふくよかで形のいい唇。まさに、完璧に近い容姿を持っていたのだ。


愛希はあくびをした。退屈だった。あーあ、何であたしが、こんなくだらないゲームに参加しなきゃいけないのよ。

不満そうな顔をしてみた(形のいい目を、少し歪ませた。そんな顔をしても、自分は美しかった)。あっ、美人薄命ってこういうことか。

少なくともあたしは、そこらにいる安いアイドルよりはずっと可愛いし、街に出ると、皆、あたしを見る。
まあ、ナンパしてくるようなくだらない男とは付き合わないけどね。愛希はそう思って、皮肉な笑みを浮かべた。

自分の容姿には、絶対的な自信があった。しかし、愛希は可愛くて、性格もいい子を装っていたので、決して口には出せなかったが。

137リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/03(土) 23:22 ID:1Nf1VncU
 なおも自分の顔を覗き込みながら思った。

でも、こんなゲームに参加させられてる以上は、いつ誰に殺されるかわかったモンじゃない。

―――殺される。その単語を思い浮かべると、自分の背中を、ヒヤリとしたものが走った気がした。愛希は少しの間、考え込んだ。

・・・仲間を探した方がいいかもしれない。勿論、愛希のいう仲間とは、自分と同等の存在ではなかった。盾になってくれる人。そういう意味だった。

さすがにあたしだけじゃ、誰かに襲われた時に戦って勝てる見込みは少ない。誰か強そうな男を(女でもいいが)仲間にして、ピンチの時は助けてもらう。そして、なるべく自分が戦闘に参加するようなことはないようにする。まあ、残り二人になったら消えてもらうけどね。
そんな自分勝手な理由で、愛希は仲間を探すことに決めた。



栗色の髪の毛を梳かしながら、思った。
女子だったら・・・。
友人の新井美保(女子二番)や、紺野朋香(女子十三番)だろう。二人ともいつもあたしの引き立て役で可哀想だけど、弾よけにはなるわね。

男ならいくらでもいるか。あたしに仲間になろうって言われて、断る馬鹿はいないだろうし。


愛希は容姿の愛らしさの中に、冷めた心を隠していた。恋人の姫城海貴(男子十六番)も、他に付き合っていた男も、愛しているわけではなく、ただの自分の退屈を紛らわせてくれる玩具でしかなかった。

海貴は、告白されて、まあいい男だったから付き合ってあげてるだけだし、他の男も、金持ちだったり頭がよかったりしたから、遊んでやっているだけだ。

愛希にとっては、友達も恋人もそれだけの存在でしかなかった。


ただ、やはり今は海貴に会いたかった。誰でもいいけど、一緒に行動するのなら、彼氏が一番信用できるだろう。それに、海貴が自分を裏切るとは思えなかった。

あいつ、今ごろ何やってんのかな。探すなら早くきなさいよ。そう思いながら、愛希は鏡をしまおうとした。

138リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/03(土) 23:24 ID:1Nf1VncU
「・・・伊藤?」

唐突に声が聞こえたので、愛希はバッと振り向いた。愛希の後ろには、雑木林が広がっていて、その風景の一部のように、荒瀬達也(男子一番)がいた。

「わ。ビックリした。凄い反応いいんだもん・・・」達也は苦笑していた。
何よこいつ。愛希は一瞬怪訝な表情になって、達也の様子を伺った。


「荒瀬くん、どうかしたの?」愛希は優しく言った。
達也は答えた。「いや、後ろ姿だけじゃ誰だかわからなくってさ。多分伊藤かなーっと思ったんだけど」
「へー・・・」


愛希は達也を観察した。敵意のようなものは、感じられなかった。
やや童顔の、優男。達也はそんなイメージだった。

ちょっと頼りなさげだけど、すぐに襲わないなら、今のところ、そこまで危険な人物ではないだろう。
愛希は思った。完全に信用したわけじゃないけど、海貴を探すのは大変だし、こいつを仲間にしようか。

愛希は訊いた。「荒瀬くんは、ここで何してたの?」
「いや、別に。たまたま通りかかっただけだよ」
「そうなんだー」ま、どーでもいいけど。

達也はしばらく間を空けて、愛希に向き合って言った。「あのさ、やっぱりこのゲームの中じゃ、仲間を作るべきだと考えるわけだよ・・・おれは」

「で、さー・・・」何だよ。


達也は手を合わせて、言った。「おれの仲間になってもらえないかなーって」


一瞬の間を空けて、愛希は答えた。「・・・いいよ」
「本当に?」達也は心から驚いた様子だった。
「うん」

「やった。頑張るから。よろしく」そう言って、愛希に笑顔を向けた。


「よかった。あたし、一人じゃ怖かったの。いつか殺されるんじゃないかって、そればっかで、不安で―――」伏し目がちにして、涙を浮かべた。
「そっかー。その気持ちは、おれも一緒だよ」
・・・おい。一緒じゃ困るのよ。

達也は、何かを察したように言った。「でも、本当におれでいいの?見ての通り、頼りないし、伊藤を守れる自信とか、ないけど・・・」


何言ってんだよ。あたしの代わりに他の生徒と戦いなさいよ。当たり前のことでしょ?愛希はそう思ったが、当然口には出さなかった。


「でも・・・頑張るよ」
「無理しなくてもいいよ。一緒にいてくれる人がいて、それだけで嬉しい」
達也は照れたように頭をかいた。「ありがとう。嘘でも、嬉しいよ」
愛希はにっこりと笑んだ。


でも、嘘でもって、何か引っかかる言い方よね。この、顔も性格も特A級の愛希ちゃんが、嘘つくわけないでしょ。まあ、嘘だけど。


取り敢えず、仲間(?)が出来たのはよかったが、本当にこいつでいいのか、少々不安になっていた。
強そうな男子がいたら、さっさと寝返ろうッと。愛希は、そう決意していた。


ふと、あることに気がついた。出来れば、こいつには銃を持っていて欲しい。雑魚武器だったら、本当に弾よけにしかならないじゃない。
訊いた。「ところで、荒瀬くんの武器は何なの?」

「おれ?おれの武器はこれだよ」達也は、デイバックからグロック19を取り出して、愛希に見せた。

おっしゃー!愛希は心の中でガッツポーズをした。
やっぱり、運はあたしの味方なのね。愛希はほくそえんだ。


「よかった、あたしは、ただのナイフだもん」
愛希は手にしていた両刀ナイフを達也に見せた。
達也は言った。「でも、それでも十分人は殺せるよ」
「そうかな。ふふふふ・・・」
「ははははは・・・」


愛希は笑顔の奥で、ある考えを浮かべていた。そう、誰もいなくなったら、あんたで切れ味を試してあげる。そして、あたしが優勝。
完璧なプランね。やっぱ、あたしってサイコー。


「でも、やっぱり無理だよ。あたしなんか・・・」
「何で?」
「だって、人殺しなんて、絶対無理だよ。出来ないよ」

愛希の言ったことは演技に近かったのだが、確かに、自分の手を汚すのは嫌だった。あたしの手が血に汚れるなんて耐えられない。そんなもの、他の雑魚どもに任せておけばいい。

愛らしい顔に冷ややかな笑みを浮かべながら、愛希はそう思っていた。愛希にとって可愛いものは、おそらく自分でしかなかったのだろう。

「大丈夫だよ。おれが・・・殺しなんて、させないから」達也は恥ずかしそうに言った。「いや、何かかっこつけてみた。はは・・・」
「ありがとう」愛希は笑んで、言った。
「いや・・・無理かもしれないけど」

・・・それじゃ困るんだよ。やはり、少し不安を感じた。


陽はてっぺんまで登り、周りの空気が暑くなってきた。その時の愛希にとって、一番怖かったことは、自分の美しい肌が、日に焼けること、に違いなかった。
【残り34人】

139リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/03(土) 23:25 ID:1Nf1VncU
いつも読んでくれてありがとうございます。励みになります。>瞳さん

本文がどうしようもなく長い・・・

140GGGGD:2004/04/04(日) 21:11 ID:e49G4Aw2
ふー。。。お浸しぶりにみました。

いろいろ忙しくて;;

頑張ってクダサイ!!

揚げ。

141リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/06(火) 23:20 ID:1Nf1VncU
 梅原ゆき(女子八番)は、I=4の森で座り込んだまま、立つことが出来なかった。あれから三十分も立つのに、胸の動悸は抑えられず、息使いは荒いままだった。
・・・どうしたんだろ。普段なら、これくらいもう回復してるはずなのに。

ゆきの体からはじっとりと汗が流れ出し、焼けるような暑さが皮膚を焦がしていた。

ここは日差しが強すぎる。移動しなきゃ。

ゆきは疲れた体に鞭を打って、もう一度立ち上がろうとしていた。
喉が渇いてたまらなかった。水が飲みたい、水・・・

ぼんやりとした頭で考えた。もう、千嶋和輝(男子九番)達はいないだろう。私は、あの二人を襲った時にデイバックを忘れてきた。そこへ戻れば、デイバックがあるはず。
それで、デイバックの中には、水がある!


ゆきは足を速めていた。頭がボーっとし、汗がだらだらと流れた。


ゆきは敗血症を起こしかけていた。新島敏紀(男子十四番)に撃たれた時の傷は、消毒もせずに、ハンカチを巻いただけだった。

傷口から流れる血は赤黒く固まり始め、腕全体を彩っていた。

だが、今のゆきにとっては、撃たれたことはずっと昔に起こったことで、大した問題ではなかった。
ただ・・・水が飲みたい。それだけのために、歩いていた。



ゆきは自分がかつていた場所に戻り、デイバックを探していた。

あれ?ここの辺りに置いたはずなのに。もしかして、誰かに持っていかれたのかな。ゆきはそう考えて、ぞっとした。

そんな。他の物は持ってってもいいから水だけは返してよ。必死で探した。しかし、デイバックは見つからなかった。

ハッ、ハッと、短い息づかいが、ゆきの口から漏れた。完全に水分がなくなってしまったのかと思えるほど、喉は渇いていた。
もう、限界。

ゆきがそう思った時、ガサッと草むらから音がした。


誰?ゆきはビクッとして、音がした方を見た。

142リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/06(火) 23:26 ID:1Nf1VncU
以前の行動書き忘れました;>>125

 そこには、背が高く、顔が端正に整った男がいた。
田阪健臣(男子七番)は、ゆきの存在を認めると、近付いてきた。


ゆきは少し警戒した。逃げるべきか、でも、もしこいつに敵意がなかったら―――
ゆきは、深く考えることが出来なくなっていた。

健臣は、ゆきをジッと見ていた。形のいい大きめの冷たい瞳に見つめられ、ゆきは少したじろいだ。

でも、もう逃げるのも面倒くさかった。疲労は限界に達していた。
ゆきは思った。もし、こいつが銃を持っていたら、すぐに私を撃ってるよね。敵意はない。そう判断した。極度の疲労と暑さは、ゆきの思考能力をも奪っていた。


健臣は、ゆきの一メートルほど近くにきた。そしてゆきをチラッと見ると、訊いた。「何してんの?こんなとこで」

ゆきは健臣の意図が掴めないまま、言った。「私の・・・私のデイバックを探してるの」
その瞬間、思った。もう、デイバックは見つからないかもしれない。水をもらえないか、頼んでみようかな。一か八かだ。


健臣は少し眉を持ち上げた。「デイバックって、これ?」背中に背負っていたデイバックのうち、一つを下ろした。

「あっ、何で持ってるの?」ゆきは駆け寄って、デイバックの中身を探った。
水がない。

「ごめん、捨ててあんのかと思って。でもここだと危ないから、とりあえず持っていこうかなーと思って持ってきた」
「大した物は入ってなかったでしょ?水返して」
言い方がきついかなと少し思ったが、水が欲しくてそれどころではなかった。

健臣はデイバックの中から口の開いてない水を取り出して、ゆきの方に向かって投げた。


ゆきは犬のように飛びついて、夢中で封を切った。礼を言うのも忘れ、水を飲んだ。

おいしかった。世界で一番おいしい水だと思った。どれだけ飲んでも、まだ足りなかった。

水を返してくれた健臣が(元々ゆきの物なのだが)、神のように見えた。ああ、なんていい人なんだろ。今まで気づかなかった。ごめんなさい。

健臣はクラスでナンバーワンの美形だったにもかかわらず、特別興味がなかった(だって私は千嶋君一筋だし)。でも、見直した。私、田阪君に乗り換えちゃうかもしれない。だって、こんなおいしい水をくれるんだもん。


夢中で水を飲み続けるゆきを、健臣は黙って見つめていた。
健臣の様子がいつもと違うことには、ゆきは全く気づかなかったのだろう。


半分ほど飲み終わった時、ようやくゆきは口を離した。
本当はもっと飲みたかったが、これ以上飲むのはまずいと考えた。

ゆきは健臣の方を見て、「ありがとう」と言った。
「いいよ。ってか、梅原さんのだなんて知らなくて、ごめん」健臣は口元だけで笑った。
ゆきは、少しドキドキした。

思った。田阪君の彼女になる人は幸せだな。かっこいいし、優しいし。まあ、千嶋君も優しかったけど、私はもう嫌われちゃったからな。

和輝のことを思いだして、また胸を痛めた。でも、もう仕方ないか。このゲームの中では、好きだの嫌いだのという感情は、無意味なのかもしれない。


健臣はゆきの様子を伺いながら、訊いた。「その肩の傷、どうしたの」

ゆきはハッとした。そうだ、新島が田阪君に会ったら、また問答無用で撃つかもしれない。そんなの、許せない。

ゆきは答えた。「新島だよ。完全にゲームに乗ってるみたいだから気を付けて」
健臣は少し考えた後、「わかった」と頷いた。

健臣は訊いた。「水、うまかった?」
「うん。まだ飲み足りないけどね」
「そっか、よかったじゃん」

ゆきは緊張しながら、健臣と話していた。健臣と二人きりで話すのは初めてだし、間近で見ても格好いいので、どうしても戸惑ってしまう。
それでも、ゆきは幸せだった。ほんの少しの間だったが。


健臣は少し間を空けて、言った。「でも、梅原さん、災難だったよな」
「そうだよね。まさか新島に会うなんて。その後禁止エリアに引っ掛かりそうになったし」

ああ、また喉が渇いてきた。ゆきは、ペットボトルの蓋を開けようとした。

「そっか、でも一番の災難は―――」

手を止めた。ゆきの視線は、健臣の手元に釘付けになっていた。


健臣は、銃口をまっすぐにゆきに向け、続けた。「俺に会ったことかもな」
【残り34人】

143リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/10(土) 10:28 ID:1Nf1VncU
以前の行動>>100から>>105まで

 中西諒(男子十番)は、新井美保(女子二番)の顔を見て、驚いていた。

「ほんとに、大島を一緒に捜してくれんの?」
「うん。ホントだよ」
諒は仲田亘祐(男子十一番)に言った。「お前、何かしたんじゃねーだろな・・・」
亘祐は叫んだ。「何もしてねーよ、アホか!」
「ならいいけど・・・」諒は美保を見た。
美保が笑みを含んだ目元で見つめ返してきたので、少しドキッとした。


諒は訊いた。「・・・でも、何で協力してくれる気になったの」
「仲間が欲しいナーって思ってて。中西君も仲田君も強そうだし、一緒にいれば、しばらくは安全でしょ?」
「怖くなかったの?こいつとか」
亘祐を指差した。お前だって十分こえーくせに。心外だった。

「そりゃあ、ちょっとは怖かったけど。人は見かけによらないって言うし」
亘祐は遮るように言った。「そうだよ!もういいじゃん。ぐだぐだ言ってんじゃねーよ!オレはまた捜しに行かなきゃなんねーんだから忙しいんだよ!」
「・・・まあ、いいけど」

諒は言った。「仲田と一緒に大島を探しに行ってくれる?そんで、午後からはおれと。・・・大変かな」
美保はにこっと笑って答えた。「大丈夫だよ、体力には自信あるし」

「行くぞ、新井」亘祐は言った。そして、諒に指を差した。「るすばん頼む」
美保は立ち上がると、諒に言った。「じゃあね」
「・・・ああ。気をつけて」

そして、二人は出ていった。



美保が口を開いた。「なーんか、納得いかないみたいじゃなかった?私が一緒にいるの、嫌なのかな」
「ああ?心配ねーよ。男だけより女がいる方がいいに決まってんだろ」
「そっか、そうだといいけど・・・」美保は小屋を振り返って、小声で言った。

何だ、こいつ、諒に気があるのか。
腹が立った、というか、少し妬ましかった。全く、女ってのはどいつもこいつも。

「だったら午後に訊いてみな。きっと否定してくれるぜ」それから、更に続けた。「そんで誘ってみれば?ヤッてくれるかもよ」

「もー。そんなんじゃないってば!」美保は少し怒ったように言った。

しかし、それからすぐに笑顔になって、言った。「私、あとで中西君にゲームに乗らないかって相談してみるね」

亘祐は答えた。「あー?あいつが乗るかなあ。あー見えても優しいから・・・」皮肉をこめて言っていた。「乗らねーんじゃねーかなあ!」
「それじゃ困るんだよね」美保はフッと笑んだ。更に続けた。「少しでも人数を減らさなきゃ。中西君がいれば、楽勝でしょ?」
「・・・まあな」
亘祐は思った。こいつ、虫も殺さないような顔して、結構言うな。

144リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/10(土) 10:47 ID:1Nf1VncU
 ここは、エリアG=5だった。二人は、川を渡ってちょうど中央の方角にきていた。
誰もいないようだった。

「いないねー」美保が言った。
「ああ・・・ってか、疲れたんだけど。休まない?」
亘祐の発言に、美保は諭すように言った。「駄目だよー。一人でも殺して帰らなきゃ」

「・・・そのうちくるって。休もうぜ」そう言うなり腰を下ろした。
美保はあっ、と声をあげて、亘祐の手を引っ張った。びくともしなかった。
そりゃそうだ。こんな細い手で、オレの力に勝てるわけない。

「もー。勝手なんだからー」美保は仕方がなさそうに、亘祐の近くに腰を下ろした。


二人は何も話さずに、しばらくそうしていた。


涼しい木陰。穏やかな風。よく晴れた夏の日。

亘祐は、何だか心地よい錯覚に苛まれた。彼女と旅行にきて、一緒に別荘で涼んでいる。これが、クラスメイト同士の殺し合いゲームの最中で、二人はゲームに乗った共犯者だということすら、全くの嘘のような気がした。



美保はファンデーションを塗り直していた。亘祐の視線に気づくと、「見ないでよ」と、少し恥ずかしそうに言った。

亘祐は訊いた。「何で女ってそんなもん塗りたがるの」
「少しでも肌を綺麗に見せたい、からじゃない?」
「オレのおふくろもよく塗ってるけど、塗りすぎて白くなってんだわ。あんなのちっとも綺麗じゃねーよ」亘祐の発言に、美保はクスッと笑った。
「それでも若く見せたいんだよ。そういうモンなの」
「へー」
むしろ老けて見えるんだけどな。今度(いつなのかは未定だが)注意しとこうっと。亘祐は呑気に、そんなことを考えた。


亘祐は、ふと訊いてみた。「お前さー、ゲームに乗るとか言ってっけど、もし残りが二人になったら、どうすんの?その前に、オレのことも殺すつもり?」
不安はあった。美保の思惑がわからない以上、手放しで信用することは出来ない。安心して、背を向けることも出来なかった。

美保は言った。「そうだったら、どうするの?」

亘祐は黙った。組むとは言ったが、何せどっちもゲームに乗っている立場なのだ。いつ殺しあってもおかしくない。そんな状況だった。
亘祐は言った。「今、ここで殺す」
美保の目が、少し見開かれた。「待ってよ。たとえそうだったとしたら、仲田君は私に気をつければいいじゃない。それに、反対のことだって言えるんだよ?」
「は?」意味がわからなかった。
「だーかーらー、仲田君が、いつ気が変わって私を殺しても、おかしくないってこと。そうしたら、どう考えたって私の方が不利だよね?力じゃ絶対に勝てないし」
「まあな」
美保は笑みを浮かべた。「私が、どうしてそんな危ない道を渡ってるか、わかる?」

諒のことが好きだから?一瞬そんな考えが浮かんで、すぐに打ち消した。
「わかんねえ」
美保は言った。「仲田君のこと、仲間だと思ってるからだよ」


美保の考えはわかった。
仲間。それは、亘祐にとって大切な言葉だった。そのため、美保の考えは筋が通っていると感じた。やはり、自分と美保は同類なのだと思った。

「わかった。悪かったな」
「だから、仲田君も、私のこと殺さないでね。寝てる間にブスッ、とかやだよ」
「オレは殺す時は正面から行くし。そんな卑怯なことしねーよ」
美保は場違いなほど無邪気な笑みを浮かべた。「よかった」そう言って、伸びをした。

145リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/10(土) 10:50 ID:1Nf1VncU
 美保は唐突に言った。「ねえ、仲田くんはゲームに乗ってるんだよね?」
亘祐は頷いた。
「誰にでも、容赦なく戦う覚悟とか、出来てるんだよね?」
また頷いた。
「じゃあ、もし中西くんが、私が必死に説得した結果、ゲームに乗らなかったら―――」亘祐を、じっと見つめた。「殺してくれるよね?」


亘祐は驚いた。


―――諒を殺す?

亘祐は正直、そこまでは考えていなかった。とりあえず、しばらくは一緒に行動するが、いつか離れようと思っていた、それだけだった。
やはり、仲間を殺すことにためらいがあった。幼いころからやくざの世界を垣間見てきた亘祐にとっては、仲間を裏切るというのは、絶対にあってはならないことだった。



亘祐が悩んでいる様子なのを見て、美保は言った。「そりゃあ友達だもんね。迷うのもわかるよ。でも、やっぱり中西君は絶対に邪魔になるよ。そのためには―――」
「ちょっと待て!何だかんだ言ってオレはあいつの仲間だし、仲間を裏切るわけにはいかないんだよ!それがオレの考えだ」

「矛盾してるよ。それ」美保の言葉に、亘祐は怒りを覚えた。「・・・どういうことだよ」
美保はビクッとした。「怒らないでよ!」そう言って、亘祐の手を両手で押さえた。

「だって・・・仲田君はゲームに乗るんでしょ。田辺君の仇よりも、殺し合いの方を優先してるじゃん。中西君に隠れて、あゆみや、他の人達だって、殺すつもりなんでしょ?」
亘祐は声を抑えて言った。「それがどうしたよ。何が言いたいんだよ・・・」

美保は言いにくそうに、小声で言った。「だから、中西君のことを、心の中で裏切ってるじゃん」

亘祐はハッとして、黙り込んだ。確かに、そうかもしれない。でも、オレは卓郎の仇を忘れたわけじゃないし、諒に会う前からゲームに乗ることは決めてたんだ。


美保は言った。「だからね、私思うんだ。二人とも価値観が違うんだよ。ゲームに乗らないって決めた時点で、中西君は仲間じゃなくなるの」亘祐の手をきゅっと握った。
更に続けた。「もし仲田君がやらないなら、私がやる。多分、勝てないだろうけど」

「勝てねーよ。やめとけ」心から、そう思った。
「じゃあ手伝ってよ。私のこと仲間だって思ってくれるなら。考えといてね」
美保は亘祐をしっかりと見つめた。


いくら仲間だと言っても、美保とまともに話したのは、昨日が初めてだ。やはり、二年近く一緒にいた諒を裏切るわけにはいかないと思った。新井には、悪いけど。
そう思って、心が少し痛んだ。なぜかは、よくわからなかったが。


気まずい空気が、二人の間を流れた。何となく嫌だったので、亘祐は話題を変えた。


「ってかさ、てっきりお前は諒に惚れてんのかと思ったよ」
美保は目を丸くして、亘祐の方を向いた。「何で?」
「だって・・・さみしそーにしてたし。『中西君、私のこと嫌なのかなー』って」
「そんなことないよ!」美保は早口で言った。「ただ信用されてないと困るでしょ?それだけ!」
ふーん。ホッとしていた。


美保は、少し笑みを含んで言った。「それに、私は仲田君の方がタイプだし」

・・・は?亘祐は少々驚いた。「嘘つくなよ」

美保は頬を膨らませた。「本当だよー!私怖い顔の人、好きなの」
―――怖い顔、ねえ。

「くだらないこと言ってゴマすったって何も出ねーよ」
「えー?何でよ、本当なのに」
「うっせ!黙れ」
「酷ーい。自分から言ったくせに」美保は納得のいかない様子で、言った。
「好みなんて人それぞれじゃん。何で信じてくれないの?」
亘祐は少し、沈黙した。「・・・そういう奴に限って、諒の方に行くからだよ」
「それはその人が悪いんじゃん」
「うっせーな。もういいだろ」
美保は口をとんがらせた。こいつと話してると、何か調子狂う。

亘祐は立ち上がって、言った。「そろそろ移動すっか」
「あっ、そうだね。忘れてた」美保も立ち上がった。

「今度こそ、誰かいないかなー」辺りを見回すしぐさをした。「いたら、お願いね」美保はそう言って微笑んだ。


お願い、か。美保のお願いは、殺せということだ。

天使のような慈愛の笑みを浮かべながら、人を殺せと言う。亘祐には、美保が天使の皮をかぶった、小悪魔に見えた。ただ、それに従うのも、悪くないと思った。
もしかしたら、亘祐は、美保の笑みに洗脳されていたのかもしれない。
【残り34人】

146リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/10(土) 10:51 ID:1Nf1VncU
頑張りまーすw>GGGGDさん

3月になってインターネットが繋がりました。
それまでは家でこつこつと掻いていただけなので、他人の作品を読む機会はなかったんですね。
他の人のオリバトを読んで思ったのが、自分が凄く井の中の蛙だということでした。
やたらに長いし恋愛要素多すぎだし・・・
それでも、読んでくださる人がいるのなら(いるかな?)まだ載せ続けたいと思います。
こんな作品で申し訳ありませんが・・・よろしくお願いします。

147:2004/04/10(土) 13:02 ID:l6TAwEDY
いつも楽しく読んでます!
まだまだ頑張ってください!

148tp-18:2004/04/10(土) 14:27 ID:SxiXzQiE
恋愛要素多いのも良いと思いますけどね、現実味があるっていうかなんていうか
更新も早いし応援してますよ〜

149コンドル:2004/04/10(土) 16:28 ID:sy0C4L7w
お初です!これ読んでてめちゃオもろい!!!はやく次が読みたいです!
楽しみにしてますヾ(≧∀≦)ゞ

150GGGGD:2004/04/11(日) 13:43 ID:6cPOjHZk
またヒサシブリですけど、おもろすぎです;;
がんばてクダサイ!!

151:2004/04/11(日) 19:33 ID:RNfl1Y7Q
初です!おもしろいですね。myキャラが思ったよりかっこよかったので
びっくりしました。これからもがんばってください!

152リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/11(日) 21:26 ID:1Nf1VncU
うおっ、こんなにレスが!

瞳さん>
いつも応援のメッセージを書いてくれてありがとうございます。
まだまだ続きますが、よろしくお付き合いをお願いします!

tp-18さん>
高校生なのでちょっと多い・・・みたいなことにしときましょうか(汗
更新の早さだけがとりえですね。頑張ります。ありがとうございます。

コンドルさん>
はじめまして!読んでくれる人がいて嬉しいです!
これからも頑張ろうという気持ちになりますね。

GGGGDさん>
いつも応援ありがとうございます。とても励みになります。
これからもよろしくお願いしますね!

煌さん>
はじめまして!面白いといってくれる人がいて、本当に嬉しいです。
ききたいのですが、myキャラって誰ですか?
募集スレを見たけどちょっとわからなかったんで・・・何か気になりました^^;


とりあえず、まだまだ頑張ります。

153リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/11(日) 21:40 ID:1Nf1VncU
以前の行動>>142

 田阪健臣(男子七番)は、銃(S&WM19・357マグナムだった)を、ゆきの胸に向けて、言った。
「まあ、お前どっちみち、もう長くないよ」

ゆきは、冷静な調子で話す健臣に驚いていた。ショックだった。撃つなら最初にさっさと撃って欲しかった。せっかく信用したのに。中途半端に優しくするから、余計惨めになるじゃない。

ゆきは涙をこぼした。それを見た健臣は、眉をひそめた。
「お前に恨みはないけど、俺は死ぬわけにはいかないんだ。ごめん」そう言って、銃を持つ手に力を込めた。


黒く、ねばついた光を放っている銃を見ながら、ゆきは思った。今度こそ、私は死ぬんだろう。
銃から目を離して、健臣を見た。銃を自分に向けている健臣の姿は、相変わらずさまになっていた。そして、自分が不思議に落ち着いていたのにも気がついた。気が、抜けていたのかもしれない。


ゆきは喉をしゃくりあげながら言った。「謝る必要なんてない。こんなゲームの中だもの。撃つなら撃ちなさいよ!」

言ってしまった。少し後悔したが、もう遅いだろう。ゆきは目をつぶった。



いつまで経っても銃声がしないので、ゆきは目を開けた。


健臣は、今の言葉を聞いて、たじろいだようだった。銃を持つ手が、震えているのがわかった。やはり、実際に人を撃つことに、ためらいがあったのだろう。



とにかく、逃げなきゃ!


ゆきは発起して、走り出した。体はもう動かないような気がしていたが、大丈夫、まだ走る力は残っていたようだ。



健臣はそれを見て迷っていたが、狙いを定め、撃った。



ばん。ばん。



二発の銃声が辺りに響いた。


それと同時に、走っているゆきの背中に穴が開き、ゆきは、ドッと前のめりに倒れた。 口からは、血が流れ出した。

思った。ああ、私死ぬんだ。あっけない人生だったな。でも、思ったより苦しくない。ゆきは笑みを浮かべた。さよなら、この世界。
ぼうっとしてきた頭に、ある思いがよぎった。

千嶋君、怪我させてごめんね。あんなことしたけど、本当に大好きだった。
笹川さんも、怖がらせてごめんね。
田阪君。よくもやってくれたな。
・・・でも、怒る気力がないや。水くれたから、特別に許しちゃう。
お父さん、お母さん。親不孝な娘で、ごめんなさい。

―――そのまま眠るように、梅原ゆきは死んでいった。



健臣は、ゆきがぴくりとも動かなくなったのを見ると、そっと近付いた。

黒く、ふわっとした髪が、ゆきの顔を覆っていた。
健臣はその髪をかき上げて、ゆきの顔が見えるようにした。

柔らかい土の上に倒れたゆきの顔には、土がついていて、まるで眠っているかのような表情だった。それを見た健臣は苦々しい思いで、ゆきの冥福を祈った。



健臣は、ゲーム開始時にこのゲームに乗ることに決めていたが、井上聖子(女子五番)や、新島敏紀(男子十四番)のように、簡単に人を殺すことなんて出来ない男だった。
でも、そんなんじゃいけない。こんなことじゃ生き残るなんて無理だ。

もう一度ゆきの顔をチラッと見た。胸がギリギリと痛んでいたが、無視をした。

健臣は違う方向に、歩き出していた。【残り33人】

154リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/11(日) 22:23 ID:1Nf1VncU
以前の行動>>136から>>138まで

 伊藤愛希(女子五番)と、荒瀬達也(男子一番)は、共に行動していた。二人はF=7にきていた。

愛希は甘えた声を出した。
「ねえ、もう疲れちゃった。休もうよー」達也の腕を引っ張った。
「えっ、わかった。休もっか」

ちょろいちょろい。愛希は達也からデイバックを受け取って(勿論デイバックは達也持ちだった。だって重いしね)、その上に腰かけた。

「どこまで行くの?」愛希は汗を拭きながら、訊いた。
「・・・ここらでいいかな。あんま動かないでじっとしてよう」
「そうだね」
人がきたら、こいつが戦ってる間に逃げるとかすればいっか。愛希はそう思った。

達也は言った。「お昼食べる?」
「ああ。食べるー」
「はい。まずそうだけど」
本当だ。ぱさぱさのパンを受け取って、愛希は心の中でため息をついた。クロワッサンか、バターロールがよかったな。

「でも仕方ないっしょ」
「そうだね。おいしいパンが懐かしいけど、とりあえず食べれればね」

愛希はモソモソとしたパンを口に入れた。バターくらいつけとけ、と思った。

愛希は通学用バックの中から、サプリをいくつか出した。口に入れて、ボリボリと噛み砕いた。達也は不思議そうに見ていた。
「それ、何?」
「えーっとね、こっちがカルシウムで、これが鉄分。こっちがビタミン。で、これがコラーゲン」
「へー・・・」達也はサプリの瓶をまじまじと見つめた。
「これ飲むと、栄養が偏らないんだ?」
「多分ね」お肌にもいいし。愛希は更に瓶を開けて、錠剤を出した。

「でも、そんなにいっぱい飲むと、かえって体によくなさそうだけどなー」
そんなはずねえだろ。
「何事もほどほどにね。伊藤サン」
愛希はにっこりと笑った。


こいつの言い方、何かいちいち鼻につくんだよね。バカにしてんの?この、顔も体も性格も特A級の愛希ちゃんを。
・・・そんな男、この世にいるの?愛希は本気で思った。

達也は、あっ、と言ってつけ加えた。「ごめん。何かムカついた?」
「ううん。全然」嘘だった。
「でもさー、伊藤を見てると何か言いたくなるんだよねー。何でだろ」

知らねえよ。
「えー、何でよー?」愛希は笑顔で言った。

「そういうとこ、かな」どういうとこだよ。

「無理してない?ずーっと嘘ばっかで生きてると、疲れない?もっと本心出した方がいいと思うけど」
愛希は心の中でギクッとした。何言ってんだよ、こいつ。しかし、うまくごまかすことだけを考えた。

「これが素だよー」
「嘘だ」あっさりと否定された。

―――ああん?愛希の額に、怒りのマークが現れた。
何なのこいつ、と思いつつも、顔には全く表さなかった。

達也は言った。「別に今はおれしか見てないんだし、普通でいいよ。ずっと思ってたんだよねー・・・」それから、少し笑みを漏らして言った。「怒ってたって、伊藤サンのビボーが減るわけじゃないんだし」


ムカついた。バカにされてる。こんな奴に、あたしが?
・・・この、顔も体も性格も品格も特A級の愛希ちゃんが?

「思ったこと全部いいなよ。どっちみち、おれ達死ぬかもしれないんじゃん。最期くらい、素でいきなよ」

「じゃあ言うけど。作ってないのに作ってるって言われて、結構悲しいんだけど」
達也は目を丸くした。

ぷっとふきだした。「・・・結構かたくなだね」

・・・黙れよクソが。

愛希は言った。「荒瀬くんおかしいよー。作ってないって言ってるじゃん」
少し、不服そうな顔をしてみた。

「・・・そうだね、ごめん。気にしないで」それから続けた。「おれの勘違いだったかも」
愛希は頷いた。

そうだよ。テメーなんかがあたしと話せるだけで光栄だと思うのが普通だろ。

それが、バカにされた?―――バカに?

許せない。他に男子がいたら、さっさと寝返って、殺してもらわなきゃね。愛希はそう思った。

155リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/11(日) 22:32 ID:1Nf1VncU
「ふぁーあ」達也はあくびをした。「一昨日も寝てないから眠い」
「寝てもいいよ?あたしここで見張ってるし」
「・・・いや、いい」
何だよ。せっかく愛希ちゃんが言ってあげたのに。
「そっちこそ大丈夫?寝てもいいよ、人こなそうだし」
「大丈夫。眠くないから」



そう言った二十三分後、愛希は静かに寝息を立てていた。
眠くないって言ってたくせに。達也は笑った。

時計を見た。あと一時間ちょいで十二時か。二回目の放送があるな。
達也は、空を見上げた。太陽の光は、さんさんと降り注いでいた。


愛希を見た。上向きに優しくカールした、長い睫毛のライン。ほんのり桜色の頬。眠っていても、愛希は愛らしかった。

達也は少しの間、愛希を見つめていた。心にやましい考えが浮かんで、すぐにそれを打ち消した。やめとこう、起きるとまずいし。


このまま誰もこないで、ゲームが終わればいいと思った。なるべく争いは避けたかった。しかし、もし自分と愛希だけが残ったら、自分が、愛希を殺せるとは思えなかった。

騙される男が多いのも、わかるかも。おれだって―――

達也は安らかな気持ちになって、愛希の寝顔を見ていた。



達也は、ハッとした。

今、確かに誰かの話し声がした。

「伊藤、起きて!」達也は愛希の体を揺すった。
愛希は一瞬怪訝そうな表情になった。「・・・なーに?」
「誰かきた。隠れよう」

目の焦点があっていない愛希を、無理やり藪の向こうに押し込んだ。

「何があったのか、わかんないー」
愛希は不満そうな声を出していたが、かまってる余裕などなかった。
「静かに」達也は愛希の口を塞いで、外の様子を伺った。

愛希もだんだんと事情を理解したのか、大人しくなったので、口から手を離した。


聞き耳を立てた。


「あれー?デイバックがある」
「人がいたっぽいな」

男女の声が、交互に聞こえた。声だけでは、誰かはわからなかった。


「どっち行ったんだ?まだ遠くには行ってないだろ」男の足音が、少し遠くに感じられた。

二人は息を殺していた。達也は、ワイシャツのポケットにかかっている銃を取り出した。もし相手が襲ってきたら―――心臓が震えていた。


「待って。この大量のサプリ・・・」愛希が、ビクッと体を強ばらせた。
「・・・愛希だよ」声の主は、笑ったような気がした。


「・・・美保だ」愛希は呟いた。

新井美保(女子二番)か?確か、伊藤の友達だ。
ゲームに乗っているのかは、よくわからなかった。

達也は息を殺した。


「まだ近くにいると見た。隠れてるかもよ?」
「あー?逃げたかもしれないだろ。向こう行ってみようぜ」男はせっかちのようだった。
「ちょっとだけ捜してみようよ・・・」
女の足音が、近づいてきた。

・・・来るか?


達也は銃をかまえた。愛希は達也にぴたりとくっついてきた。暑かったが、嫌な気分ではなかった。


ガサッと大きな音がして、美保は茂みの外側から顔を出した。


「あー、やっぱり愛希だよ!荒瀬君もいた!」

「なにっ?」


男がきた。手にはゴルフバッド。二人を見下ろした。
「ちょうどいーや」

仲田亘祐(男子十一番)は、思いっきりゴルフバッドを振り上げた。

156リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/14(水) 00:25 ID:1Nf1VncU
 ひゅっと風を切る音がして、達也の足のすぐ傍を、ゴルフバッドが通った。
達也は、かろうじて、よけていた。

達也は銃を持ち上げた。


亘祐はそれにもかかわらず、ゴルフバッドを達也の手に向けて、振り回した。


ガツン、と力強い音がして、グロックにゴルフバッドが当たった。


手がじんじんした。達也は銃を取り落とした。

クソッ。達也は、銃を取ろうとした。


亘祐はもう一度ゴルフバッドを振り下ろした。


骨の砕ける音がした。達也の右手に、激痛が走った。


更に振り下ろそうとしていた。もう、銃などにかまっている暇はなかった。


達也は愛希をぐいっと引っ張って立たせると、逃げ出した。



「やった、銃だ」
亘祐はそれを、美保に渡した。美保は目を細めて、喜びの表情をした。


すっと水平に持ち上げると、逃げる二人に狙いを定めた。銃を発射した。



恐ろしく大きな破裂音が、近くで響いた。


「きゃあ!」愛希は叫んで、座り込んで頭を押さえた。

「伊藤、当たってないから、早く!」

達也は右手を差し出した。形が崩れた右手に、愛希は少し、気味の悪い顔をした。
「いいから早く立てよ!」達也は怒鳴った。

思い切り右腕を掴まれたので、先ほどと同じような激痛が走った。しかし、それどころではなかった。

二人は逃げた。


背後でもう一度銃声が聞こえた。後ろを振り向いた。
二人は追ってきていた。美保の銃を持つ右手が、すっとあがった。


やばい。

「荒瀬くん、前・・・」
「へ?」

達也が愛希の方を向いたのと、道が突然下り坂になっていて、足を踏み外すのは、同時に起こったことだった。


「きゃあ!」
「うわっ・・・」二人は下の方まで、たっぷり十メートルほど転げ落ちた。

157リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/14(水) 00:29 ID:1Nf1VncU
 上で美保の声が聞こえた。「もー疲れたから帰ろっか。降りるのめんどいし」
「そうだな。腹減ったし、戻ろう」

何て適当な奴らなんだ。まあ、諦めてくれて、よかった。


愛希をかばうようにして、達也はしっかりと支えていた。背中が痛かった。強く打ったらしい。

愛希は握っていた達也の右腕を離すと、小声で言った。「大丈夫?」
「うん。多分ね」達也は苦笑いした。

「あとでサプリ取りに行っていい?」
「・・・いいよ」
おれの怪我より、サプリの方が大事なわけね。まあ、いいけど。伊藤らしくて。


達也は言った。「ごめん、銃取られちゃった」愛希は黙って首を振った。更に、訊いた。「もしかして、あの二人と一緒に行動したかった?ごめんね、連れてきちゃって」

愛希は、一瞬、打ちのめされたような顔をした。しかし、一瞬だった。

「そんなわけないじゃん。美保は、あたしに向けて撃ったんだし。一緒にいられるわけないよ」愛希は悔しそうな顔をした。
ふーん。達也は興味深く思って、愛希を見つめた。



愛希は、怒っていた。
あの女、あたしに発砲しやがった。きー!ムカつくムカつくムカつく。
こいつも、何で銃取られるかな。あたしの顔に傷でもついたらどうしてくれんのよ。バカ、ヘタレめ。


達也が言った。「ごめん、そんなに怒んないでよ」
「えっ、全然怒ってないよー?」愛希は頬に手を当てて言った。

達也は、ゆっくりと右手を伸ばした。何よ、制服が汚れるでしょ、やめて。「誰も見てないってば」クッと笑った。「本当は、新井のことぶっ殺したいんだろ」

愛希は心の中で狼狽した。こいつ、エスパー?

「言っちゃえよ」

少し、迷っていた。確かに、たかがこいつの前で、素を見せても大して問題はないような気がした。でも、やっぱり顔も体も性格も品格も頭も特A級の愛希ちゃんが、そんな簡単に裏の顔を見せるわけないでしょ。

「やだなー、荒瀬くんってばこの期に及んでそんな冗談・・・」愛希は笑った。
「あっそう。はははは・・・」

二人は笑いあったが、心の中では別のことを考えていた。



「酷い・・・」
背後で女の声が聞こえた。達也は、ばっと振り向いた。


縁なし眼鏡に、いつも手入れを怠ってなさそうな綺麗な茶色い髪。意外に、スタイルがいい。吉野水鳥(女子二十二番)は、達也を見ると、涙目で言った。


「酷い!私っていう女がいながら、この子と浮気してたの?」


はあ!?達也は驚いた。

「あの日の午後、好きだって言ってくれたよね。嬉しかった。それなのに・・・」
水鳥は泣き出した。愛希は達也を、少し呆れたような目で見た。


「違うよ!コクったことなんてないし、話したことだってあんまり・・・」
達也は、なぜか(?)言い訳をした。

「酷い!」水鳥はそれを、遮った。「二人で遊園地とか、映画とか、たくさん見たじゃない。付き合って一ヵ月後に、初めてキスしたこと、覚えてないの?」
覚えてないっていうか、むしろそんなエピソードすら、ない。


「あのー・・・誰かと間違ってませんか?」達也は言った。


「酷い!最低!人でなし!」
意味がわからなかった。愛希が、汚らわしい物を見るような目で、二人を交互に見ていた。あちゃー。達也は、頭をかかえた。


二人の様子を見て、水鳥は笑い出した。
「・・・ってゆーのは嘘だよー!彼氏がいる女なんて、皆死んじゃえばいいんだ!じゃあねー!」

そう言って、スキップをして去っていった。



「な、何だ、あれ・・・」達也は呟いた。

しばしの沈黙の後、愛希が言った。「吉野さんね、すっごい酷い失恋してから、ああなっちゃったんだって」
・・・へー。それはタチが悪い。達也は身震い(?)がした。

「それ知ってたなら、何であんな顔しておれのこと見たの?」
「ふふっ。あたし、何のことだかさっぱりわかんないなー」

・・・どいつもこいつも。これから愛希とうまくやっていけるかどうか、達也は心配になってきていた。
【残り33人】

158リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/14(水) 01:12 ID:1Nf1VncU
現在状況(ネタバレ含む)

男子

 1番 荒瀬達也・・・生存中。伊藤愛希(女子四番)と共に行動。仲田亘佑(男子十一番)に襲われた
 2番 大迫治巳・・・生存中。詳細は不明
 3番 国見悠・・・生存中。詳細は不明
 4番 塩沢智樹・・・生存中。冬峯雪燈(女子二十一番)を襲おうとして、失敗
 5番 柴崎憐一・・・生存中。詳細は不明
 6番 島崎隆二・・・死亡。新島敏紀(男子十四番)によって銃殺
 7番 田阪健臣・・・生存中。梅原ゆき(女子八番)を殺害
 8番 田辺卓郎・・・死亡。大島薫(女子九番)によって銃殺
 9番 千嶋和輝・・・生存中。梅原ゆき(女子八番)に襲われる。笹川加奈(女子十四番)と共に行動
10番 中西諒・・・生存中。田辺卓郎(男子八番)の仇を討ちたいと思っている。仲田亘佑(男子十一番)、新井美保(女子二番)と共に行動しているが・・・
11番 仲田亘佑・・・生存中。中西諒(男子十番)を欺き、新井美保(女子二番)と共にゲームに乗った
12番 永良博巳・・・生存中。初島勇人(男子十五番)、梁嶋裕之(男子二十番)と共に行動
13番 那須野聖人・・・死亡。井上聖子(女子五番)により銃殺
14番 新島敏紀・・・生存中。ゲームに乗っている。二人殺害
15番 初島勇人・・・生存中。永良博巳(男子十二番)、梁嶋裕之(男子二十番)と共に行動
16番 姫城海貴・・・生存中。塩沢智樹(男子四番)から冬峯雪燈(女子二十一番)を助けた
17番 飛山隆利・・・生存中。詳細は不明
18番 峰村陽光・・・死亡。那須野聖人(男子十三番)襲撃後、井上聖子(女子五番)に殺害される
19番 御柳寿・・・生存中。詳細は不明。
20番 梁島裕之・・・生存中。永良博巳(男子十二番)、初島勇人(男子十五番)と共に行動
21番 代々木信介・・・生存中。詳細は不明

女子
 1番 天野夕海・・・死亡。井上聖子(女子五番)により銃殺
 2番 新井美保・・・生存中。中西諒(男子十一番)、仲田亘佑(男子十一番)と共に行動。1人殺害
 3番 有山鳴・・・生存中。詳細は不明
 4番 伊藤愛希・・・生存中。荒瀬達也(男子一番)と共に行動
 5番 井上聖子・・・生存中。ゲームに乗っている。六人殺害
 6番 植草葉月・・・死亡。井上聖子(女子六番)により銃殺
 7番 内博美・・・生存中。詳細は不明
 8番 梅原ゆき・・・死亡。千嶋和輝(男子九番)と笹川加奈(女子十四番)を襲う。田阪健臣(男子七番)により銃殺
 9番 大島薫・・・生存中。1人殺害
10番 小笠原あかり・・・死亡。新島敏紀(男子十四番)により刺殺
11番 香山智・・・生存中。詳細は不明
12番 黒川 明日香・・・生存中。詳細は不明
13番 紺野朋香・・・生存中。伊藤愛希(女子四番)への恨みを募らせ、捜索中
14番 笹川加奈・・・生存中。千嶋和輝(男子九番)と共に行動。梅原ゆき(女子八番)に襲撃される
15番 三条楓・・・生存中。詳細は不明
16番 鈴木 菜々・・・生存中。詳細は不明
17番 高城麻耶・・・生存中。詳細は不明
18番 高田望・・・生存中。詳細は不明
19番 濱村あゆみ・・・死亡。仲田亘佑(男子十一番)に襲われ、新井美保(女子二番)により撲殺
20番 望月さくら・・・死亡。井上聖子(女子五番)により銃殺
21番 冬峯雪燈・・・生存中。塩沢智樹(男子四番)に襲われかけ、姫城海貴(男子十六番)に助けられた
22番 吉野美鳥・・・生存中。荒瀬達也(男子一番)と伊藤愛希(女子四番)の前に現れた

生徒の詳細は>>84>>85>>86>>88

159リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/15(木) 18:37 ID:1Nf1VncU
以前の行動>>134

千嶋和輝(男子九番)は、笹川加奈(女子十四番)と共に行動していた。今はI=5にある、古ぼけた家の前に立っていた。そこは壁が落ちていて、震災後の家のようだった。

和輝はちらっと時計を見た。今の時刻は十一時二十六分。もうすぐ、二回目の放送があるはずだ。またたくさんの人が死んだのだろうか。
怖かった。自分が放送で呼ばれているのを思い浮かべ、ぞっとした。

加奈も時間が経つにつれ、無口になっていくのがわかった。怖いのは俺だけじゃないんだ。和輝は加奈を守ろうと、強く決意した。

取り敢えず、この家の中に入ってみることにした。何か掘り出し物があるかもしれない。二人はそーっと近付いた。


ドアを開けると、バキバキバキッという音がした。どうやらこの家は、相当昔に建てられたらしかった。随分昔に、住人はいなくなったのだろうか。ぱらぱらと、腐った木の欠片が降り注いだ。

「中に誰かいるかどうか確認してくるな」和輝は言った。
「うん。待ってるね」加奈は笑顔を見せた。
しかし、どことなく元気がなくなっているような気がした。和輝は心配になった。
「具合悪いの?」
「やだあ、全然悪くないよー。めっちゃ元気だから」加奈は大げさに言った。
嘘をつく時、加奈はやたらオーバーリアクションになる。わかりやすかった。
「何かあったら言えよ」
加奈は頷いた。

やっぱ、うまい言葉が思いつかねー。柴崎憐一(男子五番)が無性に羨ましくなった。俺も、あいつぐらい口から出任せ言えたらな。でも、あいつ、実は冷たいからな。前付き合ってた女なんか・・・
・・・まあ、憐一のことはおいといて。


家の中に入った。カビくさく、埃にまみれていた。物がたくさん置かれていた。
どうやら、物置になっていたらしい。

和輝は、すうっと息を吸い込んだ。

「誰かいる?」声を出してみた。

そこは、しーんと静まりかえっていて、物音一つ聞こえなかった。


加奈に中に入るよう促した。
加奈は和輝の背中に掴まり、和輝と一緒に、家の中を見渡した。「暗いね」
和輝は、懐中電灯の明かりをつけ、中を見渡した。
「誰もいない、よな」
「うん」
二人は小屋の中に入り、腰を下ろした。


加奈はため息をついていた。
「疲れた?」和輝の問いに、加奈は「ちょっとね」と答えた。

話すことが思いつかなくて、和輝は頭の中で考え込んだ。

加奈が言った。「そうだ、和輝、全然寝てないんじゃない?そっちこそ疲れてるでしょ。寝てもいいよ」
「いや、大丈夫だよ。昨日の夜寝たし」
「でも、たかだか三時間ぐらいしか・・・」
「まあ、きつくなったら言うよ。今のところは平気」
「そっか・・・」加奈は遠くを見た。「私は、もう眠いかも」

「寝てもいいよ」
「嫌だ!絶対寝ないからね!」加奈は強い口調で言った。
なぜ、そんなに拒否したのかは、和輝にはよくわからなかった。


あっ!

ふと思い出した。「笹川の武器は何?」凄く今更なことで、訊くのが情けない気がした。
加奈はためらうように、和輝を見た。
「私の武器は・・・」デイバックの中から武器(?)を出した。

直径十センチほどの袋が、加奈の両手に置かれていた。
真っ黒な外観に、青い小さな文字で「おなら袋」と、書かれていた。

「・・・何これ」
「押すとブーって鳴るの」
「そっか。それはそれは・・・」

二人の間に沈黙が流れた。


和輝は言った。「こんなモンでどうやって戦えるんだよ!おなら袋で!お・な・ら袋で!」
「きっと戦闘中にこれを鳴らせば心が和んで・・・」加奈はおなら袋をブーブー鳴らしながら言った。

やめろ。俺の中の笹川像(?)が崩れる。別にそれはそれでいいんだけど。

「いざとなったら投げつけて逃げるしかないな」
加奈はぷっと笑った。

「馬鹿にしてるよねー、これ」それから、真顔になって、言った。「北川先輩、わざとかな。私のこと、死ねばいいと思ってるのかな」
和輝は少し驚いて、それから否定した。「そんなわけないだろ。偶然だよ」
「そうだといいよね」加奈は笑った。

160リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/15(木) 18:41 ID:1Nf1VncU
 和輝はチラッと加奈の方を見た。加奈と、デイバックが目に入った時、和輝はあることに気づいた。そうだ、笹川の武器がない。万が一、俺とはぐれたら(そんなことは絶対ないと思うけど)、笹川は武器なしでどうやって戦うんだ。

和輝は加奈に言った。「ちょっと家の中で武器になる物を探してくるよ」
加奈はコクリと頷いて、「すぐ戻ってきてね」と言った。

頼りにされてる・・・らしい。結構嬉しかった。


小屋の中を探し回った。

置いてある物は皆、古びていて使い物にならなそうな物ばかりだった。物をどける度にモワッと埃が舞い上がり、和輝は何回も咽せることになった。
いくら何でも、古すぎだろこの家。

和輝はなるべく息を吸い込まないようにしながら、家の中を見て回った。


あった、カマだ!
道具箱のような箱の中に、古びたカマが置いてあった。普通の物よりやや大きくて、重い。案の定、刃は錆びていた。使えるかな。和輝はカマの刃を、しゅっと下に振り下ろしてみた。
うん、使い心地は悪くはないかも。洗って研げば十分切れるだろ。

和輝は台所に行き、研ぐための皿を持って、加奈のいる場所へ急いだ。
【残り33人】

161GGGGD:2004/04/16(金) 22:11 ID:cYqVc/X.
どもー。ガンバテクダサイ!!揚げ!!オモロイエス

162リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/17(土) 10:41 ID:1Nf1VncU
 千嶋和輝(男子九番)は言った。「カマがあったよ。ちょっと錆びてるけど、使えると思う」
「ありがとう」笹川加奈(女子十四番)は、ふっと笑った。
「でも、重いねー」そう言って、カマを水平に持ち上げた。
「危ないからあんま振り回すなよ」
「わかってるってー」わかってなさそうだった。


和輝は目を細めた。加奈の肩に手を置いた。
「どうしたの?」加奈は和輝を見た。
和輝は顎だけで、見ろ、という合図をした。

加奈は和輝の視線の方向に向いた。笑っていた顔が、止まった。


加奈は言った。「薫・・・」


大島薫(女子九番)は、小型の銃(ジグ・ザウエルP230)を、まっすぐに二人に向けていた。
表情は、よく読み取れなかった。怒っているような、悲しんでいるような。しかし、嬉しそうではなかった。


薫は言った。「殺されたくなければ、今すぐここを出て」

加奈は言った。「何で、どうしちゃったの?正気に戻ってよ」


ぱん、と乾いた音がして、すぐ近くにあったダンボールに、穴が開いた。

和輝は、加奈を自分の後ろにやった。
「・・・どういうつもりだ」
「無駄な争いは避けたいの」

よくわからなかった。田辺卓郎(男子八番)を殺した時とは、どことなく様子が違って見えた。

よせばいいのに、また加奈が言った。
薫、怖がらなくてもいいんだよ。私も和輝も、薫のこと、殺すなんて考えてないよ。だから―――」

「うるさい!」薫は加奈の言葉を、遮った。
加奈はビクッとして、黙り込んだ。

薫は続けた。「私は生き残りたいの。国立の大学に入るって。絶対に入るの!」


薫は加奈に銃口を向けた。「早く出て。出来れば、殺したくない」


「出よう」和輝は加奈の方を向いた。加奈の瞳には、涙がたまっていた。
「うん・・・」頷いた。加奈は薫を見て、涙を拭った。



小屋を出て、和輝は加奈に言った。「あいつは、田辺を殺したんだよ」
加奈はショックを受けていた。「そんな。薫、何で・・・」
「わかんない。でも、小笠原さんの顔を見たら逃げていった」

今ならわかるけど、あれは多分、友人であった小笠原あかり(女子九番)を殺すのが、嫌だったんだろう。
薫には、まだ正気の部分は残っていた。しかし、だからこそ恐ろしい部分もあるのだ。


「皆、いなくなっちゃうんだね」
加奈は、両手で目を押さえた。声をあげて、ゆっくりと泣き出した。
「泣くな」和輝は、苦々しい思いで言った。

163リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/17(土) 10:43 ID:1Nf1VncU
大島薫は、部屋の中に座った。きったない家。薫は不満の表情をした。
少し、後悔していた。けど、仕方ないよね。私は絶対に生き残りたい。加奈は友達だったから、殺せない、けど、もし仕掛けられたら、やるしかないと思う。


薫は優等生で、真面目な性格だった。いや、中学の時はそうでもなかったのだが、高校受験で、行きたかった高校に落ちてしまった時から、今までの怠惰な自分を改め、一所懸命勉強を頑張っていたのだ。そして、将来は国立の某有名大学に入るようにと、父から言われていた。
薫の家はあまり裕福な方ではなかったし、兄と姉に金を回してしまったので、薫には、殆ど金はかけられないという感じだった。それから、薫は国立に受かるべく、凄く努力してきたのだ。

それなのに・・・ここで死ぬということは、その努力が、全て無駄になるということだ。そんなの、耐えられなかった。

ここで人生を終わらせるわけにはいかない。私は、選ばれた道を行く権利があるの。そうじゃなかったら―――今まで生きてきた勉強ばかりの人生が、何の意味もなくなる。
絶対に死なない。そのためなら、どんなことでも―――殺人だって、後悔しない。
薫はそう思って、少しだけ笑んだ。


その笑みが、不意に止んだ。薫は目を見開いた。

「何よ、近寄らないでよ!」
「大丈夫、何もしないから」

男子生徒だった。ニヤニヤ笑いながら、薫に近づいてくる。薫は銃を持ち上げた。


ぱん。


当たらなかった。男子生徒は薫を見た。「出てって!」薫は叫んだ。
それでも、近づいてきた。薫はもう一度、引き金を引こうとした。


その前に、男子生徒が薫の懐に飛び込んできた。薫の首を掴んだ。


ぎりぎりと首が絞まった。「や、めて・・・」震える手から、銃が落ちた。


私は、こんなところで死ぬわけにはいかないの―――

男子生徒は、近くにあった、元々加奈の物だったカマを、手に取った。

嫌だ!薫は泣きそうになっていた。


私は大学に入って―――それから、どうしたいんだろう。
とにかく、死にたくなかった。このまま何もない状態で死ぬなんて。そんなの―――


薫は震えた。男子生徒は、カマを振り上げた。



硬い肉を切るような音と感触が、した。
【残り33人】

164蜜 </b><font color=#FF0000>(u5UmjW1o)</font><b>:2004/04/17(土) 18:11 ID:sdHrFSXI
久し振りの感想です。
なんか1人1人の個性というか、存在感があってすごいなと思います。
だからこのキャラ好きだなって子が、いっぱいいるんですよ。
特に愛希ちゃんと美保ちゃんが好きです。ひょっとしたら悪女系が好きなのかも。
これからも楽しみにしてます。頑張ってください。

165リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/18(日) 18:40 ID:1Nf1VncU
GGGGDさん>
ageありがとうございます!頑張りますね。

蜜さん>
随分昔から書いていたのでその分キャラへの思い入れは強いですね。
一度あった作品を更に改稿しているので、キャラの書き分けができるよう、力をいれて書いています。
読んでくれてとても嬉しいです。今後ともよろしくお願いします。

166リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/18(日) 18:42 ID:1Nf1VncU
 あれから、既に二十分が経っていた。
笹川加奈(女子十四番)と千嶋和輝(男子九番)は、二人で座り込んでいた。

加奈は泣き腫らした目で和輝を見た。「・・・ねえ、私カマ忘れちゃった」
「他の民家で探そう。もう、あそこには戻れないだろ」
「うん・・・」

和輝は訊いた。「落ちついた?」
「うん、もう」加奈は力なくだが、笑顔を見せた。「何か泣いてばっかだね。ごめんね」
和輝は首を振った。


加奈が言った。「和輝は、いなくなったりしないでね。私が死ぬ時も、見ててくれたら嬉しいな」
「縁起でもないこと言うなよ」
加奈はフッと笑った。


もうすぐ、昼の放送の時間だった。また誰かが死んだのを聞くことになるかと思うと、気が重くなった。

「・・・あーあ、早く終わんないかな」和輝は立ち上がって、言った。「そしたら、今度こそ、二人で散歩に、行きたい」
うわっ。何言ってんだ、オレ。ちょっと、恥ずかしくなった。

「そうだね」加奈は笑んで、言った。「楽しみだな」
和輝は、加奈を見た。目元は赤くなっていたが、口元は、少し笑みが浮かんでいた。
加奈―――和輝は、次の言葉を紡ごうとして、迷っていた。


「はーい、皆さんお昼の時間ですよー!」



大音量の声が聞こえた。またこの女か。和輝は不快になった。
「ちゃんと食べないと人殺し出来ないよー?それでは死んだ人を発表します」
死んだ人。和輝の心臓は、どくりと音を立てた。

「えっと、男子は、六番柴崎隆二くんだけです。で、女子は・・・八番梅原ゆきさん、九番、大島薫さん、十九番濱村あゆみさん」

驚いた。やっぱり、梅原は禁止エリアに引っ掛かったのか。
ゆきのことを考えて、何となく申し訳ない気持ちになった。


―――が、それよりも、もっと注意を引いたのは、大島薫の死だった。

「和輝!どういうこと?」錯乱した加奈が、言った。

・・・どういうことだ?三十分前には、生きてたのに。あの後すぐ、殺された?
和輝は、小屋のある方向を見た。


「じゃあ禁止エリアの発表ね。一時からD=2、三時からB=6、五時からF=7です。メモしたかな?じゃあ、今日も一日頑張ってねー」
和輝はささっとメモをした。どうやら、このエリアはまだ大丈夫なようだった。



加奈は不安そうな顔で言った。「ねえ!戻ってみようよ!薫が死んだなんて・・・」
和輝はそれを制した。「殺した奴がまだいるかもしれないだろ」
「でも・・・知らんぷりなんか出来ないよ。友達・・・だもん」
加奈の真剣な表情を見て、和輝はため息をついた。「わかった、行こう」



二人は、薫のいた小屋まで戻った。

167リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/18(日) 18:43 ID:1Nf1VncU
 息を切らしながら、和輝はドアの前に立った。そして、ドアを開けようとした。
ギ、ギィギギー。嫌な音を立てて、ドアが開いた。

和輝と加奈は、揃って中を覗き込んだ。



加奈が、うっ、と声を漏らした。部屋の中は、真新しい血の香りが充満していた。
そして、そこにいたのは、変わり果てた、大島薫(女子九番)だった。


座っている薫の首には垂直にカマが刺さっており、深く刃が食い込んで、薫の首の約半分が切れていた。
首から大量の血が流れ、服を濡らしていた。目は、見開かれたままだった。

だらだらと血を流し続けている死体の凄惨さに、和輝は驚いた。


田辺卓郎(男子八番)の死体も見たが、卓郎は、まだ穏やかな顔で死んでいた。これは初めて見た、死体というもの、だと思った。
薫の目は瞳孔が開いていて、和輝達をじっと見ているような気がした。


途端に気分が悪くなった。吐き気が込み上げたが、薫に失礼だと思い、グッとこらえた。誰が、殺したんだろう。

隣では加奈が泣いていた。「薫、ついさっきまで、生きてたのに・・・」
そうだ、和輝達が小屋を去ってから、まだたったの三十分弱しか経っていなかった。
その間に、薫は殺された。

小屋に、誰か入ったのか?

・・・わからなかった。犯人が裏口から入っていたのなら、それこそ全く気づかないし、表だろうと、小屋に背を向けていた和輝達が、気づくはずもなかった。
言い方は悪いが、考えても無駄だと思った。


この死体は、あまりにも酷すぎた。
せめて目を閉じてやろうと、和輝は死体に歩み寄った。

近くで見ると、余計に傷の痛々しさが目についた。
少し気味が悪かったが、和輝は薫の目をそっと閉じた。

血の香りが充満している部屋で、和輝は茫然としていた。
このクラスに、こんな惨いことを出来る奴がいたのかと、思った。昨日は皆、仲良くバスに乗っていたのに。

加奈はまた、泣いていた。
もう泣き顔は見たくないのに。このゲームのせいだ。あんなに明るかった加奈を、ここまで泣かせる理由がどこにある?和輝は腹が立った。


それはともかく、ここを出なければいけなかった。
和輝は「行こう」と言った。加奈は無言で頷いた。

不意に、思った。カマも抜いてやるべきかな。
薫の死体を見た。「ヌイテ。ヌイテヨ」と言ってるような気がした。
怖かったが、近寄った。


カマを抜こうとしたが、深く刺さっていたそれは、なかなか抜けなかった。和輝は力を込めた。

ブシュッと音がして、薫の死体が横に倒れた。
勢いよく振られたカマは、血がぱしぱしと地面に落ちていた。

和輝は、まるで自分が薫を殺したかのような、嫌な気分になった。また吐き気が突き上げたが、もう一度「行こう」といい、家を出た。


家を出る時に、最後にチラッと薫の顔を見た。
目を瞑っている薫の顔は、少し、悲しそうに見えた。
【残り32人】

168:2004/04/18(日) 20:42 ID:4pJWotl2
久しぶりにまとめて読みました☆
もうさいこーに面白いです(まぢで
がんばってください

ではまた

169リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/20(火) 01:18 ID:1Nf1VncU
 国見悠(男子三番)は、まだエリアG=1にいた。学校の裏に当たるこのエリアは、何もない、ただの草むらだった。
だが、意外に人が通ることがなく、悠は、今までに誰にも会うことがなかった。

思った。このまま誰にも会わなければ、生き残ることが出来るかもしれない。

悠は、太めの体にデイバックを背負ったまま、長い間突っ立っていた。
いや、何も今までずっと突っ立っていたわけではない。銃声が聞こえる度に周りを振り返ったり、座って食料を食べたりしていた。

悠は思った。はあ、いつになったら帰れるんだろう。
もし、首輪が当たりなら二日目だ。
ハズレだったとしたら―――。

悠は恐ろしさで、ブルブルと震えた。俺は死にたくない。自分の命が、あと二日で終わってしまうかもしれないと言う事実が、ただただ恐ろしかった。
他の奴らが、さっさと死んでくれればいいんだ。もっと殺し合え。
でも、俺のいるエリアには絶対こないでくれ。必死で祈った。


ガサッと音がした。


―――誰だ!?

悠は座り込んで頭をグシャグシャと掻いては、何回も辺りを見回した。
恐怖が渦巻いた。怖い。心臓がドクドクと鳴った。


その音を立てたのは、小さな猫だった。
安堵と同時に腹が立って、近くにあった小石を、猫に向かって投げた。
「驚かすなよ!あっち行け!しっしっ!」
猫はフギャッと声を上げると、東の方へ逃げていった。

はぁ、ビックリした。悠は、草をむしりながら、気を落ち着けようとしていた。

このままだと、ストレスで死ぬかもしれない。いや、そんなことで死んでたまるかよ。このまま全員死ぬまでここにいれば、俺は生き残れる。皆早く死んでくれ!

悠には、クラスで特別仲のいい友人はいなかった。だから、放送で人が死ぬのを聞く度、もっと死んで欲しいと思っていた。まあ、それもありだ。

今のところ、死んだのは十一人か。クソッ、まだ三十二人も残っていやがる。
自殺でもしろよ、馬鹿野郎!悠はそう思いながら、草をブチブチと抜いた。

その手が、ふと止まった。
でも、万が一誰かにあったら・・・。そして、ブルブルと首を振った。
嫌なこと考えるな!敵が現れたら殺してやるぜ。俺様をなめるなよ。
悠は思いついたように、デイバックの中から武器を取りだした。
悠の武器は、何とハリセンだった。こんな物で戦えるかよ、チクショウ!
行き場のない怒りを感じながら、それを放りだした。

ため息をついた。ああ、どこまでもついてないんだな。俺って。

悠は近くにいる石を集めた。これなら何とか、人が殺せるかも。あと、大きい石も持っておけば・・・。そう思いながら、石を集め始めた。



背後から、古びたタイプライターのような音が聞こえた。
しかし、それが何の音なのか、悠には認識できなかった。

音と同時に、悠の体は跳ね上がった。


背中に衝撃がきたかと思うと、今度はダンプカーで轢かれたような衝撃が、頭に走った。
悠の頭は吹っ飛び、その破片は、周りにぱらぱらと落ちた。


すでに頭がなくなっているのに、まだピクピクと痙攣している悠に、もう一度銃弾のシャワーが浴びせられた。悠の巨体は蜂の巣のようになった。



悠が死んでいることを確認した、井上聖子(女子五番)は、悠に近寄り、傍にあったデイバックを漁り始めた。
何だ、大した物入ってないじゃない。がっかり。

聖子はデイバックを放り出すと、頭のない悠に向かって言った。
「残念だったね。国見君がいるの、ばっちり見えてたよ」


そう、エリアG=1、G=2は、一面草むらで他に何もないため、他のエリアにいても、悠の姿は見えたのだった。
いや、普通は見えないのだが、悠が巨漢なことと、聖子には皆村陽光(男子十八番)から拝借した双眼鏡があったから、十分に悠の存在を確認することが出来たのだ。

こうして、今ひとつ爪の甘い、運のない男は、自分が死んだことを意識することなく、死んだ。



聖子が去った後の草むらは、まるで何事もなかったかのように静まりかえって、初夏の風が草木を揺らしていた。

しばらくすると、先ほどの猫と、その母親猫が、既にただの肉塊と化した悠の近くにきた。ニャーニャーと鳴きながら、その肉をついばみ始めた。
【残り31人】

170リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/20(火) 21:55 ID:1Nf1VncU
はっ!ありがとうございます!
そう言ってくれて、さいこーに嬉しいです(笑)>瞳さん

171リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/21(水) 21:38 ID:1Nf1VncU
 有山鳴(女子三番)はエリアC=6を走っていた。そこは深い森で、人の手は、殆ど加えられていないようだった。

蒸し暑く、ジメジメとした暗い森の中を走りながら、鳴は流れ出る汗を拭おうともせずに、走り続けた。
取り敢えず、ここを出なきゃ。ここは怖い。
ある人物を探しているうちに、いつの間にかこんなところに迷い込んでしまっていた。


鳴は、天野夕海(女子一番)や、望月さくら(女子二十番)と同じギャル系グループにいながら、クラスでは頭のいい方だった。
禁止エリアの確認もしたし、磁石もきちんと活用していたし、デイバックから出てきた、ワルサーPPK9㎜の取扱説明書もしっかり読んで、扱い方を確認しておいた。

普段夕海やさくらと馬鹿をやっていても、あたしはやるべき時にはちゃんとやる人間だ。鳴はそう思ったが、同時に二人のことを思いだし、また胸を痛めた。
二人は死んじゃったんだ。だから、あたしがついてないと駄目なんだから。

鳴はまた涙が出そうになったが、グッと涙を拭って、走った。

誰に殺されたんだろう。今となってはわからないけど、あたしは二人の分まで頑張る。鳴は決意した。
そして、もう一つの決意もしていた。


鳴には、どうしても会いたい生徒がいた。ずっと曖昧な関係だったけど、やっぱり、好き。会えないまま、死ぬのは嫌だ。我慢出来ない。

鳴は足を止めて、唇をグッと噛んだ。そして、赤茶に染めたストレートの髪を掻き上げた。

今の自分に絶望していた。こんな森も抜け出せないようじゃ、あいつに会うことなんて到底無理な話だ。あいつは今、どこにいるんだろう。
鳴は呟いた。「何で逃げたのよ、柴崎―――」

鳴が探していた相手とは、柴崎憐一(男子五番)だった。


女好きだということはわかっていた。わかっていたけど、それでも、鳴は憐一のことが好きだったのだ。

憐一は多分、クラスの女子の中で、鳴と一番仲がよかった。
好きだといわれたわけではないが、曖昧な関係だった。彼氏・・・って言うか、恋人って言うか、愛人って言うか、浮気相手・・・なのかな。

しかし、そんなことも気にならないくらい、憐一に惚れてしまっていた。


鳴は出発の時に憐一を待っていたのだが、憐一は門の前を走って通りすぎてしまった。殆どこっちを見ていなかったので、気づかなかったのかもしれない。でも、「待って!柴崎」って叫んだのに。

我に返って追い掛けた時には、憐一はいなかった。見失ってしまったのだ。もしかして、混乱していてそれどころではなかったのかもしれない。そう思い直そうとしても、鳴はショックだった。
でも・・・諦めない。

どうしても話がしたかった。会って抱きしめてほしかった。今はそれだけを考え、行動していた。


でも、このへんぴな森を抜けなきゃ、話にならない。憐一がここにいるという可能性もなくはないが、あいつは綺麗好きだから、汚い場所には寄りつかないだろうと予想を立てた。鳴は辺りを見回した。出口はどこだよ。

イラついていた。「もー!何なのよ全く!」思わず、独り言を言った。

とりあえず、走った。しかし、走れば走るほど迷っているかのように感じた。鳴は泣き出しそうになりながらも、走った。


絶望を感じた。人の気配は全くなく、時折、遠くで鳥の鳴き声が聞こえるばかりだった。

走り疲れて、座り込んだ。

鳴は鏡を覗き込んで、自分の顔に唖然とした。やだ!汗かきすぎ。アイラインが滲んでクマみたいになってる!
大急ぎで、化粧を直し始めた。こんな顔じゃ、人前に出たら恥ずかしいじゃん。

まあ、その前に、人前に出ることが、もうないかもしれないが。

鳴はあぶらとり紙で顔の皮脂をとりながら、思った。重ねると厚塗りになっちゃうから、顔洗いたいな。一日中つけっぱなしじゃ肌にも悪いし。肌には、人一倍気を遣っていた。年取ってからシミだらけになるのは嫌だもんね。
やっぱり早くここを出て、水のある場所へ行こう。鳴はそう思いつつ、綿棒で、目蓋にこびりついたアイラインを拭き取っていた。

172リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/21(水) 21:40 ID:1Nf1VncU
たったったったった。


・・・ん?何この音。

人間?まさか。こんなところに。

動物?ああ、有り得るかもね。

幽霊?足なんかないっつの。多分。見たことないけど。


たったったったった・・・たたっ。


軽やかなステップを踏んで、その人物は突然、鳴の目の前にやってきた。

「なっ・・・」鳴は驚いて、ワルサーをかまえた。


吉野水鳥(女子二十二番)の目が見開いた。甲高い声で、言った。
「あなたは、迷ってるのね・・・」

・・・へ?


「ここをまっすぐに進みなさい。そして、腐った大きな樹があったら、そこを右に曲がるの。それから直進すれば出口よ」


・・・本当かな。ってかこの子の口調は何なんだろ。


「本当に・・・?」鳴はおそるおそる訊いた。

水鳥は頷いた。更に続けた。「怖れちゃ駄目よ。相手もきっと、あなたのことを思ってくれてるはずだから」

何でこっちの事情まで知ってるんだろ。

・・・まあ、いっか。

「あの、ありがとね。じゃあ・・・」

去ろうとした鳴の足を、水鳥は掴んだ。鳴は、勢い余って転びかけた。
「何すんのよ!」

「道を教えてあげたんだから、あなたの体を私にちょうだい」水鳥はニターッと笑った。

ギャー、何コイツ!


鳴は水鳥にアッパーを喰らわせた。水鳥はすぐにのびてしまった。あっけねえ。
とにかく、逃げた。


水鳥の言うとおり、鳴は腐った樹を右に曲がった。
本当にここでいいの?一抹の不安を感じつつも、行くしかないと思っていた。

鳴は歩いた。


暗い森に、光が差し始めた。「やった・・・」

吉野さん、ありがとう。鳴は感激した。よくわからない人だったけど、抜けられてよかった。鳴はホッとして、森を抜けた。【残り31人】

173ジェイスン:2004/04/22(木) 18:50 ID:QL2bqOU2


                         ネオマト新撰組!編 − 愛刀配分! うなれ備前長船! −

 ──どうしよかな…。
 E−5(製鉄所)。
 その外、和泉守兼定、と刀身に小さく彫られた愛刀(元は鉄パイプ)に、グリップとなる荒縄を捲きながら翡翠は考えた。溜息を一つ付くと、傍らの古い木の長椅子に腰を掛ける。
 (このまま、この狂人部隊にいて良いのかな…)
 自分自身目標もなく、展開上、流されてここへきたのだけは明確であった。しかし──さすがにそろそろ付いて行けない。

 ここへ来てまもなく。局長、ジェイスンは中へ入ると鉄パイプを4本、棚から抜き出し、なにやら機械を稼働させ、金槌持ち出した。
 局長の指示で、外では遊撃隊、傭兵騎士とDボーイズ(何で名前なのに複数形なんだろう…)が戸口で見張る。
 ジェイスンは鉄パイプを机に並べると、大きな音をたてて鉄パイプを叩き、中を潰し始めた。4本、全て中を潰すと今度は機械削り、その刀身に切っ先を鋭く付けた。
 ──音が大きい。
 しかし、声を掛ける暇もなく、作業は敏速かつ正確に終わりを告げた。──凄いんだか、アホなんだか。
 一同が会し、ジェイスンは出来上がった力作、それぞれの愛刀に付いて説明をする。
 「急ごしらえですが、その辺のなまくらよりは使い物になりますよ。鋭い切っ先を生かして、主に突き技で戦って下さい。強度にも優れてるので鈍器として扱うことも可能です」
 ──テレフォンショッピングじゃないんだから…。
 「ヒッキー」
 「…は、はい」
 不意に慣れないニックネームで呼ばれる。
 「これを──和泉守兼定、土方歳三の愛刀です」
 (カネサダ??)
 かなりマニアックな話と言う事しかわからないが、とにかくそれを受け取る。支給された『伝説の剣』よりは使い物になるだろう。受け取るとジェイスンが続けた。
 「グリップにはその辺にある縄でも捲いて下さい、しばらく小休止。各自、休める内に身体を休めて下さい」

174ジェイスン:2004/04/22(木) 18:52 ID:QL2bqOU2
ヤッベ間違った!!
リズコさん、そして皆様。スレ違い申し訳ございません。大変失礼いたしました。
何卒ご容赦を。

175リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/23(金) 00:51 ID:1Nf1VncU
(笑)
気にしないでください。>ジェイソンさん

176リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/24(土) 15:51 ID:1Nf1VncU
今の時刻は、午後、二時四十分を過ぎたところだ。ここは、エリアD=9だ。かなり気温が高く、ワイシャツの下が蒸れた。御柳寿(男子十九番)は、物思いに耽っていた。

静かだな。さっきは銃声が遠くで聞こえたと思ったけど、今はもう何も聞こえなくなった。寿はボンヤリとする頭の奥で、また人が死んだのかな、と思った。何でこんなことになったんだろ。おれはもう生きて帰れないのかな。自分の不運に腹を立てたが、時が経つに連れて、落ち着きを取り戻していた。
と言うよりも、もう諦めかけていた。

何と言っても寿の武器は、木製のブーメランだ。こんな物で、どうやって人が殺せるんだよ。どんなに弱りかけた老人や、子犬だって死なないだろう。
―――絶望的だ。

寿は考えた。誰かを仲間にするか、動かないでジッとしているしか、助かる術はない。どっちを選ぶべきか、どっちを―――
たとえジッとしていたとしても、万が一誰かに襲われたら、ブーメランで勝てる自信がない。
・・・やっぱ仲間か。

ふと、寿の脳裏に、ある人物の顔が覗いた。
寿は呟いた。「菜々―――」
その人物の名前は、鈴木菜々(女子十六番)だった。


寿は半年前から菜々と付き合っていた。寿はそれまでに何人かの女の子と付き合ったが、菜々が一番、気があった。まだ半年だったが、寿は本気で菜々を思っていたし、菜々もそう思っていてくれると信じていた。
要するに、寿は菜々を心底、愛していたのだ。

しかし―――菜々は、寿よりも五人前に出発した。時間にすると約十分。メモを渡すことは出来なかったけれど、菜々は自分を待っていてくれるだろうと、淡い期待をしていた。だが、菜々はいなかった。

まあ仕方のないことだろう。寿が門の前に来た時にはもうクラスメイトの死体が転がっていたし、誰かを待つというのはとても危険なことだ。
それはわかっていたが、寿は菜々に会いたくてたまらなかった。

「菜々、どこにいるんだよ」寿は呟いた。生きててくれ。もしおれがこのまま死ぬとしても、会いたい。そうじゃないと、成仏できねえよ。
寿の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。もっとも寿自身は、そのことには気づいていなかったが。

―――移動するか。

一日中歩き続けたので、疲労は既にピークに達していたが、それでも歩いた。
寿は考えた。ここはもうDの端だ。取り敢えず、南へ行ってみるか。

もし菜々に会えなくても、他に仲間を探すのは重要なことだった。寿は考えた。普段仲のいい、姫城海貴(男子十六番)や、飛山隆利(男子十七番)なら信用できるだろう。女子なら、冬峯雪燈(女子二十一番)や、濱村あゆみ(女子十九番)は、菜々と仲がよかった。

だが、思い直した。菜々は、寿が自分以外の女子と話すことをあまり快く思っていないようだったので、寿は、女子とは必要最低限のこと以外は話さなかった。(菜々曰く、『雪燈もあゆみも可愛いから、寿が好きになりそうで怖いんだもん』ということらしい)
だから、信用してもらえるとは限らないし、寿だって、女子の人間性などわからなかった。仲間にするのは男だけにしようと思った。

寿は疲れた体に鞭打って、南へと向かった。
【残り31人】

177コンドル:2004/04/24(土) 16:39 ID:mQbcm3Yw
めちゃめちゃィイ!です!先が気になってしょうがないです(笑
頑張ってください!!!!!

178リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/25(日) 04:21 ID:1Nf1VncU
以前の行動>>143から>>145まで

中西諒(男子十番)は、仲田亘祐(男子十一番)と、新井美保(女子二番)と、一緒にいた。二人とも、例の小屋に戻ってきていた。

美保が言った。「大島さん、死んじゃったね」
「どうすんの?諒」亘祐も言った。

・・・どうしよう。まだ探してもいないのに。死ぬの早えーよ。
こうなったら―――

諒は言った。「三人で、ジッとしてよう」


二人はため息をついた。
「あのなあ、それでゲームが終わればいいけど、オレ達だって、そのうち誰かに襲われるかもしれねーだろ」
美保は優しく言った。「だから、ね。中西君」
「何?」
「ゲームに乗って、人数を減らさない?」

諒は、やや狼狽した。「そ、それは―――」
「嫌?」美保の目が、キラリと光った気がした。
「人殺しとか、やりたくねーよ」
「何で?」
亘祐には、この後の諒のセリフが、容易に想像出来た。

「親父と一緒のことは、したくない」
・・・やっぱりな。亘祐は苦笑した。

美保が言った。「中西君のお父さんってどんな人?ダンディーそうだよね」
「いや、まさか。最低だよあんな奴」諒は首を振った。
今は諒の親父のことなんかどうでもいい。亘祐は言った。「オレ達が組めばかなり人数が減らせるだろ。お前だって生き残りたいだろ?」
「そんで、三人になったらどうすんの」
美保が言った。「殺しあうんじゃない?」亘祐を見つめた。

亘祐はやや狼狽した。そうなのか?まあ、それしかないよな。神妙に頷いた。

「そっか・・・」諒は考え込んでいるようだった。

美保は諒の肩にポンと手を置いた。「考えといてね」


やっぱり諒はゲームに乗らなそうだ。亘祐はそんな予感がした。そうしたら―――新井と二人でここから離れるか。もし再会したら・・・仕方ない。戦うしかない。

あーあ。何かがんじがらめだ。亘祐は頭をかかえた。
美保が近くにきて、囁いた。「今日の夜までに、中西君を説得してね」
亘祐は美保を見た。美保はフッと笑んだ。

「私、これから中西君とパトロールに行ってくる!」美保は諒の腕を掴んだ。
亘祐は言った。「はあ?もう大島は死んでるのに何で?」
「お散歩だよ。それに、食料とか欲しくない?」
まあ確かに。でも、何で諒なんだよ。

「行こう!中西君」美保はそう言って、諒を立たせた。
「・・・まあいいか。行こう」
「じゃあね、仲田君は休んでて」
「おう」

美保と諒の背中を見送りながら、亘祐は思った。あいつ、やっぱ諒に気があんのかな。まあ、別にいいけど。

美保は、今まで見てきた女と、どこか違った。掴めない。しかし、そこがまた魅力になっていた。

179リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/25(日) 04:36 ID:1Nf1VncU
諒と美保は、しばらく歩いて、近くにあったベンチに腰を下ろした。

美保が言った。「ねえねえ、中西君と仲田君ってどっちが強いの?」
「・・・前に喧嘩した時はおれが勝ったけど」
「へー・・・」美保は何かを考えていた。「何で喧嘩したの?」
「一回目はあいつが喧嘩売ってきて。二回目は・・・女絡みで」
「へー。取り合いみたいな?」
「うーん・・・まあそのようなもん」
そんなことはいいからさ、と言って、諒は話を変えた。


「マジでゲームに乗るつもりなの?実は、もう人殺してたとか?」
「まだ殺してないよっ」美保は言った。嘘だった。

美保は重い口調になって、言った。「ってかね、仲田君はゲームに乗ってるの。私は、一応仲間に入れてもらってる立場なわけだし・・・逆らえないでしょ?」
「まあね」
「訊いて」美保が顔を近づけてきたので、諒は狼狽した。

美保は、諒の耳元で囁いた。「あゆみを殺したの、仲田君なんだよ」


濱村を―――?濱村あゆみ(女子十九番)とは、冬峯雪燈(女子二十一番)を通じて、割と仲がよかった。亘祐も、あゆみとはよく話していたはずだった。

「嘘だろ?」
「こんな時に、嘘なんてつくわけないでしょ」美保は睫毛を伏せて、続けた。「信じてくれないなら、その現場に連れてってあげてもいいよ?ゴルフバッドで殴られて、顔の形もわかんないくらいぐちゃぐちゃになってるけど」

どうする?と、訊かれた。
「いや、いい」諒は苦々しい思いで、首を振った。
「じゃあ、信じてくれる?」
「・・・うん」諒は頷いた。



ショックを受けていた。

美保は諒の両手を握った。「私、その現場見ちゃったの。怖くて、逆らえなかった」焦ったように続けた。
「だから、中西君に知らせたくて、二人になったの。助けて欲しいの!」

諒は茫然としていた。


仲田が、濱村を殺した・・・?

そんな。まさか、本当に人を殺してたなんて。
まあ、あいつならやりそうかもしれない。でも・・・

諒は言った。「やっぱり、それが本当かどうか、仲田に直接訊いてみるよ」

「やだ!絶対やめて!」美保は叫んだ。「そのことを言ったら、何されるかわかんないよ。殺されるかもしれない」
「おれがそんなことさせないよ」
美保は少し落ちついたように息を吸い込んだ。「でも・・・あゆみを殴ってる時の目、普通じゃなかった。いくら中西君でも、負けちゃうかもしれないよ?」

諒は考えた。確かに。あいつの武器はゴルフバッド。おれの武器は・・・ピコピコハンマーだ。万が一の場合も、あるかもしれない。

美保は言った。「中西君には、死んでほしくないの」
諒の頭を両手で抱きしめて、自分の胸元に寄せた。柔らかい感触がした。諒は、役得だ、と思った。

いや、そんなこと考えてる場合じゃない。諒は顔を上げて、言った。
「で、それを聞いたおれは何すればいいの?」
美保は少しだけ笑みを漏らして、言った。「今は何もしなくていい。でも、もし仲田君が襲ってきたら、私のこと守ってね」
諒は神妙に、頷いた。
美保は笑顔になった。



美保は思った。ちょろいちょろい、ちょろすぎだわ。やっぱ、不良って頭の中が単純なんだ。簡単に信じちゃうんだもん。面白いくらい。
あとは、仲田に中西を襲ってもらって、二人のうち強い方につく。こんなもんでしょ。強そうな奴がどっちか確実に減るし、一石二鳥ね。


美保は、伊藤愛希(女子四番)ほどではないが可愛かったし、男好みのスタイルと顔を生かして、男を使うのを得意にしていた。それに、ある意味、愛希よりも策士だった。単純な男二人は、いいように騙されていた。



亘祐はイライラしていた。
・・・遅い。何やってんだ。それで、オレは何でこんなにイラついてんだ。


「ただいまー」美保は明るい笑顔を見せた。
「おっ、かえり」諒と何を話したのか、そればかりが気になった。

「何話してたんだよ」
美保はご機嫌だった。「あはは、何でしょー?」
やっぱり諒に気があるのか。
美保は小声で言った。「昔女の取り合いして、殴りあったって話ー。ね、中西君」
「へっ、ああ・・・」諒は頷いた。
ちっ、余計なこと言うなよ。

「あとね・・・」美保は殆ど口元を動かさずに、一気に話した。「やっぱりゲームには乗るつもりないって」
・・・えっ?そんなこと言っていいのか?諒聞いてるぞ。

亘祐は諒を見た。気まずそうな顔をして、すぐにそらされた。
「でも、仕方ないよね」美保は笑って、亘祐だけに見えるように、目線で合図した。

中西を殺せ。美保の瞳は、そう言っているように見えた。
【残り31人】

180:2004/04/25(日) 15:57 ID:JzQAiedY
うわぁぁ仲間割れキターーーーーーー
先が楽しみ☆

更新早いっすね〜
頑張ってください!

181GGGGD:2004/04/25(日) 16:13 ID:cYqVc/X.
おひさしぶりで!!
いやー、美保ちゃん怖い・・・
安芸

182リズコ:2004/04/26(月) 22:17 ID:1Nf1VncU
コンドルさん>
えー!(何
ありがとうございます。
まだまだ続きますが、見捨てず読んでやってください。

瞳さん>
これでもちょっと更新ペース遅めにしたんですよ^^;
仲間割れです。がんばります(?)

GGGGDさん>
この子はある意味書きやすいです。
これからもタチが悪い女として働いてもらいます(笑)

183リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/28(水) 00:04 ID:1Nf1VncU
以前の行動>>176

 日は半分ほど暮れかけて、夜が訪れようとしていた。御柳寿(男子十九番)はすっかり疲れ果てて、その場に座り休憩をしているところだった。

寿は耳をすませた。どこからか、物音が聞こえた。
どうやら、この付近に誰かがいるらしい。しかも、かなり近くだ。


その時、人影が見えた。ただ、夕日が真正面から当たっているので、顔は確認出来なかった。
寿は念のため、ブーメランを握りしめて(これほどサマにならない武器も珍しいな。と寿は思った)、人影の方に向かった。

割と近くまできた時、その人物の顔が見えた。


寿はその人物を見て、あんぐりと口を開けた。


そこには――肩まで切り揃えた茶色い髪に、キリッとした目、寿が誕生日にあげたネックレスを首に飾っている――鈴木菜々(女子十六番)がいたのだ。

奇跡だ。寿はそう思った。こんな広い公園の中で、会いたくてたまらなかった菜々がここにいる。こんな偶然、あってたまるか!

寿は夢中で駆けだしていた。



「菜々!」

その声に、菜々はビクッとして武器を向けた。
だが、声の主が寿だとわかると、驚いたように目を開いた。
「寿?」
それと同時に、菜々は寿の方に駆け寄ってきた。


菜々は言った。「何でここに?」
「さあ、奇跡かな」
菜々はクスッと笑った。「会えると思わなかったよ。嬉しい」

寿は菜々を抱きしめた。「会いたかった……」
菜々は、寿の胸に顔を埋めた。
「私もだよ」小さな声が聞こえた。

寿は幸せを噛みしめていた。
このまま二人で逃げ出せればいいのに。本気でそう思っていた。



それから二人は、D=9の森の中に座り込み、今までどうしていたかについて、話した。

菜々は言った。「本当は、寿を待ちたかったけど、門の前に田辺君の死体があったし――怖くてつい逃げちゃったんだ。ごめんね」
「いいよ。むしろ、当たり前だよ。そんなの」寿は更に続けた。
「生きてたんだから、それで十分」
菜々との穏やかな時間。それだけあれば、もう十分だと思っていた。

寿は水を飲みながら、支給のパンをかじった。
「ところで、それ何?」
寿は、菜々の手に握られている物を指さして、尋ねた。菜々はそれを、寿に見せた。それは、ゆるやかなフォームを描いた、きゅうすだった。

「何か間抜けな武器だよね。こんな物で人が殺せるのかな」菜々は言った。
寿はきゅうすを観察した。これは、殴れば結構なダメージになるんじゃないかな、と思った。
菜々の手には、きゅうすの柄を握った跡が、赤く、くっきり残っていた。

どうやら不安を感じていたのは、寿だけではなかったらしい。
寿は菜々をまた、愛おしく思った。
「まだいいよ。おれなんかこれだぜ?」ブーメランを菜々に見せた。
菜々は、目を丸くして、その木片を見て笑った。
そして、寿に言った。「よかった。寿が殺人鬼になってたらどうしようかと思った」
「そんなわけねーだろ」
「よかった……」

菜々は寿に両手を差し出した。
寿は手を取って、それから、菜々を力強く抱きしめた。

菜々は震える声で言った。「何で、こんなことになっちゃったんだろうね」

わからない。多分、政府の気まぐれだ。
そんなことで死ななくてはいけないことに、怒りを覚えた。
「おれは、今菜々に会えたから、悔いないかも」
「嘘だー」菜々は笑った。
そして、少し声音を変えて、囁くように言った。

「私ね、デイバックの中からこれが出てきた時から、決めてたことがあったんだ。でも、決心つかなくて。やっぱ怖くなって逃げちゃった」
意味がわからなかった。
「何が?」

「気にしないで。私もパン食べよう。お腹空いちゃった」菜々は明るい調子で言った。
「食いすぎるなよ。太るぞ」
それを聞いた菜々は、口を尖らせながら言った。「大丈夫だよー。これくらい」

寿はホッとしていた。どんな状況でも、菜々は菜々だ。この時間が、ずっと続けばいいのに……。寿は心からそう思った。

184リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/28(水) 00:08 ID:1Nf1VncU
「やばい。もう水がない」
新しい水の封を切ろうとした寿に、菜々は言った。
「待って。水は貴重なんだから大切にしなきゃ。私のあげるよ」
そして、デイバックの中から、殆ど飲んでいない水を出した。
「悪いな。じゃあ二人で仲間にして飲むか」寿は言い、菜々は頷いた。
「待って」水に口をつけようとしたら、菜々が言った。「何?」

菜々は寿の首に手をかけた。目を閉じて、優しくキスをした。

菜々が唇を離した。
「……どうしたの?」いや、嬉しいけど。
「えー、何となく」菜々は少しためたいがちに、言った。
「ゆっくりお別れが言いたかったんだ」

「まだ死なないのに何言ってんだよ」菜々の頭をこづいた。
「熱でもあんの? お前今日ちょっと言動がおかしいよ」
額に手を当てた。少し火照ってはいたが、多分、外気のせいだろう。
「熱なんかないってば!」菜々は言った。

まあいいや。寿は水の蓋を開けて、一気に喉に流し込んだ。
この暑さの割に、冷えている水に驚いたが、大して気にも留めなかった。水が、何だかいつもと違う味に感じたのも、気のせいだったのだろう。

「冷たいでしょ? それね、ここに来る途中にあった池で冷やしたの」菜々は言った。
「へー、おれもやればよかったな。明日また行こうぜ」
寿はそう言ったが、菜々は黙ったままだった。


しばらくすると、菜々が言った。「寿に、会えてよかった」
「うん」
「本当だよ。私、幸せだった」

やっぱり、今日の菜々はおかしい。いつもなら絶対言わないようなクサイ台詞も、口にしていた。どうしたんだろう。
まるで、もうすぐ会えなくなるみたいに――


菜々は微笑んだまま、言った。「おやすみ、寿」


へ? おやすみ?


その発言の意味がわかる前に、寿は自分の口から、ごふっと血が出るのを見た。
同時に、喉から突き抜けるような熱さと、痛みが走った。

185リズコ:2004/04/28(水) 21:41 ID:1Nf1VncU
ハンドルネーム占いで大凶がでたので、HN変えます。
違う名前で投稿があっても、気にしないでください。
ちなみにまだ考え中・・・

186イズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/29(木) 00:37 ID:1Nf1VncU
……苦しい。

「は、はる……」寿は菜々に助けを求めようとしたが、もう声が出なかった。
「心配しないで。私もすぐ逝くから」菜々はまたニコッと笑った。

それが、寿が最期に見た、菜々の笑顔だった。

寿はどんどん青ざめていき、もうこと切れていた。



菜々は寿の死体にちらっと見た。
開いたままだった寿の目を、そっと、閉じてやった。


菜々は、静かに寿を見下ろした。終わった。あまりにもあっけなかった。

これでよかったのだろうか、という後悔の気持ちが押し寄せながらも、菜々は、溢れ出す涙を止めることが出来なかった。


それは、菜々が特殊警棒(毒薬つき)を手にした時から、ずっと考えていたことだった。

私はゲームに乗らない。そして、寿もゲームには乗らないだろう。

それなら、生き残る可能性はとても低い。
もし生き残れたとしても、二人揃って家に帰るのは不可能なことに思えた。
なら――

狂気になったクラスメイトに酷い手口で殺されるよりは、他でもない自分の手で殺したかった。そして、自分も死ぬ。そう思っていたのだった。

しかし、実際に死体を見たことや、やはり恋人を殺すことへのためらいがあり、結局その場を去ってしまった。
だが、偶然再会したことで、菜々はもう一度決意した。


菜々は呟いた。「ごめん、ごめんね。寿……」
寿の手を握った。寿の左手の薬指には、二人がお揃いで買った指輪がはめてあった。そして、菜々の薬指にも、同じデザインの指輪はあった。

「私も、もう死ぬね。でも、寿と同じ場所には行けないかもしれないけど」
私は人殺しだ。好きな人を殺した。最低だ。

でも、寿はこんな私のことを好きだと言ってくれた。それを、私はずっと忘れない。寿だけは、どうか、天国へ行って欲しい。


菜々は涙を拭い、残っていた水を、全て飲み干した。


それは、あらかじめ、菜々が少量の毒を混ぜていた水だった。
どっちにしろ、今日の夜に死ぬつもりだった。


しばらくすると、菜々は喉の苦しさに身をよじらせた。
そして、大量の血を吐きながら、地面に倒れた。

こうして、鈴木菜々は、御柳寿と一緒に死んだ。【残り29人】

187イズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/29(木) 00:41 ID:1Nf1VncU
すいません。また独り言です。

HN変えました。たまたま「イズコ」と入れたら大吉が出てしまったんで・・・
しばらくこれで行く予定です。
ところで、私って文章下手ですね。
「小説作法」の講義を取っておくべきだと後悔しました。

次の更新は2日後くらいになります。よろしくお願いします。

188:2004/04/29(木) 13:21 ID:pOi6vuEI
ファイトアゲ

189コンドル:2004/04/29(木) 13:41 ID:RPzgYVwM
ファイト!!ファイト!!

190イズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/29(木) 23:55 ID:1Nf1VncU
以前の行動>>154〜157

 伊藤愛希(女子四番)は、形のいい唇を尖らせて、文句を言った。
「あたしのサプリ、どこー?」

……知らねえよ。


荒瀬達也(男子一番)は、体勢を低くして、地面に這いつくばるようにして、このお姫サマのサプリのありかを探していた。

「もうないんじゃないっすかね」
「えー……でも、ここら辺に置いたのにー!」
だから知らないって。

「美保に持ってかれたのかな……」愛希はしょぼんとしていた。
「まあいいじゃん。たかが一日や二日ぐらい……」
「だって、あれ飲まないとお肌が荒れちゃうかもしんないじゃん!」
「大丈夫だよ。ちょっとくらい荒れたって伊藤サンのビボーに変わりはないってー……」
愛希は黙った。
やべっ。また言っちゃった。達也は怯えた。

愛希はその場に座った。「じゃあ、諦めるよ」
おっ、やっと諦めてくれた。
「でも、その代わりー……」愛希は達也を見つめた。
「涼しくて綺麗な場所に連れてって!」
達也はげんなりした。「どこだよ、それ……」
「わかんなーい。探してよ」

達也は、ドッと疲れがくるのを感じた。
座り込んで、地図を開いた。「えーっとね、隣のエリアに休憩所があるらしい」
「うーん……」愛希も地図を覗いた。
おっ。達也は少し、ドキドキした。

「休憩場って、キレイ?」
「綺麗なんじゃないかな、わかんないけど」
「じゃーそこにしよ!」愛希は笑顔で言った。
「そうだね。近いし。ってゆーかここ五時から禁止エリアだし」
「えー、早く言ってよー」

……お前がサプリ探せってうるさいから、三時間も探してたんだよ。

「どうかしたの?」
「何でもないよ。ははは……」

とりあえず、移動しよう。そう思って、二人は立ち上がった。



歩き出してから十分も立たないうちに、愛希は言った。
「荒瀬くーん。疲れたー」
「我慢して」

何っ、この超美少女の頼みを聞かないって言うの? 愛希は腹を立てた。
「我慢できなーい」

達也は愛希に向き直って、言った。「伊藤って、我儘だよね」


……はあ? 誰に向かって口利いてんだよ、このタコ。

愛希は言った。「だって、疲れやすいんだもん」
「あとちょっとだから、我慢して」

なーにーよー。愛希はふくれっつらをした。この、顔も体も性格も品格も頭も声も特A級の愛希ちゃんに向かって、その言い草は何よ。
強そうな男子見つけたら、絶対に寝返ってやるんだから。

……はっ!

今気づいた。こいつ武器持ってないじゃん。役に立たないじゃん!


「……どうしたの?」立ち止まった愛希を見て、達也がげんなりとした表情で言った。
「もう歩けない」
「早くしないと禁止エリアになるから……」愛希に近寄ってきた。

愛希は考えた。でも、いないよりはマシかな。禁止エリアの確認とか面倒だし。暇だし。言うこと聞いてくれるし。ムカつくけど。

とりあえずこいつと一緒にいて、誰かよさげな人間でも探そうっと。


「あの、立ってくれませんか」
「疲れたー。無理ー」
「早く立たないと置いてくよ」

……えっ? この超絶美少女を置き去りにするって言うの? 
そんな男、この世にいるの? 
愛希は本気で驚いていた。


「荒瀬くんはあたしのこと、嫌いなの?」
達也は少々間を空けて、答えた。「……嫌いじゃないよ。疲れるけど」

何だそれ。愛希はムッとした。
「じゃあ何でそんなに冷たいの?」

「別に冷たくないよ。伊藤は、男に優しくしてもらうのが当たり前だと思ってるんだろ。これが普通なんだよ」

愛希は頬を膨らませた。「思ってないモン」
更に、一気に喋った。「疲れたの。休ませてくれたっていいじゃん!」


達也は呆れたように言った。「あのね、今は、四時三十三分ちょい。あと二十七分でこのエリアを出ないと、首が吹っ飛ぶよ?」

愛希は驚いたように立ち上がった。
「じゃあ何であんなとこにずっといたの? 早く移動しなきゃやばいじゃん!」
「だから……あんたがサプリ探せって言うから……」

「早く行こ」愛希は達也のワイシャツを引っ張った。
達也の話など、聞いていなかった。
「ま、いいや。十分間に合うと思うけどね。ここから」
「えー、そうなの? じゃあ休憩させてよ」

愛希の言葉を、達也は無視した。疲れて、話すのがだるくなったらしい。
「無視しないでよ!」愛希は怒鳴った。

191イズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/30(金) 00:18 ID:1Nf1VncU
それから十分ほど歩いて、二人はD=7に辿り着いた。

「もー疲れた。歩けない」愛希は座り込んだ。
達也も隣に座って、デイバックから愛希の水を出した。
「飲む?」
「飲む!」やったあ。気が利くじゃん。ちょっとは。

達也は休憩所を見て、言った。
「あとちょっとだから、あそこまで歩く? 伊藤がここでいいんなら別にいいけど」
「やだ、こんな湿っぽいとこ」
達也は笑った。


達也は、少しの間黙っていたが、言った。「ついでに言っちゃっていい?」
「ふん。何?」愛希は水を飲みながら頷いた。

「おれ、結構伊藤に憧れてたんだよね。すぐに男出来ちゃったけど」
……海貴のことか。愛希は黙って聞いていた。

「だからさ、今日一緒に行動出来て、嬉しかったかも」
「じゃあ、何で冷たいの?」
「冷たくないよ。これが普通だって」

愛希は納得いかなかった。あたしに惚れてる男は皆、もっと優しいもん。何か買ってって言えば買ってくれるし、金くれって言えばくれるし、あいつを懲らしめてって言えば、懲らしめてくれるもん。美人って役得。

「それは、憧れの域を出てないんでしょ?」
「どうだろうね」達也は少し寂しそうに笑った。

まあ、あたしに憧れてる男なんて腐るほどいるし、大して驚かないけどね。
むしろ、憧れてない方が男として不自然? みたいな。

達也は話題を変えた。「あと……得意なことがある」
「なに?」
「心理分析。顔色見れば、大体何考えてんのかわかるよ」
「嘘だー」
「嘘じゃないよ」達也は愛希の顔を見つめた。
……何よ。

「ずっと思ってた。伊藤っていつ見ても、全然楽しそうに見えないよ」
「そんなことないよー」
「で、あの人何考えてんのかなーって見てたら、だんだん気になってきて……」

愛希は思った。そんなことに気づかれても、困るんだけど。あたしの演技は、いつだって完璧だった。我儘は許される範囲でやってるから、あれも演技。
本当のあたしは、人間なんか大嫌いで、何事にも関心がない。好きじゃない。


愛希は言った。「そんなことどうでもいいよ。わかった風に出任せベラベラ喋んないでくれる? ムカつくから」
達也は少し驚いた表情になって、それから笑顔になった。
「ちょっと本性出てきたね。そっちの方がずっといいよ」
「はあ? いい加減にしてよ。あんたがムカつくから言ってんじゃん。このへっぽこナス」
「へっぽこナスって、何だろ」
「何だっていいでしょ。うるさい、うざい!」
「はは……ごめん」
こいつはきっとマゾに違いない。愛希はそう思った。


達也は立ち上がった。「もう行くか。あとちょっとだから」
愛希は口をへの字に曲げた。「疲れたから動きたくない」
「もう十分休んだじゃん……」達也はいつもの口調に戻った。

ふと思った。あたし、こいつの考えてること全然わかんない。こいつには読まれてるのに。嫌だ、何か悔しい!

「悔しがってないで、さっさと行こ」
愛希はギョッとした。
「悔しがってなんかないよ。疲れた、あー疲れた! 超疲れた!」

そう言いながらも、愛希と達也は休憩所に向かっていた。この後、色々な騒動(?)が起こるのだが、この時の愛希には、気づく由もなかった。
【残り29人】

192イズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/30(金) 00:34 ID:1Nf1VncU
気が変わったのでupしてみました。

HNが既に嫌になってきています(早すぎ)
だって明らかにスカイハイだしねー。じゃあつけんなって感じなんですけどね。
リズコに戻そうかな。大凶が何だ! ってことで。

さて、レスレス♪

>瞳さん、コンドルさん
ファイトあげありがとうございます。
長いので読者様置いてけぼりにならないかどうか不安ですが、頑張ります。

ちょい宣伝。
もう一つオリバトを書いています。
ただいま「ぺティー」執筆中なのでちょい更新停滞してますが、こっちも頑張って完結させたいなー。
その前に改稿した「ぺティー」が手に負えないほど元の話と変わってるので、そちらを何とかしなきゃいけないんですけどね・・・

BBロワイアル
双月庵→http://yoiiro.velvet.jp/sougetu/novel/rosesdo/
小説掲示板→http://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/movie/3404/1082989133/

193リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/04/30(金) 02:40 ID:1Nf1VncU
訂正。
>>186の寿の台詞。「は、はる……」
すいません。元の名前が出てしまいました(汗
「な、なな……」って感じですかね。

で、結局リズコに戻りました。すいません。

194リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/01(土) 17:17 ID:1Nf1VncU
また訂正。
↑と同じ場面。きゅうすが特殊警防に変わってました。

 高城麻耶(女子十七番)は、G=7の森の中を、スタスタと歩いていた。
まさか、自分が、あの“プログラム”に参加することになるとは、思っても見なかった。

麻耶は近くに腰を下ろし、ため息をついた。


いいの、わかってる。私はこんな殺し合いゲームの中でなんて、死ぬことはない。死ぬ気がしない。私の第六感がそう言ってる。だから信じる。

麻耶は昔から、どこか人とは違う、不思議な力がある女の子だった。
と言っても、他の人よりもカンが冴えていたり、占いが得意だったりするだけで、超能力があるというわけでは、決してなかったが。

でも、ここぞという時のカンはよく当たる。
麻耶はそれで何度か、ピンチを乗り越えてきたのだ。
だから私は死なない。生き残ってみせる。

麻耶は自分の左手に握られている(余談だが、麻耶は左利きだ)、文化包丁を見つめた。

あーあ、こんな物持って歩いてたら、まるっきり自分が殺人鬼になった気分になるじゃない。
包丁のきらりと尖った刃先を、右手の人差し指で触ってみた。
それも、悪くないのかな。麻耶は大きめの口を横に広げ、少し笑った。


麻耶は美しい少女だった。長く綺麗な黒髪、横に広い漆黒の目、細く理知的な鼻。まさしく、和風美人といった印象だった。
伊藤愛希(女子五番)がフランス人形だとすれば、麻耶は日本人形のイメージだろう。

にもかかわらず、麻耶は少し癖のある性格をしていたので、クラスには親しい友人などいなかった。
まあ、本人的には、私には友人なんていらない。そんなモノ、生きていく上で必要があるとは思えない。という感じだろうか。

でも、こんなことになったら、やっぱり一人は寂しかった。
麻耶は近くにあった花を見て、フッと笑った。

私には友達もいないし、恋人だっていない。
両親だって、私が小さいころに死んでしまったし、一人っ子だから兄弟もいない。
それについては寂しいと思ったことはなかったけど。
(いや、もしかしたら、心の奥では思っていたかもしれない)

私はいつも強く生きていると思っていたけど、たまに。こういう気分になる時だってあるんだ。
麻耶は、自分が泣きそうになっていることに気がついた。

麻耶はハッとして、目をぱちくりさせた。何、感傷に浸ってんだか。
今日は、何だかおかしい。いつもは全然平気なのに……

やはり、殺し合いゲームが、自分の心を弱くしているらしかった。
でも、くだらない感傷を起こしている暇は、ない。

とにかく、今は生き残ることだけを考えなくちゃ。このまま一人で行動するべきか。それとも仲間を作るべきか。

……仲間か。麻耶は考えた。私はいつも一人でいたから、信用してくれる人なんていないだろう。
ただ一人を除いては――

麻耶の頭に、一人の男子生徒の顔が浮かんだ。

飛山隆利(男子十七番)。あいつなら、信用してくれるかもしれない。

195リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/01(土) 17:26 ID:1Nf1VncU
 隆利と麻耶は、幼なじみだった。五歳の時に、両親が事故で死んでしまったので、麻耶は施設に預けられたのだった。その施設の隣の家に住んでいたのが、隆利だ。
隆利の家は両親共働きのため、隆利はよく施設に遊びにきていて、そこの子供達と遊んでいた。

麻耶と違って明るく社交的な隆利には、友達がたくさんいた。そして、一人で遊んでいる麻耶に、いつもこう言った。
「お前もこっちこいよ! 一緒にあそぼうぜ」
「いいよ。まや、ひとりで遊ぶ方がすきだもん」
「暗いな、お前」
「うるさい!」

それでも、隆利は毎日誘ってきた。たまにウザいと思う時もあったけど、何だかんだ言って、いつも隆利のペースに巻き込まれて、一緒に遊んでいる自分がいた。
そして、それからずっと、隆利と麻耶は一緒にいたのだ。

中学では三年間別のクラスだったけど、それでも、隆利は、麻耶のクラスに来ては、麻耶の様子を探っていた。
「お前さ、もっと愛想よくしろよ。だから友達できねーんだぞ」
「うっさいなー。人の勝手でしょ」
「だってお前、いつも一人でつっぱってんじゃん。親代わりのオレとしてはだな……」
「いつあんたが私の親になったのよ」


そんなこんなで、結局いつも、隆利と自分は同じ空間にいた。
先ほど、麻耶に友人はいないと言ったが、麻耶にとって、隆利は友人ではなかった。もっと大切な――
親友とも違う――恋人とも違う、かけがえのない存在だった。

もっとも、自分が、隆利をそんな風に思っているとは、全く気づいていなかったが。


でも、隆利に会えないとしても、仲間を見つけることは重要かもしれない。
このままじゃ、らちがあかない。
麻耶はもう一度、文化包丁を見つめた。この文化包丁も、使うことにならなきゃ、いいけど……


ピーンポーンパーンポーンという、場違いな放送のチャイムが聞こえた。

あら、何かあったのかな? 麻耶はとりあえず、耳を傾けた。
その後に聞こえてきた声に、麻耶は驚いて心臓が飛び出しそうになった。



「おーい、麻耶ー? 飛山だけど。てめえ、今どこにいるんだよー! オレ、お前のこと探してんだよ。隠れてないで出てこーい!」恐るべき大音量でその声は聞こえた。

……何やってんのよ。あの馬鹿!


その声に驚いたのは、麻耶だけではなかった。

取り敢えず休憩をとっていた井上聖子(女子五番)も、人を探していた新島敏紀も(男子十四番)も、千嶋和輝(男子九番)と、笹川加奈(女子十四番)だって驚いた。
そして皆、こう思った。何やってんだ? あいつ。


おそらく、生徒の大半は、驚きで音のする方を見た。


だが、かまわず、隆利は続けた。
「今、オレG=9の変な建物にいるんだけど、そこの二階に放送室みたいなところがあるんだ。そこにいるからこいよ。大至急なー!」そして、放送は切れた。
麻耶は、驚きのあまり、茫然としていた。

アホだ。あいつ、正真正銘のアホだ。どこに、自分のいる場所をクラス全員に知らせる馬鹿がいるのよ!
あんなことしたら――

麻耶はハッとした。殺してくれって言ってるようなもんじゃない!


隆利が危ない。急いでデイバックから地図を取り出し、場所を確認した。
近い。二つ東のエリアだ。急がなきゃ! デイバックを掴み、走り出した。

196リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/01(土) 17:30 ID:1Nf1VncU
 そのころ、同じように走っている生徒が、二人いた。
一人は他でもない、井上聖子だった。

聖子は飛山隆利と、誘いに乗って隆利の元にくるであろう、高城麻耶を殺すために、G=9へ向かっていた。
だが、幸か不幸か、聖子の今いるエリアは、G=9から離れていた。
ともかく、聖子は急いだ。


もう一人は、塩沢智樹(男子三番)だった。

へへっ。女を放送で呼ぶなんて、いい度胸してるじゃねえか。
なあ、飛山くん。オレがぶった切ってやるぜ。お前の首をよォ!
智樹は今の放送を聞いて、何となく腹が立ったので、二人を殺しにいくことにした。

とりあえず飛山は殺して、もし高城がいたら……智樹は不敵な笑みを浮かべた。
冬峯雪燈(女子二十一番)には逃げられたけど、今度こそは……!


智樹は普段はそれほどでもなかったが、一度キレると手に負えない、やっかいな奴だった。
それで、両親は小さなころから、智樹に剣道をやらせていた。だが、精神面ではあまり成長しておらず、やはり両親は、智樹に怯えていた。


ハッハッハ。飛山、お前も剣道やってたんだってな。腕も、オレと同じくらいだっていうじゃねえか。
ま、どーでもいいけど。ムカつくんだよ! 大してかっこいいわけでもないのに、あんな美人と付き合いやがってよ!
実際は、二人はただの幼なじみなのだが、智樹は完璧に誤解をしていた。

あいつ、高城の前にも結構可愛い子と付き合ってたよな。許せねー……オレだって女が欲しいんだよ! そんなよくわからない私怨で、智樹は隆利を殺そうとしていた。



こんな危ない二人に狙われているとはつゆ知らず、隆利はただ、麻耶を待っていた。
はー。麻耶早くこねーかな。

もの凄く、能天気な男だった。
【残り29人】

197tp-18:2004/05/01(土) 22:04 ID:SxiXzQiE
あぁ、飛山君いい性格してますねぇ
あと少しで200いきますね、がんばってください

198GGGGD:2004/05/01(土) 22:15 ID:cYqVc/X.
ガムバ!!

199リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/02(日) 15:37 ID:1Nf1VncU
tp-18さん>
はい。まだまだ続きます。
無駄に長いですね。

GGGGDさん>
頑張ります。ありがとうございます。

200リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/02(日) 17:17 ID:1Nf1VncU
ちょっとやる気喪失中・・・
今日の夜更新する予定です。

これどれくらいの人が読んでるんでしょうかね。
たくさんの人に見てもらいたい気持ちはあるんですけど、
反面何だか恥ずかしいですね。

201リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/02(日) 22:37 ID:1Nf1VncU
 黒川明日香(女子十二番)は、G=4にいた。

なだらかな丘陵を下ると、小さな休憩所があったので、明日香はそこでしばらくすごそうと思った。

ペンキが剥げてしまった椅子に座り、明日香は、三条楓(女子十五番)を見た。楓は突っ立ったまま、そこでジッとしていた。
「座りなよ」
明日香は言ったが、聞こえているのか聞こえていないのか、楓は全く応じようとはしなかった。

何なんだろ。イライラしながら、自分の握りしめている武器を見つめた。
「こんな物で、銃とか持ってる奴に太刀打ち出来るわけないよね」明日香はそう呟いた。

明日香の武器は、フォークとシーナイフだった。ご丁寧に、セットにしてくれたらしい。
……ちっとも嬉しくない。

明日香はため息をついた。「フランス料理でも食べろって言うのかよ。ねえ?」
語尾を大きめにして、楓に話しかけてみたが、何も答えなかった。

何なの、もう。腹が立っていた。私がせっかく話しかけてやってるのに、ちっとも聞いちゃいない。私だって、本当は一人で行動したかったのに、泣いて頼むから一緒にいてあげてるのに――。
楓は小刻みに震えていた。

まあ確かに、怖いのはわかるけど。明日香はテーブルの上に肘をついた。
椅子から、長い足を放り出した。頬杖をついてため息を漏らした。
退屈だった。じれったい思いで楓を見ると、いつの間にか、並行に並んだテーブルの、明日香から二つほど向こうの椅子に座っていた。

それについては、特に何も思わなかった。楓と自分は大体このくらいの距離を、常に保っていた。とっくの昔からそうだったので、不快な気分になることもなかった。

二人は友人だったが、特別仲がいいわけではなかった。二人とも大きな中間派グループに属していて、決して話さないわけでもなく、友達と言えば、そうだったと思う。
しかし、こんな状況で一緒にいるのは、何となく不自然なことのような気がした。少なくとも明日香にとっては。

現に、二人は殆ど口をきいていない。いや、さっきから明日香が話しかけても、楓は答えてくれなかった。

怖いのはわかる。でも、だからこそ私がこうして気を遣って話しかけてるんじゃない。それを何よ。最初から何も話さないなら、いない方がいい。明日香はそう思った。

明日香と楓は、容姿も性格も、全く正反対だった。明日香は背が高く、少し細めだが均整のとれた体つきをしていた。頭が良く、運動神経も良く、何をやらせても割と出来た。

それに対して、楓の成績は、いつもクラスで下の方だ。背が低め、それにしてはぽっちゃりとした体形で、足が短い。異様にでかい目や、大きなかぎ鼻。
とても美人とはいえない顔の造形だが、その顔や体形が何かのマスコットのようにも見えて、可愛らしく見えることもあった。表情がくるくる変わり、見る者を飽きさせない。そして楓は特別な才能がない代わりに、人を楽しませる術をよく知っていた。

日ごろから、あまり感情を表に出さない明日香とは裏腹に、明るく、面白くて、いるだけでその場が明るくなるような子だった。プライドの高い明日香と違い、捨て身のギャグもお手の物だった。
そして、どちらが人間的に好かれるのかと言ったら、後者だった。

明日香は時に、怒りにも、焦りにも似た感情を抱くことがあった。特にそれは楓の周りに人が集まっている時。皆楽しそうに笑っていた。会話に加わろうと思えば出来るのだろうが、明日香はいつもそれをためらっていた。私の方が優れてるのに――。ついそう思ってしまう自分に呆れ、嫌気がさした。

……今こんなことを考えてても仕方ないか。
明日香は長い茶色い髪を掻きあげ、ひっそりとため息をついた。

202リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/02(日) 22:41 ID:1Nf1VncU
――眠い。何しろこのゲームが始まってから、殆ど睡眠をとっていないのだ。極度の疲労とストレスが、明日香を襲っていた。
睡眠不足は、明日香の大敵だった。寝不足だと偏頭痛が起こり、頭も体もうまく働かなくなる。だから、どんな時でも、明日香は徹夜をしない。いや、出来ないのだ。今も、頭痛で頭が割れそうだった。

明日香は思った。でも、今日だけは寝るわけにはいかない。もし寝ているところを誰かに見つかったら、今度はもう二度と起きれないかもしれないんだ。
片方が見張りをしているうちに片方が交代で寝るという手もあったが、やはりやめておいた。寝ている間はどれだけ無防備になるか――。そして寝首をかかれたら、どうすることも出来ない。完全に楓を信用することは出来なかった。

大丈夫、運が良ければ今日のお昼までだ。運が悪かったら――明日?
明日香は頭をかかえた。


ふと、気配を感じて椅子から退くようにして立った。足がもつれて、転びそうになった。
明日香は言った。「楓、何してるの?」

楓は明日香のすぐ後ろに立ちつくしたまま、振り下ろそうとしていたタクティカルナイフを見つめた。
「あたし……怖い。明日香にいつ裏切られるかって……あたし、まだ死にたくない」


は? 明日香は怪訝な表情で楓を見た。

「明日香は……あたしのこと全然信用してなかったでしょ。明日香は冷たいから、あたしのことを見殺しにする。いや、裏切る。絶対」まるで箇条書きにした文章のように、言葉を紡いだ。
「何言ってんのよ。裏切ったりしない。どうしちゃったのよ?」少しずつ離れながら、明日香はなだめるように言った。
先に裏切ろうとしてるのはそっちだろ、と言いたかったが、言わない方が良さそうだ。


楓の唇が、微かに震えていた。「嘘だ。あたしにはわかるの!」

楓はそう言うのと同時に、明日香の方に向かって、ナイフを思いっきり突き進めた。

「わ!」
明日香は近くにあったデイバックでそれを受けた。


布を裂くような鈍い音がして、デイバックにナイフが刺さった。

「ちょっとやめてよ! 落ち着いて!」明日香は言ったが、楓はそれを引っこ抜くと、振り回した。
「きゃあ」
明日香はフォークで、ナイフを受け止めた。かろうじて。


楓は力いっぱいナイフを押し進めた。フォークが曲がってしまった。これじゃ、使い物にならない。
「やめてってば! お願い!」

楓の凄まじい力に負けそうになっていることに気づいた。


楓はフォークからナイフを放し、明日香の胸ぐらを掴んだ。
もう一度、振り下ろそうとした。

「いやっ!」明日香は反射的に、背中を向けた。


ざくっといい音がして、背中にナイフが突き刺さった。全身に、強烈な痛みが突き上げた。
ナイフが抜かれると、血がダラダラと溢れ出した。


「や、やめて……」力ない声を出した。

楓は明日香の腹を狙っていた。
明日香は逃げようとしたが、楓に掴まれて、身動きが取れなかった。楓の手を夢中で引っ掻いたが、それは殆ど無駄な足掻きに近かった。

「ご、めんね!」楓はそう言って、腹にナイフを突き立てた。

「ぐっ……」
腹が裂け、中にある胃も裂けたのがわかった。


明日香はがくがくと震えて、そのまま地面に倒れた。

203リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/02(日) 22:42 ID:1Nf1VncU
それから、殆どボーっとした状態で、私はもう死ぬのか、と思った。

「明日香の分まで、あたしが生きてあげるから」

……何だそれ。ふざけんな。腹も立ったが、傷の痛みで掻き消されてしまった。


何とか声を出そうとしたが、無理だった。その代わりに、口からゆるゆると血が出てきた。それは首をつたって、白いワイシャツを染めた。

楓はナイフを両手で握ると、明日香の心臓に、ピタリと当てた。
「ごめんね、じゃあね!」ナイフを振りかざした。



その一瞬、明日香は覚醒した。火事場の馬鹿力というものだったのかもしれない。

楓の右手の甲に、フォークが刺さっていた。

「痛っ……」
楓は思わず右手をナイフから離した。

腹に、思いっきり蹴りをいれられて、楓はグッと痙攣した。


間を空けずに、楓の顔にシーナイフを突き刺した。
「きゃあ!」
楓は叫んで、明日香をぐるりと見た。目が異常に見開いていて、怖かった。

そしてその目が違う方向を見て――逃げ出した。


楓が逃げたのを目で追っていくうちに、だんだんと力が抜けていくのがわかった。
苦しげな息遣いが自分の口から漏れ、腹からは絶えることなく血が流れていた。


――なに、なにが起こったの――?



うずくまる明日香の耳に、足音が響いた。腹を押さえながらも、顔をあげた。



男女の生徒。

岩崎安奈(女子二番)は、明日香を見て嬉しそうに笑った。
「あっ、いいとこに瀕死のカモがいる!」



その時、明日香は、初めて恐怖を覚えた。【残り29人】

204リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/03(月) 02:41 ID:1Nf1VncU
やっべー・・・
また元の名前が出てしまいました。
痛恨のミスです。

岩崎安奈→新井美保ちゃんです。
本当すいません。

205リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/04(火) 15:32 ID:1Nf1VncU
 新井美保(女子二番)は、歓声をあげた。
「そこそこ、もう一回殴って! そう! やったー」

ぷしゅーっと血しぶきがあがり、黒川明日香(女子十二番)は、ドッと倒れた。

「やったね!」美保は亘佑の肩に手を置いた。



……やった。亘佑は頭を落ち着かせようと試みた。

ついに、人を殺してしまった。心臓がどくどくと高鳴った。驚いているような、嬉しいような、苦しいような、複雑な感情が溢れた。

「大丈夫だよ。これで、一人分生き残る可能性が増えた、それだけじゃない」
 美保は優しい笑みを浮かべた。
「そうだよな……」亘佑は明日香の顔を見た。

明日香の鼻は曲がっていた。頭から血が流れており、目は半開きのまま、どこか遠くを見ていた。

美保は言った。「中西君に不審がられないうちに帰ろう!」
「ああ」
亘佑は、もう一度、明日香の顔を見て、それからすぐに目をそらした。恐ろしい形相だった。



美保は明日香の顔を観察した。元の顔も、台無しね、これじゃ。ふふっと笑んだ。

しかし、その笑みが止んだ。確かに、今、目があった。
「仲田君……」
気をつけて、と言おうとした隙に、明日香は亘佑に襲い掛かってきた。


「きゃー!」美保は叫んだ。


「うわっ……」亘佑は驚きのあまり、声をあげた。
明日香は、亘佑の腕を、ガッと掴み、地面に倒した。
手にはシーナイフを握っていた。亘佑は手で、必死でそれを受け止めた。


美保はその光景を見ていた。ふーん。生きてたんだ。凄い執念。怖すぎ。


「お前ら、絶対に許さない!」明日香は言った。それと同時に、血が、霧のように亘佑の顔にかかった。
 だが、もう死にかけだった。


美保は、明日香の頭に、銃口を押し付けた。明日香が驚きの表情をして(顔自体が変形してるので、亘佑にはどの表情も恐ろしく見えたが)、美保を見た。
その隙に、亘佑は明日香を殴り飛ばした。


地面に転がった明日香を見下ろすように、美保が立っていた。
美保は言った。「死ーね」


明日香の目が、一瞬、これ以上ないほど見開かれた。


一発の銃声の後に、明日香の顔がはじけた。辺りに、血が広がった。



亘佑は恐ろしくなり、その光景を見ていた。
よく新井は平気だな。亘佑は美保の顔を見た。

その瞬間、天使のような慈愛の笑みを浮かべた美保の顔が、殺人鬼のような、狂者の顔に見えた。

「大丈夫だった?」すぐに天使の顔に戻った。
「新井……」
亘佑は美保に近寄り、美保を抱きしめた。


「どうしたの?」美保は訊いた。
「……何でもない」ただ、ちょっと怖くなっただけ。

「大丈夫だよ、怖いことなんて、何もないから」亘佑は美保を見つめた。「ね?」
お前が、一番怖いよ。

しかし、ふと思った。もし順調にクラスメイトが死んでいって、最後に二人だけになった時、自分は美保を殺せるのか、わからなかった。
まあ、今からそんなこと考えても、仕方ないけど。

「戻ろうよ。ね?」
「うん」亘佑は手を離して、辺りを見回した。
「あっ……」

亘佑の声と同時に、銃が発射された。


ぱん。と鋭い音がして、女子生徒が地面に転がった。

「あんなところにまだ人がいたんだね」美保は言った。
 笑顔を亘佑に向けた。美保はいつも、笑っている。
「どこに当たったかわかんないから殺してきて」

亘佑は黙って立ち上がった。


女子生徒は怯えた顔で、亘佑を見た。足に銃弾を受けているようだった。


三条楓(女子十五番)は、言った。「助けて――」


亘佑は、ゴルフバッドを振り下ろした。

「いやああああああああ」



バキッ。


楓の頭が割れた。静かになった。


美保が近寄ってきて、言った。「これで、仲田君も人殺しだね」

そうだ。いよいよ、自分が戻れないところまできていると感じた。でも、後悔はしてなかった。たとえ、二人になって、最後に美保に殺されるのだとしても、亘佑は美保と一緒にいたいと思った。それしか道がないような気も、していた。

思った。もう決めたんだ。だから――諒、お前は、逃げてくれ。

亘佑は、これから小屋に戻って、中西諒(男子十番)に、そう言うつもりだった。
【残り27人】

206リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/04(火) 15:45 ID:1Nf1VncU
以前の行動>>166>>167

 千嶋和輝(男子九番)と笹川加奈(女子十四番)は、押し黙ったまま、H=8へ移動しようとしていた。
H=8は広場になっており、小さな小屋や洞窟が(多分アスレチックのような物だったのだろう)あるのだ。
二人は、今日はそこで、過ごすことにした。

本当は動かないのがベストなのだが、あの小屋の周りにいるのはどうしても、辛かった。薫の顔が頭に焼き付いていて、とても食事など、喉を通らなかった。
どうやらそれは、加奈も同じだったようだ。

何十分か歩き続け、二人はようやくH=8に辿り着いた。
はあ。疲れた。

そこはまさしく公園と言うのに相応しく、もう錆びてしまったブランコや、ジャングルジムなどがあった。
そして、なだらかな丘があるのにも気がついた。
石で出来た階段が、その丘に続いていた。
どこか懐かしさを感じるその公園に、和輝は心が安らぐのを感じた。
小さいころによく遊んだ公園に似てる――

その風景は、この殺し合いゲームの中ですっかり疲れてしまった和輝の心を、たった一瞬でも癒してくれた。まあ、それは本当に、たった一瞬のことではあったが。

はっ、呑気なことを考えている場合じゃなかった。
「洞窟ってどこにあるのかな」加奈が言った。
「さあ……あの階段登ってみようか」和輝は考えた。
「ちょっと見てくるから、そこで待ってて」
加奈は少しの間考えている様子だったが、しばらくしてコクリと頷いた。
和輝はそれを確認すると、階段を登り始めた。


上がってみると、結構段数があった。
登ってる最中に襲撃されたら最悪だな。和輝は少し怖くなって、身を屈めつつ、登った。

階段を全て上がり終えた。

そこは、色とりどりの花がたくさん咲いている、小さな丘だった。

その景色は、近くで殺しあいが起こっていることなど、全く予想も出来ないほどののどかさだった。
ここだけは血で汚れて欲しくない。和輝はかすかに、そう思った。


後ろを振り返ると、加奈が心配そうにこちらを見ていた。

和輝は手招きをした。加奈は走って階段を登ってくると、和輝と同じように身を屈めた。そして、驚嘆したように、「わあ、綺麗だねー」と言った。

「ねえ、あっち行ってみようよ」言うか言わないかの間に、加奈はもう駆けだしていた。
「笹川、危ないって!」
和輝の言葉など聞こえていないようだった。

和輝も仕方なく、後を追いかけて、丘を下った。

加奈は、丘の中間地点で深呼吸をした。
「気持ちいいねー」
「でも、ここにいると目立つから戻ろう」
「あとちょっとだけ。お願い」
閉口してしまった。

加奈は周りを見回した。「洞窟見当たらないね。やっぱり公園の方なのかな」
この丘を越えると、もう砂利で出来たちっぽけな道と、林しかない。
そして、公園の奥は深い森になっていた。
和輝は頷いた。「そうだよな。向こうは雑木林だし」

しばらく二人はボーっとしていたが、もう公園に戻るか、と思った和輝は、後ろを振り向いた。

207リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/04(火) 15:45 ID:1Nf1VncU
誰かが、公園の階段を登ろうとしているのが見えた。
――代々木信介(男子二十一番)だった。
信介は和輝に気づかれてビクッとしたようだったが、銃を装備した。
色白で、どことなく繊細さを感じる信介の顔が、今は引きつっていた。

そして、信介の小柄な体には、いささか大きすぎるショットガン(レミントンM31)が握られていた。


まずい。和輝は呟いた。「笹川、逃げるぞ」
「へ?」加奈は和輝の方を向いて、それから信介の存在に気づいた。
震えていた。「和輝……」

和輝は痛む左手で加奈の手を掴むと、必死で逃げだした。


信介も、重い銃を持っているので足がもつれていたが、必死の形相で追い掛けてきた。


逃げる途中、和輝が振り返ったその一瞬、信介が銃口を和輝に向けるのが見えた。
――撃たれる!

和輝は、加奈を庇いながら地面に転がり込んだ。



大きな音が聞こえたかと思うと、近くの地面に大きな穴が空いた。
近くに銃弾が当たった衝撃で、和輝と加奈は、丘をたっぷりと転げ落ちた。


加奈は顔をあげて、訊いた。「和輝……平気?」
「ああ、大丈夫だよ」和輝は苦い顔で、信介を見た。

昨日の朝、和輝に謝ってきた時の様子とは大違いだった。

和輝は片手で加奈を庇いながら、ジャケットの胸ポケットに入っている銃に手をかけた。信介は次の弾を装備するのに手間取っていた。

今だ。和輝は屈んだ姿勢のまま、撃った。


予想を上回る大きな破裂音と衝撃に、二人とも驚いたが、和輝は更に撃った。信介の手に狙いを定めて。辺りに二発の銃声が響いた。


一発目は信介の手に当たり、銃が地面に落ちた。
そして、二発目は信介のすぐ近くを掠めたようだ。
すげえ。あたった。和輝は少しばかり、感動していた。

信介は手を真っ赤に染めながら、悔しそうな顔で「ぐー」と、声を出した。


諦めたのか?

和輝がそう思った瞬間、信介はショットガンを拾い上げ、こちらに向けて走ってきた。
「うわっ」和輝は急いで立ち上がり、走り出した。
加奈の手を握り、丘を走り抜けた。

信介は、今度は利き手とは反対の手で銃を必死で装備し、和輝に向けて撃とうとしていた。

和輝は信介を威嚇するために、もう一度撃った。
信介は一度ビクッとしたように足を止めたが、撃った。


ドン。


和輝は無意識のうちに、一瞬、身を反らした。
近くで爆音がしたかと思うと、和輝のデイバックがはじけ飛び、中身がバラバラとこぼれて、ぐちゃぐちゃになっていた。

チクショウ。和輝は信介を睨んだ。

信介自身は、その衝撃に耐えきれず、近くでよろけながら手を抑えていた。しかし、撃ち終わった銃弾をポンプから出した。そして次の弾を、不慣れな手つきで装備していた。

今撃たないと殺られる! 深く考えている余裕などなかった。
和輝はもう一度狙いを定めて、撃った。


もう一度大きな破裂音が鳴った。


和輝の撃った弾は、信介の体に穴を空けた。大きく痙攣して、信介は、後方へ下がった。
ボーっとどこか遠くを見ているように見えた。そのままゆっくりと、崩れ落ちた。
スローモーションのようだった。


和輝は、不思議な気持ちで、その光景を見ていた。心臓の動悸が治まらなかった。

……終わったのか?

さっきの激しい銃声が嘘だったかのように、辺りは静まりかえった。



深く、息をついた。終わったんだ。
和輝は、後ろで身を屈めていた加奈に声をかけた。

「大丈夫?」
 加奈は、ホッとしたように「うん!」と頷いた。
和輝はささやかな喜びを感じた。よかった。俺達、生きてる。


二人は手をとって、丘の上にあがった。
「さっさと降りよう」そして、階段を下るために、足を踏み出そうとした。
【残り27人】

208リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/05(水) 14:54 ID:1Nf1VncU
以前の行動>>194>>196

 飛山隆利(男子十七番)は、G=9で、高城麻耶を待っていた。
生徒全員が聞いているのに、一人の人間を呼び出す。それは危ないことだとはわかっていたが、麻耶にどうしても会いたかった。

あいつ、今ごろ一人で、泣いて……はいないだろうけど、寂しがって……もいないかな。でも、少しでもオレに会いたいと思うなら、きてくれるはずだ。

……思うかな? 思わなかったら――
オレはやる気になってる奴に襲われて、死亡ってっとこかな。


ありえそうで、少し怖かった。まあ、何だかんだ言ってもクラスメイトだ。本気で殺し合いなんて、起こるはずないだろう。隆利はそう思った。


隆利は辺りを見回した。小さいが、割合綺麗な部屋があった。ここの放送室の声は、公園全体に聞こえるようだ。ドアには鍵がない。
もっかい呼び出してみようかな。
……やめとくか。さすがに。

隆利は支給武器の刀をブラブラさせながら、麻耶を待った。
割といい武器だと思った。幼少時代から剣道を習っている隆利には、ピッタリというべき物だった。でもやっぱ、本物は重いな。

そんなことを考えていると、隆利のいる放送室(と呼ぶべきか)のドアが開いた。

麻耶か? 期待を胸に、ドアを見つめた。


……がっかりした。そこにいた人物は、高城麻耶ではなかった。



「ひゃっほう! 飛山クン」
派手なシャツをきていて、蛇のような鋭い目をしていて(今にも噛まれそうだ)、手の甲には蝶のタトゥーが美しく彫られていた。
塩沢智樹(男子五番)は、やけにテンションが高かった。

「元気ー? あんたの彼女の代わりに、来てやったよー!」
きてくれなくていい。
こいつは、やる気なのか? 隆利は少し怖くなった。

「いいねえ。彼女呼び出して、ここで乳繰り合うんだ? へー。それはそれは……」
「別にそんなんじゃ……」
隆利の言葉を遮って、塩沢は言った。「高城を呼んでたろ? それで考えなかったの?」

塩沢はデイバックを近くに投げ、近寄ってきた。
隆利は右手にある刀を握りしめ、様子を窺った。何をだよ。

塩沢は続けた。「誰かがお前を殺しにくるって可能性を、考えなかったのかよォ!」
塩沢はそう言うと、隆利に向かって襲いかかってきた。


「うわっ」隆利は近くにあったゴミ箱のフタで、斧を受け止めた。

カッ、と小気味よい音がして、斧がゴミ箱のフタに突き刺さった。
「お願いだ、やめてくれ!」
隆利は必死で説得したが、塩沢はゴミ箱のフタを投げ捨てて、ニヤリと笑った。
「やーだね」そしてまた襲いかかってきた。


隆利は、滅茶苦茶に斧を振り回す塩沢から、必死で逃げ回った。
「ホラホラ、逃げてないでその刀使えばー?」塩沢はおちゃらけた調子で言った。
笑っていた。今の状況を、心から楽しんでいるようだった。

チクショウ。調子に乗りやがって。隆利は刀を構えた。「わかったよ。使ってやるよ!」刀を構えたその瞬間、表情がガラリと変わった。



何だコイツ。刀持った瞬間に顔が変わった。智樹は少したじろいだ。
剣道の腕前は、二人とも大体同じくらいだった。しかし、二人の間にどこか差があるとしたら、それは精神力の違いなのだろう。


「負けてたまるかよおおおお!」
智樹は斧を振り回した。

キーンと音がして、斧の動きが止まった。

隆利は刀で、斧を受け止めていた。

ギリギリと刃が合わさる音がして、隆利と智樹は刃物越しに睨みあった。


だが、智樹の口からは、不意に笑いが漏れた。
フッ、お前の刀じゃ、オレの斧には勝てねえよ!

智樹は持ち前の力で、思いっきり斧を振り下ろした。


カキーンと音がして、隆利の手から、刀が離れた。

へへへ、これでオレが勝ったも同然だな。
智樹は斧の持ち方を変えた。
簡単に殺すのはつまんねーから、取り敢えず脚でもぶった切ってやるか。

何しろ、隆利の右脚は智樹の方に投げ出されていた。武器もない隆利は、智樹にとって、羽をもがれた小鳥のようなものだった。

智樹はニヤニヤとしながら、斧を振り下ろそうとした。
「死ねよ。オラッ!」

209リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/05(水) 15:08 ID:1Nf1VncU

 隆利の左脚が動いた。右足を軸にして、左脚を塩沢の足に引っかけた。

「うわっ!」塩沢は勢い余って、その場に倒れそうになった。

いつの間にか近くにあった隆利の左拳が、塩沢の頬をとらえた。
ガッと音がして、塩沢は後方にしりもちをついた。

隆利はもう一発、塩沢を殴った。右ストレート。
さっきは利き手とは逆だったからあまりダメージはなかっただろうが、今度は利いたはずだ。
「ぐはっ……」
塩沢はうなり声を上げて、後方に倒れた。そして、そのまま動かなくなった。



――勝った?
隆利は息をつきながら、刀を手にとった。
このままとどめをさすべきか、それとも――

隆利は塩沢に近寄って、気絶しているその右手に握られていた斧を、奪おうとした。
万が一起きあがって、また襲われたらたまらない。
それでも、塩沢を殺すことは出来なかった。

隆利はそっと斧に手を伸ばした。そして、斧を掴もうとした。



信じられない光景を見たような気がした。
斧が浮き上がったのだ。斧は丸く弧を描き、隆利に降りかかってきた。

もし、あと少し避けるのが遅かったら、隆利の腕は真っ二つになっていたことだろう。

斧はそのまま床に刺さった。

隆利は斧の後方に、こちらを睨んでいる塩沢智樹の顔を見た。鼻から血が出ていた。
「てめえ、よくもやってくれたな……」その顔は、怒りに満ちていた。

やばい、完全にキレてる。隆利は今度こそ、自分の命の危機を感じた。

「死ねよ!」
塩沢は床に刺さっている斧を引っこ抜いて、隆利に襲いかかろうとした。

210リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/05(水) 15:11 ID:1Nf1VncU

 ガタン、と音がしてドアが開いた。
「隆利!」

……麻耶だ。


こんな状況なのに、隆利は長い間待ちわびていた、大切な者に出逢えた喜びをひしひしと感じた。
「麻耶!」隆利は叫んだ。

塩沢は手を止めた。どうやら麻耶がきたことに一番戸惑ったのは、塩沢だったらしい。「う……」と言うと、そのまま斧を下ろした。

だが、そんなことはどうでもよかった。
隆利は飛びかかってきた麻耶を、抱きしめようとした。



「馬鹿ヤロー!」

ぱん、と力強い平手打ちを食らわされた。

「いってー、何すんだよ!」
「あんな放送で呼び出したら狙われるの当たり前でしょ。馬鹿じゃないの!」
「あー馬鹿だよ! でもお前に会いたかったんだよ! 悪いか!」
「えっ……」麻耶は固まった。

隆利は言った。「何でオレのこと待っててくれなかったんだよ。まあ、確かに危険だと思うけど……」
麻耶は不可思議な表情をした。「だって、私より前に出発したんじゃないの?」
「お前のすぐ後だよ! アホか、何考えてんだよ!」
「うるさい! 女の子を危険に晒さないでよ!」
「だって他に方法が思いつかなかったんだよ!」


しかし、麻耶は少し躊躇して、言った。「でも、会えたからいっか。一人じゃ、ちょっと寂しかったし」
「だろ? 実は寂しがりやなんだからなー……麻耶ちゃんってば」
「うるさいな!」


「てめえら!」外で声がした。
塩沢が言った。「オレがいること忘れて、いちゃついてんじゃねえよ!」
ああ、いたのか。隆利はそう思った(実際、一瞬忘れていた)。

「ほら見なさいよ! 変なのにからまれてるじゃない!」
「仕方ないだろ。変なのにからまれたのも、元はと言えばお前がいなかったからだ!」
「変なのとは何だ!」

三人の声が飛び交った。



「仕方ないな……私が相手になってあげるか」麻耶が言った。
隆利は、黙ってニヤニヤしていた。

何だ、こいつら。
「オレがー、あんたなんかに負けるわけないっしょ」智樹は言った。



麻耶の目が光った。包丁をバトンのようにクルッと回して、塩沢に向けた。

「やぁっ!」
塩沢の方へと走り出した。そして、ものの一メートルは飛んで(いや、これは嘘だが)、塩沢に飛びかかり、包丁の峰で思いっきり、塩沢を殴り倒した。


意をつかれた塩沢は、その場に昏倒した。


麻耶は直ぐさま、がら空きになっていた塩沢の急所を、思いっきり踏み潰した。

「ゴハッ……」
苦しそうな声を上げて、塩沢はビクっと痙攣した。
それは、凄い痛みだったに違いなかった。


隆利は言った。「おい、その辺にしとけよ。もう行こうぜ」

麻耶は静かに息をついた。「そうだね。人がくると困るし。さっさと逃げなきゃ」


塩沢は、起き上がることも出来なくてうずくまっていた。
ありゃ相当痛かったろうな――
まあ、頑張れよ。じゃあな。隆利はそう思った。


「早く、行くよ!」麻耶が言った。
隆利は言った。「いやー、強い強い。お前さ、普通に人殺しそうだから怖いよ」
麻耶はフンと鼻を鳴らした。
「こんなか弱い乙女に向かって、何失礼なこと言ってんのよ」

どこがだよ。隆利は笑った。


でも、それでこそ、麻耶だ。そうこなくっちゃな。これくらいじゃないと張り合いがない。まあ、たまにはしおらしくしてほしいけど。

隆利は、麻耶の頭を後ろからポン、と叩いた。

「何すんのよ」意志の強そうな眉を吊り上げ、麻耶は言った。
「生き残ろうな。オレ達」
いつになく真剣な表情の隆利に、麻耶は涼しい顔で言った。「当然でしょ。生き残る気がないと、生き残れないじゃない」

隆利は、その言葉を聞いて、より一層、身が引き締まる思いがした。
【残り27人】

211リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/06(木) 22:12 ID:1Nf1VncU
以前の行動>>206>>207

「きゃあああああ!」
 笹川加奈(女子十四番)が驚いたように叫んだので、千嶋和輝(男子九番)は振り返った。

そこには、顔が土気色に変色し、目は不自然に黒目の部分が少なく、口から血をゴボゴボと吐き出しながら、まるで壊れかけのロボットのように走ってくる、代々木信介(男子二十一番)が、いた。

「うわっ、何だあれ!」和輝は叫んだ。

信介は声を上げながら、凄い形相で襲いかかってきた。
あまりの出来事に、和輝は引き金を引くのを忘れていた。
恐怖でいっぱいになった。そうだ、撃たなきゃ。

だが、もう遅かった。信介は和輝に飛びかかったまま、銃を奪おうとした。
「うわああ」

……何でそんなに走り回れるんだ? 背中に穴が開いてるんだぞ。おかしいだろ。

ともかく、和輝は叫んだ。
「早く逃げろ! こいつに追っかけられないところまで逃げろ!」
加奈は首を振った。
「いいから逃げろって!」和輝は悲痛な叫びをあげた。


信介が和輝の銃をガッと掴んだ。和輝は必死で振り払った。
が、信介は離れてくれない。二人はもつれ合ったまま、倒れた。

信介は和輝の髪を掴んだ。銃を恐ろしいほどの力で捻じ曲げた。
「逃げろよ!」和輝は叫んだ。


しかし、加奈は何を思ったのか、和輝と信介の方に走ってきた。

あっ、馬鹿。

信介に思いっきりタックルした。
信介は苦しそうな表情をしたが、加奈を突き飛ばした。

あっ……

「てめー!」和輝は信介に襲いかかった。

銃を発射しようとしたが、信介の馬鹿力はそれを承知しなかった。

和輝と信介はドサッと地面に倒れ込んだ。すぐ近くには階段があった。
落ちたら……どうなるんだろう。

満員電車でもみくちゃにされた時のように、しんどかった。
そして、降りるはずの駅で、人がどいてくれないぐらいに焦っていた。

和輝は必死で、信介の腕を引き剥がした。そして、加奈の手を引っ張って逃げた。
「うわああ」

信介は凄い速さで追い掛けてきた。
信介が走った道には、血で出来た道が続いていた。
だから何で死なないんだって! 和輝はそうつっこみたかったが、そんなことを言っている場合ではなかった。

和輝は呟いた。「俺があいつの関心を引くから、そのうちに逃げろ。洞窟を探して、そこにいろ。俺も後で行くから」
「でも……」
「いいから」和輝は、少し笑顔を見せた。「大丈夫、死なないから」

格好をつけたつもりだった。加奈は悔しそうな、悲しそうな複雑な表情を見せた。
「わかったろ?」

振り向くと、信介はすぐ傍まで迫ってきていた。
和輝は加奈の手を離した。

信介は目いっぱいジャンプして、和輝に跳びかかった。

212リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/06(木) 22:14 ID:1Nf1VncU
信介は和輝の胸倉を掴んだ。

くっ……
和輝は苦しさに顔を歪めた。何なんだ、こいつは。いつ死ぬんだよ。

も、もしかして、死なないのか? 和輝は絶望した。


信介は何を思ったのかレミントンを捨ててしまっていた。
凶器はない。それなのに、信介が恐ろしかった。

「代々木……」和輝は呟いた。信介の狂気じみた顔がかすかに笑んだ。
「……やめてくれ」

信介は何も言わなかった。だが、首を締め付けている信介の手がゆるくなった。
信介は手を離し、立ち上がって和輝を見下ろした。



和輝は拍子抜けしていた。こうも簡単に、説得が成功するとは思っていなかったからだ。だが、人生はそんなに甘くなかった。


思いっきり蹴飛ばされて、和輝は階段を落ちた。


「うわああああ」

階段の尖った部分に、何度も頭をぶつけた。
意識が朦朧とする中、もはやこれまでか、という思いが頭をよぎった。


加奈は逃げてくれたのかな。和輝は一瞬心配になった。


和輝はかろうじて止まった。階段の中間地点の、若干広くなっているところだ。
体中が痛かった。意識がなくなりかけていた。頭が真っ白になった。

加奈、先に逝くことになって、ごめん……



和輝がお花畑に旅立っていったのを見て、信介は満足そうな笑みを漏らした。

と、同時に、自分もその場に倒れた。


血が辺りに広がって、若草色の葉っぱが赤く染まった。
【残り27人】

213111:2004/05/07(金) 18:47 ID:HxRNtUoI
まさか和樹君死んだんですか?
続き早くみたいです

214コンドル:2004/05/07(金) 19:46 ID:alrxspe6
みたいれす!

215よこせう:2004/05/07(金) 22:04 ID:D9Jmxfks
更新の早い事早い事。すごいですね。楽しみにしています。

216リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/07(金) 23:32 ID:2KqO5TgA
以前の行動>>208>>210

「うう……」塩沢智樹(男子四番)は、ようやく起き上がった。
もう、高城麻耶(女子十七番)と、飛山隆利(男子十七番)は去ったはずだ。

チクショウ、あのアマ。オレの命の次に大事な場所を、思いっきり蹴りやがって。
智樹は、股間からくる、あのジンジンとした痛みに耐えていた。力が入らなかった。

もう一度、智樹は立ち上がろうとした。しかし、そのまま横になった。

やばい。薬が切れそうだ。あれがないと、オレは――


息が荒くなってきた。智樹は起き上がって、デイバックを目線だけで探していた。

あっ、あそこだ。
智樹は、薬の入った包みと、それをまじまじと見ている女の子を、見た。


井上聖子(女子五番)は、言った。「ふーん。塩沢君がヤク中って噂、本当だったんだー……」

智樹は叫んだ。「か、返してくれよ。それがないと、オレは……」
「どうなるの?」聖子は訊いた。

「……死んじまうんだよ。返せ!」智樹は必死だった。
「ただの馬鹿だと思ってたけど、大変なんだねー。可哀想」
「いいから返せよ!」

智樹は立ち上がった。体が、酷く重かった。

聖子は、少し笑みを含んだ目で、言った。
「そうなんだー。でもね、もういらないと思うよ」
聖子は、銃口をすっと向けた。智樹の目が、大きく開いた。


ぱん。


心臓に、穴が開いた。
智樹は苦しそうに、その場に倒れた。
「返してくれ……返して」吐息混じりの声で言った。「それがないと、オレは……」

「だからー、もういらないってば。どうせ死ぬんだから!」聖子は言った。
「……ほーらね」

智樹は、絶命していた。


「世の中って、色々大変なモノよね……」
聖子はやれやれというポーズをして、ふっと笑んだ。

217リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/07(金) 23:37 ID:2KqO5TgA

 ガタッ。
ドアから物音が聞こえたので、聖子は驚いて、バッと後ろを振り返った。
そこには、銃を右手に持った、新島敏紀(男子十四番)がいた。

チッ、遊んでないで早く殺せばよかった。
敏紀は特に驚いた様子もなく、ただ、聖子に銃口を向けた。

聖子も銃を向けたが、ふと、あることに気づいた。


まずい。この銃はもう弾切れだ。新しく詰め直さなきゃ使えない。


聖子が窓に向かって走りだしたので、敏紀は慌てて撃った。



ぱん。ぱん。


二発の銃声がしたが、どうやら当たらなかったようだ。


聖子は窓から飛び降りた。
「うっ……」
慎重に降りたつもりだったが、それでも足には、ジーンとした痛みがあった。
でも、足なんか気にかけている場合じゃなかった。


聖子は全速力で走った。中学時代は陸上部に所属していたので、足の速さには自信があった。特に、逃げ足はね。

ぱん。

銃声が聞こえたので聖子は更に速度を上げた。後ろを振り返ると、敏紀が、建物の窓から自分を狙っているのが見えた。

なによー、しつこいっつの! 聖子は、デイバックからイングラムを取り出した。


ぱらぱらぱら。

古びたタイプライターのような音が聞こえ、それっきり、敏紀は攻撃してこなかった。

フン、銃とマシンガンじゃ、勝ち目がないってことに気づいたようね。
聖子は、安心して、走った。


そのまま走り続けた。G=7の森に入るまで、走った。

暗い森に入った時、ようやく足を止めた。そして、苦しそうに呼吸をすると、その場に座り込んだ。涼しい風が、聖子の髪を揺らしていた。

まだまだ死んでもらわなきゃね。

頑張らなくちゃ。聖子の頭の中は、静かな狂気で支配されていた。
【残り26人】

218リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/07(金) 23:57 ID:2KqO5TgA
111さん、コンドルさん>
ご要望に答えて(?)、upしてみました。
と言っても千嶋笹川編じゃない……(汗
この二人の話は明日載せますw

よこせうさん>
そうですね。一から書いてる人にとってはかなり邪道な手段だと思います(^^;
ありがとうございます。よこせうさんの小説も楽しみにしてますよ。

ぺティーの改稿もうすぐ終わりそうです。
改稿と言っても、元々あった完結した小説をAだとすると、このぺティーはA´って感じです。
ラストは元の小説と全く違う風にしました。
途中、こんなの公開していいのかな…
というシーンも出てきますが(本筋は変えようがないんです)、まあ見逃してください。

そして、このスレの題に、(長編)とか(短編)とか入れるの忘れてました。
すいません。首吊ってきます。

言うまでもないですが、長編です。まだまだ続きます。

219リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/09(日) 00:15 ID:2KqO5TgA
以前の行動>>211>>212

 笹川加奈(女子十四番)は、丘のふもとを歩いていた。

心配になっていた。和輝はどうなったんだろう。
先に逃げてきちゃって、本当に大丈夫なのかな。

でも、せっかく和輝が助けてくれたのに、私が戻ったら、きっと和輝に悪いと思う。
「死なないって言ったんだもん。死なないよね……」

――本当に? 本当に死なないの?
加奈は不安になった。薫の時みたいに、私がいない間に死んでたら、どうしよう。
いや、そんなことない。和輝は死なないよ。何となくだけど。


とりあえず、洞窟を探さなきゃ。加奈は歩いた。

地図を見た。丘の右側……どっち? 加奈は方向音痴だった。
下に降りて、右に曲がってみたが、それらしき物は見当たらなかった。


涙ぐんだ。和輝もいない。武器もないのに、どうやって、生き残れって言うの?
和輝……帰ってきて。お願いだから。

自分が、思っていた以上に和輝に頼りっぱなしだったということに気づいた。
私って嫌な奴かも。こんな時でも自分のことばっか考えて。加奈はため息をついた。


――何?


加奈はビクッと震えた。自分が通ってきた丘を見た。およそ、ここでは聞こえるはずのない音が聞こえていた。


えっ、えっ! 有り得ないよ。ってゆーか、車とかずるいし。どこで見つけたの?
加奈の頭は真っ白になった。あんなんで轢かれたら、一発で死んじゃうじゃない!
腰を抜かしていた。


間抜けなクラクションの音が聞こえた。

「逃げんなよ!」車に乗っていた誰かが叫んだ。
バタンとドアを開ける音がして、男が中から出てきた。

「ひさしぶりー」

北川哲弥は、加奈のすぐ傍までやってきて、言った。「洞窟探してんの?」



加奈は黙ったまま、目の前の出来事を整理していた。
何で北川先輩がこんなところに。まさか助けにきてくれたとか? ……まさか。

「送ってってあげるよ」哲弥が加奈の腕を取った。加奈は我に返った。
「あ、いいです。もうわかったんで!」
「さっきっから同じとこぐるぐる回ってたくせに」哲弥は笑みを漏らした。「遠慮しないで乗ってきなよ。別に取って食ったりしないから」


加奈は、自分の置かれている状況がうまく把握出来なかったが、いつの間にか車に乗ってしまっていた。


訊いた。「あの……ここで何してるんですか?」
「休憩入ったから、散歩」
……何だそれ。

「気楽でいいですね。見てるだけの人は」
北川は不思議そうに加奈を見た。「何で怒ってんの?」

久しぶりに会った好きな人が、いつの間にか政府側の人間になってて、お前ら殺しあえって言われたら、誰だって怒るっつの。

「まあ、俺だって好きでこの仕事やってるわけじゃないし」
「早く発車してください」
「はいはい」北川は運転を開始した。

加奈はハッとした。「そうだ、和輝が丘の上にいるんです! 迎えに行かなきゃ……何もわざわざ洞窟なんか行かなくても……」
「へー。和輝って新しい彼氏?」
「違います! とにかく急いでください」


北川はハンドルをきった。全然反対の方向へ進んだ。

「ちょっと! 丘はあっち!」
「まあいいじゃん。ドライブしようよ」
「しません! もう、降ろしてくださいー!」加奈は叫んだ。

こんなことしてる場合じゃないのに。こうしてる間にも和輝は――
丘を見つめた。和輝の姿も、信介の姿も見えなかった。
加奈は不安に駆られた。

220リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/09(日) 00:18 ID:2KqO5TgA

 千嶋和輝(男子九番)は目を開けた。

――ん? ここどこだ?
辺りを見回した。一面、花畑のようだった。

もしかして、これがあの世、ってヤツか? 和輝はがっくりと肩を落とした。

ごめん、加奈。死なないって言ったのに。何とも不甲斐なかった。

自分の一生のあっけなさに、和輝は寂しさを覚えていた。
あーあ、あとは地獄だか天国だか現世だか、行くだけか。でもその前に、三途の川を渡って、閻魔大王に直談判して……面倒だな。

頭をかいた。
もしかして、夢なんじゃ? という淡い期待の元に、自分の頬っぺたをつねってみた。

痛かった。やっぱ、夢じゃねーのかー! 和輝は泣き出しそうになった。



代々木信介が通りかかって、言った。「あそこには、田辺も梅原さんもいるんだぜ」遠くを指差した。
「でも、千嶋君にはまだ早い」
「……へ?」和輝は信介を見た。

信介は、既にいなかった。どういうことだ? 和輝は不思議に思った。


その時、耳をつんざくような、大きな声が聞こえた。
「和輝、生きてるか? かーずーきー!」

う、うるせえ。耳を押さえた。

「和輝ー、起きろよ、和輝ー!」



「うっせーんだよ!」和輝は叫んだ。



パチッと目を開けた。自分の顔を覗き込んでいる人間がいた。
「結構重傷っぽい?」
和輝は起き上がろうとして、背中の痛みと、頭がグラグラすることに気づいた。

「でも、軽い軽ーい」そいつは、喋った。
懐かしい声だった。和輝は歓喜のあまり、涙が少し、ちょちょぎれた。

「治巳……」

大迫治巳(男子二番)は、いつもと変わらない調子で、言った。
「ヤッホー和輝、元気ー?」

――元気なわけあるか。

和輝はそう思ったが、喉がつまって、言葉にすることが出来なかった。
【残り25人】

221リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/09(日) 00:36 ID:2KqO5TgA
これで前半戦終了です(長っ
でも前半戦が一番長いです。次から中盤戦に入ります。

その前に、プロフィールとネタばれ情報更新しますね。

222リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/09(日) 01:27 ID:2KqO5TgA
キャラクター情報

男子
 
1番 荒瀬達也
[身長]173cm
[外見]とりあえず普通の男子らしい。髪は何となく黒いイメージ。
[性格]柔和。温和。あまり怒ることはない。
[家族構成]四人家族。兄がいる。
[支給武器]グロック19
[その他の情報]特技は心理分析。心が読み取れるわけじゃなくて、表情から推測する奴ですよ(何

2番 大迫治巳
[身長]178cm
[外見]爽やか系スポーツマン風味。歯は白いに違いない(何
[性格]明るくてお調子者。終始アホっぽいが、実際はアホではない。
[家族構成]父、母、兄、妹がいた。
[支給武器]?
[その他の情報]和輝の親友。

3番 国見悠
[身長]182cm
[外見]巨体。大漢(←と意味は同じ)
[性格]せっかち。小心者。
[家族構成]三人家族。一人っ子。
[支給武器]ハリセン
[その他の情報]クラスに親しい友人はいない。

4番 塩沢智樹(しおざわ・ともき)
[身長]179cm
[外見]茶髪のオールバック。手の甲には蝶の刺青がある。派手好きっぽい。
[性格]短気。鬼畜?でも小心者かも。
[家族構成]?
[支給武器]斧
[その他の情報]中西達のグループにいる。

5番 柴崎憐一(しばさき・れんいち)
[身長]176cm
[外見]タレ目にオレンジ色の茶髪。まあ格好いいだろう。
[性格]女好き。実は冷たいらしい。
[家族構成]四人家族。姉がいる。
[支給武器]?
[その他の情報]鳴と……

6番 島崎隆二
[身長]181cm
[外見]がっしりとした体。
[性格]熱血。いい人。
[家族構成]六人家族。弟と妹がいる。
[支給武器]ケーキナイフ
[その他の情報]ラグビー部所属。

7番 田阪健臣
[身長]178cm
[外見]モデルのように整った顔立ち。やや冷たそうに見える。
[性格]無関心。クール。実は優しい。
[家族構成]三人家族。一人っ子。
[支給武器]S&W M19・357マグナム
[その他の情報]和輝達の友人。

8番 田辺卓郎
[身長]174cm
[外見]茶髪。やや童顔で丸顔。
[性格]優しい。能天気。明るい。素直。
[家族構成]父、母、妹がいる。
[支給武器]?
[その他の情報]諒の親友らしい。最期に呼んだ「早苗」とは、妹のこと。

9番 千嶋和輝
[身長]175cm
[外見]癒し系なイメージ。色素が薄い
[性格]根暗かも…… あと一途。ぽやーっとしている。
[家族構成]三人家族。一人っ子。
[支給武器]S&W M59オート
[その他の情報]主人公です。

10番 中西諒
[身長]180cm
[外見]赤黒い髪を立てていて、右サイドには銀色のメッシュが入っている。
[性格]案外柔和。
[家族構成]父親がいた。その他は不明。
[支給武器]ピコピコハンマー
[その他の情報]父親を憎んでいるらしい。

223リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/09(日) 01:28 ID:2KqO5TgA
女子

1番 天野夕海
[身長]155cm
[外見]ギャル系だけど女の子らしい感じ。目がでかい。
[性格]バカ。でも一途。
[家族構成]五人家族。妹二人。
[支給武器]スタンガン
[その他の情報]高校に入る前は普通の子だった。

2番 新井美保
[身長]160cm
[外見]フィギア並のプロポーション。やや童顔。
[性格]一見おっとりしていて優しい。
[家族構成]三人家族。母は他界。兄がいる。
[支給武器]?
[その他の情報]昔……

3番 有山鳴
[身長]161cm
[外見]美人系。赤茶のストレートヘアー。
[性格]芯が強くて頑固。一途。外見に反して古風。
[家族構成]五人家族。姉と妹がいる。
[支給武器]ワルサーPPK9mm
[その他の情報]憐一が好き。

4番 伊藤愛希
[身長]158cm
[外見]目が大きくて髪は栗色のパーマヘアー。フランス人形のようらしい。
[性格]非常に冷めていて、常に不特定多数の男をはべらかしている。自意識過剰。
[家族構成]三人家族。一人っ子。
[支給武器]両刀ナイフ
[その他の情報]いい子ちゃんを装っている。

5番 井上聖子
[身長]152cm
[外見]黒髪、肩までのショートヘアー。童顔。可愛らしい顔。
[性格]?
[家族構成]?
[支給武器]コルトバイソン M357マグナム
[その他の情報]?

6番 植草葉月
[身長]156cm
[外見]ややつり目だが童顔。
[性格]少々わがまま。強気。
[家族構成]四人家族。弟がいる。
[支給武器]イングラムM10SMG
[その他の情報]家が金持ち。

7番 内博美
[身長]166cm
[外見]貴族的で端整な顔立ち。灰色がかった茶髪。クォーター。
[性格]少々思い込みが激しい。
[家族構成]父とは離縁。母は他界。
[支給武器]?
[その他の情報]クリスチャン。

8番 梅原ゆき
[身長]155cm
[外見]黒髪でややくせっ毛。
[性格]一途。少々妄信的。
[家族構成]三人家族。一人っ子。
[支給武器]金槌
[その他の情報]二年からこのクラスに転校してきた。

9番 大島薫
[身長]164cm
[外見]痩せ型。ポニーテール。
[性格]真面目。努力家。繊細。
[家族構成]五人家族。兄と姉がいる。
[支給武器]ジグ・ザウエルP230
[その他の情報]成績優秀。

10番 小笠原あかり
[身長]157cm
[外見]アイドルの花川愛(架空)に似ているらしい。
[性格]素直。騙されやすい。
[家族構成]三人家族。一人っ子。
[支給武器]ベレッタM92F
[その他の情報]加奈の親友。

11番 香山智
[身長]153cm
[外見]おとなしげな顔立ち。小柄。
[性格]大人しい。ネガティブ。
[家族構成]両親は離婚。今は父親と二人で住んでいる。
[支給武器]ヌンチャク
[その他の情報]田阪に片思い中。アニメと漫画が好き。

224リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/09(日) 01:31 ID:2KqO5TgA
12番 黒川 明日香
[身長]170cm
[外見]ロングヘアー。手足が長い。
[性格]やや人見知り。プライドが高い。
[家族構成]四人家族。弟がいる。
[支給武器]フォーク&シーナイフセット
[その他の情報]何をやらせても、なかなか出来る。

13番 紺野朋香
[身長]162cm
[外見]まあ普通に可愛い子。
[性格]恨みが深い。友情を大事にする。全てに関して一途。
[家族構成]三人家族。だが、今は祖母の家に住んでいる。
[支給武器]S&Wチーフスペシャル
[その他の情報]愛希に弱みを握られているらしい。

14番 笹川加奈
[身長]154cm
[外見]セミロング。やや童顔。可愛らしいと思う。
[性格]無邪気。お茶目。明るい。
[家族構成]三人家族。一人っ子。
[支給武器]おなら袋
[その他の情報]ヒロイン。

15番 三条楓
[身長]155cm
[外見]大きな目に鉤鼻。ややぽっちゃり
[性格]お調子者。誰とでもすぐ打ち解けられる。
[家族構成]五人家族。姉と妹がいる。
[支給武器]タクティカルナイフ
[その他の情報]加奈達の友人。

16番 鈴木 菜々
[身長]159cm
[外見]肩まで切り揃えられた茶髪。きりっとした目。
[性格]意志が強い。素直。優しい。
[家族構成]三人家族。一人っ子。
[支給武器]高級きゅうす(毒薬つき)
[その他の情報]濱村あゆみ、冬峯雪燈と仲がよかった。

17番 高城麻耶
[身長]157cm
[外見]日本人形のような和風美人。
[性格]プライドが高い。気が強い。あまのじゃく。
[家族構成]両親とは幼いころに死別。施設で育った
[支給武器]文化包丁
[その他の情報]自称不思議な力を持つ少女。

18番 高田望
[身長]165cm
[外見]?
[性格]?
[家族構成]?
[支給武器]?
[その他の情報]?

19番 濱村あゆみ
[身長]156cm
[外見]小柄で愛らしい。髪はパーマがかかっている。
[性格]利己主義。快楽主義。
[家族構成]四人家族。父は死去。兄と姉がいる。
[支給武器]軟膏
[その他の情報]売春をしていた。

20番 望月さくら
[身長]162cm
[外見]大人っぽい。ギャル系。
[性格]面倒くさがり。やや自己中。姉御肌。
[家族構成]五人家族。妹と弟がいる。
[支給武器]アイスピック
[その他の情報]飽きっぽく彼氏が出来ても続かない。

21番 冬峯雪燈
[身長]160cm
[外見]キュッと上がった猫目にオパール色の瞳。小悪魔系で愛くるしい顔立ち。
[性格]傷つきやすい。寂しがりや。素直。
[家族構成]父は幼いころに蒸発。母と妹がいる。
[支給武器]ブローニングハイパワー9mm
[その他の情報]傷だらけ。諒と…… ←まどろっこしい書き方しましたが、ただの友達です

22番 吉野美鳥
[身長]162cm
[外見]縁なしの眼鏡をかけている。
[性格]?
[家族構成]二人家族。
[支給武器]?
[その他の情報]ある男に振られた。

あまり変わってませんが、若干の訂正が入ってます。
「?」と書いてあるのは未定なもので、話が進むに連れ明らかになるものもあるし、
終わっても明らかにならないものもあります。

225リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/09(日) 01:33 ID:2KqO5TgA
男子十一番から抜けてましたた;;

11番 仲田亘佑
[身長]185cm
[外見]鋭い目。強面。
[性格]意外に熱い。仲間意識が強い。獰猛。
[家族構成]三人家族。一人っ子。父親はやくざ。
[支給武器]ゴルフバッド
[その他の情報]諒の友人だが、その胸中は複雑らしい。

12番 永良博巳
[身長]164cm
[外見]茶髪。どちらかと言うと可愛い系。
[性格]明るい。無邪気。
[家族構成]四人家族。妹が二人。
[支給武器]催涙スプレー
[その他の情報]バスケ部のエースで、上級生にも下級生にもモテモテ。

13番 那須野聖人
[身長]168cm
[外見]?
[性格]明るい。お調子者。面白い。ちょっと無神経。
[家族構成]五人家族。末っ子。
[支給武器]軍用ナイフ
[その他の情報]主役になりたかったらしい。

14番 新島敏紀
[身長]176cm
[外見]黒髪。ニホンオオカミに似ているらしい。
[性格]冷静。クール。気まぐれ。
[家族構成]五人家族。兄と姉がいる。
[支給武器]果物ナイフ
[その他の情報]バスケ部エース。足が速い。昔ある女と付き合っていた。

15番 初島勇人
[身長]178cm
[外見]お人よし顔。
[性格]優しい。お人よし。優柔不断?
[家族構成]四人家族。兄がいる。
[支給武器]SIG P226
[その他の情報]バスケ部に所属しているもののうまいわけではない。

16番 姫城海貴
[身長]175cm
[外見]美形っぽい。イメージ的にハーフ顔。
[性格]ややオレ様的な性格。
[家族構成]三人家族。一人っ子。
[支給武器]手榴弾型玩具
[その他の情報]伊藤愛希の彼氏。

17番 飛山隆利
[身長]177cm
[外見]普通かな。
[性格]能天気。明るい。
[家族構成]三人家族。一人っ子。
[支給武器]大刀(脇差)
[その他の情報]高城麻耶の幼なじみ。昔から剣道をやっていた。

18番 峰村陽光
[身長]156cm
[外見]平成教育委員会のキャラみたいな。
[性格]プライドが高い。意地と誇りを持っている。結構残酷。
[家族構成]四人家族。兄がいる。
[支給武器]ボウガン
[その他の情報]ヲタクではないらしい。

19番 御柳寿
[身長]176cm
[外見]割と端整。髪の色は濃い茶色。
[性格]無邪気。一途。
[家族構成]七人家族。姉が二人いて、下に弟と妹がいる。
[支給武器]ブーメラン
[その他の情報]鈴木菜々の彼氏。

20番 梁島裕之
[身長]177cm
[外見]老けているらしい。不健康そうらしい。
[性格]?
[家族構成]?
[支給武器]UZISMG9mm
[その他の情報]新潟から引っ越してきた。

21番 代々木信介
[身長]165cm
[外見]小柄。色白。眼鏡をかけている。
[性格]真面目。小心者?
[家族構成]四人兄弟。兄がいる。
[支給武器]レミントンM31
[その他の情報]学年で一番成績が優秀。

226リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/09(日) 01:37 ID:2KqO5TgA
おまけ

北川哲弥
[年齢]19歳
[身長]178cm
[外見]ミスターパーフェクト。
[性格]?
[仕事]プログラム担当官。
[その他の情報]和輝、加奈、治巳の中学の先輩。

橘夕実
[年齢]22歳
[身長]162cm
[外見]不二子ちゃん。
[性格]?
[仕事]プログラム担当官。
[その他の情報]放送のアニメ声の女はこの人です。

横山豪
[年齢]27歳
[身長]171cm
[外見]青ひげ面。丸顔。
[性格]短気。実は真面目。
[仕事]専守防衛軍兵士。今回のプログラムの中では兵士の長。
[その他の情報]「よこやま・ごう」と読む。

森直行
[年齢]38歳
[身長]170cm
[外見]悩める中年。
[性格]弱気。割合生徒思い。
[仕事]二年A組の担任。英語教師。
[その他の情報]奥さんと離婚したため、一人娘になかなか会えない。

227リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/10(月) 00:28 ID:2KqO5TgA
現在状況(ネタバレ)

男子

 1番 荒瀬達也・・・生存中。伊藤愛希(女子四番)と共に行動。仲田亘佑(男子十一番)に襲われた
 2番 大迫治巳・・・生存中。千嶋和輝(男子九番)の前に現れた
 3番 国見悠・・・死亡。井上聖子(女子五番)により、銃殺
 4番 塩沢智樹・・・死亡。冬峯雪燈(女子二十一番)、飛山隆利(男子十七番)を襲おうとして、失敗。井上聖子(女子五番)により、銃殺
 5番 柴崎憐一・・・生存中。詳細は不明
 6番 島崎隆二・・・死亡。新島敏紀(男子十四番)によって銃殺
 7番 田阪健臣・・・生存中。一人殺害
 8番 田辺卓郎・・・死亡。大島薫(女子九番)によって銃殺
 9番 千嶋和輝・・・生存中。梅原ゆき(女子八番)に襲われる。笹川加奈(女子十四番)と共に行動
10番 中西諒・・・生存中。仲田亘佑(男子十一番)、新井美保(女子二番)と共に行動しているが・・・
11番 仲田亘佑・・・生存中。中西諒(男子十番)を欺き、新井美保(女子二番)と共にゲームに乗った。一人殺害
12番 永良博巳・・・生存中。初島勇人(男子十五番)、梁嶋裕之(男子二十番)と共に行動
13番 那須野聖人・・・死亡。峰村陽光(男子十八番)に襲われた後、井上聖子(女子五番)により銃殺
14番 新島敏紀・・・生存中。ゲームに乗っている。二人殺害
15番 初島勇人・・・生存中。永良博巳(男子十二番)、梁嶋裕之(男子二十番)と共に行動
16番 姫城海貴・・・生存中。塩沢智樹(男子四番)から冬峯雪燈(女子二十一番)を助けた
17番 飛山隆利・・・生存中。高城麻耶(女子十七番)を放送で呼び出し、塩沢智樹(男子四番)に襲撃される。後麻耶と合流
18番 峰村陽光・・・死亡。那須野聖人(男子十三番)襲撃後、井上聖子(女子五番)に殺害される
19番 御柳寿・・・死亡。鈴木菜々(女子十六番)により毒殺
20番 梁島裕之・・・生存中。永良博巳(男子十二番)、初島勇人(男子十五番)と共に行動
21番 代々木信介・・・瀕死。

女子
 1番 天野夕海・・・死亡。井上聖子(女子五番)により銃殺
 2番 新井美保・・・生存中。中西諒(男子十一番)、仲田亘佑(男子十一番)と共に行動。二人殺害
 3番 有山鳴・・・生存中。柴崎憐一(男子五番)を捜索中。吉野水鳥(女子二十二番)に遭遇
 4番 伊藤愛希・・・生存中。荒瀬達也(男子一番)と共に行動。仲田亘佑(男子十一番)、新井美保(女子二番)に襲われた
 5番 井上聖子・・・生存中。ゲームに乗っている。七人殺害
 6番 植草葉月・・・死亡。井上聖子(女子六番)により銃殺
 7番 内博美・・・生存中。詳細は不明
 8番 梅原ゆき・・・死亡。千嶋和輝(男子九番)と笹川加奈(女子十四番)を襲う。田阪健臣(男子七番)により銃殺
 9番 大島薫・・・死亡。1人殺害。何者かに刺殺される
10番 小笠原あかり・・・死亡。新島敏紀(男子十四番)により刺殺
11番 香山智・・・生存中。詳細は不明
12番 黒川明日香・・・死亡。三条楓(女子十五番)に刺された後、新井美保(女子二番)により銃殺
13番 紺野朋香・・・生存中。伊藤愛希(女子四番)への恨みを募らせ、捜索中
14番 笹川加奈・・・生存中。千嶋和輝(男子九番)と共に行動。梅原ゆき(女子八番)に襲撃される。代々木信介(男子二十一番)に襲撃された後、なぜか北川哲弥に遭遇
15番 三条楓・・・死亡。黒川明日香(女子十二番)を襲うが、仲田亘佑(男子十一番)により撲殺
16番 鈴木菜々・・・死亡。御柳寿(男子十九番)殺害後、服毒自殺
17番 高城麻耶・・・生存中。飛山隆利(男子十七番)と合流
18番 高田望・・・生存中。詳細は不明
19番 濱村あゆみ・・・死亡。仲田亘佑(男子十一番)に襲われ、新井美保(女子二番)により撲殺
20番 望月さくら・・・死亡。井上聖子(女子五番)により銃殺
21番 冬峯雪燈・・・生存中。塩沢智樹(男子四番)に襲われかけ、姫城海貴(男子十六番)に助けられた
22番 吉野美鳥・・・生存中。荒瀬達也(男子一番)と伊藤愛希(女子四番)、有山鳴(女子三番)の前に現れた

228リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/12(水) 00:19 ID:2KqO5TgA
中盤戦

PM六時の放送

「こんばんはー、死んだ人発表しまーす! 男子はー、三番国見悠くん、四番塩沢智樹くん、十九番御柳寿くん、二十一番代々木信介くんだよー。で、女子は、十二番黒川明日香さん、十五番三条楓さん、十六番鈴木菜々さんだよ。なかなかの調子ねー、どんどん殺し合ってねぇ! そんで、禁止エリアは、七時からH=3、九時からB=7、十一時からE=5でーす。じゃあ、頑張ってねー! ちなみにーお姉さんの名前は、橘夕実。ぴっちぴっちの二十二歳、Fカップよ。じゃあねー!」

229リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/12(水) 00:21 ID:2KqO5TgA
 【残り25人から】



新島敏紀(男子十四番)は、F=9を歩いていた。

逃げていった、井上聖子(女子五番)の顔が、思い浮かんでいた。

やっぱり、マシンガンがほしいな。何か、あれをぶっ放してみたい、かも。

敏紀はかすかに思った。あいつを追うべきだったかな。
でも、何かめんどくさかったし。マシンガン相手だし。走るのめんどいし。


敏紀は、割と適当な性格だった。特に計画性などなかった。敏紀の今までの行動は、極めて単純だった。とりあえず、思ったとおりに移動するだけ。

そして、基本的に、去る者は追わなかった。ただ、追いまわす時は、徹底に追い回す。それも気分次第だった。
ある意味わかりやすいが、ある意味、かなりタチが悪かった。
そんな敏紀の次の興味は、マシンガンだった。

歩きながら、思った。いねーかな。都合よくマシンガンを持ってる、弱そうな奴。

――いるわけないか。

そう簡単に人生がうまくいく試しがないことは、敏紀はよく知っていた。

とりあえず、ちょっと探そう。敏紀は更に奥へと進んだ。
【残り25人】

230リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/12(水) 22:29 ID:2KqO5TgA
 以前の行動>>190>>191

 伊藤愛希(女子四番)と、荒瀬達也(男子一番)は、例の休憩所の中に入った。

「あちゃー。目立つかもな、ここ」達也は言った。
「別にいいじゃん。綺麗なとこだし!」愛希ははずんだ声で言った。

比較的綺麗な建物の周りは、花に囲まれていた。ふーん、いい建物じゃない。あたしにピッタリ。愛希は満足していた。

愛希はその場にあった、石で出来た椅子に腰を下ろした。

ここはなんて綺麗なんだろう。まるで庭園みたいだ。白い建物からは、外の庭が見え、そこにはシロツメグサや、タンポポが咲いていた。

「へー、こんな寂れた公園にもこんなとこがあるんだ」
達也も同じように感じていたらしい。まあ、あたしがいるべき場所はこういうところね。愛希も頷いた。


「はーあ、疲れた」達也は伸びをした。
「あたしだって疲れたよ。ずっと歩かされて、もーくたくた」
「おれの方が疲れてるよ。ずっと地面に這いつくばって、サプリ探してたんだから」

かっちーん。愛希は腹を立てた。
「ごめんねー。ありがとねー」愛希は笑顔で言った。
「別に気にしてないから、無理して笑わないでいいよー」達也も、笑顔で言った。
――ムカつく。

「無理してないよー? 勘違いじゃなーい?」
「無理してるよー。笑顔が凍りついてるよー?」
「やだ。そんなことないのに。うふふふ……」
「そっか。ははははは……」
二人は笑いあった。

達也はため息をついて、言った。「やめた。馬鹿らしい」

……馬鹿らしい? この、超美少女に失礼なんじゃないの? 愛希はムカムカしていた。

「今更そんなに無理して笑わなくていいよ。こっちも疲れるし」
「何であんたが疲れるのよ!」愛希はムキになって言った。
「何か、見てて疲れる」

……見てて疲れる?

この、顔も体も性格も品格も頭も声も、存在自体が特A級の愛希ちゃんの顔を見て、疲れるだと? 失礼にもほどがあるんじゃないの?

「あ、怒ってる」達也が言った。
愛希は言った。「ってゆーか、荒瀬くんあたしに憧れてたとか言って、何でそんなに嫌味っぽいの? ちょっと性格悪いんじゃないの?」
「そう? 伊藤ほどじゃないと思うけど」

ムッカー。愛希は達也を睨んだ。
「ムカつく。あームカつく。超ムカつく」
「ごめん。さすがに言い過ぎたかも」達也は頭を掻いた。「殺されそうだから、謝っとく」
「あたしが人殺しなんかするわけないでしょ!」愛希は怒鳴った。
「しー。静かに」

何よ。ふざけんなっつーの。絶対に寝返ってやるんだから。
どっかに、ちょうどいい奴いないかなー。愛希はやはり、そう考えていた。



達也は、ふと言った。「ここの中がどうなってんのか、見に行かない?」
「やだー。疲れてるもん」
「そっか。でも、もし人がいたら――」
「荒瀬くん一人で行けば?」愛希は笑みを浮かべて言った。
「いいよ。一人でいるところ狙われたら困るだろ」
「意気地なし」

「そうじゃなくて、伊藤が――」達也は愛希を見た。「……いいよ。何でもない。意気地なしだから行くのやめるよ」
「弱虫なんだね!」愛希は嫌味っぽく言ったが、達也は反応しなかった。

231リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/12(水) 22:38 ID:2KqO5TgA
 建物の入り口のドアには、紺野朋香(女子十三番)がいた。
朋香は建物の中に誰かがいるのを確認すると、その中にこっそりと入っていった。
あの長い茶色の髪は、もしかして……

やっぱり。

愛希と……荒瀬くん。何で一緒にいるんだろ。
しかも、結構仲良さそう。まあ、どうでもいいけど。
二人を見た朋香の顔には、不敵な笑みが浮かんだ。今までずっと、探してた甲斐があった。


朋香は手にしていた銃にちらっと目をやって、銃を胸の高さまで上げ、銃口を愛希に向けた。そして撃鉄を起こした。
さよなら、愛希。あんた顔だけは可愛かった。それだけは認めてあげる。
それだけだけどね。


ふと、朋香は自分の腕を見た。震えていたのがわかった。
何を緊張してるんだよ。もう撃つって決めただろ。頑張れ、自分。

今、自分が伊藤愛希を撃つのをためらっているとしたら、それは、何だかんだ言って一年と二ヶ月、一緒に過ごしてきた情、なのだろうか。
いや、そんなはずない。あんな女死んで当然なんだよ。
朋香の顔には、冷や汗が浮かんでいた。



誰かが、自分達を見ていた。女子だ。それ以上は、よく見えなかった。

「何か――客がきたみたいだよ」達也は言った。少しだけ、顎を動かした。
愛希もその方向を見た。


「逃げるか」達也はそれと同時に、愛希の手を掴んだ。

愛希は、達也の手を振り払った。
「伊藤――?」達也は、愛希を見た。


愛希はフフッと笑った。
「寝返っちゃうもーん! 銃もないような男に、用はないもんねーだ!」


――こいつ! 達也は、わかってはいたものの、驚いた。
まさかここまでとは、思いもよらなかった……かな。

「荒瀬くんが本音出せって言ったんじゃん。悪いけど、じゃーねー」


愛希は笑顔で、その人物の方に走り出した。
「敵意はないの。あたしだけ仲間にいれてー!」


達也はギョッとした。あっ、あの馬鹿。



何考えてんのよ。朋香は心にある迷いを断つかのように、引き金を引いた。

232リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/14(金) 23:16 ID:2KqO5TgA

ぱん。


大きな爆竹のような音がした。



愛希は座り込んでいた。

自分のすぐ後ろには温かい感触があった。大きくて、人差し指と中指が変な方向に曲がっていた、そして、それをハンカチで巻いていた、変な手が、自分を支えていた。

銃弾は、愛希の頭上の近く(ほんの十センチくらいだろう)を掠め、後ろにあった窓ガラスがガシャンと割れた。


達也は言った。「飛び出すなよ、馬鹿!」

な、何よ。愛希は悔しくて、そっぽを向いた。
でも、助けてくれた。何だか申し訳ないような、恥ずかしいような気分になった。


愛希は立ち上がって、言った。「敵意はないって言ったでしょ? 卑怯だよ。出てきなさいよ!」



少しの沈黙の後、そこから出てきたのは、かつての友人、紺野朋香だった。

「朋香――」愛希は意外に思った。何で朋香が――あたしを狙うのよ!


朋香は臆することなく、こちらに近付いてきた。
「愛希。久しぶり。相変わらず男使ってるみたいだね」
「別に使ってなんか……」


達也は愛希に言った。「いいから、逃げるぞ」
「何で逃げるのよ。情けない」
「だってしょうがないだろ! 銃ないし」
「戦ってよ。男らしくないなー」
 バカかこいつは。達也はげんなりした。

朋香が言った。「荒瀬君、こんな奴ほっといて、逃げた方がいいよ。あんただけなら逃がしてあげる」

愛希は驚いた。何で荒瀬だけなのよ! あたしを逃がしなさいよ。――友達でしょ?

だが、朋香は更に言った。「こいつはあたしが殺すから。こんなワガママな女と一緒にいても、いいことないよ?」
「まあ、それはわかるけど」

ムカッ。

「荒瀬くん、早く逃げよ」愛希は達也の手を掴んで言った。
達也は困ったように頭をかいた。「どうしよっかなー……」

「何でよ!」愛希は叫んだ。ここでこいつに逃げられたら、あたしの命がない。
「一緒に逃げよう?」愛希は懇願するように言った。
「だってさー、伊藤、おれのこと番犬ぐらいにしか思ってないだろ」
ギクッ。「――そんなことないモン」


横から朋香が言った。
「そうそう。荒瀬君、こんな奴と一緒にいちゃ駄目だよ。そのうち殺されるよ。大体にしてさー、こいつの周りに何人の男がいると思う? 二股三股は当たり前。人の彼氏には手出すし、告白してきた男にはどんどん貢がせる。それで用なしになったら、そっこーバイバイ。姫城とはなぜか結構長いけど、それだって……ただの気まぐれでしょ」

達也は愛希を見た。まずい。愛希は血の気が引いた。

「こいつは人を人とも思っちゃないんだから。やめときなって!」
愛希は朋香の横で叫んだ。「違う。全部嘘だってば!」
こいつにここで寝返られたら困るんだよ。せめてこの女を退治してからじゃなきゃ。

達也は愛希と朋香を見比べた。「へー。伊藤がねー」
「違うって言ってんでしょ!」

もう、何でこいつは、おとなしくあたしの言うこと聞いてくれないんだろう。
愛希は焦った。

朋香に言った。「朋香、どうしちゃったの。友達でしょ? 殺し合いなんて、やめようよ」
ってか、朋香の分際であたしにはむかうなんて、ふざけんなっつーの。

朋香の眉が、ピクッと動いた。「はあ? あたしのことも美保のことも友達とも思ってなかった癖に……あんたのその偽善者ヅラが大嫌いなんだよ! ってゆーか存在自体が嫌いなんだよ! 人の男取りやがって……」


愛希は首をかしげた。男?

「芳賀君のことよ!」
「……ああ。あれは向こうがコクってきただけだよ」
「あいつはあんたとヤッたって言ってたよ!」
「はーっ? まさか。あたしがそんな簡単にヤラせるわけないでしょ。そこらのバカ女とは違うんだから。誰があんな豆同然の男に……」


ハッとした。


達也が、自分を、どこか呆れたような視線で見ていた。
「伊藤、完全に本性出たね」


朋香は震えていた。「あんたには豆でもね、あたしにとっては大切な人だったんだよ」銃口を持ち上げて言った。「死ねよ」


愛希は怯えた。あの小さな穴から弾が発射されたら、自分は死んでしまう。
そんなこと、嫌だと思った。
嫌だ、嫌だ。嫌だ!

233リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/14(金) 23:17 ID:2KqO5TgA
その時、達也は朋香に飛びかかった。


「きゃあ」朋香は短く叫び、銃を達也に向け発砲した。


ぱん。


愛希の位置からはよく見えなかったが、血がぷしゅっと飛び散った。

「何で邪魔すんのよ!」朋香は叫んだ。
「わかんないけど、ここまできたら置いていけないよ」

達也はそう言って、朋香から銃を奪おうとしていた。

「やめて。愛希を殺さなきゃ、あたしは他の人は殺したくないの! どいてよ!」


愛希は茫然として、その場に座り込んでいた。
達也が言った。「逃げろよ、早く。お前だけ助かるよ? 早く逃げろよ!」


愛希は思った。何で、こいつはこんなに嫌味っぽいの。この、顔も体も性格も品格も声も、頭も、何もかも、存在自体が特A級の愛希ちゃんに……



愛希は立ち上がって、言った。「失礼なんじゃないの?」
「あんたはあたしの番犬なの、ゲームが終わるまで、あたしを守るのが仕事なの!」
「……そうだったんだ」

「それを、逃げろって何よ! いい加減にしてよ!」

愛希は、達也と、朋香に近づいた。朋香の握っている銃を引っ張った。
「ちょっと、二人がかりなんてずるい!」朋香は叫んだ。

銃口を自分に向けないように、朋香の腕を捻じ曲げた。
「離せ、やめろよ! 痛いってば!」

朋香の手から、銃が外れた。

達也は、すかさず銃をとった。左手で、それをしっかりと握り締めた。



「あー、疲れた」
座り込んで、銃をまじまじと見つめた。それから、朋香と愛希を見た。
「伊藤を撃たないって約束するなら、逃がしてあげるよ」


朋香は悔しそうに達也を見た。
「何でこんな女がいいんだよ。男ってどいつもこいつも――」

「荒瀬くん、貸しなさいよそれ」愛希は、達也から銃をぶん取った。


撃鉄を上げて、朋香にまっすぐに向けた。
「あっ」
「早く消えてよ!」愛希は叫んだ。


朋香は舌打ちをした。


「あたしの目的は、あんたを殺すことなんだよ!」


朋香は愛希に向かって、走ってきた。


「いとうっ……」

達也が叫んだ時には、朋香は、愛希に飛びかかってきていた。
【残り25人】

234リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/15(土) 00:35 ID:2KqO5TgA
以前の行動>>220

 千嶋和輝(男子九番)は、どうにか起きあがった。頭が痛かった。体も、色々な場所が痛かった。
「ここで止まってよかったねー。下まで落ちてたら、お前、間違いなく死んでたな」大迫治巳(男子二番)は、言った。

治巳は和輝をちらっと見やると、笑った。
「何泣いてんだよ。オレに会えたのが、そんなに嬉しいの?」
「嬉しくねーよ、悲しいんだよ!」
「嬉しいくせに。可愛くないねー」

……そうだよ。実は結構嬉しいよ。中学からずーっと一緒だったから、いないと何となく違和感があるんだよ。和輝はそう思ったが、口には出さなかった。


治巳は辺りを見やって、言った。「随分派手にやり合ってたねー。どっちにしろ、ここにはもういない方がいいわな。ほら、立て」和輝の腕を引っ張って、立たせた。
「歩けるか?」

和輝はためしに歩いてみた。他は軽傷だと思われたが、足首に鈍い痛みがあった。「捻ったかも」和輝は苦笑した。「ああ?」治巳は和輝の左足を見た。
「こんなの全然平気だよ。湿布つけて一日休めば治るって」
「本当かよ……」
「オレは怪我のスペシャリストだ。オレが平気っつってんだから、平気」
まあ、確かに、治巳は、サッカー部に入っていた時は、よく怪我をしていた。いつも痣だらけになってたよな。すぐ治る怪我ばっかだったけど。

「とりあえず、行くぞ!」治巳は言った。
「じゃあ、俺、洞窟に行きたいんだけど。この先のどっかにあるらしい……」
「いーけど、何で?」
「か……笹川が、多分そこにいるはずだから」
「へー」治巳は地図を見ていた。
「あとさ、俺デイバック忘れてきたんだ。銃弾くらいなら残ってると思うから、行ってもいい?」
治巳は階段を見上げた。「誰かいたらどうすんだよ。お前をこんな目に遭わせたヤツが」
「でも、いたらまた攻撃してきそうなのにしてこないじゃん」
いないってことだよ、と和輝は自信満々に言った。

「銃は持ってんの?」
「ああ。かろうじて握ってた」
治巳は、しばらく何かを考えている様子だった。

「ま、いっか。行くか!」そう言うと、治巳は階段を上り始めた。
馬鹿でよかった。和輝は思った。

235:2004/05/15(土) 20:43 ID:jsvRPF6s
しばらくテストで読んでませんでしたぁ〜
うゎ〜〜めっちゃおもろいですぅ(関西弁
また頑張ってください!!

236リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/16(日) 00:36 ID:2KqO5TgA

 慎重に上って、二人は頂上まで来た。


辺りを見回した。倒れている男子生徒の姿以外は、特に変わったものはなかった。
「……死んでる」治巳が呟いた。


代々木信介(男子二十一番)は、口から血を流していた。少しだけ開いた目は、どこも見ていなかった。それは、間違いなく死体だった。

「俺が、撃ったんだよ」和輝は小さく呟いた。
「まあ、しょうがねーよ。進んで殺したわけじゃないんだろ?」
「違うよ。襲われて……」
「だったらいいよ。気にすんな」治巳は少しだけ笑った。


デイバックの中身はこぼれてぐちゃぐちゃになっていたが、無事な物もあった。銃弾と、磁石。他は使い物にならなかった。

「戻るか。洞窟行こうぜ」
和輝の言葉に、治巳は地図を覗き込んでいた顔を上げて、言った。
「洞窟なんて、どこに描いてあんの?」
「あるだろ。ほらここに……」

――指が彷徨った。地図には『公園』と描いてあるだけで、他には何も記されていなかった。何で、俺の地図には確かに。

和輝はポケットから、くしゃくしゃになった地図を取り出した。
「ほら、ここにはあるって……」

地図をまじまじと見た。そして、気がついた。左下の端っこ、殆ど見えないような場所に、薄く、『96年版』と書いてあった。

「嘘だろっ?」和輝は驚きのあまり、素っ頓狂な声を出した。


治巳は言った。「あー……古い地図だったんじゃん? オレのは2005年版って書いてあるし」
「ざけんなよ!」和輝は腹を立てた。
「まあ、とりあえず移動しようぜ。こんなとこにいたら目立ってしょうがないし」
「……そうだな」

しかし、洞窟がない以上、加奈とどうやって落ち合えばいいのかわからなかった。
この近くにいるなら、探した方がいいかもしれない。

治巳は言った。「この近くの雑木林で過ごそう。どっちみち、笹川ちゃんはこのエリアにはいないよ」
和輝は不思議に思って、訊いた。「何でそんなことわかるんだよ」
治巳はフッと笑みを漏らした。「後で言うよ。急ごー」


とりあえず、ここが危険だということはわかっていた。
ごめん、加奈。後で必ず、探しに行くから。

和輝はそう思いつつ、H=8を後にした。

237リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/16(日) 00:43 ID:2KqO5TgA
>>219

 笹川加奈(女子十四番)は、言った。「先輩、いい加減に戻ってください。ドライブしてる暇なんてないんです!」
「冷たいなー。昔はもっと素直で、可愛かったのに」
「そんなこと、今はどうでもいいでしょ」

加奈は思った。今から丘に行っても、もういなくなってるかもしれない。

「先輩、洞窟に行ってください。和輝はもうそっちに着いてるかも……」
北川哲弥は無言だった。
「行ってくれないなら降ろしてください!」

「お前さ、千嶋のこと、好きなの?」
はあ? 何よ、急に。

「まあ、先輩よりは優しいですよ」
北川はくっと笑った。「俺だって優しいじゃん」
「優しい人は、無理やりドライブに連れてったりしないもんなんです!」
「へー」

北川はブレーキをかけた。
「はい。着いたよ」


へっ?

加奈は窓の外を見た。ただの雑木林が広がっているだけだった。

「どこですか? ここ」
「前に、洞窟があった場所」

意味がよくわからなかった。

「この公園、よくプログラムに使われてんだ。つーか、ここだけの話、この公園はプログラム用に建てられたんだよ」
「へー……」

そう言われてみれば、何か変な建物が多いし、公園の中なのに、なぜか人が住んでたっぽい家があるし。

「建物は全部レプリカ。よく出来てるだろ?」北川は嬉しそうに言った。
「そんなこと、どうでもいいから。洞窟なんかどこにもないじゃん! どういうことなんですか?」
「あー、九年前にはあったんだけどねー」
「へ?」
加奈は、デイバックから地図を取り出した。洞窟など、どこにも描かれていなかった。

「何で……」
「古い地図が混じってたのかもねー。たまにあるんだよね、そういう凡ミス」


北川は、また車を走らせた。

「カズキに謝っといて」
何となく、加奈は気まずくなった。

でも、どうしよう。とりあえず、丘に戻れば、まだ、和輝はいるかも。

「先輩、H=8にもどっ……」
「今戻ってるよ」北川は遮って言った。

はー。よかった。加奈はホッとした。
和輝、死んでないよね? とにかく、早く行かなきゃ。

「先輩、急いでください!」加奈は大きな声で言った。



加奈はどうにか、H=8に戻ってきた。北川と別れて、丘の頂上まできた。

「……いない」
加奈は辺りを見回した。「いない!」

でも、いないってことは、ここで殺されたわけじゃないんだよね?
加奈は少し安心したが、すぐに不安になった。
どうしよう。どこで待ち合わせればいいんだろ。


「加奈ちゃん?」


唐突に声が聞こえた。一瞬和輝かと思ったが、そんなわけないと打ち消した。
何しろ、女の声だった。

加奈はばっと振り向いて、驚いた。

「こんなとこで、何してるの?」

内博美(女子七番)は、形のいい切れ長の目で、加奈を見つめた。
【残り25人】

238リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/16(日) 12:02 ID:2KqO5TgA
瞳さん>
ありがとうございます!
久しぶりの感想なので嬉しさはひとしおですね^^
これからもよろしくお願いしますw

239リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/16(日) 23:46 ID:2KqO5TgA
 以前の行動>>208>>210

 時刻は、午後七時半。ここは、エリアD=8と、D=9の境目に当たる場所だった。

飛山隆利(男子十七番)は、疲れてぼんやりとしていた。隣には、高城麻耶(女子十七番)が眠っていた。
疲れたんだろうな。隆利は少し微笑ましくなって、麻耶の寝顔を見た。
寝てる時は可愛いのに。寝てる時、は。


隆利は、自分の肩にもたれ掛かってくる麻耶を、しっかりと支えながら(このままの体勢は、ちょっときつい)、あることを思い出していた。


一年前だ。隆利は隣のクラスの女子と、付き合っていた。元々、部活が同じだったのだが、そこからどことなく仲良くなり、好きになった。
初恋だったと言っても、過言ではなかった。思い切って告白して、ついに返事をもらった時には、嬉しくて仕方なかった。

しかし、困ったこともあった。

麻耶の態度が、明らかに冷たくなった。登校の時、朝に会ってもそっけなくて、クラスでも自分を避け、話しかけても、素っ気ない態度しか返ってこなかった。

確かに、あの子と付き合えたのは、とても嬉しかった。でも、麻耶との仲が疎遠になっったことは、寂しいと言うよりも、むしろ、心にぽっかりと穴が開いてしまったかのようだった。
隆利にとって麻耶の存在は、思っていた以上に大きかったらしかった。

結局うまくいかなくなり、その子とは別れることになった。


思った。二人して、いつまでも、殻に閉じこもってるのは駄目だと思う。でも、昔から空気のように傍にいて、いないと苦しいんだ。隆利にとって、麻耶は、なくてはならないものだった。麻耶にとってどうなのかは、わからないけれど。


麻耶が目を覚ました。
「んー……」
目をこすって、虚ろな表情で隆利を見た。

だんだん眉間に皺が寄ってきた。「何見てんのよ」いつもと同じ口調で言った。

「見てねーよ。自惚れんな」
「嘘。私があんまり可愛いから、見とれてたくせに」麻耶は唇を尖らせて言った。
「勘違いも度が過ぎるとイタいぞ」
隆利の言葉に、麻耶は怒ったようにそっぽを向いてしまった。勿論、本気で怒っているわけではないだろう。


隆利は思った。嘘だ。麻耶は十分可愛い。多分、幼なじみじゃなかったら、オレなんて相手にしてもらえないだろう。これで性格さえ直せば、モテモテになるに違いないな。
それなら、一生直さないで欲しい、なんて思うのは、おかしいのかな。


隆利は、不意に訊いた。「生き残ったら、行きたいところある?」
麻耶はきょとんとした。しばらく考え込んでいたが(そんなに悩むほどのことか? と隆利は思った)、言った。
「私、隆利の家に行って、隆利の部屋に置いてある漫画を読みたい」

何だそれ。
「いつも読んでるじゃん」隆利は言った。
「難しいから、内容すぐ忘れちゃう」
「へー。バカなんじゃないの?」
「はー? あんたほどじゃないよ!」

口論になりそうだったので、隆利は言い直した。
「へー……オレんちに一番行きたいんだ。あんな狭い部屋でもいいの?」

麻耶は少し照れながら、でもはっきりと言った。
「今一番行きたいところはそこなの! 他の場所は後で考えるから」

隆利は拍子抜けした。
嬉しかった。麻耶にとって、自分は結構大切な存在なのかもしれない。
……自惚れかもしれないけど。

「そっか……じゃあ、終わったら来いよ」
麻耶は頷いた。


勿論、生き残れたら、の話だ。でも、自分でも不思議なほど、心は落ち着いていた。麻耶と合流できたので、ホッとして気が抜けていたのかもしれない。


隆利は空を見上げた。空は明るい青から、やっと濃紺に変わっていた。夏は日が長い。
穏やかだった。三十分ほど前に激しい銃声が聞こえたことなど、夢のまた夢のようだった。


突然、麻耶が、肩にもたれかかってきた。ドキッとして横を見た。
どうやら、また眠くなってきたらしい。
寝てる、よな。寝てるんだよな……?

ゆっくりと、麻耶の肩に手をかけた。麻耶からは何の反応も見られなかった。目は、柔らかく閉じられていた。

隆利はふう、とため息をついた。この時間が、ずっと続けばいいのに。
そう思いつつ、ふと後ろを見た。

240リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/17(月) 00:20 ID:2KqO5TgA

 藪の向こう、ほんの一メートル付近に人がいて、カマを振りあげようとしていた。

目があって、隆利は「あ」と言った。
予想外に、間抜けな声になっていたかもしれない。


その人物は焦ったようにカマを下ろして、そのまま立ち止まった。
視線を上下に彷徨わせ、モジモジした。

隆利は、念のため、ズボンのベルトに差してある刀を抜くと、そいつを睨んだ。
「何の用だよ」

その人物は困ったような顔をすると、答えた。
「誤解しないで。あたし、話しかけようとしただけなの――」


高田望(女子十八番)は、大きめの体をくねらせた。


麻耶が、この騒ぎに目を開けた。
「……えーっと、何かあった?」不機嫌そうな声で言った。
望は身振り手振りをつけて、まくしたてた。「誰だかは見えなかったけど、声をかけようと思ったの! そうしたら、何かいい雰囲気だったから戸惑っちゃって……」

嘘つけ。思いっきりカマ振り下ろそうとしてたくせに。

隆利は言った。「悪いけど、信用できないから消えてくれ」


麻耶は、黙って二人を見ていた。どうやら、寝ていたのでわけがわからないらしい。
望は悲しそうに眉を寄せた。
「ひ、酷い……」顔を両手で押さえて、泣き出した。


げっ。

二人は、茫然として、それを見ていた。
「あ、謝りなよ」
「何でオレが……」
「泣かしたのあんたじゃん」
二人はコソコソと耳打ちをした。望は声をあげて、大袈裟に泣いていた(ってかホントに泣いてんのか)。

「あの……ごめん」
何だかわからないが、謝ることになってしまっていた。


望は、相変わらず大声をあげていた。


隆利は何だか気まずい気持ちになった。それと同時に、不条理さも感じた。
何でオレが謝らなきゃいけないんだ。

望は顔に手を当てたまま、声をあげている。

イライラしてきた。隆利は、望の腕を掴もうとした。


望の声が止んだ。

望は腰に手をかけた。ヒュッとカマは弧を描いた。
その鋭い刃は、間違えなく麻耶を狙っていた。

麻耶の目が、一瞬見開かれた。


危ない! 隆利は前に立ちはだかるようにして、刀を横に向けた。


ガチッ、と音がして、二つの刃が、ギリギリと絡み合うのが見えた。


「くっ……」
望の力は強かったが、やはり力では、隆利の方が上だった。


隆利が刀を思いっきり上にあげると、望のカマは外れた。


カマは音を立てて地面に落ち、望自身も大きくしりもちをついた。

隆利は、刀をまっすぐに、望に向けた。


望は一瞬悔しそうな顔をしたが、すぐに言った。
「やめて、やめて! 殺さないで!」

後ろに下がった。
スカートは太腿までめくれ上がり、そこから、大根のような足が――
なまめかしく……覗いた。


唖然とした。言葉もない、というところだろうか。麻耶は隆利の影に、サッと隠れた。


隆利は少し気分が悪くなったが、刀を望に向けていた。

「お願い。怖かっただけなの。わかって」

……わかるか。

隆利は言った。「早く消えてくれ。そうじゃないと、今度は容赦しない」



不意に、望は分厚い唇を曲げ、笑いの形を作った。
笑い出した。
「何だ、あんた思ったより強かったのね。そっか。なら、今日のところは諦めてあげる」


どう考えても自分の方が不利なのに、上から見るような言い方をされたので、腹が立った。望の粘り着くような声、行動、言動、全てが不快だった。むしろ、殺そうかとも思った。
でも、それはどうしても出来なかった。


もし、すぐ傍に麻耶がいなかったら、どうなっていたのかはわからない。隆利は、麻耶に、人殺しをする男だと思われるのは嫌だった。たとえ、プログラムの進行中であっても。



隆利は声を荒らげた。「いいから消えろよ! マジで殺すぞ」


望は「きゃっ」と声をあげ、カマを取った。

隆利の刀に力がこもった。

「女の子には優しくしなきゃ駄目よー。彼女に嫌われちゃうゾ!」

望はそう言って、走り去っていった。



隆利はまた不愉快な気分になったが、同時に、凄くホッとした。はー。変なのに絡まれたな。塩沢の五割増で変だった。

後ろにいた麻耶がやっと口を開いた。「あの子……変わってるね」

隆利はしばらくの間沈黙した。
「お前に言われちゃおしまいだな」

隆利の皮肉にも、麻耶は殆ど反応しなかった。ただ、頭の中に、太く、毛の生えた足が現れて(まさに大根だ)、軽快にラインダンスを踊り始めていた。
【残り25人】

241リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/18(火) 18:38 ID:2KqO5TgA
以前の行動>>230>>233

 伊藤愛希(女子四番)は、茫然と座り込んでいた。
荒瀬達也(男子一番)は、愛希の近くにきた。
「大丈夫?」

答えられなかった。大きな瞳に、涙がたくさんたまっていた。
まばたきをすると、堰を切ったように溢れ出した。

愛希は達也のワイシャツを掴んで、顔を寄せた。
怖かった。初めて、人を殺した。何だかあっけなすぎて、無性に恐ろしく感じた。

達也は無言のまま、愛希の肩に手をかけた。そして、横を見た。


二人のすぐ横には、紺野朋香(女子十三番)がいた。


目は中途半端に開かれ、体は投げ出されていた。口は少しだけ開いており、血が流れていた。右頬の骨が砕けていて、そこは、赤いブラックホールのような、小さな穴が出来ていた。

悲しげな表情にも、恨んでいるような表情にも見えた。

朋香の目は、まっすぐに、愛希を見つめていた。



朋香がまっすぐに飛びかかってきた時、愛希は何も考えることが出来なかった。
反射的に、銃を発射した。


銃弾は朋香の顔の右頬部分に当たり、朋香の顔は鮮血に染まった。
そのまま、横様に倒れて、動かなくなった。

――たった、それだけのことだった。



愛希はしばらく、泣いていた。声も出さず、喉をしゃくりあげるでもなく、涙だけ流した。
達也は赤ん坊をあやすように、背中をぽんぽんと叩いた。


それと同時に、愛希は声をあげて、泣き出した。

こんなゲーム、何でもないと思っていた。誰が死のうが知ったこっちゃない。自分だけ生き残れば、それでいい。しかし、現実は愛希の想像した以上に簡単で、残酷で、無情だった。
あたしは、自分のことを見くびっていたのかもしれない。皆にいい顔をして、心の中ではバカにして、冷たい自分が本当の自分だと思っていた。でも、それも、演技だったような気がした。
よくわからなくなっていた。



しばらくして、顔をあげた。達也は、無表情で愛希を見ていた。「落ち着いた?」
愛希は頷いた。呆れられてるのかもしれない。そう思って、鼻をすすった。

ふと、達也のワイシャツを握っている自分の手が、血で濡れていることに気がついた。


そうだ。愛希は言った。「撃たれたとこ、大丈夫?」
「大丈夫、かすっただけっぽい」達也は力ない笑みを見せた。

愛希は腕を見た。二の腕の肉が、細く引きちぎれていた。そこからは真っ赤な血が流れ出していた。
何が大丈夫なんだか。早く手当てすればいいのに。あたしなんかほっといて。

愛希は自分の手持ちのバックから、ハンカチとタオルを出して、達也の腕に巻いた。
達也は意外そうな表情をして、愛希を見た。
「いいの? このハンカチめっちゃ高そうなんだけど」
「こんなのいっぱい持ってるし、全然平気」
「そっか……」達也は口元だけで笑った。

「消毒した方がいいかな。近くに家があるかもしれないから、そこ行って、包帯とマキロン取ってこよう」
「あるかな。ってか、危なくない?」
「大丈夫だよ。行こう」愛希は達也の手を取った。
達也は言った。「何か、嬉しいな。伊藤さんに心配してもらえるなんて」
心からそう思っている様子だった。

愛希は、よくわからないけれど、懐かしいものを感じた。

愛希は立ち上がって、人差し指を天井に向けた。「いいから、行くよ!」
「うん」達也も立ち上がった。

242リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/18(火) 18:40 ID:2KqO5TgA

 しばらく無言で歩いた。


達也は、ふと呟いた。「家って、どこにあんの?」
「知らないよ。自分で調べてよ」
「……わかったよ」

実は、建物の裏には赤茶色の家があったのだが、二人からは四角となっていて、見えなかった。


「でも、本当にかすっただけだから、消毒なんてしなくていいよ?」
「駄目だよ。バイキン入ってたらどうすんの?」
「でもさー。何か悪いかなって」
何が悪いんだか。

「あたしを助けてくれてそうなったんだから、悪いもくそもないでしょ」
「ふーん」達也は物珍しそうに愛希を見て、それから呟いた。「役得だ」

愛希は思った。何、こいつ。いつもへらへらして。しまりがないってゆーか、頼りないってゆーか。しかも何考えてんだかわかんないし、ムカつくし。
でも、思った。何か楽かも。キャラ作らなくていいし、顔作らなくていいし。


それから、先ほど達也に抱きついて大泣きしたことを思い出して、とても恥ずかしくなった。
あたしとしたことが、こいつごときの前で、本気で泣いてしまった!
今すぐのたうち回りたい衝動に駆られたが、プライドが許さないので、やめておいた。


達也が呆れたように言った。「どうしたの、伊藤」
「うるさい、何でもないんだよ!」
「ならいいけど」
達也は愛希より前を歩いた、五メートルほど歩いて、振り返った。


「何で止まってんの?」

愛希は膝を折り曲げていた。
「疲れた!」

達也はげんなりしていた。「伊藤が家探そうって言ったんじゃん……」
「あたしはか弱いから足腰が弱いのー! すぐ疲れるのー!」


達也は愛希のすぐ傍にきて、腰を下ろした。

何も言わずに、地図を開いて、エリアを確認していた。

何よ、怒ったの? 愛希は少し気まずくなった。
ふーんだ、この超美少女のわがままくらい、喜んで聞くのが男ってモンでしょ。怒るなんて五十年早いのよ。

目があった。
愛希は、その時に初めて、自分が達也の横顔を凝視していたことに気づいた。

達也は言った。「割と元気になったっぽいね」
愛希は拍子抜けした。
「よかった」そう言って、また地図を見始めた。


達也の横顔を見つめていた。

何か、言ってしまいたくなってきた。

愛希は話し出した。「朋香は、あたしにとって、まあ、内側の人間だったの」
「うん」達也は地図に視線を置いたまま、相づちを打った。

愛希は続けた。「でも、どうでもよかった。口では友達だって言ってたけど、本当はバカにしてた。朋香だけじゃない。美保も、海貴も、他に付き合ってたヤツラも、クラスの人も。皆好きじゃなかった」
「うん」
「でも、こうなって見ると、何か悲しくて。何が悲しいんだかよくわかんないけど、バカにしてた内側の人間に裏切られたことが、ショックだった。あとね、自分が人を殺したってことと、たった今まで生きてた朋香が、突然死んだこと。何か……怖かった」

うまく言えなくて黙り込んだ。愛希は俯いて、地面に字を書いた。


「ごめん」
愛希は顔をあげた。「何が?」
「もう二度と、人殺しなんてさせないから」達也は少し沈黙して、続けた。「紺野、友達だったんだろ」
愛希は躊躇したが、頷いた。
「友達が死んで、悲しかったんだよ」そう言って、達也は地図から愛希に視線を移した。

愛希はまた俯いた。
「そう、かもね」


いたって普通の男子だと思ってた。興味なんてなかったけど、よく見ると、こいつ、結構いい顔してるじゃん。愛希はほのかに思った。
【残り24人】

243リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/20(木) 23:29 ID:2KqO5TgA

 東の端(E=9)では、香山智(女子十一番)が、恐怖に怯えていた。

「怖いよ……帰りたいよぉ……」
誰もいない原っぱで、声を荒らげ、泣いていた。

智は呟いた。「誰か、一緒にいてくれる人はいないのかな……」
そして、首を横に振った。

「駄目だ。私はみんなが信用出来ないし、みんなもこんなヲタクっぽい奴なんて、気持ち悪くって近寄らないに決まってる……」
おいおい泣いた。涙が止まらなかった。ついでに言うと、鼻水も止まらなかった。
智はティッシュを取り出し、ずずーっと鼻を噛んだ。

智は大人しい女の子だった。小さいころから目が悪くて眼鏡をかけていたので、小学校の時には、暗い奴だと言われて、苛められたことがあった。
そのことは、元々内向的だった智を、益々殻に閉じこもらせてしまった。

みんなが私を、汚い物を見るような目で見る。智はそう思い込んでいた。

高校になってからはコンタクトに換えてみたが、それでも自信が湧かなかった。アニメや漫画が好きだったこともあって、高田望(女子十八番)と仲良くなったが、それ以外の生徒は皆、自分達のことを軽蔑しているように見えた。


わかってる。私がブスだから、だからみんな、私のことが嫌いなんだ。
小柄な智の体が、震えていた。涙が止まらなかった。

「私なんか、誰かに見つかったらすぐに殺されるんだ。不細工だし、暗いから。生きてる価値なんかないんだ……」智はワンワンと泣き続けた。


絶望していた。何でこんな顔に生まれたんだろう。伊藤さんや、内さんみたいに、美人に生まれたかった。それなら、男子だって、私を守ってくれたのに。
田阪君だって――

ふと、通学用のバックを開け、その中からクラス写真を取り出した。

田阪健臣(男子七番)は、その中で無表情で写っていた。

「田阪君……今、どこにいるんだろ」智は呟いた。
クラス写真は、智の唯一の宝物だった。
健臣と智が一緒に写っている写真なんて、これしかないのだ。

智は地面に突っ伏したまま、少しの間、写真を見つめていた。

かっこいい――。顔が自然にほころんでいた。

生徒個人の顔は小さく、あまり写りがいい物ではなかったが、智はそれでも、十分満足だった。


ボソッと呟いた。「でも、私じゃ全然釣り合わないけどね」

何と言ってもうちのクラスは可愛い子がたくさんいる。と言うか、私以外はみんな可愛い(正確には、高田望と三条楓を除く)。
それで、その辺の可愛い女子が、田阪君と付き合うんだ。ううん、もう、付き合ってるとか?
悶々と考えごとをしながら、写真を見つめていた。


思った。それでも、田阪君に会いたいな。

……でも、会ってどうするんだろう。どうにもならない。殺されるだけだ。
まあ、田阪君に殺されるなら、それも本望なのかも……

そう思いつつも、立ち上がった。支給武器のヌンチャクを握り締めた。
こんな物、私に使えるわけない……


絶望しながら、その場から歩き出そうとしていた。



ズシャ。


近くで音がした。鈍い音。切りにくい物を、包丁で切った時のような音。
そして、自分の首に、灰色の刃物が巻きついているのが見えた。


「ぐ、ぐはっ……」

息苦しかった。それと同時に、喉が猛然と熱くなっていくのを、感じた。
ブスッと音がして、更にその刃物が、喉に食い込んだ。

血が、じわじわと自分の首を伝って、制服に流れていくのが、見えた。


刃物が首から抜かれた。プシューと音がして、血が一面に飛び散った。


智は地面に崩れ落ち、そのまま、動くことはなかった。



智を死に追い遣った人物は、血が滴り落ちるカマを、握り締めたまま、言った。「何が田阪君だよ。全部聞こえてんの。ひとりごと言う癖、いい加減直したら? あっ、もう直らないか」

そして、分厚い口を捻じ曲げ、ニヤリと笑った。



高田望は、カマについた血を拭った。
智の方をチラッと見たが、それだけだった。

良心とか、そういうもんはとっくに捨てたの。だって、これは復讐なのよ。
あたしをバカにした奴ら、全ての人間への、復讐。


「あたし、奪う側に回ろうと思っただけよ……」望は呟いた。

低く、特徴のある声で、笑い出した。



「へー。そうなんだ。俺もだよ」


後頭部に、ゴリッと銃が押し付けられる音がした。望は飛び上がった。

「誰?」望は首を捻じ曲げて、その人物を確認した。



「田阪君!」望は叫んだ。

香山智の思い人、田阪健臣がそこにいた。
【残り23人】

244リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/21(金) 22:51 ID:2KqO5TgA
以前の行動>>237

 笹川加奈(女子十四番)は、内博美(女子七番)と一緒に、公園の隅っこに座って話した。主に、今まで何をしていたか、とか、こんなゲームに参加することになって、とっても怖い、とか、その類の話をした。

博美は言った。「友達がどんどん死んでいって……何でこんな最低なゲームをやらせるのかな……」

伏し目がちの長い睫毛のラインから、高く筋の通った鼻のライン。彫りの深い横顔を、加奈はなぞるように見つめた。
いささか場違いなのだが、美人だなあと思って、多少羨ましくなった。


「そうだね。あかりも、明日香も、楓も。薫……も。皆、死んじゃったよね。うちらの中で残ってるのは、私と博美ちゃんだけか」
 博美は表情を曇らせた。「みんな……死んだなんて信じられない」涙ぐんでいた。


加奈は、何となく顔をあげた。ぼんやりとした視界の中で、遠くの公園の、階段が見えた。今日、上ったところ。和輝と代々木君が戦ってたところ。

――そこに今、人がいる。


加奈はハッとした。やばい、いくら何でもボーっとしすぎだ。
「博美ちゃん、武器は何?」
「え? えーっと……よくわかんないけど、銃」

チラッと見た。博美ちゃんは撃てないだろう。
「貸して!」と言うと、その銃を装備した。
「誰だろ。逃げた方がいいかな」加奈は呟いた。
「でも、向こうだって人を探してるかもしれないし、それに、みんな怖いだけだよ」博美は指を組んで、言った。

……そうかも。加奈は目を細めた。暗くて、全然見えなかった。

「博美ちゃん、逃げよう」そう言って、加奈は博美の手を掴んだ。
「でも、寂しがってたら……」
「いいから逃げるの!」
加奈は博美の手を引っ張った。



「待てよ、そこにいるのは誰だ?」男子生徒が叫んだ。自分達に懐中電灯を当ててきた。

博美は言った。「加奈ちゃん、もしかして向こうだって仲間を探してるのかもしれないし、理由もなく逃げるって言うのは……」
加奈は男子生徒を見た。

もし、和輝だったら――でも、それはない。声が違った。
他の人……治巳くん辺りなら信用できるかもしれないけど……


「笹川さんと内さんじゃん!」誰かは叫んだ。

「柴崎だよ。俺、人を殺す気なんてないよ!」


「柴崎君?」加奈は驚いて、柴崎憐一(男子五番)だと思われる人物を見た。
そいつは階段を下りてきた。


暗闇でも見えるほどの距離に近づいてきた。ユーモアのあるタレ目が、加奈を見た。
「久しぶり」
「はあ……」

加奈は思った。どうなんだろ? 柴崎君ってイマイチ信用できないような……
だって、女とっかえひっかえしすぎだし、軽そうだし。

「俺、仲間を探してたんだけどさー、二人は一緒に行動してんの?」
「うん。まあ」
「じゃあ俺もいれてよ」憐一は笑顔で言った。

どうしよう。加奈が迷っていると、横から博美が言った。「いいよ。みんなで集まれば怖くないものね!」

げっ。博美ちゃんは、疑うことを知らないんだ。加奈は頭をかかえた。

「あー、でも笹川さんはいいの?」憐一が自分を見た。

こうなったら、仕方ないか。
「……いいよ」
「ホントに? 無理してない?」

加奈は思った。どうなのかな? 和輝とか治巳くんの友達だし、悪い人じゃないと思う。でも、やっぱ、女好きだし。誠実な人がいいよね。うーーーーーーーーーん……

隣で博美が言った。「加奈ちゃん、信じるものは救われるんだよ」
何かそれ、意味が違うような気が。

「疑うことより信じる方が難しいけど、信じれば信じてもらえる。心から悪い人なんていないんだよ!」
博美の目を見た。キラキラしていた。一点の曇りもない目。

私は……なんて汚れてるんだ! 眩しすぎて、気まずくなった。

加奈は言った。「わかった。とりあえず、移動しよ?」
「うん」憐一は加奈を見て、笑んだ。

……まあ、確かにモテるのもわかるけど、でもやっぱりたらしは嫌だよね。女の敵。私はやっぱ誠実な人がいいな。加奈は思った。


三人はとりあえず移動することにした。すぐ隣のエリアには和輝達がいたのだが、悲しいことに、全く違う方向へ移動することになった。
【残り23人】

245リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/22(土) 22:40 ID:2KqO5TgA
くだらない雑記を書き出しました。オリバトについても語りますよ。ええ。

http://diarynote.jp/d/50873/

246リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/24(月) 01:09 ID:2KqO5TgA
以前の行動>>243

 高田望(女子十八番)は、笑い出したくなった。こんな偶然、あっていいの? 残念だったね、智。死んでから再会しても、何の意味もないよねー。

田阪健臣(男子七番)は言った。「動くな。武器を捨てろ」
望は低い声を効かせ、言った。「やだー。あたしを殺す気?」
「そうなるかもな」

望は、ぐるんと健臣の方を向いた。
「う、動くなって言っただろ」健臣は少し焦ったようだ。
「田阪君は、人を殺すのをためらっているようネ」望は軽快な口調で言った。
「そんなことないよ。お前くらい、いつでも殺せる」
健臣は望の額に銃を押し付けたまま、答えた。

「そ? じゃあ何で撃たないの? 怖いからでしょ?」健臣は冷静なまま、銃を構え直した。
「撃ってやろうか?」
望は小さい目を開いて驚きの表情をした。
「やだ、怖ーい!」と言った。

……何だ、コイツ。健臣は呆れた。

望は笑みを浮かべた。「見逃してくれたら――」スカートの裾を、少し持ち上げた。太い脚があらわになった。「好きにしてもいいんだけど」

「するかよ! ざけんなよ。マジで撃つぞ」健臣はイライラした口調で言った。
「そんな怖い顔しないでー」

望は、小さい目を上目遣いにしながら、健臣に詰め寄ってきた。


健臣は銃を発射した。
銃弾は望のすぐ近くを掠めた。

「キャッ、ひどーい」
「だから撃つって言っただろ」

望は、両手を伸ばして、ガッと健臣の銃を掴んだ。そして、言った。「知ってた? この銃回転式だから、シリンダーを押さえちゃえば撃てないの」
「くっ、離せよ……」なんて力だ。


望の顔が、健臣のまん前に近付いてきた。「智が惚れるのもわかるなー」笑いながら言った。
そして、更にこう続けた。「あたしのファーストキス、田阪君にあげちゃう」


健臣は叫んだ。「いらねーよそんなもん!」
「えー、遠慮することないのにー」
「離せ、やめろ。近寄るな!」


健臣は力任せに、望を振り払った。望はドスンとしりもちをつき、健臣自身も、後方へ倒れかけた。


はー。危ないところだった。ホッとして、体制を立て直した時には、望が闇の中に消えていくのが見えた。

あっ。

追いかけようとも思ったが、もう関わりたくないと思う気持ちの方が大きかった。


はあ、何だか無駄に疲れた。健臣はため息をついて、一旦その場を去ろうとした。


しかし、引き返すと、香山智(女子十二番)の死体の前に立った。
頭はガクリと垂れ下がっており、首の付け根からは見事すぎる切り口が見えていた。目は見開いて、体中の血がなくなってしまったかのように、体が、くすんだ黄色に変色していた。

痛かっただろうな――。健臣の心が、チクリと痛んだ。


思った。駄目だ。こんなんじゃ駄目だ。あいつも殺せなかったし、死んだ人間に同情をしているようじゃ、生き残れない。

心の中では、ささやかに智の冥福を祈っていた。とにかく、今度こそは、やらなきゃ。そう思いつつ、健臣はその場を後にした。
【残り23人】

247リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/24(月) 01:25 ID:2KqO5TgA
以前の行動>>234>>236

 大迫治巳(男子二番)と、千嶋和輝(男子九番)は、小さな雑木林の中にいた。
和輝は言った。「で、笹川はここにいないって言ったじゃん。何で? まさか当てずっぽうとかじゃないだろうな」
「えーっと……ね」治巳は下を向いて沈黙した。
「まさか本当に当てずっぽうなのかよ?」和輝は強めの口調で訊いた。「治巳、答えろ!」

治巳は顔を上げて、気まずそうに言った。「実はその、まさかだったりしてねー。だってとりあえず早く逃げた方がいいじゃん?」


和輝は沈黙して、うなだれていた。やばい、怒ってる。しかもすっげー怒ってる。
和輝が、言った。「治巳、短い再会だったけど……」

立ち上がろうとした和輝を、治巳は食い止めた。
「冗談だよ。悪かったよ!」
治巳は、ポケットから、ちょうど手のひらに収まるくらいの、小さな器械を出した。
「これがあったから、いないってわかったんだよ」



和輝は興味津々で、その器械を覗き込んだ。「何だ、これ?」
それは、縦と横に線がたくさん引いてある画面と、小さなボタンが一個ついているだけの、簡易型レーダーだった。昔はやったコンピューターゲームに、少し似ていた。

治巳は言った。「同じエリアに人がいると赤く光るんだよ。今、ここに二つの点が見えるだろ? それがオレと和輝がいる位置ってわけ。誰がいるのかまではわかんないけど、結構便利なんだよ」
なるほど。目からうろこだった。これがあれば、敵から逃げるのも簡単だ。自分のいるエリアに人がきたら、そこを少し移動すればいい。勿論、誰かを探すのにも役立つ。

「すっげー」和輝は思わず声を漏らした。
「だろ?」治巳は得意げになっているようだった。


「じゃあ笹川ちゃんでも探しにいく?」
和輝は頷いた。
「その前に、笹川ちゃんとはどこで会ったの?」
「えっと、公園の入り口付近の影」
「へー……」治巳は手元の簡易レーダーに目線を置きながら、続けた。「水くせーな。そーゆーことなら言ってくれればよかったのに」

 そーゆーこと、って何だよ。と思いつつも、治巳の言う“そーゆーこと”の意味は、何となくわかっていた。
「お前に言うと、他の奴に言うから嫌だ」
「言わないよ。つーか……」少し間を置いて、続けた。「オレは言ったじゃん。遥佳のとき」
「ああ……」和輝は頷いた。悪かったかな、と少し思った。


長戸遥佳は、和輝達と同じ中学で、三ヵ月ほど前から、治巳と付き合っていた。
背は高めで、スポーツ少女で、綺麗な子だ。

治巳の表情を見て、思った。もう会えないかもしれないんだ。

「長戸、元気?」和輝は訊いた。
「知らない。試験前から会ってねーし」
「そっか……」

二人は、沈黙した。

治巳は立ち上がった。「こんな話してる場合じゃないか。行こーぜ!」
「そうだな」
和輝は立ち上がろうとした。が、体中の痛みが時間差で襲ってきた。

「大丈夫? 何なら、オレ一人で行こーか」

治巳の顔を見た。暗がりでよく見えなかったが、多分真顔。それで、結構真剣に考えている顔だと予想した。

「いいよ。俺も行く」
これは、自分の問題だった。

和輝は言った。「俺、笹川に会えたら、今度こそ言うよ」
「ああ、そーしろよ」和輝に向かって、まっすぐ手を差し伸べた。「ガンバレ」

「……頑張るよ」和輝は呟いた。
【残り23人】

248リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/26(水) 00:24 ID:2KqO5TgA
以前の行動>>203>>205

「もうそろそろ仮眠タイムにしない?」新井美保(女子二番)は、中西諒(男子十番)と、仲田亘佑(男子十一番)に、言った。
諒は言った。「いいよ。ってか、午後、二人いなくなってたじゃん。何しに言ってたの?」
「食料と武器探し!」美保は答えた。
「本当に?」亘佑を見て、言った。

諒の奴、疑ってる。背中に悪寒が突き抜けた。本当は、自分が人を殺したことを、言っても良いと思っていた。だが、説得を続けるためにはまだ言わない方がいい、と美保に言われたので、亘佑は黙っていた。

「当たり前だろ。お前がゲームに乗るって言うんだったら、オレは一緒に行くよ」
諒はぐっと黙った。



諒も、亘佑も様子がおかしかった。二人は無口になって、互いの話を観察するように聞いていた。二人だけでは、あまり話さなくなった。常に美保がいたのもそうだし、互いへの、不信感が出てきたのかもしれない。
美保はそんな二人を見て、笑みを隠していた。


美保は二人に提案した。「一人が仮眠を取って、残った二人が外を見張るってのはどう?」
「でも、一応鍵かかるよ」諒は出口のドアを指差した。美保は考え込んでいた。
「でもマシンガンでダダダダダダダダってやればすぐに開いちゃうかもよ」
「この小屋小さいしさ、へたに外でない方がいいんじゃねえ?」
「そっかー……」美保は頬に人差し指を当てた。

「じゃあ三人で一緒に寝よっか!」明るい調子で言った。

諒と亘佑は沈黙した。



諒は呆れの入った口調で言った。「あのね、男は怖いんだよ。特にこいつ」亘佑を指差した。
「おめーもだよ」
「襲われるぞ? こいつに」亘佑を指差した。
「だからおめーもだって」

美保は悲しげに言った。「そっかー……男は狼だって言うモンね」
どこまで本気なんだ、こいつ。

美保は立ち上がった。
「じゃあ私は向こうの部屋で一人で寝るね。一時間経ったら起こして!」
「わかった」二人は頷いた。



美保が部屋に入った後、残された二人の間には重苦しい沈黙があった。

唐突に、諒が言った。「新井のこと、どう思う?」
亘佑は動揺した。何でそんなこと訊いてくるんだよ。

「別にー。胸でけーって印象しかない」嘘だった。
「ああ。でかいな。でも割と細いよな」
「そうそう。普通さ、胸でかい女ってちょっとぽっちゃりしてない?」
「ああ、してる。でも新井は細いのに胸だけでかいよな」

真顔で語る話ではなかった。


それについてしみじみと語った後、諒が言った。「あいつ……信用できると思う?」
亘佑は答えた。「……わかんね。言ってることも、けっこう意味不明だし」
本当だった。

「でも……」何かを言おうとしたが、うまい言葉が思いつかなかった。



ばーん、とドアを蹴る音がして、美保が出てきた。二人は度肝を抜かれた。

「やっぱ眠れないみたい。仲田君先に寝ていいよ」
はっ? 何でオレなんだよ。

「お前、疲れたんじゃねーの?」亘佑は訊いた。
「やっぱ色々あって興奮してるみたい。目が冴えちゃった」
「あ、そう」

諒が亘佑に言った。「先に寝てもいいよ。おれ今日は全然動いてないし」
「仲田君疲れたでしょ? 休みなよ」美保は笑みを浮かべた。


亘佑は少し考えて、言った。「オレがいない間に二人で何話すんだよ?」

二人は黙った。少しの沈黙の後、美保は言った。「何話すかなんて決めてないよ。どうしちゃったの?」

お前、やっぱり本当は諒に惚れてるんだろ。そう言おうとして、その言葉を呑み込んだ。

なぜ、自分がこんなにもイラついているのか、わからなかった。いや、本当はわかっていたのだが、それは、いささか子供じみていると思った。これじゃ小学生だ。ガキ臭い嫉妬心を、こいつらに向けるなんて。

亘佑は立ち上がった。「何でもない。忘れてくれ」

古ぼけた木のドアを開けて、もう一度二人を見た。
「一時間経ったら起こして」
二人は頷いた。

その時に、目についた。諒が、自分をじっと見ていた。観察しているような、少し強さを感じる表情。

亘佑は少々怯え、ドアの中に入っていった。

249リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/26(水) 00:26 ID:2KqO5TgA

 あいつ、おれ達のことを疑ってる。諒はそう思った。二人で計画を立てたことが、ばれたのか?

勘違いをしていた。

美保が言った。「仲田君、私のこと疑ってるのかな」
「さあ。でも、何かイライラしてたよな」
「このままじゃ、殺されちゃうかもよ?」
美保は体育座りをして、諒の方を見た。
小声になって、言った。「何か、怖い」移動して、諒の真横にきた。

諒は言った。「大丈夫だよ。理性はまだある」
美保は諒をじっと見つめた。「もし、仲田君を殺して……って言ったら、中西君はどうする?」

諒は考えた。時刻にして、二、三分ほど。そして、言った。「無理だよ。あいつは……友達だし」
美保はフッと笑った。
「優しいんだね。中西君も」

諒は、その言葉を殆ど聞き流してしまっていた。美保が、なぜ「も」と言ったのかも、よく考えなかった。


約一時間が経過した。
「次は中西君寝ていいよ」美保が言った。
「新井は平気なの?」
「うん。眠くなったら言うね」美保は笑顔で言った。



いつの間にか本気で寝ていた亘佑は、諒に起こされた。
「起きろ。交代だ」
「ふぁーあ。はいはい」亘佑はあくびをしながら、起き上がった。



亘佑が頭を掻いて出ていった後、諒は、部屋を見つめた。
何もない。ただ、古臭い木製のベッドと、ぺしゃんこで、カビの生えたような枕。それに、これまた薄っぺらい毛布があっただけだった。

まあ、こんなもんかな。


諒は横になった。目を閉じると、すぐに睡魔が襲ってきた。



美保と亘佑は、二人きりになった。何となく気まずく思い、少し離れた場所に腰かけた。
美保は亘佑をじっと見ていた。

「よく眠れた?」美保が訊いた。
「一時間でよく眠れるわけねーだろ」
「そっか……」美保はなぜか、微妙に笑んだ。

亘佑は訊いた。「諒……何か言ってた?」
美保はきょとんとした表情をして、それから答えた。「別にー」

美保は足を伸ばして、伸びをした。「今日は充実した一日だったね」
どこがだよ。亘佑にはよくわからなかった。

「仲田君も、疲れたならまだまだ寝てていいよ? ここの辺りあんま人こないし」
「もういいよ。寝たくない」
その言葉に、美保は不可思議な表情をして、「何で?」と訊いた。

亘佑は少し迷った後、口を開いた。「濱村の死体が頭から離れなくて……夢に出てきた。あと名前知らないけど女子二人」
「黒川さんと三条さん」
「そう、それ」

頭が割れて不自然に眼球が飛び出た死体。殴った時の鈍い感触。血が飛び散って、ゴルフバッドを濡らした時のこと。全て、鮮明に思い出された。

美保はドアを見つめて、静かに言った。「そっか……正直グロかったもんね。あの死体」
「オレ……自分がこんなにヘタレだとは思わなかった」亘佑は頭をかかえた。

人殺しなんて、何でもない。ゲーム開始時、亘佑はそう思っていた。しかし、彼はまだ十六歳で、言うなればただの子供だった。恐ろしいものは恐ろしい。初めて殺した人間の表情が、頭に焼き付いて離れなかった。

美保は亘佑の近くに寄り添ってきた亘佑の手に触れて、言った。「大丈夫だよ。怖いことなんて何もない。でしょ?」
「わかんねえよ」
「大丈夫だよ。狂ったら負け。大丈夫、大丈夫……」

美保は何度も、大丈夫、と繰り返した。何の根拠があるのかはわからないが、大丈夫だ、と思うほかなかった。

美保は亘佑の手をきゅっと握って、自分の頬の近くに持ってきた。
「何だよ」
「別に。ただ……嫌なことなんか忘れちゃおうよ」
亘佑は美保の手を振り払って、言った。「あんま触るなよ」
「何で?」
「……男は狼」少し笑って、続けた。「らしいからよ」

美保は膝をかかえて、少しの間、黙った。



そうだよ。こんなところで二人でいると、我慢できなくなる。
殺し合いゲーム中に、そんなことをする気はなかった。それに――美保に触れられるのが怖かった。なぜかはわからない。しかし、これ以上知ってはいけないことのように思えていた。それも、なぜだかは、よくわからなかったが。
だが、その感情の裏で、もう一つの欲望があった。しかし、それには気づかないふりをしていた。

ふと、美保は顔を上げて、亘佑の手を握った。そして囁くように言った。
「狼なんてこわくないーって歌、なかったっけ?」
亘佑は多少驚きながらも、考えた。

「……あったっけ?」
「あったんだよ」美保は亘佑の肩に腕をかけて、耳元に唇を近づけた。こっそりと囁いた。

「私も、怖くないけど」

亘佑の心臓は、一回大きく音を立てた。
【残り23人】

250リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/26(水) 00:33 ID:2KqO5TgA
以前の行動>>98>>99

ここは、C=7だ。すぐ近くには休憩所があり、そこからD=7になっていた。

永良博巳(男子十二番)は、立ち止まった。

「何だ、この家ー」
一見、昔風の藁の家なのだが、藁の色が、レンガのような赤茶色だった。
何だか不自然に感じた。

「今日はここで過ごすから」梁島裕之(男子二十番)は、言った。

「でも、何か雰囲気あっていいじゃん」
初島勇人(男子十五番)は、茅葺きの屋根を見上げた。
「まあ、人こなくていいかもな」
二人して、家を見上げていた。

「早くこいよ」
梁島に言われ、慌てて中に入った。

251鼾 </b><font color=#FF0000>(.Dhm8Ge6)</font><b>:2004/05/26(水) 21:03 ID:7wLn8sCk
すいません(ーー)m密かにちょくちょく読ませて頂いています(*x_x)
香山さんが死んでしまいましたね(*TーT*)涙。。。
すれ違いというか、死体になってから会えるなんて。
片思いの切なさが伝わってきました。本当にやりきれないですね・・・。

252:2004/05/26(水) 21:10 ID:cNCG5b6w
あ〜時間忘れて呼んでました(一回で親がうるさい
がんばって

253リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/26(水) 22:23 ID:2KqO5TgA
以前の行動>>229

 新島敏紀(男子十四番)は、立ち止まった。誰かの足音が聞こえたような気がした。
かすかにだけど――確かに。

敏紀は辺りを見回した。誰もいないはずの雑木林から、草を踏みしめるような音がした。敏紀は思った。きた。

ザッ、と走り出すような音がした。


敏紀の耳は動物並だ。誰かが、自分を見つけて、攻撃しようとしているということがわかった。遠くから撃ってこないのを思うと、射撃武器ではないらしかった。

上等だ。既に誰でも足音が聞こえるような距離に相手がきたのがわかっても、敏紀は振り向かなかった。



スカッと風を切る音がした。

標的が突然いなくなったので、高田望(女子十八番)はその場に転びかけた。
夢中で振り向くと、敏紀はすぐ傍に座り込んでいた。その口元には、かすかに笑みが浮かんでいた。銃口が、まっすぐに望を狙っていた。


望はたちまち後方へ下がった。
「やめて、やめて! お願い……あたし話しかけようとしただけで……」
「いや、どう考えても狙ってたじゃん。カマ振り下ろしてたじゃん」

くっ。こうなったら奥の手しか――


望は制服のスカートを持ち上げて、そこから足をゆっくりと前方に動かした。太く、毛だらけの足が、なまめかしく……覗いた。

「あたしを見逃してくれたら、好きにしていいよ」それから、小さな目を上目遣いにした。



敏紀ですら、唖然とした。
月明かりに照らされて、それは、数本草を生やした禿山のようだった。

望は言った。「初めてだから、優しくしてね」
「やだ」
「えー? 優しくしてよー?」
「てゆーかいらねーから。お断りだから」
「嬉しいくせにー!」
望は敏紀に抱きつこうとした。


ぱん。

銃声がして、肩口に強烈な痛みが走った。


望は目を見開いて、自分の肩口に触れた。
月明かりに照らされて、それは、とても強烈な赤に見えた。

「何すんだおるぁあ!」望は雄叫び声をあげて、敏紀に食ってかかろうとした。



もう一発の銃声がして、左足を強い痛みが襲った。


「ぐっ……」
望は、ずるずると倒れこんだ。


敏紀は立ち上がって、望に近づいた。
「悪いけど、俺、デブ専じゃないんだわ」望の目が見開いた。
カマをめちゃくちゃに振り回した。
「くるな、この冷血男!」


チクショウ。あたしとしたことが――

悔しくてたまらなかった。まだ、あたしは死にたくない。大っ嫌いな新井美保(女子二番)、有山鳴(女子三番)、伊藤愛希(女子四番)、井上聖子(女子五番)、内博美(女子七番)――(以下、全ての生存中の女子生徒の名前)を殺すまで、あたしは死ねない!


「あたしはまだ、死ぬわけにはいかないんだ! あいつらを、あたしより可愛い女子は、全員ぶっ殺してやる!」望は叫んだ。
「あんたにはブスの気持ちなんてわかんないんでしょ!」


敏紀は目を丸くした。少しの沈黙の後、ひねた笑みを浮かべた。
「んー。まあ、わかんないけど」


望は自分の足を見た。
くっ。
強い痛みがした。足は自分のものではないかのように重く、動かなかった。

望はまくしたてた。「あたしがどんなに努力したって、誰も見てなんかくれなかったし、どんなに苦しんでたってみんな見て見ぬフリ。あんたにねー、あたしの苦労なんてわかんないのよ!」
「だからわかんないって言ってんじゃん」

望は、立ち上がった。全身を刻むような痛みが圧し掛かり、顔を歪めた、が、とにかく立ち上がって、更に続けた。

「ブスなめんなよ。逆境を生き抜いてきた根性を見せてやっから!」



敏紀は、プッとふきだした。小さく声を上げて、笑い出した。
何よこいつ。馬鹿にしてんの? 望は赤くなった。体が猛烈に熱くなってきた。



敏紀は静かに銃を下ろした。
「いいよ。頑張って女子を全員殺せよ」そう言って笑んだ。


まさかそうくるとは思わなかったので、望は少々、いや、たっぷり意外に思った。とりあえず、逃げなきゃ。

「撃たないでよ」望はそう言って、足を引き摺りつつも、歩いた。

時々、敏紀を振り返った。特に変わりはないようだった。ただ、妖しげな笑みを浮かべ、望を見送っていた。



望が完全に去った後、敏紀は座り込んだ。
全部、気まぐれだった。あいつを逃がしておくのも悪くないかもしれない。そう思ったのだ。


伸びをして、空を見上げた。いつもは気づかないけど、こんな時は、よくわかる。今日は、月が綺麗に見える。敏紀はかすかに笑んだ。

移動すっか。そう思って、立ち上がった。
【残り23人】

254リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/26(水) 22:33 ID:2KqO5TgA
「えーっと、新井美保はどういうタイプなのかね?」

モニター全面に、プログラムの地図が大きく映し出されていた。その下では、何人かの兵士が、忙しくコンピューターの管理をしていた。

そんな兵士達を横目に、兵士の長、横山豪と(例の丸顔の兵士だ)、このプログラムの実行者の荒木忠政は、談笑していた。

「えっと……」生徒の詳細調査書を見ながら、横山は言った。「母は新井が五歳の時に他界。それからは父と兄と、三人で過ごしてきたようですが、つい最近までは恋人の家に入りびたりで、殆ど家に帰っていなかったということです」
「ほー……」荒木は自分の顎をなでた。「最近の女子高生って言うのは遊んでるからねー。モラルが足りないんじゃないのかい? そこら辺の貞操観念が欠如してるような」
「そうですよねー。でも、最近の女子高生って可愛いですね」
「対象年齢を上げてよかったみたいだな……」二人は笑いあった。

「それに、皆狂いだすことなく、冷静に殺しあいをしている。望ましいことだよ」
「なるほど。で、やっぱり、一番の優勝候補は井上聖子ですかね」
「そうだな。正直意外だったよ。でも、私が賭けている梁島裕之も、まだ死んでないぞ」ホッソリとした顎、そして分厚くたるんだ顔の皮を撫でながら、荒木は言った。


荒木はこのプログラムの管理者であり、政治家でもあった。そして今は、そのプログラムがちゃんと実行されているかどうかを確認するために、ここへ立ち寄ったというのだ。

何しろ、新しいBR法の案を出したのは、他でもない荒木だ。この試験プログラムがうまく実行され、荒木の案が正式に通れば、たくさんの金が荒木の元に入る。そして、大きな派閥の中に、荒木が入ることが出来るかもしれない。
つまり、このプログラムが荒木忠政の今後の人生に関わってくる大事なことだということは、ここにいる誰しもが気づいていたことだった。


しかし、そんなことは、このプログラムの担当官である北川哲弥には、どうでもいいことだった。哲弥は二人の会話には参加せず、ただ、生徒全員の首輪に仕掛けてある盗聴機を使って、生徒達の会話を聞いていた。


哲弥はこの国で有数の名門大学に通っていたが、その大学は、裏では色々な法外なバイトの斡旋をしていることで、有名だった。

政治家や、各界の著名人達が客になっている大きな売春組織があったり(この組織にはたくさんの女子大生が参加していた)、法外な物を、安価で売りさばいたりする奴らもいた。
世間一般では「将来を支える、志高き若者達の名門大学」なんてフレーズで褒め称えられていたりするが、実際の中身は、案外ボロボロだったりするのだ。

まあ、哲弥は単位が取れるギリギリの分しか学校に行かなかったので、そういう組織とはあまり関係がなかった。というより、この大学にそういう裏があることを知ったのは、ごく最近のことだ。
だが、やはり自分とは関係のないことだと思っていた。その哲弥は思いもよらず、裏の世界に足を踏み入れることになる。

255リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/26(水) 22:35 ID:2KqO5TgA

 五月の終わりごろ、久しぶりに大学に登校した時、悪友の久保山亮は哲弥にもちかけた。「なあ、いいバイトがあるんだけど、やらねえ?」
「いいバイト? 怪しすぎだろ」
怪訝な表情で疑う哲弥に、久保山は独特の、早口の調子で喋りだした。

「大丈夫だって。前BR法ってあっただろ? それってさあ、一回停止したけど今年また再開するんだって。それの担当官? とかいうのやんねえ? いや、前は担当官って結構重要な官僚がやってたんだって。でもさ、覚えてるか? 何年か前に担当官と防衛軍だかが殺された事件あったじゃん。それからは危険な仕事だからって人気がなくなったから、今度は有志を募って決めることにしたんだってよ。でもただの有志じゃないぜ。やっぱ、こういうのって頭よくなきゃ出来ないじゃん? だから俺達の大学にお声がかかったらしいぞ。いや、そんな疑うなって。普通にしてれば殺されることなんかありえないし、かなり儲かるから。どうだ、おいしい話だろ。乗ろうぜ。なあ?」
久保山は哲弥が話す暇もなく喋り続けた後、同意を求めてきた。

「そんなおいしい話なら、お前が乗ればいいだろ」
「いや、それがさあ、俺もやろうと思ったんだよ。けどちょうどその時期は俺達のサークルの合宿があるんだよ。いやー残念だ。そこで俺はお前を推薦したってわけだよ。いやー、俺だってやりたいけど合宿を欠席するわけにはいかねーんだよな。だってさ、サークルのメンバーに可愛い子がいてさ、知ってるか? ミヨちゃんっていうんだけど、これがマジで可愛いんだよ。でさー、一緒に旅行行ったら仲良くなれるかもしれないじゃん? 俺彼女と別れたばっかだし、やっぱ新たな出会いを……」

話が違う方向に逸れていきそうだったので、とりあえず面接だけ受けてみることを約束して、そのまま久保山と別れた。


しかし、プログラムの担当官は悪くなさそうだ、と思った。
哲弥は以前から、“プログラム”がどう行われていたのか、興味があったのだ。

この、非人道的な法律、BR法の中身を知るのも、悪くはない。金ももらえるし。そう思っていた。


面接を受けに行った哲弥の前に現れたのは、政治家の荒木忠政だった。哲弥を見るなり、荒木は言った。「ほー、君も金に目がくらんだクチかね?」
その発言は心外だったので、友人に紹介されたこと、この法律の中身を知ることで、この法律が一体、何の意味をもたらすのかを知りたいと思ったことについて、哲弥は話した。

しばらくそれを聞いていた荒木は、突然笑い出した。おかしくてたまらないというように腹を押さえながら、哲弥に言った。
「ハハ、この法律に意味なんかないんだよ。軍備力の強化だか、世間一般的には言われているが、実際はただの、大人のエゴなんだ。そのエゴの為に子供は殺されるんだ」

哲弥は驚いた。それは大体、わかっていたことだった。この法律には、何の意味もない。だが、そのために何の罪もない中学生が殺しあいをしなきゃいけないのか。

腹が立ったが、荒木は「まあ、そんな怖い顔をするな」と言い、話を続けた。

このプログラムの内容、裏金のこと、そして、優勝した生徒がどうなるのかを。


「えーっと、君、北川君といったかね? 私は君が気に入った。君を採用するとしよう」

自分のどこが気に入ったのかは謎だが、哲弥はこの話はお断りだった。政府なんて所詮こんなもんだ。こんな奴等に従うなんて、金積まれても嫌だね。
荒木は楽しそうに言った。「勿論、今になって嫌だなんて言わないでくれよ。思いっきり秘密を話しちゃったんだから。もし断るなら、君には消えてもらうしかないなー」

いつの間にか、自分の背後に、男が立っていることに気がついた。男は何の表情も読み取れない顔で、哲弥の後頭部に拳銃を突きつけていた。
クソッ。このイカレじじいが。哲弥は荒木を睨んだ。

「そんな怖い顔をするな。悪くない話だと思うがね。少なくとも、ここで引き受けないで犬死をするよりはマシだ」

哲弥はため息をついた。幾分迷ったが、言った。「……わかりました。引き受けましょう。でも、僕は生徒を殺さない。絶対に」
荒木はくっと笑った。
「ああ。その潔癖がいつまで続くかわからんが、勝手にすればいい」

荒木は哲弥に名簿を渡した。
「ちなみにこれ、プログラム対象クラスの名簿ね。見たって仕方ないけど、一応」

苦々しい思いで名簿を受け取ったが、それを見た瞬間、哲也の目は驚きで見開かれた。

荒木は傍にあった灰皿に煙草を押し付け、哲弥の表情を見て、少し驚いたように言った。「知り合いでもいたのかい?」

「……ええ。中学の後輩が三人もね!」

気分が悪くなった。名簿を握る手から汗が染み出していくのが、自分でもわかった。

256リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/26(水) 22:38 ID:2KqO5TgA

 盗聴機についているヘッドフォンから、一度耳を外した。
よし、今のところ異常はなさそうだな。昔プログラム対象地域の、政府が管理していた分校を爆破しようとしていた生徒がいたらしいが、今回はそんなことはなさそうだ。
哲弥はふうっとため息をついた。

近くでは、まだ荒木と横山が話していた。
「しかし、対象年齢を上げたのは結果としてよかったですよねー。前は分校で騒ぎ出すバカがたくさんいたけど、今回はそういう生徒は一人もいなかったし」
「うむ、高校生を選んだのは正解だったよ」
「でも、このクラス可愛い子多いじゃないですかぁ。ちょっと勿体なくないですか? 僕この二十一番の冬峯って子、かなりタイプなんですけどー」
「確かに殺すのが惜しい生徒が多いな。私は新井美保だな。いい体をしている」

二人はクックックと下卑た笑いを浮かべた。哲弥は呆れながら、また盗聴機とモニターに目を向けた。



後ろからある人物のアニメ声が聞こえた。
「もう疲れちゃったー。哲弥くん、今度は放送替わってねー」

真紅のぴたっとしたタイトなワンピース、はちきれんばかりの大きな胸を揺らして、橘夕実はやってきた。とろんとした目に、赤い唇。かなりハデハデなのだが、それが不思議と似合っていた。
夕実も同じく、このプログラムの担当官だった。どうやら、大学生一人では心配なので、二人担当官をつけさせたらしい。夕実はこう見えて、かなり優秀な人物だということだ。

「ねー、何やってるの?」
「盗聴」
夕実はフッと笑った。「犯罪っぽいよ。それ」
「このプログラム自体犯罪でしょ」
夕実は少し黙って、それから哲弥を見た。

「こんなところもう飽きちゃった。終わったら二人で飲みに行こうね」夕実は後ろから、哲弥の肩に両手をかけて、言った。
「気が向いたら」
哲弥の返事に、夕実は、もう! と言って、手を放した。

「それにしても今回のプログラムは予想がつかないのね。このちっちゃい子が一番殺してるんでしょう?」夕実は井上聖子(女子五番)の写真を見た。
「ああ、でもまだ半分もいってないから、わかんないですよ」哲弥は答えた。

「そうだよな」後ろから横山が言った。「まるっきり大穴だよ。でも優勝するのがこの子だとは限らないからな。まだ希望はあるぜ」
夕実が尋ねた。「横山さんは、誰に賭けてるの?」
「オレ? オレはあの……」
横山は少し迷った後、中西諒(男子十番)の写真を指差した。「そうそうこいつだよ。喧嘩強いらしいし」
「あー、彼ね。彼はいいわよね。タイプだしー。勝ってほしいなー」
「じゃあ夕実ちゃんもこいつに賭けたの?」
夕実は首を振った。「アタシは大迫治巳」治巳の調査書を見て、更に続けた。
「こいつは優勝する。絶対ね」

凄い自信だ。大迫、か。どうだろうな。哲弥は考えた。

夕実は訊いた。「荒木さんは誰に賭けてるんですか?」
「私は梁島裕之だ。こいつはやりそうな予感がするぞ」
こんな感じで、三人は、それぞれの賭けの対象について話していた。



肩に手がかかって、夕実の顔が至近距離にくるのがわかった。
「哲弥くんは、誰に賭けたの?」夕実に訊かれた。

哲弥は賭けなど眼中になかったが、荒木がしつこく勧めてくるので、仕方なくある人物に賭けた。
「俺はこいつだな」
哲弥が指した人物を、夕実はジッと見つめた。

「ああ、哲弥くんの昔の彼女か。どうなのかな。でも大穴狙ってるなら、当たったらかなりの額になるだろうけど」それから、哲弥を見て、言った。「ズルは許さないからね!」

「わかってますよ」
調査書から覗いた笹川加奈(女子十四番)の写真を見て、哲弥は寂しそうに笑った。
【残り23人】

257リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/27(木) 20:27 ID:2KqO5TgA
鼾さん>
読んでいただいてありがとうございます!
香山さんに注目してくれる人がいて、意外だけど結構嬉しいです。
そうですね、せめて好きな人に殺された方が、彼女にとっては本望だったかもしれません(わかんないけど
これからもちょくちょく読んでくれると嬉しいです。

瞳さん>
時間を忘れて読んでくれてありがとうございます。
あんまり使ってると怒られますよね(^^;)私もそうです。
これからも、よろしくお願いします。

258リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/28(金) 19:38 ID:2KqO5TgA
以前の行動>>250>>253

 新島敏紀(男子十四番)は、C=7を歩いていた。やっぱいないな。都合よくマシンガンを持ってる、出来ればゲームに乗ってない奴。付け入る隙がありそうな奴。

……いないよな。そう簡単にいるわけが……
そんなことを考えながら、敏紀は当てもなく、徘徊していた。



「とーしー!」
聞き慣れた声が響いて、敏紀は振り向いた。五十メートルほど先の道で、そいつは叫んだ。「久しぶり!」
バカ、黙れ。人がきたらどうするんだよ。

敏紀は辺りを見回した。誰もいない。……と思うけど、油断はできない。

そいつは敏紀のいる場所に向かって走り出した。誰だかはわかっていた。殆ど毎日、一緒にいた奴。

永良博巳(男子十二番)は、敏紀のすぐ近くにきて、敏紀の肩に手を置いた。
胸を押さえて何回か短く息をついた後、すぐに話しかけてきた。「今まで何してたの?」

やや沈黙した。しばらくして、声を出した。
「……別に何もしてないよ。怖かったから、逃げてただけ」
「本当? じゃあ一緒に行動しようよ」

あまりにも普通にそう言ってのける博巳に、敏紀は驚いた。こいつは、自分のことを全く疑っていないらしい。

敏紀は博巳を見た。大きい二重の目が敏紀を不思議そうに見た。「どうしたんだよ?」
「……いや、何でもない。ホッとして……」

嘘だった。ここで仲間になったフリをするのも、いいかもしれない。敏紀はちらっとそう思った。

「おれ、梁島と勇人と一緒にいるんだ」博巳は明るい声音で言った。

意外だった。勇人はわかる。でも、梁島? 全く喋ったことなんかないのに、何でだ?

「何で組むことになったの?」敏紀の問いに、博巳は目を丸くして、それから笑んだ。「たまたま会ったんだけどさ、いい奴だよ、梁島は。信用できると思う」
「そっか……」
悪くないかもしれない。一気に三人……狩れるんだ。敏紀は少しだけ笑みを漏らした。


「わかった。俺も仲間に入れてくれよ」
「だから最初からそう言ってるじゃん。梁島はおれが説得する! まかせとけよ!」博巳は無邪気な笑顔を見せた。


つい昨日までは、敏紀は、少々癖があるが普通の男子だったし、博巳は同じバスケ部の仲のいい友達だった。だが、こうなったら、もう敵だと思っていた。

あまりに静かに、自分でさえも気づかないほどに、ゆっくりと、敏紀は我を忘れてしまっていた。

259リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/28(金) 19:42 ID:2KqO5TgA

 梁島裕之(男子二十番)は、トイレに行ったと思ったらなかなか帰ってこない、挙句の果てに、また人を連れてきた博巳を見て、唖然とした。

裕之は手招きをした。
「永良。ちょっとこい」
「なに?」
「勝手に人連れてくんなよ。もしやる気になってたらどうするんだ?」
「ごめん。でも、敏紀なら友達だし――」博巳はしゅんとした様子で答えた。
「そういうのが通じるゲームだとでも思ってるのか? あいつが信用できる証拠でもあるのかよ?」

博巳は黙り込んだ。少々言い過ぎたかなと思いながらも、裕之もそのまま黙り込んだ。


博巳が言った。「もしかして、おれと仲間組むんじゃなかったって、後悔してる?」
「ごめん。梁島一人なら何とかなるかもしれないのに――」寂しそうな顔で、目を伏せた。

裕之は思った。バカだな、こいつ。多分幸せな毎日を過ごしてきたんだろう。だから、こんなにまっすぐで、純粋培養な性格してるんだ。


ため息をついた。「ああ。もういいよ。あんたなら信用できそうだし、初島も悪い奴じゃなさそうだ。でも――」
博巳の顔が、ぱあっと明るくなった。「だよな。ありがとう! やっぱお前っていい奴だよ!」裕之の手を握って思いっきり上下に振った。
いや、話聞けよ。

「あのなあ、でも、こんなゲームの中じゃ極めて人は信じない方がいいんだぞ」
「わかってるけど、敏紀なら大丈夫だよ!」

はあ。
まあ、新島って奴をよく見てみないとわからないか。裕之はため息をついて、頭を掻いた。



「敏紀! 昨日ぶりじゃん」初島勇人(男子十五番)は、歓喜の声をあげた。
「久しぶり」敏紀は笑んだ。
こんな性格であっても、少しは感慨というものがあったようだ。まあ、それは本当にほんの少しのことだったが。

「これでうちのクラスのバスケ部は全員揃ったな!」博巳が嬉しそうに言った。「嬉しいよ。島崎と聖人は死んじゃったけど……」
敏紀は一瞬、ぴくっと反応した。島崎は、俺が殺した。

博巳は涙ぐんで、続けた。「死ぬ前に……二人に会えてよかった」
「バカ。縁起でもないこと言うなよ!」勇人は博巳の背中を叩いた。
「うん。ごめん……」博巳は涙を拭った。



季節外れの(更に時代外れでもある)囲炉裏端を取り囲む、四人の男がいた。

「これからどうしようか」永良博巳は三人に問いかけた。新島敏紀、初島勇人、梁島裕之。
最初に口を開いたのは梁島だった。

「とりあえず、外からの襲撃を防ぐために見張りをつけよう。あと、こんなパンだけじゃ体が持たないから、明日にでも民家に行って、食料を探した方がいいな」そう言って、おもむろに持っていた煙草に火をつけた。

敏紀は意外に思った。梁島はあまりクラスメイトと話すタイプではないし、いつも窓の外を見て、物思いに耽っているような人間だった。勿論、成績も普通といったところ。
だが、こんな非常事態には、誰よりも冷静に対処していた。こいつは曲者かもしれない。ほのかにそう思った。

「ってことは明日移動するのか?」博巳は訊いた。
梁島は眉をピクリと動かした。「いや、ここは近くに森があるし、D=7のでっかい建物に隠れて周りからは見えにくいんだ。隠れ家にはもってこいだから手放す気はない。二対二に別れて行動。どう?」
三人は黙った。

「いいんじゃない」敏紀は言った。その声をかわきりに、残りの二人も頷いた。

260リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/28(金) 19:47 ID:2KqO5TgA

 博巳は感心していた。長めの無造作な髪、不健康そうな顔色、大人びた表情。老けているという印象しかなかったが、こうして話している様子は、何となくかっこいいと、博巳は思った。いや、おれはそっちの気はないけど。


「ライターもあるし、火は使える。せっかく囲炉裏があるんだ。利用しない手はないだろ」梁島はペットボトルに入っていた水を、鍋に移し替えた。「コーヒーでも入れてやるよ」
「コーヒーがあるのか? すげえ!」博巳は思わず叫んだ。
やっぱり、こいつを仲間にしてよかった。


「随分手際いいじゃん。キャンプ慣れ?」敏紀が言った。
「まあそんなとこ」梁島も答えた。


この二人は、互いを探り合っていた。博巳や勇人のように単純な人種ではなかった。何を考えているかわからない。二人とも用心していた。



その時、今まで黙っていた勇人が口を開いた。「なあ梁島、脱出することとか、出来ないのかな?」
三人が一斉に勇人の方を見たので、勇人は目を泳がせた。


梁島はしばしの間考えていたが、言った。「難しいな。昔誰かがハッキングしたらしいけど、ここにはそんなことができそうなものは一つも置いてないだろうし。第一おれ、機械オンチだし」更に続けた。「昔、おれの親父がプログラムについて調べてたけど、あいにく、おれは親父と違って頭も悪いし、プログラムなんてものには全然興味なかった」
目を伏せて、さも残念そうに言った。「悪いね」

「ううん。そっか、ありがと」勇人はシュンとした。

やっぱり脱出は不可能なのか。その後は、三人とも黙ってしまった。

261リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/28(金) 19:48 ID:2KqO5TgA

 重苦しい沈黙を破るように、梁島が口を開いた。「この後の見張りはおれがやるよ。今は八時半だから、十二時までかな。その後はどうする?」
敏紀が手をあげた。「俺がやるよ。さっき仲間に入ったばっかだから働かなきゃな」
梁島は一瞬だけ間を置いたが、決まりだな、と言った。

「じゃあ新島は十二時から三時まで。初島は三時から六時まで。この時間帯が一番人は少ないだろうから、その時間帯に食料を取りに行くか」
「ああ、でも、誰が行くの?」勇人が尋ねた。
「初島は見張りだから無理だろ。新島も見張り終わったばっかだから、きついだろうな。おれと永良で行くよ。いいか?」
博巳は突然話を振られたので少し驚いていたが、「わかった」と答えた。


梁島が、紙コップに、コーヒーを入れた。紙コップまで持ってきたのか……。凄いけど、用意よすぎじゃないのか?

「本当に手際いいな。何で?」博巳は訊いた。
梁島は携帯灰皿に煙草を押し付けると、言った。「昔、親父や友達とよくキャンプとか行ってたし、今は一人暮らしだからさ。社会勉強として、な」
「ふーん。大変だな」博巳にはよく意味がわからなかったが、とりあえずそう言った。

――って、何が大変なのかわかってんのか? 我ながら、なんて中身のないセリフだ。博巳は後悔したが、梁島は大して気にも留めていない様子だった。

「まあな。でももう慣れたよ。今の生活はそれなりに楽しいし」

「そっか。でも、こういう奴が仲間にいてくれて、良かったよ。な?」
勇人が博巳と敏紀に同意を求めたので、二人は頷いた。


「あ、のさー。悪いけど……」梁島は、少し迷った風に、でもはっきりと言った。
「おれはずっとここにいる気はないから」

「何で?」博巳は思わず、声を上げた。そんな。せっかく仲間が出来たと思ったのに。


梁島はコーヒーカップから口を放すと、訊いた。「たとえば、もしこの四人が生き残って、他に誰もいなくなったら、あんた達はどうするの? 心中でもすんのか?」
それは……どうするのだろうか。予想もしていなかった。

梁島は続けた。「自殺する気がない限り、四人で戦うことになるだろ。今の今まで仲間だった奴を殺すことなんて、おれにはできない」

「おれは、殺しあったりしないよ!」黙っていた博巳の代わりに、勇人が言った。

梁島は少しの間黙っていた。「今はそう思ってても、いつ気が変わるかわかんないよ。だからそうなる前に、ここを出て行く。悪いけど……」少し苦々しい表情だった。

勇人は悲しそうな顔をしていたが、敏紀は言った。「ふうん。じゃあしょうがないよな」
「敏紀!」責めるように博巳は言ったが、敏紀は遮った。
「嫌だって言ってるのに、わざわざ引き止める理由なんてないと思うけど?」
「まあ……」博巳は黙った。

「まあ、それまでよろしく」
梁島は少し笑顔を見せながらそう言うと、煙草の煙を吸い込んだ。



敏紀は押し黙って、コーヒーを飲んでいた。
梁島がここを抜ける前に殺らなきゃな。博巳と梁島が食料を探しに出ていった後に、勇人を殺す。そして、戻ってきた二人の隙をついて、マシンガンで粉々。

少し計画は狂ったけど、まあいいだろ。あとはその時を待つのみ、か。覚悟してろよ。敏紀はそう思いつつ、一気にコーヒーを飲みほした。
【残り23人】

262リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/29(土) 19:38 ID:2KqO5TgA
以前の行動>>248>>249

この時の時刻は、午後九時五十二分だった。
中西諒(男子十番)は、あまりの寝苦しさに目を覚ました。

あ、っちー。暑すぎる。額に浮かんだ汗を拭った。自分の体を見ると、汗でワイシャツがじとじとに濡れていた。着替えるか。そう思って、諒は起き上がった。

やけに静かだよな。ドアを開ける瞬間、ふと思ったが、大して気にも留めずに、ドアを開けた。



 新井美保(女子二番)と仲田亘佑(男子十一番)は、二人とも倒れていた。いや、転がっていたと言った方が正しいだろう。二人とも、安らかな寝息を立てていた。

疲れたのかな――

そこまで思って、諒は初めて亘佑の寝顔を見たことに気づいた。いつもはあんなにいかつい顔してるくせに、寝顔は思ったより可愛いじゃん。

諒自身も安らかな気持ちになりつつも、声をあげた。「起きろよ!もう九時だぞ」

二人は寝ぼけ眼のまま起き上がり、焦点のあっていない目で諒を見つめた。美保が驚いたように時計を見つめた。
「あれから二時間も寝てたんだね。やっぱ疲れてたのかなー」
「まあね。おれは何もしてないけど」諒も言った。

亘佑は会話に加わらず、頭をかかえていた。



激しい頭痛がした。寝不足だからだろうか。それとも、違う理由かもしれない。
亘佑の頭の中では、美保のセリフが回っていた。

中西君を、殺して。美保はいつもと同じ口調で、そう言っていた。
亘佑は自分の手を見つめた。諒を、殺す? 諒を殺す、諒を殺す。諒を殺す……



「仲田君、どうしたの?」美保が明るい口調で言った。
「いや、何でもない」亘佑は少しだけ笑んだ。


亘佑は二人の会話を遮って、訊いた。「諒、お前、やっぱりゲームに乗るつもりないんだろ?」
これまでにないほど、真剣な表情だった。

諒は少々気まずそうに、しかしはっきりと答えた。「うん。まあ……」
「そっか……」亘佑は笑みを浮かべた。諦めのついた表情だった。

諒を殺す。それは、あの時、美保に約束してしまったことだった。
亘佑は、美保の価値観に殉ずることに、決めたのだ。



「亘佑君」美保は亘佑をしっかりと見て、言った。
「仕方ないでしょー。諦めなよ。ねっ?」

美保は得意技としか言いようのない、無邪気な笑みを浮かべた。

【残り23人】

263リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/30(日) 18:53 ID:2KqO5TgA
以前の行動>>258>>261

 時計を見ると、夜中の十一時二十分を、少しすぎたところだった。永良博巳(男子十二番)は、ぼんやりと、天井を見つめていた。

囲炉裏の周りは、初島勇人(男子十五番)と、新島敏紀(男子十四番)が休んでいた。部屋は二人でもういっぱいなので、博巳は隣の部屋に来たのだった。


それはそうと、眠れない。コーヒーが利きすぎたのだろうか。深夜に行動するから、それまで仮眠しとけって、梁島に言われたのに。

もうすぐ、梁島の見張り番が終わる。博巳には、梁島裕之(男子二十番)と話したいことがたくさんあった。

梁島は何だか、他の男子生徒とは違っていた。とっくに大人になってしまったような表情。物言い。博巳にとっての梁島は、自分にはない物をたくさん持っている、憧れの存在であった。
こんなことならもっと早く仲良くなっておけばよかったと、後悔していた。もうすぐ死ぬかもしれないのに。
……死ぬ? そんなことあってたまるか!博巳は、何だか混乱していた。


コンコン。
ドアをノックする音が聞こえた。
「博巳、入っていいか?」勇人の声が聞こえた。「いいよ」博巳は答えた。
少しの間沈黙が流れ、ためらうようにガチャッと、ドアが開けられた。


「よう、何かあったのか?」博巳は言った。勇人の様子が、どことなく、いつもと違うような気がした。ドアの前で、ずっと突っ立っている。何かに迷っているかのように、そのままジッとしていた。
「どうしたんだよ? 入れよ」博巳は少々じれったく感じながら言った。
「あ、ああ……」


勇人はフカフカの絨毯に腰を下ろすと、通学用バックの中から駄菓子を出して(本来の目的のはずだったキャンプのために買ったのだろう)、博巳に渡した。
「あ、ありがと」
不思議に思いながらも、博巳は、勇人から駄菓子の包みを受け取った。

「せっかく買ったのにもったないから、一緒に食べようぜ」勇人は言った。

そうだ、本当なら今はキャンプの真っ最中だったんだ。それが何で殺し合いなんて。博巳は胸が痛くなった。
スナック菓子をほおばると、さくっとした歯ざわりがして、懐かしいソースの味が広がった。やばい、泣きそうだ。


悲しげな顔をしていたことを勇人に気づかれたような気がして、博巳は言った。「そういえば、敏紀は?」
「あ、えーと、敏紀は休んでるよ。疲れたからほっといてくれって」勇人は言った。
「ふーん」まあ、いっか。
この家の中では、博巳と勇人の声の他は、何の物音もしなかった。


それにしても、勇人が、いつもより無口なのが気になった。やっぱり、クラスメイト同士で殺し合いをするなんて、気が滅入るに違いない。自分だってそうだった。

勇人は、黙って膝の上に手を置いていた。博巳はボーっと菓子を食べていた。

はあ、今ごろ、優奈は何してるのかな。おれが今こんなことに巻き込まれてるって知ったら、どう思うんだろう。
博巳は、自分の後輩であり、恋人だった女の子のことを、思い浮かべていた。


自分で言うのも何だけど、おれは結構モテるんだ。告白された女の子(ついでに言うと……男も)は、結構いた。でも、おれが一番気にいったのは、あの子だった。
バスケ部の応援によくきていて、ずっと博巳のことが気になっていたと言う。色白で、朗らかで、明るい子。
もう会えないかもしれないんだ。

後悔の色を混じらせながら、博巳は今までにあった、色々な出来事を思い出していた。鼻の奥に残っている、彼女の、石鹸のような綺麗な香りも、今思い出した。

264リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/30(日) 18:56 ID:2KqO5TgA

 気がつくと、勇人が、こっちをじっと見ていた。
「な、何だよ」博巳は言った。勇人は少し迷いながら、独り言のように言った。「お前に言っておきたいことがあるんだ。最後だから……死ぬ前に軽蔑されるかもしれないけど、伝えておきたいと思って」
「ふーん。何だよ?」少し興味が湧いて、博巳は耳を傾けた。
「おれ……」

ためるなよ。イライラすんなー。「あのさ、だからさ……」だから何だよ。早く言えよ。「おれは……」繰り返すなよ。何なんだよ、早く言えって。


「おれ、一ヶ月前からお前の彼女と付き合ってるんだ!」

どガーン。博巳は度肝を抜かれた。しばらくは声を出すことが出来なかった。そんな、何でだよ。
……ふざけるな。

「冗談言うなって」
「こんな時に、冗談言うわけないだろ」
真剣な勇人の表情に、博巳はどんどん青くなった。「ふざけんなよ!」つい大きな声を出してしまった。
「何で、今そんなこと言うんだよ。どうせなら隠しとけよ。わざわざおれを落ち込ませるために言ったのか? しかも死ぬ前に!」
「ごめん。嘘ついたまま死ぬのは嫌だったから」
「そんなのお前のエゴだろ」
勇人は少しの間黙った。

やがて、苦々しそうにこう言った。「自分がおかしいのかとも思ったよ。違う女を好きになろうとも思ったんだ。でも、駄目だったんだよ!」
「聞きたくねーよ!」博巳は声を荒げた。

愕然としていた。今までずっと、いい友達だと思っていた勇人と、自分に惚れていると信じて疑わなかった彼女。その二人に、裏切られた。今すぐ二人を殺してしまいたい衝動に駆られた。
勇人はまだ話し続けていたが、全く聞いていなかった。むしろ、聞くことが出来なかったと言っていいだろう。


「と、言うわけなんだよ」

何が“と、言うわけ” なんだ?

「突然こんなこと言ってごめん。でも、偶然逢った時、言うしかないと思ったんだよ。許してくれとは言えないけど……」戸惑ったように下を向いて、続けた。「このゲーム中は、変わらずに仲間でいて欲しい。頼む!」

博巳の頭は、硬直していた。一体何と言っていいのか、わからなかった。
ショックだった。今まで築いてきた勇人との思い出が、全て崩れてしまったような、そんな気さえした。

「そんな……そんな、今まで通りになんてできるかよ! 何で言ったんだよ。言わなけりゃ、普通に友達として、やっていけたのに――」気分が悪くなってきた。
勇人は、小さく「ごめん」と言った。

博巳はまだ何かを言おうとしたが、その思いは唐突な音で遮断された。


「えーっと、こんばんはあ。死んだ人を発表しまーす」夕方と同じ、気持ち悪い女の声が聞こえた。
うっせーな。クソ。ただでさえ苛立っていたのに、更に不快指数があがった。

女の声は続いた。「じゃあ話すこともないから、死んだ人行きまーす。女子十一番、香山智さん。女子十三番紺野朋香さん。以上! 少ない。少なすぎるのよ! もっと殺しあいなさい。全く。で、禁止エリアはー、一時からG=6、三時からC=8、五時からはB=3。メモしたあ? じゃあ、がんばってねー」そうして、プツリと放送は切れた。

博巳はボーっと聞いているだけだったが、勇人はしっかりメモをとっていた。また人が死んだのか……ぼんやりと、そう思った。


二人の間に気まずい沈黙が流れた。
「じゃあ戻るよ。おやすみ」そう言って、勇人は部屋を出ていった。

265リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/05/30(日) 18:58 ID:2KqO5TgA

 博巳は絶望を感じつつ、バックの中に入っていた酒を飲んでいた。

もう一度ノックの音が聞こえた。「誰?」博巳は言った。
勇人だったら、もう入ってきて欲しくなかった。

「梁島だよ。ちょっといいか?」
博巳は幾分ホッとして、ドアを開けた。


梁島はソファーに荒々しく座ると、言った。
「見張り替わったから、二時ごろに食料探しに行こう」
「ああ、でも三時にするんじゃなかったの?」
「その予定だったけど早めに済ませた方がいいと思って。でも、あの二人を置いていくのは、ちょっと心配なんだけどな……」梁島は言った。
「ん? 何で?」博巳は更に訊いた。
「一人が一人を襲ったら、太刀打ちできねえだろ。まあ三人でいても、相打ちして皆死ぬってことも有り得るけど」

博巳は少しショックを受けた。そんなこと――あるはずがない。


「まだおれ達のこと、信用してないのか?」博巳は強い口調で問いかけた。
梁島は答えた。「おれは三人のことを知らないのに、そんな簡単に信用できるわけないっしょ」ずばりと言われて、博巳は少なからずショックを受けた。
梁島は続けた。「それに、こんなゲームの中だから、何が起こってもおかしくないってことだよ。突然不安に駆られて仲間を殺す奴だって、今までにたくさんいたし」

今まで? 何で知ってるんだろう。博巳の頭に疑問符が現れた。

尋ねた。「今までって?」
梁島は少し間を置いて、答えた。「おれの親父が、プログラムの優勝者だったから」

優勝者? ……そうか。プログラムについてはあまり知識がなかったのだが、停止になる前は、昔からプログラムについての放送をやっていた覚えがあった。そして優勝者には生活の保障があるらしい。それ以上のことはよく知らなかったが。

梁島は続けた。「親父は言ってたよ。惨いモンだったってさ。大勢でまとまってグループを作ってた奴らがいたらしいけど、一人が裏切って、皆が寝ている間に、泊まってた小屋に火をつけてさ。何とか逃げ出した奴が数人いたけど、残りは皆死んだ。残りの奴らは裏切った奴をどうにか捕まえて、大勢でそいつをなぶり殺したんだ。その仲間の中に親父はいたんだって。最期には、裏切った奴の顔は、原型を留めてなかった。殺しておいて気味が悪くなった奴らは、狂って相打ちをした。そして、おれの親父だけが残った」

気分の悪くなる話だった。博巳は自分の喉が、カラカラに渇いていくのを感じた。
「でもこんなことがあってから、親父は、もっと命の大切さについて考えるようになったって。自分のような人間を増やしちゃいけない。そう思って反バトルロワイアル組織に入った。まあ、政府に楯突きすぎたせいで、死んじまったけど」
博巳は、黙って聞いていた。

「喋りすぎたけど、とにかく、何があってもおかしくないってことだよ。その中で人を100%信じるのは、凄く大変だってこと。わかった?」
博巳は唾を飲み込んだ。それはわかる。でも――

「おれは、お前のこと、100%信じてるよ」博巳は言った。
梁島は少し驚いたような表情をして、その後フッと笑った。
「おれも、今のところあんたを信じてるよ。まあ、70%くらいだけど」

博巳は笑った。よかった、まだ笑える。まだ大丈夫だ。博巳は残っていた酒を、一気に飲み干した。
【残り23人】

266:2004/05/31(月) 16:11 ID:.BkS9dxQ
私もお前のこと82.3%位信じてるよ・・・(ぇ

という冗談はさておき面白いの3文字しかありません
早めの更新もイイしね〜
では、また頑張ってください

267:2004/05/31(月) 16:11 ID:.BkS9dxQ
私もお前のこと82.3%位信じてるよ・・・(ぇ

という冗談はさておき面白いの3文字しかありません
早めの更新もイイしね〜
では、また頑張ってください

268リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/01(火) 01:32 ID:2KqO5TgA
以前の行動>>126>>132

 姫城海貴(男子十六番)と、冬峯雪燈(女子二十一番)は、あれからずっと、J=7にいた。大した意味はなかったが、なぜか、二人ともそこにいた。

動くのが怖かった。半日前のように、また誰か他の生徒に会うのが怖かった。海貴は雪燈とて決して信用したわけではないのだが、とりあえず攻撃はされないし、放っておいた。そして、同じように感じていたのは雪燈も同じだったらしい。

一人でいるのは不安だが、だからと言って馴れ合う気もなかった。そう思う点では、二人はある意味、よく似ていた。


あれから、二人は殆ど口を利いていなかった。ただ、二人とも、そこにいるだけ。静かな沈黙が続くだけだった。



ふと、雪燈が訊いた。「ねえ。愛希を探しに行かなくていいの?」


愛希。その名前を聞くと、心がぶるっと奮い立たされるようだった。
その愛らしい顔が頭に思い浮かぶたび、焦りを募らせていた。急ぐ気持ちと、どうにもならないのだという絶望の気持ちで、気がふれそうだった。

海貴は言った。「行きたいけど、こんな広い敷地の中をどうやって探せばいいのかわかんないよ」
「それでも探してあげなよ。彼女でしょ」雪燈は更に言った。


わかってるよ。でも――


「やる気の奴に会ったらどうするんだよ。こんな武器じゃすぐにやられるのがオチだろ」強めの口調で言った。

雪燈は全くの無表情になった。
「じゃあ愛希が誰かに殺されてもいいんだ? あたしみたいに、変な男に捕まって、何されてもいいんだ?」
「そんなこと言ってないだろ」ムキになって、声を荒らげた。
「だってそうじゃん。心配してても実行できないなら同じだよ。せいぜい愛希ちゃんの幸福を祈ってれば?」雪燈は口角を上げて、そう言った。


げんなりしていた。
「口で簡単に言うほど甘くないだろ。俺は正義のヒーローなんかじゃないんだよ」


できれば、助けてあげたい。もう一度会いたい。でも、そんな簡単にできるはずがない。自分の命が惜しいのは、当たり前だ。ご都合主義の漫画とは違う。これは現実なんだから。


少しの間、二人の間に重苦しい沈黙が続いた。



「まあね、普通に考えてそうだよね」雪燈は髪をいじりながら、呟いた。「この法律を舞台にした小説が結構あるじゃん。出版禁止になった小説、知ってる?」
海貴は首を振った。「聞いたことあるけど読んだことない」

「そこに書いてあったの。ずっと好きだった女を探し出す男。でも、その子に殺されちゃうの。『それでも、お前にやられるなら本望だ』って言って、許すの」
「へー。それは凄いな」
雪燈は顔を上げて、続けた。「でも、そんなできた人間っていないよね。こんな風になったことがない奴が書いたんだろうな。実際はそれどころじゃないのに」

雪燈は海貴の顔を見た。「あたしだってそんなことわかってるよ。ただ、ちょっと期待しちゃっただけ。美男美女カップルの感動の再会――みたいなのを」
「何言ってんだよ」海貴は笑った。


「本当だよ。だってあんたはあたしを助けてくれたもん」そう言っている間、雪燈は一度も目をそらさなかった。
気まずくなって、海貴の方がそらしてしまった。

「あんなの助けたうちに入らないよ」
「入るよ。だからあたしは生きてるんじゃない」


海貴はまた、黙り込んだ。雪燈がじっと自分を見つめていたことに気づいたが、目を合わせないようにしていた。何か見透かされたような気分になり、気まずくなった。


雪燈は立ち上がって、海貴の手を取った。
「今日一日中、なぜかあんたと一緒にいたけど、いつも上向いてたよね。心ここに在らずって感じだった」
「だから何だよ」

雪燈は優しげな笑みを浮かべた。「行こう。愛希可愛いもん。心配だよ」

「武器ならあたしの銃があるし。平気だよ」


愛希――

本当は、心配でたまらなかった。思い浮かべるたびに、心がつぶれそうになるくらいに。

「うん」海貴はやっと、頷いた。



それから二人は移動した。


どこに行くかは全く検討がつかなかった。ただ、無理はしない。できる限りの力で探す。そう決めていた。

そして、何となくほぼ一日を共に過ごした雪燈と、奇妙な連帯感が生まれた気がした。
雪燈のことはあまりよく知らないのに、こいつは何となく人を殺しそうもないな、と思っていた。その根拠は、全くと言っていいほどなかったのだが。
【残り23人】

269リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/01(火) 01:35 ID:2KqO5TgA
>瞳さん
信じてもらえて嬉しいです(笑)
その台詞は私も結構好きなんですよ。

いつも感想ありがとうございます。本当に励みになります。
これからもどうぞよろしくお願いします。

270リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/02(水) 21:33 ID:2KqO5TgA
えっと、次は永良君、新島君、初島君、梁島君編です。
めっちゃ長いです&この4人しか出てきません。
一応中盤戦のメインの内の一つなんで、よろしくお願いします(?)

271リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/02(水) 21:34 ID:2KqO5TgA
以前の行動>>263>>265

 時刻は、一時五十六分だった。永良博巳(男子十二番)は、自分の支給武器の、催涙スプレーを持っていた。万が一、誰かに襲われた時にやられないように、一応自分の武器も持っていくということにした。
そして、梁島裕之(男子二十番)は、元々は初島勇人(男子十五番)の武器だった、SIG P226を手にしていた。

銃と痴漢よけスプレーだと、何となく自分が情けない感じなので、梁島の持っていたナイフも博巳が持っていることにした。よし、準備は完璧(?)だ。



また、ドアをコンコンと叩く音がした。
「おい、行くぞ」梁島は中には入って来ずに、ドアの外から言った。

う……何だかドキドキしてきた。おれ達は生きて帰れるのかな。
博巳は短く深呼吸をして、ドアを開けた。

「なるべく早く帰ってこよう」梁島は言った。
「おう!」博巳は大きく頷いた。
本当は、少し怖かった。

「……何だったら、おれ一人で行ってもいいけど」梁島が言った。
博巳はぎくっとした。もしかして、おれが怖がってることに気づいたのか?

「いや、行くよ! 絶対行くから! 何が何でも行くから!」博巳は言った。
それを聞いて、梁島はプッと笑った。「ならいいや。面白いな、あんた」
面白い? いやはや、そんな。

「まあ頑張ろうぜ」
「お、おう!」博巳はまた、強く頷いた。


外へ出ようとした時、梁島が言った。「そうだ、あの二人に言っておかなきゃな」
「あ、そうだな……」博巳は鼻の頭を掻いた。

先ほどの場面が、頭の中でフラッシュバックした。
勇人とはまだ、気まずいままだった。

梁島が言った。「やっぱり初島を残して行くのは、ちょっと不安だな」
「何で?」博巳は訊いた。
「実を言うと、おれは新島を信用してない。まるっきりただのカンなんだけど、何か引っかかるんだよな」
「そうかなあ? いつもあんなんだけど」
梁島は言った。「初島は武器もないし、一緒に連れてくか」

博巳はぎくっとした。まだ、一緒にはいたくない。全く許せてないんだ。無理だ。

「大丈夫だよ。敏紀はああ見えて悪い奴じゃないんだ。心配しすぎだって」
「そうかな……」梁島はまだ、何かを考え込んでいた。
「お願いだから二人で行こうよ。今喧嘩してて……」

梁島は博巳を見て数秒沈黙したが、わかった、と頷いた。
「じゃあそこで待ってろ。初島に言ってくるから」

梁島は勇人のいる部屋に向かっていった。


博巳は少し大袈裟に「はー」と、ため息をついた。
これから先、こんなことでやっていけるのかな。まあ、もうすぐ死ぬかもしれないんだけどさ。

死という言葉を頭の中に浮かべて、博巳はまた怖くなった。

死ぬのか? おれも、梁島も、勇人も敏紀も、クラスの奴らも。みんな、みんな死ぬのか?
体がブルブルと震えた。背筋を、悪寒が突き上げた。
何で突然……こんなに怖くなるんだ!

いや、本当は、ずっと怖かった。しかし、必死で、その言葉を忘れようとしていたのだ。体の震えが止まらなくなっていた。


「大丈夫?」
唐突に声が聞こえたので、博巳は後ろを振り向いた。梁島と、勇人が立っていた。

「ああ……」博巳は頷いた。
勇人は心配そうに、博巳の方を見ていた。「じゃあ、気をつけてな」と言った。

博巳はコクリと小さく頷き、「行こう」と言って、梁島を促した。

ドアを閉める時に、一瞬見えた。勇人が、悲しそうな顔をしているのが。


博巳は、何だか複雑な気持ちになった。でも、許してやる気は毛頭ない。どっちも許さない。当たり前だろ? そんなの。

博巳は怖い顔をして、そのまま歩いていた。

272リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/02(水) 21:36 ID:2KqO5TgA
「それで、何が原因で喧嘩したの?」


部屋を出て、しばらく歩いたところで、梁島が言った。

「はっ?」驚きのあまり、少し大きな声が出てしまった。
「静かに」梁島は眉間に皺をよせ、言った。
博巳は慌てて口を手で塞いで、「ごめん」と、小さな声で謝った。

少しの間の後に、博巳は言った。「いや、ちょっとね」
梁島は無表情のまま、言った。「チームワークは大事だよー。まあこのクソゲームじゃ、チームワークとか、関係ないと言っちゃ、関係ないけど」

博巳はまた少し沈黙して、言った。「お前は、何でおれ達と組もうと思ったんだ? 武器だっていい物だし、いつも一人でいたじゃんか」

梁島は顎に手を当てて、考える仕草をした。「そうだなー。何となくだな」
「何となく?」

何か考えがあるのかと思っていた博巳にとっては、意外な答えだった。


梁島は少し笑うと、言った。「そう、一人じゃ寂しいし、暇だろ?」
不思議そうな顔をしている博巳に、「こんなゲームだと、余計に人が恋しくなるんだよ」と言った。
「余計に?」博巳は訊いた。
「そう、普段もこう見えて寂しがりだからね」

梁島の返事に、博巳は笑ってしまった。

「なら、友達作ればよかったのに。その方が学校も楽しいだろ?」
博巳の言葉に、梁島は小難しい顔をした。
「そうなんだけどな。おれ人見知り激しいから」
「へー」

博巳は納得した。確かに、梁島は少々とっつきにくにくい印象があった。

梁島は星がぼーっと輝く夜空を見上げながら、言った。「でも、こんなことなら友達くらい作っときゃ良かったなー」
「そうだよ。でも最後にいい友達が出来てよかったな!」博巳は言った。
「へ?」
「だからー、おれみたいな素晴らしい人間と友達になれたのは、超ラッキーってことだよ」
博巳は自信満々で言った後、「駄目?」と訊いた。

梁島がプッと吹き出して、その後笑い出した。
「いや、別にかまわないよ」
「そっか、じゃあ生き残ったら、どっかに遊びに行こうぜ!」
「生き残れたらな」梁島は答えた。


そんな呑気な会話をしているうちに、二人はエリアC=8に来ていた。



「何で公園の中に家があるんだ?」博巳は尋ねた。
「多分もう公園は抜けてるんだよ。境が曖昧になってるんだと思う」梁島は答えた。
ふーん、随分適当な造りだな。まあいいけど。


民家に人がいないか確かめると、梁島は博巳に合図した。
「行こう」と言って、一つの民家の中に入った。


家の中は、外より断然暗かった。懐中電灯をつけようとしたが、梁島に「つけるな。誰かに気づかれるだろ」と言われてしまった。あ、そうですか。

博巳と梁島は、台所の周辺を漁った。

食器棚を開けると、博巳に向かって、何か黒いものが飛んできた。恐ろしくでかいゴキブリが、博巳の肩口に止まった。
「ひっ!」博巳は必死で振り払った。ゴキブリは華麗に地面に着地すると、ガサガサと音を立てて、闇の中へ消えていった。
はー、ビックリした。博巳はほっと胸をなで下ろした。

ふと梁島の方を見ると、博巳には見向きもせず、食料を探していた。博巳は何だか、自分が一人芝居をしていたような、虚しい気分になった。


チクショウ、絶対に米を見つけてやる!

威勢良く探し出したが、やはり、なかなか見つからなかった。ここの家の持ち主が出ていく時(正式には、政府に追い出される時)に、食料を全部持っていってしまったのだろうか。



博巳は、古めかしい、小さな冷蔵庫を開けた。
冷蔵庫には普通に食品が入っていたが、皆腐っていて、虫がたくさん這いずり回っていた。多分メロンだと思われる物の周りには、黒い小さなモノがウジャウジャと動いていた。

「うわっ!」博巳はまた声を上げた。
「静かにしろ」梁島は怪訝そうな顔で言った。
博巳は少し落ち込んで、それからは黙って食料を探した。


梁島を見た。暗くて、よく見えなかったのだが、何やらたくさんの物が置かれているのがわかった。
「もしかして、何か見つけたの?」博巳はぼそっと訊いた。
「あー、米とカンパン、乾麺、あとは醤油と味噌があった」
すげー。おれなんか一個も見つけてないのに。博巳は一生懸命、近くを探し回った。

「あった!」小声で言った。

レンジで温めて食べるご飯のようだった。レンジが使えないから、意味がない。博巳はため息をついた。


「そろそろ行こう。こんなモンでいいだろ」梁島が言った。
結局何も見つけられなかった。博巳は不甲斐ない気分になった。まあ、しょうがないか。

273リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/02(水) 21:39 ID:2KqO5TgA

 梁島と博巳は、その家を出て、元来た道を戻ろうとしていた。

梁島が言った。「昼はあんなに暑かったのに、夜になると冷えるんだな」
でも、おれはこれくらいがちょうどいい。頬をくすぐる風が、心地良かった。

「おれ、暑いのが嫌いだからこれぐらいでいい」博巳は言った。

遠くで銃声が聞こえた。もう深夜なのに、まだ殺し合いをしてる奴らがいるのか。そういえば、おれ達誰にも会わなかったな。ラッキー。博巳はほくそえんだ。

梁島はポケットから煙草を出して、ライターで火をつけた。

博巳は、ふと気になったことを聞いてみた。「お前、彼女とかいるの?」

梁島はその言葉に、少し驚いたように目を丸くした。
「何だよ、突然だな」
「いや、何となく気になってさ」


梁島は少しの間沈黙すると、ぶっきらぼうに「いるよ」と答えた。
博巳は興味津々で「へー、誰? どんな人?」と訊いた。
「どんな人って言われても……普通の女だよ。気が強くてわがままで。でも優しい奴」
「へー」
のろけやがって。博巳は笑みを浮かべた。

「同じ年?」また質問をした。
「ああ、今は新潟にいるけどな」梁島は言った。
博巳は早口で捲くし立てた。「何で? 遠距離恋愛なの?」
梁島は博巳を見やって、答えた。「おれ、十六の時に家を出たんだ。東京に行きたい!って思って。それで、置いてきた」
ふーん。何か事情があるのかな、と思い、博巳は深く問いたださなかった。

「どれくらい付き合ってんの?」何か訊きすぎかも。ま、いっか。
梁島は少し考えた後、「……二年半くらい?」と言った。
「へー、随分長いんだな。いいなー。おれも彼女欲しくなってきた」博巳は言った。

「いないのか?」梁島は訊いた。
いないって言うか、なんて言うか。恋人だった女の子の顔が思い浮かんで、また心臓が萎縮した。

「まあね。こんなことなら作ればよかったよ!」博巳は明るく(表面上だけだが)言った。

その後は二人とも黙っていたのだが、梁島がぽつりと言った。「人間って、何で後悔ばっかしてるんだろうな」
「さあ。何でだろう」少し考えてみたが、博巳にもよくわからなかった。


でも、いきなりこんなことを言い出すなんて、もしかして、彼女と何かあったのかな? または、会いたくなったとか。博巳はそう予想したが、それ以上は聞かなかった。
梁島の顔が、少しだけ深刻そうに見えたので。



そのころ、初島勇人は、腕に巻いてある時計の針を見て、もうすぐ、おれが見張りの番になるな……と思った。

少し怖かった。暗闇の中、一人で門の前に立っていて襲われたらどうしよう。勇人は不安な気分になって、頭をガリガリと掻いた。

でも、怖いからやらない、なんてわけにはいかない。みんなしっかりと見張り役を務めてるんだ。博巳だって……


博巳の顔が浮かんだ。柔らかそうな薄茶色の髪をかき上げる仕草。努力家で、実は誰よりもバスケの練習を頑張っていたのを、勇人は知っていた。

勇人は絶望で笑った。何でおれはあんなことを言ったんだろう。これからもいい友達でいたい。それなら言わない方がよかったってもんじゃないのか? おれは、無駄に博巳を苦しめただけだ。

それと同時に、自分も苦しかった。嫌われたよな、当然。喉の奥から、掠れた声が出てきた。
「ハ、ハハハハ……」無理矢理笑った。本当は泣きたかった。でも、涙は出なかった。


バカ野郎。自分で言うって決めたくせに、今更後悔してんじゃねーよ。こんなことになるのなんて、最初から予想はついただろ?
それでも言おうと思ったのは、何も知らないで、自分に笑いかける博巳を見て、辛くてたまらなかったから。
勇人は嘘をつき通せない性格だった。

だから、むしろ肩の荷が下りた。博巳には、あとでもう一度謝ろう。そう思っていた。

勇人はその場に横になった。やばい、眠くなってきたかも。

274リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/02(水) 21:43 ID:2KqO5TgA

「勇人」
唐突に自分を呼ぶ声が聞こえて、勇人は目を開けた。新島敏紀(男子十四番)がいた。

「あれ? 見張り交代の時間だっけ?」勇人は時計を見た。時計の針は、今が午前二時、四十分を切った場所を指していた。
「いや、まだだけど。トイレ行かない? 一人じゃ怖くってさ……」
勇人はそれを聞いて、笑ってしまった。意外に怖がりなんだな。

「いいよ」勇人は頷いた。

この家は、なぜかトイレがない。食料もない(なのに囲炉裏はある)。どうやらここは、人が住む目的で建てられたのではないようだ。


まあそれは置いておいて、敏紀と勇人は、外に出た。

敏紀が早足で歩くので、勇人はついていくのが大変だった。

「家に誰もいないけど、大丈夫かな」
勇人は小走りになって、敏紀に追いつくと、言った。
敏紀は抑揚のない口調で答えた。「大丈夫だろ。どーせここの周りなんて誰もこないよ」

そうだよな。でも、トイレなんてその辺でいいじゃねーか。どこまで行くんだよ、オイ。



突然、敏紀は止まった。

一つの大きな木が、生い茂っていた。それはまるで木の神、いや、むしろ化け物といった感じの大きさだった。

風が吹くのと同時に、木の枝や葉がザザザと音を出して揺れ、それはまるで何かを言おうとしているかのように聞こえた。

“俺達の森を汚すなよ。殺しあいなら他でやりな”か、それとも、“ここは危ないから、早く逃げなさい”だったのかもしれない。


「でかい木だな。樹齢いくつくらいあるんだろ」勇人はそう呟いたが、敏紀は何も答えなかった。ただ、振り向いてジッと勇人を見据えた。

「……トイレは?」勇人は訊いた。
敏紀は言った。「そんなもの、もういいんだよ。実はさっき、そこの草むらでしたから」
「じゃあ、何でこんなところに……」


言うか言わないかの間だった。敏紀が持っていたウージーが、火を噴いた。

275リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/04(金) 17:01 ID:2KqO5TgA

 ぱぱぱぱと音がした。
勇人の体には、いくつもの穴が空いた。


「ぐっ……」勇人は後ろに倒れかけ、大木にドッとぶつかった。

「な、何で……」かろうじて、声が出た。
敏紀は言った。「前に言っただろ。お前は人を信じすぎるんだよ。あいつらもな」

信じられなかった。今まで二年間、ずっと一緒にやってきた仲間だと言うのに。


部活帰りにみんなでアイスを食べたり、朝から近くの公園に集まって練習をしたり。おれはヘタクソだったけど、博巳はいつも言ってくれた。「大丈夫だよ。むしろ、おれがバスケ始めた時よりうまいよ。絶対うまくなるから。一緒に頑張ろうぜ」

嬉しかった。いつも鈍くさくて、チームの足手まといにしかならなかったのに、博巳は遅くまで練習に付き合ってくれた。
何で、あいつを裏切ったんだろう。これ以上ないほど、大好きな仲間だったのに。勇人は後悔していた。
敏紀もシュートやディフェンスのコツを、おれに詳しく教えてくれた。いい仲間だと思ってた。なのに――


至近距離から撃ち込まれた弾は、確実に勇人の体を蝕んでいた。だが、かろうじて急所は外れていたようだ。勿論、自分が死にかけていることだけはわかったが。

「博巳と梁島も、すぐにそっちに行くと思うから。じゃあな」まるで普通のことを言うかのように、敏紀はそう言ってのけた。

「駄目だ!」勇人は叫んだ。
その瞬間、口から霧のように血が噴射されたが、自身では、そんなことには全く気づいていなかった。

そんなの駄目だ。博巳はまだ、死――



銃声がして、勇人の思考回路は、遮断された。


大木にドチャッと体が強く打ち付けられ、勇人はそのままズルズルと下に下がっていった。おびただしい鮮血が、木を赤く染めた。
勇人の頭は半分ちぎれかけていた。



敏紀はそれを見ていた。何の表情もない目で。
まずは一人目。いい調子だ。残りの二人も……この調子で殺さなきゃな。


敏紀は目の前の死体には目もくれずに、血で染まった大木を後にした。
【残り22人】

276リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/04(金) 21:25 ID:2KqO5TgA

「銃声が聞こえたな。しかも近かった」梁島裕之(男子二十番)が言った。

確かに、今の銃声は、新島敏紀(男子十四番)と、初島勇人(男子十五番)のいる方向から聞こえた。もしかして、二人に何かあったのだろうか。
永良博巳(男子十二番)の胸を、不安が襲った。

「急ごう」梁島がそう言うのと同時に、二人は走り出した。


博巳の脳裏には、最も嫌な場面が浮かんだ。襲撃され、見るも無惨に殺された二人。
――やめてくれ。あの二人が、そんな簡単に死ぬはずがないだろ!

自分を制し、博巳は走った。


何度も短く息をつきながら、梁島と博巳は小屋の前に立った。



「おかえり」新島敏紀は、ドアの前で、見張りをしていた。
「今、銃声が聞こえなかったか?」博巳は敏紀に尋ねた。
「聞こえたけど、俺らがいるエリアより、もっと向こうの方だったよ」敏紀は北西の方向を指さして、答えた。

「じゃあ、お前ら二人とも無事なんだな?」涙目で、博巳は訊いた。
「あったり前だろ」敏紀はクシャッと笑った。
よかったー。博巳はほっと、胸を撫で下ろした。


でも、近かったのは事実だ。「移動……した方がいいかな?」博巳は梁島に訊いた。
「いや、むやみに動かない方がいい。移動している時に鉢合わせするかもしれないし」
「それに銃声が聞こえたからって、そいつが100%俺達を襲うとは限らないだろ」梁島の発言に、敏紀が付け加えた。
そっか、おれはいつから銃声=悪者って考えていたんだ。博巳は反省した。

「食料見つかったの?」敏紀が話を変えた。
「ああ、米とか乾麺があった」
「やった、何か食おうぜ。俺腹減っちゃったよ」敏紀は自分の腹を押さえる仕草をした。
そういえば、博巳も凄く腹が減っていた。
「なあ、朝食はパンで十分だから、今食わない? おれも腹減ってきたよー」博巳も言った。
梁島は少し考えた後、賛成した。
「うーん、そうだな。じゃあ作るから、中入ろう」



囲炉裏には鍋が置かれ、中では湯がグツグツと湯気が立っていた。
梁島は麺を鍋の中に入れた。

「久しぶりにまともな食事にありつけるな」
敏紀はまるで、恋に落ちた少女のように、鍋の中で踊る麺を見ていた。

梁島は菜箸(例の民家で見つけてきたらしい)で麺を混ぜながら、スープの粉を入れた。香ばしい醤油の香りが、博巳の食中枢を刺激した。
「うまそー」二人は声を揃えた。どうやら、完全に恋に落ちてしまったらしい。


梁島は小さな器にラーメンを人数分装って、「おかわりは自由だからな」と言った。そして、「初島は?」と訊いた。
「ああ、あいつならトイレだよ。生水飲んで、腹こわしたらしい」
敏紀はラーメンを見つめながら答えた。


「そっか……じゃあ先に食べるか」
梁島はバックの中から割り箸を三本とって、一本は自分の器に、残りの二本は敏紀と博巳に渡した。
「それも、さっきもらってきたのか?」博巳は訊いた。
「いや、元々あった」梁島の返答に、博巳は目を丸くした。
すげー、準備いい。おれ、何の役にも立ってないよな。博巳は自分が恥ずかしくなった。


気がつくと、二人はいつの間にかラーメンを食べていた。
あっ、ずるい。博巳も思いだしたように、ラーメンを食べ始めた。

まず、スープを飲んだ。温かい液体が、ゆっくりと胃の中まで浸透していった。さっぱりとした醤油の味わいと、軽い後味が口の中に広がった。うん、うまい。麺も食べた。柔らかすぎず、硬すぎず、ちょうどいいシコシコ感だった。うん、うまい。

更に食欲が増して、博巳は一気に麺を啜った。うまい。こんなうまいラーメンは初めてだ。たかがインスタントラーメンなのだが、この時の博巳には、最高のごちそうだった(特上寿司か、最高級サーロインステーキか、キャビアやフォアグラにも値した)。


気がつくと、梁島も敏紀も一言も話さずに、夢中でラーメンを食べていた。敏紀なんかもう二杯目を食べ終わろうとしていた。負けてたまるか。博巳も、麺を大量に啜った。

277リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/05(土) 00:44 ID:2KqO5TgA

「はー、腹いっぱい」博巳は自分の腹をさすりながら言った。満腹だ、大満足だ。

「井戸に行ってくるわ」梁島が言った。
「井戸なんかあったっけ?」
「ああ、裏側にあったよ。つーか二人とも、初島の分も食っちゃって、どうすんだよ」


……あ!

博巳は食べるのに夢中で、勇人のことをすっかり忘れていた。
「おい、あいつ遅すぎないか」
もしかして、何かあったとか。博巳の胸に不安がよぎった。

「だからー、うんこだから時間かかってるんだよ。それくらい察してやれよ」敏紀が言った。
「でも、もし何かあったら――」博巳の言葉を、敏紀が遮った。「もし探し出して、真っ最中だったらどうするんだよ。向こうだって気まずいだろうが」
そ、そう言われてみれば……。博巳は思い直した。まだ少し心配だったが。


その時、梁島が言った。
「でも、もしかして何かあったのかもしれない。行った方がいいかもな」
「じゃあ、おれ探しに行って来るよ」

そう言うのと同時に、博巳は一目散で外に出ていった。



残された部屋には、梁島裕之と新島敏紀だけが残った。
裕之は横になってくつろいでいる敏紀を見て、ふとした違和感を覚えた。すぐ近くには、ウージーがちょこんと置かれていた。
……さっき聞こえた銃声は、マシンガンのものだった。もしかして――


裕之は少しの間黙ってその場に立ち尽くしていたが、やがて言った。
「鍋を洗ってくるよ」
敏紀は振り向きもしないまま、「おう」と答えたきりだった。



梁島が外に出ていった後、敏紀は一人、呟いた。「さてと、腹ごしらえもしたし、もう用はねえな」ふっと笑った。
少し休むと、立ち上がって外に出た。



博巳は柔らかい腐葉土の上を歩いていた。雑木林が広がっていて――その向こうには、大きな木が悠然と立っていた。
すげえ。あそこまで行ってみようかな。
それにしても、勇人はどこ行ったんだよ、ったく。

確かにまだ腹を立てていたが、いつまでも仲違いしているわけにはいかなかった。口は利いてやらないけど、でも一応探してるだけだよ。そう唱えながらも、博巳は、心配していた。

辺りを探した。声を出すのはまずいかな。でも、ちょっとだけなら……

博巳は声を抑えつつ、叫んだ。「おーい、勇人どこだー? おーい」
返事はなかった。全く、どこまでうんこしに行ってるんだか。


キョロキョロしながら、歩いていた。


「おい!」声がして驚いて振り返った。
「何だよ、梁島。ビックリさせんなよー」

梁島はなぜかデイバックを持って、息を切らしていた。胸ポケットには、しっかり銃が収まっていた。

「逃げるぞ!」梁島の言葉に、博巳は意味がわからず、「は?」と言った。
「初島を探して、すぐにここを離れよう」
「いや、今探してるじゃん。何でそんなに切羽詰ってんの?」
「もしかして――初島はもう駄目かもしれない。とにかく、早くしないと……」
「だから何で? ってか敏紀は?」
梁島は博巳の問いに答えなかった。黙り込んだまま、ふと気づいたように走り出した。


「おい、梁島?」
何だよ、あいつ。意味わかんねー、と思いつつ、博巳は後を追いかけた。


風に乗って、微かな香りが鼻についた。これは――嗅いだ覚えのある香りだった。生臭い。昨日の夜、校門を出た時に嗅いだ香りと、似ていた。真新しい血の香り。
採れたての血はいかがですかー? 背中に籠を背負ったおばさんが、それを売っている姿が頭に浮かんで、すぐに打ち消した。……なんて呑気な想像力なんだ。

278リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/05(土) 00:45 ID:2KqO5TgA

 博巳は梁島の後を走った。ようやく追いついて(梁島は意外に足が速かったらしい)、途切れ途切れの声で訊いた。「なあ、何が、あったんだよ」
「さっきの銃声、マシンガンだったろ? おれ達が今までに聞いた音と微妙に違ったんだよ。もし他にマシンガンを持ってる奴がいなかったとすれば……」

博巳は首をかしげた。頭の中で、再度、梁島の発言をリピートさせた。
……やっと、気づいた。


「どういうことだよ? 敏紀が誰かを撃ったってことか?」
梁島は辺りを見回しながら、頷いた。
「そんなわけないだろ。敏紀はそんな奴じゃ……」
梁島は博巳の言葉を遮った。「一緒にいた初島が帰ってこないのは、おかしいと思わないのか?」
確かに……でも、敏紀の様子は至って普通だった。そんなはずはない、と思いたい。

「でも、もしあいつが勇人を撃ったとしたら、何でおれ達のことも襲わないんだよ?」まだ息を荒らげながら、博巳は言った。
「わかんない。でも、今わかるのは、初島が危ないってことだ」
梁島はまた早足になって、答えた。


博巳の背中に、ゾワッとしたものが走った。まさか――


先ほどの大木が、見えた。暗くてよく見えなかったけれど、その木に、誰かが、いや、何かが置いてあるのが見えた。
梁島も博巳も、それに向かって走った。



木からほんの三、四メートルの位置に着いた。
二人は立ち止まって、苦しそうに息をついた。

人だ、人が死んでいる。
惨たらしい死に様だった。血が散乱して、木の表面の皮膚が赤く(夜だったのでそれは黒く見えた)染まっていた。

梁島が懐中電灯を当てた。
「うわっ……」博巳は思わず目を逸らした。頭が割れて、脳漿が流れ出していた。
「酷いな……」梁島が言った。

博巳はおそるおそる、その人物が誰なのかを確認しようとした。ガックリと頭が垂れていて、それが誰なのかまではわからない。でも、男子だ。
……嫌な予感がした。梁島がそっとその人物の額を持ち上げ、誰だか確認した。



博巳は愕然とした。その人物は、変わり果てた初島勇人だった。

口から血を流し、頭からも流れ落ちた血が、梁島の手を濡らした。勇人の目は虚ろで、うすぼんやりと開いていた目が、どこか遠くを見ているようだった。


「あ……」
博巳は驚愕のあまり、目を見開いた表情のまま固まっていた。

梁島が手を離すと、勇人はバランスを崩して、そのまま地面に頭から突っ込んだ。その様子はまるで、元から命などなかったかと思わせる、マネキンのような不自然な物体だった。


そんな……

博巳の頭の中に、生きていた時の勇人の顔が思い浮かんだ。初めて同じクラスになった時、二人とも教室がわからなくて、一緒に走り回った時の、焦った顔。バスケ部に入って、一人だけ上達が遅くて、先輩に怒られていた時の、悔しそうな顔。部活帰りにみんなで集まって夜中まで話をしていた時の、楽しそうな顔。そして、今日の、寂しそうな顔。

それらが思い浮かんでは、全て消えていった。

全部、消えてしまったのだ。

今あるのは、表情が奪われてしまった勇人の、虚ろな顔だけだった。



「嘘だ、嘘だろ!」博巳の目に、ダラダラと涙が溢れてきた。
どうして。

ガクッと膝をついた。その意思とは別に、声は出ていた。
「嘘だって言ってくれ、答えてくれよ!」

博巳は涙を流し続けながら、勇人の骸を揺すった。


「勇人!」

叫び声は、夜の闇に空虚に響いた。
【残り21人】

279リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/07(月) 00:25 ID:2KqO5TgA

 夜中の三時。草木も眠る、丑三つ時。
新井美保(女子二番)は、二人の男子生徒を観察していた。

仲田亘佑(男子十一番)は、ぼーっとしていて、自分の手を見つめていた。時々、握ったり開いたりを繰り返していた。中西諒(男子十番)は、煙草を吸っていた。
蒸し暑い部屋の中、三人の心の温度は冷え切っていた。


あの時、私は、仲田に言った。「ねえ、私がトイレに行ったら、それが合図。素手でも、ゴルフバッドを使ってもいい。とにかく殺して」
そして、更に付け加えた。「強い人がいなくなれば、それだけ私達の生き残る確立も増えるんだよ。頑張ってね」そう言って、仲田の手を握った。
仲田は何だか茫然としているような顔をして、私に訊いた。
「その間、お前は何してるの」
私は笑顔で答えた。「部屋の中で騒いでると誰かに気づかれるかもしれないでしょ。外で人がこないかどうか見張ってる。危なそうだったら、応戦するね」
「そっか……わかった」仲田はかすかに顎を動かした。


私は極めて安全な位置にいる。中西でも、仲田でもいい。どちらもなかなかの腕を持っている。中西はゲームに乗らなそうだから、とりあえず守ってもらって、仲田だったら、二人で殺しまくる。生き残れるはずだ。多分。美保はそう考えて、ほくそえんだ。


心の準備はいい? 仲田君。あんたには重要な役目をやってもらうの。
私が生き残るために。


美保は、声を出した。「おしっこしたくなっちゃった。トイレ行ってくるね!」
一瞬、亘佑を見たが、相変わらず自分の手を見つめているだけで、美保の方を向くことはなかった。
美保は笑みを漏らして、小屋の鍵を開けた。

人がいないか確認すると、静かに外に出た。



「ふ」諒は笑った。「おしっことか言うなよな」

亘佑が黙っていたので、諒も黙り込んで、寝転んだ。


ふと、亘佑が言った。「諒、オレと初めて会った時のこと、覚えてる?」
突然何だよ、と思いながらも、諒は答えた。
「普通に入学式だろ。新入生のくせして目立ちまくってたよな、お前」
「お前は地味だったよな。髪黒かったし何も喋らなかったし」抑揚のない口調で、亘佑は話した。
「あれから一年半か……」諒は考えた。まさか、こんなことになるとは、思っても見なかった。「早いよな」

亘佑はまた、黙り込んだ。どうしたんだ? 何だか情緒不安定な感じ。確かにこのゲームの中じゃ、そうなるのも無理はないけど。

仲田君は、ゲームに乗ってるんだよ――
美保の言葉を思い出して、諒は少し怖くなった。


亘佑は言った。「諒、オレが知ってるお前の情報、教えてやろうか?」

はあ? 何だそれ。
「何言って――」諒の言葉を遮って、亘佑は続けた。
「一、年上好み。二、親父が嫌い。三、誕生日が五月十六日。あってるだろ?」
「それがどうしたんだよ」

「それしか知らねーんだよ……卓郎も智樹もお前のこと好きだったっぽいけど、オレは嫌いだぜ?」その時、初めて亘佑に顔を向けた。
「前から気にいらなかったんだよ!」


ゴルフバッドが、垂直に持ち上がった。


諒の目が驚きで見開かれる前に、ゴルフバッドは何かにぶつかって大きな音を成した。



始まったみたいね。美保は小屋のドア付近にしゃがみ込みながら、笑みを浮かべていた。

280リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/07(月) 00:31 ID:2KqO5TgA
ここからは新井、中西、仲田編です。
動作の為手が3人の中でころころと変わるのでわかりにくいかもしれません。
基本的に、3行間が空いたらキャラの視点が入れ替わる可能性ありです(入れ替わらない時もあります)。
わかりづらくてすいません。

281:2004/06/07(月) 21:00 ID:f0NvuqqE
うぅ〜おもしろいっす
頑張ってください(毎回同じことしか言ってないですが・・・

282リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/08(火) 23:02 ID:2KqO5TgA

 フローリングの床に、ぼこっと小さなへこみができた。
諒はあっけにとられ、亘佑を見た。
「嘘だろ……」

信じられないと思う諒の思考は、すぐに遮断された。


ひゅっと風をきる音がして、諒のすぐ傍をゴルフバッドの先が霞んでいった。

もう一度バッドが振り回された。一瞬だけ、亘佑の顔が見えた。


仲田。おれはお前を心の底では信じてた。疑いながらも、信じてたんだ。


ガンっと鈍い音がして、諒の頭にゴルフバッドの先がぶつかった。


諒は壁に強く叩きつけられた。じんわりとした痛みを感じて頭を押さえると、ぬるぬるとした液体が手にこびりついてきた。
嫌な気分だった。


頭がボーっとしていた。


亘佑は諒の胸倉を掴むと、囁くように言った。「どうした? お前、こんなに腑抜けだっけ?」

何を思ったか、亘佑はゴルフバッドを投げ捨てた。
「張り合いねーな」

自分の拳を見ていた。何度か見たことのある、亘佑のこのポーズ。


そして、拳が、思いっきり、自分に向かって直進してきた。



強烈な痛みが、諒を襲った。

今のはかなりきいた。亘佑の大きな拳は見事に諒の頬に直撃しており、諒は顔が赤くはれ上がり、唇が切れるほどの打撃を受けた。


仲田……おれのこと嫌いだったのか?

口に出そうとした言葉は、躊躇という感情に負けて、表には出てこなかった。
単純に、ショックだったのかもしれない。この男に言われた言葉が。


亘佑は無表情で、諒の頬にゴルフバッドを擦り付けた。
「何惚けてんの? お前らしくねーなー、ったく」


諒は考えた。単純に、怖かったのかもしれない。この男が。
単純に、気力を失っていたのかもしれない。戦う気力を。
単純に、悲しかった。自分が死ぬかもしれないことが。


諒は言った。ろれつが回らなかったが、とにかく言った。
「仲田ぁ、おれのこと、ずっと、きらい、だった?」

亘佑は黙っていた。
「だったら、悪いことしちゃったな……」諒は力なく笑った。


亘佑はしばらくの間、無言で諒を見ていた。
その表情はよく読み取れなかったが、寂しさと、少々の苦悩が入り混じった表情だった。


「お前なんか、仲間じゃねーよ」


亘佑は諒を殴った。
鼻血が出るまで、口の中が切れるまで、目の下に青痰ができるまで。

殴られ続けても、諒は肩を揺らすだけで、他の反応は全くといっていいほどしなかった。

「反撃しろよ、バカヤロー!」亘佑は声を荒らげた。



その瞬間だった。強烈な右ストレートが、亘佑に浴びせられた。
亘佑の顔は半回転曲がり、長身の体は床に強く打ちつけられた。


亘佑は自分の頬を押さえ、それから諒を見た。
諒は一度ため息をついて、右手を左右に振った。


「上等じゃねーか……」亘佑は呟いた。その顔には、なぜか、満足げな笑みが浮かんでいた。

亘佑は諒に飛びかかった。

283リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/08(火) 23:04 ID:2KqO5TgA

 おっそいなー。蚊に刺されるじゃないのよ。美保はイライラして、時計を見た。
あれから約七分。トイレにしても、そろそろ帰らなくっちゃ私も疑われるかもしれない。

美保はドアに耳を押し当てて、中の様子を窺った。
がたごとうるさい。まだどっちも生きてるっぽいな。何やってんのよ、仲田。まさか、おじ気づいたとかじゃないでしょうね。美保はぎりっと歯ぎしりをした。

入ってみよう。美保はそう思った。
ポケットに入っていたグロックに触れた。残酷な決断を、下すかもしれなかった。


美保は少しだけドアを開け、中を覗いた。


二人は転がって、殴り合っていた。まるっきり子供の喧嘩。足を引っ張ったり、髪を引っ張ったり。美保がいることには全く気づいていないようだった。

何よこれ。ちゃんとやってよ。美保は唖然として、その光景を見ていた。



強烈な蹴りを喰らわされて、諒がうずくまった。短く息をつきながら、自分の腹を押さえた。苦しそうだった。
「腹は反則だろ……」諒は震える声で言った。

亘佑も激しく息をついた。座り込んで、諒の胸倉を掴んだ。
「もう終わりか? 随分腕が落ちたな」そう言って、諒の顔を見た。ぐちゃぐちゃに乱れた髪、赤く腫れ上がった顔。額に血が滴り落ちていた。

多分、自分も相当酷い顔をしているのだろう。亘佑はフッと笑んだ。



何で自分が諒を殺そうとしているのか……それは新井に言われたから。
そこに、自分自身の意思はあったのか……あったよ。じゃなきゃやらない。
何で新井美保の頼みを聞こうと思ったのか……よくわかんねー。でも、多分、一目惚れだった。あいつが腹の内で何を思っていようが、かまわないと思った。
何でゴルフバッドで殺さないのか……だってそんなの卑怯じゃん。
何でとどめをささないのか……だって、オレに負ける諒なんて、諒じゃない。殺す価値もない、ただのクズだ。


自問自答を繰り返しながら、亘佑は思った。オレは、心の底では諒に憧れていた。喧嘩が強くて、何も言わなくてもなぜか温かい人間だと、気づいていた。だから余計に腹が立った。自分には一つもないものだったから。



ガッ、と力強い音がして、頬に衝撃が走った。殴られたのだ、と気づいた。
血の味がして、口の中が切れたのだとわかった。


「ぼーっとするなよ」諒はそう言って、更に続けた。「まだ終わってねーぞ」


下を向いた。声があふれ出そうになったが、何を言っていいのかわからなかった。



美保は、二人を見ていた。遠くを見ているような、何を考えているかもよくわからない表情で。ふっくらとした唇は、何かを言いたげに開いていた。

彼女は静かに握り締めている銃を見た。それから、背後に誰もいないことを確認すると、もう一度二人に視線を戻した。

立ち上がって、静かにドアを開けた。



亘佑は諒の肩に手を置いて、ごくごく静かな声で言った。「お前は、オレなんかに殺されるような人間じゃないだろ……」

「……」


諒は思った。仲田は、やっぱり仲田だった。友情なんてものに、案外こだわって、仲間というものを、案外大切にする奴。

ゲームに乗ったって、人を殺したって、中身はまぎれもなく仲田で、本質は変わってない、そう信じたい。いや、信じられるはずだ。


「仲田、おれのこと嫌いっていうのは、嘘だろ?」

「……本当に決まってるだろ……」



それが、仲田亘佑の最期の言葉になった。

284リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/09(水) 20:04 ID:2KqO5TgA
瞳さん>
レス遅くなって申し訳ありません。
同じようなことでも、嬉しいですよ!
ありがとうございます。長いですが、これからもよろしくお願いします。

285リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/09(水) 20:09 ID:2KqO5TgA

 背中越しに大きな音が響いて、それっきり、テレビのチャンネルを切るように、ぷつりと思考回路が遮断された。

たった一瞬、目に映ったものは、諒の驚いたような表情と、それから、自分を呼ぶ声が聞こえた、ような気がした。



亘佑の体は、諒に覆い被さった。返り血を浴びてびしょ濡れになった諒は、随分と重くなってしまった亘佑の体を、かろうじて起こした。

がくりと垂れ下がった頭が、諒の方に傾いた。
まるっきり生気をなくした顔。血だらけの頭が――割れていた。亘佑を支えている諒の手に、ぬめっとした、不快な塊が落ちた。

「仲田……」

嘘だろ。おれ何もやってねーよ。

「冗談よせよ。おい!」諒は狂ったように叫んだ。


その声を聞いたかのように、ドアが、チャッと開いた。


新井美保は、焦燥と憔悴の入り混じった顔で、諒を見た。それから、静かに言った。「危ないところだったね。中西君」

そこで初めて、美保が亘佑を撃ったのだと気づいた。



参ったなー。背中を狙ったつもりだったのに、間違えて頭にあたっちゃった★
まあ、いっかー。即死できたんだから、感謝してよね。そう思って、美保は微笑した。
【残り21人】

286リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/10(木) 22:25 ID:2KqO5TgA

 梁島裕之(男子二十番)は、沈痛な表情で永良博巳(男子十二番)を見ていた。
裕之は、大声を出した博巳を責めなかった。かつての友人が、こんな形で惨たらしく殺されていたのだから。

裕之は博巳の肩に触れた。「永良……もう行こう」と言った。


博巳は抜け殻のように無表情のまま泣いていたが、コクンと頷いて、立ち上がった。

裕之は苦々しい気持ちで、初島勇人(男子十五番)の死体を見た。
初島を殺した(と思われる)人物から、逃げなくてはいけなかった。そうじゃないと、おれ達も同じ目に――
裕之は博巳を促して、その場から離れようとしていた。その目が見開いた。



先ほどと同じ、ぱぱぱぱという音が、響いた。

「くっ!」
裕之は博巳を突き飛ばし、自分も地面に倒れた。裕之の腕の肉が跳ねた。

博巳は目を白黒させていたが、新島敏紀(男子十四番)の存在を認めて、固まった。


「よう。見つけたみたいだな」新島は面白そうに笑った。
こいつ……裕之は新島を睨み付けた。
右腕からはドクドクと血が出た。傷口が熱かった。

「てめえ、よくも……」
「まあ、そんな怖い顔すんなよ」薄い笑いの表情をはりつけながら、新島は続けた。「勇人に約束したんだ。寂しくないように――」
意味がわからなかった。


「お前らもすぐにそっちに送ってやるって」

言うか言わないかの間に、新島のウージーが火を噴いた。


裕之は博巳の腕を引っ張って、避けた。

どうやら当たらなかったようだ。新島の顔には、笑みが走っていた。
既に気がついていた。あいつは、かつての友人なんか、もう見えてない。この状況を楽しんでるんだ。



裕之も撃った。だが、走りながらなので、うまく焦点が定まらないのと、利き手ではないので、うまく引き金が引けないのとで、当たることはなかった。
博巳の腕を掴んでいる右手が、ジンジンと傷んだ。


このまま殺られてたまるか。くそ、負けてたまるか!裕之は必死で走った。


博巳の脚がもつれていた。
「しっかり走れよ!」裕之はイライラして、博巳を怒鳴りつけた。
博巳はぼーっとしたまま、心ここにあらずという感じだった。駄目だ、こりゃ。



また銃声がして、博巳がガクンと倒れかけた。引っ張られて、自分もつまづきかけた。

「どうした?」裕之は振り返って、博巳の足を見た。
ローファーに、血が滲んでいた。

チクショウ、こんなところを狙いやがって。裕之の胸がぎりっと痛んだ。

博巳は殆ど無表情のまま、言った。
「もう、置いてっていいよ。どうせお前は途中で抜ける気だったんだろ」

裕之は少し迷っていた。確かに、そうだ。おれは抜ける気だった。

でも、言った。「そんなこと、出来るわけないだろ!」

「早く立て! 初島みたいに殺されたいのか?」

「……勇人、おれのせいで!」博巳が呻いた。
どうやら逆効果だったようだ。

裕之はしっかりと博巳の腕を持ち直し、スピードを上げた。


新島はしばらくの間そこに止まったまま撃っていたのだが、何を思ったか、突然走り出した。
凄い速さだった。


裕之も全速力で走った。


裕之の背後で、博巳が何やらぶつぶつ小言を唱え、笑っていた。
「くふ、ふふふふ……」

何笑ってんだよ、こいつ。全くの謎だったが、今はそれどころではなかった。

裕之も足の速さには自信があったが、追いつかれるのは目に見えていた。



ぱぱぱぱ、という独特の音がまた聞こえ、裕之の背中に穴が空いた。


裕之はその場に倒れ、博巳もその弾みで転んだ。

287リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/10(木) 22:26 ID:2KqO5TgA

 新島が近付いてきた。
「残念だったな」

……もう、終わりか。随分あっけなかったな、と思った。



「梁島、大丈夫か?」博巳が我に返ったように近づいてきた。
「駄目かもな」裕之は笑った。
苦しい。自分の口からは血が出ていた。

「そんな……お前まで――」博巳は目に涙を滲ませていた。

笑ったり泣いたり、忙しい奴だな。そうだ、さっきは何で笑ってたんだろ。

裕之は訊いてみることにした。「さっきは何で笑ってたんだ?」
博巳は首をかしげた。「……笑ってたっけ?」


覚えてないのかよ。裕之は呆れたような笑みを浮かべた。まあ、いいか。俺にとっては最後の謎になったな。裕之の意識は急速に薄れかけていた。

「駄目だよ。死ぬな」博巳の声が掠れていた。



裕之は思った。永良、大して役に立てなくてごめん。あんたはこれから、こいつを倒せるのかな。凄く心配だ。裕之はそれを悔やんだ。
親父は生き残ったけど、息子はまるで駄目だな。結局おれは、何も出来なかった。あっけない死に様だ。雑魚みたいな。

それから、故郷に置いてきた恋人のことも思い出した。
響子、なかなか会えなくてごめん。挙句の果てに、こんなゲームの中で死んで、ごめん。高校を出たら、一緒に住むって、決めてたのにな。

裕之の目からも、涙が滲み出て来た。「おれ、こんなに死にたくなかったんだな……」
今ごろ気づいたって、もう遅い。裕之は、フッと皮肉な笑いを浮かべた。

「梁島、おい!」博巳の声が遠くで響いた。


新島はそれを見て、フッと鼻だけで笑った。
「三文芝居はその辺にしといて、せっかく待っててやったんだから、さっさと死ねよ」


銃声が近くで響いた。


至近距離から、裕之に弾丸のシャワーが浴びせられていた。

裕之の体は穴だらけになっていて、もう、確実に絶命していた。



博巳は梁島を、惚けたような表情で、見ていた。今の、確かにUFOだよな?
そんな感じ。

博巳は今度は叫び出さなかった。ただ、言葉にもならないような声をあげて、泣いた。
「梁島……」博巳は何度も呟いた。



こいつを殺すのは楽勝だな。敏紀はもう一度ウージーを持ち上げた。


その一瞬だった。博巳が裕之の手から引き剥がした銃を、敏紀に向けていた。
しかも、銃口は確実に、脚を狙っていた。


ドン。

「くっ……」
左脚に猛烈な痛みが突きあげた。


それでも撃った。銃弾は博巳の左腕に当たったが、博巳はかまわず逃げ出した。
「くそっ!」

追いかけようとも思ったが、脚の強烈な痛みの方が気になった。

座り込んで、自分の脚を見た。脛に弾丸が食い込んで、血がドロドロと溢れていた。
敏紀は足を抑え、小さく呻いた。


あいつ、よくも……
前を見ると、既に博巳はいなくなっていた。


追おうとしたが、歩くたびに突きあげる痛みに我慢できず、その場に座り込んだ。

「今度会ったら覚えてろよ……」敏紀は呟いた。



明るくなりかけた空が、うっすらと光を放っていた。

永良博巳は、C=6の不気味な森の中に逃げ込んでいた。
痛みをこらえて走ったので、もう博巳の意識は限界に近付いていた。
腕と足の甲に、強烈な痛みがあった。

靴を脱いで、靴下も脱ぐと、血が再びドクドクと流れ出した。持っていたタオルで止血をしたが、すぐにタオルは赤く染まりだした。

何でこんなことに……
博巳は地面を叩いた。あまりにたくさんのことが起こりすぎて、何が何だかわからなくなっていた。ただ、わかるのが、二人の友人の死。


後悔した。梁島とおれが食料を探しに行く時、勇人を連れていけば、こんなことにはならなかった。いや、おれが敏紀を引き入れなければ、二人はまだ生きてた。おれのせいで――
あいつらは、おれの大切な友達だったのに。

そんな自分を、博巳は心から憎いと思った。悔やんでも悔やみきれない。

自分だけ生き残ってしまった。

「どうすれば、いいんだよー……」

博巳は頭をかかえて泣いた。悲しくて仕方なかった。
涙が枯れ果てて、声も出なくなるほどに、泣き続けた。
【残り20人】

288リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/12(土) 17:20 ID:2KqO5TgA

 午前四時。夏は朝が早い。笹川加奈(女子十四番)は、H=7のうっそうと茂った森から、遠くにある空を見ていた。

そして、加奈の肩には、内博美(女子七番)が、もたれて目を閉じていた。規則正しい呼吸の音がかすかに聞こえたので、博美が眠っているのだとわかった。

加奈はため息をついた。何か、心が苦しい。やはり、刻々と近づいてくるタイムリミットが恐ろしかった。
もうすぐで死ぬかもしれない。それを考えただけで(常に心の中にあった)、胸がきゅうっと締めつけられるような憂鬱さに襲われた。


「笹川さん。眠いなら寝てもいいよ」
柴崎憐一(男子五番)は、ふと気がついたように言った。

加奈は首を振った。「大丈夫。眠れないみたいだし」

憐一はふっと笑って、言った。「もしかして、信用されてない?」
「微妙。まあこんなゲームの中でだから、仕方ないでしょ」
憐一は加奈の意外な答えに目を丸くした。「はっきり言うね」
「嘘ついたって、仕方ないもの」加奈は目を伏せて、続けた。「好きだった先輩に殺し合いをしろって言われて、仲のよかった子に銃突きつけられて、もう頭ぐちゃぐちゃだから」

大島薫(女子九番)の死体を思い出し、また言いようのない恐怖心に包まれた。

「意外にシビアなんだ」
「だって、誰が信用できるかなんてわかんないじゃない。私は博美ちゃんはよく知ってるし、信用できる、と思ってるけど、柴崎君のことは何も知らないし」
「そうだね」憐一は視線を上に持ち上げ、少々目を細めた。
「まあ、そんなの誰だってそうだよ」憐一は言った。


何だかいつもと雰囲気が違う。加奈はそう思った。いつもは、治巳君と一緒になって和輝をからかってる感じ。ぎゃーぎゃーうるさいし。
でも、今は何て言うか――大人しげっていうか、優しげ? うまく喩えられないけど。

「柴崎君、何か今日は大人しいね」加奈は言った。
「そう? まあね、実はつまんない人間だから」
「嘘だー」
「本当だよ」憐一は口元だけで笑みの形を作り、続けた。「まあこんなゲームに参加してるのにいつもどおりな人間の方が珍しいっしょ」
「……」
まあ確かに。でも、博美ちゃんはいつもどおりだな。あと、和輝も。いつもと同じ。


「和輝はいつもどおりだったよ」

加奈の言葉に、憐一は若干驚いた表情になった。「和輝と一緒だったの?」
加奈は頷いた。
「へー。まああいつはいつも暗いしな」
「そうだね。常にボーっとしてるもんね」
 憐一はぷっと笑って、続けた。「何で今は和輝と一緒にいないの?」
「えーっとね。代々木君と争って、それから色々あってはぐれちゃって……」
「そっか。俺も会いたかったな」
加奈は神妙に頷いた。


今ごろは何をやってるんだろう。死んではいない。生きてるはずだ、けど、会える保障なんてどこにもない。加奈は悲しくなった。


いつの間にか起きていた博美が、二人を見つめた。
「加奈ちゃん。わたしいいこと考えたの!」

博美ちゃんのいいことって、悪いけど、あんまり期待できなそう……
加奈は頬を掻いた。


「わたしが柴崎君を見張って、柴崎君がわたしを見張れば、加奈ちゃんはその間に寝てられるでしょ?」
「……まあ」

――でも、博美ちゃんのことだから、柴崎君が襲ってきても、「やめて。今なら神様はあなたのこともお許しになってくれるはずよ!」とか言うに違いない。


「加奈ちゃん目が真っ赤だし、クマもできて酷い顔よ!」


酷い顔って……
あんたの発言の方が酷いよ。加奈はそう思いながら、鏡を覗いた。

――本当だ。酷いわ。

「だから安心して眠ってよ。わたしにまかせて」
博美は加奈の手を取って、言った。

目の中きらきら光線に、負けてしまった。


「……わかった。ありがとう、博美ちゃん!」加奈はなぜか涙ぐんでいた。

「あっ、寝る前には歯磨きも忘れずにね!」博美はニコッと笑った。


憐一は、何だか変な二人だな、とでも思っていそうな表情で、加奈と博美を見ていた。

289リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/12(土) 17:25 ID:2KqO5TgA

 ペットボトルに入っていた水を少々使い、持ってきていた歯ブラシ(修学旅行で使うはずだったのだ、もう関係ないけど)で歯を磨いて、加奈は口をゆすいだ。

「まあ、とにかく寝るね。その次は柴崎君が寝ていいよ」加奈は言った。
「わかった」


加奈は横になった。色々なことがありすぎた。クラスメイトがどんどん死んでいく。この重圧感に、耐えられそうもなかった。目を閉じると、小笠原あかり(女子十番)の顔が思い浮かんだ。それから、大島薫(女子九番)黒川明日香(女子十二番)、三条楓(女子十五番)の顔も、次々に思い出された。
みんな。どこまでいけるかわかんないけど、私、頑張るね。


加奈は眠りについた。



博美は憐一に話しかけた。「柴崎君って、どこに住んでるの?」

初めまして、の次に言われるお約束の質問。博美は、憐一と仲良くしようと考えているらしかった。

「近いよ。学校から自転車で十五分くらい」
「ふーん。いいなー」
「そっちは?」
「わたしは電車で一時間半もかかるよ」

その話で時間をつぶした後、憐一がふと、訊いた。

「内さんは、何でそんなに元気なの? 怖くないの?」
博美は少し考えて、それから答えた。「怖くないと言えば嘘になるけど、人間はいつ死ぬかわからないものだもの」少し小さな声になって、続けた。「神様の下へいけると考えれば、恐ろしいものじゃないの」
憐一は少々物珍しそうな顔をした。「何でキリスト教系の高校に入らなかったの?」
「お金がなかったから。公立じゃないと……」
「そっか。俺は校則がゆるいから入ったんだけどね」
「……わたしも。実はピアスしたかったんだ」博美の言葉に、憐一は笑みを浮かべた。
「いいじゃん。似合うよ」
「ありがとう」博美は言った。

少し間を置いて、言った。「わたし、この学校にきてよかったと思う。こんな風に殺しあうなんて考えてもみなかったけど、それでも、よかった。いい友達もたくさんできたし」
「俺も、よかったよ」憐一は下を向いて、少し自嘲気味に言った。


「そうだ。乾杯しようよ。二人のオシリアイ記念に」
「お知り合い?」
もうすぐ死ぬのに。ついそう思ってしまって、博美は反省した。

「でも、加奈ちゃんに――」
「気にしない気にしない」憐一はデイバックから、カクテルを出した。
「酒とか平気?」
「飲めるけど、酔いつぶれたら困るし……」
「ちょっとなら大丈夫だよ」憐一は紙コップを渡した。
「どこでそんなもの持ってきたの?」
「キャンプの時にくすねてきた」それから、紙コップにカクテルをついで、自分が飲んでみせた。「度数も高くないし、一杯なら平気だよ」
「……そうだよね!」
博美は憐一からコップを受け取り、中に入っている青い液体を見た。綺麗な色。朝焼けの青みたいな。

「乾杯」
「かんぱーい」

一気に飲み干した。おいしい。ちょっとぬるいけど、それと引き換えても。推理小説とかだとこれに毒物が仕込んであるとかいう話があるけれど、そんなこともないみたい。
一瞬でも憐一を疑ってしまったことを、恥じた。


「柴崎君。誰か、クラスに会いたい人はいる?」なぜそんな質問が出たのかはわからなかったが、博美は訊いた。
「そうだな――」憐一は少々考えて、言った。「治巳とか、達也とか、田阪とか、和輝とか、め……有山とか」
「そうなんだ。会えるといいね」博美は笑顔で言った。




――泥のように眠る博美を見て、憐一は少しだけ笑んだ(本当に少し、一ミリほど)。

よくある手だけど、こんなうまく引っかかってくれるとは思わなかった。

それから、ワイシャツの胸ポケットに入っていた銃――コルトガバメント45口径を取り出し、博美の額にポイントした。

こんなに近くなんだ。銃を撃ったことなんてないけど、はずすわけがない。

憐一は重い撃鉄を押し上げた。ガチッと、乾いた音が響いた。
【残り20人】

290リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/14(月) 01:05 ID:2KqO5TgA

 中西諒(男子十番)は、茫然としていた。
新井美保(女子二番)は、諒の目をしっかりと見つめて、言った。「中西君、大丈夫?」

我に返ったように、頷いた。「……ああ」

美保は諒の手を握って、説得をするように言った。「一つわかってほしいのは、私、中西君が襲われてるのを見て、怖くなって、でも撃つしかないと思って撃ったの。わかるよね?」
「……ああ」
「他に方法がわからなかったの。でも、私のこと、許してくれるよね?」
諒は下を向いて、黙り込んだ。
美保は諒の顔を覗き込んで、言った。「移動しよう? ここは――仲田君の死体があるし」
「……ああ」

美保は諒の手を引っ張って、立たせた。



諒は考えていた。仲田亘佑(男子十一番)が死んだという事実が、受け入れられなかった。が、どうしてこんなことになったのか、考えていた。

気づいたら学校の教室で寝てて、他の人間も全員寝てた。若い男がいて、殺し合いをしろと言われた。何だかわかんなかったけど学校を出たら卓郎が死んでて、悔しくて、殺した人間を探し出そうと思った。出席番号が近かったから、仲田を待った。二人で行動して、仲田が大島薫(女子九番)を探しに外に出て、そのまま新井を連れてきた。それから、二人はまた食料を探しに行って、おれはほとんど小屋の中にいた。そうこうしてる内に大島が死んでて――おれは他の生徒を殺す気なんてなかったから動く気もなかった。新井に、仲田がゲームに乗ったって聞かされて、驚いて、仲田に襲われて、でも、仲田はおれを殺さなかった。
そして――仲田が死んだ。

何だよ、わけわかんねえよ。何でこんなことになったんだよ。どこからおかしくなったんだよ!


諒は美保を見た。きょとんとした顔で、見つめ返してきた。「どうかしたの?」
諒は首を振った。「別に」

そういえば、昨夜の仲田の様子は変だった。何かにおいつめられたような。

諒は訊いた。「新井、仲田は本気でゲームに乗ってたと思う?」
「うん。だって、私この目で見たもん。信じてくれないの?」
「あいつの様子がひっかかってるんだよ。おれのことを殺そうとしてたはずなのに、おれに喧嘩をさせようと挑発した。ゴルフバッドも使わないし、あれですぐにでも殺せたはずなのに――」
「さあ。私にもわかんないや。でも、情緒不安定だったし、どんな行動をすれば正しいとか、そんなんよくわかんないよ」
そう言って、更に続けた。「私は中西君が生き残って、よかったと思うよ」

諒は、少々複雑な気持ちで、笑った。気分が晴れなくて、何となくもやもやしていた。何が原因なのかは、よくわからなかったけれど。



新井美保(女子二番)は、思った。何か腑抜けになっちゃったな。やっぱり、中西を殺して仲田を生かしておいた方がよかったかもしれない。人選ミスだ、ああ。

でも、あいつは中西を殺す気がなさそうだったし、私の頼みがきけないような奴に、用はない。

だったら中西に(どうも思っていたよりも頼りない気がするが)守ってもらって、最後に死んでもらうしかないよね。
美保は更に考え込んだ。でも、こいつが一筋縄でいかないのは十分わかってる。その中でどうやってこいつを殺るか――


――諒を見た。大昔からある方法を思いついた。雄の本能に訴えかける。やっぱり自分には、これしかない、と思った。
でも、残り二人の時じゃ無理かもな。警戒されそうだし。美保は唇に手を当てて、しばらく考えていた。

残り十人位になったら、中西を誘惑しよう。そして――
自分のポーチに入っていた剃刀を、ブレザーの袖に忍ばせた。

美保は心の中でほくそえんだ。私が夢を見せてあげる。中西君にだけ、特別サービスで。料金はいただきませんよ。

――ただし、その後は本当の天国にでも逝ってもらうけどね。
【残り20人】

291リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/14(月) 01:12 ID:2KqO5TgA

「つーかーれーたー!」
既に聞きすぎた、伊藤愛希(女子五番)の言葉に、荒瀬達也(男子一番)は、うんざりした。


「座ってるのに疲れたって何だよ」
「こんな森じゃ息をするだけで疲れるのー。綺麗な場所に連れてって」
「面倒だから嫌だ」

愛希は怪訝な顔をした。「何よ。あたしの言うことがきけないって言うの?」
「動くと他の人間に会うかもしれないから、我慢してください」
「バーカ。役立たずー」
達也は無視した。



何よ、せっかくちょっと見直してあげたのに。間違いだった、こんな男。ふーんだ、ふーんだ。

愛希はそっぽを向いて、空を見上げた。


――湿った空気が漂う森の中は、木々が自由に伸びていて、愛希達を見下ろしていた。そして、ただただある静寂。時折聞こえる鳥の鳴き声。全て折り重なって、美しいと思わせることが出来た。

残酷だと、思った。死んでしまえば、二度と、この風景を見ることができないのだ。


「何か、殺し合いの途中だってことも、忘れちゃいそうだよね」愛希は言った。「このまま、嫌なことも、怖いことも忘れて、こうしていられればいいのにね」

達也は少々驚いたような顔をして、愛希を見た。
「そうだね。殺し合いなんて、バカげてるよ」と、呟いた。


愛希は黙り込んで、思った。まだ、死ぬかどうかはわからない(死ぬ可能性の方がうんと高い)けど、あたしはこの瞬間を失いたくない、と思った。過去も、今も、未来も、全て含めて、愛おしいと感じていた。今までは、気づかなかったけれど。


「荒瀬くん、あたし、死にたくないよ」
「……おれも」


それでも、この時間は、愛希にとって最後の、穏やかで、幸福な時間だったのかもしれない。



高田望(女子十八番)は、怪我をした足と肩をかばいつつ、必死で歩いていた。

チクショウ、死ぬ前に、誰か、女子を殺さなきゃ。
でも、こんな森に人なんているのか? とりあえず、探さなきゃ。


ガクッと両足をついて、高まる鼓動を抑えようと試みた。手当てをした(と言っても、ハンカチを巻いただけだが)から、どろどろと血が滲んでいくのがわかった。動くたびに、痛みが襲ってくる。

チクショウ。まだ死んでたまるか。


そんな望の耳に、誰かの話し声のような音が、届いた。
女だ。あたしの嫌いな女。
その声らしきものを聞くと、望の中の力が奮い立たせられるようだった。


望は腰に差していたカマを取り出した。



一組の男女。あたしの一番嫌いな輩。男子生徒は、話したことはないが荒瀬達也であるとわかった。そして、女子生徒は自分に背を向けていた。しかし、望には誰であるかわかった。


「――あたし、死にたくないよ」


その鈴のような愛らしい声に聞き覚えがあった。クラスで一番嫌いな女。伊藤愛希だ。
望は痛む肩を押さえ、足を引きずりつつも、近づいた。

これが最後になっても、かまわない。


望は渾身の力を込め、走り出した。

292よこせう:2004/06/14(月) 01:54 ID:8UQFgglk
お互い夜中の更新、大変ですね。
自分は今にもPC点けたままでZzz・・・。
お互い頑張りましょう。ペティー、頑張ってください。

293リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/15(火) 17:03 ID:2KqO5TgA
よこせうさん>
そうですね〜……遅刻しまくりの癖に夜中まで起きている私です(^^;
はい、よこせうさんも頑張ってくださいね。

294リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/15(火) 17:10 ID:2KqO5TgA

 どたどたと音が聞こえた。達也は振り向いて、すぐにその人物の存在を見とめた。

「伊藤!」

愛希の手を引っ張って、自分の方に引き寄せた。



愛希の髪の一部が、ぱらっと落ちた。


愛希は思わず言った。「ひっ、化け物!」
「おい、そういうこと言うなよ」


高田望は震えていた。太目の足は取れかけのハンカチでぐるぐる巻きにされており、肩にも同じような手当てが施してあった。そして、ハンカチが赤黒く染まっていた。


「ばっ、化け物とは何だー!」


望はよろついた足で、二人に向かってきた。


達也は言った。「伊藤、逃げるぞ!」
「うん!」

二人は走り出した。



チクショウ、いちゃつきやがって。伊藤、あんたには彼氏がいるだろ。
身を襲ってくる嫉妬心と怒りを燃料としながら、望は必死で走った。明らかにふらついた足で、追いつくはずもないことに気づきながら。それでも、殺したかった。



しばらく走った後で、達也は望が追ってこないことに気づいた。

達也は立ち止まって、言った。「あの怪我じゃ、立ってるのも精一杯なはずだよ」

愛希は何かを考えているようだった。


やがて、言った。「ねえ、荒瀬くん、戻ってみない……?」
「えっ」達也は意外に思った。「戻ってどうすんの?」
「デイバックの中にあたしの化粧品が――」

そんなことかよ。まあ、伊藤らしいけど。

「さっきの子がいるかもしれないだろ」
「大丈夫だよ。怪我してるし、誰が見てもふらついてたじゃない」愛希は何かの強い意思を感じさせる目で、言った。
「――わかった。戻ろう」

愛希は笑顔になった。



望は追いかけようと思ったが、足ががくがくと震え出して、走るどころか立っているのも困難になった。

チクショウ。殺せなかった。チクショウ。

望は膝を落として、しばらく、はあはあと息をついていた。突き上げる痛みに我慢できずに、地面に横たわった。


――誰かが、あたしを覗いてる。黒髪にショートカットの女。猫みたいな顔をした、あたしの嫌いな女。


井上聖子(女子五番)は無表情で、望の腹をナイフでえぐった。


「ぐはっ……」
望は腹が引き千切れるような(まさしくそうなのだが)痛みに、顔を歪めた。


聖子は何も言わず、去っていった。



チクショウ、何なんだあの女。チクショウ。
苦しくて、息をしているだけで、自分の口から声とは違う音が漏れてくる。


望は思考回路が閉ざされそうになっていたが、とにかく、考えた。


今までの自分の人生。楽しかったか、苦しかったか。いろいろ。

この外見のせいで、苦しいことの方が多かったかな。あたしも、他の女子みたいに可愛ければ、もうちょっとマシな人生だったかもしれないのに。

恨むのはお門違いだとわかっていた。でも、止められなかった。

295リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/15(火) 17:11 ID:2KqO5TgA

「高田さん、高田さん。大丈夫?」
可愛らしい声が聞こえた。鈴のように愛らしい。聞き覚えのある声。

――伊藤。

望のぼやけた視界が、愛希を捉えた。

「何で、あんたがいるのよ」
「何となく。ってかお腹が凄いことになってるよ。苦しくて死にそうでしょ」

バカにしてんの? この女。

愛希はゆっくりと言った。「もっとちゃんと手当てしなきゃ駄目だよ。バカじゃないの」
「黙れ」
「どう思う? 荒瀬くん!」
望の視線は、そこで左に移った。

達也は気まずそうに頭を掻いた。「うーん。医者じゃないからよくわかんないけど」

「何よ、二人して、あたしを……バカにしてんの?」望は声を荒げた。苦しかったが、とにかく。「消え、てよ……どうせ、死ぬんだから!」

「バーカ。まだ死なないよ」愛希はそう言って、望の肩に巻かれていたハンカチを取った。
「あたし達、消毒液と包帯持ってるの。気休めにしかならないかもしれないけど、まだ助かるかもしれないよ」

望は驚いて、愛希の顔を見た。「いらな、いよ、そんなもの。あた、しは、あんたを、殺、そうと、したの、に」


愛希が自分の傷に触れる。血が固まったハンカチを取り除かれ、柔らかいガーゼの感触が、腕を包んだ。
「あんなんで殺せると思ったの? 甘いにもほどがあるね」そう言って、愛希は達也に話しかけた。「やっぱ、銃弾取り除かないと、やばいかなあ」
「でも、おれ達じゃ無理だろ」
「まあ、仕方ないよね」

消毒液が傷口にかけられ、望は顔を歪めた。
「大丈夫?」愛希に訊かれた。


意味がわかんない。何であたしを助けようとするのか。そんなんでつられるとでも思ってるの? バカみたい。

「あん、た、性悪のくせに、何いい人ぶってんのよ」
「別にー。理由はないけど、あたしが死ぬのが怖いから、他の人も同じように怖いだろうと思って」愛希はそのまま、続けた。「あたしが死ぬ時は、一人で死ぬのなんて嫌だし」


おせっかい。くだらない。そんなんで、あたしがつられると思ってるの――


望の小さな目から、薄く涙が滲んだ。


自分が醜いのは生まれつきで、変えようがないと思っていた。体型も生まれつきだし、整形したところで、不細工が伊藤のように可愛くなれるはずなんてない。

でも、あたしの醜い心が、余計に、あたしを醜く、惨めにしていたのかもしれない。



望はかすれた声で、言った。「ありが、とう。伊藤さん」


愛希が優しげな笑みを浮かべているのが、見えた。



それから後、望は眠りこけるようにして、死んだ。



達也が訊いた。「何でこんなことしようと思ったの」
「別にー。死ぬ前に、何か一つでもいいことしとこうかなーと思って。でも、本当に意味なかったけどね」
「そんなことないよ」達也は少々沈黙して、言った。「それが伊藤の本性なら、おれは嬉しいよ」


愛希は思った。だって、死ぬ時は、一人ぼっちじゃ寂しいもん。人間は死ぬ時は一人だって言うけど、それでも、一人じゃないフリをしていたい。


「荒瀬くん」
「何?」
「オレンジジュース飲みたい」
「……そんなものどこにあるんだよ」
「買ってきて」
「アホか」


夜は、完全に明けようとしていた。
【残り19人】

296:2004/06/15(火) 20:59 ID:hFU1a7QY
受験生参上・・・
明日からテスト期間なのでまた見るのは10日後くらいになるかと・・・
ところでリズコさんに質問!
①男?or女?
②何歳?
以上です・・・
何でかなんて・・・聞かないで・・・(ぇ

297リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/16(水) 01:10 ID:2KqO5TgA
現在状況(ネタバレ)

男子

 1番 荒瀬達也・・・生存中。伊藤愛希(女子四番)と共に行動。仲田亘佑(男子十一番)、高田望(女子十八番)に襲われた
 2番 大迫治巳・・・生存中。千嶋和輝(男子九番)の前に現れ、共に笹川加奈(女子十四番)を捜索中
 3番 国見悠・・・死亡。井上聖子(女子五番)により、銃殺
 4番 塩沢智樹・・・死亡。冬峯雪燈(女子二十一番)、飛山隆利(男子十七番)を襲おうとして、失敗。井上聖子(女子五番)により、銃殺
 5番 柴崎憐一・・・生存中。内博美(女子七番)、笹川加奈(女子十四番)と共に行動
 6番 島崎隆二・・・死亡。新島敏紀(男子十四番)によって銃殺
 7番 田阪健臣・・・生存中。一人殺害。高田望(女子十八番)に遭遇するも、逃げられる
 8番 田辺卓郎・・・死亡。大島薫(女子九番)によって銃殺
 9番 千嶋和輝・・・生存中。梅原ゆき(女子八番)に襲われる。笹川加奈(女子十四番)と共に行動していたが代々木信介(男子二十一番)に襲われ、離れ離れに。後大迫治巳(男子二番)と行動
10番 中西諒・・・生存中。仲田亘佑(男子十一番)、新井美保(女子二番)と共に行動していたが、仲田亘佑(男子十一番)に襲われる。間一髪のところで新井に助けられる(?)
11番 仲田亘佑・・・死亡。中西諒(男子十番)を欺き、新井美保(女子二番)と共にゲームに乗った。一人殺害。中西を襲った時に新井により銃殺される
12番 永良博巳・・・生存中。初島勇人(男子十五番)、梁嶋裕之(男子二十番)と共に行動していたが、新島敏紀(男子十四番)に裏切られ、初島と梁嶋に死なれる
13番 那須野聖人・・・死亡。峰村陽光(男子十八番)に襲われた後、井上聖子(女子五番)により銃殺
14番 新島敏紀・・・生存中。ゲームに乗っている。四人殺害
15番 初島勇人・・・死亡。永良博巳(男子十二番)、梁嶋裕之(男子二十番)と共に行動していたが、新島敏紀(男子十四番)に裏切られ、銃殺
16番 姫城海貴・・・生存中。塩沢智樹(男子四番)から冬峯雪燈(女子二十一番)を助けた。伊藤愛希(女子四番)を探している
17番 飛山隆利・・・生存中。高城麻耶(女子十七番)を放送で呼び出し、塩沢智樹(男子四番)に襲撃される。後麻耶と合流。高田望(女子十八番)に襲われかける
18番 峰村陽光・・・死亡。那須野聖人(男子十三番)襲撃後、井上聖子(女子五番)に殺害される
19番 御柳寿・・・死亡。鈴木菜々(女子十六番)により毒殺
20番 梁島裕之・・・生存中。永良博巳(男子十二番)、初島勇人(男子十五番)と共に行動していたが、新島敏紀(男子十四番)に裏切られ、銃殺
21番 代々木信介・・・千嶋和輝(男士九番)と笹川加奈(女子十四番)を襲う。後死亡

298リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/16(水) 01:14 ID:2KqO5TgA
女子
 1番 天野夕海・・・死亡。井上聖子(女子五番)により銃殺
 2番 新井美保・・・生存中。中西諒(男子十一番)、仲田亘佑(男子十一番)と共に行動していた。三人殺害
 3番 有山鳴・・・生存中。柴崎憐一(男子五番)を捜索中。吉野水鳥(女子二十二番)に遭遇
 4番 伊藤愛希・・・生存中。荒瀬達也(男子一番)と共に行動。仲田亘佑(男子十一番)、新井美保(女子二番)に襲われた。高田望(女子十八番)を看取る
 5番 井上聖子・・・生存中。ゲームに乗っている。八人殺害
 6番 植草葉月・・・死亡。井上聖子(女子六番)により銃殺
 7番 内博美・・・生存中。柴崎憐一(男子五番)、笹川加奈(女子十四番)と共に行動。柴崎に命を狙われている
 8番 梅原ゆき・・・死亡。千嶋和輝(男子九番)と笹川加奈(女子十四番)を襲う。田阪健臣(男子七番)により銃殺
 9番 大島薫・・・死亡。一人殺害。何者かに刺殺される
10番 小笠原あかり・・・死亡。新島敏紀(男子十四番)により刺殺
11番 香山智・・・死亡。高田望(女子十八番)により刺殺
12番 黒川明日香・・・死亡。三条楓(女子十五番)に刺された後、新井美保(女子二番)により銃殺
13番 紺野朋香・・・死亡。伊藤愛希(女子四番)により銃殺
14番 笹川加奈・・・生存中。千嶋和輝(男子九番)と共に行動。梅原ゆき(女子八番)に襲撃される。代々木信介(男子二十一番)に襲撃された後、なぜか北川哲弥に遭遇。その後内博美(女子七番)、柴崎憐一(男子五番)と共に行動
15番 三条楓・・・死亡。黒川明日香(女子十二番)を襲うが、仲田亘佑(男子十一番)により撲殺
16番 鈴木菜々・・・死亡。御柳寿(男子十九番)殺害後、服毒自殺
17番 高城麻耶・・・生存中。飛山隆利(男子十七番)と合流。高田望(女子十八番)に襲われかける
18番 高田望・・・死亡。一人殺害。新島敏紀(男子十四番)に撃たれ、井上聖子(女子五番)により刺殺
19番 濱村あゆみ・・・死亡。仲田亘佑(男子十一番)に襲われ、新井美保(女子二番)により撲殺
20番 望月さくら・・・死亡。井上聖子(女子五番)により銃殺
21番 冬峯雪燈・・・生存中。塩沢智樹(男子四番)に襲われかけ、姫城海貴(男子十六番)に助けられた。姫城と共に伊藤愛希(女子四番)捜索中
22番 吉野美鳥・・・生存中。荒瀬達也(男子一番)と伊藤愛希(女子四番)、有山鳴(女子三番)の前に現れた

なんと「本文が長すぎます!」と言われたので二分割。

瞳さん>
受験生ですか・・・大変ですね;;
自分は全く受験勉強とかしてないのですが、ここで頑張れば絶対にいい結果になると思います。
後悔のないように頑張ってください。

えーっと、私は……
1、オス
2、17歳

あ、まじめに答えます。女で18歳です。

299リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/17(木) 22:01 ID:2KqO5TgA

「柴崎君、何やってるの」
唐突に声が聞こえ、柴崎憐一(男子五番)はびっくりして飛び上がりそうになった。

自分の前には内博美(女子七番)、そして、その斜め前の木に寄りかかって眠っている――はずだった、笹川加奈(女子十四番)が、自分を見ていた。


憐一は、内心、まずいと思いつつも、返した。「もしかして、寝たふりしてたの?」
加奈は自分を睨んでいた。「やっぱり、博美ちゃんを信用しなくて、よかった」

ため息をついて、続けた。「何やってたのかって、訊いてるのよ!」

加奈の意外な迫力に戸惑いながらも、言った。「思ったよりも怖いんだね。眉間に皺が寄ってるよ?」

加奈は博美を起こした。「博美ちゃん。起きて!」博美の体を揺さぶると、博美は目をこすりながら、加奈を見た。「加奈ちゃん? おはよう」
「おはようじゃないってば!」加奈は苛立ったように言った。「早く、逃げるんだから!」

憐一は銃を加奈に向けた。加奈の表情が強ばり、更に激しく博美を揺すった。
「博美、寝ぼけるなあ!」
博美は寝ぼけ眼で憐一を見ると、自分にポイントされている銃の存在もみとめて、固まった。

「柴崎君……? どうしたの?」

憐一は力を込めた。左手を添えるように置き、博美の額近くを狙おうとした。

撃て。撃つんだ。


憐一は引き金を引いた。


想像以上に強い衝撃が走って、博美の近くの木に穴が開いた。

手がびりびりした。耳がよく聞こえなくなるほどの音がして、憐一は顔を歪めた。



加奈は焦って、博美の手を掴んだ。
「博美ちゃん、逃げるよ!」と叫んだが、博美は驚いた表情のまま、憐一を見ていた。聞こえていないのかもしれない。


憐一はもう一度かまえていた。早く、逃げなきゃ!


「立ってってば!」加奈はつい、声を荒げた。

博美は加奈の手を握り、笑みを浮かべた。「心配しないで、加奈ちゃん。柴崎君は、今、怯えてるだけなのよ」
「何言ってるのよ、博美ちゃん……」


銃声が鳴り響く。


「加奈ちゃんは逃げて。わたしは、こうなったわけを訊くから」

理由も何もあるもんか。「博美ちゃん、立って!」加奈は叫んだ。

「大丈夫、加奈ちゃんは死なないから。あたしは、彼を理解してあげたいの」


加奈は思った。この子に何か言っても無駄だ。すっごい頑固で、絶対に自分の意見を捻じ曲げたりしないんだから。

「……もう、どうなったって知らないからねっ! 博美のバカ!」
加奈は言った。

もう一度銃声が鳴り響いて、加奈の近くを掠めた。思わず、頭を引っ込める。
「博美ちゃん、本当に行かないの……?」
博美は笑んだ。それが答えだと、感じた。



加奈は少々の罪悪感を感じつつも、走った。時々振り返ったが、何も見えなかった。時折、銃声が響いてくる。
――博美ちゃんの、バカ。


何で、そんな簡単に自分の命を投げ出せるのよ。



加奈は立ち止まった。私には、無理だ。誰かのためとか、今は何も考えられない。
「もうやだ……」加奈は座り込んで、顔を押さえた。

死んでほしくないって、思ってるのに。これ以上、誰にも。
でも、怖くて、博美ちゃんのことを連れ戻すこともできない。



ふと、気づいた。待てよ? 結局、私、武器持ってないじゃん! 寝る時に、万が一のことを考えて(柴崎君に、もし博美が襲われたら――護身用に)、博美ちゃんに銃預けちゃったし!(まあ、元々博美ちゃんの物なんだけど)

「あああああぁぁぁぁぁぁ……」加奈は力ない声をあげた。

300リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/17(木) 22:04 ID:2KqO5TgA

 憐一は博美を見た。苛立ちを感じた。逃げずに、なぜか自分の前にいる、このよくわからない女に。
「何で逃げないの?」

博美は微笑して、答えた。「柴崎君は、きっと怖いだけなんだよね」手を組んで、続けた。「右頬を殴られたら、左頬を差し出してあげなさいって、ママがいつも言ってた。そうすることであなたが救われるなら――」

博美は顔を上げて、明るい表情で言った。「でも、その前に、柴崎君がどうしてわたしを殺したいのか、訊かせてほしいの」
「別に……人数を減らそうと思っただけ」
「あなたは怖いのね。でも、人間は元々悪い心だらけだと言われてるけど、わたしは、それだけじゃないと思うの」


変な女。今まで会った中で、おそらくトップ。憐一は何だか戦意を失ってしまっていた。


博美は、憐一に近寄ってきた。憐一の手を握り締めて、言った。「怖くても恐れちゃ駄目よ。一緒に、この試練に打ち勝ちましょう」



憐一は苦笑した。

「あーあ、やめたやめた!」博美の手を払うと、言った。「あんたのそのバカみたいな真面目な面見てたら、殺る気なくした」

博美の顔が、ぱっと輝いた。
やった、わかってくれた。やっぱり、心から説得すれば、わかってくれるものなのよ。


「丸腰の女殺すのも、夢見悪いしな」


憐一は立ち上がって、そのまま歩き出した。



憐一の後ろ姿を見送りながら、博美は微笑を浮かべていた。朝になったら、また神様にお祈りしよう。


しかし、現実は残酷なものだった。博美本人には、実は、ずっと前からわかっていたことだが。
【残り19人】

301リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/18(金) 00:23 ID:2KqO5TgA

 新井美保(女子二番)と、中西諒(男子十番)は、H=8についた。千嶋和輝(男子九番)と代々木信介(男子二十一番)が争った、あの場所だ。

「いいところだね! 朝だからまだ涼しいし」
諒は黙っていた。何よ、いつまでも死人みたいに。美保は不満に思った。

「中西くーん。元気出して?」
「……ああ」
「何を悩んでるの?」
「……別に」
「そう」
二人は黙り込んだ。

諒が、言った。「なあ。新井は何か聞いてない?おれよりもよく喋ってたろ」
「えー? 聞くって何を?」
「あいつがどうやってゲームに乗ったとか……」
美保は眉を持ち上げた。「自分が生き残りたかったからじゃない? 他に理由なんてないでしょ」
「でも、あいつは確かにバカだし、やることはんぱないけど、まさか人殺しまでするようなヤツじゃ……」
「するようなヤツだったんだよ」美保は手を差し出して、諒の右手を掴んだ。
「でも、仕方ないじゃない。仲田君が悪かったわけじゃないし、中西君が悪いわけでもないし」
「……まあ」
「下降りてみよう。ここじゃ目立ちそうだし」


二人は階段付近に行った。


降り口付近で、男子生徒が倒れていた。顔ががくっと垂れていた。上を向いていた。
「ギャー。人間が倒れてるー」
「死んでるくさいな」
「ひえー。怖ーい」

美保はそう言いながら、通り抜けた。
やっぱり、色んなところで殺し合いが行われているのだと、改めて実感した。


美保はふと思った。中西諒。こいつは、何でこれっぽっちも私を責めないんだろう。まあ、はたから見れば正当防衛だし、仕方ないと思ってたのかな。
それと、何で私のことを疑う素振りを見せないんだろう。何で、友達の仲田より、全く関係のない、私の言うことを信じるの?

――違う。仲田のことも、信じてたんだ、と思う。どっちも平等に。

そこまで考えて、思った。こいつ、バカなのかな。頭弱いのかな。

まあ、好都合だけどね。


「中西君、移動しようよ……」そう言って、諒の腕を掴んだが、諒の視線の先に、目線を動かした。
「……笹川さん」美保は言った。

ちょうど真下にある公園から、笹川加奈(女子十四番)が、走ってきた。

諒が、言った。「あの子さ、この殺し合いゲームに乗ってると思う?」
「さあ。乗ってなさそうだけど」

美保の言葉を皮切りに、諒は階段を下り始めた。美保は驚き、後を追った。



加奈は目の前の男子生徒――中西諒の姿を見て、足をとめた。

嘘っ、何でこんな時に限って中西君に会っちゃったりするわけ?

どうしよう、どうしよう。
諒は息を弾ませ、加奈に視線を戻した。「どうかした?」と訊かれた。

加奈は驚いて、答えた。「いえっ、何でもないです」
「ならいいけど――」諒は後ろを向いて、女生徒の存在を認めた後、続けた。「何かに追われてるのかと思って」

美保が追いついて、言った。「突然走り出さないでよ。ビックリしたー」そして、加奈を見た。「あれ、笹川さん」
「新井さん、二人で行動してるの?」
「ああ……うん」美保は笑顔になった。
「そうだ、よかったら、えーと……あんたもどう?」諒が言った。

加奈は驚いた。



美保は内心怒っていた。中西ー! あんた、何勝手に誘ってるのよ。こんな子邪魔になるだけなのに。

加奈を見て、思った。仲田と一緒だったらすぐにでも殺してやったのに。やっぱ人選ミスだったかな。


美保は言った。「そうね、笹川さん。中西君ってこう見えて怖くないんだよ。安心して」

加奈は迷っている風に二人を見ていた。「二人は、ゲームに乗ってないの?」
「うん」諒が頷いた。「一人でいると危ないよ」

このバカたれフェミニスト男め。危ないどころじゃないっつの。


「うーん……どうしよう」


「信用できないなら、無理にとは言わないよ」
美保は言った。心の中では、断れ! と思っていた。

「ううん。私も武器なくて困ってたの。まだわかんないけど、でも新井さんなら……」

何で私? 私、あんたに何かしたっけ?
「そう? ありがたいなー」美保は笑顔で言った。

あー、面倒なことになった。美保は心の中で舌打ちしたが、思い直した。
まあ、こいつも利用して、殺しちゃえばいっか。

「あっ、これからどこに行くの?」加奈が訊いた。
「とりあえず、移動」諒が答えた。
「そっか。わかった」


予想外に能天気な中西諒と、お荷物な笹川加奈に、美保は頭をかかえた。でも、とりあえず加奈を殺そうと、思った。

あんたもただで天国に送ってあげる。感謝してね。笹川さん。美保はそう考えて、笑んだ。
【残り19人】

302リズコ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/18(金) 00:28 ID:2KqO5TgA
これからはもしかして更新が早くなるかもしれません。
正直、載せるのが面倒になってきているので(苦笑)

それと、こんなに文章力なさすぎで内容も稚拙な小説を、
読んでくださってる方々、本当にありがとうございます。

もう少し続きますが、もしよろしければでいいので、よろしくお願いします。

303リズコ </b><font color=#FF0000>(A7.uY2s2)</font><b>:2004/06/18(金) 00:42 ID:2KqO5TgA
ちょっとIDテスト

304リズコ </b><font color=#FF0000>(A7.uY2s2)</font><b>:2004/06/20(日) 00:33 ID:2KqO5TgA

 荒瀬達也(男子一番)と、伊藤愛希(女子四番)は、移動していた。銃声を聞きつけられた可能性があるから、移動しようと達也が言ったのだ。

愛希は、達也のワイシャツを掴みながら、急な斜面を登っていた。「疲れたよー」
「もうちょっとだから」振り向きもせずに、達也は答えた。

相変わらずムカつく奴。愛希はそう思ったが、以前より腹が立たなくなってきている自分にも、気づいていた。
しかし、ふと、疑問が湧いた。こいつはあたしに憧れてたって言った。でも、今はどうなんだろう? ワガママな奴だって思ったのかな。だって、他の男達みたいに、あたしに優しくしてくれない。
そう思って、愛希はなぜか、急に不安になった。

「荒瀬くん!」
「なに?」

達也がやっと振り向いた。愛希はほっとして、しかしほっとした自分に驚いた。
――何よ、これ。

「ここのエリアって、どこ?」
「へ? えーと……」達也は片手で地図を取り出し、確認しようとしていた。「E=7……ぽい」
「本当に?」
「たぶん……」

達也は愛希にデイバックを渡すと、自分は何もない地面に座った。
「休もうか」
達也が笑顔を見せたので、愛希は黙って頷いた。デイバックの上に、腰を下ろした。


愛希は訊いた。「荒瀬くんって、いつもこんな感じなの?」
「へっ?」達也は少々考えた後、頷いた。「うん。まあ」
「……変だな。あたしに惚れてる男は、もっと貢いだり、あたしのためなら命を捨てる覚悟も出来てますって感じなのに」
「伊藤の常識で言われても……」

でも、あたしが危ない時は、助けてくれたっけ。嫌味っぽいけど、あたしが落ち込んだ時には慰めてくれたっけ。疲れても立ち止まってくれないけど、休む時は、黙って、デイバック(座布団代わりだ、汚い地面になんて座れるわけないでしょ)と水を差し出してくれたっけ。


愛希は、おそるおそる、訊いた。「荒瀬くん、あたしのこと、まだ憧れてる?」
達也は少し驚いたような表情をして、それからためらうように、頭を掻いた。
「ううん」

ガーン。愛希は頭に石をぶつけられたように、ショックを受けた。

「何て言うか……憧れとかじゃなくて……」
「何?」愛希はじーっと、達也を見つめた。「もしかして、嫌いになった?」
達也は首を振った。
「じゃあ……好きになった?」
「……うーん……」

何よ。愛希は達也の答えを待った。
「てゆーか、伊藤彼氏いるだろ」
何だかはぐらかされた気持ちになった。

「何を今さら! あんたはそんなこと気にしなくていいのよ!」
「はは……何だそれ」

真面目に答えてほしい。愛希は恨みがましい目で、達也を見た。それと同時に、姫城海貴(男子十六番)のことを、思い出した。

海貴は今、何をしてるんだろう。今のあたしを見て、どう思うだろう。あたしは、あいつに何をしてあげただろう。いつも困らせてばっかだった気がする。


何となくノスタルジックな気持ちになって、愛希は黙り込んだ。
突然黙り込んだ愛希を、達也は放っておいた。

305リズコ </b><font color=#FF0000>(A7.uY2s2)</font><b>:2004/06/20(日) 00:34 ID:2KqO5TgA

 井上聖子(女子五番)は、高田望(女子十八番)を撃った後一度去ったのだが、戻ってきたらしい達也と愛希を見つけた。

その後二人が移動したので、つけてきた。すぐに仕留めればよかったのだが、できなかった。
聖子は腹の痛みに、身を捩じらせた。最悪。本当に最悪。こんな時に――生理がくるなんて。

立っているのも辛いほど、痛い。聖子は必死で二人の後をつけたが、時々襲ってくる倦怠感と、腹と腰の痛みに、座り込んで耐えるしか方法がなかった。
聖子は痛み止めの薬を取り出し、また噛み砕いた。少量の水で、喉に押し込むと、少々気分が落ち着いてきた(腹の痛みは健在だったが)。

せっかくの獲物を、ここで逃がすもんか。聖子は、達也達が止まったのを見て、それでも、にやりと笑った。



ふと、達也の目線がある場所で止まった。一視点を凝視した後、達也は愛希の手を掴んだ。
「えっ、何よ」

黙ったまま、デイバックを持ち上げた。愛希を立たせ、尻に引かれていたデイバックを肩にかける。

「逃げるよ」
愛希の表情が変わる前に、達也は走り出した。


「ちょっと待ってよ、誰かいたの?」愛希は叫んだ。
「人影が見えた。誰だかわかんなかったけど……」
「ゲームに乗ってない人かもしれないじゃない!」
「おれは、伊藤以外を仲間にするつもりはないから」


愛希は黙り込んで、走った。自分がぼーっとしてる時に、この男は神経を張って辺りの様子を観察しているのかと思い、何だか申し訳なくなった。



「……気づかれた……」聖子も走り出した。
腹がちぎれそうに痛かったが、それでも走った。

がくっと膝をついて、激しく息をついた。下着の中の不愉快な感触と、だるさと痛みが、辛かった。生理なんて、死ぬほど嫌だ。

聖子は立ち上がった。ここまできて、逃がすわけにはいかない。ゆっくりとだが、また、走り出した。



達也は息をついて、辺りを見回した。「……いなくなったかな」愛希に声をかけた。「大丈夫?」
愛希は頷いた。

「……荒瀬くん、デイバック、返して」
「へ? ……何で?」
「あたしが持つ。ごめんね」

初めて愛希の詫びを聞いたことを意外に思いながら、達也は場違いだが嬉しくなった。
「重いよ」デイバックを渡した。愛希は少々顔を歪めたが、デイバックを肩にかけた。「行こう。もっと遠くに離れなきゃ……」
「うん」

また、草を掻き分けるような音がする。
達也はポケットから銃を取り出した。そして、それを左手に収める。利き腕じゃないからうまくいくかわからないけど、持ってないよりはマシだ。
「行くぞ!」
「うん!」


振り返ると、小柄な女の子が見えた。口元には、かすかに笑みが浮かんでいたが、目はこちらを睨みつけるような強い表情だった。
――早い。


聖子の手に握られているイングラムが、すっと上がった。
達也の表情が驚愕の表情に変わり――

――イングラムが、火を噴いた。



静かな森に、マシンガンの音が響いた。

達也の肩と背中に、何個か穴が開いた。背中が反りあがり、口から血が噴射した。達也は顔を歪めた。

「荒瀬くん!」愛希は叫んだ。
倒れた達也を抱き起こした。「荒瀬くん!起きてよ!」


「伊藤……」達也は、言った。声を出すのも苦しかったのだが、かろうじて。
「逃げて……」

愛希の大きな目が、縦に開いたのが見えた。



愛希は叫んだ。「何言ってるのよ。あんたはあたしの番犬なんだってば! 早く起きろ!」
達也は薄目を開けて、愛希を見ていた。「起きなさいよ!」

愛希は達也の体を揺すった。その度に、達也が苦しそうに顔を歪めているのがわかったが、止めることができなかった。
「伊藤……」達也がかすかに声をあげた。悲痛さを感じる声音だった。


愛希が背後に人の存在を感じたのと、同じ瞬間だった。

愛希は後ろを振り向き、立っていた聖子に気づき、固まった。



今度は単発の銃声が聞こえた。



愛希の左胸に穴が開き、口から血を吐き出した。
そして、そのまま、達也の上に倒れこんだ。



聖子は腹をさすりながら、達也の手に握られていた銃を引き剥がした。
重いため息をつき、それでも、微笑した。ようやく、痛み止めの薬が効いてきた。

聖子の顔が歪んで、だんだん見えなくなっていった。
【残り19人】

306リズコ </b><font color=#FF0000>(A7.uY2s2)</font><b>:2004/06/20(日) 16:03 ID:2KqO5TgA
ちょっとテスト再び

307リズコ </b><font color=#FF0000>(A7.uY2s2)</font><b>:2004/06/20(日) 16:05 ID:2KqO5TgA

 荒瀬達也(男子一番)は、震える左手を伸ばした。伊藤愛希(女子四番)の腕に触れ、その震えに驚いた。

「い、とう……大、丈夫?」
訊いた後ですぐに、大丈夫なわけがないと、言ったことを後悔した。

すごく、とてつもなく辛かったが、起き上がろうとした。背中が焼きつくように痛かったが、ようやく、座りの姿勢になった。

愛希が倒れこんで、達也の脚の上に落ちた。腕をきゅっと握られて、愛希がまだ生きているのだと気づいた。

「いと……う」自分自身も声を出すのが辛かったが、どうにか呼びかけた。「ご、めん。番犬しっかくだ……」

 どうしようもなく、悲しかった。自分が重傷だということも少しはあったが、不甲斐なさと情けなさで、死にそうに、辛かった。


「そのまま、聞いて……」下を向いたまま、愛希が言った。「荒瀬くん、あたし、のこと、好きだった? 憧れじゃ……」
少しの沈黙後、蚊の泣くような声で、「なくて」と続けられた。

「うん。……すき、だよ」
「……そう」
愛希の右手が達也の肩を掴んだので、少々驚いた。愛希はか細く息をつきながら、達也に向き直った。

「あり、がとう」そう言って、口元を笑みの形に変えた。「あたし――」


達也は次の言葉が吐き出されるのを待った。


――が、いつになっても、愛希は何も言ってくれなかった。


「伊藤……」

達也の目からは、自然と涙が溢れていた。

――守れなかった。死んでしまった。

達也は痛む右手で(しかし麻痺してしまったのか、痛みはあまり感じなかったが)、愛希の肩を抱いた。命を失われて重くなった愛希の体を、それでも、力いっぱい抱きしめた。


時刻は、五時五十七分。二日目の朝の放送直前のことだった。
【残り18人】

308ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/21(月) 01:01 ID:2KqO5TgA

 何発かの銃声が聞こえた後、辺りは嘘のように静まり返った。姫城海貴(男子十六番)は、ほっと胸をなで下ろしていたが、焦りも募らせていた。

もうすぐ、朝の放送が始まる。そこに、自分の恋人――伊藤愛希(女子四番)の名前が入っていないよう、祈っていた。

冬峯雪燈(女子二十一番)は、地図を見つめて、何やら考え込んでいるようだった。それどころではなかったので、放っておいた。



「おはよー! 皆、起きなさーい。今日は音楽流してみたわよ。ちなみに曲名はモーツァルトの“レクイエム、セクエンツィアより 怒りの日”よ。他にもリクエストあったら言ってねー。じゃあ、今日も元気に殺し合ってね。死んだ人いきまーす!」

海貴は唾を飲みこんだ。

「えーっとー、男子は十一番仲田亘佑くん、十五番初島勇人くん、二十番梁島裕之くん。女子はー、四番伊藤愛希さん、十八番高田望さん」

茫然とした。至って古典的だが、持っていた鉛筆を落としてしまった。もう何も、聞き取ることが出来なかった。

雪燈は海貴をちらっと見つめて、海貴の代わりに、名簿にチェックを入れた。
「それでは、禁止エリアの発表よー! 一回しか言わないわよ。メモしてね。七時からはI=7、九時からE=9、十一時からC=4。わかったぁ? じゃあ、またお昼にねー、バイバイ」



「姫城……」雪燈は海貴の近くに寄り、肩に手をかけようとした。
「悪いけど……」海貴は顔を伏せた。「しばらく、そっとしておいて」

雪燈は手を引っ込め、「うん」と言って、離れた。


海貴がどんな気持ちなのかは、正直よくわからなかった。


海貴の栗色がかった茶髪を見つめた。思った。
考えてみれば、あたし、こいつとそこまで仲良くないよな。むしろ、悪いってわけじゃないけど……
少なくとも、あたしはこいつに対していい印象はなかった。そして、多分こいつも。

あたしのことを、ヤリマンのバカ女だと思ってるんだろうな。雪燈はぼんやりと、考えた。


雪燈が中年男とホテルに入って帰る時、その出入り口付近で、海貴にかち合った。海貴は伊藤愛希と一緒だった。

「あっ、雪燈。偶然だねー」愛希は明るく声をかけたが、雪燈は顔面蒼白になっていた。
「うん、偶然だね……」
実際、ラブホテルでの偶然なんて、そうあったものじゃないだろう。雪燈は気まずい思いで、そうそうに会話を切り上げた。

その時に、海貴は何も言わなかったけれど、何となく、表情に侮蔑の色があった気がした。

そういう目で見られるのは、もうとっくに慣れたから、いいけどね。

それでも、雪燈は悔しいような、悲しいような気持ちになった。その後、オヤジから渡された金には、しばらく手をつける気がしなかった。

309ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/21(月) 01:03 ID:2KqO5TgA

 だって仕方ないじゃん。ずっと、そうやって生きてきたんだもん。中二の時に家を飛び出してから。

雪燈は自分の家族に、何もかも嫌気がさしていた。父は、雪燈が十歳の時に、いなくなった。どこへ消えたのかはわからない。でも、お父さんのことだから、きっとどこかで生きているだろう。雪燈は子供心にそう感じていた。
それからは、母親と妹、そして雪燈の、三人暮らしになった。自由で放任な父と違い、母は厳格な性格で、どこか父親似の自分を、決して愛そうとはしてくれなかった。
母はいつも言っていた。“あんたの目が嫌いなのよ。その黄色い目が……”そう言われるたび、凄く悲しくなった。
雪燈は父親譲りの、とても綺麗な色の目をしていた。その目は見ている者を虜にするような、不思議なオパール色だった。

だが、母は雪燈の目を見るだけで、自分の夫(元夫と言った方がいいかもしれない)を思い出すらしく、不快な表情を浮かべた。そのせいで、雪燈は自分の目が嫌いになった。
思春期になった雪燈と母親の間には喧嘩が絶えなくなった。母はいつも妹の倫子ばかり可愛がり、自分には何もしてくれなかった。妹もまた、自分が姉より可愛がられているということで、雪燈を見下し、罵った。

耐えきれなかった。雪燈は髪を染め、ピアスを開けて、近所の高校生達とつるむようになった。不思議なことに、母にあれだけ嫌がられていた目の色を、その人達は褒めてくれた。
嬉しかった。ずっと自分の目は醜い物だと思っていた。でも、そう言われたことで、少し救われた気がした。

あのころが、一番楽しかったかも。何も考えなくてよかったし。流されるだけ。流されるまま、家を出た。

中二の夏、家を出る決意をした。別に特別な事件が遭ったわけではない。しかし、今までの塵が、窒息してしまいそうなほどに積もっていた。もう我慢出来なくなったのだ。
雪燈はその当時付き合っていた大学生の家で暮らし、家には全く帰らなくなった。家に帰らなくても、何も寂しいことはなかった。あんな冷たい血の繋がりより、赤の他人の方が温かい。そう思っていた。

やがて大学生と別れると、一人で街を彷徨った。そこで知り合った人と一夜を共にしたり、新しい男を作って家に転がり込んで暮らしたりした。
やがて、知り合った男に仕事を紹介してもらって、そこで働いた。勿論、普通のアルバイトではなかった。夜の店で、下働きとして働いた。
しばらくすると、そこの主人に売春を勧められた。最初は怖かったが、やってしまうとそんなに恐ろしくはなかった。一万円札が何枚も手に入る、それだけで満足だった。
体を使って稼ぐことに味をしめた雪燈は、やがてそれを日常的に行うようになった。こうやって生きてゆくのも、悪くない。そう思って過ごしていた。

懐かしいなー。あのころはあたしも若かった。まあ、今もだけど。

そんなことをしていても、本当は、楽しい学校生活に憧れがあった。今までは、経験できなかった。そのために、頑張って勉強をした。そして、この高校に入った。友達も出来て、雪燈は前より少し、幸せになった。
高校に入ってからは、濱村あゆみ(女子十九番)と一緒に金を荒稼ぎした。誘われるままにホテルに入って、先払いで逃げる。または客がシャワーを浴びている隙に、財布から金を盗む。そんな行為を繰り返していた。

そして、今。売春はやめて、あたしはなぜか、こいつと一緒にここにいる。何でだろう。

――まあ、成り行きだけどさ。

310ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/21(月) 01:05 ID:2KqO5TgA

 雪燈はもう一度海貴に近寄って、言った。「あのねー、ここ、もうすぐ禁止エリアなんだ」

海貴は、えっ、と言うように、振り向いた。
「移動しなきゃ……」うわ言のように呟く海貴の目は、赤くなっていた。

雪燈は言った。「愛希……残念だったね」

海貴は雪燈の方を向くと、無言で頷いた。

雪燈は後悔した。もっとマシな言い方はないのかよ。慰めにもなりゃしないじゃん。
こういう時に、何と言っていいのかわからなかった。何しろ、雪燈に道徳を教えてくれる人など、誰もいなかった。

それでも、何かを言って、慰めてあげたかった。
よくわからないけど、こいつ、今にも死にそうな顔してる。
でも、あたしには無理。国語苦手だし。


縦一列で移動していたが、不意に、海貴は、雪燈の隣にきた。
しかし、何も話さなかった。


雪燈はまた思い出した。ラブホ事件から一ヵ月後、海貴に偶然あったことを。


たまたま入ったファーストフード店で、海貴を見つけた。
あれ、姫城だ。微妙に気まずかったが、まあどうでもよかったので、そのまま入った。向こうは電話をかけていて、自分には気づかないようだったし。

「何でお前はいつもそうなんだよ。来れないなら早めに連絡してくれよ。よりによって、何で二時間も――」海貴は苛ついた口調で言っていた。どうやら、喧嘩をしているらしかった。雪燈はジッと、海貴を観察した。

ふと、海貴が携帯から耳を離して、恨めしそうな顔でそれを睨んだ。切られたらしい。

ぷ。雪燈は思わず笑ってしまった。

海貴は辺りを見回して、その時初めて雪燈に気づいたらしく、驚いた表情になった。
海貴は、雪燈の、笑いの形に広がっている口と、それを押さえている右手に視線を動かした。
……まずい。どうしよう。怒られるかな。気まずい思いが雪燈の頭を掠めた。

雪燈は少し頭を下げ、「ごめんね」と謝った。
顔をあげると、海貴はきょとんとした表情をしていた。「何謝ってんの?」

そう言って立ち上がると、あろうことか、雪燈の向かいの空いている席に腰を下ろした。
雪燈は言った。「いや、聞いちゃったから」
「ああ……」
海貴はわかった、と言うように相槌をうつと、冷たい表情になった。「別にいいよ」と、答えた。
それから、二人は沈黙した。

海貴が口を開いた。「すっぽかれちった」
雪燈はすっかり溶けてしまったシェイクを飲みつつ、訊いた。「さっきの電話……愛希?」
海貴は少し不機嫌な表情になって、頷いた。

「二時間も連絡しない、挙げ句の果てに来ないってどういうことだよ。昨日は一日中電話繋がんないし。この前だってさ……」海貴は愚痴をこぼしていた。どうやら、相当たまっていたらしい。
「あっ、ごめん。こんな話ばっかして」
雪燈は首を振った。別に聞くだけなら、話すよりも楽だし。毎度のことだし。

雪燈はにこやかな表情で言った。「でも、姫城君はそれでも愛希のことが好きなんでしょ?」
海貴はしばらく沈黙すると、答えた。「だから困ってるんだよ」ポテトを口に運ぶと、更に続けた。「わがままだし、時間も約束も守らないけど、いいとこもあるし……」
結局好きなんじゃん。雪燈は心の中で苦笑した。

「だったら仕方ないよ。本人に言ってみるしかないね」
勝手に海貴のポテトを摘んだ。ちょっと語彙がきつかったかな。雪燈は少し反省した。
「そうだよな。聞いてくれてありがと」
雪燈は無言で首を振った。

それから、くだらない話をして、すぐに別れた。

311ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/21(月) 01:07 ID:2KqO5TgA
ふと、海貴が言った。「そういえば、マックで会ったよね」
「うん。愛希の愚痴言ってた」
「……そんなこともあったな。懐かしい……」海貴は遠くを見ていた。

覚えてたんだ。雪燈は意外に思った。

「愛希……わがままでも何でもいいから、帰ってこないかな」海貴は目頭を押さえた。「無理だよな」


雪燈は何だか悲しくなった。悲しみは伝染するんだ。多分。


「元気出せー!」声を出して、海貴の手を持ち上げた。
「どうしようもなく寂しくなったら、あたしが慰めてあげてもいいよ」雪燈はそう言って、笑った。
海貴はきょとんとして、それから少し笑みを浮かべた。「まあ、気が向いたら、ね」



二人は、I=8についた。湿った、森の奥地のような場所だった。空気その物が柔らかく、木も草も、土も、自由に生きているかのように伸びていた。
朝露が雪燈の肌を濡らした。冷たいけど、不快な感じではなかった。

「雨が降って欲しいな」雪燈は、ふと呟いた。
横で、海貴が不可思議な表情をするのが見えた。
「何で?」
「全てを洗い流してくれそうだから。小雨じゃやだ。土砂降りになって欲しい」
海貴は不思議そうな表情をすると、「変なの」と言った。

雪燈は思った。変でもいいの。雨が降って欲しい。そう願っていた。
【残り18人】

振り分けミスで4つにまたがってしまいました。すいません。
そしてHN間違えたついでに変えます。
これからはノアで行くので、よろしくお願いします。

312111:2004/06/23(水) 21:53 ID:pN1s3kQU
age

313麻衣:2004/06/24(木) 21:29 ID:xYPJCKOY
伊藤愛希を応募した麻衣です!今まで小説ゎずっと読んでたんですけど、
書き込みゎしてなかったんです。愛希をこんなふうにつかってくださって本当にありがとうございます。
とっても楽しいですね☆この小説。ノアさん才能ありますよ!これからも頑張ってクダサイね♪

314ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/25(金) 00:27 ID:2KqO5TgA
111さん>
あげありがとうございます。

麻衣さん>
あ、はじめまして。読んでくれてありがとうございます^^
いえいえ!才能なんてとんでもございません(百歩後退
でも、ありがとうございます。
伊藤さんは私としても力を入れて書いたキャラなので、そういってくれて嬉しいです。
これからもちょくちょく出てくるかもしれませんので、良ければ読んでやってください。

すいません。ちょっとデータが飛んだので、更新遅れます。すぐ再開しますので、よろしくお願いします。

315ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/26(土) 12:11 ID:2KqO5TgA

 ここは、H=6の北東だ。G=6は既に禁止エリアになっていて入れないので、新井美保(女子二番)、中西諒(男子十番)、笹川加奈(女子十四番)は、そこで止まった。
境目になったこの場所は、古ぼけた、しかし大きな車庫になっていた。

「ここ、隠れ場所に最適じゃん」諒が言った。
「でも、襲われたら逃げられなくない?」
「その時はその時だよ」

なんてノーテンキな奴。美保は思った。つーかバカだ。絶対バカ。
――これから私に殺されるなんて知らないでさ。


美保はそう思って、後ろで黙り込んでいる加奈を見た。「……どうしたの?」美保は訊いた。
加奈は答えた。「えーっとね、私、さっきまでジュラちゃんと一緒にいたんだ。でも、柴崎君に襲われた時に……置いてきちゃって、今何してるのか気になって」
「へー……」
死んでるんじゃない? と言いたくなったが、やめておいた。

美保は加奈の手を握って、笑みを浮かべた。「仕方ないよ。笹川さんが悪いわけじゃないんだから、気にしないで」
「うん……」加奈は重苦しい表情のまま、頷いた。


「でも、頑丈だし鍵もかかるし、考えてみればいい場所かもね。誰もいないみたいだし……」

何も置かれていない無機質な空間。人の気配など全く感じさせなかった。
「さっさと入って鍵閉めちゃおう。見つかったら大変」美保はそう言って二人を促したが、加奈はそこで立ち止まったまま、動かなかった。
「……笹川さん、どうしたの?」怪訝になりそうになった表情を何とか抑え、美保は訊いた。
加奈は俯いていたが、顔をあげた。口をへの字に曲げていた。何かの決意を感じさせる表情。やがて、言った。「私、ちょっとだけ、見てくるね!」

美保は唖然とした。あんたが行ったところでどうなるって言うの? バカばっかり。


加奈は踵を返し、走り出した。


「笹川、一人じゃ危ないよ」
諒が言ったが、聞こえていないのか、加奈は振り向くこともしなかった。加奈を追うために走り出そうとした諒を、美保は止めた。

「駄目だよ。危ないよ」
「でも……あの子、銃も持ってかないで――」
この、バカたれフェミニスト男。

美保は言った。「中西君は行かなくていいよ。私が行くから」


美保は加奈を追いかけた。



「笹川さん」美保は加奈の後ろ姿を見つけると、肩に手をかけた。
「きゃああ!」加奈は驚いたように叫んで振り向いたが、美保だとわかると、ほっとしたようにため息をついた。

「あっ、ごめんね。ビックリして……」加奈は囁くように言った。
美保は辺りを見回すと、加奈の手にゴルフバッドを握らせた。
「早く帰ってきてね。はい、これ」
「うん……」加奈は頷いて、美保を見た。「新井さん、私、中西君のことは正直怖いと思うけど――」少し笑みを浮かべて続けた。「新井さんはいい人だし、信じるよ」

美保は半ば茫然として、加奈を見つめた。

「じゃあね」
加奈は美保の手を離して、森の奥へと走っていった。


――いい人だって。美保は自嘲的な笑みを浮かべた。

316ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/27(日) 00:55 ID:2KqO5TgA
あーあ。また間違えたー。アーもう嫌だ。

ジュラちゃん→博美ちゃん
です。

317:2004/06/27(日) 14:41 ID:JIIjiK.g
お久しぶりですたい
実は明日もテストですが・・・
まぁそんなことは気になさらずに頑張ってラストまで行ってください。
最近人生についてよく考えます(テスト中もでした)

318ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/27(日) 22:06 ID:2KqO5TgA

 美保はこつこつとドアを叩いた。諒はドアを開けて、辺りを見回すと、素早く中に入れた。

美保は鍵をかけて、諒に言った。「笹川さんにはゴルフバッド持たせといたから。すぐ帰ってくると思うし、心配いらないよ」
「そっか」諒は頷いた後、「座れば?」と言った。

美保は笑みを浮かべて、諒の近くに座った。
「ねえねえ中西君、お父さんって、どんな人なの?」
諒の表情が、微妙に狼狽するのがわかった。「何で?」
「気になったの。訊いちゃいけないんだったら、ごめんね」

諒はうーん、と唸ると、ぽつりぽつりと話し始めた。

前は普通の人間だった。母親を殴りだす前は。何があったのか知らないけど、突然会社をやめてきて、突然キレて暴れだしたと思ったら突然泣き出したり、突然無言になったり、何日も帰らないこともあった。母親の顔が、親父に殴られて腫れあがるのを見るたびに、どうにかしてお母さんを守りたいって思ってた。無理だったけど。
おれも親父に殴られて脳震盪起こしたんだ。入院して、見舞いに来た母さんの顔を見た時、おれは初めて本気で人を殺したいって思った。
――その願いがかなう前に、親父は死んだけどね。

諒はそう言った後、少し笑みを浮かべて言った。「暗い話でごめんね」
美保は首を振った。「ううん。無理やり訊いたのは私だもん。ごめん」美保は神妙な面持ちで、膝を抱えた。

諒の父親は、美保のよく知っている人間に似ていた。そいつは、もう、とっくにいなくなってしまったが。


美保は顔をあげた。
そうだ、こいつらいつ殺そうかな。中西はともかく、笹川はいつ殺しても問題なさそうね。勘ぐられないくらいに死んでくれないかな。今死んでくれたら、最高なんだけど。


「そういえばさ」諒に突然話を振られたので、美保ははっとして、返した。「何?」
「相良さん――」
美保は目を見開いたまま、固まった。
「最近見ないけど、どうしてんの?」

「え、何で……慶朗のこと……」美保は尋ねた。その声を聞いて、自分が幾分動揺していることに気づいた。
「いや、中学の先輩だったんだよね。結構仲よかったんだけど、最近連絡とれないから心配で――」
美保が黙っていたので、諒は続けた。「最初に聞いた時は、まさかあの人の彼女が自分のクラスの女だとは気づかなかったなー。よく訊いてみたら同じクラスじゃん! みたいな。すっげえびびった」
「あの人、今何してるの?」諒は訊いた。


美保は俯きがちな姿勢で言った。「私が訊きたいよ」
「へ? もう別れたの?」

美保は、少々の間沈黙していた。
「おい、新井?」諒は美保の肩に手を置こうとした。

美保はビクッとして、その後諒をキッと睨み付けた。「別れたよ。別れたって言うか、あいつが私の前から消えたの。私が妊娠したって言った次の日に」

……え? 諒は驚いた。



最低の男だった。浮気はするし、殴るし、束縛が激しいし、自分の自慢話ばっかりするし。いきがってるだけの、ただのバカな男。

けど、好きだった。

「妊娠って……産んだの?」諒の声が聞こえ、美保は首を振った。
「産む金も育てる金も父親もいないのに、産めるわけないでしょ」

産みたかった。私の子供。まだ形がなくて、一ミリもなくても、この腹の中で確かに生きているのかと思うと、愛おしさを感じずにはいられなかったのに。


「あいつは携帯も通じないし、アパートに行っても誰もいないし――」美保の目から、涙がこぼれ落ちた。「私、別に結婚してって言ったわけじゃない。あんな奴と結婚したら大変だもん。でも、責任も取らずに黙ってどっか行っちゃうなんて……」
「でも、何か理由があったのかもしれないし……」
「何が理由よ! 最低だよ、あんな奴。最低……」美保はうわ言のように呟くと、諒を見た。


思い出した。本当は、不良なんて死ぬほど大っ嫌いなんだよね。吐き気がするくらい。

だから――視界から、消えて。



「ごめん。余計なこと言った」諒は謝った。

「いいよ」

美保が諒に抱きついてきたので、驚いた。
「新井――」
「そんなこともうどうでもいいの。あいつのことなんて――」
その続きは、まだ言わなかった。ただ、柔らかい感触がして、美保の唇が、重なった。少々甘かった。

やめろ、まずいって――


――諒の頭の中では、理性と本能の乱戦(バトルロイヤル)が始まっていた。いわゆる、天使(理性)と悪魔(本能)の葛藤。

しかし、この勝負、どうやら悪魔の勝ちだったようだ。


諒は、美保の背中に手をかけた。



美保は諒の頭を抱きしめながら、密かに笑みを浮かべた。
【残り18人】

319ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/27(日) 22:14 ID:2KqO5TgA

 何でおれは生きてるんだろう。

仰向けになり、薄く閉ざされた目は、朝の森を映し出していた。
あまりに綺麗だった。雄大にそびえる木々も、緩やかに伸びた枝も、白ばんだ空も、聞こえてくる鳥の声も。
そして、隣には伊藤愛希(女子四番)の死体。

何だか最高にいい死に場所かもしれない。荒瀬達也(男子一番)は、そう考えて、自嘲気味に笑みを浮かべた。


焼け付くような背中の痛みも、もう消え失せていた。意識が靄を差したように重くなり、達也を包んでいた朝の風景も、幕を閉じるように急速に消えていった。

目を閉じると、愛希の顔が見えた。達也は何だか気まずくなって、愛希に謝った。
ごめん、伊藤。ごめん。

愛希は訊いた。
死ぬの? ――多分。もうすぐで。
もう痛くないの? 痛いけど、慣れた。
死ぬのって、怖い? 怖いけど、何も考えられない――

私が殺してあげようか、あんたのこと。

えっ――

突然、切り刻まれるような痛みが走り、達也は顔を歪めた。それと同時に、気づいた。伊藤愛希ではない。女子生徒の顔が、見えた。

「吉野さ――」
吉野美鳥(女子二十二番)は達也の上に乗りかかるような姿勢で、達也の左胸を掴んでいた。そのまま続けた。「伊藤さん死んだんだね。嬉しい」

達也はほとんど思考回路が機能しなくなっていたが、嫌な気分になった。

「あんたもバカみたい。こんな女に尽くしたって何の意味もないのに」
「お前に何がわかるんだよ」
そう言った後に、自分は本当に死ぬのだと感じた。声を出すのに、古いドアをこじ開けるような重さがあった。自分の体が死んでいくことに、達也は初めて違和感を持った。

「この女よりも私の方がいい女だもん。それに気づかないあいつはバカ。そんで、お前もバカ」美鳥は無機質な声で言って、空を見上げた。
「どうでも、いいけど……おりて」重いんだよ。痛いし。

「荒瀬くんはもっといい人かと思ってた。がっかりだね」


美鳥はスカートのポケットに入っていた武器――ハイスタンダードデリンジャー22口径を、達也の頭に向けた。

「バカな男には死の制裁」

達也の目が驚いたように美鳥に向けられ、それから、一瞬宙を彷徨った。


「最期に言い残したいことは?」
達也は少々の間を空けて、それから言った。
「い、とうは、いい女だよ。少なくとも、あんたよりは」



美鳥は力を込め、デリンジャーの引き金を引いた。



重い引き金を引いた後は、右手の人差し指のじんじんとした痛みと、痺れだけが残った。
「バカな男には死の制裁だ。ドッカーン」美鳥はよくわからない独り言を言った。

血まみれで死んでいる荒瀬達也の顔(血で覆われてよく見えなかったが)を見て、言った。
「私の方がいい女だもん。それに気づかない男はバカ。あんたもバカよ」


達也の死体が頷いてくれるわけもなく、美鳥は不満に思った。
【残り17人】

320ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/28(月) 18:43 ID:2KqO5TgA
瞳さん>
お久しぶりです。
テストですかー・・・早く開放されたいですよね。
かく言う私ももうすぐテストでございます。
まあレポートも多いんですけどね。

人生はなるようにしかなりませんよ(笑)
とりあえず、後悔しないように! が基本です。

わけのわからないレス返しですいません。テスト頑張ってくださいね。

321シン:2004/06/28(月) 20:02 ID:IIvKWY22
始めまして、シンです。
1日で全部見させてもらいました。
とても面白いです!!

322ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/06/29(火) 23:35 ID:2KqO5TgA
シンさん>
はじめまして。ってゆーか、全部読んでくださったんですか!(驚
こんなに長いのに、さぞかし疲れた事でしょう……
まあお茶どうぞ。(*=▽=)⊃旦

本当にありがとうございます。嬉しいです。読んでくださって。
稚拙な部分ありまくりですが、もし良かったらこれからもよろしくお願いします。

323ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/01(木) 20:48 ID:2KqO5TgA

 新井美保(女子二番)を抱きすくめると、骨だらけの背中ですら、随分と柔らかいことに気づく。小柄な体も、丸いフォルムを描いた体も、全て、自分とは全くの別物の物体なのだと思わせた。

「あいつのことなんてどうでもいいの。今が楽しければいい。そう、思わない?」美保は笑みを浮かべて言った。

美保に言われると、本気でそんな気がしてくるから不思議だ。勿論、それどころではない状況なのにも、気づいていたが。
「笹川が戻ってきたらどうするの?」
「鍵閉めてあるもん」

閉めだすのかよ。まあ――いいけど。


諒は、美保の体の一番柔らかい部分に触れた。



美保はブレザーの袖の中に入っていた剃刀をゆっくりと取り出して、諒の首筋に持ってきた。

ごめんね、そろそろお別れだね。私はもうちょっとしてもいいけど、笹川さんがくる前にさっさと殺さなきゃやばいでしょ。


「あのさ……」

今にも首筋を切り裂いてやろうと思ったその時に――諒が顔をあげた。


そして、美保の手に剃刀が握られているのを見とめた。


ちっ。美保は心の中で舌打ちをし、さっさとやればよかったと後悔したが、とにかく、それを振り下ろそうとした。


諒は驚いて、美保を力いっぱい突き飛ばした。


美保は後ろに倒れかけたが、しりもちをついた。「痛いよ、中西君」
「新井……」

諒は何かを言おうとしたが、美保は構わず襲いかかってきた。



コツコツとドアを叩く音がした。「新井さん、中西君、開けて」

笹川加奈(女子十四番)が帰ってきたのだ。諒は反射的にドアを見た。一瞬のことだったが、美保はその隙を見逃さなかった。

スカートの腰に差していたタクティカルナイフを取り出し、振り下ろそうとした美保に気づき、諒は夢中で蹴り飛ばした。
「うっ……」


美保は地面に転がり込み、腹を押さえて咳き込んだ。


やばっ。手加減してなかった。

一瞬謝ろうと思ったが、自分が殺されかけたのだということを思い出し、その言葉を飲みこんだ。


美保は床に這いつくばったまま、諒を睨んだ。



加奈はドアに耳をくっつけて、中の様子を観察した。よく聞こえないけど、がたがた音がする。まさか――

嫌な予感がして、加奈はドアを叩いた。「新井さん! 開けて!」



「笹川!」突然ドアが開いたので、加奈は驚いて飛び上がりそうになった。「逃げよう!」中西諒は加奈の手を掴んで、言った。

何で? 加奈は疑問に思ったが、美保を見て、その姿に釘付けになった。
「新井さん、どうしたの?」

美保は半ば放心したように、言った。「中西君に襲われたの」
加奈は不審の目で、諒を見た。
「違う。おれは殺されかけたんだよ!」諒は叫んだ。


加奈は二人を見比べた。どちらが嘘を言っているのかはわからなかったが、美保が苦しそうに息をついているのが、妙に痛々しく感じた。

「放して!」加奈は諒の手を振り払い、美保に向かって、走った。
「新井さん、大丈夫?」

近寄ったところで、気がついた。美保はくすくすと笑っていた。


「忘れてた。銃があったんだ」


美保は胸ポケットからそれを取り出すと、加奈に向けて、平行に持ち上げた。

324ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/01(木) 20:50 ID:2KqO5TgA

 加奈の目が、驚きで見開かれた。


銃声が響き、耳がじんじん痛くなった。
当たらなかったが、すぐ近くを掠めたような気がした。

「きゃああ!」加奈は叫んだ。

「笹川、いいから逃げろ!」
諒はそう言うと、加奈を押し出し、ドアの鍵を閉めた。


思い切り突き飛ばされたので、正直痛かった。
しかし――諒が自分を隔離してくれたのだ、と気づいた。

「中西君! 中西君!」加奈はドアを叩いたが、びくともしなかった。



ドアの中には、二人だけが残った。
「あれ、逃げないの?」美保は言った。銃口を諒に向けたまま。
口元には、笑みのようなものが浮かんでいた。


「できれば殺したくないけど、ここで、殺すしかないのかな」

美保はくすっと笑った。
「武器もないのに何言ってんだか」


同時に、ぱん、という乾いた音が響いて、肩に痛みが突き抜けてきた。

すぐに鋭い痛みが肩を伝って、全身まで響いてきた。肩口からドクドクと血が流れ落ちた。
「ぐっ……」諒はうなり声をあげ、倒れそうになったが、何とか持ち直した。


銃口を向けたまま、美保が近づいてくる。


すぐ近くまできて、諒の頭を撫でた。「いーこと教えてあげる」
そして、諒の耳元に唇を近づけた。

「仲田君にね、中西君を殺してって言ったの、私」やたらに甘く、囁くような声で、美保は言った。
「でも、殺しそうにもなかったから用なしになっちゃった」くすくすと笑った。


そんな。
そりゃあちょっとは考えたよ。
でも、そんなことはないと思ってた。
新井が――仲田を。



怒りが、沸騰するように溢れ出た。


ばん、と音がして、美保は倒れかけた。

「いった……」
美保は殴られた右頬を押さえて、うわ言のように呟いた。


諒は美保の上にのしかかり、首を絞めた。

「う……」

美保は苦しそうに息を漏らすと、自分の首を掴んでいる諒の手を、爪で掻き毟った。諒は更に力を込めた。


美保の目には涙が滲んでいた。声にもならない声が、美保の口から何度も漏れた。
「く、るし……」



――その時、諒の頭に、奇妙な感覚が生まれた。この細い首も、喉も簡単に潰すことが出来るんだ。おれがもう少し力を強めれば、こいつは簡単に死んでしまう。
諒の顔から、血の気が引いていった。


美保は諒の手を掻き毟るのをやめ、薄笑いを浮かべた。
「あんたも、私を殴るのね」


諒の手が止まった。この状況は、前に――見たことがあった。父親が母親に暴力を振るっている場面だった。母は非力で、弱い人だった。そんな母を、親父は殺した。
美保の顔が、母親の顔とシンクロした。

“諒、あんたは父さんみたいにならないでね”


――おれは、あいつと同じことをしてる。



耐えられなくなって、諒は美保の首を絞める手を緩めた。
駄目だ。やっぱり出来ない。


美保は激しく咳き込んでいたが、行動に出た。


茫然としている諒の股間に、思いっきり蹴りをかました。

「ぐっ……」
先ほどとはまた違う痛みに、諒は声を漏らし、そのまま床に這いつくばった。
美保は床に落ちたナイフを手に取り、スカートに差した。そして、諒を見た。
殺されるかもしれない、と思った。



美保は無表情のまま諒を見据えていたが、やがて言った。「先に笹川を殺してくる。待っててね」

美保はそれだけ言うと、外に向かって歩き出した。


笹川は……まだドアを叩いてる。何やってんだか。逃げろよ。
とりあえず、助けなきゃ――

だが、ショックと、刺された傷の痛み(実を言うと、股間の痛みも)で、動けなかった。肩からはドクドクと血が流れ、藤色の絨毯を赤く、濡らしていた。


今思ったけど、おれ、すっげーかっこ悪くないか?
かっこ悪すぎだな、かなり。


諒は、力尽きるように、地面に倒れた。【残り17人】

325ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/03(土) 18:44 ID:2KqO5TgA

 歩いているうちに、何だか不気味な森の中にきてしまった。田阪健臣(男子七番)は、疲れ果てて座り込んだ。
あれから一晩中歩き回ったが、見つけたのは死体ばかりだ。

御柳寿(男子十九番)と、鈴木菜々(女子十六番)の死体を見つけた。特に外傷がないところを見ると、二人は自殺したらしい。それから、初島勇人(男子十五番)、少し離れた場所で、梁嶋裕之(男子二十番)も死んでいた。二人とも、かなりの数の弾丸を浴びているようだった。

健臣は軽い眩暈に襲われた。死体を見ると、嫌な気分になった。前までは確かに動いていたのに、今はもう動かない。人形みたいなもんだ。

健臣は考えた。自分もやがて、そうなるのだろうか。真っ暗闇の中、永遠に何も見えない、何も聞こえない、何も感じないところ――

冷や汗が伝った。嫌だ。まだ死にたくない。


健臣は立ち上がって、逃げた。自分を襲ってくる、不安と恐怖から。それでもそれは、執拗に追い回す。健臣はとにかく、逃げた。



何かを見つけて、立ち止まった。人がいる。まさか、こんな森の中にいるなんて。午前七時になるというのに、ここはまだ暗い。健臣は、そっと覗き込んだ。


彼は体育座りで、微動だにしなかった。もしかして、死んでるってことはないよな。
健臣は、もう少し前に進んだ。

少しだけだが、顔が見えた。


――永良博巳(男子十二番)だった。
放心したように一点を見つめていた。目が真っ赤になっていた。

何があったんだろう。健臣は少々興味が湧いた。


ガサッ。


やっべ。健臣は足音を立ててしまったことを、後悔した。



永良は振り向いた。絶望を感じる表情だったが、それでも無邪気に笑っていた。
「あっ、田阪じゃん。久しぶりー」


博巳の顔を見ると、罪悪感のようなものが、健臣の頭を掠めた。

でも、俺はゲームに乗るって決めたんだ。こいつを殺さなくちゃいけないんだ。自分のために。心臓が高鳴った。健臣は、銃を強く握りしめた。


「どうしたんだよ。こっち来いよ」
唾を飲んだ。全く敵意はないようだ。勿論、自分を疑ってもいないだろう。

「ああ」健臣は頷き、足を進めた。


博巳は言った。「突っ立ってないで座ろうぜ。話す人いなかったから暇でさ」自分の隣のスペースを空け、手で叩く仕草をした。
少し不安だったが、健臣はとりあえず座った。

326ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/03(土) 18:49 ID:2KqO5TgA

「ここで何してたの」健臣は訊いてみた。
「あっのさー、聞いてよ」
何だよ。

博巳は話し始めた。「おれさー、敏紀と勇人と梁嶋と一緒にいたんだけどー、敏紀が裏切りやがってあのヤロウ。でさー、勇人と梁嶋が死んでさー」
それは、知ってる。でも言わなかった。

「でねー、おれだけ逃げてきたんだー。凄くない? 偉くない?」

どこが? 健臣にはよくわからなかった。

「おれが敏紀誘ったのに、おれが生きてるって凄いよね。巻き込まれちゃったよ、あの二人。可哀相だなー」

「おい、永良――」健臣は博巳の肩に手をかけた。「大丈夫か?」

博巳の目から、大量の涙がこぼれていた。

博巳の目は真っ赤に充血していて、目の下にはクマが出来ていた。濁りのない目が、今は兎の目のようだった。

「大丈夫じゃねーよ」そう言うと、博巳は顔を両手で覆った。そこから微かに、喉を鳴らす音が聞こえた。
「おれが最初に殺されればよかった……」


健臣は黙り込んで、自分の手を見た。銀色の銃が、鈍く光っていた。胃がギリギリと痛んだ。同情してる場合じゃない。


健臣は言った。「俺は、一度決めたことは最後までやり通したいんだ」
「へ?」博巳は顔をあげて、健臣を見た。視線を下に下げた。
健臣の手に握られている銃を見て、「へー」と、納得したように頷いた。

「でも……」健臣は苦しそうに、次の言葉を紡ごうとした。


「それなら最初からさっさと撃っとけよ。偽善者が」


心にグサッと刺さった。意外な一言だった。
悪かったな。どーせ俺は偽善者だよ。

博巳は更に続けた。「何迷ってたの? おれがぼけーっとしてる時に撃てばよかったじゃん。余計な同情しやがって。お前ならゲームに乗ってないと思ったのに。ざけんなよ」

カチンときた。
健臣は言った。「新島に殺されたと思えばいいじゃん。あの時に死んだと思って、その命を俺にくれよ」
「はあ? プロポーズみたいなこと言ってんじゃねーよ。実際殺されてないのに、何でお前にみすみす殺されなきゃいけないんだよ。せっかく生き長らえたのに」
「どこがプロポーズなんだよ。意味わかんねー。ってか、さっきは殺されとけば……とか言ってたくせに」
「あんなの言葉のあやに決まってんだろ。本気にすんなよ」

嘘かよ。健臣は無性に腹が立った。


健臣は立ち上がって言った。「同情した俺が馬鹿だった、今すぐ殺してやるからな」
博巳は中指を立てて言った。「そんな簡単に殺されてたまるか。おれが丸腰だと思うなよ!」


デイバックから銃を取り出して、かまえた。

……銃か。健臣は心の中で舌打ちした。

「ずーっと泣いてたくせに」健臣はおちょくるように言った。
博巳が少し赤くなったのがわかって、健臣は場違いだがおかしくなった。

「うるせー、泣いてねーよ。今まで知らなかったけど、お前結構ムカつく」
健臣はヘッと笑った。「お互い様だよ」


撃鉄を上げた。博巳はまっすぐに、銃を向けている。

「どうした、撃たないの?」博巳はおちょくるように言った。
「撃つよ、お前こそ撃たないのかよ」


そう言った瞬間、耳をつんざくような爆発音が聞こえた。
博巳の撃った弾は、健臣のすぐ後ろにあった木に当たった。



ビックリしたー。
……とか、呑気に驚いてる場合じゃない。冷や汗が伝った。あいつは本気だ。


「次は当てるから」博巳はそう言って笑った。
この期に及んでためらってる場合じゃない。

健臣は引き金を引いた。

327ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/03(土) 18:49 ID:2KqO5TgA

 その瞬間、博巳は銃を放り投げていた。
両手を上にあげて、降参のポーズをしたように見えた。


銃声が響いて、博巳の胸にそれが命中した時、博巳は笑顔を向けた。

「やるよ、それ」そう言って、そのまま地面に倒れた。



健臣はあっけにとられた。

健臣はかけよって、その銃を見て、更に博巳を見た。
「バカ、弾入ってない銃なんて役にたたないじゃん」健臣は呟いた。

「そうだよ。だから、おれの負け」博巳は力なく笑った。

してやられた、と健臣は思った。博巳の足を見た。血で赤く染まっていた。たった今、気がついた。

「あーあ、くやしいな。あの弾を外さなけりゃ、勝ってたのに……」
博巳は苦しそうだったが、口調は驚くほど軽く感じた。

健臣は答えた。「俺もくやしいよ。……余計なことしなくたって、俺はお前を殺せたのに」

いや、本当に殺せたんだろうか。何だかんだ言って、俺はいつもつめが甘いんだ。

博巳は笑みをこぼした。「どうせ、死ぬつもりだったから……」そう言って、空を見あげていた。



空を見上げたまま、目をしっかりと開けたまま、永良博巳は死んでいった。



健臣も静かに空を見上げた。この暗い森にも、ようやく、日の光が差し込み始めていたらしい。辺りは湿ったような、ひんやりとした空気が立ち込めていた。

健臣は思った。俺はバカだ。こいつの芝居に気づかなかった。普通にしてれば、殺さなかったかもしれない。そんな俺は、永良に全部見抜かれていた。
何だか悔しくなった。

「今度は負けねーからな」健臣は、博巳の死体に向かって言った。


答えてくれるはずもなかったが、博巳が少し満足そうな顔をしているように見えた。
【残り16人】

328ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/03(土) 18:54 ID:2KqO5TgA

「開けてー!」
笹川加奈(女子十四番)はドアを叩いた。手が赤くなっていたが、とにかく叩いた。
ゴルフバッドでも叩いてみたが、びくともしなかった。
「開けやがれってんだー!」加奈は叫んだ。


ドアが開いて、中から新井美保(女子二番)が出てきた。

加奈は少々怯えたが、訊いた。「中西君は?」
「もう死んだよ」
そして、美保は抑揚のない口調で、言った。「おめーも死ねよ」

ぞっとした。

「嫌っ!」
加奈は美保を突き飛ばして、走り出した。



――って、結局逃げてるし。何なんだ私は。

中西君、本当に死んだのかな。私は中西君を信用しなかったのに、助けてくれた。
加奈は自己嫌悪に陥った。


夢中で逃げ回ったが、足場ががたがたしていて走りづらい。焦りのあまり、足がもたついた。焦れば焦るほど、距離を縮められているような気がした。

このままじゃ、絶対追いつかれる。


背後で銃声が聞こえた。振り向くと、美保が追いかけてきていた。


イヤッ!
加奈は懸命に走った。


加奈は一瞬の判断で、東の雑木林の方へ走っていった。
もう限界だった。足を止めてしまえば、美保に追いつかれてしまうだろう。でも、これ以上走れない。体力はもう限界だった。

そうだ、私は元々体力ないし、足だって早い方じゃない。
無理だ。もう無理……。

加奈は藪の中に逃げ込んだ。
自分の心臓の音が、これ以上ないほど早くなっていると感じた。

329ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/03(土) 18:56 ID:2KqO5TgA

 千嶋和輝(男子九番)と、大迫治巳(男子二番)は、H=6の小さな小屋にきていた。小屋の中を物色していると、その耳に銃声が響いてきた。

和輝は言った。「治巳、近くに誰かいる!」

治巳は簡易レーダーを見た。「本当だ。えーっと、赤い点がオレらのエリアの端っこを動いてて――消えた」
「消えたって何だよ!」和輝は思わず声を荒げた。

「他のエリアに移動したってことだよ。オレ、えーっと、植草サンが死んでるの、見ちゃったけど、表示されてたから」治巳は答えた。
「そっか……」

それなら、まだこのエリアでは人が死んでないということか。和輝はホッとした。

「よかった……」和輝は呟いた。


――とか言ってる場合じゃない。
「移動したって、どこに?」
「えーっと、右に向かってったから……」治巳はポケットから地図を取り出した。「H=7?」
「よし、行こう!」和輝は言った。



数百メートルほど歩いただろうか。変な建物を見つけた。車庫? のような、大きな物置のような。
「ねー、入ってみない?」治巳は言った。
「何で?」
急いでるんだけど。あれがもし加奈だったら――

「ちょびっとだけ! 何かこの中、荷物がいっぱいあるし、見て、このドア」
治巳は笑みを浮かべて、ドアを指差した。

鈍器で殴られたような、ぼこぼこのドアが目に映った。何だかドアが可哀相だった。

「何だこれ……」和輝は呟いた。
「何かあったに違いないじゃーん」治巳は能天気な口調で言った。「入ろうぜ、ね?」


――まあ、仕方ないか。そもそも、治巳がいなかったら捜索などできないのだ。

「三十秒で出るからな!」和輝は言った。


デイバック、通学用バック、そして、何か――赤いものが、絨毯にべっとりと付着していた。


和輝はその光景を見て、血の気が引いた。ここに誰かがいたのは間違いなさそうだった。しかも、争ったのも、間違いなさそうだ。

治巳はデイバックの中身を調べていた。「地図、食料、半分くらい入った水、化粧ポーチ、血のついたタオル……」
どうやら、ここにいたのは女子のようだ。でも、加奈はデイバックを持っていない。

「誰だかはわかんないな」治巳が言った。
「笹川のじゃないよ。あいつのデイバックはもうないし……」

治巳は和輝の方をチラッと見たが、更に奥へと入っていった。
何考えてんだ? あいつ。


和輝はそこに突っ立ったまま、ガムを紙にくるんで、捨てた。
こんなことしてる間にも、加奈は――。和輝はイライラし始めた。
「治巳。もう行こうぜ。ここにいたってしょうがないだろ?」
耳を澄ませたが、何も聞こえなかった。和輝はたまりかねて、治巳の近くに寄った。


「聞いてんのかよ?」和輝は言った。

治巳は和輝を見た。もう一つのデイバックを漁っていた。
「こっちは男だな。メンズ物のワックス、キャスターマイルド……」
治巳は煙草を手に取ると、自分のポケットにいれた(盗みかよ、と和輝は思った)。


和輝は言った。「もういいじゃん。今は誰もいないんだから。さっさと行こうぜ」
治巳は何か言いたそうだったが、頷いた。「そうだなー。何も手がかりはなさそうだし。いこっか」
「うん」
和輝は焦っていた。

「よし、H=7、行くぞおおお!」体育会系の応援のように、治巳は言って、自分のデイバックを持ち上げた。
「おお!」どちらかというと文化系なのだが、和輝も声をあげた。

二人は東へと走り出した。
【残り16人】

330ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/04(日) 21:53 ID:2KqO5TgA

 千嶋和輝(男子九番)と大迫治巳(男子二番)は、小走りでH=7へ向かっていた。

治巳が、不意に口を開いた。「しっかし、つい最近まで、○○○(自主規制)って単語すら知らなかった和輝も、男になったんだねー」
何だよそれ。和輝はかなり照れくさくなった。
「悪いかよ!」

治巳はニヤッと笑みを浮かべた。
「悪いなんて一言も言ってねーじゃん。なあ、いつから好きだったの?」
和輝は少々迷って、答えた。「中二? の時だった気がする……」
「へー……」治巳はにやりと笑った。

その時、治巳がやたらと大きな声で、言った。「ここにいる千嶋和輝くんはー、中二の時から笹川加奈さんが好きでー、そのしつこい思いを、ついに伝えるそーでーす!」
「ばっ……何大声出してんだよ」
「和輝君はボケ老人並の精神を持ってますが、笹川さんへの思いは誰にも負けないと申しておりまーす」

夜の闇に、声は空しく響いた。

「誰かに見つかったらどうするんだよ! バカ!」和輝は治巳の口を押さえようとした。

治巳は、ぼそっと呟いた。
「いいよなあ。オレも、最後に人目、見たかったな、あいつの顔」

和輝はその言葉を聞いて、若干悲しくなった。「……まだ死ぬって決まったわけじゃないだろ」

治巳は和輝の顔を寂しそうに見た。今度は小さな声で、ぼそっと呟いた。「そうだよな。まあ、そうなんだけど……」
治巳はくぐもって、下を向いた。


何だか無性に切なくなった。

和輝は大声で言った。「長戸は生きてるんだからいいじゃねーか! 同じクラスの俺の身にもなってみろよ! 好きな女と殺し合わなきゃいけないんだぞ! 今死んでるかもしれないんだぞ! お前は幸せだよ!」


朝っぱらから、道を大声で叫びながら走る男二人を、もし他の人間が見ていたらどう思うだろうか。いや、ここではさっさと射殺するだろう。
全く、時代遅れの青春映画の、とある一場面のようだった。

殺しあいが行われている公園の中では、いささか異例な場面だったに違いない。


治巳の足が突然止まったので(和輝は走り続け、一メートルほど離れたが)、振り向いて治巳の傍に駆け寄った。
「どうしたんだよ?」

声を出すと、息が出来ないほど苦しいことに気づいた。どうやらテンションとは裏腹に、体は相当疲れていたらしい。

治巳は短く息をつきながら、地面にへたり込んだ。
やがて、言った。「そうだよな。オレだったら、耐えらんないよ。でも、反対の立場じゃなくて、よかった」
まだ心臓の動悸は治らないようだった。少し間を置いて、続けた。「あいつがオレの知らないところで殺し合ってるなんて、絶対嫌だ」

そのままうずくまった。和輝は何と言っていいのかわからず、黙って治巳を見ていた。

「あー……走りすぎた」治巳は呟いた後、苦しそうに、和輝に言った。「お前、もしかして、オレより持久力あるんじゃねーの?」
和輝はだんだんと意味を理解した。「当たり前だろ。お前とは鍛え方が違うんだよ」と、答えた。
「どこで鍛えたんだよ。メッチャ文化系のくせして」治巳は笑った。


治巳の気持ちは、痛いほどわかる。オレだって――自分のいない場所で加奈が殺されるなんて、耐えられない。和輝は一刻も早く、加奈に会いたくなった。

331ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/04(日) 21:55 ID:2KqO5TgA

 和輝達が青春映画を繰り広げていたころ、笹川加奈(女子十四番)は、疲れ切って、怯えていた。

加奈は森の茂みの中に隠れて、息を潜めていた。新井美保(女子二番)はすぐ近くにいて、加奈を捜しているのだろう。見つけて殺すために。

ああ、見つかりませんように。早くあっちに行って。お願い――。加奈は祈った。恐怖で、膝がガクガク震えた。駄目、震えないで。自分の足を、懸命に押さえた。


ガサッ、と近くで音がして、加奈の心臓は跳ね上がった。

「きゃあ!」加奈は思わず叫んだ。
何かがいる。月の光に照らされて、二つの目が銀色にキラリと光った。

――しかし、まずい。


美保は声のした方を振り向くと、言った。「ああ、そこにいたのね。待ってて、今行くから」優しげな口調が、とても恐ろしかった。
その動物は、猫だった。にゃあーと鳴き声をあげ、加奈の膝に乗ってきた。
ああ、何でこんな時に――。加奈は震える手で、猫を抱きしめた。まだ子猫のようだった。猫はにゃーにゃーと、可愛い声で鳴いた。
足音が聞こえてくる。怖い。逃げなきゃ。でも、足が動かない――



ガサッと、茂みをかき分ける音がした。美保の顔が見えた。
「みーつけた!」美保は明るい声で言った。
加奈はビクッとして、その場にしりもちをついた。

美保は言った。「そんな怖がらなくても大丈夫よ。すぐ終わるから」


嫌だ、やだ!加奈は何とか逃げだそうと立ち上がった。
よろける足で、逃げ出した。猫も加奈の後をついて走り出した。

「まだ逃げるのー? いい加減にしてよ、もー」
美保は不機嫌そうな声を出して、ゆっくりと歩いた。


美保は銃を撃った。

ぱん。
「ひっ!」

銃弾は加奈の頭のすぐ上を掠め、遠くに飛んでいった。

美保は得意技の、天使の笑みを浮かべた。
「今度は当てるよ。どこがいい? 足? 肩? 耳? それとも、いきなり心臓でもいいかな――」


やだ、新井さん。何でこんな風になっちゃったの?
信じられなかった。美保は女の子らしくて、可愛らしくて、他の人を気遣える、優しい子だと思っていた。
――思っていた、既に過去形だ。


加奈はそれでも、逃げた。足がもつれた。



美保はもう一度撃った。



その弾は加奈の左腕に当たり、加奈は前のめりにドッと倒れた。
振り向いて、美保を睨んだ。

「次で最後ね。心臓と頭、どっちがいい?」美保は楽しそうに笑った。

嫌だ。まだ死にたくない! 加奈はそう思った。

生きるか死ぬかの瀬戸際なのに、一瞬、加奈の意識は違うところに飛んでいった。

332シン:2004/07/05(月) 19:32 ID:l2nOtyR6
うわぁ〜!!続きがすごい気になります!!
頑張ってくださいネ!!!!!

333ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/05(月) 23:29 ID:2KqO5TgA

 中学時代のことだ。二年の冬、もうすぐバレンタインだ。しかし、北川先輩が卒業してしまったので、加奈にはあげる人がいなかった。
まあ、今年はどうでもいっか。そう思っていた。

ある日の帰り道、加奈は後ろから、千嶋和輝に呼び止められた。
「よう。久しぶり」
「あー、そうだね。クラス離れちゃったしね」
そう、クラス替えで、和輝と加奈は別のクラスになっていた。だから、こうして話すのは、久しぶりだ。
しばらく二人で話した後、和輝は言いにくそうに、でも、はっきりと言った。「今年、チョコあげる奴いるの?」
意外な質問だった。加奈はすっかり、バレンタインのことなど忘れていたのだから。

「んー?そうだなー。特にいないかも」加奈はそう答えた。
和輝は妙に間をあけて、「そっか」と言った。
何だ? 大して気にも留めなかったが、ふと、思いついた。あっ、さては……
加奈はニッと笑った。「わかった。和輝、チョコ欲しいんでしょー?」
「ちっ、違うよ! 違わないけど」
どっちだよ。
加奈はフフッと笑った。「よしよし。誰にももらえないと恥ずかしいから、私にもらおうと思ってたんだー! そうでしょ? どうしよっかなー……」
和輝は一瞬間を空けたが、言った。「そう、誰からももらえないと悲しいから、先に手回しとこうかなーと思って!」

少し意外だった。和輝はそういうことを気にするタイプには見えなかったからだ。
でも、何だかおかしかった。やっぱり誰からももらえないのは男として、プライドが許さないのか。
「やっぱり。じゃあ考えとくね!」加奈はそう言って、和輝と別れた。

そして、決戦の聖バレンタインデー。加奈は和輝にチョコレートを買っていた。三百円の安物だったが、中学生の小遣いの中でだから仕方ないだろう。
加奈は和輝の教室に行って、チョコを渡そうとした。
「ねーねー、和輝どこ?」和輝と同じクラスだった男子に訊いた。「あー? 和輝ならあそこだよ。何かモテてるぞ」

人差し指の指している方向に、和輝が見えた。女子三人組にチョコをもらっていた。
「あげるー! 絶対食べてね!」
「あ、ありがと……」和輝は照れながらも、礼を言っていた。
その目が加奈を捉えて、あっ! と言うような表情をした。

加奈はなぜだか腹が立って、そのまま教室を去ってしまった。何だ、もらう人いるんじゃん。買って損した。

背後から「笹川!」と言う声が聞こえたが、無視してズンズンと廊下を歩いていった。
「おい、待てってば!」和輝が加奈の手を掴んだ。
廊下を行く人々が、二人をジロジロ見ていた。
「……何?」加奈はぶっきらぼうに答えた。
和輝は息を弾ませながら、訊いた。「何か、用あったんじゃないの?」
加奈は気まずい気分になりつつも、まだぶっきらぼうに答えた。「別に、何も」
和輝が加奈の手荷物を見た。「それ……」

更に気まずい気分になった。ああ、もう! 加奈はズイッと、それを渡した。
「一応、持ってきただけだからね!」
和輝はしばらく、それを、茫然と見ていた。
何よ。不満なの? 加奈は不機嫌そうな顔で、和輝を見た。

不意に和輝の顔が、ほころんだ。「ありがとう」和輝は照れながらも、そう言った。
加奈は、何だかあっけにとられてしまった。そんな。三百円の安物に、そんな嬉しそうな顔されても――。
加奈は戸惑った。「ううん。気にしないで……」

気づくと、周りの人達がニヤニヤしながら二人を見ていた。はやしたてる生徒もいた。加奈は何だか猛烈に恥ずかしくなった。「じゃ、じゃあね!」

急いで立ち去った。何かが怖かったから。

何が怖かったんだろう? あのころは全くわからなかった。でも、今なら少し、わかる気がする。

私、ちょっと、和輝のことが好きだった。勿論北川先輩のことも好きだったけど、それとはまた違う感情。それに気づくのが、怖かったんだ。

そして今も――こんなに和輝に会いたいと思ってる。
そんな自分に、初めて気がついた。

334ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/05(月) 23:32 ID:2KqO5TgA

 加奈の瞳からは涙が溢れだした。
美保はフッと笑って、言った。「選べないみたいね。じゃあ特別に、心臓に銃弾をぶち込んであげる」笑んだまま、銃口は加奈の心臓を狙っていた。
加奈は無意識に、左胸を両手で押さえた。

「そんなことしても無駄よ。逃げたって無駄。必ず心臓をぶち抜いてやるから」


加奈は絶望で目を閉じた。もう――駄目だ。

最後に、和輝にお礼が言いたかった。自惚れてるのかもしれないけど、和輝は多分、私のことを思っていてくれた。多分、ずっと前から。
私、なんて馬鹿だったんだろう。



絶望を感じていた加奈の耳に、男子生徒の声が聞こえた。

「笹川!」


一瞬、和輝かと期待してしまったが、すぐに声音が違うことに気づいた。


「走りすぎ……」

肩に包帯を巻いた長身の男――中西諒(男子十番)は、息をつきながら、立っていた。


「何なのよ、私を殺しにきたの?」美保は叫んだ。
「死んでよ!」


引き金を引こうとしたが、かちん、と音がして、美保の表情が固まった。
弾がない。美保はチッと舌打ちをして、銃を地面に投げ捨てた。


腰に差さっているナイフを取り出し、諒に襲いかかってきた。



諒は美保のナイフをかわすと、ナイフを持っている右手を掴んだ。

「新井、訊きたいんだけど」
美保の手を捻った。その手からナイフが落ちた。「痛い……何よ」

「何で仲田を殺したの?」

美保は叫んだ。「さっき言ったとおりだよ。仲田に中西を殺せって言ったの。それで、強かった方の仲間になって、守ってもらおうと思っただけ! 何が悪いのよ!」



諒は一瞬辛そうな表情になったが、美保の手を放した。

「悪いけど、ここでおさらば。新井はおれのこと殺せないし、おれは新井のこと守れないよ」

美保はふっと笑った。「今さら守ってもらおうなんて思ってないよ」
そう言った後、加奈に目を向けた。「笹川さん、ラッキーだったね。まあ、どっちみち弾切れだったんだけどさ」


「新井さん……美保ちゃん!」

加奈は叫んだが、美保は振り向きもせず、去ってしまった。



取り残された加奈は、諒を見た。鋭い表情で睨まれたので、少々怯えた。

ひー。どうしよう……

「その肩の傷……」諒は指差した。「止血した方がいいよ」
加奈はおそるおそる、訊いた。「中西君、その包帯は何処から……」
「卓郎が持ってた」

何で? よくわからない……田辺君。


「ちなみに裁縫セットも持ってんだ、あいつ。というわけで――」諒はやや笑んだ。
「お医者さんごっこでもするか」

加奈は度肝を抜かれた。「嫌だー。怖そうー、痛そうー!」
「我慢して」


諒は加奈の手を引っ張り、元の場所へと帰っていった。

335ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/05(月) 23:34 ID:2KqO5TgA

 新井美保は、森の中を歩いていた。
殺したかった。だが、出来なかったと後悔した。

やっぱり正攻法で中西に勝てるわけがないか。


そして、諒に言われたことを、もう一度自分の中で問いただした。なぜ、中西でなく仲田を殺したか――

それは、仲田の顔が、一瞬あいつに見えたから。耐えられなくなって殺した。


仲田君、こんな理由でごめんね?
私は義朗が死ぬほど嫌いだから――あんたも嫌い。



がさっ、と音がして、その時、ようやく自分の後ろに人がいることがわかった。

やだ、私、そんなにぼーっとしてたの?
美保は危機感を感じて、振り返った。


「お嬢さん、そんなところで何してんの?」
新島敏紀(男子十四番)は、弾む声で言った。

何こいつ。


この暑いのに学ランなんか着てる奴。そのくせにあんまり暑そうに見えない奴。
手に、マシンガンなんか抱えちゃって――


銃口からシャワーのように弾丸が噴き出し、美保の体はふっ飛んだ。


地面に倒れ、一瞬の間の後に、痛みが広がっていく。


美保は腹を押さえ、うめいた。
「やだ、痛い……」美保は呟いた。


敏紀は近寄ってきて、美保の髪を引っ張った。
「痛い?」
「いたっ……」美保は涙を流した。「やめて、痛いの」

「ふーん……」敏紀は笑んだ。

何なのよ、こいつ。女の子に対してこの扱いは何?
腹が立った。


そして、死に対する危機感を感じたらしく、様々な思い出が甦った。

私は義朗が死ぬほど嫌いだから――


――嫌いだけど、愛していた。
殴られても、浮気をされても、愛していたのだ。


――だから、仲田君、あんたも嫌い。



もう一発銃声がして、美保の額に穴が開いた。


美保は血を噴き出し、ガクッと頭を垂れた。



敏紀は美保の頭から手を離した。愛らしかった元の顔を若干とどめたまま、新井美保は死んだ。

なぜか、かばうように、腹部を押さえていた。
【残り15人】

336ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/06(火) 00:02 ID:2KqO5TgA
シンさん>
中途半端なところできってすいません(笑)
結果、こうなってしまいました。

頑張ります。応援ありがとうございます。

337:2004/07/06(火) 20:14 ID:wO.phNxY
うぉぉぉぉっ!!
死ぬかとおもった〜(誰目線?
おもしろぃいぃのでがんばてください

338鼾 </b><font color=#FF0000>(.Dhm8Ge6)</font><b>:2004/07/07(水) 14:24 ID:7wLn8sCk
いやー。恋の切なさがシミジミと伝わってきました。(浸
こんばんは☆ お久しぶりです(遅
千嶋君と笹川さんの二人が互いに錯綜する思い。バレンタインのエピソード。
ほんとに逢って欲しいですねぇ。笹川さんが危機になってた所が、驚きました。
新井さんは少し憎まれ役ですね。 ……恋よ来い(激謎??
的外れな感想すみません(−−)m 次回が楽しみです(*^ー^)ノ☆。・

339ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/07(水) 17:44 ID:2KqO5TgA

 ここはH=2。学校だ。たくさんのコンピューターが置かれている、冷房がガンガン利いたパソコン室の中で、北川哲弥は忙しくペンを走らせていた。

「えーっと、今、新井美保が死んで、死亡時刻が九時十二分……」

ペンを走らせながらも、頭は違うことを考えていた。
加奈。あいつ――運強いな、と思っていた。

哲弥は、近くにいた横山豪に話しかけた。「横山さん、今回のトトカルチョ。人気は誰なんですか?」

横山は、パソコンから目を離すと、近くにあったプリントを見た。「ああ、えーっと、一位大迫治巳、二位中西諒、三位梁嶋裕之、四位新島敏紀、五位仲田亘祐。この五人は結構僅差だよ」横山は言った。
「全員男子ですね」
「今のところはね。高校生じゃ身体能力の差もあるし、どうしても男子に人気が集まりやすいんじゃねーかな」

哲弥はふと気になって、訊いてみた。「大迫が一位って意外だなあ。確かに運動神経はいいけど、頭は普通だし、他に変わったところも――」
「何だ、生徒資料見てないの?」

見てない。北川はムッとして、訊き返した。「大迫は何で人気なんですか?」


「ああ。プログラムの統計をとったらね、過去に何らかの傷を受けた人間は、こういう命の危険に晒されたゲームで、突然力を発揮するんだ。その場合、多くは殺人マシーンになる」
「大迫……何かあったんですか?」


横山はじらすように間を空けると、ゆっくりと言った。
「六年前、こいつの家族が全員、殺されたんだよ」


哲弥は驚いて、それでも思い出した。随分前に、世間を騒がせた事件。

「その話、聞いたことあります」
「だろ?」横山は少しだけ笑んで、更に続けた。「大迫をいれて五人家族だったっけ。暴漢に襲われてさ。犯人はすぐに逮捕されたらしいんだけど、明らかに精神的な異常があったから、罪に問われなかったって奴だよな」
「へー……」


――S県一家殺害事件。十歳の次男を除き、全員が惨殺。犯人は母親(三十五歳)と、父親(三十八歳)の腹を執拗に裂いた後、火をつけて逃走。学校から帰宅した長男(十五歳)は家族を助けるために自宅へ入り、焼死体となり、発見された。

その事件は、昔、テレビでよくやっていた。

そのころ哲弥はまだ中学一年生だったのだが、子供心にも、世の中はぶっそうだな、と思ったものだ。


哲弥はまた訊いた。「大迫治巳は、何で助かったんですか?」
横山は、傍にあったブルーマウンテンを飲みながら、言った。「友達の家に遊びに行ってたらしい。実際、帰宅して、自分の家族が無惨に殺されてたら、もの凄いビビるだろうな」


そりゃそうだ。

哲弥はその光景を思い浮かべた。その時、大迫はどんな気持ちだったんだろう。それは、俺にはわからない、計り知れない苦痛だったに違いない。

「だからその事件は大迫には責任ないんだけどさ、どこからかそういう噂が流れてくると、自然にトトカルチョの人気が集まってくるわけだよ」


……悪趣味な奴らだ。北川はそう思ったが、すぐに自分のことを思い浮かべた。
俺も、同じか。

「子供のころに嫌な思い出があった奴は、心に傷が残る。それがある瞬間に、狂気になって発散されることを期待して、ここまで人気が集まったわけだ。オレは中西が一番だと思ったから、正直意外だったよ」横山はそう言って、更に続けた。「まあ、こいつよりずっと新島や井上の方が怖いけどな」
「そうですね……」


哲弥は思った。中学の時、プログラムに選ばれなくてよかった。もし選ばれていたら、自分はゲームに乗るのだろうか。それとも、仲間を探して、逃げだそうとするのだろうか。それとも、諦めて、自殺するのだろうか。まあ、それはわからない。

大迫のことで、まだ何かを忘れていたような気がした。でも、大したことではない気がした。哲弥は更にペンを進めた。

そういえば、こいつ、今千嶋といるんだよな。

千嶋和輝(男子九番)の、先ほどの絶叫告白を思い出し、北川は苦笑した。
あーあ、若いっていいねー。俺にはそんな力はないや。

でもまあ、頑張れよ。俺は助けてやれないけど――頑張れ。
【残り15人】

340ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/07(水) 18:07 ID:2KqO5TgA
瞳さん>
間一髪でした(誰のこと?

ありがとうございます。稚拙なのは誤魔化しようがないですが、
そう言ってもらえると頑張ろうという気持ちになります。
これからもよろしくお願いします。


鼾さん>
お久しぶりです。またもや感想、ありがとうございます。
千嶋君と加奈ちゃんはかなりニアミスのところですれ違ってしまいました。
2人が会えるかどうかは私次第です(笑)
恋よ請い(謎

まあとにかく、これからも読んでいただけたら幸いです。
鼾さんの小説も応援していますね。

341ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/10(土) 09:16 ID:2KqO5TgA

 笹川加奈(女子十四番)と、中西諒(男子十番)は、H=6の小屋に戻ってきていた。

「いって! 痛いって。そんな思いっきり刺すなって。いってー」諒は言った。
「私だって痛かったんだからおあいこだよ」加奈はそう言って、諒の肩に針を刺した。
「いて! 痛い!」諒は叫んで、それから言った。「こんな適当な手当てでいいのかな。一応針も糸も洗ったけど――」
加奈は糸を切った。「やらないよりはマシでしょ。つーか中西君が言い出したんだよ」
それから、諒の肩に包帯を巻いた。「よっし! できあがり」

「はー、やっと終わったか。サンキュ」
諒はほっとため息をついて、新しいワイシャツに着替えていた。


「ところで……」諒は辺りを見回して、言った。「何だこれ……荒らされてるし」
デイバックを漁って、悲痛な(?)声をあげた。「あっ、おれの煙草がない」
「ここに誰か来たのかな。鍵開けっ放しだったもんね」
「ま、いっか」諒は加奈を指差して、言った。

「えーっと、笹川さん、煙草持ってない?」
「……私が持ってると思う?」
「あんま思わない」

加奈は笑った。「でも、中西君、何かイメージ違うね」
「へー。おれってどんなイメージ?」
「クールで、キレると手に負えなそうで――」
「そっか……」
諒は黙った。


諒は立ち上がって、言った。「じゃあ、おれそろそろ行くよ」
「へ? どこに?」
加奈は少々驚いた。そして、少々寂しく感じた。
「タバコ探しの旅」

何それ。

「私がいちゃ、迷惑かな」
「そんなことないけど――」諒は俯いて、言った。「ちょっと一人で、色々考えたいことがあるから」

ああ、そっか。私って、なんて気が利かない――

「ごめん。じゃあな」
「うん。バイバイ」加奈は手を振った。


諒はデイバックを肩にかけ、ゴルフバットを片手に、小屋を去っていった。



加奈は誰もいなくなった部屋の中で、しばし考えた。
私はどうしよう。動くのにも疲れた。少し休もう。少しだけ。加奈はそう思って、目をつぶった。
瞳をとじると、甘美な誘惑のように、睡魔が襲ってきた。


ふと、思った。――和輝は、今、何してるのかな。あれからほんの半日ぐらいしか経ってないのに、随分長い間会ってないような気がする。

――会いたいな。


加奈は、眠りこけてしまった。

342ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/10(土) 09:23 ID:2KqO5TgA

 それから三時間後。

有山鳴(女子三番)は、憔悴していた。探し回っても、あいつはいない。見るのは死体ばっかり。そう思って、また、軽い吐き気が突き抜ける。

鳴は膝を折り曲げたまま、そこにいた。ここは、地図によれば、エリアF=5に当たる、とても大きな廃城だった。元々テーマパークが建つ予定だったのに、失敗に終わったらしい。白い外観は、何だか不気味な雰囲気を醸し出していた。

予想に反して、中には何もなかった。一通り回ってみたが、どうやら誰もいないらしい。皆、目立つからかえって近寄らないのかもしれない。とはいえ、いつまでもここにいるのは危険かもしれないと、思った。

移動しようかな。鳴は立ち上がった。


廃城の門の前まで来た。草むらで出来た庭の中に、木で出来た白いテーブルがあった。カフェにでもなる予定だったのかもしれない。

鳴はキョロキョロと辺りを見回した。誰もいないよね? そっと近寄り、白いテーブルと椅子に、腰を下ろした。


今日は昨日と違って涼しい。吹き抜ける風が気持ちよかった。
鳴は頬杖をついた。……眠い。昨日は一睡もしていなかった。
鳴はうとうとし始めた。



人が来たので、慌てて起きあがった。
誰? 頭がボーっとしていた。疲れが、鳴の体と、精神を蝕んでいた。

誰かは、鳴の方へ、近づいてくる。次第に見えてきた。男子のようだ。
柴崎……じゃないよね? そうだったら嬉しいけど。警戒して、銃をギュッと握った。

相手はどんどん近づいてきた。鳴の心臓がドクドクとなった。柴崎じゃなかったら、逃げよう。
この状況で、どれだけ他人が怖いかと言うことは、既にわかっていた。

ああ、もう! 目が悪くてよく見えない。鳴は目を細めた。
やっと、見えた。それは、中西諒(男子十番)だった。


鳴は立ち上がった。勿論、逃げるに決まっていた。制服が血に染まっていたし、ゴルフバットを持ったその目は、ギラギラと光っていた。
こいつはゲームに乗ったんだ。怖い! よりによって、何でこんなやっかいな奴に……。


鳴はダッと、逃げ出した。


「あっ!」諒は叫んだ。「待てよ!」
待つわけねーだろ! 鳴は走り続けた。


諒が追い掛けてきた。イヤッ、やめてー! 鳴は泣きそうになっていた。
撃つべきか、それとも――

迷っていた。相手はあの中西だ。もし襲われたら……撃つしかない。


鳴は逃げ続けた。しかし、中西の方が足が速いのは目に見えていた。
追いつかれてしまう。

足を速めたが――遅かった。諒が、鳴の手を掴んだ。


鳴の心臓はバクバクと音を立てて震え上がっていた。かすかに、諒が短く息をついているのが聞こえた。
そして、諒が言った。「何で……逃げるんだよ」

お前が怖いからだよ! 鳴はそう言いたかったが、刺激してはいけないと思い、やめておいた。


おそるおそる、振り向いた。諒は、ジッと鳴を見据えていた。
怖っ! 目が据わってる! 明らかに機嫌悪そう。


鳴はもう一度逃げ出したくなった。

「殺そうとなんて、思ってないから」諒はため息をつくと、言った。

じゃあ、何で血がついてんだよ! 鳴はまたそう言いたくなった。

が、思い直した。いやいや落ち着け。本当に殺そうと思ってないのかもしれないじゃん。人を見かけで判断しちゃいけないって――相当怖いけど。

「わかったから、離して。逃げないから」鳴は呟くように言った。
「あっ、ごめん」諒が手を離した。そして、意外な一言を鳴に向けた。
「あのさ、煙草持ってない?」

343ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/10(土) 09:25 ID:2KqO5TgA

 二人は草むらの庭に来た。

諒が地面を蹴った。
「あー、誰か持ってねーのかなー。ニコチン切れるとイライラすんだよ!」
鳴は煙草を持っていなかった。

鳴は言った。「男に訊いた方がいいんじゃない?」
諒は振り向いて、言った。「探してるんだけど、いないんだよ」
ドカッと腰を下ろした。そして、何かに気づいたらしく、鳴の方を見て言った。「あっ、悪かったね。怖がらせちゃったみたいで」

鳴はふっと笑んだ。「うん。かなり怖かった」
諒は決まりが悪そうに頭を掻いた。

制服に飛び散った血は、諒本人の物だったらしい。新井美保(女子二番)に撃たれた時の物だそうだ(諒は、それ以上は言わなかった)。


諒はぼそっと言った。「多分他の奴らにも怖がられるんだろうな。へたすると撃たれるかも」
「うん。撃とうかと思った」その一言に、ヘコんでいるようだった。

「あーあ、もっと爽やかな外見に生まれたかったなー。田阪クンみたいな」
諒の言葉に、鳴は吹きだした。田阪健臣(男子七番)と中西のイメージは、天と地ほど離れている。似ても似つかない。

鳴は言った。「中西は今のままでいいよ。やたら爽やかだったら変だもん」
諒は苦笑した。


鳴は思った。話したことなかったけど、意外に話しやすかも。というか、割といい奴っぽい、かも。まあ、まだわかんないけど。

諒が尋ねた。「えーっと、有山? さん、は今まで何してたの」
「別にサンつけなくていいよ」鳴はそう言って、更に続けた。「えーっとね、走り回ったり、道に迷ったり」
「へー、大変だったね。おれもだけど」諒は言った。

確かに。もう疲れた。
でも、あたしはまだ、重大なことをやってない。


「ねえ、柴崎見なかった?」鳴は、柴崎憐一(男子三番)のことを尋ねた。
諒は無表情のまま、訊き返した。「突然だね。何で?」
鳴は戸惑った。
「探してるの。会いたいの、凄く」

諒はふーん、と言うように、頷いた。
「付き合ってんの?」諒の問いに、鳴は躊躇したが、首を振った。「あたしが、会いたいだけ」

諒は空になった煙草の箱を弄った。
「笹川さんが、朝方まで一緒にいたって」

鳴は驚いた。朝方まで一緒という響きに、何となく嫌なものを感じたが、とにかく、驚いた。

「笹川さんは? 柴崎にどこで会ったか、聞いてない?」
諒は首をかしげた。「H=5? あれ、6だっけ」
はっきりしてよ。

諒は地図を取り出して、指を指した。「H=8で、笹川さんに会ったんだ。東の方向から走ってきたから――」長い人差し指が、地図の、エリアH=6とH=7を移動した。「ここらへんかな」
「でも――」諒は何かを言いかけて、鳴を見た。
「何?」
「いや――何でもない」
何だよ。不可思議に思ったが、それよりも、嬉しいような、切ないような気分になった。柴崎は、確かにそこにいたんだ。

「ありがとう」鳴は礼を言った。「あたし、もう行くね」
「うん。……頑張って」
頷いた。

ただ単に、会いたかった。



鳴が去った後、諒は思った。
言ってやった方がよかったかな。柴崎がゲームに乗ったらしい、ってこと。


でも、何となく、言えなかった。


――ところで、柴崎って誰だっけ。
諒は少しの間考えてみたが、答えが出ることはなかった。
【残り15人】

344ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/11(日) 16:39 ID:2KqO5TgA

 飛山隆利(男子十七番)と、高城麻耶(女子十七番)は、先ほどと同じ、D=8の境目にいた。
もうすぐ、正午になる。二人とも腹を空かせていた。

麻耶が言った。「お腹空いた。カレーうどん食べたい」
「オレはカレーライスがいい。何でカレーをうどんにかけるんだよ。邪道だよ」
「おいしいもん。そうやって古い考えに取り憑かれてるから、新しい道に進めないんだよ」
「古くて結構。カレーは飯にかけて食う物なんだよ」
「そんなこと、誰が決めたのよ」
「それが一番自然なんだよ。うどんだってカレーをかけてもらうよりは、普通の汁をかけてもらいたいに決まってるだろ」
「うどんがそんなこと考えるわけないでしょ。バカじゃないの」
「いーや、黄色い臭い液体をかけられるのは嫌に決まってる」
「たとえうどんが嫌だったとしても、おいしければいいのよ」
「何言ってんだよ。うどんが可哀相だろ」

麻耶は少しの間沈黙すると、言った。「こんなことで言い争ってても仕方なくない?」
「確かに。無駄に体力消耗するし」

……ってか、くだらない。二人はほぼ同時にため息をついた。


大音量のパンク調のの音楽が聞こえてきて、二人は顔を上げた。アニメ声の女の声ではなく、若い男の声が聞こえた。「えーっと、昼です。死んだ人は、男子一番荒瀬達也君、男子十二番永良博巳君、女子二番新井美保さんだけです。禁止エリアは、一時からE=1、三時からJ=3、五時からG=8です。メモしとくように」
麻耶と隆利は今の言葉を聞いて、地図に印をつけた。
それから、死んだ生徒にも印をつけた。色々思うことはあったが、ページの都合上、飛ばしておく。


「じゃあ、これから、二人生き残ることが出来る人を発表します。えーっと……」

隆利と麻耶は顔を見合わせた。
心臓が高鳴っていた。もしかしたら、生き残れるかもしれない。入試の発表の時、またはそれ以上かもしれない。とにかく、緊張した。

「あっ、どっちも生きてるじゃん。よかったねー」
生きてる。自分であって欲しいという気持ちが溢れていた。

「男子は七番田阪健臣。女子は……十七番高城麻耶。ラッキーだなー。この二人は学校に戻ってくるように。以上!」そう言って、放送はプツリと切れた。



隆利は、麻耶の顔を見た。麻耶は呆然としていた。
「よかったな」隆利は言った。
麻耶はしばらく黙っていたが、やがて言った。「私……生き残れるの?」その目には、涙が滲んでいた。
隆利は強く頷いた。
感無量と言った様子で、麻耶は泣き出した。

隆利は心からよかったと思った。麻耶が生き残って、自分が死んでしまうかもしれないのは、少し(いや、かなり)悲しかったが。
「そうと決まったら早く学校に戻ろうぜ。オレもついてってやるから」
隆利の言葉に、麻耶は小さく頷いた。

345ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/11(日) 16:40 ID:2KqO5TgA

 麻耶は歩きながら、考えた。生き残れるのは嬉しい。でも――

何だかんだ言って、自分がずっと、隆利に寄りかかってきたことに気づいた。だから、こんなに不安になるんだ。
これから先、私はずっと一人で生きて生きていくんだろうか。今までも一人だったけど、今度からは、本当に一人になるんだ。胸が押し潰されそうに痛んだ。
私が生き残るより、隆利が生き残った方がいいのかもしれない。そんな気すらした。


「ねえ」
隆利が振り向いた。「何?」

何を言おうか迷った。自分が何を言いたいのかもわからないけれど、とりあえず声に出した。「私、怖い」
「これから生き残れるっていうのに何言ってんだか。オレの方がこえーよ」隆利はそう言って笑った。
「だって身寄りもないし、あの学校にもいられなくなるかもしれないし。友達もいないし……」
「だから作れって前から言ってんだろ」隆利は麻耶の言葉を遮って、続けた。「お前なら出来るよ。だから頑張れよ」


隆利はまた歩き出した。その背中を見ながら、麻耶はフッとため息をついた。

麻耶が動かないので、隆利は不思議に思い、麻耶の方へ寄ってきた。
「何やってんだよ。早く」麻耶は下を向いている。隆利は麻耶の手を引っ張った。
「あんたが死んじゃったら――」麻耶が顔を上げた。「私の傍には誰もいなくなっちゃう」


隆利は沈黙していた。呆れられているのかもしれない。そう思うと、麻耶は少し恥ずかしくなった。

隆利が口を開いた。「勝手に殺すなよ。オレはまだ死なないよ」隆利は更に続けた。「お前が言ったんじゃん。絶対生き残るって。生き残る気がなけりゃ生き残れないとも言ったよな」
麻耶は頷いた。
「だから、死ぬとか言うな」


そうだ、私は絶対死なないって、そう思ってやってきたんだ。だから生き残らなきゃ。麻耶は涙を拭って気を引き締めた。
絶対生き残る。その後の人生は、自分で切り開いていかなきゃ。


隆利の手が温かくて、心が落ち着いていった。

もし、ここで永遠に離ればなれになってしまうのだとしても、心は通じ合っていられるような気がした。不思議なほど自然にそう思える自分に驚きながらも、なぜか納得できた。
何でもっと早く素直になれなかったんだろう。そう思った。



麻耶にそう言う一方で、隆利は覚悟を決めていた。13分の一か。……少ないな。
倍率にすると、7、6923076923……パーセントだった。


隆利は、この短い時間を、慈しむように大切に扱っていた。


そして、二人の大事な時間は、終わりを告げようとしていた。
【残り15人】

346ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/13(火) 18:07 ID:2KqO5TgA

 新島敏紀(男子十四番)は、学校に向かっていた。
おそらく、生き残って家に帰れるであろう、田阪健臣と、高城麻耶を殺すために。

運がよかったら、そいつらはもう学校に着いてしまっているかもしれないが、まだ十分ほどしか経ってないので、おそらくまだ着いてはいないだろう。
そして、敏紀の目にはもう、学校が見えていた。

敏紀はスピードを上げた。

生き残りたいという感情とはまた別に、人殺しがしたくてたまらなかった。誰であろうと容赦するつもりはなかった。敏紀は完全な愉快犯だった。



隆利と麻耶はG=3にいた。もうすぐ麻耶と別れるのだと思うと、胸がぎりっと痛んだ。
最後に、自分の気持ちを伝えようかと考えていた。何と言っても、これでしばらく(とりあえず、しばらくということにしておこう)、会えなくなるのだ。

「あのさ」
「何?」
麻耶が自分をまっすぐに見つめてくるので、照れてしまった。
「えーっと……」いざとなると、言葉が続かない。麻耶は不思議そうに、隆利を見つめていた。
「だから、その……」
言葉を選ぶのに苦労していたら、麻耶が言った。「早く戻ってきてね。それまでに私があんたの汚い部屋を掃除しとくから」
隆利は、強く頷いた。

隆利にとっては酷く遠いその日が、とても待ち遠しくなった。
やりきれなかった。二人で、今すぐにでも帰りたかった。
鼻の奥が、ツーンと痛くなった。


「……オレ、ずっと、麻耶が好きだったよ」
あまりにも唐突に、勢いにまかせて言ってしまった。時間差で、猛烈に恥ずかしくなった。

おそるおそる麻耶を見ると、麻耶は呆然とした表情で、隆利を見ていた。何かを言いたげに、口が開いていた。
隆利は死刑を宣告されるような気持ちで、麻耶の口から吐き出される言葉を待った。

「嬉しい」
麻耶はそれだけ言うと、隆利に寄りかかってきた。
それから、隆利の胸の中で、吐息だけの声で、私も、と言った。


嬉しかった。人生の中で、一番嬉しい時間だったのかもしれない。隆利は、歓喜のあまり、自分が泣き出しそうになっていることに気づいた。
今まで遠回りばかりしていたが、ついに気持ちが通じ合ったのだ。

今にも破裂しそうな胸の中に、麻耶が顔を埋めていた。震えているのがわかった。隆利は麻耶の背中に手を回し、それから麻耶の頭を撫でた。
まだ離れたくない。そう思った。そして、麻耶も同じことを感じているだろうということも、痛いほどわかっていた。

347ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/13(火) 18:09 ID:2KqO5TgA

 顔を上げた。今は何時なんだろう。自分達だけが隔離されているかのような気になっていたのだが、ここは学校の前の、公園出口付近の藪の中だ。
あまり目立たないところだが、やはり注意するに越したことはない。
隆利は学校の時計を見た。灰色の色褪せた校舎にくっついているそれは、十二時と、十七分を指していた。


ゆっくりと視線を下げた。隆利の顔に、冷や汗が伝った。
向こうの茂みに、誰かいる。鈍い灰色をした物体と、その人物の目だけが、不気味に浮かび上がっているように見えた。気づくのが遅すぎたのかもしれない。

そいつは眼球を細めた。笑っているように見えた。灰色の物体が、形を作るように鮮明に見えてきた。
駄目だ。

「麻耶!」声を殺して言った。
麻耶が顔を上げた。


隆利が麻耶の手をとって逃げようとしたのと、その人物が茂みから飛び上がって二人に銃口を向けたのは、ほぼ同時だった。



一瞬、ほんの一瞬、隆利が自分に覆い被さったのがわかった。


ぱぱぱぱぱ。
独特の銃声が聞こえた。

「きゃあ!」麻耶は突然の状況に理解できずに、悲鳴をあげた。

銃声と同時に、隆利の体が何度も跳ねた。
「隆利!」
隆利は麻耶を後ろに押しやると、震える手で刀を握りしめた。襲撃者を強く睨んだ。


新島敏紀(男子十四番)は普段と変わらない無表情な顔で、二人に近づいた。その銃なら、遠くからでも十二分に殺せるはずなのに、わざわざ近づいてくる。
嫌な予感がした。意識がかすんできたが、気絶するわけにはいかなかった。


「その女渡してくれない? 俺、そいつ殺しにきたんだよ」
隆利の後ろで、麻耶の体が硬直するのがわかった。

隆利ははっきりと言った。「嫌だ」
口から血が垂れて、ワイシャツを濡らした。だが、そんなことはどうでもよかった。
オレは、麻耶を守らなきゃ。

「えー?」敏紀は言った。「じゃー力ずくで行くか。まあ、どっちにしろそのつもりだったけどね」

敏紀の手に収まっていたウージーが、また火を噴いた。


隆利と麻耶はかろうじて避け、地面から這いつくばるように藪の中へ逃げた。
「隆利、大丈夫なの?」後ろから、麻耶の、悲鳴にも似た声が聞こえた。
大丈夫じゃないが、隆利は大丈夫、と答えた。

チクショウ、このままじゃ麻耶が――


隆利は息を殺して、麻耶に言った。「オレがあいつの注意を引くから、その間に逃げろ。ここを出れば、もうすぐ学校だから」
麻耶は首を振った。「こんな怪我してるのに、置いていけないよ」
隆利はため息をついた。

言葉を漏らすのに、何秒かの時間がかかった。体が正常に機能しなくなっている。


「何言ってんだよ。せっかく生き残れるんだから、無駄にするなよ」
「でも……」
「早く、時間がない」

足音が近づいてきた。

「行くぞ、逃げろよ。躊躇すんなよ」
麻耶は何かを言いたそうだったが、コクリと頷いた。


隆利は耳鳴りのする耳で、必死に聞いた。カサ、カサ、カサ。その音が、止まった。

「行け!」

隆利は力の限り叫ぶと、敏紀に一気に飛びかかった。

348ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/13(火) 18:11 ID:2KqO5TgA

 先ほど撃たれたダメージは大きかったが、思い切って懐に入るのは、そう難しいことではなかった。

空に向かっていた鋭い刃先を、敏紀の胸に向け、振り下ろす。敏紀は意をつかれた様子だったが、それでも余裕な表情は変わらなかった。後ろに後ずさるようにして、それを避けた。


そのまま弾が発射された。
「ぐっ……」
腹部にそれが当たって倒れそうになったが、どうにか持ちこたえた。
そのまま、まっすぐ走り出した。


敏紀と隆利は揉み合った。マシンガンをどうにか奪おうとした。これさえなければ、奴は敵じゃない。
だが、体中の筋肉が萎えてしまって、思うように力が入らなかった。


敏紀はマシンガンで隆利を殴り飛ばした。
相当なダメージがあったのだろうが、もうよくわからなかった。ただ、意識がぼんやりとしてきた。

「しぶといな」敏紀の声が、遠くから聞こえた。

クソッ。麻耶はちゃんと逃げたのかな。
藪の中はしーんとしたままだった。多分、逃げたのだろう。


隆利はホッとしていた。少し悔いが残るが、オレはちゃんと麻耶を守った。
満足だった。隆利はそのまま、無になるのを待った。



不思議なことに、敏紀は攻撃をしてこなかった。
隆利を一度蹴ると、言った。
「あの女殺してくるわ。どうせ、お前はもう死ぬだろうし」

隆利は驚き、とても焦った。
駄目だ、そんなことは、絶対させない。


隆利は震える手で土を掴んだ。爪の中に土が入る。
土が含んだ小石も、じゃりっと音を立てた。



新島敏紀は時計を見た。あれから一分も経っていない。まだ着いてないだろう。
永良博巳(男子十二番)に撃たれた足は痛んだが、それでも、敏紀の足の速さは健在だった。敏紀は走り出そうとした。

「待てよ」
地響きのように、その声は地の底から響いてきた。
それと同時に、足に、冷たい感触と強い力が加わった。


こいつ、まだ意識があったのか。普通なら、とっくに死んでるはずだ。敏紀は驚いて、自分の下にいる飛山隆利の顔を見つめた。

泥だらけの、血だらけの左手が、敏紀の足をしっかりと掴んでいた。
むき出しの足に、隆利の爪が刺さって痛かった。

「クソッ。離せ」
足を振り回しても離れなかった。爪は更に深く食い込んだ。


隆利は、耳に響く声で言った。「お前なんかに、麻耶は殺させねー」


飛山。女を守るために自分が犠牲となるとは、ね。
理解できない感情だった。自分が誰かのために死ぬなんて、バカにも程がある。
そこまで考えて、少し笑った。それは、自分がとっくに捨てた感情だった。


敏紀は隆利の頭を撫でた。ウージーを隆利の頬に当てて、引き金を引いた。


隆利は頭を大きく揺らして、地面に沈んだ。

349:2004/07/14(水) 20:57 ID:rmZZizV.
最近は一気にたくさん読むようにしている瞳です。。。
もうちょっとで夏休みですねw受験生らしく勉強させられるのでしょっちゅうは見れませんが、
頑張ってください

350ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/16(金) 02:51 ID:2KqO5TgA
瞳さん>
こんばんは。読んでくださってありがとうございます(泣
夏休みですねー。私は八月まで試験なのですが(汗
レポートを書かなきゃいけないのに書いていないというジレンマに襲われております。
受験生は大変ですよね。

ところで瞳さんはおいくつなのでしょうか?
もしよかったらでいいので教えてください。

351ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/16(金) 21:28 ID:2KqO5TgA

 隆利の頬からはドクドクと血が流れ出した。その血は鼻を伝い、地面に吸い込まれていった。

死んでいるにもかかわらず、隆利は敏紀の足を離そうとはしなかった。


「あーあ、痛いからさっさと離してくれねーかな」

敏紀は一本一本指を放そうとしたが、隆利の指はすぐに元に戻って、強く握りしめた。

「チッ」
敏紀は舌打ちをすると、隆利の刀を拾って、慎重に隆利の指に当てた。



高城麻耶は、公園の出口にきていた。……心臓が痛い。

麻耶は考えた。何度も銃声が聞こえた。隆利はどうなったんだろう。これでよかったんだろうかという思いが、頭によぎった。私は隆利を置いて、逃げたんだ。


ぼんやりとした頭で、考えた。
もう、すぐ傍、目と鼻の先に学校はあるというのに、どうしても足が進まなかった。

やっぱり、戻ろう。このまま何事もなかったかのように学校に行って、生き残るなんて出来ない。


麻耶は踵を返し、隆利の元へ急いだ。



確か、この道だったはずだ。麻耶は慎重に足を進めた。急いでいるはずなのに、なかなか思うように足が進まなかった。
頭の中に、一つの絵が浮かんだ。血に染まった隆利の刀。


麻耶は泣きそうになるのをこらえながら、歩いた。


二人の男子生徒が見えた。一人は寝転がっている。もう一人は、座り込んで何かをやっている。
肉を切り、骨を断つ音が聞こえた。


新島敏紀は切り離した指をジッと見て、それから、それを捨てた。


麻耶はそれを見入ったまま、呆然としてその場に座り込んだ。



敏紀は隆利の親指と人差し指を切り、その手をやっと外すことができた。
細い足首には、手形がくっきりと残って、青く変色していた。爪の痕が残っていて、血が滲んでいた。

「うわ、おっそろしー」
敏紀は独り言を言うと、立ち上がり、自由になった右足を動かした。


さて、これからどうしようか。さすがに高城は、もう学校に着いてるだろう。
なら移動しようかな。


田阪健臣(男子九番)もいつ来るかわからなかったし、敏紀がこうしている間にも、生還していたかもしれないのだ。

時計を見た。もう、十二時四十五分を越えたところだった。


敏紀は刀を地面に突き刺すと、その場を後にした。



「隆利……!」
麻耶は隆利の元に駆け寄った。血は乾いて、赤黒くなっていた。
「隆利、隆利、隆利……」答えてくれるはずもないのに、呼び続けた。


私が、もっと早く戻れば、いや、逃げたりしないで戦えば、こんなことにはならなかったのかもしれないのに。
ううん、私と一緒に学校までこなければ――


麻耶は隆利の手を握りしめて、泣いた。


ふと思いついたように、新島が捨てた指を拾い、ハンカチにくるんだ。

これは、私が家まで持って帰って、あんたの棺に一緒にいれてあげる。それまでは、なくさないように、大事に持ってるから。
麻耶は蚊の鳴くような声で言って、ハンカチをポケットに収めた。

隆利の目を閉じさせて、手を交差させた。顔についた泥をはらった。
それから――

「ありがとう」
麻耶は冷たくなった隆利の頬に、口づけをした。


私は隆利との約束を守らなきゃ。
酷く腰が重かったが、立ち上がった。ふらふらとした足取りで、麻耶は歩き出した。
【残り14人】

352ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/16(金) 21:29 ID:2KqO5TgA

 千嶋和輝(男子九番)は、大迫治巳(男子二番)と一緒に、H=7にきていた。

笹川加奈(女子十四番)の行方を捜していたが、未だに何の手がかりもなかった。どこに行ったんだろう。和輝はじりじりと焦りを募らせていた。

「このエリア、誰もいないな」治巳が言った。
「ああ。でも、もしかして、もうすぐ誰か来るかもしれないし」

治巳は、はーっとため息をついた。
「結構大変なもんなんだなー。この広い公園の中で一人を探しだすのって」
治巳も疲れているようだ。


和輝は言った。「ちょっと休む?」
治巳が、驚いたように和輝を見た。「いいの?」
和輝は頷いた。
「やった!」
治巳は腰を下ろして、ペットボトルの蓋を開けた。

「ほんと、どこ行ったんだろーねー。笹川ちゃん」
なぜ治巳が加奈のことを笹川ちゃんと呼んでいるのかは謎だが、とにかく、和輝は心配だった。


治巳が声をあげた。「あっ、よく見たら電池切れてるじゃん!」
おい。

「電池……俺持ってないよ」
「オレだって……あ!」


治巳は自分の通学用バックから電子辞書を取り出した。単4形の乾電池を差し込むと、また光が点滅し始めた。

「ってか、このエリア人いるじゃん」
和輝も器械を覗き込んだ。


本当だ。H=7には三つの赤い点がある。その内の二つは自分達だとして、残りの一つは――

「行ってみよう!」
和輝はそう言うのと同時に、その場を駆けだしていた。



二人は、少しずつ、もう一つの赤い点に近づいていった。
点は、さっきからずっと動いていない。身を潜めているのか、死んでいるのかはわからなかった。
とりあえず行ってみるしかなかった。


その時、治巳が右手をかざして、和輝を立ち止まらせた。

「もう一人きた」
和輝はおっ、と言うような表情をすると、器械を覗き込んだ。「ほんとだ。どうしよう?」
治巳は頭を掻いた。

「オレ、こっちの止まってる方見てくるよ。誰だかわかったらすぐ戻ってくるから。お前は動いてる方見てきて」

治巳はそう言うと、近くにある木にバンダナを括り付けた。
「これ目印にしようぜ」
和輝も頷いた。

治巳は更に言った。「笹川ちゃん以外に誰がいても声はかけるな。見たらさっさと帰ってこい」


和輝が頷いたのを確かめると、治巳は去っていった。

353ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/16(金) 21:32 ID:2KqO5TgA

 和輝も途中まで歩いていたが――立ち止まった。
……痛い。

左腕を見た。青く、腫れ上がっていた。ずっと我慢してきたけど、そろそろ限界だ。
和輝は力ないため息をついた。


そのまま進もうとも思ったが、いいことを思いついた。
治巳なら、冷却スプレーくらい持ってるかもしれない。


和輝は踵を返すと、さっきのバンダナの場所まで向かっていった。


えーっと、治巳のバックは……
他人の鞄を勝手に開けるのには気が引けたが、この際仕方あるまい。まあ治巳だし。

和輝はガサゴソと中身を探った。わけのわからない変な道具や本があったが、冷却スプレーはない。
あいつ、少女漫画なんか読んでるのか。
「BANANA FISH」と「11人いる!」と書いてある文庫本をぱらぱらとめくり、それからしまった。


デイバックも開けてみることにした。デイバックの中はごちゃごちゃしていて、パンパンに詰まっていた。
整理しとけよ。
そう思いながら、一番上に入っていた治巳の学ランを、その辺に放り投げた。


さてと、次は――

トレーナーも放り投げると(こんな暑い時にこんなもん持ってくんなよ、と思った)、更に、デイバックの中に入っている、ビニール袋を取り出そうとした。


――何か、異変を感じた。やけに重い。ビニール袋の中には、ワイシャツが入っていた。そのビニール袋は生暖かかった。
和輝は中を開けて、ワイシャツを広げてみた。そこから、タオルがそっと落ちた。


あの匂いがした。今までに何度か嗅いだ匂い。

分校を出た時、代々木信介(男子二十一番)が覆い被さってきた時、大島薫(女子九番)の死体を見つけた時。それと、同じ匂いだ。


ワイシャツは一面、赤く染まっていた。だが、今は若干乾いて固まり、ぱりぱりになっていた。
これは……?

和輝は、それを見つめた。治巳の血じゃない。あいつは、どこにも怪我をしてないはずだ。

その時、思い出した。再会した時、治巳の髪が濡れていたこと。
そして、この汚れたワイシャツ。

もしかして、あいつ人を殺したのか?
いや、あいつに限って、そんなはずはない。そう思った。しかし、思おうとすればするほど、それが確信であることがわかっていた。
【残り14人】

354ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/16(金) 21:35 ID:2KqO5TgA
読んでくださっている皆様。どうもありがとうございます。
えっと、これで中盤戦は終了です。次からは終盤戦に入ります。
その前にネタばれ名簿を更新したいと思います。
これからもどうか、よろしくお願いします。

355:2004/07/17(土) 19:49 ID:mGRNd2ps
いよいよ本格的に終盤戦ですね(意味不明)
ちなみに私(正式には俺or僕)は14です(歳)10月5日で15です

356ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/19(月) 21:14 ID:2KqO5TgA
現在状況(ネタバレ)

男子

 1番 荒瀬達也……死亡。伊藤愛希(女子四番)と共に行動。仲田亘佑(男子十一番)、高田望(女子十八番)に襲われた。井上聖子(女子五番)に撃たれた後、吉野水鳥(女子二十二番)により銃殺
 2番 大迫治巳……生存中。千嶋和輝(男子九番)の前に現れ、共に笹川加奈(女子十四番)を捜索中
 3番 国見悠……死亡。井上聖子(女子五番)により、銃殺
 4番 塩沢智樹……死亡。冬峯雪燈(女子二十一番)、飛山隆利(男子十七番)を襲おうとして、失敗。井上聖子(女子五番)により、銃殺
 5番 柴崎憐一……生存中。内博美(女子七番)、笹川加奈(女子十四番)と共に行動。二人を殺そうとしたが、諦めて離脱
 6番 島崎隆二……死亡。新島敏紀(男子十四番)によって銃殺
 7番 田阪健臣……生存中。二人殺害。高田望(女子十八番)に遭遇するも、逃げられる。永良博巳(男子十二番)に遭遇後、放送で生存できる生徒として名前を呼ばれる
 8番 田辺卓郎……死亡。大島薫(女子九番)によって銃殺
 9番 千嶋和輝……生存中。梅原ゆき(女子八番)に襲われる。笹川加奈(女子十四番)と共に行動していたが代々木信介(男子二十一番)に襲われ、離れ離れに。後大迫治巳(男子二番)と行動
10番 中西諒……生存中。仲田亘佑(男子十一番)、新井美保(女子二番)と共に行動していたが、仲田亘佑(男子十一番)に襲われる。間一髪のところで新井に助けられる(?)。新井に襲われたが、何とか追い払う
11番 仲田亘佑……死亡。中西諒(男子十番)を欺き、新井美保(女子二番)と共にゲームに乗った。一人殺害。中西を襲った時に新井により銃殺される
12番 永良博巳……死亡。初島勇人(男子十五番)、梁嶋裕之(男子二十番)と共に行動していたが、新島敏紀(男子十四番)に裏切られ、初島と梁嶋に死なれる。後田坂健臣(男子七番)に銃殺
13番 那須野聖人……死亡。峰村陽光(男子十八番)に襲われた後、井上聖子(女子五番)により銃殺
14番 新島敏紀……生存中。ゲームに乗っている。五人殺害
15番 初島勇人……死亡。永良博巳(男子十二番)、梁嶋裕之(男子二十番)と共に行動していたが、新島敏紀(男子十四番)に裏切られ、銃殺
16番 姫城海貴……生存中。塩沢智樹(男子四番)から冬峯雪燈(女子二十一番)を助けた。伊藤愛希(女子四番)を探していたが、死亡したと知る
17番 飛山隆利……生存中。高城麻耶(女子十七番)を放送で呼び出し、塩沢智樹(男子四番)に襲撃される。後麻耶と合流。高田望(女子十八番)に襲われかける。学校に戻る途中新島敏紀(男子十四番)により銃殺
18番 峰村陽光……死亡。那須野聖人(男子十三番)襲撃後、井上聖子(女子五番)に殺害される
19番 御柳寿……死亡。鈴木菜々(女子十六番)により毒殺
20番 梁島裕之……生存中。永良博巳(男子十二番)、初島勇人(男子十五番)と共に行動していたが、新島敏紀(男子十四番)に裏切られ、銃殺
21番 代々木信介……千嶋和輝(男士九番)と笹川加奈(女子十四番)を襲う。後死亡

357ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/19(月) 21:25 ID:2KqO5TgA

女子
 1番 天野夕海……死亡。井上聖子(女子五番)により銃殺
 2番 新井美保……死亡。中西諒(男子十一番)、仲田亘佑(男子十一番)と共に行動していた。三人殺害。新島敏紀(男子十四番)により銃殺
 3番 有山鳴……生存中。柴崎憐一(男子五番)を捜索中。吉野水鳥(女子二十二番)に遭遇
 4番 伊藤愛希……死亡。荒瀬達也(男子一番)と共に行動。仲田亘佑(男子十一番)、新井美保(女子二番)に襲われた。高田望(女子十八番)を看取る。その後井上聖子(女子五番)により銃殺
 5番 井上聖子……生存中。ゲームに乗っている。九人殺害
 6番 植草葉月……死亡。井上聖子(女子六番)により銃殺
 7番 内博美……生存中。柴崎憐一(男子五番)、笹川加奈(女子十四番)と共に行動。柴崎に命を狙われている
 8番 梅原ゆき……死亡。千嶋和輝(男子九番)と笹川加奈(女子十四番)を襲う。田阪健臣(男子七番)により銃殺
 9番 大島薫……死亡。一人殺害。何者かに刺殺される
10番 小笠原あかり……死亡。新島敏紀(男子十四番)により刺殺
11番 香山智……死亡。高田望(女子十八番)により刺殺
12番 黒川明日香……死亡。三条楓(女子十五番)に刺された後、新井美保(女子二番)により銃殺
13番 紺野朋香……死亡。伊藤愛希(女子四番)により銃殺
14番 笹川加奈……生存中。千嶋和輝(男子九番)と共に行動。梅原ゆき(女子八番)に襲撃される。代々木信介(男子二十一番)に襲撃された後、なぜか北川哲弥に遭遇。その後内博美(女子七番)、柴崎憐一(男子五番)と共に行動していたが別れ、新井美保(女子二番)に襲われるが中西諒(男子十番)に助けられる
15番 三条楓……死亡。黒川明日香(女子十二番)を襲うが、仲田亘佑(男子十一番)により撲殺
16番 鈴木菜々……死亡。御柳寿(男子十九番)殺害後、服毒自殺
17番 高城麻耶……生存中。飛山隆利(男子十七番)と合流。高田望(女子十八番)に襲われかける。生存できると放送で言われ学校に向かい途中新島敏紀(男子十四番)に襲われた。飛山隆利(男士十七番)の最期をみとる
18番 高田望……死亡。一人殺害。新島敏紀(男子十四番)に撃たれ、井上聖子(女子五番)により刺殺
19番 濱村あゆみ……死亡。仲田亘佑(男子十一番)に襲われ、新井美保(女子二番)により撲殺
20番 望月さくら……死亡。井上聖子(女子五番)により銃殺
21番 冬峯雪燈……生存中。塩沢智樹(男子四番)に襲われかけ、姫城海貴(男子十六番)に助けられた。姫城と共に伊藤愛希(女子四番)捜索中
22番 吉野美鳥……生存中。荒瀬達也(男子一番)と伊藤愛希(女子四番)、有山鳴(女子三番)の前に現れた


疲れているので間違ってる可能性が高いです、すいません。

瞳さん>
あら、男の方だったんですか!(驚
てっきり女の子かと思っていました^^;
何はともあれ、受験頑張ってくださいね。
高校受験は一生を左右するので。

358ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/20(火) 21:52 ID:2KqO5TgA
 【残り14人から】

 学校は静かだった。古い時計塔が、もうすぐ一時になることを告げていた。

高城麻耶(女子十七番)は、おそるおそる、その中に入っていった。門を抜けても首輪は爆発しなかった(まあ当たり前か)。


麻耶は息をついて、更に中に進んだ。


「お疲れー」出発の時の若い男と兵士が、数人いた。
男は抑揚のない声で言った。「十七番、高城麻耶さんね。じゃあ、こっちきて」

その後、人差し指で、こっちにこい、という合図をした。


昼間なのに暗い廊下を歩いていると、男がぼそっと言った。「君、ラッキーだったね。もうすぐ家に帰れるよ」そうして、微かに笑った。

麻耶は何も答えなかった。
ようやく助かるんだ、という開放感と、飛山隆利(男子十七番)の死のショックで、それどころではなかった。

だが、男は特に気にする様子もなく、古い扉の前に立って、鍵を開けた。


「入って」
男に言われて中を見た。教室のようだった。

「ここでしばらく待っててもらえるかな。食事の時間になったら言うから」

男は柔らかい物腰でそう言うと、ポケットの中から小さな鍵を取り出して、麻耶の首輪に触れた。
しばらく何かをやっていたと思うと、首に巻きついていた息苦しい感触がなくなった。


「そこにテレビあるから適当に何か見てて。ビデオもあるから」
麻耶はかろうじて頷いた。
「じゃあ」男はそう言って、さっさと教室を去っていってしまった。



「ふー……」ため息をついた。
ここに一人でいると、色んなことを思い出してしまう。
散々泣いたはずなのに、また、目から涙が滲み出てきた。


これからどうなるんだろう。そんな不安を胸に、麻耶はテレビをつけてみた。何度かチャンネルを換えたが、面白そうな番組はやっていない。

「ビデオでも見るかな……」麻耶はビデオラックの中を覗き込んだ。


フランダースの犬、アルプスの少女ハイジ、あらいぐまラスカル、ローマの休日、本当にあった呪いのビデオ、死霊のはらわた――

「これにしよう」
麻耶は呪いのビデオを手にとって、ビデオのチャンネルをつけた。
【残り13人】

359ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/20(火) 21:55 ID:2KqO5TgA

 有山鳴(女子三番)は、H=7にきていた。

いるって決まったわけじゃないけど、いるかもしれない。でも、こんな広い森の中をしらみつぶしに探して、挙句の果てにいないってオチもありえるよね。
いや、むしろ、他の生徒に見つかって、殺されるってオチも、ありかな。

鳴は血の気が引いた。


――柴崎ー、あんた何やってるのよー!

そんでもって、あたしも。


柴崎憐一(男子五番)に会ったところで、憐一が歓迎してくれるのかはわからないと、わかっていた。

あたしが一方的に追いかけてるだけで、あいつはあたしのことなんかこれっぽっちも気にかけてくれてないんだろう。

……いいの、それでも。



――。

鳴は目を疑った。

森の中。寒色系の色しか存在しないはずなのに、暖色系――オレンジ色の、何かが見えた。

嘘。……嘘だ。
意外なあっけなさと突然襲ってきた緊張感で、鳴の心臓は揺れ動いた。

どうしよう。いや、待て。とりあえず本人かどうか確認してから――

――いや、あんな色の髪、あいつしかいない。


鳴は走り出した。



近くによると、ますます確信に近づいた。


でも、なんて声かければいいんだろう。

やだー、久しぶりじゃーん! ……軽すぎ。
てめー、あたしを置いてどこ行ってたんだよ! ……押し付けがましいな。
ずっと探してたんだからね! ……うっわー、ウザい女。


――って、あたしは小学生かよ! 何だっていいんだよそんなのは。


鳴はもう一歩歩みだそうとして、石につまずいた。



豪快に転んで、デイバックも地面に叩きつけられた。

……いったー。

涙を滲ませて顔をあげると、柴崎憐一が、自分の方を振り向いていた。


「……鳴ちゃん、何してんの」
そう言って鳴を見下ろす憐一の右手には、コルトガバメントが握られていて――

鳴に向けられていた。


「……柴崎っぽい奴がいたから、声かけようと思ったら、こけたの」鳴は少々狼狽しながら、答えた。

柴崎は、あたしがきたことを歓迎してない。そう思って、胸が痛くなった。

「へー……」
憐一は銃を下ろし、座り込んで、鳴に向き合った。「膝こぞう、すりむけてるよ」
「うん。痛かった」


憐一は手を伸ばして、言った。「平気?」

「……うん」鳴は憐一の手を取った。
涙が出そうになった。



「柴崎ぃ……」鳴は憐一の懐に飛び込んだ。
「会いたかった……」



憐一はその言葉を聞いて、それから、鳴の肩が震えていることに気づいた。
「何泣いてんの」憐一は笑って、鳴の背中に手を回した。「会えたんだからいいじゃん。ね?」そう言って、鳴の頭をぽんぽん叩いた。


鳴は憐一の胸の中で、小さく声をあげて、泣いていた。

360ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/20(火) 21:56 ID:2KqO5TgA

 何だか麻薬のようだった。ないと欲しくてたまらなくなる。会うと、心が嘘のように晴れていった。こいつのどこがそんなに好きなのか、自分でもよくわからないけど。


憐一が訊いた。「鳴ちゃん、今まで何してたの?」
「えーっと、歩き回ってた」鳴は、迷いつつも、答えた。
どことなく、探していたと言うのは恥ずかしいような気がしていた。

「へー」憐一は頷いて、それから鳴の顔を見て、少し笑んだ。
「すっげー顔」

――すっげー顔?


鳴は驚いて、すぐに鏡を覗き込んだ。
「やだっ……マスカラ滲んでるじゃん!」
急いで化粧直しをしようと、バックから化粧ポーチを取り出した。

「別にそのままでいいよ。パンダみたいで可愛いし」

可愛い? この顔が? パンダが?

と思いつつ、鳴はポーチをしまった。ああ、何だか情けない。


「そっちは、何してたの」鳴は訊いた。
「えーっと……何してたっけ……」憐一は頭を掻いて、考えていた。

「そうだ! 笹川さんと組んでたんでしょ?」

憐一はなぜか、一瞬びくっとしたようだった。「何で知ってるの」
「中西に会ってー、教えてもらった。笹川さんとついさっきまで一緒にいたんだって」
「へー……」

憐一は黙り込んだ。


鳴は憐一の顔を覗き込んだ。「どうかしたの?」
「……鳴ちゃん、俺のこと好き?」

はあっ? 突然何を言い出すかと思えば……

「何でよ」
「答えてよ」

「うーん…………」鳴は言葉を濁していた。

――恥ずかしいじゃん。照れくさいじゃん。


憐一はふっと笑った。「鳴ちゃん、俺の頼み、聞いてくれる?」
「なに?」憐一の急な問いに、鳴は不可思議に思いつつも、訊いた。

「俺のこと好きならさ――」
憐一は笑みを浮かべたまま、ゆっくりと右手を持ち上げた。その手の中にしっかりと握られた銃を、鳴の顎付近に向けると、続けた。

「俺のために、死んでくれない?」


体中の血が、急速に引いていくような気がした。
【残り13人】

361:2004/07/21(水) 20:51 ID:nhtPq0Jo
うっわーーー女の子じゃあぁぁないんでしゅ(?)よぉぉぉ〜〜
ま、このIDじゃわからんでもないか・・・
麻耶ちゃん(馴れ馴れしいんじゃボケッ)無事生還カナ?

呪いのビデオ・・・麻耶ちゃん・・・死んだな・・・

362ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/22(木) 02:13 ID:2KqO5TgA
瞳さん>
そうですねー。男の子ですね。ちょうどプログラム世代(?)ですね。
麻耶ちゃんは生還した後呪いのビデオで命を落とすかもしれませんね(笑

ちなみに「本当にあった呪いのビデオ」は実在します。
レンタルビデオ店で普通に借りられます(笑)

363パパ:2004/07/22(木) 14:06 ID:CtPV/hlk
つまんね。
読んでて恥ずかしくなるねw

364OKACHIMACHI:2004/07/22(木) 15:57 ID:nfTyVON.

もっと釣り学んで言えw

365ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>[TRACKBACK]:2004/07/22(木) 21:14 ID:2KqO5TgA
>>363
http://jbbs.livedoor.com/bbs/read.cgi/movie/3404/1086963004/r68

ネチケットのHP→http://www.cgh.ed.jp/netiquette/

366ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/22(木) 22:38 ID:2KqO5TgA

 田阪健臣(男子七番)はエリアD=6にいた。永良博巳(男子十二番)が死んでから、もう何時間こうしているのか、わからなかった。
その間自分が何をしていたのかも、よく覚えていない。眠っていたのか、気絶していたのか、狂っていたのか、泣いていたのか。何も思い出せなかった。

今は何時なんだろう。健臣は時計を見た。一時半を、長針が少し上回っていた。残りは何人なんだろう。
ここにいると、自分以外は誰もいないような気がした。とても静かだった。もう少ししたら動こう。ここにいても、生き残れない。健臣は残り僅かとなった水を一気に飲み干した。



中西諒(男子十番)は歩いていた。

ああ、疲れた。こんな森の奥まできたけど誰もいねーよ。もっと真ん中の方に行ってみようかな。まあとりあえず休んでから――


諒は目を細めた。

――誰かいる。
近付いてみた。男子のようだった。

煙草持ってないか、訊いてみようかな。でももし向こうがヤル気だったらどうしよ。

諒は念のため、自分の持っていたゴルフバッドを、強く握り締めた。
まあ、こっちが戦う気がないって態度をとれば話は出来るよな、多分。

もう少し近付いてみた。
「もしもーし……」予想外に間抜けな声が出た。

諒は声を張りあげた。「おい、聞こえてんの?」



「あっ、田阪クンだ」
突然近くで声がしたので、田阪健臣は振り返った。

そこには、長身の体にほっそりとした顎、血だらけの学ランを着た(!)中西諒がゴルフバッドを持って、やけにニヤついて立っていた。

やばい、こんな至近距離になるまで気づかないなんて。健臣は焦って、銃口を中西に向けた。
「おっと!」
中西は両手を高くあげて、敵意がないことを示した。「待ってよ、何もしないからさ」諒は言った。

「何か用?」
「いやー用はないようなあるような……」
「用がないならあっち行けよ」
「そんな冷たいこと言うなって」

言わないわけにはいかない。何せ、相手はあの中西だ。中学生の時に高校生数人をボコボコに殴って入院させたということは、中学が同じだった健臣だけではなく、他の中学に行っていた人間でさえ知っているくらいだった。

でも、考えてみればあんまり刺激しない方がいいかもしれない。
いや、まだ大人しいうちに殺しておくべきか――


「そんな警戒しなくたっておれは人殺す気なんてないよ」
中西は腰を下ろして、近付いてきた。

「何だよ」健臣は少したじろいだ。
中西は人差し指と中指を立てて、煙草を示すポーズをした。「……持ってない?」

健臣は怪訝な表情をすると、ポケットからラークのメンソールを取り出した。
「やった! サンキュー」中西は本当に嬉しそうだった。

367ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/22(木) 22:43 ID:2KqO5TgA

 辺りはだんだん曇りだしてきた。中西は静かに煙草を吸っていた。
「ってかさ、田阪クン何でここにいんの?」
「まだ生きてるからだよ。当たり前だろ」
「へー……」中西は何か言いたそうだったが、そのまま黙っていた。

早くどっか行ってくれないかな。健臣は思った。

中西の態度には不思議と落ち着きが感じられたし、敵意がないのもわかったが、そこにいるだけで何となく威圧感があった。中学が一緒だったにもかかわらず、あまり話したことはなかった。
殺そうとも思ったが、正直勝てる自信がなかった。中西の運動能力が並外れていることは、クラスの男子全員が知っていた事実だった。まあいざとなったらやらなくてはならないだろうが。


健臣は訊いてみた。「中西、今までで何人殺した?」
「えーっと……何人だっけ?」
俺が訊いてるんだよ。
「数え切れないくらい殺したのか?」
健臣の問いに、中西は煙草の灰を地面に落としつつ、言った。「まだ一人も殺してないよ」
「……嘘つくなよ」
「本当だよ」
「じゃあ、ゲームには乗ってないの?」
「うん。多分」何だかホッとした。危険人物が一人減った。

健臣はため息をついた。
「中西はてっきり乗ってるのかと思ったよ」

中西は少しの間黙った後、不満そうな声を出した。「……何で皆そう思うわけ?誰に会ってもすげービビられるんだけど」
「怖いからだよ」
「おれが何したってんだよ。至って真面目に学校通ってんのに」
どこがだよ。健臣はつっこみたかった。

「……よく後輩シメてるじゃん」
「あれは別に……可愛がってやってるだけ」
「よくかつあげしてるって噂だけど」
「それはおれはやってない。仲田達がやってんだよ」
中西は真面目な顔をして、いやマジで、と言った。

「この前他校の奴と喧嘩してたじゃん」
「それは……向こうが売ってきたからだよ」
「ふーん……」まあどっちにしろ喧嘩はしてるんだな。
健臣は、自分も煙草のパックから、一本取り出した。

中西は言った。「あのさー、言うけど、中学のころのあの時だって変な奴らがおれに絡んできたんだよ。おれは自分からはいかないの。向こうが勝手にくんの!」
「それは……やっぱくるだけのものがあるからじゃないの?」
「……ああ、そうかも」中西は一人、納得(?)していた。



てか、こんな呑気にしてていいのかな。二日近く寝ていないのもあって、頭がぼんやりとしていた。最初にあった戦闘欲が、今はほぼゼロに近くなっていた。
「やばい、気を引き締めなきゃ」

「ん? 何か言った?」
中西はまるで自分の物であるかのように、煙草を学ランのポケットにしまっていた。

「いや、何でもない」
眠いなんて言えなかった。今の状態だと、戦ってもきっと負ける。弱みを見せたくなかった。

「てかさ、最初から気になってたんだけど……」
「何だよ」健臣は怪訝な表情をした。
「何でここにいるの?」
なぜ、中西がさっきと同じ質問をしたのかが理解不能だった。

「いちゃ悪いのかよ?」
「いや……学校行かなくていいの?」意味がわからなかった。
「学校?」
「もう二時半じゃん」
何言ってるんだ、コイツ。「言ってることがよくわかんないんだけど」

中西は少し考えた後、話し始めた。「昼に放送あったじゃん。そこで死んだ奴と一緒に生き残れる奴も発表してたんだよ」

話が読めてきた。健臣は急いでデイバックの中から地図を取り出した。

「H=2……遠いな」
「まあでも、そんなにかかんないと思うよ」

健臣は立ち上がってデイバックを肩にかけた。
「俺、もう行くわ。教えてくれてありがと」

……やった、生き残れるんだ!
健臣は嬉しすぎて小躍りしそうになったが、中西に悪いと思い我慢した。

少し迷ったが、銃を取り出した。
「もういらないから、やるよ」
「へ……いいの?」
健臣は頷いて、言った。「お前が教えてくれなきゃ、ずっと気づかないで、もしかして死んでたかもしれないし」

中西は躊躇するように間を空けると、言った。「学校行くまでに誰かに会ったらどうすんだよ」
あ、そうだ。

中西はフッと笑った。「いいよ、いらねーよ」
「でも……」
「おれにはこれがあるから」中西はそう言って、ゴルフバッドを振り回した。


健臣は思った。こいつ、アホなのかな。

――まあいいか。

健臣はこのゲームの中で、初めて自分が笑っていることに気づいた。

「じゃあな」健臣はそう言った。

あ、そうだ。健臣は続けた。「新島には気をつけた方がいい。あいつに会ったらすぐ逃げろよ」
「へー、わかった」中西は頷いた。「気をつけるよ。サンキュ」
健臣も頷いた。

368ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/22(木) 22:46 ID:2KqO5TgA

 ――やっぱもらっとけばよかったかな。
田阪と別れた後、諒はそう思い頭を掻いた。

まあいいや。おれはもう決めたんだ。親父のようにはならない。たとえ、ここで死ぬんだとしても。

通学用バックに必要な物を詰め替えた。諒は、静かにそこを去っていった。



田阪健臣がH=2に着いた時にはもう、午後三時になろうとしていた。
やや疲れた様子の、朝にも見た若い男は言った。「田阪健臣君ね。遅いよ」

男は気だるそうに手招きをした。それから首に手をかけると、首輪を外してくれた。
「呼び出そうと思ったけど、来てくれてよかった。七時にバスが来るからそれまでここで待ってて」男は言った。



案内された場所は、一見ただの教室だった。
一人の女生徒が、テレビを食い入るように至近距離で見ていた。テレビの中では、おどろおどろしい音楽がかかっていた。

高城麻耶(女子十七番)は、健臣が入ってきたことに全く気づいていないようだった。

「あのー……もっと音下げてくんない?」
――聞こえていないようだった。

「おーい……おい!」

「何よ!」
相手の迫力に押されて、健臣は黙った。「……音量下げて」
麻耶は黙ったまま、一つだけ音を下げた。
――もっと下げろよ。健臣は黙ってテレビのチャンネルを取ると、音を下げた。

「ついでに言うと、俺、もっと違うの見たいんだよね」
麻耶は健臣を睨みながら答えた。「やだ。私が見てるんだもん」
「殺し合いから帰ってきたばっかだってのに、こんなグロいの見たくないよ」
麻耶は、『死霊のはらわた』と書いてあるビデオを、デッキから取り出した。
「じゃあ、何がいいの?」

健臣はビデオラックを見た。フランダースの犬、アルプスの少女ハイジ、あらいぐまラスカル、ローマの休日、本当にあった呪いのビデオ――

「これがいい」
健臣はフランダースの犬を指して言った。
【残り12人】

369ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/24(土) 16:02 ID:2KqO5TgA

「俺のために、死んでくれない?」

――嘘。

有山鳴(女子三番)は後方に下がろうとして、しりもちをついた。掌が擦りむいたのがわかったが、そんなことはどうでもよかった。

柴崎憐一(男子五番)は一歩ずつ進んで、重苦しい銃の撃鉄を上げた。
「ごめんね。せっかく会いにきてくれたのに――」

鳴の目が見開いて、そして涙が滲んだ。
こいつは、知ってたんだ。あたしが柴崎を探してたこと。自分なしではいられないこと――

「やだ」鳴は言った。
鳴は立てていた膝を下ろし、ぺたんと座り込んだ。手がわなわなと震えていた。


「何であたしがあんたのために死ななきゃいけないのよ! ふざけないでよ!」
下を向いた時に、気づいた。胸ポケットに入っている銃。

鳴はそれを取り出し、憐一に向けた。


「あんたがあたしを殺そうとするなら、撃つ0,1秒前であたしもあんたを殺してやるからね! それでもいいなら撃ちなさいよ!」

憐一は驚いたように目を見開き、引き金に手をかけ、眉間に皺を寄せた。
怒っているような――悲しんでいるような――そんな表情をしていた。

「好きだけど――誰があんたのために死ぬもんか。あたしのこと好きなら、あたしのために死んでよ」

強がったつもりだった。それでも殺されるのはわかっていた。だから撃って、だなんて、しおらしい女の真似事をする気はなかった。


憐一の顔が歪み、銃の引き金が引かれ――


鳴は頭を覆って、体勢を低くした。



銃声が轟いた。



数秒後、鳴は強く瞑っていた目を開けた。とりあえず、死んでないらしい。

「鳴ちゃん、相変わらず面白いね」
憐一はぼんやりとそう呟くと、銃を下ろした。

「いいこと教えたげる。俺も、お前のこと、割と好きだよ」


――割とって何よ。
それでも、嬉しかった。


憐一の名を呼ぼうとして、気づいた。普段憐一と仲のいいクラスメイトが、すぐ後ろにいた。

鳴は思わず呼んだ。「大迫!」

370ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/24(土) 16:05 ID:2KqO5TgA

 憐一は振り向いて、大迫治巳(男子二番)の存在に気づいた。

「柴崎―――」
鳴がそう叫ぶのが聞こえたのと同時に、ゴッ、と鈍い大きな音が聞こえた。



憐一の頭に、衝撃が走った。殴られたのだ、と気づくまでに、いくらかの間があった。


治巳は漬物石並に大きな石を片手で持つと、それを地面に落とした。

鳴は目の前の状況が理解できずに、ただ茫然と二人を見つめていた。


「こんなとこでいちゃついてんなよ、憐一」
そう言って、憐一の髪を引っ張って持ち上げた。

「治巳――」憐一は驚いたように、治巳を見た。

治巳は憐一の手に握られていたコルトガバメントを引き剥がして、鳴を見た。鳴はワナワナと震えていた。
治巳はにやりと笑うと、憐一に銃を向けた。


「いやっ、やめて!」鳴は我に返って、叫んだ。

憐一のいる方向へ、走り出そうとしていた。



治巳の手に握られていた銃が発射された。


銃声が鳴り響いたのと同時に、鳴の左胸に穴が空いた。



「――あ……」
憐一は鳴を凝視していた。目を見開いた表情のまま。

「……鳴!」憐一は叫んだ。



俺は、結局誰のことも殺せなかった。甘いのかもしれない。
女の子に暴力はよくない。女の子は優しく扱うもので、傷つけるものじゃ――

――傷つけてきた。いつも。興味本位で適当に手を出して、いらなくなったらポイ捨てした。別に相手は誰でもよかったんだ。俺の欲求を満たしてくれれば。


でも、死んで欲しくなかったよ、あんたには。
どうせ撃てないとわかっていたのに、銃を向けた。優越感を感じて、他人が自分を本気で愛していることへの優越感を感じるように、精神的に上になったような気で銃を向けた。
でも、向けると相手は案外強くて――

俺に気づかせたんだ。こんなことばっかりしてちゃいけないって。



「あーあ、死んじゃったね。可哀相にね」
ぬめり気のある液体のような声音で、治巳は話した。

気味が悪い。不愉快だ。気持ち悪い。やめろ。

「……やめろ!」憐一は叫んだ。


治巳はコルトガバメントを持ち替えて、憐一に向けた。



銃声が三回響いて、憐一の体は三回揺れて、また沈んだ。



辺りはすっかり静かになった。二人とも、もう動かなかった。
憐一の骸を仰向けにさせた。どうやら死んでいるようだった。

治巳は鳴に近づき、その手に握られていたワルサーを引き剥がした。そして、それを、自分のワイシャツのポケットに入れた。

鳴の頭をぽんぽんと叩いて、うっすらと笑みを浮かべた。
「……おやすみ」


……これでやっと銃が手に入った。
ささやかな喜びを噛みしめながら、治巳は、千嶋和輝(男子九番)の元へ急いだ。
【残り10人】

371シン:2004/07/26(月) 20:36 ID:uhKDQD7Q
お久しぶりです。シンです。
しばらく部活で忙しくって気になってたらけっこう進んでいてうれしいですww
放送で呼ばれた人は誰か死んでしまうんじゃないかとひやひやしました(汗)

372ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/27(火) 23:56 ID:2KqO5TgA

 千嶋和輝(男子九番)は、茫然としたまま、大迫治巳(男子二番)のことを考えていた。

さっきは無条件で治巳を怖がったけど、もしかして、正当防衛だったのかもしれない。やむをえなかったのかもしれない。俺だって代々木を殺したように、治巳にだって理由があるんだ。そうじゃなきゃ、あの治巳が人殺しなんかするわけない。和輝はそう思い直した。

治巳を待とう。そしてわけを聞くんだ。これだけのことで逃げるなんて、そんなことは出来ない。


和輝は時計を見た。もう、一時間二十分も経っていた。

あいつ、何してんのかな。まさか誰かに撃たれて――和輝は立ち上がって、辺りを見回した。

和輝は治巳に預けられていた探知機を見た。一つの点が、こちらに向かっていた。治巳だ。和輝はそう確信した。
勝手にデイバックをひっくり返したから、怒られるかな。まあ、いっか。治巳だし。


「和輝!」治巳はそう言って走ってきた。「いいお知らせ! 銃が手に入ったんだ!」
「銃? 何で?」
「落ちてた」治巳は銃を取り出して、掌に乗せた。「憐一と有山の死体の傍にあった」

和輝は少し驚いた。そう言った治巳の表情は、まるで、柴崎憐一(男子五番)と、有山鳴(女子三番)の死まで、ラッキーだと言うかのように見えた。

「そっか……」
和輝は憐一と鳴のことを思い浮かべた。
寂しかった。どんどん、クラスメイトが死んでいく。


治巳は少しずつ歩み寄って、何かに気づいたかのように、和輝を見た。
「オレのデイバック……勝手に開けた?」治巳の問いに、和輝は少し血の気が引いた。
「あっ、悪い。冷却スプレー探してて……」治巳はふーんと言った。

「じゃあ、あのビニール袋も見たんだ?」
和輝は唾を飲み込んだ。少し間を空けて、そっと頷いた。

「そっか……」治巳は笑みを浮かべた。
「でも、別に、だからどうってことないよ。何か理由があったんだろ? それなら仕方ないよ」和輝は不安を感じて言った。

治巳は何も言わなかった。ズボンのポケットに入っていた煙草に、火をつけた。

373ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/27(火) 23:57 ID:2KqO5TgA

 治巳は切り出した。「オレさ、昨日、和輝と笹川ちゃん見たんだよね。何時くらいだったか忘れちゃったけど」

和輝はわけがわからず、治巳の話を聞いた。

「どっかの小屋から出ていくところだった。結構遠くから見たから、追いかけても既に二人はいなかった」

それがどうしたんだよ? 和輝はそう言おうとした。だが、思わずそれをためらってしまった。
「でさー。気まぐれで入った小屋の中に大島さんがいた」


大島薫(女子九番)の名前が出てきたので、和輝は驚いて治巳を見た。

治巳は早口で言った。「案外簡単に死ぬもんだな、人って」

和輝は沈黙していたが、訊いた。「どういうことだよ?」
その声を聞いて、自分がかなり狼狽していると思った。「お前、大島を殺したのか?」

治巳は口元に笑みを浮かべて、頷いた。


薫の死体を思い出した。治巳があんなに酷いことをするなんて――

「嘘だろ。何でお前が……」和輝はかろうじて訊いた。
「結構抵抗されたけどね。まあ首にカマを突き刺したら、すぐにおとなしくなったっていうか――」
当たり前だ。

「で、逃げようとしたら、何を思ったんだか二人が戻ってきて、とっさに茂みの中に隠れた。あの時、お前ら何で戻ってきたの?」


和輝の頭は真っ白になっていたが、うわごとのように呟いた。「加奈が戻ろうって言ったんだよ。大島が心配だったから……」
「へー……」治巳は笑った。「そりゃご苦労」

「その後は、すっかり服も顔も血だらけになっちゃったから、近くの湖で洗って、暇だからお前を探そうと思った。多分近くにいるだろうしね」

「まずっ……」治巳は顔をしかめて、煙草の吸い殻を手で弾いた。

「でさー、見たら丘の上ですっげー争ってて、いつ応戦しようかと迷ってたら、お前落ちたよな?」治巳はそう言って、笑った。
「その後あの代々木も死にかけだったから刺したよ。お前は気づかなかっただろうけど」


和輝は驚いた。「……嘘だろ? 俺が殺したんじゃ……」

治巳はズボンのポケットから、小さなバタフライナイフを取り出した。血が固まって、錆のように赤黒くこびり付いていた。

「六年前からずーっと持ってた。もし今度、家族が襲われたら、オレが守ってやるんだ」
「……治巳?」
「もう二度と殺させないよ。オレが守ってやるんだ」口調が幼くなり、ナイフを愛おしそうにさすった。

「治巳! しっかりしろ!」

和輝が叫ぶと、治巳は我に返ったように和輝を見た。何か、怯えたような目で。


「そんで、今、ここにいるわけだよ。納得した?」治巳は言った。
和輝は茫然としていたが、治巳に言った。「何だよ納得って……何で大島を殺したんだ? あいつがお前に何かしたのか?」和輝は声を荒らげた。

治巳は面白そうに笑った。「別にー。殺したくなったからじゃん? よく覚えてないけど」

和輝は驚愕した。治巳が、信じられなかった。あの治巳が。



「で、どうすんの?」治巳の問いに、意味がわからず、和輝は尋ねた。
「何がだよ」
「決まってるじゃん。オレを置いてここから立ち去るか、それとも、オレを殺すか……」
和輝は首を振った。

「治巳。嘘だろ? いつもの冗談だろ?」

治巳は無言だった。銃を取り出し、その性能を確認していた。


「まあ、オレはどっちみち、お前を殺すつもりだったんだけどね」そう言って、治巳は笑みを浮かべた。
【残り10人】

374ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/28(水) 00:01 ID:2KqO5TgA
シンさん>
お久しぶりです。部活ですか、いい響きですね(遠い目
何とか死なないで、2人とも無事にたどり着きました。よかったよかった(?)

これからラストに向けて、もう少し突っ走りますのでよろしくお願いします。

375ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/07/28(水) 00:04 ID:2KqO5TgA

「オレはどっちみち、お前を殺すつもりだったんだけどね」

大迫治巳(男子二番)が千嶋和輝(男子九番)にそう言ってから、はや三分が経過した。二人とも、止まったままだった。

「何とか言えよ」治巳が言った。

だが、言葉が出なかった。
治巳はへっと笑った。「お前にやる気がないなら、それでもいいけど。あがくなら今のうちだよ」

そうだ。和輝は胸ポケットから銃を取り出した。
治巳が見計らったように撃った。


酷く大きな射撃音がして、和輝は心臓が爆発しそうになった。



とりあえず、逃げた。どうやらあいつは本気らしい。何発か銃声が聞こえたが、当たったのかどうかすらわからなかった。
ただ、深い、絶望にも似た気持ちが、和輝の脳を掠めていた。



和輝は森の奥へ逃げ込んだが、もう限界だった。
治巳は足が速い。俺なんかじゃ、すぐ追いつかれてしまう。


昨日ひねった足が、また痛み出してきた。和輝は息を切らしていた。
治巳がやってくる。いつもと変わらない、あの笑みで。


和輝は不思議と、治巳がそこまで恐ろしく感じなかった。恐ろしく感じなすぎて、どうしていいのかわからなくなってくる。


治巳は和輝を見つけると、いつもと変わらない表情で言った。「死んでもらうよ」
それから少し間を空けると、悪いな、和輝、と言った。


和輝は静かに息をついていた。もう終わりなんだろうか。実感が湧かない。怖いという感情すら、思い出せなかった。本当は怖くてたまらなかったのだろうが。



和輝は殆ど何も考えられなかったのだが、ふと思い出した。

和輝は茫然と呟いた。「――俺の飼ってた猫が死んだ時、お前は一緒に泣いてくれて、墓作ったよな。中一の時、誰とも話さなかった俺に初めて話しかけてくれたの、お前だったよな」

治巳は、一瞬打ちのめされたような表情になった。

「だから、信じられなかったんだよ。お前が、あの時、大泣きしてたこと思い出して。今でも信じられないよ!」


「黙れ!」


治巳は飛びかかって、和輝を殴りつけた。



「黙れ、黙れ。オレはそんなに綺麗な人間じゃないんだよ! 汚いんだよ! お前のことも平気で騙してたんだよ!」


治巳の叫びと同時に、乾いた拳の音が響く。


「猫の話なんてとっくに忘れてたよ。お前に話しかけたことも! 後悔してるよ! テメーみたいな何の取り柄もなきゃ、女一人もモノに出来ない愚図野郎と、今まで友達だったことをな!」


殴り続けて、気がついた。

真っ赤に腫れ上がった顔。口から血が出ていた。目には青痰ができていて、和輝の、割合整った顔を台無しにしていた。


治巳は和輝の胸倉を掴んでいた手を、放した。気絶しているらしかった。

「……ふん」

治巳は和輝の体を蹴って、踵を返した。それから、デイバックの中身をかき集めた。

「こんなに散らかしやがって……」治巳は静かに呟いた。


気絶した和輝を残したまま、治巳はその場を後にした。
【残り10人】

376ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/01(日) 14:27 ID:2KqO5TgA

 姫城海貴(男子十六番)と、冬峯雪燈(女子二十一番)は、座り込んでたたずんでいた。また、無言の時間。雪燈は海貴の横顔を見ながら、これからについて、考えた。
今何人だっけ。確か、昼の時点で十五人。その内田阪健臣(男子七番)と、高城麻耶(女子十七番)が、生還(チクショウ、羨ましい)だから、多くても13人。
そこまで考えて、雪燈は思った。

もし、二人だけ残ったら――


元々何の情もない仲だし、あたしはこいつを殺すかも。勿論、反対のことも言えるけど。でも、こいつの武器はハズレだ。あたしは銃だから、あたしの方が有利かも。雪燈はそんなことを考えていた。


ふと、海貴が立ち上がった。「ちょっと便所」

「ああ、いってらっしゃい」
別に移動しなくても、と思ったが、言うのはやめておいた。


「……はーあ」雪燈はため息をついた。

顔も体も、何だか微妙にベタついて、気分が悪い。歯は磨いたが、水が少ないので顔は洗えない。拭き取りシートは持っていたが、やはり風呂に入りたかった。
一応、男の前で、化粧が崩れた顔を晒しているのは、正直雪燈のプライドが許さなかった。

川とか、あっても汚いしな。井戸とか? それも汚そう。ペットボトルの水は――だめだ。ただでさえ喉が渇いているのに、これ以上使うわけにはいかないと思った。



「冬峯」

唐突に呼ばれ、雪燈は上を向いた。海貴は雪燈を見下ろすような形で立っていて、言った。「腹へらない?」
雪燈は一瞬間を空けて、「すっごく」と答えた。本当に腹は減っていて、胃に穴が開きそうだった。
「パンやるよ」海貴は淡々とした口調で言った。

雪燈は驚いて、海貴を見つめた。「なに、まさか、あたしに惚れたの?」
「んなわけないじゃん」

ムカッ。

「俺食欲ないから。その代わり水一口ちょうだい」
「ああ。飲みかけでもいいなら。一口だけだよ!」雪燈はペットボトルを渡した。
「わかってるよ」
海貴は本当に一口だけ水を喉に流し込むと、蓋を閉めて雪燈に返した。
「はー……だるい」
「大丈夫? 風邪引いたの?」雪燈は訊いた。

「わかんない。頭痛いからちょっと寝かして」
そう言って、雪燈に背を向けて横になった。


雪燈は思った。よく平気であたしに背向けられるな。あたしに撃たれても、文句言えないよ?
雪燈はブローニングハイパワー9mmを掲げ、海貴の頭付近に、向けた。
片目をつぶり、狙いを定めた。


ドン!


――なんてね。冗談だけど。


雪燈は膝を抱え、海貴の後頭部を見つめた。どうなるんだろう。あたしも、こいつも。

死ぬのかな。いつ? どこで? 何のために?
いくら考えても、その答えが出るわけがないのはわかっていた。

377ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/01(日) 14:29 ID:2KqO5TgA

 雪燈は顔を上げて、気づいた。一歩ずつ、自分に近づいてくる女子生徒。


――吉野さん?

雪燈は念のため、銃を持ち上げた。美鳥は笑みを浮かべて、眠っている海貴の傍にきた。座り込んで、それから海貴の頭を撫で――雪燈に銃を向けた。


……イヤッ!


美鳥の撃った弾は当たらなかったようだ。どこに行ってしまったのかはわからなかったが、雪燈は頭を押さえ、うずくまった。


海貴は驚いて目を覚まして――美鳥を見て、固まった。
「吉野――」

美鳥は言った。「伊藤さんを見捨てて、この女と浮気中?」
「そんなんじゃねーよ」海貴は強い口調で言い返した。
「冬峯、行くぞ!」


突然呼ばれたので拍子抜けしたが、とりあえず頷いた。


美鳥はぺたりと足をついて、茫然と二人を見ていた。

海貴は美鳥を通り越し、雪燈の元へジャンプした。


美鳥は震える声で、呟いた。「待ってよ。姫城……」


雪燈は振り向いて美鳥を見つめた。今にも泣きそうだ。何か、あったのかな。

海貴が振り向かなかったので、美鳥は声を荒げた。「そんなバカ女のどこがいいのよ! 私の方が、あんたのこと好きなのに……」


――ええーっ? 雪燈はもの凄く驚いた。そうだったんだー……
……ってか、バカ女って。


美鳥は雪燈を指差して言った。「そいつは男なら誰でもいいのよ! 知ってるんだから、こいつと同じ中学の子に聞いたんだから!」美鳥は叫んで、それからはあはあと息をついた。「こんな公衆便所! 汚らしい!」


――公衆便所。雪燈の心が、ずきっと痛んだ。

別に昔のことを後悔してるわけじゃない。あの時は、あれで必死だったから。おじさんに体を売るのも、それはそれで悪くないような気がしてたから。
でも、最近はそういうのは一切やめた。何か突然嫌になったから。今更清純ぶろうなんて思ってないよ? 思ってないけど、改めて面と向かって言われると――傷つくなあ。



海貴は雪燈をちらっと見たが、言った。「そんなこと今関係あんのかよ。人のことぐだぐだ言う前に、自分の性格直せば?」

美鳥は打ちのめされたような表情になった。

「行こう」海貴は雪燈の肩に手をかけた。


肩越しに、美鳥の笑い声が響いた。
「……ほっとけ」海貴はそう言って、走り出した。

雪燈は振り向いて、恐怖を覚えた。美鳥が凄まじい形相で、自分を睨みつけていた。

「……姫城。あんたもバカな男だね。わかってたけど」
ゆっくりと、スミスアンドウェソンを持ち上げた。

「バカな男には死の制裁」

げっ。
「姫城……」雪燈が海貴に伝える前に、美鳥の銃が、火を噴いた。


隣で海貴の体が、一瞬倒れかけたのがわかった。
「大丈夫?」雪燈は叫びに近い声で、訊いた。
「……平気」

海貴は左腕を撃たれたようだが、比較的軽傷らしかった。デイバックの中から、直径十五センチほどの円柱の物体(ヘアスプレー)を取り出し、美鳥に向かって投げつけた。


ガン、とここからでも聞こえる音がして、美鳥は頭を押さえて、座り込んだ。
……当たったらしい。


「急ごう」海貴は雪燈の腕を掴むと、自転車のある方に走り出した。

「二回目だ。乗れ!」
「……うん」

雪燈は自転車にまたがった。今回二回目の自転車ドライブ。まあ、別に嬉しくないけど。

振り向いたが、美鳥は攻撃をしてこなかった。どんどん遠ざかっていき、見えなくなった。



「ふー……死ぬかと思った」海貴は汗を拭って、言った。
「その腕、大丈夫?」
「うん」

海貴は少々ためらっていたようだが、話し出した。「あいつ、怖いんだよ」
「何が?」
「告白されて、まあ普通に断ったんだけど、それから毎日電話かかってきて、無視したら変なチェンメが送られてきて、アド変えたら誰かに聞いたらしくて、またメールがきた。返事送らなかったし、読まないで消したら、知らない女からメールがたくさんきて……」
「何それ」
「出会い系サイトに勝手に登録されてたんだよ。しかも画像つきで」
「……怖っ!」
「以来口利いてなかった。正直気味わりーよ」

ふーん。恋って凶暴。雪燈はそう思って、更に考えた。自分はそこまで相手にのめりこんだことはない、と。
どんな気持ちなんだろう。出会い系サイトに好きな男の名前を登録した時の、吉野さんの気持ちは。歪んでることには間違いないけど……

もう経験することもないのかな。恋とか。そう思うと、雪燈は何だか寂しくなった。
【残り10人】

378ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/01(日) 14:33 ID:2KqO5TgA

 内博美(女子七番)は、I=4の片隅にいた。こんな草むらにいて大丈夫なんだろうかと思いながら、足早にここを通り抜けようとしていた。

昼の放送では生徒が着々と死んでいることが分かっていた。その放送が来る度に、博美の中の抑えていた感情が、溶け出すように降りてきた。

クラスメイトだった人達が死んでゆく。それはまるで、小学校のころ、予防注射を待っている時のような感じだった。前に並んでいる子達が泣きながら帰っていくのを見て、余計に怖くなったものだ。

今回の順番待ちは、あのころとは比べ物にならないほど長く、怖い。あの時、わたしに、大丈夫よ、と言ってくれたママも今はいない。
独りぼっち、とても孤独だった。


死ぬことは、神様のお傍へ行けること。そう考えれば、怖いことなどない。
でも、殺しあうということ。それは、何も生まない。遺された人達が悲しむだけ。
そのために死んでゆく人達を見るのが、辛かった。
そして、それに巻き込まれて死んでいく自分のことも。

本当は、怖くないはずなどないのだ。


博美は自分の人生を思い出した。悪いことはしてない。勉強も精一杯頑張ったし、ママの言うことだって守ってきた。中学の時に苛められた時も(準鎖国性のこの国で、毛色の違う自分が奇異の目で見られることは、よくわかっていた)、嫌なことがあったって、誰にも泣き言は言わなかった。誰にも恥じない人生を送ってきたと思っている。
なのに、何で――

博美はそこまで考えて、自分を恥じた。


人を憎んだり、責めてはいけません。自分が誰に見られても恥ずかしくないように生きていれば、いつかは必ず報われる、神様は全て見ているのよ。
――ママは昔、わたしにそう教えてくれた。

博美は空を見あげて、手を組んだ。

主よ、わたしがもしここで死ぬとしたら、無残に殺されるとしたら、それはわたしの罪が重いからですか? わたしは自分でも気づかないうちに、他の人を傷つけたり、嘘をついたり、よくない行いをしていたのかもしれません。
でも――


「それでも死にたくない、と思うことも、罪なのでしょうか」
博美は天を仰ぐように祈った。

くすんだ空からは、今にも雨が降り出しそうだった。



新島敏紀(男子十四番)は、ふと辿り着いた場所に腰を下ろした。

そういえば、ここは梅原ゆき(女子八番)を撃った場所に近い。あれからもう一日経つのか、早いな。

「誰かいないかな」敏紀は呟いた。
こんなことなら、あの時、梅原を殺しとくんだった。まだいいと思ったんだ。情けない。


「……動くか」敏紀は立ち上がった。

足の痛みはだんだん酷くなっていた。早めに全員死んでもらわなきゃ、こっちの体調だって悪くなる一方だ。


弾を詰め直したウージーをしっかりと持ち直し、敏紀は歩き出した。



……疲れた。博美は静かに呟いた。でも歩かなきゃ。向こうの森に行けば、休めるかな。いや、でも禁止エリアがどこからかわからないからやめよう。
博美はそう思い、反対方向に歩き出した。



人間らしきものを見つけて、立ち止まった。


ん? 人が倒れてる。死んでるのかな……。誰なんだろう。博美はその人物の元に近寄った。


ウエーブのかかった黒髪、色白の顔。眠るようにして、梅原ゆきは死んでいた。季節柄、その死体からは特有の、嫌な臭いがした。
博美はしゃがんで、ゆきの冷たい頬に触れた。


「人は死ぬと、全ての罪から解き放たれるのです。だから死を怖れてはいけません」

これも、母親が言った言葉だった。母親はイギリスのハーフだった。厳しく、また優しい、美しかった母は三年前に死んだ。博美は母を尊敬していた。

ママは今、天国にいるんだ。そこは争いもない、悲しみもない。
「神がもし、こんなに醜い私を天国へ送ってくださるというのなら、私はどんな痛みでも恐れずに、喜んで息絶えるでしょう――」
ママはそう言って涙を流しながら、死んでいった。ママは最期まで美しかった。

いつかママのような素晴らしい人間になる。博美はそう思っていた。


「……ママ、わたしも恐れないよ」博美は呟いた。
まだ少し怖いけれど、きっと大丈夫。


博美はゆきの死体に手を合わせ、冥福を祈った。

379ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/02(月) 22:31 ID:2KqO5TgA

「あれ、先客だ」
唐突に声がして、目を開けた。

「あんたがこいつ殺したの?」新島敏紀は、じろじろと無遠慮に博美を見た。

「祈ってただけ」
「は?」
「梅原さんが天国に行けるように」
「へー……」
敏紀は興味深そうな顔をして、何を思ったのか近づいてきた。


敏紀は腰を下ろして、博美に尋ねた。「あんたハーフだよね、どこの?」

「クォーター。イギリスだよ」
「へー。この国にイギリス人なんていたんだ」
「政府が時々放送する教育用のドラマに、わたしのおばあちゃんが出てたの。東亜人を虐める役として」
「あー!」敏紀は納得したように頷いた。

「そこでカメラマンの子供を身篭って、それがママだってわけ」
「ふーん」敏紀はかすかに口元に笑みを浮かべて、続けた。
「くっだらないドラマだよな、あれ。あんなことしたってこの国が最低な国だってことは、皆知ってんのにな」
「そんなこと言っちゃ駄目だよ」博美は少し眉を寄せて言った。



敏紀は立ち上がって、伸びをした。振り向くと、博美の首にかかっている十字架のネックレスと、ロザリオを見た。「……あんた、クリスチャン?」
「そうだよ」
「信じるものは救われるってヤツ?」
「そう」
「へー」
敏紀はまた座り込むと、十字架を引っ張った。かすかに、博美の顔が歪んだ。

「救われるわけねーじゃん。このプログラムに参加してる時点で、あんた救われてないじゃん」

博美は苦しげな顔をしていたが、言った。「死ぬことなんか怖くない。死は誰にでも訪れるものだから。数分前のわたしなら抵抗してたかもしれないけど、でも、今のわたしは違うわ。ここで死ぬことが神の定めた運命なのだとしたら、わたしはそれに従う」
「へー……」敏紀はネックレスを放した。

思った。バカみたいな女だ。憎らしいくらい。


「どんな運命でも従うんだ?」博美の手首を、痛いほど握った。
「新島く、ん。痛い……」
「たとえば――これから俺があんたを襲って、それから殺しても? それでも従うの?」

博美の顔が、みるみる強ばっていくのがわかった。

「あんた聖女みたいな人だね。でもあいにくさ、俺は神なんか信じないんだよね。あんたがもし、今信じてるって言ったって、今から数十秒後には神なんかいないって思うぜ」

敏紀は博美を草むらに突き飛ばした。


「絶対にな!」敏紀は怒りを感じさせる声音で、言った。
【残り10人】

380ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/02(月) 22:33 ID:2KqO5TgA

「やめて! お願い! やだ!」
 内博美(女子七番)は、必死で抵抗していた。だが、どんなに暴れても、新島敏紀(男子十四番)の力には勝てそうにもなかった。

イヤだ、怖い!

「やだね」敏紀は笑みを浮かべたまま言った。しかし、目は笑っていなかった。
それから、博美の制服のブラウスを引き千切った。

「ほら、怖いだろ? それとも、神様はお前に試練を与えて下さってるとでも言うのか? それでも感謝すんのか? 随分めでたい女だな!」敏紀は言った。


博美を見下ろす体勢になると、言った。「“神様なんてものは存在しません。全て私の妄想の産物でした”って言えば、やめてあげてもいいよ?」

博美は打ちのめされた表情をして、がたがたと震えていた。

「言えよ」
ぶるぶると首を振った。

「離して! お願い!」
いつの間にか、自分が涙を流していることに気づいた。

敏紀は博美の首を緩く絞めて、言った。「まあ、神様なんていないって、思っただろ?」

博美は息苦しさに顔を歪めた。敏紀はそのまま、博美のスカートに手を伸ばした。



中西諒(男子十番)は道を歩いている時、誰かの声を聞いた気がした。
女の声。叫ぶような――

「また誰かが殺されそうになってんのかな……」

行かない方がいいかもしれない。
そう思いながらも、諒は声のする方へと向かっていった。


――聞こえなくなった? でも、ここの辺りだった気がするんだけど。

諒は茂みの中を進んだ。


「やだ……」女の声が聞こえた。

諒は音を立てないように、すばやく進んだ(これは結構難しい)。

あ、いた!


諒は藪の中を少し離れた場所から覗き込んだ。男子生徒と女子生徒がもつれ合っている。少し離れて女の死体。

「うわー……」諒は興味津々で見ていた。

でも、これじゃ嫌がってんのかどうかがよくわかんねえな。和姦なら邪魔するわけにはいかないし。
もうちょっと様子見るか。諒はそう思いつつ、二人を見た。



ぽつぽつと、小雨が降っていた。
「やっと大人しくなったな」敏紀は言った。

――声を出しても、何も届かない。


「怖いだろ? 今言えば、やめてもいいよ」敏紀は柔らかい調子で言った。
博美は首を振った。

敏紀は舌打ちをした。「あっそ。じゃあ勝手にするわ」


――全てが済めば、自分は殺されるのだということは、もうわかっていた。


――これが、わたしの運命?

何度も同じ問いが頭の中をぐるぐると回る中、博美は母親のことを思い出していた。

ママは父と結婚するのを反対されてて、それでもわたしを産んで、でも父とはすぐにうまく行かなくなった。ママは体の弱い人だった。それでも、わたしを育てるために働き続けた。何度も過労で倒れても、ママは働き続けた。わたしを高校に行かせるために。

そして、あっけなく死んでしまった。



「あっ、そっか。それがわたしの罪なんだ」
「……は?」
敏紀が顔を上げた。

博美は敏紀の手に、自分の手を置いた。
「わたしは、自分に恥じないように生きてきたつもりなの。でも、わたしは罪を犯してた。一番最低なこと。だからたとえこれが運命だったとしても、仕方ないの」

「……何言ってんの?」
敏紀は思った。仕方ないって? 犯されて殺されても仕方ない? 相当頭おかしいわ、こいつ。

「仕方ないわけないだろ。そんな運命で納得すんなよ」

博美は言った。「ママが言ってたの。もし可哀想な人がいたら手を差し伸べてあげなさいって。あなたは可哀想な人だから、手を差し伸べてあげる」


敏紀は猛烈に腹を立てた。「ざけんな。俺はちっとも可哀想じゃねーよ……」

敏紀はウージーを掴んだ。
「いい人ぶってんじゃねーよ。イライラすんだよ!」


博美に、銃口を押し当てた。

「お前の方が可哀想だよ。それに気づかないなんてもっと可哀想だな。手を差し伸べてやるよ」そう言って、皮肉な笑みを浮かべた。
博美は黙って、敏紀を見つめた。



諒はバットを握り締めた。
内さんが殺されそうになってる。しかも相手は……新島。

マシンガン対ゴルフバッドでは、とてもじゃないが勝てる気はしないが、ほっとくわけにはいかなかった。


諒は新島に向かって走り出した。

381:2004/08/03(火) 10:03 ID:AlWi/R6o
はぁ〜最近クラブがしんどい瞳です
・・・
今日も試合だわ、頑張るわ

382ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/05(木) 15:40 ID:2KqO5TgA

 敏紀は言った。「やる気が失せた。死ね」

思った。これで、やっとママの元に行けるんだ。向こうで、懺悔を聞いてくれる? お願いね。
博美は目を閉じた。


ぱぱぱ。

「うっ……」

近くで銃声が聞こえるのと、中西諒が新島敏紀に飛びかかったのは、ほぼ同時のことだった。
急所は外れたが、博美の体には、強い痛みがあった。


諒は敏紀に飛びついて、銃口を上に向けた。
「何だお前……離せよ」敏紀は言った。

「早く逃げろ!」諒は博美に向かって叫んだ。


博美は息苦しさに身を捩じらせていた。助かったということはわかったが、あまりにも突然すぎて、実感が湧かなかった。

「な、中西くん……」
口からごぼごぼと血が出た。今までに経験したことのない痛みだった。



諒が敏紀をねじ伏せ、銃を蹴飛ばした。
「邪魔すんな!」敏紀は叫んだ。
「無抵抗の女無理矢理犯して楽しいのかよ」諒は諭すように言った。

「ああ、楽しいよ」敏紀は答えた。博美を見て、へッと笑った。
「せっかく助けにきたのに残念だけど、そいつもう死ぬよ? 無駄だったね」


諒の怒りに火がついた。気がついたら、敏紀を殴り飛ばしていた。
右フック。敏紀の顔が歪むのが見えた。

もう一発。
バキッ。
骨を叩く音が何度も聞こえた。

もう一発――


諒は敏紀を殴り続けながら、おれはやっぱり親父の血を引いてるんだなと、ぼんやりと考えた。



「もう、やめて……」博美が掠れた声を出した。


諒は激しく息をつきながら、最後の一発を喰らわせた。

ゴッ。鈍い音がして、敏紀の鼻に当たったのがわかった。


我に返って、言った。「ここにいると危ないから、逃げよう」

博美は震えていた。
「怖い?」
首を振った。

「ごめん、おれがもっと早くきてれば……」
博美はまた首を振った。「わたしは、いいの。中西君、逃げて」片言のように話した。
「なんで? 駄目だろ」諒は言った。

博美は自分の胸に手を当てて、苦しそうに呟いた。「心から悪い人なんて、いない。だからこの人だって――」敏紀を指差した。
「本当は悪い人じゃないの」そう言って、震える唇が、笑みの形に変わった。


――真から腐った奴はいるよ。しかもたくさん。

諒はそう思ったが、口には出せなかった。

「でも、死にたくないだろ?」諒は声を荒げた。
博美は首を振った。「助けてくれて、ありがとう」

「だったら、逃げよう」諒は博美の手を掴んだ。



「いってーな……」

敏紀は鼻を押さえていた。顔の殆どを覆われた大きな左手からは、大量の血が押さえきれずに噴き出していた。

ちっ。諒は金属バットを持ち替えて、かまえた。

敏紀は鼻血を拭い、手についた血も拭った。
手を外すと、筋の通った鼻が、今は大きく曲がっているのが目についた。


うわ、痛そー。自分でやっておきながら、諒は思った。


「お前ら二人とも殺してやるよ」敏紀は言った。

「あ……」
博美が何かを言おうとしていたが、敏紀はそれを遮って、言った。
「残念だけど、俺は本当に悪い人だよ」



その瞬間、博美に銃弾のシャワーが浴びせられた。



制服が千切れて、血が飛び散った。

体にたくさんの穴が開き、博美は倒れた。

383ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/05(木) 15:43 ID:2KqO5TgA

 諒はそれを、茫然と見ていた。


「お前も全く役に立たなかったな」
敏紀は嘲笑した。そして、もう一度引き金を引こうとした。



一瞬のことだった。ゴルフバットがブーメランのように弧を描いて飛んできた。

「うっ……」
敏紀はそれを避けたが、その隙に、諒は敏紀からほんの一メートルの場所まで来ていた。

ダダダダ。
敏紀はマシンガンを発射した。

銃弾が腹部に当たったが、諒は多少身じろいだだけで、敏紀の胸倉を掴んだ。

「気が変わった」
「――は?」
「お前を殺してやるよ」諒は言った。

そしてもう一度、敏紀を渾身の力で殴ろうとした――



「まあまあ中西君、落ち着いて」


その声と同時に銃声が聞こえ、敏紀の胸に穴が開いた。

「ぐっ……」敏紀はそのまま、ずるずると倒れた。

「うわっ!」
諒は心臓が飛び出そうになるほど驚いた。どういうことだ? 諒は辺りを見回した。

「ここだよ」後ろから声が聞こえた。
敏紀の胸倉を掴んだまま、おそるおそる振り向いた。


自分の肩に誰かが手を置いており、横からはしなやかな腕が伸びていて、銃を握り締めていた。

――すぐ後ろに誰かいた。


大迫治巳(男子二番)は笑みを浮かべ、銃を下ろした。「悪人に天罰を下しました」
「へ、はあ……」

状況が理解できないのと同時に、自分の気持ちと身体が、急速に萎えていくのを感じた。


敏紀を見た。匍匐全身で逃げようとしていた。

あっ、いつの間に。

諒は追おうとしたが、背後から、治巳が言った。「大丈夫だよ、あいつもう死ぬから」



「内さん!」
諒は博美に駆け寄った。


博美は目を閉じており、顔からは生気が失われていた。
穏やかな死に顔だった。

「内さん……」諒は呟いた。

結局、助けられなかった。

諒は博美の手を組ませてやった。

「本当に、役に立たなくて、ごめん……」


辺りが滲んできた。博美の顔さえ、よく見えなくなった。
【残り9人】

384ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/05(木) 15:48 ID:2KqO5TgA
瞳さん>
お久しぶりです。
クラブですか。大変ですねー。
私も中学の時は部活三昧だった覚えがあります。
頑張ってくださいね。

385ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/06(金) 23:12 ID:2KqO5TgA

 新島敏紀(男子十四番)は、これ以上力が入らなくなって、そのまま仰向けになった。

今までの思い出が走馬灯のように蘇ってきた時、自分がこれから本当に死ぬんだということがわかった。敏紀はそれを酷く滑稽に感じて笑った。


俺は別に、凄く生きたいと思ってたわけじゃなかった。
どうせ死ぬってことは、このゲームに参加した時からわかっていたことだから。

自分を裏切った女の顔も思い出した。というより、ずっと離れなかった。
心から楽しかったと言えば、あいつと一緒にいた時だけだったのかもしれない。


空からはポツポツと雨が降り出していた。


内博美(女子七番)のことを、考えていた。本気で襲う気なんてなかった。ただ、あまりに腹が立って――
あの女の理想論をめちゃくちゃに壊してやりたくなった。



敏紀はそのままボーっと、空を見ていた。暗い空の中に、一筋の光が差したような気がした。

あっ、天からの迎えがきた。もうすぐ俺は天に昇り――

――何言ってんだ、俺。あの女の毒に侵されたかな。



きっと見間違いだ。もしきてたとしても、俺じゃなくて、内のところにだろう。

「……そんなもん、いないんだよ……」敏紀は呟いた。

バカみたいだな。本気で信じてたのかよ。あんなにまでなって。何考えてんだよ。


「――ほんとバカだな、俺……」
敏紀はそのまま目を閉じた。



雨が大降りになってきた。

内博美(女子七番)の亡骸のすぐ傍に、中西諒(男子十番)はいた。

背後からは、またあの声が聞こえてきた。「可哀相だね、内さん。酷いことするねー」
大迫治巳(男子二番)は言った。


本当だ。何でもっと早く踏み出さなかったんだろう。諒は後悔した。

「でも、中西君はラッキーだったね」
「何が――」
治巳が中西の肩に手を置いた。
「人間って、頭を撃たれると痛いと思う前に死ねるんだって。知ってた?」

「えっ……」

振り向こうとした諒の目は治巳を捉えて、すぐにその上の物体を捉えた。



ぱん。


銃声が聞こえた。


それが最後の聴覚だった。もの凄い衝撃が頭の中を這いずり回り、そこから波が引くように、諒の視界は途切れた。


「あんたを殺したのがオレでよかったね」治巳はコルトマグナムを下ろして、静かに言った。

敏紀の持っていたウージーに手を伸ばした。
思った。まさかこの二人を同時に狩れるとはな。ちょうど通りがかってよかった。


治巳は倒れている諒の目を覗き込んで、言った。「おつかれ、中西君」
【残り7人】

386ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/06(金) 23:17 ID:2KqO5TgA

 ――目覚めた。

白々しく靄がかかったような視界の中で、千嶋和輝(男子九番)は、空を見上げた。生きているのだと、わかった。
俺は生きてる。


とっさに起き上がって、辺りを見回した。誰もいない。しばらく閉ざされていた記憶が甦ると、自動的に、大迫治巳(男子二番)のことも思い出した。


治巳の言葉が、和輝を奈落に突き落とす。

――テメーみたいな何の取り柄もなきゃ、女一人もモノに出来ない愚図野郎と今まで友達だったことを――


わかってるよ。そんなこと。
和輝はゆっくりと顔に手を当てた。顔が浮腫んでる。口の中が切れてる。痛い。


わかってても――


和輝は喉をしゃくり上げた。酷く重くなった目蓋の裏では、涙がこぼれ落ちていた。


俺は意気地がなくて、弱気で、いつも逃げてた。いつも、そんな俺を、治巳が後押しをしてくれてた。


――女一人もモノに出来ない愚図野郎。

その通りだよ。


中二の秋からずっと好きで、でも、好きだということが言えなかった。加奈が北川のことを好きなのがわかってたから、告白しようとも、諦めようともせずに、俺は何もしなかった。
……何もしなかったんだよ。


三年間、ぐずぐず迷ってた。バカみたいに、無駄に過ごしてしまった。こんなことになるとも知らずに――



和輝は立ち上がった。


後悔は、したくなかった。もし死んでしまうのだとしても、このまま、何もしないで終わるのは嫌だと思った。
こんな中途半端なまま、終わらせてたまるか。



辺りを見回すと、自分のデイバックのすぐ傍に、ぽつりと探知機が置いてあるのが見えた。
治巳のデイバックは、なかった。

見えないはずはない。回収できたはずなのに――


和輝は探知機を拾い、濡れた画面を手で拭った。
「ガンバレ」と言った治巳の顔が、思い出された。


「治巳――」
和輝はまた、泣いた。


絶対に加奈を探し出してみせる。和輝はそう思って、ふらついた足で、歩き出した。

387ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/08(日) 21:22 ID:2KqO5TgA

 笹川加奈(女子十四番)は、目を開けた。

――あれー? ここ、どこだっけ。

加奈は目蓋を擦りながら、その部屋の中を見た。

…………あ! 思い出した。中西君と別れて、ここで眠っちゃったんだ。

ひゃー。出なきゃ。加奈は立ち上がって、ドアに向かって歩き出した。


ノブを引こうとして、随分重いことに気づく。


――開かない。

「嘘っ!」加奈は力任せにドアを叩いた。
「やだ! 開けてよ!」加奈は泣きそうな声になって、言った。

このままじゃ、禁止エリアになったら死んじゃう。


ちょっとー、何で開かないのよー!


冷静に考えて、気づいた。
私が力任せにゴルフバッドで叩いたから、ドアが変形してるの?

サーッと、血の気が引いた。


そう、説明すると、ドアは内側に無理に圧力を加えられたため、鍵が開かなくなってしまったのだ。千嶋和輝(男子九番)と大迫治巳(男子二番)が訪れた時は半開きのため、問題はなかった。中西諒(男子十番)と共に戻ってきた時も、若干開いていたので、開け閉めはできた。諒が去った後、僅かな歪みを持ったドアはうまく閉まらず、加奈が寝ている間、何かの弾みで、閉まってしまった。そして、そのまま固定されたのだ。



「開けろー! 開けやがれー!」

加奈は泣き叫びながら、無理やりドアノブを捻りまわした。

「開けてー!」

必死でドアを叩いたが、強力なその敵(ドア)は、加奈の前に立ち塞がった。
【残り7人】

388ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/11(水) 00:07 ID:igZ3kd.k

 冬峯雪燈(女子二十一番)は、学校の教室にいた。うちの高校。うちの教室。
雪燈は教室の中に入った。

「おはよう雪燈」伊藤愛希(女子四番)が言った。
あっ、愛希だ。今日も可愛いなあ。
「やだ、雪燈オヤジくさい」愛希は笑った。
えっ、心の中で言ったのに……何で聞こえるの?

愛希は微笑みつつ、言った。「雪燈も可愛いよ」
あ、ありがと。

雪燈は教室を見た。いつもの光景だ。男子も女子もいて、皆笑ってる。

席に着くと、濱村あゆみ(女子十九番)が来て、雪燈の肩を叩いた。
「やっほー雪燈、遅かったねー」

あゆみ――。雪燈は違和感を覚えた。
そうだ、あたし達は殺しあってたはずじゃ……
「何言ってんのー。熱でもあんのー?」あゆみは笑った。

「この子寝ぼけてるー。何か言ってやってー」
「あー?」
近くにいた仲田亘祐(男子十一番)は言った。「殺し合いって……おっかねーな。いつもそんなこと考えてんの?」
考えてないよ。
仲田はフッと笑った。「そういうことは諒にでも任せとけ。あいつプロだから」

隣にいた田辺卓郎(男子八番)が笑った。「そういや、諒何やってんだろうね」
「あいつのことだから、また遅刻だろー?」塩沢智樹(男子四番)も言った。
「そうだな。いっつもそうだし」


雪燈は思った。あれは、夢だったのかな、それとも、こっちが夢?

「おはよー」鈴木菜々(女子十六番)が言った。
彼氏の御柳寿(男子十九番)も一緒だ。
「今日もラブラブだね。羨ましー」あゆみが言った。
ほんとー。
「やだ。そんなことないよ」菜々は照れながら言った。「あゆみだって彼氏いるじゃん!」
そうだよー。あっ、もしかして、今いないのあたしだけ?
「雪燈も早くいい男見つけなよー」二人が言った。
わかってるって。

「冬峯」後ろから自分を呼ぶ声が聞こえた。柴崎憐一(男子五番)がいた。
「日本史のノート提出、今日までなんだけどまだ出てないんだよね。ある?」
あっ、そうだ。雪燈は机を探した。うーん……忘れてきたっぽい。ごめんね。

「わかった」憐一は他の席の子に呼びかけに行った。

「てかさー、柴崎がクラス委員長だなんて、あわないよねー」近くの席にいた天野夕海(女子一番)と、望月さくら(女子二十番)が言った。
「しょうがないじゃん。ハメられたんだもん。お前らに」
「まあ、こいつ案外成績いいからね」有山鳴(女子三番)も言った。
「そう、そこがムカつくー」夕海が言った。

雪燈は笑った。何も変わらない、いつもと同じ風景。
あんな嫌な夢はもう忘れよう。雪燈はそう思った。

新井美保(女子二番)と紺野朋香(女子十三番)は窓際で話していた。梁嶋裕之(男子二十番)はその前の席でMDを聞いていた。香山智(女子十二番)と高田望(女子十八番)は相変わらずこそこそと話していた。梅原ゆき(女子八番)は一人で頬杖をついて座っていた。那須野聖人(男子十三番)、初島勇人(男子十五番)、島崎隆二(男子六番)は、何がおかしいのか大笑いをしていた。永良博巳(男子十二番)はその横でパンを食べていた。代々木信介(男子二十一番)は勉強をしていた。峰村陽光(男子十八番)は隣のクラスの男子と喋っていた。国見悠(男子三番)は今日当てられそうな場所の予習をしていた。大島薫(女子九番)と黒川明日香(女子十二番)は、今購買から帰ってきたところだった。小笠原あかり(女子十番)と三条楓(女子十五番)は楽しそうに話していた。植草葉月(女子六番)は一人で退屈そうにしていた。飛山隆利(男子十七番)は御柳寿の机の上に座ってガムを噛んでいた。内博美(女子七番)は、今教室に入ってきた。

違和感があった。雪燈は人のいない机を数えた。高城さんがいない。……井上さんもいない。あと、千嶋君も、大迫も、田阪君も。吉野さんも。加奈ちゃんも。新島もいないし、中西も……?
なぜだかはっきり思い出した。今日は休みが多いな。

――それから、姫城もいない。

389ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/11(水) 00:08 ID:igZ3kd.k

「出席とるから席ついてー」
 そこには、担任の森先生ではなく、若い男の先生がいた。

あれ、あんなかっこいい先生いたっけ。ねえ。

雪燈は隣の席にいた荒瀬達也(男子一番)に訊いてみた。「前からおれ達の担任じゃん。どうしたの」
そっか……。そう言われてみれば、そうだったかも。

「えーと、二番大迫、七番田阪、九番千嶋、十六番姫城と、女子五番井上、十四番笹川、十七番高城、二十二番吉野は休みだそうです。で、遅刻は新島と中西。しょうがないなー」先生は言った。


ガラッ。ドアを開ける音がして、新島敏紀(男子十四番)がだるそうに入ってきた。
「遅刻」
「……すいません」
「ガム噛むな」
「すいません」

敏紀は席に着く時、雪燈を見ると、少し不思議そうな顔をしたような気がした。

「じゃあホームルームを始めます。最近二年生の服装や髪型が乱れているという意見が生活指導の先生方から……」先生は話を始めた。

今日の一限目は古文か、ダルいなー。そんなことを考えていると、前の席にいた敏紀が振り向いた。
「冬峯、何でここにいるの?」
へっ、だって学校じゃん。

敏紀は雪燈の言葉には答えずに前を向くと、先生に言った。

「先生、冬峯さんって休むんじゃなかったんですか?」

生徒達が一斉に雪燈を見た。

えっ、やめてよ。皆が注目してるじゃん。恥ずかしい。

先生は雪燈を見た。「本当だ、冬峯、何でここにいるの?」
えっ、だって、学校だから――。雪燈は首をかしげた。



「冬峯!」ドアの外から声が聞こえた。

――誰?

「冬峯!」

ドアが勢いよく開けられ、姫城海貴(男子十六番)は、雪燈に向けて叫んだ。
「何やってんだよ。早く戻れよ!」
――何で?

「ここはお前がいるところじゃない。そいつらはもう死んでるんだよ!」

えっ。


雪燈は立ち上がって、もう一度クラス中を見回した。
「どうしたの? 雪燈」斜め前にいた濱村あゆみが振り向いた。

雪燈は震えた。

あゆみの顔は崩れて、差し伸べられていた手がぽろっと折れ曲がった。
鈴木菜々と御柳寿の顔は青ざめていて、口から泡を吹いていた。
飛山隆利の手は、指が数本なかった。
梁嶋裕之の体は穴だらけになっていた。
仲田亘祐は頭に穴が開いていて、血と、脳がこぼれ出していた。

みんな――


雪燈は席を立った。新島敏紀が雪燈の手を掴んだ。鼻が大きく曲がっており、学ランの心臓の部分に穴が開いていた。
敏紀の手は、とても冷たかった。

離して! 雪燈は叫んだ。


敏紀は呟いた。「こっちに来るのを、楽しみに待ってるよ」

雪燈はその手を振り払って、海貴の元に走った。
「冬峯、早く!」雪燈は海貴の手をとった。


「何やってんの?」
ドアの後ろに、中西諒(男子十番)が立っていた。

中西だ――
雪燈は諒を見た。

諒はフッと笑った。「来る時間違えんなよ。バカじゃん?」
うるさいな。

「行こう」海貴が言った。

うん。

雪燈は廊下に出て、そのまま走り出そうとした。

「冬峯」諒の声が聞こえた。
何?

「バイバイ」
諒は雪燈に向かって手を振っていた。
雪燈も諒に向かって手を振った。


バイバイ――

390ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/11(水) 00:11 ID:igZ3kd.k

 ――目覚めたら、雨が降っていた。

姫城海貴が自分の顔を覗き込んでいた。

「……何よ」
「いや、変な顔して寝てたから。どんな夢見てんのかなー、と思って」

……変な顔!?

「どんな顔よ」雪燈は訊いた。
「えーっと、目は白目向いてて、鼻の穴広がっててー」
――嘘だ。

しかし、ほっとした。夢だったんだ。よかった。

「怖い夢見た」雪燈は言った。
「へー、どんな?」
「姫城が出てきた」
「……何でそれで怖いんだよ」海貴は言った。

海貴は外を指差して言った。「見ろよ、お前の必死の雨乞いのせいでザーザー降り」
「ほんとだー」
雪燈は海貴の肩にもたれかかった。海貴は驚いたように雪燈を見たが、そのまま前へ向き直った。

「よかった、夢で」
「何、俺が死んだ夢でも見た?」海貴は言った。
「そんなの別に怖くないし」
「いや、すっげー怖いだろ」海貴は不満そうな声を出した。


雪燈は新島敏紀の言ったことを思い出していた。
“こっちに来るのを、楽しみに待ってるよ”

「……縁起でもない」雪燈は呟いた。
「何か言った?」

雪燈は海貴を見つめた。「あんたはいいね。呑気で」
「はあ? こんな状況で三時間もぐーぐー寝てるお前に言われたくねーよ」

……あたし、そんなに寝てたのか。そう言われてみれば頭痛がする。寝すぎた証拠だ。

そして、思った。別に、仲がいいわけでも何でもないのに、殺さないでくれた。雪燈はほっとしたのと同時に、少しだけ海貴を見直した。


雪燈は空を見あげながら言った。「姫城がいてくれてよかった。ありがと」
「何だよ、突然……」海貴は何だか照れくさそうにしていた。

思った。あの夢は気にしない方がいいかも。所詮ただの夢だし。ただ、皆にもっとちゃんと別れを言っておけばよかった。雪燈は後悔した。

海貴が言った。「夢なんか気にすんなよ。こっちが現実なんだし。まあ、この現実も辛いけど」
「……そうだね」

雪燈は思った。もしかしてあっちは、幸せな幻だったのかもしれない。



唐突に放送が流れた。女の声。意気揚々としていた。

「皆元気ー? 頑張ってるわね。残り少なくなってるから、禁止エリアを増やしまーす。今から二時間後までに移動するのよー」
二人は慌てて地図を取り出した。聞き逃したら洒落にならない。

女は言った。「あっ、その前に死んだ人を発表するの面倒だから生きてる人を言いまーす。男子二番大迫治巳君、男子九番千嶋和輝君、十六番姫城海貴君と、女子五番井上聖子さん、十四番笹川加奈さん。二十一番冬峯雪燈さん。二十二番吉野美鳥さん! それ以外は生還者を除いて、全員死にました!」

海貴は唖然とした。いつの間に、残り七人になってたなんて。



「で、禁止エリアはE=6、F=6、D=6、F=7……」

そこが禁止エリアか。海貴は線を引こうとした。

「以外は全部禁止エリアでーす! それ以外は首輪が爆破するから気をつけてね。じゃあねー」そして放送は切れた。


海貴と雪燈は互いに顔を見合わせた。
「……嘘だろ」
「ほんと」
「マジかよ……」
すぐにでも人数減らしをするつもりなんだ、あいつらは。

「移動しなきゃな」
雪燈はこくりと頷いた。

海貴は静かに自分の武器を見つめた。
手榴弾――型玩具。

海貴は雪燈を見た。

「何よ」
「……いや、別に」
この武器が役に立つことがあるのかと、海貴は不安になった。
【残り7人】

391GGGDだっけ?:2004/08/12(木) 22:05 ID:19abPxOo
ども(゜∋゜)
お久しぶりです(゜∀゜)
色んな事があってしばらく見れなかったですよ;;
しかも俺が前読んだとこから3時間読んでもまだ200代ですよ;;
しかもおもしろすぎだし;;
また見れなくなるけどがんばってください(´、_ゝ)b

392ナナ⇒空飛 蝶子:2004/08/13(金) 20:35 ID:E6MYBKdc
こんにちは。なぜかいきなりこちらに感想を書かせていただきます。
また、お前か。の視線は向けないで頂けると光栄です。
敏紀君と諒君の争いの中、「まあまあ落ち着いて」と大迫君が敏紀君を撃ったシーンがとても好きです。
あまりに予想できない展開、なおかつ、この二人の決着のあっけなさのようなモノになんとも言えない気持ちが残りました。
なんと口で説明すればいいのか分かりませんが好きです。
それと、雪燈さんの夢の話も面白かったです。こういう展開ってあるんだなぁって。
すいません。上手くは説明できないのですが、この話が好きでした。

では、頑張って下さい。

393ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/15(日) 00:09 ID:igZ3kd.k
GGGDさん>
お久しぶりです!
キャー、本当長くてすいません><
面白いと言っていただけて光栄です。
またきてくれたら、嬉しいです。ありがとうございました。

空飛蝶子さん>
お久しぶりです。こちらも読んでくれているとは……とても光栄でございます。
あのシーンは私も結構好きですね。
夢の話が出てきたということは、そうもうすぐクライマックス(?)です。
読んでいただいてありがとうございます。あとちょっとなので頑張ります。

394まっしゅ:2004/08/15(日) 14:09 ID:oDhzKzO2
面白いです!何日かに分けて読みましたが話にずいずい引き込まれていきました!
この調子で頑張って下さい!!!

395ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/15(日) 20:44 ID:igZ3kd.k

 井上聖子(女子五番)は、歩いていた。
……痛い。短い吐息が、何度も勝手に漏れてくる。

「移動しなきゃ……」
移動しなきゃいけないのに、何でよりにもよって、まさかこんな時に限って……
痛い、痛い!

聖子は舌打ちした。痛みが復活して、気を紛らわせるための痛み止めの薬も切れてしまった。
昨日よりはまだマシになったけど、でもやっぱり痛い。動くのも辛い。
ついでに言うと、ナプキンがもう二個しかない。


「……あ!」いいことを思いついた。


タンポンのように、柔らかいタオルを短く切って、丸めて詰めるという方法に、少し躊躇があった。
しかし、命がけで動く時に、ナプキンがずれたり、あろうことか漏れたりすることにかまっていられるわけがない。布をミネラルウォーターで濡らせば痛みも少ないだろうが、吸収をよくするために乾いた物を使った。上々だった。動いても漏れがない。難を言えば、やはり痛いのだが。


今誰かに会ったら最悪だ。


「会わないようにしなきゃ……」
大丈夫かな。聖子はそろそろと歩いた。



姫城海貴(男子十六番)と冬峯雪燈(女子二十一番)は山道を歩いていた。二人ともずぶ濡れだ。

海貴の背後では微かに、小さく苦しそうな息遣いが聞こえた。

「大丈夫?」海貴は雪燈に訊いた。
「うん。全然平気」雪燈はそう言ったが、明らかに疲れているようだった。
「お前、運動不足だな」
「うるさいな、黙って歩いてよ」
何だよ。人がせっかく心配してやってんのに。

海貴は雪燈の方を向いて言った。「休む?」
雪燈は首を振った。「モタモタしてたらすぐ禁止エリアになっちゃうよ。行こう」
「まだ大丈夫だよ、あと四十五分ある」
「でも心配だから移動しよ。あたしなら平気だから」
海貴は少し考えてから、頷いた。

背後で雪燈の声が聞こえた。「ねえ、姫城。何で優しいの?」
「は? 別に変わったことなんてないよ」
「そう……」

二人は黙り込んで、また山を登った。



しばらく歩いた後、また、雪燈は言った。「ねえ、姫城。もしうちら二人が残ったら――」間が空いた。
「何だよ」海貴は歩き疲れてその場にへたれこんだ。
「あっ、勝手に休まないでよ。根性なさすぎー!」雪燈は言った。

海貴はぬるい水を飲んだ。
「まずい……」
雪燈は笑った。

海貴は雪燈を見た。そういえば、さっき何か言いかけたよな。
「さっき何言おうとしたの?」
雪燈は一瞬考えた後、「何でもない」と言った。
「何だよ、言えよ」
「大したことじゃないって……」
「だって気になるじゃん」

数秒の沈黙。雪燈が口を開いた。「もし残り二人になったら、どうする?」

396ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/15(日) 20:46 ID:igZ3kd.k

「……何で?」雪燈は戸惑った。
「生き残れるのは一人だけなんだもん。色々あるでしょ。自殺するとか。殺しあうとか」
海貴は沈黙していた。雪燈は気まずい思いで、海貴を見ていた。
「うーん、そっちはどうしたいの?」
あ、あたし? あたしは――

一つ思い浮かんだが、言えなかった。

海貴が言った。「別に文句なしで殺しあえばいいんじゃない? 元々、偶然一緒になっただけなんだし」
「……そっか、そうだね」雪燈は髪をかき上げた。

そうだよね。所詮あたしと姫城の仲なんてそんなもの。何の友情も愛情もない。
でも、それが何だか寂しいと思うのは、あたしが欲張りだからなんだろうか。

「まあその前に、生き残るかどうかもわかんないけどね」海貴が言った。
「まあね」
何にしろ、もうすぐ自分が死ぬかもしれないということは確かだ。


雪燈は急に恐ろしくなってきた。


「ねえ、姫城」
「何だよ」
「マグダラのマリアって知ってる?」
「何それ。知らない」

雪燈は少々沈黙して、言った。「あたしもちょっと聞いただけだからうろ覚えなんだけど、元娼婦だったけど、キリストに罪を許されて、天国に行くことを許されるの」

ザーザー降りの雨の中、前にいる男の背中が遠く見えた。

「あたしも、許してもらえるかな」

海貴は言った。「は? 何だそれ。バカじゃん」


――あたしがちょっと真面目に語ったのに…… 雪燈は腹が立った。
神様、この男殺していいですか? つーかむしろ殺してください。


「許すとか許さないとかいるかいないかもわかんない奴に決められたくねーよ。本人の問題だろ?」海貴はそう言った後、続けた。
「何をやっちゃいけないとか押し付けすぎなんだよ。偶像崇拝は駄目だとか、占いは駄目だとか。好きにさせろよ」
……詳しいじゃん。

「……そっか」
姫城らしいや。

「くだらないこと言ってんなよ。まだ生きてんのに、死後の世界の心配とかすんなよ」
「そうだね。そうする」雪燈は頷いた。


「ねえ、今どこ?」雪燈は訊いた。
「今?」海貴は地図を広げた。「もうすぐD=6だよ。この山を抜けて道を歩いたらすぐ」
本当にもうすぐだ。ふもとに続く道が大分明るくなっていた。

「人、いるかな」雪燈は呟いた。
今残ってるのは大迫、千嶋君、と井上さんと笹川さん、吉野さんと、自分達。

大迫と千嶋君以外は、失礼だけど大したことなさそうな気がする。まあ人は見かけによらないって言うし、この中の誰かが殺しまくってる可能性もあるかも……

「誰かいるよ」雪燈は言ったが、海貴には聞こえていないようだった。

スタスタと山道を降りていった。


「ちょっと、姫城!」雪燈は海貴のワイシャツを掴んだ。
「何だよ」
「人がいるってば」
海貴は目を細めて、茂みを見ていた。「……いないじゃん」

雪燈はもう一度辺りを見回した。見たと思ったんだけどな――
細い砂利道の横にある茂みの中に、確かに人の頭があったと思ったのだ。

「見間違いかな……」雪燈は呟いた。

雨は土砂降りになっており、辺りは一層暗くなっていた。何かと見間違っても不思議じゃないかもしれない。

だが、雪燈はまだ納得できない気持ちで、茂みを見た。
もし相手が、自分達を狙っていたら――

そのことを思い浮かべただけで、胸にモヤモヤとした、悪寒のようなものが突き上げた。

「攻撃してこないってことは、やっぱ人間じゃないんじゃないの?」海貴が言った。
「そうかもしれない。でも、もし人間だったら――」雪燈と海貴は顔を見合わせた。

少しの沈黙の後、海貴が口を開いた。「見に行ってくるか、お前ちょっとここで待ってて」

その言葉に、雪燈は少しだけ不満を持ちつつも、頷いた。
一人になるのは、とても怖い。


海貴が三メートルほど下った時、雪燈は「あたしも行く」と、声を出して走った。
聞こえたかどうかはわからない。ただ、海貴は背を向けたまま茂みに向かっていった。

397ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/15(日) 20:48 ID:igZ3kd.k

 茂みを茂みを掻き分けつつ、だんだんと近付いていった。
「……井上さん」海貴が言った。
雪燈はそこにいる生徒を見入っていた。


井上聖子は大粒の雨に打たれながら、まっすぐに二人を見つめていた。黒いショートカットの髪。小柄な身体。頬にはたくさんの水滴。酷く顔色が悪かった。
「冬峯さん、姫城君……」聖子は震える声で言った。「お願い、殺さないで――」



海貴は思った。残り七人。こいつを殺せば六人。俺達は、少しでも人数を減らさなくちゃいけない――

不意に、海貴は雪燈の手から銃を取り、そして撃った。


銃声二発。

一発目はあらぬ方向に行ってしまったが、二発目は胸に命中したようだった。


聖子は後方にふっ飛び、腹ばいになって倒れたまま、一ミリも動かなくなった。



二人は沈黙した。聖子の顔は、ここからでは見えない。だが、生きていられる傷ではないだろう。

「何すんのよ!」雪燈が叫んだ。
「これは殺し合いゲームなんだ。しょうがないだろ」海貴は静かに言った。
「でも……」
「行こう」海貴は言った。


雪燈は何だか納得のいかない気持ちになった。姫城が、あんなに簡単に人を殺すなんて。そりゃあ確かにこれは殺し合いゲームかもしれないけど。無抵抗の人間に、何の抵抗もなく撃ちこむなんて――

「何やってんだよ、置いてくぞ」海貴が振り向いて言った。

「井上さんは武器なんか持ってなかったのに」雪燈は呟いた。


暗くても、海貴が怪訝な顔をしたのがわかった。

「そんなのわかんないよ。もしかして攻撃するつもりだったかもしれない。気づかれたからああ言ってただけかもしれないだろ」
「敵意なんかなかったじゃん。必死で命乞いしてたのに――」
言いながら思った。あたしはこいつの何をわかった気でいたんだろう。本当はどういう性格なのかなんて、何も知らないのに。

「敵意がないなんて何でわかるんだよ」海貴は言った。「もう七人しかいないんだよ。一人でも殺さなきゃ、生き残れないだろ」

雪燈は思った。もう七人しかいない。これで六人。五人、四人、三人、二人――

「一人しか生き残れないんだよ。もしそうなったらあたしも仕方ないからって殺すんでしょ!」
海貴が一瞬戸惑うのがわかった。沈黙した後、「だったら何だよ」と言った。


「ちょっとだけ見直したけど、間違いだった。あんたなんか自分のことしか考えてないじゃん!」雪燈は言った。
海貴は沈黙していた。


不意に口を開いた。「もう移動しよ。時間ないし」

そうだ。雪燈は時計を見た。五時五分。あと二十五分で移動しなきゃ禁止エリアになってしまう。でも――

雪燈は言った。「一人で行けば?」
海貴が、はあっ? と言うような顔をした。「何言ってんだよ。早く……」

「一緒にいたって信用できないもん」

海貴の表情が固まるのがわかった。
ちょっと言い過ぎたかな。雪燈の心臓はどくどくと高鳴った。

「あっそ、勝手にすれば」

海貴は無表情でそう言うと、更に東へと去っていった。

398ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/15(日) 20:51 ID:igZ3kd.k

 あたしはここに残ってどうするつもりなんだろう。雪燈は思った。
少し、後悔していた。でも、まあいいや。


あんな奴。自分と愛希以外はどうでもいいと思ってる奴なんて――どうでもいい。


「……移動しなきゃ」
気づいた。あたし、地図を持ってない! 頭が真っ白になった。

どうしよう。あー、やっぱ別れなきゃよかったのかな。雪燈は辺りを見渡した。

――井上さんのデイバックに入ってないかな。


そーっと、近寄った。怖い。何でこんなに周りが暗いのよ。

雪燈はびしょ濡れのデイバックをこっそり開こうとした。地図も濡れているかもしれないが、何とか読めるだろうと考えた。雪燈はデイバックに触れた。



彼女は静かに立ち上がった。青白い顔。細い身体。太ももからは血が出ていた。

「あ……」
雪燈は言葉も出ないほどに驚いていた。
何で、だって、確かに心臓に――

「冬峯さん、バカだね」彼女は喋った。

雪燈は少しずつ後ろに下がった。

やだ、助けて。――姫城。


雪燈の腕を、白い左腕が掴んだ。



海貴は後ろを見た。
……本当に来ない。

「ったく、何だよあいつ……」海貴は頭を掻いた。
もういい。一人で戦うし、足手まといはいない方がいいし――
元々、何となく一緒にいただけだし。


もう一度振り返った。

「……やめた」

海貴はまた歩き出した。

でも、あいつあんなところで何やってんだ。もう二十分以上経ってんだけど――



「お待たせ!」
冷たい手が、海貴の腰に巻きついた。

誰だ? 冬峯――?


振り向きざまに、ガンッという、何か硬い物を叩くような音と同時に、脳が移動してしまいそうな衝撃が走った。

地面に倒れる寸前に、海貴は思った。何でだ、この雨の中、誰かの足音が聞こえないはずはないのに。

倒れた海貴は、その人物を見て、息を呑んだ。

「ごめんね、冬峯さんじゃなくて」
井上聖子は微笑んだ。その手には、何やら深緑色の箱のような物を持っているのが見えた。

「な、んで、井上が……」
死んだんじゃなかったのか。それとも、幽霊? まさか。


だが、それを確認する間もなく、海貴の意識は途切れた。


「駄目だよ、ちゃんと死んでるかどうか確認しなきゃ――」
聖子はフフッと笑うと、倒れている海貴をズルズルと引きずり、移動させようとした。


「重いんだけど!」聖子は文句を言いながら、その場から離れた。
【残り7人】

399ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/15(日) 20:53 ID:igZ3kd.k
まっしゅさん>
ひゃー。こんなに長いのに・・・
ありがとうございます、本当に。読んでくれて。
もう少しで完結なので、最後まで読んでくれれば嬉しいです。

400ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/16(月) 22:30 ID:igZ3kd.k

 大迫治巳(男子二番)は、夢を見ていた。

幼いころの夢だった。六年前。治巳が小学五年生の時のことだ。

その日は友達と遅くまで遊んでいて、帰るのが十時ごろになってしまった。厳しい父にまた怒られるんだろうな、と思い、焦りながら家に帰った。

家に帰る途中、赤い火の粉があがっているのが見えた。人がたくさん集まっていた。

何だろう、何かあったのかな。治巳は急いだ。

家が燃えていた。それが自分の家だということに気がつくと、治巳は人ごみを掻き分けて、家の前に来た。
更に中に入ろうとすると、大人に止められた。

何が起こったのか、理解できなかった。

「皆は? お父さん、お母さん、兄貴と妹は?」治巳は叫んだ。

周りの大人達は、少し困ったような顔をして、治巳の頭を撫でた。
「犯人は逮捕されたから、大丈夫だよ」

何だよそれ。そんなの答えになってない。

治巳は必死で火の中に入っていこうとしたが、消防士に止められた。

その時、家から人が飛び出してきた。


五つ上の兄だった。すすで真っ黒になっていて、皮膚の焼けた臭いが、辺りに充満した。
周りの人達が悲鳴をあげる中、治巳は兄に近付いた。

兄はまだかろうじて生きていた。顔形もわからない黒焦げの小さな物体を、治巳に差し出した。
「美希を……」
美希は妹の名だった。


美希? これが? 嘘だろ?

治巳はそれを受け取ることも出来ずに、ただ呆然と見ていた。


嘘だ、兄ちゃん、嘘だろ。


「……うわあああああああああああ!」


兄はやがて崩れ落ちて、周りの大人達は、同情の目でこの兄弟達を見ていた。



事件を起こしたのは、近所に住む大学生だった。血みどろの服を着て、包丁を持ってうろついていたところを逮捕されたらしい。
精神鑑定の結果、精神に異常をきたしていて、正常な判断能力がなかったため、病院に入れられただけで終わった。


治巳は思った。人を四人も殺しておいて、何の裁きも受けないのか。

この国の法律はおかしい。そして、誰もそのことについて文句を言わないなんて。

かつて、治巳は腹立たしさに泣いたことを思い出した。


そして、人々も最初は憐れみの目で見ていても、時間が経つと、すぐに忘れてしまうのだ。

オレも、すぐに忘れられるんだろうな――

そこまで思ったところで、治巳は皮肉な笑みを浮かべた。何だか本当におかしかった。
オレの人生なんて、所詮こんなもんだ。

401ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/16(月) 22:32 ID:igZ3kd.k

 笑い疲れて、目が覚めた。
随分リアルな夢だった。燃え上がった炎や、兄の顔、匂い、全てがあの当時のままだった。
治巳は酷い頭痛に頭を抱えながら、目を開けた。


ある女生徒が、治巳を覗き込んでいた。


「何か楽しい夢でも見てたの?」
吉野美鳥(女子二十二番)は、よく通る声で言った。

「へ?」
治巳は自分の置かれている状況がうまく理解できなかった。

オレ、何やってたんだっけ。

――そうだ、殺したんだよ。クラスメイトを。



美鳥は少々声を落として、言った。「ねえ、大迫君。私は、気味悪くなんかないよね? 私は、いい女だよね?」

治巳は美鳥の顔を見た。何かに追い詰められ、震えている顔。

「何で、あんな風にしかできないの。本当は、ただ好きだっただけなのに――」


何のことだかわからなかったが、治巳は言った。「うん。いい女なんじゃないの」
「そうだよね」美鳥は安堵の笑みを浮かべた。



治巳は美鳥を見つめた。

美鳥は機嫌がよさそうに、鼻歌を歌っていた。治巳のことには全く頓着していないようだった。


治巳は目を細めた。ゆっくりと握り締めていた銃を持ちあげ、美鳥に向けた。



自分には、こうするしか道がないような気がした。六年前の家族のように、無残に殺されたくはない。
生きたいという気持ちよりも、ただ、殺されたくなかった。先ほど見た夢が、強迫観念として、更に強く治巳の頭に残っていた。


心にある靄を追い払うように、治巳は引き金を引いた。



美鳥の背中に三発の銃弾が押し込まれた。


美鳥は驚いたように治巳を見たが、特に何も言わなかった。
そのまま匍匐全身で前に進もうとした。


ドン、と音がして、美鳥の頭は弾けた。


血がもみじのように広がると、美鳥はばたりと倒れた。



治巳は、指を折り曲げて数えた。「1、2、3、4……」

オレ、何人殺したんだっけ? オレの家族を殺した奴よりも、数上まっちゃったよな。


これだけ殺しても罪にならない。やっぱりこの国はおかしいんだよ。

治巳は少し笑うと、美鳥のデイバックから銃を取り出した。
【残り6人】

402GGGDだっけ?:2004/08/17(火) 19:00 ID:19abPxOo
やったー(゜∀゜)
また見れた&全部読めた;;(泣)
以外な展開で面白すぎです!!(泣)
もしかしたら最後までみれるかも・・
では、がんばってください(゜⊇゜)
大迫君・・・・(泣)

403ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/23(月) 19:57 ID:igZ3kd.k
GGGDだっけ?さん>
またみてくれたんですか(泣)
嬉しいです。大迫君はずっと前から動き出す予定だったメインジェノ(?)なので、
突然出番が多くなりました。
あとちょっとなので、これからも読んでいただけたら幸いです。

404総帥:2004/08/24(火) 01:31 ID:xJ/rnDq6
どうも、総帥と言います(えらっそうなHN・・・。

まぁ気にせずにw
さっき発見して、今まで全部読みました、凄い面白い&良くできてるなー
と思いました。
最後まで頑張ってくださいね、応援してます!

さてと、お風呂入ってくるかぁ(夢中で忘れてた

405ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/24(火) 15:56 ID:igZ3kd.k

 冬峯雪燈(女子二十一番)は、自分の腹を押さえた。どうやら殴られたらしく、息苦しかった。

「はあ……」
ここはどこなんだろう。

雪燈は井上聖子(女子五番)に殴られ、ここに捨てられた。聖子は雪燈が気絶したのを見て、死んだと思ったらしい。辺りを見渡しても、聖子のいる気配はなかった。


注意深く辺りを見渡した。後方には、先ほどに下った山があり、左手の先には長い道がある。
そして目の前には原っぱが続いていて、そこを抜けると、遠くにはまた雑木林がある。原っぱの中央には、古く、錆びついた展望台が見えた。

雪燈は気づいた。そうか、ここはD=5とD=6の境目だ。姫城が言ってた。展望台はD=6の入り口付近にあるって。チラッとしか見てないけど、確か地図にも書いてあった。
と言うことは、ここを抜ければ、禁止エリアから逃れられるんだ。

でも――


雪燈は気まずそうに振り返った。

自分のすぐ後ろには大きな木があり、そこからは無数の枝が伸びていた。
そのうちの一本には銀色の物体が繋がっており、対になるように、雪燈の腕を押さえつけていた。

小さな手錠は雪燈の右手首を締め付け、そこからは血が滲んでいた。

「……このままじゃ、逃げられないじゃん」雪燈は呟いた。



姫城海貴(男子十六番)は、目を覚ました。

辺りを見回すと、全て丸太で出来たベランダに自分がいるのがわかった。ログハウスのような造りだった。庇はあるものの、雨は容赦なく入ってきた。自分のすぐ傍には、大きな望遠鏡があった。


何だ、ここ。自分がなぜここにいるのかがわからなかった。
確か、井上に会って、撃って、冬峯と仲間割れして、不意に殴られて――


それを思い出した瞬間、頭がずきっと痛んだ。頭から頬へと伝わってくるものは雨の雫ではなく、血だということがわかった。


「いってー」あまりの痛さに声を出した。

頭を押さえようとしたが、後ろ手に縛られていて、手が動かない。海貴は忌々しげに、自分が縛られている縄紐を見た。太い。自分では解けそうにもなかった。

だが、少しほっとした。とりあえず、禁止エリアは出たみたいだな。でも、冬峯は……

井上に襲われたんだろうか。もう、生きてないかもしれない。海貴は何だか後味の悪い気分になった。

そうだ、望遠鏡で確認出来るかも。そう思い、動こうとした。


手首が締め付けられて、立つことが出来なかった。
海貴はベランダの太い丸太に縛り付けられているらしかった。死角になっていて見えなかったが、多分。
「チクショウ、何のためにこんなこと……」


海貴の独り言に答えるように、ベランダのドアが開いた。

406ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/24(火) 15:59 ID:igZ3kd.k

「あっ、おはよう。気分はどう?」
 井上聖子は場違いなほど明るい声で言った。
「……最悪だよ」海貴は答えた。

自分はこれからどうなるんだろうか。予測がつかなかった。聖子が何を考えているのかが、全くわからない。
――その前に、何で生きてるんだ、こいつ。


海貴の無言の問いに答えるように、聖子は言った。「ふふ、私が死んだと思ってたでしょ。甘いな――」

聖子がブラウスのボタンを外し始めたので、海貴は驚いた。
誘ってんのか? こんな時に?


「じゃーん! 新井さんの死体にあったから、とってきちゃった!」
聖子の華奢な体には、防弾チョッキが巻かれていた。

「ツメが甘かったね」聖子はそう言って、海貴の頭を撫でた。
「やめろ」海貴は頭を逸らした。
そして、訊いた。「何でこんなとこに繋いでおくんだよ。これから何する気なんだよ」

聖子は微笑した。
「うーん……」と言うと、続けた。「ただ殺すだけじゃつまんないでしょ。時には娯楽もないと」


……娯楽? 嫌な予感がした。

「娯楽って?」
聖子はニッと笑うと、深緑色の箱――イングラムを持ち上げた。
「これで姫城君の体を風通しよくしてあげる!」


びくっとした。縄をどうにかほどこうとするが、ビクともしない。

「無駄だよー。ナイフか何かで切らなきゃ外れないと思うよ」
クソッ。海貴は聖子を睨みつけた。

「殺すなら殺せよ!」海貴は叫んだ。
「まあ待って」聖子はイングラムを下ろして、ベランダから外を見た。
「ここまで連れてくるの、凄い大変だったんだからね。制服が水吸っててかなり重いし。幸い荷車があったからよかったけど。そんな苦労したのに、簡単に殺しちゃつまらないじゃない」

聖子は正面に向かって指をさした。
「まあ見てみなよ」

海貴は不審に思いながらも、少しだけ横を向き、外を見た。

「……何もないじゃん」
「目悪いな!」

聖子は双眼鏡を取り出して、海貴の目の近くに持ってきた。
「……見える?」

海貴が目にしたのは、自分達から二百メートルほど離れた場所にいる、雪燈の姿だった。
腕を手錠で繋がれていて、背の丈よりやや高い枝に繋がれていた。
何とか外そうと、必死で腕を引っ張っていた。


「あーあ、あんな無茶したって無理なのに」
隣にいた聖子がくすっと笑った。海貴は全身から血の気が引いていくのを感じた。
何てことを。

「何であんなこと……」海貴はかすれた声で、言った。

このままだと、間違いなく首輪が爆発する。逃げることも出来なくて死の恐怖に怯えるしか、雪燈に残された術はなかった。

……俺が、井上をちゃんと始末してれば――


「冬峯、冬峯っ!」海貴は雪燈の名前を叫んだ。


どこからか、聖子の声が聞こえた。

「あと五分で時間切れね。あんたには、自分の好きな女の首が吹っ飛ぶ様を、見てもらうから」

乾いた笑いが聞こえた。海貴には、聖子の愛らしい顔が悪魔のように見えた。

407ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/24(火) 16:02 ID:igZ3kd.k
更新が大変遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
今日の夜にまた更新する予定です(予定は未定です)。


総帥さん>
はじめまして……でしょうか。
こんなに長いものを読んでくださるなんて、
本当に申し訳ないやら恥ずかしいやら嬉しいやらで胸がいっぱいです。
ありがとうございます。ラストまでお付き合いいただけると幸いです。

408ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/25(水) 08:30 ID:igZ3kd.k
雪燈は息をついた。

……駄目だ、外れない。


手首の皮は擦り切れていて、そこからピンク色の肉が覗いていた。痛みはあったが、そんなことはどうでもよかった。

「やだ、外れてよ!」雪燈は叫んだ。

雪燈は何度も時計を見た。あと五分を切っていた。
もう時間がない。嫌だ。死にたくない!

雪燈は手錠から無理矢理腕を引き抜こうとした。しかし、いつも手の甲で引っかかった。それでも無理矢理引っ張り続けた。
掌の骨がギシギシときしみ、音を立てた。折れるほど引っ張っても、それは外れなかった。


雪燈は絶望した。外すことをやめ、ため息をついた。


――もう駄目だ。あたしはここで死ぬんだ。

何でこんなことになったんだろう。あの時、くだらない喧嘩なんかしなきゃよかったんだ。バカみたい。
挙げ句の果てにこのザマ。もし姫城が見ていたとしたら、笑われるかもしれない。

――あいつが正しかったんだ。



雪燈は泣き出していた。絶対的な死への恐怖。今までの思い出が、全て輝かしく見えた。

あんなに嫌っていた、母の顔まで思い出した。

中学一年の運動会の日。たった一度だけ、母が自分にお弁当を作ってくれたことがあった。
普段は弁当などなかった。だからいつもは、お腹を空かせているか、友達に分けてもらうしか方法がなかった。

嬉しかった。妹のついでだろうと、ただの気まぐれだろうと嬉しかった。その時だけ、雪燈は母親の存在を認めた。

あたしは、何の親孝行も出来ずに死んでいくんだ。お弁当のお礼も言ってなかった。ごめんなさい。ありがとう。お母さん。


雪燈は泣きはらした顔で前を見た。展望台に人がいるような気がした。
誰かの声が聞こえたような気もしたけど、きっと気のせいだろう。


雪燈は疲れて下を向いた。


……一つ、方法があった。何で気がつかなかったんだろう。

雪燈は制服のスカートのポケットから、銃を出した。

少し怖くはあった。でも、生きるためだったら右手の一本くらい――

雪燈は手錠に銃口を当てた。



銃声が聞こえた。
「あら、何やってるんだろ」聖子が呟いた。

傷悴しきった海貴の耳にも、それは聞こえてきた。


聖子は望遠鏡を覗いていた。

何が起こった? 海貴は雪燈の方を見た。
遠いので詳しいことまでは見えなかった。

「自分の手の面積を小さくして、外そうと思ったらしいよ」聖子が笑った。「生きるための執念って、恐ろしいね」

恐ろしくなんかない。海貴は雪燈に拍手を送りたくなった。



手錠を破壊するつもりだったが、衝撃が強すぎて、掌も破壊された。
でも、これでいい。
雪燈は真っ赤に染まった手を、壊れかけた手錠から外した。
やった、外れた! むしろホッとした。

雪燈はそのまま走り出した。


右手は力が入らなかった。指を動かそうとすると、切り刻まれるような痛みが走る。
大きな穴が開いていた。もう自分の物ではないように思えた。
痛いけど、首を吹っ飛ばされるよりマシだ。


雪燈は走り続けた。



展望台に人がいるのが見えた。
……誰?

雪燈は急いだ。もうすぐ禁止エリアを抜ける。

「……姫城!」雪燈は驚いて、叫んだ。海貴の頭から、血が出ていた。
「どうしたの? 大丈夫だったの?」雪燈は言った。
繋がれたまま、海貴は力なく笑った。


雪燈の見えないところには、井上聖子がいた。

409ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/25(水) 08:32 ID:igZ3kd.k

 雪燈は展望台まで必死で走った。

海貴が何かを言っていたが、雨の音と風の音にかき消されて聞こえなかった。

よかった。姫城も生きてる。


雪燈はホッとして、海貴の名前を呼んだ。

「姫城、ごめんね! あたしが間違ってた。あんたの言うこと聞いてればよかった!」聞こえているかどうかはわからなかったが、雪燈は叫んだ。

「あんた性格悪いし、自分勝手だし思いやりないし、好きじゃなかったけど――」


でも、何度も助けてくれた。

「あたし――」



聖子が銃をかまえた。
「やめろ。もういいだろ!」海貴は叫んだ。

チクショウ、外れない。

両手が塞がっているので、どうすることもできなかった。
海貴はギリッと歯ぎしりをした。

聖子は人差し指を立てて、チッチッチっと言うように、横に振った。
「だってこれは殺し合いゲームだよ? 最後の一人になるまで殺しあうのがルール」


駄目だ、やめろ。海貴は焦った。

「来るな!」
海貴は声を限りに叫んだ。喉が枯れるほど叫んだ。

――だが、その声は銃声にかき消されて、届かなかったに違いない。



ぱらぱらぱら。
久々にあの音が響いた。


雪燈に銃弾が浴びせられた。


ぱらぱらぱら――

その音と同時に、雪燈は不可思議なダンスを踊った。

美しかった顔は赤く弾け、体は蜂の巣のように穴だらけになった。



どちゃっと倒れた雪燈の体を、雨が強く打っていた。血が雨で薄まり、染みのように地面に広がっていった。



――ちょっとだけ、楽しかったよ。
雪燈は最後に、そう言おうとしていた。


左の手は、海貴の方へと差し伸べられていた。
【残り5人】

410ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/26(木) 21:09 ID:igZ3kd.k

 F=7には、自分以外にもう一つの点があった。

千嶋和輝(男子九番)は、辺りを見回すと、そこへ行ってみよう、と思った。

何だか、体中が軋むように痛かった。足も、顔も、腕も。
でも、このくらい――和輝はそう思って、一度考えるのをやめた治巳のことを、また思い出した。

治巳に何があったのか引っかかっていた。あの発言。

もう二度と殺させないよ。オレが守ってやる。


……ん?

あいつ、親いるじゃん。優しそうなお母さんが。

和輝はそこまで思って、あることを思い出した。治巳は他の県から引っ越してきて、中学で一緒のクラスになった。
初めての授業参観。一番後ろの席だった和輝は、自分の背後にいた保護者のひそひそ話を、聞いてしまっていた。

「ねえねえ、あの大迫君っていう子、二年前に起こった一家殺人事件の被害者だったんだって」
「まー、怖い。世の中も物騒になったものね。あの子だけ生き残ったんでしょ?」
「そうそう。今は伯母さんの家に住んでるらしいわよ」
「へー。可哀相ねー……」

母親達の粘着質な声音と、不躾な噂話に、和輝は幼いながらも嫌気がさした。そして、偶然にも友人の過去を覗いてしまったという、罪悪感のようなものがあった。

忘れようと、知らぬ間に努力していたのかもしれない。そして、そこからぷつりと記憶が途絶えるように、そのことは忘れていた。今の今まで。


……そっか。
和輝は何だか気が抜けて、ため息をついた。治巳が、何を考えて大島薫(女子九番)と、代々木信介(男子二十一番)を殺したのかは、わからなかった。
でも、あいつはずっと、一人で耐えてたのかもしれない。


「チクショー。だからって人殺していいわけじゃないんだよ!」
和輝は一人、呟いた。


あいつを掴まえて、山ほどのパンチの仕返しをしてやる。待ってろよ。


――独りじゃ、死なせないから。


和輝は歩いた。F=7。森。この中に、笹川加奈(女子十四番)がいてくれたら――

和輝は足を踏みしめ、簡易レーダーに映っている点に近づいた。

411ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/26(木) 21:12 ID:igZ3kd.k

 加奈は幾度となくドアを叩いたが、全く開きそうにもなかった。
……どうしよう。加奈は手を下ろして、ずるずると座り込んだ。

不幸中の幸いで、ここは禁止エリアから免れていた。他の生徒達が殺しあって、残り一人になるまで待つという手もあったが、それは了承できなかった。
それに、また、いつエリアが縮められるのかわからないのだ。


「誰か……助けて……」
加奈はかすれた声で、呟いた。喉を潰してしまったらしい。声がうまく出なかった。

「北川先輩……」
加奈は力いっぱい、ドアを思いきり叩いた。

「……和輝、助けてよ!」



例の車庫の前にきて、和輝は立ち止まった。物音が、聞こえる。

ドアを叩く音。和輝は近寄って、ドアの前まできた。
こつこつとノックをした。

「誰かいる?」


少々の沈黙の後、声が返ってきた。「……和輝?」

「加奈?」
和輝は驚いて、声をあげた。「加奈なのか? そこで何してんだよ」

若干低くなった、かすれた声が聞こえた。「……ドアが開かないの。開けて」


和輝はわかった、と言って、ドアノブに手をかけた。
「……んぬっ!」
力を込めたが、ドアはびくともしなかった。

……チクショウ。

「開けてやるからな!」和輝は言った。少し遅れて、加奈の頷く声が聞こえた。

和輝はもう一度力を込めた。
「んー………………」勝手に声が出てくる。
開けー。いいから開けー。とにかく開けー。

だが、左腕を骨折した状態なのと、元々そこまで力があるわけではないことで、歪んだドアを開けることはできなかった。
和輝は息をついて、深呼吸をした。

「和輝、開かないの?」加奈の声が聞こえた。
「開くよ」

開けてやる。意地でも。


「加奈、ちょっと待ってて。絶対、戻ってくるから」和輝はそう言った。
「和輝、どこ行くの?」不安そうな声が聞こえた。
「すぐ戻ってくるよ。心配すんな」

和輝はそう言って、加奈と、二人を隔てているドアを後にした。

412ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/27(金) 21:07 ID:igZ3kd.k

 十五分後。

「加奈!」和輝が呼びかけると、加奈の声がすぐに返ってきた。
「よかった。帰ってきた……」


和輝は痛む両手にある物をかかえ、ドアを睨んだ。
「下がってて」和輝は言った。



和輝は、先ほど近くの民家で見つけた大きな消火器を、思いっきり、投げつけた。

ドアがぼこっとへこんだ。

左腕がどうにかなってしまいそうなほど痛んだ。それでも、もう一度持ち上げた。
「おらー、開けー!」

また大きな音がして、ドアがへこんだ。


何度もやっていく内に、ドアには丸い凹みができた。そこに引っ張られるように、ドアと壁の間には、細い隙間が開いた。
和輝はもう一度ドアノブを引っ張った。


恐ろしくひずんだ音がして、ドアが開いた。


和輝は息をつきながら、そこに座り込んでいた女子生徒を見た。



涙を浮かべた、その女子生徒。ずっと会いたかった女子生徒。

笹川加奈(女子十四番)は、ぼろぼろになって、和輝を見ていた。

「……久しぶり」和輝は言った。
「久しぶりだね。何年ぶりだっけ」
「一日くらい」

加奈は眉を潜めると、下を向いて、嗚咽していた。手で覆われた顔の下では、透明な液体が流れ出していた。

和輝はそっと近寄った。

「……怖かった。新井さんに襲われて、死ぬかと思った。このまま、ずっと会えないのかと思ってた……」加奈が呟いた。

和輝は加奈の小さな肩に手をかけ、震える体を抱き寄せた。
「……俺も、怖かったよ」


話したいことがたくさんあったはずなのに、もう忘れてしまっていた。ひたすら、よかったと思った。加奈がこうして生きててくれて。本当に。

――でも、俺には言わなくちゃいけないことと、やらなくちゃいけないことがある。



「聞いてくれる?」和輝は加奈の耳元で、何か囁いた。
加奈は驚いたように和輝を見た。


加奈は少々間を空けると、頷いた。



和輝は立ち上がって、加奈も腰を上げた。和輝が手を差し伸べると、加奈はその手を取ってくれた。
加奈は少しだけ笑んだ。


二人は、重い足取りで、車庫から離れた。
【残り5人】

413ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/27(金) 21:09 ID:igZ3kd.k

「あーあ、可哀相に」井上聖子(女子五番)は言った。

姫城海貴(男子十六番)は、茫然とその光景を見ていた。
冬峯雪燈(女子二十一番)は死んだ。あまりにあっけなく。


怒りと言うより、悲しみと言うよりも、ただ虚脱感。それだけがあった。
どんなに冬峯が生きようとしていたか。
それを、何の躊躇も同情もなく、殺した。


「じゃあ、そろそろあんたの番ね」
顔を上げた。

「何かぼやっとした顔してるのね。死に損ないの老人みたい」聖子はそう言って笑った。
海貴は目をそむけた。

海貴は言った。「死ぬ前にトイレ行かせてよ。ちびりそうだから」
「あっ、そう。じゃあ早めに終わらせてあげる。大丈夫だよ、一瞬で片付くから」聖子は無邪気に笑った。
「……いや、やっぱいい」


海貴は普段の聖子を思い出していた。大人しくて、クラスの女子ともあまり話している様子はなかった。だが、こんな時に、聖子は輝いていた。

言った。「確かにこのゲームは殺し合いがルールだけど、それなら俺の頭を殴った時に一緒に殺せばよかったんだ。冬峯だってわざわざ手錠で繋がなくても、あの時殺しておけばよかっただろ」

――その方が、余計な痛みを知らなくてすんだのに。胸がつぶれそうな思いだった。

「お前、人を殺すことを心底楽しんでるんだろ。恐ろしいね」海貴は鼻で笑った。

聖子は無表情で聞いていた。

「さっさと殺せよ。冬峯にやったみたいに」海貴は言った。

だが、聖子は表情を変えないまま、言った。「駄目だよ。私今生理中でイライラしてるの。普通に殺すなんてつまんないじゃない」

――そんな。そんな理由で殺された方はたまったもんじゃない。


聖子はデイバックをいじっていた。中から軍用ナイフを取り出した。
「これで、あんたの顔の皮をかつら剥きにしてあげる!」

「――頼むから、普通に殺してくれよ!」
海貴は心底怯えた。


聖子は有無も言わせず近寄ってきた。海貴の顔に、ぴたりとナイフを当てた。
ひんやりとした感触に、海貴は恐怖を覚えた。

「男のくせに肌綺麗。ずるーい」聖子は頬を膨らました。


そのまま、強くナイフを引いた。


ぷしゅっと音がして、顔の肉が切れた。

「うわあああああ……」

「黙ってないと、舌も一緒に切っちゃうよ」聖子はそう言ってはにかんだ。

414シン:2004/08/29(日) 20:42 ID:R9tDowc6
お久しぶりです
残りも少なくなって展開もひやひやもん(?)ですね
頑張ってください!!

415ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/30(月) 22:03 ID:igZ3kd.k

 海貴は絶えず腕を動かしていた。丈夫な縄は、確かにナイフでないと切れないものの、少しだけ緩くなり始めていた。
海貴はやっと、若干だが、体を動かせるようになった。座り位置を変えて、学ランの裾を上げた。

……やっと取れた!

海貴はそれをしっかりと持った。ニヤリと笑った。


聖子は不可思議な顔をした。
「何よ、あんたの顔、凄いことになってるっていうのに」

「俺の武器、何だか知ってる?」
「手榴弾でしょ。学ランの胸ポケットに入ってたから没収しといたよ」
「そう。でもね、もう一つ持ってるんだよね……」聖子は手を止めて、後ろを見た。


もう一つの手榴弾は、海貴の手に握られていた。

「……きゃああああああ!」


聖子は急いで部屋の中に入った。海貴の耳に、階段を降りていく音が聞こえた。



行ったみたいだな。海貴は自分の前に落ちているナイフを、足で引き寄せた。後方に蹴った。あとちょっと――
手を捻りそうなほど曲げた。

ガッ。やった! 刃をとった。

慎重に縄に刃を当てて、切る。

「くっ……」

太すぎてなかなか切れない。早くしないと、あいつが帰ってくるかもしれない。ギリギリと、何かを削るような音がした。もう少し――
――切れた。


「ちょっと、爆発しないじゃない!」
聖子が戻ってきた。手ぶらだった。


海貴の持っている物を見て、聖子は固まった。

「忘れ物だよ」海貴は言った。

イングラムを聖子に向けた。聖子の目が大きく見開かれた。



古びたタイプライターのような音が響いた。

衝撃が凄かった。小さい分、目的に狙いを定めるのが難しく、撃ちにくい。

それでも撃った。標的に向けて撃つ。


聖子は必死で逃げた。

「返してよ!」聖子は叫んだ。


海貴は短く息をついた。
手がびりびりする。頬の傷も、空気に触れる度に痛かった。

「それはあんたに使いこなせないよ。返して」
聖子は手を差し出して、前に進んだ。

「誰が返すか!」海貴は叫んだ。

また引き金を引いた。


タイプライターのような音と共に、聖子の体が吹っ飛んだ。


壁に打ち付けられて、聖子はずるずるとしりもちをついた。

「……返して」聖子は呟いた。

そうだ、こいつは防弾チョッキを着てるんだ。頭、頭を狙わないと――

416ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/30(月) 22:04 ID:igZ3kd.k

 聖子の口元が笑いの形に歪んだ。「しょうがないなあ……」
胸ポケットからグロック19を取り出した。

「ぐっ……」海貴は撃った。

それと同時に、右手に襲撃が走った。


「うわあああああ」海貴は叫んだ。

自分の手から、イングラムと一緒に、かかっていた人差し指も消失するのが見えた。
人差し指の付け根から、血が噴き出た。


イングラムは、床にゴトンと落ちた。


聖子は続けて二発撃った。


胃に、二個の穴が開いた。


海貴は血を吐いた。聖子が近寄ってくる。眩暈がした。


聖子は海貴の頭を、ガッと掴んだ。


息がかかるほど顔を近くに寄せて、呟いた。
「伊藤さんは何でこんな奴と付き合ってたのか、わかんないわ。好きな女も守れないような奴。顔しか取り柄がないじゃない」
額にぴたりと銃を当てた。

海貴はそれでも、少々笑みを浮かべた。
「冬峯とはそんなんじゃないよ。誤解してるみたいだけど――」
でも、どっちみち、そうだったのかもしれない。



海貴は手榴弾を高くかかげた。ピンが引き抜かれていた。

青ざめて、逃げ出そうとした聖子の左腕を、海貴の右手が掴んだ。
聖子は必死で振りほどこうとしたが、抜けない。

「3、2……」海貴は呟いた。
「いやああああ!」

爆発する! 聖子は目をつぶった。

「――1」



……あれ? 聖子は目を開けた。

生きてる。

聖子は海貴の顔を見た。右頬の皮が半分剥けて、肉が見えていた。全身血だらけだ。


海貴は力なく言った。「おもち、ゃだよ。説明書にも、そう書いてあったし」

なーんだ。聖子はホッとした。

「……って、よくも二回も騙してくれたわね!」聖子は銃の撃鉄を起こした。

「死ね!」
引き金に指をかけた。



一瞬、海貴の口元が、笑いの形に変わったのがわかった。
聖子の右手を取って、自分の首に当てた。


海貴の首にかかっていたスクエア型のネックレスが、チカチカと光った。

417ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/30(月) 22:09 ID:igZ3kd.k
シンさん>
お久しぶりです。本当にあと少しです。長かったなあ、と思います。
残り人数が少なくなって展開も早くなってますね。
あとちょっとなので、よろしくお願いします。

418まっしゅ:2004/08/31(火) 02:28 ID:jy8fRL7o
うおおおおおっ!!!
続きが早くみたいぃぃっ!!!

419ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/31(火) 16:00 ID:igZ3kd.k

 ダァァン。


耳をつんざくような音が聞こえて、海貴のネックレスが爆発した。


「きゃあ!」

聖子は衝撃で吹っ飛ばされ、また、壁に頭を打ちつけた。



「う……」


――痛い。

聖子は自分の右手を見た。「あ、あああ……」


声にもならない声を上げた。自分の右手から、指がごっそりとなくなっていた。
「きゃああああああ!」聖子は狂って声を上げた。


「嫌、私の手が……ああああああああ!」その声は、山までこだましただろう。



さて、海貴の支給武器は精巧に作られたおもちゃの手榴弾だ。相手をひるませる以外の役目はないが、真の役割を果たすべく一緒についていた武器は、ネックレス型の小型爆弾だった。
手榴弾に比べて殺傷能力は極めて小さく、せいぜい一人の頭を吹っ飛ばすくらいの火薬しか使われてなかった。
主に自殺か、またはプレゼントとして騙して殺す用の道具だ。海貴はこれを自殺に使ったのだが、聖子には予想以上のショックを与えたと言っても過言ではないだろう。



聖子は泣き疲れて、海貴のまだ残っている部分を睨んだ。
「よくも……」
これじゃ、銃の引き金が引けない。

血がだらだらと出続ける右手に、タオルを巻いた。

更に、自分の腹が痛んだ。肋骨が折れているのがわかった。
多分、撃たれた時に折れたのだろう。


「絶対に、許さないから」

聖子は呟いて、左手でイングラムを掴んだ。
とりあえず、ここを出なきゃいけない。あと三人殺せば。たった二人だ。


聖子は燃える闘志で、階段を下った。
【残り4人】

420ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/31(火) 16:55 ID:igZ3kd.k
「あと三人殺せば。たった二人だ」

……ごめんなさい。
「たった三人だ」の間違いでした。

まっしゅさん>
こうなりました。
今日の夜にまた更新するかもなので、よろしくお願いします。

421シン:2004/09/01(水) 19:02 ID:4.iNy1vY
うわぁ・・・
姫城くんすごかったですね・・・

422ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/09/02(木) 21:59 ID:igZ3kd.k

 大迫治巳(男子二番)はふと顔を上げた。
「凄い音が聞こえた……」治巳は惚けたように呟いた。

ここはE=6だった。180センチ近くある自分の身長が優に隠れてしまうほどの大きな岩が、無造作に置かれていた。一つや二つではない。見る限り、たくさん。大きいのから、一メートルほどの小さなものも、縦横無尽にあった。

何かの芸術品なんだろうか。治巳はそう思った。
凄然と並んでいる岩達には、何か、迫力と、力強さを感じた。



自分の手を見た。土や埃、そして血で汚れていた。

今は、何人に減ったんだろうか。残りは皆、死んだんだ。
治巳の胸には、どうにもならない虚無感だけが残っていた。


思った。和輝に、あの時言ったことは嘘だった。オレはあいつを殺す気なんてなかった。本当に笹川ちゃんと会わせてやりたかった。

大島薫(女子九番)を殺したことを言ったのは、和輝を殺しそうになる自分と、心の中では自分を止めて欲しいと願っていた自分がいたからだった。

だが、一度火がついたら、もう止まることはできなくなっていた。

あいつは多分、オレを恨んだろう。恨まれても仕方ないことを言った。後悔なのか、何なのかはわからなかったが、胸が痛んだ。
もし、もう一回和輝に会ったら――

今度こそ、殺してしまうかもしれない。そんな予感がしていた。



あんなに激しかった雨が、ようやく小降りになってきていた。

治巳は先ほど爆発音がした場所へと急いだ。



そのまま進んでいた。ふと、治巳は足を止めた。
岩陰に隠れた。


……誰か来た。
誰かはよく見えなかったが、小柄な体。女子のようだった。
笹川ちゃんか井上さんだな、と治巳は思った。

シルエット的に、冬峯雪燈(女子二十一番)ではないと感じた。


ポケットに入っていた銃を持ち上げた。
雨で視界が悪くなっていた。ここからだと当たるかどうかわからない。それでも、治巳は、一か八かで撃とうとしていた。


引き金に指をかけた。片目を瞑って、目的に焦点を定めた。
――殺せ。自分の中で、誰かが命令を下した。


それと同時に、撃った。


ぱん。

雨のせいか、音は辺りによく響いた。

撃つ瞬間、しまったと思った。

水で手が滑った。銃弾はあさっての方向へ行ってしまった。


その女子は銃声の聞こえた方向を見回した。


治巳はかまわずもう一度撃った。

423ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/09/02(木) 21:59 ID:igZ3kd.k

 治巳は目を細めた。女生徒の腕に当たったような気がする。
いや、かすめただけなのか。よく見えなかった。



女生徒は、マシンガンを辺りに目掛けてぶっ放した。360度。


治巳は気づいた。それは、さっきよく聞こえた銃声だった。

女生徒は治巳の方へ向けて撃ってきた。
やばい、気づかれた。


治巳は岩の後ろに隠れた。

マシンガンの音がやんだ。
治巳は辺りを見回すために、少しだけ顔を出した。



その女の顔が見えた。

井上聖子(女子五番)は、憔悴したような気がした。顔つきは険しくなっていた。右手には白い布が巻かれていた。
治巳に確認できたのはそこまでだった。


ぱらぱらぱら。またあの音が響いた。
「うわっ」
岩陰へ隠れた。

治巳もウージーSMGを取り出し、撃った。


ぱぱぱぱぱ。

聖子も岩陰に隠れた。


聖子が走り出して撃ってきたので、治巳も夢中で撃った。
そうすると、聖子はうまく岩に隠れる。岩から岩へと乗り移るように接近してきた。


治巳は思った。こいつは、ただ者じゃない。油断してるとやられる。


二つの銃声が絡み合った。なかなか当たらなかった。岩が良くも悪くも邪魔をしてくれた。


治巳は焦っていた。踏み出して撃つか。このままじゃ、埒があかない。


治巳は撃った。


たくさんの音が聞こえて、手に衝撃が走った。

聖子は岩の後ろに隠れていた。


このまま撃ち続けて、あいつを追いつめるしかない。

治巳は走り出した。

424ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/09/02(木) 22:02 ID:igZ3kd.k

 聖子は左手でイングラムを握っていた。

右手には血がだらだらと出ていて、頬は赤く紅潮していた。早く仕留めなきゃ。


治巳が踏み込んできた。

「きゃあ!」
聖子は慣れない左手でイングラムを撃ちまくった。



治巳は走りこんだまま、聖子のすぐ傍まで飛び込んだ。

聖子の胸倉を掴んだ。聖子が撃とうとする前に、撃った。


ぱぱぱ。衝撃で聖子はガクガク震えた。



こいつ、この指どうしたんだろ。治巳は聖子の右手首を掴んだ。


指がない。赤くなったドラ○もんの手のようだった。何だか、とても不自然な物を見ているような気がした。

聖子の顔を見た。まばたきもしてないけど、まだ、息がある。


「何で生きてるの?」治巳は訊いた。

聖子の目の焦点があってきた。ぼんやりとした状態だったのが、はっきりと目に力がこもっていた。


聖子は言った。「あんたを、殺すからだよ!」



治巳は聖子を突き飛ばした。聖子は倒れたまま、左手でイングラムを撃った。


うっ――。
治巳はかろうじて避けたが、頬に大きな傷がついた。


「なるほど。防弾チョッキか」治巳は言った。
聖子は立ち上がって、激しく息をついた。腹を押さえた。


「いくら防弾チョッキだからってこんな至近距離で撃たれたなら骨折くらいするだろ。そのままだと、死ぬよ?」治巳はそう言って、聖子の頭に銃口を向けた。

「いやっ!」
聖子は夢中で頭を下げた。


当たらなかった。弾は聖子の頭のすぐ近くを掠めて、遠くへ飛んでいった。


聖子は撃った。


「うわっ」

治巳は避けたが、肩口に痛みが走った。

聖子は更に撃った。治巳のウージーが手から落ちた。聖子はニヤリと笑った。
「く……」治巳はウージーを掴もうとした。

ぱらぱらぱら――

イングラムが発射され、弾がウージーに集中した。


治巳はウージーを見て手をすくめた。壊れていた。

治巳は舌打ちした。
ポケットからコルトガバメントを出そうとしたが、遅かったようだ。


もう一度イングラムが火を噴いた。


腹部に、衝撃が走った。
治巳は後方へ吹っ飛んだ。

地面に体が強く打ちつけられた時、治巳は、自分の意識が遠くなっていくような気がした。

425ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/09/02(木) 22:06 ID:igZ3kd.k
まっしゅさん>
すごかったですね^^;
結構悲惨な最期になってしまって可哀相です。


戦闘シーン、かなりラスト近いのにやばい下手くそですね。
でも直さないって言う。

426まっしゅ:2004/09/02(木) 23:42 ID:vHLP2rxs
えええ、治巳君がぁ・・・
てっきり楽勝だと思ってたのにぃ

427まっしゅ:2004/09/02(木) 23:43 ID:vHLP2rxs
ノアさん文章ぜんぜん下手なんかじゃないですよ
ほんとに読みやすいんで

428ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/09/03(金) 00:28 ID:igZ3kd.k
すいません。人の名前を間違えるという最低なことをしてしまいました。
>>425のレスはシンさんへのレスです。
シンさん、そしてまっしゅさん、申し訳ありませんでした。

まっしゅさん>
あ、ごめんなさい。下の文は私の独り言なんで流してもらってかまわないです。
誤解を招く書き方してすいません。

429ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/09/04(土) 22:26 ID:igZ3kd.k

「手こずらせてくれたね」聖子は呟いた。
とどめをささなきゃ。まだ生きているかもしれない。


聖子は自分の腹部を押さえた。痛かった。肋骨が折れているかもしれなかった。

あと二人。早く殺さなきゃ。聖子はため息をついた。


聖子はイングラムをかまえた。



ぱん、ぱん。という、乾いた音がした。


聖子は驚いて、辺りを見回した。


そして、自分の体を見た。
新たに、左腕に小さな穴が開いていた。血が流れ出して、イングラムを伝って落ちていった。


「……どういうことだよ!」聖子は叫んだ。



「治巳!」
足音が、近付いてきた。千嶋和輝(男子九番)は、治巳を見て叫んだ。

……和輝? 何でここに?
治巳は驚いて声を出そうとしたが、断念した。


――それどころじゃない。


飛びかかった。和輝には、少し笑みが走っているようにも見えたかもしれない。もっとも、別に楽しんでいるわけでもなかったが。

聖子は驚いて、イングラムを発射しようとしたが――


治巳は聖子の左手を押さえて、イングラムを地面に落とした。



聖子の首に手をやって、強く締め付けた。


「治巳!」

何だよ、うるさい。


「く……」

聖子は治巳の手をかきむしった。手に引っかき傷が出来た。それでも、治巳は離さなかった。

心の中で、誰かが呟いた。殺せ、殺せ。
それは、自分だった。


ナイフを取り出した。聖子の目が見開いた。

刃先を聖子の首に当てた。


「あ、あああああああ……」
聖子は指のない左手で、治巳の背中をどんどんと叩いた。



「治巳!」
和輝は治巳の元に走り出した。

430ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/09/04(土) 22:27 ID:igZ3kd.k

 ブシュッ。

血が噴き出した。治巳は聖子の首に、深く、ナイフを突き刺した。
代々木の時と同じだ。治巳はふと思った。


聖子の口から血の泡が噴き出した。

ナイフを抜いた。ぶしゅっと音がして、ずるずると聖子は倒れた。


治巳はナイフを持ち上げ、そして、振り下ろし続けた。


防弾チョッキを外し、聖子の腹にナイフを下ろした。中の肉が血で染まった。
それでもやめずに、思い切りナイフを振り下ろした。



「もうやめろって!」
和輝に肩を掴まれたので、治巳は我に返って、ナイフを離した。


はあはあと息をついた。喉がカラカラだった。治巳はそのまま座り込んだ。

ナイフを使ったのは久しぶりだった。銃よりも、生で人を殺す感触が伝わってきた。治巳は少し笑った。胸が苦しくなってきて、着ていたトレーナーを脱いだ。


民家に入った時に見つけた、オーブントースターの鉄板(!)を、中に貼り付けていた。
はー、きつかった。でももう、使い物にならない。

あと少し距離が近かったら、貫通していただろう。


聖子は血の気が抜けたようになっていた。制服が裂け、腹部は血と一緒に、ピンク色の内容物が覗いていた。

無敵かと思われた彼女は、ここで死んだ。記録は十人殺害。今回のバトルロワイアルの最高記録だった。
【残り3人】

431ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/09/06(月) 23:31 ID:igZ3kd.k
「姫城海貴君、井上聖子さん、冬峯雪燈さん、吉野美鳥さんは死にました。残りは三人、頑張って」

北川のやけに呑気な声が、公園に響いた。


大迫治巳(男子二番)は呼吸を整えた後、千嶋和輝(男子九番)を見た。
「何で、お前がここにいるんだよ」

和輝は眉をひそめた。「傷……大丈夫?」

治巳はハッ、と言うように口元を歪めた。「大丈夫なわけねえだろ!」



和輝は治巳の腕を掴んだ。「雨宿りしよう。向こうには、加奈もいるから」

治巳は驚いた。「……笹川ちゃん? 会えたのか?」
和輝は頷いた。

「よかったじゃん……」
思わずそう言ってしまい、治巳は黙り込んだ。

和輝は無表情で手を差し伸べた。「行こうよ。俺を殺したいなら、その後でもいいから」


……何でだよ。たった今、オレが人を殺したの、ここで見てたはずだろ? お前を殺そうとしたんだぞ? 何でだよ。

治巳には、よくわからなかった。



加奈は治巳を見て、驚いていたようだった。「治巳君! 久しぶり」
「……ああ」

この女もおかしい。何で笑ってられるんだよ。

「何ぼーっとしてんだよ」和輝が言った。
「……別に」

和輝は一度咳払いをして、言った。「さて、治巳。お前が何でこんな凶行に走ったのか、聞かせてくれよ」

はあ?


治巳は言った。「オレ一人だけ生き残りたかったから。あと、楽しかったから。それだけ」
「――本当に?」

――違う。

オレは死にたくなかったんじゃなくて、殺されたくなかった。一人死んで、忘れられていくのが怖かった。
でも、誰かに止めてほしかった。あいつと同じ、殺人鬼に成り下がっていくオレを。


「――ああ。本当だよ」治巳は言った。

「このクラスの誰が死のうが何も思わねえよ! むしろせいせいした! お前らも、さっさと死んでくれないかなぁ!」
「――治巳君」加奈はショックを受けた顔で、治巳を見ていた。「本当に?」

「本当だって言ってるだろ。さっきから」
治巳は銃を持ち上げた。自分の手が、細かく震えているのがわかった。
苦しい。息ができなくなる。押しつぶされて、死にそうだ。


和輝は言った。「俺が何であそこにいたかって訊いたよな? 教えてやる」そう言うと、続けた。「探してたんだよ。お前が残していった探知機で加奈を見つけ出して、加奈にも了承してもらった。治巳がもし、本当は苦しんでるなら――」


和輝は静かに言った。「俺が治巳を殺すって」

「へー……」治巳は苦々しい思いで、頷いた。

「でも、違うんだな? お前はただ単に人殺しがしたいだけだったんだな?」
「だったら何だよ」
「代々木を殺した時も、大島さんを殺した時も、井上さんを殺した時も、何の躊躇もなくやったんだな?」
「だったら何だよ!」治巳は声を荒げた。

「……お前が苦しんでないなら、俺はお前を探す必要なんてなかった。一人にしておけばよかったよ」和輝は静かにそう言うと、ポケットから銃を取り出した。
「加奈は、殺させない」


治巳は皮肉な笑みを浮かべた。
「結局殺す気だったんだろ! ぐだぐだ言いやがって……」

和輝が近づいてきたので、治巳は銃をかまえた。


やめろ。くるな。――撃っちまう。
引き金に、指をかけた。


和輝の拳が右頬を歪めて、ゴッ、と、鈍い音がした。

治巳は地面に転がった。意外な思いを感じ、和輝を見た。


「違う。お前はそんな奴じゃないよ」和輝は言った。

それをきいた瞬間、治巳はある種、打ちひしがれた表情を浮かべていた。


「お前がいなかったら加奈を探せなかったよ。お前がいなかったら、俺はいつまでも、何もしなかったよ」

和輝は右手を差し出した。

「今のお前の顔見てると、すっごい辛そうだよ。何アホな真似してるんだよ!」

和輝は治巳の頭を掴んで、静かに言った。

「……一人が辛いなら、俺も逝ってやるから。これ以上、人殺しなんかしなくていいから」

「和輝……」加奈が悲痛な声音で呟いた。
【残り3人】

432シン:2004/09/07(火) 19:13 ID:Uk0.LzNo
いよいよラストって感じがひしひしと(?)伝わってきます!!

433:2004/09/10(金) 13:52 ID:BF4EPk9k
とても久しぶりですたい。接続等の問題でしばらくできませんでしたですたい。
いい感じに進んでイルですたい。ラストですたい。誰が生き残るのかな?ですたい。
しゃべり方ダルッ

434ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/09/10(金) 15:44 ID:igZ3kd.k
シンさん>
はい、いよいよラストです。緊張します(何で
更新遅くてすいません。これからも頑張ります。

瞳さん>
久しぶりです。いなくなってしまったのかと寂しかったので嬉しいです。
あとほんの少しで終わります。最後までおつき合いいただければ嬉しいです。
九州のかたですか?(笑

435ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/09/10(金) 20:41 ID:igZ3kd.k

 ――別にオレはすごく不幸だったわけじゃない。むしろ、オレより不幸な奴なんて五万といる。
義理の両親も優しかったし、友達だっていたし、可愛い彼女だってできたし(あっ、のろけちゃった)、割と幸せだったぜ?

でも、このゲームが始まって、オレの中で何かが動いていた。まだガキだったころに、焦げた家族の顔を見たことを思い出した。

単純にああなるのは嫌だったし、死ぬのも嫌だったのかもしれない。最初は。


でも、人間がどんどん死んでいくのを見ているうちに、強迫観念が走った。
オレの家族を襲った殺人鬼のような奴らに、オレも殺されるのかと。

今度は殺されないように、オレが倒したかった。
まあ、そういうオレ自身が殺人鬼だったんだけどね。
そうだよ。結局はあいつと同じなんだと思うと、吐き気がした。

止めてほしかった。オレの歪んだ思考を、誰かに停止してほしかった――



大迫治巳(男子二番)は、茫然としたまま、千嶋和輝(男子九番)を見た。
「何バカなこと言ってんだよ」

治巳はほとんど閉ざされた思考で、かろうじて呟いた。「せっかく笹川ちゃんとイイ感じになれたってのに、そんな簡単に死んでいいのかよ」

死にたいわけがない。そうだろ?

和輝は手を離して、気まずそうに言った。「……実は、まだ加奈に言ってないんだよね」


――何?

思わず叫んだ。「何トロトロしてんだよ! 早く言えよ! このヘタレが!」治巳は座ったまま若干離れて、続けた。
「早く言え。ここまできたんだから。オレは邪魔しないから」
「……うん」
和輝は頷いて、加奈を見た。「加奈、ちょっと話がある」そう言って、手招きをした。

「治巳君、ちょっと待っててね」加奈はかすれた声で、静かに言った。



二人は、二十メートルほど北へ移動すると、立ち止まった。

和輝は深呼吸をした。

めちゃくちゃ緊張した。殺し合いゲームの最中だというのに、何だか呑気で、幸せな緊張感だった。

「加奈、わかってると思うけど、俺さ――」
「言わなくてもいいよ」加奈は薄ピンク色に染まった頬の筋肉を上げて、笑んだ。「好きだったよ。結構前から」弾んだ声で、言った。

心の中にずっとあった靄が晴れるように、加奈の顔が鮮明に見えてきた。


月は落下し、星は一面に輝いて、太陽は沈まない。
世界ががらりと変わったような、そんな衝撃と幸福感。やたらにハイになれそうだった。


和輝は言った。「でも、言わせて。俺も好きだよ」
「うん」加奈は笑みを浮かべたまま、頷いた。



―閑話休題―

「……和輝さ、私を生き残らせてあげようと思ってるでしょ」
「……うん。治巳はどうしても生きたがってるようには思えないし、俺も加奈が生き残れるなら――」
「みくびらないでよ」加奈は眉を上げた。

へ? 和輝は狼狽した。


「何で私だけ置いてくの! 一人だけ仲間はずれなんてやだよ!」
「でも――」
「私も逝くよ。一生分の幸せは使い果たしたから――」
加奈は横を向いていたが、和輝に向き直って笑った。「幸せなまま死ねるなら、それでいいじゃん!」

――加奈!

和輝は加奈をきつく抱きしめた。

436ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/09/10(金) 20:43 ID:igZ3kd.k

 治巳は二人を見た。どうやらうまくいったらしい。全く、こんなところで青春しやがって。


寝転がって、空を見た。


殺されるのが怖かった。でも、あいつなら、そこまで怖くないかもしれない。

治巳はナイフを空にかざした。

六年前からずっと持ってた。

――もう二度と、家族や大切な人達が殺されないように、オレが守ってやるんだ。


「……大切な人が殺されないように、この殺人鬼を始末しなきゃな」治巳はそう呟いて、笑みを浮かべた。



気がつくと、二人が治巳を覗き込んでいた。

治巳はナイフを弄ったまま、言った。「和輝ぃ。オレ、死ぬわ」

「は? 突然何だよ」和輝は驚いたように言った。
「だってこれ以上自分の大切な人間が死ぬの嫌だもん」治巳はナイフを空高くかざした。「敵は手強かった。今は瀕死状態だけど」
「……何が?」和輝は不可思議な表情をしていた。

「だからー、殺人鬼はオレが始末するから、お前が死ぬ必要もないし、オレを殺す必要もないの」

歪んだ思考を止めてくれる人間がいたから、よかった。

あとは、自分の後始末をつけるだけ――


治巳は自分の首にめがけて、ナイフを振り下ろそうとした。



「治巳!」

和輝に腕を掴まれた。
「今は七時三十分なんだよ」

治巳は和輝の顔を見た。
「何が?」

「井上さんが死んだのが六時二十分ごろ。二十四時間以上人が死なないと、首輪が爆破する――」和輝は加奈と目を合わせて、また治巳の方を向いた。
「まだまだ時間はあるから、有意義に過ごそうよ」


治巳は戸惑った。

「別に、お前らは無理して死ななくていいんだよ。オレは退場する。お前らのごたごたは自分達で話し合えよ。オレを巻き込むな」
「もう結論は出たんだよ」加奈が言った。

「死ぬ前に、思い出作ろうぜ」和輝は言った。



――オレは、さっさと自分の体の始末をつけたいんだよ。

だって、決意が鈍ってしまう。今まで当たり前に過ごしてきた時間、仲間が、こんなに失いたくないものだということが痛いくらいにわかって、惜しくてたまらない。


「お前ら、アホだな……」治巳は顔を覆って、言った。
【残り3人】

437まっしゅ:2004/09/10(金) 22:57 ID:vHLP2rxs
ノアさーん、「うるっ」ときちゃいますよー

438シン:2004/09/13(月) 19:54 ID:vsuMHfo2
やばい・・・。
とても泣けてしまいました(;;)

439111:2004/09/13(月) 20:39 ID:nMv3A8Ow
最高です・・・・・感動しました

440ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/09/14(火) 02:21 ID:igZ3kd.k
まっしゅさん>
うわっ、びっくりです。
ありがとうございます。ここは何か頑張って書いた感じです。
あと残すところ・・・3話ぐらいですね。頑張ります。載せるのを(笑

シンさん>
更新が遅くなってすいません。本当に。
泣いたなんて!(驚
でも嬉しいです。ありがとうございます。残り数話もよろしくお願いします。

111さん>
最初から見てくださっていた方ですよね。本当に嬉しいです。
最高だなんてまさかまさかという感じですが、
少しでも感動してくれたという意見があれば幸せです。
ありがとうございました。

441ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/09/14(火) 02:25 ID:igZ3kd.k
 フィナーレ

戦闘実験第六十八番プログラム。改正案試行、第一回。

対象は、県立第三高等学校英文科、二年A組。総勢四十三人。


大東亜帝国中、たった一クラス。偶然にも当たってしまった、運のない高校生達。


その会場となったS県蔵ヶ浦公園では、今までのプログラムにない物があった。
――楽しげな話し声と、笑い声。

人数も少なくなり、殺し合いが一番盛り上がるころだ。生徒達はたった一つの生き残りの椅子を賭けて、殺しあっていた――
はずだった。



「何よこれ……」

橘夕実は不満そうな声を出した。
「こいつらいつまでくだらない話してんのよ! 殺しあいなさいよ!」
「何だかなー。もしかして、明日の夕方までこの調子なんじゃ……」
横山豪は、危惧していた。

北川哲弥は、黙ってコンピュータを見ていた。


盗聴機から聞こえるのは、自分達の中学の思い出話。それはやけに懐かしく、哲弥をほろ苦い気持ちにさせた。
そうだ、こいつら同じ中学だよな……。それで、俺も。


「このプログラムは失敗に終わりそうですねー……」哲弥はそう呟いて、笑んだ。


「それじゃ困るのよ!」夕実は叫んだ。
「おらー、大迫ー! さっきまでのあの活躍はどうしちゃったのよー! 千嶋和輝の毒牙になんかかかってないで、さっさと殺しなさいよー!」

夕実は早口で、兵士に指示を出した。
「放送入れて! 殺しあわないと首輪爆発させるって言うわ!」



千嶋和輝(男子九番)は、熟睡していた。

和輝の寝顔を指で突付きながら、大迫治巳(男子二番)は言った。「寝てるし、こいつ。おらー、起きろー」
「疲れてるんだよ。寝かしといてあげて」笹川加奈(女子十四番)は言った。

「でもさー、せっかくの最後の思い出作るチャンスなのに、もったいないじゃん、時間」治巳はそう言った後、少し小声になって、囁いた。
「オレはしばらく向こうにいるから、二人でいちゃついてなよ」
「えっ……いいよー」
「いやいや邪魔しないから。こいつだって男だし、死ぬ前に生殖本能に火がつくかもよ?」治巳はそう言って、財布の中から、薄っぺらい、正方形の物を取り出した。

「やるよ。使わなくてもいけるかもだけどさー」


加奈はその物体を見て、度肝を抜かれた。

「治巳君! やめてよ!」


……もう。すっかり元通りになってる。心配して損した。


治巳はニッと笑って、加奈の手にそのブツを握らせた。

「じゃあオレ散歩してくるね。ごゆっくり」


何よ。こんなモン、いらないっつのー!
加奈はそのくしゃくしゃになった物を見て、叫びだしたくなった。


加奈は振り返って、爆睡している和輝を見た。
「……和輝、起きて」和輝の体を揺すった。
「……何だよ」
和輝は機嫌が悪そうに加奈を見た後、だんだん気がついたらしく、目の焦点が合ってきた。
「……あ、ごめん。寝てた」


……。

加奈は治巳に渡されたものをポケットに仕舞いこんで、言った。「散歩行こう。約束してたじゃない」
「ああ!」和輝は気づいたように言うと、立ち上がった。
「行こうか」

442ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/09/14(火) 02:31 ID:igZ3kd.k

 大迫治巳は、暗い道を歩きながら、自分のポケットに収めていたナイフを取り出した。錆び付いて、血がこびり付いたナイフ。
……もう、いらない。

治巳はナイフを道端に投げ捨てた。



「こらー、お前らー!」

耳に響く大音量でその音は聞こえた。治巳は驚いて、空を見た。

「あと三十分以内に殺しあわないと、ただちに首輪を爆破させるわよ! 死にたくなきゃ早く殺しなさい!」怒りを感じさせるアニメ声。女は早口で言った後、放送が切れた。


――そんな。

治巳は急いで、和輝達のいる方向へと向かった。



「和輝、どうしよう!」加奈は怯えて、和輝の腕を引っ張った。
「あと三十分で爆発するって!」

和輝は忌々しげに上を睨んだ後、加奈の背中をぽん、と叩いた。
「やっぱり、加奈は残る?」

加奈は驚いたように目を見開くと、強い口調で言った。「やだ!」

「……頑固だな」和輝は笑みを浮かべた。



「和輝! 笹川ちゃん!」
治巳が走ってきた。

和輝は向き直って、言った。「どうする?」
「時間を延ばしたいならオレを殺せばいい。死ぬ時間がちょっと早くなっただけだし、別にいいよ」治巳はそう言って、笑った。
「バカ。何でそんなことする必要があるんだよ」そう言うと、和輝は座り込んだ。
「このプログラムは失敗。優勝者なし。面白いじゃん」


二人も、その場に腰を下ろした。

「三十分か……笹川ちゃん、使わないの?」治巳が言った。
「使わないってば!」
「何が?」和輝はきょとんとした表情で、二人を見た。
「何でもない! 気にしないで!」加奈が言った。

よくわからなかった。

443ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/09/14(火) 02:34 ID:igZ3kd.k

「あっ、そうだ。治巳君。遥佳からメール着てたよ」加奈はそう言うと、話し始めた。「バスの中でね。返そうと思ったら携帯使えなくなっちゃったんだけど」
治巳はためらいがちに訊いた。「……なんて着てた?」

「『土産はいらないよ(^o^)治巳に買ってきてもらうから。あいつが浮気しないようにしっかり見はっててね(笑)』だって」

「ふっ」治巳は下を向いて、呟いた。「土産、買ってこれなくなっちゃったな」

 和輝は言った。「俺は元々、何で長戸が治巳と付き合ってるのか不思議でたまらない」
「うっせーな。何か文句あんのかよ」
「そうだよ。当人同士の問題だよ」加奈が言った。
「だってさー、可愛かったのになー、長戸……」

加奈が凄い目で、自分を見ているのがわかった。

「ま、和輝にとっては、笹川ちゃんが一番だろうけどね」治巳が付け加えた。


「ごらー! 殺しあえって言ってんだよ、てめーらー!」

アニメ声の女を無視して、和輝は言った。「最期に、握手」

治巳と、加奈に向けて、手を差し出した。二人はその手をとった。「俺、二人に会えてよかったよ」
「……オレも。お前のこと殺さないで、よかった」
「私も、和輝に会えてよかった」


もうじき、三十分経つ。

「死後の世界って、あると思う?」和輝が訊いた。
「あるんじゃない? わかんないけど」加奈が言った。
「じゃあまた会えるかもね」治巳はそう言った後、苦笑した。「何か小学生みたいだな」


雨はあがり、すっかり涼しくなった丘では、たくさんの星が見えていた。
最期には、ちょうどいい。


時刻は六時二十一分二十八秒。首輪爆発まで、あと三十二秒だった。

444シン:2004/09/14(火) 19:27 ID:EWTl3yf2
やばいです・・・。
胸の奥からまたグッときてしまいました・・・。
ラスト頑張ってください。

445ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/09/17(金) 20:38 ID:igZ3kd.k
シンさん>
こんばんは。ちょくちょく書き込みありがとうございます。
なんか甘甘で見てると恥ずかしいので目を覆いながら載せてますが、
ここまできたらそれも楽しくなってきました(?
まあとにかく、あと少しお付き合い願います。




※お知らせ
何だかもう一度日記を設置してしまいました。
大して面白いこと書いてませんが、暇つぶしにでもどうぞ。
http://free2.milkypal.net/f-diary/DB-1/tackynote2.cgi?mm=milkyway

446ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/09/17(金) 21:26 ID:igZ3kd.k

「バイバイ。楽しかった」
加奈はそう言って、和輝の手を握り締めた。
「うん……」和輝は加奈の手をとって、強く抱きしめた。
「もっと早く、言えばよかった」


でも、満足かもしれない。加奈に会えたこと。治巳に会えたこと。二年A組の、全員に会えたこと。


こんな風に椅子とりゲームの椅子を投げ出す俺達を見たら、皆、どう思うだろう? いらないなら俺にくれよって感じかな。

ごめん、皆。でも、辞退させてくれ。たとえ、ここで自分の命が終わってしまうとしても――

加奈の顔、治巳の顔が、歪んでいった。



たった一瞬、和輝は見た。加奈と治巳の顔を。

そこから背中に衝撃が走って、自分の周りを、赤い物が花火のように飛び散ってゆくのが見えた。

血を噴き出して、三人は横ばいに、倒れた。


――俺達は互いを殺せなかったんだ。


夜は深く降りていって、月が三人の体を照らしていた。




北川哲弥はある種、感慨深いものを感じて、三人を見ていた。
いつまでも続くプログラム。殺し合いをしろという政府。

その中で、優勝という最後の椅子を捨てて、彼らが伝えたかったこと。


「……お疲れ」
北川はそう言うと、かすかに開いた三人の目を、順に閉じさせた。

【残り0人/ゲーム終了・以上プログラム実施本部選手確認モニタより】

447ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/09/17(金) 21:28 ID:igZ3kd.k

 エピローグ

九月になり、新学期も始まった。

田阪健臣、いや、元田阪健臣は、未だに慣れない男子校の教室の窓から、外を覗いていた。

優勝者がいなく、失敗に終わった試験プログラムのことは、ニュースでは小さくしか取り上げられなかった。
ちなみに、対象クラスの生徒は全員死亡、ということになってある。健臣と、あともう一人生き残った高城麻耶は、名前と戸籍を変え、全く違う地域で生活することを強要された。勿論、プログラムについて他言は無用だそうだ。


そうこうして地方の男子校にやってきたのはいいが、やはりショックがあるのだろうか。健臣は生徒と話すことを、固く拒んでいた。
なぜだかはよくわからない。ただ、万が一のことがあった時に、また、友人達が死ぬのが嫌なのかもしれない。それを恐れて、深く関わるのが怖いのかもしれない。


頬杖をつき、教室を見回す。目を閉じると、時に、心地よい錯覚に包まれることがあった。

特に、こんな天気のいい昼休みは――二年A組のクラスメイト達が、今もここで笑っているような気がした。

自分が殺してしまった梅原ゆき(女子八番)や永良博巳(男子十二番)のことも、思い出しては悔やんでいた。

「ごめん、みんな。きっと、ずっと忘れないから」

健臣はそう呟いて、窓に向き直った。

448ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/09/17(金) 21:30 ID:igZ3kd.k

 やや古い造りだが、大きな一戸建ての家。

高城麻耶は、懐かしい我が家に戻ってきたような気がした。
あいつが死んでから、もう二ヶ月が経つんだ。

麻耶は飛山隆利(男子十八番)の家に、久しぶりの挨拶をしに行くところだった。

隆利。休みになったから、広島から飛んできたよ。


麻耶は帽子を押さえながら、長い階段を上った。

「まあ、麻耶ちゃん。久しぶり」隆利の母は、朗らかな笑顔を見せた。
「お久しぶりです、おばさん」
「あがってちょうだい」

一時期はとても塞ぎこんでいたようだが、彼女にもようやく笑顔が見えるようになった。よかった。麻耶はほっとしていた。

仏壇の前にくると、隆利が変わらない顔で笑っていた。麻耶は線香を立てて、火をつけた。


麻耶は問いかけた。
隆利。元気?

私は名前が変わりました。もう麻耶じゃないんだよ。今の名前は秋元恭子。何だか合わないよね。
ところで、私、友達ができたの。新しい学校で。って言っても、たった一人だけど。今まで他人の意見とか聞かなかったから、他の人に合わせるのは結構大変です。
でも、皆当たり前にやってることなんだよね。これからも、頑張らなきゃ。

……あの時、隆利が言ってくれなかったら、私はいつまでも一人で殻に閉じこもってたかもしれない。

ありがとね。麻耶はそう思って、目を開けた。



隆利。でも、あんたがいない生活は、未だに慣れないよ。

心にぽっかりと穴が開いてしまったようだった。一日が終わるたびに、寂しくて泣き出しそうになる。

麻耶は嗚咽をこらえ、思った。頑張って生きなきゃいけないんだ。他のクラスメイトのためにも、隆利のためにも。



「麻耶ちゃん。お茶入れたわよ」
隆利の母の声に、麻耶は笑顔で答えた。「ありがとうございます」

隆利の母親は言った。「何かね。隆利がいなくなってから、私も夫も気落ちしちゃってね……」
麻耶は茶を啜りながら、母親の言葉を聞いた。

「こんなことを言うのはとても失礼だけど、何で身寄りのない子が助かって、うちの子が……って思った時期もあったわ」

麻耶は驚いたように目を丸くして、それから元に戻した。

「ごめんなさいね、麻耶ちゃん」母親は静かに手を合わせて、麻耶に頭を下げた。
「いいんです。おばさん」麻耶は笑みを浮かべて、続けた。

「また、遊びにきてもいいですか?」


母親は目に浮かべた涙を拭うと、「ええ、勿論よ」と頷いた。

449ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/09/17(金) 21:32 ID:igZ3kd.k

 一面大きな霊園となっている土地を、一人の男が歩いていた。
茶髪だった髪は黒に戻り、無造作に伸びていた。

北川哲弥は、ポケットに入っているラジオの電源をオンにしたまま、霊園の道を歩いていた。
周りの人々にじろじろ見られているのにもおかまいなしで。


無機質な声音で、ニュースキャスターが言っているのが聞こえた。「今回のプログラムの優勝者はなし、荒木氏は責任を取って辞表を提出したということです。なお、次回のプログラムについては全くの未定となっており、与党は高まるプログラム批判をこれ以上押さえつけることができなくなっているとの見通しが出ております」

哲弥はにやっと笑い、ラジオの音を小さくした。


「……ここか」
哲弥は呟いて、笹川家墓と書いてある墓地の階段を上がった。

「聞いた? 次のプログラムは未定だってさ。お前らのおかげかもな」
哲弥は墓場には酷く場違いな薔薇の花束を飾って、手を合わせた。

俺は冷たい人間かもな。結局お前に何もできなかった。お前が死ぬのを、ただ見てるしかなかったよ。


大学も辞めて、住んでた家も追われてきた。それでも、今日だけは来たいと思って、ここまでやってきた。

「今日はお前の誕生日だもんな……」
哲弥は顔をあげると、呟いた。
「十七歳おめでとう、加奈」


さて、千嶋と大迫の墓にも寄ってくか。
哲弥は立ち上がると、もう二束あった花束を持って、階段を降りていった。

「きっと、忘れないからな」


哲弥はそう呟いて、鼻歌を歌いながら走り出した。



「ママー、あの人変だよ?」近くにいた子供が言った。
「ほっといてあげなさい。でも、まだ若いのに、可哀相ね」
子供の母は頬に手を当てて、言った。

450ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/09/17(金) 21:59 ID:igZ3kd.k
一番最後のエピローグがNGワードに引っかかりました(エヘ
どうしよう・・・すっごい中途半端だなぁ。

とりあえずあとがき。
このラストについては納得行かない部分もあるでしょうが、当時私なりに頑張って書いたので見逃してください(何だそれ
こんな長い小説を読んでくれた方、ありがとうございました。
今読むと本当に文章力のなさに呆れたり内容のご都合主義感に恥ずかしくなったりしますが、
井の中の蛙だった私がこれを載せることによって色んなことに気づいたのはよかったと思います。
感想ありましたら上の掲示板の完結作品感想スレに書いてくだされば嬉しいです。
本当にありがとうございました。

451納豆ごはん:2004/10/24(日) 02:36 ID:Eal75xtg
実はまだ続きがあったことを、この納豆ごはん様は知っている

じゃあ続きを書きますね。



















あぁやっぱり面倒くさいから書かない。

452むぅ・・・:2004/11/15(月) 22:21 ID:A8bzuWIM
・・・・かんどぉしましたぁ・・・すごい良い作品ですね・・・一人でも多くの人が読んでくれるように、差し出がましいようですがあげさせていただきまするww

453むぅ・・・:2004/11/15(月) 22:21 ID:A8bzuWIM
・・・・かんどぉしましたぁ・・・すごい良い作品ですね・・・一人でも多くの人が読んでくれるように、差し出がましいようですがあげさせていただきまするww

454むぅ・・・:2004/11/15(月) 22:21 ID:A8bzuWIM
・・・・かんどぉしましたぁ・・・すごい良い作品ですね・・・一人でも多くの人が読んでくれるように、差し出がましいようですがあげさせていただきまするww

455むぅ・・・:2004/11/15(月) 22:22 ID:A8bzuWIM
あら?アホダナおれ・・・すんません

456のあ </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2005/02/07(月) 00:00:23 ID:igZ3kd.k

むう・・・さん>
レスが遅くなりすぎてもう見ていないかもしれませんが、
こんなに長いものを読んでくださってありがとうございます。
完結後の感想はとても嬉しかったです。
ありがとうございました。


※お知らせです。
ペティーとBBロワイアルの改稿版をサイトを作って載せていくことにしました。
ペティーを読んでくださった皆さんにも
お知らせするべきかと思いレスしたいと思います。

>>445に載せてある日記にサイトのURLは載っています。
改稿後のペティーは文字も更に多くなっているので読みづらいかもしれません。
それでも良いと言う方は読んでくださると嬉しいです。

457珍子:2019/07/10(水) 08:33:56 ID:.iJw9Ffc
あげ


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