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バトルロワイアルぺティー

408ノア </b><font color=#FF0000>(CMFYrBvc)</font><b>:2004/08/25(水) 08:30 ID:igZ3kd.k
雪燈は息をついた。

……駄目だ、外れない。


手首の皮は擦り切れていて、そこからピンク色の肉が覗いていた。痛みはあったが、そんなことはどうでもよかった。

「やだ、外れてよ!」雪燈は叫んだ。

雪燈は何度も時計を見た。あと五分を切っていた。
もう時間がない。嫌だ。死にたくない!

雪燈は手錠から無理矢理腕を引き抜こうとした。しかし、いつも手の甲で引っかかった。それでも無理矢理引っ張り続けた。
掌の骨がギシギシときしみ、音を立てた。折れるほど引っ張っても、それは外れなかった。


雪燈は絶望した。外すことをやめ、ため息をついた。


――もう駄目だ。あたしはここで死ぬんだ。

何でこんなことになったんだろう。あの時、くだらない喧嘩なんかしなきゃよかったんだ。バカみたい。
挙げ句の果てにこのザマ。もし姫城が見ていたとしたら、笑われるかもしれない。

――あいつが正しかったんだ。



雪燈は泣き出していた。絶対的な死への恐怖。今までの思い出が、全て輝かしく見えた。

あんなに嫌っていた、母の顔まで思い出した。

中学一年の運動会の日。たった一度だけ、母が自分にお弁当を作ってくれたことがあった。
普段は弁当などなかった。だからいつもは、お腹を空かせているか、友達に分けてもらうしか方法がなかった。

嬉しかった。妹のついでだろうと、ただの気まぐれだろうと嬉しかった。その時だけ、雪燈は母親の存在を認めた。

あたしは、何の親孝行も出来ずに死んでいくんだ。お弁当のお礼も言ってなかった。ごめんなさい。ありがとう。お母さん。


雪燈は泣きはらした顔で前を見た。展望台に人がいるような気がした。
誰かの声が聞こえたような気もしたけど、きっと気のせいだろう。


雪燈は疲れて下を向いた。


……一つ、方法があった。何で気がつかなかったんだろう。

雪燈は制服のスカートのポケットから、銃を出した。

少し怖くはあった。でも、生きるためだったら右手の一本くらい――

雪燈は手錠に銃口を当てた。



銃声が聞こえた。
「あら、何やってるんだろ」聖子が呟いた。

傷悴しきった海貴の耳にも、それは聞こえてきた。


聖子は望遠鏡を覗いていた。

何が起こった? 海貴は雪燈の方を見た。
遠いので詳しいことまでは見えなかった。

「自分の手の面積を小さくして、外そうと思ったらしいよ」聖子が笑った。「生きるための執念って、恐ろしいね」

恐ろしくなんかない。海貴は雪燈に拍手を送りたくなった。



手錠を破壊するつもりだったが、衝撃が強すぎて、掌も破壊された。
でも、これでいい。
雪燈は真っ赤に染まった手を、壊れかけた手錠から外した。
やった、外れた! むしろホッとした。

雪燈はそのまま走り出した。


右手は力が入らなかった。指を動かそうとすると、切り刻まれるような痛みが走る。
大きな穴が開いていた。もう自分の物ではないように思えた。
痛いけど、首を吹っ飛ばされるよりマシだ。


雪燈は走り続けた。



展望台に人がいるのが見えた。
……誰?

雪燈は急いだ。もうすぐ禁止エリアを抜ける。

「……姫城!」雪燈は驚いて、叫んだ。海貴の頭から、血が出ていた。
「どうしたの? 大丈夫だったの?」雪燈は言った。
繋がれたまま、海貴は力なく笑った。


雪燈の見えないところには、井上聖子がいた。


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