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「vipArmoredCoreSS外伝 ヒワイナントアンテナ」

1CR-H95DT ◆xPmNiQwsF.:2006/08/04(金) 23:51:40
vipACに於けるSS用の避難所です
連投規制喰らったり、スレに投下するのは個人的にちょっと な作品がある場合に投下して下さい
SS書きに対する要望・文句・お題とかもあったらここでどーぞ
SS書きを目指しているひとはここで練習していくといいかもよ

2ACケンプファー:2006/08/13(日) 00:21:23
これからはSS関連の話は全てここでしていきたいと思っている
ここが全く機能していないのは由々しき事態なのでは

せっかく建てたSS避難所だ、有効に使って行くべきだ

3名無しさん@コテ溜まり:2006/08/13(日) 08:08:40
もちつけ 単純に書いてる人間が少ないだけだろう 哀しいことだが

4名無しさん@コテ溜まり:2006/08/13(日) 08:43:25
てか立ったばっかでさっそく別スレにSSネタ振ったのケンプだけじゃんwwwwしっかり汁www

5ACケンプファー:2006/08/13(日) 14:04:16
>>3-4
そうだったな、俺は疲れているのだろうか
確かにSS書いてるレイヴンが少なすぎるな
数えてみたら6人……LR以下じゃないか

6ACケンプファー:2006/08/13(日) 14:10:26
もうちょっと考えてみた

こんな時だからこそ俺たちが頑張るべきじゃないのかと

時間があったらSS書いていないレイヴンも試しに加勢してみて欲しい!
俺は時間が無くても書いているが

7名無しさん@コテ溜まり:2006/08/13(日) 19:08:53
その六人のラストレイヴンをkwsk

8ACケンプファー:2006/08/13(日) 22:28:19
この辺見たことのあるラストレイヴン達
ファマス氏
忠実氏
鳥だけ氏
シャイアン氏
なごみ氏
そして俺    俺が真っ先に落とされそうな悪寒

余談だがSSを書くレイヴンは三種類に分けられる
シリアス物を書くレイヴン
ギャグ物を書くレイヴン
途中で挫折するレイヴン

あいつは……

9ACケンプファー:2006/08/13(日) 22:29:53
でも、リスト漏れがあったら頼む
そこが怖くて

10名無しさん@コテ溜まり:2006/08/13(日) 22:47:45
根性なし ◆3SZuIivP92
新コテ

11ACケンプファー:2006/08/14(月) 00:59:57
>>10
見てきたよ

何というか……俺の立場がどんどん無くなっていくような気がするんだ
早く次を投下しないと!

12ACケンプファー:2006/08/14(月) 01:38:35
突然だが予告

もう俺の投下したいという気持ちの限界が迫っているのか……
第九話を三部作+1に分けようと思っている
おそらくここに投下すると思うがよろしく頼む

13名無しさん@コテ溜まり:2006/08/14(月) 11:09:47
「ARMORED CORE SS外伝 ACケンプファー」 by VIP

の方がスレタイしっくりくるんじゃね?と思った今日この頃wwww

14シャイアン:2006/08/14(月) 14:13:29
>>8
オレ シバラク 書く できない

15シャイアン:2006/08/14(月) 14:54:59
SS関連の話として長編完結記念のお礼書いとく。一週間以上たってるとか気にしないでくれ

第一次投下時にジャックがかっこいいと褒めてくれた五名ほどの方にまず感謝申し上げます。あなた方が褒めてくれたおかげでアレを物語のプロローグという位置に持ち上げる事が出来ました。
第二次投下時にモリがかっこいいと褒めてくれたクォモクォモに多謝。コテのついた人に褒められると喜びもひとしお。
本当は第二次投下のときに終わる予定でしたが、褒めてくださった皆さんのおかげで、私もばら撒いた伏線もどきの回収をしてみようという気になりました。
第三次投下。これはtxt形式で投下した所為で反響はありませんでした。無理はありません。インターミッションだし。
第四次投下になってくると、乙・GJの数もちらほらと増え始め、投下の頻度も上がってきました。
四話の投下を始めたあたりでなごみ氏に出会いまして、圧倒的な力量の差にただただ平伏するのみでしたが、それでも私のSSを褒めてくれた貴方様はまるで天使のよう……
四話と五話の投下の間に一週間ほどの休憩を挟み、五話では小刻みな投下を繰り返しました。毎回毎回短い文章でしたが、それでもGJと言ってくれた皆様には感謝の言葉もありません。
五話の最後投下では「ノブレス熱いな」とのコメントもいただき、その上クォモクォモにはカラスのイラストまで書いていただき、有頂天になっておりました。
六話に突入したところで、長年連れ添ってきたwin98搭載のお気に入りのパソコンが寿命を迎えてしまい、書くペースはグンと落ちます。
それでも多数のGJと乙、それに今では実質二千近くにもなったwikiのコーム数(話分轄しまくってるから半分はイカサマみたいなものだが)に励まされ、何とか完走することが出来ました。
本当に皆さんありがとうございました。

最後に 第六話投下時、鳥氏と少数のSSレイヴンが「どうやったらそんな文章が書けるのか」といった事があったと思います。あったんだよ!
それはきっとなごみ氏に向けられたものであったとは思いますが、念のため私の意見も書いておきます。
私は小説として文を書くのは今回がほとんど初めてでした。昔は背伸びしてオリジナルの長編を書こうとしたことがありましたが、当時は中学生。
自らの文章の厨臭さにヤクも吹っ飛んで、原稿用紙60枚ほどで挫折しました。高校生になってから偽ARMSに挑戦しましたが、こっちは構想段階でボツ。
つまり、話としてまとまる形のものをまともに書いたのはプロローグが初めてだったということです。
そして今回の話は原稿用紙600枚にものぼる長編にもなった事も踏まえての話ですが、
私はおもしろい文を書くにはイメージが必要不可欠だと思っています。確かに表現力は大事です。構成力も大事です。
しかし、一番大事なのは描写力だと思います。ここで私が言う描写力とは「心の中にあるモノを文字にしようとする」力、つまり精神的なものとして捉えていただきます。
その描写力を得るにはまずイメージをはっきりさせることです。
量を書いて練習するのも確かに重要です。それはきっとプロローグと最終話を見比べていただければ分かる話でしょう。
しかし、イメージが無ければ描写は出来ません。物語の根本を支えるものこそがイメージだと思うのです。
何が書きたいのか、何を知ってもらいたいのか、どうやって自分の中の世界を表現するのか、それはきっと自由です。
原稿用紙とメモ帳は何時だって真っ白で、誰かに書き込まれる事こそを待っています。
だから、自分の世界を書き出すことを諦めずに、自分だけの曖昧な世界を確固たる形としてつかめば、私程度の文章など誰だって書けるはず。
それと後は「技」の類について。
私は文章技巧というものを使っていません。使っているつもりはありません。私は前述のイメージをそのまま書き出す形でのみ文を書いています。
それでも特に重要な「技」と呼ぶことも出来そうな部分は一つだけあります。
それは「空気」を表現する事です。しかし、これも表現する事を諦めなければ必ずかけるもの。所詮私は力づくでしかモノを書いていないと言うことです。

私のようなものが偉そうな事を言ってすいません。正直私が言ってる事は私自身も出来ていないことばかりです。所詮はワナビ(ラノベ志望の厨房)の作家ごっこにしか過ぎませんでしたが、それでも応援してくれた人達へ
ありがとうございます。

16ACケンプファー:2006/08/14(月) 22:26:44
シャイアン氏へ
よくここまで頑張ったな、だから今はその翼を休めておいて欲しい

良かったらまた他のレイヴンをGJ!と言わせるようなSSを書いてくれると俺たちも嬉しい
今じゃなくても良いからな!

アムロの脱走を待ってます(ちょっとした洒落だ)

17名無しさん@コテ溜まり:2006/08/16(水) 22:45:45
>>15
乙かったじゃないか・・・

18なごみ(753) ◆nfj/oZUsU2:2006/08/23(水) 21:36:59
規制食らったので、こちらに続きを投下。

* * *

 爆発し、もはや形状すら形容できぬガラクタの塊と化したマリーゴールドを視認し、トロット・S・スパーは一息ついた。
 引き撃ち戦法を行使された時にはどうなるかと思ったが、相手を仕留める事は出来た。作戦は成功だ。
 その立役者が自分ではなく他の者である事は残念だが、成功は喜ばしいものである。

『その機体……クォモクォモか。礼を言う』
『礼を言われる程の事ではない。尻拭いをしただけだ』

 トロットは眉を顰めて沈黙する。彼は隊長の事を信頼しているし、隊員の実力も評価している。
 それ故に、戦術部隊の所属でもない外来のレイヴンに侮蔑を向けられる事は耐え難いものだった。

 とはいえ、それで悪辣な態度を取る程、トロットは愚かではない。
 クォモクォモの操るAC、ALIEは、機動力と防御力を併せ持ったものだ。加えて、それを操る腕も確かである。

 これは、アライアンス戦術部隊にとって重要だ。
 クォモクォモの活躍を聞けば、フリーのレイヴンもアライアンス戦術部隊に興味を示すだろう。ともすれば、アーク所属のレイヴンの寝返りも期待できる。
 五人ものレイヴンを保有しているとは言っても、部隊の規模は小規模だ。より多くのレイヴンを懐に引き込まねば、敗北は自明の理である。

 もっとも、それはスパイが入り込む可能性も増えるという事ではあるが――――アライアンスの出す報酬は破格のものだ。それを棒に振ってまで忠義に尽くす者は、今のアークには存在しない。

 ジャック・Oというカリスマ、最大の旗印となるべき存在を失ったアークでは、金に飢えるレイヴンを引き止める術はない。
 現状における指導者、セレスチャル卿は凡庸な指導者であり、利害関係を超えた忠節を生み出す事は出来ないだろう。結果、アークの屋台骨であるレイヴンは、アライアンス戦術部隊へと流れていく事になる。

 そして、それこそが、今後の戦術部隊の盛衰を占う重要な計画でもあるのだ。

19なごみ(753) ◆nfj/oZUsU2:2006/08/23(水) 21:37:34
 レイヴンは嫌われてはいても、一方でアリーナという娯楽の興行を担ってきた存在でもある。引き入れようとも、アライアンスの領民にさほどの嫌悪は抱かれない。

 だが、これが野盗崩れであれば、戦術部隊はあっという間に瓦解する。
 領民にあからさまに害を為す者を引き入れれば、反対活動が起きかねない。そうなれば上層部にいい顔をされていない戦術部隊は、即時解体されてもおかしくない。

 情報を封鎖しようにも、ACという目立つ兵器を大量に保有する戦術部隊の存在を隠し通す事は出来ない。
 故に、野盗の類を討伐し、同時に腕を持て余し、食うにも困り始めたレイヴンを引き入れる為の土壌として世界に喧伝しなければならないのだ。
 アライアンスが勝利しようとも、戦術部隊が生き残らなければ隊員に待っているのは破滅だけ。戦後も生き残る為の確かな地位の確立を、戦術部隊は必要としている。

 副官という立場に推挙される以上、トロットは愚鈍ではない。その程度の戦術的判断は行える。
 だからこそ、彼はクォモクォモの侮蔑に対し沈黙を保った。事実、彼の実力はクォモクォモに劣るものだという自覚もあった。

『……状況はどうだ』

 両者のスピーカーから、隊長を仰ぐ男の声が響き渡る。
 エヴァンジェ。AC操縦技術、指揮能力の高さを評価されるアライアンス戦術部隊一の傑物である。
 アライアンス戦術部隊の立案を行い、上層部の一部を抱き込んだ手腕からも、その才覚は窺える。

 故に、隊員達の信頼は揺らがない。人間性などというもの置き去りにした荒野において、実力以上に評価するものはないからだ。
 指揮官として突出した実力を持つエヴァンジェを隊長を仰ぐのは、ある意味当然の話だった。

『盗賊の全滅を確認、また、クォモクォモの活躍によりACの撃破も完了しました』

 トロットは、一歩引いた視線で戦場の推移を報告する。
 好悪の感情で報告を違えるような真似はしない。ましてや、他人の成果を自身のものにしようとも思わない。
 そのレイヴンとしては異質の性格故に、彼はナービス領で低迷し、今この部隊の副官として活躍している。

『そうか。戦術部隊の初陣としては上々だな』
『これで実力を示せた、という事か』

 クォモクォモは、あえて誰の実力とは口にしない。自分達の実力、などという言葉でお茶を濁さないその姿勢は、彼自身の実力に対する自負の表れでもある。
 無論、エヴァンジェもそれは理解している。だが、責める事はしない。

『だが、奴らを納得させるには、まだまだ成果が足りん。戦術部隊の本格的な独立の為にも、君たちには粉骨砕身して貰いたい』
『隊長。しかしこんな盗賊狩りばかりでは埒があきませんよ」

 トロットの諫言に、エヴァンジェはクッ、と喉を鳴らす。顔に浮かぶ感情は、笑みのそれに似ていた。

『分かっているとも……。トロット、クォモクォモ……コンコード市を知っているか?』

 ――――彼らはアライアンス戦術部隊。
 所属するレイヴンは四人。エヴァンジェ、トロット・S・スパー、フラージル、モリ・カドル。
 アライアンスの保有する五人のレイヴンの内、四人をも保有する部隊。
 そして、クォモクォモという外来を半ば引き込み、五機のACを保有する事になった最大戦力。

 企業の中にありながら、心根から従おうとはしない鴉の群れが、ゆっくりと頭角を現し始めた。

20なごみ(753) ◆nfj/oZUsU2:2006/08/23(水) 21:38:40
それと、遅れたがシャイアンへ。
乙、そしてGJ。

21シャイアン:2006/08/23(水) 22:06:13
753GJ。

それと15での発言後半は話半分で読み流しちゃってくれい

22餅猫★:2006/08/24(木) 00:14:20
管理情報〜。
投稿本文の最大文字数は4096文字
投稿本文の最大行数は100行だからね〜。

23唯一ネ申Fa-Mas ◆x6eOofpZMo:2006/08/24(木) 22:00:54
たまにはちょっと話題を振ってみる。
皆モチベーションはどうやって維持してる?
自分は勢いとノリしか取り得が無いので、どうしても途切れ途切れになりがち。

24アンテナ ◆xPmNiQwsF.:2006/08/25(金) 00:10:13
書いた後の周りの反応、もしくは創作欲求
そしてまとめ様

どきどみが停滞しちゃって俺には原因が分からなくてどーしようも無くてだな
コテSSを書く原動力が貯まらないんだな
そして何を思ったのかまーたブーンSS書き始めちゃってもう大変

・・・orz

25ACケンプファー:2006/08/25(金) 00:35:09
どうしよ、最近SS書く時間がないや
>>23
自分も同じ、最近はSSのシナリオを大きく買えてみようと思う

もう、アライアンスならぬ三社とバーテックスの主力をMTから別のモンに変えちゃうよ

26ACケンプファー:2006/08/25(金) 00:36:45
レスミスッた

買えて→変えて
脳内修正頼む

27シャイアン:2006/08/25(金) 13:24:31
>>23
書きあがるまで現在書いてる時点での展開、次の展開その次の展開を繰り返し繰り返し妄想してる。
ネタが尽きたらそれを全部脳内アニメに変換する。吉成作画とか大平作画みたいに格の違うやつ

28ACケンプファー:2006/08/25(金) 13:47:28
長い休みを経て書き終えたので投下 第九話第一部

「ついに……ついに完成したぞ!」
長めの椅子から一人の男が立ち上がる
「こいつらさえいれば、クレストやミラージュ、そしてバーテックスをも殲滅できる」
「これで……我らキサラギの時代がやってくる!」
部屋中に男の笑い声が響き渡る

29ACケンプファー:2006/08/25(金) 13:47:58
アライアンスが三つに分裂した
クレストとミラージュとキサラギに……
「アライアンス所属のレイヴンは全員確保したのだが……」
モリはこの非常事態にアライアンスが分裂する事に疑問を覚えていた
「これじゃあバーテックスの思うつぼじゃないか……」
本部…いやクレストが三社の分裂の理由を話してくれた
「……それじゃあ首脳陣がおやつの100円ガムを奪い合ってこの様な事態に!?」
なんてくだらない理由なのだろう、これくらいなら嘘だと信じたい
「モリ、ピンチベックの左腕を交換しておいた、交換したと言ってもギミックは使えるぞ」
ピンチベックは先ほどの戦闘において左腕が破損したのだ
「それとピンチベックに増加装甲を施しておいた、機動性は低下するが相手は何をしてくるかわからん」
「付けておいた方が身のためだろう」
何かのフラグを感じるのだが……
「それでは本題に入ろう、キサラギが生体兵器の実験をしているのは猿でも考えられる話だが今回は少々厄介なことになった」
「キサラギがレイヤード時代の生体兵器を造ったとの報告が来ている」
レイヤード時代の生体兵器……厄介や奴らが揃っている気がするよ……
「先ほどトライトン環境開発研究所に偵察隊を送り込んだのだがそれらしい施設に近寄れなかったとのことだ」
「そこで君にその施設を破壊して貰おうと言うことだ」
トライトン環境開発研究所に侵入したモリ、辺りに敵反応は見受けられない
地下の大きなホールにたどり着く、この先のゲートの向こうに施設があるらしい
ピンチベックを操作しゲートを解放する
そこには地下に繋がる物資搬送用のエレベータがあった
ピンチベックがエレベータに乗るとエレベータは動き出す、キサラギ派が見ているのだろうか
一分も経たないうちにエレベータが止まる、目の前に物資搬送用の大型車両が見える
クレストから通信が入る
「それでは、その車両の中に入ってくれ、キサラギ派の施設に向かえるかも知れん」
大丈夫だろうか……罠だったときのために戦闘態勢を整えておくか……
モリは大型車両に乗り込む
それをモニタ越しに見つめる研究員達
「さて、あれが私たちの息子達の最初の餌だな」
「最初の餌をMTどもにするのはもったいない」
「見せて貰おうか、クレストのACの性能とやらを」

30ACケンプファー:2006/08/25(金) 13:48:21
動き出す大型車両、内部には物資が入っていると思われるコンテナが散乱している
横には後どれ位でキサラギの施設に着くかといった感じのボードが付いている
ボードの一番左には矢印が点滅している、一番右の矢印が点滅したら到着するといった感じだろう
突然上から換気口の蓋が落ちてくる、敵襲だろうか
「ちょっと待て、ま…まさか」
換気口から大きめのクモが何匹か侵入してくる、生体兵器である
「や…やっぱり!」
車両に侵入して来る蜘蛛型生体兵器をライフルを用い一体一体打ち落として行く
「ゴキブリは苦手なんだよぉ〜」 
生体兵器がゴキブリでもないのにそんなことを言い放つモリ
しかし、そんな情けない男の泣きっ面に蜂が襲いかかる
散乱しているコンテナが爆発し、中から蜘蛛型生体兵器が出てきたのだ
「う……UWAAAAAAN!!!!!」
最早声にならない叫び声を出しながらライフルを乱射し、生体兵器を踏みつぶすモリ
その姿はゴキブリを見つけてしまい、スリッパを持ってくる主婦に相当するだろう

31ACケンプファー:2006/08/25(金) 13:49:07
「ハァ…ハァ…ハァ…終わった…のか……」
気がつくとボードの矢印は真ん中辺りを指し、辺りは蜘蛛型生体兵器の死骸が散乱している有様であった
モニタ越しに見つめている研究員達はそんなモリの有様を見て皆腹を抱えて笑っていた
そんな中、主任と思われる研究員が叫ぶ
「モリ君、キサラギハザードはまだ終わらんよ、存分に恐怖してくれ」
ガシャンと車体が急に揺れる
そして車体の左側が開き蜘蛛ともダニともつかない生体兵器が出てきたのだ!
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」
あんな出来事の直後でもある、ビックリしない筈がない
「消えろ、消えろ、消えろぉぉぉぉぉ!!!!!!」
生体兵器に向かって必死にダガーを振り回すモリ
しかし、その生体兵器はいくら斬られようともくたばる気配がない
それをモニタ越しに見ている研究員達
「……AC相手には十分な耐久力を持っているようだな、ルシャナ弐式部隊を配備しろ!」
「この前地中から掘り出した人型兵器三機ですか?」
どうやらキサラギは秘密裏に過去の人型兵器を掘り出していたようだ
「ルシャナに似ていませんけど……」
「と言うかこれって20年程前に放映されたアレに出てきた……」
その人型兵器はACと比べると遙かに大きく、装甲は若草色にペイントされていた

32ACケンプファー:2006/08/25(金) 13:49:36
「ハァ…ハァ…ハァ…今度こそ終わりだよな?」
ついに生体兵器が息絶えたときには大型車両は終点のキサラギの施設に着いていた
施設に潜入するとクレストから通信が入ってくる
「モリ、正面のゲート以外は閉ざされている、罠だろうが正面突破を頼む」
「了解、今度は何が来るんだよ……」
正面のゲートを通過していくと今までのキサラギの偉業を示すかのように生体兵器のサンプルが並んでいる
「うわぁ……やっぱりキサラギはどうかしているよ」
広場に到達したその時、突然警報が施設内に響く
「急げ、ルシャナ二式部隊を配備しろ!」
左、右のエレベータからルシャナには全く似ていない人型兵器が降りてきた
左からは装甲が若草色にペイントされた大型マシンガンを持つ単眼のスキンヘッド兵器
右からは装甲が紫にペイントされた巨大なバズーカを持つ単眼のピザデブスカート兵器
そのどちらもが僕の予想を超える兵器であった
「……何だこいつら!?」

33ACケンプファー:2006/08/25(金) 13:50:50
こんな兵器はテレビでしか見たことがない、キサラギの意欲作か!?
でも良かったよ、生体兵器が相手じゃなかったんだから
「こいつの性能を試すのにも良い機会だぜ」
「ここで消えて貰うぞ!」
ピザデブスカート兵器が発射してくるバズーカを避け、お返しと言わんばかりにガトマシを撃ち込む
しかし、遠距離からの攻撃である
当然集弾率も落ちるため、攻撃力の低下に繋がる
「そんなものが効くものか!」
背面から敵機が接近との警告が入る
「敵機を落とすなら後ろからってね!」
後ろからマシンガンを撃ち込んでくるスキンヘッド兵器
多少被弾する物の装甲に損傷は無いので良しとする
「嘘だろ、このマシンガンが効かないなんて!」
「そこっ!」
振り向きざまに動揺するスキンヘッド兵器の腰にダガーを斬りつける
「うわぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」
直後に大爆発を起こすスキンヘッド兵器
それを見たピザデブスカート兵器が斬りかかってくる
「ヤマダが殺られたか!」
「これでもッ!」
迫ってくるピザデブスカート兵器にグレネードを直撃させる
「チッ…脱出する!」
ピザデブスカート兵器も大爆発を起こした、増援が来ないうちに先に進まないと!

34ACケンプファー:2006/08/25(金) 13:51:14
長い廊下を擬似OB装置で駆け抜ける
増加装甲のせいで速度が多少落ちているが気にしないことにする
「……敵機…さっきの同型機か!?」
正面を見ると何かが急接近してくる、さっきの兵器の一種だろうか
擬似OB装置を使っていることもあって余計に速く見える
二機はお互いすれ違ったところで止まる
装甲が青にペイントされ、AC一機と張り合えるほどの武装を施された単眼の全身スラスター兵器
おまけに角まで付いている
見たところ、機動戦もこなせそうである
「こいつか……侵入者ってのは」
「レイヴン相手に不足はねぇッ!」
こっちはリボハンで牽制する物の全身スラスター兵器は尋常じゃない速度でかわしてくる
さらにかわしている間に手持ちのショットガンを撃ってくる余裕っぷりである
こちらは被弾してしまう物の装甲に損傷は見られない
「これで終わらせてやる!」
全身スラスター兵器が何かを投げつけてくる
「何だ!?」
その何かはピンチベックに巻き付き……これは地雷!?
途端にその地雷が大爆発を起こす、そして他の地雷にも連鎖していく
しかし、全身スラスター兵器のパイロットは予想もしなかった光景を目にする
「まだ増加装甲がやられただけだ!」
「な…なんだと!?」
ピンチベックのボロボロになった増加装甲がパージされ、傷一つ無い漆黒の装甲がその身をさらけ出したのだ
「蜂の巣になれ!」
動揺する全身スラスター兵器に容赦なくガトマシを撃ち込むモリ
全身スラスター兵器は全身を打ち抜かれ、スクラップと化してゆく
当然コクピットはミンチより酷い状態になっているだろう
中ではウイスキーボトルが弾丸に踊らされているのだろうと想像しているモリ
モリ……あのOVA見たろ……
全身スラスター兵器を撃破したのもつかの間、クレストから通信が入ってくる
「モリ、そこからまっすぐ進むと生体兵器試作プラントがあるはずだ、そこを叩いて欲しい」
「後、謎のACが大型車両に侵入し、そっちに向かっている、詳しいデータは少ししたら送るから用心しておけ」
そんな……またあの蜘蛛やらダニやらなんたらと戦わないといけないなんて……

35ACケンプファー:2006/08/25(金) 13:51:43
大型車両に侵入した謎のAC、機体の基本構成はピンチベックと瓜二つ、しかしカラーリングは白一色
そして赤く光る単眼、一目見たら亡霊なのではと思わされてしまう
「……モリ・カドル……」


「こいつに俺の機を託したのは間違いではなかったようだな……」

36ACケンプファー:2006/08/25(金) 13:56:14
以上、第九話第一部、侵入編でした

とんでもない方向に行っちゃいました
gjgjになっていないかとても心配

SSは>>28から
感想を求む
誤字とかあったら教えて欲しい

37ACケンプファー:2006/08/25(金) 14:06:58
また誤字
gjgj→gdgd

改めて感想or誤字報告頼む

38シャイアン:2006/08/25(金) 19:06:49
ああ。gjgjだった

39ACケンプファー:2006/08/28(月) 21:31:10
同じSS書きにgjと言われるとやる気が出てくるわ

40ACケンプファー:2006/08/28(月) 21:37:17
書いてみればわかる!
そこのレイヴン、君も一緒にSSをやらないか?

「vipArmoredCoreSS外伝 ヒワイナントアンテナ」
唐突に思いついた宣伝スマソ

41アンテナ ◆xPmNiQwsF.:2006/08/29(火) 23:28:53
ここの宣伝じゃ駄目だろwwwwwww

42唯一ネ申FA-MAS ◆x6eOofpZMo:2006/08/30(水) 00:12:53
宣伝文か…有名どころ(?)を改変してみた

君の空想が世界になる
  君の心が物語を紡ぐ
    想い描くだけでいい

VIPPER’S NEST ACSS部門

43なごみ(753) ◆nfj/oZUsU2:2006/09/01(金) 22:04:41
大人も子供もお兄さんもお姉さんも
VIP SS部門。
あ、いや、ごめアッー

>>36
正直、厳しい意見になりますので、不愉快だったらスルーしてください。見なくても結構です。

地の文の少なさも目に付きますが、口頭語を使うのは避けた方がいいと思います。
キャラクターの心情を描写するのでもないのに口頭の言葉を使うのは、よほどの技量がない限り無理です。
少なくとも私は無理です。ミスで使ってしまい、後で赤っ恥をかく事はありますけどね。
また一人称と三人称の混在も問題です。視点をモリ一本に絞っているのはよいのですが――

例えば、モリ・カドルを示す際に、モリと僕が混在しています。
モリの心を示すのであれば、『モリ・カドルは思った。自分は――であると』などという風に、それを読者に示す一文が必要です。
厳守する必要はありませんが、オーソドックスにいくなら覚えていたほうがいいでしょう。

クセの強い文は、根本的な土台、文法の習熟が出来ていて初めて機能します。無論、感覚で掴める人も中にはいるでしょうが、知らなければ機能しないのは同じです。
ルールを知らない者にルールは壊せません。文法を知らないものが崩した文法を使っても機能しないのです。

無論、これは一人の読者の意見に過ぎません。
どちらが正しく、間違っているというものでもありません。私は今までの経験を下にこの感想を書いていますが、それが全て正しいという訳ではないのです。
しかし、中にはこのような意見を持っている人間もいるという事を気に留めてもらえれば、これに勝る喜びはありません。
ケンプファー氏のSS書きとしての今後を楽しみにしております。

44シャイアン:2006/09/01(金) 23:11:47
貴方の空想が今、燃えている。
VIPAC Side  Stories

何か偉そうに言わせてもらうが、ケンプファーのSSは最初期に比べてかなり形になってきてるとは思うし、
後は意識して問題点を潰していく事が必要になると思う。ケンプガンバ。

>>なごみ
感覚で掴むっていうのは手探りで掴むって言う事だよね
だったらそれなりの手ごたえを知るために試行錯誤が必要なわけで、やっぱりいきなり文法崩しが出来る人って言うのはいないんじゃない?

今ここに書き込んでるみんなは好きな作家とかはいる?
質問した側として、自分が先に書かせてもらうけど

好きな作家
秋山 瑞人
筒井 康孝
清水 義則
秋田 義信
福井 晴敏
番外編(好きなアニメ監督)
富野 由悠季
赤根 和樹

45アンテナ ◆xPmNiQwsF.:2006/09/02(土) 15:04:38
最初に比べるとケンプの飛躍的な向上は分かる
完全に今の形をモノにするためにケンプには一度ブーンSSをお奨めしたい
規制はまだ解けてないのかい?

で、好きな作家
富野のハゲ
神林長平
涼風涼

mixiの足跡に涼風氏が居てビビッた

46なごみ(753) ◆nfj/oZUsU2:2006/09/03(日) 18:49:33
うーん……少しばかり誤解を招く内容だったかもしれませんので、追記を。
ケンプファー氏の技量が向上しているのは目に見えて分かります。正直なところ、成長はかなり速いです。
だからこそ、もう少しいけないかな、と思ったのですが、どうやら余計なお節介だったような気も……気に障ったなら、この場を借りて謝罪させていただきます。
>>シャイアン
いきなり出来る人はいないと思う。試行錯誤が必要なのも同意。

好きな作家
宮部みゆき
神林長平
福井晴敏
あと、西尾維新は好きとまではいかないけれど、感心する部分がある。

47忠実EO ◆8G/OIpNBb2:2006/09/03(日) 22:24:36
初カキコ。

好きな作家>>
賀東 招二
あざの耕平
榊一郎
冲方丁

ラノベ作家ばっかりって俺の小説経験は終って(ry

48名無しさん@コテ溜まり:2006/09/04(月) 02:07:13
突然ですがSS投下。

ゲド戦記 レイヴン試験変

レイヴン試験の行われるトレネシティに向かっている輸送機の機内に俺、ゲド(仮名)が居る。
いよいよ、ACに乗っての実戦だ。俺の眼前には複雑な操縦系やら計器がひしめいている。
「そろそろ目標地点に到達する。もう一度、君達に課せられた依頼を確認する」
心臓の鼓動がどんどん早くなって行く。

「目標は市街地を制圧している部隊の撃破 敵勢力は戦闘メカ、MTだ。この依頼を達成したとき、君達はレイヴンに登録される。 
このチャンスに2度目はない。必ず成功させることだ」

そりゃそうだ。失敗した時、俺は死んでいることだろう。

「これより作戦領域へ投下、ミッションを開始する」
輸送機のハッチが開いた。
「システム、キドウ」
待ってました!と言わんばかりに輸送機から飛び出した俺ともう一機のACは、地響きを立てて着地した。
「これに生き残れば、私もレイヴンになれる!」
そう言って敵に突っ込んでいくもう一機のAC。が、しかし
「そうは残念ながらいかないようだ」
そういって俺は、ACの左腕のレーザーブレードでもう一機のACを斬った。
「ぐあっ、私は味方です!」
さすがに一撃では沈まないか…、なら何回も斬るまでのことだ。
「ぐあっ」
斬る。
「ぐあっ」
斬る。
「ぐあっ」
斬る。
「ぐあっ」
斬る。
「ぐあっ」
斬る。
「ぐあっ」
斬る。斬って斬って斬りまくる!
「そんな…ひどすぎる…」
ようやく膝をつき、爆発炎上するもう一機のAC。
「やっと沈んだか…梃子摺らせてくれる」
「AC2大破。AC1、なんてやつだ、味方を殺るとはな」
周りを見ると完全に敵が引いている。中には逃げ出そうとしている奴まで居るようだ。
一番近い敵MTに向かって右腕のライフルを発射する。
5、6発命中したところで爆発するMT。弱い。これなら楽勝だな。
逃げ腰の敵どもに次々とライフル弾を叩き込む。
「これで最後・・・だ」
最後のMTに弾を叩き込んだ、その時。


輸送機の飛来を確認。どうやら敵の増援のようだ。全て撃破しろ」
試験官の硬い声を聞き、上を見上げる。
輸送機から盾と大きな筒を持った人型のMTが降下した。数は…五機!
その内の一機にライフルを撃ち込む。
10発程度撃ったが、敵は怯まずに筒を構えた。
弾が飛び出し、俺のACに直撃。
「ぐっ、よくも!」
ライフルでは埒が開かない。
ブースターを吹かし、敵MTの正面に突っ込み、ブレードで
「沈めえぇ!」
斬り捨てた。あっけなく爆散するMT。
残りのMTがなおも抵抗するも、AC相手には無力だった。

「敵部隊の全滅を確認 新人にしては外道なほうということか。
力は見せてもらった。ようこそ、新たなるレイヴン。君を歓迎しよう」
ついに、俺もレイヴンになれた。これからは、荒んだ日々が始まるのか…。

49名無しさん@コテ溜まり:2006/09/04(月) 02:08:06
ー次回予告ー
レイヴン試験が終わり、へとへとのゲドが家の扉を開けると、そこには一人の男の姿。
「遅かったじゃないか…」
筋骨隆々、下半身丸出し、どう見てもウホッな男の目的とは?
次回、ゲド戦記。ACのなまえをいれてください篇。
1時間書き込みなかったらプリンは俺の嫁。

50名無しさん@コテ溜まり:2006/09/04(月) 02:09:07
投下終了。

51名無しさん@コテ溜まり:2006/09/04(月) 03:37:56
遅かった…
ゲド戦記とかけるとはユーモアがあるねwww
次も期待期待

52ACケンプファー:2006/09/04(月) 15:08:40
笑わせて貰ったよ、次も期待している
俺の経験から指摘させて貰うとやっぱり地文が足りないかな
俺のSSと同じく勉強の合間に息抜きとして読んでみるタイプだと思う
初投稿かどうかは知らないがこれからも頑張って


好きな作家か……今でもショート・ショートは読んでいるが……
こんな俺を許してくれ(小説読みなさいとつっこまないで、切羽詰まってるから)

作家とは言えないかも知れんが
ここの職人で好きなのを一人選ぶとすると忠実氏なんだよ

53ACケンプファー:2006/09/04(月) 15:11:34
追伸
>>49
プリンは譲るがシーラは譲らん

54シャイアン:2006/09/04(月) 16:55:10
>>48
「レイヴンの頭がおかしくなってきている」

>>忠実
 その好みは何か判る気がする。
忠実氏の文章からは榊一郎あたりの雰囲気がバッチリとでてる希ガス

神林長平は実はまだ読んだ事無いから今度読んでみる事にする。
雪風あたりから触った方がいいのかな? 今のところ七胴落としあたりから読んでみようと思ってるんだけど

55アンテナ ◆xPmNiQwsF.:2006/09/04(月) 18:21:16
「この戦争に人間は必要なのか」

雪風いいよ雪風

56名無しさん@コテ溜まり:2006/09/04(月) 19:58:23
敵は海賊シリーズもオヌヌメ
ラジェンドラかわいいよラジェンドラ

57シャイアン:2006/09/04(月) 22:10:09
>>55
わかった。雪風読んで見るよ。
ていうかさ、戦闘AIとか無人機ってーとやっぱりターミネーターポ(ry

58FA-MAS ◆x6eOofpZMo:2006/09/05(火) 13:45:02
>>シャイアン
以下の違いを述べよ
・SPT(スーパーパワードトレーサー)
・MF(マルチフォーム)
・TS(テラーストライカー)

高橋ネタに脊髄反射レスしてごめんね

59シャイアン:2006/09/16(土) 00:14:54
神林の本がすきだって言ってた方々ありがとう。おかげでよい本にめぐり合えました。

60名無しさん@コテ溜まり:2006/09/17(日) 19:31:26
 我輩はAMIDAである。名前はまだ無い。どこで生まれたかはとんと見当がつかん。
いや、ここには我輩と同じ様なAMIDAが沢山居る、そしてその中には生まれたてのAMIDAもいるから
おそらく我輩はここで生まれたのだろう。
今日も今日とて培養層の中で我輩の同胞と一緒にのんびり暮らしている。

我々の暮らしぶりを観察している集団がいる、キサラギとかイザナギとかいったか。
まぁ「彼ら」とでも言っておこうか。彼らは皆白衣である、我輩の見ていない処では違うのだろうが
それすらも日ごろの彼らの様子を見ている限り怪しいものだ。観察する分には問題ないのだが
彼らは我々をみて性的興奮をしているのだ、しかも深夜、一人っきりになった培養層を見下ろす研究室で
自慰行為に及ぶ者すらいる、我々に見られているという自覚がないのだろうか、むしろ彼らにしてみると
我々に見られている方が興奮するのだろうまったくの変態である、我輩――正確には我々だろうがを見て
そこまでされるのは精神衛生上好ましくない。

そんなストレスを発散するため我輩は時々研究所内を探索するのが楽しみである、もちろん培養層から
出るのは厳罰であるからこっそりと彼らの見ていない隙を狙っては培養層の隅に設けられたダクトに
入り込む、ダクトの入り口には金網があるが欠陥工事なのか取り外し可能となっている。
このダクトは研究所中に繋がっているらしく我輩でも全体を把握できない、そしてダクトからみる所内は
我輩の好奇心と探求心を呼び覚ますのに十分すぎるほど面白い、第一ブランチにあるAC設計・開発部門
を覗くことの出来るダクトは我輩のお気に入りの場所である。

AC設計・開発部門では名前のとおりACを開発しているらしい、見渡せば「瑠紗那☆」と肩に書かれたACが
立ち並んでおりその周りを機械が動いている、近くにいた研究員の話をきけば今度はAMIDA搭載型無人AC
を開発中らしい、人間の変わりに我々が戦うなど御免こうむる、我輩は今の生活で十分である。

ふと視界の隅に入った時計に目をやるとAMIDA担当の研究員が休憩から戻ってくる時間である。
我輩は培養層へと通じるダクトを急いだ、這ってでは遅いのでジャンプしながらだ、奇怪なのは解っているが
この際かまってはいられない、彼らに誤魔化しはきかない、彼ら全てのAMIDAを把握し一匹一匹に名前を
付けているのだ、一匹足りないだけで研究所中に警報が鳴り響くだろう、かくいう我輩はサンタナと
名づけられている、我輩はメキシコ生まれではないのに。

なんとか培養層に到着し金網を元に戻したところで上の研究室に人が戻ってきた、どうやら間に合ったらしい。
それから彼らは我々を観察し続ける、彼らは我々を観察しているが、我輩も彼らを観察するのは楽しい。
我輩と彼らは見目こそ違いはあれど芯の部分は似ているのかもしれない。

61ACケンプファー:2006/09/19(火) 00:58:32
久しぶりに見に来たら「我輩はAMIDAである」かよ!

AMIDAのおかげで余計にシュールになってきているな
しかもAMIDAらしく改変できているよ
とにかくGJ!

62名無しさん@コテ溜まり:2006/10/04(水) 03:39:32
久々にSS。
シリアスモノしか書けなかったのが昔の俺なんだよな。
たまにはギャグでも書いてみるかと思ってやってみたらとても人に見せられないものが完成しそうだから困る。

正直チラシの裏だからさらに困る。

63忠実EOのオメガSSその8 ◆8G/OIpNBb2:2006/10/05(木) 20:35:15
     *


 オメガの戦場から数一〇キロも離れた、バーテックスの拠点。
 烏大老はそこの通路で、携帯テレビを眺めていた。
 傍目には、ただ単に壁に背を預け、映画でも観ているように思える。
 しかし、大老が観ているのはそれではない。
 携帯テレビの小さな画面は、今まさに資材保管区で展開されている、オメガとファシネイターの戦いを映している。
 現地の映像が、この小型テレビに転送されているのだ。
(……やはり、厳しいか。ガルムとムームを倒したというから、『底力』の方には少しは期待したのだが……)
 一部始終を眺め、大老は鼻を鳴らした。
 丁度、オメガがファシネイターに斬られる所だった。これで、二度目である。
 開始直後に一回、その攻勢から逃げようとしたところを、追撃されてもう一回。
 無様なものだった。
「まぁ、こんなものか……」
 失望と安堵を半々に、大老は息を落とした。
 と、横から声をかけられる。
「よお」
「……マックスか」
 軽々しい挨拶に、大老は声だけで応じた。その間も、視線は画面を見つめたままだ。
 マックスと呼ばれた壮年の男は、小さく笑うと、大老にそっと問いかける。
「……で、どうだ。オメガは」
 マックスは、大老のオペレーターだった。組んで数十年になる。
 そして彼ら二人は、ジャック・Oの真意を知る数少ない人間だった。
 オメガの戦いを監視するのも、ジャックの真意――すなわち、『ドミナント選定』絡みの話である。
「……俺的には」
 マックスは続けて言った。
「オメガがドミナントっていうのはどうにも信じがたい。
大老、実際のところはどうだ」
「……だめだな」
 断言にも、マックスは動じなかった。
「だめか」
「そうだ」
「……やっぱりな」
 マックスが肩をすくめて見せた。
 そのタイミングで、画面の中でクラウンクラウンが斬られた。三度目だ。頭部を吹き飛ばされ、逆関節のACは慌てて距離を取る。

64忠実EOのオメガSSその9 ◆8G/OIpNBb2:2006/10/05(木) 20:35:55
「……オメガは、姿勢に力がない。これは、結局最後まで変わらなかった」
 それを観つつ、大老は呟いた。
「奴は、戦いと本気で向き合っていない。殺人に快楽を覚えるのは、奴の勝手だ。
だが少なくとも、奴には真摯さが足りない。
相手への怨念が足りない。これでは、腹を括って闘いに挑む、本物のレイヴンには及ばない」
 厳しい評価だった。
 だが、現実である。オメガがムームやガルムに気圧されたのは、まさにこの『覚悟』の違いだったのだろう。
 もっとも、先の戦いの後半では、オメガにも若干の気迫があったが――それは『逆上』と呼ばれるものだ。
 無力だと信じ込んでいた獲物に、噛みつかれ、プライドを傷つけられる。そしてキレた。
 それだけの話なのだ。
 『覚悟』とはほど遠い。
 マックスが付け加えるように、
「『チップ』は? オメガには、それがあるんだろ、予知能力が」
「……そんなもの当てにならん」
 大老は吐き捨てるように言った。
「映像を見て、分かった。オメガに載っている『チップ』は、ナインボールや管理者無人ACのに比べると、遙かに不出来だ。
あれで動きが予測できるのは、せいぜいMTか下位のレイヴンだけだ。
敢えて言おう、俺でも勝てる」
「……でも、ガルムに勝ったんだろ? ガルムは腕利きじゃないのか?」
「思い出せ。ガルムはムームを庇ってしまった。それで動きが、MT並に直線的になっていた。
恐らく奴一人であれば、決して遅れは取らなかっただろう」
 大老の言葉に応じるように、クラウンクラウンの左腕が千切れた。どうやら、またブレードで斬られたらしい。
 手も足も出ないとはこのことだった。
「……オメガ自身の技術も、未熟だ。そして頼みの『チップ』も、役立たずであることが分かった。
もっと早い段階で、腕利きのレイヴンと当たっていれば、化けの皮も剥がれたのだろうが……」
 容赦のない大老に、マックスは尋ねた。
「……つまり、勝てない?」
「そうだ。技術も、精神力もない男だ。奴にあるのは、せいぜい――」
 大老は、自身の胸ぐらの辺りに手をやった。
 少し前、オメガに掴まれた場所だった。あれから随分時間が経ったが、未だに掴みかかられた感触が残っている。

65忠実EOのオメガSSその10 ◆8G/OIpNBb2:2006/10/05(木) 20:36:21
 相手はよほど強い勢いで向かってきたのだろう。
 それだけ、馬鹿にされた怒りが強かったということか。
「――せいぜい、高いプライドぐらいだ。
それも、実力の伴わない空っぽのプライドだ」
 言っていると、画面の中でさらに動きがあった。
 大老は目を細め、ふんと鼻を鳴らした。あからさまな侮蔑の表情だった。
 画面の中では――追いつめられたクラウンクラウンが、ターミナルの出口に向かっていく。
 逃げ出そうとしているのだ。
 だがターミナルの扉は、決して開かない。決着がつくまで、決して扉を開けるな――部下にはそう言い含めてある。
(無様な最期を選んだものだ)
 大老は、オメガを完全に見限った。


     *


 オメガは、かつてない恐怖の中にあった。
 今いる敵が、同じ人間とは思えなかった。
 ファシネイターの前では、どんな攻撃も無意味であり、その猛威の前ではナインボールの『チップ』の予測さえ無力だった。
 死ぬ。
 その恐怖が、オメガの腕をがっしりと掴んでいた。
 考えたこともない状況だった。
 今までは、未来を予知できる『チップ』のおかげで、戦いは一方的な『狩り』だった。自分は『予知』という安全圏に身を置きながら、敵を蹂躙する――それが、オメガのスタイルだったのだ。
 しかしこの闘いに置いては、それが全く逆転していた。
 絶対と信じていた『チップ』という命綱は、ズタズタに切り刻まれてしまっている。
「……畜生!」
 毒づき、オメガは背後を確認した。
 ファシネイターが、追ってきている。
 逃げなければ。
 オメガの頭には、もはやそれしかなかった。
 今回の敵は、もはや天災のようなものだった。ハリケーンや火山の噴火に対して、反撃する馬鹿はいまい。
 そのような圧倒的な存在に対して、人間ができることは、避難することだけだ。さもなくば、死んでしまう。
「……くそっ」
 オメガは、なんとか出入り口へ辿り着いた。

66忠実EOのオメガSSその11 ◆8G/OIpNBb2:2006/10/05(木) 20:37:09
 かつてない速度でパネルを叩き、解除キーを入力、シャッターを開けようとしたが――頭部COMは無情の宣告をした。

『ゲートが動作しません』

 足下に、ぽっかりと穴が開いた。
 その深い深い穴に、落ちていく感覚。
 もう戻れない。
 オメガは絶叫した。
 背後からは、今もファシネイターが近づいてくる。
「……なぜだ」
 クラウンクラウンが、ファシネイターに向き直った。
 もはや決着はついていたが、ファシネイターは気を緩めず、ブースト全開で突っ込んでくる。
 その左腕部からは、すでに真っ青なブレードが伸ばされていた。
 逃げられない。
 背後には壁、かといって左右に逃げる余裕もない。ついでに言えば、それだけの気概もない。
 ファシネイターが、ブレードを大きく振りかぶる。
『……死ね』
 ファシネイターから、厳かな声が来た。
 と同時に、ブレードが振られる。眩いブルーの輝きが、メインモニターを埋め尽くした。
 その死の瞬間――オメガに訪れたのは、恐怖でも、怒りでもなかった。
 胸中に吹き荒れたのは――寒々とした虚無だった。
 言い残す言葉も、別れを惜しむ人も、何もない。
 何も残さず、何も与えず、消えていく。
 それが、生の終わりに顧みた《かえりみた》、オメガの人生の全てだった。
 ――寒い。
 思った途端、その音はやってきた。
 ガシャン、という車の衝突にも似た金属音だ。
 間違っても――ブレードで金属が溶ける音ではない。
(……何だ?)
 思い、オメガはメインモニターを確認し――ぎょっとした。
 クラウンクラウンの腕が、ファシネイターの左腕を掴み、押し戻そうとしていた。

67忠実EOのオメガSSその12 ◆8G/OIpNBb2:2006/10/05(木) 20:38:59
 破壊的なエネルギーを秘めたブレードは、クラウンクラウンに届く寸前で止まっている。
(ブレードを……防いだのか? 俺が?)
 そこで、オメガは自分がスティックを握っていることに気がついた。
 手が、勝手に動いたのだ。そうとしか考えられなかった。
(……俺が……)
 無意識の内に発揮した、思わぬ行動力に、オメガは呆然とした。
 そんなオメガに構わず、ファシネイターはクラウンクラウンの腕を振り払うと、すぐに二度目の斬撃を準備した。
 このままでは、死んでしまう。
(……嫌だ)
 オメガは、自分の人生がどんなものであったかを思い知っていた。
 そこには思い返すに値することは、何一つとしてない。空っぽの、あまりに寒々として人生だった。
 オメガはこうなると薄々感づきながらも、幼い日より徐々に醸成された虚無、それに身を任せてしまった。
 その挙げ句が――死ぬ前に感じた、あの壮絶な『寒さ』である。
 満足げに逝った、ガルムやムームとは大違いだ。
「ちくしょう……」
 切なく、哀しく、だがそれ以上に――悔しかった。
 肥大化したプライドが、その思いを後押しする。
 この俺が。なんでこんな様に。
 理不尽だ。許容できない。
 断固として。
 オメガの中で、ゆっくりと何かが組み変わった。
 育て上げられたプライドが、今、『意地』となって行動を呼び起こそうとしている。
 ――このままでは、終われない。
「ちくしょう……!」
 スティックを握る手に、力がこもった。
 慣れ親しんだ、鋼鉄の手触りが彼の意気込みを出迎える。
 と、ファシネイターが、ブレードを振った。
 以前とは違い、上から打ち下ろすような振り方である。
 そしてそれは、より力がかかる分、受け止められにくい振り方だった。
 しかし――クラウンクラウンは、それもやり過ごした。
 腕が素早く動き、敵の左腕を打撃、ブレードの軌道をずらす。青い刀身は、クラウンクラウンの背後にあるシャッターに、深々と突き刺さっただけだった。
 ファシネイターが、驚きの声を漏らす。

68忠実EOのオメガSSその13 ◆8G/OIpNBb2:2006/10/05(木) 20:39:24
 クラウンクラウンはその隙をついて、ファシネイターにチェインガンを向けた。
 言葉が口をついて出てくる。
「行くぞ……!」
 それは「殺す」であり、「ふざけるな」であり、また「見たかこの野郎」でもあった。
 心の底からの、怨念の叫びだ。
 トリガーを、絞る。
 鋭利な弾丸が、チェインガンの砲口から飛びだし、残らずファシネイターに突き刺さった。
 思わぬ反撃に驚いたのか、ファシネイターが慌てて距離を取る。
 胸のすくような思いだった。
(……そうだ)
 このままで終われるか。
 力の限り、お前に喰らいついてやる。
 決死の覚悟を胸に、オメガはシステムクラッチを踏みつけた。

『メインシステム 戦闘モード 起動します』

 飛び退くファシネイターに、クラウンクラウンが肉薄する。
 ファシネイターは、それに驚いたようだった。
 無理もない。傷を負っているクラウンクラウンが、あえて接近するというのは――完全にセオリーから脱していた。
『自殺する気か』
 ジナイーダが問う。
 オメガは応えなかった。そもそも、質問が耳に入っていなかった。
 体の芯に沸き上がる、熱く激しいもの。それが、頭に無尽蔵に汲み上げられてくる。
 とても話を聞ける状態ではなかったのだ。
「ミンチだ」
 オメガがトリガーを絞った。
 背部のチェインガンが、眼前のファシネイターに銃弾をばらまく。
『くそっ』
 ファシネイターは、飛び上がってそれらを回避した。
 変則的な機動だったが――オメガはその動きに対応し、機体を右に振り向かせる。
 案の上、そこにファシネイターが着地した。
 すでに、その左腕部からはブレードが伸ばされている。
 こちらに光波を飛ばすつもりだろう。
 そう思った途端、オメガの唇が笑みの形に歪んだ。
「いいね」

69忠実EOのオメガSSその14 ◆8G/OIpNBb2:2006/10/05(木) 20:39:50
 呟き、オメガはブーストペダルを踏みつけた。
 猛スピードで接近、ファシネイターの懐に潜り込む。
 ジナイーダが、驚きの声を漏らした。
 オメガは構わずスティックを操作し、チェインガンを照準した。
 70ミリの砲口が狙う先は――ファシネイターの右肩だ。
「死ねよ……」
 静かだが、その分寒気のする声だった。死神が、耳元でそっと囁いたら――こんな感じかも知れない。
 直後、チェインガンが吼えた。
 無数の銃弾が、ファシネイターの右肩に突き刺さる。
 鼓膜を叩く発射音の中、金属が歪み、千切れる音が響いた。
 高威力の銃弾が、ファシネイターの右肩をもぎ取ったのだ。
『なんだと……!』
 ファシネイターは、残った左腕でクランクラウンを突き飛ばすと、ブースト移動で間合いをあけた。
 しかし――それは紛れもなく、本能的な『逃げ』の動きだった。
 ドミナントが、怖れている。
 オメガが叫びをあげた。
 スティックを握り直す。
 そしてもう一度、ブーストペダルを踏みつける。
「行くぞ……!」
 呟きつつ、クラウンクラウンが接敵。
 マイクロミサイルが浴びせられるが、怯むことなく中央を突破し、ファシネイターに迫る。
 このまま接近し、またチェインガンを浴びせかける。それしか頭になかった。
 同時に、地力で圧倒的に劣るクラウンクラウンが、ファシネイターに勝利するには――この特攻先方しかないと、本能的に看破してもいた。
 だがそこで、疾走する機体に鋭い衝撃が走った。
 ロケットだ。マイクロミサイルに紛れ、ファシネイターが撃っていたのだ。
 そしてその鋭い弾頭は、クラウンクラウンのジェネレーター部位に、冷酷に、かつ無慈悲に突き刺さっていた。
「……は?」
 一瞬の間。
 ぞっとするような、空白の時間。
 それが過ぎた後、急激に機体温度が上昇し始める。
 ダッシュが止まる。
 腕部が痙攣を始め、サイトが勝手にぶれる。
 慌ててトリガーを引くが、どうしてか弾が出なかった。
「ふざけんなよ」

70忠実EOのオメガSSその15 ◆8G/OIpNBb2:2006/10/05(木) 20:40:27
 オメガはメインモニターを覗き込み――絶句した。
 『ジェネレーター損傷』。『下腹部で火災発生』。たった二行のメッセージが、オメガの上に重くのしかかる。
 スティックを滅茶苦茶に動かしたが、機体はもう反応しなかった。
 歩くこともなければ、腕を動かすこともない。もはやクラウンクラウンは、直立したくず鉄だった。
 じきに爆発するだろう。もっとも、その前に中のオメガは焼け死ぬだろうが。
「くそっ!」
 オメガは内壁を殴りつけた。
 だが、どんな機体であっても、ジェネレーターのEN供給がなければ動かない。その事実は決して揺るがなかった。
 もしこれが全快状態であれば、ロケット一発がジェネレーターまで到達することなどないのだが――クラウンクラウンは、すでに何回もブレードで斬られていた。
 ロケットをはじき返すだけの防御力は、もはや残っていなかった。
「……ちくしょう」
 声が、漏れた。
 目の前の敵に、届かなかった。
 その一念が、身を焼き尽くすほどの悔いになっていた。
 ファシネイターが、そんなクラウンクラウンに、ゆっくりと近づいてくる。
 その左腕部から、青く、長い刀身が伸ばされていった。
 斬るつもりだ。
 思ったときには、ファシネイターが急接近してきた。
 紫の巨体が、画面一杯を占拠する。
 その瞬間――誰よりも高いプライドが、猛々しい叫びを上げた。
 一度は消えかけた戦意が、猛然と燃焼する。
 闘え。
 その声が、頭の奥に響いた。
 予測機能――『チップ』の声とは違う、『芯』からの囁きだ。
「分かってる」
 呟き、オメガはスティックを前に倒した。
 それと同時に、固い椅子から体を浮かせ、前方の壁に――メインモニターの辺りに渾身のタックルをかます。
「進めぇ!」
 そして信じがたい事に――それで、機体の重心が動いた。
 クラウンクラウンが、前のめりに倒れ出す。
 運の良いことに――丁度その時、ファシネイターはクラウンクラウンの眼前にまで迫っていた。

71忠実EOのオメガSSその16 ◆8G/OIpNBb2:2006/10/05(木) 20:40:51
 倒れるクラウンクラウンは、そのファシネイターを巻き込んだ。
 直後、突き抜けるような衝撃と共に、天地が逆転、轟音が響きわたった。
(……どうなった……?)
 痛む頭を叱咤し、オメガが目を開けると――メインモニターには、ファシネイターのコアが映し出されていた。
 どうやらクラウンクラウンは、ファシネイターの上に覆い被さっているらしい。
 まるで、押さえ込もうとするかのように。
 オメガの顔に、悪魔のような笑みが戻った。
「……道連れだなぁ」
 これ以上ないほど、気持ちのこもった声だった。
 そうとも。こいつを殺すために、全力を尽くす。こいつを殺し損ねるぐらいなら、のたうち回って焼死する方が遙かにマシだ。
 もっとも、クラウンクラウンの爆発が、ファシネイターに致命的なダメージを与えられるかは、やってみないと分からないが――可能性は十分ある。
『お前……!』
 ファシネイターが、もがく。
 ジェネレーターが壊れているクラウンクラウンは、もはや阻止できない。
 しかし――ファシネイターは、右腕を破損させていた。片腕なのだ。
 例え妨害がなくとも、片腕だけで重量級ACをどかしきれるかは――非常に怪しい。
 かつ、ファシネイターの低出力ブースターでは、ブーストのパワーで強引に立ち上がったり、這い出したりすることも容易ではないだろう。
 と、コクピットが急激に熱さを増した。
 そろそろ最期が近いらしい。爆発までは、もはや秒読み段階だ。
『馬鹿なっ』
 向こうもそれを悟ったのか、ファシネイターから焦った呻き声が漏れてくる。
 オメガは、そんな状況に――言いしれぬ滑稽さを覚えた。
(……なんて様だよ)
 くく、と声が漏れる。
 最初のファシネイターは、まさしく天災のような存在だったのだ。闘おうとさえ思わなかったし、現に『戦闘』そのものはファシネイターの圧勝だ。
 だが今はどうだ。
 愛機の下で、紫の巨体はもがいている。しかも片腕だ。
 なんて無様な姿だろう。最初の威勢など欠片もない。

72忠実EOのオメガSSその17 ◆8G/OIpNBb2:2006/10/05(木) 20:41:11
 このオメガが、あのファシネイターをここまで引きずり下ろしたのだ。
 一発、かましてやれたじゃないか。
 そう思うと、不思議な気持ちが飛来した。
 満たされていく。
 空っぽだった自分の中に、心地よい疲労感が、達成感が、なみなみと注がれていく。
 その想像を絶する心地よさに、オメガの目から涙がこぼれ落ちた。
(……できれば、もう少し早く……)
 思ったが、頭を振った。ついでに涙も振り払う。
 時間は少ない。
 オメガは宿敵ファシネイターに、言葉を叩きつけた。
「……ざまぁみやがれ」
 それが、オメガの最期の言葉になった。
 あまりにもひどい遺言だが――その時のオメガは、笑っていた。
 快楽殺人者のものとは思えない、太陽のような、晴れがましい笑みだった。
 直後、圧倒的な熱量が、コクピットに押し寄せた。

73忠実EOのオメガSSその18 ◆8G/OIpNBb2:2006/10/05(木) 20:41:42
     *


 映像の中で――俯せに倒れるクラウンクラウン、その背中から火が噴き上がった。
 ACほどの高さがある、巨大な火柱だ。まるでオメガの強烈な悪意が、炎となって立ち上っているかのようだ。
 その灯りが、戦場となったターミナルを夕焼け色に照らし出している。
「……終わったな」
 携帯テレビの画面を睨みつつ、大老が呟いた。
「オメガは死んだ。勝者は――」
 大老は画面端に映される、紫のACに目をやった。
「ジナイーダだ」
 紫のAC――ファシネイターが、ゆっくりとこちらを振り返った。
 ひどい姿だった。
 右腕部は千切れ、色々な関節から黒煙が噴き上がっている。
 勝者も貫禄も何もない。手ひどいやられ方だった。
 オメガの爪は、ドミナントにしっかりと届いていたのである。
「……しかし、よく脱出できたな」
 傍らで、大老のオペレーター――マックスが訝しげに言った。
「実際、やばかっただろ? ファシネイターは片腕、ブーストでの脱出も困難。どうやって助かったんだ?」
 マックスは、AC戦の専門家ではない。
 クラウンクラウンの下からファシネイター脱出する一部始終は、目にしたはずだが――映像だけみても、いまいち脱出のカラクリが分からないのだろう。
 大老は説明してやることにした。
「簡単なことだ。まず、片腕でクラウンクラウンを押し上げる」
「できるのか? 相手は重量級だ、パワー不足じゃないか?」
「正攻法では無理だがな。地面とクラウンクラウンのコアの間に、肘から先をねじ込む。つっかえ棒をするようにな。
そうすれば、のし掛かっていた機体が浮く。これなら低出力のブースターでも、脱出に支障はないだろう。一挙に脱出できなくとも、上半身だけでも出れば、後は楽だからな」
 納得したらしく、マックスは大げさに肩をすくめた。
「にしても、アンビリーバブルだ」
「だが、現実だ。あの女は、本当にドミナントかもしれん」
 大老は目線をモニターに戻した。
 だが、もはやファシネイターの姿はない。
 任務を終えたので、さっさと帰還してしまったのだろう。

74忠実EOのオメガSSその19 ◆8G/OIpNBb2:2006/10/05(木) 20:42:10
 本来なら、味方の部隊が到着するまで待つべきである。腕利きのレイヴンにしては、少々無責任な態度だった。
 けれど――大老は、彼女の気持ちも理解できた。
 戦いの後半、オメガが発した気迫は尋常でなかった。
 人間の本能を直接刺激する、そういう『恐さ』があった。
 そういったものが振りまかれた空間から、遠ざかりたいというのは――自然な反応ではあるだろう。
 もっとも、単に後続のMT部隊の様子を見に行った、という線もあるが。
「しかしな」
 思っていると、マックスが不快げに言った。
「品性下劣な、最悪な奴だったな。オメガって野郎は、最期まで」
 その感想に――『常人』としてはごく当然の感想に、大老は口元を歪めた。
「そうだな」
「往生際が悪いしな」
「……マックス」
 笑みを深めながら、大老は言った。
「何を言ってる。最高の死に様じゃないか、あれは」
 遠くで無線機が鳴っている。
 階下の格納庫から、MTが駆動する音がした。
 二人の付近を、一般隊員が通過していく。その靴音が、通路に反響し、やがてゆっくりと消えていった。
「……そうか」
 長い沈黙の末、マックスはそうとだけ言った。
 大老は頷きを返す。
 どんな理由かは分からないが――後半のオメガには、気迫があった。それも、見ているこちらさえ心胆が冷えたほどの、濃密な気迫だ。
 その闘念に、怒りに導かれるまま、全ての精力を総動員して、敵わぬ敵に向かっていく。
 そしてその果てに、燃え尽きていった。
 戦士としては申し分ない、充実の死に様だった。
 もっとも、オメガのような男でも、その域に到達できたかは、まさしく神のみぞ知る、だが。
「奴には勿体ないほどの死に方だよ」
 大老が呟いた。心なしか、年相応の疲労が匂っていた。
「……できるなら、代わりたいか?」
 マックスの問に、大老は応えなかった。
 代わりに、苦笑とも微笑ともつかない、曖昧な笑みを浮かべた。

75忠実EOのオメガSS終了 ◆8G/OIpNBb2:2006/10/05(木) 20:44:13
以上です。このような機会をいただき、本当にありがとうございました。

感想とかあれば、本スレの方に書き込んでくれると助かります。

76名無しさん@コテ溜まり:2006/10/05(木) 20:46:19
忠実乙

77シャイアン。SS投下。評価は本スレへ:2006/10/06(金) 22:23:22
 もう一度左ストレート。今度は頭なんて狙わずにボディに一直線。
 拳の突き刺さったパイロは、右足を引き、バランサーの指令に沿って左足も引きずろうとしたが、思わぬエラーに足を止める。
 AC二機分の体重を引き受けた足は並みの力では引きずることは出来ない。エラーを起こしたプログラムが体重移動のために膝を折り、当然のように尻餅をつく。
 ノブレスは追って左足でパイロのコアを蹴り飛ばし、踏みつけて右のマシンガンを構える。まだマガジンが五本も残っていた。
 炎のカーテンが勢いをなくし、散り散りに消えていく頃には形勢が逆転している。
 アニーはその状況が信じられずに口をあんぐりとあけてモニターを見上げる。完全に仰向けになったパイロは胴体を踏みつけられた今、もう動けない。
 ワイヤーはつなげていない。それでもアニーには荒い息が聞こえる。相手のものだと、一瞬思った。自分が追い詰めた相手のものだと思ったそれは、自分のものだ。一瞬後、気付いた時には、モニターの向こう側に黒い銃口が広がっている。
「っ! 死――」
 トリガー。

 銃声が一瞬止んで、マガジンが一本落ちた。

78シャイアン。SS投下。評価は本スレへ:2006/10/06(金) 22:23:44

 息が荒い。酸素が足りていない。さっき自分が何を叫んだかもおぼえてはいないが、とてつもなく怖い目にあったのはわかる。
 息が荒いもの。
 とうぜんなんだ。怖い目にあったら報復するのが。
 深い考えもなしにトリガーは引きっぱなし。

 マガジンがもう一本落ちた。

79シャイアン。SS投下。評価は本スレへ:2006/10/06(金) 22:24:05

「ノブレスさん! 聞こえてますか!? ノブレスさん!」
 懸命に通信機に向かって叫ぶ。
 しかし、とんでもないジャミングだ。さっきからアンテナを最大にしてずっと呼びかけてるのに、横殴りの突風に邪魔されっぱなしだ。
 それでも生きてると信じ続けなければならない。今までは、レイヴンが勝手にやってくれるものだとどこかで考えていたが、今はそうでないことがわかる。一緒に仕事をするのだ。そうでなければ自分はオペレーターではいられない。
 相手が生きていなければ話にならない。結果的には自分を騙しているのかもしれないが、それでも生きていると信じ続けないといけない。
 叫ぶ。
「ノブレスさん! 応答してください!」

 マガジンが落ちる。

80シャイアン。SS投下。評価は本スレへ:2006/10/06(金) 22:24:21

 コアの装甲がいくら厚くても、同じ箇所にいくつも弾をもらえば穴の一つや二つ、あっさりと空くものだ。
 パイロのコクピットはもう原形を残してはいない。シートはめちゃめちゃにかき乱され、パイロットだったものはそこらじゅうに飛び散っている。
 どこを見ても赤い肉が目に付く。骨は粉になるまで砕かれている。

 マガジンが落ちる。

81シャイアン。SS投下。評価は本スレへ:2006/10/06(金) 22:24:42

 もっと近距離にならなければ電波が届かない。一体何が起っているのかはわからないが、全身の力を込めて叫ぶのが今のシーラに出来る事だった。
 返事が無いのに腹が立つ。敬語なんて使うこと無い。呼び捨てで、でかい活を飛ばしてやれ。
「ノブレス=オブリージュ! 応答しろ!」

 フラッシュする視界が愉快だった。飛び散る肉がいくつも見えた。自分の命を握っていたものの名残だった。
 ざまあみろ。俺の勝ちだ。お前は所詮その程度だったんだ。
 勝ち残った方が偉いのだ。自分の遥か有意に立っていたはずの、そしてそうなのだと信じていた相手が粉みじんになっていく。遥か低き新米に粉にされていく。
 とてつもなく。
 愉快だ。
 口の端が緩んだ。決して安堵からじゃない。
 爆発の振動の中、燃えるような大気の中、鋼鉄のコクピットの中で。
 口の端が、自分も気付かないうちに三日月形に――

 マガジンが落ちる。

82シャイアン。SS投下。評価は本スレへ:2006/10/06(金) 22:26:33

『ノブレス=オブリージュ! 応答しろ!』
 突然の怒声にビックリしたわけじゃない。何に驚いたのか自分でも分からなかった。玉が無くなったのにトリガーが引きっぱなしのせいでエラーがいくつもでる。かちかちと音が鳴る。
 紅い血が見える。そんな馬鹿な。正気に戻った自分が狂気に迷った自分が造った惨状を見て、やっとトリガーを握る右手が口を押さえた。
 笑ってなどいない。自分は笑ってなどいない。
「っはぁっはぁっ」
 そうだ。声なんかでない。声を出すだけの酸素も何もかもを体の外に吐き出して、笑う気力なんて残っていない。
 通信機越しにノイズ交じりのか細い声を聞いたシーラは、思案顔をして、これ以上何も言えずにいる。

  ※

83シャイアン。SS投下。評価は本スレへ:2006/10/06(金) 22:27:00

 結局、あの後ノブレスには一回も声をかけないままでいた。安易に声をかけてはいけないことなのかもしれないと思うと、踏み切れないシーラ=コードウェルがいる。
 出張便に自分たちの回収を頼んで、深い眠りについた後、自分たちの家の前にいつの間にか立っていたのを良く覚えている。青白い空が印象的だった。
 穴の開いた我が家が何故か懐かしい。
 買い物袋をいくつもさげ、カートに食物を満載して、シーラは今日も買出しに言っている。
 あれ以降ジャックからの連絡はなかったが、ノブレスの銀行口座に指定された以上の多額の賞金が突っ込まれていた。
 かくして、ノブレス=オブリージュのレイヴンとしての生活は順風満帆である。当然、シーラ自身の目的と、それをするための手段も明確になった。
 青い空を見上げて一つ伸びをして、ガレージの中に入っていく。クレーンが挙動不審な動きをしている。新手のダンスかなんなのか。上がったり下がったり、回ったりと待ったり。
 まあなにが起っているかの想像はつくのだ。シーラはコントロールパネルの前で悪戦苦闘しているであろうノブレスの顔を想像してくすりと笑う。
 ノブレスに気付かれないようにカートをおきっぱなしにして事務室へ、資料が山積みになった机の上を引っ掻き回して、長い間ほっといたままの初心者用整備マニュアルを引きずり出す。
 コントロールパネルのある渡り廊下の階段を静かに上って、背後から誰が近づいているのにきづかずにいるノブレスの背中を見て、声。
「ノブレス、何やってんの?」
 何をやっているか、わからないわけでは無い。ノブレスはノブレスなりに頑張っているのだ。今まで、自分はその頑張りを散々封殺してきたが、それではいけないと思うのだ。やっぱり。
 相棒とは、助け合うものである。その助け合うもの同士の間柄に敬語を使う必要は無いと思えたし、互いの行動を制限する必要も無いと思えた。
 必要以上に上がった肩が、下がるまでにはかなりの時間がかかって、振り返るまでにはもっと時間がかかった。
 おそるおそる、といった感じ。でも、それをとがめるつもりはシーラには無い。
「えーっと、」
 言い訳に戸惑っている姿を尻目に左手に握ったマニュアルを差し出す。
「いるでしょう?」
 笑顔で言う。
 ノブレスは以前戸惑いの表情のまま固まっているが、差し出されたマニュアルを受け取るべく、右手も出している。
 マニュアルを掴もうと広げられた手を、シーラはすかさず右の手で握る。
 ノブレスは豆鉄砲でも食らったような顔をした。
 右と右の握手は友好の証である。互いを同等の、同じ権利を持つ、自分と同じく意思を持った相手であると認めた証だ。いつかも同じ事をノブレスとシーラはしたことがあったが、今のシーラはそれが「握手」であったとは思えないのだ。
「これからもよろしく!」
 今更何を言ってんだという顔をしてノブレスは笑う。シーラも当然の如く笑う。
 シーラだけが微笑むのは今までも良くあったことだったが、ノブレスも一緒に笑っているのは、初めてのことだった。

84シャイアン。SS投下。評価は本スレへ:2006/10/06(金) 22:27:56
以上でふ。迷惑かけてすまない。

感想とかあるならば本スレの方に書き込んでくれると助かる助かる。

85エヴァンジェSSその4:2006/10/29(日) 23:04:25
いいスレだな、少し借りるぞ。(AA略)

というわけ間借りします。


 五人の男が、円卓についていた。
 全員が五十代から六十代の初老であり、また清潔そうな白衣に身を包んでいる。
 医者の会合のようにも見えるが――彼らの職業は、それではなかった。
 円卓のあちこちには、医学書ではなく、機械工学の技術書が積まれている。
 かつ、テーブル中央に埋め込まれたモニターには、ACオラクル、そしてそれを追い回す四機のACが映されていた。
「逃げられましたな」
 一人が、ぽつりと言った。
 しばらくの沈黙の後、別の男が応じる。
「確かに。このレイヴンは、思ったよりも優秀だな」
 すると、集まったメンバーが次々と苦言を呈し始めた。
「ああ。ここまで始末に時間がかかるとは」
「ここに踏み入ったからには、生かしておけないというのに……」
「当初の方針そのものを誤ったのではないか? AI達に、問題があるとは思えない」
 そういった文句に対し、今まで静観していた、白髭の男が口を挟んだ。
「……だが案ずることもないだろう。性能の差は歴然だ。いずれ、こちら側が勝利する」
 その言葉に、残りの四人が口論を止めた。
 四対の瞳が、テーブル中央のモニターを見つめる。
 そこに映された、四機のAC。それらがオラクルを追いかける姿を、眺めている内に――いつしか、各々の口元には笑みが戻っていた。
「……もちろんだ」
「悪かったよ、チーフ」
「我々の技術は、世界一だ」
 それぞれの言葉に、チーフと呼ばれた男は、重い頷きを返した。
「……アライアンスだか、バーテックスだか知らないが……あのレイヴンが、我々の隠れ家に侵入したことは確かだ。
そして、その不届き者を、我々の四人の『娘』が追い払っているのだ。
その活躍ぶりを、もっと素直に鑑賞したらどうだね。口論など以ての外だ」
 チーフの言葉に、四人が恭しく礼をする。
 技術者と技術者主任《チーフ》という、部下と上司の関係というだけで計り知れない、忠誠心がその行動には匂っていた。
 まるで教祖を崇めるようですらある。
「……もっとも」

86エヴァンジェSSその5:2006/10/29(日) 23:05:00
 チーフは、最後にそっと付け足した。
「覚悟は、しておいた方がいいかもしれない」
 四人が、そろって怪訝な顔をした。
「……覚悟?」
 一人が聞くと、チーフは頷いた。
「そうだ。あのレイヴンは、経験豊かだ。奴の位置取りを見てみたまえ」
 言いながら、チーフは手元のコンソールを操作した。
 すると、中央のモニターに、戦場――地下水路の地図が表示される。
 蜘蛛の巣のような水路だった。ある一点に、太い水路が集中している。その太い水路を、細い水路がつなぎ合わせることで、複雑な網目が形成されていた。
 さらによく見ると――水路の所々で、赤い点が光っている。
「印がついているところが、敵が待ち伏せていた場所だ。
分かると思うが――この場所は、全て風の通り道になっている。
風が流れ込んでくる場所なのだ。
風上にいるよりも、ずっと『音』が聞き易い――そういう場所を選んで、敵は待ち伏せをしている。
そして、敵はどうも『音』でこちらの位置を把握しているらしい。
音の集まる場所に陣取っているのは、理にかなった判断だ」
 説明され、四人が眉をひそめた。警戒しているのだ。
「敵は、小手先に長けた、戦闘のプロだ。
四機の内――ひょっとすれば一機くらいは……」
 そう言った途端、四人が一斉に机を叩いた。
 必死の形相で、チーフに食ってかかる。
「何を言っているのです!」
「逃がすならともかく……」
「逃がすこと自体、ありえない! 撃破されるなど、尚更だ! 技術は、決して負けません」
 四人の技術者は、人が変わったようにまくし立てた。
 彼らにとっては、撃破される、ということが我慢ならないのかも知れない。
 それだけ、彼らは『技術』を絶対視しているのだろう。
「……狂信者、か……」
 チーフは肩をすくめてみせる。
 しかしその呟きは、興奮した四人には聞こえていないようだった。


     *


『……エヴァンジェ。聞こえてるか』
 ACの肩幅ぎりぎりの、細い通路。
 エヴァンジェがそこを通過していると、聞き慣れた声が入った。

87エヴァンジェSSその6:2006/10/29(日) 23:05:23
「……マーシャルか」
 応じると、オペレーター――マーシャルは早速切り出した。
『ああ。聞こえてたか、よしよし。
いきなりだが……いっそ逃げたらどうだね』
 その言葉に、エヴァンジェの眉が吊り上がった。
 乱暴にスティックを捌き、T字路を左に折れながら、
「意味が分からんな」
『……つまらない意地を張らないでくれ。お前だって分かっているだろう? 今回の敵は、普通じゃない。安全策を採るべきだ。
ぎりぎりまで粘って、敵と地形のデータを収拾したら、とっとと逃げよう。タイミングは俺が指示する』
 ベテランのオペレーターらしい進言だった。
 安易に『死んでこい』とは言わない。
 かといって、『大事をとって帰還しろ』とも言わない。
 死ぬ寸前まで働いてから、全力で逃げ出せ――平然と、限界を要求する言い方だった。
 しかし、エヴァンジェは一顧だにしない。
「だめだ。こんなところで立ち止まるわけには、いかない」
『……おいおい』
 構わず、エヴァンジェは続けた。
「この依頼は、全額前金だった。退却などしたら、それこそレイヴン生命の危機だ」
 馬鹿高い前金だけをふんだくって、肝心の任務からはスタコラ逃げ去ったレイヴン――そんなものが、信頼されるはずもなかった。
 それにこの依頼自体は、『辺境に逃げ込んだキサラギ社員を連れ戻す』、というごく簡単な依頼だ。
 護衛に強力なACが――AIで動く無人ACがついている、ということでエヴァンジェが駆り出されたわけだが――ここで引き下がっては、やはり聞こえが悪い。
 例え、その護衛が規格外の化け物であろうと、周りはそんなことは気にすまい。
 実際の強さは、闘った者にしか分からない。
 アライアンス戦術部隊の隊長が、ごく簡単な依頼で躓いた、という悪評だけが矢のように広がっていくだろう。
 そうなれば――エヴァンジェが今まで築いた評判も、地に落ちてしまう。
『……だがな……』
 言いかけるマーシャルに、エヴァンジェはさらに被せた。
「三十万だぞ」

88エヴァンジェSSその7:2006/10/29(日) 23:05:49
『……前金が?』
「ああ」
 まじかよ、とマーシャルが呻いた。次いで、そういやそうだったよなぁ、とぼやきつつ、
『……じゃぁ、しょうがないよなぁ。やるしなないよなぁ。そんなに貰っちゃたんだものなぁ』
 一頻りそう繰り返した後、マーシャルは告げた。
 感情を削ぎ落とした、冷え切った口調で、
『やってこい。プロだものな』
 それは事実上、『死んでこい』と同義だった。それを承知しつつも、二人は会話を続けていく。
「そのつもりだ」
『戦闘が始まれば、こちらからの指示は出せない。これはいつも通りだ。無事任務が終わったら、そちらから一報を』
 そこで、通信が途切れた。
 『死んでこい』と言った後とは思えない、そっけない別れ方だった。
 だがエヴァンジェは、特に薄情とは思わなかった。
 お互いプロなのである。レイヴンとオペレーターの関係は、元来こういうものだし、こうあるべきだとエヴァンジェ自身も思っていた。
「……行くか」
 呟き、ブーストペダルをより深く踏み込んだ。
 オラクルが速度をあげて、網目のような地下水路を進んでいく。
 エヴァンジェの聴覚が、背後より近づいてくるブースト音に気づいたのは――そうして五つ目の角を曲がった頃だった。
(じき追いつかれるな)
 思ったが、もう待ち伏せしようとは思わなかった。
 勝負の時間である。
 エヴァンジェはルートを工夫しつつ、地下水路を駆け抜け、やがて目的の空間に辿り着いた。
 馬鹿みたいに高い天井と、馬鹿みたいに広い床。珍しく照明が施されており、強烈な光が、カビの生えたコンクリート壁を、佇むオラクルを、その膝下まである水面を、白く照らし出している。
 エヴァンジェが戦場に選んだ場所とは、この大空間――無数の水路が集中する『ターミナル』だった。
(ここなら)

89エヴァンジェSSその8:2006/10/29(日) 23:06:15
 思いつつ、エヴァンジェは周辺を確認した。
 どこからか流れ着いたのか、あちこちにゴミが打ち上げられている。中には一軒家ほどの金属もあり、遮蔽物として使えそうだった。
 また、天井には照明がある。そして、それらとケーブルで繋がった『電源設備』が、壁面に散見された。
 それに加えて、何よりも重要なのが――『水門』だ。
 ここには、地下水路全ての水流が集まってきている。そして、集められた水流は、三つの出口へ向かうようだった。
 オラクルの遙か後ろでは、ACよりも巨大な水門が三つ、今も貪欲に水を飲み込んでいる。それぞれの奥はひどく暗くて、まるで地獄にでも繋がっているかのようだった。
「いいぞ」
 エヴァンジェは一人ごちた。そうせずにはいられなかった。
 戦闘のプロから見れば、この空間は『武器庫』にも等しい。
「『環境』を使いこなしてこそ……ドミナントだ」
 狭いコクピットの中で、強化人間の瞳が、ぎらぎらと異常な輝きを放っていた。


     *


 彼らは、『四人の娘』と呼ばれていた。
 この世の技術、その粋を集めて作られた、四機の無人ACだ。
 四機にはそれぞれタイプがあり、その枠によって別々の名が付けられていた。
 汎用性を追求した二脚には、『ライガー』。
 近距離での火力を追究した四脚には、『アリゲーター』。
 遠距離での火力、そして防御力を追究したタンクには、『バッファロー』。
 機動力を追究したフロートには、『オルカ』。
 それぞれ外見は既存のACパーツばかりだが、内面には様々なテクノロジーが込められている。
 仮に通常規格のACが、彼らを倒そうとするならば、少なくとも十倍以上の兵力差が必要なはずだった。
 しかし、今回に限っては――手こずっているのは、彼らの方だった。
 相手はオラクルというACである。
 この難敵は、巧みに待ち伏せと逃げるを繰り替えし、なかなか一斉攻撃をさせない。お手本のようなヒットアンドアウェイである。

90エヴァンジェSSその9:2006/10/29(日) 23:06:51
 特に、『アウェイ』――つまり、攻撃後雲隠れしてしまうのには、手を焼いた。
 経路が複雑で、なかなか追いつけないのだ。
 効率よく進撃するため、AIACらの頭部には、地下水道のマップが打ち込まれているのだが――それも全く当てにならなかった。
 どうも、この地図を打ち込んだ研究者には、『老朽化する』、『地形が変わる』、という発想はなかったらしい。
 おかげで何度も立ち往生した。
 しかし、そんな彼らの苦労も、ようやく終わりを迎えつつあった。
 オラクルが、ついに逃走をやめたのだ。
 レーダーに寄れば、敵は『ターミナル』で――水路が集中アクセスする空間で、こちらが来るのをじっと待ち構えている。
 ラッシュをかけるなら、今だった。
 と、二脚AC――『ライガー』が、離れている仲間へ電波を飛ばした。
 ――現在、『ターミナル』出入り口付近。こちらは配置についた。そちらの準備はどうだ。
 そういった意味の信号に、すぐに応えが返ってきた。
 ――四脚『アリゲーター』、配置完了。
 ――タンク『バッファロー』、配置完了。
 ――フロート『オルカ』、配置完了。
 それらを確認し、ライガーは宣言した。
 ――エラー無し。速やかに対象を無力化せよ。
 四機が、ほぼ同時にターミナルへと踏み込んだ。
 向こうにとっては、東西南北から攻め入られた恰好だ。
 AI達は、対応できるはずもないと踏んでいたが――意外なことに、オラクルはまるで待っていたかのように、ある方向を向いていた。
 フロート『オルカ』の方向だった。
 しかも、すでにフロートの大敵――高反動のリニアガンを構えている。
 『オルカ』のAIが、只ならぬ状況に混乱する。反撃が来ることなど、考えていなかったらしい。
 オラクルはそんなオルカへ、リニアガンを撃ち放つ。
 四十ミリの砲口から、回転する鉄塊が二発飛び出した。
 だが、オルカとて高性能ACである。
 機体を左右に振って、二発を危なげもなく回避した。

91エヴァンジェSSその10:2006/10/29(日) 23:07:40
 しかし、オラクルもそれを分かっていたようだった。
 弾丸の行方になど目もくれず、すぐさま上を向くと、そのまま上空に向かってブレードを振った。
 光波が出た。
 真っ青な光波は、上空まで駆け登り――やがて、天井に吊してあった、照明器具に命中した。
 一軒家ほどの照明が、揺れて、軋んで、
 ――崩れる。
 ――まさか、全て狙ってやっている?
 と、四機のAIに、理解の火花が弾けた。
 だが、もはやどうすることもできなかった。
 崩れた照明が、真下のフロート『オルカ』へ殺到する。
 それでもオルカは、なんとか瓦礫の豪雨を避けた。AIだからこそできた、一分の無駄もない奇跡的な回避だった。
 しかし――オラクルはそれを見越していた。
 瓦礫の雨から脱したオルカ、そこにリニアキャノンが打ち込まれる。
 さすがに、これは避けられなかった。
 回転飛翔する十キロの鉄塊が、オルカのコアに突き刺さる。
 絶大な反動を受け、フロートが後方に滑った。
 オラクルのリニアキャノンは、そこをさらに打撃。二発目の衝撃が、オルカを吹き飛ばし、背中から壁に打ち付けた。
 そのタイミングで、オラクルがブーストダッシュした。
 二脚が、タンクが、四脚が、行かせまいと弾丸をばらまく。が、もはやオラクルを止めることはできなかった。
 追いすがる敵弾になど構いもせず、オラクルは動けないオルカへと接近、左腕を大きく振りかぶる。
 振り上げられた腕の先から、青く、太い刀身が伸ばされた。
 ――ブレード! WL−MOONLI……!
 それが、オルカの断末魔だった。
 直後、真っ青な刀身が振り下ろされる。
 頭部を丸ごと蒸発させた後、コアへ。コクピットブロックを――AI用スーパーコンピューターが格納されている部位を、どろどろに溶かしてから、軌道を斜めに修正、刀身は脇腹へと抜けていく。

92エヴァンジェSSその11:2006/10/29(日) 23:08:03
 結局このフロートは、500を超える巡航速度も、通常の二倍の旋回性能も――その圧倒的性能を全く発揮できないまま、AIを蒸発させてしまった。
 残されたAIACは、三機だ。
 その三機は、味方の損害には頓着せず、すぐに計画の修正を開始した。
 ――戦況は。
 ――敵との位置関係は。
 三つのAIが、信号を交わし合う。そして、コンマ一秒で最適の戦略を出力した。
 オラクルがブレードをうち消し、三機へと素早く向き直る。
 そこに、四脚『アリゲーター』のグレネードが突っ込んだ。
 敵は間一髪でそれを避けたが、グレネードはすぐ隣に着弾した。
 爆風に煽られ、青の巨体がぐらりとよろめく。
 そうして動きを止めた敵へ、タンク『バッファロー』、そして二脚『ライガー』もグレネードを撃ち放った。
 全て命中し、高層ビルほどもある火柱が、オラクルを丸ごと飲み込んだ。
 盛大な水しぶきが上がり、離れた三機にまで、夕立のように水が降り注ぐ。
 だが、オラクルは頑強だった。
 多量の水蒸気を引き連れて、青の巨体が炎から飛び出してくる。
 そこを、再びグレネードが襲った。
 横へ跳ぶのが後半秒遅ければ、オラクルはそちらも貰っていただろう。
 だが、次の攻撃は避けられなかった。
 二脚AC『ライガー』は、いつの間にか接近していた。そして、すれ違い様にオラクルを斬りつけた。
 真っ赤な刀身が、空中に赤い筋を残す。
 一瞬後、オラクルの足首が、火花をまき散らしながら吹き飛んだ。
 だが、効果はそれだけではなかった。
 オラクルが体勢を立て直す。いつしか、その機体には『電気』がまとわりついた。
 滑らかなフレームの上で、黄色い電流が蛇のようにのたくっている。
 ライガーは、ブレードで斬った際、ロック、及びレーダーに障害を及ぼす電磁波を、オラクルに帯電させていたのだ。
 これ以上は無理と判断したのか、オラクルが後方ブーストで間合いを開けた。
 ――逃げるぞ。
 その信号が、AI間で飛び交った。
 と、タンク『バッファロー』が動いた。

93エヴァンジェSSその12:2006/10/29(日) 23:08:35
 くるりと背を向けるオラクルに、右腕のグレネードを向ける。同時に、肩から二つの球体が――EOが浮き上がった。
 グレネードとEO、三つの砲口がオラクルの背中を照準する。
 そして、同時に火を噴いた。
 それは『発砲』というよりは、『噴射』に近かった。
 マシンガン並の連射速度で、グレネードが、EN弾が、射出されていくのだ。
 逃げ回るオラクルの周囲では、着弾の爆風が連鎖し、水しぶきを盛大に噴き上がってゆく。
 そのうちに、爆風と湯気が凄すぎて、当たっているのか否かすら視認できなくなった。
 ――停止。
 三十秒ほどで、二脚『ライガー』が停止を命じた。
 一変、射撃がぴたりと止まる。
 残響音が響く中、立ちこめていた湯気のカーテンが、ゆっくりと色あせ、消えていった。
 そうして露わになった景色は――先ほどのものとは、一変していた。
 まず、いつの間にかオラクルの姿が消えている。
 かつ、ついさっきまでは車、もしくは一軒家程度の障害物がちらほらある程度の、殺風景な景色だったのだが――今や、あちこちにくず鉄が落ちていた。それも、横幅が三十メートル以上もある、幅の広い鉄塊だ。
 適度な高さを持つそれらは、どこか、敵の侵攻を防ぐバリケードを思わせる。
 さらによく見れば――その『バリケード』の多くが、元々は『天井の照明』だった。
 攻撃にさらされたせいか、ライトは砕け、フレームも曲がってはいたが、それでも電球が填っていた位置の凹みなど、至る所に面影が残っている。
 ――撃ち落としたり、ケーブルを引っ張ったりして、天井照明を落とし、遮蔽物代わりに使ったのか。
 AI達はその結論に達した。
 タンクが憎々しげに――無論、錯覚だろうが――右腕のグレネードをパージする。
 さすがに弾数までは増やせない。先程のようなラッシュは、二度と行えないだろう。
 ――フロートさえ生き残っていれば。
 一同のAIに、その思考が忍び寄った。
 だがすぐに気を取り直すと、全力でオラクルを索敵してゆく。
 ――あれか。

94エヴァンジェSSその13:2006/10/29(日) 23:09:31
 すると、半秒ほどでそれらしいものを見つけた。
 一軒家ほどの瓦礫、その横から、リニアガンの先端が覗いている。砲身の先についたカメラから、こちらを覗いているのだろう。
 よく使われる手段だ。
 レーダーによる観測も、その瓦礫の裏にオラクルがいることを支持していた。
 だが、相手の状況が悪いことは一目瞭然だった。
 先程の掃射では、相応のダメージを負っただろうし、何より、斬りつけた際のロック障害は、まだ有効のはずだった。狙いを付けるだけで、撃ってこないのがよい証拠である。
 ――攻めるべきか。
 ――今しかない。
 ――OBで急接近が望ましい。
 四秒に渡る議論の末、死角に入り込んだ後、OBで急接近することに決まった。
 無論、『音』で気づかれないよう――四脚のOBは静粛性を重視されていたが、それでも通常ブーストよりはやかましい――細心の注意を払って、である。
 ――開始。
 二脚『ライガー』が合図すると、タンク『バッファロー』が左腕のレーザーを撃った。同時に、背部の大型ミサイルをノーロックで撃ちまくる。
 岩が崩れる音が、水が爆ぜる音が、爆発的に連鎖した。閉鎖空間の中で、爆音が反響し、他の音を塗りつぶしていく。
 生身の人間が聞けば、たちまち耳を悪くしているだろう。
 ――行く。
 四脚『アリゲーター』が報せた。
 いつの間にか、大きな岩の影に――どうしたって死角になる場所へ、移動している。
 ――許可する。
 二脚が許すと、アリゲーターがOBを噴射した。
 膨大な騒音を隠れ蓑に、四脚ACがオラクルへ向かって飛翔する。
 その間、二脚『ライガー』は、遮蔽物から覗く砲口を――リニアガンの砲口を観察した。
 幸いなことに、先程から少しも動いていない。
 依然として、砲口のカメラはこちらを覗き込んでいる。
 致命的な火力を持った四脚の接近に、まだ気づいてもいないらしい。
 ――そのまま、接近だ。
 ライガーはそう指示した。
 それが致命傷になった。

95エヴァンジェSSその14:2006/10/29(日) 23:10:16
 障害物から覗く、リニアガンの砲口が――オラクルがこちらを覗いている、ということの根拠である砲口が、ある時、揺れた。
 そしてコロリと転がり落ちた。水の中に落ちて、ささやかな音を立てた。
 四脚も、タンクも気づいていない。二脚『ライガー』だけが気づいた。
 リニアガンは、オラクルに接続されていない。
 取り外されていたのだ。
 物陰から砲口だけを出すことで、まるで覗いているかのような状況を、作り出していただけなのだ。
 ということは――オラクルは、こちらを覗いてなどいない。
 アラートメッセージが、思考を赤く塗りつぶした。


     *


 四脚ACが、遮蔽物の上空にたどり着いた。
 彼らの作戦で言えば、奇襲に戸惑うオラクルに、容赦なく銃弾を浴びせる場面なのだろう。
 だが、そうはならなかった。
 丁度その時、オラクルはリニアガンを構えて、上を見上げていた。
 強化人間の聴覚は、新鋭COMの高性能マイクは、騒音のカモフラージュを見破り、OBでの接近を探知していたのだ。
 エヴァンジェという強化人間に、一般人の聴覚規格を当てたAI達の、致命的なミスだった。
 結果、お手本のようなアンブッシュ《待ち伏せ》が完成していた。
 けれど――当のオラクル、その左足首は千切れ、また所々にできたフレームの穴や欠損から、機械部分が露出していた。まるで、内蔵を晒したゾンビである。
 頭部も半壊状態で、横一列に並んだカメラアイが、無惨に露出してしまっていた。
 常人が見れば、行動不能と判断するだろう。
 待ちかまえていたとして、反撃はおろか、退避することさえ難しそうだ。
 けれど、
「かかったな」
 サイトのど真ん中に突っ込んできた四脚に、エヴァンジェは凶暴な笑みを浮かべる。
 そして、リニアキャノンを撃ち放った。
 多少の損害などものともせず、クレスト製の実弾兵器は、完全に動作した。
 高反動の弾丸が、四脚の前脚をハンマーのように打ち据える。

96エヴァンジェSSその15:2006/10/29(日) 23:10:40
 だが安定性の四脚だけあって、動きを止めはしなかった。
 幾分よろめきつつも、なんとか肩のグレネードを構える。
 だがその時には既に、オラクルはその眼前まで飛び上がっていた。
 いつの間にか、左腕部が振り上げられ――その先端から、真っ青なブレードが形成されている。
 四脚も動いた。
 グレネードの遊底がスライドし、薬室に初弾が送り込まれる。
 だが撃たれるより早く、オラクルは高威力のブレードを振り下ろした。
 斬るというよりは、上から叩きつけるような勢いだ。
 たまらず、四脚は水面に落下する。
 大きな水飛沫が上がり、一瞬、オラクルの視界までも遮った。
 それを機に、エヴァンジェは追撃を切り上げた。
 スティックを操り、最寄りの障害物の上に着地させる。
 戦闘開始からそこまで、所要時間は僅かに数秒。機体状況からは想像もできない、電撃的な早業だった。
 しかし、不思議なことではない。
 ACという兵器は、関節とジェネレーターさえ守ってやれば、しっかりと動作するように設計されている。
 レイヴンの腕によって引き出される、この潜在的なタフネスこそが、ACという兵器体系の売りだった。
「さて」
 呟き、エヴァンジェはレーザーキャノンを展開した。
 残された二機――二脚とタンクの方に、注意を向ける。そうしながら、二機の後ろで口を開けている、三つの『水門』の利用法について、考えを巡らせていた。

 『敵AC 撃破』

 そんな折り、頭部COMが告げた。
 エヴァンジェは、叩き落とした四脚へ、ちらりと目を向ける。
 規格外の性能を持つはずの四脚は、水面に腰掛けるような形で絶命していた。
 注意深い者が見れば、周辺の水面には壁から伸びたコードが――照明に電気を供給していた、電気コードが多く垂らされているのに気づくだろう。
 それらは全て、事前に垂らしておいたものだった。
 タンクの猛攻を受ける際、オラクルは照明を落とした。その時に、照明に接続されていた電源コードも、水面に落ちていたのだ。
 無論、それで水路全体に電流が流れるわけではない。そうであれば、オラクルも感電してしまっている。

97エヴァンジェSSその16:2006/10/29(日) 23:11:07
 しかし――垂らされた電源コードに、ある程度近づけば話は別だ。近距離であれば、電流は水の抵抗を押しのけ、見事機体に届くだろう。
 もっとも、その通電現象が致命的威力を持つ範囲は――直径十メートルもない。
 エヴァンジェ自身、ひっかからなけば、その時はその時と割り切っていた。
 けれど、
「……思いの外、効果があったな」
 エヴァンジェは、つまらなそうに呟いた。
 そうしてから、二脚とタンクの観察に戻る。
 彼らの動きによって、今後の戦略を固めるためであったが――意外なことに、連中はまだ行動してこなかった。
 思わせぶりな仕草で、オラクルと、もはやピクリとも動かない四脚を交互に見るばかりだ。
(……なんだ?)
 AIらしからぬ長考に、エヴァンジェは眉をひそめる。
 が、ある時二脚が動いた。
 身構えるオラクルだが、予想に反して、二脚は四脚――正確には四脚の死骸へ向かってしまった。
 エヴァンジェの方など、振り返りもしない。
 後には、タンクが――それも、右腕武器をパージし、火力を半減させたタンクだけがぽつねんと残されている。
 奇妙な行動だった。
 ここでタンクを一人残すメリットが分からない。同時に、四脚を助けに行くメリットが分からない。
 さらには、四脚の周りには多くの電源コードが垂らされており――迂闊に威力範囲へ踏み込めば、あっとういう間に戦闘不能だ。
 そんなことも分からないだろうか。
 まさか、電子機器の集合でしかないAIに、青臭い仲間意識があるとも思えないが――。
「いや、そうか」
 エヴァンジェが、小さく呟いた。
 降ってきた答は、『そうだったのか』、というものでもあり、同時に『やっぱりな』、というものでもあった。
「三流め」
 にやりと笑うと、エヴァンジェはスティックを倒し、残されたタンクへと向かった。
 健気にレーザーライフルが撃たれるが、回避できる範疇だった。
 EOも――恐らく、壊れてしまったのだろう――撃ってこないため、不意打ちを警戒することもなかった。
 さらに言えば――敵の二脚は、今四脚の周辺に垂れたワイヤーを、しきりに切断しているので、援護が来るとも思えない。
「それではな」
 ある程度近づいたところで、オラクルはレーザーキャノンを撃った。
 標的は、タンクではない。

98エヴァンジェSSその17:2006/10/29(日) 23:11:28
 恐らく、手持ちの武器全てを撃ち込んでも、撃破不可能なほどの装甲を有しているはずだ。
 ここで必要なのは、性能ではなく小手先である。
 だから、タンクの幾らか後ろに見える、三つの『水門』を狙った。
 高威力のレーザーを受けて、水門の一つが――正確には、水門を上げ下げする油圧装置が、吹き飛んだ。
 分厚い鉄の水門板が、重力に引かれるまま落下し、そのまま水の通路を塞いでしまう。
 水門の一つが、閉じられた。
 エヴァンジェはもう一つの水門も、同じように閉じてやった。
 すると――水の流れが、変わる。
 今まで三つの水門へと流れていた、地下水道の水量だが――今やたった一つの出口へと流れ込んでいた。
 単純計算で、水量は三倍である。
 台風の後のような、猛烈な急流になった。
 操作を誤れば、ACでさえ容易く足を取られてしまうだろう。
 そして、それほどの水量を吸引している、最後の水門は――丁度タンクの真後ろで口を開けていた。
 仕上げとばかりに、エヴァンジェはリニアキャノンを呼び出し、敵タンクへと狙いをつける。
 敵は、キャタピラではない。ホバータンクだ。
 地面から浮いている以上、必然的にグリップが利かない足種なのだ。
 強い衝撃で押してやれば――流れに乗って、さぞやよく滑るだろう。
(……こちらの方が、『手札』が多かったな)
 上唇を舐めつつ、エヴァンジェはトリガーの指に力を込めた。


     *


 二脚『ライガー』が、取り付かれたように水に垂れたコードを切断していると――妙な音が聞こえ始めた。
 ハンマーで金属を叩くような、鈍い音。それが連続して聞こえてくる。
 危機を察して、ライガーがその方向を振り向くと――そこには、リニアキャノンに殴打される、タンク『バッファロー』の姿があった。
 ブーストで懸命に踏ん張っているようだが、一発貰う毎に、明らかに位置が退がっている。
 だけでなく、脚部が箱形なのが災いして、水流に足をとられているようだった。
 リニアの反動以外にも、水自体の力で、じわじわと水門の方に引き寄せられていく。
 ――救援を。

99エヴァンジェSSその18:2006/10/29(日) 23:12:06
 タンクから、悲鳴に近い信号が来た。
 だがライガーが動くよりも早く、手遅れになった。
 オラクルが撃ち放った、一発のリニア弾。それが、水平に命中した。丁度、後ろへ突き飛ばすような形である。
 もはや耐えきれず、タンクが水門に引き込まれた。
 恐ろしい勢いで、巨体が激流の奥に消えていく。
 装甲が壁と擦れる音が、断末魔のように響き渡り――それも、じきに止んだ。
 全く想定していなかった死に方だった。
 ――四脚は。
 ライガーは、救出目標の四脚に目をやった。
 と、そこで初めて、ライガーは四脚のモノアイから光が失せていることに気がついた。
 「重装四脚が、ブレードで斬られたくらいで死ぬはずがない」と、救出活動に入ったのだが――どうも、とっくに助からないものだったらしい。
 死因は分からないが、とにかく復活も無理そうだった。
 これも、全くの想定外だ。
 とすれば、
 ――一機。ついに戦力差は無し。
 ライガーのAIが、その情報を分析した。
 余計な反省は省いて、いつも通り最適の戦略を出力しようとする。
 だが、容易ではなかった。
 一機で、このオラクルというACに勝つ――それが、とてつもない困難と認識されていた。
 あくまでも『性能』なら、圧倒的に勝っているはずなのだが――『性能』とは別次元の段階で、オラクルはAI達を寄せ付けない何かを持っているらしい。
 そんなライガーに、オラクルが悠然と向き直った。
 オレンジのアイカメラが、ライガーをじっと見つめている。
 ――攻撃される。
 そう断じ、ライガーは身構えた。
 だが予想に反して、オラクルは何も撃たなかった。代わりに、右手で天井を――正確には、遙か上で口を開けている、外へと通じる天窓を指差した。
 ライガーが意図を汲みかねていると、オラクルはブーストを噴射させ、飛び上がった。レーザーキャノンで天窓のガラスを割ると、そこから外へ飛び出していく。
 砕け散ったガラスが、陽光に照らされ、空中でキラキラと輝いていた。
 ――追え。
 埋め込まれたAIが、ライガーを奮い立たせた。
 勝てない。オラクルとこちらの間には、決定的な断絶がある。
 それを理解していながらも、ライガーはブーストを噴射し、外へと飛び出した。
 途端、地下とは比べものにならない、圧倒的な光量が視界を白く塗りつぶした。
 日光だった。
 このままでの戦闘は危険、と判断し、ライガーはさらに上空へ駆け上った。近接戦闘を避けるためだ。
 半秒ほどで、カメラ機能は回復した。
 辺りを見ると、正午の太陽が真南で燦然と輝いている。

100エヴァンジェSSその19:2006/10/29(日) 23:12:35
 その光が、上空へ飛び上がったライガーを、眼下に広がる『町並み』を、爽やかに照らし出していた。
 ――そういえば。
 ライガーは、ふと考えた。戦闘には不要な思考だったが、重要な議論と判断し、許可した。
 上空から、ライガーは眼下に広がる『町並み』を見下ろす。
 中程でぽっきりと折れた、中央のタワー。それを円形に包む、骨組みだけになったビル群。さらにその二層を包むように配置された、瓦礫の山――データに寄れば、もとは居住区画だったらしい。
 それらは、滅んだ都市だった。
 高度な文明があったことは明らかだが、それも失われて久しい。住むべき人々を失い、土に還るのを待つばかりの、『遺跡』に過ぎなかった。

 『これは、旧世代の遺跡だ。彼らは素晴らしい技術を持っていた』

 ライガーのメモリーに、主の言葉が再生された。

 『だが、滅んだ。理由は分からない。少なくとも我々には、これほどの技術を持った集団が、滅んでしまった原因が浮かばない』

 穏やかな声は、続けた。

 『だが、おまえ達なら分かるかも知れない。旧世代の技術がつぎ込まれた、おまえ達であれば。
 もし分かったら、是非とも、知らせてくれたまえよ。是非とも』

 思考に、最優先、という文字が浮かび上がった。
 そして、ライガーのAIは、自分がその『答』に肉薄しつつあることを悟っていた。
 急いで通信ポートを開き、気づいた事実を主《あるじ》に報告しようとした。
 けれど――巧く、言語にならなかった。
 『答』を感じることは、できる。
 しかし、それを論理的に理解し、体系立てて解説することができない。
 言語ルーチンの応答は、いつまで経ってもエラーエラーエラーエラー――。
 この『答』を説明しうる言葉は、どこにも記録されていないようだった。
 その不毛な作業も、やがて止まった。

101エヴァンジェSSその20:2006/10/29(日) 23:13:30
 ライガーの脇腹当たり――ジェネレーター部位から、火が噴き上がったからだった。
 EN供給が落ち込み、ブースターが稼動を停止する。
 推進力を失い、やがてライガーは昇った高度分を真っ逆様に落ち始めた。
 そして、下に向けられた視界に、オラクルの姿を捉える。
 敵の左腕部からは、青いブレードが伸ばされていた。
 ――外に出たときに、斬られていた。
 日光で、視界が奪われた頃だろうか。
 思う内に、視界が暗転した。だけでなく、意識や、思考が拡散していく。
『……この地形で、罠を仕掛けないはずがないだろう……』
 マイクが、オラクルからの呟きを拾う。
 ライガーが知覚したものは、それが最後だった。


     *


 炎をまき散らしながら、二脚ACが落ちてゆく。
 中空に赤い筋を引いていく様子は、まるで流星のようだ。
 だが本物とは違い、途中で燃え尽きたりはしなかった。
 最後まで原型を留め、結局は固い地面とぶつかった。
 金属のひしゃげる音が僅かに響き、直後、甚大な爆発音が冬の大気を震わせる。
「……こんなものか……」
 一部始終を眺め、エヴァンジェが呟いた。
 それから、もくもくと上がる黒煙と、愛機――オラクルの左腕から伸びる、青の刀身とを見比べる。
 無敵に思えた敵ACも、このブレード一本でどうにかなってしまったのだから、分からないものだった。
(所詮は、無人機だったということか)
 エヴァンジェが張った罠というのは、決して難しいものではない。
 出口付近で待ちかまえて、出てきた瞬間、ブレードで突くというものだ。
 今回は、たまたまジェネレーターに当たったが――もし警戒されていれば、ダメージが入ったかすら怪しいだろう。
(……勉強不足だな、こっちも、向こうも)
 思っていると、通信が入った。
 オペレーターからではない。
 エヴェンジェは、少し迷ったが――結局パネルを操作し、通信ポートを開いた。
「こちら、オラクル」
 言うと、すぐさま声が来た。
『我々は、君に追われている者だ。全ての護衛は、君が撃破した。
君の勝ちだ。我々は、東南のビルにいる』
 意識に苦く残る、疲弊しきった声だった。
 まるで自殺者の遺言のようだ。

102エヴァンジェSSその21:2006/10/29(日) 23:14:16
「何だと?」
 聞き返すエヴァンジェだが、それっきり通信は切れてしまった。
 無機質なビープ音が、通話終了を一方的に告げる。
 エヴァンジェは嘆息し、通信ポートを閉じ直すと、ぐるりと周囲を見渡した。
(東南のビル?)
 探すと、確かにあった。
 廃墟のはずれに、珍しく原型を留めている建物がある。
 三階建てぐらいの高さで、床面積はアリーナの半分程度。壁の所々が欠け、中には内部にまで貫通している穴もあったが、構造物としてはしっかりしているようだった。
 確かに潜伏するとすれば、ああいう建物を選ぶだろう。
 もっとも、罠の可能性もあったが。
「……さて」
 悩んでいると、妙な音が聞こえた。
 強化人間でなければ、聞き逃していたであろう。
 だがそれは――紛れもなく、立て続けに四度の銃声だった。
 そしてそれは、東南のビルから聞こえてきた。
 大きな音に驚いたのか、鳥の群がその辺りで飛び回っている。
「……まだ、終わりではないようだ」
 『技術者は生け捕りにしろ』。
 その命令を思い出し、やむなくエヴァンジェはブーストペダルを踏みつけた。


     *


 オラクルへの通信を終えると、チーフは長く息を吐き出した。
 その目はどこか虚ろで、姿勢にも力がない。この数分で、大分小さくなったような印象を受ける。
 それだけ、結果がショッキングだったのだ。
 五機で挑んで、まさか一般のACにあしらわれるとは――遠回しに『お前の技術など、役に立たない』と言われたようなものだった。
(これでは、彼らの選択も無理はない……)
 チーフは辺りを見渡した。
 彼自身のも含めると、円卓には五つの席が設けられている。
 その内の四つには、すでに死体が座っていた。
 こめかみから血を流す者もいれば、顎から上が吹き飛んでいる者もいる。
 死体の周りには、温度を残した血液が飛び散って、未だに湯気を発していた。おかげで、清潔だったオペレーションルームに、むせ返るような血臭が充満している。
「全人生を、否定されたようなものだ」
 チーフは、椅子に体が沈みこむような、かつてない無力感を感じていた。
 悶々とした頭に、部下達の言葉が思い起こされる。

『壊れてしまいましたよ……』

 彼らの内一人は、最後にそう言っていた。
 あれは果たして、機体のことだったのか、それとも――。
 いずれにせよ、拳銃自殺を選んだほどだ、部下達の絶望は並ではなかったはずだろう。
「……なぜ、我々の技術が……」
 呻いていると、外でカラスが鳴き始めた。
 窓や天井から漏れ聞こえる分だけでも、その騒がしさは推し量れる。
「来たか」
 そして、これだけカラスが騒ぐのだ、よほど大きなものが到着したのだろう。
 チーフは席を立ち、一階のガレージへと向かうことにした。
 その際、円卓の上に一丁の拳銃を見つけて――僅かに迷った末、それも持っていこうと手を伸ばした。

103エヴァンジェSSその22:2006/10/29(日) 23:14:41
『そこにいたか』
 だが実際に手に取ったところで、声をかけられた。
「誰だっ」
 チーフは慌てて窓を見て――驚いた。
 ガラス戸の向こうには、人の頭ほどもあるアイカメラがあった。それがオレンジの光を発しつつ、まっすぐこちらを射抜いている。
 チーフには、それがACの視線であるとすぐに分かった。
「……なんだ。そこから、来たのか」
『わざわざガレージへ入っていくような間抜けは、レイヴンに向かない』
 言われ、チーフは苦笑した。
 それに構わず、ACは言葉を被せてくる。
『そこの死体共は何だ?』
「……私の部下達だよ」
『何故死んでいる』
 チーフは力無く肩をすくめた。
「娘が、悪い男に殺された。手塩にかけた娘だ。今まで築きあげてきた知識を、全てつぎ込んだものだった。
だが、あっけなく死んだ。
六十代、人生の終わりに差し掛かった人間が……今まで築いたものを全否定されたということだ。
君に、その悔しさが、虚しさが分かるかね?」
『知ったことか』
 レイヴンらしい返事だった。
 その清々しさに、チーフは虚を突かれた顔をした。
 そして久しぶりに、純粋な――それでも、どこか弱々しい――笑みを浮かべる。
「……はは、面白いな、君は」
 相手は、応えなかった。
 世間話には興味がない、と判断し、チーフは本題を切り出した。
「理由を教えてくれ」
『……なに?』
「負けた理由だ。どうしても、知りたい。性能では、こちらが勝っていたはずなんだ。
これが分からなければ、死んでも死にきれない」
 応えは、すぐには来なかった。
 切実な問なのだが、相手にとってはどうでもよいことなのだろう。
 だから、チーフは交換条件を出した。
 自分が知っているありとあらゆる裏事情を、全て話す。レイヴンにとっては、おいしい話のはずだ。

104エヴァンジェSSその23:2006/10/29(日) 23:15:05
 だから、頼むから教えてくれないか。
 そこまで言われて、ようやくACは受諾した。
 仕方がない、とでも言いたげな調子で、
『……分かった』
 チーフは顔をほころばせた。
 が、ACはさらに続けた。
『だが、もう一つ条件がある』
「……これ以上は……」
 慌てるチーフに、ACは被せる。
『銃を捨てろ。窓の外にだ。自殺などされたら、面倒だ』
 言われ、チーフは右手で拳銃を握っていることに気がついた。
 曖昧に笑うと、窓に向かってそれを投げつける。
 ガラスを割って外へ飛び出した拳銃は、ACのアイカメラにぶつかると、そのまま下へ落ちていった。
「これで、いいかね」
 言うと、次の指示が来た。
『……お前が先に、情報を吐け。念のため、できるだけ詳しく身の上も話せ』
 相手の方が、立場が強い。チーフは言うとおりにした。
 身の上を話させるのは、矛盾がないか確かめるためだろう。
 チーフは様々なことを話した。
 かつてキサラギにいたこと。だけでなく、特攻兵器を作動させた、急進的なキサラギの一派、その中にいたこと。
 彼らが遺跡内に置いた、侵入者排除用のガードマシンは、彼が設計したこと。
 四機のAC達には、その技術が使われていたこと。
 それら身の上話から始まり、キサラギとミラージュの癒着や、クレストとの密会など、世界単位での陰謀にまで話は広がった。
 告白は十分にも及んだ。
「……これで全部だ。さぁ、教えてくれ。我々のどこに、問題が……」
 言い終わると、チーフはACを見やった。
 瞳が、ぎらぎらと輝いている。待ちきれないのだ。
 ACは数秒、何を言おうか迷っているようだったが――やがて、ゆっくりと語り始めた。
『戦闘は――』
 静まり返った室内に、レイヴンの声が重く響く。
『チェスじゃない』
 チーフが眉をひそめると、向こうはさらに言った。

105エヴァンジェSSその24:2006/10/29(日) 23:15:29
『勘違いも甚だしいのだ、お前達のやり方は。ロジックだけで戦闘を計るなど――コンパスだけで体積を計算するようなものだ』
 相手の言葉は、あまりにも簡略化されていて、それだけでは大体の意味しか受け取れない。
 だがそれでも、チーフは反射的に身を固くした。
 相手の言葉が真実を射抜いていると、直感的に分かったのだ。
 それは薄暗い研究室で、理論を頼りに機体を組んでいた彼らとは違う――日常的に戦場を行き、飯を食うように人を殺してきた、百戦錬磨のプロの言葉だ。
 ACは続けた。
『……チェスではないのだ、戦闘は。
泥臭いところもある。不必要と思われていた機能が、突発的に活きることもある。確率と演算を超えて、敵心理の裏の裏の裏を掻くぐらいで丁度いい。
システマティックに、「必要な」ものだけ積もう、という発想がそもそも間違っている。
不要も必要も、レイヴン一人のさじ加減だ。
何より……』
 ACは吐き捨てるように言った。
『戦闘をして、分かった。
おまえ達の機体は、「環境」に無頓着だ。おまえ達のくだらなすぎる敗因は、全てここにある』
 環境は、武器にもなる。
 チーフは、このACが電気コードを使用したり、タンクを水門の果てに追いやったことを思い出した。
『だから、チェスと言ったんだ』
 途端、チーフの聡明な脳に、理解の火花が弾けた。
 彼らが組んだAIは、標準的な環境の中、標準的なルール――作戦目標――の中で闘うことを前提としていた。
 それが、あらゆる状況で安定して効力を発揮する、『万能』な設定だと思われたのだ。
 だが実戦では、環境は――盤面はその都度に違う。ルールも違う。駒も違う。
 標準環境にのみ特化された『思考パターン』では、その「差異」を利用できない。
 AIにとって、「環境」とは「戦う場所」でしかなく、そこにどんな有用なものがあろうと、「背景の一部」として無視してしまうのだ。
 だから、環境を利用し、有利に戦闘を展開してやろう、という視点が根こそぎ欠けている。
 相手は、積極的にここを突いたのだ。

106エヴァンジェSSその25:2006/10/29(日) 23:16:03
『……答の二つ目だ。
お前や私でも、チェスの世界王者に勝てる方法がある。知っているか?』
 チーフが圧倒されていると、ふと質問を投げかけられた。
 知らない、と応じると、ACはデタラメなことを言った。
『勝負を殴り合いに持ち込め』
「……なんだって?」
『チェスの世界王者と、チェスをやって勝てるはずがないだろう。
いいか、戦場は生死がかかっている。どうして、相手の得意分野で勝負してやらなければならんのだ。
相手が強い場合は、その実力が発揮されない状況に引きずり込め。
機動力が高い相手には、機動力を殺してから勝負に行け。火力が高いやつとは撃ち合うな。
これがレイヴンの判断だ、覚えておけ』
 この言葉も、チーフの胸を深く剔った。
 まさしく、彼の娘達はこの方法でやられていた。
 本領を発揮したのは、タンクぐらいだ。後は、その実力を発揮する直前で撃破されてしまっている。
 敵は環境を利用して、AC達の力を封じ込めた。だから勝てた。
 『技術』が通用しなかったのではない。『技術』が、全く発揮されなかったのだ。
「……なるほど」
 チーフが、床にへたりこんだ。
 蓋を開けてみれば、当たり前――とまではいかないまでも、簡単なことだったのだ。
 戦術の基礎の基礎、一番最初の習う内容だ。
 それがよほどショックだったのだろう、チーフはしばらく口も聞けない様子だった。
 その沈黙は一分にも及んだ。
 ACが苛立って見えた頃、
「……すっかり、忘れていたようだ」
 チーフが呟いた。
 何気ない言葉だった。
 だがACは、そこに何かを感じ取ったようだった。
 若干の警戒を滲ませ、
『……何だと?』
「愉しくて、な。少しやりすぎた」
 白衣に包まれた小柄な体から、異質な何かが陽炎のように立ち昇った。
 歪みきった笑みを湛えつつ、チーフがゆっくりと身を起こす。
 ACが驚いたように身を揺らした。
 一方チーフは、ふっきれた口調で、
「作り上げた技術を、思考ルーチンを、ACに放り込んでいくのは。
パズルと宝探しを合わせたような、もの凄い面白さだったよ……」

107エヴァンジェSSその26:2006/10/29(日) 23:16:26
 そう語るチーフの口元は、だらしなく緩んでいた。だけでなく、遠くを見つめる瞳には、爛々とした光がある。前に伸ばされた両手は、何かを求めるように空中を掻きむしっていた。
 それは紛れもなく、狂信者の姿だ。
 先程までの気怠げな気配は、どこかへ吹き飛んでいる。
 むせ返るような熱気が、白衣を突き破って噴出してくるようだ。
「愉しすぎたんだ。ロジック通りに動いてくれることに、固執しすぎた。だから、柔軟性に欠けてしまった。
戦場への理解が、欠けていたよ。
……まったく、君の言うとおりだ……」
 チーフは一人で頷きながら、こいつはいいぞ、と何度も繰り返した。
「だが……いける。次からは、思考能力も強化しよう。
柔軟に思考する、初めてのACだ。これなら、そのやり方にも対応できる」
 窓の向こうにいるACは、一人興奮するチーフをじっと眺めていた。
 まるで奇異な動物を見るような態度だったが、彼は気にもしない。
「よかった。技術が負けたわけではなかった。
大事なのは、使い方だったんだ! 希望はある! まだ、やれるぞ!」
 そう言って、髭の生えた中年男は、子供のようにぴょんぴょん跳ねた。


     *


 エヴァンジェは、形容し難い気持ちでモニターを眺めていた。
 モニターの中ではね回る男が、まるで別の生き物のように思えた。
 部下達四人が自殺し、自身もまた自殺する直前であったというのに――技術の未来が示されると、あっけなく回復した。
 もはや、部下が死んだことさえ忘れているように思える。
 躁鬱の激しさといい、極端に視野の狭い男だった。
「……いや」
 呟き、エヴァンジェは苦笑した。
 まるで悪友をたしなめるような態度だった。
 そうしながらパネルを操作し、オペレーターへの通信ポートを開く。
 一つは、依頼の完了を告げるためだ。
 もう一つは、次の依頼を探すよう命じるためだ。

108エヴァンジェSSその27:2006/10/29(日) 23:17:36
「さて」
 パスを入力し、ポートを開き終えると、エヴァンジェは背もたれに身を預けた。
 戦闘の緊張を解きほぐしつつ、ひっそりと口元を歪める。
 オペレーターと実際に会話するのは、数分後になるだろう。なにせ距離が離れているため、ポートを開いた後も、実際に通信回線が結ばれるのには時間がかかる。
 エヴァンジェはその間に、次の任務についても思いを馳せた。
(次は、制圧系のミッションがいい)
 今回は少し手間取ったが――そちらをうまくこなせば、アライアンスの連中は、自分への評価を改めるだろう。
 それには、派手な戦いであることが必要だ。
 できれば、AC戦。そうでなくても、MT十機以上。
 それが終わったら、次はどんな依頼を取ろうか。この混迷する情勢は、自分の力を示す絶好の機会だ。
(腕が鳴る)
 エヴァンジェは遠い瞳で、次の戦いを見据えた。
 恐らくそれが過ぎれば、次の次の戦いを見据えるだろう。
 それも過ぎれば、次の次の次の戦いを。
 過去に捕らわれる必要はないのだ。今はただ、前に進んでいけばいい。
 エヴァンジェは、その戦いの連鎖の先に――燦然と輝く、ドミナントの称号を見た気がした。
「……待っていろ……」
 呟いて、口元を歪める。
 感触を確かめるかのように、スティックを握り直す。
 その時のエヴァンジェは――技術を熱く語った時のチーフと、全く同じ眼をしていた。

109エヴァンジェSS終了:2006/10/29(日) 23:18:44
以上です。

このような機会を頂き、本当にありがとうございました。
感想は、本スレでもここでも、どちらでも。

110名無しさん@コテ溜まり:2006/10/30(月) 06:43:40
AI機体の名前はTRシリーズからですか?
ちょっと名前がキサラギぽくない気がします
>>仮に通常規格のACが、彼らを倒そうとするならば、少なくとも十倍以上の兵力差が必要なはずだった
これはちょっと厨臭すぎではないでしょうか AC40機で4機と同等というのは…
単純に10倍の性能差があるというのはどう考えても相当おかしいと思います
そしてその10倍強い機体4機をあっさり倒してしまう隊長もなんだか…
AI機体も10倍強いはずなのにあっさりやられすぎではないかと…
この10倍設定のせいで整合性がかなり破綻してると思います
あとチーフの身の上話ですがこれだけの内容を10分で話すのはあまりに無理があると思います
SSの内容は面白いのですが設定の破綻のせいで読んでてなんだかなぁと思いました

111シャイアン。SS投下。評価は本スレへ:2006/10/30(月) 17:49:32
猿さんくらた。
こっちでジャンヌSSの続き投下する。

112シャイアン。SS投下。評価は本スレへ:2006/10/30(月) 17:49:56
 実際、ここにいて、やさしい微笑みを浮かべているのだから。
 なんでもかんでも見境無く喋り続ける。夜になって、アーロンが母に怒鳴られるまで会話は続いた。

113シャイアン。SS投下。評価は本スレへ:2006/10/30(月) 17:50:33

 監視カメラへのアクセスを切断して、ジャンヌは軽く欠伸する。
 アーロンに姿を見せてから一週間が過ぎ、何十時間と話し込んで、すっかりお姉さんの気分に浸っている。
 信頼されることは、想像するよりも、ずっと心地の良い事だ。
 その心地のいいことを知ってから、ジャンヌはどんどん人間臭い動きを学ぶようになっていく。
 ホロフラフィを動かす必要なんてどこにも無いのに、常時ホログラフィはついていたし、今日だって、無意識のうちに手を当てて欠伸をした。
 明日も楽しみだと、心のそこから感じて、いつもの就寝の準備。
 最近は習慣として、夜寝る前に家のプログラム達全員におやすみのメールを送るようにしている。
 他者ともっと近しくなりたいと思う感情の表れだ。
 もし、この行為をカドマスが目撃していたならば、飛び上がって喜んだだろう。
 メールプログラムに立ち上がってもらって、いくつもの文書を作り出す。一つ一つ丁寧に書き込み、決してコピー&ペーストなんてしない。そんな事をすれば、言葉に込められる意味が薄まってしまう気がしていた。
 アーチにもチダにもベージュにもポートにもパーリーにもカズサにも、その他の管理プログラム達にも一斉に送る。
 百はくだらない数だったし、そのメールの中身は毎日全部、違う事が書いてある。丹精込められた友好の印だ。
 そして、メールボックスを覗き込んでから、その日のジャンヌはシステムをシャットダウンするつもりだった。
 しかし、今日はそうはいかない。インターホンのポートからのメールを見れば、寝るわけになんかいかなかった。
『今日はカドマスが家に戻っていない。貴方は何か知りませんか?』
 腹のそこが冷たくなった。眠気なんて一瞬で吹き飛んだ。
 家の中を光速で駆けずり回って、それからたった一行の文書を見つけた。
 彼のパーソナルコンピュータの、誰も管理しようの無いゴミ箱の中からそれは見つかった。
 
 息子をよろしく頼む

114忠実EO ◆8G/OIpNBb2:2006/10/30(月) 20:01:37
>>110
批評ありがとうございます。身の引き締まる思いです。

まず、AIACの名前の件ですが、キサラギぽくないと言われれば、全くその通りです。
返す言葉もありません。
名前くらいどうだっていいよね的な視点で決めたため、こういうことになったのでしょう。
書き手としては、無責任であったかもしれません。

十倍云々の話は、こちらの意図するところが上手に伝わっていない
(念のため書きますが、それはこっちの責任です。100%)
と反省させられました。
AIAC達は、そんなに強くありません。性能は高いですが、穴も多く(フロートは反動で止まるしタンクも弾数少なめだし)、
十倍という数字も、結局は技術者の自己満足の数値です(これ、作中には書かれてません。アホです。分かるわけありません。申し訳ない)。
最終的には全く的はずれであったことが判明したりします。
だから、強さの整合性は、取れているといえば取れています。
少なくとも、書き手の頭の中では。

それを伝えられなかったのが、こちらのミスです。
提示する情報を、完全に見誤っています。よくないことです。
次回からは、この点をもっと気をつけて書いていこうと思います。

重ねて、批評ありがとうございました。

115名無しさん@コテ溜まり:2006/10/30(月) 23:12:52
>>114
俺関係ないけど
その潔さ良し!
気持ちいい
gngr!

116名無しさん@コテ溜まり:2006/11/10(金) 18:20:33
物書きに批判は良い肥料です。罵声は違うがw
個人的にはGJの人も加えて「〜がよかった」とか「けど〜はちょっと…」とか加えてくれると書き手はありがたいと思う。
伸ばし所も治し所もわかって嬉しいのもあるし何よりちゃんと読んで貰えてるのがわかって嬉しさ倍増だぜ。


と、ACスレでは一回しか投下して無い俺が勝手に言っちゃいました(;><)

117名無しさん@コテ溜まり:2006/11/11(土) 07:02:03
少しお借りしますよ

118名無しさん@コテ溜まり:2006/11/11(土) 07:04:00
―――ヤツとの出会いは予告編なしに始まる巨編の様だった―――

突然見た事もねぇ動きで現れた。ただボー然と心さらわれた。
蝶のように舞――、蜂のように刺す。そして最後に奥義を出す。

いや、奥義なんてモンはねぇがヤツの動きがそう感じさせたんだ。
ヤツを見てからの俺の人生は変わり、レイヴンとしての人生も大きく変わっちまった。

あれはプラントを不法占拠してる武装勢力を完全排除しろって仕事で、
プラントの規模の大きさからして、レイヴン一人じゃ完全排除は無理なんで
他にもう二人のレイヴンが別経路から侵入して各個撃破して行くって内容だった。
依頼主の企業の人間がオペレーターとして常にモニターし、各機に的確な指示を
出しながら作戦を進めて行くんで、三人が出会う事も無く終わるはずだった。
レイヴンの世界にゃ予想外の出来事は付き物なんだが…、あの時は想定の範囲外ってやつだった。
レイヴンが他に二人も居るってことで気が緩んでたのかもしれねぇし、ACが出て
来ても俺が当たる確立は低いんじゃねぇーの?と侮ってたのかもしれない。
――なにより、腕にはそれなりに自信があったんだ。仕事もそれなりにこなしてきたし、
対AC戦でもそれなりにやってきたんで、十分ヤれる気でいた。
俺の中じゃ最低でも、Bランククラスレベルのレイヴンでいる心算でいた――。

「プラント中央部に敵AC反応!ACバルドは注意して下さい!」
オペレーターが突然、焦り気味に叫ぶ。間髪入れずに敵AC反応があった付近のレイヴンが叫ぶ。
『うおっ!?目の前じゃねぇーか! 野郎AC起動させずに待ってやがったのか?』
どうやらACの存在や位置を特定させない為にACを起動させずに、じっと息を殺して
待ち構えてやがったらしい。その周到さやACを起動させるタイミングの絶妙さからして、
かなりの手練であるだろう事は、たぶん、皆感じ取っていたはずだ。
「確実に排除する為にも全てのレイヴンでコレに当って下さい!」
オペレーターも普通じゃないと感じたのかもしれない。
『チッ、仕掛けて来やがった!戦闘に入るぞ!』
これが戦場と言わんばかりに通信が交錯する。
「各機、至急援護に向って下さい!」
『な、何だコイツ…』
通信が乱れ、ノイズにレイヴンの声が掻き消される。
「レイヴン!? 応答して下さい…レイヴン!」
オペレーターの声は明らかに動揺している。
「ACバルド、信号消滅。敵、アンノウンACは南西の方向に向けて移動を開始。」
オペレーターは毅然と冷静さを取り戻し、冷徹に状況を伝える。

119名無しさん@コテ溜まり:2006/11/11(土) 07:05:09
―――Wild Style―――

南西方向…
レーダーに目をやると“ソレ”は確実にコッチに向かっていた。
――選りに選って俺の所かよ――
背筋に悪寒を感じ、冷や汗が流れた。
何せ、先の敵AC出現に於ける出来事に加え、ACバルドが交戦状態に入ってから
撃破されるまでの時間が余りにも早かった事を総合すると、敵アンノウンACの
レイヴンが只のレイヴンでないことは容易に想像出来たからだ。
例えACバルドが貧弱であろうと、バルドのレイヴンが未熟であろうと、余りにも早い。
俺の常識じゃ想像のつかない早さだった。
瞬間的にリアルを実感し、周りの残存勢力を再確認する。それは最悪でもせめて一対一に
持ち込みたいと言う本能からだったんだろう。

付近に敵残存勢力無し―。
機体被弾状態、ほぼ無傷―。
ジェネレーター出力、及びラジエーター、各温度良好―。
武装及び残弾―。左腕のWL05RS-GOLEMの残弾が気になるが、問題は無い。
機体の状況は十分にACとヤれる状態だ。
俺は深く、大きく息を吸い込み、グッと操縦桿を握り締めて気合を入れ、レーダーを
再確認すると、広く吹き抜けたブロックへ移動し待つことにした。
俺のAC“ワイルドスタイル”は中距離から遠距離主体の中量級の二脚なんで、
出来る事なら広所か障害物の多い場所でヤりあいたかったからだ。
――間も無く、左肩に積んでるWB17R-SIREN3が“ヤツ”をレーダーに捕らえる。
かなり近づいたな…。と考察すると同時に通信が入る。
「敵アンノウンAC、ワイルドスタイルにかなり迫っています。注意して下さい。
残るAC“ファンタム”も援護に向っています。必ず、撃破して下さい。」
そりゃそうだ。残存勢力そっちのけでAC一機を総掛かりでヤろうってんのに、
コッチのACは既に一機瞬殺されてる。なのに残りも序でにやられたじゃあ
お話にならない。確実に落さなきゃならねぇところだが…。
「敵ACを確認、該当データなし」
頭部のCR-H05XS-EYE3のコンピュータが“ヤツ”の接近を無機質に告げると、
FCSがロックオンを開始する――。
『ヤツを捉えた。ヤるぜ。』
GOLEMの射程内に捉えたとは言え、この距離じゃあ如何にスナイパーライフルと言えど
当たる確率はかなり低い。が、様子見に一発撃ってみる。
「ピシューン…」
――当たるわけがねぇ…――
そんなお遊びをしてる間に右肩のWB19M-HYDRA2の射程圏内にまで近づいてやがるが、
暗くて今一どんな機体かつかめない。
――撃ってみるか――
「バシュー…」

120名無しさん@コテ溜まり:2006/11/11(土) 07:06:07
―――マジリアル―――

俺はHYDRA2を発射する。
今度はハッキリと“ヤツ”が左右に切返してミサイルをかわすのが判った。
「バスッ」
『ぉあ!?』慌ててブーストジャンプさせて機体を後退させる。
――撃ってきやがった――
『今のバズだろ!』と焦りながらも“ヤツ”を視認しようとする。
『ぁん?四つ脚か?』ブースト移動をしながら、時折左右に跳ねながら迫ってくる。
暗闇に溶け込んでいた機体が朧げにだがその輪郭を浮き上がらせ始めた。
『ぉお!? 両腕新バズかよ!!』
両腕にCR-WH05BPバズーカ砲、両肩にCR-WB69RO小型ロケット砲、
エクステンションにANOKUを積んだ重量級の四脚だ。
相手のアセンブルを見て、機体を更に後退させながら距離を離そうとする。
如何に両腕新バズの重武装とは言え、四脚相手に距離を詰められては分が悪いからだ。
『プライドは抜きか…。』
「バスッバスッ」
避け切れない。CR-WH05BPバズーカ砲はその重量も脅威的だが、それに十分見合うだけの
破壊力と命中力を兼ね備えている。それ故に簡単には回避出来ない。一発はかわすものの
二発目を避けきれずに被弾し、外装甲が弾け飛ぶ。
――マジリアル――
マジにヤる…のか?俺は頭の整理も儘ならないままに交戦する。
『クソッ!コッチもプライドは抜きだ!』そう言い放ち、HOHSHIを展開させる。
肩レーダー未搭載の機体だ、対ECM性能は低い筈だ。そこへのHOHSHIだ、
効果は覿面のはずだ。俺は武器を右腕のWR13B-GIANTに切替え、攻撃を開始する。
「ボッ」GIANTから散弾が発射される。だが“ヤツ”は機体をスライドさせ難なく
かわし更に接近――、その真紅に包まれた機体を露にする。
――HOHSHIは効いてないのか?――
いや、そんな事はないはずだ。アセンに依る対ECM性能は例え超一流の
レイヴンであろうと強化する事など出来る筈がない。それにも拘らず近距離で威力を
発揮するGIANTを目の前に距離を詰めるなんて俺には理解出来ない。
だが眼前の“ヤツ”は躊躇している様子もなく迫って来ている。
「ボッ」「ピシュー」GIANTとGOLEMを続けざまに発射し、二つ目のHOHSHIを
射出する。GIANTの散弾の一発が“ヤツ”の左腕にヒットし、GOLEMから発射された
弾はコアを直撃する。しかし、散弾の中の一発と、威力が高めとは言え
スナイパーライフルの一撃では怯ませる事すらできずに接近を許してしまう。
おかしい――。何故だ。コッチも脚部積載量一杯一杯だが、あの如何にも重そうな
機体を何で引き離せないんだ!?困惑しながらもGIANTとGOLEMを更に発射する。
『!!』眼前に迫っていた真紅のACは次弾の発射タイミングが判っていたかの様に
大きく上空へと飛び上がり、発射された弾を嘲笑うが如く回避する。
『な、サイティングが…』その瞬間――激しい衝撃が機体の動きを止める。
『な、何だ!?』状況を把握しようとするが“ヤツ”から視線が離せない。
“ヤツ”の両腕の新バズは沈黙している――。

121名無しさん@コテ溜まり:2006/11/11(土) 07:07:15
―――赤い悪魔―――

大きく上空へと飛び上がっていた真紅のACは一瞬のワイルドスタイルの機体硬直の
隙を衝き、ワイルドスタイルの目前に着地するとほぼ同時にその真紅の機体の左肩の
辺りから弾丸を発射する。『ロケかっ!』“ヤツ”の動きに翻弄されてしまい、
その弾丸を回避出来ない。 『ぉおおおお!』真紅のACの左肩より発射された弾丸は
ワイルドスタイルの脚部を直撃する。『クソッ!! 完全に舐めてやがる。ACの
目の前に着地だと!?』知らず知らずの内に冷静さを失いつつあったが、機体の
被弾状況にはシッカリと目をやった。先程の衝撃――、脚部への被弾だったようだ。
『チックッショーッ!!』GIANT、GOLEM、 HOHSHIと立て続けに発射する。
だが、その瞬間には既に真紅のACはモニター内からは消えており、更なる衝撃が機体を
襲う。「脚部損傷」冷たく、如何にも機械らしくEYE3のCOMが伝える。またしても
脚部への攻撃だ。脚部はかなりヤバイ状態になってきていた。「ビィービィービィー」
今度は何だ!レーダーで“ヤツ”の位置を確認し、機体を旋回させながら瞬時に
状況を確認する。立て続けにロケット砲を被弾した為に、機体温度が危険温度域にまで
上昇している。緊急冷却の為にジェネレーターの出力がラジエーターに持って行かれ、
エネルギー消費量が著しく激しくなっていく。エネルギー供給の良くない
ワイルドスタイルではブースターの使用方法にも支障が出て来る。このままじゃ
距離も取れない。辛うじて旋回戦に持ち込み背後に回り込まれる事を防いではいるが
相手は四脚だ、長くは持たないだろう。あの真紅のAC…、両腕新バズ機体の上に
対ECM性能を落としてまで何故両肩ロケなんだ?と思っていたが、
こんな状況になって初めてその理由に気付いた。
対ECM性能を完全に切り捨て、ECMを使われた場合にはロケット砲に依る
戦闘をする事を選んでいるのだ。普通のレイヴンならばノーロック武器、中でも
命中させる事の非常に難しいロケット砲を頼りに戦闘をするなんて事は中々出来る
モノではない。しかし“ヤツ”はそれを選び、命中させている。生半可な腕じゃあない。
困惑しながらも何とか“ヤツ”をロックする。偶然にも旋回戦に持ち込んでいたお陰で
“ヤツ”のロケット砲はワイルドスタイルを捉える事が出来ずに当たらない。
――今度はコッチの番だぜ――
GIANTとGOLEMを発射する。その瞬間、真紅のACは再び大きく上空へと飛び上がる。
『またか!?』今度は何とか“ヤツ”をサイティングし続けようと追うが“ヤツ”の
真紅のACはモニターより外れ、ワイルドスタイルの真横へ着地する。「ブシーッ」再び
サイトに捕らえようと機体を引き離しながら旋回しようとした時、爆音と共に
コックピット内に衝撃が走る。コアにロケット砲が直撃したのだ。『なっ…』“ヤツ”の着地の瞬間が頭を過ぎる。
――あの音…、ターンブースターか――
「ビィービィービィー」再び機体温度が危険温度域まで上昇する。「ボン」と言う
爆発音と共にガクンと機体が止まる。「脚部破損」『馬鹿な!』新バズにやられたのなら
納得も出来る。だが…実際は両腕に新バズ二丁をぶら下げたACの両肩に、オマケで
乗っかっているロケット砲だけでやられたのだ。「ピッ、ピッ、ピッ」熱暴走による
緊急冷却と、回避する事に必死でエネルギーが底を尽きたようだ。
――チャージング――だ。
レーダーに目をやると…既に背後を取られていた――。

122名無しさん@コテ溜まり:2006/11/11(土) 07:07:52
―――DEAD OR ALIVE―――

相手が悪い――。レベルが違う――。

――死――

その存在を身近に感じた――。

「フッ…フハハハハ! ん〜…相変わらず実にイイ眺めだ!」
“ヤツ”だ。随分と楽しそうな声が真紅のACの外部スピーカーから聞こえてくる。
優越感に浸っているのだろうか、まだ撃ってくる気配は無い。
「余り時間が無くて貴様をタップリと甚振れないのが残念だ。」
これ以上にない程の敗北感と屈辱――、そして絶望に包まれた俺は静かに――、
操縦桿を握る手を緩めた――。
「んん?諦めたのか?ツマランな…死ね。」と言う言葉と共に外部スピーカーは切られた。
意外と何も思い浮かばない。これが無――「ドゴッ」バズーカ系の弾が直撃した時の
被弾音が響き渡る。不思議と痛みや苦しみは感じない。
恐怖すらも感じないもんなんだな――。何て呆気ないんだ。

――まだ止まんじゃねぇ――

40歳前後ぐらいの渋い声が聞こえる。
ふと我に返る。『!?』生きてるのか?状況を確認すると、レーダーは確かに友軍機の
反応を捉えていた。熱くなっていた――いや、ビビッてて友軍機の反応すらも
見落としていたんだろう。しばし呆然としていると――

「そこで終わんじゃねぇ」

目の覚める思いだった。俺は何諦めてんだ。僅かでも可能性が在ればそれに懸けて
生き残ろうとするのがレイヴンじゃないのか?
冷静に、今度は確実に機体の状況を確認する。左脚が死んでやがる。右脚もかなり
やられてる。だが、まだ攻撃は出来る。
機体を何とか“ヤツ”の方に向ける。“ヤツ”は突然の攻撃に、その真紅のACを
急速に後退させていた。
対ECM性能を捨てた機体…。肩レーダーを装備していない為に頭部レーダーに頼った
機体構成だが、CR-H05XS-EYE3を選択している為にレーダー範囲が極端に狭い。
俺が友軍機に気付いていなかったのは俺の落ち度だが、“ヤツ”が気付いて
いなかったのは当然の代償だった。友軍機による“ヤツ”のレーダー索敵範囲外からの
攻撃。当然気付くはずもなく、回避する事など不可能だったんだ。
“ヤツ”は態勢を立て直し反撃に移ろうとしている。HOHSHIの効力は既に切れている。
真紅のACは両腕の新バズを友軍機に向け迎撃の態勢に入った。

123名無しさん@コテ溜まり:2006/11/11(土) 07:09:11
―――PHANTOM―――

俺は援護の為にも慌てて最後のHOHSHIを射出しようとしたその瞬間―――。
目の前を――、白く――、巨大な物体が光の翼を広げ高音を発しながら――、
一瞬にして現れる。
――オーバードブースト――
真紅のACの両腕から放たれた弾丸は闇に吸い込まれて行く。
真紅のACは機体を引きながら再び両腕の新バズを発射する。
白いACは光の翼を広げたまま、空中で華麗に切返す。
弾丸が向った先に白いACの姿は無く、何も無い空間へと消えて行く。
「そこ、出番じゃねぇ」
白いACは「カシュ」と音をさせ、OBの開口部を閉じ大地をスライドしながら
右腕のCR-WR93B3バズーカ砲を発射し、左腕のWH01R-GASTを連射する。
発射された弾丸は真紅のACの頭部とコアを直撃、白いACは真紅のACの側面に
回り込む。だが“ヤツ”もターンブースターを発動させ急速に旋回し、対応しようとする。
「カチャン」真紅のACが急速旋回を終え、両腕の新バズを発射しようとした瞬間――、
白いACは再びOBを展開させ真紅のACの視界から消えて行く。
絶妙のタイミング、次元が違う。俺は援護のつもりのHOHSHIを使う事さえ忘れ、ただボーぜんと魅了されていた。
「やる気がねぇなら撤退しろ。その脚じゃMT相手でも梃子摺るだろ」
カッ!チーンと来た。俺は最後のHOHSHIを展開させる。
「残ってんならもっと早く使ってくれよな」
沸々と闘志が漲ってきた。アイツが注意を引き付けてる隙に俺が“ヤツ”を落とす。
白いACは“ヤツ”の周りを巧みにOBを使いながら旋回し攻撃を続けている。
真紅のACはECMにより新バズが使えずにロケット砲に切り替えているが、
白いACの巧みなOBを使いこなした緩急を付けた機動に付いて行けていない様子だ。
――アイツ…マジでやっちまうのか――
衝撃的だった。俺がまさに手も足も出なかった相手をノーダメージで翻弄し、軽くあしらっている。
「ん?コイツどっかで見た事ある気がしてたが…、RED909か?」
白いACのレイヴンがそう呟いたのを聞いて調べたのか、オペレーターが答える。
「ACネーム、レイヴンネーム共に該当なしです。」仕事が速い。割と優秀な
オペレーターだった様だ。再び白いACのレイヴンが口を開く。
「“ヤツ”は登録を抹消して裏の世界のレイヴンになった…て話だが、実際はあまりの
残虐非道ぶりから存在しなかった者とされて一切の情報を抹殺されて追放されたって
話だが、真相は本人に聞かねぇと分んねぇけど――」RED909が左肩のロケット砲を
パージする。続けて右腕の新バズまでもパージし、左腕の新バズを構える。RED909は
パージする事により軽量化し、一気に機動性を上げる。「お喋りはここまでだ」
先程まで余裕を見せていた白いACのレイヴンの口調が変わり、事態の深刻さを物語る。
軽量化した事により大幅に速度は上がり、驚異的な四脚の旋回性能は更に鋭さを増す。
新バズ一丁とロケのみ。それでも十二分に脅威である。
不意に先刻の恐怖が蘇って来ていた――。

124名無しさん@コテ溜まり:2006/11/11(土) 07:10:29
―――RED909―――

先程まで翻弄していた白いACも徐々に振り切れなくなって来ている。
新バズのロックオンを外すのに精一杯で、白いAC自体がロックオン出来ないでいる様だ。
だが援護しようにも機動力を失った俺のACじゃ、上手く“ヤツ”だけに当てる
自信はなかった。
そして遂に、RED909のCR-WH05BPバズーカ砲がその砲身を白いACに向ける。
――チッ、俺は見てるだけしか出来ねぇのか――
そう思った瞬間だった。
「誰が今夜の男前か見せてやろうか?」
その言葉と同時に白いACの両肩が迫り上がるのが見えた。
『インサイド積んでんのか?』思わず声を出してしまったが、その両肩から何かが
発射されるのが視認出来た。『あ!』ECM反応だ。それも強い。
『テメェ!HOHSHI積んでやがったなぁ!』
白いACに向けられていたCR-WH05BPバズーカ砲はロックオンが出来なくなり、遊び始める。
「奥義は最後の最後まで取っておくものだよ」
ニヤリと笑っているのが想像できるムカつく、冷静な口調でヤツが答える。
それを聞いた俺の中で何かが弾けた。
俺は静かに――、そっと武器をWB19M-HYDRA2に切り替え、エクステンションを起動させた。
『テメエら纏めて死ね!』俺は迷う事無くHYDRA2と連動ミサイルのCR-E84RM2を
発射した。エクステンション部分から発射された連動ミサイルはRED909に向け一直線に
飛んで行き、HYDRA2から発射されたミサイルは分裂し、上空からミサイルの雨を降らす。
レーダー能力の低いRED909は斜め後方より飛来するミサイルの接近に気付く事無く
全弾被弾し、爆炎に包まれる。
爆炎の向こう側から爆炎を周り込むように白いACが光の翼を広げ、空を舞う様に現れる。
そのまま白いACはRED909に向け攻撃を加える。CR-WR93B3から発射された弾は
的確にRED909の頭部側面を捉える。EYE3の側面の装甲は弾け飛び、立て続けに
連射されているGASTが更なる追い撃ちを懸け、薄くなった装甲は耐え切れずに
EYE3もろとも爆裂し、四散する。頭部を失ったRED909の動きは鈍り、ミサイルの
直撃により機体はボロボロになり、あらゆる箇所から火花が飛び散っている。
RED909は闇雲に残された武器を乱射し、弾幕を張りながら急速に機体を後退させる。
「おい、“ビッ”と決めな。」
その声に反射的に身体が反応してしまい、再びミサイルを発射する。RED909は真直ぐに
飛んで来る連動ミサイルを何とか回避しようとボロボロの機体を左右に振る。
しかし、上空より飛来するHYDRA2の多弾頭ミサイルはもう“ヤツ”には
見えていないだろう。デコイは積んでいないようで、再び“ヤツ”が爆炎に包まれる。
アレだけのレイヴンであろうと、やはり二機相手じゃ分が悪かった様だ。…いや、
俺レベルのレイヴンが二人だったとしたら結果は分からなかったかも知れない。
そんな事を考えながら、揺ら揺らと立ち込める黒煙を見つめていた。

125名無しさん@コテ溜まり:2006/11/11(土) 07:12:01
―――無限―――

「カチャン!フィィィィイ」白いACがOBを発動させる。
残存勢力の排除に行くのか?と目をやると一直線にRED909の方へ向っている。
――まさか――
黒煙の向こうを赤黒い物体が蠢いている。爆炎に曝された事による焦げ付きや煤で
真紅の機体は赤黒く変色している。
『まだ生きてんのかよ!?』
「詰めが甘ぇ〜んだよ。仕事が終わるまでレーダーとモニターから目ぇ離すんじゃねーよ」
基本中の基本だ、常識だ。確かに“ヤツ”の反応がある。余りにも衝撃的な出来事が
多過ぎて、どうかしちまってるようだ。
『あのコアのお陰か…』CR-C83UA――、格納機能搭載、耐久性、防御力に優れる上に
迎撃機能を搭載した重量コア。その迎撃機能のお陰でコアへの直撃を何とか防げたのだろう。
だが、格納コアとは言えあのアセンブルからすると格納兵器は積めていないだろう。
それにしてもあのしぶとさ――、生への執着心――、レイヴンとしては
見習うべき所かもしれない。
突然の爆音と共にRED909の右肩に搭載されているCR-WB69RO小型ロケット砲が
炸裂する。先程の上空からの多弾頭ミサイルでダメージを受けていたのだろう。
そこをトドメと言わんばかりに白いACが迫る。
RED909はチャージングしているらしく、歩行で後退しながら残された新バズで弾幕を張る。
あれだけの猛攻撃を喰らっては、爆熱によりチャージングしても当然と言えるだろう。
闇雲に発射される弾は、如何に新バズから発射されたと言えど当たる訳も無く、
白いACは稲妻の如き軌跡を描きRED909の死角へと潜り込み、あっさりと背後を取る。
流石にチャージングしていては四脚と言えど大した旋回は出来ない。
白いACはRED909の背後を取りつつ照準を定める。同時にRED909の動きが止まる。
――諦めたのか?――
そう思った瞬間――、RED909は大爆発を起こし――、爆散する。
『ぁあ!!』思わず声が漏れる。明らかに自爆だ――。
余りの意外性と呆気なさに放心し、破片と化したRED909を見つめる。
「裏の暗黙のルールってやつか?どんどん血に染まって行くな…」
白いACのレイヴンが寂しげにそう呟くと通信が入る。
「敵ACの消滅を確認、敵残存勢力の方は大した兵力ではなかった為に、こちらで
対処しました。レイヴンは帰還して下さい。お疲れ様でした。」
その言葉を聞いて一気に緊張の糸が切れる。これ程“死”を身近に感じた事が
あっただろうか。そして己の未熟さを酷く痛感する。
「さぁ帰ろうか、レイヴン」
その言葉が妙に空しかった。何も出来なかった。事実、機体は損傷しているが弾薬は
たっぷりと余っている。何も出来なかった事の証。そんな事を考えている時だった。
「無限にある可能性を磨け、そうすりゃマジで誰でもスゲー光る。テメェの力を振り絞り
己の殻を破れ。信じりゃ必ず輝く朝が来るさ。“ビッ”としな。まだまだイケるぜ?行っときな。」
――見透かされてる、何もかも――
『敵わねぇな。』「だろ?」

126名無しさん@コテ溜まり:2006/11/11(土) 07:12:49
―――レイヴン―――

『あんた…、そう言えば“ヤツ”の事知ってたのか?』
「レイヴンたる者、いつ何時、誰を相手にするか分らんからな、やばそうな奴の情報は
掴んどかなきゃな。それで耳にした覚えがあった。かなり腕が立つって聞いてたんでな。」
『裏の世界とやらの情報もか?』
「レイヴンにも裏専門ってのが当然居る。レイヴンの世界から抹殺された者、
レイヴン試験を受けてねぇ者とか色々な。裏の仕事は報酬がかなり良い代わりに何でも
ありだ。身内や恋人を殺れる者じゃなきゃ出来ねーだろう。その分ヤバイレイヴンが
多いってことだ。ヤバイ組織とかもあるって話だ。要するに、出来れば拘るなって事だ。
オマエの腕じゃ今日の二の舞だぜ?」言い返せない。
『あんたACの相手するの大分慣れてた様だが、ACを相手にする事多いのか?』
「センスだな」ツッコミたいが突っ込めない。「あぁ…後、才能かな」『しね』
「まぁ事実はさて置き、そんなにAC戦に慣れたいんならアリーナででも鍛えるんだな。
それかAC相手の仕事ばっかすりゃいんじゃないの?」
アリーナ…今一ピンと来ない。アリーナ装備で仕事がこなせる筈も無く、仕事装備で
アリーナで勝ち上がれる筈も無く――。俺は考察した末に一つの結論に達した。
『あんた、俺と組まないか。』決して師匠になってくれとは言わなかった。
「弟子入りか?」『ザケンナ!』
「お守りなんか御免だぜ。」そりゃそうだよな。俺なんか只の足手纏いだ。俺の所為で
命を落とす可能性はかなり高いだろう。
「けどまぁ何だ…、ここで逢ったのも何かの縁だ。ツーマンセルの仕事が有ったら
連絡して来いよ。暇なら付き合ってやるよ。」
良し!アイツのテクやアセンやら…『盗める物は全て盗んでやる。』
「だからそれ弟子入りじゃね?」『殺す!』
「人を真似る野郎は、勿論負ける。テメエ曲げる事ねえ奴が最後に勝てる。」
――危うく物真似に成る所だったかもしれねぇ。俺は真面目に『解った。』と答えた。
“ヤツ”もレイヴンとしての自分を最後まで貫き通したのだろう。でなければ、自爆など簡単に出来る筈が無い。
レイヴンと言う存在が――、
レイヴンで在ると言う事がどう言う事か解っている心算になっていただけなのかも知れない。

――アイツとの出会いが――

――全てを変えちまった――

――RED909――

――悲しみを産む、裏道のルール――

――赤く染まる、やつらのルール――

127名無しさん@コテ溜まり:2006/11/11(土) 07:13:33
―――帰還―――

プラントから漸く外に出ると依頼主の企業の私設部隊は帰還準備を済ませ、俺達を積んで
帰る為に待っていた。
「お?ソコソコの部隊じゃねーかよ」その辺のゲリラなら殲滅出来そうな規模だ。
『んん!?アレACじゃねぇーの?』私設部隊の向こう側に、こんもりと巨大な影が見える。
カメラをズームさせて見ると重量級の、それも背中にCR-WBW98LXを背負った
重武装のACが立っている。『アイツ等あんなAC持ってやがったのか?』
俺は裏切られた様な気分になった。
すると、「ああアレ、ハイパーチェストか?呼ばれてたんだな。」
『ハイパーチェスト?』
「あのACの名前だ。特殊な仕事は大概あのレイヴンが引き請ける」
『特殊?まさか裏の…!?』「機体を盾にしねーと護衛しきれねー仕事とか、回避する
スペースもねえ場所での敵排除とか誰も請けねー様な仕事を率先して他のレイヴンに
代わって引き受ける不死身のレイヴンだ。お前なら請けるか?」
『エーと…、俺に死ねと?』「だろ?まぁ、とりあえず敵として出会ったら逃げろ!」
俺は、俺の知らない物凄いレイヴンがまだまだ居ると言う事を知らされた。
近くで見るとかなり威圧感のあるそのACはボロボロになっていた。
オペレーターの話では、残存勢力が一番多く逃走して来そうな出口で仁王立ちし、出口を
完全に塞いで殲滅したそうだ。俺は『あんた大丈夫なのか?』と聞くと、
「きかんな」と言い平然と去って行った。
俺はレイヴンが此れ程までに層が厚く、多彩だと言う事を今日まで知らずに生きて来た。
良く今まで生きて来れたもんだ。更に己の未熟さと無知を痛感した…。
「下向きっぱなしじゃ辛気臭せぇぞ。」
白いACだ。オペレーターが“ファンタム”と呼んでいたそのACは改めて見ると、
頭部をH02-WASP2に、コアはC03-HELIOS、脚部にLH04-DINGOを使ったアセンに
白をベースに黒のアクセントで彩られている為に骸骨の様に見え、異様な雰囲気を醸し出している。
「まだ遅くねぇ。」
今更レイヴンとしての腕を磨くのは手遅れなんじゃないのか?との俺の考えを
見透かされての言葉だった。
『ペース遅くねぇ?』

「いや――、いいんだぜ…。好きな速度で――。」

「創造と破壊を繰返して、相当高い頂点を打開したとしても、
そんでも答えが解ったり解んなかったりするだろーし、
気がつきゃ眩しい朝方になってたりする事も在るだろうが…
とりあえず、真直ぐ手ぇ上げて行け。目の前の扉はテメエで開けて行け。
焦ったって始まんねぇ、じっくりと次のステージを目指せ――。」
俺はカサカサに渇ききった唇を噛締め、ファンタムを見つめる――。
「だが、この道は長いぜ?」
その言葉に色んな意味が含まれているだろう事はすぐに判った。
俺は振り返らずに、そして立ち止まらずに輸送機へと向った。
俺は――、
『俺は俺の道を行くぜ…。』
「ああ。」
俺は俺が正しいと信じた道を歩いて行こう。
ACの手を上げ輸送機に乗り込む。

――期待の予告編――きっと届くぜ――

128名無しさん@コテ溜まり:2006/11/11(土) 07:16:30
以上投下完了
暇潰しにでもなれば…

とりあえず909には見てほしいゼ…

129名無しさん@コテ溜まり:2006/11/11(土) 09:33:45
「白いAC」と「ワイルドスタイル」はオリジナル?

130名無しさん@コテ溜まり:2006/11/11(土) 13:20:12
>>129
オリジナルSSオンリー…
それが私の信念

131名無しさん@コテ溜まり:2006/11/11(土) 21:51:43
>>130
㌧クス
把握

132シャイアン。:2006/11/12(日) 16:31:47
>>128
GJだが、今の俺は自分の文章を読み返してダウナーな気分なんで評価は差し控えさせてもらうます。

133名無しさん@コテ溜まり:2006/11/12(日) 17:02:57
評価とかも聞きたいけど、
感想くらいは聞かせて欲しいんだぜ?
GJなんて見てなくても言えるんだぜ?
別にシャイアンの気持ちとかでも何でもいいんだ…
とりあえず反応が欲しいんだぜ?

134シャイアン。:2006/11/14(火) 19:19:12
では言わせてもらうが
効果音は「」つける必要はない。
そもそも、効果音自体が文章という形態の中ではイレギュラーなので、多用するのはよくない。
使いたければ、強調したい音のみに絞り、改行をした後に使う事をオススメする。
それと改行の仕方もよくない。文章の途中で不必要に改行して投下すると非常に読みづらい。段落を分けたときに、文頭にスペースを入れることも心掛けるべし。
あとはあちきの個人的な好みの問題だが、会話がまるで落ち着いていない。ネジが一本飛んだようなレイヴンばっかりに見える。
一人称は難しいので、まずは三人称で書く事をオススメする。どうして難しいかは自分で考えるが吉

135名無しさん@コテ溜まり:2006/11/15(水) 10:15:55
>効果音
必要ないとは思うけどわかり易くない?

>改行をした後に使う
>改行の仕方もよくない
改行し過ぎになると思ってね…
元々ココに投下しようと思ってなかったんでコッチのミス

>会話がまるで落ち着いていない
臨場感と緊迫感が出るかと思ってワザとです

>ネジが一本飛んだようなレイヴン
十人十色のレイヴンが居る訳で、型にはまっても他のSSとかぶったりしてもアレなんで故意です
前に書いたSSはクールなレイヴンだったんで余計に…
お陰で自分で書いてても難しかった

ありがとう。

136シャイアン。:2006/11/15(水) 21:32:50
もうちょっとだけ。
口調に微妙に統一感が無かったり、描写をセリフと効果音に頼りすぎてるような印象を受けた。
「ー」の乱用とセリフをカタカナにするのにも注意。完全にただのバカに見えてしまう事がしばしば。――もちょっと使いすぎかと。
会話に力を入れすぎると、得てして不自然なものになりがちだということも覚えといた方が言いかと。
武器の型番で解説するのも、略称で解説するのもちょっと注意が必要かと。
最後に言葉の間違いとして「Bランククラスレベル」を上げておく。

137名無しさん@コテ溜まり:2006/11/22(水) 13:03:32
AC未経験者や初心者でもなんとなくわかるつもりで書いたつもり
文章はSSとか見ない人でも見てもらえればと読み易くしたつもりだった
全てつもりですがね…
堅苦しいいかにも小説と言わんばかりのはとっつきにくくないかなぁ〜と配慮したつもりだった
VIPACオンリー向けなら新バズ、ゴーレムで良かったんだけど、いらん考えだったみたいね
――とかも人と違う試みのつもりだったんですよ…

138シャイアン。:2006/11/22(水) 18:08:22
「かと」多すぎだな俺。
SSを読まれずに飛ばされてしまうのは確かに悲しい事だが、コレばっかりはどうにも出来んのよね。
それをどうにかして読んでもらおうって思うのは凄い事だと思う。
参考意見として、俺がSSを読まずに飛ばしてしまう時に思うことを上げておく。
・二十行ぐらい読んで、文章として破綻している部分等、不快に思うことがあった場合。
・単純に密度の濃い文を読むのが面倒くさい

俺自身も面白いものが書けるわけでもないのに偉そうな事言い過ぎた。
こんな否定的なことばかり、もっと俺自身もっと身の程を知ってから言うべきことだな。すまなかった。

139名無しさん@コテ溜まり:2006/12/10(日) 11:13:52
>>137
>>43

140ACケンプファー:2006/12/16(土) 21:55:41
ちょいと投下する、事情は後

薄暗い通路を突き進むモリ
「今までのルートから考えるとここは地下深くの機密施設に当たるからきっとこの施設には動力炉の類があるはずだ」
「それを叩けばこの施設は爆発する!」
マップからの情報と施設内のエネルギー量から見てこのプラントの最深部には大規模な発電施設があるはず、モリはそう判断した
モリの目の前に数体の蜘蛛型生体兵器が立ちはだかる
「来るなよッ!」
蜘蛛型生体兵器をガトマシで破砕し、先を急ぐモリ
そしてそれをモニタ越しに見つめる研究員達

「ルシャナ二式隊長機もとい、ケンプファーが撃破されました!」
「もう遅いわ!」
研究員達の顔に焦りが浮かんでいる
「間違いない、奴はこの先の発電施設を狙っているな」
「3番ゲート閉めろッ、奴に最大の恐怖を教えてやれ!」
「主任、大変です!」
「どうした!」
研究員が異変を感じ取った様だ
「基礎フレームが酷似した白いACが入口のの一番ゲートを破壊しています!」
「ダニ型を出せ、2番、15番、18番ゲートを全て閉めろッ!」
「了解ッ!」
「12番通路に通信をつないでくれ、奴に本当の恐怖を味わって貰う!」

141ACケンプファー:2006/12/16(土) 21:56:02
「ゲートが閉まっている……」
今、モリの目の前には3番ゲートという名の壁が立ちはだかっている
オートマップの情報によるとここを通らないことには発電施設に辿り着くことは不可能である
「やあモリ・カドル、よく来てくれたね」
天井のスピーカーから声が聞こえる
しかも通常では考えられないほどでの大音量である、スピーカーを潰したくなって来るじゃないか!
「いいか、よく聞い……」
しまった、うるさいとしか言いようのない声だからついスピーカーを撃ってしまったよ……
「ちょっと待ってくれ、何故撃……」
おっと、手が滑った
「これが最後のスピーカーだから聞いてくれ、一生のお願いだ!」
友達じゃあるまいし……
まあ、最後のスピーカーだと言うのならしょうがない、真偽ははっきりしないのだが……
「よく聞いてくれ、お前の左側にドアが見えるだろう」
左を向くと確かに人1人が通れるくらいのドアがある
「そこに入り、3番ゲート開放スイッチを押してきてくれたま……」
やっぱり撃っちゃったじゃないか……
クレストから通信が入ってくる
「モリ、仕方ないが先に進むためにそのスイッチを押してきてくれ」
「……了解」
コンソールにパスを入力し、ピンチベックをスリープ状態にする
次に僕がここに座ればわずか2秒(パス入力時間も含めて)でピンチベックは起動する
もっとも、どのACでもそこは同じなのだが……

142ACケンプファー:2006/12/16(土) 21:56:20
ピンチベックから降り立つ男の影
レイヴンの中では比較的ほっそりとした体つきだ
腰のホルダーには護身用のハンドガン、生体兵器相手に互角に渡り合えるような装備ではない
せめて頼りになりそうな物と言えばホルダーの左側に付いているグレネードくらいだろう
パイロット用のヘルメットに顔が隠れているのでモリの表情を確認できないが
肩をぐったりと落としているところから見て相当スイッチを押しに行きたくない様だ
「依頼と言っちゃあ依頼だから仕方ないけどさぁ……はぁ〜」
重い足取りで地獄への門に向かうモリ
そして若干躊躇いながらもドアを開けるモリ
この先に一体どんな恐怖が待っているというのか

開けてみればどっこい大きめの通風口と机が一つという殺風景な倉庫ほどの大きさの部屋である
机の上を見てみると無印良品のノートが置かれているじゃないか
読んでみますか?    →はい  いいえ

143ACケンプファー:2006/12/16(土) 21:56:45
『私たちはついにここまで辿り着いた
何人かテスト中に試験体に食われたが問題はない、給料泥棒を一掃できたのだからな
この試験体を培養すれば隣の古代文明発掘プラントの奴らが掘り出したという人形などケチョンケチョンに出来る!
これさえあれば他企業を潰し、私が社長となるのも時間の問題となるのだ!』

これを書いた人は主任か誰かか、それにしても字から狂気が滲み出ている気が……

次のページにはモリが遭遇したレイヤード時代の生物兵器の特徴が細かく記されていた
そしてモリが遭遇した蜘蛛型生体兵器の親玉とも言える生体兵器も記されていた
しかし、そこから先は消しゴムで字が消されていて読めない状態であった

「あれ?」
ノートを裏返してみると誰かがいたずらしたのか、『夏休みの宿題』と書かれていた
……なんだよこれは、せっかくのやばい雰囲気が台無しじゃないか!
思わず机にノートを叩き付けるモリ、しかし彼はある物を発見する
「これって……スイッチかな?」
カチッ
その音と共に主任の罠がモリの居る部屋にゆっくりとその脚を進めていった

144ACケンプファー:2006/12/16(土) 21:57:04
さて、スイッチも押したことだし、急いでピンチベックにってあれ?
ドアが全く動かない……閉じこめられたか?
なにやらイヤな感じがするが……
モリはハッと後ろの通気口を振り向く
「やだ…嫌だ〜〜〜!」
通気口をぶち破り、AMIDA♂が一匹、部屋の中に侵入してきたのだ
つ…使えそうな武器は……グレネードだけ、そしてこいつを倒してもドアが開かない可能性がある
となったらやるべき事は一つだけ
「このドアを破壊してやる!」
……とは言っても……このドア、金属製じゃん
見たところ、このドアはグレネードでは破壊できそうにない
爆破するにしても、もっと破壊力のある爆弾でないと爆破できないだろう
グレネードで爆破したとしても、せいぜいドアをへこませるくらいが関の山だろう
モリは自らの頭をフル回転させる、そして、いくつかの選択肢の中から望みを賭けられる方法を見つけた
「これならッ!」
モリはドアの前に立ち、グレネードのピンを抜き取る、そして迫り来るAMIDAに向かって投げつけた
グレネードはAMIDAの眼前で破裂した、それを見たAMIDAはACが撃ってきたのかと勘違いし、酸を吐いてきたのだ
モリは間一髪で酸をかわし、AMIDAに言い放つ
「よ〜し、良い子だ!」

145名無しさん@コテ溜まり:2007/01/05(金) 00:16:56
ttp://viploader.net/
ここのAC4LRSです
借りさせていただきます

146名無しさん@コテ溜まり:2007/01/05(金) 05:02:46
>>145
ttp://www1.c3-net.ne.jp/marker/monooki/anotherage.htm
に感想かいてアップしておきました。

147名無しさん@コテ溜まり:2007/01/05(金) 15:43:32
感想ありがとうございます。
文法は自分で読んでて感じました。
ワードでしか作れないバグXPの糞使用だから、メモ帳基準にする際におかしくなってしまうんですよ
メモ帳を何とか直さないといけません。文章については指摘ありがとうございます
アドバイスありがとうございました

148名無しさん@コテ溜まり:2007/01/05(金) 15:55:11
でもそれが関係ないところも普通に多いです
これは1部しか関係ありませんね
あとは文章沢山読んで勉強します

149名無しさん@コテ溜まり:2007/01/05(金) 16:12:45
あ、あと4話関連はこっちでその理由は思いつきませんでした
リアルに捕らわれてしまった感が強いですね

本当にありがとうございました。謙遜しているようですが、あなたの作品は純粋に面白かった
次回作も期待してます

3レス使ってすいません。俺は何やってるんだ

150名無しさん@コテ溜まり:2007/01/07(日) 22:04:22
良い文が書けない
MMMが懐かしい。
アク禁くらった。
締め切り。NBおかまSS。ここにおく。まだ途中。
ttp://www.uploda.org/uporg646290.zip.html
ナニカ……サレタヨウダ

151AC4SSその6:2007/02/04(日) 21:55:41
     *


 雲一つない大空を、歪な影が編隊を組んで進んでいた。
 輸送ヘリの群だ。
 そのそれぞれが、盾を携えたノーマルACや、鈍重なそうな逆脚MTを、底部に抱えている。ヘリの形も相まって、まるでエサを運ぶミツバチが、群を為しているようにも見えた。
 それがいたのは、そんな列の先頭だった。
 くちばしのように尖った胸部、すらりと細い脚部と腕部、平べったい頭部。両手には箱形のショットガンを携え、背中にレーダーを背負っている。
 全体的に秩序立った機能美に縁取られてはいるが――それでも、人型としてはかなり歪だった。
 また、この機体だけが輸送ヘリに頼らず自力飛行している。

 装甲に『レイレナード』社章を張り付けた、ネクスト以下13機はひっそりと目的地へ飛び続けた。


     *


「よし。終いだ」
 レイヴンの声で、尋問が終了した。
 フィオナはほっと息を吐き、全身の緊張を抜く。
 要所要所はきちんと伏せたし、過度に不審がられてもいない。我ながら善戦したと思う。
 もっとも――
(相手が不真面目だったせいもあるけど)
 思っていると、目の前で見張りのテロリストが、レイヴンから書類を回収していった。質問毎にペンが動いていたので、恐らくその書類にフィオナの会話内容が要約されているのだろう。
「気になるか」
 レイヴンが、不意に訊いた。
 不思議とすんなり応えられた。
「……あまり」
「何故」
「……理由は、別にないけど」
 フィオナとしては、早々に会話を終わらせたいがための返答だった。
 だがその台詞が、彼には珍しかったようだ。
「落ち着いてるな」
 面白い動物でも見つけたような声で、そう言った。
 一瞬、何のことだか分からず、きょとんとしてしまった。
「……そうかしら」

152AC4SSその7:2007/02/04(日) 21:56:14
「ああ。存外に厚顔――いや失礼、神経が太い」
「……私?」
 そうさ、とレイヴンは請け負った。
 煙草に火を点けながら、
「ここはマグリブ解放戦線だ。あんたらへの憎しみはどの組織よりも強い。
そんな中で普通に喋ってるのは、人質じゃ君だけだよ。君が一番若いんだがね」
 そう言われると、確かにそうかも知れない。
 なにせ、ここは過激な武装勢力のアジトなのである。将来のことを思えば、どんどん無口になっていくだろう。
 だが――フィオナの場合は事情が異なっていた。
 試しに、自分の膝に視線を落としてみる。
 見慣れた膝だ。その上には、見慣れた手が置かれている。
 しかし、それが自分のものだとは思えなかった。
 膝や手だけではない。前に座るレイヴンも、部屋の隅のテロリストも、その左手が握る拳銃も、全てがどこか遠くのことのように思えるのだ。
 果たしてこれは、本当に現実なのだろうか。
 自分はあの大型バスの中で、夢の世界に紛れ込んでしまったのではないか。
 そんな現実逃避とも達観ともつかない、奇妙な浮遊感が先程から頭にもやをかけている。
(図太い、というんじゃなくて……)
 ただ単純に、『麻痺』しているのだろう。
 驚いたり恐がったりもするが、一々それらを深く考察できなくなっているのだ。
 自然と目線が下がる。
「……私は……」
「それでもだ」
 フィオナは思わず口をつぐんだ。
 正面を見る。
 一人の傭兵が、窓からの夕陽を背負っていた。
「それでも、あんたは自棄《やけ》になっていない」
 言葉の一つ一つが、不思議と胸に染みた。
「君には、そうあれるだけの『根本』がある。それは十分に価値があることだ」
 レイヴンは、そう締めくくった。
 表情は読めない。俯き気味であり、体の作る陰が、顔を暗く塗りつぶしているせいだ。
「……レイヴン?」
 そう尋ねると、彼はようやく顔をあげた。
 彼は――笑っていた。
 寂しげなくせに、どこか晴れがましい、そういう不思議な笑みだ。
「それはとても幸福なことだ。それだけ生きるのに裕福になれる」
 そこで、男の笑みが変質した。
 いや、表情だけではない。男が纏っていた雰囲気そのものが、がらりと変わった。
 ぎらついた眼差し。不遜な笑みを浮かべた口元。口端から除く犬歯が、さっきよりも大きく見える。
 猛獣の顔だった。それも、ひどい飢えに喘いでいる。
 色に見えそうな苛立ちが、男の周りに陽炎のように立ち上っているかのようだ。

153AC4SSその8:2007/02/04(日) 21:56:43
「俺はな」
 レイヴンは、ぼそりと呟いた。
「そういうの全然分からなくなった」
 背筋に冷たいものが走った。
 だがそれでも、フィオナはレイヴンの瞳から目を逸らさなかった。
 彼の灰色の目の中では、どす黒い炎が猛然と燃焼している。
 全てを燃やし尽くし、後には何も残さないであろう炎だ。
「貴重な財産だ。大事にしたまえよ」
 フィオナは、おずおずと頷いた。
 頷くしか、できなかった。
 レイヴンは薄く笑って、灰皿で煙草の火をもみ消した。
 甲高いコール音がしたのは、その時だ。
「面倒だな。……誰だ?」
 レイヴンは、懐から無線機を出して、大儀そうに耳へ当てる。
 そのまましばらく、相手の話へ聞き入っているようだったが、
「……何?」
 ある時、剣呑に目を細めた。
「ネクスト? 何を言って――」
 雷が落ちたような轟音が、言葉の続きを塗りつぶした。


     *


『軍曹殿、初弾は命中しました』
『スナイパーキャノンの調子は万全です。いつでもいけます』
 部下からの報告を聞き、男は満足げに頷いた。
「上出来だ。だが次弾以降の発砲は禁止する」
『……今なら一斉射撃で施設を掃滅できますが』
 スピーカーからの声に、男は不快そうな顔をした。
 小馬鹿にしたため息を吐くと、通信対象を『全軍』から『副長機』へ変更する。
「それでもだ、副長」
 コクピットの中で、男は傲然と言い放った。
「考えてもみろ。相手の準備が整う前に、弾を降らせて終わらせる。しかも敵はノーマルばかり」
『……それが何か?』

154AC4SSその9:2007/02/04(日) 21:57:21
「書類上の問題だ。俺は一騎当千の実力を見せなければならない。そういう報告書を書かなければ、いつまで経っても正規へ昇格できないからだ。
お前は、俺の出世をさらに半年遅らせるつもりか」
 要は、自分が活躍しないと恰好がつかないということだった。
 通信の向こうで、呆れたような声が漏れる。
『……そのために、わざわざ敵の準備を待つのですか?』
「安心しろ、出るのは俺だけでいい。おまえ達に危険はない」
『……軍曹、不用意なリスクは……』
 副長の言葉にも、男は鼻を鳴らしただけだった。
「リスク? 何の話だ」
 男は自信たっぷりに続けた。
「副長、俺が何だか言ってみろ」
『……グランツ・カウフマン軍曹です』
「違う」
 男――グランツの言葉に、副長は渋々従った。
『……ネクスト乗りです』
「リンクスと呼べ。いいから待つぞ。俺を信じろ」
 グランツは機体のPAを維持させつつ、正面のモニターを見つめた。
 数キロ離れたところで、石造りの城塞が、夕陽に赤く照らされていた。


     *


「ネクスト?」
 フィオナは声をあげた。
「ネクストって……あの?」
「PAを纏い、常識外の機動をし、圧倒的な火力を誇る、そのネクストだろうな」
 レイヴンは腕を組んで、険しい顔をしていた。
 先程とは打って変わったその態度が、危機を雄弁に物語っている。
「どうして……? 攻撃してきたんでしょ?」
 フィオナは椅子から立ち、窓へ近づこうとした。
 そこに太い腕が伸びる。
 見張りのテロリストだった。
「椅子へ戻れ、女」
 がっしりと肩を掴まれ、フィオナは息を詰まらせた。
「自分の立場を忘れるな。行動の自由は、あくまでこちらに不利益がない場合に限る。
そういうルールだったが、もう忘れたか」
 フィオナは一瞬迷ったが、背後に撃鉄が起きる音を聞くと、やむなく椅子へ戻った。
 見張りの視線が外れるのを待ってから、そっと唇を噛む。
(どういうこと……?)
 何故攻撃されるのか。
 現地の人々が人質にとられているというのに、いったいどこの誰が攻撃命令を出したのだろう。

155AC4SSその10:2007/02/04(日) 21:57:51
 しかも、ネクストまで動員されているという。
 状況がまるで読めない。
 一定密度を超えた疑問が、漠然とした不安となって、胸の奥に沈殿していく。
「俺としては」
 その心理を読んだかのように、レイヴンが口を開いた。
「理由は案外単純な気がするね」
「……単純?」
 レイヴンは薄く笑った。
「ニュース、見たかい」
 頷きを返した。
「じゃあ、君も違和感を感じただろう。答はその辺りにある」
 そのタイミングで、ドアが開いた。
 入ってきたのは数人の男達だ。全員野戦服を着込み、額には深い皺を刻んでいる。
「ここにいたか」
 一人が言った。
 レイヴンは怪訝そうに、
「どうした」
「すぐ格納庫に来い。いや、その前に……テレビだ」
 言われ、元々いた見張りが慌ててテレビを付けた。
 まだニュースをやっていた。
 だが――雰囲気が変わっている。キャスターもコメンテーターも、先程よりずっと深刻な表情をしているのだ。
『――以上が、犯行声明の内容です。繰り返します。
「我々マグリブ解放戦線は、生ぬるい交換条件など持ちかけない。
今回の件は我々の意思表示だ。我々なりの宣戦布告だ。
連れ去った者達は、全員惨たらしく殺害させてもらった。動画も同封してあるが、報道するかどうかはそちらで決めろ。
……これは始まりに過ぎない。この退廃した社会を変革し、立て直すために――」』
 そんな調子の声明が、一分ほど続いた。
 最後にキャスターが、声明には人質達の死体を映した映像が貼付されていたこと、あまりにも惨いため公開は差し控えること、などを付け足した。
 コメンテーターが口を開く。
 惨いことになった。この国の対テロ対策の不備が――
「随分過激な文章を送ったな」
 テレビを見ながら、レイヴンが呟いた。
 躍起になって反論したのは、テロリスト達だ。
「違う! これは我々の文章ではないんだっ」
「そもそも、人質は生きているだろうがっ」
 通常、犯行声明は事件の前に送られる。
 事件を起こした後だと、無関係の組織さえも――どういうわけか――自分たちがやったと名乗り出る。そういう恥知らずな文書の中に、本物の犯行声明が埋もれてしまわないための、当然の処置だった。
 だというのに先程のニュースでは、犯行声明は四時間経った今も出ていない、と言っていた。

156AC4SSその11:2007/02/04(日) 21:58:20
 正直、フィオナもこの辺りは奇妙に思っていたのだ。立場上政治にも明るいので、尚更に。
 だが――
(犯行声明の……捏造っ?)
 ここまでとは想像もしなかった。
 それはテロリスト達も同じらしい。さすがに浮き足だってはいないが――どの顔にも、深刻な当惑と焦りが浮かんでいる。
「レイヴン! 早く格納庫へ行け!」
「見張りのお前も来いっ、MTが余ってるっ」
「人質は?」
「縛っとけっ。今すぐ出るぞ! 意地を見せろ!」
 そういった騒ぎを前に、レイヴンが口を開いた。
「……待て」
 湖水のような声が、部屋中に染みわたった。
 白熱しつつあった議論は、波が引くように静まる。
 レイヴンは続けた。
「落ち着け。慌てて出撃しても、何にもならないぞ」
「呑気なことを――」
「じゃあいいぞ。お前、ノーマルにでも乗って突撃してみるか」
 レイヴンは、男達を冷然と見上げた。
「格納庫へ行くのはいい。だがすぐに出撃するってのは反対だ。相手はネクストだ、ただ出撃するだけじゃ、結果は何も変わらない」
 的確な指摘に、テロリスト達が口を閉ざした。だが納得していないのは、引き結ばれた口元を見れば明らかだ。
「……では、どうするつもりだ。交渉でも持ちかけるつもりか」
 たっぷりと沈黙を置いて、一人が剣呑な声を出した。
 空気がピンと張りつめ、全員の視線はレイヴンに向かう。
「さてな」
 レイヴンは、背もたれへ体を預けた。
 ポケットから煙草を取りだし、ライターで火を点ける。
 二、三度煙をくゆらせてから、ようやく話を始めた。
「交渉の余地なし、てのには同意だ。ガレージから出してまともな機動させるだけで、億単位の金が動くバケモノだ。
あっちから攻撃してきた以上、半端な真似はしないだろう。念のため聞くが、降伏という選択肢は?」
「ない。戦うだけだ」
 一人が言うと、残りもはっきりと追従した。
 レイヴンの口元が、笑みの形に歪んだ。
「……じゃあ、必要なのは議論だ。格納庫に行く前に、全員集まって作戦会議をしよう」
「……情報関係は、すでに情報部がやっている」
 レイヴンはせせら笑った。

157AC4SSその12:2007/02/04(日) 21:59:08
「それで、その分析を戦闘中に教えられるのか? それではだめだろう。
全員が作戦を理解して、準備して、でないと罠はまともに機能しない。泥縄の戦略じゃ、ないのと同じだよ。特にネクスト相手にはな」
「……だがな、敵は目の前だぞっ。そんな時間は……」
「分からないぞ」
 レイヴンは平然としていた。
「相手が本気なら、今頃勝負はついてる。
スナイパーキャノンが飛んできたんだろう? もろに射程内じゃないか。
だが、生きている。相手は何らかの理由で、こっちの出方を待っているんだ。
わざわざこんなことをしている以上、ほんの少しなら――雑把な戦術を立てるぐらいまでなら、慎重でいてくれるかもな」
 一理ある見立てだった。
 しかし、そこには大事なものが足りない。
 フィオナは恐る恐る尋ねた。
「……それ、確証は?」
 レイヴンは即答した。
「ない……確率とは一割あればいい方かもな。
普通に警戒しているだけかもしれないし。あるいは、途中で痺れを切らすかも知れない」
 テロリスト達が眉をつり上げた。
 分かりやすく一歩前に出る者までいる。
 あまりの殺気に、フィオナは最初の戦死者はここで出るのではないか、とさえ思った。
(……まずい)
 いい加減、テロリスト達の我慢が限界だ。そろそろ伏せるべきだろうか。
 本気でそう思った頃、レイヴンの声がした。
「落ち着け。少なくとも、普通に出るだけじゃ駄目だ。
入念な作戦が要る。確証なんて贅沢言うな、生き残るなら、多少ギャンブルでもそっちに賭けるしかないだろう」
 少なくとも、レイヴンの声には気負いや迷いはなかった。
 彼にしてみれば、当たり前のことを、当たり前に口にしているだけなのだろう。
 だが、テロリスト達は認めなかった。
「御託を並べるんじゃない!」
 鋭い声が、部屋を一閃した。
「お前はレイヴンだろ! 一々雇い主の決定に……」
 言葉は尻窄みに消えていった。
 まるで、話す先から自信を吸い取られていくかのように。
「……待ってくれ」
 ぞくりとした。
 慌ててレイヴンへ向き直る。
 石ころを見るような、白けた表情がそこにあった。
「何か勘違いしてないか」
 テロリストは、何も答えなかった。いや、応えられないのかもしれない。
 代わりにフィオナが応じた。
「……勘違い?」
「こうなったら、もう撃って出て最期まで戦い抜く。そういう覚悟は立派だとは思うが……あなた、適材適所って知ってるか?」
 レイヴンが口元を歪める。
 だが目は笑っていない。今までで一番棘のある笑い方だった。
「目を覚ませ。まだそんな段階じゃないだろ。
まずはぎりぎりまで考える。そしてそれでもだめなら……そこで初めて突撃だ。
だがあんた達は、恐怖に負けて楽な道を選ぼうとしているように見える」
 沈黙が降りた。
 だがそれは肯定しているも同然だった。
「……命が賭かるんだ。せめて建設的にやろう」
 言いながら、レイヴンは灰皿で煙草の火を押しつぶした。

 結局、彼の意見が採用された。


     *

158AC4SSその13:2007/02/04(日) 21:59:35
 二分が過ぎた。
 それはやがて五分になり、ついには十分となった。
『……軍曹』
 部下の一人が呼びかけた。
 グランツは唇を引き結び、無視することに務めた。
(何故出てこない……!)
 焦りが心中に渦巻く。
 だが意に反して、モニターに映る要塞から、駆動兵器が出てくる兆しはなかった。
 夕陽に照らされた城塞は、我関せずといった風情で、今も飄然と佇んでいる。
『……いいかげん、攻撃しましょうよ』
「黙れ」
 鋭く命じ、グランツはモニターを睨め付けた。
 そのままさらに三分が過ぎた。
 知らず、言葉が漏れる。
「畜生め……」
 誤算だ。
 当初の話では、もっとスムーズに行くはずだった。
 MT達を蹴散らすことで、自らの履歴書を彩るだけの、ただそれだけの依頼だったのだ。
(やはり、『誘拐』がでかかったか)
 もっとも、予定に変更はなかった。
 動くだけで環境を汚染し、ガレージから出すだけで膨大な金額を食いつぶす――ネクストはそういう兵器なのだ。
 そして、誘拐が起こったのはネクストが現地に到着した後である。
 今更予定を変更すれば、ネクストの移動にかかった全ての経費は無駄になってしまうのだ。
 レイレナードはそれを許さなかった。
 だがかといって、全く何も影響なし、というわけではない。
 過程はどうあれ、人質を見殺しにしたことには変わりないのだ。ならば素晴らしい戦果を挙げなければ、『上』は納得しないだろう。
 戦闘の長期化、それによる施設損壊や環境汚染など論外である。
(……それを考えると、こうして待っていることもまずい)
 グランツとて、それは分かっていた。
 だが、わざわざ敵の準備を待つのにも、切実な理由がある。
 欲しいのは軍功だ。
 ネクストのポテンシャルを出し切った、そういう報告書を書きたい。
 そうすれば、本社もこんな寄せ集めのパーツで構成された機体ではなく、正規のものを自分に貸与する気になるだろう。
 その時の恩恵はでかい。
 リスクを負う価値はあると踏み、わざわざ敵の準備を待った。
 だが――そもそも出てこないのでは話にならない。
「頭でも腐ってやがるのか」

159AC4SSその14:2007/02/04(日) 22:00:22
 毒づき、グランツは周辺状況を確認した。
 と、観測システムが、思考に警告メッセージをねじ込んでくる。PAを展開しているせいで、周辺環境の汚染が進んでいるというのだ。
『まずいですよ』
「分かってる!」
 部下の言葉に、反射的に手がスティックへ伸びた。
 全ては、敵が出てこないせいだ。ならばいっそ『催促』してみるのはどうだろうか。
 だが――どこを撃とう。スナイパーキャノンでさえ大きく抉れた城壁だ。
 これ以上下手な場所を撃つと、穴が開いてしまうのではないか?
(面倒なことになりやがった)
 葛藤していると、要塞に動きがあった。
 正面の分厚いゲートが、ゆっくりと左右に開いていく。大きさ的に、どう見てもMTやノーマル用のゲートだった。
「来た」
 グランツの顔に、傲慢な笑みが弾けた。
「来たぞ、やっとだ! おまえ達邪魔するなよっ」
 部下にそう命じてから、機体を跳躍させた。
 鋼鉄の足が地面を蹴り、そこで得た勢いを背中のブースターが加速させる。
 引きつるようなGの中で、頭部カメラと連動した視界が、ゲートから出てくるMT達を捉えた。
「待たせた分は……高くつくぞ」
 言う間にQBを噴射、赤のネクストは猛然と獲物に襲いかかった。


     *


 MT達がミサイルやバズーカで、懸命に弾幕を張る。
 だがネクストは、左右へのQBで易々とそれらをいなし、逆に隊列の懐へ潜り込んだ。
 銃撃が途絶え、戦場は一瞬しんと静まり返る。
 嵐のような猛威が始まったのは、その直後だった。
 ネクストが、ショットガンで間近のMTを粉砕した。
 その破片がまだ落下している内に、ネクストは次の標的に接近、猛烈なタックルを見舞う。
 喰らったのは、肩幅のある重装MTだ。
 重量はMTに分がある。だが、ネクストの突進力は圧倒的だった。
 重装MTは易々と宙に浮き、そのまま仰向け落下、轟音と砂煙をまき散らす。
 ネクストが、そのMTの胸を踏みつけた。装甲が凄まじい悲鳴をあげて、内側へとへこむ。コクピットはぐしゃぐしゃだろう。
『畜生!』
 MT達は果敢に銃撃した。
 ネクストは避けようともしない。機体を包むPAは、そんな銃撃など容易く弾き飛ばしてゆく。
 と、次の瞬間、ネクストがショットガンを撃った。
 射撃というよりは、弾をばらまくといった感じの、無造作な動作。だがMT達はその弾一つ一つに、容易く引き裂かれていった。
 堅牢なはずの装甲だが、まるで段ボールのようだ。

160AC4SSその15:2007/02/04(日) 22:00:46
「ひどい……」
 司令室の大モニターが映す、そういった悲惨な戦況。
 手錠を外され、そこのオペレータ用の席に座らされているフィオナだが――状況も忘れて、息を呑んでいた。
「これじゃ、いくら何でも……」
「彼らの心配はするな。我々は覚悟を決めたんだ」
 後ろのテロリストは、冷然と告げる。
 だが、それでフィオナの動揺が納まるはずもなかった。どう言い繕ったところで――今モニターの中でなぎ倒されているモノ、その中には残らず人間が入っているのだ。
(これじゃあ、虐殺……)
 手が震えた。
 そんなフィオナに、テロリストは嘆息したようだった。
「しっかりしてくれ。遺憾なことだが……最悪を想定した時、オペレーターとして機能するのはあんただけなんだ。働いて貰うぞ、アナトリア人」
「でも……」
「同情はやめろ。でなければ……」
 丁度その時、MTがネクストに引き倒された。
 ネクストのショットガンが、さらけ出された胸部を――コクピット部分を狙う。
「あんたも俺も、彼らの所へ行く」
 鈍い発砲音が轟いた。
 MTの胴体が粉々になる。衝撃で手足が跳ね上がり、大きく波打つようだったが、やがて静かになった。
 ネクストのラインアイが、その光景を陶然と眺めている。
 フィオナはどういうわけか――その『目』に意識を吸い取られるような心地がした。
(……死ぬ……?)
 すぅっと意識に靄《もや》がかかった。
 考えるな、そういうものなんだ、といういやにすっきりした『納得』が――誘拐された当初にも感じた、納得が遅れてやってくる。
「そう、ね……」
 この世の最も冷たい部分。日常をあざ笑う、悪魔的なユーモア。
 それらが放つ、圧倒的な説得力に、たかだか二十歳の小娘の現実感など容易く屈服してしまった。
 後に残るのは、かつてのような浮遊感、無関心――それに伴う平静さだ。
「それでいい」
 テロリストの声も、まるでガラス越しに聞こえてくるかのようだ。
「よろしく頼むぞ」
 フィオナは頷きを返した。
 それから、全細胞に緊張を命じる。

161AC4SSその16:2007/02/04(日) 22:01:16
 自分は今からオペレーターの真似事をする。経験はない。が、やらなければならない。
 故郷へ――アナトリアへ帰るためには。
「……やります」
「よし。状況を開始しよう。
格納庫も、ネクスト用のコジマタンクを出せ。バルバロイの分がなくなっても構わん、全部だ」
 それらを聞きながらフィオナはボタンを押し、レイヴンへの通信回線を開く。
 平行して、頭を英語からギリシア語へと――アナトリアの言語へと切り替えた。


     *


 グランツはご機嫌だった。
 次元の違う戦闘力で、一方的に場を支配している。
 AMSシステムで機体と同調することで、その感触がこれ以上ないほどリアルに伝わってきた。
 この場においては明らかに自分が最強であり、他は全て取るに足らないものなのだ。
(たまらないな……!)
 思いつつ、ショットガンを発砲する。
 前にいた逆足MTが、ボロ切れのように吹き飛んだ。
 失笑が漏れる。
(まったく……)
 こいつらはどうしてこんなに脆いんだろう。
 もっと頑張れ。
 でなければ、そもそも俺の前に立つことがおこがましい。
「違いってやつだ」
 異変が起こったのは、そう傲然と言い放った時だった。
 突如、側頭部に鈍痛が走り、感覚の一分がかき乱される。機体トラブルだ。
 ECM障害、とシステムが告げてくる。
(ECM?)
 グランツは周囲に目を向けた。
 と、少し離れたところに中型のMTが停まっていた。その周囲には、円盤形の機材が散乱している。
 恐らくECM発生器だろう。
 それも、こっちのレーダーが完全に死んでいる辺り、相当な濃度のECMだ。
 グランツは剣呑に目を細めた。
「舐めた野郎だ」
 呟き、グランツはQBを噴射、ECMを出したMTへ襲いかかる。
 が、そこを鋭い衝撃が貫いた。
 PAでも殺しきれない。
 たまらず、グランツのネクストは地面に縫い止められた。
『ご苦労様』
 衝撃に息を詰まらせるグランツに、そんな声が聞こえた。低く掠れた男の声だ。
『後はこっちが引き継ぐ』
 二発目が飛んできた。
 QBが発動する。が、擦過音が聞き取れるほどの、ぎりぎりの回避になった。
 MT用火器とは比べものにならない弾速だ。
(こいつは……!)
 グランツは、要塞の出入り口を見やる。
 思った通りだった。
 装甲をひたすら重ね合わせたような、武骨なフレーム。明らかにGA社の仕事だ。
 だが肩に構えたキャノンは、スナイパーキャノン――BFF社の製品だ。また右手のライフルはイクバール製、左手のブレードはローゼンタール製である。
 柔軟な組み替えの産物だ。

162AC4SSその17:2007/02/04(日) 22:01:46
 MTにここまでの器用さはない。
「AC……」
 グランツは探るように言った。
「レイヴンか」
 相手は応えなかった。
 代わりにもう一発、スナイパーキャノンを撃ってきた。
 だが、さすがにもう読めた。
 グランツはQBで易々と回避すると、逆にショットガンを発砲した。
 MTなら一撃の距離だ。
 だが敵ACは、柔軟な関節機構を活かし、左右に機体を揺らめかせる。
 補正をずらされた散弾は、敵の周囲へ散っていった。
(これがあるから、ACは面倒だ)
 グランツは背中のブースターに火を入れた。
 同時に地面を蹴り、MT達を飛び越してACに迫る。
 その時の勢いは完璧だった。ノーマルの機動力ではとても逃げ切れない加速力だ。
 それが災いした。
 敵ACの肩口から、何かが発射される。
 円盤状の物体が六発。飛来するそれらに、ネクストは自分から突っ込んでいた。
「しまっ……」
 轟音。
 先程とは比べものにならない衝撃が、機体を揺さぶった。
 吸着地雷の直当て。
 堪らず地面に着地する。オートバランサーが脅威的な能力を発揮し、なんとか重心位置を調整した。
 だがそれで終わりではなかった。
 カメラと連動した視界が、黒煙の向こうに――銃器を構えて周りを取り囲む、MT達の姿を捉えた。
 QB、と瞬時に意識が飛ぶ。
 けれど――この不安定下でのQBは、システムが許可しなかった。
 結果、無数の鉄塊がコアを直撃した。
 ネクストが数メートルもずり下がる。
 転倒しないのが奇跡だった。
 だが凄まじい反動で、しばらくは動けそうにない。
(まずい……!)
 全細胞が逃げろと絶叫した。

163AC4SSその18:2007/02/04(日) 22:02:13
 だがグランツがQBを命じるよりも、敵ACが加速、ブレードを振りかぶる方が早かった。
 左腕部から伸ばされる、真っ青な収束エネルギー、その輝きがカメラを埋め尽くし――すぐに通り過ぎていった。
「……は?」
 間抜けな声が漏れる。
 PAが防御効果を発揮した、とシステムが告げたのは五秒程経ってからだった。
 PAに邪魔され、刀身が装甲にまで届かなかったのだ、というところまで考えが行くのには、さらに十秒が必要だった。
 その頃には――敵ACはこちらに背を向け、要塞に向かってブーストダッシュしていた。
(なに?)
 怪訝に思ったのは一瞬だった。
 逃げているのだ、と理解した瞬間、胸に猛烈な感情が吹き荒れる。
 どうしてだか、その背中を追いたかった。
 いや、追わなければならない気がした。
 そうしないと、何かが終わってしまうかのような――そういう焦りを感じた。
 本来なら、一連の攻撃を全て受け止めたPAの頑強さを、誇るべきなのだが。
「……あの野郎」
 言葉が漏れた。
 はめられた。その一念が心中で荒れ狂う。
 ガリ、という妙な音がした。自分の奥歯が噛みしめられる音だった。
 ノーマルが要塞の中へ入った。その姿がどんどん小さくなっていく。
「殺してやるっ」
 背中で装甲がスライドした。中から出てくるのは、一対の巨大なブースターだ。
『軍曹! まさか追いかけるつもりですかっ』
 部下が悲鳴を上げた。
『怪しすぎます! いくらネクスト乗りとはいえ……』
「曹長」
 グランツは苛立たしげに言った。
「リンクスだ。二度と間違えるなっ」
 直後、OBが発動した。


     *

164AC4SSその19:2007/02/04(日) 22:02:41
 レイヴンは二つのタイプに大別される。
 新しいタイプと、旧いタイプ。
 もっと言うなら、企業によって養成されたものと、そうでないものだ。
 かつて政府があった頃は、後者が大半だった。だが今となっては、後者はほとんど死に絶えている。戦場に立っているほとんどは、前者――養殖されたレイヴン達だ。
 理由は簡単だった。
 後者の時代――つまり、まだ国家が繁栄していた時代には、レイヴンになるのは至難の業だった。
 操作はまだ簡略化されておらず、搭乗者には並々ならぬ身体能力と、センスが要求された。
 また国家や宗教を全て捨て去り、一個の暴力装置になるということへの覚悟も要求される。
 そういうハードルを承知してさえ、わざわざAC乗りに志願してくるような連中だ。
 戦闘狂、快楽殺人者――とにかく、壊れた手合いが多い。
 そういう連中は国家解体戦争に率先して参加、勝手にばたばたと死んでいった。
 最後まで生き残っていたのは、比較的まっとうな感性を持つレイヴン――すなわち企業に養成された、『職業軍人』としてのレイヴンである。
 だが――そんな中に、時たまイレギュラーが現れる。
 誰よりも多くの戦場に飛び込んでおきながら、天才的なセンスと、冴えすぎる頭で、生き残ってしまう者がいる。
 フィオナは頭の片隅で、そんな内容の講義を思い出していた。
(……じゃあ)
 彼はどうなのだろう。
 レイヴンと『ギリシャ語で』連絡を取りながら、フィオナはぼんやりと思考した。
 先程話したときの、あの空っぽな口調と、炎のような瞳。
 あれはまさしく、どこかで壊れてしまった人間のそれではないだろうか。
 彼はひょっとすれば――年齢からは想像もできないほど、長く戦場に居座っているのではないだろうか。
(……いいか)
 が、フィオナは結局考えるのをやめた。

165AC4SSその20:2007/02/04(日) 22:04:06
 今となっては知る術もない。ただ一つ確かなことがあるとすれば――
「……その角を、右へ」
 カメラが、要塞の通路を素早く曲がるノーマルの姿を捉えた。
 そのノーマルは曲がる直前に、素早く反転、右手のライフルでネクスト牽制。その後吸着地雷をばらまいて通路を塞ぐ。
 ネクストはOBで地雷原を突っ切ろうとした。試みとしては正しい。現に通過は一瞬であり、ネクストにダメージが入ったようにも見えなかった。
 だが、通路に爆風が満ちた。即席の目眩ましだ。
 ECMでレーダーが利かない状態では、効果は抜群だろう。ネクストは光学ロックであるから、ロックオンによる索敵もできない。
 その隙に、レイヴンは十分な距離を稼いでいる。
(――いい腕だわ。すごく)
 思っていると、横からテロリストが報告した。
「……やはり、聞かれてるな」
「聞かれてる?」
「通信傍受だ。暗号化してるが、それも突破されてるかもしれない。
次からもギリシャ語で頼むぞ」
 フィオナは一応頷いた。
 目的地は近い。これ以上の指示が――それも、自分ごときの道案内が必要とも思えなかったが。


     *


「畜生め」
 グランツは悪態をついた。
 要塞に突入してから、鬼ごっこをすること数分。状況は――まさかだが――膠着していると判断せざるをえなかった。
 彼のネクストは、機動力重視の構成だ。加えて、主武装のショットガンは近距離で絶大な攻撃力を発揮する。
 だからグランツは、速度差でノーマルを追いつめ、ショットガンでずたずたにする、ぐらいに考えていた。
 だが――施設は予想以上に複雑な構造をしていた。
 曲がり角が多く、射線が通らない。敵はそれを利用して巧みに銃撃を避け、ばかりか折りを見て反撃、極小だがダメージを負わせてくる。
 苛つくやり方だった。
 それでも敵の動きが分かれば、もう少しスマートにいけたのだろうが――こちらも巧くはいっていない。
 無線を傍受し、相手の動きを読もうにも、どうも向こう側はグランツの知らない言語で応答しているらしいのだ。
 グランツは英語、中国語、ロシア語、ペルシャ語を理解することができ、現地のテロリストの会話ぐらいなら――ペルシャ語のはずだ――聞き取れると踏んでいたのだが。
 これも予想外である。
 勿論グランツは、レイヴンとそのオペレーターが交わしている言語が、今や地方都市アナトリアでしか使われていない言語――『ギリシャ語』であることを知らない。
「報告書どころじゃねぇぞ……」
 呟いたとき、遠くの角を黒い影が横切った。
 反射的にブーストダッシュしていた。
 瞬時に距離を詰め、同じ角を曲がる。通路の先では、巨大なシャッターが口を開けていた。
 グランツは迷わず飛び込んだ。時間がなかったのだ。
 だが――飛び込んだ部屋にも、目標の姿はなかった。はずれである。
 焦りと苛立ちが膨れあがった。
(ダメージは与えてる。後一押しなんだ、後一押し……!)
 グランツはそう自分に言い聞かせ、苦労して感情を飲み込んだ。
 重いため息を落として、ショットガンの弾倉を交換、改めて周辺を警戒する。
 と、そこでようやく、グランツはこの部屋が格納庫であることに気がついた。
 未起動のノーマルが幾つか、壁面の作業台に乗っている。実戦運用されているのだろう、どれも真新しい傷を負っていた。
 壁際には、コジマ粒子入りのタンクも見える。
 恐らく、マグリブ解放戦のリンクスは、こういう場所でネクストの補給を受けているのだろう。

166AC4SSその21:2007/02/04(日) 22:04:31
(……いっそ、ここで暴れてやるか)
 名案に思えた。
 ECMのおかげで、敵の位置は分からない。だが、ここで暴れれば、慌てて飛んでくるだろう。なにせ、この場所には――猛毒のコジマ粒子がある。
 もっとも、評価の手前、タンクを破壊するわけにはいかない。だが敵にそんなことは分かるまい。きっと驚く。
 グランツは上唇を舐めた。
 適当なノーマルに狙いを定める。トリガーに指がかかる。
 格納庫の扉が、音を立てて閉まり始めたのはその時だった。
「なんだっ」
 言う合間にも、巨大なシャッターが次々と閉じられていく。
 まるで、獲物を取り込むかのように。
 グランツは言い知れない焦りに見舞われた。だが、もはや逃げるには遅すぎた。
 ズン、と重苦しい音を立てて、最後の防壁が閉じられる。
 グランツは愛機と共に、巨大な空間に閉じこめられてしまった。
(……どういうつもりだ?)
 その意味は、すぐに分かった。
 直後、照明が全て消えた。墨を垂らしたような、容赦のない暗闇が押し寄せる。
 暗視機能を持たないネクストにとっては、まさに己の腕さえ見えない状態だ。もちろん、敵の視認などできようはずもない。
 ネクストの操作系の根本を為すACSは、人間の五感の延長であり――それ故、人体の機能を大きく逸脱した能力は、持つことができないのだ。脳への負荷が甚大なことになる。
 そして人間の目に、『赤外線で闇夜を見通す』という能力はなかった。
(……これは、なかなか考えたな)
 グランツは、軽く驚いた。
 暗視スコープがない、というネクストがノーマルに劣る点を、敵が知っていたのは本気で意外だった。
 だが同時に、せせら笑ってもいた。
 敵はこの機会に闇討ちをするつもりだろうが――ACSは、そんなヤワなシステムではない。
 『赤外線スコープ』といった、人間に元々ない能力を付加することは難しいが――既にある能力を、強化することは可能なのである。
 この場合、機械を通して『光への感度』を上げてやればいい。
 グランツがそう命じると、数秒ほどで格納庫内の様子が、おぼろに浮かび上がってきた。テレビの『明度』を調節する要領だ。
 陰湿な笑みが浮かぶ。
(ざまあみやがれ)
 圧倒的なテクノロジー。これが、ネクストの持つ強さだった。
 グランツはその力で、ノーマルを返り討ちするべくスティックを握りしめたが――考え違いをしていたのは、彼の方だった。

167AC4SSその22:2007/02/04(日) 22:05:03

『コジマ粒子 充填開始』

 突如、合成音が響きわたった。
 グランツは眉をひそめる。

『コジマ粒子 充填中』

 最初は、自機のコンピューターかと思った。
 だが、すぐに思い直した。
 これは格納庫内に直接響いている、『警告メッセージ』である。

『コジマ粒子 十分量 充填完了』

 グランツは、部屋にコジマタンクがあったことを思い出した。
 恐らく、それにコジマ粒子が注入されているのだろうが――理由は、見当もつかない。

『充填 尚も継続中』
『許容限界に近づいています 危険です』

 グランツの中で、強い不安が巻き起こった。
 何か悪いことが起こる、それを予感しつつも、具体的には把握できない――そういう歯がゆい不安だ。
 次第に、心臓が早鐘を打ち出す。嫌な汗が浮かんでくる。
 貯め込んだ優越感が、なし崩し的に消費されていった。
「いかんぞ……」
 気を揉んでいると、暗闇にくぐもった音が響いた。
 銃声だ。どういうわけか、敵はこの部屋に入ってきたらしい。
 だが――何を撃った。
 部屋の奥に、薄青の光が――コジマ粒子の発光が生まれたことで、ようやくグランツは理解した。
(コジマタンクか!)
 直後、閃光が炸裂した。
 視界が暴力的な白に染め上げられる。

168AC4SSその23:2007/02/04(日) 22:05:31
「なんだ、こりゃあ!」
 グランツは絶叫した。
「見えねぇ!」
 コジマ粒子は大気を汚染するとき、発光を伴う。ネクストが燐光を纏ったりするのはそのせいだ。
 だが今回は粒子の濃度が桁違いだ。
 瞬間的な光量は太陽にも匹敵し、しかも今――『光への感度』は最大だ。カメラが潰れたのだ。
(くそっ! 何にも見えねぇ!)
 混乱するグランツだが、その耳が妙な音を捉えた。
 巨大な足音だ。
 金属の軋みを響かせながら、一歩、二歩、確実にこちらへ近づいてくる。
 喉がごくりと鳴った。
 動揺を沈める目的で、PAを――ネクスト特有の防御壁を確認する。
 だが、COMの宣告は無情だった。
(PA……消滅っ?)
 愕然とした。
 コジマタンクから漏れた粒子が、PAと干渉、これの効力を大幅減衰――ACSは事態をそう解説した。
 まずい、と思った。
 が、グランツは激しく動揺していた。
 敵のブレードが発動する。そのエネルギー収束音を、踏み込むブースターの音を察しても、反撃はおろか回避さえもできなかった。
「しまっ……」
 情けない声と、金属の悲鳴が重なる。
 だがグランツは生きていた。
 どうやら、本能的に頭部をかばっていたらしい。交差させた両腕が、敵が振り下ろした腕部を受け止めたのだ。
 その隙に叫んだ。
「曹長! 応答しろ! 大至急援護を――」
 返答はなかなかこなかった。
『……興ざめするようなことはやめてくれ』
 応じるのは、低い、だがどこか澄んだ男の声だった。
 通信障害、とシステムが宣告する。
『ここにいるのは、俺とお前……そんだけだよ』
 その時、信じがたいことが起こった。

169AC4SSその24:2007/02/04(日) 22:06:03
 ネクストの腕部が――徐々に下がっていく。敵のパワーに押されているのだ。
 それと平行して、刀身も近づき――じりじりと頭頂部の装甲を焦がしていく。
(馬鹿な……!)
 愕然とするグランツだったが、これも当然のことだった。
 ノーマルは、ネクストよりも大きい。多くの部分を小型化し、かつ無駄を省いたネクストと異なり、旧式のパーツを多用しているせいだ。
 そのため挙動は鈍いし、そのくせPAも特殊装甲もないため防御も薄い。
 だが――とにかく『重い』。
 だからこそ、体重をかけた押し合いは、ノーマルの方が優位になる。
 強力な装備もない。堅牢な装甲もない。電子設備も粗末なものだ。
 けれど、車輌《ヴィークル》としての――原始的な意味での『パワー』ならば、ノーマルの方が強力なのである。
『それじゃ』
 やがて力強い腕部が、ネクストのガードをうち破った。


     *


 フィオナは、息を呑んだ。
 ブレードを振り下ろす巨体。それを真正面から受けて、切り倒されるもう一つの巨人。
 大型モニターの枠が、そのコントラストをまるで一幅の絵画のように切り取っている。
 綺麗だ、と思った。
 破滅的な光景のはずなのに、近寄りがたいほどの神々しさを感じる。
(……これが……)
 レイヴン。
 戦場を渡り歩く者。

『ここにいるのは、俺とお前……そんだけだよ』

 彼の放った言葉が、実感として飲み込めた。
 飲み込まれた言葉は、フィオナの胸深くへ落ち込み、そこで猛然と燃焼を開始する。
 生まれるのは――熱だ。
 触れるもの全てを焼き尽くすような、凄まじい熱を、体の芯に感じる。
 堪らず胸を押さえた。そうでもしないと、体が動き出してしまいそうだった。
(これが……!)
 思ったとき、甲高い電子音が響いた。
 フィオナははっと我に帰ると、慌ててパネルに注意を戻す。
 もっとも、すでにネクストは撃破した。目だった脅威はないはずだったが――
「……え?」

170AC4SSその25:2007/02/04(日) 22:06:26
 フィオナの動きが止まった。
 その顔が困惑の色に染まっていく。
「これって……」
『……どうした?』
 彼女は応えに詰まった。
 観測システムが、ネクスト内のジェネレーターが、異常に加熱していると告げているのだ。
 妙だった。
 通常の場合、撃破された機体のジェネレーターは即座に活動を停止する。加熱などしない。
 そもそも爆発物や可燃物が使用されていないのだから。
 しかし――それは一般常識だ。
 専門家が見れば、ざらにあることなのかも知れない。容易に異変と認定してよいものだろうか。
 その迷いが仇となった。
 ネクスト技術は各社の生命線だ。
 レイレナードのような野心的な企業が、人質を見殺しにしてまで作戦を強行するような企業が、残骸とはいえネクストの素体を易々と明け渡すはずがなかったのだ。
「レイヴン、実は――」
 言葉はそこで途切れた。
 モニターの中で、閃光が炸裂する。一拍遅れて、画面が砂嵐になる。
 だがその変化を最後まで見届けた者は皆無だった。
 なぜなら、フィオナも、見張りのテロリストさえも、突き上げる衝撃に吹き飛ばされたからだ。
『くはは……』
 最後まで生き残っていたスピーカーは、レイヴンの声を流した。
 うすら寒くなるほどの、からからに渇いた笑い声。
 それもまた轟音に塗りつぶされ、誰かに届くことはなかったが。


     *

171AC4SSその26:2007/02/04(日) 22:07:19
 どうやらネクストに爆発物が仕掛けられていたらしい。
 証拠隠滅としては最も手軽で、確実な手段だ。
 もっとも、本来ならば機体だけをばらばらにする程度の威力なのだろう。
 だが、今は周辺にコジマ粒子が満ちていた。爆発はその粒子と逐一反応し、凄まじい威力を発揮したようだ。
(だめだな)
 愛機の中で、レイヴンはそう判断した。
 体が動かない。全身の感覚が遠い。爆発で装甲が歪み、コジマ粒子がコクピットに侵入してきたのだ。
 汚染は皮膚全域に及んでいる。恐らくあと少しもすれば、それは芯にまで達し、自分の体は活動を停止するだろう。
 ゲームオーバーだ。
(年貢の納め時か……)
 実りは要らない。
 欲しかったのは充実だ。
 だから、彼は戦場に赴き、自らの命を燃焼させた。その時の光は、確かに彼にこびりついた『やるせなさ』を、振り払ってくれたように思う。
 だが、それももう終わりだった。
 それについては、怒りも、悲壮感も沸かない。
 あるとすれば――少しばかりの、疲労感だ。
(やれやれ)
 レイヴンは目を閉じ、永久の休息に向かった。


     *


 フィオナは、全身の痛みで目を覚ました。
 だが起きあがりたくなかった。ひどく眠い。疲れた体に、このまどろみは心地よすぎるらしかった。
(もう少し、だけ……)
 どうせ大学もないのだから。
 そう思ったところで、意識が一気に覚醒した。
 人質。ネクスト。爆発。大学どころではない。帰れないかもしれない。
 思考に蹴りが入った。
「そうだ」
 反射的に身を起こしていた。
 が、そこで面食らった。
 目を開けたはずなのに、周囲は真っ暗だったからだ。周りの様子はおろか、自分の手さえ見えない。
 洞窟の中のような完璧な暗闇だ。
 しばらく経って、真後ろに微かな光源を見つけなければ、きっと死んだと誤解していただろう。
(……建物が、崩れたのかしら)
 空恐ろしい考えを抱きつつ、フィオナはその光源を目指して歩いた。
 しばらく進むと、光が瓦礫の隙間から差し込む陽光だと分かった。
 さらに進むと、その隙間が人間一人くらいなら通れそうなものだと分かる。
 フィオナはその隙間を這い進み、一分ほどで外へ出た。
 暑かった。
 空は澄み渡り、太陽が高い。立っているだけで、じりじりと肌が焦げていくような感じがする。
 だが施設の惨状を目の当たりにしたとき、一斉に汗が引いた。
「……なに……これ」
 声が漏れる。
 そこにあったのは瓦礫だけだった。瓦礫が一面に敷き詰められ、大きな広場を成していた。
 その中央に、巨大な影が立っている。

172AC4SSその27:2007/02/04(日) 22:08:44
 ノーマルの残骸だった。両腕は千切れ、残っているのはボロ切れのような装甲だけだ。
 フィオナは太陽の熱で我に返った。
(他に、助かった人は……)
 辺りを見回したが、誰もいなかった。
 もしや生き埋めを免れたのは自分だけか、とも思ったが、きっちりと部屋の形を残している区画も散見された。
 どうやら爆心地から離れた所は、倒壊を免れているらしい。
 改めて見ると、フィオナがいた場所はそれの一つのようだった。
 とすれば――他に誰かいてもいいように思える。
(……まずいかしら)
 フィオナは眉をひそめた。
 この場合の誰かとは、高角率でテロリストだからだ。
 加えて――爆発の規模が規模だ、コジマ粒子の大部分は破壊で消費されてしまっただろうが、それでもやはり周囲の汚染も心配だ。
 そういえば、他の人質達はどうしたのだろう。
 ネクスト以外の敵部隊は、姿が見えないが――撤収してしまったのだろうか。戻ってはこないだろうか。
 考えれば考えるほど、そうやって懸案事項が噴出した。どれから手をつけていいのか分からないほどだ。
 だから、だろうか。
 最終的に、彼女は正直な願望を実行していた。
 太陽に焼かれながら、真っ直ぐノーマルの残骸へと向かい、装甲の梯子をよじ登る。
 そして、躊躇うことなくコクピットハッチを開けた。
 中は暗かった。
 その陰の中で、男が一人、俯き気味に座っている。
 あのレイヴンだ。死んでいるのか、眠っているのかも判然としない。
「レイヴン」
 呼びかけたが、反応はなかった。
 生死が気にはなったが、それ以上にやるべきことがあった。
 フィオナは、男のポケットを探る。
 罪悪感がなかった。『そんなことより』、と本気で思っていた。
 無線機。ライト。携帯食料。
 次々と遺品が出てくる。それらに混じって――思った通りだ――携帯電話が出てきた。
 フィオナはその携帯電話に番号を打ち込んだ。祈りながら待つこと数秒、携帯電話が呼び出しを開始する。
 相手はすぐに出た。

173AC4SSその28:2007/02/04(日) 22:09:45
『はい』
「ルーシュ、私よ」
 一緒に旅行に来ていた、ハイスクール来の友人はひどく驚いたようだった。
『フィオナっ?』
 たった一日――あるいはそれ以上かも知れないが――聞かなかっただけなのに、その声は妙に懐かしく聞こえた。
「そう。私」
『誘拐されたんじゃ……』
「それはもう終わったの」
 不思議なほど冷めた声が出てきた。
「ルーシュ、お願いがあるの。あなたの口から、この電話を現地の警察に知らせて。
そうすれば多分信用して動いてくれる。かけ直してきてもいいわ。
それとも……そっちでも、こっちがどうなったかはニュースになってる?」
『……え?』
「いえ、いいわ」
 そう言い、逃げるように電話を切ろうとした。
 そこを、心配そうな声が遮った。
『ひょっとして、もう大丈夫なの? 助かったの?』
「……うん」
『よかった……』
 その柔らかな声が、疲れた体に染みわたっていく。
 チクリと胸が痛んだ。だが、不思議と微笑が浮かんだ。
「うん、ありがとう」
 そう言って電話を切ろうとした。
 が、フィオナはそこで奇妙なことに気づいた。
 奥へ追いやった、レイヴンの体。その肩が――今上下しなかったか?
『フィオナ?』
 フィオナは応えなかった。
 ただじっと、何かを見定めるように、レイヴンを見つめている。
『……ねぇ』
 そこで、ようやく我に返った。
『どうしたの? 何かあった?』
「別に、そういうわけじゃないんだけど……」
 フィオナは口を濁した。
 否定したくとも否定しきれない。
 彼女は、この男を助けるよう動くべきか、それとも死を与えてやるべきか、本気で迷ったのだ。
 先程の戦いや、その前に見せた燃えるような目つき。
 彼は、この薄闇の中で息絶えるべきではないのか。
「ルーシュ、あのね……」
 だが、フィオナに実行するだけの義理も、勇気もなかった。
 結局彼女は、この場に重度のコジマ汚染患者がいることを、離れた友人に告げ、携帯を閉じる。
 遠くで、鳥が鳴いていた。

174AC4SS終了:2007/02/04(日) 22:10:44
以上です。

このような機会を頂き、本当にありがとうございました。

175名無しさん@コテ溜まり:2007/02/04(日) 22:14:28
GJ!マジテラGJ!!!!11111

176名無しさん@コテ溜まり:2007/02/05(月) 00:03:01
GJ!
AC4はやったこと無いが、純粋に一作品として楽しめたぜ。

178名無しさん@コテ溜まり:2007/02/05(月) 20:18:01

目覚めたのは白い部屋。
開け放たれた窓に掛かるカーテンがふわふわとなびくのが見える。

記憶が頭の中を駆け巡る。俺の名はNOVA。
俺は確か、自分の撃った弾丸が、跳弾して、頭に当たって……。自分の頭を触る。包帯が巻かれている。
俺は外を見ようとベッドを降りる。窓の外は車椅子で動いている人たちが見える。
ふと気づいた事だが身体が軽い。身体を見てみると逞しく引き締まっていた。
「そうだ。それが君だ」
だれだか分からない声が背後から聞こえる。
白衣を着ている。
胸のプレートにはミラージュのマーク。
どうやら医師らしい。
「残念ながら君の兄君たちは死んだがね……」
医者の目は在らぬ所を向いていた。
「君を助けたのは何故か分かるかね?」
俺は分からなかった。何故俺が助けられなきゃいけないんだろうか。
俺はいけない事をした筈だ。罰せられなきゃいけない事をした筈だ。
「それはね。君には適正があったからだよ」
俺がほうぜんとしていると、
「まあ、ついてきたまえ」
俺は言われる通りについて行く。

長く白い廊下を歩く。エレベータに乗り、地下に着く。そこは広い空間だった。
「さあ、あれを見たまえ」
医師らしき人物が指を刺した先に見えるのは鋼鉄の巨人。究極の人型機動兵器アーマード・コアだ。

「どうだね。驚いたかね」
驚いた。病院の地下にこんなものが在るなんて。
「どうだい。これに乗って、みたく無いかい?」
俺は肯いた。
「じゃあ、今日から君はこれに乗るんだ」
俺は肯いた。
「これで兄君たちの怨みを晴らしなさい!」
俺は肯いた。
これで怨みを晴らす。
「ようこそ新しいレイヴン。我々は貴方を歓迎します!」




179名無しさん@コテ溜まり:2007/02/05(月) 20:19:19
『作戦エリア上空に到着しました』

気がついたら俺はパイロットスーツを着用し、コクピット内に座っていた。
輸送へりのだばだばという飛行音が耳を貫く。
砂の大地が後ろに流れていく。所々にMTの残骸が見かけられる。
絶対にあいつを葬ってやる。
安価ACペドロフスキのジェネレータがそれに答えるように回転数を上げる。
こいつならやってくれる、そんな気がした。

‐‐‐‐安価アセン‐‐‐‐‐


頭部 EYE
コア U2
腕部 レムル2
脚部 二脚のS2

武装 ハンドレール
   実盾

‐‐‐‐‐‐‐‐‐

砂漠に降り立ったACペドロフスキを迎えてくれるのは、
これでもかと言うくらい移動要塞のような四機のMT。
武装はマシンガンに始まりショットガン、ライフル、ミサイル、
グレネード砲も確認された。
その中の一機が輸送機めがけてミサイルを放っていた。
後ろから爆音が聞こえた。
想像以上に感激的な出迎えだ。
俺はコンソールを叩き、ペドロフスキに命じる。
「戦闘モード、起動!」
ペドロフスキの高性能COMが素直に主人の命に従う。

作戦目標、敵勢力の殲滅。周辺地形データ取得。
中央マルチスクリーンにレーダー及び作戦領域を表示。
FCSを起動-全部武装への電力供給開始……最終安全装置、解除。

 <メインシステム、戦闘モード起動します>

―――――――――――――


高速で敵機に接近するペドロフスキ。
左腕に装備されたシールドを展開する。
巨大なシールドが前にそり出し、
その先端を敵機に向け、突進。
ずぶりと突き刺さるシールド。
突き刺さったものを抜くと
オイルを血のように噴出させ
MTは大地に屈す。
二機目の頭上ではそれを振り下ろす。
鋼鉄のシールドは敵の頭部から股下までを
自らの重量にて真っ二つにする。
三機目は味方に誤射され煙をあげる。
最後の一機はどうしたものか白旗を揚げている。
レーダーに映る三角が味方のそれに変わるが
ペドロフスキは容赦なく味方信号の出元を消した。

そして目標は現れた。

トラックの荷台の覆いが音を立ててはじけ飛び、現れる四本の巨大な腕。
それらは荷台に格納された武装から好きなものを選ぶ。
ヘッドライトの光が煌々と輝く。

180名無しさん@コテ溜まり:2007/02/05(月) 20:19:38
立ちつくすペドロフスキ。
対峙するのは2tトラック。
その四本の腕には銃器が握られ
戦闘態勢は万全であった。
トラックは間髪いれずに攻撃を放ってくる。
ペドロフスキはシールドを構え、その攻撃を凌ぎ切る。
その間にペドロフスキの右手に装備された兵装を展開され、
弾層から弾丸が薬室に送り込まれる。
折りたたまれた何本もの鉄柱が迫り出ると同時に、それらは紫電を纏う。
紫電は次第に極彩色の稲妻に変化する。
閃光。
超音速への加速を与えられる弾丸。
支配を解き放たれた凶悪な弾丸は世界を侵そうと銃身を飛び出し
障害物であるトラックを破壊し、虚空へと消えていった。
粉々にちぎれ飛んだトラックは無残に砂の地に転がる。
トラックは完全に消滅した。
残存兵力はいないかチェックをすると三角形が一個増えていた。
ACクラスの大きさだ。
だが俺は逃げない。
俺はレイヴンだ。それ以上でも以下でもない。
『依頼を完璧に遂行する。』
それが俺のの、いや、全レイヴンの存在理由なのだ。

マルチスクリーンに目を向けると目の前には赤黒いAC。
ACは空高く跳躍。グレネード・カノンを構え無しで発射。
ペドロフスキは直撃を避ける。
爆風で機体が軋む。
敵ACはきりもみで着地しミサイルポッドを展開する。
ペドロフスキはそれを見逃さない。
ペドロフスキのインサイドハッチが開く。
狙いはミサイルポッド。
赤い砲弾が飛ぶ。
それらは目標に喰らいつこうと空を翔ける。
唐突に発射されたロケット弾。
敵は回避しようとするが間に合わない。
幾つかが展開されていたミサイルポッドを掠める。
ナインボールはすぐさまミサイルポッドをパージする。
誘爆するミサイル。
凄まじい閃光。
遅れて聞こえる破裂音。

ペドロフスキは盾を構え、発射姿勢。
右手に握られたハンドレールガンはチャージ完了。
トリガーを引く。
トリガーを引く。
カチカチカ……、弾が出ない。
その原因を冷静に頭部COMが知らせてくる。

〈右腕部、破損〉

何時の間にかペドロフスキの右腕は切り落とされていた。
無常にも銃口はこちらを向いている。
凶悪な魔弾が発射された。

奇跡的に破壊を免れたコアを俺は自力で脱出する。
しかし眼前には女。
女は無言。
その手には大きな注射器。
女は暴れる俺を抑えつけ、それを首筋に打ち込む。
中の液体が体内を駆け巡る。
身体がびくびくと痙攣を始める。
俺の意識はそこで一度途切れる。

181シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/12(月) 23:38:58
レス二十個ぐらい、借ります。
時代設定はSLとNXの間。SL主人公は引退しているという設定で。
いつの間にかオリジナルキャラばっかり。

182シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/12(月) 23:39:45
   ※

 ACが一機、スナイパーライフルを片手にぶら下げて、ビルの谷間に身を隠す。蔭からカブトムシのような頭だけを動かして、パイロットがモニターの端っこに映るビルの向こう側を伺った。
 そのものがレーダーとなっているカブトムシの頭は、その性能の真価を発揮することが出来ずに、ただのアイカメラと成り下がっていた。
 コクピットの、対Gシート正面の操作パネル付近にあるレーダーは、ただノイズを撒き散らすばかりで、全く使い物にならなかった。
 高度な電波妨害がかけられているのだ。湯が沸騰するほどのECMの中では、アンテナはもはや無用の長物でしかなかった。
 おまけにFCSも機能しない。パイロットであるロッフは、舌打ちしながら、火器管制のスイッチを切って、腕をマニュアル準拠にする。
 マニュアル動作にすれば、ACの動作自体のバリエーションは増える。当然だ。FCSと言うのは、重火器を使った戦いの型を記したシステムであるからして、それを排除した後には、型の無い自由だけが残る。
 型が無いと言う事はとんでもない事である。一から十までの動作を人間自身の手でやら無ければならない。
 人間が自分の手を動かすのであれば簡単な話だが、人間が手を通して鉄巨人の腕を動かす、というのはとんでもない話だ。
 人のうちを通る電気信号は、ACに向かって流れてはくれない。いくら動けと念じても、ACが動くことは無いのだ。
 もし、それができるならレイヴンはもっと多くなっていると、ロッフは思う。
 要するに、マニュアル操作というのは無謀極まりないと言う話だ。
 ACが銃を持ち直す。右だけでぶら下げていた姿勢から、右でグリップを握りなおし、左でバレルを支える。
 中々様になる格好でビルの向こう側を伺う。
 ロッフは右足左足に対応したペダルを押さえ、唾を飲み込んで、後ろに気をやった。
 顎が上を向いてひくつく。
 今、ビルの向こう側からロッフを狙っているのは、ロッフも今までに何度と戦った相手だ。
 手の内が全くわからないわけではない。
 まず、敵が持っているのはスナイパーライフルではない。ロッフのACが持っているのはスナイパーライフルで、FCSの関係上照準的な優位に立てるわけではないが、集弾率などの観点からの有利には立てる。
 次に、敵はマニュアル操作において、ロッフに比べて一日の長がある。ロッフのACが銃を構えて撃つまでの間に、相手は二発撃つだろう。
 三つ目。敵は三次元的な戦闘が得意である。FCSどころかOS抜きのマニュアル操作になろうと、それは変わらない。ビルに脚を突っ込んで落下軌道を替える様なマネを兵器でやる奴だ。
 最後に、ロッフよりもよく考えて動いている事だ。何も考えずに戦っていると、すぐに裏を掻かれる。
 意を決して振り向く。迷っていてもしょうがない。すぐにビルから飛び出して、直ぐに振り返った。
 ロッフは、相手が必ず裏を掻いてくる事を念頭に置いている。ならば、ロッフ自身も裏を掻かねばなるまい。
 意味も無く自信を持って、銃口を斜め四十五度に構える。敵が中空を漂っていると信じて、銃口を向けた先にはビル街が広がるばかりだった。
 バカの様に口をあんぐりと開けて、半秒静止。個人的には裏の裏を掻いたつもりだった。正面切っての銃撃戦の後に、双方ビルの陰に身を隠して機を待つ。その中、敵が裏を掻くとするならば、精密な操機にて、敵の後ろに回りこむ事であろう。一方向にばかり気がいっている相手の後ろは、がら空きだ。
 前回はそれでやられた。
 ロッフがいくらバカであろうとも、少しぐらいは学習するのだ。
 しかし、あまりにも少し過ぎた。
 前回は、後方を走りよってきた敵にやられた。だから、ロッフは今回後方上空を向いている。
 途中までは間違ってないと言えるかもしれないが、最後の間違いが致命的だった。
 完全に不意を突かれた。耐Gシートを後方からの衝撃が貫き、コントロールパネルに頭を打って、たんこぶを作った。
「痛あ!」
 言いながらも、左足のペダルを踏み込んで、擦り足で振り返る。
 鼻を押さえながら涙目でモニターを確認する。

183シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/12(月) 23:40:33
 敵は裏の裏の裏を掻いていた。裏の裏は表である。
 つまり、敵は正直に、回り込まずに攻めてきたのだ。
 敵はもう上空に飛び立っている。ブースターを細かく制御しながら滞空し、両手を使って短いライフルを構えていた。
 発射体制に入った敵を見据えて、回避運動に移る。ACが垂直上昇を始め、脚のスラスターがオートで小刻みに向きを変え、スナイパーライフルのバレルを握っていた左を払ってブレードを展開した。発振器から伸びるプラズマの刃は、青く光り輝き塵を焼く。
 OBを起動するわけにも行かない中途半端な相対距離、敵はロッフが回避運動を始めたのも気にせずに三回トリガーを引く。
 全て狙いは的確。マニュアルで狙っているとは思えない精度でACを狙う弾を、ACは全て紙一重でかわす。紙一重以上でかわす事は出来なかった。
 一瞬でも気を抜いたらやられてしまう、そう考えて、ACに右拳を開かせる。ACの右からグリップが離れて、スナイパーライフルは地に向けてまっさかさま。
 フラフラとした機動で敵のACに機体を寄せ、ブレードを薙ぐために左腕を構えさせる。しかし、挙動がめちゃめちゃ大きい。避けてくださいと訴えかけているようなものだった。
 それでも、勝利を確信した。ここの所負けが続いている成績に、とうとう勝ち星をつけることが出来ると喜びの踊りを心の中で目一杯に踊る。
 期待通りにはいかないものだ。敵のACはビルに機体を擦りながら横軸をずらし、プラズマは空を焼いて、ロッフにはなんの手応えも帰ってこなかった。血が冷める。
 ロッフだって、何ヶ月もACに乗っているわけじゃない。避けられたことに気付いた時には、バカにするなとばかりに力いっぱいにペダルを踏み込んだ。昔ッからピンチの際に叫ぶ癖がある。
「止まれ!」
 FCSに依存しないブレードは、刃を展開したままエネルギーをジェネレーターから吸い続け、安物のジェネレーターの中のエネルギーはもう底を突きかけている。あと何秒もブレードを展開してなどいられない。
 それでも、ブレードを縮小するどころか、出力調整のつまみを無茶苦茶上に押し上げた。大嫌いな青汁を一気飲みした時のような顔になって、硬いペダルを懸命に踏み込む。決して、ロッフは貧弱ではないが、脇を掠める装甲付きビルに接触を始めた右脚のペダルは、石でも入れたように硬かった。
 ロッフのACはビルの窓ガラスにつま先を突っ込んで、三回分をぶち抜いて空中で豪快にバランスを崩した。幾枚ものリノリウムとその他諸々を押しつぶした右脚を上にして、頭が下に。
 真っ赤になっていた顔が、今度は見る見るうちに青くなって、青を通り越したら次は白くなっていく。頭に血が上っているのに、白くなるなんておかしい。鉄の胃袋が朝飯を戻しそうになる。
 同時に、エネルギーが切れた。切れる前からアラームが煩く鳴り響いているのに、ロッフの耳にはこれっぽっちも聞こえてはいない。ブレードの刃が力を失ってひょろひょろに痩せていく。
 ACは相当高く飛んだのだ。その上、頭から落っこちたのでは、着地のしようがあるはずも無い。さらにさらにその上に、見つめるモニターの向こうでは、敵のACがライフルを構えている。既にロッフのACはスナイパーライフルを捨ててしまっていた。

184シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/12(月) 23:41:48

 球体型のACシミュレーターが逆さまになったまま、上下左右斜めに滅茶苦茶揺れる。見ていた訓練生の一人が大きめのビニール袋を用意して待っていて、シミュレーターは優に三秒間がくがく揺れた後に、大きい縦揺れと共に停止した。ACの操機の振動すらも完全再現するシミュレーターを、固定するジョイントはとんでもなく頑丈らしい。そのジョイントすらも、弾け跳んでしまいそうな勢いで貧乏揺すりする。
 揺れるシミュレーターとリンクしているシミュレーターの方は、静かなもので、随分と安定している。殆ど揺れてもいない。
「一体どんな状況でこんなに無茶苦茶になるのかねぇ」
 呆然とした顔でつぶやくミレイは、さっきまでシミュレーターの中にいた。塗装もされていない素材むき出しの壁に囲まれた部屋の中には、九台のシミュレーターが用意されていて、三人一組で使うことを想定されている。ミレイは真っ先にやられて、真っ先に棺桶の中から抜け出したのだ。
 三人一組の理由は簡単なもので、最近のレイヴン訓練施設では、三人で一つのチームとして訓練することが義務付けられているからだ。レイヴンの志望者が増えたおかげで、訓練を高効率化する必要があったのだ。ただ、三人一組にする事で、レイヴンの癖に相手の個人的な情に深入りしてしまうケースが後を経たない。甘い奴が多いらしい。
 ミレイは、今シミュレーターの中で目を回しているであろうロッフともう一人、ハンナと同じチームとして訓練所に寝泊りしている。
 逆さまになったシミュレーターの中から、早くここから出してくれと、弱弱しい声が漏れ聞こえてくるが、シミュレーターは融通が利かない。さっきまでの振動の機敏さはどこへ行ったのか、ゆっくりのろくさと正常な定位置に戻っていく。中からいろいろなものがっひっくり返る音と、ゲエゲエと吐く声が聞こえた。ロッフはビニール袋を持って入っていったはずだ。
 気の抜ける音と一緒に開いたシミュレーターから、蒼い顔をしてロッフが出てくる。脇に抱えた消臭スプレーをシミュレーターの中にばら撒いてから、フラフラとした足取りでミレイに向かって歩き出す。
「気持ちわりい」
 言って、ビニール袋の中にまたもゲロゲロと吐く。この前酒のつまみを纏め買いした時に貰ったスーパーの袋は、随分とずっしりしている。少なくとも朝食は全部戻したようだった。
「お前いったいどんな操縦したらあんなんなるのよ」
「いや、だってお前、勝とうと思ったら少しぐらいは無茶するって」
 当然の事を青い顔のまま言うロッフにしかし、ミレイはまだ呆れたような声を返す。
「勝てると思うかよ、相手はハンナだろ。勝てるわけ無いって、今期最優秀なんだから」
 空いたシミュレーターの中に身を滑り込ませてから、酸っぱい匂いがすると騒いでいる訓練生がいる。ロッフは心の中でわびる。一生懸命拭いて、おまけに消臭剤をかけても、こぼしたゲロの匂いは簡単には消えない。ビニール袋が破けそうになった頃にようやく顔色は青から肌に近づいて、少しだけ気がラクになってきた。
「レイヴンになってもそんなこと言えるわけじゃねーんだから。お前は真っ先にやられてからに。今からでもちったあ頑張れよみっともない」
 ミレイはやっても勝てる気がしないんだがなあ、とつぶやき、最後に開くシミュレーターの方を見る。
 堂々とシミュレーターの中から出てくるハンナには、回りの人間は近寄ろうとしない。シミュレーターの数は限られているから、空席が空いたら、骨にむしゃぶりつく犬のように飛びつくのが訓練生の常だが、ハンナが出てきたばかりのシミュレーターには誰も近寄ろうとしていない。
 ハンナは遠巻きに自分を見つめる訓練生を一瞥してから、一息も置かずにシミュレータールームの出口に向かって歩き出す。

185シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/12(月) 23:42:02
 ハンナがシミュレーターから離れたのを見てから、訓練生がシミュレーターに飛びつく。直ぐにドアがロックされて、シミュレーターは稼動を始めた。
 ハンナがシミュレーターの前で立ち止まっていたのならば、訓練生は今もまだシミュレーターの中には入れずにいただろう。
 見ればすぐに分かる。ハンナは敬遠されている。ハンナを見る訓練生の眼といえば、操機そのものへの感嘆か、遠くから形の整った姿を眺めてぎゃあぎゃあ言う助平ぐらいなものである。話しかける奴はほとんどいない。大抵の場合は肯定否定の意志しか帰ってこないし、返答が無い場合だってたまにあるらしい。それは噂に過ぎない場合もあるが。まともに会話することなんて、殆ど無いと言うのはよく聞く。無愛想も程が過ぎると誰にも構ってもらえなくなる。
 ああでなければほうっておかないんだけどなあ、とミレイは惜しそうに呟いて、時計を見た。
 一時五十分。早い訓練生はもう昼食を終えて、座学講義にでも移っていることだろう。
 しかし、今日はミレイもロッフも座学講義の予約を何一つ入れていない。たまの休暇だと、昼食を施設の外まで食べに行く予定をしていた。男同士でデートなんて、本当は望む所ではないのだが、訓練所の食堂のうどんだかラーメンだかわからないスパゲッティを食べるぐらいなら、男とのデートの方がまだマシだ。電気屋のおっちゃんは早く食堂のコンロを治してほしいと思う。昨日食べた肉は生焼けだった。
 ロッフの肩を叩いて、出口の扉を右親指で指し示す。腹から水道管を水が流れるような音が響いていた。
 ロッフはミレイの様子を見て笑った。背中とお腹がくっつきそうな顔をして、外出を促そうとする様子。それを見ていたシミュレーター待ちの訓練生の一人がクスクスと笑うと、ミレイはちらりとそちらに目を向ける。顔は動かさない。笑った訓練生が女性である事を確認すると、二ヘラと笑って手を振った。どうせ夜にでも口説く気なのだろう。女のケツを追っかけていて、いいことなんてレイヴンには一つも無いのに、よくよく懲りないものだと思う。
「よし、俺は外にメシ食いにいくからお前は好きなだけあの子を口説いてこい。一度チャンスを逃したら次は無いぞ」
 言って歩き出すと、聞いたミレイは小走りになって付いていく。
「口説くためにも栄養はとらにゃあいかんのよ。世の中の動物はみんな体が資本なのよ」
「調子のいいやつめ」
 肩を小突きあって出口に向かう。シミュレータールームには、出口兼入り口は一つしかない。部屋から出ようと思えば、管制コンピューターへの警報装置もかねているタッチパネルを押さないわけには行かない。
 タッチパネルの前には先客がいた。ハンナだ。シミュレーションが終わってから、一度も口を開いていない。ロッフは、あんなに喋っていないのであれば口の中が腐ってしまうのではないだろうかと思う。無口は罪である。
 迷わなかった。同じチームなのに、声をかけない理由なんてあるものか。
「ハンナも一緒に外に昼――」
「いい、私は間接制御の講義予約を入れてるから」
 わざわざ話しかけるなよと、無言でジェスチャーをしていたミレイが、口をぽかんと開ける。声は出さないが、口の形から何を言いたかったかわかる。はえぇ。
 ハンナは無口であると評判である。イエスかノーの返事しか返さないと、基本的には評判である。
 ハンナの口は、マーケットに店を出す闇商人の、サイフの口ぐらいに硬いと言う。が、
「レイヴンになろうと言うのに二人で仲良く食事か、能天気だな。……それとロッフ、さっきの戦闘のバランス調整は悪くなかった。速度の殺し方を間違わなければ、お前が勝てたかもしれない。読み間違いが致命的だったな。ミレイ、まじめにやれ」
 ノーの理由どころか、皮肉とアドバイスが飛び出してきた。
「また今度一緒に行こうな」
 開いた扉から出て行くハンナにロッフが言う。懲りない奴だとミレイは思う。ハンナの返答を待たずに、安物の扉が閉まった。
 どうせ返事も無しで、惨めな思いをするだろうと踏んでいたミレイが、ネッシーでも見たような眼でロッフを見る。頭の悪そうな笑顔。
 シミュレータールームの訓練生の半分がポカンと口を開けていた。

186シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/12(月) 23:42:44

 閉じた扉を背中越しに見る。正直な話、食堂のよりもおいしい食事と言うのは、興味を引く話題ではあった。
 しかし、今はレイヴンになるための重要な訓練期間である。下手なことにうつつを抜かして、いざという時に失敗したら元も子もない。今遊んでしまってはバカになる。
 付き合っていられないとばかりに、タイル張りの廊下を歩いていく。
 
 今回は駄目だった。しかし次こそはと思う。毎度毎度一人で食堂に行くハンナに付き纏って、食事の誘いをするのは自分の役目なのだと思う。
 変な意味ではない。同じチームの人間として、である。
 いくらこれから一匹狼のレイヴンを目指すからといって、周りいる様々な人々との交流を自ら断ち切ってしまう理由なんてない。
 だから、ロッフは毎日毎日昼前になるとハンナを食事に誘う。いい加減煙たがられているかもしれないが、頭が悪ければ、諦めると言う単語の意味がわからない場合がある。
 当然の事だと思う。なんで皆目を丸くしていたのだろうか。
 既に、昼食を食べる店は決まっていた。三番プラットホーム前のステーキハウスに向かう途中には、小さい公園がある。富裕層の生活が安定してきた昨今では、子供連れの奥様方が口に手を当てて談笑していらっしゃる。
 天気は晴れ。
 ロッフは一応地下生まれの人間であるが、小さい頃の政府開発計画の一端で試験的に地上に住まう事が許された、平民層の人間である。物心付く頃には地上にいたから、綿菓子のような雲が浮かんだ、底抜けに蒼い空以外の空を知らない。地下の空はどんな圧迫感を持っていたのだろうと、少しだけ考える。
 空を一羽の鳥が飛ぶ。太陽をさえぎって、黒い陰になってロッフの視界をさえぎる。
 シルエットだけでは、どんな種類の鳥なのか判別をつけることは出来ないが、重力の鎖から逃れて飛ぶ姿は、見ていて気持ちのよいものだと思う。
 レイヴンというのはワタリガラスの事だと、聞いたことがある。
 なるほど、下らない制約に縛られずに戦う傭兵は、北へ南へと飛ぶ渡り鳥に見えなくも無い。
 ただ、それは一定の視点における話だと、思うのだ。
 レイヴンは所詮人間でしかない。人間は、自由を欲しがるものだ。目的を持ってレイヴンとなった者は、その目的の為に力と自由を手にいれ、自由を目的としてレイヴンになった者は、渡り鳥の生き方からすればあまりにも違いすぎる。渡り鳥は決して自由などではない。自由に見えるだけだ。彼らは、食物を得る為に翼を持っている。生きる為にそれ以外の方法を持たなかったからこそ、彼らは北へ南へと飛ぶのだ。彼らは空に縛り付けられている。羨ましいと思う無かれ、哀れと思う無かれ。所詮人と鳥は違うものだ。レイヴンなどという名前はただの傲慢だ。
 鳴き声が聞こえた。一匹で空を飛ぶ鳥の鳴き声でなく、助けを求める赤ん坊の声だった。
 視線を地に落とし、亀裂の入ったレンガを辿りながら歩き、その先に羽が小さく弱弱しい声の源を見つける。
 雛鳥だ。
 地面に落ちていると言う事は、巣から落ちたと言う事だろう。鳥の雛は、巣の中にいなければならない。そうでなければ、食事を得ることも出来ずにただ死ぬだけだ。
 頭上には、レンガの上の雛鳥よりももっと強い鳴き声が密集している。
 公衆便所のひさしの下、泥と藁で固められた巣には、三羽の雛が目一杯に口を開けて、戻ってきたばかりの親にエサをねだっている。落ちた雛には目もくれようとしない。仲間だという意識はどこにも無いだろう。自分の事だけに一生懸命になれば、仲間なんて堂でも良くなるものだ。親鳥だって、自分の子供のクセに、落ちた鳥には見向きもしようとしなかった。配慮しなければ、人の目にはただ冷酷だと映るだろう。
 ハンナもそうなのかも知れないと思う。自分の事だけに一生懸命になりすぎてるから、周りのことが目に入らない。だから協調性に欠けるのかもしれない。だったら、なおさらしつこく付き纏わなければならない。外から完全に接触されなくなったら、それこそ自己満足しか出来ない傲慢の塊になってしまう。ハンナという個人を知っている人間としては、それを見逃すことは出来ない。
 せめて巣の中にいれば、落ちた雛鳥も親鳥に見てもらう事が出来るかもしれない。
 ロッフは、ひざを曲げて屈んで、雛鳥を両手で救い上げて、過剰積載の巣の上にそっと乗せる。
 もしエサがもらえなかったら悲しいから、目を反らしたその先に、公衆便所から出てきて、シャツで濡れた手を拭くミレイがいる。間抜けな顔をしている。
 ハンカチぐらい持って来い。

187シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/12(月) 23:43:17

 ※

 ACのOSには、間接電源カットの過程にバグがあるらしい。足の間接が過電圧で焼き切れた場合、予備回線に移る前にOSの電源が一辺落ちる。だから、脚に攻撃を喰らった場合には、OSからコントロールを奪って、手動で電圧調整をする必要がある。
 正直、そんな話は耳タコだった。余分に取った座学講義をがらがらのテーブルに陣取って右耳から左耳へ。
 講義が終わった時にはもう外は真っ暗になっていたが、三十分程度の散歩ならしてもバカにもならんだろうと思って、外出許可を取った。頭の中のおぼろげな地図を頼りに、何とか公園に辿り着いて、ベンチに座って目を瞑った。一分だけのつもりだ。余分に寝るつもりは無い。

 毒ガスというやつは実に手に負えない代物である。
 この世の生きとし生けるものが必要とする、呼吸という行為を逆手にとった至極面倒な兵器が毒ガスだ。
 その毒ガスにもピンからキリまであって、大昔も大昔、文献の端っこにしか確認できないペロポネソス戦争でスパルタ軍が使ったという亜硫酸ガスから、イープル戦線ドイツ軍の塩素ガスから昨今ではキサラギの腐食ガスがある。腐食ガスは企業秘密だからして一般人は知らないはずだが、数年前に都市部で起ったテロの時にゴシップ誌がどこから情報を盗んできた。以来まことしやかに噂されている。
 腐食ガス程でなくても、塩素を町中に満たすだけで人間ぐらいは皆殺しに出来るのだ。要は、呼吸できなくすればいいのだから。
 それを大それたことを実行する人間は今日日依頼を受けたレイヴンくらいのものだ。
 人間が、まだサイレントラインの存在も知らない頃に潰し合いを始めた時の、一撃目のパンチが、今フォークロアを覆う塩素ガスだ。
 後日、毒ガスの使用を人類間で規制する「フォークロア協定」立案のきっかけとなるこの事件の死傷者は数えきることが出来ない。生き残った人間は、何万分の一課の幸運の持ち主に違いない。
 ハンナがその幸運の持ち主である。まだ、今の所は。
 ハンナは学校側の意向で、密閉室でテストを受けるクラスの一員だった。相当なスパルタ教育が社会問題として取り上げられる事が多い学校で、今回も行き過ぎで頭の悪い教育の一環だった。生徒数人を部屋に閉じ込めて一体何をするつもりか。
 結局の所、それが幸運だったのだ。警報が鳴り、密室からでる事を禁じられたハンナは、すでに塩素ガス濃度が薄まった頃に外に出た。部屋から出て家路についた。軽度の二酸化炭素中毒ならば、まだ救いようは有る。その上に多少の塩素中毒が重なったとしても、だ。記憶障害の一つも起るかもしれないが、命の重さに比べたら軽いものだろう。

188シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/12(月) 23:43:56

 密室なのだから、人が集まれば当然二酸化炭素濃度がぐんぐん上がる。ハンナは自分でも気絶したことに気付けなかった。
 目を覚ました時に、目の前にあったのは気絶した担任教師の足だった。気絶したことにすら気付かず、酸素の足りない頭でリノリウムを叩く。
「痛い」
 もしかして、死んでいるのではないかと思った。あんまり頭がぼうっとしてるものだから、ハンナはすでに天国にいるのではないかと思った。
 天国には天使がいないのだな、とぼんやりした頭で考えた末に、死んでいるなら頭を打っても痛くないだろう、と思っての行動である。
 体中が酸素欠乏を訴える。体中がだるくて、でも感覚が薄い。鈍い頭では何事を考えても直ぐに諦めてしまう。一から数えても四までしか数えられなかった。
 周りの皆はまだ倒れたままで、朦朧とした頭は先生が言った。「先生がいいというまで外に出てはいけません!」を覚えていなかった。
 ハンナには生来わんぱくな所があったので、そんな事を覚えていた所で結果は大して変わらなかったのではないかと思う。
 酸素不足の頭が、学校から終わったら家に帰らなければならないと、思うまでにそう大した時間はかからない。
 一般には、酸素不足の脳は思考が鈍くなるので、判断力が低下するものとされており、また信じられてもいるが、それは大きな間違いである。
 深く物事を考えられない頭は、判断を迷わなくなる。一つ目の選択肢以外の選択肢を見つけるだけの思考が、働かなくなるからだ。結果的に、判断までに至る時間は著しく減少する。迷うだけの材料も見つけられないハンナの頭は、ぼやけた視界の中に幻の夕暮れを見た時、家に帰って母親のシチューが食べたいと思った。
 そう長時間倒れていたわけでなく、密室の圧力処理も必要なかった。赤いスイッチを押して、表示された四桁の番号を電卓のようなロックCOMに打ち込んで、扉を開けた先には、見飽きた廊下の灰色がある。
 リノリウム張りの天井と、タイル張りの床を歩く音だけが耳に強く残った。いつもはもっと騒がしいのに、と思いながらも片手を窓に突きながら右足を引きずって歩いた。
 最初の曲がり角には人が倒れていた。
 が、保健室に行ったほうがいいのになあ、と思っただけで、倒れている死体には目もくれなかった。ただ、眠っているだけだと思ったのかもしれない。
 水道から水が出しっぱなしで、窓は開いたままで、空気が少し妙な味だった。
 夕焼けの赤がどぎつくなっていて、血よりも赤くなっていて、歪んだ視界の中でどす黒く輝いて、何でもかんでも焼き尽くしてしまいそうになって、変な恐れを抱いてハンナが走り出したその時、巨大な爆発音が響く。
 一体何事かと、安物の窓のロックをこじ開けて、その向こうを見る。赤高紫だかわからない町の色がある一点だけ灰色の煙に包まれていて、その向こうで火の手が上がっていた。
 火は酸素を燃やすが、そこに生きている者がいなければ、それは大した問題ではない。
 爆発の勢いとエネルギーは、集まった塩素を一気に吹き散らすのに最も効果的な方法である。
 次の手を撃たなければならない企業側にとって、毒ガスに侵されたままの街がそのままになっているのは大きな問題で、それならいっその事町全体を更地にした方がマシだと言う事だった。
 非人道的というものである。そして、金を払えばその非人道的も難なくこなしてみせる変態がこの世には数多くいる。
 レイヴンという、自身がただの人間である事を否定する、夢見がちなクソ野朗だ。
 ただ、そんな事子供には関係あるわけが無い。レイヴンなんて男の子供がテレビ越しに憧れるロボットでしかない。機械のどこがかっこいいのか、ハンナにはわからない。男は下らない遊びにばかり夢中になる。
 今、夕日で起る爆発の中心点に、そのロボットがいる。相変わらず無骨なばっかりで、ちっともかっこよくは見えない。
 肩に担いでいるのは黒い筒で、そのロボットが向いている方向は、温かいシチューが出来ているはずの我が家のある方である。

189シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/12(月) 23:45:52
「なあ、こんな所で寝ると風邪を引くぞ?」
 もう夜も遅くなってきて、お天道様は山の向こうにとっくに隠れてしまった。食事を食うだけと言いながら、さんざん娯楽施設によって、いい加減宿舎の寮長にも追い出されそうな規約違反だった。外出予定時間を大きくはみ出して、そろそろ帰らなきゃならないはずだ。そうだというのに、ミレイは歓楽街の方に行ったきり戻ってくる様子が見られず、溜め息をついて来た道を戻った。
 そんなロッフの目に映ったのは、夜も遅い公園のベンチで無防備にも寝こける女の姿である。最近性犯罪が増加していると聞く。いつの時代になっても、男というのはアホなもので、脳みそで無く棒で物を考えるやつは少なくないようだ。どんな貧困な時代になっても、モラルが無い奴なんて幾らでもいるのだ。
「起きろよ、こんな所で寝てたら寒いだけだ」
 揺すり起こしてやろうと、近くに寄ってから、それがチームの人間であると気付いて、コレはいかんと思って起こした。
 実際、そんな問題なんかよりも、会話を産むチャンスだと思ったのは記述しておく。
 それでも、起きる気配が見られないので、起きるまで待っていようと思って公衆便所の方を向いた。昼間助けた雛鳥がちゃんと巣の中で寝ているかどうかが気になって、いても多ってもいられないから、わざわざ公園を通っていた。
 暗い公園を街灯が照らし、蛾がそれによって飛び回る。耳障りな音を立てて蚊が耳元を通り過ぎて、右頬を自分の手で叩いたが、蚊を仕留める事は出来なかった。強い力でひっぱたいたから、頬がひりひりして、きっと赤くなっているだろうなと思いながら見た、赤いレンガの向こうの公衆便所のひさしの下。
 もう、鳴く元気も無くなった雛鳥が一匹だけそこにいる。
 結局、親に子供と認めてもらえなかったのかもしれない。見上げた巣の上では、酢一杯を使って親鳥と雛鳥三匹が眠っていた。束の間の休息を、自分の血縁を差し置いて得ている姿が、見ているロッフにとても切ない表情をさせる。
「やっぱり駄目だったのか……」
 わかっていたことではあったのだと、自分に言い聞かせる。言い聞かせながら震える雛鳥から目を離そうとして振り向いた。
 振り向いて、立ち去ろうとしたが、後ろ髪を引くものがある。
 生来、ロッフには往生際が悪い所がある。
 渋い顔をして、回れ右をする。
 乾いた瞳でうずくまる雛鳥を両手で掬う為に屈んで、膝をついた。触れた雛鳥はまだ暖かくて、今ならばまだ間に合う筈だと思った。
「やめろ」
 後ろから声をかけられて、振り向く。
 座ったまま、重そうな目蓋をこじ開けたハンナがいる。
「起きてたのか? 意地が良くないな」
 立ち上がって、言う。ハンナは座ったままでまともに会話をする気を持ち合わせていなかった。はぐらかされるのは嫌だと思っている。
「一回巣から落ちた鳥はもう助からない。巣の中に戻すだけムダだ。ムダな事をわざわざするのはいいことじゃない」
 話に乗られることを多少期待したロッフは、苦い顔をして、ハンナを正面から見て、それから雛鳥に横目を流す。
「ほんとに意地が良くない。こっちの言う事を少しぐらい聞いてくれたっていいだろ? それに、助からないって決まったわけじゃないじゃないか。そうやって諦めさせようってのは良くない」
「雛鳥を助けようだなんて、中途半端な事をしても何にもならない。止めておけ。助けた所で近い内に死ぬ」
 言い切った物言いに間違いがなく、ロッフには挟む口がない。
 挟む口がなければ、会話が続くはずも無かった。
 話せばわかる、なんて言ってられない。赤いレンガの亀裂を目で追っかけて、ありの列を見つける。さっき潰しそこなった蚊が首筋に止まった。平手が首を叩く音だけが夜の公園に響く。
「……お前はなんでレイヴンになろうと思った?」
 何を話せばいいかわからなくなって、練習生の間では一期に一回はされる質問をした。
 野次馬根性から言えば、人がレイヴンになるきっかけを作った出来事というのには興味がある。
「そんな事を聞いてどうする? レイヴンが他人の事情を気にするのは、おかしい話だろう? レイヴンは空を一人で飛ばなければならない」

190シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/12(月) 23:46:23
「渡り鳥だって群を作って南に飛ぶんだ。一匹狼は狩りも出来ずに荒野でのたれ死ぬのが常だ。他人の事を気にしたって罰は当たらないよ。隣の事情を知らずに、人間やってるなんて、馬鹿馬鹿しい」
 一体何を思っているのだろうかと思う。やはり、自分が言う事はくだらないと、心の中では全く相手にしていないのだろうか。
「まだ、レイヴンの候補生でしかないんだ。相手をひっぱたくことも無いだろう?」
 確かに甘えだ。わかって言っているのならともかく、最近のレイヴンの間には生ぬるい空気が漂っていると、最近はよく話しに登る。この原因こそが最近の訓練所のチーム制であり、訓練生の質の低下と馴れ合い根性である。荒んだ心でなきゃ人殺しなんか出来ないのに、レイヴンはかっこいいから、なんて理由で研修に来るお坊ちゃまが後を絶たない制で、ここ数年のレイヴンの質は下がりっぱなしだった。そこのところ、オペレーターの養成を担当する部署からも文句が出ているらしい。
 わかっていればいいのだ。
 突然、彼女が切り出した。
「お前は毒ガスを吸った事があるか?」
 問いに対して、ロッフは不意を突かれて素っ頓狂な声を上げた後、首を横に振る。
「いや」
「毒ガスを吸った時、人間はまず息苦しさを感じる。酸素が足りないことをいち早く察知した肺が神経に訴えかけて、酸素を得るように指示が出される。軽度の呼吸困難が危険信号だ。酸素は人間を動かす大事な要素だ。無いと苦しいに決まっている。呼吸困難になって、その上に毒ガスを吸うと、まず感覚器が侵され始め、次に脳が活動を鈍らせる。脳は酸素を多く使用している。人間の要になる脳が節約を始めると、ろくに考え事が出来なくなる。考え事が出来なくてまごまごしてる間に筋肉にも酸素が足りなくなる。体が毒に犯されれば、神経が麻痺して感覚がどんどん鈍くなって、最後には立てなくなる」
 用の無い畑の話は、誰が聞いたって興味を引ける話題である。ロッフはだまって聞いている。腕を組んで、考え事をしているようにも見える。右の頬が赤くなっていて、左の頬に蚊が止まっている。
「まだサイレントラインも見つかってない時の話だ。私が生まれた町の名前はフォークロア、人口四万五千人のクレスト管理区、富民街に私は住んでいた。街を襲ったのは塩素系の毒ガスで、助かったのは私を入れて十四人。キサラギが積極的にクレスト自治区に侵入した前例は無かったが、毒ガスを最も保有しているのはキサラギだった。あの時に、街のど真ん中にはACがいたんだ。その時にはまだ私はレイヴンがどんなヤツラなのか知らなかった」
 ハンナが一呼吸した。ロッフが唇を噛んでいる。
「そのACが毒ガスを撒いたわけではないらしい。なんでも、先客のレイヴンがその場にはいたらしいな。それを止める為に私が見たACが派遣されたらしい。
 レイヴンを止められるのはレイヴンだけだ」
 死ぬような思いをした筈なのに、随分とあっさりと纏められてしまった。簡単に話せてしまうような事実に殺されかけたのだと言う事は、感慨に値するのだろうな、と思う。
 彼女は嘆息を付いた。
「私は話したぞ、次はお前が話せ」

191シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/12(月) 23:46:46
 声を向けられて、ロッフは直ぐに喋りだした。最初ッからそのつもりで話題を切り出したとも思える。一つのことが原因でレイヴンになろうという人間は、きっかけになった出来事に取り付かれる。
「俺は地下の貧民街から、くじ引きで地上に上がってきた人間の三世だ」
 ハンナが多少驚いたような顔。そもそも、地上というのが人類の帰るべき場所だとされつつも、地下と地上の環境はあまりにも違う。だから、貧民街のいらないと判断された人間の中から、抽選で地上で暮らす人間を選んだらしい。
 地上に出た結果、人間には一体どんな影響がもたらされるのか。理論はいくつも発表されていたが、実際に何が起こるかは、やってみるまではわからないのだ。貧民は生贄として地上で暮らし、企業は一丸となってその監視をした。
 この活動で人類に貢献したという貧民は、貧民層から一層か二層、位を上げてもらえるらしい。事実、コレで偉くなった貧民が治める街もいくらかあると、人は聞く。
 相当珍しいらしいが。
「当時、抽選で選ばれた人間は総勢で一万人もいたらしい。それなのに、今地上に存在する市外には、元貧民だと言う人間があまりにも少ない。東の方の市の市長に貧民出身がいるらしいが、西部の方ではそいつは成り上がりだと、嫌われている。テロだって少なくないらしい。元貧民は企業から庇護を受けてる卑怯者だってな。人間は差別的でなければ生きていけないし、俺が物心ついたころには親父も母さんもいなかった。……これじゃあだめか? もっと詳しく言わないといかんかな?」
 最近のレイヴン候補生は坊ちゃんばかりである。その坊ちゃんがする質問に、本気でレイヴンになろうだなんて奴がまともに答えてたらキリが無い。
「それだけ言えばいやでもわかる。それ以上言わなくてもかまわない」
「そうか、恩に着るよ。試験に合格するまでに恩は返すからさ、首を長くして待ってるようにな」
「誰がそんなものを待つものか」
 ハンナを尻目に、ロッフが雛を拾い上げる。どうせ死ぬのに。すぐに死ぬのに。ポケットからハンカチを取り出して凍える雛を包むロッフは、自分が何をしているのかわかっていないように見えている。
「無駄な事には賛成出来ないんだがな」
 まだ話し合わなきゃならないことは多いみたいだ、とロッフが笑って言った。

192シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/12(月) 23:47:15
 
 ※

 見るからに趣味の悪い部屋だ。
 赤い絨毯が敷き詰められていて、成金趣味の金飾りが壁に多く掛けられている。絵に描いたような、重役用の木の机。最近ではすっかり木も高級品になってしまった。地上に出て三十年ほどしか経っていないと言うのに、採れる木を片っ端から採っていった所為で、地球にはハゲ頭が増えてきている。クッションが敷き詰められた黒皮のソファには脂がこってりと乗った男が座っていて、一本の電話を受けている。
 壁一面を占領する窓の向こうは真っ暗闇で、遠く、街の第三防衛線の辺りでかすかな光が点いたり消えたりしている。
 男が座るソファは人が三人ほども入っていそうな大型のテレビと正対しており、そのテレビは丁度半分から画面を割って、右半分にニュースチャンネル、左半分に警備カメラ直通チャンネルを開いている。
 警備チャンネルが映すのは、街の各防衛線の様子だ。巨大な街には多くの人間が住み、それだけ多くの人間がいれば避難活動にそれだけ時間が必要になる。もしも、非難する人間自身に危機感がなければ、円滑な避難を図る事は出来ない。街の住民に、説得する為に、各防衛線に設置されたカメラの様子を映すのが警備チャンネルだ。
 警備チャンネルに配信する映像は、無人の哨戒塔に勤めるMT部隊の人間が随時チェックしている。必要とあらば、部隊の人間が映像を改竄する事だってある。
 しかし今はまだ、脂ののった豚は改竄の命令を出していない。
 豚はいつ何時、どの世界でも偉いのだ。いい物を食べられるのは金があるからで、金があるのは権力がある証拠で、権力があるというのはつまり偉いと言う事である。
 豚の持つ立派な肩書きの名前は「キサラギ第二支社代表取締役」である。
 警備チャンネルが伝える情報はウソではない。今しがた、針山のように機銃を装備したMTが爆発に巻き込まれて吹き飛んだ。針の一本一本がバラバラに飛んで、曇り空に向かって飛ぶが、力があまりにも足りない。夢半ばにして軌道を重力に叩き折られる。
 街はキサラギ社が管理する都市の一つで、キサラギのスポンサーとなる富民層が特に多く住んでいる。
 つまり、第二支社がこの街を守るのに失敗すれば、キサラギの財政状態は著しく悪くなると言う事だ。
 豚は、汚らしい口をクチャクチャとならして、機嫌が悪そうに電話に応対している。
 ニュースチャンネルは、敵が近づいてきている事を取り上げている。
 もうすぐ、街の警報が鳴って、女の声でシェルターへ逃げる旨をがなりたてるはずだ。
 豚に向かって受話器が告げる。
『貴社が提供してくれた生体兵器の威力は予想以上だったが、貴社の防衛部隊も予想以上にしぶとかったようだ。奇襲をかけた三つの生機課のラボの内、二つ目と三つ目に向かった部隊との連絡が六時間前に途絶えた。
 更に、わが社が管理する街の防衛部隊の一つが消息を絶った。三十六番特殊武装部隊。毒ガス装備の対人部隊だ』
 豚の額に、その身の脂を削った汗が浮かぶ。見ているだけで気持ちが悪くなってくる。
『そちらとの契約では、私達は生機課のラボ攻撃を手伝うだけの筈で、私たちが貴方を手伝う義理はもうどこにも存在しない。むしろ貴方達が同士討ちでもしてくれると非常に助かる。そちらが管理している都市は、キサラギに出資している人間の三十パーセントが住んでいるとか』
 豚が苦し紛れに反論する。
「だまれ! 打つ手が無いわけではない。この都市にはレイヴンの養成施設がある。いくら近辺に偶然にもレイヴンが少ないとは言え、施設に連絡をすれば候補生が二十人以上も送り出せる。お前らにこれ以上借りを作る気はない!」
 勢い任せに受話器を電話本体に叩きつけて電話を切る。
 しかし、と思う。
 確実にこの都市を守らねば、キサラギ社の経営は十年先までガタガタになるだろう。倒産だってしかねないし、そうなれば豚は自分の肉を保てなくなる。
 いくら二十機以上ACがあろうとも、乗ってるのが新米では確実性に欠けるというものだ。
 豚はケチである。ケチとがめついは違うものであるが、豚は両方とも兼ね備えている。
 ケチでがめつい。
 だから、金を多く使うのが惜しかった。
 しかし、背に腹は替えられぬ。
 一人だけ、一人だけ本物のレイヴンを雇おう。確か、近くに最近ナインブレイカーになった奴がいたはずだ。
 相当な変わり者だと、風の噂に聞いている。なんでも、人殺しが嫌いだとか。人殺しをしないわけではなく、必要とあらば殺すらしいが、自分の身を多少削るぐらいならガマンして、人死にを避けるという。
 バカな奴だ。そう言う事だから、所詮レイヴンでしかなくて、出世も出来ない。
 死ぬまで傭兵をやっているのがお似合いだ。

193シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/12(月) 23:47:50


 オーバーホールが終わって、帰ってきた機体の動作チェックをやった。
 エンジンを温めて、OSの強制割り込みをカットする。各部の動作状況を確かめるのに、動作の固定化は寧ろ邪魔だ。
 ジェネレーターが暖まる前に予備電源を動かして、機体コード・グレイラの各部に信号を送る。
 汪生はチャンネルを全身に割り当てて、帰ってくる信号を拾った。二百八重送った信号の全てが演算装置に帰着したのを確認して、マニピュレーターを動かす。
 ブースターの偏向速度を調
「汪生、おうき! 緊急通信、キサラギの偉い人から、そっちに送るよ」
 すっかり機械の方にのめり込んでいた汪生は、外部からの声に急に引き戻される。
「え? はい、わかりました。回線は開きましたから、こっちに転送してください」
 こんな夜に緊急回線なんてふざけてんじゃねーわよ、下らない用事だったらぶっ殺してやる。
 オペレーターのサオリが呟く声が丸聞こえである。
 依頼だったらいいな、とは汪生自身も思うが、下らない用事だったらぶっ殺すとまではさすがに思わない。
 つい最近にアリーナの頂点に立ち、ナインブレイカーと言う大それた称号を頂いてからは、むしろ仕事の依頼が減ってしまって、困っている所なのだ。
 アリーナで買った金の半分をスラム層の子供たちに寄付してしまった所為で、金にもあまり余裕を言ってはいられない。寄付した後一ヶ月は、サオリに顔を合わせる度にばかめばかめと文句を言われた。
 賃金の半分以上を協会側から支払われてる癖に、人の行いにケチをつけるなと言いたい。
 モニターの真ん中に現れたウインドウには豚が映っていた。
「凄い顔ですね」
 思わず言ってしまった汪生はジト目で睨まれたが、そんなことに構っている暇も相手には無いらしかった。
『仕事の依頼を頼みたい』
「はいはい、ご用件承ります」
『先程、この街の第三防衛ラインが破られた。攻めてきているのは昨日、ミラージュに壊滅寸前まで追いやられたと言う、わが社の生体機械課の防衛部隊残党だ。生体機械課が持つ総戦力よりいくらか少ないが。防衛部隊の隊長は、ミラージュに攻撃されたにも関わらず、キサラギ本社が裏切ったのだと、訳のわからない事を言っている。報復をするつもりらしい。
 我が社の出資者の三十パーセントがこの街に集中している。それを破壊することが敵の目的だろうが、先程ミラージュから、保管していた毒ガスが奪われたと報告があった。この街全域を覆えるだけの量らしい。富民街を潰すだけなら、そのような量は要らないはずだ。彼らを止めて欲しい』
「毒ガス!? そんなものを使うつもりでいるんですか?」
『真偽はわからない。しかし、もし本当だとしたらそれを放って置くことは出来ない。報酬はそちらの要求に従おう』
 本当のところを言うと、この時点で汪生は騙されているのだが、汪生自身がそれには気付かない。企業が言う正当な話には必ず裏があるはずだった。
「わかりました。報酬は40000crでいいです。そう言う事だったら、僕自身が進んで止めたいぐらいだ」
 お人好しは世の中を渡るのが下手なのが常識だ。目的に便乗して、搾り取れるだけ搾り取る度胸が無いと、レイヴンなんて普通はやっていられない。あっというまに素寒貧になってしまう。
 通信が切れる。
 第三防衛ラインの崩壊が確認されたと言う事は、すぐに街に攻め込んで来ると言う事だ。急がなければならない。
 起動モードをクルージングモードを飛ばしてコンバットモードにして、グレイラが壁に立てかけた二挺のマシンガンを手に取る。
 通信。
『一体なんだったの?』
「こういうときぐらい、盗み聞きをしといたらいいんじゃないですか? 仕事の依頼です。この街に攻め込んでいる敵を止めます。……グレイラ、起動しますよ!」
『報酬の交渉は!?』
 グレイラは立ち上がって、狭い排気口から目一杯に空気を吐き出す。耳を劈く廃棄の音が、狭いガレージ内に広がって、サオリは負けじと声を張り上げる。
「四万です! 利害が一致したんですよ。ふんだくる必要はありません」
 サオリが歩き出したグレイラにレンチを投げつける。細腕に似つかわしくない勢いがついたレンチは、装甲に当たって大きく音を立てるが、その音も廃棄の音にかき消される。
『アホ! 私のボーナスも考えろ!』

194シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/13(火) 00:21:06
板全体のスパム回避のキーワードに引っかかってるらしい。
広告爆撃があったもののキーワードを全面禁止してる所為で巻き込まれてるようだ。
がんばって原因を探してみるが、時間がかかるのは間違いない。
勘弁頼む

195シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/13(火) 00:25:49
 寮の入り口で「減点五」と呟く寮長を尻目に、チームに割り当てられた部屋に向かう。カードキーをパネルに差し込んで
 警報が鳴った。
 廊下に備え付けられた警報は、壊れているのではないかと思われるほどボロボロのものだったが、赤いランプがぐるぐると回りながら点滅して、正常に機能した。
 ぶーぶーぶーと耳障りな音が聞こえて、ロッフとハンナは何が起ったのかと右へ左へ首を回す。
 直後に目の前にあったドアが開いて、ミレイが飛び出してきた。夜の街に飛び出していった筈なのに、何でここにいるのか。
「お前なんでいるのよ」
「んな事言ってる場合じゃねえ! そこのニュース見てみろ!」
 警報がうるさくても、音量を最大にされたテレビは高らかに原稿を読み上げる。キャスターが明らかにカメラの方向を向いていない。カメラ横にはカンニングペーパーがあるのだと思う。
『既に第三防衛ラインは崩壊しております。避難勧告に従い、落ち着いてシェルターに向かって下さい』
 同時に、警報と一緒に全館に訓練所の総責任者の声が響いた。最大音量の放送。
『キサラギ第二支社より出撃命令が出た。訓練生は直ちに割り振られた標準ACに乗り込み、出撃せよ! 尚、今作戦に生き残った者には無条件で第一級レイヴンライセンスを与える。今作戦は試験である。簡易的な装備変更は認められる。装備の確認を怠るな』
 放送が一度終わって、もう一度繰り返すと言っている間に、ミレイがまくし立てる。
「簡単な話じゃないらしい。防衛線が壊されそうなら、ただの試験には過ぎる課題になるだろ、気を抜くなよ」
 もう、その時にはロッフもハンナも気を取り直していて、次にやるべき事を考え始めている。まず、ACを起動させる必要がある。ロッフは部屋の中に駆け込んで、机の上に眠ったままの雛を置いた。
「それはお前ではないのか?」
 普段はミレイに向かって憎まれ口も叩かないハンナの声を向けられて、ミレイが多少よろめくが、すぐに立ち直って走り出す。
 ロッフ達に割り当てられた六番ハンガーの桟橋を渡って、それぞれの機体に乗り込んだ。
 外部から接続してACにアクセスして、ロックを解除させる。レバーを三回捻って、五十の装甲に覆われたコクピットブロックに身を滑り込ませる。
 ロッフは、自らの機体に割り当てられたハンガーアームに命じて、低性能のレーダーを取り外し、ライフルを取り払った。あまり多くの装備を取り替えている時間はなさそうだったから、取り急ぎスナイパーライフルと高級レーダーを積む。
 ロッフのACの隣では、ハンナのACがライフルを速射性の高いものに交換しており、その向こうのミレイはライフルをマシンガンに交換していた。
「俺がバックス、ミレイとハンナはフォワードを」
「了解だ」
「わかっている」
 橋が折り畳まれ、申し訳程度の小さい扉が開いていく。
 夜で、真っ暗で、雨雲が空に広がっていて、雨粒が落ちてきた。
 何か悪い予感がする。

196シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/13(火) 00:27:43
一文丸ごと引っこ抜いて、やっとかきこめた。引き続き、お楽しみいただければ嬉しいかと

197シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/13(火) 00:28:16

『左方向百八十に敵機が来ている! ミレイは右方警戒、私は前をやる! ロッフ、確認できるか!』
「見えてる! こっちのレーダーの方が広い。FCSが届かない、マニュアルで撃つぞ!」
 さすがにOSとリンクしているFCSを交換するほどの時間も無く、スナイパーライフルはともすれば宝の持ち腐れになりかねない。
 それでも、目分量で狙えるのならそれで問題は無い。
 右でグリップを強く握り締め、左でバレルを支えて安定性を高める。
 解像度の悪いアイカメラでフロントとリアの両方のサイトを拡大し、開けた広場の中をバズーカを構えて加速するMTを横目で見る。
 門と星を線で繋いで、更にその線を延ばしてMTを結ぶ。
 そして、その点から少し左。
 視界の右に向かって加速するMTは、今にもバズーカを発射しそうだが、焦ってはいけない。焦ってはドツボにはまるだけである。バズーカの銃口はロッフの前方百を行くハンナ達を狙っている。甘い。
 目視で、MTのやや前方を狙う。距離計算と弾速計算をいっぺんにやって、ロッフはライフルをトリガーする。
 マッハの壁を一瞬で突破した弾が、瞬きをしている間にMTの肘を撃ち貫く、衝撃がボディに通って、MTはバランスを砕かれる。
 よろめいてる間に二発目。
 今度はヒザを貫かれて、MTは勢いを殺せずに転がって動かなくなる。
 雨が降っているおかげでコクピットが蒸し暑い。水に濡れた鉄が嫌な匂いをしている。
 ロッフが一機無力化させたときには、ハンナは二機を無力化させている。
 ハンナの短銃身ライフルは弾速こそスナイパーライフルに劣るものの、その取り回しやすさは特筆に価する。最速で間接を撃ち抜いていけば、回転率はどこまでも高くなる。
 広場の右側でバズーカを構えるMTがいる。
 左を狙っていたロッフは、右に狙いをつけなおすことが出来ない。あまりにも距離が離れていて、上手く援護が出来ない。
 それぐらいはフォワードだって把握していることだ。
『ロッフ、狙える所だけを狙えばいいんだ。手動照準が出来るだけで大したものなんだからな!』
「忠告痛み入るよ」
 マシンガンを持ったACがOBで急接近し、眼前に迫ってマシンガンを乱射する。一発一発の威力を最大限生かすために、相対速度を引き上げてMTに弾を浴びせる。
 衝撃の強い弾がMTの各部を打って、動きを鈍らせていく。
 剥き出しになった回線から、MTのパイロットの舌打ちの声が聞こえてくる。
 舌を打ちたいのはロッフ達だって同じことだ。予期もしていなかった戦場には、思いもよらない死の形がごろごろしている筈で、細い神経が砥石で削れていく気がする。
 ミレイのACが足を伸ばしてレンガの上を滑らせる。押し付けられた機械の足が、水溜りと大量のレンガを砕き散らしてACの速度を殺す。
 ACが右足を前にする。左が後ろで、左拳を浅く引く。マシンガンはもうトリガーされていない。MTは衝撃から回復していない。動くことが出来ずに、飛び散ったレンガを一身に浴び、ACが引いた拳から光の刃を伸ばす。
 一撃で仕留めなければ次があるかどうかわからない。腰は低めで、一息にMTのコクピットを薙ぎ払う。一万度を超えかねないプラズマにあぶられ、MTのコクピットは爛れ、パイロットは骨ごと蒸発する。振る雨粒がどんどん蒸発して、ACの周りが白い霧に包まれる。
『うぅわ、前が』
『っ、厄介な』
 MTのパイロットは、おそらくベテラン揃いであろう。操機が下手であれば、簡単に防衛線が破られる事だってないはずだ。
 ACの機敏な動作を、新米なりに使いこなさなければ勝てない相手ばかりで、霧で視界が塞がれるのはいい事とは言えない。
「ブレードの展開は極力控えて、できるだけ銃器で止めを刺すようにしろ!」
『それぐらいわかってるって!』
 ブレードの余熱による霧から、ACを抜けさせながらミレイ。

198シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/13(火) 00:28:57
 さっきから、雨と電波妨害の所為で他のチームとの連絡が取れなくなっている。開いた通信回線からはノイズの音ばかりが漏れ出している。
 ハンナのACが、前方から来た一機と組み合いに入る。左の掌でMTのモニターを防ぎ、相手の視界を防ぐ。MTは前も見えずに、バズーカをトリガーして煙塗れになった弾が明後日の方向に飛んでいく。その直後にライフルがコクピットに突きつけられ、火薬そのままの勢いがMTのコクピットを守る特殊装甲を纏めて突き破った。
 残骸を蹴り倒して、ハンナが更に進む。
 近くにはもう敵はいないようで、ロッフのレーダーにも敵機の信号はキャッチできない。ECMがレーダーを邪魔しているが、強力な耐ECM処理が、機能を保たせている。
「五百メートル以内には敵機はいないように見える。ミレイもハンナの隣についてくれ。何かあったら報告する」
 ロッフはブースターをONする。戦闘速度と巡航速度の中間で、レーダーを見ながら進む。ACの左手はバレルを握ったままである。
『まだ他のチームとの連絡は取れないのか?』
 ハンナの声。
 さっきから、ECMのせいで、長距離回線が開けなくなっている。百メートル程度ならまだ何とかなるが、その二倍になるとまともに会話が出来なくなる。広い街中に散らばった、チーム同士の連携が取れなければ、今何が起っているかも把握できない。司令塔との連絡が取れない兵士は、どんどんと士気が下がっていくのだ。
 便りがなければ、生きているかどうかすらも信じられなくなる。もしかして、自分以外に誰もいないのではないかと、錯覚を抱いたが最後、死ぬ以外の道を歩めない。兵とはそういうものだ。
「だめだ。さっきから誰も呼びかけに答えない。波長が小刻みに変わる電波は届くんだけど、ジャミングが激しくて誰の通信なのか」
『それだけ聞こえれば十分だ、私たち以外にも誰かいると言う事だろう?』
 物は言い様と考え様で幾らでも変わる。完全な形でなくてはいけないわけではないし、自分以外の人間がいる事を確かめられれば、確かに上出来と言えなくも無い。
 それに、誰もが生き残ると言う至上目的に向かってだけ動いているわけではない。
『面倒な奴がいたって困るんじゃない? 他のチームはお坊ちゃまばっかりのクセにライバル意識は強いから』
 後をロッフが続ける。
「でしゃばられてチーム内の連携が崩れるよりマシか。……人を蹴落とそうって考える奴だっているんだしな。現状で生き残れるならその方がいい」
 さっきから雨足は全く弱まらないし、エンジン熱で温められた機体が、さらに雨水を温めて、蒸発して、視界がめっぽう悪い。ブースターに点火しただけで、周囲は真っ白になる。ブレードを展開すれば、さらに酷く、視界が真っ白に染まる。煙幕と考えられないでもないが、逃げるわけでもないのに煙幕を乱用する事は出来ない。
 道路に跳ねた雨水が、闇の中に消えて、その闇の中には閃く爆光と白煙が見える。
『あれは?』
 ミレイが、苦手なマニュアル操作でACに前方を指差させる。ふらふらして一向に低示威しない指先が、前の方を指差している。前方でまた新しい光が閃く。おそらく無反動砲の弾頭が着弾したのだろう。炸裂する火薬が轟音を撒き散らして、中途半端な大きさの鉄塊が地に落ちたような音を集音装置が拾う。
「レーダーの範囲外だ、遠いな……」
 ロッフの記憶に寄れば、訓練所にはバズーカの備蓄がほとんど残ってはいない。そもそも、防衛戦なので爆発兵器の使用は誘導弾以外許可されていない。前方でやられているのは、おそらくACの方であろう。金属音は、腕のものだろうか。だとしたらどうか。
 五百メートル先のMTは、超小型目標といえる。輸送機ほどの大きさならいざしらず。十メートル手前の体を手動で狙い撃つのは無理がある。辛うじて光に照らされるシルエットの、どちらがMTでどちらがACなのか、区別をつけることも出来ない。

199シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/13(火) 00:29:40
「押されてるんじゃないか、あれは」
 レーダーがまともに作動するのはロッフのACだけだが、モニターの解像度と望遠レンズは他の二機も変わらない。同規格の頭部パーツを装備しているのだから、当然だ。
 ロッフが、道路の先、ビルに囲まれた通路の向こう側で戦う、ACとMTを十倍ズームでモニター表示させたのと、戦いが白く濃密な煙に包まれるのが、ほとんど同時だった。
『ブレードを使っている? これではどうなっているのか分からないな』
 相手に対して入れ込まないから、ハンナの声はやけに冷たく聞こえる。
「止めたいが、何も見えないんじゃあ撃つ事だって出来やしない。何か、方法があればいいんだが」
 ロッフはバックスである。フォワードとバックスは一心同体でなければならない。体のどこか一部でも先走れば、チーム全体が危険に晒される。雛を助けるのとワケが違う。
 状況も分からないまま、突撃してしまえば全員が死ぬ事になる。
 無鉄砲に前に出るような意見を、全員に提案するわけにもいかず、ロッフは苦虫を噛み潰して、ペダルの上に足を置いたまま脂汗を流す。
『おい、あのままでいいのか? 押されてるなら……』
『待て、ミイラ盗りがミイラになるワケにはいかんだろう。あの場は自分で何とかしてもらって、合流はそれからだ』
 いさめる様な言い方が、ミレイの癪に触っている。
「ミレイ、もう少しだけ待とう。俺達は新米だ。保身を先に――」
 言い終わる前にミレイが加速する。ブースターが火を噴いて、膨大な推力を得たACが水溜りを跳ね飛ばして進み始める。OBをチャージし始めて、ミレイはチームワークの事を頭から落っことしてしまった。
『待て! 一人が出すぎたマネをするな!!』
 助けたい思いはロッフにだってある。ミレイが助けると言うのなら、便乗してしまえばいい。体よく責任逃れの言い訳を考えて、ロッフはOBをキックする。
「ハンナ、フォワードとバックスは一心同体だ、俺も前に出る!」
『それは脅迫だ! くそ、私も前に出る』
 ミレイの機体が一足先に霧に迫り、五十空けてハンナ、百空けてロッフが続く。街路樹構えから後ろに流れるのすらも確認できない速度で、白い煙を引いて進む。OBの膨大な熱量が、雨水を片端から蒸発させて、白い軌跡が闇夜に映える。
 ビル街に突入し、十字路を四つ抜けたところで、ミレイと煙幕との距離は残り四十。
 OBを停止させたとして、その距離で慣性を殺し切れるわけがない。煙幕に割り込んで、乱戦に入るつもりらしいが、そんな腹をしていては、不意打ちが避けられる筈もない。
 雲を割って、両手を失ったACが飛び出してくる。ミレイのACはOBを切って体を崩し、後退したACを避ける。ミレイが反応できないスピードで、そのACのコクピットに、後から雲を割ったバズーカの火薬が満載された弾が、衝突した。
『!』
 いくつもの特殊装甲が一瞬で吹き飛んだ。パイロットは、通信回線を開くまでもなく、爆圧と装甲の破片に押しつぶされて、浮世の泡と消える。
 コントロールを失ったACがよろめいて後ろに倒れ、ハンナが通路の右にそれを避ける。
 ロッフは機体を滑らせて止まってから、倒れたACの向こうの白煙を、よく見もせずにトリガーを引く。相対距離が百近くまで減少すれば、目眩撃ちでも当たるかもしれない。パニックトリガーに比べれば、幾らも命中率が期待できる。
 その通りだ。ライフリングを抜けてマッハの壁を叩き割った弾頭は、一を数える前に、白煙の中の何かに当たった。そういう手ごたえを感じる。
 相手がMTなら、スナイパーライフルの直撃弾は致命傷だ。
 弾丸が命中した事を確認したミレイがマシンガンをトリガーする。二十メートルも距離は開いてない筈だ。ハンナがライフルを構えたまま、警戒する。MTはもう動かないだろう。

200シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/13(火) 00:29:52
『間に合わなかった、畜生め!』
 ミレイが拳をパネルに叩きつける音が、通信機を越えてハンナにもロッフには聞こえる。畜生と言いたいのは、全員が同じだ。ロッフは心の中でミレイに責任を擦り付ける。卑怯者がやることはかっこ悪い。
 それだけで事が済んでしまうわけが無い。
 あまりにも迂闊なマネをしてしまったツケは、もっと高くつくのだ。後悔だけで済む問題ではない。
 畜生と叫ぶミレイは、警戒を怠っていた。
 その所為で、晴れた霧の向こうから接近する影に気付くのが、ハンナに比べて二秒送れた。
 二秒あれば、人が何人殺せるか。ACが持つのは膨大な火力である。攻撃の瞬間を見逃せば、死ぬ可能性は一足飛びに上がる。
『何だアレは、ロッフ、確認できるか?』
「何とか、けどレーダー上じゃあ何だか分からない、警戒を強くして、シルエットがMTよりもスマートだ」
 早口に言って、ズームをかけるべきかどうか迷う。早期に敵の確認をする事は重要だが、ズームでモニターを占拠してしまえば、いざというときに視界が確保できない。
 迷ってる間に敵が仕掛けてきた。もっと早く判断するべきだったのだ。MTよりスマートで高速な機体なんて、ACぐらいしかない筈だ。訓練生には荷が重すぎる。

201シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/13(火) 00:30:15
『! 散れ!』
『へ?』
 ミレイが素っ頓狂な声をあげている。
 敵が、巨大な煙を背負っていた。大口径の大砲を発射した時に、何でもかんでも巻き上げて煙が立つ。熱は白煙を産む。
 大口径で、自進しない弾を飛ばすのは、カノン砲の役割である。古くは四十二ポンド以上の砲塔を持つ大砲の事を指した「カノン」であるが、最近の投擲銃の長砲身化に伴い、めっきり見なくなってしまっている。そんな今、カノンと言えば、規格外なまでに砲身を長くしたものの総称である。例えば、二百ミリ越えの、火力を満載した弾丸を飛ばす肩部用カノンとか。
 この武器があるのならば、大破壊が起るのは寧ろ必然である。
 滑空砲が一つの弾を道路に放ち、投擲弾が次々と打ち込まれる。
 大量の火薬が熱を撒き散らし、ブレード展開時よりも更に凄まじい煙幕が辺りを覆う。投擲弾の一発だけが、回避運動をしていないミレイのAC脚部に直撃する。
 バックスのロッフから見れば、仲間二人の姿が全く確認できなくなっているのが分かる。
「ミレイ! ハンナ! 大丈夫!?」
『コアに直撃は食っていない、援護を!』
「出来ない、視界がクリアでない!」
 舌打ちを通信機の向こうに聞いた時、更なる油断への後悔をすることになる。またも爆発音。行動不能になっている二機を素通りして、一発のバズーカの弾が白煙を割る。
 続いて、MTが一機 現れる。
 ロッフは歯を食いしばったまま後退する。近距離戦になったら不利だ。距離をとらなければならない。
 尾を引く弾丸を避けて、MTのカメラを狙ってトリガーするが、MTはそれを見越してすらいる。ベテランが焦る素人を追い詰めるのはそう大したことじゃない。
 機体の熱限界が近づき、ロッフの額が汗まみれになる。外は見るからに寒そうなのに、コクピットはまるで蒸し風呂の様だ。ブーストし続ければ、ラジエーターの冷却が追いつかなくなって、パーツの疲労が加速する。
 やむなくブーストを切ってブレードを展開。
 バズーカの黒々とした銃口をメインカメラに突きつけられた瞬間にOSに強制割り込みをする。脚部の姿勢制御系を横取りして、ひざを曲げる。ジャンプ直前のプロセスを途中で止めて、ブレードを袈裟に払った。
 MTの左腰にブレードが入ったとき、MTのバズーカが火を噴く。盛大な煙が砲のお知りから噴出して、その煙を蒼い光が斜めに払う。
 MTはその身を二つに分かち、地に倒れ伏す。コクピットは赤く焼け爛れている。
 死体がどんな状態になっているか、考えたくも無い。どんな無残な死に方をしようと、ロッフのあずかり知る所ではない。

202シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/13(火) 00:31:41
 
 ACのOSには、間接電源カットの過程にバグがあるらしい。足の間接が過電圧で焼き切れた場合、予備回線に移る前にOSの電源が一辺落ちる。だから、脚に攻撃を喰らった場合には、OSからコントロールを奪って、手動で電圧調整をする必要がある。
 ミレイはこの座学講義を纏めて全部寝てしまっていた。
 大体、何時間も掛けて勉強することでもないのだ。OSからコントロールを奪った後、速さだけを気にしていれば簡単に出来る操作だ。
 しかし、されど座学講義なのだ。
 宿題を家に持って帰った学生が、結局次の日まで勉強をしないのと同じ理屈だった。
 ミレイは、すぐにできるのだからと、OSから操作を奪う練習をおろそかにしていた。怠け者はこういうところで損をするのだ。
 安い機械音声が、エラーを告げる。
『下半身の電力補正にエラーが出ています。早急に制御を回復させてください』
 緊急メッセージの後、コクピットを照らしていた電灯が完全に消え去る。ジェネレーターどころか、予備電源まで完全に落ちてしまって、うんともすんとも言わない。
「畜生! 一体なんだって言うんだ!」
 エラーの事まで纏めて頭からすっぽ抜けていて、八つ当たりしか出来そうに無いミレイを、もう一度衝撃が襲う。今度は投擲弾が当たったときよりもずっと大きい。

 ミレイの乗っていたACが、カノン砲の弾頭に正面からぶち当たって大きく吹き飛ぶ。コクピットへの直撃、ミレイが生きてるとは思えなかった。
『ミレイがやられた、前に出るな! 私が食い止める!!』
「待てよ、無理はするな!」
 無理するなと言うほうが無理と言うものだ。
 霧はまだ晴れていない。前に出れば絶対にやられる。しかし、ミレイがやられた上にハンナまでやられればどうにもならなくなってしまう。
 進むべきか、戻るべきか。
 迷っている時間はあまりにも長い。

203シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/13(火) 00:32:09

 ボラウには目的がある。ルファウスが背負うコンテナに入っている毒ガスを目標地点まで持っていくのが、今回の最上目的である。
 立ちふさがったACは、訓練施設から連れ出されたばかりの新米ばかりのようで、ボラウの敵ではない。
 キサラギ本社は、本来ならばボラウが叩くべき相手ではないのだが、ボラウは部下を殺されてまで、まだそんな事を言っているほどの人間ではない。
 短気すぎると言う事は無いが、気が長い方でもないのだ。
 生機課がトカゲのしっぽにされたと言うなら、もうキサラギに仇はあっても恩は無い。生機課の残った研究の成果と戦力を使って、キサラギに仇を返さねばならない。
 そのための一手こそが今回の奇襲攻撃である。
 生機課は、三つの研究所を失って、研究員の四分の一を亡くした。
 すでに死に体ではあるが、それでもまだ死んではいない。生機課の人間全員で、身を削ればまだまだ研究は続けられるし、キサラギを潰すことだって出来るかもしれない。
 生機課の至上目標である、人間と機械の同一化が上手く行けば、幾らでも兵器転用が利く。弾道ミサイルのいくらかを確保しているラボもあるし、ここで黙ってやられるわけにはいかない。立ち直るまでの時間稼ぎをしなければならない。
 キサラギ本社の脛を蹴り上げる事が出来れば、時間はかなり稼げると踏んでの毒ガスである。そのために毒ガスが必要だった。第二支社が管理する富民を殺せば、キサラギは足を止めざるを得ない。復讐に燃えるボラウにしてみれば、ふ抜けたミラージュの工作部隊を殲滅するのは容易かった。
 今、ルファウスの目の前には膨大な白煙が漂っている。中の発熱反応は二つ。一つは今も尚発熱し続けていて、もう一つは雨に冷やされ始めている。
 まだレイヴンにもなれていない候補生を殺すのは、少し気がひけたが、憎しみの念に比べればまだ軽いものだ。
 まだ動いているACをロックして、惜しい人材を亡くさなければならない事に悲嘆する。
 先程の回避運動は、訓練生とは思えない見事なものだった。そうそう油断しない心掛けこそが、それを可能にする。
『動くな、そちらを狙っているぞ!』
 霧の中から短距離回線で声が届く。辺りを包むジャミングが、顔までを見せてはくれなかった。
 霧の中から狙っていて、どうだと言うのか。前だけでなく、右も左も見えていなければ、FCS頼みの下らない動きしか出来ない。
 ボラウはFCSを切って、少しばかり腕を畳む。姿勢を低くして、体当たりをするように霧の中に突進。熱源に自分から当たりこむ。
『止まれ!』
「誰が!」
 ACが装備するFCSとは、実にお粗末なものである。FCSは、金属反応を探知し、OSに直結する。OSの腕部動作プロセスに割り込んで、ぶきっちょに腕を伸ばさせる。結果、脇周りが隙だらけな構えが出来上がるのだ。
 遠距離戦だけをやるのならばそれでも構わない。だが、近距離砲戦や、ブレードでの切りあいになると、むしろFCSは邪魔になるのだ。FCSはブレードの軌道までも制限してしまう。
 ルファウスが肩からACにぶつかって、ACは大きくよろめく。
 姿勢制御システムに任せっぱなしだと、体勢を立て直すまでに一秒はかかる巨大な隙。
 ボラウはすぐにトリガーを絞る。カノン砲を畳んで、ショットガンを構え、散弾が飛び出ようとしたその時に、敵ACが頭からショットガンに突っ込んでくる。
 結果、散弾はACの頭だけをグチャグチャに破壊する。
 散った弾はそれより下方のコアには一発も着弾せず、決定打は一つも生まれない。
 早い。敵のACの立ち上がりは予想していた時間の三分の一以下だ。本当にただの訓練生で終わらせるには惜しい。
 一撃外しただけで終わるボラウではないのだ。ショットガンを引き、左足を引く。もたれかかってきたACにあわせて体を回転させ、次は投擲銃を構えて、撃つ。外れる。敵のACが投擲弾の当たる直前にブレーキをかける。倒れこむ力がなくなって、投擲壇はビルに飛び込んで爆発する。敵が照準。もうFCSは切っている様で、ルファウスの頭を斜め下から狙っている。悪くはないが、まだまだの照準だ。ルファウスは上体をそらし、ライフルをかわしてもう一度投擲銃を撃つ。今度こそ外さない。
 当たった。
 ブレードが装備されたACの左腕を吹き飛ばされて、ACが大きくよろめく。次には散弾が腰周りと右腕を穴だらけにして、最後にコクピットを狙う。

204シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/13(火) 00:32:45

「撃つんじゃない!」
 霧が晴れてきて、まずハンナのACが倒れているのが目に入った。左腕を失っている。霧が濃くなっていないと言う事は、ブレードを使わなかったと言う事だろう。感謝をするべきだ。切羽詰っても後続の事を考えている。バックスにとって理想的なフォワードだ。
 OBを展開するほどの距離はない。ブースターの最高出力でもやりすぎなぐらいだ。
 そのやりすぎな速度でロッフは突っ込み、スナイパーライフルをやりのように構えてがむしゃらにトリガーする。ほぼパニックトリガーも同然だが、倒れたハンナから敵の気を逸らすのがまず大切だ。
 一発だけ当たった。当たったとおおっぴらに言う事は出来ないものだが、打撃を与えた点については評価するべきだった。四発撃った弾の三発は、一体どうやったらそんなに弾丸がぶれるのかと言うほどに横に逸れて、高層ビルを貫いただけだった。
 敵はベテランだ。何人ものレイヴンを屠って、今日まで生き延びてきた兵だった。
 だから、勝てないだろうとは踏んでいる。踏んでいるが、だからと言って引くつもりなんてこれっぽっちもなかった。隙を見て撤退すればいい。甘い考えだが、それ以外のことが思い浮かばなかった。
 煙が出るのも気にせずにブレードを展開した。距離は既に十。超近距離、FCSをシステムから切り離して、最小限の動作でブレードを振る。こちらを向いた敵のACは、ただ足を引いただけでブレードを完全に避けてしまう。同時に、軸合わせを行われ、正対する形になる。ここでひるんだら負けだ。目を細めて目測照準。返す腕でもう一度ブレードを振るって距離を作り、右足を引く、槍のようにスナイパーライフルを構えて、そのまま打突。バレルの強度も頭にいれずに、トリガーを引きながら突進する。ばかだ。構えてからの月なんて当たる筈がない。技量が同等ならいざ知らず、相手は百戦錬磨である。敵が構える。ショットガンと投擲銃の両方。引き金を――
『避けて下さい!上から撃ちます!!』
 直前で気付いた。ブースターをONして、かかとで思いっきり地面を叩いた。
 大きく後ろに跳んだ時、自分がいた地点を発射されたばかりの散弾と投擲弾が素通りする。
『邪魔をするな!』
『積極的な人殺しが言う事ですか!』
 張り上がる声と共に、空から無数の弾丸が降ってくる。百ミリのマシンガン用弾頭と思しき曳光弾が十発ほど敵のACに浴びせられる。
 同時に、さっきまでロッフがいた場所に上から飛び降りてきたACが着地する。コンクリートが滅茶苦茶にはじけとんで、耳を劈く轟音があたりを打ちのめす。
 時を同じくして、唐突にジャミングが消え去り、ロッフのACは一本の回線をこじ開けられる。コードは訓練所本部のもの。おそらく、責任者か指揮官か。何か確認する事があるのかもしれない。
『ロッフ訓練生、黙って聞け』
 条件反射で返事した。
「はい!」
『減点一だ。
 スナイパーライフルを持って出た訓練生の中で、お前は最後の人間だ』
 ――卑怯者め。返事がしたくなる事をつらつら言いやがって。
 自分も卑怯者のクセによくも思えるものだ。
「他の部隊はどれぐらい生き残っていますか?」
『減点二。目上の言う事は黙って聞け。部隊は全滅だ。こちらから警戒塔の監視システムに先程アクセスした。お前のいる地点から北に五千の距離を輸送機が飛んでいる。キサラギ印だ』
「何の不思議でもないでしょう? ここはキサラギの管理下なんですから、キサラギの輸送船くらい」
 人の話をよく聞きましょう。
『お前は黙って人の話を聞けんのか。
 それでだな、第二支社のデータで照会したところ、この時間にここを飛行機が飛ぶ予定はないはずだった。輸送機はおそらく爆弾でも積んでいるんだろう。後詰の部隊と言う事だな。お前はライフルでそれを落とせ。マニュアルでだ。いいな』
 命令を復唱する暇もなく、回線が閉じた。一方的に開かれた回線は、こちらからこじ開ける事が出来ない。
 空から降りてきたACが、敵のACと至近距離で撃ち合っている。空から落ちてきたACには見覚えがある。アリーナかどこかで見たような気がするが、訓練施設に入ってから暫くは、アリーナの情報もチェックせずに訓練ばかりだったから、誰だったかが思い出せない。
「すいません、ここを頼みます!」
『わかっています! そこのACのパイロットも、守って見せますよ!! 行くところがあるなら早くしてください!』
 無言で返事を返して、モニターの脇に倒れているACを見やる。コクピット付近をズームして、吹き飛んだ装甲の向こう側を見る。失神したハンナの顔が見えた。
 見捨てるわけではないのだ。
 高い所を飛ぶものを狙うのであれば、こちらも出来るだけ高い所に登らなければならない。頭一つ分他のビルより高いビルを見上げて、ブースターをキック。上昇し始める。

205シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/13(火) 00:33:30

「退いてください! 毒ガスを使うなんて正気じゃありませんよ!!」
『ナインブレイカー如きが偉そうに!』
 前期のナインブレイカーが人知れず引退し、席が空いている内に、汪生はアリーナのトップになった。偶然性の強い勝負ばかりで、実力に欠けているとよく言われる。歴代のナインブレイカーはそれこそカリスマ的なものを持ったヤツばかりだったが、人がいなくなった瞬間に追い上げを掛け始めた汪生は卑劣漢と揶揄される事がある。
 実際は単なる偶然であるが、そう思われている以上は仕方のない話である。只でさえ人殺しを嫌がる甘ちゃんは嫌われているのだ。今更レイヴンの内から嫌われようと、どうと言う事でもない。ただ、「今期のナインブレイカー」という言葉があまり好意的に取られないのはよい気分ではない。
「他のMTは撤退を始めました、戦力が半分を切っているんです! もう潮時なんですよ!!」
 敵には見覚えがある。三年前までアリーナに名前を残していた男で、上位のランキングに食い込んだ事もあった。その時から機体の構成が変わっていない。汪生がレイヴンになって間もない頃に何度も目にしたままである。機体の名前も、本人の名前も知っている。
『大人しくなど退けるものか!』
「ボラウさん、引き際を見極めてください!」
『! 貴様のような敵が人の名前を呼んで、侮辱するな!』
 左の投擲銃が風を切って唸り、薄い霧を割ってグレイラの右腕を狙う。甘い。そんな即席の照準で当たると思っているのだろうか。それに対応する手なんて幾らでもある。ヒザを曲げるのが一番簡単だが、それではイマイチ面白くない。不意を突くならもっと別の動きがいい。コンマの内に何百通りもイメージした上で右足が地面を叩く。コンクリートが陥没して、グレイラはルファウスの左手に回り込む。マシンガンを構えてトリガー。狙いは特につけないで、暴れる弾丸を至近距離で叩き込む。
 ルファウスの行動も早い。トリガーされたグレイラの右のマシンガンを右腕で払って、体ごと突っ込む。銃身を保護する為にグレイラは後退して、銃身を下げる。大きな隙が出来る。
 神経が磨り減っていく。

 神経が研ぎ澄まされていく。
 ビルの屋上に陣取って、北の方角を眺める。
 輸送機のスピードは速い。当然だ。スピードがなければ鉄の塊が空を飛ぶ事なんて出来ない。
 ビルを登る前に距離が五千だったというなら、今頃は三千ほどにまでなっているだろう。それだけ近ければ、翼端灯の光を探せばいい。レーダーの範囲内に入るまで待っていたら、狙いをつける時間は一秒もないから、レーダーにも頼る事は出来ない。当然、短距離用FCSは何の役にも立たない。
 ――見えた。
 夜の闇の中で目を凝らす。解像度の悪いモニターが、ドットのような黄色い翼端灯を見逃す可能性もあったが、正面からゆらゆらと残像を描いて飛んでくる鬼火は、紛れもなく輸送機のものであると思える。
 イメージする。
 翼端灯に挟まれた輸送機を、ACのパーツから工業薬品、果ては爆発物まで何でも運ぶ企業の柱の一つを、どんなものでも運べる、ずんぐりとした貨物ブロックを、装甲板で包まれた前部を、機体を支えて高速をたたき出す巨大なブースターと燃料タンクを。
 ACは腰をビルに下ろして、小学生が体育の時間にやる「体育座り」のような格好をしている。その姿勢を保ちつつも、上体を更に後ろに反らし、ライフルの真ん中を左手で押さえ、バレルを膝に乗せ、右でグリップを握り締める。
 呼吸の音が煩い。心臓の揺れが照準を鈍らせる。こんな心臓止まってしまえばいいのに。アイドリングしているジェネレーターがアクビをした。
 照準。銃のリアサイトを通った線がフロントサイトを通り、遥か夜の闇を貫いて、輸送機の貨物ブロックがあると思しき場所を貫く。
 スナイパーライフルをトリガーする。

 神経が磨り減っていく中、遥か前方で巨大な爆発音が鳴り響くのを聞いた。
 闇の向こうの向こうのそのまた向こうで、大きく赤い火花が咲き、すぐに散った。赤を引く破片がいくつも街に落ちる。家に落ちなければいいと思う。
 グレイラと取っ組み合っていたルファウスが、グレイラを蹴って一足飛びに後ろに飛んだ。
『二段目までやられたか……、ここは退いてやる!』
 言ったが最後、追撃するヒマもなくカノンと投擲銃で煙幕を作られる。ルファウスは背負ったコンテナをパージして、OBを展開して逃走する。
 引き際としてはギリギリ合格点である。回復したレーダーの中には、急速に戦域を離脱していく赤の点が見えた。
 深追いをするのはまずい。立ち止まって、煙幕が晴れた道路の先にコンテナが落ちているのを見た。通信機に告げる。ECMジャミングはもうされていなかった。
「任務完了しました。帰還します」

206シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/13(火) 00:35:29

 ※

 昨夜の戦闘でまともに生き残ったのは自分だけだと、教官に教えられた。
 ロッフが教官にハンナも生き残ったはずだと言すれば、教官は五体満足に生き残ったのはお前だけだ、と言いなおした。
 ハンナのACは腰に一撃喰らっていたらしい。コクピットがひしゃげ、足が潰れたと言う。やけに淡々と言う教官に、無性に腹が立つ。
 釈然としない気持ちでピカピカのレイヴンライセンスを受け取り、退出した。
 廊下を歩く。
 もう、ロッフ=バークラフは一人前のレイヴンとして認められた。教官の言を借りるとするならば、キサラギ地上第二支社監視下レイヴン養成所・第十六期生唯一、レイヴンとなれた男である。
 気に入らなかった。
 こんな筈じゃなかったのだと思う。
 ただの一瞬で、昨日昼食を共にした人間が死に、理由を語ってくれた人間は負傷した。
 自分がレイヴンとなって、そうやって死んだ奴らにはお詫びの一つも出ないなんておかしいと思う。教官から聞き出した、ハンナが入院している病院の住所を書いた紙をポケットに突っ込んで、宿舎の自分の部屋に戻る。
 訓練生のいなくなった宿舎の管理人室では、今日もせんべいをかじるくそばばあの姿があって、それにも腹が立った。
 半年、ともすれば一年以上の付き合いになる奴がいっぺんに死んだというのに、全く動揺しないで、むしろ楽になったぐらいだとでも言いたそうな顔をしている。
 クソ女め、と口の中で呟くと、ババアがぐるりと首を回してロッフを睨んだ。超能力でも持っているんじゃないかと思えた。ひるんだロッフにババアは窓越しに、腰抜け野朗が全員いなくなってせいせいするんだよお前もさっさとどっか行きな、と言うような事をまくし立てた。
 言われなくても。
 ババアが腹を立てるのはおかしいと思いながらも、自分のチームの部屋に入って、その部屋の様子に愕然とする。
 ここ半年の間に持ち込まれたものが、片っ端から掃除されていた。ハンナが持ってきたものなんてほとんどなかったが、ミレイが持ち込んだ装飾品はのきなみ引っぺがされており、テレビも無くなっていた。生けてあった花が無く、ゴミ箱も取り払われていた。
 まるで、そこには最初から誰も住んでいなかったようだった。
 ミレイが生きていた痕跡はもうこの部屋のどこにも無い。
 死んだ人間へのはなむけぐらい残してくれたっていいのに、部屋はどう押しようも無いぐらいに寂しかった。
 歯を食いしばる。今にも泣きそうになる。悲しい。
 荷物を纏める為に、自分の寝室に入って、服やらなにやら何まで詰め込んで、最後の最後に備え付けの机の上を見る。そこには雛鳥の死体がある。眠ったように死んでいる。

 レイヴンの訓練所から繁華街へ抜ける道を通ると、必ず公園を突っ切る事になる。その公園の入り口から真っ直ぐ二十歩右二十歩の公衆便所のひさしの下には、鳥の墓がある。こんもりと盛り上げられた土の中には、死体が入っているのだろう。アイスの棒が山に突き立てられて、こう書かれている。
 「雛鳥の墓」。

207シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/13(火) 00:37:03
ここで次回へ続く。
申し訳ない、また長くなりそうなんだ。
忙しいから、間は空くだろうとは思う。

208名無しさん@コテ溜まり:2007/02/13(火) 00:47:42
なぁ、正直なとこ言っていいか?
個人的で尚且つ辛口なんだが。

嫌だったらスルーしてくれて全然構わない。超個人的な意見だしな

209名無しさん@コテ溜まり:2007/02/13(火) 00:53:47
ごめん、やっぱなんでもない

210シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/13(火) 12:05:09
>>208
四・五ヶ月しかロムってない日本語がおかしい表現にブレがある展開に意味がない前半と後半で言っている事が違うキャラがオワットルネーミングセンス頭悪い全体的に厨二病描写がくどい設定ちゃんと嫁
さあどれだ。

211シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/13(火) 12:23:22
ごめん。カノン砲のことも謝っとかなくちゃ。
グレネードって表記するのが嫌だっただけなんだ。くだらないことですまない。
それと思った事はほどほどに言ってくれないか。
ぶっちゃけ続ける気しない。
書いてる内に思ってたんだが、メチャメチャイマイチな気がする。ムリをして苦手な事をしようとしたのがまずかったかもしれない。
続きは考えてはあるけど、現状ではどうにも。
WIKIにもって行く予定もないんだ。

212名無しさん@コテ溜まり:2007/02/13(火) 21:28:48
ごめん、中身は読んでないんだ。むしろそこのとこ言いたかったんだ。


正直上から下まで文章で休む暇なく文字が入ってくるから息苦しいんだよね。
オマケにここは個性でもあるから否定したくないんだけどくどい言い回しがさらに酸素をry
まぁラノベだって同じくらいギチギチじゃねぇかって思うけどやっぱPCで読むってのは時間と体勢と場所を
本に比べたら随分制限される訳でそこら辺を配慮すべきかな、と。

こういうと読者様様みたいに聞こえてしまうけど読みやすさってのも今より考えて欲しいんだわ。
スペースと改行で文章に空間作るとか。
金取るわけじゃないし今回は特に避難所移行してるから見たくないやつは無視しろって言われるかも知んないけど
これじゃ内容評価の段階まで俺はたどり着けないんだぜ

後は上と同じような理由でどうせ続きものなら
投下量を減らしてインターバルを短くして投下回数を増やす方が
待ちくたびれないし読み疲れないからいいと思うんだ


言葉足らずなとこがあるだろうが簡潔にはこんな感じで。
個人的戯言で失礼した。

213シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/13(火) 23:41:45
たしかにそうだわな。
読者様様過ぎるのはアレになるが、少々は読者様様であるべきかと思うんだ。
ここらは匙加減の問題だが。こちらも、勉強の一環としてもここに投下させてもらっているので。
読みにくさに関しては、前回までの俺自身の投下よりも読みづらいと感じた人が多いはずなんだ。
2chには、一行の文字に制限があるから、嫌でも改行に気を使うんだ。それで、全体的に一行一行が短くなる。
スペースを入れるってのは、文章に不自然な穴を開けるという点で多少問題があると思うが、改行に関しては善処する。
後は、いっぺんに大量に投下しちゃったから、読むのにかなり気力を消費してしまうんだろうと思う。
前回までの投下が、あまりにも細切れ過ぎたかと思って今回はいっぺんに投下したんだ。
せめて三つに割って投下するべきだったと思う。実験的処置でもあるし、見直しが必要かと。
次回からは、読み手側にインターバルを意図的に促せるよう心掛けて生きたいと思うよ。
そういう意見だって、大事な意見だ。ちゃんと言ってくれてありがとう。

214名無しさん@コテ溜まり:2007/02/16(金) 18:11:25
コテでもないしスレで一個も書いた物公開してない者だけど、
一行何処で開ける開けないは作者それぞれのやり方もあるだろうけど・・・

私ならだけど、私ならこうしてみますよw



昨夜の戦闘でまともに生き残ったのは自分だけだと、教官に教えられた。
ロッフが教官にハンナも生き残ったはずだと言すれば、教官は五体満足に生き残ったのはお前だけだ、と言いなおした。

 ハンナのACは腰に一撃喰らっていたらしい。コクピットがひしゃげ、足が潰れたと言う。

やけに淡々と言う教官に、無性に腹が立つ。
釈然としない気持ちでピカピカのレイヴンライセンスを受け取り、退出した。

廊下を歩く。
もう、ロッフ=バークラフは一人前のレイヴンとして認められた。
教官の言を借りるとするならば、キサラギ地上第二支社監視下レイヴン養成所・第十六期生唯一、レイヴンとなれた男である。

気に入らなかった。こんな筈じゃなかったのだと思う。


って、主人公の心の中の呟き辺り(何処までが呟きかが難しいけれど)は改行してみると
台詞みたいに目立つから読みやすいだろうし、いいかな?と思ったのですが・・・

勝手な横槍スマソ
どのような開け方、ずっと開けないはあくまでも人それぞれだから、
無理してやらなくてもいいと思う。逆に無理してやると開きすぎな小説にもなるしね・・・

215シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/16(金) 23:11:12
そこまでいくと読みやすさから脱却して、演出に足を突っ込んでしまう。
んでそういう演出は俺は苦手なんだ。
空白行を行と行の間に挟むぐらいはやるけど、そこまでやる事は出来ない。
意図的なインターバルと文字密度の減少だけで勘弁。
ご意見ありがとう。

216名無しさん@コテ溜まり:2007/03/02(金) 04:52:47
いいか?
マンガは絵で人に読ませる事ができる
だが活字はプロが書こうと文字を並べているだけの物もパッとみは変わらない
ではどうすれば良いか?と考えた時、知らない内に読んでいた
これが理想ではないかと思う
何故か?興味のない人間が知らず知らずの内に読んでいたと言う事は読みやすく、違和感なく、興味を引く展開でないとまず一行も読まない
これはシャイアン等の長編を書く人間の作品を読んだ事がない人間が多い理由の一つなのは間違いない
シャイアン等から見ればツマランSSが評判よかったりする理由も短く読みやすいからだろう
短くするのも腕だし、寧ろ長編なら誰でも書けると言える

読者様とか言ってる時点でオナニーだろ
如何に一人でも多くに見てもらうか?もらえるか?が大切だろ
高尚な人や一部のマニア相手のSSなら勝手に投下すればいいけど
一般に見て貰いたいのに上記のような人が見るような高尚な作品を書いて投下したいから投下するとか完全にオナニーだろ
事実大半は見てない
好きな人だけ見ればいい
これも勘違い
大衆に向いてないもんならそれなりのマニアックな所でさらせ

217名無しさん@コテ溜まり:2007/03/02(金) 11:45:54
俺ツマランSSがウケるのが何故か分からない、みたいなこと何時言ったっけ?
覚えてない。ごめん
もしかして上の方でのSS批判じみた感想についての事かな?
ああいう感想とかが、基本偉そうだったのは謝るしかないと思ってる。これもごめんなさい。

高尚な人と一部なマニア相手にだけ書いた覚えも無いんだ。少なくとも意識上は
そう見えるんだったら、それは俺の修行不足に過ぎないわけで、
糾弾されても俺には「頑張ってみる」以外には何も言えない。
上にも書いた通り、今回のは失敗だったし、先を書く予定は無い。
長文乙。

218シャイアン:2007/03/02(金) 12:12:15
名前出すの忘れた。
先に言っとく。文章中に揶揄するような意図は無いぞ

219名無しさん@コテ溜まり:2007/03/02(金) 23:51:10
横から失礼
>>これはシャイアン等の長編を書く人間の作品を読んだ事がない人間が多い理由の一つなのは間違いない
読む人もいると思うがね。自分のように。多い少ないは分からないけれども。
読まない人が多いとはいうけど、それは216の主観じゃないか?
>>シャイアン等から見ればツマランSSが評判よかったりする理由も短く読みやすいからだろう
短くするのも腕だし、寧ろ長編なら誰でも書けると言える
読みやすいのと短いのは違うよ。そして長編が誰にも書けるっていうのもどうかな。
短くまとめるのと、技術を用いず文を切って短くするのは別のものだ。 

俺はシャイアンの長編の途中投下を目にして興味を引かれて、wikiで読んで楽しんでた。
そういう人もいるんだがね。216には事実大半は見てない、のように見えるのかね。
それとも俺がマイノリティなのかね。

220名無しさん@コテ溜まり:2007/03/05(月) 09:15:34
なんかだいぶ論点がずれてるな
決してシャイアンを叩いているわけではなく
活字を読まない人間が多い中、如何に読ませる作品が作れるか?が腕の見せ所じゃないのか?
特定の人間しか見ない、見れない作品はプロになってからか自サイトでさらせばいいんじゃないか
つまりは万人受けするような作品じゃないと幅広くは受け入れられない
逆に言えば特定の人間しか見ないような作品はウザがられる
シャイアンの発想や表現力は凄いとは思う
まぁ行きすぎてる所もあるが
とりあえずお前等ネガティブ過ぎ!
もっとポジティブに前向きにイキロ!
シャイアンも新しい事試すなら短篇で何作か色々趣向変えてやればいんでね?
短篇短篇短篇で実は繋がってるみたいな話なら結果長編大作になるし
ちょっと発想が極端なんじゃね?
頭が固い!

221シャイアン:2007/03/05(月) 11:45:43
ああ、短編連作とかにしてとっつきやすいの作れって事ね。
短編用の話は考えてあるし、今回のも元々そのネタだった筈なんだけど変な伏線張っちゃったし、どうしたものか。
後、論点がずらされたくなかったら、もっと意を汲み取りやすい文を書いてくれ。
俺の読解力不足かもしれんが

222名無しさん@コテ溜まり:2007/03/05(月) 21:59:37
ちょっと流れを見てたんだが何でそんなシャイアン棘がある言い方するんだ?
調和しようと思わないのか?上で言ってるように考え方固いよ


>>そこまでいくと読みやすさから脱却して、演出に足を突っ込んでしまう。
>>んでそういう演出は俺は苦手なんだ。

って言うけどさ、苦手なら挑戦しようよ。
正直同じ文でも>>214の方が読む気になったし読みやすかった。
主観乙って言うんだったらそこまでだけどさ。

文章も膨張してしまうだろうけどそこは読みやすさのために
書きたい部分を歯を食いしばってでも削るってことも大切だと思うんだ。

この調子で書くんなら俺はこれから多分シャイアンのSSは永遠に読むことはない

223シャイアン:2007/03/06(火) 15:43:03
口下手ですまなかった。
言い訳が長くなるとみっともないし、文が長くなって余計な事を言い過ぎるのが怖いんだ。
どう言えば棘が取れるのかわからなくって、悩んだ挙句に棘だらけの返答を返しちゃう。
俺の発言を見て気分を悪くした人達にはあやまる事しかできませぬ。

224シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/03/06(火) 17:00:20
「粗相の無い言い方」を考えた結果、口調そのものを変えさせていただく事にさせていただきます。
不満を感じられる方が居られるかも知れませんが、慣れるまでのお手数をおかけさせてしまう事をお許し下さい。

>>222
私の言葉が拙く、その上足りず、誤っている所為で、誤解を生じさせる事になってしまい、深くお詫び申し上げます。
たしかに214の書き方は読み易いのです。
しかし文の一つ一つをピックアップして、区切っていくやり方が、私は気に入らないのです。
書き手側から、文字以上の手段で読み手に訴えかけるやり方が、あまり好きではありません。
これを過剰に使用する事を、私は私自身に対して許す事が出来ないのです。
だからと言って停滞し、自分が書ければそれでいい、と思っているわけでもありません。
よって私自身、読み易くするための案を探しております。暗中模索の状態ではありますが。
文そのものを読みやすくしていく事や、読み手に負担を与えない段落分け、投下の仕方についても思慮を重ねさせていただいております。
読んで下さる方々の事だけを考えれば、214のやり方をする事になるでしょう。
しかし、書いていく私自身の前向きな意思がそこに無ければ、出来上がった字の羅列に意味は無いのだと、私は思います。
読んで下さる方々と、そして書いていく私、双方の納得いける点を探す為、今しばらく努力させていただきたく思います。

225名無しさん@コテ溜まり:2007/03/06(火) 20:59:04
主義主張結構。個人の拘りは確かに大事だね。
ただそれがもたらすリスクを負わなきゃならないことは忘れないで欲しい。
模索中にこれ以上は無粋だから言わないけど

考慮した結果どのような結論を出すのか、楽しみにしてる

226名無しさん@コテ溜まり:2007/03/07(水) 09:40:28
俺はシャイアンの長い話は好きだな
でもこの一連の長ったらしいうだうだしたの会話のは読む気しない

227ACケンプファー:2007/03/18(日) 15:30:40
ちょいとデータ移送

AM 10:00 ルガトンネル
ルガトンネル、この修理途中の橋を制圧すればアライアンスはバーテックスを攻略するための大きな足がかりを得ることができる
しかし、バーテックスの反撃が思ったより激しく、第一波攻撃MT部隊はほぼ全滅に追い込まれていたのであった
「ブリーフィング道理に来た物の、第一波は全滅か……」
私はそう呟きながらレーダーに目を付ける
敵反応はこの橋に1機、向こう側の橋に4機か……
敵を確認すると同時にオペレーターから通信が入ってくる
Operator《依頼内容を率直に告げる、敵勢力を排除し増援が来るまで橋を死守してくれ》
「了解」
改めて辺りを見回してみると
まずこちら側の橋の反対側から弾丸が飛んでくる
おそらく83式(狙撃型MT)が狙っているのだろう
Vertex Sniperteam1 《ACか、厄介な奴が来たもんだ……》
Vertex Sniperteam2 《来るなら来い、俺が撃ち落としてやる!》
向こう側の橋からもう一機の83式が挑発的な発言をしてくる
今、ここで撃ってくる一機を撃破したいところだが特攻兵器が飛来したためなのか、橋が崩落している
幸い、向こう側の橋は崩壊していないため、そっちに乗り移って4機を葬ることにする
Vertex Defenseteam《ACが来たぞ、各機構えろ!》
Vertex Sniperteam2《来たか、援護する!》
敵機は……85式が3機、83式が1機か
Vertex Defenseteam《一斉射撃、テェー!》
着地したと同時にバズーカの雨あられ
何とか避けることに成功した私は反撃としてLEOを手前の85式に撃ち込む
撃ち出されたLEOは先頭の85式のカメラをもぎ取っていく
Vertex Defenseteam《カメラ破損、脱出する!》
残った二機が回り込むように向かってくる
Vertex Defenseteam《AC相手でも背後に回り込めば勝機はあるはずだ!》

228名無しさん@コテ溜まり:2007/04/05(木) 11:19:41
ちょっと借ります。

229名無しさん@コテ溜まり:2007/04/05(木) 11:20:52
貫けぇッッ! 装甲機兵ダンガンガーッ!(エヴァンジェ&BB安価SS

 
 『どうしたの!立って……立ってよ!!』
 『おねがい……神様ぁっ!!』
 『機体破損率―95パーセントっ!!』
 
 それらはエヴァンジェの耳には入らずコクピット内の大気を少しばかり振動させた。

      メサイア
 全人類の救世主たるエヴァンジェが駆る、装甲機兵ダンガンガー。

                     アンチクライストクロッセル  
 その無敵機神は屍とも言い得ない当に鉄塊同然化して、荒神十字架に打ち付けられた。
 鋼鉄の杭に打ち付けられた手のひらからは火花を散らし、
特攻兵器サクリファイスが撃ちつけられる全身は装甲が捲れ、目にも当てられない惨状だ。
 その爆発振動はエヴァンジェの体を刻一刻と使い物にならなくしていった。
            メタルレッド
 そしてその惨状を見つめる鋼紅の機神、バトロイヤーファイナル。
 その特徴的な複眼は機械であっても”無念”という感情を現していた。

 コクピットシートに座るエヴァンジェはぐったりとして目は虚ろを見ている。
 瞼に入れる力もぼんやりで、しかも映っているのは特攻兵器が機体に…餌に向かってところだけ。
 しかしその映像も夢か現実か定かではなく今更に考えるのは無駄な事なのだ。
 そう考えた彼はは再び目を閉じる。
 暫しそのまどろみは彼を過去へと誘って行く。

230名無しさん@コテ溜まり:2007/04/05(木) 11:21:09

 貫けぇッッ! 装甲機兵ダンガンガーッ!(エヴァンジェ&BB安価SS

   @第壱話:運命を轟けぇッ!!其の身を滅ぼしてでもッ!!!!!




         ――レイヤード爆破阻止―――
 レイヤードは《管理者》によって管理、運営されていた地下世界だ。
 その《管理者》はあるレイヴンによって破壊され人類は地上へと進出した。管理者もそれを望んでいたようだ。
 しかしそれももう一億年と二千年前のこと、もう記憶しているものの方が生きている総人口より少ない。
 
 現在のレイヤードには何時からか魔力炉が大乱立して、
 重なり合う程に密集したった一つでも魔界爆発すると連鎖し全てが壊れるほどの膨大な量になってしまった。
 何としてでも起きない様にしていたが今回、それが起きたわけなのだ笑ってしまうだろう。
 先代(ここではレイヤードを作った人々の事)は地上でそれを起こした結果、レイヤードへの移住を余儀なくされたのだ。
 今回は地上都市が壊れるなどの直接被害は皆無だが、魔力の供給が殆どストップしてしまったら今の人類が堪えられるはずが無い。
 今回の目標はその暴走した魔力炉を手動機関停止させる事。
 人類の未来の為にも何としてでも成功させなくてはならない。
 レイヴン、成功を祈っている。

231名無しさん@コテ溜まり:2007/04/05(木) 11:21:36
カツカツと漂う魔力粉塵が機体の装甲を叩く。
 ACオラクルを駆るレイヴンエヴァンジェはそれらが密集しているところを避けるべくブーストジャンプ。
 重い鋼がこうも軽々と浮かび上がるのはエヴァンジェの潜在魔力の所為だけではない。
 マップを見ると炉心まであとの距離は少し。
 エヴァンジェの手は操縦桿を更に強く握る。


 魔力炉炉心の部屋に着いた。
 開いていた隔壁が閉まり魔力粉塵、魔力金属破片が宙を舞う中
ACオラクルはすいすいとその合い間をすり抜け、時には右手に握るリニーアル・ライホゥで破壊し
機関停止を受け付けるコウピウタル(我々のつかうコンピュータに似たもの)に向かう。

頭部より電源ケーブルに似た触手が伸び、コウピウタルにアクセス。

《 あくせす ・・・・・・あくせす完了 ・・・コレヨリ炉心H1A−444ヲ停止シマス 》

 そのアナウンスを聞いたエヴァンジェは一安心しメインスクリーンの端の外界魔力計を見る。
 最大付近まで振り切れていたタコメーターが見る見るうちに下がっていく。
 これで任務は完了か……、と思っていたがそうも行かないようだ。
 敵影がオラクルの魔力電探に引っかかったのだ。
 五つの機影がV字編隊で此方に向かってくる。
       バトリングマッスルトレイサー
 その中の後続四機は戦闘型MT。
                            アーマードコア 
 そして先頭の一機は人を神たる者たらしめんとする装甲機兵、AC。

232名無しさん@コテ溜まり:2007/04/05(木) 11:21:59
エヴァンジェは二脚型のACに乗っているがデータによると対する敵ACはタンク型。そして護衛の戦闘型MT。
 どう考えても分が悪すぎる。

 しかし、
 
 彼 は 逃 げ な い 。

 何故なら、
 
 彼 は レ イ ヴ ン だ か ら だ 。
 
 そ れ 以 上 で も 以 下 で も な い 。 

 レイヴンに 負 け は 許 さ れ な い 。
 
 依 頼 を 完 璧 に 遂 行 す る 。 

 其れこそが、

 彼らの た っ た 一 つ の 存 在 理 由 で あ る 。

233名無しさん@コテ溜まり:2007/04/05(木) 11:22:21

 エヴァンジェは再びコウピウタルにアクセス。護衛システムを再起動させる。
 その瞬間、敵味方お構いなしの容赦無いレーザーの嵐が敵機が通る通路を襲う。
 電探スクリーンを確認するとMTらしき反応が2千億余りに増えている。
 エヴァンジェはその反応をスクリーンから排除し、ACのみを表示させる。
 そして敵影が間近に迫ると頭部COMが思い出したかのように敵の詳細をそのか細い電子声で叫ぶ。

《敵影確認…・・・確認終了》
《敵ACバトロイヤーを確認》
《敵はグレノーダン・カノンを装備》
《敵はビッグ・スラキーノ・ガンを装備》
《敵はHI−レーザー・ライホゥを装備》
《…敵の戦闘スタッ…ブチ!!…………》

エヴァンジェは五月蝿い蚊同然の腐れCOMの音声を切る。
あとで喋ってくれ、今は黙ってくれ。そう言い聞かせた。
今君に出来るのは……、

エヴァンジェは両脇のコンソウルをガタガタと叩き、COMへと命令。

キサマ カイヌシ  
「汝の主である、ドミナントエヴァンジェが命じる。

  バトリング        イグニッション
  戦 闘 モ ー ド ヲ 起 動 セ ヨ !!!!!!!!!!  」

234名無しさん@コテ溜まり:2007/04/05(木) 11:22:40
その強烈な咆哮を感じ取り、頭部COMは素直に其の主の命に従う。
其の心は感銘。機神は今にも牙を剥こうとしている。

《作戦目標、敵勢力の殲滅。周辺地形データ取得。》
《中央マルチスクリーンに電探レーダー及び作戦領域表示。》
《FCSを起動-全兵装の電力共に魔力の供給開始……最終安全装置、解除ッ!!》
  
     プロミネンスエンジンエネルギー
 オラクルの太陽機関出力が1億桁ほど跳ね上がる。そして更に、もっと上がるッ!!

 各関節部の覆いが音を立ててはじけ飛び、現れる金色のシリンダ。それは唸るように蠢くッッ!!!。
 
 頭部のバイザー・アイの光が煌々と輝く。その輝きは銀河よりも明るいッッッッッ!!!!。

 FCSが起動され、電力が全兵装へとなだれ込む。各術砲兵装のランプが点く。


  《 メ イ ン シ ス テ ム 、 戦 闘 モ ー ド 起 動 し ま す ッ!!!!!! 》


                   バトル  
                  一騎打ちの火蓋は只今切られた……っ!!

235名無しさん@コテ溜まり:2007/04/05(木) 11:24:01
 衝撃。衝撃。衝撃。
 衝撃により内臓が破裂し咽喉を通して口内から血が盛大に吹き出る。
 それは割れたヘルバイザーの隙間から洩れ出でてコクピットを濡らした。
 潰れた鼓膜から聞こえてくるのは機体のあらゆる部位から次々と聞こえるガリガリと五月蝿い機体への着弾音。
                 ソルティックギガダイナマイツメタル
 自己修復も間に合わず、崩れ落ちる特魔甲超爆裂鋼鉄。
 そして割れたスピーカから流れる声。
 その主はBBとジナイーダ、そして頭部COMであるダンガンガンガリオンの電子音声。
 
 『どうしたの!立って……立ってよ!!』
 『おねがい……神様ぁっ!!』
 『機体破損率―95パーセントっ!!』
 
 それらはエヴァンジェの耳には入らずコクピット内の大気を少しばかり振動させた。

      メサイア
 全人類の救世主たるエヴァンジェが駆る、装甲機兵ダンガンガー。

                     アンチクライストクロッセル  
 その無敵機神は屍とも言い得ない当に鉄塊同然化して、荒神十字架に打ち付けられた。
 鋼鉄の杭に打ち付けられた手のひらからは火花を散らし、
特攻兵器サクリファイスが撃ちつけられる全身は装甲が捲れ、目にも当てられない惨状だ。
 その爆発振動はエヴァンジェの体を刻一刻と使い物にならなくしていった。
            メタルレッド
 そしてその惨状を見つめる鋼紅の機神、バトロイヤーファイナル。
 その特徴的な複眼は機械であっても”無念”という感情を現していた。

 コクピットシートに座るエヴァンジェはぐったりとして目は虚ろを見ている。
 瞼に入れる力もぼんやりで、しかも映っているのは特攻兵器が機体に…餌に向かってところだけ。
 しかしその映像も夢か現実か定かではなく今更に考えるのは無駄な事なのだ。
 そう考えた彼はは再び目を閉じる。
 暫しそのまどろみは彼を過去へと誘って行く。

236名無しさん@コテ溜まり:2007/04/05(木) 11:27:04

 海に沈みし大陸ムー。
 その失われし神殿の最下層にての宴。

  [   いあ……いあいあいあ!!     ]

 此処では数え切れない闇の住人達が無限の広さを誇る神殿に限りなく押し詰められ
 中心たる何重にも取り巻かれた環状列石を取り巻いてこの世でもっと邪悪で下卑な行為が行われていた。

  [   いあ……いあいあいあいあいあいあっ!!!     ]


  彼等は叫ぶ…感銘たる神々の復活を間近に叫んでいるのだ!!!!

  [いあ……?!]

 しかしその生けるものが聞いたら聞いただけで死に至るような呪詛がピタリと止み、
 代わりにダイナマイトでも出せないような轟音が爆裂した!!

 神殿は爆砕し、海水にて蹂躙された。
 闇の住人等の一部…海生生物に似たものは泳いで逃げていったが他のものは溺れて死んだ。
 逃げていった奴等も外の海で直に破裂して死んだ。

     ―――邪神の召喚はこれで免れたのだ……。

237名無しさん@コテ溜まり:2007/04/05(木) 11:27:22


  ――――――レイヴンの種類について―――――――

 レイヴンと呼ばれる者達がいる。
 彼等は途轍もなく強大な力を使い
 途方も無く成功率の低い依頼を完璧に遂行させるもの達だ。

 そしてレイヴンと呼ばれるものたちにも専門がある。

 大きく分けて三つ。
 リクレイヴン。ウミレイヴン。そしてソラレイヴンだ。

 その名の通りの働きを彼等はする。
 そして必ず成功させる。今まで失敗したものはいない。
 もしも依頼に失敗すればそのときは死ぬだけなのだから。


    ―――――――説明終了――――――――


『此方サブマリンワン、これより作戦領域に入る。射出準備に入るべし』

 聞こえなれたオペレータの声が響く。
 彼、ウミレイヴンオルトラは言われたとおりコクピットシートを倒し、
 前後裏返るように体の遠心力で動かした。
 思惑通りシートは裏返り彼はうつ伏せの姿勢でシートに吊り下げられる形となった。

「こちらオルトラ、射出準備は万端だ。何時でも射出されても構わん」

 髭面の顎を撫でる様に触り、オペレータに連絡した。
 そして暫しの沈黙……突如のG。
 オペレータの事務的な射出完了の声がコクピットを木霊し押し潰され海の藻屑と消えた。

238名無しさん@コテ溜まり:2007/04/05(木) 11:27:39
         ―――邪神復活阻止――――

 先刻、ジャック・Oの手先が海中の夢幻都市レムリアで拘束された。
 彼はそこの神殿で邪神の復活をしようとしていたらしい。
 幸い我々ミラージアが張り込んでいたからよいものを……っ!!
 行われていたら”ただごと”では済まなかった。
 その彼等を尋問し喋らせた事によると、

 同じく海中にて沈んでいるムー大陸の神殿でも同じ事が行われ様としている様だ。
 否、もう始まっているだろう。……世界滅亡の宴がな。

 我々が君に依頼するのはその儀式を止めさせ神殿を爆破する事。
 そして邪神を崇拝するもの等を一気に抹殺してもらいたい。

 若しも失敗すれば、死ぬのは君一人ではないことをよく覚えておいて欲しい。

 くれぐれも宜しく頼む。

 以上だ。

         ――――詳細閉じる―――――


 ごぼごぼと泡を纏い特殊潜行ACキングダイバーは殊更に深い深度を更に降下していく。
 目標はムー大陸地下秘密教団の神殿。
 それを破壊することと邪教の信徒を抹殺する事。
 数えるだけなら片手で足りてお釣りが繰るほど単純なものだ。
 だが数えるだけでは何も起こらない。

 レムリアとムーは旧神がこの地球を治める前に地上に存在していた大陸だ。
 然しそれらは時によって沈めれた。
 だが滅んだ訳ではなく寧ろ栄えてしまった。
 異星からの侵略者の手にも掛からずに唯一途に敬う邪神の復活を願う。
 一億百億幾千億――――この宇宙が誕生するよりも更に太古からの醜い願望が今、ジャック・Oによって果され様としているのだ。
 だから止めなくてはならない。

 キングダイバーは潜行する。
 依頼を達成するため。

 愛 す る 人 を 守 る た め 。

239名無しさん@コテ溜まり:2007/04/05(木) 11:27:55

 レムリアは丁度三百年前にミライクル(現ミラージア)が邪教の信徒を撲滅させ統治した。
 しかしムーはアストランス(現アレスト)が進行を開始したが敗れ警戒を強化され今に至る。
             ドグマガーディアンズ
 だから今でも警戒システム邪神達の親衛隊が守っている。
 これを突破しないと進行は困難を極める。
 何せあちらは数で攻めて来る。
 此方が1なら相手は1000000000000000000000000000000000000000でも足りないくらいだ。
 しかし、彼等の通常警備は手薄で警戒警報が発令されるとその大陸自体が虚ぼろ主空間への入り口となり幾億もの兵隊が駆けつけてくるのだ。

 だからその警戒網を叩いて警報を虚ぼろ主空間へ伝えられなくすればいいのだ。(簡単に言っているが今まで出来たためしは皆無なのだ……。)

 ・
 ・・
 ・・・
              マーキュリーエンジン
 キングダイバーは潜行を止めて水星機関を停止しバッテリーへと電力供給源を移行させた。
 これはただでさえ燃費の悪い水星機関が燃料を馬鹿食いするのを止めるためと敵に察知されないようにするためだ。
 見つかっては後が無いのだ。慎重に往かなくては……。






 オルトラは機関停止を確認するとなるべく音を立てないように両脇に在るコンソールを叩く。
 そして小声で従順な友へと投げかける。
 
 「……戦闘開始っ!」

 烈来な宣言を感じ取り、頭部COM[グランベリー]は素直に其の友の命に倣う。
 其の心は真実。海神は今にも海を割らんとしている。


     《作戦目標、目標の破壊及び敵信徒の抹殺。周辺海域データ取得。》
       《中央マルチスクリーンにレーダー及び作戦領域表示。》
  《FCSを起動-全兵装の電力共に魔力の供給開始……最終安全装置を完全解除しました。》
  

  《 メ イ ン シ ス テ ム 、 戦 争 モ ー ド 起 動 し ま す 。 》



                   
        世界を巻き込むかくれんぼは只今始まったのだった。

240シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/04/07(土) 13:48:48
方法を模索するとか言ってたけど
これから忙しくなるし、他にやりたいことも出来た。
シャイアンはもうこれでやめる。
もし気が向いて、次投下する機会があるならば名無しで投下する。
おやすみ

241名無しさん@コテ溜まり:2007/04/15(日) 12:58:38
借ります

242名無しさん@コテ溜まり:2007/04/15(日) 12:59:09
 その夜は月がはっきりと見えた。
 綺麗だった。
 そんな時に赤い雨が降った。
 それは世界を埋め尽くした。
 後に残るのはその残骸と、
 焼け、爛れた大地のみ。
 私たちは全てを失った。

 だがその半年か幾らか経過すると、
 失ったものも帰ってくるのものである。
 あの特攻兵器たちもメッキリ降らなくなった。
 最初のうちはざばざばと雨あられのようだったのに。
 今では一週間に郊外にほんの少しだけだ。
 雨の方がもっと多い。

 それにアライアンスのおかげで
日常品もいたるところに回るようになってきた。

 だが束の間の安寧は、今日で終わりを告げる。

 突然のバーテックスの襲撃予告。
 ――二十四時間後の悲劇の始まり。

 都合の良すぎるキサラギの生物兵器の脱走。
 ――小さいAMIDA、大きいAMIDA。そして空飛ぶAMIDA。

 機会を狙っていたかのように再び世界を蓋う特攻兵器。
 ――そして謎の兵器、パルヴァライザーの出現。

 いまや、アライアンスはぼろぼろだ。
 戦術部隊は壊滅状態。
 レヴィアタンの全機消失。
 彼らに戦う力は残されては居ない。

 でもバーテックスも同じようなもの。
 戦闘部隊のレイヴンはジャック・Oに粛清された
 ジャック・Oも行方をくらませた。
 先導者を失い、力の象徴たるACもない。
 彼らには戦う気力さえ残っていない。

 戦闘は膠着状態。
 誰かがどちらかに肩入れするだけで戦況は傾く。

 だがその後の歴史を大きく揺るがす従来な役目を背負いたいやからは
いったい何所にいるのだろうか。いや、居ない。

   誰も居ない。

 誰も居なかったのだ。

243名無しさん@コテ溜まり:2007/04/15(日) 12:59:30

 しかし地上ではそんなこんなになっているのだが地下ではそうも行かなかった。
 何故なら、誰かが戦っているからだ。
 
 一体、誰が?

 答えよう。彼はレイヴン。

 誇り高き傭兵だ。



@ACLR超外伝:〜正義の味方は闇夜を征す。往け我らの救世主!!〜



 時は少し遡ることになる。

 崩れたビル。
 穴だらけのアスファルト。
 あたりには突き刺ささった特攻兵器が天にのびる。
 そんなところに屋根が吹き飛ばされたバーボンハウスが一軒。
 そこのカウンターには老人。
 彼のほかには誰も居ない。
 居るのはレイヴンG−ファウストただ一人。
 バーテンが居ないので彼は居なくなったバーテンの代わりに
 自分で自分の酒を棚から選ぶことになる。
 腰が痛い。
 実に侘しい。

 入り口から鐘の音。
 老人はそこに目を向ける。
 ジャック・O。
 バーテックスの先導者。

「……ファウスト。緊急の依頼だ」
 ジャックは息を切らせている。
「…飲んでからじゃ、駄目か?」
「駄目だ」
「そうか……」
「……すまない」
「謝る事はないさ。本当にない。
 んで何時だ。何時、俺は出撃すればいい?」
「………すまない」
 ジャックは再三頭を下げた。








244名無しさん@コテ溜まり:2007/04/15(日) 12:59:48
 「おそかったか……?」
「…………。」
 「まあ、やれる事はやってみよう」
「………。」
 「まだ、死ぬわけには、いかないからな」
「………………。」

 G-ファウストは愛機パンツァーファウストに語りかける。

 G−ファウストはパンツァーメサイアはエレベータに乗せる。

 ジャックの話によるとこのエレベータから降りた後、奥へ進み、中枢を目指すらしい。
 だが道順の全ては推測に過ぎない。
 ジャックも誰も中枢にはいった事がない。
 だれも入ったことの無いところへ往く。
 何が待っているかは誰も分からない。
 だが、彼はレイヴンだから。
 それ以上でも以下でもないから。

 「 依頼を完璧に遂行する。 」

 それがレイヴンであるかれの存在理由なのだ。


 どんな思いがあろうともエレベータは地下へと降りていく。

 エレベータは止まり、扉を開く。
 パンツァーメサイアはエレベータからおりる。

 そして突然の警告。

 《敵機セッキン・・・キケンキケンキケンッ!》

 パンツァーメサイアのレーダーが敵影反応を示したのだ。
 距離は近い。

 G−ファウストはコンソールを叩き、パンツァーメサイアに命じる。
 パンツァーメサイアの旧式のCOMが素直に主人の命に従う。
 「戦闘モード、起動!」
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
 作戦目標、敵勢力ノ殲滅。周辺地形でーた取得。
 中央まるちすくりーんニれーだー及ビ作戦領域ヲ表示。
 FCSヲ起動-全部武装ヘノ電力供給開始……最終安全装置、解除。

  <めいんしすてむ、戦闘もーど起動シマス!!>

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 G−ファウストはパンツァーメサイアのスラスターを吹かせ、跳躍。
 後ろから爆音が聞こえる。
 エレベータが破壊された。
 想像以上の感激的な出迎えであった。

―――――――――――――


 大気を爆裂させ、ACパンツァーメサイアは疾駆する。
 敵機を撃破する、そのために。


 頭部COMが敵機の正体を告げる。
 《敵ACヲ確認。ACぴんちべっくデス。敵ハぐれねーどヲ装備、近距離戦ハ危険……》
 ACピンチベック。
 過去最強をうたったランカージノーヴィーの愛機であるデュアルフェイスを模したもの。贋物。


『……調子、良さそうだねえ。嘘とも知らずのこのこと……』

「お互いな…。お前もレイヴンなら、戦場で死ぬ覚悟は出来ているな 」

『そうだね』

「ほう……、わかった、かね」

『ジナイーダと約束したんだ』

「約束か……。まあいい、そこを退いてくれないか。そうでなければ……」

『貴方に僕は殺せないよ』

「……そうか。老兵をなめるな」

『そうだよ。……この機体で負ける筈が、ないんだもの!』


英雄の贋物と戦場の救世主が激突した。

245名無しさん@コテ溜まり:2007/04/15(日) 13:00:20
ピンチベックのグレネードが咆える!
ピンチベックのアサルトライフルが唸る!
ピンチベックのレーザーブレードが光る!

だが、パンツァーメサイアには当たらない。

G−ファウストはミサイルを何発か撃った後、ライフルで的確に射抜く。
弾丸は各部のジョイント部分に命中し、機関の動きを鈍らせる。
鈍った所で次は目を潰す。―――胸部メインカメラを潰す。―――頭部センサーを潰す。

『何故?なんで当たらないんだ!』―――誰も居ない。

『管制塔がいれば……』―――仲間など何所にも居ない

『負ける筈が無いんだ!』―――誰も助けに来ない。

『この機体で、負ける、筈が、ないんだ……』―――彼は何時も一人だった。

煙を上げ、紫電を纏い、ピンチベックは踊る。
ふらふらゆらゆらととても滑稽だった。
彼は死に急ぐ小汚い蛾だった。何も出来ない唯のクズだった。

『ごめん……ジナイーダ。僕は……』

ピンチベックは地面に片膝をつく。

『……僕は、誰にも、必要とされていなかったッ!!!』

 ―――贋物は燃える。

『でも……でも僕は、僕は!!』
                    ピンチベック
己が敵パンツァーメサイアへ背中の荷を捨て 贋 物 は走る。

展開される閃光。

閃光は灯火であり蝋燭の火であった。


そして、――――――――――――――――……。




            パンツァーメサイア
 連鎖する爆発音をBGMに機甲救世主は中枢へと向かう。

 依頼を果すために。

 自分の存在理由を創るために。

 せめて特攻兵器が降らない世界にする為に老兵は死に場所を求め、彷徨い往くのだった。

246Ω:2007/08/12(日) 00:40:52
すいません
さるさんかかったみたいなんで
続き投下させてもらいます

↓ココの>>303の続編
ttp://wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1186797844/l50

247Ω<まさか彼があんなことをするなんて:2007/08/12(日) 00:42:15
―――翌日。


森「あ、隊長。おはようござ」
エ「!……あぁオラクルの損傷箇所整備長に報告しなきゃ」
(すたこら)
森「…」

森「…あ、あのトロットさん」
ト「!……あぁこの報告書上の所まで提出しなきゃ あーいそがしいいそがしい」
(すたこら)
森「……」

森「ジャウザーさん、何か皆僕のコトを無視す」
ジ「まっがーれぃ♪」
(ばびゅーん)
森「………」


森「あ………Ω。 昨日のコトなんだけどあれって」
Ω「うぅわぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ寄るなぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ」
(ドドドドドドドドドドドドドドドド)←逃走

森「…………」

248Ω<まさか彼があんなことをするなんて:2007/08/12(日) 00:43:48
森「な……何なんだ? みんな」

アライアンス女性職員1「ヒソヒソ(ねぇ知ってる?アイツよアイツ 噂のヘタレでホモのレイヴンよ)」
アライアンス女性職員2「ヒソヒソ(もちろんよ 前からキモいとは思ってたんだけどまさかここまでなんて)」
アライアンス女性職員3「ヒソヒソ(あたし、次のドージンネタ思いついた)」

悪い噂ほど廻りは早いものである。



森「管制室ちゃんと説明しろよぉ」
管「シラネーヨ」
森「そっそんな」

249さるさんざまぁwwww:2007/08/12(日) 00:45:16
終わりです




それなりに考えたわりにはオチなしですいません

250あの美人リンクスに聞いた!  ◆EZDlE/UNTI:2009/01/27(火) 00:59:34

 ――質問です。
 ――あなたはなんのために戦っているのですか?

 『私は、私は自分が愛する、そして私を愛してくれる人の為に戦っている。
  アルテリア・クラニアムの防衛へまわったのも、ORCAに賛同する事をしなかったのもそれが理由、
  ……といいたいところだが、そうではないだろうな。理由は他だ』

 ――他の理由というと?

 『自分の為だよ。私は自分の勝手な思いで戦っているんだ。
  私はあなた方が思っているような善人では決してないんだよ』

 ――善人ではない? 

 『人類の未来を天秤にかけても、私は私でありたかった……。
  私の価値は戦う事だけだ。戦って勝って利益をもたらす事だけだ。
  戦う術をなくして、私は成り立たないんだ』

 ――術?

 『そう、術だな……。
  ……さっきの質問についてだが、すこし付け足しておこうか。
  私はネクストに乗る前、企業に拾われる前孤児だったんだ』

 ――戦争孤児……ってやつですか。

 『戦争孤児というより小競り合い孤児と言ったほうがいいかもな。
  今は私自身がネクストに乗ってるが、そのときの私はネクストなんて消えればいいと思っていた。
  大人たちからも色々、こんな事ばっか言われたから。
  「ネクストの所為でコジマ汚染が確実に進んでいる」
  「ネクストがあるからこの世界に平和が訪れない」
  「ネクストが戦場を作っている」
  クレイドルへ運良く上る事が出来た私のかつての仲間達もそう思っていただろうね。
  私の敵はネクストだったんだ。戦場で一番目立っていたんだよ、ネクストは』

251あの美人リンクスに聞いた!  ◆EZDlE/UNTI:2009/01/27(火) 01:00:03


 ――アームズ・フォートよりもですか。

 『アームズ・フォートなんかよりも、ずっとだよ。あんなに小さいのにね。
  そんな彼等が、再び空から墜ちてきて、ORCA旅団主体の地球再生プログラムなんかに参加したら世界はどうなると思う。
  まずはコジマ関連兵器の凍結だ。すなわち紛争の根絶。
  ネクストなんかもってのほかだ。ネクストは真っ先に廃棄される兵器の一つだ。
  ネクストが不要に、いや、戦場がなくなれば、私はネクストから降ろされる。
  私のただ一つの誇りがなくなってしまう。それが恐ろしかったんだ。恐かったんだよ。
  私の身体を見てくれ。機械の補助無しでは何にも出来ない身体だ。
  ネクストと繋がってこそ、私は自由になれる。
  有澤やローディーのような化け物とは違って、私は極度なコジマ過敏だったのだ。
  ネクストに乗ってから、それは一段と進行して、このざまって訳だ。
  だからって企業を恨んでいるわけでもないけどな』

 ――戦う事をやめられないのですか?

 『戦う事はやめられないし、やめさせてもらえないだろうな。
  ORCA旅団のおもわくが崩れた今、企業の金回しだけが世界をコントロールしていくのだ。
  しかしそれも長くは無いだろう。きっと私が死んでから……死んでから百年くらいは続くと思う。
  百年経っても企業自体は今のままとほぼ変わらないだろう。だが地球が終ってしまう。
  宇宙へも逃げられない。なんせ成層圏には……アッ!』

 ――成層圏には、例のあれですものね。

 『なんだ知っているのか。
  あれはエーレンベルグの宇宙まで届く粒子波動ビームで粉粉にして初めて破壊できる。
  中途半端に壊しても自己再生して更なる形態へと変身してしまうからな。
  まかり間違って企業陣がエーレンベルグを建造しようとしても造れない。
  設計図はオーメル内の旧レイレナ陣営の重役が粛清されて、その騒動でみんな焼かれてしまった。
  このまま汚染が続けば地上は元より海もクレイドルが浮んでいる高高度の空も……地球全体がコジマ並行によって汚染される。
  ORCAが消えた今人類にもう逃げ場なんて何処にも無いんだ』

252あの美人リンクスに聞いた!  ◆EZDlE/UNTI:2009/01/27(火) 01:00:14

 ――ですよね。私達の孫の孫の孫くらいが、どう動くのか……。

 『孫、か……。機械の私には到底縁の無い代物だな』

 ――すみません。わたしはそんなつもりでは……!

 『誤る事無いさ。私はこれでいいのさ。
  生身で今もいきていたら、なんて想像も出来ない。
  そうだ。なら、あなたには子供がいるのかい』

 ――この前分かったんですが、妊娠三ヶ月です。

 『そうか。こんな私からだが、これだけは言える。
  おめでとう、だ。大事にしろよ』

 ――はい。それはもう……!
 ――《PiPiPi!》
 ――あ、時間ですね。今日はありがとうございます。

 『ああ。こちらこそ。
  まあ、ただ、今の最後のほうなんだがオフレコにしてもらえないだろうか。
  例のあれを公表されるのはよろしくない。
  私についても、愛する人を救いたかった、とでも書いておいてくれ。
  そのほうがかっこいいから』

 ――了承しました。私も襲撃なんてされたくないですからね。
 ――あ! 私が来てから初めて笑いましたね。結構かわいいですよ?
 ――ええ! 冗談ではありませんよ。本当です。
 ――はい。それではまた会う日まで。
 ――またあいましょう。ウィン・D・ファンションさん。

 尾張

253ロリコン隊長:2009/02/17(火) 16:10:11

「観戦者」


赤い烏と青い烏、二人の烏は睨み合う。
辺りに人は見当たらず、静かに始まる殺し合い。
しかし予想は裏切られ、二人の烏は上を見た。

緊迫した空気が漂うなかソレは一斉に現れた。
騒がしい歓声と共に幾千幾万の観戦者が二人の烏を包み込む。
鳴り止まぬ歓声に一人の烏が悪態を吐くが、それも歓声に消えていった。

先に動くは赤い方。
青い烏を殺そうと、手に持つ大きな鋼の筒から鋼の粒を吐き出した。
青い烏は鼻で笑う、鋼の粒をひらりとかわし右手の筒を相手に向ける。

始まった殺し合いに観戦者は興奮する。
中には烏の身体に自身を当てて砕け散る者も多く見られる。
それでも一向に数を減らさぬ観戦者、彼等の歓声は続いた。

赤い烏は地を滑り、青い烏は空を舞う。
当たらぬ粒は底を付き、赤い烏は毒を付く。
青い烏は地に脚を付け、赤い烏の隙を突く。

観戦者はより一層盛り上がった。
青い烏がどう止めを刺すのか、赤い烏は切り返せるのか。
何よりも青い烏の左腕に輝く金色のソレが、気になって仕方なかった。

青い烏は腕を振る、飛ぶためではなく斬るために。
眩い光が烏を撫でる、赤い烏を優しく撫でる。
赤い烏の鋼の身体はずるりずるりと溶けてゆく。

烏の殺し合いは終わり、歓声も次第に止んでいった。
そして最後の一人になった観戦者が小さな歓声を上げた後に、青い烏は呟いた。


「雨が止んだか…」

254ロリコン隊長:2009/03/04(水) 02:14:30

「煙」


煙が上がる

狭く暗い個室にて、初老の烏が煙を燻らす。
朝から晩まで依頼漬けの激務をこなす彼の一日は、コーヒーでも妻の寝顔でもなく煙で始まる。
依頼での嫌な事を忘れるために吸い始めた煙草だったが、今では忘れたい事を思い出させる。
一口、また一口と吸う度息子の言葉が脳裏を過ぎる。

「父さん…俺……、レイヴンになろうと思ってるんだ」

始めは耳を疑った、そして不甲斐無い自分を呪った。
非行に走るのとは訳が違う、命を捨てるようなものなのだから。
まともに相手をしていれば、レイヴンなどやめればよかった…何度思った事だろう。
気付けば煙草は消えていた。

煙が上がる

彼の機体の武装から、これ見よがしに煙が上がる。
少し変わった外見の4連装マシンガン、初老の烏はコレを愛用し様々な敵を鉄屑に変えてきた。
一つ目の依頼をこなし、補給を終えて次に依頼に急ぐ。
そんな時でも彼は考え事をしていた、息子の事が頭から離れない。

レイヴンになりたいと言う息子を止める権利が私にあるだろうか、ある筈がない。
今までやってきた事を真似るというのだ、自業自得も良い所。

「ならば出来るだけ金を稼ぎ、息子の障害になりそうなレイヴンを消していく…」

マシンガンはすっかり冷えて煙を吐くのをやめていた。

255ロリコン隊長:2009/03/04(水) 02:15:15

煙が上がる

自慢の機体が黒煙を上げる。
ナービスから受けた依頼で交える事となったレイヴンが予想を上回る強さだった。
愛用していたマシンガンは弾が底を付き、格納武装で応戦するも効果は期待できなかった。

「この機体で負けるはずが…」

確実に焦っている、普段なら考えもしない言葉が口から洩れる。
焦りが生んだ隙を的確に突かれ、とうとう黒煙は爆煙となった。

「遂に…俺の番か……」

せめて息子にだけは、この順番が回って来て欲しくない。
そう願った。

爆発が終わり煙はすぐに風に流せれていった。

煙が上がる

烏になろうと奮闘する息子は怒っていた、それは煙が出る程に。
レイヴンになりたいと打ち明けてから、仕事を増やした父にたいしての怒りだった。
言葉も交わさないのは不満があるのだろうと決め付けていたから。
しかし数日して真実をしる、企業からの死亡通知と父の通帳が現実を叩き付けた。
彼は無知な自分を、そして最愛の父を殺したレイヴンを呪った。
その後彼は怒涛の如き勢いで、烏の一羽と成り果てた。

「待っていた…貴様と戦えるこの日を…」

いつしか燻っていた煙は憎悪の炎へと変わっていた。

256実録!徹夜明けにものを書くとこうなる:2009/03/15(日) 14:30:23
アミダから出た無数の触手が私の四肢にまとわりつく。
触手は分泌液で覆われ、ぬらりと光り輝いている。
「いやぁ…」
私は小さな声で必死に抵抗するも人語を解さない彼らにそれは効果は無かった。
まとわりついた触手の数本が私の乳首へと近づき、そして吸いついた。
「あっ…」
少しながらもこんな化け物に感じてしまっている私が憎かった。
胸の触手は私の弱点を知っているかのように愛撫する。
あそこが熱い。普段なら我慢できずに弄ってしまうだろうが触手に拘束された今の状態では手を動かすことすらできない。
触手は脇や首筋を舐めるように這いずりまわり、確実に私の性感帯を刺激していく。
しかし触手は焦らしているのか秘部を一切刺激してはくれない。
既に私はこの時、気が気では無かった。
そのうち他の触手よりも一際大きな触手(それは男の人のあれに酷似している)が顔の前まで上がってきた。
私には今この触手が何をしたいのかすぐに分かった。
「きてぇ…このおくちマンコ犯してぇ」
自分でも聞いたことのないような情けない声が出る。
だがそれは今目の前にある快楽に比べればどうでもいいことだった。
口の中へとゆっくりとそれが挿入される。
私は歯を立てないように注意し、舌をそれへと絡めながら空気と一緒に吸引してあげる。
出し入れのたびに空気と唾液と粘液の絡まる音がグポォ、グパァとはしたなく漏れる。
その間も他の触手たちは性感帯を弄ることを止めない。
少しするとそれの先端から苦いような、しょっぱいような液が溢れだしてくる。
気持ちいい…触手のそれは太く、苦しいのだが、なぜか今はそれが快楽へと変わっていく…
まるで自分の口がこの触手のための精処理用具であったかのように。
触手は私の口を気に入ってくれたようだ。ストロークは徐々に早くなっていく。
そして私の目にはアミダから触手を伝って何かが来るのが目に見えた。
それは徐々に私の口へと近づいてくる。
(出してください…私のアミダ精処理用のおくちマンコに思いっきりだして下さいぃ!)
私がそう心の中で叫んだ時、私の口の中に大量の熱いものがぶちまけられる。
私はそれをできる限り飲み込もうとするがドロドロのそれは喉へと突っかかりなかなか飲むことができない。
そして思わず吐き出してしまった。
それでもアミダは満足してくれたのか、さらに私の顔に白濁液をかけると、触手の拘束を解いた。
私は床に吐き出してしまった液をはしたなく犬のようなポーズで舐めとるのだった。

257実録!徹夜明けにものを書くとこうなる:2009/03/15(日) 14:34:48
キサラギ研究員A「っていう夢を見たwwwうはwww遂にアミダとセクロスしちゃったよwww」
キサラギ研究員B「ウラヤマシスwwwアミダとの異種間性交に成功ってかwwwせいこうだけにwww」
研究員A「やかましいわwwwまあ、素人のお前はB7723cとでもやってなさいってこった」
研究員B「でもよくよく考えたらさ…お前 男 だwよwなw」
所長「アミダとの愛に性別は関係ないだろ…女子高生。それより会議始めるわよ」
研究員A「うぃーす」
研究員B「イェーイ」
所長「そんじゃ、アミダのペット化についてだけど…(夢と思い込んでるみたいだけど…ウシシ)」

258ロリコン隊長:2009/04/12(日) 00:31:40

「守る者」


「このコロニーね。私の生まれ故郷なの…。」
既に廃れたコロニーを前に彼女は言った。
長い髪を風に踊らせ、憂いた表情をこちらに向ける。

「あなたはこんな時でも喋らないのね。」
静かに笑う彼女を見て、応えようと思ったが言葉が思いつかない。
精一杯の返しは頷くことだけだった。

「無理しないで、口下手なんて珍しいものじゃないわ。」
「それよりね、聞いて。ちょっとした思い出話。」
彼女はゆっくりと話し始めた。
生まれ育ったコロニーのこと、…それからレイヴンになるまでを。
時に悲しそうに、時に面白そうに自分のことを優しい笑顔で。

「…バストロール。」
不意に彼女の名を呼んだ。
無意識に…ではないが理由は自分でもよくわからい。

「やっと喋ったと思ったらレイヴンの時の名だなんて…あなたらしいわ。」
「でも、プライベートでは本当の名で呼んで頂戴。ねぇハングマン?」
彼女もまた私の名を呼んだ、レイヴンの時の名を。
「お返しよ。」と悪戯に笑いながら車の方へと歩いていく。
あの時私が、私が彼女の名を呼んだのはきっとわかっていたからだろう。

彼女が私より先に遠い所へ逝ってしまうことを。

259ロリコン隊長:2009/04/12(日) 00:32:45
私の前には敵がいる。
イメージではなくはっきりとした事実が頭に浮かぶ。MTと戦闘車両、合わせて50以上。
その数の相手を前にして私は、レイヴンハングマンは愛機戒世と共に単機で立ちはだかっている。

「レイヴンに告ぐ!そのコロニーはジオマトリクス社の開発指定地だ!」
そうだ、彼女の育ったコロニーは壊されてしまう。
だがそれを前にして私は何をしている?

「本社のレイヴンがそれを妨害するのは重大な規約違反だぞ!わかっているのか!?」
わからない、わかるはずもない。自分にも理解できないのだから。

「最終通告だ!退かないのなら武力を持って行使する!」
沢山の銃器がこちらを狙う、あの数では高い耐久性を持つ戒世でも防ぎきれないだろう。
なによりもこの機体は彼女を守るための物だ。
コロニーは彼女でない、守るべき彼女はもういない…なのに何故。

「コロニーには当てるなよ!狙いはレイヴンだけだ!……撃てぇ!!」
無数の光が放たれ、瞬く間に自分を戒世を包む。
轟音と衝撃に機体が揺らぐ、早く抜け出さなければ死んでしまう。
だが動かない、動こうとしない。
何故だ!何故私は執着する!?そこまでして何を守りたい!?
廃れた町を守って何になる!?戦場で彼女をバストロールを守れなかった腹いせか!?
だがここを守る理由は?彼女のいない世界で彼女のいない町を守る理由は…

260ロリコン隊長:2009/04/12(日) 00:34:06
「理由なんていいじゃない、いままでそうして来たように。これからそうして行くように。」
「守りたいから守る、でしょう?口下手さん。」
……そうだ彼女が私に言った言葉だ。
優しく笑う彼女が、私に優しく言った…言葉。


『AP50%』
シールドが装甲が防御スクリーンが音を立てて削れて行くのがわかる。
このままでは長くない、理由なき守備は終わってしまうだろう。

「理由なんかいらない…」
「何かを守るのに理由なんかいらない!」
「守りたいから守る!終わらせはしないっ!!」
頭に描く、攻撃を弾く姿を。戒世の輝く姿を。

そして彼女の守る戒世の姿を!



『リミッター解除コード確認』
『エネルギー再充填200%オーバー』
『ジェネレータ出力最大値突破』
『防御スクリーン硬度限界突破』
『エネルギーシールド出力限界値突破』
『機体温度上昇 危険です』
装甲が弾を弾き、シールドが衝撃を緩和する。
戒世を削っていた物が逆に削られていくのをケーブルを介して感じる。

わたし
 戒世 は再び、守ることができる!

261ロリコン隊長:2009/04/12(日) 00:34:41
戒世を包む光が、轟音と衝撃が徐々に薄れて行くのを感じる。
途切れ途切れになったそれらは、遂になくなった。

「何をしている!早く攻撃しろ!!」
「ですが…全ての部隊が弾切れです…。」
「なっ!?て、敵はACたったの一機だぞ!?」

静かだ。
バストロール…守れたよ、私は守れたんだ。
君の育った町を、たったの一度だが―――

「守れたんだ…」

262ロリコン隊長:2009/04/25(土) 19:00:45

「悪魔と烏」


いつからだろうか。

今にも全てを飲み込まんとする夜空を恐怖すようになったのは。
優しく照らしている筈の月明かりさえ、嘲笑っている悪魔の眼に見えるようになったのは。

いつからだろうか。

人と悪魔の見境が付かなくなったは。
周りに溢れ返る人という人が、親しい者ですら悪魔に見える様になったのは。

いつからだろうか。

烏として力を振るっていた私が、今はベッドの下の暗闇に怯える子供の様になったのは。
力なく震える子供の様になったのは、本当に…いつからだろうか。

263ロリコン隊長:2009/04/25(土) 19:01:30

足を引き摺る老婆の様にゆっくりと静かに…だが確実に、夜がやってくる。
遅くはならないが、早くもならない。…老婆とは…夜とはそういうものなのだ。
ミッションを進める間にも、少しずつ広がり風景を潰していく夜の暗闇に恐怖していた。
老婆は手招く。

「こちらへおいで。」

そんな言葉さえ聞こえてくる。
全身が小刻みに震え、玉のような汗は首筋を伝う。
老婆が手招けば、奴等はやってくる。
暗闇とは違う、もっと恐ろしい奴等が牙を剥いて…翼を広げて…。

悪魔はやってくる。

264ロリコン隊長:2009/04/25(土) 19:02:01

電子画面が騒がしく悪魔の接近を知らせるが、それすらも静かに思える程に私は怯えていた。
歯を打ち鳴らし、手足を震わせ、烏は子供になっていく。
目の前の電子画面を介して広がる暗闇に、悪魔は突然姿を現した。
月明かりにぼやけてそのまま溶けて消えてしまうような白い装甲。
本来腕がある場所に取って代わって小振りな翼が生えている。
悪魔は地面を滑る。歩くことなく近づく様は見慣れている…筈なのにも関わらず後退りしてしまう。
それが悪魔の意思であるかの様に距離を取ろうと少しずつ。

「前に進め…これでは何時もとかわらん!」
「これで最後なんだ…きっと…。」

怯えた子供は烏へ戻ろうと、震えを抑え奴等に…悪魔に銃を向けた。

265ロリコン隊長:2009/04/25(土) 19:02:36

足元に転がる悪魔の亡骸を見て、私は思い出す。
以前も、こうして悪魔を薙ぎ払うことができた。
その前も、その前その前もその前も…そうすることができた。
その度に願っていた、これが最後であってくれと。
だが願いが叶うことなどなかった…只の一度も。
奴等は決して諦めない、私を葬るまで何度でも現れる。
奴等は死なない、悪魔とはそういうものだ。

どんなに殺しても…殺しても殺してもころしてもころしてもコロシテモコロシテモKOROSITEMO

奴等は殺せない…悪魔とはそういうものなのだ。
電子画面のその下、小さな引き出し。
その引き出しから銃を取り出す、私の手に隠れてしまう程の小さな銃を。
烏はいつも自由だ、何をするでも自分で決める。
何にも束縛されず自由に空を飛ぶ、それが烏なんだ。
永い経験からわかる、私はもう烏ではない。
飛ぶことを止め、ただ怯え震えるそんな子供だ私は…。
悪魔を恐れ空を嫌う、何よりも自分を見失うのは許されないことだろう。

「……烏とは、そういうものなのだ。」

低く鳴り響く銃声は、夜の暗闇に溶けていった。

266ロリコン隊長:2009/04/27(月) 14:17:25

「エース」


酒と煙草の臭いが漂う薄暗い部屋の中、唯一の明りはテーブルを照らしている。
木製のテーブルはもう一つの光源になろうと、受けた光を鈍く反射させたがどうやら不十分なようだ。
そんな儚い夢を持つテーブルを挟んで、二人の男が静かに座っていた。
一人の男は手に持つカード遊ばせて、赤褐色の透き通った酒を眺めてはグラスを傾ける。
もう一人の男は加えた煙草を遊ばせて、自分のカードを穴が開かんばかりに眺めている。
部屋の臭いはどうやらこの二人が原因らしい。
ふと、一人の男が顔を上げる。

「エース、早くカードを引けよ。」

いつまでも酒を煽る男、アリーナのトップであるエースは我に返る。
目の前で不満をちらつかせる男に笑みを浮かべ口を開いた。

「すまない、また悪い癖だ。」

267ロリコン隊長:2009/04/27(月) 14:17:49

「おいおい、しっかりしてくれよ。」
「考えすぎは体に毒…か?」
「そういうことだ、くだらん考えをしなくていいようにポーカーやってんだぜ?」

外見に似合わぬ説教を始めた男に、アリーナのトップはこれまた似合わぬ表情でクツクツと笑った。
その表情を確認した男は説教の甲斐あったと、満足そうに鼻を鳴らす。
アリーナでは決して見せない表情でカードを引いたエースは、手持ちのカードと男の顔を交互に見る。

「どーしたー?良いもんでも揃ったか?」
「どうやらな、今回も勝てそうだ。」

数枚のチップをテーブル中央に放り投げ、止まっていた賭け事は進展を見せようとしていた。
突然、甲高い音が部屋に響く。
男達は胸ポケットから持っているカードよりも小さなプレートを取り出した。
二人のプレートが同時に鳴り出したらしい、一人は落胆し、一人は無表情へと戻る。

「すまん、依頼だわ。」
「…奇遇だな、私もだよ。」
「まったく企業の連中も空気読めねぇな…。」

悪態をついて重い腰を持ち上げる。
部屋を出る際に明りを消したおかげで、テーブルの儚い夢は叶わぬものとなった。

268ロリコン隊長:2009/04/27(月) 14:19:06

「で、結局何が揃ったんだよ?」
「…そういうお前さんはどうなんだ。」
「俺か?俺はフルハウスよ!…しかもQのスリーカードにJのワンペアでなっ!」

嬉々として自慢する男にどう答えようか、エースは悩んだ。
少し考えてから自分の揃ったカードを打ち明けるとに、男は腹を抱えて笑い出す。

「そうか、エースが三人集まってもフルハウスには勝てねぇか!」
「…最後の引きは運に見放されたようでね、まぁサンダーハウスになら私一人で充分だが。」
「ごもっともだな、あー腹イテェ。」
「おっと!俺の機体はこっちのガレージだ、依頼が終わったらまたやろうぜ!ポーカーをよ。」
「そう…だな…。」

友に軽く手を振り、別れを告げる。
友として会うことができるのはこれが最後となると、顔をしかめずにはいられなかった。
無機質な廊下は、エースから人として暖かさを奪っていくような冷徹さを感じさせる。
エースは烏として、烏であるサンダーハウスを殺す。
それが彼に与えられた依頼だった。

「すまないな、サンダーハウス。」

269ロリコン隊長:2009/04/27(月) 14:19:44

サンダーハウスの愛機、バトルフィールドが戦場を駆けていた。
重兵装の軽量機体をブースター推力で半ば無理矢理押し出している。
右手のライフルが轟音と共に火を噴き出し、吐き出された鋼の粒は目標へと向かう。
瞬く間に風を切り音を超えたソレは、目標の装甲を抉り、内部を著しく破壊して機能不全に陥れる。
ライフル側面から排出された薬莢は未だに熱を帯び、地面に落下するやいなや鈍い音を響かせた。
目標が全て沈黙したのを確認すると、動きを止め熱せられたブースターと機体内部を冷却させる。

『全機撃破したぞ、これより帰還す…。』

言葉も終わらぬうちにブースターを再加熱させた、今しがた現れた目標に気付いたようだ。
機体を旋回させ新たな目標にライフルを向けるが、目標もサンダーハウスもそれ以上の動きは見せなかった。

270ロリコン隊長:2009/04/27(月) 14:20:07

『やっとお出ましか、エース。』
『知っていたのか?』
『勘…だけどな、お互いレイヴンだいつかはこうなってたさ。』
『……。』
『戦場で茶々入れはなしってか?そいつにゃ同意だ!』

サンダーハウスはライフルではなく、背に乗せている彼の最大火力をエースにぶつけようとする。
対大型機動兵器及び汎用機動兵器部隊殲滅用高出力熱量射出光学兵器《CR-WBW98LX》の起動にエネルギーを回したのだ。
兵器内コンデサから抑えきれない程のエネルギーがバレルに漏れ出し、小さな雷の如く駆け抜ける。

『へそでも隠しな!』

サンダーハウスの言葉と共に、巨大なバレルから不安定なエネルギーの塊が射出される。
バトルフィールドの身体を大きく揺らす、放たれた衝撃は岩を砕き草木を焼いて大気を蒸発させる。
地上に放たれた大規模な雷は、辺り一面を別世界へと変えていった。
エースの立っていたと思われる場所に大きな水泡が一つ、周囲を蒼白く照らしている。
依然形を変えない水泡は、周辺の物を溶かし、蒸発させ、あらゆる物を飲み込んでいった。
バトルフィールドは歪んだ姿勢を整え、怪物のような兵器を畳んだ。
装甲表面は射出時の熱に襲われ、塗装やエンブレムが酷く爛れていた。

271ロリコン隊長:2009/04/27(月) 14:20:28

『何をしている、私はまだ生きているぞ。』

瞬間バトルフィールドの一部が急速に熱せられた。
エネルギーを一転に集束させ、強固な装甲ですら焼き切ってしまう熱量を発する左腕兵装。
エースの機体アルカディアは左腕のブレード、ムーンライトを振り抜いた。
装甲が弾け、機体内部は溶け出し血のように流れ落ちていく。
バトルフィールドは形を変えながら地面へと崩れ落ちていったのだ。

『やっぱり俺一人じゃぁ…エースには勝てねぇか…。』
『…。』
『いてぇ…、あの時引いたカードが悪かったってアレ…嘘だろぅ。』
『…。』
『最後に勝たせたのはせめてもの報いってか?…へっ、キザな野郎だよ。』
『……。』
『友達だろうが、変に気を使うんじゃねぇ。』
『…そうだな。』
『引いたカード……教えろよ…。』


『もちろん…エースだ。』

272ロリコン隊長:2009/08/04(火) 15:18:39

「孤高一羽最後の烏」


男は世界に牙を向き 果てに望むは人類の

続く繁栄多大な栄光 されど願いは誰ぞいつぞの

願いのためなら仲間をくびり 最後に残すは自身の骸

「そうぞ私は一羽の烏 その上でも下でもありぬ」

「見よこの姿滑稽ぞ 策に溺れる烏の末路 世話をかける」

この烏ありてこの話しあるなり

273ロリコン隊長:2009/08/04(火) 15:19:04

女の強さは夢か真か 烏の命平らげて

故に望むは古今東西最強の 孤高の存在一羽の烏

邪魔する者は全てくびり あとに残すは一羽の烏

「主も烏 死する覚悟はできていよう」

「烏と呼ばれる存在 主にこそ相応しくありや」

この烏ありて烏という名あるなり

274ロリコン隊長:2009/08/04(火) 15:19:25

男が欲する数多の力 それは悪かや正義かや

彼はさだめを妄信し 自身のさだめに酔いしかや

数多の虚に眼を背き 故に残すは泣き童

「なるほど 貴殿も神託受けし者でありや」

「貴殿なら遣り遂げるやもしれぬ あとを頼まれよ 孤高の烏」

この烏ありて貴方があるなり

275ロリコン隊長:2009/08/04(火) 15:19:51

さぁ貴方は 貴方はどうありや

さだめに従い右向くか さだめを拒み左を向くか

最後に残すは名か骸 全て正しく全てが誤り頭を伏せず前を見よ

砂切打つ音で上がる幕 一夜限りの花舞台

人間動物草木に至れ 全ての者よ舞台を見やれ

烏と烏の殺し合い 孤高一羽最後の烏


これにて開演

276ロリコン隊長:2009/08/19(水) 08:00:47


「鐘の音」

少女の目前は赤だった。
炎は彼女の視界いっぱいに広がっている。
轟々と燃え盛り未だ爆ぜる音を絶やさぬ炎、彼女はそれらをただ立ちんぼで見つめていた。
近くのコロニーは形を崩し、遠くの人は悲鳴をあげる。
行く場所を失った少女は自分が宙ぶらりんな存在になることを自覚していない。
どこか悲観的な人がこの光景を見たら、きっと彼女の立場を可哀想だと嘆くだろう。
ただそれだけ、嘆くだけで終わる。
この世界で同情など安いものだ、誰しもが他人事だろう。
現に他人だ、他人に優しくする者など馬鹿か物好きのどちらかだ。
ではこの男は、多分馬鹿なのだろう。
彼女の姿に涙を流し燃える炎を睨みつけ、蹂躙闊歩するマッスルトレーサーをこの手で――――。

「大海を知れ、下衆共が。」

277ロリコン隊長:2009/08/19(水) 08:01:08

男の涙は本物だった。
安いシナリオに涙するどこかの悲観的な人間の塩水とは違った。
故に愚かなのだ。
この世界でそんな涙に価値はない、まして他人の為に流す涙程滑稽なものはない。
だが男は気にもしなかった。
今にも崩れ落ちそうな繊細極まりない彼女を、自分の汚れた腕で支えてあげたいと。
ただそれだけを願い彼は動いたのだ。
鋼の身体を操り今蹂躙している屑どもを、自身の愚かさに嘆き、苦しみ、涙流し許しを請うまでやり返すために。

『レイヴン』、彼こそ生き残った最後の独り。

278ロリコン隊長:2009/08/19(水) 08:01:27

男の使役する重量級無限軌道ACは文字の通りマッスルトレーサーを踏み潰して行った。
右手、左手、右背、左背全てに積んである高火力の兵器を撃ちに撃ち尽くす。
怒りに燃える彼を止められる者などこの場にはいなかった。
銃を向ける相手を誤ったと後悔する時間さえ与えない。
彼は戦闘の間際、少女に眼をやる。
先ほどまで表情のなかった彼女の顔は無邪気な笑みで満ちていた。
爆発と鋼の削れる轟音が混じるなか、陽気な歌を手を広げ小さく踊りながら歌っている。
その姿は男にとって辛いものでしかない、少女は正気を失ったのだ。
止まらぬ涙が頬を伝い、男の怒りを憤怒へ変える。
既に大破し、動けないマッスルトレーサーの群れに向け照準を合わせる。
まだ生きて逃げようとする者も、機体に足を挟まれ苦しみ悶える者も、こちらに向かって降参を叫ぶ者も。
彼は微塵も生かそうなどと考えなかった。
背中の大筒は彼等に向けられる。

279ロリコン隊長:2009/08/19(水) 08:01:45

少女の視界に赤は既に消えていた。
歌い終わり満足そうにどこかへと歩いて行く少女。
その後のほうで真っ白な巨人、彼は少女をただ見つめていた。
男は少女に着いて行くだろう、彼女が困った時にまた手を差し伸べるだろう。
けれど、何度助けようと彼女は男に感謝しないだろう。
既に彼女は以前の少女ではない、そんな少女の為に残りの人生を使う。
それが男の考えうる自身への罰だった。
自身を罰して意味があるかなどわからない、ただただ男はそうしたかったのだ。

最後に放った大筒の薬莢が今にして落ちてくる。
地面に当たり、薬莢の発した鈍く深い音は少女と男の耳に届いた。

少女は呟く
「しゅくふくのかねのね。」

280ロリコン隊長:2009/08/22(土) 20:08:52

「缶詰」


暗く狭い空間の中、缶詰を持ち大きなディスプレイを覗く巨漢が独り。
筋骨隆々の男を見るに、この空間の狭さにうんざりしているようだ。
手に持つ底の深い缶詰は既に空。
しかし男はスプーンで、空の缶詰の底を引っかき回している。
どうやら中身がなくなったことに気付いていないようだ。

「畜生が、いったい何時までまたせやがる。」

男はぼやき、強く缶底を引っかいた。
ようやく缶詰が空だと気付くと後の方に放り投げ、新しい缶詰を引っ張り出した。

〝ポークビーンズ 栄養満点、夜食や保存食として〟

十得ナイフ柄から缶切りを選び出し、キコキコ音を立て開けていく。
その動きは手馴れていて、熟練のレイヴンがACを操る様に缶切りを操り缶を開いた。

281ロリコン隊長:2009/08/22(土) 20:09:16

だが、男が手馴れているのは缶切りの使い方だけではない。
男、名をアサイラムと言う。
彼が今居るこの場所は、重量級ACギカンテスのコックピットだ。
男が巨漢であるように、このACもまた他に比べ一際大きい。
装甲に装甲を重ね速度を捨てたフレーム、腕部一体型の大型直射砲と量背中に積んだミサイル。
そのどれもが眼を引き、腕部の直射砲に至ってはその大きさから正面に立つ者が縮み上がる程。
そんな怪物の様なACを操り、敵を完膚なきなきまで叩き潰すことにも手馴れているのだ。
が、叩き潰す敵がいない今、彼にあるのは素早い缶切り捌きだけだった。
もうすぐ空になるポークビーンズを貪りながら、レーダーに映る筈の光点の出現を待っている。

「依頼の場所はここの筈だろうが…。」
「企業もいい加減な仕事しやがる。」
「狭い中で缶詰になってクソまずい缶詰食ってるこっちの身にもなれってんだ畜生。」

彼の苛立ちは敵が来ないということもそうだが、どうやら缶詰の味からも来ているようだ。
売り文句に〝食卓にもう一品〟と書いてない辺り味の方は想像できる。

282ロリコン隊長:2009/08/22(土) 20:09:34

男が待ちくたびれ、先ほど開けた缶詰が空になる頃。
レーダーに光点が一つ、また一つと映りだす。
男は歓喜し空になった缶詰を放り投げ、巨人ギカンテスを動かした。
一方、囲んでいるトレーラーを目標地点まで護衛するMTの部隊はACの存在に気付き始めた。
ゆっくりと近づいてくるソレに対し、彼等は脅えながら銃火器を乱射する。
ギガンテスに向かって飛んでくる銃弾はその殆どが当たらず、例え当たってもその装甲に傷を付けることはできなかった。

「かははっ!ちいせぇちいせぇ、豆鉄砲だ!さっきのビーンズのがよっぽど効くぜ!」

腕部の砲を前方に向け、交互に発射しながらゆっくりと歩み寄るギガンテス。
飛んでくる砲弾に当たらぬことを願い、護衛対象を守り抜こうとするMT部隊。
悲しいかな、彼等の弾は巨人の前では小さすぎ、飛んでくる砲弾は彼等にとってあまりに大きすぎたのだ。
トレーラーがMT諸共爆風に飲まれるのにそう時間は掛からなかった。

「いいねぇいいねぇ、報酬が入ったら晩飯はステーキだ。」

283ロリコン隊長:2009/08/22(土) 20:09:59

後に転がる空の缶詰をざまぁみろと言いたげに睨む。
察するに、御馳走と呼べるものにありつけるのが相当久しいのだろう。
鼻歌混じりの巨漢が帰路につこうとした時、彼のオペレーターから連絡が入った。

「いったい何をしてるんですか…。」

女の声は小さいが、明らかに怒りで震えていた。

「何もナニも依頼をこなしてたんだよ、今夜はステーキだ!一緒にどうだい?」
「結構です!それに、ステーキもお預けです!」
「なーに怒って・・・お預け?」

なんでも彼は企業からの依頼メールを確認した時、久しぶりの依頼とあって興奮していたようだ。
同時に彼女の下にもメールが届き、依頼受諾の確認のためガレージに行くと既にガレージは空だった。
部屋のPCは起動したままで画面は契約画面で止まっていた。
つまる所彼は依頼契約をせずにミッションを遂行したため、企業に逆手を取られ報酬は無効、必要経費も出されなかった。
男の巻き添えでオペレーターまでおまんま食い上げである。

「…やっちまった、また缶詰生活なのか…。」
「お願いですからそのまま缶詰に埋もれて死んでください…。」

落胆する男はそのままうつむき、新しい缶詰を手早く開ける。
いつもより少し塩辛いポークビーンズに男は顔をしかめた。

284ロリコン隊長:2009/09/09(水) 15:45:14

「ドミナント」


空に一つの影が落ちる。
地上に這う男達は我先にと指を指し、声高らかに危険を歌う。

あれは何だ?大きな鳥か?鳥というにはあまりに速い。
鳥じゃなければなんなんだ?あれは敵の大型輸送艇だ!
武器を持て!砲だ!大きな砲が良い!あれを落とすには大きな砲が一番だ!

そうこうしている間にも輸送艇は近づいて、運んだ荷物を地上に落とす。
大きな鳥から落とされた、鮮やか蜉蝣蒼い烏。
真紅の眼で見て畏怖される。
群がる男は我先に、そこのけそこのけ逃げ果せ。

蒼いのだ!奴だ!奴がきた!逃げろ命が惜しければ!
死神月光!高慢指揮官!神託受けし者!その名は!

その名は!

その名は! レイヴン!エンヴァジェ!!

駄目だ!歯向かうな!立ち向かうな!奴は冷静で狂っている!

285ロリコン隊長:2009/09/09(水) 15:45:37

しかし遅い、遅かった。
男達の刹那の判断はエヴァンジェにとっては数刻にも感じられたのだ。
左手に持つ金色蒼刃月光刀、逃げ行く者たちの装甲という装甲を片端から刻んで行ったのだ。
月光はあらゆる物を刻んで行く、例えるならば日本刀、例えるならば刃先の紙。
次元が違い過ぎるのだ彼等と彼では。

圧倒的だ!撤退!生きてる奴等だけでも撤退しろ!するんだ!
母ちゃんにあいたきゃ祈りながら逃げるんだ!

涙ぐましい撤退劇にレイヴンエヴァンジェは笑いをこぼす。
自身の強さを辺りに散らばる亡骸、畏怖が証明しているのだから。
エヴァンジェは歪んだ笑みといきり立つ股座で今を最大に満喫している。
装甲の爆ぜる臭い、肉体を焦がす光刀、死臭、そのどれもが彼にとっての癒しのアロマ。
歓喜を抑える方が無理難題なのだ。
男は今を逃げるもの、そして死人にも聞こえるような大声で叫んだ。

286ロリコン隊長:2009/09/09(水) 15:46:03

私はなんだ!!

レイヴン!最強のレイヴン!!自身以外を見下し死を与える最強者!!!

私はなんだ!!

死神!全てを喰らう底深き傲慢者!!

私はなんだ!!

エヴァンジェ!神託を授かりし者!!人を人と思わぬ者!!!

そうだ!私はレイヴンだ!エヴァンジェだ!!選ばれた者だ!!!
私を称えろ!私を脅えろ!私を敬え!私を恐怖しろ!死に物狂いで逃げ果せ!恐怖を噛み締めナニを縮めろ!!
頭を下げろ!!命乞いをしろ!!畏怖を快感にマスをかけ!!

私はなんだ!何者だ!!声高らかに歌ってみせろ!!

貴方が!  私が!
貴殿が!  拙者が!
YOU!  ME!

ドミナント!!!

イエスッッッ!!ドミナント!!私がドミナント!!!!!

287進藤:2009/09/20(日) 00:49:36
書きかけSS、エヴァンジェ物語に続くLRキャラのお話第二弾。
キリの良いところで投下する予定なんだけど、展開上なかなかACが出て
こないからやりにくい。
近いうちに落としますよ〜ってことで、ここで宣伝してみる。

For Alive(仮)

 自分の名を思い返すのは、何のために生まれ、生きるのかという無為な問いを
発する行為によく似ている。
 特権階級や富裕層の娘にこそ相応しい、鉄錆と火薬の臭いの染みついたこの身
にはとても似つかわしくない名前には、経済成長の混乱に紛れて成り上がった父の、
卑屈で、しかし強い、反骨の魂が込められている。

 先見性に秀でていたのだろう。国家権力が弱体化し、武力の拠り所が個々の企業
へと移行していくのをいち早く見抜いた父は、先祖より受け継いできた造船工場を
畳み、次世代の主力兵装として注目されていたアーマード・コア…AC向けの基礎
パーツの開発に取り組んだ。
 その選択の成否に関しては今更説くまでもないだろう。ACは自由傭兵レイヴンの
勃興と共に世界を席巻する兵器となり、開拓者に名を連ねた父は、大企業クレストの
お抱え企業として、地方で工業を営んでいた時代とは比較にならない財産と権威を
手に入れた。
 だが成金に過ぎない父への風当たりは厳しく、開拓者を弾き出す閉鎖的な気風を
持った富裕層の連中からは欲望の傀儡と貶められた。差別にも等しい不当な扱いを
受けるうちに、父は名声を追い求めるようになった。

288名無しさん@コテ溜まり:2009/09/20(日) 00:53:52
 労働者の出身として名の知れ渡ってしまった父が、俗物のレッテルを剥がす
ためにいかほどの労力を払ったのか、想像するに難くはないだろう。
鳥の目を持ってしても見渡し切れない敷地の中央に建てられた住居の外観は、
覗けば目がくらむほどに磨かれた大理石や希少な鉱石で飾り付けられた絢爛な
造りとなった。社交界とは無縁の工場主に過ぎないにも関わらず、著名な衣服を
纏い、使用人をつけ、過剰な消費を持って懸命に富める者の威風を演出した結果、
その生活は古の貴族そのものとなった。
 父が妻を娶り、子…つまり私を産み落とすのはその後のことだ。
 商売で積み上げた財産を投げ打ってまで求めた格と気品を、自らの分身である
私にも求めるのはごく自然な話と言えた。
 父に課せられた平凡な名前とは異なる、貴やかなそれを授けられた私は、気高く
生きる義務を負わせられた。自分が経験した劣等感を繰り返さないよう、真の
貴族として生きることを要求してきたのだ。
 それは父が起業時に味わった渇望を満たすための代償行為に過ぎず、限りなく
一方的な自己愛に等しかったが、愛情と評するに足る、真摯な想いであったと私は
受け止めている。
 だから私は気高く生きなければならなかった。欲に流されず、暴力に屈さず、
ただ己の信念に基づき行動する。
 それが、深窓の令嬢ジナイーダの名を冠する私の宿命だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
要するにジナ物語。
しかしこれを投下すると、ジノーヴィ物語と完結編ことジャック・O物語を
書くのが確定してしまう。
書きたいことは一杯ある。が、体力と気力がどこまで続くやら。

289名無しさん@コテ溜まり:2009/10/12(月) 19:27:14

「絶望の蒼、希望の黒、烏の名」


暗闇。
どこまでも続く闇の中、独りの男が涙を流す。
この闇は母なる黒、生を謳歌する寸前の闇、男はそう思っていたのだ。
男の過去を見て見れば、それはなんとも不遇なもの。
烏になることで人としての何かを失い、死を目前に大切なそれを取り戻した。
男は一度死んでいる、それはそれは勇ましくとてもとても儚げに。
そして死に招かれた今、自身の生き方に少しだけ後悔していた。

「…すまない」

男は力なくそう言った、それは心の言葉ではく口からでた紛れもない空気振動。
そのため、その言葉は誰かの耳にも届くのだ。

「よかった、意識があるみたいだ」
「ナナ兄さん、このひとはなんていったの?」
「さぁ、誰かに謝っていたようだけど」
「なんであやまるの?なにかわるいことをしたの?」
「アミ、静かに。この人が起きてしまうよ」

突如聞こえた人の会話に男は困惑した。
彼自身、既に自分は死んでいるものだと考えていたからだ。
息を呑み、目の前の闇を振り払おうと立ち上がる。
すると、どこまでも続くと思えた闇は簡単に途切れ瞳を焦がさんばかりの光が視界を被う。
長く闇に慣れていたせいか先程まで泣いていたせいかはわからないが、大粒の涙が頬を伝い零れ落ちてゆく。

290名無しさん@コテ溜まり:2009/10/12(月) 19:28:00

「ここは…」

突然の光に麻痺した視神経もやっと落ち着き、周りの情報をゆっくりと取り入れる。
小汚い部屋、壊れ抜けている壁と天井、二人の人間。
数度の瞬きで不完全な情報も完全なものへと形を変えた。

「身体は…大丈夫ですか?」

聞こえた声は二人の内の一人、少年のものだった。
警戒しながらも、心配そうにこちらを見つめる。
その少年のうしろに隠れるように男を見ているのはもう一人の声の主、八歳半ばの女児。
しかし少年の労わり言葉も届かぬ程に、男は困惑していた。

「ここはどこだ!仲間は…レイヴンは!あいつは…」
「私はなぜ生きて…世界は…世界はどうなった!」

頭を抱え膝を付き、息を荒れげながら自身を保とうとする男。

少年のうしろでその光景を見ていた女児は立ち上がり取り乱す男に手を伸ばす。
その手はまるで救いの手、男を包む安堵の闇。
男の頭を胸で受け、か細い腕を背中に回し男を優しく包み込む。
今にも崩れ落ちんとする男は、息を整えまた涙を流した。

「そうかこれが先刻の闇か…」

男は眠るかのように息を落ち着かせた。
少年は安堵の溜息をつき、女児と男を交互に見つめる。
少しして男は、大の男が自身の半分もない女児に抱擁されているという状況を考え羞恥心が込み上げる。

「…もう大丈夫だ、もういい」

その言葉を聞いた女児は男を離し、少年のうしろへと戻っていった。

291名無しさん@コテ溜まり:2009/10/12(月) 19:28:54

「先刻はすまない、年甲斐もなく取り乱してしまった」

男は少年と女児に頭を下げた、深く静かに。
二人は大人に謝られる状況になれていないらしく、言葉に困り顔を見合わせる。

「そんな、謝らないでください。長く寝ていたんですからわからなくもないですよ」
「寝ていた?」
「ええ、コロニーの外で倒れているのをアミが…あぁ自己紹介が遅れてましたね」
「僕はナナ、こんな名ですが男です。そしてこっちが妹のアミです」
「えと…あなたの名前は」

男は躊躇った、この二人に自分素性を教えていいものなのか。
整理の付かない現状で、自身を晒すのは利口な判断なのだろうかと。

「あ…嫌ならいいんです。気が向いた時にでも…」
「すまない…そうさせてもらう」

子供に気遣ってもらうのは気が滅入るようだ。
立ち上がり、外をみようと壊れた壁から顔を覗かせる。
しかし眼に映る光景は、到底気分転換できるようなものではなかった。
ナナはコロニーと言っていたが正確にはコロニーだったが適切だろう。
半球状の屋根はこの部屋のように崩れ落ち、下に広がる居住スペースが半分は潰れている。
その他にもMTの残骸が被さり潰れた建築物、大きな弾痕の残るアスファルト。
とても人の住むコロニーの光景とは思えなかった。

「…酷いな」
「仕方ないですよ、企業もあの一日でボロボロになっちゃいましたから」
「企業の立て直しが終わるまでコロニーの復興はないでしょうね」
「それにしてももう一年にはなるのに、食料やその他の物資は充分に供給されるようになりましたけど」

292名無しさん@コテ溜まり:2009/10/12(月) 19:29:27
落雷のような衝撃が男の脳髄を突き抜ける。
あれから一年、既に一年の歳月を経ている。
だからこそ疑問に感じるのだ、『私は何故生きているのか』と。
あの時、あの烏に背中を預け、自身の命と引き換えに打ち倒した絶望。
あの日から今日まで、記憶が一切ないのに何故こうしているのか。

「いったい…何が」

戸惑いを隠しながらも、頭の中ではまたあの時の状態だ。
男は困惑せずにいられなかった。
不自然に続く沈黙は、以外にも無口なアミが終わらせた。

「おじちゃん、びょうきなの?」
「あ!馬鹿、言っちゃ駄目だろう!すいません変なことを」
「病気?」
「その…見る気はなかったんですが寝ているときに服を変えようとしたら……」
「おむねがね、光ったの。あおくてぼや〜って」


「蒼く…光って……」

男は服を引っ張り胸部を睨む、するとアミの言うとおりにそこに光があった。
一年前のあの日、沢山の烏が畏怖し立ち向かい敗れていったあの絶望の光。
男の死を防いだのは男が死を覚悟し破壊したあの光だったのだ。
睨めば睨む程にその光は淡く燃える、一方的な破壊と力の誘惑、畏怖と絶望の滾る終焉。

「病気じゃないですよね」
「あぁ、病気なんかじゃない」

「私にとってもっと嫌なものだよ」

突如、甲高いサイレンが半壊したコロニー内でわめき散らす。
非常警報用のサイレン音、男の耳にも馴染みがあった。
コロニーに住む少ない住人がこぞって非難を始める様子は一年前と何も変わってはいなかった。

293名無しさん@コテ溜まり:2009/10/12(月) 19:30:12

「戦闘か」
「そうです!あなたも非難を、100%安全じゃありませんけど少なくともここよりは…」
「そうだな…アミは私が背負う、急ごう」

男と二人の子供は地下のシェルターへと向かう。
そこには他の住民の姿も見て取れる、皆恐怖で縮こまり身を寄せ合っていた。
薄暗いシェルター内は恐怖が渦巻き、先刻とは違う纏わりつくような不快な黒であった。

「しかし、これでも安全は保障されないのか」
「えぇ、あの一日でレイヴンはいなくなり戦闘はMTを主とした物量戦になりましたから」
「ACがいた時はすぐに戦闘が終わるんですが、今は殆どが長期戦です」
「随分詳しいんだな」
「こんな状況がずっと続いてましたからね」

ナナは震えながらも作り笑いをする、男の胸にその笑顔が苦痛だった。
子供の感じる恐怖への共感、一年前のあの日を迎えるまでの彼では到底考えられないことだろう。
男は変わったのだ、あの時の敗北と少ない間だが子供と過ごした時間の中で。
だからこそ辛かったのだ。


男は、震えるアミを見て胸の中の苦しみを決心に変える。

「アミ…恐いか?」
「うん、とっても」
「あの時は私もだ、けれどアミが抱き寄せてくれて…恐くなくなったよ」
「だから、待っててくれ。…少し行ってくる」
「ナナ、使えるMTはあるか?動くだけでいい!」
「あるにはありますけど何をする気ですか…」

男はシェルターを飛び出し、コロニーを直走る。
建築物にもたれかかるように動きを止めるMTを見つけ、コックピットの中へ飛び乗る。
操作プラグを差し込んでる間にハッチから見える戦場。
弾丸が飛び交い、一機また一機と歿していくMTの群れ。
弾避けに使われ、あらゆる弾丸に揉みくちゃにされる残骸。敵、敵、敵。
オイルに混じる汚れた血、肉の臭い。
男は戻るのだ、男という立場を捨て戦場に〝烏〟として。

294名無しさん@コテ溜まり:2009/10/12(月) 19:31:00

「こんなポンコツ一機でどうにかなるとは思わないがな」
「何、賭けてみようじゃないか」
「賭けに勝てばあの子達を守ってあげられる、分の良い賭けだ」

MTは新たな宿主を与えられ、立ち上がる。
戦場へ向かって一歩また一歩と壊れかけの身体を引きずった。
烏は最中に回線をいじり、通信が声が戦場の全ての者たちへと聞こえるようにした。

「今戦うものたちよ!私の声を聞け!!」

銃声、爆発音、装甲の爆ぜる音、全てが止まった。
今ここにいる人という人が唾を飲んだかのように、静けさが広がり。
烏の乗る半壊したMTへ視線がカメラがレーダーが集まる。
この烏の一言は戦場をも止めた、それだけ烏は知られているのだ。


烏は開かれたままのコックピットハッチから飛び出し、MTの頭部の上で仁王立ちの姿勢をみせる。

『あいつは!』
『アライアンスの亡霊か!』
『死んだと聞いていたぞ』
『なぜこんなところに』
『そうだ!何故ここにいる何故生きている!!』

『『『『『『『エヴァンジェ!!!』』』』』』』

「貴様らに答える道理などない」
「私が求めるのは一つ、今すぐ戦闘を中止しろ!ボスのところへ戻って私が生きていたことを報告するといい!!」

胸が焼けるように熱い、それはエヴァンジェの感情を表す熱だった。
きっと戦闘になる、だが勝機はあるエヴァンジェは確信していた。
今はエヴァンジェに、守るものがあるからだ。

295名無しさん@コテ溜まり:2009/10/12(月) 19:32:17

『戦闘の中止だと!?』
『逆らったらどうするつもりだ、そのMTで力尽くか?』
『笑わせるな!ACのないレイヴンに何ができる!』
『ただでさえ生き残った一人を持て余す企業にお前は必要ない!』

「愚か者が…ならば見せてやろう決定的な違いをな!!」

「終焉の淵を歩む者よ!身体を貸してやる!その絶望の光に神託の力を今!!」


       「 「 「 パ ル ヴ ァ ラ イ ズ ! ! 」 」 」 


エヴァンジェの胸から蒼く禍々しい程の濃さを持つ光が噴出し、エヴァンジェの身体と共に半壊したMTの鋼の身体をも飲み込んで行く。
光の中心がより一層輝き、光がその濃さを失ったときそこに現れるのは災厄の力。
パルヴァライザーが復活する。


『なんだ…あれは!?』
『ACじゃないのか?』
『撃てぇぇぇぇぇえええっっ!!』

その場にいた者全てが平等に恐怖を感じていた。
パルヴァライザーはあの日から極秘扱いで、この場にこの機体を知る者などいない。
にも関わらず彼等は敵味方関係なく協力して倒そうとしているのだ、パルヴァライザーを。

296名無しさん@コテ溜まり:2009/10/12(月) 19:32:58

《オモ…シロイ…》

既にエヴァンジェの声は人のそれではなくなった。
パルヴァライザーを中心に巡らされるシールドは何千何万とい弾丸を叩き落す。
二本の脚は地に付かず、空を蹴って一瞬でMTの群れの中心に移動する。
瞬間移動にも見える驚異の瞬発力は距離という概念を噛み砕き、両手のブレードはMTの防御力という概念を飲み下した。
蹂躙は始まりと共に終わる。

パルヴァライザーが腕を振るえば何十というMTが骸に変わる。
鉄屑が吹き飛び、その時初めて敵が隣にいること知るMT達。
距離を取ろうとした時既に、彼等は自身が切られていることに気付いたのだ。
蒼く滲むブレードは敵が近ければ刀身で、敵が離れれば光の衝撃で骸の数を増やしていく。
しかしMT達も数多く、エヴァンジェをパルヴァライザーを包み込む陣形を整える。
MTに乗る彼等とて、ただ死に行く愚か者ではないのだ。
二本のブレードでは持て余す数の多さ物量、だがそんな小細工でどうにかできるのならあの日。
多くの烏が畏怖することなど、数をすり減らすことなどなかったのだ。

《…フヤセバ…イイ》


パルヴァライザーの背から光が伸びる、あの禍々しい光。
その光が形を成し腕を増やす頃、MT達は戦意の大半を削られていた。
四本の腕を、ブレードを限界まで伸ばしたたずむその姿はまさに悪魔、彼等にどうこうできる相手ではないのだ。

《アサルト…ドミナントォ……》

ブレードの刀身が光を集め、爆発的にその内のエネルギーを凝縮させる。
腕が羽が輝きを増し、飛んでくる弾丸を分解し粉へと変えていく。
周りに落ちるMTの残骸すら、光に干渉し粒子の雨を生み出す。
粒子の渦がパルヴァライザーに纏わり、その全てが一気に外側へパルヴァライザーを囲むMTの壁へと干渉する。

《ブレード!!》

全て飲み込む絶望の光、纏わりつく闇を浄化する光源。
光球は辺りを照らし飲み込み塵に変えその干渉範囲を進めていった。
全て喰らい尽くす絶望の光の前で、逃げられる闇などどこにもないのだ。

297名無しさん@コテ溜まり:2009/10/12(月) 19:34:16
干渉がコロニーまで到達する寸前に、エヴァンジェは正気を取り戻す。
力を抑え、パルヴァライザーの干渉を拒み自身を保つ。
パルヴァライザーを光が包み、塵積もる戦場に残るは半壊したMTとエヴァンジェ独りとなった。

「フッ、少しばかり格好は付いたかな」

エヴァンジェはシェルターへと向かった、一刻も早く二人の無事を確認したいから。
コロニーの残骸を飛び越え、砕けたアスファルトを踏みにじる。
MTの骸や薬莢をすり抜け二人のもとへと向かうエヴァンジェのうしろ姿は、さながら人の子の親と言えた。

「そうだな、ちゃんと自己紹介してからでも遅くはないか」


「まさかアナタがアライアンスの英雄だなんて」
「それは表の史実だ、実際は仲間と企業を裏切り力に驕って敗北した愚かな奴だよ私は」
「そんなことありません!だって守ってくれたじゃないですか僕等を」
「…」
「またああやって守ってくれますか?」
「その心配はない、私が生きてたと知れば企業も流暢に戦闘行為などしない。私を探すのに躍起になるさ」

「いかないで…」

背中を向けたエヴァンジェの服をアミは強く握り、エヴァンジェは少し驚いた。
エヴァンジェは、自分がこうして求められる状況など戦場以外でないと考えていたからだ。

「行かせてはくれまいか、アミ」
「絶対に帰ってくると…約束しよう」
「ほんとう?」
「もちろん私の名前に誓おう」

「私はレイヴンエヴァンジェ、人読んで〝隊長〟…だからな」

298名無しさん@コテ溜まり:2009/10/20(火) 16:23:27

「わらしべ長者」


見ている。
私は見ている。
私は暗がりで見ている。
私は瓦礫の暗がりで見ている。
私は町の瓦礫の暗がりで見ている。
私は戦禍の町の瓦礫の暗がりで見ている。

聞いている。
私は聞いている。
私は敵の音を聞いている。
私は敵の出す音を聞いている。
私は敵の出す音を息を潜め聞いている。
私は敵の出す音を息を潜め武器を持ち聞いている。

ほうら近づいてくる。
人間だ歩兵だ元凶だ軍だ企業だ生きてる奴だ死に行く奴だ殺される奴だ私が殺す奴だ武器を持った奴等だ。
静かに!気付かれてしまう、ばれちゃうばれちゃう。
もう少し見てよう聞いてよう、あと数分あと数秒あと数瞬あと…いや今起きよう。

いいなぁ殺すのはいいなぁ最高だぁ。
ほら見て企業の歩兵は私が飛び出して驚いているぞ。
砂や埃まみれの瓦礫が動くなんて誰が思うよ、でも私はこの時のためにナイフ一本持って隠れてたんだ。
一週間…長かったぁ、だからいいんだこの瞬間が。
対MT・AC用のナガモノなんて人相手じゃ無用の長物…なんちゃって。
こっちに向ける前に私のナイフが首に届くんだから楽だよなぁ、肉にめり込むこの瞬間忘れられないよ。
さて長物ライフルひぃふぅみぃ…これはそんなにいらないや。
MT・AC用ランチャーがひぃふぅ、ふたつこれだけあれば大丈夫。
次だ、次つぎはどこにしようどこ隠れよう…あぁでも興奮してちゃぁ駄目だよなぁ。
マスかいてから考えよう、うんそうしようそうしよう。

299名無しさん@コテ溜まり:2009/10/20(火) 16:23:58
狙っている。
私は狙っている。
私は屋上で狙っている。
私は建物の屋上で狙っている。
私は壊れていない建物の屋上で狙っている。
私は壊れていない建物の屋上で孤立したMTを狙っている。

あと少し、ここなら乗れる飛び乗れるいいぞいいぞ早く来い。
ほら来た!ほらね、馬鹿な奴俺はお前を狙ってる味方とはぐれた馬鹿な奴。
このライフルで外部ハッチレバーを狙い撃つ、やったね!当たりぃ耳痛い。
驚いてる場合じゃないぞ馬鹿な奴、壊れた所ををこのランチャーで狙い撃つ。
一発外して一発当たるでも一発で充分だ。
開いたひらいたハッチの装甲、見える見えるぞ馬鹿な奴。
ナイフをくわえてそっちに飛んでありゃりゃナイフは先刻捨てちゃった、仕方ないから素手でやろう。

疲れたけれど手に入れた、新品同様でっかい兵器ハッチは開いたままでいいや。
堪らないなぁ嬉しいなぁ、味方だと思ったMTに薙ぎ払われる歩兵の顔は。
口径違いの大砲で吹き飛ぶ血肉は最高だぁ。
笑っちゃ駄目だめ真剣に、だってアイツがいるんだもの。
こんなMTより強い奴、レイヴン一羽いるからね。
あれ欲しいなぁ、すっごく欲しい今度はアイツと殺ってみよう。
静かに静かにしずかにSIZUKANI!ゆっくりアイツに近づいて、味方ですよ味方です…僚機信号で騙し打ち。
興奮するなよ誤魔化せよ、ゆっくりゆっくりうしろから少しで届くあと少し駄目だよ笑っちゃ気付いちゃう。

「とった!」

私のブレードは届いた筈だ、アイツの身体を貫いて今もある筈目の前に。
あれでも可笑しいなんでかな、私の左手どこいった?あいつの姿はどこいった?
見えない聞けない狙えない、私の身体が傾いて画面に映るは瓦礫だけやっぱりおかしいわからない。
私はいったいどうなった?

300名無しさん@コテ溜まり:2009/10/20(火) 16:24:44

「そいつに乗るのは始めてか?味方同士での信号のやりとりがあるんだよ」
「もっとも、うしろから近づいてくる奴など味方だろうと斬ってしまうがな」

そうか両断されたんだ、腕と身体を横半分にだから瓦礫が映るのか。
くそう、強いな蒼いやつ。
蒼くて白くて格好良くて、黄色いアレが早いやつ。
あぁ糞畜生完敗だ、くっきりあっさりボロクソにあの黄色いのに薙ぎ払われた。
ナイフ一本でMTまでかそれが私の限界か。

「隊長、止めを刺しますか?」

急に出てきた変な奴、ひぃふぅみぃよぉ脚4本うわなんだこれマジキメェ。
こんな強いの欲しくねぇ、こっち見るなよキモイ奴ワシャワシャさせんなあっち行け。

「慌てるな、……少なくとも機体の操作は素人同然だが」
「使えるだろう、アライアンスに問い合わせろ…小間遣いが増えるとでも言っておけ」
「…了解しました」

「おいおまえ、おまえだキチガイ」
「名を」

蒼いあいつが聞いてくる、名前聞かれるの久々だ。
言っていいかないいのかな、私の名前なんだっけ?あぁそうだ思い出した。

「ジャウザー…」

そうそうこんな名前だった、このあと私はどうなるだろうか。
殺されずにはすんだけど、どこかに連れて行かれるようだ。
ナイフ一本でここまで来たけどあれより良いものもらえるだろうか、なんだか死ぬ程楽しみだ。

301名無しさん@コテ溜まり:2009/10/23(金) 23:38:13

「赤い雨」


多くの人が世界からその影をなくしてしまうでしょう。
雨は何処にだって降り注ぐ、逃げ場なんて望めない。
けれど私は信じます…だって諦めるてしまえば、レイヴンに彼に申し訳がありません。
今これを聞いている方に、私は言っておきたい。
諦めないで、そして頑張って。
世界が不条理なのはわかっています。
これからも続く雨、いえ…絶対に止むであろう雨の中生きていて。
そして祈って、いつだってレイヴンという存在は諸悪の根源であり希望の光。

もしこれを聞いている方がレイヴンならば

              〝レイヴン〟貴方は自身に何を求めますか?


―――数十時間前 某所―――――――――

真っ赤だ見違える程に赤いんだよ、空がさ。
夕暮れ時の赤とは違う赤だ、あと数分もせずにこのビルへと降り注ぐ赤。
空を見ながら死ねると知ったときはなかなか乙なもんだと思ったが、こう赤いんじゃ風情も糞もない。
それにさっきから喧しい、ACの警告音に喚き散らすオペレーター。
コイツには永く乗ってるがこんな喧しいもんだとは…まったく参るね、死に際だってのに。

302名無しさん@コテ溜まり:2009/10/23(金) 23:38:40

「ちょんの間の静寂ってのはないのかねぇ」
「よっと、機体確認」

《AP50%低下》
《ラジエーター、損傷有り機能が30%低下しています》
《左腕損傷、関節に問題有り》
《装甲表面のプロテクトスクリーン、主に前面のスクリーンは出力が著しく低下しています》
《右腕武装の予備弾数残弾560、発射に問題はありません》

「厳しいねぇ、第2波の到着時間は…」
『……』
「なんだ、先刻まであんなに五月蝿かったのに今度はだんまりか…女ってのはようわからんね」
『…なんで撤退しないんですか…グスッ…』
「へ?」
『機体はもうボロボロで次の特攻に耐えられる訳ないじゃないですか…ズビッ…それなのにそれなのに…ヒック』
「ほらほら泣かない泣かない、お前さんが死ぬ訳じゃぁないんだから」
『だって!貴方は…あの古代兵器だって倒して第一波だって退けたじゃないですか!…ここで退いたって企業の誰も責めやしないのに、そんなことできないのに…』
「…そうさな、俺はやった、いろんな奴殺していろんな事阻止してそれで小金稼いださ」
「俺はよレイヴンだ、烏なのさ。汚ねぇもん扱って金稼ぐ底辺さまよ」
『そんなことありません!貴方のしてきた事は英雄と言われたって!』
「やめろ!…やめてくれよ英雄なんて、こんな奴にそんな称号いらねぇしあっちゃいけねぇ」
「人様の恨み買って高く売りつけて、英雄なもんかよ」
『でも……でも…』

《熱源接近》

303名無しさん@コテ溜まり:2009/10/23(金) 23:39:15
言葉を掻き消す爆音、急激に熱せられたアスファルトは泡を噴き溶けるように焼ける。
一瞬で男の搭乗するACを包む赤い雨、それに飲まれぬよう男は飛来する雨に銃弾をばら撒いた。
右腕の武器は連続した火の粉を噴出し、直線状にいる雨を貫くように飛んで行く。
誘爆、空中で身を爆ぜた雨の衝撃に飲まれ次々と吹き飛んで行く雨の群れ。
それでも雨は数を減らすことなく、ACに男に向かって行く。
物量の驚異、男はそれを実感していた。
休むことなく吐き続けられる薬莢、放物線を描きアスファルトに落ちて行く薬莢はその端々から炎に飲まれて行った。
男は自分の最後を予期していた。

『敵飛来物!数1500を超えて…2000!』
『でも…大丈夫!貴方ならきっと』
「聞け!お嬢ちゃん!」
「敵の数数えるのも俺を励ますのも…やめるんだ、お嬢ちゃんが悲しくなるだけだ」
『あっ…だけど』
「俺は先刻いった通りの駄目な野郎さ、だからレイヴンも駄目って訳じゃねぇ」
「誰かにとってレイヴンはすげぇ存在なのかもしれねぇし、最低なクズ野郎共って認識でしかないかもしれねぇ」
「俺の中でのレイヴンはどっちかってぇと後者寄りなのさ。」
「歴史を振り返れば英雄みたいな奴だっている、神さまだって裸足で逃げ出すような奴もいる」
「千差万別十人十色、レイヴンってのはそういうもんさ」
「だが俺は駄目だ、何かを守る為にとか力が欲しいからとか唯一無二の存在になりたいとか」
「そんな立派な理由はねぇのさ」

こうして話している間も飛来物は数を減らすことなく、ただ男の生を磨り減らしていく。

304名無しさん@コテ溜まり:2009/10/23(金) 23:39:42
「はなっから失うものなんてなかった、だからなってやったさレイヴンに」
「ちょっと強かっただけで期待の新人だとよ、こんなおっさんが新人なんて笑わせんぜ」
「成り行きだったんだ、今の今まで」
『…』

「けどよ!」
「烏だぜ!信念曲げねぇで命を軽んじて金に執着する生粋の烏さ!」
「先刻言った立派な理由でレイヴンになるやつ、これからにでも出て来るさ!」
「そいつらに教えてやんのよ!こんなレイヴンが居たってな!」
「ようは烏なりの誇りさ、それがここから退かねぇ理由」

「こっちからは見えないけど暗い顔すんなお嬢ちゃん!」
「オペレーターはオペレーターらしく『あんたが死んだら金づるがなくなるー』って怒ってりゃいいんだよ」
『……クスッ』
「やっと笑ったな?…そうだ、笑え笑え!したらおっちゃん頑張っちゃうからよ!」


それからあの人は逝ってしまった。
最後の最後まで笑って逝ったレイヴン。
あれから多くの烏が同じ道を辿ったが、笑っていた烏なんて彼以外いなかった。
レイヴンとして、生粋な生き方を求め得た彼を歴史が語る。
私も歴史の中の一人として。

305名無しさん@コテ溜まり:2009/11/17(火) 14:31:19

「卓上の九番」


雪の降る夜。
風は冷たく、闇深く。広がる空に明りなし。

「狭いコックピット内で行なうチェスも、なかなかどうして乙なものですわね」
雪の積もる広大な区画に声は響く。完璧に淹れられた紅茶を口に含みながら喋ったのではないこと思う程、甘く、上品な香りさえ漂わす声が。
声の主はホワイトクィーン、現在ランク8を飾る白い王女。
彼女の乗るAC〝チェックメイトⅡ〟は、この雪景色のなかで溶けて消えてしまうかのような純白を着飾り、流曲線の美しい四肢をそこに立たせていた。
「一勝負、いかが?」
聞くだけで美しい容姿を彷彿させる声を、少し離れた所に立つ男とACに投げかけた。
「こんな所に呼び出して、何かと思えばチェスのお誘いか」
「トップランカーは忙しい、ランク8如きでそこそこの仕事にありつける貴女なら理解できると思うが」
皮肉混じりにそう言った男、ハスラーワンは既にホワイトクィーンに背を向けていた。
チェックメイトⅡとは対極の存在であるかのような機体、〝ナインボール〟。
刺々しいまでに武装を積んだ細長いラインのフレーム、赤と黒の入り混じるカラーはこの雪景色の中で嫌という程自身を主張していた。
「あらあら、短気は損気。カリカリせずにお話できませんこと?」
「寒いのが嫌なら暖かい紅茶もありましてよ、ハスラーワン」
くだらんと相手に聞こえるように呟き、冷えたブースターに火を点けるハスラー。
その光景をまるで生意気な子供でも見るように、チェックメイトⅡは凝視していた。

306名無しさん@コテ溜まり:2009/11/17(火) 14:31:56

「そんなに忙しいなら、ネコの手でもお借りになってはいかが?」
「代わりの身体なら、…いえ代わりの貴方ならいくらでもあるのでしょう?」
その場離れようとしていたハスラーは、ナインボールをぴたりと停止させる。
ブースターの余熱はナインボールの足元に積もる雪を溶かし、立ち込める水蒸気がナインボールを包む。
白い蒸気の中、チェックメイトⅡの方へと振り返る。強く光る頭部のメインカメラは、正しく悪魔の眼光と言える程だ。
だが、ナインボールから放たれる威圧をものともせずに、ホワイトクィーンは続けた。
「あら?驚かれまして?」
くすくすと少女のように笑い、トップランカーを小馬鹿にするホワイトクィーン。
「チェスのボードはaからh1から8の計64マスでできていますわ」
「私を含め貴方以外のレイヴンに企業とネスト、それらが64マスの上の駒」

「そして貴方と、〝貴方に指示する者〟がボードの外から高みの見物…ですわね?」

今の話を聞かされても尚、その場で動かずチェックメイトⅡを睨みつけるナインボール。その光景を楽しむかのようなホワイトクィーン。
二人の間に動くものは降り続ける雪だけだった。

307名無しさん@コテ溜まり:2009/11/17(火) 14:32:24

静寂、ナインボールの溶けた足元には新たな雪が積もり、チェックメイトⅡの冷えきった装甲には薄らと雪化粧。
次に口を動かしたのは以外にも、ハスラーワンの方となった。
「よく知っている、いや…知りすぎだ」
「イレギュラー、我々が望まぬべき存在。修正が必要だ」
先刻までは少しばかりの女性にたいする紳士的な口調があったが、いまはその影すらない。
排除する目標、ハスラーワンはホワイトクィーンをそう認識したのだ。
「あらあら、化けの皮が剥がれましてよ。その機械のような冷酷さが本性でして?」
「それに、イレギュラーはどちらかしら?過去の骨董品が人類の未来を管理しようなどと、愚かしいとはおもわなくて!?」
彼女の口調には先程までの暖かさはなく、冷たく強く、周りの雪すらその動きを止めてしまうかのような冷徹なもだった。
ナインボールは以前より強くブースターに火を点し、右手のパルスライフルをすぐにでも撃てるよう構えを取った。
チェックメイトⅡは同じようにブースターを点火、身体の雪化粧をプロテクトスクリーンを展開させることによって粉々に吹き飛ばす。
「そんなことまで知っているとはイレギュラー、やはり貴様は危険な存在だ」
「やはり?機械の御脳は存外に優柔不断ですのね」

308名無しさん@コテ溜まり:2009/11/17(火) 14:32:45
先に動くはナインボール、ブースターの推進を高出力で保ち夜の闇に溶け込む。
それも計算の内と言わんばかりにチェックメイトⅡ、プラズマトーチを積もる雪目掛け勢い良く突き出す。
高温の刀身が大量の雪を一瞬で溶かし、水蒸気の塊を生み出した。
「どう?これで見えなくてよ!」
白い蒸気に身を隠し、ブースト推力を下げ作った煙幕を吹き飛ばさないよう移動する。
レーダーで捉えた方向へパルスを連射する、二人同時に。
青の光弾が交差しぶつかり掻き消しあう。煙幕で相手が見えない状況からの射撃にも関わらず互いの光弾は機体をかすめる。
ブースターを低出力に抑え脚力任せに雪原を駆けずり回るチェックメイトⅡ、その間も出力を高めたパルスを絶え間なく撃ち続ける。
一方、出力を保ちEN兵器と推力のエネルギーを調節するナインボール。火器管制を切り替え、背中のグレネードを空中で展開した。
「ランク以上の実力は認める。だが、それでは無理だ」
見えない相手の動きを予測、そしてグレネードを躊躇いなく撃ち込んだ。機体を揺らす射撃反動を胸部と背部、脚部の推力で絶妙に相殺させる。
眼下に広がる砲弾の連鎖爆発、雪原が焼け野原に変わる様を見ようともせずリロードが終わりしだい発射を繰り返す。グレネードの砲身はその温度をジリジリと上げていった。

309名無しさん@コテ溜まり:2009/11/17(火) 14:33:18
ナインボールが地上に降り立つ頃には、そこに溶ける雪はなく、降り積もろうとする雪さえも地に触れる前にその姿を消していった。
土溜まりが赤々と焼け、純白は燃えるような赤と炭化した黒の入り混じる色になってしまった。
その色に混じり、点々と白いものが見える。
それはチェックメイトⅡだったものだ。今では見る影もない。
周囲に反応がないことを確認すると、ナインボールは再びブースターを点火する。
今度こそ誰も邪魔しない。そう確信すると闇夜に向かい上昇していった。
戦闘により熱された機体も冷える程の高度、今まさに加速せんとするナインボールを複数の光弾がかすめた。
機体内で鳴らされたアラート、ナインボールを追撃しようと迫る光弾。
空中で体勢を整え旋回を交えながら回避行動をとるナインボール、ハスラーワン。
索敵範囲外から自身を攻撃した相手を見据え、またも地上に脚をつけるナインボール。
彼はこの状況に驚くことはない、だが想定の範囲を大きく超えた相手であると決め付けた。
離れた所からこちらにパルスライフルを向けるのは、先刻、残骸へと欠片へと破片へとなるまで破壊に破壊を尽くしたAC。

〝チェックメイトⅡ〟が三機、焼け野原に立っていたのだ。

310名無しさん@コテ溜まり:2009/11/17(火) 14:33:51

「あらあら、キングにコマを効かせた時は〝チェック〟と宣言するものですのよ?」
「「このぐらいのルールは初歩の初歩、それも守れないなんて…呆れてものも言えませんわ」」
「「「そもそも私はクィーンなのだけれどね」」」
重なるように、響くように、甘い声は甘ったるく交わる。
聞いてる方からすれば催眠術のように、脳髄を直に震わせる。人間ならば気を違えてしまう。
しかしハスラーワンは冷静に、彼らしくなく、機械らしくもない言葉を発する。
「貴様もそうなのか、私と同じものなのか」
「えぇ…貴方と違って貴方と同じでしてよ、ハスラーワン」
「「いえ、管理者…と言った方がいいのかしら」」
「「「同じ過去の遺物、イレギュラー。貴方も私も消えるべき存在なんですの」」」
言葉を発するに連れ、感傷に浸るように落ち込むように、その力強さを失っていくホワイトクィーン。
それを聞くナインボールもまた、機械ではないように思える程、感情を剥き出す。
「同じ…同じか、ならば何故――――…」
しかし言いたいことをグッとこらえた、ように見える。

311名無しさん@コテ溜まり:2009/11/17(火) 14:34:22

「貴様等は何故現れる、何故邪魔をする」

「貴方達は何故管理するの、何故過去に囚われるのです」

暗闇の彼方から閃光、それはブーストの光だった。
今いるナインボールの隣にもう一機、まったく同じ武装とフレームの、二機目のナインボールが着地する。
その淡々とした口調に彼らしさが戻っていた。

「企業、AC、そしてレイヴンズネスト、全ては私が作り上げたもの」

「人類、未来、そしておおきな可能性、全ては私達を必要としないもの」

「荒廃した世界を、人類を再生する。それが私の使命」

「荒廃した世界は、人類が再生する。それが彼等の使命」

312名無しさん@コテ溜まり:2009/11/17(火) 14:34:41
二機のナインボール、三機のチェックメイトⅡ。互いに戦闘体勢を取った。
プロテクトスクリーンを展開し、ブースターを全開で維持、双方がいつでも戦える状態を保ったのだ。

「私は守るために生み出された。私の使命を守り、この世界を守る」

「私は守るために生み出されました。彼等の使命を守り、人類の世界を守る」

「力を持ちすぎた者、秩序を破壊するもの、プログラムには不要だ」

「過去に囚われた者、可能性を芽引く者、人類には不要ですの」

      変則的な存在
『消えろ!イレギュラー!!』

        過去の存在
『消えなさい!トラベラー!!』

313 ◆lolicon8k6:2009/11/17(火) 18:47:01

「主の平和」


木漏れ日と鳥の声、河の流れに深い霧。
人など軽く飲み込んでしまう程ぼうぼうと茂る草木、中でも一番高く、茂る葉の量も一際多い背高のっぽうの大木が目立つ。
他の木よりも背伸びし、多くの太陽光を得ようとしたのだろうか。霧深いこの森でそれがどれだけ効果的かはわからない。
そんな木の根元、幾多もの露出した大小の根が折り合い圧し合いしながらできた、大きく狭い空間。
そこには大木には負けるものの、それでも大きな何かがもたれ掛かるように鎮座している。
重厚な金属が幾重にもなる身体を持ち、その身体は何かが焼け付いた臭いと硝煙の残り香が鼻を衝く。

 〝兵器〟 このおとぎ話をそのまま現したような森に似合わない、超現実的な代物だった。

が、その兵器には腰の辺りまでシートが被せてある、頭部付近には無理矢理折られたまだ葉の付いている太い枝が盛られていた。
こうして見るとこれは兵器ではなく、スヤスヤと寝息をたてる人にしか見えない。
大きな木の根元で眠りに付くという光景が更にそう錯覚させた。
自身の活躍を夢見ながら眠る兵器の足元、そこには錯覚ではない本当の人間が忙しそうにしていた。
ぶつぶつと小声で喋り、時折辺りを見渡してはまた重く低い声を押し殺して小言を呟く。
すらりと伸びる身体に抱える小さな機械、そこから飛び出る数々のダイヤルを回しながら小さなマイクに鉛のように重い声で小言を一つまた一つ。



「こちらクラフツパーソン、レイヴン聞こえるか?オーバー」
返ってくる雑音は長身の男の脳を更に熱くさせるかのように頭を沸騰させ、巨体を小刻みに震わせるだけだった。
血が上り思考を低下させている自身の性格を制御するように大きく息を吸い、同じように吐き出す。
しかしこの森特有の濃い酸素は、彼の思考を更に奪うだけだとは知る由もないだろう。
片手で顔を拭い、またも小さな機械に手を付ける。
「こっちも駄目か、こっちも――、レイヴン聞こえるか?こちらはクラフツパーソンだ。オーバー」
雑音に紛れ聞こえる懐かしい人の声、男は目を見開き歓喜の表情を抑え、機械の数値をゆっくり調整する。
「――ちら…ヴン、…レ―ヴン、―えるか?こちらレイヴン、クラフツパーソン聞こえるか?オーバー」
ついにしてやったぞと拳をッグと決め、手に持っていたヘッドセットを頭に掛ける。
「こちらクラフツパーソン、聞こえているぞレイヴン。オーバー」
「ふぅ…安心したぞ。どこかでやられたのかと思っていたよ。オーバー」
「そんな玉じゃぁないさレイヴン。オーバー」
「そいつは良い、さっそく現状の報告を。何故外部の無線からコンタクトした。オーバー」
「機体間での通信は敵の耳に引っ掛かっていた。俺達が散り散りにされたのもそれが原因だからだ。オーバー」
「なるほど、しかしそれじゃぁ俺がアナログ無線を引っ張り出してなきゃまったく無意味だったんじゃないか?オーバー」
「アンタの勘が優れていたから助かった。オーバー」

314 ◆lolicon8k6:2009/11/17(火) 18:47:58
二人は淡々と現状を報告し合い、少し雑談を絡めながら溜まっていたストレスを和らげようとしていた。
現に二人はこの森で丸一日程過ごしている。いつ敵と遭遇しても良いようにと神経を張り巡らせていたのだから、溜まるストレスも相当な物だろう。
緊迫した空気の中では自然の発する声も雑音に等しい。彼等の状況や無線のやりとりも頷けた。
男の顔付きが不意に変化する。先程までは久しく会ってない友人との再会に胸躍らせる青年のような表情だったが、そこに青年の面影はなく急に老けたかのように見える。
目は吊り上がり、眉間のしわがぐっと深くなる。獲物を探す獣のような、辺りを見据える烏のようなそんな表情だ。
今しがた眠る兵器を操り、沢山の命を焼き消して来た者の表情―――兵器のパイロットなのだと、そう実感させる。
森林の雑音が騒がしいなか、男は自然の声とは違う、金属の擦れる微かな響きを耳にしたのだ。
ゆっくりとその場で立ち上がり慣れた足つきで兵器の横たわった身体を登っていく。
「――さて初めるか」
そう呟くと抱えている小さな機械の、飛び出ているダイヤルとは別に赤いカバーで被われたスイッチに指を伸ばす。
パチンと軽快な音をたてる。すると機械は突然動きだすかのように冷却ファンが回り、何かを作動させた。
「レイヴン、時間がない。返答せずに俺の話を聞いてくれ」
男は焦るように続ける。
「この外部無線も敵の耳に確実に引っ掛かってる。それを逆手に取りたい。」
「このまま敵と長期戦になるのは避けたい。そこでだ、俺達の機体は壊れた。いいか?オーバー」
「俺は役者には向かないが…了解。しかしさっき聞かれてると言ってたが作戦を喋って大丈夫なのか?オーバー」
「それは問題ない、その為の特製無線だからな。少しばかりの小細工だ」
「破損状況なんかは大袈裟に頼む、一気に叩きたい。時間だ…3、2、1―――」


男の抱えた無線機は役目を終え、冷却ファンの起動を停止させた。
「聞くのを忘れていたな、機体の状況を知らせてくれ。任務は継続できそうか?オーバー」
「駄目だレイヴン、腕の破損が酷い。使える武器が限られている、そっちはどうだ。オーバー」
「問題ない…と言いたいが、脚の推力をやられた。囲まれたら一溜まりもない。オーバー」
「敵に遭遇しないことを祈りたいな。河沿いに進んで行く、レーダーに映りしだい合流しよう。オーバー」
「了解した、何かあれば連絡する。オーバー」
「敵も、俺達がアナログ無線で連絡しているなんて思いもしないだろうからな。」
はははと軽い笑い声と共に無線は閉じられ、男の耳に入るのは森の雑音と微かな金属音だけだった。
さっきの無線の後、男の耳に入る金属の擦れる音は少しずつ大きく、そして音の数も増えている。
どうやら思惑通りにいったようだ。
男は腰掛けていたコックピットハッチから降り、ハッチの付け根にある外部ロックを解除した。
コックピットを守る分厚い金属ハッチが気密用ガスを勢い良く吐き出し、守られていた内部を露出させる。
男は座りなれたシートに腰掛け、目の前のパネルに映されている光学スイッチを数回指で叩いた。

315 ◆lolicon8k6:2009/11/17(火) 18:48:36
分厚い金属がコックピット内部を守るように閉じ、男の視界から光を追い出した。
薄暗いコックピットを唯一照らすのは目の前のパネル一つ、男はそのパネルをいそいそと叩きだす。
「起動準備」
男が静かにそう言うと、男を囲むように配置されていたパネルが順番に点灯し始めた。
『MT、カイノス/E02−陸戦機動型起動開始』
突然聞こえる無機質な女性の声、どうやら兵器のものらしい。
「プロテクトスクリーンは張るな、出力を本来の30%で維持。ラジエーターは60から80、熱を出さないように」
『了解、状態を維持。システムを通常から戦闘へ移項』
「よろしい、レーダーを熱源からソナーに移項。距離は半径20mに絞れ。周りの状況がわかればいい」
『了解、武器状態を説明。湿度が高い為、レーザーの使用に時間が掛かります。砲身を乾かしますか?』
「それもいい、熱がでる。今見つかるのは不味い」
『了解』
重苦しい声で無機質な彼女を黙らせると男はパネルを二度三度叩いた。
次に男は呼吸を抑え、パネル脇のソナーに神経を集中させる。メインモニターが点いていないコックピット内部は未だに薄暗かった。


反応。
男の見つめる画面に三つの光点が現れる。
男は小さく舌なめずりをし、敵の行動を逐一考察した。
「やはりか、アローポータータイプC。密林戦闘用特殊仕様」
「ソナーでなければ映っていないところだ。ブリーフィングでそれらしいことを聞いてはいたが充分ではないぞ、クレストめ」
敵を現す光点の一つは、男の正面18mの所。本来なら見つかってしまう距離。
「この様子では気付いていないな。低出力で潜んでる上に水分を多く含んだシートで身を包んでいる」
「熱源として捉えられないのも無理はない。…それにこの霧だ、目も使えないだろう」
男は最適な距離を待つ、奇襲の威力を最大まで上げる距離を。
敵逆関節MTの足音が一歩また一歩、森の声すら静かに聞こえる程大きく、近く。
「まだだ…」
衝撃を緩和するジャッキの音まではっきりと男の耳に届く、距離10m。
「まだ…」
辺りを見回しているのか、身体を捻り擦れる金属の音。距離8m。
「今!!」

316 ◆lolicon8k6:2009/11/17(火) 18:49:06
「メインモニター機動!出力最大!プラズマトーチ準備!プロテクトスクリーンも忘れるなっ!!」
『了解』
折り重なる根を引きちぎるようにブーストで身体を起こし、その余力と脚力を使い目の前の標的へと接近する。
ブースターの推力で機体速度は底上げされ、目標との距離はあっという間に縮まった。
突如現れ目と鼻の先まで来ている敵、その存在に気付くのが遅れたアローポーターはロックオンすることすら許されなかった。
下から上へと振り上げるように繰出されたブレードは的確にコックピットを融解させる。
「ひとつ!」
ひしゃげた装甲からめり込んだ拳を引き抜き、片付いた敵の亡骸から次の標的へと攻撃を仕掛ける。
訳も分からぬ内に味方が一人やられた彼等は、高速でこちらへと突っ込んでくる敵に狙いを定めた。
クラフツパーソンはメインモニターの中心に一機、モニターの左端にもう一機を捉えながら距離をつめる。
『ロックオンアラート、ミサイルです』
「わかっている!」
アローポーターは無数のミサイルを放ち、発射口を飛び出したミサイルは蜘蛛の糸のように煙を引きながら標的へと飛んで行く。
直線や曲線の糸を引きながら加速するミサイル群、しかしクラフツパーソンは直進するのやめはしなかった。
身を屈め少し重心をずらし、崩れかけたバランスを保つかのように脚で一歩踏みしめ前へでる。
ミサイルは頭上をかすめ、かなた向こうへと飛んで行き爆発。その衝撃は辺りの霧を吹き飛ばした。
「素人が、この距離でミサイルが当たるものか!」
勢いを保ちながら敵へと接近、ショルダーのシールドを前に突き出しブーストで加速する。


ミサイルを避けられ焦るアローポーターは、迎撃機銃で突進してくる敵をむちゃくちゃに撃ちまくる。
しかし殆どがシールドに弾かれその効果は期待できなかった。
「ふたつ!!」
巨大な金属が衝突する轟音、クラフツパーソンは加速を緩めずシールドを構えたままアローポーターに突っ込んだのだ。
その衝撃をもろに受けた逆関節MTは威力任せに吹っ飛び、その形状を酷く変えながら遠くへと転がっていく。
『サイドシールド損傷、プロテクトスクリーン展開不可』
「パージだ!重りにしかならない!」
体当たりをしてバランスを崩さないように脚と胸部ブースターで重心を保ち、胸部ブースターと脚部副推力で画面端の敵へと向きを変える。
ショルダーのシールドを切り離し、偏った機体重心をコンソールパネルで調整。
その間にも迎撃機銃で敵を落とそうと躍起になるアローポーターの攻撃をかわし、ブーストで距離を保って敵をロックした。
メインブースターをいっぱいに吹かし機体を持ち上げ、不覚を取ったアローポーター目掛けミサイルをこれみよがしに撃ち散らした。
「みっつ!」
頭上から降るように撃ち出されたミサイルを避けられる筈もなく、アローポーターを直撃した。

317 ◆lolicon8k6:2009/11/17(火) 18:49:30
ミサイルの爆薬だけではない大きな爆発、それが生み出した熱と衝撃がクラフツパーソンの乗るMT、マスターピースを包む。
機体が激しく揺れ装甲表面をチリチリと熱っし、機体に付着していた水滴が一気に蒸発した。
『ジェネレーター誘爆を確認、機体温度上昇しています。機体各部に問題はありません』
「…やっと、終わったか」
男が一息つきながら、頭に掛けたヘッドセットを取り足元に投げる。
久しく忘れていた安堵を取り戻した男の表情にはやすらぎが見て取れた。シートに深くもたれ目を閉じる。
『ロックオンアラート』
「っ!?」
男は驚く間もなく衝撃に襲われる。
どこからともなく現れたミサイル群に晒され、機体は大きく傾いた。
コックピット内でもみくちゃにされた男は一瞬何が起きたか理解できずにいた。
「柄にもなく油断した…状況!」
『機体後方より飛来したミサイルを直撃、左腕部破損、胴体部分の左半分を損傷』
『これによりジェネレータ、ラジエータ共に出力の低下を確認。左腕部武装、ブレードを失いました』
『プロテクトスクリーンは現在、出力が45%まで低下しています』
『また機体内部の温度上昇及び、機体外部の一部が炎上。このままでは武装の誘爆を招きかねません』
「機体内部と機体外部で冷却剤散布!それとジェネレーター出力を武器と機体の適性値で割り振れ!」
『了解』


普段は冷静な男もこの森特有の酸素と長期の緊張からくる疲労、そこから生まれた隙を衝かれ動揺していた。
男は敵を警戒しながらレーダーとメインカメラに集中し、次に攻撃されても充分に対処できるよう大木の陰に隠れた。
装甲の下から覗かせるノズルからは絶え間なく冷却剤が噴出され、炎上している機体を消化、冷却している。
ここまで迅速に行動できたのも無機質な彼女のお陰だと心の中で感謝し、未だ見つからない敵の索敵に勤しんだ。
「いない、アローポーターにしては退くのが早すぎる…」
「レーダー、なにか映ってるか?」
『ロックオンアラートが展開されるまで敵の存在を捉えてません』
「レーダーには映らないか。…音を拾ってくれ」
『了解』
男は耳に神経を集中させる。不自然な音はないか、森のものとは別の雑音がないかと音を掻き分ける。
パチパチと燃える炎の音や自身の機体がだす駆動音の響くなか、男は感づいた。
「――!ホバーシステム…音が重いな。出力の高さからか?それにミサイル」
「フーグリオン!なるほど、どうりで」
「敵は重装甲で高機動だ。レーザーライフル、それからミサイルに迎撃機銃の準備」
『了解、移動用に割り振った出力から武装用に25%移項』
「さて、こちらが攻撃するまでに相手の攻撃をどう避けるか、だな」
辺りを警戒しながら打開案を模索する最中、男はメインモニターの端にめぼしいものを見つけたようだ。

318 ◆lolicon8k6:2009/11/17(火) 18:49:52
「ブースターは使えるか?」
『2,5秒の連続使用が可能です』
それを聞いて安心したかのように、男は推力調整用ペダルを踏み込み一気に駆け抜けた。
大木から姿を見せたクラフツパーソン目掛け、敵は容赦なく狙いをさだめる。
『ロックオンアラート』
「間に合う!この距離ならっ!」
右手に持つレーザーライフルの先端で目的のものを引っ掛ける。クラフツパーソンは拾ったものをできるだけ敵に届くよう、全力でアラートの示す方に向かって右手を振るったのだ。
敵目掛け飛んでく物体、それは先程までマスターピースの身体を隠していた大きなシートだった。
大量に含んだ水分は未だ乾いておらず、飛距離を伸ばす質量としては充分だったのだ。
ミサイルを直撃させるために全力で加速、突進していたフーグリオンは、飛来したシートをまともに喰らってしまう。
シートへの衝突で起こる自爆を覚悟し、トリガーを引いていれば数発のミサイルがマスターピースに当たっていただろう。
しかし攻撃を躊躇った時点で、遅かったのだ、判断が。
「見つけた!」
『ロックオン完了、射撃精度65%』

「倍返しだっ!!」


マスターピースは身体中に装備している武器という武器を一斉射する。
エネルギーアラート、火器管制が悲鳴を上げるのも構わずに正面にいる敵目掛けひたすらに連射。
迎撃機銃、レーザーライフル、ミサイルの雨を正面から受けた敵MT。
重装甲とはいえ、これだけの攻撃をまともに喰らって無事で済む程フーグリオンは頑丈ではなかった。
そこに残されたのはフーグリオンの残骸と燃えるシートの切れ端だけとなった。
「今回ばかりは…焦ったな」
無理をさせ続けた機体から鳴り響くアラートの中、男は静かに呟いた。
「レイヴンの方はとっくに終わってるだろう」
「機体間通信をON、それから…無理をさせて悪かったなマスターピース」
『了解』
彼女は今まで通りに、主人の労いの言葉に無機質な返答で答えた。

―――― 数日後 ――――

この間までいた森林とは違った風景が男の目前に広がる。
空に伸びる高層ビル、無数のパイプが根のように絡まりあう巨大な工場、大小様々な煙突。コンクリートジャングル。
そんな兵器工場が囲むオフィスビル街の中、男クラフツパーソンは珈琲の湯気をくゆらせ、うなだれていた。

319 ◆lolicon8k6:2009/11/17(火) 18:50:31
「やはり高性能ともなると、値が張るな」
企業のパーツカタログを広げ、値段を見てはうなだれるを繰り返す。そのカタログの表紙には〝AC〟の文字が大きく写されている。
歳柄にもなく喫茶店でカタログを広げるのを見るに、うなだれているものの男にとっては喜ばしいことなのだとわかる。
「聞いたぞ、レイヴンになるんだって?」
聞き覚えのある声に興味を引かれ、カタログの上から二つの目を覗かせる。男とおなじようにすらりと背はたかく整った顔立ちの男が立っていた。
相手が誰だかわかったとたんに男はすぐにカタログへと視線を戻す。
「まぁな、この間。あんたと一緒にいった依頼で叩き出した戦果が、企業の目を引いたみたいだよレイヴン」
「そりゃよかった。おめでとう」
カタログの壁がなければニヤ付いた表情をレイヴンに見られていた所だろう。
男としてもその状況は避けたかった。
「先輩レイヴンとして、俺に忠告か?」
自分の横に腰を下ろし、煙草をくわえるレイヴンを横目で見ながら語りかける。
「忠告ねぇ。そんな柄じゃないさ…腕はよかったしちょっと様子を見にな。それと―」
言葉を発しながらクラフツパーソンのカタログを取りあげる。クラフツパーソンのあっと驚くような怒ったような声を聞きもせずに続けた。
「最初の内はこんなもん見なくていい。MTであれだけやれるなら初期の構成で充分やれるさ」
カタログを取られたことに憤慨しながらも、それはどうもと冷たく重たい小声で礼を言う男。
「あとあれだ、頭部COMは女性型に限る。野郎の声で喜ぶのなんてゲイかホモくらいなもんだ」
からからと笑いながら、カタログを茶化すように返すレイヴン。カタログを返された男は満足そうに言った。
「それはもう、決まっていてね」


「永い間一緒で、他のものでは変わりにならない最高のCOM…」
「マスターピース、機体の名であり彼女の名だ」
いつものように冷たく重い声ではあったが、その声はいつもより暖かみがあった。

――――私はマスターピース。
戦闘補助、及び兵器の自動操作を行う自律する戦闘システム。
現在の所有者、ならびに私のパートナーはクラフツパーソン。

内に願うは〝主の平和〟

クラフツパーソン、今後もあなたに平和が訪れんことを願って―――――

320名無しさん@コテ溜まり:2009/11/20(金) 23:46:42

「纏った鎧は拠り所」


思い出す、あの一日。
激化する戦禍、死に行く者達のあの眼あの声あの臭い。
烏達は一羽一羽と地に落ちて、残った烏は私だけ。酷く醜く汚れた翼と暗くよどんだこの瞳。
永く永い一日を、飛び続けた私の羽を、誰も癒せず癒されず。
他者の羽で身を被う。
聞こえるあの声頭に響く。許してくれと私は泣いて、いずれ終ると小声で叫び。
終る一日追いかけて、終わらぬことを願ってた。
私はなんとはなしに知っていた、この一日が終ってしまえばそこに残るは一羽の烏。
巣が無く羽無く親が無く、泣いているのは私だけ。
そんなあの日を思い出す。

暗く、湿り気のある部屋のなか。耳をつんざく程の呻きとも悲鳴ともとれる声がこだまする。
その声は窮屈な部屋を飛び出し、デスクに身を突っ伏して寝息をたてていた女性を叩き起こした。

321名無しさん@コテ溜まり:2009/11/20(金) 23:46:58
事態を把握した女性は、上から2段目の引き出しを開く。
大小様々な薬品が入り混じるなか、赤いラベルの〝安定剤〟を強く握り、声の主がいる部屋へと駆けていく。
扉を開けると声はますます大きく響き、女性の耳に掻き毟るような感覚を与えた。
薬が握られた手とは逆の手でスイッチを押すと、家具や装飾が置かれていないコンクリートが剥き出しの部屋が視界に入った。
その部屋の隅で、声の主は巨体を小さく見せるかのように縮こまり、身体を震わせていた。
頭を抱える腕から覗く視点の定まっていない瞳、体中から流れる玉のような汗。
男の姿を見るやいなや、握り締めていた入れ物から錠剤を5つ掌に投げ出し、男に近づいて未だ叫び声を上げる口へと押しやる。
そして、これでもかと力を入れ小さくなっている男を抱きしめた。
男は次第に叫ぶのをやめ落ち着きを取り戻す。そんな男を抱きしめる女性の頬に一筋の涙が光る。
「落ち着いた?」
涙を流し、しゃくり上げる自分を抑え、優しく男に問う女性。
薄いアイシャドウがほんの少し溶け出し、伝う涙と共に頬へと流れる。
「ごめんねシーラ。ぼくこわいゆめをみたんだ」
「みんなみ〜んなくらがりにいってしまうんだ」
厳つい顔と引き締まった体の持ち主とは思えぬ程、幼い子供のように喋り出す男。
その男をまるで母親のようにもっと強く、ギュッと抱き寄せるシーラ。
「そう、恐かったね」

322名無しさん@コテ溜まり:2009/11/20(金) 23:47:23
シーラはそう言うと、男のぼさぼさ髪を優しく撫でる。
「シーラはくらがりにいったりしないよね?ぼくをおいていかないよね?」
「もちろん、ずっとあなたの傍にいるわ」
抱き寄せていた腕をほどき、アイシャドウと涙を拭う。
男の腕を握り、座っていた男を優しく立たせながら男に言う。
「ACのコックピットに行く?」
「うん、わかんないけどあそこ、とってもおちつくんだ」

コックピットから10にも満たぬ子供のように、寝息を響かせる男を前にシーラと男性が小さく話している。
「レイヴンの調子はどうなんだ?」
「軽度の記憶障害と重度の幼児退行は、未だよくならない。むしろ悪化しているわ」
男性とシーラは物憂げな表情で男を見つめた。
「レイヴンもこの調子じゃぁ、仕事させるなんて無理だな」
「エド、そんなことを言わないで。彼は…レイヴンはあの一日で多くのものを失いすぎたのよ」
「それもそうだな、あの一日でかなり稼がせてもらったし、これ以上の仕事は―――」
「エド!!」
シーラの口調に驚き、顔を片手で被いながらすまねぇとエドは呟いた。

323名無しさん@コテ溜まり:2009/11/20(金) 23:47:45
「エド、アレはもうできているの?」
沈黙を破ったシーラの問いかけに、エドは顔を被っていた手をどかし答える。
「アンタの頼んでたもんなら完成してるぜ」
それを聞くと、シーラは悩むように眼を閉じ、眉の間にしわを寄せ眼を開いた。
「明日、レイヴンを乗せてみるわ」
一瞬、エドは冗談なんじゃないかと笑ってみせたが、シーラの表情は固いままだ。
「さっきあれだけ声を荒げたのはアンタじゃぁないか。それをどーして」
「仕事をさせるつもりなんてないわ。ただ――」
物憂げな表情は今にも泣き出しそうになり、溜めた涙を指で拭う。
息を落ち着かせ、深呼吸するかのように溜息を吐き出した。
「彼は戦場の火を脅え、欲してる」
「失ったものに手が伸びるのは、レイヴンにとって戦場だけだと思うのよ。いえ、そうとしか思えない」
「だからって…」
エドは頭を掻き毟り、シーラの顔を横目で見る。
頬を伝う涙を必死に拭っている彼女の考えも、彼には理解できない訳ではなかった。

324名無しさん@コテ溜まり:2009/11/20(金) 23:48:12
「けどよ、戦場なんて言ったって、どこで暴れさせるつもりなんだ」
「あの一日以来、企業は神経質だ。場所によってはまだ復興作業中だろうに、好き好んで戦う奴等なんて…」
「――アライアンス跡地、あそこには未だ企業の支社ビルに工場が多く残っているわ」
エドの血の気は一気に引いていった。彼女の口からそんな言葉が出るなんて思ってもいなかったからだ。
歪んだ愛、それを目の前に寒気すら感じている。
「正気かシーラ!?あそこは一般人だっているんだぞ!」
「わかっているわ。だからこそ、企業は自社ビルと一般人を守るために戦力を惜しまない筈」
「おい!!本気で――」
「本気よ!わかってる、死者が多く出るのなんてわかってるわ!」
「でも私は!レイヴンが元に戻るためなら、彼が安らぐのなら、他にどんな人間が死のうとどうだっていいのよ!!」
「だって私じゃ、私では…駄目なんだもの……、彼を…レイヴンを……治すことが…できないんだもの……」
そういって泣き崩れるシーラ。身を震わせ泣きじゃくりながら、誰ともいえぬ誰かにひたすらに謝り続ける。
そんな彼女を止めることなどエドにはできる筈もなく、ただ苦虫を噛み潰すだけだった。
「明日、機動準備させるようにメカニックに伝えておく」
「有り難う…エド……有り難う」

325名無しさん@コテ溜まり:2009/11/20(金) 23:48:39

―――アライアンス跡地―――

『大型の熱源が接近!』
『信号、確認できず!』
『一般人、ならびに非戦闘員は避難所へ急げ!!』
慌しく町中が動きを見せる。鳴り響く警報に恐怖し、おせや急げや避難所を巡って大勢が走り回る。
MT数十機が数列の陣を成し、こちらへと向かう謎の存在を警戒していた。

『レイヴン、聞こえる?』
「うん、きこえてるよシーラ」
『機体の調子はどう?』
「すごいよ!そーじゅーするところはおなじなのにいままでのとはぜんぜんちがう!かっこういいよ!」
子供のように無邪気に喜ぶレイヴンの声を聞き、見えない笑顔をニコリと形作るシーラ。
今から非人道的を体現させるとは思えないような、微笑ましい会話を母子のようにする二人。
その様子を見ているエドは、胸の内に酷く痛むものを感じていた。
『見える?レイヴン』
「うん、みえるよ。おおきなまちがみえる」

326名無しさん@コテ溜まり:2009/11/20(金) 23:49:02
『あそこにはね、沢山人がいるの』
『みんなね、あなたの事が大好きなのよ?』
「えへ、なんだかうれしいな」
『でも、みんな暗がりへ行こうとしてる』
「……それはいやだ、いやだよ!」
『そうよ。だから止めなくちゃ、沢山いる巨人が原因なの』
『それを壊さなくちゃ駄目、できる?』
「やる!みんなをまもらなくちゃ!」

『距離3000!』
『映像に出せ!!』
『!!…これはっ!』
大きな指令室のそのまた大きなモニターに映ったのは、三企業が統一されていた時の主力兵器と瓜二つだった。
烏のように黒い〝レヴィヤタン〟、それを一回り小型化したような兵器は、超速度でこの町へと接近している。
『馬鹿な!?』
『既に現存するものはない筈だぞ!』
『他企業の陰謀か?』
『もしそうなら、キサラギもミラージュも存在するこの町に攻撃はしてこない筈だ』
『信号も連絡もないんだぞ!敵に決まっているだろう!!』

327名無しさん@コテ溜まり:2009/11/20(金) 23:49:25
『レイヴン、始めて』
「…わかった」

黒いレヴィヤタンは何十何百のミサイルを吐き出す、煙を糸を伸ばしながら千数メートル先の眼下の敵を薙ぎ払う。
燃え上がる爆炎の中を命辛々生き延びたMT達が抱える砲や筒を持ち上げ迎撃、数が減ったにせよその厚い弾幕はレヴィヤタンを襲おうとする。
目前の弾幕を回避するために前方のブースターを最大出力で噴射、進行方向を真逆にしたのち背部にある幾数のメインブースターを点火した。
横からみれば〝く〟の字を描くように回避運動からの直進、生き残ったMT達を2連装のグレネードで複数まとめて吹き飛ばしていく。
『MT部隊を増やせ!周囲の基地、コロニーに増援要請を、他企業だろうと構わん!!』
『防衛用砲台、全砲門を開かせろ!敵に総力をぶつけるんだ!!』
地上から空へと伸びる光点の列、その数は数え切れない程多い。超速度での戦闘を繰り広げるレヴィヤタンでさへ、その幾つかを機体に被弾させた。
しかし、強力なプロテクトスクリーンがその殆どを弾いてしまう。
『なんて分厚いプロテクトなんだ…!』
ハッチから飛び出したMT達は空を飛ぶ機動兵器を打ち落とさんと武器から火の粉を連続して吐き出させる。
が、それらは当たることなく空の彼方へ消えていく。見つかったMT達はグレネードとプラズマの集中砲火を浴びせられ、粉々に吹っ飛ぶ。
休むことなく吐き出されるミサイルはMTに砲台、周りの建造物をも一緒くたに飲み込んでいく。

328名無しさん@コテ溜まり:2009/11/20(金) 23:49:47
『レイヴン、各装甲のダメージが蓄積されているわ』
「……」
レイヴンの頭の中でいろんなものが混じって消えていく。
「…そうだ私はレイヴンだ…あとは頼んだぞレイヴン………レイヴンその称号は……」
ぐるぐると回るように、ぐるぐると落ちるように、烏の羽が落ちるように。
レイヴンレイヴンレイヴンレイヴンレイヴンレイヴンレイヴンレイヴンレイヴン…

『――ヴン!レイヴン!聞こえてるの?』
「………うん」
『そろそろよ、準備して』
「わかった」
応答のなかったレイヴンを心配しつつも、通信システムや機体の現状が映し出されてるパネルとは別のパネルをいそいそと叩くシーラ。
完了したシステムは送信され、コックピット内のレイヴンが見つめるパネルにその情報を映す。
それを確認したレイヴンは、眼を閉じ、口小さく動かした。

「キャストオフ」

329名無しさん@コテ溜まり:2009/11/20(金) 23:50:09
空中分解、小さなレヴィヤタンはそこかしこの装甲を吹き飛ばす。
小さなものから随分と大きな装甲まで惜しげもなく放り出した。
『やったか!?』
『…いや待て、あれは…』
空中で吹き飛んだかのように見えたレヴィヤタンではあったが、その一部は今も体勢を維持していた。
重りをなくし更に加速せんとする高出力のブースター、2連装のグレネード。一番大きな翼を残し、胴体のあった部分には紛れも無い人型…
『変形した!?』
『馬鹿な!あれは…』
そこにはどの企業も知らない、作ったこともない漆黒のアーマードコアの姿があったのだ。
ブースターの向きを変え、地上へと急降下する謎のAC。
その機動力は今まで戦っていたレヴィヤタンのものとは比較できず、砲台は愚かMTすらその動きを捉えられはしなかった。
「インターネサインから拝借した素材と技術、てめーら企業の没った設計案からまとめた我らがメカニックの自信作だ」
エドは短くなった煙草を既に満杯の灰皿に押し付け、渋った顔で言う。
「前戯のレヴィヤタン装着式装甲でてこずってる時点で…ねぇんだよ、勝ち目なんざ」

330名無しさん@コテ溜まり:2009/11/20(金) 23:50:33
遠方の敵をグレネードで、近くの敵を腕から伸びる刀身で薙ぎ払い進んで行くAC。
滑るように地を走り、気付いた敵を片端から消し飛ばしてゆく。
蒼く輝く眼光に脅え逃げ惑うMT達、あまりにも一方的だった。
幾つかの企業ビルに火の手が上がり、歯向かう愚かな敵などいなくなる頃。
「シーラ…」
『なぁに?レイヴン』
「有り難う」
その声に幼さはなく、最後は一羽はその羽を広げていた。
シーラはとめどなく溢れる涙を拭おうともせずに、ただただ彼の言葉を待っている。
エドは耳を傾けるのは無粋だと察し、オペレートルームを後にした。
「落ち着くなぁ、コックピットの中って」
「やっぱり此処なんだな。俺の場所は」
『えぇ、そうね』
「罪深いかな…俺は」
「多くの犠牲の上で立つってことはさ…」
『そんなことない、そんなことないよレイヴン…』

331名無しさん@コテ溜まり:2009/11/20(金) 23:50:53
涙を膝に落としながらヘッドセットを愛しき相手の如くなでながらそう言った。
レイヴンの声を聞き漏らすまいと声を押し殺し、片方の手でゆっくりと優しく撫で続ける。
「これだけのことしちゃったら…まずいよ流石に」
『責任は私にあるんだもの、気にしないで』
涙を抑えようと鼻を啜り、声を押し殺す彼女の仕草を感じ取り、レイヴンは申し訳なさそうに笑った。
「ハハハ、やっぱり、罪な男だわ俺はさ」
「…時々、時々戻ってもいいかな?補給とかのために」
『えぇ、もちろん…いつでも戻ってきて』
『その時は何度でも言ってあげるわ。だから―――』

『おかえり、そしていってらっしゃい』
「ただいま、そしていってきます」

漆黒のACは高度を上げ翼を展開、出力を上げ大空を飛んで行く。
新たな羽を得た烏は新たな戦火を求め、新たな一日を古い巣を捨て新たに手に入れた鎧を拠り所に羽ばたいていった。

332ポリンキー ◆/RiQiUGvZU:2009/11/23(月) 21:03:56
 長かった
 あぁ、長すぎた

 私がレイヴンと成ってからどれ程の月日が過ぎたのか
その日を生きる為にコーテックスから仲介された依頼をこなし、来る日を生きる為にアリーナに参戦し、オペレータや私を支えるスタッフを養う為に、幾度となくこの手を汚してきた、生きる為に、生かす為に、私は戦ってきた、私は闘ってきた

 あの出会いがあるまでは、あのレイヴンと出逢うまではそう思ってきた、そう信じてきた

 彼は別格だった、レイヴンとなって間もなくアリーナに参戦し、破竹の勢いで順位を上げてきた
 私に追い付くのもそう時間は掛からなかった、当たり前だ、彼は私よりも強かったのだ、操縦センスも違いすぎた、私の経験もあてにならない程の実力だった、私は負けた、惨敗だった

333ポリンキー ◆/RiQiUGvZU:2009/11/23(月) 21:04:30
 私を形成していた何かが音を立てて崩れ、だがすぐに再構築された。仕方なかったと、元より持つものが違ったのだと、諦める事によって私は私を許したのだ。
 彼は更に上へと行った、気が付けばトップランカー共と肩を並べる高さまで登り詰めていた。あぁやはり、と。

 ある日の事だ、これといった用事もなく、久しい休日を自宅で過ごそうと思っていた。コンソールのライトがチカチカと点滅していたのだ、メールだ、送信者は彼だった。
 指定された場所へ赴くと彼の他に二人、一人はどこか少年のような無邪気な笑顔の青年で、もう一人は女性だった。女性の名前を聞いて腰が抜けそうになったのは秘密だ、彼女の父親には幾度となく世話になった。
 何故私が呼ばれたのか、事情聞くと彼は苦笑した。食事、知り合いとの会食がしたかったのだという。私は知り合いなのか?という問いには隣の青年が私の以前世話になったのだという、こちらも名前を聞いて思い出した、確か彼の同期だった筈だ、アップルボーイ。
 立ち話も何なのでと、足早に店に入った
 しかしなんだ、若い者に囲まれた初老というのは、回りにはどう見られるのだろう、経験が無いだけにどこか肩身の狭い気がした。

334ポリンキー ◆/RiQiUGvZU:2009/11/23(月) 21:05:01
 突然だった。
 突然過ぎて口に含みかけたアップルパイが床にダイブしてしまった、しかし、なんと言った?アップルボーイ、今何と?

 「もう上は目指さないのですか?」

 上

 上か

 気はないと言えば嘘になる、だがしかし、私には上へ登る実力は無いのだ、今の順位より上へ行くのは不可能に近いのだ
 今は生きる事に力を注ぐ、ことわざにある通り、老兵は去らなければならないのかもしれない。私は・・・

 「無いわけ無いだろう、仮にもレイヴンだ、死ぬなら戦場で死にたいだろうさ、生きるために戦って死ねるなら本望だ」

 彼の言葉が大きく聞こえた。刹那、全ての音が消え去るようにして。心の臓腑がドクンと唸った、左胸に手を当てずとも聞こえる程に、ドクン、ドクンと、大きく、何度も、何度も。

 「だろう?」

 彼が此方を見て同意を求める。あぁ、勿論だ、勿論だとも、口を開け、声を出せ、出る筈だ、出る筈なのだ。彼は目で言う、真っ直ぐ此方を見て言う

 貴方はまだ飛べる

 私は、私は何を考えていたのか?
 私は何を考えていた
 老兵は去らなければならない?老兵だと?歳など関係あるのか?今までそんなものを気にした時があったか?無い、有るわけが無い。
 レイヴンになったその日から、私はひたすら戦ってきたのだ!

 「あぁ、勿論だとも」

 帰宅するとその足でガレージに向かった、そこに相棒が居るからだ、歴戦の相棒が居るからだ、もう一人の私が居るからだ
 ゲルニカ
 やはり私にはお前が必要だ、私が戦う為にはお前が必要不可欠だ、私は去りなどしない、してなるものか!私はレイヴンだ!その最期までな!

335ポリンキー ◆/RiQiUGvZU:2009/11/23(月) 21:06:10
 長かった
 とても長かった

 「目標地点に到着しました、10カウント後に投下します」

 荒涼の大地がモニターに投影される、彼方で爆発、管理者の大型機動兵器とレイヴンが戦闘を繰り広げ、私はそれの後詰めだという。それは良い、それが良い、大きい的は大好きだ、目を瞑っていても当たるのは大好きだ。

 「ゲド」

 オペレータの声は何故か小さく、か細く聞こえた。黙っていると、更に続けた。

 「死なないで下さいね」

 死なないで。死なないで、か。
 顔は脂汗にまみれ、トリガーを握る手は震え、息は荒い、そんな私を心配する彼女に、私は何と言うのか、何と言えば良いのか、勿論だ?心配するな?違うな。

 「私を誰だと思っている」
 そうだ。
 「甘く見られたものだな」
 全くだ。
 回線を切る直前聞こえたのは、私と共に年老いた彼女のすすり泣く声だった。彼女は解っているのだ、きっと彼は死にに征くのだろうと、生きるために逝くのだろうと。
 私はレイヴンだ、私が本当に生を実感出来たのは、これまでもこれからもただ一つ。

 「ゲルニカ、ゆくぞ」

 戦場へ。

 <メインシステム、戦闘モード起動します>

336名無しさん@コテ溜まり:2009/11/26(木) 02:11:27

「死への恐れ」


死ってなんだろう。
考えたことはないか?死について。
俺はいつだって考えてる。そのつもりだ、頭から離れたことなんてない。
俺は死ぬのが恐い。
何かをやり残したわけじゃぁない。好きな事はそれなりに経験した。
孤独な死ってわけでもない。そこそこ綺麗な女房に、生意気だが元気で明るい息子だっている。
痛みや苦しみが嫌ってわけでもない。企業の元で働いて、MTに乗ってれば怪我なんてしょっちゅうだ。
そうじゃない、そういうんじゃぁないんだ。
ただ死が恐い、死そのものが恐いんだ。
MTに乗ってりゃいつ死ぬかなんてわからない。
それでもMTに乗るのは、安全だと勘違いしてるからだろうな。
けれど、勘違いしたってしょうがないだろう。
コックピットの中は俺の家より頑丈なんだ。
妻と子には悪いが、ここはどこよりも安全だ。そうだろう?レイヴン。

337名無しさん@コテ溜まり:2009/11/26(木) 02:11:46
今日はレイヴンと共同での依頼だ。
俺は僚機としての雇われ、今俺は少しだけ恐怖が和らいでいるよ。
以前も雇ってくれた良い奴だ。腕も良い。
この間は密林での仕事だったが、俺が囲まれて右往左往してるのを助けてくれたっけな。
役に立たないにも関わらず報酬を弾んでくれたのは有り難かった。
顔馴染みってのも精神的に良いもんだ。
「今日はよろしく頼むよ、ドランカード」
こんな風に気さくに話掛けてくれるなんて親切な奴じゃぁないか。
本当にレイヴンかどうか怪しいもんだ。
「こちらこそ、レイヴン」
さて目標地点まで移動する間どんな事を語ろうか。
妻の自慢話も嫌な顔せず聞いてくれる奴だ。
息子のことを語らうのも悪くないかもしれないな。
そうだ、写真を見せてやろう。とっておきのやつだ、俺と妻と子のベストアングル。
いつだって恐怖してる俺の支えをな。

338名無しさん@コテ溜まり:2009/11/26(木) 02:12:07
ミッションが始まる前ってのはいつだって嫌な空気だ。
胃を鷲掴みにされてる気分、あんたにだってあるだろう?こんな感じ。
よくよく考えたら、安心してる場合じゃないよなぁ。
レイヴンが一緒ってことはつまり…、相手側もレイヴンを雇ってるのか?
冗談じゃない!もしかしたら、隣でACに乗ってるレイヴンも殺されちまうかもしれないじゃないか!
こんな良い奴が?殺される?あぁ考えるだけでも震えが止まらない。
畜生こんなのって、…AC?目の前にACが俺を…俺の乗るMTを睨んでいやがるじゃないか!
考え事をしすぎて気付かなかった?レーダーが反応しなかった?警告すら気付かなかったのか?
死ぬ、死んじまう!俺はここで死んでしまう!畜生畜生!どうすれば―――
「助けてくれ!!俺には妻子がいるんだ!!」
「頼む!後生だから!!どうかどうか!!」
咄嗟の考えだがいいぞ!そうだ命乞いだ。相手が理解ある奴なら生かしてくれるかもしれない。
恥なんて考えるな!俺は生きる、生きていたいんだ!
「お願いだ!なんでも、なんでもするから―――」

339名無しさん@コテ溜まり:2009/11/26(木) 02:12:32
相手の機嫌を損ねたのか?反応が全然ないじゃないか。
俺は死ぬのか、こんな所で死ぬっていうのかよ。
『―――良く見ろ!!』
どうやら相手のレイヴンはご立腹らしい、聞きなれた声は穏やかさに欠けている。
………聞きなれた声?凄く聞きなれた声だ。それに、機体も。
数分前まで一緒にいたレイヴンそっくり―――。
『味方だよ…』
あぁ、なんて事だ焦りすぎて敵と味方を間違えちまった。
よく見りゃミッション開始まで数分あるじゃないか。
よりによってあのレイヴンを敵と間違えるなんて。あぁ笑い声が聞こえるよ。
そうだ、もっと馬鹿にしてくれ。そうでないとこっちの気が済まない。
『ははははっ、ふぅ…応答がないと思ったら脅えていたのか。…ップ、ククク』
「ヘヘッ、悪かったな」
どうにか笑い話にもっていけそうだ。本当に良い奴だよ、お前さんは。

340名無しさん@コテ溜まり:2009/11/26(木) 02:12:59
『どうしてそう脅えるんだ?』
どうして、どうしてか。いざ聞かれると説明し辛いな。
「そういう性分なんでね」
「だからMTも頑丈なのを選んだんだ」
「中に入れば安心できる…そんな奴を選んだんだ」
これは良い、俺の中での100点満点の返答だ。
アイツはまた笑ってくれるかねぇ。
『ふぅん、珍しい考え方だな。しかし脅えるが故にそんな答えを出すのも良いかもしれないな』
『恐いから、死にたくないから兵器に乗る。敵を倒す』
『レイヴンでもないのにレイヴンみたいな考え方だ』
レイヴンみたい…俺がか、思ってもいなかったな。
こんな弱虫で臆病な俺が…レイヴンか。
「聞かせてくれよ。そこはACの中ってのはここよりも安全なのか?」
『また難しい事を聞くもんだな』

341名無しさん@コテ溜まり:2009/11/26(木) 02:13:19
ACってのは、形なんだ。人それぞれの心の形』
『誰よりも速くありたいレイヴンがいれば速く。誰よりも硬くありたいレイヴンがいれば硬く』
『乗り手の考え次第、そう考えるとドランカード…お前さんに一番合った場所かもしれんな』
「心の形…俺に合った場所」
『そう、心の形。…おっとそろそろだぞ、準備しとけよ』
俺の心、臆病な俺の。
恐怖か最初は恐怖だよな。それを包む硬さ、堅牢さ。
恐怖を、死を、敵を拒む。近づかせない…距離。射程…か?
俺に合った場所、俺に俺が俺の―――レイヴン…。

 ―――某日某所―――

『これよりミッションを開始します。レイヴン〝ドランカード〟よろしく』
「おぉ、こちらこそだ。早速で悪いが敵の精確な位置、距離を教えてくれ」
『はっ?…敵は未だ作戦領域外ですが、いったい何を――』
「この地点から曲射射撃による直接攻撃だが?」
『直接攻撃って、ここからまだ12キロも離れてるんですよ!?』
「12キロか…風速と着弾までの時間に、敵部隊の移動速度も計算に入れて…」
『…えぇと、当てれるんですか?』
「当てられるかじゃない、〝当てる〟んだよ」
そう、これが俺の心の形、恐怖の現われ。
恐いから装甲を厚く、攻撃を弾き。恐いから敵を寄せ付けない、圧倒的な射程距離。
これが、臆病なレイヴンとしての俺の形。
シガレット…敵を寄せ付けず敵を撥ねつける、超長距離射撃及び拠点防衛用タンク型AC。

「まぁそういうことで、今後ともよろしく。レイヴン」

342 ◆lolicon8k6:2009/11/28(土) 18:27:54

「狂い笑う男」


狭い部屋だ、明りも少ない。
実際にその部屋に居れば、壁に当たる事のない明りだけを頼りに部屋の広さを把握するのは難しいだろう。
天井からぶら下がる裸の電球は、ヌードでありながら官能ささえ感じさせない。
撮られるカメラもなく、ポーズをとる事もなく、電球は裸のまま部屋をチリチリと照らしていた。
その電球の下、照らす光の範囲内に薄汚れた椅子が一つと、その椅子に座る男が一人。
男はうつむき、自身の作り出す影に顔を隠していた。
そんな男の周り、部屋の暗さに目が慣れれば見えてくる人影。
よく見れば、狭いこの部屋の中ですし詰めの如き大人数が男を囲んでいた。
皆が皆がやがやと小声で話し、時折男を指差したり咥えた煙草に火を付けたりと忙しそうにしている。
そんな騒がしさも突然にピタリと止んだ。暗い部屋のドアがあるであろう場所から音が聞こえたのだ。
数回、しなやかな木材に拳を当てる音。その音が了承を得るかのように止まると、望んでいた了承は与えられた。

「入れ」

多くの人の中から一人の声がはっきりと聞こえた。
重く冷たく、しゃがれたような声だ。

343 ◆lolicon8k6:2009/11/28(土) 18:28:14
その言葉が終ると共に未だ見えぬ扉は開き、漏れる光がその輪郭だけを形作った。
漏れ入る光はヌードモデルの光より強く、ドア付近に居た複数人を照らすと共に、部屋へ入ろうとする者の姿を見せてくれた。
入ってきた者はスーツに身を固め、着物と同じ様に自身の髪をぴっちりと固定しているのが印象的な男だった。
扉は閉じられ、またも部屋の中の明りはヌードの電球だけとなる。
今しがた入ってきた男はいそいそと動き、電球の恩地にあやかろうと部屋の中心へと歩んだ。

「待たせてすまない」

男が口を開くと、中心に座っていた男が顔を上げる。
だらしなく伸びた頭髪と無精髭、覗く目は酷く濁っている。
男は自身とは正反対の、スーツ姿に整った髪と顔を持つ男へと笑ってみせる。

「ヒヘヘ、…それはぁ俺に言ったのか?」
「この部屋に居るお前以外の者へと言った礼儀の一言だ。下卑たる貴様に礼儀など必要ないだろう?」

その言葉を聞くや否や、それもそうだと下卑た男は笑い声を上げた。
そんな笑い声も聞こえないと言わんばかりに、スーツ姿の男は胸ポケットから一枚の紙を取り出した。

344 ◆lolicon8k6:2009/11/28(土) 18:28:35

「ウェンズデイ機関、その技術チームの主任。名をシュバルツ…で合っているな?」
「シュバルツ〜、シュ〜バル〜ツ〜。イヒヒクヘヘェ…良い名前だろぅシュバルツゥ、返せよぉ俺ん名だぞ?」
「こんな状態で、大丈夫なのかね?」
「問題ありません、今のところ精神は落ち着いてます」

暗がりから投げかけられた年寄りの疑問に答え、男は続ける。

「貴様等機関が作り上げ、謎の男『スティンガー』に強奪された『ファンタズマ』について…」
「幾つか質問させてもらうぞ」
「あぁ?ああああぁ、アレか…アレは良いもんだったなぁ」
「俺が作ってきた物の中で一番色っぽくてよぉ。一番興奮したもんだぜ」
「フッ、そんなにあの玩具が恋しいか?」
「勿論だともよ、アレがない今ぁ俺は生きてる意味なんかないってもんだ」

恍惚とした笑みで、反芻する男。
その笑顔はあれだけの兵器を作った者としての狂気が滲み出ている。
部屋の中の大人数は皆、椅子に座る男を見て思わず生唾を飲んだ。スーツの男以外は。
シュバルツから放たれる狂気を、これがこの男の真なる価値だと。そう、言いたげな笑みを浮かべる。
現に、整った顔を歪ませそれでこそだと呟いていた。

345 ◆lolicon8k6:2009/11/28(土) 18:28:57

「そんなに恋しいならば、作らせてやっても良いんだぞ?」
「ほおぉ、企業の人間ってのは…もっとこうお堅い奴等だとばかり思ってた」
「けどよぉ、無理だぁ…ヒヒッ」

思惑が外れたのか、スーツの男は眉間にしわが寄る。
その表情を見逃さない程に、濁り汚れた眼は目の前の男へと迫っていた。

「わりぃねぇ。わかる…よぉおくわかるとも、企業はアレを利用したいよなぁ?欲しいよなぁ??」
「レイヴン共がアレで遊ぶの見て欲しくなっちゃったんだよなぁ?わかるぜぇ」
「御自慢の玩具もたった一人のレイヴンに壊される程、お粗末な物だったじゃないかね?…つけあがるなよ下郎!」

シュバルツの挑発的な物言いに男も釣られていた。
その口論を聞いていた暗がりの人々から、皮肉と冗談の混じる笑い声を聞かされる。
自身の失態に気付いたスーツの男は、恥を隠す様に歪んでもいないタイを整えた。

「それで?我々に協力するのかね?」
「そう…がっつくな。順に説明するからよぉ」

346 ◆lolicon8k6:2009/11/28(土) 18:29:15

「協力、協力は無理だ…なんせ設計図はもうどこにもねぇんだからぁよ」
「基地ごと…ドカンッ!!ってのは憶えてるだろぅ?」
「一から書き直せば良いだろう、その辺りに関しても資金は惜しまんぞ?」
「それが無理なんだよ。アレをファンタズマを俺たちが一から全て作ったとでも思ってたらぁ…そりゃ勘違いだぜ?」
「ん?」
「そもそもよぉ、良く考えりゃわかることだろうに」
「アレの設計図も動力源も今の技術でどうこうできるもんじゃぁねぇのよ」

「〝管理者〟…過去の亡霊から頂いたブラックボックスでできてるんだよぉ」

どよめき、狭い部屋のあちこちをどよめきが飛び交った。
がやがやと騒がしくなった人達をスーツの男は片手を挙げ制止させ、今も笑っている男に耳を傾けるよう促した。

「管理者、古い資料にしか載っていないものだ」
「少しくらいは知ってるだろぉ?過去の独裁者、な〜んて言われてるもんさ」
「昔の人間は機械に命運握らせてたってんだからぁよ、イカレてるよなぁ?」
「イヒヒヘヘヘヘッ、俺達機関は利用されてたんだよぉ。ヒヒ、俺達はあいつ等の工場の一つなのさ」
「そんな事、どの資料にも――」
「資料資料、紙に書いてあることだけが真実かぁ?くだらねぇ…」

347 ◆lolicon8k6:2009/11/28(土) 18:29:34

「まぁ…俺があんな奴等と関わったからこそ知っちまったってぇのもあるがねぇ」
「ようは、ファンタズマ欲しけりゃ管理者様にお願いしなってことだ」

部屋は静寂しきっていた、シュバルツの発言があまりにも突拍子のないものだからだ。
スーツの男は小さな溜息を口から漏らし、片一方の眉を吊り上げている。
眼の下の筋肉が痙攣するようにヒクヒクと動き、その眼には怒りが感じ取れた。

「がっかりだよ」
「馬鹿にしているな?そんなもの、過去になくなったものに作らされただと?」
「貴様がそうやっていつまでも遊んでいる気なら、こっちも少々手荒に行くぞ」

そう言って男はシュバルツの髪を鷲掴み、自分の顔に引き寄せる。
早めに吐いたほうが良いぞ?と眼で訴えたが、シュバルツはヘラヘラと笑っているだけだった。

「下郎が、もううんざりだ」
「鈍器で殴られたいというならずっとそうしていろ」

348 ◆lolicon8k6:2009/11/28(土) 18:29:55

「ヒヘヘ、慌てんぼだなぁ。」
「死にたがり共、そんなに聞きたきゃ聞かせてやろぉ」

急に冷めたように喋り出すシュバルツ、部屋を出ようとした男は振り返った。
濁ったような眼が、暗がりに隠れてる人達一人一人を探るように向けらる。

「お粗末、お粗末っていったよなぁ?スーツの旦那」
「一人のレイヴンに壊されたお粗末な玩具。言ってくれるじゃぁないか」
「でもよぅ、〝脚部パーツ〟だけであれだけ暴れられるのは…凄いことじゃあないか?あん?」

一瞬、また冗談を言っているのではないかと皆が耳を疑った。
お粗末とは言ったが、ファンタズマは確かに驚異の大型兵器だったからだ。
あのレイヴンでなければ恐らく、単独での破壊など不可能だと知っていた。
その兵器が未完成?ただの脚部パーツ?容易に信じる事事態間違っている。
が、男シュバルツの狂気に満ちた表情を見て、冗談だろうと笑う事のできる人間はスーツの男を含めその場にはいなかった。

349 ◆lolicon8k6:2009/11/28(土) 18:30:14

「あれはよぅ、ただのパーツだ。俺達機関と同じように一つのパーツ、必要なもの」
「いくらACが強かろうと、脚部パーツだけで何ができる?えぇ?」
「ファンタズマはそれをやってのけた。正式名称LC-F1009Bはなぁ、愉快だろぅ」

シュバルツの声は、この部屋を支配していた。
いや、彼の狂気こそが、部屋に居る人々を呑み込んだのだ。
誰も彼を制止しようとはしていない。寧ろその続きが気になって仕方がなかった。

「ファンタズマが脚部だとして、何を…何を上に載せるんだ!?」

「アイツだよ!あの悪魔さ、赤と黒で染まったあの悪魔」
「御前等無能な企業の犬共は知ってるか!?ナインボール!アイツを載せる御身脚だ!」
「アイツの身体が載った時にこそ、100%の出力が出せる!!最強のタンク型ACになる!!」

「〝ナインボール・ヴィヌス〟地上を這いつくばる翼をもがれた獣だよ」

「御前等が重要視していた人機融合はなぁ…その獣を眠らせる強制シャットダウンの起動スイッチでしかねぇのさ!!」

350 ◆lolicon8k6:2009/11/28(土) 18:30:30

「ヒィヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘッ!言っちまったぁ喋っちまったぁ!死ぬぞぉすぐに消されるぞぉ!アイツがここに飛んで来るぞぉ!」

周りに居る人達が信じられんと言いたげな顔をしているのは、容易に想像できることだった。
シュバルツは、そんな事すら知った事かと高らかに笑ってみせる。

狂い笑う男、シュバルツ。

彼の言った事は事実となった。
企業の重役が集まっていた豪邸に、突如として謎の飛行物体が接近。
数分後に豪邸は消し炭へと変わっていた。
付近の監視カメラなどは丁寧にも破壊されており、その物体がなんだったのかは未だ明らかではない。
この事件に対し、各企業は一向に口を開こうとはしなかった。
その後、アリーナのランク1にナインボールが姿を見せたのはもう少し後の話である。

351:2009/12/24(木) 12:45:07

「赤い盾」


自らを盾とするならば、私は堅牢な物で有りたい。
盾としての信念を貫き、盾としての役目を果たす。盾として確固たる証明をしたい。
誰かを守れるのならそれでいい。
だが、その前に耐えてみせたい。浴びせられる鉛を熱を、心を曲げようとする恐怖さへも。
自身を極限の状態に晒してみせたいのだ。

『作戦領域に接近これよりAC投下準備します』
『1番ロック、2番ロック解除、固定用アンカー移動』
『1番レール問題なし、これより後部ハッチを開きます』
『作業員は速やかに退避して下さい』
『後部ハッチオープン、1番レール展開』
『レール固定確認、固定用アンカーは定位置へ』
『2番アンカー定位置への移動及び固定確認、準備完了』

『ハングマン、戒世の投下準備完了しました、これより5カウントで投下します』
「了解」

…5…4…3…2…1―――

『投下します』

352:2009/12/24(木) 12:45:29
鈍く沈んだ赤の装甲は大空へと投げ出された。
びゅうびゅうと吹き付ける風は戒世の身体を叩き、ぴくりとも動かぬ巨体を小さく震動させる。
落下速度が上がるにつれ戒世の鋼の身体は表面温度を低下させ、赤い装甲には薄らと白い霜の化粧が施された。

『現在の高度、3500フィート』
「これよりパラシュートを展開する」

男は目の前のコンソールパネルに指を伸ばす。
光る文字を追うように指で画面をこつこつと小突いた。

「盾、全てを弾く盾かどうか――」

戒世の背中に取り付けられたバックパックは、搭乗者の命令に従いその内容物を放り出す。
展開された大きなパラシュートが風を受け止め、重力に抗おうとしてみせた。
抵抗を受け落下速度が大幅に減る。戒世とハングマンの両者は、落下の最中に浮遊したような奇妙な感覚を黙って体感した。

『ハングマン、憶えていますね?今回のミッションでは敵に発見されてはいけません』
『ブーストの連続使用、武器使用は共に禁じます』
『敵に索敵、攻撃された場合は速やかに撤退、指定の位置で次の命令を待つ――とする』
「発見されてからの反撃は?」
『構いません。ただし、現在の状況は敵の砦への単独侵入、その機能を索敵されずに停止させるのが目的です』
『できるだけ、依頼通りにこなしてください』
『それに、流暢に反撃していれば貴方といえど永くは持たないでしょう。もう少しご自愛ください』
『御社にとっても貴方は―――』
「500フィートを切った、低出力でブースターを起動する」


戒世がその大木のような二つの脚で大地を踏みしめる。
背中のバックパックは切り離され、役目を終えたソレは静かに土の上へ横たわる。

『現在の地点より南に3キロ、そこが目標の砦です』
『辺りを警戒するMTに見つからないよう接近してください』
「…ご自愛、盾に何を愛せというんだ」
『ハングマン?』

男はボソリと唇を動かさぬ程小さな声でボソリと呟いた。
コックピット内の空気が震動せぬよう小さく小さく。

「砦、好都合だ。此処なら私を試せる!盾として私がどれ程なのか」
『ハングマン!?』
「不都合があるなら上に伝えるんだな、次からは隠密等、装甲の塗装が地味な軽量級ACにやらせろと!」
『それはっ…ごもっともな理屈ですが…』
「私には私の、戒世には戒世のやり方がある!良く見ておくんだな!」
『ハングマン!何を!?』

戒世は搭乗者の意思を読み取るかのようにその眼の光を一層強める。
装甲表面の霜を粗方吹き飛ばし、超強高度のスクリーンを展開した。
背中にある一対の大型ブースターを起動させ、噴射口を守る分厚い装甲を展開した。
背中から高出力の推力を噴出し、戒世のその重い身体を無理矢理に前へ前へと押し出した。

353:2009/12/24(木) 12:46:30

『ハングマン!付近のMT、砦にも索敵されました!ハングマン!!』
『このままでは砦の長距離砲台数十台に狙い撃ちです!退避を!』
「退かん!私は盾!私は堅牢な盾だ!」

戒世は風を撥ね退け、前進する。
腕でコアを、自分を守るように構え左の手に持つ盾の出力を限界まで押し上げる。
正面に立つ木々を吹き飛ばし、岩を砕きながら赤い盾はその速度を落とすことなく前進するのだ。

『長距離砲台からの射撃、来ます!』

突然の爆発、戒世を中心に四方数百mを焼き尽くさんとする程の大爆発が戒世を呑み込んだ。
爆風は広がり一体の木々を地面から根こそぎもぎ取り、吹き飛ばす。
大気がその熱に晒され蒸発、爆炎の収縮ととも大量の水蒸気が爆心地に吸い寄せられていった。
未だに残る黒煙に、白い蒸気が絡み合う。中心がどうなっているかなど外からでは確認のしようがない。
しかし白黒混ざる煙の中、鮮明にとても強く光る青の輝き。
信念の灯火、心の青。そして、まごうことなき真紅の盾!

戒世は一撃を防いでみせたのだ!!

「そんなもので!この戒世を砕けると思うな!!」

武装はただれ、装甲は焼きついてはいるが、戒世は未だ動いている。
あれだけの攻撃を直撃しながらも耐え切った、驚異的な耐久力の戒世を沈めようと四方八方から鉛弾が飛来する。
しかし戒世も、ハングマンも脚を止めはしない。
砦を前にMT等見向きもせず、目標へと前進したのだ。

354:2009/12/24(木) 12:46:49

―――ハングマン、修理工前―――

《機体修理費950460cとなりまーす》
「?、フレーム全て合わせた値より高いが」
《どこも酷くやられてたのでほぼ総とっかえですねー。ジオマトロクス直属のレイヴンなんで一応お安くしてますよー》
《今ならサービスでワックスとエンブレムの塗り直しがたったの10cですがどーですか?》
「いや、それより残金が…カードで頼む」
《はいはーい、下の読み取り機にスライドして下さーい》
《あれ?カード使用停止してますよー》
「なっ」
《更新してます?兎に角使えないのでキャッシュ振込みでお願いしまーす》
「足りない…」
《幾らほど足りません?利子高いですが金額によってはコチラで――》
「950400c…程……」

《強化手術に1名さまご案なーい!》

ハングマンは筋骨隆々な巨漢二人に連れて行かれた。
その後も戒世はあらゆる依頼でそれなりに活躍するが、戒世のパイロットであるハングマンの姿を見た者はいない。
極稀に出撃前の戒世の周りを一人の女児が忙しそうにしているが、それがハングマンとどう関係しているかは定かではない。

355:2009/12/25(金) 00:06:20
⑨「クリスマス氏ね」
レイヴン「ラナがいるだろ」
⑨「!?…クリスマス素敵!」
レイヴン「クリスマス氏ね」
面倒「スミカがいるだろ」
レイヴン「!?…クリスマス素敵!」
面倒「クリスマス氏ね」
クライン「ファンタズマがいるだろ」
面倒「!?…クリスマス素敵!」
クライン「クリスマス氏ね」
ボイル「ストラングがいるだろ」
クライン「!?…クリスマス素敵!」
ボイル「クリスマス氏ね」
ランバー「レミルがいるだろ」
ボイル「!?…クリスマス素敵!」
ランバー「クリスマス氏ね」
戒世「ディアハンターがいるだろ」
ランバー「!?…クリスマス畜生!」
戒世「クリスマス氏ね」
サイプレス「アストライエがいるだろ」
戒世「!?…クリスマス素敵!」
サイプレス「クリスマス氏ね」
ファンファーレ「管理者様がいるだろ」
サイプレス「!?…クリスマス素敵!」
ファンファーレ「クリスマス氏ね」
スネチャマ「リップハンターがいるだろもしくはトラファルガー」
ファンファーレ「!?…クリスマス素敵!」
スネチャマ「クリスマス氏ね」
ゼロ「ウォーターハザード(笑)がいるだろ」
スネチャマ「!?クリスマス素敵!」
ゼロ「クリスマス氏ね」
トロット「おっかけ(カラードネイル)がいるだろ」
ゼロ「!?…クリスマス素敵!」
トロット「クリスマス氏ね」
ジノーヴィー「未来の花婿がいるだろ」
トロット「!?…クリスマス素敵!」
ジノーヴィー「クリスマス氏ね」
ジナ「アグラーヤがいるだろう」
ジノーヴィー「年増など!幼女がいい!!」
ジナ「クリスマス氏ね」                     ジノーヴィー「ぎゃあああああああ」
ジャック「レイヴンがいるだろ」
ジナ「……せ、せっかくだ。少しくらい雰囲気を楽しませてもらう」
ジャック「クリスマス氏ね」
ンジャムジ「俺、要る」
ジャック「許せよ」
隊長「クリスマス氏ね」
トロット「やだなぁ、僕がいるじゃないですか!隊長」
隊長「…まぁそれもありか。トロット、付き合え」
トロット「了解です!」

雪降る町はどこも一組の人だらけだった。息は白くなり、鼻頭が赤く染まっている。
どこもかしこも華やかな装飾が目立ち、町全体に活気が見て取れる。
アライアンス戦術部隊トップの二人は、その光景を目の端に入れながら、寂れた喫茶店に入った。
店員のいらっしゃいの声の変わりに、錆びかけのベルがカランコロンと乾いた音色を響かせた。

隊長「トロット、ケーキを食べるか?」
トロット「いいんですか?ご馳走になります!」
隊長「まぁ、今日ぐらいはな」
店長「おや、アライアンスの御二方、今夜も仕事で?」
隊長「まぁそんなところだ」
店長「ハハ、精の出ることで。聖夜くらい休みを取ったらどうです?今暖かいコーヒーを」
隊長「ケーキも一切れ頼む、種類は問わん」
店長「はい、ただいま」

トロット「隊長、メリークリスマス!です」
隊長「あぁ…そうだな、メリークリスマス」

メリークリスマス


森「クリスマス氏ね」
ゴードン「管制室がいるだろ」
森「!?…クリスマス素敵!」
ゴードン「クリスマス氏ね、リア充も一緒にだ!」

356:2009/12/29(火) 12:05:57

「武器腕カーニバル」


――アライアンス戦術研究所――

「今日皆様に集まってもらったのは他でもありません」
沢山の機材がそこらに散らばる暗い部屋。
その部屋の中心で白衣の男は、声を投げかける。
投げかけた先には5人のレイヴンが気だるげに立っていた。
右から、
高身長で堀が深い整った顔立ちの男 ―エヴァンジェ―
一見パッとしない男(脚は2本だが4本ありそう) ―トロット―
5人の中で一番若く、青臭さを感じさせる青年 ―ジャウザー―
横に太くたくましい筋肉で服を内側から押している男 ―ゴードン―
良い歳して髪を縦に巻き胸元に無駄な脂肪を蓄えている女 ―プリン―
が、
疲れや眠さを抑え、仕方なしに白衣の男の言葉を聞いている。
「――ということです」
話が終ると、トロットが嬉々として手を挙げ口を開く。
「つまり、みんな武器腕を装備しろってことですね?」
「そのとおりです」
要約された言葉を聞いてトロット以外が、最初からそう言えという顔をした。


「と、いうよりは」
付け加えられる言葉と共に部屋のスクリーンに、5人のレイヴンそれぞれのACが映される。
3D映像とはいえ本物と見分けが付かない程良く出来たものだ、一部を除いて。
「既に装備準備中です」
皆の愛機の腕の部分が、いつもとまったく違う形状をしていたのだ。
これにはトロットも苦笑い。
「イヤアアアアッ!私のサンダルフェザーが!ビット腕!?ビット腕に!!」
「落ち着いてプリンさん、機体名間違えてますよ!急いで帰ればまだ止められるかも―」
「ちょっと待て!俺の機体だけなんで脚も変えられてるんだよ!」
「アンテナ頭にあの武器腕と逆脚とは…どこかで見覚えが」
「隊長!オラクルもすっごく格好良いですよ!」
「…!? 核腕にブレ腕…だと…?」
「車だ!車を用意しろトロット!」
トロットを先頭に戦術部隊は駐車場目掛け部屋を飛び出していった。

「おい!この車もちっと速く走れねぇのかよ!」
「5人も乗ってるんですよ!?」
「ふむ、一人降りれば少しは早くなるな」
「「「「……えっ?」」」」


「慌てるな、ひ弱なお前らを放り出すとは限らんだろう」
「ドミナントの脚力、よく見ておくんだな!」

パリーンッ!

「たいちょー!遅いっつっても200キロ出てるんだぞー!!」
「消えちまった…」
「あれ…?」
『ドミナーントッ!』
「なん…だと…!?」
「並走?いや…抜かしていった…」
「トロット、今何キロ出てるのかしら?」
「215キロ」
「すげー、もう見えなくなっちまった。何食えばあんなんになるんだ?」

―数分後―

「あ、隊長が倒れてる」

357:2009/12/29(火) 12:06:44
「あばら押さえて痙攣してんな」
「無理もないでしょう、どうするの?」
「ほっとけ、今は機体を優先だ」
「隊長…」



――アライアンス戦術部隊拠点――

「よかった、サンダイルフェザーは手付かずねぇ」
「僕の機体はシルキー搭載された右腕だけが蓮根になってる…」
「良いじゃねぇか、多分そっちの方が強いぜ?」
「ゴードンはどうなのよ?」
「腕は変えられたが脚の方は無事だ…よかった、脚も変えられたらコアも武装も変わりそうな気がしてたんだ」
「そうなっちまったら、きっと取り返しの付かないことに…ホントによかった」
「トロットは――」
「変わってない…代わりに電池がターンブースターになってる」
「ひでぇ…」
「嫌がらせか何かかしら…」
「あと、隊長の機体が…」
「腕が4本…」
「格好良い、正義に満ちてます!」
「それは嫌味か?なんにせよ隊長が帰ってきたらどうなることやら」

その後、腕4本で敵を吹き飛ばすACが戦場で暴れるのはもう少しあとの話。


漢!

358:2010/01/12(火) 11:55:38

「破壊衝動」


時折、どうしようもなく何かを壊したくなる。
ACというもう一つの身体に乗り込み、全てを壊したくなるのだ。
衝動が長く続いた時、肉体の方はどうしようもなく火照り、もう一つの身体は嫌に冷え切っている。
私の前に現れる敵を踏み潰した時など、性感という性感が昂り、自身を慰めるのにとても苦労する。
逆に、アリーナでは上のランクのレイヴンに挑み負けたとき、身体は熱く、肉体は冷え切っていた。
私が女だから?いや、違う。きっと他のレイヴンだってそうに決まっている。
だから恥ずべきことではない、筈だ。
あと、〝女だから〟なんて考えるのはやめよう。そう思われぬように、私はこの力を得たのだから。


――1月12日、曇り、フライングフィックス作戦行動中――


ガラガラと無限軌道を轟かせ、装甲兵器は前進する。
装甲と装甲が擦れ、ギアとギアが重なり、発する音は騒がしく、また恐ろしい。
右手の散弾バズーカは、ほのかに硝煙の香りを残しその砲身を冷やしている。
両肩に背負う物々しい重量散弾兵器は、未だ使われずその内に多くの弾頭を含ませていた。
頭部に位置する薄く平たいCHD-04-YIVは、主人の変わりとなり辺りの様子をメインとサブのカメラを使い窺っている。
そんな機体〝フラッグ〟を尻目に、搭乗者〝フライングフィックス〟は呼吸を乱し冷静さに欠いていた。

「最後の一機、はやく…早く!みつけろ!」

顔を酷く赤らめ、体を包むスーツを汗や液でぐっしょりと濡らす。
既に数機のMTを亡き者としている彼女の衝動は満たされ、後処理を早くにでもしてしまいたい。そういう顔だった。

359:2010/01/12(火) 11:56:03
今のフライングフィックスでは脳内で敵の索敵をできる筈もなく、最後の一機を見つけるのは難しい。
MTに乗る者が愚かでなければ今の内に逃げることができただろう。
が、思っていた以上に敵は愚かだった、それとも意地かプライドなのか。
最後の一機のスクータムDは物陰から飛び出し、敵の死角から特攻を仕掛けたのだ。
重装甲を売りとするこのMTは盾を構え、隙間から敵を覗きバズーカを構える。
できることなら一撃であのACを穿ちたい、それがMT乗りの願いだった。

「みつけた!」

だが仮にも相手はBランクのレイヴン、冷静さに欠けているとはいえ隙を突かせる程に甘くはない。
複眼で捉えた敵の方向に、エクステンションのターンブースターを全力で吹かす。
加えて無限軌道特有の旋回、キャタピラをそれぞれ逆方向に回転させることにより旋回の速度を乗算させた。
ブースターの勢いもあってか、金属の床はえぐれ、火花を散らした。
MTは殆ど距離を詰めることができぬ内にみつかってしまったのだ。
ACに見つかったMTはすぐにでも軌道を変えかったが、フラッグがOBを展開する方が速かった。
重量機をぶっ飛ばす程の推力はそのまま敵MTに向けられ、自身の身体を弾丸とし敵に体当たりをかませたのだ。
金属板が重なる頑丈な壁ですらクレーターの様に凹み、ACは元よりMTの姿は悲惨な物となっていた。
フラッグが離れてもMTは壁にめり込んだまま動かない。その残骸向けて、彼女は両肩の兵装を撃ちまくった。
凹んだ壁は更に凹み、砕けた残骸は更に砕け、その下には撃ちに撃っている弾丸の破片だけが積もっていく。

『作戦目標クリアー、システム通常モードに移行します』

電子音は彼女の耳に届いていなかった。
最後の敵を破壊した瞬間から彼女の身体は火傷するかと思える程に火照っている。
シートにもたれ掛かり、自身の肉体の表面を枝の様に細い指を這わせる。
年齢の割には未発達な胸に指を当て、弄った。
不規則な呼吸と同時に口から甘美な声が漏れ、唾液をだらしなくこぼす。
彼女はもう一つの手を下の方に伸ばし、一度めの絶頂を迎えた――――…。

360:2010/01/12(火) 11:56:27
ツクヨ「というストーリーで次のレイヤードコミケどうでしょう!」

ホヅミ「うむ!我が弟子ながらあっぱれな出来だ!」

ベクター「流石はジャパニーズ…HENTAI民族極まれり、だな」

アップル「Hなのはよくないと思います!……2冊買わせてもらいますね…」

ファナ「これだから男は……普通は3冊買って使用、保存、布教、でしょう。私は10冊買う」

ゲド「お前レズだったんかよ!だれかジャック本出してくれ」

ビルバオ「紙を使うのは良くないと思います!zipでお願いね」

ゲド「お前もか」

フライングフィックス「お前等………」

「「「「「「「!!!???」」」」」」」

フライングフィックス「………屋上」


完!

361:2010/01/13(水) 11:31:16

「静止」


男の心臓は強く脈打っている。
眼下に広がる幾百の敵を、目に焼き付けているのだ。
自身の脈の音は自身の耳まで届き、何度も反響するように錯覚する。
息は整っている。決して脅えているのではない。
彼は寧ろ喜んでいるのだ。
静止するのはドチラか、相手の猛攻が自分の息の根が、止まるのはどちらなのか。
止めるのか止められるのか。
知りたい、知ることができる。彼にとって最高の舞台だった。

『ミッションを確認します』
『敵勢力はエムロードの大隊、こちらは支援が少なからずあるとはいえ殆ど貴方単機での出撃、応戦となります』
「了解」
『これは明らかなる自殺行為であり、本社からは出撃停止命令が下されています』
『つまり、これらのブリーフィングは貴方の独断であり命令違反でもあります』
『ハングマン、引き返すなら今の内です』
「引き返す?馬鹿をいわないでくれ」
「私にはこれしかない、私の代わりはいくらでもある」
「誰かの利益を考えて生きる等、私にはできない」
「続けてくれ」
『…了解しました』
『敵大隊の編成は先日行なった長距離スキャンにより確認できました』
『主力MT、ローバストSr、同型のGn、逆脚タイプのバードラ総数90以上』
『支援型の小型兵器、浮遊型ガードメカアンブレラ、それにレッドウォッチャーこれらは総数が200を超えています』
『その他にも―――』

深く考え込むハングマンにそれ以上の言葉が耳に入らなかった。

362:2010/01/13(水) 11:31:37
ここからみれば敵の一つ一つが粒の様にしか見えていなかった。
近づけば、それ等がハングマンの乗る戒世と殆ど変わらない大きさなのだと彼は知っている。
だからこそ、彼は自身の鼓動を早めたのだ。
蟻のように蠢く眼下の敵の驚異を、知っているからこそ。

『ハングマン、作戦領域に到達しました』
『これから言う言葉は、社の命令とは関係ありません。なので記録にも残らないものとなります』
『生きて帰って』
「了解」


          ――――ミッション開始!――――



戒世を繋ぐアンカーは解除されその身体を大空へと投げ捨てると同時にハングマンは急いでパネルを叩き
戒世の背部装甲を展開、OBの起動を図るもそれよりも先に敵の大隊が遥か上空の戒世を探知し紅い影目掛け
幾千のミサイルを撃ち出したのを確認するやいなや戒世のOBが推力を噴出しその落下速度を高めながら
ミサイルの網に向け両肩兵装であるコンテナミサイルのハッチを開きその内の一つを射出、コンテナから噴出した
ミサイルは目前の敵ミサイルを砕き誘爆させ戒世の通り道をつくるも目標が通り過ぎるのを確認したミサイルの幾つかは
その誘導性を失っておらず向きを変え背中から遅い掛かろうとするもそれを読んでいたハングマンは直ぐに
エクステンションをパージそれをフレアの代用としたことで残りの敵ミサイルも全てその役目を果たせなかった
ことに憤慨したかのように地上の部隊は戒世目掛け地対空攻撃を浴びせかけるが戒世は既に着陸準備を整え
サブのブースターを展開し地上部隊のど真ん中に脚を下ろしたがそのまま次の行動に移るハングマンに翻弄される
地上部隊は彼の詮索と索敵を優先したがそのころには戒世の反撃が初まっていた。

363:2010/01/13(水) 11:31:58
重量級の機体をOBで突き動かし盾にて目前の敵の攻撃を弾く戒世を潰そうと躍起になりグレネードを乱射するローバストは
懐に潜られたことを気付くのが遅れ散弾バズーカの直撃を受けるのを目視した他のローバストが市街地の建造物を縫うように撤退するも
それよりも早いOBの出力で器用に路地を曲がり敵を追う戒世を待ち伏せていた数十機のアンブレラが攻撃を試みるも戒世の防御力の前では
叶うはずもないことを知り攻撃しようともせずに突っ込んできた戒世の体当たりもろに受けてガードメカの群れが一つ全滅した
のを確認した部隊長が指示を出すも曲がりくねったこの市街地では味方の位置の確認もろくにできないために通信は混乱していたが
戒世の猛攻は止むことがなく空に撃ち上げた一つのコンテナから無数のミサイルが市街地ごと敵のMTを吹き飛ばす最中に
バードラが逆脚特有の跳躍力で上空からACを索敵しようとするが飛び跳ねたところを散弾バズーカで狙撃され空中で塵となったが
上に気を取られた戒世とハングマン目掛け数発のグレネードが浴びせられ殆どが爆風のみだったが一発が直撃し長期戦の中で痛手となった
事に調子をよくしたローバストの部隊は接近しもう一度斉射を試みるも爆風の中から怯むことなく現れた戒世にENシールドで殴られ
沈黙した味方を見て脅えた他のローバストの間をコンテナが横切り真後ろからミサイルを浴びせられ焼かれた部隊を戒世はブーストで飛び越えた
後にすぐさまOBを展開し市街地の中を滑るように動き敵を翻弄するもあらゆる場所で沸いてでるガードメカに使う弾薬を節約し
正面に現れたバードラを散弾バズーカの砲身で殴りつけ歪んだバズーカをローバストに突き刺し機体が軽くなったことで上がった
出力を調整し機体正面のプロテクトスクリーンの出力へとまわすことで防御の底上げを図るがそこえバードラのパルスキャノンを浴びせられたが
ギリギリで盾が間に合いコアへのダメージを抑えられたことを確認するとショルダータックルの容量でバードラ吹き飛ばしはしたが
減速したところを捉えられミサイルの雨を放たれた戒世は直ぐにOBを灯し来た道を逆走して追いかけて来ていたガードメカの攻撃を障害物を
盾にするように移動しその横をすり抜け追ってきていたミサイルをガードメカで防ぎ残ったミサイルを加速したまま壁にマニピュレーターを押し当て
直角にまがる事によって壁にミサイルを衝突させ難を逃れたが狙撃型のローバストにサブのカメラを破壊され位置を確認したハングマンは
OBを続けたままローバストの下へと急ぐがレーダーの反応を見るやまたも方向を変える。

『補給部隊が到着しました、ハングマン使って下さい』
『バズーカと新しい盾、それとコンテナの弾薬です』
『現在敵の勢力は半分まで低下しています』
「了解した」
『貴方自身も補給をお忘れなく』
「……了解」

男は自身の首に琥珀色の液体が入った注射器を突きたてた。

364:2010/01/13(水) 11:32:19
日は沈みかけ、空が紅く染まりだしている現在も戦闘は続いていた。
市街地は所々で火の手が上がり、また別の場所では数回の爆発も見られた。

『あの部隊で最後です!ハングマン!』
「了解!」

既に弾は尽きフレームも酷く歪んだ戒世がその熱を更に上げ敵MTに突っ込んでいく光景に怯みながらも残った弾薬を撃ち尽くさんとするMTの攻撃を諸に喰らい
尚加速する戒世は指の欠けた手を握りそこにスクリーンを集中させ思いきり殴りMTのコックピットを潰したあとまだいる敵を目掛け残骸を投げ
隙を作った敵の懐に潜り体当たりをかまし転げたローバストに馬乗りの姿勢を取り両の拳を何度も突きたて沈黙させるも背後から迫る反応に気付き
OBで距離を離し方向を合わせ遅れを取った敵目掛けそのまま突進した。

「猛攻よ!とまれぇぇぇぇえええええ!」

轟音が響いた。凄まじい衝撃だったからだ。
MTは愚かAC、戒世もその身体を砕いたのだ。
残った反動でコアは地面に叩きつけられ止まるのに数十秒費やした。
戒世は全ての敵を粉砕し、あの大隊の猛攻を静止させたのだ。自身を引き換えに。

『ハングマン!応答してください!ハングマン!』
『………ハングマン』

「……迎えに来てくれ、体中が痛い」

『!…はい、ハイ!!今すぐに!』
『あっ…オホンッ……了解、ハングマンの生存を確認しました』
『至急、医療斑を手配します』
『できるだけ安静にしていて下さい、ハングマン』
「…フフッ、了解」

365隊長:2010/01/20(水) 01:04:06

「裏の者」


少ない光源に照らされている長い廊下は薄暗い。
高級なレアクリスタルに包まれた電球は優しい色合いをかもし出し、ホワイトの効いた壁をほんのりと照らしている。
所々に落ちる影から少ない光を反射させる何かが覗いている。
革靴だ、丹念になめした革が光を反射する様は鏡のようだ。
影の中でその身を潜めていたのは身なりの整った男だ。
革靴と同じくらいにピカピカのスーツと、肌触りが最高級の一品であるロングコートに身を包んだ男。
髪をベタ付きのないワクッスで前から後に持ち上げている。
その男が物音に気付いたのはすぐの事だった。
長い廊下の突き当たりから規則正しいコツコツという物音、革靴がカーペットを叩く音が響く。
その音に確信を持ったであろう男は、影から身を乗り出し突き当たりの方へと歩いて行く。
突き当たりに居る相手もまた、それを悟ったのか近づく男に対して口を開いた。

「随分と早いんだな…」

声の低さから相手も男のようだった、それも高齢の。
突き当たりから現したその姿も、男同様に格調高いスーツで身を包んでいる。

366隊長:2010/01/20(水) 01:04:29

「彼に比べればそれ程でもないでしょう」

男も口を開いた。
この場においては少し場違いな若い声だった。

「彼は、それが全てだ。そうだそうなんだ」
「だから好きな様にさせておけばいいんだよ」
「我々は本来の役目を大事にせねばならん」
「時には遅刻も重要だ、わかったかね?」
「わかりました」

老人の短い説教に耳を傾け、若い男は頷いた。
老人は理解ある若者に頷き、行くべき廊下を指さした。
美しい花柄の絡み合うカーペットを革靴の底が叩くのもすぐ後のことだ。
老人は率先して廊下を歩み、若者は付いて行く。
コツコツ、コツコツと調子よく音を刻むこと数分。
二人は扉の前で止まった。


――――2010号室――――


老人は革の手袋に包んだ拳で2度、マホガニー製のしなやかな扉の表面を打つ。
反応は返されることなく、油の注してある手入れの行き届いた蝶番が音立てずに滑り、扉は開かれた。

367隊長:2010/01/20(水) 01:04:49

『掛けたまえ』

まだ入ってもいない部屋の奥から声が響く。
外の廊下以上に暗い部屋は長テーブルを中心に明りが灯され、向こう側が見えることはない。
もちろん声の主も確認できなかったが、二人はそれを特にどうとも思わず部屋へと入った。
先程話していた彼とは、この部屋に居る者のことなのだと理解できた。
扉を開けたであろう秘書に上着を渡し、二つの背高椅子に腰掛ける。

『話の前にいかがかな?』

その言葉と共に、影に沈む長テーブルの向こうから小さな箱が滑らされた。
ビニルの擦れる音は老人の前で綺麗にピタリと止まってみせる。
老人はそれを拾い上げ、少ない光で照らし見た。

「モリー*か、気が利くね」
「君も吸うかね?」

老人は早速にも封を開き中の紙筒を一本咥え、隣の若者に勧めてみせる。
横から先程の秘書が、老人の前にクリスタルの灰皿とライターを静かに置く。
灰皿は秘書の掛ける眼鏡と同じくらいに透き通っている。

「結構、私は喫煙しないもので」
「マジメだな」

老人は火を付けたソレを指で遊び、ゆっくりと煙を吐き出した。

(*モリーとはマールヴォロの事)

368隊長:2010/01/20(水) 01:05:23
クリスタルの灰皿に煙草が押し付けられると、若者はもういいだろうと口を開く。

「では、本題に入る前に小さな事柄から済ませましょう」
「アリーナでの問題ですが…」

若者は老人の顔色を窺うように横目をやる。
二本目の煙草を咥え火を付けようとしていた老人は、若者に続けなさいと言うようにうなずく。
それを見るなり手元の資料に視線を戻し、暗がりの者に向かい話を続けた。

「この件はE-2のレイヴン――」
「またギムレットか!」

若者の言葉妨げるように横から口を開いた老人。
まるで問題児に頭を悩ませる教師のような苦笑いを浮かべ、若者もまた同じように笑った。

「度重なるアリーナでの行き過ぎた行為。アリーナでの負傷は兎も角、死者が出かねません」
「RASS*が黙っとらんだろうなぁ」
「現に警告文書がギムレット宛てに、今月に入って既に4通です」
『アリーナ運営局はどうしているんだ?』
「今の所は何も、実際には自重するよう連絡を入れているのですが、2度目からはメールを拒否され…」
「送った文書は封を開けられることなく送り返されたようです。着払いで」
「ハハハっ!奴らしいのぉ。まぁギムレットと言えばEランクにも関わらずBランクの試合並に稼いでいるからなぁ」
「運営も大きな口は叩けんのだろうよ」

老人は二本目の煙草を灰皿に落とした。

(*RASS:傭兵闘技場安全保障局の略称)

369隊長:2010/01/20(水) 01:05:44

『運営局とRASSの衝突はできるだけ避けたい、解決策は』
「あります」
「抜き打ちのガレージ視察という名目で家宅捜索、そこで見つけた綻びに紐を結び、今後の行いを少々自重するよう聞かせるんです」
『何時から始められるかね』
「明日にでも、礼状は既に取ってあるので」
「レイヴン相手に礼状とは、なかなか肝の据わった判事もいたもんだな」
「ここ最近の件もあってか、礼状を取るのはさほど困難ではありませんでしたよ」
「しかし、あのギムレットを脅すとは…いやはや大したもんだ」

抜け目ない若者に対して老人は静かに鼻を鳴らし、口元に笑みを浮かべた。

『では――』
『本題に移ろうか』

しかし、この一言に老人のシワクチャな顔から笑みは消え、若者も椅子に座り直し生唾を飲み込んだ。
部屋の薄暗さは尚影を強くするかのように、室内の空気は一変する。
灰皿に落ちる煙草のフィルターが焦げる臭いもあってか、若者は不快さを隠せなかった。

「サイレントライン……ですね」
『そうだ、一連のMT暴走事件、謎の未確認機の襲撃、君らの意見を聞かせて欲しい』
「まだ、続くでしょうな」
「それも一連の件はまだまだ序章、そう考えられるよ」
「私はね」

老人は深い影に身を隠す者へと、鋭い視線を向けて言い放った。

370隊長:2010/01/20(水) 01:06:03

「しかし実態も掴めてない以上、警戒を高めるぐらしか対策は…」
「公表は?するのかね」
『この件に関することを外部に漏らす必要はない』
「事実を隠すというのですか!?」
「落ち着けぇ!…実態が掴めてないと言ったのはおまえさんだろぅ」
「公表したところで返ってパニくるだけだろぉよ」
「ですが…」

若者はうつむき、額から目にかけてを掌で被った。
老人は影に向けた目を離すことなく、箱から三本目の煙草取り出す。
部屋は少しの間静寂で埋まった。

『もちろん、いつまでもこの件を隠すつもりはない』
『コーテックスはこれに関して対策を取るつもりだよ、自慢の烏達を使ってね』
「まさか、レイヴンだけでどうこうなる問題ではないでしょう!」
「しかし、既存の兵器で抑えるのならやはりAC、レイヴンは必要不可欠だろうからなぁ」
『その通り、相手が未踏査地区に何を隠しているかもわからん』
『レイヴンでも事足りるかさへ疑問なのだ』
「企業の連中も相当あんた等に頭を下げたろう、それとも脅されたかね?」
『両方だ、私個人は君らとその部下を使っての極秘捜査を提案したが、結局蹴られたよ』
「妥当だねぇ」
「何故ですか?何故、我々の捜査は不要だと…」
「後でな、荷物をまとめなさい」

そういうと二人は立ち上がり、秘書が抱えていた上着を取り袖を通した。
もらったモリーの箱を上着のポケットに滑り込ませ、扉に手を掛ける。

371隊長:2010/01/20(水) 01:06:24

「次は何時にするんだい?」
『おって連絡をよこす』
「その時はメンソールを用意しといてくれ、コイツの好みだ」

そういと老人は若者を指差し、若者は驚きで表情を変える。
二人が部屋を出ると秘書が軽く会釈し、扉を閉めた。

「…それで、何故――」
「何故知ってたかと?香水でも付けなけりゃ、その臭いは誤魔化せんよ」
「いえ、それもそうなんですが違います…何故我々の捜査が不要なのかと」
「いらんのよ、我々の捜査は。殆どの事をコーテックスも彼も知っている」
「…しかし」
「それに、今回の会議は目上の視察も兼ねてのことなのさ。彼のな」
「?、仰る事がわかりかねます」
「彼は秘書など連れまわさんよ。この会議では部外者などもってのほかだ」
「少し探りを入れねばいかんな」

来た道を戻り、とうとう二人は待ち合わせていた突き当たりにまで来ていた。
相変わらずランプの明りは弱く、廊下の薄暗さは変わっていない。
老人は未だ戸惑い、顔を歪める若者の肩を二度三度叩いた。

「私は今後、どうすればいいのでしょうか」
「先刻ここでいったろう?」
「我々は本来の役目を大事にせねばならん」
「君は若いにも関わらずよくやっている、その調子で良いんだよ」
「我々は我々の行くべき道を、やるべき事を、行うだけだ」
「裏で動く者としてな」

その言葉を聞いた若者は老人に会釈し、突き当たりを左に。
老人は取り出した煙草を咥え右に進み、とうとう闇に消え見えなくなっていった。

372隊長:2010/01/20(水) 01:06:41

『さて、いかがでしたか?』

暗がりから響く声は同じ部屋に居る女性に向けられたものだった。
言葉の主を見ることなく、少ない光にぼんやりと輪郭を浮かせる女性は口を開いた。

「何故、彼等に情報を与えなかったのかが、気になるところですが」
「特にどうと言えるような事でもありません、我々の役割の障害になる程の存在ではないでしょう」
『…』
『貴女は、一体どちらの味方なのです?』
『我々とは私達人間側の事でしょうか、それとも貴女方サイレントライン側の事なのか』
『――セレ・クロワール、この場ではっきりとさせていただきたい』
『私はこれ以上、市民を、部下を、そして友人であるさっきの二人を、売るようなことは沢山なんだ!』

しゃがれた声は喉に負担をかけながら、その声色を強くする。
暗がりから聞こえた金属音は間違いなく、銃の撃鉄を起す音だった。
しかし、セレと呼ばれた女性は眉一つ動かすことはなかった。
その表情に恐怖の欠片さえ見られない。まるで、人間ではないかのように。

「どうか落ち着いて下さい、老体に響きます」
「それに、ここにいる私を撃ったところで、コーテックスで働く若い女性社員が死ぬだけで、私は死にませんよ」
『…やはり、やはり貴女は向こう側なのですか』
「わかりません。私自身、どちらに属するかなど」
「ですが、言える事はあります。一つだけ」
「XA-26483をマークしてください。今の私にはこれが精一杯です」
「身体の方をよろしくお願いします」

その言葉と共に、女性は床に崩れ落ちた。
その場に倒れる女性をどうするか考えながら、暗がりの男は長テーブルの上のライトを消す。
真っ暗な部屋に女性と一泊の宿泊費を残し、男も部屋を後にした。

373隊長:2010/01/27(水) 19:23:02

「鹿狩り」


俺に狩を教えたのは親父だった。
幼少の頃を思い返せば冴えない親父さ。
いつもはソファーに寝そべって、酒を飲んではフラフラしてた。
たまに思い出したかのように俺の悪戯に腹を立てて、酒瓶で小突かれたもんだ。
そんな親父も狩の時は眼がピカピカに輝いていた。
子供の俺を森に連れて、磨きのかかった猟銃を構えていたのを憶えている。
2連の猟銃にはいつも弾が1発だけだ。
親父は射撃の腕がピカイチだったから、鹿も熊も一撃で仕留めてみせたんだ。
獲物の血抜きをしてた親父の感謝するような眼は忘れない。
最高の親父さ、他の誰よりも強く逞しい男だった。
狩の時だけはそう思えて仕方がなかった。
初めて触らせてもらった猟銃は、少し重たく感じた。
鈍く光る引き金はそれ以上に重く、子供心に安易に引いてはならないもんだと理解した。
親父と肩を並べて森を歩き、いつか一緒に銃を構えるのが夢だった。
その夢が叶う前に親父は死んじまったけれど。
病気だった、コロニー外れのトラクターに住む俺たちは、まともな医者にも診てもらえなかった。
床に伏せ、苦しみながら親父は猟銃を俺に渡した。
今まで獲物を1発で仕留めてきたあの猟銃だ。

「仕留めろよ…1発で…だ」

そういって親父はズボンのポケットから、1発のバックショットを取り出した。
強くしっかりと握られたそれを俺は銃に装填、中折れ式の銃身を元に戻すと親父の頭に狙いを定めた。
俺の初めての獲物は親父だった。

374隊長:2010/01/27(水) 19:23:21
緑の濃い森。
重く冷たい風がゆっくりと木々の隙間を通り抜けた。
とたんにぶつかった、風は木ではない何か行く手を阻まれたのだ。
近くで見ればそれは金属の塊だった、少し距離をあければそれが人型だとわかる。
金属の四肢は人間と同じように曲げられ、腰を下ろしたポーズでもう何時間もそこにある。
頭部にあたる部分では横に長いバイザーが薄らと光ってみせた。
右腕を少しだけ前に伸ばし、その腕の甲から長い銃身が光に反射せぬよう木々の枝の中へ突っ込んである。
このサイズならば銃というより砲が適切だろう。
その木々に埋もれた砲は、口をほんの少しだけ枝の中から覗かせる。
腕に取り付けらた砲の横からはベルト状の帯が伸びている。その帯は人型の背中に積まれた大きな箱で止まっていた。
察するに、これはACだ。
鮮麗されたデザインの四肢からは想像もできない程のパワーを出すことができる人型の兵器。
しかしそのパワーを見せ付けるでもなく、その人型兵器は未だその場所から動こうとはしなかった。
地面の脚と膝は重量でめり込み、装甲には露が光っている。
低い出力で保っているせいもあってか、低くうなるような音は遠くまで響かない。
異様だった。これではまるで獲物を待つ狩人、それがそのまま大きくなったように思えたのだ。

「来たか…」

コックピットで息を殺していた男が呟く。
頭部のレーダーだけの索敵を補うように男の鋭い瞳が電子画面を睨みつけた。
敵の数は16、お世辞にも充分ではない性能のレーダーがそう告げている。
確認した男は握るスティックを僅かに、素人目には動かしていないと思える程に傾けた。
砲身が動くことで木の枝がパキリと音たてる。
が、敵に聞こえる筈がない。何せここから敵までの距離は5キロも離れているのだから。
だが男には充分だった、むしろ近すぎるくらいだ。

「獲物1匹を1撃で」

男の乗るACの腕から眩いまでの閃光、そして轟音と振動が放たれた。

375隊長:2010/01/27(水) 19:23:53
5キロと離れていると、敵の所に轟音が届くのは少し後のことだった。
16の敵の内1人が、森で発した光に気が付く。
同時に、飛んでくる弾もほんの一瞬だがカメラに捉え、気付くのが遅れた敵MTに待っているのは砲弾の直撃だった。
爆発。
MTの戦車をも上回る分厚い装甲は、弾の直撃でひしゃげ、その後爆発と同時に鉄の屑となって散らばった。
大量の炸薬、重い質量を加速させるレールシステム*によって一気に押し出されたされた榴弾は、爆発した後もその勢いを残したままだった。
榴弾の生み出した爆破の衝撃は真上ではなくMTが立っていた後方まで伸びていく。
まるで曲射弾道の大型の榴弾がめり込むかのように敵MTと地面を抉り取ったのだ。
ワンテンポ置いてから気付いた他のMT達は敵の場所を探した。
その間も非情な狩人は次の射撃準備をしている。
一度使われた薬莢は不要となり砲の横から吐き出された。
熱帯びた薬莢は地面に落ちるなり茂る草を焼き、白い煙を上げた。
背中へと続く帯の中を大きな砲弾が移動し、内1発が腕の砲の中へ消えた。
もう一撃、砲身は近くの枝や葉を焦がしながら、巨大な火の玉を一瞬だけ見せる。
それに気付いた敵MT達は森に向け銃という銃を乱射してみせる。
その頃には先の1発が到達し、今度は3機のMTを同時に薙ぎ払った。
砲の射撃反動によってずれた照準を敵に合わせ、弾の装填を待ち狙撃する。
1発で敵を数機同時に沈めることはあったが、一度だって弾を外すことはなかった。
その間も敵はこちら接近、次第に狙い所もよくなってきた。
男のACを弾がかすめ、後の木の幹を砕いたのだ。

「移動だな」

そう言うが早いか、今までずっと同じ姿勢だったACは成るべく腰を落とした状態で立ち上がり、木々の生い茂る斜面を下っていった。
ブースタはそこそこに、ACの脚力を使って地面を蹴る。
少し身を浮かせた後に倒れないように脚でバランスを保ち、スケートでもするかのように斜面を滑り下りた。
木々の隙間を抜けていき、障害物を重心を傾けることで器用に回避してみせたのだ。
砂煙を撒き立てながら機体はドンドン加速していった。

(*レールシステム、AC武装の問題である射程距離を小型のレールユニットを搭載することで解決された、比較的少ない炸薬量で重い弾頭に安定した飛距離と威力を与えたのだ。現在、ACの武装には標準で、コストの高い高性能MTにも装備されている。)

376隊長:2010/01/27(水) 19:24:14
斜面を下りながら減速、男のACはそこで立ち止まると背中と腕の装備をパージした。
柔らかい土の上にその重量を預けた火器を置いていき、身軽さを得た男のACはまたも斜面を下りだした。
これ以上無駄な弾を撃つまいとしたのだ。
森の木を抜ければ敵のMT達はすぐそこまで迫っていた。
こちらを発見した手前のMTは身構えた、しかし男は正面から近づこうとしない。
背中のハッチを展開し大型のブースタで一気に接敵することを選んだ。
MTはあのブースターを発動させまいと腕の機銃を振り回すように撃ちまくる、しかし遅かった。
とてつもない推力は軽くなった機体をぶっ飛ばし、その場からACは消えていたのだ。
あの距離を縮めるにはあまりも早すぎるブースター推力に驚きながらも、ACは捉えきれないMTに回り込む。
伸ばした脚を揃え、機体が今にも倒れそうな程に傾かせる。
バランスが崩れぬように突き出した左手は、マニピュレータの先が地面を擦った。
渦を描くようにMTへと近づき、敵が気付くか気付かないかの刹那、ACは左腕を振るった。
左手のダガーナイフに見立てたブレードが敵のコアと頭部の付近、首の辺りを切り開いた。
血のようにオイルが噴出し、MTは力なく崩れる。
残っていたもう1機のMTに歩行で近づいていく、ACに向けられた銃の弾は恐怖の震えによってか当たることはなかった。

「悪く思うな」

冷酷な男が、眉一つ動かさず左手を上げた。
目の前のMTは弾が切れた事に気付いていなかった。
男が眼を閉じる、そこにはあの時のだらしなくも男らしい父親の顔が映った。
猟銃を構え、獲物に感謝の眼を向けたあの父親の。
その時男の取った行動は気まぐれだと言える。
振り上げた左手はコアではなく、敵MTの脚の付け根を狙ったのだ。
突き刺さったブレードを引き抜くと勢いよくオイルが噴出し、男のACにかかる。
装甲の汚れを気にするでもなく、男は置き去りにした武器の元へと戻ってゆく。
その顔は少しだけだが、感謝するかのような優しい顔に見えた。

377隊長:2010/01/31(日) 19:48:04
書きかけSS


「⑨の真実」


―――ロストフィールド遺物回収班、コルナードベイシティ拠点―――

「どうした?ベニー」
「サームズか、いや…あの袋の中身が今動いたような気がして…」
「あぁ、そりゃ気のせいさ。なんせアレは壊れたパーツの一部だからな」
「パーツ?なんだそりゃ、聞いてないぞ」
「お偉方が話してたのさ、なんでも腕の立つレイヴンにとんでもない額の報酬を払ってやっと撃破したんだとさ」
「撃破か、とするとこりゃ兵器なのか」
「ドン臭いやつだな、ほれ見てみろ」
「こりゃ…まるでACの装甲みたいだ」
「そんなのよりもっと凄いんだろうよ!なんてったって極秘中の極秘な代物だからな」
「おいおい、そんなことベラベラ喋っていいのかよ」
「知ったことか、どうせ俺みたいなお喋りに黙ってろって方が無理なのさ」
「はは、ちげぇねぇ」
「!…おいおい、脅かしっこなしだぜ…急に触るなよ」
「あ?俺は何もしてないが、…!、おい!やっぱり動いてるぞ!コレ!!」
「馬鹿な!?早く警報を……ぅわぁぁぁぁぁっぁぁああああああああ!!!!!!!!!!!」


デレレ、デレレ レレレ レレレ…
トゥ〜ル〜ル〜ル〜ル〜ル〜〜〜
デレレ、デレレ レレレ レレレ…
(省略)
デンッ!!

378隊長:2010/01/31(日) 19:48:28

―――FBI本部―――

「やぁスカルブロック(以下スカルー)」
「バルダー、朝から急用っていったいなんなの?」
「起しちゃったかい?それは悪いね。でも、謝罪を聞く前にこれを見てくれ」
「なぁに、またUFOの目撃情報なんかじゃないでしょうね…これって個人情報?」
「そう、こっちの男性がベニー・マクレガー。そっちのが――」
「サームズ・ワシントン、この二人って政府で働いてる人達じゃない…けれど清掃員のようね」
「表上はね、実はこの二人、政府直属の極秘班で働いていた人間なんだ」
「いた?」
「一週間前に消息を絶っている、二人の妻から捜索届けが出されたが警察は殆ど動かず…」
「不審に思ったベニーの妻からFBIに依頼が来たのさ」
「だからって…ACファイルの出る幕じゃぁないと思うわ、バルダー、考え過ぎよ」
「本当に彼等が極秘班で働いているとしたら政府が動く筈でしょ?貴方の情報だって怪しいものだわ」
「現に動いてる、コッチの写真を見てくれ。三日前にコルナードベイシティで撮られたものだ」
「これって…」
「そうさ、政府直属の黒服集団、本来ならセントラルオブアースから出ることのない調査集団さ」
「彼等がセントラルオブアース出て調査している時は、決まって極秘情報漏洩が考えられている時なんだ」
「だからって決め付けるのは――」
「スカルー、言い争ってる場合じゃないんだ。今こうしている間にも真実は闇に葬られつつあるんだよ」
「僕はこれからコルナードベイシティに飛ぶけど、嫌じゃなければ一緒にどうだい?」
「止めたって行くのだろうし、貴方一人じゃ危険よね。いいわ、私も行く」
「ランバー副長官には言ったの?」
「勿論、内緒の捜査さ」
「…でしょうね」

379隊長:2010/01/31(日) 19:48:46

―――コルナードベイシティ―――

「ねぇバルダー、貴方がこの件に関心を持つのはなんでなの?」
「あぁ、そのことかい」
「実はね、ずっと昔のACファイルと瓜二つな事件なんだよ」
「大破壊のすぐ後のことさ、ある一人のレイヴンが人類を統治、管理していた絶対的な存在管理者を破壊した頃の話」
「また…その話だって根も葉もない古びた噂でしょぅ?」
「それが、そうでもないんだ」
「管理者という存在は大破壊の後から現在まで所々の歴史的書物にほんの少しだけ書かれている」
「根も葉もない噂が昔の本に書かれるものかい?」
「それなら私も知ってる、現在もその姿形を隠し人々の日常を管理している…なぁんて妄想癖のある人間が書きそうなものじゃない」
「話を戻そう、管理者は破壊される度にソレ等を必要とする者の手を借り再生を図っているんだ」
「まさか、その必要とする者達が政府自体なんて言わないでしょうね」
「そのまさかさ、今回の件は知りすぎた者の排除ってことも考えられる」
「現に昔の事件でも、情報を持った者達が次々と失踪する事件があるんだ。これが昔の事件のファイルだよ」
「やだこれ…この事件の被害者達も清掃員じゃない」
「だから言ったろう?表上の職だって」
「だけどわからないは、この時にレイヴンに管理者を破壊するよう依頼したのも政府じゃないの」
「必要とする者達が管理者を破壊する意味はあるの?」
「確かにね、これは憶測だけど管理者の存在を抹消している者と管理者を必要とする者」
「政府の中でこれ等は対極の位置にあるんじゃないかな?」
「仮説に仮説の上塗り…貴方の話はホントに飽きないわ」
「まぁそういうなよスカルー、それをこれから調べるんじゃないか」

380隊長:2010/01/31(日) 19:49:22
ここまで書いてやめました、次からはマジメ書こう…

381名無しさん@コテ溜まり:2010/02/01(月) 23:56:31
乙です。
いつも楽しみにしてます。

382隊長:2010/03/08(月) 21:25:12

「戦術脱兎の如く」


空を斬るブレードの刀身、刀身の放つ熱がチリチリと目に映る。
確信していた。間合いに入った敵のコアを確実に貫いた…と。
だが、霞を通り抜けるかの如く、敵は俺の間合いから消えていた。

―――数分前へ遡る―――

「反応を辿って来てみれば…」
『誰かと思えば、インパルス』
「コイツはとんだ食わせモンだ、ストリートエネミー」
『此処に居るということは、俺とお前は敵同士のようだな』
二体のACが距離を保ち、互いに相手を見据えている。
流曲線の目立つ特徴的なフォルム、右手のライフルは構えることなく銃口を地面へと向けている。
左手のブレードは何時でも放てるよう、引きの構えをみせている。
それとは対極的に、直線が多くゴツゴツとしたフォルムのAC。
こちらは左手の投擲銃を構え、右手の厳つい射突型のブレードを引っ込めていた。
「アリーナでのランクを忘れたか?」
「引いた方が身の為だぞ」
『ここをアリーナと同じ遊び場と考えているのなら、レイヴンとして質が問われるな』
(確かにランクは俺の方が上だ…が、正直相手が悪い)
「いつまでも動きたくないならそうしていろ!!」
インパルスの先攻、投擲銃ではなく肩に背負った大型のロケットを放つ。
ストリートエネミーを飛び越えたロケット弾は後方の壁に衝突し爆発、辺りの瓦礫を吹き飛ばし爆煙撒き散らす。
舞い上がった粉塵と燃えカス、黒煙がストリートエネミーを覆い隠し視界を遮断。
「まだだ!」
敵を煙から逃すまいと投擲銃を連射し、放物線を描き飛んで行く弾頭が第二第三の爆炎を生み出した。

383隊長:2010/03/08(月) 21:25:39
しかしインパルスは攻撃の手を休めようとはしない。
轟々と燃える炎目掛け、分裂型ミサイルをロックオンすることなく放つ。
発射と同時に胸部の推力機を吹かし機体を出来るだけ後退させた。
50m程後退した辺りで、轟音と共に眩い炎の光がモニターを照らしインパルスの視覚を刺激した。
爆破の衝撃と余韻が辺りの物蹴散らす光景が広がっている。
一瞬、機体が大幅に揺れた。その後のアラートは武器の破損を示している。
「しぶとい奴だ!」
ストリートエネミーのライフルによる精密な射撃が、ハッチが開き露出していたミサイルを襲ったのだ。
ミサイルは跡形もなく、接続部と肩の装甲は著しく抉り取られていた。
『流石に駄目かと思ったがな』
『着弾地点から身を引いておいて正解だった』
煙から出てきたストリートエネミーは装甲表面こそ熱で爛れているものの、目立つ破損箇所はない。
直撃はどうにか避けていたようだった。
とはいえ、彼の機体は装甲が特に厚いワケではない、これ以上のダメージ危ういだろう。
(さてコッチの方が幾分有利なった、ミサイルをやられたのは痛手だが)
(相手の出方次第か…)
インパルスのAC、スタリオンが右手のマニピュレータを握り締める。
(コチラに欠けるのは命中率、耐久と威力が揃っていれば勝機は充分)
(奴にあるのは持続的な火力と命中率、回避を行なうのに充分な速さを持っているのは俺もあいつも同じ事)
(冷静さを保てれば奴の勝ち、焦れば俺の勝ち)
(〝吹っ掛けて〟みるかな…)
「悪いが、持久戦と洒落込ませてもらうぞ!」
インパルスは背中のハッチを展開させ、OBを起動させる。
同時に、脚で思い切り地面を蹴りつけ脚部の推力機を吹かし機体を大きく横に移動させた。
背中の大型推力機は今にもエネルギーを吐き出そうとしている。
その時、ストリートエネミーも動きを見せていた。
敵に距離を取らせまいとブースターの出力を全開に、地面蹴りつけると同時に単発の推力を発生させ距離を縮めたのだ。
左手のプラズマトーチは半ば刀身を発生させ、インパルス目掛け斬り付けようとしていた。

384隊長:2010/03/08(月) 21:26:07
既にOBの超速度によってACスタリオンはかなり距離を離した所に立っている筈だった。
しかし、インパルスは未だストリートエネミーの目前。つまりは、ブラフ。
「焦りを見せたなっ!!」
更には、ブレードで斬りかかるのを予想していたかの如く、右手を引き、〝撃ち込み〟の構えを取っている。
大降りなストリートエネミーのブレード、ソレより早い正拳突きがコアの中心を狙った。
(この間合い―――)
「獲った!!」
が、撃ち出された杭が突き刺したのは、大気だけだった。
射突時の熱が大気を熱し水蒸気を発している。
そして、その杭の先ほんの数mの所に、ストリートエネミーは居た。
ライフルとコア搭載型の自動攻撃機を展開、構えた状態で、EXのバックブースターから熱を吐きながら――。
「あの間合いで、…引いたのか」
「焦っていたのはお前じゃなく、俺だった…?」
『そういう事だ』
吐き出されたライフル弾とラインレーザーは目を見張る連射速度でインパルスを襲う。
装甲を抉り、関節を砕き、ケーブルを千切る。
ACスタリオンはその姿形を大きく変化させ、倒れた。

「――…何故止めをささない」
『いや何、弾切れだ』
そういうとライフルのチャンバーから弾を排出し、まだ残ったマガジンを切り放す。
展開していたEOを引っ込め、崩れ落ちたインパルスに背を向けた。
『プライドが傷つくのなら、アリーナでやり返せばいいさ』
『アンタが生きていても俺の依頼に支障はきたさんよ』
「くそっ、憶えておけよ」
『忘れやしないさ』
『…多分な』

おわり

385隊長:2010/03/10(水) 01:56:11

「希望を求めた狂信者」


とんとん…とんとん…、雨の打つ音が心地良い。
窓の外はどしゃ降りの雨で、遠くまで眺めることができない。
けれど、僕はそれが好きだ。湿気で髪はゴワゴワするけど、肌がじっとりと濡れるのは嫌いじゃない。
戸を開けよう、靴を履いてコンクリートを思いきり蹴りつてやるんだ。
傘なんか要らない。
そうだアイツと一緒に出掛けよう、テン・コマンドメンツといつもの場所に行くんだ。
雨の日はこんなにも気分が晴れるのに、ガレージに篭るなんて馬鹿みたいだって教えてやる。
「さぁ出掛けよう、テン・コマンドメンツ」
「管理者さまのお恵みを心置きなく楽しもうじゃないか!」


止む気配を見せない大粒の雨はそこかしこにぶつかり、地面を水浸しにしては排水溝に流れていった。
そもそもこれは自然の雨ではない、人工的に作られた空、その向こうに広がる巨大な天井からの放水。
管理者の恵みであり、戦闘によって舞い上げられた粉塵を洗い流す環境整理でもあるのだ。
とはいえ、これは少々やり過ぎだと言える。
道路は既に浸水、深さは1mにもなるだろうか。
これでは道路を走ることは無理だろう。もっと大きな乗り物なら話は別だが。
通りに溜まった水の上を軽快に進んで行くオレンジのAC。
フロート型脚部は水や沈んだ車さへも飛び越し、順調に速度を上げていく。
水飛沫の軌跡を残し、装甲に雨を打ちつけて、サイプレスは目的の場所へ向かう。
数十km進んだ所で、目的地の扉が見えた。
その扉の前で赤色灯を喚かせる作業用MTの姿にも気付く。
「こんな時間にレイヴンが何用ですか!?」
雨の音で声が遮られぬようMT搭乗者の作業員は大声で尋ねたが、サイプレスにはそれが喧しくて仕方がなかった。

386隊長:2010/03/10(水) 01:56:39
「あっ!言わなくても結構、レイヴンと言えば企業の依頼でしょう!」
「いやぁお疲れ様!」
「お名前を聞かせてもらえませんか!?」
正直こういった会話はうんざりだった。
五月蝿いし面倒くさい、何より人と話すことじたい好きではなかったからだ。
「テン・コマンドメンツ、レイヴン〝サイプレス〟だ」
「サイプレスさん…あぁっ!あの!Bランクの!?試合見ましたよぉ〜」
「雨で気付かなかったけど、そういえばこういう機体でしたね!いんや〜立派なACで」
「すまない、先を急いでるんだ…」
「あぁこりゃ失敬!この先の水没都市は今水かさが増してて、えぇこの量の雨でしょ!?」
「排水施設が間に合わないもんだからコッチに流してるんですよ!」
「…そうか、有り難う」
作業員の「いえいえ、これが仕事なもので」の言葉を軽く流し、MTがロック解除したのを見るや扉の向こうに進んだ。
サイプレスはやっと拘束が解けたと一息付く、ベルトをキツく締めるより窮屈だと思えるのは気さくな人との会話だ。
そう心の中で呟きながら、現にキツく締めていたベルトを緩めた。
「ふぅ、人と話すのは苦手なんだよね」
「変に気を使っちゃうし、…『俺を使えばよかったのに』って?駄目だよテン・コマンドメンツ」
「依頼以外での騒ぎは避けたいし、僕は苦手だ」
「でも、あと少しで都市に着くからね、わくわくするなぁ」

水没都市、ここはサイプレスのよく訪れる第二のガレージと言えた。
高層ビルや建設最中だった大型の施設はどれも水に沈み、その中でも高い建設物がその頭をひょっこりと覗かせている。
水に浸かった部分は酷く荒れているのが見て取れた。
透き通った水の中を様々な色形の魚が泳ぎ、天井からは人工の雨、壁に沿って引かれたパイプからは排水溝からの
大量の水が飛沫を上げ流れ落ちる。
光源が殆どないため透き通った水も深い場所までは見えず、底に近づくにつれ濃くなる影はまるで底など
ないのではと感じさせる。おとぎ話のようでそうでないこの空間に来る度、彼は心躍らせるのだ。

387隊長:2010/03/10(水) 01:57:15
「やっぱり此処は良いねぇ」
モニター越しに映る都市の光景を、まるで宝石でも眺めるかのようにうっとりと溜息をつく。
右腕を伸ばし目の前のモニターを愛しそうに触れた。
「ねぇ、コックピットブロックを開けてよ」
「『雨に濡れたら風邪を引くから建物に着いてからにしろ』?…いいでしょ、少しだけだから」
AC、テン・コマンドメンツの首後から気密用ガスが吐き出される。
排出が終ると頭部が首ごと前方へスライド、最後に薄い金属板が引っ込むとチェアーに座るサイプレスが露になった。
凄い勢いで雨粒がコックピットに降りかかる。
雨を頭から被りながら狭い空間から這い出るサイプレス、モニター越しの外を自身の眼で見たとき、彼は言いようのない
開放感で満たされた。
モニターで見ただけではわからない、巨大な空間。
壁や天井はあまりにも遠く霞んで見える程だ、地下施設にも関わらず地平線までそこにはあった。
「すごい!こんなに広いんだ!こんなに広かったんだ!!此処は!」
「建物の中やACの中からじゃわからないワケだ!すごい、すごいよ!」
「テン・コマンドメンツ!君はいつもこれを独り占めしてたんだね!羨ましい奴だ!」
水上に浮かぶACの上で飛んだり跳ねたり、本当に子供のように目を輝かせはしゃいでみせる。
少し落ち着いた所でサイプレスはACの肩の部分に飛び乗り、身を乗り出して下を見た。
透き通った水面は雨が当たるせいで下の方まで見通せない、少し不満に思いながらも彼はにんまりと笑い閃いた。
「『早くしろ』なんて言わないでよ、今凄く楽しいんだから」
「シャツは邪魔だから持ってて、『何をする気だ?』って決まってるだろ」
「テン・コマンドメンツ、建物まで競争しよう!」
そう言うが早いか、脱いだシャツをコックピットに投げ込み全高8m、フロート機能で浮いてる分も合わせて
10m強の高さから水面に飛び込んだ。
着水する前に3回転半のターンを決め、殆ど音を立てず水に吸い込まれるように着水する。
サイプレスは閉じた目をゆっくりと開き、水中の世界を目に焼き付けた。
彼はふと、頭に言葉が浮かぶ。

〝別世界〟、だと。

388隊長:2010/03/10(水) 01:58:02
そこに音はなかった、先程まで耳に響いていた雨の音がない。
決して聞こえないワケでない、ただ違う。音ではなく感覚なのだ。
小刻みに伝わる振動がこの世界での音なのだと、彼は知る…いや感じる、の方が適切だろう。
そして都市、水に飲まれた都市は荒れていたのではなかった。
生まれ変わったのだ、水に浸かることで金属やコンクリートの放つ硬さのイメージがまるでない。
近づいて手を触れれば崩れてしまう、そんな繊細さを感じさせる。
上から差し込む少ない光さへ、水と混じることでその色をエメラルドのような翠色に変化させていた。
その光にぼんやりと照らされ浮かび上がる都市、彼は息継ぐことを忘れてしまいそうだった。
できることならこのまま、この世界に消えてしまいたいと。
(いけない、テン・コマンドメンツが心配しちゃう、早く上がろう)
彼は惜しいと思いながらも、水上へと泳ぐ。
水面から顔出した時、萎んだ肺にたらふく空気を入れてやった。
その時自分は陸上の生物なのだと思い出し、少しだけ落ち込んでしまう。
「ごめんごめんテン・コマンドメンツ、下の世界に見惚れちゃったんだ」
「それじゃぁ、一泳ぎしよう!」
そう言って、先程思い出したことを忘れるよう泳ぐことに集中した。
少しずつ離れていくサイプレスの信号を、自動操縦に切り替わったテン・コマンドメンツがゆっくりと追いかけた。
サイプレスは建物までの1.5kmを休まずに泳いでみせる。

「ックション!」
「『風邪を引くって言っただろう』なんて言わないでよ。僕が悪かったからさぁ」
携行ランプで照らしてはいたが建造物の中は少々暗かった、近くのテン・コマンドメンツを入れた大きな穴から
入る光も、穴から僅か数m程度しか照らしていない。
グッショリと濡れた身体を丸めてひんやりとした床に座るサイプレス。
そのすぐ後ろにはランプの光で輪郭だけを浮かばせるテン・コマンドメンツ、影に身を落とすその姿は
どこか考え事に浸っているように見える。

389隊長:2010/03/10(水) 01:58:31
「コホッコホッ、…まいったなぁホントに風邪かもしれないや」
何度も続く咳が壁を跳ねてどこまでも反響する。
テン・コマンドメンツは排気口の蛇腹状になった装甲を少し開いて、熱せられた空気を噴出す。
白みがかった蒸気は辺りに広がり、近くに座るサイプレスもすぐに包まれた。
「はぁぁ…あったかい、有り難うテン・コマンドメンツ」
その言葉に返すことなく、テン・コマンドメンツは数分置きに蒸気を吐き続けた。
金属の壁を雨粒が叩く音、排気音、サイプレスの呼吸の音、鼓動の僅かな音。
しばらくの間この空間にそれ以外の音は響かなかった。

「雨の音って心地いいね。ねぇ、今此処には僕等の二人だけだよ…」
「違うか、だって僕等には管理者さまが着いてるもんね」
少し反省するような苦笑いで愛機の顔を覗いた。
装甲に引っ掛けておいたシャツに触れ、乾いたことを確認すると袖を通した。
また小さく座りなおし、今度はテン・コマンドメンツの装甲にもたれ掛かる。
「ねぇテン・コマンドメンツ――」

「ぼくが女の子だったら君と恋仲になれたのかな?」

動揺したことを隠すかのように勢いよく蒸気を噴出す。
「アチチッ!…変なこと言ってごめん、ちょっと考えてみただけだよ」
「それに、君が許しても管理者さまが許してくれないよね」
「ぼくのような愚図を管理して下さるだけでも感謝すべきことなのに」
「管理者さまから愛されず、君を愛することもできず…」
「ごめん、愚痴がすぎた」
「何?『自分に性別はないから、愛交えたいと思うなら好きにしろ』って?…はは、有り難う」
サイプレスは頬を染めて、照れ隠しに笑った。
初々しい青年の思いが実ったかのように、治まらないにやけ面を手で覆い隠す。


「あっ、雨上がったみたいだ。――それじゃぁ行こうか、テン・コマンドメンツ」

390隊長:2010/03/18(木) 01:36:40

「我々は爆発音を賛美する」


鳴らせ!世界の端まで届く雑音を!鳴らせ!装甲が弾ける音を!
鳴らせ!噴出す炎が鉄を叩く音を!鳴らせ!どこまでも響く嘆きの金属音!!

世界は音を求めている!最高に刺激的でなんとも涙ぐましい音色を!!
観衆は音を求めている!言葉にできないほど魅力的で心を揺るがす音色を!!
そして……!―――私は求める!!狂おしい程に滅茶苦茶な順序の楽譜に刻まれた人の指では弾けない――そんな音楽を…。

我々は!!爆発音を賛美するっ!!!

沸き立つ声、燃え上がる大気。
荒れ狂う海原を彷彿とさせる、観衆の人だかり。
一定のリズムを保つことなく続けざまに上がる狂喜の雄叫び。
アリーナ、一般市民が自らの手を汚すことなく日常では見られぬアンリアルを体験できる数少ない娯楽。
彼等は半球状の施設を囲む観戦席を隙間なく埋めている。
頭上に吊り下げられた大型スクリーンは、一般家庭に普及しているものの何十、何百倍にもなるだろう。
突如、館内の天井から光が消えた。
順々に切られる光源のスイッチ、観客を包んでゆく影は喧しい騒音をも吸い取るかのようだった。
客として訪れていたものは知っているのだ、これが合図だと。
『紳士淑女の皆々様方!大変お待たせ致しましたっ!!』
『今宵始まるチャレンジバトル!!命知らずの挑戦者を!今!此処にぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいい!!』

391隊長:2010/03/18(木) 01:37:19
『ここまでのし上がったのは運か!?いぃぃやっ違う!!実力だっ!!』
『命は捨てるからこそ価値がある!彼を倒しAランク挑戦のチケットは握れるかっ!!』
『Cゲート!!名も無きぃぃぃぃぃぃ!レイィィィィィィヴォォォォォォオオオオンッ!』
わっと立ち上がる観衆、皆の視線は集まっている。
暗闇の中唯一照らされる照明の先、金属のゲートが持ち上がりその姿を見せた人型兵器。
アーマードコアを、彼等はその目に焼き付けた。
二本の脚を床に叩きつける如き勢いで、大袈裟に歩いてみせる2脚型AC。
バランスの取れた中量級脚部の上に軽量フレーム、そして距離によって使い分けるマシンガン、グレネード、ミサイル。
文字通り安定した性能を装備が物語る。
『そして!彼の挑戦を受けて立つのは!!アリーナ1の装甲強者!!』
『脚など要らぬ!必要なのは威力!!必要なのは装甲!!』
『爆発こそが至高の音色!Aゲートォ!グランドォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオッ!チィィィィィィィィィィィィィィィイイフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!』
ゲートが開き登場したタンク型AC、威圧と呼ぶに相応しいその迫力は、観客が叫ぶより先に息を飲む程だ。
無限軌道を音を立てて動かし、前進する超重戦車。
そのカメラアイが捉えるものは挑戦者ただ一人。
『それでは!始めて頂きましょう!!金属と金属の殴り合いを!』
『―3!―2!―1!レディ―――』

『悪いなレイヴン、コチラは既に射程距離内だ…』
開始と共に動いたのはグランドチーフ。
超射程超威力を誇る対大型機動兵器用ミサイルを何本も搭載した筒状の腕部、その発射口を覆う装甲板が開き、2重に保護する
フィルターが吹き飛び外された。

392隊長:2010/03/18(木) 01:37:42
『響かせろ!』
4本の弾頭が煙を噴出し発射口を飛び出すまでの数秒、レイヴンはまだ数十メートルの距離を移動しただけだった。
あっと言う間も与えることなく容赦ないミサイル攻撃はレイヴンに届く、1本をコアの迎撃機銃に撃ち落され、もう1本を瞬時に勘付いた
レイヴンによってばら撒かれたマシンガンの飛礫が叩き壊す。
ばら撒くと同時に瞬間的に発した推力で上昇した事により、もう2本のミサイルを直撃することはなかったもののレイヴンの動きに合わせ
急上昇したミサイルはその身を壁に叩き付けた。
背後で起きた爆発に飲み込まれながらもその威力を装甲表面のスクリーンで殺し、殆どダメージを受けることなく接近を試みる。
『轟かせ!』
牽制のミサイルを避けられる事はグランドチーフにとって読みの内だった。
レイヴンが回避行動を取っている合間にも、次のミサイルが用意、発射されたのだ。
背の分裂型弾頭と垂直射出式連動補助ミサイルの挟撃。
空中という足場のない不安定な状況を狙われたレイヴンは推力ペダルを弾き緊急的対処、急降下の後に分裂ミサイルをマシンガンと機銃にて迎撃する。
が、間に合わず。既にその弾頭は4発の小型弾頭に姿を変えている。
同時に頭上からも4発のミサイルがレイヴンを挟んだ。
『奏でろ!』
爆発は広がった。8発の弾頭が重なるように吹き飛び、灼熱と轟音と衝撃の球体を作り出す。
想像以上の爆破衝撃に観客は息を飲み、伝わる振動に恐怖と好奇心を交えた。
レイヴンの姿は未だに捉えられないが、グランドチーフの脳内では理解できていた。
レイヴンはまだ生きていると、だからこそ手を休めるなと、だからこそその手に握るトリガーを引くのだと。
『我々は――』
無限軌道脚部の底からとてつもない熱量が発せられる。
ブースター、その巨大な推力は度を越した重量であるグランドチーフのAC、ヘルハンマーを持ち上げた。
『爆発音を――』
一定の高度で停滞、そして肩に積む最強威力の兵装。
超大型弾頭搭載対大型機動兵器及び広範囲焦土用ミサイルを射出したのだ。
『賛美する!!』

393隊長:2010/03/18(木) 01:38:04
既に爆発が収まり、爆炎は黒煙へと姿を変える頃だった。
そこに撃ちこまれた大型弾頭は更なる燃料となり、先程の比でなはい爆発となったのだ。
アリーナの観客を守る防御用スクリーンを隔てた強化素材仕様の大窓に亀裂が入り、観客の数人が振動と衝撃で転倒する程だ。
全体を強化装甲で補強してある床にはクレーターができていた。
そこから数十メートルの所にレイヴンは転がっていた。
敗北、完全に敗れたのだ。
『決まったぁぁぁぁぁあああ!!』
『見たか!見たことか!!これぞ威力!!これぞ爆発!!これぞ音楽!!!』
『圧倒的な破壊力を前にっ!!!命知らずも恐怖するっ!!!!』
『勝者!!グラァァァァァァァァァァンンドォ!チィィィィィィイイイイイイイイイイイフウウウウウウウ!!』

外野の歓声と戦った二人への惜しみない拍手、口笛。
アリーナの熱狂が爆発以上に館全体を揺さぶる。
グランドチーフはACを降り、コックピットの上へ出ると観客に軽く手を振るう。
そして機体の装甲を足場に飛び降り、コックピットから引きずり出されタンカーに乗せられたレイヴンの元へと走った。
「最高の音楽だった」
「次も挑戦する気があるなら受けて立とう」
額から血を垂らしながらも、レイヴンはグランドチーフに親指を立てる。


後日、退院したレイヴンは非公開アリーナにてグランドチーフと再戦した。
装備を一新し、迎撃ミサイルとデコイを装備した機体で―――。

終わり

394隊長:2010/03/18(木) 11:58:59

「緑と黒は混じらない」


死体?違った。死んだように眠る男だ。首は重力に遵って垂れ下がる。
口からだらしなく涎を垂らし、寝息は殆ど聞こえない。
小さなチェアーにベルトで固定され、寝返りすら打てない酷い環境でぐっすりと眠っていた。
周囲は機器で埋まっている、白と黒の砂嵐が映るモニター、点滅を繰り返す小さなボタン。
ケーブルやジョイスティック、とても寝息をたてられるような所ではなかった。
『クライゼン!聞こえますか!?クライゼン!』
突如聞こえてきた女性の声は、どうにも慌てているようだ。
声を聞くだけで頬すじに汗を垂らしているのが想像できる。
『いけない…バイタルが』
『緊急処置を…維持装置!』
すると今度は、死体のように寝ていた男がビクンと勢い良く身体を痙攣させた。
ベルトがキツく締まっていたため、なんとも情けない人形のように手足だけが飛び跳ねる。
『もう一度!―――』
「待てっ!!」
息も絶え絶えに、今にも死にそうな男が大声で叫ぶ。
「ハァハァ…ッ……寝ていた…だけだ」
『…よかった』
「よかぁない、寝てるところを電気ショックで起されてみろ」
「寝起きも糞もないぞ…」
『ですが、脈拍がかなり弱くて…』
「ここ数日コックピットから出ていないからな、弱るのも無理はないだろぅ」
男の言葉を聞いて、女性は心配以上に怒りが沸いてきていた。
男からは姿が見えていないが、声の震えで理解できただろう。
『長期の休暇を与えられたから何かと思えば…』
『そんなに自分を酷使してっ!』
「そう怒らないでくれ」

395隊長:2010/03/18(木) 11:59:33
男は茶化すように笑ってみせたが、女性からは彼の笑顔が見えなかった。
息も落ち着いたところで、男は手元のスイッチをパタパタと軽快に倒していく。
砂嵐だけのモニター向かい、もう一度息を整え言を伝えた。
「メインシステム起動」
途端に、砂嵐の前衛芸術は消えて画面が真っ黒になり、次には美しい緑を映し出した。
男、クライゼンの乗るACインソムニアも、男同様に息を吹き返した。
重厚な装甲を纏う逆関節脚部に支えられた、バランスに優れた中量級のコア。
脚と同じように装甲が貼りあわされた腕部には、機関部が軽量装甲で見え隠れするクレスト製のマシンガンを抱えている。
頭部は男が首を動かす度に、連動されたシステムで同じ方向を見据える。
『今はどこにいるんですか?』
「自然区だ、依頼の作戦エリアに近いから前日からここにいる」
『貴方が眠るなんて珍しいですね』
「効鬱剤をたらふく飲んだら疲れが取れてリラックスできてな」
「気付いたら寝ていた、まぁ依頼の前だから眠れて助かった」
男はスティックを握り作戦領域まで、インソムニアを歩かせた。


『正面!12時方向、来ます!』
「わかってる」
作戦開始から30分が過ぎた。自然区で展開されていたMT部隊を奇襲、その半数を撃破した所だった。
彼女の言葉と同時に逆関節を限界まで押し込み、ブースターの推力と掛け合わせた跳躍によって砲撃をかわす。
自由落下から少しの推力でバランスを整え、眼下に捉えた敵目掛けてマシンガンを連射。
トップアタックで蜂の巣にされた僚機を見て、敵ACが上空にいるのに気付いた他のMTは一斉に武器を構え迎撃を試みた。
ロックオンと同時に銃口から放たれ弾頭はクライゼンを襲う。
「油断した!」
すぐさまEXのバックブースターを起動し、弾の柱から抜け出す。
しかし、着地した途端に脚の損傷が激しい部位から煙が上がり、立ち上がることができなくなった。
『脚部の関節用ジャッキが破損してます!』
「片脚が使えないとは…」
追手はそう遠くない、MT達がコチラへ接近しているのをレーダーとアラートが告げる。

396隊長:2010/03/18(木) 11:59:56
オペレーターでありサポーターの女性は後退を提案するがクライゼンは聞き入れなかった。
疲れがあるとはいえMTにしてやられたのを、彼のプライドが許さなかった。
「腹を括れよ」
男は電子画面の操作に指をやり、そしてもう一度スティックを強く握る。
瞬間、オーバードブーストが彼を機体ごとぶっ飛ばす。
片方の脚と背中のブースターを組み合わせ、超速度に達する前にどうにか立ち上がる。
追ってきたMTとの距離をみるみる内に縮め、先頭に立つMTと衝突する寸前――
「くれてやる、もっていけ」
片一方のバックブースターだけを起動し超速度に加え、遠心力を発生させる。
むろん被弾していたフレーム全体が悲鳴上げるが、なんとか耐えてみせた――破損した片脚以外は。
遠心力によって大きく外向きに突き出された右足は、その勢いを保ったまま目前にいるMTを直撃する。
クライゼンはOBとBB、壊れた片脚を利用して回し蹴りを喰らわせたのだ。
巨大の質量の衝突は物凄い衝撃を生み出し、脚の減り込んだMTは他のMTを巻き込んで後方へと転がって行く。
クライゼンの方も無事ではなかったがMT程ではなかった。
しかし、脚の千切れ際の減速と衝突の振動は弱った体にはキツいものがあったようだ。
ベルトに固定されているせいもあってか、男は頭や口から酷く出血している。
『クライゼン、敵が!』
「捕捉してる、最後までやるつもりだ」
叫んだせいでモニターにまで飛沫血痕が付いた。
片方だけになった逆関節脚部を操り、うつ伏せから仰向けへと体勢を変え、衝撃で装甲が剥げ、機関部が露出された
マシンガンを敵へと向ける。
まともにロックすることなく、彼はトリガーを引いた。
しかしそれは、MTにとって充分な威力を発揮した。ワケも分からぬ内に味方ごと吹っ飛ばされた挙句にマシンガンを乱射されては
避けようがないからだ。
『ここ最近の行動を見れば自業自得だと言いたいですが…』
『クライゼン、お疲れ様。自滅行為もここまでくれば賞賛ものですね』
『なんならアリーナで鬱憤を晴らせばいいんじゃないですか?』
「……ありがとよ。アリーナか、そういや試合にでたことねぇな」
「やってみるのも悪くないかもな」

397隊長:2010/03/21(日) 18:32:51

「戦術部隊」


『敵武装勢力の奇襲!繰り返す、敵武装勢力の奇襲!』
『コチラは既に部隊の半分がやられてんだぞ!!聞こえてるのか!?本部ッッ!!』
『部隊長!弾が切れた!』
『コッチも弾切れだ!畜生、これじゃぁ命が幾つあっても足りゃしねぇ!』
『生きてる奴は引き返して来い!!こうなったら増援がくるまで篭るしかねぇぞ!』
くそっ、最悪の事態だ。
が、受け入れろ。今は少しでも多くの味方を生かして耐えるしかねぇ。
何がアライアンスだ、こんな時に糞の役にもたちゃしねぇじゃねえか。

『諸君、緊急の出撃となり募る不満もあるだろうが後にしてほしい』
『現在、君達を乗せた輸送ヘリは南に200kmの市街地へと向かっている』
『我々アライアンスのMT部隊が拠点として利用している場所なのだが、ここ半年の混乱に乗じて略奪を企てた武装勢力に攻撃を受けている』
『優秀な部隊ではあったものの敵の物量に押され、部隊の殆どがやられた。生きてる者達も長くは持たないだろう』
『そこで、君等の出撃が許可された。上もこの救出劇を戦術部隊の丁度良い宣伝と考えたのだろう』
『なんせ6機も出撃させるのだからな、本来なら有り得ない話だ』
『この依頼を成功させれば他の部隊の士気向上、ひいては市民への良きニュースとなる』
『頼んだぞ』

「聞いたとおりだ、貴様等。掃溜めの群れにやられた使えない雑魚部隊の救出だ」
「本来なら一人で片づけられて当然の依頼、醜態を晒した奴から首を跳ねる、そのつもりでやれ!」
『あ〜あぁ、むさ苦しいったらないわ。髪を直す時間だって貰えなかったじゃない』
『隊長!この作戦、敵の掃討のみを考えればいいわけですね?』
「それでいい、味方の部隊は一ヶ所に集まり防戦に徹底している。敵を殲滅した方が部隊を移動させるより早い」
『救出劇ねぇ、どーでもいいが…報酬は出るんだろうな?タダ働きなんておれぁゴメンだぜ』
『出たとしてもこの人数、割ってしまえば少なくなるかもしれませんよ。兎に角、味方の安全を第一に迅速な行動を徹底しなければなりませんね』
「お喋りはそのくらいにしておけ、投下地点まであと僅かだ。」

398隊長:2010/03/21(日) 18:33:38
生き残ったMT部隊――

「弾の残りは!?」
『こっちの狙撃用のが一握り!先行MTのマシンガンはマガジン3つです!』
『バカヤロー!顔出すんじゃねぇ!!しにてぇのかっ!』
「負傷者は建物の奥に移せ!弾持ってるMTは入り口固めて前に出てきた敵だけを撃て!!無駄撃ちすんなよ!」
部隊の人間は精神が疲労していた、肉体的にもだ。
市街中心に建つ旧アリーナ跡地にて籠城を強いられていた。
「MTがやられた奴等は歩兵用火器を持って待機!」
「増援が来るまでどうにか足掻くぞ!!」
『部隊長!敵が近づいてきた!障害物を上手く盾にしてやがる!!』
『これじゃぁ狙うに狙えない!部隊ty――』
外から流れ込んだ小型のミサイルがMTのコックピットに直撃した。
人が乗っているであろう部分に大きな穴が開き、そこからはオイルとも血とも判別できない液体が垂れ流れる。
ゆっくりと、スローモーションで崩れ落ちるMTは足元にいた歩兵数人を下敷きにした。
「クソ!入り口をカバーしろ!!空いてる奴は手を貸せ!!!」
「増援はまだかっ!!」

『レーダーに反応あり!これは、パターンからして味方だっ!!』
『部隊長!!増援です!数は……5…』
「たった…たったの5機だと!?それで何ができる!何が!できるってんだ!!」

『ACが…5機です…!』

399隊長:2010/03/21(日) 18:34:12
アライアンス戦術部隊――

市街地より数百mの地点、砂煙を上げながら横並びに直進する――アーマードコア部隊。

「作戦領域に到達、これより簡単な作戦を説明する」
「市街地に突入し次第、私とトロットは市街中心の旧アリーナ跡地へ、他3名は敵を殲滅。――以上!」
『『『『了解』』』』

『あらぁ?早速お出迎えよ。隊長、私がやっても?』
「構わん」
『けっ、女に何が出来るってんだ。俺様の獲物ってことで一つ、大人しく見てるこったな』
『あら残念、ロックオン完了』
『あっテメ!』
フロート型の脚部が特徴的なAC、両肩に背負った垂直射出式発射装置を起動、保護フィルターを弾く。
煙を置いてけぼりにする速度で撃ち出されたミサイルは、正面に展開されている敵MTの応戦陣へと降り注がれた。
4発のミサイルは着弾と同時にMTを亡き者へと変え、丁度良い入り口を作る。
遅れて届く爆破の衝撃が、並ぶACの装甲に掻き消された。
『派手にやりやがる』
『入り口もできたことだし、お先に行かせて貰おうかしら』
フロート型のACは加速し、他の4機を置いて行く。
それに釣られるように中量2脚型のACが後を追った。
『続きます!』
『させるかよ!!』
5機のなかでも一番に厳つく奇抜なカラーの重量2脚型のACが、触発されブーストを全開に噴かす。
それでも前の2機を追いかけるのでやっとの速度が限界のようだ。
『どう思いますか?隊長』
「好きにさせておけ、競争心は不要なものでもないだろう」
『では、我々も急ぎましょう』
「そうだな」

400隊長:2010/03/21(日) 18:34:52
プリンシバル――

戦術部隊の紅一点であり、ロングレンジを自身の間合いとしているレイヴン。
市街地に突入後、彼女は直ぐに街で一番の高台へと向う。
それが彼女にとって一番戦闘に向いた場所だからだった。
「そんな所に突っ立って、隠れたつもり?良い度胸ね」
左手から伸びる長距離狙撃用の対AC弾を装填したスナイパーライフルから火の粉が噴出す。
ACを揺らす射撃反動をフロート脚部が上手い具合に逃し、朽ち欠けの建物へと伝わり埃や粉塵が舞う。
直線状に立っていたMTを、身を隠していたコンクリの壁ごと撃ち抜き、粉砕した。
「これで9機め」
『やりますね!』
「あら、有り難う」
『へっ、こっちはもう11やったっての!』
「とは言いつつ、囲まれてるじゃないの」
『囲んだ所で俺の機体に傷がつけられるかよ!!』
「丁度良いわ、手伝ってあげる」
味方のマーカーを囲むように点々と反応を示す敵MTを睨みつける。
ロックオンマーカーで全ての点を囲むと同時に、彼女は両背とEXのミサイルの発射準備を終らせた。
『お、おいぃまさか…ばっ!やめっ!!』
白い煙の線を引いてその高度を上げていくミサイル。
中型、小型の弾頭は落下するように敵と建造物、地面に着弾。
それらが生み出した爆破球は市街地の一部を削り取った。
『味方ごと吹っ飛ばすやつがあるかぁ!!』
「残念、生きてたの?」
「でもこれで、15機」

401隊長:2010/03/21(日) 18:35:19
ゴールディ・ゴードン――

戦術部隊にて、重量級のACを操るレイヴン。
金こそを生甲斐とし、依頼遂行、敵機撃破のためならあらゆる手段を厭わないレイヴンらしい男。
市街地突入後、なんの考えもなしに敵MTの群れへと猛進する。
奇抜なカラーリングの機体同様彼の考えもまた奇抜な物だったが、その目立つ機体は耐久性にも秀でいるため
引きつけ役として狙撃手であるプリンシバルの戦闘に大いに貢献していた。
「あの女…頭がそうとうイカれてやがる」
「それに、差を付けられたな」
先程のミサイルの爆心地にて唯一無傷で立ち上がった兵器。
しかし、彼の機体の売りは装甲だけではない。
「おぅおぅ、出て来る出て来る…わらわらと、ゴミ蟲みてぇによ!」
正面の大通りから溢れ返る程のMTが彼の元へと押し寄せる。
それを見ても彼は動こうとはせず、流れ弾を装甲で弾き、飛んでくる小型ミサイルを撃ち落す。
「そう慌てんな!今遊んでやるからよぉ!!」
「頭部火器管制、FCS、共に良好!」
「コア搭載自動攻撃機、準備よーし!肩部オービットもオーケー!」
「一つ、派手にやってやろうかぁ!」
「ロックオン開始――」
正面から押し寄せ、彼に攻撃を浴びせかけるMT一機一機に赤いロックオンマーカーが表示される。
数秒と経たずに彼の見つめるモニターは赤で一杯となった。
「喰らいやがれっ!!」
彼が叫ぶのと同じ頃に彼のACも動いた。
コアの背部から二つの大型攻撃機が射出され、肩部の兵装から小型の攻撃機が4つ飛び出す。
両腕に携えた実弾とエネルギーのライフルを構え、全ての火器が一斉攻撃を開始したのだ。
がむしゃらとも当てずっぽうとも言えるばら撒きではあるが、隙間なく展開されていたMT部隊に対し絶大な威力となる
ものの数秒で目前の敵は片づけられたのだ。
「はっ!これで19機!」
『まぁやるじゃない?…因みに私は20機ね』
「なっ!?」

402隊長:2010/03/21(日) 18:35:48
ジャウザー――

戦術部隊において最も若いレイヴン。
アライアンスにこそ信ずる正義があるとし、若さ故の先走る行動が欠点にも長所になっている。
市街地突入後彼は冷静さを保ち、ゴードンが暴れて敵の目を引き付けている合間に散らばった敵を撃破していった。
市街地特有の入り組んだ構造と2脚型の機動力を活かした戦法は、地味ながらも確実なものである。
「二人共凄い戦い方だ」
「少々、見習うべきところありますね」
通りを抜けようと加速した矢先、袋小路から姿を現したMTを左腕のブレードで薙ぎ払う。
が、行動に遅れが生じたことで、他のMTに見つかってしまった。
「見つかりましたか、派手に暴れるのはゴードンさんに任せたかったのですが」
「仕方ない」
『あぁん!?呼んだか?』
「いえ、呼んでいません――」
先頭に立っていたMTの武器を持っている腕をへし折り、その腕を押さえる形で動きを抑制したMTのコックピットに
ブレードを突き立てた。
「よ!っと――」
『そうかい、若いの!今何機めだ?』
「まだ13機です」
『ハッ、いけねぇな。若いのにあんま溜め込むのはよぉ』
『ちょっとゴードン、そういう下品なことを言うのやめなさい!』
「?――兎も角、御二人の脚を引っ張らぬよう頑張ります」
背負う大型の散弾兵器を構え、撃破したMTの亡骸を放り捨てる。
コチラを狙っていたMTの空中を跳び越し、後に並ぶ他のMTへと散弾を浴びせかけた。
着地と同時に右手のエネルギーマシンガンに切り替え、まだ撃破に至らぬ敵の胸部を順に撃ち抜いていく。
一連の流れを息つく間もなく終らせ、残りの真後ろに立つMTを振り向くことなくブレードで切上げた。
真っ二つになったMTは開くように崩れる。
「すみませんね、僕もまだ若い」
「こんな派手なやり方に憧れることもあるんですよ」

403隊長:2010/03/21(日) 18:36:17
トロット・S・スパー――

戦術部隊の司令官補佐であり司令官に心酔しているレイヴン。
レイヴンとしての実力は決して高いとは言えないが、その忠誠心から生まれる行動力は未知数。
現在、司令官と共に旧アリーナ跡地へ向かっている。
「隊長、来ます」
『任せる』
腕部一体型兵装、高出力プラズマを敵へと向ける。
バレルとなる部分が二つに分かれ、その間を帯電していることで稲妻の如きエネルギーが駆け抜ける。
トリガーが引かれることで双頭のバレルから眩いプラズマの塊が撃ち出された。
矛先に立っていたMTは装甲が溶け、熱せられた油の用に泡立った液体へと姿を変える。
『トロット、前だ』
「了解」
行く手を遮るMT達は同じように溶かされ、熱せられた液溜まりが増えていく。
目的地まであと少し、といった所でトロットは隣に走るACを制止した。
「隊長」
『わかってる、この先の大通りだな』
「えぇ、数はそれなりですね。迂回路はありません」
『面倒だ、壁ごと焼け』
「これを撃ったら戦力外になりますがよろしいですか?」
『構わん』
「WA01-LEO、性能調整、回路直結。リミッター破棄、完了。ラジエーター緊急冷却維持、EX、JIREN連動――」
「撃てます、隊長下がって」
バレルに帯電するエネルギーはその量のあまりそこかしこに漏れ出る。
腕部の塗装が内側から焼けるように徐々にその色を失い、回路周辺やバレル端からは連続した火花な散った。
そして、―――…バレルからは何も出なかった、そう見えたのだ。
だが、バレルの先に立っていた建物は煙を上げている。コンクリートが白い灰になっているのだ。
それを隔てた大通りの敵MT達は未だに姿を確認できた、本当に姿だけだったが。
足元にはあの液溜まりが見れる、回路系統だけを焼かれたようだ。中の人間がどうなっているかはわからない。
「隊長、あとをお任せします」

404隊長:2010/03/21(日) 18:36:46
エヴァンジェ――

アライアンス戦術部隊の司令官、部隊の中でも一番の実力を誇るレイヴンでありドミナント。
少々過剰な自信の持ち主ではあるが、その実力は本物であるだろう。
「アライアンス直属MT部隊、聞こえるか?」
『あぁ!聞こえる、レイヴンが5人も…しかし、助かった』
「生きているのならそれでいい」
「5分待て、アリーナ跡地周辺の雑魚を片付けやる」
『…5分?』
一瞬何が起きているのか、その光景を目にしていたものは理解できなかった。
彼の乗るAC、オラクルはなんとも鮮明な青い機体色だ。
その左手に輝く金色の兵装、高出力プラズマトーチは機体色に混じらずとても目立つ代物。
普通なら近づこうだなんて思うワケがない。
しかし、目前の戦闘ではまるで…まるで、MTたち自らが切られに行っている。
エヴァンジェは、彼は殆ど動いていないのだ。にも関わらず、全てのMTを左腕のみで葬っている。
そして、やっと気付いたのだ。明らかな距離、ブレードを当てるにはあまりにも長い距離に。
ACの動きとは思えぬ速さで振られる左腕、そしてトーチの刀身が青から無色に変わる。
次の瞬間には、近くの敵も遠くの敵も刻まれているのだ。
「――3」
大股に開いた脚で姿勢を低くし、そこから大きく腕を振るい敵が飛び散る。
「2」
振った腕を止めることなく勢いを保ち、片足の推力で身体全体を回す様に動き、浮かせた脚を地面に叩きつけると同時腕を振り遠くの敵が爆散。
「1――」
後から攻撃を仕掛けたMTの攻撃をかわし、左腕の月光を全力で振るう。
「周辺に敵反応なし、コチラは片付いた」
構えた左腕を下ろし、戦闘モードを解除。アリーナへと歩いていく。
それから少しして、先程のMTは切断面からずれ落ちるように崩れていった。

『…これが、レイヴンの力』

405隊長:2010/03/21(日) 18:37:10
モリ・カドル――

戦術部隊一の雑魚、精魂も捻じ曲がった糞。
私を超えて見ろ(笑)

「見せてやる!見せてやるさ、僕の凄さを!」
「管制室、聞こえるかい?今日は僕等戦術部隊の初出撃なんだ!」
「隊長のエヴァンジェも僕に期待してるみたい、なんせ一番重要な後方からの援護射撃を頼まれたからね!」
「待ってる間は退屈だけど、時がくれば僕の超射程超威力のグレネードで…ボンッ!さ」
『どーでもいいけど、部隊戻ってきたよ』
「…えっ」
『依頼は完璧にこなしたみたいだけど、カドル?』
「……」
『あー、そろそろ仕事終るから。んじゃね』
『ブツッ』



終わり

406隊長:2010/03/31(水) 00:51:25

「らしさ」


人に嫌われる。
嫌い。
人に好かれる。
好き。
人との関わりを壊す。
嫌い。
人との関わりを築く。
好き。
人を殺す。
嫌い。
敵を殺す。
好き。
人の死。
嫌い。
金に換わる命。
好き。
誰かの悲鳴。
嫌い。
敵の悲鳴。
好き。

レイヴンらしさって何?って聞かれたら、多分私は答えに困る。
人間らしさって何?と聞かれたら、同じく私は答えに困る。
でも少し困ったあとで、私は自分の中の答えを言って見るのだと思う。
きっと笑われるのだけれど。

407隊長:2010/03/31(水) 00:51:45
目の前で肩を震わせる親子がいる。
夫、妻、息子。身を寄せて両親が子供を挟むように力強く抱きしめ、子は母のお腹辺りまでしかない背を更に小さくし
母の体にひしとしがみ付いている。
彼等彼女等がこんなにも脅えきっているのは無理もない。
身の丈10m、身体の隅から隅までを装甲で覆った人兵器が、本来人に向けるべきでない大きさの武器を構えているからだ。
銃口から人の塊までの距離は僅か2m足らず、撃てば間違いなくハンバーグが食べられなくなる。
肉全般は大方食べられなくなるだろう。
正直、こんな依頼だとわかっていたら受けることはなかった。
ジョイスティックを握る腕が震えている。
寒いワケではない、武者震いでもない。恐い、目の前彼等となんら変わりはない、恐いのだ。
いつもは装甲に隠れている人、殺した所で拝むことのない肉片。
あんなに躊躇なく引いていたトリガーがこんなにも重い、人というのは不思議だ。
いや、心?精神?人格?こういった考えが人間らしさなのだろうか、向けている銃を持つ手を振るわせる事が。
ただ臆病なだけにも思えるがきっとそうなのだろう。
時計を見た、考え事をしていながら銃を向けてから30秒と経っていない。
気付いたら目標が消えていた、なんて事を期待していたのに彼等ときたら大粒の涙をボロボロと零しているだけだ。

「なんとか…なんとかしなきゃ」

頭の中では殺したくないと声を大にしているのに、身体がそれを拒んでいる。
何時ものように握ったスティックをしっかりと握り、標準を少しもずらそうとしていないのだ。
レイヴンらしさ、人間らしさ、二つが葛藤しているのだろうか。
そうだとしたら、ドチラも中途半端で酷く醜い。
少し冷静に考えよう、私はどちらに従うべきか。
自身の価値観と偽善と自己満足、それらから来る中途半端な人間らしさ。
金と自身の名に忠実だけど、中途半端な罪悪に揺れるレイヴンらしさ。

408隊長:2010/03/31(水) 00:52:07
彼等は人間だ、生身の。
金のために彼等を殺すことは人間らしさか?ノー、これではレイヴンだ。
彼等は資金源だ、金と同じ。
己を保つためにソレを拒むことはレイヴンらしさか?ノー、これでは人間だ。

「あぁ、そうか」
「…これでいいんだ」

私は大粒の涙を零し、トリガーを引いた。
電子画面の向こうの人達が散る。肉片というにはあまりに細かく、血とうにはあまりに粗い。
彼等がソレ等になった。たった一発で三人の体をそこらじゅうにぶち撒ける。
私の機体にも体液と片は飛び散り、付着する。
胃がギュウギュウと握られている気分だ。内容物のない液だけをコックピットに吐き出す。
でも、どんなに出しても楽にならない。
私は胃液を吐き続けた。涙を零し無理矢理に笑顔をつくりながら。
金になった、私は依頼を無事成功させた。
安心して、あれは人じゃない。あれを殺せば企業が何より私が喜ぶ。
だって敵なのだから。
〝…ごめっ…〟
私は最高に幸せだ、こんな楽な仕事で企業から多額の報酬をもらえるのだから。
声にならぬ悲鳴を感じ取ったときなんか鳥肌ものだった、これだからレイヴン家業はやめられない。
〝な゛ざ…〟
これで依頼主の企業との関係も良くなるだろう。
もしかしたら安定した仕事をもらえるかもしれないし、そしたら仲間もできるだろうか?
〝……ご…ごめ゛んな゛ざいぃ…ごめんな゛ざい…〟
レイヴンの仲間、味方ができたら安心できるんだろう。


「知ってる?レイヴンらしさって何か」
「それはね、人間らしくいることなんだよ」

409隊長:2010/04/02(金) 12:14:40

「狙撃の中で息潜め」


眠る魚も穏やかに、水面を揺らして寝返って。
尾びれの動きは密やかに、あくびの代わりのエラ呼吸。
寝ている自分を起さぬように、気泡を少しも出さないように。
静かに泳いで夢見がち。
私もそれ等を邪魔せぬように、じっと堪えて息潜め。
震える指先静かになって、触れる水滴氷のようで。
私は凍っているようで、けれどそれは思い違いで。
私は独り覗いてる。

「それじゃぁ、始めましょう」
『システム、戦闘モードへ移行します』
「ステルス起動」
『了解、エクステンション起動。ユニット機能を随時更新します』

私と彼等の距離は8、8キロ程は離れてる。
ここで私が笑おうと、彼等はけして気付かない。
それは少し寂しいものだ、ホントに少し、少しだけ。
グナーがいるから寂しさも、遠くどこかへ消えるのだけれど。
私はやはり寂しいと、ほんの少しだけ思ってた。
グナーもきっと気付いてる、だから私を励まそうと、ジェネレーターを噴かしているんだ。
私の名前はワルキューレ。
寂しがりやのワルキューレ、独りが好きなワルキューレ。
たった一人のお友達、グナーを操るレイヴンだ。

410隊長:2010/04/02(金) 12:14:57
どこか遠くから響く重低音それが一体なんなのか、MT達が気付いたのは味方が目の前で砕けた時だ。
遥か上空の天井、地平線の先の壁、先の音は未だ反響し音がどこから来たのかを探るMT乗りの耳を嘲笑う。
彼等は不運だった。
今日もいつも通りに、この水没都市で密輸される荷を確かめ、回収する。
それだけのことだった、味方のコックピットが撃ち抜かれ、砕けるまでは。
「ねぇ、グナー」
混乱しきった部隊と呼ぶには余りに少ないMTの群れ目掛け、長距離狙撃用の対AC弾頭を撃ち込む。
ビルの隙間からマズルフラッシュを覗かせぬよう慎重に選んだポジションは、見事にその光を隠してくれた。
ビルの壁から高い高い天井、そして壁、発射音が彼等の耳に届く頃には最早特定不能の反響音でしかない。
ライフル横から俳莢された空薬莢は白い蒸気と熱を纏わせ、水面に触れる瞬間ジュッと音を上げ冷えていく。
「私は魚のように静かに事を進めるべきだろうか?」
弾の直撃で破損し、自らが散らした破片と共に水の底に消えていくMTを眺めながら問う。
水に体の半分以上を浸けた状態で低くした姿勢を保つグナー、彼女が魚のようにと例えたのはコックピットにも水が入っているからだ。
ACの気密性を疑われる状況ではあるが、これは彼女が故意に水を侵入させたせいである。
彼女は狙撃時、周りの環境に馴染むことでその精神を落ち着かせているようだ。
「そろそろ消音機を使ってみるのもいいかな、と思うんの」
セミオートのライフルは射撃、俳莢、装填を繰り返し、彼女もまた射撃、反動制御、標準調整を繰り返す。
彼女はミスをせぬよう、そうは思っていなくとも長年染み付いた癖が彼女の体を動かす。
視線は一切ブレることなく、一定のリズムで繰り返し行なわれる呼吸、冷え切った鉄のような冷たい表情。
敵を確実に一撃で仕留める。機械のように同じようで少しだけ違う動作を完璧にこなしていく。
潜めた息はそのまま止まり、そのまま本当に機械になってしまうのでは思える光景だ。
時々、返事をしないグナーに語り掛けることでパクパクと動く口が彼女に生物らしさを与えていた。
死んだように暗く動かぬ目もあいまって、魚のように見える。
モニターの見つめる先には一体の敵も確認できない。
依頼は完璧に遂行されたのだ。

411隊長:2010/04/02(金) 12:15:17
冷え切った体を摩り、グナーを立ち上がらせる。
コックピット内の水を排出、空気に晒されたスーツ越しの肌が小刻みに震えていた。
「AC兵装用消音機なんてどこで買えば良いんだろ?」
排出を終え、機体の隙間から水滴を落としていくグナー、それらを吹き飛ばすように各部位の推力機は展開される。
蒼白い炎は低出力に抑えられ、機体をゆっくりと浮かばせる。
「クレスト?キサラギ?ミラージュ?やっぱり自作かな」
「あぁ駄目だな、仕事の最中は考えごとが多くて、喋りたいけど喋れない」
彼女は潜めていた息を吐き出すようにその口を止めることなく、独り言兼会話を続ける。
その表情には先程の冷徹さは消え、なんとも健康的で肌色が良く活き活きとした少女になっていた。
「そういえばお腹減ったね。グナー、燃料食べる?私はドーナツ食べたいな」
「チョコフレーバーがトッピングされてる奴、ストロベリーチョコのかかったやつもいいね」
「そうだ、ファナティック誘おうか。あの子独りが好きみたいだから来てくれるかわからないけどさ」
「まぁ断られてもいいけどね、だって私は独りじゃないから」
「ねぇ、グナー」
壁に開かれる大きなハッチの先は闇、その中にグナーとそのパイロット、ワルキューレは消えていく。
彼女達が撤退したことにより騒がしさは納まり、反響していた音も少ししてなくなる。
水没都市はいつも通りの静かな閉鎖区域に戻っていった。

「あ、魚の宙返りを見そびれた」

412隊長:2010/04/10(土) 19:11:44

「夜鳴くネコはどこにいる」


知ってるか?ボブキャットってのは、なかなかどうして賢いネコだ。
身体も大きい。夜行性で、聴覚、視覚、嗅覚が他のネコよりも鋭いんだとよ。
特に群れるワケでもなく、独りでいるのが好きなスプーキー(変人)なネコさ。
でもよ…気をつけな。
こんな暗がりを独りで散歩してる日にゃ、磨いだ爪でもって、襲われちまうぜ?

「ニャ〜〜〜オォ…」

なんせ、凶暴なネコだからよ。

独りの男が不機嫌そうに一日を過ごしている。
彼はネコのように気まぐれで疑り深く面倒臭がりな男だった。
「明日のミッションを説明しま…」
「……イストくん、君には期待し…」
「…んどのアリーナの対戦あい……」
「…むぜ!ソロイスト!お前に全額かけ……」
(にゃあにゃあにゃあにゃあ喚きやがって、コッチは聞いてもいねぇってのに)
(それにアレだ、腹がすいたな。飯を食うにも仕事があるしゆっくりしてもいられんね。コックピットでさっさと済ませるか)
ようやく解放された男はガレージへと走り行く。
途中、売店にぶらさがっていた固形簡易携行食糧を口を使って引き千切り、口に咥えたまま走り去った。
店員が気付かぬ程にその行為は目を見張る早さだった。

413隊長:2010/04/10(土) 19:12:27

『作戦領域自然区に到達、これよりAC投下します』

男がガレージに着いてから目まぐるしく準備を急いだようで、口には先程の携行食が咥えられている。
機体が輸送機から切り離され空中を落下していく最中、ようやく口にある食糧を思い出した。
封を切ると漏れ出すコーンの香ばしい砂糖菓子のような香りが狭い空間一杯に広がる。
ゴクリと喉を鳴らし両の手を使って頬張る、その間にも機体はその高度をおおきく下げていく。
「ん、ごちそうさん」
口の周り付いたコーン菓子の欠片を舌で器用に舐め取り、持っていた空の封を投げやる。
それからやっと、操縦桿を握りリンクケーブルを首後ろのソケットに差し込んだ。
その時点での高度は地表から数十m程、この時点でブースターを吹かしても脚が壊れるのは明らかだった。
が、彼はコアの背部と脚部に装着されたブースターを今更になって吹かす。
次の瞬間には脚が地面へと届く、しかしそれでも機体は落ちる。
逆関節特有の関節部を限界まで折り曲げ、また吹かし続けているブースターをも合わせ衝突のエネルギーを殺したのだ。
まるで身体全体をしならせて着地するネコのようだった。
着地を終らせて以降、彼はACを動かそうとはしない。
今は夕暮れ時、彼が動くのはまだ少し先。
彼は静かに夜を待つ。


辺りは暗く、先が見えぬ闇に包まれた。

チチチチチチチチチチチチチチチチ チッ…

遠くで鳴いていた虫の声が消えた。
標的を睨む目だろうか、木の隙間から淡い光が覗く。
夜、夜行性のネコが動く時。
標的といえるのはこの場所において、3機で辺りを警戒してるMTぐらいだろう。
彼等は自分達を襲う者がいないか目を光らせている。
その光る目を肉食のネコに見られているとは知らずに。

414隊長:2010/04/10(土) 19:13:03

「ニャ〜ォ」

『おい、今何か言ったか?』
『いや何も…さては脅かす気だな?』
『そんなつもりはない、何か聞いたんだ!』
『空耳だろ、こんな森の中だ、聞き間違いもするさ』
『信じてないな?おい、カーロス!お前も何か言ってやってくれ』
『…カーロス?』
3機が2機に減っていた、彼等は気付くのに遅れたのだ。
既にネコはいる、それも彼等が想像するよりずっと近くに。
『敵か!?』
『わからん!レーダーに映ってないぞ!!』
『コイツの粗末なレーダーなんかあてにするな!!目と耳を使え!…陣形を取るぞ、背中合わせで兎に角撃ちまく…』
残り1機。
静かなに流れていく風が雑音を起し辺りをざわつかせ、目と耳を奪う。
『畜生!畜生!!畜生!!!』
『誰だ!くそっ、出て来い!!出て来ぉぉぉいっ!!!』
むちゃくちゃ振り回す機関銃から四方八方に飛び出す弾丸、周りを囲む木や草を吹き飛ばすが標的には当たる筈もない。
MTパイロットの表情が容易く想像できる。
恐怖に引きつりながらも歯を食いしばり、額に汗を浮かばせていることだろう。
だが、ネコはそんなことを気にはしない。当然だった。
「俺はソロイスト、コイツはボブキャット揃いも揃ってスプーキー、俺とコイツはイレギュラー、だから当たらない、だから見つからない」
「だからお前がやられるのさ、ニャーオ」
残り…いや残っていなかった。
硝煙のツンとする臭いも風に流される。

静かな森でネコが鳴く。

415隊長:2010/04/10(土) 23:23:33

「うその嘘」


『やぁレイヴン、また懲りずにやられに来たか?しかし運が良いな、今日の俺は調子が悪い
ひょっとしたらとひょっとするかもしれないぞ?』
砂漠の向こう、フロート型脚部の異形ACが重武装を携えコチラを見据える。
下方向に吐き出され続ける推力が、装甲に覆われた半身と詰め込まれた武装を一緒くたに浮かばせる。
それだけ強い出力は足元の砂を吹き飛ばし、砂煙へと変えていた。
『まぁ嘘だがな』
まるで舌を出してからかい笑う子供のように、男は嘘だと言ってのける。
スサノオ、彼は嘘つきでありレイヴンである。
機体を固定日時とし、それに乗ることで彼は意気揚々に嘘のため舌を踊らせるのだ。
そして、彼にレイヴンと呼ばれた男。
彼はなんとも言えぬ、この世界に似合わぬ雰囲気を持っていた。
『しかしアレだ、こう天気が良いとまるで戦う気にもなれない、どうだ?たまには景色をみて終らせるってのも有り
なんじゃないか、うん?』
『まぁ…』
フロート脚部のACはその眼光を一層に強くし、両腕のライフルをレイヴンに構えた。
そこから続けさまに4発、右手に構える3点バーストのライフルがけたたましい金属音を響かせながら弾頭と薬莢を、左手の
ライフルがそれよりも早く1発の弾頭を撃ち出す。
マズルフラッシュがワンテンポ遅れて銃口から噴出される。その頃には4発の弾頭が空気の壁を紙切れでも破るかの如く勢いで
超え、目標に向かっていく。
『嘘だがな』
その弾道の先、レイヴンも相手のモーションに合わせ動いていた、ブーストの力に脚力を加え跳躍。
空に舞った体勢から右手のライフルをスサノオに向けた。
標準が合わさった頃にレイヴンの立っていた場所へ先の弾が着弾、煙を上げるのと同時に大量の砂を抉った。

416隊長:2010/04/10(土) 23:23:56
着地寸前の状態からレイヴンの乗るACが右腕を大きく揺らす、発射。
ライフルが目をつぶりたくなる程の閃光を一瞬だけ覗かせる。
スサノオの乗るAC、エイプリルフールの装甲が歪んだ。射出された弾頭は胸部の装甲に命中したのだ。
『ほぉ、前回よりは腕を上げたな。これはウカウカしてたら本当にやられそうだ…』
視線の先、少し遠くで着地しそのままスサノオを睨むレイヴンへと応える。
スサノオは左手のライフルを構えたまま右腕を下ろし、肩に積んだレールガンの折畳まれたバレルを展開した。
相手のモーションを待っていたレイヴンは、武器展開に急いだスサノオとの距離を縮めようとブースターを吹かした。
足元の砂をぶっ飛ばし、脚裏が擦るすなを蹴り上げる。
『わかってるとは思うが、さっきのも嘘だ』
レイヴンが距離を半ばまで詰めたところで、スサノオの構えるレールガンはチャージを完了させていた。
緑のフラッシュが辺りを照らした思った時には、直線状に存在する物全てに穴を開けている。
空気の分厚い層、そしてレイヴンの乗るACの装甲。
空中に居た筈のレイヴンだったが攻撃に間に合わないと判断したせいか、その身を地上に立てている。
『急降下!上手く的を外させたな』
砂の上に立っているACは、頭部とコアの一部が削り取られたかのように無くなっている。
《頭部破損》
そしてそんな状態のままスサノオをとの距離を縮めに来た。
『思った以上に速い、引いても詰められるか…』
レイヴンは近づいた目標目掛け左腕を振るった。
腕の甲に装備されたプラズマトーチがレールガンと同じようにスサノオのACから一部を削り取る。
《左腕部破損》
『ド下手糞め、その程度か!』
本来ならコアを直撃する筋だった。
しかしスサノオは咄嗟の判断によりフロート脚部らしい、トリッキーな機動をとることでどうにか狙いをずらせることができた。

417隊長:2010/04/10(土) 23:24:16
腕を破壊できたものの、致命傷とまではいかなかったレイヴンの一撃。
そしてこの距離、スサノオは反撃の準備を終らせていた。
ほぼ密着しているとも言えるこの距離で彼はレールガンを構えたままだったのだ。
『当たらないだろうがな』
2機の間に緑色の閃光が瞬く。
気付いたところで遅く、反応できたところで避けようがない。
射出されたエネルギーはレイヴンの右足を溶かし、削り落とした。
レイヴンは衝撃をまともに喰らい砂の上を転がっていく。砂に接触する度に金属が凹むような軋むような、そんな音が重く響く。
『……転んでも、ただでは起きないようだな』
スサノオもACを砂の上に置いていた。
脚部に4枚ある筈の出力ブレード、その内の1枚が遠くへと転がっていった。
《《脚部破損》》
レイヴンのカウンターブレードが吹き飛ばされる直前、彼の脚部を破壊していたのだ。
『だが状況は俺の方が有利だ。残念だがレイヴン、お前は駄目だ、見込みがない諦めろ』
『まぁコレも』
片脚が欠けたレイヴンは、転がされたところから体勢を整え無い脚を引いて三つん這いの姿勢で構えている。
左肩のグレネードをスサノオに向けて。
『嘘、なんだがな』
まるで砂が波紋を広げるかのように波打つ。
衝撃で砂が舞い上がり、熱がレイヴンを包む。
発射された桁違いの威力と質量を誇る直射榴弾は、スサノオの言葉を掻き消すかのようにエイプリルフールを直撃。
爆発は文字通りエイプリルフールをスサノオごと木端微塵にした。

『はぁ、いやになるね。俺もこの砂漠もこの空も、全部が嘘っぱちなんだろ?弾も爆発も銃もACも、砂から空気に至るまでがぜんぶ』
『そしてお前さんだけが本物なのか、うそが嘘を付くなんて笑い話にもならないな…』
『んじゃな、レイヴン。たまには顔出せよ』

《ヴァーチャルリアリティーアリーナ、ご利用有り難う御座いました》

418隊長:2010/04/23(金) 17:03:54

「右を向けと言われ右を向く」


灰色、頭上の空は不機嫌にその色を曇らせる。
それとは対照的に地上はなんとも賑やかだ。
目を刺激する強い赤や眩しい黄、煤けた土気色の上を塗り潰すように広がる黒に近い赤。
ピンクはそろそろ見飽きたな。
隣に眠る男は誰だろう?顔に生気がない。良く見れば目も死んでる。
顔や身体中に泥を咥え込んで、風呂に入ること勧めるべきか。この臭いは少々キツイものがある。
そういえば、俺は先刻からなんで寝そべっているんだろう。
頭が酷くボンヤリする。思考も思うようにいかないな。
頭の中で羽虫が酷く興奮してるようで五月蝿い。このキーンという音を誰か止めてくれ。
誰か止めてくれ、頼むから―――止めてくれよ。

「大丈夫ですか!」
身体を揺すられた、酷く気持ちが悪い。
耳元で喚き散らす男に見覚えがある、コイツの肩を借りて状態を起そう。
隣の男は…下半身がない。断面からはスパゲッティみたいに腸が伸びてる。
あぁ思い出してきた。此処は戦場でそして俺は…。
「状況を説明してくれ、頭を強く打って呆けてやがる。これなら俺の爺さんのほうがよっぽど物覚えが良さそうだ」
気付けば空を仰いでたな。
全然思い出せない、確か行進の最中だった。そっこから駄目だ。
「敵MT部隊に奇襲を受けました、砲撃です!近くで爆発したときはもう駄目かと思いました。現在、敵MT部隊の主力MTは
完全に沈黙、先程味方のACが薙ぎ払って行きました!」
「敵は全滅か?」
「いえ!残った歩兵が近くの建造物に立て篭もり、それらの殲滅にあたっています!見えますか?この先の黒い建物です」
よし、だんだん思い出してきた。
敵拠点の占拠、場所はこの先の通りを少し行ったところか、レイヴンに頼めばちょろい仕事だろうに。
まぁ奴(やっこ)さんらも一筋縄では行かないだろうがな。向こうには向こうの仕事がある。

419隊長:2010/04/23(金) 17:04:14
「小隊長は!…いや、いい」
そうだ、俺の隣に転がってるのが先刻までこの小隊の指揮をとってた隊長だった。
見開いた目が今日の空みたいに曇ってる、口から痰と唾と血と吐瀉物が混じったような液がどろどろと地面に流れいく光景は見るに耐えない。
「先程無線で、小隊長が死んだならば指揮系統は貴方が取れと」
「参ったな、統率は苦手なんだが…まぁいい!名前は?」
「ここではシュガーマンと!!」
「よし、シュガーマン!お前はそこいらの奴等2〜3人に呼びかけろ!こうも狙撃されていては叶わん、集まり次第建物に突入、制圧する!
お前も着いて来い!!」
「ッサー!」
さっさと潰して先に進みたいが、この状況で上手くいくか?
こっちのMT部隊はまだ後方、先行したMT部隊が見当たらないのも気になる。
そういえば、吹っ飛ばされる前に小隊長と話していたことがあったような気もする。
それが引っ掛かるんだがまだ頭が痛い。
「あの時小隊長はなんて……確か噂がどうとか、他愛もない話だった気もするが」
そうだ、小隊長は言ってた。敵もコチラに対抗して――

『敵もコチラに対抗して、どうやらレイヴンを雇ったようだ。向こうの兵器が大量に横流しされていたのを覚えている。そうとう
腕の立つ奴を雇うための資金稼ぎだそうだ』

曇り空の向こう、一点だけ明りが点ったかのように輝いている。
障子越しに蝋燭の淡い光が漏れ出しているような、そんな感じ…。
今の俺が見ているのは、その障子に影絵でも作るような状況に似ている。ぼんやりと浮かぶ人型の…

「AC!!!!」
「敵ACだあああああああ!!!!全員伏せろおおお!!!!!!!!!!!!」
俺は喉を潰す勢いで叫び、それに気付いた他の兵がまだ気付いてない奴等に対し、俺と同じように叫ぶ。
皆が皆、空を見上げていた。
金切り声に揺れる雲、あれは雷なんかじゃない。

420隊長:2010/04/23(金) 17:04:36
あらゆる金属音を重ねて交えて潰したような、喚き声様々に鳴く歩兵を前に、空から降った奴がいる。
空から此処目掛けてブーストを吹いて、コンクリートを蹴散らし土を抉って、二本の脚を地面に突き立てた。
俺はコレが兵器だとは到底思えなかった。映画に出て来るような、ストーリーの一部に過ぎない、もっと言えば
美術館に飾ってある大きな彫刻だって言った方がまだ現実味がある。
10mを超える人型、手や肩に背負う大型の砲身機関、無骨な装甲、自身に影を落とし塗装すら忘れさせるその暗い巨体の影の中で
輝く眼光、アーマードコア。
今まさに、世界でもっとも優れた兵器が目の前で稼働している。
関節をキリキリと鳴かせ、擦れる装甲の摩擦音、駆動音。シュウと吐き出す蒸気、動物のように一部一部が忙しそうに動いている。
間違いなくコレは兵器なんだ、俺は確信した。
確信したにも関わらず飲み込めない。こんな大きなものが動くこと事態間違っているのに。
MTなどで慣れていると思っていたが、こうまで綺麗に人型をしていては違う所があった。
感傷に浸っている場合じゃあない。コイツは敵だ。
敵う筈の無い敵なんだ。
「全員撤退!!撤退だああああ!!!!下がれ下がれさがれぇ!!!」
アレを前に道に転がる車の残骸、崩れた建物の影、なんの役にも立ちゃしない。
回れ右だ、右向いてもっかい右向いて祈りながらひたすらに走る。
今もっとも生存率を上げる戦術的撤退。
障害物から離れたとき、狙撃兵の弾がかすったが、俺の玉は限界まで縮み上がっていたから恐いとも思わなかった。
撃たれて死ぬ方がまだマシだからだ。
横を走っていた奴が頭を撃たれた。俺は念押しでヘルメットを少し傾ける。
何人かが応戦するように歩兵用携行ロケットを構えている。
「馬鹿野郎!!そんなもんが通るか!命が惜しけりゃ…」
一番近くの奴が吹き飛んだ、下半身がビクビクと痙攣し、衝撃で宙を舞った上半身はまだ意識があるようだ。
驚いたような顔で彼は自分の足を上から眺め、左手がゆっくりと千切れていく。
地面に落下した上の方が残った右腕と頭を壊れた玩具のようにジタバタと動かしているのが見える。
そして未だ離すことのなかった砲筒からロケットの弾頭が撃ち出され…。

421隊長:2010/04/23(金) 17:04:55
俺は吹き飛んだ。

今度こそ別れを言うべきだろうか。言う相手もいないし惜しむべき人生でもなかった。
身体中の感覚がない中で、視覚だけが生きている。
また空だ、曇り空。横切るように飛んでいく弾、サイズの大きさから言ってACのだろう。
シュガーマンは生きてるだろうか、小隊長のように死んでいなかろうか。
俺もソッチ側へ行くのか?
あのACはどれくらい暴れるのか、俺達の部隊は間違いなく全滅か。
アレは、空を翔る天使?じゃない…人型?味方のAC。
「シュガーマンが先刻言ってた奴か!?」
身体を強く打ったようだが死にはしなかったようだ。
よくよく悪運が強いんだな、おれは。
身を起すと背中にズキンと痛みが走り、血の混じった咳をする。
見上げれば、そこには2体のAC、敵味方を巻き込んでの凄まじい戦闘。
ブースト時の衝撃で何度も飛ばされそうになった。現に何回か身体が宙に放り出された。
「今の傷付いた身体にゃ辛い…」
そういって膝を付いた時、どっちかのACの装甲が頭上をかすめた。ここまでくると悪運と言うには都合が良すぎやしないんか。
「コッチだ!早く来てくれ!!」
霞んだ視界にあの男、シュガーマンが映る。せっせとコチラへ走って来ているようだ。
「よかった、無事だったんですね!コッチだ!担架をまわせっ!!!」
「お前も、生きて…たか」
シュガーマンの肩に体重を預け、半ば引き摺られるように歩く。
赤い十字の目立つ服着た奴等に預けられ、シュガーマンは援護するように横を走った。
「貴方の名前は?」
薄れる意識の中、誰かに名前を聞かれた気がする。
本来の名前を言おうとしたが、難儀なことに本名は長い上に噛み易い。
仕方なしに俺は小隊長につけられたあだ名を呟いた。
「…ブ…ライブ……」

422LO隊長:2010/05/09(日) 22:18:03

「青空の向こうの飛行機雲」


青い空、さんさんと照りつける太陽の下で、大地はその色を赤く染めたのだろうか。
オーブンから取り出したばかりの料理のように砂は赤く熱く、向こうの景色が微かに歪んでいる。
ひび割れた地面の上にどっしりとその身を預ける岩山、砂に比べ彼等は随分と黄みがかっていた。
荒地と言うに相応しいこの赤い荒野に気の利いた緑などなく、枯れ草の塊がただころころと風任せに
砂の上を転がっているだけだった。
砂が剥げ、乾燥した地盤を幾度も踏みつけることによって出来たであろう道路、舗装もされていない
この道路がこんなにも目立つのは、この場所にそれ以外見るべきものがないからだろう。
だが、本当に何もないワケではない。
この道路を道なりに進んでいくことで、やっとこさ人工物と呼ぶに相応しい物が見えてくるからだ。
そこにあるのはなんとも寂れた雑貨店だった。
屋根、壁はその化粧である塗装が剥がれ、下地の木目が露出している。
その上何年も砂の混じった風に晒されたせいだろう。壁はそこらじゅうが削れて隙間だらけになっていた。
煤けた看板がなんとも哀愁を漂わせる。

〜フィリアム雑貨店〜

本来ならば屋根に取り付けられていた看板は、今や入り口の横に立て掛けられているだけだ。
横に置いてある植木鉢から伸びたツルに巻き込まれ、それらが枯れているのを見るにかなりの年月を物語っている。
これだけ並べてもまだ言葉に困らない程、この建物は古めかしいものだった。
突然、両開きの扉が勢い良く開かれる。
飛び出してきたのは少女だった。この場には少し…かなりの違和感を覚える程、身形の整った少女。
太陽のように輝く金の髪、降り注ぐ日の光を浴びて眩い白のドレスはフリルが至る所に飾られている。
セットの帽子には大きなリボンも付いていた。
ピカピカの革靴が砂を蹴るたび、少女は機嫌良さげに鼻歌を交えた。

423LO隊長:2010/05/09(日) 22:18:22
少女が開けてからバネの力で元の位置に戻ろうとする扉は、錆びた蝶番がキィキィと音立てている。
その扉の奥、影の落ちる店の中からしゃがれた老人の声が響いた。
「あんまり遠くに行っちゃ駄目だぞ!」
どうやら少女を心配しているらしい。
それ聞いた少女は振り返り、声の主へと聞こえるように声を張り上げた。
「近くにいるから大丈夫!」
そういうと彼女はにっこりと笑みを見せ、また鼻歌を響かせながら道路の方へとスキップしていった。
小さな足で駆けて数分の所、道の脇には小さな樽が置いてある。少女は樽に被った砂をその白い手で掃い落とし、腰掛けた。
そして彼女は、左手に抱えていた本を膝の上で開く。此処は彼女のお気に入りの場所らしい。
本は表紙が皮作りになっており、金の細文字で美しく、だがシンプルにその題を綴っている。

   〝アイラ〟

〜甲冑を纏う黒髪の少女〜

この年頃にしては珍しく、1ページぎっしりと埋める文章を苦とも思わずにすらすらと読んでいく。
時折彼女は空を見上げ、巨大な入道雲の向こうを透き通った瞳で見つめる。
1ページ1ページ丁寧に捲り、また空を見上げ、視線を本に戻す。
「わたしもこーひーを飲んでみたいなぁ」
ぼそりと呟いた、どうやら本の中の話のようだ。また1ページ捲る。
それから思い出すように空を見上げると、彼女は待ち望んでいた物を目にした。
瞳を輝かせ、見た物が嘘か幻でないかを確かめるように瞬きする。
それから開いていた本を閉じ、立ち上がって雑貨店に向かって駆け出した。

彼女の見上げていた空には飛行機雲が綺麗な線を描いている。

「おじぃちゃーん!レイ兄が来たよ!」
雑貨店の扉の前に少女が辿り着く頃、店の中に居た老人はその枯れ枝のような腕で扉を引いていた。
皺が刻まれた顔を白髪が飾り、目には穏やかさと厳しさを秘めている。
少し黄ばんだシャツにだぼだぼのオーバーオウルを着込み、厳ついブーツが床板を叩く。

424LO隊長:2010/05/09(日) 22:18:45
「俺の後ろに隠れてないと風で飛ばされっちゃうぞ?」
店の壁にいくつもある木目も顔負けの皺だらけの顔をくしゃくしゃに、微笑みながら少女をからかった。
それを聞いて少女ははしゃぎながら老人の後に回り、少しだけ顔を覗かせて先程までいた道路に
その視線を向けた。
少女の肩に手を置く老人もまた、同じ場所を眺めていた。
それから少しして、静かだった辺りに重低音が響く。その次に砂煙だった。
二つは次第に賑やかさを増し、砂煙が目に入らないかと少女はドギマギしていた頃だった。
通りの向こう、少女と老人の二人から見て左の空から黒い影がその身を落としていた。
影、ではなく影のように黒い何かだ。それが〝人型〟を模しているのは老人の衰えた視力でも把握できる。
その人型は直線状に伸びる道路の上をなぞるように飛びながら、その高度をゆっくりと下げていき、あと少しで脚の裏が
道路を削る手前というところで胸部から推力を吹き飛ばした。
が、減速が充分ではなかったためか、道路の上を滑るように削り進んでいる。
近くで見るとその人型は大きく、人と比べればその身の丈は巨人と言う他ならないだろう。
店の前を少し通り過ぎた所で人型はやっとこさその勢いを殺し、その巨大な脚で店の近くまでやってきた。
口に入った砂をぺっぺっと吐き出し終えた少女は、近づいて来た人型の方へと走っていく。
「レイ兄ー!」
老人は少女の後を追うように、店の日陰から日の光の下へと歩いていった。
黒い人型は少女の背丈で見上げると、倍以上の大きさに見える。
先端が太くそれでいて滑らかな流線形の胴体、悩ましい美しさの曲線は背中の方へと続いている。頭は半ば胴体に隠れているようで
細長く、平べったいそのフォルムをきちんと眺めるには屋根に登らないと難しいだろう。
この人型は人間のような肌ではなく、硬い装甲で覆われている。
そのせいか、直線的なフォルムの部分は刺々しく、曲線的な部分はどうにも芸術作品を思わせた。
二つでは事足りないため複数設けられている人型の目は二人に向けられている。
足元で飛び跳ねる少女と、その後から腕を組んで見上げる老人の二人を。
「うぅむ、やはりこうして見ると格好良いもんだなぁ、〝AC(アーマードコア)〟は…」
そう、二人の前に立っているこの人型の名だ。アーマードコア、この地上でもっとも優れた兵器。
老人の呟きはACに乗っている者の耳にも届いていた。
『惚れたってやれねぇぞ?コイツは俺の大事な身体だからな』
外部スピーカーから聞こえてきたのは生意気さを感じさせる青年の声だった。

425LO隊長:2010/05/09(日) 22:19:07
巨大なACの丁度頭部に位置する所、そこから甲高い音と共に白い煙が噴出された。
頭部パーツが前へと進み背部の分厚い装甲が後へ、下にいる二人には見えないがその部分に狭い隙間ができた。
隙間から這うように出てきたのは、ACと同じく黒で統一されたパイロットスーツに身を包む青年。
ACの後頭部に足を置いて老人と少女を見下ろすように立ち上がると、見上げる二人へと一声。
「久しぶりだなフィル爺、それからリオちゃん」
ヘルメットをもぎ取り、その赤い髪と緑の瞳をあらわにする。
「レイ兄!早く降りてきてよぉ!」
「はっはっ、…まぁ家に入れ、酒くらいしか出せねぇがな」
「荷物を持ってくから先ぃ行っててくれ!」
レイはまたコックピットへと戻り、フィルは少女リオの手を引き、店へ戻った。
やっとこさ取り出せたトランクケースを片手に抱え、レイはACの装甲を器用に飛び移り、二人を追って行く。

店内は薄暗く、薄汚れてもいた。壁に出来た隙間のおかげで電気を点けずとも室内を見渡せる。
雑貨店とは言うものの、売り物になりそうなものは殆ど見当たらず、商品棚に置いてあるのはガラクタばかりだ。
陳列されている酒も一度封を開けた物ばかりが目立つ。
店の中心であるレジ台の近く、テーブルやイス、カウンターが設置されたところに三人は居た。
レイは持ってきたトランクをテーブルに載せてカギを開けている。その横ではリオがいっそうに輝かせた瞳でトランクと
レイを交互に、ひっきれなしに見つめている。
「はっこっのなっかみはなんだろな?……はい!リオちゃんのスパッツが3着に、寝巻き用にヒラヒラの付いたお洋服!
それから新しいドレスと帽子だ」
「ふぁ、すごく可愛い!ありがとぉレイ兄!」
リオが寂れた土地で華やかな身形をしていたのは、どうやらレイが買い与えていたからのようだ。
新しい洋服を自分の前で広げ、満面の笑みを見せる少女。
また、その様子を見てフィルとレイの二人も満足そうに微笑んだ。
「それからっと…ほい、フィル爺には煙草と酒な。飲み過ぎんなよ?」
「わりぃな、いつもいつも。結構するだろ…随分良い酒だな?感謝の言葉も出ないよ、今此処で開けようか?」
フィルがカウンターの棚からコルク抜きを探そうと立ち上がったが、すぐにレイはそれを止めた。
「いや、やめとく。これから仕事なんだわ、も少ししたらこっから行っちまうからさ、酒飲むのは控えないと」
老人はそれを聞いて渋々腰を下ろした。古ぼけた椅子がギィと悲鳴を上げる。

426LO隊長:2010/05/09(日) 22:19:28
「あっ、そだそだ。リオ姫!もひとつ、渡すものがあるんだ…ハイ、これ」
そういってドレス片手にはしゃぐリオの下へ行き、パイロットスーツの幾つもあるポケットの一つから古くなった
本を取り出し少女に手渡した。

 〝アイラ〟

〜青い鳥の翼〜

「あぁ!これ!」
嬉しさに言葉を忘れ、レイの手から本を引っ手繰る。
パラパラとページを捲り開けた口を閉じようとしないリオにレイは言った。
「欲しかったろ?二部作の下巻、この前オークションで見つけたもんだからさ」
「ありがとぉ!お外で読んできても良い?」
レイに感謝した後、視線を向けたフィルの許可も聞かずにドアを押し退け外へ飛び出していった。
「あんまり遠くに行っちゃ駄目だぞ!……すまんなぁレイ、何から何まで。どうにか返したいが金も価値あるもんもない」
「気にしないでくれよ、俺が好きでやってることだ。まぁ本は結構な値だったけどさ。なんでも赤い雨が降るよりもずっと昔に
書かれたとかなんとかで美術品扱いだったからよ」
申し訳なさそうに頭を掻き毟るフィルを尻目に、レイは一人愉快そうに声を上げて笑った。
一頻り笑ったところで、レイの顔にはさっきまではみせない真剣な表情を作った。
「今日はさ、ちょっと大事なことを話さなきゃいけないんだ」
「どうした急に、そんなに改まるなんて珍しい…」
彼の表情と態度で、心配そうに目の前の青年を見つめるフィルは、椅子が悲鳴を上げるのもお構いなしに姿勢を正した。
「今日これから行く仕事はさ、ちょっとやばいかもしれないんだ。っていうのも結構な曰くつきで、かなりの数のレイヴンに
依頼したんだけど、生きて帰ったのは一人もいないみたいなんだ。で、巡り巡って俺の方にも依頼が来たってこと」
店内の空気がガラリと変わったように錯覚した、先程よりも薄暗さが増したように思える。
フィルの険しい表情にたじろぎながらもレイは続ける。
「まぁ!心配ないけどな、なんてたって俺は強いからさ!だってこの歳で専属レイヴンだぜ?大丈夫。……ただ、俺に何かあったら――」
「やめてくれ!」
急に声色を変え震える声で怒鳴りつけたフィルを、驚愕したと言いたげな目で見つめるレイ。
老人は目に一杯の涙を溜めるも泣くまいとし、彼に向かって言葉を並べた。

427LO隊長:2010/05/09(日) 22:19:50
「なんだってそんな仕事を引き受けるんだ!お前は、俺にとってもあの娘にとっても大事な存在なんだぞ?
金に困っているのなら、わざわざ土産を買ってこなくていい。金だって渡してくれる必要はない、生活が辛いのなら
わざわざそんなことしてくれなくたって良いんだ」
「お、落ち着けよ?フィル爺」
今にもテーブルを壊しかねない力で、握りこぶしを振るわせるフィルをなだめようとレイは焦っていた。
自分でも落ち着きを取り戻すよう、フィルは自分の手で顔を隠す。
「すまない、こんな偉そうなことを言える立場じゃないのにな。孫娘一人満足に食わせられない俺が
言えることじゃあないのになぁ…」
少しの間沈黙が続く、二人の呼吸の音と隙間風が抜ける音、風が壁を叩く音だけが室内を包んだ。
抑えていた手をどけ、一呼吸ついた後で、フィルは近くの棚から安酒を取り、一口煽る。
「なんでまた、そんな危ない仕事を受けたんだ?」
静寂を破ったのはフィルだった。
「言うのは恥ずかしいんだけどさ、…その、リオを学校に行かせたいんだ。それにフィル爺にももっと楽してほしい…
それには、今の俺の稼ぎと貯金じゃ少し不安で、だから依頼を受けたのかな。まぁそんなトコ」
「…断ることはできないんだな?」
「その通り、アンタだってあの娘を誰かと遊ばせたいだろ?ここじゃ友達になる子もいないし、学校はコロニーまで行かないと
ない、リオを思うなら…断らないでくれ」
とうとうフィルの皺だらけの頬を一筋の涙が落ちていった。
赤くなった鼻を啜りながら感謝と謝罪を繰り返すフィル、それを聞くのは少し恥ずかしいとレイは右手の指でこめかみをなぞった。
「ふと、思うよ。なんでお前みたいな好青年がレイヴンなんてやってるのかって…な」
「なんでだろうな?俺も不思議に思うよ」
得意気に微笑んでからレイは立ち上がる、それをお前が言うかと涙目を擦りフィルも同じように笑ってみせ、入り口まで
歩いていくレイを見送るために一緒に外へ出て行った。

ACに乗り、道路を滑走路代わり飛び立とうとするレイを見送る二人は影の下。
フィルの複雑な思いを表した目つきに気付いたレイはスピーカーの音量を上げ、二人に届くよう声を張り上げる。
『ゴメンなぁリオちゃん!次来た時はがんがん遊んでやるからな!』
そう言い残し、ブースターの出力を上げるAC。夕暮れ空に鮮やかな飛行機雲を作りあっという間に雲の向こうへと消えていった。

428LO隊長:2010/05/09(日) 22:20:11
レイがあの荒野を飛び立ってから随分の時間が経った。
黒一色だった空は地平線の下から少しづつだが明るさを見せつつある。白が黒と混じるも煤けた灰色でなく鮮やかな紺に
少しだけ透き通るような赤の気まぐれ、あと数刻で日の出を迎えるのだろう。
「うーん、輸送機を迎えにこさせた方がよかったな、訓練受けてるとは言え長時間の移動は辛いわ」
先程まで背景に溶け込んでいた黒のACは、日の出と共にその色を変える空の中でその姿を晒しつつあった。
あれからずっと休ませることなく動かしていたブースターだが、このような長時間の運航は想定されていると言いたげに
濃い翠の火を吐き続けている。
太陽の光を反射する黒の装甲は、表面に薄く氷を張っているせいで宝石のように輝いているのがわかる。
推進速度に比例して掛かる負荷は、張り巡らされた装甲の隙間を狭める程に強い。しかし、その隙間が狭くなるのもお構いなしに
内部で作られた水滴が規則正しく空の彼方へ身投げする。
大地の上を雲が線引きする更にその上、レイを乗せたACは常人では想像も付かない遥か上空を高速で移動していた。
《作戦領域に到達しました》
目覚まし時計もビックリのその正確な機械音声に、退屈していたレイは待ってましたと両手を動かし、だらけていた自分に
一喝するように頬を打って操縦桿を握る。
システムは移行させずに、速度と進行方向を保ち辺りの警戒を強めた。
まだ見ぬ敵を探す一方で、レイの頭の中では作戦のブリーフィングと依頼主からの情報を併せて思い返していた。

『この依頼は実力あるものに是非とも受けて頂きたい。それが例え他企業の専属レイヴンだったとしてもだ。
こういった話をするべきではないのだが、依頼文にこれらを記載する理由はひとつ、決して実力の低いものに手出しして
もらいたくはないからだ。我々は既に多くのレイヴンを雇いこの依頼の実行に当たって貰ったが、誰一人として成功させた
ものはいない。更に付け足すならば、敵対目標の情報が殆どないに等しい。ただひとつ確実にわかることは―――』

『今回の依頼は敵対目標の破壊、ですが情報といえる情報が揃っていません。依頼企業側の憶測とも言える
曖昧な情報が…敵は一機であること、レイヴンであること、そして―――』

既に太陽はその姿を現し、空に先程までの暗さなどなくなった頃。作戦領域の丁度中心地、今は誰にも使われることのない高層の
建造物が雲の中からその頭だけを幾つも覗かせる空域。
そしてその内のひとつの屋上に――

『『敵対目標は旧式のAC使っている』』

429LO隊長:2010/05/09(日) 22:20:44
「旧式の…AC」
レイの目前にいる目標、その姿形を造る鋼鉄の身体は殆どが見るのも初めてのパーツばかりだった。
一部は今でも流用され記憶に新しい物もあるが、旧式と言われるAC、やはり心当たりのあるフレームではなかった。
それらは今、レイの瞳にこびり付いていく。その特徴的な青と白、まるで空のような塗装も含めて。
旧式のACは、水流のようなしなやかな曲線を描く脚を未だ平たいコンクリから離すことはない。
その場で留まり、紅い目でコチラを睨みつける以外に何もしてこないのだ。
(…何だ?こっちの動きを警戒してるってのかよ。まぁ旧式が下手に動けばやられるってのを理解してるから
なんだろうが…嫌な相手だ。こっちを焦らして判断を誤らせるつもりなんだろうよ)
「生憎、俺は我慢比べは苦手なのさ…行くぞ!如来!!」
《システム、戦闘モードに移行します》
如来と呼ばれたレイのACはシステムを切り替え、旧式AC目掛け突っ込んでいく。
フルで稼働させた推力機とジェネレーターは文字通りに火を噴き、空中で冷え切っていた黒いフレームを加熱する。
僅かな距離を進んだ途端に黒いACの周りに白い大気の壁が現れ、巨大な質量であるフレームがそれを打ち砕く。
バンッ!と音が鳴り消えた瞬間、レイのACは建物までの距離を一瞬で0にしていた。
だが、それは相手も同じだった。本来ならばレイのAC、如来の目と鼻の先にあの青いACは立っている筈だったのだ。
しかし居ない。レイはそれを想定していないワケではなかったが、度肝を抜かれたのは事実。
旧式のACは既に脚をコンクリから離し、その身を空に浮かべている。
(…以外に動きが速い?にしても消えてから気付くなんてな。少し侮り過ぎたか)
「けどよ、空での鬼ごっこなら負けないぜぇ!!」
旧式のACを見上げながらにコンクリを蹴りつける。僅かにだがその身を浮かせるやいなや背部のメインブースターを
怒涛の如き勢いで唸らせた。
先刻と同じようにまた大気の壁を砕いて頭上の敵へと迫る。当たる日に黒い装甲を輝かせ、超えた大気の渦の中
蛇のように貪欲なうねりを見せ猪突する。
そして敵もまた、レイの誘いに乗ってきた。急接近するAC、如来に背を向けその推力機に鞭打ったのだ。
レイの加速同様に旧式ACの周りにも同じような大気の壁が生まれ破壊される。
が、段違いの加速だった。今しがた全力で推力を吹かした如来を遥か後方に置いてけぼりにしていく。
そして後のACが遅れを取っているの知っているかのようにその速度を少しずつ落としていくのだ。
「…へっ、思ってたよりは速いと感じたが、それは加速だけみたいだな!」

430LO隊長:2010/05/09(日) 22:21:06
口頭では強がった、だが確実に冷えた空気を感じていた。
最初の俊敏性、そして先の加速度。それらから判断して旧式のACは間違いなく新世代のACフレームとパワー等が互角、最悪の場合
旧式の方が性能的に秀でている可能性がある。
(どうやら、昔の企業はACパーツを採算度外視で造ってたって噂、本当らしいな。…やっかいではあるが、性能の高さ
ならコッチの如来も負けてない!キサラギフルフレームで高速戦闘に長けたコイツなら或るいわ!)
一定の間隔を保ち追い追われを続ける二機のAC、レイは少しの間も敵から目を離さず、相手の動きの癖についてを学ぼうとしていた。
しかし相手の動きを見れば見るほどコチラの分の悪さが明らかになっている現状、焦らずにはいられなかった。
敵に合わせコチラも徐々に加速し、ガッチリとその後に喰らいついていく。今最も賢い判断だと言えるだろう。
既に両者の機体速度はマッハ2を越えている、身体に掛かる負荷は緩和されているとは呼吸が早くなる。
呼吸に乱れに生じぬよう集中しながらの戦闘、まだ撃ち合いはしていないもののレイの身体には確実に疲労が蓄積されていった。
雲の合間を縫うように飛行し、時折覗く太陽に目をしかめながらも間合いを保つ。そして遂にレイがその動きを見せたのだ。
右手に装備された連射兵器を相手の旧式、ではなくその旧式の数瞬後に居るであろう軌道に向け火器を乱射した。
バレルから飛び出した弾頭は目標の移動予測先に放たれた。だが空を切る、旧式は各部位のブースターを使いその予測位置から大きく
反対側へ、その身体を軸にクルリと回りながら軌道を変えて見せた。
(速い!読まれてた?…――だが!!)
旧式の動きに合わせて如来もまた、その軌道を大きくずらしながら旧式へと食って掛る。
敵に避ける隙を与えまいと左手の同一火器を連射した。2〜3発が旧式の装甲をかすめたが回避行動を取られたのが直撃よりも先だ。
レイから見て機体で大きな円を描くように動き、一瞬だがコチラと向き合いそのまま背中から落ちていく。その間にも旧式は右手のリニアライフル
を如来に向け照準も合わせずに撃ち返す。マシンガンの物よりもおおきな弾頭がレイの乗る如来をかすめた。
反撃に移ろうとした刹那、旧式のACはその身体を真っ白い雲の中へと隠したのだ。
「逃がすかよ!!」
思わず口に出ていた。確実に、少しづつではあるが焦りが生じている。
自分でも気付かない程だろうが、その焦りは行動に出ていた。レイは旧式を追い雲の中へと飛び込んでいく。
次に雲を抜けた時、旧式は如来の遥か下を飛んでいた。纏わりつく糸のような雲を引き千切るようにブースターで急降下、そこから
旧式を光学照準に合わせ、両背中の兵装を展開した。
「悪いがこのチャンス、逃がすなんてこたぁしないぜ!?」
引いたトリガーから伝わる電子信号が兵装へと命令を下し、36発のミサイルは旧式を目標と認識しながら飛んでいく。
また、糸を引いて飛んでいくミサイルへと続くよう、背中のポッドを切り離し、推力を全開まで引き上げ旧式を目指した。

431LO隊長:2010/05/09(日) 22:21:40
上空から降り懸かるミサイル群を引き付けるように、また追手である黒いACとの距離を開けるかのように、旧式も同じくその推力を
全開まで振り絞った。
更に増した加速度を加えた上昇は、一瞬だがミサイルを置いていく。光学照準搭載の小型弾頭ミサイルは一瞬失った目標を
再確認すると同じように上昇。その後を追うレイもまた同じく上昇した。
それからだった。旧式は更にその速度を速めていき、かなり間の開いたミサイル群に向かって1発、火を噴いたリニアライフルからもう1発
の弾頭が撃ち出され、ミサイル群を迎撃。そこからさらに大きく軌道を変え小刻みに回転しながら残りのミサイル達を撃ち落していくのだ。
「あれがトップスピードかよ、なによりあんな無茶な軌道!…くそっ!!」
実力に圧倒的な差があったのを見せ付けられた、だが引くに引けなかった。
レイヴンとしてのプライド、そしてあの二人のための高額報酬。今にして思えば何故企業がコイツを潰したいのかわかる気がした。
アレは間違いなく〝イレギュラー〟、ましてや企業の都合で動いてくれないとなると相当都合の悪い存在なのだろうと。
ただ、判断を間違えた。この時点で撤退していれば、或るいわ―――。

「コイツの売りは機動性!そして旋回の早さ!」
(OBで誘いをかけてまた雲の中に入れれば、コチラが敵の上を取って摘みだ!)
背中の装甲板が口を開けるように上下に動き、中から単発の大型推力機がその姿を覗かせる。
そこから膨大な推力を吐き出した時には、旧式との距離も限りなく狭くなっていた。旧式は距離を開けるように右下に下降、そのまま
雲へと消えていく。ここまで、レイの計算通りにことは運んでいた。
大出力のブースターを切らずにコチラも同じく雲の中に消えて行く。もの凄い速さで機体に触れては後方へと流れる雲の塊を突き進み、
旧式の軌道を予測、相手が姿を現すであろう場所へと加速していった。
然程大きな雲ではない故に、彼の予測した位置は十中八九当たっていただろう。それが今までの相手なら。
雲の壁を突き抜け、再度日の光を装甲に浴びた時、彼の中ではほぼ確信していた。眼下から確実に敵が飛び出すと、そう踏んでいたのだ。
ほんの僅かな時間だった、風のそよぎがあっちからこっちに行く程度に短い、本当に僅かな時間。
それでも雲から姿を現さない旧式、そして、時機に落ちる誰かの影。
黒の装甲に少しだけ暗さを付け足すように、時機の上空から影を落とし包む。
全てが、今までが、これからが頭を過ぎるような感覚にレイは襲われていた。
自身の視線の先に落ちる汗の玉がまるで感覚と競争するかのように、ゆっくりゆっくりと落ちていく。
鳴り響くアラームは高い音の筈なのに、まるでスローで流す茶化した音楽みたいに間抜けに耳を過ぎていった。
高鳴る鼓動すら、今は止まってるかのように静かに胸を打っているのだ。

そして気付いた。相手の上を取ろうとしていた時機の上を、奴は飛んでいる。

432LO隊長:2010/05/09(日) 22:22:02
一撃目。プラズマトーチが肉を切り裂くナイフのように装甲を抜けていく。
高鳴るアラームの音色も忘れボンヤリと頭に少女が映った。
まるで眩しく光り輝く宝石を敷き詰めた絨毯のような草原の上を駆けて行く少女、手に古びた本を抱え
回りの光景も色あせるような笑顔をしている。

二撃目。腕と足に一瞬だが熱さと痛みを感じた。その次にはコアの前半分が空の向こうへと落ちていくのが見える。
よく見れば手足が見当たらない。一緒に向こうの方へと落ちていったのだろう。
遮るものがなくなり風が身体を包む、涼しかった。ヘルメットがなければもっと良い気分になれただろう。
その風の向こう、草原を走り回る少女に優しい瞳を向ける老人が見えた。
心地良い風に椅子を揺らし、口に咥える煙草から煙を燻らせていた。

三撃目。横半分に両断されたようだ。
落ちていく中でそのバランスをなくした如来を打ちのめすように大気の壁が全体を揺らす。
開いたコアの前から見える景色はグルグルと姿を変え、なんとも言い表せない気分の悪さになる。
崩れ落ちていく如来はそこかしこから破片を放り投げて、ゆっくりと自身を削っていく。
少女と老人が見える。
二人はコチラに気付くと、少女はその場で崩れ落ち、大きな瞳からぼろぼろと大粒の涙を流す。
行かないで、行かないでとひたすらに喚きながらむせ返り、顔を上げることはなかった。
老人は涙を一筋流し、顔を腕で覆い隠した。震える肩で声に出せぬ感情を表している。
そして、青年レイもまた、その瞳から涙の粒を宙へと落とし身体を振るわせる。ヘルメットで遮られなかった涙がコアの中をさまよった。

「……ごめん、ごめんよ。リオちゃん、フィル爺、ホントにゴメン…」

誰も見ることのない青空の向こう、ひとつの爆発が静かに雲を振るわせた。

433LO隊長:2010/05/09(日) 22:22:23
荒野にはやはり緑がなかった。
乾いた風が運ぶ細かい砂と枯れ草。殺風景なこの場所で唯一姿を変えるのは空に見える雲くらいのものだろう。
何食わぬ顔で地表を照らす太陽、その下で見覚えのあるドレスを着た少女が古びた本を片手に樽の上に座っていた。
不満気な顔して見つめる先には大きな入道雲、そして変わらぬ青さを保ち続ける空の切れ端。
やはり求めるものはないと確信した少女は、手に持つ本を捲り続きのページから読書を再開した。
と、その時だ。求めるものとは別だがこの辺りでは珍しいものに気付く。
砂煙だ。ただの砂煙じゃない、道路を走る車のものだった。黒の塗装眩しいその車はどうやらこの雑貨店を目当てにしているらしい。
その事がわかったのは店の前の道路で車が止まってからだったが。
たとえ車一台であろうと少女の興味を引くには充分だった。樽から腰を上げるとお尻の汚れを掃い、車の元へと駆けて行く。
少女が車に辿り着く頃には、中に乗っていた人がドアからその足を覗かせる。
スラリと伸びる裾からスーツの上からでもくびれがわかるスタイルの良い女性、全身を車同様黒で統一し、目元はサングラスで隠している。
車を降りて近くの少女に気付くと、彼女の背丈と合わせるように自身も屈み、少女へと口を開いた。
「可愛いお嬢さん、フィリアムって人知ってるかな」
「うん、私のおじいちゃん。お店にいるけど呼んでくる?」
「お願いしても良いの?」
コクリと頷いた少女は来た道を戻るように店へと駆けて行く。
その後姿を見つめながら女性は立ち上がり、車のドアを閉めてニコリと微笑んだ。
店の扉から顔出した老人は少女に待ってなさいと一言、そしてコチラへ向かって歩いてくる黒尽くめの女性の方へ自分もまた歩き出した。
「どうも、初めまして。私キサラギに勤める獅子王・k・アンジェリカと申します。この度は我社にて働いていた専属レイヴンの―――」
「死んだ…そうだろう?」
フィルは込み上げる感情をグッと堪えた。数日前のあの日、自分達の為に空へと飛んでいった青年の顔を浮かび上がる。
アンジェリカと名乗った女性もサングラスを外し胸のポケットに収める。その黒い瞳はフィル同様、悲しみを浮かべていた。
「レイヴンからも…いえ、レイ本人からも聞いております。家族のように大切な方々だと、お悔やみ申します。
この場で渡す無礼をお許し頂けるならば、彼の契約時の条件について…話すよりも早いでしょうから、コレを」
そういって、アンジェリカは封筒を手渡した。呆けるように立ち尽くすフィルに一礼し車へと戻っていく。
風に晒されながら、自然と一筋の涙が零れ落ちるのに気付いたフィルはソレを拭う。そして手渡された封筒を破り開けた。

434LO隊長:2010/05/09(日) 22:22:46
フィル爺へ

これを読んでる頃には、俺は多分もういないと思う。
なんかこういうのって映画みたいでちょっと興奮するな。一人で書いてるのに凄くドキドキしてきたよ。
まぁこういう手紙を書いておくからには格好良く死んでみてぇな。な〜んて、冗談。
フィル爺とリオちゃんが楽できるまで死んでも死に切れねぇっての!
そうだ、本件はアレだ。
俺が死んだらさ、貯金と俺に掛けてある生命保険がフィル爺の講座に振り込まれるようになってんだ。
つっても額が額だから結構な金額引かれちゃうみたいだけど、この歳になっても税ってのが納得いかねぇな!まったく。
それでも、二人が安心して食ってけるくらいはあるからよ!心配すんな。
面倒な手続きとかは、コレ渡しにきた獅子王さんがやってくれるみたい、どうよ?美人だったろぉ?
リオちゃんのドレスもさ、獅子王さんに選んでもらったのよ。俺じゃぁ何が可愛いとかわからんからさ。
ちなみに只今猛烈アタック中です。惚れたからって告るなよ?歳考えろっての!

リオちゃんによろしく〜

                                          レイ

「…プッククク、クハハハハハハハハ!これが遺書かぁ?まったく書くこと選べってんだ!しっかしコレは…クク、クハ傑作だなコリャ…
歳を考えるのはお前さんの方だろう…まったく……馬鹿野郎め…ほんっとうの大馬鹿者め………」
フィルは涙を流しながらも、まるで子供のように笑っていた。
アイツらしい、そういいながら遺書に目を通す度に腹を抱えたのだ。
「おじいちゃん、どうしたの?…泣いてるの?」
店から出てきたリオに気付き、シャツの袖で涙を拭ってから飛び切り笑顔で笑って見せた。
「まっさか、あんまりに面白くてな、つい笑ってしまったのよ!」
「アハハ、へんなの〜」
リオもまたフィルに笑ってみせた。
二人は空を見上げる、雲だけが形を変えるあの変哲のない空。

あの青空の向こうの飛行機雲があった場所を、日が落ちるまでいつまでも。

435LO隊長:2010/05/27(木) 14:49:38

「妄想添加物〝ヴァッハフント〟」


男はベンチに腰掛けていた。
ガラス張りの天井の下、木漏れ日に目を瞬かせながらどこか遠くを食い入るように眺めている。
その鋭い目付きを隠すように伸びた前髪、覗かせる口元は時折息を荒くしてその形を不気味に歪めた。
男の視線の先、出店屋台のホットドック屋が看板横のラジカセから能天気な音楽を垂れ流していた。
少し禿げた頭を帽子で隠す店主は接客中、トッピングをどれにするかで頭を悩ませる少女が一人。
男は少女を見つめていたのだ。
ワンサイズオーバーのぶかぶかな長袖シャツから伸びる細い手足、店主の半分もない身の丈が可愛らしい。
肩まで伸びた艶やかな髪は寝癖を直していないせいか所々がはねていた。
微かに見えるうなじに背中へと伸びるラインがなんとも悩ましい。
太もも辺りの柔らかそうな肌とおにくにスパッツの食い込みが目立ち、男の何かを熱くたぎらせる。
やっとこ決めたトッピングのホットドックを店主から受け取り、咥えていた紙幣を店主に渡した。
もちろんその光景を男が見逃す筈もなく。
少女が走っていくとすぐにベンチから腰を上げ、ホットドック屋目掛け物凄い形相で走っていく。
その表情の歪みようたるや、店主が受け取った金をカウンターに落とす程のものだ。
ましてや大男がその顔で店目掛け全力で向かってくるのだから無理もない。
「店主、すまないがホットドックを一つ!釣りはコレで良い!」
そういって桁の一つ違う紙幣を店主に握らせカウンターの上のまだ湿っている紙幣を優しく拾い上げた。
「そのホットドックは次の客にでもやれ」
男は逃走した。
店主はあまりの出来事に腰を抜かす。僅か30秒での事である。
逃走を終え人通りの少ない場所に行き着いた男は、ハンカチで包んだ紙幣をそっと鼻に近づけ、その湿った部分の香りを堪能する。
少し迷った後に、口元に運んで舌を這わせようした…が
「駄目だ!俺には出来ない!!これをやったらヴァッハフントたんを汚してしまうっ!」
そういってもう一嗅ぎした後、ハンカチで包みなおしそっとポケットにしまった。

436LO隊長:2010/05/27(木) 14:50:09
男はレイヴンだった。


ヴァッハフント。
レイヴンでありアリーナでの名は有名だ。
その実力とは裏腹に低ランクに身を置くことで、ACの操作もままならぬ新人レイヴンを痛めつけ会場を沸かせている。
典型的な初見殺し。
脅しとも取れるメールを新人に片端から送りつけるので、その姿を見ぬレイヴン達はそれはそれは恐ろしい筋骨隆々な大男を想像する。
しかし実態は十にも満たぬ少女だと言うのだからそのギャップは凄い。
男、レイヴンが先程から変態的な行動をするのには理由があった。
アリーナで初めて彼女を見たとき恋に落ちたからだ。言い出せぬ想いが募りレイヴンを行動に走らせる。
それ故に道を間違えた。
男は現在、アリーナではトップを飾る最強のレイヴン。ヴァッハフントを振り向かせるためにトップを目指し、途中上位ランカー
から送られた挑発メールにさへ気付かない程早くトップに登りつめたのだ。
また、最近巷を騒がせるフライトナーズやクライン、ディソーダーなど、それらに関連した依頼が多くレイヴン宛てに届いたが、
彼にとってはどうでもいいことだった。
アレス(笑)クライン(笑)ディソーダー(笑)

場所は変わりアリーナのレイヴン『ヴァッハフント』控え室、…の、部屋の上の通気ダクトの中。
男は詰まっていた。
狭いダクトの中を巨体をねじり、縮めて、音立てぬように息を潜めて通気口の隙間から室内を覗いていたのだ。
「…ハァハァ、……まだかな…」
少しして、ドアが勢いよく開き壁に叩きつけられた。
顔を真っ赤にして涙目になりながらヘルメットを投げつけるヴァッハフント、椅子に座ると近くにあった携帯端末を引っ手繰り、音を立てて
キーを押していく。どうやらメールのようだ。
「何が!何がきたいの新人だくそぉ。ハングレなんて使ってんじゃねぇよちくしょう、グスッ…ばーかしんじゃえ、SAMSARA辺りにやられちゃえばいいんだ!」
メールを送り終えた途端にその端末も投げ捨て、簡易ベッドの布団の中に頭を埋めた。
身体のラインにピッタリと張り付いたパイロットスーツ、布団に隠れていないおしりは無防備にも突き出され、男は息を荒げる。
「泣いてるヴァッハフントたん可哀想だけど可愛いよぉ……ハァハァ………ウッ……さて」
男は果てた。
「?…なんかダクトから音がしたような…イカ臭いなぁこの部屋」

437LO隊長:2010/05/27(木) 14:50:30
翌日、アリーナに人だかりが見えた。一般客ではない、席に座る者全員がランカーだった。
何故なら、期待の新人のテストを兼ねた模擬戦にトップランカーが志願したからだ。
戦闘前に両者パイロットが顔合わせる。
「まさかトップランカーに模擬戦を手伝って頂けるなんて、光栄です」
「それはよかった」
男は顔を大きく歪め不気味な笑みを作った。
新人は戦慄した。
開始5分、新人レイヴンの機体は煙を上げ機能停止していた。
観客であるランカー達はまぁそうだろうなと予想通りの結果に笑っている。
観客席の一部をサブカメラでズームする男、そこには満足そうに鼻で笑う少女、ヴァッハフントが居た。
男は反り返った。
模擬戦終了後、男は自販機の前で何を飲もうか悩んでいる。
彼の頭の中に新人に対する申し訳なさなど微塵もなく、ヴァッハフントの笑みを肴に何を飲もうか決めあぐねることだけが詰まっていた。
が突然、横から伸びた細い指が一番下の段のサイダーを押す。
男が驚いて横を向くとヴァッハフントが飲み物を取り出していたのだ。
男は二度驚いた。
「いやぁ気分が晴れたよ、しかしトップランカーは物好きか奇特な奴が多いのかな?」
「………や、やぁヴァッハフント…」
「普通新人レイヴンをあそこまでボコボコにゃしないよ、でもまぁ、昨日さんざアイツにやられたからさ、なんとなくありがとさん」
にっこり作ったヴァッハフントの笑顔、口の端の笑窪と八重歯が堪らない。
男は少し前屈みになった。
「私このサイダー好きなんだけどいつも残すんだよね、量が多くてさ。よかったら飲みかけだけど飲む?」
「い………いただきます…!」
「サイダーごちそうさん、あとなんかあれば言ってよ。サイダー分くらいは礼をするから」
男は考えた、一世一隅のチャンスを無駄にするまいと。
「じゃぁ!…にゃ〜って言ってくれっ!!」
「?いいけど、…にゃぁ〜。はいサイダー分ちゃらだね」
ヴァッハフントは廊下の突き当たりまで行くと見えなくなった。
男は選択を誤った。しかし彼は今、非常に満足している。
レイヴン齢32歳での事である。

438LO隊長:2010/06/12(土) 19:25:37

「妄想添加物〝マグマスピリット〟」


薄暗い廊下は酷く冷たく、吹き抜ける風に温さを感じる程だ。
それは彼女が寒がりなせいかもしれないが。
時々点滅する天井のライトが照らす下、ベンチに腰掛ける10歳位の女の子。
季節外れのホットコーヒーに、燃えるような赤毛が印象的。
肉付きの良いしなやかな身体、その柔肌の所々にラバー素材のようなパイロットスーツを食いこませている。
彼女はアリーナで戦うレイヴン、決して誉められた戦績ではない下位ランカー。
今は彼女にとって大切な反省会の時間であり、少し前の対戦を思い出す苦手な時間でもあった。
先も言ったように、誉められた戦績ではない彼女。
その理由は戦いのコンセプトにあった。
相手に背を向けることなく、ひたすらに特攻。
立派な心掛けではあるが、その戦法で押し切れる程の技量が彼女にはなく。
殺られる前に殺れる程、高い性能の機体も武器も持ち合わせてはいなかった。
「もっと戦術的に動かして…いやいや、私の操縦技術じゃぁ付け焼刃だ。兵装一新する資金もないし…」
呟きが虚しく廊下にこだまする。
真剣に考察し、自身の欠点や僅かな長所を把握。それらをどう埋めてどう生かすかを考える下位ランカーは珍しい。
よほど愚直な性格なのだろう。故に、彼女は気付いていなかった。
今この廊下、それも腰掛けているベンチのすぐ傍に、もう一人のレイヴンがいることを。
「資金なら、俺が出してもいいぞ…」
突然聞こえた声に彼女が驚くのは当たり前だ。
持っていた缶コーヒーを落とし、呟く自分を見られたと理解した彼女は顔を耳まで真っ赤にしている。
動揺していたせいで相手が誰なのかもわからず、意味不明な言い訳を口からボロボロと垂れ流す。
おかげで、ようやく平常心を取り戻し相手の顔を認識した時に再度同じこと繰り返すはめになったのだ。
「あばっああぁああなた、貴方は…トップランカーの!!」

そこにレイヴンは居た。

439LO隊長:2010/06/12(土) 19:26:01
未だ影が壁や天井に張り付き、今が昼か夜かさえわからない廊下。
二人は座っていた。
動揺に動揺を重ねたマグマスピリットは、今にも頭から煙を噴出そうだった。
真っ赤な顔を紅い髪を垂らすことで隠している。
レイヴンはそんな彼女を、この世のものとは思えぬ気色悪い歪めた笑みで見つめている。
犯罪者予備軍の顔、そう言えば理解できるだろうか。
「トップランカーの貴方がどうして此処に…?」
俯き加減で聞いた彼女は、彼の顔を見ずに済んだ。
レイヴンはその声すらも楽しむように、彼女の声を何度も頭の中で反芻し、ねっとりとした湿り気を漂わせる声で答えた。
「いや何、たまには別の道を歩いてみようと思っただけ…偶然だ」
もちろん嘘だった。
はぁそうですかと返すマグマスピリット、格上の相手と二人っきりのこの空間は彼女にとって居心地は最悪だった。
それに加え先の言葉、トップランカーの言ったあの言葉がどうしても頭を離れない。
資金提供を受けるような彼女ではないが、最近負け続きでこの上ない魅力を感じさせる。
だが、話をコチラから切り出すのも申し訳がなかった。
もちろんその手間は、レイヴンが取っ払ってくれたが。
「資金で悩んでいるようだが…私で良ければ提供しよう。無論無償でだ、大きな額を動かすのは運営に睨まれるだろうが私の行いなら
対応も甘くなるだろう、抵抗があるならACパーツという形でもいいが?」
何時もの彼女ならバッサリと断っていただろう。
だが時期が悪い、悪すぎたのだ。最早彼女の中の天秤が悪い方に傾くのも時間の問題だった。
膝の上に置いた両手を固く握る。彼女は決心した。
「…じ、条件を付けてもいいですか?」
「いいとも」
「一つのパーツだけで済ませて下さい、色々貰うのはとても申し訳ないです。…そ…ソソそ、それと――」
「それと?」
「どんな事でもいいので!わ、私に!何かやらせて下さい!貴方のACを洗ったり、ガレージの雑巾がけでも何でも!
私の身体一つで、出来ることなら何でも言って下さい」

レイヴンはこれを待っていた、彼はド外道だった。

440LO隊長:2010/06/12(土) 19:26:31
「条件は呑もう。もっとも、提供する側の私が条件を言い渡されるとは思ってもいなかったがな」
これも嘘だった。それを平然とさも驚いたかのように振舞う辺りレイヴンのクズさ加減が理解できる。
片手で隠した口元はおおかた酷く歪んでいるのだろう。
礼を言って何度も頭を下げる彼女が不憫でならない。
「では…そうだな、ACの掃除――」
「はい!」
「ガレージの掃除はやらなくて良い」
「はい!……え?だ、駄目です。パーツだけ貰うなんて、それに条件は呑むって――」
「何もするなとは言わん、むしろ私は…いや、おにいさんは色々色エロする気満々だとも。言ったな?身体一つで出来ることなら
何でもと、では使わせて貰おうともその立派なムチムチロリボデー」
本性を露にしたレイヴンを前に彼女はペタンと座り込む、腰を抜かしたのだ。余りに歪んだその醜い心に。
待てを終らせた盛る犬が如く息荒げる獣の前に不幸にも力ない少女は無防備だった。
「じゃぁ、膝の上に座ろうか」
「…は、はい」
彼女はベンチに手を掛け、ゆっくりと立ち上がる。
頭の中を今から起こるであろう不幸がグルグルと廻る、きっと『らめぇ』とか『ひぎぃ』な展開なのだろうと
彼女は予想していた。
レイヴンがぴかぴかの笑顔で悦に入りながら手招きしている。
こうなることを少しでも予想しなかった自分に怒りを感じることなく、マグマスピリットは流れに身を委ねた。
おしりがレイヴンの太もも辺りに触れた時、ビクリと身体が強張るがそのまま腰を下ろす。
しかし、彼女の予想とは反してレイヴンは何をするでもなかった。
彼女包むように腕を前に出し、後から抱きしめる形で既に10分が過ぎようとしていた。
ホッとする反面、まだ何かあるのではと疑うマグマスピリットではあったが、何か言った途端にR18同人誌のようなことに
なることを恐れた彼女はもう少し黙っていることにしたのだ。

441LO隊長:2010/06/12(土) 19:26:55
それからまた10分が過ぎようした頃、彼女は思い切って聞くことにした。
「何も…し、しないんですか?」
「ナニカサレタイのか?」
「い、いえ」
想像して彼女はまたも顔を真っ赤にしたが、やはり納得がいかなかった。
かなり聞き出し辛いことではあるが、彼女は再度口を開く。
「でもやっぱり――」
「幼女との性交、私はそれ程愚かではない。全てはプニプニボディのため、幼女のかほりのため…」
彼女の言葉より先に答えていた。
「欲を言えばほっぺとあばらも触りたいがな」
「触らないんですか?」
「触られたいのか?」
「い、いえ!…それでも触りたいと言われれば、断れません。私はそういう立場に――ふぁっふへぇ!?」
「ではお言葉に甘えよう、うわなにこれすごいスゴクぷにぷにやめられないとまらない」
とうとう純潔のほっぺは男の毒牙にかかってしまった。
「ここであばらも行ってみよう、うわすごいごりごりしゅごいこれこの感覚たまらない」
「ふゅふふっふぁいへふ!ふぁえふぁへへふ!ふあぁっ////」
W攻めである。

廊下は静かになった。
レイヴンの膝上に座るマグマスピリットは先の恥ずかしさで全身真っ赤になる勢いだ。
ド外道レイヴンに至っては余りに嬉しかったのか、その表情に賢者が見える。
「さて、今の内に聞いておこう。パーツ一つ、何が欲しい?」
「決まっているワケではないんですが、武器がいいです。今の私の戦法だと火力不足が目立ってしまって」
「わかった、コチラで高火力兵装を選ぼう。明日には届けられるようにしておく」
「あの、何だが変なことになりましたけど、ありがとうございます」
「気にするな、私は大いに満足した」

変態は笑っていた。

442LO隊長:2010/06/12(土) 19:27:19
『システムオールグリーン、ホライゾン起動します』
「よし、コード入力〝電子回路に熱意を乗せて〟!」
『認識、システム戦闘モードへ移行します』

赤と黄の奇抜なカラーで飾られた二脚ACホライゾンが開いた正面ゲートを潜る。
満席状態ではないにしろ、スクリーン向こうの防護シールドに守られた観客席からの声援が熱い。
相手はスネイキージョー、未だ勝てたことのないひとつ上のランカー。
だが不思議にも、今日の彼女は負ける気がしていない。
それは新しい右腕武器のせいではない、別段技量が向上したワケでもない。
(なんだろ?背中が凄く温かい)
カウントダウン、両者広いドームで睨み合う。スネイキージョーのパフォーマンスが目に入った。
いよいよと言う時なのに、息ひとつ上がらない。
(そっか、昨日のアレで当分の緊張感を使っちゃったんだ)
開始、飛んできた敵のミサイルを避けようともせずに左手のシールドで弾く。
普段なら身体が強張る爆発の振動も、今回は冷静に対処できた。
爆炎の隙間から見えた空を飛ぶジョーの機体、その一瞬を捉え右手のバズーカを撃ち放つ。
砲身から飛び出したロケット弾頭は早くも敵の左腕を吹き飛ばした。
以前よりも切れのあるマグマスピリットの攻め方に歓声が沸き立つ。
ジョーも負けじと、己の戦闘距離へと急ぐ。
二人の対戦は今までの比ではない熱さで繰り広げられていた。
(そうか、レイヴンさん私にこういうことを教えたかったんだ!最初は驚いたけど、トップランカーは変態さんなんかじゃなかった!)
「行こう、ホライゾン!今日こそ勝つんだ!」


その頃彼女の中で株の上がったレイヴンは
「ああああああああああああ!!俺の馬鹿!馬鹿!馬鹿がぁっ!!むちむち幼女を目の前にしてびびってんじゃねえ!
完全に服従モードじゃねえか!!なんで自分からフラグバキバキ!!」
身体をくの字に曲げてのたうっていた。

443隊長:2010/10/06(水) 01:03:10

「亡霊の希望」


室内を照らす明り、天井壁床に至るまでが白一色で統一された部屋には窓がなかった。故にこの部屋の中心に力なく崩れ落ちている少女は外の風景を楽しむこともできない。
たとえ窓があろうと彼女は自分から外を覗くだけの力はないだろう。見開いた瞳は瞬きを忘れているせいで潤いがなく、生理機能がそれを補うように涙腺を開きはなしにしている。
閉じることすらままならない口からだらしなく溢れる唾液は頬を伝って溜まりとなり、顔色は新鮮な死体のように青白く生気を感じさせない。
健康状態もそうだがそれを差し引いても、彼女が生ける屍となっているのには理由があった。首元に幾つもある圧力注射の痕から大方の理由は察することができるだろう。
細枝のような指一本動かせない彼女だが、この状態でも意識だけはどうにか保てていた。勿論投薬されていない状態の時程ハッキリとではない、体を動かせずただ考えることだけを許された状態は
言葉では言い難い程の苦痛だろう、だが彼女にとっては思考することを許されたのが自分を保つための唯一の希望だった。
(…ここのところ身体が自分の物じゃないみたい、お薬のせいだけじゃない…あの実験がきっとよくないんだ。きっとそうだ……)
(気を抜くと頭が…脳が…その中にあるモヤモヤだけが抜き取られそう……そしたらきっと身体には戻れない、私は戻れない戻れない戻れない戻れない戻れない戻れない戻れない戻れないもどれないもどれないもどれないもどれない……)
脳内の独り言は彼女の頭の中だけに響き、部屋の中は先刻と変わりなく物音一つない。その静けさもあって本来なら隙間風程度の音がハッキリと聞き取れた。圧縮された空気が一気に抜けるような音、部屋に横たわる少女にとっては聞きなれた音であり
また、それが実験の合図だと言うことも承知していた。
窓一つなかった白い壁、横たわる少女の丁度頭上の壁に大人が一人出入りできるような扉が現れた。その次に扉が音もなく開いたかと思うと白い装備を纏った兵士が二人、順に部屋へと入ってくる。
肩に掛けた銃や身体を保護するプロテクターがガチャガチャと五月蝿い、その音に負けじと扉の奥から二人の兵士に怒鳴りつける別の人間もいた。
「何をボヤボヤしてる!薬が抜けるまでにさっさと枷をつけろ!」
一人の兵士があからさまに馬鹿にした表情で「はいはいわかってますよ」と声を出さずに言った、もう一人の兵士はそれ見て噴出すのを我慢しながら少女の足に枷をつけた。
強化合金の枷がカチャリと音を立てた途端に彼女の身体からは薬が抜け、先刻までの状態が嘘みたいに一人で立ち上がり、伸びをし、動かさなかった首を曲げてポキポキと軽快な音を鳴らす。
「見た目に惑わされるなよ、このガキはこんなでも最終強化段階を終えたタイプだからな。枷がなかったらL3のアラートが鳴るぞ」
兵士の一人が口笛を吹いた。隣に立つ自分の半分もない少女がそこまで危険な存在だと実感せずに茶化して吹いたのだろう。
そんなやりとりを見ていた少女、兵士に説教を垂れているスーツ姿の男を少女は知っていたが、兵士の顔がいつもと違うことに気付いた彼女は扉近くに立つスーツの男に問いかける。
「兵隊さんが今日は違う人なんだね、なんで?」
スーツの男は彼女を嫌悪しているのか、喋りかけてきた少女を睨みつけ顔に皺を寄せぶっきら棒に答えた。
「この前の実験の時にお前さんが殺したんだろう、次暴れたら俺が鉛弾を撃ち込んでやるからな…わかったら大人しくしてろ」
そう言って男は足早に部屋を出て行った。残された兵士二人は少女を恐れるように冷や汗をうかばせる。それに気付いた少女は気遣いなのか冗談めかした脅迫なのか兵二人に微笑みかける。
「なぁにやってんだどあほぅどもが!さっさと実験体〝ゲシュペンスト〟を格納庫まで連れてけ!!」
通路の向こうから飛ばされた怒声に兵達は溜息、腰のロッドを手に取り少女を突くように押し、ゆっくりと歩かせた。
それ以上に少女もこれから向かう格納庫が恐ろしくて溜まらなかった。

444隊長:2010/10/06(水) 01:03:40
『実験体の接続が完了しました、プロジェクトゲシュペンストを再開します』
薄暗い格納庫内にこだまするアナウンス、ACのコアだけが吊り下げられた固定台から研究員が離れていく。
その様子を離れた場所に設置されたモニタールームから監視する技術者連中と先程のスーツの男、画面を確認しながら記録を取る白衣の集団を横目にスーツの男は強化ガラス越しにACのコアを睨みつけている。
「どうなんだ?状況は」
ネクタイを結び直しながら男は聞いた。隣に立っている白衣の女性は自分に向けられた言葉だと理解しこう答える。
「今の所順調、彼女とAIの同化率が6割を超えたわ。7割を超えればこの研究では及第点、8割を超えた状態で精神に異常がなければAIの商品化は目前かしらね、肉体を必要とせず尚且つ休む必要もない、AIのみでは不可能な操作系統を人間の思考と同化させることで実現するまさに名の通りのAIでありパイロット、亡霊ね」
それを聞いた男は嫌味ったらしく鼻で笑ってみせる。
「精神に異常がなければ?今のどこが正常だってんだ、部屋にいる時は薬で動けなくされて、あんなちっこい身体で大人を簡単にひねり殺せる。しかも次の週には忘れて平気な顔して笑ってみせてるのが正常か?笑わせんなよゲス共」
「別に、自分を認識できるか否かが判断基準なのだから道徳的観念は必要ないわ。それよりも貴方…ロリータコンプレックスなの?この世界で子供のことを気にするのなんて馬鹿かソレの二択じゃなくて?人の性癖をとやかく言うつもりはないけど、仕事に影響がでない範囲で頼みたいものね」
噛み付き返された男はせっかく結び直したネクタイをもぎ取るように解き、八つ当たりする勢いで扉を開ける。
「実験途中よ?どこへ行くの」
「煙草だよクソ女」

――実験用AC X-025A-1Jコア内部――

格納庫よりも更に暗い吊らされたコアのコックピットで、彼女は眠るように静かに息をしている。今回は投薬が原因ではなくACとの神経接続のせいだ。彼女は今夢の中にいるような感覚に陥っている。
「こんな実験嫌だ…こんな実験嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤだイヤだイヤだイヤだいやだいやだいやだいやだ………」
脳内に流れ込んでくる膨大な量の情報が自動的に処理され彼女の身体は人ではなくなっていく感覚を憶える。自分でそれをどうすることもできず、ただうずくまり否定することでその処理される情報量を抑えるだけだった。
「身体を取らないでもっていかないで私をこわさないで…」


「同化率は6割から変化なし、実験はもう少し掛かりそうですね」
モニターを見つめていた技術者の一人がメガネを外し疲れた目を目蓋の上からほぐしながら言い、クソ女と罵倒された白衣の女性は人差し指で頬を軽く叩きながら答える。
「確か〝X-025A-2J〟が実戦訓練用にあったわね?あれを今晩中にフル装備で用意して、今日の実験はこの位にして明日実戦訓練を試しましょう」
「6割の時点で実戦ですか…?了解、整備班に連絡します」
「そうよね、まだ子供だもの。遊んで学ぶ…存分に暴れさせれば存外効果が期待できそうじゃない?」
女性はお世辞にも美しいとは言えぬ笑みを浮かべながら部屋を後にする。格納庫を出る際、薬を打たれまたも死んだような状態でコアから引っ張り出された少女を目にし、得意気にメガネ光らせた。

445隊長:2010/10/06(水) 01:04:36
今は夜、気味が悪い程真っ白い部屋も明りが消され暗闇だった。だが少女は寝付けない、実験の後はいつもそうだ。眠れば身体を取られてしまうと錯覚していたから。
この夜もいつも通り、頭の中で必死に否定の言葉を繰り返して終るものだと思っていた。その筈だった、突然部屋の明りが点るまでは。
(誰か来た?誰?また実験?やめて…やめてやめてもういじめないで)
部屋の扉が開くのを感じたが、身体が動かせないため入ってきたのが誰なのかわからなかった。首筋に慣れた感覚が押し当てられる、圧力注射。こんな遅くに投薬されることは初めてのことで彼女は脅えていた。
奇妙な出来事だった、投薬された筈なのに身体が動かせる。まるで薬が抜けたかのようだ。身体をコントロールできると知った彼女は今しがた注射を打った相手に肘打ちを喰らわせる。手応えあり、そのまま部屋の隅へと素早く動き相手をその目で捉える。
「…おじさん、なんで?」
「ガッホゴホ、いてえな畜生!そうだよ…俺だ、まず落ち着け」
脇腹を押さえながら跪くスーツの男を少女は不思議そうに見つめた。なぜ薬を中和したのか、それもこんな時間に。なによりこの男は自分を嫌っていたようなのに、今の彼からは嫌悪感が感じられないのが不思議だったから。
それによく見れば怪我をしている。首と肩から出血していた、肩の方は特に酷い。
「時間があんまりないからよく聞けよ……お前さんを今から逃がす、そのために中和剤を持ってきた。これで何時も通り動けるだろう、実践済みだしな」
肘打ちをモロに喰らった脇腹を指さして笑ってみせた。それから2〜3度咳き込みながら話を続ける。
「この部屋を監視してる連中と格納庫までの警備兵を殺っておいた、定時連絡の時間までは15分あるからそれまでは心配いらん、勿論15分を過ぎればあっという間に事態がばれるがな。そうそう、これを持ってけ俺のマスターキーだ。
コイツがあれば各ブロックが閉鎖されても隔離シャッターを開けられるし、ACの起動準備も可能だ。…ここまでいいか?」
少女が頷くのを見ると優しく微笑んだ。今まで見たこともない表情に少女は驚きを隠せなかった。そして度々咳き込む男を見て咄嗟にやってしまった肘打ちに酷い罪悪感を憶える。
「今格納庫には明日の実戦用に武器をたんまり積んだACが用意されてる、嫌かもしれんがそれに乗ってここから逃げろ。一番安全で一番確実な方法だからだ、そして乗ったらな…いいかこれだけは忘れるな、メインコードを入れろ、音声入力式だから
神経接続の前に言うだけでいいからな、ゲホッコホ…さっきのマスターキーだけでも起動できるが、それだけじゃ研究所のシステムからACを止められちまうから、絶対に入れるんだ…いいな?メインコードはマスターキーの裏に書いてあるから」
男はシャツの胸ポケットから煙草を取り出し、一本を咥えて火をつける。未だに不思議そうに見つめてくる少女に気付き口を開いた。
「理由がききてえのか?ん?」
「うん」
「なんでだろうなぁ…正直わからんよ、家族もったこともねえし娘がいたわけでもねえからな。…まぁ仕事のわりに給料悪いからそれだと思うがね。はっはっはっ…痛っ…
ほら、もう行けよ?時間がねえって言ったろって…あぁ格納庫の警備を忘れてたわ、これ使うか?」
そう言って少女の方へ伸ばす手には少女の手には大きい拳銃が握られていた。しかし少女は首を横に振る。
「それの使い方しらないからいい」
「そうか」と呟き銃を持つ手を引っ込めた男の方へ少女は歩み寄る、怪我した場所をできるだけ触らないように気を付けながら男にとって短い腕を精一杯伸ばし、男を優しく抱きしめる。
「ありがとうおじさん」
「おう、…おまえさんも生きろよ。ACで脱出できたら適当な所に捨てて自動操縦にしとけ、あとでレイヴンに追われても誤魔化せるだろうからな」
もう一度有り難うと言って部屋から出て行った少女を見えなくなるまで目で追いかけ、その後男は部屋の床へ大の字に倒れ込んだ。
「理由か、理由ねえ。案外あのクソ女の言ってることも正しいかもしれんな。馬鹿かロリコンの二択…どっちかねえ俺は。………ゴホッケホ…しっかし流石はプラスだ、あの短い手で肘打ちされただけで
内臓破裂とはなあ、肩の出血も酷いし内出血と出血多量、どっちでおっちぬかなこりゃ、はっはっはっはっ!」

446名無しさん@コテ溜まり:2010/10/06(水) 01:05:02
少女は男の手回しに感謝した、おかげで格納庫まで誰とも遭遇せずに済んだのだから。最後の扉を渡されたマスターキーで開いたとき、裏に書かれたメインコードに少女は少し涙がこぼれた。
このあと男がどうなるかはわからないがきっと酷いめに会う、そんな考えが過ぎっても引き返すことはなく、男が開けてくれたも同じことの扉をくぐった。
面前に広がる巨大な格納庫には嫌な思い出しかなかったが、それでもそこに希望はあった。何時も乗せられるコアだけのACの横に完全武装されたAC〝X-025A-2J〟が立っている、少女に与えられた希望だ。
ACまで通ずる足場に銃を持った警護兵が二人、しかし、今の少女にとってはなんら障害にはならなかった。
「おい…あれ!実験体〝ゲシュペンスト〟が何故此処に!?」
「コチラ格納庫!実験体が逃走した!ただちに応援を遣してくれ!!」
『了解!できるだけ生け捕りにするよう心掛けろ!』
兵の一人が銃を構え少女へと狙いを定めようとするが、それは間違った判断だった。彼女と兵との距離は約100mこの程度の距離は彼女にとって接近したも同じことだ、この時取るべき判断は取り回しに優れた9mパラペラムの拳銃で弾をばら撒くことだったろう。
それでもどうにかできるかは定かではない、現に警護兵がライフルのトリガーに指を伸ばす時彼女は50m距離を詰め、指がトリガーに触れた時既に彼女の掌が警護のプロテクター越しに助骨を粉砕し内蔵を水風船のように割っていたからだ。
骨の砕ける音は痛々しく、内臓が潰れその衝撃で内容物が口や鼻、目を通して体外へと押し出される。半ば持ち上げるように打ち出された掌は大の男を数十cm浮かび上がらせ、その後足が付いてから倒れるまで数秒を要した。
今さっき無線連絡を終らせたもう一人は何がおきたのか把握できず、突然崩れ落ちた相方に目をやり、手を伸ばせば触れる距離に目標が立っていることをやっと理解した。
「化け物めぇ!!」
ホルスターから拳銃を抜き取ろうとする、これも間違った判断だった。ここまで近づかれていたならいっそのこと足場から飛び降りた方が生存率も高かっただろう、少女は身投げした人間に止めを刺す程残忍な性格ではないから。
抜き取られた拳銃、その銃口が少女の方へと向けられる前に警護兵の腕は文字通り飛んだ。少女の左足が彼の腕の動きよりも速かったからだ、そして何故目の前で自分の腕が舞っているか気付かせるよりも速かった。腕を蹴ってからそのまま相手の腹を思い切り蹴り飛ばしたせいで腕一つ分軽くなった兵の身体は吹き飛び、
後にあるACの装甲にブチ当たってそのままグニャリとへばりついた。
二人の警護兵を片づけたとほぼ同時に基地内全てのアラートがL4の事態を知らせる。格納庫内でも赤いランプが点滅し各扉の防護壁が閉まる音も響いてきた。
しかし彼女は驚いてなどいられなかった、へばりついた死体を剥ぎ捨て装甲をよじ登る。ACの首後ろまでくると小さなパネルにマスターキーを差し込む。するとACは息を吹き返したかのようにコア密閉用ガスを排出、白い煙となって少女を包む。
それから首が頭ごと前にスライド、背中の装甲板の一部は後へと開く。何枚も重なっている防護プレートも一枚づつ開き、少女をコックピットへと招くかのように最後の一枚が開放された。
細い足をコックピットの座席に滑らせ、腰を落ち着かせる。中に入ってからコンソールパネルを叩きブ厚い装甲が少女を守るように閉じられる。ほんの少しだけ暗闇に包まれたかと思うと次々と光るコンソールやメインモニターがコックピット全体を優しく照らし出した。
AC頭部のAIが自動的に各部のチェックを開始し終わらせていく。そして神経接続を求める一文が表示される。
そこで少女は思い出したかのように涙を流し、微笑みながら優しい口調でAIに伝えた。


「メインコード入力―――〝ゲシュペンストの希望〟」


彼女は接続用コードをうなじのソケットに差し込んだ。
ACと繋がり伝わってくるその兵器としての息吹、それに対し嫌悪感を感じさせないのはこれこそがあの人の残してくれた希望への架け橋だからだった。
『システム戦闘モード移行します』

447隊長:2010/10/06(水) 01:05:38
突然鳴り響いたアラートに基地内はてんてこまいだった。技術主任であるあの女性も夜中に呼び出され、事態を大筋を聞いたこともあって青筋を浮かべている。
「あんのロリコンじじいがあっ!」
テーブルが凹む勢いで拳を叩きつけたので女性の指は赤みがかったがそんな痛みもどうでもいいと鼻息を荒くした。動揺する兵はできるだけ距離を取り報告を続ける。
「計画責任者は先程実験体を隔離していた部屋で死亡が確認されました」
「そんなことはどうでもいいの!実験体は今ドコ!!」
「はっ!現在実験用格納庫にてAC〝X-025A-2J〟に乗り込んだもよう、遠隔操作で緊急停止コードを入力しましたがこれに受け付けず、メインコードが書き換えられているようでコチラからのコードは全て受け付けません!」
「………この際実験体の生死はどうでもいい、情報の流出を防ぐのが最優先。MTを何機でも出撃させていいわ!絶対に基地から出さないでちょうだい!!」
「し、しかし――
「はやく!!!」
鬼の如き形相の女性から足早に離れる兵は無線で各格納庫と連絡、MTの出撃命令を知らせた。女性は近くに掛けておいた白衣を着てこちらも足早に実験用格納庫へと向かった。
途中武器を持って格納庫前を陣取っている警護兵からの止められるのを黙らせ、格納庫のモニタールームに入る。そこで女性は少女とのコンタクトを試みたのだ。
「聞こえるでしょう?貴方がやっていることがどれ程の人間に迷惑を掛けているか理解してる?」
子供を叱るような口調で彼女は強気に少女へと語りかけた。彼女にとっては所詮子供、上からの物言いで屈すると考えたのだろう。
その後も煽るような言葉を使いACから降りればまだ許されるなど説得に努力したが、いつまでも答える様子のない少女にとうとう堪忍袋の尾が切れたようだ。
「なんとかいいなさい!!それとも貴方は最強の力を手にしたとでも思っているの!!?」
『その通りです。とても良いACを用意してくれてありがとう、はじめておばさんにかんしゃします』
そういってやっと動きを見せたACはモニタールームに右腕を向けた。右腕一つに幾つも装備された武装の中からパルスライフルが選択され可動した。バレル内でENコイルが回転、高熱を生み出す。
『あと、自分から出てきてくれましたし、探す手間が省けました。……だって一番殺したい人だったから―――
ENコイルが勢いよく押し出されバレル内で作り出された高熱のENリングが反転、射出させられる。モニタールームを眩い光が被った次の瞬間には熱を帯びた真円の穴が開き、そこにあった物体を全て蒸発させた。


目標のいる格納庫で動きがあった、シャッターが隔離用防壁ごと吹き飛んだのだ。爆発と炎で格納庫内を確認できないMT部隊は警戒を怠らずにゆっくりと近づいていく。
部隊の内一機のMTが爆発で開いた穴からの突入を試みた、サブカメラとメインカメラを駆使して格納庫内を覗き込んだあとブースターを一瞬だけ点火し加速、問題ないと判断し通信で援護要員を呼び込んだ。
同じ穴からもう一機入ろうとした瞬間、最初に突入したMTがコックピットを撃ち抜かれて倒れてきた。それ支えた味方も同様に支えたMTごとコックピットを撃たれ沈黙した。
そしてシャッターをブチ抜きながらACはその巨体を部隊の前に現したのだ。
『――My turn』
ACは両腕を広げると腕に複数装備された各武装を展開する。少女の声と共に突きつけられたACの眼光がMT部隊に畏怖の念を植え付けた。

448隊長:2010/10/06(水) 01:06:13
圧倒的と言う他ならないだろう、目前の光景は。片腕に3種類以上の武装を施された改造ACは近づくMTを片端から葬り去っていく。
右腕の甲のENマシンガンは数発でMTの装甲を貫通し、マニピュレーターに持つパルスライフルは装甲ごとMTの内部を焼きつかせ、下部に搭載されたグレネードが施設諸共部隊を薙ぎ払う。
左腕の甲にある高出力ENブレードが敵を切り刻むと同時に下部のレーザーライフルが後の敵を撃ち抜き、建造物に身を隠くすMTの部隊を背中のリニアガンが襲った。
ACはただ歩き近づく敵遠ざかる敵を撃てば良いだけのことだった。少女にとっても難儀な操縦ではなく、脱出まで道程はあまりにも短かった。
『周辺に敵反応なし、右腕マシンガン、グレネード、左腕レーザーライフル、荷電射出機、残弾数0』
AIが告げると同時に少女は胸を撫で下ろし、使えなくなった武装をパージ。爆発と黒煙に包まれた基地を無事脱出した。



――オールド・ザム 上層通風施設――

『了解、システム自動操縦に移行します』
少女はACのコックピットを抜け出した。その際男からもらったマスターキーを大事そうに握っている。
先刻、この施設に到着しモードを通常へと移行させた際、接続端子を通して男の声が聞こえた。なんでも少女のために隠れの別荘を用意したようで、この計画事態も随分前から考えていたようだ。
そしてその声は何度も何度も謝っていた。能力のない俺が極秘の仕事の責任者に選ばれた時は喜んだが、考えてみれば丁度いい汚れ役にされただけだったなどの内容も含まれていた、実験体の少女を初めて目にしたとき、どうにかして逃がしたいと考えていたらしい。
それを知った時少女は何度も自分の口でありがとうを言った。彼を思い出し泣きそうにもなった。それでも彼女笑顔を作った、言葉の最後に「笑顔でいろ」とあったから。
少女は施設を出たとき、眩しさに目を瞑る程の直射日光を体験した。その時流した一粒の涙は眩しかったからか、彼の為のものなのかは知る由もない。


おわり

449隊長:2010/10/10(日) 03:01:24

「究極の騎士は愛に生きた」


広大な敷地、見下ろせばそこが巨大な屋敷を中心に広がる見事な庭園だということに気付く。
そんな庭園の一角、頭上を埋める夜空の星明かりに見惚れる男が一人いた。
黒が基調のダンスドレスには装飾なのか腰にはロングソード、下地のフリルが目立つものの、男は見事にその珍妙なドレスを着飾っている。気品ある顔立ちが理由だと言えよう。
手に持ったグラスには映り込む月ですらその色を変える琥珀色の酒が甘い香りを漂わせる。しかし男にはそれすらも魅力ではなく、思いに耽るような憂いた眼差しで夜空を見上げていた。
「そんなに見つめては月も顔を紅く染めてしまいますわ、御兄様」
男の背後から少女は囁いた、歳相応の甘い声だ。
男もしばし月から目を逸らし、後に立つ聞きなれた声の少女を歓迎することにした。
「ルデッタ、12歳の誕生日…貴女に祝いの言葉を送りましょう。その月が顔を紅くするのなら、それは今宵ドレスに包まれ一段と美しくなった貴女が居るからこそ」
男は自分を兄と呼ぶ少女に会釈するとそう言った。純白のドレスに身を包み年頃にしては少し背伸び気味の化粧が見れる少女は頬を赤らめた。
男は少女に微笑むと、グラスの酒を気持ち程度にあおる。
「御兄様は私と居るとすぐに優しくなってしまわれる。胸の内に百獣王の魂を宿す勇猛果敢な騎士もどこ吹く風…」
「如何に猛々しい獣王も美しい姫君の前では首を鳴らして猫のよう…貴女を前にするとある賢者がそう言っていたのも理解できるというものです」
「幾ら言葉で持ち上げようと、褒美が出るわけではありません」
「幾千万の星ですら霞んで見える美しい女性が近くに居ること以外に、何が褒美と言えましょう」
「もう、御兄様に言葉では敵いませんわ」
そう言ってルデッタは紅い頬をそのままに照れくさそうに微笑む。
そのまま歩み寄ってくる少女に男も同じように笑ってみせた。

450隊長:2010/10/10(日) 03:01:54
「そろそろ屋敷に御戻り下さい、今宵の祝いは貴女のために行なわれたのですから祝いの席で華が居なくなっては男達も酒が不味くなるというもの
…それに此処は風も冷たい、貴女の御身体に何かあれば御父上が嘆かれますでしょう」
そう言って少女の手を引くも彼女は俯いて動こうとしなかった。
「どうかなされましたか」
男は膝を付き頭の高さを少女に合わせ心配そうに問う。
「私は…歳を経ていくのが嫌なのです、御父様は既に私の婚約相手を選ぶのに忙しそうよ?私はまだ12の年月を重ねただけの子供に過ぎないのに」
「…そんなことはありません、貴女は既に立派な女性。その影に先代御母上の風格すら感じさせます。この家の名と歴史を継ぐのに…」
「本当に?本当にそう思われるのですか?貴族などこの家系以外に存在しないこの国で…紳士を迎え入れ家の名を継いで行く女性は強く在るべきものなのです。…今の私には
そんな強さがあるとは思えません」
「せめて…せめて、身を委ねる相手が御兄様なら…いえ、御兄様以外にはもう……考えられなくて…」
小さな身を震わせとうとう泣いてしまった少女、その少女の言葉に強く心打たれた男は胸の百獣王の魂に誓いの炎を灯す。
「涙を拭いて下さいルデッタ、血の繋がりもなくただ雇われているこの私を兄と呼び慕ってくれた貴女に誓いましょう」
「…はい」
男はもう一度膝を付くと深深と頭を下げ、そして腰のロングソードの柄を握り締める。

「ルデッタ様…いえ、我が愛しき姫君、貴女に忠誠を誓ったこの騎士めに御命令を!!」

「グスッ………よろしい、貴殿に命を与えます。貴族としての誇りを重んじるこの家系、代々強さの証を持った騎士のみを迎え入れ
妻の名が与えられます。そしてその証とはあらゆる強者を退けた一握りの者であることこそが絶対!甲冑乗りとの決闘で見事その名を上位五本指の内に刻みなさい!」

「誓いましょう!!この剣に!我が甲冑の名にかけて!!遍く甲冑乗りを切り崩し!見事五本指の内に名を刻みましょう!!我が馬脚甲冑の右に!何者も立つことは許されぬ!!」

451隊長:2010/10/10(日) 03:02:15
それから少ししてのことだった、アリーナに騎士を名乗る逆関節のAC乗りが現れたのは。
最初は皆同様に馬鹿にした。この御時世に騎士を名乗る恥ずかしい奴が現れたと、そして彼のアリーナでの初戦が始まったとき、誰もが言葉を忘れたのだ。そのあまりの強さにだ。
上位ランカー達の殆どが彼の戦いを見て思わず震えた、アリーナのトップであるアレスさえも何か内に感じるものがあった。
それ以降彼のランクアップは留まる所を知らぬかのよう、正に怒涛の勢いであった。
今日も今日とで彼の戦いが始まった。観客は今か今かと登場ゲートから目を離さない。湧き上がる黄色い声は誰もが彼の名を呼んだ。
そして遂に彼の機体が姿を現し声援は何倍にも膨れ上がる。騎士と馬が合わさったような外見のACは一歩一歩ゆっくりとエリアへ歩み、反対のゲートから姿を現した上位のランカーを睨み付ける。
観客の多くが待ちわびているのは彼の登場だけじゃない、彼が戦闘前にとるパフォーマンスに惚れ込んだ人間も多いのだ。

『我が名はライオンハート!内に獅子王を宿す騎士の名よ!!』

『アルティメットナイトは我が馬であり!剣であり!甲冑である!その力、魔王の軍団にも!竜の息吹にも!匹敵する!!』

『そして誓おう!この剣在る限り!私は剣交える相手に敬意を表すると!』

『今駆け抜けよう!この決闘場を!巻き起こす突風が一時のものと思うな!!』

『いざ参る!!!』

452隊長:2010/11/08(月) 11:34:18

「コイルに軋む砂嵐」


『5カウント、4…3…2…1……AC投下』
外部接続アンカーが取り外され、ロックボルトの解除音が夜空の中に消えた。
垂直降下する人型兵器の影に砂嵐が紛れ込む。ざらついた質感の風に機体のコイルが軋むのを感じる。
操縦桿には何時もと変わらぬ重み、首筋の神経接続部から髄液が一粒零れ落ちるのがなんとも不愉快だ…と男は心の内に毒吐いた。
横風をものともせず頭から垂直に落ちていくAC、コックピットの中の浮遊感に胃が浮つくような感覚は慣れていた。
『そろそろ敵部隊の索敵範囲内です。レイヴン、ACを垂直降下体勢からフラットに切り換えてください』
ヘッドセットから女性の声が響くのと同じくらいにコックピットの画面端には地上の様子を映した衛星からの映像。
その横を高度メーターがキリキリとメモリを変える。コックピット内に並ぶ電子画面は男の視覚からあらゆる情報を脳に伝えようと点滅するのだ。
「降下体勢を維持しそのまま部隊に突っ込む、目標はあくまで大型索敵機及びその周辺の基地、設備の破壊
 雑魚に構うのは好きじゃあない」
『仰る通りですがこの体制ではスクリーン展開率が前面のみの出力60%、数発の被弾でバランス制御に問題が生じます。無茶では――』
「ないな、信用しろとは言わんが私を過小評価するのも良い気がしない」
雲を抜けた。ACに絡まる雲の尾も千切れ地表のレーダー基地の明りに装甲が輝く。
ACのコアを中心に、関節が装甲に格納され空気抵抗減らすため後方に伸ばされた脚部は各部が折畳まれコンパクトになっているのがわかる。
腕部一体型兵装は前方に展開されその間にある頭部は半ばコアに埋まった状態となる。
この状態が彼等の言う降下体勢のようだ。横から見れば戦闘機と見間違うようなフォルムはACであることを疑う代物だった。
地表から迫り来る光点の連続、光の柱と言えば聞こえは良いが実際は鉛弾の飛礫。
数発の被弾がレイヴンにとって嬉しいことではない、男が操縦桿に微妙な力加減を加えることで各部に付いた小型のブースターと装甲の一部が
小刻みに動きその降下軌道を変える。何百という光の粒が風に混じる砂を蹴散らすのを見ながら近くをかすめる弾だけをきように避けてみせた。
「OB展開。一気に加速、接敵する」
背中の装甲板が展開すると同時に脚部が大型出力に干渉しないようその位置を斜め下へと可動。
『ここから先は砂嵐と妨害電磁網で通信不可領域です、〝コープスペッカー〟幸運を――』
オペレーターの声がかすれ途絶えた。
ACは後部から発した膨大なエネルギーと共に急加速、速度をマッハまで一気に持って行き地上へと接近する。

453隊長:2010/11/08(月) 11:34:37
急加速し地上目掛け突っ込むACを捉える光弾はなく、既に通り過ぎた軌道に虚しくなぞり入れるだけだ。
音を超えたACを邪魔するのは空気の層となり、機体全体を大きな振動となって駆け抜ける。
地上までの距離がグンと縮むもその速度を緩めないACヘルストーカーはそのまま地上にブチ当たる勢いだ。
危険だと告げるアラートが鳴り響くコックピット内でも男は冷静そのもの。操縦桿と神経に集中しタイミングを見出す。
ここぞという時、男の握る掌に凄まじい力が加わる。
「脚部展開、副推力を全開のまま体勢維持」
折畳まれた脚部は瞬間てきに展開、装備された小型の推力機が最大まで吹かされ先程まで降下していた機体を持ち上げる。
しかしそれでも機体を止めるまでに至らなかったが、一度切られたOBを再度展開、その出力を今度は下方に向けぶっ放す。僅かのタイミングで脚部がクッションとなり推力が負荷を緩和し
地表すれすれの状態で体勢を変更、先程の降下体勢に戻し脚部を折畳んで敵部隊の合間を縫うように飛んだ。
「武装変更、景気付けの煙幕だ」
肩部に装備されたミサイルから一発の弾頭が射出され空中で四散、光学標準機能は辺り構わず目標と捉え基地や設備、MTへと飛んでいった。
各方面で起きた爆発に気を取られたMT達にも別の弾頭が襲う。
速度600を意地するACは正面に立つ敵目掛け腕部のリニアカノンを撃ち出す、亜音速の弾頭は命中率に乏しいながらその衝撃力と貫通力が高く
左右から同時に発射されたリニア弾頭が邪魔な敵を障害物ごと持っていってくれた。
【目標までの距離―2500】
サブパネルに表示された座標に目をやり男はスイッチをパチパチと捻る。
コンソール画面を片手にメインモニターを睨みながら敵への攻撃を休むことなく続けるのだ。
「体勢変更だ。フラットに戻し火器管制を通常から2段階上へ、索敵のエネルギーを推力の足しにしろ」
コアから噴出すバックブースターは機体の速度を殺し、そこから折畳まれた各部装甲と脚部がガシャガシャと音を立てて展開する。
腕部関節を保護していた関節用追加リングがコア関節部分へと格納されボルトを収納した。うなだれるようにコアに隠れていた頭部は起き上がりメインカメラが妖しく光る。
「砂嵐に機体が軋む…俺は早く帰りたいからな」
地表に脚を衝き立てたACはやっと人型へと姿を戻し装甲表面の防御用光学スクリーンはフルでその能力を発揮、ACにまとわりついた霜を吹き飛ばした。

454隊長:2010/11/08(月) 11:34:58
基地で発生した火災に作業用MTまで駆り出されたものの事態は一向に鎮静化せず、原因となるACの排除に躍起になる同部隊のMTが無駄弾を撃ちまくるせいで
作業用MTの仕事は増えていく一方だった。
変形していた時の直線的な動きとは違い、現在のヘルストーカーは縦横無尽に飛び回る。
建造物を難なく飛び越え下に構えていたMTを頭上から吹き飛ばし、爆発に身を隠しては敵の前から姿を消していた。
敵の目標地点を理解しているMT部隊はレーダー施設周辺に陣を張るが、建物の隙間にチラついたACの影をむちゃくちゃに撃ちまくる姿は頼りないものだ。
建物越しに撃ち込まれた分裂式多弾頭ミサイルを着弾する前に迎撃するが空中で起きた爆発とそれに伴う粉塵、砂嵐、黒煙は部隊の視覚を完全に機能させず。
無論それはレイヴンにとって好機となった。
炎と黒煙の中から突然現れたAC、敵に対処しようと銃口を向けるMTに対し腕部一体型の武器が蟹の鋏のようにMTの腕を掴む。
バレル内の電磁加速コイルの連続体が視覚化した電気の渦を見せつけ弾頭射出用バレルから粒のような弾を衝撃と共に撃ちだす。
初速と弾速を底上げされた弾頭は掴んでいた腕を貫きMTを粉々に砕いて後方にあった施設の一部ごと吹き飛ばした。
バレル展開、放熱強化した腕部兵装は、正面にいた障害物がなくなったことで最大限の威力を目標に与えることが可能となった。
炸薬と電磁加速時の火花が眩しく、排出される薬莢はその数だけ弾を撃ったことを教えてくれる。爆発の煙で右往左往するMT部隊を尻目に、男は目標の施設を完全に破壊したのだ。
「ミッション完了だ。これより―――あぁ、通信不可だったか…」
男は何も言わず黒煙が晴れる前にその場を離れた。
施設から離脱する際、残りのMT部隊に攻撃するのが面倒だったため飛び交う弾を避けながらの撤退を試みたが、一発の弾が装甲を削った。
ムキになって反撃に出るのも癪だと感じた男は、気晴らしに近くの作業用MTの脚を引っ掛けて影の中に姿を眩ませた。

455隊長:2011/01/16(日) 19:47:38

「皮下を走る稲妻」


「…手、震えてるぞ」
廊下に響く男の声に同じく男は度肝を抜かれた。
紙コップに注がれた珈琲は男の脊髄反射に半分を床にぶちまける。
暖かかった珈琲がすっかり冷めているのに気付く、誰かに驚かされるまで結構な時間この調子だったようだ、と。
手に掛かった冷めた珈琲を舐め取りながら振り返り、やっとこさ自分を驚かせた声の主を見つけた。
「そんなにビビるなよ。これは演習なんだから」
声の主は珈琲をぶちまけ驚く男を笑いながら励ましの声。
「若いうちから正義側に付くってのが気に入った、俺達は歓迎するよジャウザー」
そして彼の名を呼びながら厳つい笑顔を見せた。
「有難う御座います、副司令官」
「トロットでいいさ、御堅いのはなしで行こう」
そういってジャウザーに気前よく接するトロット、副指令としてよりも良き先輩としての気を感じさせる彼に若きジャウザーは安心した。
わからない事は何でも聞くといい、と肩を叩いた彼に今回の演習についてを教えてくれと頼むジャウザー。
それを快く受け入れ、トロットもまたジャウザーに流れを説明してやるのだ。

「大まかにはこんな感じか、こんな集団でもレイヴンだからな。演習というよりも上下関係ハッキリさせるのと新人のテスト込みだ」
そういって腕を組みながら頷くトロットは、演習の相手が彼(トロット)であればと心の中で呟くジャウザーの心境を見抜く。
といよりも見ればわかった。最初にアレと演習だと言われ良い顔したレイヴンはいない。…自分を除いて。
「あの、エヴァンジェ隊長の事で聞きたいことがあるのですが」
歪んだ眉を精一杯整え影の落ちる顔に明かりを当てようと首を持ち上げるジャウザーに、ほらやっぱりなとトロットは少しだけ笑った。

456隊長:2011/01/16(日) 19:48:02
『安全装置解除』        『ロックボルトパージ完了』
        『ジェネレータ出力安定を確認』       『ラジエータ確認、正常です』
    『オートバランサー問題なし』
                          『各部サブカメラ起動、チェック』
           『メインモニターに出力』
                                  『スクリーン出力正常』
 『メインカメラ、感度良好』          『各部コネクタ、問題ありません』
               『全可動装甲テスト、チェック終了』

緊張に胸が締め付けられる。ジャウザーはダウナーに興奮していた。
息苦しく今すぐにでもこの狭いコックピットから逃げ出したい気分、格納庫に引き篭もっていれば誰かが同情して演習は終わる。
そんな起こりうる筈もない事態まで願った。
もちろんそんな事をしたって意味もない、わかってはいたがそれでも…というやつだ。
前日のトロットとの話を思い出す。彼の言葉が本当ならばいいのだが、と良き上司を疑う自分に嫌気がさすこともなく彼は開かれるガレージの扉を生唾を無理矢理喉に流しながら眺めた。

「隊長は良い人だよ、少なくとも相手が若いからって手加減しないだろうし」
返ってきた頓珍漢な言葉に一瞬自分が何を問うたのか忘れそうになった。
「?、それは良いことですが…隊長のそのぉ、戦い方のクセとか、そういうのを…教えて欲しいんですよ」
「クセ?あったかな。…ところで、なんでそんな事を聞くんだ?そういったことを実戦で学び役立てるってのも演習に含まれるだろぅ」
今度は真面目な返事にジャウザーはまたしても面食らった。
正面に立つ男のことがよくわからなくなってくる。それでもジャウザーは隊長と呼ばれるエヴァンジェを一目見た時のイメージを払拭するためにも質問を続けた。
「なるほどな、隊長の個人演習見たのか。それならわからいでもない」
そう言って肩を揺らして笑うトロット。ジャウザーも笑って済ませたいところだったが苦笑いが精々だった。
個人演習といっても空、陸の的を破壊する単純なものだ。だがジャウザーにはあの時、演習場に立つ青いACの姿が忘れられない。
全ての的を文字通り薙ぎ払う姿に恐怖さへ感じさせられ、日差しの下いるにも関わらず身を震わしたのだから。
こちらを睨めつけるあの紅い目…。初めて演習を行うと聞かされた際あの的の全てが自分のACと重なる。
「だったら、左腕に気をつけること。自分の中でも答えが出てたんじゃないか?一時の安心のために他者に共感を求めるのではなく、それの前に立ち恐怖すらも安心の範疇に入れよ
ってぐらいか、隊長は距離を詰めると無理矢理にでも切り込もうとするからそこ狙ってみると良い、俺からはこのぐらいだな」

457隊長:2011/01/16(日) 19:48:26
『新しく戦術部隊に入った、ジャウザー…だったな。歓迎する、今日の演習は歓迎会だとでも思えばいい』
通信相手はえらく不機嫌なのか、元々このような喋り方なのか、メモ帳殴り書きされた〝新人を快く迎えるための挨拶〟でも読み上げるかのように淡々と言葉を並べた。
ジャウザーもジャウザーで通信から聞こえた不機嫌そうな声にビクつき、自分が何か悪いことでもしたのか考えたあと自意識過剰だと頬を張った。

広大な演習場に向かい合って立つ二機の巨人。大型の機械。人型を模した汎用兵器。この地上で最も優れた烏の翼。
アーマード・コアが今、何十にも重なる可動音を交えながら睨み合う。
片方は、右手にゴツい火器を携え、背中に幾つかの砲を背負う。その体躯は細身でありながら棘を感じさせ、何よりも青白い色合いの中で機体に落ちる影を紅いカメラアイだけが煌々としている姿が特徴的だ。
片方は、全体的にコンパクトにまとまった火器類、紫と赤は暗く派手といよりも毒々しい色合い。その中で堅牢さを感じさせながらもどこか線の細い四肢はなんとも掴めない印象があった。
青いAC、オラクルと紫のAC、ヘヴンズレイ。エヴァンジェとジャウザーは目前のACに目を走らせていた。
(…機動タイプ、動きに入られたらコッチが追いつけない。近距離持って行けるか?)
『良い機体だな』
突然の通信に度肝を抜かれるのは二度目だった、それに誉められたのだ。
ジャウザーは安堵を感じつつも続く言葉に耳を傾ける。
『えぇと…ガサガサッ、バランスよく詰まれた火器、数あるパーツからフレームチョイスも目の付け所が…ハッ!私から言わせればまずバランスが…おっと、気にするな』
どうやら本当にメモ片手に喋っていたようだ。
『好きに始めろ、私も好きに終わらせる』
本性が見えた。かなりの自信。ジャウザーはこれにこそ恐怖のようなものをを感じた。
ただの過剰な自信ではない、あの時の個人演習でみた光景がそれを証明している。
「では御言葉に甘えさせてもらいます」
頬に落ちる汗を拭いたい。ヘルメットが邪魔でそれもできない。
自分の言葉すらも恐怖で有言不実行に終わりそうだった。胃が締め付けられる。汗の臭いもACの可動音も掻き消える程煩い鼓動。
何か、何か開始の音を。彼は心の中で平静を求めタガを外す合図を待った。鼓動はゆっくりと、徐々に落ち着きを取り戻し。
ぼんやりと鼓膜を刺激する呼吸音。汗の通り過ぎる感覚。何でもいい、はっきりとした合図を。

はっきりとした―――

                   対に鼓膜を最大まで刺激しその身を奮わせたのは冷却排熱音だった。

458隊長:2011/01/16(日) 19:48:43
何かが弾ける音と共に点火されたブースター、一蹴り入れた地面はコンクリが飛び散る。
後方に距離を取るように動き、右手を相手に向けた。集束用光学レンズが複数に配置されたバレルの中をエネルギーが通ると多少の大気でも減衰できぬ出力のレーザーが連射される。
翠色のレーザーは目標の居た地点を通り過ぎるも狙った物へと命中しなかった。青いACはとっくにその脚を宙に浮かせている。
(速い、…違う!読まれてた。だったら)
光学照準を別パターンに切り替えた。肩部のデュアルタイプ小型ミサイルを展開。
しかし、ロックオンには間に合わず、相手は更に高度を上げる。FCSの対応距離を超えたのだ。此処でジャウザーは更に照準パターンを変更。
ミサイルの単純な熱追尾性に賭けロックオンを省く、ミサイルハッチの保護幕が吹き飛び勢いよく飛び出すミサイル、更にEX搭載の連動型は先のミサイルに軌道を合わせ発射筒を抜け出した。
(更に!)
相手に向かい飛翔するミサイル群の後方からもう片方の肩部に積載されているキャノンタイプの火器を展開した。
二回続けて連射された散弾兵器、上空にて体勢を整えるACを狙う。対装甲性に優れた特別性の礫はミサイルと共に。
だが、あの時と同じく感覚だった。
辺りがスローで流れるような感覚、上空を見つめる自機。見下ろす相手のAC、それ挟むようにミサイル群、鉛弾の壁。
その隙間から覗くあの紅い目。
恐怖?それと似ているがもっと違った何か、そう言える。その感覚はまるで皮下を走る稲妻の如く勢いで全身を震わせ、奮わせる。

単純な追尾性のミサイルの隙間に合わせエヴァンジェは自機くねらせる。数発は身体の外側を、もう数発は爪先をかすり、脇の間を抜け、片脚を曲げるとそこを通過した。
全てのミサイルを避けた後、目前の散弾壁を瞬発したブーストでその軌道から抜け出る。あまりに突飛もないかわし方にジャウザーはその目を疑った。完全に何をしたのか気付くまで数瞬を要した程だ。
しかし驚いても入られない胸部のブースタを吹かしコンクリを削りながら後退、更には右腕のエネルギーマシンガンを連射する。
同時に肩部のスラッグキャノンを間合いと動きを予測し、偏差射撃。だがその尽くを避けられる。
「そこなら!」
一瞬脚を付いたオラクルを目掛けミサイルを斉射する。だが相手は巧みな側面ブースタ出力バランスで地面スレスレを滑るように飛びかわす。
直後に機体が揺れた。あの今にも肩から地面に突っ込みそうな体勢から右手のリニアライフルを命中させてきたのだ。
大口径の亜音速弾頭は肩の装甲を削る。コックピット内をフレームアラートが警告。
こちらも同じ土俵にと出力を前回に、空へ。ミサイルを発射し距離を取りながら弾の尽きたEXミサイルポッドをパージ。
スラッグキャノンで火力代行、上から下へと雨を降らすように散弾を撒き散らした。

459隊長:2011/01/16(日) 19:48:59
オラクルは地面をボードで滑るかのようにスルスルとその軌道を変えスラッグの弾を避ける。
時折飛んでくるミサイルをリニアライフルで撃ち落しながら数発の弾をジャウザーの機体に叩き込んだ。
(もっとだ!もっと距離をとって―――)
とうとう、オラクルはリニア以外の武器を選んだ。肩部一方のキャノンを展開、折り畳まれたバレルは機構搭載部と連結する。
その瞬間を捉えたとジャウザー。
(今なら!)
背部装甲が展開しミサイルとマシンガンをパージ、重石を外し軽くなった機体をほんの僅かな間出力されたオーバードブーストがオラクルまでの距離をあっと言う間もなく詰める。
更にそこから左腕の近距離兵装、高出力ブレードが襲う。
だが、見誤った。オラクルは既に展開したキャノンをパージしていたのだ。エヴァンジェもまた左腕に輝く月光を振り抜こうとする。

「やっぱり、読まれてましたか――――…っ私の勝ちです!!」

脚は触れていた。
コンクリを削る、そんなものではなく。ジャウザーの機体、ヘヴンズレイは脚部を捨てたのだった。脚部に度を超えた衝撃とそれに伴う損傷が警告を機体の悲鳴として鳴り響かせる。
だが減衰できた。それ以上に、最大値を超えた出力で胸部のブースタを吹かし脚への信号が途絶える前に送られた操作信号が脚部ブースターを破損前に吹かさせたのだ。
距離が生まれた。ブレードが当たらず、コチラの散弾兵器が相手を襲う距離が。
確信していた。これは自分の中で越えたと確信できていた、あの恐怖、あの不安、あの紅い目を。

散弾兵器の撃ったにも関わらず、相手を沈められたと思っていたにも関わらず、ブレードは当たらないと信じていたにも関わらず。
あの紅い目がメインモニターに映ったまでは。
『悪くない…が、まだ粗い』
青い刀身が真っ直ぐに伸びるコチラのコアを目掛けて。貫かれる、どうして?どうやって?あの距離をどう縮めた?キャノンは?どう避けた?なにも理解できなかった。

軽い金属音が響いた、何の音かはジャウザーは理解できなかった。少ししてそれがブレードの甲でコアを小突かれる音だと理解したのはサブカメラを小突くオラクルの姿が映っていたからだ。
『まぁまぁだ、御苦労。我々アライアンス戦術部隊は君を歓迎しよう。これにて実戦演習は終了とする』
今度はメモではないようだ。不機嫌そうではあるが棒読みではない。
その言葉にジャウザーは安堵と疲労、そしてあの感覚がまたも皮下を駆け巡る。
「恐怖?不安?…アッハハ、越えられないワケですね。これは――――」

「純粋な尊敬…ですか」

460隊長:2011/03/16(水) 15:00:41

「完璧などない、破壊するはいつもひとつのイレギュラー」


砂粒に身を任せた。装甲にブチ当たる彼の弾頭すらもひらりと避けるつもりだった。
用意した偽の依頼、偽りは私の存在そのものだ、そして目標は本物だ。本物のMTとレイヴンの駆るAC。
砂塵に翻弄された彼はこの依頼をこなすのに苦労するだろうと、そう考えていた。
後始末は引き金ひとつで仕舞いの筈。それが私の算段だったのだ。
砂嵐に身を任せた。生半可の武器であれば私の装甲にこの砂の風同様傷ひとつつけることはできない筈。
抉れて行く、火花が散る、崩れていく。私が、崩れていく。
オートバランサーがその挙動を忘れ、私の重装甲、重装備の鋼の烏は膝を付いてしまった。
今だけはその痛みを忘れてくれ、目の前のコンソールが呟きに答える程時代の進歩には期待するでもなく。
私の言葉もまた、力なく消える。私のACは既に限界だ。
まだ身を任せる時ではない。私に『諦め、目を閉じよ』と囁きかける砂の声を振り払う。
以前目標は目前、役30m、至近距離だ。
裏切りを返り討ちにしたと、今までの道程を反芻しているのだろう?
ではもう少し近づけ、油断せよ、打ち倒した敵であり、無様にも動けぬ私に勝者の余裕を見せつけろ。


その時は死ぬだけだ、君も…私も。

461隊長:2011/03/16(水) 15:00:57
「隣に失礼する」
あの時君は無礼にも独り酒を煽る私の隣に座った。
座るだけならまだしも、一言声を掛けた。それは今から君に話すことがあると言うのと然程変わりない。
だが、私の横に座った君は何を言うでもなくただ酒の瓶を傾ける。正直呆れたよ。
これでは私が早とちりをしたようだ。こういった状況でやきもきするのは好きではない。
「何か用が―――
「あるなら早く話したらどうだ?だろう、少し待って貰えないか?レイヴン、ストラング」
屈辱だった、私の考えていることが筒抜けだ。それ以上に誰にも明かしていないレイヴンとしての私と人としての私。
それを知っていること。
隣に座る青白い肌の痩せこけた男、彼は危険な存在だと私は自分に告げる。
懐ではない、私は自分の袖に通したホルスターに指を触れさせた。不穏な動き、都合の悪い発言ひとつでコンマ1秒の間に私は君に3発の鉛弾を撃ち込める。
「その銃は…まだ使わなくて良い、そういった話じゃあない」
たぶんこの辺りだ、当時の私は呆気に取られただけだろうと考えていたが、私はこの時既に、隣の男に、男の持つ才に魅了されていた。
「名を」
          此処              向う
「―――クライン、〝火星〟ではそう名乗っているし、〝地球〟でもそう名乗るだろう」

私は彼の駒にでも、知人にでも友人にでもなってやろう。そういう風に考え出したのはもう少し後の話だ。

462隊長:2011/03/16(水) 15:01:23
「良いプランだ、…気に入った」
彼の話には人を魅了するに充分の匂いを持っていた。
屈強な男と呼ばれた私ですら、花を前にしたミツバチと変わらぬとは今更ながら笑える。
目の前に広げられたアナログな図と計画書、こういった古めかしい会議というのは嫌いではない。
「しかし――」
思わず声が漏れた、計画書に書いてあることを実現しようものなら、かならずと言って良いほど時代は動く。
この段階では現実味すら感じられない。
フライトナーズの使役、古代兵器の拡散、侵攻、破壊、略奪etc……。
〝舞台〟の足場となる作戦のひとつひとつが起きればメディア、企業が騒がしくなるものばかり。
「現実味がない?か、正直、私もだ」
クラインの冗談に私は老いた顔を歪ませる。知人であり友人であり駒である私からの茶化した皮肉のつもりだ。
「幾重にもなる行動順、配置、代替プラン。君に言うにはわかりきったことかも知れんが…完璧だ」
そう言って計画書に何度も目を通す私に向かって、クラインはめずらしくも声を上げ笑ったのだ。
おかげで頭に叩き込もうとした自身の役割をもう一度憶え直す羽目になった。

よく考えればこの言葉は後々、クラインが私に向かって何度も何度も言いやっていたな。
今になって君の言葉を痛い程理解できる。
「ストラング……。完璧などない、破壊するはいつもひとつの――――」

463隊長:2011/03/16(水) 15:01:57
「イィィレェェギュゥゥゥラァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!」

膝は折れたままで良い、その場に留まるだけで良い、私は君を待っていた。
敗者に近づく勝者である君を。私は叫んだ、背負うガトリングの爆音に負けぬ程。君のあだ名を叫んでやった。
風に舞う砂すらも焼き、吐き出される排莢の山をも崩す程の威力を持つガトリングが牙となって。
油断した君を、穴だらけにしてくれる。そう、敗者となることも私の持つ役割の、プランの内の、道程のひとつなのだから。
だから最後に、私は君を殺そう。敗者のままで良い、勝者でなくて良い、無様なやり方で、残酷なやり方で。

イレギュラー、君の息の根を止めよう。

―――砂に身を任せた。
ガトリングの対機動兵器用スクリーン干渉弾頭が空を切った。昔見た映画を思い出す。
砂嵐は海、私は魔法使い、海を半分に割ってみせたのだ。
そこに彼の姿がないと気付くのに遅れたのは歳のせいだろう。私の機体はとうとう黒煙を上げた。
機体の損傷を考慮せずガトリングを乱射したのもそうだが、なにより、彼のライフルが私のACの装甲にトドメの一撃を加えたことこそ大きな理由。
クラインよりも永い付き合いのACは砂の上に倒れる。
ボロボロなのは私と一緒だ、血が、オイルが止まることを忘れたようだ。
私はようやく、砂にゆっくりと身を任せたのだ。
悔しいが、障害となるに充分な腕の男をレイヴンとして見送ってしまったな。

「…クライン」

これが最後というのも、悪くないのかもしれない。

464隊長:2011/03/16(水) 15:02:25
るびめっちゃずれた…

465隊長:2011/03/24(木) 21:07:10

「もう少しだけ」


避難勧告は鳴り響き、天井の下の町からは煙が上がる。
道路に転がる車に火の手、赤子が泣き母はそれを捜し父が身構える。
今にも崩れんとするオフィスビル。壁やコンクリの地面からは千切れた配管が蒸気や水を撒き散らす。
人の真上を飛び交う機動兵器、ACの戦闘による被害だ。
大型の人型兵器が推力を噴かすたび、その圧が瓦礫の山を吹き飛ばす。それらは未だ逃げられぬ人達の頭上に。
彼らが脚で地面を蹴りいるたび、その揺れが絶望する人達の膝を折らせた。
『レジーナ!エリアDの市民の避難が完了したよ、西の方角になら撃てる!』
無線に応える余裕はないが、それを聞けただけよかった。
そう言わんとする表情の彼女はレジーナ、たった一機のACに対し複数で挑む〝コチラ側〟の一人だ。
今まで抑えていた火器管制のレベルを上げる。彼女の乗るACもまた、早く撃ちたかったとFCSにエネルギーを回した。
メインモニターに納まらぬ速さを見せ付ける敵AC、その黒光りする装甲に紅い眼光は滲んでいた。
「管理者の実働部隊だかなんだか知らないけど、コレで…!」
右腕を突き出せばソコから生えるグレネードが槍のように伸びた。この弾頭であればACすらも吹き飛ばせる。
限定された射角、恐ろしい程の機動力、レジーナが戦ってきた中で恐らく最強のACだろう。
大型火器を向けられているにも関わらず、敵の視点と行動は他のレイヴンに向けてのみ行われていた。
飛び交うライフル弾を避け、あらゆる武器を同時に使役し複数相手に苦戦すらしていない。
ロックオンを示す赤の表示、彼女は好機だと引き金を引いた。

466隊長:2011/03/24(木) 21:07:28
呆気に取られた。
グレネードの弾頭が放たれ反動によって身を揺らしたほんの僅かな間に、黒いACは目と鼻の先。
悔しいかな、彼女の射撃はかすりすらしなかったのだ。
「まっず…!!」
コアとコアがぶつかる程の距離、機体の陰に接近され味方からの支援も期待できない。
敵の左腕が無理矢理な角度から切り上げる。コアの右と右腕部が抉られ機体は大きく揺れた。
彼女は声を噛み殺し、EOを展開、自動迎撃が至近距離で敵を睨みつける。
だがそれも不発。敵の振り上げられた腕がブレードをそのままEO機構に突き刺したのだ。
アラートが耳を刺激し、コンソールが弾ける、レジーナは頭の中で「いよいよ御仕舞いか」と呟く。
だがそこまで彼女側、つまり〝コチラ側〟も役立たずではなかった。
『うわああああああ!!』
無線から聞こえる頼りない雄叫びと共にレジーナの機体に衝撃、その際額をこすり傷つけたがおかげで思考がはっきりとした。
初期構成に少し手を加えたようなシンプルなACが彼女の乗るACに体当たり、おかげで彼女は致命的な一撃を回避できた。
「アップル!?」
彼女の声が無線を通しアップルと呼ばれたレイヴンに聞こえたであろう時、黒いACのレーザーがシンプルACのコアに直撃。
だが、それで落ちる程柔な装甲ではないと、敵に見せつけるかの如し。シンプルACが敵を掴む。
敵はその行動への対処として肩に背負うグレネードを構えた。
此処でシンプルACに乗るレイヴン、アップルボーイも覚悟を決める。

『こちらグナー、援護する』

無線から無機質な声。それから少し遅れて飛んできた閃光は事態掌握のための一撃。
初撃、構えられたグレネードのバレルを吹き飛ばす。シンプルACとの隙間やく1メートル。
連撃、武器破損を確認した管理者ACの展開するEO、頭部脚部を正確に撃ち抜く。最早敵は何も出来ない。
終撃、瞬きする暇もなく繰り出された援護射撃の最後の一発、敵ACのコア下部を抉り取った。シンプルACの腕からやく80センチ下だ。
『事態掌握完了、お疲れさまレジーナ、アップルボーイ、その他レイヴン』
「ふぅ…、サンキューグナー、助かったわ」

467隊長:2011/03/24(木) 21:07:54
「こんな時にですか?」
コーテックス医務室。イスに腰を落ち着け額に包帯を巻いてもらっている女性に男は聞いた。
彼女は頭に響くから声を小さくしろと男を睨む。
「こんな時だからってんでしょ。チョコレートくらい良いじゃん」
「まぁ、気持ちはわかりますけど…。レジーナさん、もう少し状況が落ち着いてからでもいいじゃないですか」
不安そうにおろおろ、声からしてさっきのアップルボーイと思われる。
そしてアップルボーイは続けた。
「それに、なんでチョコなんです?」
「私が好きだから」
包帯を巻き終えもういいよと白衣の男に言われると、イスを倒す勢いで立ち上がるレジーナ。
そう、レジーナ。さきの戦闘で一緒だった二人だ。
「親父がいつおっちぬかわかんないしね」
「そんな縁起でもない…」
レジーナは手を軽く振り、アップルは頭を下げ、白衣の男に礼を。
そのまま調子良く歩き二人は出て行く。
その際、医務室の扉を勢いよく――
「医務室では静かにね」
閉めた。

「板チョコ?ちっこいの?ん〜、どうしよっか」
「僕は小さいのがいいですね、瓶に沢山詰めて蓋の所にリボンと造花、メッセージ入りのプレートなんてお洒落じゃないですか?」
「………アンタがたまに男なのか疑いたくなるわ」
ショッピングセンターは別の意味で盛況だった。非常食、簡易携行食、水が飛ぶように売れている。
それらを買えなかった人達はできるだけ日持ちする食料、気軽に作れるインスタント類を籠いっぱいに詰め込んでいた。
今では棚に商品を補充する店員すら見当たらない。
「ほんっとにすっからかんね」
「どこもそうでしょう。管理者はいつ無差別な実働部隊を送ってくるかわかりませんから、避難所暮らしも荒れなければいいけど」

468隊長:2011/03/24(木) 21:08:09
無事チョコレートを買い店を後にする二人、アップル少年の勧めで買わされたテディベア(期間限定チョコレートカラー)の頭にパンチを食らわせるレジーナは何処か楽しげだ。
「もしかして、浮かれてます?」
アップルはテディベアを心配しながらも嬉しそうな彼女の表情に自然と微笑んだ。
そう聞かれたレジーナは恥ずかしげに、だがそれでも嬉しさをみせながら答える。
「バカ親父にプレゼントなんて子供ん時以来だから…、あん時の親父ったらもう、バカみたいにはしゃいでさ」
「見てるこっちが恥ずかしくなったよ」
過去を懐かしむように、思い出すあの時を。レジーナは過去を反芻する。
「今じゃ顔合わせるたびに恨みごと言ってるから、何かある前に―――
端末が鳴る、緊急の用事を示す音。
あまりにものタイミングなだけに二人は顔引きつらせる。
鳴ったのはレジーナの端末だった。
荷物をアップルに任せ、ポケットから端末を取り出す。
冷や汗が一滴。続いて脂汗。空気を飲み込もうと必死になる喉。
凍ったように動かない指をパネルに走らせる。
『…レジーナ』
「あぁ、レイヴン?どうしたのさ」

実は――――



端末を落としたレジーナにアップルは察した。
どう言葉を掛けていいのかわからない、こんな不幸があるだろうか。彼女は肩を震わせ、握る掌に力が入る。
「あの…レジーナ……こんな時に、どう言えばいいかわからないけど…」

「あんにゃろぉぉぉ…今日という今日はぶっ飛ばす!!」

「……はい?」

469隊長:2011/03/24(木) 21:08:21
レイヴンは目の前の惨事を見て唖然とした。
そしてコレは、この事態は一刻も早くレジーナに教える必要があるだろうと判断したのだ。
端末を引っ張り出すとコードを打ち込みレジーナが出るのを待った。
反応有り、緊急コードを使ったおかげで今回はコールを無視されずに済んだ。良い判断だっただろう。
「…レジーナ」
『あぁ、レイヴン?どうしたのさ』
「実は……君のおやじさんが暴走してる、グナーの話を聞いてたら突然血相変えて医務室に走り出した。
治療中だと言い聞かせたのに扉を蹴破るは医者の首根っこ掴んでヒス起こすはで抑えられん」
「仕舞いにゃ医者の『彼女ならもういないよ』の発言をネガティブに勘違いして今君の部屋で自棄酒かっくらいながら大声で君の名を連呼してるぞ」
『…』
「どうにかしてくれ…扉あけっぱで大声出してるから野次馬が酷いぞ。ん?レジーナ?レジーナ!?」
レイヴンは察した、今日この部屋で壮大な親子喧嘩(一方的な)が始まると。
できるだけ被害を抑えるにはまずこの酔っ払いの酔いを少しでも醒まさせることだろう。
「ジョーカー、ちょっと野次馬追い払ってくれ。レジーナがかなりキレてる」
「ついでに酔い醒ましでも買ってくるか?」
「…頼む」

「ちょっとでもアイツに優しくしようとした私がバカだった!!」
レジーナの強引な運転に、振り回されながら事態を把握できないアップル少年。
紙袋の中のチョコを引ったくり運転しながらソレを貪るレジーナ。

彼女が親孝行するのは もう少しだけ 後の話。

470隊長:2011/03/24(木) 21:08:51

「工場見学的SS」


ここに三人の漢が集まった。
クレスト代表――技術主任
ミラージュ代表――技術主任
キサラギ代表――元技術主任

そして漢達の前に鎮座するアームズフォートは…


「ほら!見えて来ましたよっ!!」
高速艇に揺られながらメットを被ったスーツの男が指差した。
その声と共に後部に座る三人の漢は興味を引かれ立ち上がる。
揺れに負けじと腰に力を入れ、顔に飛んでくる飛沫に目を細めながら指差す先を見据えた。
「「「おおおおぉぉぉぉぉ〜」」」
同様に驚きの声、漢達の目に入ったアームズフォート〝ギガベース〟は三人の視線を釘付けにした。
(ミ)「大きいですねぇ!」
一人が言った、それもそうだろう。
此処は2kmも離れた地点、それでも目に映る海上拠点はそのサイズの異常さを物語っているのだから。
「全高は約400mですから!近づくともっと大きくみえますよ!!あと10分もしないですから少々お待ちくださ〜い!!」
曇りの海、波は高く飛沫と潮風。
彼等三人の漢達は期待に胸を膨らませた。

「到着しました、お疲れ様です」
高速艇はケーブルで固定され、今やっと、格納プラットフォームに落ち着いた。

471隊長:2011/03/24(木) 21:09:07
(ク)「なんて広さだ…此処だけでコッチの本社ビルの受付広場ぐらいあるぞ」
(ミ)「うちのはもう少し広いかな」
(キ)「またまた〜、しかし…船付き場にこんなにスペースを割いても大丈夫なんですか?」
「えぇ、このサイズの兵器を運用するワケですから、それなりの人員数になってしまい、
初期型で問題になった出入りの不自由さを解消するためにこの部分の設計を変えたんですよ。
今では作業員の出入りがスムーズになりましたね」
歩くたびコツンコツンと響く革靴の音がどこまでも飛んでいくかのようだ。
出入り口からして既に三人とも関心の表情。
案内されるがまま通路に入っていく。
(キ)「はっはーん、これまた廊下も快適な広さ」
「有難う御座います。以前から言われていた大型兵器内での集団、及びぃその長期間の生活の中で、ストレスから伴う
身体的または精神的な苦痛をどう緩和するか。ギガベースでは耐久に問題が出ない程度に、行動スペースにゆとりを持って設計したんです」
(ク)「それにアレだ、動力や推進の駆動音なんかが殆ど聞こえてこない。これだけのサイズのものを海に浮かせてるのに音振動も殆どないのが凄い」
「お気づきになられましたか。このギガベース、実は陸上活動よりも海上での活動が高評価…その防音性と推進機構が自慢のひとつなんです」
(ミ)「勿体ぶるじゃないですか、その自慢の推進機構を是非見せてくださいよ」
案内を務める男は自慢げに窓の外を指差した。
「アレです!」
「「「おおおおおおおおおおお!」」」
窓の外には絶景とも言えるだろう兵器景色。
反対側に壁のようにそびえ立つもうひとつの船体、そして眼下にはふたつの船体に挟まれるように海の水が流れる。
ふたつの船体をつなぐ柱体のひとつにも無数の窓があり、このベースの巨大さを三人の目焼きつかせた。
壁から生える木のような物体はひとつひとつが自動迎撃機関砲。規則的に周囲を監視している。
(キ)「びゅ〜りほ〜…」
(ク)「土産に持って帰りたいくらいだ」
(ミ)「スナップ禁止なのが惜しい」
「凄いでしょ〜。ですが皆さん、重要なのは下です。水面をご覧下さい!」
そう言われ水のみ鳥のように首をかくんと曲げる三人。

472隊長:2011/03/24(木) 21:09:19
(ミ)「あれは?発射装置に見えますが」
「実は…そうなんです!我がアームズフォートギガベースの主力兵器で最大級の推進装置、超大型レールガンなんです!」
三人の漢は驚愕の表情を隠せなかった。
目を丸くする様に案内の男は満足そうに頷く。
(キ)「主力兵装を推進装置にするとは!こりゃぁたまげた」
(ク)「キサラギよりぶっ飛んでるとは恐れ入ったね」
「そして頭上にあるのが艦首です。あそこには火器管制、司令塔があり、それ等を保護する形でPAが集中して展開されています」
(キ)「勿論その艦首の中も見せてくれるんですよね?」
「申し訳ありません。かなりLvの高い極秘事項なので此処から眺めるのが限界です」
「「「えぇぇぇぇええええ〜」」」
漢達は落胆した。


結論
(ク)「いやまぁ技術的評価っつってもあれよりデカいの作ってみないとなぁ」
(ミ)「こっちゃ資源集めるのに精一杯だしな」
(キ)「AMIDAでおっきいのつくりたいな」

― 完 ―

473隊長:2011/07/17(日) 01:54:33

「避難所の灯り」


額を流れる汗は男の肉体的疲労の現れだった。
それに混じる血は男の置かれた状況を一目で理解するに事足りる。髪の生え際から流れるそれ等は男の視界を濁らせるに充分。
けれども男は安堵の笑み、笑っているのだ。軋む骨裂けた肉背負う身体をベルトで締めながら。
片手で自分の鼓動を確かめる。強く、強く脈打つのが感じられたからか、男は声を上げた。
「生き延びた!生き延びてやった!」
ぼやけた視界に気付いた男はぴしゃりと頬を打ち、身の回りを確かめた。
片手で握る操縦桿も、狭い個室一杯に広がるモニターも、それに映る個室の外の様子も、細かなスイッチの類も…全てがはっきりと見て取れる。
幾つもあるモニタの内のひとつ、広範囲索敵機の情報を映し出すものを見やる。
周辺に熱源なし。
見た目よりも頑丈な身体と自分を包む機器類の表示する情報…或いは此処まで辿り付けた運に感謝するべくか、自身を固定するベルトを緩めゆっくりと息を吐き出す。
口の中を切ったのか少量の血が涎に混じり垂れた。その内の一滴が脚を包む強化ポリマー素材のプロテクターの上に落ちるの見る。
頭を下げたからか視界が再度ぼやけるのがわかる。
「存外キツいな…情報提示申請、周辺の所属企業が展開する施設を、システムは通常、企業用信号とアラートを発信して…あとは……オートで頼む」
『了解、システム通常モード続行。キサラギの展開する施設へ――――』
電子音声の繰り返す言葉が耳を抜けていき、男は暗い穴に落ちていくのを感じた。
視界の〝もや〟は張り詰めた緊張と疲労しきった身体の悲鳴でもあるかのように。
――――ピッ!
『避難所からの信号を受信、着陸します』
寝息をたてる男の身体は揺さぶられる。
潤朱板金の巨人〝アーマードコア〟が、傷だらけの男を労わろうともせずにその間接を命一杯使って二本脚を地面に突き立てた。

474隊長:2011/07/17(日) 01:55:05
清潔な布の肌触りは心地よく、落ち着いた照明に塗られた柿色の壁は目に優しい。
涼しさを感じる程度に風が送られるのは天井の回転翼のおかげか。
目覚めたばかりの男はフと頭に違和感を憶える、包帯。少し突っ張った触り心地は憶えがあった。
身体を起こそうとするが手足が拘束されている。治療台に備えられているベルトか何かだろうか。
仕方なしに頭を横にやる………と、本来見えるであろう部屋の全景とは別に、顔が目に飛び込んだ。
化粧なしのくりくりした瞳。無造作に伸びた前髪から覗く肌は如何にもな代物。
頬杖をついてコチラを凝視する様は不気味だが、目の前に居るのは間違いなく少女であった。
「おはよー」
小さな口から聞こえた声は鼻詰まったようなものだ。
言葉が見つからない男に対して少女はやっぱりねと呟き、同じように口を動かした。
「ようこそ緊急用避難所〝TAMARI〟へ。此処はキサラギ管轄の第432番避難所、キサラギ第8支社周辺地区を担当する地下シェルターです。」
それを聞いてか男はほっとした。愛機が自分の指示通り専属企業管轄内の施設へと自分を導いてくれたことにだ。
それと同時に自分の愛機のことを思い出してしまった、なんせこの傷はコアに貰った一撃が原因なのだから。寝ている間にACは爆発してましたでは洒落にならない。
そう思うといてもたってもいられない、が、こうも縛られていては動きようがない。怪我とは別の心配に焦り男は強い口調で少女に問う。

475隊長:2011/07/17(日) 01:55:19
「俺のACは!?」
「アンカーで吊るして倉庫にしまったよ、自慢じゃないけどここは人の収容施設と同じくらい倉庫も大きいの。あぁそれとコアからおじさんを引きずり出すときは企業から発効してもらった
緊急コードで開けたから壊してないよ、前の方の傷はここで付いたワケじゃないから変な言い掛かりで請求しないでね」
少女はどこか突っ掛かるような口調だ、現に口を尖らせている。
男は戸惑ったが嗚呼とひとつ、自分の無礼に気が付いたのだ。
「すまん…じゃなくて、イヤあってるか。…いろいろ有難う、無礼を詫びるよ」
「あいさつ〜…!」
ぷっくりと頬を膨らませる少女に男は再度頭を下げた。
しかし口元は笑ってしまう、大人びているのか歳相応なのか。少女が不思議と可笑しかったのだ。
「…おはよう」
座っていた椅子からピョンとはねると少女は男の手足を縛っているベルトを解く。
「来て!お腹へったでしょ」
早々に部屋を出て行く少女を尻目に男はベットから起き上がりながら部屋を見渡す。壁はむき出しのコンクリ。
ベッドは塗装の剥げたパイプが重なり合う簡易的なものだ。
「確かに……避難所らしいな」
軋む腰を摩り少女の後を追った。

476隊長:2011/07/17(日) 01:55:33
足早な少女に遅れまいと痛む身体を引きずった、予想以上に痛めていたらしく設備の整った避難所に来れたことが有難かった。
しかし、その割にだ。これまた予想を上回る広さの避難所、それにしては人がいない。
いつでも機能してるのが避難所、そこいらから避難してきた人で賑やかでもいい筈だ…とは言わないが、酷く静かなこの避難所は何処か不気味でもある。
そもそも少女独りなのか?これだけ大きな施設を管理しているのが?そんな事まで過ぎってくる。
死後の世界は信じていないが仮に此処がそうなら随分と先進的というか、逆に言えば現実的なものだ…と。
「ここが地獄なら…俺には随分可愛い悪魔が宛がわれたもんだ」
ぼそりと呟いたつもりだが
「ここは地獄じゃないよ〜!可愛いっていうのは嬉しいけど悪魔じゃない!」
廊下の向こうから響く詰まり声、どうやら彼女の耳には届いたようだ、男は愛想笑いで冗談めかしたがまたやっちまったと頭を掻く。
そうこうしている内に少女に案内された広間へと付く。大広間…なら聞こえはいいが目に映るのはガラス越しに覗くキッチンと高い天井から吊るされたライトだけだ。
そのライトも遥か下の床全体を照らしだせる程の強さも数もなく全体が薄暗い。
「ご飯とってくるから座ってて」
駆け出した少女に置いてかれた男は辺りを見渡す、もちろん座れるものなど何もない。
「床に?」

477隊長:2011/07/17(日) 01:55:50
少女の持ってきてくれた簡易食を男は貪った。
腸詰の燻製、クラッカー、乾燥果実、瓶詰めのアンチョビ、塩漬け肉、飯盒の中の冷めた白米、豆の缶詰。
中でも缶詰は印象的な味だった。悪い方での意味だが。
「……好みの味ではないな」

〝ポークビーンズ 栄養満点 夜食や保存食として〟

顔をしかめた男に少女はなんで?と言いたげな顔をした。
手には男の持ってるものと同じ缶詰があるが、既に2缶も平らげていた。
「いや、好みの問題だろう…気にしないでくれ。それよりも、此処。この避難所は…独りで管理しているのか?
これだけ広いと独りだけでは色々不都合があるだろう」
スプーンに残った最後の一口を口に運ぶと少女は舌なめずり、首を横に振ると男の缶詰を引っ手繰る。
彼女に缶詰を盗られた男は無言の礼を少女に言う。
「人来ないから全然へーき、キサラギさんからは手当てもらえてるし」
その目は何処か寂しげだった。

478隊長:2011/07/17(日) 01:56:02
「なんで人が来ないんだ?」
聞くべきかはわからなかったが、話の種がこれくらいしかなかったし。未だに死後の世界説を自分の中で
払拭できていないのでどうにも聞いておきたかったのだ。
「ここ、山の中にあるから、それだけ。よく避難しなきゃいけなくなる人たちはここより近いところ行くの。
だから、ここはいつでもすっからかん。でもキサラギさんとこの人が言うにはね、一帯の世帯数を考慮するとここも必要なんだって」
この歳にしては難しい言葉をすらすら使うものだ、話しの内容よりもそんな所を気にかけた。
だが現にそうだ。
男の目に映る少女は正直言ってまだ子供も子供。
肌は白く奇麗と言うよりも不健康の現れ、薄く濁ったような灰色の伸びた髪が更に拍車掛けている。少しサイズの大きい服から伸びる腕はまるで細枝のようだ。
動きやすさのためか穿いてるスパッツも、食い込む白い太ももと対照的。
それに地下施設の管理ともなると日の光などどれ程浴びてないのだろうか。いや、最近浴びただろう。
そうやって自分を助けて貰ったときのことを想像する、しかし頭に浮かぶ絵面はなんとも情けない。
と、考え事に忙しい男の姿は視線が少女に釘付けのようにも見えた。
それもあまり凝視してはいけない部分を真面目な顔つきで。もちろんそれを目の前に座る少女に気付かれない筈もなく。
「……えっち」
「えっ?………あぁいや!!そういうワケじゃ!…ハァ…」

479隊長:2011/07/17(日) 01:56:16
「こんどはおじさんが話してよ、なんでこんな所に来たの?レイヴンなんでしょ?」
そういう彼女は男の後ろに立ち、頭の包帯を新しい物に巻き直している最中だった。
包帯を外された時に男は気付いた、髪は全て剃り落とされているのだと。
容姿を気にすることはなかったが、流石に違和感がないとは言えなかったようだ。
「俺はおじさんじゃぁないが…まぁいいか。確かに俺はレイヴンだ、レイヴンではあるが専属の雇われモンで
本来のレイヴンという枠組みには入らないかもな、腕が立つワケでもないから仕事を選べる立場でもないし」
愚痴にも聞こえる男の話しにうんうんと相槌、それがどうにも照れくさい。
だが、男は続けた。あの時のこと反芻するかのように、時折苦虫を噛み潰したような顔をしながら。
「今回はたまたま良くないお仕事を引いたんだ。まぁ引く前からジョーカーだってのはわかってたがね。他のカードを引くにも手札抱えてんのは
お上だから、まぁ引くしかない。なんつっても相手企業はワルキューレを護衛に付けてた…天下一品の狙撃主さ、だが俺みたいな使い捨てを当て馬に
時間稼ぎできれば新装備納入を遅れさせられるかもしれないそう思ってたのかもな連中は…まぁこっ酷くやられるのは今回が初めてじゃぁないが、流石に死を覚悟したよ」
男は震えた、怒りに、勿論悲しみにも。
下唇を今にも噛み千切りそうだ、こんな使われ方するのがレイヴンか、と。
「よくよく考えれば下らない……!クレストの株価をほんの少し落とさせるために死にに行けって言われたのさ……イタッ!!?」
縫われた傷口を包帯の上から小突かれた、滑稽にもその痛みは大の男が背中をえびぞりにさせる程。
けれど震えは止んでいた、涙目ながらに見上げればそこには少女の顔、悪戯に笑っている顔には温かみを感じる。
「でも生きてる」
少女は鼻詰まり声で優しく言ってくれた。

480隊長:2011/07/17(日) 01:56:30
「もう行っちゃうのぉ!?」
格納用エレベーターの中をブースターの轟音が暴れ、その音に負けじと少女は声を張り上げる。
エレベーターの駆動音にACが放つ騒音も混じりしっちゃかめっちゃかな反響音の中その言葉は男の耳に届いた。
「いつまでも此処でゆっくりしてられないから!それと!首にかけてるヘッドセット使うんだ!!」
そう言って少女に首元を指すジェスチャーをしながら、男はACの首後ろに隠れたパネルを叩きコックピットを開けた。
少女がヘッドセットのサイズを合わせている間に男も狭い個室の中へ、パチリと捻ったスイッチに通信の状態を有効に設定する。
『キサラギ、嫌いだったんじゃないの?戻ってもへーき?』
ヘッドセットで騒音が幾らか抑えられたものの少女の声はまだ大きなモノだ。
仕草のひとつひとつが可愛らしい少女に男はつい笑ってしまう。
「俺を使い捨て同然に扱ったのもキサラギだが、もしものために避難所を残しておいたのもキサラギだ。そう考えると
企業の全部が悪いワケじゃないんだろうからって思えた…それだけさ」
分厚い防護扉が開く、天気は晴れ、少女の肌にも太陽の光が当たる。
「また此処に来ても?」
『わたしは良いけど、ここ避難所だよ?』
「俺、よく機体ぶっ壊すからさ」
久々に動かす脚部間接は重い、装甲の間から響く駆動音は一歩踏むたびに振動となり少女に伝わる。
アイドリング状態で吹かしていたブースターを少しずつ強く、少しして脚は地面から離れた。
コアに弾痕の目立つACはその高度をどんどんと上げる。サブカメラに映る少女を眺めながら男は人のいない少し不気味なそれでいて居心地は悪くない避難所を後にした。

「あ、ACの火器管制規制解除するの忘れてた」
男がお上にどやされまた避難所に戻ってくるのはほん少し先の話。

481隊長:2011/10/04(火) 20:07:57

「その烏の名」


――― 一人の少女を見た、ボロボロの少女を

街灯は照らす、レンガを敷いたこの道を、石造りに見せかけた合成素材の建築物の群を。人は知っていた、この街を通り過ぎる風の冷たさを。それでも尚、寂れた街に人が集うのは行く場所がないから。
けれど、人の数だけは誇れるであろうこの街に、確かに温もりはあった。皮肉にも、その温かさを持った者が人ではないのだが。
少女が居る、この寒さの中をボロ布を纏う事で忘れようとする少女。身体の冷えはだらしなく鳴らす鼻が、小刻みに震わす肌が教えてくれる。そんな少女が今、コートに身を包み憂いた瞳を向ける男の前に居るのだ。
男の瞳には少女がどの様に映ったのだろうか、絶望に気付かなぬまま突き落とされた瞳を持つ少女。男はこの目を知っていた、少女にも恐らく、そう思える節があったのだろう。
二人は互いの目を覗き込んだ。まるで鏡を見るかのように。
「家は?」
少女は首を横に振った。
男の眉間に皺が寄る、内の鼓動が耳に障ったのだ。人はそれを同情だと考え、男はそれを気の迷いと感じるのだろう。
「親は?」
首を同じ様に横に振った。そんな少女に対し男は何とも言えぬ異を覚えた。男は哀れみを知らず、それを怒りと勘違いしたのだった。
しかし、そんな自身がわからなくなっていたのも事実、目の前の少女に腹を立てる理由はなんだ?男はその疑問に対する答えを知らぬまま、ポケットからハンカチを取り出し少女の鼻に当てる。
「そこに座ったままで身体を壊すやもしれん、そんな貴様は何を望みそこに座り続ける」
少女に問うた男は、返答を気にせぬまま立ち上がりにその場から離れようと足を動かした。少女が答えられぬだろうと高をくくっていたから。
だからこそ驚いた、とでも言うのか。返ってきた言葉に男の表情はそう語っていた。
「温かいもの……今、叶った」

聞くに少女は、数日前に戻る場所を失ったようだ

482隊長:2011/10/04(火) 20:08:19
死とは何だろう。
街並みに消えていく人々の目には生気がない、だからと言え死んだワケではないが、この時世、死を垣間見た人間は少なくないだろう。
だが、死を経験できる人間などいない。死は一度きり、心停止からの蘇生や脳波の回復でない、死。

ならば、それが獣ならどうだろうか。
此処に居る男は一度、翼を削がれ死んだ。確実に地に落ち息絶えた筈だった。絶望に拾われるまでは男自身そうであったと、わかっていた。
その胸に隠す淡い青の輝き、薄いシャツから僅かに漏れる。彼に二度目の生を与えた汚れの証であり、再び瞳に覗かせたくもないもの、男が絶望に堕ちた獣だったと言う時の記憶そのもの。
だがこの光に気付く者などこの街に、この通りに居やしない。男もまた、安酒に溺れてはそうであったことを忘れようとしていた。

――― 三週間程前

男が再び目にしたものは暗闇か、違う。自身から放たれるあの〝青〟だった。
では男が寝そべり、背中で感じるこの感触は……語る必要もない、金属塊。あの時から男は身体に異常がなく立ち上がれる現状を異常だと悟り、そして憤怒し狂気に身悶えた。
その情けなさ、少なくとも男はそう考えていた。振り上げた拳を加減することなく金属塊にぶつける今、男は内の衝動を隠すことなど忘れている。
「死ねたんだ!!私は!!私はっっ!!!死ぬことができた!……やっと自分の体たらくから…恥から!弱ざから゛!!慢゛心゛か゛゛ら゛!!!に゛げる゛ご゛ドがでぎだっ…の゛に゛ぃ゛!!!!」
力なく崩れた男、その拳は血に染まる。しかし体内に蔓延る青はそれを直ぐに修復するのだ、拳ひとつに見れる光景は男に耐え難い屈辱と絶望を植えつける。
空の筈の胃は締め上げられ抑えられない苦しみは喉を介し吐き出され、大量の吐瀉物には血が汚れた顔には涙が混じる。

〝業だ、精々背負いきることだな?首輪つき〟

男はまたも吐き気に襲われる。
この声は男から全てを奪い去った、『何もなかった自分を見繕った描き幕にさへ爪を立て剥がしていった』あの女の声だ。
男は周囲を窺う、あの女が近くにいるとは思えない。だが確かに聞こえたのだ。繰り返される言葉は耳の中を掻き回し脳にまで到達する。
そんな考えが過ぎった刹那、男は自身の耳を引き千切った。だがそれを青は許さない。掌に転がる自身の耳とは別にもうひとつの耳が既に生え、声は消えず、遍く記憶が、あの日の記憶までもが脳を抉る。

暗闇の中男の絶叫が消えていく。

483隊長:2011/10/04(火) 20:08:40
それから少しして、何故企業に見つかり回収されなかったか、最後に生き残ったのは誰か、街を放浪しながら一般の端末を使い調べた。最中、無意識から忍び寄る狂気を酒と煙草で誤魔化しながら。
古代兵器に関する情報への規制と調査部隊の派遣断念の決定、それらはアライアンス分裂後の復興作業と世論からなる各企業合意の判断。臭い物には蓋、触らぬ神に祟りなしとはこのことだ。
そして―――

〝どの企業すら持て余すラストレイヴンの存在〟

「私やジャック、ましてやあの女ですら…こいつの前では駄目だったのか……」
この感覚は何度目だろう、男にとっては二度と味わいたくもないこの感覚。絶望という底のない穴に突き落とされ、側面の壁に打たれながら闇の中に消えていく。
そしてその穴の中で闇から伸びた手に拾われ、嘲笑い楽しむかの様に落としてはまた拾われる。
何も出来ずに打ちのめされ、女の前で膝を付き、その上望んで受け入れた絶望の力すら名も知らぬ男を前に砕かれ散った。
そして無様にもその力で生を取り戻し、知らぬ間に流れていた時間の中で自身は消えていったのだ。


それは酒に溺れ、気力を失いながらもただ生きていく今にも引き継がれていた。
「何も…ながった゛、私に゛は………何も゛っ……!」
路地の隙間に積み上げられたゴミの山の陰、浴びる様に酒を飲んでは何度も何度も呟いた。狂気に襲われては繰り返す、今この男にとっての全てはコレなのだから。
だが今夜の疼きは何時ものソレとは違った、わかってはいた男自身、日に日にこの感覚が強くなるのを。酒や煙草では抑えきれない、忘れきれないことを。
無様な記憶、無様な体(てい)が拍車かける男の中の狂気は膨れ上がり青とは別に蝕む孤独か、その中でふとあの娘の顔を、言葉を思い出した。

「温かいもの……今、叶った」

温かい?あのハンカチが?私の行いが?男にはわからなかった。だが、今そんなことどうでも良い。彼女の言葉を思い出した時確かに忘れられた。
この痛みを、感覚を、絶望、孤独……狂気、なんでも良いこれの呼び名など、そう繰り返す頭は男の身体を突き動かした。足は自然と路地を抜け、あの人通りのない街外れへと。

484隊長:2011/10/04(火) 20:09:12
その晩、寒さ凌ぎに布切れを幾重にも纏い身を丸くし眠る少女を起こしたのは声だった。
ブツブツと何かを否定しては悶える声。寝起きの眼を擦りながら街灯の明かりが届かない暗がりから顔を出した時、目にしたのは白昼に出会った男だ。
しかしあの時の様な凛々しさは見られず、壁に凭れながら頭を抱え身を震わせていた。
「泣いてるの?」
静かに歩み寄る少女の鼻づまった声に返答はなく、代わりに肩をひしと掴む腕が伸びた。一瞬、恐怖から手を振り払おうとしたがその腕のあまりの力なさに戸惑わせる。
その腕が少女の身体を抱き寄せようとするのにも、彼女は無言で従った。何故なら、長い前髪の隙間から覗く男の顔は酷く醜いもので、荒れた息に食いしばった歯は獣のそれだったが、少女にはそれが恐ろしいとは感じられず、どこか物悲しい悲哀に満ちたものに見えるから。まるで暴力に怯える子供の様な…。
それが少女の握る〝護身用〟を使えない理由だった。
しかし今の男には少女の感傷など気付ける筈もなく、それを無抵抗と受け取る。少女の着込む布切れを強引に脱がし、煤けたシャツを剥いて露出した柔肌に舌を這わせ、男は少女の無垢な体を貪った。


どれ程の時間が経ったのか、男は深い眠りに付いていたようだ。
朝日、というには少々傾いている日の光に瞬き、汚れた面だと呟きながら顔をコートの袖で拭った。はっとして昨夜のことを思い出す。辺りに少女はいない、何時ものとは別の痛みに心と胃が軋むの感じた。
半ば靄のかかった記憶に吐き気を覚えながら手元の小さな紙切れと金属に気が付き、拾い上げる。
紙には一言

痛かった

と、もうひとつは9mmの弾頭だ、これは少女からの警告なのだろう。男は顔を掌で隠すように覆った。
本当に堕ちたものだな…そう呟きながら男は街へと、一度振り返ってはみたもののやはり少女はいなかった。そして、そのまま消えていく。

485隊長:2011/10/04(火) 20:09:27
意識がこれ程ハッキリとしているのは何時ぶりだろうか、酒気すら抜け喉を通る煙草の煙がいがいがと刺激するのがはっきりと伝わることに驚いていた。
昔を思い出せば今でも痛むものを感じる、だが、あの粘り気のある暗いものに呑み込まれるような感覚は何処へやら。
何よりも、少女のことを頭に浮かべると鼓動が早くなった。良心の呵責もあるだろうがそれとは違う別の何かも感じているのは確かだった。そして、鼓動の早さは痛みにさへ変わっていく。
胸に手を置けばあの光が、その只中に感じる躍動する熱が、抑えることのできない感情がひとつの手を跳ね除けるかのように。
強く激しく、鼓動に合わせて脈打つ。あの時から変わらぬ姿を保てるが故、こうして無様な自分を見つめ続けねばならぬ元凶を。
金属の身体を拠り所に、全てを呑み込まんとし、総てを粉砕せんとし、凡てを絶望へと歩ませんとし、その身体を突き動かし続けた破壊者の血。
「何故…気が付かなかった?」
思考もそうだが、目覚めてからというもの男の身体の調子は頗る良いものであった、それは五感も例外ではないだろう。だからこそ、あるひとつの物が感じられないこの身体に対する違和感が湧いて出るのだ。恐らくは三週間前のあの時、目覚めてからずっと、こういう身体であっただろう。
どうして今更なのか。だが確信ではない、色々と疑問を残す節もあった。だが男にとっては無下にできないものだ。どうしても確かめておきたい、もしそうであるのならば、この力を、この身体を、彼女ために遣ってやりたい。
男の想いが鼓動をひとつ早くする。
「あぁ?武装勢力?それなら西のゲート抜けた何キロも先にずぅっと駐留してるよ、ここいらの難民というか浮浪者はよ、そいつらに街焼かれて逃げてきた連中なんだよ。てっきり俺はアンタも同じ部類の人間だと思ってたがね」
男は店から飛び出すと店主の指差す方へ、店主は常連である男が酒も買わずに出て行くのに口を噤むだけだった。
街のゲートをとうに過ぎたであろう、男は未だに全力で走っていた。息を切らすことなく体温を微塵も上げることなく。いや、既に体温は高い、おおよそ50度を超えているだろうか、肌に触れるべき風の感触がなく、寒さを感じないのだ。男の身体が放つ異常な〝熱〟が風の接触を身体の冷えを阻害していたから。
男の脈は既に人のそれを超えていた、胸の内が酷く痛む。表皮に透ける血管に青の脈動。その速さは正にエネルギーの循環に等しいのだ。

金属の身体を拠り所に…金属…常人にはまず縁のない強化人間用高濃度身体強化ナノマシン、循環系統を満たすそれらは吸収用の液体金属の注入において著しく活性化し怪我の治癒なども可能とする。
そしてそれは体外からの接触による吸収をも可能とし、もしその液体金属を作業用重機などから間接接触によってこの青が掌握できるのなら或いは…、そんなことを考えていた最中、あの言葉がまたも蘇り、男は口にした。
「温かいもの…
呟きは足音に消えた。

486隊長:2011/10/04(火) 20:09:51
山岳地帯より見下ろす光景には金属と灰に煤けた街。
居た、男は眼光をよりいっそうのものとする。15メートル程はある人型の群、100t級のMT(マッスルトレーサー)が瓦礫の下から物資の代わりとすべく残骸を集めている。フツフツと湧き上がる怒り。さらに加速する青の脈動が怒りを視覚可させた。
心の臓は今や機械の出力機の様で、伸縮しないのだ。そのせいか耳鳴りにも似た轟流音が脳内の一切を排除しようとしている。近くに転がっている眼下のものと同じ100t級のMTの残骸に歩み寄り触れる。掌の感覚を通した装甲、その表面は傷付き元の滑らかさなど感じられなんだ。
男の耳鳴りが止まない、酷く騒がしい、鼓動が、脈動が、循環する青。何よりも感情に支配されていた……感情に支配されている自分に。
口元に歯軋り、表情筋はより深い皺を、その瞳に絶望の煌きを。
「わかっているのか…引き換えせんぞ」

〝業だ、精々背負いきることだな?首輪つき〟

「…だが、抑えられんさ」
想いはもう止まらない ―――


――   パ  ル  ヴ  ァ  ラ  イ  ズ  ――


見上げる空に絶望の光、山岳部一帯を包み込んだ青の輝きに辺り総てはその瞳を照らされる。
降り注ぐ粒子に星の煌きを、光の中心に大いなる災いを、現れた人型に底の知れない絶望を。
あの日総てを削ぎ落とし輝きに終止符を打とうとした者が居た。その願いは他者に預けられ、預けられた者は〝そうであれ〟とトドメを刺さなかった、僅かに躍動し呼応する青に気付かなかったのだから。
その一瞬の間違いから、絶望は再び地上に手を伸ばす。

光の渦の中心、粉砕者<パルヴァライザー>に代わりし絶望は、神託<オラクル>を受けし青の巨人となりて飛翔する。
浅葱の板金に身を包み、模した姿は人の四肢、今此処に君臨せしもの、人それをこう呼ぶ…

〝アーマード・コア〟

と。

487隊長:2011/10/04(火) 20:10:11
暗がりに明かりがひとつ。
それに照らされるものは皺と無精髭、疲れの浮き出た曇り眼を持つ男性の顔だった。それ以外に見れるものはなく部屋の広さも、部屋にいるのかもわからない。
深く瞬く眼は何かを見るでもなく、ただ過去を、反芻するかのように昔を見つめている。そういった目だった。
あまりにも動きの見れないその顔は瞬きと僅かな呼吸を除いてまるで死んでいるかの様に、その暗がりの中で鳴り響いたアラートに気付いた時、ピクリと顎を持ち上げたのには驚くことだろう。
『レイヴン、聞こえてる?』
突如聞こえた女性の声に、レイヴンと呼ばれた男は顔の近くで指を弾いた。弾き手の近くからは電子画面がひとつふたつ、現れれば先程の声の主である女性の顔が浮かび上がった。
少し遅れたが、この男こそが〝ラストレイヴン〟と呼ばれている者であることを加えておこう。この世界で唯一にして最後の烏とされており、他者からは最強の称号を貼られ畏怖されている存在。
そんな彼は電子画面の女性と疲れた目を摩りながら話し交えた。時折聞こえてくる『寂れた街』や『武装勢力』など、聞き覚えのあるものだ。
「全滅?」
レイヴンは僅かに声を荒げた、画面の女性も同様に少々興奮の気が見れる話し方だ。そしてまた続ける。
そこからは女性の言葉を聞くたび男の瞳からは気だるさが失われ、そして輝きが見れるまでになる。余程のことを聞かされているようだった。
それに気付いた女性も勿体ぶるように言葉を濁し、レイヴンに続きを催促されては小さく笑った。
『えぇ、現地の残骸から映像データも取れた、かなり荒いし直後に撃破されているから確信を持っては言えないわ…ただ、ここまで特徴が一致するのも偶然とは思えない、多分生き残っている、貴方以外のレイヴンがね…覚えてるでしょ?彼の名前…―――』



「エヴァンジェだ、私の名は……」

あれから、少しして男は少女を見つけた。もう戻らないだろうと思っていたあの街外れ、あのレンガの道の上に彼女は腰を落ち着かせていた。
そんな少女に近付いた際、その顔に見える僅かな警戒心に心を痛めながらその少女へと名乗ったのだ。罵倒のひとつでもあるだろうと覚悟していた男を尻目に、少女はその顔から警戒の色をなくしそのまま座っている。

488隊長:2011/10/04(火) 20:10:31
仇討ちをしたと言えばよろこぶだろうか?

シャツの胸ポケットから煙草を、コートのポケットからオイル式ライターを、緊張に腕が震えた。火打ち石が上手く噛み合わない。
さり気無く歩み寄るつもりだったが足が縺れて転びそうだ、落ち着け、この娘のために色々と準備しただろう。そう自分の頭に渇を入れながらようやく点った炙り火に煙草の先を近づける。
彼女がこちらを見ているのに気付くと出かけた言葉が喉に詰まる、ただでさへ高い体温が更に上がってしまいそうだった。
首を横に振り脇道にそれた思考を正す。咥えた煙草を指に持ち煙と一緒に言葉を吐き出した。
「スープを作りすぎてしまたんだが…一緒にどうだ?」
無礼を詫びる意味も含めた言葉にも関わらず、震える舌に言葉を噛み誤った。そんな自分に情けなさすら覚える。
今すぐにでも言い直したい衝動を下唇を噛むことで抑え、返答を待つ。少女は言葉を返してくれるだろうか?余計な考えが頭の中を支配しないようそれだけを考え待った。
だが、声は聞こえない。額や鼻に嫌な汗が浮かぶような感覚。永い、今この瞬間がすごく永く感じられる。やはり素直に謝るべきだろうか?そうこうとしている内に危惧していたように余計な考えが男の頭を支配しかけていた頃、少女は口を開いた。
「また…痛いことする?」
少女は頬に、その下の布切れに、ぽろぽろと涙を零していた。
男の胸に稲妻のような感覚が、今すぐにでもこの心臓を抜き取ってしまいたいと思う程の痛みとなって駆け巡る。少女が持っているであろう銃で、この頭を撃ち抜かれればどれだけラクだろうか、少女に願ってでもそうして貰いたかった。
「絶対にしない…!誓おう!」
近寄った男のコートの端を掴み、少女は顔を埋めながら泣いていた。男も釣られて涙を流す。
この娘にどう接してやれば、私の胸の内の痛みは和らぐだろうか?この娘にも同じ痛みがあるならそれはどう和らげてやれるだろうか?痛烈に胸を打つ鼓動感じながら、男は考えた。だが、今の男には到底わからないだろう。不器用な男は泣きじゃくる少女の頭に手を置いた。
「スープ…飲むか?」
泣きながら少女は頷き、男もまたしゃくり上げながら少女を優しく抱き寄せた。

やめておこう、この子にはこれ以上…汚れを見せずにいたい ―――

489隊長:2011/10/04(火) 20:10:53

『でね、レイヴン問題は此処からなの』
画面に映る女性の表情に、そして言葉に、変化が見られ、画面を通して挟むレイヴンとの場の空気が変わった。
勿論話に続きがあることを、結末が悲惨なものであることをレイヴンは察していた。浮かれた気分などすぐに何処かへ消えていく。
『貴方が最後に彼と戦った時のことを……貴方が忘れたワケではないでしょう?』
蘇る記憶は新しい、そして忘れるべくこともないであろう…インターネサインでの決着。
ジナイーダとのやりとりの直前にレイヴンはエヴァンジェを殺した。そう信じきっていた。
倒される度にその力を増しながら形状を変えては再び現れる悪魔とも言えるその存在、彼がどうやったのかはわからないが、エヴァンジェはその力との融合を果たした。
そしてその存在は直接的な強さに関わらず、畏怖の対象でしかない。

「…パルヴァライザーか」

『そう、本人と断定したワケではないけれど彼は、エヴァンジェは…―――


〝無限に進化する力〟を有している


つづく

490隊長:2011/10/10(月) 16:34:09

「その獣の名」


ふと考えるときがある、此処に居る私が何なのかを。


哲学的な言葉を並べる気はないが、己の存在が自分の知る哲学というものよりも曖昧で、宙をぶらつくものだというのは事実だろう。
幼き頃の苦い思いも、死を迎える間近のことも、再び目覚めたそのあとも、変わらぬ記憶は色褪せていない。
だがその身体は、人であった頃とはまったく違う。
疲れを知らず、痛みを知らず、傷付くことを忘れている。
そして、それの代わりを務めるかのように、胸の内は酷く脆かった。


――― 人ではなかった烏<レイヴン>の心を持った獣<パルヴァライザー>、とでも言うのか。


男は呟きに一人笑う。
肌を掠めた風が冷たいものだとは知らず、蔓延る青は蒼白く、エヴァンジェを蝕んでいるものは煌きを見せるのだった。
その作り笑いに覗く微かな嘆きと共に。

491隊長:2011/10/10(月) 16:34:27
あれから4ヶ月、多くの企業が本社、支社施設を展開する都市部では急速な復興活動により様々な機能が回復している。
複数の車両用レールには既に貨物車両も見られるし、大型の作業用MT<マッスルトレーサー>や重機が騒がしくあっちへこっちへ。
柱の溶接によって吹き荒ぶ火の粉を避けながら走るヘルメットにスーツ姿の企業人などは何処か可笑しな光景だ。
そしてそれらを通してわかること、それは世界が確実に修復を遂げて行っているということだ。
一度分裂したアライアンスではあったが、各地で多発する頭を失った武装勢力による略奪行為、これへの抑止力としてクレスト、ミラージュ、キサラギは再度アライアンスの名を使い〝ラストレイヴン〟を企業側へと置くことに成功。
この絶対的存在を広告塔とすることで武装勢力の暴走はこれを機に激減し、歯止めが効かない程膨れ上がった勢力は企業側の部隊によって文字通り殲滅された。
それにより都市部から離れシティーガードすら存在しない小規模なコロニーでも復興作業が盛んになり、都市部の機能回復によって企業からの支援も円滑になった今、とある街にも復興という言葉は形となって見られた。
一人の男が身を隠す寂れていた街にも。

男は見惚れていた。
ケーブルを命綱に高所の僅かな足場を軽やかに渡っていく若々しい男性を、旦那にでもと焼いたのであろう香ばしいパンを包む女性を、露店を開くためか古びた木材に金槌を小気味良く鳴らす初老の男性を。
こうして自分達の住むべき街を自身の手で自身の足で、蘇らせ心地良い場所へとするため汗を流し、誰かを想い、動き続ける、この街に。

「人…か……」

その顔に見られる羨んだ瞳はどこか曇り沈んでいた。

492隊長:2011/10/10(月) 16:34:42

「どうしたの?」
隣から聞こえる、か細い鼻声に男はふと我に帰る。
街並みに忘れていた少女にそれを悟られぬ様すぐに作り笑い。
更に誤魔化しを畳み掛けるように少女の頭にポケットから抜いた手を少し力強く押し付けた。


「なんでもない、必要な物は買えたか?」
「リンゴに、缶コーヒー…缶詰もある」

そうか、どこか遠い眼差しでそう答えた男は少女と共に人込みの中へ。
活気付く通りの中で男の憂いはそぐわない、とでも言うような顔付きはもう見えなくなった。


二人は現在、初めて会ったあの街外れからそう遠くない、崩れた高層の建造物に住んでいた。
元から居住用だったかは定かではないが各フロアに放置されている生活用品は未だ使えるもので、それらを寄せ集めかなり上層の、壁が一部なくなっている部屋を選び腰を落ち着かせていた。
そこから見える風景は街とは反対方向に広がる崩れに崩れたビル群のみ、男が此処にしようと言った時少女は風通しがいいねと、歳相応とは言えない皮肉を男に向けた。
今では少女も此処での暮らしに満足している(男から見ればそう見える)ので悪い選択ではなかったのかもしれない。

493隊長:2011/10/10(月) 16:34:55

「…ひま」
壁の向こうにビル群を覗くことのできる書斎にて、男が耳にしたのはひどく端的だが少女がどういったことを望んでいるのか容易に説明が付く言葉だった。
雨を凌ぎ食う寝る以外のことは考えていないこの場所で、彼女は〝暇が潰せるもの〟を欲していた。
最近になり少女は子供には有って当たり前の我侭な面が見えてくる。辛い経験によって抑圧されていたそう言った面が垣間見えるというのは喜ばしいことだろう。
と、わかっているつもりではあった。だが〝幼い頃の自分〟はまったくと言って良いほど参考にならないことも知っていた男は、こういった時のマニュアルが欲しいと無精髭を困惑交じりに摩る。
さてどうするかと悩む最中、今しがた読んでいた一冊の本を思い出し少女に手招き、この歳の子が持つにはあまりに重く厚いハードカバーを渡してやった。

「アイラ?」

手渡された本の題を口に出す少女は、如何にも重そうにそれを抱えている。
可愛らしいその姿に眼を細める男は、良い本だぞ?と付けたし、棚からそれと同じ題の本を一冊取り出すと少女の前でひらひらと捲ってみせる。

「上下巻構成の、そっちは上巻、こちらは下巻だ。そっちを読み終えたら貸してやる」
「どんなお話なの?」
「レイヴンである少女の話だ、自由で気高く、そして強い……そんな少女のな」

既にペラペラと数ページ捲っている少女はぎっしりと詰められた文字に流し目、興味津々に男に問う少女へと。
繰り返し読み耽った本の内容を反芻するかのように男は髭を摩りながら勿体ぶったように、それでいて少しでも興味を持たせるように教えやった。
そう、本当のレイヴンの姿だ。
少女にも聞こえぬ声は呟き、無き壁の向こうに見える空は少しだけ紅く染まっていた。

494隊長:2011/10/10(月) 16:35:14

「エヴァンジェ、泣きそうな顔してる」
扉に手をかけた少女がこちらに振り返っていたことに気付き、彼女の言葉に思わず顔を触ってしまった。頬は濡れているワケではないようだが。
そんなことはない、と強がりの口調も流され抱える本を足元に、少女は男へと駆け寄りその勢いのまま座る男に抱きついた。
驚きながらも自身に顔を埋める少女の頭をゆっくりと撫でてやる。そんな男が今、どれほど優しい瞳で笑っているかを教えてやったらそれは驚くことだろう。
その顔に獣など影も見られない。

「エヴァンジェのこと、好き…エヴァンジェは?」
「無論、君が好きだ」

引っ張るコートから上目遣いに少女は頬を赤らめた。返す言葉も照れくさい、日の落ちる空のように男の顔もまた赤く。
シンとする室内、男の耳に届くのは少女の息遣いと身体を通して伝わる鼓動だけ。
それのなんと心地良いことだろうか。
男が知らなかった感覚、本来ならば知らずに世を離れていただろうこの感覚は、いつの間にか男の琴線に触れていた。
ほろりと零れる男の涙に少女は口を、つんと尖らせる。

「やっぱり」

流れる雫に、少女の言葉に、男は…エヴァンジェは無理にでも笑ってやろうとしていた。
だが上手く笑えない自分が居て、それに気付いた自分もあって、男の涙大粒のものと。

495隊長:2011/10/10(月) 16:35:30

〝あの頃<死ぬ前>〟の自分にこんな感情はなかった。

此処いるのはやはり、獣が模しただけのまったく別な存在なのだろうか。だからこんなにも温かいのか。だからこんなにも胸が苦しいのか。
今こうして感じている人間の様な感情すら粒子の思考でしか、0と1でしか、もっと高度なものなのか単純なものなのか。
ただ、そういったものでしかないのか。
ふと思い出す幼少期、人として扱われなかった自分、父と母の顔よりも深く刻まれたのは双方から受けた暴力の痛みだった。
人として扱われなかったが故に男は自分を捻じ曲げた、何が神託<オラクル>、何が選ばれた者なのか。
それは特別<ドミナント>を前に簡単に砕かれ、安いプライドすら残らない。
そして闇に堕ち、目覚めてから拠り所を見つけ、そこで初めて気付いてしまった。
獣になる前の、以前の自分はなんとも醜くひ弱な存在だったのだろう、と。

人として未完成で、烏として不恰好で、獣となった今あまりにも眩しい。

それが悔しかった。
そして恨めしかった。
何よりも ―――

「わからない、………わからないんだっ。自分が何なのか、どうすれば良いのか、どうしてやれるのかが!」

椅子から崩れ、膝を付く男はぐいと抱き寄せた少女の胸に泣いた。
少女の近くに居ると、男の心は温かく、それが獣であるが故と考えてしまうと、どうしようもなく涙が溢れてくる。
男がどこか、端で望むように。
自身が人で在れたならば、もしくは烏で在ったとき、この温もりをもっと早く、知り、感じたかった。
そう願うのは贅沢なのだろうか。

496隊長:2011/10/10(月) 16:35:48

『どう思う、レイヴン』
影を落とす女性の顔を映す電子画面に照らされるこの空間は相変わらず暗く、レイヴンと呼ばれる男は気だるそうな瞳に一握りの哀愁が。
これに気付いた女性は、勘繰るような瞳でレイヴンへと問いかける。

『同情しているの?』
「なんだか、見ちゃいけないものを見ちまった気がするよ」
『…そうね、以前の彼からはまるで想像できない。でも、企業と貴方、ふたつを仲介する立場として言わせて貰えば、精神が不安定だからこそ危惧すべき存在であり、早めに芽を摘むべきだと思うわ』
「不安定ねぇ、建前用意して三企業を再び統一、それでやることは道理のわからないガキと変わらん男一人を殺すこと…か。物のわかった大人ってのは恐い恐い」

画面の向こうからそれは皮肉?と言う声が聞こえたがレイヴンは軽く流し、重い腰を持ち上げた。どうやら彼は何かに腰を下ろしていたようだ。
一旦暗闇の中へと消えた男、次には眩い光源が天井から辺り一帯の暗闇を呑み込みかき消した。
どうやら此処は巨大な造りのガレージの様だ、飾り気もなく温かみもないただただ無骨な金属の空間。作業用のクレーンやケーブルがぶら下がる天井には大型のライトが幾つも並ぶ。
そしてその下に佇むは鋼の皮膚に身を包む白金の板金が眩い巨人。

「シーラ、出撃する。ガキの相手は同じガキが一番だ」

展開される電子画面の近くに戻ったレイヴン、その瞳には紛れもない最後の烏として鋭さが光る。
シーラと呼ばれた女性は目標と呼ぶ者の所在地を画面へ出力、そしてその画面には、エヴァンジェの名の代わりに並べられたパルヴァライザーの文字。
獣の烙印を捺されたことへの同情か、レイヴンはその表情を僅かに歪めた。

『あの時、ちゃんと止めを刺していれば…なんて責任感じる程度には大人なのね』
「……どうだかな」

白金のACに紅い瞳、各部から排出される蒸気は息を吹き返した姿の様に。
最強を冠したレイヴンは再び動き出す。

497隊長:2011/10/10(月) 16:36:07
男が平静を取り戻し、少女が書斎をあとにしてから随分と時間が経った。
崩れた壁の一部、手を置いて見渡すは月明かりの下浮かび上がるビル郡のぼやけた輪郭。眺める男の背中はいつにも増して憂いの影。
夜風を楽しむにはあまりに体温が高く、一人で居るにはあまりに冷え切った心。そんな男に呼応するかのように青はその熱を剥き出している。

〝だからお前は犬だと言うのさ!〟

今にして思う。

「犬であると認めた方が幾分格好は付いただろうか」

椅子に投げていたコートを手に書斎の戸を足で、男と同じくらい独り言の多い蝶番にうんざりしながら通りを抜け広間へと。
出口に向かう途中でつい寝室の戸に手が伸びてしまった。隙間から覗くとベッドの上では本を開きはなしにすやすやと寝息をたてる少女。
物音を立てぬように挙動も遅く、灯ったまま忘れられているランタンの摘みを捻った。
出戻りに男は少女の髪に触れようと手を伸ばすが、指先に戸惑い、それは握り締められた。加わる負荷に負けた指先から赤い血が、それに続いて輝きが。
開いた掌に戸惑いも傷もない。


気付けば男はその足を馬車馬のように走らせていた。闇雲にただ只管に。
理由はわからずとも知れたこと、止まるまでこの足、止められるまで走りたい。
目前のビル群は生憎何処までも続いている。男は此処の果てを見たことがないから少なくともそう思えた。

498隊長:2011/10/10(月) 16:36:23

――― 少女は

目覚めてから開いたままの本に気が付き、それを閉じる。
口元を拭う際扉が開いているのがわかり、周りにエヴァンジェがいるのではと周囲を見やるが見当たらない。
少ししてから少女が違和感を覚えたのは寝起きの靄が抜けたから、部屋だけでなく何処からも人の気配がない。
寝室を飛び出し書斎の方へ、戸を開いても彼のそっけない言葉は聞こえない。

「エヴァンジェ?」

呼吸が荒くなるのを感じた。普段利用している部屋を、扉を出た先の同階層の部屋という部屋まで駆けずり回った。が、見つからない。
少女の内には久しく忘れていた孤独、また一人になってしまうのでないかという恐れ、それは不安となり胸の内を急がせた。
トクントクンと急ぎ足の鼓動、それにつれ肺が潰れていくような錯覚に息は乱れ、少女の頬に涙は浮いている。

――― エヴァンジェは

崩れた建材に埋もれた道なき道をひた走る。兵器の残骸が車両の残骸が、そこかしこに転がるこの場所を。
躓き、転び、身体を打ち付けても、男の足は止まらない。
ただ、こうやって我武者羅に進んでいけば、あそこから離れれば、もう獣は人に依存し続けることもない。
人である少女を、人のフリした獣が騙す日々も終わる。
それが少女の望まぬことでも、男が望んでいなくとも、正しい選択でなくとも。
全ては衝動に任せたものなのだから。
喉まで出掛かった「どうすればいいっ!」の一言を飲み込んだ。

「私は…獣だ」

代わりとなった叫びのなんと弱々しいことか。

499隊長:2011/10/10(月) 16:36:40

『どうしたぃ?エヴァンジェ、そんな顔して……自分を忘れたか?それともわからないか?』

薄らと浮かぶ涙にぼやける瞳を空へ、見上げる月明かりに白金、そのいぶし銀はビルの上、こちらを見下ろしている紅が強烈に脳を刺激する。
投げかけられた外部スピーカーからの言葉は機器を通した特徴的な曇り声。それがエヴァンジェの足を止めたのだ。

――― ラストレイヴンは

            『感傷を持って…歓迎しよう』

                            そこにいる ―――


つづく

500隊長:2011/10/19(水) 14:17:30

「その〝 〟の名」


感傷を持って歓迎しよう ―――

烏の言葉は響く。
月明かりに照らされたこの場所に。
その言葉を向けられた者、エヴァンジェにも当然。

「ラスト…レイヴン……、レイヴンッ!!」

怒りであった。
男の表情が物語るのは。握り拳が震えるのは。

「私が!どう見える!!」

足元に靄靄と揺らぐ青の中を濁る粒子。
感傷に溺れる感情は周囲の金属に干渉していく。

それはまるで、すぐに癇癪を起こす

「この姿が!!どう見える!!!」

501隊長:2011/10/19(水) 14:17:48

『子供だ』

ラストレイヴンの眼下、金属と瓦礫と砂煙、粒子と感情とが渦巻き残骸を呑み込んでその姿を現した。
胴から脚に代わり伸びる二対の棘状の射出機に後方へと向けられた巨大な推力機。そしてフレームに走る、フレームの色すらも変えている青。
青いパルヴァライザーに放つ言葉。

『わかんないわかんないつって癇癪起こす、起こした理由までわからないなら言ってやる』

射出機から繰り出される誘導性の高密度エネルギー体はレイヴンへ。
迫る誘導弾に脚を動かすこともなく、レイヴンは続ける。

『ガキだ!認めろ!!』

ほんの数瞬後には直撃するであろう緑の線を引いて近づくそれを前にレイヴンは吼えた。
ミラージュ製の頭部パーツ、マンティスに備えられたセンサーは反応、レイヴンの乗るいぶし銀の機体、クレストとミラージュのフレームで構成されたAC<アーマード・コア>は並のものとは企画が違った。
そしてそれを把握しているからこそ、彼はその脚を突き立てる構造物から離れようとはしなかった。
何故なら、直線的な斬れのある頭部は縦に割れ、真横に開かれた怪物の口の様な機構は絶対障壁を

―― カ イ ル ス 粒 子 開 放 ――

カイルスフィールドを展開する。
散布するナノマシンが集束された高密度のエネルギーを四散させ、それは拡散させられた熱として消えていった。

『お互いにな。やんちゃするのはもう終らせなけりゃいかんのさ…』

502隊長:2011/10/19(水) 14:18:08
少女はひた走る。
躓き、転び、身体を打ち付けても、少女の足は止まらない。
ただ、こうやって我武者羅に進んでいけば、短い足を突き動かせば、エヴァンジェに少しでも近づく。
何時までも変わらない瓦礫ばかりの風景も、残骸に足をとられるこの道なき道も、男に会えれば終ると。
全ては衝動に任せたものなのだから。

「エヴァンジェ!!」

――

「エヴァンジェ」

暗闇に男は影を落とす、それのどこまでが影でどこからが闇かはわからない。
そして自身の名を耳にしながら、男はただじっと座っていた、冷たい影の上に。

「わからないなんてズルいよ、もうわかってるんでしょ」

俯く男の前にはどこか薄幸を纏う少年。
まるで目の前の男をそのまま幼くしたようで、それが男にとって見覚えのあるものなのは言うまでも無く。
顔や細い腕に幾つも見える痣の中には今でもその痛みを思い出すものばかり。
いつまでそうしているの?の問いに男は唇を固く結んだ。

503隊長:2011/10/19(水) 14:18:23

本当に獣ならよかったと思ってるんだよね ――
男の口から返事はでない。

自分が自分じゃないって、ずっと前からそうだったことに気付いてた。でしょ? ――
返事は軋む歯で。

「例えば…僕<君>の頃から、とか」
そう言って少年は、自分を指差した。その指は同時に男にも向けられたものであった。
男はずっと背伸びし続けた。
結果は目の前の少年から幼さが抜けただけのもの。

「認めたらもう何にもなれない!そうだろう!!ずっとこうだった……」
「それも含めて、もうわかってるって言ったんだ……あとね、少し勘違いしてる」

男は顔を上げた。
勘違いとは。

「獣になってから人らしく在れたんじゃないよ、忘れたの?自分が本当に自分か獣かどうかを意識しだしたのも全部 ――

エヴァンジェ!!

504隊長:2011/10/19(水) 14:18:37
男は確かに少女と自分を重ねていた、あまりにも似ている瞳に。
他人とは思えなかった彼女の強がりに。
同じように知らずに堕ちていくのが見えていたあの少女に。

「何にもなれないのは変わらない」
「そう、でも…与えることはできる。いや、できてたよ実際に」

人として未完成なら、それを手本にさせればいいさ
想い ――

烏として不恰好なら、不恰好なりに格好付ければいいよ
熱い想いは ――

獣として眩しいんじゃない、あの子と居る君<僕>がそう映っただけ
この想いはもう ――

「止まらない」

男の瞳に輝くのは、青ではない。

505隊長:2011/10/19(水) 14:18:55
ラストレイヴンは変わらずに見下ろしていた。
瓦礫の上に転がるのは既に瓦礫と見紛うまでに砕かれた青のパルヴァライザー、その上半身に当たる部分が折れた腕や無い脚をどうにかしようと蠢いている。
それはまるで脚や羽を失った虫の様で、そしてレイヴンの駆るACの白金の装甲には目立った損傷は見受けられなかった。
右手の主兵装であるハイレーザーライフルKRSW、大型の集束熱量射出機構からは数百とまで上がった熱が煙として。
左手の主兵装である腕部携行用のハンドレールカノン、射出口から伸びる三本のバレルからも同じように煙、バレル表面は高温によってその色を変える程。

『手は抜かん、あの時と違ってな』

そう言ってACは男の言葉に従うように。
男がそうさせるように、左手のレールカノンを構え、そのバレルからコンデンサから、可視化するエネルギーは攻撃性を剥き出しに。

『跡も残さんよ』

放たれた一直線の雷光の眩しさに、星の光すらも翳る。弾頭の直撃と同時に生じる爆発は一度球状に膨張したのち、中心へと収縮。
それから形と言える形を成さない炎が爆風と共に広がっていく。炎に呑まれずに済んだ物も砂煙の混じった、と言うには幾分濃い風に隠される。
そうなる筈であった。
弾頭直撃を前に突然の光、青ではない、パルヴァライザーのコアに位置する部分からの突然の爆発。
レールガンから放たれた弾頭は威力を殺され、爆縮球体から伸びるマニピュレーターに握られていた。
濃淡のある煙の中に浮かび上がる人型の影。晴れてくれば目に見える青のフレームは板金の装甲。鋭い紅は感情の燃える想いの瞳。

「認めよう、レイヴン」

男が、エヴァンジェが搭乗する浅葱のAC、オラクルは、レイヴンを前に現れる。

506隊長:2011/10/19(水) 14:19:21

『憑き物でも落ちたようだな、聞かせろよ』

両手の大筒で狙いを澄まし、地を駆けるオラクルを叩き付けんとするレイヴン。
夜空から星が降るが如く注がれるKRSWの光弾、しかしブレード以外の装備が排除されているオラクルは持て余した俊敏性によって回避。
瓦礫を踏み潰し、奔り抜け、脚部の筋を目一杯に壁を蹴り上げる。少しでも前へ、少しでもレイヴンの佇むあの場所へ。

「私に勝てたらな」

強がりでも良い、あの特別を前にすれば、霞まない者などいないのだから。
電磁加速によって空気抵抗と知覚領域を抜ける弾頭を跳躍によって避けた。後方のビル群を巻き込み吹き飛ばすその威力に戦慄しながらも推力と共に踏み込む。
あと少し、男の目前にレイヴンは居る。
その脚をどっしりと据えコチラを睨むあの白金を。
この距離なら!そう見切ったエヴァンジェは両腕のブレードを月光の直射集束レンズから伸びる蒼刃を、振り抜くと同時に出力の調整、刀身を視覚不可の武器とし飛ばした。

『カイルス粒子開放』

直撃寸前の射出された光波は打ち消された。
カイルス機構を展開するマンティスは奥底に、大きなナノマシン調整構成機を煌かせ、それはまたも戦慄の対象となる。
良い攻撃だな?レイヴンからの通信に余裕が見られた。
タネ明かしだと並べられる説明『カイルスフィールドはエネルギーの集束を大幅に低減、四散させその威力を殺す。近距離での殴り合うにはソッチは少し揃いすぎてる、だろう?』と冷ややかに。
これを聞いたとき、エヴァンジェはその影響を回避する策など思いつかなかったのも事実、粒子の性質からしての問題でもあったのだから。
だからと言ってただ指を咥えるワケでもなく、先刻の強がりの言葉とも違う。

「試してみるか?レイヴン」

507隊長:2011/10/19(水) 14:19:36
…天高く流れる星に撃ち込む自信など私にはない
星を背に、衝撃波を撃ちやるレイヴンを前に、時間すら縮める光の前にはどのような動きを取ろうとも無駄なことだ。
エヴァンジェの脳裏にふと過ぎる言葉と考えがあの時を思い出させたが、無駄なこと、そうは思えない。今なら捉えられる。
威圧と異型を持つ長槍の如きKRSWから驚異の速度で瞬間的に射出し続けられる光弾の雨。
視覚から得る周辺の状況、状態と光弾の予測落下地点、自身の出せる最大速度と、確保できる脚取り、踏み込み位置。
避けられない、機体の損傷度から問題にならずに済む弾は無視。しかし直撃すれば確実な致命傷となり得るものが一から三発。
ぐるぐると巡る考えの中、刹那に選び出した策。
エヴァンジェは光弾を叩き落すと決めた。
両の腕に備えられた金色のブレードフレームから、蒼の刀身を伸ばせば僅かに触れた部分からは火の粉。
光弾網との接触地点へと突入し加速する推力機を絞り込み、初弾、コアへと直撃する光弾を右腕のブレードで除去。
そこから振り抜いた腕を地に、その支えを主軸に各推力を順に吹かして加速度を生かしたままの脚を浮かし、空転、瓦礫で埋め尽くされた足場を削っていく光弾の隙間を縫い着地。
主推力をもう一度全力に、回転を加えたままの姿勢から二、三の光弾を打ち落す。
この間に減速は見られなかった。

『早過ぎる、これは…』

レイヴンの脳裏にも言葉は過ぎる。
無限に進化する力、そんな実在する御伽噺を。だがそうだろう、以前とは違いすぎるのだから。
無茶な連続射撃を試みたせいで、ACの出力機は一時的な出力不足。その脚を一度構造物の上に突き立てる必要があった。その合間の考えだ、嫌な汗を感じるのはあの時以来か。
今目前に迫る男との戦闘の後に戦った彼女のことを思い出す。
エネルギーの回復は間もなく、迎え撃つ準備を。レイヴンは標準調整と火器管制の変更、前面に展開する防御スクリーンの被弾角度や展開構造の二重化三重化。
カイルスのナノマシン残量はあるが、不安要素は残る。
エヴァンジェとの距離、あと僅か。

508隊長:2011/10/19(水) 14:19:55

しかしほんの数瞬、間に合わず。

直線状の構造物を足場に、高出力の推力を全開に最大の加速度をぶっ放して最後の足場を蹴り崩しレイヴンへと跳躍したオラクル。
を、チャージが完了したレールカノンが襲う。
ほんの一瞬、先行する閃光に気付いた瞬間には知覚領域での察知不可な弾がオラクルのフレームを貫き、衝撃と同時に空中で爆発。
黒煙の塊は慣性に従い弾の過ぎて行った方へ、後に重力に従い下へ下へと。

砕け散るオラクルは粒子となり黒煙の中にちらちらと。
その煌きの少なさに虫の知らせ。

「レェェイィヴゥンッッ!!」

失った右半身、そこから散っていくは鮮血の様に粉となり流れる破片。纏わりつく黒煙の壁、その糸を引き千切りオラクルは再動。
関節の限界にまで引いた左腕に光るブレード、それはレイヴンを目掛け突き動く。

『カイルス…! ―――




瓦礫に落ちる雨粒は終わりの合図となった。
辺りに充満する硝煙の香、風に混じる砂、そして白金のフレームに滴る赤黒いオイル。
全てを洗い流す。

『レイヴン、応答して!レイヴン!』

夜明けに滲む紺の空の境、朝霧に雨音と女性の声はこだまする。

509隊長:2011/10/19(水) 14:20:21
何者で在れなくとも、何も無くても構わない
こんな抜け殻みたいなざまの私を見て、同じ瞳の少女は歩み寄ってくれた
類は友をと言うのか、一緒に堕ちていくとばかり思っていた
だが、あの子は泣いてくれた、笑ってくれた、優しく、温かかった
同じにしてはならないと、教えてやりたかった
だから、今更自分がどうであろうと、構わない
やっと気付けたことに、手が届く気がするから…―――

「…とさ」

レイヴンは雨水に顔を打たせた。
汗と疲れは憂色を残し流されていく、それと同時に嗚呼の声。
彼のACの装甲に響く雨音と一緒に叩くのはブーツ、伸ばした手で引く緊急用のレバーは頭部パーツの強制分離機能。
固定ボルトの雷管に点火、指向性爆薬の起爆と同時に支えのなくなった頭部はコアの上で転がりレイヴンはそれを蹴り落とす。
ボルトの爆発以前に酷く歪み破損して、原型を失っていたそれは数メートル下へと落ちていく。

『…勝てたのね』

レイヴンの語らいに耳を傾けていたシーラは、彼のヘッドセットへと言葉を。
まぁな、と寂しげの呟きに彼女はトドメを刺せたかどうか、そんな野暮なことを聞くことはできなかった。

「俺から言わせれば…高望みでもしてんのか、どれにでも、そう在ることはできていたと思うがな」

生真面目なのか、考えすぎなのか。そう口走るレイヴンの顔にもどこか幼さが。
同じ子供、そう思っていたエヴァンジェが、今の彼からはとても大きく見えていたから。

「周りの意じゃない、本人がそう思っている以上、何も変わらないのさ…結局」

510隊長:2011/10/19(水) 14:20:46
足を滑らせた。
雨で濡れたこの場所を短い足で歩くのは困難だろう。
だがそれでも、少女は足を止めない。疲れで既に震える足に鞭を、少女の顔は苦痛で歪むも歯を食い縛り強がり。
最早顔を流れる涙は雨と混じり見分けなどつかない。しかし消えることはない、少女の瞳からはずぅっと流れ続けている。

「……エヴァンジェ」
「すまん、格好付けてみたがやはり負けてしまったよ」

突如聞こえた、ずっと求めていた声が、その主が、見上げる少女を前に立っていた。
何を言うでもない、下唇をきゅっと噛み、溢れる涙や言葉にもできぬ情を、近付き、抱きしめることで我慢した。
ぼろぼろで薄汚れて雨にずぶ濡れの二人は身を寄せ合い、肩を震わせた。

「エヴァンジェの身体、つめたい…すごく、すごく冷たい。ぎゅってして、温めてあげる…から、だから!もう居なくならないで!一緒にずぅっとずぅぅっと、一緒に居てよ」

少女がひしと抱きついた男の身体の冷え、それが何を意味するかなど彼女は知る由も無い。
この時、男の腕の振るえが彼女の身体からやっと感じることのできた温もりによってのものであることだと言うのも、また同様に。

「あぁ…あぁ!誓おう!」

エヴァンジェが胸の内で叫ぶ、すまないの言葉に理由はふたつ。

511隊長:2011/10/19(水) 14:21:05

それから間もなくして、男の誓いは破られた。

間もなく、とは言えそれは男にとってのことだ。
あれから男は少女との一日が、それはそれは早く過ぎて行くよう感じられたから。だが実際に長い月日を共にできたワケではないのも事実だ。
この短い間に、少女に何か与えることはできたろうか?最後に目を閉じた時、闇に呑まれる最中で感じるは不安。
少女が男の名を呼ぶのが聞こえる。
そうだ、と男は思い出す。自分に残こされた本当に最後のものを、少女に与えようと。
それを口にした時、少女が一体どんな顔をしてくれていたかはわからない。
だが、しかと与えたのだ。喜んでくれたかどうか、よく考えれば女の子に似合うものでもないだろうか。
いっそう強く握られた腕は喜びからか?だが不思議と安堵に包まれ、そして消えて逝く。
こうして男は、本当に何者でもなくなった。


「ありがとう」


冷えきった手を強く握り、涙に濡れた手向けの言葉は目覚めることのない男へ送られた。
うそつきと、声を大にし叫びたい。そう思うことすら忘れ、今しがた与えられたものを口に。
それは、その〝少女〟の名 ―――

512隊長:2011/10/19(水) 14:23:51
進藤さんのエヴァンジェ短編の続きの三部作?おわり
長々と書いたに割りに中身は単純ですねとか思っても言わない
でも読んでくれるだけで感謝感謝

513怠け ◆0.IX.pGGyU:2011/10/31(月) 22:17:07
(・_ν゚)チラ裏 製作中SSの設定メモとか。

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世界観について。
・SL世界とNX世界の混合した物。

公式設定では3→SLの間が20年、SL→NX間が56年、NXのエンディングから半年でラストレイヴンとなっている。
が、この作品では、3→SLの間を5〜10年、SLとNXは同時期とする。

SL側大陸には東に未踏査地区が存在し、各企業が関心を強めている。
ここではミラージュ・クレスト・キサラギの古参三企業と、ジオマトリクス・エムロード・バレーナの新鋭三企業が六つ巴の抗争を繰り広げている。

その南側には海を挟んでNX側のナービス領が存在する。
企業間抗争と、サイレントライン内の無人兵器・衛星砲の砲撃などで思うように未踏査地区を調査できないミラージュが、
ナービスから新資源を奪おうと侵攻中。

ナービスの規模自体は上記六大企業と比較するとかなり弱く、本来ミラージュに太刀打ちできる物ではないが、
ミラージュと敵対する他の五企業からの支援を秘密裏に受け、なんとか戦線は膠着状態を保っている。
LRマップはNXエリアの更に南。
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≪NXの地理≫
北から順に、
・北西(マップ左上)に『マレア砂漠』。 キサラギ植物プラントのあるロボス高地などがある。
・北東(マップ右上)に『多目的演習場』。レイヴンズアーク所有。
・北(マップ中央の真上)に『レクタス平原』。
・レクタス平原から少し南西(マップ真ん中よりちょっと右上)に『ベイロードシティ』。
・マップど真ん中に『コイロス湖』
 カルバ山岳地帯のふもとにあった大きな窪地をナービスが整備して作った、巨大なダム湖。
 南方に建設されたコイロス浄水施設で浄化された水が、地下の配管を通ってベイロードシティに供給されている。

・コイロス湖から少し南に『カルバ山岳地帯』。アークでのアリーナに使用されている土地。
・コイロス湖から南東(マップど真ん中から少し右下)に『アバクス平原』。
・コイロス湖から南、やや西側に『ルガ渓谷』。
・南西(マップ左下の隅)に『ヌクレオ地区』。ここにボルボス採掘場や、ラストで大変な事になる旧世代兵器制御施設が存在。
その更に南には、LRで舞台となるガラブ砂漠やサークシティなどが存在。

514怠け ◆0.IX.pGGyU:2011/10/31(月) 22:18:34
LRマップについて。 「マップど真ん中にあるサークシティが重要な舞台」
・マップ北西に『アイザール・ダム』
 アイザール山脈の上流域、
 ザイル湖に建設された大型ダム。
 堅固な堤防の内部では、
 複数の発電施設が休むことなく稼動。
 サークシティ周辺のエネルギー供給施設は
 ここと都市動力炉の2箇所しかなく、
 そのどちらも、バーテックスが握っている。

・アイザール・ダムとほぼ同位置に『ザイル発電所』
 アイザール・ダムの堤防内部にある発電施設。
 MTによる作業に適したサイズで
 設計されたその内部は、想像以上に広い。
 また、発電所内の各設備に、ミラージュ、
 クレスト、キサラギ製の部品が使われるなど、
 アライアンス設立以前に、意外なところで
 3社間の技術協力が実現している。

・北東の『アバクス平原』
・アバクス平原とほぼ同位置に『タートラス司令本部跡地』
 旧企業・ミラージュ社が建設した軍事拠点。
 最新鋭の防衛機構を備えながら、
 無数に飛来する無人兵器の猛攻の前に、
 あっけなく壊滅。
 同社の誇る軍事技術の集大成として、
 歴史に名を残すはずであったこの司令本部は、
 その冒頭に、屈辱の記憶を刻むこととなった。 

・マップ中心から東に『ファサード前線基地』。
 アバクス平原の最南端に位置する軍事拠点。
 新兵器の性能テストに使われたクレスト社の
 施設だったが、アライアンスの設立と同時に
 合同演習場に改修された。
 しかし、バーテックスの台頭によって、
 急きょ、サークシティ攻略のための
 前線基地として利用されることになった。

515怠け ◆0.IX.pGGyU:2011/10/31(月) 22:19:13
・サークシティよりやや北東に『ディルガン流通管理局』。↑の前線基地より更にマップ中心のサークシティに近い。
 クレーダー山地の地中を貫く交通の要衛。
 アバクス平原以東の産業区エリアと、
 サークシティとを繋いでいる。
 施設内部は、車両用大型リフトで通行を
 制限しているなど、セキュリティには、
 万全の態勢が敷かれている。

・ファサード前線基地のすぐ南西に『トライトン環境開発研究所』
 キサラギ社が、ある企業と共同で
 設立した研究施設。
 環境開発という言葉の指す意味も、
 その研究内容も、実態は一切謎である。
 アライアンス発足にともなう再編成の後も、
 キサラギ派と呼ばれるグループによって
 密かに研究が続けられていた。

・サークシティのほんの少し北東に『ウォルター資材保管区』
 サークシティの東に位置する巨大な地下倉庫。
 攻勢を強めるアライアンスへの対抗措置として
 ジャック・Oが最初に制圧した拠点。
 網の目のように張り巡らされた
 輸送ルートを駆使したバーテックスは、
 驚異的な速さで周辺各地を掌握していった。

・サークシティからやや北西に『都市動力炉キエラ』
 サークシティ全体の
 エネルギー供給を担う巨大プラント。
 シティのシンボルとも言える2本の塔は、
 地下にある炉心に生じた熱を、大気中に逃がす
 ラジエータの役割を果たしている。
 全高は、600メートル近くあり、
 遠くからでもその勇姿を眺めることができる。

・ド真ん中に『サークシティ』。
 統一規格で連結された都市複合ユニット。
 サークシティという名称は、
 無人兵器襲来の際、奇跡的に壊滅をまぬがれた
 円形の範囲を指して、呼ばれるようになった。
 現在、アライアンス打倒を掲げる
 バーテックスが、ここを本拠地としている。

・サークシティのちょっと南に『旧・ナイアー産業区』
 サークシティ中心部にある都市区画の1つ。
 廃屋同然となっている同地区だが、
 クレスト本社ビルが入っていた当時の
 名残である、強力な警備システムは健在。
 アライアンスをはじめ、形勢逆転を狙う
 各勢力の思惑が、ここで激しく交錯する。


・マップ西に『ホルデス採掘場』(NXの採掘場と名前は似ているが別物らしい)
 安価なエネルギー資源を大量に含んだ鉱山。
 行き過ぎともいえる利権争いの焦点となった
 時期もあったが、新たな資源の登場とともに
 その需要は激減。廃鉱となった。
 現在ここは、どの勢力にも属さない
 小規模な武装集団の拠点となっている。

・ホルデス採掘場よりやや南東に『ACガレージ・R11エリア』(ズベン・リム戦の場所)
 ACの機体整備に適したガレージ。
 レイヴンズアークに登録された者のうち、
 特に信頼性の高いレイヴンに無償貸与された。
 しかし、管理者であるアークの消滅後、
 その所有権を巡ってレイヴン同士が争った際、
 ガレージの1つは大破してしまった。

516怠け ◆0.IX.pGGyU:2011/10/31(月) 22:19:34
ルガトンネル
 かつて採掘資源の運搬を担った輸送ルート。
 無人兵器の襲来による傷痕が
 橋の至るところに、生々しく残されている。
 窮地に追い込まれたアライアンスにとって
 この補給線は、組織の命運が掛かった
 生命線とも言える、最重要拠点である。

・マップ南東に『ベルザ高原』(プリンシパル戦トレント戦の場所)
 クレーダー山地の南に広がる高原地帯。
 アライアンスは、アバクス平原から
 ここを中継し、サークシティ侵攻を開始。
 その動きを察知したジャック・Oは、
 ただちに腕の立つレイヴンを派遣し、
 アライアンスの思惑をことごとく粉砕する。

・ベルザ高原とほぼ同位置に『サイナス飛行場』
 浸蝕地形を活かして建設された飛行場。
 その戦略的重要性に着目したジャック・Oが、
 敵対する独立武装勢力の拠点であることを
 知りながら、単機、交渉に赴いた。
 そして極限の折衝の末、1発の銃弾も使わずに
 施設だけでなく、武装勢力の精鋭部隊をも
 味方につけることに成功し、現在に至る。

・サークシティからずっと南、マップ最南端に『ガラブ砂漠』
 サークシティの南に広がる砂漠地帯。
 資源も乏しく、あまりに過酷な環境のため、
 現在、領有権を主張する勢力はない。
 しかし、アライアンスとバーテックスの衝突が
 激化するにつれて、局地的に戦場と化した。
 「ガラブ」とは、死者の埋葬所の意味。

517怠け ◆0.IX.pGGyU:2011/10/31(月) 22:20:23
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
[グローバルコーテックス]
地下世界から引き続き、地上においてもレイヴンを統括する役目を担う。
地下アリーナ(旧アリーナ)と地上アリーナ(新アリーナ)の2つで、100名近いレイヴンが所属している。


[レイヴンズアーク]
地上進出後に登場した、レイヴンを統括するもう一つの機関。"アーク"と略されることも多い。
「新資源」をめぐる抗争はこの機関に属するレイヴン達の活躍によって辛うじて均衡を保っている。
また、レイヴンを統制するための規約も存在しており、違反者には粛清や追放等の制裁を加える。
ただし、これを嫌ってアークを離反し、独自の行動をとるレイヴンも存在する。
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[六大企業]
・ミラージュ
・クレスト インダストリアル
・キサラギ
地上進出後に登場した以下三社を含め、六大企業と呼ばれる。
・ジオマトリクス
・エムロード
・バレーナ
管理者亡き今、世界の支配権を持っているのは彼ら。

・地上進出当初はミラージュ、次いでクレスト、それに大きく差を付けられキサラギの勢力だったが、
三社それぞれで内部分裂や子会社の独立などが発生。
ミラージュからジオマトリクス、クレストからエムロード、キサラギからバレーナが独立、離反、分離した。
キサラギとバレーナは別々の企業となった後も資金や人材など助力し合う事がある。
クレストとエムロード、ジオマトリクスとミラージュは、上層部と対立した結果生まれた物なので関係は険悪。

518怠け ◆0.IX.pGGyU:2011/10/31(月) 22:20:58
[ミラージュ]
地下世界レイヤードの時代から最大の勢力を保ち続ける企業。
サイレントラインに存在するとされる未知の力を欲して積極的な調査を繰り返すが、他企業の牽制や謎の勢力による妨害で未だ成果を得られない状況にある。
同時に、海を隔てたナービス領にも「新資源」を狙い勢力を拡大させつつある。
ACパーツは、最新の技術を惜しみなく投入した高性能かつピーキーなものがそろっている。

[クレスト・インダストリアル]
ミラージュに次ぐ力を持つ企業。
サイレントラインの力を手に入れることよりも、ミラージュの独走を抑えることに重点を置いている。また、レイヤードの維持、復興にも力を注いでいる。
ミラージュに対抗するため、兵器の供与などで、密かにナービスを支援している。
ACパーツは、信頼性と生存性重視で直線主体のものが中心となっている。また、OBタイプのコアをリリースしている。

企業体質を語るエピソードとして、
地下世界時代、複数の地区における環境制御システムが故障。水質の悪化と空気汚染、幾つかの爆発事故と火事により多くの市民が犠牲になるという事故発生時、
該当地区の一つであるセクション22に活動拠点を築いていたクレストは、この事故で大打撃を受けたが、被災者の移住事業を優先したことにより市民からの信頼を得た。
また、人類の地上進出後には、他企業を
「地上の管理にばかり偏重し地下世界の管理はなおざりのままだ。 未だ、人類の大部分が地下世界に住んでいるにも関わらずにだ」
と批判し
「管理者がいない今、レイヤードに居住する多くの住人に目を向ける事もまた、企業のつとめだと考えている」
と公言するなど、ACパーツの開発方針だけでなく国家の代役としても堅実な姿勢を見せている。
戦力としてのレイヴンの存在を重要視しており、水面下では積極的に有力レイヴンの囲い込みを行っている。

[キサラギ]
地下世界の騒乱で大きな痛手を受け、弱体化を余儀なくされた企業。
サイレントラインの調査よりも自社勢力の建て直しが急務となっている。
高い技術力を持つ企業。立場は中立に近い。
ACのフレームパーツの製造には至っていないものの、ジェネレーターやFCS等の内装機器に関しては一定のシェアを持ち、
射突型ブレード等をはじめとした他社の製品とはまったく違う発想から造られたパーツも多い。
また、生化学工業の分野では他社よりも優位に立っており、生物兵器の開発にも着手している。
ナービスと提携し、新資源の調査を進めている。

519怠け ◆0.IX.pGGyU:2011/10/31(月) 22:21:49
[ジオ・マトリクス]
ミラージュから離反した企業。
作中ではジオ社と略される事も多い。
ライドックス(食品)、ニューザイオン(重工業)、メルトラル(建設)、
ウェブナーズ(エネルギー)、ジオエクスプレス(航空・運輸)の5社を中心に多くの企業を傘下に治めたことで成立した。
研究機関として[ムラクモ・ミレニアム]を所有する。
ミラージュから人材や技術が流出しているとは言え、地上進出後に現れた企業であるため、
ミラージュ・クレストの二強と比較してしまうと勢力規模は見劣りする感がある。
それ故、企業間の紛争に於いては自前の戦力ではなく、レイヴンの積極的な利用によって他企業に対抗している。
他、拠点防衛用兵器として、後述のエムロードとの競合を避け、「サイレント・アバランチ」なる狙撃兵AC部隊の編成を進めており、
遠距離狙撃戦を得意とするレイヴンのスカウトに奔走している。


[エムロード]
クレストから独立した企業。
エネルギー企業のセプテムがギムレブナー(重工業)、ローレス(軽工業)、
オレージソフトウェア(ソフトウェア)、オレージ(コンピュータ)、黄港電工(建設)、ベルメルト(航空・運輸)
等との合併、吸収を行って誕生した企業である。
質実剛健の風土を持ち、ACパーツなどにもその方針が現れている。ジオ・マトリクスとは対照的に、実弾武装を多くリリースしている。
勢力強化に躍起になっており、そのためには積極的な実力行使も辞さない。プライドが高く、強引かつ高圧的な態度をとることが多い。
が、その姿勢とは裏腹にジオ社と同じく地下世界時代からの既存企業には、勢力的に及ばないのが実情である。「
過激派じみた狂犬集団として、大元のクレストから厄介払いされた実力者達を「クロームマスターアームズ」という実行部隊として抱える事に成功した。(アークには秘密でΩ所属)
ストーリー中盤、その結果として「代替可能な多数の凡人によって制御される安定した戦力」として機動武装要塞(アームズフォート)」計画を立ち上げる。


[バレーナ]
独自の技術力を武器に急成長を遂げた企業連合体。
ジオ・マトリクス及びエムロードとの格差は未だ大きく、
ACのフレームパーツの製造には着手していない。ただし、ジェネレータやラジエータ等の分野では画期的な技術によって一定のシェアを確保している。
中心となった企業は情報通信企業のバレーナ・コミュニケーションズ。
他に、バレーナ・インダストリー(重工業)、バレーナ・ケミストリ(化学工業)、バレーナ・エイジェンシー(人材派遣・傭兵仲介)がある。
バレーナ・エイジェンシーは大道芸人から傭兵まで手広く派遣する企業だが、ACを駆る傭兵(=レイヴン)に関しては対応していない。
これはこの時代においてレイヴンの仲介業を行うコーテックス及びアークとの衝突を回避したため。

・ナービス
旧世代の遺産である「新資源」の発見によって急速に勢力を拡大した新興企業。
AC用パーツは製造しておらず、自社の戦力も他企業と比べて乏しい為、ミラージュからの激しい圧力に対してはクレストやキサラギからの援助を受けることで対抗している。
砂漠と高山地帯がほとんどを占める自社領の中心に「ベイロードシティ」という要塞じみた外見のシェルター都市を建造・所有している。
ナービス領の住民は大半がこの都市内で暮らし、ナービス本社もこの都市内にある。
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520怠け ◆0.IX.pGGyU:2011/10/31(月) 22:23:01
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・その他
[AI研究所]
地上進出後に設立された新興企業。
旧世代技術であるAI制御の復元・実用化に成功し、ACやMTの無人制御技術に飛躍的な向上をもたらした。
しかし、個人との接触や各企業との取引は全てネット上で行われており、その実態は謎のままである。

[ウェンズデイ機関]
キサラギとバレーナ、それに新興企業のナービスを加えた三社が共同出資で設立した研究機関。
もちろん作っているのはあれ。所属しているレイヴンはスティンガー。


[ムラクモ・ミレニアム]
ジオマトリクス社が所有する研究機関。強化人間関連の技術を研究している。
所属しているレイヴンはアンヴァリド。


[フライトナーズ]
六企業でも弱い立場にあるバレーナが雇った特殊部隊。
その構成員には元レイヴン等が含まれており、隊長のレオス・クラインは元(レイヤードの)アリーナチャンピオンである。
幹部として(非公開だが)エグザイル及びネームレスが所属。
戦力としてはコードネームに「〜ドッグ」が付く水色にカラーリングされたAC部隊を有する。
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521怠け ◆0.IX.pGGyU:2011/10/31(月) 22:32:37
(・_ν゚)まだまだあるけどとりあえずここまで

522名無しさん@コテ溜まり:2011/10/31(月) 22:43:36
おもしろそうですやん
投下はどこでするの?

523怠け ◆0.IX.pGGyU:2011/10/31(月) 22:48:01
vipacスレがあればそこで。
無ければ避難所とか……って言って何年も経つ(;・_ν゚)

580隊長:2011/11/06(日) 13:31:01
tsts

581隊長:2011/11/06(日) 13:31:22

「その烏の名」


――― 一人の少女を見た、ボロボロの少女を


街灯は照らす、レンガを敷いたこの道を、石造りに見せかけた合成素材の建築物の群を。人は知っていた、この街を通り過ぎる風の冷たさを。それでも尚、寂れた街に人が集うのは行く場所がないから。
けれど、人の数だけは誇れるであろうこの街に、確かに温もりはあった。皮肉にも、その温かさを持った者が人ではない。
少女が居る、この寒さの中をボロ布を纏う事で忘れようとする少女。身体の冷えはだらしなく鳴らす鼻が、小刻みに震わす肌が教えてくれる。そんな少女が今、コートに身を包み憂いた瞳を向ける男の前に居るのだ。
男の瞳には少女がどの様に映ったのだろうか、絶望に気付かなぬまま突き落とされた瞳を持つ少女。男はこの目を知っていた、少女にも恐らく、そう思える節があったのだろう。
二人は互いの目を覗き込んだ。まるで鏡を見るかのように。
「家は?」
少女は首を横に振った。
男の眉間に皺が寄る、内の鼓動が耳に障ったのだ。人はそれを同情だと考え、男はそれを気の迷いと感じるのだろう。
「親は?」
首を同じ様に横に振った。そんな少女に対し男は何とも言えぬ異を覚えた。男は哀れみを知らず、それを怒りと勘違いしたのだった。
しかし、そんな自身がわからなくなっていたのも事実、目の前の少女に腹を立てる理由はなんだ?男はその疑問に対する答えを知らぬまま、ポケットからハンカチを取り出し少女の鼻に当てる。
「そこに座ったままで身体を壊すやもしれん、そんな貴様は何を望みそこに座り続ける」
少女に問うた男は、返答を気にせぬまま立ち上がりにその場から離れようと足を動かした。少女が答えられぬだろうと高をくくっていたから。
だからこそ驚いた、とでも言うのか。返ってきた言葉に男の表情はそう語っていた。
「温かいもの……今、叶った」


聞くに少女は、数日前に戻る場所を失ったようだ――

582隊長:2011/11/06(日) 13:32:17
死とは何だろう。
街並みに消えていく人々の目には生気がない、だからと言え死んだワケではないが、この時世、死を垣間見た人間は少なくないだろう。
だが、死を経験できる人間などいない。死は一度きり、心停止からの蘇生や脳波の回復でない、死。

ならば、それが人でなければどうだろうか。
此処に居る男は一度、翼を削がれ死んだ。確実に地に落ち息絶えた筈だった。絶望に拾われるまでは男自身そうであったと、わかっていた。
その胸に隠す淡い青の輝き、薄いシャツから僅かに漏れる。彼に二度目の生を与えた汚れの証であり、再び瞳に覗かせたくもないもの、男が絶望に堕ちた獣だったと言う時の記憶そのもの。
だがこの光に気付く者などこの街に、この通りに居やしない。男もまた、安酒に溺れてはそうであったことを忘れようとしていた。

――― 三週間程前

男が再び目にしたものは暗闇か、違う。自身から放たれるあの〝青〟だった。
では男が寝そべり、背中で感じるこの感触は……語る必要もない、金属塊。あの時から男は身体に異常がなく立ち上がれる現状を異常だと悟り、そして憤怒し狂気に身悶えた。
その情けなさ、少なくとも男はそう考えていた。振り上げた拳を加減することなく金属塊にぶつける今、男は内の衝動を隠すことなど忘れている。
「死ねたんだ!!私は!!私はっっ!!!死ぬことができた!……やっと自分の体たらくから…恥から!弱ざから゛!!慢゛心゛か゛゛ら゛!!!に゛げる゛ご゛ドがでぎだっ…の゛に゛ぃ゛!!!!」
力なく崩れた男、その拳は血に染まる。しかし体内に蔓延る青はそれを直ぐに修復するのだ、拳ひとつに見れる光景は男に耐え難い屈辱と絶望を植えつける。
空の筈の胃は締め上げられ抑えられない苦しみは喉を介し吐き出され、大量の吐瀉物には血が汚れた顔には涙が混じる。

〝業だ、精々背負いきることだな?首輪つき〟

男はまたも吐き気に襲われる。
この声は男から全てを奪い去った、『何もなかった自分を見繕った描き幕にさへ爪を立て剥がしていった』あの女の声だ。
男は周囲を窺う、あの女が近くにいるとは思えない。だが確かに聞こえたのだ。繰り返される言葉は耳の中を掻き回し脳にまで到達する。
そんな考えが過ぎった刹那、男は自身の耳を引き千切った。だがそれを青は許さない。掌に転がる自身の耳とは別にもうひとつの耳が既に生え、声は消えず、遍く記憶が、あの日の記憶までもが脳を抉る。

暗闇の中男の絶叫が消えていく。

583隊長:2011/11/06(日) 13:32:46
それから少しして、何故企業に見つかり回収されなかったか、最後に生き残ったのは誰か、街を放浪しながら一般の端末を使い調べた。最中、無意識から忍び寄る狂気を酒と煙草で誤魔化しながら。
古代兵器に関する情報への規制と調査部隊の派遣断念の決定、それらはアライアンス分裂後の復興作業と世論からなる各企業合意の判断。臭い物には蓋、触らぬ神に祟りなしとはこのことだ。
そして―――

〝どの企業すら持て余すラストレイヴンの存在〟

「私やジャック、ましてやあの女ですら…こいつの前では駄目だったのか……」
この感覚は何度目だろう、男にとっては二度と味わいたくもないこの感覚。絶望という底のない穴に突き落とされ、側面の壁に打たれながら闇の中に消えていく。
そしてその穴の中で闇から伸びた手に拾われ、嘲笑い楽しむかの様に落としてはまた拾われる。
何も出来ずに打ちのめされ、女の前で膝を付き、その上望んで受け入れた絶望の力すら名も知らぬ男を前に砕かれ散った。
そして無様にもその力で生を取り戻し、知らぬ間に流れていた時間の中で自身は消えていったのだ。


それは酒に溺れ、気力を失いながらもただ生きていく今にも引き継がれていた。
「何も…なかった、私には………何もっ……!強さも、才能も、安いプライドすらも守れず!誇れるものなどひとつも!!」
路地の隙間に積み上げられたゴミの山の陰、浴びる様に酒を飲んでは喉への負担など気にも留めずに叫んだ。狂気に襲われては繰り返す、今この男にとっての全てはコレだ。
だが今夜の疼きは何時ものソレとは違った、わかってはいた男自身、日に日にこの感覚が強くなるのを。酒や煙草では抑えきれない、忘れきれないことを。
無様な記憶、無様な体(てい)が拍車かける男の中の狂気は膨れ上がり青とは別に蝕む孤独か、その中でふとあの娘の顔を、言葉を思い出した。

温かいもの……今、叶った

温かい?あのハンカチが?私の行いが?男にはわからなかった。だが、今そんなことどうでも良い。彼女の言葉を思い出した時確かに忘れられた。
この痛みを、感覚を、絶望、孤独……狂気、なんでも良い、これの呼び名など!そう繰り返す頭は男の身体を突き動かした。足は自然と路地を抜け、あの人通りのない街外れへと。

584隊長:2011/11/06(日) 13:33:21
その晩、寒さ凌ぎに布切れを幾重にも纏い身を丸くし眠る少女を起こしたのは声だった。
ブツブツと何かを否定しては悶える声。寝起きの眼を擦りながら街灯の明かりが届かない暗がりから顔を出した時、目にしたのは白昼に出会った男だ。
しかしあの時の様な凛々しさは見られず、壁に凭れながら頭を抱え身を震わせていた。
「泣いてるの?」
静かに歩み寄る少女の鼻づまった声に返答はなく、代わりに肩をひしと掴む腕が伸びた。一瞬、恐怖から手を振り払おうとしたがその腕のあまりの力なさに戸惑わせる。
その腕が少女の身体を抱き寄せようとするのにも、彼女は無言で従った。何故なら、長い前髪の隙間から覗く男の顔は酷く醜いもので、荒れた息に食いしばった歯は獣のそれだったが、少女にはそれが恐ろしいとは感じられず、どこか物悲しい悲哀に満ちたものに見えるから。まるで暴力に怯える子供の様な…。
それが少女の握る〝護身用〟を使えない理由だった。
しかし今の男には少女の感傷など気付ける筈もなく、それを無抵抗と受け取る。少女の着込む布切れを強引に脱がし、煤けたシャツを剥いて露出した柔肌に舌を這わせ、男は少女の無垢な体を貪った。


どれ程の時間が経ったのか、男は深い眠りに付いていたようだ。
朝日、というには少々傾いている日の光に瞬き、汚れた面だと呟きながら顔をコートの袖で拭った。はっとして昨夜のことを思い出す。辺りに少女はいない、何時ものとは別の痛みに心と胃が軋むの感じた。
半ば靄のかかった記憶に吐き気を覚えながら手元の小さな紙切れと金属に気が付き、拾い上げる。
紙には一言

痛かった

と、もうひとつは9mmの弾頭だ、これは少女からの警告なのだろう。男は顔を掌で隠すように覆った。
本当に堕ちたものだな…そう呟きながら男は街へと、一度振り返ってはみたもののやはり少女はいなかった。そして、そのまま消えていく。

585隊長:2011/11/06(日) 13:33:42
意識がこれ程ハッキリとしているのは何時ぶりだろうか、酒気すら抜け喉を通る煙草の煙がいがいがと刺激するのがはっきりと伝わることに驚いていた。
昔を思い出せば今でも痛むものを感じる、だが、あの粘り気のある暗いものに呑み込まれるような感覚は何処へやら。
何よりも、少女のことを頭に浮かべると鼓動が早くなった。良心の呵責もあるだろうがそれとは違う別の何かも感じているのは確かだった。そして、鼓動の早さは痛みにさへ変わっていく。
胸に手を置けばあの光が、その只中に感じる躍動する熱が、抑えることのできない感情がひとつの手を跳ね除けるかのように。
強く激しく、鼓動に合わせて脈打つ。あの時から変わらぬ姿を保てるが故、こうして無様な自分を見つめ続けねばならぬ元凶を。
金属の身体を拠り所に、全てを呑み込まんとし、総てを粉砕せんとし、凡てを絶望へと歩ませんとし、その身体を突き動かし続けた破壊者の血。
「何故…気が付かなかった?」
思考もそうだが、目覚めてからというもの男の身体の調子は頗る良いものであった、それは五感も例外ではないだろう。だからこそ、あるひとつの物が感じられないこの身体に対する違和感が湧いて出るのだ。恐らくは三週間前のあの時、目覚めてからずっと、こういう身体であっただろう。
どうして今更なのか。だが確信ではない、色々と疑問を残す節もあった。だが男にとっては無下にできないものだ。どうしても確かめておきたい、もしそうであるのならば、この力を、この身体を、彼女ために遣ってやりたい。
男の想いが鼓動をひとつ早くする。
「あぁ?武装勢力?それなら西のゲート抜けた何キロも先にずぅっと駐留してるよ、ここいらの難民というか浮浪者はよ、そいつらに街焼かれて逃げてきた連中なんだよ。てっきり俺はアンタも同じ部類の人間だと思ってたがね」
男は店から飛び出すと店主の指差す方へ、店主は常連である男が酒も買わずに出て行くのに口を噤むだけだった。
街のゲートをとうに過ぎたであろう、男は未だに全力で走っていた。息を切らすことなく体温を微塵も上げることなく。いや、既に体温は高い、おおよそ50度を超えているだろうか、肌に触れるべき風の感触がなく、寒さを感じないのだ。男の身体が放つ異常な〝熱〟が風の接触を身体の冷えを阻害していたから。
男の脈は既に人のそれを超えていた、胸の内が酷く痛む。表皮に透ける血管に青の脈動。その速さは正にエネルギーの循環に等しいのだ。

金属の身体を拠り所に…金属…常人にはまず縁のない強化人間用高濃度身体強化ナノマシン、循環系統を満たすそれらは吸収用の液体金属の注入において著しく活性化し怪我の治癒なども可能とする。
そしてそれは体外からの接触による吸収をも可能とし、もしその液体金属を作業用重機などから間接接触によってこの青が掌握できるのなら或いは…、そんなことを考えていた最中、あの言葉がまたも蘇り、男は口にした。
「温かいもの…
呟きは足音に消えた。

586隊長:2011/11/06(日) 13:34:02
山岳地帯より見下ろす光景には金属と灰に煤けた街。
居た、男は眼光をよりいっそうのものとする。15メートル程はある人型の群、100t級のMT(マッスルトレーサー)が瓦礫の下から物資の代わりとすべく残骸を集めている。フツフツと湧き上がる怒り。さらに加速する青の脈動が怒りを視覚可させた。
心の臓は今や機械の出力機の様で、伸縮しないのだ。そのせいか耳鳴りにも似た轟流音が脳内の一切を排除しようとしている。近くに転がっている眼下のものと同じ100t級のMTの残骸に歩み寄り触れる。掌の感覚を通した装甲、その表面は傷付き元の滑らかさなど感じられなんだ。
男の耳鳴りが止まない、酷く騒がしい、鼓動が、脈動が、循環する青。何よりも感情に支配されていた……感情に支配されている自分に。
口元に歯軋り、表情筋はより深い皺を、その瞳に絶望の煌きを。
「わかっているのか…引き換えせんぞ」

〝業だ、精々背負いきることだな?首輪つき〟

「…だが、抑えられんさ」
想いはもう止まらない ―――


――   パ  ル  ヴ  ァ  ラ  イ  ズ  ――


見上げる空に絶望の光、山岳部一帯を包み込んだ青の輝きに辺り総てはその瞳を照らされる。
降り注ぐ粒子に星の煌きを、光の中心に大いなる災いを、現れた人型に底の知れない絶望を。
あの日総てを削ぎ落とし輝きに終止符を打とうとした者が居た。その願いは他者に預けられ、預けられた者は〝そうであれ〟とトドメを刺さなかった、僅かに躍動し呼応する青に気付かなかったのだから。
その一瞬の間違いから、絶望は再び地上に手を伸ばす。

光の渦の中心、粉砕者<パルヴァライザー>に代わりし絶望は、神託<オラクル>を受けし青の巨人となりて飛翔する。
浅葱の板金に身を包み、模した姿は人の四肢、今此処に君臨せしもの、人それをこう呼ぶ…

〝アーマード・コア〟

と。

587隊長:2011/11/06(日) 13:34:26
暗がりに明かりがひとつ。
それに照らされるものは皺と無精髭、疲れの浮き出た曇り眼を持つ男性の顔だった。それ以外に見れるものはなく部屋の広さも、部屋にいるのかもわからない。
深く瞬く眼は何かを見るでもなく、ただ過去を、反芻するかのように昔を見つめている。そういった目だった。
あまりにも動きの見れないその顔は瞬きと僅かな呼吸を除いてまるで死んでいるかの様に、その暗がりの中で鳴り響いたアラートに気付いた時、ピクリと顎を持ち上げたのには驚くことだろう。
『レイヴン、聞こえてる?』
突如聞こえた女性の声に、レイヴンと呼ばれた男は顔の近くで指を弾いた。弾き手の近くからは電子画面がひとつふたつ、現れれば先程の声の主である女性の顔が浮かび上がった。
少し遅れたが、この男こそが〝ラストレイヴン〟と呼ばれている者であることを加えておこう。この世界で唯一にして最後の烏とされており、他者からは最強の称号を貼られ畏怖されている存在。
そんな彼は電子画面の女性と疲れた目を摩りながら話し交えた。時折聞こえてくる『寂れた街』や『武装勢力』など、聞き覚えのあるものだ。
「全滅?」
レイヴンは僅かに声を荒げた、画面の女性も同様に少々興奮の気が見れる話し方だ。そしてまた続ける。
そこからは女性の言葉を聞くたび男の瞳からは気だるさが失われ、そして輝きが見れるまでになる。余程のことを聞かされているようだった。
それに気付いた女性も勿体ぶるように言葉を濁し、レイヴンに続きを催促されては小さく笑った。
『えぇ、現地の残骸から映像データも取れた、かなり荒いし直後に撃破されているから確信を持っては言えないわ…ただ、ここまで特徴が一致するのも偶然とは思えない、多分生き残っている、貴方以外のレイヴンがね…覚えてるでしょ?彼の名前…―――』



「私の名前はエヴァンジェだ」

あれから、少しして男は少女を見つけた。もう戻らないだろうと思っていたあの街外れ、あのレンガの道の上に彼女は腰を落ち着かせていた。
そんな少女に近付いた際、その顔に見える僅かな警戒心に心を痛めながらその少女へと名乗ったのだ。罵倒のひとつでもあるだろうと覚悟していた男を尻目に、少女はその顔から警戒の色をなくしそのまま座っている。

588隊長:2011/11/06(日) 13:34:52

――仇討ちをしたと言えばよろこぶだろうか?


シャツの胸ポケットから煙草を、コートのポケットからオイル式ライターを、緊張に腕が震えた。火打ち石が上手く噛み合わない。
さり気無く歩み寄るつもりだったが足が縺れて転びそうだ、落ち着け、この娘のために色々と準備しただろう。そう自分の頭に渇を入れながらようやく点った炙り火に煙草の先を近づける。
彼女がこちらを見ているのに気付くと出かけた言葉が喉に詰まる、ただでさへ高い体温が更に上がってしまいそうだった。
首を横に振り脇道にそれた思考を正す。咥えた煙草を指に持ち煙と一緒に言葉を吐き出した。
「スープを作りすぎてしまたんだが…一緒にどうだ?」
無礼を詫びる意味も含めた言葉にも関わらず、震える舌に言葉を噛み誤った。そんな自分に情けなさすら覚える。
今すぐにでも言い直したい衝動を下唇を噛むことで抑え、返答を待つ。少女は言葉を返してくれるだろうか?余計な考えが頭の中を支配しないようそれだけを考え待った。
だが、声は聞こえない。額や鼻に嫌な汗が浮かぶような感覚。永い、今この瞬間がすごく永く感じられる。やはり素直に謝るべきだろうか?そうこうとしている内に危惧していたように余計な考えが男の頭を支配しかけていた頃、少女は口を開いた。
「また…痛いことする?」
少女は頬に、その下の布切れに、ぽろぽろと涙を零していた。
男の胸に稲妻のような感覚が、今すぐにでもこの心臓を抜き取ってしまいたいと思う程の痛みとなって駆け巡る。少女が持っているであろう銃で、この頭を撃ち抜かれればどれだけラクだろうか、少女に願ってでもそうして貰いたかった。
「絶対にしない…!誓おう!」
近寄った男のコートの端を掴み、少女は顔を埋めながら泣いていた。男も釣られて涙を流す。
この娘にどう接してやれば、私の胸の内の痛みは和らぐだろうか?この娘にも同じ痛みがあるならそれはどう和らげてやれるだろうか?痛烈に胸を打つ鼓動感じながら、男は考えた。だが、今の男には到底わからないだろう。不器用な男は泣きじゃくる少女の頭に手を置いた。
「スープ…飲むか?」
泣きながら少女は頷き、男もまたしゃくり上げながら少女を優しく抱き寄せた。
私はこの子をどうしてやりたいのだろう。
人としてこの子に接してやろうとでも言うのだろうか、親というもののように。
親……人?
私が?
ふと過ぎる男の疑問、それは風に流される煙草の煙のように、思考の端に消えていった。
今は。


やめておこう、この子にはこれ以上…汚れを見せずにいたい ―――

589隊長:2011/11/06(日) 13:35:11

『でね、レイヴン問題は此処からなの』
画面に映る女性の表情に、そして言葉に、変化が見られ、画面を通して挟むレイヴンとの場の空気が変わった。
勿論話に続きがあることを、結末が悲惨なものであることをレイヴンは察していた。浮かれた気分などすぐに何処かへ消えていく。
『貴方が最後に彼と戦った時のことを……貴方が忘れたワケではないでしょう?』
蘇る記憶は新しい、そして忘れるべくこともないであろう…インターネサインでの決着。
ジナイーダとのやりとりの直前にレイヴンはエヴァンジェを殺した。そう信じきっていた。
倒される度にその力を増しながら形状を変えては再び現れる悪魔とも言えるその存在、彼がどうやったのかはわからないが、エヴァンジェはその力との融合を果たした。
そしてその存在は直接的な強さに関わらず、畏怖の対象でしかない。

「…パルヴァライザーか」

『そう、本人と断定したワケではないけれど彼は、エヴァンジェは…―――


〝無限に進化する力〟を有している


つづく

590隊長:2011/11/06(日) 13:35:29

「その獣の名」


ふと考えるときがある、此処に居る私が何なのかを。


哲学的な言葉を並べる気はないが、己の存在が自分の知る哲学というものよりも曖昧で、宙をぶらつくものだというのは事実だろう。
幼き頃の苦い思いも、死を迎える間近のことも、再び目覚めたそのあとも、変わらぬ記憶は色褪せていない。
だがその身体は、人であった頃とはまったく違う。
疲れを知らず、痛みを知らず、傷付くことを忘れている。
そして、それの代わりを務めるかのように、胸の内は酷く脆かった。


――― 人ではなかった烏<レイヴン>の心を持った獣<パルヴァライザー>、とでも言うのか。


男は呟きに一人笑う。
肌を掠めた風が冷たいものだとは知らず、蔓延る青は蒼白く、エヴァンジェを蝕んでいるものは煌きを見せるのだった。
その作り笑いに覗く微かな嘆きと共に。

591隊長:2011/11/06(日) 13:35:50
あれから4ヶ月、多くの企業が本社、支社施設を展開する都市部では急速な復興活動により様々な機能が回復している。
複数の車両用レールには既に貨物車両も見られるし、大型の作業用MT(マッスルトレーサー)や重機が騒がしくあっちへこっちへ。
柱の溶接によって吹き荒ぶ火の粉を避けながら走るヘルメットにスーツ姿の企業人などは何処か可笑しな光景だ。
そしてそれらを通してわかること、それは世界が確実に修復を遂げて行っているということだ。
一度分裂したアライアンスではあったが、各地で多発する頭を失った武装勢力による略奪行為、これへの抑止力としてクレスト、ミラージュ、キサラギは再度アライアンスの名を使い〝ラストレイヴン〟を企業側へと置くことに成功。
この絶対的存在を広告塔とすることで武装勢力の暴走はこれを機に激減し、歯止めが効かない程膨れ上がった勢力は企業側の部隊によって文字通り殲滅された。
それにより都市部から離れシティーガードすら存在しない小規模なコロニーでも復興作業が盛んになり、都市部の機能回復によって企業からの支援も円滑になった今、とある街にも復興という言葉は形となって見られた。
一人の男が身を隠す寂れていた街にも。

男は見惚れていた。
ケーブルを命綱に高所の僅かな足場を軽やかに渡っていく若々しい男性を、旦那にでもと焼いたのであろう香ばしいパンを包む女性を、露店を開くためか古びた木材に金槌を小気味良く鳴らす初老の男性を。
こうして自分達の住むべき街を自身の手で自身の足で、蘇らせ心地良い場所へとするため汗を流し、誰かを想い、動き続ける、この街に。

「人…か……」

その顔に見られる羨んだ瞳はどこか曇り沈んでいた。

592隊長:2011/11/06(日) 13:36:12
「どうしたの?」
隣から聞こえる、か細い鼻声に男はふと我に帰る。
街並みに忘れていた少女にそれを悟られぬ様すぐに作り笑い。
更に誤魔化しを畳み掛けるように少女の頭にポケットから抜いた手を少し力強く押し付けた。


「なんでもない、必要な物は買えたか?」
「リンゴに、缶コーヒー…缶詰もある」

そうか、どこか遠い眼差しでそう答えた男は少女と共に人込みの中へ。
活気付く通りの中で男の憂いはそぐわない、とでも言うような顔付きはもう見えなくなった。


二人は現在、初めて会ったあの街外れからそう遠くない、崩れた高層の建造物に住んでいた。
元から居住用だったかは定かではないが各フロアに放置されている生活用品は未だ使えるもので、それらを寄せ集めかなり上層の、壁が一部なくなっている部屋を選び腰を落ち着かせていた。
そこから見える風景は街とは反対方向に広がる崩れに崩れたビル群のみ、男が此処にしようと言った時少女は風通しがいいねと、歳相応とは言えない皮肉を男に向けた。
今では少女も此処での暮らしに満足している(男から見ればそう見える)ので悪い選択ではなかったのかもしれない。

593隊長:2011/11/06(日) 13:36:38
「…ひま」
壁の向こうにビル群を覗くことのできる書斎にて、男が耳にしたのはひどく端的だが少女がどういったことを望んでいるのか容易に説明が付く言葉だった。
雨を凌ぎ食う寝る以外のことは考えていないこの場所で、彼女は〝暇が潰せるもの〟を欲していた。
最近になり少女は子供には有って当たり前の我侭な面が見えてくる。辛い経験によって抑圧されていたそう言った面が垣間見えるというのは喜ばしいことだろう。
と、わかっているつもりではあった。だが〝幼い頃の自分〟はまったくと言って良いほど参考にならないことも知っていた男は、こういった時のマニュアルが欲しいと無精髭を困惑交じりに摩る。
さてどうするかと悩む最中、今しがた読んでいた一冊の本を思い出し少女に手招き、この歳の子が持つにはあまりに重く厚いハードカバーを渡してやった。

「アイラ?」

手渡された本の題を口に出す少女は、如何にも重そうにそれを抱えている。
可愛らしいその姿に眼を細める男は、良い本だぞ?と付けたし、棚からそれと同じ題の本を一冊取り出すと少女の前でひらひらと捲ってみせる。

「上下巻構成の、そっちは上巻、こちらは下巻だ。そっちを読み終えたら貸してやる」
「どんなお話なの?」
「レイヴンである少女の話だ、自由で気高く、そして強い……そんな少女のな」

既にペラペラと数ページ捲っている少女はぎっしりと詰められた文字に流し目、興味津々に男に問う少女へと。
繰り返し読み耽った本の内容を反芻するかのように男は髭を摩りながら勿体ぶったように、それでいて少しでも興味を持たせるように教えやった。
そう、本当のレイヴンの姿だ。
少女にも聞こえぬ声は呟き、無き壁の向こうに見える空は少しだけ紅く染まっていた。

594隊長:2011/11/06(日) 13:36:59
「エヴァンジェ、泣きそうな顔してる」
扉に手をかけた少女がこちらに振り返っていたことに気付き、彼女の言葉に思わず顔を触ってしまった。頬は濡れているワケではないようだが。
そんなことはない、と強がりの口調も流され抱える本を足元に、少女は男へと駆け寄りその勢いのまま座る男に抱きついた。
驚きながらも自身に顔を埋める少女の頭をゆっくりと撫でてやる。そんな男が今、どれほど優しい瞳で笑っているかを教えてやったらそれは驚くことだろう。
その顔に獣など影も見られない。

「エヴァンジェのこと、好き…エヴァンジェは?」
「無論、君が好きだ」

引っ張るコートから上目遣いに少女は頬を赤らめた。返す言葉も照れくさい、日の落ちる空のように男の顔もまた赤く。
シンとする室内、男の耳に届くのは少女の息遣いと身体を通して伝わる鼓動だけ。
それのなんと心地良いことだろうか。
男が知らなかった感覚、本来ならば知らずに世を離れていただろうこの感覚は、いつの間にか男の琴線に触れていた。
ほろりと零れる男の涙に少女は口を、つんと尖らせる。

「やっぱり」

流れる雫に、少女の言葉に、男は…エヴァンジェは無理にでも笑ってやろうとしていた。
だが上手く笑えない自分が居て、それに気付いた自分もあって、男の涙大粒のものと。

595隊長:2011/11/06(日) 13:37:16
〝あの頃<死ぬ前>〟の自分にこんな感情はなかった。
此処いるのはやはり、獣が模しただけのまったく別な存在なのだろうか。だからこんなにも温かいのか。だからこんなにも胸が苦しいのか。
今こうして感じている人間の様な感情すら粒子の思考でしか、0と1でしか、もっと高度なものなのか単純なものなのか。
ただ、そういったものでしかないのか。
ふと思い出す幼少期、人として扱われなかった自分、父と母の顔よりも深く刻まれたのは双方から受けた暴力の痛みだった。
人として扱われなかったが故に男は自分を捻じ曲げた、何が神託<オラクル>、何が選ばれた者なのか。
それは特別<ドミナント>を前に簡単に砕かれ、プライドすら残らない。
そして闇に堕ち、目覚めてから拠り所を見つけ、そこで初めて気付いてしまった。
獣になる前の、以前の自分はなんとも醜くひ弱な存在だったのだろう、と。

人として未完成で、烏として不恰好で、獣となった今あまりにも眩しい。

それが悔しい。
そう、きっと悔しいのだ。この感覚は。
そしてこれは、恨めしかったというのだろう。
何よりも ―――

「わからない、………わからないんだっ。自分が何なのか、どうすれば良いのか、どうしてやれるのかが!」

椅子から崩れ、膝を付く男はぐいと抱き寄せた少女の胸に泣いた。
少女の近くに居ると、男の心は温かく、それが獣であるが故と考えてしまうと、どうしようもなく涙が溢れてくる。
男がどこか、端で望むように。
自身が人で在れたならば、もしくは僅かにでも烏で在れたとき、この温もりをもっと早く、知り、感じたかった。
そう願うのは贅沢なのだろうか。

596隊長:2011/11/06(日) 13:37:45

『どう思う、レイヴン』
影を落とす女性の顔を映す電子画面に照らされるこの空間は相変わらず暗く、レイヴンと呼ばれる男は気だるそうな瞳に一握りの哀愁が。
これに気付いた女性は、勘繰るような瞳でレイヴンへと問いかける。

『同情しているの?』
「なんだか、見ちゃいけないものを見ちまった気がするよ」
『…そうね、以前の彼からはまるで想像できない。でも、企業と貴方、ふたつを仲介する立場として言わせて貰えば、精神が不安定だからこそ危惧すべき存在であり、早めに芽を摘むべきだと思うわ』
「不安定ねぇ、建前用意して三企業を再び統一、それでやることは道理のわからないガキと変わらん男一人を殺すこと…か。物のわかった大人ってのは恐い恐い」

画面の向こうからそれは皮肉?と言う声が聞こえたがレイヴンは軽く流し、重い腰を持ち上げた。どうやら彼は何かに腰を下ろしていたようだ。
一旦暗闇の中へと消えた男、次には眩い光源が天井から辺り一帯の暗闇を呑み込みかき消した。
どうやら此処は巨大な造りのガレージの様だ、飾り気もなく温かみもないただただ無骨な金属の空間。作業用のクレーンやケーブルがぶら下がる天井には大型のライトが幾つも並ぶ。
そしてその下に佇むは鋼の皮膚に身を包む白金の板金が眩い巨人。

「シーラ、出撃する。ガキの相手は同じガキが一番だ」

展開される電子画面の近くに戻ったレイヴン、その瞳には紛れもない最後の烏として鋭さが光る。
シーラと呼ばれた女性は目標と呼ぶ者の所在地を画面へ出力、そしてその画面には、エヴァンジェの名の代わりに並べられたパルヴァライザーの文字。
獣の烙印を捺されたことへの同情か、レイヴンはその表情を僅かに歪めた。

『あの時、ちゃんと止めを刺していれば…なんて責任感じる程度には大人なのね』
「……どうだかな」

白金のACに紅い瞳、各部から排出される蒸気は息を吹き返した姿の様に。
最強を冠したレイヴンは再び動き出す。

597隊長:2011/11/06(日) 13:38:06
男が平静を取り戻し、少女が書斎をあとにしてから随分と時間が経った。
崩れた壁の一部、手を置いて見渡すは月明かりの下浮かび上がるビル郡のぼやけた輪郭。眺める男の背中はいつにも増して憂いの影。
夜風を楽しむにはあまりに体温が高く、一人で居るにはあまりに冷え切った心。そんな男に呼応するかのように青はその熱を剥き出している。

〝だからお前は犬だと言うのさ!〟

ジナイーダと争い、敗れたときの言葉、今にして思う。

「犬であると認めた方が幾分格好は付いただろうか」

椅子に投げていたコートを手に書斎の戸を足で、男と同じくらい独り言の多い蝶番にうんざりしながら通りを抜け広間へと。
出口に向かう途中でつい寝室の戸に手が伸びてしまった。隙間から覗くとベッドの上では本を開きはなしにすやすやと寝息をたてる少女。
物音を立てぬように挙動も遅く、灯ったまま忘れられているランタンの摘みを捻った。
出戻りに男は少女の髪に触れようと手を伸ばすが、指先に戸惑い、それは握り締められた。加わる負荷に負けた指先から赤い血が、それに続いて輝きが。
開いた掌に戸惑いも傷もない。


気付けば男はその足を馬車馬のように走らせていた。闇雲にただ只管に。
理由はわからずとも知れたこと、止まるまでこの足、止められるまで走りたい。
目前のビル群は生憎何処までも続いている。男は此処の果てを見たことがないから少なくともそう思えた。

598隊長:2011/11/06(日) 13:38:32

――― 少女は

目覚めてから開いたままの本に気が付き、それを閉じる。
口元を拭う際扉が開いているのがわかり、周りにエヴァンジェがいるのではと周囲を見やるが見当たらない。
少ししてから少女が違和感を覚えたのは寝起きの靄が抜けたから、部屋だけでなく何処からも人の気配がない。
寝室を飛び出し書斎の方へ、戸を開いても彼のそっけない言葉は聞こえない。

「エヴァンジェ?」

呼吸が荒くなるのを感じた。普段利用している部屋を、扉を出た先の同階層の部屋という部屋まで駆けずり回った。が、見つからない。
少女の内には久しく忘れていた孤独、また一人になってしまうのでないかという恐れ、それは不安となり胸の内を急がせた。
トクントクンと急ぎ足の鼓動、それにつれ肺が潰れていくような錯覚に息は乱れ、少女の頬に涙は浮いている。

――― エヴァンジェは

崩れた建材に埋もれた道なき道をひた走る。兵器の残骸が車両の残骸が、そこかしこに転がるこの場所を。
躓き、転び、身体を打ち付けても、男の足は止まらない。
ただ、こうやって我武者羅に進んでいけば、あそこから離れれば、もう獣は人に依存し続けることもない。
人である少女を、人のフリした獣が騙す日々も終わる。それが終らせるべきもので、自分が終らせたいと願っているのか。
少女の望まぬことでも、男が望んでいなくとも、正しい選択でなくとも。
全ては衝動に任せたものなのだから、せめて、せめて今だけはあの子から、少しだけ離れていたかったのだ。
頭の中で渦巻く、掻き混ぜられた思考が落ち着くまでは。
喉まで出掛かった「どうすればいいっ!」の一言を飲み込んだ。

「私は…獣だ」

代わりとなった叫びのなんと弱々しいことか。

599隊長:2011/11/06(日) 13:38:49

『どうしたぃ?エヴァンジェ、そんな顔して……自分を忘れたか?わからないか?それとも……自分を騙しているのか?』

薄らと浮かぶ涙にぼやける瞳を空へ、見上げる月明かりに白金、そのいぶし銀はビルの上、こちらを見下ろしている紅が強烈に脳を刺激する。
投げかけられた外部スピーカーからの言葉は機器を通した特徴的な曇り声。それがエヴァンジェの足を止めたのだ。

――― ラストレイヴンは

            『感傷を持って…歓迎しよう』

                            そこにいる ―――


つづく

600隊長:2011/11/06(日) 13:39:15

「その〝 〟の名」


感傷を持って歓迎しよう ―――

烏の言葉は響く。
月明かりに照らされたこの場所に。
その言葉を向けられた者、エヴァンジェにも当然。

「ラスト…レイヴン……、レイヴンッ!!」

怒りであった。
男の表情が物語るのは。握り拳が震えるのは。

「私が!どう見える!!」

足元に靄靄と揺らぐ青の中を濁る粒子。
感傷に溺れる感情は周囲の金属に干渉していく。

それはまるで、すぐに癇癪を起こす

「この姿が!!どう見える!!!」

601隊長:2011/11/06(日) 13:39:34

『子供だ』

ラストレイヴンの眼下、金属と瓦礫と砂煙、粒子と感情とが渦巻き残骸を呑み込んでその姿を現した。
胴から脚に代わり伸びる二対の棘状の射出機に後方へと向けられた巨大な推力機。そしてフレームに走る、フレームの色すらも変えている青。
青いパルヴァライザーに放つ言葉。

『わかんないわかんないつって癇癪起こす、起こした理由まで本当にわからないなら言ってやる』

射出機から繰り出される誘導性の高密度エネルギー体はレイヴンへ。
迫る誘導弾に脚を動かすこともなく、レイヴンは続ける。

『ガキだ!認めろ!!』

ほんの数瞬後には直撃するであろう緑の線を引いて近づくそれを前にレイヴンは吼えた。
ミラージュ製の頭部パーツ、マンティスに備えられたセンサーは反応、レイヴンの乗るいぶし銀の機体、クレストとミラージュのフレームで構成されたAC<アーマード・コア>は並のものとは企画が違った。
そしてそれを把握しているからこそ、彼はその脚を突き立てる構造物から離れようとはしなかった。
何故なら、直線的な斬れのある頭部は縦に割れ、真横に開かれた怪物の口の様な機構は絶対障壁を

―― カ イ ル ス 粒 子 開 放 ――

カイルスフィールドを展開する。
散布するナノマシンが集束された高密度のエネルギーを四散させ、それは拡散させられた熱として消えていった。

『お互いにな。やんちゃするのはもう終らせなけりゃいかんのさ…』

602隊長:2011/11/06(日) 13:39:55
少女はひた走る。
躓き、転び、身体を打ち付けても、少女の足は止まらない。
ただ、こうやって我武者羅に進んでいけば、短い足を突き動かせば、エヴァンジェに少しでも近づく。
何時までも変わらない瓦礫ばかりの風景も、残骸に足をとられるこの道なき道も、男に会えれば終ると。
全ては衝動に任せたものなのだから。

「エヴァンジェ!!」

――

「エヴァンジェ」

暗闇に男は影を落とす、それのどこまでが影でどこからが闇かはわからない。
そして自身の名を耳にしながら、男はただじっと座っていた、冷たい影の上に。

「わからないなんてズルいよ、もうわかってるんでしょ」

俯く男の前にはどこか薄幸を纏う少年。
まるで目の前の男をそのまま幼くしたようで、それが男にとって見覚えのあるものなのは言うまでも無く。
顔や細い腕に幾つも見える痣の中には今でもその痛みを思い出すものばかり。
いつまでそうしているの?の問いに男は唇を固く結んだ。

603隊長:2011/11/06(日) 13:40:29

本当に獣ならよかったと思ってるんだよね ――
男の口から返事はでない。

獣<パルヴァライザー>は君を模した、機体や戦術傾向だけでなく、不恰好な烏<レイヴン>である君を――
耳に掌を押し当てる男に少年は容赦なく続ける。

その瞬間、獣は獣ではなくなった。その証拠に、君は今でも肉体を保持し――
男は息を荒げる。

自分の力に気付いた時、粒子干渉によって姿を現したのは君のACだったオラクル――
やめてくれと、そう男の表情は語っている。

最初から残っていたのは文字通り、未完成で不恰好で中途半端で宙ぶらりんで強さもなく才もなく誇りもない――

「あの頃から変わりもしない僕<君>だよね」
そう言って少年は、自分を指差した。その指は同時に男にも向けられたものであった。
男はずっと背伸びし続けた。
結果は目の前の少年から幼さが抜けただけのもの。

「認めたらもう何者にもなれない!そうだろう!!ずっとこうだった……」
「だからって、わからないと言い続けてそれっぽいこと並べて誤魔化してってやっても意味ないでしょ?」

604隊長:2011/11/06(日) 13:40:52
「それでも、あの子の前でくらい格好付けたいってのはわかるよ」

何度もあの子に泣いて縋ってるから今更だけどね、と茶化すように笑う少年へと頭を上げた。
涙が浮かびながらも力強いその瞳はまっすぐに己へと向けられる。

「…そうだ、私はあの子の前で、せめて人で在りたかったんだ」
「私と同じにしてやらぬと、少女の親代わりになりたかったんだ」

認めてしまえば、何者でなくともそれはできるのだろうか?
その答えを男は知っていた。
男は確かに少女と自分を重ねていた、あまりにも似ている瞳に。
他人とは思えなかった彼女の強がりに。
同じように知らずに堕ちていくのが見えていたあの少女に。
だから、一緒に過ごす中で彼女に見られた変化、それがどうしようもなく嬉しかったのだ。

「何にもなれないのは変わらないんだな?」
「そう、でも…与えることはできる。いや、できてたよ実際に。ほら、もうひと踏ん張りするんなら急いで、今の無理矢理に引き出した獣<パルヴァライザー>は限界が近い」

人として未完成なら、それを手本にさせればいいさ
想い ――

烏として不恰好なら、不恰好なりに格好付ければいいよ
熱い想いは ――

獣として眩しいんじゃない、あの子と居る君<僕>がそう映っただけ
この想いはもう ――

できるのなら子供同士、目一杯に笑ってあげようよ
この熱い想いはもう ――

「止まらない」

男の瞳に輝くのは、青ではない。

605隊長:2011/11/06(日) 13:41:28
ラストレイヴンは変わらずに見下ろしていた。
瓦礫の上に転がるのは既に瓦礫と見紛うまでに砕かれた青のパルヴァライザー、その上半身に当たる部分が折れた腕や無い脚をどうにかしようと蠢いている。
それはまるで脚や羽を失った虫の様で、そしてレイヴンの駆るACの白金の装甲には目立った損傷は見受けられなかった。
右手の主兵装であるハイレーザーライフルKRSW、大型の集束熱量射出機構からは数百とまで上がった熱が煙として。
左手の主兵装である腕部携行用のハンドレールカノン、射出口から伸びる三本のバレルからも同じように煙、バレル表面は高温によってその色を変える程。

『手は抜かん、あの時と違ってな』

そう言ってACは男の言葉に従うように。
男がそうさせるように、左手のレールカノンを構え、そのバレルからコンデンサから、可視化するエネルギーは攻撃性を剥き出しに。

『跡も残さんよ』

放たれた一直線の雷光の眩しさに、星の光すらも翳る。弾頭の直撃と同時に生じる爆発は一度球状に膨張したのち、中心へと収縮。
それから形と言える形を成さない炎が爆風と共に広がっていく。炎に呑まれずに済んだ物も砂煙の混じった、と言うには幾分濃い風に隠される。
そうなる筈であった。
弾頭直撃を前に突然の光、青ではない、パルヴァライザーのコアに位置する部分からの突然の爆発。
レールガンから放たれた弾頭は威力を殺され、爆縮球体から伸びるマニピュレーターに握られていた。
濃淡のある煙の中に浮かび上がる人型の影。晴れてくれば目に見える青のフレームは板金の装甲。鋭い紅は感情の燃える想いの瞳。

――   パ  ル  ヴ  ァ  ラ  イ  ズ  ――

「認めよう、レイヴン」

男が、エヴァンジェが搭乗する浅葱のAC、オラクルは、レイヴンを前に現れる。

606隊長:2011/11/06(日) 13:41:49

『憑き物でも落ちたようだな、聞かせろよ』

両手の大筒で狙いを澄まし、地を駆けるオラクルを叩き付けんとするレイヴン。
夜空から星が降るが如く注がれるKRSWの光弾、しかしブレード以外の装備が排除されているオラクルは持て余した俊敏性によって回避。
瓦礫を踏み潰し、奔り抜け、脚部の筋を目一杯に壁を蹴り上げる。少しでも前へ、少しでもレイヴンの佇むあの場所へ。

「私に勝てたらな」

強がりでも良い、あの特別を前にすれば、霞まない者などいないのだから。
電磁加速によって空気抵抗と知覚領域を抜ける弾頭を跳躍によって避けた。後方のビル群を巻き込み吹き飛ばすその威力に戦慄しながらも推力と共に踏み込む。
あと少し、男の目前にレイヴンは居る。
その脚をどっしりと据えコチラを睨むあの白金を。
この距離なら!そう見切ったエヴァンジェは両腕のブレードを月光の直射集束レンズから伸びる蒼刃を、振り抜くと同時に出力の調整、刀身を視覚不可の武器とし飛ばした。

『カイルス粒子開放』

直撃寸前の射出された光波は打ち消された。
カイルス機構を展開するマンティスは奥底に、大きなナノマシン調整構成機を煌かせ、それはまたも戦慄の対象となる。
良い攻撃だな?レイヴンからの通信に余裕が見られた。
タネ明かしだと並べられる説明『カイルスフィールドはエネルギーの集束を大幅に低減、四散させその威力を殺す。近距離での殴り合うにはソッチは少し揃いすぎてる、だろう?』と冷ややかに。
これを聞いたとき、エヴァンジェはその影響を回避する策など思いつかなかったのも事実、粒子の性質からしての問題でもあったのだから。
だからと言ってただ指を咥えるワケでもなく、先刻の強がりの言葉とも違う。

「試してみるか?レイヴン」

607隊長:2011/11/06(日) 13:42:08
…天高く流れる星に撃ち込む自信など私にはない
星を背に、衝撃波を撃ちやるレイヴンを前に、時間すら縮める光の前にはどのような動きを取ろうとも無駄なことだ。
エヴァンジェの脳裏にふと過ぎる言葉と考えがあの時を思い出させたが、無駄なこと、そうは思えない。今なら捉えられる。
威圧と異型を持つ長槍の如きKRSWから驚異の速度で瞬間的に射出し続けられる光弾の雨。
視覚から得る周辺の状況、状態と光弾の予測落下地点、自身の出せる最大速度と、確保できる脚取り、踏み込み位置。
避けられない、機体の損傷度から問題にならずに済む弾は無視。しかし直撃すれば確実な致命傷となり得るものが一から三発。
ぐるぐると巡る考えの中、刹那に選び出した策。
エヴァンジェは光弾を叩き落すと決めた。
両の腕に備えられた金色のブレードフレームから、蒼の刀身を伸ばせば僅かに触れた部分からは火の粉。
光弾網との接触地点へと突入し加速する推力機を絞り込み、初弾、コアへと直撃する光弾を右腕のブレードで除去。
そこから振り抜いた腕を地に、その支えを主軸に各推力を順に吹かして加速度を生かしたままの脚を浮かし、空転、瓦礫で埋め尽くされた足場を削っていく光弾の隙間を縫い着地。
主推力をもう一度全力に、回転を加えたままの姿勢から二、三の光弾を打ち落す。
この間に減速は見られなかった。

『早過ぎる、これは…』

レイヴンの脳裏にも言葉は過ぎる。
無限に進化する力、そんな実在する御伽噺を。だがそうだろう、以前とは違いすぎるのだから。
無茶な連続射撃を試みたせいで、ACの出力機は一時的な出力不足。その脚を一度構造物の上に突き立てる必要があった。その合間の考えだ、嫌な汗を感じるのはあの時以来か。
今目前に迫る男との戦闘の後に戦った彼女のことを思い出す。
エネルギーの回復は間もなく、迎え撃つ準備を。レイヴンは標準調整と火器管制の変更、前面に展開する防御スクリーンの被弾角度や展開構造の二重化三重化。
カイルスのナノマシン残量はあるが、不安要素は残る。
エヴァンジェとの距離、あと僅か。

608隊長:2011/11/06(日) 13:42:37

しかしほんの数瞬、間に合わず。

直線状の構造物を足場に、高出力の推力を全開に最大の加速度をぶっ放して最後の足場を蹴り崩しレイヴンへと跳躍したオラクル。
を、チャージが完了したレールカノンが襲う。
ほんの一瞬、先行する閃光に気付いた瞬間には知覚領域での察知不可な弾がオラクルのフレームを貫き、衝撃と同時に空中で爆発。
黒煙の塊は慣性に従い弾の過ぎて行った方へ、後に重力に従い下へ下へと。

砕け散るオラクルは粒子となり黒煙の中にちらちらと、煌きの少なさに虫の知らせ。
その瞬間、レイヴンは気付いた。
違う!これは、パルヴァライザーなんかじゃあない!ただまっすぐ、己を省みず、最短距離を突き進みそして届かせた。
そうすることに成功した。これは、この愚直なまでの強引さは、あの時から変わらない、あの時の、レイヴンであるエヴァンジェの ―――
再び振り抜く右手のKRSWよりも早く、それは姿を現した。

「レェェイィヴゥンッッ!!」

失った右半身、そこから散っていくは鮮血の様に粉となり流れる破片。纏わりつく黒煙の壁、その糸を引き千切りオラクルは再動。
関節の限界にまで引いた左腕に光るブレード、それはレイヴンを目掛け突き動く。

『カイルス…! ―――




瓦礫に落ちる雨粒は終わりの合図となった。
辺りに充満する硝煙の香、風に混じる砂、そして白金のフレームに滴る赤黒いオイル。
全てを洗い流す。

『レイヴン、応答して!レイヴン!』

夜明けに滲む紺の空の境、朝霧に雨音と女性の声はこだまする。

609隊長:2011/11/06(日) 13:43:02
何者で在れなくとも、何も無くても構わない
こんな抜け殻みたいなざまの私を見て、同じ瞳の少女は歩み寄ってくれた
類は友をと言うのか、一緒に堕ちていくとばかり思っていた
だが、あの子は泣いてくれた、笑ってくれた、優しく、温かかった
同じにしてはならないと、教えてやりたかった
だから、今更自分がどうであろうと、構わない
やっと気付けたことに、手が届く気がするから…―――

「…とさ」

レイヴンは雨水に顔を打たせた。
汗と疲れは憂色を残し流されていく、それと同時に嗚呼の声。
彼のACの装甲に響く雨音と一緒に叩くのはブーツ、伸ばした手で引く緊急用のレバーは頭部パーツの強制分離機能。
固定ボルトの雷管に点火、指向性爆薬の起爆と同時に支えのなくなった頭部はコアの上で転がりレイヴンはそれを蹴り落とす。
ボルトの爆発以前に酷く歪み破損して、原型を失っていたそれは数メートル下へと落ちていく。

『…勝てたのね』

レイヴンの語らいに耳を傾けていたシーラは、彼のヘッドセットへと言葉を。
まぁな、と寂しげの呟きに彼女はトドメを刺せたかどうか、そんな野暮なことを聞くことはできなかった。

「俺から言わせれば…高望みでもしてんのか、どれにでも、そう在ることはできていたと思うがな」

生真面目なのか、考えすぎなのか。そう口走るレイヴンの顔にもどこか幼さが。
同じ子供、そう思っていたエヴァンジェが、今の彼からはとても大きく見えていたから。

「周りの意じゃない、本人がそう思っている以上、何も変わらないのさ…結局」

610隊長:2011/11/06(日) 13:43:31
足を滑らせた。
雨で濡れたこの場所を短い足で歩くのは困難だろう。
だがそれでも、少女は足を止めない。疲れで既に震える足に鞭を、少女の顔は苦痛で歪むも歯を食い縛り強がり。
最早顔を流れる涙は雨と混じり見分けなどつかない。しかし消えることはない、少女の瞳からはずぅっと流れ続けている。

「……エヴァンジェ」
「すまん、格好付けてみたがやはり負けてしまったよ」

突如聞こえた、ずっと求めていた声が、その主が、見上げる少女を前に立っていた。
何を言うでもない、下唇をきゅっと噛み、溢れる涙や言葉にもできぬ情を、近付き、抱きしめることで我慢した。
ぼろぼろで薄汚れて雨にずぶ濡れの二人は身を寄せ合い、肩を震わせた。

「エヴァンジェの身体、つめたい…すごく、すごく冷たい。ぎゅってして、温めてあげる…から、だから!もう居なくならないで!一緒にずぅっとずぅぅっと、一緒に居てよ」

少女がひしと抱きついた男の身体の冷え、それが何を意味するかなど彼女は知る由も無い。
この時、男の腕の振るえが彼女の身体からやっと感じることのできた温もりによってのものであることだと言うのも、また同様に。

「あぁ…あぁ!誓おう!」

エヴァンジェが胸の内で叫ぶ、すまないの言葉に理由はふたつ。

611隊長:2011/11/06(日) 13:44:00

それから間もなくして、男の誓いは破られた。

間もなく、とは言えそれは男にとってのことだ。
あれから男は少女との一日が、それはそれは早く過ぎて行くよう感じられたから。だが実際に長い月日を共にできたワケではないのも事実だ。
この短い間に、少女に何か与えることはできたろうか?最後に目を閉じた時、闇に呑まれる最中で感じるは不安。
少女が男の名を呼ぶのが聞こえる。
そうだ、と男は思い出す。自分に残こされた本当に最後のものを、少女に与えようと。
それを口にした時、少女が一体どんな顔をしてくれていたかはわからない。
だが、しかと与えたのだ。喜んでくれたかどうか、よく考えれば女の子に似合うものでもないだろうか。
いっそう強く握られた腕は喜びからか?だが不思議と安堵に包まれ、そして消えて逝く。
こうして男は、本当に何者でもなくなった。
そんな最後の最後、男の表情には満面の笑み。それはまるで、子供の様な。


「ありがとう」


冷えきった手を強く握り、涙に濡れた手向けの言葉は目覚めることのない男へ送られた。
うそつきと、声を大にし叫びたい。そう思うことすら忘れ、今しがた与えられたものを口に。
それは、その〝少女〟の名 ―――

612隊長:2011/11/06(日) 13:44:50

「再び問われた男の名」 追加エンド


―― 一人の子供を見た、絶望した子供を


男は歩く、廃墟群の中を。
長いコートを風に揺らしながらそのブーツが叩くのは瓦礫。
深く被った帽子から覗く鋭い目付きに映るのは、同じような廃ビルの中で目立つ立派な造りの建造物。
正面の扉が外れ埃や瓦礫の散乱するホールに入り、ガラス片を踏み付けその音を耳にした。
幾つもある階段の中で足跡がくっきりと浮かぶものを見つけ、それを辿るように上へ。
最中、フゥと吐き出す息に、こりゃ歳だ、と呟きを混ぜて目的のフロアを目指した。
とある部屋の前に着いた頃にはすっかり疲労が目に見えた。
鼻の頭の汗を拭きやりながら帽子で汗ばんだ顔を扇ぐも埃っぽい空気に鼻がむず痒くなりやめる。
ある程度息を落ち着かせた所で、目の前の扉を二三度軽く叩いた。
木製の扉の軽快な音から少しして、聞こえてきたのは少女の声だった。
「どーぞ」
その声を合図に男はドアノブを回し、蝶番の声を聞く。
ゆったりとした広間に一人、ほんの少し大人びた少女はそこに居る。

「久しぶりだね、〝エヴァンジェ〟……失敬、エヴァンジェリンの方がよかったんだったかな?」
「どっちでもいいよ、ラストレイヴン」

あれから二年、名前の元の持ち主が亡くなってから二年の歳月が経っていた。


聞くにその子は、なにもない自分に絶望していたようだ ――

613隊長:2011/11/06(日) 13:45:16

―― 彼女から見れば、君は誇れる人だったと
―― 私から見れば、君は才のある烏だったと
―― 企業達から見れば、君は強い獣だったと言えばよろこぶだろうか?


「それじゃあ、屋上に連れて行ってくれ」
ラストレイヴンのその言葉を聞き少女は扉を抜けてフロア奥の階段に、それに遅れないよう男も後に続いた。
薄暗い階段を壁に開いた穴から漏れる光が微かに照らす。
先を行く少女が鉄製の扉を開き、錆の軋みが響くのがわかる。
男が最後の段を踏んだとき、開いた扉の向こう、快晴の青空を背にこちらを見やる少女が。
流れ込む風に髪を揺らしながら、ラストレイヴンは少女の近くに寄った。

「何度もしつこいかも知れない、だがこれで最後だ。……いいんだな?君が背負うには大きすぎるし、無理に背負うことのない名なんだ。彼は何度も膝を付き敗れたことがある、しかし、本当に強かったのも事実だからな」

うん、と少女は頷きながら自分よりも高い背の男を見上げる。
その時の瞳は幼さの中に力強さ、それはまるで誰かさんを彷彿とさせる、そうレイヴンが笑いそうになったとき。
目の前の少女は続けて口を開いた。

「前になまえ聞かれたことあって、そのときにわたしは昔を思い出すからいやだって言って泣いちゃって………そしたらあの人が……あの人がなまえ、考えておくって言って、さいごにこのなまえくれた……もらってばっかりのわたしからせめて、このなまえに与えたい」

今にも泣きそうな少女は唇を噛み締める。
肩を震わせながらも深呼吸、そして彼女は眼前の、風に揺れる帽子を押さえるラストレイヴンの瞳に睨み込む。

「特別を超える!烏で在ることをっ!!」


やめておこう、その子はもうこの世にいない ――

614隊長:2011/11/06(日) 13:46:10

だが、あの子供のようだった男の名を受け継ぎそれを目指した存在が、超えてしまおうとまで言う存在が ――


「シーラ」
『わかってる、すぐに投下するわ』
耳の小型端末に喋りかける男は遥か上空を指差した。
少ししてから響く重低音は大型輸送機のエンジンからのもの。辺りを包む轟音の中でラストレイヴンは続けるのだ。

「瞳に刻め!一人の男がその身を任せたアーマード・コアの姿を!!そして、私の知るコイツについての全てを君に授けよう!!!」

空から舞い降りるは浅葱色の装甲が鮮やかに光る重武装を施された細身のAC。
自動操縦のそれは少々強引に屋上の一部に脚を叩き付け、コチラを睨んだ。その眼光のなんとも言えぬ迫力に、少女は背筋に走る感覚を覚え震えた。

「最早有無は言わせない。エヴァンジェ、今日から君はレイヴンだ」



今目の前に、そこに居る ――

おわり

615隊長:2011/11/06(日) 13:51:01
これで加筆版はおしまい
個人的にはこそばゆい所に手が届く気がする
これ読んでもまだ「?」となる所があったら個人で脳内補完してくれ
過疎空間スレの方で突っ込んでくれても構わんです
てめぇの文章力じゃあ役不足だ!
っていうエヴァンジェ的な人は是非書き直してくれてもいいんだよ?

616隊長:2011/11/21(月) 15:13:31

「管理者、大破壊、そのあと」


人の居住スペースだったであろう建築物が崩れ砕け粉になり、それらによって構成された瓦礫の山。
瓦礫の山によって覆われた大地、それを踏みしめる人間は見当たらない。
人のいない暗がりに、影を落とす日の出ていない空。
そんな暗く湿った空を無数の光が列を成し飛んでいる。
赤いフレームに黒い羽、天使の名を持つ殲滅兵器。

『ターゲット確認、排除開始』

ナインボールセラフの大隊は、自身の背負う羽から数え切れぬ程のミサイルを吐き出す。
セラフ達から放たれた無数のミサイルは空を被い、辺り一帯を照らす光源となり遥か遠くにいる目標目掛け飛んでいった。
そこから10キロ程離れた地平線の向こう側、セラフ達がこぞって排除に向かう目標が薄らと見て取れる。
それは淡い光だった。この距離でも観測できる程の白く燻った光、空を被ったミサイルの光すら薄れて見える光だ。
先のミサイルは白い光に到達し、その光を隠してしまう程の爆炎に姿を変える。


が、爆炎が止み衝撃波がセラフ大隊を通り抜けたころ、遠くの白い光は未だその輝きを保っていた。
ミサイルによる長距離攻撃はまったくダメージになっていなかったのだ。

617隊長:2011/11/21(月) 15:16:02
ボツSSその一
昔のSFみたいなものを書こうとしたSS
大量の量産型セラフ部隊VS大破壊の根源
ボツ理由は飽きちゃったからさ

618隊長:2011/11/21(月) 15:16:38

「もう一つの終り方」


「忌々しい雨だ、晴れた空が好きだと言う程私は陽気な人間ではないがな…」
『本当に独りで行くつもりですか?』
「止める気か?オペレーターならそれらしくしていろ、企業も、そこいらの武装勢力すらも…諦めた。だがな、私は地下に隠れてモグラの真似事をする気などさらさらない…!」
『では…幸運をジナイーダ』
「やっとそれらしくなったな…素直な女だ」

現在、地上に人間はいない…そう、公式には伝えられていた。
企業は多くの戦力を集結させ、巨大な地下施設に篭り、あの雨をやり過ごそうとしている。
―――雨、半年も前になる。
暴走した企業の一部が掘り出された旧世代遺産、オーバーテクノロジーを起動。
それと同時に、空を埋め尽くす程の〝雨〟が飛び出したのだ。
赤い雨、通称特攻兵器と呼ばれるソレは町や小さな村、一人の人間にまで容赦なく降り注ぎ、世界を瞬く間に赤一色に染める。
そして現在、人々は地下に隠れ、その命の行く先を運命などとくだらない代物に託していた。
企業のお偉方を中心に、僅かな人間や資源を抱え、〝地表に多くの一般人を残しながら〟。

「私はツケを払わない連中と心中する程愚かじゃない、たとえ独りでも、生きる為に戦ってみせる」

619隊長:2011/11/21(月) 15:18:44
ボツSSその二
ジナ主人公の終焉エンド
圧倒的な物量と脅威となったパルに独りで向かう
ボツ理由はそんなにジナ好きじゃなかったから
書き辛いし

620隊長:2011/11/21(月) 15:19:39

「寒冷基地」


吐息が白い。
それがまるで自分のものではないようだと思いながら男は眼前の雪景色に溶けていく息に気を取られていた。
寒さは感じない、脳が拒み身体がその指令を受け入れたせいだ。けして病気ではないが普通でもない。
しかしそんなことが当たり前の身体を持つ男にとって、寒いと感じないながらも口から漏れる白い息が珍しい。

少しして、男は思い出したかのように、それでいて忘れていたワケではないと言うように脚を動かしたのだ。
男の横には大型の輸送トラクター、息に見入っていた間に既に半分が凍りついたかのように雪に埋もれている。その荷台部へと歩いていく男は横目に辺りの光景を目にするのだ。
風は強く、雪と霙が地面を薙ぎ払うような世界。
空は灰色に濁り積もる雪との境界は潰され、建造物のない広大な原は数キロ先を眼に納めることも許さなかった。
初めて目にするシベリアの地、聞かされてはいたが此処まで酷い環境とは…男は心内に呟いた。
梯子を上り荷台上で変形したまま凍ったシートに手をやる、悲惨にもこの寒さにその素材を酷く劣化させているようで力を加えて引っ張ろうとすればガサガサと手元から崩れていく。
「トラクターも駄目、シートも駄目…」
愚痴が漏れ同時に白い息も漏れる。
しかし今度は眼を奪われずに済んだ、眉間に寄った皺がもっともな理由。
シートの山をずんずんと登っていく。その際踏み付けた部分からシートは崩れ、その内側に被うものが少しだけ覗いて見えた。
その内に目的の高さまで達するとシートを崩し崩しにその内側へと潜り込んで行く。

それから間もなく。
シートの下から唸るような重音、シート全体が揺れたかと思うと凍ったソレら崩しながら被われたものが起き上がったのだ。
氷まじりの風に影が浮かぶ、巨人。いや、大きな人の形をした何か。
鈍く紅い眼光に冷えた身体を慣れさせるかのような唸り。トラクターを踏み潰した巨人は灰色の中にその姿を消した。

621隊長:2011/11/21(月) 15:23:38
ボツSSその三
エヴァンジェがバーテックスとの決戦を前に各小規模拠点に
物資の確保へと向かう中でのシベリア基地のお話
この後前髪パッツンの合法ロリみたいな拠点責任者と出合ったり
両肩グレと出合ったりする
ボツ理由は少しでも雰囲気出そうとウォッカ飲んだらグロッキーになったから

622隊長:2011/11/21(月) 15:25:43

「告げる烏の広げた羽よ」


荒れた地表に転がる骸を数えるのはやめておいた方がいい。
貴方の指の数が百を超えているのなら止めはしないが、数えている最中に風が骸の数を増やすことも忘れずに。
それでも貴方がこの山のような亡骸を端から数えていこうというのなら最後にひとつだけ。
眼前に広がるこの骸の敷物に〝端〟は存在しない。数えるのならいっそのこと適当に数を言えばいい。
安心してほしい間違えることは決してない、何故ならこの世界でどこの誰に聞こうと亡者の数を正確に言い当てられる者などいないのだから。
賢者の烏は告げる。
「我々の築いた屍の荒野、硝煙の楽譜、鋼の城――
 それらはとうに崩れ消えた。烏は世界から呪われたのだ。我々は眼を瞑り境遇に嘆くこともできん、何故なら企業の騎士連にその首を狙われているから
 私の目は眠ることを忘れた、今は敵に見つかる前に見つけるためだけに働く。私の羽は飛ぶことを忘れた、今はただこの武器に弾を込めるのみよ」
紅い瞳に映る世界を彼等はただ焼き付けるのみ。
今に始まったことではない、烏は世界からその姿を忘れられる存在にある。
企業と呼ばれる人々の城、そこに住まう者達が烏から騎士へと変わったのが全ての終わりであり始まり。
烏は己のため、騎士は人々のためにその剣を振るう。どちらが世界に呼ばれ住まうべきかは一目瞭然なのだ。
力無き烏は羽を広げる前に騎士の剣によりその嘴を絶たれその胸の内の心を貫かれた。
力在る烏は羽を広げず立ちはだかる騎士の軍勢に牙を向け羽を散らしていった。
烏もまた、眼前の骸のひとつでしかない。
空を舞う影はなし、地に落ちる一枚の羽もまた消えた。

623隊長:2011/11/21(月) 15:33:03
ボツSSその四
レイヴンって存在がガードナーっていう存在に負けだした世界ってのを書きたかった
ACの持ってる防御スクリーンと違い拠点防衛としての展開を狙って開発された防御領域システム
数機集まり領域を乗算させるだけで特定範囲に高防御能力を発揮できるのがガードナー達の強み
つまり単独での強さから数での強さになちゃったってことでそんな中で数人のイレギュラーが活躍するかもしれない
ってSS
ボツ理由は風呂敷広げすぎな設定から

624隊長:2011/11/21(月) 15:34:15

「盾の本質」


薄暗がりにポツポツと浮かぶ電子画面の明り、明りに照らされるスーツを着込んだお偉方はがどうにも騒がしい。
部下の手から引っ手繰った受話器に耳を傾け汗水拭って言葉を選ぶ。与えられた指示に従いいそいそと走っていく部下を心配そうに見送りながら次に何をすべきか顔を覆った。
指の隙間から覗いた目は今に気狂いしそうな程困惑と動揺がちらついていた。
無様にも戸惑うだけのお偉方の姿をモニターを介し全てを把握できたのだが、むしろ困惑するのはコチラの方だ。何時もなら対面を気にするであろう彼等スーツの人間が今や仕草を隠そうともしない。
コチラへと繋がるモニターに青ざめた顔を向けられた時、それよりもずっと前からだが、事態の殆どを予測できた。

「火星のレイヴンによる掌握が失敗した…」

予測なんて存外に容易い。できることなら当たってくれなければよかった。
地球から約2500万kmの距離、火星へ繋がる軌道エレベーターのレールの上。太陽の光が当たって白いレールが
浮かび上がる黒い宇宙の中に私という赤い盾は居る。

「レイヴンハングマン…君だけが頼りだ」

地球を背負った重みが、重装AC戒世から操縦する私の足へと伝わる。とてもじゃないが耐えられそうになかった。
コックピットチェアを突き抜け、機体をも貫き、そのままこの宇宙に投げ出されそうな感覚。不思議と表面にはでてこないが此処まで重荷だったとは思いもよらなかった。
視線の先には赤い星、火星。

あそこから、弾丸となり加速するエレベーターが地球を目指しここを通る。

625隊長:2011/11/21(月) 15:35:25
ボツSSその五
戒世がテロ部隊によって放たれた軌道エレベーターを受け止める!!
ってお話

ボツ理由、無理があった

626隊長:2011/11/23(水) 15:05:12

「今の私にできること」


二月程前、絶対なる力を振り翳していた私を打ちのめし、頂点に立った男が死んだ。
依頼の最中、味方だと思っていた同業者に背中を刺されたらしい。
この業界では珍しいことではない、裏切りなどというのは最早悪ですらないのだ。
だが、あの男がこうも簡単に逝ったのが、私の中では信じられなかった、否、信じたくなかったのだろう。
齢、人というもの総てに与えられた病魔に抗う術を我々は知らない。
医療用のナノマシンによって遠ざけることはできる、何倍何十倍という期間。だが、それでも精神という領域への侵入は不可避なのだ。
彼もそうだった、心の隙間は存外簡単に埋まる。伴侶、子、友、仕事、力、誇り。
彼にとっては……背中を預けるという烏にとっての命綱とも蜘蛛の糸とも言えるものがそうだったのだろう。
だからこそ、命を落としたのだ。散って逝ったのだ。そして、消えてしまったのだ。

では、〝彼も〟とは?

含まれるのは無論私のことだ。
己の脆さが浮き彫りになるのを感じた。
人を遠ざけていた私が、何時しか人を求める様になったのだ。
それでも尚、寄りつく者どもを振り払う、此処じゃあない。私が求める者がいるのは此処ではないのだから。
だからこそ、感謝している。あの男が死に、再び頂点に戻った私に、求める私の心の隙間を埋める様に群がり這い寄る者達が来たと。
そんな者達が来るべき場所に戻れたと。


普段のアリーナでは比べられない程の歓声も幾分温い。それは、この戦いは久々に興奮する、あの男を思い出すものだから。
舌に触れる血は生暖かい。
呑み込む血反吐はそこらの酒よりも咽喉を焦がす。
一度引いてダッシュボードからペインキラー、首筋に突きたて圧力注射の感覚を味わうのだ。私は痛みが好きなワケではない。
眼前の敵は強い、確かメビウスリングと言ったか。
コチラの機体に使われているものよりも型番の新しいものが見られる正に新時代。
そう、これで良い。古きは駆逐され新しきが上へ。それが企業の統率する世界の常。だが、私もただではやられん。
奴のグレネードと左腕は付け根ごと削いだ。危惧すべきは右腕の主兵装か、惜しむらくはコチラが撃ち合いに付きやってられる程、弾も装甲もないということ。
既に右腕と頭部を失い、彼奴の正確な目視からの偏差射撃によって背中の重機関銃を破壊された。バランサーの数字も狂い出している。
今グレネードを使うのは危ういだろう。
となと残るは左腕の剣のみか。だが結構、大いに結構。
衰えた勘、落ちた読みでは勝てないことなどわかっている。だからこそ、思い知れ、貴様が倒す前王者を。その執念を。その折れかけた牙を。
灯れ剣よ。私の名を彼奴の心の一片にまで刻み込もうとも。
今の私にできること……それは〝エース〟という名が刻み込まれるまでアイツを刻むこと!!

627隊長:2011/11/23(水) 15:05:32

「吊るされた男」


鉄の枠組みのベンチを照らすのは黄色と言うには少し蒲色の強い街灯の光。
影を落とす中年の大男と対象的に体の小さな少女、二人は静かに座っていた。
不意に少女は口を開く。
「それで、大切な女性(ひと)が死んじゃった男の人はどうなったの」と。
それは先ほどまで、隣の大男が少女に聞かせていた話のことだ。哀れな男が想い人に先立たれる物語。
ははと笑いながら飴の甘さに頬を落とす少女への答えは「名前通りに、吊るされちゃったんだよ……自分の愚かさによって」というものだった。
その時男の瞳に浮かぶものなど、幼い聞き手には理解できないだろう。
「なんて名前だっけ」
棒付きの飴を口から離して問う少女、そこで男はベンチから立ち上がり再び答え合わせ。

「ハングマン、今じゃ首の縄は鎖に変わったけどね」
そう言って少女に、ポケットから取り出したくしゃくしゃの紙幣を渡す。いいの?と、今にもはしゃぎそうな子供の頭を撫でると、大男は街灯の下から影へと消えた。
闇の中、語部の端末が知らせる緊急連絡の音は少女の耳に届いただろうか?

―――ZIO MATRLX
『ネオ・アイザックにて我が社の遣り方に不満の声を上げる連中が集っているのは知ってるな?
彼奴等に武装したMTを流した駄企業が在ったようだ、歩く者は火炎瓶に手製の爆弾、MTは四方に発砲していて手に負えん』
愚痴煩い端末の向こうの老人が喋り続けるのも構わない、そんな様子で男は言った。
「どうしてやればいい」
『皆、殺せ』


男が迎えの車に乗りネオ・アイザックの都市部、ジオマトリクス所有区画での暴動を抑え込もうとするシティガード部隊の元へと付くのに十分と掛からなかった。
黒塗りの車から降りる男の元へと駆け寄る現場責任者、いきなり向けられた怒号は、此処にACが運ばれていることへの怒りからだ。
「この状況でACを出したら被害がどれだけ拡大するのかわかってるんですか!MTが居るとは言え数はたったの――
「許可は出た」
一言で小うるさい相手を黙らせ、自分の荷物を届けてくれたトラクターへと男は向かう。
幾つかの書類を持って端的な説明をしに駆け寄る整備班、その言葉に耳を傾ける代わりにコートを預けヘルメットを受け取った。
小型のシャフトを使い上へと、幾重ともなる装甲と板金との人型を模した重装義体の上に足を下ろす。
トラクターの上ともなれば、横たわる人型兵器からでもかなりの高さになる。シティガードが必死に抵抗するラインの向こう、不満を叫ぶ人だかりがよく見える。
それよりもかなり後方にはMTがいる。確かに発砲はしているようだがコチラに飛んでくる気配はない、素人の操縦ではそんなものなのかと男は不満げだ。
これじゃあ一般人を殺すのと大差ないな、そう思えるから。

『身を出してちゃあ危ない、ACに乗れぇ……』

『ハングマンッ』

わかってる、メットの通信機から聞こえる整備班長の声に返答。
花の弁のようにに開いているコア中心に足を置き、一部を力強く踏みつける。それと同時に立ったままの男を取り込む形で装甲が包み込み、カシャカシャと音を立て、時にガスは排出しながらコアは頑丈に、堅牢に出来上がっていく。
最後に前のめりに倒れている装甲と頭部が持ち上がり定位置へ。密閉用ガスを何度か押し出し、ハングマンの搭乗機である重量級AC戒世はその出力を巡らせ紅いフレームを動かした。
ゆっくりと立ち上がり荷がなくなることで少しだけタイヤが押し上げたトラクター、その横脇に設置されている機関砲を掴む、それは従来の物に比べ幾分も大型化され形状の変化したAC用兵装、EWG-MGSAW。
背部の追加弾装から垂らした弾帯を引っ張り機関砲に装填、重々しい金属音はシティガードを退避させる合図になった。

男は何を見ているのか?
アーチ状に飛び出し落ちていく薬莢か。それとも、次々と機関部に取り込まれていく弾薬帯か。
止まることなく発せられる銃口からの閃光か。それとも連続発射で見える弾頭の真っ直ぐに伸びる光か。
目の前で繰り広げる虐殺劇なのか、血飛沫と煙なのか、拉げて行くMTなのか、その残骸なのか。
違う。
吊るされた男は彼女以外何も見えていない、自分の中に残った想い人だけしか。
それを知っているのは他でもない男だけ、過去を聞かされた少女はきっとあの話を理解できなかっただろうから。
だから男だけなのだ。
世の戒め、そんな正義感に満ちた機体は悲しくも、敵とする者を殺すだけの道具と成り果てていた。

628隊長:2011/11/23(水) 15:06:15
短SS!
この程度の短さだと凄い捗る
個人的にだけど

629隊長:2012/04/16(月) 19:31:10

「幻想世界に夢を見た」


『今回の依頼は第八コロニー全域を作戦領域とします』
ぼやけた思考を耳の小型端末を介すオペレーターの声が刺激する。
彼女の言葉はこんなにも尖っているのに集中できないのは何故だろう?そう思う男の目の前に、既に廃墟と化したコロニーが広がっている。
人の姿はないし忙しい人工物も見当たらない。貨物運搬レールの上はぼうぼうに生い茂る草、建築物が纏う種類のわからない蔓の群。
最下層となる足場は誰も使わぬ生活水か、はたまたコロニーを被う天井の亀裂から漏れ滴る雨なのか、数mという深さで水没した道や建物には車や家具がそのまま。
さらには水草の浮いた水面の下に魚が泳いでいるのがわかる。
依頼遂行のためと止められていた無人発電所は再稼動、人の居なくなったこの空間に再び電気を送りやるのだ。
そのためボロボロのネオンは火花を散らしながらに発光。
名前も知らない桃色の花弁を微風に揺らす木が照らされているのが凄く奇麗だった。

「…」

言葉もないってこういうことだったのか。
簡単な感想もでないのは自分が口べたなせいではない、と言い聞かせる男を端末からの女性が引き戻す。
『聞いてます?』の声は落ち着いたものだったがこれは怒っていそうだ。と、あてずっぽうな勘。
適当な相槌と共に男は歩いた。
コートの下に覗くゴツいプロテクター付きのコードや機器が視界に煩い灰色の服は、衣と繋がったブーツが地面や小石を叩く度に耳にも喧しかった。
『指定されたポイントへ急いでください、ACの到着まで残り十分をきりました』
そんなに急かさないでくれよ。
それは返事ではない、男の心の中で愚痴に過ぎなかった。
少しだけ小走りに急ぐ最中、男の耳はオペレーターのソレとは違う音を掴んだ。壁の隙間から水が零れる音ではない。虫の鳴き声とも違う。
耳の向こうの女性に怒られるだろうと、そんなことも承知で男は今歩いている草だらけの路線から道を外れた。
音の方へと小気味良くブーツの底を叩く。
聞こえるソレは次第に大きく、そしてそれがなんとも心地良いものであることがわかる。
あと少し、あと少し。辿り着いたのは壁の崩れたベッドルーム、ランプの灯りに照らされた蒲色の壁紙と擦れたような歌声。
入ってみて気付いた、レコードだ。くるくると回る蝋でコーティングされた木製の円盤を針がなぞり、そこから落ち着いた初老男性の歌声が響いている。
『気は済みました?』
立腹を通り越し呆れたような声でオペレーターは遠まわしに仕事しろよと男に告げた。

630隊長:2012/04/16(月) 19:31:27
コロニーの外から坦々と続く物資搬送用の大型列車用路線。
幾つかある内のひとつの防護扉の近くまで行くと植物に侵食されず生き残ったコンソールがちらほら。
教えられた手順でそれらを叩くと蒸気と共に分厚い扉が解放、むせかえる中ですぐ横を通過する運搬列車の梯子を掴んだ。
荷台部によじ登り列車の運んできた物が丁寧にシートで被われているのを目にした。頑丈なロープで固定されている部分の一部を解くのに苦戦しながらも、男はやっとこシートの下に潜り込む。
数十秒という沈黙の後で響くような唸り声と共に保護シートを突き破って出てきたのは、真っ赤なフレームに青の瞳を煌々とさせる重量級人型兵器。
肩部装甲に駒のエンブレムが静かに覗く二脚型AC戒世の姿。
「システムは敵が来るまでの間弄らないでおくよ、あんまり煩いのも此処では似合わない」
ロマンチストなんですね、なんていうオペレーターの皮肉も笑って返す。
ACという大型兵器の眼を通して見るこの廃街も、なんと味のあるものだろうか。と、レイヴンであるハングマンは同じくレイヴンであった何処か東洋のレイヴンが言っていた褒めの言葉を真似てみるのだった。
路線を離れ街並みの方へ、下層に踏みいれた脚先は機械の神経を通してもわかる冷たい水。藻を踏み締めたようにヌルリと揺れる度、水面は慌しく波紋をたて、魚達が逃げていく。
こんな場所で撃ち合いになるのか、そう考えるとなんだか残念で仕方ない。物憂げな表情だけなら耳の向こうの女性にも怒られないかなと皺を寄せる。

『……さんざ気を張った物言いをして申し訳ないんですが…』
どうしたと聞きやると、女性はどもりながらも続けた。
『こないかもしれません……敵部隊』
どうやら作戦目標は他所の部隊とぶつかって交戦真っ只中のようで、言い訳と焦りで早口に、ごにょごにょと漏らす謝罪の言葉を並べるオペレーターが可愛らしい。
ACまで持ち出したにも関わらずだが、こんな結果も悪くない。そんな表情で相手を許した気になるも、少しばかり我侭を言ってやろうとハングマン。
「申し訳ないと思うなら、もう少しだけさ…ここの電気通しておいてくれ」
勿論ですともの女性の言葉も聞かずに戒世のコックピットから這い出るハングマン。ACの出入り口となるゴツい可動装甲を元の位置に戻すとそのままACの上で眠るように寛いだ。
撫で行く風の匂いを楽しみながら、レイヴンは愛機と共に幻想世界の夢を見る。

631隊長:2012/04/16(月) 19:34:59
久々にSS
何時も通りの短編だけれど
バイオショックやってた時から書きたかったクラシックな街並みを書きたかったんだけれども
2レス内に納めようとした結果風景描写が甘くなってしまって困ったワン

何度も書いてるのにハングマンのキャラが固まらない
熱い漢か物静かな男か屈強なメーンか迷うよね
いっそ幼女でもいいんでなかろうかそれでいいんじゃねーかなぁ

632隊長:2012/06/07(木) 04:25:19

「優しい火」


多色の油絵ノ具で塗り潰したような不快な空だった。見上げれば渦巻く濁り色の雲が視界いっぱいに広がっている。
時折覗かせる発光色は緑に垂らした一滴の青、眩い光が教えてくれるのはそれが雷雲の塊であり、同時に幾多の汚染を運び込む物であるという事。
油気質な空気を唇にじっとりと感じる少女は何かを呟いた。
長い髪を結ってはその身に似合わぬゴツいヘルメットを被った。
見上げれば空と雲、見下せば土と水。少女の立つべく場所は回りよりもほんの少しだけ高い処。
ゴンゴンと響く足音は重金属を叩く音、近くで見れば大した事はない、少女は建物の上にでも居るのだろう。そう見える。
だが少し見方を変えるだけでソレが大きな人型の機械の上である事がわかる。錆びついた剥き出しの鉄骨が鈍く光る塔。
そこに4本の脚を絡めしがみ付いているのは、少女の身体よりも幾分大きな金属の人形なのだ。少女はその人形の調度頭の近くに足を付けている。
ボウと光る紅い4つ目に少女の身体は照らされる。

『サージェント、聞こえますか?サージェント』
なんとも出入りに不便な操縦席へ腰を落ち着けた頃、少女に対して投げかけられたのは女性の言葉と少女の呼び名だった。
この声を聞くと意地悪くなってしまう自分に気付きながらも抑えを効かせる。
「マリー、聞こえてるから喧しく続けるな」
応える言葉はどこか冷たい。関係はないが、少女は見た目よりも随分とハスキーな声だった。
マリーと呼ばれた通信機の向こう側の女性はいつもの事のように二つ返事ですいません。それから言葉を紡ぐように続ける。
『この周辺の避難は終わりました。区画の避難所からも確認が取れて、漏れもないとのことです』
御苦労と少女からマリーへ、そうとわかればと言うように、鉄塔に貼り付く機械人形は脚部の固定金具を外し特徴的な4本脚で地を叩いた。

633隊長:2012/06/07(木) 04:25:47
『こちらジャック!聞こえるか!?』
突然のキンキン声が通信ノイズと交ざり耳を突いた。
その五月蝿い雑音が応答を求めるたびにノイズは大きくなり、声から判断する能天気な若者が自身の通信機の不調を疑い始めた頃、少女が怒鳴り散すに充分な怒りを溜め込ませた。
「通信機の回線を見直そうとも思わんのか!貴様ァっ!!」
ぎりりと聞こえる少女の歯軋りに、同じ回線に繋いでいたマリーはコレはまだ続くのだろうと少女の怒号を聞いていた。
さんざっぱら言葉で蹴散らした若者ジャックに、次やったらホントに蹴散らすぞ?と釘を刺す少女。
やっとこ本題へ移れるとなると、ジャックは少ぅし控えめながらに言葉を並べはじめる。
『こっちの区画はあと10分もすれば避難完了だ。漏れも今の所はなしだな、それよりもじいさんの所が遅れてるらしい』
「オールドマンの区画か、あっちは隘路ばかりだからな」
その返答と共に目の前の光学画面に行路補足や別経路案が書き加えられた地図を展開する。
バツ印のない道に幾つかの線を加えてその情報をどこかへと転送する少女。相手のどうする?という言葉に
「余裕があるなら行ってやれ、この三人で一番脚が早いのはお前だろう」
と返す。ジャックからは了解だ、の軽快な返事。
五月蝿い相手の厄介払いが終わるや少女は空いていた手をぶらぶら、それから操縦桿を力強く握り機械仕掛けの人型重機、ACの脚を働かせた。
今度見上げる空はACの瞳を解してのもの、浮かぶ雲の大きさが変わらないのは、アレに比べればこの重機も小さいものだからだろう。
『あとどれくらいでしょうか』
静かに囁くマリーの声、同時に友軍機の信号を表示する熱源の接近。
重厚な装甲を身に纏う2本脚の厳ついAC、レディ・レッドが音と揺れを連れて少女の乗るACの近くに脚を付けた。
5時間程度だろう、と4本脚とレディ・レッドに負けぬ装甲を持つACアイオブカースは通信に少女の声を乗せてマリーの方を向く。
「内陸は弾の雨ばかりだ。それに比べれば微量な汚染を運ぶ嵐くらい、どうってことない、だろう?」
『それでも、避難が必要であるくらいには危険ですけれど……』
つまらん答えだ。彼女の呟きをACの歩行音が掻き消した。

634隊長:2012/06/07(木) 04:26:32
『こちらオールドマン、すまんなお嬢さん方、若いノの協力がありながらあと20分は掛かろうて。送ってもらった情報は有り難く使わせてもらっとるよ』
年季と落ち着きを感じさせる静かな語りは通信の向こう側から。オールドマンを名乗る男は少女に対し礼の言葉。
「状況は把握した、そっちが終わるまで警戒態勢を維持する。そろそろ風が嫌なもの運んでくる頃合だろうからな」
その言葉が終わるのを待つかのように、通信が閉じられればどこからか響く砲音。
水平線に消えていく弾道は光が擦れながら消えるようで、後を追うように伝わってくるのは重く歪んだ定かではない音、先のそれだった。
弾の行く先には電離した気体の青白い残り香が四散する小さな爆発。正体不明の物体は肉眼では捉えられない距離でその形を崩す。
『今のは…』
事の起きた方角を見やるマリーのACを介し映る物はなし。
呆け気味の相方にフンと鼻を鳴らすローザは、自機の腕に抱える大砲を展開する。と同時に、ローザは悪戯ににへらと口を歪ませるのだ。
ACと比べても異様な長さである砲身を持つ大口径狙撃機関砲、射撃と同時に発生する反動を抑えるため脚部に内蔵された巨大な杭を静かに覗かせる。
4本の内後ろ2本の脚をほんの少し動かし、巨大な杭を打ち込んだのはレデレッドの足元僅か数十センチといったところだ。
突然の射突音と爆ぜる泥に驚くマリーを一括する調子で少女は口を開いた。
「さっきのはソリッドフェザーの撃ったものだ。呆ける暇があるのなら少しでも漂流物を見つけたらどうだ?」
ローザのくつくつと鳴らす悪戯な笑いに、マリーはすいませんと少しばっかりの動揺を混ぜて。
そういって一時の茶化しをどこか楽しげに済ませたローザの瞳も、海の向こうからの流れ物をはっきりと捉えていた。
4つの推進機関を軟体生物の脚のようにゆっくりと動かすソレは、まだコチラを見つけてはいない。それだけ彼女の瞳が遠くを見渡せるものだと言うことだ。
「見えるか?」
そういって自身の視野を隣のACにも貸しやる少女、電子画面の映す摩訶不思議な物体に興味を抱くのは当然の反応なのか。
マリーはひょんと頭を持ち上げてはコレがなんなのかを上官である少女ローザに問う。
「汚染の中を泳いで回る不気味な連中だ。企業がばら撒いた代物だって話だが、真偽はどうだかな……何時ぞやのシティでの一見じゃあ内陸の方でうようよと湧いて出たらしい。
その後何年もあんな奴等を都市群で見かけたそうだ。内陸で仕事をしてた頃はアレの除去依頼が後を絶たない時期があった。あの女……ソリッドフェザーと仕事をしていた時もよく受けた掃除のひとつだったよ。
まぁ海沿いのこの辺りじゃあ、台風の時くらいしか見ることもないだろうが」
言葉の終わりを塗り潰すような轟音はアイオブカーズの構える砲から放たれた。薬莢を吐き出した機関部からシュウと煙が押し出された。桁違いの威力を誇る弾頭が目標物を粉微塵に砕く。
同じことを二三度繰り返す頃には水平線の彼方に動く物影はなくなった。

635隊長:2012/06/07(木) 04:26:50
防護シャッターを力強く叩くのは暴風、雨はもはや水の塊をぶつけるようで途切れたと思えばまたびしゃりと被せられる。
絶え間なく続く雨音から時折雷が申し訳程度に響き鳴く。
そんな音に耳をそば立てずとも聞いてしまう二人、ローザとマリーは自分達の扱う居住スペースを兼ねたガレージにて防水対策をと一頻り駆け回った後の休憩中だった。
2段構造の下段ひとつ丸々を使ったガレージスペースに納まった2機のAC、その足元には薄らと水が張っているがACそれぞれの脚計6本はビニルでしっかりと包まれていた。
上段には後付で取り付けられた寝室が2つ、その片方では特に何をするでもない少女ローザが部屋の明かりを消してはその瞳を閉じている。
が、別に寝ているワケではない。子供のような見た目の彼女も優秀なミグラント、現在は緊急時の待機中であるが睡眠なしでの仕事など手馴れたものだ。
無論この程度の事で御呼びが掛かることもないとわかりきっているので、無駄な洗浄の手間をなくすためACには防水ビニルを張っているという事。
彼女が起きているのは形式的な無線への応答がためでしかない。
そんなローザの待機する部屋の戸を叩くのはローザよりも歳相応の容姿を持つ女性マリー、「起きてますか?」の言葉と共に返答を待つ。
数秒の沈黙はその言葉がローザに届いていないからではない、悪い癖なのだ。諦めて自室に戻ろうとする足音を確認してから少女は言う。
「用があるなら入ればいいだろう」
雨の音に言葉を持っていかれたか心配であったが、ゆっくりと開いた戸にその心配を投げ捨てた。
寝巻き姿のマリーを暗がりのなかで薄らと目視し、また瞳を閉じる。電気は付けないんですか?とマリー、静かにあぁと答え部屋に入るよう言ったローザは何処か嬉しそうだ。
戸を閉じるなりローザのベッドに潜り込むマリー、通信機の前に座るローザは特に何を言うでもなし。
少女は知っていた。マリーはこういう騒がしい夜が恐い事を。弾丸や爆発が響く戦場の夜には慣れていても、時になんてことのない物音にビクつく人が居る。
それがミグラントであろうと別段珍しいとは思わない。可笑しなものにすら恐怖する兵を幾人も知っているからこそだった。
一見子供のような自分の部屋に寝にくるというのも可笑しな話だな。そんな風に笑うのはローザ、ベッドからコチラを見やるマリーに気付かれぬよう肩を震わせた。
こんな時くらい素直に迎えてやろうと立ち上がり、飾り気も色気もない部屋の隅から持ち出した古びたランタン。
どこかアンティークともガラクタとも言えるそれに1本のマッチが灯すのは、暗がりの狭い部屋をやんわりと包む優しい火。

636隊長:2012/06/07(木) 04:27:22
ぼぅと照らされ輪郭がぼやけるランタンの持ち手、ローザはゆっくりと天井付きのベッドへ近付き厚手のシーツに顔を埋めるマリーの下へ。
先ほどまで座っていた椅子を手繰り寄せるとそこに座り近くの机にランタンを置いた。
目が明かりに慣れてしまうと光に照らされている部分しか目に入らず、まるでそこだけが浮き上がるような不思議な感覚。
雨や雷も遥か遠くから聞こえるかのように小さくなっていくような……。
最後にローザは煙草を取り出した。乾いた香草が火を通し、燻された落ち着きのある香りを漂わせる。
肺に溜め込んだ炙り香をゆっくりと吹き、頭をくるりと回すような感覚を楽しみながら灰皿代わりの空き缶をトンと叩く。
ぽとりと落ちた灰の音、雨が壁を叩く音はそれよりも小さく、風に揺れる何かが規則的にキィと続ける。
やっと安心したマリーは嬉しそうに顔を出した。
「何か、話してくれませんか?」
まるきり子供みたいに催促するマリーにローザは咥えたタバコ揺らしながら、わがままな奴だと笑う。
そのまま二人は他愛もない話しに熱を出した。
この嵐がガレージを揺らしている間は―
ランタンの灯りが消されるまでのは間は――
どちらかが寝息を立ててしまうまでの間は―――
狭くてちっぽけで静かで優しい火に照らされた空間で、二人は話しを続けたのだ。
気付けばだらしなく頬に涎を垂らして眠るマリー、ポケットからハンカチを取り出し拭いやるローザはそのまま通信機の子機を持って部屋を出た。
マリーが起きる頃には、この嵐も終わっていることだろう。「おやすみマリー」ローザは静かに言った。


おわり

637隊長:2012/06/07(木) 04:28:22
そこはかとない百合SS
スレの方で確認した誤字は修正したけど
まだ残ってそうで恐い

百合ものじゃなくてもよかった希ガス

638ロリコン隊長:2012/09/26(水) 09:47:09

「片羽の月光」


『その力を… 何のために使う気だ…』

結局彼の言葉に対する返答が喉を越えることはなかった。もっと言えば、思考の隅から形になることさえも。
持ち腐れた力だ。跪き、私を見上げる彼にそう言ってやれる勇気もなかったのだ。
それに、彼の言葉には続きがあった。

『企業の起こす争いは何を生んだ? 高度な古代文明は人類に何を齎した? それを奪い合った結果は人々に何を残せただろう?』
『その争いに加わった私達レイヴンは加害者か? それとも被害者だろうか』
『変えたいんだ そんな世界を 一部の支配者が理想を語るだけの世界を』

そんな彼は、もうこの世界に存在しない。
私と戦い続け、私を奮わせた彼はもう……。
…………
………
……


639ロリコン隊長:2012/09/26(水) 09:47:27
『私はただひたすらに 強くあろうとした…』
『そこに私が生きる理由があると信じていた…』
『やっと追い続けたものに 手が届いた気がする…』

『レイヴン… その称号は お前にこそ相応しい…』

その言葉を最後に彼女は、ジナイーダはその搭乗機ファシネイターと共に消えていく。
彼女が残した言葉と、薄れていく黒煙が何故だがどうしようもなく悲しい答えでしかないと。そう思えて仕方がなかった。
<これで終わったのね…>
通信の向こうで私を支え続けた女性、シーラもそれをどことなく、言葉にするでもなく感じ取っていたようだ。
そう、終わりだ。これでまた半年前と同じ企業が幅を利かせる世界が戻る。
ただ、企業とてこの戦いには疲弊していた。その力を取り戻すまでは少しばかり落ち着いた日々を送ることもできるのかもしれない。
保障はできないが僅かな間、多くの人々が望んだ世界が訪れる。私はそうであること願い中枢を抜けていく。

640ロリコン隊長:2012/09/26(水) 09:47:48
<待って……コレは?>
シーラの言葉と共に私にも確認ができた。謎の熱源が頭部索敵に引っ掛かるのを。
場所はサークシティの遥か上空、その熱源はまるで待ち構えるように。ひっそりと。
<敵かどうかはわからないけれどこのタイミングよ。充分に注意して>
肯きは彼女に届かない、だがブースターを吹かし上昇速度を上げるだけで理解してもらえただろう。
長い戦闘の後であることを思い出す。炉の限界まで残り5分。

『力の使いみちは見つかったか? レイヴン』

シティを抜け、空を仰ぐ私に囁いたのはまごうことなき彼の言葉だった。
地上も、そして見上げる空さえも白いこの平たく何もない空間で、彼の言葉は何度も私の中をこだまする。
<そんな…半年前の特攻兵器進攻で死亡が確認された筈なのに>

エヴァンジェは再びその姿を私の前に現した。
白の世界を背に、吹かせる推力の灯火からは青の粒子を混ぜながら。
<!?…インターネサインの一部機能が再稼働、特攻兵器の反応多数、それに熱源が彼の機体から確認できるものと同一!>
彼のACの胸部には青の印が目立つ。

641ロリコン隊長:2012/09/26(水) 09:48:11
<超高出力の粒子加速を確認!レイヴン避けてっ!!>
機体の傾かせ僅かに逸らせた位置に鋭い閃光が通り過ぎる。その瞬間そこにあったものは空気であろうと焼け切られるのを確認できた。
それがエヴァンジェの乗るACの左手に輝くイレギュラーナンバーから放たれのであることも同時に。
<敵機の分析を急ぐわ それまで持ち堪えて!>
彼女の言葉を最後まで聞くでもなく、全力で吹かせたブースターが機体高度と速度を押し上げる。
音を抜けると同時に正面の彼がすぐ横を通り過ぎ、その衝撃波を機体の揺れで感じとる。すぐさまセンサー感度を上げ彼の位置を追いながら自身の機体もソチラへと動かしやった。

『ドミナントってのは 戦場に長く居た奴の過信だ お前のことだよ レイヴン』

通信の向こうから聞かされる彼の言葉は懐かしい。
死んだと思った相手からならば尚更だ。とても戦闘中とは思えなかったが、彼と戦ったのもアリーナでの事だ。むしろこれでいいのかもしれない。
私の放つ弾をコチラに背を向けながら交わす辺り腕に衰えはないようだ。
<確認したわ 彼の放つ熱源はまさしくパルヴァライザーと同じかそれ以上の出力のもの 理屈はわからないけれど 彼が特攻兵器の起動を握っていると見て間違いない!>
通信の間際にも彼からの攻撃が身を掠った。亜音速弾頭をひり出すリニアキャノン。この機体速度で直撃すれば死が覗くだろう。
しかし身震いはない。さらに速度を高めつつ機体を安定させる。

『ここから都市部が見えるか? 企業やレイヴンという存在は俺達に何をくれた?』
『全てをやり直す そのための「特攻兵器」だ』

642ロリコン隊長:2012/09/26(水) 09:49:01


『時間だ』

地上に僅かばかりの点が覗いた。白い景色の中で黒く深い点が幾つか。
そこから群を成して吹き上がるのは白を塗り潰すような赤、あの赤だった。
<ダメよ!特攻兵器が起動したっ!!>
シーラの言葉に続くように口を開くエヴァンジェ。

『惜しかったなぁ レイヴン』
『歪んだ存在(イレギュラー)は一度リセットするべきだ この特攻兵器で全てを〝ゼロ〟に戻し 次の世代に未来を託そう』

そう言って彼の乗る機体は加速する。白と赤の混ざる中その青は鮮やかに。
そうして再び私への攻撃を再開した。はっきりと映し出されるリニアライフルとリニアキャノンの軌道は気付けば自機に近い。
だが私には当たらない。そう動いているのだから。
<聞いてレイヴン 敵機「オラクル」は企業の新鋭パーツで固められたフレームを中心に 炉にはパルヴァライザーから取り込んだと思われる物が積んである>
<この機体はリミットを解除した防御スクリーンシステムで護られていてあらゆる攻撃が無効化されるの 唯一と思われる弱点は常時強制排熱を行っている前方のエアインテーク>
<正面角度から攻撃してオラクルを撃墜して 今この世界に彼を止められる存在は貴方だけよ>

<〝ラストレイヴン〟 ……幸運を祈る!>

643ロリコン隊長:2012/09/26(水) 09:49:15
あの頃からそうだった。
『私とお前は鏡のようなものだ 向かい合って 初めて本当の自分に気付く』
力しかない私は志を持ち力を求め続ける君を見て奮えた。
僅かに力及ばない君は理想と現実を知るも私を追い続けた。
『似てはいるが 正反対だな』
そして今もそうだ。
彼を、エヴァンジェを正面に捉え加速する。向こうも私と同じようにそのままぶつかるかの勢いで加速。
青の中に紅を流す線の様に、オラクルがそのライフルとキャノンを構え急接近し、景色に溶け込みそうな薄い灰色の中で紅を煌々とさせる自機、カスケードレインジに右手の主力火器の出力上昇と銃身安定を命ずる。
槍のように伸びるハンドレールキャノンの銃身に蒼の煌き。それは自分の視界さえも潰す程の濃度だ。だが問題はない。私には視えている。
その向こうから届くのはリニアの弾頭。機体に衝撃を与え装甲を確実に抉った。動くなと私は叫びたくなる衝動を抑え銃身の位置を安定させる。
もう撃てる……だが、引き金が尋常じゃなく重い。ちらと横目でみた炉の活動限界まで残り30秒を切った。
引いてくれ。引き金を…!!
『ここで全てが決まる』
そうだ。だからこそ、心の隅で先に私を撃墜してくれと願った。私が生き残ったところでそれは―――

644ロリコン隊長:2012/09/26(水) 09:49:31

『撃て!! 臆病者っ!!!』


  撃 て ぇ っ ! ! ! !


私の放つ弾頭が彼を貫いた。煙とも炎ともとれるものをコアから吐き出しながらオラクルは極音速でカスケードと見詰め合うように横をすり抜ける。
にも関わらず、その瞬間がまるで時計の針でも止まったかのように、一瞬が脳に焼きついたのだ。

あとは頼んだぞ レイヴン

そんな言葉さえ聞こえた気がした。
後方からオラクルの爆発音が耳に届く、だが私は振り向かない。出来なかっただけなのかもしれないが。それと同時に空埋め尽くす赤は端からその機能を停止、落下する最中に爆発し消えていくのがわかる。
炉の出力限界が秒読みの入る頃に、システムを通常モードへ。着陸までの時間はどうやら稼げそうだ。
<彼の伝えたかったこと… なんとなくだけど 私にもわかる気がする…>
<レイヴン…ヘリを手配した 帰りましょう 皆待ってるわ>

645ロリコン隊長:2012/09/26(水) 09:49:48
久々ー


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