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「vipArmoredCoreSS外伝 ヒワイナントアンテナ」

189シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/12(月) 23:45:52
「なあ、こんな所で寝ると風邪を引くぞ?」
 もう夜も遅くなってきて、お天道様は山の向こうにとっくに隠れてしまった。食事を食うだけと言いながら、さんざん娯楽施設によって、いい加減宿舎の寮長にも追い出されそうな規約違反だった。外出予定時間を大きくはみ出して、そろそろ帰らなきゃならないはずだ。そうだというのに、ミレイは歓楽街の方に行ったきり戻ってくる様子が見られず、溜め息をついて来た道を戻った。
 そんなロッフの目に映ったのは、夜も遅い公園のベンチで無防備にも寝こける女の姿である。最近性犯罪が増加していると聞く。いつの時代になっても、男というのはアホなもので、脳みそで無く棒で物を考えるやつは少なくないようだ。どんな貧困な時代になっても、モラルが無い奴なんて幾らでもいるのだ。
「起きろよ、こんな所で寝てたら寒いだけだ」
 揺すり起こしてやろうと、近くに寄ってから、それがチームの人間であると気付いて、コレはいかんと思って起こした。
 実際、そんな問題なんかよりも、会話を産むチャンスだと思ったのは記述しておく。
 それでも、起きる気配が見られないので、起きるまで待っていようと思って公衆便所の方を向いた。昼間助けた雛鳥がちゃんと巣の中で寝ているかどうかが気になって、いても多ってもいられないから、わざわざ公園を通っていた。
 暗い公園を街灯が照らし、蛾がそれによって飛び回る。耳障りな音を立てて蚊が耳元を通り過ぎて、右頬を自分の手で叩いたが、蚊を仕留める事は出来なかった。強い力でひっぱたいたから、頬がひりひりして、きっと赤くなっているだろうなと思いながら見た、赤いレンガの向こうの公衆便所のひさしの下。
 もう、鳴く元気も無くなった雛鳥が一匹だけそこにいる。
 結局、親に子供と認めてもらえなかったのかもしれない。見上げた巣の上では、酢一杯を使って親鳥と雛鳥三匹が眠っていた。束の間の休息を、自分の血縁を差し置いて得ている姿が、見ているロッフにとても切ない表情をさせる。
「やっぱり駄目だったのか……」
 わかっていたことではあったのだと、自分に言い聞かせる。言い聞かせながら震える雛鳥から目を離そうとして振り向いた。
 振り向いて、立ち去ろうとしたが、後ろ髪を引くものがある。
 生来、ロッフには往生際が悪い所がある。
 渋い顔をして、回れ右をする。
 乾いた瞳でうずくまる雛鳥を両手で掬う為に屈んで、膝をついた。触れた雛鳥はまだ暖かくて、今ならばまだ間に合う筈だと思った。
「やめろ」
 後ろから声をかけられて、振り向く。
 座ったまま、重そうな目蓋をこじ開けたハンナがいる。
「起きてたのか? 意地が良くないな」
 立ち上がって、言う。ハンナは座ったままでまともに会話をする気を持ち合わせていなかった。はぐらかされるのは嫌だと思っている。
「一回巣から落ちた鳥はもう助からない。巣の中に戻すだけムダだ。ムダな事をわざわざするのはいいことじゃない」
 話に乗られることを多少期待したロッフは、苦い顔をして、ハンナを正面から見て、それから雛鳥に横目を流す。
「ほんとに意地が良くない。こっちの言う事を少しぐらい聞いてくれたっていいだろ? それに、助からないって決まったわけじゃないじゃないか。そうやって諦めさせようってのは良くない」
「雛鳥を助けようだなんて、中途半端な事をしても何にもならない。止めておけ。助けた所で近い内に死ぬ」
 言い切った物言いに間違いがなく、ロッフには挟む口がない。
 挟む口がなければ、会話が続くはずも無かった。
 話せばわかる、なんて言ってられない。赤いレンガの亀裂を目で追っかけて、ありの列を見つける。さっき潰しそこなった蚊が首筋に止まった。平手が首を叩く音だけが夜の公園に響く。
「……お前はなんでレイヴンになろうと思った?」
 何を話せばいいかわからなくなって、練習生の間では一期に一回はされる質問をした。
 野次馬根性から言えば、人がレイヴンになるきっかけを作った出来事というのには興味がある。
「そんな事を聞いてどうする? レイヴンが他人の事情を気にするのは、おかしい話だろう? レイヴンは空を一人で飛ばなければならない」


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