したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

「vipArmoredCoreSS外伝 ヒワイナントアンテナ」

433LO隊長:2010/05/09(日) 22:22:23
荒野にはやはり緑がなかった。
乾いた風が運ぶ細かい砂と枯れ草。殺風景なこの場所で唯一姿を変えるのは空に見える雲くらいのものだろう。
何食わぬ顔で地表を照らす太陽、その下で見覚えのあるドレスを着た少女が古びた本を片手に樽の上に座っていた。
不満気な顔して見つめる先には大きな入道雲、そして変わらぬ青さを保ち続ける空の切れ端。
やはり求めるものはないと確信した少女は、手に持つ本を捲り続きのページから読書を再開した。
と、その時だ。求めるものとは別だがこの辺りでは珍しいものに気付く。
砂煙だ。ただの砂煙じゃない、道路を走る車のものだった。黒の塗装眩しいその車はどうやらこの雑貨店を目当てにしているらしい。
その事がわかったのは店の前の道路で車が止まってからだったが。
たとえ車一台であろうと少女の興味を引くには充分だった。樽から腰を上げるとお尻の汚れを掃い、車の元へと駆けて行く。
少女が車に辿り着く頃には、中に乗っていた人がドアからその足を覗かせる。
スラリと伸びる裾からスーツの上からでもくびれがわかるスタイルの良い女性、全身を車同様黒で統一し、目元はサングラスで隠している。
車を降りて近くの少女に気付くと、彼女の背丈と合わせるように自身も屈み、少女へと口を開いた。
「可愛いお嬢さん、フィリアムって人知ってるかな」
「うん、私のおじいちゃん。お店にいるけど呼んでくる?」
「お願いしても良いの?」
コクリと頷いた少女は来た道を戻るように店へと駆けて行く。
その後姿を見つめながら女性は立ち上がり、車のドアを閉めてニコリと微笑んだ。
店の扉から顔出した老人は少女に待ってなさいと一言、そしてコチラへ向かって歩いてくる黒尽くめの女性の方へ自分もまた歩き出した。
「どうも、初めまして。私キサラギに勤める獅子王・k・アンジェリカと申します。この度は我社にて働いていた専属レイヴンの―――」
「死んだ…そうだろう?」
フィルは込み上げる感情をグッと堪えた。数日前のあの日、自分達の為に空へと飛んでいった青年の顔を浮かび上がる。
アンジェリカと名乗った女性もサングラスを外し胸のポケットに収める。その黒い瞳はフィル同様、悲しみを浮かべていた。
「レイヴンからも…いえ、レイ本人からも聞いております。家族のように大切な方々だと、お悔やみ申します。
この場で渡す無礼をお許し頂けるならば、彼の契約時の条件について…話すよりも早いでしょうから、コレを」
そういって、アンジェリカは封筒を手渡した。呆けるように立ち尽くすフィルに一礼し車へと戻っていく。
風に晒されながら、自然と一筋の涙が零れ落ちるのに気付いたフィルはソレを拭う。そして手渡された封筒を破り開けた。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板