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「vipArmoredCoreSS外伝 ヒワイナントアンテナ」

184シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/12(月) 23:41:48

 球体型のACシミュレーターが逆さまになったまま、上下左右斜めに滅茶苦茶揺れる。見ていた訓練生の一人が大きめのビニール袋を用意して待っていて、シミュレーターは優に三秒間がくがく揺れた後に、大きい縦揺れと共に停止した。ACの操機の振動すらも完全再現するシミュレーターを、固定するジョイントはとんでもなく頑丈らしい。そのジョイントすらも、弾け跳んでしまいそうな勢いで貧乏揺すりする。
 揺れるシミュレーターとリンクしているシミュレーターの方は、静かなもので、随分と安定している。殆ど揺れてもいない。
「一体どんな状況でこんなに無茶苦茶になるのかねぇ」
 呆然とした顔でつぶやくミレイは、さっきまでシミュレーターの中にいた。塗装もされていない素材むき出しの壁に囲まれた部屋の中には、九台のシミュレーターが用意されていて、三人一組で使うことを想定されている。ミレイは真っ先にやられて、真っ先に棺桶の中から抜け出したのだ。
 三人一組の理由は簡単なもので、最近のレイヴン訓練施設では、三人で一つのチームとして訓練することが義務付けられているからだ。レイヴンの志望者が増えたおかげで、訓練を高効率化する必要があったのだ。ただ、三人一組にする事で、レイヴンの癖に相手の個人的な情に深入りしてしまうケースが後を経たない。甘い奴が多いらしい。
 ミレイは、今シミュレーターの中で目を回しているであろうロッフともう一人、ハンナと同じチームとして訓練所に寝泊りしている。
 逆さまになったシミュレーターの中から、早くここから出してくれと、弱弱しい声が漏れ聞こえてくるが、シミュレーターは融通が利かない。さっきまでの振動の機敏さはどこへ行ったのか、ゆっくりのろくさと正常な定位置に戻っていく。中からいろいろなものがっひっくり返る音と、ゲエゲエと吐く声が聞こえた。ロッフはビニール袋を持って入っていったはずだ。
 気の抜ける音と一緒に開いたシミュレーターから、蒼い顔をしてロッフが出てくる。脇に抱えた消臭スプレーをシミュレーターの中にばら撒いてから、フラフラとした足取りでミレイに向かって歩き出す。
「気持ちわりい」
 言って、ビニール袋の中にまたもゲロゲロと吐く。この前酒のつまみを纏め買いした時に貰ったスーパーの袋は、随分とずっしりしている。少なくとも朝食は全部戻したようだった。
「お前いったいどんな操縦したらあんなんなるのよ」
「いや、だってお前、勝とうと思ったら少しぐらいは無茶するって」
 当然の事を青い顔のまま言うロッフにしかし、ミレイはまだ呆れたような声を返す。
「勝てると思うかよ、相手はハンナだろ。勝てるわけ無いって、今期最優秀なんだから」
 空いたシミュレーターの中に身を滑り込ませてから、酸っぱい匂いがすると騒いでいる訓練生がいる。ロッフは心の中でわびる。一生懸命拭いて、おまけに消臭剤をかけても、こぼしたゲロの匂いは簡単には消えない。ビニール袋が破けそうになった頃にようやく顔色は青から肌に近づいて、少しだけ気がラクになってきた。
「レイヴンになってもそんなこと言えるわけじゃねーんだから。お前は真っ先にやられてからに。今からでもちったあ頑張れよみっともない」
 ミレイはやっても勝てる気がしないんだがなあ、とつぶやき、最後に開くシミュレーターの方を見る。
 堂々とシミュレーターの中から出てくるハンナには、回りの人間は近寄ろうとしない。シミュレーターの数は限られているから、空席が空いたら、骨にむしゃぶりつく犬のように飛びつくのが訓練生の常だが、ハンナが出てきたばかりのシミュレーターには誰も近寄ろうとしていない。
 ハンナは遠巻きに自分を見つめる訓練生を一瞥してから、一息も置かずにシミュレータールームの出口に向かって歩き出す。


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