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「vipArmoredCoreSS外伝 ヒワイナントアンテナ」

185シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/12(月) 23:42:02
 ハンナがシミュレーターから離れたのを見てから、訓練生がシミュレーターに飛びつく。直ぐにドアがロックされて、シミュレーターは稼動を始めた。
 ハンナがシミュレーターの前で立ち止まっていたのならば、訓練生は今もまだシミュレーターの中には入れずにいただろう。
 見ればすぐに分かる。ハンナは敬遠されている。ハンナを見る訓練生の眼といえば、操機そのものへの感嘆か、遠くから形の整った姿を眺めてぎゃあぎゃあ言う助平ぐらいなものである。話しかける奴はほとんどいない。大抵の場合は肯定否定の意志しか帰ってこないし、返答が無い場合だってたまにあるらしい。それは噂に過ぎない場合もあるが。まともに会話することなんて、殆ど無いと言うのはよく聞く。無愛想も程が過ぎると誰にも構ってもらえなくなる。
 ああでなければほうっておかないんだけどなあ、とミレイは惜しそうに呟いて、時計を見た。
 一時五十分。早い訓練生はもう昼食を終えて、座学講義にでも移っていることだろう。
 しかし、今日はミレイもロッフも座学講義の予約を何一つ入れていない。たまの休暇だと、昼食を施設の外まで食べに行く予定をしていた。男同士でデートなんて、本当は望む所ではないのだが、訓練所の食堂のうどんだかラーメンだかわからないスパゲッティを食べるぐらいなら、男とのデートの方がまだマシだ。電気屋のおっちゃんは早く食堂のコンロを治してほしいと思う。昨日食べた肉は生焼けだった。
 ロッフの肩を叩いて、出口の扉を右親指で指し示す。腹から水道管を水が流れるような音が響いていた。
 ロッフはミレイの様子を見て笑った。背中とお腹がくっつきそうな顔をして、外出を促そうとする様子。それを見ていたシミュレーター待ちの訓練生の一人がクスクスと笑うと、ミレイはちらりとそちらに目を向ける。顔は動かさない。笑った訓練生が女性である事を確認すると、二ヘラと笑って手を振った。どうせ夜にでも口説く気なのだろう。女のケツを追っかけていて、いいことなんてレイヴンには一つも無いのに、よくよく懲りないものだと思う。
「よし、俺は外にメシ食いにいくからお前は好きなだけあの子を口説いてこい。一度チャンスを逃したら次は無いぞ」
 言って歩き出すと、聞いたミレイは小走りになって付いていく。
「口説くためにも栄養はとらにゃあいかんのよ。世の中の動物はみんな体が資本なのよ」
「調子のいいやつめ」
 肩を小突きあって出口に向かう。シミュレータールームには、出口兼入り口は一つしかない。部屋から出ようと思えば、管制コンピューターへの警報装置もかねているタッチパネルを押さないわけには行かない。
 タッチパネルの前には先客がいた。ハンナだ。シミュレーションが終わってから、一度も口を開いていない。ロッフは、あんなに喋っていないのであれば口の中が腐ってしまうのではないだろうかと思う。無口は罪である。
 迷わなかった。同じチームなのに、声をかけない理由なんてあるものか。
「ハンナも一緒に外に昼――」
「いい、私は間接制御の講義予約を入れてるから」
 わざわざ話しかけるなよと、無言でジェスチャーをしていたミレイが、口をぽかんと開ける。声は出さないが、口の形から何を言いたかったかわかる。はえぇ。
 ハンナは無口であると評判である。イエスかノーの返事しか返さないと、基本的には評判である。
 ハンナの口は、マーケットに店を出す闇商人の、サイフの口ぐらいに硬いと言う。が、
「レイヴンになろうと言うのに二人で仲良く食事か、能天気だな。……それとロッフ、さっきの戦闘のバランス調整は悪くなかった。速度の殺し方を間違わなければ、お前が勝てたかもしれない。読み間違いが致命的だったな。ミレイ、まじめにやれ」
 ノーの理由どころか、皮肉とアドバイスが飛び出してきた。
「また今度一緒に行こうな」
 開いた扉から出て行くハンナにロッフが言う。懲りない奴だとミレイは思う。ハンナの返答を待たずに、安物の扉が閉まった。
 どうせ返事も無しで、惨めな思いをするだろうと踏んでいたミレイが、ネッシーでも見たような眼でロッフを見る。頭の悪そうな笑顔。
 シミュレータールームの訓練生の半分がポカンと口を開けていた。


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