したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

「vipArmoredCoreSS外伝 ヒワイナントアンテナ」

182シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/12(月) 23:39:45
   ※

 ACが一機、スナイパーライフルを片手にぶら下げて、ビルの谷間に身を隠す。蔭からカブトムシのような頭だけを動かして、パイロットがモニターの端っこに映るビルの向こう側を伺った。
 そのものがレーダーとなっているカブトムシの頭は、その性能の真価を発揮することが出来ずに、ただのアイカメラと成り下がっていた。
 コクピットの、対Gシート正面の操作パネル付近にあるレーダーは、ただノイズを撒き散らすばかりで、全く使い物にならなかった。
 高度な電波妨害がかけられているのだ。湯が沸騰するほどのECMの中では、アンテナはもはや無用の長物でしかなかった。
 おまけにFCSも機能しない。パイロットであるロッフは、舌打ちしながら、火器管制のスイッチを切って、腕をマニュアル準拠にする。
 マニュアル動作にすれば、ACの動作自体のバリエーションは増える。当然だ。FCSと言うのは、重火器を使った戦いの型を記したシステムであるからして、それを排除した後には、型の無い自由だけが残る。
 型が無いと言う事はとんでもない事である。一から十までの動作を人間自身の手でやら無ければならない。
 人間が自分の手を動かすのであれば簡単な話だが、人間が手を通して鉄巨人の腕を動かす、というのはとんでもない話だ。
 人のうちを通る電気信号は、ACに向かって流れてはくれない。いくら動けと念じても、ACが動くことは無いのだ。
 もし、それができるならレイヴンはもっと多くなっていると、ロッフは思う。
 要するに、マニュアル操作というのは無謀極まりないと言う話だ。
 ACが銃を持ち直す。右だけでぶら下げていた姿勢から、右でグリップを握りなおし、左でバレルを支える。
 中々様になる格好でビルの向こう側を伺う。
 ロッフは右足左足に対応したペダルを押さえ、唾を飲み込んで、後ろに気をやった。
 顎が上を向いてひくつく。
 今、ビルの向こう側からロッフを狙っているのは、ロッフも今までに何度と戦った相手だ。
 手の内が全くわからないわけではない。
 まず、敵が持っているのはスナイパーライフルではない。ロッフのACが持っているのはスナイパーライフルで、FCSの関係上照準的な優位に立てるわけではないが、集弾率などの観点からの有利には立てる。
 次に、敵はマニュアル操作において、ロッフに比べて一日の長がある。ロッフのACが銃を構えて撃つまでの間に、相手は二発撃つだろう。
 三つ目。敵は三次元的な戦闘が得意である。FCSどころかOS抜きのマニュアル操作になろうと、それは変わらない。ビルに脚を突っ込んで落下軌道を替える様なマネを兵器でやる奴だ。
 最後に、ロッフよりもよく考えて動いている事だ。何も考えずに戦っていると、すぐに裏を掻かれる。
 意を決して振り向く。迷っていてもしょうがない。すぐにビルから飛び出して、直ぐに振り返った。
 ロッフは、相手が必ず裏を掻いてくる事を念頭に置いている。ならば、ロッフ自身も裏を掻かねばなるまい。
 意味も無く自信を持って、銃口を斜め四十五度に構える。敵が中空を漂っていると信じて、銃口を向けた先にはビル街が広がるばかりだった。
 バカの様に口をあんぐりと開けて、半秒静止。個人的には裏の裏を掻いたつもりだった。正面切っての銃撃戦の後に、双方ビルの陰に身を隠して機を待つ。その中、敵が裏を掻くとするならば、精密な操機にて、敵の後ろに回りこむ事であろう。一方向にばかり気がいっている相手の後ろは、がら空きだ。
 前回はそれでやられた。
 ロッフがいくらバカであろうとも、少しぐらいは学習するのだ。
 しかし、あまりにも少し過ぎた。
 前回は、後方を走りよってきた敵にやられた。だから、ロッフは今回後方上空を向いている。
 途中までは間違ってないと言えるかもしれないが、最後の間違いが致命的だった。
 完全に不意を突かれた。耐Gシートを後方からの衝撃が貫き、コントロールパネルに頭を打って、たんこぶを作った。
「痛あ!」
 言いながらも、左足のペダルを踏み込んで、擦り足で振り返る。
 鼻を押さえながら涙目でモニターを確認する。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板