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「vipArmoredCoreSS外伝 ヒワイナントアンテナ」

152AC4SSその7:2007/02/04(日) 21:56:14
「ああ。存外に厚顔――いや失礼、神経が太い」
「……私?」
 そうさ、とレイヴンは請け負った。
 煙草に火を点けながら、
「ここはマグリブ解放戦線だ。あんたらへの憎しみはどの組織よりも強い。
そんな中で普通に喋ってるのは、人質じゃ君だけだよ。君が一番若いんだがね」
 そう言われると、確かにそうかも知れない。
 なにせ、ここは過激な武装勢力のアジトなのである。将来のことを思えば、どんどん無口になっていくだろう。
 だが――フィオナの場合は事情が異なっていた。
 試しに、自分の膝に視線を落としてみる。
 見慣れた膝だ。その上には、見慣れた手が置かれている。
 しかし、それが自分のものだとは思えなかった。
 膝や手だけではない。前に座るレイヴンも、部屋の隅のテロリストも、その左手が握る拳銃も、全てがどこか遠くのことのように思えるのだ。
 果たしてこれは、本当に現実なのだろうか。
 自分はあの大型バスの中で、夢の世界に紛れ込んでしまったのではないか。
 そんな現実逃避とも達観ともつかない、奇妙な浮遊感が先程から頭にもやをかけている。
(図太い、というんじゃなくて……)
 ただ単純に、『麻痺』しているのだろう。
 驚いたり恐がったりもするが、一々それらを深く考察できなくなっているのだ。
 自然と目線が下がる。
「……私は……」
「それでもだ」
 フィオナは思わず口をつぐんだ。
 正面を見る。
 一人の傭兵が、窓からの夕陽を背負っていた。
「それでも、あんたは自棄《やけ》になっていない」
 言葉の一つ一つが、不思議と胸に染みた。
「君には、そうあれるだけの『根本』がある。それは十分に価値があることだ」
 レイヴンは、そう締めくくった。
 表情は読めない。俯き気味であり、体の作る陰が、顔を暗く塗りつぶしているせいだ。
「……レイヴン?」
 そう尋ねると、彼はようやく顔をあげた。
 彼は――笑っていた。
 寂しげなくせに、どこか晴れがましい、そういう不思議な笑みだ。
「それはとても幸福なことだ。それだけ生きるのに裕福になれる」
 そこで、男の笑みが変質した。
 いや、表情だけではない。男が纏っていた雰囲気そのものが、がらりと変わった。
 ぎらついた眼差し。不遜な笑みを浮かべた口元。口端から除く犬歯が、さっきよりも大きく見える。
 猛獣の顔だった。それも、ひどい飢えに喘いでいる。
 色に見えそうな苛立ちが、男の周りに陽炎のように立ち上っているかのようだ。


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