したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

「vipArmoredCoreSS外伝 ヒワイナントアンテナ」

443隊長:2010/10/06(水) 01:03:10

「亡霊の希望」


室内を照らす明り、天井壁床に至るまでが白一色で統一された部屋には窓がなかった。故にこの部屋の中心に力なく崩れ落ちている少女は外の風景を楽しむこともできない。
たとえ窓があろうと彼女は自分から外を覗くだけの力はないだろう。見開いた瞳は瞬きを忘れているせいで潤いがなく、生理機能がそれを補うように涙腺を開きはなしにしている。
閉じることすらままならない口からだらしなく溢れる唾液は頬を伝って溜まりとなり、顔色は新鮮な死体のように青白く生気を感じさせない。
健康状態もそうだがそれを差し引いても、彼女が生ける屍となっているのには理由があった。首元に幾つもある圧力注射の痕から大方の理由は察することができるだろう。
細枝のような指一本動かせない彼女だが、この状態でも意識だけはどうにか保てていた。勿論投薬されていない状態の時程ハッキリとではない、体を動かせずただ考えることだけを許された状態は
言葉では言い難い程の苦痛だろう、だが彼女にとっては思考することを許されたのが自分を保つための唯一の希望だった。
(…ここのところ身体が自分の物じゃないみたい、お薬のせいだけじゃない…あの実験がきっとよくないんだ。きっとそうだ……)
(気を抜くと頭が…脳が…その中にあるモヤモヤだけが抜き取られそう……そしたらきっと身体には戻れない、私は戻れない戻れない戻れない戻れない戻れない戻れない戻れない戻れないもどれないもどれないもどれないもどれない……)
脳内の独り言は彼女の頭の中だけに響き、部屋の中は先刻と変わりなく物音一つない。その静けさもあって本来なら隙間風程度の音がハッキリと聞き取れた。圧縮された空気が一気に抜けるような音、部屋に横たわる少女にとっては聞きなれた音であり
また、それが実験の合図だと言うことも承知していた。
窓一つなかった白い壁、横たわる少女の丁度頭上の壁に大人が一人出入りできるような扉が現れた。その次に扉が音もなく開いたかと思うと白い装備を纏った兵士が二人、順に部屋へと入ってくる。
肩に掛けた銃や身体を保護するプロテクターがガチャガチャと五月蝿い、その音に負けじと扉の奥から二人の兵士に怒鳴りつける別の人間もいた。
「何をボヤボヤしてる!薬が抜けるまでにさっさと枷をつけろ!」
一人の兵士があからさまに馬鹿にした表情で「はいはいわかってますよ」と声を出さずに言った、もう一人の兵士はそれ見て噴出すのを我慢しながら少女の足に枷をつけた。
強化合金の枷がカチャリと音を立てた途端に彼女の身体からは薬が抜け、先刻までの状態が嘘みたいに一人で立ち上がり、伸びをし、動かさなかった首を曲げてポキポキと軽快な音を鳴らす。
「見た目に惑わされるなよ、このガキはこんなでも最終強化段階を終えたタイプだからな。枷がなかったらL3のアラートが鳴るぞ」
兵士の一人が口笛を吹いた。隣に立つ自分の半分もない少女がそこまで危険な存在だと実感せずに茶化して吹いたのだろう。
そんなやりとりを見ていた少女、兵士に説教を垂れているスーツ姿の男を少女は知っていたが、兵士の顔がいつもと違うことに気付いた彼女は扉近くに立つスーツの男に問いかける。
「兵隊さんが今日は違う人なんだね、なんで?」
スーツの男は彼女を嫌悪しているのか、喋りかけてきた少女を睨みつけ顔に皺を寄せぶっきら棒に答えた。
「この前の実験の時にお前さんが殺したんだろう、次暴れたら俺が鉛弾を撃ち込んでやるからな…わかったら大人しくしてろ」
そう言って男は足早に部屋を出て行った。残された兵士二人は少女を恐れるように冷や汗をうかばせる。それに気付いた少女は気遣いなのか冗談めかした脅迫なのか兵二人に微笑みかける。
「なぁにやってんだどあほぅどもが!さっさと実験体〝ゲシュペンスト〟を格納庫まで連れてけ!!」
通路の向こうから飛ばされた怒声に兵達は溜息、腰のロッドを手に取り少女を突くように押し、ゆっくりと歩かせた。
それ以上に少女もこれから向かう格納庫が恐ろしくて溜まらなかった。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板