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「vipArmoredCoreSS外伝 ヒワイナントアンテナ」

629隊長:2012/04/16(月) 19:31:10

「幻想世界に夢を見た」


『今回の依頼は第八コロニー全域を作戦領域とします』
ぼやけた思考を耳の小型端末を介すオペレーターの声が刺激する。
彼女の言葉はこんなにも尖っているのに集中できないのは何故だろう?そう思う男の目の前に、既に廃墟と化したコロニーが広がっている。
人の姿はないし忙しい人工物も見当たらない。貨物運搬レールの上はぼうぼうに生い茂る草、建築物が纏う種類のわからない蔓の群。
最下層となる足場は誰も使わぬ生活水か、はたまたコロニーを被う天井の亀裂から漏れ滴る雨なのか、数mという深さで水没した道や建物には車や家具がそのまま。
さらには水草の浮いた水面の下に魚が泳いでいるのがわかる。
依頼遂行のためと止められていた無人発電所は再稼動、人の居なくなったこの空間に再び電気を送りやるのだ。
そのためボロボロのネオンは火花を散らしながらに発光。
名前も知らない桃色の花弁を微風に揺らす木が照らされているのが凄く奇麗だった。

「…」

言葉もないってこういうことだったのか。
簡単な感想もでないのは自分が口べたなせいではない、と言い聞かせる男を端末からの女性が引き戻す。
『聞いてます?』の声は落ち着いたものだったがこれは怒っていそうだ。と、あてずっぽうな勘。
適当な相槌と共に男は歩いた。
コートの下に覗くゴツいプロテクター付きのコードや機器が視界に煩い灰色の服は、衣と繋がったブーツが地面や小石を叩く度に耳にも喧しかった。
『指定されたポイントへ急いでください、ACの到着まで残り十分をきりました』
そんなに急かさないでくれよ。
それは返事ではない、男の心の中で愚痴に過ぎなかった。
少しだけ小走りに急ぐ最中、男の耳はオペレーターのソレとは違う音を掴んだ。壁の隙間から水が零れる音ではない。虫の鳴き声とも違う。
耳の向こうの女性に怒られるだろうと、そんなことも承知で男は今歩いている草だらけの路線から道を外れた。
音の方へと小気味良くブーツの底を叩く。
聞こえるソレは次第に大きく、そしてそれがなんとも心地良いものであることがわかる。
あと少し、あと少し。辿り着いたのは壁の崩れたベッドルーム、ランプの灯りに照らされた蒲色の壁紙と擦れたような歌声。
入ってみて気付いた、レコードだ。くるくると回る蝋でコーティングされた木製の円盤を針がなぞり、そこから落ち着いた初老男性の歌声が響いている。
『気は済みました?』
立腹を通り越し呆れたような声でオペレーターは遠まわしに仕事しろよと男に告げた。


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