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「vipArmoredCoreSS外伝 ヒワイナントアンテナ」

389隊長:2010/03/10(水) 01:58:31
「コホッコホッ、…まいったなぁホントに風邪かもしれないや」
何度も続く咳が壁を跳ねてどこまでも反響する。
テン・コマンドメンツは排気口の蛇腹状になった装甲を少し開いて、熱せられた空気を噴出す。
白みがかった蒸気は辺りに広がり、近くに座るサイプレスもすぐに包まれた。
「はぁぁ…あったかい、有り難うテン・コマンドメンツ」
その言葉に返すことなく、テン・コマンドメンツは数分置きに蒸気を吐き続けた。
金属の壁を雨粒が叩く音、排気音、サイプレスの呼吸の音、鼓動の僅かな音。
しばらくの間この空間にそれ以外の音は響かなかった。

「雨の音って心地いいね。ねぇ、今此処には僕等の二人だけだよ…」
「違うか、だって僕等には管理者さまが着いてるもんね」
少し反省するような苦笑いで愛機の顔を覗いた。
装甲に引っ掛けておいたシャツに触れ、乾いたことを確認すると袖を通した。
また小さく座りなおし、今度はテン・コマンドメンツの装甲にもたれ掛かる。
「ねぇテン・コマンドメンツ――」

「ぼくが女の子だったら君と恋仲になれたのかな?」

動揺したことを隠すかのように勢いよく蒸気を噴出す。
「アチチッ!…変なこと言ってごめん、ちょっと考えてみただけだよ」
「それに、君が許しても管理者さまが許してくれないよね」
「ぼくのような愚図を管理して下さるだけでも感謝すべきことなのに」
「管理者さまから愛されず、君を愛することもできず…」
「ごめん、愚痴がすぎた」
「何?『自分に性別はないから、愛交えたいと思うなら好きにしろ』って?…はは、有り難う」
サイプレスは頬を染めて、照れ隠しに笑った。
初々しい青年の思いが実ったかのように、治まらないにやけ面を手で覆い隠す。


「あっ、雨上がったみたいだ。――それじゃぁ行こうか、テン・コマンドメンツ」


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