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「vipArmoredCoreSS外伝 ヒワイナントアンテナ」

584隊長:2011/11/06(日) 13:33:21
その晩、寒さ凌ぎに布切れを幾重にも纏い身を丸くし眠る少女を起こしたのは声だった。
ブツブツと何かを否定しては悶える声。寝起きの眼を擦りながら街灯の明かりが届かない暗がりから顔を出した時、目にしたのは白昼に出会った男だ。
しかしあの時の様な凛々しさは見られず、壁に凭れながら頭を抱え身を震わせていた。
「泣いてるの?」
静かに歩み寄る少女の鼻づまった声に返答はなく、代わりに肩をひしと掴む腕が伸びた。一瞬、恐怖から手を振り払おうとしたがその腕のあまりの力なさに戸惑わせる。
その腕が少女の身体を抱き寄せようとするのにも、彼女は無言で従った。何故なら、長い前髪の隙間から覗く男の顔は酷く醜いもので、荒れた息に食いしばった歯は獣のそれだったが、少女にはそれが恐ろしいとは感じられず、どこか物悲しい悲哀に満ちたものに見えるから。まるで暴力に怯える子供の様な…。
それが少女の握る〝護身用〟を使えない理由だった。
しかし今の男には少女の感傷など気付ける筈もなく、それを無抵抗と受け取る。少女の着込む布切れを強引に脱がし、煤けたシャツを剥いて露出した柔肌に舌を這わせ、男は少女の無垢な体を貪った。


どれ程の時間が経ったのか、男は深い眠りに付いていたようだ。
朝日、というには少々傾いている日の光に瞬き、汚れた面だと呟きながら顔をコートの袖で拭った。はっとして昨夜のことを思い出す。辺りに少女はいない、何時ものとは別の痛みに心と胃が軋むの感じた。
半ば靄のかかった記憶に吐き気を覚えながら手元の小さな紙切れと金属に気が付き、拾い上げる。
紙には一言

痛かった

と、もうひとつは9mmの弾頭だ、これは少女からの警告なのだろう。男は顔を掌で隠すように覆った。
本当に堕ちたものだな…そう呟きながら男は街へと、一度振り返ってはみたもののやはり少女はいなかった。そして、そのまま消えていく。


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