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「vipArmoredCoreSS外伝 ヒワイナントアンテナ」

597隊長:2011/11/06(日) 13:38:06
男が平静を取り戻し、少女が書斎をあとにしてから随分と時間が経った。
崩れた壁の一部、手を置いて見渡すは月明かりの下浮かび上がるビル郡のぼやけた輪郭。眺める男の背中はいつにも増して憂いの影。
夜風を楽しむにはあまりに体温が高く、一人で居るにはあまりに冷え切った心。そんな男に呼応するかのように青はその熱を剥き出している。

〝だからお前は犬だと言うのさ!〟

ジナイーダと争い、敗れたときの言葉、今にして思う。

「犬であると認めた方が幾分格好は付いただろうか」

椅子に投げていたコートを手に書斎の戸を足で、男と同じくらい独り言の多い蝶番にうんざりしながら通りを抜け広間へと。
出口に向かう途中でつい寝室の戸に手が伸びてしまった。隙間から覗くとベッドの上では本を開きはなしにすやすやと寝息をたてる少女。
物音を立てぬように挙動も遅く、灯ったまま忘れられているランタンの摘みを捻った。
出戻りに男は少女の髪に触れようと手を伸ばすが、指先に戸惑い、それは握り締められた。加わる負荷に負けた指先から赤い血が、それに続いて輝きが。
開いた掌に戸惑いも傷もない。


気付けば男はその足を馬車馬のように走らせていた。闇雲にただ只管に。
理由はわからずとも知れたこと、止まるまでこの足、止められるまで走りたい。
目前のビル群は生憎何処までも続いている。男は此処の果てを見たことがないから少なくともそう思えた。


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