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「vipArmoredCoreSS外伝 ヒワイナントアンテナ」

83シャイアン。SS投下。評価は本スレへ:2006/10/06(金) 22:27:00

 結局、あの後ノブレスには一回も声をかけないままでいた。安易に声をかけてはいけないことなのかもしれないと思うと、踏み切れないシーラ=コードウェルがいる。
 出張便に自分たちの回収を頼んで、深い眠りについた後、自分たちの家の前にいつの間にか立っていたのを良く覚えている。青白い空が印象的だった。
 穴の開いた我が家が何故か懐かしい。
 買い物袋をいくつもさげ、カートに食物を満載して、シーラは今日も買出しに言っている。
 あれ以降ジャックからの連絡はなかったが、ノブレスの銀行口座に指定された以上の多額の賞金が突っ込まれていた。
 かくして、ノブレス=オブリージュのレイヴンとしての生活は順風満帆である。当然、シーラ自身の目的と、それをするための手段も明確になった。
 青い空を見上げて一つ伸びをして、ガレージの中に入っていく。クレーンが挙動不審な動きをしている。新手のダンスかなんなのか。上がったり下がったり、回ったりと待ったり。
 まあなにが起っているかの想像はつくのだ。シーラはコントロールパネルの前で悪戦苦闘しているであろうノブレスの顔を想像してくすりと笑う。
 ノブレスに気付かれないようにカートをおきっぱなしにして事務室へ、資料が山積みになった机の上を引っ掻き回して、長い間ほっといたままの初心者用整備マニュアルを引きずり出す。
 コントロールパネルのある渡り廊下の階段を静かに上って、背後から誰が近づいているのにきづかずにいるノブレスの背中を見て、声。
「ノブレス、何やってんの?」
 何をやっているか、わからないわけでは無い。ノブレスはノブレスなりに頑張っているのだ。今まで、自分はその頑張りを散々封殺してきたが、それではいけないと思うのだ。やっぱり。
 相棒とは、助け合うものである。その助け合うもの同士の間柄に敬語を使う必要は無いと思えたし、互いの行動を制限する必要も無いと思えた。
 必要以上に上がった肩が、下がるまでにはかなりの時間がかかって、振り返るまでにはもっと時間がかかった。
 おそるおそる、といった感じ。でも、それをとがめるつもりはシーラには無い。
「えーっと、」
 言い訳に戸惑っている姿を尻目に左手に握ったマニュアルを差し出す。
「いるでしょう?」
 笑顔で言う。
 ノブレスは以前戸惑いの表情のまま固まっているが、差し出されたマニュアルを受け取るべく、右手も出している。
 マニュアルを掴もうと広げられた手を、シーラはすかさず右の手で握る。
 ノブレスは豆鉄砲でも食らったような顔をした。
 右と右の握手は友好の証である。互いを同等の、同じ権利を持つ、自分と同じく意思を持った相手であると認めた証だ。いつかも同じ事をノブレスとシーラはしたことがあったが、今のシーラはそれが「握手」であったとは思えないのだ。
「これからもよろしく!」
 今更何を言ってんだという顔をしてノブレスは笑う。シーラも当然の如く笑う。
 シーラだけが微笑むのは今までも良くあったことだったが、ノブレスも一緒に笑っているのは、初めてのことだった。


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