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「vipArmoredCoreSS外伝 ヒワイナントアンテナ」

388隊長:2010/03/10(水) 01:58:02
そこに音はなかった、先程まで耳に響いていた雨の音がない。
決して聞こえないワケでない、ただ違う。音ではなく感覚なのだ。
小刻みに伝わる振動がこの世界での音なのだと、彼は知る…いや感じる、の方が適切だろう。
そして都市、水に飲まれた都市は荒れていたのではなかった。
生まれ変わったのだ、水に浸かることで金属やコンクリートの放つ硬さのイメージがまるでない。
近づいて手を触れれば崩れてしまう、そんな繊細さを感じさせる。
上から差し込む少ない光さへ、水と混じることでその色をエメラルドのような翠色に変化させていた。
その光にぼんやりと照らされ浮かび上がる都市、彼は息継ぐことを忘れてしまいそうだった。
できることならこのまま、この世界に消えてしまいたいと。
(いけない、テン・コマンドメンツが心配しちゃう、早く上がろう)
彼は惜しいと思いながらも、水上へと泳ぐ。
水面から顔出した時、萎んだ肺にたらふく空気を入れてやった。
その時自分は陸上の生物なのだと思い出し、少しだけ落ち込んでしまう。
「ごめんごめんテン・コマンドメンツ、下の世界に見惚れちゃったんだ」
「それじゃぁ、一泳ぎしよう!」
そう言って、先程思い出したことを忘れるよう泳ぐことに集中した。
少しずつ離れていくサイプレスの信号を、自動操縦に切り替わったテン・コマンドメンツがゆっくりと追いかけた。
サイプレスは建物までの1.5kmを休まずに泳いでみせる。

「ックション!」
「『風邪を引くって言っただろう』なんて言わないでよ。僕が悪かったからさぁ」
携行ランプで照らしてはいたが建造物の中は少々暗かった、近くのテン・コマンドメンツを入れた大きな穴から
入る光も、穴から僅か数m程度しか照らしていない。
グッショリと濡れた身体を丸めてひんやりとした床に座るサイプレス。
そのすぐ後ろにはランプの光で輪郭だけを浮かばせるテン・コマンドメンツ、影に身を落とすその姿は
どこか考え事に浸っているように見える。


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