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「vipArmoredCoreSS外伝 ヒワイナントアンテナ」

581隊長:2011/11/06(日) 13:31:22

「その烏の名」


――― 一人の少女を見た、ボロボロの少女を


街灯は照らす、レンガを敷いたこの道を、石造りに見せかけた合成素材の建築物の群を。人は知っていた、この街を通り過ぎる風の冷たさを。それでも尚、寂れた街に人が集うのは行く場所がないから。
けれど、人の数だけは誇れるであろうこの街に、確かに温もりはあった。皮肉にも、その温かさを持った者が人ではない。
少女が居る、この寒さの中をボロ布を纏う事で忘れようとする少女。身体の冷えはだらしなく鳴らす鼻が、小刻みに震わす肌が教えてくれる。そんな少女が今、コートに身を包み憂いた瞳を向ける男の前に居るのだ。
男の瞳には少女がどの様に映ったのだろうか、絶望に気付かなぬまま突き落とされた瞳を持つ少女。男はこの目を知っていた、少女にも恐らく、そう思える節があったのだろう。
二人は互いの目を覗き込んだ。まるで鏡を見るかのように。
「家は?」
少女は首を横に振った。
男の眉間に皺が寄る、内の鼓動が耳に障ったのだ。人はそれを同情だと考え、男はそれを気の迷いと感じるのだろう。
「親は?」
首を同じ様に横に振った。そんな少女に対し男は何とも言えぬ異を覚えた。男は哀れみを知らず、それを怒りと勘違いしたのだった。
しかし、そんな自身がわからなくなっていたのも事実、目の前の少女に腹を立てる理由はなんだ?男はその疑問に対する答えを知らぬまま、ポケットからハンカチを取り出し少女の鼻に当てる。
「そこに座ったままで身体を壊すやもしれん、そんな貴様は何を望みそこに座り続ける」
少女に問うた男は、返答を気にせぬまま立ち上がりにその場から離れようと足を動かした。少女が答えられぬだろうと高をくくっていたから。
だからこそ驚いた、とでも言うのか。返ってきた言葉に男の表情はそう語っていた。
「温かいもの……今、叶った」


聞くに少女は、数日前に戻る場所を失ったようだ――


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