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「vipArmoredCoreSS外伝 ヒワイナントアンテナ」

582隊長:2011/11/06(日) 13:32:17
死とは何だろう。
街並みに消えていく人々の目には生気がない、だからと言え死んだワケではないが、この時世、死を垣間見た人間は少なくないだろう。
だが、死を経験できる人間などいない。死は一度きり、心停止からの蘇生や脳波の回復でない、死。

ならば、それが人でなければどうだろうか。
此処に居る男は一度、翼を削がれ死んだ。確実に地に落ち息絶えた筈だった。絶望に拾われるまでは男自身そうであったと、わかっていた。
その胸に隠す淡い青の輝き、薄いシャツから僅かに漏れる。彼に二度目の生を与えた汚れの証であり、再び瞳に覗かせたくもないもの、男が絶望に堕ちた獣だったと言う時の記憶そのもの。
だがこの光に気付く者などこの街に、この通りに居やしない。男もまた、安酒に溺れてはそうであったことを忘れようとしていた。

――― 三週間程前

男が再び目にしたものは暗闇か、違う。自身から放たれるあの〝青〟だった。
では男が寝そべり、背中で感じるこの感触は……語る必要もない、金属塊。あの時から男は身体に異常がなく立ち上がれる現状を異常だと悟り、そして憤怒し狂気に身悶えた。
その情けなさ、少なくとも男はそう考えていた。振り上げた拳を加減することなく金属塊にぶつける今、男は内の衝動を隠すことなど忘れている。
「死ねたんだ!!私は!!私はっっ!!!死ぬことができた!……やっと自分の体たらくから…恥から!弱ざから゛!!慢゛心゛か゛゛ら゛!!!に゛げる゛ご゛ドがでぎだっ…の゛に゛ぃ゛!!!!」
力なく崩れた男、その拳は血に染まる。しかし体内に蔓延る青はそれを直ぐに修復するのだ、拳ひとつに見れる光景は男に耐え難い屈辱と絶望を植えつける。
空の筈の胃は締め上げられ抑えられない苦しみは喉を介し吐き出され、大量の吐瀉物には血が汚れた顔には涙が混じる。

〝業だ、精々背負いきることだな?首輪つき〟

男はまたも吐き気に襲われる。
この声は男から全てを奪い去った、『何もなかった自分を見繕った描き幕にさへ爪を立て剥がしていった』あの女の声だ。
男は周囲を窺う、あの女が近くにいるとは思えない。だが確かに聞こえたのだ。繰り返される言葉は耳の中を掻き回し脳にまで到達する。
そんな考えが過ぎった刹那、男は自身の耳を引き千切った。だがそれを青は許さない。掌に転がる自身の耳とは別にもうひとつの耳が既に生え、声は消えず、遍く記憶が、あの日の記憶までもが脳を抉る。

暗闇の中男の絶叫が消えていく。


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