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「vipArmoredCoreSS外伝 ヒワイナントアンテナ」

88エヴァンジェSSその7:2006/10/29(日) 23:05:49
『……前金が?』
「ああ」
 まじかよ、とマーシャルが呻いた。次いで、そういやそうだったよなぁ、とぼやきつつ、
『……じゃぁ、しょうがないよなぁ。やるしなないよなぁ。そんなに貰っちゃたんだものなぁ』
 一頻りそう繰り返した後、マーシャルは告げた。
 感情を削ぎ落とした、冷え切った口調で、
『やってこい。プロだものな』
 それは事実上、『死んでこい』と同義だった。それを承知しつつも、二人は会話を続けていく。
「そのつもりだ」
『戦闘が始まれば、こちらからの指示は出せない。これはいつも通りだ。無事任務が終わったら、そちらから一報を』
 そこで、通信が途切れた。
 『死んでこい』と言った後とは思えない、そっけない別れ方だった。
 だがエヴァンジェは、特に薄情とは思わなかった。
 お互いプロなのである。レイヴンとオペレーターの関係は、元来こういうものだし、こうあるべきだとエヴァンジェ自身も思っていた。
「……行くか」
 呟き、ブーストペダルをより深く踏み込んだ。
 オラクルが速度をあげて、網目のような地下水路を進んでいく。
 エヴァンジェの聴覚が、背後より近づいてくるブースト音に気づいたのは――そうして五つ目の角を曲がった頃だった。
(じき追いつかれるな)
 思ったが、もう待ち伏せしようとは思わなかった。
 勝負の時間である。
 エヴァンジェはルートを工夫しつつ、地下水路を駆け抜け、やがて目的の空間に辿り着いた。
 馬鹿みたいに高い天井と、馬鹿みたいに広い床。珍しく照明が施されており、強烈な光が、カビの生えたコンクリート壁を、佇むオラクルを、その膝下まである水面を、白く照らし出している。
 エヴァンジェが戦場に選んだ場所とは、この大空間――無数の水路が集中する『ターミナル』だった。
(ここなら)


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