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「vipArmoredCoreSS外伝 ヒワイナントアンテナ」

183シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/12(月) 23:40:33
 敵は裏の裏の裏を掻いていた。裏の裏は表である。
 つまり、敵は正直に、回り込まずに攻めてきたのだ。
 敵はもう上空に飛び立っている。ブースターを細かく制御しながら滞空し、両手を使って短いライフルを構えていた。
 発射体制に入った敵を見据えて、回避運動に移る。ACが垂直上昇を始め、脚のスラスターがオートで小刻みに向きを変え、スナイパーライフルのバレルを握っていた左を払ってブレードを展開した。発振器から伸びるプラズマの刃は、青く光り輝き塵を焼く。
 OBを起動するわけにも行かない中途半端な相対距離、敵はロッフが回避運動を始めたのも気にせずに三回トリガーを引く。
 全て狙いは的確。マニュアルで狙っているとは思えない精度でACを狙う弾を、ACは全て紙一重でかわす。紙一重以上でかわす事は出来なかった。
 一瞬でも気を抜いたらやられてしまう、そう考えて、ACに右拳を開かせる。ACの右からグリップが離れて、スナイパーライフルは地に向けてまっさかさま。
 フラフラとした機動で敵のACに機体を寄せ、ブレードを薙ぐために左腕を構えさせる。しかし、挙動がめちゃめちゃ大きい。避けてくださいと訴えかけているようなものだった。
 それでも、勝利を確信した。ここの所負けが続いている成績に、とうとう勝ち星をつけることが出来ると喜びの踊りを心の中で目一杯に踊る。
 期待通りにはいかないものだ。敵のACはビルに機体を擦りながら横軸をずらし、プラズマは空を焼いて、ロッフにはなんの手応えも帰ってこなかった。血が冷める。
 ロッフだって、何ヶ月もACに乗っているわけじゃない。避けられたことに気付いた時には、バカにするなとばかりに力いっぱいにペダルを踏み込んだ。昔ッからピンチの際に叫ぶ癖がある。
「止まれ!」
 FCSに依存しないブレードは、刃を展開したままエネルギーをジェネレーターから吸い続け、安物のジェネレーターの中のエネルギーはもう底を突きかけている。あと何秒もブレードを展開してなどいられない。
 それでも、ブレードを縮小するどころか、出力調整のつまみを無茶苦茶上に押し上げた。大嫌いな青汁を一気飲みした時のような顔になって、硬いペダルを懸命に踏み込む。決して、ロッフは貧弱ではないが、脇を掠める装甲付きビルに接触を始めた右脚のペダルは、石でも入れたように硬かった。
 ロッフのACはビルの窓ガラスにつま先を突っ込んで、三回分をぶち抜いて空中で豪快にバランスを崩した。幾枚ものリノリウムとその他諸々を押しつぶした右脚を上にして、頭が下に。
 真っ赤になっていた顔が、今度は見る見るうちに青くなって、青を通り越したら次は白くなっていく。頭に血が上っているのに、白くなるなんておかしい。鉄の胃袋が朝飯を戻しそうになる。
 同時に、エネルギーが切れた。切れる前からアラームが煩く鳴り響いているのに、ロッフの耳にはこれっぽっちも聞こえてはいない。ブレードの刃が力を失ってひょろひょろに痩せていく。
 ACは相当高く飛んだのだ。その上、頭から落っこちたのでは、着地のしようがあるはずも無い。さらにさらにその上に、見つめるモニターの向こうでは、敵のACがライフルを構えている。既にロッフのACはスナイパーライフルを捨ててしまっていた。


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