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「vipArmoredCoreSS外伝 ヒワイナントアンテナ」

593隊長:2011/11/06(日) 13:36:38
「…ひま」
壁の向こうにビル群を覗くことのできる書斎にて、男が耳にしたのはひどく端的だが少女がどういったことを望んでいるのか容易に説明が付く言葉だった。
雨を凌ぎ食う寝る以外のことは考えていないこの場所で、彼女は〝暇が潰せるもの〟を欲していた。
最近になり少女は子供には有って当たり前の我侭な面が見えてくる。辛い経験によって抑圧されていたそう言った面が垣間見えるというのは喜ばしいことだろう。
と、わかっているつもりではあった。だが〝幼い頃の自分〟はまったくと言って良いほど参考にならないことも知っていた男は、こういった時のマニュアルが欲しいと無精髭を困惑交じりに摩る。
さてどうするかと悩む最中、今しがた読んでいた一冊の本を思い出し少女に手招き、この歳の子が持つにはあまりに重く厚いハードカバーを渡してやった。

「アイラ?」

手渡された本の題を口に出す少女は、如何にも重そうにそれを抱えている。
可愛らしいその姿に眼を細める男は、良い本だぞ?と付けたし、棚からそれと同じ題の本を一冊取り出すと少女の前でひらひらと捲ってみせる。

「上下巻構成の、そっちは上巻、こちらは下巻だ。そっちを読み終えたら貸してやる」
「どんなお話なの?」
「レイヴンである少女の話だ、自由で気高く、そして強い……そんな少女のな」

既にペラペラと数ページ捲っている少女はぎっしりと詰められた文字に流し目、興味津々に男に問う少女へと。
繰り返し読み耽った本の内容を反芻するかのように男は髭を摩りながら勿体ぶったように、それでいて少しでも興味を持たせるように教えやった。
そう、本当のレイヴンの姿だ。
少女にも聞こえぬ声は呟き、無き壁の向こうに見える空は少しだけ紅く染まっていた。


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