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「vipArmoredCoreSS外伝 ヒワイナントアンテナ」

192シャイアン ◆sjPepK8Mso:2007/02/12(月) 23:47:15
 
 ※

 見るからに趣味の悪い部屋だ。
 赤い絨毯が敷き詰められていて、成金趣味の金飾りが壁に多く掛けられている。絵に描いたような、重役用の木の机。最近ではすっかり木も高級品になってしまった。地上に出て三十年ほどしか経っていないと言うのに、採れる木を片っ端から採っていった所為で、地球にはハゲ頭が増えてきている。クッションが敷き詰められた黒皮のソファには脂がこってりと乗った男が座っていて、一本の電話を受けている。
 壁一面を占領する窓の向こうは真っ暗闇で、遠く、街の第三防衛線の辺りでかすかな光が点いたり消えたりしている。
 男が座るソファは人が三人ほども入っていそうな大型のテレビと正対しており、そのテレビは丁度半分から画面を割って、右半分にニュースチャンネル、左半分に警備カメラ直通チャンネルを開いている。
 警備チャンネルが映すのは、街の各防衛線の様子だ。巨大な街には多くの人間が住み、それだけ多くの人間がいれば避難活動にそれだけ時間が必要になる。もしも、非難する人間自身に危機感がなければ、円滑な避難を図る事は出来ない。街の住民に、説得する為に、各防衛線に設置されたカメラの様子を映すのが警備チャンネルだ。
 警備チャンネルに配信する映像は、無人の哨戒塔に勤めるMT部隊の人間が随時チェックしている。必要とあらば、部隊の人間が映像を改竄する事だってある。
 しかし今はまだ、脂ののった豚は改竄の命令を出していない。
 豚はいつ何時、どの世界でも偉いのだ。いい物を食べられるのは金があるからで、金があるのは権力がある証拠で、権力があるというのはつまり偉いと言う事である。
 豚の持つ立派な肩書きの名前は「キサラギ第二支社代表取締役」である。
 警備チャンネルが伝える情報はウソではない。今しがた、針山のように機銃を装備したMTが爆発に巻き込まれて吹き飛んだ。針の一本一本がバラバラに飛んで、曇り空に向かって飛ぶが、力があまりにも足りない。夢半ばにして軌道を重力に叩き折られる。
 街はキサラギ社が管理する都市の一つで、キサラギのスポンサーとなる富民層が特に多く住んでいる。
 つまり、第二支社がこの街を守るのに失敗すれば、キサラギの財政状態は著しく悪くなると言う事だ。
 豚は、汚らしい口をクチャクチャとならして、機嫌が悪そうに電話に応対している。
 ニュースチャンネルは、敵が近づいてきている事を取り上げている。
 もうすぐ、街の警報が鳴って、女の声でシェルターへ逃げる旨をがなりたてるはずだ。
 豚に向かって受話器が告げる。
『貴社が提供してくれた生体兵器の威力は予想以上だったが、貴社の防衛部隊も予想以上にしぶとかったようだ。奇襲をかけた三つの生機課のラボの内、二つ目と三つ目に向かった部隊との連絡が六時間前に途絶えた。
 更に、わが社が管理する街の防衛部隊の一つが消息を絶った。三十六番特殊武装部隊。毒ガス装備の対人部隊だ』
 豚の額に、その身の脂を削った汗が浮かぶ。見ているだけで気持ちが悪くなってくる。
『そちらとの契約では、私達は生機課のラボ攻撃を手伝うだけの筈で、私たちが貴方を手伝う義理はもうどこにも存在しない。むしろ貴方達が同士討ちでもしてくれると非常に助かる。そちらが管理している都市は、キサラギに出資している人間の三十パーセントが住んでいるとか』
 豚が苦し紛れに反論する。
「だまれ! 打つ手が無いわけではない。この都市にはレイヴンの養成施設がある。いくら近辺に偶然にもレイヴンが少ないとは言え、施設に連絡をすれば候補生が二十人以上も送り出せる。お前らにこれ以上借りを作る気はない!」
 勢い任せに受話器を電話本体に叩きつけて電話を切る。
 しかし、と思う。
 確実にこの都市を守らねば、キサラギ社の経営は十年先までガタガタになるだろう。倒産だってしかねないし、そうなれば豚は自分の肉を保てなくなる。
 いくら二十機以上ACがあろうとも、乗ってるのが新米では確実性に欠けるというものだ。
 豚はケチである。ケチとがめついは違うものであるが、豚は両方とも兼ね備えている。
 ケチでがめつい。
 だから、金を多く使うのが惜しかった。
 しかし、背に腹は替えられぬ。
 一人だけ、一人だけ本物のレイヴンを雇おう。確か、近くに最近ナインブレイカーになった奴がいたはずだ。
 相当な変わり者だと、風の噂に聞いている。なんでも、人殺しが嫌いだとか。人殺しをしないわけではなく、必要とあらば殺すらしいが、自分の身を多少削るぐらいならガマンして、人死にを避けるという。
 バカな奴だ。そう言う事だから、所詮レイヴンでしかなくて、出世も出来ない。
 死ぬまで傭兵をやっているのがお似合いだ。


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