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ジョジョの奇妙な東方Project.PAD6

43サイバー:2014/03/02(日) 13:15:20 ID:V3ZEu/ew0
>プッチは同性愛ではなくあくまでも『尊敬する親友』としてDIOを敬愛していたようです。神を熱烈に信仰していても、それが恋慕だとは誰も思わないですし。

        _ -.、  o   +   -;'`'-      十
-    Y´  ::::\,_        ´l  ィ''"ヽ,,
     |   ::、,:::::::\  ,. -'''二二‐ 、‖ :::::;;`ヽ,   +
。   !   !ヽ  :::゙'、::::::::`/∧__,,.... _,..ヽ{   :::::\::l
 -'゙冫-.|::゙、 、 ::::`、::::::l'´∧ 〈〈 \.!ヾ :: ν  ::::::|  |
   |  .|:::ヽ   ::ゞ'、::L/ ミェ_≧_、゙l !      ::l::| _,'"゙',,,__
      |:::     :::ヽ7〈.(`<=‐'' `´〉,| ι   ::ヾ| ",, ,'"
  !  。  !::::  l    ::'y′ `""",''// !      .::::l l          私はコタツに入らなくても
_,、''.__     !::::: '' :  _゙'、ュ_ ι/ / |/゙:}    :  :::::::|   o
 'l'゙      '、::::::  :    〈ニ''' /ノ:::;;;;;;!    : ::::::::::::|          乾布摩擦をするから別に
       .ゝ:::::::. ',::  ´ ゝ=-'''´  .//;l l ::  u::::::::::::::|   l
         ゞ、:::;:lケ  ! { ::|:l;: ,//;;;lノ;} :::ヽ  :::::::::::::| -'" "-      問題はない
十       l  l;;;;/    l l::| |,,//;;/ ..::{ :::;;;ヽ ::::::::::ノ ゙'' r ’
      __''゙ ゙;__ 〉  ι  ヽ)⊥-'´'' '" ::l',:::;;;;;;ヽ :__,;;;l
       '' r'' ‖     .:,/..'"´    ::l;;',:::::::::ヾ;;;;;;;;} l         コタツにばっか入ってると
          l::、   /''´     i ..::/;;;;;::::::::::::;;;;;;;;l _,'゙',_
゚    l,,      ゝ::... ../    !   .:::::/;;;::::::::::::::::;;;;;/  ',,"        天国にいけなくなるからね
   _,“ '',_   l:::`ミ::::ヽ,    ..ン /;;:::::ν:::::;;;ィ' l
   ",, "   | ,.-‐‐-.., :::::::..,,, -‐' .彡::::::::::;;;;;/_,,'' '.,__  O
    |     .}.l .mn,、l      ...彡:::::::::;;;;:/  '' r"
__     -|- ./└l,__,」┘ヽι ...:::::/|:::::::;;/ o ___
       .__ /  |   /\ ::::::/  |__ニ=‐'''´/___
   ゚   \三二=ー'   \/         ̄   /
 -_ー─---    ヘヴン       ム ヒ  ∩ ∩ 二ニ=‐
  __> メイド・イン┌─‐┐ヽ| __|__ヽ 月 ヒ  V V  ̄=‐- __
<_    二匚二 | ニlニ、| /| 人  ノ L二lヽ O ,O -‐‐  ̄
   ヽ 、.  人  Lニニニ」  レ   `    _____ヽ
     | "´   ̄_       ,,-- ___  \
     レ-‐  ̄ \    /      ̄ ‐‐
            \/
これはホモですね、絵が(確信)

44サイバー:2014/03/02(日) 16:29:54 ID:V3ZEu/ew0
東方荒木荘、6話投下開始です!
全く持って企画が思いつかない。

45東方荒木荘 6話:2014/03/02(日) 16:30:46 ID:V3ZEu/ew0
第6話「誰だってやられたらやり返すだろ?だれだってそーする、俺だってそーする」

そのあと、吉良達とDIO達は別行動で残りの3人を探すために二手に分かれた・・・
吉良「私とヴァレンタインでまず「永遠亭」、その次に「守矢神社」に行く」
吉良「DIO達は最初に「アリス邸」、その次に「白玉桜」に行ってもらう」
吉良「異論はあるか?」
プッチ「ない」
大統領「同じく」
DIO「・・・」
吉良「それでは・・・解散ッ!」
吉良「行くぞ、ヴァレンタイン」
大統領「分かった」
プッチ「行こうか、DIO」
DIO「フン・・・」

〜15分後〜

吉良「けっこう進んだな・・・」
大統領「地図によると今は多分「迷いの竹林」にいるんだと思うぞ」
吉良「そうか・・・」

〜25分後〜

吉良「おい・・・ホントに合ってるのか?」
大統領「ああ、間違っているはずはないんだがな・・・」

〜30分後〜

吉良「もしかして・・・・これって・・・」
大統領「ああ、その通りのようだ・・・」
吉良・大統領「迷 っ た」
吉良「クソッ・・・こんな事なら妹紅に付いてきてもらえばよかった・・・」
大統領「なに?妹紅だと?」
吉良「ああ、妹紅はいっつも永遠亭の「輝夜」という奴と殺し合いをしているらしい」
大統領「!?あんな少女たちが殺し合いをしているのか?」
吉良「不死身だから死なないらしい」
大統領「不死身同士の殺し合いか・・・なんだか不毛だな・・・」
大統領「これからどうする?」
吉良「人里に一回帰るか・・・」
大統領「そして妹紅と一緒に「永遠亭」に行くと」
吉良「そうだ」
吉良「じゃあ・・・行け!「シアーハートアタック」ッ!」
大統領「ッ!?何してるッ!吉良ッ!?」
吉良「大丈夫だ・・・そんなに焦ることは無い・・・」
吉良「「シアーハートアタック」で熱を探知して人の多くあるところに行くぞ・・・」
シアハ「コッチヲミロォ〜」ギャルギャル
吉良「そっちか・・・」
大統領「なるほどな、「シアーハートアタック」は「熱」が大きい所に行く、「人里」には人が多いから
「熱」があってそれを「シアーハートアタック」で探知してそれに付いて行くのか」
大統領「頭いいな」
吉良「こういう使い方をどっかで見たから使っただけだ」
吉良「さ、「シアーハートアタック」に付いて行くぞ・・・・」

46東方荒木荘 6話:2014/03/02(日) 16:31:56 ID:V3ZEu/ew0
〜5分後〜

吉良「結構進んだな」
大統領「そうだな・・・」

〜15分後〜
吉良「これってもしかして・・・」
大統領「ああ、その感じがする・・・」
吉良・大統領「ま た 迷 っ た か ?」
吉良「「シアーハートアタック」も間違っていたのかッ!?」
大統領「それはあまりないはず・・・」ガサガサ
大統領「ん?」
大統領「(何だあいつ・・・真っ黒な服を着ていて金髪だな・・・)」
吉良「どうしたヴァレンタイn・・・・ッ!」
大統領「知っているのかッ!?」
吉良「良く知ってるよ・・・あいつのせいで・・・私はこんな傷を負ったのだからな・・・」キズグチサスサス
大統領「そうだったのか・・・」
吉良「にしてもあいつが生きているとはな・・・」
大統領「一度倒したのか?」
吉良「「第一の爆弾」で黒焦げにしてやったがまだ生きているとはな・・・」
大統領「ゴキブリ以上の生命力というわけか」

そういうと辺りはいきなり暗くなり少女の声が聞こえた!
ルーミア「久しぶりね・・・貴方達・・・」
吉良「あいつ・・・・まだ私の事に気づいていたのか・・・」
大統領「ヤバそうだな・・・」フォン
大統領「あ、明るくなった」
吉良「やはりお前か・・・」
ルーミア「久しぶりね・・・「吉良」さん・・・」
吉良「きみに「久しぶり」なんて言われたくはないよ・・・」
ルーミア「そんな硬い事言わずに・・・楽しみましょうッ!?」ズァッ!!
吉良「こいつッ・・・前よりも格段と早くなっているッ!?」
ルーミア「前の仕返しよッ!」

      .__
      |┌i }     . ┌‐┐ _
      l | j } ,ィ==┐| l^i 7「rァ 7
     .l { .{〈  〉j j.}.| |..| j.}l ,l /
     .}.l .l .l  | i 〈 {.|「 .|/ j .j 〉
     ./.j リ  { j l 〉lj | / //
     j / |{  } { } }.|| l r=´
    .j {  l }  .{ { l .||L.ノ }
    .} l  | {  .{ j .〉.〉 ̄´
    { L,,ノ「  〈 { .| |_ ,ヘ、
    └=┘  .ノ j_,,,{ ..} .{ ,、.}
         .└┐ィ‐=ミj l .{ }
          く L_   .j .L,
           `‐-ミヽ `ヽ弋、
           __   .{ .} ト、 } }
          .ノ rミヽ┘j i ト=┘
           } レ-`-´ └-`=┐
           `^ー┐}  ,、  ̄} .}
              l .} j トミ二_」
              .l |  i }
               } }_] }
                   └-┐ レ´ヽ、
                     / /7∧ \
                 〈 〈////ヘ、
                     ヽク ._,=ヘ  〉
                    <´<´_,,ィ´ ノ
                   \_r'' ̄´

47東方荒木荘 6話:2014/03/02(日) 16:32:31 ID:V3ZEu/ew0
吉良「グハァアア!!」
大統領「吉良ッ!」
吉良「どうやら・・・本気で戦わなければいけないようだな・・・」
大統領「吉良・・・お前は引っ込んでいろ・・・こいつは私が片を付ける」
大統領「私たちの大切な吉良を傷つけた罪は深いぞ・・・?」
吉良「ヴァレンタイン・・・」ジーン・・・
大統領「吉良が死んでしまったら私たちの稼ぎはディエゴだけになるからな・・・」
吉良「(やっぱだめだこいつら)」
大統領「吉良。」
吉良「何だ?」ブォァサァァ!
吉良「何だッ!これは「アメリカ国旗」ッ」!」
大統領「お前は隣の次元にでも行っておけ・・・」
ルーミア「・・・貴方が私のご飯になるの?」
大統領「喰えるものなら食えばいい・・・(こいつらは私たちの事を飯としか思っていないのか)」
大統領「冬のナマズみたいにおとなしくさせてやる・・・」
ルーミア「行くわよッ!」ドグシャア!
ルーミア「あら・・・意外とあっけないのね・・・」
ルーミア「さて・・・私に食べられなs・・・ってあれ・・・?居ない・・・」
ルーミア「どこに行ったのッ!?」
大統領「Dirty deeds done dirt cheap」
ルーミア「ッ!?」
大統領「いともたやすく行なわれるえげつない行為」
大統領「ドジャぁぁぁ〜ン」
ルーミア「どうなっているの・・・?(アイツに攻撃したのにアイツが後ろに回っていた・・・)」
大統領「D4Cッ!」
D4C「・・・!」
ルーミア「(こいつ・・・あの吉良と同じような能力を・・・)」
大統領「貴様を始末するッ!」
ルーミア「やってみなさい」
ルーミア「WRYYYY!!!」
大統領「挟んでやるッ!」
ルーミア「そんな布きれッ!」
ルーミア「破けるわッ!」ビリビリィ
ルーミア「今度はこっちの番よ!」
ルーミア「月符「ムーンライトレイ」ッ!」
大統領「何だこれはッ!レーザー状の光線かッ!」
大統領「D4C!隣りの次元に隠れるぞッ!」
D4C「・・・!」
ルーミア「喰らえエエエエエエエエ!!!」

48東方荒木荘 6話:2014/03/02(日) 16:33:02 ID:V3ZEu/ew0

        /|  l7l7
      |  |_
      |  __>
      |  |_
      |___>
          ___/|___
          \     /        |\
            | / ̄| /   _ _ __   | ./
            l/   l/    l/l// /   l/
                     ∠/   ⊿

ルーミア「これで・・・」
ルーミア「倒したのかしら・・・」
大統領「間に合わなかった・・・」
ルーミア「ふふふ・・・これであなたを・・・食べれるってわけね・・・」
大統領「誰か・・・誰か助けてッ・・・」
ルーミア「誰も助けになんて来ないわよ・・・・」
ルーミア「それじゃあ」
ルーミア「食べさせてもらうわよッ!」
大統領「誰か・・・誰か・・・」
大統領「助けて・・・」ファサァ・・・
ルーミア「こいつ・・・・布きれを被っただけで逃げだとでも思ってるのかしら〜〜?」
ルーミア「(そうだったらとしたら大マヌケね!)」
ルーミア「WRYYYY!!そんなので隠れたつもりかしらァ〜!?貴方は私にとって猿よッ!猿が人

間に追いつけるかーッ!お前はこのルーミアにとってのモンキーなのよォォォォォォ!人間ンンンーーーッ

!!」ビリビリィ!
ルーミア「そしてッ!あなたは私に食われて死ぬのよォォォォォォ!!」
ルーミア「・・・・・・・って居ない・・・!?」
ルーミア「!また後ろね!」
大統領「残念だったな、上だ」
ルーミア「!!?」
大統領「今度こそ挟んでやるッ!」
ルーミア「キャア!」

〜〜〜〜〜〜〜
ルーミア「・・・こ・・・これは・・・」
ルーミア「私がもう一人・・・」
大統領「Dirty Deeds Done Dirt Cheap 」
大統領「この隣の場所に自由に入ってこられるのは!この私の「D4C」だけだッ!」
ルーミア2「貴方は・・・誰・・・!?」
ルーミア「こっちが聞きt」バチィイイン!!!
ルーミア「うわああああアアアアアア!!!」
ルーミア「これは・・・!「私の体」がッ!!!ブロックみたいにッ!砕け散ってるッ!」ボロボロ
ルーミア「早くしないとッ!全部が砕け散って「死んじゃう」ッ!!!」
ルーミア「!!ウワァ!もう一人の方の私が死んだッ!」
ルーミア「た・・・助けてッ!」
大統領「・・・・」

49東方荒木荘 6話:2014/03/02(日) 16:34:09 ID:V3ZEu/ew0
                          / fワ /       ,ィf/
   『 Dirty deeds done         / fワ /     ,ィタ'/
     dirt cheap 』           / fワ /    /rタ /
                       / fワ /  /,rタ´ /
  “ いとも たやすく 行われる       /.fワ' / /,rタ  , '
         えげつない 行為 ”      /fワ // rタ  /
                        /fワ'/ヽ rタ /
                   __/ ,.ィ   } /
               __/ ̄__/ rm    j∧
               /::/  _〕 ト=‐‐z_rmノ、 \
                 |::::l   ヽ人 ミ  /r‐'  ∧
        ,.ィニ二アニ二ミヽ__|  ` 二、 ) ,ィ⌒ヽ
          ,L三三彡'⌒ト、ヽ\ ̄/ ./7´ /::; 、:::::::}
.        /ll\ l fツ  ヽ  ̄`フ} У ̄>、__ ;:__ノ}
.       { l|| ハメ    ,、 | ヽ ノ´ /   ,/ ‐ヽ ̄ヘ
.      | l| |l|ー<〈/_/へr'´/、  / / i_  _ | fワハ
        ∧l l | |ニミヽ ` ー|‐'  \   V´   ソ  fワ |、
.       /  ヽ V⌒ヽjリ}    l     `ー/   、 /{\__ソ'^}ォ
    ノ /⌒ト、ヽー人,ノ  /|`ヽ.__  f二つ  |、|  トイ^リ
.    /ヘ人__ノノ`T´ ̄ \ー ┴--  ノ -一{_j `|  | i  l}
   /ノ _}.     ヽ‐'  } \ー-- 〈 /づ´ ∨ヽ!  V i  |
.  / {_f´      |'⌒ヽ!  |>-イ  ノ==、/ │  ∨  |
  | ト、_う        |__,ノ-<____/ `ヽ / \.|.   |   |
.  `U.       _,ノ / l ̄ / /  l     / 、  \   '.   !
        ‘ーへ \_ヽ__l  |    \__/ \  ハ.  ト-ハ
               ̄  .// ̄/  ̄ ̄ \    ヽ ∧ |Yヽ|
                 //  /ヽ  / ∧       ∧ヽしリ
             // /  \/  ノ  ',       ∧〈{/
             ノ/_   ニニ|   _ V     ∧
.              / /   ̄`ヽ レ'´   ̄`∨\    |
           /  /     j/ |      }V  \  |
         /   /-- 、   /: | __    / ∨   \|
          /   /   \/ .: j/  ̄`V  ∨   |
.         /   ∧\__/ノ  . :. |      ト、   ∨   !

50東方荒木荘 6話:2014/03/02(日) 16:34:55 ID:V3ZEu/ew0
大統領「・・・・」
ルーミア「た・・・助けて・・・ッ!」
大統領「助けてほしいか?」
ルーミア「ええ!早くッ!早く助けてッ!」
大統領「だ が 断 る」
大統領「貴様は前に吉良を半殺しにしたようだっけな」
大統領「そうだとしたら・・・そっちも返して来たからこちらも返させてもらおう」
大統領「やられたらやり返す、倍返しだッ!」バサッ!
大統領「連れて戻ってきたッ!皆私だ!」※大統領のHHA
大統領2「オラオラッ!」バキバキッ!
大統領3「思いしれッ!」グシャア!
大統領「とどめッ!」ポイッ!
大統領・2・3「そぉい!」
ルーミア「もう・・・・もうやめて・・・」
ルーミア「もう貴方達には近づかないから・・・!」
大統領「・・・・貴様らの言う事は信用できんな。そうだろ?吉良」
吉良「ああ、もう一度「第一の爆弾」で吹き飛ばしてやろう」
ルーミア「もうやめて!お願いだからほんとにッ!・・・やめてッ!」
吉良「・・・・私たちを思う存分責めたのにお前は命乞いして逃げようと言っているのか?」
吉良「私はその時泣かなかった・・・貴様にあの時弾幕を撃たれたときに泣かなかった・・・」
吉良「だが貴様は泣いている・・・」
吉良「私を見習うんだな、そうだ・・・私を見習いたまえ・・・」ガシィ!
吉良「私 を 見 習 う ん だ よ ォ ッ !」バキィィン!
大統領「えげつない(確信)」
ルーミア「もうやめて・・・・顔の骨がもうベキベキに折れちゃってるから・・・」
ルーミア「もう助けて・・・!」
大統領「・・・・!」
大統領「おい貴様、「永遠亭」までの道はどっちに行けばいいかわかるか?」
ルーミア「それなら・・・・」
ルーミア「そっちの方向に・・・・行けばいいと思うよ」
大統領「そうか」
大統領「わかった、もうこの辺にしといてやろう」
大統領「しかし、これから私たちを見かけても絶対に話しかけるな」
大統領「いいな?」
ルーミア「わかりましたぁ・・・」
大統領「よし、戻るぞ、吉良」
吉良「わかった」バサッ

51東方荒木荘 6話:2014/03/02(日) 16:35:37 ID:V3ZEu/ew0
〜〜〜〜〜〜
吉良「さて・・・あの小娘に教えてもらった方向に行くか・・・」
大統領「そうだな」

〜5分後〜
吉良「あ、あれだ、これが「永遠亭」だ」
大統領「へえ、なかなかいい雰囲気の家じゃないか」
吉良「ちょっと呼んでみるよ」
吉良「すいませーん!誰かいますかァー!」

シーン

吉良「誰もいないみたいだな」
ヴァレンタイン「どうする?」
吉良「ちょっと勝手に上がらせてもらおうか」ガラッ

〜永遠亭〜輝夜の部屋〜
輝夜「・・・」カチャカチャ
妹紅「・・・」カチャカチャ
吉良「・・・(何をしているんだこいつら・・・)」
大統領「・・・(ゲームをしてるな・・・しかもスマブラ64・・・)」
\ファルコーン!ハァ゚ーンチ!/   チガーウ!>
妹紅「よっしゃぁ!これで6連勝だ!」
輝夜「また負けたわ・・・やっぱピカチュウじゃあ勝てないわ・・・」
妹紅「あ、吉良、来てたのか」
輝夜「?・・・・貴方達は・・・・あの号外の人達!」
輝夜「貴方達はなんのようで来たのかしら?」
妹紅「そうだぞ吉良!女の部屋にいきなり入ってくるなんて・・・非常識だッ!」
吉良「すまない・・・訳を説明する・・・」
キングクリムゾン!
輝夜「そういう事ね・・・・」
輝夜「残念だけど、貴方達の仲間はここに来ては無いわ」
吉良「!・・・そうだったのか・・・」
輝夜「すまないわね・・・」
吉良「いや、大丈夫だ、次のところに行けばいいだけだ」
吉良「邪魔したね」
輝夜「いいえ、大丈夫よ」
吉良「それでは失礼した」

52東方荒木荘 6話:2014/03/02(日) 16:36:16 ID:V3ZEu/ew0
パタン

吉良「「永遠亭」は誰もいなかったか・・・」
大統領「次は・・・「守矢神社」か・・・」
大統領「そういう所には誰もいなさそうだな」
吉良「意外といるかもしれんぞ、私はディエゴが居ると賭けるよ」
大統領「私はカーズだな」

そういうと二人は地図を頼りに守矢神社に向かっていった・・・・

53東方荒木荘 6話:2014/03/02(日) 16:40:29 ID:V3ZEu/ew0
投稿終了ゥ!
永遠亭に誰かいると思った!?残念だれも居ませんでしたー!
さて、残りのメンバーはどこにいるか予想してもらいましょう!
(一応言っておきますが、行く予定にないところにいるかもしれませんよ)

54どくたあ☆ちょこら〜た:2014/03/02(日) 22:43:00 ID:VsyUiJI.0
サイバーさん、投稿お疲れ様です。
ギャグかと思ったら普通にヴァイオレンスってのは、結構クルものがありますな。
ボスはその辺の道端で野垂れてそうですねw

55サイバー:2014/03/13(木) 22:35:40 ID:ymhieD1w0
東方荒木荘、7話投下開始ですッ!

どうでもいいど最初の頃守矢神社のこと矢守神社って言ってた

56東方荒木荘 光は剣より強し」ンッン〜名言だなこれは:2014/03/13(木) 22:36:49 ID:ymhieD1w0
            第7話「「光は剣より強し」ンッン〜名言だなこれは」

一方その頃DIOグループは・・・・

プッチ「DIO、「アリス邸」からか「白玉桜」かで先にするかとかどうかは
どちらかが先にでもいいよな?」
DIO「それは・・・・どちらからでもいいんじゃないか?」
DIO「なぜそんなことを聞くんだ?」
プッチ「ちょっとな・・・私たちは「アリス邸」に行っていると思っていたが、この地図を見ていると
私たちは「白玉桜」に行っているようだ・・・・」
DIO「・・・・道を間違えていたのか・・・・」
プッチ「そうなんだよ・・・・」
プッチ「だが、メンバー探しに支障はないと思うぞ」
DIO「まあどうでも良いんだがな」

白玉桜までキングクリムゾンッ!

プッチ「あまり遠くないな・・・・」
DIO「幻想郷自体があまり大きくは無いらしいぞ」
プッチ「だからあまり遠くは無いのか・・・」
プッチ「(それにしても三途の川の船の奴と言ったら・・・・DIOに色目使っていたな・・・DIOの
親友は私でありあんな女に勤まる訳が無い・・・)」
DIO「どうしたプッチ、ブツブツ言っていて気持ち悪いぞ」
プッチ「あ・・・ああ、すまないな」

〜白玉楼 庭園〜

DIO「ああ、聞いたことのある声が聞こえるな」
プッチ「そうだな・・・(汗)それと女の声も聞こえる」
DIO「そこの角から聞こえてくるぞ・・・・」
プッチ「壁に隠れながらどんな様子か見ようか」

57東方荒木荘 光は剣より強し」ンッン〜名言だなこれは:2014/03/13(木) 22:37:20 ID:ymhieD1w0
???「せいッ!」カキョゥイン!
???「ムゥウン!輝彩滑刀ッ!」キィイイイン!
???「ウワァッ!!」ドガシャァ!
???「やっぱりカーズさんは強いですね・・・」
カーズ「フフフ、だがお前も腕を上げていると思うぞ、「妖夢」」
妖夢「はい!ありがとうございます!」
???「やってるわねぇ・・・・」
妖夢「あ、幽々子様」
カーズ「幽々子か・・・」
幽々子「貴方達もよくやるわねぇ・・・・」
幽々子「カーズ、妖夢の稽古の師範をやってくれてて有難うね・・・」
カーズ「いや、幽々子の為、妖夢の為ならこの程度なんてことは無い」
幽々子「頼もしいわね・・・」
幽々子「あ、後貴方たちの仲間達がここに来ているわよ何処に行ったかはわからないけど」
DIO「(何ィ!このDIO達の存在を気づいていたのかッ!)」
プッチ「(あの女・・・・何か異常なオーラを感じる・・・)」
カーズ「ああ、分かっている、あいつらが来ているというこのも」
カーズ「後ろに二人ッ!両方男ッ!」ジャキン!
カーズ「そこだァ!」ザシュゥ!
DIO「WRYァ!(危ねッ!)」
プッチ「うおおおッ!」
幽々子「!」
カーズ「DIOとプッチか、貴様らが来ているというという事ももうすでに分かっていた」
カーズ「私に何の用だ?」
DIO「その事なんだが・・・」
カーズ「ちょっと待てッ!?DIO貴様太陽が出ているのに灰になっていないぞッ!??」
DIO「ああ、その事なんだが・・・(やっべ喰われるかもしれん)」

キングクリムゾンッ!

58東方荒木荘 「光は剣より強し」ンッン〜名言だなこれは:2014/03/13(木) 22:37:56 ID:WIpqBPyU0
DIO「とまあそういうわけだ」
カーズ「」
幽々子「あの吸血小娘の血を吸ったら太陽を克服したってわけね・・・」
幽々子「カーズの一生の研究はそんなことで水の泡ねww」
プッチ「そうだな・・・(この女・・・サラッとえげつない事言うな)」
プッチ「ン?カーズ?」
カーズ「アンナディオゴトキニワタシノイッショウノケンキュウガコムスメノチヲノンダダケデタイヨウヲコクフクシタ、ワタシナンテイチドウチュウニマデイッテ

デモタイヨウヲコクフクシタノニアノディオノヤツハタダタダコムスメノチヲノンダダケデ・・・ソンナナサケナイリユウヲエシディシヤワムウニキカセタラドンナ

カオヲスルダロウ・・・エイジャノセキセキハナンノタメニアルノダ・・・?ワタシノイシカメンハナンノタメニアルノダ?エイジャノセキセキハイシカメンヲサド

ウサセルタメニアル・・・・ワタシノエイジャノセキセキデウゴクイシカメンコソガタイヨウヲコクフクスルタメニアル、シカシディオハ・・・ディオハ・・・・タダ

ノキュウケツコムスメノチヲノンダダケデタイヨウヲコクフクシタ・・・・ワタシノ・・・ワタシノイッショウノケンキュウノイミハ・・・・」ブツブツブツ
プッチ「ホワイトスネイクッ!」
白蛇「ウショワッ!」ボコッ!
カーズ「ヌワァ!おのれ何をするかッ!プッチッ!」
プッチ「カーズ!お前がそこまで落ち込むことは無いだろうッ!」
プッチ「DIOが太陽を克服したのが何だッ!カーズ!お前が太陽を克服したという事には変わりはないだろうッ!」
プッチ「そんなことで落ち込んでいてどうするッ!死んだエシディシ・・・だっけ?ワムウにも
申し訳が立たないだろうッ!」
プッチ「貴様はそんなキャラじゃなだろうッ」
カーズ「そ・・・そうだなッ・・・・」
カーズ「だが・・・・頂点に立つ者は常に一人ではならないッ・・・」
カーズ「また今度どちらがDIOどちらかが強いかが戦わなければな・・・」
幽々子「こんな所で話してるのはなんだから中に入って話しましょう?」
DIO「有難いな」
プッチ「感謝しよう」
カーズ「白玉楼は良い所だぞ?」
DIO「そうなのか?」
カーズ「妖夢の飯はかなり」
プッチ「そうなのか」

59東方荒木荘 「光は剣より強し」ンッン〜名言だなこれは:2014/03/13(木) 22:38:52 ID:ymhieD1w0
〜白玉楼 茶室〜
DIO「なかなか良い臭いがする」
カーズ「な、そうだろ?」
プッチ「なんか話ずれてる気がするんだが」
プッチ「それでだな、カーズ、ここに理由はな・・・」
カーズ「この幻想郷にいるメンバーを集めたいんだろう?」
プッチ「知っているなら話は早いな」
プッチ「一度人里まで来てくれるか?
カーズ「良いだろう、しかし」
カーズ「用件が済んだらここに戻ってくるぞ」
プッチ「いや・・・・別にいいが・・・」
プッチ「何故ここに留まろうとする?前まであれほど飽きっぽかったのに・・・」
カーズ「幽々子にも妖夢の稽古をしてやってくれと頼まれてるんでな・・・妖夢も我が「輝彩滑刀」での修行も
良い稽古になっていると言っている」
カーズ「頼みごとを断るわけにはいかんだろう?」
プッチ「そうだが・・・お前はそんなキャラじゃなかっただろう」
カーズ「・・・」
カーズ「わかった、訳を話そう」

「恋」 ッ ! そ の す て き な 好 奇 心 が カ ー ズ を 行 動 さ せ た !

カーズ「初めて幽々子に会ったときから幽々子には一目惚れしたよ・・・」
カーズ「あの強さにッ!あの不老不死にッ!」
カーズ「あ の 美 し さ に ッ !」
カーズ「私は心に決めた・・・「幽々子が好きだという事」を・・・・」
プッチ「」
DIO「」
プッチ「まさか・・・・カーズが恋をするなんて・・・・ッ」
DIO「スタンドも月までブッ飛ぶこの衝撃・・・・」
DIO「まあ、カーズの自由でいいんじゃないか・・・・」
プッチ「そうだな・・・・」
プッチ「まあ、人里まで来てくれよ」
カーズ「そうだな、幽々子達に伝えてくるぞ」スッ
DIO「わかった」バタン
プッチ「にしても・・・カーズが恋をするとはな・・・・」
DIO「驚きだな・・・」
DIO「今頃吉良達は何をしているのだろうかな・・・」

60東方荒木荘 「光は剣より強し」ンッン〜名言だなこれは:2014/03/13(木) 22:39:43 ID:ymhieD1w0
〜守矢神社〜

吉良「ハアハア・・・ハアハア・・・」ゼーハゼーハー
ヴァレンタイン「ハアハア・・・・ハアハア・・・」ゼーハーゼーハー
吉良「三十代半ばの・・・・アラフォーに・・・」ゼーハーゼーハー
吉良「この階段は・・・キツイ・・・・ヒーハーゼーハー
ヴァレンタイン「そうだな・・・・」ゼーハーゼーハー
ヴァレンタイン「でも・・・・もう少しだッ・・・」ゼーハーゼーハー

       ___
     /×( ゚Д゚)
     |×( ´∀`)
    ⊂××××つ
     |××××|
     | ××× ノ
     |×| ̄|×|
      (__) (__)
     キングクリムゾン!

吉良「やっと着いた・・・・ッ!」
ヴァレンタイン「疲れたな・・・ッ」
吉良「一休みしてから行こうか・・・・」
ヴァレンタイン「そうだな・・・」
吉良「クソッ・・・こんな事ならぶどうが丘のスポーツジムの会員になっておけばよかった・・・・」
ヴァレンタイン「・・・・!」
吉良「どうした?」
ヴァレンタイン「静かにしろ」
吉良「?」

      モウイイ!オレハココヲデテイクッ!

                         チョットマッテクダサイ!マダワタシタチノヨウケンガスンデマセンヨッ!
  ウルサイッ!オマエラハオレニマトワリスギダッ!

                   マアソウオコンナヨ・・・・ホラ、ムネニトビコンデキテモイインダゾ?
   シツコイゾッ!オレハデテイクトイッテルンダ!
  
                  デテイカナイデヨォ〜マッテテバァ〜

???「うるさいぞッ!俺は出ていくと言ってるんだッ!」
???「待ってくれ!ディエゴ!お前はこれから守矢の一人のなりそうだったのに!」
ディエゴ「WRYYY!!!貴様らは俺にまとわり過ぎだッ!」
ディエゴ「布団の中に入るまではまだよかったッ!」
ディエゴ「だがッ!風呂にまで入ってくるのはあまりにも行き過ぎだッ!」
???「それはお前と速く打ち解けたくて・・・・」
ディエゴ「もうお前たちに近づく気はないッ!」
ディエゴ「ん?」
吉良「ディエゴか・・・・」
ディエゴ「吉良ッ!それにヴァレンタイン!」
ヴァレンタイン「久しいな」
ディエゴ「助けてくれッ!変態達に監禁されてるッ!」
???「なッ・・・変態じゃないぞ私たちはッ!」
???「いや、私は自覚あるよ、結構ひどいことしてたって・・・」
???「お前も喜んで布団の中に入ってたじゃないかッ!」
???「にゃ、にゃにおォォォォ!?そんなことなかったよ!」
???「二人ともケンカしないでください!ディエゴさん帰っちゃいますよ!」
???「ああ、そうだな・・・」
???「つーかあいつらはなんなの?」
???「話を聞いていたらご知り合いかと・・・・」
吉良「聞くんだが・・・・」
吉良「君たちは何者なんだ?」
???「ああ、自己紹介がまだだったな」
神奈子「私は「八坂神奈子」だ」
諏訪子「私は「洩矢諏訪子」だよ」
早苗「私は「東風谷早苗」です」
吉良「さて、少しお願いがあるんだが」
吉良「ディエゴを返してもらいたい」
吉良「もちろんすぐに返す」
ディエゴ「!?」
神奈子「・・・・」
諏訪子「どうする・・・?」
神奈子「すぐに返してくれるなら・・・・」
神奈子「しょうがない、ディエゴも嫌がってるしな」
神奈子「あの号外でも大体知ってるし」
吉良「感謝する」

そのあと二人達は人里に戻りDIO達と合流した・・・

61サイバー:2014/03/13(木) 22:43:11 ID:ymhieD1w0
投稿終了ッ!
しかし5大BB(ピチューン
紫とかは全然BBAじゃない(ピチューン
紫達は普通にお姉さんだと思いますがね

62名無しさん:2014/03/13(木) 23:57:49 ID:eNZwFQ1A0
カーズの童貞臭

63サイバー:2014/03/14(金) 03:59:11 ID:O5l734iA0
>>62

「SEX」必要なし、帝王は常に一人。

64どくたあ☆ちょこら〜た:2014/03/15(土) 00:13:12 ID:vIpb1Cdw0
投稿お疲れ様です。
アリス邸には行かず終い、残るはディアボロのみ。
幽々子とのカプですか。カーズはジョジョボスの中でも一番色恋沙汰とは縁遠いイメージがありますね。
私の中では、カーズとのカプを組むとしたら永琳かな〜、と考えておりました。研究者だしIQ高いし、食物連鎖の頂点であるカーズと『穢れ』

65どくたあ☆ちょこら〜た:2014/03/15(土) 00:15:31 ID:vIpb1Cdw0
途中送信失礼しました。

『穢れ』を嫌う月の民との価値観の差異とか、色々絡ませやすいかなと。
カーズ×幽々子、どのような進展で魅せてくれるのか、期待しております!

66まるく:2014/03/16(日) 21:42:22 ID:KXhOcsr60
白玉楼、二つの神社。命蓮寺も?階段絶対すごそう。
僅かな間の攻防だから書かれてませんが、やはり人間組は階段には勝てないのか…

SEX必要なし。ゆえに童貞。…いいのかそれでおまえ…
価値観が違うからいいのかもしれないけど。

67サイバー:2014/03/17(月) 19:54:31 ID:b6OZS.6g0
ちょこら〜たさん、まるくさん・・・返信ありがとうございます。

>研究者だしIQ高いし、食物連鎖の頂点であるカーズと『穢れ』を嫌う月の民との価値観の差異とか、色々絡ませやすいかなと。

恋に相性なんてないんですよ、すべてはカーズの意思であり、カーズの好みなんですよ、ぶっちゃけ
私が幽々子様とカーズ様が好きだからカプにしただけなんですけどね。

>僅かな間の攻防だから書かれてませんが、やはり人間組は階段には勝てないのか…

階段>>>>>>>超えれない壁>>>>人間って事です、30代のアラフォーに
階段は絶対にキツイ、俺が歳とったら絶対そうだ、皆だってそうだ。

68まるく:2014/03/24(月) 16:11:12 ID:V1cqd/cI0
>SSはよ
あったよ!ここにSSが!
でかした!

あ、なんでもないです。投稿します。

69深紅の協奏曲 ―嘘と真の三重奏 3―:2014/03/24(月) 16:12:26 ID:V1cqd/cI0
「お騒がせしました」
「まったくだよ」

 守矢神社本殿の前で、早苗は深々と頭を下げて謝罪する。
 その姿を見せられては、さすがにドッピオも何も言えない。

「あんたは普段からまじめ口調のいい子ちゃんみたいなのにすぐ暴走するんだから」
「返す言葉もありません……」
「……はは、は」

 気落ちした早苗に対して気の利いた言葉も出てこない。
 もし自身が普段と変わらない状況であるなら慰めの言葉も浮かんだのであろうが。

「……して、今日はどういったご用件で? あ、アリスさんは今朝帰られましたよ」
「いや、アリスに用はないけど」
「ん、何であの人形遣いが出るの?」
「昨日は霊夢さんの所にアリスさんを訪ねてきましたので。神社あるところにアリスさんがいる、と言うわけではないことを」
「アリスには用はないって言ってるだろ」
「あ、はい」

 それに早苗は特に気づかない。気づく素振りもないその姿をみると、今の自分の気持ちを共有させようとする心が引ける。

「私がこいつをここに連れてきたのは、早苗の話を聞かせてやりたいからだよ」

 その空気を切ったのははたてだった。
 けしてからかう空気はなく、実直に彼の為に動いていた。

「私の話……ですか? えぇ、良いですけど、何を聞きたいんです? 神奈子様の伝説?」
「早苗がここに来た時の話と、それからどれくらい経っているか。その前後を、ドッピオに聞かせてほしい」

 はたてが強く、はっきりとした口調で言い切る。
 その言葉を聞くと、早苗は明らかに体を強張らせ、目を丸くしてこちらを見やる。

「……どういう、ことです?」
「僕の一番新しい記憶では、僕が現実に……外の世界に居た頃は2001年だったはずだ。それは絶対に間違いない」

 はたてに続き、ドッピオを同じく語気を強めて話す。その言葉には、現実を強く認識し乗り越えようとする意志がある。

「早苗、君は元は外の世界の人間なんだろう? 誰かから、それこそはたてからしっかり聞いたわけじゃあないが、流れからそれは推測できる。
 ならば知っているんだろう。『今』が何年なのか。どれほどの時間が経っているのか、その答えを!」

 だんだんと語調が強くなる。息を吐ききってもまだ出るかのような感覚。
 言い切ったころには浅く、肩で息をしているその状態。
 事実を認めるのは辛くとも、それは確かにしなくてはならないという気持ちが、彼の心拍数を速めている。

「……そんなこと、あるわけないじゃないですか」

 早苗は、そんな彼に目を細め異物を見る様な視線を向ける。
 小さく漏れ出たその返答は、明らかに彼を異常と思った答えだった。

70深紅の協奏曲 ―嘘と真の三重奏 3―:2014/03/24(月) 16:13:13 ID:V1cqd/cI0
「……何だって?」
「来たのはつい最近って言っていたのに、そんな前の事……時間が歪みでもしない限り、そんなことはあり得ません」

 そこまで言うと早苗は踵を返し、本殿の中へ向かう。

「ちょっと待て、どこに行くんだ!? どういう意味だ、今のは!!」

 何も言わずに去ろうとする早苗に喰ってかかる。
 返答次第では手が出てしまう、それほどの勢いで。

「……? ありましたよね、分からないはずがない。ここだけでなく、外でも同じことがあったはずです。それで忘れているだけじゃないです?
 ……そういっても納得しないでしょう、ドッピオさん。だから、証しを見せてあげます。……しばしお待ちを。本当に心当たりがないならはたてさんにでも聞いてください」

 そんな彼を少し振り返り、目線だけやると奥へと向かっていく。
 残された二人は、向けるべき対象がいなくなってしまったことで、矛先を変えるだけ。

「どういうことだ……何が何やらわからない。何があったか、だと? それはいちばん僕が聞きたいっていうのに……!」
「……やっぱり、怒るよなぁ。けれど、説明だけなら誰でもできるが……」
「はたて、お前もだぞ! 何かあるっていうならそれをまず言うべきじゃあなかったのか!?」
「いや、それはそれでしょ! というか、まさかそれを知らないと思ってなかったし……! 第127季、今年の二月程度前の話だ、あんた本当に知らないの!?」

 本殿の前で置いて行かれた二人は、大きな声で互いに責めあう。
 ドッピオは知らないことの増加とそれを知らされていたなかったことに対する怒り、はたては知っていて当然の話を知らないことによる驚き。
 その二つの感情が、発せられる声量が二人を熱する。

「知らないね、何があったかわかりゃあしないッ! 僕が目覚めたその時から、それほど経っているだなんて思ってもいなかった! 想像もしなかった!!」
「まさかその間中ずっと眠っていたんじゃないの!? あんだけ大規模な事件、知らないはずがない! 結果的には大したことなかったけれども、どう考えたってそれはこの中だけの話!
 隔絶されているとはいえ時の流れまでは変わってはいない! 外の技術が時空間まで揺るがすような空想を実現させているとは到底思えない! だったら知ってるはずでしょ!?」
「だから、それが何かって聞いているんだッ!!」
「おーいー、あなた達何話してるの、人の寝床の前で」

 熱くなった二人の前に、大きくあくびをしながら小さな少女が現れる。
 ふわわ、と間延びした声を上げながら、けだるげな眼で二人を見据える。

「……あ」
「客人がうるさいと思ったら、早苗は早苗でどんより自室に戻ってるし……その理由はお前たちの痴話ゲンカかい? いけないなぁ、いけないなぁ」
「……何だ、ガキが仲裁に入ることは何もねえぞ」
「子供じゃないって、この方は洩矢諏訪子。ここの主神の片割れだよ」
「うす」

 その紹介を受けた少女―洩矢諏訪子―は左手を軽く挙げ、頭を同時に小さく下げる。

「神奈子は大天狗と昼間から酒盛りしてるし、早苗は人形遣いと遊んでるしで暇々だったから寝てたらさー、あんたらがちゃがちゃこんなところで……クツワムシか」
「こんなのが、神?」
「幻想郷じゃあ大体こんなものだよ、そこは突っ込まないであげて。諏訪子様は」
「いいよ別に、立てなくても。……ところで、何話していたんだい? 二度聞きになりそうだけど、私が納得できない話だったなら静かにさせてもらうよ」

71深紅の協奏曲 ―嘘と真の三重奏 3―:2014/03/24(月) 16:13:51 ID:V1cqd/cI0
 口調は柔らかいし、本当にそれをやるかどうかといえば、やれないだろう。見た目や発せられる声色は完全に幼女レベルのそれである。
 だがその自信に満ちた堂々とした物言いは確かにただの子供のそれではない……が、にわかにはやはり信じられない。
 そんな空気を感じ取ったのか、あわてて取り繕うようにはたては弁舌をふるう。

「いやいや、大したことじゃないんですよ、本当に。私たちが熱くなりすぎただけで。
 こいつ、ドッピオって言うんですけどね。外来人だけどよくわからないところがあって。それで早苗に聞いてみればわかるかなーって。
 ほら、私ら幻想郷出身の者は外の世界の年号とかあまりに興味湧かないんでほとんど知らない、けれど彼がそれと今を照らし合わせたくって。だからー、早苗さんをねー」
「……あぁ、なるほど。それで。……ふーん」

 はたての口が動くたび、諏訪子の表情が曇り、目の色が暗くなる。それは明らかに不快の印。
 その顔がふ、とドッピオの方に向けられ、すぐさまはたての方に変わる。
 ひゅ、と息を飲む声が確かにドッピオの耳に聞こえた。

「……怒られて、マス?」
「怒って、ます。以前言ったよね、早苗そのこと思い出すの辛いから触れないで欲しいって。神奈子はともかく、早苗にそんな思いをさせる奴を不快に思うって。
 わざわざ思い出したくない物を掘り出そうとする、気の触れた盗掘師の様な事、してほしくないって。言ったよね、天狗」
「えぇ、えぇ。言われましたとも。でもですね……」
「まだその口を回すのかい? 不敬とまで取ってあげようかね。それとも鼻から下を取ってあげようか」

 冷めた目で見つめられているのははたてだが、それでもその刺すような空気に巻かれるのがドッピオにも感じる。
 確かに小さな成りをしていても、なるほど神と言われれば納得できるような場数を踏んでいるだろう。
 だからといって自分の前に転がる真実を見逃すわけにいくだろうか。
 そう抗議しようと一歩を踏み出そうとするドッピオの前を、はたての手が遮る。

「不敬と取られても結構です。早苗の過去を尋ねるのも、それを嫌う者がいることも承知の上。承知の上で外来人であり出自に悩む彼を連れてきたのはこの姫海棠はたて。
 もちろん他の方法もあるでしょうが、一番彼の望む答えを待つ道はこの道のみ。早苗はまだこのことを理解せずとも道を指そうとしてくれています。それを邪魔するのであれば洩矢神であろうと」

 そこから先は言わない。まだそこまでならポーズで済むから。
 そして、そのポーズは一代の賭けとも思うほどに。
 思わずドッピオははたての表情を見やる。とても、こんなことをする者ではないはずだと思っていたから。
 諏訪子を見据えるはたての顔は、どこまでも真剣で、どこまでも強情で、そして、ドッピオにだけは優しさを感じる顔だった。

「…………」
「…………」

 数秒のにらみ合い。
 二人ともその点では固かった。
 共に譲る気の無い一点。

「諏訪子様、起きられていたのですか」

 その合間に割り入る早苗。胸に、少し擦り切れ、色褪せた本を抱いていた。

「早苗。今聞いたが、いいのかい? 私はいつだって反対だ。自分で辛いと思うのならやめればいい。前へ進むことではなく、後ろに振り返ることならば。
 もし嫌ならば、私が早苗の代わりに断ろう。早苗は嫌だと言えないタイプだ、同情とかそういう気持ちであるのなら――」
「大丈夫です」

 早苗は無表情に答える。その姿は強がり、にしか見えない。

「早苗……!」
「待たせてしまってすいません。……お話ししましょうか。さっきの事はもう聞きました?」
「あー、いや、まだだ。……それに少し時間をもらっていいかい」
「わかりました」

 二人の間に飛んでいた火花は早苗が入ったことで鎮まる。
 はたては改めてドッピオに振り向き、自分より頭一つ下にある彼の顔に高さを合わせた。

「というわけで、まずは話しておこう。既に起きた事実、幻想郷だけでなく、この宇宙を巻き込んだという事変を。
 真相は一部の大妖しかわかっていない。私もなぜ起きたか、その結果幻想郷の外はどうなっているか。それを全てはわかっていない。だから、事実だけを話そう」

72深紅の協奏曲 ―嘘と真の三重奏 3―:2014/03/24(月) 16:15:03 ID:V1cqd/cI0
 第127季、3月21日。
 時間は、始まりはいつかはわからない。大体、昼過ぎだったはずだ。
 それが始まるまでは別段何もない時間だった。普通に雲は流れて、花も蝶も風に揺られて。何も変わらない平凡な一日になるはずだった。
 だけど、「何か」をきっかけに狂い始めた。……ん、ああ。「何か」はわからない。もちろん私は後にこの「何か」について調べまわったよ。だけど、何も掴めなかった。文とか、他の天狗もね。
 私の気づきは、少し風が強くなったかな、と感じたときだった。自室で次の花果子念報の記事を執筆しているとき、窓を叩く風の音が強くなったかな? そう感じたんだよ。
 でも、最初は何も思わなかったけど、だんだん違和感を感じてきた。1分と経たず、その音がおかしいことに気付いたの。
 風が強くなり、窓を叩いて音を出すならその音と振動はだんだんと大きく強くなっていくはず。けれど、音と振動は強くならず、叩く間隔だけが早くなっていった。
 それはおかしいと思って、急いで外に出ようとしたさ。その時にあまりに急いで、書きかけの記事にインクをぶちまけてしまった。
 しまった、と思う前に起きた事実にぞっとしたよ。そのこぼしたインクは「既に乾いていた」。
 ……何を言っているのかわからないでしょう? 私もその時は何が起きたかわからなかった。久しぶりに、何百年振りに理解が追いつかない瞬間を目にしたよ。
 とにかく家から出て、山の全体を確認しようとした。そのために飛行しようと思ったんだけど、全く飛ぶことができなかった。
 恐ろしく風が強いのさ。
 他の人たちはどう飛んでるかは知らないけどさ、私たち天狗は元は鳥類。風を利用した飛行を主としてる。
 だから強風の時はだいぶ飛びづらい。……さっきも外の風が強かったから当然だろう、と思うでしょ?
 でも周りの木はそよ風に揺れる程度。全然、風の強さを受けていない。ただ、ゆらゆらと揺れているだけ。
 それでも、その揺れはすんごい小刻み。まるで高熱でぶるぶる震える子どもみたいに、ゆらゆらじゃないね、ぶるぶると、ぐらぐらと。
 頭が痛くなりそうになりながらも、大急ぎで空を飛んださ。ごうごうと吹き付ける風を何とか御しながら。
 途中で文とも出会った。状態は全く同じで、大天狗様たち……ああ、上司ね。も同じ様子みたいで。
 すわどうしたもんか、考えようとした矢先にまたおかしな事実に気付く。
 さっき昼過ぎだった、て言ったでしょ? で、この頭がどうにかなりそうな出来事、どれくらいかかってると思う?
 体感で言いたいけれど、それは私の体感だから言わないでおく。お天道様がどこにいるかで事実を伝えよう。
 さっきまで頭の上にあった太陽はすでに山の中に入ろうとしてた。私たちが見た時には半分くらいしか見えていなかった。
 そしてその太陽は、私たちの目の前でするすると沈んでいき、辺りはあっという間に暗くなった。
 もう夜になったのさ。数分と経たずにね。

73深紅の協奏曲 ―嘘と真の三重奏 3―:2014/03/24(月) 16:16:00 ID:V1cqd/cI0
 少し話は変わるが、以前にも夜を止めて月を隠すという異変があった。……ん、違うな。月を隠されたから夜を止めて〜、だったかな?
 まあそれはいいや。夜を止めて、っていうのが重要。時間を停滞させることはできないことはない。その異変の最後は停滞された夜が解放されて、圧縮された時が一気に進み、朝になった。
 パンパンに空気を詰めた袋の口を押えて、力いっぱい押してから口を放した時のように、一気に時間が過ぎていった。それがその異変の最後。
 だから、今回もそれをやった吸血鬼の仕業かな、と思ったんだよ。
 そう思ったその時には、反対側からまたお天道様が昇ってきた。
 わかる? その時の背筋の凍るような思いが。私は直感的に思ったよ。『これは幻想郷の中だけじゃない』って。
 だって、いたずらに時間を進めてどうしたい? それも、皆が困るようにするなんて。
 確かに似たような異変はもう一つ、春を集めたが故にいつまでも冬だった、なんて異変もあった。
 その時も、先の永夜異変、あ、さっきの異変ね。冬が〜、っていうのは春雪異変。とかは、どこか当然とも思えて。『幻想郷だから』というおちゃらけた様な感覚。
 だけど、この時はそうは思わなかった。幻想郷も含めたこの世界全てがこの事変に巻き込まれていると。
 なんでかわからないけどとにかくそう思ったし、隣にいた文も顔を青ざめながらそう思ったみたい。
 この時、すでに太陽は視認できるほどの速さで動いていた。間もなく正午になるような高さになった時、突然、全てが暗闇一色に染まった。
 また何か、と困惑したよ。時間がどんどん早くなっていく次は、光でも失われるのかと。
 世界が突然終わったのかと。
 全然追いつかない頭の中で、そうぽんやり思った時、暗闇が晴れたと思ったら、いつもの昼間に戻っていた。
 風が無く、嘘みたいに普通に飛べる。木々のざわめきが普通に聞こえる。パッと見、揺れを感じないほど小さく小さくゆっくり揺れている。
 しばらく私は眼をぱちぱちさせてたよ。いつの間にかくっついてる文を引っぺがそうともせず。
 それでも、何も起きない、何も変わらない。さっきまでの出来事が嘘みたいのように。
 夢じゃないか、と思って文の顔をひっぱたいてみたけど、乾いた音と共に手のひらに残る痛みは、何か起きたけど、元通りになりましたよーって言ってる。
 事変自体は、本当にその一瞬だけで終わってしまったんだ。

74深紅の協奏曲 ―嘘と真の三重奏 3―:2014/03/24(月) 16:16:46 ID:V1cqd/cI0
「……もちろん幻想郷の中にはそれくらいができる芸当の奴が何人かいる。でもそれらは一様に知らないわからないの一点。
 全てを知ってそうな八雲紫もこの件に関しては本気で口を開けようとしない。……もともと奴はそういうの喋らないし、のらりくらりとかわすけど。
 嘘の付けない半獣の賢者は、『八雲もこの件は調査中、だそうだ』と。……幻想郷の異変じゃない、外の世界の異変なの。ここは、ただ巻き込まれただけ」

 そこまで話すと、ふう、とはたては一息つく。
 すでにそれを体験した二人はともかく、とてもではないが話に追いつくことができていないドッピオ。
 ぽかんと口を半開きにして、ただそれを聞くだけだった。

「……」
「嘘だろ、と言いたげな顔だけど。それは全てが事実。この幻想郷の外で『何か』が世界、宇宙全ての時間を加速させた。
 それがどうして終わったかはわからないけど……起こす奴がいれば止めることができてもおかしくない奴が何人かいる。そいつらが何とかしてくれたのかもしれない。
 該当者に話を聞きに行っても、みんな知らない、だったけどね。明らかに箝口令にしか見えなかったけど」

 自分の耳をかりかりと掻き、最後にそれを伝える。
 それを聞き終ると、次は早苗が前に出て、ドッピオに見えるように本を見せた。
 その本には『日記 〜2005年から2008年〜』と書かれていた。

「今の話は今年の3月、今は5月なので少し前の話。私たち守矢がこの地に渡ったのは第122季。2007年の話です。……あなたの言う2001年は、6年前に過ぎています。現在からは、11年」
「…………!!」

 まるで、直接剣で身体を貫かれたような衝撃が走る。
 10年以上前、現在は10年の月日が流れている。先の絶望的な事変はその間。
 一瞬で頭に世界の全てを叩き込まれたような感覚が眩暈となって襲いかかる。

「……嘘だ」
「嘘ではありません。もしこれらが嘘だったら私たちは何も知らぬ人を精神的に追い詰めるとんだ悪人ですし、あなたが嘘と決めつけるのならそれは少なくとも私たちを否定することになります。……嘘では、ありません」

 感情を押し殺した、低く震えた声で早苗は話す。
 中ほどより後ろに定めて開き、一枚一枚探すようにページをめくる。
 あった、と小声でつぶやいたそのページの日付は2007年の9月を指している。

「ここからです。この幻想郷に移る過程を一番詳しく書き込んでいた時が。……同時に、今のあなたに関係はないでしょうが、その時の苦悩を」

 彼女の言葉通り、丸みを帯びたかわいらしい字体には似つかわしくない、八坂神奈子の提案と自分の今との執着と悩みが混同して書き込まれていた。
 信仰が薄れ消えゆく神の唯一の救いの手段。幼い早苗のあまりに厳しすぎる二者択一。
 今までの生活を取れば人間として早苗は生きていくだろう。信仰の対象を失って。心の拠り所が自分の所から立ち去って。
 今までの生活を捨てれば神として早苗は神奈子と共にあるだろう。生みの親を失って。今までの思い出の全ての形に触れることを全て捨てて。
 その悩みを書き連ねた文章は1日1日経つごとに、ある日は短く叩きつけるように。ある日は全てを吐き出したような長い言葉で。
 ……そこにあるのは嘘ではなく、確かな現実のものとして。

「あなたに同情してもらいたくて見せているわけではない、ということは理解していますよね。……これ、は」

 その日記を持つ手が震え、書かれている文字が水滴で軽くにじむ。
 ページにはいくつも似たようなにじみがあった。

「ここに書かれていることは、確かな記憶。たし、ぐず、確かな記録です。……遡ります、その前」

75深紅の協奏曲 ―嘘と真の三重奏 3―:2014/03/24(月) 16:17:23 ID:V1cqd/cI0
 涙が出そうなのをこらえて、それでも漏れ出す。
 声が今は大きく上げていたい、その感情を押し殺して早苗はドッピオに説明の言葉を続ける。

「2006年、サッカーのワールドカップがイタリアで開催されました。クラスのみんなで、それを、話していました。
 2005年、はやぶさという宇宙探査機が惑星イトカワに着陸して、そこの探索を行いました。それが戻ってくることが楽しみでした。……それらがどうなったかを知ることは、もう、できません」
「……」
「どちらも、大きく取り上げられた話題です。……知らない、のですね」

 涙にぬれながらも、ドッピオが本当にそれらを知らないという事実を憐れむような目を向ける。
 目を鼻を赤らめながらも、確かに彼を見据えた。

「まだ、話しますか? まだ必要、ですか? いいですよ、何度も、っ、……」
「……早苗、もういいだろう。お前も、知らないことを知りえた、もういいだろう!!」

 自棄になって投げやりに話す早苗を、諏訪子がかばう様に止める。
 これ以上彼女が自らの傷を広げることに耐えられなくなったのだろう。理解を求めるその視線。
 そんな諏訪子に、早苗の膝は崩れ、そのまま諏訪子の背中に顔をうずめる。

「うぅぅ、っ、うえぇ……すわこ、さまぁ……寂しいよぉ……みんなに、みんなぁ……」

 押さえていた涙が堰を切ったようにあふれ、消え入りそうな声と共に流れ出る。
 それに諏訪子は振り返り、改めて早苗の頭を胸に、優しく抱き留める。

「直接的な、お前が2001年にいた住人だという証明にはなっていないが、お前の知らぬ過程を経て、今に至る。それを知らないお前は、何の因果かここまで『飛んだ』んだ。それが事実!
 分かったなら、もう早苗を苦しめる様な事は聞かないでくれ!」

 その諏訪子の声には怒りと悲しみが混じっていた。
 ドッピオにはそれがなぜかわからない。が、それは神奈子と共に彼女を巻き込んだ原因の一つだから。

「……なんだよ、それ。なんなんだよ……」

 全てを知りえず、絶望的な事実のみを与えられたドッピオは、どうすることも、できなかった。

「そんなこと、勝手なことを、言いやがって、言うだけ言って泣いて終わりかよ! そんなに勝手に、お前らはッ! 僕は、僕は……ッ!!」
「ドッピオ」

 やり場のない感情が怒りとなって溢れ出る。その溢れた感情の表現も、あまりの大きさに制御できず、声を詰まらせて震えるのみ。
 そんな彼を、はたては優しく抱きしめる。

「出会って間もないし、あんたは私の事を嫌っているだろう。……でも、もし今の気持ちを落ち着けたいなら、胸を貸してあげる。今だけでも。落ち着いてから何だって聞いてあげるから」

 抱きしめた彼の頭を優しく撫でる。イタズラや打算などのどうでもいい感情はない、その行為は母性の表れともいえるそれだった。

「う、う……」
「誰にだって泣きたいときはある。あんたのそれは今さ。別に恥ずかしいことでもない。私で良ければ、ぶつけてよ」
「……う、あぁ……うああああああああああぁぁ!!!!」

 大きな声を上げ、あらんかぎりの力で。
 早苗の泣き声を上から塗りつぶすかのように。
 守矢神社に、二つの泣き声が混ざって鳴り響いた。

76まるく:2014/03/24(月) 16:22:53 ID:V1cqd/cI0
以上になります。
2012年3月21日、ジョジョ本編でメイドインヘブンが発動した瞬間です。
その力は全宇宙に影響する、幻想郷も当然巻き込まれます。
でも幻想郷の住人がそれに巻き込まれたら…という考えから対策が取られて云々。
ドッピオの物語とあんまり関係が…そこで誰が何をしたかは、読みたければどうぞ、って感じでハーメルンの活動報告にでも残そうと思います。
割とそういうところが多い物語なので、関係ないことを垂れ流すにはいいですね、あそこ。
1か月縛りなければもう少し書けますが、かといって縛りがないとずるずると書かない期間が増えてしまう自分への戒めもあります。夏休み残り3日で宿題全てをやるタイプです。
許してください、なんでもしますから!

僕もはたてさんにでれられたい。

77サイバー:2014/03/24(月) 17:35:41 ID:JBCxK1E60
まるくさん、投稿お疲れ様です。
やっぱり結界が張られていてもMIHの影響って受けるんですね・・・
僕の作品ではMIHは終盤の方に出そうかなとか思ってます。
流石神、幼女の体でも精神はいっちょ前ですね。

???「見た目は子供!頭脳は大人!その名は名探偵コOン!」
> 僕もはたてさんにでれられたい。

残念だったな、私は文派何だな

早く3部アニメがみたいなぁ

78サイバー:2014/03/25(火) 21:27:48 ID:wJzsmru20
東方荒木荘8話投下開始します。
何でだろう、自分のSSを読んでると皆さんの
よりも絶対早く読み終わってしまう・・・
もっとSSを綿密に描こうかな・・・

79サイバー:2014/03/25(火) 21:28:17 ID:TKfJd0cU0
東方荒木荘8話投下開始します。
何でだろう、自分のSSを読んでると皆さんの
よりも絶対早く読み終わってしまう・・・
もっとSSを綿密に描こうかな・・・

80東方荒木荘 第8話:2014/03/25(火) 21:29:29 ID:TKfJd0cU0
         第8話「ヒャッハァー!!酒だァーー!!歓迎会だァーー!!」

〜人里 寺子屋〜

吉良「帰ってたか」
DIO「ああ」
プッチ「そっちはどうだった?」
吉良「永遠亭には居なかったがディエゴが守矢神社にいたぞ」
プッチ「ディエゴか・・・・」
ディエゴ「・・・・(しかしやっぱりあの守矢よりもこっちの方が居心地が良いな・・・今は家賃に追われる

事もないし・・・)」
DIO「こっちにはカーズが居たな」
カーズ「フン」
慧音「(190ほどある人間が6人も・・・・そろそろ限界だな・・・・)」
慧音「ちょっとみんなに言いたいんだが・・・・」
一同「?」
慧音「明日に博麗神社で歓迎会があるそうだ」
吉良「歓迎会・・・・?誰のだ?・・・・」
慧音「君たちのだ」
吉良「!?・・・私たちのか・・・・?」
吉良「私は行きたくないな」
DIO「貴様はそうかもしれんがこのDIOは行きたいぞ」
カーズ「酒は美味いからな・・・」
吉良「じゃあお前らだけで行って来ればいいだろう(この人外グループが・・・)」
カーズ「それじゃあ悲しいだろう、全員で行くぞ」
吉良「・・・・平穏に暮らしたいはずのこの吉良吉影が・・・」

81名無しさん:2014/03/25(火) 21:30:04 ID:TKfJd0cU0
〜次の日ィ!〜

吉良「ここが博麗神社か・・・・」ワイワイドヤドヤ
ヴァレンタイン「ここにはワインは無いのかね?」ワイワイドヤドヤ
ディエゴ「流石に無えんじゃねえのか?ここ日本だし」ワイワイドヤドヤ
カーズ「であろうな」ワイワイドヤドヤ
カーズ「にしても騒がしいな・・・」
吉良「全くだ・・・・(早く帰りたいい・・・)」
DIO「ン、あそこで紫と霊夢が何か喋っているな」
プッチ「そうだな、何を話しているのだろうか・・・」
吉良「(個々の土地の巫女は脇を露出させるのが趣味なのか?・・・)」
霊夢「ん、あの外来人グループが来たわね」
紫「ああ、あの異人組達ね」
DIO「異人とはなんだ異人とは」
霊夢「どう見てもも異星人でしょ、主に身長と服装」
DIO「WRY!(ひどいッ!)」
カーズ「まああの服装だったらそう思われるであろうな」
吉良「お前が言うな」
霊夢「まあ今回のは「アイツ」が来ないと思うから平和な方だけどね・・・・」
カーズ「アイツとは誰の事だ・・・・」ズシーン ズシーン
霊夢「大酒豪な鬼よ・・・・って噂をすれば・・・」

82名無しさん:2014/03/25(火) 21:30:39 ID:TKfJd0cU0
勇儀「酒 を 飲 み に 来 た ぞ ー ッ ! 霊 夢 ー ッ!」
萃香「霊夢おひさー」
霊夢「よりによって一番面倒な奴が来たよ・・・やれやれだわ・・・」
霊夢「?・・・・脇に挟んでるそいつ誰?」
勇儀「ん?ああ、このカビ頭の事か?こいつは旧都にいたから拾ったんだよww」
勇儀「で、こいつたまに子供になったりするわけwwwどういう体してんだろうねwww」
???「離してくれ・・・・ッ勇儀・・・首が締まって・・・息が・・・」
勇儀「そんなこと言ってーww実は私の胸で感じてんだろ?」ヘラヘラ
???「まじにやめててっt」ゴキャッ

今日のボス 「首の骨が折れて死亡」

勇儀「あれ、また死んだ」
霊夢「またってことはそいつ良く死ぬの?」
勇儀「数秒でまた生き吹き返すけどなwwww」
勇儀「そいつらが最近来た外来人か」
霊夢「そうよ、全く持って特徴の共通点が無い」
勇儀「私は勇儀だ、よろしく頼むな」ガシッ
DIO「あ、ああ、よろs」ゴキャン
DIO「GYAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!」
霊夢「あ、言い忘れてたけどそいつ超怪力だから」
勇儀「ごめんごめんww力込めすぎちゃったww」
DIO「この女ァーッ!」
吉良「まあそう怒るな・・・・」
吉良「こっちも自己紹介しておこう、私は吉良だ(この女ヤバそうだな・・・)」
プッチ「エンリコ・プッチです」
ディエゴ「ディエゴだ」
ヴァレンタイン「ファニー・ヴァレンタインだ(でかい、主に胸が)」
カーズ「・・・・」
ボス達「つーかさ、あいつ」
ボス達「デ ィ ア ボ ロ じ ゃ ん」
ディアボロ「こいつのせいで何回死んだことか・・・ッ」
勇儀「まあ今後よろしくなッ!」
勇儀「さて」
勇儀「飲 む ぞ ッ !」
勇儀・萃香「WRYYYYYYYY!!!」
ヴァレンタイン「あ、ちょっとまって誰か缶ビール頂戴」ペンスッ
ヴァレンタイン「・・・」ベコベコプシュー
ヴァレンタイン「ウゴォ!」ドブシャァァ!
ヴァレンタイン「イエスッ!イエスッ!」
勇儀「・・・・」
ヴァレンタイン「まあこれはどうでもいい私の特技だよ、自己紹介的なね・・・」
勇儀「へー(また今度やってみよう)」
勇儀「じゃあ!気を取り直してッ!」
勇儀「飲 む ぞ ッ !」

83名無しさん:2014/03/25(火) 21:31:12 ID:TKfJd0cU0
〜30ッ分後ォ!〜
DIO「WRYYYYYYYYYY−ッ!スタンドのパワーを全開だッ!」ヨロヨロ
ディアボロ「帝王はこのディアボロだッ!以前変わりなくッ!」ヨロヨロ
カーズ「何を言っている貴様ッ!頂点は常に1人ッ!!」ヨロヨロ
勇儀「あんたらもそろそろ酔ってきてるねぇ〜」ヨロヨロ
DIO「俺はまだ酔ったりしてないッ!ザ・ワールド!酔ってない証拠に何かをぶち壊せッ!」
世界「・・・・!」ムダムダムダムダムダムダムダムダムダァーッ!
吉良「あ、鳥居折れた」
ディエゴ「これやばいんじゃない?」
プッチ「私はヤバそうだから退散しておこう」ダッ
吉良「そうだな」ダッ
ディエゴ「それなら俺の上に乗りな、60秒で着く」
吉良「有難う」

〜60ッ分後ォ!〜
DIO「まだ、まだ、まだァーッ!」ヨロヨロ
ヴァレンタイン「そろそろ無理かも・・・」ヨロヨロ
ディアボロ「ここで引いたら・・・帝王の威厳が失われる・・・ッ」ヨロヨロ
勇儀「あんたらぁ〜やるねぇ〜ヒック」ヨロヨロ

そして数時間後・・・
「WRY・・・もう無理・・・」バタン

 DIO 再起不能
ディアボロ「こいつ・・・化け物か・・・?」バタン

 ディアボロ 再起不能
勇儀「もう無理・・・」バテーン
 勇儀 再起不能
カーズ「・・・」
カーズ「頂点に立つ者はッ・・・・」
カーズ「常に人r」バタン

 カーズ 再起不能

紫「あ〜らら全員伸びちゃったわね・・・」
紫「神社の鳥居も折れてるし・・・こりゃ大参事ね・・・」
紫「人里まで連れてってやりますか・・・」スーッ

〜〜〜〜〜〜

霊夢「これは・・・どういうこと・・・?」
霊夢「飲み過ぎで寝てたけど・・・」
霊夢「鳥居が折れてるし酒は散らかり放題だし・・・」
霊夢「・・・・今度あいつらに会ったら全員で神社を直させてやる・・・」

〜〜〜〜〜〜

84東方荒木荘 第8話:2014/03/25(火) 21:33:09 ID:TKfJd0cU0
紫「結構重たいわね・・・この人たち・・・」
吉良「ん?紫か」
吉良「飲み過ぎた奴らを連れてきてくれたのか」
紫「そうよ全く・・・思いったりゃありゃしないわ・・・」
吉良「後は私たちが何とかする」
紫「頼んだわよ・・・」スーッ
吉良「消えた・・・」
吉良「さて、連れて行くか」
吉良「キラークイーン」
KQ「・・・・」ガシッ
吉良「キラークイーンを使っても結構重たいな・・・」

キングクリムゾンッ!

DIO「・・・」パチ
DIO「・・・ここは」
吉良「気が付いたか」
吉良「寺子屋だがそろそろ全員集まったから明日会議をすることになる」
吉良「だから早めに寝ておいてくれ」
DIO「わかった」

そしてDIOはすぐに寝た。

85東方荒木荘 おまけ:2014/03/25(火) 21:33:44 ID:TKfJd0cU0
おまけ
歓迎会前日
吉良「ちょっと聞きたいんだけどさ」
吉良「この幻想郷に来てから驚いたことって何かある?」
DIO「驚いたことか・・・特には無いが」
DIO「フランたちがあの外見であの年齢だったこと」
吉良「ああ・・・あれには驚いくよな・・・」※DIO探しに行った後のプッチから聞きました
カーズ「俺もあまり驚いたことはないが」
カーズ「幽々子が既に死んでいたことだな」
DIO「お前はもう死んでいるってか」
大統領「私ははだな・・・」
大統領「妻とレミリアの名前が同じだったところかな」
吉良「スカーレットさんか・・・」
DIO「圧迫祭りフェチのか」
DIO「吉良はどうなんだ?」
吉良「私か?私はな・・・・」
吉良「紫の年r」ビュンッ!
吉良「もが!?もがががががが!?」
紫「はいはいお口チャックしましょうね〜」
DIO「ゲ!やばいのが来たな・・・」
紫「吉良ァ〜?今後それ以上言わないようにしてくれるわよねェ〜〜〜?」
吉良「わ・・・わかった・・・ッ」
紫「それではよろしい」
紫「それじゃあじゃあねェ〜」スーッ
DIO「・・・」
カーズ「・・・」
吉良「・・・」
カーズ「寝るぞ」
DIO「分かった」
吉良「賛成する」

おしまい

86サイバー:2014/03/25(火) 21:40:19 ID:TKfJd0cU0
投下終了・・・
途中から名前がなくなってた・・・
何を言ってるか分からね(ry
というわけで、ディアボロは旧都に居ました。
企画応募がそろそろ終了ですな。なんだろう、1か月は
スタプラがオラオラするように早かった気がする。

87まるく:2014/03/26(水) 00:08:18 ID:k5k51nFk0
>サイバーさん
博麗結界は基本的には出入りを制限するものと考えてます。いろんな機能がクッソついてますが。
外と変わらないのは時間くらい。だから季節も同じ季節。日本国内ですし。
ですので、宇宙全体に働きかけるMIHは機能する、と解釈してます。
もうここまで来ると常識非常識の壁なんてありません。だからはたてらも「世界の終り」と感じたわけです。
冬が長引くのもや夜が止められるのもおかしいと思うのは我々側だから。幻想側はそうは思わない。
…とかなんとか。やや誇張。

文派かー。いや、はたてのその魅力は「普段生意気な女子がここぞという時に母性を出すギャップ」という意味で。
ツンがデレたからこそで。あやでもいい
諏訪子様はもう一度出番があるのだよ。

>自分のSSを読んでると皆さんのよりも絶対早く読み終わってしまう・・・
なんというか、サイバーさんのSSは漫画を文字に起こしているという感じです。
感情描写や情景描写など、漫画では絵で表現している部分を文字で起こすと割と長くなります。
その点を擬音やキャラセリフにそのまま書き込んでいる。
それによって流し読みでも情景が頭に入ってくる。だから早く読み終わることに繋がる、んじゃないでしょうか。
これは悪いことではありませんが、自分の書いているようなのとは大きな差になると思います。

例えば、サイバーさんのSS、セリフ3つごとに2行ほど文章で情景描写を入れれば自分のにだいぶ近くなると思いますので。
何度も言いますが、別に悪いことじゃないんですよ!

88どくたあ☆ちょこら〜た:2014/03/29(土) 01:05:50 ID:zkyo/X2w0
まるくさん、投稿お疲れ様です!
やはりMIHが絡んで来ましたか。ドッピオの幻想入りの原因を紐解く鍵となりうるのか。
【キング・クリムゾン】の能力を知っているドッピオなら、それがスタンドの仕業だと気付くことができるかもしれませんね。

永夜異変を解決したのはレミリア達、という世界軸。把握。

早苗の苦悩、割と『そういうキャラ』だと思っていたので、未練ある風には捉えていなかったのですが、やはり彼女も平成の浦島太郎…
「思い出の無い人間は死人と同じ」、思い出の全てを捨てて来た彼女は、一度死んでしまったのでしょう。
はたてが突然心変わりした(ように見える)のは、何か大きな理由があるんでしょうか。その辺の説明も期待。

活動報告読ませていただきました。MIHへの対策、時間系能力者をフルに使って解決したんですね。
『私の質問を実行』とは、何故はたての蹴りを喰らってドッピオが無事だったのかの説明、でOKですか?

次回も楽しみにしてます!


サイバーさん、お疲れ様です
『歓迎会』とは、早速荒木荘メンバーも受け入れられてますね。さすが幻想郷。
今後彼らは何を目的に行動していくんでしょうか…

89まるく:2014/03/29(土) 22:44:57 ID:Jw.SHwkE0
>ちょこら〜たさん
非常に大きいターニングポイントのため、やっぱりからませます。
幻想入りの理由はその1点がやはり大きいです。

求聞史紀を通りに取るなら基本的には霊夢が解決したのがいいんでしょうけど、キャラ選択が可能なんだし解決してるのは他組でもいいじゃないと思ってます。
自分の頭の中では、「紅→霊夢、妖→魔理沙、永→紅魔組、風→霊夢、地→魔理沙、星→早苗、神→妖夢」
と、それぞれ順繰りバラバラと。霊夢異変解決してなくね?
自分が作品で最初にクリアしたキャラともいいます。物語にはそれほど関係しません

早苗ももちろん苦しかったと思うんですよ。当然ですよ、思春期ですもの。
でも未練をあまり出さず、もちろん今も未練には知らなければならないほどつまらないものでもない、むしろ楽しい位。
他人に話すのではなく、身内に話すのなら楽しい思い出話で済む内容。
一度死んだという表現、素敵ですね。心に残ってると思わぬところで使ってしまうかもしれません。
はたての心変わりは…ちょっと表現不足ですね。自分の中では命蓮寺でドッピオが啖呵を切ったあたりでなびきかけ、泣き落としで大分寄った、と表したかったのですが…
結局大きな理由も後で話す雰囲気になってますし。うわあ、がんばろう

紫ひとりで解決するより、人間と妖怪と宇宙人が一緒に解決する方が素敵じゃないですか。そして、時間には境界がないからいじれないとも思っています。
質問はまさしくそれです。いや、予定ではもうこの話でスタンドの話をするつもりだったんですけど、前と今の話が予想以上に長引いてちょっと。

次回の話で、真紅の協奏曲も中盤が終わりそうな感じになります。そこで「なぜ二人はここにいるのか」をすっきりさせるつもりです。
そこからは「これからの二人はどうするか」を主軸に進めていきたいな、と思ってます。ます。
お楽しみに…

90中学三年生:2014/04/01(火) 20:51:26 ID:pFhpxiF60
ついに・・・ついに辿り着いた・・・!ここがハーメルンに転載される作品を作っているところか!
ここもたまに覗くようにしよう···。

91まるく:2014/04/02(水) 22:59:03 ID:2SkcvpNc0
いらっしゃいませ!
HNみるところ、自分の作品に感想書いてもらった方でしょうか?
自分の他にもさまざま作品が置いてあります。どうぞ楽しんでってくださいね。

92ストーム11:2014/04/03(木) 13:12:13 ID:B8sRiYyI0
ROM専の俺も通りますよっと…
ハーメルン、@wiki、そしてどくたあの動画…結構色んな所に進出していますが、原点はやはりココ!
まあその割にココの知名度は低いけど…まあいいや、サァいくか。
自分は観てるだけですけど、皆さん、これからも頑張ってください。

では、自分は世界が一巡するまでROMります…

93中学三年生:2014/04/06(日) 19:15:48 ID:assIsFF20
ひいい···もう中三なのに宿題終わってない···内申がああぁ···!




まぁ東方のss漁ってたから終わってないだけなんですけど。それにしてもR18スレはもちろん、イジメスレ(みたいなもの)
あったとは···!

94まるく:2014/04/22(火) 21:48:15 ID:TiyGEoEo0
さて、月末のそれには早いですが、一作書ききりました。
前述べ通り、深紅の協奏曲の中盤はこれでおわ…あれ、これ終わりじゃなくて始まり…?あれ…?
もうわかんなくなりました。
とりあえずいえることは「短編の方に集中しよう」
投下します。

95まるく:2014/04/22(火) 21:50:21 ID:wwR12Xww0
 長い長い数分が経ち、改めて4人は顔を合わせる。
 泣き腫らした二人の顔はどこも赤く染まり、昂った感情の大きさを物語る。
 もっとも、それ以外に『人の前で泣いたこと』が大きいことは事実だが。

「……すみませんね、みなさん。あんなに、子供のように泣いてしまって……人前に立つ身なのに、これじゃあいけませんよね」
「……いや、早苗は悪くないよ、しょうがないよ。一番悪いのはなんだかんだ理由をつけて自己保身に走ろうとするはたてだ、そういうことにしよう」
「マジっすか」
「マジです」

 同性同士だからか、受け止める側だったからか。すぐにいつも通りに話し始めているはたてと諏訪子、そしてそれは早苗の落ちた気を上げようとも見える。
 だが、その空気もドッピオには少々心苦しい。
 状況がどうであれ、人前で、女性の胸を借りて泣き喚いたことによる恥が彼の心で暴れ出す。

「…………」

 できるなら、今すぐにでも逃げ出したい。
 先に聞いた話を改めて自分の中で反芻して納得しようとする時間ももちろん欲しい。
 しかし一番大きいのはその話の前まで敵対していた、少なくとも自分はそう思っていたはたての胸の中で泣いてしまったこと。
 まだ一人で泣いていた方が、自分の精神的にも楽だったんじゃないか。

「いやまあ、しかしはたても隅に置けないね! まさかこんな子どもを手籠めにするたぁね。利己的な輩が多いという天狗なのに、どういう風の吹き回しなのやら」
「ちょ、洩矢様、何も目の前でそういうの言わなくてもいいでしょうよ、ねぇ」
「……ふぁ、そういえばそこは気になりますね」

 そんな彼に追い討ちをかけるように諏訪子は話を持ち上げる。
 早苗もそれを聞いて少し明るい声を出す。まだくぐもった声だが、諏訪子の狙いは成功している。

「……やめてくれよ……」

 もっとも、それがドッピオにとっていいことではないことも確か。
 今一番触れられたくない点に早々に食らいつく彼女らに恨みがましい感情しか湧いてこない。
 はたてがどう思っているかは知らないが、どう思っていようが、その点にドッピオは触れられたくはない。

「そっちが先に聞かれたくないことを聞いたんだからそれくらいいいだろう? 恥は掻き捨て、世は情け」
「今この状態のどこに情けがあるのさ……」
「十分有情だよ、ドッピオとやら。女を泣かせた男なんだってことを覚えておきな? それに、君は気にならないのかい?」

 そう言われてしまえば、いいえと答えたら嘘になる。ドッピオ自身も、急な彼女の心変わりが気にならないわけではない。
 だが、それを何も直後に本人の前で聞かなくてもいいだろうに、この神様は笑顔で訪ねてくる。
 その姿は、昼下がりにゴシップを見て楽しむ姿。

「いつもはくだるかくだらないかの瀬戸際新聞くらいなのに、当の本人が記事に乗っちゃいそうなことしちゃってさー」
「いやまあ、洩矢様。そのー、ねぇ。聞きます?」

 対して、割合まんざらでもない様子のはたての姿。

96まるく:2014/04/22(火) 21:51:31 ID:wwR12Xww0
「なんていうか、私と似てたんですよね。八方塞がりなところに救いの手を求めている姿。……あの時はこんなに女々しくしていたつもりはなかったんですけど、きっとあいつからしてみたらこんな顔をしていたのか、なー、なんて」

 少々の恥ずかしさを顔にだし、目線を外して頬を掻く仕草。小さな仕草は彼女の癖なのかもしれない。
 はたての回答に対して合点のいった顔をする早苗と諏訪子。そして二人は、声に出さずとも先を促している。

「あー、それに、あいつは口が悪くても何だかんだでこっちの面倒を見たりしてるし。憧憬みたいなの、ちょっと持ってたのかも。もちろんこういう男の子好みだけど……もういいでしょ?」
「えー」
「えー」

 話を打ち切ろうとするはたてに対して、二人は口をとがらせる。

「中々のインパクトもあったので、もっと聞いてみたいですね。私のいない間にどこまで仲睦まじくなったのか」
「おかんか」
「おい、それは絶対に言いふらさないでくれよ」

 これ以上三人に喋らせていては何にもならない。
 けれど、この茶化しあいは自分の心を抑える要因にもなった。別の心が浮かび上がってきているが、それはもうどうでもいい。

「せっかくの天狗の恋バナなんだから、もっと聞いておきたいじゃないですかー。幻想郷ってそういうの全然ないんですよ? ちょっとみんな自分に生き急ぎすぎてるというか」
「別に、そういった話題なら人里とか行けばあるだろうし、山の鼻高天狗とかはいつも発情、年中女募集してるけど?」
「そんな愛の無い男女関係なんていりません!!!」
「おい」

 痛くなってくる頭を押さえながらドッピオはまた声をかける。
 これ以上彼女たちの好き勝手を許してしまえば、自分の知らぬところでおもちゃにされてしまうに違いないだろう。

「そういうのはもういいからさ……気になることが」
「よくありませんよ!! ドッピオさんさっき気になるって言ったじゃないですか!!」
「言ってない! ……じゃなくって、さっきの話で気になる点があるから、それを答えてくれないか」

 むっとした表情で話す早苗は、先の悲しみが大分薄れていることを窺える。
 悲しいことがあったとしても昔の話。そこにいつまでも捕らわれていてはいけない、と考えていることがわかる。
 だが、ドッピオはそうではない。

「今から11年前って言ってたよね、2001年が。……いや、そこじゃないな。今が127季、早苗たちは122季にここに来た、と」
「そーですよ?」
「……何歳だ? あの日記の内容から垣間見るに学生だったろうけど、ここに来てから5年でその成りだとしたら随分小さいころに来たことになる。……その割には漢字も使っていたし」

 そこまで自分で話し、自分で口走った内容に違和感を感じる。
 何故イタリアでしか過ごしていなかった自分が日本語を読める? 思い返してみれば、命蓮寺でも人里でも違和感なく読み取れていた。
 今口に出している言語も、気がついてみれば日本語だ。

「……」

 そこで押し黙った彼を、鋭く見つめる諏訪子。
 それに気づいたのは、この中にはいなかった。

「とにかく、5年の歳月にしては早苗は成長しなさすぎている、と感じるんだ。それはどうなってる? まさかそれで成長期は過ぎているだなんて言わないよな?」
「い、言いますねドッピオさん……!」

 先ほどまでとは違う、それはドッピオが表に出していた恥の感情。
 その感情が早苗の顔を赤くし、胸を隠すように腕を組む。……別にそこは指摘をしていないのだが。

「あー、それは幻想郷の癖というか。長く楽しむコツというか」
「そ。永く永く楽しむという、外でできないそれがここでは行える」

97まるく:2014/04/22(火) 21:52:29 ID:wwR12Xww0
 問の回答ははたてと諏訪子から出た。

「どういうことだい、それは」
「厳密に言うと違うが、分かりやすく言ってしまえばここでは歳は取りたいときに取るのさ。妖怪は当然ながら、人間も少なからずね」

 諏訪子が答えると、はたての腰をポンとたたく。
 はたてはわかっていたかのように手帳から一枚の写真を取り出す。
 そこには蝙蝠の羽が生えた少女と髪型以外は今とほとんど変わらない巫女の姿。赤く輝く満月を背景に、二人が激しく弾幕ごっこをしている写真。

「これ、紅霧異変の頃。今から9年くらい前かな?」
「……本当に?」

 さすがに10年近くも経っていると言われて今と変わらぬ姿を取っているとなれば、理解の前に納得がいかない。

「誰だって、楽しいことはずっと楽しみたいじゃない? 妖怪がそれを願い、人間もそれを享受すれば肉体の衰えは僅かに歪む。その結果、肉体も精神もそれ相応に維持されるのさ。
 もちろん、だからといって成長しないわけじゃない。遊んでばかりの子供の時代はいつか終わる、その終焉をどちらかが理解すれば、人間は自然と周りに追いつくようになる」

 諏訪子が指を立てて解説するが、ドッピオの表情は変わらず理解に苦しんでいることを窺える。

「まだ遊びたいという『想い』が、外の世界で忘れられた『想い』がここで実っているというわけ。私たちが外に居た頃から既に友と日が暮れるまで遊んでいられるという時代ではなかった。
 子供でも、大人でも、風習や因習、慣習といった要因でその想いは踏みにじられ忘れられていった。幻想郷は、そんな『想い』も受け入れる」

 そこまで話し、諏訪子はドッピオの胸をトン、と叩く。
 その言葉と行為で、何か忘れていた物を思い出したような、そんな風が吹きとおったような感覚が身体を走る。

「誰かに教わったわけでもなく、誰かから教えられたわけでもなく、ここの皆はおのずとそれを理解している。もはや、それが常識。
 幻想の壁とは常識の壁。全てが逆になるわけではないけれど、『あるはずの無い希望』位ならあるかもしれない。……こんなところかな?」

 はたてが諏訪子に続き、話を締めくくる。
 もちろんそれに完全に納得したわけではないが、自分が雲に乗って移動する、といった彼女らの言う『あるはずの無い希望』に触れている以上、そういったものだと受け止めるしかないこともわかっている。

「……いずれ大きくなるからいいんです」

 口をとがらせながら、早苗は呟いていた。

98まるく:2014/04/22(火) 21:53:37 ID:wwR12Xww0


「さて、ドッピオとやら。ここから麓まで降りるには大分時間がかかる。悪いがここは赤色しかない神社と違って色立つことは苦手でね、男を泊めるわけにはいかない。
 さっきの話が本当ならば天狗に送らせるのも不安だから私がその役を引き受けてあげよう」
「へっ? いやいやいや、洩矢様にそのようなこと。それに、んなことするわけないでしょうよ、この私が」
 
 諏訪子が急にドッピオの手を引き、下山を促そうとする。
 確かに山の麓で椛と会ったのが正午ごろ、そこからそれなりに時間は経っている。もしそのまま下山に時間を使えば日は落ちてしまうだろう。
 ……あの時椛にはああ言ったものの、確かに妖怪の腹の中と変わらないこの中、夜闇を動くには危険かもしれない。
 先の発言があった以上、はたても何をするか、分からなくなってくる。

「天狗って若い男の子を攫って自分のものにするって聞きましたよ」

 早苗がにこやかに、ドッピオに説明するかのように話す。多分に意を含んだその言葉。

「それに、はたてにはウチの早苗を自分の我欲の為に利用した罰を与える必要があるからね。狂王の試練場クリアするまで返さないよ」
「え、勘弁してくださいよそういうのー。それになんですその珍妙な名前の物は」
「諏訪子様それ好きですよね……何周してるかわからないくらいやりこんでますし。……まあ、ドッピオさん。言うとおりさすがに夜に一人で行くのは危険ですよ。……ちょっとお泊めになるのは、その」

 にぎわう外野をよそに、確かに早苗は彼の身を案じてはいるらしい。そして、霊夢と違い『そういったこと』に抵抗があるらしい。

「さあさ、時間は待ってくれないよ。行くなら急いだ方がいい。早苗ははたてを確保しておいてくれ。逃がさん、お前だけは」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ、まだ」

 そう言うと諏訪子は強引にドッピオの手を引き神社を出ようとする。
 傍から見れば幼子の我儘に手を取られ、強引に連れまわされているようにも見える。が、ドッピオとて勝手に決められては困る。

「本当に知りたいことはここでは言えない」

 抗議の声を上げようとしたとき、それを見越したかのように、小さな声で諏訪子が呟く。
 そこから感じた印象は先までの得体の知れない神のような存在でもなく、早苗の保護者としての彼女でもない。甘言で人を堕へ突き落とす悪魔の様な。
 その先を聞けば、もう戻れなくなってしまうような囁き。まだ、何も始まっていないというのに。

「…………」

 その言葉を聞いた時、ドッピオの中で何かがざわめく。
 自分の中で抗いたい行動なのに、その何かが足を止めずに動かしている。そんな、矛盾。

「洩矢様、そんなに無理にやらないで私に任せれば、っ、がっ」
「諏訪子様の言うとおりに! ……大丈夫ですよ、諏訪子様は取って喰ったりしないですって。たぶん」

 何か鈍い音と共に早苗の大きく送り出す声が辺りに響く。おそらく、それは最初のやり取りとは逆になっているのだろう。
 ドッピオは、それに振り向くこともせずに諏訪子に手を引かれるままに足を運んで行った。

99名無しさん:2014/04/22(火) 21:54:44 ID:wwR12Xww0

「……どういうこと?」

 諏訪子に手を引かれるがまま、石段を下りて進む。
 繋いだ手から伝わる温度が運動からかじわりじわりと温かくなっていくのを感じて。

「言葉通りの意味さ。さっきのはたての話、不完全だったろう? その空いたスキマは私が知っているということさ」

 石段を降り切ったあたりで諏訪子は答える。

「肝心な所はわからない……大妖は知っているかもしれない……奴はそんなことを言っていたはずだ。そしてそれは正しい。外の者が幻想郷をも喰らい尽くす様な力を持っているとするならば、幻想は何のためにある?
 妖怪は人に恐れられる存在でなければならない。すごく簡単に言ってしまえばそれが存在理由。それよりも恐ろしい力を持つ者が外に居るとわかってしまえばこちらの世界の存在理由が危ぶまれる。
 長らくその存在を知っていながらも、誰も詳しくは知らなかった。『それ』がここまで大きな力を持つと思っていなかった」

 手を大きく広げ、仰々しい口調と身振りで演説する。その姿は、先の変貌ぶりを強調させる、支配階級の頂点に立つ者の纏う雰囲気。
 ……それを察知した瞬間、ドッピオは諏訪子に向かって駆け出し距離を詰めていた。

「わかってるじゃあないか、少年」

 と、と諏訪子が後ろに下がるように跳ねるとそれと共に先ほどまでドッピオの居た場所に多数の木々が生えてくる。何かしてくる、その予感が働きいち早く駆けだしていたからこそ、ドッピオはそれを躱すことができた。
 もし自分の予感を信じずにおとなしく聞いていたなら木々に囲まれ身動きが取れなくなっていたか貫かれていただろう。
 僅かな距離を完全に無くそうと、その離れた距離をさらに詰める。彼女に、息つく暇を与えずに。
 そんな彼を嘲るかのように、後ろに下がった諏訪子はそのまま地面に倒れこむ。

「何!?」

 そのまま彼女は地面に潜り込んでいった。まるで、水面にそのまま飛び込んだかのように吸い込まれていった。
 想像を超えた出来事に一瞬、隙が生まれてしまう。

「「ゾッとしたみたいね」」

 背後から、右後方左後方の両方から諏訪子の声が聞こえる。
 それとほぼ同時に、背後から飛び掛かるように両腕を抱え込まれ、その勢いで地面に叩きつけられる。先ほどの諏訪子とは違い、地面に潜ることはない。そこは固い固い石畳のままだった。

「がふっ!」

 身体の前面に衝撃が走り、体内の空気が吐き出される。
 冷たい石畳に這うドッピオの眼前に、ずるずると、諏訪子は這い出てくる。沼から現れる蛇のように。
 全身を浮上させると、うつぶせになっているドッピオを見下ろしながら、

「『宝永四年の赤蛙』」

100名無しさん:2014/04/22(火) 21:55:48 ID:wwR12Xww0
 そう呟くと、両腕から押さえて拘束していた二人がドッピオを仰向けにするようにひっくり返す。
 二人の諏訪子は、赤い霊体の様にうっすらと色を帯び、実際に存在しないように揺らいでいる。
 三人の諏訪子は、くすくす、くすくすと静かな笑みを湛えていた。

「……何をする気だ? 憂さ晴らしのつもりか?」
「そんな! そんな頭の悪いことをしたいわけじゃないよ。もっとも、人によってはもっと頭の悪いことと言うかもしれないけどね」

 そう言うと、本体である諏訪子がドッピオの胸に顔をうずめる。

「んっ……すぅ、んはぁ……!! んんっ、はっ……!」

 彼の服の上から、激しく、それを貪りつくすかのように香りを味わい始める。
 聞こえる吐息から、熱くなり抑えきれない劣情をありありと感じられる。
 その姿からは、外側だけ同じで中身は全くの別人であるかのように、見た目は幼い子供にしか見えないが、本質はまるで別であることを嫌でも感じさせた。

「はぁ、ぁ、久しぶりだ、長らく味わっていなかったよ。この雄の香りと、どれだけ落としても拭いきれない、染み着いた血の香り。……興奮する」

 顔を上げた彼女は、顔を紅く上気させ、求める様な上ずった声で語りかける。
 薄く開いた目、唇から出る舌は上唇をなめずり、

「だが、まだ足りない」
「!? っ、がっ」

 変貌にあっけにとられていたドッピオの首にその小さな両の手を伸ばし、へし折るかのように力を入れる。

「ぐ、あっ……!! ぎ、ぁ……ぁ!!」
「絞められて、落ちる瞬間が最も気持ちいいんだ。……知らなかったでしょう? 少しずつでいいから、頭から抜けていく気力と共に最後の抵抗を示してみなさいな」

 ぎりぎりと、容赦など全くなく。
 その細腕にどれだけの力がこもっているのかと、もし当人でなければ何の感情も抱かず考えてしまうほどに。
 今、ドッピオの両腕は変わらず赤い霊体の様な諏訪子に押さえつけられ全く動かすことができない。
 それでも、このまま、こんなところで。

「ぎ、ん、ぐぅっ!!」

 動かない両腕の代わりに、見えない何かが諏訪子の手首を掴み、そのまま握りつぶすかのように力を加える。
 視覚として存在しないにも関わらず、確かにある何かは万力の様な力で細い腕を砕こうとする。

「出したね、『スタンド』を」

 そのまま両の腕を潰されることを受け入れるかのように、諏訪子は特に何もしなかった。ただ何もせず、ドッピオの首を絞め続けていた。

「ようやく出してくれたというべきかな。……存在しえない、認知の無い。そんな外の力、幻想郷をも揺るがすことのできる……こんなものじゃないはずだ。さあ、私に見せてみてよ」
「ぐ、そぉ……っ!! が……っ!!」
「確かに感じるんだよ、でも違う。『この身体なのに人を殺した事があるのは君じゃない』。それは確かなんだ!
 さあ!! もっと! もっと!! 私は見たいんだ、君の力を、味わいたいんだ、君の身体を!! 偽りの身体なんざ捨てて、私に感じ  てちょうだい!」

 一声ごとに、諏訪子の力が強まっていく。身体もどんどんと前にのめり、自らの体重全てがその両腕に掛るように、その苦しむ顔の全てを収めようとなる。
 対して、ドッピオは視界がぼやけ、徐々にスタンドの力も薄れていく。諏訪子の両の腕に刻む腕の痕も、それに合わせて薄くなっていく。
 そして、体の力も抜けていき、意識も薄れ、やがて閉じていく。

101名無しさん:2014/04/22(火) 21:56:34 ID:wwR12Xww0


 絶頂に達しようとしていた諏訪子が気が付いた時、そこには地面に手をついている自分の姿だった。
 そしてそれは自分の分身も同じ。押さえつけていた少年の姿はどこにも存在しなかった。
 次に気が付いたことは三つ。自分を覆うような影、それにより自分の背後に誰かが立っていること。
 もう一つは、その誰かが自分の首根をがっちりと掴んでいること。先まで自分がやっていたように。
 最後の一つは、ドッピオの首を折らんばかりに握っていた両腕、その腕を砕かんばかりに掴んでいたスタンドによる痕。それに合わせて砕けた自分の腕。

「……? がぶふっ、……」

 わからないまま、自らの腹部が何かに貫かれる様。
 大量の血と臓物が前面に飛び散り、ドッピオが倒れていた地面を汚す。
 貫かれた穴から飛び散るには足らず、衝撃で顔まで逆流してきた血が口や鼻から飛び出、垂れる。
 そこまでして、分身の視界に入り、ようやく共有している感覚が自分を攻撃してきた正体を知る。
 そこにいたのは、逞しい肉体、どこまでも深い闇を見てきた暗い瞳、それでも淵から立ち上がろうと、前に進もうとする覚悟の意志。

「……キングクリムゾン」

 今までの様なふらついた足取りではない。明確な意志を持って目的の為に歩く、そのための足。
 ディアボロは、そこに立っていた。

「……なん、て……いつか、ら……」

 わずかに残る体内の空気が、諏訪子の血でかすれた声から漏れる。
 そんな明らかな重傷状態でもディアボロは全く警戒を解かずに見つめる。
 それは当然。本体である身体が傷ついてもその分身は全く傷ついていないから。ディアボロからすれば、その分身たちからいつ次の攻撃が来てもおかしくはない状態。
 だが、諏訪子からすれば『当人が何もしていない状態』で『質量をもった何かで攻撃を行った』という状態。

「このまま殺してもよかったが……おそらく人間とは違いこの程度では死なないだろう。その点においては信用する。それより、聞いておきたいことがあるからな」

 掴んでいる諏訪子ごとスタンドを手近に戻し、左手は首、右手は背中。足で腰を踏みつけて、そのまま地面に押さえつける。
 立場は完全に逆転した。

「……確か、に。神殺しには及ばないけど、このままじゃあ抵抗すらも、ぼほっ、できない、ね……」
「……想像以上に元気そうだな。恐ろしいものだ」
「あは、口だけね。……答えるのも辛い。そういった意味での抵抗はもうしない。だから、あれを戻してもいいかな? 少しは力が戻って、話しやすくはなる」
「…………許可する」

 どうも、というと二つと分身が消え失せる。そして、その力は諏訪子に戻ったのだろう。僅かだが、押さえつけている諏訪子の体が力を増したように感じる。もっとも、傷は戻っておらず確かに抵抗しきる力まではないようだ。
 ディアボロは辺りを見回す。周囲は閑散としており人気は感じないが、同時に隠れる所も見当たらず尋問をするには不向きである。
 一連の流れをもし最初から見られていたのならば――もちろんそれはディアボロが良しとするわけではないが――まだ諏訪子から仕掛けてきたと言い訳はできるがここだけを見てしまえばどうにも弁解はできない。

「……安心しなよ。ここは妖怪の山と守矢神社との領域の空間地帯だ。本当に通りすがりがない限りは誰の目にも止まらない。私と一部の天狗以外は空間の存在を知らないし、ここで何があっても咎めない。悪巧みには便利でしょ?」

 その考えを察したのか、血に濡れた顔を歪めて諏訪子が話す。
 確かにはたても同じことを言っていた。一部の天狗が既に知った顔なのも、近隣にいることを知ったことも、それはいい都合である。

102名無しさん:2014/04/22(火) 21:57:49 ID:wwR12Xww0
「聞きたいことが多すぎる。何から聞けばいいか整理する必要があるが……まず聞こう。お前は私をどこまで知っていた?」

 少なくとも命蓮寺の者たちは知っているようには見えなかったし、知っていてそれを隠しているようにも見えなかった。白蓮以外は。

「お前は『スタンド』の事を知っているようだ。だが、どうやら名前だけらしい。……私がそれを持っていることを知っているなら、他には何を知っている?」
「……答える前に聞いておきたいけど、私も君の事で聞いてみたいことがある。それは、いっ、ぎゃああああ!?」
「答えてもいいなら答えてやるが、自分は相手の事を知らないのに、相手は自分を知っている事が私は嫌いなのでな。仕返しはこれだけだ。お互い仲良くしようじゃあないか」

 諏訪子の腹の傷を踏み躙りながら、ディアボロはそれを解答とした。
 自分に対しての冷酷な瞳、手段を選ばぬ残忍な心。

「……あっ、……いい、ね、ぇ……責められるのが趣味ってわけではないけど」
「……答えるのか、答えないのか、どちらだ?」
「ぐああっ!? 答える、答えるから、足どけてよぉ!」

 諏訪子の悲鳴が辺りに響く。……確かに、聞かれてしまうのはまずいことではある。
 まだ罰を与えなければ気は済まないが、それより用件を済ますことが先ではある。

「うぅ……、あぁ……。どこから話すかな」
「時間稼ぎなどを考えるなよ。解放するのが遅れて困るのは自分自身だからな」
「解放してくれる気なのは助かるけど……そうじゃないね。……ざっくりだけど、はたての話の続きから話そうか」

 躙る程、開くごとに口から血が垂れ、辺りを塗らす。

「幻想郷の中で、ほとんどスタンドを知っている者はいない。今までに能力を持ってきた者も少なくとも私は知らない。伝聞でもね。
 そんな中、先の事変だ。……それはおそらくスタンドによるものだと考えている。……だから、そのケースを呼び込んだんだ、ここにね」
「……続けろ」
「……続けろって言っても、私が知ってるのは大体それだけ。その呼び込まれたケースだって気づいたのは実際に会ってからさ。……私は外の世界の極悪人、とだけ聞いていた。
 だからあんなちんちくりんが来たときは全く気付かなかったけど、話や素振りを見てそれに気づいた。……まだ外見しか見てないが、良い男じゃあないか」

 いっぱいに首を回し、視線を片寄らせてなんとかその顔を見ようとしている。
 倒れた状態では見えていないのだが、分身から共有したその姿と、今僅かに見える逆光で見えないディアボロの表情は彼女に十分の好奇を感じさせている。

「スタンド、については確かに私はよくわかっていない。使用者の精神に依る像、それによる特殊な力。それがベースであり君がどんな能力を持っているかは知らない。……さっき見た感じだと、知り合いと同じような能力みたいだがね。
 過去、私たちがまだ外に居た時代、早苗の生まれる前にそれを示唆した老婆が早苗の父にその力と、それを使う何かの集団に誘っていたよ。あまりの不気味さから断っていたけどね」

 説明を聞きながら、過去を顧みる。
 スタンド能力を開花させる矢。早苗が生まれる前。示唆する老婆。それがどれだけ離れていたかはわからないが、一応符号は合致しなくはない。

「そこまで正直に話してくれることには感謝するぞ。……次の質問だ。私をここに呼び込んだ者は、どこにいる? ……おそらく、ヤクモユカリ、という人物だが……いや、妖怪か」

 今までいくらか話に上がってきた、八雲紫。博麗神社で聞いた時にはアリスより力のある者、程度の認識だったがはたての話ぶりから『知っていて当然』と思えるほどの者。
 また、先の事変について『全て知ってそう』と表現していた。おそらく、その事変に類する、対抗する力を持つ者の一端であるはず。

「それについては、上手い答えを持っていない。奴はどこにも存在しているようで、どこにも存在していない。神出鬼没の妖怪だ。探そうとして会える者でないが、会いたくないときには顔を出す。……そんな奴だ。ただ」
「ただ?」
「この空よりさらに上……冥界の中、白玉楼には奴の友人、西行寺幽々子がいる。同じ程度に喰えない奴だけど……紫に近づくのであればそいつに近づくのが一番、かなぁ」
「…………冥界、まであるのか……」

 さすがに様々な出来事が起き、やや感覚が麻痺してきていると思えるほどだが、さすがに死後の世界まであるということには驚かされる。
 もっとも、ディアボロにとってそこはたどり着くことすらできない世界だったのだが。

103名無しさん:2014/04/22(火) 21:59:35 ID:wwR12Xww0
「……最後の質問にしよう。私の能力は、その紫が解除したと考えてよいのか、それとも別の者が解除したのか」

 一番知りたいこと。
 それを感付かれたくないからという心が、この質問を最後まで持ってきた。
 自分を縛り続けていた鎮魂歌の力。死ねばまた再発するのか、という疑問もあるが、そもそも死に至ることがないまま時間が過ぎている。
 人間を越えた力だが、それを超える者がいくらでも存在するこの世界。……現に今足元で転がっているのも神の一柱であるという。その力を解除したものがいるのかどうか。

「……解除? 何のこと?」

 だが、その質問に対しては諏訪子は知らなそうな素振りを見せる。
 今まで素直に答えていた態度と同じく、素直に知らないといったような態度だ。

「隠すことは許可しない」
「いや、ほんとに知らない。何が君を縛っていたのか知らないけど……もし何か、それに境界を設けられそうなものなら奴はそれを弄れるだろうね。紫は境界を操る程度の能力を持つ。
 空と海といった、物理的な境界から現と夢、そう言った概念的境界まで。幻想郷を作り出した当人だ、何ができてもおかしくはない」
「……想像以上、だな……その、ヤクモユカリの事実は」

 舐めていた、正直に。心のどこかでは、自分の力を用いればどのような事態も予測し回避できる。故の自信があった。
 もしその話をそのまま受け入れるのであれば、自分は全くの勝ち目はない。また、今までに聞いた全てのおかしな事柄には納得できる。
 言うなれば、鎮魂歌の能力は生と死の境界を操り、あやふやのままにしておいた、といったところか。言葉の壁、とも言われるほどの言語の問題もその力を使えば簡単な設問だ。……サービスのつもりだろうか?
 だからといって、それに恐れて足を止めることはないのだが。

「……お前から聞くことは、以上だな。最後に」
「……?」
「私の事は誰にも言うな。私に関する、全ての事を。今以前に知っていたことも、不用意に広めるな……できるな?」

 できなければ、今ここで殺す。
 その意図は十全に詰めた。つもりだが、元よりこの状態で生きていられる存在だ。自分に、本当に彼女を死に至らしめることができるかはわからない。
 そして、本当は消せるのであれば消し去りたいが、その先を考えると少々骨が折れる。諏訪子はドッピオと離れ、そして帰ってこない。天狗は支配下に置いてあり、並の妖怪では天狗には適わないとと椛の談。
 諏訪子に従う早苗と、まだ見ていないが同格であろう神奈子という神。それらをドッピオの状態で敵に回すことはしておきたくはない。

104名無しさん:2014/04/22(火) 22:00:05 ID:wwR12Xww0

「……してもいいよ。だけど、それは約束。脅しているつもりなら今ここで必死の抵抗をしてあげるよ?」

 それを読めたか、諏訪子は顔を歪ませて答える。その歪みは、悦楽を含んだ、敵対の意志も感じ取れる。
 こう出てくることが、ディアボロにとっては好機だ。その先を促すように、口を開かず待つ。

「抱いてよ、君を私に感じさせてよ。久しぶりなんだ、私が満足できるような男が来たのは。……ねぇ、いいだろう? それとも、私の見た目じゃ君が満足できない?」

 提案した見返りは、予想は付いていた。……本当に要求してくるとは思わなかったが。
 確かに今まで男性で力のある者は少なかった。人里であった霖之助も線が細く、この女が喜ぶような人間ではないだろう。

「……悪いが、女に対してそのようなことはしないことにしている。痛い目を見たのでな」

 諏訪子に対して、外見だけであれば何の感情も抱かないが、精神や振る舞いはおそらく一流の娼婦に劣ることはないだろう。おそらく、欲求を全て叶え自らに陥らせるくらいはできると見える。
 だが、あの忌まわしき出来事が、その過去の過ちこそが全ての原因。あの娘さえ生まれていなければ。

「……子供の心配なんてしなくていいよ? もう年中安全日だ、気に入ったら作れる」
「そういう問題じゃない」
「……じゃあさ、せめて顔を見せてよ。誰にも言わない。君を、私の心に刻んでおきたい」

 これには、少しの間を置いてからスタンドによる拘束をやめる。そして、今までほとんど動かしていなかった自身の身体で、諏訪子の身体を仰向けにする。
 その顔は血にまみれてとても見れた顔じゃないが、それでも、喜びと悦びの表情をしているのがわかる。

「……ああ、理解した。さっきの違和感。何でさっき感じ取れなかったのか。……そっちの身体が本当の身体。だから、どこか見せかけの様な感じだったんだね。
 ……自らの為ならばいくらでも他人を使い捨てられる。いくらでも手に血を染めることができる。拭い去れなくなるほどの血の匂い……ふふふっ」

 実際に相手にしなくても、『自分に気を向けていてくれている』だけで舞い上がる女もいる。
 最後に見せた諏訪子の笑みも、それに近しい物だった。

「……行きなよ。私の事は放っておいてくれてもいい。むしろその方が互いに助かると思うよ。君が欲するであろうものは私は全て出したし、私は、まあ、満足ということにしておいてあげる、から」

 見れば、腹の傷は少しずつ蠢き小さくなってきている。それでも十分すぎる大穴は空いているが、やはり殺すには足りず、殺しきれるかはわからないといったところか。
 手持ちにすることができれば、まさに最高の駒になることだろう。

「……当然だが、そこではないな……」

 ここにいるとだんだん自分も違うものになっていく気がする、とディアボロは感じた。今までの現実から乖離しすぎたそれは、やはり感覚を鈍らせてきている。
 相手は神だ。自分は人だ。神を求めようとして地に落ちる逸話は、なんであったか。
 そんな逸話では苦労して手に入れた翼を、いともたやすく自分は扱えるようになっているが、それは違う。
 違うのだ。

「見抜け」

 そんな矛盾を持ちながら、その先を向く。それは、高い山よりさらに高い、彼方空、雲の上を目指していた。

105名無しさん:2014/04/22(火) 22:01:07 ID:wwR12Xww0
------------------
「ただいまー」
「お帰りなさい、諏訪子様……どうしたんですか、その服!」
「あーうー、転んだ?」
「なんで疑問形なんです!? もう……お着替えなさってください。私、繕いますから」
「助かるねぇ。はたては?」
「サイコロ何度も振って、今のうちに強いキャラ作らないと、って頑張ってますよ。ボーナスポイント13でた、ってさっき喜んでました」
「一発振りだ」
「あ、はい。伝えておきます」
「よろしく。……ごめん、私少し寝るよ。服は本殿の前に置いておくから」
「え、また寝るんです? ……まあ、諏訪子様がそういうなら」
「うん、お休み」

 あくまで普段通りに、あくまで普通に。
 元々欺くのは得意だから、早苗もそれには気づかなかった。

 本殿の中に入り、誰もいないことを確認してから。
 腹を抱え、うずくまる。額には小さく汗が浮かび始める。

「ぐぅ、うぅ……」

 身体を苛む猛烈な痛み。肉体だけではなく精神から削られる苦痛。
 あの時、嘘を言った。もし彼がそれを知ってしまえば最悪自分の手のひらだけで収まらないだろうから。
 スタンドは、神殺しの武器に十分になりうる。神といかなくても、精神を憑代とした妖怪たちを滅ぼす退魔と十分になりうるだろう。
 精神から成り立つ像。単純な力をどれだけ持っているかを試してみたが、これほどとは。

「うぐ、ぅ……へ、へへへ……」

 笑みがこぼれる。
 神遊び、巫女との弾幕ごっこも楽しい物だった。ごっことはいえ、誰も彼もその一瞬では自分の存在を賭けて戦っているのだ。
 でも、彼の力は違う。同じだが、それはごっこ遊びではない。真剣な、命のやり取りなのだ。互いに交わしたのは一撃、けれどその一つにどれほどの存在を賭けていたか。

「どうだ、八雲の……!! 私が一番だ、唾付けたのは私だ、女狐めぇ」

 スタンド能力がどれほどの脅威を持つか。それを調べるのは彼女の役目であり、主人のそれとは違い、純粋に危惧していた。
 が、その別諏訪子と同じような劣情をディアボロに抱いているのを隠していた。同じ考えを持つ者、互いに腹に一物抱えている者だ、何かを隠そうとしていることがわかるのだ。
 諏訪子がその細腕で大樹をちぎり取れる様な力を加えても、首を折るにも至らなかった。
 生半可な攻撃では傷つかぬこの身体をも、やすやすと貫いた。
 精神性を織り交ぜた、妖力や巫力といった力を交えては効果が薄い。また、相手にはそれを破る力がある。
 ……違う、精神そのものが像となっているのだ。それが無意識に肉体を守っている。物理的な力から外れている妖怪の力では、圧倒することができない。対等に至れる。
 試していないが、精神の像同士がぶつかり合えば、そのダメージは肉体に反映される。もっとも、砕けきったこの両腕、握られているという感覚は全くなかった。感じ取れもしなかった。

「……どうでもいいや、今は」

 そう言ったことを考えるのは今を担いたがる奴らだし、それは既に行っているだろう。
 確かに幻想郷の脅威になりうる、が彼がその器足るかはわからない。
 自分の胸に手をやる。痛みとは違う甘い感覚がぴりぴりと走る。身体を治すための鼓動とは違う、もっと別の感情が体幹を駆け巡るから、鼓動も早くなっているのがわかる。

 ―――久しぶりに、一人でしようかな。

 す、とわずかに夕日が差す本殿が暗くなる。諏訪子が周りと隔絶させ、一人の空間を作り、その中で横になる。
 時間が、また経った。

106まるく:2014/04/22(火) 22:12:45 ID:wwR12Xww0
最初だけタイトル入ったが以降は名無しになってしまった。しまった。ぐぬぬ。
というわけで投下は以上になります。
……これセーフですよね?直接描写ないし。
こんなケロちゃん知らない!って言われるかもしれませんが、自分はこのような印象しか抱いてません。
ディアボロはただ戦いに強いから、というわけではなく。裏があるから強い、女性はそんなのに惹かれてしまう。というの、大役は諏訪子様。
そう言ったところでの強さのかけらを表したかったのでこのようになりました。致してませんけど。

ディアボロはワンパンマンです。原作でもおおよそそうですし。
…企画、気合、入れて、行きます!

107中学三年生:2014/04/23(水) 18:27:27 ID:rVPoQY5M0
まるくさんお疲れ様です。









諏訪子···。まぁ強い男が誰一人いないしね・・・「しょうがないね。」

108塩の杭:2014/04/24(木) 19:45:51 ID:bd/qn7G60
お疲れ様です!

こんな諏訪子様みたことねえ…実際はこんな感じなのか…?

ボスの強さはただの強さでなく、裏をもった強さ…そういうのいいですよねぇ。

109中学三年生:2014/04/24(木) 20:32:32 ID:Zlmnfg6I0
パチュリー·ノーレッジ主演、「紫モヤシは動かない」絶賛放送中(もちろん嘘)!

110まるく:2014/04/25(金) 09:43:51 ID:jUT88zgg0
感想ありがとうございます。

中学三年生さん>
雲山「チラッ」
お前は雲か。

塩の杭さん>
組織を束ねている者として、DIOと似たような感じですが(ヴァレンタインはそもそも表向きに大統領なので無しとして)
部下にまったく姿を出していない状態で長として君臨するディアボロ、むっちゃ出しまくって長としてDIO。
威圧も主でしょうけど、姿を見せることでのカリスマ性を感じさせるのもあると思います。
ディアボロはそうはしませんでしたが、それがないとは思えません。ジョジョは主人公も悪訳もモテるのだ。

諏訪子はまあ、自分も薄い本でしかこんな諏訪子見てないので実際はこうではないと思われます。
けど邪神で蛇神ですし、蛇は男性を表すそれとみられるし……関係ないか。そういった、裏で男を手玉に取って遊んでそうなイメージはあります。
神奈子とかは堂々と侍らせそうですしー。もうなんかイメージとか今更感がgg

111どくたあ☆ちょこら〜た:2014/04/25(金) 17:34:02 ID:0Q/ihTk.0
まるくさん、投稿お疲れ様です。

はたての心変わり、スタンド使いの頑強さ、歳を取らない少女らへの考察、一挙に回収されましたね。
魔力的なパワーでブーストされた妖怪や神々の攻撃は、スタンド使いの精神力に阻まれる。山をも崩す剛力が、細首一本へし折ること叶わない。
吉影vsフラン戦を書いていた時期からずっと私が悩まされていた
「ジョジョキャラ側の耐久性を上げないとバトルが成立しない」
という問題を、まるくさんは見事に解決してしまわれました。目から鱗とはこの感覚なのだと言葉でなく心で理解した!ありがとう…それしか言う言葉が見つからない……
……この設定、是非とも私の物語に取り入れたい!…本気でそう思うくらい魅力的なアイデアです!

全世界を滅ぼすような人間存在が発覚してしまえば幻想郷の滅亡に繋がる、だから紫が隠匿した。一部の大物はそれを知っていて黙っている、ディアボロはその観察サンプル、ということですね。

ドッピオはセッコの能力についてボスから聞いたり、実際に捕らえられたりしていたので、諏訪子の地中潜航にも対応できそうな。
以前仰っていた「ディアボロと組むなら小傘か諏訪子」、まさかここで回収されるとは。
祟り神vs帝王、圧巻の迫力。読んでいる最中は赤黒く染まった背景の中で、血涙流し舌舐めずりする諏訪子と陰に塗れたディアボロが欲望と殺意の焔を散らすイメージが焼き付いて、匂いまで感じ取れるほどでした。
エンヤ婆が早苗の父と接触した、というのは、今後本筋には絡んできますか?吉良親父もDIOの部下だったという裏設定が存在するので、結構夢が広がりますね。

金と恐怖でどんな相手をも屈服させられる、かつてその傲慢さがブチャラティの決定的な離反を引き起こしましたが、ディアボロもようやく弁えることを覚えたようですね。

初めての相手は女狐ではないッ! この諏訪子だッ!ーッ
荒れ狂う憎悪は劣情の裏返し、まったくこれだから乙女心はッ!

次回、ディアボロ白玉楼襲撃。【GER】の呪いがまだ効力を残しているならば、幽々子の『無敵の能力』にも対抗し得る。しかし、もし消滅しているのなら…
紫の『能力』が【GER】をも上回るのか、もしくは、【GER】は『対峙した相手の意思と能力をゼロにする』だけで、誰か他の者が『解除』しようとする意思と能力は無効果できない、ということか…どっちに転ぶかによって、大きく展開が左右される分かれ目ですね。
次回、そして短編、心待ちにしております!

112サイバー:2014/04/25(金) 19:00:58 ID:YmM.CV0o0
まるくさん、投稿お疲れです、

企画企画と言っていましたがサッパリやってませんねww(俺が言えることでは無いが)
さて・・・俺も明日には投稿しようかな・・・とか毎日思ってます、結局できないですけど
どうでもいいんですけどさっき自分ツイッター始めたんですよ、
さっぱりフォローしてくれる人がいないのって悲しいですね、まあどうでもいいんですけど

113まるく:2014/04/26(土) 00:11:36 ID:oFuj5qbE0
感想ありがとうございますん。

ちょこら〜たさん>
急いで回収しました。腰を落ち着けてこの辺り話せるのはここくらい…かも。
スタンド使いと幻想郷妖怪たちの戦いについての設定は適当に思いついたものなので、穴があっても許してくださいくらいの勢いでした。納得されていただいてるようで何より。
戦いになった以上ごっこ遊びでは絶対に済まないので、1部2部における人間を越えた相手に対抗できる力、としてこのように解釈しています。
あくまで対等まで引き上げるだけなので、当然萃香や勇儀の鬼パワーだったり吸血鬼姉妹の神話武器など喰らえばよくて重体くらいにはなるでしょう。ああは書きましたが、諏訪子は肉弾能力は低そうです。神話大戦で渡り合ってるからイメージだけで低いわけじゃないでしょうけど。
また、意外と妖怪以外の攻撃には弱いということにもなります。原作でもスタンドを介した遠隔攻撃(ピストルズなどスタンドが直接銃を使ったりするタイプ)は本体が喰らえば普通にダメージ負ってますし、スタンドで防御するシーンはあってもそれでスタンドがダメージを喰らっているシーンが確かなかったはずですし、きっと直接攻撃した方が効くことを知ってるんでしょう。
DIOが波紋対策に壁を吹っ飛ばし、その破片をジョセフはハミパで防ぎきれずに喰らう…くらいしかなかったかなーと、ハミパの防御能力が低すぎるだけかも知れませんけどね。本体叩けば早い。

ドッピオは確かに知ってますが、基本スタンドは類似した能力を持ちません(ラスボス勢に目を背け)
ので、「他に似た能力を持つ奴がいたのか」という驚きと、諏訪子のメインは後ろからの奇襲。また、急な展開にドッピオも予知を見れていない。
これらの点が対応を鈍らせてしまった理由ですね。特に、予知は『見る』というワンクッションがあるのがすごい弱点だと思います。コミックスの展開の都合か、ほとんど弱点らしく書かれてませんでしたが、メタリカがもっと攻勢強ければ見てる間に負けちゃうって。
しかし、よく自分の言ったこと覚えられてましたね。はい、諏訪子でした。そこまで読み込んでいただいて本当にありがたい…!これでも一番力を入れて書いたところです。

エンヤ婆のそれは、……どうしましょう;;
このまるく、伏線っぽいのを書いておいてそれが使えそうになったら回収するというとんでもない幼稚プレイで書いているので、本筋には、ちょっと、絡んでこないですかね…
そこで頷いたりしたif物とかなら十分に影響するでしょうけど、早苗パパもノーと言ってしまいそこで終わりです。エジプト外だからDIO以外が勧誘に回ってる、所までは考えましたがエンヤに任せるのきつくね…

あくまで仕事ですから、彼を監視するのは仕事ですから。悪いやつだから私も好きじゃないんです、悪党はこの世界に…
ああああああああのヘビカエル何してるんだああああああああ!!!!
的な。……乙女心?
傾国の美女とも謳われた九尾ですし、多少はね?

GERに対しての回答も、用意してあります。きっと、「あー、確かに」的な納得が得られると思いたい。
自分は紫の能力は最強万能と思ってますが、「こういうところで小回りが利かないのは面白いんじゃないか?」というようなところもいろいろ考えてます。幽々子も十分チートだけど、さて。
楽しみに待っててください。

サイバーさん>
明日には原稿…明日には原稿…残り5日…
同人作家さんが締切1週間前なのに原稿が白いことを自虐したのを見るたび、こういう気分なんだろうなと心が。
企画、やってるもん!ほんとだもん!
残り4日…職場に隕石でも落ちてこないかな。
ツイッター、フォローを増やすならやっぱり活動を増やすことが一番ですね。どこかに自分のプロフを乗せたり、有名どころの発言をRTしまくったり。
自分もやってますけど、フォロー自体はリアル友人とBOTくらいしかいませんしね。

114どくたあ☆ちょこら〜た:2014/04/26(土) 18:56:46 ID:B7rTLDdU0
なるほど、波紋と同じく人外への弱点攻撃、と。
スタンドで石を投げつける方が効果的な場合も多いですね。今月号でも石で殴りつけてダメージを与えていましたし。
『見る』隙が生じるという弱点は、(私事で申し訳ありませんが)前作中での慧音先生が輝之輔らに突かれてました。【エピタフ】の場合は髪に投影されるので隙は一瞬でしょうが。
ネタや伏線は拾い尽くすように読み込むことが作者様への敬意と感謝の表現と思っておりますので、今後もしつこいくらい読み込ませていただきます!

伏線ばら撒いて後からさあどうしようは私もよくやりますw もっと最悪な『後で伏線を追加する』という禁じ手までやりましたし、それができるのがネット媒体の長所、と自己弁護

紫は西行妖を手に負えなかったり、過去に本気で月に挑んで敗北したりしてるので、私の中では割と弱点のある力という解釈です。『小道』とか【遺体】のパワーに対してはどうしようもない、くらいには。あくまでも私の作中では、ですので、原作基準での強さ議論はやらかすつもりはないですが。

…き、企画、お身体にご無理の無いよう……(汗)

画像投稿場にまた懲りずに四コマを投下しましたので、よろしければどうぞ〜
今夜あたりにもう一本投下する予定です。

115名無しさん:2014/04/30(水) 19:07:31 ID:iiRLKzGk0
ディアボロとドッピオでは同じキングクリムゾンでもスタンド自体の性能はやっぱり違うのですか?
体全体と腕だけでは精密動作性は格段に違いそうですけど・・・

116まるく:2014/05/01(木) 12:32:28 ID:biTxNsAs0
えっと、それは自分の作品に対しての質問と取っていいですかね?書き込み時期的に。
自分の中では違う、というか…とにかくは違うとしています。
『スタンドは本人の精神力による』『戦う意志が強いほど強いスタンドになる』
大元にこの2つがあるとして、子供の精神であるドッピオは百戦錬磨のディアボロと比べて精神的に劣っているが故に性能は劣っているとしています。
単純に体全体と腕だけ、というのもあります。もともと貸してるだけでもありますしね。

ちょっと前の話の補足になりますが、ドッピオが諏訪子に締められているとき、まさしくその理論です。
ドッピオの状態では諏訪子の力に勝てずに力尽きかけますが、そのギリギリでディアボロと交代し、それを乗り越えようとする意志で思いっきり力を込め手を砕く→キンクリ!という流れでした。
精密動作性だけでなく、パワーも上昇してる、という考えですね。…もともと精密動作性は?でしたけど。

117名無しさん:2014/05/01(木) 17:26:16 ID:HRyUf.6A0
まるくさんへ
なるほど!わかりやすい説明ありがとうございます。質問の仕方が悪かったです。申し訳ありません。

118スルーしてくださって結構:2014/05/13(火) 17:46:30 ID:Gj/fxJm60
JOJO'S BIZARRE TOUHOU

Part1 ハクレイブラッドーHakurei Bloodー
Part2 幻想潮流ーGensou Tendencyー
Part3 スカーレットクルセイダース (英語題は解らない。内容は魔理沙vsレミリア。星繋がり。)
Part4 宮古芳香は倒れないー?ー
Part5 射名丸の風ーSyameimaru Windー
Part6 ?ー?ー
Part7 ?ー?ー





うわぁ···ナニコレ···書いてて恥ずかしくなった···それにしても7部と6部は難しい···

119中学三年生:2014/05/24(土) 16:42:28 ID:95rSisGc0
ちょこら~たさん···最新話(って言えばいいのか···)はいつ頃になりますか?

120まるく:2014/05/27(火) 21:49:30 ID:P/QX6RTw0
(sage進行で書かれてて今まで気づかなかった……)
こう、もうちょっとなんというか。作順に則ると考えやすいかもしれませんね、副題。
自分もあんまりそういったのはセンスないのでうまくは思いつきませんが。


というわけで投稿します。
今回はドッピオが出ないので番外編です。現在の時間軸から少し過去の話になります。
けれど、ドッピオはその後を見ています。そんなお話。

121BGM3 香霖堂:2014/05/27(火) 21:50:31 ID:P/QX6RTw0
 うっすらと、閉じた雨戸の僅かな隙間から日が差し込み、自分の手元を明るくする。
 同じ仕事を担当していたランプの勤務時間は、太陽が上がってきたことを指し示す光で終了の時間を告げた。
 手元の本と、自分の考察をまとめた紙が机の上に散乱している。用意していた墨入れも底が見えるほど使ってしまったようだ。
 少々時間をかけすぎてしまったかもしれない、と霖之助は一人ごちる。
 いくら魔理沙が代わりに行ってくれるとはいえ、あまり時間をかけすぎては彼女は怒るだろう。……ほとんど物で釣ったようなものだが。
 今から人里に向かえば、開店の準備の終わりくらいで到着できるだろう。魔理沙にもそのくらいに着けると説明したし、『それ位に終わるのであればなら乗ってやるぜ』と答えていた。元々遅めに着くかもしれないと思っていたので遅めの時間で話していたが、まあ結果は良好だ。
 だった。

「……それなのに、君はいつまでそれをやっているんだい」

 店の奥で書き物をしていた霖之助の近くで、薬箱の中身を整理する、一人の少女。
 外の世界で学生が使っているという、ブレザーと呼ばれる洋服を着ている少女は頭から生えているウサミミを揺らしながら返事を返す。

「あと10分から15分ってところかしら。……あなたの常備薬、型の古い物から期限切れまで……まるで小さな博物館みたいだわ。しっかりチェックしておかないと緊急時に何の役にも立たない」

 ぶつくさ言いながら少女―鈴仙・優曇華院・イナバ―は自分の荷物から出した薬と霖之助の薬箱の整理、入れ替えを行っている。

「そうは言うがね、何分妖怪とも人間とも半分同士だからあまり薬に頼らなくても大丈夫なんだ、だからそんなことしてもらわなくても――」
「でも、この常備薬点検も毎月もらっている料金の一環に入っているから。しっかりやらないとあなたの無駄になる」
「なるほど、言っていることは最もだ。確かにこちらが料金を支払ってサービスを受け取っているのだから。……だが、僕はもう出掛ける時間なんだが」

『あなたのもしもの時! 助けてくれる人はいますか? 永遠亭のまごころ巡回サービス! 薬の事から診察、回診、積めば料理や洗濯といった家事、あんなことやこんなことまでお手伝い!』
 そう書かれたいかにもいかがわしいチラシを配っていたのは今目の前にいるウサミミとはまた別のウサミミ少女。
 その時に居合わせた魔理沙が面白半分でそれに契約をしてしまった。『お試し期間で一月分は半額だ、お買い得だな』と、自分の身銭を切ることなく。
 契約を機に、確かに3日に1度のペースで鈴仙がこの店を訪ねるようになったが、店の戸を叩いて対応の声が聞こえると、

「生きてる」

 と、極めて事務的に、一言の確認をしたらさっさと行ってしまう、何とも冷たいものだった。
 いつもはそんな業務的なものであったが、今回に限って家の中まで入ってきて、勝手に薬箱の整理を始めていた。

「そう? でももうすぐ終わるから、もう少し待っててちょうだい。さすがに主のいない部屋でやるのはアレだし、鍵もかけられないし」
「君が残りをやるのを後日に回してくれればいいんじゃないか?」
「私のペースが狂ってしまうので」

 永遠亭のウサギたちも変わっているのが多いが彼女はその中でも常識的、だと聞いていたがそんなことはなかったようだ。
 職務に忠実なのはいいことなのだが、そこに相手の都合を合わせるということはしない。これはこれで営業には向いているのかもしれないが、今の霖之助には迷惑千万である。

「ごめんくださーい」

 表には営業中の看板を掛けていないにもかかわらず、来店の声が上がる。この声は聞き覚えがあり、その声の持ち主はまじめの一辺倒で聞かれることが多いはずなのだが。

「今は営業していないよ、僕はそろそろ出かけるんだ」

122BGM3 香霖堂:2014/05/27(火) 21:51:20 ID:P/QX6RTw0
 顔こそは入口の方に向けるが、一番言いたいのは前にいるウサミミに対してだ。とにかく、今は出ていってほしい。
 その思いが言葉の端に見える、冷たい口調で言葉を告げる。

「え? えーっと……、え、営業時間を知らない方が自分の都合のいい時間に来れるので……」

 その言葉に対して、戸惑いながらたどたどしく、どこかで聞き覚えのある答えを返す。
 その言葉を最初に使ったメイドはさもそれが当たり前だというように使っていたが、どうやら彼女は元々それはおかしいと思っているのだろう。だから、使用に抵抗が生じてしまう。
 はぁ、と霖之助は深くため息を吐く。鈴仙よりも遥かに扱いやすい彼女だが、結局目的の為なら意固地に付きまとうタイプでもある。さっさと欲しい物を手渡し帰ってもらうのが賢明だろう。

「……すぐに済む要件であるなら対応しよう。何だい、妖夢」

 店頭に顔を出し、言葉と同じく感情の揺れた表情をしている少女―魂魄妖夢―の相手をする。妖夢は、主人が顔を出したことにほっとして、近くの半霊をゆらゆらと揺らめかせながら話す。

「実は、今度白玉楼で懇談会があるから、それに見合うものを用意しろって幽々子様がおっしゃられたので、それっぽい物を探しているんです」
「なるほど、今度にしてくれ」

 非常に手間がかかりそうであったので、断ることにした。以前に来店した時の様に目的がはっきりしているなら良いが、今回の様な曖昧なものはとかく時間がかかる。
 それに、懇談会に見合うものなんて言われても、幽霊屋敷に似合うものが古道具店にあるはずがない。それこそ、人里の道具屋に行った方がいいだろう。そこでまた会うことになるだろうが。

「そんなあ! ダメなんです、すぐに用意しないとまた幽々子様に叱られてしまうんですよぅ!」
「それは君の事情であって、僕の事情とは擦り合わない、それだけの事。それに、別に何もここで探さなくてもいいだろう」
「でも、まだ人里の道具店は開いていないじゃないですか、すぐにって言われたからすぐに用意しなきゃいけないんです!」
「でもその懇談会? は今日やるのではないんだろう? それにあのお姫様が準備するんじゃなくて君が準備するんだから、少しくらい時間をかけても大丈夫なんじゃないか。それに、もてなすつもりならそんな急ごしらえをだすのがいいことなのかい?」
「うっ……うぅ〜」

 コロコロと表情を変えながら、はためく彼女は前と変わらず幼いままだった。前言撤回、まじめというよりは愚直だろう。

「妖夢じゃない、どうしたの?」
「鈴仙! どうしてこんなところに……まあいいや、助けてください、この人いじめる!」
「誤解を招く言い方はやめてくれ」

 呆れた声と感情を出しながら奥から鈴仙が顔を出す。

「君も用件は済んだか? 済んだなら何時までも居ないでさっさと僕を解放させてくれ。妖夢以上に急いでいるんだ」
「まだ終わってないけれど、なんか問題が起きてるみたいだから。保証期間中だし一応……」

 サービスの一環はどこまでなのか。チラシには特に書いていなかったが解釈は彼女に一任されているらしい。本当に必要としている人物には非常にありがたいサービスだろう。霖之助には完全に不必要だが。
 鈴仙は右手の親指と人差し指を伸ばして、その先に力を溜めている、明らかに武力行使の構えをしながら出てきている。もし妖夢がその得物よろしく本当の強盗であったのなら彼女は迷わず撃っていただろう。
 もちろんそんなことはなく、鈴仙も妖夢と確認すると手を下ろし力を解放する。

「……保証期間? また永遠亭は怪しいことをしているんですか?」
「構えるな、撃つと動くよ」
「どちらもここでやるなら出てってくれ、やらなくても出てってくれ」

 鈴仙の言葉に反応して自然と構える妖夢、それに合わせて再び臨戦態勢に入る鈴仙。そこに割って入り、ややも大きな声で二人を諌める霖之助。
 それは、全く進まない展開にいら立ちを隠せなくなってきている様。

「……そうね、あんまり遅れてもあれだし。妖夢も静かに見繕ってたら? 結局私の仕事の加減具合にしか左右されないし。お冠になっちゃう前に終わらせた方が得よ」
「君が言うか」
「……そうですね! というわけですいませんが見させてもらいますね。あ、今回はちゃんと小遣いもらってますから!」

 満面の笑みを浮かべながら、桜の花びらの刺繍の入ったがま口を取り出し大層自慢げに見せつける。
 その時点で、霖之助は全てを諦めた。

123BGM3 香霖堂:2014/05/27(火) 21:52:04 ID:P/QX6RTw0



「えーっと……これなんてどうだろう……」
「それは石仮面。曰く、人間をやめる程度の道具だ。被ってみてもなんともなかったが、少なくとも懇談会向けではないだろう」
「そ、そうですね。今にも動き出しそうで怖いし……これは?」
「見ての通り、矢だ。何となく気の入った装飾だが特に変わりはない物だよ。……本気で探す気はあるのかい」
「いまいち、よくわかってないんです。幽々子様の無茶ぶりはいつも頭を悩まさせられます……」

 店内を見回りながら、あれでもないこれでもないと妖夢は品物を見続ける。
 もはや二人を魔理沙や霊夢などの客ではない存在と捉え、そして同じように言っても自分が納得するまでこちらの言うことを聞かないようなタイプ。そう認識した霖之助は適当に解説を入れることにした。
 それでも、別にそこに関して手を抜くつもりはない。妖夢が見ているのはおおよそ霖之助も興味を持っていない物が多く置かれている所。久しぶりの商売らしく、買い取ってもらうのもいいかもしれないと考えていた。

「……あれ、これは?」
「……おや?」

 そう言って妖夢が取り上げたのは、さらしに包まれた細長い何か。
 もちろん霖之助はそれが何かを理解している。だが、彼は何故それがそこにあるのかがわからなかった。

「それは折れた刀の刃だ。真っ赤に赤錆びていて、とても刃物としての使い道はなかったんだが……用途がとても興味深くてね」
「刀、でしょう? 切る以外に何に使うんです?」
「その通りなんだが、能力で見たところ、どうやら『思いの物を切れる』らしい。……それがどういう意味なのかは分からないがね」

 そこまで説明すると、思案顔でそのさらしに包まれた刀を見やる。

「……しかし、あとで包丁にでも加工しようと錆取りだけして奥にしまっておいたはずなんだが……?」
「包丁にですって、もったいないですよそれは……みても、いいです?」

 刀剣と言われ、少し目を輝かせて妖夢はそれを見つめる。
 蒐集家の多い幻想郷だが、実際に武器として使っている者は数少ない。扱いに難しい、地味、可愛くないなどよく言われるが、そんな中でも使用する者の中、数少ない一人が妖夢である。
 美しい、という意味ではなくて実用的な用途を醸し出すその魅力を理解する、数少ない理解者だろう。

「ああ、構わないよ。ただし、素手で触らないでくれよ」
「そんくらいわかってますよぅ」

 そういった者であるなら、見せるのもやぶさかではない。物の価値は、理解している者同士でないと語り合えないからだ。
 はらりはらりと、少しずつ外の空気に触れさせる。それは楽しみにしていた包みを開くその瞬間に等しい。

「……わぁ」

 解かれたその刀身は、まだわずかに汚れが残っているものの、元は美しい刀剣としてあったということを感じさせる気風があった。
 まるで、冷たい水で濡れているような、静かな輝きを秘めていた。

「元はかなりの業物ですね。楼観剣と比べれば全然ですが」
「やはりわかるものだね。けれど見ての通り、刀剣として使うにはもう無理だろう」

 確かに、中本から完全に折られていて、切っ先の側が残っている。つまり、振るうための柄が無いのだ。

「その部分が存在せず、それを新たに他の者が付け加えてしまえばそれはもはや元の製作者が意図して作ったものではない、別の存在と化してしまうだろう。
 一般的な人間の倫理と道具のそれに当てはめるのは滑稽だが、相手のそれとは違う身体を他人が勝手につけて弄っているのと等しいからな」
「うーん、そうですけど……包丁には惜しいような……?」

124BGM3 香霖堂:2014/05/27(火) 21:52:46 ID:tPxg94h20
 そこまで話して、妖夢は急に辺りをきょろきょろ見回す。

「どうした?」
「今、誰かの声が聞こえたような……」

―――まさか、あの絶望の底から出られる時が来るとは……

「ほら、今確かに聞こえましたよ。誰か他にいるんです?」
「いいや、僕と君と奥のウサギだけだ」

 失礼ねー、と奥から声が飛んでくる。確かに、その3人だけだ。

「……まさか、幽霊!?」
「それは君だろう」
「私は幽霊じゃないです、半分だけです! そんな括りだと霖之助さんも妖怪になっちゃうじゃないですか」
「半分だけだよ」

―――ここは、どこか……わからない……

「また聞こえた! また聞こえた! どこだ、出てこい!」
「涙目になりながら言うものじゃないよ。それに幽霊が声を出せるはずないだろう」

―――まあいい、久しぶりの運動といくか

「……もしかして、ここから……?」

 そう言うと、妖夢は持っている折れた刃を見つめる。
 その姿は、何かに魅入られているかのような虚ろな瞳をしていた。

「……妖夢?」

 怪しげに思い、霖之助が立ち上がろうとする。

「シッッッ!!」

 それを、制する。いや、それどころではない。
 明確に霖之助に危害を加えようとした、正確な突きが妖夢から繰り出された。

「なっ……!?」

 何とか、後ろに体を反らしてそれを回避する。急に動いた体は重心を失い、そのまま後ろに倒れこんでしまう。

「久しぶりの外だ……お前には何の恨みもないが、おれの力試しのため、その命貰い受ける!!」

 折れた刃を突きつけながら、高らかに妖夢は宣言する。
 その瞳は先ほどまでの穏やかな幼い瞳と違い、相手を切ることにのみ快感を覚えている狂人の瞳をしていた。

「妖夢……? 一体、どういうことだ?」
「のんびり答えを待つ時間などお前には存在しないッ!」

 そう答えながら、その瞬刃を煌めかせる。狭い店内で、その短い刃は霖之助を捉えようと一つ、また一つと近づいていく。

「くっ!!」

 対峙する霖之助も、ただなすがまま避けているだけでない。回避しながらも対抗しうる得物の元へ近づいていく。
 再び彼を切り裂く一刃を、一振りの刃が受け止める。
 草薙の剣。外の世界の変革に共にあったと言われる剣。
 もちろん彼自身がそれを使い切れる力があると思っているわけではない。が、今対峙する刃を受け止めるに至る武器はこれしかない。
 金属と金属がぶつかり合い、火花を散らして辺りに音を響かせる。

「この刃を受け止めるか……だが、受け止めるに一杯と見た! 容易い相手だ、運動にすらならないな!」

 確かに、と霖之助は口の中でつぶやく。今の動きで息は上がり、肩で呼吸をしているようなものだ。

「しかし素晴らしいぞ、この肉体は! 幼いながら体術、技術……過去に肩を並べたものとは比べ物にならない! そしてッ!!」

 再び刃を霖之助に突きつける。霖之助もそれを受け、青眼に刀を構える。

125BGM3 香霖堂:2014/05/27(火) 21:53:50 ID:P/QX6RTw0
「お前の動きは今ので『憶えた』。絶対に」

「絶〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ対に! 負けん……!!」

 謎の振りをした時、店内に銃声が響く。それに気づいた妖夢が的確に刃を振るう。

「……どういうことだろ、これ。すごく妖夢らしいけど、だいぶ違う」
「お前もおれに斬られたいというのか」

 鈴仙の銃弾は全て斬り落とされていて、命中には至らない。
 その妖夢は、新しい相手に喜びの感情を出していた。

「その意気は良いぞ。この男は弱者とも見える。だが女、お前の攻撃には確かな殺意が込められていた! あの拳銃使いの様に! お前も戦いに身を置く者、相手に不足はない!」
「……ずいぶん正統派な剣士みたいになってる、んだけど……イメチェン、じゃないよね」
「気を付けてくれ、鈴仙……とてもじゃないが僕には抑えきれない。恐らく、妖夢は幽霊か何か、あの刀に宿る悪霊に操られているようだ」
「それは『視れば』わかる。あそこからは明らかに波長が違うもの。それに何より、ここであんな波長を示すのって、姫様とその相手くらい」

 少々矛盾はしているが、ごっこ上での明確な殺意は少女たちの遊びにはよくある話だった。
 だが、今の妖夢は違う。あの鬼の異変の時に廻り回った時もこれほどの殺気は出していなかったはず。

「下がってて。これもサービスの一つだから」

 この期に及んでサービスの一環というのも滑稽なものだが、それでも頼りにはなる一言だった。
 決して気を緩めず、少しずつに霖之助は足を下がらせる。

「見たところスタンドでの撃ち込みではないようだが……どこかに隠し持っているな? だが問題ない、今の弾丸は『憶えた』ぜ」
「そう? ならばこそ」

 鈴仙の瞳が赤く輝く。それと共に、頭痛が走るかのような音と、赤いヒビが入った様な店内がその瞳に、妖夢と霖之助の瞳にも映し出される。

「これは……!?」
「初見殺し。憶えられる前に終わらせてもらうッ!!」

 鈴仙が店内を走る。その像は、すでに二人には違うように見えてしまっている。彼女が右に走れば上に走るかのように。飛び離れれば近づいてくるかのように。
 その動きに翻弄され、困惑する妖夢に対し、八方から銃弾が撃ち込まれる。

「だが無駄だッ! その攻撃は『憶えた』と言ったろーがッ!!」

 その掛け声とともに、全ての銃弾が切り落とされる。位相によって僅かにずれたその攻撃すらも明確に。

「初見殺しだって。もっとも、あなたは私を認識していないけれど」

 その振るわれた後の刃を持った手を掴み、指だけで支えられているそれをはたきおとす。その見事な不意打ちは、持っていた本人にも気づかせないほど鮮やかだった。
 妖夢の手から刃が離れると共に、ぷつんと糸が切れたように張りつめた空気はなくなり、同時に妖夢はその場に倒れる。

「……鈴仙? 終わったのか?」
「まあ、一応。……もしあれも『憶えられた』のなら、私結構へこむかも」

 そう、鈴仙は何て事の無いように呟いた。

126BGM3 香霖堂:2014/05/27(火) 21:57:21 ID:P/QX6RTw0


 
 勝負こそ鈴仙の機略によって一瞬で終わったものの、その後は凄惨たるものだった。元々片づけられていない店内を少しでも暴れ回った中。
 辺りの物は散乱し、下敷きになったものは壊れてかけらが飛び散っている物も見られる。

「……さすがに、この状態を放っておくわけにはいかないかな」

 霖之助も目の前に倒れている妖夢ではなく、その散らばった区画を見て呟いた。

「え、この子は? 妖夢放っておくの?」

 割と大きめの目をさらに丸くし、さすがに非難するかのように鈴仙は答える。

「怪我人は医者に連れて行った方がいいだろうからな。もっとも、見たところ怪我はないと思うが」

 そこにはただ見捨てるわけではなく、専門外なので専門家に任せたいという心も見えたが、前者の放置も僅かに見える。
 ひどく呆れた顔をして、侮蔑の目で見られるが霖之助は気にしない。同じく、専門家として事態の解決をしたいだけなのだ。
 落とされた、折れた刀に近づき、触らないように注意しながら検分する。
 と言っても注視するくらいなのだが……それでも特に変わったものは見られないし、直前に妖夢が言っていた霊の言葉とやらも聞こえなかった。

「……触って調べてみたいところだが、おそらくそれが起動の合図になっているんだろうな。……箸か何かでつまめるだろうか」
「……んぅ……みゅ…………ひょあっ!?」

 ちょうど目が覚めた妖夢。不自然なほどに近い男性の顔に思わず驚き飛び退く。
 霖之助も、目が覚めたときにまだ何かあることを考え、剣を持ったままであったので、一応その構えをする。が、目が覚めた妖夢はあたふたするばかりで、特に何も起きなさそうであった。

「……何があったか覚えてはいるかい?」
「少しだけ、まあ。心を乗っ取られるなんて……さっさと斬ればよかったのに、未熟ですみません」

 自害でもするつもりか? と言いかけたか、さっきと同じく口の中に留めておいた。災いの元は無闇に出さない方が身のためだ。
 草薙の剣はもう不要になったかもしれないと思い近くに立てかけようとするが、それを妖夢が止める。

「すみませんが、また一悶着起こさせてください。……さっきの人、もう一度呼ばせてください」
「本気か? 君が冗談を言う人間ではないからそうではないと思いたいが」
「そうよ、それにもし何かあったら、あれが言ったことが本当なら私でも止められないかもしれないのよ? 通常弾だって、2回目には幻覚の中でも見切られていたし」

 二人がそれを止めようとすると、妖夢は手で二人を制し、その傍らに浮かんでいる霊体を自分の身に寄せた。
 妖夢の半霊は、すぐに妖夢と同じ姿を取る。違う点は、楼観剣と白楼剣を持っていない、の2点。
 形取ると、二人が制止する暇なく、半霊の方で刃を拾い上げた。

「…………ッ! ええ、大丈夫ッ! はい、それは、ダメですッ! ッ!!」

 半霊の方の妖夢も、現体の妖夢も共に、何かに耐えるように歯を食いしばりながら、何も聞こえぬ声に返事をする。
 概要こそはわからないものの、それの成功を見据えるしかなかった。
 二人はもしものため、霖之助は草薙の剣を構え、鈴仙は同じく手にいつでも発射できるように力を込めて。
 ……妖夢は目をつぶりながら、出てくる声は小さくなり、つぶやくような声になる。

「……そうです。おそらく、あなたの言う人物は存在しません。……はい、ありました。確かにそれは」

 そこまで言うと、二人の妖夢は何やら気の抜けたような表情となり、鈴仙と霖之助の方を向く。
 半霊の妖夢は恭しく頭を下げると、口をパクパクと動かす。

127BGM3 香霖堂:2014/05/27(火) 21:58:36 ID:P/QX6RTw0

「あ、ごめんなさい。そっちの身体は喋れないんです。私から説明します、アヌビスさん」
「何だって?」

 アヌビスと呼ばれた、半霊の妖夢は、現体のそれとは違い、鋭い目つきは変わらない。
 それが元々の彼? の性分なのか。口を開くと共に、追随して妖夢が説明を加える。

「刀に宿っている、えー、すたんど? 悪霊みたいな方で、刀を抜いた人に憑りついて操れる程度の……え、憑りついているわけじゃない? いいじゃないですか、それくらいは簡単に言わせてくれたって」
「な、なんか随分フレンドリーになってるわね。一応あなたは私たち殺そうとしていたのよ?」
「それはまあ、許してほしいし、納得いかないなら切らせてもらう、ですって。戦うのは好きみたいですよ?」
「君と思考回路はあんまり変わらないみたいだな」

 丁寧に頭を下げるアヌビス。確かに、攻撃性がなくなると紳士的な対応はできるみたいだ。

「しかし、何で今度は乗っ取られたりしないんだ? それに、あまりに急な変化だ、油断させているようにも見える」

 それでも、すぐには疑いが晴れるわけではない。霖之助が訝しげに見ると、アヌビスもそれは当然ともいえる表情を浮かべ口を開く。

「あー、はいはい。まず私の方から説明しますけど……見ての通り私には半人半霊なので、体が二つあるんです。主に使っているのは人間の方なので、そっちで持ってしまったからそっちの身体が使われてしまったんですが……
 半霊の方なら基本的には私の手足みたいなもの、身体の一部なのでそこだけなら使われても互いに干渉しあえます。相手が完全に制御できるわけではないので少し安心できます。でしょう?」
「確かに、僕ら半分の血筋とは違って半人半霊はそれそのものが種族、一つの精神と二つの身体で成されると以前聞いたが……」
「で、攻撃してこないのは、言ったとは思うが、って言ってますけど言ってました? とにかく長年使えなかった体の動かしをしたかったからですって。
 斬ることに抵抗がないのは私は良くないことだと思いますけど、真の目的意識があるなら続けるけど今はないからやめておく、ですって」
「……聞けば聞くほど、妖夢とあんまり変わらないわね、そのアヌビスさん」
「どこがですかっ!?」

 驚きの表情をする妖夢と、うんうんと合点が言ったようにうなずく霖之助。アヌビスも、それに合わせて苦笑している。
 戦いが終われば後腐れなし。その空気が、ここでも感じられるようになっていた。

128BGM3 香霖堂:2014/05/27(火) 21:59:22 ID:P/QX6RTw0



「……しまった、もうさすがに行かないと。予定の時間よりだいぶ遅れてしまっている……」
「え? ……ああ、私も次の巡回に間に合わなくなっちゃう! ここで薬の確認なんてやってられない!」 

 それほど時間が経っているわけではないが、二人ともに用事が詰まっている。その割には鈴仙はのんびりとしていたように見えるが。
 二人とも荷物をまとめると、二人の妖夢を連れて外に出ていく。

「わっ、私の用事! 私ここで刀拾うしかやってないです!」
「さすがにもう時間もない。その刀は僕には持て余すから差し上げよう。適当にお姫様への言い訳を考えておいた方がいい」

 そういって店の戸にカギをかけると、さっさと走って行ってしまう。
 鈴仙も鈴仙で、荷物をまとめると、

「彼……でいいのよね? についてまたあとでゆっくり聞きたいけど、私もちょっと外さなきゃいけないの。妖夢、アヌビスさん。いいかしら?」

 そう問いかける鈴仙に、妖夢は恐る恐る片割れを見つめる。
 その片割れは、少女の容貌に似つかぬ笑みを浮かべ、言葉は上げずとも、了承の意を示した。
 それを見ると、鈴仙も微笑みを返す。

「ありがとう。それじゃあね!」

 そう言うと、鈴仙もふわりと飛行し、森の外側へと向かう。どうやら紅魔館の方へ向かっていくようだ。

「……いったん、お屋敷に戻りましょうか。私はあなたを、わが主に紹介しなくてはなりません」

 そう言うと、アヌビスは渋い顔をし、難色を示す。

「大丈夫ですよ。幽々子様は寛大な方です。幽霊仲間として一緒に認めてくれますよ。……え、幽霊じゃない? だからぁ、そのすたんどっていうのがよくわからないんですってばぁ。
 アヌビス、じゃなくてアヌビス神が正しいって? でも、神様じゃないでしょう? ええ、いますよ。幻想郷には神様だって。あなたの所にもいたんです? 神様じゃないけど、それに近い吸血鬼……
 うーん、吸血鬼……いえ、確かに怖いんですけど……幻想郷にもいますけど、どこか間が抜けてるんですよね、あの人たち。いや、あなたの所の方を馬鹿にしたわけじゃなく! あー、転びますよ!」

 興奮したアヌビスは、人間の身体とは違う霊体の身体に慣れないのか、思うように動かずに体勢を崩す。
 それを支えながらも、妖夢は一旦の家路に着く。

「外の世界の事も、あなたの事もいろいろ聞いてみたいです。貴方にもいろいろ答えてあげます。ようこそ、幻想郷へ!」

129まるく:2014/05/27(火) 22:05:04 ID:P/QX6RTw0
以上になります。次回への布石編です。何綺麗に締めてるんだ感すごいですね。
あーだこーだは次回にアヌビス神本人に語ってもらいます。こう、たまの日常パーt
の後霖之助は、星のソナタで魔理沙がやっていた店番を引き継いで〜、という流れになりますね。

ナイルの河底に永久に沈むと思われていた刀は、やがて忘れられた地に流れ着く。
魂がどーのこーのとか、いろいろまた次回で俺理論展開で行く予定です。

130どくたあ☆ちょこら〜た:2014/05/28(水) 17:09:09 ID:Z202f/gQ0
まるくさん、投稿お疲れ様です。
【アヌビス神】が幻想入り。霖之助の能力でも『スタンド』であることは見抜けないんですね。
承太郎を苦戦させただけあって、やっぱりトンデモな強さですね。「今ので覚えた」が幻覚にまで通用するとは…!
戦闘が終われば後腐れ無し。人間じゃない【アヌビス神】には、幻想郷のルールが割と性に合っているのかも。
妖夢の体質を利用して【アヌビス神】を制御するとともに肉体を与えるのは巧いと思いました(小並感)
次回、ディアボロが白玉楼を来訪しますが、早速一悶着起きそうな流れ。ただでさえ周りが『敵(?)』だらけなのにジョジョ屈指の強スタンドまで敵に回ってしまったら、ディアボロの寿命がががが
次回も期待しております!

>最新話
こ、今月末には…(震え声)

131中学三年生:2014/05/28(水) 17:34:11 ID:UJqEybt20
↑待ってます

>>129まるくさん
じゃあ忘れ去られたカーズや、川の底に沈んだマジェントもあるいは···!?

132名無しさん:2014/05/28(水) 18:11:39 ID:MHwa1NUA0
もしディアボロがアヌビスを手に入れたら三重人格に・・・

133名無しさん:2014/05/28(水) 23:06:15 ID:3dizHQg60
スタンドの矢があるって事はそれをめぐりまたなにかありそうですね(笑)

134まるく:2014/05/28(水) 23:53:55 ID:I6OFuJ2g0
感想ありがとうございます!

>ちょこら〜たさん
霖之助の能力は道具の名前と用途がわかる程度、アヌビス神は刀に宿るスタンドであって道具の用途ではないので。霖之助も人間を見て何の能力を持っているのかわかるかと言ったらNOだろうと思って。
ちょっと無理があるかもしれませんが、道具のそれと、スタンドとしては別物として表現したい、ということですね。

アヌビス神の能力ならきっと弾幕シューティングは楽勝でしょう!一度見ればルナティックの弾幕だって余裕!
ポルナレフの剣針飛ばし、目潰し+死角からの跳弾を2回目で完璧に弾いたので、明らかに目で見えていなくても感覚で制圧してると取っています。よって、高度な目くらましすらも無効化できる!と考えた次第。
既に妖夢越えてるんですがこれは…ま、まあ承太郎たちとの経験もあったし…

もしDIOの命令がなければどの程度まで自分から動き出すのか、というのも想像の余地がありますが、やはり基本は忠義のイメージ。戦闘狂ではないので、戦う理由がなくなり馴染めると思いました。
元々500年も生きているので十分妖怪の類だと思います。小傘ちゃん、仲間だよ!

妖夢の種族を何か差異として使えないかなー、と思っていてこれが浮かびました。すごく動かしやすくなりますた!これでたくさん問題を起こせます!ディアボロの明日はどっちだ!

>中学三年生さん
カーズは宇宙だし、マジェントは別の平行世界だから来れないだろ!いい加減にしろ!
いや、宇宙人だって幻想郷にいるし…?
実際問題来てもおかしくはありませんが、出しても主人公を喰いかねない(物理的に)勢いなので今は出演はしないですかね。

>名無しさん132
アヌビス神は乗っ取った肉体の精神・技術を完全に使いこなす程度の能力があると考えています。
その時ドッピオかディアボロかに寄りますけど、表になっている身体の精神が乗っ取られてしまうだけで二重人格なだけ、なのかなー?どちらにしろ厄介な隣人ですがね!

>名無しさん133
起こすぜー超起こすぜー。
こんなこというとエターナるポイントが3倍くらいになりそうですが、完結後のif物語とかも頭の中にあります。
そこに使えそうな伏線、当然今の本編にも使いますが。そういうのも適宜ばらまいております。撒くだけ撒いて拾えるのだけ拾う悪いスタイル!


アヌビス神の強キャラ感を出すのに苦労したし、完全に出し切れているとは思えません。…それより普通に鈴仙がチートだと思ってますし。
とにかく、感想を元にこれからもがんばります!ありがとうございます!

135どくたあ☆ちょこら〜た:2014/05/29(木) 00:21:29 ID:9zGKTJO20
そういえば、ディアボロ&ドッピオは『一つの身体に二つの精神』で、妖夢とは真逆なんですね。
仮にドッピオが表の状態で【アヌビス神】に乗っ取られたとして、より優勢のディアボロがさらに【アヌビス神】を制圧、アバッキオ奇襲時のように半分ディアボロ状態で【キング・クリムゾン】も全身使え、【アヌビス神】も制御できるとしたら…
夢広がりますね!

完結後の続きまで構想があるのですか!期待が一層膨らみます!

鈴仙は確かにチートっすね。臆病な性格という設定が無ければ寝首かくぐらいしか対処法が無い。『波紋』なんかも制圧できるのだとしたら…(ガクブル

136中学三年生:2014/05/29(木) 07:32:57 ID:vlPnO85Q0
>>134
あ···ごめんなさい、すっかり忘れてました···(´·_·`)

137名無しさん:2014/05/29(木) 19:45:53 ID:BbOMzRnM0
レミリア「お前は私を本気で怒らせた!」
    「お前には、死んだことを後悔する時間も、与えない!!」
霊夢「戦いの覚悟はできている!」
霖之助「僕は敬意を表する!」
レミリア「このチンピラが!俺をナメてんのか!!?」

138まるく:2014/05/30(金) 16:30:18 ID:HnG.567I0
>ちょこら〜たさん
そうなんですね。それなりに対比な感じとしてのケースです。身体が二つなんてあんまり聞きませんけどね。
しかしアヌビス神の精神支配はどこまでできるんでしょうかね。DIOには強すぎるからの忠誠、と作中にありますのでDIO並の精神力なら耐え切れるのではないか、と考えていますが。
声は手に取ったものにしか聞こえないみたいだし、博物館の倉庫から引っ張り出す時は手に持つでしょうし。…誰か下人に持たせて会話したというのもありますか。ううむ。
ディアボロ状態でアヌビス神も使える状態!まるでディアボロの大冒険状態!

鈴仙は某所では6ボスを押さえて強いキャラとみなされるくらいですからね。と言ってもそこは結構ぶっ飛びなのであんまり信用にはしていませんが。
あと自分も強いと思っていますがそれ完全にこいドキの影響もあります。あれはかっこよかった…汎用性に効く能力は総じて強いので、まともに対峙したくない相手ではあります。

>中学三年生さん
いや、謝られるほどでは。いわゆるネタ返しなので〜。

139名無しさん:2014/05/31(土) 00:15:17 ID:Eigc6OrA0
神のような吸血鬼その表現すごいいですベリッシモベネ!。
いや全く本当にDIOの影響は恐ろしいですね(笑)。DIO様やエンヤ婆は妖怪や神そのような存在を知ってたんですかね?承太郎が石仮面を調べるうちにレミリアや守矢神社にたどり着いてたらなんか胸熱ですね(笑)

140どくたあ☆ちょこら〜た:2014/05/31(土) 21:17:24 ID:ueFU1mxw0
【第二部】〜Saint Babel Run〜第六話、投下開始致します

141【第二部】〜Saint Babel Run〜第六話:2014/05/31(土) 21:18:20 ID:ueFU1mxw0
◎旧作キャラ解説
・里香…『東方封魔録』一面&Exボス。戦車技師であり、『ふらわ〜戦車』『イビルアイΣ』を駆る。

・小兎姫(ことひめ)…『東方夢時空』登場。人里の警官であるが、人格破綻者。


【第二部】〜Saint Babel Run〜
第六話 暗雲と雷鳴①


「ーーーーーーー止まれ!動くななのです!
そこから一歩でも動いてみなさいっ!
この『ふらわ〜戦車』の88ミリ砲弾が!
二キロ先の民家を木っ端微塵に消し飛ばす絶大な威力でっ!
貴女たちの身体をバラバラに引き裂くであります!」
「だ〜か〜ら〜〜っ!
さっきからずっと動いてないでしょ!何度も何度もしつこいのよ人間!」
「…まあまあまあまあまあまあ、待てチルノよォ。
向こうさんだって何も俺らに嫌がらせしたくて、こんな里の外で待ちぼうけさせてるわけじゃあねーんだ。
イロイロあんのさ、人間の『組織』ってヤツにゃあよォ……」
カッとなり怒鳴り返すチルノを、馬上のホル・ホースは眼光鋭く相手を注視しつつたしなめる。
二人は現在、人里の門の手前50メートル付近、バリケードがそこかしこに設置された検問にて、足止めを食っていた。

142【第二部】〜Saint Babel Run〜第六話:2014/05/31(土) 21:18:59 ID:ueFU1mxw0

事の発端は、こうだ。
vsミスティア戦の後、二人は『霧の湖』の住処に戻り、しばしの休息と状況の整理、情報収集を行っていた。
ミスティアの所属する【敵】は、規模も目的も未知数。
さらに【遺体】の存在を知っていたこと、刺客をミスティアとリグルの二段構えで放ち、こちらの様子を伺ったことを踏まえても、明らかに只事ではない。
【敵】に先を越される前に【遺体】の回収を急ぎ、あえて派手に動いておびき寄せ尻尾を掴む、その選択肢もあった。
しかし、元来の慎重(臆病とも言う)なホル・ホースの性質、【幻想郷】という未知のフィールド環境、数多の修羅場をくぐり抜けて来た経験が培った老獪さが、その『賭け』を拒んだ結果だった。
そんな時である。
チルノが高揚した面持ちで【紅魔館】の廃棄した新聞を持ち帰って来たのは。

“新たな【スタンド使い】現る ーーー二人組の『外来人』 その能力は『治療』と『修理』”ーーーーーー
興奮を抑えられない様子でチルノが突き付けた、大きく踊るその見出し。
その日のホル・ホースの方針が、決定された瞬間だった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「これは警告なのです!
その場を一歩も動くな、なのです!
さもなくば貴様らは、我が愛機『ふらわ〜戦車』の!
たとえ火の中水の中、森や山であろうともっ!
あらゆる地形を薙ぎ倒し踏破する、この無限軌道のシミと消えることになるでありますっ!」
「だあぁ〜〜っ!うっさいわねこのバカっ!
いったいどれだけ待たせるつもりなのよ
早くあたいたちを通しなさい!それか口にチャックなさい!」
というわけで、現在二人は自警団の入里許可が下りるまで、検問にて待機させられているのだ。
「チルノよォ、このくらいの待機時間なら、マダマダ全然マシだぜ。
俺が中東のとある国から出国しようとした時は、報道スパイの嫌疑で三日間軟禁されて取り調べを受けたモンだ。
最終的には処刑が決定したモンで、隙を突いて【皇帝(エンペラー)】で全滅させて無理矢理突破した…
アン時は流石に寿命が縮んだぜ…」
「はあ 三日間っ
そいつら絶対大バカでしょ!」
『仕事』の件もあり、待つことには慣れているホル・ホース。
実のところ、彼はこのような事態に陥ることを予測していたし、また、その対策も十分に用意してきていた。
退屈だと駄々をこねるチルノを紛らわせるため、巧みな話術と稀有な経験を活かし、彼のスリルに富んだ、少しだけフィクションを織り交ぜた思い出話を彼女に語って聞かせる、その予定だった。
チルノの住処の外、星空の下で焚き火を囲みながら、寝床に就くまでの刻を大妖精も交えて語らって過ごした夜は、これまでも幾度となくあったのだ。
彼の話す刺激的な物語は二人の冒険心をくすぐり、若き日の剽軽な出来事、息を呑む絶体絶命の修羅場をハッとするような機転で切り抜けるパズルめいた面白さで以って、飽きさせない面白さがあると自信たっぷりだったし、実際これまでもその通りだった。
彼の想定を超えていたのは、そこに頻繁に水を差す輩がいたことだ。
赤みがかった茶髪を二本のおさげにし、赤いマントを羽織った少女。
巨大な陰陽マークを象った戦車に乗り込み、意気揚々とこちらに主砲を向け、警告とは名ばかりの愛車自慢を繰り返している。
拡声器でがなり立てる彼女の『警告』は数十秒に一度の頻度で、チルノの神経を逆撫でするのだった。

143【第二部】〜Saint Babel Run〜第六話:2014/05/31(土) 21:19:38 ID:ueFU1mxw0
「(ーーーーーチルノにはああ言ったが…
『嫌がらせ』の意図も含んでやがるんだろーなァ…この『お喋り』にはよぉ…)」
それは恐らく、ホル・ホースとチルノ、二人が余計なヒソヒソ話で妙な考えを交わさせないため。
そして、この程度の挑発にも激昂しない、最低限の気の長さを持ち合わせているか確認するため。
「(ーーーーー今、『人里』は【幻想郷】最大の火薬庫だ…
『外来人』への不信、妖怪の連続殺人事件による人間と妖怪間の不和……
何よりも……、そんな状況にも関わらず隔離も許されねえ、力のバランスも全く釣り合っちゃいねェ…
一匹、たった一匹でもならず者妖怪が暴れたら、そんだけで退治屋が駆けつけるまで成す術もねェ……
イヤでも『牧場の羊』を想起させやがる、【幻想郷】の縮図じみた環境…!
不信が不信を呼ぶ悪循環も無理ねェよ、同じ人間同士ですらこんな状態なら即殺し合いだぜ…!)」
ホル・ホースの喉が鳴る。
脳裏にちらつく、『仕事』のため訪れた数々の紛争地での記憶。
乾燥、疫病、飢え、蝿、死体。
大人が子供を調教し、子供が子供を嬲り殺す、この世の地獄の特大パノラマ。
ヘマをやらかせば、自分自身がその火種になるやも知れぬという緊迫感。
それを押し切ってまでこの場に姿を晒しているのは、『二人組のスタンド使い』とやらが、里の面々に好意的に受け入れられている“らしい”、という新聞の記述に望みを託したからに他ならない。

と、その時である。
銃剣付きのライフルを握り、しかし銃口を空に向け引き金に指は掛けず、戦車の少女と共に二人をバリケードの後ろから遠巻きに監視していた自警団員らの間に、明らかにざわつきが拡がった。
「ッ…!
なあ、チルノ…いよいよ『責任者様』のお出ましだぜ。
事前に確認したこと、覚えてるな?」
「ーーーーー!
…分かってるわよ、【スタンド】のことは秘密。『弾幕』もホル・ホースが良いって言うまで撃たない…でしょ?」
「ああ…ゼッテェ破らねーよう、気ィ付けてくれよ。」
互いに顔は合わさず、呟くようにトーンを落とした声で、最後の確認を交わす。
二人の注視する先、整列した自警団員の列の奥。
『責任者様』が姿を現した。
「……!」
何より二人の目を引いたのは、『責任者様』の乗り物だった。
ふわふわと浮遊する雲に乗って移動する、足まで届く赤髪の、如何にも日本的な着物を纏った少女。
彼女は漂うようにのんびりと、二人のもとへと接近してくる。
「「ーーーーーーーーーーーーーーー」」
ゴクン、チルノの唾を呑む音が、隣のホル・ホースの耳に届いた。
無言で見守る二人の手前、少女は三メートルの所まで近付くと、動きを止めーーーーー

144【第二部】〜Saint Babel Run〜第六話:2014/05/31(土) 21:20:11 ID:ueFU1mxw0
「ハッロ〜〜〜♪」
いきなり陽気な笑顔で手を振り、朗らかにそう告げた。
「……
ーーーーー…あ〜…ゴホン、…こんにちは」
不意を突かれたが、挨拶は大事である。『古事記』にもそう書かれてあるらしい。
ややぎこちない滑り出しであったが、ホル・ホースも笑顔で応えた。
が、
「里香ちゃ〜ん!もしかして、もう『自己紹介タイム』って終わってたりするのかしら〜?」
少女は、既にホル・ホースを見ていなかった。
「…… 」
後方を振り返り、戦車の少女に呼び掛ける彼女の後ろ姿に、ホル・ホースはあっけに取られた表情を向ける。
「いっ、いえっ!交わした会話は最低限の『警告』のみであります!
それ以上の不用意な接触は規約違反なのです!」
戦車少女の返答に、雲少女は顔を綻ばせる。
「あら、まだだったの〜?
よかった〜!みんな自己紹介し終わって、私だけ後からなんて寂しいかな〜って心配してたのよ♪
え〜、ケホンケホン……
それじゃあさっそく!自己紹介タ〜イム♪」
咳払いの後、戦車少女からホル・ホース達に顔を向け、満面の笑みを浮かべると、
「里香、まずは貴女からっ♪」
彼女の視線は奇異の目を向ける二人を素通りして、そのままクルンと一回転し、戦車少女に向けて“ジャジャーン!”とばかりに両手を差し出した。
「えええ わ、私が先でありますかっ
こ、こういうのは上官が先と相場が決まって……」
「上官命令よ、じょ・う・か・ん・め・い・れ・い♪
イヤなら良いわよ、逮捕拘束のあと更迭してやるんだから♪
今までだって、河童の集落から部品の密輸してるの見逃してあげてるんだしーーーーー」
「わ〜わ〜わ〜っ ちょちょちょ、止めてくださいなのです
分かった!分かったでありますからっ!」
戦車少女は慌てて要求を呑み、ホル・ホースらに向き直る。
「…え〜、こほん…
自警団技術隊副長、里香(りか)なのです!
特技は戦車の扱いと『おばけ』の精製であります!」
咳払いの後、戦車少女ーー里香は、そう名乗った。
「はいは〜い♪次わたしわたし!」
雲少女が右手をブンブン振り注目を集め、
「私は小兎姫(ことひめ)、自警団機動隊長!
ねえ、貴方!貴方の地域では、“月には女の横顔が映る”って言うんでしょ?」
挨拶もそこそこに、雲少女ーー小兎姫は身を乗り出して目を輝かせ、いきなりそんな質問を飛ばして来た。
「ン、あ、ああ…?
確かに、ヨーロッパでは月の模様を女の横顔に例えたりするなァ…
日本では兎が薬だか餅だかをついてるっツー風に云われてるらしいが…」
調子を狂わされっぱなしのホル・ホースは、咄嗟に返事をするのだが、
「ちっが〜う!!違う違う違うのよぉっ♪」
小兎姫の顔が目と鼻の先に迫り、絶句した。
「ッ 」
フッーーーーー、と、何の予備動作も無く、気付いた時には彼女は身を乗り出して、彼の眼前に肉迫していた。
彼は油断などしていない。
十全に警戒を払っていたし、【マンハッタン・トランスファー】で常時遠方の自警団員一人一人の挙動に至るまで余さずチェックしていたのだ。
にも関わらず
まるで意識の隙間を縫うように
「(ーーーーー何モンだ……ッ…この嬢ちゃん…ッ )」
ホル・ホースの驚愕を他所に、小兎姫は目をキラキラと輝かせて、熱愛するアイドルグループにお熱な少女よろしく熱っぽく熱弁を振るう。

145【第二部】〜Saint Babel Run〜第六話:2014/05/31(土) 21:20:46 ID:ueFU1mxw0
「【月】にはね、兎がいるの!私知ってるのよ!
みんなすっごく可愛いの!
ほんとに可愛い兎がいっぱいっ!
薬を挽いたりお餅をついたり、とっても働き者さんなのよ!
【月】にも女はたくさん居たけど、そっちに目が行っちゃうなんてセンスが無粋!英語で言うとナンセンス!
女なんて地上にもたくさん居るじゃない!
兎は別!と〜〜〜〜っくべつなのっ!
【月】の兎は最っっ高よっ!
ねっ?貴方も分かるでしょ?」
ここにきて、チルノもホル・ホースも言葉でなく心で理解した。
“ーーーーーこの娘、手に負えない。負えっこない。ーーーーー”
現に、自警団員も里香も小兎姫の後方から“また始まったよ…”と言わんばかりのどんより曇った視線を投げ掛けている。
と、小兎姫の視線がホル・ホースの脚に降りた。
「ーーーーーあら、貴方…
『脚』、動かないの?」
「ッ 」
“何故分かった”、そう問い返そうとしたが、小兎姫は口を挟む暇も与えず、立て板に水を流すようにしゃべくった。
「人間の『筋肉』は信用できないわ。
皮膚が『風』にさらされる時、筋肉はストレスを感じて、微妙な伸縮を繰りかえす…
それは肉体ではコントロールできない動き。
特に、『骨』でささえられていない時…骨が地面の確かさを見失い、足腰が地面と乖離している時には、ね♪
でも、貴方の『脚』は違う!
鐙には乗せているけど、ただそれだけ。
踏み締めてない、全く『安心』していない、なのに1ミリも動かない!
だからきっと、貴方の『脚』は『死体』なのよ!」
全くの無遠慮、無礼、無配慮。
「〜〜〜〜っ
アンタはーーーーーッ!」
ホル・ホースの隣のチルノが、カッとなり喰いつく。
「チルノ、大丈夫だ…“気にするな”」
ホル・ホースが、手で制した。
「っーーーーー
…………へんっ!イ〜〜っだ!」
“気にしてねぇよ”ではなく、“気にするな”
その言葉で彼の心情を察したチルノは、辛うじて激昂を抑え込み、腹いせに小兎姫に向けて歯を剥いて威嚇した。
「ーーーーー嬢ちゃん、感心したぜ。とんでもなく鋭い観察眼だ…
流石、自警団機動隊長と言ったトコか…恐れ入ったよ
…ツーことは、俺らの『目的』が何かまで、とっくに察しはついてんだよなァ?」
穏やかな笑顔を小兎姫に向け、問う。
にっこりと笑って、小兎姫は答えた。
「里の『外来人ペア』に、『脚』を治してもらいに来たんでしょ?
この後遺症は、永琳でも治せないもの♪」
「やっぱお見通しだったか、話が早くて助かるぜ。」
にこやかに微笑を浮かべるホル・ホース。
「それじゃあ、あの二人の所に案内するわよ〜♪」
小兎姫はクルリと背を向けて、
「えーっと……貴方たち、名前は何だっけ?
ごめんなさいね、私、人の名前を覚えるの苦手なの♪」
顔だけ此方に戻し、全く悪びれない微笑みでそう問うた。
「……御心配無く、まだ、名乗ってねぇからな…俺たちはよォ……」
頭痛を覚えてきたホル・ホースはテンガロンハットの鍔を下ろし、疲労の溜息を押し殺す。
「あら、そうだったの♪
貴方たちの自己紹介、し終わってなかったのね!良かった〜♪」
二人は明らかに疲れの見える様子で、簡潔に名乗った。
「…ホル・ホース、見てのとおり『外来人』だ。」
「ーーーーチルノ、最強の妖精よ。」
里に入る前の時点でこれである。先が思いやられる展開だ。
「そう、よろしくねお二人さん♪」
二人の自己紹介に満足した小兎姫は、
「ーーーーーところで……
あなたの『あんよ』は、『天国』に行けたのかな?」
おもむろにホル・ホースの『脚』へと手を伸ばし、撫でた。
「「え?」」
ホル・ホース、チルノは、同時に疑問符をふんだんに散りばめた声を上げる。
唖然とする二人の前で、
「こほんこほん…、では、僭越ながら〜…
貴方の『あんよ』の“御冥福”を祈って〜……」
小兎姫は可愛いらしい咳払いの後、厳かに朗々と読み上げると、

ブワァッーーーーー!

両腕をクロスさせ、両足をグッと開き、跳躍するッ!
思わず“稲妻十字空烈刃(サンダークロススプリットアタック)”と叫びたくなるような、圧倒的なまでの攻守における完璧さッ!
目を見開く二人の眼前!空中に身を躍らせる小兎姫は両腕のクロスを強調させるように前のめりの体勢でーーーーー!
「『あ〜めんッッ 』」
両腕ででっかく“十字を切り”、小兎姫の叫びが里の近郊に木霊したーーーーー

146どくたあ☆ちょこら〜た:2014/05/31(土) 21:21:46 ID:ueFU1mxw0
投下終了です。
今回はリハビリも兼ねておりますので短めです。申し訳ございません。
決して今日買ったばかりの弾幕アマノジャクやりたいがためにキリの良いとこで切ったんじゃあないんです!信じて下さい何でもしますから!

147セレナード:2014/05/31(土) 21:27:49 ID:yRRH/aTQ0
……ん?今何でもすると……言ったな?

まあそんなことはおいといて……。

旧作は私には馴染みがないですが、ふらわ〜戦車、名前に反して凄いスペックですね。
そして最後のシーン……いったい何が起きる!?

治療と修理……一人は想像がつきましたが、もう一体は……波紋使い?
そして文章の一部に某忍者漫画ネタが。あの作品、なんか人気が上昇していますねぇ。

148塩の杭:2014/05/31(土) 22:44:20 ID:T25gU8KU0
ん?今…何でもすると申したか。

…開幕早々「動くななのです!」に萌えました。しかもアハトアハト、大好きだ!
旧作メンバーは神綺や魅魔様くらいしか見ませんから、少し新鮮な気持ちになりますね。

今回は短めながらいつものようにガッッツリ読んだ気がするのはやはりどくたあの才能か…

149Saiba066:2014/06/01(日) 10:08:08 ID:7x8Q7aEI0
最近ネタが切れて欠けてませんでした、
久しぶりに投稿です。ネタ切れのせいで短いです

150Saiba066:2014/06/01(日) 10:08:48 ID:7x8Q7aEI0
〜人里 寺子屋〜

吉良「さてと、全員集まった所で会議をしたいと思う」
吉良以外「…」
吉良「DIOとヴァレンタインは紅魔館へ戻れ」
吉良「ディエゴ、お前は守矢神社だな」
ディエゴ「え、ちょまってなんで俺があんな痴女どm」
吉良「当身」ビシッ
ディエゴ「…」キゼツ
吉良「さて、それじゃあつづけるぞ」
吉良「カーズは白玉楼だな」
カーズ「うむ」
プッチ「あ、ちょっといいか?」
吉良「何だ?プッチ」
プッチ「言い忘れていたが数日前に慧音にここで神の教えを教えてほしいとのこと、矢守とかの神ではふざけて話にならないらしく私が真面目そうだからとの事らしい」
吉良「そうか、じゃあプッチは人里に残れ」
吉良「ディアボロは・・・」
ディアボロ「俺は?」
吉良「旧都で勇儀と遊んでもらえ」
ボス「」

今日のボス「旧都に逝けってことがショックで死亡

151Saiba066:2014/06/01(日) 10:09:48 ID:7x8Q7aEI0
吉良「あとは…」
吉良「私だけか」
慧音「住む場所が無いなら別にここにいていいぞ」ガラッ
吉良「良いのか?迷惑になるだろう」
慧音「二人程度なら大丈夫だ。もしかしたら私ができない教科が吉良は出来るかもしれないし」
吉良「それじゃあ…お邪魔するかな」
吉良「じゃあみんな、これでいいか?」
一同「了解だ」
吉良「それでは…」
吉良「解 散 !」

そのあと〜皆は指定された場所に還っていくのであった…

152Saiba066:2014/06/01(日) 10:11:34 ID:7x8Q7aEI0
〜紅魔館〜

DIO「やっぱここ落ち着くな」
ヴァレンタイン「私にとっちゃ血なまぐさいだけだけどな」
レミリア「吸血鬼は血の臭いだと落ち着くんじゃない?」パタパタ
フラン「あたしは別にどっちでもいいけどね〜」グデー
咲夜「それではDIO様、血の紅茶はいかがですか?」
DIO「血の紅茶って紅茶じゃなくね?」
パチュリー「どうでも良いじゃないあと図書館で寝っころが無いでよ…」

〜白玉桜〜

カーズ「やはり剣裁きが遅いな」
妖夢「スイマセン…」
カーズ「だが打ち込みは良い」
妖夢「ほんとですか!?」
カーズ「刀を自分の肉体にするという感じに剣をふるうのだ」
妖夢「…刀を…肉体に…」
幽々子「やってるわね〜」トコトコ
カーズ「幽々子か…(美しい…)」
妖夢「あ、幽々子様」
幽々子「妖夢〜お腹すいた〜」ギュルルルル
妖夢「さっき食べたばっかりじゃないですか…」
幽々子「タコが食べたいわ〜タコ〜」
カーズ「…タコ」(腕がタコに)
妖夢「うわぁ!カーズさんそんなことまで出来るんですか!?」
カーズ「これでも究極生命体だ(キリッ」
 
〜守矢神社ァ〜

ディエゴ「WRYYYYYY!!!お前らいい加減にしろッ!」プッツン
神奈子「良いじゃないかいディエゴ〜さびしかったぜ?」スリスリ
ディエゴ「離れろ!離れろ!」ジタバタジタバタ
諏訪子「いいじゃん別にィ〜」スリスリ
ディエゴ「離れろロリババァ!」ゲシゲシ
早苗「(…神奈子さまってこんなキャラだっけ)

〜旧都ォ〜

勇儀「おらディアボロ酒もってこい!」
ディアボロ「何で私がこんな目に…」トボトボ

〜人里ォ〜
プッチ「男臭いのは嫌だな」
吉良「本当に臭かったな」
慧音「やっぱり二人だとやりやすいな」

そのあと彼らがあのとうなことをするとは幻想郷の全てが思いもつかなかった…

153Saiba066:2014/06/01(日) 10:13:11 ID:7x8Q7aEI0
ネタ切れで3レスしか描けませんでした。すんません。
つい最近まで幻想郷に取材言ってきてネタを取り込んできたのに…
…また投稿するのは遅くなると思います、スイマセン

154まるく:2014/06/03(火) 16:23:43 ID:rKYG9luM0
お二人方投稿お疲れ様です。
色々ありますからね。量じゃないですよ!

>ちょこら〜たさん
今なんでもするって言ったよね?
旧作のキャラでも、しっかり存在感が出てるのがいいですね。実機はもうほとんどないから十六夜ネットとかのそれでしか雰囲気掴めませんから。
里香の腐ってもEXボス感が。小兎姫はまあ一応警察というか…という変人ですからね。当時はそれが流行であったからもありますけど、ずいぶんトンデモなキャラが多かったなと、思います。
しかし警察特有の観察眼はしっかりあるようで。割合恐ろしい実力者みたいですからね。データ的にも。
描写されていなかったホルホースとチルノ、大妖精の仲も書かれていてよかったです。それ故に三人は絆が生まれて今二人が必死になっている、というのが改めて見えて。
スタンド使い…治療と修理。予告の方では治療っぽい仗助が出ていましたけど、相方の方がとんと。FF?それともまた別のキャラが出てくるのか。
次回ですね!アマノジャクにとらわれないように。

>Saiba066さん
久しぶりでも、小さく書いていくことが重要ですんで!忘れない程度に投稿すればよいと思いまうよ。。
各所に分かれてどうなるか。ゆっくりネタでも出しながら幻想郷ライフを。

155どくたあ☆ちょこら〜た:2014/06/04(水) 15:52:55 ID:LLik8pu.0
皆さん淫夢知り過ぎィ!

>セレナードさん
旧作はプレイできないのが普通ですからね。私も十六夜ネット頼りです(汗
『ふらわ〜戦車』のスペックに関しては適当ですw 明らかに魔法か何かの動力や原理を組み込んでますし、大丈夫大丈夫ヘーキヘーキ

しかし なにもおきなかった!(パルプンテ)
西洋の『十字を切る』風習を小兎姫なりにエキセントリック解釈した結果がこれだよ!

すいませェん…『治療』と『修理』両方とも仗助のことなんです
あとで訂正しておきます

「慈悲は無い」
アニメ化するらしいので、楽しみにしております!

>塩の杭さん
語尾特殊キャラは台詞を書くのにかなり苦労しますので、楽しんでもらえたなら嬉しいかぎりです!
「戦車兵の操るティーゲルのアハトアハトが敵戦車を撃破するのが好きだ!」
旧作キャラはあまり二次創作では登場しない分、稀少価値的にもワクワク感を増してくれるので好きです

たぶん長ったらしくて理屈っぽい文章が多くて疲れるからだと思いますけど(名推理)

>Saibaさん
ネタはあるけどモチベが湧かないならともかく、ネタが切れているのでしたら無理に書く必要は無いかと思いますよ。義務じゃあないんですからね。
果報は寝て待て、暫く待っていれば良いネタと巡り合えるチャンスがやって来る筈です!

>まるくさん
里香は唯一の人間のEXボスですからね!
旧作や能力詳細の無いキャラは、勝手に『〜程度の能力』を設定しております。実は小兎姫はこの話の中でも既に『程度の能力』を使いまくっているんですね。
小兎姫には非常に強力な重要キャラとして、今後も状況をガンガン掻き回してもらいますw
変人キャラの観察眼の精度は異常

そういえば殆ど描写していなかった…と、言われて初めて気付きました(焦
動機という一番重要な部分を疎かにするのはヤバい…今後は描写するよう意識します
セレナードさんにも申し上げましたが、『修理』も仗助のことです。もう一人のスタンド使いは億泰。
wikiに転載する時に『治療』と『加工』に修正致します。

156名無しさん:2014/06/18(水) 23:08:12 ID:q2xMfwyY0
東方荒木荘面白いです。「サイバー」って読むのでしょうか···?
これからも執筆頑張ってください。応援してます!

157セレナード:2014/06/19(木) 21:29:57 ID:qQ3hNGVE0
みなさん、長らくお待たせしました。
東方魔蓮記最新話、投稿を行います!

158セレナード:2014/06/19(木) 21:31:09 ID:qQ3hNGVE0
ディアボロはスカイダイビングのように、俯(うつぶ)せの体勢を取りながら落下し始めた。
スタープラチナもディアボロと同じ体勢だが、マミゾウを掴んでいる右手を放そうとはしていない。
そしてスタープラチナに掴まれているマミゾウは、ディアボロと反対の方向を向かされた状態でスタープラチナと一緒に落下させられている。
どうやら、このまま落下してマミゾウを地面に叩きつけるつもりのようだ。
抱きかかえるような感じで落ちていてはダメージをあまり与えられないせいか、スタープラチナも右手にマミゾウを掴みながらスカイダイビングの降下時のような感じで落ちている。

「……?」
落下の最中、突然右手から何かを掴む感触が無くなったことに気づいたディアボロは、スタープラチナにマミゾウを掴んでいるはずスタープラチナ自身の右手を確認させる。
……だがそこにマミゾウの姿はなかった。
「お主、儂をちと甘く見過ぎじゃ」
聞き覚えのある声を聞いて上を見上げると、いつの間にかマミゾウが浮遊した状態でディアボロを見下ろしている。
「なッ……!?」
自身もスタープラチナもマミゾウを見ていなかっただけに、ディアボロは驚きを禁じ得なかった。
だが事前にマミゾウの記憶を見ていたことが幸いして、すぐにディアボロは一つの憶測を建てることができた。
「(見ていなかった隙に変化したか!)」
何に変化したのかは見ていなかったためにわからない。
自身を掴んでいたスタープラチナの手をすり抜けたことから、何か細長い物に変化したのかもしれない。
ディアボロが驚いたのを見て、マミゾウは『してやったり』と言わんばかりの表情見せたが今はどうでもいい。
落下しているのが自分とスタンドだけになってしまっている以上、早急に落下に備えなければならない。
さらに、ディアボロはマミゾウが背後から弾幕を撃ってきたのをスタープラチナで視認した。
スタープラチナに背中を守らせると同時に氷柱を自分の真下に高く作り、接地している部分を地面ごと凍らせて固定させる。
そのまま自身をスタープラチナに掴ませながら少しずつ降りていき……。

バランスを崩さないようにして、何とか氷柱に着地することができた。
このまま柱から冷気が離れていくのをホルス神で抑えていれば、解けかけた氷柱で滑るなんて事態は避けられるだろう。
「……やれやれだ。考えが『甘かった』か」
一難を乗り越えたディアボロは、そう呟いた。
第4部の承太郎を再現した今の服装は、コートは袖以外は白。ズボンも白。帽子も巻きと帯、エッジの部分は金色で、それ以外は白。
帽子にはサイドクラウンに錨のようなアクセサリが3つと、四角形の中心に左手の型が隆起したような形のアクセサリが一つ。
ここから次の行動に移るには特に支障はないだろうが、空模様とは全然違う色が大部分を占める服装をしているために目立っている。
……隠れてコソコソ攻撃するつもりは本人にはないので目立つかどうかは関係ないのだが。

そして、彼女にとって有利な状況でありながら、マミゾウは弾幕を撃つのを止めて様子を伺っている。
それはまるで、ディアボロがこの状況をどう乗り越えるのか楽しみにしているように。

スタープラチナのおかげでマミゾウが何もしてこないのを理解しているディアボロは、地上に下りる為に服の後ろ端部分を形成している肉を操って氷柱にしっかりと巻きつけ、自身は転がって落下する。
そうすると、まきついている肉と服が繋がっているために落下せず途中で止まることになる。
そして氷柱に足をかけ、スタープラチナも使ってマミゾウの様子を伺う。
ロープ1本(実際はコートを構成していた肉だが)で降下、そして空中には弾幕を張れる存在……。
まるでどこかの映像作品やゲームに出てきそうなアクションシーンのようである。
スタープラチナに抱えさせて下りてもいいが、そうすると接近されたときにまともな対応手段が持てないし、接近されなくても弾幕への防御手段が一気に乏しくなる。

159東方魔蓮記第四十五話:2014/06/19(木) 21:33:37 ID:qQ3hNGVE0
おっと、名前を変えるのをしていなかった。
それでは、2行下から再開です。



ディアボロはその状態で地面の方に方向転換すると、氷柱を蹴る。
その衝撃によって彼の体は宙に浮き、もう一度重力に従って落下を開始する。
そして、肉塊の端が氷柱に巻きつけられていたことにより、弾幕を受けたことにより形が崩れつつある学生服型の肉塊は紐解かれるように形を崩していく。
背広から形は崩れていき、それでもなお彼は何度か氷柱を蹴りながら落下を続けていく。
時々弾幕をスタープラチナが防げず、衝撃がディアボロにも伝達するが、それには耐えるしかない。
マミゾウの方も彼に弾幕が届かないことに疑問を抱いたのか、弾幕を撃ったまま右側に移動してきた。
ディアボロもそれをスタープラチナの視界を通して視認し、スタープラチナをマミゾウから直線上の位置に移動させる。
現在、氷柱の半分ほどの大きさを駆け降り、同時に学生服もほとんどなくなりつつある。
解れていく肉を細くすれば学生服が無くなるより先に地上にたどりけるかもしれないが、彼の体重か弾幕で肉が切れる可能性も上がってくる。
だからといってこのままでは、氷柱を降り切るより先に学生服が無くなる。
だが、マミゾウが早々にスタープラチナの手をすり抜けて離れてしまったことによって手が空いたため、いざというときはキャッチさせることもできる。
弾幕が直撃するのは覚悟の上で、だが。
「逃げ続けては儂には勝てんぞ」
「生憎、飛び道具の打合いでは俺に勝ち目がないんでな」
マミゾウの発言を半ばどうでもいいように返しながら降下を続けるが、そろそろ糸の量が限界に近くなってきた。
このまま両袖の形が崩れてしまうと、肉体に纏わせた肉を使うか、ロープとして使えなくなるかのどちらかになる。
そこで、ディアボロがとった行動は……

スタープラチナの防御態勢を解いてディアボロを掴ませ、それと同時に弾幕を防げるように氷の壁を氷柱とつながる様に出現させる。
糸肉が氷壁に押し出されるが、その勢いでちぎれる心配は無用だ。
そして、この氷壁をだした彼の本当の目的は防御ではなく、マミゾウの視界からディアボロを消し去るのが目的だった。
例え大量の弾幕によって想定よりも早く氷の壁が壊されようが構わない。一瞬でも視界から消えれば、それで十分だ。

160東方魔蓮記第四十五話:2014/06/19(木) 21:35:24 ID:qQ3hNGVE0
……あれ、訂正したはずなのに直っていない。
『学生服』は『コート』に脳内変換していただけるとありがたいです。

スタープラチナを誘導して氷壁の陰に移動したことで、マミゾウの視界からディアボロの姿が消えた直後、時間が止まった。
この間は、時の流れに干渉できるもの以外は例え何をされようとも時が止まっていたことに気づくことはない。
それを利用し、時が止まっている間に自身をスタープラチナに地上まで下ろさせる。
その間に再び時が動き出し、それから間もなく氷の壁にヒビが入り、広がって氷の壁の全体を侵食して砕ける。
あくまでマミゾウの視界に入らなくなる程度の厚さしかないため、耐久性なんてまったく気にしていない。
氷の壁の向こうにディアボロがいないことに気づいたマミゾウは、ディアボロが降下するときに利用していた糸肉がいつの間にかかなり伸びていることに気づき、下の方を見る。
そして、いつの間にか相手が地上にいることに気づき、マミゾウも地上に下りる。
ディアボロの姿は糸肉を使い果たし、コートが無くなっていた状態だったが、それ以外に特に変化は見当たらない。
「……お主、ひょっとして儂らと同じ妖怪ではないのか?」
「違うな。俺は人間だ」
ディアボロの能力の多彩さに、とうとう『人間であるかどうか』すら疑われるようになってしまった。
今まではDISCを変えるところを相手が見ていたためにまだ人間として扱われていた(かもしれない)のだが、この戦いでは一度もDISCを変えていない。
だからこそ、複数の特殊な力を使っている彼を人間として見ることができなかったのだろう。
「そう言われても……」
マミゾウはそう言って氷柱を見る。
ホルス神の能力によってつくられた10mを超えている氷柱は、冷気を風に流されるままに散らしていく。
「あんなものや沢山の氷の槍を作り、コートを操って槍と一緒に飛んできたりロープ代わりにして下りる場面を見せられては到底信じられぬ」
そう言ってディアボロの方を再び向いたマミゾウは、疑惑の目を再びディアボロに向ける。
「それに、氷で弾幕を防いだと思ったら何時の間にかお主は地上にいるときた」
闘いを見ていた狸たちは何の反応もしない。ただマミゾウの話を聞いているだけである。
もしかすると、マミゾウは薄々何か感づいているのだろうか。
「………」
ディアボロはマミゾウの話を聞きながらエアロスミスのレーダーをチェックする。
このタイミングでも、反応の数に変化はない。
「氷を操り、コートを操り、自らの速さを操り、儂や自分を触れずに掴むことができながら、それらの能力に何一つ共通点を見出せぬ」

パチュリーの場合は『精霊魔法の系統』という共通点がある。
萃香の場合は『密と疎を操っている』という共通点がある。

マミゾウの推理は外れている。
彼の能力には、『特殊な道具(DISC)』を使用しているという共通点がある。
だが彼女との戦闘では一度もDISCを取り出しておらず、装備しているDISCの能力には何も共通点を思わせるようなところはなかった。
ただそれだけのことである。

161東方魔蓮記第四十五話:2014/06/19(木) 21:36:48 ID:qQ3hNGVE0
「まさに多芸。じゃが無芸ではない。己の能力を把握してうまく使いこなしておる」
そう言ってマミゾウは笑みを浮かべると
「そして、もしやとは思うが……儂が見ているその姿さえ本当の姿ではなかったりするのかのう」
ディアボロが姿を変えていることを言い当てて見せた。
「……何故そう思う?」
「あの『糸』じゃ」
マミゾウはディアボロの質問に答え、さらに話を続ける。
「外界の技術を用いても、『服の素材として』使われていながらお主の『体重を支えきれるほどの強度を持つ糸』など聞いたことはない」
「故にあの糸は、何かの能力で作られた糸の役割をしている全く別の何かではないのかと思ってのう」
「何かしらの術で強度を強めたとは考えないのか?」
マミゾウの考えを聞いたディアボロは、彼女に一つ質問をする。
「空を普通に飛べぬお主に、そのような術が使えるとは思えんのう。他の能力を使ってこないところからして、お主の能力はあの4つだけのようじゃな」

博麗の巫女である霊夢は自身の能力によって空を飛ぶが、巫女の力を有している。
普通の魔法使い(或は黒魔術師)と称される魔理沙は魔法によって空を飛び、魔法を使うことができる。
その他にも確認されているほぼ全ての人外の存在も、何かしらの方法で空を飛ぶことぐらい、簡単にできる。

だが彼はあの4つしか能力を使ってこない。他の能力を使った方が楽に乗り越えられるはずの状況でも、使ってくる様子も全くない。
故に、空を普通に飛ぶことがままならない彼が他に何かの術を使えるわけがないとマミゾウは考えたようだ。
「それにお主のコートは、袖の部分の色が異なっておった。ならばあのコートを形作っていた物は、色を変えられると見るのが自然じゃ」
「そのような物をもしもお主が全身に纏うことができたのなら、お主は姿形を変えることができる。というわけぞい」
「………」
ディアボロは何も言わなかった。
何のヒントも教えなかったのに、彼のとった行動から(可能性の一つとして挙げたとはいえ)マミゾウは彼が姿を変えていることを見抜いてしまったのである。
「よく頭が回るものだな。そこまでたどり着かれたら、いくら言い訳をしてもお前は追及をやめないだろう」

ディアボロがそう言った直後、彼を覆っていたイエローテンパランスが膨張し、真っ二つに裂ける。
突然目の前の男の体が破裂ことにマミゾウも周りの狸も驚いた。

「ならばもう、この肉塊の内に身を隠す必要もないな」
内側より本来の姿を見せたディアボロはそう言って、イエローテンパランスとホルス神の能力を解除する。
すると黄色い肉塊も、氷柱に結ばれていた糸の役割をしていた肉も、『そこにあった』という痕跡を残すことなく消えてしまった。
氷柱は急速に冷気を散らし、イエローテンパランスの肉と同じように消えてしまった。

「……まさかお主が正体だったとはのう。儂らのような変化をしていたのなら見抜けたやもしれぬが、何やらよくわからぬ物に覆い隠されて姿や声を変えていたとは、予想もつかぬわい」
どうやらマミゾウ自身もこの化け方は初めて見たらしく、驚いたかのような反応をしている。
……が、どうやら変わった化け方を目撃したことが面白かったのか、その反応に反して口元は笑みを浮かべている。

マミゾウを含む妖獣は、尻尾の大きさがそのまま妖力の大きさを示している。
故に、妖力の大きい妖獣が化けた場合、その『妖力の大きさのせいで』尻尾が隠せないことが多い。
そうするに妖力が大きい者は化けさせる規模が大きくなるために(妖力の大きさを示している箇所だからなのかもしれないが)尻尾が隠せないことがある。
ちなみにマミゾウの尻尾はそこらへんの狸よりは大きく、自身の手足よりは確実に太い。

それと比べると、ディアボロが今回用いた化け方は『肉体を覆って正体を隠し、覆ったものの性質を利用して姿と声を変える』というものだった。
そのような道具はどこの昔話でも語られたことはなく、マジックアイテムでそのようなものを作ろうにも、恐らく声を完全に別人のものにすることはできないだろう。
しかし、自身より小さい者や非生物には化けることはできず、他のものをばけさせることもできない。
そのうえ化けている最中に衝撃を受けると形が崩れたりすることがあるという少々難儀なものである。
が、この能力は攻防一体の性質を持つために戦闘にそのまま転用できるし、隠しきれない箇所はないために挙動不審な行動を取りさえしなければ怪しまれることはほぼない。

162東方魔蓮記第四十五話:2014/06/19(木) 21:38:40 ID:qQ3hNGVE0
「いずれ気づかせる必要はあったが、大したヒントも与えずに姿を変えていることに気づくとは思わなかったな」
若干呆れ顔でディアボロはそう言う。
周りの狸はちょっと警戒しているらしく、ディアボロからかなり距離を取っている。
「なんじゃ、あの時会ったその場で正体を見せておけばよかったものを」
「それもできたが、お前の実力をこの目で見ておきたくてな」
そう言ってディアボロはイエローテンパランスのDISCを額から出す。
それを見た狸たちは今まで見たこともない光景に驚き、さらに距離を取る。
「……何度見ても額からそれが出たり入ったりする光景は異様じゃのう。更に出入りの痕も見当たらぬから不思議じゃ」
「他の奴らはあまり気にしていないように見えるが、心の中ではそう思われていたりするかも知れないな……」
ディアボロはマミゾウとそう言葉を交わしながらイエローテンパランスのDISCをケースに入れる。
ディアボロからだいぶ距離を取っていた狸たちも、マミゾウとディアボロが親しげに会話しているのを見て少しずつマミゾウの元に戻ってくる。
「ところで、お主の用事はこれで済んだのかい?」
「まだ済んではいない。……むしろこれからが本題だ」
ディアボロの少々柔らか目になっていた表情が再び真剣になる。
「俺はこれからあの聖人の元に偵察に行く」
「ほう……」
ディアボロの発言に、マミゾウが反応する。
まだ『情報が揃っておらず』、『敵になる可能性が高い』存在の元へ、自ら偵察に行くと言い出したのだから。

「だが、一人では難しいだろう。何せ相手は『聖人』だ。どんな力を持つのかわからない」
「……だから、お前の助けを借りたい」
マミゾウはディアボロに呼びかける。
妖力が大きい故に正体の発覚の可能性は他より高いが、『経験』も『知識』も『技術』も、他の狸を超えているのは確実であるからだ。
「儂がぬえに呼ばれたのは、妖怪のピンチだから助けてほしいと言われたからじゃ」
マミゾウはそう言ってディアボロに笑みを見せる。
「故に、お主が聖人達について探るというのなら、手を貸してやらねばならぬ。そうしなければ、儂がここに来た意味がないわい」
彼女がこの幻想郷に来たのは、ぬえに助けを求められたから。
ぬえが助けを求めたのは、『聖人』が復活したから。
そしてぬえの知り合いであるとある人間が、自身に『聖人が本当に妖怪にピンチを齎(もたら)すのかどうか探りたいから助けを借りたい』と自分に頼みに来た。

化かすのは化け狸の得意技。ならば、その力を使ってその人間が聖人の考えを探る手助けをしてあげるのは道理である。
それが聖人たちの思想について知るチャンスにもなるし、懐く思想によっては妖怪のピンチを『杞憂だった』という形で救うことにもなりうるのだから。

163東方魔蓮記第四十五話:2014/06/19(木) 21:39:18 ID:qQ3hNGVE0
「……ありがとう。お前が力を貸してくれるなら、俺も安心できる」
ディアボロはたった一言、感謝の言葉を述べた。
聖人達のもとに一人で潜入するのは、彼にとっても多少の不安はあったのかも知れない。
「……ならば、聖人たちのもとに向かう前に準備をするとしよう。お前は何が必要だ?」
「儂なら、化けさせればすぐに用意できるから大丈夫ぞい」
マミゾウは自分の姿だけでなく、他の物体も変化させることができる。
これが彼女のみにできることなのか、それともある程度の力を得た化け狸なら誰でもできるのかどうかは分からない。
だが、彼女に何か足りないものがあれば葉っぱ一枚拾ってすぐに化けさせればいいだけのことだ。
……が、流石に何らかの術の力を持つ道具に化けさせるのは無理だと思われる。
最も、目撃者はおらず、彼女自身もそれについては何も言っていないため真相は不明である。
「そうか。俺は……」
彼の頭の中にふと頭に浮かんだのは漫画の方の『ジョジョの奇妙な冒険』。
いざという時にあるスタンドを使うことを考えたのだが
「大丈夫だ。DISCの忘れ物はない」
その能力が能力だけに、使うのはやめることにした。
そのスタンドとヘビーウェザーは、今の彼がその二つのスタンドの内の一つ『のみ』をコントロールするためだけに精神力を集中しても、制御しきれるかどうかわからないからだ。
片や発動すれば決して薄まることがない毒ガスのような危険な能力で、もう片方は他のスタンドと違って『無意識』の領域に秘められた憎悪の力故に、本来の持ち主でさえ制御不能だからである。


「そうか、では一休みしてから行くことにするかのう」
「ああ。いくらなんでも戦闘直後の状態のまま聖人のもとに向かうのは危ないだろうからな」
マミゾウの提案にディアボロは同意し、その言葉通りまずは一休みすることにする。
妖力を少しでも回復したいマミゾウ。走り回ったりした故に筋肉を疲弊させたディアボロ。
お互い、念を押して一休みしたほうがいいだろう。


これから彼らは、一休みの後に聖人たちのもとに向かう。
『聖人たちは妖怪の敵になるのか』、この一点を徹底的に探るために。

この一点が、妖怪たちが反逆を仕掛けるか否かを決めるのだから。

164セレナード:2014/06/19(木) 21:42:26 ID:qQ3hNGVE0
投稿完了。多少のミスを発見できなかったのは失敗でしたが、無事に投稿ができて良かったです。

そして最近、1話分を書くのに時間を掛けすぎると段々おかしくなって行っているような気が……。
早めに書くか、おかしくならないように気を付けないと。

165どくたあ☆ちょこら〜た:2014/06/20(金) 09:47:15 ID:/DNVQlgs0
セレナードさん、投稿お疲れ様です。
vsマミゾウ戦はお互い傷を負うことなく無事終了。いよいよvs神霊廟編突入ですね!
何やら意味深な思考ががが…
あの【最弱】スタンドの登場フラグ?
あれは組織の瓦解、信用の失墜には最適な能力ですからね。どういった使い方をするのか…

166まるく:2014/06/23(月) 20:05:12 ID:yjo1Zxdk0
投稿お疲れ様です!

テンパランスは普通に強いスタンドだけど本体&悪役だからで倒されたいい例ですからね。
バンジー肉紐、ストーンフリーを思わせる使い方。

制御できないスタンド、軽い説明と概要から…何でしょう?パープルヘイズかな?と思ったけどあれ速攻で薄まるし。
うーん、やっぱりちょこら〜たさんの言うとおり、2個目の最弱スタンドなんでしょうか。
それにして、無意識の力は恐ろしいですね。よく考えればその二つ似ている性質だな、と。
こいしちゃんいずサバイバー。

マミゾウさんのしっぽはヘタすれば自分の胴より太いから…まあ、強力な妖獣ですしね。
確かに、妖怪とかでは何かを被って姿を変える、というのは少ないのかも。
次の作品も楽しみに待っています。

167中学三年生:2014/06/28(土) 21:32:52 ID:BHG1lvaQ0
話の流れをブッた斬りますが、チョコラーたん、最新話投稿お疲れ様です。旧作キャラか···興味が沸いてきたッ。





様々なネタが詰まった第二部の予告編をもう一度読み返しましたが···素晴らしい!すごいぃい!!何てッ言ッたッてあの聖白蓮が彼の有名な戦争s大好き人間の演説を···!もう爆死ぃうモノですよコイシィァ!

168名無しさん:2014/06/29(日) 11:46:13 ID:3FuTZtGQ0
落ち着けぇええぇ!

169まるく:2014/07/04(金) 00:17:03 ID:IS/fltSA0
うへぇ、月末と思ってたら色々重なって過ぎる…
明日の夜…今日の夜?くらいに投下します。
という自分を追い込んでいくスタイル。きっと終わるって…。

170まるく:2014/07/04(金) 20:15:00 ID:IS/fltSA0
遅くなりました。
自作の投下とさせていただきます。

171深紅の協奏曲 ―飛べよ、踊れよ、円舞曲と共に 1―:2014/07/04(金) 20:17:05 ID:IS/fltSA0
「冥界……ですか」
『そうだ。冥界に赴き、その主である西行寺幽々子とコンタクトを取れ。死後の世界、というと良い物ではないが、あの尼僧の言う通りならば幻想郷ではそれほど境の無い物と認識してもよいだろう』
「……僕が知っている冥府と東洋の宗教で謳われる死後の世界は違いがありますが、そこは幻想郷特有の世界、とでもいうのでしょうか。地の底と一般に言われるところへ、今天を目指して向かっているのですから」
『それについてはこちらも未知の状態だ。お前がその場で感じ取り、理解するのだ』
「了解しました」
『お前の手元にも電話があったようで助かったぞ。危うく、私自らがその地へ赴く必要ができてしまう所だったからな』
「そうですね。命蓮寺でも借り物でしたし、今使っている物も借り物。こちらにトランシーバーの様な、……ちょっと、男性が持つには不自然ですが、器具を所持していますのでそれを渡せればボスにも手間を取らせずに伝達が行えるのですが……」
『文明が中途半端な発達を遂げた世界だ、現状に存在しない物を嘆いてもしょうがあるまい。良くも悪くもここは異世界だ、新たな世界に順応しなければ生きることはできない。これはどこでも同じだろう』
「その通りでした。失言をお許しください」
『構わん。では任せたぞ、私のドッピオよ』
「了解しました。……ボス、最後に一つ、僕の戯言を聞いていただけないでしょうか?」
『…………なんだ?』
「最初に電話した時には今にも死んでしまいそうな、消え去ってしまいそうな……脆い炎の様な印象でした。でも、今のボスからは以前と同じ、威厳と力強さを感じられます。何があったかは聞きません。ただ、安心しました。それだけです」
『…………そうか、そうだな。あの時はあまりに唐突な出来事でさすがの私でも動転していた、とでも考えておけ。あまりの展開には人間隙が生まれる。前の下っ端のカスどもにギリギリまで追い詰められたように、
 我がスタンドでも読み切れぬ運命に気が持たなかった……それを弱さとして、私は受け止めた。ドッピオ、私たちはまだ成長する必要がある。それをここで私は認識したのだ。……以上だ』

 幻想郷の空を、一人の少年が行く。
 ドッピオはボスとの『電話』を行いながら冥界へ、空の彼方まで飛んでいた。

「すまなかったね、長く電話を使ってしまって」
「あ、あー……はい」

 そう言って、ドッピオは大きく咲いた花を妖精の一人に返す。
 受け取った妖精は、何事もなかったかのように花を電話と言って返すドッピオに対して戸惑いを隠せない。
 無理もない。急に一人の少年が雲を操り近づいてきたかと思えば、

『とぅるるるるるるるるるるん、るるるん。……ボスからの電話だ、取らせてもらってもいいかな』

 と、かなりドスを効かせた声と、有無を言わせない恐ろしい表情で話しかけてきたからだ。あまりに怪しく、恐怖を覚えるその行動に、何も言わずに渡してしまうのは精神の幼い妖精では無理も無い行動だった。
 花を手渡された妖精と、その取り巻きの妖精。不気味さからさっさと逃げ出そうとしている姿に、

「あー、電話ついでにすまないけど……冥界? っていうのはこの先でいいんだよね?」

 そう、ドッピオは確認の質問を尋ねる。
 元々指示通りに雲は動くため、ドッピオの知らぬ土地でも幻想郷の中、地名が定められているのなら問題なく向かえるのだが、一人での知らぬ土地、先には案内人もいない。
 そんな状態で向かうのは心もとないため、つい出た質問だった。

「え? うん、お屋敷はこの先ですよ?」
「白玉楼はこの雲越えたら、おっきいおっきい門があるから、それを越えればすぐだよ」
「そう、ありがとう。何にもお礼はないけれど」

 答えも安心を得られる答えであり、問題はなさそうだった。
 あいさつを済ませると、雲もそれを理解したかのように速度を出し、冥界へと向かっていく。


「……変わった人だったねー」
「頭が春です?」

172深紅の協奏曲 ―飛べよ、踊れよ、円舞曲と共に 1―:2014/07/04(金) 20:17:59 ID:IS/fltSA0


 空を進み、高度を増すごとにだんだんと空気が冷え込んでくる。が、山を見下ろすほどの高所になっても酸素が薄くなることによる息苦しさは感じられない。
 良いことではあったが、途中でそのことを想像の外から置いていたことに対して後悔していただけあり、ドッピオは胸をなでおろす。
 生身でここまでの高さ、もはや下を見ても恐怖の感情は浮かんでこない。現実離れした所に存在しているという、どこか感慨深い感情が浮かび上がってくる。
 上を見ても下を見ても死の世界。そんな通路で身を守る物は預かり物のこの雲だけ。こんなもの、幻想と言わずになんというだろうか。

「……!! あれ、か……?」

 その中を進んでいくと、上も下も果ての無い、とてつもなく巨大な門が現れる。
 傍らにはいくつもの柱が浮かび、門自体にも大きな紋章が浮かんでいる。
 どこを基点として建造されているのか、それともこれほど巨大な物が浮かんでいるのか。その先を見せぬように、沿うように建っている壁らが、大地から見えないのはどういうことか――
 様々な疑問が入り組み浮かび上がるも、そのすべてを昇華させる、感動。
 それが、たどり着いての第一印象だった。

「……けれど、どうすればいいんだろう」

 勝手知ったるように、乗っている雲は進んでいくが、ドッピオ自身は先の通りここについては何も知らない。
 一見通れるようには思えない門を、どうするつもりなのか、どうすればいいのか。
 そう考えている間にも、ぐんぐんと門に近づいていく。

「…………、わ」

 少し身を乗り出せば紋様に手の届きそうになる距離まで近づいた時、石を投げ込まれた水面に浮かぶ波紋のように、紋様が揺れ動く。
 その投げ込まれた石のごとく、ドッピオの全てを飲み込む。
 一声上げる前に、身体が入り込むと、そこには最初から何もなかったかのように。荘厳な門だけが建っていた。

「わわあっ?!」

 その出来事に驚き、身を縮めて構えるが、そのころには辺りは一変していた。
 先ほどまでの雲海ではなく、目の前に広がるのは長い長い階段。門と同じく、その上は果ての見えない、洩矢神社の前にも長い階段が積まれていたが、その非ではなかった。
 そして、先ほどまでに感じていた空気の冷え込みとはまた違う、体の芯から身震いを無理やりに引き起こされるようなうすら寒さ。
 ドッピオには馴染みはない、死者を供養するための卒塔婆が階段の脇にいくつも、いくつも、いくつも立っておりその周りをうっすらと不定形の白い気体の様な物が漂っている。
 まるで、ここに踏み入れた彼を仲間に導こうかと値踏みをしているように。

「……っ、ここが、冥界、か」

 妖怪の山とは違う、人間の本質の恐怖を突き動かしているかのような恐怖感が感じられる。
 もし何もなしにここに来たのであれば今すぐにでも逃げ出したいと思えただろう。
 ボスの指令が無ければ。ボスの無事が聞けなかったのならば。ディアボロがここにはいないと知っているから。
 その事実があるからこそ、彼はその先へ踏み出すことができた。

「そのまま階段を上って、でいいんだよな……頼むよ」

 ドッピオの声と共に、雲は再び移動を開始する。ふわりふわり、冥界の奥へ向かって。

173深紅の協奏曲 ―飛べよ、踊れよ、円舞曲と共に 1―:2014/07/04(金) 20:18:59 ID:IS/fltSA0

(止まれ……と言っても聞こえてはいないだろうが)

 階段を上っていると、妙な感覚と共に声が聞こえる。
 直接話しかけられているわけではなく、頭に響くような、感覚が声を感じ取る様な、そんな響き。

(ここより先は冥界の主、西行寺の屋敷。許可の無く侵入することは許されぬ。これは警告だ)

 視線の先、はるか遠くにぼんやりと見える人影。
 幼い少女のようだが、その右手は一言でいえば異様であった。
 柄の無い刃をぐるぐると布で包んで無理矢理に持ち手を作り、さらにその持ち手を右手に縛り付けて固定している。これもまた、無理矢理に。
 そのせいで本来の長さよりかなり短くなってしまっているが、それでも、二度と手放さないように、と過剰に思えるほどに。

「……何者だ?」
(もう一度だけ、だ。ここより先には進ません……聞こえていないだろうが)

 少女の方から一つ一つと階段を下り、その姿を明確にしていく。
 それは、まるで色の無い世界から出てきたような、輪郭の淡い姿。異様な右手の刃だけが色彩を保っていて、それだけが現実感を感じさせ、ちぐはぐな印象を与える。
 その刃を見せつけるかのようにドッピオの方に向けて、斬りおとされるか退がるか、を選ばせてくる。

「……西行寺の屋敷であっていることは確かみたいだけど……いわゆる警備の人間かい、君は。後、聞こえてるよ」
(なに?)

 ドッピオの言葉に一瞬少女は目を丸くする。

(そうか……くくく、ふっはははははは)

 何がおかしいのか、左手で顔を隠すように、声を抑えるようにしているが感情と共にあふれてしまうのを止められないかのように。
 その怪しい雰囲気から、何をしてくるかわからない相手に対してすぐに行動を取れるよう、雲から降りて警戒を強める。
 一仕切に笑い終えると、鋭い切っ先とよく似た、人を切り殺すことに何のためらいもない目をドッピオに向ける。
 幻想郷には合わない、弾幕ごっこで見る様な真剣さではない。ドッピオが生きていた世界でよく見た、頭の冷えた狂気の眼からの真剣さだった。

(まさかスタンド使いがおれの他にいるとはな! ならばその実力みせてもらおう!)

 その頭に響く声と共に、刃を構えて戦いの意を示す。

「ちょっと待て! なんでそうなる!?」
(この先に行きたくば、このおれを倒してから、ということだ!! 強者との戦いこそ我が愉悦、軟弱な女の遊びなど性には合わん!)
「女じゃん!」
(これには事情があるが、今はそんなのどうでもいいだろう! さあどうする、闘るか、退くか!) 

 滾ったような眼差しで少女はドッピオを見据える。そして、闘い以外には認めないという意思を強く伝えている。
 ドッピオは髪をかき上げ、エピタフの予知を映しながら。

「…………こんなことに無駄な時間を費やしたくはないんだけれど」

 そう言いながら、階段を上り間を詰める。
 スタンド使いという以上、何らかの像があるとは思うが今はそれが見えない。何か手の内にあるだろうが、そもそも自分が近距離型なので、いかにして近づけるか、が戦いの胆となる。
 姿も異様だが、最も異質なのはあの刀。それの注視と、予知の確認。

(スタンドとは闘いの才能、精神の根本、本能! そしてそれを自由に操れるものが立ち会えば起こる事柄はただ一つ! お前はこの先には行けん、いつまでたってもな!!)

 少女は宣言をすると、階段から飛び、上段からドッピオに斬りかかる。
 相手は刃物、自分は肉体。拳で刃を受けては無傷では済まないだろう。防御行動は基本的に回避となる。
 そして、最初の行動だけでも敏捷性はかなりのものだ。そのまま潜って逃げ切ることもできない、とみえる。
 そこまで判断し、階段の外、卒塔婆の並ぶ整備のされていない地に逃げるように避ける。
 いかにして虚を突いて近づき一撃を喰らわせられるか。そこが戦いの要。

174深紅の協奏曲 ―飛べよ、踊れよ、円舞曲と共に 1―:2014/07/04(金) 20:19:32 ID:IS/fltSA0

(シャアーーッ!!)
「……くっ!」

 もちろん、少女は事を簡単には進ませない。その驚異の脚力でドッピオを追う。
 攻撃が届きそうになる度、周りの物を気にせずに刃を振るう。攻撃を回避する度、刃に触れた物は斬られ、地に転がり落ちる。
 ぞんざいに取り扱われ、闇雲に振るわれているその刃は、実によく研ぎ澄まされた一品だということを、知らしめるには十分であった。
 その攻撃を、予知で見ながら躱しつつ、反撃の機会を待ち続ける。予知を利用した、基本的な戦い方。
 だが内心で、ドッピオは焦りを感じていた。以前、はたてにも同じように戦ったが結局一撃も与えられなかった。スタンド使い、という利点は元が同じ人間だからこそ。同じ能力だからこそ対等に戦える。
 人間を越えた生物との……文字通り桁の越えた相手には太刀打ちできないのではないか、と。

「くそっ!!」

 だからといって、今の状態で自分に何ができよう。結局この土壇場で改善の案など浮かびはしない。
 リゾットの様に、ゆっくりと攻め立てる相手と違い、この少女は持ち前の体術を生かした、息をつかせぬ接近戦を仕掛けてくる。思考のための時間を作らせてはくれない。

(どうした、その程度か! 攻めねば何も掴むことはできんぞ!!)

 考えを重ねる度、余裕がなくなっていく。少女が斬り込むごとに刃を振るう速度と踏み込みが早く、強くなっていく。
 それはまるで、ドッピオの回避を『憶えられて』いるかのように。

「……ッ! しまっ」

 予知に目を向ける暇もなくなるほど、少女だけ早回しで再生されているかのように段々と早く、強く打ちこまれる。
 もはや下がりながらの回避は不可能となるほどに。

(捕らえたぞ! もはや下がること叶わぬ!)

 ドッピオは足を止めてその剣戟を受けざるを得ない状況となった。
 生身とは違い、スタンドの拳であればまだ刃を受けきれなくはないが、それでも受けるたびに細かな傷がドッピオの手に反映されていく。

(ウッシャアアアアーーーーーーーーッ!!!)

 少女の声とは合わぬ、獣じみた裂帛の気合いが感覚を通してドッピオに伝わる。
 それに合わせたように、凄まじい猛攻が彼を襲う。
 迫る刃を、あるいはその持ち手を幾度も弾く。その度に勢いを増して襲いかかる。弾く。襲いかかる。弾く。

「あっ、……」

 その猛攻に追いきれなくなった一撃を、時間が緩やかになり、その中を通るように肩口から胴まで振り下ろされる。
 それだけでは終わらず、返す刀で少女はドッピオの胸を正確に貫く。

「…………あ、ぇ、あれ」

 大量の血と味わったことの無い痛み。心の臓を貫く痛みとは違う冷たい感覚。
 それらが襲い来る、と思ったが何も起こらない。
 むしろ、身体には確かに通った感覚があったにもかかわらず、一切の怪我をしていなかった。
 へな、とその場にへたり込むドッピオ。それに対し、少女は姿勢を維持したまま。胸に突き刺された刃はそのままドッピオの体の中を通り、座り込んだときに肩口から離れる。刃とドッピオの身体には、一切の汚れはなった。

(……拍子抜けだな。全く持って。おれの障害にも経験にもならん)

 そう言って近場の木に目掛けて2,3と刃を振るう。一振りはそのまま木を切り裂いたが、二振り、三振りと振るった刃の軌道は木の中を通るが、驚くことに少しも切り口が作られていない。
 少女は興が失せたかのように、再び階段の方へと向かう。

「ちょ、ちょっと……」
(修練のための人斬りは主の許可はあるが、本気の殺しはない。それまでの事よ。最もお前の様な雑魚を殺したところで何にもならないが)

 振り返り、そう冷たく言い放つ。全く歯牙に掛けていないその態度。
 もし、その後ろ姿を見せつけたならそのまま後ろから攻撃してみれば一矢報いられるかもしれない。
 一瞬そんな考えがよぎるが、嫌に響く心臓の鼓動とあまりにも情けない自分の現状が足を震えさせて動かせなくさせる。
 予知を、見ることも躊躇われた。今の惨めな自分を映しているにすぎなさそうだから。

175深紅の協奏曲 ―飛べよ、踊れよ、円舞曲と共に 1―:2014/07/04(金) 20:20:13 ID:IS/fltSA0
「あーーー!!! アンったらこんなにめちゃめちゃにしてー!!」

 少女の視線の先に、今度はその少女に色を付けたような瓜二つの、もう一人の少女。
 こちらは見るからに幼そうな印象を与える。色の無い、アンと呼ばれた少女と違って柔らかい、人間味を感じる表情をしている。浮かべる表情が怒りでも、先ほどまでと比べれば。

「いくら何でもやりすぎよ、あとで綺麗にするの手伝ってよね」
(御意)

 妖夢はアンを叱りつける。その命も、アンは素直に返事をする。
 それは、小さくも主従の繋がりに見える。……見た雰囲気では、妖夢を主とは思えないが。

「お、おい……」
「……へ、ど、どなた様?」

 ドッピオが視界に入っていなかったのか、妖夢は驚いたように返事を返す。

(客人だ。西行寺幽々子に用件があるようだ)
「幽々子様に? 何の御用事でしょうか」
「いや、……その、君らは、一体……」

 色々言いたいことはあるが、二人を見比べ、指を指す。
 妖夢は一瞬自分の身体を見てどこか変な所がないかを見渡すが、合点がいったように笑顔を浮かべて答える。

「西行寺家の剣術指導兼庭師、魂魄妖夢です。こちらは私の一番弟子のアン。アヌビス神のアンです。もっとも、神様とは違うみたいですけど」
「違う、そこを聞きたいんじゃない」

 返答に対して、呆れた顔しか出なかった。

176まるく:2014/07/04(金) 20:33:57 ID:IS/fltSA0
以上になります。ね。
命名は幽々子です。

ちょっと言い訳。
アヌビス神は自分を引き上げてくれたこと、自分に体と生活を与えたことに感謝し、妖夢に忠誠を誓っています。
また、幻想郷が求める物と自分の求める物の違いを理解し、それに時間をあまりかけずに順応してます。幻想郷のなせる技ですね。
殺しをあっさり諦めるアヌビス神に違和感を持たれる方もいるかもしれませんが、手段として殺しを使っているだけではないかな、と自分は考えています。
DIOに対しては「強くて敵わないから忠誠を誓った」であり、そこからの目的が「承太郎を殺せ」です。本体の心を乗っ取りやすくするために『殺すことはなんてことはない』というのを教えるためにチャカの時に理由もなく殺したのだと。
妖夢は強くて敵わないから、ではありませんが。アヌビス神を一つの命として対等に見たのは同じ妖怪じみた彼女が初めてなのではないか。そこに云々かんぬん。
500年生きたスタンドですし、やっぱり妖怪だと思います。幻想郷で過ごすのがいいと思います。

177セレナード:2014/07/04(金) 23:19:23 ID:JCym4E0A0
投稿、お疲れ様でした

まるくさんの考えはまあ間違っていないでしょう。
刀にその身を宿したものが恩を返そうとするならば、それは自らを振るわせるものに手を貸すことでしょうから。
私の小説でも少し触れていますが、アヌビス神は幻想郷の者から見れば「刀に宿る精霊」か「自力で動けない刀の付喪神」みたいなものなんでしょうね。

それにしても「頭が春です?」と言われるとは……w
いやまあ、確かに彼のことを知らない者から見ればおかしい行動でしょうけどw

178どくたあ☆ちょこら〜た:2014/07/05(土) 12:11:52 ID:6/2u.OpQ0
すいませェん……感想を書き込もうとしたのですが、『NGワードが含まれます』と弾かれてしまいました(泣
失礼ですが、ハーメルンにて感想をメッセージでお送り致しましたので、御確認戴けると嬉しいです。
お手間をお掛けして申し訳ございません。

179saiba066:2014/07/05(土) 18:25:10 ID:QrkFH0cA0
>>156

あなたのおかげでやる気メーターカンストしましたよ

180まるく:2014/07/06(日) 23:18:55 ID:rFf9RwHo0
感想ありがとうございます!!

>セレナードさん
DIOへの忠誠も、恩義の返しなんですよね。相手が悪かった…
セレナードさんのSSにもそのようにも書いてあったので、少数派ではないなとは思っていました。やったね小傘ちゃん!以下略

ほとんど脅迫ですからね!春らしい乱暴に至らなくてよかったですね(何
頭の悪さは無邪気の印。聞こえてなくてよかったね。

>ちょこら〜たさん
ハーメルンの方にて返信いたしました。
感想ありがとうございまし!

>saiba066さん
やりましたね!

181名無しさん:2014/07/07(月) 07:35:06 ID:c9el4Yhs0
投稿乙です。


俺が前にしたレス誤字パネェ···。

182まるく:2014/07/31(木) 23:18:30 ID:tg1glbNE0
月末にちらりちらり。
深紅の協奏曲、投下させていただきますね。

183深紅の協奏曲 ―飛べよ、踊れよ、円舞曲と共に 2―:2014/07/31(木) 23:19:42 ID:tg1glbNE0

 白玉楼。冥界の中に位置する西行寺家の広い屋敷。
 それ以外には特に何があるというわけではない。ただ、広い広い空間に所狭しと墓標と樹木が立ち並ぶ。
 そんな中にある、一つだからこそ目を引くその屋敷と、それに沿うように並ぶ桜の木。
 時期が過ぎて花は散り、広々と緑の葉が冥界と呼ぶにはあまりにも眩しすぎる太陽の光を覆い隠す。
 明るすぎなければ、暗すぎず。そんな、爽やかな光が白玉楼の門を照らしていた。

「どうぞ」

 ぎ、と小さくきしむ音を立てて門扉が開く。
 妖夢の先導で、一応客人としてドッピオは屋敷に招かれた。
 彼の後ろには、先ほどまで斬り結んだアンが控えている。……そんな気はないようだが、抜き身の刃を持った者に後ろに立たれるのはあまりいい感じではない。
 それを見越しているのかいないのか、無表情のままについていく。

「私の後についてきてください」

 あの後、妖夢は合点がいったかのような態度を取ると、真っ直ぐに屋敷を案内した。
 彼女曰く、『主が懇談会を行う、あなたはきっとそれの来賓だろう』と話してくれた。
 すなわち、自分が来ることを知っていたということ。それについて妖夢に問うても『自分にはよくわからない』と返された。
 その時の困り顔からは、主が聡いのか従者が鈍いのかはわからなかったが、彼女の中での真相はそうであるらしい。
 結局、当の主に聞くしか解答は得られないようだった。

「……、おぉ……」

 通路の角を曲がって、思わずドッピオの口から嘆息が漏れる。
 曲がった先にある、開いた部屋のその先に見える中庭。日本、というものを表す様な美しい景色。
 流れが作られているかのように敷き詰められた玉砂利と、その中に植えられた力強さをも感じさせる美の表現、松。
 もっとこれを間近で見てみたい、という衝動に嫌でも駆られる引力があった。
 見とれて足が遅くなっているのを妖夢は感じ、振り返ると自慢げな表情を浮かべる。

「美しいでしょう? 外も中も、庭師である私が剪定してるんですよ」

 誇らしげに語る少女がもし人間であったのなら軽い気持ちで褒めることができるが、目の前の少女は立派な人外。
 それを語る技術と実行しうる腕が実際に備わっているのだろう。
 芸術家。
 そう、彼女を表してもいいかもしれない。

「素晴らしいね……僕らの国の庭園技術に負けず劣らずだ。君みたいな子がイタリアにいたなら、美術史に名を残せたかもしれない」
「えっへん。ですが、私の腕は幽々子様の物なので、残念ながら別国の為に振るうわけにはいきませんね。幽々子様が仰るなら別ですけど」
「慕っているんだね、主を」
「もちろんです」

 妖夢に素直な感想をぶつけるが、本人はその言葉を主へと飛ばす。
 彼女の忠誠の証が、そこからも感じ取れる。
 少し後ろに目を配るが、アンはそこに思うことはないのか、表情変わらず後ろについてくるだけだった。

184深紅の協奏曲 ―飛べよ、踊れよ、円舞曲と共に 2―:2014/07/31(木) 23:20:40 ID:tg1glbNE0

「ここですね。えーっと、和室の入り方とかって知ってます?」

 見た目他と変わらぬ部屋の前で、妖夢が足を止めて説明する。
 今まで通った、最初以外の全ての部屋は障子が閉まっており中の様子はわからなかった。
 ここも同じように閉まっているが、その薄い紙は中にいる誰かの影を映している。

「いや、初めてだしよくわからないけど……博麗神社と似たようだけど、あそこでは特に何も」
「霊夢……まあいいです。私の真似して入ってくださいね。そんなに気負わなくてもいいですけど」

 中からはぱちり、ぱちりと何か木と木が小さく打たれるような音が聞こえてくる。
 その戸の前で、妖夢は膝を着き、

「幽々子様、客人を連れてまいりました」

 先ほどまでと違い、硬く丁寧な語調で話す。
 中からは、「は〜い」と間延びした声が聞こえる。散った花びらが空を舞うような、ゆるくふわりとした声。
 それを聞くと、す、と障子を開き

「失礼します」

 中にいる者に一礼した後、ドッピオを率いて部屋の中に入る。

「よくいらっしゃいました。長い旅路でお疲れかしら?」

 部屋の中心で将棋盤へ、傍らの本を参考に駒を並べている。
 その途中にあったのだろう。その作業を続けたまま目線だけをこちらに向けてドッピオを労う。
 一見、妖夢のそれとは違い招いた客に対して無礼にも見えるその行為は彼女の持つ雰囲気がすべて打消し、上塗りしている。
 姿勢を崩さず、それでも迎えようとする意志を送り。彼女の持っている生来の気品がドッピオを迎えていた。

「ごめんなさいね。一度目を離すとどこまで置いたかわからなくなっちゃうから……すぐ終わるからそこで待っててね」
「幽々子様、そういうことは来る前までに終わらせておいてくださいよ……」
「そうしようと思ったのだけれども、字が細かくて……歳かしら〜」
「取らないでしょう」

 ぱちり、とまた小さく将棋盤から音が鳴る。
 上からの態度だが、それは従者である妖夢との彼女なりのコミュニケーションなのかもしれない。
 ぱち、と三度小さく音が鳴り、それが終わりの合図となって、主である亡霊―西行寺幽々子―はドッピオに体を向ける。

「『お久しぶり』ね。無事でここまで来られたことを歓迎します」

 三つ指をつけ、深々と頭を下げる。
 慣れたようなその動きは、しかし優雅さを持つ、もてなす心のあらわれであった。

「……何?」
「どういうことです、幽々子様?」

 しかし、裏腹につかれた言葉が頭に残る。
 冗談にしては上手ではない。頭を上げたその顔からは妖夢が知る自分を困らせる様な事を言って楽しむ顔ではない。

「妖夢、歓待の準備をしておいて。私はこの方とお話ししているから」
「……はいー。っ、て、男女二人を一つの間にしてはいけませんよ」
「あら、どうして? この方はお客人よ。主がもてなさないこと、失礼に当たらないとでも?」
「だって、間違いが起こるからって言われてますし」
「間違いって、なあに?」
「えーっと……クイズ?」
「おばか」

 その落差が、ドッピオにも理解できる。
 それほどに、彼女は何かを隠していることを伝えてきた。
 とぼけた返答をしている妖夢を、幽々子は窘めると、

「妖夢が心配だというのなら、アンを外に置いておけばいいじゃない。それでも納得がいかなくて?」

 と別案を上げる。

「うーん、多分それならきっと大丈夫です。アン、ドッピオさんや幽々子様が何か間違えたら教えてあげてね」
(……わかった)
「頼んだわよ! それでは、失礼させていただきます」

185深紅の協奏曲 ―飛べよ、踊れよ、円舞曲と共に 2―:2014/07/31(木) 23:21:12 ID:tg1glbNE0
 納得がいった表情で、二人は退室する。
 部屋の中から見た二人の姿は、濃い影はそのまま離れの方に向かい。薄い影は開いた障子から少し動き腰を下ろす。
 中には、幽々子とドッピオの二人のみ。

「ふふ、ごめんなさい。幾つになってもあの子はああいう子なの。真面目で、未熟で、実直で」
「…………まあ、それは感じ取れます。それより」
「あなた、将棋はできます? 最近頭を動かす機会が少なくて久しぶりに引っ張ってきたのだけれど……」

 そういいながら、盤の上に駒を並べる。この部屋に入った時から盤を中心に座布団が二つ、用意されていた。

「外国ではチェスの方が有名と聞いています。もし将棋を知らずそちらをご存じであればそれほど覚え辛いルールではありませんが」
「いや、さっきのは一体どういう」
「その答えを聞きたければ、まずはこちらの質問にお答えください。……判断材料として。今、あなたは多くの者に」

 その答えを聞く前に、ドッピオの身体が動く。
 幽々子の首元に掴み掛り、そのまま締め上げる様に彼女の身体を引き上げる。
 ドッピオより小さいその身体は容易く持ち上げられる。掴んだその手から布越しに感じる体温は生きている者とは思えぬほどに、冷たかった。

「なら先に答えてやろう、答えはNOだ。オレは今、幻想郷に来て感じた、気づいた謎の全てを知る、その者に出会っている。
 その答えは、ボスのことに繋がる謎だ……オレに知る権利はないが、その情報を吟味し、必要であれば断たなければならない!」

 対してドッピオにはこれまでにないほどの熱が手に宿る。
 本来知りえない、知ってはいけない謎。それに至る者は悉く消されてきた。
 今、常に彼を動かす忠義が、幽々子の首に手をかけようとしている。
 それに対して、怒りに満ちた彼の表情を見ても、それによって着崩れた着物とは違い少しも崩れぬ表情の幽々子。
 別段彼に対して暴挙に怒りを向けるわけでもなく、憐れみを出すわけでもなく。

「ならば、全てを話します。ですが、そのための道具として。過去を並べた盤に向かい合わなくてはなりません。私の言葉の続きを話しましょう。
 あなたは今、多くの者に計られているのです。あなたがどう至るのかを。……もし、今ここで私を殺すことができたのであれば、今のあなたなら再び永劫の鎮魂の中に身を任せるしかない」

 真っ直ぐな瞳で、ドッピオに話しかける。
 それは、彼の中にある『何か』に向かって語りかけているような、そんな話し方。

「……随分ともったいぶるじゃないか、あぁ? ところどころ、分かっているような口を。ここの奴らは皆そう話す、自分勝手に、相手を理解せずにッ!」
「いいえ、それは違います。全ては、理解をしているから。理解とは物事を知ること、相手を知ること。知ることは過程を理解すること。……皆があなたを知っているからこそ、あなたにはそう聞こえる」

 鼻と鼻が触れ合うほどの距離でも、幽々子は冷静にドッピオへ返す。
 如何に自分の気持ちを伝えても、それを諭すように、自らの域へ引き込むかのように受けられる。
 振り上げた感情の腕は、そのまま振り下ろされることなくやや乱暴に幽々子を手放すこととなる。

「きゃ」
「…………いいだろ、そこまで言うのなら。知ってることを洗いざらい話すのなら」
「ありがとう。この西行寺、平時に嘘を吐くことはあっても今ここに偽ることはしないことを約束するわ」

 崩れた着物を整え、聴く姿勢になったことに感謝の意を述べる。
 二人は対面し、それぞれに20の駒が並べられた盤を挟む。
 騒ぎの中、外の薄影は動かずに。流れを知っていたかのように。

186まるく:2014/07/31(木) 23:26:18 ID:tg1glbNE0
以上になります。…うーん、ちょっとスランプ的な。
将棋もチェスも、自分はルールは知ってるけど強くはないです、むずい。
幻想郷の住人はこういうの強そうですよね。参ります。関係ないけど、白黒をつけたがらない紫は囲碁が苦手、っていうのを見たことがあります。面白いなと。

愛=理解! 過程を信じることは結果を理解することに繋がる道です。そういいたいのです。
まだドッピオには、難しいのかもしれません。

187名無しさん:2014/08/01(金) 21:49:20 ID:uLsZ9RfQ0
まるくさん、投稿お疲れ様です。
遂に真相を握る幽々子との邂逅。相手の土俵に上がる前に暴力を翳すのはマフィアの常套手段ですが、やはり簡単には動じてくれませんね。「恫喝は格下相手にしか通用しない」と、某漫画でもCIA諜報員がマフィアの幹部に言い放っていましたし。
『時が流れ 輪廻の果て また出会えたら
過去を並べた 盤の前で 向かい合おうか』
石鹸屋の楽曲ナイト・オブ・マウントからの引用でしょうか?あの曲私も大好きです。こう、派閥に属する事、対立する事の哀しみみたいなものが表現されていて。
幽々子の脅し文句の真意が気になりますね。紫が時間系能力者と手を組んで【一巡】に対処したように、幽々子の能力を利用して【レクイエム】の呪いを制御していたり。
次回は幽々子との将棋対決?【エピタフ】を利用できるかが鍵ですね。
中高と囲碁将棋部部長だったので懐かしい気分です。弱過ぎて他の部員が三、四段とか取っている中一人だけ最後まで段位を取れなかったような名ばかり部長でしたが…

次回どのような展開が待っているのか、楽しみにしております!

188まるく:2014/08/02(土) 17:24:31 ID:0foclNJE0
感想ありがとうございます。

土俵に上がる前の暴力ですが、どちらかというとドッピオがキレているだけとも。必死です。
対して幽々子様は直接真相に関わっていたわけではなく、あくまで紫から聞いた程度。第三者だから彼の必死さも相手にしない余裕がある。狸だとも思います。
某漫画のCIA諜報員…どこの暴力教会なんだ…

ナイト・オブ・マウントは情景が浮かびやすく、音楽としても非常にかっこよくてお気に入りです。石鹸屋!
椛の曲(だと自分は認識しています)ですが、引用として使わせていただいてます。過去を並べた盤とか、ディアボロにとっては苦痛でしかない。

幽々子の脅し文句も、結局幻想郷の真意というか周りがどう思っているのかということ。
幽々子はどこまで行っても町人Aです。

将棋経験者さんもいるもんですね…将棋倒しなら得意ですy
ボードゲームは3手先読んだ程度じゃあ勝てないんだよ…だよぉ…


しかし、読んでいただき期待もしていただいてあれですが、やっぱり一晩おいて見返してみるとすこし文章の雑さがちらほら。
後日、訂正版を投下する予定です。すまぬ…すまぬ…

189セレナード:2014/08/07(木) 00:01:47 ID:dATmtreA0
ふむ……少々時間がかかりましたが、無事に最新話が完成しました。
それでは、投稿を開始します。

190東方魔蓮記第四十六話:2014/08/07(木) 00:02:47 ID:dATmtreA0
「……見事なまでの化けっぷりだ。『そうなる瞬間』さえ見ていなければ、一目見ただけでは化けていると気づけないな」
ディアボロはその姿を見て感想を言った。
「お主の『それ』も、より大きい者にしか化けれぬ代わりに隠しきれぬ箇所がないのは便利じゃのう」
マミゾウも再びイエローテンパランスを纏ったディアボロの姿を見て改めて関心を示す。
「自分にしか使えないのが難点だが、こればかりは仕方がないな」
ディアボロは歩きながらそう返す。

現在二人が向かっているのは、聖人たちがいる場所。
何故そんな場所があることがわかるのかというと……信者を募集しているからである。
どうやら道場を設立したらしい。異変から数日しか経っていないのに立ち回りが早いものである。
これも妖怪たちが警戒している一因なのかどうかはわからないが、気になる情報であるのは確かだ。

「ところで一つ聞きたいが、『神霊廟』ってなんだ?」
ディアボロは記憶のDISCを何度も使用しているおかげで、日本の習慣をそのまま引き継いでいる幻想郷の生活には難なく適応している。
しかし、記憶のDISCを用いても得られない知識というのは当然ある。
故に、青蛾が最初に質問に答えたときに、あんなことを言ったのだ。
「何故『神霊廟』という名前なのかは知らぬが、霊廟(れいびょう)の意味なら知っておる。霊を祭った宮のことじゃ」
その言葉を聞いて、ふと異変当日のことを思い出した。

あの時、たくさんの霊が命蓮寺のあたりに出没していた。
当時はその霊が何故出てきたのかも、無数の霊の正体も分からずにいた。
異変が終わった後も、その件に関しては一切調べていないため、正体は未だ分かっていない。

「(もしかしてあの無数の霊……普通の霊ではなかったということか?)」
こればかりは異変の解決に直接関与した者か、異変を起こした者に聞くしかない。
少なくとも、『見ただけ』の者と、『見てすらいない』者にわかるわけがないのだ。


「さて、まずは居場所の特定だな」
「そうじゃな、位置がわからなければ向かうこともできぬからのう」
残念ながら、場所の名前は分かっていてもどこにあるのかは全然わかっていない。
そのため、その位置を知る手段を探さねばならないのだ。
「……そういえば弟子入りを志願した奴らはどうやって聖人のいる場所に向かったんだ?」
信者を募集しているというのなら、何らかしらのやり方で神霊廟の位置を知らせているはずだ。
ただ募集しているだけでどこに行けばいいのかわからなければ、信者は増えはしない。
「どこにあるのか見つけ出すのも、弟子入りの条件の一つかも知れんのう」
「俺たちは聖人の弟子になりに行くわけじゃないんだ。いざとなれば、誰かの記憶を見てでも見つけ出す」
ディアボロはそう言ったところで、あることを思いつく。
「そういえばお前が従えていた狸達は、何か知っているのか?」
「いや、何も知らぬようじゃ」
「……なら仕方ないか」
狸達は何か知っているかと思ったが、違ったようだ。
そしてディアボロはまた少し考え、今度はある疑問を持った。
「そういえばマミゾウ。化けさせた物は破壊されるとどうなる?」
「破壊されれば、化けさせた物はその姿形を維持できぬ。元に戻るだけじゃ」
マミゾウの発言を聞いたディアボロはまた考える。
「(だとすると、妖怪の山で『本物』を調達する必要があるな……)」
今彼が欲しいのはポラロイドカメラ。
ハーミットパープルによる念写を使って、神霊廟へと行く道を特定しようとしているのだ。
だが、マミゾウに化けさせた物では、念写の拍子にぶち壊してしまう。
すぐにクレイジーダイヤモンドで直す手もあるが、破壊した拍子に一瞬でも元に戻ってしまえば、写真を印刷してくれないだろう。
「マミゾウ。妖怪の山へ向かうぞ」
「何故じゃ?」
突然の目的地変更に、マミゾウは疑問を持つ。
「居場所の特定には、ある物が必要だ。それさえあれば、位置を大体特定できるかもしれない」
「……??」
そう言ってどこかに向かいだしたディアボロと、わけのわからないままついていくマミゾウ。
二人の行先は……妖怪の山。

191東方魔蓮記第四十六話:2014/08/07(木) 00:03:22 ID:dATmtreA0
「それで、おぬしはここで何をするのじゃ?」
「カメラが必要だ。貸してもらうだけでいい」
ここに来る過程で、一度イエローテンパランスを解除して装備しているDISCを変更している。
エアロスミスとスタープラチナを、別のDISCに変えている。
その理由は、これからするべきことのために必要だからだ。
「……とはいえ、カメラを天狗が今ここにいるとは限らないんだがな」
会って言えば貸してくれるかもしれないが、残念ながらこの場所ではディアボロとマミゾウは侵入者扱いを受けるだろう。
その状態で彼の発言を聞いて態々(わざわざ)取りに行ってくれる天狗はいない。
それは即ち、眼前の怪しい者をわざと見逃すのと同義だからである。
そしてディアボロも、それに文句を言うわけにはいかない。
彼も組織の頂点に立った者だ。指示に従わぬ部下を見過ごすわけにはいかないのはよくわかる。
……彼の場合、『自分について探る部下も容赦はしない』が加わるが。

ディアボロがマミゾウと会話していると、突如弾幕が二人に襲い掛かる。
だが、ディアボロはイエローテンパランスを展開して難なく防御する。

イエローテンパランスは、攻防において弱点らしい弱点が見当たらない。
衝撃のエネルギーを分散することで物理的に強く、温度変化にも特殊な反応を引き起こす。
具体的にいうと、熱すれば飛び散ってして広がり、冷やせばスパイク状になると同時に硬化して触れたものを突き刺す。
ザ・ハンドといいこれといい、頭が悪い者は単純な思考を持つ故に単純かつ強いスタンドが発現しやすいのだろうか……?

そして、妖怪が撃つことが多いあの光弾のタイプの弾幕は、主にぶつかった時の衝撃でダメージを与える。
だが前述のとおり、イエローテンパランスにはエネルギーを分散されてダメージをかき消されてしまう。
文字通り、『相性が悪い』のだ。ディアボロ側が攻めるには別の手を講じる必要はあるが。

「警備員のお出迎えか。しかし、俺たちが進まなければこれ以上きつくなることはないはずだ」
警備の天狗が再び放った弾幕を、ディアボロはイエローテンパランスを操って再び難なく防いでのける。
今度は先ほどよりも弾幕が濃く、少しずつ距離を詰めていくことで大量の弾幕が当たるようにするのだが、どれだけ撃って来ようともこのタイプの弾幕では結果は同じである。
「無駄だ。その弾幕ではこれを破壊することはできないぞ」
ディアボロはそう言って、再びイエローテンパランスを引っ込める。
警備の天狗もその発言に納得したらしく、3度目の弾幕発射はなかった。
「俺はある天狗に用があって此処に来た。大人しく下がってくれ」
その名を聞いた警備の天狗は……この場を離れない。
「やはり警備の役割を優先したか」
ディアボロはマミゾウに聞こえるように言って少し考える。
「(面倒事を起こし、要注意人物に位置づけられても困るが……)」
警備が存在する以上、情報共有は行われていてもおかしくない。
もしもこの天狗に『要注意人物』と認識された場合、この情報が共有されて今後この山での行動が困難になるだろう。
「さて、あやつは退く気がなさそうじゃが、どうするかのう?」

この場からは進めない。しかし下がれば、用を済ませられない。
ならば進むしかないのだ。

「(確かにあの様子じゃ話を聞く気も退く気もなさそうだ。文を呼んできてもらうつもりだったが……)」
この山の警備の者は、侵入者が自分たちの手に余るようだと、上司に当たる大天狗に報告を行うために戻るのだ。
「……仕方がない。お前に『取ってきてもらう』ことにしよう」

ディアボロは万が一の天狗の逃走を阻止すべく、イエローテンパランスを発動させると、それを伸ばして天狗の足元に絡ませようとする。
しかし、イエローテンパランスは肉と同化しているためにスタンド使い以外でも見えるスタンドだ。
「!?」
自らに迫りくるイエローテンパランスを見た天狗は、驚きながらもそれをうまく飛んで回避した。
仮にも警備を務めれるほどの実力はあるのだ。迫りくる物体を避けるのは難しくはない。
現在のディアボロの装備で、遠距離戦を問題なくこなせるスタンドはウェザーリポートぐらいである。
そのウェザーリポートも捕縛を行うには向いていないし、一撃を加えるにも威力が強いうえに攻撃が目立ちやすい。
装備している残り1枚のDISCに入った能力……
「(ヘブンズ・ドアーも射程範囲外か。だとすればまずいな……)」

ヘブンズ・ドアーの文字飛ばしも届く範囲の外では意味なしである。
ちなみに、ヘブンズ・ドアーとイエローテンパランスでは、肉の量にもよるが、基本的にはイエローテンパランスの方が射程が長い。

192東方魔蓮記第四十六話:2014/08/07(木) 00:03:52 ID:dATmtreA0

突然、天狗は何か身体の一部が冷たくなってきていることに気づき、左足の太ももあたりを見ると、そこにはいつの間にか氷の輪が出来ていた。
気が逸れている隙をついて、ディアボロがホルス神で太ももを締め付けるような感じで氷輪を作ったのだ。

しかも密着するように構成されているため、溶け出していない今は天狗の力でも動かない。
それだけならばまだ驚くだけで済んだだろう。
だが、その氷輪とつながるように、氷がディアボロのいる方向に出来始めたのならば話は変わる。
ホルス神の能力射程はイエローテンパランスよりも広い。十分氷とイエローテンパランスを繋げることができる範囲だ。

相手の能力が二つ判明し、それへの対策に思考を巡らせていた天狗は、自らの体が引っ張られていることに気づいて状況を把握し直しだす。
見れば、考え事をしている隙に、氷とイエローテンパランスの肉が結ばれていた。
氷は細長くも細部まで凍っており、少々の力を加えたところで些細なヒビすら入らないようにできている。
氷という冷たい物に絡みついたそのスタンドは、本体の精神力によって『冷却による温度変化』を一部分のみ引き起こすことを許される。
それにより、『氷に絡みついた部分のみ』スパイク状となって、解けるのをより困難なことにする。
そして、イエローテンパランスを操って自分のもとに引き寄せる。

流石にもう自分では止められないと判断したのか、天狗も必死になって距離を取り、せめて大天狗に報告しようと逃げようとするが……

「(あやつ……逃げることに必死になって重要なことに気づいておらぬな……)」

マミゾウは理解していた。
今、イエローテンパランスは意図的にピンと張った状態になっている。
こうすることで、相手がこれ以上距離を取られるのを防いでいる。
そしてディアボロと天狗を繋ぐものができてしまっている以上、仮に逃げられたとしてもディアボロが引っ張られてくる。
どうやら必死になっているためか、この天狗はそうなることに気づいていないようだ。

そこに、天狗が逃げようとする方向から突風が吹いてきた。
ディアボロが再びウェザーリポートを使って風を吹かせたのだ。
少々の向かい風ならば天狗は難なく突破できるだろうが、この風の強さは普段吹く風とは違って暴風と言えるほど強かった。
地上でも踏ん張りながら進むしかないほどの風の強さに、空中に浮いている天狗は耐えきれるわけもなく吹き飛ばされる。
『天狗と同じ高さ』にだけ暴風を吹かせたため、この暴風の被害を受けるのはこの天狗のみ。
そうでもしなければ、自分もマミゾウも巻き添えにするただの無差別攻撃になってしまう。

吹き飛ばされ、天狗が体勢をもう一度整える前に、ディアボロはイエローテンパランスを操り、自ら天狗のもとに引き寄せられる。
別に天狗を強引に引き込んだりする必要はない。『距離を詰めれれば』それでいいのだ。
「(後は本にするのみ!)」
ヘブンズ・ドアーを出してせまりくるディアボロを見た天狗は、とっさの判断で左足の太ももにできている氷輪に光弾を撃ち始めた。
先ほどのことで逃げられないと理解したのだろう。
氷輪を破壊して自身から引き離すことで、イエローテンパランスによる接近を防ごうとしているようだ。

だが、それだけで自身の策が失敗するほどこの男は甘くない。
それを見たディアボロは、イエローテンパランスの触手をもう一つ作って今度は天狗の右足首をぐるぐる巻きにして拘束する。
しかしこれでもぎりぎり届いた程度だ。ヘブンズ・ドアーの能力を届かせるには、もう少し距離を詰めておきたい。

193東方魔蓮記第四十六話:2014/08/07(木) 00:04:24 ID:dATmtreA0
天狗は氷輪の破壊を断念し、ディアボロに弾幕を撃ち始める。
仮に先に氷輪を破壊したところで、既に右足首にイエローテンパランスが巻きついてしまっているため、彼を撃ち落すことができないからだ。
だが、残念なことにそれも容易く肉の壁に防がれてしまう。
そしてそのままイエローテンパランスに引き寄せられ、距離を詰めていき、ある程度距離を詰めたところで、肉の壁を動かす。
自身と天狗の間を遮るものは何もなくなり、ヘブンズ・ドアーは手を伸ばしながら天狗に接近していく。

まだ大丈夫。『見えるものだけ』ならばそう言い切れるだろう。
この状況で風を操ってはこない。確かにその判断は正しい。
何故肉壁を自ら取り除いたのか。今はそんなことを考えている場合ではない。
彼は何をするつもりなのか。そんなことは分からない。

攻撃を妨げる壁が取り除かれたのだ。今が最大の攻撃のチャンスである……!

そう思ってしまったのだろう。天狗はディアボロを撃墜すべくより密度の高い弾幕を撃ち始めた。
もしもディアボロが同じ立場だったなら、自身に絡みついているこの肉を、絡みついている箇所ごとスタンドで切り捨て、反撃か距離を取る行動をとっただろう。
ただ、そんなことを実行できる『決意』とそれを実現できる『手段』を持たないことが、この天狗にとっての災難だった。

弾幕を強引に耐え抜き、ヘブンズ・ドアーの手を天狗に触れさせる。
その瞬間、天狗の身体はその能力によって構成を書き換えらたことに驚くが、どうすることもできず、原型を保ったまま本のようになってしまう。
それと同時に二人が空中にいられた要素が無くなったことで、双方が同時に落下し始める。
だが、二人ともその直後に少し弾み、何かが支えているかのように二人とも落下しなくなった。

「ほう……」
マミゾウには何が起きたのか、すぐに理解できた。
ディアボロは本にした天狗も無事に『受け止めれた』ことを確認して、一息ついた。

空気の塊によるクッションが、二人を受け止めていたのだ。
それだけならばストレイキャットでもできるのだが、これ以外にも能力の幅が広いのがこのスタンド、ウェザーリポートの特徴でもある。

ディアボロはそれを操り、地上にゆっくりと下ろしていく。
そして、落下することなく地に足を下せる程度の高さまで空気の塊下ろすと、本になった天狗を回収してマミゾウのもとに近寄る。
「いつ見ても恐ろしい能力じゃのう……」
「……俺もその意見には賛成だ」
こうして第三者に使われているのを見て、改めてヘブンズ・ドアーの恐ろしさを二人は理解するのであった。


天狗の記憶に命令を加え、ヘブンズ・ドアーの能力を解除する。
加えた命令は二つ。
『誰にも怪しまれないように天狗の住処からカメラを取って筆者に渡す。取ってくるカメラはポラロイドカメラを優先とし、この命令は最優先で実行する』

『筆者との戦闘及びこの命令に関する記憶とマミゾウが見ていたことは、筆者とその仲間が自ら去って視界から消えたら忘れる。それまで筆者と仲間に関する情報を口にすることはできず、誰にも伝えることはできない』
天狗はヘブンズ・ドアーによって与えられた命令を、本来の役割を放棄して実行に移す。
飛び去っていく天狗を見届けて、ディアボロは緊張の糸を緩める。
「これで後は戻ってくるのを待つだけだな」
「おぬし、カメラを使って何をするつもりじゃ?」
マミゾウに質問され、ディアボロは無言で彼女の方に振り向く。
「神霊廟への道を見つけ出す」
「……………」
彼は真顔でそんなことをいうものだから、マミゾウは言っている意味がわからず、思わず沈黙してしまった。
その理由を察したのか、彼は一枚のDISC……ハーミットパープルのDISCをケースから取り出す。
「このDISCには念写の能力が封じられている。荒いやり方でしか念写ができないが、こいつを使えばある程度の情報は手に入るはずだ」
「成程、確かにその方法ならば色々とわかりそうじゃ」
ディアボロの説明を受け、マミゾウは理解し、納得した。
「さて、あの天狗が戻ってくるまですることはなくなったな……」
「肩の力を抜くにはいいタイミングじゃ。しばし休むがよいぞ」
「……そうさせてもらうとしよう」
マミゾウの提案を受けて、ディアボロは天狗が戻ってくるまでの間、休憩することにした。

194セレナード:2014/08/07(木) 00:09:31 ID:dATmtreA0
投稿終了です。

ある場所に向かうつもりだったが碌に情報を集めていないから場所がわからない。
今でこそスマートフォンの地図機能などのおかげで可能性は低いですが、幻想郷ではまだそんなことは少なくない……かも?

ジョジョには現在提供されているソーシャルゲームがありますが、どうやら一悶着あったようで。
悪いのは記載を漏らした側が、急いた利用者側か、果たしてどちらなのやら。
恐らくは記載を漏らした側が悪いという形で決着はつくとは思いますが。

195名無しさん:2014/08/10(日) 08:54:21 ID:Uq/ulWAY0
投稿お疲れ様ですー。

確かに神霊廟はどこにあるかが明確にわかってはいませんね。心綺楼の頃には建物や布都ちゃんステージの夢殿大祀廟も出てきてますが。
だからそれ以前に当たるディアボロ達はわからないのもしょうがないでしょう。口授でも神出鬼没で地名は不明のようですし。
しかしまあ、なんでしょう。カメラを手に入れるのは近道なのか遠回りなのかいかんせんわかりづらいですね。確実ではありますけれども。
カメラに変身した狸を媒介にハミパを想像できるのも、ううん、やはりボスか。狸への描写は省いただけなのか、本当に何も思ってないのか…w

テンパランス大活躍。ホルス神やヘブンズドアーは以前にも活躍されているシーンもありましたが最近のテンパランスプッシュ。前から強いと思ってましたよ
これでようやく、と思いましたがまだカメラを手に入れたわけには至らず。
ヘブンズドアーの命令は遂行中は気づかないかもしれないけれど、僅かな空白から自分の異変には気付くことができる。康一くんが露伴の家に来てから気づいたように。
見張り天狗が誰にも怪しまれないようにカメラを取っても、果たして本当にそれを外部が気付けないのか?目ざとい烏天狗たちはそれを看破して追ってくるかもしれない、爆弾を抱えているとも見えます。
続き、期待しています。

196名無しさん:2014/08/10(日) 21:19:31 ID:a4vkXCTU0
セレナードさん、投稿お疲れ様です。
カメラをゲットして【ハーミット・パープル】を使うというディアボロの魂胆は分かりましたが、果たして念写で霊廟への行き方が分かるのでしょうか(汗
原作でもDIOの館の外観は撮影できましたが、結局館への道などは自力で調べていましたし、別空間に存在する霊廟への道順を念写するのは可能かどうか微妙ですね…
でも、よくよく考えれば原作での【ハーミット・パープル】の念写の精度もイマイチはっきりしないんですよね。コールタールを探した時は灰の粒で詳細な地図&位置検索までできていましたし…これができるんならアラビア・ファッツのような敵本体の位置も楽に念写できるんじゃ(ry

『冷やせば固まる』という性質を【ホルス神】で利用するアイデアは素晴らしいですね。命令を書き込んだ下っ端が波乱を連れて戻って来そうな雰囲気…
次回も期待しております。

197セレナード:2014/08/11(月) 22:10:50 ID:WlBAMkhE0
お二方、ご感想をありがとうございます。

>>195さん
単純に視覚の情報も必要となったためにハーミット・パープルが選択されたのです。
ウェザーリポートやエアロスミス等の探知では、『どこにあるのか』は分かっても、『どうなっているのか』は分かりませんからね。
それに、念写を用いて写真に現像することによって『情報の保存』が容易くできるのも理由の一つ……かも?

イエローテンパランスは本来の持ち主があんな性格であることが敗北にも繋がっていますが、そのスタンドの性能は恐るべし。
ディアボロは不都合な事態(殺害を含める)になることを避けるために防御面や変装能力に重点が置かれていますが、それでも十分に強いスタンドになっていることが、その証明となっていますね。

ヘブンズ・ドアーが観賞したのは見張りの天狗のみ。
『周りに干渉できない』ことが原因でどんな事態になってしまうのか……平穏では済みそうにない、かも。

>>196さん
そう。二人は神霊廟が別空間に存在するという事実を全く知りません。
そのため、神霊廟をただ念写しただけでは、『幻想郷のどこかにある』と勘違いしてしまうでしょう。

DIOの館への道を念写で探さなかったのは、ジョースター一行が慎重に行動したから、かもしれませんね。
今後のアニメオリジナルのシーンでそこのところ説明が入るといいんですけど。
……アニメオリジナルでポルナレフの髪いじりが多いのはスタッフの遊び心でしょうかね>?

198セレナード:2014/08/22(金) 23:18:11 ID:BQv8IYvY0
東方魔蓮記最新話、完成しました。
合間が短い?気にしない気にしない。

199セレナード:2014/08/22(金) 23:19:25 ID:BQv8IYvY0
天狗との戦闘をから少し経ち……。
ディアボロはマミゾウの提案に乗り、マミゾウも一緒にリラックスした状態で天狗を待っていた。
見張りがいなくなったせいで静かになっている今は、川辺に近寄りさえしなければ河童からも襲撃されないだろう。


「天狗がカメラを持ってくるまでどのくらいかかるのかい?」
「あまり時間はかからないとは思うが……」
そんな会話をしながら二人は天狗を待つ。
兎に角先ほどの天狗がカメラをもってこなければ、やるべきことが始まらないのだ。

だが、誰にも気づかれにくい今がチャンス。念写の準備をするためにイエローテンパランスによる変装を解除し、3枚のDISCをケースから取り出す。
その3枚をホルス神、ウェザーリポート、スタープラチナと入れ替える。
新しく装備されたDISCの内一枚は、お馴染のジャンピン・ジャック・フラッシュ。
念写の最中に奇襲を受けても、空中を飛べるようにすることで回避できる範囲を広くするつもりだ。
そして彼はすぐに再びイエローテンパランスを全身に纏い、再び変装し、天狗が戻ってくるのを待ちつづける。

それからまた少したって……。
「おや、戻って来たようじゃ」
マミゾウがそう言ったので山の方角を見ると、一体の天狗がこちらに向かって来る。
「……」
ディアボロは無言で向かってくる天狗の姿を見て、その天狗が『命令を書き込んだ天狗と同一の存在』であることを確認する。
天狗は無言でディアボロの側に着地すると、手に持っていたカメラを差し出す。
そのカメラをディアボロは受け取る……と同時にもう一度ヘブンズ・ドアーの能力を発動する。
そしてもう一文、命令を書き込む。
『今から一時間、ディアボロとマミゾウとカメラの存在を認知できなくなる』
この命令を書かれ、ヘブンズ・ドアーの能力を解除された天狗は、まるで何もなかったかのようにその場を去って行った。
ディアボロはそれを見届けた後、早速カメラを確認する、
「(……ポラロイドカメラで、フィルムはちゃんとあるな)」
確認を終えると、彼の両手からイエローテンパランスを離れさせ、スタンドを出す。

彼の両手に出されたのは、紫色の茨。
このスタンドの名前は『ハーミット・パープル』。そしてこのスタンドの本来の持ち主、その者の名は、『ジョセフ・ジョースター』。

青年期は波紋を使う戦士であり、吸血鬼をも餌とする生物である『柱の男』達と戦い勝利を収め、最終的には多くの幸運と偶然を伴いながらも究極の生物と化した柱の男の一人である『カーズ』を地球より放逐することに成功し、運よく生還する。
晩年は不動産王になっており、娘であるホリィ・ジョースターの命を救うべく、一族の宿命の根源である『ディオ・ブランドー』を殺すために承太郎達と共にエジプトへと向かう。
『ディオ・ブランド―』と対の存在である、一族の宿命の始まりの存在である『ジョナサン・ジョースター』の孫であり、ジョースター一族の中で確認できる限り最も長生きした人物でもある。
そしてその機転の利きは、例え彼が年をとっても衰えることはない。

ジョセフの使うスタンドである『ハーミット・パープル』は戦闘向きのスタンドではない。
だが、念写や念聴等の探知能力に優れているのが特徴だ。
カメラを用いた念写は勿論のこと、テレビを使って音声を繋ぐことで念聴を行ったり、地面にぶちまかれた灰を操って地図を作ることができる。
力は強くないが、探索に優れたこのスタンドは、ある意味で頭がよく回るジョセフ・ジョースターらしいスタンドである。

200東方魔蓮記第四十七話:2014/08/22(金) 23:20:32 ID:BQv8IYvY0
おっと、名前変えるの忘れてました。いけないいけない。

そのハーミット・パープルがカメラに巻きつくと、ディアボロは素手でぶち壊してもおかしくない勢いでカメラを叩いた。
周囲に響く物音にマミゾウは少し驚き
「……そうせぬと駄目なのかい?」
軽く引きながらディアボロに質問をした。
「これが一番やり易いからな」
ディアボロは現像された写真を手に取ってそう答えながら先ほど装備したもう一つのスタンドを出す。

スタープラチナやザ・ワールドと同様に人の形をしており、ところどころがハート型をしている。
このスタンドの名前は『クレイジー・ダイヤモンド』。本来の持ち主の名前は『東方仗助』。

杜王町という町に住んでいる高校生で、彼の最大の特徴は所謂『リーゼント』。
しかし、これは彼が不良だからではなく、幼い頃に助けられた人物の髪型がリーゼントであったため、その人物に憧れてその髪型にしているのだ。
故に、彼の髪型を馬鹿にすると、『憧れの人を馬鹿にした』と認識して激怒する。
そのせいで酷い目にあった者は少なくないが、決して彼は『悪人ではない』。少々特殊な血縁だが、彼もまたジョースター家の血筋を引く者なのである。

彼のスタンド、クレイジー・ダイヤモンドは承太郎から『この世のどんなことよりも優しいスタンド』と評価されており、その理由はこのスタンドの能力にある。
近接パワー型であると同時に、そのスタンド能力により、物質、スタンド、生物の怪我などを『なおす』ことができるのだ。
但し、このスタンドでも『無』からなおすことは流石にできない。故に、ザ・ハンドやクリームといった、『削ってこの世から消滅させる』スタンドとは相性が悪い。
そして、これの応用で二つの物質を強引に融合することができる。
東方仗助はこの方法を使って『本と人間の融合』と、『岩と人間の融合』を行っている。
もっとも、融合された者は片や仗助の母や仲間を人質にとり、片や死刑執行をスタンドで乗り越えて脱走し、仗助の祖父を殺した殺人鬼と、犯した罪による『自業自得』と言えるのだが。

ディアボロに勢いよく叩かれた衝撃によるダメージをクレイジー・ダイヤモンドでなおす。
そうしながら、ポラロイドカメラより排出された写真を手に取る。
そして、クレイジー・ダイヤモンドによってカメラが『直された』のを確認すると、もう一度ハーミット・パープルを使って先ほどと同じやり方で念写を行う。
クレイジー・ダイヤモンドによって直されたポラロイドカメラは、再び現像された写真を排出する。
そして再びクレイジー・ダイヤモンドの能力でポラロイドカメラはなおされる。
それをもう一度繰り返し、ポラロイドカメラがなおされたところで、ディアボロとマミゾウは早速3枚の写真を確認する。

1枚目はある人物の全身を正面から写した写真。ヘッドホンのようなものを耳につけ、手には笏(しゃく)を持ち、帯剣している姿が写っている。
「『聖人』の姿を念写してみたが、マミゾウ、どう思う?」
「笏を持っておるから、古代の中国と交流があった時代以降の者だろうがのう……」

笏は6世紀に中国から伝来したと伝えられている。
日本では初めは朝廷の公事を行うときに、備忘のため式次第を笏紙という紙に書いて笏の裏に貼って用いていた。
現代で言うなら、カンニングペーパーを隠すためのものと表現するのが近いかもしれない。
後に重要な儀式や神事に際し、持つ人の威儀を正すために持つようになった。

笏を持っていることから、『聖人』は6世紀以降の人物であることが証明された。
だが、その容姿を知ることはできても神霊廟の位置に関する情報はまだ得られていない。
そこで二人は、二枚目の写真を見てみる。

「神霊廟を正面から念写した」
「中々立派じゃのう」
2枚目の写真は神霊廟を正面から写したもの。
思ったよりも大きい建物に、マミゾウは正直な感想を漏らす。
……だが、此処でディアボロに一つの疑問が浮かぶ。
「(確か、聖人が復活してから数日しかたっていないはずだが、どうやって『数日の間にこれだけ大きな建物を建てた』?それとも元からその場所にあったのか?)」
普通、建物を建てるのには数か月はかかる。
だが、写真に写っている神霊廟は、木造建築の山小屋などとは比べ物にならない大きさだった。
多くの人を24時間休みなしで動員しても、可能な限り手を抜いた欠陥住宅だとしても、たった数日でこれだけの大きさの建物ができるはずがない。
「(……どうなっている?)」
ディアボロは疑問を抱きつつも、3枚目の写真を見始める。

201東方魔蓮記第四十七話:2014/08/22(金) 23:21:02 ID:BQv8IYvY0
「神霊廟を中心に上空から周りの地形がわかる様に写してみたが……これは一体どうなっているんだ?」
さながら衛星写真のように撮影された3枚目の写真。
……しかし、そこには神霊廟と幻想郷を繋げる道が『なかった』。
「どうやら、神霊廟は別の空間に存在ようじゃ」
まるでそこだけ切り離されたかのような空間。それが神霊廟の存在する場所だったのだ。
「(これは予想外の展開だな)」
紫や白蓮の記憶を見て、『魔界』という、この世界とは違う世界の存在と、そこへの入口が存在していることは知っていた。
だが、この聖人も居住可能な異空間に移動ができるとは、ディアボロは微塵も思っていなかった。
そのため、「幻想郷のどこかにあるのだろう」と思っていた彼の予想を裏切る結果となった。

「流石に別の空間にあるとは予想外だな……」
「それだけ、『聖人』はかなりの実力の持ち主ということじゃろう」
「だが、別の空間にあるということはどこかにこちらと向こうを繋げる道があるということだ。だから4枚目でその道への『入口』を見つけ出す」
ディアボロはそう言うと、クレイジー・ダイヤモンドを出して……カメラをなおすのではなく、背後を振り向いた。
「興味があるのか?新聞記者」
「ええ、まだ知られていないネタならば特に」
振り向いた先には、射命丸がいた。
「それに、そのカメラは私の物ですから」
どうやら警備の天狗が持ってきたものは、射命丸のカメラだったらしい。
何故警備の天狗が射命丸のカメラを盗んできたのかというと……恐らく、『ポラロイドカメラを優先とし、』という一文のせいだろう。
新聞大会でもランキング外である彼女ならば、物一つ盗まれたところであまり騒ぎにならないと警備の天狗に思われたのかも知れない。
もしもその通りなら、そう思われた彼女がちょっと不憫である。

「まあ、写真に気を取られていても視線を感じ取れるほどこっちを見ていたからな……」
「分かっているなら、早く私のカメラを返してほしいわ」
射命丸は怒っていた。
新聞記者にとっては大事なカメラを盗まれて、犯人を捜していたら他の天狗が実行犯で、命令は二人の人物。
犯人を目前にして、すぐに攻撃を仕掛けたいところをどうにか抑えているのかもしれない。
「駄目だ。後2回は同じことをやらせろ」
「それってあと2回も私のカメラを本気で叩くんですよね」
射命丸の怒りのボルテージが上がったが、ディアボロもマミゾウもまったく気にしていない。
「ああ、そうしたほうが確実に決まるからな。安心しろ。傷なんてなかったことにして返すから」
ディアボロはそう言ってもう一度ハーミット・パープルを発動して、勢いよくカメラを叩く。
4枚目の写真が排出され、ディアボロはそれを手に取って確かめる。
マミゾウと、ついでに射命丸も近寄って一緒に見てみる。
「……これはなんじゃ?」
「『入口』に該当する場所を写してみようとしたが……本当にこれが入口か?」
「…………」
写真に写っているものについて3人とも考えるが、それ以上に重要なのは……。
「……あと一枚。写し出すのはあの入口と思われるものが『どのあたりにあるか』だ」
ディアボロはそう言いながらクレイジー・ダイヤモンドでカメラをなおす。
そして、先ほどよりもハーミット・パープルに精神を集中させる。
大一番、ここでしくじるわけにはいかない。
精神を集中させたまま、全力でスタンドパワーをカメラに叩き込まれるッ!
カメラは叩かれた衝撃による音を発し、写真を排出する。
排出された写真には、その『入口』がどこにあるのか……それを示す場所が写されていた。
「これが……神霊廟へと続く入口のある場所か」
とは言っても、幻想郷に来てから間もないマミゾウには分からない。
ディアボロも幻想郷に来てから色々な場所へと行ってきたが、それらはあくまで紫の記憶にあった所謂『有名な場所』。
残念だが、無名の場所に関してはちっとも詳しくないのである。
となると、この3人の中で最も入口のある場所に心当たりがあるのは……。
「新聞記者。この写真に写っている場所に何か心当たりは?」
そう言ってディアボロが写真をよく見えるようにして見せると、射命丸はその写真を凝視し、少し考え始めた。
「…………」
射命丸には風の声が聴けるらしい。ついでに風の噂を掴むことも得意だそうだ。
それを知っているディアボロは静かにしており、マミゾウも特に話すことはないので静かにしていた。
……ひょっとすると、カメラが盗み出されたことに感づいた原因は、風から教えられたかも知れない。

202東方魔蓮記第四十七話:2014/08/22(金) 23:21:32 ID:BQv8IYvY0
「成程、そういうことですか……」
射命丸はそう言うと、二人が視界の中心に入る様に視線を向けて
「教えてあげてもいいですが、一つ条件があります」
「なんだ?カメラなら今返すぞ」
ディアボロはそう言いながら、クレイジー・ダイヤモンドでカメラをなおす。
そしてカメラを射命丸に差し出すと、彼女はそのカメラを分捕ってカメラを確かめる。
ディアボロが何回も勢いよく叩いたのは紛れもない事実なのだが、叩くたびに1回1回クレイジー・ダイヤモンドでなおしたために傷や損壊は存在しない。
……寧ろなおされたことで盗まれる前よりもよくなっているかもしれないが、この3人は全員『カメラの内部を見てはいない』ので、そこに関してはわからない。


「カメラを盗ませて勝手に使ったの許してあげますが、私のフィルムを勝手に使った弁償として、取材を手伝ってもらいます」
厳しい表情のまま、射命丸は二人にその条件を提示した。
彼女が提示した条件が緩いのは、恐らくディアボロの念写のおかげで、新たな取材先の場所を知ったからだ。
加えて、そこの情報はまだ他の天狗には手を付けられていない。だとすれば、スクープの数は計り知れない。
他の天狗がそこに手を付ける前に、得られる情報は根こそぎいただくつもりだろう。
……もしもカメラを使う理由が違ったら、彼女は攻撃してきたかもしれない。
「成程、勝手にカメラのフィルムを使ったのだからそれ相応の対価を労働で払ってもらおうというわけか」
ディアボロはそう言っているが、彼はその言動の裏にある予感を感じていた。
「(……こいつ、いざとなったら俺たちを捨て駒にでもするつもりか?)」
真偽は不明。だがやりかねない。
だがこちらも、彼女と共に行動することで情報を集めやすくなるし、いざとなったら彼女を囮にすることができる。
それに加えて、後でそれを責めに来てもヘブンズ・ドアーやホワイトスネイクを使ってその記憶を消去できる。
ディアボロとマミゾウにとっても、この提案を拒否する理由はない。
「……分かった。お前もそれでいいか?」
ディアボロはそう言ってマミゾウの方を見ると、彼女は面白そうだといいたそうな表情をしていた。
「うむ。儂もそれで構わんぞい」
「決定ね。それでは早速行きましょう」
「準備はしなくてもいいのか?」
マミゾウが了承したのを聞き、早速現場に向かおうとする射命丸にディアボロが質問をする。
取材を行うというのなら、受けた者の発言内容を記録するメモぐらいは追加で必要である。
「カメラは貴方達が持っていたし、新聞記者として手帳は常備しています」
文がそう言って懐から取り出して見せたのは、文花帖という名の手帳。
彼女にとってカメラと同じぐらい大事な物であり、この手帳には彼女が撮った写真や、情報を記したメモが保管されている。
「それじゃあ、今度こそ行きましょう」
射命丸はそう言って飛び立つ。
そのスピードは、後ろに二人を連れていくためか、彼女にしては珍しく遅いほうである。
マミゾウも飛び立ってその後についていき、先にジャンピン・ジャック・フラッシュを装備していたことが幸いして、ディアボロも遅れることく二人の後に続いて飛び立つ。

こうして、偶然にも新たに射命丸を加えることになったディアボロとマミゾウは、神霊廟目指して飛んでいく。
情報収集に正当性を持たせられるようになったのはよいが、はたして射命丸が加わったことで事態はどうかき乱されることになりうるのか……。
それは3人の内誰にも分からないのであった。

203セレナード:2014/08/22(金) 23:24:12 ID:BQv8IYvY0
投稿終了です。
もうすぐここに投稿する話も本編だけ数えても50にせまりつつあります。
……でもまあ、実際には1話にまとめたり(一話だけ)消したりしたので、実際は42話程度なのです。

私が投稿を始めたころより、随分と時間が経ったのがわかりますね……。
ですが、途中で失踪しないように頑張っていきます。

204塩の杭:2014/08/23(土) 17:15:37 ID:XWwzE.J.0
投稿お疲れ様です。

読んでいてハーミットパープルの恐ろしさを再確認しました。
遠隔地の情報を数万円のカメラと引き換えに瞬時に得られるわけですし…
ディアボロならすぐ直せますしプライバシーもあったもんじゃあないですね。

この作品も残り半分程の折り返しと知り、終わりがやっぱりあるんだなと感じます。
長い間書き続けられたならば最後までみたいという気持ちも大きいのですが…
・・・次が楽しみだな、と思い続けておりますので頑張ってください!

205ポール:2014/08/23(土) 22:40:08 ID:cFbNjB0I0
投稿お疲れ様です!
ディアボロェ…よく一回目に壊したときにやられなかったな…
東方魔蓮記が途中からwikiのほうへ転載されておられないようで、いつの間にか話が飛んでてびっくりーです。

206セレナード:2014/08/23(土) 23:09:44 ID:0FCspfaY0
ご感想、ありがとうございます。
それでは、お返事を返していきます。

>塩の杭さん
最終回の目処は輝針城ぐらいを予定しています。
とはいえ、まだまだ『ディアボロの冒険』は終わらないです。
応援、ありがとうございます。これからも頑張っていきます!

>ポールさん
多分一回目の後直さずに放り投げたら攻撃されたでしょうねw
それはもう、弾幕ごっこではなく『蹂躙』と言えるほどの数の弾幕の猛攻を受けたかもしれません。

そう言えばしばらく誰も転載していませんでしたね。しなかった私にも問題ありですけど。
そのうち転載の作業をしておくとしましょうか。

207名無しさん:2014/08/23(土) 23:10:06 ID:1lTKt/xg0
セレナードさんの書くディアボロって、なんかこう、「結果さえよければ過程なんぞどうでもよい」というのがありありとでてますよね。
ディアボロだからそれでもいいんでしょうけど、本編より丸く見えるのに地が変わってないというか。
目の前で大事なものを壊されるの、誰でも嫌だろうに…w返すぞ、じゃないってwwそりゃ怒るよ!あやちゃん怒るよ!

208どくたあ☆ちょこら〜た:2014/08/24(日) 20:47:48 ID:HfP8KtL20
セレナードさん、投稿お疲れ様です。
敵に回しかけた射命丸を逆に取り込んだディアボロ、ただしお互いに信頼は無し。
しかし、元々何者も信頼せず利用してきたボスのこと、今回の事態は寧ろ『得意分野』なのでしょうね。射命丸に遅れを取ることはないでしょう。
次回も楽しみにしております!

209セレナード:2014/08/31(日) 22:10:29 ID:H2LI50Qg0
東方魔蓮記最新話、少々早いですが完成しました。

……書けるときは一気に書けるんですが、書けないときはかけないんですよねぇ。
良くある話なのかな?

210東方魔蓮記第四十八話:2014/08/31(日) 22:12:02 ID:H2LI50Qg0
ここが神霊廟か……見事なものじゃ」
今3人は、『入口』を通って神霊廟へと到達したばかりである。
一度写真で見ていたとはいえ、目の前に広がる光景には、ディアボロもマミゾウも射命丸も驚きを隠せなかった。
「新聞記者。どこから見て回る?それとも聖人を先に捜すか?」
ディアボロは射命丸を見ながら彼女に問いかける。
その質問を聞いた射命丸は少し考えて……
「先に聖人を探します。ついてきてください」
そう言って動き始めた。ディアボロとマミゾウもその後についていく。
「(迂闊に動いてひどい目にあわないといいが……)」
ディアボロはそう思っているが、射命丸は取材相手には礼儀正しいことは知っている。
……そう、『取材相手には』である。
白蓮に仕える者がいるように、聖人にも仕える者はいないとは限らない。
その者と射命丸の仲が嫌悪になって、聖人に取材ができなくなるのはディアボロとしても困る話だ。
だから、そのあたりはうまくディアボロとマミゾウでフォローしていかないといけない。

射命丸の後に続き、ディアボロとマミゾウも神霊廟の中に入る。
「初めて入る建物なのじゃ。はぐれてしまわぬよう気を付けなければならぬのう」
「ああ。この年で迷子になるのは勘弁だ」
そんな会話を二人でかわしながら、周囲を見渡す。
「誰も見当たらないが、『呼んでみる』か?」
ディアボロは二人に目配りしながら質問をする。
「勝手にうろついて怪しまれるよりはよいかもしれんのう」
「……そうですね。相手も取材をしに来たと分かれば警戒をしないはずです」
マミゾウと射命丸もその提案に賛成する。
「決まりだな」
ディアボロはそう言ってもう一度あたりを見回す。
「誰かいるか?」
ディアボロはとりあえず、誰かいるかどうか確認するために呼びかけてみる。

………

返事はない。

「どなたかいらっしゃいませんかー?」
射命丸はより大きな声で呼びかける。

………

「……誰か来るぞ」
返事は無かったが、誰かの気配がするのはディアボロには分かった。



「よくぞここにまいられた」
そう言って姿を見せたのは、古風な服をきて、大き目な帽子をかぶった灰色の髪の女性。
「…………」
だが、その直後に彼女は黙ってしまう。
「………?」
射命丸は疑問に思うが、ディアボロはあることに気づいた。
この女性は射命丸を睨んでいる。いや、『睨んでいるだけ』ならまだマシだった。
「(射命丸とこいつは初対面のはずだ。なのになぜ)」
女性が凄まじい量の矢の形をした弾幕を撃ってきて
「(『敵意』を抱いている……ッ!?)」
それに反応してディアボロは動きだした。

211東方魔蓮記第四十八話:2014/08/31(日) 22:12:34 ID:H2LI50Qg0
ディアボロが予想していた事態は、お互いに何もしていないなのに起きてしまった。
ディアボロは咄嗟に射命丸の前に立ち、弾幕を全てその身で受け止めながらも、なんとか踏ん張って耐えきる。
イエローテンパランスがなければ、ダメージをもろに受けていただろう。
「な……!?」
「!?」
女性はディアボロが射命丸を庇ったことに、射命丸はいきなり攻撃されたことに驚きを隠せなかった。
「新聞記者!早くこの場を離れろッ!何故かはわからないが、あいつはお前に敵意を抱いているッ!」
ディアボロはすぐに闘う構えを取りながら射命丸に警告する。
そしてすぐにマミゾウに目配りをし、
「護衛は任せたぞ」
マミゾウに射命丸の護衛を指示する。
「承知したぞい」
マミゾウはディアボロの言うことに従って、移動する射命丸を庇いつつその場を射命丸とともに離脱しようとする。
「させぬぞ!」
女性はそう言ってもう一度射命丸に狙いを定めるが、その時に移動する対象に集中していたのが失敗だった。
女性の視界から外れたのを理解したディアボロはすぐにイエローテンパランスを両手から引っ込めると、ハーミット・パープルを出して女性に絡みつかせる。
「なっ……!?」
絡みついたハーミット・パープルは、すぐに女性を縛り、締め付ける。
手首も足首も縛ったことで、物を投げつけるなんてことも女性にはできなくなった。
前兆の無かったその感触に女性は驚きの声を上げ、そちらに気を取られた隙に射命丸とマミゾウはその場から逃げることができた。
「いきなり何をする!?」
ディアボロはハーミット・パープルを緩めることなく、突然射命丸に攻撃してきたことについて女性に問いかける。
「お主の方こそ、何故妖怪をかばう!?」
女性の方は、先ほどのディアボロの行動が理解できないとばかりに彼に問い詰める。
「護衛をすることになったなら、目的の場所まで送り届けるまでその仕事をするのが常識だ」
ディアボロはそう言って女性を睨む。
「送り届けた後に護衛の対象がどうなろうがもう関係ないが、今はまだ仕事は終わっていないからな」
『元』とはいえギャングらしい考えだが、部下に自分の娘を護衛させておいて送り届けてもらったらすぐに殺そうとしたのはこの人です。
「あいつが目的の場所に辿り着けるまで、俺がお前の相手をしてやる」
ディアボロはそう言って、クレイジー・ダイヤモンドを出す。

弾幕はイエローテンパランスのおかげで全く効かず、何か道具をディアボロにぶつけようにも、精々造形が少し崩れるぐらいだ。
なんせこのスタンド、変装時にスタープラチナにぶんなぐられても中の人は平然としていられるほどの高い防御性能を持っている。

女性は自分が『何かに縛られている』のは目の前の男の仕業だと考え、先ほど射命丸に攻撃を仕掛けたときよりも多い量の弾幕を撃ってくる。
だがディアボロは焦ることなく、ハーミット・パープルの縛りを緩めずに耐え続ける。
「くっ……放さぬか!」
先ほどの大量の弾幕を軽傷で凌ぎきったことで、女性はなんと炎を出してきた。
「!!」
ディアボロにとっては予想外だが、女性からすれば、相手が物理攻撃に耐性を持っていて、かつ自身が拘束されていて動けないときには自身が使える最善の一手だろう。
「放さぬというのなら、これでもくらうがいい!」
女性はそう言って、炎をディアボロに向けて浴びせる。
流石にそれはマズい。イエローテンパランスのない両手は火傷を負うだろうし、イエローテンパランスがはじけ飛んでディアボロの制御から離れ、ハーミット・パープルにくっついてディアボロにダメージを与える事態になるのは避けたかった。
ディアボロはハーミット・パープルを解くと、その炎を回避しながらイエローテンパランスに両手を覆わせる。

212東方魔蓮記第四十八話:2014/08/31(日) 22:13:57 ID:H2LI50Qg0
自らを縛る『不可視の何か』が無くなったことを理解した女性は、すぐに浮遊する。
「(炎を使ってくるとは思わなかったが、こいつが俺に気を取られるようになったのは幸いだな……)」
幸い、イエローテンパランスと炎の相性は良い。
熱による火傷を防ぎ、時にはじけ飛ばして相手に傷を負わせることはできるからだ。
彼女がディアボロを敵として攻撃し続ける限り、かなりの時間は稼げるだろう。
「一つ聞きたいことがある。何故お前は突然新聞記者を攻撃してきた?」
誰の記憶にも乗っていなかったこの女性の情報を得るためには、直接この女性と対話するしかない。
そのため、ディアボロはこの女性との対話を試みる。
「お主の方こそ、何故あの天狗をかばった?お主は後であの天狗に襲われるなどとは思わぬのか?」
女性の方は、説明されても未だにディアボロの行動が理解できないようだ。
「……何を言っている」
ディアボロは皮肉を込めた笑みと鋭いままの眼光で女性をにらむ。
「お前を縛り上げれる実力を有している時点で、俺があの新聞記者に殺されると思っているのか?」
笑みを浮かべたのはほんの僅かの間。
ここからは、真剣に目の前の敵を倒すために行動を開始する。
「なるほど、確かにあれは侮れぬものだったが、どこまでも伸ばせるわけではなかろう?」
女性はそう言って炎をもう一度出してきた。
「お主の行動から、これならば有効と我はみたぞ」
それを見たディアボロは、再び構える。
「さあ、今度こそくらうがいい!」
女性はそう言ってもう一度炎を放ってきた。
それをディアボロは、背中の部分を構築している肉の部分を壁として目の前に構築して対応する。
そして、炎が迫ってこなくなったのを確認すると、肉壁をすぐに自身に戻す。
「ぬう……まさか容易く防がれるとは」
女性は不満そうにディアボロを見る。
「そしてその壁がお主にまとわりついたということは、お主には炎は効かないということか」
「Exactly。その通りだ」
ディアボロはそう言ってクレイジー・ダイヤモンドを出す。
「……だが、こちらが得意なのは接近戦だ。遠距離攻撃を得意とするお前とは少し相性が悪そうだな」
「しかし、お主は我の弾幕や炎では倒せん」
女性はどこからともなく弓と矢を取り出す。
「だが、これならばどうだ!」
自信満々な表情で女性はそう言いながら弓を引き絞る。
「(成程、イエローテンパランスを射抜くつもりか)」
その意図に気づいたディアボロは、先ほどと同様に背面に纏っているイエローテンパランスを再び肉壁として展開する。
そして視界を妨げることに成功すると、今度は手の部分を除いて全て肉壁の構成に回す。
「(早めに切り替えないといけないな……行けるかと思っていたが、予想以上に『負担が大きすぎる』)」
ディアボロはそう思いながら、自分から4枚ものDISCを取り出す。

213東方魔蓮記第四十八話:2014/08/31(日) 22:15:03 ID:H2LI50Qg0
……ところで、気づいた者はいるだろうか。
妖怪の山でカメラを取ってきた天狗に、ディアボロはヘブンズ・ドアーを使った。
だが、その時には彼はそれとは別に4枚のDISCを装備していたのだ。
ハーミット・パープル、クレイジー・ダイヤモンド、イエローテンパランス、ジャンピン・ジャック・フラッシュ、そしてヘブンズ・ドアー。
そう、あの時の彼は、全てを同時に使っていなかったとはいえ、なんと5体のスタンドを制御していたのだ。

スタンドは『精神力の具現体』。故に本来は群生型などの一部のスタンドを除いて一人一体である。
だがディアボロは、DISCを用いることで他人のスタンドを自分のものにしている。
他人のスタンドを制御するのは容易いことではなく、大抵の場合は他人のスタンドは制御できずに暴走させてしまう。
その事態に陥るのを防ぐ方法は一つ。
エンポリオ・アルニーニョがやってみせたように、『強い精神力を持って、暴れ馬をならすようにうまく制御しきること』である。
ディアボロはそうやって、今まで最大で4つのスタンドを制御してきた。

だが、その状態でありながらスタンドをより多く同時に制御しようというのなら、1枚追加した瞬間から彼の精神の負担が大幅に増加するのは避けられない。
それでもなお、一見すると何でもないように振る舞える時点で、彼の精神力は『異常』といってもいいのだ。
そしてその異常なまでの精神力は、今もなお経験や闘いによって成長を続けている。
住む場所が変わったからといって、彼の精神力が成長を止めるわけではないのだ。

イエローテンパランスを除く4つのスタンドのDISCを全て自身から抜き取ったディアボロは、すぐに3枚のDISCをケースから取り出す。
そこに肉壁を越えて矢が飛んできたが、ディアボロはそれをDISCで弾き落とす。

流石に5体ものスタンドの制御はこれ以上続けられないと判断したのだろう。
そして深く息を吐いて取り出した3枚のDISCをまとめて装備する。

弾いた音を聞いて届いたと判断されたらしく、次の矢が再び肉壁を超えて飛んできたが、それはスタープラチナによってキャッチされる。
その後すぐに時間を止めて、イエローテンパランスを再び自分に覆わせる。

現在、ディアボロが装備しているDISCはイエローテンパランス、スタープラチナ、ウェザー・リポート、エアロスミス。
炎と弾幕への耐性を持ち、近接戦も遠距離戦もこなせる組み合わせである。
女性との戦いにおいては、相性は悪くないだろう。

「何と!?」
目の前の肉壁が何の前兆もなく一瞬で消えたことに、女性は驚きを隠せなかった。
だが、今まで自分が体験したこともない現象にも怯むことなく、女性は再び弓を構えて引き絞る。
「…………」
ディアボロは動かず、何も語らない。
ただ、女性の動きを警戒しているだけである。
女性はそれを好機ととらえ、引き絞る力を強めて狙いを定める。

数秒の後、放たれた矢はディアボロ目掛けて一直線に飛んでいく。
だがその矢は、彼の右肩に命中する前にスタープラチナによって受け止められる。
リボルバーから放たれた銃弾を発射直後に指で挟んで受け止められるスタープラチナにとって、矢を受け止めることなど容易いことである。
「どうやら、完全に相性が悪くなったようだな」
ディアボロはそう言いながらスタープラチナに槍投げの要領で2本の矢を投げさせる。
「まだだ!」
女性は矢をたやすく受け止められ、投げ返されながらもそれを回避し、相性の悪さを宣告されながらも戦意は折れることはない。
「我が物部の秘術と道教の融合、その全てを我はまだ出し切ってはおらん!」
「それは俺だって同じだ。今までが俺の出せる全てだと思うな」
女性は今度は大きな皿を出し、ディアボロはエアロスミスを右腕に出し、その腕を女性に向ける。

片や妖怪に敵愾心を持ち、片や妖怪と一緒に生活をしている。
二人がお互いのことを詳しく知ったら、ディアボロは何とも思わないかもしれないが、この女性はどう思うのだろうか。
妖怪を庇う者として、彼を憎むだろうか。それとも、彼を助けようとして奮闘するだろうか。
……その答えは今は分からない。

214セレナード:2014/08/31(日) 22:19:39 ID:H2LI50Qg0
投稿終了です。

布都は妖怪に理由のない敵愾心を抱いているということで、戦闘の切欠がこのようなことに……。
そしてさりげなく今もなおディアボロは成長を続けています。
というか、あんな経験をしておきながら成長していかない理由がありません。

今年の夏は、ここら辺は冷夏に近い状態でした。
おまけに降雨が起きた日数が、月の半分を超えていたために出かけたくても出かけられない状態に……。
夏がこれなら、冬はどうなっちゃうんだろ。

215名無しさん:2014/09/04(木) 00:19:27 ID:k6WF1Zww0
投稿お疲れ様です。
ディアボロの精神は成長し続ける!人間は成長するのだ!してみせるッ!!
1部の単行本を読み続けているからかな?(ぶち壊し

布都ちゃんは対妖怪に関しては勘違いの喧嘩っ早いイメージはありますので、まさしくそんな感じ、という印象です。
おかげで心綺楼の意外と頭脳プレーに違和感をも感じてしまいますが。んー、これは個人の印象ですかね。
しかし、冷静になればディアボロは『送り届けた後は知らない』って言ってるんだから妖怪だけ相手にしたいのなら一旦送ってしまえばいいのに、とも思ってしまいますね。
自分の巣窟へ、屠自古も率いて相手ができるのに。…もっともそれを看破してディアボロが助けに行きそうな気もします。

続き、期待しています。自分も土日にはあげられたら…

216ポール:2014/09/05(金) 01:48:30 ID:uq3NNb/g0
投稿お疲れ様です!
今更ながら何枚もDISCを使えるのってスッゲーチートですよね
そして喧嘩っ早いどころかもはやフライングの勢いでケンカを仕掛ける布都ェ…

217どくたあ☆ちょこら〜た:2014/09/06(土) 18:24:35 ID:PwfeWXuw0
セレナードさん、投稿お疲れ様です。
【イエローテンパランス】、他の自分のスタンドまで喰ってしまうという弱点が存在したとは。しかし本体を喰うことは無いのですから、自身のスタンドも食われる危険は低い気が…
私の中では布都はジョセフタイプの飄々とした策士のイメージですね。抜けている部分も自分の一族を滅亡に引き摺り込む冷酷さも、どちらも彼女の本性。
『大火の改新』のような全方位焼き尽くす攻撃に対しても【ウェザー・リポート】がある限り、危なげなく戦えるでしょうね。
次回の戦闘、楽しみにしております!

218セレナード:2014/09/06(土) 19:07:42 ID:jWhdhivM0
みなさん、ご感想感謝します。
それでは、感想返しと行きましょうか……。

>名無しさん
あれはある意味、幻想郷に慣れたから心綺楼ではあんな感じになっているのでしょうかね?
良心的かつ実力のある者は妖怪でも認めているように受け取れますし。
とはいっても、あの場面は事情が分からぬ者には『天狗が人間二人を連れている』ともとれる風になっていますし。

送り届けるといっても、神霊廟にではなくて『聖人』のところに、なのです。
わかりにくかったのなら、何かしら修正でもしておいた方がいいでしょうかね?

>ポールさん
エンポリオもあの土壇場で2体のスタンドを制御できるようになったと考えると、ディアボロの最大5枚は凄まじい程にチートになりますね。
しかし、5体のスタンドを制御するとなると『常時精神を消耗する』のは避けられません。
『複数体スタンドを出し続けるのが難しくなる』(現に5枚装備時には4体以上スタンドを出せていない)こともありますし、ディアボロとしてもあの状態を維持するのは至難です。

布都のあの喧嘩を仕掛ける早さは……一体、射命丸のどこを見て判断したのやら。

>ちょこら〜たさん
あくまであれはディアボロの憶測……とも断言できないんですよね。
承太郎とラバーソウルの戦闘時、承太郎の手についたイエローテンパランスをラバーソウルは操りませんでした。(ゴンドラに乗り込んだ時には手についているのを見ているのに)
もしもあれが『操ることができない』、すなわちラバーソウルの制御を離れて動いているのだったら、ディアボロが上げた事例が起こりうるだろうと考えたのです。

ちょこら〜たさんには布都はジョセフタイプのイメージですか……。
なるほど、キレるポイントさえ違えば、そのイメージも当てはまりそうです。

『大火の改新』は……使うとなれば、如何にして布都が神霊廟の外にディアボロを誘導できるかがポイントですね。
流石に屋内ではあの技は使うわけにはいかないでしょう。神霊廟の中となればなおさらのことです。

219まるく:2014/09/07(日) 08:42:20 ID:hWr8uJPI0
段々と目標にしている期日からずれている…いいのか、自分。
投稿します、とりあえず!

220深紅の協奏曲 ―飛べよ、踊れよ、円舞曲と共に 3―:2014/09/07(日) 08:43:27 ID:hWr8uJPI0
「……以上が将棋の駒の動きとルールよ。わかった?」
「ああ。何となく、は」

 駒を動かしながら、幽々子からの説明を聞くドッピオ。
 確かにチェスとは似ているが、差異はそれなりにある。
 盤面が広く、その分多い駒。縦横無尽に動き回るチェスとは違い、堅実に立ち回るかの小さな動き。

「そして、取られた駒はこちらの駒として使用できる、か」
「ええ。これがこの遊びの妙味。味方が敵となって現れ場を混沌とさせる……これもお国柄の違いかしら?」
「……キャスリングもない。チェスは攻め入るゲームだけれど、こっちは似たようで既に刃が喉元に届きそうな、違いがあるな」

 手番を使い、結局壁にしかならなそうな一手が多く見えそうなルールでしかないように見えるが。それがドッピオの第一印象。
 飛車や角行といった強力な動きをする駒をもし取っても自分が取られたら対等に戻る。状況にもよるが、二つを持たれてしまえば太刀打ちできないだろう。
 チェスでは取った駒は盤面から取り除かれ、それまでだ。どんどんと消耗していく駒を、どれを使っていくか。そこで頭を悩ませていく。

「……確認だけど」
「はい?」
「具体的にどうすれば、お前は話をする気になる? 将棋で勝て、というのは実質的に喋る気はないという意味でとるけれど」

 声色を低くして幽々子に語りかける。そのはず、彼にはほとんど経験の無いゲーム。チェスも、ルールは知っているが数えるほどしかやっていない。

「そちらから持ちかけてきている以上、お前が未経験、もしくは苦手としているとは思わないぞ。甲子園優勝チームがバットを持ったことの無い茶道部に勝負を持ちかけているようなものだ、と思っているからな」
「あらあら……」

 それに対し、幽々子は困ったような表情を浮かべて笑う。
 その行動も半分苛立っている彼にとっては感情を煽る行動にしかならない。

「どうなんだ? 付き合うだけでいいのか? それとも条件があるのか? 言ってみろ」

 青筋が立つのをこらえながら、改めて問いかける。

「はぐらかしたら殴られかねない雰囲気ね。怖いわ。……さっきも言った通り。あなたが過去と向き合う盤面。それを感じ取れればいいのです」
「……ッ!! だからッ、どういう」
「お付き合いしてくれますか? してくれませんか?」

 どうやら、その点については問答を行う気がない様子。ありありと、見て取れる。
 選択肢を選ぶ以外、例えば選択肢を増やすことやそれについて質問すること。それらは行わないと言っている。

「……相変わらず、分かったようなことばかり……」

 口元に笑みを湛え、何処吹く風と自分の感情を受け流している。押し問答をしても、一点の答えしか返ってこないだろう。
 相手の感情を読み取り逆撫でする技術では勝ち目はない。それを持った相手に対して口で挑むのは至難。
 その行き着く先は、歩を一つ動かすことで始まった。

「それならば、さっさとはじめよう」

 実際にこのゲームがどう動くかはわからない。ただ、最初の一回で終わることはないだろう。彼女の言葉を信じるなら、将棋盤は過去であり、それと向き合うことが重要。
 理解の行き着く先にまで付き合わされると、ドッピオは予測した。この戦いは、幾度も繰り返されることで自分に何らかの意図を認識させるものと。

「どうぞ、よろしくお願いいたします」

 その通りか、別の思惑か。読み取ることはできないものの幽々子は手を進め、ゲームの開始を受ける。

221深紅の協奏曲 ―飛べよ、踊れよ、円舞曲と共に 3―:2014/09/07(日) 08:44:00 ID:hWr8uJPI0




「…………」 
「これで終わり、です」

 盤上に残っている物はほとんどがドッピオに切っ先を向けた駒であり、自分の駒はほとんどが失われているか、動かすことも無意味な状態にあった。
 そこに飛び込むように置かれた歩。元々はドッピオの駒だった歩を盤上に指し、幽々子は彼の敗北を告げる。
 まだ直接王手に至るわけではないが、どう動かしても次か、その次の一手で王手と至るだろう。詰みの状態だった。

「ん〜、やっぱり初めてさんには難しいかしら?」
「言ったろ、やったことないって。それに、あんまりこういう遊びは得意じゃないから」

 少し負け惜しむよう聞こえるように、幽々子に返す。
 一戦目は動きの確認と、彼女の実際の強さを図るためのものと考えていた。
 駒の動きと有効な活用方法。相手が使う戦略からの定石の推理。いわば勝つための手段を。
 そして、幽々子は実際に強いという確認。こちらのレベルに合わせて手加減をして、それを匂わせないようにする程度にはできる技量だということ。

「さあ、次へと参りましょう」

 盤上を片付け、駒を並べ直す。言葉の通り、再戦の合図。

「……そう、しようか」

 ドッピオも盤面に目を下ろし、その戦いに興じる。
 否、目線はそちらに向けていても意識は別方向に向いている。
 駒を持つ手におぼろげにもう一つの陰が現れ、共にドッピオの視界の端に映像が浮かび上がる。
 断片的ながらも、そこに映るのはこれから先の未来。

「あら、……あらぁ」

 ぱちぱちと、手の進むごとに幽々子の手の勢いが陰る。
 先ほどまでの様に慣れぬ手つきで進めていたとは思えぬ、道筋が見えているかのようなドッピオの打ち筋。

「随分呑み込みが早いのね?」
「そうかい?」

 彼女のペースに付き合わず、自分の勢いを重視して手を進めていく。
 いつの間にか、互いの技量が逆転したかのようにも見えた。

222深紅の協奏曲 ―飛べよ、踊れよ、円舞曲と共に 3―:2014/09/07(日) 08:44:36 ID:hWr8uJPI0




「……じゃあ、こういうのはどうかしら」

 ぴち、とドッピオの王将の前に桂馬が指される。この駒も、先に後続が幽々子を刺すため、ドッピオが捨て駒として使用した物。
 予知に従った今回の盤上は初めの頃こそドッピオが攻勢であったが手が進むごとに彼の包囲を抜けるかのごとく勢いを躱し、気づけば逆転していた。
 目前に置かれた桂馬を取るのはたやすい。だが、それを取れば後続が彼の王将を刺す。かといって退けばそのまま追い詰められ、戦いは終わりを迎えるだろう。

「……くっ」

 頭の中から、響くように痛みが走る。
 画面には、そのまま変わらぬ盤上で手を震わせている自分が写っている。……予知を見るまでもなく、自分の考えでも敗北は見えている。
 所詮は小手先なのだと言わんばかりの、彼女の打ち筋。一寸先の未来も、ぽっかりと開いた穴に進む道しか映していなかった。
 その道しか映しておらず、それに頼れば落ちるは必然。

「二回目だというのに、ずいぶん上手になったわね。苦手だって言っていた割には……まるで、先が見えていたかのような指し方だったわ」

 その言葉に対して、ドッピオは何も言い返せない。実際に見えていた。その通りに進んでいた。
 エピタフによる予知があるから、ある程度は余裕を持っていた。相手より先が見えていれば、その相手を打ち崩す策を持って予知は答えてくれるのだと思っていた。
 だが実際はどうか。がむしゃらに進む自分の周りを囲うかのように策を張り、罠をかけて待つ手筋に嵌っただけ。
 先が見えても対局が見えていない。よく使われる言葉ではあるが、予知を用いた状態でそれにやられるとは考えてもいなかった。
 頭の中から、血管が潰れるような痛みが走る。

「さあ、次へと……どうしました? ずいぶんと顔色が悪そうだけれど……」
「え? あぁ、そんなことはない。次を」

 びりびりと走る痛みを抱えながら、幽々子に倣い再び駒を並べ始める。

「では、よろしくお願いいたします」

 その言葉と共に、ドッピオは歩を動かす。
 まだ予知通りでもいい。でも、どこかに転機がある。そこで予知を裏切るような動きをすればもしかしたら……何か、変わるかもしれない。
 一瞬その考えがよぎり、それを頭を振ってごまかす。
 ボスから借り得た能力を信じきれないという自分の愚かな感情と、そうでもしないと彼女から優勢を奪えず、先を進めないのではないかという閉塞感。
 この二戦の僅かな時間で、ドッピオは精神的に疲弊していた。
 日は落ち始め、地上より高所に位置した冥界は日差しの影響を強く受ける。白から橙に変わり始めた日光は、二人の居室の隅まで照らす。
 外で佇むアンの薄い影が盤の上にまで掛かろうとしていた。

223深紅の協奏曲 ―飛べよ、踊れよ、円舞曲と共に 3―:2014/09/07(日) 08:45:22 ID:hWr8uJPI0



「一つ、聞きたいんだが」

 飛車が歩の隙間を通り、奥にある金の少し手前まで動いていく。

「何でしょうか?」

 それに合わせて、銀を飛車の前にと動かす。

「お前はこの盤のことを『過去を並べた盤』と言っていたな。それに向かい合う必要があると」
「そう言えば、そんなことを言ってたような気がします」

 少し思考の間を開けながら、動かした飛車の後ろに幽々子から奪った歩を差しこむ。
 頭痛は、いつの間にか消えていた。

「それに対する答えを考えていた……聞いてくれるか?」

 その言葉を聞き、幽々子はぴたりと動きを止め、彼を見やる。
 幾分か鋭い眼差しを、ここに来てから出したことの無いような、慎重に何かを察知するための気を相手に配りながら。

「……三回、ですか。ではお答ひぇ」

 喋りかける幽々子の舌が、何かに摘ままれる。それには危害を加えるための強さなどは入っておらず、行動を阻止する、けれど傷つけない程度の力。
 見えない『何か』は、盤の傍らから、その手の柔らかさとは別に、ぎらつく強い眼差しで彼女を睨みつけている。
 対する幽々子は、それに驚きの表情はするものの、特別抵抗をすることはなく、その唇には柔らかさを保たせている。

「……あの従者を置いている以上知ってはいるとは思っていたが……見えては、いないのか? それとも敢えて呆けているのか」
「ふぁい」

 どちらともつかぬ、気の抜けた返事が幽々子の唇から洩れる。
 キングクリムゾンは左手で幽々子の舌を掴みながら、右手は触れるか触れないかの距離で彼女の眼球に近づける。
 どれほど自らの意志により押さえ込もうとしても制御しきれぬ防衛の反応。見えても感じても居なければ、実際に触れない限りは気づかない故に反射は何も起きていない。
 もちろん相手は人間ではなく妖怪であるのでそっくり同じように返ってくるとは思えないが、この顔がよくできた作り物ではない限り似たような構造ではあると感じていた。
 舌は、口内を保護するぬめりと生体維持のための空気の流れに沿うような僅かな上下を繰り返している。

「先に調べたい意は今取れた。……お前からの回答をする前に、いくつか質問をさせてもらおう。それについては答えたければ答えるで、いい」

 幽々子の口から手を放し、ディアボロはキングクリムゾンを戻す。姿はドッピオのそれとはまったく変わらないが、その精神は逆転していた。

「見えないっていうのは嫌あね。……では、どうぞ。お答えする気になったらお答えしますわ」
「お前達は。敢えて達を使わせてもらおう。お前達は私の事について知っているな。おそらく、全てを」

 一瞬、沈黙。
 幽々子は王の傍らにある銀で、ディアボロの飛車を取る。

「はい」
「……私の経緯も、私の最期も。全てを知っていて、この世界に導いた……そうだな」

 その銀を、後ろに控えていた歩が刺す。それと共に歩は成り上がり、赤く刻まれた文字を盤面に表わした。

「その上で、ここまで……そうだな、辿り着いた。辿り着いた私にあの時の事をこのボードゲームを用いて振り返らせている」
「……はい」
「チェスと似ていると言っていた。まさしくこれは戦いの縮図。違いは、己の味方が寝返ること。かつて、私がいた組織の様に」

 ディアボロは、盤面から目を離して幽々子を見据える。それは、返事を待つという声なき呼びかけ。

224深紅の協奏曲 ―飛べよ、踊れよ、円舞曲と共に 3―:2014/09/07(日) 08:46:13 ID:hWr8uJPI0

「……厳密に言えば最初は敵などいなかった。味方だと、部下だと。……いいや、私自身もそう取ってはいなかった。まさしく駒だと」

 返事が返ってこないことを感じ、言葉を続ける。
 先ほど成った歩を自分の方に向き直させると、盤面の自分の駒を全て盤外へ放る。残ったものは中央、自分の手前に置かれた王将のみ。

「敵も味方もいなかった。全ては駒だった。だが、その駒は次第に意志を持ちこちらに向かってきた。その意思を、強さを、私は見抜けなかった」

 その言葉に対する返事として、幽々子は先ほど取った飛車を、王たるディアボロの前に置く。距離はあるが、すぐにとれる位置ではない。
 それに合わせ、彼の王将を一歩前に進ませる。
 次の手番である幽々子は、先まで彼女の陣営にあった、元は彼の陣営である成金を大きく動かし、飛車の傍らに置く。

「私は今も自分が行ってきたことが間違っているとは思っていない。奴が間違っているとも思っていない。自分たちの基準で言えば、どちらも正義だ。
 だが、ボードゲームでも僅かな均衡で崩れる様に。思想による争いも、思いもよらないことで均衡が崩れ、勝敗が決まる」

 ディアボロはさらに王将を進ませる。自ら、取れというように。実際に、進ませた先は飛車の目の前にあり。飛車では前進ができず取ることはできないが、傍らの成金が彼を取るだろう。

「お前に答えよう。最初から全て話していた。このゲームは私の過去であり、それに向き合わせるための道具。
 多くの者は……私に姿を見せていない、ユカリの関係者は。私を知っている、理解している。その上で、私の動向を見張り何をするかを探っている。そうだな?」

 そこまで言い切った彼に対して、幽々子は手を合わせてそれに感嘆の意を示す。

「その通りです。あなたがここでどう至るか。過去の罪人は何をもたらすか。……ただの罪人であるならばここまでしなかった。あなたは異質の力を持っている。いえ、あなた達は」
「スタンド能力、か」
「ええ。きっと貴方は聞いているでしょう、かつて宇宙を巻き込んだ事変を。幻想に至らぬ人間がそれほどの力を所有している事……それを紫は危惧している。
 そのテストケースとしてあなたは招待されたのです。この、幻想郷に」

 幽々子は真っ直ぐな瞳が彼を見つめ、幻想郷の大意が彼女の口から伝えられた。

「一つ、スタンド使いであること。
 一つ、いなくなっても問題ない人物であること。
 一つ、その二つの条件を見たし、かつ大きな力を持つこと。
 そこまで満たさなければ、あの事変に匹敵しうるとは思えず。かといってそこまでの条件を満たすものがいるかどうか、これが悩みだった。
 事変をきっかけに外は違う世界線に飛んでしまい、大幅に条件を満たすものが減ってしまった。……さすがにそこまでは、当人しか知りえないのだけれど」

「その中、何時から居たのかはわからない。死を繰り返す男の話。輪廻から放逐され、宇宙の引力から逸脱した存在がこの幻想郷に流れ着いた。
 ……そんな人間を、手を加えて観察対象として、受け入れたの。いつもは何でも受け入れるって言っているけれど、その時はだいぶ悩んだみたいよ、あの子」

「それがあなた。永遠の放浪者として彷徨っていたあなたを取り巻く鎖も同じくスタンドによるもの。それもあなたを招待する理由として大きかった。
 あれほどの騒乱の後でも変わらずあなたを縛りつづけていた。縛っている者があなたと違う世界線に行ってしまったというのに、それでもあなたの魂に纏わされていた鎮魂歌はずっとあなたに寄り添っていた。それが、一番なのかもしれない」

 とうとうと、幽々子は澄み渡る声を辺りに響かせる。
 ディアボロがここに来てから持っていた疑問が、ゆっくりと解消されていく。
 もちろん、聞けば聞くほど新たな疑問も現れていくが、今は静かにその声に集中していた。

「あなたが過去に何をしたか。これから先どうするか。それについては自由にすれば良いでしょう。それに肯定する者は付いていくし、反発する者は立ちふさがる。何も変わりはしません。
 幻想郷は全てを受け入れる。それはとてもとても慈愛に満ちたことです」

225まるく:2014/09/07(日) 09:05:29 ID:hWr8uJPI0
以上になります。今投稿したSSについて解説をしないことは騎士道に恥じる闇討ちに等しい行為…解説させてもらえるかな。

将棋、それほどやったことはないんで結局こんな感じです。一応プロの棋譜を見ながら反映させていましたが…
うんん、あれ漢字ばっかりでよくわからないですね。我ながら酷い。

世界線がどうのこうの、と言っていますが、イメージとして受け取ってください。
一巡→プッチが死亡→プッチが存在していないifの世界(6部ラスト、アイリンなどがいる世界)と7部、8部の世界とで別れている、と捉えています。
平行世界がD4Cによって存在することを作中で説明されたので、それを踏まえて。
今のディアボロや幻想郷がある世界はこの7部8部の世界線。元は今まで通りの6部の世界線。

また、ジョルノやミスタなど、かつて相手にしていた者は6部の世界線で生きている、と考えています。
プッチが存在していれば死んでいたが、存在していなければあの時点で生きていた者達はよく似た別の存在となって残っており(アイリン、アナキン、名前は出てないけどエルメェスにウェザーも)
プッチと大きく関係の無い者達…6部外の者達はあの出来事を享受しながらも生きていると考えているのです。
そのあたりもおいおいSS内で詳しく出していきたいなと。冥界編は次回で終わらせるつもりです。小タイトルは4つにはおさめておきたい。

……先に言っておきます。おそらく来月は投稿できないです。
リアルで忙しいのもありますが、その、スマブラにダクソにモンハンも…最近PSO2もはじめましてね…

226セレナード:2014/09/07(日) 10:49:57 ID:eZt1l7AM0
投稿お疲れ様です。
……やはり私の一話分は他の方に比べれば短いかなぁ。

結局、一巡後の世界と7部以降の世界の違いは今のところ判らないですね。
ひょっとすると、7部以降の世界は色々な要素の残滓によって生み出された世界かもしれないですし。

6部を含めて生き残ったキャラクターがあの後も生きているというのは否定しませんね。
エンポリオが生物が一巡後の世界に行くのを見ている以上、死んでいると考えるのはむしろ不自然ですし。

スマブラか……私も買いますね。
無論、積みゲーを生み出さないように気を付けはしますが。

227まるく:2014/09/07(日) 14:46:07 ID:hWr8uJPI0
時間のかけ方と長さが比例していれば気にすることはない(キリッ
別にそこの点は考える必要ないんじゃないですかね。自分はそう思いますよ。

たぶん世界の違いは荒木は考えてないし、考えていても出さないんじゃないかと思っています。もしあるのなら、7部中で話していいと思いますし、SBR1巻のカバーコメントでなんかそれっぽいことを言っていたような気も。
だから勝手に解釈していますよ。少なくとも、定助の世界に仗助はいないと。SBRで出ていないジョジョは空条家くらいですからね。

エンポリオだけが生きており、他はアイリンみたいに僅かに変わっている…というのもよく聞きますけどね。そこも、特別答えを出していないので勝手な解釈で進めております。
承太郎は死んでしまった以上、同じ承太郎がいるとは思っていませんがジョルノはあの時出ていなかったし死んでないなら変わっていないでほしいんだよなぁ…

228ポール:2014/09/09(火) 20:53:55 ID:zBzr0fXE0
投稿お疲れ様です!
時間と長さが比例されたら私20万字くらい書かなきゃならない…

将棋で自分の過去と向き合わされるとは…はたしてディアボロは黄金の精神で勝利するのか、帝王として戦い続けるのか…気になるところです!

229セレナード:2014/09/09(火) 22:06:37 ID:uJCqJNtI0
……ふう、完成しました。
たまには短いペースで行ってみますか。

230東方魔蓮記第四十九話:2014/09/09(火) 22:07:37 ID:uJCqJNtI0
片や皿を持って構え、片や腕を相手に突き付けて構えている。
第三者からすれば奇怪な状態だが、二人はいたって真剣なのである。

数秒の後、女性が皿を投げつけてくる。
ディアボロはそれをエアロスミスの機銃で粉々に破壊すると、そのまま射命丸とマミゾウが逃げた方向に移動を始める。
「(そろそろあいつらとも距離は取れているはずだ)」
「待て!」
当然女性も追いかけてくる。しかも浮遊しているからあちらは疲弊するのが遅い。
だがそれはあまり気にする必要はない。
気にするべきは……『聖人』が彼女と違って友好的であるかどうかだ。


廊下を走る音が一つ。明らかに歩くより速く進んでいる者が二人。
そして時々響く陶器が砕ける音と、出来てから数日も経っていない新築の建物に時々勝手に開く穴。
神霊廟にゴミを散らかし、傷をつけるという事態を引き起こしながら二人は戦闘を続けている。


スタープラチナで女性を視認し、女性が同時に投げてきた2枚の皿を、ディアボロは振り向きながらエアロスミスで撃墜する。
皿の破片を操って飛ばしてきたなら、スタープラチナがそれを全て掴み取って握力で砕く。
まさに、文字通りの膠着状態である。
「(この狭い中で船を使うわけにはいかん……ならば!)」
女性はそう思って何か仕掛けようとしたのだが……。


何かしようとした瞬間、時が止まった。
女性が相手にしているのは、自分よりもずっとずっと戦闘経験を積んできた者。
相手の動きから『何をしてくるか』はともかく、今までとは違う方法を使ってくるのを読むのは容易いのだ。


ディアボロは2秒ほど女性にエアロスミスの機関銃を撃つと、残りの秒で全力で走って距離を取る。
「(まずいな……見取り図も作ってくべきだった)」
ハーミット・パープルで神霊廟の見取り図を念写しなかったことに後悔するが、止まった時はそんなのはお構いなしに動き出す。
「ぬおっ!?」
女性は肌を掠めた何かに驚いて行動を止めたが、距離を取ろうとしているディアボロを見て追跡を再開する。
エアロスミスのレーダーで何人かの反応は検知できるが、建物の構造を今一理解できていない以上、迂回も仕方ない状態になっている。
ディアボロが現在目指している地点は……お互いにとても近い二つの反応だ。
どれがマミゾウと射命丸なのかはわからないが、あの後に何かない限り二人がはぐれるとは思えない。

231東方魔蓮記第四十九話:2014/09/09(火) 22:09:37 ID:uJCqJNtI0
「(二人と合流するなら、まずはこいつから逃げ切らないとな……)」
ディアボロは女性を振り切るため、エアロスミスを右腕から発進させる。

本来エアロスミスは、先ほどのように腕に出させて機銃を撃つスタンドではない。
戦闘機型であるこのスタンドは、飛行してこそその真価を発揮できる。
ディアボロの腕を離れて飛び立ったことで、先ほどまで使っていた二酸化炭素の探知と機銃だけでなく、爆弾の投下やプロペラを用いて切り刻むことさえできる。
おまけにスタンドなので空気抵抗や重力なんて全く気にする必要はない。

エアロスミスがディアボロの右腕より飛び立つと、彼は一旦動くのを止めて女性の方を振り返る。
すると、彼を追いかけていた女性も、ある程度距離をとったまま止まることになる。
ただ捕まえたかったのならそのまま勢いよく飛びかかればいいのだが、今までの出来事からして、彼が何をしてくるのか推測するのは困難だ。
肉壁で道を塞ぐかもしれない。再び不可視の何かで拘束してくるかもしれない。それとも、まだ見せていない何かを使ってくるかもしれない。
『何をしてくるかわからない』から、急に動きを止めるという些細なことにも警戒しなければならないのだ。

「(炎を放って来たり、どこからともなく皿を取り出してくる時点で、こいつも何かしらの術が使えると見ていい)」
女性が動くのを止めたことを確認すると、ディアボロはエアロスミスを操って女性の近くまで飛ばし、それと同時にウェザー・リポートでスタンドの雷雲を大量に発生させる。
「(ならば……)」
そして、うっかり直撃させないように注意しつつ、女性の目の前の床に爆弾を落とさせる。
爆撃を受けた床は爆発によって砕け、砕けたことによって生じた粉が爆発の衝撃によって勢いよく宙に飛び出す。
「(ちょっとやそっとじゃくたばらないだろう)」
女性がそれに驚いた瞬間に時を止め、ウェザー・リポートで舞い上がった粉に当たらないようにして女性に3発の雷を放つ。
それらはDIOが時間停止中にナイフを投げた結果の時と同様、女性に命中する瞬間に止まる。
「(こいつについても知りたいが、それは後だな)」
ディアボロはそう考えながら、彼女を巻くべく再び動き出す。
その直後時が動き出し、それとほぼ同じタイミングで女性に雷が命中する。
「――――ッ!」
女性は雷撃を受けて声を発することもできないが、どうやらこれでくたばったわけではないようだ。
「(今なら体が痺れて少しは時間が稼げるはずだ)」
ディアボロは女性が感電している隙に走って再び女性との距離を取る。

しかし、やはり物事はうまくいかないものだ。

――ディオ・ブランド―はこう語っている。『人間は策を弄すれば弄するほど、予期せぬ事態で策が崩れさる』と。
故に彼は人間をやめた。人でなくなることで、己の野望を果たそうとしたのだ。
……結局、彼の野望は叶わなかったが。

ディアボロの視界に入っている曲がり角、彼はそこを通るつもりであった。
エアロスミスのレーダーにその付近での反応はなく、問題なく通れる……はずだった。

そこから人がやってこなければ。

232東方魔蓮記第四十九話:2014/09/09(火) 22:10:10 ID:uJCqJNtI0
「!」
ディアボロは人がそこからやってきたことに気づいて、止まる
……なんてことはなく、そのまま進んで飛び越そうとする。
「屠自古(とじこ)!すまんがその男を捕まえてくれ!」
「えっ?」
突然の女性の呼びかけに困惑しながらも、屠自古と呼ばれたその者はディアボロを捕まえようとする。
ディアボロは走って屠自古に接近する間に、ウェザー・リポートを追加で出す。
一方の屠自古はわけがわからないまま、女性の言う通りにディアボロを捕まえようと接近してくる。
「(何故反応がなかったのか考えるのは後だ。まずはこいつをどうにかする!)」
ディアボロは掴み掛ってきた屠自古をスタープラチナを使って往なすと、ウェザー・リポートで風を起こして体勢を崩していた屠自古を女性の方に吹き飛ばす。
吹き飛ばされた屠自古と巻き込まれた女性が起き上がっている間に、ディアボロはスタープラチナも使って二人を観察する。

屠自古と呼ばれた者には、足がなかった。だが、それ以外は人間と異なる部分はない。
「(……成程、『肉体を持たない』のならば、何かしらの干渉を受けない限りの二酸化炭素はでない。だがらエアロスミスのレーダーに反応しなかったのか)」
ディアボロはそれを見て理解した。屠自古と呼ばれた女性は、所謂亡霊の類だと。
肉体がない以上、亡霊が呼吸をしても二酸化炭素の類は出ない。
だから、二酸化炭素を検知するエアロスミスのレーダーに一切反応しなかったのだ。

「(これは少し厄介だな……敵対したら1発機銃をくらわせておくべきか?)」
例えレーダーに反応しないものでも、レーダーに反応させられるようになる方法がある。
エアロスミスの機銃や爆弾で対象を傷つけることだ。
傷つけることに成功すると、『スタンド硝煙』といえるものが傷つけられたものから出続けるようになる。
エアロスミスのレーダーはこれにも反応するため、機銃や爆弾で傷つけることさえできれば亡霊である屠自古でも検知することができるようになるのだ。

「やれやれ、いきなり弾幕を撃ってきたから応戦しながら逃げていたら、今度は向こうから亡霊がやってくるとはな」
ディアボロは逃げるのをやめ、呆れたふりをしながら二人の様子を伺う。
「おい布都(ふと)、あいつは何なんだ?」
屠自古は先ほどまでディアボロとチェイスを繰り広げていた女性……布都に質問をする。
「俺はただの新聞記者の護衛。あの天狗を『聖人』と呼ばれるやつのところに送り届けるのが、俺の仕事だ」
屠自古の質問を、布都の代わりにディアボロが答える。
「だがどういうわけか、そいつは俺のことを『脅されて連れてこられた』と誤解しているようだがな」
そう言って、ディアボロは軽い溜息をつく。
何故布都があんな誤解をしたのか、彼にはさっぱりわからないからだ。
「……まあ、所詮は誤解だ。影響が出る前に解いてしまえばそれで終わる」
ディアボロは二人に背を向けて、エアロスミスのレーダーを見ながら歩き出す。
勿論、スタープラチナに二人を見張らせて。
「(さて、あの二人はどうでる?)」
布都はともかく、屠自古はどう出るのかわからない。
背後から襲ってくるのなら応戦するが、攻撃してこないのなら見逃しても問題ないかもしれない。

233東方魔蓮記第四十九話:2014/09/09(火) 22:11:06 ID:uJCqJNtI0
悔しそうな表情でディアボロの背を見る布都と、彼女を落ち着かせようとする屠自古が見える。
今のところ、二人して攻撃を仕掛けてくる気配は見られない。
「(屠自古が布都を説得し、攻撃を止めさせてくれるなら問題なさそうだ)」
仮に屠自古が布都と同じ考えを持っていたとしても、ディアボロは妖怪ではなく、普通では持ちえない力を持った人間である。
布都が屠自古におかしなことを吹き込まない限り、屠自古が攻撃してくることはないだろう。たぶん。
再びエアロスミスのレーダーを見て、反応をチェックする。
「(さて……どう進めば二人と合流できるだろうか?)」
反応の位置は大して変わっていないが、問題は構造である。
どうすれば合流できるのか、さっぱりわからない。
「(スティッキィ・フィンガーズで壁を通り抜ければ楽だが、今はDISCが装備できないな……)」
ディアボロはそう思いながらも屠自古が通ってきた曲がり角を通るために歩いて行こうとする。

「待ってくれ」
屠自古にそう呼びかけられ、それに反応してディアボロは二人のほうに振り返る。
「?」
「先ほどは布都が迷惑をかけたな」
屠自古は布都の非礼を詫びたの聞いて、ディアボロは敵意を向ける必要はないと判断した。
「大丈夫だ、傷は負っていないから気にする必要はない」
ディアボロはそう言って再び二人に背を向ける。
「ところで……天狗とその連れがどこにいるかわかるか?」
ディアボロはエアロスミスのレーダーを見ながら二人に問いかける。
反応の位置ともう一つの反応の距離からして、マミゾウや射命丸と同じ部屋に居るようにも思えるが……?
「……そういえば、太子様に取材したいという天狗がいたな。敵意は感じなかったし、態度も礼儀正しかったから太子様のもとに案内したが……」
「Hmmm(成程)、その天狗に同行している奴はいたか?」
他の天狗がここに来ている可能性は低いだろうが、念の為に屠自古に聞いてみる。
「ああ、一人引き連れていた」
屠自古の答えによって確信を得たディアボロは、彼女にある提案を持ちかける。
「そいつらと合流したい。案内を頼めるか?」
「分かった。ついてきてくれ」
布都との一件について負い目でも感じたのだろうか、屠自古はディアボロの提案をすぐに受け入れる。
その後ディアボロに接近してきたことからして、どうやら聖人のいる部屋は屠自古が来た道の向こう側にあるようだ。
屠自古がすれ違う際に何もしてこなかったことから、ディアボロもその後についていく。
そしてさらにその後を、少し間をあけて布都がついていく。
……どこか(恐らくディアボロが射命丸を擁護したことについて)「理解できない」といいたそうな表情をしながら。

屠自古に案内されてたどり着いたのは、とある部屋の前。
「この部屋に太子様と天狗たちがいる」
「(こいつらは聖人のことを『太子様』と呼んでいるな)」
ディアボロはそこに気づいたが、だからといって何か関連付けられるものがあるか彼の記憶にあるかどうかというと、『心当たりはない』だろう。
「くれぐれも太子様に失礼のないように」
「大丈夫だ。礼節ぐらいは心得ている」
屠自古の忠告に言葉を返し、ディアボロは聖人と射命丸とマミゾウがいるという部屋に入る。

234東方魔蓮記第四十九話:2014/09/09(火) 22:12:04 ID:uJCqJNtI0

「おや」
「!」
「おお、無事だったか」
部屋に入ると、ディアボロがやってきたことに部屋にいた者は皆気付き、マミゾウが声を掛ける。
「ああ、ちょっと大変な目にあったが大丈夫だ」
ディアボロはそう言ってマミゾウと射命丸に近づきながら、横目で聖人と呼ばれる者の姿を確認する。
その姿はまさに写真通り。だが、写真ではわからないことも実際に接触して分かった。
彼女が醸し出す雰囲気は、どことなく白蓮に近く、けれども彼女とは確実に『何かが異なって』いる。
「どうやら、布都が迷惑をかけたようですね」
「気にすることはない。大して傷も負っていないしな」
『聖人』のお詫びに、気にすることはないとディアボロは言葉を返す。
だがその言葉とは裏腹に、聖人の挙動に対する警戒は怠っていない。

「それでは、取材を始めるとしましょう」
聖人が射命丸にそう呼びかける。
取材を行うことは、聖人も屠自古か射命丸から聞いていたのだろう。
ディアボロがこの部屋にくるまで取材が始まっていなかったのは、聖人の配慮のおかげだろうか。
「はい。よろしくお願いします」
聖人の呼びかけに、射命丸は礼儀正しく答える。
『取材をする相手には常に礼儀正しく』。それも射命丸の一面である。


射命丸の取材を聞く中で、色々な事を知ることができた。
「私は豊聡耳神子。人は私を『聖徳王』と呼びます」
まず分かったのは聖人の名前は豊聡耳神子(とよさとみみの みこ)。
そして布都と屠自古のフルネームは「物部布都(もののべの ふと)」と「蘇我屠自古(そがの とじこ)」ということだ。
「(聖徳王か……あの二人は太子様と呼んでいたな)」
「(…………ん?)」
とここで、ディアボロはあることに気づく。
似たような名前を承太郎などの記憶から思い出したからだ。
「(まさか、あいつらの正体は……)」

蘇我と物部――それは、二つとも飛鳥時代に隆盛を極めた豪族の一族の姓だ。
そして聖徳王(今では聖徳太子の名が一般的だが)といえば、所謂冠位十二階や十七条憲法を定め、遣隋使を派遣し、仏教を厚く信仰して興隆につとめた存在……と語り伝えられている。
虚構説が最近出てきたが、今射命丸達の目の前にいる聖人は、本人の主張通りなら紛れもなく聖徳王その人だ。
つまり三人は、飛鳥時代の……およそ1400年ほど前の者達。


「(蘇我に物部、おまけに聖徳太子ときたか)」
ディアボロは取材内容を一文一句聞き漏らさず聞きながらも、思考を巡らせる。
「(……俺の予想を超えた展開だな)」
ディアボロには聖人と彼女に仕える二人の正体を予想することは流石にできなかった。
しかし、承太郎たちの記憶を得たおかげで物部や蘇我、聖徳太子に関する知識をある程度持てていたことは幸いだ。
もしもそうでなかったら、ディアボロは話についていけなかっただろう。


そして取材の中で、神子自身には妖怪に対して敵対的ではなく、闘う理由もなければ無駄な争いもしないことが本人の口より語られた。
これがある意味、ディアボロとマミゾウにとって最も欲しかった情報である。
「(よし、この話を妖怪に広めていけば、布都はともかく神子の方は妖怪にとって問題ないと理解してもらえるはずだ)」
ディアボロは表情を変えることなく軽く安堵する。
この情報を持ち帰り、広めることさえできれば、妖怪の群れが神子たちと戦うという最悪の事態になるのは避けられそうだ。



その後も色々なことが神子によって語られ、射命丸の取材は何事もなく終了した。
ディアボロにとってまだまだ聞き出したいことはあるが、射命丸の取材に便乗している以上、それは無理な話である。
「……それでは、本日は取材に応じてくださって、ありがとうございました」
射命丸がメモを全てとり、カメラで神子たちの写真を撮り終えると、神子達に取材のお礼を言う。
「どういたしまして」
神子は穏健な感じでそういうと
「布都、屠自古、皆様を入口まで案内してあげなさい」
布都と屠自古に出口まで案内するように指示を出す。
「はい」
「わかりました」
布都と屠自古はその指示を受けると、すぐに射命丸達を入口へと案内すべく動き始めた。
射命丸達もその後に続いて、部屋から出ていく。
「(……貴方には興味がありますが、今回は仕方ありませんね)」
部屋を出ていく射命丸達の背を見ながら、仕方がなさそうな表情で神子は思う。
「(『違う世界』からやってきた人よ、いずれまた会いましょう)」
自分たちとは異なる世界からやってきたことに興味を持ちながらも、彼とは話せないことを残念に思いながらも、いずれ再び会えることを信じて。

235東方魔蓮記第四十九話:2014/09/09(火) 22:13:22 ID:uJCqJNtI0
幻想郷と神霊廟のある空間を繋ぐ『道』の手前。
布都と屠自古に神霊廟の入口まで案内してもらい、その後幻想郷に戻ってきた射命丸達は、そこで軽く会話をしていた。
「布都は案内の時、終始無言で不機嫌そうだったな」
「亡霊の奴は、同じ無言でも申し訳なさそうにしていたがのう」
ディアボロとマミゾウは雑談をしている。と、そこに射命丸が割って入った。
「それでは、取材も終わりましたし、私はこれにて失礼します」
射命丸はそう言って少し歩き、飛び立つ……前に、ディアボロ達の方を振り返る。
「今回は聖人の住処とその位置を特定してくれたから許しますが、今度同じことをやったら許しませんよ」
やっぱりあの件は本人にとっては許しがたかったのだろう。
射命丸は、いつもと違って相手を威圧する感じでそう言った。
「分かった。警告として聞き入れておこのう」
ディアボロがそう答えたのを聞くと、射命丸は無言で山の方に飛び去って行った。
きっと自宅に戻ったら、早速今回の取材で得た情報をもとに記事を作るのだろう。
……その情報を得る為に、二人の協力者がいたことは書かれないかもしれないが。

「さて、命蓮寺に帰るとしよう」
「うむ。もう変化を続ける必要もあるまい」
ディアボロはイエローテンパランスを解除し、マミゾウは変化を解いて元の姿を見せる。
そして命蓮寺の方に向けて、二人とも飛び始めた
「聖人の能力などについて聞き出せなかったのは残念だが、妖怪についてどう考えているか聞きだせただけでもよしとするか」
「そうじゃな。後はこの情報を広めれば、妖怪たちも一安心できそうじゃ」
「……布都については注意は促しておくべきだろうとは思うがな」
あの時、布都は射命丸を攻撃することになんの躊躇いも見せなかった。
ディアボロはそれを警戒すべき事として受け止めていた
「飛鳥時代の人間はまだ妖怪への対抗手段を碌に持っておらんかったからな。あやつの妖怪への敵意は、例えどんな理由であれ妖怪が人を襲う事を許せぬからかもしれぬ」
マミゾウはそう言って、布都が妖怪に敵意を持つ理由を軽く説明した。
流石に長く生きているだけあって、当時の出来事を知っているし、知識も持っている。
「己の快楽の為だけに人を殺す奴に比べれば、生きる為に喰らうなんてまともな方だ」
ディアボロは、生きる為に喰らうよりも酷いことをする者を知ってしまっている。
人が痛みや死の表情を観察したり、死にゆく者が生きることに執着するその表情をビデオで観察して無上の楽しみを見出す……
そんな者のやることからすれば、妖怪が人を襲うことなどまだまともなのだ。
「……そうじゃのう」
マミゾウも、その意見に賛同する。
それは妖怪が人を喰らうことがあることに、比較されながらもある程度の理解をしてもらえたからだろうか……?
流石にこればかりは、それぞれの基準があるだろうから何とも言い難いものである。


その後、ディアボロとマミゾウから命蓮寺の皆に、マミゾウから部下の狸たちに、射命丸から新聞を通じて読者に、取材を通じて得た情報が伝わっていった。
それは時間の経過とともに広まっていき、『聖人』そのものが妖怪に敵対的ではないと分かったおかげで、妖怪界隈の騒ぎは沈静化を迎えていった。

236セレナード:2014/09/09(火) 22:18:54 ID:uJCqJNtI0
東方魔蓮記第四十九話及び神霊廟編、終了です。

今回、あくまで射命丸の取材についていった形なので、布都とは決着がつくまで戦っておらず、神子とはそもそも戦闘になりませんでした。
ですが、いずれ再び出会い、戦う機会があります。
彼女たちとの戦いは、その時に……。


そう言えば今日は9月9日、『チルノの日』だそうです。
『←⑨バカ』として書かれたからこの日になったんでしょう。
チルノのパーフェクト算数教室、曲も歌詞もノリがいいから嫌いではないんですね。
……話し相手にするにはちょうどいいかも。寒さに耐える必要があるけど。

237ポール:2014/09/09(火) 23:33:10 ID:a4v7BsbU0
投稿お疲れ様です!
今日はお月見の日だとばかり思ってましたが…そいつは昨日で今日はチルノの日だったんですね。なんと…。
そしてやはりディアボロ、成長してるんですね。あの「何かわからがくらえッ!」だなんて言ってたディアボロが…しみじみ
今回は平和的解決されましたが、やはりいずれ戦うのですね…
しかし 投稿ペースメチャ速いですねー!スゴイ…。

238セレナード:2014/09/09(火) 23:40:39 ID:uJCqJNtI0
>ポールさん
私の投稿ペースは気まぐれです。
数か月投稿しないこともあれば、大体週に一回で投稿できるときもあります。

色々と経験していくうちに、『何かわからないけど攻撃する』なんてことは無謀だと学習したようです(
いずれ布都や神子と戦う機会はきます。具体的にいうと信仰をかき集める必要がある時期に。
その物語が綴られるときを、気長にお待ちください。

239名無しさん:2014/09/11(木) 09:31:25 ID:m/VSFYKU0
布都もそれはそれの正義なんですよね。ただ、まだ慣れていないだけ。
投稿お疲れ様です!悶着も落ち着いて何より。
ほんと布都ちゃんの戦い方が駄々っ子にしか見えないwこれで船に乗ってしまったらアウトでしたねぇ…

神子さんがディアボロに感付いている?まあ、妖怪とは思えない奇妙な人間ですので気に掛けるのは当然ではあるけれど。
超人然とした雰囲気の神子ですがやっぱり心綺楼だと悪役笑いの似合うマントをつけて、こうなんというか…神霊廟勢のイメージが…w

240ポール:2014/09/12(金) 00:17:35 ID:UjCpeqPI0
3行でさっぱりわからない前回までのあらすじ
プッチ神父、地獄へ行く
罪人を先導して天国を目指す
映姫と対峙する
ってことで、悪役幻想奇譚第十二話のはじまりはじまり

241ポール:2014/09/12(金) 00:19:40 ID:UjCpeqPI0
悪役幻想奇譚 第十二話 『プッチ神父は天国を見るか?』


映姫が話の続きを語ろうとしたとき、リキエルが急ぎ足でやってきた。
「え、映姫待ってくれ!話す前にオレのセリフを言わせてくれ!」
紅茶の入った湯のみをカチャカチャと音をたてて机に置き、息を荒くして続きを語りだした。

「お前が神父の目指すものの邪魔をするというならばッ!オレは熱した鉄のような憎しみとともにお前を始末するだろうッ!!誰もオレの、いやオレたちの精神の成長を止めることはできないッ!!オレは『アポロ11号』なんだ―――ッ!」

「ってなことをオレが言ったんだ!」


リキエルの言葉に再び勇気付けられた罪人たちが叫び突き進む
「そうだ!!俺たちは『犬』じゃねえ!」
叫び
「『天国』へ行くことで!俺たちの人生はようやく始まるんだ!!」
突撃し
「俺たちには神父様がついている!!神のご加護があるんだ!!相手が閻魔であろうが負けるはずがない!!」
援護し
「一人でも天国へ行ければ!その時点で俺たちの勝ちだ!!」
鼓舞し
「オレたちも行くぞッ!!『血管針攻撃』!ってあれッ!?ウギャ――――ッ!」
その他がやられた・・・

オレも行こう、とリキエルが進もうとしたとき、プッチ神父が彼の肩をつかんで止めた。
「お前は今はここに残るのだリキエル」
「え?」
いくぶん不服そうな顔をしたが、プッチに言われたら逆らうわけにもいかず従うことにした。後で自分の力が必要になるのかもしれないが、それでもやはり目に見えた形で神父に貢献したいというのがリキエルの心情だった。

「いやぁ・・・すごいですね。アポロさん「リキエルだ」の言葉に触発されて、みんなどんどん閻魔様に向かっています(その他は置いといて)。ほら、もう見えないくらい遠くにまで行ってますよ」
感心したように美鈴が言っている。

その言葉を聞き、プッチは組んでいた腕を解き、前方に行った罪人達を指差して言った。
「門番、君は一番先頭の罪人が見えるかね?」
「?いえ、もう遠くて見えませんね。それがどうかしたんですか?」
美鈴の答えを聞いた後、今度は腕の角度を少し上にあげて言った
「そうか。ならば…一番先頭の罪人の、さらに『前にいる』映姫の姿は…見えるかね?」
「『見えま』…え?」
「そうか。ならばなぜ?遠くにいるものが見えて、近くにいるものが見えないのだと思う?」
「小さくなっている?でもどうして?」
「スタンド使いではない君には見えないだろうが、わたしには今映姫の肩に『赤ん坊』のような像(ヴィジョン)が見える。あれはかつてわたしと同化した『DIOから生まれたもの』と非常に似ている。もしそれと能力の効果が同じならば・・・・彼らが映姫に近づくことは『決してない』」

――――――――――

当時のことを思い出しながら興奮気味に語っているリキエルをよそに
黙って聞いていた吉良が口を挟んだ
「君はスタンド使いになったのか?」
少し驚いたように目をやる
「えっと・・・それはですね」

――――――――――

242ポール:2014/09/12(金) 00:20:23 ID:UjCpeqPI0
「何故だかは知りませんが、私に『スタンド』が発現したようですね。ここ最近私の周りには多くのスタンド使いがいました。それに加えプッチ神父、貴方と戦うことが原因となって、能力に目覚めたのでしょう。この能力は、天国を守るために生まれた能力。名づけるならば『Stay away from heaven』っ!!」
くわっ!っと目を見開き小さいがプッチのところまではっきりと聞き取れる声で言った。

「ふん。『Stairway to heaven(天国への階段)』で目覚めた能力が『Stay away from heaven(天国から離れろ)』とはな。うまく言ったものだ」
言ってしまえばかなりヤバイ状況にもかかわらず、プッチは不自然なまでに落ち着いていた。似つかわしくないジョークを言えるほどに。

「感心している場合じゃないでしょうプッチさん!近づけないんじゃあ勝てっこないじゃないですか!」
落ち着いているプッチを見てすこしイラついた口調で言った。場に似つかわしくない行動を取っている人物がいればイラつくものだ。

「落ち着けよぉ。神父が何も考えずにボーっとしてるわけないだろう?だいたいなんでもできるスタンドなんてあるわけねーぜ。ぜってー弱点があるはずだぜ。あとオレの名前はアポロじゃあねぇ」
手首のスカイ・ハイをなでながら言った。

「確かにあのスタンドで物体を凍らせたり、炎をだしたりのは無理でしょうけど、拠点を守るという点においては、近づけないんじゃどうしようもありませんよ?」

「能力発動の鍵があるはずだ。小さくなる原因が。『近づく』ということだけが原因ではない。スタンド能力に同じものは存在しない。小さくなっている者どもの共通点はなんだ・・・まさか・・・『敵意』か?『敵意』が発動条件なのか」
先ほどまで冷静だったプッチが焦り気味に言った。

「待ってくださいプッチさん。『敵意』を失くして倒れている人もいますが、大きさは戻っていません。きっとほかの原因があるはずです」
そして今度は焦っていたはずの美鈴が冷静に状況を分析してプッチの間違いを指摘した。
「……」
リキエルは…なぜか黙ったままだった…。

全員が、例外なく小さくなっているこの状況で美鈴は静かに推測をはじめた。

小さくなっているのは…近づいているもの全て?
着ている服や武器も小さくなっていますし…
影響をうけていないものは…止まっている私達3人だけ?
これだけですと…やはり『近づいたもの全てに影響を与える』ことになりますが、同じ能力は存在しないならば、やはりなにかしら異なる点があるはず…
異なる点?…逆に共通しているところはなんでしょうか?
小さくなっている人全員に共通する点は…
ひょっとして

思い至ったことが正解か不正解かわからなかったため、少し困ったように「うーん」とうなり、自信なさげに脚を半歩だけ踏み出した。

小さく…ならない?

身体にまったく異常がないことを確かめると、今度は大きく一歩踏み出す。

「おい何をしている。能力の発動条件もわからないまま近づくのは危険だ」
「いえ、大丈夫です。私には『条件』がわかりました」
美鈴 小さくならない
「なにッ!?」
「プッチさんも来てください。あなたの言葉が真実から出たものならば、小さくならないはずです」
「何だと」
「それともあなたの言葉はうわっ面から出た邪悪にすぎないのですか?」
プッチ前に出る
小さくならない
それを見て美鈴が言う
「…よかった」
「おい、一人で納得するな。条件とはなんだったのだ?」
「推測ですがおそらく『天国へ行きたいと願うこころ』です。プッチさん、あなたは自分のためではなく、他人を天国へ導くために動いている。だから近づけたんです」
「なるほどな。『幸せになりたいと願うものは幸せになれず、幸せにしたいと願うものが幸せになれる』ということか。しかし・・・君は天国へ行きたくないのかね?天国へ行きたいからわたしと共に行動しているのではないのかね?」
「そ、それはその・・・あ、あはは。プッチさんが無理やり連れてきたんじゃないですか」
ホントのことを言うと、あなたのその強い『信念』が目指すものを見てみたいだけなんですがね、『天国』なんてどうでもいいですよ。強い信念はその人を輝かせますから。
はっ!!
「!!ってあれ?いない」
前に行ってる…
「小さくならないとわかったのだ。さっさと映姫を倒しに行くぞ」
…まったくこの人は
「了解です。神父様」
自分勝手なんですから

「お、オレは?」
「あ、アポロさん。あなたも大丈夫ですよ。あなたも『天国に行きたい』のではなく『神父を助けたい』だけなんですから」
「オレはアポロじゃねえッ!リキエルだ!二度と間違えるな!!」
「はい(リキュール?)」

243ポール:2014/09/12(金) 00:21:05 ID:UjCpeqPI0

――――――
のどが渇いたのかリキエルは話を切り紅茶を手に取った。
「ふぅ。うめえな。でだ、そこから何があったかオレが言うと、ややこしいことになるし、正直オレも何があったかはっきりわかってるわけじゃあねえ」
こいつなら知っているだろう。そんなリキエルの視線が映姫に向けられた。

「ではそこから先は私が話しましょう。何があったか私でなければわからないでしょうから。ま、今の話もこれからの話もある意味まったくの無駄なんですけどね」
その視線を受け取った映姫が続きを語りだした。
――――――
どうやらこの能力は『天国へ行きたい』ものにのみ効果を発揮するようですね。あの3人の内誰かが、それに気付くかもしれませんね。
おや?
「どうやら気付いたようですね。しかし・・・気付かずにその場で途方に暮れていれば怪我をせずにすんだというのに」
小さくならないことを確信し、こちらに向かって歩いてくる『3人』に向けて冷たく言い放った。
「プッチ神父、貴方の能力は脅威でした。20m以内に入ってこられれば魂をDiscにされてしまうかもしれない。しかしその脅威も『スタンドはスタンド使いでしか見ることは出来ない』という条件があってのもの。スタンド使いとなって貴方のスタンドが見えるようになった今、貴方のスタンドはそこまでの脅威ではありません」
そういって懐から穢れのない、綺麗な悔悟の棒を取り出した


「わたしは16のころからスタンドを使っていたのだ。ついさっきスタンドを使えるようになった小娘が甘っちょろい口をきくんじゃあないッ!」

迫りくるプッチをよそに、映姫は今出した悔悟の棒を凝視していた。

『異常』
違う!
なにか『異常』なことが起こっている。

悔悟の棒が綺麗?
吉影の血を拭き取らなかったのに…
おかしい

話の進み方が…滅茶苦茶ですね…小学生の夢みたいに…。
ホワイトスネイクの能力は…記憶を取り出すことだけ?
違う!

スタンド能力発動の条件が『天国へ行きたいという意志』?
これも違う!

どこから?

最初から…?

スタンドが発現?

『スタンドが発現』!?

違う!!

ホワイトスネイクのもう一つの能力…


『幻覚』ッ!!

はっと目を覚まし、急いで周りの状況を確認すると、彼女の目に大量のDiscが映った。
「これは…魂そのものをDiscに…」
罪人達はなぜかみなプッチによりDiscにされていた。

映姫は自分が傷を一切負っていないこと、周囲に危険がないことを確認し、最後にあることを確かめた。

「あ、痒かったところに手が届…ってこんなことしている場合じゃありません」
身体が少しとけてほんのちょっぴり柔軟になった映姫であった。


―――――――――

「で、幻覚オチ?無駄に時間とらせるんじゃないわよ」
「そう言うな霊夢。幻覚の中で戦ってた場面なんて全部省略しているじゃあないか。それと、ここからは幻覚ではない実際にあった話だ」

―――――――――

244ポール:2014/09/12(金) 00:21:57 ID:UjCpeqPI0

映姫が微妙に柔らかくなった身体を微妙な方法で有効活用しているとき、プッチたちはというと…

ここは地獄の1丁目

「ところでどうして再起不能にしなかったんですか?」
「いや、再起可能だからいいのだよ」
「?よくわかんねーけどオレは神父の言葉に従うだけだ」
特に焦ることもなく、なにやら話し合いをしていた。

「人類が天国へ行くためには、再びわたしのスタンドを進化させる必要がある。進化させるのに必要な要素は既にいくつかは揃っている。DIO!君から生まれたものはあれからずっとわたしと同化したままのはずだ。だが、何故だか知らないが存在が空っぽになっているような感覚がする。しかし罪人の魂は、すでに集め終えた。したがって必要なのは『勇気』と『場所』の二つだけだ」

必要なものは『勇気』である

わたしはスタンドを一度捨て去る『勇気』を持たなければならない

朽ちていくわたしのスタンドは36の罪人の魂を集めて吸収

そこから『新しいもの』を生み出すであろう

「これだ。この言葉を完全に理解しなければ……」

『勇気』…捨て去る…スタンド……スタンドとは精神…精神は魂…スタンド能力は精神の具現化…待てよ
何か思いついたのかプッチはハッと息をのんだ

「理解したぞDIO『捨て去る勇気』が一体なんなのかを…」

そう言うとプッチはスタンドを発現させ、ホワイトスネイクと目を見てから叫んだ。

「空っぽに感じられた原因はこれだ!生前は魂が2つ、そして魂の器も2つあった!わたしの魂と『DIOから生まれたもの』の魂だ!だが一度死ぬことにより『DIOから生まれたもの』の魂は成仏してしまった!結果、わたしには満たすべき2つの器がありながら、1つ、つまりわたしの魂の器だけを満たし、スタンドを発現させ、『DIOから生まれたもの』の魂を満たしていなかった!だから空っぽだったのだ!!ならば『捨て去る勇気』とはッ!具現化した精神、つまりスタンドを魂の器に入れることだ!!『捨て去る勇気』とは『与える勇気』!すなわち!自分の魂を!自分のスタンドを!DIO!君から『生まれたもの』へと『与える勇気』!そしてそれは!『信頼する勇気』だ!友を信頼し、自分の魂を『与える勇気』!これで再びわたしは進化する!」

プッチはホワイトスネイクを、己の中の空っぽの魂に仕舞い込むようイメージし、ゆっくりと、スタンドを体に戻した。
インクが紙にしみ込むようにホワイトスネイクの姿は消えていった。

直後、プッチの体を光が包んだ

「「おお」」

しかし……


プッチを包み込んでいた光は、成長の兆しを見せることなくやがて消滅した。
「なぜ…?」
おかしい。進化の条件は合っているハズなのだ…。

「魂の形が合わなかったのでは?その…DIOというものから生まれたものの魂しか入らないのでは?」

「だとするとまずいぞ!どこにいるかもわからない赤ん坊の魂を探さねばならない!っく…落ち着け素数を数えるんだ…」

敬愛する神父の狼狽するさまを、目を泳がせ不安げに眺めていたリキエルが、やがて意を決して言葉を発した。
「神父よ?」

「なんだ、リキエル?」

「オレではダメなのか?」

「何のことだ?」

「オレも『DIOから生まれたもの』だ。そしてオレも魂だけの存在。ならばオレの魂を使えば、神父の求める力が手に入るはずだろう?」
「でもそれじゃあアポロさんが消滅するんじゃあ?」

「いいや、美鈴(オレの名前はリキエルだ)。いいか?オレは『DIO』という男についてはほとんど知らねえ。DIOが困った時に命を懸けれるか?ときかれたら『いいや』と答えるだろう。DIOのことではオレの心は動かないからだ」
リキエルの声に力がこもっていく
「だがオレに『精神の成長』を教えてくれた神父…あんたのためなら命を懸けれる。オレは神父の役に立ちたいんだ。神父の成長を助けたい。だから…!」
「わかったリキエル」
リキエルの言葉を聞きプッチが手を伸ばした
「ありがとう神父。…これがありがとうを言うオレの魂だ。受け取ってくれ…」
リキエルの心は、穏やかだった。
リキエルの魂は、生まれたての赤子のように、純粋さに満ちていた。

リキエルの頭があった場所から、1枚のDiscが落ちた。

プッチはそれを拾い、頭に差し込んだ。

リキエルは消えた
プッチは無意識に十字を切っていた
祈りの言葉もなにもなかったが、そこには無言の絆があった
魂の絆がそこにはあった

245ポール:2014/09/12(金) 00:22:43 ID:UjCpeqPI0



「(アポロさんとプッチさん・・・つまり・・・)アパッチさん・・・」
「名前を混ぜるな。プッチでいい。さて…魂は満たされ、わたしのスタンドは再び進化した。C-MOON、重力を逆転させる能力だ。ほら」
「わわ!上に落ちる!」
「ああ、すまない」
美鈴が上に落ちたので、プッチ能力を見せるために出したスタンドを引っ込めた。

「下に落ちる!って当たり前か。で、これからどーするんですか?天国へは上に落下していくんですか?」
「いや、もう一度スタンドを進化させる。そのためには、『場所』に行く必要がある。ここにもあるはずなのだ。『場所』へと行きさえすれば、『天国の時』が訪れる。そうすれば『重力を逆転させる』ことしかできない能力ではなく、『重力と時間を操る能力』が完成するのだ。お前は幻想郷の住人だろう。知らないかね?どこか『重力』に関係する場所を?」
そうプッチは聞くが

「知りませんよ!」

美鈴、即答である。
「『天国』がどこか知りませんけど、幻想郷(ここ)だって楽園ですよ。あんまり変なことやりすぎると、いいかげん霊夢さんに討伐されちゃいますよ?」

ここが楽園?天国(ヘヴン)みたいなものだと…妖怪たちにとっては避難所(ヘイヴン)だろうが、天国ではない。しかし…
「霊夢…博麗神社か…。重力を操る霊夢がいるあの場所こそが、わたしの求める『場所』に近いだろう」
もっとも…

「プッチさん!あれ!」

今はソレを考えている場合ではないか

「ああ。わかっている」

プッチが顔を上げると、やたらときれいなフォームで走ってくる映姫の姿をその目にとらえた


「……」
「……」
ああ、体が柔らかくなったからか。


映姫はプッチたちを確認すると、さっそく弾幕を放ってきたようだった


映姫の姿をとらえた時、プッチは違和感をおぼえていた。
まだリキエルの魂がうまく馴染んでいないせいか、感覚の目が使えなくなっていた。
『緑の赤ん坊』は生まれたばかりで経験や思考が浅かったので比較的短時間に―それでも不調はあったが―魂に馴染み、プッチ本人にも影響は与えなかった。
しかしいくらこころから捧げると言っても生まれたばかりの赤ん坊と20数年生きてきたリキエルの魂とでは魂の深さ、厚みが違う。やはり安定するまではよきにしろ悪しきにしろ相応の影響を与えるのだ。
その影響というのが、今のプッチに『感覚の目』が使えない、という結果になって現れていた。
いまのプッチはスタンド使いでありながら、スタンドを感じることしかできなくなっていた。
もっともこれは周りにスタンド使いのいない今、ちっぽけな影響でしかないのだが、『弾幕』を『感覚の目』でしか認識できないスタンド使いにとって、この状況は楽観視できるものではなかった。

だがそれも『もしわたし一人しかいなかったら』の話だ

くるりとプッチは美鈴のほうへ向き直り、『感覚の目』が使えず、映姫の弾幕を見切るには美鈴の力が必要だと説明し、彼女に頼んだ。

「門番頼まれてくれるな?おまえがわたしの目の代わりになるのだ。弾幕がどこから来るか教えてくれ」
「わかりました。ですがそれだと私が直接戦ったほうが早いんじゃないですか?」
もっともな意見である
しかし
「いや、今はまだ・・・わたしが戦う必要がある」
プッチは美鈴を見つめ、そう言った

あなたが目指しているものは本当に『天国』なんですか…?
なんだか…もっと『先』を目指しているような…
『天国』にたどり着くことが、ちっぽけなことに感じられるくらいに…何かとてつもないことを…

プッチの言葉に謎めいたものを感じた美鈴だが、ここは既に戦場
冬のナマズのようにじっとしているわけにはいかないのだ。ツバメのように素早く動く必要がある。
そーこー考えているうちにさっそく弾幕が飛んできた

弾幕の位置を伝えるべく、声を張り上げる。

のだが…

246ポール:2014/09/12(金) 00:23:53 ID:UjCpeqPI0

「気をつけてください!庚(かのえ)の方角225度0分から来ましたッ!」

「ッ!?庚(かのえ)の!?方角ッ!?」
First attack!
「うぐッ!」

「ああ、何じっとしているんですか!次は丁(ひのと)の方角195度から腰の入ったスゴクいい弾幕がッ!」

「おい丁(ひのと)の方角は!ぐぶえッ!!」Good!

「なんで避けないんですか!次も来ますよ!再起不能になりたくなかったら避けてください!」
「中国式はやめろ!理解できない!」

「ああ!えっと次は、西から東にかけて!」
「どっちが西だッ!?くはッ!」Good!


次から次へとプッチに弾幕が当たっていくのを見て美鈴は焦るどころか逆にフッと笑った

…おもしろい

プッチとしてはたまったものではないが、上から目線でえらそーにしていた人物が(自分のせいとはいえ)滑稽な姿をさらしているのだ。ほんのちょっぴりいたずら心が刺激されても仕方あるまい。

あんまり効いていないようですし、大丈夫でしょう。
「えっと、右から!プッチさんから見て左からきます!」
「ややこしい!ッ!」
避けられずに左目付近に当たった。Good!

「獣(けもの)を英語で!」
「それはビースト!かはッ…東(イースト)か」
今度はお腹に当たり、その衝撃にプッチは思わず膝をついた

「カトリックの聖体はパンにこれを使わない!」
「イースト(菌)!くッ!って今のは東じゃあなかったぞ!」
律儀に答えるが、やはり今度も避けることはできなかった

「大熊座の方角から!」
「む、それはわかる」ディ・モールト!
「えっ?!」
今度は華麗にヒョイと避けた。

「乙(きのと)から西にかけてきました!」
避けられたのが悔しいのか、今度は混ぜて伝える美鈴。
「混ぜるんじゃあない!ぬぐッ!」
そして当然のように弾幕に当たるプッチ。
「素数を数えて落ち着いてください!」

「1」「2,3,5,7,「9」11,13「15」ええい!1は素数ではないッ!9も15も素数ではないッ!」
「また来ました!最小完全数時の方向から!」
「いちいち呼び名をかえるんじゃあないッ!映姫!少し待て!」

業を煮やしたのか戦闘中にも関わらず、弾幕を撃ちつつもう会話ができる距離まで近づいてきた映姫にそう言うとプッチは美鈴のところまで飛んでいった。
「いいかッ!わたしの右からか左からかそれだけでいいッ!東西南北、干支、十干(じっかん)は使うな!謎々をしているヒマもない!Do you understand!」
「わ、わかりました」
あまりの剣幕におされてついうなずいてしまう美鈴。

「よし」
「それから今気付いたんですが・・・」
「なんだッ!?」

「『後ろ』って上ですか?下ですか?」
「は?」
美鈴の言葉を聞き後ろを振り向いたその瞬間

ッ!!

Excellent!!

247ポール:2014/09/12(金) 00:24:30 ID:UjCpeqPI0

「あー・・・ほんのちょっぴり言うのが遅かったですかね・・・」
映姫の弾幕がプッチの顔面に直撃した
「(いたそー)」
そしてその瞬間、プッチの頭がプッチンした

美鈴による度重なる妨害、素数を数えることすら邪魔をされ、プッチの精神状態は崖っぷちに追い込まれていた。

さて話は突然変わるが
一流のスポーツ選手には「スイッチング・ウィンバック」と呼ばれる精神回復法がある!
選手が絶対的なピンチに追い込まれた時それまでの試合経過におけるショックや失敗、恐怖をスイッチをひねるように心のスミに追いやって闘志だけを引き出す方法である。

その時スポーツ選手は心のスイッチを切り替えるためそれぞれの儀式を行なう。
「素数を数える」「深呼吸をする」などである。

ショックが強いほど特別な儀式が必要となるが・・・・・・・・・!

この時『プッチのスイッチはッ!』
グググ
「ちょっ!なにしてるんですか!?」
バルスッ!

目を押すことだったッ!!!!





「ぎにゃ―――――ッ!!!」



ただし美鈴の


「これでいい。なまじ見える者がいたからそいつに頼ってしまったのだ。感覚の目もそろそろ慣れてきた。もうぼんやりと見える。これだけ見えたら十分だ。おまえはそこで冬のナマズのようにおとなしくしているのだ!」

「目がァ!目がァ!!!潰れてはいませんけど後遺症で涙目になりそう!涙目の美鈴って呼ばれそう!」

そんなセリフがはけるなら確実に潰しておけばよかったかな
しかし…
「さあ、第二楽章を始めようか」


次回予告

リキエルの魂を受け継ぎついに進化したメイド・イン・ヘブン!
信じ仰ぐ想いを力に、Give me all your LOVE tonight!
プッチは映姫に勝てるのか!?
次回 悪役幻想奇譚第十三話
『プッチ神父は手を汚さないか?』
お見逃しなく!

248ポール:2014/09/12(金) 00:26:57 ID:UjCpeqPI0
投稿終了です。前に書いてたときはもっと戦闘シーンあったんですが、もうバッサリ切りました。そりゃあもうガオンガオンいきましたよ。

249名無しさん:2014/09/15(月) 21:52:23 ID:ftIA9PDA0


250名無しさん:2014/09/15(月) 22:21:53 ID:rBa8a13c0
投稿お疲れ様です!
SSの勢いを重視するなら、どこを切るのかは大事ですよね。戦闘シーンはまさしくその比重が大きい分、上手く書けない場合の重たさというか、読みづらさは…
バッサリなくなっても、伝えたいことがすんなり入るのもいいと思います。

美鈴のボケセンスがおもしろい!弾幕少女の雰囲気が感じられます。映姫とプッチはそれどころじゃあないっていうのに。

251ポール:2014/09/16(火) 19:30:57 ID:LSId975c0
感想ありがとうございます。
美鈴のところはちょっとジャッキーチェンをイメージして書いてみました。

252どくたあ☆ちょこら〜た:2014/09/16(火) 23:38:03 ID:l8ijslig0
私が原稿という名の沼に沈んでいる間に、ここがこんなにも賑わっていたとは…!
後日改めて感想を述べさせていただきます!

253どくたあ☆ちょこら〜た:2014/10/06(月) 23:39:37 ID:rRSGuEgY0
皆様、一月遅れの感想申し訳ございません

まるくさん
投稿お疲れ様です!
『勝敗』ではなく『挑戦』、『獲得』ではなく『学習』、『結果』でなく『過程』。過去を顧みそれを悟ったディアボロは、一歩王座に近付いたようですね。そう感じられます。
まるくさんの解釈した【一巡後の世界観】、なるほどと納得致しました。七部八部と同じ世界線なら、【外】では船医の吉影が生きている時間軸なわけですね。
次回で冥界編完、ここからどのようにディアボロとドッピオの行く先が決定されるのか、楽しみにしております

セレナードさん
投稿お疲れ様です
屠自古が冷静で何よりでしたね。
この頃は復活したてで布都も幻想郷の気風に馴染んでいませんが、心綺楼では一輪に対して道教への勧誘をしたりと、ちょっとは馴染んでいるんでしょうかね。
次回神子と相見えるとしたら心綺楼。ディアボロの参戦理由としては命蓮寺の支援か、偶然巻き込まれるのか。

ポールさん
投稿お疲れ様です!
映姫様、吉影の血拭いてなかったんですか…w 舐めてたりしてませんよね…
映姫に『赤ん坊のスタンド』発現?!と思ったら、まさかの幻覚。完璧に騙されてしまいました。ハーメルンのマックイィーンの短編と言い、ポールさんの騙しのトリックには毎回舌を巻かされます。
DIOから産まれたもの、つまりリキエルも【メイド・イン・ヘブン】の要素となれるというのは目から鱗と共に凄く納得できました。
そして『柔らかくなった映姫の走り』から『大熊座の方向は分かるプッチ』、『素数妨害』『頭がプッチン』『涙目の美鈴』と、怒涛のギャグラッシュw
本当に、これほどのネタを考え出せるポールさんには尊敬すら覚えます!
次回でいよいよ【メイド・イン・ヘブン】の発現、映姫とのラストバトル。どのような結末が待っているのか期待しております!

254名無しさん:2014/10/08(水) 22:11:31 ID:S4o5K0BY0
遅れても感想ありがとうございますー!
ディアボロも少しずつ考えを改め前を向き始める。そのきっかけとしての現状報告。その言葉を聞きたかった!
外の世界ではその通り、船医の吉影が生きている時間軸です。……2012年5月がこの話の時間軸だからその時生きてるよね8部の吉影?(コミックス読み返しながら
ドッピオ状態で聞いたら浦島太郎+帰る世界すらないって、かなりうつ状態になりそうな内容です。そこから、ディアボロはどうなるか!

自分も遅れながら次の話を書き始めてます。10月の終わりにはちゃんと投稿しますよ!

255セレナード:2014/10/12(日) 22:37:28 ID:HXUBrABY0
ふー、最新話が完成いたしましたので投稿します。
今回は、時間を少し遡って、とある日より前の出来事でございます。
それでは皆様、お楽しみください……。

256東方魔蓮記第五十話:2014/10/12(日) 22:38:56 ID:HXUBrABY0

神霊廟への取材を終えた後の、ある日のこと。
「…………」
たまに混じって参加する修行を終えて部屋でぼーっとしていたディアボロは、ふとある日の出来事を思い出していた。

それは『彼女』と再び会う前の、ある冬の日の思い出。
『永遠』の物語が秘められた、ある地での出来事であった。

「…………」
とある冬の日の朝、朝早く目が覚めたディアボロは、外に出た後の寒さではっきり目が覚めてしまい、結局二度寝することなくそのまま生活をしていた。
そして現在彼がいるのは、迷いの竹林の入口。時刻は人が活気に満ちだす少し前。
かつてある少年を探しに一度は入り込んだこの場所だが、あの時はエアロスミスのレーダーを頼りにただひたすら進んでいたために道を碌に覚えていない。
脱出の際には空から抜け出たが、竹林となっているこの場所は空中からも全く地上の様子を窺い知ることはできない困った場所である。

で、どうして彼が此処にいるのかというと……
「(以前、会ってみたらどうだと慧音に言われたが、どうやらこの辺りにはいないようだな)」
所謂人探しである。とはいえ、以前とは違って探す人はこの竹林に慣れているので相手の身を案ずるような事態には恐らくならないだろう。
どのあたりにいる可能性が高いかも、慧音から教えてもらった。
「(……ここで立ち往生していても始まらない。竹林に入ってみよう)」
ディアボロは『その人』に会うべく、竹林に入っていった。


竹林の中は以前入った時と変わっていない。
単調な風景と深い霧、地面の僅かな傾斜で斜めに成長している竹等によって方向感覚が分からなくなってしまう。
おまけに竹の成長が著しい為すぐに景色が変わり、目印となる物も少ないので、一度入ると余程の強運でない限り抜け出せない。
ディアボロは以前、上に一直線に飛んでいくことによって竹林を強引に脱出して帰還できた。
しかし、此処を陸路で脱出しようなどとすれば、それはこの竹林に慣れていてかつ実力がある者以外には無謀の極みだ。
何故なら、此処は妖怪になった獣が好んで住み付く地。常人なら霧の中から不意を突かれ、襲われてしまう。

――最も、あの時ディアボロが少年と一緒に霧を抜けて上空から出れたのは、彼についた妖怪の血の匂いが、他の妖怪から忌避されたおかげかもしれないが。

此処を常人が確実に出れる可能性は二つしかない。
『幸運に恵まれる』か、『案内人』に出会えるか……いずれにせよ、運がなければ永遠に迷うだろう。


だが、そこは彼とて何の対策もなしに乗り込むわけではない。
今回は緊急事態ではないため、事前に準備をして入ることができる。
そこで彼は、ゴールド・エクスペリエンスで生み出した木からスティッキー・フィンガーズを使って皮を取り、そこにメタリカで地面から集めた砂鉄を乗せてハーミット・パープルで竹林の地形を念写する。
その後すぐにクラフトワークを使って砂鉄を木の皮に固定。これで簡易的な迷いの竹林の地図の完成である。

クラフトワークには、大まかに分けて二種類の『固定』がある。
以前霧雨魔理沙に対して使ったものは、空間に固定し、全く動けなくしてしまうタイプの固定。
両手両足を使った抵抗も不可能になるため、これを決められた魔理沙は成す術もなくフランドールにやられてしまった、

今回用いたタイプは、簡易的な地図を作る際にも用いた『接した状態での固定』。
このタイプの固定を使うと、固定したものが動くと固定されたものは『一緒に動く』のが特徴だ。
動く足場に乗っているときにこのタイプの固定を使えば落下の心配はせずに済む。

現在地の判断については、安全を確保しているときにハーミット・パープルとメタリカを使って確認していくしかないだろう。
次に霧と妖怪の位置についてだが、それぞれウェザー・リポートとマジシャンズ・レッドかエアロスミスの出番である。
ウェザー・リポートで霧を払って視界を確保、マジシャンズ・レッドかエアロスミスで生物の位置や動きを探知、攻撃してくるなら応戦……という形で解決だ。

257東方魔蓮記第五十話:2014/10/12(日) 22:40:07 ID:HXUBrABY0

ディアボロは早速ウェザー・リポートを出して、その能力を発動する。
それと同時に、凄まじい強風が彼を中心に発生し、霧を遥か遠くに吹き飛ばす。
雲と霧の違いなど、地面に接しているか否かの違いでしかない。『空中に浮いている』ということが変わらない以上、風を用いれば吹き飛ばすことなど容易いのだ。
強風を受けた竹は、その葉を激しく揺らし、時に葉を散らす。
その揺れが収まったのを確認すると、ディアボロはマジシャンズ・レッドを出して炎の生命探知器を作り出す。
そしてそのまま、奥へと入っていく。

竹林の中は霧を吹き飛ばしたことで、見ることができる範囲が普段より大幅に広がっている。
これならば、スタープラチナによる目視も活かしやすくなるものだ。
「(今のところ、探知器に反応はないな……)」
炎の生命探知器とエアロスミスのレーダー、この二つは共に探知を行えるが、その違いは

・炎の探知器は『方向』しかわからないが、呼吸や動きだけでなく、スタンドのエネルギー等も探知できる。

・エアロスミスは『具体的な位置』がわかる代わりに二酸化炭素とエアロスミスの攻撃によってつけられるスタンド硝煙しか探知できず、しかも排出量が少ないと探知ができない。

獣は獲物に狙いを定めるとき、息を殺し、相手の隙をついてその速さで襲い掛かり、迅速に仕留めるのが一般的だ。
妖怪化した獣も同じようなことをするのならば、エアロスミスのレーダーだと、息を殺しているときに反応を探知できず、一手遅れる可能性がある。
今装備しているスタンドならば、迫ってくる方向さえ判れば遠近どちらであろうと問題なく対応できる。
その為、相手がどんな状態であろうが問題なく探知できるマジシャンズ・レッドが今回は選ばれたのだ。
ついでに、マジシャンズ・レッドがあれば炎で暖を取ることもできる。
体温低下で衰弱している隙を突かれるなど勘弁願いたいところだ。


地図を見ながら、スタープラチナで炎の生命探知器を確認しつつディアボロは進んでいく。
……ふと、探知器が反応した。
「!」
ディアボロは地図を見るのをやめ、探知器が反応した方向に顔を向ける。
「…………」
探知器を視界の片隅に入れておきながら、ディアボロはその方向への警戒を続ける。
スタープラチナもその方向を凝視し、ディアボロの視力では得られない視覚情報を彼に与える。
「…………」
スタープラチナの視覚が、探知器が反応したのがただの鳥や獣ではないことをディアボロに伝えていた。
竹藪と生い茂る雑草にうまく隠れてはいるが、そこには確かに獣の妖怪がいた。
その妖怪は、急に獲物がこちらを見たことに警戒したのか、そのままじっとして動かない。
このまま、ディアボロがよそを向くのを待っているようだ。
「…………」
ディアボロもこのまま視界から外したら相手が襲い掛かるのは理解している。
その為、このままウェザー・リポートを出して……。
「…………」
ピンポイントに妖怪の真上にスタンドの雷雲を作り正面を向き直し始めるのと同じタイミングで妖怪に雷を落とす。
それは、妖怪が駆け出すよりも先に命中した。
雷鳴が周囲に轟くが、それを聞くことができるのはこの場ではディアボロのみ。

エアロスミスのプロペラ音など、スタンドが発する音もスタンド使いにしか聞き取れない。
裏を返せば、スタンドが発する音を聞き取れるのならば、そいつはスタンド使いかその素質が高い者。
これが理由で、ディアボロ(正確にはドッピオ)はリゾット・ネエロと殺しあうことになった。

妖怪は何が起きたか全くわからず、感電によって痺れたままディアボロを見ていた。
が、どうやら彼が何かしたということは本能的に理解したらしく、痺れが解けると彼から離れていった。
一方のディアボロはスタープラチナでそれを確認すると、再び進み始めた。

258東方魔蓮記第五十話:2014/10/12(日) 22:40:48 ID:HXUBrABY0
「(……ん?)」
また地図を見ながら進んでいるうちに、ふと足を止めた。
正面から、誰かやってくるのが、スタープラチナで確認できる。
その正体を知っているディアボロは、咄嗟に全てのスタンドを戻し、生命探知器を消す。
傘を被ったその者は、ディアボロに気づいて足を止めた。
「あら、おはようございます」
傘を被ったものは、ディアボロに挨拶をする。
「おはよう。……お前は人里で薬を売っていたな。確か名前は鈴仙だったか」
ディアボロも挨拶を返しながら、目の前の者についてそう言った。

ディアボロはそう言っているが、薬売りの正体については既に把握している。
この者の名は鈴仙(れいせん)・優曇華院(うどんげいん)・イナバ。変わった名前だが本当にこの名前である。
……あまりにもおかしな名前のため、ネーミングセンスの悪い人が名づけた偽名のようにも思えてくる。

彼女は人間ではなく、兎の妖怪……ではあるのだが、ただの兎の妖怪ではない。
彼女の正体は月に住む妖怪。つまり、言い方を変えれば異星人である。
何故彼女が地球にある幻想郷に来たのか……そこには色々とあるのだが、まあそこは機会があれば後に綴るとしよう。
兎に角、彼女は妖怪であることを隠すために傘を被って兎の妖怪の特長である長い耳を隠している。
命蓮寺ができてなお、妖怪を毛嫌いする者は少なくないからだ。
「これから商売か?売れるといいな」
「貴方こそ、奥に進むのなら気を付けてくださいね。命蓮寺のディアボロさん」
二人はそう言って進むべき方向に進む。
「そうだ、一つ聞きたいことがある」
「?」
すれ違い際に、ディアボロが鈴仙に質問をする。
「藤原妹紅を探しているが、見なかったか?」
藤原妹紅(ふじわら もこう)。
その人こそ、慧音がディアボロに会ってみたらどうだと言われた人物だ。
慧音がディアボロと妹紅を接触させたい意図はわからない。
単純に話し相手を欲しているのか、それとも何か別の理由があるのか……。
推測はできないが、今はただ会いに行けばいいだけのことだ。
「いいえ、見ていないわ」
「そうか、ありがとう」
質問の答えを聞いて鈴仙にお礼を言うと、再び二人は進みたい方向へと進んでいく。
鈴仙は人里へ。ディアボロは竹林の奥へ。
互いに優先すべき目的を有している以上、二人が交戦に至ることはなかった。
「(下手に何かに感づかれても困るからスタンドを全て戻したが……)」
ディアボロが警戒するのは、彼女の『未知』。
能力の全容を含めたその全てが知られているわけではない以上、語られていない『何か』があってもおかしくはない。
その『何か』が分からない以上、スタンドを引っ込め、交戦を避けてでも今彼が使える手段を隠しておく必要があるのだ。
「(……もう大丈夫だな)」
ディアボロは鈴仙と一定以上の距離ができ、かつ彼女がこちらを見ていないことを確認すると、再び生命探知器とスタープラチナを出す。
生命探知器が鈴仙の進んでいく方向以外から反応していないことと、スタープラチナで背後から襲い掛かる者がいないことを確認すると、彼は地図を見ながら再び進みだした。

259東方魔蓮記第五十話:2014/10/12(日) 22:41:51 ID:HXUBrABY0
「(……ふむ)」
あれから少したって、ディアボロは自分の現在の位置も含めて地図を再確認していた。
「(道は間違ってはいないな。問題は……)」
問題は一つ。
目的地に妹紅がいない可能性があることだ。
この竹林の道案内を彼女がやっている以上、どうしても彼女が不在という可能性はある。
仮に不在だった場合、もう一つの可能性である永遠亭に向かうことにしているが、そこに『ある人物』がいて同時に妹紅がいなかった場合についてはまだ考えていない。
「(今は冬だ。両方のケースが共にはずれだったからといって、彼女の家の外で待つわけにも行かないし、勝手に家の中に入っているわけにもいかないな……)」
取りあえず、目的地に辿り着かないと何もわからない。
ディアボロは地図の再確認を終えると、彼の現在位置を示す箇所に念写によって置かれた砂鉄を払い落とし、装備しているDISCを先ほどまでのに戻して再び進みだす。
炎の生命探知器も早速再発動し、再び周囲の反応を確かめる。

……反応あり。
ディアボロから見て右斜め後ろの方角に、明らかに何者かがいる。
その方向をスタープラチナで見ると、明らかに張りつめた表情をしている狼女が一人……。
どうやら、DISCの入れ替えやメタリカによる地中からの砂鉄抽出を見て、ディアボロが地図を見ている状態でも警戒していたようだ。
不意をつき、交戦になった時に備えて、時を止めて狼女の背後を取る。
警戒心を強めている以上、こうして背後を取っただけでも驚いて逃げ出しそうなものだが、果たして実際はどうなのやら。

「えっ!?」
狼女は警戒していた対象が突然姿を消したことに驚き、持ちうる感覚を全て研ぎ澄まして周囲の状況を
「おい」
「!!!!」
探ろうとしたが、その必要はなかった。
突然後ろから声を掛けられたことに驚いて、声のした方向に顔を向けたまま狼女は固まってしまった。
声を掛けた者の正体が、先ほど突然姿を消したものだったからだ。
こんな事態が起きれば、どれ程落ち着いた者であろうと、突然姿が消えた理由が推測できない限りびっくりしてしまうだろう。
「『俺に見ていた』な?」
ディアボロは静かに、けれども相手を威圧するように質問をする。
「…………!」
何かマズいと思ったのだろう。狼女は咄嗟にその場から離れようとしたが……身体が動かなかった。
クラフトワークの能力によって、その場に固定されてしまっていたのだ。
少し前の突然の強風、目の前の男の中に入った円盤状の物体、突然消えたと思ったら自分の背後にいた男、そして動けない肉体。
強風以外は数分の間に全て起こった出来事だけあって、言葉は口からでずとも頭の中は思考が巡りまくる
一方のディアボロはそんなことは全く気にせず、クラフトワークで狼女に触れた後、彼女の蹴りやパンチが踏み込んでもぎりぎり届かない範囲まで下がる。
「安心しろ、その状態でも口は動かせる」
ディアボロはそう言って、炎の生命探知器を横目で見る。
反応はなし。安心して質問を行える。

260東方魔蓮記第五十話:2014/10/12(日) 22:42:51 ID:HXUBrABY0

「何か言いたいことがあれば聞いてやる。言ってみろ」
狼女はこの一言で理解した。
これは尋問だ。彼に敵だと判断されれば、その瞬間にこのまま容赦なくやられる。
そうなることを回避すべく、狼女は口を開いた。
「私は貴方を観察していただけよ」
「成程、確かに俺もお前の立場ならまず相手の様子を伺うだろうな」
狼女の意見に賛同しながらも、ディアボロはその場から動かない。
「だが重要なのは、そこから得られた情報を元に『次にどうするのか』だ」
ディアボロは炎の生命探知器を再び横目で見て反応がないことを確認すると、会話を続ける。
「恐らくお前が襲ってこなかった理由は、普通の人間ができない行動を俺がとったからだ」
ディアボロの発言に、狼女はぎくっという擬音が似合う反応をする。
「『円盤状の物体が俺の中に入っていったことによって警戒した』のと、『能力によって返り討ちになるのを恐れて』襲わなかった。……違うか?」
図星だった。恐らくあの時DISCの入れ替えを含め、能力の一切を使っていなかったら、この狼女はきっとディアボロを襲おうとしていただろう。
「……見事な推理ね。その通りよ」
ここまで見抜かれては、狼女も認めるしかなかった。
彼女の『答え合わせ』を聞いたディアボロは、ウェザー・リポートとスタープラチナを出し、クラフトワークの能力を解除する。
「固定は解除した。後はお前がどうするかだ」
ディアボロは狼女にクラフトワークの能力を解いたことを告げ、行動を促す。
「……ここで貴方を襲おうとしたところで、返り討ちにあうことは簡単に予想できるわ」
「そうだな、地中の砂鉄に干渉するぐらいなら簡単にできる」
今はそれを上回る規模の能力を発揮できるが、あえて言わない。
装備するDISCによって使える能力が変わることについて、必要でない限り一々説明する必要はないだろう。
「でも、獲物にするはずだった人間の顔を見るくらいはいいでしょう?」
狼女はそう言って、ディアボロの方を振り返った。
……そして、『しまった』と言わんばかりの表情をした。
「……相手が悪すぎたかもしれないわね」
「どういうことだ?」
「貴方のことについては、草の根妖怪ネットワークでも時々話題に上がるのよ」

草の根妖怪ネットワーク……
詳細はよくわからないが、恐らくさほど力のない妖怪が情報を交換しあうことで様々な利益を与え合う為に構築された情報網なのだろう。

261東方魔蓮記第五十話:2014/10/12(日) 22:45:04 ID:HXUBrABY0
「ただ、そこでの貴方に関する情報はなんか嘘っぽくてね……人も妖怪も分け隔てなく接してくれるという情報もあれば、一人の人間を救うために躊躇なく妖怪を斬ったという情報もあるの」
「……」
ディアボロは黙って狼女の話を聞く。
草の根妖怪ネットワークに入っている自身の情報について、もう少し聞き出すつもりのようだ。
「他にも、風見幽香と互角に闘っていたなんていう特に怪しい情報もあれば、氷の妖精を止めてというまでくすぐっていたなんて変な情報まであるわ」
「……成程、様々な情報が飛び交うとは、想像以上に立派な情報網だな」
「(風見幽香との戦闘については、流石に聞いただけでは信じがたい話か……)」
ディアボロは草の根妖怪ネットワークを褒めつつ、思った以上に自身の情報が集められたことに警戒していた。
この狼女は先ほど挙げた情報の殆どを本当かどうか疑っているが、裏を返せば『俄かには信じがたい』情報が集まるほどこのネットワークは大規模であるということだ。
「ええ、そうでもしないと私達のような妖怪はうまく生き抜いていけないからね」
狼女はそう言って後ろに数歩下がる。
「どこか貴方の情報は怪しかったけど、こうして実際に能力を使われてわかったわ。私達のような妖怪だと、正面からじゃ絶対に勝てない」
狼女はまるで諦めたかのような感じでそう言った。
それは即ち、『今の状態では勝てる可能性は全くない』ということを彼女が認めたということだ。
「恐らく、さっき起きた竹林の霧を殆ど払ってしまった強風も貴方が起こしたものでしょう?」
「ああ。さすがにあの濃霧の中では地形や周りの景色の問題もあって地図があっても迷いかねないからな」
「本当、いきなり強風が吹いてきたから飛ばされるかと思ったわ」
「でも正しい判断よ。私達と違って人間は鼻が利かないから、疲れたり視界が悪いところを不意を突かれて襲われることは少なくないわ」
狼女は呆れながらも、彼の行動の正しさを認める。
「流石の俺もその状態で襲われたら傷を負う覚悟はしないといけないな」
ディアボロはそう言いながらも、その表情は笑っている。
……が、スタープラチナで炎の生命探知器を見ているあたり、気を緩めていないというべきなのだろうか。
ちなみにあの時狼女が不意打ちをしてきて、仮に攻撃を命中させることができたとしても、その瞬間にクラフトワークの能力が無意識に発動して対象は固定され、攻撃は浅手で終わってしまうのだ。

「それじゃあ、私はこの場を離れるけど……貴方なら問題なくこの竹林を抜けれるでしょうね」
狼女はその場で宙に浮き、その場から離脱できる状態を整える。
「ああ、こちらも行きたいところがあるからな」
ディアボロはそう言いながらも、その場から動かない。
彼女が飛んでいくのを見届けてから、再び動き始めるつもりだろう。
「そうだ、折角有名人に会えたんだし、私の名前ぐらいは覚えてもらおうかしら」
狼女はふと思いつくと、その顔に笑みを浮かべながら口を開く。
「私の名前は今泉影狼(いまいずみ かげろう)。貴方が一緒に暮らしている妖怪達ほどの実力はないけど、名前だけでも憶えていてくれたら嬉しいわ」
最後の方はお世辞なのかどうかわからないが、狼女……ではなく、影狼がどことなく嬉しそうに話しているのは気のせいだろうか。
「安心しろ、俺は物覚えはいいからな。名前と容姿ぐらいなら長く覚えていられる」
正確には『容姿も長く覚えていられる』だが、記憶を忘れないようにしていることを隠すためにこのような発言をしたのだ。
「そう、なら嬉しいわね」
影狼はそう言うと、その場を離れてどこかに飛んでいった。
恐らくこの竹林から出るわけではないと思うが、彼女を追いかけることが目的でない以上、追いかける意味はない。
そしてディアボロも影狼が飛び去るのを見届けると、再び迷いの竹林を進んでいく。

一度入ると出られない。
そんな迷いの竹林を、ディアボロは進んでいく。
霧を遥か遠くに吹き飛ばして視界は良好、地図も用意し、探知器も発動している。
目指すは藤原妹紅の家、そこに彼女がいなければ永遠亭。
どちらに妹紅がいるかどうかはわからないが、兎に角辿り着かなければ何も始まらないのだ。

262セレナード:2014/10/12(日) 22:48:56 ID:HXUBrABY0
投稿終了でございます。

早いことに、話をまとめていなければもう50話(まとめていれば44話)目になります。
はてさて、この物語は一体どこまで綴られゆくのか。
70話?ひょっとすると3桁突入?
いずれにせよ、完結目指して頑張っていきます。

263名無しさん:2014/10/14(火) 21:56:05 ID:Dw5cfIPY0
わおーん!
投稿お疲れさまです。輝針城編のはじまりですね。いやしかし、ディアボロに敵う妖怪が今の幻想郷にいるんでしょーか。

気になったのですが、うぇざー

264名無しさん:2014/10/14(火) 22:02:55 ID:Dw5cfIPY0
あー、ウェザーの操作された天候は感じ取れるからストレングスみたいに気づかれるのではないか?
と聞こうとしたんですがよく見たら感じ取られた描写ありませんでしたね。
外に出たばっかりの時、困ったおじさんの回りだけ晴れにさせたときも妙なほどに気にかけなかったですし。

265セレナード:2014/10/14(火) 22:15:03 ID:YfGblU4w0
>名無しさん
いえ、輝針城ではなくて永夜抄編ですね。
どうやら描写で誤解されているかも知れませんので、一応そこは最優先で訂正を。

ディアボロに敵う妖怪……いないようで案外いるかも。
鈴仙のそれだって、スタンドを波として感知できれば幻覚によってチャンスはありますし。

ウェザーのあれは、本物を操っているパターンとスタンドの雲を作っているパターンがあるんじゃないでしょうかね。
だとすれば、スタンドの雲から発生する気象現象は何だってスタンド使い以外には見えていないかも?

266どくたあ☆ちょこら〜た:2014/10/26(日) 21:08:17 ID:N8eupZKM0
投稿お疲れ様です!
輝針城組が登場するSSはここでは初めてでしたね。弱さを認め上手く立ち回れる影狼は強い娘だと思います(小並感)
チルノくすぐり現場を目撃したのはわかさぎ姫でしょうね。危うく事案物ですねw
永遠亭メンバーは東方世界でも最強格の月人二人、ディアボロ

267どくたあ☆ちょこら〜た:2014/10/26(日) 21:09:38 ID:N8eupZKM0
(続き)
でもかなりの苦戦を強いられるでしょうね。
次回の投稿楽しみにしております

268まるく:2014/10/29(水) 17:12:40 ID:tIpZCboU0
2か月…ぶりだろうか。そうだよ。一月休みをいただいて積ゲー消化しまくりんぐしてきました。
ゲームも落ち着きリアルも落ち着いたので、SSをかきかき。終わりましたので投稿します。
…長さは普通です。ごめんちゃーい。

269まるく:2014/10/29(水) 17:14:08 ID:tIpZCboU0
 白玉楼、厨房。
 これから催される宴の準備として、霊たちが右往左往としている。
 各々が器具を持ち、立派な料理を作っている、のだが。どうにも半透明の人魂状の物に器具が刺さっているだけの様にしか見えず、その光景は異様としか言えない。

「はい、肉と野菜持ってきたよ」

 その中、倉から食材を持ってきた人型、妖夢がその場に荷を下ろす。
 彼女も料理はできるが、大掛かりになると荷物の持ち運びには不便な幽霊たちの代わりを行う。
 持ち出した食材は優に5人前はあるだろうか。そして、すでにあったものを数えると7,8人分ほどになる。賑やかな会場に合うのは大量の料理と主の言葉だ。それを常に胸に入れ、ここの従者たちは動いている。
 持ち込まれた食材が下されると、やれ霊たちがこぞってそれを取り、自分の担当する料理へと調理を開始する。

「……? ねぇ、ちょっとそれ貸して」

 妖夢は何かに気付いたかのように入り口に視線を送り、半ば強引に近場にいた霊の包丁を取り上げる。
 それを右手に、正しく刀を持つように携え、

「曲者ッ!!!」

 自身の感じた違和感を信じ、全力を持って斬りかかる。
 ここにいる霊たちとは違う、実体を持った何か。最もそれに近い幽々子も今はあの少年との歓談でいないはず。そうなれば、侵入者以外何者でもない。
 知り合いの大体は勝手に入ってくるのだが、もしそうであるのなら楼観剣でもないこの一撃位なんてことはない。そう、妖夢は考えていた。何でもいいから斬るのである。

「おいおいおいおいおいおいおいおいおい」

 だが、それは達成されなかった。妖夢の身体能力を持っての全力の居合は、まるで時空が歪められたかのように進むことが適わなかった。
 妖夢からすれば、果てない距離を全力で詰めようとしたように感じられる。だが、他所から見れば急に妖夢が失速してその場に留まるほどになったように見えた。

「……おまえさん、違和感を感じたら本当に斬りかかってくるね。あたいじゃなかったらどうなっていたことか」

 入り口の陰から、妖夢より二回りほど大きい姿が現れる。
 死神の装束を纏い、その身よりも大きな鎌を背中に備えた女性―小野塚小町―は手を頭の後ろで組み、呆れたように息をつく。

「何だ、小町さんでしたか。どうしたんですか、こんなところに。つまみ食いはダメですよ」
「違うよ。あたいがつまみ食いするようなキャラに見えるかい」
「見えますよ? 以前仕事のための燃料補給だー、とか言いながら里でお団子食べてたじゃないですか」
「あれはその通り仕事に向かうための物であってつまみ食いとは無関係」

 小町と認識した時から、先ほどの警戒は薄れていつも通りの緩い雰囲気に戻る。

270深紅の協奏曲 ―飛べよ、踊れよ、円舞曲と共に 4―:2014/10/29(水) 17:14:51 ID:tIpZCboU0
「それで、何の御用ですか? ……というか、お出迎えもできませんでしたね、すいません」
「いんや、それは気にしなくていいさ。あたいらの仲だろう。それに、この新人がちゃんと出迎えてくれたさ」

 ありがとね、と小町は傍らに寄り添う霊をつんつんとつつく。それは、嬉しそうに体を震わせるとそそくさとその場を離れる。

「まだここに来たばかりみたいだね。初々しくてなによりなにより。……んで、用件だけど。お客が増えるんで、あと一人分追加してもらえるか?」
「……お客?」
「四季様だよ。なーんか、あんまり話してくれないんだけどさ。急にここで話があるからあたいに連れて行ってくれーって。
 仕事を放棄して場を離れるのは不安だからあんまり……って言おうとしたけど、かなり真面目な内容みたいでそんなこと言ってられない雰囲気でさ」

 小町の能力は距離を操る程度の能力。先ほどの妖夢の突撃を留めたのもそれによるもの。
 三途の川から冥界まで、至るとするならそれなりの時間がかかるが小町の力ならば瞬間とまでは言わなくともかなりの速さで到達できる。それを、映姫は頼ったのだろう。

「妖夢のその顔もわかるけど、どうやら西行寺との内緒話みたいだ。急いできた理由もわからん。けれど、その後の宴に謝礼がわりに参加してもよいって言われてね。そういうことで、あたいの分もよろしく頼むよ」
「はあ。……で、二人なのに一人分?」
「四季様はあんまり食べないからね。その大がかりな一人分から摘まむんじゃないかな」

 目的も、理由もわからないが、上司同士の話は介入しない方が身のため。言われたことをやればいい。
 言外に小町はそういっており、それは彼女の平常時の仕事スタイルでもある。サボっているが。
 最初に言われた時は妖夢も疑問が浮かんでいたが、そのことを知っているのもあり、納得をすることにした。

「わかりました。作っておきますのでどこかで暇つぶしでもしておいてください」
「冷たいなー……相手してくれないのかい?」
「料理できます? 小町さんっていっつも出来合いの物しか食べてないイメージしかないですよ」

 困ったように妖夢は目線を向けると、小町はすぐに視線をそらし、

「お、いい酒があるね。落ちる日でも見ながら一杯やってるかな」
「どーぞ」
「……あたいもできなくはないんだけどね。どうしてもおまえさんと比較されると、ちょいとねー」

 近くにあった酒瓶を取り、言い訳をしながら厨房を抜けていく。

「…………にしても、閻魔が何の用事だろう? 場の空気を悪くするだけだから、懇談会ならば必要とされるような空気ではないと思うのに」

 残った妖夢は、仕分けの手を進めながらもほんの少しの疑問を口から滑らせた。

271深紅の協奏曲 ―飛べよ、踊れよ、円舞曲と共に 4―:2014/10/29(水) 17:15:21 ID:tIpZCboU0



 室内は、奇妙な静寂が場を支配していた。
 幽々子はずっと同じ、神妙な表情を浮かべ続けていて、対するディアボロは姿こそは少年の、ドッピオの身体のままだがその姿では浮かべたことの無いような、深淵の先を見る様な表情で、深く物事を噛み締めている。
 自分が今ここに存在する理由。そして、この世界の成り立ち。そして、自分たちのその後。
 そのままの意味で受け取れば、もう帰る世界はない。ここでなければ一笑に付す出来事だった、世界線が違うという事実。
 もっとも、すでに帰る場所は失われていたし、故郷を想うようなセンチメンタルな感情は存在しない。縁は感じるが、思い出など必要はない。
 自分の過程を聞いたのであれば、自分の今後はどうするか。

「仮に、ですけれども」
「……ん?」

 幽々子は目を細めてやや下、将棋盤を見つめながら口を開く。
 その雰囲気は、今を直視せず、その盤の上に見える風景を思い描きながら語っているようでもあった。

「もし、あなたが外の世界で行ってきたことと同じことをしたのならば。
 私はそれを止めはしないでしょう。紫も、それを止めはしないでしょう。けれど、それを悪しと思う者があなたを止めるし、賛同する者が協力するでしょう。
 それがたとえ、幻想郷という小さなコミュニティを崩壊させる未来しか見えなくても」
「…………」
「あなたの犯した罪は、外の世界の尺度で言えばそれは大きなものでしょう。けれど、それと比べれば私はどうでしょう。
 あなたの行った事柄など、結局は人間個人で行ったもの。あなたよりも永く永く生きたここの住人にとっては些細なことです。
 知っているかもしれませんが、幻想郷はこれまでにも2,3ほど、もしそれが成されたのならば人の住めなくなることになるであろう異変が起きています。
 しかし、今ではその首謀者を交えてまるで旧知の仲の様に過ごしている。そんな、世界。だからあなたが何をしようと」
「だからといって、何をしてもいいわけではありません」

 そこまで話していた幽々子の言葉を、また別の声が遮る。
 外の方からであった。何事かと向くディアボロと、少し笑みを浮かべる幽々子。
 障子に映っていたアンの薄い影が立ち上がり、礼をする。それを横切るように小さな実体を持った影が通り、

「お邪魔させていただきます」

 静かに、ではあるが妖夢が行ったような所作ではない。勝手を知る友人の部屋に入る様な、そんな所作で部屋に立ち入る。

「あら、来られたのですね閻魔様」
「遣いの者が来ましたからね。それにしても西行寺、そうやすやすと人の過去に付け込んで誑かすのではありません」

 入るなりに口を滑らかに動かす、閻魔と呼ばれた少女―四季映姫―。
 その幼い容姿とはそぐわず、幽々子に対しても怖じもせずに食って掛かる。対する幽々子はおどけた様に耳を塞ぎ、頭を抱えている。

「こら、聞きなさい。あの世の者がこの世の者に関わることは生と死の境を曖昧にさせる。本来ならばあなたはこの世の者と関わってはならない。そのための従者がいるわけでしょう。そう、あなたは少し生に触れすぎている」
「きゃ〜、聞こえない聞こえな〜い」
「……閻魔……?」

 ディアボロも知らないわけではない。仏教の、死者を裁く神、程度は知っている。
 だが、どうしても日本の書物でよく表されるいかつい姿とは似ても似つかぬ姿に対して、驚きを隠せない。

「……そうですね、西行寺への説教は後にしましょう。『お久しぶり』です、ディアボロ。と言っても、姿は少年のままですが。……憶えていますか?」

 幽々子と同じように、再開としての挨拶を交わす。

「……お前は、いや、お前の声は……」

 それは、最初に星に見つけられる前の、何かの声。

「いいです、あなたを裁きます。もっとも、そこから先は知りませんけどね」
『    、        。    、そこから先は知りませんけどね』

 それは確かに、おぼろに残る記憶の声と同一している。
 聞き取れなかった前半の言葉も、彼女の小さな唇から放たれる。

「別の者に裁かれたあなたを、生と死の境に永遠に彷徨う曖昧な存在だったあなたを明確にしたのはこの私。
 度重なる死の果てに初めて精神の底から願った、死を拒む思いを汲み取ったのはこの私。他にも、あなたの過去を見たりとかもしましたが」
「……つまり、お前があの呪縛から解き放った者だということか?」
「正確には、解き放ったわけではないのですが。まあ、おおむねその通りです」

 小さく頭を振る映姫。

272深紅の協奏曲 ―飛べよ、踊れよ、円舞曲と共に 4―:2014/10/29(水) 17:15:55 ID:tIpZCboU0
「どう、いうことだ?」

 ディアボロの当然の質問に対し、映姫は手鏡を取り出す。質素な、飾り気はないが優れた意匠が凝らされている鏡。
 それをディアボロに向けると、そこには彼の姿が写らない。写っているのはドッピオの姿ではないディアボロと、それに対峙する――

「ッ、ジョルノ……!!!」

 矢のパワーを得て覚醒したジョルノと、それに寄り付き添うゴールドエクスペリエンス・レクイエム。
 鏡越しにでも伝わる、彼自身が信じる『正義』の精神と、それに誰しもが惹かれてしまう様な圧倒感。
 自分はどうだ。今まで張っていたものがすべて虚仮のよう。神に挑む愚かな人間のようにも感じられるほどに、矮小に感じられた。

「この鏡は浄玻璃の鏡。映した物の過去の全てを晒し出す。普段は相手の罪を確認させ反省を促すための物なのですが……」
「わあ、かっこいいわねこの人。くるくる頭の幼い顔立ちだというのに」
「お静かに。スタンド、と言いましたか。あの八雲さえも危惧させた力。彼もあの事変に類する力を持っているのでしょう、きっと。
 その力は、10年以上の歳月を得て、世界を越えてもあなたを縛りつづけた。その力を、私は完全に御しきれていない」

 鏡の中はあの時を再現し、真実に到達できなくなった決定的な瞬間を映し出す。

「人が人を裁くことなど驕りの極み。ですが、あなたに対する、あなたを通じての個人の思惑を超えた感情が力となってあなたを縛り続けている。
 本来私は死者を裁く者。生者を裁く権利はない。私があなたを裁くには、あなたが死ななくてはいけないのにあなたは死ねない。
 生者を完全に裁くことのできない私には、生きている者の影響を白黒はっきりさせることはできないのよ。あなたが死を繰り返さないのは、精々幻想郷の中だけでしょう」

 鏡の中は、その後辿り着いた水路に逃げ込む自分の姿。すぐ後に刺されるだろうその姿は、映姫が鏡をしまうことで終わりを告げた。

「あなたという人物の聡さを理解しての行動です。全てを知った後にこの事実を告げることは。それが、八雲の提示した案。
 曖昧、流転、不形。そんなものの象徴ともいえる彼女は自身があなたに影響を与えることを避けたかったのでしょう。故にあなたに会わずにいる。
 嘘を好まず全てを包み隠さない私というものを使いながらね。……まったく、あれにも生を見つめ直してもらいたいものです」

 はあ、とため息をつき、一区切りを入れる。
 彼女から与えられた事実に対して、再び思考材料が増え顔を強張らせることしかできない。
 立ちながら説明を続けてきた映姫は、将棋盤の前にかがむとディアボロの進めた王将の前に、自分の人差し指を突き立てる。

「……以降、私はあなたを裁くことはないでしょう。あなたがもし死に、それを裁くことになるならばそれはあなたの世界の閻魔によるから。私は幻想郷の担当であり、幻想郷で生まれた者しか死後に私の元に集わない。
 あなたの犯した罪は、紛うことなく地獄行きでしょう。私利私欲、自らの為に犯し続けた罪の数は述べるだけで一苦労です。更生の予知はありません。
 それでもここで何かを犯すのであれば、それを私に止めることはできません。ごっこ遊びならともかく、現界に手を出す力は私にはないのですから」

 もう片方の手でディアボロの片手を借りると、その手で自分の指を弾いた。その小さな手は、確かに年嵩の無い少女の柔らかい皮膚に包まれていた。
 最も、今までそのような容姿で強力な力を持つ者達に何人も出会っているのでそれが信頼の証になるわけではないのだが。

「そして最後にもう一つ」

 さらに続けて、指を一つ立て注目を集めながら映姫は話す。

「ですがその前に問いかけです。ディアボロよ、あなたははたして人間なのでしょうか?」
「何だと?」
「え??」

273深紅の協奏曲 ―飛べよ、踊れよ、円舞曲と共に 4―:2014/10/29(水) 17:16:56 ID:tIpZCboU0

 その問いかけには意外だったのか、幽々子も目を丸くして反応をする。
 問われたとしても、漠然としすぎていて質問の意図を掴めない。それ故に、返事はそれだけしかできなかった。

「凡そにして、人間とは肉体・精神・魂の3つから成り立ちます。これについては特に議論を必要としないでしょう。ディアボロ、あなたもかつてはただの人間でしたのでしょう。
 しかし、今のあなたは一つの肉体に二つの精神、二つの魂が存在している。もしあなたが一般的な『多重人格者』であるならば、精神は二つ三つに分裂していようが、魂は変わりがありません。
 何故あなたが」
「少し、待て」

 滔々と語りかける映姫に対して、手のひらを向けて止めるように示す。
 それと共に、ディアボロの肉体が、ドッピオの物である少年の身体からぐぐ、ぐぐと、逞しい成人の身体へと少しずつ変態していく。

「……あら、あらあら、まぁ」

 少年の姿に合わせて作られた衣服は、変わっていく中身に引かれてややも隠す部位が減っていき、隙間から見られる精悍な肉体は久しく異性の素肌を見ていない幽々子の頬を赤らめさせる。
 数刻の間をおいて、そこに少年の姿はなくなっていた。

「確かに私の今の肉体には二つの精神がある。自分の精神と、もう一つの精神。魂がどうのこうのとは理解が進まないから後で聞くとして……
 ドッピオにはこの肉体を扱えず、私の時でしか使えない。こうも変貌をするのであるなら、肉体も二つと同義ではないのか?」
「いいえ。どれほど変わろうと一つは一つです。……精神の有様によって僅かな変化を起こすことはよくあることですが、こうも変わるものを間近で見ると……驚きです」

 覚悟を決めたら顔つきが変わる。意志を明確にすれば体に力が入る。人格とは関係なしに、人間心持ちで肉体は変わる。
 それはほとんどの場合において印象のみであり、彼の様に風貌まで変わる例はそうそうない。が、ゼロではない。

「肉体が二つとは、それこそ文字通りのものであるべきです。そのような存在は、私は魂魄の者くらいにしか見たことがありません。
 あなたの、そこまでの顕著な変化はあまり見られないですが、そこに二種の差異は私には視えません。ですが、それでも。
 ただ人格が複数あるならば、その人格が成長を重ねるごとに一つの精神として成り立つこともあるでしょう。ですが、魂が成ることはほとんどを以て起こることではない。何か、心当たりはありますか?」

 どうでもいい話だ、ともディアボロは感じるが、彼女の追及する態度には、徹底したものを感じる。だが、それと共に不自然にも感じる。
 先ほど取り出した鏡を使えば、自分の過去を全て見ることができるという。それがあるならば、彼女の言う心当たりは彼女で探せるだろう。当人さえいれば。
 今相対していて鏡を盗み見るような真似をしているわけではない。そして、彼女の役職から考えられる符号。

「…………ある。先ほどの出来事、その直前に起きた片鱗。その時、私とドッピオは確かに離れた」

 それはおそらく、自覚と承認。他者に言われるのではなく、自ら顧みて出来事を見つめさせること。
 今更この者の前で過去を隠すことなど愚行に等しい。故に、自分に起きた出来事を話す。

274深紅の協奏曲 ―飛べよ、踊れよ、円舞曲と共に 4―:2014/10/29(水) 17:17:49 ID:tIpZCboU0
「奴があの力に目覚める前の、失敗例。それにより近くの者全ての、生き物すべての人格が、精神が入れ替わった。人も犬も鳥も関係なく。
 その時、無闇に引っ張られることに危険を感じた私はあえて娘の肉体に精神を滑り込ませた。一番近しい者であるなら、気取られることはないと考えて。
 その時は精神と魂は同一の物であると考えていたが」
「そもそも、あなたは自らの精神、魂を自在に表に出したり、裏に潜めたりすることができる。それが、他者の肉体であろうと。
 さすがに相手の肉体そのものを支配できるわけではないようですが……それすらもできるようのであるならば、すでにそれは人間の枠を超えているでしょう」
「ドッピオにはできないが、私にはできる。自分の身体は自分で思い通りに動かすことはできるが、他者の身体ではできない。それは確かだ」
「本題に戻ります。ディアボロ。あなたがもし自分の精神を他者に渡したまま自分の肉体が死んだ場合、あなたはディアボロなのでしょうか? もしそうであるならば、あなたは『人間』なのでしょうか?」

 長い解説を話して、改めて映姫に問われる。
 彼女がどういう答えを期待しているかはわからないし、結局振り返ってみても答えはわからない。正解がそもそもないようにも思える。
 他にその答えを考える者がいるならば、それが十人居れば答えは十通り出てくるだろう。

「私は『帝王(ディアボロ)』だ、それ以外の何者でもない。生まれ落ちた時からの逸脱の身、今更そのことで悩むつもりはさらさら無い」

 映姫に突き付けた一つの答え。それが、これからの自分を示す決意の言葉でもある。
 ここに来た理由、その過程。それを知ったからこその、ここに来たるべき理由を自分に刻むために。
 それを聞いた映姫は肩と溜めた息を下ろし、

「この問いに答えを見つけなさい。それが今のあなたに求められる最後の善行よ」

 その言葉には、理解されなかったようなややも呆れたような感情が篭もっていた。




 日は落ちた。部屋に射し込む日光は既になく、外に僅かながらに点在する灯篭からの漏れる灯りと、柔らかな月の光が部屋を照らしていた。
 その光を遮る障子がか細い光をさらに細め、急にこの部屋に入った者ならどこに何があるのかわからなくなるだろう。
 中にいた3人には、ずっと部屋の中にいてその光に慣れているのもあってそのようなことは起きないのだが。
 ぽ、と幽々子が手を掲げるとその周りに光を纏った蝶の輪郭が現れる。
 その蝶は意志を持つように部屋の隅に置かれている行燈に向かう。その中に入り込むと、同じような色の明りが行燈に点く。

「お話は終わったかしら」

 日常の夜として使うには暗すぎる光源が、ここが、彼女が、亡霊の園とその主だということを思い知らされる。
 吹けば飛びそうな幽かな明かりが彼女の顔を照らし、妖しさと儚さを表していた。

「夜も更けて、お腹も空いてきたでしょう? 妖夢たちが作った美味しいごはんにしましょう。そうしましょう」
「……あなた、それを待っていただけでは?」
「さあ、聞こえませ〜ん」

 うきうきと、先ほどの印象を払拭するような声を出し二人を促す。

「二つ隣の部屋に、今頃皆が用意した晩餐の準備ができているでしょう。さあ、お立ちください。ご案内しますわ」

 先に立ちあがり、外への境を開いて二人を誘うように手招きをしながら、幽々子は先を行く。外は、部屋の中よりも明るく庭を照らしていて夕暮れとは違う印象を植え付ける。
 映姫もそれに続いて外に行こうとする。が、その後続はなかった。

「……どうしました?」

 映姫が、動こうとしないディアボロに問いかける。その表情は、途中にも見せた何かを考え込むような顔。

「先ほどの事を考えているのですか? それはまだまだ早いこと。至らぬ事に時間を費やすより、目の前の事に集中してはどうでしょうか?
 こういうのもなんですが、あなたは十分に理知聡い。その事をわからないとは思っていません。相手の誘いは受けるのも善ですよ」
「…………いや、それはわかっている。だが、一人の時間が欲しいのだ」

275深紅の協奏曲 ―飛べよ、踊れよ、円舞曲と共に 4―:2014/10/29(水) 17:18:20 ID:tIpZCboU0
 にこりと、先ほどまでの雰囲気からは想像できない優しい笑みを浮かべて彼を誘う映姫だが、その善意を敢えて跳ね返す。
 あまり強く言っても効果はないだろう。どうしたものかと映姫が考えた時、

「二つ隣の部屋です。わからなかったらアンに聞いてください。さ、閻魔様。行きましょう」
「……えぇ。わかりました。西行寺、あなたには山ほど言いたいことがあります。この機会に満足するまで聞いていただきましょう」
「耳まで一杯にされちゃうのね。楽しみだわ。それでは、また今度ね」

 幽々子が彼に目配せをしながら、引っ張るように映姫を連れ出す。
 二人の少女はややも騒ぐように、その部屋を後にした。

「……………………」

 残された、静寂。
 その中でまた、一人で考える。何かを思案するときは、こうした孤独が心地よい。
 もっとも、厳密には一人ではないのだが。彼からは霊ゆえか息遣いも衣擦れも、気配の欠片もほとんどない。
 気にならない、というわけではないが、黙って見られているよりかははるかに良い。

(……)

 もちろん、先ほど言われたことが何よりもの項目である。まさか、人間かどうかまで問われるとは思っていなかった。
 だが、それと共に見せられた記憶の残滓。それにより一つ気にかかることがあった。

 確かにあの時に切り捨てたドッピオの存在。最後まで見ていなかったが、ドッピオはブチャラティの肉体に引きずられて死んだ、はずだ。

 それを最後まで見届けてはいない。だが、肉体が死んだらその魂は共に死ぬ。それはナランチャの魂が入ったジョルノの身体で確かめられた。
 魂の消滅した空洞の肉体を修復、機能を再開させその中の元の魂が戻れば元の通りに戻る。スタンド使いだからこそ、できる事だろう。
 ……それが、ドッピオにも起きたのだろうか? 鎮魂歌に捕らわれ、幾年の歳月を経て、永遠の時間の加速の果てにここに行き着いて、それで?
 その可能性はあまりにも低すぎる。死んだ彼の魂が10数年、自分の周りについていたとでも言うのだろうか。
 すでにオカルトじみた考えになってきているが、可能性を提示された以上、浮かぶものは全て留めておく。

 何故、今。ドッピオは自分の身体に戻ってきたのだろうか。昨日の夜にも気に掛けたこと。他の要因で途切れさせられたが、理解するべき項目としては高い位置にある。

(……もし。客人よ。話を一つ聞いてもらえるだろうか。いや、聞きたくなければ戯言として聞き流していい)

 ふと、外から聞こえる声。それは鼓膜から響くのではなくスタンドを介して聞こえる心の言葉。

(どうしてもこの位置からでは中の話も聞こえてしまうからな。何、中の内容は他言しない。我が主にもオレから話そうとしない限り伝わらない。して、話だが)

 彼も中に向けて話しているわけではないし、ディアボロもそちらに目をくれるわけではない。

(王、という単語を使ったな。久しい、言葉だ。かつてオレが忠誠を誓った方も、王という器にふさわしい人物だった。世間には暴君と呼ばれる支配欲にまみれた方だったがな。
 そんな方だったが、それでも忠誠を誓う者は大勢いた。あの方に仕え、モノとして捨てられても良いと考える者も居た)
「…………」
(オレがスタンド使いとして差し向けられた時と、客人が生きていた年代は違うだろう。それに伴い人間も変わる。10年あれば、感性は変わる。
 それでも、客人にそうした誓いを立てる者はいただろう。雰囲気から察するに、あの少年がそうなのだろう)
「……」
(再び巡り会えたことに感謝せよ。その逢着に偶然はない。巡り合えたことが当然なのだ。引力とはそういうものなのだ。これは、その方がよく口にしていたことだ。
 オレには頭はない。安っぽいが、そのことを伝えたかった。ただ、どうしてもそうしたかった。……それだけだ)

 そういうと、アンは立ち上がり二人の進んだ側に歩き出す。彼を完全に一人にしておきたい、それを願っていることを読み取ったのだろうか。
 それの方が都合がいい。

276深紅の協奏曲 ―飛べよ、踊れよ、円舞曲と共に 4―:2014/10/29(水) 17:18:53 ID:tIpZCboU0
「……引力、か」

 再び出会うことが当然というのであれば。それが当然の帰着というのであれば。
 思い出す。過去にディアボロとして生まれたこと。ドッピオとして生まれたこと。
 多重人格とは、心の傷の埋め合わせ。行ってしまえば、過剰な防衛本能。
 今までは死ぬ直前まで心は裂け続け、死んでしまえばその状態は全て治り再び死ぬ。
 実際に裂けきった二度目は、ごく最近。あの閻魔が『裁いた』のち、再び死ぬと錯覚したあの時。

「感謝、か。そうだな……ありがとう。それしか言う言葉が思い出せない」

 この感情こそも、いつ以来だろうか。相手を尊重すること、無条件の謝の気持ち。
 口から出すことはあっても、本意で言ったことなどあっただろうか。相手からのその気持ちを、受けたと感じたことがあっただろうか。
 それは、彼にとって初めてだったのかもしれない。


「それで終わりか? そんな、三文芝居は」

 突如、部屋に声が響く。
 素早く辺りを見回すが、誰も……いる。部屋の片隅に置かれた行燈が、その影を照らしている。
 揺らめく影は人の姿をしているが、その元にいるはずだろう影の主は姿が見えない。ただ、影だけが見えている。

「私はそんなお前を見たことがない。そんなお前を見ていたわけではない。お前は悪辣だ、お前は害悪だ、お前は吐き気を催す邪悪だ」

 その影は形を変えてディアボロに近づく。人の形から、一つ、二つと何かが増えて影の形を変えていく。
 何者、だろうか。侵入者がいればあの従者が、あの半霊が察知するだろう。悪霊? の類であるならば、亡霊姫が対処できるだろう。
 それらに何もかからない、侵入者。口ぶりからは、対象は自分自身。

「何者だ」

 そんな安っぽい言葉を求めているのではないだろう。『それ』からすれば、自分は被食者、相手が捕食者だ。
 もちろん、それで終わるつもりはない。立ち上がり、その影に向けてスタンドを差し向けながらも一歩を踏み出す。

「そんなことを答える必要もないんだよ。あんなことを考える必要もないんだよ。お前は相変わらず、手の平に転がされ続ければいい。主に、私に」

 にじり寄る様に、ゆっくりと歩み寄る。部屋はそれほど広くもないため、ディアボロが一歩を踏み出せば、そのまま影に足を踏み込める、はずだった。
 突然、背後から自分の両腕を巻き込んで抱きつかれる感触。突然の触感に、心臓の鼓動が高く響く感覚と頭頂部まで一気に血流が昇っていく感覚。
 背後のそれから感じるのは、圧倒的な肉食獣の気配。相手の身に着けている衣服に阻まれてもわかる、肉感的な柔らかな感触とそれに伴う早い鼓動。耳元に被せられる妖艶さを感じる吐息。


「なあぁぁあ、ディアボロ?」

277まるく:2014/10/29(水) 17:34:19 ID:tIpZCboU0
ちくしょう!なんで最初の奴ちゃんとタイトルついてねーんだよくそっ!!自分のミスじゃねーか!
以上になりますね。

考えれば考えるほどディアボロの生態は謎です。平常時には精神を自分以外の所に行かせるとか、やっていたんでしょうか。それともあれはやはりあの極限下だからこその行えたことなんでしょうか。
ジョルノは得意技と一回見ただけで断言していましたが。とにかく、多重人格でも精神は一つだろ!って思っていたのでこういう書き方をしました。
ドッピオは復活したのではなく、また新たにディアボロによって作り出された物でした。最初の方で、ブチャラティを誘導してから記憶が曖昧なのはディアボロがそこまでのドッピオしか知らないためです。

四季様は現世の者を裁けないというのはちょっとあれかもしれません。これは自分なりの解釈です。
裁判では強い権力を以て裁いて裁いて斬っては捨ての閻魔が、もし現世でも同じことをできたら?これは立派な職権乱用。もちろんそんなことをしない自制心を持っている閻魔でしょうが、それでも念のためということで力を振るえないと解釈しました。
三権分立のあれですね。弾幕ごっこはあくまでごっこ遊びなので、その点においては普通に四季様強いです。
花映塚のラスト、無縁塚では冥界、つまりあの世の一部なのでそこでなら力を出せます。ゆうかりんもそこでなら幻想郷最強を決めるための決闘をできるわけですね。映姫ストーリーで幽香にあっていないのもその要因の一つとしてとらえてます。

最後…一体何の式神なんだ…

278まるく:2014/10/29(水) 17:39:08 ID:tIpZCboU0
あー、力を振るえないというのはあくまでパワー的なものです。白黒はっきりつけるのはできるし、それが少なくとも間違いではありません。
しかし「関係ねえ!このアマぶっとばしてやる!」とかそういうのにパワーとして反撃ができない、ということです。
ドラゴンズドリームの様に、中立中立。閻魔様公平。小町に慈悲はない。
従う従わないは自由ですけれど、従わなければどうなっても知りませんよ。というのも込めて「もっとも、そこから先は知りませんけどね」の言葉です。
閻魔としてやや放任じゃね?って思うでしょうが、それは彼が幻想郷の住人でないことも関係してます。
…以上、言い訳でした。

279セレナード:2014/10/29(水) 23:20:24 ID:BkzCwCnY0
投稿お疲れ様です。
タイトル付属ミスなんてこっちもたまにやることですね……。

ディアボロがトリッシュの体に潜り込めたのは恐らくあの状況だからこそ成せたものでしょうね。
『肉体』と『精神』を自力で分離させるなど、ウンガロのような『そういうことができる能力を持つ者』でないと、いくら精神の力で肉体を変えられるディアボロでも無理でしょう。

閻魔が現世に干渉するなどという話は聞いたことはないのでまるくさんのような解釈でもよいかと。
冥界だからこそ実力を発揮できるという解釈には、何とも言えないですが。

そして小町に慈悲はないって……。あんまり……でもないかな?サボるあっちもあっちだし。

最後のあれは、人によっては……いや、言動がそうはさせないか。

次回も、気長に待っています。

280まるく:2014/11/01(土) 09:14:29 ID:qc.ia27Q0
感想ありがとうございます!!

…そういう解釈もあったか。むしろ、その方が自然か…
はい、何もなくてもディアボロの精神は他人にうつれることが可能とか思ってました。
良く考えたらその方が普通だよな、どうしよ

結局のところ、幻想入りキャラの無茶を止めさせる要因を少なくさせるだけともいう裏の事情も(
それは置いといても、説教はあくまで先を教えるだけであって強制力はないですからね。従わなきゃ地獄落ちるよ、ってだけなのを強調するのも含めて。
小町は仕事サボってるからしょうがないね。今回は何もサボってないけど。小町は現世とか関係なく動けます。死神ですので。

最後のアレは…いや、人によっては…言動もご褒美…
謎の式神さんも元ネタの解釈の一つに『夫に尽くして尽くして幸せにしてあげる貞淑な妻』という解釈もあるのでそれも入ってます。
悪い男に悪い女は惹かれるの。銀と金でみた。

次回もよろしくお願いします。次回はちゃんと11月末にはポンと出す!

281どくたあ☆ちょこら〜た:2014/11/03(月) 10:26:36 ID:sLLRk1bM0
まるくさん、投稿お疲れ様です!
小町の能力はやはり相当無敵ですね。攻撃防御奇襲撤退サポートなどなど隙が無い。緑色の赤ん坊とコンボを組めば、勝てる者は極僅か…ガクブル
【レクイエム】の呪いからディアボロが解放された鍵は映姫でしたか。能力の相性が良かった(レクイエムと真っ向から対抗するのでなく性質の裏をかいた)から、あのチート能力を中和できた、ということでしょうか。
しかし、ということはディアボロが意識を取り戻す前にいた場所は複数あるということになりますね。まだ『紅い眼の少女』に関する話題は出ていないことですし…

過去の自分を見て反省するディアボロ、幻想入りして本当に変わったんだなあ…(感慨)
『魂が二つ』とは、全てのスタンド使い共通の状態なのでしょうか?スタンドと本体は同一なので、ディアボロとドッピオのみの事を指しているのでしょうが、念のため。
映姫が裁ける範囲は『幻想郷で死んだ者』だと私は解釈しております。茨歌仙では大陸出身の青娥に『お迎え』として水鬼鬼神長を派遣したりもしていましたし。
アンのキャラが良い味出してますね。武の高みを目指す人斬り包丁、忠義の士。
現在のドッピオが新たに生まれた人格だったとは…ディアボロはプラナリアだった…?
ディアボロが多重人格者になった心の傷、原作では全く明かされてませんね。私の中では母親の胎内に二年間閉じ込められていた事が原因だと思っておりますが…
巡り会えた引力への感謝…確かに心からの感謝ってディアボロには似合わないですねw
そして遂に獣慾を抑えられず押し掛ける女狐。幽々子もディアボロの肉体に頬赤らめてますし、諏訪子の件と言い強者にモテますねディアボロ!本人はエラい迷惑でしょうが
幽々子、映姫、藍、続々と強者が集う白玉楼。今後どんな展開が勃発するのか、期待しております!

282まるく:2014/11/05(水) 11:26:45 ID:.mjQV3O20
感想ありがとうございます!

こまっちゃんは普通に強キャラ…あれ、東方そんなやつごろごろいるぞ?
単純な能力で使い手も強い。さすが5ボスに当たる人。

レクイエムからの解放は映姫さま。ゆかりんでもよかったんですが、それだと単純かつ彼女の趣旨とはずれそうなので。
そして、レクイエムに真っ向から対抗〜と言われています通り、それほど強力な能力という印象を与えたいのもあります。

自分の反省するディアボロはこんなのボスじゃない!とも思われそうですが、この人意識を取り戻してようやく50時間ほど。5部並のハイスピードです。
死の淵から(一般的でない)復活したことを考えると、十分こういったことを振り返ってしみじみするには妥当な時間かと。吉良よりポジティブではないですしね。そもそも吉良はポジティブすぎる気もしますがw

『魂が二つ』はスタンド使い共通ではなく、彼らの事だけを指してます。
ジョジョ内部では精神と魂をほぼ同意義で使っていて、場面場面でコロコロ変わってつけられてますので。
5部本編で、ドッピオとディアボロの精神は別れそうな状態でディアボロが運用していて、チャリオッツレクイエムによって初めて明確に魂も二つに分かれた、と思っていただければ。
ブチャラティの肉体に引きずられて『ドッピオは死亡』と、明確に書かれていたところでこういった解釈してます(文庫本39巻より。単行本ではないかも)
プラナリアは肉体の再生能力だけだろ!いい加減にしろ!

ディアボロの多重人格になった原因は全く記述がないためねつ造させていただく(キリィ
吉良みたいに裏設定であるわけではなく、しいて言うなれば『生まれてきたことに対して懸命に生きている』程度。荒木曰く5部の登場キャラはみんなそんな感じだと。
どこかで自分の出生について知り、母親と会い、彼女を生きたまま埋めて過ごさせるという行為を行ったあたりでやはり膨らませていきたいと思ってます。そのときすでに日常を送る人格と母親に対してのなんらかの異常性を持っていたと思うので。
敢えて、敢えてディアボロに似合わない言葉をどんどん使わせていきます。感謝や反省など。これは立ち上がる物語!(今決めた

野 獣 の 眼 光
一体何雲藍かわかりませんが、前の晩にあんなことをした相手が今一人になったので思わず駆けつけた式神の鑑
ハーメルンでもやはり同じようなことを突っ込まれましたが、悪は悪に惹かれるのです。かの信仰者ンドゥールも言ってましたし、マライヤもそういってました。ゆゆさまはどちらかというとうぶな感情ですが。BBAって言った奴出てこい
諏訪子は悪にカッコよさとかを見出しそうですが、藍はダメ男に尽くすタイプ系女子にも感じます。うん、それはそれで。
えいきっきは、次回の話の小町の一文を少し書いて個人的な視点を紹介させていただきたく。

とりあえずお先に、感想ありがとうです!期待していてください!


「あっはっはー、違うよ西行寺。四季様はもっと純粋なの、ショタ好」
その言葉は最後まで発されることはなかった。既にその場に小町はいなかった。そこには美しいフォームで悔悟の棒を振り切る映姫がいた。完璧なフォームだった。

283セレナード:2014/11/15(土) 22:34:26 ID:ZIWs80kc0
東方魔蓮記の最新話、完成しましたー。
多少疲れているけど、完成しているなら後は投稿してしまうだけなのです

284東方魔蓮記第五十一話:2014/11/15(土) 22:35:48 ID:ZIWs80kc0
寒き竹林を進む人が一名。
その様子を伺う生物は無数。
しかし、人は全く生物の様子を気にすることなく進んでいく。
何故なら、その人間は生物の挙動を大まかながら知る術を使っているからだ。

時に襲い掛かる妖怪を撃退し、時に興味を持って近づいてきた妖怪と会話しながら目的地へと進んでいく。
そして、時間はかかったものの、目的地である『藤原妹紅の家』に無事辿り着くことができた。
「(……ここが妹紅の家か)」
ディアボロは現在地点と妹紅の家の距離を再度確かめ、目の前の建物が目的の場所であることを確認する。

ディアボロはまず、玄関の戸をノックしてみる。
叩いた音が響き、その後一歩後ろに下がって少し待つ。
「…………?」
反応がない。
念の為マジシャンズ・レッドで戸の一部を温めながら、万が一彼女と戦闘になったときのことを想定して、クラフトワークをメイド・イン・ヘブンと入れ替える。
そして指で触れてみて、熱くて火傷をする、なんてことがないことを確認すると、そこに左耳を当ててもう一度ノックしてみる。
「…………」
さっきのノックの音以外何も聞こえない。
どうやら不在のようだ。
「(仕方ない、とりあえず妹紅の位置を確認してみよう)」
ディアボロはそう思って戸に耳を当てるのを止め、後ろの様子を確かめるべく振り返る。
「…………」
「…………」
……明らかに不審者を見るような目でディアボロを見ている女性が後ろにいた。


白い長髪に大きなリボンのような物をつけ、赤いサスペンダーで同色のズボンを吊り、ワイシャツのような上着を着た赤い目をした人物。
彼女こそが、ディアボロの探していた人物である『藤原妹紅』だ。

「……何をしようとしていたのかしら?」
女性はそう言いながら、両手に炎を纏わせる。
そのまま炎を飛ばしたりしてこないのは、ディアボロの後ろに自宅があるからだろう。
そして、彼女の両手から発された炎を見て、ディアボロは目の前の女性が藤原妹紅であることに気づく。

「この家の主に用があって、不在かどうか確かめていただけだ」
今回は相手の能力を理解できている以上、過剰な警戒はする必要はない。
ディアボロは妹紅の質問に答えながら、彼女の方に歩いて接近していく。
妹紅もその答えを聞いて、両手に纏っていた炎を消す。
「どうやらいなかったようだがな」
そのままその場を去……ると見せかけて、妹紅の目の前で歩くのを止めた。
「『家の中』には、な」
ディアボロはそう言ってため息をつくと、再び口を開く。
「お前が藤原妹紅か」
ディアボロはそう言いながら、ウェザー・リポートを出しておく。
妹紅も見ず知らずの者にいきなり自身の名前を当てられたためか、再び両手に炎を纏わせる。
「慧音に以前、会ってみたらどうだと提案されていてな。こちらの都合もよかったから、こうして今日訪ねに来た」
慧音の名前を出されたためか、妹紅は両手の炎を消し、それを見たディアボロも、ウェザー・リポートを戻す。
「まあ、事前に許可をもらわなかったのはマズかったようだがな」
「そうね、私には貴方が盗みにやってきた化け狸か化け狐に思えるわ」
妖獣の尻尾は、その大きさがそのまま妖力の大きさを示すものである。
妖獣が変化した場合、尻尾が大きいと隠せないことが多い。
しかし、それは裏を返すと『妖力が小さければ尻尾を隠しやすい』ことでもある。
例え自身しか変化させられないとしても、自身を変化させるだけならば妖力の大きい他の化け狸や化け狐には劣ることはないのだ。

285東方魔蓮記第五十一話:2014/11/15(土) 22:37:16 ID:ZIWs80kc0
故に『疑われている』のだ。
目の前の男は、『本当に人間なのか』と。
慧音と自分の仲を知っているとしても、それは又聞きなのではないかと思っているのかもしれない。
この竹林の中で暮らしている彼女ならではの疑い方なのだろうか。
「それは心外だな。俺がお前を騙しているといいたいのか」
ディアボロはそう言いながら、さりげなく妹紅の右側に並ぶように移動する。
「人間が迷い込んだとしても、此処に来るまでに妖怪に殺されるのが普通だわ」
「だから、俺が人間ではないと考えるのが自然だと?」
妹紅と会話をしながらディアボロは移動し、先ほどとは逆に妹紅の方が彼女の自宅を背にする形となる。
「その通りよ。だから此処から去りなさい!」
妹紅はそう言って脅しとばかりに炎を飛ばしてくる。
それに対してディアボロは、ウェザー・リポートで暴風を発生させ、それを炎目掛けて放つ。
その暴風は、周りに燃え広がる要素がなかった炎を容易く吹き消し、そんな攻撃をしてくることなど全く考えていなかった妹紅を地面の雪もろとも吹き飛ばす。
吹き飛ばされた妹紅は地面に叩き付けられる
「……え?」
「全く、これで俺が妖怪じゃないと分かってもらえたか?」
「(さっきの暴風、もしかして彼がディアボロなの?だけど、さっきのは……もしかして)」
前に、メイド・イン・ヘブンで加速したディアボロに、ウェザー・リポートで背後からキャッチされ、持ち上げられる。
「化ける狸や狐がこんなことはできないだろう」
ディアボロはそう言って、ウェザー・リポートの手を放す。
妹紅は特に何か反撃をするわけでもなく、普通に着地する。


地に足を付けた妹紅は、すぐに後ろを向いて不満を込めた眼差しでディアボロを睨む。
「何だ?」
ディアボロはやはりその眼差しに動じず、妹紅に問いかける。
「貴方……まさか輝夜に力を分け与えられて、けしかけられたんじゃないでしょうね?」
「(何でそんな考えに至るんだ……)」
どうやら先ほどの加速は、ディアボロが輝夜から一時的に分け与えられた能力によって起きたことだと妹紅は解釈してしまったらしい。
彼女がそう思ったのには根拠があり、『蓬莱の薬』と呼ばれるものは、彼女の能力によって作られているという実例がある。
故に、ディアボロが輝夜の能力によって作られた、時間に干渉できる何かしらの特殊な道具を持っていると思ったのだろう。
確かに、普通の人間には現象の加速などできるはずもないので、彼女の知識や経験からそんな答えを出すことは別に不自然ではないのだが。


時間干渉の観点からだけ見れば確かに似ている。
しかし、一定の時間を『決められた距離の道』、時の流れの影響を受けるものを『そこを進む者』と例えると以下の違いがある。

メイド・イン・ヘブンは『時間の加速』、つまり『そこを進む者』に影響を与える。
道を進む速度が上がれば、普通よりも早く『距離の決められた道』の終わりに到達するのは必然である。
……『決められた距離が変動する』などという、イレギュラーな事態が起こらない限りは。

それに対して、輝夜の能力は『永遠と須臾(しゅゆ)を操る程度の能力』、つまり『距離の決められた道』そのものに影響を与える。
決められた距離が長くなれば、道を進む速度が上がらない限りその道の終わりに到達するのが遅れるのは必然だ。
決められた距離が短くなった場合も同じである。道を進む速度が下がらなければ、その道の終わりに到達するのが早くなる。

ちなみに須臾とは10の-15乗、つまり1000兆分の1。永遠とは真逆の単位だが、その両方を操るとは、流石は『夜』でも『輝』きは劣らぬ『姫』である。

286東方魔蓮記第五十一話:2014/11/15(土) 22:40:27 ID:ZIWs80kc0
「何故そう思った?」
「貴方の持っている『それ』よ」
妹紅がそう言って指さしたのは、ディアボロが使うDISCを入れているケース。
どうやらクラフトワークとメイド・イン・ヘブンを入れ替える瞬間を目撃されていたようだ。
「これのことか?」
ディアボロがそう言ってケースから取り出したのは、ストレイキャットのDISCだ。
「確かにこれには一枚一枚別々の能力が封じられているが、お前の考えているようなものはないぞ」
ディアボロはそう言って、DISCを再びケースの中に入れる。
「それに、俺は輝夜に会ったことはないし、永遠亭に辿り着いたことすらない」
「……そう、ならいいわ」
妹紅はそう言うと彼女の家まで歩いていき、戸を開く。
「取りあえず入りなさい。このままじゃ寒いでしょう?」
「ありがとう。おじゃまさせてもらう」
妹紅の誘いに乗って、ディアボロは妹紅と一緒に彼女の自宅に入っていく。

「さっきは悪いことをしたわね」
「気にするな。珍しくないことだ」
妹紅の謝罪を受け、それを気にすることはないとディアボロは彼女に言う。
そしてお互いに向かい合う位置に座る。

慧音と妹紅は親しい仲だ。
慧音がディアボロに、妹紅と会ってみたらどうだと提案したということは、少なくともディアボロについての人物像や能力についてはある程度彼女に伝わっているのだろう。
ということは、ディアボロの能力の一つに『天候操作』があったことも恐らく伝わっているはず。
つまり、先ほど引き起こした暴風によって、意図せずして目の前の男がディアボロであると証明することになったようだ。
「貴方については、慧音から大体のことは聞いているわ。でも、なんで慧音は貴方と私を会わせたかったのかしら?」
「さあな、俺は心を読む能力は持っていないからな」

今のところ、相手の心を詳しく読めるスタンドは確認できていない。
テレンス・T・ダービーのアトゥム神でさえ、質問の答えに対しての『YES/NO』の二択でしか相手の心を読むことはできない。
もしも心を詳しく読むスタンドが発現するとするならば、その本体は何かしらの恐れのあまりに人間不信を通り越して『極度

287東方魔蓮記第五十一話:2014/11/15(土) 22:43:58 ID:ZIWs80kc0
む、区切りがおかしいな。
さっきの文章の最後の一行は

もしも心を詳しく読むスタンドが発現するとするならば、その本体は何かしらの恐れのあまりに人間不信を通り越して『極度の生物不信』か、相手の気持ちすら細かく知りたがる『極度の知りたがり』かも知れない。

です。
では、一行明けて本文の続きです。

「だが、慧音が何かしらの意図を持って俺たちを会わせたかったのは間違いないだろう。それも、恐らくお前のことを思ってだ」
ディアボロがそう言うと、妹紅はため息をついた。
「なんで……」
妹紅がそう言ったのを、ディアボロは聞き逃さなかった。
「付き合いの幅を広げてあげたいとおもったんじゃないか?」
「…………」
ディアボロの発言に、妹紅は無言で彼を見る。
「どうやら、あまり交友関係は広くないようだしな」
そんな妹紅にディアボロは笑みを浮かべながら冗談を言う。
その冗談を真に受けて、妹紅は沈んだ表情をする。
「……だって私は」
「『死ねない』んだろう?」
ディアボロのその発言に、妹紅は驚く。
この男は、私と会うのは初めてのはず。なのになぜ、そんなことを知っているのかと。
「何でそのことを!?」
「俺とて、何も知らずにお前に会いにいったりはしない」
紫の記憶から、彼女のことはある程度理解していた。

彼女は絶対に死なない。
細切れにされようが、体の芯から凍らされようが、爆破されようが、潰されようが、肉体が亜空間に飲まれようが、絶対にである。
勿論、寿命も『ない』。故に老いることも『ない』。
だから、生物を老化させるグレイトフル・デットは彼女には全く効かない。相性が悪すぎるのだ。

「それに……」
ディアボロはそう言って、過去を振り返るかのように遠い目をする。
頭の中に思い浮かぶは、かの惨劇の日々の光景だ。
「俺も似たようなものだ」
「……!?」
ディアボロの言葉に、妹紅は再び驚く。
「俺は死んでも、世界のどこかで意識と元の肉体を取り戻す。今は大丈夫だが、かつてはその直後に何かしらの要因で再び死んでいた」
「それって……」
「無限に続くはずだった死の連鎖……というやつだな」
ディアボロの説明に、妹紅は心配そうな表情をする。
「大丈夫だ。幸いにも、俺の心は一度も壊れずに済んでいる」
ディアボロはそう言って、笑みを再び妹紅に見せる。
「このことを話すのはお前が初めてだ。だから、この話は内緒にしておいてくれ」
ディアボロはそう言って、所謂「シーッ」のジェスチャーをする。
二人の不死に関する違いは、望んで得たか否かの違いでしかない。
「……わかったわ。それと一つ、貴方に聞きたいことがあるの」
「何だ?」
「貴方は、昔よりも充実した毎日を送れているの?」
妹紅のその質問は、彼の心を試す質問。
その質問に
「ああ。今までよりも充実している」
ディアボロは彼女が望んだ答えをだすことができた。

「そう。私も、この地に来ることができて良かったと思っているわ」
思わぬところで自身と似たような境遇の者と出会えたからか、先ほどは見せなかった笑顔を、妹紅は見せた。

「これから輝夜と殺し合いに行くけど、貴方もついてくる?」
「折角だ、ついてくるとしよう」
妹紅の突然かつ内容に驚きかねない質問に、ディアボロは特に動じることなく答える。
お互い、如何やらそういうのには慣れっこになってしまっているようだ。

二人は立ち上がり、妹紅の自宅を出る。
目指すは永遠亭。輝夜のいる場所だ。

288セレナード:2014/11/15(土) 22:45:51 ID:ZIWs80kc0
投稿終了。妹紅の口調が女性っぽいのは原作通りです。
男っぽい喋り方をする妹紅も、二次創作ではそれなりに見かけますがね。

ポケモンの新作はほしい。
だが新・世界樹の迷宮2も興味はある。
……どうしようものか。

289名無しさん:2014/11/19(水) 22:39:05 ID:cWjcvc020
投稿お疲れ様です!
…ディアボロさん、能力を披露して妖怪じゃないアピールするのは良いけど妖怪より強そうな能力披露してどうするの!
確かに狐や狸にはできないでしょーが。そうじゃない感ww

自分は妹紅は女っぽい口調のほうがいいですねぇ。かわいいですからねぇ。
でも原作通り、ですが割と曖昧に書かれていたような。儚を読んでいないのでわからないですが…
魔理沙程度の中性くらいなのが似合うのかも。

290どくたあ☆ちょこら〜た:2014/11/28(金) 16:22:01 ID:qLccgNZs0
セレナードさん、投稿お疲れ様です!
【メイド・イン・ヘブン】と『永遠と須臾を操る程度の能力』の比較、なるほどと感心致しました。実際に輝夜が能力を使った描写は原作には無かった筈なので、どのような現象が起こるのか実態は不明ですが
『複数の歴史を同時に持てる』って何だよ…分身?平行世界?
『須臾を集めて自分の時間にできる』というのは、攻殻機動隊で敵が日本全国の電子マネーのやりとりの際に発生する小数点以下の金額を集めて自分の資金にしていたのと似たような理屈なのでしょうか
『心を完全に読めるスタンド』は、【ヘブンズ・ドアー】と【ホワイトスネイク】がそうですね。どちらも本体は相手が自分をどう思っていようが歯牙にもかけない精神性を持っていたからこその、あの傍若無人な能力なのでしょうね

妹紅は小説版儚月抄では中性的な言葉遣いですね。口調がコロコロ変わるのは東方キャラの宿命…

次回、妹紅とディアボロのvs永遠亭戦。東方世界で最強格の月人二人ならば、ディアボロにも苦戦を強いることができそうですね。
次回、期待しております

291まるく:2014/12/01(月) 13:55:59 ID:mNSIplWs0
完成→酒飲む→泥酔→寝る→今
あははぁ。というわけで投稿させていただきます。
諏訪子のあたりから想像されていたかもしれませんが、藍の性格に、というか嗜好に違和感を持たれる方もいるかもしれない流れになってしまいました。
他にも、いろいろ。違和感というか嫌悪感を感じてしまったらごめんなさいです。
でも、その方がらしいと思いながら書いた始末でもあります。
んでは。

292深紅の協奏曲 ―真実へ向かうための行進曲―:2014/12/01(月) 13:57:26 ID:mNSIplWs0
 からら、と障子を引く音がすると、開かれた先から香る宴の匂い。
 座敷には、幾多の料理が並べられていた。とりどりの色が、視覚からも食欲を誘う。

「お待ちしておりました。準備はすでに出来上がっています!」

 客人を招くために待機していた妖夢は現れた二人を出迎える。床に指を着け丁寧に頭を下げ、満面の笑み。

「ありがとう妖夢。まあ、今日もおいしそうねー。みんなの作る料理はいつもおいしいけれど」
「お褒めいただきありがとうございます! 閻魔様もどうぞ召し上がってください。おかわりはたくさんありますよ」
「うん、見ればわかります。……相も変わらず面白い量ですね」

 それぞれの席の前に並んでいる料理の中、上座にはその何倍もの量が並べられている。
 いそいそと幽々子がその前に着くと、先の妖夢の様な満面の笑みを浮かべ、

「さあさ皆さん、召し上がりましょう。今宵の邂逅に感謝をこめて」

 その言葉と共に、映姫も小町も席に着く。……が、卓を囲むに歪な、空席。

「……あれ、あの子は?」

 ようやくドッピオがいないことに気付いた妖夢は、外を見てきょろきょろと見回す。
 周りには彼の姿はなく、幽々子たちが居た先ほどまでの部屋にはアンが立っているばかり。
 厠にでもいったのか、とも思える不自然な消失に、彼女は思わず声を出す。

「何でも、一人で考えたいことがあるそうです。おなかが減ったら来ると言っていましたよ。……むしろ小町はどこですか」
「小町さん? ああ、もう少し飲むものが欲しいってことで取りに行っています。お客にそのようなことをさせられないって言ったんですが気にすんなの一点で」

 そういうと、彼女らの入ってきた側とは反対の襖がががらと開く。

「うぇーい、妖夢、持ってきたよ、のものも……」

 多量の瓶を抱え込むように持った小町が襖を開いた。その手は使えず、かといってそれを下ろした形跡はなく。

「あ、あはは……お揃いでして? ならば妖夢も呼んどくれよ、そうすりゃちゃんとやったのに」
「……何をちゃんとやるのかは知りませんが、そんなに焦るようなことはないでしょう、小町。さ、魂魄が用意したのです。食べようじゃありませんか。ほら、閉めて」
「あっはい」

 言われるがまま、バツの悪そうにその両手の物を下ろそうとし、

「何をやってるんですか? 先ほどの様に閉めてみなさい。足で開いたように」
「いや、その、とっかかりとか無いし開きはまだしも閉めるのはちょっと、その、すいま」
「閉めなさい」
「あっはい」

 その様子に、幽々子は堪えられず吹き出し、妖夢は我慢しようと顔を伏せているが、肩の小刻みを隠しきれていない。
 楽しい時間は始まったところだった。
 その空席を、開けたままに。

293深紅の協奏曲 ―真実へ向かうための行進曲―:2014/12/01(月) 13:58:02 ID:mNSIplWs0



 最初に感じた思いは驚愕だったが、次に感じた思いは淫靡さだった。
 背後から抱きつき、自らの胸と局部を押し付けるような動きを交えながら、自分の体の線をなでるその手つき。

「私はなぁ、お前が嫌いだよ。嫌いで嫌いでしょうがないよ。存在も疎ましく、思っているんだよ」

 顔の真横からかけられる言葉こそ呪詛だが、口調は情欲を掻きたてる様な熱く甘い囁き。

「だけど紫様はそんなお前を視ていろと言う。害悪の末を視ていろと命じる。お前の様な存在する価値もない屑を……なぁ、何でだと思う」

 興奮し、上気した体温が肩元を通して感じられる。蕩けきったような目線が自分を突き刺す。

「わからないよなぁ。あの御方の考えられることなど。私も同じだ、お前なんかと同じなのだよ。……主の考えを察せない従者など、存在する価値もない」

 それは、求愛行動。いや、その先の互いを高め合う行為そのものだった。

「そう思った時には、お前を求めていたんだよ。わかるよな、出来損ないの部下などいらない。お前なら、わかるよなぁ」

 唇の動きが耳の僅かな感覚から通して理解でき、そこから脳を溶かし虜にする様なその声の響きには、性を手玉に取ることに長けた手練れさを含む。
 だから、ディアボロは。

「あぁ……わかるッ!!」

 顔面のあるべき所へ、スタンドの拳を撃ち込む。これ以上彼女のペースに付き合う必要はないし、付き合えば堕とされてしまうだろう。
 実際、行動に至るまでは時間をかけた。未だあの甘い余韻が頭に響く感覚が残る。身体をなでる感触が、無理やり引きはがすことに後悔を感じるほどに。
 撃ち込んだ拳は確かな手ごたえを感じ、そこにあったものが影や幻、もしくは幽霊の何かでないことを理解させる。
 だが、浅い。

「…………くっ、くっくっく」

 素早く後ろを振り向き、その撃ち込んだ顔に視線を向ける。
 倒れた音はしなかった。引きはがしたその女は、撃ち込んだ顔を手で隠し、薄く笑いを浮かべている。
 特異なのはその姿。頭部には動物の、狐の耳と背後に広がる九つの尾。

「そうだよなぁ、そうするしかないよなぁ。素直になるわけがない。お前が、お前ほどの者が……なぁあ?」

 正確には撃てなかったが、それでも声の質に変わりはない。……あの一瞬から、不意を読み切り最小限のダメージに留めたのだろう。
 すり足でわずかに下がり、一歩で拳の届くよう距離を調整しておく。その不気味な反応と、自らの得意とする距離として。

「あぁ、あぁ……ああ! 嬉しいよ、予想通りで。私の思いがお前をなぞっているようで。もっと見せてくれよ、私はお前を知らなくてはならないんだ。
 次はどうしてくれる? どう攻めれば、どう返す?」
「……」

 大仰な音はしなかったが、それでも自分の声と部屋に響く打撃音で、部屋の異常は察知できるだろう。半霊も庭師も、そこまで愚鈍とは思えない。
 だが、この部屋に様子を見に来るものは誰もいない。女も奇妙であったが、その点も不思議であった。
 亡霊姫か閻魔に嵌められたか、その二人の裏をかけるほどの実力を持つ者と対峙しているのか。 
 後者の方が確実だろう。この者の妄言の様な口ぶりを信じるならば、彼女はユカリの従者であり、実力者には相応の右腕が付くもの。でなければ、従えられない。

「その瞳、その眼差し……ああ、本当にお前を軽蔑するよ。その相手を侮蔑する眼つき。……くくっ。けれど、なあ。不思議だよ。全く嫌な気分がしないんだよ。
 お前の鼻につくようなその態度を屈服させられたら。私がお前を服従させられたら。さぞ紫様はお怒りになるだろう。命じられたこととは違うことをやっているのだから。最高の従者と認めたはずの者が、自分勝手に物事を取り進めているのだから。
 切られるかもしれない。捨てられるかもしれない。二度と、あの御方に目をかけられることがなくなるかもしれない。……それでも、なぁ? 堕落とは常に蜜の味だもの、なぁ?」

 ひたすらに同意を求めてくるその眼は、自らの狂信を相手に強要するような狂った瞳。相手は自分の事を理解していて当然と思っている濁った眼。

294深紅の協奏曲 ―真実へ向かうための行進曲 1―:2014/12/01(月) 13:58:46 ID:mNSIplWs0
「ふふ、ふふふふふ。うふふ、ふう。……汗をかいているな。手の中、首元、背中にかけて」

 その言葉を聞き、ディアボロは再び心臓を鷲掴みにされたような感触を味わう。明かりがついているとはいえ、相手の細かいところまで見えるほどの明りではない。
 その言葉は自分ではなく女自身に対しての言葉かもしれないが、自分も同じなのだ。相手に見えないところ、うっすらと汗ばんでいるのを感じている。
 自分の中に残っている常識が、目の前の非常識に対して未知の恐怖を味わわせている。自らの弱点を思わせるその点においても、驚きを隠せない。

「どうしてわかるっていう顔をしているな? また少し発汗が増えたな。どうしてそう思った? 何を感じた? 汗を舐めれば、それもわかるんだがなぁ。心に対して、体は正直だからな」

 まだ顔を隠し、指の隙間から垣間見える歪んだ瞳は、的確に言葉で自分を追い詰めようとする。空いた手でこちらを指すその手が嫌に大きく、圧倒してくるように感じる。

「何者だ、いや、何が目的だ? ……目的と行動が一致していない、矛盾しながらも、忠誠を裏切っていながらも承知で行動を起こす、理解ができない」

 声を張り、自らを奮い立たせる。決して相手を圧倒させる必要はない。自らの地盤を、足を震わせないように。虚勢を張るのは弱者。自分を下に見てしまっている証だ。

「私を服従させたいのか? 支配下に置きたいのか? 力での屈服を望んでいるのか」
「そうだよおおぉぉおお!!」

 突然、叫びだす。その方向は、辺りを震わせ、肉食獣の圧倒さを感じさせた。今そこにいるのはただの女ではなく、獣を元にした妖怪なのだと。
 人間を襲う、妖の者だと。

「この世界に不要な汚点! 理想郷に邪悪はいらん! そんなこと、分かりきっているはずなのに!! 何故!! 居るだけで腐敗を感染させるような貴様を!!!
 何かあってからでは遅いのだ! 管理者として、支配者として……取り除くべき存在だとわかっているだろうに!!
 ……けどなぁ、紫様は聡い方だ。私なんぞ到底及ばない。それを理解している自分もいる。けれど、そんな臓腑の煮える様な危険を放置できない。
 貴様に言われなくとも理解っているんだよ、矛盾で焼き切れたこの脳でも」

 頭をガリガリとひっかきながら、辺りに毛を散らしながら、自らに言い聞かせるように吐露し続ける。
 血に濡れた爪先を突き出しながらも、その思いは止まらない。

「主に従うことのできない従者など必要ない。主の手をいずれ煩わせることに繋がる、忠誠があるなら尚のことだ。私は自らを抑えきれなくなった。従者失格だ。御傍にいる資格はない。
 ならば消えてしまおう。それが最も主の為であるし、自分の為である。不要だとわかっていて縋る様な醜い真似などしない。自らの誇りを最後まで持って。
 …………くく、んくく。違うよな、八雲藍。そうじゃないだろう、藍」

 自虐するかのように、その行動は止まらない。彼女―八雲藍―の血は爪先から手へ、顔を濡らしていく。

「あぁ、そうだよ。頭で理解していても、その心が止められないのさ。お前という存在を知ってしまってから。経歴も過去も未来も、主も幻想郷も関係なく。たまらなく。どうしようもなく。
 この齢になって種の生存本能を掻きたてられるとは思わなかったのさ。式神として仕える様になってから、そんなもの捨てたと思っていたのに。
 何もされていなければそのまま抑えきれていたというのに、あの蛙が井の中で世界を収めていればよかったというのに」

 ぴた、と頭を掻き毟る手が止まる。一瞬、全てが切れたような虚脱の眼。
 それが逆に恐ろしかった。吐き出して、思いの丈が止まったわけではない。心情を言い聞かせて満足させたわけではない。
 こちらも注意していたからわかる、感情の転換の一瞬の隙間。
 そう、一瞬でも感じたディアボロは即座に、彼女から間合いを離した。

「ああああああ!!!! そうだよ、お前が欲しいんだよおおお!!!!!!」

295深紅の協奏曲 ―真実へ向かうための行進曲 1―:2014/12/01(月) 13:59:26 ID:mNSIplWs0


「もぐもぐ、はふふ、もぐ、もぐ」
「いやあ、西行寺! 相変わらず見てて気持ちのいい食べっぷりだねぇ! なんだかあたいも負けじと飲まざるを得ない感じになるよ」
「小町、それはあなたが飲みたいだけでしょう。仕事中にも飲んではここでも飲んで。鬼ではないんだからそんなことばかりしていると」
「お代わりお持ちしましたよ! 閻魔様、どうぞ」
「……いただきます」
「ようむー。ごはんー」
「はいはいー」

 アンが宴の部屋に入ったころには、すでに盛り上がっている状態だった。
 幽々子の周りには大量の空き皿、小町の周りには酒瓶が転がっている。映姫は体格からか少しずつのようだ。
 妖夢は、大量の霊たちが運んでくる料理を個人に合わせて並べ、空いた皿を片付けてと、忙しそうに回っている。

(……どうにも、慣れん。この空気は)

 500年以上前に生まれ、スタンドとして今も残っている精神。かつては刀剣を作ることを生きがいとし、その生きがいは次第に優れた刀剣を証明することに走っていった。
 それはスタンドとなっても変わらず、倉庫の奥底から呼び出された時でも、時を渡って新たな主に就いても彼の本心は変わらない。
 故に、この皆で楽しむ、享楽を分かち合うという空気はどうにも馴染めなかった。
 妖夢も『次第にあなたも馴染めますよ。馴染めなさい、命令です』と師気取りで語っていた。そしてそれが今の世であるし、自分に必要な物。
 だが、戦闘兵器として変わっていった精神は、容易にその現実を受け入れられなかった。
 だから、今はこの場に存在はするが、少し離れた所にて皆を観察していよう。そう思っていた矢先。

「おー、来た来た。えーっと、アンだっけ? 半霊さん。珍しい存在だって聞いたから話してみたかったんだ。ほら、こっち来て座りなよ」

 顔を自分の毛髪と同じくらいに赤らめた死神が手招きをする。ばふばふと埃を立てながら座布団を叩き、来いと呼びかける。
 一瞬どうしたものか、断ろうかとも思ったが主の主が招いた客人。自分の意思で無碍にはしてはなるまい。
 そう思い妖夢の方に視線を送るが、当の妖夢は忙しそうで気づいていない。

「来ないのかい? なら私がそっちに行っちゃおうかなっと」

 まごついているとあちらの方からやってきた。関係を保ちたくはないと表情に出すが、酒飲み相手には全く効果が無いようだった。

「……へー。近くで見てみると確かに妖夢だ。妖夢の半霊なんだから当然だが……こう、漂う雰囲気は違っているのに気配として感じられるのは知人であるならば妖夢が強くなったようにしか見えないだろう。面白い」

 ぐにぐにと、小町はアンの顔をいじる。話を聞きに来たんではなかったのだろうか。
 不快そうな表情が表に出てくるが、小町はそれを笑い、

「そう嫌がるなって。おまえさんが可愛らしくてつい、な。触った感じは霊らしいが……中身、男なんだろう? 居づらくはないのかね」
「ぴぃやああぁぁっ!!?」
「んあ」

 そのいじる手つきは身体の下の方に降り、鎖骨あたりを触れたところで離れたところから叫ぶ声が聞こえる。
 共に、空気の割れる様な高い、多量の皿が壊れる音。
 その後すぐに、顔を赤く染めて妖夢が小町に詰め寄る。その赤みは酒ではなく、羞恥だろう。

「ど、ど、どこ触ってるんですか! 変な所触らないでくださいよ!!」
「え? あれ、そんなに繋がってるのかい?」
「私の身体です、当然じゃないですか!」
「えー、いつも丸っこい時に触ってもそんなにならなかったじゃん」
「この時は、ダメなんです! 似通っちゃうから、敏感な所は敏感なんですよ! そんなところ、まだ誰にも触らせたことないのに!」
「落ち着け、発言がヤバい」

 真っ赤になりながら小町に追い詰め畳み掛ける。もし武器を構えていたならば、そのまま使ってしまいそうな勢いで。

296深紅の協奏曲 ―真実へ向かうための行進曲 1―:2014/12/01(月) 14:00:09 ID:mNSIplWs0

「あらあら、妖夢もまだまだねえ。……そういえば、……うふふ♪」
「……何ですか、その眼は」

 一方の幽々子と映姫。幽々子はゆっくりでありながらもペースを落とすことなく食事が続いていたが、配給役がいなくなり惜しむように少しずつ食べる様になっている。それでも、まだまだ残っているが。
 映姫はそれに惑わされることなく、少量ずつ飲んでいる。それほど強くないのだろうか、朱が刺した頬と少々とろんとした目が幽々子を睨む。

「身体を触ったとかでちょっと思い出しちゃって。彼、なかなか素敵だったわね。虜になる人が増えるのもわかるわ。映姫ちゃんはどうだった?」
「何ちゃん付けしてるんですか。というかさっき私が言ったこと忘れました? そもそもあなたは亡霊なんだから種が違っているんだからそれなりの趣に」
「今更に妖怪と人間の差もないわよ。半獣、半神、半霊……昔から間柄を持った者はいたわ。今のはそれを否定しているのではなくって?」
「それは拡大解釈しすぎです。あくまで一般的な趣について話しただけですから。そもそも、私は閻魔です。そのようなことに現を抜かしている暇など」

 眠たそうに頭を傾げながら説教とは違う多弁さで反論をする映姫。
 そんな姿を見て、小町が引っ付く妖夢を押さえて引きはがしながら、

「あっはっはー。違うでしょボス。相手が誰だかあたいは知らんけどあれでしょ、ショタじゃな  らでしゅえ」

 その言葉最後まで発されることはなかった。その場に小町はいなかった。
 その場に居たのは悔悟の棒を振りきっている映姫がいた。完璧なフォームだった。
 それを皆が認識した時、向かいの壁から肉がぶつかる様な音が宴の席に響く。

「速度×重さ=破壊力。なるほど、確かなようですね」
「……ぐぇ」

 振り切ったその先には、逆さまになって壁にもたれる小町の姿。アンや妖夢を弾き飛ばし、かなりの衝撃を喰らっているよう。

「小町、私は今罪を感じている。身の丈に合わぬ者に焦がれることを、その思いを周りに周知されたことではありません。それを抑え昇華させることは少なからず善行に繋がりますから。
 ではなぜ罪を感じているか? 答えは明白。問われるべきでない罪を、自らの勝手で裁こうとしている。いわば、私刑をしようとしているから」

 悔悟の棒で自らの手のひらを叩き、強く威圧するような見下ろした目で小町を見つめる。
 一つ、二つと手のひらを叩くごとに、その音が重く強くなっていく。その様、まさしく閻魔。

「悔悟の棒がどんどん重たくなっているのを感じます。ただ道を示すだけの説教ではない。これは勝手な司法だ。後に、私は罪を償いましょう。
 そう思えば何でも許される。それこそ最も嫌悪すべき思考。自らをそれに染めれば染めるほど重さを増す。……小町、次に私が何をやるかわかりますか」
「…………あ、あの、すいません」
「わ か り ま す か」

 重力に従い、ずるりと床に突っ伏すように倒れ。その後に顔を上げて謝罪の言葉を述べるがそれは閻魔に通じない。
 縋るように妖夢に目を向けるが、「当然です」と怒った顔をしてそっぽを向く。
 幽々子と言えば、再び肩を震わせて笑いを堪えているばかり。

「……み、右からですか」

 答えない。

「ひ、左からですか」

 答えない。

「りょ、両方ですか!?」

 それに対し、にっこりと笑みを浮かべる。小町は、こんなサディスティックに笑う映姫を見たことはなかった。

「た、たすけ」
「小町。あなたの罪を数えなさい!!!」

 顔面に棒が飛んでくる。様々な思いが走馬灯のように駆け巡った。
 悔悟の棒は相手の罪によって重さが変わるから自分の罪関係ないだろとか、そういえばあんな顔見たことあるけどその時もあたいは叩かれてたっけとか。
 右からの一撃を喰らい、破裂音と幽々子が我慢の限界で噴き出す音。一瞬見えた完全に恍惚の表情を浮かべている映姫の顔。
 全てがスローモーションに感じる。激しい痛みが一気に襲ってくる前に、左から棒が飛んでくる。あ、これ風見がたまに見せる顔だ。間抜けな想像が頭をよぎる。
 右の痛みをはっきりと脳が感じる間もなく、左の一撃で小町は昏倒した。

「……あれ?」

 ふと疑問に思うのは妖夢だけ。『自分はいつ跳ね飛ばされた?』
 結果的にはそうなっていたが……あまりの迫力で気づかなかっただけだろうか? 
 少し疑問に思えたが、いたずらをした小町がのされたことによって確かにスッとしたことと、散らばった皿の破片を考えるとその疑問はすぐに消えていった。

297深紅の協奏曲 ―真実へ向かうための行進曲 1―:2014/12/01(月) 14:00:41 ID:mNSIplWs0



 能力は、気づかれなければそれでいい。知られれば、時間をかけるほどに対策されるから。
 能力が枝葉のように多岐に分かれるのであるならば、わずかなら知られてもいいかもしれない。そう思うのは素人だ。
 僅かな情報だけでも、得られることが多い。まして、戦闘であるならばなおの事。
 なるべくなら使いたくはなかった。一撃で仕留められなければ、情報を持たれてしまう。
 そう思っていたが、

「ぐうっ……!」
「ははは、はぁ。そっちに逃げるか。15%くらいだったな」

 肩口から血が噴き出す。藍自らが塗りたくった血ではなく真新しい、自分の身体の傷。
 恐るべき身体能力を以て、直に飛び込んできた彼女から逃げるために、0.7秒『吹っ飛ばした』。飛ばさざるを得なかった。
 が、それでも直前にはすでに彼女の爪は肉をえぐりこんでいて、完全な回避には至らなかった。

「知っているぞ。お前の能力は。どこで生まれて何処で育ち、どんな時を過ごしたのかを知っているように。些細なことでも私はなぁんでも、お前の事は知っている。
 飛ばしたな? 何秒だ? 正確には感知できなかったが……1秒にも満たない時間だよな?」

 そして、すでに知っている。なるほど、確かにここに来てからは天狗の時と山の神の時、2回だがキングクリムゾンの能力は使っている。
 先ほど確かにこいつは自分の事を『視ている』と言っていた。二人は空白地帯で誰も見ていないと言っていたが、その予想を超える実力。
 相手は傷つけたその指を、自分の血を舐め、興奮した様子で、

「あは、はははぁ! 舐め取れないよなぁ! あんなヒキガエルのなまっちょろいやり方じゃあ!! 私にはできるぞ、最も冴えたやり方で!
 ……所詮私は主の手足だ。意にそぐわぬ行動を取ればその力は半分も出すことはできない。それでも、どうだ。追いつけたか? 見切れたか? ……くくっ」

 上機嫌に、魅せつけるように語りかける。赤く濡れた指を愛おしい物を愛でる様に。興奮からか同じように赤みの強くなった唇に寄せ。
 狂ったようで、それでもどこか芸術品を思わせる様な蠱惑的な瞳。その瞳が、ディアボロを見つめる。
 その姿を見ただけで、世界の中心が彼女であるかのように。そこに惹きつけられてしまうような。そんな魅力さえも感じられる。

「……色狂い共め……揃いも揃って……」

 経験がないわけではない。それでも、その一線を優に超えた表現には辟易する。なぜこうも、寄ってくるものはこんな者共ばかりなのか。
 知らなくてもいい事を知ろうとし、あまつさえ自らをも手中に収めようとしてくる。
 かつての自らの貪欲さを、そのまま味わわされているかのようにも思えるほどに。だからといって、それに流されるつもりは毛頭ない。
 相手が調子づいているその間に、自分も整える。闘いは、ここからだ。

298まるく:2014/12/01(月) 14:11:53 ID:mNSIplWs0
以上になります。視点を二転三転する話を作ってみたけどこんがらがっただけかもしれない……
映姫様は酒弱そう。

読んでいただいた通り、ヤンデレの藍様に死ぬほど愛されてうんざりするディアボロ&実は小町をいじりたくていじりたくて仕方がない閻魔様。
妖夢がいじられ役という方が通例?かもしれませんが映姫と小町がいる場合は小町が。ってくらい仲良くしたいです。良く?

アンと妖夢はある程度まで近いと感覚の共有(触感くらい)はできますが、それ以上は妖夢のコントロール外となってできません。
緋想天とかでの、6Cで飛ばしたときくらいが限界と考えていただければ。そこにアンが入ったことによって妖夢のコントロール外からアンが身体を動かして〜ということで離れ離れで動けるわけです。
本編に関係ない設定じゃないこれ。

藍は相手の今までの性格や動き、傾向を全部頭に入れて数式で動いています。煽られて右足から全体の5割くらいの力を踏み込んで右手を掲げて攻撃してきたから到達まで3mだと右ストレートは15%、右フックは50%、左からの一撃が……の様に。
その中で可能性の一番信頼できる行動をとって行動、反撃等を行っている…という動きにしたい(願望
最後の15%は、そこから導き出された『時を飛ばして回避行動に映る確率』を思わず口に出しちゃった、というだけです。

この話、どれくらい続くんだろうなぁ。

299セレナード:2014/12/01(月) 20:52:00 ID:W7Bk8lcI0
投稿お疲れ様です。

事前の計算によって相手の行動を推測、そこから導き出した確率をもとに推測して攻撃を行う……。
成程、暇つぶしで三途の川の長さを方程式で導き出せるだけの頭のよさと回転力、そして高い記憶力を使えばこんなこともできうるとは……。
確実に成功するわけではない代わりに、先手を取れる可能性を得れるのは大きいですね。
いくら弱体化しているといっても、場所が悪いのもあって苦戦は避けられないでしょう。
……そういえば、MADでディアボロとヤンデレな妹が会話している動画をニコニコで見たことがありますね、タイトル忘れたけど。

そして映姫さん、貴方ひょっとして……
いやいや、まさか裁く対象にまでその思考を抱いてはいない……よね?
うん、まとも……のはず。はずだ。

世の中には、15年以上かけて一つの対局を書いていた漫画がありましてね。
作者でさえ短くしたいと言っていたそれより長引かなければ大丈夫でしょう。

300まるく:2014/12/03(水) 00:39:48 ID:bDc2E0S60
感想ありがとうございます!

この案を最初に思いついたのは以前pixivにて連載されていた某キン肉マンパロ?の作品から。
少しでも強そうな印象を与えておくパターン。御するのが作者の方が難しい!けれどやはり数式の鬼っていうのを生かしたいなと思ってやらせてみました。
「結局は女のカンだよ、一番あてになるのは」

映姫さんは仕事は仕事、趣味は趣味と白黒はっきりつけてます!!!!!!
きっと。

301どくたあ☆ちょこら〜た:2014/12/08(月) 20:33:09 ID:x5zFJcus0
まるくさん、投稿お疲れ様です!
小町が良いキャラしてますね〜ww
足で開けろとの映姫様のイジリには笑いましたw
仕事:裁判長、趣味:説教なんだから、そりゃあ性格もさでずむなわけですわ…
前回の予告通り、映姫はショタk(ry なのですね。もしドッピオ状態なら彼女のストライクゾーンなのでしたら、はたての恋敵がますます増える増える…
「あれ?『描写が飛んでる』ような違和感が…?」と思ったら、まさかそれが伏線だったとは。驚かされました。
【キング・クリムゾン】は全世界に影響するからこそ強力であり、かつそれが弱点になるのですね…!

藍「OK?」
ディアボロ「OK!(ズドン!)」
コマンドーを思い出すようなやり取りからの開戦。
なるほど、大国を荒廃させた九尾の妖狐。式として制御されていても、堕落への焦がれが心の底に渦巻いており、それがディアボロへの情欲で暴発したと。しかし、これさえも紫にとっては想定内の事態である気がしてなりませんね。密かに計画の一部に組み込んでいたり…
コンピューターとしての性能を最大限発揮させる『観測→入力→演算→選択→出力』の戦闘法!こういうの良いなあシビれるなあ! 【キング・クリムゾン】発動までの僅かな隙を突き、ダメージを与えることに成功したのも、圧倒的な強さを表現していてグッド
しかし、確率だけでは勝機を掴めないのが戦い。アカギでもそういってた。
しかも相手は確率なんて生易しいモンじゃあない『予知能力者』ディアボロ。食卓の少女らに【キング・クリムゾン】を悟られぬよう、この劣勢をひっくり返す算段は間違い無くあるはず!(というか、無ければ即逆レイp)

今回も大変面白いです!次回、どのような激戦が繰り広げられるのか、期待しております!

302まるく:2014/12/09(火) 11:22:05 ID:l.26tjzk0
感想ありがとうございます!

小町のようなキャラは扱いやすくて大好きです。今回は損な役回りにさせてしまいましたが死神特有の死生観やその割にはサボり魔だったり飄々としていたりと主人公になりえる素質。
キャラソートでは大体美鈴と並んでトップです。個人的に。
映姫のさでずむは小町に対してだけです。それも愛なのです…嗜好については、まあ。年下好きとでも言っておきましょう!
高く望むべからず、身の丈に合ったものを。映姫様のおねショタ…?事案ですね…

キンクリの世界に影響する力であり、それが近くにいる者なら関わってしまう。原作でもあった展開です。入れたかった。
一応射程範囲というか気づける範囲、個人的には3km圏内程と考えています。短時間であるとはいえ、周りにそれほどの影響がある者を使って気づけるものがどれくらいいるのか。もし本当に全世界を巻き込むなら気づいてしまう者も居るだろうと。
そこからディアボロにつながるかどうかは話は別ですが…作中ではそれを生かしてどうのこうのとは特には考えていません。それほど離れたところであればディアボロにとっても関与できない距離だからです。
本を読んでいて『…あれ、ここ今読んだところだよな』と思ってしまったらそれは近くにディアボロがいるのかもしれません(ジブリ)
3kmほどのソースは初めてつかわれたサン・ジョルジョ島を覆える範囲とC-MOONの影響具合から。

303まるく:2014/12/09(火) 11:24:12 ID:l.26tjzk0
きれた。

藍「怖いか?元傾国の美女に敵うと思ってんのか」
ディアボロ「やってみるか?俺だって元帝王だ」
式として制御、とも思っていますが書籍文花帖では『藍は式神ということを時々忘れている』という紫のセリフ。つまり…?
確率に頼った戦いは捨身の一撃で負けてしまうからフラグでもあるぞ大丈夫か!というか作者自身が大丈夫か!がんばります!

次回もご期待ください! …NGワードつらい。

304どくたあ☆ちょこら〜た:2014/12/10(水) 21:12:01 ID:vSCfDokc0
御返事有難うございます!

まるくさんの推しキャラは美鈴&小町でしたか!なるほど、どちらも気の良いお姉さんキャラですね…!

ふと思ったのですが、
「身の丈に合わぬ者に焦がれることを、その思いを周りに周知されたことではありません。」
これはもしや…映姫様、ジョルノに惚れてるんですか!?キッパリした正義感、圧倒的な心身両方のタフネス、そして弱冠15歳、映姫様のストライクゾーンど真ん中なのでは…

【キング・クリムゾン】に関しては、「全世界の時間を吹き飛ばす」と作中で明言されてしまってるんですよね…
【ザ・ワールド】【スタープラチナ】【バイツァ・ダスト】【メイド・イン・ヘブン】と、名だたる他の時間系スタンドが例外無く全宇宙に影響しているあたり、【キング・クリムゾン】も同様と見做すのが自然な気もしないことは。
絶対誰かが気付く?そこは、まあ、御都合主義で…

まるくさんもNGワードに引っかかったのでしょうか?あれ、本当に何が引っかかるんでしょうね…?

305まるく:2014/12/11(木) 00:16:46 ID:/rz5f0x20
ふふふ…どうもお姉さんキャラに好みを惹かれるようでしてね…しかも、お姉さんと言いつつ上に誰かしら居る、いわゆる部下タイプのお姉さんがね…
他にもレティとか好きですね…決してトップに立つようなキャラではなく、それでもどこかしら姉キャラと言いますか…母性じゃないんですよ、それは…

!!!!!!!!!
そこに気が付くとは…やはり天才か…
今作中では特にからませることはありませんが、脳内妄想では結構そういったことを考えています。映姫としては『人が人を裁く』行為をそれほど好ましいと思っていないのでそういったところの矯正をぜひともしてあげたそうだなと。
ルックスもイケメンだ。身長も高いぞ。一般的なショタの定義から外れるかもしれないから小町は思いのほか外れてるのかもしれないぞ。ただの年下好きかもしれないぞ。

言われてから読み返すとめっちゃ「我以外の全ての時間は消し飛ぶ!!」言ってますね…ううむ、どちらも納得はできると思うのですが。
とはいえ、結果としては残っており、その過程は既に起こそうと思っていたから起きたこと。気づく方がおかしい位のレベルではありますからね。普通に全世界対象でもいいのかも。
幻想郷だとみんな簡単に気付きそうでもあるからそのための線でもあったんですが…wまあ、いいか!
ちょっとした脳の空白は誰にでも。1秒以下の空白にどこまで気づけるか。あ、充分ネタになりそう…3kmなんてなかった。13kmや

たぶん、死/亡フラグがあたったんでしょうねぇ。頭いいキャラは意外な捨身攻撃で負ける死/亡フラグだぞ!って入れてたんで。

306セレナード:2014/12/25(木) 22:35:46 ID:zDkVMzvs0
最新版無事完成!
投稿いたします。

307東方魔蓮記第五十二話:2014/12/25(木) 22:36:23 ID:zDkVMzvs0

現在、妹紅とディアボロは永遠亭に向かっている。
永遠亭までの道は妹紅が案内をしてくれるが、ディアボロは念を押して炎の生命探知器で周囲への警戒を続ける。

「一応言っておくけど、輝夜も私と同様に死なないの。もしも攻撃するなら手加減はいらないわ」
「わかった。攻撃範囲の規模にだけは気を付けておくとしよう」
ディアボロはそう言って頭の中で輝夜と対峙するときに装備するDISCを考えていた。

殺傷に関することを一切考慮しないでいいのなら、彼が選択できるスタンドは大幅に広がる。
爆殺を得意とするキラークイーン。バラバラにして殺してしまえるスティッキィ・フィンガーズ。内側より分解してしまえるダイバーダウン。
選択肢に追加されたスタンドを含めた候補の中から、彼は一体何を選び出すのだろうか。

「もうすぐ着くよ、準備はできている?」
「ああ、俺はできている」
ディアボロは装備することにしたDISCを取り出し、メイド・イン・ヘブン以外のDISCを全てそれと入れ替える。
そして正面を改めて見ると、そこには一軒の建物があった。
その建物こそが、『永遠亭』。竹林の中に入ったばかりの時、軽く会話をしてすれ違った鈴仙も住んでいる。

妹紅が歩くのを止めたのを見て、ディアボロも歩みを止める。
そして、メイド・イン・ヘブンを出して警戒態勢に入る。
妹紅もまた、永遠亭を睨んだまま動かない。
……まるで、宿敵が来るのを待つかのごとく。


そして『彼女』はやってきた。
まるで、今この場にやってくるのが分かっていたかのように。
或は、事前に決闘の日として今日を決めていたのかもしれないが、どちらが正しいのか今のディアボロには判らない。
だが、今こうしてこの場にやってきたのは、紛れもない事実である。
「いらっしゃい、妹紅」
その女性は、妹紅がやってきたことを嬉しそうに歓迎する。
但し、その嬉しさは純粋なものではない。
まるで、ずっと望んでいた復讐をもうすぐ果たせるかのような、文字通り『歪んだ歓喜』である。
「あら、そこにいるのは貴方の彼氏かしら?」
「なっ……!」
輝夜がディアボロの存在に気が付くと、輝夜は妹紅をからかう。
「…………」
からかわれて反応する妹紅とは違って、ディアボロは冷静に相手の様子を伺う。
「貴方の彼氏、随分と反応が薄いのね」
「言っておくが、俺は妹紅の交際相手じゃない」
ディアボロのその発言を聞いた輝夜は、つまらなさそうな表情をする。
どうやらまだ妹紅をからかいたかったようだが、ディアボロと妹紅との関係を知って、からかい続ける気が失せたようだ。
だがその後、不敵な笑みを浮かべて……
「!?」
一瞬。ほんの一瞬だった。
さっきまで離れた場所にいたはずなのに、輝夜はディアボロの目の前に『居た』のだ。
これには普段は冷静なディアボロも驚くしかなかった。
というのも、今彼が装備しているDISCの一つがザ・ワールド……つまり、時間停止に対応できる状態だったのに、彼は輝夜の接近に全く気付けなかったのである。
「ふふ」
どうやら輝夜はディアボロが自分の思った通りの反応をしてくれたことに少し嬉しそうである。
その様子は、状況が状況ならば、ウツボカズラの匂いの如く、獲物を自らの懐へと誘い込んでしまうだろう。
「…………」
一方のディアボロは、輝夜の動きを目を見開いたままうかがう。
この状態で、先ほどのスピードで攻撃されたら、メイド・イン・ヘブンかザ・ワールドの発動が間に合わない限り、回避すらできずにもろにくらってしまう。
相手の雰囲気など全く気にしている余裕はない。彼の頭は、先ほどの現象の推測と対抗策の構築に勤しんでいた。
もう一方の輝夜もディアボロのそんな様子を見抜いたのか、先ほどと同じくらいの速さで彼から距離を取る。
「大丈夫?」
「大丈夫だ妹紅。少し驚いたが、それだけだ」
妹紅はディアボロに声を掛けるが、ディアボロからの返事を聞くと、真っ直ぐ輝夜を睨む。
「なら、問題なくいけるな?」
「ああ。いつでもいける」
ディアボロも、ザ・ワールドを出して同じように輝夜を睨む。
「いつもと違う戦いというのも、たまには面白そうね」
もう一方の輝夜も、滅多にないことだからか、期待を込めた笑みを見せた。

308東方魔蓮記第五十二話:2014/12/25(木) 22:37:43 ID:zDkVMzvs0


先に動き出したのはディアボロだった。
走り出して輝夜との距離を詰め始める。
輝夜も弾幕を撃ち始め、妹紅も弾幕を撃ち始めながら輝夜との距離を詰め始める。
二つの弾幕が飛び交う中、ディアボロは正面からの弾幕はザ・ワールドで防御しながら輝夜の方へと突き進んでいく。
……その瞬間だった。
「!?」
ディアボロが突然、何者かの気配を感じて背後を振り向くと、そこに『輝夜がいた』。
さっきまで、詰める必要があるほどの距離があったうえに、向かい合う位置にいたはずなのに、である。
それだけならまだよかったが、輝夜は更にその状態から、弾幕を撃ってくる。
突然の奇襲をザ・ワールドで防御するも、上半身の防御に気を取られた隙に、足元に強力な一撃をくらわされる。
足元はメイド・イン・ヘブンで防御していたが、如何せん体格がザ・ワールドに劣るため、防げるダメージもザ・ワールドより少ない。
ダメージがフィードバックした左腕の痛みを堪えながら、ザ・ワールドで時を止める。
「(さっきの急接近といい、なんだ今のは……)」
時が止まっている間に思考を整理し終えたディアボロは、輝夜の様子を伺う。
いくら輝夜でも、不動の状態である時の止まった世界に入り込むことはできないようだ。
輝夜が動かないことを確認すると、防御体勢を再び取り、その後時が動き出す。

時が動き出した直後、輝夜が動き出す。
後ろから妹紅が炎を飛ばしてきているためだ。
ディアボロもウェザー・リポートを出すと、空気摩擦による発火で妹紅を援護する。
輝夜はその猛攻をうまく避けていたが、やはり飛んでくる炎と特定の位置での発火の同時攻撃を避け切ることはできなかったようで、彼女の髪に火が付いた。
その瞬間、ディアボロは確かに見た。彼女の髪を火元として燃える炎の勢いが、普段より『遅い』ことに。
普通、勢いを表現する言葉に『遅い』は使われないのだが、本当にそうとしか言いようがない現象だった。

だがディアボロとて、このぐらいの異常で攻撃の手を緩めない。
ウェザー・リポートの能力を使い、輝夜の周囲に純粋酸素を集めだす。
輝夜に感づかれて逃げようとしても間に合わないように、メイド・イン・ヘブンも併用する。
その結果、『輝夜の周囲に純粋酸素が集まる』現象が加速し、輝夜の体に異常をきたすよりも先に、彼女の周囲が純粋酸素に囲われる。
しかし、爆発よりも速く動かれてはどうしようもないため、ディアボロは輝夜から目を逸らすわけにはいかなかった。
勿論、気も緩めていなかったが……。
「ッ!?」
幾多の戦いで培われてきた『勘』が、咄嗟にディアボロに時を止めさせた。
一瞬。ほんの一瞬で、彼女の姿が『消えた』気がしたからだ。
時が止まった状態で、ザ・ワールドの視力を活かして輝夜がいた場所をよく見てみる。

『恐らくそのあたりを通ったであろう』と思われる、純粋酸素に火がついている箇所がある。
つまり輝夜は、純粋酸素に火がついて『爆発する前』に、もう純粋酸素の包囲から抜け出していたのだ。
ディアボロは彼女の速さを甘く見ていた。
メイド・イン・ヘブンでさえ、同じ状況から離脱するのなら、加速が足りなければ爆発に巻き込まれかねない。
だというのに、彼女は一瞬で爆発し始めるよりも先に離脱できるほどの速さを出せるのだ。
そして、こんな行動をとったということは……輝夜は『自分の周囲が純粋酸素によって包囲されている』と理解していた可能性も出てくる。

309東方魔蓮記第五十二話:2014/12/25(木) 22:38:15 ID:zDkVMzvs0
ディアボロは輝夜が移動したという事実を明確に認識すると、次に彼女がどこにいるのか、周囲を探り始めた。
一度上を見上げてそこにいないことを確認し、ザ・ワールドと連携して輝夜の位置を探す。
「(しまった!)」
輝夜は妹紅の背後を取っていた。
幸い、時が動き出すまでは若干の猶予がある。
全力で走って輝夜との距離を詰め、ザ・ワールドの射程に入った瞬間に攻撃させる。
その攻撃は無事に命中し、直後に時が動き出す。
輝夜は衝撃により吹き飛び、妹紅はそれによって、『輝夜が自分の背後を取っていた』という事実を認識する。
そしてそれと同時に、彼女の周囲を包囲できるほどの大量の純粋酸素に火が燃え移ったことにより爆発が発生。
爆音が周囲に響き渡り、爆発によって起きた衝撃が周辺の竹の葉を揺らす。

純粋酸素を爆撃に転用するためには、純粋酸素を大量に集めることも大事である。
メイド・イン・ヘブンの能力を利用すれば、集めるスピードは劇的に上昇し、攻撃に転用できる状況を作りやすくなるのだ。
……だが、それすらも輝夜は無傷で攻略して見せた。
そして爆音があたりに響けば、それに気づく者が出てくるのは道理である。
だが、今は眼前の姫君をどうにかするしかない。
その姫君は、うまく着地してその勢いで後ろに滑ると、口から血を流しながらも平然と体勢を整える。

妹紅はディアボロの側に移動し、正面の輝夜を睨む。
「どうする?遊ばれているぞ?」
ディアボロの問いかけに
「大丈夫。私が囮になるよ」
妹紅は自信満々に答える。
そして、輝夜目掛けて炎の弾幕を飛ばしながら輝夜との距離を詰め始める。
ディアボロは彼女を援護するためにウェザー・リポートでスタンドの雷雲を輝夜の上空に展開する。
輝夜は炎の弾幕を難なく回避し、自分も弾幕を撃って反撃する。
その弾幕が狙うのは妹紅だけではない。
巧みに弾の軌道を頭の中で導き出し、ディアボロも攻撃に巻き込む。
だが、そのぐらいはディアボロも当然想定済みである。
現時点で主な攻撃対象となっている妹紅と違って、彼を狙う弾の数は減っている。
回避することなど、そう難しくはない。

「(まずいな、増援か?)」
先ほどの爆発を攻略されたことで、永遠亭の中から増援が出てくることをディアボロは内心警戒していた。
あれほどの爆音が永遠亭の内部まで聞こえないはずがない。
自身の視界が完全に永遠亭から逸れている今の状態から不意打ちをされないようにと、ザ・ワールドに永遠亭を監視させていた。
鈴仙が戻ってくるまでにはまだ時間があるため、永遠亭から出てくるのは必然的に一人。

310東方魔蓮記第五十二話:2014/12/25(木) 22:38:46 ID:zDkVMzvs0
恐らく、輝夜と妹紅だけだったら、その人物は永遠亭の中に戻っていっただろう。
だが今回は違った。そこに一人の男が加わってた。

「(まだ手を出してこないなら、今のうちに妹紅の援護をするとしよう)」
ディアボロはその人物が何もしてこないのを確認すると、輝夜の真上に展開していたスタンド雷雲から輝夜目掛けて雷を落とす。
見ることもできず、音も聞こえないこの雷撃を、輝夜は気付くことすらできずに諸に受けてしまう。
この場のディアボロ以外の全員にとってわけのわからない現象を体感した輝夜は電撃を浴び、目を見開いて驚愕しながらも、何とか落下せずに耐える。

「!」
自身の目の前で、輝夜が何の前触れもなくダメージを受けたことをその人物は認識した。
そしてその現象が、輝夜と妹紅どちらかが引き起こしたわけではなく、恐らく男の能力によるものだとその人物は推測した。

「(『動く』か?)」
けれども、さすがにその男が自分を特殊な手段で見ていることはその人物には推測できなかった。
見えないから仕方ないと言えばそれまでだが……。
輝夜もディアボロが何かしてきたと考えたのか、ディアボロの方に飛んでくる弾の数が増えている。
だが、あくまでメインターゲットは妹紅だからなのだろうか、流石に彼女よりも飛んでくる弾は少ない。

「……」
自分は加勢するべきなのか、とその人物は悩んでいた。
あの姫はどんな目にあっても死ぬことはないし、今はあの時のように妨害しなければならない時ではない。
だが、2対1では姫がかわいそうだとも同時に思った。

だから、『彼女』は動いた。宙に浮き、輝夜の方へと飛んでいく。
「妹紅、『もう一人』来るぞ!」
その動きを見ていたディアボロは、妹紅に叫んで警告する。
その直後、輝夜の隣に『彼女』がやってきた。
「姫、助太刀します」
『彼女』のその発言に、輝夜は弾幕を撃ちながら少し考え……
「わかったわ」
ただ一言、そう答える。
そしてその返事を聞いた永琳も、迫りくる妹紅を押し返すために弾幕を撃ち始める。
「妹紅、いったん俺の側まで下がれ!」
妹紅も特に反対する理由がなかった為、素直にディアボロの側まで距離を取る。
「珍しいわね永琳、貴方まで加わるなんて。いつもと少し違うからかしら?」
どうやら輝夜は、永琳と呼ばれた人物が戦いに加わった理由が分かったようだ。
「はい」
永琳はそう言うと、妹紅とディアボロを見る。
「……どうする?」
妹紅はそんな状況になっても、冷静にディアボロに問いかける。
「コンビネーションは明らかにあっちの方が上だろうな」
ディアボロはそう答えながら、ザ・ワールドを出す。
「俺が合わせる。お前は好きに動け」
「わかったわ」
短い作戦会議を済ませ、二人も永琳と輝夜を見る。


思わぬタッグマッチが、今始まる。
月の者と、地の者。勝利はどちらが掴み取るのだろうか。

311セレナード:2014/12/25(木) 22:42:19 ID:zDkVMzvs0
投稿完了です。
今年も特別短編は書きませんでした。けどまあいいよね!

クリスマスの日に投稿した理由は特にありません。
しかし、コミケが近くてコミケに行くのならば、大掃除は早めにやっておきたいところですね。
……どこかの宿泊地で年を越すのなら、新聞だけでなく年賀状の配達もストップしておくように。

312まるく:2014/12/26(金) 23:14:42 ID:NaoiPVXc0
セレナードさん投稿お疲れ様です!感想は後ほどに。
自分も出来上がったのですが…ちょいと更新等が明日からはしばらくできないので先出しさせていただきます。
見直しが不十分なので、後日WIKIやハーメルンに修正したのを上げようと思います。年始になってしまいますからね。
コメントとかはスマホで見れるので問題ないのですが!

313深紅の協奏曲 ―真実へ向かうための行進曲 2―:2014/12/26(金) 23:15:49 ID:NaoiPVXc0
 戦いの始まりはいつも静。それがいつ切れるか、その程度の話。スポーツであれば、審判を務める者が合図を出す。それをきっかけにする。その程度の話。
 一旦は始まった二人の対峙は、互いの挙動を見つめ合い出方を窺う攻防に変わっていた。
 ディアボロには『エピタフ』がある。『キングクリムゾン』がある。相手の行動を予知し、その行動を時間ごと吹っ飛ばし、なかったことにできる。
 藍はそれを知っている。不用意に仕掛ければそれを躱される。無駄な労を行う必要はない。
 何より二人とも、相手のデータが欲しい。
 未知の相手に対する情報。動きの癖、目線の配り方、得意な足運び、色々、色々。武術に特別造詣のあるわけではないディアボロだが、戦いに少なからず身を置いた者、策無しに突撃することほど愚かな行動だと知っている。
 既知の相手に対する情報。前例は少ない、完璧な動きは把握していない。ましてや技術以外の特異な能力を持っている。戦いとは、可能性の潰し合いだ。理詰めで一つ一つ可能性を潰していけば、王手などたやすい。そのための、道標。
 先に出した方が負ける。互いにわかっているからこその静寂。正解とは言えないが間違いとも言えない、数ある答えの一つ。

「…………!!」

 結果、先に動いたのはディアボロ。
 いや、先に動かされたというべきか。藍との僅かな距離を攻撃のために詰めるその行動は、彼のいた所が何かによって炸裂する、その回避行動でもあった。
 足元から伸びる影から、無数の触手ともいうべきものが彼を犯そうとその手を伸ばす。一度目標を見失ったその腕は再度目標を補足すると再びその腕を伸ばし始める。
 藍も、向かってくるディアボロに対して手を顔の前で交差させ迎え撃つ。僅かな距離、行えた行動はそれ一つ。

「 ッ、ふっ!!」

 一瞬、確かに意識を注視していたはずなのに認識がずれる。
 正面から向かってきていたディアボロは視界の端に映り、彼に向けた触手が自身に向かってくる網膜からの情報。
 迎撃の為に構えた腕は振るわれており、彼女の二重の迎撃が行われようとしている、事に気付く。
 振るわれた軌跡に沿うように苦無型の青みがかった弾が生成され、そのまま切っ先を変えず真っ直ぐに飛んでいく。結果、それは彼女の盾となり近づこうとするディアボロを寄せ付けない。
 再び、距離の離れた位置に二人は行き着く。薄暗い部屋の中、藍の影が主の元へと帰っていく。

「意識を集中させつつ、並列して不意を狙うか。……常套だが、それを感じさせない技術がある。見事なものだ」
「お褒めいただき恐悦至極。そちらも悠々と回避してくれて助かるよ。求めたいものが得られていく……くくっ」

 互いにその技術を皮肉りあい、探り合いは進んでいく。
 やはり、よく知っている。長所も、弱点も。ディアボロが抱いたのはその印象。
 時間を吹っ飛ばしているときは、ディアボロは基本的に世界の事柄に干渉できない。その間は、ディアボロもスタンドのキングクリムゾンも、存在しないかのように扱われる。
 それによって攻撃を回避したり拘束から抜けるといったこともできるが、絶対の攻撃には繋げ辛い。
 藍もそのことを理解しているように、飛ばした後のフォローを兼ねた二重の攻撃を最初から行っている。飛んだ後を見てからの対処ではないため不用意に飛ばしすぎれば喰らってしまったという結果に行き着いてしまう。
 予知も、その未来を映しだしている。そこに至らぬよう、飛ばすことさえも慎重さを持たなければならない。

「よく私の事を調べ上げたものだ。招いた者の右腕と自身で言っていたが……その程度は容易いものか?」
「あぁ、容易いさ。紫様の命とあれば冥府の底に沈む大罪人の下着の色も街の浄化に勤しむ為政者の愛人との歪んだ性癖でも何だって。……ああ、全てはあの方のため。そう思っていたのになぁ」

 再び笑みを浮かべながら、彼女の周りに青白い炎が四つ、五つと浮かび上がる。
 それは一つ一つがぐねぐねと生理的嫌悪をもたらすように蠢き、まるでそれそのものが生きているかのように錯覚をもさせる、そんな動き。

「この程度しか作れないが、圧倒するには十分だろう。さぁ、行け」

 藍が命じると、意志を持ったかのように炎が動き出す。一つは素早く、一つはゆっくりと。一つは回り込むように、一つは上からかぶさるように。
 それぞれが同じようには動かず、不規則な動きを以てディアボロに襲いかかる。
 ディアボロはそれらが向かってくるのを確認すると、目を瞑り念じる。
 その瞬間、彼だけに理解できること。世界が崩れ落ち、深紅に彩られた空間へと塗り替えられる。

「キングクリムゾン」

314深紅の協奏曲 ―真実へ向かうための行進曲 2―:2014/12/26(金) 23:16:29 ID:NaoiPVXc0



(……!! まただ!)
「……ッ! アン、感じた? 今のははっきりとわかった。見て、幽々子様の食事が減ってる」
(……あ、あぁ)

 先ほどの騒動から落ち着き、宴は終わりを迎えている。
 多量に並べられた食事はほとんど空き、それらを配膳を担当している幽霊たちが片付けている。無論妖夢もその一人。
 散らばしてしまった食器類も綺麗に片づけられ、最後に幽々子が食べている甘味が終われば今宵は終わりとなるだろう。

「……ですからね、小町。あなたはサボりをしないでちゃんと働いてくれればできる子なんですから。査定も高くしてあげられるのに。休みもちゃんと取らせてあげられるのに。
 あなたが真面目に働けばその見返りを用意してあげられるのに何でやらないんでしょうか。ねえ小町。聞いていますかー」
「むぎゅ〜……」

 騒ぎの主は小町に膝枕をしながら、手に持った棒で彼女の腹や胸を叩きつつ呟いている。
 当の本人は聞きなれた内容だからか、はたまたその顔の示す打撃痕によるものからか。顔面に酒によるものではない紅潮を浮かべながら眠っている。
 彼女の身体に悔悟の棒が振り下ろされるたびにぺこたんぽこたんと間抜けな音が辺りに沁みいる。

「幽々子様は食事を続けていて、箸が口に入ったままだというのに皿の中身が減っている。確かに少し見てないだけで全部食べちゃったりすることはあるけど注意してみればさすがにそれは私でも気づける」
(そうか)
「新しいおちょくり方か何かかと思ったけど……この感覚の隙間。明らかにおかしい。私だけじゃあないっていうのが一番の疑問点」
(主も気づき、自分も気づけた。漫然と過ごしていれば気づかないだろう。脳で考える者ならこういった感覚の隙間はあるものだ)

 アンは遠い昔を思い出しながらも、『生きていた』頃の共通認識を語る。ほんの一瞬、1秒にも満たないような『自分が何をしていたのかわからない時間』。
 大抵であれば直前に続けていた行動を再び続ければ誰も疑問は持たないし、もしそれが起きた時、毎日行うことの最中であったとしたら無意識に手が進められた、程度にしか感じないだろう。
 それを同時期に、別の人間が感じ取れたことが奇妙なのだ。

「アン、あの子を連れてきて」
(……わかった。主は?)
「幽々子様を視ながら、賊を探す。いつまでも帰ってこない彼も心配だけど、私はここを離れられないわ。頼んだよ」
(御意)
「幽々子様の事だから、気づいてはいるのかもしれないけれど……私は」
(力量を理解していること、手を伸ばせる範囲を知っている事は悪し事ではない)
「……ありがと」

 同じ姿に話しかけるその姿、はたから見ればそばの前後不覚の少女と同じように虚空に呟いているのみにしか見えない。
 短い間に培われた、主従の絆。まだ謝罪の言葉が出てくるようでは完全ではないだろうか。
 右手の刃を煌めかせ、アンは部屋を出る。向かうは彼の居た部屋。
 アン自身は、賊ではなく彼の男。ドッピオではなくディアボロの力と、そう考えている。先ほどの会話から、干渉すべきではないとも考えていた。
 だが主の命に反すればそれは道理に反する。もし何事もなければそこで彼に事情を説明し戻ってくればいい。
 しかし、何もないのにこのような能力を使う必要があるだろうか? それはつまり何かのサインに他ならない。それでも個人的には干渉する気はさらさらなかったが。

「……あら、どうしたの妖夢? 何かあったの?」

 その様に、幽々子は当然の疑問をぶつける。手には花の蜜を混ぜた氷菓を携えながら。

「幽々子様、お気づきになりませんでしたか? なんか妙です」
「みょん?」
「ええ、妙です。今アンにドッピオさんを連れてきてもらってます。注意してください」

 真剣な面持ちで話す妖夢に対し、幽々子は変わらず表情を崩したままで。

「そうねー。私には釣り合わないもの。一緒にいるならあなたみたいのがちょうどいいわ」
「…………え?」

 と、茶を啜りながら話していた。

315深紅の協奏曲 ―真実へ向かうための行進曲 2―:2014/12/26(金) 23:17:15 ID:NaoiPVXc0


 深紅に彩られた世界で、ディアボロは一人考える。『何故自分が選ばれなかったのだろうか?』
 深紅に彩られた世界で、ディアボロは一人考える。『選ばれるとするならば、自分に何が足りなかったのか?』
 目の前には先ほど出された青白い炎が統率のとれていない速度で向かってくる。出した本人も姿勢を低く構え、反撃の用意をしているのがわかる。
 次にどうなるか、分からないなんてことはない。自分の能力さえあれば。
 堂々巡りなのはわかっている。今更考えたことではない。死の輪廻の中、何度だって考えた。そして答えに行き着くことなく一種の諦観が思考を止める。
 『自分の為に動いていた者』と『誰かの為に動いていた者』。ジョルノとの大きな差があるとすればそこだ。
 自分の絶頂の為に戦っていた。弱者を救うために戦っていた。
 どちらが悪い、どちらが良いなどと考えれば、人の本質で考えれば差はない。どちらでも、正義だ。
 だが、自分は誰かの為に動くなんて、できないだろう。目の前にいる女の様になれないように。
 炎の中を突き進むように歩く。それに触れても、自分には何も影響はない。到達した先で、屈みこみスタンドに拾わせる。

「時は再び刻み始める」

 言葉と同時に世界に色が戻る。崩れた景色が戻り、そこは月明かりと薄い灯りが部屋を照らす和室へと戻っていった。
 世界が戻るのと同時にキングクリムゾンによって掴みあげられた座布団を藍に目掛けて投げつける。

「 、シッ!!!」

 かなりの勢いで飛んでくる座布団を認識する前に攻撃したか、裂かれたそれは勢いそのままに中の綿をぶちまける。

「何だっ、目眩ましのつも、……」

 藍の言葉が一瞬詰まる。理由は驚愕と狼狽。それは、理で攻める彼女にとっては理解しがたい行動だった。
 綿による僅かに不明瞭な視界の先に見えたのは、逞しい男の肉体。ドッピオの体に合わせられていた上衣を脱ぎ去り、網目状の肌着だけとなる。
 わざわざ隙を作って攻撃に転じないこと。戦闘における無意味な行動。その二点が彼女の計算に狂いを生む。
 だが、何より目当てにしていた物の一つが突然目の前に現れたことによる喜びが、最初に頭を支配した。

「……ほう、何のつもりだ」

 脳から走る下卑た信号を抑えつつも、不可解なその行動に対して問う。

「答える必要はない」

 実際、ディアボロ本人もそれほど意味のある行為だとは思っていない。だが、それはある意味必要である行為。
 ドッピオの精神からディアボロの精神を表に出すこと。その時、肉体もディアボロのものが表に現れる。
 そこからさらにドッピオの身に着けていた物を捨て去ることで、僅かな残滓をも身に纏わさせない。
 既に知られている以上行う必要はないのだが、ドッピオからディアボロに変わるという、ある種の精神的なスイッチの一つでもあった。

「そうか? 色を出して精神的に攪乱させようとかでも考えていたのかとも思ったが……」
「…………」
「違うようだな。不可か」

 その口は最後まで動かせない。ディアボロは動き始めの初動の時間を『消し去った』。
 相手の動きを見てから反応をする。強者にのみ許されたセンスでも引き金を引く機会を失われては使用することはできない。
 向かってくる男の身体は既に構えから一撃を繰り出す動きとなっている。その右手は不意に空いた胸まで延びようと。

316深紅の協奏曲 ―真実へ向かうための行進曲 2―:2014/12/26(金) 23:17:49 ID:NaoiPVXc0

「くっ、」

 藍の対応は後ろに下がりながらも右手を頭の後ろへ、左手は背後から急所の位置を守るように伸ばす。
 最大限の注意は、背後。時間を飛ばすことによる不意打ちがこの男の常套手段。破壊力のあるスタンドと違いあくまで生身の一撃はそれより軽い。
 事実、後頭部に回した右手から強い衝撃が走る。そのまま頭部に食らっていたら悪ければ破壊、良くて一時不能ともなるほどの衝撃。

「ぐっ! 、うっ」

 右手がクッションになりながらも、その勢いを押し切れず頭に衝撃が響く。
 だが、それでも彼女の思考は止められない。
 ディアボロの貫手が藍の服を貫き、肌を刺すその手を左手で止める。右手を強く掴み、その不思議な感触を握りしめる。男性の手のようであるが、温度の無い氷か、固められた空気と言うべきか、その感触。

「女の胸にっ、手を突っ込むとは、なかなか、どうして気が早いじゃないか」
「ふっ、一番楽な、手段を取った、だけだッ!」

 ギリギリと互いが互いをしめつけ合う。キングクリムゾンは藍の右手に拘束されているが、それは片手を拘束していることと同義。
 藍の左手はディアボロの右手を握りつぶそうと力を加える。その手を引きはがさんと、ディアボロも必死。
 スタンドの感覚を通して分かる、自分の背後。ゆらめいた炎が新たな獲物を探し求めてふらふらと寄ってきている。

「ウオオオオオオオオッ!!」

 雄叫びの様に声を上げ、全身に力を漲らせる。共に、スタンドにも力が入り彼女の抵抗を無に帰す。
 背からはぶすぶすと焦げる音と直接焼き鏝を当てられたような、そしてそれがそのまま背筋をなぞる様な苦痛が走る。
 だが、止めない。
 引いて仕切り直すことも容易だろう。しかしそれでは時間がかかる。自分を知られてしまうことよりは、さっさと殺してしまえればいい。

「うああ、あぁあっ!」

 苦悶の入り交じった声が藍の口から漏れ出る。
 いくらかは弱化の入った身としても、ここまで圧倒されるとは。彼の力強さにも、爆発力にも称賛に値するものがあった。
 ……だからこそ、ふさわしい! だからこそ、惹かれたのだ!
 彼に秘める底力にも、思わず舌なめずりをしてしまう。次に彼女の取った行動は、力の加減を変えるだけであった。
 ずぶり、ずぶりと音が聞こえる。焦がれる男の手が自分に触れる。あぁ、何て甘美な響きだろう。


 残ったキングクリムゾンの左手が、藍の顔面に撃ち込まれ、同時にディアボロの貫手が右胸に突き刺さる。
 その身体は力なく崩れ落ち、ディアボロの足もとへ仰向けに倒れる。
 防がれた最初とは違う、確かな一撃。壊さずに終わったのは藍の、妖怪としての力の証明か。
 一見すればディアボロの勝利だが、当の彼はその余韻に浸る暇はなかった。

「……? 、はぁ、はぁ……」

 呼吸が荒い。心音が響く。同時に、血流が速く流れるのがわかる。
 敵を倒したことによる興奮とは違う。おぞましい恐怖に竦む感覚とは違う。いや、しいて言うならば彼女の執念に恐怖するともいえるのが、自分でわかる。
 先ほどに使った自分の右手。そこから香る血の匂い。だが、そのむせる様な匂いに僅かにこびり付く別の匂い。
 最後、藍は止めようとする力を、ずらす力へと変えた。故に勢いは止まることなく、左胸、心臓を狙っていた一撃は右胸へと移っていった。
 平時であれば、戦闘中でもあるし、そうでなくても女性の胸に触ろうが特に何も思うことはない。
 だが、今は。不思議と、そのために触れたわけではないのにあの感触が忘れられない。残った彼女の匂いに溺れたい。

「……く」

 横たわる女の肢体。服が破れ右胸からは絶え間なく出血している。倒れた衝撃か、破れた個所からこぼれる柔らかな部位。
 投げ出されたその脚の、美しい線と柔らかな肌。その元へといく度に湿りけの帯びている様。
 自分の部位も、もはや興奮を隠しきれなくなっている。

317深紅の協奏曲 ―真実へ向かうための行進曲 2―:2014/12/26(金) 23:18:25 ID:NaoiPVXc0

「おい、何を、した?」

 彼女の髪の毛を掴み引き上げる。片目は潰れ鼻は拉げ血に染まったその顔でも、男の本能を揺さぶる何かを感じられる。
 歯の欠け血の流れるその口がにやりと歪むと、

「……さあな。どうした、止めを、刺せばいい」

 その顔と声色は、とてもじゃないが運命を諦めた顔ではない。死を受け入れた顔でもない。

「ああ、何だ……そんな顔を、するなよな。勝利を、刻みたければ、刻めばいい。征服は男の性だろう」

 ぜいぜいと声を出すたび胸から出血する。揺れる乳房が、艶やかな唇が、見据える瞳が、……どれも崩れているにもかかわらず、ディアボロの脳を刺激する。
 今野生を晒せばどれほど楽になろう。獣欲を満たそうとすれば、今までにない快楽が身を包むだろう。
 どちらの本懐も、それで満たせるだろう。

「……ッ」
「!! ……ん、はぁ」

 彼の取った行動は、その赤い果実を貪ることだった。
 顔面に彼女の血液が付着する。口内の鉄の味が共有される。ほの甘い液が、背の焼けた痛みをも忘れさせる。
 全てを忘れて、彼女を得たい。力無いその肉体を自分に寄せ、強く強く抱き寄せる。

「んぅ……ん、っ、…………」

 強く抱き合い寄せ合う故にわかるのは二人の体温のみ。表情を窺えるほどの隙間もないほどに。
 ディアボロから、求めさせた。彼の欲を煽り、征服『させた』。その一歩を藍は味わう。
 脳が溶ける様な得難いその味わい。主を裏切り、自らを捨て得たこのひと時。
 これは、永遠となるだろう……

「ふぁ……ッ!! ギッ!!!」

 突然の熱に目を見開き、動転する。抵抗するその脳に、身体は反応しない。
 ぎちぎちと、絡めた舌が猛烈に危険信号を放つ。
 同時に、ディアボロは髪を掴んでいたその頭を、床に叩きつける様に振り下ろす。
 その衝撃と、強く押さえられた舌は耳に残る不快音を残しつつ。

「ばがっ、あぁ……!! あっ、っ…………!!!」

 ディアボロは紅い小さな肉塊を吐き出す。共に、多量の唾液と混じった血液と。

「……恐ろしいな、妖怪というものは……そうだな、その程度では死なないのであれば、そういうこともしてくるということか……」

 敏感な苦痛と全身の痛みから混乱する。魅了が、効いていないことに。
 単純に抗えたか、それとも? そう考えるにも、時間が、状態が。

「……ッ、ぁ……ッ!!!」
「同じだよ、気を取り戻そうと私もした。危なかったよ女狐。魔性の女」

 薄れゆく意識の中に、ディアボロは藍に左手を見せる。
 その左手の小指、薬指はあまりに不自然なふくらみをしている。

「一本折る程度では意識は戻らない。三本目は取り返しに時間がかかる。戻しは苦痛だが……その点はお前と一緒だ。死なない程度に苦しめればいい」

 最後まで、自分を驚かせる奴だ。苦悶の中にもそのような表情を浮かべる。
 おかしいと感じながらも、それに乗った振りをして。同じように、自分を痛めつけて。
 多量の出血と舌が切れたことによる呼吸困難で、藍の意識は徐々に霞んでいく。

318深紅の協奏曲 ―真実へ向かうための行進曲 2―:2014/12/26(金) 23:19:07 ID:NaoiPVXc0

(……!! 開く、無事か、客人!)

 今まで音沙汰もなかった部屋の外より、声なき声が響く。同時に、アンが中に入ろうと扉を開く。

(待て、開けるな)

 それに対し、ディアボロは声を出さずにスタンドで話しかける。

(……何があった?)

 疑問に対し、答える声はない。
 返答がないことを確認、制止を無視して扉を開いた。

( っ、なんだ、これは)

 アンが見たものは、散らばった将棋盤、焼け焦げた跡の残る畳、荒れた和室。その中ほどに広がる血だまり、横たわる女。
 中に居たはずのディアボロの姿は形無く、苦しげに呻く彼女の声だけが部屋に木霊する。

「どうしたのアン、急に呼ん……って、いつの間に、いええええっ!?」

 妖夢が遅れて駆け付け、中を見て絶叫する。

「……ぉ、ぅ……」
「藍さん!? どうして!? やっぱり賊!? 紫様!? 幽々子様ーっ!!」
(落ちつけ主! とりあえず嬢を!)
「へあっ、はい!」

 浅く呼吸しようとするも塞がるその気道。口内にあるはずの者が無く、それが外に転がっているのを確認すると、アンは自身の能力を使って喉に対して静かに刃を沈める。
 自分の能力を、自分から、人助けのために使うなんて、自分でも思いもしなかったが、勝手に体が動いていた。
 詰まったその後ろへ、僅かな隙間だけを作る。そうイメージして沈めた刃は小さな切り傷のみを作りだす。その傷に対して自らの指、妖夢の細い指を突き刺し広げ、無理やりに気道を確保する。
 そうしながらも、三度の疑問。突然に面食らったが、扉を開けようとしたら既に中に入っていた。呼んだ覚えのない主を呼んでいた。
 そして、ここにいたはずの彼がいない理由。これらの符号が示す事実。




 白玉楼へと続く石段。長い長い石段をただただ降りる。
 ユカリに会うという当初の目的は果たせなかったが、果たせないということを知った。
 彼女が、正確にはどれほどの規模かは知らぬが。彼女らが自分を見定めた暁には姿を現すだろう。
 そして、右腕と言っていた者に対しての蛮行。どう評価されたことやら。
 ならば、自らの為に動こう。他者の目を気にするという、びくびくと形をひそめて行動をする理由もない。
 この世界にはすでに自身を知る者が多くいる。今更隠れる理由もない。

 ならば、何をする?
 昔に聞いたことがある。『男には地図が必要だ』と。信念が必要だと。
 ただこの平和な世界で生を費やすか。不確定な外への希望を持ちだすか。
 あの女が来る前に、心は既に決まっていたはず。ならばそれを胸に進むべきではないのか? ディアボロよ。
 石段の果ては見えない。だが、辺りの冷え込んだ、いわば生気の無い空気がそれとは違う、ただ澄んだだけの空気に変わっているのを感じる。
 ここを過ぎれば、あの結界の外へ出るのだろう。
 普通なら、幻想郷の住人は空を飛ぶ。だから踏み込んでも特に何も思わない。だが、自分は違う。普通の飛べない人間だ。
 だから踏み込めば死ぬ。空に投げ出され、成す術もなく落ちて死ぬだろう。それを避けるべく、もらったものがあるからこれまでなんとかなった。
 『だから』あえて踏み込んだ。
 恐怖とは何か。それは過去より去来する事実。それ以外の本能的な恐怖など、些細なことに過ぎない。
 捨て去れ。耐え抜け。不必要に足を止めるな。もちろんただの死にたがりにはなるな。打算を持って進め。確信した道を。
 矮小な身が、大空へと投げ出される。だが、不思議と何も感じない。パラシュートの無いスカイダイビングが、これほどまでに気持ちのいいものだと。

「…………ははっ、はははははははははははは!!!」

 思わず笑いがこぼれる。何がおかしいのか、自分でもわからない。狂っているのだろうか。
 だが、それでもいいのかもしれない。死んで死んで死んで死んで死んで死んでこれほど新しいことに気が付けるだなんて、脳が灼き切れてもおかしくはない。
 自分の命が切れる前に、この精神の高揚が収まっていればそれでいい。それくらいにしか、考えなかった。

319まるく:2014/12/26(金) 23:26:56 ID:NaoiPVXc0
以上になります。うん、難しい。戦闘がすぐ終わっちゃってる感があるのもなぁ…
話に上がりませんでしたが、戦闘部屋は藍による結界で隔離されていました。だから、不自然に気付かれなかったり入るのに遅くなったりしてます。
そりゃ寝所を暴かれたくないですもんね。
見直しをしっかりできていないので、だいぶ荒削りかもしれません。自分も後ほどっていっても2週間くらい後だけど…に直すつもりです。
恥ずかしいけど、見てってください///

セレナードさん、投稿お疲れ様です!2回目!

妹紅VS輝夜、バトルスタート!
原作の弾幕ではあんまり使われた描写はないですけど儚とかではたくさん使われる須臾の能力。理解するとなるほど、時止めに対応できない超スピードってことですもんね。
違うタイプの瞬間移動、状態固着による無効化等やっぱりバケモノですわ彼女。姫様強い。
永琳も加わってどうなることか。

純粋酸素による大爆発。錬金術みたいですね、ほらあの。
いろんな使い方を考えられるあたりに多芸キャラの本領が試される気がします。いつも芸達者だなディアボロさん。
そして対等なくらいなのに男で動揺するもこたん大丈夫か。乙女か。結婚しよ。

320名無しさん:2014/12/27(土) 02:50:56 ID:/n9i3VjQ0
まるくさん更新乙です。そういえばDIOもディアボロも能力発動中飛んでいたような…
地面にぶつかる瞬間に時を飛ばしたらかわせるんですかね?描写的には地面がないように見えるけど…

321まるく:2014/12/28(日) 09:30:32 ID:2SjyPNnU0
閲覧ありがとうございますです!
DIOの方は後の仗助達のようにスタンドに運んでもらったんでしょう、きっと!明らかにそれで説明つかないドラゴンボールバリの浮遊感ですが!
ディアボロは……う、うーん。
自分のSSに関して言えば、いちおう移動手段に使っている小分け雲山があるので最後にそれに頼れば大丈夫だろうと、あえて不確定なそれに身を任せてます。
着地の瞬間時を吹っ飛ばして無事。というのもできると思ってます。雪風は沈みません!

322どくたあ☆ちょこら〜た:2015/01/07(水) 17:34:16 ID:cIMabbsg0
セレナードさん、投稿お疲れさまです。
起爆した後に爆発より速く退避する輝夜。圧倒的なスピードが感じられてグッド!
時止め中に【ザ・ワールド】の打撃を加えても輝夜が即死していないのはディアボロが手加減を加えているのでしょうか。落雷も感電程度で済んでいますし。
姫を上回る力量を誇る永琳を加え、タッグマッチはどう動くのか。次回が楽しみです。

まるくさんへの詳細な感想は、wikiに転載された後に。
現時点で強烈に気になったことをいくつか述べさせていただきます

>無数の触手ともいうべきものが彼を犯そうと
ディアボロ触手姦か…なんと業が深い…(戦慄)

スタンド使いの本体が精神力の強さによって得られるのは、耐久力のみならず攻撃力も含まれるのですか!貫手で藍の胸を貫けるディアボロも十分人間を超越してますね…!
本体がこれほど戦闘に長けているのでしたら、スタンドとの連携攻撃も相当バリエーションが増えて、より多彩な戦闘が可能。これは期待が膨らみます!

前回の御返信に対して
映姫「人が人を裁こうなど…そう、貴方は少し思い上がりが過ぎる…矯正して差し上げましょう」
ジョルノ「生きている者が死んだ者の意志を受け継ぎ先へと進めることこそ人間の営み…暗闇の荒野に進むべき道を切り拓く覚悟の輝きを愚かだと嗤うのなら、僕の覚悟の前に果たして君の正義は滅びずにいられるかな…?」
ジョルノもジョルノとて父親に似てサディストですので、互いが互いを支配し組み敷こうとする展開しか見えないw

323まるく:2015/01/08(木) 12:15:35 ID:H5B0hIQQ0
感想ありがとうございます。ちょうどWIKIを更新、ハーメルンにも投稿した所です。
ようやく新年のそれが落ち着いて筆を取れたという感じですよ。もう1週間もたってるですが…


>>無数の触手ともいうべきものが彼を犯そうと
>ディアボロ触手姦か…なんと業が深い…(戦慄)
まだ犯されてないだろ!いい加減にしろ!
検索しましたがさっとあさった限りではディアボロ触手姦は見当たりませんね。よかった。深く探さないでおこう。

ちょっと貫手の威力は修正してます。藍が弱体化中というのもありますけれど、貫通はしてないほどに…でも表現として「貫通はしてないもののこの一撃で手傷を加えた」というのは割と情けない表現なので結果強そうに見えます。
と言っても、どちらにしろ決めの一手には間違いないですね。ずっと本体が弱いのもあれなので。格げー補正的な。
そのあたり、ちょこら〜たさんの吉良の様に本体は火器武装で攻めたみたいなそういうのだと本体も対等で来ていいんですけどね。それは自分の色ではないという。
…あとは中の人の戦闘描写のセンスが。うっ、頭が痛い。

自分にも組み合わせとしてはそんな未来しか見えないw
映姫のお説教ちゃんと聞くのはジョナサン、何だかんだしぶしぶ聞く承太郎、仗助、徐倫。聞く気が無い、聞いても馬耳東風なジョセフ、ジョニィ。
そしてガチで反発するジョルノというイメージ。えいきっきにはそういう対立のイメージがよく似合うと思うんですよ。

324どくたあ☆ちょこら〜た:2015/01/22(木) 14:49:38 ID:yCBF7a520
まるくさん、更新お疲れ様です
推敲が加わってより読みやすく感じました!

世の中には常識に囚われない発想と性癖を持つ方々が一定数いらっしゃるので安易に検索してはいけない(戒め)

自分の吉影は吉廣&輝之輔の供給があったからこそ火器を入手できていたので…
ディアボロが火器武装した場合、時飛ばし中に撃てば回避不能の凶悪弾がががが
血の目潰しが可能なんですし、瓦礫でも何でも投げつけたら恐ろしい攻撃が成立しますね…

ラストのディアボロ大ジャンプ、心の底から『楽』の感情が伝わってきて感嘆の一言でした!
冷ややかな霧の中、哄笑を挙げながら風を切り裂いて落下していく開放感。
絶頂とは!悪とは!自由であること!狂っていようが何だろうが、一切に囚われず微塵も恐怖しないこと!
悪や力への羨望のイメージがストレートに伝わってくる、最高のシーン。圧巻です。
事態の真相を知ったディアボロ&ドッピオが今後何を目的にどこへ向かうのか。次回も期待しております

325まるく:2015/01/24(土) 12:53:11 ID:0Ujj9xOk0
改めて感想ありがとうございます!やっぱり推敲は大事だったよ…(当然

ディアボロは何気に受けが多い気がする
いや、今のはただの独り言です…気にしないでください…

作中で何度か出していますが、ディアボロは部下は作っても味方は作らない。そういう認識がありますからね。
吉良たちの発想もなるほどと思いましたが、やはり現状ではディアボロにああいった武装は手に入るルートがないという。

血の目潰しは可能ですが、持っていた投擲武器の扱いはどうなるのかが若干不明なんですよね。
自分の解釈としては時飛ばし中はあらゆる物体に干渉しなくなる、という基本があるのですが、ナイフとかを投げた場合どうなるのかと。
自分の肉体を元にした攻撃、血の目潰しがまさしくそれですし、例えば自分の腕を引きちぎって投げつけるとかでも同じ現象になるでしょうが。ナイフ投げなどそのような攻撃をしなかったのは荒木がネタ被りを控えたからやらなかったのかできないと思っていたのか。
もちろん解釈がいろいろあるのでできても構わないのですが、時飛ばし中は一切攻撃をしていない(攻撃のための布石はやるけど)というのを踏まえて、時飛ばし中はあらゆる物質に関与しない、というように決めてあります。さてどうしよう。
そう考えても「じゃあナランチャ殺したときはどうやってるの?」「トリッシュ連れ去った時は?」の疑問が…あそこが…もう少し考えなくては…

ラストシーンから、ディアボロはふっきれます。ボスという地位を忘れて心機一転がんばろうという雰囲気です。ハイになったDIOやテンションが高い吉良みたいな感じです。本編で唯一そういったシーンが無かったので。
ディアボロ達のの幻想郷での道筋は一旦ここで終わりです。ここからはレールはありません。どうするか、ご期待ください。

326まるく:2015/01/29(木) 00:09:31 ID:dpoNFIaY0
もう1月も終わりに近づいてきてしまったか…早くも12分の1が過ぎてしまって…
くだんないこと言ってないで投下しますねー。

327深紅の協奏曲 ―真実へ向かうための行進曲 3―:2015/01/29(木) 00:10:27 ID:dpoNFIaY0
「いやあ、驚いたよ。あはは、死体ならともかく生きている人間が空から降ってくるとはね」

 幻想郷の夜を、ディアボロは一人の少女と行く。
 猫の妖怪であろう、赤い三つ編みに頭にはそのまま黒い猫の耳がついており、押し車を持ったその少女。
 彼女の証言通り、空から落ちてくるディアボロを偶然に見かけ、さぞ何か、と思い駆けつけてくれた。

「あんまり壊れちゃうとアレだし急いで受け止めてみたら生きているんだし、そりゃあ驚いたよ。あはは」

 彼女が笑うと共に、能力で呼び出したのか、赤ん坊の頭程の大きさの青白く燃える髑髏が笑っているかのように震える。
 不気味な外見だが、それが月明かりしかない道に更なる明かりをもたらしている。

「血濡れも大体拭き取れたけど、背中の傷はあたいにゃあどうしようもないねぇ。痛まないかい?」
「痛まないと言えば嘘になるが、里で手当てをすれば問題ないだろう」

 どうしようもないと言われた以上、これ以上干渉されないように答えるが、処置もしていない灼かれた痕が痛まないはずがない。
 今の彼には、ただ耐えることしかできなかった。それでも弱みを見せない辺りはさすがというべきだろうか。

「ふーん……見た感じ、死にたがりって顔でもないしー……どうしてこんな傷を負いながらも落下散歩してたのか、あたい気になるなぁ?」
「人里は、こっちでいいのか?」
「……いけずぅ」

 まさしく猫なで声、と言わんばかりの声色で彼女はディアボロに問うが、それについては答えない。単純に、話しても理解を得られないと思ったから。
 自分の考えの通り、死ななかった事を頭の中で反芻をしている。
 死のうと思って行動をすれば死ぬだろう。しかし、『死なない』と思って行った事に関しては死なないと思った。白玉楼から飛び降りるという奇行は結局のところこの点に集約される。
 死なないと思っていても、どこかに不安を抱えていたからこその予知。今までの自分の心の拠り所の一つを敢えて捨て去った行動。
 結果それは功を奏しディアボロに一種の自信を植え付けた。

「んー……まあいいか。いやぁね? あたいは火車って言ってさ、死体運びがお仕事なのさ。好きものこそうまくなれーって、生きているより死んでいる方がお好みなわけでー」
「…………」
「あはは、安心してちょうだいよ。生きてるのをわざわざ殺す様な品の無いことはしないさ。あたいはこれでも行儀のいい方で通っているんだよ?」
「品が無いのか? それは」
「無い」

328深紅の協奏曲 ―真実へ向かうための行進曲 3―:2015/01/29(木) 00:11:04 ID:dpoNFIaY0

 少女はキリッとした表情をディアボロに向ける。どうやら、そのあたりは火車と呼ばれる妖怪の矜持の一つらしい。
 まあ、生きている人間に興味はないのは何よりである。先ほどまで、ディアボロの生に執着した者と戦っていたのだから。
 
「……まあ、お兄さんは何かしら訳ありみたいだからね。あたいもそういうのには慣れてるからわかるよ。ここは深く突っ込まないであげよう」
「そうしてもらえると助かる」
「でもあたいの恩を受けた以上、まともな葬式は迎えられないことだねぇ? お兄さんの匂い、覚えちゃったから」
「……そうだな。私にはそれくらいがふさわしいのかもしれんな?」
「へっ?」

 煽ったはずなのに、それを受け返されて少々困惑の表情を少女は浮かべる。
 元より、ベッドの上で死ぬことなんて考えていないし、式を上げられるとも思っていない。安穏とした生活を送れるとは思っていなかった。
 そんな彼の表情をじろじろと見つめ、

「ふ〜ん……お兄さん、面白いこと言うね。勇儀とは合わなそうだけどあの橋姫とは気が合いそうな気がする。なんとなく。
 ねぇねぇお兄さん、もし今度気が向いたら地底にでも遊びに来ないかい? きっと楽しめると思うんだよ」
「……歓楽街の一種かそこは」
「今は使われてない地獄跡で嫌われ者の妖怪が潜んでいる場所さ。けれど住めば都ってね? 幻想郷の中でも唯一の眠らない街さ。退屈はしないよ」
「遠慮しておく。少なくとも今は、な」

 彼女がディアボロの本質をうっすらと感付いている様子と、ディアボロも少女の雰囲気がややも穏やかではないことを感じられたこと。
 なるほど、どこの世界にも隅に追いやられた弱者の吹き溜まりは存在するらしい。死体に興味を持つ彼女のも、妖怪の中では異端とされるのだろう。
 嗅ぎ慣れた匂いに感付かれた、ただそれだけの事。そんなスラムのような場所に興味が無いわけではないが。

「……灯りだな。あそこが人里か」
「お、だねぇ。道はないが、もうここからは案内が無くても行けるだろうね。そしてちょうどあたいはこの辺りでおさらば」

 夜もだいぶ過ぎたというのに、ぽつぽつと灯っている小さな光。その光が人の住処と理解させる。
 少女はそことは違う方角を示す。記憶が正しければ、その先は博麗神社だっただろうか。

「神社に用が、ってわけじゃないよ。その近くが地底の入り口なのさ。地霊殿はいいとこ、一度はおいで」
「機会があったらな」
「また会うと思うよ、必ずね」

 ことことことと、押し車が轍を作る。
 その様を見届けると、ディアボロも人里へと歩き出す。
 ふと後ろを振り返る。今まで通っていた道は妖怪はわからないが野獣は潜んでいたはずだ。
 それを己の血の匂いにもかかわらず全く襲ってくる気配がなかったということは彼女も相応の実力者だったということだろう。
 これは運か、天命か。

「……それの、証明の為に」

329深紅の協奏曲 ―真実へ向かうための行進曲 3―:2015/01/29(木) 00:11:35 ID:dpoNFIaY0




 人里はその周辺を囲う様に、塀が存在している。そのどこかにある入口に村の若者が駐在しており、有事の際に皆を知らせる役を務める。
 だが、もちろん妖怪に対してはほとんど効果はない。そもそも飛べるので塀など意味を持たないし、悪意を持って襲ってくる妖怪はほとんどいないからだ。
 それでも、敢えて形式を違えて人を襲う妖怪も少なくはないし、そういった考えを持たない野生の動物が村に襲ってこないわけではない。
 可能性としては0ではないのだが……限りなく少ない可能性に依る者は多いわけではなく。

「すー……すー……」

 そこにいた若者は無防備にも門にもたれかかったまま寝こけていた。
 まだ寒い時分でもない、そのまま身体に支障をきたすことはないだろう。

「……気楽なものだな」

 穏やかそうに眠っている彼をわざわざ起こす理由もない。いろいろ聞かれても面倒ではある。聞きたいこともあるのだが。
 それよりはまだ活動的である里の中、あの喧噪に紛れた方がいいだろう。

「……でさ、俺は気になって気になってしょうがなかったんだよ。だからさ、聞いてみたんだ」
「ほんとか? 本当に聞いちゃったのか?」
「ああ。意を決して聞いてみたんだ。慧音先生、何で今日はいつもの帽子じゃなくて赤い洗面器を頭に載せているんですかって」

 店先では初老の客が卓を挟んで話に盛り上がっている。
 店内をざっと見渡したが、妖怪らしき姿はなく、老若男女区別なく、夜が更けてもその手を止めずに歓談に盛り上がっているようだ。
 もっとも、妖怪と言われても見た目が変わらない者が多いからディアボロに区別がつくわけではない。

「いらっしゃい、お客さん初めてかな? というか見ない顔だね。どうしたい、こんな夜更けに」

 禿げ上がった店主がカウンター内からディアボロに声をかける。そんな彼を妖怪と判断する術を持っていない。
 とはいえ、依然ドッピオの姿で里を歩いた時、日中であったが妖怪と人間が平和に暮らしていた。夜半でもそれは変わるまい。

「あぁ、その、…………」

 言葉を紡ごうとしたところで、不意に意識が薄れ始める。頭が何かを思考する前に脱力感に襲われる。

「おい、兄ちゃん!?」
「どうした、わ、こりゃひでぇ」
「水、水もってこい!!」

 騒ぎの声が聞こえるが、彼の耳にはうっすらとしか届かない。それより大きなまどろみが、彼を包んでいた。

330深紅の協奏曲 ―真実へ向かうための行進曲 3―:2015/01/29(木) 00:12:31 ID:dpoNFIaY0

――――どしゃ どしゃ どしゃ
 土をかける音。掘った穴の中に『彼女』を入れる。
――――ぶち ぶち ぶち ぶち
 縫い合わせる音。『彼女』が救いを求めないように
――――がつ がつ がつ がつ
 殴りつける音。自らの罪を『彼女』が理解するために。

 ひどく滑稽な光景だった。小さな子供がいつまでも起きない母親にじゃれつくような光景だった。
 子供が大きく手を振り上げ、女の顔を叩く。その度に、耳障りな衝撃音が辺りを支配する。
 そんな力を、子供が持っているとは思えなかった。だが、辺りに血しぶきが舞い、女の意識を消しては覚まし、消しては覚ます。
 互いに、表情はなかった。子供の顔は、まるで無感情な機械の様に。女は、表情というものが既に消失してしまったかのように。
 一切の言葉もなく、ただただ肉を殴る不快な音だけがその場を埋め尽くしていた。

「何故、僕を生んだ」

 女は答えない。否、答えられないというのが正しいだろう。度重なる殴打によって肉体、精神共に負傷し反抗どころか応答すらままならくなっている。

「何故、僕を生んだ」

 子供が顔を近づけ、口づけを行えるかの距離で問う。浅く上下する胸から押し出される息が彼の顔を掠める。

「二人か? 三人か?」

 脳裏に浮かぶ、この目の前の女と養父が行った汚らわしい姿。それはどこまでも欲望に忠実な姿。
 己を信じていた、己が信じていた姿を汚し蹂躙する、何も考えていない瞳。
 その瞳に映る姿は、




「…………」

 温かく軽い何かに包まれる感触と、自分を射す強い光。
 まどろみの頭を溶かす様な温かさ。その誘惑は再び目を閉じれば味わえそうな。

「ッ、ここ、は……!?」

 働かない頭から急に電気信号が送られ、身体全体に熱が送り込まれたかのように、徐々に稼働し始める。
 周りは幻想郷ではよく見た家造り。手入れはしっかりされていて、人間の住居、その一室というのは間違いない。
 自らが横たわっていた布団の傍らには軽食と水が置かれていて、いつ目が覚めても問題ないように配慮されている。
 時計といったものが存在しないが、陽の射す角度からして9時から10時ほどであろうか。
 部屋を別ける戸の先からは、自分を介抱した人間か。何人かの穏やかな談笑が聞こえる。男も女も、そしてどうやら中年から。

「おう、あんちゃん起きたのか!」

 その戸の先に向かうと、どうやら昨日の盛り場で間違いないようだった。声をかけた店主も同じであり、店の構造も変わっていない。
 だが、雰囲気は違う。昨日の様な酒にまつわる場ではなく軽食や時間を過ごすカフェの様だ。

「来るなり倒れちまってよ、大丈夫かい? 背中にひどい傷もあったし、妖怪にでも襲われたか?」

 言われて背中を擦るが、そういえば痛みはない。今まで治療をしていなかったはずなのだが。

「ああ、怪我の具合なら大丈夫だろって! 永遠印の塗り薬はよく効くからなぁ。けれど、少しは休んでいた方がいいってよ。あんちゃんが倒れたのは傷より疲労具合だろうからって」

 ディアボロが口を挟もうとする前に、その禿げ上がった店主が聞こうと思っていたことを話す。大きな声には不快感はなく、確かにこれが店主なら昨日の盛り上がりも理解できる。

331深紅の協奏曲 ―真実へ向かうための行進曲 3―:2015/01/29(木) 00:13:12 ID:dpoNFIaY0

「……すまないな、急な来訪者だというのに」
「はははっ、いいってことよ! あんちゃん、腹減ってねえか? 起き抜けにムスビをおいといたけど足りなかったら何か作ってやるぜ!」

 こういった、世話になることも、ディアボロには新鮮だった。
 打算無しの甘えに浸るという、何とも言えないむずがゆさもないわけじゃない。だが、不純物の無い善意というものに触れるのも悪いものじゃない。
 こうした空気に晒され続けていれば、幻想郷の常識と霊夢が言っただろうか。戦いが終わった後杯を交わすという訳の分からなかった理論も理解できる、気がする。

「ならば、お願いしよう」

 そういって、手近な席に座る。
 店主は威勢よく返事をすると、その奥へ引っ込んでいった。
 店の入り口近くには、凡そ中年客の喧騒にまぎれて若い者も居る。年相応の格好をして、仲睦まじく話しているその姿。
 その声は自分の近くの席に座る中年女性の団体にかき消され何を話しているかはわからないが。
 傍らに目をやると、長年陽の光にさらされていたのか、色あせの見える本棚には同じく褪せた本。見える表紙には見たことの無い文字だが、それでも頭に意味が伝わってくる。
 新聞掛けには2,3週間ほど前の日付の記事が載っており、内容も取り立てて見る物もないようだ。

「…………ここは、本当に明るいな……」

 自分が知らないだけであろうが、そしていくつか暗い部分にも触れることになったが、それでも外の世界と違い、幻想郷は明るすぎる。
 交わることの無い者達が混じり合い、疑うことも忘れてしまったかのように。
 ユカリたちの情勢を省みるに、そのような闇を落とさぬように闇が支配していたとでもいうのであろうか。
 もしかしたら、ジョルノやブチャラティが考えているようなギャングの立ち位置とは、ユカリ達と同じ様な位置であったのだろうか。

「邪魔するよ、主人」
「おや、らっしゃいナズーリン様」
「様付けはよしてくれよ、私はあくまで一介のダウザーにすぎないのだから」
「そんなこと言われましてもねぇ、あの毘沙門天様の直属って言われましちゃあ……」
「なら直属として君に命令しよう。畏まらないこと。その分本尊であるご主人や聖にその誠意を向けてもらおう。いいね?」

 店の入り口から、聞き覚えのある声が聞こえる。どうやら、そんな思いに耽っても、やはり穏やかには進まないらしい。

「して、今日は何用で? いつものを用意しましょうか?」
「ここのチーズまんも魅力的だが、今日は違う用事だ。人探しの手伝いをしてもらいたい。情報提供者の募集をしている。これを」

 そう言って、彼女は手元のポシェットから数枚、丸まった紙を渡す。

「……んー、俺は見たことねえなぁ。狭い幻想郷、こんな姿の奴……外来人の坊主なのか?」
「そうなんだ。昨日は命蓮寺に居たんだが怪我を負ってね。その治療中に居なくなって、今に至るということさ。ご主人がやたらに気に掛けるんでね。
 それで私の能力で探そうとしたんだが……どうにも見つからない。物探しと人探しは大差ないと思っていたが……何故だか、ね」

 気落ちした声が聞こえる。強気な彼女も、自分の力不足にはさすがに嘆くということか。
 ……そろそろ、だろうか。

「そういえば、昨日も外来人の人が倒れてたんだよ。ほらそこ」
「ふむど   えっ」

 ナズーリンがこちらに視線を向けようとしたその時、すでにディアボロの目の前にはナズーリンが座っていた。
 唐突な出来事に、彼女は驚きを隠せず周りを視ようとするが、首こそ動くものの身体は肩をがっちりと何かに掴まれて動かせない。

「えっ、むぅっ」

 声を出そうとするが、それも何かが口を覆うようにして遮る。
 何が起きたかわからず、動転から涙目になるナズーリン。

「久しぶりだな……証言から、お前は私の姿を知っているからな。まだ朝だろう? 静かに話がしたい」

332深紅の協奏曲 ―真実へ向かうための行進曲 3―:2015/01/29(木) 00:14:34 ID:dpoNFIaY0

 そう言いながら、傍らにある褪せた本を一つ取り出す。幻想郷縁記と書かれたそれは、シリーズ物らしく同じタイトルの古いものがいくつか並んでいた。
 それと共にスタンドによる拘束のうち、口の拘束を解除する。だが肩にはまだ手をかけており、少女の小さな体には見合わない重圧が強く彼女を締め付ける。

「おや、あんちゃん。ナズーリンさんの知り合いで?」
「ああ。以前は命蓮寺に行ったことがあってな。良かったよ、知り合いに会えて。……なぁ?」
「えぇっ、ぁ、ああ」

 ほとんど恐怖からの嗚咽に近かったが、その表情は店主が配膳してくれた軽食をディアボロが敢えて直接手に取りながら話したため、見られていない。

「ははははっ! あんちゃんにそんなに頼りになる伝手があるなら拾ったこっちも一安心だ! それはあんちゃんの快復祝いだ、食べてくれよ!」

 そう言いながら店の中で、他の客に話し始める。どうやら、先ほどナズーリンから受け取ったその紙の詳細を、他の客にも伝えているようだ。

「……何を、した?」

 絞り出すように、視線は机の下に送ったままにディアボロに尋ねる。
 表紙を開く。……周りにある文字をさらに崩した古い言語のようで、とてもじゃないが読める物ではなかった。印刷等はしっかりしており古いものという印象はなかったが。

「お前は私を知っている。話の限りでは探している少年とはドッピオだろう」
「……! そう、いや、そうじゃなく。何をした、って聞いているんだ、私は」

 それはどこまでいっても虚勢だった。だが、そこに食らいつこうとするあたり、これも先に言っていた位の高さから来る矜持がそうさせるのだろうか。
 次は最新であろう、号数が大きいものに手を伸ばす。先ほどの物と同じく印刷等はしっかりしている。……あくまでここの文化レベルに相応して、だが。

「私はそういう能力を持っている。ただそれだけだ。それに、騒がれるのは性には合わない」

 キングクリムゾンの能力は時間を吹っ飛ばすこと。それ自体も長所だが、弱点としてその間は自分は干渉できないという欠点が存在する。
 それにより飛ばしている最中に攻撃などはできないのだが、それを補う方法はいくつかある。
 その一つとして『自分もその飛ばす対象に入れること』。それを行うことにより、吹っ飛ばしている間の事柄に干渉ができる。
 もちろん、その間に何が起きているのか、過程は全部飛ばされ理解はできない。だが、それにより自分の行動を相手に悟らせないまま完了させることもできる。
 あの瞬間、ナズーリンをひっつかみ、席に座らせるところまでを自分で行うと『予定』してから、ふっ飛ばした。周りに妨害をする因子が無ければ、定まった結果は変わらない。

「放っておけばあの場で声を出し、詰問を始めていただろう。そんなものは御免蒙る」

 淡々とありのままを話し、出された茶を飲む。
 そういえば、このように出された物をそのまま食べることも随分久しぶりだと思いだした。ドッピオの姿ではよくやっていたが、この姿の時にはいつも密閉された物から、異物が混入されていないか確かめてから食べていたものである。

「……お前は、一体……」
「お前の主人からもそれを聞いた、お前から聞くのは二回目だな」

 特に気にすることなく、幻想郷縁記の九巻目の表紙を開く。やはり文字は見慣れないものだが、すらすらと意味は入ってくる。
 不思議なものだと思いながら、その文章を読み始める。内容から察するに、それはまさしくディアボロの求めていた幻想郷について、その歴史と有名人についての知識のようだ。

「私は一介の外来人でそれ以上でもそれ以下でもない。この世界で何かを行うわけでも、何かを脅かすつもりもない」

 その言葉に、ナズーリンは怒りと疑惑の眼を向ける。それは、明らかに相手に信用を置かずに攻め入ろうとする意志。
 だが悲しいかな、それを行うには絶対的に力も度胸も足りていない。それがあるからこその眼だった。声を出していないのが、知性の高さの証だろう。

333深紅の協奏曲 ―真実へ向かうための行進曲 3―:2015/01/29(木) 00:15:36 ID:dpoNFIaY0

「嘘をついているつもりはない。そして、その言葉はそのまま送ろう。あの寅髪の女の心までは知れぬが、お前自身はドッピオをどうするつもりだった? 保護か? 捕縛か?」

 読み進めていくと、妖精についての成り立ち、風貌や評価のページに行き着く。ずいぶん悪辣な描かれ方をしているがあくまで見た目が似通っているというだけで、種として見ているという良い書き方だろう。
 もしこの妖精が実在していたら、彼女らの意志に関わらず勝手に尊厳が、権利がどうという人間が現れるに違いない。動物と違い、コミュニケートができるにも関わらず。

「そ、それは……」
「経歴による感覚でな。お前はあの場で最後まで私を疑っていたし、先までもその考えを改めずに居た。ドッピオに対しても同じだろう。一方的に決めつけるのはやめていただきたいものだ」

 そういうと、彼女の肩に置いていたスタンドの手を離す。騒がれる心配も、とりあえず言いたかった事も伝えられた。

「、ぷはぁ、はぁ、はぁっ……」

 ずっと息を止めていたかのように、急な呼吸を始める。顔も真っ赤になっており、彼女のやり取りに対する不慣れ感を物語る。
 その顔は今にも逃げ出したいという恐怖の表情で満たされている。だが、

「て、て、店主。やはり注文いいか? チーズまんと、珈琲を」
「ん? あぁ、はいよぅ!」

 怯えた心を押しとどめ、この場に居座ろうという意思を示す。

「どうしたんだ、急に」
「お、お前が怪しい者に変わりはないし、ドッピオと比べるとそれは尚更だ。……しばらくは、監視させて」
「好きにしろ」

 それに対しては特に異論はない。今更、見られて何か変わるわけでもないし、監視の目は付いているとのことだ。
 仮に、これから行おうとしていることが、その対象に自分を見る者がいなければ意味がない。
 妖精ではダメだ。所詮は子供。幽霊。魂魄妖夢も強いようだが見た限りではそうとは思えなかった。それに、今はあの別の者が憑いていたから変わっているかもしれない。
 それらにも関わらず、常たる強者であるもの。……やはりそういった者は本の後半に入るだろうか。
 そう思いながらも読み進めていくと、現れる項目。妖怪のページ。
 項目には、確かにいつかに聞いた妖怪の特徴を人間の視点から書かれていた。

「……いやにご執心だね。妖怪にでも、襲われたのかい?」
「最初に襲ってきたのはお前だな」
「それは正当防衛だ!」

 じとっとした眼つきを向けるナズーリンに応答を返す。そう言われればそうだった気もするが、些細な差だろう。
 肉体の頑強さ、精神による脆さ。人間に対する危険性。過去に道具屋の魔法使いが言っていたように人間の視点からすれば恐怖の対象ではあるようだ。
 妖怪は妖怪の専門家に任せた方がいい。一文はそういった結論で締めくくられている。

「むぅー…………」
「へい、……どうしたいナズーリンさん? ずいぶん難しい顔してんけど……さっき声も上げてたし、ケンカかい?」

334深紅の協奏曲 ―真実へ向かうための行進曲 3―:2015/01/29(木) 00:16:07 ID:dpoNFIaY0

 店主が心配そうな顔をして、注文の二品を持ちながら彼女の顔を覗きこむ。

「あ、いや……そんなことは」
「その通りだ。まあ、私が悪かったし、それについては決着がついた。迷惑かけてすまなかったな」

 言い訳をしようとしたところに、ディアボロはフォローを入れる。
 それがナズーリンに驚きだったのか、声を出さずとも崩れた表情を彼の方に目を向けた。

「なんだ、あんちゃんそんなに仲良し様だったのか! ならもうウチで何か心配するようなことはないなぁ!」
「すまないな、確かにもう大丈夫だ。……悪いが、この本を少し読んでいたい。場所を借りていていいか?」
「かまわねぇぜ! 日が暮れる程度に店替えの準備があるから一旦抜けてもらうが、それまではゆっくり過ごしていってくれよ」

 ナズーリンの目の前にほかほかと温かい湯気の立つ大きな蒸し饅頭とコーヒーが置かれる。
 それにかぶりつきながらも、不快と不信の目を向け続ける。
 ページは妖怪の項目、その前に乗っていた花の妖怪という者も恐ろしい様子であったが、自分は会わずともその歯車を調整した人物に行き当たる。
 内容を読み解くにあたり、その確かな実力を持っていることが伝わってくる。
 能力とその実力、幻想郷に与えた実績、その痕跡。

「…………ふむ」

 強いという人と成りだけが口頭で伝えられてきていたが、数代にも伝えられているこの縁記にもたびたび出ているようだ。後ほど見返すつもりだが、以前に綴られた物にも挿絵で確認の取れる物はあるのではないだろうか。
 最も、この妖怪は探している対象にはならないだろう。

「……さっきから、お前は何を探しているんだ」

 はくはくと口を動かしながらも、眼つきは変わらない彼女が話しかける。
 別に話しても構わないだろう。彼女がそれを妨害することも、自分に得することもないだろうから。

「足掛かりだ。その足掛かりを見つけられれば、それは私の未来への遺産となるだろう」

335まるく:2015/01/29(木) 00:22:45 ID:dpoNFIaY0
以上になります。繋ぎ回。
なんかナズーリン毎回涙目になってる気がしますが自分にそういう趣味はないです。嫌よ嫌よも好きのうち
昼はカフェ、夜は酒場なお店。妖怪も入ってる気がする。
ディアボロの過去はコミックスで語られていた以外にも勝手に作り上げてます。頂点を目指す理由という者が明らかになっていないので。
SSにはあんまり重要にならないと思うので小出しに。
ディアボロは紫ほどではなく、かつ現実的で手が届かなさそうな妖怪…そんなのを探しています。もちろん、幻想郷についても。
本屋じゃないのに本が置いてあるのもアレかもしれませんが、そういうカフェはないわけじゃないので、雑誌感覚にでも有名なものを。
求聞史紀(幻想郷縁記)はみんなに見てもらうために書かれていますしね。

336まるく:2015/01/29(木) 19:11:51 ID:dpoNFIaY0
追記。途中にあった「自分も吹っ飛ばす対象にいれる」について。
以前何かディアボロを語るスレみたいなので出た回答で納得がいった物を流用しています。

基本は説明の通り、自分が行おうとしている行動の過程を吹っ飛ばして結果だけを残す、という者です。我以外の〜と言っていますが、それを敢えて自分に適用させれば干渉させることができるという発想。
これの利点としては時止めの様に「他者に悟られず行動を起こせる」という点です。ディアボロはエピタフによる予知によって結果を知っているので、すぐに対応できますが他の者は突然の変化に対応が遅れます。見た目としては時止めによる干渉と同じように見えるでしょう。
時止め中に自分に制限をかける(=自分の時も止まる)では何も効果はありませんが時飛ばしの場合はこれによって時止め並の行動がとれるというわけです。
本編のトリッシュ誘拐、ナランチャ殺害もこれを応用して行ったのではないかと。

トリッシュの腕を斬り落とし、攫おうと行動を開始する→時飛ばし開始、斬りおとして誘拐、離れる→時が刻み始める。ブチャラティはここで誘拐された結果に気付く
という感じ。

欠点としては、自分も周りで何が起きているのかわからないこと。
例えば、その過程にて他が何をやっているのか。どのような行動に出かかっているのかが分かりません。これにより、複数戦が難しいでしょう。後ろでミスタが銃を構えて発砲するまで、行動開始前に予知の結果から推察しなければなりません。
いくら予知があるとはいえそこまで並行して思考することは難しいと思えるため、戦闘中はかなり実用の範囲が狭まります。相手に気付かれていない不意打ちであるならば、有効に扱えるでしょう。

……という推察からです。
あくまで副次効果で有用性は少なく、時止めには劣るところですが5部の作中でどう見ても時止めじゃないと納得いかないような行動は大体これで説明できると思って。
結果だけを残すという恐ろしい能力だと思います。……ジョジョベラーでははっきり攻撃できないと書かれていますが、攻撃してるだろ!!!っていうのに対抗はしているつもりです。
いうなれば、スタンド視点ではディアボロ本体がゆっくりと飛んだ時の中動いている状態を眺めていて、操作ができない状態とでもすればいいでしょうか。その瞬間だけスタンドと本体が切り離されているとか。本体がスタンドを操作するのであって、スタンドが本体を操作しているわけじゃないですしね。
あ、攻撃干渉できない状態でも最初に部屋から一瞬で消えるのもこれができたと考えられればできなくはないですね。どれだけ飛ばしたかわからないですが。…あのシーンはDIOがハミパ使ったようにまだ荒木が曖昧だったのでノーカンとして欲しいですね…

337名無しさん:2015/01/30(金) 22:13:52 ID:Rfm0AIZM0
幽香もどちらかというならディアボロ的立場ですね。
ものすごく強いけど究極いなくなってもそれほど影響はない人物・・・
矢を発掘したディアボロが影響薄いというのは変だけども・・・

338セレナード:2015/02/01(日) 23:57:10 ID:uJ8GX2.g0
ディアボロが矢を発掘しなければ、第三部以降は様変わりしていたのでしょうね。
どうなっていたのかは予想がつきませんが、ジョセフがDIOを倒す、なんて展開になるのかも……。
とはいえ、未知の道具の発見者よりも、その使い道を見出した者が称賛されるなんてことはあり得る話ですし。

成程、まるくさんのその考えも否定はできませんね。
そのやり方なら不意打ちにはまさにうってつけでしょう。
乱戦への転用が困難故に、使われなかったというのも納得できますし。

339まるく:2015/02/02(月) 23:33:53 ID:zZvA6djo0
感想ありがとうございますん!

>>337さん
(正直ちょっとよくわかってない顔)
ジョジョで語られる歴史であるジョースターとブランドーの関係において、いても居なくても問題ないということでしょうか?
そういう観点でいえば、まあ確かに大きく関与はしないためいなくても構わないと。そして幽香も幻想郷の発端や歴史についてはほとんど関与はしていないと。
そう言われれば確かにそうとも思えますね。っても、ディオの吸血鬼の発端もそれをいったらカーズですし、スタンドを引き出す矢はディアボロだしと、悪の裏方的立ち位置としてはやっぱり高いと思いますの。
個人的には、ディアボロが矢を発掘したのはある意味必然ともいえるような気もします。スタンド使いは引かれあう、矢も強力なスタンド使いに引き寄せられたのではないかと。ええ、自分は『そのころにはスタンドに目覚めていた』と考えています。
判断材料?ロマンです。
まあ、4部5部共に血脈だけに限った因縁ではなく、外にある邪悪に立ち向かう気高い意志の表れ等を描いた部だと思っているので、やっぱり影響はあると思いますよ。幽香も、離れて彼女らの成長の一部として見守っている当たり、属性は違いますが。

>>セレナードさん
否定はできないというと、別の意見もありそうな?いえ、因縁つけてるわけではなく。
乱暴な言い方をしてしまえば自分の意見は想像の決めつけでしかない部分も十分大きいので、あればいろいろ聞いておきたいなーと思うのですよ。
正直、神子を見て聖徳太子の能力とかを思い出して『人間の平行思考処理の限界』ネタを思いついたのでそれを踏まえての考えもあったからです。
ただ人の意見をそのまま使ってしまってはパクリと同じですからね。インスパイア。

もし矢の発掘が無くても、才能によるスタンドの発現者が世界にはそれなりに居るので三部は変わらないと思うマス。
が、4部5部は確実でしょうね。見た所4部は矢で発現していないのは仗助、くらい…?5部ではパッショーネ入団に矢を使ってるしこれもうわかんねえよ

340名無しさん:2015/02/07(土) 22:54:29 ID:/j2Kerqc0
今更ではありますが、こういうのを見つけました。

ジョジョの疑問スレ まとめwiki
ttp://wikiwiki.jp/jojo2ch/

作者様たちの助けになればいいのですが・・・

341名無しさん:2015/02/11(水) 01:13:14 ID:tRwhUPJc0
たまに見ますね、このWIKIも。
荒木も割と勢いで書いている面ありますから結構矛盾ありますからねー。
このうち70%はそんなつもりで書いてなかったと思っています、正直

342名無しさん:2015/02/14(土) 12:48:22 ID:fkia4ONM0
さだのり日記と言うところにもジョジョと東方の作品が投稿されていますが見ましたか?

343どくたあ☆ちょこら〜た:2015/02/15(日) 15:19:43 ID:sq.pFJ1g0
まるくさん、投稿お疲れ様です!

ディアボロの過去…なるほど、この経験が『産まれた事への憎悪』、更には血縁や性への嫌悪へと繋がっていったと。
母親を虐待するシーンの描写が荒木先生も大好きなサイコホラーめいていて真に迫っています

『自分を含めての時飛ばし』、つい先日別の創作でも見かけました
一昔前まではあのシーンへの解釈は
ナランチャを掴んだ瞬間に時を飛ばし、『時飛ばし』中にナランチャを鉄柵に重ね、再び時が刻み始めて重なった鉄柵がナランチャの肉体を貫いた
というものが一般的でしたが、現在はこちらの解釈が主流なのですね…!終了から十数年経過している作品でも時代が進むにつれ解釈が変化していくというのは、ジョジョというコンテンツが未だ流動的で影響力も健在である証左なのでしょう
ここで質問ですが、飛ばされた時の中ではブチャラティなど他の人間はディアボロの動きに気付き、反撃される危険はあるのでしょうか?『我以外の時間を消し飛ばした』からこその干渉不能の【キング・クリムゾン】ですが、自分も飛ばされた時の中に存在するのなら、その可能性もあるような

『戦って勝ち取る』これまでの人生方針に、『正々堂々と』の文を加えようとするボス。史紀掲載の妖怪に限定されないのだとしたら、選ぶ相手は神子でしょうか。十分な実力者であり、王の器であり、人間サイドなのでルールを決め後腐れなく試合ができる。あとは、まあ、後書きの仄めかしから、そうじゃあないかと…

毎度感想が遅くなってしまい申し訳ありません。良く読み込んだ上で感想を述べようとすると時間が掛かってしまって…
次回も期待しております!

344まるく:2015/02/16(月) 00:04:13 ID:PfyYLWrE0
感想ありがとうございます!

ディアボロは母親へのかなり歪んだ愛情があると思います。虐待の後、埋めて『生かして』おいたのですから。
もちろん原作には何の情報もないため創作ですが、数日苦しめるために生き埋めにしておいたら偶然神父が発見した、というよりは何年も埋めたまま生かしておいたのを発見したというのがまだ自然だと思います。
水だけ与えるとかでなく、喋れないようにした口から栄養などを注いだり、異臭等で感付かれないように身の回りの世話とかもしてあげてたり…とか考えると楽しいです。サイコパスだ。

自分含めの時飛ばし、ジョジョまとめブログやちょうど>>340氏があげられた疑問WIKIにも載っている内容です。
主流…かどうかはわかりませんが、一番は作者である自分が納得できるかどうかだと思っています。ジョジョの作風として、ドラゴンボールや北斗の拳並にその場の勢いで納得させる、あとで大きくならない程度なら矛盾してもよい位の勢いだと思ってるので。
しかし後に画集等で言及が入ったりするので、やはりジョジョというコンテンツは長く,深い。

飛ばされた時の中でディアボロに気付けるかどうかという質問ですが、飛ばす前から気づいていない限りは気づけないと思います。
最初に時飛ばしが行われた時のジョルノたちサイドで、ジョルノがフーゴに水を渡した後彼の膝の上をネコが横切っているというシーンがあります。
飛んでいる間にジョルノが水を渡して腰掛け、その後ネコがジョルノの上を歩く。
ジョルノは『フーゴに水を渡そうとする』まで、ネコは『歩いていく』この点のみが飛ばす前に実行しようとしていたことです。
もし互いに、もしくはどちらかが気付いていたら、それを退ける様な行動が入っているでしょう。しかし、両者が存在に気付いていなかったから時飛ばし中にジョルノはネコを払おうとする動作を挟めず、ネコもジョルノを迂回するという動作を挟めなかった。
ということで、結論は『飛ばす前からディアボロに気付いていない限りは反撃などはできない(起こりにくい)』と考えています。
もし、自動的に反撃するようなもの…テンパランスやホワイトアルバム、半径20mエメラルドスプラッシュでも構いません。そういった物に触れてしまえば反撃は起きるので、その結果から推測はできるでしょうしディアボロもダメージを負う危険があります。
時止めの様に敵が動く前に仕留められるものではないので、そのあたりは弱い点です。多人数にも弱い。

そう、ボスは正々堂々と困難に立ち向かうことを探しています。読み取られていて安心&ウレピーッ
神子ではないですが、あー、神子という手もあったなと感心が鬼なりますね。神子はどこかに入れたいなと思っていますが…
一応あれです、ジョジョに関連した妖怪です。どうせあと10日くらいには投下するし。
ちょっと、出てしまえば「あー、納得」か「またこいつか」みたいに思ってしまうでしょうが、それが彼女たちらしさと言いますか。自分も彼女たちのステレオタイプな印象に勝てなかったということで。

むしろいつも読み込んでいただいてることに感謝します。同人でも忙しいでしょうに…
ご期待ください。

345どくたあ☆ちょこら〜た:2015/02/19(木) 14:12:05 ID:kx.QqYh.0
ディアボロはサイコ、はっきり分かんだね。
画集の言及は全部荒木本人が監修しているわけではなさそうなので、結構いい加減なものだと思っております。【ストレングス】が一般人にも見える理由は後付け的に『物体憑依型』だからとすべきところを、原作そのままに『スタンドパワーの過剰』と説明していたりしますし。

なるほど!あのネコの足跡には自分も引っかかっていたのですが、まるくさんの解釈を聞いて理解『可』能!二次創作から原作の理解を深められるのも醍醐味の一つですね!ありがとうございます
攻防一体型の能力に対しては通常の【キング・クリムゾン】による回避しかない、と。一見無敵に見えて実は対処可能、こういうのそそります

ディアボロの対戦相手、妖怪、ジョジョに関わる妖怪、彼女『たち』…
これだけヒントを戴いているにも関わらず、申し訳ありませんがサッパリです(汗
展開が分からないからこそ次回が余計楽しみになるというもの!期待しております!

346セレナード:2015/02/20(金) 21:50:00 ID:EHO1qiBs0
設定を明確にし過ぎると、後々それが物語の構築を縛ることなどたまにあることですからね。
その設定を伏線にできるのならともかく、そのつもりがないのならばあまり事細かにいわないことも吉だと思います。
結び目は緩くてもきつすぎても困りものですよ。

……成程、まるくさんの解釈をあのトリッシュ誘拐シーンに当てはめると、って既にWikiに書かれていますな。
ちなみに個人的にキンクリ発動中に攻撃を避ける理由は『同じ軌道を通る攻撃への警戒』だと思っていたり。
キンクリの能力が解ける瞬間に攻撃を喰らうわけにはいきませんからね。

347東方魔蓮記第五十三話:2015/02/20(金) 22:56:17 ID:EHO1qiBs0

蓬莱山輝夜と八意永琳。
藤原妹紅とディアボロ。
面白いことに、この場で戦っている者は皆『死ぬ』ことができない者達である。
但し、『全員が不死身である』ということについては誰も気づいていない。
ディアボロは永琳が不死身であることに気づいていないし、輝夜と永琳はディアボロが死ねないことを知らない。

妹紅が弾幕を撃ちだすと、それに応戦するように永琳が弾幕を撃ちだす。
そこを輝夜がディアボロの背後を取った時と同じくらいのスピードで移動し、妹紅に迫ろうとするが……。
「!?」
それと同じぐらいのスピードで、ディアボロが輝夜目掛けて接近してきた。
「(成程、どうにか張り合えそうだな)」
ディアボロはそう思いながらメイド・イン・ヘブンを出す。
彼はメイド・イン・ヘブンの加速能力で輝夜の速さと張り合っているのだ。

輝夜は自分と同じぐらいの速さで迫ってくるディアボロに驚いたが
「(面白いことになってきたわね)」
すぐに不敵な笑みを浮かべる。
「さっきは翻弄されたが、今度はそうはいかない!」
ディアボロはそう言うと、その速さで輝夜に接近する。

今の二人から見て、妹紅と永琳の弾幕は相対的にかなり遅くなっている。
飛び交う弾幕を掻い潜りながら、二人は互いに距離を詰めていく。

輝夜は弾幕を撃ちながら距離を詰めていき、ディアボロはそれを巧みに避けながら距離を詰めていく。
至近距離まで距離を詰めると、ディアボロは逃げられない様にするために輝夜に掴み掛る。
輝夜も同じように掴み掛る。但し、狙いは掴み掛ろうとしているディアボロの手だ。

そして、二人は取っ組み合いとなった。
一見力はディアボロが勝っているように見えるが、ディアボロの浮く原理は『無重力』であるため、力の入れ方次第では容易にその身を一回転させてしまう。
つまり、スタンドを使わなければこの力比べはより上の方にいる輝夜が有利なのだ。

余裕の表情を見せる輝夜と、きつそうな表情をするディアボロ。
両者の取っ組み合いは、輝夜が有利……に見えていた。
しかし、ディアボロにはスタンドがある。
監視ができないために弾幕の巻き添えをくらってしまう可能性が上がるが、確実にこの取っ組み合いに勝利するためにザ・ワールドを出す。
「!?」
自分の指が、何かの手によって強引に動かされている感覚に輝夜は気付いた。
だが、何が自分の指を動かしているのか、彼女には全くわからないのだ。(ちなみに、輝夜の指を動かしているのはウェザー・リポートである)
そして輝夜の指が動いたその隙をついてディアボロは彼女から手を放し、ザ・ワールドの左手で彼女の右腕を掴む。
そのまま間髪を容れずに、なんの躊躇いもなく輝夜の頭を思いっきりザ・ワールドの右手で殴る。
輝夜はその衝撃で地面目掛けて吹っ飛ばされ、弾幕をその身に受けてもなお落下方向は変わることなく落ちていき、地面に激突する。
地面にたたきつけられた輝夜は、その衝撃で大地を少し窪ませた。


ディアボロは警戒しながら、妹紅と永琳の弾幕を避けつつ一旦妹紅の側に戻る。
一方の二人は、『輝夜が地面に叩き付けられている』という事実を認識できたためか、驚きながら輝夜の方を見ている。
それはつまり、輝夜の能力が解けているということだ。
ディアボロもメイド・イン・ヘブンを解除し、深く息を吐く。
「ディアボロ、一体何が……」
「強引にあいつと『同じ土俵』とやらに立っただけだ」
ディアボロは一言そう言いながら、他の二人と同様に輝夜の様子を伺う。
輝夜は起き上がったが、その動きはふらついており、頭からは見事に出血している。
恐らく傷はもう塞がっているだろうが、どうやら頭に強い衝撃を受けたせいでふらついてしまっているようだ。
「姫様、大丈夫ですか!?」
「ええ、一撃もらったけど大丈夫よ……」
永琳は心配して輝夜に駆け寄り、体の様子を見始める。
頭部の流血とふらつきから、頭に強い一撃を受けたことと、それをくらわせたのがディアボロであるという仮説をあっという間に立ててしまう。
流石は月の頭脳、そこんじょそこらの天才などとは比べ物にならない天才である。
輝夜は永琳の肩を借りて姿勢を保っている。流石に効いたらしい。

「成程、流石に何もかも一瞬で治るというわけではなさそうだな」
輝夜の様子を見て理解するディアボロと、彼の実力に内心驚く妹紅。
未だにふらつきが収まらない輝夜と、敵意をディアボロに向ける永琳。
両者の攻撃は一度止んだが、輝夜のふらつきが収まればすぐにまた戦闘が始まるだろう。

348東方魔蓮記第五十三話:2015/02/20(金) 22:57:22 ID:EHO1qiBs0

「(問題はここからだ)」
ディアボロは二人の様子を伺いながら、再びメイド・イン・ヘブンを出す。
「(さっきのあの能力をもう一度使ってくるか、それとも連携してくるか……)」
ディアボロがそう思っていた矢先、ザ・ワールドが一瞬物凄い速さで動く『何か』を捉えた。
視覚共有でそれを知ったディアボロは、とっさにメイド・イン・ヘブンを再び発動させる。
「!!」
輝夜のあのスピードは、ザ・ワールドやスタープラチナでも捉えるのが困難だということは十分考えられた。
だから物凄い速さで動いたものをみた時点で、メイド・イン・ヘブンを発動させることにしていたのだが……。

永琳の動きの一つ一つの速さがそのままだった。
つまり、今度は永琳も彼女の能力を受けている。
そうすることはできるとディアボロは考えていたが、いきなりそうしてくるとは彼にも予想していなかったのだ。

ディアボロは咄嗟に、妹紅の腕をつかんでメイド・イン・ヘブンの影響を受けさせる。
「えっ!?」
一方の妹紅は、気が付くとディアボロが何故か腕を掴んでいることにびっくりする。
「手を離すな!お前だけ『置いていかれる』ぞ!」
妹紅は彼の言葉の意味はわからなかったが、彼の言うことに従って、その手を振りほどこうとはしなかった。
……向こうが振りほどく気を無くしたのはいいことなのだが、このままではディアボロの移動が制限されてしまう。
仕方がないとはいえ、思わぬハンデを背負う戦いとなってしまった。

炎を扱う妹紅と近いながらも一定の距離を保ったまま戦うこととなったため、必然的に氷の攻撃は使えなくなってしまった。
まだディアボロはウェザー・リポートで攻撃することができるが、妹紅の腕を掴んだままである。
もしもディアボロが手を離してしまうと、妹紅はメイド・イン・ヘブンの影響を受けなくなる。
それは『攻撃が全く当たらなくなり』、『回避は全くできず』、『防御もままならず』、『触れなければ連携をとれない』という、最悪の事態になることを意味する。
故に彼女から離れるわけにはいかない。僅かな距離ならメイド・イン・ヘブンに触れさせていれば何とかなるかもしれないが、それも恐らく2mが限界だろう。
「一体何がどうなっているんだ!?」
「輝夜が永琳にも能力を使った」
ディアボロはそう言いながら、再び撃ちだされた輝夜と永琳の弾幕をウェザー・リポートから放たれる雷撃で相殺したり、ザ・ワールドで防御したりする。
「多分、さっきの一撃で二人とも頭に来たんだとは思うが……ッ!」
妹紅も弾幕で援護するものの、こちらの即席コンビとは違い、相手の二人はずっと共に生きてきたため、連携がこちらよりも圧倒的にうまい。
ザ・ワールドで防御されているディアボロと違って妹紅は何発も被弾するが、それでもディアボロは妹紅の腕を離さないように力を入れ続けた。
「(どうする……このままだと押されるぞ!)」
妹紅と一緒に弾幕の猛攻を凌ぎながら、次の手を考えていたその瞬間。

……世界が、唐突に静寂を迎えた。

「(……咲夜が時を止めたか)」
そう思いながら、ディアボロは気を僅かに緩める。
時の止まった世界に、この姫君達が入門できないことはさっき自分の目で確認したからだ。


咲夜はメイドとして紅魔館で暮らしているが、部下として雇っているメイドの妖精はあまり役に立たないことが少なくない。
そのため、彼女自身が動くときが結構多いのだ。
では、いつ休憩しているのか……。適度なタイミングで、こうして時を止めて身を休めているのだ。
かつてナズーリンと戦闘になった時、ディアボロが何もしていないのに時が止まったのも彼女のせいである。
ザ・ワールドやスタープラチナ、メイド・イン・ヘブンを装備していなければディアボロも時の止まった世界を認識できないので、普段の彼の生活に支障はない。
……これらのうちいずれかを装備しているときに、時を止められると結構退屈になるのだが、そこはまあ仕方がない。


動ける時間は咲夜よりも圧倒的に短い上、いつ時が動き出すのか予測できない。
そのわずかなチャンスで、二人の不意を突くことができ、かつ妹紅と一緒に攻撃に転じやすいポイントに移動しなければならない。
幸いにも、こうなると時が止まっている時間はかなり長い。
体を動かさなければ『動くことができる残り時間』は減らないのだから、焦らず考えればいい。

349東方魔蓮記第五十三話:2015/02/20(金) 22:58:05 ID:EHO1qiBs0

「(背後からか、上からか……)」
灰色に染まっている弾幕が視界を妨げるが、動く時間が今は惜しい。
妹紅は掴んでさえいれば一緒に移動できるので、彼女に関してはそれほど心配はしていない。
「(……よし)」
メイド・イン・ヘブンを制御できている今なら、仮に10秒程しか動くことができなくても間に合うかもしれない。
それに、今なら輝夜達がより速く動き出す要素はない。

ディアボロは妹紅の腕を掴んだまま、ザ・ワールドに自分を引っ張らせて進んでいく。
弾幕を掻い潜る余裕はない。ザ・ワールドに弾幕を殴らせて相殺させつつ目的の位置に向かう。
「(ここならやりやすいはずだ)」
無事に動ける時間内に目的の位置に辿り着くと、時が動き出すまでに、これからの作戦を練る。
ただし、彼の能力を充分に使った策でないと、永琳に容易く読まれてしまう。
それはディアボロも理解していた。
故に、彼女の裏をかくにはスタンドという、永琳にとっての『未知』を用いるしかない。

時が動き出し、輝夜と永琳がディアボロと妹紅を見失い、再び二人を見つけ出すほんの一瞬。
瞬きよりも短いかもしれないが、あの二人を出し抜けるのはその瞬間しかない。
幸いにも妹紅は蓬莱人だ。メイド・イン・ヘブンの影響を心配する必要は全くない。
……さながら、シグナルがなく、いつスタートするかもわからないレースでGOサインが出されるのをじっと待ち続けているようなものである。
だが、そのGOサインを見逃さず、サインが出された瞬間に急加速しなければ、あの二人を攻撃するチャンスを生み出せない。




……………そして 時は動き出す。




その瞬間、メイド・イン・ヘブンの影響をディアボロと妹紅に留めつつも、能力を最大限に解放して、できる範囲まで二人を加速する。
「妹紅!輝夜が追い上げるまでに弾幕を撃ち込むぞ!」
「あ、ああ、わかった!」
全く状況が理解できない妹紅を他所に、彼女の腕を引いて距離を詰めながら雷撃を仕掛ける。
妹紅も全く理解ができないながらも、ディアボロの言う通りに従って弾幕を撃ちまくる。
一瞬で二人に届く雷撃ならともかく、妹紅の弾幕は流石に加速に乗ることはできない。
だが、それが逆に弾のスピードの差を生み、回避を困難にする。
そして、今のディアボロと妹紅は、輝夜と永琳よりもかなり速い状態になっている。
向こうがその速さに追いついてくるのは時間の問題だが、この僅かなチャンスの間に怒涛の如き勢いで弾幕を二人に撃ちまくる。
そして、至近距離まで接近した直後に時を止め、ザ・ワールドの一撃を地面に叩き付けるように輝夜と永琳の二人を殴る。
特に時間操作ができる輝夜には、永琳よりも強く殴っておいた。

350東方魔蓮記第五十三話:2015/02/20(金) 22:58:37 ID:EHO1qiBs0
時が動き出し、輝夜と永琳は二人揃って衝撃を受け、二人そろって地面へと落下し始める。
「(この戦い、相手を降参させなければ俺がいるこちらが不利だ)」
メイド・イン・ヘブンの能力は弱めず、落下していく二人の動きを見続ける。
「……!!」
やはりこの戦い、全く気を緩められない。
輝夜と永琳の落下速度が、急に速くなったのをディアボロと妹紅は確認したからだ。
そして輝夜は地面に叩き付けられたが、永琳は体勢を整えて強引に着地する。
落下の衝撃によるダメージを受けて痛そうな表情をするが、そのダメージなど彼女には関係ない。
永琳はただ、落下ダメージを全く計算にいれず、うまく着地してすぐに反撃に転じれるようにしたのである。
そしてすぐに立ち上がりながら弓矢を取り出し、一瞬でディアボロに狙いを定めて彼目掛けて射る。

今のこの状態で、エピタフは全く役に立たない。
輝夜の能力に強引に対抗したせいで、エピタフで見た光景にあっという間に到達するという事態がに陥るのが容易に想像がつくからだ。
それに、時間を消し飛ばしたところで万が一飛ばしたことに気づかれれば、輝夜の能力を用いられて、消し飛ばせる時間を『刹那に終わらさてしまう』可能性がでてくる。
まだキング・クリムゾンはその能力を使うべきではないのだ。

ディアボロ、または彼のスタンドが妹紅の体に触れていなければ、彼女はメイド・イン・ヘブンの恩恵を受けられない。
左右どちらかに避けようとすれば、ディアボロか妹紅のどちらかが矢に命中してしまう。
止むを得ない。ザ・ワールドを使ってでも妹紅を強引に引っ張り、後ろに下がって回避しようとする。
が、その瞬間
「ぐッ!?」
その矢が突然加速し、ディアボロの右肩に刺さった。
その痛みに手を離しそうになるが、飛んできた矢は先ほど輝夜を助ける為に放った一本だけ。何とか堪え切ることはできた。
しかし、エピタフを封じられていたとはいえ、ディアボロが完全に裏をかかれてしまったのである。
「大丈夫!?」
「(しまった……輝夜から意識を逸らしていたのが失敗だったか)」
妹紅の心配をよそに、ディアボロは矢が加速した原因を推測していた。
矢が加速した原因は輝夜の能力。永琳と彼女が放った矢にディアボロと妹紅が気を取られた隙に、今度は輝夜が一気に二人を追い抜く形で『刹那に近づいた』のだ。

ディアボロはザ・ワールドを使って内側から押し出す形で矢を抜きながら、更にメイド・イン・ヘブンで加速して輝夜たちのスピードに追いつこうとする。
その間に、永琳はすぐに輝夜のもとに向かうと、彼女がすぐに起き上がれるように手助けをする。
「ッツ……!」
ディアボロは矢を抜き取るとそれを左手で掴み、無事に矢を抜き取れたことを確認できて妹紅はホッとする。
「大丈夫だ妹紅。これくらいどうということはない」
ディアボロの欠けぬ闘志に永琳は呆れながらも、それさえも楽しんでいそうな姫を見て、彼女はこの争いにもうしばし付き合うことを決めた。


姫とその従者との戦遊戯は始まったばかり。
刹那に近き早さの時の流れを舞台にして、どちらかの闘志が削ぎ落とされるその時まで。
蓬莱人と外来人の武闘は、まだ終わらない。

351セレナード:2015/02/20(金) 23:01:45 ID:EHO1qiBs0
投稿完了です。
優秀すぎる従者と強力な能力を持つ姫君相手に、ディアボロと妹紅はどう立ち向かうのか。
鍵を握るのは、ディアボロの持つ数多のスタンドか、それとも……?

ちなみに、メイド・イン・ヘブンの能力の影響を受けさせたのは、プッチのスタンドがメイド・イン・ヘブンになりかけていたときにおきた現象を参考にしています。
妹紅以外には誰にも試していないけど、彼女が蓬莱人であるおかげで影響を考慮せず使えているのです。
普通の人間に使うと……半分だけ大きくなった赤子みたいになったりして。おー、怖ッ。

352名無しさん:2015/02/22(日) 13:21:21 ID:9u5sNBwo0
舞ジョジョのほうだとエピタフの予知はあくまでディアボロの中の時間による十数秒だからメイドインヘブンの加速の中でも正常に使えるとされていましたが・・・
まぁあの小説はあれですけども・・・

そういえばエピタフの予知能力は絶対に当たるものなのか・・・
トト神の予言も絶対と言いつつ承太郎であればオインゴでも本物でもどちらでもOKと考えると「限りなくその通りになる運命」を見る能力とも考えられますが。
そういう意味ではエピタフの予知も「GERのサソリ飛ばしによって穴があく」をずらしたおかげで穴があいたが軽症で済んだレベルに抑えられるとも解釈できますね・・・
いろいろな解釈できるのもジョジョの面白いところですね!
皆さんの解釈もとても参考になります。特にトリッシュを連れ去ったところ・・・
ナランチャを串刺しにしたりと後半のディアボロの強キャラぶりはしびれますねぇ・・・

353まるく:2015/03/01(日) 00:16:28 ID:7hyTWeVM0
セレナードさん投稿お疲れ様です。

割と文字通り最強の従者と姫君なんだよなぁ…相手も同じくチート性能ですけれども!
たしかにメイドインヘブンの暴走時、時間の変化が無い蓬莱人なら不自然に老化したりせず流れに乗れるかもしれませんね。
あの時の効果を使えるとは。予想外。グレイトフルデッド直触り並の凶悪性能でもありますね、触って時間経過による老化。

咲夜の時止めの度に共有されると、結構ディアボロも退屈な時間を過ごしていることになりますね。時を止めるスタンドはどれも登場頻度高いですし。
一人を過ごしやすい本っていいですね!


>>352さん
個人的にはエピタフは「確定された未来の一部を確実な形で見せる」トト神は「確定された未来とその過程を曖昧な形で見せる」この差だと思っています。
写真による映像と、漫画という媒体でゆっくり見せる、そのあたりの違いで絶対に当たるという点に変わりはないと。(それでもホルホース戦はかなりこじつけだと思ってしまいますが)
解釈は二次の特権!

354まるく:2015/03/01(日) 00:17:37 ID:7hyTWeVM0
そして投稿いたしますね。今日は2月29日なのでセーフです。
明日は2月30日なのでセーフです。

355深紅の協奏曲 ―真実へ向かうための行進曲 4―:2015/03/01(日) 00:18:42 ID:7hyTWeVM0
「足掛かり……? 一体、どういうことだい」

 饅頭をほおばるナズーリンからの当然の質問。深く答える気はないが、それを答えなければ不必要にまとわりつかれるだろう。

「……そうだな、お前は何のために生きる?」
「え、何だって……?」

 ページを繰ると魔法使いの欄に当たる。てっきり人形遣いも道具屋も相当に同じ魔法使いだと思っていたが、種で分けられているというのも驚きだ。

「幻想郷に至る前、私は一国の社会を担う一端だった。……お前の想像通り非合法だがな」
「……だろうね。もしそういうのでなければとてもじゃないが君の立ち振る舞いを想像できない」
「その地位に至るために、またその地位の継続の為に様々なことを行った。お前たちの様な人間……妖怪か。あの尼僧の元に集う者であれば忌避するようなことばかりな」

 目線は縁起に集中しており対面をみないが、それでも相手の琴線に触れ相手の不快な視線はわかる。
 今の言葉を事実と受け止めようが受け止めまいが、不信で動く彼女の燃料を注いでいることは確かだ。

「今その行為が是か非かを問うつもりはない。お前にとっては不快なことであろうとな。私が言いたいことは、人間には生きていくための標が必要であり、そのためならば何をしてもよいという、まあ大雑把に言ってしまえばそういうことだ」

 語るディアボロを、ナズーリンは珈琲に3個目の角砂糖を入れてかき混ぜながら見つめる。

「随分なことを語るな……生きるためなら何をやってもいい、そんなことが許されるなら共同体なんて出来やしない。その標に至ろうとする者、大勢いるだろう。それらの削りあいだ」
「そう、その通りだ。私はその戦いに敗れた。が、今は再起している。ならば再びその舞台に上がれたことを感謝し、その道を駆けるのは道理だろう」
「何を」

 更にナズーリンの声色が冷える。危険因子として見ていた者が、その性惰を表したその瞬間に。
 ディアボロは少し感心をした。先ほどまでは、自分の意思に抗いながらも、恐怖を抑えながらも監視しようとした姿勢から、相手の力量を測ったうえで身を滅ぼしても関与し続けようとする姿勢に。
 彼女の能力を細かくは理解していないが、ネズミを眷属に使っているのは覚えている。……自分の知らぬように広められても困る。

「先ほども言ったが、騒がれるのは性に合わない。自分から騒動を起こすわけではない。最も、その当事者だけで解決できない場合はその限りではないが」
「だから?」
「だから、足掛かりを探しているのだ。強者であり、賢者でもある者を。その者を代理人として、私は己という過去を乗り越えなければならない」

 魔法使いの項目の二人目、その者の所属に目を引く。妖怪の項目にも載っていた武術を使う妖怪と同じ所属であり、両者ともに実力は相応。

「私にとって、ここに今再び自由を受けたことは好機だ。この機を得た上で、のうのうと余生を生きることなど考えられない」
「……ふん、なかなか言うようだね。さっき戦いに敗れたと言っていたけど、それで死んで生き返ったわけではあるまいにそんな風に言うとは」

 蔑み憐れむような少女の言葉を聞き、少しディアボロには硬直が走る。
 彼の言葉を信用していないのは飛ぶ雰囲気から理解できるが、もし実際にそうであったなら、どうすれば信じさせられるだろうか?
 過去の図星を突かれた彼に走った僅かな動揺を、もし注視しているわけでは無かったらナズーリンは見逃していただろう。

356深紅の協奏曲 ―真実へ向かうための行進曲 4―:2015/03/01(日) 00:19:24 ID:7hyTWeVM0
「……? まさか、本当に死んで生き返ったわけじゃあないだろう? どこぞの医者たちではないのだから、身体は一つ、生命は一つだ」
「……そうだな。むしろ、死なない者も居るのか幻想郷は」
「妖怪ではそれなりに居るが、人間でもそれなりに居る。広義の意味なら、聖も不死に近いよ。もっとも、老化による寿命が無い程度で刺されれば死ぬけど」

 刺せればね、と起きつつまた珈琲を一口すする。
 不死でも、長い戦闘の末に力尽きることはあるのだろうか。そういう意味では勝利することはできるが、最も自分よりその弱点について耐性を持つようにするだろう、それは難しいかもしれない。
 ともかく、ページを少し飛ばして言われた者を探してみる。種族の項を飛ばしていくうちに英雄伝と打たれた項から、その存在は載っているようだ。
 博麗の巫女や道具屋の、普通の魔法使い。時を操るメイドに古道具屋の主人。
 その先に載っている三人が、どうやらその不死であるようだ。

「…………」

 偉人伝として評価はされているが、ややも漠然としていてどうにも掴むことができない、といったところだった。
 むしろ、興味を引くのはさっきから目にする所属の一つ。それは、時を操るメイドの所にも記述があった。
 その不死の三人もどうやら同じ、永遠亭の所属のようだが、それより先に気の付いたところを探すために、またページを戻す。
 魔法使い。妖獣。獣人。……そして。

「……、吸血、鬼……」

 そこに書かれていた内容は、外に当たる自分たちの世界でもよく言われている吸血鬼のイメージ。
 人間の血液を食料とし、驚異的な能力を備えるが弱点は多い。その項目の最初の紹介者こそ、今までに気にかかった紅魔館の主。

「…………」

 今更幼い少女だということには驚きを持たないし、嘘っぱちな伝承でも若年の姿でやれ百年だか千年だかと言われている。
 そんなことはどうだっていい。今は重要なのはそこに書かれている内容。
 急速に動いていた手は止まり、そこに食い入るように動かない。新しい玩具が手に入り、その取扱説明書を読んている少年の様な、そんな姿。

「スカーレット姉妹かい? そいつが相手なら、さぞかし楽しめるだろうね」

 少し安堵の色の入った様子でナズーリンが口を開く。問題を起こす対象が、問題の巣窟に向いたことだろう。縁起にも凡そ問題を起こす中核の様にも書かれている。
 それでも、ディアボロはその二人が気にかかった。何より、実在する吸血鬼という存在。
 『それは本当にあの吸血鬼なのだろうか?』
 この一点が、彼の思考を支配していた。

「……ネズミよ」
「ナズーリン、だ。呼ぶならちゃんと呼びたまえ」
「ならばナズーリン。……いや」

 思わず尋ねてしまったが、彼女には自分の質問に答える義理もないしそれをさせる術もない。また、『あれ』について知ってしまえば、また新たな火種になる恐れもある。
 もっとも、この幻想郷に存在するのは幻想に実在する吸血鬼。そして、自分が知っている『実在した吸血鬼』とはまた別の存在なのだろう。そう信じたいだけであって、至る証拠はないが。
 ……対面の少女の怪訝な目が、変わらない内に続きを聞いた方がいいだろう。

「……今、何時だかわかるか?」
「? 昼近くのー、11時ごろだが」

 適当な相槌を交わして、再び本に目を戻す。もし自分の思い描く通りであれば、恐れられた存在の証明であるし、なければないで何も変わらない。
 だが、確かに自らが最も興味を引き、かつ打ち倒すに足る器の持ち主。その者が、ようやく見つかった。

357深紅の協奏曲 ―真実へ向かうための行進曲 4―:2015/03/01(日) 00:19:57 ID:7hyTWeVM0
「レミリア、スカーレット、か」

 記述にはやたら幼さを強調されており、見た目通りの精神構造しかない様にも書かれているが、そもそもの種の特徴として王たる資質の具現と書かれている。
 他の者の記述はまだ詳しく目を通していないが、あの武術の妖怪はまずまずの手練れと書かれていた。時を操るメイドは幻想郷の主たる妖怪の退治屋と並んで書かれていた。妖怪の一角の主に使えるメイド、という点は不可思議だが、それについてはすぐに判明するだろう。

 ディアボロが知っている吸血鬼の『現実』については、多くはない。それを詳しく調べ上げることについては、当時の権力をもってしても探ることは難しかった。
 その力について調べれば必ずスピードワゴン財団の名前が引っかかり、その先に進むことを困難にさせる。
 19世紀に設立され、医学と経済界に大きく発展させた、そして今もなおその方面に高い影響力のあるその財団は、その実スタンドや石仮面に関わる何かを研究している。
 何故彼らがそれについて研究しているのか? そこまではとてもじゃないが突き止めることはできなかった。が、その高い秘匿性も別の角度で見れば掴める物がある。
 二次大戦でナチスドイツが研究していた、石仮面。隠されていたその存在と、それのもたらす効能。もちろんそれを調べ上げるのにも苦労は要ったが、そこまでは調べられたし、そこまで知れれば十分であった。
 人間の未知の可能性を引き出し、超然たる能力を与えること……ナチスドイツが所持していた過去の文献による記述に則れば『吸血鬼』と化すその仮面。
 裏組織を治めるディアボロにとって、もしそれが他所に渡ったら必ず厄介事になるし、自分で持っていてもそれを得ようとした内乱が起きかねない。ましてや、大きなデメリットも存在する仮面の力をおいそれと自らに使用することは論外だった。
 故に、幾人かの幹部にのみそれを伝え、有事のあった際に回収する様に姿勢を整えていた。

「あの吸血鬼をいつか従える必要があると思っていたが、幻想の吸血鬼に先に出会うことになりそうだとはな」

 実際にそれを使用した者がいたかどうかはわからない。だが、それを使ったとしか考えられない体質の持ち主である男に心当たりがある。
 矢を発掘した時、それを買い取った老婆。その後、その資金を元手に立ち上げた組織で行った、その老婆の調査。
 それによると、その老婆はその男に神性を見出し、以降その者に全てを捧げたという。その男は極端な太陽アレルギーを持っていて滅多に表には現れないが、人を惹きつける尊大な何かによって、その他信者を集めていた。
 ……そこまでが、ディアボロの知っている範囲。

「今、何か言ったかい?」
「……特には」

 小さくなってきた饅頭を口に放りながらも、その少女は動こうとしない。こちらから行動を起こすまでは意地でも動かないつもりだろうか。
 今更見られながらでも構わないが、周りはそうは見ていないとはわかっていてもいつまでも幼子に難癖をつけられたような状態でいるのも居心地はよくない。

「ここですよ、ここぉ! 前に言ってた美味しいスイーツのできたカフェ!」
「いや、甘味処って言ったらここともう一か所くらいしかないじゃない」
「細かいことは気にしないでください! おじさーん、霧の湖付近で妖精が適当に育てたけどそれでも形が綺麗なイチゴとか太陽の花の隣側で毒人形と花の大妖が丁寧に育て上げたヨモギなどをふんだんに使ったその甘さは私が初めて食べた小豆大福のような味の各種大福5個入りセット そして幸せが訪れる、2つくださいー!」
「澱みなく諳んじたわね、正直感嘆に値するレベルよ」
「お、早苗ちゃんとアリスちゃんじゃねえか! あいよ、大福セット2つな!」
「おじさん、略さないでくださいよぉ! 雰囲気欠けちゃいます!」

 入り口からは新しい来店者と共に、そぞろに騒がしさが増してくる。
 確かに昼時と言っていたし、それ目当ての来客も幾分か来るだろうか。……もはやカフェの様相を成していない。よろずの憩い場と訂正しよう。
 何かを入れるにしても、頼む金もないしそろそろ好意の域も外れるだろう。この書籍を読むことさえ確保できればいいのだが。

「すまないね、お二人さん。店が混んできたから相席で頼みたいんだけどいいかな?」

358深紅の協奏曲 ―真実へ向かうための行進曲 4―:2015/03/01(日) 00:20:27 ID:7hyTWeVM0
 店主と同じ年くらいの女中が二人の席に声をかけてくる。確かに他に座れる席はなく、店の入り口には席を開くのを待機している組もいくらか見える。

「む……まあ、構わないよ」

 ディアボロに尋ねる前に、ナズーリンが答える。そこに意見は聞く気はない様子だ。ナズーリンからすれば断る理由はないということだろう。
 こちらも、自分にあまりに干渉するわけではないならどうでもいい。

「よかった! お客さん、こちらへどうぞ」
「ふむ、すまないね。……おや」
「げ」

 そこに現れたのはメガネをかけた線の細い男性。その顔を見るなり、先ほどまでとは違う苦々しい顔をナズーリンが浮かべる。
 彼にはドッピオの時には応対している。そして先ほどの偉人伝にもその名前は載っていた。そこを開き、顔を見比べる。

「人の顔を見るなりにそんな顔をするのはやめてくれないか? ……君は?」
「人の物を勝手に商品扱いして吹っかけたくせに何を。聞いた話だと庭師にも同じことをしていたみたいじゃないか」

 霖之助とナズーリンはどうやらあまり相性が良くないらしい。が、以前の彼を省みるにそれほど立ち入ることはしないだろう。
 ナズーリンと相席していることもあって気にはかかるようだが。

「以前に彼女に助けてもらったことがあるだけだ。席が無くたまたま相席している」

 そちらに関心はないと言外に詰め、読書に戻る。

「そうかい、妖怪に助けられるとは災難だったね。僕は霖之助だ。それを読んでいるならそこに載っているからわかるだろうが、まあ古道具を扱っている。外から流れ着いた者も多いから何か興味があれば顔を出してくれ。
 店主、えーっと……霧の湖の……この能書きのやたら長い大福をくれないか」

 想像通り、大したことの無く読書を続けることはできる。

「おや、男性でも甘い物には興味が出てくるものなのかな」
「どうも頭を使う仕事をしているとそういったものが欲しくなる傾向だね。嗜好の問題以前に体が欲するんだ。そこに男も女も関係はないだろう。
 それに、幽香が手にかけた子どもたちが使われているとの話だから、その感想の提出を求められている。彼女にしては珍しいが、乗らなきゃそれはそれで面倒があるからな。文では信用できないらしい」

 捲し立てる様に、というわけではないが開いた口はなかなか止まらない。弁の立つ人物のようだ。……そういえばあの時も入道使いに止められていた記憶がある。
 
「元々大福は腹持ちの良さから男女問わず食べられていたからね。餡や砂糖などを使った甘い物が女性の嗜好品として目立ち始めたのはごく最近さ。
 食に不自由していた昔だからこそ、そういった目的で食されてきたが今では外もここも飢饉で苦しむことなんてほとんど起きえない。大規模な水害や日照りなどもしばらくの間起きてはいないからね、貯蓄しなくても良いというわけではないがそういった傾向はむしろ吉の方向だろう」
「あーはいはい……結構おいしそうだね」


 二人が話している内容も、興味はない。こちらに気に掛けないのであればそれでいい。
 紅い悪魔、その妹。大図書館に華人。人間ながらに妖怪の館のメイドをしている少女。
 読み進めれば進めるほど、興味は尽きない。ここまでの奇人たちを集めた館と、その主。
 そればかりでなく、他の項目の妖怪にも目を通す。かつて目を通した、閻魔や亡霊姫。九尾や天狗。必ずしも全てが載っているわけではないようで、例えば河童の項目には大まかな種の記述はあるが個人の記述は何もない。

359深紅の協奏曲 ―真実へ向かうための行進曲 4―:2015/03/01(日) 00:21:09 ID:7hyTWeVM0

「……どうなんだい、それは。おいしいの、かな」

――これ……すごくおいしいです。生地のお餅もさることながら餡の大粒小豆が噛んでいる、食べているということを度々に協調して……その上でこのイチゴ。敢えて、でしょうねこのイチゴのすっぱさ。甘さの中にさらに甘さを加えてもそれは激流に身を任せているだけ。何も変わりはしない。そのままお口の中を上っ滑りしていくだけでしょう。だけどこれは違う。まるであんこという甘さの流れを逆らうイチゴという鮭のような。いえ、もはや鯉。滝を上りきり龍と化す鯉です。その結果現れる、天を上る龍。コイキング。これ、きっと画竜点睛の故事ですよ。これが元ですよ、きっと……尊い……ほんとこれ尊い……
――早苗は本当においしそうに食べるわね。見てて飽きないわ
――これほどの深い味わいを生み出すハーモニー……これは奇跡です……いえ、そんな生半可なものでは……もはや崇拝しかありません……ここに神殿を建てましょう
――神棚から蹴落とされる神奈子と諏訪子、その代わりに鎮座する大福の姿を想像してから言いなさいね?

「だ、そうだ。悪くないよ」
「う」


 霧の湖と、その湖畔に建つその者達の拠点、紅魔館。危険度の高さが謳われているが、その記述ではほとんどわからない。最も、以前の妖怪たちが住んでいるから危険だろう、ということなのだろうが。
 そこを尋ねるにはその湖を越えなければいけないようだが、それもそれなりの苦労は必要のようであった。
 おもしろい。道のりが平坦では得る物も小さくなる。困難を好むほどのマゾヒストではないが、道程を超えるための、能力だ。


「……頼むべきか、頼まざるべきか……これ以上の無駄遣いは……」
「悪くない出来だったな。素材だけではなさそうだけれど。店主、会計を」

 霖之助が支払いを行おうと、懐から巾着を取り出したときに、小さな何かがともに落ちる。
 それは机の下に転がり、ディアボロの足を小突く。

「……あれ?」

 特に何も言うこともな足元に転がった何かを拾い上げようとするが、それを見た一瞬、時が止まったかのような感覚に襲われる。
 本来であれば、相手に傷をつけるためのその形状。しかし、その本質を知ればそれだけではないということ。

「……何であれがここに? ……もしかして」

 何を思ったのか、あたりをきょろきょろと見回す。それは何か不審な点を探しているように見えるが、すぐにそれは見つからなかったと見える。
 その様子を見ることもなく、ディアボロは足元に転がった、その鏃を拾い上げる。
 ……それは間違いなく、過去に発掘したあの鏃。

「妖精のイタズラかと思ったが……あの三妖精はいないようだね」
「ん、どうかしたのかい」

 二人の声も、すぐには耳に入ってこない。
 あの鏃がどのような経緯で流れていったかはわからない。明確な足取りを掴むことは不可能と判断し、途中で打ち切った。必要もないと思っていた。
 だが、何かの為にと、その外見と気づくものくらいにしか気づかない、小さな傷をつけておいた。……遠い記憶、自分の記憶と一致する。
 まぎれもなく、自身が発掘したあの鏃。

「いや、最近にも同じことがあってね。触ったはずの無い物が自分の近くに出てきたり……すまないね、拾ってもらって」
「…………」
「……? どうか、したのかな?」

360深紅の協奏曲 ―真実へ向かうための行進曲 4―:2015/03/01(日) 00:21:56 ID:7hyTWeVM0
 あの時手にしたような、高揚感は今では感じられない。結局は鏃はゴールドエクスペリエンスを選んだが、その因果が再び自分に選択を迫っている。
 だが、あの時予知が表したような、鏃に拒否される光景が、何となく目に浮かぶ。エピタフによる予知ではなく、自身の感。
 黒く、全ての光を吸い込むような光沢。……今の自分には過ぎた代物に感じてしまう。

「、これは、どこで手に入れた?」
「その矢かい? ……箆の部分が元々ついていたんだが、何故無くなってるのか……まあいい、少し前にあった出来事、外来人の様だけどそれはわかるかな?」
「ああ、知っている。時が考えられないほど素早く過ぎていった、だったか」
「その通り。あの出来事に関しては僕も色々考えられることがあったが、失礼、とにかくその事変の後に拾ってきたものだ。外の物がよく流れ着く場所があるんでね。……それについて、何か知っているのかい?」

 先ほどまでの穏やかな市井の眼から、商人の眼に変わる。縁起によれば見ただけで道具の名前と用途はわかるがその使い方まではわからないといった能力を持っているらしいが。

「……これは、かつて私が手に入れたものだ。古い時代に作られたこれを発掘した。提示することはできないが、これと似たような文様の物を4つ、それぞれに私だけがわかるように目印をつけて売却した。これは、確かにその一つだ」

 取り繕う嘘も今は必要ない。

「商人、お前には用途が見える能力がある、らしいな。どう、見えた?」
「ふむ……僕には『素質を目覚めさせる』程度の力をもたらすように視えたよ。どう使うかはわからないがね」
「そうか。……その用途には間違いはない。これには自分の持つ才能を目覚めさせる力がある。もしもそれが無い場合、死ぬ。リスクのある物だ」

 変に黙っていてもそれは逆に怪しまれる。

「なるほど。矢の形状なのだから、それで相手を傷つける必要があるのかな。ややも魅力的だが野蛮な物だね。神事に弓矢が使われることは多いからその系譜だろうか」
「かもしれないね。そら、君も速くそれを返してあげたらどうだ? さっさと返さないと入らん事を延々と聞かされる羽目になるよ」

 ナズーリンが返却を急かすが、そのための手が、心が揺れる。

「……もしかして、その矢を欲しいのか?」

 その行動から、気づかれてもおかしくはない。

「……その通りだ。最も、今の私には支払う物が無い。これは、お前の店の商品なのだろう」
「確かに、その通りだ。それに、今の話を聞いてしまえばおいそれと売るわけにはいかなくなったね。相手を見極めないと、返り討ちにあって文句を言われても困るからな」
「…………」

 当然の帰結ではある。どうにかする方法を模索する必要がある……

「それを、借り受けることはできるか?」
「貸す?」
「あぁ。そうだな、2日ほどでいい。その間、そこのネズミが私を監視している。これは貸し借りに関係なくそのつもりらしい」
「ネズミ言うな、そして勝手に私を使おうとするな!」

 ややも苦しいが、妥協案。もしこれも断られれば、『今』は諦めるしかないだろう。

「むぅ……参考までに聞きたいんだが、なぜ君はナズーリンに付きまとわられている?」
「私を外来人というだけで危険視扱いしているからだ。そうではないということを伝えるために、周りをうろつかせている」
「その私を徹底的にのけもの扱いするスタイルやめろ」

 霖之助は、顎に手を当てて目を落とし、思案する。

「……いいだろう。命蓮寺なら信頼に置けるし、君が何かしてもそこに請求すればいい。もし悪用するようであれば聖ならば止めるのも容易だろう」
「おい!!」
「君を信頼につなげることにはならないが、商品という点では非常にニッチなものだからね。もし使ったのなら感想を聞かせてほしい。死なない程度にね」
「有難い、善処する」

361まるく:2015/03/01(日) 00:34:50 ID:7hyTWeVM0
以上になりますね。さなアリ、前の約束を果たすの巻。
矢が人を選び、そのものが重力に吸われる様にその手に収まる。それは知ってか知らずか。
鏃に印をつけた、は勝手に作りました。いずれ組織の規模が大きくなった際に再利用するつもりもあったのかもしれません。
結果的には意味もないと思っていたものが、再び帰ってきました。

矢はただ肉体やスタンドに挿すだけでは効果が無く、適切な状況で、適切なものが使うことで初めて、力のその先に至れる。と思ってます。
もしただ挿すだけであったのなら、その程度の事を実験しないはずがないと思います。ディアボロなら、それを行う力の人員も多いですもの。それでも何もなかった結果から一本あれば十分に至ったのではないかと。

次回には、紅魔館に行くと思います…ハンティングに行こう!
吸血鬼などはイタリアの闇に葬られた話として、もしくはナチスの闇話としてどこかで接点がつかめると思います。もちろんSPW財団がそのあたりを押さえているとも思いますけど。
恥知らずのパープルヘイズでも、石仮面について使用方法はわからないものの場所だけは押さえていました。これも、ディアボロの目下で行われていなかったとは思えません。
コカキだけが知っていたかもしれませんけど…まあ、知ってても使わないと思います。DEATHNOTEの月君が死神の眼を欲しがらないのと同じ原理ですね。それでも割と陽の光の元に出て来てないけどディアボロ。ドッピオで崩れてもしょうがないし。

362セレナード:2015/03/01(日) 18:54:42 ID:/8HhGWRI0
ご感想、ありがとうございます。

>まるくさん
本を読めるだけならまだいいんです。
彼よりも咲夜の方が時の止まった世界で長く動けるのは明らかですから、本を読んでいてもいずれ動けなくなります。
そして、くつろいでいるときに時が止まると、スタンドに本を取りに行かせても1、2ページ読むのが限界になってしまうのです。
しかもくつろいでいる場所がベットだと、本を取りに行くのが確実に間に合わなくなってしまうのです……。


そしてこちらもまるくさんの物語にご感想を。

なんのめぐり合わせか、再び矢を見つけるとは。
制約を取り付けて二日間レンタル(?)に成功したが、一体紅魔館で何をするんでしょかね。
レクイエムのようなスタンドの進化体の発現を目的としたものか、或は……。
ふむ、こちらの想像では限界がありますね。
兎に角、次の物語を楽しみにしています。

363どくたあ☆ちょこら〜た:2015/03/05(木) 17:34:56 ID:hUE.h6KA0
セレナードさん、投稿お疲れ様です!
三次元的な移動スピードではなく、時の加速という要素が鍵を握る四次元的戦闘。SFチックで痺れます
やはり蓬莱人相手では通常攻撃は効果が薄く劣勢を強いられていますね。ヘブンズドアーやホワイトスネイクにDISCチェンジする猶予も与えられないと本当に為す術が無い…ッ!

自分の解釈では、【トト神】は【ドラゴンズ・ドリーム】のように「どのような行動を採れば最良の結果が得られるか(従わなければ運命が悪化)」を示してくれるナビゲートスタンド。【エピタフ】は(【キング・クリムゾン】を使わない限り)絶対不変の未来を見せるだけで回避のヒントは自分で探すしかない、本当の意味での未来予知スタンド、だと思ってます。

まるくさん、投稿お疲れ様です!
【矢】との再会、問答無用で「ころしてでも うばいとる」などといった行動を取らなくなっただけでもディアボロの進歩が伺えますねw
紅い帝王vs紅い女王、こいつは滾る滾るッ!
今後の目標としては、紅魔館との対決を通して【矢】に自身の王としての器を認めさせる事でしょうか。しかし、縁起を読んでもディアボロが反応しなかった事から、レクイエムの呪いが継続していた際の『紅い目の少女』は縁起には未掲載ということになりますね。求聞史紀以降の紅い目のキャラは…
他にも【矢】の存在によって東方キャラがスタンドに目覚める展開も考えられ、どう転ぶか分かりませんね。おらワクワクすっぞ!
早苗さんのスイーツ評面白すぎでしょうww 天狗の新聞にコラムを設けよう(提案)
幽香と霖之助、けっこう良い仲なのですね…これは捗る…ふふ…

次回も期待しております!

364まるく:2015/03/05(木) 22:48:00 ID:q3l9CVUs0
感想ありがとうございますー。

もはや、矢自体に意志があるかのような再開劇。これを得てどうしようか。ちょっと書き足しておきます。
ディアボロの最終的にやりたいことは?それを行うために何をしたいか?ちょっとオブラートに包みすぎたと感想を読んだ限り。
真実へ向かうためにって言ってんのにその真実がわからないんじゃしょうがないだろ!

(きっと)最終決戦の相手はスカーレットクイーン。キングクリムゾンの相手にはぴったりだと思います。
彼女を打ち倒したときこそ、彼の成すべき舞台は整うでしょう。力無き思想に勝利はない!

紅い眼の少女、求聞史紀のそれは白黒だから気づくわけないだろー、容姿も似たような奴多いから気づかへんやろー、って思いながら書いていました。
でも、そうですね確かに「あれ、コイツは?」って思う描写があった方がおかしくはないかもしれませんね。そこも加筆しておこう。求聞史紀以降の紅い眼キャラ…小傘かな?(腹パン

早苗さんは前回はブロント語だったので今回は孤独のグルメ。共通点はありませんがネットでよくある少し目につく変わった表現をさせるのにもってこいです彼女。
そしてアリス。いるだけでいい。できる女アリス。
霖之助は割と天然たらし派です。が、彼の魅力は今作では特に明かされないでしょう。え、何?ディアボロ×霖之助?当店そういった物やってないです

皆さま次回もご期待ください。がんばります。

365まるく:2015/03/29(日) 00:20:15 ID:OR4e8Bxk0
作品できましたので投稿いたします。
少し場面転換回になり短めです。うまい切り方がこれくらいなので通常の半分くらいに。

366深紅の協奏曲 ―スカーレットクィーンの迷宮 1―:2015/03/29(日) 00:21:47 ID:OR4e8Bxk0
「一体どういうつもりだ! 私の事をガン無視していろいろ決めて! 私はお前のお守りをするためについているわけじゃあないんだぞ!」
「……ならば好きにすればいいだろう。既にあの男はいないのだから、お前を見張る者も契約を反故しようとそれを見る者も居ない」
「それはそうだが、勝手にとはいえすでに交わされた契約を簡単に破れるか! 私が一番怒っていることは私を勝手に使って話を進めたことだと言っているんだ!」

 霖之助との会話後、自分たちも店を出たが、ディアボロの後ろをついて歩きながら足と口を共に動かすナズーリン。
 彼らとの、自分を利用した勝手な契約に対して腹を立てその事をぼやきながら付いて回る。

「お前がついて周ると言っていたから話も進めやすかったから、こちらとしては非常にありがたかったのだがな」
「だったら一言でも私の話も聞いたらいいだろう。そうすればまだ私はこんなに言うことはなかった!」
「……話に介入させていれば私を監視するつもりはなくなっていたのか? とんだ意志だな……」
「そういう意味じゃない……!! ああいえばこういう……!!」

 そんな彼女をあしらいながらに、里の中を歩く。本人からすれば堪ったものではないと思うが。
 得たい情報は十分に得た。思いがけない僥倖により、力の先へ至る道も手に入った。後はこの行使に至るのみ。
 空を見上げる。
 ややも下りに差し掛かった太陽は、それでも強く輝いて自分を、大地を照らしている。それを遮る雲もなく、夜には月も美しく姿を見せるだろう。
 月齢まで頭に入ってはいないが、さすがにそれはしょうがないだろう。もし望みの月齢が遠すぎるとしても、ああ言った以上吐いた唾は飲み込無つもりはない。

「お前は危険だとは思っているが、そもそもあの悪魔相手に何をしに行くつもりだ? 物見遊山、暇つぶしで行くにはあまり面白い所ではないんだよ?」

 十分、とは言ったが……過去の自分を考えるとそれすらおかしいとも思える。本で名前を知っただけ。パーソナリティはほとんど知らない。戦うとして、対策も敢えて取ろうともせずに。
 それでも。敢えて過去の小心な自分を捨て自分は死なないという妄信を盾に前に進む自分。
 そう考えるのも今更な気分にもなるが、相も変わらずそれはとても滑稽なものだ。

「……なあ、聞いているのかい?」
「聞いてはいるが」

 適当に流している。

367深紅の協奏曲 ―スカーレットクィーンの迷宮 1―:2015/03/29(日) 00:22:17 ID:OR4e8Bxk0



「なあなあ、昨日聞いたんだよ、前に慧音さんがいつもの帽子じゃなくて赤い洗面器を頭に載せてる理由」
「あー? あぁ、そんなことあったなぁ。あれどういう心境だったんだ? 今晩はOKとかのサイン?」
「いや、そういうのじゃなくてだな、実はもっとすごい意味が……」

 里の外、警備をしている若者は昨日の晩とは違い起きてはいるが仲間との会話に興じていてあまりこちらを気に掛けない。
 出る者に対して軽く手を上げて対応するだけだ。本当に、様式的なものなのだろう。
 そんな彼らの傍らを通り、姿が見えなくなったあたりでディアボロは、

「見抜け」

 唱えると、目の前には一人乗れる程度の雲が現れる。

「……やはり、あの少年は君なのだな」
「あぁ。以前には街中で展開したことがあったからな。この辺りまでくれば気づかれることはないだろう」

 その雲に乗ろうとして……足を止める。
 
「おい、霧の湖の方面はあっちでいいのか?」
「ん? ……まあ、そうだが。どうした?」

 方角を聞き、そちらの目的がわかると雲をナズーリンに押し付ける。

「わ、何を」
「これには世話になった。返却しよう。扱い方がわからないからあの尼僧に返しておいてくれ」
「う、わかったわかった、とりあえず君の言葉で反応するからとりあえず仕舞ってくれ。それからだ」

 そう言われてまた同じように唱えて戻す。
 戻った雲は跡形も無くなった。そのあった場所にナズーリンが立ち、ディアボロの手を取ってぶつぶつと小さく囁く。
 特に何か変わった様子はないが、それで終わったかのようだ。

「とりあえずこれで権利は移った。雲山には今度返しておこう。持ち主が移ったことには本人も気付くからね」
「わかった」

 それを聞くと、ディアボロは歩みを進める。
 対してナズーリンは、彼と取った自分の手をまじまじと眺める。

「……何だ?」
「……血の、匂いがする。僅かに、でも確かに染めつづけたからこその匂いだ。でも、ドッピオの身体からはそんな匂いはしなかった。……どういう身体なんだ、どういうことなんだ……?」

 腑に落ちない、といった表情を浮かべる。九尾に蛙と呼ばれていたあの神も似たようなことを言っていたが、それほどのものだろうか。
 確かに、自分とて同じ身、幾度も闇に手を染めた相手を視れば直感的にわかる者はわかるが……人間の感覚とは遠い彼女達にはそう映るものなのだろうか。

「私はそれについて悩んだことはないがな。他が気にしたところでどうにもなるまい」
「……そうかい。…………」

 気に留めず歩く男と、三歩離れた位置から訝しげについていく少女。
 いくらか名前のあるであろう妖怪が後ろについているからとしても、異様なまでに彼らに寄ろうとする者はいない。
 ドッピオの時には頭の弱そうの妖精共が興味本位で寄ってきていたが、ディアボロの姿、その雰囲気に近寄りがたいというのだろうか。

368深紅の協奏曲 ―スカーレットクィーンの迷宮 1―:2015/03/29(日) 00:22:49 ID:OR4e8Bxk0




 5月にもなるというのに、霧の湖と呼ばれるこの地域一帯には確かに肌寒さを感じる。
 天狗から見せてもらった写真にはあの場から這い上がろうとする自分が写っていた。そして湖に浮かぶ氷の姿。
 水面に手を浸してみようと近づけたところで、それをしなくてもわかるほどには冷えた水だというのはわかる。だが、氷ができるほどの冷たさではないようだ。
 ……縁起に載っていたあの氷の妖精とやらの仕業だったというのであろうか。

「……抜けるのなら早い所行った方がいいよ。陸路でチルノに絡まれても楽しくないだろう」

 ナズーリンからも注意を促す言葉が漏れる。好戦的な妖精であれば、確かに地の自分に空から攻め立てる構図になるのも想像に難くない。
 周回するのに1時間ほどだという、大きくもない湖。早めに向かった方がいいだろう。
 それに、時間も頃合いとなってきている。
 現在の視界は光源が乏しいという理由を覗けば良好だ。昼に発生すると言われる霧はなく、自分たちを照らすのは落ちかかった太陽の出す夕焼けの色。
 時刻が過ぎるにつれて視覚外からの舐める様な目線が強くなってくる。それは天狗の山で感じたような値踏みをする目線。

「随分血の気のある者がこの辺りには居るようだな」
「そうだよ。人里から離れたこの紅魔館近辺、人がいなくなってもおかしくはないからね。妖怪の原則は人を襲うこと。特に外来人は『何処からも必要とされていない人間』という印象が強い。だから攫う以上の事を行う輩もこの辺りから増えてくる」

 この目線は、追剥や恐喝を生業とし、最後には殺すことも辞さないような人間たちの飛ばす目線とよく似ている。
 相手を同じ人間とみていない。自分とよく似た獲物だという認識。それと、よく似ている。

「……本質はどこも変わらないということか」
「……そうかな。多様性があるのが人間の本質だと私は思うけど」

 呟いた内容に、ナズーリンは反応する。

「私だってこの妖怪たちの様な、いやもっと自分の利だけに固執した浅ましい人間を見たこともある。それとは逆に清廉潔白な人間も同じほど見た。妖怪にだってそのように善から生まれた者だっている。……あまり一部分だけで決めつけないでほしいね」

 その態度は、昼間の茶屋でみた怒りとはまた違う、理解を求める様な感情だった。
 仏教に関連する者だからこその矜持があり、それを伝えたがるような、そんな感情。
 彼女の言いたいこともわからないでもない。最も、それを取って喰らっていたという過去の事実もある。

「わかってはいる。ただ、自分がそちら側にいる以上闇の方が濃く見える。それだけのことだ」

 歩み続けるその先には、紅い光を漏らす館がおぼろげに見えている。
 落ちる陽の中、明かりに寄ろうとする虫の様にその歩みは速度を増していく。
 自分でも気づいている。このどこかに興奮しているその自身に。

369深紅の協奏曲 ―スカーレットクィーンの迷宮 1―:2015/03/29(日) 00:25:18 ID:OR4e8Bxk0



「ここはとおさん!」
「さん!」

 深紅の館を守るかのように立つ塀と、そこにのみ存在する受け入れ口。
 その門の前には小さな羽の生えた二人の少女がふんぞり返って待ち構えていた。
 ……もう一人、門扉にもたれかかってその二人と、来訪者の二人を見つめる女性が一人。

「…………」
「…………湖じゃなくてここにいたのか、チルノは……」
「さん!」
「よん!」

 ふんぞり返った二人の妖精は言葉を繰り返しこちらを牽制している。が、それはどう見ても子供の遊び。まだ昨夜の眠っていた里の門番の方が仕事ができそうだ。
 奥にいる者が、恐らく本来の門番である紅美鈴であろう。縁起に載っている見た目の特徴と一致する。
 外の妖怪たちの目線と同じく、こちらを値踏みするような鋭い目線を飛ばしているが、ディアボロの事を一通り上から下まで見ると、妖精の片割れ、氷の羽を持つ方に小さく耳打ちをする。

「え? うんうん。おい、男の方は許可が下りた! お前は通っていいぞ! あたいが許す!」
「ゆるされた!」
「…………」

 思わず頭痛が生じそうな、それでいて不可解な展開に頭が重たくなる。
 どういうことか、と顔を上げると美鈴がその様子に気づき、門を開きながら説明する。

「外来人の来訪者よ。よくぞ参りました。主君の命により紅魔館はあなたを歓迎致します」

 ぎ、と鈍い音を立てながら太い鉄製の門は開いていく。
 見た様子では開くための機構はなく、もし人間の力で開けるのならば大の男が2,3は必要な扉を片手で開いていく。
 そんな彼女に倣って二人の妖精ももう片方の門扉に手をかけるが、全く動かず早々に諦めて門の奥に行け、というような指さしのジェスチャーを行っている。

「……私の事を知っているのか?」
「私はお嬢様の命に従うだけ。あなたがどこのだれか、何故お嬢様があなたが来ることを知り迎え入れることを命じたか。
 私は一切の理解はしておりませんが一介の兵としてはそれで十分かと」

 一礼、その礼は客人を迎え入れる様式の礼ではなく拳法の演武の前に行われる開始の礼。さしたる知識はディアボロは持ち得ていないが少なくとも歓待の為に招き入れたのではなくこれから起こる波乱を敢えて受け入れたかのような、そんな印象を与える。
 事実、ここまで気の緩みの様な隙らしい隙は一切見せていない。既に、この場は戦場と本人は考えているかのように。
 門が完全に開ききると、着いてくるようにと促す。その先からは異空間の様な、立ち入ってはいけないと警告するかのような空気が感じられる。
 今までの外もそうだったが、それと同じ空気をより一点に濃縮させたような。そんな妖しさが立ち込めている。
 今なら引くこともできるだろう。どうするか。それを、問いかけているかのよう。

「安心してください。いきなし取って喰えとの命令は受けておりません。それに、私の仕事は正面から来るものを打ち破る事であり後ろから刺すのは流儀に反します。よほどのことをしない限りは手出ししませんよ」
「…………」
「来ることがわかっているというのが不思議でしょうか? 私も同じです。ですが、お嬢様曰くそれが『運命』。その広大な回転の中にある一粒の金を逃したら承知しないと言われましてね」

 答えるまでもない。その魔窟へと、一歩を踏み出していく。


「……まあ、通してもらえるならいいんだろうが……?」
「ちょっとまった、あんたは通していいとはいってないよ!」
「ないよ!」
「…………あ、そう……」

370まるく:2015/03/29(日) 00:28:32 ID:OR4e8Bxk0
以上です。特に言うことも少ないですね…
現在番外編にも手を出してます。繋ぎ回です。
チルノといるのは大ちゃんですね。写真に写っていたのでディアボロも見たことはありますが木っ端なので気に掛けてません。
本貫も目の前ですし。

371どくたあ☆ちょこら〜た:2015/04/03(金) 15:19:33 ID:1n2vCPBo0
まるくさん投稿お疲れ様です!
レミリアはディアボロの来訪を予知していた様子。 ディアボロの目的がレミリアを打倒することなのかどうか、いまいち明確ではないのでどのような展開が訪れるのか分かりませんね。
番外編の準備も進められているようなので、そちらも期待しております!

372セレナード:2015/04/08(水) 01:06:17 ID:Ktbcmgw60
無事完成しました!
というわけで、投稿いたします。

373東方魔蓮記第五十四話:2015/04/08(水) 01:07:17 ID:Ktbcmgw60
輝夜と永琳のコンビと、妹紅とディアボロのコンビの戦いは、刹那に近き時の中で激しく繰り広げられた。
それは第三者から見れば、如何なる動体視力を持ってしても、何が起きているのか理解できなかった。

だが、今は彼女たちの動きは一時的に収まっている。
妹紅とディアボロの側は、ディアボロに刺さった矢を抜くために。
輝夜と永琳の側は、永琳が地面に叩き付けられた輝夜を助ける為に。

「(大丈夫ならいいんだけど……)」
ディアボロが無事に矢を抜けたことに安堵するも、妹紅には一つ心配ごとがあった。
永琳は数多の薬を作ることを得意としている。
そんな彼女が放った矢に、毒でも仕込まれていないかと、気になっていたのだ。

無論、ディアボロもその情報を知らないわけではない。
ただ、彼女が参戦すると想定していなかった以上、彼女の作る薬への対策は行っていなかったのだ。
……だが、彼女が作る薬に対して、ヘブンズ・ドアーやホワイトスネイクの能力を用いても、人類の免疫がどこまで対抗できるかわからない。
結局のところ、やるだけ無駄なのかもしれない。

「(『鼬ごっこ』とはこのことか……!)」
一方のディアボロは、内心では珍しく焦りを見せつつある。
自分も相手も、自分の能力を使って『加速』していき、その競争に終わりが見えないからだ。
プッチが世界を一巡させても彼の肉体は無事だったため、このまま加速していっても問題はないのはわかっている。
今、彼が問題だと思っている点はそこではない。

自分以外を加速に引き込む条件が、自分と相手ではその難易度に差がありすぎることだ。
自分は能力を発動しながら引き込みたい対象に触れていなければならず、触れている箇所が無くなった時点で対象を加速に引き込めなくなる。
輝夜の場合は、単に自分の能力を対象に行使するだけ。

何かしらの理由で妹紅から手を離してしまった場合、その瞬間からディアボロにのみ狙いが絞られるということになる。
そうなれば攻撃を凌ぐのに精いっぱいになって加速が追い付かず、状況を覆すのに更に手の内を晒さなければならなくなる。
この勝負、一見ディアボロと妹紅のコンビが少しだけ不利に見えるが、実際にはディアボロも妹紅も攻撃以外の行動の選択を誤る余裕はないという厳しい戦いなのだ。

374東方魔蓮記第五十四話:2015/04/08(水) 01:07:51 ID:Ktbcmgw60

ほんの僅かな間を挟み、全員が再び行動を開始する。
勿論両方のチームは『加速』を解くどころか、減速すらしていないため、両者は互角のスピードでリスタートする。

輝夜と永琳が攻勢を強めてくる。
妹紅の弾幕がディアボロのメイド・イン・ヘブンの影響を受けることができない以上、二人の攻め方は必然的に

「(ザ・ワールドッ!)」

『相手の隙を作り』、『その隙に距離を詰め』、『接近戦に持ち込む』ことになる。

時を止めて隙を作り出し、輝夜と永琳との距離を詰めながら、ふと、ザ・ワールドに弾幕を殴らせながら横目で妹紅を見てみたが、何の反応もない。
メイド・イン・ヘブンの能力の影響を受けていても、本体でなければ時の止まった世界に入れないのか、初めて見る時の止まった世界に頭の中で混乱しているのか……。
どちらが正解なのかは、今は聞いている余裕などない。
そして、輝夜と永琳の側まで距離を詰めることができたディアボロが次に取った行動は……。


「「!?」」

時が動き出した瞬間、輝夜と永琳は二人とも驚きを隠せなかった。
輝夜はウェザー・リポートに頭を掴まれ、永琳はザ・ワールドに羽交い絞めにされていたからだ。
とはいえ、二人ともスタンドが見えていないため、ディアボロも妹紅も視界に入っているのにどうしてこうなっているのかは理解できていないようだが。
「(ようやく……『隙』を作り出せた。後はどうにかして輝夜の能力を解かせれば……)」
ディアボロがそんなことを思っていたそのとき。
「……?」
……何か変だ。
ディアボロがそう思ったその瞬間、輝夜も永琳も、霞のように姿が消えた。
ディアボロはそれに驚きながらも、ウェザー・リポートとザ・ワールドを戻す。
「しまった!」
ディアボロはその現象が幻覚の類によって引き起こされたものだと気づくが、気づいたころにはもう遅い。
「ディアボロ!」
周囲を見渡していた妹紅が、ディアボロに呼びかけながら彼の手を引っ張る。
それに反応したディアボロが妹紅の方に振り返り、彼女が指さす方を見る。
「チッ……!」
飛んでくるは数多の弾幕。
色とりどりで見ている分には綺麗だが、撃たれる側にはたまったものではない。
ザ・ワールドをもう一度出し、拳のラッシュで弾幕を凌ぐ。
「(幻覚の類まで出来るとは……完全に嵌められたな)」
輝夜はともかく、永琳はザ・ワールドが羽交い絞めにして拘束していたのだ。
高速移動でその場から離れたとは到底思い難い。故に、ディアボロは幻覚をかけられたと結論づけたのだ。
ディアボロと妹紅が幻覚にかけられたのは、恐らくディアボロが永琳の矢を喰らったあの後。
あの時、全員が隙だらけだったそのタイミングで、ディアボロにも、妹紅にも勘付かれぬように術を掛けたのだ。
輝夜の能力に気を取られて影が薄かったが、永琳もまた、油断できない実力の持ち主なのだ。

「(どうする……もう一度時を止めても、向こうにいるのもまた幻覚かもしれん)」
ディアボロはザ・ワールドが時間を稼いでいるうちに、距離を詰めながら思考を巡らせる。
幻覚か本物かは、少なくともディアボロの目視では判別ができない。
ならばスタンドの能力で区別がつくかも知れないが、彼の使えるスタンドの中に、本物か幻覚かを判別できそうなスタンドはあるのだろうか。
「(くそッ……!)」

375東方魔蓮記第五十四話:2015/04/08(水) 01:08:32 ID:Ktbcmgw60
ザ・ワールドを外せば時を止めれなくなり、チャンスを生むことが難しくなる。
メイド・イン・ヘブンを外せば加速できなくなり、その瞬間に容易くやられる。
ウェザー・リポートを外せばまともに当たる攻撃手段が直接攻撃しかなくなってしまい、弾幕への対抗手段が無くなる。
ジャンピン・ジャック・フラッシュを外せば宙に浮いていられなくなり、攻防両面で不利になってしまう。

結局、どのスタンドを変えても不利になるのは変わりない。
それどころか変える余裕すらないし、仮にヘブンズ・ドアーやホワイトスネイクに変えたところで、その能力が彼女たちにどこまで通用するかがわからない。
状況に応じてスタンドを変えて対応できる適応力の高さが彼の強みなのだが、それを封じられてしまったのはきついことである。

ディアボロはもう一度時を止め、状況を再度探る。
『刹那』が絶対に『虚無』になれないように、時の止まった世界に輝夜たちが入ってこれないのは幸いだった。
この僅かな合間が、彼に思考を巡らせる余裕を与えてくれる。
「(妹紅がそばから口を出さなかったことを考えると、彼女にも幻覚は掛けられていたのか?)」
ディアボロは、『妹紅にも幻覚がかけられてた可能性』について考える。
蓬莱人の不老不死は『変化の拒絶』によって成り立つものだが、蓬莱人に『変化を偽装する』手段は通じるのだろうか。
もしも通じないのなら、ディアボロは妹紅の行動についても、幻覚で偽装されていたことになる。
もしも通じるのなら……こちらからもホワイトスネイクで幻覚にかけることができる可能性が出てくる。

「…………」
この瞬間、ディアボロは直感で理解した。あの二人に勝つには、今までのままでは無理だ。
今までの限界を越えなくてはいけない。
「…………」
残り5秒。ディアボロは無言でDISCを入れているケースに手をかけ、一枚のDISCを手に取る。
念の為に、取り出したDISCを確認する。
「…………」
残り4秒。ディアボロは取り出したそのDISCを無言で自身に挿入する。
「………ッ!」
強烈な違和感を感じ始めるが、それを頑張って抑え込む。
幸い、スタンド同士の相性は悪くない。抑え込むのにはあまり苦労しないはずだ。
「ッ………」
深く呼吸をしながら、新たに挿入したホワイトスネイクの能力を使い、二枚のDISCを作り出す。
「(目の前の二人が例え偽者だったとしても……やるしかない!)」
そしてザ・ワールドにそれらを輝夜と永琳の額目掛けて投げさせる。
今の距離ならば十分に時が動き出すまでに二人に届く。

残り0秒。時は動き出す。

「!」
輝夜と永琳はいつの間にか目の前に合ったDISCを避ける。
それを避けるために、ほんの一瞬でも目線は必然的にそっちを向く。
その一瞬に、つけ込む隙があった。
ディアボロはメイド・イン・ヘブンのスタンドパワーを全開にし、できる限り一気に加速する。
身体の負担など知ったことではない。むしろ今全力でやらなければ勝算を見失ってしまう。
「妹紅!一気に突っ込むぞ!」
「あ、ああ!」
どうやら妹紅は状況についていけていないらしく、ディアボロの発言に戸惑いながらも返事をする。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
珍しくディアボロが全力で叫ぶ。
スタンドは闘争心や自己防衛の意思に反応するので、自らの闘争心を高ぶらせる為に叫んでいるようだ。
それはまるで、スタンドの5つ同時制御をなんとしても成功させるという、強い意志を示すかのように。

ディアボロと妹紅が、まるで閃光のような速さで輝夜と永琳に接近し、輝夜と永琳はそれを無数の弾幕で迎え撃つ。
弾幕を掻い潜り、確実に距離を詰めていくものの、輝夜と永琳も後退していている。
無論相手がそうすることはディアボロも理解していた。
だから……
「(ザ・ワールドッ!)」
普段は戦いながら状況を観察できるほど冷静に行動できる彼も、今はただ相手である輝夜と永琳のみに集中していた。
その高揚する戦意が、スタンドの制御にも一役買っている……のかもしれない。

376東方魔蓮記第五十四話:2015/04/08(水) 01:09:17 ID:Ktbcmgw60

時の止まった世界で、自力で動けぬ妹紅を引っ張りながら輝夜と永琳に接近していく。
弾幕は先ほどと同様に、ザ・ワールドに殴らせて排除する。
「………ッ!」
スタンドが暴走しそうになるのを抑えながら、何とか二人の側まで接近することができた。
接近している最中に2枚のDISCを作っておき、今度は外さないように直接額に押し当てる。
そしてそのまま二人の背後に回り込み、時が動き出す。
もしも目の前にいるこの二人が本物ならば、DISCは入っていくのだが……結果は。

DISCが刺さった。
「「!?」」
「(刺さった!)」
二度も幻覚で翻弄しなかったのは、輝夜の遊び心か、はたまた永琳の慢心か、或は手加減か……。
どちらかは判らないが、とにかく輝夜と永琳にDISCが刺さった。
輝夜に差し込んだのは、能力の強制解除と発動を一定時間禁ずる命令DISC。
永琳に差し込んだのは、幻覚の封印と、(万が一を想定して)薬の使用を禁ずる命令DISC。
これでだいぶ戦いやすくなるだろう。

輝夜の能力が強制的に解かれ、輝夜と永琳の動きが、ディアボロと妹紅から見てだいぶゆっくりになる。
「何をしたんだ?」
「輝夜の能力を強制的に解いた。これでお前もだいぶ戦いやすくなるだろう」
ディアボロは妹紅の質問にそう答えると、自身もメイド・イン・ヘブンを解除して、ホワイトスネイクのDISCを自身から抜き取る。
初めて挑戦したスタンド5つ同時装備……。どうやら中々にきつかったようだ。

輝夜は自分に何が起こったのかわからなかったようだが、少したって自分に何が起きたか理解したようだ。
「……成程、私の能力を封じたのね」
「正直なところ、通用するとは思わなかったがな。一縷の希望とやらにもすがってみるものだ」
蓬莱人にホワイトスネイクの命令がどこまで通用するのか、ディアボロには全くわからなかった。
だが、一時的とはいえこうして能力を封じ込めることが出来たことから、全く通用しないわけではないらしい。
「気を抜くな妹紅。勝負はこれからだ」
ディアボロは妹紅に対して注意を促すと、荒れていた呼吸を整えながらホワイトスネイクのDISCをケースに入れる。
輝夜の能力が封じられ、永琳が薬を使用できなくなっている今、ようやく戦況は互角になったといえるだろう。
……恐ろしいことに、あの二人の能力を封じてようやく『互角』だと、ディアボロは推測しているのだ。

「分かっている!」
妹紅はそう言うと、輝夜に向かって弾幕を撃ち始める。
輝夜も当然妹紅に撃ち返すため、二人は弾幕戦を繰り広げることになる。
「姫様!」
「させるか!」
永琳が輝夜を援護しようと妹紅を攻撃するが、ディアボロがメイド・イン・ヘブンを使って妹紅と永琳の間に割って入ると同時に、ザ・ワールドのラッシュで弾幕を殴る。
ディアボロと妹紅では妹紅の方が輝夜と戦い慣れているため、永琳は自分が引き受けたほうがよいと判断したようだ。
「……!」
永琳は少し表情を歪めながらも、輝夜の援護をやめてディアボロと相対する。
「お前の相手は俺だ」
ディアボロはそう言いながら刀を抜き、刃先を永琳に向ける。
「一緒に『踊って』もらおうか?」
そう言って永琳を挑発するディアボロは、わざとらしい不敵な笑みを浮かべていた。
永琳の注意をディアボロ一人に向けさせるためだろうが、果たして永琳はディアボロの狙い通りに動いてくれるのだろうか……。


閃光と炎と雷鳴が入り乱れる戦いはしばし収まった。
悪魔はどうにかして月の姫とその従者の能力を抑えることはできたが、戦いはこれからだ。
一つの戦いが収まった矢先に、二つの戦いが起きようとしている。

一つはかつての因縁がもたらす、地球で生きることを望んだ月の姫と、彼女を追って不老不死になった一人の少女の戦い。
もう一つは、月の姫と共にいることを選択した従者と、賢者によってこの世界に招かれた『異端』の存在の戦い。
この者達が繰り広げる二つの戦いは、一体どのようなものになるのだろうか……。

377セレナード:2015/04/08(水) 01:11:24 ID:Ktbcmgw60
投稿完了です。少し間が空いてしまいましたね。
これからこちらも忙しくなりそうなので投稿間隔はあくかもしれませんが、失踪しないように努めていきたいと思います。

世間では花粉が舞い始める季節ですが、皆さまは大丈夫でしょうか?
私は大丈夫ですが、今後も花粉に悩まされないとは限らないのが心配です。

378まるく:2015/04/15(水) 16:04:38 ID:40zn9w1c0
投稿お疲れ様です!なんか結構感想も間が空いてしまった。
閃光の様な、しかも文字通りなほどのスピードバトル。永遠亭壊れる!壊れる!(外に移っているでしょうけど
プッチ神父の様に止まった時の中でも加速による影響から?かこっそり認識できるような状態になっていなかったのが幸いでしょうか。
それすらもできるほどの姫パワーであったら封印も入らなかったでしょう。永琳も薬以外にも芸達者、幻覚くらいではそんなにマイナスにならないか、それとも幻覚を抑えたからこその悪影響か?
月を隠すのも永琳の幻覚術であったわけですからね。弟子とは違うのだよ弟子とは。

5つ装備も辛い中に使えていますね。ディアボロの進化は止まらない!
これからも期待してます。ゆっくり行きましょう。

379まるく:2015/04/15(水) 22:35:01 ID:40zn9w1c0
番外編を書き終ったので投稿します。
…あれ、月末の本編より長いよ?ゆるして。
予定では月末に本編を普通に投稿する予定です。

380深紅の協奏曲 ―BGM2 三枚の写真―:2015/04/15(水) 22:37:25 ID:40zn9w1c0

「あー、おなかへったー。ねぇ、まだつかないの?」
「この辺りだけど……そもそも捕まってないかなぁ。最近はうろついてるのもレアだし」

 暗闇の森の中を、二人の少女が木の間を縫うように飛んでいる。
 夜の闇、照らす星の明りさえも木々に阻まれほとんど見えていないはずなのにそれを障害とすることなく飛行する。

「久しぶりの人間でしょ? 私が先に見つけたら多めにもらうからね」
「それはいいけど、それでも頭は残しておいてほしいかなー。あの子たちのいい食事兼寝床になるからさ。できればお腹がいいんだけど……」
「お腹はいちばんお肉たっぷりだからダメだよーう」
「だよねぇ……」

 不満そうな顔をして答える金髪の少女、それに対して当然かと苦笑いを浮かべる緑の触覚、緑髪の少女、そんな二人。
 『人間の消える道』とも呼ばれる道の一つ、そんなところを飛ぶ二人の妖怪。

「お墓の周りには外から来る人が多いから狙い目なんだけどねぇ」
「なんだけどねぇ。じゃないよ、そっちはちゃんと探してるの?」
「見えないからあんたに頼ってるんじゃない」

 会話からも、人間の捕食を目的とした、本当にただそれだけの内容。
 人間が家畜を食す自らに何も異議を持たない様に、彼女たちが人間を食す自らに何も異議を持たない。

「……はぁ。私のはあんたと同じくらいにはよく食べる子たちが多いんだから。私の分はなくても問題ないけど、強い蟲になってもらわないと」
「前から思ってたけど、蟲に食べさせてどうするの? 食べるものなら草でも何でもいいじゃん、蟲なんだし」
「蟲だからってなめないでよね。自分より強い者を喰らえば生き物としての位が上がる。より強い妖怪蟲の何かになれるかもしれないってこと。地位向上には強い人間や妖怪を食べさせるのが一番だわ。
 そっちだって、前に里の桃色を食べようとしてとっちめられたじゃない。その時に言われてなかった?」
「忘れた」
「……はぁ。……んん?」

 緑の触覚がぴくぴくと動く。

「対象を発見、10時の方向!」
「おー! どっち?」
「んー、あっち?」
「よーしっ!」

 方角を指さすと、金髪の少女から黒い何かが広がる。
 その黒は辺りを包み、木々を、草を、大地を、夜を闇に染め上げる。

381深紅の協奏曲 ―BGM2 三枚の写真―:2015/04/15(水) 22:38:03 ID:40zn9w1c0
「掴まって! そっちまでまっすぐ進むから。見えなくなってても大丈夫!」
「木には注意してね、ぶっかると痛いよー」
「そんなドジ踏まないよ! 先に行った子たちの後についていけばそんなの平気だもの」

 言うなり、全く恐れずその暗闇の中を飛行する。一寸先の、それこそ自分の身体すらも認識できないほどの闇の中を。
 視覚を完全に遮るその暗闇も、緑髪の少女には何か別の感覚にて辺りの把握を行えているのだろうか。

「あてっ、いてっ、ちょっ、私の事も気に掛けて飛んでよー!」

 そんな彼女に引かれて飛ぶ相方は見えない中の木の枝や葉による擦り傷が増えていく。それは、尚更緑髪の少女の不気味さを醸し出していく。
 構わず進んでいくと、小さな何かがざわめく音と、それを散らそうと恐怖の中取り払う男の声が聞こえる。
 突然の暗闇の中、見えない何かが自分の身体を蝕んでいく、そんな恐怖に喚き散らされる絶叫。

「見つけたッ!!」

 暗闇の中に捉えた被食者が手元に来たことを確信した、闇を放った少女が片割れの手を離してそちらに寄る。
 視認はできないが、男の声がひときわ大きな叫びに変わる。先ほどまでのじわじわとした苦しみから、直下に襲いかかる直接的な暴力。
 辺りに漂う血の匂いが、より一層に強くなる。かなりの出血が、音でわかるほどに。

「うまい! これはまさしく私の好きな人肉の味!」
「ちょっと! 見つけたのは私が先でしょこれー!」

 捕食と共に闇を解き、辺りの状態は一変、夜の森の中に戻る。
 男の下半身には大量の蟲が這い、覆う。脇腹からは血がとめどなく溢れ、赤い肉と臓腑が見え隠れし、その源泉を貪るために蟲たちが入り込んでいく。

「そだ」
「どうしたの? 何でもいいけど、私が見つけたから頭は私のだからね」
「んー、それはしょうがないなー。一口だけちょうだいね」
「もう……で、それなに?」

 金髪の少女が小さな箱を取り出す。

「市松模様の天狗からもらったの。なんか面白い物があったらそれに向けてここを押しなさいって」

 そう言って箱と顔を男に向ける。
 男もそれに気付いてその顔をみる。飛行する人間、鼻から下半分、そして少女の身体に濡れた赤が異端を認識させる。
 脳が身体に信号を送ったその時に、箱から光があふれる。

「わっ?」
「ひえっ」

 突然の光に二人は驚く。それは一瞬の光だったが、それだけだった。

「……終わりかな?」
「わかんないよ」
「んー、まあいいかー」

 言いながら、二人の少女は男の近くに寄る。逃げようにも、下半身は既に骨が露出するほどに喰われ動かすことすらままならない。
 そんな彼に近寄って、一人は満面の笑みを、一人は申し訳なさそうに手を合わせる。

「悪いね。ここはそういう『決まり』なの」
「ありがとうございます、いただきまーす」

382深紅の協奏曲 ―BGM2 三枚の写真―:2015/04/15(水) 22:38:35 ID:40zn9w1c0






「……おや、どうしました? あなたから私に頼みごととは珍しい」
「あら。わかってしまいます?」
「もちろんです。今のあなたほどに余裕の無い顔は今まで見たこともありません。その表情の裏、天敵である私に頭を下げようとする姿勢、普通ではありませんよ。わからない方がおかしいです」
「……閻魔さまは優秀ね。家の式もそこまで考えが及ぶようになるとますます頼もしくなるのだけれど。霊夢とまではいかなくてもいいのだから」
「娘自慢はいいですから。用件は何ですか?」
「閻魔さまに視てもらいたい方がいましてね。正式な手段に則っていないので仕事中に話すとそのまま還してしまいそうなので」
「私用で私を、いや、鏡を借りたいと」
「……だーめ?」
「なんでそこで媚びるんですか、気持ち悪い」
「とある信頼できる情報筋からそういうのも好みと聞きまして。嫌でした?」
「ええ。すっごく。信頼できる情報筋の者、なんというか割と大柄で大きな鎌を持った死神装束で胸の大きいサボり好きな女性じゃありませんでした?」
「さあ、鏡を見れば思い出すかもしれません」
「あなたは鏡に写るんですか?」
「……20歳は過ぎてますので」
「何年前に」

383深紅の協奏曲 ―BGM2 三枚の写真―:2015/04/15(水) 22:39:36 ID:40zn9w1c0
「へへー! みてみて! 大ちゃん見てみて!」
「わー、すごい! 何それ?」

 霧の湖のほとり、小さな二人の妖精が戯れ合う。

「んっとねー、カメだかメラだかそんな名前。文が使ってるのと同じなんだって!」
「へーえ、小さくってかわいいね! てことは、それを使えば新聞が作れるの?」
「うーんと、これで写真を撮るだけだから、新聞はできないけど、新聞のタネにはなるって言ってた」
「じゃあこれを植えれば新聞ができるの?」
「違うよ、これを押すと、わっ!」

 教えてもらった通りにスイッチを押すと、まばゆい光が漏れ、その驚きにカメラを落とす。
 それでもしっかりシャッターは切られており、レンズの下の口からは写真が印刷されて出てくる。

「お、おおお??」
「ほんとだ、チルノちゃん写ってる!」

 適当に押したその時に写っていた、カメラを持っていた妖精の顔が、ブレて、ピントもぼやけているがそれでもはっきりとした色合いで浮かび上がっている。

「どおーだ! これで妖精でも天狗の仲間入りってものよ!」
「すごいね! ねぇチルノちゃん、私も撮ってよ!」

 友人が写っていることに感動した妖精は、目を輝かせて自分も被写体になることを願う。

「もちろん! 大ちゃんもたくさん撮るから、あたいのもたくさん撮ってよね!」

 そう告げると、被写体の妖精は小さく笑みを浮かべて撮影を待つ姿勢に入る。
 撮影者の妖精はにこやかなブイサインと共にシャッターを切った。
 同じようににこやか、少しとられることに恥ずかしがるその顔は、年相応の優しい笑顔だった。
 一瞬の溢れる光に驚き、やや目を瞑るができた写真ではそんな瞑った顔ではない直前の笑顔の写真。

「わ、すごい、でた、あたしだー」
「おー、すげー! 動かなかったら写真も動いてない! ……あれ」

 写真の端に写る異物に目が移る。それは湖から這い上がる人間。

「あれれ? 人魚?」
「え〜っ?」

 そう言って湖の端に目を向けると、確かにその人間はいた。
 霧の湖の水温はやや低い。が、普通に水生生物が生存するには問題ない。
 だがこの氷の妖精が遊び場にしているときには、その影響でどうしても水温が下がる。それこそ、真冬の海の様に。
 ところどころに氷が浮かび上がるその湖面を、懸命に生きのびようともがくその姿。

「よーっし、人魚が凍るかやってみる!! 魚やカエルと同じかどうかやってやる!」

 その意志が成ることは、なかった。

384深紅の協奏曲 ―BGM2 三枚の写真―:2015/04/15(水) 22:40:06 ID:40zn9w1c0





「…………」
「…………」
「……」
「……」
「死にましたね」
「……あの子は……妖精に道理を説くのも間違いなのかと思ってしまいます」
「チルノを他の妖精と同じに見てくれているのね、うれしいわ」
「ですから説教しているのですけどね。はぁ。存外早くあの子を裁くことになるかもしれない」
「お勤め、ご苦労様」
「で、彼が話の男ですか。……なんというか、見ただけで伝わるものがありますね」
「何です?」
「説教したい。更生させたい。悔い改めさせたい」
「お勤め、ご苦労様」
「それに、彼を取り巻く呪縛も気になるわ。これほどの強力な呪い、見たことありません。そして、それは人の負の思いから生まれたものではなく、救いの為に悪を律する生の思い。
 私の観点からすればそれは黒なのですが、その対象者はきっと彼を追放した功績で称えられているでしょうね」
「一目でそこまでわかるなんて、やっぱり閻魔様ってすごいわねぇ」
「あなたがそうやって褒めるの気持ち悪いのでやめてもらえませんか」
「ぐすん」
「うわ……」
「ごめんなさい、さすがにそこまで引かれると辛いです」
「じゃあやめなさい」
「そうさせていただきます。……ところで」
「えぇ。それについては請け負いましょう。あの事変は我々でも手に負える物ではなかった。裁かれる魂が裁きを受ける前に消滅してしまって騒いだ区もあったそうだし」
「お勤め、ご苦労様」

385深紅の協奏曲 ―BGM2 三枚の写真―:2015/04/15(水) 22:40:54 ID:40zn9w1c0
「いいよ! 姉さんすごくいい! そのポーズがすごく『イイ』!!」
「そう!? そうよね!! 輝いてる? ねぇ私輝いてる!?」
「輝いてる輝いてる! すっごく輝いてる! メル姉さん、ここらでそこのボタンも外してみようか!」
「いいえリリカ! ここはそんなすっトロイことをしている場合ではないわ! 全部『脱ぐ』ッ!!」
「うおーい姉さんマジ!? そりゃマジ?? いいのそんなにしちゃって! 麗しいメルランボディーがまっさらだよ! 初雪積る山の様なそのボディー!」
「あぁっ、いい! すごくいいわ! 興奮してきた! リリカ、あなたも脱ぎなさい!」
「え? いやそれはないわ」

 洋館の一部屋、卓の上に少女が一人立ち、その姿を撮影しているもう一人。
 彼女たちの周りにはトランペットやトロンボーン、ホルンなどの金管楽器が宙を舞い、卓上の少女が何か動いたり喋ったりするたびに音を奏でる。
 一見めちゃくちゃな音に聞こえるが、それは妙につながった音にも聞こえ、人間が効いたら否応にも気が周ってくるような、そんな音。

「そんなこと言わないで! 姉さんはリリカと一緒に写真が撮りたいの! 姉妹が揃って仲睦まじく卓上で踊っている姿を記録に残したいのよ!」
「だからといって脱ぐのはないわー」
「そんなことない! これからは暑くもなるのだし姉妹同士で仲睦まじく卓上で踊っている姿が流行になるわ! 次のライブのチラシにするの!」
「ルナ姉にそういうの振って」

 卓上の半裸の姉が、撮影していた妹の体を揺すって訴えかけるが、先ほどまでの高いテンションとは打って変わって完全に冷めた目で対応する。
 先ほどまでのはただの合わせだったのだろうか。しかしもし彼女を知る者がいたらまさしくその通りだというだろう。

「……お茶、置いておくわよ。こぼさないでね」

 黒い衣装に身を包んだもう一人の少女が、戸を少しだけ開けると中にお盆だけを入れて退場した。
 二人になるべく気取られない様に、ということだろうか。

「……まったく。新しいおもちゃを手に入れたからって……二人はまだまだ子供ね」

 そう言いながら黒い衣装の少女は洋館の外に出る。傍らには卓上の少女の周りに浮いていた金管楽器の様に、ヴァイオリンが宙を舞う。
 空いた手にはカメラ。幻想郷の住人である彼女が持つには似つかわしくない、やや大型の機構が付いたポラロイドカメラ。

「……うん、撮るなら人や物事よりこういう自然がいい。人には人の役割がある。妹達ならともかく、私はこれくらいでちょうどいい」

 そう呟きながら、洋館の周りに存在する自然を撮影していく。彼女が出てきた洋館はとてもじゃないが人が住んでいるとは思えないほど荒廃しており、その周りの自然も同じように全く手の入っていない原風景。
 廃洋館自体は珍しいが、その周りの自然は珍しいわけではない。彼女はそんな二つが入り交じった風景が好きだった。
 いつも見られる風景に、いつもは見られないその姿。そんな風景はエンターテイメントを提供する自分たちのようだ。彼女はいつも、そう思っている。
 かしゃり、かしゃり。シャッターを切る度にその風景が切り取られて一枚の絵となって現れる。
 音楽もいいけれど、こういう写真を撮りためて飾るのもいいかもしれない。ああ、同じ場所を季節ごとに違う風景を切り取るのも美しいかな?

「天狗はこういった使い方をしない。いつも目を引くものにだけにしか使わないから。私がこういうものを撮っていることは記事にしてもその先は記事にはしない」

386深紅の協奏曲 ―BGM2 三枚の写真―:2015/04/15(水) 22:41:29 ID:40zn9w1c0
 一枚、また一枚と景色を切り取ってはその写真をアルバムに挟み込む。
 この辺りから少し離れたところを撮ろうか、そう思った時に。

「……?」

 茂みを歩く音。荒い吐息。倒れる様な音。
 中から騒霊らしい音が響きまわる中、そんな音に引き寄せられるには異質な音。

「……誰か、いるの?」

 洋館の影、二人が騒いでいる反対側からその音は聞こえてきた。
 そんな来訪者を訪ね、恐る恐ると覗いてみる。

「……人?」

 見たことの無い人間だった。
 幻想郷の住人にしては、衣装は違う。外来人ではあるだろうけれど、それなら何に怯えているのだろう?
 確かにここは紅魔館の近くでもあるが、それでも自分たちの館の近くにまでくれば人を襲うような妖怪は出てこない。自分たちの音に影響されて人を襲う場合ではなくなるのがほとんどだから。
 何かに襲われてからの来訪だったのだろうか? それにしては傷は一切ない。攻撃された後ではなく、あれほど肌を露出しているのに、草木に擦れた傷すらも。
 そんな、不自然な人と自然の合成に。

「!?」

 突然の光にその人間は驚く。

「……あぁ、すまない。驚くよね。急に撮ってしまって。ちょっと、その姿が素敵で」
「うあ、あぁぁ……!!」
「……え」

 様子がおかしい。
 自分は人喰いの様な容姿はしていないし、見た目にそぐわぬ妖怪も今は多いからそれを警戒しているのだろうか?
 両手を上げてとりあえず襲わないことをアピールしながら、

「お、落ち着いてほしい。別にあなたを取って喰おうとしているわけじゃない。その、えーっと」
「や、やめろ、こ、来ないでくれ……!!」
「そ、そこまで恐れられなければならないのか……少しへこむ」

 表情を曇らせながらも、それでもなんとか距離を縮めようと思うが、男は怯えて下がるのみ。
 どうしようかと困っていたその時。

「あっ」
「えっ」

 突然、穴に落ちた様に姿を消す。慌ててその場所を探るが、穴どころか何もない。

「……スキマ妖怪?」

 幻想郷では名の知れた彼女、こんな芸当ができるのは彼女くらいしか思い当たらない。
 理由はわからないが、彼は、消えた。消されてしまった。

387深紅の協奏曲 ―BGM2 三枚の写真―:2015/04/15(水) 22:42:07 ID:40zn9w1c0





「ふむ……なるほど……これが彼の……」
「なかなかあくどい過去をお持ちね。知らなかったわけじゃないけど改めてみると人間が一番恐ろしいのかもしれない」
「外では恐れられる物が変わってしまった。自然も科学によって統制され災害すらも予期できるようになった」
「あの時にはこれほど人間が早く進歩するとは思ってもいなかった。数々の、人間の戦いが彼らの時代と意識を変えていった。そこに、我々が入る余地はだいぶ少なくなってしまったわ」
「外の流れとこちらの流れはもう完全な別物です。あるがままを受け入れるべきでしょう。それに正当な反発があったからこそ今の彼がいるのでしょうし」
「以前の業はここでは顧みません。彼の成すがままを受け入れたいと思っています。その方がかの事変に近しい状態になるでしょう。それを私は見るつもりです。閻魔様、あなたはどう思います?」
「……私の意見を取り入れるつもりはあるのでしょうかね。それに何かが起きてもあなたの手に負えない事象は起こらないと思います。手元に飼いならしておくわけですから」
「もちろんです。けれど、ここまで手伝ってもらったというのに何も聞かないとあまりにも冷たい女と勘違いされてしまいそうで」
「今更ですねすごく」
「今更ですかすごく」
「私の意見を言うなら、それは反対です。実験のためにわざわざ悪を受け入れ幻想郷をかき乱す。もちろん背後に理由があることを知らないわけではないですが。
 それでも受け入れるのであるならば、私も彼に対していろいろ言いたいことがありますのでそれを考慮してもらえれば」
「構いませんよ。ふふふ」
「すぐには私の力による影響は現れないでしょう。それほどに彼の纏う力は強い。しばらくは彼はここを彷徨うことになるでしょうから、それが終わってからでもいい。私は、彼の異質さを理解させてあげたい」
「彼はここに居着かないかもしれませんよ? それに、何かの折に得る物もないまま往ぬかもしれないというのに」
「それでもです。知ってしまった以上私の性分ですよ。一つの身体に二つの精神を作り、それを意のままに操っていた彼。その中の精神は既に彼の肉体にある存在ではなくただ入っているだけ。寄り添う精神体こそが自らであるということ、それに気付くべきと考えます」
「…………それ、現状にも未来にも必要の無さそうなタネですね」
「でしょうね。ザナドゥのヤマだからではない。一閻魔ではない四季映姫から伝えたいのです。本人の持っていない秘密を知っていることほど気持ち悪い物はないですから」

388深紅の協奏曲 ―BGM2 三枚の写真―:2015/04/15(水) 22:42:41 ID:40zn9w1c0
「……誰?」

「……人? どうしてこんなところに」

「……妖精メイドじゃない。確かに人だわ。咲夜や魔理沙とかと違う……あなた、男の人?」

「初めて見た。でもどうしてこんなところにいるの?」

「どうでもいいか。ねぇねぇ、遊びましょう?」

「……ねぇ、どうして怯えているの? 私しかいないのよ?」

「光がないから? 他に人がいないから? 血の匂いがするから? ……私が吸血鬼だから?」

「恐いの? ふふふふふ、褒めてくれてありがとう」

「それなら、遊びましょう? あなたはあるがままでいいわ。もう底は知れている」

「逃げなくてもいいよ。どうせ死ぬんだから」

「まだ体が壊れる前に、心が認識できる時に言っておくね」

「ありがとう」

389まるく:2015/04/15(水) 23:05:53 ID:40zn9w1c0
以上になります。番外らしく、何も進展しているわけではありません。
ディアボロが幻想郷に流れ着いてから、少しの間レクイエムに悩まされていたころの時間。
映姫様とゆかりん仲よさそうですねこれ。…仲悪いというか紫が一方的に苦手意識を持っているみたいですけれど、原本のそれ見たことないんですよね。入手が難しいので…
社交性の高さは淑女の証。

映姫様が言いたいことは、キングクリムゾンが『スタンドが独り歩きする』『意志を持ったスタンド』の様なものだと思ってください。そして一人歩きするキングクリムゾンこそがディアボロだと。
ディアボロの精神はドッピオと肉体を共存したことでだぶつき、レクイエムに精神を引き離される時も一人だけ自分から行先を選べた点。
コミックスの表現としてはそれしかなかったのでしょうけど、レクイエムによる精神入れ替え時、最後までスタンドと共に本体が描かれなかったこと。
(ブチャラティによるレクイエム完全解除時、入れ替わりのあった全員が元の精神として描かれているときもディアボロの描写はキンクリだけ)
などによる想像です。元々の肉体が一番馴染むからそれを使っているだけで、何らかの精神の失った生きている肉体があればそこに入り込んで支配できるのでは……?と、思った次第から生まれました。
理解をしてもらえればそれでいいですが、すごく関連するわけでもないので適当に覚えておいてくれれば。

390まるく:2015/04/16(木) 18:23:09 ID:4T5HadZU0
追記になりますが、その状態は
レクイエムを受けて、
幻想郷にやってきて、
一巡に巻き込まれて、
その状態に派生したということでコミックスの時からその状態になっていると、と言うわけではないです。荒木もそんなこと考えないでしょうしね。大分突飛だとは思ってます。

391どくたあ☆ちょこら〜た:2015/04/19(日) 13:45:01 ID:gB9PSpGU0
セレナードさん、投稿お疲れ様です!
どこまでが幻術なのか、味方の行動、自分の行動、全て幻覚ではないか?そういった不信と疑念はホワイトスネイク初戦のそれを彷彿とさせますね
より格上の相手との対決を通して、ディアボロも成長を遂げていく。荒木先生は常々「主人公は常にプラス」と仰っていますが、そのジョジョの根底とも言える主義に適った展開で読んでいて気持ちが良い!
能力や薬を封じても、輝夜にはいくつもの宝具が、永琳には超越したスペックと頭脳がまだ残っている。ここからが漸く『互角』、次の話が楽しみです

まるくさん、投稿お疲れ様です!
大チルの写真撮影…メルリリ…!ああ〜^イイっすねぇ〜…
このまま圧迫祭りに発展してしまったり…フフ…
序盤のハイテンションからの、リリカだけ一気に冷え込む急転直下ぶりが、また面白いw
こういうノリも書けるのがまるくさんの強みだと思います!
紅眼金髪の少女はフランで確定のようですね。なぜ最後の言葉が「ありがとう」なのか、この先に待ち受ける再会によって明かされる時が待ち遠しいです
ディアボロの精神というものは存在せず、【キング・クリムゾン】自体がディアボロそのもの…!原作と照らし合わせてみても大変説得力があり、目から鱗です!
以前の過去回想でも、母親を監禁していた時期から既にスタンドを発現していましたが、こういった理由からだったのですね

過去を知ったからこその未来、この先の展開がディモールト(非常に)楽しみです!

392どくたあ☆ちょこら〜た:2015/04/19(日) 16:31:15 ID:gB9PSpGU0
ところで、『荒木飛呂彦の漫画術』発売されましたね
早速読んだのですが、荒木先生が何に着目し何を大事にして漫画を描かれているのか、そして何故そう思うようになったのかを先生の実体験を追ってわかりやすく書かれてあり、非常に為になる名著でした
「主人公は常にプラス、絶対にプラマイゼロで終わってはいけない」
「エピソードがキャラを確立していく」
「ピンチに陥る理由が『主人公の間抜けさ』であってはならない」
といった御言葉など、漫画のみでなく小説や脚本全てに通ずる『王道』の考え方や、
実際のネームから漫画が仕上がっていく過程も掲載されていて、ジョジョファンのみならず創作に携わる人々全てが読んで『正しい道』を教わる事ができます
「この本から『王道』を知り、その上でこの道から外れた道へと勇気を持って踏み出してほしい」
最後を締めくくるこの御言葉がこの本を、読んだ人にとっての『帰る場所への地図』たらしめる、
また荒木先生の溢れんばかりの『漫画への敬意と感謝』を体現する御言葉だと、心で理解できる読後感。
ジョジョへの理解を深め、荒木先生の精神に触れる為にも、是非。

393まるく:2015/04/21(火) 22:14:09 ID:8WIXt/ok0
感想ありがとうございます!

今回はあまり本編では見られない幻想郷の仲良し組をかけました!みんな仲がいいっていいですね!
メルランとリリカは圧迫祭りに持っていこうかと思ったけどあくまで写真撮影が主なのでそれでは写真が撮れない!と思ってあえなく断念。写真が主では無かったら絶対に圧迫していた(スカーレット並の感想
リリカはきっと最初から合わせてただけですね。上手な姉の持ち上げ方っていう著書ができると思います。躁鬱を持つ姉の操り方。

フランちゃんうふふ。

僅かな可能性に肉づけをして実現させるのは二次の特権。妄想に想像を重ねた産物なので反発も生まれるかもしれませんがそれを納得させるほどの理由が生まれればそれだけでも満足に思えます。
意志を持ったスタンドが乗り移って人間を操作する、というのはアヌビス神とチープトリック、毛色は違いますが存在はします。精神憑依に最も適しているのはディアボロの肉体。それとは別に、別の精神に移れば『ディアボロの意志で』キングクリムゾンを操れる。
自分のスタンドなんだから自分の精神で動かせて当然ですが、前者の二人を考えるとそういうのも面白いんじゃないかな?と思って。だんだんややこしくなってきた。
スタンド発現の理由も、そのあたりからの考えです。


おすすめされていたので漫画術を買ってみました。
ただのハウツー本かなーと思ったら確かにハウツー本でしたが、それでもこれを読めばジョジョが書ける!というわけではない、という内容でもありましたね。
「地図を携えて王道を進め」「テーマはぐらつかせない」当たりの考え方も「やはり、なるほど」と納得と自分は間違っていないという確信を持てるようになります。
当然と思えるようなことは当然に書いてあり、売れるため、いや自分が長く描くための術がありました。
ジョジョ1部やそれ以前の荒木の作品は当時の評価ではそれほどいい作品とは言われていませんし、自分も最初は絵からドン引いて読み飛ばしていた性質です。
けれど、いろんな方法で読者の気を惹くように描いていたこと、それに確実にひかれた自分がいたこと。自分が書きたくて書いているからこそ、一貫しているからこそ評価が付随するような。
文章化は苦手です。とにかく、為になるというよりかは楽しめる一冊でした。

394セレナード:2015/04/24(金) 00:55:24 ID:1ia.95HU0
皆さま、ご感想ありがとうございます。
それでは、返事を返していきましょう。

>まるくさん

流石に永遠亭の外で戦っているので、壊れる心配は無用です(笑)
本文中にもありましたが、『刹那は絶対に虚無になれない』は0と1の決定的な差を示すものとして文章に入れました。
だから輝夜はザ・ワールドが作り出す時の止まった世界を認識できなかったのでしょう。
……ですが、原理から考えて、ひょっとするとスタプラが作り出す時の止まった世界なら認識するかも?
今回、ザ・ワールドで時を止めたディアボロは案外ついているのかもしれません。

そして、メイド・イン・ヘブンと輝夜の能力の両方が発動しているときの戦いは、第三者からすれば一体どうなっているのでしょうね。
閃光や炎の飛び交う綺麗なものに、案外なっているのかもしれません。

>ちょこら〜たさん

ホワイトスネイクの幻覚は攻撃されるまで徐倫たちを完璧に欺きましたが、永琳の幻術はそれらを全て上回りますからね。
さらにちょこら〜たさんの言う通り、薬や術を封じてもそれらは彼女の『使える手段の一つ』でしかないので、ようやくこれで互角に戦えると言えるでしょう。
永遠亭編は時系列的には案外過去の方なので、神霊廟編でさりげなく盛り込んだ『5つのスタンドを制御できるようになっている』要素をここに加えさせてもらいました。
ですが、まだ一度試したばかりなので、これから慣れるようにしていって、神霊廟編では妖怪の山から布都との戦いの間まで制御できるようになっているのです。
次回はより激しい戦いを書けるように頑張ります!

395まるく:2015/05/01(金) 21:46:13 ID:ySrGHjTA0
再び完成いたしましたので投下します。……けれど、前回と今回で一話にまとめ上げたかったなという自分の感想。
悔しいですね…いや、遊びかまけてたのが悪いんですけど。
編集ではまとめてしまうかもしれません。

396深紅の協奏曲 ―スカーレットクイーンの迷宮 2―:2015/05/01(金) 21:47:08 ID:ySrGHjTA0
「綺麗でしょう、この庭。私が手入れしているんですよ。さすがに白玉楼の彼女には劣りますけど……あくまで彼女とは専門が違いますからね。私は門番の傍ら庭の手入れ、彼女は庭師の傍ら侵入者の掃除ですから」

 穏やかに語りかけながらよく手入れされた庭を横切る。
 白玉楼で見た物とは大きく様式は違う。あの庭が、あの敷地が和風だったこと。幻想郷自体が日本に存在するということでそれが当然なのだが、この紅魔館の趣向はそんな和とは違う、ディアボロの祖国イタリアを属する欧州の趣。
 故にその様式に美を感じる前にどこかの懐かしさを覚える。もちろん、その剪定技術も並ではないことを感じさせるのだが。

「幻想郷では門番やってても暇が多いですからね。ある程度は門番担当の妖精に任せてこういうことをする時間が取れてしまうんですよ。……まー、それでも侵入しようとするのがいないわけじゃないんですけどね。黒白とか魔理沙とか」

 特に対話を求めてディアボロに話しかけているわけではない。進行も、美鈴が先を行きその後に距離を離して彼がついてきている。
 もちろん話にかまけているだけではない。歩きに油断は見えないし、決して顔を合わせるわけではなく後ろに居ることを認識するために話している。
 隙はない。

「侵入者は普段から丁重にお帰りいただいているし、塀に囲まれているので普段はこの景色を見せることは少ないのですが、少なくない宴のときにここが寂しいのでは主の器量が知れてしまいますからね。
 もっとセンスある方が担当できればいいんですけれども、咲夜さんも多忙だし、私たちのような存在がいるのに人間に肉体労働させるのはなんですからねぇ」

 この広さの庭を重機などを用いずに準備をするのは骨が折れるだろう。その後の剪定でも同じ理由で苦労が見える。白玉楼の庭師の労力もおそらく相当であっただろう。
 そのような会話をしている間に館の扉の前に来る。こちらは門の様な強固な造りには見えず、美鈴もそれを特に力を入れずに開く。

「改めまして。ようこそ、紅魔館へ。主君の命により、館はあなたを歓迎し」
「咲夜ー。どこー?」

 扉を開いたその先、エントランスにかかる両階段。その上をとことこと歩く寝間着姿の幼子。

「これはフランの着物よ! サイズは一緒でもこんなの着れないわ! 洗った後は妖精メイドに任せないであなたがやるように言ったでしょー!」

397深紅の協奏曲 ―スカーレットクイーンの迷宮 2―:2015/05/01(金) 21:47:50 ID:ySrGHjTA0



 ばたん。



「…………」
「…………」

 沈黙のみがそこにあった。
 扉の先の光景も声もやりとりも、閉めきられれば何も見えない。
 それを見せた彼女は、表情を引きつらせ冷や汗をかきながら硬直している。

「……おい」
「はい、なんでしょう」

 声だけは普通だ。気丈を装う精神はあるのだろう。
 もっとも、表情はずっと変わらず『やってしまった』という感情のままだが。

「私の情報が確かならばあれが」

 ディアボロが口を開いたあたりで、扉がひとりでに開く。
 その先には、召使いの衣装に身を包んだ少女が一人。
 開いた先の相手を確認すると恭しく頭をさげる。

「ようこそいらっしゃいました、名も知らぬお客様。ここより先、館内の案内はこの私、十六夜咲夜が務めさせていただきます」

 現れたそのメイドは先ほどの光景では確かにその周りにはいなかったし、あの一瞬でどこか影から現れるということも難しいだろう。
 それをやりおおせるその力、縁起に載っていた時間を操る能力の一部であろうか。

「お嬢様がお呼びです。どうぞ、私の後へ。……館には何が落ちているかはわかりません。道を外れないようにお願いいたします」

 紹介もそこそこに案内を始める。門番とは違い不愉快な感じを与えないようにはしているが、ただ淡々と業務をこなすその姿。
 冷徹な、機械の様な印象のある。咲夜というメイドは、そんな女に見えた。吸血鬼の傍らに居ても何らおかしくないような。

「……」
「……」

 美鈴とは違い、余計な言葉は挟まない。着いてきているかどうかの確認も、後に響く足音で理解しているように見える。
 刺すような無言が、それは敵地に居るという思いを刺激するようだった。
 屋敷は外から見えた箇所もその内装も、目がおかしくなるような紅一色であり、窓から射し込む明かりが一色の濃淡を操作している。
 時折頭を下げる妖精のメイドたちは外で見た妖精たちとは違う、好機で動く子供たちの様な印象はみえない。今は余計なことを言えば仕置きが待ち、それを恐れて頭を下げている、様に見える。
 外でも何を恐れてか妖精たちは自分たちの前に出てこなかったが、それと似ている。恐れる方向が今は違うだけで。

「…………」
「…………」

 屋敷を歩いている内に嫌でも気づく違和感。外観から判断できる以上の広さ。階段を上る距離はそれに合っているが、通らずにいる通路の先は見えないことの方が多い。
 時間を操り空間を弄るとのことだが、眉唾に見えるその力も直面すれば恐ろしい。ディアボロの能力とは違うその汎用さ。
 自分以外の限定的使用を行える目の前の女、それを従える吸血鬼。普通に考えれば、スタンドの存在を知っていてもなお常識外の力を持つ者の巣窟だ。
 ……自然と、歩みにも、拳にも、強張りが入る。
 直接的にではないが、窓から射し込む夕日が日没を示し始める。

398深紅の協奏曲 ―スカーレットクイーンの迷宮 2―:2015/05/01(金) 21:48:20 ID:ySrGHjTA0
「お嬢様、失礼いたします。客人をお連れ致しました」

 その大扉の辺りには窓はなく、燭台に点された蝋燭の炎が揺らめき辺りを照らしている。
 今までの幻想郷の明りは当然それに依る物が多かったのだが、ここはまた趣が違い、生活のための灯というよりは人外の環境、誘蛾のための灯。

「入れ」

 中の返事をこちらが確認すると同時に、扉が開く。中はこちらの光のみが射し込む暗い空間。
 その先僅かながら見える、玉座の間ともいわんばかりの豪奢な部屋。その奥、その間にふさわしい装飾の椅子に座っている幼子。
 こちらが彼女を認識したあたりで、ぼう、ぼう、と部屋の中に明かりが灯る。入り口から、一つ一つ、その奥の主に向かって。

「よく来たな、外来人の来訪者よ。私がこの館の主、レミリア・スカーレットだ」

 わざわざの演出を重ね堂々と名乗るその姿は、その生まれから、その生き様から、相応に振る舞うことが当然である貫禄がある。
 見た目は幼子だが、確かに500の齢を重ねていてもおかしくない、そう思わせる高貴な気風、眼光。

「なるほど、初めて見たが私の想像以上には気骨があるようだ。嬉しいよ。少なくとも、私を見て怖気づいたり侮ったり……心が揺れ動くならば期待外れだったからね」

 呟く主を目の前に、中ほどまで歩みを進めて拝謁の礼をする。これも、幻想郷でなかったら行うことはなかっただろう。

「へえ、礼儀は弁えているんだな。ここの所そういった対応をするような客人は迎え入れてないからねぇ。久しぶりに見た、いい気分だよ。
 ……さて、あえて問おうか。客人よ、お前は何をしにここへ来た?」

 礼を終え頭を上げると、レミリアの傍らに咲夜が移動していた。案内を終え主の傍に立つその姿はメイドというより執事にも近い。
 人間と妖怪、共存のする幻想郷でもとりわけ奇妙な関係だと感じられる。

「お前が来ることはわかっていたけれど、何を目的かはわからなかったからね。調べればそれでわかるんだけど、そんなんじゃ面白くはないだろう?
 娯楽の少ない幻想郷だ。せっかくの楽しみは直接味わうに限るだろう。……で、どうなんだ?」

 レミリアは身を乗り出して訪ねてくる。その根底は、妖精と同じような好奇。
 それでいて、凡その答えとそれに対する返答を準備しているのだろう。そのような余裕も感じられる。

「期待に沿えないようでいて悪いが……」

 だから、始まりは詫びの言葉。

「人は……一生のうちに『浮き沈み』があるものだ。そして、その一時の境遇に対して笑い、泣く。今の私は、その『絶頂』から突き落とされた」

 一瞬に訝しげな表情を浮かべるレミリアの双眸を見つめながら。

「普通ならば死で表現されるその落下は、私の重ねた罪ゆえに永遠に繰り返される死として私を縛りつづけた。最底辺を延々と芋虫の様に這いつくばり踏み躙られる、そんな呪縛。
 その折に、何の興味か因果か私を拾い上げる者が居た。幻想郷の者なら誰でも知っていると聞いている。ユカリなるものに」

「その者に踊らされていようが、なんであろうが、私をこの地に救い上げたことは事実。聞いた話によればこの世界で私たち外の者がここに現れることは少ないことではないと。そして、その者達が元の世界に戻ることも可能だと。
 例外はあるだろう。自分がそれに必ず合うとは思っていない。それでも、その一縷の希望にかけて」

「私には野望がある。再び『絶頂』に至るために、今までに立ち会った中での最大の障害であったあの男を超えるために。
 人間には必ず立ち向かわなければならない『試練』がある。試練は必ず戦いが起こり、その質は『生贄』の流される血で決まる」
「…………」

「試練は、あの男に打ち勝つために重ねられる。恐怖を砕き、己の過去を乗り越えるために。その試金石として」
「もういい」

399深紅の協奏曲 ―スカーレットクイーンの迷宮 2―:2015/05/01(金) 21:48:54 ID:ySrGHjTA0

 語っていたディアボロに、興味を失ったかの表情を浮かべてレミリアが口を挟む。

「つまるところ、唯の力試し程度なのだろう? 私も見縊られたものだ……それとも、あまりに現実離れしたこの地に馴染み、私たちのような妖怪に対する認識がぐらついているのか……
 どちらにしろ、面白い来客だと思っていたのにその程度とは。……興醒めだよ」

 レミリアが手の叩き、乾いた音が響く。それと同時に、ディアボロの右手が何者かに掴まれる。
 取った相手は、着いてきていなかったはずの門番。「残念ですが」と、彼女の唇から小声で紡がれる。

「美鈴、そいつはもうここに用はないみたいだ。丁重に送ってあげて」

 ぐいと手を引かれ、退室を促される。
 当然だ。自分より格下の者に、同じ人間同士の戦いのための踏み台になれと言われているのだ。……吸血鬼でなくても、怒りにも呆れにもとられるだろう。
 しかし、だからとてそこを偽るつもりはない。こちらの真意を伝えたうえで、向かってもらわねば、到底奴に太刀打ちできるとは思えない。
 あの敗北が、レクイエムの呪縛が、自分の中のジョルノを大きくしているのだろうとはわかっている。が、それほどの相手だと、今までの自分の積み上げた物を一瞬で崩したあの男が、目の前の吸血鬼に比類しないとは思えない。

「、っ」

 引かれる手を弾き、自らの意志を再度示す。

「……何のつもりだ?」
「今言ったとおりだ。これから起こる出来事は、私にとっての岐路となる。己の野望を燻らしたままに生きていくことは有り得ない。
 もしこのまま元の世界に戻ったとしても、幻想郷で過ごしていくとしても、過去を忘れて生きていくことなど、私にはできはしない」

 先ほどの射るような目線に返すがごとくレミリアを睨み返す。
 強大な相手への宣戦布告。それでも、あの女狐に相対した時の様な恐怖感を、少なくともこの時は感じない。

「……お嬢様?」

 美鈴が問う。発したのはその一言だけだが、その意味合いは今は一つ。

「変わらないよ。丁重に送り出してやりな」

 その言葉が発せられた瞬間に、ディアボロと美鈴の間に火花が散る。
 一瞬の目線のやり取りは、美鈴に下がらせることを選択させた。

「、っとぉ。……頂けませんね、その顔は。少々痛い目を見ることになりますが……よろしいのですね?」
「……」
「二言は無いということですか。……?」

 レミリアの眼前の広間にて対峙する。
 肩幅よりやや広めに足を開き構える美鈴に対して、何をするわけでもなくただ歩いて距離を詰めるディアボロ。
 どう見ても、美鈴と渡り合えるようには見えない振る舞い。少なくとも、道としての武の研鑽を積んでいるようには見えず、人間と比べれば対なきほどの経験を重ねた彼女には太刀打ちできそうもない、印象。

「…………」

400深紅の協奏曲 ―スカーレットクイーンの迷宮 2―:2015/05/01(金) 21:49:48 ID:ySrGHjTA0
 そんな彼女の意を介すことなく、詰め寄る彼の姿に美鈴は防御の選択肢を取る。
 あそこまでの大口を叩くほどの実力が、策が、彼にはあるのだろう。その自信を打ち砕くには先じて潰すより受けて潰す方がいい。
 もしも当たれば勝てた、などという思いあがりを潰すために。
 ……詰め寄る流れは、ディアボロが易々と美鈴の間合いに侵入する形となる。
 一足で詰め寄れる間合いとしては人間の達人より広く、無防備に侵入してきた彼を討ち取るにはすでに十分の距離。
 それを敢えて受けるために、神経を、精神を集中させる。

 ……さあ、来い。その牙を我が身体に打ちて見ろ。

 美鈴が念じた一瞬、ディアボロが強く踏み込み、両腕を突き出す。
 矛先は顔面、人中。そこを狙う右腕と、それを守る左腕。
 正確に急所を狙う技術と度胸は及第点だ。だが、やはり自分を相手するには無謀すぎる。
 わざとそのまま受けて効かないことを見せつけようか。何が来ても問題ない様、全身に『気』を集中させたその時。

「 ッッ!!!!!」

 レミリアが目を見開く。咲夜が息を飲む。辺り一面に、遅れて打音が響く。
 強い衝撃を受けた美鈴の身体は、その慣性のままに飛び、落ちる。
 誰もが見切れなかったその一撃、それは彼の精神像による見えざる一撃。ややも仰角気味に美鈴の腹部を撃った一撃は、彼女の踏ん張りを振り切り肉体を空へ打ち上げる。
 勢い、受け身を取れないほどではないが、

「がっ、ほっ、」

 着地と同時に喉奥からせり上がる血と液を吐き出す。やや青ざめるほどの、腹部にかけた彼女の皮膚。
 まるで、厚いゴムに包まれた鉄板を殴っているような感覚だ。
 それが彼の感覚。

「……なるほど、最前線に率先するほどの実力を十分に持っているのだな」
「へっ、当然ですよ。やや予想以上でしたが何も問題はありません」

 一撃後の処理を終え、再び立ち会う。
 ディアボロに寄り添うスタンド、キングクリムゾンは確かな意志を持ち彼女を見据えていた。

401まるく:2015/05/01(金) 21:55:03 ID:ySrGHjTA0
以上になります。
これから戦いですが、他の方々の作品をみながら参考に進めていこうと思います。
あんまり戦闘描写ないですからね自分の作品。

正当性を持った戦いは互いを向上させる。ちょっと意味は違うけど誰か・ROが言った言葉。
もっともディアボロ自体が卑怯じみた特技をお持ちですけど。

402セレナード:2015/05/05(火) 10:52:24 ID:utyl322Y0
まるくさん、投稿お疲れ様です。

スタンドと本体の同時攻撃はこちらでもやっている手段ですが、やはりスタンドが見えない者には脅威の手段ですね。
トリックを見ぬけても、見えない攻撃に対処できない以上、不意打ちされなければ有効な攻撃手段になります。

あとレミリア……本性がばれていないとでも思っているんでしょうかね。
戦いになった時にそこを突かれると少しは動揺しちゃうかも……!?
まあ、取り繕って何ともないやもしれませんが。

美鈴が庭の手入れを行えるとは……咲夜にでも教わったのでしょうかね。
居眠りしてしまっていることがあるという印象がある以上、これは中々に斬新です。

403セレナード:2015/05/05(火) 10:54:38 ID:utyl322Y0
では、こちらも最新話の投稿と参りましょうか。
東方魔蓮記、始まります!

404東方魔蓮記第五十五話:2015/05/05(火) 10:55:17 ID:utyl322Y0
色とりどりの弾幕やらなんやらが飛び交うのを他所に、ディアボロと永琳はにらみ合いを続けている。

永琳は自らの眼前に立ちはだかる男を突破する手段を考えていた。

姫の能力についていけるのならば、彼の隙をついて突破し、姫の援護に向かうことは非常に困難。
仮に先ほどのように幻覚で欺けても、彼の幻覚が解けた瞬間に再び刹那の如き素早さで再び距離を詰められてしまう可能性がある。
さらに、姫の能力は彼の手によって封じられてしまっている。
この状況であの男がもう一度あの能力を発動すれば、対抗手段を失った今、簡単にやられてしまう。

だが、姫の能力が解けた後に彼は追撃せず、もう一度あの能力が発動する様子はない。
あの能力が体に負担をかけるのか、それとも発動していられる時間に限りがあるのかはわからない。
それにもう一つ、気になることがある。
戦闘の最中に、一瞬で状況が変化していることが度々あった。
あの二人の位置が変わっているだけでなく、弾幕の数が減っていたり、攻撃されていないはずなのにダメージを受けていたり……。
まるで、静止した時の中を自由に動けないと引き起こせないような現象が起きている。
もしもあの男が時を止められるのなら、姫に劣るはずのあの能力を用いて張り合えていたのも納得できる。

……ならばせめて、私一人を相手にさせて彼を疲弊させた方がいい。
姫がいる以上全力は出せないけど、彼の足止めは十分にできるはず。

永琳はそう考え、彼と闘うことを選択した。


一方のディアボロは、とにかく彼女の行動を妨害することを考えていた。

今取れる選択肢は時間停止に加速、それに無重力化に気象操作。
……先ほどの一時的な限界突破と長時間のスタンド能力発動で精神が消耗してきているが、まだスタンドを出すことはできる。
彼女がどんな戦い方をしてくるのかは分からないが、まだまだ懐には数多の選択肢が潜んでいる。
薬の使用も封じた以上、毒を使われる可能性もない。
いくら精神が強くても、肉体は所詮人間。毒を使われれば、衰弱も麻痺も容易く起こされる。
それの可能性を封じれた今なら、充分に勝機はある。
妹紅も、能力を封じた輝夜と1対1ならまともに戦えるだろう。

ディアボロはそう考え、永琳と輝夜の合流を阻止すべく、永琳との戦闘を行うことを選択した。

405東方魔蓮記第五十五話:2015/05/05(火) 10:56:08 ID:utyl322Y0
……しばしの睨みあいの後、先に動いたのは永琳だった。
数多の弾幕を撃ちながら、その中に数本の矢を織り交ぜてくる。
しかしディアボロも、ザ・ワールドの視覚によって矢と弾幕の区別をつけることはできる。
あくまで牽制にすぎない弾幕は巧みに回避し、飛んできた矢は刀で弾く。
そうして距離を詰めていくと、永琳は宙に浮いて再度距離を取ろうとする。
先ほどまでの戦いを経て、永琳はどうやら、近接戦闘に持ち込んではいけないと判断したようだ。
だがディアボロも、ただ距離を離すのを許すわけではない。
ウェザー・リポートとメイド・イン・ヘブンを使い、永琳の周囲に一瞬で無数の雷雲を展開する。
その雷雲は永琳の移動を妨げると同時に、彼女への攻撃にも活かせるのだ。

無数の雷雲に邪魔され、永琳は思うように移動できない。
迂闊に触れれば、雷雲に込められた電気が一気に体を駆け巡るからだ。
その威力は、地に放たれていないだけで雷と何ら変わらない。
いくら蓬莱人でも、そんな者を喰らえばたまったものではないだろう。
さらに、触れておらずともディアボロの干渉一つで雷雲から雷が放たれる。
光速で放たれる雷を回避するのは、少なくとも永琳一人ではとても困難だ。
事前にタイミングと軌道を予測できれば避けられるかもしれないが、それも永琳の視界に入っている雲への対策でしかない。

ディアボロが永琳をより強く睨んだ瞬間、雷雲から一斉に雷が放たれる。
国士無双を含めた全ての薬の使用を封じられてしまっている以上、いくら頭脳が回避方法を確立していたとしても、肉体の移動が間に合わない。
術を用いようとしてもそれが成功するよりも早くディアボロは攻撃することができる。
そのため、永琳は止むを得ず、術を用いて雷を防御することにした。
一応、防御しながら動くことはできるため、袋叩きにされるわけではない。
……が、この雷雲はあくまでウェザー・リポートが自然から生み出した現象。
発生させるのに消耗するわけでもなく、維持するのにも苦労はしない。
おまけに、ウェザー・リポートが操れるのは雷だけではない。

「(身を守る術を使ってきたか……なら)」
ディアボロは刀を鞘に納めながらウェザー・リポートを操作し、冷気を周囲に集め出す。
冷気を操ることに特化したホルス神には少し劣るが、それでも攻撃手段として用いるには充分である。

ディアボロの周囲に集いし冷気は、空気中の水分を凍らせ、一つの形を作り上げる。
……少々短めの『槍』だ。それも一本や二本ではない。大量にある。
「!?」
永琳はその氷槍を見て、次にディアボロが何をしてくるのか一瞬で推測ができた。
が、対策を取る前に無情にも時が止まる。
「(恐らく、永琳は俺が次に何をしてくるか推測出来ているはず……)」
ディアボロは、永琳が自分の次の手を呼んでいることを予感しつつも、その読まれているであろう次の手を打つ。
仮に次の手が永琳の読み通りだとしても、これで術を破ることができれば上々の成果である。

406東方魔蓮記第五十五話:2015/05/05(火) 10:57:25 ID:utyl322Y0
時が動き出すと同時に、氷の槍に周囲を取り囲まれていることに永琳は気付く。
そしてそれと同時に、氷の槍が一斉に永琳に迫りくる。
が、永琳の術はそれしきでは破れない。氷の槍は全て永琳の術を破ることは敵わなかった。
術を破られずに弾き落とされた氷の槍が地面に落下していく中で、ディアボロは次の手を時の止まっている最中に思いついていた。

DIOをして『最も『弱い』。だが手に余る』と評されたスタンドがある。
名はサバイバー。そのスタンドに戦闘能力はない。では、何が『手に余る』のか?

その能力は『周囲の生物を怒らせ、凶暴かつ好戦的にする』というもの。
恐ろしいことに、制御しなければ無差別にこの能力は広まり、自らの周囲で殺し合いが始まってしまう。
組織の内部崩壊など容易く引き起こせてしまう、とても厄介なスタンドだ。


つまり、永琳をサバイバーによってより怒らせることで、策を用いられる可能性を抑え、あわよくば同士討ちも狙える。
しかし、サバイバーの効果を発動するためには、まずは彼女を怒らせなければならない。
彼の作戦を成功させるためにも、まずは永琳の身を守っている術をどうにかしなくてはいけない。
……だが、メイド・イン・ヘブンを警戒している永琳が、攻撃を止めたりする程度で術を解くとは思えない。
強引にぶち破るか、永琳を油断させて術を解かせないと、ディアボロの作戦はうまくいかないだろう。

作戦の実行を決意したディアボロは、ウェザー・リポートを使って雷雲を全て霧散させる。
そして、ディアボロはケースから二枚のDISCを取り出すと、一枚を装備していたウェザー・リポートと入れ替える。

入れ替えたDISCの正体はザ・ハンド。
その能力は、『右手で掴んだ物質やスタンド、空間等を、それが例え何であろうと削り取る』。
防御が全く役に立たない、うまく使いこなせれば強力なスタンドだ。
このスタンドならば、永琳の術を容易く『削り取る』ことができる。

もう一枚のDISCはサバイバー。どうやら、先ほどの作戦を実行するようだ。
……こうして再び5枚装備となった今、ディアボロの精神力の消費ペースが再び上がっていく。
だが、これは試練だ。今までの限界という、『過去に打ち勝つ』為の試練なのだ。

永琳は、ディアボロが雷雲を全て霧散させたことを不審に思いながらも、自らの身を守るための術を解くことはせず、攻撃も止めない。
術を解けば、その瞬間にディアボロがメイド・イン・ヘブンを発動し、自分は呆気なくやられると分かっているからである。
そこでディアボロは、刀を鞘に納め、自ら距離を詰めるためにジャンピン・ジャック・フラッシュを発動する。
その直後にメイド・イン・ヘブンも発動し、一気に至近距離まで永琳との距離を詰める。
が、永琳がこの事態を想定していないわけがない。
絶対にディアボロを振り切れないのが分かっていた永琳は、術を一気に強め、彼の攻撃を凌ぎ切ろうとする。
だが……

407東方魔蓮記第五十五話:2015/05/05(火) 10:58:45 ID:utyl322Y0
ディアボロは、メイド・イン・ヘブンを解くと同時にザ・ハンドを出すと、その右手を永琳目掛けて振り下ろす。
そして、ザ・ハンドの右手が永琳の術に触れた瞬間、その術は紙が破れるかの如く『削られる』。
「な……!?」
如何やら、この展開は永琳には予想外だったようで、驚きを隠せずにいた。
しかし、『次にどうするべきか』は一瞬で答えを導き出せたようで、咄嗟に後ろに下がろうとする。
それにより、ザ・ハンドの右手が永琳に直撃する事態は免れた。
だが、彼女の術は削り取られ、人一人が頑張れば通るに足る隙間ができてしまう。
さらに、ザ・ハンドの射程範囲から外れた直後にザ・ワールドによって時が止まり、致命的な隙が永琳に生じてしまう。

時の止まっている今のうちに、ザ・ワールドが隙間から永琳を引きずり出す。
ザ・ハンドによって削られて生じた隙間は、人一人が頑張れば十分に通れる広さとなっていたのだ。
そして、ザ・ワールドがディアボロの側まで永琳を運んでくるうちに、ザ・ハンドとホワイトスネイクのDISCを入れ替える。
永琳がザ・ワールドの手によって自分の側まで運ばれてきたことをディアボロが確認すると、ザ・ワールドに永琳を拘束させる。

時が動き出した瞬間、ディアボロはサバイバーの能力を発動し、ホワイトスネイクの能力でDISCを1枚作る。
永琳はそのDISCから逃れようと必死に体を動かすが、ザ・ワールドの拘束によって逃げることができない。
一方のディアボロはメイド・イン・ヘブンを使った直後に自身に一枚挿入し、弾幕で攻撃される前に永琳の頭部にホワイトスネイクで手を突っ込み、命令を書き込む。

ディアボロ自身に挿入したDISCは『次のDISCが挿入されるまで怒れ』。
永琳に書いた命令は『狙いをこちらだけに絞れ』。
さらに、永琳に挿入するDISCを通じて永琳にサバイバーの能力の影響を与える。
しかも、お互いに空中浮遊しているおかげで地表に電気信号が流れ出ないため、サバイバーの能力は永琳だけが受けることになる。

ディアボロの主目的は、永琳を倒すこと。
サバイバーの能力によって策を用いなくなるように仕向け、自身が有利な接近戦に持ち込みやすくなるようにしたのだ。

ホワイトスネイクの命令DISCにより、彼女の狙いはディアボロ一人に絞られる。
そしてディアボロはもう一枚命令DISCを作り、今度は自身に挿入する。
命令内容は『怒りを一時的に無くせ』。これでサバイバーの能力が妹紅と輝夜、そして戦いに関係ない者に及ぶのを防ぐ。
こうして目的を果たせたディアボロは、ホワイトスネイクとホルス神のDISCを今のうちに入れ替える。

408東方魔蓮記第五十五話:2015/05/05(火) 10:59:20 ID:utyl322Y0
サバイバーの能力を受けると、自己の潜在能力を限界まで引き出され、超人的な戦闘力を持つようになる。
ただのどつきあいだったのが、肉が裂け、骨が折れる事態に発展したこともある。
さらにサバイバーの能力を受けた者同士で戦闘すると、お互いの肉体の長所が光輝いて見えるようになり、逆にダメージを受けた部分はドス黒く濁って見えるようになる。
ちなみに、サバイバーの能力を受けた者とそうでない者が戦闘を行った時に、能力を受けた者から見て、そうでない者の肉体にこれらの現象が見えるのかは不明である。

永琳がサバイバーの影響を受けたことにより、彼女の怒りと闘争本能がどんどん増幅していく。
が、ザ・ワールドの拘束を自力で破るほどの力は流石に彼女にはないらしく、さながら檻の中で暴れる凶暴な動物みたいになっている。
ディアボロは少し距離を取ると、ザ・ワールドを自らの元に戻す。

拘束が解かれたことにより、サバイバーの影響を受けた永琳が殴りかかってきた。
こうしてくることが読めていたディアボロは、攻撃をザ・ワールドで防ぐ。
闘争本能の活性化と怒りの増幅に伴い、今の永琳が知略を用いて攻めてくる可能性は低くなっている。
しかし、代わりに肉体の潜在能力が限界まで引き出されている上に知性を削いでいるわけではないので、弾幕を囮に直接攻撃してくる可能性もあるだろう。
それでも、この方がディアボロにとって闘いやすいのは事実である。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
ディアボロは永琳の強烈な蹴りを再びザ・ワールドで防ぎ、メイド・イン・ヘブンのチョップで反撃する。
加速していない今なら、このスタンドの一撃の鋭さはザ・ワールドに劣っている。
それでもBクラスの破壊力を有するため、石ころ程度ならこのスタンドは砕くのに苦労しない。

ディアボロは永琳の攻撃を凌ぎながら、輝夜と妹紅の戦いの様子を見る。
……どうやら一進一退の攻防を繰り広げているようだ。輝夜が本気を出しているか否かまでは見抜けないが。
それを見たディアボロはすぐに永琳の方を見ると、永琳のパンチをザ・ワールドで防御する。
「(段々力が強くなってきているな……)」
サバイバーの影響を実感しながら、ディアボロは永琳の攻撃をザ・ワールドで防ぎ、隙あらばメイド・イン・ヘブンで攻撃していく。
が、永琳自身がサバイバーの影響を受けているため、全く怯まずに攻撃をしてくるのだ。

永琳が右ストレートで殴り掛かってきたところをザ・ワールドで受け止め、左ストレートも同様にザ・ワールドで受け止める。
流石にサバイバーの能力を受けていても、鬼でも吸血鬼でもない永琳がザ・ワールドに押し合いで勝つことはできない。
両手を受け止められた永琳は、今度は右足で蹴りを入れてくる。
今度はメイド・イン・ヘブンがそれを掴み、その隙にホワイトスネイクが彼女の顔を鷲掴みにする。
その直後にザ・ワールドとメイド・イン・ヘブンが手を離し、ホワイトスネイクが彼女を地面に叩き付けるべく落下を始める。
無論永琳は落下の最中に抵抗しなかったわけではないのだが、手も足もホワイトスネイクの手のあたりに届かず、無情にも打撃がすり抜けていく。

ディアボロはホワイトスネイクが射程範囲から出ないように一緒に移動し、永琳が地面に叩き付けられるのを確認する。
そして彼自身も地面スレスレまで下りると、ジャンピン・ジャック・フラッシュを解除する。
「(……サバイバーの能力を受けたとはいえ、今ので気絶してしまったか?)」
落下の際に頭部も衝撃を受けているため、いくらサバイバーによって強化されていても気絶した可能性がある。
が、ディアボロもその程度で油断してはいけないことは分かっている為、再びザ・ワールドを出す。
流石にこのスタンドの本来の持ち主と違って、心音を近寄らずに聞き取ることはできないので、彼女の元へ慎重に慎重に進んでいく。
……およそ5m程まで距離を詰めた、その時。

永琳が起き上がり、そのまま立ち上がったのである。
「(流石に気絶しなかったか……)」
ディアボロはそう思いながら、永琳の側に進むのを止めた。
「……よくもやってくれたわね」
永琳は明確な敵意を持ってディアボロを睨み付ける。
普段の知的な彼女には一切見られない、とても珍しい瞬間である。
「なんとしても……死んでもらうわ!」
永琳はそう言うと、矢を懐から二本取り出し、ディアボロ目掛けてとびかかってくる。
今の彼女ならば、これを刺して人体を貫通させることなど容易にできる上、医者である故に的確に急所を突いてくるだろう。
それほど今の彼女はディアボロに対する怒りと闘争心に満ちているのだ。怒りの方はとうに殺意に変わっているのかも知れないが。
仕留める気満々である彼女に対抗すべく、ディアボロはザ・ワールドで迎え撃つ……!

409セレナード:2015/05/05(火) 11:03:04 ID:utyl322Y0
投稿終了です。
イライラしているときは物を投げるより直接何かに八つ当たりするとスカッとしやすいと思いますが、はてさて……。
基本サバイバーの能力は妖怪には使えません。ただでさえ人間の肉体のスペックを上回っているのに、その肉体の潜在能力を解放してどーするっつーの。

久々にディアボロの大冒険をやったらもう一度はまってしまい、二度ダンジョンをクリアするまでもう一度やっていました。
やっぱり面白い。『無限回遊べる』のキャッチフレーズに偽りなしです!

410名無しさん:2015/05/13(水) 16:22:09 ID:vgPBp9DM0
ディアボロの大冒険か・・・僕も久々にHDDから発掘してやってみようかな・・・

411どくたあ☆ちょこら〜た:2015/05/13(水) 23:28:20 ID:GENjVDgs0
遅くなりましたが、まるくさん投稿お疲れ様です!
主人の失態を冷静にフォローする咲夜、お見事。メイドの鑑
これまでも描写されてきた事ですが、館の主に礼を行うディアボロの姿から、外にいた頃の『上っ面のもの』では無い、本来の敬意を払えるようになったのだなと。成長したなぁ…と、しみじみ感じますね
そして紅魔館との開戦、美鈴に気取られず【キング・クリムゾン】の一撃を叩き込むディアボロもキレがありますが、それを受けてなお軽口を叩き対峙する美鈴も凄まじい。達人同士の対決、胸が踊ります!
ディアボロ本体のパワーでも弱体化藍様の胸を刺し貫けた事と比較すると、美鈴の頑丈さは群を抜いているようですね
戦闘描写も重厚かつスピーディーで、【キング・クリムゾン】の唸る拳、衝撃で背を丸め目を見開く美鈴、レミリアや咲夜の見守る広間で宙を舞う肢体など、情景が克明に浮かんできます!
「ゴムに包まれた鉄板」という表現からも、美鈴の生体的な頑強さを直に体験したディアボロの感覚が伝わってきますね
今後の熱いバトルを予感させる開戦のベル、胸が高鳴ります!次のお話が待ち遠しいです!

…アクセルなんとかさんのその台詞は「自分を殺させて【罪】をおっかぶせる」ための誘導に過ぎないんだよなぁ…
【罪】が形を成して襲って来る能力は、荒木先生の思う恐怖そのものであり、僕も結構好きなスタンドです。「ジョニィの【罪】がアクセルの存在を保障する、故に無敵」という発想が独創的で素晴らしい
過去の因縁を乗り越えようという点では、彼も今のディアボロに近いのでしょうね

セレナードさん、投稿お疲れ様です!
どんな大天才だろうと、感情に身を任せた時点で「能力のある狂人」に成り下がる。歴史上の偉人達が証明してきた事ですが、永琳の頭脳を封じる為に【サバイバー】を用いるとは面白い発想です!
獣のように肉弾戦を繰り出す永琳という図も、他ではまず見かけない姿で、新鮮で魅力的。
蓬莱人である彼女に対して物理的な肉弾戦ではジリ貧、ここからいかにして永琳を制圧していくのか、次回も期待しております!

412まるく:2015/05/18(月) 23:34:14 ID:lxKnlTLs0
感想ありがとうございます。返信が遅れてしまってごめんなさい。さいさい。
返したかったんですが、いろりろ。

>セレナードさん
やはり最初に上がる脅威は見えない一撃。単純で、強力なものです。
だからこそ、最初に展開させてしまいました。美鈴の攻略にも期待してほしいです。…というか、主人公はディアボロですが戦闘が始まると途端に主観が逆転してしまうこの流れ。
さすがボス。
美鈴の庭いじりは、書籍文花帖にてちょろーっと出ています。そこから持ってきました。
門番は暇らしいですよ。  暇じゃないです!>

レミリア?ん?何かありましたか?(すっとぼけ

ここでサバイバー使いますか…キレた永琳などみとうなかった…!!輝夜もそういう怒った永琳は見たことないでしょうね。
月の使者を皆殺しにした時も、怒りとかは出してないと思っています。そんな永琳が看守の様に「ファイトクラブだッ!!全員出てこい!!」とか言い出すのは…(言っていない
おいといて。サバイバーで闘志が上がったままリザレクションするとそこはリセット?さらに燃え上がる?…というかそれ気絶で終わってますよねボス!?
矢も近接武器として使用し始めたあたり完全にサバイバー。

>ちょこら〜たさん
レミリア?ん?何かありましたか?
紅魔館は今日も平和です。

本来の妖怪然とした者と正面対峙するのは、ここが初めて。今までは不意打ちだったり将棋だったり相手が2割程度の力だったり。
美鈴は門番という姿勢、気を用いた身体向上など、やはりこういう受けの場面が栄えます。気を遣う程度の能力は往年の少年漫画の数々を髣髴されますからね。
もしも不意打ちであればそのまま花京院のような腹パンマンになってしまったでしょうが、そこは防御に気を回していたおかげで。

アクなん・TOかさんはホント彼のバックボーンとスタンドを抜きにするとかなり前向きで正統派な言葉ばっかり吐いてて好きです。でもそれら抜いた物のせいで保身しか考えないクズ
彼の能力もかなり複雑ですが、考えさせるものがありますからね。人の罪と、それを被ったもの、被らされたもの、生きている者、死んでいる者。
芸術家志望さんはなんというか後ろ向きな前向きの行動ですが、ディアボロは前向き前向き。マイナスの彼は、今を乗り越えてゼロになる。

413まるく:2015/07/01(水) 12:19:39 ID:UEwtahiw0
1か月空いてしまいました。
お待たせしました。…待っててくれた人いますかね(小声
恐れず投下させていただきます。

周辺状況もだいぶ落ち着いたので、これからは変わらず一月ペースで投稿できると思われます。

414深紅の協奏曲 ―スカーレットクイーンの迷宮 3―:2015/07/01(水) 12:20:46 ID:UEwtahiw0
「今の一撃、かなりの威力がありました。そうですねー、魔理沙のナロースパーク……いや萃香さんの生パンくらいありましたかね」

 ストレッチ……というには大仰な、ゆっくりとした運動を重ねながら美鈴は評価する。

「ためらいもありませんでした、『相手が死んだって構わない』というのが十分に感じ取れましたよ。……だからこそ、少し解せないものがあります。
 何か兼ねていたのでしょうか? それとも慢心でしたか? 私が思いの外強かった……なんてものではないですよね?」

 その流れるような動きを重ねる度、彼女の身体から、目には見えないが知覚できるような『何か』を感じ取れる。
 あれは中国拳法にてよく見られる動きか。そして気を使う程度と称された彼女の能力。
 人間の力には科学では証明しきれないような不思議な現象を起こせるものがある。一説には己の能力を何倍にも引き出すことができたり、傷の再生を速め、痛みを鈍らせることができたり。
 他者に流用すれば触れた者の病や負傷を癒し、逆に溢れる過剰な力は相手を破壊する力に転ずる。
 そういった物に近しい『何か』であろうか。

「……あの力量で、より正確に良い急所を狙えば即死、あるいは戦闘不能だった。それをしなかったのは何故か……覚悟と行動にややも矛盾を感じられます。殺人に抵抗を感じられるような人間ではないと思いましたが」

 だん、と力強く地を踏み鳴らす。同時に、先ほどまで感じられた『何か』が目に見える形となってその踏み鳴らした場から吹き上がる。
 その確かな奔流は周辺に強い風圧を巻きディアボロの身体を激しく撫ぜ、美鈴自身の身体も衣装も激しく揺らす。
 先ほどに打った腹部は普通と変わらない、健常な色がちらと見える。
 不意を打てたとはいえ、神の身体を貫けた一打を気を廻すことによってここまで抑えられることができるという証明だった。

「その程度であるならば、本来紅魔の門を潜れはしない! 陽の当たる舞台へお帰り願おう!」

 見得を切るのと同時に、高らかに足を振り上げる。同時に、虹色に輝く、彼女より二回りほど大きな気塊が放たれ、それが円を成してディアボロを襲う。
 一瞬の光景にややも面を喰らうが、ゆっくりと前進するそれは回避、防御には余裕がある。
 ……つまり。

「せぇいっ!!」

 その気塊を突き破るように、拳に同じく虹色の気を纏った美鈴が突っ込んでくる。
 初段は目くらまし、その後の追撃が本命。そのことは『視えて』いたことだ。
 その拳をキングクリムゾンの手で受け、流す。それはディアボロの本体の動きに合わせて動き、あたかも自身の力のみでそれをやりおおせたように見せかけて。

「ふっ、はっ、ぃやあっ!!」

 そのまま、流れるような連撃がディアボロを追い詰めようとする。右の拳が彼を討とうと振るわれ、それを避ければ回転、左脚、右脚と独楽のように回り追撃の手を緩めない。
 一挙一挙を受け、躱す。最初の突撃のように、難なく防御できているように。
 美鈴が虹色の気を脚に纏いながら小さく空を舞い、弧を描くようにそれを振り下ろす。予定されていた一撃を、後ろに避け躱す。
 明確な大振りの一撃、それを避けたことによる機。美鈴の着地に生まれる僅かな姿勢の揺らぎ。

415まるく:2015/07/01(水) 12:28:27 ID:UEwtahiw0
ちょ、ちょっと!!!
本文途中ですけど、NGワードにかかって投稿できません。うわーん。
殺人がOKで、それに類しそうなワードは確かに入ってるけどそれアウトなの!?って感じです。
NGワードが把握しきれてない以上、訂正も大変なのでこちらの投稿に入ったん止めます。
WIKIの方には問題なく上げられるみたいなので、そちらで閲覧をお願いします。ついでに、今までのも上げておきます。

うわーん。

416まるく:2015/07/01(水) 12:47:18 ID:UEwtahiw0
ま、まあとりあえずは以上になります。ようやっと前菜を終えてこれからです。
美鈴の能力も、一撃でやられてしまえば。
使わない使わないと心掛けていた時飛ばしも、最後の最後に使わされてしまった、けれどもそのあたりの会話はまた次回に。
ちなみに諏訪子にも藍にも生存確認はとってません。たぶん生きてると思ってます。「あれで即死しなければ生きているだろう」程度には。
美鈴降下蹴使った後に列紅拳使ってますが、まあシステム上では考えないでくださいね。4コススペカ後にすぐに5コススペカ使っているように。
もはや、スペルカードルールによる対決ではないのです。たまーに、箔をつけたいときに必殺技名を叫ぶ、遊びに命をかける少女たちです。

417セレナード:2015/07/01(水) 23:10:23 ID:KQGqNcA.0
投稿お疲れ様です、そしてドンマイですね。
こちらの文も、NGワードにかからぬように気を付けるとしましょう。

スペルカードルールは所詮遊戯みたいなものですからね。
本来は、美鈴に限らずほぼすべての登場人物がスペルカードルールではできないことは普通にこなせるんでしょう。
こちらもスペルカードルールにのっとらない勝負をこなしている以上、真剣勝負を描写できますし。

418まるく:2015/07/10(金) 19:52:53 ID:p7tI08og0
ありがとうございます。かなしみ…

(実際ほとんどスペカルールによる決闘は描写には)ないです
霊夢VS早苗の時くらいですね。ついでに言うと、彼女たちも絶対殺すマンというわけでもないので。
攻撃の度に必殺技名叫ぶのもかっこいいけど自然ではありませんしね…難しいものです。一番わかりやすい描写方法なので。

419名無しさん:2015/07/12(日) 00:49:49 ID:.TtkgeKc0
NGワードか、まあ仕方がないですね。
投稿お疲れ様です。

420どくたあ☆ちょこら〜た:2015/07/16(木) 23:10:17 ID:QnSK4OgU0
まるくさん、投稿お疲れ様です!
NGワード面倒ですね…(・_・; 『死.亡』が引っかかるのは判明していましたが、今回の場合何が引っかかったのやら…ご愁傷様です

紅魔館編初戦、美鈴との格闘。ジャッキーチェンの如き流れるような殺陣が脳裏を駆け巡る圧巻の描写力には感服するばかりです…!
対して、【エピタフ】とスタンドの格闘能力のみで冷静に捌き切るディアボロ。
強者でありながら、否、強者であるが故にその強さの源を決して明かさない先見の明。元々結果を見据えて慎重に行動できる人物でしたが、『過程』の重みを思い知った今、その精神と行動は冷静沈着の権化。こんなボスならば実力を見込んで従ってみるのも悪くない、そう思わせるカリスマを手に入れつつありますね。他者への『情』の部分が改善されたのかは、まだ疑念が残りますが…
対し、主人の為命懸けの美鈴の覚悟も負けず劣らず。ブチャラティが一度屠られた場面の再現、決死の一撃は空を切ったが、ディアボロに【キング・クリムゾン】の能力を使わせる程追い込んだ事こそが善戦の証拠。
レミリア、起つ。前菜は終わり、いよいよメインディッシュ。試練は流される血で終わる、仔羊の生肉と成り果てるのはどちらか
次回が待ち遠しいです!

弾幕ごっこでない命のやり取りにおいてスペカ宣言させるかどうかは、悩みどころですよね〜…
言うて、ジョジョキャラも技名スタンド名連呼しまくりですし、宣言行為自体は違和感はありませんが。ただ、弾幕ごっこなのか漆黒の意思の決闘なのか、読者を混乱させてしまいそうで…
私の場合、弾幕ごっこでは手加減してた技を作中戦闘では本気で殺傷する威力で放っている。スペカ宣言は“このスペルと似た感じの技(但し威力は桁違い)”だとキャラ自身がイメージする為のポーズ、として書いてきました

421まるく:2015/07/18(土) 22:39:29 ID:9xt6tnC20
感想ありがとうございます。NGワード面倒ですが、当時創立してくれた管理人さんはもういないみたいですからね…
かといって公開する物でもないと思っていますが。難しい。

格闘戦の動き、難しかったですが褒めていただいてうれしいです。大仰な文で、表現しきれるかと心配でしたが読んでいただけて。
過程の重みの再認識しているディアボロ、『あの頃』と似たような環境に置くこと、当時を振り返ることをやらせてあげたかったので、あの頃と今を少し対比させてます。
全部はまだ見えていないでしょうけど、ちょこら〜たさんの見通しで大体合っていますよ。他者への総合的な視点は、誰もが理解できるような視点にはまだ変わってはいないと見ていただいて結構です。

美鈴には大鵬をぜひともぶっぱさせたかった(こなみ
攻撃された後のカウンターとしてブチャラティは拘束してましたが、状況は逆に、故に吹っ飛ばしの結果も逆転。彼女の決死はディアボロの優位こそ破ることはできなかったものの精神の戦いにおいては勝利していたと言ってもいいかもしれません。
レミリア対ディアボロ!紅より紅いのはどちらだ!

スペカ宣言も、いわゆるマンガ的記号なのかなとも最近思ったり。読者に「これから必殺技使いますよー」という。
ちょこら〜たさんの考えも、まっとうですし、自分もセレナードさんも同じような、あまりかけ離れている考えではないですし。
ごっこかどうかは、その事前の雰囲気で察してもらうしかないですかね。幻想郷連中、「ブッ殺したなら使ってもいい!」の精神割と多いと思ってます。

422まるく:2015/08/01(土) 01:13:01 ID:ZFFKblu.0
どうもどうも。少し色々ありましてほんの少し遅れました。

ちょっと余計なものが多い感じもしますが気にしないでください。
冒頭のやりとりには元ネタがありますが、それは東方とは関係ありませんし、物語にも関係はありませんふくらみません。
でもそのシリーズは好きです。
投下いたします。

423深紅の協奏曲 ―スカーレットクイーンの迷宮 4―:2015/08/01(土) 01:14:17 ID:ZFFKblu.0
「……我ら、血によって人となり、人を超え、また人を失う」

 薄い照明の点いただけの、澱んだ空間。
 必要最小限と称するには暗く、また紙に支配された場はその物が発する独特の匂いのみに侵されている。
 ちら、とそんな空間の中、一人本を読み進める少女。その菫色は、自らの存在をこの閉鎖された世界に溶け込ませるための色なのかもしれない。

「人よ、かねてより血を恐れたまえ」

 書に記された警句を、血の通っていないような青い唇が紡ぐ。
 その少女の唇以外の顔も、本をめくる傷の無い指も、全てがまるで血の通っていないかのごとく。

「……これ、違うわ」

 ビルゲンワースの学び舎は過去にも訪れたことはある。しかし、その時には当時の隆盛は既に過ぎ去っており、そこで得た物にかつて研究していた遺物はほとんど手に入らなかった。
 それでも、変貌と支配を研究していたと思われていた……正しくは自身がそう記憶していたと思っていたが、改めて読み返してみると全然違う内容である。

「……魔理沙には早すぎるわね。この高みは……自らの内なる獣を理解してから……」
「どうされました?」

 書を閉じ、ぶつぶつと呟きながら内容を反芻する彼女の―パチュリー・ノーレッジ―の背後に、足音もなく寄り、声がかかる。単純な話である。声の主の背部には一対の翼。
 両の手で抱えた本をパチュリーの傍らにそっと置くと、彼女が呼んでいた書の表紙を見る。

「あー、最後は瞳に寄りて散ったあの先生の。パチュリー様、魔理沙さんにアドバイスするための本を探してたんですよね? これはまた違うジャンルですよ、私たちの様な者に近づくための」
「そのようみたいね。久しぶりに読んだから私と内容に齟齬が生じてた」
「魔理沙さんには早すぎますよ。今はまだ瞳は二つで大丈夫です」

 パチュリーの声は細く、早く。周りの紙の束に相まってすぐに空気に溶けてゆく。対照的に翼を持つ彼女の声は少女特有の高さのある、大きめの透き通る声であり薄暗い世界に彼女だけが喋っているようにも聞こえてくる。
 紅魔館、その地下に存在する大図書館。
 その空間を支配するパチュリーと、彼女の従者だけの異空。他の何者も存在しえない、二人だけの空間。

「……おい」
「……ねぇ、パチュリー?」

 先ほどの明るく、幼さを残した声は、その声質を変えないながらも淫靡で蠱惑的な印象へと変わる。身体に似合わぬ豊かな双丘を、もたれ掛かる自らと主の背中で押し挟む。
 
「あの子には必要ないけれど、そんなにあなたが高め合いたいっていうなら……私はいつだって、受け入れるわよ?」

424深紅の協奏曲 ―スカーレットクイーンの迷宮 4―:2015/08/01(土) 01:14:54 ID:ZFFKblu.0
 またか。
 肝心のパチュリーは、そんな彼女の声掛けをうんざりとした顔で受ける。
 彼女はいつもこうだ。自分の仕事を終えたら後は指示があるまで自らの欲に従って行動する、優秀な怠け者。早急に終えようとする努力は素晴らしいが、彼女が求めるのは、魔女たる自分の身体、悪魔として魔女の身体を糧とすること。

「……ね? 今日はあなたの調子も悪くはない。最後まで……イケるわよ?」
「うるさい」

 耳元で唇を舐める音がする。その色は、パチュリーとは違い艶やかで肉感的な、緋い色。彼女の髪色と同じそれは元の顔立ちの良さもあって異性同性構わず目を惹くだろう。
 しかし、この悪魔が興味があるのはこの魔女だけ。使い魔として彼女に従い、悪魔として彼女を堕落させる、それだけの為に色香を振る舞う。

「あんたみたいなクソレズに付き合うほどこちらは欲求不満じゃないの。というより生殖として、快楽としての性行為には興味もない、稚児の遊戯ほどにしか見てないわ」
「つれないこと言わないでよ、この顔も、身体も。身も心もあなたに尽くしたいと思っての出来なんだからぁ」
「それに何度も言っているでしょ、魔女は愛に靡かない。愛に溺れる恥晒しになるつもりなんてないって」
「喜怒愛楽ってあるじゃない? 楽しみと愛は別。私はあなたに恋をしろとは言わないわ? 私の身体には恋をして欲しいけど」
「だったらこのネズミでも味わってなさいよ、小さいけれど私よりも肉は付いてそうよ」
「ちょっ」
「…………アリかも」

 否。同性であれば割と誰でもよい。彼女はパチュリーの従者であり、契約に縛られているため自分の好き勝手に動かないだけ。もし契約が無ければ彼女の友人である吸血鬼さえも手を出すだろう。実際に出せるかどうかは二の次に。
 結局、女の子であれば誰でもよいのだ。可愛いは正義。

「現れるなり怪しい雰囲気出したかと思えば何なんだ一体!? 紅魔館は何の巣窟になっているんだ!?」
「今も昔も悪魔の館。哀れな迷い子はペロリといただかれちゃうわ? 大丈夫、怖いのは一瞬だけ。知っちゃえばもうそれしか見えなくなっちゃう。それに、ネズミは子宝の象徴。だから好きなんでしょう? そういうの」
「青娥みたいなやつがこんなところにもいた……面倒くさい……」

 くり、と顔を対面で赤くなっているナズーリンに向け、狩人の目で値踏みをする。パチュリーは、何処吹く風で運ばれた新しい本の頁をめくる。

「とにもかくにも面倒くさい館だと知っているでしょうに。今、レミィは取り込み中。美鈴が門番できないときは咲夜のお手製コズミックキューブで図書館にご案内。……ここは排水溝の出口じゃないんだけど、まあしょうがないわね、緊急事態」
「……だから私みたいなのが堂々歩いていても咎めなし、上っていたはずなのに地下にたどり着くわけか」
「可愛い女の子はみーんなここに集められてしまうんです」
「うるさいっ!」
「うるさい」
「あらあら、うふふ」

 大声を浴びせられ、そばの本の山に隠れるように悪魔は逃げ込む。目的はからかいたかっただけか、はたまた。

「……で、あなたは何の用で紅魔館に来たのかしら」

 一通りのやり取りを行った後に、パチュリーはナズーリンに問う。その顔は、変わらず本に向いたままであるが。
 
「さっきも言ったけど、今は面倒な客が来ているはず。私にはどうでもいいことだから蚊帳の外の居させてもらったけど……もしあなたが魔理沙みたいなことをたくらんでいるっていうなら水の中に沈めるしかない」
「随分古典的なことで。……私の目的も、その面倒な客に対するものさ。彼は何をしでかすかわからない。それこそ、ここの幼子を殺すかもしれないし、殺されるかもしれない」
「なぁんだ、男かぁ」
「……少なくとも私の監視対象、私の前で生殺どうのこうのはやめてもらいたいからね。……君は、親友が傷つくのが、嫌じゃないのか? 人間とはいえ、万が一の可能性もあるだろう」
「別に、どうとも思わない」

425深紅の協奏曲 ―スカーレットクイーンの迷宮 4―:2015/08/01(土) 01:15:24 ID:ZFFKblu.0
 言葉通りの表情のまま、本の内容に目を動かす。
 その表情と彼女の天然の声色は、まるで本当は親友とも思っていないような、突き放したような声。

「一般的な言葉を借りるなら確かに私とレミィは親友という関係。そして対峙者もどんな人間かはわからないけど、昔ならいざ知らず今は咲夜をはじめ巫女や魔理沙、あと……ええとなんだっけ……あの、巫女っぽいのとか、人間だからと侮れないことは理解してる」
「……それならばこそ、心配にはならないのか? あの男は、実力を比肩する対象が思いつかないが幻想郷の人間と違い、かといって外の世界の人間と違い……手を汚すことに躊躇いがない」
「それがどうしたというの。魔女は運命を信じない、魔力の信者には後悔はないわ」
「…………?」

 自身の言葉に理解の及んでいないことを見て溜息をつきながら、

「レミィを信じている、とでも言えばいいかしら。あんまりらしくないから言語で表したくはないのだけれど」
「パチュリー様は恥ずかしがり屋ですからね」
「うるさい」

 本に顔をうずめる様にし、全体を隠す。

「……なるほど、その程度の事に理解が及ばず悪かった、謝罪しよう。……で、できれば私を」
「それは無理ね。管理は私ではなく咲夜。頼みたいなら直接 、あれ」
「どうした?」

 ナズーリンは気づかない。従者の彼女もパチュリーの疑問符に対しての疑問の顔を浮かべている。
 パチュリーの手の中の本、書かれている内容が変わっている。違う、今まで取り込んでいた知識の次の段階への例文に置き換わっている。
 前のページには、確かに自分が先ほどまで目で追っていた内容が記されている。
 妖精のイタズラ? この場の誰にも気づかれず? 先ほど自分で言ったはずだ、部外者は全てここに来る、がそれでやってきた者はネズミ一匹。
 そして、この手の事象には心当たりがある。最も、そんなつまらぬイタズラをするメイドでは。

「、はぁっ、パチュリー様っ! 無礼失礼致します!」

 突然の声、僅かな図書館全体の光量の変化。開け放たれた戸から入る光は、目前に立つ少女に塞がれる。

「どうし、美鈴」
「、来訪者との『面接』が終わりました。……美鈴は、大丈夫でしょうか」

 読んでいた本を置き、簡易的な寝台を生成。何も言わずとも、咲夜はそこに美鈴を横にする。
 彼女の想像とは大きく違う結果だったのだろう。戸も開けっ放しであるし、彼女より一回り大きく、出血多量といえども平時であれば自らのメイド服を汚すような真似はしないだろう。

「猫も驚くと意外とぞんざいね。12点」
「……申し訳ありません、心に刻んでおきます」
「ッ、あいつ、やっぱり」

 血液の付着したエプロンを、濡れた腕を、反省の一礼と共に一瞬で綺麗にする。時を操るメイドの早着替えの手品。それができるからこそ、彼女は万一に汚れることはあってもそのまま人前に姿を現すことはない。また、床に垂れた血もそのままにすることはないだろう。
 今はそれを拭う暇も惜しいのか、自分の整容のみに止め倒れた家族の心配にまわる。

「問題ない、彼女用の回復術式はいつも通り組んであるし、この怪我もそれで十分。首が落ちても繋げることは可能だから」
「しかし、くっつくだけでは回復とは呼べません」
「……美鈴の肉体を使用したフレッシュゴーレムでも考えようかしら。レミィが喜びそう」 
「ああ、それはサボったりしなくて便利そうですね。家だけではなく閻魔にも技術提供してみてはどうでしょう」
「…………なんでそんなに余裕なんだ、やっぱり頭おかしい」

 重症の美鈴を治療しながら、閑話を挟みながら。……それでも、少なくとも咲夜はわずかながらの興奮があるのだろう。血に馴染む、紅い瞳。

「では、私はお嬢様の元に戻ります。美鈴の治療をよろしくお願い致します」
「一週間は妖精門番隊に頼りきりね。はぁ、ネコイラズ」
「あ、おい待て、私を連れて」
「申し訳ありませんが、部外者の立ち入りは禁じます。何者であろうと、例外はありません」
「けれども!」
「……ゃ、さん」

 言い争いを始める二人の耳元に、治療を受ける美鈴が小さく口を開き、運んできた彼女を呼ぶ。

「あまりしゃべらないで。治る傷も治らない」
「……お嬢様に、……お伝えを…………」
「……美鈴?」

 苦しみに喘ぐ彼女の、吐息の様なかすかな声はそれでも主の為に。
 その意志を継ぐため、彼女の口元に耳を寄せる。

「人型のエネルギー体、咲夜さんと似た力……それと、未来が『視』えているような……」

「キマシ」
「うるさい」

426深紅の協奏曲 ―スカーレットクイーンの迷宮 4―:2015/08/01(土) 01:15:55 ID:ZFFKblu.0




「一つ、尋ねておきたいことができた」

 所は暗き女王の間、揺らめく炎と月の明かりが何処までも紅いその部屋を照らす。
 返り血を浴び染まったディアボロの身体も、それを拭わなければ溶け込み悪魔の館の一つとなりそうな、そんな中に純白の衣装が座に煌めく。

「お前たちの尺度ではつまらないことかもしれないが、まあそこは人ならざる者として気になることだ。語りたく無くば語らなくてもいい」
「……」
「くく……いい眼をしている。血に酔った眼でも、死に場所を求める眼でもない。先ほどのお前の演説が嘘ではないという証拠だよ。……だからこそ、訪ねたい」

 ディアボロは何も答えない。

「沈黙は肯定とみなすよ。……お前の安寧は、本当にその先にあるのか? 人は、いや生きる者は全てにおいて安寧を求めて生きている。その先に安寧があるからこそ、人は苦の道を歩むことも多々あるだろう。……お前の事だよ」
「……それについては否定はしない。生きるということは、『恐怖』を打ち砕くこと。それを超えた先を求めることだ」
「その通りだ。……だが、その先に待つ物は本当にお前の求める物に値するのか? 安寧を求める道の上で志半ばにして倒れる。それはそれはよく聞く話。あまりにありふれた失敗譚」

 幼い喉から響く声は、いつまでも聞いていたい魅力がある。内容の如何に関わらず、優れた音楽のようにいつまでも耳に流しておきたい誘惑がある。
 その中に、自分の全てを見通しながら、自分の苦痛を知りながら、それを解きほぐして優しく包んでくれるような、そんな別の見方も。

「もちろん私はお前の事を知っているわけではない。お前の半生を理解していない、ということがお前もわかっているだろう。何を言うかと思うだろう。……むしろそれが普通の反応だ。だからお前に尋ねたい」
「もったいぶらずにさっさと話せばいい」

 彼女の自分に纏わりつくような甘い響きも、その口元から覗く牙と紅い瞳から感じられるアンバランスな恐怖も、何者も彼を縛ることはない。

「お前の求める安寧、私が与えてやろう」

 そんな彼に送る、部屋に沁みる彼女の手。

「いつ果てるかもわからない、先の見えぬ道を歩ませ失うにはもったいない。私はお前に興味を持ったよ。別にだからといってこの後に付き合わないわけでもない。隷属もお前は嫌うだろう。だから、対等に。互いに友として生きる気はないか? この地を終着とし、私と共に生きる気はないか?」

 それは、余りに蠱惑的な、抗いがたき言葉。恐怖の圧から、逃げ出したいほどの重圧から差しのべられた蜘蛛の糸、それどころか自分を高みに引き上げる、耐えがたき引力。

「……なるほど、それは確かに魅力的だ。お前ほどの実力者と共に並ぶことは、それほどと見出すことにも価値がある事の表れだろう」
「その通りだ。弱者も狂人も興味はない。強者とは、理解者と同列者を求める者よ、強くなればなるほどにね」
「断る」

 レミリアは口角を吊り上げ笑みをこぼす。人間には不必要な牙がよく見えるほどに。目を見開き、満面に期待通りの言葉が出てきた喜びを表す。
 座したままに右腕を振るうと、その軌跡に空が赤く引かれ、魔法陣が4つ、5つと形成されていく。

「ふん、ならば死ぬしかないなッ! 最もッ!!」

 陣から血のような暗い赤に塗られたコウモリが現れる。陣の一つ一つからそれは大量に現れ主を守るように浮遊する。
 その様を見たディアボロも身構え、いつ来るかもわからぬ攻撃に備える。眼前に映る像には、まだ。

「私の元にたどり着けるかどうか、そこからだけどね!」

427深紅の協奏曲 ―スカーレットクイーンの迷宮 4―:2015/08/01(土) 01:16:27 ID:ZFFKblu.0
 肘掛けに頬杖をついたまま、空いた左手に自身の頭よりも大きな紅弾を生み出す。弾に血管を通る血液のように脈打つ魔力が、いっそうにそれの破壊力を想像させる。
 それを、屑籠にゴミを投げ入れるかのように軽い動作で放る。それを合図に、多数のコウモリたちが、ディアボロに共に向かう。
 単純な、数の暴力。絶えず生成されるコウモリたちは等しくディアボロを襲い、緩急をつける様にレミリアは紅弾を放る。

「避けるも耐えるも、いずれは崩れる。使ってみなよ、咲夜みたいな『能力』を! 時を操れる人間が咲夜以外に居たことには驚くけど、それははたしてどこまでできる? 一秒か、五秒か? 私の喉元に届きうる刃なのか!?」

 飛ばした時間はわずかではあったが、あの決定的な瞬間の回避に使用したことは知られている。当然ではあるが、それを引き出した門番は優秀だったということだろう。ただの『部下』という評価は改めねばなるまい。
 しかし、身近に似た能力を持っている者が居るからこそ、それだけということに気付かないか。
 キングクリムゾンも強力な力を持ち、時を吹っ飛ばすことのできる『帝王』の能力。だが、それだけでは振り回されてしまうだろう。
 それを補う、光栄の未来も残酷な現実も映し出すエピタフ。その予知を併せ持ってこその能力。
 自らの運命を捻じ曲げ、強引にでも負を打消し正を得る、王のためのスタンド。

「どうした、いつまで逃げ回っている! この程度で終わることはないだろう!? 死ぬべきではないと告げているよ、運命も 、ここに!」

 大量のコウモリに囲まれ、迫りくる紅弾を避ける術なく。もはや絶望ともいえる窮地にあっても彼の表情は変わらない。
 レミリアは作りだした。彼が使わざるを得ない状況に。もし使ったとしたら、次に来るのは自らの首を取りに近づくだろう。背後か、横か。死角はいくらでもある。移動したと感じてから、手をかける。
 持ち前の反射で身の丈ほどの槍状に魔力を固め、その刃を感じた方に向ける。

「……ぁ?」

 そこに居たのはいつから戻ってきたであろう、完全なる従者の姿。
 彼女を人質にとるかのように、咲夜の首元にナイフを突きつけながら背後に立つディアボロ。ナイフは、形状からしてそのまま咲夜の物を奪ったのだろうか。

「この女を下がらせろ、一秒待つ」

 普通に考えれば、それはただの死刑宣告。恐怖も駆け引きも存在しない。だが、彼女は無限に時を操作できる。それこそ、こんな脅迫など意味もないほどに。
 故に、どちらも呆ける。隙ができた、というわけではないが、彼の行動に理解が及ばない。
 透き通った首筋からぶつ、と僅かな痛みが走る。咲夜は感じる。なるほど、確かに美鈴への容赦の通り、自分へも容赦をすることはないわけだと。一秒は確かに経過した。


 だが、その時は進まない。


 世界に色が消え、存在するのは咲夜のみ。
 男に拘束されるのは初めてではないし、その抜け方を知らないわけではない。相手の抵抗が無ければ、それは容易に行える。
 首に刃物を突きつけられているが故にすぐに大きくは動けない。少しずつ体をにじり、その拘束から外れる。抜け出してしまえば後は簡単だ。動かぬ的を適当に料理すればいい。
 元々咲夜は傍には居るものの手を出すつもりはなかった。これは主が望んだ決闘であり、自らが入ることは無粋であるから。
 しかし、主を差し置いて自信を攻撃するとは。可能性として考えていなかったわけではないのだが。

―ともあれ、手を出されたからには返さないのはメイドの意志に反しますわ

 首元を擦るが、その傷はほんのわずか。さしたる痕も残らないだろう。先ほどまで首元に当てられていたナイフを取り、眼前に目掛けて配置しておく。そうすれば、時が動き出したときに自らの行いを呪うだろう。
 そう思考し、すわ行動に移るとき。

―……っ!?

428深紅の協奏曲 ―スカーレットクイーンの迷宮 4―:2015/08/01(土) 01:17:01 ID:ZFFKblu.0
 咲夜は異変を感じる。行動としては間違いではない。むしろ先ほどの自分の思考通りに動いている。改めて彼に向き直り、そっと手のナイフを取ると、彼の眼前に向かう様に投げつける。
 だが、それを行う自分の身体が、まるで誰かに操られているかの様。自分が身体を動かしているはずなのに、その場面を別の場所から見ている様。
 馬鹿な、と思い違う行動を取ろうとするも、身体は動かない。決められた最善の行動を、イレギュラーが無い時に限る最善の行動を『してしまう』。

―動け、動け! 何かが異常なの、お願い

 咲夜の意志に反し、身体は行動を完了する。もしこの異常がなければ取っていたであろう相手への離脱と軽い仕返し。
 少々のアピールを加えながらも、時間操作を解除しようとするその刹那、

―……っ!?

 ほんの一瞬、こちらを追うように動くディアボロの目。錯覚かと思い確かめようにも、身体はそれを確認に向かわない。
 心だけでも、解除後にすぐに止められるように咲夜は構えておく。が、

―馬鹿な……何、これは……

 世界が崩れる。紅魔の世界とは違う、咲夜の世界とも違う、別の何かに塗りつぶされていく。
 その中を、自分が行った時と同じように、その男は悠然と目の前のナイフを避けるとレミリアの事を相手にせず自らの元へ向かってくる。
 咲夜の世界との違いは、ゆっくりとであるが時が進んでいる事、その中で世界の支配者のみが行動を支配できるということ。
 レミリアは悠然とした姿で、未だに咲夜を拘束した所を見つめている。余裕に満ちたその表情は目の前で起きている出来事を全く認識できていないかのように。
 咲夜は再び、自らの動きが自分の意思と無関係に動く恐怖を味わわされる。その行動は先ほどと同じく、この異常に気付いていなければとっていたであろう、時を止めた結果を見てその慌てふためく姿を楽しもうとする自らの姿。

「飛んだ時の中でお前が時を止めると……お前の目にはどう映った? それは私が知ることはないが……どうやら、見えているようだな。やはりお前がこの場にいることは私に不都合でしかない」

 ゆっくりと背後に周ると、太腿に忍ばせてあるナイフに手をかける。

「時は再び刻み始める、お前の意志ではなく私の意志で!」



 世界に色が戻る。それは、よく見た館の紅。
 ほんの一瞬であっただろう。だが、その未知の体験は咲夜の体感時間を何倍にも引き伸ばしている。
 かつ、と急に現れたナイフが壁にぶつかる、間抜けが音が響くころには再び咲夜は、ディアボロに拘束されていた。

「……くっ!?」
「もう一度言う、この女を下がらせろ」

 感覚としては、咲夜が時を止めたはずだ。だが、何かが違う。咲夜の世界の中に異質の色が混じったような。
 現に、咲夜の背後を容易く取り、その後再び同じように拘束している。
 レミリアが僅かに逡巡するその前に、ディアボロはこれも先ほどと同じように彼女の首筋に紅い滴を作る。

「止めろ」

 武器を下ろし、咲夜を解放するよう眼で訴える。
 それを確認したディアボロは、一瞬の後に咲夜を拘束する手の力を緩める。
 身を翻し、素早く距離を取る咲夜。普通であるならば止められるはずの時も、一度それを阻まれてはうかつには使えない。

「咲夜は下がってて。どうやらこいつはそこまで徹底して『場』を作りたいみたいだから」
「……ですが、……いえ、畏まりました」

 咲夜の訴えたい危険は、レミリアもわかるはず。そう思っていても、実際に体験した彼女からすれば僅かに言い淀んでしまう。
 だけれども。主に身を案じられることこそ自らの恥辱の極み。許されるのであるならば自死してでも清算したいほどに。
 やや後ろ髪を引かれる様に、駆け足で部屋を去る。そこにはいつも時を操ることのできる、瀟洒な姿はなかった。

「……くふふ。咲夜が敵に背を向けて走るなんて久しぶりに見た。やるね、やっぱり」

 賛辞の言葉を贈る。だが、それにディアボロは笑みも油断も返さない。

「私の事は広く知れ渡っているからね。その前に美鈴宛がってお前を知り、対等にしようと思ってたけど。なかなかそう簡単にはいかないねぇ。……くく、霊夢の時とはまた違う。滾るよ、血が騒ぐ」
「……排除は終わった。対峙には十分だろう」
「一つ一つの可能性を潰して。それを私に応じればそのまま終わるかもしれなかったのにそうしなかったのは何か理由でもあるの? ……ふふ、どちらでもいいわ。楽しい人間」


「夜の闇に溶けなさい」
「夜の冥に散っていけ」

429まるく:2015/08/01(土) 01:27:30 ID:ZFFKblu.0
以上になります。今回は引っかからなかったか。
別に小悪魔を同性愛にしたのは意味ないです。悪魔がささやきかけたからです。
ナズーの門番突破はガラス玉でも転がして拾ってこいとか言ったんだと思います。

時止めVS時飛ばしの内容です。補足として一応。
事前に既に時飛ばしの中、咲夜の時止めを行った時は、『その時止めの間は自分が飛ばす直前に予定していた行動をとる』(気付くが修正不可)ということにしてみました。
既に飛んでいる中ですので、本来自分の行った行動を気づくことはないのですが、同じ時の操作の流れの中、体感だけはできるということにしました。
そのため、時止め解除後はそのまま吹っ飛ばされていく時間の過程を見ていくことになります。ブチャラティが初めてキンクリを味わった時みたいな演出です。
時飛ばしと時止めが被らなかったときは、互いにそれを認識も感知もできません。以前の投稿でもそのように書いているつもりです。

しかし、日常で時操作をよく体感している以上、似ているようで違うそれをどう感じ取れるか……つぎあたりはそのあたりもいれたい。
咲夜さんの太腿に二回手を忍ばせたディアボロをゆるしてはいけない

430まるく:2015/08/04(火) 22:25:12 ID:mFKm8MP.0
ちょっと誤字脱字が目立ったので、さっさと修正してWIKIの方にアップしました。

・ぱっちぇさんがよりレミィに信頼する様になりました。
・ナズーの自己主張が少しアップしました。
・咲夜さんの言葉遣いの違和感が消失した…はずです。

ほんとは最初にしっかりしとけばいいんですけどねぇ…許してください!

431どくたあ☆ちょこら〜た:2015/08/30(日) 15:12:11 ID:0byCMsnE0
まるくさん、投稿お疲れ様でした!
本当に、本当に感想遅くなってしまい、申し訳ありません…

従者モードから一転、途端にタメ口と化しクソレズモードへ突入する小悪魔。二次創作でありそうで見たことの無かったタイプで、新鮮かつ実家のような安心感
ナズーリンに野獣の眼光を向ける様、良い感じにクソレズですね。スカーレット夫人を彷彿とさせます
ナズーリンの発言から、青娥も小悪魔と同類の様子…⁉︎…下品ですが…ふふ…ry

流石美鈴、気を使う程度の能力は伊達じゃあない。しっかりスタンドの存在を感知し、それのみならず【エピタフ】【キング・クリムゾン】の能力にまで気付いていたとは
レミリアの方もDIOよろしく、カリスマを遺憾なく発揮しての友達になろう作戦。しかし帝王は一人、ここまでは予定調和
【キング・クリムゾン】のおおよその能力とその戦闘術にあたりを付け、持ち前の反射神経でポルナレフ戦法を狙う。夜の王としての冷静な読みと自信を感じさせます。
しかし、この先からの展開とディアボロの機転、血の沸騰するような高揚を覚えました!
咲夜を人質に取り、その能力を凌駕する!止めた0秒なんぞ、飛ばした数秒の内の刹那に過ぎない。見えていることが逆に恐怖!
正直、ここまで鮮やかに『時止め』vs『時飛ばし』という永遠のテーマを描かれた事には心底痺れます!万雷の拍手を送りたい!
咲夜でなくレミリアを優先していれば油断を突いて決着できていたとのに、何故しなかったのか、というレミリアの疑問。何度も本人が宣言していましたが、やはりディアボロは『公正な勝利』を望んでいるのですね。それを捥ぎ取った後の王の座を。
美鈴、咲夜を打ち破り、『場』は完成した。次回からが真の対決、楽しみにしております!

432まるく:2015/09/02(水) 08:27:51 ID:utKp9asM0
感想ありがとうございます。たとえ遅くなろうが、感想を送ろうという意志があればいずれ送れる。送ろうとしているわけだからな…違うかい?

広いどこかの世界に、こんな小悪魔もいるのです。きっと。誰か本ください。逆転要素はなしで。いや、なんでもないです。
青娥はレズじゃないです!まずいですよ先輩!というかその、困りませんか。色々と。
青「ネズミって子宝の象徴でしょう?寺の者として姦淫引っかかったりしないんですか?貞操帯使います??」
ナ「あほー!」

スタンドは所持していないものには感知できないというルールはありますが、直接組み手をしてみればディアボロ本体は大した能力持ちではないことはわかるでしょうし、直接触れている以上なにがしかに気付いてもおかしくないでしょう。
ましてや美鈴ですし。気を遣う能力は伊達じゃない!戦う相手にしてみればもはや鋭敏感覚を超えた反応速度なんでしょう。ドッピオくんは露骨にやりすぎて警戒されましたが。
レミリアには大分DIO成分が入ってしまっているとは書いてて思いますw意外と懐柔に頑張るDIOは西尾維新のオーバーヘブンを読んで少し好きになってます。
「だが断る」はここでは誤用ですよ!どちらかというとイルーゾォVSフーゴの力強い「断る!」ですよ!

レミリアの能力と、作品のメタ視点としてもそろそろスタンドになんだなんだと悩む展開は終わりにしたいので、周りの対応も踏まえてレミリアはすぐに気付くようにしてます。とはいえすぐできる対策はポルナレフ戦法ですね。
時止めVS時飛ばしも、よく言われることでもありますが作品として説明させるのは苦労しました。違和感なく書けているかどうか…感想もらえて、大丈夫そうで。

メタ視点として(二度目)闇討ちにてあっさり葬るディアボロもそれはそれで、というかそっちの方がらしいのですが、それよりはジャンプの主人公の様な物を書きたい!という自分の思いも少しありますのでディアボロがそういう点に実直になってます。
ディアボロにとって幻想郷の中で起こることは全て『過程』であり、一番の目的は外に居る『奴』です。そのためには力をつけなくてはならない!
やっぱりそういう流れで書いていると、それ相応の最後として導いてあげたいので。

真の対決お楽しみに!…と言ってもこの館にはもう一人誰かいるんだよなぁ…
……ちなみにこの段階でまだ完成してません。…書こうという意志があれば……(小声

433まるく:2015/09/09(水) 00:14:58 ID:SNX6KJOc0
えー、完成しません。
プロットとしては半分くらいなんですが、どうにも時間が取りづらく予定していたところまで完成させると結局来月にもなってしまいそうなので。
一旦投稿します。何も音沙汰ないのもつまらないですからね。
また次回のそれと合わせて一話として、改めてまとめます。

434まるく:2015/09/09(水) 00:15:39 ID:SNX6KJOc0
 スカーレットは自負している。己の強さも、弱さも。一芸に秀でていない、その凡庸さも。
 私たちには鬼の様な力強さもない。天狗の様な俊敏さもない。魔法使いの様な知識もない。蓬莱人の様な不死でもない。人間の様な多様性もない。
 一極、尖ったものがあればそれを人が見て羨望と嫉妬、恐怖の目を向けるだろう。力を持つ者とは、知性を持つ者とは。生きる者、比べたがるものとはそういうものだ。
 吸血鬼とは、なんとも凡庸で目の無い種族だろうと。

 そんなわけあるか!

 鬼に俊敏さも知識も不死性も多様性もあるか?
 天狗に力も知識も不死性も多様性もないだろう?
 魔法使いが力も不死性も多様性も持たないだろう?
 蓬莱人に身体能力と知識で負けるか?
 人間に、どこか一つとして劣るところがあるか?

 そんなはずないだろう!

 己に誇りを持て。その血も、その種も、その命を。
 持ちうるすべてを傲慢に振るえ。歩けば、自ずと道になる。それは、彼の者達にはできぬ業。進めば自ずと臣下は歩く。それが、私たちに許された業。
 あいつらにできて、自分にはできないことなど何もない。
 ……だからこそ、だからこそ。


「くくっ、ははははは!」

 戦いの最中、自然と笑みがこぼれる。目の前の、この世界で一番矮小であるはずの人間と立ち向かうたびに。
 近づかずに攻めるのはやめた。僅かな思考を与える程度の弾幕では、悉く避けられる。通常のスペルカードルールでは使用しない、逃げ場のない密度でさえも、気づけば彼はそれを抜け、こちらに刃を向けるのだ。
 以前に立ち会った天狗の写真機とは違い、弾幕を無視して『すり抜けて』いる様な。咲夜のように時を止めて抜けることとは、少し違う。どれほどの厚い幕にも、僅かな隙間を瞬時に把握し、そこから漏れ出てくる。
 弾幕の防御は行うが、反撃を行わずに詰め寄ってくる以上、おそらく相手は遠距離に対応できるような技術はない。相手の心が折れるまで、いつまでもいつまでも追い払うのは簡単だが、血肉はそれでは湧き立たない。

435まるく:2015/09/09(水) 00:16:23 ID:SNX6KJOc0
「ふっ!」

 愚かな弱者を踏み躙るため、蹂躙するためならばそのような手を汚さない方法が大多数の精神に打撃を与えられるために有効だが、勇敢な単騎を落とすには自らで手掛けた方がいい。ただ殺すためではなく、互いに相手を認め合い、真っ向から称賛を浴びせあう。
 何もいらない、ただそれだけで。煩わしい全てを削ぎ落した、最もシンプルな解答方法。
 彼の答えの一つ一つを、自分の問いの一つ一つを。境を経て、それは逆転してぶつかり合う。
 今もまた、速度を乗せた重打を『何か』で逸らして受け流された。並の盾なら、例えば美鈴の気塊ならそのまま砕き爆ぜる程度には力はこめていたというのに。
 眼前にナイフが迫り来る。咲夜が使う、銀製の投げナイフ。彼女が扱うものとして、直接使用することもあるためむしろ普通のナイフのような重さと大きさ。元々女性用であり、相手が使う分には少々小さい。
 だがそのバランスにもすぐに適応し、余計に振り回すことなく的確に急所を狙う。
 本体として、能力は並の人間、もしくはそれを上回るが少なくとも自分の様な、妖怪を相手取る力はないのだろう。並の妖怪にすら歯が立つかどうかもわからない。
 補うかのように彼の身体を中心に取り巻いている人型の『何か』。美鈴相手時に感じていた違和感。相対してみればそれの存在は明らかだ。自分自身には隠す余裕がないのかもしれない。頼りになる部下だが、それでも力の差は圧倒的だから。
 自分の攻撃を受けた時の肉打つ感触。自分に攻撃をする拳、脚。全く見えてはいないが、物理的干渉は行えるのだろう。それの挙動に関連して、音や風圧は隠されていない。
 そんな『何か』こそが彼をここまでの高みにあげる存在。それこそが彼の懐刀。

「ハァッ!!」

 一瞬に身を潜め、自身にも見切れない速さでナイフを振るわれる。顔面に振るわれたそれを右腕で防御するが、衝撃。
 左側頭部に頭蓋を直接砕き中を覗きみるための一撃が響く。骨にヒビが入るその音が、中から軋んで鼓膜を揺らす。
 
「っ、ぐぅぅういぃぃっ!」

 右手には深い裂傷があるが、そんなものは気にならない。頭に受けた腕を残した左腕で振り払う。
 後手で先も取れないが、直接に触れて払うことができるという確かなこと。
 受けた負傷を持ちながらも、全身をバネに後ろに飛び跳ね、距離を離す。彼の追撃はなく、一旦の膠着になる。

「ははは、今のは危なかったかな? いかなものでも、頭を砕けば続行は危ういからね。死にはしないけど」

 不思議に思うことは一つ。徹底して彼は追撃を嫌う。機会の後続を狙おうとしない。……もっとも、今の一撃でもそんなことをしようものならとっくに彼の首は永遠に治らない傷痕を負うことになっていただろうけど。

436まるく:2015/09/09(水) 00:17:03 ID:SNX6KJOc0



 深くはない右腕の傷、その他衣服と共に僅かに切り裂いた小さな肌から滲む赤は塞がっていない。だが、その他殴打した痕は僅かな時間を置いた後には再生している。
 不死身の吸血鬼。話にならないほどに優れた存在をまざまざと見せつけられているよう。
 均整のとれた幼顔を崩すことは神が許しはしないというかの如くに頭の傷は塞がり、ずれたキャップに噴き出た血が染み着くのみとなる。
 目星は付いていたので調達の予定は完了しており、回収ができた吸血鬼ハンターの武器が無ければ、館の紅の一部になっていたかもしれない。あっけなく。
 あまりにも無謀で、あまりにもお粗末で。……そんな滑稽さに、酔っているのかもしれない。

「『それ』」

 未来の様を垣間見ようとしたときに、まさしくその行動を咎めるように、レミリアから声が発せられる。

「何かに付けてちらちらと『何か』見てるね。お前には一体何が見えているんだ? いやいや、純粋な興味だよ。けれども、命を懸けたやりとりに相手から目を逸らす瞬間がある方がおかしいだろう? それも一度や二度ではない」

 気付かれたところでそれを上回る力を自分が持っているとわかっていれば、そのまま何も知らずにいたことを幸せに思えるようにするのだが。彼女相手に、こと幻想郷にてそれは通らない。
 早くに気付かれる、どうしても外せないエピタフの『予知』。それを見ることで得られるものは大きいが、そこを見切るレミリアの才覚。

「お前に取り巻く、人型を見ているのか? 私の周りにまだ何かいないか、探しているのか? ……んー、違うな。お前」

 もったいぶった、大仰な様子で悩み、考え、わざとらしくたどり着いた結論。

「運命や未来が、見えているんじゃあなくて?」

 発せられるのは、僅かに自分の鼓動を速め冷えた汗を伝わらせる現実。

「大方はそれで納得ができる。不可能弾幕も、人間の目には捕らえきれない私の動きも、全て『視えて』いたのなら。結末がわかっていたのなら。視えているのは残酷な運命か? それともそれを回避した未来か? 『絶頂』に固執していたが……。なるほど、そんな眼を持っているならいかに矮小なものでも野望は持つだろう」

 感覚ではなく、視覚として展開しているのがやや不便そうだが……

 小さな締め括りを持って自分への疑問の答え合わせを求める。浮かべている笑みは、彼女自身の推察への確信。
 短い時間ではあったが、その濃密さゆえに嗅ぎ取られたことへ、僅かながらに称賛の気が湧き出る。
 自分と対峙し、生き残ることができればその能力への強大さと全貌に気付くことは容易だろう。故に、今まで知っている者を逃しはしなかった。
 だが、ここでは知られてからが本番だろう。知らぬ者は恐れるが、端から土俵の違う生物に対して、その溝を埋めるだけだったのだから。

「操れると聞いているが、お前には視えないのか? 自分の運命が」
「滅多なことで視るものじゃないんだよ。お前も百を超えれば理解できるさ、そんなものに振り回される自分の醜さが」

437まるく:2015/09/09(水) 00:18:52 ID:SNX6KJOc0
 ディアボロへの返答を共する行動で返す。彼女の言の末尾は既に後ろから聞こえていた。
 やり取りで確認の遅れた未来は、全身を走る衝撃と打撃音で現実となる。

「ぐうぅっ!?」

 吹き飛び、もんどり打って倒れてしまう。
 そんな吹き飛ぶ自分とは別、かすかに聞こえる空を切る音。


「……ふむ、やはり時を止めるだけではない。なにがしか、世界を歪めているな」

 一瞬の答えは、飛ばされた自分に追い討ちをかける、レミリアの強襲の後。持ち前の神速でディアボロの真上の天井まで移動するとその並はずれた身体能力を用いて急降下。
 時を飛ばしていなかったのなら。天井の崩落に巻き込まれるか、砕けた床の一部に混ざるか。

「私の身体は記憶している。が、その『過程』はなく『結果』だけが残っている。お前が回避したという結果だけが。もし時を止めて回避しているのなら。攻撃を回避しているのなら私がそれを認識できるはず。……にもかかわらず、その認識は欠けている」

 その場から翻り、足音もなく地に着く。その優雅な姿勢は吹き飛ばされよろよろと立ち上がる自分とは正反対。戦闘不能のほどではないが、それでも負った傷は大きい。
 だが、この程度の負傷は幾度もあった。いつしか、その程度と称せる様に。薄々と気づいていた、精神の成長と共にどこか現実離れていく自らに。

「未来を視る能力、世界を歪め認識を曖昧にする能力、見えぬ人型を操る能力。それらを一つにまとめ操る精神力。……外の人間にしては多彩だ。そして肉体も十分に洗練されている。…………」

 言葉の途中で、しばし何やら考えるか鬼なる。もし怪我が無ければ、その場で攻め入ることを選択していたかもしれない。

「……あー、それらは何ていうんだ?」
「…………何?」
「名前だよ、名前。いつまでもそれとかあれとかだとこっちも言いづらいじゃないか」

 怪訝な表情が浮かんでしまう。今までに気にしたこともないし、そも命を懸けて戦っていた一瞬だというのに。

「……呆れた。名付けは重要な儀式だ。名付けるそれに対して生命として、役割として生み出した者から初めての与える物、全ての始まり。それらを行い始めて生まれたものは意味を持つ。……いいだろう。外因にして好敵手、お前を表してこのレミリアが名付け親になってやろう!」
「……何を言っているんだ?」
「そうだな……お前の意気や信念、野望の為に自ら困難に立ち向かう精神ッ! それに基づくそばに立ち寄る者! 『スタンド』というのはどうかなッ!!」

 会心の出来と言わんばかりに、得意げな笑みをディアボロに向けてくる。それは、その見た目相応の、親に成功を褒めてもらいたい子どもの顔。
 何も言い返せない。急に言い出す突拍子もないことも、すでにその名前、というか種として呼ばれているという事実も。

「ふふふ……自分のセンスに高さが怖い…………あぁ、言っておくが使っても使わなくても構わない。けれど、名を持つことで『それ』は存在する意味を持つ。敵に塩を送ったつもりはない。長く生きるほどに好敵手を求めるものだ、贄の流れる血の質を求めることはお前に言われなくても同じなのさ」

 そのままに空で手と足を組み、今か今かとこちらの返事を待つ。
 結果としては確かに既についている名前を再び呼ばれただけだが、その意味を省みることは今までは確かになかった。通称として呼ばれていることを風に知って、そのままにそれを使っていた。
 いや、名付けが怖かった。その意味を、そのやりとりを自分に重ねてしまって。忌むべき、自分の名を。

「……それは敵に送る余裕ではあるが、軽視や侮蔑の意味で送っているわけではないことは認めよう。『スタンド』……立ち向かうもの、か。おもしろい」

438まるく:2015/09/09(水) 00:20:03 ID:SNX6KJOc0

「そしてオレにこれ以上近づくな。フランドール・スカーレット」


 この場にいない少女の名前。
 それを聞くにレミリアの顔は苦々しく曇る。その者が現れることを好ましく思わない表情。

「……へぇ、お兄さんどこかおかしいの? それとも、感がいいだけなのかな?」

 全てを受け入れる門が開く。その先に居たのは、姉と同じ吸血鬼。レミリアの髪を月と称すなら、彼女は太陽を称するほどの明るい金。
 だが、背後に連なる7つの色を模した結晶羽は何物に類する物がなく、否応が無く悪魔を連想させる。

「なーんて。聞こえていたわ。お姉様のくだらない名付けも、その前の解析も。……面白そうね、人間」
「なんだと」

 同じ距離を保つように、自分を挟んで対極にいる姉妹。双方どちらも夜の王にふさわしい、その覇気を感じ取れる。

「……ところで、何で私は遠ざけられるのかしら?」

 純粋な少女の疑問。何も他意はなく、唯ある物を聞いただけの様な疑問文。
 だが、その言葉はそれだけの意味では終わらない。彼女の眼が、発する気が、全身から漏れ出る波が、ディアボロの精神をくすぐる。
 燻る先に見える火のような紅い眼は、狂気を日常として受け入れたような、そんな瞳をしている。
 ディアボロには見覚えがあった。もはや中毒と化し、ソレが切れていることが非日常となった麻薬患者。

「お姉様とは遊びに付き合ってあげて、私とは付き合わない理由は? 同じ吸血鬼、同じスカーレットよ、お兄さん」

 よく似た姉妹だ。浮かべる蠱惑の表情は幼さを残しながらも生きた長さを物語る血の貴さを感じさせる。しかし、姉と比べるとややも上に立つ者としての威厳が足りていない。

「オレがこの館で求めるものはこの世界の先への足掛かり。先へ行くための力を得るため。レミリアはそれに釣りあう相手だがお前にはそれはない。
 下がれ、フランドール・スカーレット。お前はオレにとって試練の前に転がる小石ともならない」

 明らかな挑発。姉には付き合うが妹には付き合わない。理由は単純、劣っているから。
 フランドールの事は当然先に読んだ縁起にて理解している。狂気を持つこと、幽閉されていたこと、今は少し、表に出ている事。

「……………………」
「……へえぇ?」

 もちろん、レミリア相手でも苦戦を避けられない自分が、本当にフランドール相手に余裕を出せるとも思っていない。
 だが一番の悪手は二人を相手取ること。そうなってしまえば、抵抗することなく、何回ともわからないあの瞬間に戻されるだろう。

「……面白いことを言うのね、今まで巫女にも、魔理沙にもそんなこと言われなかったのに。私が弱い? お姉様より? 脆弱な、人間風情が」

 紅い瞳が揺らぐ。周りに溶け込むかのように、彼女の周りに紅い霧が纏う。
 それは力の表れ。自分を知っていてなお、姉と比べて劣る妹と、何も知らないはずの男に評されたこと、その事実に対する怒り。

「フラン」
「止めないでよね、お姉様。子供っぽいこと言うけれど、初対面の人間にああ言われて黙ってられる程私、気が長くなれないわ」

439まるく:2015/09/09(水) 00:22:15 ID:SNX6KJOc0
以上になります。半分くらい、どうにも長くなりそうになってしまって。
誤字やおかしい所も、後半が完成したらさりげなく修正したりもすると思います。
しかしそれまで無音で置いておくのもつまらないと思いました。自分も、他の人も。
というわけで、投稿させていただきました。どうぞよろしくおねがいします。

440どくたあ☆ちょこら〜た:2015/09/25(金) 15:08:16 ID:UUVcXNvU0
まるくさん、投稿お疲れ様です!

吸血鬼の再生力は、スタンドの精神攻撃をも凌駕する。それを見越して銀座ナイフを入手していたディアボロも流石の先見の明!
レミリア「チラチラ見てただろ」
ディアボロ「見てないですよ(すっとぼけ)」
不死身の吸血鬼ともなれば、未来なぞ見えたところで興醒めなだけ。人間と妖怪での相容れない価値観の激突ですね
そしてまさかのフランドール乱入、てっきりレミリアを撃破後に連戦かと思っていたので、この展開は意外でした
ディアボロの欲しているものは帝王の座であり、最強の称号ではないからこその、この物言いなのでしょうね

前半だけでこのボリューム、キリも良いのにここまでで一話としなかったのは、やはりこだわりがあるからでしょうね。後半が特に楽しみです!

441まるく:2015/10/08(木) 09:19:09 ID:2./TCeyA0
再び一か月。何とか仕上がりました。本当にキリの良いところまでというか。行きたいところまで行けましたので投稿いたします。
前半部、誤字などの修正入れていますがほとんど変わりないのでこちらには投下しません。WIKIの方で確認していただければと。

>ちょこら〜たさん
迫真幽波紋部 ヴァンパイアキラーの裏技
フランちゃんうふふ。黙って見ているはずがないんだよなぁ…そして、ただ強いだけを目指すだけでなく、地位としての座なのでフランは遠ざけようとしています。
2VS1を避けたいのも本音ですが、地位を高めれば相対的に強さを得ているだけ。地位を得るために、強さを持っているだけなので。

というわけで、後半を投下します。

442深紅の協奏曲 ―スカーレットクイーンの迷宮 5―:2015/10/08(木) 09:20:36 ID:2./TCeyA0
 右手に持つ歪に曲がった杖に漂う霧が纏い、美しくも禍々しい、赤く燃える巨大な杖を作り出す。
 その熱量は距離のあるディアボロの身体を舐める様に漂い、気力体力を奪っていく。噴き出る汗の一つ一つを乾かしていく。

「しっかり認識させてから、壊してあげる。災いは自らが招くものだってことを、絶対強者の証明を」

 転進、即座に時を吹っ飛ばしてその場を離脱する。自分の行動を彼女たちが認識する前に行えば、悟られることも咎められることもない。逃げた、という事実だけがその場に残るだろう。
 フランドールによって開け放たれたままの扉の先、館の中を駆ける。

「 ……、は? なに、それ」

 彼女の力は姉に劣らず脅威。類することの無い赤い凶器を取り出した時点で十分に理解できた。あの場も十分な広さがあったが、吟味を行う時間もないだろう。フランドールには、楽しむ余裕がない。挑発を挟んでいようといなかろうと、全力が彼女の幼さの表れだ。
 予知を垣間見る。見えぬ撃も自分にとっては――

「!?」

 自分の居る僅か先。一瞬のきらめきの後に頑丈な建物ごと、壁も床も天井も。瞬閃が走った後には何も残っていなかった。ただ、膨大な熱量によって切り裂かれたという結果のみが事態を物語っている。
 歩いた道程を顧みる。その戻り道の行き着く先は一つしかない。

「ぁは」

 再び時を飛ばす。何が起きたか理解していたわけではない。ただ、身の危険がこれから起きるということだけは感じていた。
 事実、自分の懐には既に虹色に煌めく羽と、あどけなさを残した狂気の微笑み。フランドールがディアボロの臓腑に直接触れている事。時を飛ばしたその空間でなければ、今は感触を感じているわけではないが、自らの内臓をかき混ぜられ。その放る軌跡に命を散らしていただろう。
 レミリアとは違う戦いの臨み方に、同じく背筋が震える。まだ人同士に思える姉と違い、獣の暴虐さを感じられる妹。
 同一なのは、どちらも致命を与えたと確信した時に浮かべるその笑顔だろうか。

「はははっ……あー。厄介。お兄さん、ホント逃げることは得意なんだね。咲夜とは違う。どちらも十全理解しているみたいだけど、用い方が全然違う。楽しませようとしてない。ただ使うことしか考えてない。はー」

 濡れるはずだった自分の手を握ったり開いたりと動かしながら、虚空に向かって一人語る。 

「徹底するつもりなのか、それとも違いを悟ってくれたのか。わかんないけど立ち向かってくれなきゃ困るのに。私はどうすればいいの? 持ちかけたのはお兄さんだっていうのに」
「フラン、あんまりはしゃぎすぎるなよ。館を直すのもタダじゃないんだからな! ……で、来訪者よ。どうするつもりなんだ?」

 館に二人の声が響き渡る。

443深紅の協奏曲 ―スカーレットクイーンの迷宮 5―:2015/10/08(木) 09:21:23 ID:2./TCeyA0

「言った手前に逃げ出すのも戦況判断、経験の故だろう。そこは認める」
「私は認めないけどね。つまんないし」
「静かにしな、喋ってんのは私だよ」
「……ぶー」
「ふん。……しかし、逃げてどうするつもりだ? お前のその力を用いたとして、私の庭から逃れられるとでも? それともまだ何か隠した手があるのか、フランが現れ、背を向けたその状態で?」

 その問いかけに答えるつもりはないが、確かに先ほどと比べて状態は悪くなった。逃げが有効と考えたが、逆効果。最も、あの力を前にして目前に立つのみというのも無謀である。
 今はまだその時ではない。浮き沈みは、誰にでもある。

「…………ぎゅー」

 フランドールの、ほんのわずかに拾える程度の声。それと共に映る未来は、残忍な結末。
 何もない一瞬の後、自分の身体が爆散し崩れ去ったままの画面。誤解の生じるものでもない、そのままの結論、フランドールの能力。
 三度の世界の暗転。ただ保身を考えたのみの能力の使用。進まぬ展開の苛立ちよりも、危機への焦燥が心をより強く支配する。

「……、くっ」

 だが、簡単には好転しない。死への秒針は止まらない。
 吹き飛ばしている最中にも、自分の身体が崩れていく感覚。外傷も、衝撃も、痛みも何も感じはしないが、唯攻撃は続いているという感覚だけは理解できる。
 能力による破壊は、瞬間ではないのだろう。『破壊されている』という結果が時を飛ばしきるその時まで続いていれば、自分は死から逃れられない。『破壊された』という結果まで、逃げ切らなければならない。
 吹き飛ばすのも永遠ではない。人間が自発的にいつまでも呼吸を止められないのと同様、この能力も限界がある。
 全ての音が消え、自分の鼓動のみが世界の形を作り出す。自然と、胸を握るように手が動く。二秒、一秒。

「 っ。……ふふ」
「またか……しかし、今回は随分長かったみたいだな」

 限界を迎えたその先は、何とか自分の身体は無事を保っていた。レーヴァテインを出された時とは違う、冷えた汗が全身を覆っている。

「ねぇ、どうするお兄さん? さすがに鈍感な私でもわかっちゃうよ。ねぇ? お姉さま」
「お前が鈍感だなんて聞いたことないが」

 二人の少女の何気ない会話。表情が易々と目に浮かんでくる。秘密事を共有する姉妹の、誰にも告げない共通点を手に入れた時の甘い顔。
 だが、それはディアボロにとっては絶望でしかない。既に、生殺の自由を握られたことと同意だから。

「私は十分と思って勝手に放しちゃったけど、きっとずーっとぐりぐりぐずぐずにしていたら、どれほど世界を歪めてもお兄さんは逃げきれない。お兄さんのその力は限界がある。咲夜と違ってほんの数秒」

 自分の周囲の壁が、再び赤熱し吹き飛ぶ。こちらの位置がわかっているように、自分の隠れ場所を燻りだすかのように。無理に動けば、その餌食になるだろう。

「あなたの命は私の手のひらの上。右手にはもう、お兄さんの『目』がコロコロ転がっているの。一度触って壊れなかったのは初めてだけど……もし他と一緒にやったら、どっちを取るの?」

 放たれた青い光弾が、壁に床に反射し、所せましと飛び回る。
 長く尾を引くその弾は、ディアボロの最期の場所を追い立てようと近づいてくる。

「……ちっ」

 もはや一刻の猶予もなかった。現れた自分を狙うこと。共に、その『目』を砕き、ディアボロを破壊すること。
 同時に行われれば、回避する術はない。全てが無為になる。……それならば。

444深紅の協奏曲 ―スカーレットクイーンの迷宮 5―:2015/10/08(木) 09:21:55 ID:2./TCeyA0

「あははははは! ようやく出てきたね、お兄さん!」

 隠れていた壁から飛び出す。すぐ後ろでは反射する光弾が、元居た場所を塗りつぶしていた。
 紅い杖を携えた妹は、同じほどに紅い衣装を揺らしながら、右手を使い煽るようにキスを投げる。

「これは私からの贈り物。受け取ってくれる?」

 言葉がディアボロの耳に届く前に、フランドールの全身から辺りの空間全てを彩るように、大小さまざまな弾が放たれる。
 パターンを伴った彩りは美しく、受けるものでなければ迷路のようなその弾幕に心囚われてしまうだろう。

「キングクリムゾンッ!」

 一つの壁のように飛んでくる弾、自分を遮る物を弾き、耐え、強引に突き進んでいく。ごっこでは済まない衝撃は、スタンドによるガードも貫きディアボロの肉をえぐっていく。
 強引に、止まることなく。

「時をフッ飛ばせッ!」
「  」

 彼女が何かを口走ろうとするちょうどその時、世界が崩れていく。短い時間での、濃密な酷使。肉体だけでないダメージが、吐き気を催すかのごとく脳に響く。
 何を口走っているかわからない。どこまで飛ばすか、予知も見ていない。今あるのは、その右手を封じること。その為の肉薄。
 死刑執行のスイッチをフランドールが手にしている以上、何としてもそれだけは防ぎきらなければならない。
 遮るものはなくなった。血が噴き出すのも構わず、残った力を脚に込める。
 惨めな疾走だ。成功するかもわからない、安全かの予測もない。それでも一縷にかけ全力を駆けるその姿。まるで、ディアボロの最もなりたくなかった、ゴミのような弱者の立ち回りではないか。
 しかし、想起する。そんなやつらが、自分の絶頂を揺らがし、引きずり落としたことを。何度も、何度も再確認する。

「オラァッ!!」

 眼前、そのまま速度を乗せたまま。勢いづいたスタンドの一撃は迷うことなく小さな右手へ。自分の手に光るナイフも、同じくその手を斬り落とすために振り下ろす。
 命中する寸前に、世界は再び彩りをもたらす。……逃がしはしない。



「きゅっ」

 砕き、爆ぜる。
 フランドールの、ディアボロの、目の前で飛び散るのは人間の血。
 触れるか否かのその瞬間に、握りしめる動きの方が早かった。その小さな動きの方が早かった。
 振り下ろされるはずだった右肘から半ばは血袋が破裂し、ゆっくりと二人と、床を濡らしていく。
 握られた右手を、自然落下するナイフがほんの少しの傷を作り、そのまま多分に水分を含んだ床で、べちゃと音を立てる。続けて、肉の落ちる音。

445深紅の協奏曲 ―スカーレットクイーンの迷宮 5―:2015/10/08(木) 09:22:33 ID:2./TCeyA0
「……うあ、あぁ、あ」

 ほんの僅か、足りなかった。それを認識しようと反応が遅れる。竦んだ脚が、小さく相手から離れようとする。
 その身体を、僅かに残っている服の切れ端を近づけ、フランドールはディアボロの顔を強引に近づける。
 近づいた、困惑を多分に、恐怖に徐々に彩られていく直前の彼の頬に、小さく口付けをして。

「おしまい」

 投げ捨てる様に、床面へ叩きつける。空気の揺れ、走るヒビは、唯の人間に耐えられるものではない威力を証明する。
 横たわる肉体に、後ろに大きく振り上げた足を勢いよくぶつけ、吹き飛ばす。
 椅子に戻っていたレミリアの方へ吹き飛んでいくそれは、脇の壁へ衝突し、それでもなお余る勢いは壁の崩落を持って分散していく。

「……ん〜〜〜、はぁー。すっとしたー」
「…………やりすぎてない? フラン。私の分が無いんだけど」
「先にやってたからもういいでしょ? 可愛い妹の分も残してあげるっていうのが筋ってものでしょ年長者。でも面白かった! 目を取られると宿ったそこに移るだけなのね。奪い取ろうとする人なんて初めてだったから知らなかった」
「ああそうかい。……私の時には退かなかったのに、フランには退くっていうのもなんだかなぁ」
「それにさそれにさ。あの人、以前あったことあるわ。前にも話した、恐怖の消える人間。近くで見たらその通りだったの、本当よ。きっと、今頃死体は消えているはず」
「あー、あんたの与太話。嘘でしょ? ……死体が残ってればわかるし、無くなっても証明か。確定しちゃうじゃない」


 まるで遠くで話されているような。それも、どんどんと遠ざかっていくような。
 わずかに繋ぎ止められた何かが、しかし流れ出ていって消えていく。
 まだだ、まだ……。そう思っても、温かく小さな光が、差しては消え、差しては消えていく。
 でも、何か、小さく、それでも聞こえてくる。忘れてはいけない、最初の、最後の声が。 


「誰からも証明されなかったちょっと前の波紋がいま証明される時よ。あ、遺品。これも消えるのかな」

 転がった右腕を、ひょいと持ち上げる。まだわずかに流れ出る血は、口づけした時に付いた食事と同じ物。

「……さすがに行儀悪いなー、あいつと同じになるのはヤだし」
「ふむ、しかし紫が言っていた奴も、こんなものか……楽しかったけど、いい勝負、とまでは行かなかったなー」

 がたがたと、瓦礫をどかし遺体となった彼の肉体を探す。

「楽しかった? 私にとっては裏切られた感じ。驚きはしたけど、あれじゃ魔理沙とかの方が全然強いし面白かった……ぇ」
「それはそれ、これはこれ。少なくとも当時の咲夜並には強かったってあれ。……あれ?」

 血に濡れた壁材を見つけ、そのあたりをどかすとそこには動かなくなった彼の肉体があった。
 それを持ち出そうとさらに細かく除くと、あったのは。

「……子ども?」

 自分たちよりかは肉体の成長はしているが、それは確かに先ほどまでの男の身体ではない。
 示すものは失われた右腕、来ていた衣服、重傷の傷跡。全てが先ほどまで存在していた来訪者だと告げている。
 不審に思い、その身体を持ち上げる。自分より圧倒的に大きかったその身体は、今は何とか手を上げればつま先を引きずる程度までには持ち上げられるほどに小さい。
 持ち上げた拍子に、からと小さく。履いていたズボンのポケットが破れ何かが落ちる。

「何だろ、タリスマンかしら?」

 鏃の形をしたそれを不審に思ったその時。

「ぎぃぃいいいいいいいい、やあああああああああああぁぁぁ!!!!!!!」

 フランドールの慟哭が、レミリアを、紅魔館を揺らした。

446名無しさん:2015/10/08(木) 09:26:19 ID:2./TCeyA0
以上になります。これを持って一話とさせていただきます。
……いろいろあってこれを描くのに時間がかかってしまったのも。完結までは走りますけれども。
退いたから追い立てられて攻める必要があったのか。対レミリアのように最初から攻め続ければよかったか。どちらが本当かはわかりません。
けれど今は、この形でいったんto be continued.
あなたもコンティニューできないのさ。フランちゃんにキスされたディアボロをゆるしてはいけない

447Dr.ちょこら〜た:2015/10/28(水) 20:14:40 ID:FpGaJQ4Y0
まるくさん、投稿お疲れ様です!
今回、心の底から面白かったです‼︎vs諏訪子戦に勝るとも劣らない高揚感…ッ‼︎
今回は本当にじっくり感想書きたいのですが、現在紅楼夢のペーパー作製に心血を注いでおり、時間が取れません
紅楼夢後に改めて感想述べさせていただきます!

448Dr.ちょこら〜た:2015/11/09(月) 21:03:16 ID:.MRsTzuE0
まるくさん、投稿お疲れ様でした!(二度目)
圧倒的パワー!スピード!暴力‼︎ジョジョキャラと東方キャラの交戦において、DBじみた肉体スペックと大火力を誇る幻想少女らに如何にしてジョジョ勢が対抗するのか、非常に頭を悩ますテーマです。
私が採ったのはある種『逃げ』とも言える、東方側のスペックを下げてしまう方法でした。
そこをまるくさんはあくまでも東方側の大火力で圧殺する戦法を維持し、鮮烈な絶望感を演出している!自分もこう描くべきだった、と反省させられました…!
姉妹の掛け合いから、結構軽口も叩き合えるくらい仲良さげなのが微笑ましい…おそらく二人の微笑は(暗黒微笑)なのでしょうけど
息を止める、微動だにしてはいけない、などの『静』を強制される危機は読者の息も止めさせるので緊迫を実感できて良いですね。しかも『時を飛ばし続ける』『全力で駆け寄り目を奪還する』…両方やらなくちゃならない場面での緊張感は手に汗握ります!
地を這う弱者の振る舞いも、ただ死の恐怖に震え為すがままだったかつての醜態に比べれば。寧ろ今の姿こそ輝いてるぞディアボロ。全力を出した先にこそ人間の成長はある。本気になった時こそ本当の自分が見られるんだよッ!(修造並感)
決死の一撃ッ!しかし届かず…ここからの虫を潰すような暴力にフランの怪物性が如実に表れてますね おおエグいエグい…
斃されたディアボロの死体は…ドッピオに変貌…⁉︎負傷が治るでも無いあたり、本当に死んだようですね…
【キング・クリムゾン】がディアボロ自身だから、完全に生命が失われた事でスタンドが消滅しドッピオの肉体のみが残された?となるとディアボロの魂はGERの呪いの輪廻に引き戻されたのか…
フランは矢尻から『破壊の目』を通して真理のようなモノを垣間見てしまい、SUN値が急落してしまったのでしょうか 以前の邂逅の件もありますし、根深い理由がありそう

今回は特に面白かった!原作設定通りの極悪な力を存分に振るっている様を観られると、「自分にできなかった事を見事にやり遂げてくださった!」と爽快な気分になります!
この先の展開が全く予想できず、益々次の話への期待が膨らみますね‼︎
御仕事など御多忙の様子ですが、御身体に無理のないよう執筆いただければ幸いです

449セレナード:2015/11/13(金) 00:13:30 ID:cUB.bFFE0
長らくお待たせしました。
色々とありましたが、無事に東方魔蓮記56話が完成しました。
これから投稿を開始します。

450東方魔蓮記第五十六話:2015/11/13(金) 00:14:09 ID:cUB.bFFE0
飛びかかって襲い掛かってきた永琳の両方の手首を、ディアボロはザ・ワールドで掴む。
今の永琳から逃げたところで、殺意さえ抱いている彼女は執念深く、追跡を振り切れるとは到底思えない。
それならばいっそ、殺す覚悟で挑んだ方がこちらに有利になると判断したのだ。
「させるかぁッ!」
スタンドのパワーを全開にし、一切の加減をせずに永琳を思いっきり蹴る。
その衝撃で彼女が吹き飛びそうになるが、両手首を掴まれているために吹き飛ぶ代わりに両足が地面から離れる。
「がぁっ……!」
すかさずメイド・イン・ヘブンの手刀が彼女の頭部に振り下ろされ、それで怯んだ直後にホワイトスネイクのアッパーが永琳の顎に命中する。
それで真上に吹っ飛んだ直後、ザ・ワールドの踵落としが永琳の頭上に炸裂する。
スタープラチナの全力のパンチで吸血鬼であったDIOの頭蓋骨を砕くことができたことから考えると、間違いなくこの一撃で永琳の脳は……『破壊される』。


頭蓋骨を砕かれ、脳に攻撃を受けた永琳の肉体は、血液を体外に流しながら地面に叩き付けられる。
だが、ディアボロには『それでも彼女は死なない』という確信がどことなくあった。

何故なら……『不老不死』の身である輝夜の従者でありつづけているのなら、彼女もまた『不老不死』であるはずなのだから。
ただ若返りの薬を服用していたのでは、不慮の事故などで輝夜を置いて行ってしまう恐れもある。
彼女は、自分が輝夜を置いて逝ってしまうことを不安に思っているのかもしれない。
そう考えると、若返りの薬を服用しつづけるよりも、輝夜と同じ存在である蓬莱人になった方がずっとそばに居られるだろう。

不意打ちに備えてディアボロが数歩下がったその時である。
永琳の左手が、握っていた矢を握力だけで折ってしまう。そしてそのまま体に力を入れて起き上がる。
彼女の頭から血が流れ、顔は真っ赤に染まり、息を荒げながらも、殺意を込めたその目線は変わらない。
その気迫にディアボロは呑まれないが、何も知らない人が見たら逃げ出しそうである。

永琳は右手に握っていた矢を思いっきりディアボロ目掛けて投げ、懐から二本追加で取り出して更に襲い掛かる。
ディアボロはその矢を回避し、永琳の攻撃に備える。
直後、永琳がディアボロを蹴り上げようとし、彼は後退してその攻撃を回避する。
それに対して永琳は上げた足を勢いよく地面に叩き付け、そのまま地面を蹴ってディアボロに飛びかかる。
手にもっている二本の矢をディアボロに刺すつもりだろうが、そうはいかない。

451東方魔蓮記第五十六話:2015/11/13(金) 00:15:37 ID:cUB.bFFE0
ディアボロはザ・ワールドで時を止め、永琳に蹴りを入れる。
そして時が動き出すまでの間に、ホワイトスネイクで両手に握った矢を没収しながらザ・ワールドも使って彼女の懐を調べる。
別に変な意図はない。彼女から矢を奪うために調べているだけなのだ。誰が何といおうとそれが事実だ。
「(……見つからないな。一体どこから取り出しているんだ?)」
色々な所を探っても見つからない。しかももうすぐ時が動き出してしまう。
戦況を有利に近づける為にディアボロは仕方なく彼女を調べるのを止め、まるで挟み撃ちするように永琳の背中にザ・ワールドで蹴りを入れておく。

蹴りが命中した直後に時が動き出し、永琳はその衝撃で回転しながら地面に叩き付けられる。
永琳は自分に何が起きたのかは理解できた……が、その場から離れる前にディアボロとザ・ワールドに踏みつけられてしまう。
「くぅ……ッ!」
仰向けならまだしも、うつ伏せのこの状態で踏まれてしまっては物理的にディアボロを掴んで離すことはできない。

「……ッ!」
永琳は両腕に力を入れ、立ち上がろうとする。
当然、それに気づいたディアボロはザ・ワールドと一緒に力を入れて彼女を踏みつける。
普通ならそれに屈してもう一度倒れこむのだが、サバイバーの影響を受けている彼女は、筋線維の損傷を無視して力を入れ続ける。
ディアボロもまた、彼女を再び倒れこませるべくザ・ワールドと一緒に力を入れる。が、彼女はまだ倒れない。
そんなことをやっていると、ディアボロの背後から『音』が響いてきた。
「?」
ディアボロは永琳を踏み続けながら後ろを振り返ると見ると……
無数の弾幕がこちらめがけて飛んできていた。

「なっ!?」
しまった、と思いながらディアボロは永琳を踏みつつザ・ワールドとホワイトスネイクで防御体勢に入る。
永琳自身へのダメージは必然的にディアボロ達が盾となるために抑えられ、仮に自身が被弾しても急所に被弾する可能性はかなり低い。

このままでは倒すべき敵を庇いながら、その敵からの攻撃を防ぐという状況が続きかねない。
ディアボロは止むを得ず永琳を踏み台にジャンプし、防御体勢を維持しつつ彼女から距離を取る。
残りの弾幕のいくつかが永琳に命中するが、どうせ大したダメージは受けていないだろう。


「(策を練る時間を与えてしまってたとはいえ、まさかこんな無茶苦茶なことまでするとは……)」
ディアボロは受け身を取って着地し、永琳の方に向き直る。

サバイバーの能力は知性を奪わない。ただ凶暴かつ好戦的にするだけだ。
自身が攻撃できない状況が、却って永琳に策を練る時間を与えてしまったのだ。

一方で自由になった永琳もまた、ディアボロの方に向きなおる。
だがサバイバーの影響は未だに受けている為、輝夜を支援するよりもディアボロを攻撃することが優先になってしまっているようだ。

452東方魔蓮記第五十六話:2015/11/13(金) 00:16:26 ID:cUB.bFFE0
永琳は牽制に弾幕を撃ってくる。しかし、その弾幕の量は牽制というにはあまりにも多すぎた。
「(回避できる箇所がない……!)」
大雑把に見ても回避できる箇所が見当たらない、いわゆる『不可能弾幕(インポッシブルスペルカード)』というやつだろう。
ザ・ワールドの猛攻をもってすればある程度凌げるだろうが、向こうの弾幕には際限がない上に拳をぶつけても衝撃がこちらにも伝わるので凌ぎ切ることはまず不可能だろう。
何のためらいも宣言もなくこれを撃ってくるあたり、サバイバーの影響というのはやっぱり恐ろしいものである。

大量の弾幕がまるで群れを成してディアボロに襲い掛かろうとするその様は、さながら空を飛ぶ軍隊アリである。
一度でも被弾をしてしまえば、残りの弾幕が彼を呑みこむように襲うだろう。
「あれに呑まれたら一巻の終わりか」
思わず思っていたことが口から出るほどの圧倒的な光景は、魅入られれば終わりを意味する危険な光景でもある。
「(ならば……)」
一つの考えを思いついたディアボロは目線を竹林の方に向ける。
幸いなことに、まだメイド・イン・ヘブンは装備されている。
普通に逃げたらその動きを先読みされるだろうが、このスタンドでの速さならこちらも先読みに対応できる。
そのまま竹林の中に逃げ込み、輝夜と永琳を引き離しつつあの多量の弾幕を凌ぐ。

ディアボロはメイド・イン・ヘブンを発動し、豪雨の如き勢いの弾幕から逃げ始める。
彼が弾幕を避けようとその場を離れるのは永琳には想定済みだったが、輝夜と張り合ったあのスピードに対してはどうしても数手遅れが生じてしまう。
だが、永琳も今のディアボロが攻撃するためには距離を詰めなくてはならないことは先の戦闘で理解している。

弾幕の嵐を振り切り、ディアボロは竹林の中に移動しはじめる。
この竹林の中ならば、メイド・イン・ヘブンの能力を使わずともある程度竹で弾幕を防ぐことができるだろう。
道に迷ってしまうかもしれないが、今はそんなことを言っている場合ではない。むしろ永遠亭の敷地内という開けた空間で闘う方が危険なのだ。
そしてディアボロの動きを確認した永琳もまた、彼を追って竹林の中に入っていく。

竹林のあたり一面に弾幕の命中する音が響く。
何事かと竹林に住む獣や妖怪が音のする方向を見れば、脇道の方を通って逃げるディアボロと大量の弾幕を撃ちながら彼を追う永遠亭の医者。
しかも永遠亭の医者は殺意をむき出しにしているため、どうして眼前の光景が繰り広げられているのかわからぬまま皆その光景を見送ってしまう。
というか、割って入ろうとすれば間違いなく酷い目にあうという予感を皆感じていた。

ディアボロはホワイトスネイクとエンペラーのDISCを入れ替え、エンペラーを手元に出現させる。
このスタンドならば竹の隙間を通して命中させることができる上に様々な方角から永琳に銃撃できる為、永琳がエンペラーの性質を見抜いたとしても軌道の予測を困難にすることができるのだ。
とはいえ、永琳から逃げながら銃弾をコントロールして彼女に命中させるのは中々に難しい。
銃弾のコントロールに集中すれば弾幕に命中したり竹にぶつかってしまう可能性があるし、逆に銃弾のコントロールを行わない場合は竹に命中したり外す可能性が高まる。
さながらガンシューティングのアーケードゲームだが、移動はセルフ、ダメージはリアルと困った仕様である。

453東方魔蓮記第五十六話:2015/11/13(金) 00:16:57 ID:cUB.bFFE0

竹林を舞台に、激しい遠距離戦が繰り広げられる。
ディアボロは回避や防御を優先としつつも、隙を見てはエンペラーで銃撃する。
が、弾のコントロールに集中しようにも相手の攻撃可能な範囲も彼と重複している為、攻撃を回避する為にエンペラーの銃弾をコントロールする余裕はあまりない。
一方の永琳は弾幕による攻撃が思ったような成果を上げることができずに怒りを感じていた。
が、彼女の元々の知性がディアボロの狙いに気づかせたらしく、弾幕を撃つのを止めて弓矢を取り出す。

月の頭脳と呼ばれるほど頭の冴えている彼女がここまで頭の回転が鈍くなるのは間違いなくサバイバーのせいだろうが、はて。サバイバーにここまでの力があったのだろうか?

今まで永琳から逃げていたのは、エンペラーと彼女の弾幕では物量に差がありすぎて一切敵わない状態だったからだ。
言い方を変えるならば水鉄砲と豪雨。どう足掻いてもそれ単体では覆す道理はない。

弓矢と拳銃。お互いの射程を考えると、どうしてもディアボロと永琳は直線上に対峙することになる。
が、ディアボロは銃弾で矢を撃ち落すなどという芸当をこなせるほど銃の扱いには慣れていない。
しかし永琳もエンペラーは見えない。指の動きで発射タイミングを予測しようにも、ディアボロは他のスタンドに引き金を引かせることで予測を外すことができるのだ。
さらに永琳はサバイバーの影響を未だ受けており、あまり攻撃が当たらないと苛立ちが募って彼女をより凶暴化させるかもしれない状態である。


片や銃口が、片や矢じりが、それぞれ獲物を正面に見据え向き合う。
数秒の沈黙と静止の後、銃口より放たれし弾丸と弦より放たれし矢が獲物を喰らうために空を走りゆく。
矢と銃弾は平行線上を辿り……
「くッ!」
「ぁぁッ……!」
ディアボロはザ・ワールドで自分の身体を動かすことで強引に射程範囲から逸らしたが、永琳は見えないエンペラーの弾を回避できるはずもなく被弾してしまう。
しかしディアボロは追撃はしない。
強力な衝撃を与えられないエンペラーの攻撃では、永琳に命中しても彼女の行動を妨害することが難しいからだ。
加えて、普通なら負傷させることで矢を撃てなく出来るが、傷つけられた先から再生していく彼女相手にはその方法は意味をなさない。
しかし、彼女が怯んだ隙をついてもう一箇所狙いを定める余裕はある。
次に狙うは……

ディアボロはエンペラーの引き金を連続で引く。当然、エンペラーの銃口から引かれた回数と同じだけ銃弾が放たれる。

エンペラーが放つ弾は銃と同じスタンド。銃を模倣している以上反動は存在するが、その反動は実銃よりはだいぶ抑えられている。
少なくとも片手でこれを撃って肩が脱臼したなんて経験も記憶もない。反動で照準がぶれた覚えもない。

放たれた銃弾はディアボロの手によって誘導され、真っ直ぐとは異なる軌道を描き始める。
狙うは永琳の弓の弦。細くて狙いが付けづらいが、そこを弾で引きちぎってしまえば弓は使用不能になる。

だが、永琳も何もしないわけではない。
ディアボロの不可視の遠距離攻撃、その攻撃の射程範囲を探る為に距離を取り始める。
それに気づいたディアボロはエンペラーの弾をコントロールを止めて彼女を追跡する。
弾丸のコントロール、周囲の地形の把握、永琳の追跡を同時にこなすのはかなり難しい。
どちらかに手間取って永琳を見失うくらいなら、エンペラーのコントロールを止めて追跡をした方が彼女を見失わずにすむ確率は高い。
どうせ弾切れはしない。それよりも永琳の追跡に手間取って彼女を見失うリスクの方が大きい。

少し前とは打って変わって、今度は永琳をディアボロが追跡する。
永琳の放つ矢が殺傷力を維持できる射程範囲は大体150m程度。エンペラーの射程範囲は恐らくそれより短く、飛んでいる時間の長さに比例する威力の減衰は矢よりも大きい。
引き離されるわけにはいかない。
一旦彼女を見失ってしまえば、再び彼女を発見するにはエアロスミスなどの探知能力を持つスタンドを動員して探さなくてはならなくなる。
それだけならまだ良いが、見失ってしまうとディアボロの視界の外から狙撃してくる可能性が否定できなくなってしまう。
狙撃そのものにはまだ対処できるが、彼女を発見するのに手間取って妹紅と合流できなくなるのは裂けなくてはならない。


とにかく、何が何でも彼女を逃すわけにはいかない。
竹林の追跡劇はこうして、二度目の幕を開くことになるのだった。

454セレナード:2015/11/13(金) 00:20:08 ID:cUB.bFFE0
投稿完了です。
こちらも色々と多忙な身ですが、合間合間をぬって物語を綴ろうと思っています。
今後とも、よろしくお願いします。

永琳がサバイバーの影響を徐々に抑えていっているのは彼女の忠節のなせる業か。
サバイバーは命を戦いに狂わせるのであって、完全に獣に堕とすものではないのですよ。
きっとそんなものだと私は思っています。

455まるく:2015/11/20(金) 22:15:38 ID:SQHQ4oi60
感想ありがとうございます。返信も遅くなってしまってすいません・・・

>ちょこら〜たさん
いつも力関係には悩まされていますが、自分の中では大分方針は決まっているのでそれで通すことに。
今までのほとんどは強者(弱体)みたいな感じだったので勝ててましたが、そうじゃないのならダメだよ!の結果になってしまいました。
レミリアが弱い、というわけではないんですけど…ちょっと書くうえでの反省ですね。そのあたり曖昧にせずしっかり書いてあげるべきでした。いつか直そう。
まあ、レミリアも非想天則でいったら5コススペカのようなパワーアタックはする前だったので。

敗北し、フランに空き缶のように吹っ飛ばされた彼はさすがに死んだかもしれません。遅くなった理由として引きをしっかり書いてあげたいという所だったので次回に期待していて…ウッ
フランをフランたらしめるのは、やはり幼さだと思っています。原作ではそんな雰囲気はないですけど…こう。

次の展開、いろいろ、いや、頑張ります、出します。ありがとうございまし。

456まるく:2015/11/20(金) 22:23:10 ID:SQHQ4oi60
セレナードさんもお疲れ様です。
続く、永琳戦。しかし永琳も力を抑えられている(たとえ)中でも闘うなぁ。
サバイバーは怒らせる、闘志を引き出す、目の前の人間を打ち倒したくなる…など凶暴な面は見られますが知性というか理性が無くなることではないですからね。
原作でも冷静な判断ではないとはいえ、闘う術としてはかなりどちらもかなり機を読んだ判断をしています。徐倫の糸の防御からの上着目潰し、看守の壁を駆け巡る背面どり、意識してか知らずか隕石を視野に入れたデッドロック。
今更インポッシブルも何も、ディアボロも似たようなものだろ!まあ、DISC3枚越えはそれなりに精神のリスクを伴っているようですけど。…いやスタンド3体も!

永琳の懐を弄るディアボロをゆるしてはいけない

457名無しさん:2015/11/23(月) 22:42:47 ID:A2E00vlg0
東方拳闘士の続きが読みたい・・・・

458名無しさん:2015/11/24(火) 23:21:19 ID:RNUa.z.M0
純孤とディアボロは引き合わせてはいけない(確信)

459名無しさん:2015/11/26(木) 06:11:04 ID:zJaqFWZM0
>>457数日前からチラチラさわられてるけどお前じゃないのか
更新されなくてずいぶん立つから勝手に書いちゃえば

460まるく:2015/12/29(火) 15:07:11 ID:/s6KMLdY0
ついに大みそかも近づき、コミケも始まったこのあたりで投稿します。
遅筆になってきてる…うぐぅ。

461まるく:2015/12/29(火) 15:09:11 ID:/s6KMLdY0
 ……それは、単なる行為。生きるため、種の存続の為に遺伝子レベルで刻み込まれた、食べるような、眠るような、なんでもない行為。
 しかし、長い年月の中にその行為は他の生物と違い、種の存続の為とは違う、別の意味を有するようになった。そのような例は、人間以外では見られない。誰も彼も、この地に生を受け、そして次代に続くために生きているのだから。
 人間は違う。その本来の意味を持ちながらも、自分の欲を、他人の欲を満たすために。そのとき、種の存続、繁栄を全く介さない行為と化す。
 彼が見たのもそうだった。神の膝元と教えられた、教会の真ん中で。聖像に見守られながら。自分を育ててくれた、厳格な神父と見知らぬ女。
 彼とて、その行為を知らないわけではなかった。むしろ、その自然の摂理とは違う見方を、年齢を考えればごく一般的な見方しか知らなかった。島の友人たちとその話で盛り上がったことがある。伝え聞きながらも、一人で行ったこともある。
 ……だからこそ、知りたくなかった。見たくなかった。全てを裏切られたような。自分の世界が崩れていくような。静かな、しかしいつも心に強いものを秘めているようにも感じられた。誰からも好かれる、ということはなくともその好漢には嫌う者はいないだろう養父が、そうも若く魅力的なわけでもない、昨日まで村に居なかった知らぬ女を自分に跨らせているなど。
 彼の住む村は小さな村だった。地中海に浮かぶこの島はイタリアの観光地として名を馳せているが、その名所とは離れた、言うなれば自然しか見どころの無い地域だった。主要の地を見飽きた者がふらりやってきて、一宿借りたらそのまま去っていくような、その程度の出入り。だから、知らぬ者が居ればたちどころに村中に伝わった。
 女は彼が寝付くその直前にやってきて、神父と何かを交わしたのだろう。そして今、身体を交わらせている。
 酷く不快だった。こみ上げてくる感情がなんと呼べばいいのか、彼は説明できなかった。神父をかどわかし、汚したあの女への怒りか? 常に人前に立つあの人格者が、過ちを犯したことへの失望か? どちらかが悪なのか、それとも両方が悪なのか。それすらもわからない。
 一つ確かなのは、彼自身も興奮していたということ。



 女を攫うことは容易だった。事後、何かの密約を交わした後に荷物をまとめ、何を警戒するわけでもなくそのままこの場を立ち去ろうとしたからだ。もっとも、島民全員が互いに顔を覚えられる程度に小さい村に、警戒するものもないからそれは当然ともいえるが。
 教会から出て、何処に向かうつもりだったのだろうか? 夜闇の中を車で行くつもりだったか、それとも一応存在しているペンションにでも宿泊するつもりだったのだろうか? それはわからなかったし、どうでもよかった。
 養父に聞こえない程度の距離まで離れたことを確認した後に、堂々と近づき殴打する。気付き声を上げる前に、容赦なく。それだけで、彼女は昏倒する。
 彼には幼いころから不思議な力があった。感情が昂ると、常に何かが寄り添うように彼の傍に現れた。『それ』はいつも自分と共に怒りを表し、涙を流した。周りからは『それ』は見えなかったが、幼い彼にはそのことが一般だと感じていた。養父に聞いた時も子どもの戯れと思ったか、「自分と共にいてくれる存在を大事にしろ」と、半ばまともに取り合わなかった。
 彼は賢かった。元々同じ年ごろの子供に聞いても同意を得られないし、唯一である養父もまともに取り合わなかったこと。全てが自分に見えるこの者が異常ということを示すことに気付いていた。
 彼は避けられていた。実際には知らなくとも、その特異な素性に村の大人が感じるものがあったのだろう。言葉にしなくてもそれらは子供に伝わり、彼に伝播していく。同郷の者が罪を犯し、服役中の刑務所でどこのものかわからぬ種を得て受胎したこと。囚人も看守もすべて女性の刑務所で、それでも隠れてどこかの男と通じていた売女。噂は水のように、人々の心に沁み込んでいく。真意がわからぬとも、その真意すら確かめられない謎の出生。そんな彼を、村人はつけられた名前のごとく嫌悪していた。決して彼と、養父である神父の前では出さずとも、そのどこかには異端の者とみていた。
 自覚、無自覚、両方の奇異の目に晒され続けていた彼は、それでもしょうがないと、自分は悪くないと。悪いのは、こんな目に合わせる母親だと思っていた。表には出さず、少し感の悪い、臆病な性格を装い標的となることを避け続けた。
 その鬱屈した思いの源泉を。こみ上げる全ての感情を、しかし抑えながらそのまま自宅のガレージまで運んでいった。星の見えぬ深夜、照らす月の明かりもなく、誰もそれを見ていなかった。見ているのは、昂りに答える浮かぶ何か。

462深紅の協奏曲 ―深紅の協奏曲 1―:2015/12/29(火) 15:09:44 ID:/s6KMLdY0
「何故、僕を生んだ」

 村と共にあり、代々見守ってきた教会、それに伴う小さなガレージ。歴史と同じように年季の入ったその床に女は転がされ、彼女に跨り物心と共にあった疑問をぶつける。
 何の証拠もないが、あの時顔を見て、今ここに連れてきて、近づいてみて初めて分かる。直感で、血の繋がりがわかる。村の誰とも、一番身近にいた養父とも違う、繋がっている感覚。この女こそ、自分の母親なのだと。
 表には出さなくとも、自分の出生と存在を彼は呪っていた。生まれながらにして負わされた枷を、不自由な自分を、その根源と共に。

「何故、僕を生んだ」

 感情と共に拳をぶつける。それに伴い自分の感情を表す人型も女を殴る。自分より大柄なそれは、今の自分には震えないほどの力を持って女の身体と心を削り取る。
 答えは求めていても、どこかに知りたくはないという感情もあった。多数の色を溶いた絵の具のようにぐちゃぐちゃな心は、訪ねながらもこたえられる環境に女を置かない。少し待てば口から洩れる答えを、それを聞きたくないと言わんばかりに殴りつけ押さえつける。

「二人か、三人か?」

 幼稚な自分でもわかる、あれは子作りではない。相手とのギブアンドテイク。運ぶ時に落ちた封筒からはどこに溜めこんでいたかは知らない金額が見えた。金銭を受け取って、代償として肉体を提供する。そのような在り方があるということは知っていた。
 だからこそ、許せなかった。自分という存在を作っておきながら。自分を育てた、聖職者を。
 何が正しいかわからない。ただただ、感情を発露させていくだけ。それは、子供の駄々だった。
 口づけのできるほどの近い距離で、呟いた彼の首に冷たい何かが触れる。
 ぞっとした。彼の熱を奪うかのように這うそれは、拘束もせず力無く垂れていたはずの女の腕だった。
 そのまま引き寄せられる。奇しくもそれは、我が子を抱く母親のようでもあった。

「おお……私の可愛いディアボロよ……やめておくれ……助けておくれ……」

 頭の先からつま先まで、雷が走ったような。それがそのまま、自分の脳や心臓や何から何まで、全てをミキサーにかけてしまったような激しい痺れが、耳から、首から、全身へ駆け巡る。
 単純に助けを乞うただけかもしれない。話し合えば分ってくれるとと思っていたのかもしれない。ほんのわずかに残った意識が、ただ無自覚に手を伸ばしただけかもしれない。
 だが、光の無い瞳は虚空を虚ろに見つめながらも、ただぽつりとつぶやいたことが事実。

「…………ッッッ!!!! や、めろ」

 十分だった。その一言で、彼は顔を歪めながら一瞬の解放を認める。ずっと心に在った、全ての元凶。彼を苦しめていた楔の一つを大きく揺るがされる。
 どこかで求めていた、母親への愛情。それを受けるにはあまりに歪んでしまった受け皿。神の御許で育った彼は、反する自身に常に苦しんでいた。

「僕を、呼ぶなッ 悪魔に、助けを乞うなあ!!!」

 それでも離さない手は、死者が自分の世界に引き込むような、そんなおどろおどろしさもあるが、それに元々属しているのが自分なのだ。だから、親から子の名前を賜った。自分の生まれを、自分のこれからを定めるために。養父は賜った名を大事にしろと言い続けてきた。それは、存在の罪を認めさせるために。忌まわしき自分を示すために。
 彼の思いは噴出し、その夜はそれでも終わらなかった。

463深紅の協奏曲 ―深紅の協奏曲 1―:2015/12/29(火) 15:10:26 ID:/s6KMLdY0







「何をしたッ!? 妹に何をした、答えろッ!!」

 馬鹿なことをしている、とレミリアは頭の中でつぶやく。当然だ。手の中にあるまだぬくもりを残した死体に何ができる? 場の状況をかき乱すことも、それを抑えることも……出来はしない。
 だけど、先ほどにフランにやられ、その妹に置き土産を残していったのは間違いなくコイツなのだ。コイツのはず、なのだ。

「ぁぅ、ぁぅううぁぁあぁぁ……」

 苦悶の呻きが止まらない。頭を押さえつけ、ガチガチと歯を鳴らし、丸い大きな瞳からは耐えず涙が流れ出る。身体の振るえは治まらず、いつその場に倒れ伏してもおかしくない。
 何が彼女を犯しているのか、彼女に何が引き起こされたのか。レミリアは逡巡する。突然の慟哭、来訪者の変化、それから落ちた、鏃。

「これか、これのせいなのか!?」

 少年の肉体から手を放し、転がる鏃を拾い上げる。鉄のような石のような、冷たく硬いその感触。鋭利に研ぎ澄まされているがそれは傷つける武器として使うにはあまりにも小さすぎる。
 友ほどに魔導精機に詳しくはないレミリアだが、それでも何か特別な力を持っているとは実際に手にしてみても感じない。本当にこれが原因なのだろうか? 自問は尽きない。

「ッ、くぁっ!!」

 それでも、妹を救うのは姉の義務だ。勢いよく握り込んだそれは、吸血鬼の握力にはあまりにも脆弱だった。音も立てず、砂のように崩れていく。
 崩れたそれを投げ捨て、妹に駆け寄る。

「ひっ……っ、ごめんなさい……ごめん……ゆるして、ください……」

 すすり泣く姿は変わらない。床に落ちた視線はあらぬ何かを見ているかのように一点に集中している。漏れ出た言葉の通り、縋り許しを乞うようにさめざめと、さめざめと。

「フラン、フランッ! しっかりして、何が」

 レミリアの言葉が言い澱む。それは涙が溢れ続けるフランドールの眼が彼女を向いたから、500年以上ついぞ見たことの無い、本当の助けを求める顔だったから、……ゆっくりと、細く小さなその腕が、フランドールが自分自身の首を絞め始めていたから。

「……ぎゅぇ……ぇぅ、……ぁ……!!」
「やめろッ!!」

 なぜ彼女が凶行に至ったのかはわからない。けれど、こちらに助けを求めるその顔と、嫌々と少しでも逃れようと首を振る抵抗。明らかに何かに操られているか誘導されているか、不本意な自傷なのは見て取れる。
 急ぎその両の腕を掴みあげようし、その考えは確かなものとなる。
 何かに強引に押さえつけられているような力の入り具合、フランドールが自身で拒否しているにもかかわらず、目に見えない何かが腕を首に、首にかかった手をさらに押し付け……へし折るかのごとく締め付けている。締め付けられた箇所は圧で薄い肌色をさらに醜く歪めている。

「ふっ、ぬっ、ああああああああああああああ!!!!!!」

 妹の両手首を握りしめ、ありったけの力を込めて彼女を締め付ける恐怖から解放しようと試みる。それに気付いたように首にかけられる力も強くなり、同時に自身の持つ箇所からもヒビが入る音が手に響く。

「ぎぃっ、ぃ、……ぁぁっ……!!」
「フランッ、耐えろ、究極には、斬りおとすよ、覚悟してて」
「……ぁぅ」

 片や空気と血の欠乏で青い顔、片や激しいいきみで紅潮した赤い顔。紅い姉妹は協同は続き、それを阻害する何かは変わらずに。

464深紅の協奏曲 ―深紅の協奏曲 1―:2015/12/29(火) 15:11:00 ID:/s6KMLdY0
「……探していた道は、もう既に、通り過ぎていた……」
「ぁあ!?」

 既に二人しかいないはずの世界に、聞き慣れぬ人の声。咲夜に人払いはさせていたはずなのに、当の本人を下がらせたからか。いや、いくら美鈴も下がらせているとはいえこの館に侵入者が。
 ……いる、一人。先ほどはあそこまでの負傷、死んだものと思っていた。思っていたから、フランドールの異常も相まって正確に調べていなかった。本当に、奴が死んでいるのかどうか。
 背筋が震える。凡そあの負傷で生きていられる人間はいない。腕が吹っ飛ばされ出血は絶えない、壁面に叩きつけられ骨は砕けている、何より、吸血鬼の一撃をまともに喰らって、正常でいられるはずが――――

「本当の近道は、遠回りだった……冷静に考えれば、おかしいことだらけだったんだ……」

 その発想は愚かしいとすぐに捨て去る。あの男の戦いは、最初から幻想郷との戦いとも、通常の戦いとも何にも違っていた。運命を垣間見、操る。虚仮とは違う真なる能力。
 あの男を取り巻く見えぬ人型。死んだはずのあの男の元に居た子供。
 あり得ない話ではない。自分たちと似たような人非ず。妖怪の中にも身体は取り巻き、その精神こそが本体というものもいる。
 人間だから。その先入観、可能性の一つを捨て去っていた。もしそれが合っているのだとすれば、私は!!

「……ぇて、にげ、……ぇうっ」
「ッ、だからどうした! このレミリアが、家族を捨てて背を晒すとでも思ったかああぁ!!」

 裂帛、共に発せられるは紅い炎。フランドールと共に包まれるその紅気は十字架を様し立ち上る。自らの二つ名を名づけたスペルは彼女の確固たる意志による解放され、見えぬ、けど傍らで妹を害する者を焼き尽くすために。
 見えぬ者よ、知れ。我の力を、あまねく災禍の炎を!
 ……それもつかの間、襲い来る脱力感が、噴出した力の終わりを告げる。それはあまりにもあっけなく、あまりにも短い。気付いたら、電源を切り忘れていて電池の切れたおもちゃのように。
 手元にある妹を抱きしめる。尽くされた手の中に残る、それでも守れるものを包むように。

「ボス……ずっと、そばにいてくれていたんですね。……そして、今は『そいつ』のそばに」

 結果は、レミリアの、フランドールの。スカーレット姉妹の勝利であっただろう。だが、その足掻きは克明に刻まれる。
 少女の顔が血に濡れる。近くにある、いつも近くにいた、近くて遠かった姉の血で。
 少女の顔が血に濡れる。丸い小さな顔は、いたずらに針を刺されて割られる風船のように、右の眼から空気が出てしぼんでいくように、噴出していく。

「ぐあああああぁぁぁっっ!!!」
「あ、あぁ、…………ぁぁああああ!!」

 叫び声をあげても、フランドールは動けなかった。目の前で苦しむ姉を前に、頭を何かで小突かれそのまま押されているかのよう。少しの力で振り払えるだろうそれを、今一歩手を出す勇気を彼女は持ち合わせていなかった。
 だくだくと溢れる血の勢いは、二度三度と床を、彼女を、自分を汚す。

「……あ、あぁ、……やめて、やめてよぅ……もう、こんな……」

 目の前で倒れ伏す姉。守ろうとしてくれたのに、それをできなかった惨めな姿。それを引き起こしたのは自分。
 頭の中がざわめく。震えが止まらない。何かが動くたびに、自身の心がズタズタに引き千切られ引き摺り回され荒らされていく。
 自分が出しゃばらなければ。羨ましがって、かまわれたくって、姉のやることに足を踏み入れなければ。頭を冷やして、素直に地下に篭もっていれば。
 ぐるぐると頭の中をかきまわし、自らを崩していく。溶けて形の保てなくなったそれは、再び首に手をかけていく。
 500年前から続いている狂気、自分は何も変わらない。自分が関わればすべてが壊れていく。全てが……自分さえ、いなければ。

465深紅の協奏曲 ―深紅の協奏曲 1―:2015/12/29(火) 15:13:47 ID:/s6KMLdY0
「フラン、変なこと、考えるなよ」

 暗澹とする心に、それでも腐らぬ血の呼び声。酷く傷を負った、再生の追いつかない顔。『スカーレットデビル』の全力、不死の体力が追いつかないほどの消耗。
 明らかに追い詰められていても、姉は心折れていなかった。

「手酷くやったのは、間違いなくフランだ。にも関わらずフランは傷つけられていない……寄生先が傷つくことは、お前も傷つけられるから、じゃないのか? ええ、来訪者よ!」
「おねぇ、さま…………ひっ」
「私たち妖怪は精神に重きを置く。一つの身体に不躾にもう一つ精神が押し入ればたまらなく不快だろう、それを私のかわいい妹にやりやがって……気分はどうだ、さぞかしいい気分だろうなぁ!」

 フランドールに対して、その向こうにいるであろう来訪者に対して言葉をかける。どこまでも、自分との戦いとして、周りの者を排除してきた彼がここまで来てフランドールを撤退させようと考えないはずがない。にも拘らず彼女を傷つけず自分に挑もうとする。もし宿主をそのまま殺すことができるのであれば、レミリア自身に乗っ取り、そのまま斃せばいいはずなのだ。
 推理を押し付ける様に言葉を叩きつけると、フランドールの、姉の庇護に入った安堵が崩れる。

「ひゃ……ぁぁ、うごかないで……頭が、ず、ずぅ……!!」

 再び頭を押さえ、脳を、心を蠢く激しい嫌悪感に耐える。恐怖におびえた顔は、喉の奥に溜まった異物を吐き出すかのごとくに舌を出し、声帯を無理やり震わせる。
 同じく、死に体の少年の口も、訪れる安堵を受け入れる様に。

「せい、か、ぃ、嫌、もう、私はもうしませんからああああああああああ!!!!」
「ボス、あぁ、敬愛せし我が首領。僕はもう二度と、あなたの傍を離れません!!」

 二人の声が木霊する。反響する。
 少女は力尽き、受け止められた深い愛情の中で眠るように倒れる。
 少年は傷つき果てた体を、それでも愛する者を、畏れ多くも、しかし知らぬ地で探求を続けていた主君の帰還を称えて。


「……異形か……。……いや、人間か」

 死んだと思った身体に精気が宿る。細い小さな身体に筋肉が滾り、背格好も増していく。少し大きめの衣服もその体格に合っていく。負傷した箇所はそのまま、肉体の変化と共に音を立て生命が消えていく。
 生と死が共存した逡巡、死んだはずの男が。ディアボロは、帰ってきた。

466まるく:2015/12/29(火) 15:18:55 ID:/s6KMLdY0
以上になります。精神的に幼い妖怪の心の中を土足で侵入したら頭の中にもう一人が常にざわめく感じがしてひたすら気持ち悪いんじゃないの?という精神攻撃。
以前に映姫が指摘した通り、今のディアボロは乗り移りができます。が、それは戦略としてはひどく不出来なものです。…少なくとも仲間のいない彼にとっては。

見返すと性急な気もしますが…まあ、まぁ。良くするよりさっさと完結させよう。練り直しはまたできます。悪い意味ではなく、ポジティブに。
みなさん、よいお年を。自分もいろいろ踏み込めたいい一年でした。こう、書いていると初期のころを書き直したくなるくらいには。
あ、サブタイトルは本タイトルと同じものです。こういう表現してみたかった(こなみ

467ピュゼロ:2015/12/30(水) 03:16:06 ID:tUEzkC/k0
おお、おお、胎児よ、母の心がわかって恐ろしいのか、年の瀬が近づいて怖いのか

468セレナード:2015/12/31(木) 10:02:41 ID:O3UQoCd60
投稿お疲れ様です。
そりゃぁ、誰だってあんな状態になれば不快になりますわな。
しかも自ら作り上げたのでなければなおさらですよ。

そしてまるくさんのディアボロの過去描写も見事です。
そうなんですよね、生まれながらにしてディオ並の邪悪な存在がそんなにいてたまるかってんだ。
……とはいえ、恐らくディアボロは色々とこじれた結果、ディオ並の邪悪になった気がしないでもないのかな。
あるいは、こじれた結果あんなややこしい人になったのやら。

あ、短編は来年投稿するかもしれません。既に今年は書いていますしね。
毎度毎度行事に合わせていますが、いずれ合わせなくなる……かも?

469まるく:2016/01/02(土) 15:13:59 ID:6BpbPQ7I0
あけましておめでとうございます。今年もどうぞどうぞ。作品をかくのも読むのもがんばりますよー。

>ピュゼロさん
お久しぶりです、お元気でしたでしょうか?
ドグラマグラでしたっけ…どちらも怖いです。ああ、また一歩鐘の音が…

>セレナードさん
精神的に幼い彼女には精神の同居は耐えられなかったのです。多重人格による苦悩は現実でもよくみられるとのことですし。それを突発でやられれば。
母親は正しくは銀行強盗ですが、やはり「男性の居ない獄中での出産」はよりセンセーショナルでしょう。皆が事実を知らないからこそ、糸が絡まってしまった。
ディオも、父親がああでも母親が生きていれば、拠り所が生きていればあそこまではならなかった…?ジョナサンもディオも、母親はいなくとも父親がいて、それを見て生き方を学んできたわけですからね。
短編話し、それは残念ですが。またどこかで投稿してくれることを期待しています。

470まるく:2016/02/09(火) 01:02:42 ID:YIi0InD60
本編の方にちらっと投稿〜。

471深紅の協奏曲 ―深紅の協奏曲 2―:2016/02/09(火) 01:03:17 ID:YIi0InD60


「ハァー、ハァー、ハァーッ」
「はぁ、はぁ、……ふっ」

 ほんの数分前からは想像し難いほどに崩れたその広間に、二人の荒い吐息が木霊する。
 ディアボロは右腕を失い、全身も痛めつけられ立っているのが不可解なほどの満身創痍。レミリアもスペルに注ぎ込んだ力を無駄に消費させられ、右眼に刻まれた傷は深い。
 優劣をつけるならば、レミリアのほうに軍配は上がるだろう。だがそれを知ってか、彼女は自身のこめかみに指を突きたてる。

「、はぁっ……血を、抜いたんだよ。興奮し沸騰しそうな血を抜いて冷静を取り戻す。昔、知り合いに教えてもらったものでね」

 引き抜いた指の軌跡に紅い液体がなぞっていく。少量に流れた後、その傷痕はゆっくりと塞がっていく。この程度なら問題はない、と言いたげに治癒していくが、それでも失われた右眼の回復は至らない。

「……で、どうする気だ」

 血の匂いでむせるほどの中、傷ついた2人。

「もはや勝負は決した。フランはお前に止めこそ刺さなかったが、戦闘不能にまで追い込んだ。その後、その傷ついた体で、それでも本性を曝け出して、フランをっ、私を共に追い詰めた」

 語り口が動いて、時間が動いて、血が流れ出るのは止まらない。

「その点は認めよう。お前の足掻きはただ死ぬだけ道から活路を見つけ、フランを戦闘から離脱させ、私にも一撃を喰らわせた。……それで十分だろう? 今お前が立っていても、お前が戦闘不能なことには、変わりないんだ」

 目が回る様な長い時間、それは常態では考える時間もないほど短い時間。

「私はまだ、少なくとも今のお前の、ボロボロの雑巾よりひどいお前なんかよりかは余力がある。もしお前と同じ損傷を負っていても、相手を倒すのに労苦はないだろう。……それほどの力の差、分からないはずないのに、なんでっ、立つ」

 受ける相手の、荒い息は変わらない。

「……もし、自分が死のうとも意志を継いでくれる者が居るのなら、それに殉じる者も居るだろう……」
「……ッ!」

 口からも、溢れ零れる血液が、彼の言葉を濁す。力強さを感じさせない、たどたどしい声。

「私にはそれがいない……彼らとは違い、私は常に孤独だった。それを良しに思っていた……皮肉かな。私が今ここで戦いを終えても、そのまま続けて死んでも、『私』を継ぐ者はいない。そのまま、過去になると思っていた……」

 どこか虚ろに響く声は、まるで自分に言い聞かせているようでもあって。

「そう、思っていた。……あいつが、ドッピオが、私を認識するまでは」
「……あの子どもか」
「最も傍にいて、最も信頼を寄せていて、……最も利用した忠実な部下。それでも切り捨てるだけの手駒。……だが、それでもあいつは付いてきた。死んだ先でも、この果てでも。その先で、『私』を見出した」

472深紅の協奏曲 ―深紅の協奏曲 2―:2016/02/09(火) 01:03:53 ID:YIi0InD60
 一通りの旨を話すと、その眼に覇気が宿る。始まりの、傷のついていないときと同じ、それ以上に。

「今をドッピオは見ていなくとも。私は……人は、一人では何もできないことを理解した。ここで敗北を認めることを咎めるものも、笑う者も居ないだろう。……しかし、そろそろ報いてもいいのではないか?」

 残った左腕で、明確な意志を持ってレミリアに挑戦を突きつける。彼女に見えていない像もまた、同じく。

「守るためか。……くだらない見栄だ。だが、その虚栄心も持たないようでは、持たざる者では頂点に立つことなどできやしない。……いい眼だよ、相変わらず。今まで幾多の敵に出会ってきたけれど、そんな眼をした者達にはどんなに弱くても全力で相手をしたよ。そして、その者達に勝利したからこそ、今の私がいる」

 レミリアの周りに一瞬紅い霧が舞うと、それはコウモリの形を成して抱いていたフランドールの姿を包む。彼女の身体もそれに溶けるかのようにコウモリへと変わり、そして館の奥へ消える。

「改めて、一対一だ。引いた瞬間に散る閃光のような一瞬を期待するよ」
「こちらもそれを期待する。……結果だけだ。一瞬の、結果だけが残る」

 辺りに散った自分の魔力の残滓をかき集める様にレミリアの右手がうねり、それに呼応して紅い塊が最初は歪に、やがて正しく模られる。神々の闘争にもたらされた神槍と自称し、それを是と周りに認知させるほどの彼女の力。戦いの終結にふさわしい、今までより紅い紅い武器。
 対峙は変わらない。痛む身体もほとんど認識できず、しかしそれは脳の信号を遅らされているだけ。明確に鈍くなった体を引きずるだけ。だが、そこに絶望も自棄も見えない。滑稽に見えるほどの意志の篭もった瞳と共に。
 一歩。
 一歩。
 突きつけられた神槍の間合いに入る瞬間、

「 、くそっ!」

 予期していた展開、既に振るわれていた槍を素早く背後へ振り回し認識を追いかける。
 自分を通り過ぎる様に彼は立っており、その様を見るが為に振る舞ったのではないかと思うかの如く、ゆっくり振り返る。

「……どこが一瞬だよ、泥沼じゃあないか。飛ばしきれるとは思っていなかったけど」
「…………」

 悪態を吐くレミリアに対し、余裕ない表情で返すディアボロ。

「……当たり前、だ。確実な機会を、逸すれば到底叶う相手ではないのだから……」
「まあそうだろう、けどっ、さっき言ったこと、もう忘れてんじゃないだろうね!」

 疲労と裏切りの苛立ちからか、レミリアの言葉尻が投げ捨てられるように強くなる。
 時の同じくフランを下がらせた分身がふわりと彼女の周りに飛び回ると、元の形に戻るようにさらさらと溶け込んでいく。

「……なら、強制的にでもそうさせてあげようじゃないの!」

 神槍にまとめられていた魔力を解放し、その全てを自分の周りへ漂わせる。先ほどフランを守るため、いるはずの人型を狙ったスペルと似た、暴力的破壊の象徴。
 その力を滾らせ全身に張り巡らせ、レミリアの周りの空気がびりびりと震える。床板もそれに耐えきれず、削れ、砕け散る。

「私の最後の全身全霊よ、受けて立ってみなさい!!」

473深紅の協奏曲 ―深紅の協奏曲 2―:2016/02/09(火) 01:04:42 ID:YIi0InD60
 同時に、背後の壁まで一瞬で飛び退くと、崩落と同時に突っ込んでくる。先ほどまでいた彼女の地点、床と壁がほとんど同時に壊れ崩れた様に。紅い閃光はディアボロの感覚より圧倒的に早く、速く、

「ぅあっ!!」

 彼の隣を破壊する。それを認識した直後、閃光は辺りを右へ左へ、目まぐるしく飛び回る。
 一本の紅いペンを、白紙でぐしゃぐしゃと塗りつぶしたような、その目に映る勢いは圧倒的な速度と破壊。館が壊れることを省みず、夜闇を照らす赤い月が遮ることなく二人を照らす。
 直接衝突していないのは、奇跡か偶然か。彼女の明確な意志によるものか。それでも飛び回り破砕される瓦礫のカケラは彼の視界を瞬く間に塞ぎ、その粉塵は呼吸さえ塞ぎ、絶え間なく響く破壊の振動は足元さえもぐらつかせる。
 これが紅い悪魔の本性。いや、違う。最初から彼女はこうだった。どうあれども、自分の物を守りたかったから。それは概念も家族も。自分の城を賭けるほどの相手ではないとどこかで思っていたから。だからここまでやらなかった。
 そんな悪魔の、最後の駆け引き。じゃれつく妹を離してでも向き合う自分への最初で最後の真摯な対峙。矜持以外の何かを守るものを得た自分に対する、悪魔なりの優しさ。強者なりの理解。守るものを一つ手放し、自分に改めて対峙してくれた。
 どこで仕掛けるかを、選ばせてくれている。その絶対的な瞬間を掴んでみせろと挑発している。これほどのお膳立てをしてくれることに、感謝を見いだせないはずがない。
 時を飛ばし、その中でレミリアを見出さなくては。音と光だけでは、もはや人間の感覚を越えられてしまった。全身にぶつかる飛礫が、あまりに傷ついた体を揺さぶる。赤子の力で切れてしまうほど細い糸の上で立たされている彼の心は、熱くも、冷たくもなっていない。

「……時よ」
(まだですッ!)

 その心を揺さぶる、どこかから聞こえる幼い声。

(僕が合図をしたら、時を消し飛ばしてください、いいですか、合図を待つんです! 僕ができるのはそれだけ、行えるのはボスだけですから!)

 今まで聞くことの無い声だった。聞こえるはずがない、自分が目覚めているときは彼は意識の奥底、揺り籠の中に沈んでいたはずだから。
 破砕した礫が足をえぐる。残った腕を傷つける。認識不能なほどに砕かれた身体を刺激する。それでも、驚愕の心は振るえを止めない。

「……おまえ」
(視え、2、1ッ!!!!)

474深紅の協奏曲 ―深紅の協奏曲 2―:2016/02/09(火) 01:05:38 ID:YIi0InD60




 暗転。
 そういえば、レミリアが辺りを飛び回り始めたのはどれほど前だっただろうか? 5秒か、10秒か? もっと前だっただろうか。
 崩れ去った自分だけが見ている世界は、生あるものだけを映しこみ、阻害する何物も排除する。今ここで見る『予知』は、確実に自分を抉り去ろうとする彼女の姿。それも一つだけではない。
 期を示した彼女は一撃を皮切りに、反転と破壊を、自分の一点に幾度も繰り出そうとしている。いかな方向に逃げようと収められるように、周りから少しずつ、その機動を小さく細かく。
 先ほどの行使からどれほど止まっている間に動けるかを推測しての行動だろう。自分が五体満足であれば余裕のある距離を、今の肉体では到底向かいきれない距離は捨ててその最後の一撃に特化するために。
 もし、先ほどの声が無ければ機会を得ることはできず、不完全な状態での衝突は免れない。回避もできない。チェスや将棋でいう『詰み』の状態に陥っていた。

「……」

 変わらず、この世界は無音だ。必ず生じる空気の振動が、遥かどこかの虚空で起きているような錯覚を覚える。その感覚だけを、受け止めている。いつもの通り、いつものごとく。
 あの声が聞こえないのはこの中だからだろうか? それとも限界状態からの研ぎ澄まされた感覚が、自分の都合に合わせて変換していただけ? その答えは、ここではわからない。聞こえないのだから。
 一本の線を選ぶ。映し出される像は、映し出される画はその最適解。
 一つ、二つ。一瞬のうちに掠めていく線を一つ一つ避け、その戦前に立つ。
 勝負は一瞬。




 光速で、床を壁を天井を鏡に反射する光のように飛び跳ね続け、もはや自身さえも音も光も感じ取れなくなるほどの中、それでも何か、感覚で敵の位置を掴み続けてきた。
 その認識が大幅にずれる。レミリアはそれで理解する。時を吹っ飛ばされたことに。
 精神を摩耗するかのその集中力の中、感覚を飛ばして敵の位置を探る。
 背後か? 側面か? 上か? 下か?
 吹っ飛ばされた結果は常に回避、それに伴う反撃。だから、それは心理的な死角。

「な」

 一番最後に認識した正面。そこにディアボロは立っていた。
 秒以下の単位での認識のずれ。だが、今はそれが致命に至る決定的な瞬間になりうる。
 彼は飛ばしきれずに眼前にいるわけではない。『迎え撃つ』ために、正面に立っているのだと!!



「、あああああああああああああああああっ!!!!!」
「ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!」


 もはや、言葉にならない、ただただ腹の底から響かせるだけ。それだけの力が何処に残っていたのか、両者の衝突はその振るえから始まる。
 飛び回った最後の、愚直な故に全力の篭もった体当たり。
 それを迎え撃つ盾は、残された最後の左腕。
 ディアボロはキングクリムゾンの左腕を、レミリアを『流す』ことに使用した。
 最初に言った通りに、二人とも弱っているとはいえ力はレミリアに分がある。いくら不意を突いても衝突を行えば、敗北は必至。
 強引なレミリアの軌道は、その実壁との反射の時の精密な、あるいは強引なと言える受け身に依る物。軌道を反らし、不利な体勢を強要させればその力ごと、悪魔の紅に突っ込むことになる。
 それによる衝撃も、最初で最後の追撃にも、そのためにも。



 レミリアの頭を鷲掴みにしようと、見えぬその手が迫る。認識の遅れた邂逅に気付けぬも、その推進力は変わらない。
 目前にして、隕石が近づこうかという光と音の圧迫感。その手に触れ、溶けた鉄に手を突っ込んだような激しい熱。
 触れただけで発狂してしまいそうな苦痛をスタンドの左腕はなおも受け、反映して自身の左腕も肉が焦げ皮膚が裂け血が噴出しそのまま蒸発する。一瞬にして繋がっていることが奇跡ともいえるほどの傷が刻まれる。

475深紅の協奏曲 ―深紅の協奏曲 2―:2016/02/09(火) 01:06:10 ID:YIi0InD60

「ぎぃやああああああああああああああああああっ!!!!!」
「グゥイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!!!!」



 一瞬にして視界が歪み、自身を殺さず逸らすという手段に気付いても。その勢いは留まらせず魔力の奔流を重ねてそのまま強引に突き破ろうと。
 最初はただの暇つぶしだった。次第にそれは相手のプライドを満たすための遊びになり、妹を虐げた怒りの矛先になり、気づけば自分のプライドも互いに突きつける貴族の泥遊び。
 それらが自身を構成していることを大いに理解している。もしどちらかが安易な敗北を選べば、自分も相手も互いに尊厳を傷つけあう、下らぬ自傷行為に成り果てる。
 それだけは避けたかった。気づけばそう思っていた。おそらく相手も同じだろう。……違う所は、相手は賭けるプライドが最初は一つ、今は二つ。
 それは自分と比べれば少ないだろう。だが、数の問題ではない。こちらからすれば戦う相手が倍になった、そんな印象。決してそんなことは有り得ないはずなのに、けれど目の前に事実がある。
 認めないのは礼を失する。それを認めたうえであえて叩き潰そう。それが彼の望みであり、自身の誇りなのだから。



「うああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!!!!!」
「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!!!」



 ディアボロの肉体が傷ついていく。踏ん張る両脚、太腿から体幹へ、頭部の血管からも、失われた右腕痕からも、食いしばられ欠けた歯が口内を傷つけ、負荷に耐えきれない損傷した内臓が血液が、出口を求めてありとあらゆる隙間を駆け巡る。
 レミリアの勢いが衰えを見せ始める。並はずれたその力の貯蔵ももはや底を突き、雄大な流れ星を思わせる輝きも尾を失い光量が落ちて。右眼から滴る血液が、自身の力に耐えきれなかったはずの血がほんの少しその在り方を取り戻して。



「「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!」」



 互いに、一歩も引かない。もはや再起など望まぬほどに。一縷の勝利を掴むために。
 だから勝敗を分けたのは、傷ついていても吸血鬼だったからか。最後の最後で欺いた人間だったからか。

476深紅の協奏曲 ―深紅の協奏曲 2―:2016/02/09(火) 01:06:42 ID:YIi0InD60

――がぁん。



 高い質量が石床にぶつかる。膨大な力を持ったそれも制御しきれない速度をもてあまし、安定を保てず無様に転がる。
 轟音が響いただろう。館を破壊し抉る主の全力が無作為にまき散らされたのだから。
 だが、二人の耳には何も響かない。
 脳が現状を理解するまで、神経は何物も捕らえられなかった。



「くぁっ」

 転がりつづける小さな身体が、壁面に叩きつけられ肺の中身を搾り取る。震えた声帯が、ようやくレミリアの現状を認知し始めるきっかけとなった。
 自分が負けた。残滓の全てを使った、吸血鬼の底の底をすくい取られた。自分より傷ついた人間に。称賛はあれど、種の誇りが心に敗北を刻もうとする自分を許さない。
 相討ちではないか。あれほどの余力を用いて相手だけ立っているなど。……最後に立っていた方が勝ちなのだ。まだ折れる時では、

「くっ! ……ぁ」

 必死の勢いで顔を上げたレミリアに恐怖が宿る。屋根がすべて破壊され、謁見の間には月明かりを遮るものはない。
 なのになぜ、あの赤い月は自分を照らさないのか? 闇の王が、何故闇を恐れなければならないのか?
 簡単だ。

「……終わらせて、やろう」

 男が、彼が。ディアボロが手を振り上げる。全身が血濡れになり、動く死体のようにも見える。残された左腕は、もはやぶら下がっているだけ、にしか見えない。
 何もしていない目の前の男が、おぼろげに、だが確かに自分に手を下そうと。『何か』が戦いの終結を告げるために手を振り上げている。



 目を瞑った。縛られたレミリアには、それくらいしか抵抗はできなかった。

477まるく:2016/02/09(火) 01:07:28 ID:YIi0InD60
以上になります。
もはや、あとは終わりまで突っ走るのみ。2,3話くらいでしょうか。

478Dr.ちょこら〜た:2016/02/17(水) 13:08:41 ID:O4gWP1WA0
まるくさん、投稿お疲れ様です!外伝の方も読ませていただきました。感想を述べられない時が続き申し訳ないです…

ディアボロ、遂に真実に向かおうとする意志開眼。ドッピオの忠誠に礼を以て報い、ドッピオは生前とは逆に彼を言葉でサポート。これまではディアボロの一方通行であったため機能不全だった多重人格者のコンビネーションが、ここにきて噛み合った訳ですね
縦横無尽に飛び回る紅い線とそれを手繰るディアボロ。ジョジョ原作のキング•クリムゾン発動中の、連続撮影を重ねたようなあの描写がまざまざと思い出されました。絵になる名シーンです…!
最後の激突も圧巻の迫力でしたッ!血迸り肉乱れ舞う、神経と血管の焼け付く熱を感じます‼︎
間も無く完結との事で、楽しみであり惜しくもある心境ですね…
必ず面白い結末を魅せていただけるものと、期待しております!

479セレナード:2016/02/18(木) 00:51:50 ID:9B4vADzA0
まるくさん、投稿お疲れ様です。

とうとうディアボロが、その意思を持って明確に『真実』へと歩み出す……!
私の作品のディアボロが『器用』ならまるくさんのディアボロは『極み』という言葉がふさわしいほど能力を使いこなしています。
雄たけびをあげ、全力を持ち、その命の全てをその一瞬にかける。
まさに『命を燃やす』死闘、ここに見させてもらいました!

もう少しで完結ですか。終わりも良いものであると、信じています。

480セレナード:2016/02/18(木) 01:01:13 ID:9B4vADzA0
そして私も物語を投稿いたしましょう。
永遠亭編、この話にて完結です!

481東方魔蓮記第五十七話:2016/02/18(木) 01:02:29 ID:9B4vADzA0
追う者と追われる者の立場は入れ替わった。
狂わされた者は策を巡らせ追っ手を嵌めようとし、追っ手は逃がすまいと追跡する。
ここは迷いの竹林。
迷わせ、迷わせ、迷わせ、迷いの果てに疲弊すれば獣が襲い来る場所。
無事にここから生還したければ、白兎の加護か案内人の導きが必要な場所。
本来ならば、此処で追いかけっこをやっていること自体が異常なのだ。

なれど誰もその追いかけっこに割って入ることはできず、ただ見送ることしかできない。
なんせその追いかけっこを繰り広げている者達は……自分たちが関わっても得しないと分かる存在だったからだ。

ビシュッ!

矢が空を切る音と共に、標的に向かって飛ぶ。

ディアボロはそれを回避しながら、一枚のDISCを取り出す。
DISCの中身は『ストーン・フリー』。己の体を糸に変化させるスタンドだ。

元の持ち主は、希望を紡ぐためにこの能力を使ってある少年を逃がし、自らを囮に散っていった。
希望は無事紡がれ、少年はある男の野望をくじいてくれた。


こいつで永琳を拘束し、一気に叩くつもりなのだろう。
しかし、身体を糸にするということは血管や神経や骨すらも糸になってしまえる。
もしもこれらを糸にした状態で切断されてしまえば、自分の体への影響は些細なものでは済まされない。
ハイエロファントと違って、伸ばし過ぎには注意である。

一方の永琳は矢と弾幕でディアボロの行動を妨害し、その隙に一気に上空へと飛び立つ。
ディアボロがそれらを突破してストーンフリーを伸ばしたときには、既に自分の骨を使っても届かない距離まで飛んでいた。

482東方魔蓮記第五十七話:2016/02/18(木) 01:02:59 ID:9B4vADzA0
永琳が上空に飛んだということは、このまま彼女を追跡したら永琳の思い通りになる可能性が高い。
恐らく彼女は上空で迎撃の準備をしているだろう。
このまま真正面から向かえば防御手段をとことん駆使しても永琳のもとに到達するのは厳しいものになるだろう。

「…………」
ディアボロは少し考えた後、あるDISCを取り出した。
そしてそれをメイド・イン・ヘブンと入れ替え、能力を発動する。



視点を切り替え、こちらは永琳側。
上空へと飛びだった彼女は、自分を追ってくるであろうディアボロを迎え撃つべく、弓矢を引き絞り、大量の弾幕を出現させて彼を待ち構えていた。

………………
………………

数秒、なれど体感では二桁に達する秒数の間、彼女はディアボロを迎え撃つべく待ち構えていた。
彼女の予測では、ディアボロが竹の葉を突き抜けてこちらの元へと進んでくる。


なれど物事はそう都合よく行かない。
スタンド使いというのは、時に常識外れの手段で攻勢にでるのだから。


永琳は見てしまった。ディアボロが竹の葉をかき分けてくるはずなのに、代わりに

『竹の葉が茎もろとも消失した』ことを。


「!?」
予想外の事態を直視した永琳は、動揺しながら真正面に弾幕を連射し、矢を放つ。
殆どの弾幕は外れたが、弾幕と矢の軌道を目で追った時に彼女はある確信を抱いた。

何かが『矢と弾幕を消しながらこちらに向かってきている』。
『このままいたら自分の肉体と、最悪の場合魂も消される』。

この確信を抱いた永琳は、彼女から見て左の方にその身を動かす。
姿かたちは見えないが、恐らく向こうからも見えていない。
このまま真っ直ぐ進んできているなら、これで衝突は避けられるだろう。
永琳はそう思っていた。
そして、その推測は何一つ間違っていない。


数多の物を削って永琳の元に迫り来た謎の存在の正体は、ディアボロが装備したスタンド『クリーム』である。

このスタンドは数多の物を『暗黒空間』と称されるところに呑み込む能力を有している。
呑みこみ方は単純。生物が物を食べるように、口の中に呑みこみたい物質を入れるだけ。
それだけで呑みこまれた物質は暗黒空間に移動し、『どこかに行ってしまう』。

だが、このスタンドの最大の脅威はここからだ。

このスタンドが本体を口の中に呑み込んだ場合、暗黒空間にばらまかれずに普通に出入りすることができる。
そして、本体が口の中にいる状態でスタンドが『自分自身』を呑みこむと……。
暗黒空間への入口が円形に生成され、さらにその『入口』を本体が動かすことが可能になる。
こうなると攻撃が暗黒空間によって通用しなくなり、逆に本体は入口を動かすことで相手に一方的にダメージを与えられるようになる。

しかし本体からは何も見えなくなるため、定期的に顔を入口から出して視界を確保、攻撃対象の位置を確認しなければならない。
そしてこの時こそ、この状態になったクリームを攻撃する数少ないチャンスなのだ。

だが、今のディアボロがこのスタンドを使うと少し話が変わる。
視界の確保を他のスタンドに任せることで、本体は『一切顔を出さず』にクリームで攻撃することが可能になるのだ。
これは、相手がスタンド使いかスタンドを攻撃できる存在でなければ必勝に近いやり方だ。

とはいえ、この手を使うと五体満足で相手を生き残らせることが不可能になるうえに、格闘戦においてはもっと信頼できるスタンドは複数ある。
この手段を使うときは相手を殺す必要があるか、相手の策を突破する必要があるときくらいだろう。

483東方魔蓮記第五十七話:2016/02/18(木) 01:03:55 ID:9B4vADzA0

永琳の待ち伏せをクリームで突破したディアボロは、そのまま彼女の背後を取る。
「(今のは……何だったの?)」
彼女は次の襲撃を警戒しているが、クリームは不可視である上に、今のディアボロは顔を出していない。
薬の服用すら封じられている今、永琳にクリームを攻略する手段は皆無に等しいのだ。

幸い、ディアボロに永琳を殺す理由はない。
だから、彼女がクリームに呑み込まれることは事故でもない限り起こらないだろう。
だが……気配を探り当てることは、今のディアボロ相手には無理だ。

永琳の背後を取ったディアボロは、亜空間からストーンフリーの糸を伸ばして永琳の拘束を試みる。
彼女がそれに気づいた時にはもう遅い。永琳が逃れる前に、ストーンフリーの糸がどんどん彼女を縛っていく。
ぐるぐる巻きつき、とうとう両腕が使用不能に追い込まれてしまった。
「くっ……!」
永琳が悔しさを顔に出して糸が出てきている空間を睨んでいると、ディアボロがクリームの中から姿を現した。
「追いかけっこもここまでだ。これ以上時間を掛けると妹紅がどうなるかわからないからな!」
ディアボロがそう言うと、ストーンフリーの糸を手繰り寄せる。
永琳も抵抗を試みるが、両腕が拘束されているのに加えて、力比べでも負けてしまっている。
「ぐ……ッ!」
その結果、抵抗虚しく永琳はディアボロの元へ移動させられてしまう。
弾幕もストーンフリーとエコーズACT3に妨げられ、妨害できぬままディアボロの側まで引き寄せられてしまった。
「『ECHOES(エコーズ)!』」
『OK!3 FREEZE!』
そして、ディアボロがストーンフリーで指示を出し、それに従ってエコーズACT3が永琳を殴って能力を発動する。
「っ!?」
すると当然、エコーズACT3の能力によって永琳は落下する。
それに彼女は驚く……のはいいのだが、永琳を拘束しているディアボロも引っ張られてクリームから落下し始めることになる。
しかし、そのことにディアボロが驚くそぶりは見せない。むしろ当然のように一緒に落下していく。

流れ星が地に落ちる宿命のように、永琳とディアボロは竹林へと落下していく。
当然永琳が無抵抗なはずもなく、自分の力を最大限に使って落下に抗おうとする。
……しかし、それでもエコーズACT3の能力に対抗できずに虚しく落下していく。

空を抜け、木々の葉を掻い潜り、永琳は地上へと落下する。
その後を追うようにディアボロも落下してくる。
……ただそれだけの光景と見せかけて、ストーンフリーとACT3の追撃が行われようとしているのに、永琳はまだ気づいていない。
そして、ディアボロ本人はジャンピン・ジャック・フラッシュの能力を既に発動しているために、地面との衝突によるダメージは大したものではないことにも。

永琳の抵抗むなしく、彼女は地面に叩き付けられる。
ストーンフリーの糸によって両腕は直接衝撃を受けるのは免れているが、それでも身体の大部分は直接衝撃を受ける。
さらにストーンフリーとACT3の拳による追撃が浴びせられる。
そしてその一撃が、この戦闘に終止符を打つことになった。

ACT3の能力とストーンフリーの糸による拘束、そして長時間の戦闘による消耗によって、戦いはひとまず幕を下ろした。
永琳は医者ではあるが、戦士ではない。
身体面において、ディアボロの方が若干の分があったのだ。
それに加えて、ディアボロは(恐らく)幻想郷唯一のスタンド使い。
その能力の大部分が衆目に晒されていないが故に、対策が練られていなかったことも幸いしている。

永琳の抵抗が一時的に収まった隙をついて、ディアボロはストーンフリーで全身を拘束していく。
永琳はどうにかしようにも、既に落下の衝撃で身体のほとんどの骨にダメージを受けてしまっている。
いくら行動しようにも、体が言う事を聞いてくれない。

「(これは……駄目ね。何か所も骨にヒビが入ってしまっているわ……)」
必死に動こうとしつつも、頭の片隅で諦めの気持ちが湧いている自分がいた。
諦めの気持ちが湧きつつも、その現実を必死に否定しようとする自分がいた。
しかし、それらとは無関係にこの身は拘束されていく。

その抵抗を見かねたのかどうかは判らない。
しかし、ディアボロはエコーズをACT2に変えると、尻尾文字を一つ作り出した。
そしてその尻尾文字を永琳に命中させると……永琳が眠りだしてしまった。

尻尾文字の言葉は「クー……スー……」。
サンドマンの如く相手を眠りに誘う効果を持たせた擬音である。

そして永琳は、ストーンフリーの糸によって。どんどんどんどん繭を作るかの如く拘束されていく。
今度は無抵抗の状態。尻尾文字によってしばらくは夢の中だろう。

484東方魔蓮記第五十七話:2016/02/18(木) 01:04:35 ID:9B4vADzA0

そして、とうとう永琳の無力化と拘束に成功した。
随分と永遠亭から離れた上に時間をくってしまったが、どうにか戦いに勝つことができた。
ディアボロは永琳を完全に拘束したことを確認すると、深く息を吐いて安堵する。
正直なところ、知恵比べとなるとディアボロには完全に勝ち目がない。
こうして『永琳が知らないこと』を沢山使うしか勝算が見えなかったのだ。

「さて……」
ディアボロはもう一度大きく息を吸い込み、周囲を見渡す。
「妹紅の方は大丈夫だろうか」
ディアボロはそう言って、ジャンピン・ジャック・フラッシュとクリームをケースに直す。
代わりに取り出したのはエアロスミスとウェザー・リポート、そして最初に竹林に入った時に使った地図だ。

……念の為にもう一度書いておくが、ここは迷いの竹林。
白兎の加護か案内人の導きがなければ、普通は延々と彷徨う羽目になる場所。
いくらディアボロでも、手段がなければ上空より集落に戻るしかない。

地図を改めて確認したディアボロは、永琳を拘束されたまま背負いながら竹林を進んでいく。
そして少し時間がかかったものの、無事に永遠亭へと戻ってくることができた。
そこでディアボロが見た光景は……輝夜と妹紅、両者が地面に突っ伏している光景だった。
「………フッ」
その光景を見て、ディアボロは「やれやれ」と言った表情をするのだった……。

その後、永琳を解放したのちに目を覚まさせ、ついでにサバイバーの能力も解除しておいた。
意識を取り戻した永琳は地面に突っ伏した二人を見ると、同じように「やれやれ」といった感じで輝夜に近寄り、肩を貸す。
ディアボロも同じように妹紅に近寄り、彼女に肩を貸す。
「今回はここまでだな」
「ええ、たまにはいつもと違うのもありね」
妹紅は不敵な笑みを浮かべながらそう語り、輝夜も似たような表情を浮かべながら妹紅の言葉にためらいもなく返す。

ここの二人が、トムとジェリーのように仲良く喧嘩している関係なのかはディアボロには判らない。
しかし、この二人はずっとこんなことを繰り返してきたことは、今の彼には十分理解できた。
……そしてきっと、これからも繰り返すのだろう。
恐らく、何世代先になっても、ずっと。

「行くぞ妹紅。そのままじゃ動くのも辛いだろう」
「ああ、ありがとう」

「行きましょう姫様。お茶を用意します」
「ええ、わかったわ」

4人はそう言葉を紡ぎ、片や永遠亭の中に、片や竹林の中に歩みを進める、

ディアボロは所詮、彼女たちの因縁の表面に触れたに過ぎない。
これ以上、この因縁に踏み込むのは今は無理な話だろう。
……そしてこれからも、踏み込めないものなのかもしれない。
それほどまでに彼女たちの因縁は深く、背負う物もまた重たいのだ……。




「(そういえば、こんなこともあったな……)」
少し前のことを思い出しながら、妹紅と輝夜のことを考える。
今思えば、幻想郷の場所についてはある程度の知識は得ているが、そこに住む人や妖の歴史については紫の記憶からしか知識を得られていない。
今後はもっと知る機会に恵まれるかも知れないが、その時彼は一体何を知り、何を思うのだろうか。

485セレナード:2016/02/18(木) 01:08:20 ID:9B4vADzA0
東方魔蓮記第五十七話、投稿完了です。
はてさて、こちらも物語はどれほどになるのやら。
何だかんだで色んな所を巡ってきたディアボロですが、今度は一体どうなるやら。
またどこかをめぐるのか、それとも……?

こうご期待、です。

486まるく:2016/02/20(土) 19:26:40 ID:SiaILCNU0
投稿お疲れ様です!感想もありがとうございます。

>ちょこら〜たさん
色々考えがありますが、人間の素晴らしさ、人を守るという高潔さ。ジョルノの言う『真の行動』はそう言ったところから生まれていると思います。明確にそれとは言ってませんが、そうとも言えるような主題も多いです。
ようやく回り回って自分の為だけに褒めたりしていたディアボロも、無償の愛ともいえるドッピオへの報いを口にできました。
多重人格コンビネーションは狙撃手が観測手を伴うように、本編でもディアボロがわりと並行して物を考えられていないことが多かったので、こういうのがいいなと思って取り入れ。…できてたら化け物ってレベルじゃないです。並列思考とか永琳かゆかりんか何かかな…
最後のぶちかましシーンも迫力が出ていると言われてうれしいです。おおとりですからね。

>セレナードさん
器用に器用を重ねてもうなんていうか、マッシーンみたいなそちらのディアボロさん。スタンド多重併用が基本ですからね、レベルアップするものです。極み…すばらしい。
叫び声の多重の使用は文字数稼ぎにも見えて少し嫌だな、と書きはじめは思っていましたが適切使用はやっぱり大事なんだな、と。
…確かにクリームの脅威をはじめて見ると、いくら永琳でも今までに体感したものの中に存在してないでしょうし、身体ごともってかれても大丈夫でしょうが魂が暗黒空間に捕らわれてしまったら再生と破壊を繰り返すのか?脱出は?エトセトラ。頭がいいからこそ捕らわれてしまいそうな。
トムとジェリーはよく言われているけど急に引き出されると少し原作があってクスッてします。他にも、セレナードさんの作品で随所に挟まれる、原作ではこうだったみたいな一文、好きです。今回のストーンフリーと6部の結末とか。
次はどこに行くのでしょうか? 期待して待ってますね。

487Dr.ちょこら〜た:2016/02/29(月) 20:42:21 ID:3qLyLeSY0
セレナードさん、投稿お疲れ様です
こちらのディアボロを『マッシーン(装置)』と呼ぶのはドンピシャな気がががが
多彩で多芸
【クリーム】と他のスタンドの併用は本当に勝てませんね。スタンド使いならば暗黒空間外に出してある監視用の方のスタンドを攻撃するなどして対処できるかも知れませんが。
永遠亭編も無事終了。これでディアボロが無敵の頂点か、と思いきや、最新作で月の民をも凌駕する女神が登場したので、まだ倒すべき相手はいますね。
今後の展開が楽しみです。

488ピュゼロ:2016/03/04(金) 07:01:55 ID:6aKA4RoY0
 大変、間が空いてしまいました。先ずはお詫び致します。
 最後に投稿したのが確か二月だったので、大変申し訳なく思っています(いつの二月かは言ってない)。
 そして、まるくさん、直近のお返事ありがとうございます。すぐ書き上げて、一月中には一緒に返事する腹積もりだったのですが……。なんでもするから痛いのだけは許して。
 皆さんにも、お詫びの言葉は尽きないほどあります。ただ、スレの都合などもありますので、ひとまず、とさせていただきます。重ねてお詫びを。

 現在までの作中にて、魔理沙の帽子が外れたシーンは三ヶ所存在し、彼女の後頭部は帽子と一体化しています(大嘘


メイガスナイト その③

BGM “明星ロケット” by ichigo
――平和ボケって怖いな
  みんな目的無く闘っているみたいだ

489ピュゼロ:2016/03/04(金) 07:06:59 ID:6aKA4RoY0

 たとえばアンタらは考えた事がある?
 仲が良かったり、愛し合っていたり、単に気に食わなかったり、敵対していたり、心の底から信頼していた相手が、自分の知りえないところで自分の事を罵っているんじゃないだろうか、って。
 どーかしら。
 それとも逆かな。
 助けを求める手を無視して最初から気づかないフリをしたり、ちょっと鬱陶しいやつに「ごめんね、それは無理なんだ」って嘘をついてみたり。
 他人と接するのに、いつも頭のどっかで相手の悪意を警戒して、疑ってなくちゃいけない。
 何だか他人事ねえ。
 でもそれは仕方がないとも言えるわ。
 このわたし、“正体不明の正体”こと封獣ぬえは、それをきちんと理解している。
 その人間の本性というものをよーくわかっている。
 誰だって自分が可愛い。気の置けない友人ならともかく、他人が傷付くのは本音を言ってどうでもいいし、いつだって我が身は惜しい。自分が痛いのはダメ。苦しいのもすごく嫌ね。うん、わかるよ。すごく、わかる。
 でもそれは、仕方がない。何度も言うようだけれど。
 人間は悪意を持って生まれてくるからね。人間は他人に優しくない。そういうふうにできているんだからね。時折出てくる善の人は、そうやって数の理で殺されていくわけ。

 ……狸狂言語録 奴延鳥の事

490ピュゼロ:2016/03/04(金) 07:09:10 ID:6aKA4RoY0

 そこは居室であり、私室であり、実験室だった。
 よくお前は部屋が汚いだろうと揶揄される魔理沙であるが、これはまったくいわれのない悪評であり、彼女の人格を無視した言い様である事は疑いようがない。
 生活の場がとッ散らかっているのは落ち着かない性分だったし、まずもって、彼女は汚い部屋というのが堪えられない。この森ではカビやらキノコやらを甘く考えているとすぐに泣きを見る破目になるから、水周りなんかには、とりわけ気を配る必要があるのだ。
 しかしさすがに絶えず実験のために魔法を使うその部屋は、一見すると猥雑に見えるのも否定はできなかった。ごちゃごちゃと物が床のすぐ上のスペースを占拠していた。
(……しかし、どーするかな)
 袋から「借りた」本を取り出す。ふーっと息を吹いたりして、埃なんかをざっと確認しつつ、魔理沙は内心で少しばかり悩んでいた。
 もちろんそれはあの気弱なのっぽの事である。
 あいつは何しろ飛び切り厄介な事情、外来人という来歴を抱えているのだ。
 ドッピオをどうしてやるべきなのか。小娘の分際で他人の事をどうのこうの考えるなどおこがましい、弁えろと、そういわれてしまうのかもしれないが、一応極々短いながらも、見知った以上は里に放り出すだけでは目覚めが悪い。首を突っ込みたがる気質と責任感の強さは、今では何かしてやれないかという漠然とした気遣いになっていた。
 まずもって、このまま放っておく第一の選択肢がある。
 もちろんあの貧弱な少年は遠からず食われて死ぬだろう。
 ならば次善に、里へ連れて行き、知り合いなりに口利きをして、多少なりとも便宜を図ってもらう。そいう考えもある。現実的には、それぐらいが精々だろうし、それが一番だ。
 なにせドッピオは「戻れない」可能性がある。――いや、おそらくその方がずっと高いだろうと。

491ピュゼロ:2016/03/04(金) 07:11:53 ID:6aKA4RoY0

 実に奇妙な話であるし、魔理沙も又聞きでしかないから詳しくは知らぬのだが、幻想郷には忘れられたものがたどり着く事もあるらしい。何度か出向いた無縁塚、半ば紛れていた荒地は、魔理沙の目には酷くわびしいものに映った。いらぬ物、打ち捨てられた物々。すでに意味も価値も失せた品とその残骸たち。
 あいつは「あれら」の一つなのだ。
 幻想郷とそれ以外とを隔てる見えない知らない壁。……境界。
 魔理沙自身でさえどうにもならぬ、堅くて遠い、向こう側の領域の話である。
 境界をどうにか出来そうなのは、人間かそれ以外か、幾人かはいるだろうが、中でも確実だと思えそうなのはそのものずばり「境界の管理人」。
 そして博麗神社だ。
 あそこにドッピオをつれていくのは簡単だろう。大した苦労ではない。それこそ、魔理沙は年がら年中、三日とおかずに霊夢の顔を見に訪ねているほどだ。
 けれどもし、駄目だったら。
 彼がすでに「忘れさられたヤツ」であるといわれた時の事を思うと、魔理沙は一歩踏ん切りがつかないでいた。だったら初めから、あるかないかの希望を捨てて、端ッから里への移住をすすめた方が、いいんじゃないのかとも――思うのだ。
 頭を掻き毟って、うああと呻いて、鍋の頃合を見て、だぜだぜ呟いて。
 腹が減った魔理沙は、とりあえず夕食にしようと決めた。

492ピュゼロ:2016/03/04(金) 07:14:20 ID:6aKA4RoY0
 二、

 魔理沙の隙間ババアくたばれ3分クッキング、はじまるよ。わぁい。
 調味料……適当に。材料……も、まあある物で。
 手順だって簡単なものだ。
「腹減らないか? 減ったよな」
「え? ああ、う……うん」
 宿無しか、文無しか。明日の暮らしも定かではないドッピオに、魔理沙は安心しろとばかりにニカッと笑ってグッと拳を立ててみせた。まァまァまずは腹ごしらえとばかりに、何事か言いたげなそいつをひっ掴んで椅子に座らせた。
 マスパの要領で点火した火にフライパンを乗せると、大雑把に油を引いて熱が通るのを待つ。油はひまわりのものだ。里以外ではわりと一般的に使われていた。
「茶碗出しといてくれるか」
 次に、あらかじめ細かく切っておいた肉、ピーマン、たけのこをバラバラと投入する。魔理沙は和食派だが肉も食うし魚も好きだ。香霖堂においては朱鷺を鍋にして食うという暴挙に出たぐらいである。
 彩りになんとなく早苗の顔を想起しつつ、鉄肌にたっぷりと塩、胡椒をふりかける。鼻先に、じゅうじゅうと熱せられた具材が放つ、香ばしい匂いがただよい始めるのを待って、残ったキノコを入れた。数度鍋を反す。そそり立つ油の熱い香り。そのすぐ後、続けざまに調味料が落とされた。焦がされたしょうゆの、食欲をそそる匂いが広がる。
 キノコの類はすぐに風味が飛んでしまうし、へにゃっとなって具合が悪いから(霊夢はへにゃった方が好きらしい)最後にさっと火を通すような、通さないような、そんな感じがいいとアバウトに魔理沙は認識していた。
 それらと、おせっかいな妖怪が鍋ごと持ってきた蕗と油揚げの煮物もある。

493ピュゼロ:2016/03/04(金) 07:16:59 ID:6aKA4RoY0
「煮物は別に食わなくてもいいが」
「そんなコト」
「アイツが持ってきたからなぁ。変なもの入ってるわけじゃあないにしろ、なーんか、あるような、あるかもしれないような」
「……えっと?」
「わかんなくていいぜ」
 会話が途切れる。
 食卓について、そこから先は二人とも無言だった。
 手を合わせて、並べた料理をもしゃもしゃと咀嚼しながら、二人とも、なんとなく口を開くきっかけを見失っていた。
 やや冷めた白米を頬張り、蕗と油揚げを一緒に摘んでみる。冷たくなっても良いよう強めに味付けのなされた煮物はとろけるぐらいに柔らかく、噛むと旨みが舌にじんわりと広がった。あまじょっぱい煮汁に自然と箸が進む。
「ヒマワリ油」
「うん。妖怪が作ってるんだがまあ」
 黒くってどろりとした汁のたれのかかったキノコ炒め。ご飯にのっけて一緒に口へ運ぶと、熱いたれがご飯に染み込んで、思わず顔がほころびる。つやの出た照り。うっとりするような薫香。
 しかし……ハテ。使ったはいいが、この黒い調味料は、果たして。魔理沙が首を傾げる。これは以前、仕事の対価として譲り受けたものだったのだが。
 炒め物なんかに少量使うと味が立つ。そんな感じで使うと良いと聞いていた。
 たしかに美味い。

494ピュゼロ:2016/03/04(金) 07:18:53 ID:6aKA4RoY0
「ペスカトーレ、じゃないのかな」
「知ってるのか」
「魚介を使ってトマトソースで煮込んだやつさ。たぶんコレ、貝じゃないかな」
 首をひねりながらドッピオが言う。あまり正確には覚えていないようだ。
 正確には、現代でも極々おなじみのオイスターソース、というよりは偽・オイスターソースなのだが、要は魚介系たれの文化間での違いである。日本ではしょうゆの前身であるしょっつるにあたる。それらの広東省、中華料理でのものがオイスターソースとされる。
 イタリアのも多分似たようなものでしょ。
 しかし、山村たる幻想郷で牡蠣が獲れるかというと不可能に近く、まあ妖怪たちの文化レベルならば淡水での養殖も出来なくはないのかもしれないが、水生妖怪が嫌がるだろう。河童とか。そんな理由によって今魔理沙たちが舌鼓をうっているのは原料をきのこによってまかなったものだった。本来のものの味や風味を、手に入るものを使って再現しようというのだから偽装、もどきのソースになる。もちろん妖怪の間でしか出回っていないため、そこそこ貴重な品だった。
 なるほどなるほどと互いに頷き合う。そこからはむぐむぐと食べる事に二人の口が熱心になった。
 無言の中、途中に一度ドッピオが「このキノコは?」と尋ねたが、魔理沙は平気な顔して「大丈夫、死にはしないぜ。たぶんな」というものだから、彼は背中にひやりとしたものを感じる事になった。
 それでも、腹が膨れて人心地つけば小さな事は大した問題に思えなくなる。

495ピュゼロ:2016/03/04(金) 07:20:45 ID:6aKA4RoY0
 三、

 後片付けは手早くちゃっちゃっと済ませておく。神社の宴会の後なんかは手伝う事もある。職業柄か、てきぱきと効率よく物事を進めるのは得意分野だった。
 魔理沙は酒を求めて戸棚を漁った。
 ランプも点せる酒と、ランプも点せない焼酎とがあった。
「酒しかねーずら。まあ無礼講だ、気にしないでくれ。私は気にしないから」
 返事もそこそこに食卓にコップを二つと半分入った焼酎の瓶を置く。
 コップは地底で手に入れたものだ。

「だから私は言ったんだな。一人で遊んでも面白くないしな、って」
「……え?」

 その時突然、ガシャンと、何か硬質なものが割れる音がした。
 ドッピオはその長い四肢を振り回して「わ、わっ」と慌てふためいている。
「ん、ん? ……大丈夫、か? あー、怪我とかしてないか」
「ご、ごめん。怪我はしてない……けど」
「なら別にいいぜ」
 コップが床の上で粉々になっていた。原型もわからないぐらい、ばらばらに。
 惜しむものではない。驚くほど安価だったし。いわゆる安かろう悪かろうだと魔理沙は思っていた。地底に行った時のついでで買ってきたもので、まだ数はある。適当に、魔法で破片を外へ掃き散らした。その合間に、何気なくテーブルの上に目をやる。
「疲れたのかな。なーんか……んん?」

496ピュゼロ:2016/03/04(金) 07:23:21 ID:6aKA4RoY0
 みしり。

 不吉な音が、魔理沙からドッピオから、この住処の四方が一斉に鳴って、そぞろな響きとなった。
「おっ……と。何だか知らんがこりゃマズイ」
「これは……」
 魔理沙は目の前で戸惑う顔に説明をしようと口を開きかけて、けれど面倒くさくなったから、手元の書付を一枚捲りあげた。
「ほら、これだ」
 その紙切れは簡易的なタリスマン(護符)であり、書かれた文字と円それ自体が力を発揮するタイプのものである。力ある者の名を刻んだ部分が黒く焦げていって、すぐさまちりちりに燃え尽きてしまった。
「お客さんだな。私か、あるいはお前にか。多分私なんだろうけど、あいにく心当たりはないな。……どっちにしろ面倒くさい相手だぜ、あいつは」
 酷いヤツなんだといった。狡猾なヤツだぜともいった。非情であるとも、短気であるともいった。
「あとな――なんていうのか。“やぼったい”」
 それらの弁はいくらか的を射ていた。
 そして、玄関が静かに開いた。

497ピュゼロ:2016/03/04(金) 07:26:15 ID:6aKA4RoY0

「どうも、今晩は」
 戸口には九尾の狐が立っていた。
 みしりと森を震わせて、いくらか鬱陶しそうに顔を歪めながら、魔理沙たちの前に突如として姿を現したそいつ。その、見る者を等しく畏怖させる九つの尾。
 虚空から這い出した八雲藍は、その艶やかな九尾を悠然とたゆたせ――二人をうっすらとねめつけた。そこに見て取れたのは、人が雀の群れを認めはしても一々数えたりしないで、大雑把に一つの群として捉えるような、「ああ、人間が二人いるなあ」という無関心で傲慢なものがあった。
「いきなり現われて、なんなんだ一体。ここは私の家だぜ」
「――では、ええと、そっちが霧雨魔理沙、だったかしら?」
「いいや違うな。人違いだ」
「おや。家主じゃなかったのか」
「家主は私だ。が、霧雨魔理沙はそっちのヤツだ」
 ドッピオを顎でしゃくってみせる。
「いずれにしろ、家主は不法侵入者を追い返せるし、敷地内の狐は獲っていいんだ」
「ふん。あまり調子に乗るんじゃあないよ」
 不機嫌そうに藍がいった。ごちゃごちゃ言い合っていてもしようがないというように、スペルカードを三枚、取り出す。完全に臨戦態勢だった。言葉で説得できそうにない――というより、できない。
 今のコイツは、そういうふうに式が打ち込まれているのだろうから。
 つまりは、このまま後ろのドッピオを庇って藍と戦うか、あるいは何も見なかったことにするか。シンプルな二択だった。
「お前に不法侵入云々という資格はあるのかしら」
「準一級だぜ」
「なら、私が勝ったら不法じゃなくなるんだな?」
「そんときゃ、煮るなり焼くなり好きにして構わないぜ」
「それはそれは」
 ――魅力的な提案だ。
 冷ややかな声だった。何の躊躇いもなく、ケツの穴にツララを突っ込んでくるような温度と雰囲気があった。

498ピュゼロ:2016/03/04(金) 07:30:40 ID:6aKA4RoY0

 もちろん、準一級資格保持者である魔理沙が尻穴を狙われる道理はどこにもない。しかし古来より「無理を通せば道理が引っ込む」という言葉が体現するように、道理のヤツは「アッー!」とヤられてしまうのがお似合いなのである。魔理沙が普段無理をツッ込む側であるというのもまた都合が悪かった。
「……八雲紫はお前が異変に首を突っ込む事をこころよく思ってはいない」
「……んあ?」
「好きにしろ、か。ふん、してもいいけどね」
「三食つくならペットも考える。週末は休みが欲しいな」
「お前を――お前を、お前をもし本当に好きにしたなら、あの悪食の馬鹿が噛み付いてくるからな」
「……」
「狂犬だよ、実際。人間と妖怪とのけじめなんかハナッから無視してかかる奴だ。忌々しい。守矢の風祝の比じゃない」
 魔理沙は帽子のつばを掴んでじっと俯いたまま、答えない。
 件のお節介焼きをどうも毛嫌いしているようだとか、最初の目的だとか、もうそんなものはどうでもよくなってしまっていた。わけもわからないままムカムカとしていた。腹の底が熱かった。こんなに熱くなったのは初めてキン肉マン2世のオープニングを聞いた時か、実家を飛び出した時以来かもしれなかった。
「あいつの名を……あのクズの名を出すな……」
「おお、怖い怖い」

499ピュゼロ:2016/03/04(金) 07:32:31 ID:6aKA4RoY0
 ぐぐぐっと腕を前に伸ばして調子を確かめるように肩をぐるぐると回せば、藍は心底呆れたというように鼻を鳴らした。右手に愛品の八卦炉を握る。ずしりとした頼もしい重みは魔理沙に多少なりとも落ち着きを取り戻させた。
「人間を――マルクを――残忍に殺しても気づきもしねえそのお高くとまった態度……………」
「そんな事言われても」
 藍が困ったようにきゅうと鳴いた。狐のさまだろうか。
 ところで一つの疑問なのだが八雲藍は白面金毛の九尾、つまりはキツネ。イヌ科である。一方の橙は黒猫、猫である。にゃーん。
 犬と猫であるというのだが、その形はどういった具合なのだろうか。小さい頃から慣らして飼えば仲良く育つ二種族であるし、実際イメージされるぐらいまで悪い関係では決してないが、それでも二次創作の類ではほぼ相思相愛である。
 それか、あるいは、勢いで式にしたものの橙に怖がられて威嚇とかされて涙眼になる藍の短編とかないのだろうか。

500ピュゼロ:2016/03/04(金) 07:36:41 ID:6aKA4RoY0
「――例えば、だ」
 仕切りなおすような藍の声だった。
 藍の尾は九本それぞれが自ら光を放っているかのように力と生気に満ちていた。一撫でするだけで人間をも容易く穢して腐らせてしまうような。しかし同時に目にした者を惹きつけてやまない艶やかさを持っていた。それらが空気を孕んで広がって、藍のめかたが五割増にも見えた。
「囚人のジレンマという話がある」
 藍はそこで一度言葉を止めた。魔理沙をじっと見て、それから視線を右にずらした。
「どうしてそこまで庇い立てする? 脳ミソがクソになってるのか?」
 心底、わからないという疑問が透けていた。
「そりゃ、人間の本質が裏切りじゃないってだけだろ」
 藍はその惚けたような答えに対し、

 と言った。「それは違う」と、そう返した。
 魔理沙は確かにそう言われた。そのはず、であるのに。

501ピュゼロ:2016/03/04(金) 07:40:57 ID:6aKA4RoY0
「お……おいこりゃ、あいつら」
 まだ自分が夢の中にいるのかと咄嗟に思ったほどだった。
 ドッピオと藍の二人はまるで始めから存在していなかったように何の余韻も残さず、その場からいなくなっていた。家から飛び出して、夜陰に紛れたとかそういうレベルでさえなかった。カンバスに白いペンキを乱雑な筆遣いで塗りたくったみたいに、完璧にいなくなっていた。
 咄嗟に、箒を手にとって、ばっと夜の中へ駆け出した。
 幻想郷の時空間は酷くあいまいなところがあって、そこら辺の妖精でさえも、たまにワープしていたりする。現実に重なっていて、しかし同時に酷く圧迫されて隙間に追いやられているふしがある幻想郷では、自分の居場所だとか立ち位置というようなものなど、向こう側が透けて見えるほど脆くて薄い概念であった。ふらふらしてる奴が多い原因もその辺りにあるのかもしれなかった。
 家からの明かりが、背後から差している。魔理沙の影が踊って、その光の届かぬ先からは、急に黒い色が深くなっているようでもあった。
「おい、おい……」
 魔理沙の中にはまだ情というものが燻っていた。その厄介な感覚は、このまま事件を放り出せば、どう転んだところであいつは良い事にはならないだろうと察しがついていた。

502ピュゼロ:2016/03/04(金) 07:44:30 ID:6aKA4RoY0

 次の瞬間、再び魔理沙の視界から全ての光が消えて何も見えない夜が覆い被さってきた。吸った息が吐けなくなる。
 咄嗟に魔理沙はその場から跳ね退いて、ばっと箒で飛びだした。この状況が何者かの攻撃だとするならば、同じところに留まっているのは良い的であるからだった。
 抱いた疑問はそのままで、急速に頭が弾幕をぶつ時のあの感覚へと切り替わる。動いて、観察して、対策を練っている。
 箒を走らせるその目に怯えはなかった。あるのは感情を自分自身で乗りこなし、冷静に事態を判断しようとしている魔法使いの眼差しだった。
 彼女とて、幾多もの異変を解決してきた――重度の、弾幕狂なのだった。
 その魔理沙の耳に、聞き慣れた音が届く。グレイズを稼ぐ特有のあの心浮き立つ効果音。近い。ぐるんと飛翔ルートを反転させて出所へ向かう。徐々に徐々に目が闇に順応してくる。そう、この暗さは、人が急に暗所へ入った時のものだった。夕暮れから一気に真夜中の、しかも地下室にでも放り出されたら、丁度こんな感じになるだろうか。
 暗いところへ……突然?
 うっすらと自分の家が見えた。やっぱり、場所は大して変わっていない。それは確かなようだった。疑問は再び同じ疑問へ回帰するが、今はまずやる事がある。
 ぐっと柄に伏せた身を切って木々を危なげなくかわしていく。目が慣れれば月明かりに薄く木々が見えてくる。
 怖いものなんて、なんにもなさそうな。
 夜の中を疾走するその姿は、まさしく彼女を体現するかのような一筋の流星だった。
 騒ぎの場は、少しずつ移動しているようだった。しかし当然、彼女のが速い。音がますます鮮明になってくる。やがて、藍が次々に地表すれすれを撃ち抜いているのが見えてきた。
 しかし、追われているのは――あれは本当にドッピオなのだろうか? イヌか何かじゃあないのか?
 よく見ようと、魔理沙が帽子を掴んで顎を持ち上げ、閃光のようにパッパッと明滅する光景に目を凝らす。
 次いで、ふわりと体が宙に浮いた。

503ピュゼロ:2016/03/04(金) 07:48:08 ID:6aKA4RoY0

「えっ?」
 地面に熱いヴェーゼをかました。
 気が付いた瞬間、箒から転げ落ちて空に飛び出していたのだ。
 激しく着地した勢いでがふッと声が、押し潰されたような呻きが漏れた。うげ、げほっ……と咳き込み、箒を探す間もなく、魔理沙の周囲にばら撒き弾が矢継ぎ早に着弾して土煙が上がった。焦る魔理沙がばっと身を翻してそれらから安地へと抜け出す。ごろごろ転がって、樹の一つにぶつかって止まった。心底悔しそうに、再びかッと叫んだ。この日、どうにも魔理沙は地面に倒れこむ厄日であるようだった。
「ひどいぜ、ひどいのぜ、私疲れてんのかな……むっ」
 前後にふらつく魔理沙の前に、ふよふよと藍もやってきた。
 どうやら今の一瞬で、ドッピオか何かを見失ったらしかった。どうにも腑に落ちないという顔をしていた。ありありと怒りを顕にする魔理沙を一瞥して、どこへ行ったというようにきょろきょろと首と尻尾を振る。

504ピュゼロ:2016/03/04(金) 07:50:15 ID:6aKA4RoY0
「ちくしょう、ちくしょう、よくもやってくれたな。アイツはどこだ? 隠すとひどいぜ。ひどいヤツだぜ、お前は。まったくなんてひどいヤツだ」
「まだ何も言ってないだろう……」
 胡乱気な目で藍が言った。
 なんだか、泥にまみれて小汚いから、あんまり近づくなといっているようにも見えた。
「それに、さて、私の方こそ知りたいぐらいだ」
「アアん? だらしねえな――」
 魔理沙は、藍が近づいてきた時からずっと構えていた八卦炉を下ろした。いつまで経っても相手がスペルカードを出さないからだ。その代わりに、疑問が口から飛び出した。
「ならなんでアイツを追うんだ? そーゆー趣味なのか?」
「さてね」
 はぐらかしているのを隠す気もない返事だった。
「さてさて。サービス残業もこのぐらいにしておくかな?」
「……あっ」
 待て、とか、逃がすか、などと魔理沙が叫ぶよりも早く、八つ目、九つ目の尾がするりと虚空の中へ埋もれるようにして消えた。
 それを見た魔理沙に、ふと一つの疑問が浮かぶ。
 そういえば……さっきのも、丁度今みたいなヤツだった気がするような……。
 気のせいだろうか。
「……なんなんだよ」
 彼女の呟きに答える声は、ない。あのおどおどとした少年はもう、影も形もなかった。
 鬱蒼としたこずえを透かして見る夜空には、目の奥にちかちかと突き刺さるような月が輝いている。

505ピュゼロ:2016/03/04(金) 07:53:28 ID:6aKA4RoY0

 メイガスナイトその③でした。たしか③でよかったはずです。
 私事になってしまいますが、パソコンがぶっ壊れたため、中身が吹き飛びました。
 話の続きはだいたい多分あってると思います。

 何が一番悲しいかと言えばディアボロの大冒険のデータふっ飛んだのが非常にキツイです。
 天国素潜りしてまでキンクリのディスク探してたんですけど。赤石エイジャ出してもキンクリ未入手だったので、的確に心の弱いところに痛みが走りました。

506セレナード:2016/03/05(土) 18:29:42 ID:oaitL6fo0
お久しぶりです。そして投稿お疲れ様です。

パソコンが壊れてしまうとは、ついていないですね……。
何より、中身が吹っ飛んだおかげで話の構想に支障を来すとあれば、それはシャレになりません。

何はともあれ、戻ってきてくださったことに感謝いたします。
再びピュゼロさんが物語を綴りゆくことを期待しています。

507まるく:2016/03/08(火) 20:33:42 ID:9wl90O9U0
ピュゼロさんお久しぶりです!話も内容もピュゼロ節炸裂だぁ!
メイガスナイトは3であってます。過去のを読み返して3であってました。話の続きも違和感ありません、問題ないです。
熱い描写の中に作者のボヤキのような一言一言がホント腹筋に悪い。面白いのにおかしい。

何度も、飛んでますね。魔理沙とかじゃなく、時が。見失わせるほどのそれは何の目的があってでしょうか。
ドッピオを他と見紛えることも、何の要因か?読み返して思い出す鈴仙というか永遠亭周りの事件と関係あるか?
小出し小出しだと、次回が気になりますね!

508まるく:2016/03/08(火) 21:05:49 ID:9wl90O9U0
こちらも投稿の準備ができましたので、投下させていただきます。

509深紅の協奏曲 ―深紅の協奏曲 3―:2016/03/08(火) 21:06:41 ID:9wl90O9U0
 穏やかな日差しが、軒先と自分を照らす。正午を迎えた時分、春から夏に変わりゆくこの季節、今のスーツではもう暑いかもしれない。
 くぁ、と気の抜けたあくびが出て、身体の中に酸素を巡らせる。昼は休憩の時間だ、ブティックも本屋も休憩する。身体が、気を休めることを求めている。

「お待たせいたしました」

 注文したピッツァをもったウェイトレスがやってくる。遅い時間もあり、客は自分だけだし店員も彼女だけだった。ありがとう、と感謝をそこそこにかぶりつく。パスタでもよかったが、今はこのまま熱い生地にかぶりつきたい気分だったから。
 柔らかい生地とチーズや肉の具の厚さがそれぞれ歯を、舌を通して脳を刺激する。飲み込めば充足した気が、喉を通って胃に伝わり全身へと迸る。
 ふと目を上げると、先ほどのウェイトレスがこちらを見ながら笑っている。自分の視線に気づいたのか。

「失礼いたしました。とても、お腹が減っていたんでしょうね、すごい美味しそうに食べるんですもの」

 くすくすと笑みを浮かべながら語りかける。少し拙い面を見せてしまったか、そのことを詫びようとすると、

「良ければ、ご一緒してもいいかしら? 他のお客様もいないし、少々退屈なの」

 意外な誘いもあるものだ、と少々の驚きを持ちながらも、対面の椅子を彼女に勧める。
 ……近くで見れば、幼さの中に得も言えぬ美しさを持った彼女。誰も眼を惹くきらやかな金の髪を持っているが、顔だちはアジア系の特徴がある。

「あら、お気づきで? 父方にこちらの血筋の者が居まして。父と母と共に日本に生まれましたが私だけがこのような見てくれで」

 物憂げにふわふわとした天然のウェーブを弄る姿には、裏腹の自負を感じられる。持ったものは仕方ない、それを恥じるか生かすは君次第だ。そう伝えると先ほどと同じように笑みを浮かべる。

「ふふ、お上手。この国の方々はみんな優しい方で飽きませんわ」

510深紅の協奏曲 ―深紅の協奏曲 3―:2016/03/08(火) 21:07:15 ID:9wl90O9U0
 静かに椅子を引き、座る。タイトなスカートから見える脚は異性も同性も惹きつけうるだろう。しかし、だからこそ気にかかる。
 どこか彼女の動き、一挙手一投足全てが何処か普通に身を置いている者ではない空気を感じる。敢えて、普通を装っているような。それも、高度に――
 何を考えているのだろうか。そもそも、自分でさえも普通に身を置いている。昔は漁師を目指そうとも思ったが、今はしがないサラリーマンだ。市場の流通のため、漁港に訪れることもあるがあの頃の気持ちはどこかに行ってしまった。

「……? どこを、見ているの?」

 ずい、と身を乗り出しうつむく自分の顔を覗きこむように、大きな金の瞳が間近に寄っている。どこか見通しているかのような口ぶりと表情に、思わずたじろぐ。
 決していかがわしいことを考えていたわけではないのだが。途中まで口にしたところで失敗ばかりしている自分に少しおかしくなってしまい。

「構いません。楽しいお方とお付き合いできることが有意義な時間に繋がりますもの。……ところで」

 共に笑ってくれる、彼女は珈琲を一口傾けながら。

「ところで、お連れ様は何時になったら来るのでしょう、ね」

 はて、自分に連れはいなかったはずでは……そのはずだった、のだが。目の前の少女の一言で、頭の中にあったはずの記憶があふれたかのように。何故忘れていたのだろう? そうだ、今日は自分の部下と会うためにここで待ち合わせをしていたのではないのか。
 ずっと自分の為に尽くしてくれていたが、今まで会う機会の無かった唯一の部下。他にも仕事の仲間はいたが、その中でも一番信頼においていた。
 いや、仕事の仲間? 誰の顔も思い出せない。浮かび上がる顔はあるが、それはどれも仲間の顔ではない。どれも親しい表情が思い浮かばない。自分の元に寄る理由はおこぼれを得るため。まともに生きていては得られない金、名誉、地位。そのいずれかに僅かにでも縋るため。
 卑しく微笑む醜い顔。何も知らずに心酔する顔。どこかで自分を掠め取ろうとする、それは仲間でも何もない。

「……あらあら、これだけで気づけてしまうなんて。やはり、侮れないわね」

 目の前の少女が席を立つ。飲みかけの珈琲はそのまま捨て置かれた。……いつから、在ったのだろう? あのウェイトレスはどこへ。いや、目の前にいたはずの人物が。すり替わるほど目を離すことなどなかったはず。
 ここはどこだ? 風景も、気温も、風も、目を瞑っていても思い出せる郷土の息吹。だが自分がそれを味わうことのできるはずが。
 確かなことを思い出せ。自分は、あのバスを降りた後――

「もしも、あなたがあの時のままであったなら。そのままのあなたでいたのなら。その時はここが終着点。でも、夢を想いて天を生きる意志があるのなら。お天道様の元を歩み続けるのなら。声の元に向かいなさい」

 生ぬるい風が、自分の肌を触る。心地よい潮風は、サルディニアの風はもはや帰ってこない。もし再び味わいたのであれば、相応に足掻くしかない。
 そうだ、最後まで足掻いた。彼女の言うとおり、捨てられぬ野望の為に。夢というやさしい言葉は、今まで忘れてしまっていた。
 向かわなければ、そのために。

「所詮現世は夢幻泡影。だからこそ美しい。けれど時にあまりに強い光が現れ、それは対の闇を生む。現がその度に崩れてはたまったものじゃないわね」

 よろよろと、バス停までたどり着く。引きずるようにしか動かせない脚、既に感覚の無い左腕、そもそも存在のしない右手。もはや健常な個所なぞ存在せず。
 どうやってここまで行けたかも、あのカフェテラスの椅子からの短い距離でさえ記憶が曖昧。短期の記憶すらままならない。それでも、『アレ』に対して感謝の意を述べねば。

「……とうとう会えたな、ヤクモユカリ」
「初めまして。そして、さようなら」

 あと少し、バスに乗り込まなければ。身体は思うように動かず、タラップに足を掛けようにも限界の身体がそこまでの言うことすら聞こうとしない。
 ぐ、と力を込めた所に感じる浮遊感。それはただ自分の身体が倒れ込んだだけなのに、それにすぐに気付くこともできず。

「よっ、と」

 その身体を支えたのは、小さな、

511深紅の協奏曲 ―深紅の協奏曲 3―:2016/03/08(火) 21:07:56 ID:9wl90O9U0







「……あ、起きた」

 何か、温かいものに包まれている。それが最初に感じた違和感。何か柔らかいものが頭の下にある。それが第二の違和感。
 夢、だったのだろうか。先ほどの光景は。半開きの眼が、まだ霞を残している。目を擦ろうとするが、動かない。

「ばか、動かないで。どうして怪我人ってこう動き回ろうとするの」

 聞き覚えの無い、囁くような声が聞こえる。僅かに動く首を動かすと、その方向に、

「おま、あは、やっ、急に動くとくすぐったいじゃないの!」

 薄く柔らかい、淡い桃色の布が視界を遮る。上質な生地の優しい香りの中に、染み着く死臭と血の匂い。

「なんで男なんかがちまっこくてかわいいレミリアちゃんのふんわりやわらかおひざにクッソ汚い頭なんか乗せてんだ今すぐにでも血袋ぶっ潰して」
「うるさい」
「ごめんなさ〜い、パチュリー様ぁ〜」

 徐々に意識が覚醒していく。広がる視界には、崩れた紅い瓦礫たち、そこから差し込むほんの少しの月明かり。幾人の羽の生えた少女達、夢の中の世界にしかいない妖精と言われる者達がその瓦礫を共同して片づけている。……のだが持ち上げられなかったり隠れたり投げつけあったりしていて遊んでいるようにしか見えない。
 椅子に座りながら、そんな彼女たちを指揮する頭を保護した華人。そんな空気の中、舞い立つ埃の中をまるでいつも通りと言わんばかりに食卓を用意するメイド。
 そして、一番の近くには。

「やあ、おはよう。気分はどう? 人間的にはまだまだこんばんわだし、私からすればお休みなんだけど」

 先ほどの夢と、未だ前後不覚の脳が認識を鈍らせる。確か、目の前の少女は先ほどまで死闘を繰り広げていたはず。その証拠、潰した右眼は未だに癒えていない。……言い換えるならば、そこ以外は何も傷ついていない。

「……おれ、は」
「最後まで見なきゃあエンディングは終わらない。残念だったね、途中でリセットしたらラスボスは最初から、よ」

 にぃっ、と吊り上る口角は未熟な歯とわずかにかかる人の平均より大きな犬歯を覗かせる。
 徐々に思い出してくる結末。最後、止めを刺そうとした瞬間のレミリアの表情まで思い出されるが、凶手を振り下ろした瞬間は思い出されない。

「……全体の30%の失血、外部、内部ともに重篤な損傷多数。そのショックを麻痺させるためかの脳内物質の過剰放出による汚染……良く息を吹き返したわね。そのまま検体として使用した方が有用な位」

 見える位置に、死人のような顔色をした別の少女がディアボロを見下ろしている。縁記に載っていた、レミリアの友人という魔法使いが彼女だろうか。
 じっとりと、本来は興味も持っていないだろうと感じられる路傍の小石を見る様に見下ろし続けながら、言葉を続ける。

「あの子の言うことと似た様にもなるけど、レミィの頼みだから治癒魔法を使ってあげているのよ、妹様に吹き飛ばされた右手も少し待てば綺麗にくっつく。そうね、もう少しすれば戻るわ。はぁ、何でこう怪我人って動きたがるのかしら」

 ちらと妖精たちの指揮を執り続ける美鈴を見やり、そして踵を返す。自分の視界からは外れるが、柔らかいものに腰を下ろす音が聞こえた。

「…………何を、する気だ?」
「んー?」
「結局は、オレは敗者だ。……助ける理由もないだろう」
「ん〜〜〜〜〜???」

512深紅の協奏曲 ―深紅の協奏曲 3―:2016/03/08(火) 21:08:38 ID:9wl90O9U0
 わざとらしく、耳に手を当てて言葉を促すようにレミリアは振る舞う。

「今なんて言った?」
「……何」
「オレはー、なんだって?」

 にやにやと、さぞ嬉しそうに。

「…………」
「ん〜〜〜〜〜〜????」
「……オレは、敗者だ」
「なぁにぃ〜? 聞こえなーい」
「…………」
「ん? 何だって? ん?」
「……………………くっ」
「ほら、早く言ってみなよ。はーやーく、はーやーくー」
「……私は、レミリアに、っ、ま、負けました…………」
「グッド。その言葉が聞きたかった」

 ご満悦、といったように。幼さの残る悪趣味な笑顔を浮かべながら、満足げにレミリアは言い放つ。屈辱に満ちた表情のディアボロを、見たかったのだろう。彼も、敗北を味わったことが無いわけではない。だが、改めて事を強調させられる恥辱は、耐えがたいものがある。

「思いつめた顔が取れたね。私も真剣だった、それに偽りはないよ。だけど、ここは幻想郷。郷に入っては郷に従え、ってね。あとはあの子が許せば、私はあんたに何もしないわ」

 そういって指した先、残骸の影に隠れ、皆の輪から離れる様に虹色の宝石をぶら下げた羽が、その持ち主が窺うようにじっと見ている。

「フランを利用したことについて、『私は』今の表情を拝ませてもらったことで無しにする。けれどあの子はあんたが倒れてからずっと近寄ろうとしない。あの体験はもう御免みたいね」

 食い入るように見つめる瞳は、恐れと羨望だ。興味はある、輪の中にも入りたい。自分が興味を持った人間と、自分に興味をすこしでも持った人間に触れてみたい。だが、大元を断てていないことへの不信。

「……好きに、すればいい。私が相手をしたものが決着はついたと認めた以上、その者に関わる何かに因縁をつける必要もない。先ほども言ったが敗北したのは私、今は抵抗もできず、もしフランドールに同じことをしたならばお前がすぐにこの首を分かつこともできるだろう」
「つまり?」
「……」

 再び、残酷な笑顔を浮かべる。レミリアの心は、本当に死闘と結末とで別なのだろう。否、レミリアだけでなく、幻想郷の住民は。その中でフランドールだけはまだ至っていないということ。相手が幻想郷の住民ではないということ。

「……私はお前にも負けたんだ、フランドール。生殺与奪はお前たちに権利がある。好きにすればいい」
「………………ほんとう?」
「殺させはしないけどな! 元々は私に挑んできたんだから、今は私が所有しているんだからね」
「おい……」

 おずおずと、影から全身を見せる。

「ほんとうに、もうあんなこと、しない?」
「……今は、できないな。せっかく拾った命をむざむざ捨てる行動など」

 とたた、と姉の膝元に横たわるディアボロに、フランドールが近づく。自分が吹き飛ばした右手を、今は繋がっているその腕を手に取る。

「……大きい手。お父様の手みたい」

513深紅の協奏曲 ―深紅の協奏曲 3―:2016/03/08(火) 21:09:11 ID:9wl90O9U0

「あああああああフランちゃんが男の手を握ってる私だって触れたことが無いのに穢れが、穢れが!!」
「うるさい」
「すいませぇ〜ん、パチュリー様ぁ」

 父親。懐かしい響きだ。最も、認識した時から今まで自分がそうであると感じたことはない。だが、生命は必ずどこかで生産者がいる。一つ一つに親が存在する。
 だが、自分にはわからない。存在するはずだが、常識では考えられない状況で生まれた身分。そんな男でも、生命を作る行為を行った。それは子を成した。社会としては父として見なされないであろうが、生き物としては、自分も父親となっていた。
 もし、父として娘についていたのなら、このように慕う一面を見せてくれたのだろうか。

「……ふっ、ははは」
「?」

 思わず破顔してしまう。そんなことを考えてしまうとは。今まで全く認知するどころか、危険因子としてしか見ていなかった娘を、この異世界の幼子に、それも自分を害した子供に重ねるとは。
 そんなものより、今まで自分の子どものように付き合ってきた相手が存在するではないか。

「……すまないが、人形を取ってくれないか? 私の、ポケットに入っている」
「え……? ここ?」

「可愛いフランちゃんが男のズボン弄ってる……死のう」
「死ね」
「パチュリー様、辛辣すぎます〜」

 ズボンに入っていた、小さな人形をフランドールに取り出させる。

「……お前、何でそんなの後生に持ってるの? しかも、それあの子供の姿」
「それに、ボロボロ。……これで、いいんだよね?」

 アリスに作らせた人形は、激戦によって保護も間に合わず、一つはほぼ原形を保っておらず、もう一つは傷ついた彼と同じく、全身、特に右腕が酷く損壊している。

「……その波長、アリスの? 何やってるの、あの子は」
「ああ、それでいい。それを、耳元へ」

 傷ついた人形が、ディアボロの傍らに置かれる。あの時人形遣いは限りなく精巧に作ってくれた。こんな顔をしていたのか、と思い直してしまうほどに。

「もしもし、ドッピオ……聞こえるか」
「え?」
「??」

 二人の吸血鬼は、きょとんとした顔をして見つめてくる。だが、知ったことではない。自分たちの交信は、いつもこうだった。

「聞こえるか? 返事をしてくれ」

 今までは一方通行だった。こちらから送る、それだけの交信だった。彼はそれでも、いつでも、何としてでも受信した。

「……もしもし、ドッピオよ。かわいいドッピオ、聞こえるか」
「ちょっと、何急に言ってるの?」
「……?? お兄さん、大丈夫?」
「……地霊騒ぎの時の交信装置、そのアリス版。つまり誰かと交信している可能性がある。最も、波長と同一なのはそこにある二つの人形のみ。壊れて使えないってことを教えてあげた方がいいんじゃないかしら」
「何それ面白そう、パチェそんなのあるなら教えてよ」
「二日で飽きたのはレミィよ」

『……』
「聞こえ、るか」

 やはり、こちらからでは答えないか。自分のもう一つの人格、自分の都合の良いように生み出したもの。それをいまさら都合を捻じ曲げてなど。
 だが、閻魔も言っていた。もはや別の魂として存在していると。自分が守るために、自分の為にもう一度生まれてくれたことを。

「もしもし……ドッピオ、聞こえたら電話に出てくれ」
「おーい、聞こえてないって、知識人が言ってるから間違いないよ」
「……脳みそも欠けてたのかな、損傷個所として見なせなかったのかも」

 外野の声も、自分の耳には入ってこない。

「……ドッピオ」
「えー、じゃあ元通りになるの? 脳って複雑だからあんまり触りたくないの、美味しくないし」
「そうなの? お姉様美味しい所持ってってたんじゃないの」
「私がそんな意地汚い事するか」


『はい、ボス』

514深紅の協奏曲 ―深紅の協奏曲 3―:2016/03/08(火) 21:09:46 ID:9wl90O9U0


「昔私のケーキのイチゴ勝手に取って食べたじゃない」
「あれは美味しくないから代わりに食べてあげただけよ」
「……ありがとう、すまない」
「そいつを治したいんだったらあんまり騒がしくしない方がいいんだけど。義理はないけど、矜持として失敗させたくないから」
「えー、パチェそんなん言うんだったらあの鐘? 鳴らせばいいんじゃないの、あれ」
「私の血が足りてない」


『謝らないでください、ただ躓いただけ。ただそれだけ。たとえ笑う者が居ても、それを乗り越えてきたのがあなたです』


「それなら私の血を使う?」
「無理ね。あれは血の調整があるからこそ活用される。吸血鬼の血なんて穢れすぎて熱くて使えやしない」
「なんだとー!」
「お嬢様、妹様、そろそろお時間です。こちらを」
「ああ、悪いね咲夜……ちょっと、独り言にすまないけど」

 ついつい、とレミリアが頬をつつき、その先を外へと指し示す。気付けば遮光の変わりか、傘を携えた咲夜が佇んでいる。

「人間が月を望むことを想うように、私たちもたまにはあれを望む。直射はあんまり好きじゃないけどね。あれを見ると、人間が門出という気持ちもわかる気がするよ」

 遠くの山間から上る、大きい光の塊。温かい命の恵み。ここには似つかわしくない、太陽の光。


『僕にとっては、いつもあなたは太陽です。いつでも、僕を照らしてくれた。たとえ、あなたの臨む先が陽の射さぬ暗闇でも、それでも僕は貴方と共に、歩み続けたいのです』


「感謝するつもりが、逆に言われるとはな……」

 上る朝焼けにはしゃぐ妖精たち、共に回る美鈴。そっと主たちの傍に佇み、控えめながらも確かに彼女たちを守る咲夜。眩しそうにも、それを細い眼で見入るパチュリーとその従者。そして、

「夜明けだ。これからはお前たちの時間だろう?」
「……ありがとう。あんなこと言っちゃったけど、楽しかったわ」

 自分の力量を知らしめた、二人の幼き月と太陽。
 ほんの少しの逢瀬を楽しんだ後、一瞬にして一帯に影が満ちる。どうやら、瀟洒な従者による幕引きのようだ。妖精たちと美鈴は急いで明かりをつけて回る作業へと移る。
 気付けば、自分の身体も先ほどまでの苦痛の呪縛はなくなっている。ためしに手を動かしてみるが、何も問題ない。

「さすがパチェ! あれほどの怪我を一晩掛からず治してみせるッ!」
「当たり前」
「ノリ悪っ」

 ゆっくり、身体を動かしてみるが問題はない。立ち上がることも、先ほどまでただ眠っていただけのように、重症の後遺もなく行える。

「もう問題ないみたいね。それじゃあ、準備もできてるみたいだし、初めよっか」
「……何を、だ? もう私は」
「朝更かしの始まりだよ、咲夜、準備!」
「できております」

 一瞬。丁寧に用意されていたテーブルの上にはいつの間にか豪勢な食事が並んでいる。さすがに瓦礫の全てを片付けられたわけではないが、大きいもの以外は撤去されており、少々品はないが宴を催す進行には問題ない。

「申し訳ありませんが、全ての除去はできませんのでご了承くださいませ。後ほど美鈴の手を借りて行います」
「力仕事は任せてくださいね! ……てて、大声出すと頭に響く」
「ばか」
「パチュリー様のばか好き、セックスしてる時に言わせたい」
「フランも久しぶりに食べていきなさい。紅魔の宴はどっかの神社とは違うのよ! みんな、グラスを持ちなさい」

515深紅の協奏曲 ―深紅の協奏曲 3―:2016/03/08(火) 21:10:18 ID:9wl90O9U0


「その必要はないわ」

 全員の動きが止まる。闇から染み出るような一声。
 この場の者の声ではない。だが、ディアボロはどこかで聞いた覚えのある声。

「……彼女の名は『賢者』。正確にはその呼び名は通称」

 ヒールを立てて歩く音だけが、明かりの届かぬ影から聞こえる。敢えてもったいぶらせているように、音だけ。

「本名は、全く以って不詳」
「紫でしょ」
「スキマ妖怪だよね」
「紫」
「紫ですね」
「……不法侵入ですけどこれって私の責任ないですよね?」

「……私が彼と初めて出会ったのは、ある皐月の東雲、寂れた紅魔の館だった……」
「おいコラ、不可抗力に何言ってんだぶっとばすよ」

 ぐにゃりと、空間がゆがむ。形容しがたいひずみの音と共に亀裂が走り、そこから現れる幾百の瞳だけの『隙間』、空間の支配者。

「Buongiorno, piacere di conoscerti」

 その少女は、夢に現れたその少女―八雲紫―はそのまま一礼をする。口から出た言葉は、最も聞きなれた国の言葉だった。

516まるく:2016/03/08(火) 21:14:29 ID:9wl90O9U0
以上になります。今にも落ちてきそうな空の下で……よいシーンですよね。
最後の言葉はイタリア語で「おはようございます、はじめまして」と言ってます。自分は外国語を治めているわけではないのでGoogle翻訳に頼ってます。これだけは真実を伝えたかった。
パチュリーの鐘や血がどうのこうのは東方と関係ないので気にしなくていいです。雑談ですので。

認知していなくても、父親は父親なのだ。彼は、一人ではなかった。

517まるく:2016/03/09(水) 06:04:28 ID:6kD1Oje.0
えー、完成後何度か読み直して誤字脱字もないし物語も問題ない!と思って投稿した次第ですが、大事なことが抜けていることに今気づきました。
これでも二日は吟味して、気を付けていたはずなんですがね…今日明日には投稿し直します。
うーん、しかし8月かぁ。半年ぶりだもんなあ。言い訳だなあ。気付いちゃう人っていうのは相当自分の作品が好きなんだな、って思っちゃいますね…

518まるく:2016/03/10(木) 01:05:28 ID:/ew0Fx5U0
はい、修正しました。修正版をWIKIに上げました。
……ナズーリン。いたはずなんですが、図書館以降に時間をかけすぎすっかり忘れていました。
終わったなら出てくるに決まってますのに、忘れて出ていませんでした。大事なことを忘れていました。
というわけで、そこのあたり修正し、随所にネズミさんのセリフを入れたものをWIKIに上げました。
またこちらに投稿するのも邪魔になると思うので…失礼いたしました。

519セレナード:2016/03/25(金) 22:32:43 ID:42MfejZo0
ふう、準備完了です。これより投稿を開始します。
今回は紡ぎの章。新たなる物語のプロローグ。
そして……変わり始める物語の序章となります。

520東方魔蓮記第五十八章:2016/03/25(金) 22:34:02 ID:42MfejZo0
……さて、どうしたものか。
この状況、嫌が応にも昔を思い出す。
だが大丈夫だ。クラフトワークのおかげであの時と違って傷口は浅い。
この傷の浅さなら、死にはしないだろう。

「一つ質問がある」
首だけを振るわせる男を冷徹に見つめ、俺はそいつに問いかける。
クラフトワークの能力をこいつにも使ったから、首から下は固定されて動かない。
「報復される可能性を想定した上でこんなことをやったんだな?」
「ぁあ……」
やれやれ、こいつは恐怖に呑まれてしまっている。
大方、報酬に目がくらんで俺の暗殺を引き受けたただの素人だろう。
依頼人は……多分、妖怪を幻想郷から排除しようとしている連中か。
俺を暗殺して妖怪のせいに仕立て上げ、妖怪排除の機運を高めたいのだろう。
だが……お前がやろうとしたことは、一匹の蟻が空を飛ぶ鳥を殺そうとするのと同じだ。
弱っているならまだしも、今の俺を暗殺するには無理がある。

「……覚悟はいいな?」
ディアボロは冷酷に問いかける。
その目は一切余計な感情が混じっていない、純粋なまでの攻撃の意思を宿していた。

「俺は『とっくの昔』にできている」
ディアボロがそう言った瞬間、男の腹部にこぶし大の穴が空く。
キングクリムゾンの拳が、男の腹部を貫通したのだ。
ブチャラティとの交戦を思い出させるこの一撃は、これでだけで人を殺せるほどの破壊力を有している。
とはいえ、大振りなので隙をつかないと命中しないのだが。

キングクリムゾンの拳が男の肉体から抜かれ……た次の瞬間、クレイジー・ダイヤモンドが男に殴りかかる。
そしてクレイジー・ダイヤモンドの拳が命中する瞬間、男の体にのみクラフトワークの能力が解除される。
その結果、男は自分が動けるように気づく。
……しかし男が次の行動に出るよりずっと早く、手加減なしのクレイジー・ダイヤモンドの拳が男の腹部に命中してしまう。
その結果無情にも男の体は数回地面に叩き付けられ、その回数よりも1回少なく宙を舞い、拳の一撃の衝撃で吹っ飛ぶにしてはあまりにも遠い地点まで吹っ飛ばされてしまう。

普通こんなことされたら妖怪でも瀕死になるだろうが、ディアボロは男を殴り飛ばすと同時にクレイジー・ダイヤモンドの能力を発動した。
男は勢いよく地面に叩き付けられて痛みにもだえていたが……ふと視線が腹部に移動したのだろう、男はびっくりしながら起き上がった。
「え、何で俺生きているんだ!?」
男の驚愕を他所に、ディアボロは彼に近寄りつつ、DISCを一枚装備する。
ディアボロの接近に男が気づいた時には、既に胸倉をつかむには十分なほどに距離を詰めていた。
そして男が一歩下がる前に胸倉を素手で掴み、思いっきり睨み付ける。
「今回は特別だ。だが……」
そう言いながらディアボロはヘブンズドアーを彼自身の背後に出す。
「『次はない』ぞ」
そしてヘブンズドアーで男を本にして、一つの命令を書き込む
『ディアボロを含む、命蓮寺の関係者全てに精神的な攻撃を含めて手を出せなくなる』
命令の記入を終えると、本になった男性をそこらへんに生えている木にポイ捨ての要領で放り投げ、宙に浮いている間に能力を解除する。
「うわぁぁぁぁ!?」
男は気が付いたら自分が空中にいることに驚き、悲鳴を上げる。
しかしディアボロは男の悲鳴と物体が地面に落下した音を無視して、その場から離れていくのだった。

521東方魔蓮記第五十八章:2016/03/25(金) 22:34:54 ID:42MfejZo0

「なんてことがこの間あってな」
「お主よく無事じゃったな……」
そんなことを平気な顔で話すディアボロに対し、マミゾウは呆れながらも無事に戻ってきたことに感心する。
「腹を刺されるのにはいい思い出がなくてな。流石にもう一度歯向かう気力は無くしたほうがいいとおもっただけのことだ」
「いや、腹を刺されて良い思い出となることなぞないじゃろう!?」
平然とそんなことを言うディアボロに対し、呆れ顔でマミゾウはツッコミを入れる。

ディアボロはこんなことを言っているが……
彼がゴールド・エクスペリエンス・レクイエムによって死の無限ループに陥った時、最初の死因は腹部をごろつきに刺されたことによるものであることを忘れてはいけない。
彼からすれば、腹部を刺されることに良い思い出は全くないのである。
だからこそ、自分を殺そうとしたあの男に、よほどの冷徹さを見せたのだろう。

「まあ、死ななかっただけマシだな」
「全くじゃよ、お主が死んだらぬえが悲しむではないか」
なんてやりとりを行いつつ、ディアボロとマミゾウは人里を進んでいく。
マミゾウの姿は変化しており、人ごみに紛れるにはうってつけの姿となっている。
「話は変わるが……お主、人里の最近の異変に気付いておるか?」
そんなギャグみたいなやり取りを二人は交わしていたが、マミゾウはとある情報について話題を変える。
ディアボロは彼女の問いかけに少しばかり思い返す。心当たりはそれなりにあるようだ。

「相談を受けたことならある。相次ぐ異変によって、人々が不安に駆られているらしいな」
「うむ。自分たちが無力であるが故に、ただ被害を受けるしかできぬことを皆不安に思っておる」
「……白蓮じゃなくて俺に相談する奴が少しずつ増えてきているのはそのせいでもあるのか?」
最近、ディアボロに相談する人が少しずつ増えてきている。
白蓮達に相談したほうがいいと彼は言うが、命蓮寺の中では数少ない純粋な人間である彼にしか相談できないこともあるのかもしれない。

「お主の使う『すたんど』は魔法や妖術ではなく精神の具現らしいからのう。お主が純粋な人間のまま異能を持っていることに好感を抱いている者もおるのじゃろう」
「なるほど。確かに魔法を学ぼうとするなら、それは少しずつ魔法使いへと近づくことになるな……」
人間でありながら魔法使いである者がいれば、種族としての魔法使いもいる。
けれども結局、『魔法』を行使する以上人外の存在に近づくのには変わりない。
『人から外れる』誘惑に抗えるか自信のない者にとって、人でなくなる可能性のないままであり続けながら異能者でもある『スタンド使い』は魅力的に見えるものがあるのかもしれない。
かのスケアリー・モンスターズでさえ、能力を解除すれば簡単に人間に戻れるのだから。

522東方魔蓮記第五十八章:2016/03/25(金) 22:35:57 ID:42MfejZo0
「だが、あいつらはあいつらでスタンドについて勘違いをしている」
「ほう、どのような勘違いかのう?」
ディアボロの発言に、マミゾウは興味を示す。
彼女は亀の中にある漫画は読んでいない。故にスタンドに関する知識は意外にも浅いのだ。
「せっかくだ、この場で少し教えるとしよう」
「スタンドは『血脈』『技能を極めること』『道具の使用』の3つのパターンによって新たに発現することが確認されている」
「これだけ聞くと、『道具の使用』が一番簡単に思えるのう」
血脈は自分ではどうにもならないし、技能を極めることによる発現も長い時間がかかる。
マミゾウの言う通り、『道具の使用』が一番簡単に思えるだろう。

「そう思いがちだが、この選択肢には致命的な欠点があってな」
マミゾウはその言葉を聞いて眉をしかめる。
誰にでもチャンスがあり、最も手頃で楽そうな道。しかしてその道を踏破できなければ……。
「『自分だけのスタンド』を覚醒させるために道具を使う場合、素質がなければ死んでしまうという難点がある」
「…………」
一瞬マミゾウの表情が強張った……ような気がした。

「そんな欠点があったとはのう……楽な手段で力を欲するならば、相応の覚悟はせねばならんということじゃな」
「それにスタンドは本来幻想郷には無い力だ。覚醒させる道具も確認されていない以上、俺以外に発現する奴が現れるとも思えない」
二人はそんな会話をしながら、命蓮寺への帰路を進んでいく。
実際には死にかけながらもとあるスタンド使いのおかげで生き延び、スタンドを発現させた例がある。
しかしあれは特殊な事例。そう何回も起きうる奇跡ではない。

「ならば、お主の使うあの円盤はどうなるんじゃ?」
「あれは他人のスタンドを円盤に封じ込めた物だ。入手経路については黙秘するが、あれは適性がないと円盤が弾きだされる」
「それなら死ぬ可能性がない分まだマシじゃな……」
マミゾウは苦笑いを浮かべながらも、黙秘された入手経路に興味を抱く。
だがそれを言葉にはしない。どうやっても教えてくれないだろうと理解しているからである。

「それにスタンドを発現させても、闘争心がなければ暴走して自分自身を衰弱させることになる」
「と言っても、このパターンは1度しか確認されていないがな」
ホリィ・ジョースター。ジョセフ・ジョースターの娘であり、とても穏やかで優しい人物。
だが、それ故に彼女には闘争心が人よりも薄く、自身が発現したスタンドによって生命の危機に瀕することとなる。
そして彼女を救う唯一の手段こそが、DIOを撃破すること。
それが、スターダスト・クルセイダーズが始まるきっかけとなった。

523東方魔蓮記第五十八章:2016/03/25(金) 22:36:32 ID:42MfejZo0

「穏やかな心の持ち主には却って毒となるか。扱いに苦労する力なのじゃな」
「扱う者の心の持ちように関係ないのは、魔法や妖術のメリットだな」
意外なリスクに驚くマミゾウと、魔法や妖術をスタンドと比較してそのメリットを説明するディアボロ。
精神の力ではないが故に、心の状態を問わぬ魔法や妖術。
己の精神の具現であるが故に、扱い方を理解しやすく力そのものが成長しうるスタンド。
どちらにも共通して言えるのは、『異能』故に取り扱い注意であることだ。

「そして一番厄介なのが、発現したスタンド全てが『自分にとって有利な能力』を持っているわけじゃないということだ」
「……どういうことじゃ?自分の力ならば、自分に有利に働くもののはずじゃろう?」
ディアボロの言葉に、マミゾウは彼に疑問をぶつける。
最もだ。魔法、妖術……それらを含む全ての術に、自分が不利になるだけのものなどあるはずがない。
代償を必要とする術でさえ、それ故に強力なものであるはずなのだ。
「『本来は』な。だが、不利なだけの力を持ってしまうのもスタンドの特徴だ」
「『すたんど』とは不思議なものなのじゃな……」
困惑しつつも、そういうものだとマミゾウは受け入れる。
人の心ほど難解なものはそうないだろうから、その具現体たるスタンドも同じようなものだろう、と。

「して、どのようなものがある?」
「そうだな……自殺するときに自分が望んだ相手を同じ方法で道連れにするスタンドもあるし、自分が死んで初めて全力を発揮するスタンドもある」
前者は石の海に囚われた者の一人に『与えられた』スタンドであり、後者はディアボロの部下だった男の持つスタンドである。
もっとたちの悪いスタンドはあるが……。
まあ、今は語らなくてよいだろう。
「なんじゃそれは……どちらも自分が死なねば効果を発揮できぬとは、不便じゃのう」
「まあ、そんなスタンドもあるということだ。俺だって全てのスタンドを認識しているわけではないからな」
そんなことを話しながら、二人は命蓮寺へと帰ってきた。
マミゾウは自分たちの現在地に気づいて元の姿に戻り、ディアボロも軽く体を伸ばしてから参道を歩き始める。

「そういえば、お主はそんなスタンドを何体も御しているようじゃが……そんなことをしていてお主は大丈夫なのか?」
「5つまではなんとか大丈夫だ。だが、普通のスタンド使いだと複数のスタンドを得た時点で能力が暴走し始める」
「……成程、それほどまでにお主は強靭な精神力を持っておるのか」
ディアボロから自らの疑問に対する返事を聞くことができたマミゾウは、少し考え込む。
それを不思議に思ったディアボロも、歩みを止めて彼女の方を向く。
「ディアボロよ。お主に一つ、頼みたいことがある」
マミゾウは真剣な表情になり、ディアボロにそう言った。


強い陽光が地を照らし、人々を暑さに悩ませる夏の中のとある一日。
これより始まる新しい物語は、一体如何様な展開を迎えるのだろうか。

524セレナード:2016/03/25(金) 22:39:29 ID:42MfejZo0
投稿完了です。
今回はディアボロがスタンドについてマミゾウにレクチャーする回。
そして、ディアボロがマミゾウから依頼を受ける回となります。

最近オンラインストレージ上に小説を保管していますが、これが中々便利です。
誤消去や外出先で書きたいと思っている方、如何でしょうかね?

525セレナード:2016/03/26(土) 09:03:12 ID:AAriFA160
……はて、【五十八話】と書いたつもりが『五十八章』になっている。
おまけに、『誤消去を警戒している方』と書くのも忘れている。

……疲れているのか、それとも詰めが甘かったのか、今後は気を付けますね

526Dr.ちょこら〜た:2016/03/29(火) 19:30:39 ID:edH7g0R60
ピュゼロさん、投稿お疲れ様です!御帰還お待ちしておりましたとも…ッ!
メタ視点を取り込んだ構成にはもう顔中草塗れや。レスリングネタがホイホイ♂飛び交う幻想郷怖いでしょう…
弾幕表現の巧みさには舌を巻くばかりです
魔理沙の言う「あのクズ」とは、一話に登場したメイの事でしょうか。念の為質問しますが、このメイとは旧作のメイとは違う別人なのですね?
ドッピオ(ディアボロ)の目的も幻想入りした経緯も不明なので、ここからの展開に期待が膨らみますね!

まるくさん、投稿お疲れ様です!
自分が手に掛けた男と同じ場所、しかし結末は全く別。ディアボロが帰還できたのは紫の手があったからか。
VS紅魔館戦、決着ゥゥーーッ‼︎「ん〜〜〜?」のくだり、可愛い過ぎるでしょう…おいおいおいおい…
勝負が終われば恨みっこ無し、少女の世界である幻想郷のルールに、男の世界に身を置いてきたディアボロも漸く馴染む事ができたと。小悪魔がいつも通りで安心。
ナズーリンは最初にドッピオと会った際の電話を探す奇行の意味を理解した様子。
そして、遂に現れたサヴァン。どのような結末へ向かうのか、楽しみにしております‼︎

セレナードさん、投稿お疲れ様です
毎回「ふう…」と書くくらい疲れていらっしゃるからじゃあないでしょうかね?(あとがき)
果たしてスタンド使いは人間の一形態なのか、それとも種族なのか?
人間を辞めて妖怪化してしまえば巫女の制裁を免れられない幻想郷、スタンド使いが重宝されるのも自然な流れですね。
これまでは既存の異変をなぞる展開でしたが、この先はそうではない様子。期待しております

527まるく:2016/04/04(月) 15:53:18 ID:KAy3M.ro0
セレナードさん、投稿お疲れ様です。また、新しい物語が始まりますね。
うん、クラフトワーク強いもんね。最後まで防御でも発動でも有用なDISCですからね。(「なんてことがあってな」では)ないです
さりげなーくぬえの事を気遣うマミゾウさんかわいいですもんね、娘みたいな友人。
オリジナル?それとも心綺楼or深秘録?きたいしていますー。

ちょこら〜たさんも感想ありがとうございます。
既に誰かが通った道、それを模しただけの道。外部の手があったとはいえアバッキオはディアボロ殴ってもいいと思います。
というわけで決着です。長かった。レミリアも後半はカリスマモードやってる場合じゃなくなるほど。
けれど終わってしまえば幻想郷。ディアボロも馴染んだつもりでようやく対応できた感じ。
すごい恥ずかしかったでしょうけど。幼女の膝枕から屈辱的なセリフまで。こわ、ちかよらんとこ
最初の違和感、分かって納得。続きを書いていると急にヒロイン枠になってきています。不思議。
ゆかりんポンコツ臭がしてきそうな感じになっていますが、紅魔館の人たちってずっとボケツッコミやっている印象があります。ナズも「あのさぁ……」って呆れ顔になるくらいには。
レミリアのおなかのにおいをくんくんしたディアボロをゆるしてはいけない

528まるく:2016/04/20(水) 21:54:10 ID:y37Qs2Pw0
お疲れ様でした。
深紅の協奏曲、最終話の投稿とします。最初からいつも通り、最後までいつも通り。
自分が望んだ幻想郷は、そんな世界です。

529深紅の協奏曲 ―深紅の協奏曲 4―:2016/04/20(水) 21:55:41 ID:y37Qs2Pw0
「始まりあれば終わりもあり。終わりもまたはじまふっ」

 口上を述べ、垂れた頭を上げたその瞬間、紫の前面から膨大な質量を伴った妖魔の槍が炸裂する。
 それは戦いの最中何度も使ってきたレミリアの一撃。彼女の気勢を表す激を伴っている。
 一瞬の後、背後の壁に大きな穴を作って霧散した。もっとも、そこから射す光は暗幕によって遮られている。良くできた従者だ。

「……いきなり何をするの」
「いや、さっきバカにされた分だけど」

 投げた本人も投げて当然という顔をし、受けた本人も投げられて当然といった顔のまま。紫の上半身はスキマを境に消え去り、少し前から新たなスキマを作りそこから出されている。
 随所で話に上がっていたが、いともたやすく不可解な現象を引き起こせる。噂に聞いた者だとディアボロは思う。そして、彼女が現れてから身の毛のよだつ空気も感じられる。産毛が逆撫でされ、肌が粟立つような空気が、この緩やかな空気の中でも感じられる。

「相変わらず、いろいろ足りていないわね」
「羨ましいか。若さは武器だ」
「子どもの背伸びほど見苦しいものはないわね」
「わざわざ腰を曲げる必要をまだ感じないなぁー」

 言いあう二人も微笑ましいが、冷えた空気は変わらない。それは、まだ自分が人間であることを示しているのか。

「……と、貴女と話をしに来たわけじゃあないの。もっとも、楽しい時間は過ごせたみたいね」
「ああ、おかげさまでな。まあしばらくはおとなしくしておいてあげるよ」

 少し忌々しげに言い放つレミリア、それを受け微笑を浮かべ、紫はディアボロの方へ向く。

「……賢者、彼に何の用だ?」

 一歩、ナズーリンが前に出て彼女を窺う。少なからず、何も知らぬであろう彼を守ってやろうという気持ちが少しはあるだろうか。

「……ユカリ、私もお前に言いたいことがある。大丈夫だ……ナズーリン」
「……」

 しかし何も知らない彼女を退け、紫に向き合う。今まで、自分の事を測ってきた者達、その頂点。
 目と目が合い、わざとらしい笑顔を形作る少女は、確かに夢の少女と変わりない。

「……お前が姿を現したということは、『全ては終わった』……ということか?」
「…………ご明察。希望ならば、席を外させますが?」
「ちょっと、あんたたちに何があったかは知らない。けど吸血鬼の城の中でそんなこと言われる筋合いはないよ」

 一番に噛みつくのはレミリア。言葉の中に潜む移動ではなく排除を選ぶセンスに主として怒りを隠さない。傍らにはいつもの通り、咲夜が待機している。いつもの通りの赤い瞳で。

「やめろ。わざわざ争いを起こす必要はない。スカーレット達も私に関わった以上、聞きたければ聞けばいい。今の私に傍聴を止める権利はないし、どこまで行っても、関係の無いものには関係の無い話なのだからな」

 一触即発の空気の中を割り入る。ディアボロはすでに受け取っていた。彼女の決意と熱意を。

「お兄さん……どういうこと?」

530深紅の協奏曲 ―深紅の協奏曲 4―:2016/04/20(水) 21:56:13 ID:y37Qs2Pw0
「私の能力には……スタンド能力には先がある。その力を用いた者が、幻想郷を巻き込む宇宙の事変を巻き起こした。私はその能力のテストケースとしてこの幻想郷に連れてこられた」

 彼女の目的をためらうことなくその場に居る全員に向かって話す。事実は、その場に居る数人に少なからずの衝撃を与えていた。

「あら、勝手に話されてしまっては困りますわね。何のための実証でしょう」
「……紫が泣いて請うたあの事変の、原因ですか?」
「泣いてません」
「あ、失礼しました。弄るつもりではなかったのですがつい」

 ついうっかり、と完璧に偽った表情を浮かべる咲夜。先ほどの主へのための意趣返しだろうか。

「……とにかく。そのためのテストケース。妖怪を恐れる人間たちが、人間を恐れる様になってはいけないの。あの事変が人間同士の争いの結果だとわかってしまえば、この幻想は崩壊する。レミリア、貴女がここに来た理由もそうだったでしょう?」
「……そう、だけどねぇ。私には咲夜がいる以上驚きはしなかったが」
「だからこそ、貸してくれたのでしょう? 本当、痛み入ったわ」
「気持ち悪っ」
「レミィ、突っ込みいれてたらいちいち進まないよ」

 他と違い、ほとんど興味なさげなパチュリーの声が間を刺す。

「まったく。……話を戻すわ。貴方を観察し、外に起きた因子を探り。……結論を言うわ。貴方に、いえ、その他の者にあそこまでの事象を起こしうる力は存在しない。100年の歳月とそれにまつわる数奇な運命、そして周到に用意された贄と土地。……そこまでを用意することは二度と、起こらないでしょう」

 そういって紫は一冊の本を取り出す。本、というよりは少し厚い、使い古された黒いノート。それを取り出すや否や、ノートは紫の炎に包まれ消失する。

「あ、何なのよそれ」
「とある男と、その因縁との長い長い結末。届かないが故に手を伸ばし、果てには天国を掴んだ男の話。……今は、それも過去の話。終わった話を不用意に紐を解く必要はない」
「……天国? それが、何の関係が、……むぅ」

 口を挟むナズーリンに対して、何も言わずに紫は睨みつける。同じことを二度繰り返す必要はない、と言いたげに。まさしくその通りなのだろう、意図を読んだ彼女は諸手を上げて押し黙る。

「いずれにせよ、あのことについて皆が考えることはない。皆が悩むことはない。巡り巡って大団円、です。彼が、受け入れるのならば……ね」

 眼の先が、ナズーリンからディアボロに移り、自然とその場の者の視線も彼に向けられる。

「幻想郷から貴方を束縛する理由はなくなった。いくらか貴方が歩む道を敢えて与え、道より先も、貴方は自分の力で歩みを進めた。……結局あの事変でさえ、人の歩む道の先だったのだから。貴方は歩き切り、そして次へ行くのなら」
「…………」
「けれど、一つ付け加えるのなら。幻想郷の外へは……元の世界へ戻るのであるならば、貴方の枷は全て再び嵌められる。幻想の中だけでだけ紡げるものを外へ持ち出すことはできない。万に一つ、良成る可能性を信じることもできますが、期待しない方がいいでしょう」
「…………」
「もし次へ進まず、ここを終点とするならば。外への未練を断ち切るのならば愛した我が子と共に永住するのもいいでしょう。別の形になりますが、貴方に平穏は訪れる。貴方が手にすることのできなかったものが、幻想郷なら手に入る」
「……」
「岐路は訪れた。以後選択はないと心得よ。遷ろう時を澱ませることなど、本来できはしないのだから」
「できますが」
「お静かに」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」

 唐突に突きつけられた選択に、再びナズーリンが声を上げて制止を求める。

531深紅の協奏曲 ―深紅の協奏曲 4―:2016/04/20(水) 21:56:46 ID:CEdeDNY20
「彼が幻想郷に来た理由も、彼が過去に何をしたかも私はよくわかっていない! だが、それほど事を急かす必要ないだろう! 何故、そこまで急に選択を迫るんだ!」
「黙りなさい。貴女が割り入る事ではありません」
「黙ってられるか!!」

 顔色を興奮の赤で染め、体躯に会わぬ大きな声を辺りに響かせる。彼女を知っている者ならわかる、面倒事に積極的に関わろうとはしない姿勢とは異なる姿。

「彼がここに来てからは短い、だけど彼に関わった者も多いはずだ。なのに誰にもさよならも言わせずに追い出すつもりか! 少しでも、考える時間くらい与えてもいいだろう!!」
「ネズミの癖によく吠えるわね。彼を最初から信用もせず怪しんでいたのは、貴女ではなくって?」
「それはっ、そうだけど! だけど、彼の帰りを待っている人がいる。彼に心配る人がいる! 彼はもう、一人じゃ」
「やめろ」

 喚きたてる彼女を制止する声。しかしそれはいつもの無理矢理にも押し黙らせるような重みのある声ではなく、どこか温かみのある声。
 後ろから話しかけられて顔を向ける間もなく、その頭に手が置かれる。優しく、感謝の込められたごわつきを感じられた。

「考える時間を与えてやれ、それができぬならせめて別れの挨拶でもさせてやれ。……よく言うじゃあないか。あの寅柄の女はお前の主人だったな。奴を立てるため、か」
「違っ、そんなんじゃ……」
「それがお前という人間なのか……私にとってはどちらでもいい。だが、嬉しいよ」

 置いた手をそのまま軽く動かす。不器用な自分が、それでも精一杯の労わりを表そうと。

「うわ、な……?!」
「短い間だった。けれどもそれは私という人物を見直すには十分すぎる時間だった。その間に様々な人間と関わった。私の姿でも、ドッピオの姿でも。……レクイエムに囚われるべくして囚われた自分を矯正するかの如しに、出会い、別れ。そしてまた出会い、別れていった」


 流れ着いたのは何時かわからない。閻魔の言葉を用いるならば、目を覚ましてからの四日間だけではない。
 彼女らに見つけられてから、一週間と経たずも、その全てが自身を生まれ変わらせるための邂逅だった。


「なんだかんだ言いながらも、結局は恐れていたのではないか? 私のようなものが幻想郷を犯すことを。悪の心を持った『人間』の行動で、この世界の人間の心に悪意を芽生えさせることを。……人間を一番殺しているのは、他ならぬ人間たちだ。幻想郷で人間同士の争いが起きれば。……妖怪よりも人間を恐れれば、この世界は崩壊する」


 どこもかしこも作為的だった。何か筋道を与えられているようだった。その事実は先ほど目の前の本人によって伝えられた。
 前から知らされていた。全てを知らされていない、それでも智慧溢れる獣から。


「……だからこそだろうか。最も、と言えばいいのか。ヤクモユカリ、お前の与えた道筋に乗って、私はここまで来た。もし乗らなくても、結論は同じ地点だろう。私は、奪われ、囚われたのだから」

 名指した彼女の瞳が自分を定める様に舐めつける。

「金も、地位も、名誉も。何もかもを奪われた。奪う者と奪われる者の関係、今まで自分の存在を確立するために奪ってきた私を、奪うことを完了させた男が出てきたという話。……だからといって、それを行ったものが本当に奪うだけの者だったのかはわからない。私が奪ってきたものを、元に戻しただけなのかもしれない」
「な、何を言っている! 君がどんなやつだって、今はここで過ごした人間であることに変わりはっ」
「だから言っているだろう、どちらでもいいと。私の中で、答えは既に決まっている」

 紫の瞳は、全てをわかっているかのように。

「この世界で過ごすことも魅力的だ。全てを忘れ、安寧を求めて。スカーレットにも言われた時、僅かに心が揺らめくほどに。だが、私には」

532深紅の協奏曲 ―深紅の協奏曲 4―:2016/04/20(水) 21:57:23 ID:y37Qs2Pw0
「「「諦めきれぬ野望(ゆめ)がある」」」

「……だろう?」

 自分の言葉に被さる二つの声。片一方は紫から、もう片方は先ほど名の出たレミリアから。

「さっきの戦いからのお前の固執、滲み出る執念は並々ならないものだった。百の言葉よりも濃密に語り合ったから、もしあの場に居たら誰でもわかるよ。最初に語った時から、既にお前の心は外に向いていた」
「……かの閻魔から聞いているでしょうが、貴方を取り巻く呪いに対する感情、貴方自身の思い。それからは普通に過ごしているだけでは感じられないほどの執着。ふふ、筋道は決まっていたようなものでした。男の人って、不器用ね」

 互いが、示し合わせたようにディアボロの未来を肯定する。

「……ふたり、とも……」
「その通りだ。私の心は既に決まっているのだから、今更に何を言われようとも揺るがない。……こうも、引き留めることに心動かされることも、無かったかもしれないがな、以前の私には」
「…………はは、何だ、私が馬鹿みたいじゃないか。心決めた相手に、がなり立てて。急なことで熱に浮かれていたのは私だけじゃないか」

 目を伏せるナズーリンの小さな頭を、再びくしゃりと撫でまわす。

「だから言っただろう、嬉しい、と」
「……ふん」

 そのまま顔を逸らしたまま、その場を動かず。

533深紅の協奏曲 ―深紅の協奏曲 4―:2016/04/20(水) 21:58:49 ID:y37Qs2Pw0

「終わったかしら?」
「ああ。私からは、もう何もない」

 二人のやり取りを終えた後、再び紫は語りかける。終わりへの一歩を。

「私たちからも何もないよ、既に言葉は不要。そうだろう?」
「……少し名残惜しいけど、思い出には留めておく。だから、お兄さんも忘れないでね?」
「見たこともない時空間能力でしたが、世界の一つとして心得ておきます」
「ノーコメント」
「えーっと。まぁ、幻想の境がもし無くなったらまた会いましょう」

 紅の者達が、不要と言いつつも言葉を投げかける。

「…………君は、なんて言うんだ」

 床に落ちたままの顔が、僅かに聞こえる程度に声を出す。

「何がだ?」
「……名前。あの少年はドッピオだ。なら、今の君はなんと呼べばいい」

 自分の名前、と言われてふと思い出す。そういえば、誰にも名乗っていない。ドッピオの時はともかく、誰も彼にも。既に自分を知っている者は名を呼んでいたから片隅にも置いていなかったが、それらを除けば自分の姿を知る者はいても名を知る者はいない。
 顔を出すことすら禁忌とし、知る者全てを消してきた自分にとってそれが普通であった。だから、改めて聞かれる事に戸惑いを覚える。

「私はお前たちに二度と会うことはない。名を覚えることなど、無用だろう」
「違う。憶えることは……別れる者の責務だ。君が私の事を知っているのなら、私も君の事を知らなくてはいけない」

 顔は上がらないが、言葉はそれでも強い。自分の中の常識には当てはまらないが、おそらく、彼女にとっての意志であり義務なのだろう。
 ……自分がこれから帰ることができる以上、自分を知る者が外の世界、元の世界に来る可能性もゼロじゃない。それなら、話すべきではない。

「……ディアボロだ」

 けれども、ディアボロは名乗った。今までに寄せられていなかった、自分もしていなかった。部下の一人は組織に必要なものだと強く謳っていた、信頼。それに任せ、名を口にする。

「ディア、ボロ……確か、……悪魔、だったか」
「ああ。私を産んだ者からもらった唯一の贈り物。……名は体を表すと言ったか。それに違わぬ者となったな」

 少々自嘲気味に付け加え、彼女に名を告げる。……凡そ振り返って、それは初めての行為だった。身を隠すようになってから、こと幻想に至るまで。

「そう、か。……ドッピオは見つからなかった。そう、伝えておくよ。不意に来る外来人が不意に帰ることも、珍しくはないからね」

 小さな縁者が、ちうとそのまた小さい縁者と共に小さくつぶやく。

534深紅の協奏曲 ―深紅の協奏曲 4―:2016/04/20(水) 21:59:31 ID:y37Qs2Pw0
「…………それでは、私の手を取ってください。夢と現の境界へと、導いてさしあげます」

 差し出された小さな手は、禍々しさをも感じられるほど、決断すべき岐路。それほどの重みがあるとは見ただけでは想像できないが、街角のどこにでもいるような、強く握れば容易く砕けてしまいそうな幼子の手は、確かに自分の運命を決定するもの。
 だからこそ躊躇なく。だからこそ力強く。存在を確かめる様にその手を握りしめる。
 その瞬間、両脚は確かに地面についているが、それでも落下するような浮遊感が襲う。同時に、視界は紅魔の館から無数の何かに睨まれている、暗色に包まれた空間に変わっている。
 確固たるのは自分と、目の前の少女だけ。辺りを振り返ろうとする心が僅かに芽吹くも、それを意志で押しとどめる。それをすれば、心が揺らいでしまうから。

「その通り。人生の分かれ道に『もしも』は存在致しません。この場で貴方が振り返ったのなら、私はこの手を放し永遠にこの空間の放浪者にしていたでしょう」
「……何も言わないで、人の悪い女だな」
「ふふ、ヒトではないので。貴方なら、そうするでしょうと思っていましたから」

 笑顔を向ける紫の顔は、どこか狂気じみた、この世ならざる人外の眼をしていた。殺しに快楽を置く者、脳を汚してでも悦楽に浸る者、他者を歪めて愉悦に浸る者。そういった者達とはまるで違う瞳。

「……妖怪。悪魔か、化物か」
「もう、神秘的な邂逅は終わり。……ありがとう、さようなら」

 徐々に声が遠くなり、繋いでいる手の確かさ以外の全てが曖昧になっていく。薄れ、今まで取り巻いていた幻想の空気が元の世界と同じ空気を漂わせていく。今までにどこか当たり前になっていた、それが違うということを感じさせる。

「……本当。貴方の言うとおり、藍の言うとおり。あんなことを言いながらも貴方という人間を危惧していた。自分で幻想に招いた者が幻葬へ導いてしまうことへ。自らの責を自らで拭うことに。……無責任なの、嫌いですから」

 もはや残された確かな感触もあやふやになってきたその時の、少女の独白。世界を守るために、危険因子を持ち込むことの矛盾。
 伝え聞く彼女の力が言葉通りであれば一人の人間などたやすいはずなのに、それは彼女の操れない唯一の境界だろうか。



「……だ ら、ありが  」

 消えゆく、声。自分というものも曖昧になり、意識だけが柔らかい水の中で揺蕩っているかのような感覚。上下も前後もすべて不覚、ただひたすらに深く沈んでいく。




 本当にこれで良かったのだろうか。
 死の輪廻の果て、再び得た命をまた死の輪廻へ持ち込もうとしている。

 おそらく、いやきっと、勝てないだろう。ジョルノ・ジョバァーナに。
 自分の背負っているもの、奴の背負っているもの。どこまでも自分のため、どこまでも他人のため。それは、幻想郷で知り得た。人間の強さ、その限界値はそこにある。
 それに気づいたといえ、ならばそこに付け入る隙はあるか? 自分が並べるほど他人に心を回せるか? ……どちらもノーだ。
 生まれてから積み上げてきた使命が違う。出生を呪い、環境を呪い、全てを自分色に塗り替えるための奪い続けた自分。奴のそれはわからないが、あの時の虫唾が走る様などこまでも気高い瞳は受け継ぎ守るものの意志の表れ。
 5日に満たない程度の滞在、それでどこまで人間が変わるか。自分は理解しただけ、何も変わりはしないだろう。その程度で変われば、聖人など、自分のような存在などあるはずがない。

 何故、自分はそれだというのに深みにまた堕ちようというのか――――

535深紅の協奏曲 ―深紅の協奏曲 4―:2016/04/20(水) 22:00:39 ID:y37Qs2Pw0

「  がぼっ、が、ごぼぶっ」

 思考の波が、急に現実の身体へと引き戻される。酷く苦しくもがく要因は、周りに不快にまとわりつき頭の先まで満たす水。温かくもなく冷たくもない適当な水温は、関係なく自分の身体を苛んでいた。
 どこか掴まるところは、とにかく呼吸を、上へ、上へ。胃も肺も水で満ちそうな中、ひたすらにもがき続ける。
 めちゃくちゃに動きまわしていた腕に肌を斬る衝撃、それを頼りにひたすらそれを上る。

「がぼぼ、ごほっ、はぁ、はぁっ」

 突然の水中と動転に相当の体力の消耗を感じつつも、何とか水面へ上がる。足りない酸素が、まだ水に浸かる身体を重く引きずる。
 それを持ち上げようとするも、全く動こうとしない。両腕に力を込めても、燃料の切れた車をいくら叩いても動かないのと同じ、浮力という車があったから進めた道も、もう進めそうにない。

「……おいっ! 大丈夫か!? 誰か、手を貸してくれ!」

 崩れ落ちそうな自分の身体を、不意に誰かが掴みあげる。

「しっかりしろよ! 俺っち一人じゃ上げらんねぇけどすぐに他の手が来る! ……おーい、こっちだこっち! 行くぞっ!」
「「「せーのっ!!」」」

 誰だかわからない、なのに男たちは無償で手を差し伸べた。自分を救おうと必死になっている。
 ……何だっていい。残りの力を振り絞って自分も上がろうとする。いくら何でも、こんなところで死にたくはない。

「……がっ、はっ! げほっ、ごふぉっ!!」
「大丈夫か? 水吐け、水、おーい、拭く物! 後、ゆすぐ水となんか簡単に食えそうなもん持って来い! 息は大丈夫そうだ!」

 介抱され、徐々に周りを見る余裕が生まれてくる。言っていることはわかる、ということはここは祖国だろう。まさかここにまで言語の壁を取り払う計らいをしているとは思えない。
 周りの様式も、幻想郷とはかけ離れている。よく見た、石造りの整備された下水脇。集まってたむろうとも表だって集まれない者達がここに集う、そんな場所。
 介抱した男たちが来ている者はみすぼらしい、というよりは汚れても問題ない古びた作業着のようだ。自分の身体を拭いたタオルも身体を拭くための大きい物ではなく、作業中にかいた汗など拭くための小さなもの。自分に暖を与えた上着も先ほどのそれだろう。
 集まっている者達は男性、という点以外に共通点はない。作業着も制服というわけではない、誰も彼も適当に着こなしている。

「……なッ」

 そこまでして、ドキリとした。自分を介抱した男の顔。いくらか年嵩は増えているものの間違いはない。

536深紅の協奏曲 ―深紅の協奏曲 4―:2016/04/20(水) 22:01:29 ID:y37Qs2Pw0
「……ん? 俺っちの顔に何かついてるか? あ、冷えてるだろ、俺っちの上着かけろや」

 上着を差し出す彼の顔は、確かにあのとき、レクイエムの攻撃を喰らった後、かろうじて這い上がった先に自分を刺したごろつきの顔。レクイエムを認識させた、全ての始まり。
 何故その男がここに、中毒症状はどこへ? 何故こんな活動をしている? 他の男たちは?

「……ここは、何処だ? 今、いつだ?」
「へ? ティベレ川脇の排水溝だよ。いつって……頭でも打ったか?今は2012年の5月だよ。……食えるか?」

 差し出された携行食を受け取り、ゆっくりと噛み締める。共に、伝えられた状況も。確か、月日は山の上の神社で聞いた通り。まさかここで嘘を言われることはないだろう。

「……お前たちは、何故ここに……? 助けてもらって言うのも何だが、こんなところに……おかしいだろう」
「おかしくなんかねえよ、俺っちみたいなやつらはまだこれくらいしか仕事割り振られねぇからなぁ、へへへ」

 みたいな、やつら。歳を重ねても下水漁り程度の仕事しかできず、けれどそれを不満に思わず遂行している。

「……更生、か? 薬物中毒の、社会復帰」

 本来なら後ろめたい事。それを指摘しても、全くそんなことを感じさせず、変わらず浮ついた笑みを浮かべたまま男は話す。

「あぁ、そうだよそうだよ。俺っちも以前は使ってたんだけどよぉ、今のパッショーネ、ボスがジョジョってわかってから正反対にそういうの抱えなくなってさ……へへへ、最初は反発もしたけど今じゃあ元ヤク中達が集まって綺麗に奉仕活動よ。へへ、俺っち達も真面目に戻れたもんだなぁ」

 悪意の無い、紹介。自分に与えられた施し。それらを受けられた要因は、かつて自分を粛清した者。
 確かに、疑似麻薬による快感は純度の高いそれと変わらず高い昂揚感をもたらし、脳の汚染も変わらない。だが、奴の能力を持ってすれば。失ったものを作り出せるジョルノのスタンドならそれを取り払うこともできるだろう。
 10年以上も経っている。もはや自分の築いたルートも、麻薬を生み出していたマッシモも存在しないだろう。仮に生きていたとしても、再起不能かジョルノ側に移っているだろう。そのどちらかの可能性があるのなら、中毒者の再起も十分に考えられる。
 自分が、自分の為に汚したこの街を、この国を、奴は再起させている。

「……ふ、ふ」

 なんということだろうか。それほどの男に、再び立ち向かおうとしている事。彼によって生かされたようなものなのに、それでも向かおう考えていたこと。
 普通に考えれば、なんて馬鹿なことを考えているのだと思ってしまう。支配者を争っていた時代は、すでに終わっているようだ。裏社会を浄化し、表社会に復帰させようと考えている。そんな相手に、一人過去に負けた男が再び立ち向かえるか。

「お? 、お、おい!」

 そんなもの、関係ない。失ったものを取り戻すことに、理由はない。落とし穴に落ちた。マイナスになった。落とし穴から上がる。ゼロに戻る。それだけ。誰しもが求めることだ。
 被せられた上着を、拭ったタオルを投げ返す。一歩、また一歩と踏みしめる。
 自分の傍に立つ者、キングクリムゾンは変わらずに立ち続ける。
 ……だが、あそこと違い、足りないものがある。
 最後にユカリは言っていた。幻想で紡げるものは幻想の中でだけ。始まりの時、意識を取り戻し再び恐怖に落ちたその際に再び生み出したドッピオは、こちらには来れなかったのだろう。あそこで得られたものはあっても、持ち帰れるものは何もないということか。

 どうでもいい。それでも、ドッピオは見ているだろう。私という存在が消え、幻想でも消え去っていたとしても。自分の思いが消えておらず、ならばそこに彼は存在する。
 鎮魂歌は未だ耳に響いている。ならば、それを上書きしよう。我が子と奏でる、最初で最後の協奏曲。



















「帝王はディアボロだ……依然、変わらずに」

537まるく:2016/04/20(水) 22:02:41 ID:CEdeDNY20
投稿終わりです。後日談これから書いてきます。

完成しました。投稿します。

538深紅の協奏曲 ―ここから始まる幻想曲―:2016/04/20(水) 22:03:59 ID:CEdeDNY20
「彼、ですか? そうですね……。弟のような存在、でしょうか」
「姐さんに男性のこと聞いても無駄ですよ。何でもどこかに弟との共通点を見つけて弟みたい、っていうんですから」
「ま、酷いこと言うわね一輪ったら。けど、ねぇ……」
「ねぇ、じゃないですって。え、私? うーん、頼りがいもないただの子どもだし、無鉄砲だし、けど何かやるって決めたらできるできないにかかわらずやろうという意志は感じられてー」
「ほら、命蓮みたい」
「でーすーかーらー! 話聞いてる限り命蓮様は無鉄砲要素特になかったでしょ!?」
「えぅ〜、はうぅ〜」
「んぇ、御本尊? あー、なんでも心配してた相手が勝手に帰っちゃって、顔も見せずに行っちゃったことが悲しいんですって。自分の事が嫌いになったかー、って。ナズーも所用で香霖堂さんに取られてるしで、ちょっと機能してないんですよ」
「やっぱりあんなこと言うんじゃなかった、私が無責任にやっちゃうからこうなるんだ……いつもそうです、私ってホント馬鹿」
「寅でしょ」
「寅ですねぇ」
「はぅ〜」



「あいつ? 外来人の割には珍しく働き者で学習意欲の高い奴だったな。嫌な時に遭遇しちまったけど、特に気にしてくれてなかったのはポイント高い」
「……悪かったから、いい加減機嫌を直してくれないかな」
「い・や・だ・ぜ」
「……まさか君たち、そこまで仲がいいというか、飼いならされているというか」
「当たり前だ。こういう奴はちゃんと管理してやらないといつどこでくたばっているかわからないから、私みたいなしっかり者が面倒を見てやらないとな」
「しっかり、ねぇ。可愛いもんだ」
「所でお前は何時まで雇われしてなきゃいけないんだっけ? 香霖は乳製品嫌いだからチーズでないだろ」
「…………彼の気が済むまで」
「うわ、さすがの私でもそれは引くぜ、香霖……」
「……勝手に言っていてくれ。君たちが話を聞かないのは知っているから。そう言えば、あれの解読は満足いく結果だったかい?」
「いかにも魔法使いらしかったが、あれは私の領域じゃなかったぜ……全然可愛げなかった。魅魔様曰く、魔法というのはだなー」



「凡夫」
「あの、霊夢さん。今いないからってそんな言い方」
「あの時も私そう評した記憶があるけど。そうだったわよね、アリス?」
「そんなこと言ってたと思う。たぶんその後二人で泊まったことを聞きたいんじゃない?」
「たってー、わ、二人とも急に寄ってくんな! 別に何もないわよ、ご飯食べて寝ただけ」
「それだけですか!? ボーイミーツガール的な夜の展開はないんですか!? 本当に!」
「食いつくわね、早苗」
「だってその後私の神社に来たとき少し大人になったみたいな感じがあったんでこれは確実に霊夢さんに先越されたって焦ったくらい!」
「何にもないっての! 気づいたら外で寝てたくらい」
「野外プレイ!?」
「はったおすぞ!!」

539深紅の協奏曲 ―ここから始まる幻想曲―:2016/04/20(水) 22:05:16 ID:y37Qs2Pw0
「えー? 別に、私からはそんなに接触してないからどうというわけも……しいて言えば、霊夢さんや魔理沙さんや早苗とは違うタイプだけど、覚悟決まってる奴って感じでしたねぇ」
「というかなんであんたがそんなこと聞きまわってるの? あの子に対しては前に話して盛り上がったじゃん」
「そうなんです? だったらなおさら私程度に聞いてもしょうがないんじゃあ……他に? ……んーと、んーと、椛より強そう」
「………………」
「どこが? て、あー、そういえばそんな話もあったんだっけ。私が連れてくるように頼んでたんだけど」
「そうですよ。椛が脅しても全然怯まない奴でしたよ。椛、顔が可愛いから恐くないからもあるんでしょうけど」
「…………今回はにとりもぶん殴っていいよな」



「……申し訳ないんですけど、私は特に触れてないのでわからないんですよね。咲夜さんとかパチュリー様、お嬢様ならあるいは、って感じですけど。……正式な許可取ってます? なければ蹴り飛ばしますが」

「……で、私の所に来たの? 魔力のカケラもないただの子どもなんかに興味はない」
「天狗って色々いますよね。やっぱり精力尽きないんですか? やることやってるんでしょう、教えてくださいよ。ちょっと前に男に頭撫でられるだけで顔を赤らめるレズの風上にも置けないネズミが居たんでムッとしてるんです」
「うるさいよ、やるなら妹様の見えない所でやりな」
「許可キタコぶぎゅっ」
「……なんか、ごめん」

「彼、ですか? うーん、どう評価してもただの子どもっていうだけでした。けれど、ちょっと面白い手品を持ってました。やってみましょうか?  はい。……えぇ、使い道ないです。先の見通しを十全に整えないと誰にも干渉できないしされないので意味なし手品です」

「あいつ? ああ、最も勇気があって、最も愚かしくて、それでいて無謀。どれもいいバランスに持っていた面白い奴だったよ。どうしても弾幕ごっこに嵌っちゃうとそういうのに飢えるからね。美味しいものばっかり食べてないで野菜も食べなさい、ってこと。私? いらないもん、あんな緑色」

「あ、天狗だ珍しい。え、男の子? ……大人の人なら来たけど、子どもは来てないわ。来ていたとしても、帰れるはずないでしょう? 他の人はいたって言ってる? また私だけ仲間外れにされてるのかな。あなたは私の仲間になってくれる? 天狗のお姉さん」
「逃がさないよー」
「逃げられないよー」
「あややややー、っていつも言ってるけどそれってギャグ? 天狗特有の口癖みたいなの? 前は聞かれただけだったから、今度は一方的に聞きたいなー?」





 ……ふー、最後は酷い目に遭いましたけど何とかなりましたよ。妹さんは手加減知らないですからね。ホント、ごっこ遊びじゃなかったらぞっとします、ぶるぶる。
 で、ここまで集めたんです。私にとってもいいネタになるんですよね、その子? ……関係ない? な、なんだってー。
 いや、だと思いましたよ。受け入れのための根回しみたいなもんでしょう? 相変わらずやることがそつない、というより慎重ですよねあなたは。はたてみたいにもっと大雑把に生きていて欲しいですけど。
 えぇ、えぇ。嫌われてもいませんでしたし、特別力いれて好まれている様子も特には見られませんでしたよ。あー、はたてはこう、ショタ喰いなんで。閻魔様とは違う方向ですけど。でも特別入れ込んでるわけじゃないし大丈夫でしょう。釘刺しておきます? いらない、はいはい。
 依代は……すでにあると。アリスさんの。ほうほう、むしろそれならアリスさんの、いらない、はいはい。
 ……あの、ここまで用意されているのなら私別にいらなかったんじゃないですかね? 外来人が一人増えたところ、妖怪もどきが一人増えたって別に何も面白くないんですけど。うーん、提示されたそれはありがたいんですが……
 まあいいか。目を瞑っておきます。それでは、私はこれで。

540深紅の協奏曲 ―ここから始まる幻想曲―:2016/04/20(水) 22:05:55 ID:y37Qs2Pw0

「……遅くなったわね。こんな小さな入れ物に居ただけだから、つまらなかったでしょう? 人間の身体ではないけれど、それでもあなたが生きるていることに誰も問題は持たないわ。だって、そのための、幻想郷なのだから。
 あなたは外に行けないけれど、あなたが生きていれば、たとえどれだけ離れていても心が通じ合っていれば。それだけで理解しあえる。今の彼には、必要でしょう? だから、ね」


――――――――ようこそ、幻想郷へ。

541まるく→みりん:2016/04/20(水) 22:17:25 ID:y37Qs2Pw0
以上になります。今度こそ、本当です。
2012年からゆっくりと初めて、3年ほどかかっての完成となります。
これからの二人は、もはや幻想郷の話ではありませんので、自分の手から離れます。最初から最後まで、見ていただき本当にありがとうございます。

立ち上がる男、最初で最後の協奏曲。話の構想は『デッドマンズQ』を読んで「あんなことやってた吉良が何でこんなに穏やかに過ごしてるんだ?」という所から始まってます。(視点が視点だから穏やか、とは言い難いが)
原作中でディアボロは完全悪ですが、それに心酔しながら確かに清い動きのできる人が居ました。ペリーコロさんとか、ドッピオとか。
それに気付かないからこそマンガとして成り立つ悪でもありましたが、そこに気付いて再び立ち上がってもらいたい。そう思って想像していました。
実際に書きはじめの際はこんなん許されるん?みたいに不安でしたが、受け入れてくれたここの方に感謝します。そして、以降もだらだらと書き続けていき、それを読んでくださった方々、感想、指摘を入れてくれた方々。ハーメルン転載後にわざわざこちらに来てくれた方etc。
皆に、心からの感謝を。ありがとう、ございます。

作品の完走、というのはいいもんですね。自分の拙い作品でも、完成して皆に見てもらうという喜び。皆に見てもらえたから、ここまでできたと思います。
もう一度、ありがとうございます。

542みりん:2016/04/20(水) 22:18:56 ID:y37Qs2Pw0
あ、HNも普段使っているものに変更しておきます。自信の表れ的なものとでも捕らえておいてください。

543名無しさん:2016/04/22(金) 04:41:11 ID:1qjJKeIY0
か、完結してるー?!
この俺の最も好きな事のひとつは完結した作品を「何度も」読み返す事だ…
自分のなんてどうでもいい…

544みりん:2016/04/23(土) 18:16:39 ID:wb/74Flk0
ありがとうございます。完結……してしまいました。てぺへろ
結構成り行きで書いていますんで何度も読み返して「あれ????」ってなるかもしれませんが許してください!修正でもなんでもしますから!

545ピュゼロ:2016/04/29(金) 08:21:56 ID:6uJeNdzA0

改めましてみりんさん、本当にお疲れ様でした。完結おめでとうございます。
>>543は驚きの余り乙もきちんと書けない反逆者でした。今度の私は完璧ですが、>>543とは別人です。勘違いをしないでください。

スタンドの可能性とか、あるいはほんのり示唆されていた地底のあたりの話があって、まだまだお話が膨らんでいくものだと勝手に思っておりました。ボスが終わって、その後のこのお話が終わって、またラストにあのドブの中から。もわもわしました。そしてそれ以上に終わって寂しい。
きちんと終わるというのは難しい事で、とても素晴らしい事だと思います。あるいは次のために、今のところは、お疲れ様です……。

>>原作中でディアボロは完全悪ですが〜
なるほどなあ、確かにそういう事も。一方翻って自分のを反省すると……うう。
もう魔理沙とドッピオが遊びまわる話でいいんじゃないかなあ!?(半ギレ)

それと最後にちょ、ちょっと待ってください、よそで語られていた次回作の予定でジョジョはないんですか?! ジョジョもう書かないんですか!? ちょっととめてもらっていいですか?!
短編さん! でもなんでも、ぜひぜひ……お待ちしてます……。

546みりん:2016/04/30(土) 22:59:42 ID:RaC9tEGE0
次のピュゼロはうまくやってくれるでしょう。改めまして感想ありがとうございます。幸福ですか?それはよい。

矢に関しては、「既に完成している、気づいていないのはディアボロだけ」というのをアピールしたいがために出しました。スタプラがDIOの世界を認識して入門できたかのように。
最もVSメタリカ戦で「ドッピオは気づいていないがディアボロは気づいている」「ドッピオの見た予知をディアボロが把握できていない」どっちやねん、みたいなのありますが…
地底話もいろいろやってみたかったのですが、他所でも書いたかもしれませんがディアボロ、幻想郷を回る!というのが目的ではないので。セレナードさんの東方魔蓮記を読もう!(ダイマ
もっとも、地底は!?とちらほら聞かれています。自分も書きたい。IF話で書こうと画策します。キャントリ、使用アクションを山札トップへ。

リスポーン地点は始まりの場所。まあ、多少はね?お決まりだと思いますし、歳月を感じさせるには十分な邂逅だと思います。自分を殺した人間に助けられる。
きちんとした終わりを、生み出した以上は与えたいと思います。自分はその素晴らしい瞬間に立ち会えたことをうれしく思うし、読者にもそう思われたのなら書き続けた甲斐があるってものです。

「悪には悪の救世主が必要」というのも大事です。一方で「自分の都合だけで動かす吐き気を催す邪悪」というのも大事です。そこに気付かず動いている者が善であるのなら、なおさら。
思うんですよ。ペリーコロさんがすべてを知っていて、その上でサルディニア島から離れたブチャラティ達の前に立ちふさがったら彼らは倒せるのかと。スタンド使いというのを差っ引いても。
以前のディアボロであれば吐き気を催す邪悪度がアップしていいのですが、このお話の後のディアボロなら意志を継いで戦っている者感があるのでは…そう取っていただければ。ちょっとごちゃってしますが。
「E 's Il Nome Della」内のお話も先が気になるからほらもっと遊んで遊んで!

ジョジョは、というよりは鉄は熱いうちに打て!という意味合いで取ってもらえれば…今熱いのがジョジョ以外な点が大きいです。
見える形、見えない形で自分の話の「こういう所はないんですか?」というのも多いです。すごく驚いて、すごく涙とおしっこがあふれるくらい感動してます。
予告します。「紅魔に行く前に地底に行く話を書く」と…!書くには書く、だがまだ時間を指定していない…!!
他キャラも思いついたら…

547ピュゼロ:2016/05/02(月) 03:50:13 ID:b75TEZwQ0
>>すごく〜感動してます。
汚い感想だなあ……。

短編の予告ですね! 何だか催促したような感じになってしまいましたが、実際催促をしていたので僕には問題ありませんね(?)。
のんびりお待ちしております。意欲のあるうちは意欲のあるものを。大事だと思います。
続きはすぐです……。

548ピュゼロ:2016/05/08(日) 11:24:22 ID:Xo8qSb6.0

始めまして、ピュゼロです。初投稿です。
それでは、前回の続きをやっていきます。

Under Pressure その①

BGM “Under Pressure” by Freddie Mercury

――人間には夢が必要なのよ。

549ピュゼロ:2016/05/08(日) 11:25:52 ID:Xo8qSb6.0

 ※

 藍は――
 星の燐火である。
 人は、大勢である。何処にでもある。人里にも、野山にも。或いは“外”にもある。群れている。
 それらは不思議な光景だった。それは、“外”で死に絶えたとされる種が姿を見せる幻想郷らしいものでもあった。
 妖怪に囲まれているにも関わらず――
 妖怪も、少なくはない。外にも僅かある。人里にもある。そちこちに溢れている。犇いている。
 痩せ衰え鈍麻不明と化したものたち。かつて失ったものを想い居並ぶものたちである。
 人間を襲えないにも関わらず――
 ……藍は、折々に考えている。
 彼女は誰にも見えなかった。役割なのか、性質なのか、強大で佳麗な狐に向けられる視線は彼女を素通り何でもない処を突き抜けた。
 さながら、夜空に輝く星々の煌めきが、それが眩しければ眩しいほど、決して個々の輝きとして意識されないのに似ていた。
 その数は次第に次第に増えていって――
 増えたと思えばふとした時には消え――
 ちらりと瞬きまた増えているような――まやかしの、ゆめまぼろしの、狐の燐火である。
 色さえ定かではなく、見る者を惑わすのか、追う者を煙に巻くのか、由来も目的もはっきりせず、ただそこにあるというだけなのに、それでもその存在は無視できないぐらいにはっきりしているという、なんとも曖昧で、厄介なものだった。
 誰にも藍は数えられない。
 華美で幽玄な狐の焔も、やがては落ちて跡形もなく消えるという。
 だから、誰にも藍は数えられない。
 冷徹で、身も蓋もない藍の明快な方程式は、情やら義といったぬくもりの入る余地のないものだった。
 それはあの、天に輝く目一杯の星空を眺める時の、手を伸ばしても決して届きはしないのに、それでも俯いて地面を見つめる気にはなれないという、あのどこか屈折した想いにも似ていた。

550ピュゼロ:2016/05/08(日) 11:28:26 ID:Xo8qSb6.0

 一、

「まっずい酒ねえ。呑めたもんじゃないわ」
「左様で。でしたら別段呑まずとも結構ですよ」
 夜の中、やりあう二人分の声色がする。
 木造の、いかにも狭くて古い長屋の中である。
 べろんべろんに酔っ払い、酒臭い息を撒き散らしているのは、強かで強い古の妖怪、封獣ぬえ、その人だった。
 抱えた酒瓶には「消毒用アルコール」というような事が書かれていた。
 その厄介者の相手をしているのは、これは周囲から青島と呼ばれている狸の妖怪である。
 薄汚れた手ぬぐいをほっかむりにしたその下で、いつもいつも詰まらなさそうに顰め面をしていると、よくいわれている。
 ツラに関して言及するならば、そいつのところに顔を出すのがことごとく、面倒ごと厄介ごとであるせいなのかもしれない。
 人里に居を構えるそいつは、これはぬえとは反対にかなり弱い輩で、巷説に伝わる大妖怪をどうにかする事など不可能だった。酒の入った大妖怪様は、酷く手のかかる、ケラケラとよく笑い騒ぎ立てる、万事に不可解な生き物だった。
 だからそいつは、スペルカードを持っていなかったのだ。
 ようやくの事でそいつを追い返した時分には、すでにもう、月が顔を覗かせてさえいた。
 サテ、サテ。
 首を鳴らし、気を取り直して、文机に向かう。筆をとってしばらくうんうんと唸っていたものの、いっかないっこう手先が走り出す気配もない。尻の尾の生えた辺りがわさわさとさえしている。ハハア、これはまだ何事かあるなと思い至る。
 敷居も壁も何もかも薄っぺらい安普請の長屋である。顎などを擦りながら座布団の具合を意味もなく直したりしていると、ほどなくして何者かの気配がした。がたがたがたと、音がした。

551ピュゼロ:2016/05/08(日) 11:31:11 ID:Xo8qSb6.0

 邪魔するぜ。表の方から声が聞こえる。
 ハイハイ開いておりますよとぞんざいに返した。
 声より先に戸口から現れたのは、月明かりの薄闇の中でさえも見紛う事のない――
 黒白の魔法使い、霧雨魔理沙であるようだった。
「いきなり、悪い。いま、いいか?」
「ええ、ええ。構いませんとも」
 機嫌よく頷いたのは、もちろん彼女の手にぶら提げられていた酒のためである。
 せまっ苦しい長屋では、少女が一人増えただけでますます手狭な感じになる。
「すいませんねェ、気を遣ってもらってしまって」
「いや、押しかけたのはこっちだしな。あー、ちと立て込んでて、酒しか持ってきてないんだが」
「呑める酒はないので丁度いいのですよ。……まあ、もう呑めない酒もなくなりましたがね」
 恨めしげに、横目でちらりと空になった瓶を見る。閉ざされた里の中では貴重なものだ。そいつは賢くも強くもないなりに、医者の真似事などをして日銭を稼いでいるのだ。
 長い金の髪が揺れる。
 狸妖怪の向かい合ってどかりと腰を下ろし、ちょいちょいと座布団を引っ張ってくる。お互いに慣れたものだ。
 その拍子に、ふわりと眼前の少女の……体臭が届く。
 それは少女たちにだけ許された甘い甘い、酷く蠱惑的なものだった。
 薄れて掠れ、ほとんど忘れかけていた食い意地がふと顔を出すような……そんな気がした。
 ごほん、ごほん。
 心中浮かんだ気持ちをごまかすように咳払いをした。
 魔理沙の方は、常の陽気なさまをどこかに隠し、なにやら終始、難しい表情をしている。

552ピュゼロ:2016/05/08(日) 11:35:49 ID:Xo8qSb6.0

「私はいいから、気にせずかけつけてくれ」
「よろしいので?」
「いまは……そういう気分じゃない」
 彼女はそう言って、そこでようやく帽子を脱いだ。
 八卦炉も畳の上に置いた。箒からも手を離した。
 ずいぶんと、重装備だった。
 ちらりと彼女に目をやって、改めて話の続きをうながした。
 しかし彼女は首を振って、呑めと言う。そのあたりは、少女特有の気難しさにも思えた。
「では、失礼をして」
「うん」
 二人の立場はまったくの対等である。妖怪は彼女に歯が立たないし、彼女は自分よりも遥かに老齢なそいつに素直な敬意と愛情を抱いているのだ。
 その上で、まったく、嫌味だとか悪意を感じさせないところは、魔理沙の人柄のなせるものかもしれない。
 そして、星と熱量の魔法使いはそんな事おくびにも出さず、ひけらかさず、あくまで自然体だった。妖精などにも慕われる一因だった。
 深く考えてないだけといえば、そうなのかもしれなかったが。

553ピュゼロ:2016/05/08(日) 11:37:16 ID:Xo8qSb6.0

 二、

 珍しく億劫げな魔理沙が、ようやく口を開いて、ぽつりぽつりと語りだした話。
 とぎれとぎれに、話している本人でさえも迷いながらのその話を、飲み込んで一つにまとめるなら、それは一人の人間が消えた話。
 いや、むしろそれは――
「“消えた人間”の話。でしょうか。ふむ……」
「その門番にも再度話した。だけど、誰かと戦ってずたずたにされたようで、そいつはよく覚えていなかったんだ。そもそも私としか戦っていないと言う。けど、あそこまで手酷くやった覚えはないし、そもそも私が通った時はぴんぴんしていた。だから私とは別に這入ったヤツがいるはずなんだ」
 その侵入者を、即座にイコールでドッピオと結びつけるには、早計だろうか。
 だとしても、まったくの見当違いの線ではないだろう。
「おまけに八雲のとこの狐まで出張ってきているみたいだ。絶対に、何かが起こってる。冗談じゃすまないような事が。……だけど、何がどーなってるのか、それがさっぱりなんだ」
 あの気弱な少年を単なる人間とするには、あまりにも状況が捩れている。
 しかし……魔理沙の中で、あのおどおどとしたドッピオというヤツのイメージと、それらの符号の断片とが、うまくくっついてくれないのだ。
 話すにつれて、改めて自分の中を見渡す余裕ができる。
 それは、「私はどうしたいんだ」というところにいきつく。
 会ってあいつをいっぺんぶん殴ってやりたいのか。それとも、騙していたな、と怒ったりするのか。
 でも、騙すってなにをだ。
 門番をぶっ潰したのはお前なのか。そもそも、どうしてあんな場所にいたんだ。何か、お前にはやるべき事があるのか。その目的に、わたしは……。
 わたしは。わたしは。わたしは……。

554ピュゼロ:2016/05/08(日) 11:38:17 ID:Xo8qSb6.0

「どうすれば……いいのか」
 そう言って、力なく、魔理沙は目を伏せた。黙して項垂れる様は年相応の幼い少女である。
 黄色いまなざしを下ろした先にあるのは、ところどころほつれた跡のある、年季のうかがえる古臭い畳の縁だ。
「迷っておられるのですか」
「迷う……? いや……」
 そいつの声は、普段話すの時と同じく、おおよそ温和といってもさしつかえないものだ。
 しかし、どこか苛立たしそうでもある。手ぬぐいの下で眉間に皺を寄せたその顔は、なんともつまらなさそうだった。「こんな簡単な事もわからないのか」という表情をありありと浮かべていた。
「迷うというのは、これは信じていないんです。それどころか、実につまらない事を考えてしまっている」
「あー。いや、信じるっつーかさ……」
「別にいいじゃないですか。難しく考える必要はない。信じて何の不都合があります」
 畳の縁をすうっとなぞっていくように視線がからっ滑りしていく。肩の上でくるくると髪をいらう。
 狸はとんとんと畳の縁を叩いて、とくに力をこめたりもせずに、いった。
「それとも、やめますか」
「やめるって、何をだ」
「他人を信じる事をですよ」
 さらりとそういった。
 魔理沙は初め、何を言われたのかよくわからず……沈黙した。さっぱり、わからなかったのだ。

555ピュゼロ:2016/05/08(日) 11:39:36 ID:Xo8qSb6.0

「信じねば救われぬ、とはよく聞く御題目ですがね。ならば最初から信じなければ? でなければ他人に手酷く裏切られたり、その結果傷つかなくてもすむでしょう」
「……」
「嘘をつかれなくともすむのです」
「嘘を……って、そんな大した事じゃないんじゃないか。ついほらぐらい吹く時だってあるだろう。それをなんか、裏切り、だとかさ。そんな、大袈裟な……」
「そうですか。でも、嘘をつかれるのは嫌な事ではありませんか?」
「嫌かどうかでいったら、そうだけど。でもさ、ほら……優しさでつく嘘……とか」
「本当は寝過ごしてしまって約束に遅れてしまったが、そのまま言うよりかは当たり障りのない嘘をつくような?」
「そうそう」
「聞いたら傷つくような事実も、ちょっとごまかして伝えた方がよい」
「うーん?」
「例えば、そうですね……肉親の死だとか」
「あー……」
「――突き詰めて、信じるという事を、他との関わりを否定して、そして真の意味で一人でいても平気なまでになったなら、あるいは貴方は、人間という境地からぶっちぎりで超越できるのかもしれません」
 人間を超越する――
 そうやって、青島はとんでもない事を言い出して、それでもその口ぶりは、どこまでも当たり前の事しか話していないような感じだった。

556ピュゼロ:2016/05/08(日) 11:40:35 ID:Xo8qSb6.0

「なあ、いったい何の話だよ」
 つられて話している内に、魔理沙はすっかり訳が分からなくなって、困り果てた声を出した。
「ですから、最初から話していますよ。信じるという事について。わたしたちは、信じなくてはならない。そういうふうにできているのです。本当は、もっと良い方法があるのかもしれず、しかしそれは今のわたしたちには通用しないものでしかない。であるなら、そうしないでは生きていられないのです。例えそれが、決して貴方に優しいばかりでなくともね」
 狸の口調はのんびりとさえしていた。
 信じた相手に裏切られる事。
 そのからだを蝕むもの。
 毒のようなものだ。
 しかし、例え恐ろしい猛毒であったとしても、そうと知って摂する分には、あるいはそれは、薬にもなり得るものなのかもしれない。
 それを聞いた魔理沙は。
「そうしないでは……生きて、いられない、のか」
「これはわたしが妖であるからなのかもしれませんが。別に人間なんて食って寝てひり出していればそれで生きていけるのでしょうし」
「そうか……」
 魔理沙は、何度か口の中でぶつぶつと、たった今言われた意味の通じにくい言葉を繰り返していた。
 ぶん殴るのか、それとも蹴り倒すのかさえもまだ決まっていなかったが。
 そもそも自分は魔法の森の職業魔法使いだ。
 霊夢との勝負はやや負け越し勝ち。和食派。魔法の力は、環境にも優しく、世に役立たない方向でふるうのが好き。
 すんなりと、胸裡に落ちたわけでは、決してない。
 けれど、いまこの瞬間にすべき事は。
 これは、迷う必要はないようだった。

557ピュゼロ:2016/05/08(日) 11:41:36 ID:Xo8qSb6.0

「私は、ひとまずあいつを……追う事にする。世話をかけたな」
 その信条は、弾幕はパワー。当たって砕けろ、そこから足掻け、なのである。
「追いかける、ですか。左様で……」
 魔理沙の言葉を聞いた青島は、しばらく頭を手のひらで何度か擦っていたが、やがて。
 大きく二度、頷いた。
「あい、お話はよくわかりました、魔理沙さん。そういう事情でしたら、もしかしたらば、力になれるかもしれません。今から教える場所にすぐにでも向かいなさい。おそらくですが、あなたはあの方に会うべきだ」
「うん? ……そいつはいったい誰なんだ?」
「ブン屋さんですよ。きっと、話せばすぐにでもわかるはずだ」
「……なるほど。あいつか」
 きっとそのとき、魔理沙は相当に渋い顔をしたのだろう。
 あの堅物そうな渋面が、ちょっと黙ったあとに、小さく笑い出したからである。
「そこまで嫌そうにしますか。お気持ちは重々わかりますがね。天狗らが弱いものをいじめるのは、これはもう仕方がないと諦めた方が、色々と良いのではないかと思いますよ。それになんといっても、彼女は里に一番近い天狗ですから」
「いやあ、そういう事じゃあなくて……なんか困ったら射命丸だしとけ、みたいな風潮がさ……」
 ううん……と首を一二度ひねった魔理沙は、ともかくそれで気持ちを切り替えた。
「とにかく射命丸に会えばいいのか?」
「はい。その通りです」
「あいつは何を知っているんだ? どうして会う必要が――あるんだ」
 どうして、ですか。簡単な話です。
 追いかけるものが同じなら、直接訊かれるがよろしいでしょう。
 笑顔が辛そうだといつもいつも言われている渋面柔和な妖怪狸は、普段と同じくした様相のまま。
 そういう事を言った。

「ドアぐらい、開けてから出て行かれても遅くはないでしょうに」
 別れのと謝辞が混在した言葉が狸にまで届いて、それをそいつが拾い上げた時。
 そこにはすでに誰もいない。
 ぽつりと小さくつぶやいた。

558ピュゼロ:2016/05/08(日) 11:43:20 ID:Xo8qSb6.0

 ※

 それは誰にも存在しない。
 絶対に。
 誰にも――自分自身の、確かな意志などというものなど。


 三、

 魔理沙が古馴染みのところを訪ねる少し前。
 魔法の森の中である。
 その名の通りに、森の瘴気は人間が生きるにまるで適さない。くしゃみが死ぬまで止まりそうにない、鼻水が尋常ではない勢いで吹き出る、などの凶悪な症状が間断なく襲ってくる。とりわけ、藍のふわふわと浮かんでいく森の深奥は、いっそう瘴気が凶悪で、濃過ぎていて、おおよそ人間などがいるとは思えなかった。
 右に、あるいは左に、力ある九つの尾が地面のすぐ上をゆれていくように、彼女の眼差しはふらふらとそこら辺を見ている。探している。
 まるで、その辺に人間の死体でも落ちていないかしらというように。

(――結局、自分だけの思いだとか、何ものにも縛られない自由な気持ちなんてものは、どこにもない。そんな事を言い出すやつ、そいつがそもそもは他人の目を気にしているものだ)
(意志というものは……ゆだねるものだ)
(そして、世界を形作るのが、星のごとくある誰かの意志である限り)
(誰も、そこから自由ではいられない。その影響から逃れて無関係でいられる事など、不可能だ)

559ピュゼロ:2016/05/08(日) 11:44:59 ID:Xo8qSb6.0

 藍はそうやっていつも考えている。計算をしている。
 何故なのだろうか。どうして人は嘘をつくのか。どうして他人の嘘にはとても厳しいのか。そうやって「偽る」事は、そいつ自身にとって、何か有益なのだろうか。人が嘘をつく存在で、人は嘘が嫌いだというのなら、本質的に、人は人自身の事が嫌いなのだろうか。
 人は誰かに嘘をつく。
 その、ごまかし。
 目の前に広がる世界さえ真っ直ぐ見る事ができないで、目をそらして、ごまかしている。
 そこにあるのは不安だ。

(すでに今、こうして世界は形ができてしまっていて)
(人は互いに嘘をつく)
(つまり、世界は不安で満ちている)

 あらゆるところに不和があり、闘争がある。世界は冷たくて厳しい。世界というものが先にある以上、人もそこに生まれてくるしかない。選びようもないし、拒否もできない。
 絶対不変の真理などというものもない。どんなに正しいような事でも、別のどこかでは間違っていて、世界にはそうした矛盾が積み重なっている。
 多少の想像力があれば容易にわかる事だ。
 世界は人に優しくなんてないが、そうしたものを看過しているものまた、人なのである。

(中途半端は――駄目だ)
(殺すべき者を殺し損ねているというのは、この世も一等の不都合だ)

 何かを信じるという気持ちは不安から生まれているのではないのか。現実を直視するだけの力がなくて、その上で、自分の思うがままにあって欲しいのだ。
 けれどそんなもの、起きながら見ている夢のような勝手なものでしかなくて、慌ててそのつじつまを合わせて、そのまま平気な顔をしている。そもそもの不安がどこから来ているのか、自分がどんなものの上に立っているのか、それさえ知りもしないままに。
 だからああも簡単に――心が折れる。

(死ぬべき人間を――)
(確認されたはずだ)
(八雲紫が御自ら確かめられた筈。あの少年の事は)
(もうすでに)
(レクイエムという現象下の中、一連の戦闘で、死んでいる筈で――)

560ピュゼロ:2016/05/08(日) 11:46:35 ID:Xo8qSb6.0

 もちろん、あらゆるものは戦いの果て、死の上にそびえ立っているのであり。
 この世界、幻想郷も、その下には殺された無念のものたちが無数に蠢いているのだ。

 藍は常にそれを考えている。
 このちっぽけな囲われた世界のために。
 誰かが死ぬ……殺されるだけの価値は、はたして本当にあるのだろうか。

「いいや――」

 どこからか、幻想郷では珍しい、少女以外の声がした。

 その時、藍は実に奇妙な反応をした。「ブルブル」と突然身震いをしてみせたのだ。それは、体のいくつかの部分をその場で厳重に押さえつけられて、さらには見えない巨人の手で左右に無理矢理「揺さぶられた」かのような動き方だった
「……うぁっ」
 その動きは痙攣のようで、しかし藍の驚愕する表情から、それが思ってもいない事なのは確かだった。
 九つの尾がばさりと莫大な妖気を持って広がり、ぶわっと森の中を見えない強風のようなものが通り抜けていった。
 それは一瞬の事だった。
 遠くから見れば、藍の姿が少しの間、握った拳の一つ分宙に浮いたように見えた。彼女がその場でぴょんと飛び跳ねたと言われてもおかしくないぐらいだった。
 そして「すとん」と地面に降り立った。
 藍はふと、自分の腹を、道着の上からぽんぽんと叩いてみた。
 しかし、触れるはずの指先は、するりと何もないところを突き抜けた。
 それは、嘲笑うハロウィンかぼちゃのようにぽっかりと空いた大穴だった。
 藍にはそこを突き抜けていた紅い腕を目の当たりにする事もかなわなかった。
 どう見たって、決定的な、致命傷であり――

 ――死ぬのはお前の方だ。

561ピュゼロ:2016/05/08(日) 11:53:13 ID:Xo8qSb6.0

という事で「Under Pressure その①」でした。
次は魔理沙が彼を追う「陽落ちて その①」になるかと思います。
今回の続き、その②はおいおい。最終回の、ラスト手前ぐらいを予定しています。予定は未定。

続きは頑張って早く書きます。今年中にはひとまずの目処をつけたいと思います。
……バトルオブフィールド1? WW1で泥まみれの塹壕戦?
あっ……ふーん。


>>セレナードさん
ありがとうございます。お久しぶりです。
パソコンには書き終わったものしかなかった(書いた端から上げていました。あのペースで)ので、昔のものを自分でも読む手段がなくなったぐらいしか、実害は……ないかな? そんな感じです。ご心配ありがとうございます。
とりあえず裏からXP君(!)を引っ張り出してます。「アラド戦記」はできませんが、「艦これ」と「天鳳」はできるので、こちらもさほどさほど……。古過ぎてキーボードが壊れていたのでUSBのを買ってきて使用してます。
なろうが開けないので更新は今後こっちが中心になるのかなあ……。

>>ちょこら〜たさん
大変お待たせしてしまいました。申し訳ないです。
レスリングネタは、もちろん不快に感じる方もいると思うので、メタなんかも合わせてどうかなという感覚もあるのですが、そもそも日本人が「裸である事を恥ずかしい」という「閉鎖的な性の関心」を持ち出したのは、これは欧米諸国からの思想の影響の筈です。「混浴」だとか「夜這い」という言葉は、今ではまったく使われないですが、むかーしの本なんかを読んでいると、これらは真っ当な一文化であったはずです。
「裸はいつから恥ずかしくなったか」という本に詳しいので興味があればぜひ。
(僕は高かったのでまだ買ってないです)

てきとーに使ったネタの言い訳にしてはそれっぽくなったんじゃないでしょうか。

「あのクズ」のキャラは、東方旧作の方のキャラではないですね。申し訳ない。
前作……前々作? から読んでいればちょっとだけ楽しいかも? という程度です(そもそもいるのか)。

562みりん:2016/05/15(日) 00:30:03 ID:RbIQxWjc0
ピュゼロさん投稿お疲れ様です。

まっとうに書きつつこっそりネタがちょくちょく混ざるのも、詩を読んでいるかのような文章の美しさとテンポの良さを表現できるのも、どっちもピュゼロ流なんだよなぁ。うれやましいです。
飄々とした、人生観溢れるモブキャラと、なんだかんだ言って子ども魔理沙。ドッピオをどうしたいかと悩む姿も単純にとらえるその姿もどちらもらしく、魔理沙の奇妙な冒険の始まりにわくわくです。
ちなみにぬえちゃん。消毒用アルコールは飲用すればあんまりよろしくない結果に人間はなります。こう、一般的なのは1%だとして消毒用は80%前後です。ああでも、スピリタスは90%上なのでそれと比べれば大妖怪ぬえちゃんさんなら。

藍も『死んだ人間が生きてるから殺す』ということで動いているのでしょうか。異質なの嫌いそうですし。
そこで繰り出される死ぬのはお前だ。なんだか往年のスパイだったりパンナコッタ感ありますけど即死しそう…
続きも期待しております。汚い感想はもう言わないようにします。

563Dr.ちょこら〜た:2016/05/18(水) 19:02:41 ID:DTJTvgrg0
まるくさん改めみりんさん、完結本当に、本当にお疲れ様でした!
幻想の中でのみ紡げるものを外に持ち出す事はできない。良い言葉です。幻想はどれほど近くに迫ろうとも幻想、一抹の寄り道。しかし、彼がかつて軽んじた過程は、彼にも真実に向かおうとする意志を与えてくれたのですね…
あとがきでも何度か既に仰られていますが、ナズーリンのヒロインっぷり。あのディアボロがここまで屈託無く、命のやり取り以外で敬意と礼を払い、あまつさえ秘匿し続けてきた名前を伝える。統治するべき組織も部下も失った事も理由の一つでしょうが、それが最初の遭遇者である彼女のヒロイン力の証明でもありますね。

あくまでもディアボロは、平穏ではなく絶頂を選んだと。玉座から蹴落とされようが、その心をより正しい形で取り戻し持ち続けるならば、それは帝王の、男の歩む道。例え結果的にジョルノに救われたとしても、彼の偉大さを理解し認めたとしても、それでも挑もうと言うのは逆恨みでは無い真実に向かう意志。
例大祭でも申し上げましたが、ディアボロの被害者である薬物中毒者が「人間はやり直せる」事を示してくれたのは、驚くと同時に納得と感銘を受けました
薬物中毒者は助けを求められる人間が周りにおらず、結果一度断ってもまた薬物に頼る悪循環が続き更生できないという研究結果がありますね。
麻薬を叩くだけでなく元を断とうと言う、ジョルノらしい合理的な治世です。

ここに来てのタイトル回収、胸に響きます!ンドゥールが言った悪の救世主とは違いますが、「ドッピオが見ているから膝を折る事は許されない、部下の前で王の無様な姿は晒せない」と思えたのですから、ドッピオは彼の救世主ですね

さりげなく白蓮のブラコンやらはたてのショタ喰いを晒しつつ…w
最後にドッピオの再誕に立ち会ったのは紫でしょうか?実験に付き合わせたささやかな報酬という事でしょうかね
原作で「寂しいよ…ボス…電話…待ってます…」と言い事切れたドッピオは、最後に孤独から解放されたのですね…そしてそれはディアボロも同じ。ドッピオの意思を背負い、前を向き歩くべき道を見出した彼は、この先レクイエムの呪いに幾度と無く殺されようとも王の誇りを失わないのでしょうね…!

重ねて、完結お疲れ様でした!本当に最初から最後まで楽しませていただいた事、心の底から御礼申し上げます‼︎
そして、なんと幻の地底編がッ⁉︎某所の原案を見て以来読んでみたいと思っていましたが、まさか実現するとは…!楽しみにしております!書いて下さい鉄骨渡りでも何でもしますから!
…このノリだと地底でビールに感涙したりチンチロしたりしそうですね

564Dr.ちょこら〜た:2016/05/18(水) 19:19:15 ID:DTJTvgrg0
ピュゼロさん、投稿お疲れ様でした!
ここまで式神らしく機械的に排除を計画する藍は珍しいですね
私もピュゼロさんの独特な文体好きです。外側から風を送り込んで輪郭を徐々に浮かび上がらせるような、奥深くかつ分かりやすい表現
魔理沙がドアを開けずに出て行ったように見えたのは、キング・クリムゾンの発動の為か。
そして、突然の胴体ブチ抜き…ッ!この先どのような戦闘が繰り広げられるのか、はたまた起こらないのか、次回を心待ちにしております‼︎

565名無しさん:2016/05/20(金) 01:01:49 ID:rt3V7Kq20
投下が続いてる作品はまとめスレにまとめてほしいな

566みりん:2016/05/21(土) 01:12:39 ID:iqwwQRtU0
ちょこら〜たさん、感想ありがとうございます。

幻想入りによるパワーアップというか、そこで得た力を持ってやり直す、というのは卑怯というか裏技的というか。正直、あんまり好きではない部分もあります。
だから何も持ち出せず。経験だけを持って、という形にしました。ディアボロはまさしくそこが欠けていたキャラクターでもあったので、最後のパズルピースもパッチリはまるキャラでした。
最後まで自分の進むべき道を定め、それが社会やコミュニティに反していようと進む姿は『男の世界』。ディアボロもそういう点では積極的でしたし、大元は変わらないはずだと書く前から、書き上げる間も思っていました。

俺っちを再び出したきっかけは恥知らずを読んで、ジョルノが組織をSPW財団と組めるほど手を表に回しているのを見て『元を根絶どころか浄化までしっかりやっちまうなコイツ』と思ったためこういう結果になりました。
彼の目的は『誰かに手を差し伸べる』ためのギャングスターですので、ここまでやりそうだなと。表面上自分でまいた種を自分で綺麗にする姿は矛盾していますがそこのところをうまくまとめることができる、智将の面もありますからね。No2がミスタだったらこうはいかなかったはず。

タイトル回収は王道かつ基本!二人のための、二人がための協奏曲、です。

白蓮さんのブラコン具合や閻魔様のショタ好きは本人が思っている以上に知られています。はたてのは表立っていませんがそれは二人と比べてそもそも表に立たないキャラだからです(どうでもいい設定)
最後のは紫です。「無責任なの、嫌いですから」言葉通り、終わったらポイでは済まさず、ちゃんと彼にも道を。ようこそ、幻想郷へ。この言葉を使うのが一番似合うのはやはり彼女だと思っています。
もはや二人は離れていても繋がっているのだから、きっと孤独とは縁の無い生活になるでしょう、きっと!!

いつも長い感想ありがとうございます。そんなに読み込まなくてもいいと思っちゃうほど読んでくれてうれしいです。
地底編は予想以上に反響があったので、送ってみます。…鉄骨はないかな?にしてもジョジョ勢で鉄骨渡り程度でビビるキャラが少ないなーって少し思いました。むしろ何かをきっかけにもうダッシュしそうな勢いもあります。
気長にお待ちください。…時期としては紅魔館乗り込む前からの予定なので、あの原案とは離れたものになっちゃうかもしれません。おにいさんゆるして

567みりん:2016/06/10(金) 22:09:25 ID:D6fW.1yM0
こっそりとお久しぶりに。
以前どっかで話したりここで話したりしたIF編、地底物語を投稿します。
時間軸としては冥界の話の後、人里でちょっとナズとお話後、紅魔館へ向かう道中です。
そこからの続きとなります。始まりとして短めですが意思表明としてよろしくお願いします。

568深紅の協奏曲 ―無意識に奏でられる即興曲 1―:2016/06/10(金) 22:11:05 ID:D6fW.1yM0
 森の中を歩く。ただの一言もなく。話すこともない。ディアボロとナズーリンの間には。ひたすらに進む男と、その後ろで訝しげに思いながらも懸命に続く少女。

「……」
「……」

 ここを抜けた先が霧の湖、そこを経て紅魔館へとたどり着く。だが、いつ着くともわからぬ道を行くのは辟易する。

「……なんだい?」
「いや……なんだ」

 何か目印になる物があればいいのだが、それを聞こうと思うと軽く振り向いたその時、異変に気付く。
 先ほどから妖怪の気配はあった。しかし彼ら二人を遠巻きに見つめているだけで手を出してこようとはしていなかった。その内の一人だろうか、今までも見てきた妖怪の外見、幼い人間の女の風貌。つばの広い黒の帽子と身体を取り巻く青いコード、その終着点は同じ色の、胸に付けられた閉じた瞳。
 それにしては妙な様子だ。ナズーリンの背後をこそこそと歩いている姿を、彼女は全く認知していないように見える。尻尾にぶら下がる、子ネズミも。

「……気づいていない、のか?」

 もっとも、自分も先ほどまで気づかなかった。だが理解してしまえば明らかだ。興味深々と覗いているその瞳は尻尾の先に向いており、手を伸ばしてもナズーリンとその子ネズミは、全く気づいていない。

「だから、何だって聞いているんだ」
「……後ろの、ネズミの事だが」
「ネズミじゃない、ダニーだ……わぁっ!?」

 声をかけられ振り向いた時に初めてその気配の正体に気付く。少女は今まさにダニーと呼ばれた子ネズミの尻尾を掴んで、

「あーん」
「何やってんだああああああああああああああああああああああああ!?」

 くわえようとしていた。

569深紅の協奏曲 ―無意識に奏でられる即興曲 1―:2016/06/10(金) 22:11:43 ID:D6fW.1yM0
「えへへ、ごめんなさーい」

 衝動的に手を出され、頭を抑えながらも笑みを絶やさず謝罪の言葉を漏らす。ゆるく癖のついた髪が頭の動きと共に揺れる。

「……まあ、君の行動に対して何を言っても無駄だろうけど。おなかでも空いているのかい、こいし」
「そういうわけじゃないんだけど、どんな味なのかなーと思って。りありてぃの追及よ」

 見た目に反省した様子はなく、もし機会があればまた手を出しそうな無邪気さを感じられる。まったく気配を感じないことには驚いたが、そういった種類の妖怪なのだろう。認識してしまえばその存在は明らかだ。
 先に見た縁起には見かけなかったが、あれはあくまで紹介程度で全ての妖怪が載っているわけではない、目の前の少女―古明地こいし―も載せるほどの無い妖怪の一種なのだろう。そう決めつけ、再び歩を進めようとしたとき。

「……あ! おにいさん、ちょっと待って!」

 どん、という衝撃が自分の背後から響く。

「貴方でしょ? お燐の言ってた空から落ちてきた男の人って。探してたの、こんなに早く会えると思わなかった!」

 恐怖を感じた。先ほど知り、気配を消す程度で害する者ではないと決め、それでも最低限の注意は払おうと思った矢先。視界から外れた、それだけで少女の行動が読めなかった。
 ナズーリンの近くにいたからある程度距離はある。妖怪だから当然空も飛べるのかもしれないが、いずれにしろ動きに対する音を聞き取れなかった。
 ただ意味なく、彼女からすれば当たり前のコミュニケーション方法かもしれない。

「ッ!!」

 だがそれはディアボロを動かすに十分に足りた。大きく土を蹴って距離を離し、キングクリムゾンを出して自身も構える。抱きしめようとした腕は強引に振り払い、結果こいしはべたんとその場にしりもちをつく。バラのコサージュがあしらわれた帽子がその傍らに落ちた。
 確かに一度死んだ。あの抱き着きのどこか一つに殺意が込められていたら、今頃自分は血を流し再び捕らわれてしまっただろう。これから成すことのための確認の前に。

「ちょっと、どうしたんだい?」
「…………いや……」

 汗が横顔を濡らす。
 不思議そうに見つめるナズーリンに対して、こいしは振り払われ、地に腰付けていてもそのままにこにこと笑っている。その反応を待っていたかのように。
 服に着いた土汚れを払うと、落ちた帽子も同じようにはたく。それを被りなおすと、

「お燐から話を聞いて、会ってみたいと思ったの。お姉ちゃんもきっとそう言うわ。地底の誰もがあなたみたいな人間をもてなしてくれる、面白い人なら尚更ね」

 まるで焦点のあっていないような眼でこちらを見つめながら話す。ちゃんとこちらを見ているだろう。ディアボロと目を合わせているつもりだろう。だが、彼には目の前の少女がどこか、自分の先に居る何かを見ながら話しているようにしか見えない。
 こいしをみて、ディアボロは改めて感じる。

570深紅の協奏曲 ―無意識に奏でられる即興曲 1―:2016/06/10(金) 22:12:22 ID:D6fW.1yM0
 この幻想郷は闇だ。
 人里の人間たちは小さいコミュニティながらも楽しく生きている。妖怪に襲われる可能性があっても、自分から過度に逸脱せねばそれをどうにかしてくれる退治屋がいる。巫女がいる。
 それは現代の社会の小さなモデルケースだ。人間たちは生きる。法に守られ、それを遵守する者に守られ。だが、それの及ばぬところではどうなろうと関与できず。
 人里で、妖怪の山で、冥界で。目的は他所にあり、本気でこちらを害さないからこそ僅かずつに薄れていた。だから、馴染むにつれて考えの隅に追いやられていった。
 地底は違うのだろう。
 嫌われ者の妖怪たち。縁起に追記のように書かれていた情報では、かつての地獄、鬼と怨霊の住まい。冥界から降りた時に会った少女、こいしからお燐と呼ばれているであろうあの猫の妖怪。彼女のもたらすスラム街のようなその地の印象。
 照らされた闇の中、その中にできる影。妖怪と人間の本当の関係。
『そういう解釈で大体間違ってないぜ』
 道具屋の魔法使いの言葉を思い出す。人間の恐怖の対象、権化。彼女のような者たちに庇護されているから、ある程度に自分で立ち向かえる能力を持っていたから。……それは、相手も同じなのだ。少し、気を向けなかっただけ。


「どう、来てくれる? ついてきてくれるよね」

 ほんの少しの思案をかき消すようにディアボロの手を取り今までと反対の方向、人里を越え博麗神社の方向へと駆けだそうとするこいし。彼女の中では、ついてきてくれることは決定しているのだろう。
 ディアボロの脚は重く動かない。心の奥底、誰もが無意識に持つ恐怖を改めて感じたのも理由の一つ、自らを試すための行軍であったことも一つ。

「こいし。悪いがきっと彼は動かないよ。私だけでなく彼に迷惑をかける前に……」

 こいしの身勝手をナズーリンは止める。

「いや……行こう、その地底とやらに」
「えぇっ!?」

 だがそれに反し、引かれるままに歩を進める。小さな興味もあるが、それだけではない。
 自分の性は結局は闇だ。どれほどの理解をしようと、その本質は変わらない。それをもう一度、思い出すべきと感じた。
 今までのあり方を省みて、そして『奴』の精神を省みて。……そして、今一度自分のこれからを思い出すために。もし生きるのであれば、再び晒そう。自分は、死ににいくのではないのだから。
 全ては幻想の先の為に。
 自分の手にある体温は、どこか惹かれるようなぬくもりを感じ、その持ち主はついてきてくれることを当然と思い、再び笑顔を浮かべる。

571みりん:2016/06/10(金) 22:17:31 ID:D6fW.1yM0
「地底と地上は曲がりなりとも不可侵条約があるのに何考えているんだ!」
「君も君だ、あっさりと捻じ曲げてどういうことだ! それに地上と違って人間の味方なんていない、死ぬかもしれないんだぞ!」
「味方どころか人間すらいないというのに、あああ、もう!」
今日もナズーリンは大変です。収まりがいいので次回の冒頭にナズのお説教が入りますが、彼女はなんだかんだで付いてきてくれる予定だと今の内に付け加えておきます。

以上になります。
物語的には紅魔館の前ですので、これからのディアボロの意志の確認の前のもう一度指さし確認。先でどうなるかはまだ。
地霊殿のキャラはみんな大好きでいろいろ考えられます。一番参考にしているのは『NeGa/PoSi*ラブ/コール』です。
これ書きはじめた頃は心綺楼体験版が出たあたりでしたねぇ…そのころにも「この物語でこいし出したいけど出す場所ないな」と思っていたんですが。

572ピュゼロ:2016/06/12(日) 23:12:25 ID:UWNRowLM0
お疲れ様です。こういう導入部はわくわくしますね。
無意識のこいしちゃんにいざなわれ向かう暗い暗い封じられた地底。すごいいい雰囲気じゃあないですか!
こいしちゃん自分じゃ絶対書けないので出てるだけで嬉しくなります。ねずみ食べておなか痛くなったこいしちゃんがみたい。

書いたはいいけどお蔵入りしたなら番外編で出せばいいんだ!(*^◯^*)

573みりん:2016/06/14(火) 16:15:18 ID:/ZK9Cm3g0
わくわくしていただいてありがとうございます。
無意識のこいしちゃんに誘われて向かう暗い場所ってなんだかすごいいかがわしい雰囲気しますね。すごいいい雰囲気じゃないですか!
露伴先生もクモ舐めて何もなかったしナズーの手下だからきっと衛生的であり、雑食だからきっと内臓までうめーんだ!おなかも痛くならないんだ!ミスタが言ってたから間違いない。
けどお腹痛いこいしちゃんは見てみたいかも

これからずっと番外編やで!彡(゚)(゚)

574みりん:2016/07/16(土) 16:53:37 ID:4pN8s2To0
スッ
移動編なので特に盛り上がりに欠けるかもしれません。

575深紅の協奏曲 ―無意識に奏でられる即興曲 2―:2016/07/16(土) 16:54:26 ID:4pN8s2To0
「いったい何を考えているんだ君は! 地底は忌み嫌われた妖怪たちの住処、幻想郷の中でもはみ出し者の集落だ!」
「違いますーっ! ちょっと変わり者のいい人たちだらけでーす!」
「それはこいしの主観だからそう見えるだけだ! 今は少し緩くなったとはいえ基本的には行き来は禁じられている場所だ! 思い付きでおいそれと入るわけにはいかないんだぞ!」
「けどお燐もお空も行ったり来たりしてるし、霊夢の所に行ってるけど何にも言われてないもん」
「あの不良巫女め……! それはあの風船巫女が何も言わないからで本当はダメなんだぞ!」

 ディアボロの歩く後ろで、少女特有の甲高い声が辺りを賑わわせる。子供の言い争いなど久しく見てはいなかったが、ここまでうるさいものだっただろうか?
 いつまでも続きそうなその声に一喝を入れてやりたくなる気持ちもあるが、おそらくそんなことでとどまりはせず、むしろその熱意は加速するだろう。

「君もだ! よくもやすやすと心変わりするものだ! スカーレット姉妹に何か見出したんじゃなかったのか!? だから紅魔館に行くんじゃなかったのか!? 足掛かりとか仇敵を乗り越えるためのどうのこうのはいったいどうした!?」
「……」
「これから行くところは地の底の底だ、人間もいなければ君一人で抜け出ることもできない! 一体どうするつもりなんだ!」
「もー、ネズミさん、そんなに大きな声出したらみんなが起きちゃうよー」
「そんな時間かっ!!」

 ふと空を見上げる。橙に染まりゆく空の色、元々の目的地への出発と到着の予想は日が暮れる少し前だった。博麗神社の近辺にあると聞いている地底への入り口、おそらくそこへの到着は月が見えるころだろう。夜分には妖怪も活動的になるし、神社の近辺にも傘の妖怪がいたように、こちらに害を成そうとする妖怪が現れる可能性はある。
 向かうとするのなら、少し急ぐべきだろうか……?

「ねえ、そんなにゆっくりじゃあ日が暮れちゃうよ」

 考えた矢先に、こいしが自分の片腕に組み付いている。

「ッ!!」
「わぁ」

 条件反射に素早く振りほどいてしまう。もっとも、飛ばされた本人も傷んだり驚いたりしている様子はない。そうされるのが当然の反応と思えるような笑みを浮かべたまま倒れる。
 あの夜にあった傘の妖怪より、よっぽど驚かすのは上手なようだ。現に、ディアボロは少しの隙に再び心臓を跳ね上がらせているのだから。

「……黙って抱き着くのはやめろ」
「でへへ」

 知ってか知らずか、その表情に反省の色は見られない。

「おにいさん、歩いたままじゃあ日が暮れちゃう。飛んでいかないの? 人間だから飛べないの?」
「そうだよ、彼は飛べない、というか普通の人間は空を飛べないだろう。修業した退魔師とかならともかく」
「ああ。オリン……あの猫の妖怪から聞いてはいないのか?」
「しょうがないな〜」

 立ち上がり、姿勢を整えたこいしは両腕両肩をぐるぐると回す。さしずめ準備体操と言わんばかりに。

「両手を持っちゃうと腕が抜けちゃうから、肩車でいいよね」

576深紅の協奏曲 ―無意識に奏でられる即興曲 2―:2016/07/16(土) 16:55:08 ID:4pN8s2To0
 その屈託ない笑顔は、逆にディアボロの嫌な予感を誘う。

「……おい、まさか」
「大丈夫、私も妖怪! おにいさん位わけないわ」
「……っっ」

 意図を理解し、吹き出すのをこらえるナズーリン、対象に慌て始めるディアボロ。
 『それ』を行われることは、ある意味死よりも辛いことだろう。良識があり、プライドを持っているのならなおさら。

「やめろ、急ぐ道でもない、歩きで行くッ!」
「観念しろー!」

 素早く身を屈めるとヘッドスライディングの要領でディアボロの足の間へ滑り込もうとする。
 彼もそれをさせるわけにはいかない。大の大人が、実年齢はともかく見た目少女に肩車をされることなど、彼のプライドが許さない。しかもそのままに空を飛ばれてしまえば、途中に通る人里でも夜中とはいえ目が向かれる可能性がある。
 何としても避けたかった。その恥辱は筆舌に尽くしがたいだろう。

「く、くくくっ、か、観念したらどうだい」

 ふわりとナズーリンの体が宙に浮かぶ。わざわざ歩くという非効率なことをせず、素直に飛んでいけばいいじゃあないか。そういわんばかりに。
 別に空を飛ぶことに抵抗があるわけではない。ただ、幼子に肩車されることが、かつて帝王と呼ばれた自分の誇りを汚すことに変わりはないということと同義であること。
 幻想郷、子供で溢れている世界で大人が混じって戯れることは珍しくはないかもしれないが、彼の心はそこまで染まっていなかった。

「あっ、まてー!」

 だから、走り出す。醜態をさらす前に。
 視界から外れたこいしの気配は、変わらず感じ取れない。走る音も、小さな衣擦れさえも。もちろん自身の走る音もあり聞き取りづらいのもあるだろうし、そもそも飛ばれてしまえばそれもより少なくなるだろう。
 垣間見える『予知』の画面は、問題なく像として映っている。絵に映り込んだ像は、もはや気配とは関係ない。
 しかし、今は彼女を意識しているから映し出される像から情報を取り込めているのだろう。もし彼女の存在に気づいていない状態で『予知』を見たら、果たして気づけるだろうか。必死ながらも、それを考える冷静さは保っていた。

「痛いことするわけじゃないからー!」
「私にとっては十分に『痛い』ぞッ! 晒しは相手を屈服させる十分な手段の一つだ!」
「ははは! 確かにそうだ! ドッピオなら似合ったろうに、お前では曲芸の真似事にも見えないな!」

 走る。走る。走る。正直に言ってしまえばこの状況ですら見られることは酷なのだが、それでも行き着く結果よりはましな過程だ。
 おそらく、結局はどちらかの体を借りて地上から地底に向かうことになるのだろう。生身の人間、空を飛べない人間が問題なく降りれる地形ではないだろう、ナズーリンの言い分からディアボロも十分に推測できる。
 人目に見えなければ、直前であれば。それならばまだ耐えられる。自分を知るものが、今は地上には多すぎる。
 やはり最初から姿を隠すべきだったのかもしれない。あるいはドッピオの姿で、今からでも交代していけば。
 ドッピオに説明する手間と時間、その間にあのこいしはおとなしくするだろうか。『ディアボロ』に興味を持つ彼女が、『ドッピオ』にどこまで理解を示すか。

「鬼ごっこなら負けないわ! 私を捕まえられた人なんて誰もいなかったもの!」
「追う側のセリフか、それじゃあ本末転倒だろうがッ!!」
「最初から勝っていたから私の勝率は100%だった!」

 わけのわからないことを口走りながらも追い続けてくることに変わりはない。舗装のない道を走るための装備をしていない状態と何物も影響を受けない飛行では、速度も疲労感も違うのかその差は徐々に狭まっている。こいしの手がディアボロに伸びる回数が増えている。
 いっそ諦めるという選択肢がよぎるが、その度愚かな考えを捨て去る。諦観は敗者の論理だ。全てを諦め敗北という鎖に繋がれる安寧は、まさしく唾棄すべき理想。
 必死の逃走は時間の流れを曖昧にし、行程の感覚を乱す。

「……おや、どうやらまんまとこいしに嵌められていたのかな」

577深紅の協奏曲 ―無意識に奏でられる即興曲 2―:2016/07/16(土) 16:55:49 ID:4pN8s2To0
「ハァ、何、だと」

 視界に広がるのは、森を抜け、道を超え。まばらに岩が目立つ空間。
 どこかで嗅いだことがあるような匂いが鼻につく。

「はぁはぁ、到着! 地底の入り口までもうすぐよ、おにいさん」
「……ハァ、そうか……で」

 気づかぬほどに走っていたこと、それを示す体から噴き出る汗が火照った体を冷やそうとする。そんな汗ばんだ顔を、同じく帽子を脱いでかいた汗を袖で拭うこいしに向ける。

「……どうやって『降りる』んだ? その地底へ」

 にぃーっ、と唇が横に伸びる。そのいたずら心を理解し、やはりかとディアボロは肩を下す。
 同時に全身の疲労も感じられる。近場の手ごろな岩に腰を掛け、膝に肘をついて体を落ち着かせる。

「少し休ませろ……お前たちにはなんてことないかもしれないが」
「そんなことない、私だってただ飛んでばっかじゃなかったからもうへとへと」
「……後ろから着いてくる分には何も問題なかったけどね。……私の飲みかけでよければ、飲むかい」
「わーい」

 ナズーリンがポシェットから小さな水入れを取り出すと、二人のほうへとむける。それをこいしは喜んで受け取り一気に飲み込む。

「ちょ、それじゃ彼の分が」
「……いや、私は遠慮しておく」

 もっとも、ディアボロからすれば先ほどの店の件があったとはいえ、人の飲みかけに口をつけようとまでは考えられなかった。

「ぷはーっ! ……はっ、ネズミの水、ねずみず!」
「ネズミだからって不衛生とか考えていると怒るよ」

 そのことが頭をよぎったことも原因の一つではない。

「休憩おしまい! で、おにいさん。上からがいい? 後ろからがいい?」
「何がだ」

 給水を終え、いち早く立ち直ったこいしがディアボロに提案をする。

「何って、これから降りるんだから。私にしっかり掴まってないと落ちちゃうもの。私のどこから掴まっていたいの」
「こいし、なんでそんな聞き方するかね。普通に彼を背負ってあげればいいと思うよ。肩車なんかしたらどこかに頭をぶつけそうだ、君はそういうところは無意識に動くんだから」
「同感だ。少し見ただけで感じたが、とてもじゃないがお前にそんなことされて命と頭がいくつあっても足りなさそうだ。私を負ったまま自分ほどしかくぐれなさそうな隙間に気にせず入りそうだよ……というか、いや、難しいか」

 改めてナズーリンのほうにも目を向けるが、彼女はこいしよりもさらに小さい。幾分か理性的には動いてくれるであろうが、大柄な自身の身体を担ぎ上げるとしたら、安定しきるかどうかも怪しい。
 それに気づいたように。当然と言わんばかりに息をつきながら肩をすくめる。

「私には君を抱えるのも背負うのも無理だ。期待に沿えなくて悪いが。……そうまでして、本当に地底に行きたいのかい」
「超えるべき障害は誰にでも存在する。……それに最も近しいのは紅魔館ではあったが、超えるだけではダメだ。その先も考えて――」
「ん!」

 見ると、ディアボロの前には腰を下ろして背を向け、首をひねらせこちらを見るこいしの姿。ここに乗れ、というように添えられた両手の先をピコピコと動かす。
 話を打ち切るように現れる彼女を見ると、語るのも馬鹿馬鹿しくなる。夢を、野望を語ろうとする男がこれから少女の背中に身体を預けようとするのだから。
 その姿を想像し、僅かに震えを覚えるとディアボロは立ち上がる。

「まだ入り口ではないのだろう、歩いていく!」
「あーん」

578深紅の協奏曲 ―無意識に奏でられる即興曲 2―:2016/07/16(土) 16:56:23 ID:4pN8s2To0

 くすくすと笑うナズーリンの声を聴きながら、その先の匂いの元へ。……知らずに足を踏み出すが、止める声もないということは間違いではないのだろう。
 やや速足で進むとその先を導くようにこいしが飛び、急かすように前を指す。
 そこには確かに、地から煙を吐く大穴が開いていた。

「……まるで火口付近だな」

 火山性のガスの匂いが辺りに充満しており、これがもっと強ければ、近くなれば昏倒を起こすことも考えられるだろう。
 まさか目の前の大穴そのものに突っ込むわけではないだろう。……そんなことになればさすがに死ぬのでご免被る。
 問いただそうとしたときには、そこから少し離れた横穴の付近に二人は向っていた。

「こっちこっち」
「さすがにそこからは、私たちでもいけないよ。聖ならいけるかもしれないが」

 少しの装飾と丁寧な舗装のされた入り口は、ある程度の行き来を感じさせる利便性があり、多用されているのは間違いないだろう。案内が少ないのが不満ではあるが、そもそも知ったものしか通らず興味本位で迎え入れるほどではないのかもしれない。
 そこに立ち寄って中をのぞいてみれば。

「……意外と近代的だな」

 長い長い縦穴と底から吹きあげる風が身体を触る。壁に沿うように螺旋に階段が設置されており、足元には動力は不明だが照らすに十分な明かりがついている。

「違う違う、こっちこっち」
「そっちはまた別の施設へつながっている。一応こいしのいう地底に繋がっていないわけじゃあないが……旧都に向かうのであれば、その隣から、だよ」

 見ると、そちらにはまた別に何も手付かずな縦穴が存在している。覗き込んでみるが、先ほどのものとは違い階段も明かりも存在しない。

「……がっかりしたかな?」
「…………だいぶ、な」

 一瞬でもやはりこいしに背負われるような真似がなくなるかと思ったが、どうしてそういうことはなかった。スタンドを繰り返して降りきれそうかといえば、先の見えているものならともかくいつ終わるともわからぬ暗闇の中では無理だろう。
 思わずため息が漏れる。

「……観念するよ。それに、ここからなら私を知る者の目もないだろう」
「よしよし、聞き分けいい子は好きよ」
「やめろ」

 わざとらしく撫でようとするこいしの手を払い、彼女の肩に首にと手をかける。
 傍らではナズーリンが首からかけているペンデュラムを外し、文言とともにそれを掲げる。するとそれは見る間に光り輝き、あたりの土くれの続きを照らし出す。

「くくく、よく似合ってるよ。さ、行くなら行くといい。こいしにしっかりと掴まっているんだよ……私は後ろから着いていくから」
「…………」
「ぎゅっとしててね、おにいさん」
「 、ぐおッ!?」

 心構えた矢先、こいしは『飛び込んだ』。そのまま頭を下に、自由落下するように。下向きに飛んでいるのではなく、まさしくそのまま落下していく。
 昨晩に冥界から飛び降りたのとはわけが違う。あの空の上では前後の環境もあったためか、どこか人を高揚とさせる効果を持ちながらに飛び込めたがここの暗闇の穴は、自分が気付くより早く死を与えてくるような、そのような後ろ暗い焦燥感を覚える。
 死の世界から生の世界へ移るからか、そして今度は生の世界から死の世界へと。あの時ほどに、安易には考えられなかった。自分という根幹を、今は別の者に委ねているからも大きいだろう。
 鼻歌交じりに、朝の散歩と変わらぬ気兼ねさで飛んでいる少女の細い肩と首に依っていなければそのまま離れ光のない闇の中へ消えてしまいそうだ。……思わず、その量の腕に力がこもる。

579深紅の協奏曲 ―無意識に奏でられる即興曲 2―:2016/07/16(土) 16:57:03 ID:4pN8s2To0
「あは、やっとしっかりつかんでくれた」

 その腕を、柔らかくいとおしそうにさすろうとする腕がある。
 ディアボロには、それがひどく不気味に思えた。感触、伝わる温度は確かに人の手のひらそのものだが、小さな、無数の毒蛇が量の腕をはい回るような不快感。無意識のうちに、それらは感じ取られた。思わず、肌が粟立ち身震いを起こす。

「さ、一気にいくよー!!」

 知ってか知らずか、はたまた押し殺すためか。速度を上げて落下、飛翔する。重力に従った高速の移動、直下型のエンターテイメントに五感が、脳が揺さぶられる。

「おまっ、なぜスピードを上げるッ!?」
「こんな真っ暗なところじゃつまらないもの。早く着きたいでしょ?」

 ナズーリンの照らす明かりから逃れるように、その速度はぐいぐいと上がっていき、直下に落ちていく様についにはこいしの帽子は耐え切れず、ディアボロの顔を打って彼方に残る。
 目をつぶってしまいそうな相対的な風量をあびながら、それでもこらえて暗闇に落ちるさまを眺めていると、

「、あれは、なんだ」
「もうすぐ到着でーす」

 先に広がる緑の光。先ほどまで照らしていたナズーリンの蒼い明かりとは違う、どこか陰鬱とした印象を与える暗い緑の光。何もないはずだが、それが自然であるかのように、どこからも射さぬ光の代替となって辺りを照らし始める。
 ぐんぐんと迫りくる地面を確認すると、ディアボロはこいしから手を放す。

「あっ」

 降りる速度のままにほぼ直角に曲がろうとした彼女が急な重量の減退にバランスを崩してその場にとどまろうとする。
 対してディアボロはその速度のままに地面に向かう。人が死ぬには十分な速度だが、間に自分のスタンドを挟み、それをクッションとして衝撃を和らげる。
 辺りを見回す。上には確かに長い竪穴が続き、見えるものはほとんどない。うすぼんやりと青い光が漂っているが、おそらくはナズーリンのペンデュラムだろう。
 近辺にはそれ自身が輝く植物が繁茂しているようだ。そしてそれとは別に石造りの灯篭が緑の火を灯して点々と続き、来訪者を導いている。
 その先には一つの和様建築の立派な橋が見え、奥には闇の中に集いを表す光が見える。

「もう、あぶないよ!」
「……歩かなくてよさそうに見えたからな」

 心配しているのか離れたことに対する怒りか、頬を膨らませながら両手を上げて感情をアピールする。……しかし、それでも彼女の瞳はどこか空をさまよっているような、こちらを見ていないように感じる。
 もともとそういうものだろうか。目線を合わせていながらも、一度も通じた記憶はない。

「この先は嫌なのがいるから急いで行ったほうがいいの、だから行くなら急いで」
「嫌なの、って誰のことかしらね」

580深紅の協奏曲 ―無意識に奏でられる即興曲 2―:2016/07/16(土) 16:57:37 ID:4pN8s2To0
 ディアボロの手を引いて行こうとするこいしの前に、一人の声がそれを止める。
 よく見れば、橋の欄干にもたれるように、一人の少女が佇んでいるのが見える。

「好き好んで近づく者のいない隔世の橋、寄り付く輩にそんなことを言われてしまうのではしょうがないわね、妬ましい」
「パルスィ……」

 橋の上に佇むその少女―水橋パルスィ―は目線を合わせないまま、手に持った煙草を含み、辺りの空気に散らす。
 辺りに、幻想に似つかわしくない、不快ともとられそうな匂いが立ち込めていく。

「煙草やめてよって言ったじゃん……私、好きじゃない」
「あなたに何を言われようと関心はないわ。自分だけが通るとでも思っているのかしら」
「むむむ〜」
「地上と地下への行き来にもほとんど使われなくなった、渡る者の途絶えた橋。使うのは後ろ暗い心を持つもの位。……さて、あなたはどうなのかしらね」

 彼女の口から紫煙が噴かれ、その後ディアボロのほうへ向かれる。こいしのような明るい緑の瞳が、しかし悪意と敵意に満ちた目がこちらに刺さる。
 横にいる当の彼女は、今は確かにディアボロを見つめていた。

「行こう、おにいさん。パルスィに構われたらいつまで経っても進めない」
「心外ね。私は橋姫、ここを通るものを祝福する立場だっていうのに。気に入らなければ打ち倒していけばいいじゃないの、妬ましいように」
「なんだっていいもん、行こう」

 彼女を振り切るように、無視するようにと強引にディアボロの手を引く。僅かに姿勢も崩れるが、すぐに持ち直し、

「お前……パルスィ、だったか」
「何かしら? あぁ、別に私は今更人間が入ろうが咎めないわ。どうせすぐに帰りたいというのがオチだから」
「かもしれないが。……その『煙草』は、地下でしか作られていないのか?」

 それを聞くと、見た目の年齢相応ににこりと微笑んだ。しかし、覗き込まれているようなその瞳にはこちらも共に引き込まれるような感覚はない。

「また会うと思うわ、必ずね」
「……それは地底では流行っているのか? あの猫も言っていたが」
「かも、しれないわ」

 離している間に留まっていたことに不満なのか、引く手は強くなり、振り返るその瞳はややも不満そうな……パルスィと話をすることを妬むような感情のこもった瞳をしていた。
 大股に手を引くこいしの後に着いていき、その行先には人里と同じ光、月も空も見えないが確かに夜の中の眠らない光が灯っている。

581みりん:2016/07/16(土) 17:02:20 ID:4pN8s2To0
以上になります。やっと地底に着きましたね。遅れていますが、ちゃんとナズーリンもついてきています。パルスィにいたずらされたりするかもしれませんが追いつきます。
パルスィはかわいいので煙草を吸っても問題ありません。二次周りの彼女のイメージも結構原作と違ってるように思います。
地霊殿のニコニコしながら妬ましいっていうのもいいですけど、口授のような豚を見るような眼の彼女も好きです。

次回は旧都の中からです。

582ピュゼロ:2016/07/16(土) 23:59:48 ID:cSLlsxDs0
こいしちゃんは母になってくれるかもしれない女性だった……?
お姉ちゃんはこいしちゃんにおぶった事もおぶわれた事もなさそう。
地霊殿のキャラはみんなデザインがいいので絵になりますね。……体操服……?

583みりん:2016/07/19(火) 00:14:01 ID:cknXkqWY0
こいしちゃんに母性を求めてはいけない(戒め ママ活という言葉がはやっているようですがなかなか邪悪だと思うんです。バブみにも僕はなれませんでした。
姉妹でおぶるとかそういうのはあるんでしょうか…?兄弟とかでならありそうですが。というか人間換算でどれだけ離れているかはよくわかりませんからね。むずむず
地霊殿キャラのデザインは表も裏もいい絵が多いですし、体操服だっていいだろう!だろう!?着物姿もいいんだぞ!でもやっぱりパルパルのが好きです。
あぁ〜煙草がおいしいなぁ。勇儀さんは煙管って感じですね。お姉ちゃんも吸ってそうですけどその間だけペットたちが露骨に離れてそうでかわいそうです。

584Dr.ちょこら〜た:2016/08/05(金) 17:39:10 ID:g.wj2J1E0
遅くなりましたが、まるくさん投稿お疲れ様でした!(こいついっつも遅くなってんな)

地底編、本編とはまた違った軽妙さと危ういズレた雰囲気が非常に地底っぽいですね
ネガポジラブコール、分かります 最近ではメリーさん属性も付与されたので、より容赦も脈絡も無く他者の生命を刈り取りそう

煙草をしきりに気にするディアボロ…もしや麻薬絡みとか…?
次回の展開を楽しみにしております!

585名無しさん:2016/08/09(火) 05:58:31 ID:Yf0Jx2JI0
感想ありがとうございます。
遅くなったって、届く声さえあれば!

本編の初期、ドッピオのときのような巻き込まれるような雰囲気を主に書いています。それの受け手がディアボロなので空気の重さが変わっている…はず。
地上の妖怪とは違う雰囲気を醸し出せればと思っています。

メリーさん属性がつく前から割と物騒なことを平然と言うキャラでしたけど、狂気というよりは抑制の効かない子っていう雰囲気でしたので個人的には驚きました。
精神的に幼いっていうのとは似てて違うというか。どちらにしろこいフラは尊い(狂気

幻想郷で喫煙が似合う妖怪が多いのは地底(今期俺調べ)なので煙草を出しているだけなので麻薬とは無関係です!!!!!
少々筆が遅くなってますが次回もお楽しみに。

586名無しさん:2016/09/01(木) 23:44:43 ID:K21k7MGM0
ストレイツォ -忘れられた物語-

一人の男が力なく地面に横たわっていた。

「(ここは…どこだ?)」
男には、起き上がる気力はなかった。

ちくちくとした感触が手に伝わる。
冷たい風が頬を通り過ぎていく。
暗がりの中にも明かりが見える。今日は満月のようだ。

私は死ねなかったのか?
なぜ森の中にいる?
ここはどこだ?
まあいい。
このまま朝を待てば、今度こそ私は消えてなくなるだろう。
もはや波紋の呼吸も煩わしい。
石仮面を被った時から、幸せに死ねるなどと思っていなかった。
誰にも看取られることなく、語られることなく、このまま消えるとしよう。
それが、道を外した波紋戦士の定め。



一人の少女が森の中を歩いていた。
「今日は満月ね…」
まあ、だからどうということもないのだけれど。

冷たい風が頬を通り過ぎていく。

あまり一人で出歩くと、永琳が心配するかしら。
明日は妹紅が来るかしら?
もはや蘇えるのも煩わしいけれど
まあ、いいわ。
どうせ何も変わらないのだから。
永遠に看取られることなく、永遠に語られることなく。永遠に…。
それが私の定め。

「あら?あれは……」

彼女の目に倒れている人が映りこんだ。

珍しいわね。のたれ死んだ人間かしら?
いえ、まだ生きているようね…。
……仕方ない。助けてあげましょう。

これは

一人の男と

一人の少女の物語

二人が出会ったとき、物語は始まる。

587名無しさん:2016/09/01(木) 23:45:22 ID:yUwB7HZA0
第一話
波紋戦士、再び

「(ここはどこだ?)」

柔らかな感触が手に伝わる。
音が聞こえる。
金属の触れる音、笑い声、深呼吸、調和しているわけではない、大小様々な音が聞こえる。

だれかが私を助けたというわけか、誰だか知らないが、お人よしもいるものだ。

足音が近づいてくる。
引き戸が開いて、一人の少女が入ってきた。

ウサギの耳のようなものを頭に付けている。
どこの民族だろうか?なんにせよあまり好戦的な民族ではないだろう。

「おや?もう目が覚めたんですね。感心感心。ご気分はどうですか?」
「人生で一番いい状態ではないな。君は医者か?」
「まあそんなところです。状態がよさそうでよかったです。それじゃあ、あなたの名前と種族、覚えていたら年齢も教えてください」

男はゆっくりと上半身を起こして答えた。
「私の名前はストレイツォ、種族は…吸血鬼だ。年齢はわからない」
そもそもここがどこかもわからないのだがな。

「吸血鬼ですって!またまたぁ、カーテンからもれる光に当たってるのになにもないじゃないですか。怖がらせようとしてもそうはいきませんよ。ストレイツォさんで年齢は不詳、と…」

ストレイツォは驚いた。
肩を見ると確かに光は当たっているが、痛みも感じなければ灰にもなっていない。
かわりに、かつて石仮面を被ったときに感じたみなぎるような力は全く感じなかった。

人間を辞め、吸血鬼でもなくなった私は、いったい何者なのだろうか?

目の前の少女がなにやら話しているが、内容も頭に入っては来ない。

運命は私を、そうやすやすとは滅ぼしてくれないようだ。

「というわけで、あなたはしばらく安静にしておいたほうがいいですよ。どうも師匠が言うには、体そのものが生きることを否定するような状態になっちゃってるらしいですから。よくわかりませんけど、人生捨てたものじゃないですよ?聞いてます?もしもーし?お医者さんのゆーことはちゃんと聞きましょうねー。……もうっ」

「ああ、すまない。安静にしておこう」
動く気すらないのだがな。さて、どうやって死のうか…。

588名無しさん:2016/09/01(木) 23:46:41 ID:K21k7MGM0
「あら、目が覚めたようね」
開いていた引き戸から、長い髪の、どこか気品の感じられる少女が入ってきた。

「少しは感謝しなさいよ。のたれ死にそうだったあなたをわざわざ連れてきたんだから」

ああ、この少女が私を生かしたのか。
放っておいてくれればよかったものを…。そのまま獣にでも喰わせてくれればよかったものを。

「ところであなた、コレ、なにかわかる?あなたのそばに落ちていたものだけど」
彼女は懐から、白い仮面を取り出した。
「永琳もよくわからないって言ってたわ」

ストレイツォは、その仮面を見て目を見開いた。
石仮面ッ!
あれは間違いなく石仮面だ
…あれがあれば…私は死ねる。誰にも看取られることなく、消えてなくなることが出来る。

「いや…知らないな。変わった仮面だな」
教えるわけにはいかない、石仮面の能力を。
知っていると言えば質問が来るだろう。
これは何という仮面か、目的は何か、質問は止められない。
真の能力を知れば、この者たちは間違いなく壊すだろう。

「そう、あなた嘘が下手ね。まあいいわ。知らないってことにしてあげる」

「……」
相変わらず、私は騙すことが苦手だな。

「ところであなた、外の世界から来た人でしょう?何か面白い話でもしてくれないかしら?長い話のほうが嬉しいわ。時間ならたっぷりあるもの」
少女は笑った。

笑うのが下手くそだな。
ストレイツォはふと思った。

youtube.com/watch?v=u3CYmAGSnxw

次回
第二話
仮面の物語

ときどきおれは
自分の哀れさを感じながら
さまよっている
たとえば
風がおれを
空を渡って運んでいくときなど

―雷の歌―
チッペワ族 語り部不詳

589名無しさん:2016/09/01(木) 23:47:17 ID:K21k7MGM0
あーんスト様が生き返ったぁ〜。
ってわけでスト様の物語です。
「4話」で終わります。それ以上長くも短くもなく…きっかり「4話」で。
それが「能力」。
See you again.

590ピュゼロ:2016/09/02(金) 04:01:29 ID:N6GAbGso0
第一話はまだまだ序盤、好きも嫌いもこれからわかっていくところだと個人的に思っているので、コメントは控えさせていただきます(する)
か…永遠亭の人が主役なのはベネな話だって言い伝えがあると聞きました。

591名無しさん:2016/09/02(金) 12:03:17 ID:BhEGMToU0
グラッツェ
えええ"いえんていが舞台とはいえ、9割スト様が話しているだけでございます。
さ、早くベッドにお戻りを

592名無しさん:2016/09/11(日) 15:44:40 ID:AEH8dZKk0
投稿お疲れ様です!そして、お帰りなさいませ…!
一瞬の若さの為に余命全てを捧げたストレイツォと、安寧を嫌い浄土を捨て不死となった輝夜。神がいるとして運命を操作しているとしたら!彼らほどよく計算された関係はあるまいッ!
どのような結末が待っているのか、楽しみにしております‼︎

593名無しさん:2016/09/13(火) 05:59:19 ID:lN4oWzMg0
永遠亭!波紋法!てゐ! …ってゐ!
こっそりハーメルンにも投稿されてたってことはポールさんでよいと?
自分も永遠亭の人が主役なのはベネって聞いたことがあるのでスト様が話しているだけでも良いと思います。

594ポール:2016/09/13(火) 23:59:28 ID:Qv2BHbQA0
名無し改めポールです。
バレるの早い…こんなに早くバレるとは…恐るべし…ひぇぇ
ハーメルンとは結末を変える予定ですが、ひとまず2話です

595ポール:2016/09/14(水) 00:01:59 ID:F1zQOu4g0
第二話
仮面の物語

youtube.com/watch?v=vCHREyE5GzQ

朝、太陽の光で7時ころに目が覚める。
太陽に当たることにもすっかり慣れ切った。
しばらくするといつものようにウサギ耳の少女が食事を持ってやってくる。

足音が聞こえる。
いつも規則正しくやってくる。

「さあ、ストレイツォさん。今日はあなたの好物の味噌汁と焼き魚と五穀米ですよー」

「好物では…ないのだがな」
うまいとは思うが、別に好物でもなんでもない。
ただ、この少女はいつもこう言って持ってくるのだ。

「どんな料理でも、好きなものとして食べるのが、健康には一番です!さ、食べて食べて」

うながされるままに食べるのも、いつものことだ。

「特にあなたには生きる希望ってものを持ってもらわなくっちゃいけませんからね。食べることにでも希望を見出してみてください。せっかく毎日料理を作ってるんですから」

こんな小言もいつものことだ。

食事を終えしばらくすると、もう一人の少女、輝夜がやって来る。

「さあ、話の続きを聞かせてもらうわよ。あなたの冒険譚を」
これもまた、いつものことだ。

「ああ、これは遠い昔の物語。5人の戦士の物語だ
勇者ジョナサン、老師トンペティ、戦士ダイアー、ツェペリ男爵、後継者ストレイツォ。
この5人が悪の吸血鬼ディオを倒す物語だ」

あれからしばらくして、私はこの少女、輝夜に昔の話をすることにした。
石仮面を手に入れるため、この少女に取り入らなければならない。
死にたいという理由では石仮面は決して渡してはくれないだろう。
地道に彼女の興味を引き、なんとか石仮面を手に入れれば、波紋の呼吸で死ぬことが出来る。
看取られることなく、気づかれることなく。
そのために少々脚色した物語を話している。

「どこまで話したかな?そうそうツェペリ男爵の過去についてだったな。さあ目をつむって。何か見えるかい?」

「何も見えないわ。これする必要あるの?」

「想像力を働かせるためだ…

あれはある夜のことだった。私たちが勇者ジョナサンと会うよりもずっとずっと前の夜のことだ、ツェペリ男爵は自身の過去について我々に話し始めた。
ツェペリ男爵と吸血鬼の因縁は彼が青年の頃に始まった。
当時彼は、父親とその仲間たちと一緒に、遺跡の発掘を行っていた。
それまでも彼は、エジプトやインドで遺跡の発掘をしており、
若く情熱があり、将来は高名な考古学者になるだろうと、期待されていた。

メキシコ、アステカの地下遺跡の探検を終えたある夜のことだった。
イタリアへ向かう船の中、
ツェペリ男爵は、明け方近くに、目を覚ました。
どんな悪条件の中でもぐっすりと眠れる彼にとって、これは珍しかった。
男爵の危機察知能力が、自然と目を覚まさせたのかもしれない。
雨は降っていなかった夜なのに、ぴちゃりぴちゃりとしずくが垂れる音がそこかしこからしたそうだ。
彼は旅の前に父親がくれた、十字のお守りを握りしめた。
その時だった、「ぐえっ」という野太い声が聞こえた。
男爵と仲の良かったマリオの声だった。
がさごそと音がしたかと思うと、すぐに音は止み、しずくの音が一つ増えた。
彼は恐怖に震えた。
何か、何かとてつもなく恐ろしいことが起こっている。
意を決して音のほうに近づくと、強烈なにおいが鼻をさした!
目の前に黒い海が広がっていた。
ここは船の上だ…海は船の外にある。
目の前の海は、血で出来たものだった」

596ポール:2016/09/14(水) 00:02:51 ID:F1zQOu4g0
「吸血鬼が襲ってきたのね」

「ああ、そうだ。
吸血鬼の正体は、男爵にとってとても信じられない人だった。
吸血鬼が男爵に気づいた。吸血鬼は少し戸惑った後、男爵に襲い掛かった。
彼は必至で逃げた。
血だまりで滑りながらも必死で逃げた。そして彼は海に飛び込んだ。
吸血鬼はなおも追いかけてくる。
「もうダメだ」
男爵は死を覚悟した。
そのとき、男爵は背中に温かさを感じた。
太陽が昇ったのだ。
そして吸血鬼は太陽にやられ、灰になっていった。
すべて消える前に、男爵は吸血鬼の顔を見た。
それは彼の敬愛する父親の顔だった。
何者かがツェペリ男爵の父親を襲い、彼を吸血鬼にしていたのだ」

「じゃあ、ツェペリ男爵は、父親の仇である吸血鬼を倒すために修行しているのね」

「ああ、そしてその仇こそが、悪の吸血鬼ディオなのだ。
男爵がその話をしてから、戦士ダイアーは彼と無二の親友になった」

ここ数日、かつての冒険譚を多少の脚色を加えながら話している。
輝夜は私の冒険譚がお気に入りのようだ。最近は笑顔も自然になっている気がする。
この調子なら、数日もすれば石仮面を渡してくれるかもしれない。

「あら、もうお昼ね。また来るわ」

昼に近づき、輝夜はいつものようにどこかへ行った。
しばらくすればまたウサギ耳の少女が食事を持ってやって来る。
それまでにあるわずかな時間、この時間は私だけの時間だ。
一人だけでいることが出来る。私だけの時間。

ウサギ耳の少女が来たら、リハビリの時間だ。
体を動かしリハビリをする。
こちらの世界、幻想郷に来てからというもの、体が鉛のように重い日が続いている。
常に脱水症状にかかっているような感覚だ。
永琳の見立てでは、生きる気力がないことからくる、精神的なものだろうとのことだが、
だとすればこれは一生治ることはないだろう。
今の私が生きているのは、死ぬためなのだから。

数刻が過ぎ、ウサギ耳の少女がやって来た。

「ストレイツォさん、リハビリしますよー。準備はいいですか?よくないと言っても始めますからね!」

ウサギ耳の少女に補助されながら、ベッドの上でリハビリの体操をしている。
1時間ほど運動をし、リハビリは終わる。
今日は私が最後の患者なのか、いつものように帰ることなく、彼女は私の病室で昼飯を食べるようだ。

「ストレイツォさんは、外の世界では冒険家だったんですか?」
「む、輝夜に話でも聞いたか?冒険家ではなかったが、人より数奇な体験をしているかもしれないな。人より奇妙なものを多く見てきたと言おうか…それに冒険家の仲間もいたからな」

「ツェペリ男爵という方ですか?それとも戦士ダイアーさんでしょうか?」

「よく知っているな。ツェペリ男爵も、老師トンペティも戦士ダイアーも、みな世界を旅していた」

「そして後継者ストレイツォも、じゃないですか?」

「まぁ、そうだな。私も旅をしていたな」

「旅の果てに何があったか、私は知りませんが、旅の果てにせっかく幻想郷についたんですから、少しは生に前向きになってみてはどうですか?」

「……善処しよう」

597ポール:2016/09/14(水) 00:04:09 ID:F1zQOu4g0
次の日も、いつもとかわらず輝夜が話を聞きにやって来た。
「さ、男爵たちがどうなったか続きを話してもらうわよ」

「いや…今日はそうだな…わが師トンペティの予言の話をしよう。
老師トンペティは多くの予言をしていた。
老師の予言は、示唆的であり、詩的であり、聞くものに覚悟を求める予言が多かった。
弟子がどのような人生の終わりを迎えるか、予言をしていたこともある。
晩年は人の死…いや、弟子の死に関する予言をすることはなくなったがな。
ある日のことだった。
私たちが勇者ジョナサンに合う数か月前のこと…老師トンペティは弟子の中から数人、
私とダイアーとその他実力のある弟子を集めた。
そして告げた。
時が来たと。
正義のため、未来のために我ら波紋の力を使う時が来たと」

「ついにチベットからディオを倒しに行くのね」

「ああ、そうだ。すでに世界を旅していたツェペリ男爵と合流し、世界を救うための、最後の冒険が始まるということを仰った。それから数か月は、後進の育成もせず、ただひたすら力を高める日々が続いた。
そしてついにツェペリ男爵から連絡が来た。吸血鬼ディオのこと、イギリスで起こっている事件のことを記した手紙が届いた。それから数日のうちに、私たちは支度を済ませ、イギリスへと向かった。
道中で師は私たちに覚悟を求めた。ここから先の旅に命の保証はないと、いつものように詩的な予言ではなく、波紋の長としての警告か、死について警告した。
戦士の死は必ずしも英雄的でない、と、これからの旅は犬死もありえる、と」

「でも少なくとも、あなたはここにいるわけだから、吸血鬼を倒した大団円は保証されているのでしょう?」

「……それは最後まで分からない。
旅の道中は静かだった。普段はそれなりに陽気な戦士ダイアーも、このときばかりは無口だった。戦士の貌(かお)だった。そしてついにイギリスへ着いた。男爵からの手紙にあったように、私たちは辺境の村へと向かった。
村は異様な雰囲気に包まれていた。
黒い黒い魔が、村を包んでいく霧のように感じられた。
少し進むと、前方に人影が見えた。
鎧を着た人間だった。
いや、かつて人間だったものがそこにいた。

過去から蘇えった亡霊が、過去の高潔な戦士たちが、魂のないゾンビとなって私たちに襲い掛かって来た。
すでに勇者ジョナサンやツェペリ男爵も戦いを始めているだろうということは容易に察しがついた。
私たちは戦った。
私たちの波紋は人類が持つ、ゾンビや吸血鬼を倒すことのできる唯一の技だった。
とはいえ、過去の戦士たちは手ごわかった。ただでさえ強い戦士たちが、不死の体をもって襲ってきていたのだからな。
それだけではない、つい先ほどまで平和な暮らしをしていたゾンビとなった村人たちと戦うことには心が痛んだ。
襲い掛かるゾンビたちを倒し、村の端にあるそびえ立つ城に向かっている途中で、私たちはツェペリ男爵と勇者ジョナサンにあった。彼らのそばには村の少年ポコと、元追いはぎのスピードワゴンという男がいた」

「ついに登場人物が全員そろったわけね。それから吸血鬼を倒しに行くんでしょう?」

「その通りだ。あそこから敵はとたんに強くなった。厳しい戦いの連続ではあったが、村への被害をなくすためにはなるべく多くのゾンビを倒す必要があった。
…そろそろ昼時だ。少し休ませてくれないか」

「…わかったわ。続きはまた今度ね」

「次来るときは、石の仮面を持ってきてくれないか?物語の核心に触れる道具だ」

「ええ。永琳が少しいじくっているみたいだけれど、今度持ってくるわ」

598ポール:2016/09/14(水) 00:05:38 ID:F1zQOu4g0

「……」
行ったか。
……ようやく…消えることができるか…これで。
……。

……また足音か、

「さあさあストさん、今日は納豆とオクラと山芋ととろろ丼ですよ!」

「…なれなれしいな、この頃」

「まあまあ。それよりどうです?ねばねばですよ、いやらしい」

「……」
……

「……」
……

「なにか反応してくださいよ!」

「そうだな」
…なんだ?このウサギ耳の少女…いや、レイセン…何か…
「嬉しそうだな?」

「わかりますか?ふふ。姫様が最近生き生きしているので、嬉しくなっちゃいました。ストさんのおかげですよ」

「私の…」

「はい。ストさんのお話のおかげです。この頃私にもよく話をしてくださるようになったんですよ」

「そうか」
……

「頼みがあるのだが、きみ」

「珍しいですね。何でしょう?」

「今日は少し散歩…いや、夜風に当たりたい。窓を開けたままにしておいてくれないか?」

「それくらいならお安い御用です。それじゃ、窓開けときますからね。今日のリハビリを済ませましょう」

「ああ」

騒がしさも日が落ちていくとともに落ち着いていき、夜になった。

「半月か、今日は」

開いた窓から通る風が気持ちいい。
ここに着いたときも、このような風だったかもしれぬ。

ここに来てから2週間ほど経った。
あの輝夜は私のことをある程度は信用している。いや、信用はしていなくとも、多少の言うことなら聞いてくれるだろう。私の持ち物を持ってくるくらいのことは、石仮面を持ってくるくらいのことは。
どうせ私は消えるのだ。輝夜が私に執着しても困る。
執着か…いや、この世界のことだ、たとえ私が今ここで跡形もなく消えても、神隠しにあったと思うか、せいぜい1週間ほど悲しんで終わりだろう。それだけの間柄だ。すべては元通りになる。それだけだろう。

「……」
さて、明日の物語はどうしようか。
……。

599ポール:2016/09/14(水) 00:06:14 ID:F1zQOu4g0



朝が来た。
その日は風は吹いていなかったが、雨が降っていた。
とはいっても土砂降りではなく、散歩しようと思えば傘をささずに歩ける程度の雨だった。

私の物語も、今日か明日で最後になるだろう。
この虚構の物語も終わりだ。

……
今日は普段より早くに輝夜が来た。
なんとなくだが、いつもよりはつらつさがないように思える。

「どうした輝夜?あまり元気には見えないが、具合でも悪いのか?」

「いえ、違うわ…。大丈夫、なんでもない」

「そうか」

「そんなことよりも今日の話をしてちょうだい。ディオを倒すところでしょう?」

「ああ、そうだったな。
話の続きを始めよう。
かつては平穏な田舎の村として誰にも知られることのなかった村だが、
あの事件のあとは、呪われた村として世に広まった、ウィンドナイツロットに私たちはたどり着いた。
あまたの敵をかいくぐり、ついに勇者たちは吸血鬼ディオの足元にたどり着いた。
城の門は開かれていた。
波紋の戦士を逃がして数を増やされるより、この場で私たち全員を一網打尽にしたほうが都合がよいのだろう。
ディオは私たちを招き入れていたようだった。
私たちが門から中に入ったことを確認すると、隠れていたゾンビが門を閉め、私たちを中に閉じ込めた。
これは都合がよかった。
私たちは閉じ込められたわけだが、それは逆に、ゾンビたちがこれ以上村に行くこともなく、数が増えることもない証だったからだ。
多くのゾンビたちがあらわれたが、その多くは私たち波紋戦士の敵ではなかった。
戦士ダイアー、勇者ジョナサン、ツェペリ男爵、老師トンペティ、そしてこのストレイツォの前にはゾンビどもも名を名乗る時間さえもなく消滅していった。
私たちは破竹の勢いでディオのもとに進んでいった」

「さすがに波紋の戦士は強いわね!ディオ以外で苦戦した敵とかはいなかったの?」

ふむ…少しは苦戦したほうがよさそうだな。

「いや、やはり大多数は名を名乗る理性も残っていなかった。4人、ジョーンズ、ボーンナム、プラント、ペイジと名乗った奴らもいたが、このストレイツォの波紋により一撃で消滅していった。
だがディオの根城に近づけば近づくほどに敵は強くなっていった。
このストレイツォや戦士ダイアーですら手こずるほどの強敵も出てきた。
特に勇者ジョナサンが戦った騎士ブラフォードは強かった。
肉体だけではなく、精神においても。
このブラフォードという騎士は特殊な能力を持っていた。
剣術も超一流であったが、その奇妙な能力は勇者ジョナサンを大いに苦しめた」

「それってどんな能力なの?」

「髪だ。騎士ブラフォードは髪を触手のように自在に動かし、攻撃が出来た。奇抜な攻撃手段だが、ブラフォードはそれを卑怯な攻撃手段としては使わなかった。
死してなお、ゾンビとなってなお、正々堂々と戦った。
それでも、勇者ジョナサンは勝利した。
最後にはお互いを尊敬しあっていた。
彼らの間には、友情があった。
そして勇者ジョナサンは、ブラフォードから幸運と勇気の剣を受け継いだ。
ブラフォードともう一人、同じ女王に仕えた騎士がゾンビとして蘇えっていた。
そのものの名は、タルカス、大男のタルカスだった。
ブラフォードには死してなお騎士の誇りが残されていたが、タルカスは違った。
仕えていた女王を殺された恨みがあまりにも強く、そしてその痛みに耐えるには彼はあまりにも優しかった。
苦痛から逃れるため、自らの主君を亡き者にした人間に復讐するため、彼は魂のすべてをディオに捧げてしまっていた。
完全なゾンビとなったタルカスは強敵だった。
騎士としての誇りを捨ててまで勝ちに来たタルカスは、今までのどのゾンビよりも強かった。
タルカスの攻撃方法を勇者ジョナサンに伝えるため、まずはツェペリ男爵が戦った。
二人の戦いを邪魔する者はいなかった。
みな男爵に不退転の覚悟を見たからだ。
私たちは、男爵が他のゾンビに邪魔されることがないよう、周りを蹴散らした。
ジョナサンは男爵の覚悟を無駄にしないよう、失った体力を回復させつつ、タルカスの戦法と実力を学習していった。
ここまでくるとさすがにゾンビたちは強かった。
名も知らぬゾンビですら、これまでとは比べ物にならないほどに強かった。
その時だ、私の懐から一つの道具が零れ落ちた。
チベットから持ってきた、私の最後の、最後の道具が。
それが、君が拾った
石仮面というわけだ」

600ポール:2016/09/14(水) 00:07:00 ID:F1zQOu4g0

「とうとうあの仮面の持ち主だってことを認めたわね。まあ知っていたことだけど」

「ああ、あれは私たち波紋の戦士の最後の手段だった。
徐々に劣勢に立たされていく私たち、男爵も覚悟は決めていたが、それでもタルカスに押され始めていた。
そしてついにこの私は石仮面を使うことを決意した。
今から話そう。
石仮面の秘密を」

「で、あれはいったい何なの?」

「あれは波紋の戦士の力を極限にまで高めるものだ。使用するには少々痛むが、己の力を極限にまで高めてくれる。さあ、渡してくれるか?石仮面を。
あれがあればわざわざリハビリをしなくても、すぐに体が回復する」

はやく

はやく石仮面を我に渡すのだ。輝夜。

「その…今は持ってきていないわ」

「そうか…ならば取ってきてくれないか?物語の続きを話すにはあれが必要だ」

「あれは別に要らないでしょう?…話すだけだもの」

「……」

「ああ、もう!そんな顔しないでよ!あなた怖いわ!」

「すまない」
はやく

「いいわ…私もウソをついてしまったから」

「……」
はやく

「ごめんなさいねストレイツォ。あの仮面は永琳が…」

「……」
はやく!

「危険だからって、今朝粉々に砕いてしまったわ」

なん、ということだ…

「本当にごめんなさいストレイツォ、あの仮面がそんなに重要なものだって知らなかったから。波紋の戦士に受け継がれてきたものだって知っていたら、壊させなかったのに」

なんということだ…

「それになんだかわからないけど、あの仮面をあなたに渡せば、なんだかもう会えなくなるような気がして…。ほんとにごめんなさい」

石仮面が…

「と、ところでツェペリ男爵はどうなったの?後継者ストレイツォが石仮面の力でタルカスを倒したの?」

「……」

壊れた。

「ね、ねえそれで、ツェペリ男爵はどうなったの?みんなと力を合わせてタルカスを倒すんでしょう?」

「いや…ツェペリ男爵は…死んだ」
終わりだ…

「え…」

「タルカスの放った鎖が、ツェペリ男爵の体を真っ二つに切り裂いた」
物語も私も…

「え……」

なにもかも…


次回第三話
堕ちる男

すべてのものが円を描いています。
私たちは自分自身の行いに、それぞれ責任を持っています。
それが円を描いて戻って来るからです。
オジブワ族―ベティ・レイヴァデュ―

601ポール:2016/09/14(水) 00:10:03 ID:F1zQOu4g0
はい。というわけで2話です。
補足として、現時点でのスト様の目的は
石仮面を手に入れること、吸血鬼になること、波紋の呼吸で肉体、魂ともども消え去ること
です。
自暴自棄になっちゃってます。はい。

602みりん:2016/09/30(金) 22:52:55 ID:IctBC4bI0
すげー久しぶりになっちゃってます。いろいろあって筆をとれませんでした。
日付が変わる前にちょこっと投下しておきます。これからはいつも通りのペースに戻せれば…いいな。

603深紅の協奏曲 ―無意識に奏でられる即興曲 3―:2016/09/30(金) 22:53:53 ID:IctBC4bI0
 ……どうしてこうなったのだろうか。
 目の前には鬼と称される、日本にて強大な種族と語り継がれる者、その最たる中で『力』を司るともいわれている、四天王の一角。
 比較的大柄な自分よりも一回り大きなその女傑は、盃をくいと傾け中を呷りながら、今か今かとこちらを待ち続けている。
 どうにかならないものか、と天を仰ぐも、そこには光も何もなくただただ土くれと岩で作られた屋根がその身を主張している。

「どうした、来ないのかい?」

 鬼――星熊勇儀――は挑発するように声を上げる。周りの者たちもそれに合わせて野次を上げる。彼女の部下、慕う若者、ただの飲み客、肴にする見物客。
 勝ちを期待しているのか、戦いを期待しているのか、わからない。少なくとも、自分についているのは後ろで縮こまっているネズミだけ。厄介な夢遊病患者はいずこかへ消えている。
 ……どうしてこうなったのだろうか。








 こいしに手を引かれるままに地底の都へ向かうディアボロ。閉ざされ太陽も月もない、宇宙の光源がない中でも自然の灯りが十分な光を視界に提供している。
 地底の都は人間の都と建築様式はほとんど変わらないように見えるが、限られたスペースを活用するためか、目に余るほどの積み上げるような増築が目立つ。

「地獄へよぉこそ!」

 改めて振り返り、手をいっぱいに広げて歓迎の意を表すこいし。声の先には人里の夜と変わらない風景が広がっている。時刻はおそらく、宴の頂点。地上であるなら夜の歓待に盛り上がることだろう。それはここでもあまり変わらないのか、はたまたより活発なのか。通りにはそれなりの人数が往来している。
 姿こそは人間のような者が多いが、それこそ妖怪の類なのだろう。人間に角や翼など装飾をつけたような者、獣の様相を隠さないもの、完全な異形……申し訳程度に人間を残した姿が、そこら中に広がっている。
 闇に輝く都の灯りは、地上のどことも知れぬ闇に溶けることなく、限りある世界を照らしだす。

「……なるほど、眠らない街、か」
「さ、いこ! おにいさん」

 自分の手を離さない少女は、勢いに任せるままにぐいぐいと引っ張り続ける。衰えることなく、街門のないその中へと誘うように。
 感じ取れる空気は洞窟の中の冷たく、気だるい空気から生き物の熱を乗せた動きのある空気へと変わっていく。嫌が応にも光に安寧を求める者たちの空気、そしてどこかそれに刃向かうような矛盾を持ち合わせた感情たち。

「いかがかな? 禁制の蛇を漬け込んだ上等なものだよ。飲めば並みならあっという間にコロリさ。けど、あなたなら問題ないだろう?」
「……人間? 外の空気を感じる……」
「掘っても掘っても終わりない、だからやめられねえんだよなぁ、なあそう思うだろ?」
「いい臭いだねお客さん。何を求めて? ……血、青ざめた血だって?」
「今日はどうする? またあの赤河童の所にでも……」

 そこかしこから聞こえる喧噪、そしてこちらを舐めるように見つめている数多の目線。人間が珍しいのか、餌が歩いてきたことへの興味か。会話、手を止めてこちらを見る者もいれば、眼だけで追う者もいる。もちろん、気にしない者もいる。
 妖怪の山で感じた、ただただ不快な感覚。

「みんな、おにいさんのこと見てるね」

 僅かに振り返り、こいしは小さな目から視線だけを送って話しかける。

604深紅の協奏曲 ―無意識に奏でられる即興曲 3―:2016/09/30(金) 22:54:23 ID:IctBC4bI0
「わざとじゃあないのか」

 それに対しての悪態を用意した中、その言葉は発されることはなかった。

「ぐっ」
「んがっ!?」

 突然衝撃が走り、視点がぐらりと歪む。全身に走る反動、たたらを踏む自らの足。壁にでもぶつかったか、しかしこいしが前に走っていたはず、そんなはずは。
 歪みが戻れば、目の前には自分を上回る背丈の男たち。自分の握られていた手は今は空になっており、感じていたぬくもりはなくなっていた。

「ぐぅーーッ!? んげ、げげげぇーーーッ!!」
「おいっ、大丈夫かぁーッ!?」

 男は一人ではなかったようだ。彼の周りを囲んでいた3人がぶつかった男を取り囲む。
 せき込む声には粘性の音も交じっており、それは次第に嗚咽も交じり激しくなる。

「……あいつ、どこに行った?」

 周りを見回してみるが、こいしの姿はどこにも見当たらない。人ごみに紛れたか、それともそばの家屋に隠れたか? 彼女の能力を考えれば、見落とした以上、再度探すことは困難だろう。
 目の前にもう一度視線を向ける。先ほどぶつかった男に周りが介抱をしているがこの集団を横切ること、こいしにならできるだろうがそれを行う理由がわからない。

「二人とも、速すぎだ! 追いつくのが……ひっ」

 後ろからようやく追いついたナズーリンの声が届くが、急にそれが低く戦慄く。
 ディアボロの目の前に、ぶつかったであろう男とその周りが怒りに満ちた目で見下ろしている。

「……おいてめぇ、どこ見て歩いてんだコラ」
「まさか俺たち4人が見えなかったなんてことはないだろ?」
「なぁ、答えてくれよ兄ちゃん、ついでに怪我したコイツ、どうすればいいと思う?」
「がぅっぷ、ぷぇっ」

 一人一人が大木を思わせるほどの肉体、自分の力量に裏打ちされた自信、髪をかき分けるように生える揃いの角。
 見たことはないが、日本のイメージ、伝承に伝わる有名な姿、縁起に乗っていた情報。今目の前にいるのは地上から消えた鬼、だろうか。
 なるほど、風格はある。人間にもこれくらいの体格を持つ者もいるだろうが、ここまで威圧感を出すものもいないだろう。群れているから、後ろ盾があるから、武器を隠し持っているから……そういった自身の力以外による強者の余裕ではなく、純粋な自負。
 それらが4人。ぶつかった男はまだ肉の残っている串を地面に捨て口の中に残った血を吐き出し改めて前に出る。

「……お前、人間じゃあないか。しかも、博麗や霧雨とも違う、『ただの』人間。都で何をしていやがる?」

 怒りの中に疑問を持ちながら、何とか拳を抑えながらといった面持ちでディアボロの顔を覗く。鼻息も荒く顔面も紅潮している。癖だろうか、左目の瞼がピクピクと痙攣している。
 返答次第ではただでは済まさない。それも、正論ではなく感情を優先とさせた答えを出せ。それを、言葉なくとも雄弁と語っている。

「……ナズーリン、あの子供を見なかったか? いなければ探してくれ」
「えっ? ……えっ?」
「……んだとぉぉお?」

 その中で、彼は何事もないように後ろを振り返り身体を縮こまらせているナズーリンに話しかける。彼女の目が怯えから困惑に変わり、再び焦燥へとぐるぐると変わる。

「え、今、なんて」
「おい、誰か探してんのか? その前に探すべきがいると思うだがなぁ、えぇ?」

 困惑した声に被せるように男の声、共にディアボロの肩を両の手で掴みよせる。ずいと引き寄せられ、相手も顔を近づけ視界一面に男の顔が映る。

「まず一つ、これは簡単だ。お前の謝る相手だ。それは目の前にいる。二つ目、これも簡単だ。お前の理解する相手。目の前に一人、周りにもたくさーーーーんいる。何の目的か知らねぇが、分を弁えなきゃあいけない。わかるよな、なぁ?」
「……勘違いしているようだが」
「あぁ? ……ぐっ!?」

605深紅の協奏曲 ―無意識に奏でられる即興曲 3―:2016/09/30(金) 22:55:35 ID:IctBC4bI0
 ディアボロの肩を押さえつけていた手の指のひとつが、ゆっくりとはがされ、逆関節へと折れていく。

「私は被害者であり、悪意を持って衝突したわけでもなければ不注意であったわけでもない」
「てめっ、ぎっ」

 小気味のいい音共に、向きを変えた一本はぴったりと手の甲に張り付く。それが終わるとまた次の一本がゆっくりと折れていく。
 痛みにゆがんだ顔のまま、意趣返しにディアボロの肩に力を入れ、肉を、骨をギシギシと潰していく。
 だが、彼は怯まない。

「本来であれば謝罪はどうあれ、怪我に対して憐れむくらいはするが……そちらが来るのであるなら、こちらとしても対応せざるを得ない。何せ、『ただの』人間だからだ」
「な、なんだその力は……! てめぇ、俺の指をッ!」
「降りかかる火の粉は払わねばならない、さあどうするんだ」

 二本目が折れ、力の抜けた、肩に付いた手を勢いよく取り払う。目の前の男は後ずさる、先ほどぶつかったディアボロのように。

「ペイジ、大丈夫か!?」
「なんてことあるかッ、やってくれるじゃねえか人間ッ!!」

 着物の端をちぎると、そのまま折れた二本を力づくで戻し残りの指と巻き合わせ固定する。痛みに顔をゆがめる間もなく一瞬で。
 折れぬ意志を行動と瞳から感じ取れ、それに呼応するためディアボロはスタンドを構えなおす。

「普通じゃないことは認めてやる! だが鬼に弓引いたこと、後悔するんじゃねえぞ!」

 大声を上げ啖呵を切るその姿に、辺りの目もいい加減に集まってくる。そこには奇異と好奇が多く、不安がる様子はどこにもない。
 まるで地底の住人たちの見世物になっているようで、いい気分ではない。

「私はこいしが見つかればそれでいいんだが……」

 目線は外さず、それでも思わず漏れた言葉。なんてことのないつぶやきだった。







 だが、確かにそれが引き金となる。

「……なに?」
「こいし、様?」
「今あいつ、こいし様の名前を出したのか?」
「……まさか……」

 途端に辺りの空気がざわめき始める。小さな声を拾われ、それが辺りに拡散、広大に伝播していく。
 目の前の男も、驚愕の表情を浮かべたまま、もう一度こちらを探るように口を開く。

「……おまえ、なぜこいし様の名を知っている? ……なぜ、地底に来た?」
「その質問にわざわざ答えなくてはいけないのか?」

 返事を返すも、それは待っていた答えではないからか。彼と組んでいた残りの男たちは、がやがやと声を上げるとその場を急いで立ち去る。逃げたのではないのだろう。去り際に残した男に送った目線は信頼だった。

「……こいし様が連れてきたっていうなら確かに納得だ。なんで連れてこられたのかわからないっていうなら尚更だ。……俺たちを見て何も動じないってことは……外の人間とやらか、お前は?」
「……上では大体が一つ見ただけで気づいたものだが」
「こっちには人間が流れてこないからな。死体でない奴なんて初めて見る者もいると思うぜ」

 ……構えは変わらず、だがそれでも口は止まらない。
 攻め入る姿勢のままだが、その心は受動に変わっている。去った男たちは、おそらく誰かを呼びに行ったか。それも、この事態を確実に解決できるレベルの。
 一体何を恐れているのか? こいしの行動と自分に何が関係するのか? 気にはなる。ただ闇に身を浸すだけと考えていた地底旅行は存外面倒の塊のようだ。
 今の自分に必要なのはあくまで自らの境遇を、戻った後を考えてのこと。引き返す暇があるのなら今のうちに引き返し、当初の通り、スカーレットに出向いたほうが。

606深紅の協奏曲 ―無意識に奏でられる即興曲 3―:2016/09/30(金) 22:56:20 ID:IctBC4bI0
「退くなよ」

 機先を封じるようなその声は、対峙する男の声。

「勝手だと俺も思うよ、だがすでに、少なくとも俺程度じゃあどうしようもないんだよ。だがな、一番困るのはお前がこの地底からいなくなることだ、こいし様の意に反して。これは試練だ、あんたにとっては強制だが、乗り越えなくっちゃあならねえ、乗り越えてもらわなきゃならねぇ。さもなきゃ此処ごと道連れさ」
「き、君たちはさっきから何を、こいしが何だって」
「てめえは黙ってろドブネズミがよぉッッ!!」
「ひうっ」

 再びやり込められた少女は置いておくとして、どうにも相手はディアボロを測ろうとしている様子だ。それも、聞き覚えのある言葉を用いて。自分の想定の外に置かれてそのまま何かを課すなど勝手の極みだ。
 一番解せないのは、その内容を何も言わないこと。自分に関係のない場所であるなら、勝手に滅びればいい。だが、男の言葉を信じるのならば道連れに自分も滅びる。

「……私にどうしろと言いたいんだ、お前たちは?」
「簡単だよ。折れない心を見せてほしいんだよ」

 再度の問いかけに、外れのほうから声がかけられる。今までと違う女の声。
 男が顔を向けたのを見てからそちらに振り向けば、屋根の上に盃を携えた女が立っていた。彼らと同じ、額には一本赤い角が主張している。
 こちらが女を認識したとき、盃の一口を運んでから跳躍する。込めた足の力で、脆い家屋のように崩れていった。

「ジョーンズが知らせてくれたよ、こいつが件の男かい?」
「そうです、星熊の姉御」
「わかった。……下がってな」

 彼女の登場で再び辺りの空気が変わる。緊張が安心に変わり、そしてこれから起こる出来事に強く興奮することを抑えている。
 もう少し見渡せば、そこかしこに頭に角を持った者がいて、現れた彼女に送る目線は畏敬を携えている。
 女性の身体だからか、体格は先ほどの男たちに劣るがそれでもディアボロを上回り、角の大きさは他の者を逸している。
 頭目か、それに類する地位の者。

「自己紹介をさせてもらおう。私は山の四天王の一人、星熊勇儀。そしてこれから起こる騒ぎの始まりを担うものだ」
「……」
「納得がいかないという顔をしているし、それもしょうがないと思う。だが人間、少なくともお前は地霊殿に向かいそこで腐らないようにならなければいけない。じゃないと、お前は死ぬだろう。こいしに取り込まれてその魂は成仏することもなく囚われ続ける。脅しじゃあないよ、鬼は嘘をつかない」

 同じようなことを言う。自分の口の中だけにそれは響く。

「……ならば……お前たちは私に何を望む?」

 呆れた表情を抑えられない。こいつらは全ての解決を外から来た男に委ねている。自分たちで解決しようとせず。
 脅しではない、だと。死んで、魂が囚われ続けるだと。笑い話にもほどがある。
 ……だが、覚えがある。自分には。永遠の苦しみ、ゼロに戻され続ける魂の牢獄。
 まさか、味わったことのある結果を、回避するために立ち向かうとは。
 なるほど、男が試練と称したことは偶然だろうが、過去と同じ結末。過程を見せつけろと言わんばかりに。それを回避しろと言わんばかりに。

「こいしがこちらの騒ぎの真意を理解しているかどうかはわからない。だけど、きっとこう思っているだろうさ。みんながお前に注目している、とね」

 再び杯を傾け、中身を減らす。
 注目を浴びているのだとするならば、そこから見えぬものに『与える』必要があるのだろう。
 ……まるで古代の闘技場、コロッセオに立つ剣闘士の気分だ。決して、いい気分ではない。

「さあ、見せてやるといい! 力の勇儀、それに挑む男の姿を!」

 ……どうしてこうなったのだろうか。

607みりん:2016/09/30(金) 22:58:14 ID:IctBC4bI0
以上になります。こいしちゃんトラブルメーカー。ナズマジ小心者。
次回から適当にボコすか殴って地霊殿に行けるかもしれません。

608名無しさん:2016/10/01(土) 01:32:46 ID:Jz.9JtTc0
投稿乙です!
ま、まぁ地底自体もともとそんな場所ですし適当にボコして進むのは
ある意味至極まっとうなことだと思います。
ディアボロ自身『パワーが上がっただけでは俺には勝てない』的なこと言ってましたし。
(勇儀ねえさんレベルのパワーなら話は別かもしれないけど…)

609ピュゼロ:2016/10/03(月) 21:56:52 ID:5AXTwCDA0
覗きにきたらばーっていっぱい更新されていて嬉しい…嬉しい…

610名無しさん:2016/10/07(金) 03:14:54 ID:Wfry14u20
改めてダブスポとかの勇義のコメントをみるとちょっと相手にしてはいけないレベルに評価されてますからね……どうしましょうか。
本来誰にも知られてないこいしちゃん、ここではみんなに知られてもらっているという流れだから喜んでね!恋物語のような恋がしてみたい。


少しずつだけど新作の流れ来てる……!!

611ピュゼロ:2016/10/08(土) 11:08:48 ID:0qVqoaD.0
まだ書いてないので書きました。
そして書いてから思ったのですが、この「鈴仙がドッピオと話してぶん殴られる」話って、やっぱり前に書いたな……?

BGM “Sk8er Boi” by Avril Lavigne

鈴仙ちゃんの突然の死

612ピュゼロ:2016/10/08(土) 11:09:36 ID:0qVqoaD.0
 ※

 鈴仙はわずかに脚を引きずるようにして歩きながら、ぶつぶつと口の中でひとり言を呟いていた。
「うーっ……あー、もう……!」
 ちくしょう、とかすかに毒づいた。
 彼女の師、八意永琳から言いつけられたお使いが、到底達成不可能で、果せそうにないからだ。
 すでに丸二日、不眠不休で動いているが、頼まれた捜しものの糸口でさえ掴めずにいる。……そしておそらく、自分には言いつけを果たすのが不可能だとも思う。単なる徒労でしかなくて、実に無駄な事だ
 彼女の現在の主人の頭をブチ割って、まんまと屋敷から逃げおおせた下手人を挙げて来い――などと。
 ただの兎でしかない彼女には、確かに手に余るものだったのだ。蓬莱人なんていつもいつも無茶ばかり吹っかけてくるとまで思ったぐらいだ。
 だから――
 知らぬ顔をして、ほっぽりだす事にした。

613ピュゼロ:2016/10/08(土) 11:10:12 ID:0qVqoaD.0
 一、

 鈴仙がふと顔を上げると、陽光が真っ赤に燃えながら沈んでいく、まさにその瞬間だった。
 大層ご機嫌な感じだ。
 右手にお団子。そして飴湯。
 徹夜が続いて、少々疼痛のする頭に、甘くて温かいものがとても嬉しい。
 店先の腰掛けに落ち着いて、足をぶらぶらと遊ばせる。その影が夕日に長く長く伸びて見えた。靴先がぐんにゃりと奇妙に歪んでいて、耳のところがお化けみたいにゆらゆら揺れていた。
 隣の男もだいたいそんな感じだった。
「……で、ごめんなさい。何て言ったっけ」
「ドッピオですよ」
「ああ。そう、それだわ」
 しょうが湯から上る湯気ごしに、小さな苦笑が見えた。
 覇気がない、というのだろうか。大人しそうなやつではある。人里ではあまり見かけない名前に、髪の色。珍しいのか、鈴仙の耳をじろじろと見てきた。鈴仙はわりと身長が高いが、そいつもわりと低かった。話しかければ、案外気安さはあった。
「ま、お互い大変よね。探し人なんて。里こそけっこう狭いけど、ここで見つからないとなるともう、どこへ行けばいいやら、ね」
「この辺りにいないなら、外にいる事になるのかな」
「そうじゃない? でもまー、妖怪なら何やらに、食われるほど弱くなければ……だけどね」
「例えばどこに行けばいいだろう?」
「ん。んー? 一番近いとこからしらみ潰しに、って?」
「そうするしかないのかもしれない」
「いや、でも……あそこはやめといた方がいい。なんてったって悪魔の館よ」
「なんだって?」
「ほら、あそこ。あの畔のとこ。赤くて趣味悪いやつ。血に飢えた吸血鬼が住んでるからね」
 話す彼女はけっこう生き生きとして、楽しそうだった。
 それは、ドッピオの人当たりの良さがそうさせるのかもしれないし、周囲の事情からくるものなのかもしれない。永遠亭において、輝夜は主人、永琳は師、てゐは年長、その他妖怪ウサギたちは皆手代のようなものだ。気楽に話せる対等の仲という意味ではむしろ、巫女や黒白といった、弾幕を撃ち合ったりする外の連中との方が多いのかもしれなかった。
「まあ、やるしかないけどね。頼れるのは自分だけだわ」
「……そうだね」

614ピュゼロ:2016/10/08(土) 11:11:02 ID:0qVqoaD.0
 鈴仙は月の兎である。赤い瞳にすべてを映す。
 月から逃亡を果たした身の上であるが、その能力はたとえ地上でも無敵で最強だ。
 両目でじっとそいつを見つめると、湯呑みにふーふー息を吹きかけていたドッピオは少しばかり困ったように笑った。
「どうしたの?」
「……そもそも、なんであんたは話しかけてきたんだっけ」
「それは……珍しかったからさ」
 そう言って、何を馬鹿な事を、というように口元を押さえた。思わず口から零れてしまった、という様子だ。
「何が珍しいの。兎ならそのへんにもいるし」
「俺が……見えているようだからな」
 鈴仙の瞳は狂気を湛えている。
 その目が捉えるそいつは酷く、酷く酷く極々短い波長で、あまりに短く隙間が空いていて、その波長の間隙をうまく縫えば、まるで人ひとりぐらいは隠れられそうなほどにいびつで歪んでいた。
 あるいはなんか足りないのかもしれないぐらいだ。こっそりそう思った。
 この世のすべての空間の、光の、感情の波長、それらは普通目には見えないが、鈴仙にはそれがわかる。
 彼女の無敵の能力は、それらを意のままに操れる。
 病的なまでの臆病さ。それがそいつの本性のようだった。

「あんたさ、何でそんなにびくびくしているの」
「――あ?」

615ピュゼロ:2016/10/08(土) 11:12:12 ID:0qVqoaD.0
 鈴仙は反応できなかった。
 もちろん、手にはお団子を持ってもぐもぐと頬張っていたし、地上に来て串物を食べる時いつも思う事だが(これこのまま喉に刺さったら怖いなあ)とも心配していたし、あいにく夕日が煌々としていても季節柄そろそろ膝の辺りが寒いなあとも考えていたし、この探索上いつもの仕事のスケジュールはこなせていないが師匠はたぶん戻っても溜まった仕事を手伝ってくれないなあなどと心配もしていた。
 それでも反応は難しかった。
 きっと、空の雲はちぎれ飛んだ事に気づきせず、消えた炎も消えた事を自身さえ認識できない……そういった、何かをぶっちぎった、理解の及びもつかない超常の現象だったのだろう。
 さっとかすかに赤い光がきらめいた。
 たったそれだけだったのだ。
「ザケてんじゃあねーぞッ!! なんだってどいつもこいつもまるでどーでもいいような事に首突っ込んでくんだあああああッ!!」
「……う、うう……」
「コケにしやがってッ!! テメーに関係があんのかよ、ええッ!?」
 鈴仙は優秀な兵士だった。
 その兵士としての感覚が、「ああこれこのままだとやべースよ」とフランクに警報を鳴らして、うるさいぐらいだった。
 片方の耳は完全に千切れてしまったようであるし、もう一方も半分ぐらいしか残っていないようだ。
 鈴仙は自分の頭が軋む音を聞く羽目になったが、泣き言をいうわけにもいかない。なにせ博麗の巫女は異変の最中ならまだしも、普段の態度は行雲流水、お金がなければやる気もなさそうだ。瞬間移動に似た事はできるが、いまこの瞬間に間に合うかは完全に不明、たぶん無理。そもそも襲われている鈴仙は妖怪の区分に入り、妖怪バスターの霊夢はこの場にいても事態を静観した可能性さえある。
 だから反射的にぶっ放した。
 鈴仙・優曇華院・イナバは優秀な兵士だった。
 兵士が相手を殺すのは自分の意志ではなく訓練によって刷り込まれた反射行動だ。
 手加減ゼロ、遊びでない本気の弾丸を撃って、そして鈴仙の意識はそこで終わった。
 危険な感じにぼーっとする頭で最期に思ったのは、姫さま用に包んでもらったお土産のお団子が、どうも無駄になったかな、という事だった。

616名無しさん:2016/10/18(火) 19:29:03 ID:6Tmdkkro0
まるくさん、投稿お疲れ様でした!

今回はディアボロへの手荒なWelcome Hell回ですね。
赤河童?みとりかな?
モブにしては指をへし折られても屈しない気骨を見せたのは、流石に鬼と言ったところ。
そして気骨を見せなくてはならないのはディアボロも同じ。こいしちゃんを満足させるまで勇儀姐さんと踊らないと、地霊殿エントランスに死体として陳列されてしまうぞディアボロ。
紅魔館では打倒すべき相手が存在しましたが、地底ではラスボスは誰となるのか。
次回の展開を楽しみにしております!

ピュゼロさん、投稿お疲れ様でした!
確かに、以前似たようなお話を投稿されていたのを覚えています。その時は鈴仙の話し相手がドッピオかディアボロか、判別できないよう表現されていましたが。

>その目が捉えるそいつは酷く、酷く酷く極々短い波長で、あまりに短く隙間が空いていて、その波長の間隙をうまく縫えば、まるで人ひとりぐらいは隠れられそうなほどにいびつで歪んでいた。

こういったセンスビシビシの表現が織り込まれてるから、ピュゼロさんの小説はクセになりますね…ッ!
姫様の頭かち割った下手人は果たしてディアボロなのか否か、非常に気になるところ。

ポールさん、投稿お疲れ様でした‼︎
望み絶たれたストレイツォ、憐れな…
不死でなく不老を求めた彼ですが、精神が死んでしまえば、最早生に価値を見出せないのですね
ここ先の展開は異なるとの事ですので、非常に楽しみにしております!

617ピュゼロ:2016/10/22(土) 20:11:50 ID:y578EAos0
「次に投稿する分」があとちょっとですよと報告しに来ました。枯れ木も山のにぎわい〜
四部アニメ見てないから雑談に加われないわよん。

618名無しさん:2016/10/23(日) 18:49:44 ID:7wzrxrB60
そういえば確かに、WIKIとかに収録されてませんがうどんげが突然死ぬ話は投稿されてましたが、番外からナンバリングに組み込まれて感じでしょーか?
どんげはやられるのも似合いますね。とにかく。話のどのあたりに入るのかも気になります。いったい彼らはどのような足取りをたどっているのか…?

さてもポールさんのストレイツォも、今のところはハーメルン投下分との差分はない…?うどんちゃんがねばねばになるところを見てみたい気もしますが波紋戦士にはノーカン。
痛みを感じるはずなのに全くの気配を出さずに消えていった彼はここではどうなるのか、こっちの展開でも楽しみにしています、ましまし。

619ピュゼロ:2016/10/24(月) 01:17:04 ID:Z/vEnQ4c0
鈴仙が「やられた後の話」を書いているため、これは「やられた時の話」がないと不親切かなと今回あげさせていただきました。
話の結末は決まっているので、その過程の話を書いても、昔と今でそう変わらないと思います。一応新しいのが正しい方としたいところですが……比較すればキャラの捉え方は変わってるかも。なにせ紺珠伝があるもので。
もう一度書いたのは単に忘れてただけです(馬鹿)

ポールさんのところといい、鈴仙は大変そうですね……。みみしわしわにしてあげたい。

620みりん:2016/10/31(月) 08:33:14 ID:fVvCgmOo0
赤河童…みとりかな…
このモブは特別な訓練受けてますので少しくらいは問題ありません。これからもこの4人組はちまちま出てきます。
ラスボスは最初から最後まできっとこいしちゃんかもしれませんがそうではないかもしれません。ゆっくりご期待ください・

自分ももう少しで完成するので来ました。うどんちゃんの耳しわしわにしてあげたいっていうのは誰もが持つ欲望。
自分のSSでうどんちゃんっていつ出たっけなぁ…香霖の所か…

621みりん:2016/11/03(木) 15:04:52 ID:NawRDUkI0
作り終わりになりましたので投稿しまう。
さり気に困るのがタイトルだったりするのは自分だけですかね?

622深紅の協奏曲 ―ただ一人に送られた詠嘆曲 1―:2016/11/03(木) 15:07:18 ID:NawRDUkI0
「勇儀の攻撃を直接受けてはいけないよ」

 自分の後ろに隠れたナズーリンが囁く。

「君は、茶屋の時のように何がしかの力があるのだろうけど……それでも限度はあるだろう。鬼の、特に彼女の力は格が違う。怪力乱神、説明にならないほどの力の持ち主。拳を振るった風圧でも、張り上げた声でさえもその勢いは立派な武器になりうる」
「説明ご苦労!」

 その声が聞こえていたのか、終わり次第に対面している勇儀が声を放つ。普通の大声としか感じられないが、顔をひっこめた後ろの様子では詳しくはわからない。
 杯をいっぱいに傾け全てを口に運び、力強い動作で腕を下す。空になったそれを見せつけると、その様子に気づいた外野の一人が中身を酒でなみなみと満たす。

「私としては直接殴りあってくれたほうが嬉しいがね! だが強さとは単純な腕っぷしだけではないはずだ。かつて多くの者がそれを私に教えてくれた。お前は何を見せてくれるんだい?」
「……」

 注がれた中身を呷りながらも、ディアボロへの目線は外さない。
 憮然としていた彼の表情は変わらないままに、辺りを見回し、そしてすぐに一点に到達する。
 囲む外野の傍ら、光の射さぬ地底を灯す、地に刺さった篝火。今までも変わらず赤々と燃える火が今は熱狂を映しているかのよう。
 そこに近づいていき、自らのスタンドで刺さっている松明を一つ、おもむろに取り出す。傍目には、それは近づいた彼が何も使わず浮き上がらせたように映っているだろう。

「……念動力の類かな? 霊力や魔力なんかを微塵も感じない、外の人間も変わった力を持っているものだ」
「……そうだな。お前たちの目にはそのように映るらしい。この力を知らぬものは皆そう解釈した」

 浮き上がったように見えるそれは、火を勇儀に向けるとややもたつく挙動ののちに一直線へと向かっていく。
 人が単純に投げたような挙動ではあるが、その速度は一般的なそれと比べ物にならないほど早く、並の肉体であれば十分すぎるほどの衝撃を与えられる。……だが、

「ほう! なかなかの勢いだ! だけどこんなものか?」

 空いた左手でそれはたやすく弾き飛ばされ砕け散る。勇儀の周りに火の粉が、残骸が飛び散る。何ら障害にもならないことを、その身をもって知らしめた。
 投げた当人も、それを特に不思議と思わない。固く、確かに突き立てられた篝火を、次はそれごと引き抜く。
 少し揺られた程度では籠の中は散らばらぬほどの深さを持つ。確認すると火の先を勇儀に向け、ままに篝火ごと射出される。重量と速度が乗り、松明単体とは比ではない。
 それを認識した勇儀は肺を一気に満たし、

「喝ッッ!!!!」

 勇ましく踏み込んだ一歩とともに、足元が、大気が激しく揺れ動く。近場の火は消え、多数は轟く声に耳を抑え、頼りの無い者は吹き飛ばされるものまでもいる。
 直撃を喰らった篝火は中身を盛大にまき散らし、吹き飛ばされ、灯火はわずかに種を残すのみとなって残骸と化した。
 立ち込める砂煙の中、再び勇儀は杯に口をつける。視認できないほどではないその奥、投擲と共に駆ける姿勢を確認しながら。

「そらぁああっ!!」

 先に踏み込めた一歩を軸に、高らかに蹴り上げる。目標はその顎下、まともに受け入れれば人の形は保てない。
 もちろん、ディアボロもその程度は読めている。予知を使うまでもなく、勇儀の右手側、杯に埋まった先へ身体をずらして回避を試みる。
 轟音。
 自分のほんの僅か隣で死を呼ぶ柱が通り過ぎる。暴走した自動車が自分へ突っ込み、ギリギリで当たらなかったような、圧倒的な速度と質量。そして遅れてくる風が大地に広がる砂を、残骸の木くずを、散らばる火種を巻き上げる。舞い上がるそれらが身体に衝突することも確かなダメージとなって積み重なる。
 だが、確かな未来はこの直後。杯を高く持ち上げ自らの身体の捻じれによる不利を省みず、鬼の左手は固く握られている。

「わ、わっ……ちょ、大丈夫か、あっ!!」

 声の一撃で姿勢が崩れ、煙の中勇儀に向かった彼を満足に見届けられず、持ち直した先に見えたのは回避した先で、勇儀の拳を今にも喰らいそうな姿。 ナズーリンは思わず目を覆う。どのようなものであれ、死の姿は見たくない。彼が何か力を持っていることはわかるが、それが及ぶものとは思えていない。鬼とは、それほどの格なのだ。
 なぜ真っ向から、と思いながらも僅かに目を開け指の隙間から先を見る。

623深紅の協奏曲 ―ただ一人に送られた詠嘆曲 1―:2016/11/03(木) 15:07:50 ID:NawRDUkI0
「……へぇ、やるじゃないか」
「……」

 その目に映ったのは、姿勢はわずかに崩れながらも、抉れ陥没した地面の淵に立つディアボロ、崩れしゃがみ込み、埋まった手を抜く勇儀。
 左手には強く殴打された痕が見られる。

「鬼の肌に傷をつけるとは。ただの念動力じゃあないね。……というか、そもそもの前提が違うのかな?」
「さて、どうだろうな」

 声と共に立ち上がり、近い距離のまま。どちらも、構えらしき構えは取らず、勇儀は腰に手を当てたまま、ディアボロはただ立ち尽くし。

「さあ、次は何を見せてくれるのかな?」
「悪いが」

 互いが少し手を伸ばせば届く間合い、勇儀は相手を見据えながらも、人間だからと見下げた視点は持たなかった。そのつもりであった。
 それでいて、次の手合いには何をしでかしてくれるか楽しみにしていた。それは、鬼の持つささやかな慢心。


「これ以上はない」

 ばしゃり、と水のかかる音がする。他所から聞こえる音ではない、周りはそれ以上の喧騒に包まれているから。
 酒精の香りが鼻につく。誰かが興奮でこちらに酒をまき散らしたか。否、勝負中の、地位のある自分に対してそのような真似をする間抜けはいない。
 目の前の男が、消えた。……がらん、と自分の足元に、星熊杯が落ちる。

「……あ?」

 全員が認識に時間を要した。僅かな静寂はディアボロが地を踏みしめる音と共に、勇儀の口から発せられる呆けた言葉で分かたれる。

「……あいつ、一瞬で」
「誰か、見えたか? ……いや、それよりも」
「星熊様が、杯を落とした」
「……なんで、どうなっている」
「それよりも、あの男、背を向けたぞ」
「姐さんとの戦いを、背中を向けて……」

 事態を認識するにつれて、中心の二人を囲むように声が上がり始める。

「戦いの最中に背を向けるのかッ!」
「恐れたかッ、臆したかぁ!!!」
「戦いを諦めたつもりかっ!!」
「こっちを向け!」

 どれもが戦いを放棄したように見えるディアボロへの侮蔑。臆病者への非難。矮小者への罵詈。
 だがそれはとある事実へ目を背けているだけのこと。それは鬼にとっての屈辱、他の者では何ものも感じないはずの感情。
 勇儀の顔が赤く、赤くなっていく。酔うはずのない鬼の、しかしまるで酒に酔ったような朱色。

「おまえ」
「こいし、どこだ!!!」

 声を張り上げる。後ろに広がる声と光景を無視して。

「鬼は下した」

 地が響き、空気が揺れる。声にならぬ叫びが辺りを振動する。勇儀の物言わぬ屈辱感が辺りを支配する。誰も何も言えなかった、ディアボロ以外は。
 鬼の怒りが大気を震わせる、彼女の震えるほど握りしめられた右手と共に。

「鬼よ。初めから試すようなことなどせずに真っ向に挑むんだったな。だから足元を掬われる……この場合、手元かな」
「……」
「いつから気づいたか、とでも聞きたそうだな。……よほどの愚鈍でなければ、最初から気づく。鬼は嘘を吐かない、と記述されていたが。どうやらそれは言わずとも心に定めていればその通りらしいな」

 一度も振り返らず、目も合わせずに地底の奥へと足を運ぶ。
 行為全てが勇儀を、周りを逆上させるに十分なプライドへの冒涜。だが、その手が彼に伸びることはない。もし回りが伸ばしてしまえばそれは他ならぬ勇儀への侮辱となるし、勇儀自身も自らの精神に反することになる。
 
「……なるほど、奇術使いか、はたまた詐欺師か。そういう可能性、頭から抜けていたよ。そんな奴でも、正面から叩き潰す。それが私というものだからな……」
「知らんな」
「ッ!! 、また会おうな、人間。次に闘りあう時はその首を抜いて舌を引きちぎって殺してやる、必ずだ!!!」

 酒で濡れ怒りで震える指先で、その背中を指し示す。去りゆくディアボロには、もはや届いていなかった。

624深紅の協奏曲 ―ただ一人に送られた詠嘆曲 1―:2016/11/03(木) 15:08:28 ID:NawRDUkI0



「待て、待ってってば」
「……まだついてくるのか」

 やや離れて、その後を討とうとする者が来ないかを確認していると、来たのはナズーリンただ一人。

「当り前だ。何をしたのかわかっているのかい? ……少しでも君が生きていけるように手伝っているんだよ、私は」

 おそらくあの場から息を潜め、急いでこちらまで駆け付けたのだろう。少々息は荒いが顔は少し青白さが残っている。

「さっきの戦いで君は完全に鬼たちを敵に回した。勇儀の前だからこそ、彼女の顔を立てるために手を出す者がいなかったけどもし君が目のない場所に言ったらそのまま殺され」
「だろうな」
「……わかっているつもりなのか? 死にたい、とでもいうのか?」

 顔色を、真意を伺うように顔を覗きこんでくる。逆に見返せば、そこには心配と疑いの色。

「健闘の勝利でも敗北による撤退でもその後は変わらないだろう。あの子供のいうことならば注目を集められればそれでよかった。何より、あの女のことより前の男の言っていたことのほうが気にはなる。……私に、何をさせる気なのかが」
「……まあ、確かに。はっきり言って異常だ、あの反応は。話に聞いた程度とはいえ、私の知っている地底ではないみたいだよ」

 そういうと、顔を下に向け思案するナズーリン。耳をゆらゆら揺らしながら呟くように、

「元々こいしは……古明地こいしは覚えられていることが珍しい妖怪だ。無意識を操り、無意識に支配されたあの子は他の者の目に映っても意識外に映る。だから認識できない、記憶に残らない。私のように余所から教えられたとかなら別だがね」
「その割には全員が知っているように見えたが」
「だから妙なんだと言っているんだ。……あの姉がわざわざ知らせた? こいしの事をわざわざ、全員に? 要の人物だけじゃなく……地底は何を隠している……? そもそも、何が起こるというんだ……」
「……それを、確かめる必要もあるな。私としても投げ出す気にはなれん。後ろからいつまでも見つめ続けられるのはまっぴらだ」

 辺りを見回す。先ほどの喧騒が嘘のように静まり、こちらを陰ながら伺う目線が増えてきた。先ほどの現場から引き揚げ、自分たちを追っているか。
 そんなものは関係ない。それより、あの子供を視界に収めること。……できるかは、不安だが。

「……地霊殿は、もうすぐだ。それほどかからないと思う。あそこに近ければ近いほど目もなくなるよ。……さとり、こいしの姉について、何か知っているかい?」
「いや……何も知らない」
「…………さとり、名前と一緒だけど種族としてのサトリ。人の、心を読む妖怪だ。こちらの思っていること、考えをすべて読みとることができる。話し合いの舞台が違う、誰からも好かれない妖怪だよ。余程の変わり者じゃない限り、好意的には受け入れられない。相手もそれをわかっているのか、誰とも相手をしない」
「なるほど……気に入らない能力だ」

 つい、と先を指さす。辺りから家を灯す光が消えた先、僅かな熱気を感じられるその方向には様式と規模の違う屋敷が経っている。洋装の館は地底の天井が見えないようにその高さを測れない。
 ここに至るまでに人の姿は垣間見えたものの、こいしの姿は見当たらなかった。
 いつに現れるか、いずれに出てくるだろうか? そう思った矢先に、

「おにーさんっ!」

 後ろから声をかけられる。振り返るとそこには飾られた包みを持った彼女の姿。
 振り返るディアボロの姿を不思議そうに見て、釣られて振り向くナズーリンは、ややあってこいしを認識したようだ。

「現れたね……厄介者」
「すごかったね、おにーさん。みんながあなたを見てたわ。あんなにみんなが夢中になることなんてここではなかった、おにーさんの注目度は最高ね!」

 二人や、他の者たちと違い熱に浮かされ頬を染めながら興奮を露わにする。両の腕をパタパタと振りながら自身の感情を伝えている。

「きっとお姉ちゃんもおにーさんのことを好きになる。地霊殿のみんなもおにーさんのこと好きになってくれる、きっと!」

 今まで以上に笑顔を浮かべ、ディアボロの腕をとりながら先を指す。ナズーリンと同じ方向、地霊殿。
 ……その先にまた一人影が見える。

「呼ばれてじゃじゃーん、あたいにじゃじゃーん、とぉ。……おやぁ?」

625深紅の協奏曲 ―ただ一人に送られた詠嘆曲 1―:2016/11/03(木) 15:09:42 ID:NawRDUkI0
 こちらからは遠くてしっかりは見えていないが、身を乗り出す姿と見覚えのある手押し車。

「おやおやぁ! 空から落ちてきたお兄さんじゃあないか。昨日はあんなこと言ってたのに来るだなんて、いやぁ好きものだねお兄さんも」

 がらがらと音を立て、目を細めて笑顔を浮かべている。火車の少女――火焔猫燐――はのんきな顔のままこちらへ近づく。

「それにおいしそうなお仲間もいたもので……隅に置けないねお兄さんも」
「べ、別に、そういう関係じゃないぞ! それにおいしそうってなんだおいしそうって、私のことをなんだと思っているんだ」
「ネズミでしょ」
「いやまあ、そうだけど」

 ニコニコと調子の良い上辺を繕いながら近づいてくる。その様子は腕にまとわりつくこいしとほとんど変わらない。

「まあネズミさんはいいのさ。地底までの道案内ありがとう、かな?」
「……私は、こいしとやらからここまで誘われたのだが」
「えっ」

 そのものの名前を出すと、先程までの笑みは消え、引きつり青ざめた顔を浮かべる。

「こいし、さまに」
「お前も、何かを知っているようだな」

 隠すことも忘れているのか、それとも先程の者たちのようにそこまで予想外であったのか。

「やっほー、お燐」
「へにゃ! こいし様もそちらにいらしたんで!? いやあ、いつものことだけどあたしゃ気づきませんで」

 あはは、と隠すように笑みを張り付けその感情を隠す。だが、動物の習性が隠せないか、しっぽをだらりと垂らし足元に巻き付けている。確か、恐怖と怯えの印。

「みんなが好きになってくれるおにーさんが来てくれたの! お姉ちゃんもきっと好きになってくれると思うの。お燐もそう思うよね」
「えぇ、えぇ。あたいもそう思いますよ。さとり様にも紹介しましょ」
「でしょ! 私、先にお姉ちゃんに言ってくるね」

 自身の感情を覆い隠し、ただただ主の意見に賛成している様はかつて見たことある光景。答えに機嫌の良くなったこいしは入口へ向かって先に駆け出す。
 その場に残された三人。燐は大きくため息をついて、

「こいし様に目をつけられていただなんて……そんなつもりじゃあなかったんだけど……」
「何か、知っているようだな」
「ひぇ! あたいが呼び水になったわけじゃあないと思う、けど……こいし様だから、わかんない。……申し訳ないけど」

 仮面が外れ、ディアボロに対する恐怖とこいしに対する畏怖が浮かぶ。

「お兄さんの事助けてあげたいけど……あたいはペットだから。さとり様と、こいし様のペットだから。言う事は、聞かないといけない。ただ……」

 服の裾をいじりながら、いっぱいに言葉を選んでいるのだろう。自分の心を裏切らないように。

「なにか、追い詰められそうになったら橋姫に頼るといい。あたいもよく知らないけど……さとり様が地底で唯一関係を持っている相手だ、きっと何か関係しているから」
「…………そう、か。わかったよ」

 地霊殿に足を向けながらディアボロは話す。

「お前たちがどれほど、自分勝手で他人を顧みないかを。……自分の身は、自分で守る」
「え、ちょっと、お兄さん、そんなつもりじゃ!」
「……いや、今の話し方じゃあ誰だってそう思うよ、火車の猫」
「なんでさ!」

 抗議の声を上げながら地霊殿に至る門をくぐる。蝶番も錆び、長く動かされた形跡が見当たらない。
 扉を開いて中に誘われる。動物の匂いが鼻につき、逆に人間の生活間の匂いが感じられない。

「さとり様ー! お燐がただいま戻りましたよー!」

 大声を出して帰りの挨拶。周りにわらわらと先ほどの存在を示した動物たちが寄ってくる。犬、猫、鳥、爬虫類……
 そんな中、エントランスの奥からぺたぺたと、人間らしい足音。

「お帰りなさい、お燐。……客人、かしら」

 外見はよく似ている。短いながらも癖のある毛、胸を中心に全身に伸びるコードと赤く開かれた瞳。こいしと全体的に対照的な色合いが目立つ。
 地霊殿の主――古明地さとり――が姿を現す。寝ぼけたような瞳を向けながら、しかし胸に付いた瞳はこちらを凝視して、じっとこちらを見つめていた。

626みりん:2016/11/03(木) 15:13:04 ID:NawRDUkI0
以上になります。勇儀さんすぐに終わらせてごめんね、けど彼が円満に付き合ってあげると思えないの。
地霊殿に乗り込んで本格的に異変始まりです。異変レベルです。でも巫女は来ませんので異変ではないのかも。

627名無しさん:2016/11/03(木) 20:26:50 ID:cukFljpY0
>>625

628名無しさん:2016/11/03(木) 20:29:02 ID:cukFljpY0
しまった、よくみたら最後凝視してじっと見つめたとか表現被ってるじゃあないか!
って書こうとしたら二重投稿する始末。急いじゃあいけないね。

629ピュゼロ:2016/11/06(日) 04:28:15 ID:TxVUuTek0
うわああ燐ちゃんだああ!
三下くさい燐ちゃんいいですね……許してさとりさま……お燐ちゃん怒られる

はいよーいスタートから始まるバトルはジョジョっぽくないってのが勇儀の敗因ですね。次は奇襲をかけよう

630みりん:2016/11/09(水) 09:11:46 ID:6KVJGWEU0
おりんりん!おりんりんランド始まるよ!始まらないよ6ボス道中の事忘れないからな
お燐ちゃんはさとり様のペットだから助けてあげられないよ、気持ちがあっても。残念だ

勇儀さんマジギレしてますけど大丈夫でしょうか?
よーいスタートではジョナサンでもツェペリさんに負けちゃうからしょうがないね

631ピュゼロ:2016/11/26(土) 20:49:14 ID:WuAK45Gg0


僕も鈴仙の耳をしわしわにさせたくて、させたくて、させたくて、毎日のご飯も朝と昼と晩しか喉を通りません。
東方の一番新しいののネタバレというほどでもありませんが、一応ご注意をお願いします。

BGM “Girlfriend” by Avril Lavigne

・鈴仙ちゃんは二度死ぬ

前回の話で(よく覚えてないけど)腹筋ぼこぼこにされた鈴仙は病床に就いていた
お見舞いと称して彼女の枕元に立つ影はいったい誰だ?

632ピュゼロ:2016/11/26(土) 20:54:00 ID:WuAK45Gg0
 この銃の引き金を引くために、私には耳障りの良い言い訳が必要なんです。

 一、

 どうしても、片方の耳がうすっぺらの枕の下になってしまっているような気がして、鈴仙は何度も身じろぎをした。
 しんと静まり返った病室の中で、やっとこさ具合のいいところに耳を落ち着けたと思っても、しばらくじっと瞼の裏側の虚空を見つめていると、漠々とした違和感がむくむくむくむく膨らんでくる。
 もちろん鈴仙はけがの回復を待っていて指の一本も満足に動かせない。
 それも一因になっているのかもしれなかった。

 彼女の上司である永琳は、おつかい(蓬莱の人の頭をカチ割って逃走した犯人を捕まえる事)を果たせず、やられて戻ってきた姫のペットにあまりいい顔をしなかった。
 必要上の治療だけを施したのち、ベッドの上に鈴仙を放り出してそれでおしまいだ。「首のすわるまで」一晩大人しくしているように、とだけ言い残していった。そのあんまりな扱いに、鈴仙の口から月にいた頃使っていた罵倒や悪態が山ほど出かかったが、聞かれたらコトであるので内心でこっそりとつぶやくに止めた。
 同居人のてゐが嫌がらせに、顔へ真っ白い布を被せていったので、彼女の無敵の能力もいまいち力の振るいどころがなかった。
 長い耳をひたり、ひたり、頭から四方へ伸ばしても、横たえさせられた寝台のその狭さが把握できただけだ。
 これでは暇で暇で仕方がない。
 退屈をつぶすために、頭の中で知り合いと知り合いを挨拶させて、こいつらは相性が良さそうだとか、こっちは会ったとたんに殺し合いを始めそうだとか考えていたが、それもすぐに飽きてやめてしまった。
 ……そんな頃合いである。
 なんの前触れもなしにいきなりがらりと扉が開いたのだ。
 鈴仙はびっくりしてそちらに首を向けた。

633ピュゼロ:2016/11/26(土) 20:56:44 ID:WuAK45Gg0
「……」
「……し、師匠?」
 鈴仙が震える声で一度ぽつりと誰何して、誰も答えてくれずにそれっきり、沈黙が大きく手を広げて圧し掛かってきた。
 知らず知らず、耳がわずかに「くの字」に曲がっていた。なぜなら、最強の鈴仙の能力にも例外というものがあって、その盲点とでも呼ぶべきものがまさに目の前にいたからだった。
 たぶん。永琳さまか、姫さまよ……あの二人にも、あんまり効かないし。
 そうでなかったなら……おそらく、鈴仙はここで腹筋ぼこぼこにされてしまうだろう。……相手が永琳の場合でも、最悪の結末を考えると、あり得る事ではあった。
 そうやって鈴仙が、想像と警戒と、ありもしない苦痛の想起によってぶるぶるぶるぶると震えていると、どこか躊躇うような気配ののちに、ややあってから声がした。
 中空に垂らされた水の一滴のような、快晴の空のまなざしのようなその声は、鈴仙が聞いた事のあるものだった。
「おはようございます」
「お、おはようございます……。……えっ?」
 その声に、聞き覚えはあった。しかし。
 鈴仙の脳裏では最悪の結末が意地の悪そうな妖怪の姿をして、師匠と肩を組んで鈴仙の事をげらげらとあざ笑うのが見えた。二人して、指で下品なしぐさをしたり、「負けて死ね」という意味の書かれたプラカード(おそらく師匠の仕事用の医療カルテ)を振り回していた。
「月の兎(せんし)よ。けがをされたと聞きました。今日は、そのお見舞いに来ました」
「……純狐さん、ですよね?」
 思わず鈴仙がそう尋ね返すと、純狐と呼ばれたその人は、にっこりとした笑みでにうんうんと頷いた。
 それだけで、怖気の走るような力が部屋中に溢れだし、渦巻き始めるのだ。
 それは先だってのかの異変の折に彼女と対峙した際、真の意味での古い力、神霊である彼女がぶつけてきたものとまったく同一だった。
 そしてその時に、投げつけられた言葉たちも、ありありと思い出せる。

「だが、不倶戴天の敵、嫦娥(じょうが)よ
見ているか?
お前が出てくるまで
こいつをいたぶり続けよう!」
「お前に良心の呵責というものがわずかにでも残っているのなら、大人しく観念しろ!
さもなくば嫦娥よ、聞け!
こいつの生皮をはがし、おもてに塩と香辛料を擦り込み、風通しの良い日かげで適度に寝かせ、熟成をみ計らい、からだのいたるところが裂けて血の吹き出すまで転がしてやろう!」
「口だけではないかと疑っているのか?
私は本気だ!
見よ! このうさぎの、臆病そうなくせして妙に増上慢な表情を! 見ているだけでついつい苛めたくなるさまを!
私の怒りは混じりけがないぞ!」
「そして見せよ!
こいつが生きて帰られなくなるか、さもなくば腹筋ぼこぼこにされた上で帰れなくなるか
二つの道を前にして、お前が選ぶものを。お前の答えを待とう!
このうさぎの極限の状態を前にして、お前の純粋なところが露わになる
どちらにしろ、穢れたるこいつの行く末など決まりきっているがな!」

634ピュゼロ:2016/11/26(土) 21:00:32 ID:WuAK45Gg0
 鈴仙の耳はしわしわになった。
 純狐はそれにまったく気づいた様子もなかった。覚えてくれていて嬉しいです。そういって、両の腕を広げて伸ばし、彼女を掻き抱こうと待ち構えた。
 その光景が見えていない鈴仙は、ぎこちなく笑おうとして失敗し、指の先になんだかぴりぴりとしたものが走り、その耳は見る間にしわしわになった。
「お見舞いって……どうしてまた、そんな」
「いけませんか?」
「あの……いえ、お気持ちは素直に嬉しいのですが……」
 ずっとずっと、大きく腕を広げて待ち構えているのに、鈴仙が飛び込んでこないため、純狐は不思議そうな顔をして腕をおろした。
「はて――その顔。どうしたのです? けがをしたのは違うところだと聞きましたが。幻想郷(ここ)では病人にそのような事をするのですか?」
「ああ、これは……てゐが。いえ、同居人なんですが……悪戯で。……えーと、とにかく」
 鈴仙は言葉につっかえた。詳しい説明が(とくに相手が純狐であるので余計に)億劫になった。
 それに、目隠しをされたまま人と話すのも、なんだか変な感じがしていたのだ。
 だから鈴仙は言ってしまった。
 野に生きる兎は、ずる賢さでは狐に及ばず、牙も爪の鋭さもなく、駆ける脚でも到底勝てない。だから彼女らにできるのは、わずかでも早く先に相手を察して、「追いかけるのは面倒だな」と相手が思うのを祈りながら、逃げる事だというのに……鈴仙はそれを忘れていた。
 それを彼女はすぐさま思い知る事になった。
「あの、良かったらですけど……この、目の布を取ってもらえたら嬉しいんですが……」
 そういう事を言ってしまったのだ。

「いいのですね?」

 ぴったりと。
 鈴仙と純狐の、頬と頬がくっついた。

635ピュゼロ:2016/11/26(土) 21:02:15 ID:WuAK45Gg0
「そうね。やっぱり鈴仙ちゃんもそう思うわね」
「??? ……???」
「ほんとはね、先にお薬屋さんにね、手をふれてはダメだって言われていたの。大事だものね? 今日のところはね。ほんの少し、あいさつをするだけ。もし万が一、何かあったら困りますからね」
「……! ……!」
「でもやっぱり。お話しするには、目と目を合わせて、手で撫ぜたりしなければいけないわ。こんなふうにほっぺたの柔らかさを感じたり、指を握り合ったりね。仲良くお話しするためにはね」
「……!! ……!!」
「大丈夫よ。大丈夫。落ち着いて。貴方はあの日見た時からずっと、強いわ。ずっと、ずっとね。すこしの夾雑物も、地上で暮らすものの愛嬌のようなものでしょう。貴方は大丈夫です。すこし、疲れているのですね。私はそれを知っている。いまはただ、ほんのすこし、疲れているだけ」
「……!!! ……!!!」
「ああ、暖かい。やわらかい。あの子を思い出す。すてきですね。毛が生えてふさふさしていて、こんなにも可愛らしいのに、これも確かに貴方の一部分なのですね。まるで違うのに、なんだか懐かしい。ぬくもりが。暖かいです。ねえ。あの子があの子じゃなかったら、私、鈴仙のような娘がほしかったわ。そうでなくとも、あの子と鈴仙が一緒になってくれたなら、きっととてもすばらしいわ。きっと、とっても。ああ……。私の前に立ち塞がるほどにつよくて、優しい子……。おお……。おお……。ああ……ああ!」

「嫦娥よ!!」

 間一髪で――鈴仙は、片方の耳を頬と頬の間に挟みこみ、ぎりぎりのところで彼女の接触を防ぎ切っていた。
 でなければきっと、もっと凄い事になっていただろう。
 どうやら、純狐は鈴仙の耳をしわしわにする事に相当長けているようだった。もしも因幡てゐが見ていたならば「なかなかやるじゃないか、あいつ」と評しただろう。

636ピュゼロ:2016/11/26(土) 21:04:09 ID:WuAK45Gg0
 ※

 純狐にふれられ、鈴仙は自力で上半身を寝台に起こす事に成功した。
 おそらく、脊椎動物だから頭と背中をぐしゃぐしゃにされた後遺症で動けません、などと言っていられなくなったからだろう。

「そうだ。お土産があります」
 純化した想いが膨れ上がり、気の弱い兎ならば心臓がひっくり返るような力を一面にばらまき、鈴仙の耳をしわしわにした純狐は、それですっきりしたようで、けろりとした顔でそういった。激昂してトチ狂いそうになるとそうやって頭を冷静にすることにしているのかもしれない。
 鈴仙はなんだか笑みのようなものを浮かべようとしたが、顔が引き攣って失敗した。「き…気持ち悪いぜ。ダダっ子のように泣きわめいてやがる」とは、もちろん言わなかった。
「はあ……? あの、すみません、なんと」
「少しばたばたして忘れていましたね。ああ、ほら、これです」
 そういって純狐は持ち込んだ風呂敷包みから、畳まれた衣類のようなものを取り出した。
 その変なTシャツにはなんだか見覚えがあった。
 そのTシャツには、「GO TO HELL(地獄に落ちろ)」というのが殴り書きされていた。
「……」
 ふと鈴仙は、地獄の女神ヘカーティアが言った言葉を――純狐から「目の前の兎は、われわれの策を台無しにした敵である」と話を聞かされた時の、
「しょうがない
消すしか無いか」
 という言葉を思い出した。
 その冷たい目を……いたいけな兎の一匹など、なんとも思っていないような目を思い出した。
 鈴仙は耳がしわしわになった。
 ちなみに、その時鈴仙は彼女に対して、
「そうか、月で見た妖精のご主人様って
貴方の事ね
変な格好してるからすぐに判ったわ」
 と言ったのを忘れてしまっているが、それを指摘するものもいなかった。
「ヘカテーからですよ」
「……私、ヘカーティアさんを怒らせましたか」
「あら。どうして?」
「急にあの人に……本当に突然なんですけど、嫌われている気がして」
「そんな事ないわ」
 手に持って広げていたTシャツを裏返して、純狐が不思議そうにいった。
「ほら、ぜひ地獄に遊びに来てください、と書いてあります」
「そうでしょうか……」

637ピュゼロ:2016/11/26(土) 21:14:47 ID:WuAK45Gg0

 二、

「貴方の髪は艶々していてとっても綺麗で、わたしは好きでした。どうしたのですか?」

 ――どきりとする一言だった。
 純狐はお見舞いに来た患者の家族用のパイプ椅子に腰掛けて果物をしゃりしゃりと剥いていた。「お見舞いに来た」という言葉は、少なくとも彼女にとっては嘘も偽りもないようだった。
 鈴仙は「早く帰ってください! お願いします!」という念を込めた狂気の視線が「ああ、この椅子に座ればいいんですか。わざわざありがとうございます」という受け止め方をされてしまい、随分と気落ちしていた。しょうがないので、どうにかわかってもらえないかなあと考えあぐねながら、すっかりしわしわになってしまった耳を頭の前にもってきて、付け根のところから耳の先へ何度も擦っているところだった。
「……えっ?」
 振り向くと、彼女の澄み切った瞳に正面からぶつかった。
 ぱちぱち、ぱち。三度、瞬きをした。
 きらきらと光るような純狐の目を見ていて、鈴仙はそれが瞬きをまったくしない事にきづいた。
「髪って……あっ」
 後ろに手をやって、短く叫んだ。
 元々は足首にまで届かんとするほどの長さだった。それが今では、肩にほんの少しかかるぐらいまでになってしまっていた。これではさすがに一度矛を交えただけの純狐であっても、嫌でも気づくだろう。
「これは……姫さまの仕業みたいだわ」
 前からある事ではあった。一晩の間に彼女の髪はさまざまな長さに姿を変えて、自分より先に主人によっていじくられる事がある。
 言ってどうにかなる気はしないし……どうにかなる相手でもない。
「貴方はそれでいいのです?」
「私は姫さまのペットですから」
 その言葉に、純狐は小さく頷いた。
 そうですか。
 しゃりしゃりと止めていた手を再び動かした。すももとりんごである。どちらも小さく食べやすく切り分けられていた。
「食べられるかしら」
「……ありがとうございます」
 それっきり沈黙が二人の間を通り抜けていった。しばらく、鈴仙のたてるしゃくしゃくという音だけがしていた。
 それは鈴仙にとって別に悪い感じはしなかった。
「好きなものはありますか」
「……なんですか、急に」
「ヘカテーが、こんな時にはそういったものを聞くものだと言っていました」
「あー……ヘカーティアさんですか。いえ、特には……」
「そうですか」
 そういって純狐は頷いた。にこにこと笑顔だ。何をしてなくとも楽しい、彼女に手を焼かされているだけで嬉しい、そういう感じだ。

638ピュゼロ:2016/11/26(土) 21:19:40 ID:WuAK45Gg0
 そのまなざし。透き通っている。
 鈴仙はうつむき気味で、視線こそ外していたが、確かにそれを見た。
 もちろん、この世で鈴仙以上に視線に敏感な兎もいなかった。
 頬に突き刺さってくる、自分の胸内を丸裸にしてどこまでも赤裸々に見透かさんとするそれは、彼女が今まで我が身の事として体験した覚えはなかったけれど、どこか懐かしささえあった。
 もちろんそれは、あらゆる生命の上に歴然としてそびえる一つの事実なのだ。
 鈴仙の知らないそのまなざしは、母親という生き物の持つものである。
「え、ええっと……」
 鈴仙は、急に気恥ずかしくなった。
 好きなものの一つも言えないなんて、どんなに心が貧しくて、つまらない生き方をしているヤツなんだろう。
 ……そんな気がしてきたのだ。
「でも、美味しいなって思うものは……たくさんあります。この前は姫さまが筑前煮を作ってくれて、ほらここって竹林ですから筍が採れるですけど、それで……」
「ほう。美味しかったのです?」
「はい! それに……あと、この季節は、よく裏でお芋を焼いたりします。そういう時に限って、天気は良いのに風がぴゅうぴゅう強く吹く日だったりして、待っている間にすっかり耳や指先がかじかんで冷たくなったりしますけど、その分、てゐ達とおしゃべりしてるのは嫌いじゃないですし……」
「そうですね」
「月にいた頃は寒さに震えてるなんて、無駄でしかないと思っていたのに、きっと昔よりお芋は何倍も何倍も美味しいんです」
「そうね、鈴仙ちゃん」
「あいつら(清蘭や鈴瑚の事)と話した時にはっきりと、私は地上の兎だってわかったんです。そりゃあ、久しぶりに見た月が懐かしくなかったわけじゃないけど……。自分の生まれたところ、一つのルーツですから。でも、それでも、どうしようもないくらいに、思い出すと胸が痛くなるのは……地上での暮らしの方で」
「……それはね、鈴仙ちゃん」
 美しいものばかり、楽しい事ばかりの楽園では、もちろんない。
 日々押し付けられる雑用はキツいし、永遠亭でのヒエラルキーはいっこうに上がらないし、食用兎肉の撲滅活動は難航し、まわりの連中も変なヤツばっかりだ。
 ちょっとしたサボりでもばれたらえらい事になるし、突然襲撃されて腹筋ぼこぼこにされたりするし、ちょっと過激でちょっと頭のおかしな人物はいきなり現れてくるし。
 自分では一生懸命頑張っているのに、それは無駄だ、お前は何もやってないんだと突き付けられる事もある。意地悪なヤツがいて、ただ善意のみで人に迷惑をかけるヤツもいて、嫌な事はたくさんある。
 とつぜん偉い人に「地獄に落ちますよ」と言われた事のある者が――そして言われた方の気持ちがどんなものか、はたして想像できるだろうか?
 ただもしも。
 本当に地獄に落ちる時が来たなら(もちろん鈴仙は、こんなに頑張っている自分に限ってそんな事ありえないと確信していたが……)。
 思い出すのは幻想郷なのかなと、ぼんやり考えるぐらいである。

639ピュゼロ:2016/11/26(土) 21:32:00 ID:WuAK45Gg0
 三、

 あの天に輝く太陽を射止める事など、すでに誰にもできはしない。
 全ての事象に縛られる事などなく、時間はめぐる。抗いようもなく朝日は天に昇るし、どうしたって夕日はやがて沈む。
 それを止める事は誰にもできない。
 決して。
 覆水は盆に返らない。
 無敵で最強の能力を持つ鈴仙でも、不可能な事はもちろんある。神ならぬただの兎の身で叶わぬ事は世界にごまんとあるのだ。

 ある日突然鈴仙を襲撃した神霊は、長い事話し込んでいた兎の姿を見て、とある感慨を抱いたようだった。
 そのために、彼女は突如として凶行に及んだ。それは鈴仙からすれば、茶屋で仕事をサボって一休みしている時にいきなり頭をカチ割られた時ぐらいの衝撃だった。
 その時彼女はどえらい表情をしていて、丁度それは、鈴仙でのルートでいう、
「月の民のその様な姿を
見たくは無かったですね」
 というような時の顔をしていた。

「やっやめてください! ちょ、お前、やめろってバカ!」
「怖がらなくていいのです。大丈夫、落ち着いて。大丈夫よ、大丈夫……」

 シーツに忍び込んでくる手を払いのけ、鈴仙は必死で抵抗した。
 しかし……この世で、無名の存在の添い寝を拒める者などいるのだろうか?
 もちろん、彼女の純化した想いは、この世で最も古き力あるものの一つである。
 いかな鈴仙の無敵の能力でも、それを妨げる事など不可能だった。

「大丈夫ですよ。いまはわたしがいます。さあ、ゆっくり休みなさい……」
「いやいやいやいいや! 離してくださいまだ諦めたくないちょっと! 本当にもう……!!」

640ピュゼロ:2016/11/26(土) 21:43:39 ID:WuAK45Gg0
ここ最近ジョジョを追えてなくてやる気低かったのですが、試しに新しい東方の情報を集めていたら、新キャラがすごい魅力的でモチベがっつりあがりました。ありがとう、ご主人さまのご友人さま……。


「夫はゲイでした」「お相手がゲイだったんですか!?」
というのをどっかに入れたかったです。またうどんげの耳をしわしわにするために、次回までとっておく事にします。

641名無しさん:2016/12/04(日) 23:22:51 ID:IIfXUfhs0
他の視点から見てるから笑っちゃうけど率直に言って耳がしわしわになってしまうと思った
この純狐さんは感情が高ぶるとすぐに嫦娥よ!って言ってしまうタイプに違いない、そしてそれはギャグでもシリアスでも生きていける素晴らしい才能だ
そしてひどい腹パンを通して腹筋ぼこぼこで通してしまうのもナイスすぎる

642みりん:2016/12/06(火) 00:48:11 ID:OgIDPnI60
また書き終わったんで投稿しようと思います。
しかし今回セリフと疑問符が多い気がしますが実際多いと思います。
そしてナズーリンに驚き役を任せてしまっていることにだんだん申し訳なさを感じてくるくらいナズーが進行役です。
決して、彼女弱層ではないんですが……

643深紅の協奏曲 ―ただ一人に送られた詠嘆曲 2―:2016/12/06(火) 00:49:44 ID:OgIDPnI60
 半分に開かれた人間の瞳と、確かな意思を感じ取れる動きを持って見つめてくる胸の瞳。
 何者かを見定めようと、必死に目を凝らしている。初めて会うものすべてを疑うように。

「そりゃそうですよ。顔見知りの訪問者でさえ、年単位で片手で数えられるほどしか此処には来ません。施設に用がある人たちでさえ、担当のペットの元へ皆流れていきます。……お寺の人ならともかくそれを知らないあなた、私は非常に興味を持ちます」

 周りの動物たちも釣られたように、こちらをじっくりと見つめている。だが、それらの視線も目の前の妖怪の視線と比べれば細いものだ。
 自分の心の内側をえぐり、知られたくない記憶でさえも掘り起こしてしまいそうな。

「……そこまでは読めませんよ。私は心を読むだけで眠る記憶まで読むことはできません。手順を踏めば別ですけど。……どうやら、私のことを話には聞いているようですね。ようこそ、地霊殿へ」

 一瞥し終えたのか、目を閉じ顔を背ける……胸の瞳はまだこちらを見つめている。

「お燐、あなたは下がりなさい。彼らの応対は私でやります」
「にゃ、さ、さとり様、あたいは」
「お燐」

 ぴしゃりと言葉で締めると、燐は首をうなだれその場を下がろうとする。

「お兄さんとこいしと私を会わせてはいけない、面倒事が起こる……ですか。でしょうね。ですがお燐、これは私とこいしの問題です。あなたたちペットには関係ない」
「え、でも! それならあたい達だって」
「ペットも家族のようなもの、だとは言いましたが家族ではありません。あなたたちとこいしでは圧倒的に序列が違うのです。……下がりなさいお燐。あなたにはあとで罰を与える」

 冷徹な言葉は、確かに心に響いたのだろう。再び伏せた頭を上げることなく、去っていく姿にはわずかに涙が浮かんでいた。

「……会ったのは初めてだが、予想以上に厳しい主人だな、さとり」
「当り前です。あなたたちの関係とは違います。主従と、愛玩物の違いです。……あなたも愛玩のようなものじゃあないですか? 違いますか、すみませんね、侮辱してしまって」

 顔を合わせても、目を合わせることはなく。言葉を交わすのもほんの僅か。なのに自分の考えは伝わっており相手の心はわからない。

「それが『覚』というものです。……立ち話もなんですね。客間へ案内します、どうぞこちらへ」

 そう言って彼女は奥へと下がっていく。周りの動物たちはディアボロたちを興味深そうに見つめるもの、さとりを追って奥に下がっていくもの、どちらも興味なくその場に留まるもの……それぞれの反応を返す。

「……実際に対峙すると気味が悪いなぁ。……でも、行くんだろう」
「あぁ」

 追従しないわけがない。しなくていいならそれに越したことはないが、それは何も解決しない。彼女からは何も聞けていないし、彼女はそれを知ってなお此方へ誘っているのだ。
 歩を進める。そこかしこに動物のいた名残が存在していてやはり人が使っている館、というような気配は感じられない。動物たちそれぞれが悠然と過ごしていることで、生き物の気配には事欠かさないのが乗じて廃墟の空虚を感じさせる。
 足元を照らすステンドグラスの模様はその上に立ってみれば、光源自体は床のほうからであり壁には何もあらず。厚いグラスに刻まれた模様の底、目も眩むほどの熱が漂っている様。
 その先を、後ろを付いて来ていることを確認して振り返る地底の主。来ないのか、来ないでよいのか。言葉なくともそう尋ねている。

「……」
「……君が入らないなら私から入るよ」
「どうぞ」

 客間の入り口から中を見通しているとその後ろからナズーリンが先に入る。中では主自ら、あらかじめ用意してあったのか、ポットでお茶を用意している。

「警戒する気もわからないではありませんが、こいし当人ならともかく、私は初対面です。歓待の気持ちはあれど襲う気持ちはありませんよ……座って、どうぞ」

 たどたどしい不慣れな手つきでさとり、ナズーリン、ディアボロの3つのセットを卓上に用意する。そしてそのまま席に着き、手を差し出して座るように促す。

「……君が着かないのなら、私は着くよ」

 ナズーリンは席に着いた。だが、ディアボロはそのまま扉を背にして着こうとしない。単純に、相手を窺い知れないし、攻め入る相手に歓待されているという心情が納得を得ていない。
 いただくよ、と一声を置いてナズーリンは注がれたお茶を一口飲む。僅かに鼻に届く香りは、どうやらそれは紅茶らしい。

644深紅の協奏曲 ―ただ一人に送られた詠嘆曲 2―:2016/12/06(火) 00:50:43 ID:OgIDPnI60
「……口に合わないようですね。日本茶はあまりうちでは飲まないので。あなたもどうですか? ……毒なんて、入ってませんから」
「……構わん。それよりも」
「こいしの事ですか。そうですか、それは残念。……さて、何から話したものでしょうか」

 そう言いつつ、さとりはディアボロへ視線を投げかける。陰湿な、穿つような目線は快活だがどこか虚ろなこいしとはまた違う不気味さがある。

「なぜこいしがあなたを狙うか、こいしがあなたに何をするか……ですか。そうですね、その前に軽くですが、こいしがなぜ覚の異端となったか説明しましょうか」
「読みたくない心を読まないよう、閉ざしている、閉ざしてしまった……と私は聞いているけれど」

 口をつけた紅茶に砂糖壺から3杯ほど入れ、ミルクをかき混ぜながらにナズーリンが後に続く。その言葉をうなずいて肯定し、

「その通り、あの子は見たくないものを見ないために、覚としての全てを捨てた。それは妖怪としての自己否定、覚の中の面汚し。もっといろいろやり方もあったでしょうけど、あの子は最も簡単で最も染めてはいけない方法を取ってしまった。……心を読めない覚なぞ、何のために存在しているのやら」

 淡々と、起きた事実だけを書類を読むように話す。だが、それは聞いてて耳に良い話ではない。一番近くの、しかめた顔を浮かべた相手に、

「まあ、そう怒らないでください。あなただって、例えば主である虎の方、突然全ての信仰を投げ捨て、野生としての誇りも忘れ、飼いならされた猫のようになってしまったら。それも一番身近な私、いえあなたに何も言う事もなく。……そう、怒りが湧いてくると思います。不信でもいい。そこからさまざまな事象を思い浮かべる」

 さとりには言葉にも、表情にも熱がこもっていない。おそらく、その裏切りはディアボロが生を受ける以前の、人間の尺度でいえばしばらくに以前の、それこそ感慨に至る程度に過去の事なのだろう。
 目の前でころころと、一点を中心に変わる表情と違い、椅子に座ることもなく憮然とした表情のままに聞いていた。

「そうして、こいしは心を閉ざし、私は今はあの子を憂い心配している。だけど、その心配はこいしに届かない。……伝わらない恋心のように。おしまいです。……いかがですか」
「それで?」

 此方の反応を伺うように話を途切らせ、実際に見つめてくる。だが、話の要点には全く触れても、至ってもいない。
 そして、返事に対していかにも合点のいくように、うれしそうな笑みをさとりは浮かべる。

「ふふ。こいしは閉じた心で、しかしそれでもどこかに縋る心を持っている。きっと私が一番迷惑を被ったとどこか記憶に残しているのでしょう。姉に頼りきりだった自分が、他に依る人を見つけたと話したいんでしょう。……以前にもありました。基準はわかりませんが……どこか、何か。引き寄せるものを持つ者に惹かれます。そして、私に話そうとする。……まるで、つがいを紹介するかのようにね」
「つがっ、えぇ……」

 心底驚き、そして信じられないものを見るような眼でナズーリンが振り返る。

「そんな顔しないであげてください。基準はあの子の基準ですから、私もよくはわかってませんし、私もあの子の言葉を思って推測しているだけですから。まあ、ナズーリンさんがあなたを快く思っていないのはよくわかりますがね」
「私がそいつにどう思われているかなんかどうでもいい。……ここに至るまでに、そのような節は思い当たる。それで、奴は何をする? 外の者が恐れていた、あの鬼の長も言及していた。ただそれだけならば、何も起こらないだろう」

 本当の理由。ただ付きまとうだけならば、それほどの恐怖は抱かれない。

「えぇ。もっとも、あの子からすれば何かしているわけではないのですが……」
「……」
「早くしろ、ですか。すいませんね、悪い癖です。過去の事例からの想像ですが」
「想像……? どういうことだい」
「……先ほど言った通り過去の出来事、こいしは以前も同じことをしでかしました。しかし、その時の記憶は私にはないのです。私だけでなく、他の者にも」

 表情と心に疑問が浮かぶことを待っているかのように、一拍置いて二人の表情を見比べながら、さとりは続ける。

645深紅の協奏曲 ―ただ一人に送られた詠嘆曲 2―:2016/12/06(火) 00:51:38 ID:OgIDPnI60
「あの子は無意識を操ることができる。だけど、それを他の者に使おうとは思わない。……思えない。それは、あの子が他者に使おうという意識がないから。それが平常です」
「……それが先程の話とどうつながるんだ? さとり、さっきからこちらの反応を伺うような話し方ばかりだね」
「くく、すいませんね。覚とはそういう性分なのです。……単純ですよ。あの子ははっきりと思いを告げる。きっと、それだけなのでしょう。だからこそ、おかしくなる。無意識に支配されたあの子が、唯一つ『意識する』。自分のことを理解してほしいと、自分のことを受け入れてほしいと。……そこに、無意識の引き金があることを知らずに、ね」
「引き金?」

 2杯目のミルクを入れながら、ナズーリンは口を挟む。

「あの子は寄り添い方を知らない。忘れてしまった。相手の傍に立とうとするのではなく、相手を傍に置こうとする。自分が思いを伝えれば、必ず相手が歩み寄ってくれると信じている。そう思って、取ってくれると思って手を出したのでしょうね」

 話し続けの彼女は、そこで自らの入れたお茶をすする。

「……おいしくないですねこれ」
「……続きは?」
「ごめんなさい。……あの子が自分を知ってほしいと思ったとき、あの子の力は発動する。意識して『無意識を操る』時、その歯止めをあの子は知らない。……わかる? その意味が」

 ナズーリンの一瞬呆けた顔がすぐに引き締まるのを、頭越しにでもわかる。

「ご明察です。無意識の伝播をあの子は理解できないし、それを止めようとも思わない。あの子の眼には相手の心しか映っていないのだから。周りのことなど映っていない。あの子は視野が狭いから。……相手が無意識に自分を愛するよう願ったとき。結果、無意識のパンデミックはコミュニティの機能不全をもたらす。表層の意識が抑えられ、無意識の行動が止められなくなる。封じられた心が解き放たれ抑圧された思いをはじき出す。
 …………これが、こいしがあなたにすることで起きること、です。あの子がすることは、おそらく自分の心を伝えるだけ、です。覚の最も苦手とする、ね。……私でさえも例外ではない」

 カチャカチャと砂糖壺から4杯5杯とカップに沈めながら、さとりは結論を話した。わなわなと、ナズーリンが震えている。
 彼女の心を読み取ったのか、首をかしげさぞ不思議そうな顔を浮かべた。

「無責任、でしょうか? それは違います」
「どこが違うというんだ! 君のやっていることは大勢に危害を加えることを傍観してるに過ぎないっ! 君がっ、こい、……くっ」
「こいしを抑えておけば……物騒な。口には出さないほうがいいですよ、そのようなことは。幽閉なんて、あまりにも残酷です。それに……」

 くすくすと嫌らしい笑みを浮かべる、その言葉を待っていたかのように。唇の端を歪め半開きの目と、ぎょろり、と音が聞こえるほど胸の瞳を開きながら、

「妹の幸せを願わぬ姉が、いるでしょうか」

 空間を震わせる、振動と衝撃音。彼女の卓上のカップが跳ね上がり、遅れて高い音が辺りに響く。

「……当人の付随のくせに、あなたが激昂してどうするのですか」
「っ、おまえは……っ!!」
「前の奴、どうなったんだ。殺された、でいいのか」
「ええ、その通り。経緯はわかりませんが、気づいた時にはゴミとまとめられており、こいしはいつもと変わらず何も知らない様子で。……彼、悪い人ですね」

 感情を抑えきれないナズーリンに変わり口を開く。単なる確認、しかし重要な項の一つ。さとりの顔は後ろに立つ者、ディアボロへ向く。対峙している彼女と変わって、彼は表情も変えずそのまま聞いていた。

646深紅の協奏曲 ―ただ一人に送られた詠嘆曲 2―:2016/12/06(火) 00:52:10 ID:OgIDPnI60
「こいしの止め方、簡単ですよ。……あの子の恋心を止めればいい。もちろん…………いいですよ、殺しても」
「なっ」

 その言葉を聞き、ナズーリンは振り返る。怒りと、驚愕、信じられないものを見た、という顔を浮かべている。もっとも、ディアボロも予想は着いていた。

「周りに悪意を知らずに振りまき、その飼い主は止めようとせず。もっともそれを被るのであるのならばまず最初に、排除が浮かぶ。当然だと思うが?」
「だ、だからと言って!」
「くく、くっくっ、私も当然だと、思います。現に過去にあの子がやらかした時も、その意見が大勢でしたよ……星熊童子がその場を抑えてくれましたけど」

 笑みを抑えきれず声を漏らしながら、さとりは言葉を紡ぐ。ナズーリンの心を揺さぶるように。ディアボロの提案を肯定する。それが正しいように。
 その二人の、突飛な想像に間に立つ彼女の顔はひくついて歪む。

「何もおかしいことではありません。底知れぬ悪意の媒介者、殺すことも普通。どうにかして殺さず何とかしたいと思うことも普通。そのどちらに立つか……そちらは、前者だったこと。彼が善人であればそんなこと考えもしなかったでしょう。ですが、彼の心の声はずっと、自らにかかる危機の排除しかなかった」

 それに、と一度言葉を止め、再びさとりは続ける。

「彼からは私の能力を不気味とは思えど否定する声は聞かれなかった……手中にあればとも思っていた。……悪い人です、面白い人ですよ。覚はそういう人間がいるから食いっぱぐれない……」

 くつくつと抑えながら笑い、またカップに一口つける。

「……あっま」

 まるで気の入っていない、今まで一本調子だったさとりの声。確認のためだけ、動揺することなく口を開いたディアボロ。ただ一人、ナズーリンだけが振り上げた手を下すこともできずに立ち尽くしていた。






「それで……どうしますか? こいしが現れるまで、ここに滞在しますか? ここは広いですから、過ごす部屋はいくらでもあります。もちろん、ペットの部屋じゃあないですよ」
「……こいしはもうここにいるんじゃないのか? さっき、地霊殿に向かったはずだったんだが」

 ナズーリンが自分が落としたカップを拾いながら、疑問を投げかける。まだ言葉の端々にとげは残ったままだが。

「……ええ。ですがここで見えない者を探すのも大変でしょうから。話に聞いていますが上の吸血鬼の館と遜色ないくらいには広いですよ、ここも」
「そうか……君は、どうするんだ?」

 ディアボロに振り返るその顔は、やはりこちらにも思うところがあるのだろう。さとりへと向けられたとげは同じく残っている。

「……その女の言う通り、奴を探し出すのは容易いことではない。ただ何もせず待つ、というわけではないが……どうせ、お前は殺さないよう、私を見張るつもりだろう。……こいしの部屋は、どこにある」
「……わかりました、案内をつけます」

 そういって手を叩くと、黒い小さな猫が入口から顔を覗かせる。

「お燐とは別の猫です。黒い猫、だけならうちにはまだまだいますが、人型になれる2尾はあの子だけですよ」
「……また猫かぁ」

 小さく声を上げると、手と尻尾で器用に扉の外を指す。ついて来い、と言っているかのように。

「……」
「……行こうか。……さとり、君を見ていると聖の思想、到達への長い道を改めて感じるよ」
「お褒めの言葉、どうもありがとうございます。あのような方がいるからこそ、私たちは繁栄し続ける。つまはじき者は、互いに傷を舐めあうことを良しとし、手を取られることを拒むのですから」

 その場を後にする者に、最後の言葉が投げかけられる。背中で受け取った二人は、しかし互いも変わらず表情だった。
 二人とも顔を合わせることなく、長い廊下を歩いていく。動物たちの息遣いと、僅かに聞こえる足音が、二人の足に合わせて響く音を装飾している。

647深紅の協奏曲 ―ただ一人に送られた詠嘆曲 2―:2016/12/06(火) 00:52:41 ID:OgIDPnI60




「……本当に、殺すつもりかい?」

 正面、猫のしっぽを見ながらナズーリンは隣のディアボロに尋ねる。

「必要ならな」

 端的に、それに返答する。
 彼女はもう理解できる。短い間で、かつ会話はあの喫茶だけでだが、それでも彼は殺すといえば、殺すだろう。
 やや考えを巡らせた小さな手は、ポシェットにあった水入れを取り彼に向ける。

「……何も飲んでいないだろう。さとりたちを信用しないのであるならば、私くらいは信じてくれ。君が殺しをしてほしくはないが、君に死んでほしくもない」

 それは彼女の固い芯の一つなのだろう。そして、間に立ち入ることもできないことを理解してだろう。
 元来の容量も少なく、さらに飲みかけだ。乾いた体を完全に癒すには程遠い量。

「……」

 何も言わず受け取り、飲み干す。このような形で人から貰い受ける、こと躍進を始めてからなかったかもしれない。
 飲み終えたそれを返すと、彼女は何も言わずに受け取った。
 なぅ、と目の前の黒猫が鳴き声を発する。扉が二つ、開いており中は小さな寝室。

「……私はここで待っている。君は自由にすればいいさ」

 言い放つ彼女はこちらに目もくれず部屋の中へ入っていく。落ちた肩は、何も追いつけていないことに対して苛立っているのかもしれない。
 みぃ、と再び猫の鳴き声。前足をくいくいとさらに先へと伸ばしている。
 歩みを進めようとしたその時、

「彼は殺しに行く。彼女は殺すかもしれない。私はどちらに付けばいいか、わからない。1000年経っても、それはわからない」

 頭に声が響く。耳からの声ではない。まるで、精神に直接響くような。

「聖なら、ご主人なら、すぐに答えを見つけることができるだろうか。……私は未熟だ。彼に考えさせることもできない。……彼の、名前も知らない」

 先ほど分かれたはずのナズーリンの声。だが、振り返ってもとうに扉は閉じ切っている。
 わざわざ扉越しに? 理由がつかない。何より、聞こえる声に説明がつけられない。これは、ディアボロに語り掛けているのではなく、まるで自分に語り掛けている様。

「私に何ができるだろうか? 私は監視者、傍観者だ。……何も、できはしない。このまま、全てを忘れて眠りたい。祈ることしかできない自分を、さらに追い詰めるように」

 まさか、と思い部屋前に駆ける。ノブを破壊するかの如く、勢いに任せて押し開く。

「これ、は……!?」

 すぐそばの壁にもたれかかり、虚ろな目のままに床に伸びるナズーリン。そして、そのすぐ上に立つはおぼろげな、色合いの薄いささくれた、それも同じナズーリン。
 存在感の類似は、まさしく自分の傍ら、スタンドに近しい。
 ぶつぶつとうわごとを呟いているのは、おぼろげな方。今の立ち入りでかなりの音が発せられたが、まるでそれが聞こえていなかったように何も反応を示さない。
 ……そして裏に足音とまた新たな人の気配。動物ではなく、人。

「……恋物語のような恋がしたい」

 存在を理解できる。まるで、自分から誇示しているかのように。姿は見えなくとも、その声でどこにいるのか理解できる。

「気持ちを伝えるには、まず相手の目を見て話さなきゃ。応援してね、帽子さん」

 廊下の先、倒れた猫の奥。果てに見えるその姿……整容したか、少し小ぎれいになった衣装に変わった、古明地こいし当人。

648みりん:2016/12/06(火) 00:56:50 ID:OgIDPnI60
以上になります。まだごみくずと読まないでください。
若干さとりさんがさどりさんになってますが自分はこういうイメージでした。こメージです。
いくらか本来の筋と対照的ですけどやはりどちらの姉も恐ろしいことをしてしまったということ、そしてそのフォローが天と地の差な感じがします。
ナズーが本筋より早くデレた。

649ピュゼロ:2016/12/08(木) 08:26:12 ID:O6q.lHb60
ボスはアイスを食べやすいよう輪切りにしてくれる優しい方ですし、さとりさまも鼠を輪切りにしたりしそう(偏見
つがいってところで「ああそうか……」って納得しかけましたけど、僕はまださとり妖怪は第三の目が少女に寄生してる説を捨ててません。
ナズっちゃんにあんまあれすると毘沙門天さんがね…

650みりん:2016/12/09(金) 21:36:14 ID:tFGUZyL20
ひえ〜〜っ、ネズミを輪切りだなんてそんなことをする人がいるだなんて〜〜っ
おっ、きれいな美術品だなな、きっとボスからのお祝いのメッセージだ!

さとり様はナズーに対して何もしてないだろ!いい加減にしろ!でもするかしないかで言ったらしそう(偏見
覚妖怪はもともとサル系の見た目だしきっと東方世界の覚妖怪は人間と子供作れそうでそんな感じだとひどいことにも会いそうだと思いますので
しかし寄生妖怪とかそういうのも好きです。そういう世界もありだと思います。ドキドキしてくる。
毘沙門天様強いから。ナズーはたいして思っていないかもしれませんが命蓮寺のみんなはナーズちゃん好きな気がする。

651ピュゼロ:2017/01/22(日) 02:55:56 ID:IeD7ISTM0
もうちょっと長くなる感じでしたが、眠くなってきたのでここらで一話とします
このジョルノジョバーナには夢がある(アニメ化するとは言ってない)

陽落ちて その①

652ピュゼロ:2017/01/22(日) 02:57:15 ID:IeD7ISTM0

 熱々の鍋焼きうどんである。
 土鍋に一人前のおうどんを入れ、ぐらぐらと煮え滾るぐらい猛烈に熱くした料理である。
 伝統の幻想ブン屋、射命丸文の前にだされたものには、おうどんの他にシイタケ、シメジ、マイタケを初めとしたキノコなんかや、ネギ、ホウレン草、三つ葉、ニンジンなどの野菜が入っていて、他には衣のさくさくとした鳥の天ぷら、紅白のかまぼこ。そして一番上に生卵が割り落とされている。
 麺はやや柔らかくあげられている。塩は貴重なため、どちらかといえば味付けはやや甘めであるだろう。ネギは二通り、白い部分をざくざくと乱切りにしてだし汁に染み込ませ、葉は刻んで散らして彩りに。
 湯気と共に鍋の香りが立ち昇る。卵が少しずつ少しずつ固まっていく。
 夜の人里でメシを食わせる処は少ない。夜は妖怪の時間だからだ。
 彼女がメシ食う店屋の二階の部分は大きく吹き抜けになっていて、風通しもすこぶる良いし、上空で弾幕でもぶたれていればそれを肴に酒も呑める。人の里という立地を考えなければ、天狗にとって中々気分のいい店だった。
 もっとも、彼女らにとっての最良は、いちいち歩いて階下の暖簾などくぐらせずに、そのままうえから飛んで出入りさせる事であるのだが。
 射命丸文はもちろん、そんな仕草は毛ほども見せてはいなかった。

653ピュゼロ:2017/01/22(日) 02:58:18 ID:IeD7ISTM0
「手のひらを前へ……ひじは直角……」
「なにしてる?」
「これですか? 記事を書く前の準備体操です。……だそうです。同僚がやってたんでマネしてみました」
「取材か」
 机の対面からは、極々小さい、騒霊の声。
 小さく灯された明かりに浮かぶ金の髪を揺らして、ルナサ・プリズムリバーは小首をかしげた。
 ちょっぴり、面倒そうな感じがする。
 人里まで顔を出せと、突然言われていそいそとやってきたはいいが、ただ酒を呑んで終われるようではなさそうだ。天狗も中々話がわかると思ったのは間違いだったらしい。
 酒とうどんが用意されていたところまでは順調だったのだが。
 妹たちに目的も告げず、黙ってこっそり、しめしめとほくそ笑んで来たのがよくなかったのかもしれない。
「ま、あの子なんかは準備体操がどーのよりもまず、自分の脚でネタを稼ぐという事がわかってないんですけどね」
「そうか。自分から動くのは……大事だな」
「いやあおっしゃる通りで。ささ、どうぞどうぞ」
「すまない。うん」
 示し合わせてぐいと酒をあおった。
 昼間と夕暮れと長く続いていた太陽の照り付ける視線もようやく落ち着いて、代わりに月の明かりの下でよどんだ風がふわふわと吹き抜ける夜だ。
 ぐびりと喉を落ちた酒は熱くもぬるくもなく、そのさまはまるで、生きてる人間みたいだった。

654ピュゼロ:2017/01/22(日) 02:59:44 ID:IeD7ISTM0
 一、
 そんなような事があったかどうかは定かでないが、魔理沙がやっとこさ射命丸を探し当てた時、そいつはすでに相当できあがっていた。
 先に見つけたのは彼女の方からだ。
「あ。魔理沙だわ。おーい魔理沙ァ。この白黒やろう」
「あ? 誰だよ、おい、どこだ?」
 夜の往来の中で魔理沙の金髪は店の二階からでも目立つのだろう。うえうえぇ、ここですよーう、などという声を探してあちこちきょろきょろ見渡す魔理沙の魔女帽子に、こつんと何かが投げつけられて、拾い上げればそれは濡れたお猪口だった。
「アハハ。なんだろあいつ、すっげー暑苦しそう。ウハハハ」
「いってぇ……お、お前これ、よくも二階からこんなもの投げてくれやがったな」
 帽子を脱いで小脇に抱え、頭を恐る恐る撫でてみると、ちょっとたんこぶになっていた。
 魔理沙は涙目になった。
 怒りのままにだかだか二階へ駆け込むと、アホみたいに大笑いしている射命丸がいて、もう一人、金髪で黒いとんがり帽子の、微妙にキャラ被りしている仏頂面のやつがいた。
「よ、よう……ええと、久しぶり? かな」
「上昇気流……」
 魔理沙はそれにややひるんだ。
 とはいえ彼女には、はっきりさせるべき事があった。
「で、どっちがこれ、投げてきたワケ?」
「あっちの、ルナサさんですよ」
「ゆ゛る゛さ゛ん゛!!」
「上昇気流……?」

655ピュゼロ:2017/01/22(日) 03:00:56 ID:IeD7ISTM0
 しばらくそうやって、ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあ二人して騒いでいた。
 だけど、魔理沙が焦っているとみるやいなや、一転、射命丸はまだ箸の付けてないおうどんを盾にとった卑劣な遅延作戦へとうってでた。
 遅延というか、射命丸自身もまだ熱くて食べられないんじゃないかと魔理沙はこっそり思った。
 猫舌ってか……ほら、なんとかって言うだろ? あれだ。
「ねえ……わかりますかねえ。魔理沙さん? どこにヒトが飯食ってる時に邪魔するやつがいますかね」
「ほらほら。見てくださいよこのこだわりの麺の具合をさあ。ここの自慢のところなんですって」
「ホントかどうだかまぁったく知りませんけどね! アハハハ」
 魔理沙はよっぽどぶん殴ってやろうかと迷ったが、あんまり酒の入った天狗を強くゆすったりすると、なんというか、ひっくり返ってしまうのだ。胃袋の中身があれしてあれで。
「マアマアマアマア、ね? 食べ終わるまで待っててくださいよおぉ」
「こっちは急いでるんだ。早くしろよ」
 魔理沙は取り付く島もない。
「ネエネエネエネエ、まま落ち着いてください。どうです? なんなら、御一口」
「そういうのいいから。噛まなくて良いから」
 しかし、そんなふうに言われたら、絶対におちょくってかかるのが天狗という種族だ。そういう意味では文も間違いなく天狗だった。レンゲで掬って、わざとらしく啜ったりしている。
 ルナサは静かにうどんを食っていた。
「それにしても、何だか暑いっすねー。冷たいモノ頼んでいいですかー?」
「ならわたしが食わせてやるよ」
「ちょっやめっ、あつあつあっつつつ!!!」
 こいつらいつも何か食ってんな。

656ピュゼロ:2017/01/22(日) 03:02:18 ID:IeD7ISTM0
「わたしはお前と遊んでるほど暇がないし、お前がおうどん食うのを待つ気もない。いいか? わたしの質問に二秒以内でお前は答えるんだ。それ以外はない。でないと次はそこのゆーれいの番だ」
「……えっ?」
 ルナサはびっくりして、うっかり口の中のおうどんをほとんど噛まずに飲み込んでしまった。ルナサ以外の二人はむしろ、こいつうどんぐらいでいつまでもにゅもにゅやってんだと思っていたぐらいだった。
 魔理沙は静かに八卦炉を構えた。ぴたりと、その照準が射命丸のこめかみに合わさった。
「ウーノ。ドゥーエ」
「ぼくのまぶたが!! おりて来るよォオオオオオオッ」
「じゃあ死ね」
 射命丸は撃たれた。
 パァニ……パァニ……。

657ピュゼロ:2017/01/22(日) 03:03:43 ID:IeD7ISTM0
 二、
 痛てて、ホントウに撃つんだもんなあ……と射命丸は頭を擦りながらいった。
 彼女の黒髪が黒以外の色に染まるぐらいで、ちょっとやばい感じだったが、幸いにも酒が多量に入っていたため、大事には至らなかった。お酒、飲んでてよかったなと射命丸は心から思った。
「それで、なんですって。えーと、なんだか」
「人を探しているんだっての。何べんおんなじ事を言わせるんだよ。……マジで何回目だよ。外来人だかどうかも定かじゃないが……日本人っぽくなかったな。それで、なんというか……あれだな」
 魔理沙はぐもぐもと何度も言いよどんで、未だ自分の中で整理のつかぬ全体像を簡潔に言葉にしようとした。
 何の痕跡も残さず、忽然と消え去った人間。
 そうした中で、まんまと妖怪をぶっ殺したと思しき人間。
 そういう事を言った。

 射命丸はそれを聞いてもなおへらへらと笑っていた。
 そしてそのまま、軽薄な笑みを浮かべたまま、すっと一段低い声で言った。

「それはいったいどっから聞いたんだ?」
「は?」
「狸か? それとも狐か? ああ……いったいぜんたいどうしてまた、お前ら人間は、どーでもいいような事に首を突っ込んできて、知るべきではない事を知りたがるんだろうな?」

658ピュゼロ:2017/01/22(日) 03:05:18 ID:IeD7ISTM0
 下から見上げるようにして、忌ま忌ましげな、どこか棘のある絡みつくような口調で、射命丸は睨みつけてきた。
 まるで……魔理沙の事を、ここで殺しても問題ないかどうか、その判断に迷っているようだった。
 辺りに人目はあるのか? 暗いからばれないか? こいつと最後に話したのはどいつだ?
 カラスの羽の濡れたように艶々とした瞳の奥では、そういう事をいろいろと――考えてはいたのかもしれない。
 もちろん……彼女は間違いなく、天狗という妖怪である。
 ちょっとだけズルをすれば、問題が楽になったり解決するという時でも、真面目ぶって融通を効かせられない妖怪だ。間違いなく、文も天狗なのだ。
 その目は、魔理沙が揉め事面倒事厄介事に首を突っ込む時の、妖怪連中がこぞって浮かべるものと同じだった。そういう目つきをされるのは慣れている。本気で殺されるわけではないし、向こうもそこまで本気ではない。彼女だって自分より弱いやつにむざむざ殺されてやる理由もない。
 ただ、射命丸がそういう目をするとは思っていなかった。だから。
 ちょっと怖くなっただけだ。
 それからやっぱりむかついたので、右手でぐーを作ってからぶん殴ってやった。
「痛いっ!? ちょっ……ライダー助けて!」
「言えっつったのに言わねーのはおかしいよなあ!?」

659みりん:2017/01/29(日) 22:33:37 ID:h/mdYFCM0
なんか女子校生三バカトリオみたいな空気だなあ(飲酒
けどなんかこう穏やかな空気からの展開からの元通りの節、本当に有能かつ描写がうまくて憧れちゃう
天狗も狐も狸も、みんなは何を見て何を考えているのだろう?魔理沙が彼に再び会えるかもわからない。
ご飯もおいしそうだ。文ちゃんにぶっかけうどんしたい

660ピュゼロ:2017/02/03(金) 01:39:06 ID:tVoauhAQ0
「ねえ、妹紅。クイズ」
「あー? ……帰るわ」
「待ちなさい。ちょっとした問題よ。簡単なの。あたしとアンタ、どっちが強いのか? みたいなね」
「そんなの、決まりきった事じゃない。馬鹿らしい」
「レディ・ガガにパロディの許可を申請したら、本人じゃなくてマネージャーが独断でそれを断った。のちに事情を聞いた彼女は“とんでもない!彼は最高なのよ!”と憤慨したそうよ。そのパロディ歌手は?」
「……誰なの?」
「“今夜はビート・イット”のパロディ、“今夜はイート・イット”も歌ってるわ」
「……アル・ヤンコビック」

661ピュゼロ:2017/02/03(金) 01:40:59 ID:tVoauhAQ0
ありがとうございます。
>>文ちゃんにぶっかけうどんしたい
だめだよー
>>魔理沙が彼に再び会えるかもわからない
そ、そのうち再開するよー……

662みりん:2017/04/30(日) 02:31:21 ID:mRK9UJvU0
大変お久しぶりになります。
控えめに言っていろいろモチベが上がらずまったくSSを書いていなかったのですが、ようやっと重い腰を上げ始めることができました。
まだ途中ですけど、生存報告もかねてほんの少し投稿させていただきます。

663控えめに言ってこいしちゃんがいじめられててかわいそう:2017/04/30(日) 02:32:25 ID:mRK9UJvU0

 不思議な空間だ。
 足元の転がっている猫には、その近くによろよろと歩き始める同じ姿のささくれた猫。
 傍らには、被っている帽子をいじくりながら、少し顔を伏せて自信づけるためか床面に話し続ける少女。
 ……そして、それを警戒している自分自身。
 もはや姿を隠すには背を向けて逃げるか袋小路の部屋の中へ逃げるのみ。

「自分の心に負けてはダメ。アイを伝えるには相手に伝わるまで押して押して押してあげなきゃ」

 よしっ、と最後に締めくくりながら、こいしは改めて顔を上げディアボロと目を合わせようとする。
 踏み出すのは、彼女が顔を上げきる前。

「お、うぶぅっ」

 眼前に広がった顔は確かに淡い恋心を抱き、秘めた思いを相手に伝えようとする、小さな少女の顔だった。意志がありありと感じ取れ、見る者ならば頬を緩めてしまいそうな花があった。
 だがそんなものはディアボロにとっては関係なく、むしろ好機ですらあり、ゆえにその一撃は確かなものになった。
 キングクリムゾンの一撃はその花を一瞬で散らし、一瞬開いた小さな唇からは詰められていた空気が唾液と共に飛び散る。勢いは彼女を応援してくれる……らしい帽子と整えた衣装を崩し汚す。

「あっ……くぁ、げ……」

 腹部に加えられた衝撃は体をくの字に折り曲げそのままみじめに倒れ伏させる。とさ、とゆっくりと降下した帽子が床とこすれて小さな音を立てた。
 目の前に転がる小さな頭。ディアボロはそれを踏みつける。道の真ん中に転がる小石をどかすように、何も感情が込められていない。

「やめろ」

 腹部を抑え蹲るこいしに対して、刃物を突き付けるように言葉をかける。

「お前は私に特別な感情を抱いているようだが……私はお前ごときに何も抱かない。恋愛対象とも、庇護対象とも。噂を聞き、きっかけがあったからここに来たが、それはお前のちっぽけな欲を満たすためではない」

 言葉の一つ一つを発するごとに、強く踏みにじる。足元からは骨のきしむ音と力を入れるたびに隙間から漏れる呻くようなつぶやき。

「諦めるんだな。実らぬものに手を伸ばし続けることなど無駄なことだ」

 最後の一言と共に、その幼い小石を力強く蹴り捨てる。尋常であれば首の骨が折れてもおかしくない程度には力を込めたが、妖怪である彼女には問題はないだろう、とディアボロは考えていた。彼にとっては、死んでくれてもかまわなかった。
 廊下を転がるその軌跡には点々と血が飛び、踏みつけていた箇所には漏れ出る、には多すぎる血の跡がついている。
 そんな、壁に転がりついたこいしの襟首を掴み上げ、無理矢理に立ち上がらせる。同じ高さに揃えられた頭部は、先程まで告白を思っていた少女の顔ではない。
 小さな鼻はひしゃげ何本か折れた口の中、蹴り入れられた左頬は青く醜く崩れている。開いてるか開いてないのかわからない瞼の奥は、まだ混乱が見えた。
 どうしてこんなことするの。どうしてこんなことするの。わたしはなにもしていない。わたしはあなたをおもっていたのに。
 そんな声が聞こえるようだった。

「……力を解除しろ。面倒をかけさせるな」

 鉄の匂いが鼻を衝く。人に似せた姿は血の匂いまで似るものなのか、ディアボロからすれば幻想郷の妖怪と人間の差が分からない。わかっているのは人間での致命傷に至る負傷でも、十分に生きていること。以前の戦いがそれを記憶している。今のこいしの状態も、人間であれば意識混濁しているだろうが妖怪ならそうではないだろう。
 だから問うた。十分に注意はしていた。そのつもりだった。

664名無しさん:2017/04/30(日) 02:33:32 ID:mRK9UJvU0

「……おにいさん、私の能力を知っているの?」

 顔の色が入れ替わった。先程までの不安と苦悶の顔ではなく、好奇を得た顔に。紅に塗れたそれは変わらず、それでも笑みを浮かべている。

「うれしいなあ、私のことを知っててくれて。うれしいなあ。……でも、どこで知ったの?」

 顔周りと違い傷のついてない手が一つ二つと首元の、ディアボロの手と重なる。固く骨ばった自分の手と違い、先まで整えられた華奢さと未成熟な肉感。

「私のことを知っている人はいないの。誰も私のことを知らない。……ううん、違う。一人知っている。なんで、おにいさんが知ってるの」

 それらが根付いている元の袖から一つ、二つ、三つ四つと青色の管が伸び、主の手と同じく彼の手を包み込もうとする。それは、違いなく彼女の閉じた瞳と同じ色に染まっている。

「またお姉ちゃんね、またお姉ちゃんが余計なことをしてくれたのね、また、私の事なんて何もわかって




 穏やかさをも湛えた笑みを浮かべていた瞳は徐々に暗く淀み、何かを呪詛のようにぶつぶつと口走り、縋るように組み付いていた手と管は握りしめるように力を籠め始める。いや、籠め始めていた。
 その拘束が完全となる前に、地霊殿は崩れだす。それは、ディアボロだけの感じうる感覚。時間を飛ばしている間、自分だけの世界。その中では、あらゆるものが自分を縛らない。
 掴んでいた手を放し、纏っている管から手を引き抜く。縛られた枷を失ったこいし当人は緩やかに未来への軌道を描いて落ちていく。数秒もすれば再び床に転がり、対峙している相手がどういうものなのかを理解するだろう。
 理解は一瞬でいい。今まで曖昧にしていた彼女の未来を、ディアボロは先ほどの行為で決定させた。
 血の繋がりとは本来尊いものであり、それを害するものは私刑を持ち出してでも償わせられるほど重いものだ。……その感情を、ディアボロは理解はしても持っていなかったが。
 故に、さとりが『殺してもいい』と言ってはいたがすぐには実行していなかった。実際の亡骸を見て意志を変えるものなど、腐るほどに見てきた。
 だが、こいしは彼の領域にやすやすと踏み込んできた。

 だから、殺す。

 ゆっくりとこいしの後ろに回り込みながら、キングクリムゾンの拳を握りこむ。刻み始めた時、頭蓋を砕いたらさすがに妖怪でも死ぬだろう。脳をすり潰せば思考の元は絶たれるはずだ。

「…………何ッ!?」

 相手の頭を注視していなかったら気づかなかったかもしれない。ただの思い込みからの錯覚かもしれない。
 しかし、それはディアボロにとっても初めての現象であり、この極限で見過ごすわけにはいかない事実。もし、同じく時間に干渉する能力者がいれば立ち会えたかもしれない。
 自分だけの絶対の空間。その常識が崩れ去る。偶然に向いただけ、などと曖昧な答えに縋りつけるほど愚物ではない。
 僅かに、しかし確かに引き下がる。相対していればなんてことないと思っていた相手に、半歩、引き下がらせられる。その姿も、確かに追っている。




 一瞬の瞬きも許さないまま、崩れた世界は元の形に戻る。べちゃり、と支えを失ったこいしの身体は床に落ちる。その体は、此方と視線を合わせようと不自然に捻じれている。
 確かに、目が動いていた。自分だけの世界の中、認識の外にあるはずの眼が自分を追い、刻み始めたその時、首が、身体が自身を追っていた。

665この作者の作品すぐ攻勢逆転するな:2017/04/30(日) 02:34:28 ID:mRK9UJvU0
「……おにいさん、どこ行ってたの? どうして、こいしを見てくれないの?」

 ゆっくりと起き上がりながら、それでも顔はこちらを見つめ続けたまま……汚れた顔を袖で擦り少しでも綺麗であろうとする姿はいじましい。
 しかし、それ以上に得体の知れない恐怖がディアボロを包み込んでいく。
 こちらを認識していることは確かだ。この場で吐いた適当な空言だとしても、それを事実として受け止めなければならない。
 キングクリムゾンの世界の中、彼女はどこまで動けるのか? 敢えてただ見ていただけか、こちらを弄する罠か。下がって状況を確実にしたくも、地の利は自分ではなくあちらにある。館の中も、外も。
 ……今までの動向だけで考えるならば、こいしは感情的で短絡だ。嬲られた直後だとて、恋の相手が自身を知っていることだけで高揚した。まだ、知りえることの少ないうちに潰すべき、か。
 逡巡しつつも、意志を固めるために足を一歩、踏み出す。
 踏み出そうとする。ずずり、僅かな音が振動と共に靴裏から通じる。

「……、」

 固めるための前進のはず。だが現実は僅かな後退を選択していた。自分の意志と裏腹の行動をとる身体に異変を感じる。
 痛めつけたぼろぼろの顔の少女に対峙して、殺して進むと定めて、そのために踏み出したはずが、その足はわずかに下がっている。
 共に自覚する、湧き上げようとしたはずの気概を包み込むように、本能の警鐘が鳴り響く。こいつは危険だ、こいつは相手にするべきではない、と。

「この、私が恐怖しているだとッ……!?」
 
 言葉をもって否定するが、それでも手のひらは小刻みに震え、足先は冷え、じっとりと肌が汗ばんでくる。
 確かに未知の恐怖はあったが、それでもここまで心を縛る相手ではない、はず。けれども、確かに蝕んでいる。
 一歩踏み出そうとすればきゅうときつく、離れようとすればやさしく解かれる。生殺与奪を握られ、相手の気分を損なえば自分が失われる。まるで、支配されているようだった。これから殺す相手に!

「……あー、おにいさん、私の事、とても強く思ってくれてるのね。わかるわ、心が読めなくたって! おにいさんと私はアイし合っているんだから!!」

666みりん:2017/04/30(日) 02:37:07 ID:mRK9UJvU0
たった3レス、3000文字程度ですが。
忘れられそうなので忘れられない程度には進めていきます。
前回が12月、今ほぼ5月…半年以内だったのでセーフ。いやアウト。
どれだけの人が見てくれているかわかりませんが、WIKIのカウンターは回り続けているんで誰かはいるんでしょう。自分以外に。
終わらせようとは努力します。出力する分には楽しいですから。

667Dr.ちょこら〜た:2017/05/01(月) 01:01:17 ID:09frukrI0
みりんさん、お疲れ様です!
続きが来たという喜びに、取り急ぎの反応をさせて下さい。
例大祭の修羅場を殴り抜け次第、しっかり感想述べさせていただきます。

668ピュゼロ:2017/05/01(月) 07:52:25 ID:m7HH2izg0
(鞍がないな……)

669みりん:2017/05/05(金) 14:24:38 ID:e1LsHjFE0
そして出迎えてくれるお二人に感謝。そうでなくても見てくれてる人がいるだろうとて二重に感謝。
例大祭までに〜、って思ってたけど無理でしたのでその後に行けたらいけます。
ここからのディアボロはこいしちゃんときゃっきゃうふふするお話です。

鐙が発明されたのは11世紀!

670名無しさん:2017/05/06(土) 01:24:33 ID:aghtX9Zc0
ハメでの更新も待ってます

671みりん:2017/05/17(水) 23:25:03 ID:VxKLcTJo0
ハメでの更新も行います。予定より収まりが悪いので二つに分けることにしました。
月初めに投稿したところをほんのちょびっと変更しつつなのでまた最初からになります。
どうでもいい人は4レスめくらいまで飛ばしてください。

672深紅の協奏曲 ―ただ一人に送られた詠嘆曲 3―:2017/05/17(水) 23:25:50 ID:VxKLcTJo0

 不思議な空間だ。
 足元の転がっている猫には、その近くによろよろと歩き始める同じ姿のささくれた猫。
 傍らには、被っている帽子をいじくりながら、少し顔を伏せて自信づけるためか床面に話し続ける少女。
 ……そして、それを警戒している自分自身。
 もはや姿を隠すには背を向けて逃げるか袋小路の部屋の中へ逃げるのみ。

「自分の心に負けてはダメ。アイを伝えるには相手に伝わるまで押して押して押してあげなきゃ」

 よしっ、と最後に締めくくりながら、こいしは改めて顔を上げディアボロと目を合わせようとする。
 踏み出すのは、彼女が顔を上げきる前。

「お、うぶぅっ」

 眼前に広がった顔は確かに淡い恋心を抱き、秘めた思いを相手に伝えようとする、小さな少女の顔だった。意志がありありと感じ取れ、見る者ならば頬を緩めてしまいそうな花があった。
 だがそんなものはディアボロにとっては関係なく、むしろ好機ですらあり、ゆえにその一撃は確かなものになった。
 キングクリムゾンの一撃はその花を一瞬で散らし、一瞬開いた小さな唇からは詰められていた空気が唾液と共に飛び散る。勢いは彼女を応援してくれる……らしい帽子と整えた衣装を崩し汚す。

「あっ……くぁ、げ……」

 腹部に加えられた衝撃は体をくの字に折り曲げそのままみじめに倒れ伏させる。とさ、とゆっくりと降下した帽子が床とこすれて小さな音を立てた。
 目の前に転がる小さな頭。ディアボロはそれを踏みつける。道の真ん中に転がる小石をどかすように、何も感情が込められていない。

「やめろ」

 地べたに縛り付けられたこいしに対して、刃物を突き付けるように言葉をかける。

「お前は私に特別な感情を抱いているようだが……私はお前ごときに何も抱かない。恋愛対象とも、庇護対象とも。噂を聞き、きっかけがあったからここに来たが、それはお前のちっぽけな欲を満たすためではない」

 言葉の一つ一つを発するごとに、強く踏みにじる。足元からは骨のきしむ音と力を入れるたびに隙間から漏れる呻くようなつぶやき。

「諦めるんだな。実らぬものに手を伸ばし続けることなど無駄なことだ」

 最後の一言と共に、その幼い小石を力強く蹴り捨てる。尋常であれば首の骨が折れてもおかしくない程度には力を込めたが、妖怪である彼女には問題はないだろう、とディアボロは考えていた。彼にとっては、死んでくれてもかまわなかった。
 廊下を転がるその軌跡には点々と血が飛び、踏みつけていた箇所には漏れ出る、には多すぎる血の跡がついている。
 そんな、壁に転がりついたこいしの襟首を掴み上げ、無理矢理に立ち上がらせる。同じ高さに揃えられた頭部は、先程まで告白を思っていた少女の顔ではない。
 小さな鼻はひしゃげ何本か折れた口の中、蹴り入れられた左頬は青く醜く崩れている。開いてるか開いてないのかわからない瞼の奥は、まだ混乱が見えた。
 どうしてこんなことするの。どうしてこんなことするの。わたしはなにもしていない。わたしはあなたをおもっていたのに。
 そんな声が聞こえるようだった。

「……力を解除しろ。面倒をかけさせるな」

 鉄の匂いが鼻を衝く。人に似せた姿は血の匂いまで似るものなのか、ディアボロからすればみてくれだけでは幻想郷の妖怪と人間の差が分からない。わかっているのは人間での致命傷に至る負傷でも、十分に生きていること。以前の戦いがそれを記憶している。今のこいしの状態も、人間であれば意識混濁しているだろうが妖怪ならそうではないだろう。
 だから問うた。十分に注意はしていた。そのつもりだった。

673深紅の協奏曲 ―ただ一人に送られた詠嘆曲 3―:2017/05/17(水) 23:26:25 ID:VxKLcTJo0
「……おにいさん、私の能力を知っているの?」

 顔の色が入れ替わった。先程までの不安と苦悶の顔ではなく、好奇を得た顔に。紅に塗れたそれは変わらず、それでも笑みを浮かべている。

「うれしいなあ、私のことを知っててくれて。うれしいなあ。……でも、どこで知ったの?」

 顔周りと違い傷のついてない手が一つ二つと首元の、ディアボロの手と重なる。固く骨ばった自分の手と違い、先まで整えられた華奢さと未成熟な肉感。

「私のことを知っている人はいないの。誰も私のことを知らない。……ううん、違う。一人知っている。なんで、おにいさんが知ってるの」

 それらが根付いている元の袖から一つ、二つ、三つ四つと青色の管が伸び、主の手と同じく彼の手を包み込もうとする。それは、違いなく彼女の閉じた瞳と同じ色に染まっている。

「またお姉ちゃんね、またお姉ちゃんが余計なことをしてくれたのね、また、私の事なんて何もわかって




 穏やかさをも湛えた笑みを浮かべていた瞳は徐々に暗く淀み、何かを呪詛のようにぶつぶつと口走り、縋るように組み付いていた手と管は握りしめるように力を籠め始める。いや、籠め始めていた。
 その拘束が完全となる前に、地霊殿は崩れだす。それは、ディアボロだけの感じうる感覚。時間を飛ばしている間、自分だけの世界。その中では、あらゆるものが自分を縛らない。
 掴んでいた手を放し、纏っている管から手を引き抜く。縛られた枷を失ったこいし当人は緩やかに未来への軌道を描いて落ちていく。数秒もすれば再び床に転がり、対峙している相手がどういうものなのかを理解するだろう。
 理解は一瞬でいい。今まで曖昧にしていた彼女の未来を、ディアボロは先ほどの行為で決定させた。
 血の繋がりとは本来尊いものであり、それを害するものは私刑を持ち出してでも償わせられるほど重いものだ。……その感情を、ディアボロは理解はしても持っていなかったが。
 故に、さとりが『殺してもいい』と言ってはいたがすぐには実行していなかった。実際の亡骸を見て意志を変えるものなど、腐るほどに見てきた。
 だが、こいしは彼の領域にやすやすと踏み込んできた。

 だから、殺す。

 ゆっくりとこいしの側面に回り込みながら、キングクリムゾンの拳を握りこむ。刻み始めた時、頭蓋を砕いたらさすがに妖怪でも死ぬだろう。脳をすり潰せば思考の元は絶たれるはずだ。

「…………何ッ!?」

 相手の頭を注視していなかったら気づかなかったかもしれない。ただの思い込みからの錯覚かもしれない。
 しかし、それはディアボロにとっても初めての現象であり、この極限で見過ごすわけにはいかない事実。もし、同じく時間に干渉する能力者がいれば立ち会えたかもしれない。
 自分だけの絶対の空間。その常識が崩れ去る。偶然に向いただけ、などと曖昧な答えに縋りつけるほど愚物ではない。
 僅かに、しかし確かに引き下がる。相対していればなんてことないと思っていた相手に、半歩、引き下がらせられる。その姿も、確かに追っている。




 一瞬の瞬きも許さないまま、崩れた世界は元の形に戻る。べちゃり、と支えを失ったこいしの身体は床に落ちる。その体は、此方と視線を合わせようと不自然に捻じれている。
 確かに、目が動いていた。自分だけの世界の中、認識の外にあるはずの眼が自分を追い、刻み始めたその時、首が、身体が自身を追っていた。

674深紅の協奏曲 ―ただ一人に送られた詠嘆曲 3―:2017/05/17(水) 23:27:00 ID:VxKLcTJo0
「……おにいさん、どこ行ってたの? どうして、こいしを見てくれないの?」

 ゆっくりと起き上がりながら、それでも顔はこちらを見つめ続けたまま……汚れた顔を袖で擦り少しでも綺麗であろうとする姿はいじましい。
 しかし、それ以上に得体の知れない恐怖がディアボロを包み込んでいく。
 こちらを認識していることは確かだ。この場で吐いた適当な空言だとしても、それを事実として受け止めなければならない。
 キングクリムゾンの世界の中、彼女はどこまで動けるのか? 敢えてただ見ていただけか、こちらを弄する罠か。下がって状況を確実にしたくも、地の利は自分ではなくあちらにある。館の中も、外も。
 ……今までの動向だけで考えるならば、こいしは感情的で短絡だ。嬲られた直後だとて、恋の相手が自身を知っていることだけで高揚した。まだ、知りえることの少ないうちに潰すべき、か。
 逡巡しつつも、意志を固めるために足を一歩、踏み出す。
 踏み出そうとする。ずずり、僅かな音が振動と共に靴裏から通じる。

「……、」

 固めるための前進のはず。だが現実は僅かな後退を選択していた。自分の意志と裏腹の行動をとる身体に異変を感じる。
 痛めつけたぼろぼろの顔の少女に対峙して、殺して進むと定めて、そのために踏み出したはずが、その足はわずかに下がっている。
 共に自覚する、湧き上げようとしたはずの気概を包み込むように、本能の警鐘が鳴り響く。こいつは危険だ、こいつは相手にするべきではない、と。

「!?、ば、かなッ」
 
 手のひらは小刻みに震え、足先は冷え、じっとりと肌が汗ばんでくる。
 確かに未知の恐怖はあったが、それでもここまで心を縛る相手ではない、はず。けれども、確かに蝕んでいる。
 一歩踏み出そうとすればきゅうときつく、離れようとすればやさしく解かれる。生殺与奪を握られ、相手の気分を損なえば自分が失われる。まるで、支配されているようだった。これから殺す相手に!

「……あー、おにいさん、私の事、とても強く思ってくれてるのね。わかるわ、心が読めなくたって! おにいさんと私はアイし合っているんだから!!」

 両の手を広げ蕩けた笑顔を浮かべ歓喜の感情を表に出す。興奮し染まった頬は流れ出る血と裏腹に紅い。
 無意識を操る程度の能力。自身を律していたとしてもそれを軽く上書きする。だが、一つ認識を違っていた。相手が持つ無意識を自在に操るわけではない。相手が持たない感情を無理矢理に表へ揺り動かすものではない。……こいしがそう思っていても、実際にはそうではない。相手の、無意識を固着しているだけ。

「この私が、恐怖しているだとッ……!?」

 諸手を上げてあははあははと壊れた笑い袋のような声を上げ続ける。その笑い声と共に袖から彼女の手を覆い隠さんばかりの青く長い生きている管。
 僅かな人間味をも覆い隠し、より恐怖を撫で震わせる異形と化そうとしている。
 元々そんなもので怖気づくような精神は持っていない。……だが、目の前の少女を認識し、理解をしようとすればするほど心が拒む。

「こいつの能力、コカキ爺と同じタイプかッ!!!」

 脳裏に浮かぶのはあの老獪。畏怖と信頼に値する老兵。彼自身の歴史と経験もさながら、人生観と共に構築されたスタンド能力も比類して絶大。
 彼の前で何かの感覚がよぎれば、それを固着させられる。『足を踏み外した』なら永遠に踏み外し続け、『勝てない』と感じたらもはや勝つ意志はなくなる。ほんの一瞬、それだけでいい。
 固着させる方法がコカキにはあったが、こいしにはそれがない。あったとしても、それは気づけなかった。
 ……そしていま、笑みを浮かべる少女を前にして、心が退路を求めている。彼の能力では解除の方法はなかった。ならば、こいしならどうであろうか。
 つまるところ、選択は逃走だ。機を得るため、一時に退く。

675深紅の協奏曲 ―ただ一人に送られた詠嘆曲 3―:2017/05/17(水) 23:27:58 ID:VxKLcTJo0
「あっ」


 反転、ともに時を飛ばし離脱。崩れ去る世界の中、振り返りこいしを見る。
 少々あっけにとられた顔をしているが、それでも確かにこちらを追い続けている。体に動きはないが、やはり認識していることに間違いはないだろう。これも、無意識の産物だろうか。ディアボロを、無意識に感じ取っているのだろうか。
 時が飛んでいる間、決して時間の流れが変わっているわけではない。認識のないうちに行動できることで相手の意の裏を搔くことができる、それを予知し対応する。それこそがキングクリムゾンの神髄。認識はできても対応できないのか? それともあえてしていないだけなのか? それを調べる必要がある。前者ならまだしも、後者であるならば……一度、相手の意識外に逃れる必要がある。
 先ほどまで歩いていた廊下を逆走する。不本意ながらも追われる者となってしまった身では、それほどではなかった距離も長く長く感じられる。
 駆ける、館の中。名も種別もわからぬ動物たちがそこらそこらで倒れている。……おそらく、ただ眠っているだけではないのだろう。

「……さとり様は言っていた。さとり様に命を受けた。……忘れない、お燐に会って聞けば忘れない……」

 大柄で、ぼさぼさした長髪の女が、虚ろな瞳で歩いている。ごてごてと人工の異物を装備しながら隠そうともしていない鳥の羽、おそらく燐と同じタイプの妖怪なのだろう。彼女の向かう先は自分たちのいた方角、ディアボロの行く先に寸分違わぬ、ささくれた同じ姿がぶつぶつとつぶやいていた。
 あそこにいた者だけでなく、やはり広範囲に巻き散らしている、という事だろう。個々がどういう行動原理を持つかはわからない。抑えられた無意識、表層ではなく深層に秘めた渇望? 今の女は、抑えられていた者はその程度だという事だろうか?
 考えを振り切るかの如く走る。今はまだ、後ろから気配はない。今のこいしは、感じ取れる。それがなぜかはわからないが、とにかく今までと違い近くにいれば存在を理解できる。目や耳を使わなくとも、その気配を感じ取れる。他の者と同じように。何を意味するかは分からないが、ともかく好都合だった。退く分にも、転じることができた時にも。

 突如、破砕音が聞こえる。それは記憶を頼りに、地霊殿の入り口にまで走ってきた時の事だった。
 すわ先回りされたか、調度品に身を隠し様子を伺うと、エントランスは様々な者たちで溢れかえっていた。男、女、人型、動物型、異形。まさしく外で見た者たち。
 暴力という強引な開錠方法で乗り込んだ彼らは皆一様にはっきりとしない目線のまま、各々が手に持った得物、あるいは無手で破壊活動を続ける。者によってはそこにペットであろう動物がいようが、共に乗り込んだ者がいようが構いもしない。何かを求め、その阻害物を気の赴くままに除去しているよう。意図のはっきりとしない暴力は、それだけで眩暈のするような恐怖の光景だ。
 だが、ディアボロには何の関係もない。群衆の中にこいしの気配を感じられないのならば、たとえ彼らが此処の住人に対して何か思うことがあっても知らぬ世界の話だ。
 彼らの間を縫うように抜けて、それでも道を塞ぐならば自らの力でこじ開ける。元々飾られていたきらびやかな装飾品と同じように、砕けた頭からは血と脳が床を汚した。受け止めた当人も、周りも何も気に留めず、破壊活動を繰り返し続ける。

「…………やはり、か……!!」

 外に出た最初に口から発せられた言葉。
 地霊殿の外は燐に案内をされた時とは全く別の世界のように思えるほど荒れ、それを行ったであろう者たちの残骸が辺りに散らばっている。その中を大型の獣たちが、小型の動物たちが、欲の赴くままに漁っている。
 古明地に想いのある者たちが集い、襲われることに意を介さず、周りの獣たちもそれを止めるわけではなく、腹が空いたから食うように、襲い続けたのだろう。
 先の市街でも変わらなかった。地霊殿の周りに特別多い獣が人型に変わっただけだ。人はモノを漁り、男が女を漁り、女が男を漁り。ただひたすらに喰らい、汚れることも構わずに唯々尽きぬ飢えを満たすために動く者たち。そして一様に、その目の色は変わらない。

676深紅の協奏曲 ―ただ一人に送られた詠嘆曲 3―:2017/05/17(水) 23:28:29 ID:VxKLcTJo0
「腹が減った、腹が減った」「血が流れたい、血を流したい、血に流したい」「いつも貪られるんだ、貪りたいんだ」「ああ、柔らかい、温かい……」

「あっあっあっあっあっあああああああ」「暗いんだ、明かりがいるんだ、ここはずっと暗いんだよ」「俺だけこうなのは、全部あいつらが悪いんだ、だからあいつらがこうなっちまえばいいんだ」「肉、肉がいい、こんな筋張ったものじゃあなく」「かね、かねかね、足りない、もっともっと」「小さいのもいいなあ、大きいのももっといいなあ」「例大祭落ちた」「鬼どもも、覚も、神でもスキマでもなんだっていい、みんないなくなっちまえ」

「殴りたい、殴りたい殴りたいなぐなぐぐぐ」「許してくれ、許してくれ、あぁ、醜い獣たちがまた……」「みんな認めようともしねえ、兄より優れた弟がいるはずない」「俺は不屈、不屈なんだ」「血晶石を求めよ、狩りを全うするために」「俺のでよがってるんだ、俺のでよくしてるんだ、へへへへえへへええへ」「何がわかる、何がわかる」「聞こえないの、何も聞こえないの、聞かせてよぉ」「飯だ、赤い紅い朱い赫い飯だ」「酒、飲まずにはいられない」「私にだってやればできる、やってみれば簡単なんだ」「コマドリ、私は飛べるのよ、飛べるのよ、飛べ」「矮小なんだ、卑屈なんだ、だから穴に潜ってたいんだ」「一人じゃ何もできねえ、4人で一つなんだ」「のっかりてー、のっかりてぇー」「見ないで、ぼくを見ないで」「沈めたいなあ、沈めたいなあ、血の池地獄に溺れるなあ」

 市街に向かって走り続ける中、ぼんやりと立ち尽くすささくれた外見の者たち。その様々から奥底の欲求が聞こえてくる。自分に言い聞かせるように、周りに言いふらすように。きっと、肉体はその欲望を満たすために勝手に動き回っているのだろう。
 火柱が上がり、窮屈に積み上げられていた建物が倒壊する。眠らない街の明かりが、ただむやみに増えていく。
 逃げる、離れる、距離を置く。……いつかはその果てにたどり着けるだろうか? ……それから、どうやって?
 答えの見えない逃避に、徐々に芯が潰されていく感覚。だが追いつかれれば終わりという答えからくる焦燥。強大な力を持つ者と対峙したときの底から湧き出る恐怖。

「おにいさん」

 頭に声が響く。直下に流れる電気信号は辺りを警戒し、目と耳を最大まで酷使し、浮かび上がる像は安心を求める。
 ……まだ見えていない。何も見えない。

「おにいさん」

 それは先ほどよりも小さく、囁くように、けれど確実に脳内から響いてくる。甘えるような囁き声は、それでも姿が見えず慌てる自分を嗤っているかのようだ。
 
「おにいさん」

 ずっと滴り続ける雨音のように、その声は止まらない。予知に映る像にも、辺りの騒ぎからもこいしの気配は感じ取れない。
 ……もしも、先程まで感じ取れていた気配は、今に思わせるための撒餌ではないか? 近くにいないから、そう思わせておいて、

「おにいさん」

「う、あああああああああああああああああっっ!!!!!」

 絶叫し、有らん限りの力を振り絞って身体を動かす。周りと違い、何かに色を染めた表情を浮かべているのはディアボロただ一人。
 もはや、向かう場所すら曖昧に、それでも何かに縋るため、駆けた。

677みりん:2017/05/17(水) 23:32:05 ID:VxKLcTJo0
以上になります。一番大変なのは、前回が半年前だからそのあたりの自分がどういう気持ちで書いていたのか思い出すあたりでした。
あんまり無いようにしたいです。

しかし、深でこいしちゃんが出なかったらこんなからめ手は想像つかなかったと思います。いや、こいドキがやっていたのでやらなかったと思います。
広まっている二次設定にささやかに反抗するときがあるのはそういう性分なので。
しばらくらしくないボスをお楽しみください…

誤解のないように言っておきますが申し込んですらいません。

678Dr.ちょこら〜た:2017/05/28(日) 23:34:51 ID:yWEDwHOE0
みりんさん、投稿お疲れ様でした!
恋に焦がれるこいしちゃん、心底可愛いですね…紛うこと無き少女
そんな彼女に一切の躊躇も慈悲も無く腹パンぶちかますディアボロも、ボスとしての無慈悲さが溢れててベネ!やっぱりボスはこうでなくては
そんな仕打ちを受けても、ディアボロが自分に興味を向けてくれてる!と瞳を輝かすこいしちゃんも流石…!思わずブルっちまう執念…
改行を用いてキング・クリムゾンの時間跳躍を表現する手法狂おしいほどすき
ここから形勢が歪み初めていく感覚、堪らないですね…!キング・クリムゾンの世界に入門してくるこいしの無意識、管を解放し人外の正体を表す変貌。
ここで恥パのコカキとのリンクとは!思わず膝を打ちました 確かに無意識に関する能力ですからね
こいしを目や耳でなく感じ取れる、というのは、単にこいしの無意識ステルスが解除されたということなのか、はたまたトリッシュがそうだったように、知らぬ間に血の繋がりのような魂の絆を結び付けられてしまったのか…
どうしようもなくパンデミックな、無意識の暴走。いくつか見覚えのある奴らが紛れ込んでますねぇ…

地底を焼き尽くす無意識の感染の中、ディアボロがこいしちゃんとどう決着をつけるのか、次回も期待しております!!


自分の中での考えなのですが、こいしちゃんとディアボロは相性が良いと思います。キング・クリムゾン中の無意識の行動を制御できそうですし、獄中の母親の胎内に二年間もいたディアボロは胎児の夢を二周以上してそうなので。あと、自分自身を隠すことで幸福に辿り着こうとする本質的な臆病さも似通っている感じです

679みりん:2017/05/29(月) 23:24:44 ID:GrhpHi1c0
感想ありがとうございます。

恋に焦がれる少女って見たことないのでよくわかりませんがきっとこれが正しい恋に焦がれる少女なのでしょう。しかし腹パンだ
殺しと不利になるから殺さないでおこっかなー→やっぱ殺すわ と一瞬で切り替えるディアボロさんです。

こいしちゃんの描写にはとかく『意識している、されている』『感情たっぷり』をイメージして書いています。
気まぐれにしか向かない意識、他から向けられない意識、無意識に司られて失われた感情、それらがすべて表れている今の異常感。だから悪意であれ何であれ意識を向けられていればうれしいし、向ける相手が認識できなくても意識しちゃうから見えちゃう。無意識ってすごい
なので、魂の繋がりを感じているわけではありません。…こいしちゃんにはそう見えているのかもしれない?

見えていようがいまいが関係ない処刑方法も封殺するコカキ合わせ!本来は摺りあうこともないものですけどこの創作での曲解内ではこいしの暴走はコカキ爺にひどく似通うことに。ディアボロが珍しく評価してる人物、その厄介性もぴったり。
恥パはやっぱり絡ませられたら絡ませたいですからね。おもしろいし。

地底にはいろんなの紛れ込むから…嫌われたり嫌ったりするやつはどいつもこいつも似たようなやつです。悪ふざけもたくさん。


こいしとディアボロは組んだ時の能力の相性は良さそうですけど性格的に絶対合わなそうだな、とも思います。
こいしは過去の出来事から覚の能力を捨て、自身の存在をあやふやにしてしまった。ディアボロは過去の体験…はよくわかりませんが自信を完璧に隠蔽しつつも絶頂を目指している。
生きる上で飢えているかいないかが大分に差があり、そのギャップが互いの相性を悪くしそうだなと。そういう意味ではさとりんと合うかもしれません。

680みりん:2017/06/16(金) 23:50:55 ID:KK2/dTk.0
一月ぶりです。持ち直せました。
自作にしてはちょっと長めです。また、敢えていろいろ投げっぱなしのままで進ませています。
各キャラに嫌いだから、好きだからという理由で動かしたキャラはいませんが、不遇なキャラ、優遇されているようなキャラが出てしまいました。許して。
オリキャラも出ます。椛や小悪魔がほとんどオリキャラ感ですけどそれとは違うタイプのオリキャラです。
地底編では少しそういったものも多くなります。最後も近いので。

681深紅の協奏曲 ―21世紀の精神異常者 1―:2017/06/16(金) 23:52:36 ID:KK2/dTk.0
「くそっ、やっぱりこうなっちゃうかねぇ!」

 悪態を吐きながら、迫りくる暴力、大の男に匹敵する巨大なだんびらを振りかざした鬼の身体に、それを上回る力で返す。
 何も表情を浮かべないその男の顔は苦しさを感じているかもわからない。
 正面から来るそれをいなせば、また背後から大物を持った男が襲ってくる。
 一瞥、力強く後ろ周りに蹴り飛ばせば、また苦しさを吹き出しもせずそのまま砲弾のように吹き飛び、辺りを巻き添えにする。
 闘いの音に、炎に飛び込む蛾のように、能面のような顔の者たちが集まってくる。

「私ら鬼ならこれくらいで構わないんだけど……」

 今の状態、基本的に地底の妖怪の大部分を占めている鬼たちにとってはあまり変わらない。勇儀の支配下の者たちなら特に。
 彼らは足るを知っており、一番の欲求である人と関わることが今はもうできないことも知っている。だからこそ、地底に居を移しそこで楽園を築いている。
 皆、本能的な享楽と自らに成し得る強さへの求道に心を置いている。
 故に、今の無意識に支配された地底の空間、首領たる勇儀に力比べを挑まんとする者が後を絶たない。
 それ自体には、勇儀も嬉しく思っている。彼女とて常に共に歩む者を求めている。自らに並ぶ者を待っている。いつもは尻込みしているような奴が立ち向かってくるその姿に、ケツを叩かなければ立ち上がってこなかったその姿にこみ上げてくるものがないわけではない。
 だが、地底に潜む者はそれだけではない。

「!!、やめ……ときなぁっ!!」

 また一人、向かう者を引きずり倒し、『それ』に向けてぶん投げる。倒れ伏した同胞に群がる矮小な者たちは、それらを避けようとせずそのまま巻き込まれて消えていく。
 強者である鬼たちを疎み、しかし群れても立ち向かう事すらできないことを知っており、だから身を寄せ合い傷を舐め合い続ける弱者もいる。
 彼らは皆必ず口を揃えるのだ。『あいつらがいなければ俺たちの思うがままなのに』。
 そんな彼らを迎え入れようとしても、低姿勢におべっかを使いながら、それでも心の中では舌を出して近づこうともしない。鬼の目には彼らは皆共感に値しない屑どもだ。
 しかし、今は別。鬼たちがそんな屑どもを排除しなかったのは、本当に集まり立ち上がれば自分たちに匹敵することを知っているから。弱い者達でも集まり、知恵を集め、立ち向かえば自分たちを下せることを知っているから。
 ……奴らがまた、死体漁りに襲ってくる。今ならできると。疎んでいる奴らを消してやりたいと思ったその時、すでに行動は終わっている。抑えられていた無意識に、身体を動かされている。
 だからと言ってむざむざ喰われる訳にも食わせる訳にもいかない。手に届く範囲でなら、それらを蹴散らそうとは努力する。
 むなしいかな、広い広い地底では、いくら勇儀の大きな身体でも、小さすぎた。

「あっ、お前……こんのおおおぉぉぉ!!!」

 乱暴ながらも同胞を守ろうとする勇儀を嘲笑うように、また一人と鬼が喰われていく。周りはそれを止めようとしない。周りの目には、自分の無意識の果てしか見えていないからだ。きっと、己が喰われても思いの先を優先するだろう。
 地底を浸す無意識の水を、持ち前の矜持と精神で勇儀は抗っていた。だが、それでも完全ではない。組み合い、競い合い、高め合いたい。同じ歩幅を求めるが故の力比べは、籠めようとしない力の限りをその両腕に注ぎ込まれていく。
 だからこそ手加減ができない、抑えられない。向かう者向かう者すべてに全力で迎撃する。頭でわかっていても、自分に負ける者が喰われていく様をみても、どこか心で思ってしまう。無意識の内、弱者は喰われて当然だと。
 意識して抑えようとしても、止めどなくあふれ出てくる。歪な容器に蓋をしても、漏れ出る意識が抑えきれない。そして、半端に理解できるこの現状、勇儀は勇儀自身に腹が立つ。
 崩れた家屋の材木をそのままに振るわれ、それを片手で受け止める。間髪入れずに他方面からも巨大な丸太のような腕が振るわれ、それも空いた手で受け止める。闘いは、最初から星熊杯を携えていなかった。

「あーもうっ!! 一体いつになったら終わるんだっ!!!」

 全く無遠慮に打ち込まれた双撃をそれをも上回る、瞬間的に腕が膨れ上がるほどの怪力が、相対者へ振るわれる。互いに違う回転を籠められ、その間に存在する全てをも巻き込んでいく。
 前回起きた時も、勇儀には結局待つことしかできなかった。こいしが自身のほうに向くことはなく、また靡いた相手もおそらくはなすがままにされたのだろう。
 今回もそうなってしまうのだろうか。もしそれより長かろうと短かろうと、興奮に滾る脳が流れを曖昧にする。終わるまでは長く感じ、終われば短く感じられる。きっとそうなるだろう。
 諦観すらも持ちながら、ただただ目の前の対処に勤しんでいたその時、

682深紅の協奏曲 ―21世紀の精神異常者 1―:2017/06/16(金) 23:53:09 ID:KK2/dTk.0
「禁じる」

 遠くから聞こえた小さな声は、しかし確かなものであり、その一言がきっかけに辺りの者たちが感情の無い顔から一変、喜び、怒り、哀しみ、楽しみ、様々な表情を浮かべた後そのまま倒れ伏す。
 声の主は、自分の身の丈ほどの鉄棒とその先に付く白い丸板に赤でマルと斜線が描かれた奇妙な得物を地面に突き立てながら、

「そのまま黙って寝ていろ、目覚めを禁じる!」

 辺りの喧騒に消え入りそうでも、凛とした力強さを感じる掛け声は、そのまま力場の行使となり鎮めていく。

「……勇儀以外は、な」

 ウインクをしながら最後に付けたし、勇儀に笑みを投げかける。
 対する勇儀も少なからず濡れた自らの血と汗を拭きながら。

「……助かったよ。正直、最初に死んでいるかと思っていた」

 同じく笑みを返す。冗談めいた口調で、だが彼女との間柄を知る者なら心配と安堵が含まれているのがわかるだろう。

「失礼な奴だな、助けてやる必要なんてなかったかね」
「いや、それについてはありがたいと思っているさ。だけど、私の知っているお前なら自尽を選んでいても不思議じゃあない」
「ふざけろ」

 少女が近づくと勇儀に対して拳を向ける。彼女と違い女性として大柄な勇儀には低い位置だが、それでも優しく、互いに拳をぶつけあう。

「放っておこうとも思ったんだけど、あまりに一方通行過ぎてね。私の領域にまで侵すのなら容赦はしない。……認めたくないけど、勇儀には借りがあるからね。これでチャラってとこかな」

 得物を肩に担ぎながら少女は事も無げに語る。だが、その視界の先はまだまだ阿鼻叫喚の絵図が続いている。
 勇儀は傍らに転がる酒瓶を拾い上げ、地べたに座る。口をつけて傾けていくが、上を向いても中身は零れ落ちてこない。
 ちぇ、とぼやきながら投げ捨てる。今の彼女に、先程までの衝動を抑えられない様子はなかった。

「……私にはちょーっとアレを止めるのは無理かなぁ。受け止めるのは得意だけど攻めに行くのはー、ねぇ。気質に合わん」
「いや、いいさ。ここまでやってくれれば十分。私が抑える」

 すぐに立ち上がり、そこかしこボロボロになった衣服を払っていく。

「さっきまで飲まれかけてたザマなのに、全くあんたみたいな奴らはどいつもこいつも真っすぐ押し入ってくる。全く気に入らないね」
「おー? どの口が言うんだそれは!」
「私が不利益を被るから利用させてもらっただけさ。……私みたいに、この狂気を抑えられる奴、いんの?」

 あくまで前向きな勇儀に、少女は不安げに言葉をかける。

「……いる、と思う。私だってここ全部を知るわけじゃあないから確実には言えん」
「ふーん……」
「でも、だからと言って立ち止まるわけにはいかない。番を張っている以上はね」

 ぱん、勇儀の手のひらに拳を合わせる音が響く。その瞳には変わらずの強い意志が宿り、地底に似つかわしくない光も携えていた。
 赤色の少女は呆れたような顔をしながら、振り返り来た道へと戻る。

「いいさ、好きにすれば。私の元へは一方通行、あんたの戻る道にはなりゃしない。けれど引き返すという選択肢を選ばない愚直さこそ、あんたらしいってものさ」

 言葉を受けて足を踏み出す。少し離れればまた勇儀を狙う者が現れ、また少女を介さぬ暴徒に見えるだろう。
 けれど、自分の担う重さを知っているから、勇儀の足は止まらない。

683みりん:2017/06/16(金) 23:57:38 ID:KK2/dTk.0
NGワードってなんだよ(怒り

恒例(2回目)の引っ掛かりです。そして、相変わらずどこがかかってるかわかりません。
まだ何もしてない部分なんだけどな……というかタイトルのほうが危険じゃありませんか?
つーことで、WIKIのほうにあげておきます。

あ、そうだ(唐突)ついでに今までの地底編も上げていないのであげておきます。
機会がないと動かないのか俺はよおおん

684みりん:2017/06/17(土) 00:20:41 ID:rHbc9Dhc0
というわけで編集しました。また、ハーメルンのほうにもあげておきます。
言う機会が作れず、次回に回そうと思いつつもこれは説明しておかないとよくわからないと思うので。

み…モブの赤い少女さんの能力は「あらゆるものを禁止する程度の能力」であり、自身が捕らわれる前に気づけばガード可能です。
パルスィの「嫉妬を操る程度の能力」は本来無意識の感情である嫉妬。「嫉妬しようと思ってできるものじゃない、嫉妬してしまうのが橋姫」とどこぞのナイト張りの感情なので、実質的に彼女も無意識を操れることになります。
パルパル自身も心の中は嫉妬の感情でたっぷりなので浮かび上がるものは操れるもの。だから、こいしちゃんの暴走では太刀打ちできないのです。
そももも、勇儀のように精神がしっかりしてればある程度は耐えられます。逆に言うと勇儀レベルでないと大変なのですが。

他にも何かよくわからないことがあれば教えてください。反省しながら説明します。
if編は、違う空気、ってことだけは言いたいし表したいのです。

685ピュゼロ:2017/06/28(水) 00:02:27 ID:ckVZYcCs0
>>機会がないと動かないのか俺はよおおん
わかるわ(わかるベリー・ハーン)

き、キチガイだわ……!(知ってた)

686みりん:2017/06/30(金) 00:07:00 ID:MXteqbKk0
キ、キチガイだわ……!!
割りと上とは違うレベルです。
でも原作の常識加減とはうまく合わせられていないとたまに思ってしまう二次創作のつらみ。

わかりベリー・ハーンさん語呂がよすぎて勝てない。

687みりん:2017/07/28(金) 20:31:37 ID:JHQpBNUw0
またこっそりと作ってました。少し遅れたのは面白いゲームを手に入れてしまったからです。ころすぞ。
なんかどこまで展開しようか迷ってきた気がします。いや、ゴールは明確にしているんですが。

688深紅の協奏曲 ―独奏、王へと届くこと願い 1―:2017/07/28(金) 20:33:25 ID:JHQpBNUw0
 足を引きずりながら、橋から都へとディアボロは戻っていく。
 悲鳴の一つもなく、まるで環境音のようにただただ家屋の破壊音が響いていた道程は人々の喧騒が少しずつ戻ってきている。

「担架組めー! ケガ人は一まとめに集めろ!」
「どこだ、ボーンナム! 生きているなら返事しやがれ!!」
「火を消すついでに周りのもんまでぶっ飛ばすんじゃねーぞ!!」
「さあさあ活気出して活気! 食べれるのたくさん作ってきたよ! こんな時だからお腹に入れておきな! ちょっとの悪用で元気になれるさ!」
「え、いや私は地上に戻らないとそろそろやばいし……あーもうわかったわかった! やるから服引っ張んないで!」

 大惨事の直後だというのに、すぐに復興へ向かっている。来てすぐに鬼の首魁とのやり取りで、先程の惨事が起こると大々的に知られている。そのための準備をしていたのか。
 だが、少ないとは言い切れないほどの被害もあったはずだ。それらを容易に受け入れられる土壌があるのか、それとも忘れようと、見つめないようにしているのか。関わり合いになろうとしないディアボロにはわからない。
 身を隠すように、物陰に隠れながら一歩、一歩。自分に全く非がないと主張はできるが、感情はそれを容易く理解させない。何の因縁をつけられるかわかったものじゃない現状、誰にも見つからないように進もうと考えていた。幸いにも遮蔽は多い。……皮肉なことだ。
 地霊殿へ向けてゆっくりと、ゆっくりと身体を引きずっていく。ただ、首謀の姉に問うために。災禍の中心、そのよく似た姿に問うために。
 しかし、意志に反して身体は徐々に動きを鈍くし、次第に立ち上がること、維持し続けることすら困難となる。
 恐怖に捕らわれ、限界を忘れて酷使した身体。負傷はなくとも脚も腕も体幹も、平時なら早急に休息を必要とする状態。
 そして、折れかかった心。
 幾度も、何もできなかった無力な自分、恐怖という渦に溺れてただ流されただけだった自分。その事実がじくじくと胸を蝕む。
 一方的、調子の良い下らぬ期待だったが、それは確かに自分に向けられていた。やり方には難を示すが、それでも住人たちは早期の解決のために名も知らぬ自分に期待を寄せていた。ただの贄として終わるのではなく、解決し、そしてお前も生きろと。
 それがどうだ。ただ逃げまどい、たどり着いた先。結局あの橋姫と呼ばれていた女が一人で解決した。あっさりと。全てわかっていたように。全く解法を得られなかった自分を嗤う様に、ただ自然に身を任せるように。何てことの無いように。
 外部とのコミュニケートを遮断していたように見えるあの女が実際に言いふらすことはないだろう。自身が生きていたことを知れば、あの男は生き延びて終わらせたと認識されるかもしれない。それでも、事実は違う。立役者は結局あの女だ。……何もできなかった。
 その二つがディアボロの足を鈍らせ、ついには膝折り、崩れさせる。

「……はぁ、……はぁ」

 長い溜息が思わず漏れる。早く行かなければ、という焦燥感が頭を支配するが、休息に浸かってしまった身体を動かす為の信号が、首から下へ届かない。
 横たわりそうになるのを抑え、何とか崩れた家屋にもたれかかる。そのまま溶けて眠りそうになることを何とか耐える。……こんなところで眠ってしまえば、そのまま目覚めないかもしれない。
 休んでいる暇はない。休まなければ持たない。その二つがせめぎ合い、それでも現実は動くことすらできなかった。

「はぁ……、…………」

 なぜ自分はここにいるのだろう。
 地に堕ちた自分が垂れた糸につかまり、這い上がり、再起を望むために立ち上がり……しかし、その先を見据えようとしたがために、今躓いている。
 こんな様では、もし当初の通りに進んでも立ち上がることもままならず、きっと吸血鬼にも相対することができないだろう。……命を拾えたともいえる。
 そう思い、ディアボロは首を振る。こんなことを考えてしまうほど落ちているのか、自分が嫌になる。とてもではないが、帝王と再起するために立ち上がった男の思考ではない。目の前の僅かな生に心を奪われている程度では。
 自分の手のひらを見つめる。……必死の中に拾った命を喜ぶように震えている、その手は見慣れていたはずなのにとてもとても小さく見える。ディアボロには、不甲斐ない自分を見つめているようでたまらなく悔しかった。

 そうして目を落としてはじめて気づく。……自分の様子を窺っている存在に。

689深紅の協奏曲 ―独奏、王へと届くこと願い 1―:2017/07/28(金) 20:34:06 ID:JHQpBNUw0
 何もなければただのネズミと気に留めることはなかったろう。路傍の石ころのように、どうでもいい存在だ。この廃屋の陰に存在していてもおかしくはない。
 けれども、そのネズミはまるでこちらの顔色を窺うように、身を隠しながら、それでもしっかりとこちらを見つめている。ただの獣とは違う、意志をしっかりと持っているように。
 自分より大きい存在を恐れている、というわけではなさそうだ。そして、その存在が自身を気づいたことを知るとそろりそろりと身体を表す。
 小さな体躯を表に晒すと、そのまま器用に後ろ足で立ち上がり、前足でどこかを指す。まるで人間のような動作をして、知性ある獣のように。
 必死に全身を使い、自分の辿ってきた道を指し示す。戻れ戻れという様に。言葉の全く介さないボディランゲージ。
 全くその意図を理解できなかった。この地底で、このタイミングで、なぜこのネズミはこんなことをしているのだろう。
 動作の気概から、自分に何かを伝えようとしているのはわかる。今まで身体を引きずって歩いてきた道程を戻れと、橋の元、地底の入り口まで戻れと言っているのもわかる。それが、何故なのか。
 ネズミといえば、頭に浮かぶのは勝手に付いて来ていたナズーリンだ。そして、彼女もまた災禍に巻き込まれ、何もなければ地霊殿の一室で眠っているだろう。終わってすぐに動けるのならば、その場で待っているか、自分を探しているか。
 彼女は探し物が得意な様子だった。であるならば、自分を見つけることに苦はないだろう。なのに、何故このネズミだけが。
 簡単だ。『何かあった』から。それ以外の何物でもないだろう。
 ……問題は、その『何か』だ。
 良いことがあり、それを共有させるために自分を探す。それは確かに理がないわけではない。だが、このような状況で、その理があるはずもない。
 彼女が危機に瀕している。だから助けに来てほしい。……それでは、居るべきであろう場所から離れろと伝えようとしている理由が繋がらない。
 あるいは、別所に移動したからそこへ来いと。まだ理に適うが、ならば何故移動したのか、新たな疑問が浮かんでしまう。

「……お前は、何を伝えようとしているんだ……?」

 脳で吟味する前に、単純な疑問が口から出る。無意識なその動きはネズミにも伝わったのか、一度目線を落とすと、改めてディアボロに近づき、ズボンの端を咥えてその身体を引っ張ろうとする。当然動くはずもなくただたわみが伸びるだけだが、それの導こうとする先は確かに先程までの道だった。
 そうまでしての必死さには、確かな理由があるのだろう。他でもない、自分自身に伝えるべき事柄なのだろう。
 ……彼女に明確に恩があるわけではない。少なくとも、自分では感じていない。
 だが、彼女は打算なく自分を心配した。相手から全く信用されていないとわかっているにも関わらず、それでもディアボロという存在を気に掛けた。
 外、元々の世界では稀有な例であり、幻想郷に来てからは珍しくはなかったが、始まりは疑いから入っていた彼女が、ただ自分に気に掛けていた。

「……すまないな」

 理解はできないかもしれない。だが、ただのネズミではない、妖怪ネズミが存在する世界。本来持ち得ない知恵を十分に持っているネズミかもしれない。だから言葉にして表す。

「今の私では……お前の主人がもし危機にあるのなら、救えないだろう。……だが、約束しよう。陥れられたのならば、報復はすると」

 重たい腰を、膝を杖に立ち上がる。筋肉は未だ悲鳴を上げ、筋は休息を訴え、骨は軋みを上げる。
 しかし、立ち上がる理由ができた。自分だけでない、という理由が。
 ……思えば、あれも救いを求めていただけなのかもしれない。……最も、同情こそ、救いとは対極のものだが。
 歩き出す身体に、懸命に対抗するも当然敵う訳もなく、ネズミは体ごと引きずられる。僅かな抵抗はすぐ終わり、トボトボと、それでもディアボロの後ろについて歩く。
 そのまま歩みを続けようとして……振り返り、手を地面に下ろす。
 ネズミは最初は戸惑いを見せ、意を理解して消沈しながらもその手に体を委ねた。

「妖怪とは人喰いらしいな……もしお前が拠り所を失ったなら、私の身を捧げよう」

 傍からは独り言に見えるそれを伝え、乱暴にポケットに押し込む。
 もぞもぞと腿をくすぐられる感覚を味わい、未だ重く遅い足を地霊殿に引きずり込む。

690深紅の協奏曲 ―独奏、王へと届くこと願い 1―:2017/07/28(金) 20:34:47 ID:JHQpBNUw0


 地霊殿も都と同じように、先の惨事により、最初に訪れた時とは別所のように崩壊が目に見え、それは一見打ち捨てられた廃屋のようにも思えてくる。
 だが少なからず建物の住人……動物たちが被害にあっていたように見えたが、その骸はどこにも見当たらない。先に片づけられたのだろうか。それとも……
 過ぎた事であり、ディアボロには関係はないことだ。辺りにまだ残る血腥さにこみ上げてくる不快感を抑えながら、崩れた門扉、その奥へと向かう。
 自分が抜け出た時と何も変わりはない。ただ、生きているものがいないだけ。たったそれだけ、だがそれだけで先程通った都との温度の違いを感じ取れる。
 本来これほど大きな建物であるならば、地底の統する者の建造物ならば。誰かしらが第一に来るものだが、その姿は一つも見えない。
 どのようなコミュニティにも、自分が害されてもその身を捨てて奉仕に尽くす者がいる。統べる、ということの単純な解の一つはそうした者たちの集まりなのだから。
 そういった姿がないのは、かつて一つのコミュニティを統率していたディアボロには不可解だった。その疑問を、今は全て飲みこむ。
 荒れ果てたエントランスホールを通り抜けて、かつての足取りを元に客室へと向かってみる。
 ホールを抜けてある程度足を進めれば、そこまで暴徒は来なかったか、急に元の姿と変わらぬ、荘厳だが人の気配の無い不気味な屋城が現れる。
 立ち尽くしていた烏羽の女もおらず、開け放たれていたはずの二つの扉は閉まっていて、倒れていた二尾の黒猫もとっくに姿を消している。
 扉を開け、中を見る。……誰もいない。それどころか、使われていた形跡もない。誰も使わなかったかのように。
 ズボンのポケットからわずかに鳴き声が漏れる。これが、彼の伝えたかった真実なのだろう。
 中に入り、軽く物色をする。机、衣装棚、ベッド。簡素に整えられた部屋には何も残っていない。
 ……唯一、残っている形跡。ベッドに掛けられた整ったシーツに僅かに残るシワ、一度使ったものをそのまま整えて使った、証拠を消そうとした痕跡。
 何も問われなければ、相応の嘘をもって答えることを明かしている。無血ではあるが、他者に容易に明かすべきでないやり方で『何か』が起きたのだろう。
 それを知ったか、あるいは伝えられて、彼は伝令の役目を果たした。投げ打ったのは、自分だが。
 願わくば、無事であるように。それを祈って足を戻す。相手がどこにいるかはわからないが、かつての邂逅、客間へ向かうしかない。



「お帰りなさい、戻られたんですね。……そして、生還おめでとうございます」

 ゆっくりと歩き、ホールへ差し掛かろうというところで、ぱちぱちと手を叩く音が静かな地霊殿に響き渡る。
 地熱で常に足元を照らされているこの館には影はなく、故にその姿を隠すものはない。正面から歩いてくるのは惨事の元凶、古明地こいしのその姉。
 記憶の中の彼女と変わらず薄らと開いた眼に僅かな笑みを浮かべ、胸の瞳は先ほどまでディアボロを追っていた瞳と違い明確に開いている。

「あなたが生き残るかそれとも死ぬか、あまり生きられると思っていなかったのですが。どちらにしても早期解決できたことには感謝申し上げます」

 姿勢を整え、丁寧に頭を下げる。その所作は、神経を敢えて逆撫でするかのような慇懃さだ。

「どの面下げて、ですか。そう思うのもわかりますが家族として、地底を治めている者として。私はあなたに感謝しています。不出来な妹ですが、それでも私の掛け替えのない家族でもあります。だから私には手が出せませんでした。それは他の者も同様」

 変わらず僅かな笑みを、どこか相手より優位に立っていることに優越を覚えていることを隠せていないような笑みを浮かべながら。さとりはそれでも言葉を続ける。

「きっと、他の者は感謝の程度はあれど、あなたに表立って頭を下げることはないでしょう。星熊童子に対してのあの行為、そして追随する彼女の仲間たち、以下の者たち……あの状態で幻想郷ではない人間が行う術では最善だと私も思いますが、だからこそ。私だけでも、あなたの行いを正当に評価する必要がある」

 あるいは、彼女なりの誠意の表れなのかもしれない。ただ、絶望的にその作りが苦手なだけで。
 ただ、そんなものはどうでもよかった。
 問うことがある、と口に出す前に、僅かながら身体を一歩踏み出す。……同時に、僅かにさとりは後ずさる。

「そうですね。何も知らず巻き込まれたのですから、結果だけを押し付けられたのだから。知りたいのは当然です。なんでも、答えましょう。たくさんあるようですし、ゆっくり一つずつ選んでください。全てに、答えましょう。……ここではなんですし、部屋にでも、いいですか、そうですか」

691深紅の協奏曲 ―独奏、王へと届くこと願い 1―:2017/07/28(金) 20:35:44 ID:JHQpBNUw0
 眼を閉じ、笑みが消える。此方の行動を待っているのだろう。聞きたいことが、それが全て既に読み取られているはず。けれど、本人の整理のために口を開かせようとする。
 ここでも手のひらの上で転がされているような気分に侵され、気持ちのいい物ではない。誰からも好意的に取られないと言われる所以だろうか。
 その心を読み取られたのか、くつくつと声を抑えた笑いが、さとりから湧き出ている。

「古明地さとり……お前はすでにアレの明確な解放の仕方を準備し、だが敢えて何も伝えなかった」
「既にお燐から聞いているようでしたので、私から伝えることは何もありませんでした。パルスィとは既知でしてね、もしもの時にはお願いしていたのです。彼女……友達いないので」

 眼は閉じたまま、けれどそれが来ることは当然といったように。

「ならば何故初めからあの女を使い止めなかった? 奴ならば、被害を出すこともなく食い止めることができただろうに」
「くく、言ったじゃあないですか。こいしを縛ることなど、あの子も私も望んじゃいない。私はあの子の幸せを願っていると。選んだ結果は受け入れるべきですが、選ぶための道筋を縛ることはこいしに限らず誰もが望まないことです」

 決してこちらを見ようとはせずに笑みを浮かべる。だが、変わらず胸の瞳はこちらを睨み続けている。

「…………アレは事あるごとにお前を引き合いに出していた。過去に、アレに何をした」

 第二の疑問を口にする。こいしの暴走の発端、彼女の能力を知っていることを告白した時から付きまとっていた違和感。
 それまではいつも姉を第一に置くような物言いが見られてたが、あの最中では、事あるごとにさとりに対して、姉としての尊敬より、何か別の薄ら暗い感情を抱いていたように見える。

「そんなこと、たいして重要ではないと思いますが……? そうですね、命が懸かっていましたもの、疑問は当然です。端的に言ってしまえば、私の愛があの子には重かった、という事でしょうか。だから、今は手をかけていない。妖怪だって学びます」

 引き出された答えは、あまりにもあっけない肯定。それが答えだというのならば、こいしの現状を作り出したのは、なんてことなく答えた目の前の存在。そしてその者がとった次の策は放任というあまりに無責任な解答。

「あぁ、怒らないでください。結果としてあの子は私に愛憎両方を抱くようになってしまいましたが、あの子の本質は知っての通り。望むは皆の笑顔。私だけがそこからはみ出ている、それでいいのです。……覚とは元来そういうものなのですから……」

 一度、閉じた目を開いてこちらの顔を直に伺い、そしてすぐにまた自嘲を秘めた笑みを浮かべながら目を閉じる。
 誰からも好かれない、と周りから評価を置かれている。そして、それを他者から知れてしまう。
 そうであることが妖怪として、覚の矜持というものなのだろう。最初に会ったときにこいしの事を話しているとき、その矜持を踏み躙ったとこいしの事を誹っていた。
 互いの想いに、過去に、二人の間に何があったのか、どのようにすれ違ったのか。……ディアボロに興味が全くないわけではない。だが、今はそれに付き合えるほどではなかった。

「……ならば、もういい。人間の私にはこの地の底は暗すぎる。お前たちの歪んだ関係に付き合わされた事は大いに不服だが……解決した今、何も言わない。地上に、戻ることにしようと思っている」
「そうですか、それは残念です」

 口調は確かに遺憾は籠っていた。だが、片目を開けてこちらを見据える彼女からは、敵意とも、悪意とも取れるねばついた空気が湧き出ている。

「…………ですが……どうやって?」
「……だからお前に質問しよう。あのネズミを……ナズーリンを、どうした?」

692深紅の協奏曲 ―独奏、王へと届くこと願い 1―:2017/07/28(金) 20:36:45 ID:JHQpBNUw0
 だから、ディアボロの語気にも伝播する。

「……どう、と言われましても。あの方は帰られましたよ。この事を巫女に伝えるとかで。……まさしく後の祭り、もう終わったことですし、何もないので歓待の用意くらいは考えておきますが」
「……目撃者が、居る」
「そのポケットのネズミですか? 確かに彼女の使役でしょうが、あなたに彼の声が聞こえているのですか? 言葉を介さない者と、人間とで」

 誰の目にとってもわかる、明らかな嘘。もし前提を知らぬとしても、表情、所作、全てが物語っている。わざと言っているように。
 明確な優位に悦を感じている、徹頭徹尾変わらぬさとりの表情。心を読めるから言葉を発せない動物の意志を理解し、そして目の前の相手の怒りの理由を知っている。向けられた侮蔑の感情も、また覚にとっては賜物なのだ。

「……」
「信用できない、ですか。そうですね。私に対しては否定しません、特に信用に値することをしていないのでそれでいいでしょう。……ところで、どうやって地上へ戻られるのでしょう?」
「……あの縦穴以外に、エレベーターがあるようだが……どうやら、使用させる気は無いようだな」
「くく、決してそういうわけではないのですが。いえ、こちらとしては迷惑をかけた身、もてなしもせずにお帰りいただくのは忍びなくて。何も急いで帰られなくとも、ナズーリンさんが帰られるまでゆっくりして行ってもらおうと思っていまして」
「そこに、私の意志が組み込まれていないようだが?」
「いえいえ、使いたければ使って帰られても結構です。……ああ、その選択はやめておいたほうがいいです。力づくなど、誰も願ってはいない。……それどころか、あなたは私に勝ち目はない。いえ、私もあなたに勝ち目はありませんが」

 ふわりと、重力を無視した挙動。僅かに中空へ浮かびながら、ゆっくりと距離を離す。ただでさえ小さな声と姿が、より小さくディアボロの網膜と鼓膜を刺激する。

「私はあなたの心が読める。故にあなたの攻撃は通用しない。あなたは私の未来が見える。故に私の攻撃はあなたに通用しない。……比類のない、素晴らしい能力です。だからこそ永遠に続く、追いかけっこが始まってしまう。最も、空を飛べず弾幕も打てやしないあなたがどうなるかは、自明の理です」

 離れた距離のまま、ゆっくりとその身を地に下ろす。遠くなった姿でも、変わらずあの表情は浮かんでいた。


「……ならば、何を望む? これ以上、私に何を躍らせる気だ?」
「一番最初に会ったときに言いましたが……私はあなたに興味がある。あなたの話を聞かせていただきたい。私は覚。前に生きる者の心の内に隠れた本質、恐れを喰らうもの。私はさとり。個としての趣味として、あなたの言葉を聞いていたい。……迎えが来るまで、ゆっくり語らおうじゃあないですか。あなたの事、私の事。こいしの事、ナズーリンさんの事。あなたが私と心からの会話に付き合ってくれたのならば、私は喜んであなたを送り出します。この古明地さとり、相手の虚を暴くもの。故に、嘘は吐かぬと誓いましょう」
「……断る、といったならば」
「私はこいしのように強制は致しません。あなたの心がこちらに向いた時でいい。……時間は有限ですが、限度まで無為に過ごすであるならば、それでも良いでしょう。その間に何が起ころうが、私の、知る由ではありませんので……」

 さとりは振り返り、無防備な背中を曝け出しながら廊下を行く。懐から小さな金属を取り出すと、こちらを見ずに放り投げる。
 全く狙いの定められていないそれはディアボロの遥か手前でかちゃんと音を立てた。

「私の部屋のカギです。意が固まりましたらいつでも御出でください」


 うっすらと、彼女の押し殺した笑い声だけが残された。

693みりん:2017/07/28(金) 20:39:33 ID:JHQpBNUw0
以上になります。いくらか書く時の癖っていうの自覚してますけど、このさとり様「〜ですか、そうですか」って言いすぎた気がする。
まだまだボスの受難は続く。原作未プレイな人に言っておきますとさとり様はこんなに厳しいキャラじゃないと思います、と白々しいこと言っておこう。

694Dr.ちょこら〜た:2017/08/18(金) 09:48:03 ID:g6.7dvXs0
感想まるく
投稿お疲れ様でした(遅漏)
今更ですが感想述べさせていただきます。

まさかのみとり!東方オリキャラの中では群を抜いて高い知名度と受け入れられ方、自分も何の違和感無く受入れてしまうので恐ろしい

こいしちゃんの御言葉、好きだからこその暴力…!良くぞ言ったものだ!(分かりみ)
攻めのこいしちゃんは良いものですね…
切り札はいつだって悪手。ドッピオの呼び出し音で無意識に虚を突くという応用方法、斬新で面白いですね。

化け物には化け物ぶつけんだよ!と言わんばかりのパルスィ投入。矛先をズラす、目的を挿げ替えるというのは、能力の相性や相乗効果を狙っているので、ある種能力バトルのあるべき形ですね。
嫉妬心は人間が無意識に他人と自分を比較する際に発生する感情なので、パルスィが対無意識兵器なのも納得。
ネガでポジなラブコールは、緑眼の前に脆くも掻き消えてしまいました、と。
ナズーを囲むお燐とお空が不気味なのに小気味良く、良い味出してますね。
さとり様がこいしちゃんを過去に虐待した末が現在の有様という背景は興奮を抑えられないのでもっとやれ
次回、さとり様との直接対決の行方、そしてナズは果たして無事なのか、楽しみにしております!

695みりん:2017/08/22(火) 12:52:28 ID:BNTOrNII0
感想ありがとうございます。いつだって待ってるです。

み…み…赤い少女は釣りキャラではかなり整合性取れてて違和感ないですからね。最初に知ったのは東方有頂天シリーズで多用されてた時でしょうか。
地霊殿メインで書いてるとある意味一番動かしづらいような気がしました。書いてみてそう思いました。

だってこいしちゃん、好きなんだもの!割と攻めキャラ。
しでかそうとしたときに気が削がれるようなことを言うのはそれはそれで聞くと思います。おにいさんそんなこと言わない!でも一度きりだけの切り札です。
逃げろドッピオ。

パルスィにキスされたディアボロをゆるしてはいけない
そういえば金髪になんかそういうことされるの多くない?趣味なの?
緑眼の魔物は何かしたいわけでもなく、さとりんの目的のために使われているだけ。二人とも何を考えているのやら…こいしちゃんかわいそうだと思わないのか!
といいますが、やっぱりさとり様の印象として『今は』こいしをかわいがっている、大事にしているけど過去にはこいしを重く見ていたように思うんですよ。いや、それがいい
虐待、していたつもりはないですが結果的に屈折してしまった、覚として異端すぎるこいしを種族名を名前にしているさとりはどう思っているのか…種としてのプライド、高そうなさとり。腕は短い
お燐は狡猾、お空は使われる分には狡猾。

次回もお楽しみにしていてくださるとうれしいです。ナズはきっと無事じゃないですかね(すっとぼけ)
さとこい設定を勝手に書いているともっと書きたくなってくる不思議。

696みりん:2017/10/19(木) 15:45:43 ID:4Bs0obxg0
いつだって完成品は遅く、短く、それでいて作者にとって大事なものです。
話がきな臭くなってきたような気もします。

697みりん:2017/10/19(木) 15:46:38 ID:4Bs0obxg0
 地底の全体は薄暗い。元々光の射さない空間に人工の灯りだけが頼りだから。地霊殿の下には核熱の灯りが恒常的に照らし続け、一線を画すものだった。
 だから、先の騒動で破壊され、誰も手をかけていない入口から都市部までの道のりは夜の闇が降りたように暗く、僅かな光を頼りに進むしかない。その先にある、既に喧騒を取り戻しつつある眠らない都まで。
 どうしてもすぐに行く気にはなれなかった。上から見下すようなあの傲慢な笑みをすぐにでもすり潰してやりたい気持ちは十二分にある、だが敵の胃の中、それに相手のを知ることも少なく、決定づける理由に足る読心の能力。
 機会の見極めは重要だ。感情だけに任せてしまえば後悔を呼び込むこともあるかもしれない。……まさしく、それはあの敗北を指しているが。
 もぞもぞとポケットに突っ込まれた片割れが主張をする。ディアボロの行動に何を思っているか……彼は敢えて確認をしなかった。それは、いくらか残されていた、彼自信の呵責の一つ。

「ケガ人は一か所に集めろ! 生きそうなやつから助けていけ!!」
「ボーンナム、どこだー!! 返事しやがれッ!」
「え、いや私はそろそろ上戻らないとまずい……わかったわかった! だから服引っ張んないでください!」
「水、食いもの、酒、たくさん持ってきたよーっ! 食える奴は食っておくんだよーっ!」

 地霊殿から離れ、都市部に近づく度に威勢の良い声が耳に入ってくる。あらかじめ知ることのできた災害だからか、既にそのための準備をしていたのだろうか。一度の往路から考えればその喧騒はいくらか早すぎる。住人たちの生命力もまた、地底を支える力の一つだろうか。
 あの空間の中に入るつもりはない。入ろうも、何をされるかわからない。彼らはディアボロを騒動を治めた英雄とみるだろうか? 引き起こした悪魔とみるだろうか? もちろんその前提に、地底の鬼、その頭領であるあの女のプライドを傷つけている。そんな自分に、都合の良い言葉を押し付けたりするだろうか。
 ……さとりにたいして何かを聞くのであれば、少なくも関係のあるのは橋姫だろうか。いや、そもそもはあの二人が最初から動いていれば怒らなかった騒動。妹のためと塗り固められた姉のエゴに自分は宛てられ、押し付けられた、簡潔にしてしまえばそれだけの事。
 それでもあの橋姫はそれに組み込まれ、敢えての憎まれ役、汚れ仕事を引き受けている。それを良しとするまでの間柄、それとも。
 一度離れた所にまた足を向けるのは癪ではあるが、それでも唯一の情報源に変わりはない。不確かを携えながら都市部を歩き回るよりかはいいだろう。

「……おや?」

 陰に隠れつつ再び歩を進めようとしたとき、間の抜けた声が喧噪の中からこちらに向けられる。直接ディアボロを認識したわけではないだろう、隠れる者に向けた疑問の声だ。

「怪我人かー? 今弱ってるやつを食おうとしているわけじゃあないからこっちに御出で、あんたも大変だろう?」

 特に警戒する様子もなく、ガタガタと瓦礫を踏み越えながら近づいてくる。
 その他大勢の一人に関わる気はない。今は負傷者と思い近づいてきているが、それがディアボロだと、災禍の中心に近しい人物だとわかればどう出るかわかったものではない。
 隠れ離れよう、と意を決し動いた時、

「……あん? ……なんで逃げる?」

698深紅の協奏曲 ―独奏、王へと届くこと願い 2―:2017/10/19(木) 15:47:17 ID:4Bs0obxg0
「……あん? ……なんで逃げる?」

 姿を見せていないにも関わらず、その声は猜疑の念を含む。
 物音は僅かだが立ってしまうだろう。しかしそれは喧噪に巻き込まれ消えていくはず、かつまだ実際に離れたと称することのできるほどに動いてたわけでもない。小さな足摺りを、それから離れようとする心を読み取っている。
 浮かぶのは、僅かな笑みを浮かべた醜悪の体現。先刻出会った屋敷の主の顔。しかし、あれに類する力を持つ者がそれほど頻繁にいるとは考えにくい。
 予知に目を通す。……そこには動かず、佇んでいる自分の姿。

「体格、足音、重量……人間かい? もしかして、勇儀たちとやりあった」

 それが示すのは対話。互いに顔を合わせる訳でもなく、しかし情報のやり取りは行う。確かに相手はこちらに気づき、その詳細に手を伸ばそうとしている。
 だが、そこまで行き着いたことは認めるが、そこまでなら誰でも行きつける。決して相手だけが特別なものではない。
 僅かな期待が湧いてくる。脚を止め息を殺し、動かないことで相手の二の次を待つ。

「……動かないね。図星かな? まあちょうどいい。さとりから殺すな、逃がすな、とお達しが来てる。あんた一人でそこらをうろつくよりは私の所に来たほうがいいんじゃあないかい」

 待ちに徹した結果は、想定の一つではあるが面倒な側面を持つ内容。自身との対話を求めていたさとりだが、縛り付ける楔は緩やかだが確実にディアボロの周りを取り囲んでいた。
 生け捕りとまで行かないところに疑問が浮かぶ。従属を望まず、あくまでの対等を望んでいるつもりなのだろうか。
 そして、殺すなというのに、身を案じる言葉。相手も何を考えているか伺い知れない。

「…………」
「返事がないねぇ。まあいいや、私は今からそっちに行く、会うのが嫌ならそのままどこかへ消えな。でもさっきの話を詳しく聞きたいのならそのまま止まりな。酒でも飲みながら軽くお話ししようよ」

 こちらの心境とは裏腹に明るい声色でのこのこと近づいてくる音がする。相手が何者かの仮定を自分の中で決定し、疑うこともせず。
 近づく相手の様子を伺い見る。黒い下衣から茶色い上衣を身に着けた薄闇の中では溶け込みそうな姿と裏腹に蓄えられた明るい金の髪が特徴的だ。それは、闇から迫り害なす虫や獣、相手を狙う無感情の瞳を想像させる。

「止まれ」
「おぉ? 意外と恥ずかしがり屋さんかな?」

 静止の声かけに、相手は素直に応じた。その場で腰を下ろすと懐から何かを取り出そうとする。

「……待て、何を取り出そうとしている?」
「えぇ? 何って、一服やろうとしていたんだけど」
「やめろ、不用意なことはするな」
「……それは脅しのつもりかい? まぁ、やらかしてるんだからあんたが慎重になる気持ちはわからなくもないがねぇ。……けどさ、あんたは妖怪を見くびってないか」

 懐を探る手は動いたまま、休めるつもりもない。直接に視認はしないが、その様子はこちらを歯牙にもかけていない、という自信の表れだ。
 気には食わない。拳から足裏まで、ゆっくりと力が走る。だが、それでも頭までは熱を通さず、そのままディアボロは語り続ける。

「いいや。恐ろしさは身に染みている。自らの領分を超えぬ、踏み入られぬようにするのは当然だろう」
「そこが甘い、って言ってるんだ。姿が見えようが見えまいが、あんたが私を認識できる範囲にいるならあんたを害することなんて造作もないって言ってんの。あんただけの領分で考えている程度じゃあ、それを容易に踏み越えてくる奴なんてここには大量にいるってんだ。……たく、教えを請おうっていう態度じゃないね」

 手のひらに収まるほどの小さな箱から、一本の煙草と打ち金を取り出し、かつかつと打合せ音を立てる。咥えたまま顔を落とし、僅かな目線だけがこちらを窺っている。

699深紅の協奏曲 ―独奏、王へと届くこと願い 2―:2017/10/19(木) 15:47:58 ID:4Bs0obxg0
「……それで? お前が話さないのならば他の者にでも尋ねればいい。領分の中で御せるものを見極めればよいのだからな」
「くくっ、まあその通りだ。それに、どうやらあんたに一番最初に話しかけているのは私のようだからねぇ、それなら都合がいいってもんさ。……私はヤマメ、黒谷ヤマメていうんだ。本当は酒の一杯くらいは出したいが、まあ煙草の一つくらい、許してくれないかな?」

 髪に隠れた二つの眼から線を交わしつつ、その妖怪――黒谷ヤマメ――は打ち金を鳴らし続ける。打つたびに飛ぶ火花が小さく小さく彼女の顔を照らす。
 敢えて含ませるような言動を続けるのは、会話による拘束を続ける気だからか。それは、こちらを篭絡するためか単純に会話をしたいだけか。

「……」
「ありがと、まあ一本で十分だからさ。……ふう」

 様子見、無言の返事を肯定と受け取ったのか、打ち続けた金はようやく火を彼女の咥えた紙巻の先に点す。そこから生じる煙を彼女は胸一杯にため込むと先程の苦労を憂う様に虚空へ吐き出す。
 いつか、嗅いだことのある香りが辺り一帯を包み込んだ。

「先程、さとりがどうのと言っていたな。何が触れ回られたんだ?」
「あぁ、先の人間を殺すなってこと、地底から出すなということ。この2点だよ。あの性悪、どうしてもあんたをここに留めておきたいみたいだねぇ」

 蒔いた種に興じた事に心を良くしたのかヤマメは先ほどまでどこか探るような言葉の色があったが、返事を皮切りに笑みを浮かべながら話しだす。
 仮にも治める立場の者に対しての言葉とは思えないが、さとりに対する心証として、それを擁護する感情も浮かばない。それが、この地底に住む者の総意でもあるのだろう。

「アレが何を考えているか私にはわからんが……自分でも手に余っていた妹をどうにかした人間なんだ、きっと飼い馴らしたいんじゃないかなぁ。覚が惹かれる人間なんてこれっぽっちもいないんだから」

 煙草を時に吸いながら、時に片手で弄びながら、一人友人に語り掛けるように話しかける。その視線の先、向ける煙草の火の先には明確にディアボロを捕らえている。確かに陰に隠れ、姿は見えていない、はずなのだが確実に。
 視覚だけでなく体温や呼気など、別の方法で相手の存在を感知できる妖怪なのだろう。そういった存在は、往々にして厄介な存在だ。

「しかし捕らえてこちらに持ってこいとは言っていない。これは私の予想だけど、きっと地底というところを教えたいんだと思うよぉ?」

 一見すれば壁に向かって語り掛けているような状態のまま。

「人間の心の闇、妖怪。人を襲い喰らうための存在、身内同士のはずの妖怪からも爪弾きにされた腐れども。それが私たち地底の民。人間が一人、既に手を出して後に引けない状態。そんな奴らの中に放り込まれて揉まれてさ、かき回されてさ」

 それでも語り口は止まらない。

「『心が読まれるだけ』な奴がなんて楽なんだろうって思わせたいんじゃあないかね、アレはさ!」

 その様は、見えぬ虚空に語り掛けるその姿は、辺りに漂う香りも相まって狂人のようにも感じられた。
 だが、それは確かにディアボロ自身に、その内に潜む心に語り掛けていた。人間だから、という疎んじた感情、不意に現れた獲物に向ける喜の感情。計り知れぬところでもがく弱者を嗤う感情。様々なものを入り混ぜてぶつけていた。
 ひとしきりに彼女は笑い続ける。小さく、それでも抑えきれず。
 ……次第に、それは収まっていく。ふくらみ続けた風船がゆっくりとしぼんでいくように。

「…………それは、お前たち全員が、あのさとりと同じだ、と言っているのではないか」
「くくく、くくっ、そうさ私だって同じさ、同じ穴の狢さ。自身では存外善良だとは思っているがねぇ? ……それで、なんだけどさ」

700深紅の協奏曲 ―独奏、王へと届くこと願い 2―:2017/10/19(木) 15:48:28 ID:4Bs0obxg0
 治まった笑みを、新たに煙草の煙で隠してから、やや身を乗り出すようにしてこちらに尋ねてくる。
 その好奇に満ちた眼は、かつて、そしてこの幻想郷に来てから何度か向けられた光。その全ては、自分の中と、その身を、

「おまえさん、私に喰われてはみないかい?」

 我が身に委ねろという命令だった。いつも形は提案であったが、その実、こちらの意を介さないという強い意志がいつもあった。それは、今回も。

「……妖怪というのは、どいつもこいつも行きがけの人間を喰らおうとするのか」

 唐突な言葉も、放たれた内容も、全てにうんざりする。別に自分でなくてもいいだろうに、何故こうも輩はにじり寄ってくるのか。

「まあ怒らないで聞きなって。さっきも言った通りあんたの事は殺すなって通達がある。だが傷つけるなとは言われてないね」

 先の発言に対してこうなるだろうとわかっていたか、笑みは崩さないままにフォローをするヤマメ。
 確かに彼女の発言を信じるならば、その2点に無事は問われていない。死ななければ何をしていても大丈夫、という意味は含まれているだろう。……想定内だ。かつて、そのような指令を下したことはゼロではない。

「それに通達は全てに行き渡っているとは思わない。思えない。……それに、事故の可能性はゼロじゃないし」

 さとりの影響力、行動力。それは確かに治めるもの、過去の自分と同じなのだ。下に並ぶ者は別としても、下した命令に対しては全て合点がいく。

「結局妖怪は人間ありきで成り立っている。あんたは強く逞しく、狂っておらず。……何より、ウマそうじゃあないか。……あぁ、話がずれたね。もしあんたが死に、その身体が出てこなくなっても、皆が知らぬ存ぜぬで通せばさすがのあいつも何もできない。でも誰かの庇護に既に入っているのなら、その状況では諍いが生じる。さとりに限らず、ここは、案外そういう不和を嫌うから……結局、あんたを欲しがっているのはさとりだけじゃあないってことさ。おそらく勇儀も、あんときゃ頭に血が上って堂々と宣言しちゃったけれど、今あんたに会えたらきっと篭絡する。永遠に鬼に目を付けられることと引き換えに、一番安全な位置につけるかもねぇ?」

 そして、改めて自分の立場を理解した。好奇心は猫を殺す、という言葉もある。闇の中に身を浸そうとだけ思っていたが、地獄の釜の底は、愚かな人間を容易には登らせないこと、ゆるゆると下るにつれてそれを察し、底で改めて理解した。
 甘く見ていたのは確かに自分だ。だが、まだ。

「ふふふ……まぁ安心しなよ。私だって若造じゃない。普通の人間ではできないようなこと、たぁっくさん、愉しませてあげるよぉ……?」

 肺を満たした空気を換えがえ、その度に煙草の煙と、付随する香りが辺りを占める。その独特な甘くも感じられる香り。
 地底の入り口、橋で出迎えたあの香りとよく似た、そしてそれはかつてイタリアでも、いやどこの世界でも表舞台に上がらないだけでいつもどこかで蔓延していた匂い。

「……お前の色事情には興味はない。だが……度々この地底に来てから気にかかる。橋姫とやらも吸っていたな」
「あぁ、これが気になるのかい? 私が使ってんのは大したものじゃあないけど……これでも、キメれば底なしだよ? 上とは違ってね。ここには太陽がないから、いろいろと外れてるものが多いさね。……それでも、いやだからこそ、結局はこういうものに頼っちまうってこと」

 吸うかい、と小さく灰を飛ばしながらこちらに向ける。元々こんな場所で、それらが栽培、製造されているとは思えない。聞いた知識、外の忘れられたものが流れ着くと言われても、それらは永遠に流れ着くことはないだろう。正確な定義は以降だが、有史以前からそれは人間たちと共にあったはずなのだから。
 幻想郷は、あって当たり前と言われそうなものはあるものだ。国柄故に島国のそれに依るが、例えば食物などは全く見慣れないものではなく、草木もいずこでも見られるものだった。
 それは、最初から幻想の中にも存在していたのだろう。

「知りたいってぇなら……あんたの種を受けてからだねぇ。それが嫌なら探してみなよ」

 これ以上話に付き合っていたら、彼女の領分に飲まれるかもしれない。それに、問いたいことより興味のあるものが出た。
 あれを下すための物に繋がるかどうか、と言われれば関係ないのかもしれない。しかし、それは上で見なかった、確かな闇の一つだ。
 心を読む者に対する、心の暗幕。

 何も言わず、その場を立ち去る。痕跡を残さず、何もいなかったように。
 秘匿されているのは当然だろう。だが、暗部を治めたという自負がある。その道にしかわからない匂いを感じ取れる嗅覚がある。
 信じるは己だ。



「て、あぁ、あらまあ。……あんた、いつでも見てるよ」

701みりん:2017/10/19(木) 15:50:43 ID:4Bs0obxg0
以上になります。自分自身そんなにたくさん吸う方ではありませんが、たまに吸う分ならセーフです。
嗜好品ですから。……一般に流通しているものです。

道を逸れ始めるのは、最後に戻れればいいという事かそれとも。ということで次以降も頑張っていきます。

702ピュゼロ:2017/10/19(木) 23:15:05 ID:L0MLfaRk0
ちょびちょび出てくるゾンビ四人組にほっこり。
ほっこりというと違うかもしれませんが、僕こういうところすごく好きです。
地底は薄暗いって部分でもそうで、分厚い岩盤の下では雨も風も雪もないのかなとか、ついつい考えてしまいます。案外そういった端っこのところから覗ける世界観を見渡すのが一番楽しいのかも。
病気にできるって事は、病気にできないって事がわかるって事でしょうか? 歩く時の姿勢や呼吸の性質で相手の体調がわかったり、片腕が義手だったり星型のあざがあったりするのもわかるものなのか。す……すごく強そうなヤマメさん!

五部って舞台がギャングで、ジョルノもボスも社会的には悪人で、だからこそ殉職した警官のあの道を進むってセリフが、色々な意味をもってくるんだと思います。
二次の醍醐味ですよね。ここね。

カツオ節だかピュゼロ節とかいわれるとすごく偉そうなのでやめてくだち……そーですか?よく書けてます?えへへ、えへ……
けどさとりさまはすごく喫煙が似合うと思います(手のひらくるっ)

703みりん:2017/10/21(土) 00:45:23 ID:UWEUqACY0
(ゾンビでは)ないです
きっと彼ら本名とは別にそう呼び合ってる仲なんでしょう。割とやられ役として使いやすくて好きになってきそうです。

漫画など絵があるのと違い文章は視覚的には伝えられないので、そういう細かい描写で伝えられるのがいかにいかにと思います。昔よりは見えるようになっているでしょうか。
でもあそこ雪降るんだけどもうよくわかんねえな。教えて華扇ちゃん!
病気にできるかできないかはわからないかもしれませんが彼女は蜘蛛なので、地に足つけてるやつらは鋭敏にわかりそうだと思った次第でございます。幻想郷の奴らはよく浮いてるので死にスキルになりやすいです。
美鈴の地龍派みたいなものですね。地対地を想定されていない幻想郷。

5部は常識ではなく信じた道を進むっていうのが主ですからね…。…いや他の部でも大体そういうのありますが。
それでも特に目立つ感じがします。アウトローたちの物語ですしね。

このカツオ節野郎!
とは言いますが文章呼んだだけで「あ、きっとピュゼロさんだ」ってわかるようなのはまれだと思うのですよ。自分にもそういうのはあるのでしょうか?自分で読んでみてもわからんのです。
というかいつもレスポンスが早くてもう…好き…ってなるます。感想つけようと思って遅くなっておにいさんゆるして何でもしますカレー
それとは別に、女の子が女の子してるのをかけてるのがうらやましいくも思います。心がきっと女の子なんだと思います。
幻想郷の女の子がタバコ吸ってるのはよく似合うのも多いんですが、煙管とか変な用具使わず紙巻きたばこで吸ってほしい。
その点ではさとりんとパルパルはよく似合っていると思うのでさとパルです。
さとりさま灰皿溢れるほどタバコ吸ってお燐とかに煙たがられろ

704ピュゼロ:2017/10/21(土) 03:08:27 ID:YsGtZtUw0
レスが早いんでなくって、更新されていて間が空きすぎていたら「あっ一週間前に更新されてる…まあいいかな…まあいいかも……」って見送っているだけなので……別所でコメしたついでに覗いたらでした。
コメントするって難しくって、あんまりうまい事も書けませんし、恣意的に見えがちだとは思いますが、偏ったりえり好みしたりとかではないという事を、謝罪させていただきたいです。すいません。
そっちの感想だとBad評価14回とかついててやっぱり、相当難しいなって思います。だから黙ってるのがイチバン楽なんですよね。

雰囲気……? とか、そーいうのはあんま考えた事ないので…よくわがんないです……しいて言うなら、京極夏彦とか黒岩重吾……? 前者ほど文章がねっとりしていてくどいわけではないと思いますけど、行間の重厚さはっぽいかなと。完全三人称でなくて、スポットを一人にしぼって描写していくからそうなのかな。
女の子なのはうん。まあ。引き出しは多いと便利ですねってぐらいで。

ヴぇっ雪降るのか。他の書籍……鈴とか茨での描写ってあたりでしょうか。本当に手を伸ばす範囲が狭いのでちょっと横に逸れるとねぇ本当無理無理無理無理やあ〜うぅぅぅ〜ああ〜はあ〜……。
暖かいし振る前に溶けてしまいそうな感じですけどね。ちょぼちょぼした薄暗い地底の底の底で、一羽の烏が太陽となった……みたいなイメージ。
「燐はさとり(≒親)を恐れて口をつぐんでしまった」ともあって、地霊殿は異変を通した変化、変革の印象があります。神が降りた後のお空は、降りる前のおバカなお空と別人になったのか? 自機たちは地上と地下の「境界を越えて」いく、今の地獄に移り変わって「昔の地獄が残された」とか……?
いやでもキセルは滅茶苦茶雰囲気出るのでダメですよ、あくまでキセルです。一服数十分から一時間ぐらい!
しけもくふかしてるのも好きですけどね。

でもさとりさま煙草いくらになったらやめるんですか……

705Dr.ちょこら〜た:2017/10/29(日) 01:28:27 ID:TFJPENlw0
みりんさん、投稿お疲れ様です!

一度は釈迦の手のひらで飛び回る孫悟空の如き屈辱を味合わされたディアボロ。しかしやはりそこで終わらないのが我らがボスですね。
ヤマメちゃんの語り口、さすが地底のアイドルと評される軽快さと愛嬌。こういう台詞自分もぽんぽん書けるようになれたら、表現できるものも増えそうで羨ましいです
そもそも妖怪たちは人間とは圧倒的に見えている世界のレベルが違うと思っております。シャコの一種は紫外線すら見分け、オオカミは僅かな匂い分子から獲物の感情や筋肉の動きを察知し、コオロギは触覚で分子振動すら感知する、テラフォーマーズでそう言ってた。
ここでもイヤなモテ方をするディアボロ、つくづく自分の出生の呪いに付きまとわれていますね。
ヤマメちゃんヤバイハッパなんてやめて…ここ座んなよ ゆっくりコーヒーでも飲んで…話でもしようや…(ねっとり)
やはりマニック・デプレッションが幻想入りしてしまったのか、今後の展開がさらなる凄惨の渦になりそうで胸の高まりが抑えられません。
期待しております。

706みりん:2017/11/07(火) 22:49:18 ID:DQRR18620
>ピュゼロさん
感想はタイミングも難しいし書くのも難しい…難しく考えなくてもいいって言われても難しくない?
早い方がいいんですがそれを忘れると「あ…まあ…あっあっあっ」ってなります。今もそうです。
お燐ちゃん曰く桜降るんですよあそこ。以外。人の魂が結晶になって桜みたいになって散らばるとか。じゃあ雪ってなんだよ。冬だからだよ。もうわけわかんないよ。
自分も書籍はあんまり覚えてないので小傘の刀鍛冶を使おうと思って買って意外と1,2巻と比べると絵が違くない?って思ってました。儚月抄辺り触ってないのでセーフです。

地底の上下関係はわかるけどわからないし、閉ざされた独自の空間で生まれるヒエラルキー問題もわかるけどわからない。でも確かに、異変を通して地上に触れあい大きく変わったものがあるのでしょう。
でも自分の書く地底ではそういうの少ないかもしれません。単純に閉ざされた地域に部外者が現れて爪弾きにされるのが好きなだけかもしれません。

短くなった煙草を短い指で吸い続けろ
煙管は使っていい者と使わないでほしい者と大別できます。もこたんは使わないでほしいけどぐーやは使っててほしいというイメージです。
この話平行線が続くタネなので終わらせておこうかな…


>Dr.ちょこら〜たさん
唐突なアナスイ被害
ただへこたれるだけじゃない。いつの間にやら体力も回復してきたようだしこれからが復讐だ!八つ当たりだ!
ヤマメちゃんはアイドル的口当たりの良さがあるだろうと思っているので3割くらいマシマシでしゃべらせました。地底の人おしゃべり少なくない?そんなことないですか。お燐ちゃん。はい。

見えてる世界は当然違うでしょうが、地底妖怪はそもそも上の妖怪とは違う何かになっていないか?という思いもあります。
人間がいないと存在できない妖怪たちが、人間のいない地域で生きているのはなんで?とも。どこか違う何かになっているのかもと。
だから感性がやや人間よりというか知的生命体寄りになるのはしょうがないので欲求を満たす行動に依るのはしょうがないことなのです。ハッパ危なくない。ハッパじゃねーし!まだ特定されてねーし!
今までは「ディアボロという男」に寄せられていたけれど、今回は「人間の男」ということで寄せられているのでセーフ。

凄惨なことに…なるかもしれません。ありがとうございます。

707みりん:2018/02/10(土) 22:29:47 ID:t3B0wPOI0
4か月…?いやきっと3か月だろうな…
遅くなっているのは認めます。牛のようにゆっくり書いていきます。
います。

最近ifだからってやりすぎてるような感覚にも覚えますがもしもを押し付けているだけなのでセーフかもしれません。
何もないよりはいいと思うし、読みたくなければそれでも良いと思います。
ゆっくりしていってね!!!

708みりん:2018/02/10(土) 22:31:13 ID:t3B0wPOI0
 表立って出せないということは、その理由故に隠されているという事。様々な理由があるだろうが、関わっていることに薄ら暗いことを理解していること、それを使用するのが恥だということを理解しているということ。その恥が、後ろめたさが大きいほど、尚更それは暗くなる。
 『それ』は隠れて使われているわけではなかった。だが、決して大勢に受け入れられているものでもないのだろう。もしそれが公に出てもよいものであるならば、もう少しあの香りが地底の都市全体に馴染んでいるはずだから。
 咎められるわけではないが、表立って使われるものでもない。自治を担っているようにも見える、あの鬼たちには好かれていないのかもしれない。一応統括である、館の主は認めていないのかもしれない。理由はわからないが、とりあえず見える事実だ。
 ……だからこそ、近づける理由になる。まさしくそれらに浸っていた事実。治めていた経歴。言葉では言い表せないカンが、至る道筋を導き出す。
 例えば光。元来堂々と取り扱われていなかったからか、今この荒れた状態でも表立たない。隠されて取り扱われていたものの行方は変わっていないだろう。自然に明るく照らすものはなく、全てが人工の灯りに包まれているこの地底世界、それでも外の世界と比べれば意味合いは大きく異なってくるが……、灯りというものは生き物に安寧を与え、そして必ず影をもたらす。隠されるものは、与えられた安心から目を背けられるように少しずつ、少しずつ、確実に光の外へと追いやられる。望もうが望むまいが。
 例えば匂い。目に見えなくなったものでも、それはどこからか必ず、存在を主張する。追いやられたことを恨むかのように、忘れられない、忘れさせないという様に。目に映る光の像を全て隠せば、僅かに放たれる香りを必ずその場に残す。どれほど密閉して隠そうが、その香りはいずれ小さな綻びを見つけ漏れ出てくる。隠すということは、いつまでもそれらに気を配り続けることだ。
 今回求めるものが個人のものであれば、それはとても厄介だ。一人の意志は固く、故に秘匿は強固となる。だが、求めるそれは隠され、それでも自分だけでなくその他大勢に求められているもの。決して多数派ではないが、しかし全員の両の手では零れ落ちるくらいには。
 綻びを、残り香を、影に潜む闇を。ディアボロはそれを求めて都の外へ外へと進んでいく。地霊殿のほうでもなく、およそ対極の入り口の橋でもなく。土地勘の無い彼にとってまさしく未知、騒動によって崩れてしまった概容は目印にもならず、道を違えれば戻ることは困難だろう。
 だが、構わず彼はただただ辿って行った。
 できるだけ存在を感づかれないよう、もしこちらに気づかれたのなら痕跡を吹き飛ばし。……ひっそりと佇む一つの扉にたどり着く。
 騒ぎがあった中でも、中心を外れれば外れるほど目に見えるほどの被害は少なくなってきていた。そんな中の、住居と思しき家屋の中、裏への道を隠すように立っている扉。存在を隠しているわけではない。だが、平時であるならばその先にわざわざ興味を持つこともないだろう。異質さを感じさせることはない、そんなもの。
 離れれば離れるほど、人気は薄れ、消えていく。ぽつぽつと漂う生き物の気配は、そんな隠れた扉の奥から滲み出ている。
 ゆっくりと手をかける。扉の前から、手の先から、感じ取れる香り。手入れのされていない蝶番が奏でる軋みと共に、確かに濃くなっていく。
 最初に出迎えたのは、暗闇、地下へと続いていく階段。どこまでもどこまでも飲み込んでしまいそうな闇に点々と小さく道標が灯っている。餌を捕らえるための誘蛾灯、大口を開け構えているようだ。
 その腹の底へ。

709深紅の協奏曲 ―独奏、王へと届くこと願い 3―:2018/02/10(土) 22:32:20 ID:t3B0wPOI0


「……おや、来客かい?」

 最初に出迎えたのは、視覚よりも強烈に飛び込んでくる臭気。堆積し凝り固まった老廃物の発する吐き気を催す臭い。それを無理矢理上書きするような葉の燃える甘さとも取れる刺激臭。……それらを少し吸い込んだだけで、脳内が明るくなるようだ。
 ディアボロの視界に僅かに知覚できるのは階段から続いている転々とした小さな、ろうそくの灯火程度の光、何かを焼き焦がした時の灯り。

「すまない、香のせいでわからないんだよ。……ここは安全だよ、上とは関係ないから……ヒヒッ」

 赤い襤褸切れをまとったそれが小さく呻くように話す。歓迎しているのかもわからない、ぼそぼそとつぶやいているようにしか聞こえない。薄らと視界に移るその顔は、同じく照らしているはずの光すら認識できていそうにないほどの盲であるようだった。
 ただ音がしていた方向に向いてみただけなのかもしれない。現れた者を正確に認識しているかどうかも怪しい。僅かに震え続けている身体、もはや肌の色もわからないほどに薄汚れた醜態、それに比例する醜悪な顔。理由なく虐げられることに否を上げることすら戸惑わさせる。

「……なあ、あんた、もしかして俺の友達じゃあないか? いや、友達だなんて不敬だけど、でもきっ」

 ナメクジのようににじるよるそれに嫌悪の言葉の一つでもかけようとしたディアボロは、突然の衝撃を予知する。
 暗がりからの悪意、ただ目の前の呆けたそれと同じように過ごしていたらその衝撃に巻き込まれ危機に落ちていただろう。妙に痩せ細ばった身体の、ずだ袋を持った男が、その体躯からは想像もできぬほどの膂力をもって襤褸切れのそれを蹴り飛ばした。その先にいる者を諸共纏めて蹴散らす目的で。
 哀れなそれは、小さな呻き声と水分の詰まった袋がつぶれる音と共に闇の中へと消えていった。わざわざ目を凝らせばその結末は知ることはできるだろうが。

「…………人、間。どうして、こんなところにいる」

 腐った歯根しか残っていないような口から唾液と共に吐き散らされる言葉は疑問。黒い襤褸を被った男は明確にディアボロを認識し、存在を明かそうとする。

「お前た、ち、なんぞにやるもん、なんてない」

 過度に力の籠められた拳はブルブルと震え、襤褸の陰から除く瞳は明らかに視線の焦点が合っていない。やや目の前のものに当たっている程度。その光がわずかに映す姿が何に見えているのかはわからないが、ただ明確な敵意だけを訴えている。

「表がど、うだ、と知った、こっちゃない、こ、こ、こまで明、かすのなら」
「……やや品質は悪いな、このような場所ではこの程度か?」

 しかしディアボロには関係ない。屈みこみ、散らばる粉末状のそれを一つ摘まみ上げる。少なくとも自分の常識で、という根拠からだが今手元にあるものはあまりよろしいモノではなかった。彼からすれば、目の前の暴力など何の障害にもなりえないと判断できる程度。
 質問に答えず、あまつさえ無視を決め込まれた男からすれば、その行動はただの侮辱でしかない。一欠けらの情けの言葉を踏み躙られたその衝動はたやすく頭に血を登らせる。

「ぎ、ぎひゅうぅいぃっ!!!」

 閉じ切らない口から泡とともに激の感情が噴き出てくる。携えたずだ袋を、中に何が入っているかわからない赤く染みた袋を振り上げ、彼をその一部にしようとする。
 だがそれは起こりえない。男はディアボロのそばに立つ精神の像を認識できていない。とっくに確認済みであり、そんな大振りをする間にほんの少し、眼球でも突いてしまえばいい、その奥、脳の髄まで。その準備がとうにできているのだから。妖怪という、以下に人間より強大なものであろうと、鬼の首領と僅かながらに交えた彼は、それに劣る者との明確な線引きはできるようになっている。
 ……だが、それは起こりえない。

「暴れるの、禁止」

710深紅の協奏曲 ―独奏、王へと届くこと願い 3―:2018/02/10(土) 22:33:06 ID:t3B0wPOI0
 幼い声が辺りに響くのと共に目の前の男の動きが止まる。男の身体で塞がれていた視界の陰には、小さな照明を持ち、中に射線の入った赤い丸のついた得物を携えている少女がこちらを向いている。視線と共に得物を向けて。
 おそらく、先ほどの声も彼女だろう。自分の身の丈ほどの得物をこちらに向けているまま、手に持った照明を床に置く。僅かな光でしか灯されていなかった部屋に十分な量の光がもたらされ、辺りの状態を詳しく教えてくれた。
 いくつかのごみ溜め、そこに寄り添うように横たわる者。膝を抱え座り込みながら厄介事を避けるようにこちらを見つめるもの。我関せず、眼前の器具から焚かれる煙を吸い続ける者。直接体内に取り入れるための機器と共に倒れ伏している者。
 一様にして貧者と形容するにふさわしいまともな状態のものはなく、もはやそれらが生物なのかどうかほども怪しいところだ。……だから猶更健常なディアボロも浮いて見え、また奥から現れた赤の少女も彼らに馴染まない、目立った汚れのない姿だった。

「ここでは厄介事は禁止だろう、何のために私がいると思ってるんだ。傷の舐め合いはいいけど糞のぶつけ合いはやらないんだろう?」

 襤褸を着た男の背中をとんとんと突くと、胡乱げな顔のままゆっくりと手を下ろし、威圧するかのように床にずだ袋を叩きつける。辺り一帯に埃と粉塵が舞い上がり、否応にも二人の呼吸器を汚そうとする。
 最も、それはディアボロだけであった。少女は顔全体を布で覆い保護している。むせこむディアボロに対して空いた手で下がるように手を払う。

「お前さんも帰りな。偶然でこんなところまで来るなんてありえない、誰かの紹介だろうが……人間に流す物は無い。お帰りはあちら」

 少女の素振りは交渉の余地はない、と雄弁に語る。自らの意思とは裏腹に強制されているような感覚をも覚える。
 だが、それでおいそれと引き下がるわけにはいかない。それほどことは単純ではないのだ。

「吸煙のものだけかと思ったが……それは一般に出回っているものだけか? そいつらが使っているものは原料は? ……精製が甘いのは、それは知識がないだけか?」
「……何言ってんだお前」

 顔は半分見えないが、それでも言葉尻と目に浮かぶ表情は疑問。だが、周りの空気は一瞬どよめく。

「察しの通りただの人間だ。妖怪だか何だか知らないがそれらに溺れている姿を見てしまえばお前たちも人間と大差ないように見えるがね」
「だから何が言いたいのさ」

 相変わらずわかったような顔をしていない少女だが、周りは聞き耳を立てているのがわかる。
 求める理由は様々だろうが、結局のところ更なる快楽を求めているのだ。それは生きる者の全ての欲求の根源。

「……何も。言われた通りここから去ろう。正規は別だということが分かった。お前には何の権限もない、ならば話す必要はない」

 だからこそ一度去る。敢えて内側を見せ、周りの反応を窺う。変わらず赤の少女は大きな反応はない。厄介事が去ろうと清々している様子すら感じられる。
 周りの者は別だ。より深く、じぃっと粘つくような視線を飛ばしてきている。先程の襤褸を着た男も敵意の中に別の意を乗せている。
 あとは掛かるのを待つだけ。そう考えたところだった。

711深紅の協奏曲 ―独奏、王へと届くこと願い 3―:2018/02/10(土) 22:33:39 ID:t3B0wPOI0
「やあやあ、そいつはちょーっと、ちょこーっとだけまずいかなあお兄さん」

 入口から声が聞こえる。足音は聞こえない、いやかなりの小さな音。その声は、少ないが聞いた覚えのある高さ。自分に権力が無くとも、自分の仕える者が高みにいることを十全に理解している、笠に着た賢しい者がだす猫なで声。

「ここで話すことはないのはいいんだけどねえ。それだけならいいんだけどねぇ……いやぁ、相も変わらず酷い臭い!」

 現れる前では常に傍らにあった押し車はさすがに持ってこれなかったのだろう。空いた手は立ち込める悪臭を抑えるための布を持つのに使われている。
 蔑みを込めた声と共に、さとりのペットの一人が顔を出す。

「……おまえ」
「あはは、皆さんお勤めご苦労様でっす。お兄さんも奇遇だねぇ、こんなところで会うなんて。……こんな、場末のところで、さ」

 含みを持たせるようにもったいぶり、顔の半分は隠れていてもにやついているのがわかる。偶然を装って、しかしそれは吹けば飛ぶような演技で。……あの飼い主に似るように。

「……お前た、ちが、押し込んだくせに……」

 ゴミ袋のように縮こまっていた一人がぽつりとつぶやく。突然の喧騒に消え入りそうだが、それは確かに聞き取られたのだろう。燐の頭についている二つの耳がどちらもピクリと動く。
 そのまま、しっぽをゆらゆらと揺り動かしながら、そちらには特に気にかけない様子で、

「赤河童さんも大変だろうにねぇ。売り子だけじゃなくてここにも顔を出さなきゃいけないなんて。あたいは何も言わないけどさ。もちろんさあ!」
「……けー」

 より面倒になった、と赤河童と呼ばれた少女は顔をしかめ目線をそらす。燐は変わらず笑みを浮かべ続けたままだ。
 彼女の登場で、新たに調べることもできた。また、入手も難しくなっただろう。……もちろん、それが彼女の狙いなのだろうが。
 どちらにしろ、今ここで足を止めている必要はなくなった。入口からこちらに向かって歩いてくる彼女の横を通りこの空間から抜けようとする。

「おっとっとお兄さん、あー、河城さんやいつもの2本もらっていくよ。待ってってばー」
「あ、おまえ!」

 ディアボロを追うように、赤い少女からひったくる様に何かを受け取ると、そのまま後を追ってくる。
 結果、二人があの空間から出ることになった。……ディアボロはまだ何も得ることはできないままに。

712深紅の協奏曲 ―独奏、王へと届くこと願い 3―:2018/02/10(土) 22:34:14 ID:t3B0wPOI0
「待ってってってばー」

 白々しく笑顔を浮かべて燐が追いかけてきた。少し先の家屋の陰に滑り込み、ディアボロは彼女の出方を伺う。接触が可能であるなら、僅かに離れ、人に見られぬところが良い。
 程なくすれば、いつもの押し車を傍らに燐が顔を出す。

「お兄さんったら、まったく面白いところに顔を出すもんだねぇ。さとり様に誘われた直後だってのに、こんなところにまで来るなんて、ねぇ。……くふふ」
「……頭の中に引っかかることがあってな。一応は解放された身だ、自由を得たのなら拭い切れぬ違和感は確認しておくに越したことはない。……あのネズミがいればもっと楽に事は進んだのだが」
「あぁ、あのネズミねぇ。なんで先に帰っちゃったんだろうねぇ」

 何も他意がなければ、絶やさぬ笑みは彼女の魅力と捉えることができるだろう。青ざめた意思を持った時も、その表面は笑顔を繕っていた。最初の邂逅でも、心配を過ぎれば同じ笑顔を取れるようにと常に声をかけていた。共に過ごす時間をより良いものであろうとするその努力はそれは良いものだ。
 ……だが、今はそれだけでは済ませない、終われない。

「いやー、しかしお兄さん、こういうの興味あるんだねぇ。まあ都でも使うのはちょこちょこいるんだけどさ、いきなりこっちまで来ると思わなかったよ。土蜘蛛さんとかから仕入れればよかったのに」
「……上では使われているのを見なかったからな。陰では使われていた、のかもしれないがそれでもここほど大っぴらじゃあなかった。……それに、ここは籠りすぎている」
「こもり?」

 キョトンと、大きめの目をさらに見開いて愛嬌のある顔をこちらに向ける。

「始めに橋姫とやらが使っていた。そこで気づいてからはもはやこの街にはその匂いで染まっていることに。随分と簡略的になっている、だからこそ誰も彼もと使われているんだろう? お前も、その一人ではないのか?」

 その猫の瞳に向けて問い詰める。
 開いた眼をきつく細めると口の端を少し歪ませ、小袋を車から取り出す。中からは小さな筒状のものが二つ。

「違う違う、あたいはこういうのあんまり好きじゃあないんだよね。たまに使う分にはいいけどさ?」

 くるくると手で弄びながら、笑みを作りながら言葉を続ける。その笑みは愛想を振りまく笑顔ではなく、上下を理解させるために見下ろす笑顔、愉悦に浸るための笑みに代わっていた。

「ずっと使うほど病みつきになってはないんだよ。それだったらお酒かマタタビのほうがまだいいなぁ。猫っていうのはそーいうもんでね。まー、テキトーな時には使うよ、これは、悪いものじゃあないからね。……で、お兄さん」

 燐の雰囲気が変わる。変わった笑みに基づく暗い空気。返答次第で対応が今後大きく変わるぞ、という意思表示。

「随分容易にこういうところまでたどり着いたよね……『知っている』みたいにさ」
「当然だ。馴染みの深いものなのだから。追い詰められた者たちを容易に底辺に張り付け、またそこから利益を吸い上げることができる。雑巾の絞りかすどもは苦しくも恨んでも地べたを這い続け、それでも吸い上げられることしかできない……流通させる一つの面は『ソレ』だ」
「……ほーう?」

 それを受けて、敢えて饒舌に。臆することなく、押されることなく。かつての経歴をほんの少しさらけ出す。

「奴に相対している以上内面が読まれていることはわかっている。その部下のお前がどういう理由で俺の前に立っているかもおおよそ。こちらを探ってみて、最初から思っていたが、お前の登場で確実となったよ。そういったものの流通が、治める者にとってどれだけの事案であるかはよくわかっているからな」
「うーん、うーん……」

713深紅の協奏曲 ―独奏、王へと届くこと願い 3―:2018/02/10(土) 22:34:45 ID:t3B0wPOI0
 得たものは僅か、そこから導き出される言葉も論拠に乏しい。ただそこにあるのはそうだろうと思い込んでいる自分だけ。
 それでも、燐はまた目を丸くし、悩ましげに頭を揺らす。

「一応言っておくけどさー、あたいもあそこは知ってる、けれどどこまで何までやってるかは知らないよ? あの河童さんがたまに売り子やりに都まで来るからさ、顔くらいは知ってるけどね」

 頭を少し横に倒しながら、同じように饒舌に。元々口に回る女だったからだろう、軽薄な様子は変わりはない。

「それに、形はどうあれさとり様はお兄さんを歓待しているんだからさ、あーいう危ない所に行くのはやめてほしいかなー。お兄さんが傷ついちゃったら、さとり様悲しむよ」
「都合を押し付けるな。あれで歓待していると宣うのなら、お前らの流儀も知れたもの」
「まあまあまあ。とにかく、あれはダメだよ、ダメダメ。けどほら、都で使って平気なのくらいならいいしさ、他にも何でもしちゃうよー」

 言葉と共に、手に弄んだそれを持ちつつディアボロに飛びつこうとする。わざとらしい抱擁を願う動きを容易く避けると、たたらを踏みながらさらに陰へと入る。

「……いけずぅ。けどさ、本当。できることなら何でも。……ネズミを連れていたし、お兄さん、小さいほうが好み? それともやっぱり大きいほうがいい? お空とか……結構、上手だよきっと」

 ただでさえ暗い陰の中、奥よりか細く声を落とす。

「あたいはさ……別にここでも」

 小さく、青白い炎が二つ生まれ、その陰の、彼女の姿を照らす。衣のずれる音が、僅かに見える肌の色が、ぼやけた輪郭が煽ることを知っている。

「……ここの奴らは、みんなそうなのか」
「違うさ、お兄さんだから……だよ」

 肯定を待っている。小さな炎が彼女の顔の近くへ飛び、いつの間にかくわえていた、あの時に受け取っていた紙巻に火をつける。移った火は、いつもと変わらぬ色をしてほんの僅か、唇と僅かに瞳を照らしている。
 最初に嗅いだあの匂い。……そういえば、あの時、これを嫌っている者が一人いた。

「そうか、……ならば」

 陰に一歩、踏み入る。それを見て、一つ炎が消え、また一つ消え、残るのは小さな火ばかり。
 僅かに照らされている中で、燐は彼に向けてもう一つの紙巻を差し出し、それを受けて。






 ばきん。

714みりん:2018/02/10(土) 22:40:06 ID:t3B0wPOI0
以上になります。東方…?おりんりんしか原作キャラがいない。
なんていう種類のおクスリか使い方はどうとかは幻想故の特殊アイテムなので、いわゆる妖怪の能力がなくなる博麗のお札的なあれなのでセーフです。
ヤバいおクスリなのかもわかりません。麻が原料とかケシの実が原料のあれなのかは追及していないのでセーフです。
にしてもこの作者は引き出しが少ないんじゃないかな?まあちょっとそういうのも入れてみたいなーって思っていただけなので多少は許してください。

推定あと3話くらいでしょうか……年末には終わるでしょ(ざつ

715みりん:2018/02/10(土) 22:45:11 ID:t3B0wPOI0
〜〜〜〜ここから宣伝〜〜〜〜

実は5月の東方紅楼夢に応募してみました。受かれば東方の二次創作のSS本を出そうと思っています。
内心受かるかどうかわからないから受かるまで書かなくても…受かってからじゃあ遅いだろ…ともきもきしていましたが
どうやら噂では申し込み=当選確実と入試率100%らしいので。
内容としては早苗がアリスをお姉ちゃんと呼べるように努力する内容で、ジョジョ要素はないです。きっと。手癖的なもので出るかもしれません。
もし当落が出たらまた宣伝に来ようと思います。初参加でSS本とか売れ残り100%な要素しか揃っていないので…恵んでください何でもしますから

〜〜〜〜宣伝ここまで〜〜〜〜

716名無しさん:2018/02/12(月) 09:09:58 ID:uUPfQt1U0
>>牛のようにゆっ
魔理沙は露骨に紺色になった

ダークサイドだわ……!
ねっとりと邪悪を描写されてあやうく露骨に不機嫌に(マリちゃんが)なりかけましたが、でも元々五部ってブチャラティが組織潰しに行く話でしたね。ずれっぱなしの頭のピント。
ピカレスクだわ……!!

僕とかはジョジョが義務教育みたいなカンジで、少なくとも自分の中の半分以上はその影響があって、だからたぶん自然と半分以上はそういう色になるんだと思います。
花瓶の中に絵の具を混ぜたら白い花もその色になるみたいに、それは、そういうものを食べて過ごしてきましたっていう証にしかならないんだから、あんまり気にしなくてもいいんじゃあないかなあとは思います。
同人活動っていうんですかね? すごいなあ…!精力的だなあ……! まあ文章ってぶっちゃけ漫画より分かりにくさあるから中々厳しそうだなーって外野から勝手に思いますけど、それでも早苗さんならなんとかしてくれる……!

謎のスキマ妖怪:???「ゆかりん、その紅楼夢?っての、よくわかんないけど……」
           「『恋しければ、形見にせんと――』」
           「種がなければ花は咲かない。なにごとも、形にするというのが大切よね」
           「だからとりあえず、100冊ぐらい刷るよう、頼んでおきました」

717みりん:2018/02/12(月) 20:44:42 ID:WQuAvebU0
きっとこの空間は精神と時の部屋逆バージョンみたいなもんだからセーフ。まりちゃん元の色に戻って

>元々五部ってブチャラティが組織を潰しに行く話
コロネ「あの」
間違っちゃあいない。4部の主人公は康一くんですから。関係ないですけど康一君普通の名前過ぎて変換するときいっつも迷いません?
書き進めれば進めるほどディアボロが綺麗になっていく印象もありますので間違っちゃあいませんが腐ってもこの人麻薬ばらまいたやべーやつなので。
ダークサイドなのだわ…!

自分はジョジョは義務教育以降に学んだ感じですが精神はそのせいでジョジョ一色にもなりその後いろいろ混ざってマジェントマジェントしているので、そんなに気にはしていません。
ですがここで宣伝するし一応ね? と思った次第で。気にしなくてもいいといわれてそれはそれでほっとします。
一念発起というやつなので、そして絵心に関しては腐れ脳みそレベルですが文章は一応ここで培わせていただきましたし、思いの丈をぶちまけるのならこういった形もよいのではないかと。

だけどゆかりん、そういうのフラグだから100冊はやめて!会場で捨てることになっちゃう!そんなことになったらほんと再起不能になる!同人みたいに!

718ピュゼロ:2018/02/13(火) 20:22:47 ID:dmlrQb/g0
コーイチ君!

719みりん:2018/02/15(木) 19:09:16 ID:UTEKF0iM0
コーイチくーーーーん!!!!


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