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ジョジョの奇妙な東方Project.PAD6

531深紅の協奏曲 ―深紅の協奏曲 4―:2016/04/20(水) 21:56:46 ID:CEdeDNY20
「彼が幻想郷に来た理由も、彼が過去に何をしたかも私はよくわかっていない! だが、それほど事を急かす必要ないだろう! 何故、そこまで急に選択を迫るんだ!」
「黙りなさい。貴女が割り入る事ではありません」
「黙ってられるか!!」

 顔色を興奮の赤で染め、体躯に会わぬ大きな声を辺りに響かせる。彼女を知っている者ならわかる、面倒事に積極的に関わろうとはしない姿勢とは異なる姿。

「彼がここに来てからは短い、だけど彼に関わった者も多いはずだ。なのに誰にもさよならも言わせずに追い出すつもりか! 少しでも、考える時間くらい与えてもいいだろう!!」
「ネズミの癖によく吠えるわね。彼を最初から信用もせず怪しんでいたのは、貴女ではなくって?」
「それはっ、そうだけど! だけど、彼の帰りを待っている人がいる。彼に心配る人がいる! 彼はもう、一人じゃ」
「やめろ」

 喚きたてる彼女を制止する声。しかしそれはいつもの無理矢理にも押し黙らせるような重みのある声ではなく、どこか温かみのある声。
 後ろから話しかけられて顔を向ける間もなく、その頭に手が置かれる。優しく、感謝の込められたごわつきを感じられた。

「考える時間を与えてやれ、それができぬならせめて別れの挨拶でもさせてやれ。……よく言うじゃあないか。あの寅柄の女はお前の主人だったな。奴を立てるため、か」
「違っ、そんなんじゃ……」
「それがお前という人間なのか……私にとってはどちらでもいい。だが、嬉しいよ」

 置いた手をそのまま軽く動かす。不器用な自分が、それでも精一杯の労わりを表そうと。

「うわ、な……?!」
「短い間だった。けれどもそれは私という人物を見直すには十分すぎる時間だった。その間に様々な人間と関わった。私の姿でも、ドッピオの姿でも。……レクイエムに囚われるべくして囚われた自分を矯正するかの如しに、出会い、別れ。そしてまた出会い、別れていった」


 流れ着いたのは何時かわからない。閻魔の言葉を用いるならば、目を覚ましてからの四日間だけではない。
 彼女らに見つけられてから、一週間と経たずも、その全てが自身を生まれ変わらせるための邂逅だった。


「なんだかんだ言いながらも、結局は恐れていたのではないか? 私のようなものが幻想郷を犯すことを。悪の心を持った『人間』の行動で、この世界の人間の心に悪意を芽生えさせることを。……人間を一番殺しているのは、他ならぬ人間たちだ。幻想郷で人間同士の争いが起きれば。……妖怪よりも人間を恐れれば、この世界は崩壊する」


 どこもかしこも作為的だった。何か筋道を与えられているようだった。その事実は先ほど目の前の本人によって伝えられた。
 前から知らされていた。全てを知らされていない、それでも智慧溢れる獣から。


「……だからこそだろうか。最も、と言えばいいのか。ヤクモユカリ、お前の与えた道筋に乗って、私はここまで来た。もし乗らなくても、結論は同じ地点だろう。私は、奪われ、囚われたのだから」

 名指した彼女の瞳が自分を定める様に舐めつける。

「金も、地位も、名誉も。何もかもを奪われた。奪う者と奪われる者の関係、今まで自分の存在を確立するために奪ってきた私を、奪うことを完了させた男が出てきたという話。……だからといって、それを行ったものが本当に奪うだけの者だったのかはわからない。私が奪ってきたものを、元に戻しただけなのかもしれない」
「な、何を言っている! 君がどんなやつだって、今はここで過ごした人間であることに変わりはっ」
「だから言っているだろう、どちらでもいいと。私の中で、答えは既に決まっている」

 紫の瞳は、全てをわかっているかのように。

「この世界で過ごすことも魅力的だ。全てを忘れ、安寧を求めて。スカーレットにも言われた時、僅かに心が揺らめくほどに。だが、私には」


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