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ジョジョの奇妙な東方Project.PAD6

637ピュゼロ:2016/11/26(土) 21:14:47 ID:WuAK45Gg0

 二、

「貴方の髪は艶々していてとっても綺麗で、わたしは好きでした。どうしたのですか?」

 ――どきりとする一言だった。
 純狐はお見舞いに来た患者の家族用のパイプ椅子に腰掛けて果物をしゃりしゃりと剥いていた。「お見舞いに来た」という言葉は、少なくとも彼女にとっては嘘も偽りもないようだった。
 鈴仙は「早く帰ってください! お願いします!」という念を込めた狂気の視線が「ああ、この椅子に座ればいいんですか。わざわざありがとうございます」という受け止め方をされてしまい、随分と気落ちしていた。しょうがないので、どうにかわかってもらえないかなあと考えあぐねながら、すっかりしわしわになってしまった耳を頭の前にもってきて、付け根のところから耳の先へ何度も擦っているところだった。
「……えっ?」
 振り向くと、彼女の澄み切った瞳に正面からぶつかった。
 ぱちぱち、ぱち。三度、瞬きをした。
 きらきらと光るような純狐の目を見ていて、鈴仙はそれが瞬きをまったくしない事にきづいた。
「髪って……あっ」
 後ろに手をやって、短く叫んだ。
 元々は足首にまで届かんとするほどの長さだった。それが今では、肩にほんの少しかかるぐらいまでになってしまっていた。これではさすがに一度矛を交えただけの純狐であっても、嫌でも気づくだろう。
「これは……姫さまの仕業みたいだわ」
 前からある事ではあった。一晩の間に彼女の髪はさまざまな長さに姿を変えて、自分より先に主人によっていじくられる事がある。
 言ってどうにかなる気はしないし……どうにかなる相手でもない。
「貴方はそれでいいのです?」
「私は姫さまのペットですから」
 その言葉に、純狐は小さく頷いた。
 そうですか。
 しゃりしゃりと止めていた手を再び動かした。すももとりんごである。どちらも小さく食べやすく切り分けられていた。
「食べられるかしら」
「……ありがとうございます」
 それっきり沈黙が二人の間を通り抜けていった。しばらく、鈴仙のたてるしゃくしゃくという音だけがしていた。
 それは鈴仙にとって別に悪い感じはしなかった。
「好きなものはありますか」
「……なんですか、急に」
「ヘカテーが、こんな時にはそういったものを聞くものだと言っていました」
「あー……ヘカーティアさんですか。いえ、特には……」
「そうですか」
 そういって純狐は頷いた。にこにこと笑顔だ。何をしてなくとも楽しい、彼女に手を焼かされているだけで嬉しい、そういう感じだ。


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