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ジョジョの奇妙な東方Project.PAD6

638ピュゼロ:2016/11/26(土) 21:19:40 ID:WuAK45Gg0
 そのまなざし。透き通っている。
 鈴仙はうつむき気味で、視線こそ外していたが、確かにそれを見た。
 もちろん、この世で鈴仙以上に視線に敏感な兎もいなかった。
 頬に突き刺さってくる、自分の胸内を丸裸にしてどこまでも赤裸々に見透かさんとするそれは、彼女が今まで我が身の事として体験した覚えはなかったけれど、どこか懐かしささえあった。
 もちろんそれは、あらゆる生命の上に歴然としてそびえる一つの事実なのだ。
 鈴仙の知らないそのまなざしは、母親という生き物の持つものである。
「え、ええっと……」
 鈴仙は、急に気恥ずかしくなった。
 好きなものの一つも言えないなんて、どんなに心が貧しくて、つまらない生き方をしているヤツなんだろう。
 ……そんな気がしてきたのだ。
「でも、美味しいなって思うものは……たくさんあります。この前は姫さまが筑前煮を作ってくれて、ほらここって竹林ですから筍が採れるですけど、それで……」
「ほう。美味しかったのです?」
「はい! それに……あと、この季節は、よく裏でお芋を焼いたりします。そういう時に限って、天気は良いのに風がぴゅうぴゅう強く吹く日だったりして、待っている間にすっかり耳や指先がかじかんで冷たくなったりしますけど、その分、てゐ達とおしゃべりしてるのは嫌いじゃないですし……」
「そうですね」
「月にいた頃は寒さに震えてるなんて、無駄でしかないと思っていたのに、きっと昔よりお芋は何倍も何倍も美味しいんです」
「そうね、鈴仙ちゃん」
「あいつら(清蘭や鈴瑚の事)と話した時にはっきりと、私は地上の兎だってわかったんです。そりゃあ、久しぶりに見た月が懐かしくなかったわけじゃないけど……。自分の生まれたところ、一つのルーツですから。でも、それでも、どうしようもないくらいに、思い出すと胸が痛くなるのは……地上での暮らしの方で」
「……それはね、鈴仙ちゃん」
 美しいものばかり、楽しい事ばかりの楽園では、もちろんない。
 日々押し付けられる雑用はキツいし、永遠亭でのヒエラルキーはいっこうに上がらないし、食用兎肉の撲滅活動は難航し、まわりの連中も変なヤツばっかりだ。
 ちょっとしたサボりでもばれたらえらい事になるし、突然襲撃されて腹筋ぼこぼこにされたりするし、ちょっと過激でちょっと頭のおかしな人物はいきなり現れてくるし。
 自分では一生懸命頑張っているのに、それは無駄だ、お前は何もやってないんだと突き付けられる事もある。意地悪なヤツがいて、ただ善意のみで人に迷惑をかけるヤツもいて、嫌な事はたくさんある。
 とつぜん偉い人に「地獄に落ちますよ」と言われた事のある者が――そして言われた方の気持ちがどんなものか、はたして想像できるだろうか?
 ただもしも。
 本当に地獄に落ちる時が来たなら(もちろん鈴仙は、こんなに頑張っている自分に限ってそんな事ありえないと確信していたが……)。
 思い出すのは幻想郷なのかなと、ぼんやり考えるぐらいである。


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