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ジョジョの奇妙な東方Project.PAD6

510深紅の協奏曲 ―深紅の協奏曲 3―:2016/03/08(火) 21:07:15 ID:9wl90O9U0
 静かに椅子を引き、座る。タイトなスカートから見える脚は異性も同性も惹きつけうるだろう。しかし、だからこそ気にかかる。
 どこか彼女の動き、一挙手一投足全てが何処か普通に身を置いている者ではない空気を感じる。敢えて、普通を装っているような。それも、高度に――
 何を考えているのだろうか。そもそも、自分でさえも普通に身を置いている。昔は漁師を目指そうとも思ったが、今はしがないサラリーマンだ。市場の流通のため、漁港に訪れることもあるがあの頃の気持ちはどこかに行ってしまった。

「……? どこを、見ているの?」

 ずい、と身を乗り出しうつむく自分の顔を覗きこむように、大きな金の瞳が間近に寄っている。どこか見通しているかのような口ぶりと表情に、思わずたじろぐ。
 決していかがわしいことを考えていたわけではないのだが。途中まで口にしたところで失敗ばかりしている自分に少しおかしくなってしまい。

「構いません。楽しいお方とお付き合いできることが有意義な時間に繋がりますもの。……ところで」

 共に笑ってくれる、彼女は珈琲を一口傾けながら。

「ところで、お連れ様は何時になったら来るのでしょう、ね」

 はて、自分に連れはいなかったはずでは……そのはずだった、のだが。目の前の少女の一言で、頭の中にあったはずの記憶があふれたかのように。何故忘れていたのだろう? そうだ、今日は自分の部下と会うためにここで待ち合わせをしていたのではないのか。
 ずっと自分の為に尽くしてくれていたが、今まで会う機会の無かった唯一の部下。他にも仕事の仲間はいたが、その中でも一番信頼においていた。
 いや、仕事の仲間? 誰の顔も思い出せない。浮かび上がる顔はあるが、それはどれも仲間の顔ではない。どれも親しい表情が思い浮かばない。自分の元に寄る理由はおこぼれを得るため。まともに生きていては得られない金、名誉、地位。そのいずれかに僅かにでも縋るため。
 卑しく微笑む醜い顔。何も知らずに心酔する顔。どこかで自分を掠め取ろうとする、それは仲間でも何もない。

「……あらあら、これだけで気づけてしまうなんて。やはり、侮れないわね」

 目の前の少女が席を立つ。飲みかけの珈琲はそのまま捨て置かれた。……いつから、在ったのだろう? あのウェイトレスはどこへ。いや、目の前にいたはずの人物が。すり替わるほど目を離すことなどなかったはず。
 ここはどこだ? 風景も、気温も、風も、目を瞑っていても思い出せる郷土の息吹。だが自分がそれを味わうことのできるはずが。
 確かなことを思い出せ。自分は、あのバスを降りた後――

「もしも、あなたがあの時のままであったなら。そのままのあなたでいたのなら。その時はここが終着点。でも、夢を想いて天を生きる意志があるのなら。お天道様の元を歩み続けるのなら。声の元に向かいなさい」

 生ぬるい風が、自分の肌を触る。心地よい潮風は、サルディニアの風はもはや帰ってこない。もし再び味わいたのであれば、相応に足掻くしかない。
 そうだ、最後まで足掻いた。彼女の言うとおり、捨てられぬ野望の為に。夢というやさしい言葉は、今まで忘れてしまっていた。
 向かわなければ、そのために。

「所詮現世は夢幻泡影。だからこそ美しい。けれど時にあまりに強い光が現れ、それは対の闇を生む。現がその度に崩れてはたまったものじゃないわね」

 よろよろと、バス停までたどり着く。引きずるようにしか動かせない脚、既に感覚の無い左腕、そもそも存在のしない右手。もはや健常な個所なぞ存在せず。
 どうやってここまで行けたかも、あのカフェテラスの椅子からの短い距離でさえ記憶が曖昧。短期の記憶すらままならない。それでも、『アレ』に対して感謝の意を述べねば。

「……とうとう会えたな、ヤクモユカリ」
「初めまして。そして、さようなら」

 あと少し、バスに乗り込まなければ。身体は思うように動かず、タラップに足を掛けようにも限界の身体がそこまでの言うことすら聞こうとしない。
 ぐ、と力を込めた所に感じる浮遊感。それはただ自分の身体が倒れ込んだだけなのに、それにすぐに気付くこともできず。

「よっ、と」

 その身体を支えたのは、小さな、


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