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ジョジョの奇妙な東方Project.PAD6

643深紅の協奏曲 ―ただ一人に送られた詠嘆曲 2―:2016/12/06(火) 00:49:44 ID:OgIDPnI60
 半分に開かれた人間の瞳と、確かな意思を感じ取れる動きを持って見つめてくる胸の瞳。
 何者かを見定めようと、必死に目を凝らしている。初めて会うものすべてを疑うように。

「そりゃそうですよ。顔見知りの訪問者でさえ、年単位で片手で数えられるほどしか此処には来ません。施設に用がある人たちでさえ、担当のペットの元へ皆流れていきます。……お寺の人ならともかくそれを知らないあなた、私は非常に興味を持ちます」

 周りの動物たちも釣られたように、こちらをじっくりと見つめている。だが、それらの視線も目の前の妖怪の視線と比べれば細いものだ。
 自分の心の内側をえぐり、知られたくない記憶でさえも掘り起こしてしまいそうな。

「……そこまでは読めませんよ。私は心を読むだけで眠る記憶まで読むことはできません。手順を踏めば別ですけど。……どうやら、私のことを話には聞いているようですね。ようこそ、地霊殿へ」

 一瞥し終えたのか、目を閉じ顔を背ける……胸の瞳はまだこちらを見つめている。

「お燐、あなたは下がりなさい。彼らの応対は私でやります」
「にゃ、さ、さとり様、あたいは」
「お燐」

 ぴしゃりと言葉で締めると、燐は首をうなだれその場を下がろうとする。

「お兄さんとこいしと私を会わせてはいけない、面倒事が起こる……ですか。でしょうね。ですがお燐、これは私とこいしの問題です。あなたたちペットには関係ない」
「え、でも! それならあたい達だって」
「ペットも家族のようなもの、だとは言いましたが家族ではありません。あなたたちとこいしでは圧倒的に序列が違うのです。……下がりなさいお燐。あなたにはあとで罰を与える」

 冷徹な言葉は、確かに心に響いたのだろう。再び伏せた頭を上げることなく、去っていく姿にはわずかに涙が浮かんでいた。

「……会ったのは初めてだが、予想以上に厳しい主人だな、さとり」
「当り前です。あなたたちの関係とは違います。主従と、愛玩物の違いです。……あなたも愛玩のようなものじゃあないですか? 違いますか、すみませんね、侮辱してしまって」

 顔を合わせても、目を合わせることはなく。言葉を交わすのもほんの僅か。なのに自分の考えは伝わっており相手の心はわからない。

「それが『覚』というものです。……立ち話もなんですね。客間へ案内します、どうぞこちらへ」

 そう言って彼女は奥へと下がっていく。周りの動物たちはディアボロたちを興味深そうに見つめるもの、さとりを追って奥に下がっていくもの、どちらも興味なくその場に留まるもの……それぞれの反応を返す。

「……実際に対峙すると気味が悪いなぁ。……でも、行くんだろう」
「あぁ」

 追従しないわけがない。しなくていいならそれに越したことはないが、それは何も解決しない。彼女からは何も聞けていないし、彼女はそれを知ってなお此方へ誘っているのだ。
 歩を進める。そこかしこに動物のいた名残が存在していてやはり人が使っている館、というような気配は感じられない。動物たちそれぞれが悠然と過ごしていることで、生き物の気配には事欠かさないのが乗じて廃墟の空虚を感じさせる。
 足元を照らすステンドグラスの模様はその上に立ってみれば、光源自体は床のほうからであり壁には何もあらず。厚いグラスに刻まれた模様の底、目も眩むほどの熱が漂っている様。
 その先を、後ろを付いて来ていることを確認して振り返る地底の主。来ないのか、来ないでよいのか。言葉なくともそう尋ねている。

「……」
「……君が入らないなら私から入るよ」
「どうぞ」

 客間の入り口から中を見通しているとその後ろからナズーリンが先に入る。中では主自ら、あらかじめ用意してあったのか、ポットでお茶を用意している。

「警戒する気もわからないではありませんが、こいし当人ならともかく、私は初対面です。歓待の気持ちはあれど襲う気持ちはありませんよ……座って、どうぞ」

 たどたどしい不慣れな手つきでさとり、ナズーリン、ディアボロの3つのセットを卓上に用意する。そしてそのまま席に着き、手を差し出して座るように促す。

「……君が着かないのなら、私は着くよ」

 ナズーリンは席に着いた。だが、ディアボロはそのまま扉を背にして着こうとしない。単純に、相手を窺い知れないし、攻め入る相手に歓待されているという心情が納得を得ていない。
 いただくよ、と一声を置いてナズーリンは注がれたお茶を一口飲む。僅かに鼻に届く香りは、どうやらそれは紅茶らしい。


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