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ジョジョの奇妙な東方Project.PAD6

700深紅の協奏曲 ―独奏、王へと届くこと願い 2―:2017/10/19(木) 15:48:28 ID:4Bs0obxg0
 治まった笑みを、新たに煙草の煙で隠してから、やや身を乗り出すようにしてこちらに尋ねてくる。
 その好奇に満ちた眼は、かつて、そしてこの幻想郷に来てから何度か向けられた光。その全ては、自分の中と、その身を、

「おまえさん、私に喰われてはみないかい?」

 我が身に委ねろという命令だった。いつも形は提案であったが、その実、こちらの意を介さないという強い意志がいつもあった。それは、今回も。

「……妖怪というのは、どいつもこいつも行きがけの人間を喰らおうとするのか」

 唐突な言葉も、放たれた内容も、全てにうんざりする。別に自分でなくてもいいだろうに、何故こうも輩はにじり寄ってくるのか。

「まあ怒らないで聞きなって。さっきも言った通りあんたの事は殺すなって通達がある。だが傷つけるなとは言われてないね」

 先の発言に対してこうなるだろうとわかっていたか、笑みは崩さないままにフォローをするヤマメ。
 確かに彼女の発言を信じるならば、その2点に無事は問われていない。死ななければ何をしていても大丈夫、という意味は含まれているだろう。……想定内だ。かつて、そのような指令を下したことはゼロではない。

「それに通達は全てに行き渡っているとは思わない。思えない。……それに、事故の可能性はゼロじゃないし」

 さとりの影響力、行動力。それは確かに治めるもの、過去の自分と同じなのだ。下に並ぶ者は別としても、下した命令に対しては全て合点がいく。

「結局妖怪は人間ありきで成り立っている。あんたは強く逞しく、狂っておらず。……何より、ウマそうじゃあないか。……あぁ、話がずれたね。もしあんたが死に、その身体が出てこなくなっても、皆が知らぬ存ぜぬで通せばさすがのあいつも何もできない。でも誰かの庇護に既に入っているのなら、その状況では諍いが生じる。さとりに限らず、ここは、案外そういう不和を嫌うから……結局、あんたを欲しがっているのはさとりだけじゃあないってことさ。おそらく勇儀も、あんときゃ頭に血が上って堂々と宣言しちゃったけれど、今あんたに会えたらきっと篭絡する。永遠に鬼に目を付けられることと引き換えに、一番安全な位置につけるかもねぇ?」

 そして、改めて自分の立場を理解した。好奇心は猫を殺す、という言葉もある。闇の中に身を浸そうとだけ思っていたが、地獄の釜の底は、愚かな人間を容易には登らせないこと、ゆるゆると下るにつれてそれを察し、底で改めて理解した。
 甘く見ていたのは確かに自分だ。だが、まだ。

「ふふふ……まぁ安心しなよ。私だって若造じゃない。普通の人間ではできないようなこと、たぁっくさん、愉しませてあげるよぉ……?」

 肺を満たした空気を換えがえ、その度に煙草の煙と、付随する香りが辺りを占める。その独特な甘くも感じられる香り。
 地底の入り口、橋で出迎えたあの香りとよく似た、そしてそれはかつてイタリアでも、いやどこの世界でも表舞台に上がらないだけでいつもどこかで蔓延していた匂い。

「……お前の色事情には興味はない。だが……度々この地底に来てから気にかかる。橋姫とやらも吸っていたな」
「あぁ、これが気になるのかい? 私が使ってんのは大したものじゃあないけど……これでも、キメれば底なしだよ? 上とは違ってね。ここには太陽がないから、いろいろと外れてるものが多いさね。……それでも、いやだからこそ、結局はこういうものに頼っちまうってこと」

 吸うかい、と小さく灰を飛ばしながらこちらに向ける。元々こんな場所で、それらが栽培、製造されているとは思えない。聞いた知識、外の忘れられたものが流れ着くと言われても、それらは永遠に流れ着くことはないだろう。正確な定義は以降だが、有史以前からそれは人間たちと共にあったはずなのだから。
 幻想郷は、あって当たり前と言われそうなものはあるものだ。国柄故に島国のそれに依るが、例えば食物などは全く見慣れないものではなく、草木もいずこでも見られるものだった。
 それは、最初から幻想の中にも存在していたのだろう。

「知りたいってぇなら……あんたの種を受けてからだねぇ。それが嫌なら探してみなよ」

 これ以上話に付き合っていたら、彼女の領分に飲まれるかもしれない。それに、問いたいことより興味のあるものが出た。
 あれを下すための物に繋がるかどうか、と言われれば関係ないのかもしれない。しかし、それは上で見なかった、確かな闇の一つだ。
 心を読む者に対する、心の暗幕。

 何も言わず、その場を立ち去る。痕跡を残さず、何もいなかったように。
 秘匿されているのは当然だろう。だが、暗部を治めたという自負がある。その道にしかわからない匂いを感じ取れる嗅覚がある。
 信じるは己だ。



「て、あぁ、あらまあ。……あんた、いつでも見てるよ」


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