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ジョジョの奇妙な東方Project.PAD6

682深紅の協奏曲 ―21世紀の精神異常者 1―:2017/06/16(金) 23:53:09 ID:KK2/dTk.0
「禁じる」

 遠くから聞こえた小さな声は、しかし確かなものであり、その一言がきっかけに辺りの者たちが感情の無い顔から一変、喜び、怒り、哀しみ、楽しみ、様々な表情を浮かべた後そのまま倒れ伏す。
 声の主は、自分の身の丈ほどの鉄棒とその先に付く白い丸板に赤でマルと斜線が描かれた奇妙な得物を地面に突き立てながら、

「そのまま黙って寝ていろ、目覚めを禁じる!」

 辺りの喧騒に消え入りそうでも、凛とした力強さを感じる掛け声は、そのまま力場の行使となり鎮めていく。

「……勇儀以外は、な」

 ウインクをしながら最後に付けたし、勇儀に笑みを投げかける。
 対する勇儀も少なからず濡れた自らの血と汗を拭きながら。

「……助かったよ。正直、最初に死んでいるかと思っていた」

 同じく笑みを返す。冗談めいた口調で、だが彼女との間柄を知る者なら心配と安堵が含まれているのがわかるだろう。

「失礼な奴だな、助けてやる必要なんてなかったかね」
「いや、それについてはありがたいと思っているさ。だけど、私の知っているお前なら自尽を選んでいても不思議じゃあない」
「ふざけろ」

 少女が近づくと勇儀に対して拳を向ける。彼女と違い女性として大柄な勇儀には低い位置だが、それでも優しく、互いに拳をぶつけあう。

「放っておこうとも思ったんだけど、あまりに一方通行過ぎてね。私の領域にまで侵すのなら容赦はしない。……認めたくないけど、勇儀には借りがあるからね。これでチャラってとこかな」

 得物を肩に担ぎながら少女は事も無げに語る。だが、その視界の先はまだまだ阿鼻叫喚の絵図が続いている。
 勇儀は傍らに転がる酒瓶を拾い上げ、地べたに座る。口をつけて傾けていくが、上を向いても中身は零れ落ちてこない。
 ちぇ、とぼやきながら投げ捨てる。今の彼女に、先程までの衝動を抑えられない様子はなかった。

「……私にはちょーっとアレを止めるのは無理かなぁ。受け止めるのは得意だけど攻めに行くのはー、ねぇ。気質に合わん」
「いや、いいさ。ここまでやってくれれば十分。私が抑える」

 すぐに立ち上がり、そこかしこボロボロになった衣服を払っていく。

「さっきまで飲まれかけてたザマなのに、全くあんたみたいな奴らはどいつもこいつも真っすぐ押し入ってくる。全く気に入らないね」
「おー? どの口が言うんだそれは!」
「私が不利益を被るから利用させてもらっただけさ。……私みたいに、この狂気を抑えられる奴、いんの?」

 あくまで前向きな勇儀に、少女は不安げに言葉をかける。

「……いる、と思う。私だってここ全部を知るわけじゃあないから確実には言えん」
「ふーん……」
「でも、だからと言って立ち止まるわけにはいかない。番を張っている以上はね」

 ぱん、勇儀の手のひらに拳を合わせる音が響く。その瞳には変わらずの強い意志が宿り、地底に似つかわしくない光も携えていた。
 赤色の少女は呆れたような顔をしながら、振り返り来た道へと戻る。

「いいさ、好きにすれば。私の元へは一方通行、あんたの戻る道にはなりゃしない。けれど引き返すという選択肢を選ばない愚直さこそ、あんたらしいってものさ」

 言葉を受けて足を踏み出す。少し離れればまた勇儀を狙う者が現れ、また少女を介さぬ暴徒に見えるだろう。
 けれど、自分の担う重さを知っているから、勇儀の足は止まらない。


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