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あと3話で完結ロワスレ

100Memoria Memoria -想い出を求めて- ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/02(水) 19:20:01
 ◆◆

 髪が舞う。
 緑の黒髪一本一本が、編まれた髪束が、意志を持った刃物のように乱れ舞う。
 あらゆる平面から縦横無尽に伸びる髪の挙動は不規則で読み辛い。
「クマッ、クマクマッ!」
 正面の群れを、クマが腕の一振りで叩き落とす。身に巻きつこうとする集団を薙ぎ払う。
 貫きに来た髪を吹き飛ばすべく、跳躍して横回転。そのままブルーのすぐ横を落下しつつ、彼の詠唱の邪魔をする。
「何をするッ!?」
「術は禁止クマ! クマにまかせんしゃい!」
「こういうときのための術だろう!」
 そんなことは、クマだって分かっている。
 だが、それよりも更に分かっていることは、これ以上ブルーに負担を掛けられないということなのだ。
「ダメクマ! ダメったらダメダメよ!」
 沸くようにして溢れる髪には際限がない。際限なく溢れる髪で形成される層は分厚く、カズマやヴァージニアとは完全に分断されていた。
 カズマの突破力で、層に穴を開けることはできる。
 だが、彼の拳は基本的には一点突破に向いた力だ。
 進行方向にあるものはまとめて薙ぎ倒せても、空間を埋め尽くすものを完全に一掃するには向いていない。
「ブルーは休んでるクマ! すごいの使ったら、ブルーが、ブルーが……っ」
 クマは跳び、跳ね、両手を回し、両足を振って髪を迎撃する。
 必死のその様は格好悪く、無様な足掻きにも見えた。
 
「だったら――どう突破するのかしら?」
 神経を引っ掻かれるような、不愉快極まりない声がした。
 道を作るように髪の群れが横に別れていく。空いた空間からは、ベアトリーチェの視線が落ちてきた。
 右目とは違い、左目は人のそれと同じ様相だ。だが、蠱惑的な妖しさを孕んだ左の瞳は紅く、魔性が宿っている。
 その左目に、映り込む。
 クマの姿が、映り込む。
 クマを包む全身の毛が、文字通り総毛立った。
「残念だわ。貴方は、わたしを分かってくれると思ったのに」
 差し出されたその言葉を聴いてはいけないと、本能的に察した。
「ペルソナッ!」
 半ば反射的に、叫ぶ。星のアルカナが浮かんで爆ぜ、クマの頭上にペルソナ――カムイが顕現する。
 丸いその身がくるりと回り、透き通った氷の壁を生み出した。
 氷壁はベアトリーチェへと殺到する。その口を閉ざしてしまおうとするように。その身を封じ込めてしまおうとするように。
「冷たいのは、嫌いだわ」
 ぼう、と。
 黄昏色の火が灯ったのは、ベアトリーチェが呟いた瞬間だった。
 忠誠を誓う姫君の命に従い参じた騎士のような火は踊り、舞い、逆巻いて、轟々と燃え盛り火炎となる。
 ベアトリーチェを取り巻いた火炎――『悪夢たる想い出』<バーン・ストーム>は、身を挺してカムイの氷を受け止めた。
 氷は音を立て、次々と蒸発していく。髪が乱れる玉座の間に水蒸気が溢れ、視界が湿った白で満たされる。
 見えなくなる。
 まるで霧の中にいるように、あたりが見えなくなる。
「貴方は言ったわね。かつての貴方とわたしは似ている、って」
 優しげで、蕩けそうで、甘くて、心の表面を撫でられるような声が、不意に、クマの耳元で囁かれた。
「わたしもそう思うわ影<シャドウ>。抑圧された人の心が生み出した、空っぽな真っ暗闇さん」
「い、今のクマはッ! 空っぽじゃないクマよッ!!」
 声の発生源を目がけ、がむしゃらに拳を振るう。
 拳の先にベアトリーチェの姿はない。中空を滑り余った勢いは、クマの身を転倒させた。
 くすくすくす。
「ええ、そうね。今の貴方は空っぽじゃない。でも、思わない?」
 眼前に、現れる。
 目を細め、口角を吊り上げ、嗜虐的で凄絶な微笑みを浮かべたベアトリーチェの顔が、だ。

101Memoria Memoria -想い出を求めて- ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/02(水) 19:20:48
「やっぱり空っぽの方がよかった、って。空っぽのままだったら――辛い思いをしなくて済んだんじゃないかしら?」

「ごちゃごちゃと御託並べてンじゃねェッ!」
 カズマの羽が轟音を立てて回り、霧を吹き飛ばす。
 視界が晴れる。
 まず見えたのは、うぞうぞと蠢く髪を貫く魔術の鎖だった。
「煩いぞ夢魔。少し黙れ」
 ミスティック・ワイザーをブルーが引くと、その鎖はベアトリーチェに巻き付いて蛇のように締め上げた。
 銃声が響く。
 拘束されたベアトリーチェの額に、銃弾が突き刺さった。
「下らない否定はやめてくれるかしらッ! 今のクマは、わたしたちが出会ったクマなのよッ!
 わたしたちが仲間だと思い共に在りたいと願う、クマなのよッ!」

 仰け反るベアトリーチェ。拘束する鎖が、その身を宙へと投げ飛ばした。
 矮躯が放り出される。放物線を描いて、ベアトリーチェが浮かび上がる。
 輝く拳の直線軌道と、交差する。
「シェル――ブリットォッ!!」
 黒髪が一斉に寄り集まり編み上がり、主を守る盾を形成する。
 だが、立ちはだかる壁を砕いて猛進する拳の前では、そんなものは紙にも等しい。
 カズマは止まらない。
 黒壁が、冒涜された舞鶴蜜の『想い出』であるが故に。
 止まるつもりは、微塵もない。
 カズマは吼える。
 舞鶴蜜に届かせるように、吼える。
 障壁が砕け、完全に消失する。
 夢の世界であるが故に、ここでは修正力<リペイントマーカー>が働かない。
 ならばその消失は、汚された『想い出』が悪夢から解放された証といえた。
 もはや遮るものはない。だからカズマは、勢いのままに。
 全力で殴り飛ばす。直撃だった。
 ベアトリーチェの体は折れ曲がり吹き飛んで、城が揺れるほどの勢いで壁に激突する。白亜の壁に入った亀裂が、拳の重さを雄弁に物語っていた。
 遠慮も手加減も躊躇もない一撃は、ベアトリーチェに確かにダメージを負わせていた。
 それは確かだ。
 ただ、それでも。

「くすくすくす――ッ」

 ベアトリーチェは、未だ嗤っていた。
 額から赤黒い液体を滴らせ、露出した肩に刻まれた鎖の跡を、折れ曲がった指でなぞりながら。
「愛されてるのね。貴方なんかが、愛されてしまっているのね?」
 それでも夢魔は嗤っていた。
 愉しそうにでもなく、嬉しそうにでもなく。
 ただ、狂おしいほどに憎らしそうに、嗤っていた。
「……どんなに愛されても。大切に想われても」
 それでもその目は、未だクマを捉えて離しはしていなかった。
「貴方は、あの子の言葉を忘れられないでしょう?」
「ベアトリーチェッ!」 
 ベアトリーチェを遮るようにヴァージニアがトリガーを引く。
「しぶてェッ!」
 ベアトリーチェを捩じ伏せるべくカズマが疾駆する。
「黙れと言ったッ!」
 ベアトリーチェを黙らせるためにブルーがエナジーチェーンを紡ぐ。
 それら全ては淀みなく、最速の動作で繰り出された攻撃だった。
 だから届く。だから、ベアトリーチェを止められる。
 そのはずだった。
 だが、ベアトリーチェは遮られず、捩じ伏せられず、黙らされない。
 何故なら、銃弾も拳も鎖も、彼女の前に現れた『悪夢たる想い出』<ピンポイント・バリア>によって弾かれる。
 ベアトリーチェは続ける。

102Memoria Memoria -想い出を求めて- ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/02(水) 19:21:23
「――ねぇ、クマさん?」
 嘲笑で表情を満たし、
「どうして、貴方が――」
 嗜虐心で声色を彩って、
「貴方なんかが、生きてるの?」
 再現する。
 トトリがクマに投げかけた言葉を、再現し、そして。
 容赦のない追い打ちを、掛ける。
「特別捜査隊のメンバーは、もう、誰一人残っていないのに。死んでしまったのに」
「――ッ!!」
「ねぇ? どうして、生きてるの? 役立たずの影<シャドウ>さん?」
「いい加減に、しやがれェ――ッ!!」
「……役立たずのためにそんなに怒るなんて、本当に愚か。救えない。鬱陶しいわ」
 鼻を鳴らすベアトリーチェ。その表情からは笑みが消え、代わりに不機嫌さが広がった。
「そんな奴――放っておけばいいのに」
 不貞腐れるように指を翳す。鋭く尖ったその先端から、暗闇の雲が迸った。
『悪夢たる想い出』<暗黒星雲>。
 すべてを呑み込み塗り潰し喰らい尽くす黒雲が、カズマを、ブルーを、ヴァージニアを地に伏せさせる。
 三人の悲鳴が、重なった。
「あ、あ……っ。みんな、みんな……」
 クマが、息を詰まらせる。
 目に見えて分かるほどに震え、深く俯き、戦慄いた。
 力が抜ける。力が入れられない。
 立って、いられない。
「あ、あ……ッ。クマは、クマ、は……ッ」
「クマッ!」
 膝が折れたようにへたり込んだクマは、その呼び声が誰のものなのか、分からなかった。
 
 ◆◆
 
 蘇る。
 
 ――『ツェツィチャンはクマが守るクマ! どどーんと、大船に乗ったつもりでいるといいクマ!』
 
 思い出す。
 
 ――『クマがいればもーう安心よー! ゼーッタイ、ケガなんてさせないクマ!』
 
 想起する。
 
 ――『ダイジョーブ! ツェツィチャンはクマが助けてくるクマ! だから、トトチャンはここで待ってるとよいクマよ!』
 
 忘れられない。
 全身にこびりついた血液が、失われていく体温が、輝きを失う瞳が、血の気の失せた真っ青な顔色が。

 焼き付いてる。
 泣きじゃくる表情が、姉の名を呼び続ける声が、動かない姉に縋りつく姿が、絶望に暮れる慟哭が。
 
 守りたかった。護りたかった。
 けれど守れなかった。されど護れなかった。
 信頼に応えることができなかった。約束を守ることができなかった。助けられなかった。救えなかった。
 何も、できはしなかった。
 やりたかったことも、やろうとしたことも、すべて叶いはしなかった。
 応えられなかった信頼は不義となり、果たせなかった約束は裏切りに転じた。
 泣き疲れて眠った彼女が目を覚ましたら、怨まれ、憎まれ、糾弾されるだろうなと思った。
 そうされるべきだと思った。
 そうされなくても、謝ろうと思った。謝っても許されるとは思わないが、そうする他に考えが浮かばなかった。
 けれど、そうはならなかった。

103Memoria Memoria -想い出を求めて- ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/02(水) 19:23:20
 目を覚ました彼女――トトゥーリア・ヘルモルトの精神は、ボタンを掛け違えたようにズレてしまっていた。
 速水殊子を姉――ツェツィーリア・ヘルモルトだと慕い無邪気に笑み、甘える姿は明らかに歪で、見ているだけで痛々しかった。
 壊れてしまった。
 
 ――クマの、せい、クマ……。
 
 クマがもっとしっかりしていれば。
 クマがもっと強ければ。

 ――クマ、役に、立てないクマ……。

 頭がくらくらする。瞳がびしょびしょで何も見えなくなる。鼻の奥がぐずぐずと濡れているのに、喉の奥はチリチリと乾いていた。
 菜々子が死んでしまうのではないかと不安に押しつぶされたときと同じ感覚だった。
 あのときも辛かった。シャドウであるクマなんて、いなくなってしまえばいいと思った。
 それでも、菜々子は生きていてくれた。
 みんなが、迎え入れてくれた。
 いてもいいと、いてほしいと、そう言ってくれた。

 でも、そんなみんなも、もういない。
 頼りになるみんなは、仲間は。
 空っぽだったクマの中身を探してくれたみんなは、もういない。居場所をくれたみんなは、もういないのだ。
 陽介も、千枝も、雪子も、完二も、りせも、直斗も。
 
 ――センセイ……も……。
 
 役にも立たないクマが生き残っているのに。
 約束も守れないクマが生き残ってしまっているのに。
 みんな、いなくなってしまった。
 みんな、みんな。
 
「クマッ!」
 不安げな女の子の声がする。
「おいクマ野郎ッ!」
 荒っぽい少年の声がする。
「クマ、目を覚ませ!」
 利発そうな青年の声がする。
 涙を、少しだけ拭う。
 頬に傷を負い額から血を流すヴァージニアの横顔が、滲んだ視界にうっすらと見える。
 彼女はクマを見ていない。でも、左手にある痛いくらいの温もりから、クマを案ずる気持が伝わってくる。
 ヴァージニアの視線を追い掛ける。
 戦い続ける者たちの姿がそこにはある。
 カズマが駆けて拳を振る。
 生命を縮めない程度の術で、ブルーがその援護を行う。彼らのサポートを、ヴァージニアが果たしていた。
 ベアトリーチェの様々な『悪夢たる想い出』を受けて倒れても。拳が届かなくても、達人の術が阻まれても。
 ボロボロになっても、傷だらけになっても、肩で息をして全身に力を込めて立ち上がり抗っている。
 満身創痍だった。立っていられるのも不思議なくらいの消耗だった。勝機なんて転がってさえいないようにすら感じられた。
 なのに。
 それなのに。
「クマッ!」
 彼らは呼ぶのだ。
「クマ野郎ッ!」
 叫ぶのだ。
「クマ!」
 そんな余裕などないはずなのに、彼らは、クマを呼んでくれるのだ。
 嬉しいと思う。ありがたいと感じる。
 役に立ちたい。
 けれど、それ以上に。
 申し訳なく思ってしまう。自分がいなければ、みんなはもっと戦えるはずなのにと感じてしまう。
 こんな精神状態では、ペルソナ召喚もできはしない。
 役に立てない。足手まといだ。
 いない方が、いい。
 そんな想いを、言葉にすることすらできず、ただ、呼び声だけを聞いている――。

104Memoria Memoria -想い出を求めて- ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/02(水) 19:23:58
 ◆◆
 
 胸を掻き毟られるような不愉快さを感じる。喉が疼くように乾燥する。心がささくれ立ち、余裕を保てない。
 諦観に支配されず抵抗を繰り返す奴らを前に、ベアトリーチェが抱くのは苛立ちだった。
 無様に立ち上がるのはいい。醜く抗うのも構わない。その感情と意志は死の瞬間に『想い出』となり、創世の糧となる。
 それだけなら、不遜に嗤ってやればよいのだ。
 劣勢となったわけではない。それでも、ベアトリーチェは舌打ちを堪えずにいられない。
 愚図なニンゲンどもを叩き伏せているというのに、何一つ面白くなかった。
 原因は、明瞭だ。
 ベアトリーチェという敵を前にしているにも関わらず、奴らの意志はこちらへと向いてはいない。
 彼らは、ずっと。
 役立たずの影<シャドウ>を、ひたすらに気に掛けているのだ。
 気に入らない。
 本当に気に入らない。
 どうして、あいつは。
 影<シャドウ>は、こんなに愛されているのだ。
 理解できない。考えられない。
 だってあいつは影<シャドウ>なのだ。抑圧された人の欲望や本心が集まって生まれた化物なのだ。
 どれだけ愛されたいと願っても、受け入れられたいと望んでも、居場所が与えられてはならないのだ。
 そうでなくてはならない。そうであるに決まっている。
 だって。だって。
 
 ――わたしの声は、いつだって届かなかったッ!
 
 何度だって手を伸ばした。数え切れないほど呼びかけた。
 居場所を求め、愛されたいと願い、想い出に残りたいと望んでいた。
 けれどそのたびに温もりは忘れられ、言葉は弾ける泡と化した。
 どれだけ呼びかけても、手を伸ばしても。
 現実<ファルガイア>を生きる人々には、届かなかった。夢の中の出来事は忘却され、時の流れに押し流されていった。
 人々の『想い出』に、ベアトリーチェは残らなかった。
 それでも諦めなかった。諦めたくはなかった。
 だから、ずっと繰り返してきた。
 人々が夢を見るようになってからずっと、悠久の時の中で繰り返してきた。
 その時間は、あまりにも永過ぎた。星の数にも匹敵する反復は、ベアトリーチェの心を摩耗させた。
 いつからか、ベアトリーチェの目的は変わっていた。
 それはすなわち、現実<ファルガイア>を破壊した後の、創世。
 やることは変わらない。ただし、新世界への憧れが、ベアトリーチェの支えとなった。
 呼びかける。
 手を伸ばす。
 呼びかける。
 手を伸ばす。
 呼びかける。
 手を伸ばす。
 呼びかける。
 手を伸ばす。
 そうやって、同じように繰り返して。
 ベアトリーチェの存在がラミアムに届いた時はもう、すべてが遅かったのだった。 

 ――なのにどうしてッ! どうして、あいつはッ!!

 聞きたくない。
 あいつを呼ぶ声なんて、聞きたくない。
 ここは夢<ベアトリーチェ>の世界。
 なんでも思い通りになるはずの、夢<ベアトリーチェ>の王国。
 そんな場所で、こいつらは、シャドウ風情のことばかりを気に掛け、ベアトリーチェを蔑ろにしている。

105Memoria Memoria -想い出を求めて- ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/02(水) 19:24:44
「……もう、いいわ」
 悪夢の宴を始めた時に抱いた高揚感はもうない。戦いを始めた時に感じた心地よさもない。
 つまらない。
 だからもういい。殺す。
 首輪を爆発させてやるのが一番簡単だ。だが、それはそれでつまらない。
 せっかくこの手で殺すことができるのだ。
 どうせなら、絶望に染まり死にゆく様をこの手で与え、その瞬間をこの目で見てみたい。
「遊びは終わり。つまらなくなったから――もうお終い」
 拳も術も銃弾も届かない障壁の中でたった一人、ベアトリーチェは両手を掲げる。
 左右掌に浮かぶ星を模した球体を捧げ、慈しむように撫で、奪取した『想い出』を読み込み、神の悪夢を溶かし込む。
「『悪夢たる想い出』――」
 読み取ったのは魔女の記憶。時を操り刻を渡る魔女の秘術。
 それを悪夢で希釈し、夢の世界に刻まれし力に作り替えて。
 回り続ける時計の針に、触れる。
 
「――<時間圧縮>」

 不可視の概念が歪み捩じれ曲がり、吐き気を催すような感覚が訪れ――世界が、制止する。
 あとは適当に『悪夢たる想い出』を展開し、時を再び動かせば終わり。回避も防御も間に合わず、何が起こったのか分からないまま奴らは死ぬ。
 その後のことは簡単だ。
 速水殊子の『想い出』は先ほど蒐集された。残るトトリには、彼女の望む夢を見せてやればいい。
 あとは、手に入れた『想い出』をすべて神剣グランス・リヴァイバーに注ぎ込み、創世は完了となる。
 あっけないものだ。
 何かが達成される瞬間というのは、これほどまでにあっさりとしているのだろうか。
 まあいいわ、とベアトリーチェは頭を振り、さっさと片付けてしまおうと思う。
 これほどの秘術を維持するには、大量の『想い出』を消費する。創世のことを考えると、いたずらに消耗はできない。
 殺すべき対象を、定める。
 忌々しいヴァージニア・マックスウェル。
 粗暴なカズマ。
 目障りで憎いクマ。

 ――こつん。
 
「――えッ?」
 音が、した。
 圧縮された時の中、ベアトリーチェ以外の音源があるはずがない。

 ――こつん。

 聞き間違えることなどあり得ない。
 聞き間違えるような紛らわしい音そのものが、発生し得ないはずなのだ。
 
 ――こつん。

 それでも音は鳴る。
 ベアトリーチェの外から、無遠慮に飛び込んでくる。

「時を操ることができるのが、自分だけだと思ったか?」
 反射的に、声へと意識が傾く。
 そこには、魔術師が立っていた。
 圧縮された時の中で、自らの時を保ち続ける魔術師――ブルーが、立っていた。

106Memoria Memoria -想い出を求めて- ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/02(水) 19:25:12
 ◆◆
 
 たった一人の妖魔がいた。
 上級妖魔と遜色のない美貌と能力を持ちながら下級妖魔の身分にあった、名もなき妖魔がいた。
 実力も美しさも兼ね備えていながら、彼が上級妖魔とされなかったのは出自のせいだけではない。
 妖魔という種族には、努力や熱心さを愚かしいものだという価値観が根付いている。
 にもかかわらず彼は、とある術を創成し、研究し、極め尽くした異端者だったのだ。
 他の何にも興味を抱かず、孤独であることを苦にもせず、自分だけのリージョンに閉じこもり、長き時間を掛けて。
 彼は、とある術のためだけにその全てを捧げ切ったのだ。
 彼はきっと知らなかっただろう。
 人は彼を、時の君と呼んでいることを。
 そして。
 彼が遥かなる時を掛けて極めた術の資質は、ブルーのものとなっている。
「時術……ッ!? 時間圧縮の瞬間に割り込んで自身の時間を操作したというのッ!?」
 驚愕と忌々しさを言葉にして吐き捨てるベアトリーチェ。
 舐められたものだと、ブルーは思う。
「ルージュを殺すため、俺は様々な術を会得してきた。
 魔力流動、発動術式、触媒、呪文、印、陣、紋章、魔力光。術の発動時には、そういった前兆や動作が、何らかの形式で必ず見られる。
 そういったものを即座に見抜ければ、使用される術の特色には見当がつくさ。たとえ見ず知らずの術であってもな。
 そして、その判断と術発動も、俺ならば同時に可能だ」

 何故ならば。

「俺は、僕は――ブルーであり、ルージュでもあるのだから」

「死に損ないが……ッ!」
「安心しろ。すぐに、死へ至る」
 時術はその絶大な効果故、膨大な魔力を消費する。
 そのため、時術を使用した時点で、ブルーの生命力は急速に削られてしまった。
 凄まじい勢いで零れる命を自覚する。既にブルーは、不可避の死へと踏み入れていた。
 もう戻れない。このまま何もしなくとも、時術の終了と同時に命は絶える。
 呼吸には痛みが伴い挙動には苦しみが付随する。立っているだけでも、命を吸われているようだった。
 そんな極限状況であるというのに。逃れられない死に捕まっているのに。
 ブルーは珍しく、愉しそうに笑んでいた。
 もうこの身に気を使う必要は、一切ない。
 皮膚を、肉を、骨を、血を、臓器を、頭髪の先端から爪の一片までのすべてを、魔力に還元して術と成す。
 大偉業だ。
 こんな大偉業を達成した術士は、マジックキングダムの歴史を紐解いてもいやしない。
 術士冥利に尽きるというものだ。 
 
 ――なあ、ルージュ? 
 ――そうだろう、ブルー?

 ブルーとルージュ、その意志は一つだった。
 ならば。
 迷う必要など、何処にもない。
 
「だが――凍りついた時が動くまでは、付き合ってもらうッ!」

107Memoria Memoria -想い出を抱き締めて- ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/02(水) 19:26:45
 ◆◆

 ヴァージニアは、眼を見開いた。
 一瞬たりとも目を離さなかったはずなのに、視界からベアトリーチェが消えていたのだ。
 霧のように消えた瞬間も、影に溶け込む様子もなく、まるで最初からその場所にはいなかったように、彼女は忽然と姿を消していた。
 ベアトリーチェだけではない。
 ブルーの姿もまた、あったはずの場所から消失していた。
「ベアトリーチェは……? ブルーはッ!?」
「分からねェッ! アイツら、一体何処へ行きやがったッ!?」
 ヴァージニアは耳を澄ませ感覚を研いであたりを見回し、空から舞い降りてくるものを発見する。
 ふわり、ふわりと落ちてくるそれからは、邪悪さも敵意も感じられない。
 だからそれは、ベアトリーチェの手に掛かっていない何かだと、ヴァージニアは直感した。
 スカートの裾で、受け止める。
 それは、短い文章の記された一片の紙だった。
 読み取った瞬間――胸が、詰まった。
「カズマッ! クマッ!」
 カズマが振り返る。
 繋いだクマの手が、僅かに反応する。
「ブルーが、ブルーから……メッセージが……ッ」
「メッセージ、だと?」
 聞き返すカズマに頷いて、ヴァージニアは、深く息を吸い。
 声が震えないように、濡れてしまわないように、意識を強く保って。
 紙に記された文章を、読み上げる。

「――我が命は、君たちの『想い出』と共に」

「え……ッ?」
 クマの身が、跳ねるように震え上がった。
「おい、何言ってんだよ。お前今、なんて――ッ」
 カズマが早足で詰め寄ってくる。ヴァージニアに向けられたその顔は呆然としたものだった。
 ヴァージニアは気付く。
 先の紙のように頭上から舞い落ちる、紫色の薔薇の花弁に、だ。
 不吉さに突き動かされて見上げる。
 頭上で、黒色の光が瞬いた。
「カズマ、上ッ!」
「何ッ!?」
 振り仰ぎ跳び退るカズマ。直後、影が一つ落ちてくる。
 かきん、と甲高いを立てて影が着地する。
 夢魔ベアトリーチェが、右腕から生えた黒色の光を放つ剣を床に突き立て、そこに佇んでいた。
 ヴァージニアは、息を呑む。
 姿を消す前のベアトリーチェと、今落ちてきたベアトリーチェの様子が、余りにも違い過ぎた。
 豪奢な髪飾りは無残に千切れ飛び、薔薇の装飾は痛々しく焼け焦げ、美しい夜色のドレスは所々が朽ちていた。
 欠損は衣装だけではない。
 肌には無数の切り傷と焼け跡が刻まれ、夥しい量の血液を全身から溢れさせており、そして。
 左肩から先が、完全に消失していた。
「何が、あったの……」
 思わず尋ねたヴァージニアを、ベアトリーチェは睨み付け、
「……祖国に利用された哀れなお人形は壊れた。それだけよ」
 唾を吐くように言い捨て、黒光の剣を振り上げる。
「次は、貴方達の番」
 理解が追いつかない。
 発生した出来事があまりにも突然過ぎて、思考も意識も、事象を認識できない。
 だから、振り上げられた剣にも、反応ができない。
 ただ、体は動いた。
 荒野を生き抜く渡り鳥の本能が危機を察知し、ヴァージニアの身を動かした。
 真横を、黒刃が通り過ぎていく。クマの手を引いたまま転がって距離を開ける。

108Memoria Memoria -想い出を抱き締めて- ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/02(水) 19:27:45
「こン、のォ――ッ!!」
 カズマもまた、思考を放棄し現状に対応することにしたようだった。
 左足を軸に旋回し加速を果たしたシェルブリットが、ベアトリーチェに迫る。
 剣の生えた右腕が跳ね上がった。
 意識、反射神経、防衛本能、反応速度、そういったものを全て置き去りにし超越した驚異的な速さで、だ。
 拳を受け止め、防ぎ、迎撃し、流す。ベアトリーチェの剣技というよりは、剣の力のようだった。
 閃いて舞う刃には、見覚えがあった。
 色こそ違いディテールは妙にメルヘンチックになっているが、そのフォルムを、ヴァージニアは知っている。
『想い出』が繋がる。
 あれは。
 あの剣は。
 使用者の技量に関わらず、剣技ディフレクトを発動する術剣だった。
「光の、剣……」
 零したクマに、ヴァージニアは唇を噛んで頷いた。
 ベアトリーチェの手にそれがあるということは、その使い手が『想い出』として取り込まれたということである。
 そしてそれはすなわち、先のベアトリーチェの発言を裏付ける、決定的な証明だった。
「ブ、ブルー……ッ! どうして、どうして……ッ」
 クマの声は濡れそぼっていた。悲嘆が振り切り飽和しているのは明らかだった。
 クマの豊かな感情表現はいつだって豊かで、良くも悪くも彼の想いを伝染させる。
 ヴァージニアの胸に悲しみが沁み込んでくる。寂しさが意志を侵食してくる。
 心を委ねたい思う。衝動に任せて泣き喚いてしまいたいとさえ思う。
 それほどまでにこの感情は痛く、抱えて進むには苦しみを伴う。
 けれど。
 衝撃音は響いている。
 びりびりと城を震わせる激音は、輝く拳と黒光の剣が撃ち合う音だ。
 戦っている。カズマは戦っている。
 彼だって分かっているはずなのに、それでも、挫けずに戦っている。
 ヴァージニアは呼吸する。
 今ここで、呼吸を、しているのだ。
 クマだって同じだ。
 そしてきっと、殊子も、トトリも。
 呼吸を続けていると、ヴァージニアは信じている。
 だから。
 深く強く吸い、細く長く吐き出す。奥歯を強く食い縛る。
「手、ちょっと離すね?」
 そう告げて、左手を空け、見つめる。
 黒に染まったブルーの『想い出』を、じっと見つめ、
「我が命は、君たちの『想い出』と共に」
 呟くのは、ブルーが最期に残してくれたメッセージ。
 左手を胸に当てる。
 鼓動が、拍動が、脈動が、ヴァージニアに生を実感させてくれる。
 ここには命がある。
 出会った命のすべてが、『想い出』が、ここに刻まれている。
 たとえ死者の『想い出』だったとしても、それは、ベアトリーチェのものになってはならない。
 そのことを伝えるべきだと思った。伝えたいと思った。
 デイバックから、大切にしまってあったものを取り出す。
 それは、紫色の水晶が設えられたイヤリング。
 握り締める。
 このイヤリングがよく似合う女性は、とても美しかった。
 外見だけではない。
 どれだけ傷つき汚れ苦しみ辛くても、歌に乗せて伝え続けるその精神性が、とても尊く高貴で美しかった。

 ――力を貸して! シェリル!
 
 その『想い出』を胸に描き、ヴァージニアはシェリルのイヤリングを強く掲げる。
「ミスティック! フォールドクォーツッ!」
 呼び声に応じるように水晶が熱を帯び、強く激しく輝いていく。
 その紫水晶――フォールドクォーツは次元断層を越え、遥かな星の海さえ渡り、別のフォールドクォーツへと情報を伝える性質を持っている。
 その性質へ、ヴァージニアはアクセスする。
 胸の中を彩る『想い出』を水晶に叩き込み、個人の無意識という断層を越えさせ、奥底に広がる集合無意識へと伝えてやる。
 集合無意識とは、全ての命が共有する、だだっ広い沃野のような意識の根底。
 すなわち、人々の夢が集まる世界であるこの場所――電界25次元は、集合無意識の一部なのだ。
 ナイトメアキャッスルが激しく揺らぐ。
 強烈なエネルギーがせり上がり、夢魔の居城を揺るがしていく。

109Memoria Memoria -想い出を抱き締めて- ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/02(水) 19:28:18
「わたしの『想い出』を聴けぇ――ッ!!」

 ヴァージニアの『想い出』が、城中にぶちまけられる。
 ARMの扱いを教えてくれた父とのこと。
 ブーツヒルで叔父、叔母と過ごしたこと。
 渡り鳥として旅に出た日のこと。
 ジェット、ギャロウズ、クライヴと出会ったときのこと。
 荒野の厳しさも激しさも荒々しさも知らず、無知だった頃のこと。
 ヴァージニアの心から映し出された『想い出』は、集合無意識を通して次々とナイトメアキャッスルを満たし、溢れさせていく。
 左手の中の熱を、ヴァージニアは握り締めて、更に『想い出』を見せつけていく。
『想い出』の舞台はファルガイアを越え、殺戮の悪夢へとシフトする。
 イデア・リーにかつての自分を重ねてむず痒くなったこと。
 白野蒼衣と共に、悪夢について議論を交わしたこと。
 エミリアに背中を預け、サイファー・アルマシーとジェイナス・カスケードを打倒したこと。
 互いの正義を賭けて劉鳳とぶつかり合ったこと。
 再会の約束を交わし、鳴上悠と拳を打ち合わせたこと。
 シェリル・ノームと出会い、ギャロウズが愛したという歌声を聴いたこと。
 いい『想い出』ばかりではない。
 白野蒼衣の<悪夢>が暴走し、異形と化した彼がイデア・リーとエミリアを手に掛けたこと。
 蒼衣の悪夢を止めるため、彼を撃つことでしか救えなかったこと。
 悠の死を定時放送で知り、共にいればよかったと後悔したこと。
 正義を貫き通したまま逝った劉鳳に、ヴァージニアの正義が立ち並べなかったこと。
 他にもある。沢山ある。沢山の出会いと別れが、積み重なっている。
 数え切れない膨大な『想い出』は次々と、次々と形になっていく。
「何よ……。何なのよこれはッ!!」
「わたしの『想い出』。わたしの中で息づく、すべての『想い出』。貴方が欲しがっているものよ、ベアトリーチェ」
 我儘を認めてくれない現実に腹を立てる子どものような顔をして、ベアトリーチェは手近にあった『想い出』へ手を伸ばす。
「あぅ――ッ」
 ぱちん、と。
 紅色の鋭爪は、拒絶されるように弾かれる。『想い出』に触れた指先は黒く焼け焦げ、しゅうしゅうと煙を立てていた。
「わたしの『想い出』だって言ったでしょう? これは全部、今のわたしを形作る、たいせつなもの。
 あなたに――ううん、誰にも絶対に渡せない」

 ベアトリーチェが焦げた指先を咥え、憎々しげに睨みつけてくる。
「『想い出』はひとりひとりが歩いてきた証。今までずっと、生きてきた証なの。
 奪っても、盗んでも、それは決して他の人のものにはならないわ」
 歩く。
「楽しい『想い出』も悲しい『想い出』も綺麗な『想い出』も痛い『想い出』も誇れる『想い出』も恥ずかしい『想い出』も」 
『想い出』の中を、歩く。
「みんな、みんなわたしのもの。どれもこれも、わたしだけのもの。
 その全部が、わたしを歩かせてくれている。進ませてくれている。支えてくれている」
 かけがえのない『想い出』に礼を告げるように、歩く。
 立ち止まらず振り返らず、真っ直ぐに歩き、
「辛いことがあっても、悲しいことがあっても、寂しいことがあっても、泣きたいことがあってもッ!
 わたしだけの『想い出』が、いつだって背中を押してくれるッ! 現実を生きる力をくれるッ!」
 シェリルのイヤリングをつけ、プリックリィピアEzを引き抜いた。
 弾倉の銃弾を高速連射する。正確無比な銃撃はすべて、ベアトリーチェへと吸い込まれる。
 だが、通らない。
 未だベアトリーチェの手に在る『悪夢たる想い出』<ピンポイント・バリア>が、銃弾を阻み切る。
「偉そうなことを言っても……所詮はその程度。わたしに勝てる力など、貴方にはないのよッ!」
「わたしにはなくても――わたしたちには、あると信じてるわ」
「おおぉおぉおぉぉぉぉおぉぉぉぉおォ――ッ!」
 ヴァージニアの『想い出』を越えて、咆哮が迸った。

110Memoria Memoria -想い出を抱き締めて- ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/02(水) 19:28:51
 ◆◆
 
 駆ける。
 駆ける。
 駆け抜ける。
 ヴァージニアの『想い出』の中を、カズマは叫びながら突っ走る。
「眩しいんだよ……ッ!」
 シェルブリットで推進力を生み、大気を爆ぜさせ、ひたすらに前へ。
「眩し過ぎるんだよ……ッ!!」
 加速に加速を重ね、ぶっ飛ばす。
「この『想い出』は、眩し過ぎるんだよッ!!」
 邪魔者をすべて殴り飛ばし前へと進む拳を頼りに、突っ走る。
「だけど――だけどなぁッ!」
 拳には、輝きがある。
 目を灼きそうなほどに真っ白で強烈な、輝きがある。
「俺の『想い出』だって負けちゃいねェ! 刻んできた命だって負けちゃあいねェんだよッ!!」
 歌が聞こえる。
 ヴァージニアの『想い出』で、シェリル・ノームが歌っている。
 その歌声が、リズムが、メロディが、カズマの心を高ぶらせる。
「そう思うだろッ! お前もッ!!」
 言っている。
「負けていられねェだろッ! お前もッ!!」
 カズマの『想い出』が叫んでいる。
 わたしも歌いたいと――叫んでいる。
「歌わせてやるよッ! 俺は刻んだんだッ! お前を――お前の歌をッ!!」
 だから歌える。
 歌えるのだ。
「歌えよッ! ランカぁ――ッ!」
 カズマの『想い出』に、フォールドクォーツが反応し――カズマの『想い出』が広がっていく。 
 
 ――行って! カズマッ!
 ――ぶっ飛ばせカズマッ!
 ――やっちまえ! カズヤ!
 ――カズくん、負けないでッ!

「ッたりめェだぁ――ッ!!」
 声援に、ランカ・リーの歌声が重なった。
 力が、背中で炸裂する。
 更なる加速を得て、カズマは最高速度でベアトリーチェへと突っ込んでいく。
 拳が衝突する。
 ベアトリーチェの前で、障壁がカズマの拳を受け止める。
「度し難いほどに愚かだわ……ッ! 何度阻まれれば気が済むのかしらッ!!」
「決まってンだろッ! てめェを、徹底的にボコるまでだッ!!」
 前へ。
 前へ。
 壁をぶち破るために、前へ。
 いけないはずがない。壊せないはずがない。
 偽物の壁など、壊せないはずがない。
 こいつは、今までずっと共に在り、あらゆるものを砕いてきた拳なのだ。
「こんな壁なんざ――ッ!」
 アースガルズの対消滅バリアに比べれば、屁でもない。
 あの野郎の――絶影を持つ男、劉鳳が抱く正義の信念の硬さに比べれば、こんなもの壁にすらなりはしない。
 なりは、しないのだ。
「ブチ壊して、先へ進むぜ――ッ!!」
 具現化したカズマの『想い出』が、弾け飛ぶ。消えたのではない。途絶えたのではない。
 他でもないカズマの意志によって、分解されたのだ。
 そして、再構成が始まる。
 塵のように細かくなった『想い出』はカズマの全身に収束し集中し、一層激しい輝きとなる。
「俺の、この俺だけの――ッ!!」
 髪は伸び、金色の装甲は右半身だけでなく全身を覆う。風車状の羽は長さを増し、尻尾のように伸び上がる。
 光の中から現れたカズマは、百獣の王を彷彿とさせる外観をしていた。
「自慢の――ッ!!」
 シェルブリット・最終形態。
 伸びた羽が床を叩く。これまでの力を遥かに超える勢いが、カズマに力を与えてくれる。
「拳でなぁ――ッ!!」
 ベアトリーチェに驚愕する暇さえ与えず。
 カズマは、借り物のバリアを打ち砕いた。

111Memoria Memoria -想い出を抱き締めて- ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/02(水) 19:29:24
 ◆◆
 
 すごいな、という感想しか抱けなかった。
 ヴァージニアも、カズマも、耐えられないほどに辛いことや押しつぶされそうなくらいに悲しいことが沢山あったのだ。
 彼らが負った傷は、クマのそれよりも遥かに多い。
 なのに戦っている。抗っている。生きようとしている。
 彼らの原動力は『想い出』だ。クマだって、クマだけの『想い出』を持っている。
 あったかで、楽しくて、とても嬉しくなる『想い出』がある。
 つめたくて、さみしくて、すごく悲しい『想い出』もある。
 嫌な『想い出』は強くて、意識を思い切り引っ張っていく。
 思ってしまうのだ。
 もう会えないと。二度と遊べないと。一緒にお話ができないと。
 そう思ってしまうと、いい『想い出』には必ず悪い『想い出』がくっついてしまう。
 ぐずっ、と洟をすする。瞳は潤み、視界は涙で霞む。
 滲む視界に、ヴァージニアの『想い出』が映っている。
 楽しいものがある。辛いものがある。温かいものがある。悲しいものがある。激しいものがある。穏やかなものがある。
 その中に、見つける。

 ――セン、セイ……! センセイ!
 
 鳴上悠。
 特別捜査隊のリーダーにして、多くの人とかけがえのない絆を結んだ、冷静で頼りになる、クマの大好きな仲間。
 その姿が、ここにある。
 もう、死んでしまったはずのその姿が、ここにあるのだ。
 クマの意識に、悠と、特別捜査隊のメンバーとの『想い出』が鮮烈に蘇っていく。
 次々と、続々と。
 いい『想い出』――最高の『想い出』が、クマの脳裏に溢れかえる。
 あったかで、楽しくて、とても嬉しくなって、つめたくて、さみしくて、すごく悲しくなる。
 それは不思議な、もう二度と返らない『想い出』。
 分かっている。
 もう返ってこないと分かっているから、悲しいのだ。
 でもそれは今、胸の奥にある。
 空っぽだったら得ることができなかった宝物として、胸の奥で光っている。 
「我が命は、君たちの『想い出』と共に」
 ブルーのメッセージを、口に出してみる。
 ヴァージニアの『想い出』にある鳴上悠を見る。
 喪っても、失くしたわけではない。
 つまり、そういうことだ。
『想い出』とは、死者の行き場所であり、彼らの存在を保証するものなのだ。
 ツェツィのことだって、同じだ。
 一緒に過ごせた温かさと護れなかった痛みと共に、ツェツィだって『想い出』の中にいる。
 だって、覚えている。
 お話したことも、抱きしめてくれたことも、涙を拭ってくれたことも、覚えている。
 確かに、ツェツィは、いるのだ。
 故に。 
 みんながいなくなったからといって、喪った記憶が辛いからといって、自分の『想い出』も生命も、否定してはならない。
 みんながいなくなったからこそ、喪った記憶があるからこそ、『想い出』を抱えて生きなくてはならない。
 たとえつめたくても、さみしくても、悲しくても。
 守れなかった罪悪感も、護れなかった後悔も、噛み締めた無力さも。
 すべてをひっくるめて、生きなくてはならないのだ。
 
 ――生きるって……大変クマ。

 でも、だからこそ。
 あったかで、楽しくて、とても嬉しいものだって、一緒に握り締めていられる。
 みんなは確かに生きて、クマと共にいたと、胸を張って言える。
 立ち上がる。
 立ち上がれる。
 やることはまだ、いっぱいある。
 まず、トトリのために、何かできることをしたい。
 死を求められても、嫌われても、怨まれても、憎まれても。
 それでも生きていれば。
 生きていれば、できることが、きっと何かあるはずだと思う。
 そして、帰るのだ。
 彼らの生きた街へ。大好きなみんなと共に過ごした稲羽市へ。
『想い出』を抱えて帰るのだ。
 待っている人の元へ――菜々子の元へ、帰るのだ。

112Memoria Memoria -想い出を抱き締めて- ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/02(水) 19:30:38
「ただいまを言う為に――行ってきます」

 誰にともなくそう告げて、クマは腕に力を込める。
 込められる力があることが、堪らなく嬉しかった。
「イエス――」
 意識の深層に潜り、自分と向き合い、満ち満ちる力を引き出す。
「カムイモシリッ!!」
 キントキドウジを越え、カムイの先へと至ったペルソナを、召喚する。
 七色をし、手足の生えた弾丸にも似た流線型が、クマの頭上に顕現する。
 流線型に接続されたブースターには、薔薇の紋章が刻まれている。
 マントをはためかせ王冠を頂くそのペルソナは、悪夢の国に終わりを告げに来た、王子のようだった。
「カム!」
 クマは呼ぶ。
「カムッ!」
 クマは呼ぶ。
「ミラクルッ!!」
 悪夢を貫くための奇跡を、呼び寄せる。
 カムイモシリから、光が放射状に迸った。
 クマの『想い出』が詰まった光は強く、それでいて優しい。
 その光はヴァージニアを、カズマを、クマを包み込み――晴れる。
 瞬間、カズマの動きがより軽くなる。クマの受けた傷が癒えていく。そして。
 ヴァージニアの右腕が。
 動かなくなってしまっていた、右の手が。
 ぴくりと、動いたのだった。
 
 ◆◆
 
 負った傷から痛みが消える。貧血による強烈な目眩が収まっていく。全身に巡る血液を感じ取る。澱みこびりついた疲労が嘘のように消え去る。
 そして、垂れ下がるだけで如何なる意志にも反応してくれなかった右腕に、活力が戻って来る。
 五指を曲げてみる。拳を握り、筋肉に力を流し込んでみる。肘を曲げてみる。肩を回してみる。
 動く。
 痛みも痺れも違和感もなく、動かせる。
 訪れた奇跡の光が、全ての疲労とダメージを拭い去り、持っていってくれていた。
 動作を縛るものは、もう存在しない。
 だからヴァージニアは駆ける。
 胸の奥から噴出する力に任せ、駆け回る。
 バントライン93R、プリックリィピアEzの弾倉から空薬莢を排出。リロード。
 手慣れた動作は1秒足らずで完了され、両銃をホルスターへ収める。
 駆け抜ける。
『想い出』の森を、駆け抜ける。
 堂々と響くシェリルの歌声の中を、駆け抜けて――見つける。
 カズマの拳から 這う這うの体で逃げ出すベアトリーチェを、捕捉する。
「もういい! もういいッ! お前たちの『想い出』などいらないッ! わたしに逆らう『想い出』なんていらないッ!」
 駄々をこねて拗ねる子どものように喚き、ベアトリーチェが手を振るう。
「そんな『想い出』、首輪もろとも弾け飛ぶがいいッ!!」
 涎を吐き出し叫ぶ。
 しかし、姫君の命に従って炸裂する首輪は、一つたりともありはしなかった。
 当然だった。
 首輪の爆弾は、対象者が抱える負の『想い出』を吸い上げて刺激し、起爆されるものなのだ。
 負の『想い出』さえ宝物とする意志がある以上、爆破されることはない。
 錯乱し狂乱するベアトリーチェは、そんなことすら気付かなかった。
「わたしたちの『想い出』は、あなたの思い通りになんてならない。今、あなたが自分で言ったのよ」

113Memoria Memoria -想い出を抱き締めて- ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/02(水) 19:31:10
「う、あ――ッ! ああぁあああぁああぁああぁあああぁああぁあぁぁぁあ――――ッ!!」
 夢魔から迸る叫びには、もはや意味など宿っていなかった。
 なおも逃げようとするその身を、氷が覆い尽くす。
「クマは、クマクマッ! みんなと出会って、クマは、他の誰でもない、クマになれたクマッ! 
 この『想い出』は、何があっても、どんなことがあっても、ゼッタイにゼッタイ、手放さないッ!!」

 蒼く白い氷は、カムイモシリによるブフダイン。
 もはや偽物の『想い出』で融解させられるほど甘くない、強固な氷塊。

「わたしは現実を生きてゆくッ! 貴方が奪った『想い出』をみんなに返して、わたしの現実を生きてゆくッ!!」

 鮮やかなクイックドロウが果たされ、銃声が連続する。
 数は十。弾痕が描くは十字の軌跡。
 ガトリング・十字砲火<ノーザン・クロス>。
 硝煙を置き去りにして一気に吐き出された銃弾は正確無比に、ベアトリーチェを十字に射抜く。 

「俺が、この俺の拳がッ!! 俺たちの『想い出』がッ!!
 この悪趣味な夢を終わらせてやるッ!! てめェの夢も、ここまでだぁ――ッ!!」

 カズマの両拳から、猛烈な輝きが迸る。
 迸るのは力ある光。刻んだ『想い出』を乗せた全力の一撃。
 全力のシェルブリット・バーストは、一切の抗いさえ許さず、ベアトリーチェへと疾走し――。
 クマの氷もろとも、割り、砕き、貫いた。
「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ」
 夢魔の絶叫と共に、莫大な量の光が爆ぜる。
 爆ぜる。
 爆ぜる。
 爆ぜる――。
 
 ◆◆

 光が晴れた時、そこにベアトリーチェの姿は存在しなかった。
 首輪が霧のように消失する。
 終わった。
 終わったのだ。
 だが、激しく震動するナイトメアキャッスルは、ブルーを弔う時間すら与えてはくれない。
 柱は折れステンドグラスは砕け天井は落ち玉座は罅割れていく。
 主を失った悪夢の城は、集合無意識の海へ還り始めていた。
 ベアトリーチェの手による爆発が行われずとも、崩壊が発生することは想定できていた。
 とはいえ、悠長に構えてはいられない。
 夢に呑まれて消えるわけには、いかなかった。
「急ぎましょう。殊子たちのことも気になるわ」
「トトチャン、コトチャン、クマがすぐ行くクマ! 待ってるクマよーッ!」
 我先にと駆け出すクマ。その背を、急いでカズマとヴァージニアが追う。
「行くのはいいけどよ! アイツらがやりあってたらどうすんだ?」
「その心配はいらないと思う。首輪もなくなってるし、城が崩れ始めてるから、殊子なら終わったって気付いてくれるわ」
 殊子と別れてから、もう1時間は経過している。
 心配するべきなのは、最悪のケースの可能性だった。
「……万が一の場合は、わたしがトトリを眠らせる。そしたら、急いであの子を――」
 ヴァージニアの言葉を轟音が遮る。震動が強さを増した。
 立っていることすら困難なほどに、城が激しく揺れる。
「ク、クマーッ! ゆゆゆゆゆ、揺れております! ぐらんぐらん揺れておりますよーッ! と、とっと、とっ」
 クマが、足をもつれさせた。
 転ぶ。
「ちょっと、クマッ!?」
 丸い体が階段へと落ちていく。
「お、おい! クマ野郎ッ!?」
「せーかーいーがーまーわーるークーマーッ!」
 下り階段を、物凄い勢いで転がり落ちていく。絶えない震動が、クマの身を大きくバウンドさせた。
「まったく! 元気になったと思ったらこれだわッ!!」
 次第に大きくなっていく揺れの中、階段を駆け下りる。
 かつてのナイトメアキャッスルよりも遥かに広く大きく複雑に作られていたせいか、予測よりも崩壊が早い。
 壊れて崩れて落ちていく。溶けて混じって乱れていく。
 夢の城を構成するあらゆる物質がノイズに喰われていく。
 ノイズの中、蠢くものがヴァージニアの目に入った。
「あれは――ッ!?」

114Memoria Memoria -想い出を抱き締めて- ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/02(水) 19:32:04
 入ってくる。
 ノイズを破り、電界に住まう魔獣が崩れゆく城に侵入してくる。城の崩壊に伴い、夢魔の結界もまた消失したのだった。
 集合無意識を彷徨っているのは、魔獣だけではない。
 シャドウが、神の悪夢が、次々と溢れて零れて塗れていく。
 数は増していく。
 埋め尽くされる。
 滅びゆく城が、帰り道が、無数の異形で塗り潰される。
 異形の群れが、ヴァージニア達を知覚した。城が立てる崩壊の呻きと、異形どもの咆哮が重なり合う。
 耳障りな騒音に目を顰めながら、銃を構えようとして――。
「行けッ!! 道は空けてやるッ!!」
 ヴァージニアを押し留め、カズマが異形どもの前に出る。
 その身に纏うはシェルブリット。出し惜しみなしの最終形態。
 立ち向かう覚悟だってある。負けない気持ちだってある。
 わたしも戦う、と言うのは簡単だ。
 だが、ヴァージニアは迷わずに頷くのだ。
 細かい理屈とか理由はいらない。
 ただ、カズマのすべてを信頼し、ヴァージニアは頷いた。
「生きて帰りましょう。一緒に、必ず」
「あいよ。それじゃあ――行くぜッ!」
 軽く片手を挙げ、カズマの拳が異形どもを退けた。
 群れが別れて出来た道を、ヴァージニアは突っ走る。
 揺れにも負けず、振り返らず、異形の間を抜けて行く。
 シャドウを振り切り、神の悪夢の残滓を踏みつけ、魔獣の死骸を跳び越えて。
 到達する。
 カズマがすぐに来ないのは、追手を押し留めてくれているからだろう。
 振り返らず、床を蹴り付けた。
 クマの姿はまだ見えない。
 あの長い階段を転がり落ちても目を回していないのだとしたら大したものだとヴァージニアは思う。
 駆ける。
 駆ける。
 現れる異形はすべて無視し、阻む邪魔者を撃ち抜いて、前だけを見て駆ける。
 長い回廊の先、クマの後ろ姿が見えた。やはり目を回していたのか、その足取りは多少覚束ない。
 追い付ける。
 そう思い爪先に力を込めた、その瞬間に。
「ッ!?」
 不意に、足場が、抜け落ちた。
 行き場を失った力は空を蹴るだけで、反動は少しも戻ってこなかった。
 落下が、始まる。
 夢の底へ、集合無意識の澱みへ、ノイズの深奥へ、落ちていく。
「クマッ!!」
 叫んだ声は、崩れる城の泣き声に潰された。
 手を伸ばす。
 指先が、断層の端に引っ掛かり――触れた床が、ぼろぼろと崩れ落ちた。
「嘘――ッ!?」
 指先は、むなしく中空を掴むだけだった。
 崩れゆく城の破片と共に、体が、下へと引っ張られる。
 轟音が、一気に激しさを増して聴覚を支配する。
 上に見える城が、完全に崩れ落ちて欠片となり、夢に溶けていく。
 クマの姿が見えた。
 両手をぐるぐる回しながら、落ちてゆくクマの姿が見えた。
 ヴァージニアは思いっきり手を伸ばす。何かに捕まろうと手を伸ばしながらも。
 ヴァージニアは、無常にも落ちてゆく。
 夢魔の野望と共に、何処までも何処までも落ちてゆく――。

115Memoria Memoria -想い出を抱き締めて- ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/02(水) 19:32:17
【ヴァージニア・マックスウェル@WILD ARMS Advanced 3rd】
[状態]:健康。首輪解除
[装備]:バントライン93R@WILD ARMS Advanced 3rd、プリックリィピアEz@WILD ARMS Advanced 3rd
[道具]:基本支給品、その他支給品

【カズマ@スクライド】
[状態]:健康。首輪解除
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、その他支給品
 
【クマ@ペルソナ4 ザ・ゴールデン】
[状態]:健康。首輪解除
[装備]:エアガイツ@FINAL FANTASY 8
[道具]:基本支給品、その他支給品

【ブルー@サガ・フロンティア 死亡】
【ナイトメアキャッスル 完全崩壊】

116 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/02(水) 19:33:23
以上、投下を終了いたします。
かなり削ったつもりですが長くなってしまいました…

117 ◆MobiusZmZg:2013/01/02(水) 20:18:33
執筆と投下、お疲れ様です。
長いとかどうでもよくて、満足感で胸がいっぱいになりました。
把握率は生存者に限って半分、といったところだったんですが、その中でも
読みたいと思った絵が、拾って欲しいと感じるテキストや技や演出が
しっかり描かれていることが本当に嬉しくて、読んでいてたまりませんでした。
小気味良くテンポを刻んで展開された戦闘や『想い出』、とくに後者は短めの文章で
畳み掛けてこられたことも相まってか、ヴァージニアたちの心から想起された想い出が
決戦の場に広がるさまが目に見えるようで素敵でした。

良い作品を読ませていただいて、本当にありがとうございます。
あと一話も楽しみにしていますね。

 ◆◆

それと……同じレスにまとめてしまいますが、自分の3ロワについて。
六代目さんにはすでにTwitterでお伝えしたのですが、投下分の加筆修正など行った
まとめサイト( ttp://www.eonet.ne.jp/~ice9/3rowa/ )を作成しました。
次の投下は最初から仕上げていきますが、Twitterに触れていない方に向けて、一応報告いたします。

118名無しロワイアル:2013/01/03(木) 02:32:11
把握はヴァージニアとクマとカズマ(とベアト)だけどこの重厚さは
ブルーの未把握差し引いてもグッっとくる…ッ!
首輪の起爆条件とかリレーでは扱いづらそうだけどこのロワならではという感じで
なんていうか、うん、すごいな

119名無しロワイアル:2013/01/04(金) 01:25:26
スレ主さんに質問です。
話数が288話〜290話と定められているのには何か元ネタがあるのでしょうか?

120FLASHの人:2013/01/04(金) 02:55:20
>>119
特に元ネタはありません。
なんとなく100人規模だと300話前後で完結すると収まりがいいかな、という漠然としたイメージだけです。
あと、テンプレとその後で288話〜290話ってのと298話〜300話ってので表記がブレてますが
どっちでもかまいません。
綺麗に300話終了ってしたかったけど、むしろ嘘っぽいから290話終了でもいいや。

121 ◆nucQuP5m3Y:2013/01/04(金) 02:56:47
「リ・サンデーロワ」の299話投下します

122299話「裏」 ◆nucQuP5m3Y:2013/01/04(金) 02:57:57
「読者が飽きる」
目の前に浮かぶ、少年とも少女ともつかぬ人影。
頭の上に小さな地球のような球を浮かせるその姿は、一般的な神や仙人のイメージにそぐう物ではなかった。
強いて言えばマスコット、どこかの街のゆるキャラだと言われれば大半の人は信じるだろう。
しかし、踏み込んだ六人はその姿に畏怖こそ感じれど、油断をすることはなかった。
それはこの悪夢の始まりの日、全員が集められたあの場所で、彼らに死のゲームのスタートを言い放った姿のままだったからだ。
本当ならば、その直前に「見せしめ」と称して橘を殺した姿をも想起し、さらに恐怖して然るべきだが、消失(デスアピア)した世界のことを思い出せるものは参加者にはいない。
ゼクレアトルの言葉にまず反応したのは霊幻だった。
「読者、とは誰のことだ」
「やはり、読み手(にんげん)のことでございますか?」
続いたのは鉢かつぎ。
ゼクレアトルの瞳を見据えて問い質す。
彼女はもともとが、狂った「御伽噺」を正す役目を負った月光条例の執行者。
今回の参加者の中でも、ギャグ漫画と並んでメタ的な思考をすることに慣れている。
そして、彼女の手の中には一つのヒントがある。
彼女自身が記したメモ。しかし、彼女はそのメモの意味を図りかねていた。自分が書いたとは思えない文章、誰か別の人の考えを写し取っただけに見えるそれに対する答えを、ゼクレアトルとの問答の中に求めていた。

123299話「裏」 ◆nucQuP5m3Y:2013/01/04(金) 02:58:16
「そうだな……ここまで来たわけだし、教えてやってもいいぞ」
ゼクレアトルは宙に浮いたまま緩やかに八の字を描くように揺れる。
退屈な電話をしているときに指でする仕草をその小さな全身でするように、ゆっくりと。
「最初にお前達に消失(デスアピア)の話をした時に言ったよな。『お前の世界の参加者が全員死んだら、その世界は消える』って。んじゃあ、これは何だと思う?」
ゼクレアトルは自分の後方を指差す。そこには巨大なガシャポンの器械のような器がそびえていた。
幅の広い台座に乗った、上部の透明な球体の中にはゼクレアトルが頭の上に浮かべているのと同じ、惑星に似た球体がぎゅうぎゅうと詰め込まれている。
「あれが『世界』だ。お前達、漫画のキャラクターが存在しているそれぞれの世界。このゲームに参加した者全ての世界が、あの中に詰まってる」
「ハァ?漫画の……?」
蝉がそのガシャポンを睨みつける。
よく見れば球体は一つ一つがうねるように模様を変えながらそこに在った。
うねりの一つ一つが水であり、空気であり、人であり、社会であり、営みであり、そこに渦巻いているものを全てまとめて呼ぶのならば、やはりそれは「世界」としか言いようのない球に見えた。
超常的なものには懐疑的な蝉にすらそう見える代物である、むしろ超常の側にいる他の者には当然のように感じ取れているだろう。
紛れもない、あれが「セカイ」だ、と。
誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。
「つまりよ、お前はこう言いたいわけか」
手にした果物ナイフを握りなおし、蝉がゼクレアトルを睨みつける。
「俺らも、あんなちっぽけな球っころの中に収まっちまうような、漫画の登場人物だって言うのかよ!!」
「そうだ。お前たちが生きていた世界とはこのあの球体と同じもので、お前達が生きていた人生とは漫画のシナリオの一部ってことだ」
「でも、でもよ!!」
言い聞かせるようなゼクレアトルの言葉に、蝉は駄々をこねる子供のように苛立ちを振りまいて――そして、
「そんなことは、とっくに知ってるんだよ!!」
笑った。

124299話「裏」 ◆nucQuP5m3Y:2013/01/04(金) 02:58:51
「なっ!?」
「遅ェよ!」
振り向こうとしたゼクレアトルに蝉が果物ナイフを投げつける。
最後に残った武器だというのに、何の未練もなく一直線に。
ひょっとしたら、ただのナイフなど仙人であるゼクレアトルにはなんの効果もないかもしれない。
それでも不意を突かれたことで、ゼクレアトルは一瞬、視線をナイフの軌道へと移した。
その瞬間、視線とは逆の方向。ゼクレアトルから見て左後方から声が聞こえた。
「桂木なら、こう言うんでしょうね」
先ほどまで全員が注視していたはずのガシャポンの器械の上に座り、手に持った紫陽花"玉"に点火したハクアもまた、笑っていた。


「見えたわ、エンディングが」


爆発音。
破壊音。
紫陽花"玉"が弾ける音と
ガラスが割れるような音。
「バカな!?」
ゼクレアトルの叫び。
聞いたことのない音。
"世界が解放される音"がホールに響く。
砕けた器の割れ目から、一つ、また一つ、とガシャポンから転がり出て、虚空に融けるように透けて、見えなくなっていく。

125299話「裏」 ◆nucQuP5m3Y:2013/01/04(金) 02:59:13
「おいおいどういうことだ? どうやった? どうして"俺様が認識できない"んだ?」
不思議な顔でハクアと残りの五人を交互に見ているのはゼクレアトルだ。
「お前の好きな読者って奴のために、ネタバラししてやろう」
組んでいた腕を解いて、右手に何かの本を持った霊幻が一歩進み出る。
その瞳には先ほどまでの悲壮ともいえる決意とは全く違う、確信の光が灯っている。
「まず、お前は俺達のことを全て把握できると思わせていたかったようだが、それは違う。そうだな?」
「……」
沈黙を肯定と受け取って霊幻は続ける。
「確かに俺も、他の連中もずっとお前に監視されていると思っていた。だが、二度目の放送でお前が物理的な監視では説明がつかないことを言った。参加者の『感情』について述べたんだ。もちろん、憶測で言ったものととることも出来たが……俺と、もう一人はそうは考えなかった。お前が本当に参加者の心情にまで監視の目を届かせていると、そう判断した」
ゼクレアトルは反応を見せない。
「俺は答えにたどり着くのは簡単だった。支給品がこれだったからな」
そう言って、手にした本の表紙をゼクレアトルに向ける。
『ゼクレアトル 〜神マンガ戦記〜』
『打ち切りだ』と吹き出しで喋るゼクレアトルの絵が印象的な表紙には、そのタイトルと1巻のナンバリングが見て取れる。
「この中にある、お前とカン太のやりとりに全部書いてある。『この出来事は全てマンガになって、仙人たちが読んでいる』ってな。だからすぐにわかった。"このゲームもまた、マンガとして誰かに読まれている"。その読者ってのがこの話同様に仙人たちなのかはわからんが……少なくともお前、ゼクレアトルもまた、描写されたマンガを読んで、そこから参加者の情報を得ていたんだ。そうだな?」
霊幻の手にあるそのマンガは、ゼクレアトルそのものの名を冠し、彼と、彼に翻弄される主人公の運命を描いた、メタ手法のマンガだった。
ゼクレアトルが、主人公であるカン太に彼がマンガの主人公であることを教え、その上でどうやって生きていくかを試し、それをマンガにした日常系非日常の、トゥルーマンショー的なマンガ。ただ、そこから先に強烈などんでん返しがあるのだが、それについては今は割愛する。
「だから、俺は作戦を立てることが出来たんだ。このマンガにあったぜ『載せて都合が悪いことは、描写されない』ってな。もちろん、ヒントとなりうる描写程度はされていたかもしれないけど……結果はこうだ」
「……こう言うときは極力茶々をいれねぇのが犯人側のマナーだ。それとも推理漫画の犯人のようにこう言えばいいか?『それはお前の憶測に過ぎないじゃないですか!』、あるいは『はっはっは、想像力の逞しい探偵さんだ』って……。いや、俺はあの蛇足感がどうも嫌いだ。いいぜ、認める。俺はお前達を、この仙人サンデーの紙上で監視していた。だが、それは裏をかかれた理由にはなっていないぞ。お前達の作戦が、描写されて都合が悪くなることなんて、俺には一つもない。作戦のからくり自体は大体読めてる。蝉の持ってた最後の不明支給品……あれが『神のみ』の羽衣だったんだな……あれでハクアの身代わり人形を作り、迷彩で俺様の後ろに回る……そして紫陽花"玉"で世界を入れた容器を爆破。……でも、それが描写されていない理由はなんだ……蝉がハクアに羽衣を手渡したシーンもなかった!」
「だからさ、お前は根本的に勘違いしてるんだよ、ゼクレアトル。お前が"管理者"でいられたのはついさっきまでだ」
「なんだと?」
霊幻は手にした漫画を突き出し、振り上げ、床に叩きつける。
「この話を読んでるのは、お前だけじゃない。いや、むしろこの話はお前でない誰かに読まれるために作られた……そろそろ、気づいただろ?」
「……!!」
はっとした顔のゼクレアトル。
左手に持った仙人サンデーを、右手でもって高速で捲っていく。
「そうかよ……そういうことか」
「そうだ、そういうことだ」
ゼクレアトルはページを開いたまま雑誌を投げ捨てる。
開かれたページには、つい一瞬前にゼクレアトルがしてみせた驚愕の表情がそのまま描写されている。
次のページには霊幻の顔がアップで描かれ、にじむように直前の会話が浮き出し始めていた。

126299話「裏」 ◆nucQuP5m3Y:2013/01/04(金) 02:59:34
「俺様が"ラスボス"になったのか!」
「そうだ!お前は神じゃない!作者でもない!読んでいる人が面白いと思うように漫画は描かれる!俺たちが立てた作戦、お前が欺かれる衝撃、ハクアの決め顔、全て、読者が喜ぶように描かれた!!興ざめする作戦の仕込みのシーンは後からバラす!そういう"演出"だ!!」
「く、ククク……クククク……ハッハッハッハ!!すげえじゃねえか!そうか、それなら俺様の"裏"をかく事が出来る……お前達がヒーローで、俺がラスボスである限りは、俺に不利な情報はもはやヒント程度しか描写されない!」
愉快そうに笑うゼクレアトル。
彼にとって、漫画とは自分達仙人が作る世界のことだ。
それが面白くなるかどうかは全て仙人の手腕にかかっている。
設定にシナリオは言うに及ばず、ちょっとした演出の一つ一つや視線誘導に至るまで、その世界に産み落としたキャラクターをうまく誘導することでくみ上げていくパズルのようなものだ。それがカチリとはまった時、その漫画は『傑作』と呼ばれる、そういう仕組みの中で生きていた。
しかし今はどうだ。
自分もまた、誰かが読む漫画の登場人物の一人、それも主人公達に倒されるために設定された悪のボスという配役を与えられ、作者にも近い万能性はほぼ奪われた。
ただ、それがたまらなく心地よかった。

"間違いない。この話は『傑作』になる。"

その確信を今手にすることが出来たのだ。
殺戮ゲームというキャッチーで凄惨な設定、人々の好むバイオレンスと、他作品のクロスオーバー、確かにやりすぎといえばやりすぎともいえる要素のごった煮が、ここにきて超王道的なラストに向かって堂々と突き進んでいる。
漫画を作る仙人として、自分がその一部であることに喜びを見出していた。
そのことと、もう一つの確信に向けて、なるたけ悪魔的に口の端を吊り上げる。
「だったら、やるべきことは一つだよな!」
腕を振るう。
キャラクターとしてのゼクレアトルは人間の何分の一かの等身で、腕などは小動物ほどしかありはしない。
しかし、その振るった腕からはビル一つを吹き飛ばすほどの衝撃波が放たれていた。
向かう先は前方の五人。
いかに彼らが主人公(ヒーロー)であっても、当たれば無事な描写などされようがない。

127299話「裏」 ◆nucQuP5m3Y:2013/01/04(金) 02:59:50
「ここは……」
衝撃波の到達より数瞬早く響いたのは少年の声だ。
呪術王、アルシド=クローサーの孫にして次代を担う若き呪術師、黒兎春瓶。
「僕の"領域"だ!衝撃波(おまえ)の進入を……許可しない!!!」
その声と共に、注連縄のようなビジョンが五人の前に展開される。
衝撃波はその注連縄から上下に伸びる光の壁とぶつかって、弾け、霧散する。
削り取られた床材の欠片がもうもうと舞い上がり、互いの視界を遮る。
その中で、説明を求めるようにゆっくりとゼクレアトルは呟いた。
「……呪術"結界(エントリー)"か。でもそんなもんで防げるレベルの技じゃなかったはずだぜ……黒兎」
「呪術は、想いがこもった呪具を使えば……何倍にも強くなるんだ!!」
呪術の初歩であり奥義、己の領域を設定し、その中への侵入を拒否する技"結界(エントリー)"。簡易的にであれば石ころを並べるだけでも発動が可能な術だが、その領域設定をするモノ自体が呪力を帯びていれば、その威力は格段に跳ね上がる。
そして、春瓶の足元の床には、今の結界(エントリー)を発動させたモノが突き刺さっていた。
一つ、九尾の大妖を滅するべく、人の命を融かして鍛えられた破邪の槍。春瓶と共に、この島を二日にわたって駆け抜けた少年、潮が持っていた、恐怖を抱かぬ妖器物、名を「獣の槍」という。
一つ、大妖怪の牙を鍛えて造られたと言われ、斬った妖怪の力を吸って強大になっていく大刀。一日目に、春瓶の眼前で亡くなった少年、革(あらた)から託された刀、名を「鉄砕牙」という。
一つ、古代王朝の遺跡を内包する謎の迷宮、通称"ダンジョン"を踏破したものが手に入れることが出来る武器。水鏡が失意のうちに落とし、鉄砕牙が消滅した後に春瓶の手に渡った、ジンの宿った金属器。名を「バルバットの宝剣」という。
その三本が、輝きを放ちながら春瓶たちの前に強大な結界壁を出現させているのだ。
春瓶は武器の扱いは苦手だが、それを媒介として術を発動することには誰よりも長けている。
そしてその媒介は一本一本が物語の中心になるほどの力を持った武器。もはやこの結界壁は惑星を砕くほどの攻撃でなければ突破は出来ないであろう。
「潮と誓ったんだ。お前を倒す!世界を救う!みんなを、取り戻す!!いくぞ、三下!!」

128299話「裏」 ◆nucQuP5m3Y:2013/01/04(金) 03:00:18
「ああ……そうかよ……それは、いいわ、すごくイイ」
ゼクレアトルは己の攻撃が無傷で防がれたというのに、むしろ嬉しそうに微笑んで、両手を地面にかざす。
「じゃあ次はこれだ……かっこよくあしらって見せろ!」
ぼんやりとその手が光ると、地面からボコボコと何かが湧き出すように泡立ち、その泡の海から次々と生まれ出てくるものがある。
「妖怪と……ケッ、蟲かよ!面白くもねぇ」
恋川春菊が毒づく。
彼らが普段対峙し、退治している、人を襲う巨大な蟲と、見るからに生命の理から外れている異形のバケモノが次々と形を成して、五人へと向かってくる。バケモノ達は出自もデザインもバラバラで、あらゆる世界から喚び出されているという印象だったが、そのどれもが間違いなく敵意を持って生存者たちへと向かっていた。
「なめられたものよね!」
それを後ろから切りつける影。先ほどまでガシャポンの側にいたハクアだ。
手には大きな鎌を持っている。が、それは彼女が本来持っている新地獄の悪魔のものではない。
この島で出会った死神、彼女たち新地獄の悪魔とは異なった地獄の使者の持ち物。
六道りんねから譲り受けた死神の鎌が蟲の一匹に振るわれ、醜悪なその容貌を細切れの肉片へと変えていく。
「おいおい嬢ちゃん、俺の分も残してくれよ!」
慣れない奉行所の面子であればてこずるであろう中型の蟲を事も無げに刻んだハクアに、手にした酒瓶を呷って嬉しそうに恋川は言い放つ。
「じゃあ、俺は見知った顔じゃないほうを……」


斬斬斬斬斬
両手に持った二振りの妖刀が風と共に片手に余るほどのバケモノを一瞬で切り刻む。
切り口は滑らかで、固い皮膚を持つバケモノも、軟体で斬り難いであろうバケモノも、一様に格子状のラインが刻まれ、そこからサイコロステーキのようにバラバラになって行った。
恋川の手にある一本は風神を宿した、その名も風神剣、もう一本は魔導具「磁双刀」が一方、N刀。
二千を超える人を斬ることで極められた、ボロ刀や笹の葉ですら敵を切り裂く恋川の技量だ。これほどの刀を使うならばもはや豆腐を切るよりも容易い芸当である。
「っと、一匹行ったぞ兄ちゃん」
だから、おそらくその斬り漏らしは偶然ではなく故意だったろう。

129299話「裏」 ◆nucQuP5m3Y:2013/01/04(金) 03:00:35
「っせーな!指図してんじゃねーよ!」
蝉が怒鳴る。
夏を謳歌するその虫に同じ名にふさわしく、相棒がそのやかましさから与えたその名にふさわしく。
「ったくよぉ……俺はこんなの相手にしてる場合じゃねえんだっつーの!」
彼は、生き残った六人の中では二番目に"普通"だ。
それは彼が凄腕の殺し屋であることを差し引いてもなお、残りの四人が超常的な戦闘能力を持っていることを意味している。
それでも、その彼ですら、この場に現れたバケモノ程度に遅れをとることはない。
「クソッ、本当に馴染むな、これは!」
手にしているのは、オリハルコンで造られたナイフ。
精神感応金属オリハルコンは現代の人類科学を超えた存在であり、それゆえに現代科学を超えた存在にも十分に脅威足りうる。
そして蝉はナイフ使いとしては彼の属する世界にいる殺し屋の中でもナンバーワンの存在である。
その二つが綺麗に噛み合った時、その能力は並大抵のエージェントや討魔の者を凌駕するほどの戦闘力となっていた。
このゲームが開始してから42時間ほどは、まさにその戦闘力で出会った者全てに死を撒き散らす脅威となっていた蝉だが、そのナイフが属していた『スプリガン』の世界が最後の参加者である染井芳乃の死亡と共に消滅してからこちらは、ろくな武器も持たずに彷徨っていた。
それが今、彼の手に『還った』のだ。
世界と、そして大事な『約束』と共に。
「俺はよ、プロなんだ。だから依頼はやりきる。じゃなきゃプロじゃねえんだ。あの世で岩西のバカが笑うに決まってる。そうだろ、姫サン!!」
倒れたバケモノの頭を踏みつけて、蝉は鳴く。
彼がこの殺し合いの中で出会ったあの子。
ロヴァリエ・リヒテンシュットン。
さる王国の次期女王にして、自分を「ギャグ漫画のキャラクター」と言って憚らない不思議な少女は、自分を殺した蝉に向けて、最期の依頼をした。
『プロなら……無差別に殺すなんて、ダメなんだよ……そうだ、わたしがクライアントに……なるよ。そうしたら、……目的の殺しだけで、いいんだよ……あのね、依頼は……このゲームの主催者……あの、ヘンテコなチビを、ブッコロしてやるんだよ……報酬は、この……』
自分の頭に輝くティアラに手を伸ばしたまま絶命した彼女を、蝉は忘れていた。
彼女が死に、受けたはずの依頼を心のどこかに置き忘れたまま、武器も持たずにあてもなく会場を彷徨い、答えを探していた。
そして、世界が還った今、その依頼もまた、彼の心に還ったのだ。
「いくぜ……ゼクなんとか……お前を殺して、依頼を達成する」
蝉は明確な目的を手に入れ、自身と誇りに満ちた瞳でゼクレアトルへとオリハルコンのナイフを向けた。
ナイフの輝きの中に、あの無邪気な姫の、はじけるような笑顔を見た気がした。

130299話「裏」 ◆nucQuP5m3Y:2013/01/04(金) 03:00:54
「いいわ、ほんといいわお前ら、最高だ!!じゃあ、あと二人も当然、魅せてくれるんだよな!?」
配下を蹴散らされたことなど微塵もくやしくないかのように、満足げに微笑んでゼクレアトルは霊幻と鉢かつぎを見つめ、指を鳴らす。
その音が響くと、今度は空中に波紋が現れ、何かの形を映し、徐々にそれが実体となっていく。
その波紋が収まった時、そこに現れたのは先ほどまでの「バケモノ」や「蟲」とは全くデザインの違う、どこかおもちゃのような直線と曲線で出来た生物。その名を世界鬼といった。
本来であれば幻想の世界にのみ現れるそれには、呼び出したゼクレアトル自身が少し驚いていた。
「なんでもござれ、か。ラスボスらしい能力だ」
己に与えられた力に自嘲気味に笑うと、世界鬼はすでに鉢かつぎに向けて走り出していた。
「私は……約束しました」
鉢で隠された眼光は、確かに世界鬼を捕らえている。
飛び上がり、先ほどまで"消失していた右腕"を真っ直ぐに振り下ろした。
「世界を取り戻すこと!そして、この話を正すことを!江戸川コナン様に!!」
彼女がこのゲームの中で出会った、聡明な少年からメモを託されたのは第二回の定時放送の後のことだった。
メタ漫画というヒントを得ていた霊幻とは全く違う、提示されていた材料から組み上げられた推理によって、この世界のからくりに気づいたコナンによって、そのメモは残された。
自身が死ねば自分が書いたメモは消えうせる。その仕組みに対応すべく、話の要点を鉢かつぎに筆記させ、残した。
彼はおそらく、戦闘能力では他の参加者に劣る自分の死すら、推理してしまっていた。しかし、だからこそ、今のこの状況がある。
鉢かつぎにより消失(デスアピア)のシステムを理解したコナンは、このゲームの消失(デスアピア)がそれとは異なる事に気づいた。
そこから導き出した「世界は隔離されただけである」との回答と、「世界を取り戻せ」の方針。そして、鉢かつぎが持つ月光条例執行者の証「極印」による、次元超越の可能性。
誰かに書かされた文面だけで確証の持てない鉢かつぎが、世界奪還の瞬間まで信じ続けていた『思い出せない彼』の姿が、今ははっきりと脳裏に浮かんでいた。
「そして!!良守様にも!!」
叫びと共に横に薙いだ右腕は、彼女のものではない。
人のものでもない。
それは人形、オートマータを壊しつくすため生み出された人形、オリンピアの腕が融合するように鉢かつぎの右腕を補っていた。
墨村良守より託されたその腕で、縦に裂かれた世界鬼の半身をホールの奥へと吹き飛ばした。
「ゼクレアトル、貴方は、月打(ムーンストラック)されているのですか?」
全てを思い出した今、それは当然の疑問だった。
これが物語であるならば、青き月光によって捻じ曲げられているのなら、主催者を名乗るゼクレアトルが月打(ムーンストラック)によって狂っている。
その可能性を考えないわけにはいかない。
「それは『月光条例』の世界観だな。残念だが、俺はその世界の住人じゃねえ。されたくてもできねえ」
しかし、ゼクレアトルの答えは、きちんとフラグを潰しておくことの大事さを説くような、はっきりとして簡潔な否定だった。
「それでも……捻じ曲げられた物語は……猛き月光にて、正さねばなりません!!」
頭に乗った鉢は、それでも下を向くことはない。
今は彼女の右手であるオリンピアの腕の、その手の甲には三日月のような極印が輝いていた。

131299話「裏」 ◆nucQuP5m3Y:2013/01/04(金) 03:01:12
「ザケル!!」
最後にホールに響いたのは霊幻の声だった。
オリンピアの右腕によって両断された世界鬼、その半身がいまだ力を失っていないと見るや、手にした魔本へ心を込めて呪文を唱えると、放たれた雷撃により世界鬼の半分が消し炭へと変わる。
霊幻の眼前にはエネルギー体として浮かぶ魔物の子、本来の召喚が行われていたならば「ガッシュベル」と呼ばれる正義と友情を尊ぶ男の子の輪郭がぼうっとした光を放っていた。
今回のゲームにおいて、本来の肉体ではなく魔法を行使するためのエネルギー体として召喚された魔物の子らの中でも最も潜在能力の高い彼を、霊幻はゲーム開始からずっと使役していた。
三日目の朝、皆本と永遠の別離をすることとなったあの戦いまでは。
「皆本……悪ぃ。薫を守れなくて」
別世界の組織BABELの基準を借りるならばレベル6の複合能力者という規格外、影山茂夫をアルバイトとして雇う霊幻は、全くの無能力者だ。
超能力、霊能力、そういった類のものを一切持たず、ペテンとフォトショップとマッサージで詐欺まがいの霊感相談所を営む彼は、この狂った物語の中で皆本という男に会った。彼もまた、能力を持たずして、BABELの超能力少女達を見守る普通の大人だった。
互いの境遇を(霊幻に関しては半分程度が嘘と自惚れだったが)嘆きながら、互いの保護すべき子供達との邂逅を願ってやまなかった二人。
その二人が、その守るべき子を眼前で失い、絶望の中で分かれたあの戦いが、今はっきりと霊幻の心に還っていた。
そして、皆本から託された、BABELのチルドレンの最後の一人、薫が死んだ時のこと、皆本の世界が失われることとなったあの瞬間のことを、身を裂かれるような後悔と共に、いまやっと手に入れた。
「お前、一番弱いはずなのにずいぶんとカッコつけてるな」
ゼクレアトルの視線に、得意の嘘もペテンもなく、真正面から霊幻は応えた。
「俺は無能力者だ。モブも、薫も、他にも沢山いた子供らを守ってやれない、無力な大人だ。でも、それでも、俺は大人なんだ。世渡りってやつを、子供に見せてやる責任があるんだよ!ザケルガ!!」
雷撃がゼクレアトルへと飛ぶ。
しかしそれは彼にぶつかる直前に一瞬陽炎のようにゆらめいて、そのまま憎き仙人の体をすり抜けた。
「やはり、次元の断層……!」
仙人と参加者を隔てる世界そのものの谷間に、霊幻は一瞬歯噛みする風を見せる。
が、次の瞬間には転がるように後ろへ飛んでいた。
「鉢かつぎ!極印を!」
「霊幻様!」
阿吽の呼吸で鉢かつぎはかぶった鉢を傾け、霊幻の持つ本に触れさせる。
鉢から流れ出た光が、魔本へと移り、本の表紙に三日月の模様を浮かばせた。
「ザケル!!」
再度、霊幻によって雷撃の呪文が唱えられる。
「クソッ!!やはり"そういう設定"になったか!」
その雷は文字通り光の速さでゼクレアトルへと殺到し、そして、彼の肩を掠めて後方へと飛び去った。
「どうだ、これでお前は丸裸だ。ゼクレアトル」
読み手(にんげん)世界に現れる、月打された御伽噺の人物とその御伽噺そのものを正す、猛き月光は元より隔てられた虚構と現実の世界を繋ぐ力を持っている。それゆえに、届くのだ。次元を超えて、届いたのだ。

132299話「裏」 ◆nucQuP5m3Y:2013/01/04(金) 03:01:35
月光条例の極印の力をもってして、今仙人ゼクレアトルと、ただの人間と、新地獄の悪魔と、人斬りと、呪術師の卵と、殺し屋と、そして条例執行者が同じ地平に並んだのだった。

「全員、見得は切ったな……」
ゼクレアトルは確認する。
「ああ。終わりだ」
恋川の言葉にゼクレアトルは笑う。
「そうだな!終わりだ!でもな、ただただ俺がやられたら、それは傑作じゃない……わかってるだろ?バッドエンドだって、エンディングなんだぜ?」
そう言うと、先ほどバケモノを生み出したのと同じように手を足元へとかざす。
「もう一山魅せてみろ。それが出来なきゃ――全滅エンドだ」
湧き出しているのは先ほどまでのザコとは比べ物にならない、強大な瘴気だ。
白面か、ルサンチマンか、巨大蟲か、アラビアの魔人か、オリハルコンのゴーレムか、ファウードか。
あるいはもっと強大な敵か。下手をすればそれら全てか。
間違いなく現れるのは、どの世界においても最終決戦にふさわしい、絶望的な敵だろう。
しかし、生存する六人は後退はおろか、身じろぎすらしなかった。
武器を手に、足を地に、心を戦場に。
全てを整えて、前だけを見つめている。
「さあ、行くぜ、ラストバトルだ」
「来やがれ、クソ仙人!ジャック=クリスピン曰く、『バッドエンドを喜ぶ客は多い、しかしハッピーエンドを望む客はもっと多い』だ!!」
蝉は亡き相棒が敬愛するミュージシャンの言葉を引用し、大きく吠えた。
駆け出す六人の背中には、大きな三日月が輝き、世界を照らしていた。

133299話「裏」 ◆nucQuP5m3Y:2013/01/04(金) 03:02:18
【黒兎春瓶@呪法解禁!!ハイド&クローサー】
[状態]:疲労(小)
[装備]:式紙・末吉 式紙・為吉@ムシブギョー、獣の槍@うしおととら、鉄砕牙@犬夜叉、バルバットの宝剣@マギ
[道具]:基本支給品一式
[思考]:潮との誓いを守る

【鉢かつぎ姫@月光条例】
[状態]:疲労(中)
[装備]:オリンピアの右腕@からくりサーカス
[道具]:基本支給品一式
[思考]:猛き月光により物語を正す

【霊幻新隆@モブサイコ100】
[状態]:各部に擦り傷、フラッシュバックによる無力化の可能性あり
[装備]:ニューナンブ(残り2発)@現実、ガッシュの魔本@金色のガッシュ!
[道具]:基本支給品一式、ゼクレアトル 神マンガ戦記 1巻
[思考]:皆本の望んだ世界を取り戻す

【ハクア@神のみぞ知るセカイ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:火薬玉「紫陽花玉」@ムシブギョー、りんねの鎌@境界のRINNE
[道具]:水、PFP(ゲーム機)、悪魔の羽衣@神のみぞ知るセカイ
[思考]:最高のエンディングを手に入れる

【蝉@魔王、waltz】
[状態]:左脇腹に銃創(止血、弾摘出済)
[装備]:オリハルコン製ナイフ@スプリガン
[道具]:なし
[思考]:ロヴァリエ=リヒテンシュットンの依頼により、主催者ゼクレアトルを殺す

【恋川春菊@ムシブギョー、常住戦陣!!ムシブギョー
[状態]:腹部に大きな裂傷(止血済みだが傷が開けばまもなく死亡する)
[装備]:風神剣@YAIBA、魔導具「磁双刀」N刀@烈火の炎
[道具]:握り飯、酒瓢箪
[思考]:気に入らない仙人を斬り伏せる

【補足】
消失(デスアピア)したと思われていた世界は全て開放され、失われていた記憶とアイテムが全て最終所持者の手に還りました
月光条例の極印の力により、ゼクレアトルに全ての攻撃が届くようになりました

134 ◆nucQuP5m3Y:2013/01/04(金) 03:05:22
以上で投下終了です。
前回いろいろと表記でミスってますがまとめる時に直します。

135名無しロワイアル:2013/01/04(金) 09:35:49
執筆と投下、お疲れ様でした。
やりたいこと、とのことでしたが……これを読めてよかったと思います。
漫画には明るくないので、キャラクターについて言及することは
出来ないのですが、二次にかぎらず創作する者に向けての言葉として
作品を読んでいって、胸を衝かれることしきりでした。
こういう書き方は鬼札のようなものだろうとも感じるのですが、距離感が絶妙ですごい。
相手を教化することもなく、持論を押し付けるでもなく、けれど
「お前らなら面白いものを書けるだろう?」
という相手への期待や信頼をゼクレアトルの言から読み取ってしまいたくなる。
その期待や信頼なくしては、長期にわたるリレーもまず成り立たないはずなので、
299話目に相応しい内容でもあったんじゃないかなと想像が膨らみました。

原作好き、みたいな視点とはずれた感想なのですが、読ませてくださってありがとうございます。
残りの一話も楽しみにしております!

136剣士ロワ第298話「決戦、開幕」  ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/06(日) 01:12:13
剣士ロワ、第298話の投下を始めます。

137剣士ロワ第298話「決戦、開幕」  ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/06(日) 01:14:18
 洛陽宮殿の入り口が、轟音と共に崩落した。同時に聞こえたのは、闇の力にて黄泉還りし亡者どもと、地の底から這い出た大妖怪の姿を借りた何者か達の、怨嗟と憎悪に塗れた断末魔だ。
 1人宮殿の入り口に残った、数千年の時を戦い続けた武人――ゼンガー・ゾンボルトが殿の務めを見事に果たしてくれたのだと、振り返って確かめるまでも無く理解出来た。
 彼らは誰一人として振り返ることなく前へと進み続けた。自分達が此処まで来るために死んでいった、死なせてしまった、あるいは殺してしまった――全ての命に対して、自分自身が正しいと信じた義を果たす為に。
 幻魔皇帝を称する謎の存在に招聘され、否応なしに枷たる首輪を嵌められ、服従では無く殺し合いを強制され続けたこの3日。たった3日とは思えないほどに濃密な時間が過ぎ、あまりにも多くの命が散ってしまった。それも、もう終わりだ。
 生き残り、1人の例外を除いて一つの志の下に団結した5人の類稀なる剣士達――ゼロガンダム、ゼロ、スプラウト、オキクルミ、そしてトゥバン・サノオは、殺戮の舞台の主宰者達が待つ宮殿の中心部へと迫った。
 外には夥しい数の妖魔の群れが犇めいていたというのに、宮殿の内部は彼らが駆ける音以外に何も聞こえないほどに静かで、不気味だった。しかしその静寂は、すぐに破られた。
「……来たか。類稀なる剣士たちよ」
 主催者の待ち受ける最深部。そこへ続く扉の前に、身の丈ほどもある巨大な剣を携えた1人の鎧武者――いや、1体の武人デジモンが佇んでいた。
「タクティモン!!」
 ゼロガンダムが、そのデジモンの名を叫んだ。忘れられる筈がない。この魔人こそが、この殺戮の舞台でゼロガンダムが出会った盟友、アルフォースブイドラモンを手に掛けたのだ。
 今やゼロガンダムにとって、タクティモンはかつて父ファルコガンダムを傀儡にし自分と殺し合わせた幻魔皇帝に次ぐほどの仇敵となっていた。
 そのことは、他の4人も承知の上だった。その上で、ゼロガンダムの怒りを歯牙にもかけずに1人の男がタクティモンの眼前へと歩み出た。
「タクティモンか。お主が何故、そこにおる」
 トゥバン・サノオはまるで、気心の知れた知己に話しかけるような調子でタクティモンに問い掛けた。これに気勢を削がれたゼロガンダムは、一度大きく息を吐いて、殺気を収めた。
 他の3人も、未だ死んでいないはずのタクティモンが知らぬ内に会場から抜け出していたことに疑念を感じていただけに、臨戦態勢のままタクティモンの言葉を待った。

138剣士ロワ第298話「決戦、開幕」  ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/06(日) 01:19:38
「この儀式を企てた者達に誘われたのだ。奴らに協力し、貴様らを倒す為の尖兵にならぬか、とな」
「それで、奴らに従ったのか。……代償は?」
 ただ誘われただけで、主君への強い忠誠心を持つタクティモンが一時的にでも何者かに従うはずがない。それが分かっているからこそ、トゥバンは重ねて問うた。
 すると、タクティモンは携えた大剣を構え、ほんのわずか、鞘から刀身を抜いた。それだけで、膨大な闇の瘴気が迸った。
「我が愛刀……蛇鉄封神丸の返還だ」
 トゥバンへの問いに答えるのと同時に、タクティモンは蛇鉄封神丸を抜き放ち――
「悟の太刀・五稜郭」
――同時に5つの黒い斬撃を放った。その威力たるや尋常のものでは無く、たったの一撃で宮殿の一角が崩壊してしまっていた。
 5人はそれぞれに身をかわし、五稜郭の斬撃と落下してくる瓦礫を避けていた。その視線は一様に、眼前に立つタクティモンと、抜き放たれた異様な剣に注がれていた。
「何だ、あの剣は!?」
「三種の神器が反応しているのか、あの禍々しい闇の力に……!」
 2人のゼロは、タクティモンの剣から放たれる強大な闇の瘴気に戦慄し、声を漏らす。
 気を抜けば頭から丸呑みにされてしまいそうな錯覚を抱く程の威圧感を、しかし2人は確固たる意志で撥ね退ける。
「魔剣シヴァ……いや、サルファーにも劣らぬほどの闇の力か」
 スプラウトはタクティモンと蛇鉄封神丸に、半世紀にも渡り憎悪を煮え滾らせて来た怨敵――白き破壊神の影を重ねて見た。同時に、眼前の魔人がかの破壊神に匹敵する程の強敵であると直観していた。
「ヤマタノ……オロチ……」
 そしてオキクルミは、抜き放たれその形状と質量を大きく変容させた蛇鉄封神丸を見て、ナカツクニとは海を隔てた故郷カムイにも伝説として伝わる大妖怪の名を口にした。
 実際、蛇の頭部を8つ重ねたかのような異様な形状は、ヤマタノオロチを想起せざるを得ないほどに禍々しいものだ。
 殺し合いを戦い生き抜いてきた百戦錬磨の戦士達すら戦慄する、タクティモンの真の力。
 しかし、1人だけ、それを見て笑みを浮かべているものがいた。
「お主らは先に行け」
「トゥバン・サノオ以外に用は無い。先に進むといい」
 トゥバンとタクティモンが同時に先を促す。これには、残る4人は驚愕せざるを得なかった。
 何の力も持たないただの人間のトゥバンが、これほどの闇の力を持つタクティモンに挑むなど自殺行為でしかないと、全員が思ったのだ。
「正気か、トゥバン・サノオ」
 恐らくはタクティモンとトゥバンの力量を最も正確に知るスプラウトが、トゥバンに問い掛けた。
 これに、トゥバンは牙を剥く野獣の如き笑みを浮かべて答えた。
「この男との予てからの約定だ。互いに相応しき剣を得て相見えた時に決着を、とな。そしてそれこそを、我が内に潜むものが求めているのだ」
 タクティモンとトゥバンの因縁は、この殺し合いの舞台で早々に出会った時に端を発している。その時の獲物は木刀と竹刀と、真剣勝負をするには相応しくないものだった。
 だが、互いに相手の剣技の深遠さを読み取るには不足なく、同時に、それゆえの欲望が湧きあがったのだ。
 ――戦いたい。この男と、全力で、死力を尽くして、命尽き果てるその瞬間まで心行くまで戦いたい、と。
「往け。絶望と希望の相克、光と闇の決戦の舞台に上がるのは貴殿らこそが相応しい」
「修羅は、影で相喰らい合うのが似合いだ」
 最早2人の視界には、互いの姿しか映っていない。表情が見えぬはずのタクティモンさえも嬉々として笑っているようにさえ見えるのは、眼の錯覚でも気のせいでもあるまい。
 なにより、この2人、これから殺し合うはずなのに。片や凄まじき闇の瘴気を纏い、片や鬼か修羅かと見紛うような表情をしているというのに。
 まるで、友人と戯れようとする幼児のような無邪気さを感じてしまうのだ。
「……行くぞ。この馬鹿どもは、もう梃子でも動くまい」
 溜息混じりに、オキクルミがそう言った。トゥバンが理知的で聡明でありながら、どうしようもない程の大バカであることをよく知るオキクルミは、他の3人よりもそれを理解していた。
 数秒の逡巡の後、4人はトゥバンとタクティモンを残して玉座の間へと続く扉を潜った。
「……トゥバン。必ず勝てよ」
 友の仇を討つことよりも、今は友の願いを叶えるために前に進むことこそが、亡き友の為となる。
 ゼロガンダムは断腸の思いでそう告げて、返事を待たずにタクティモンの隣を通り過ぎた。万が一この男が生き延びたなら、その時こそは自らの手で、と誓って。
 一度開いた扉が、再び閉ざされた――瞬間。それを合図に、2人の修羅の戦いが始まった。




139剣士ロワ第298話「決戦、開幕」  ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/06(日) 01:25:45
「ふん、タクティモンめ。トゥバン・サノオ以外を素通りさせるとはな」
「だが、それもまた良し。既に黙示録は成就したのである」
 4人が洛陽宮殿の玉座の間へ入ると、そこには空白の玉座の前に立つ2人の闇のもの――司会進行を務めていた司馬懿サザビーと、参加者に嵌められた首輪を始めとした会場のカラクリ仕掛けの責任者刃斬武が待ち構えていた。
 殺し合いの開幕を告げた、3人の主催者の筆頭と目される幻魔皇帝の姿は見えない。
 この2人と直接の因縁を持つ者達――真の正義と真の理想を掲げた2人の侠、愚直なまでに友を信じ続けた烈火の如き武者、仲間を守る為に疾風の異名のままに駆け抜けた剣豪。彼らは、戦いの中で散って逝った。
 彼らとの縁を持つ者もこの場にはいない。だが、天を翔ける武者の後継者と真の勇気を示した侠との絆を持つ者が、この場にはいた。
「お前が刃斬武……いや、逞鍛か」
 閉ざされた扉の向こうで戦いが始まったのを感じ取りながら、今は青い鎧を身に纏ったゼロが一歩前に出て、刃斬武をその真の名前で呼んだ。
 自分を闇から救い出してくれた友の、最期の願いを叶える為に。
 逞鍛と呼ばれた刃斬武は、しかし動じた様子も見せず、ゼロを嘲笑するような様子で睨みつけた。
「ん〜? 誰かと思えば、衛有吾を殺した赤きメシアではないか。破壊者の貴様が神の遺産たる三種の神器など纏って、すっかり英雄気取りか?」
 炎の剣に宿っていた異界の魔王の魔力と闇の瘴気。それに狂わされたゼロは、この殺し合いの舞台で出会い行動を共にしていた衛有吾とダリオを襲い、自分を救おうとした2人を手に掛けてしまった。
 このことは過去に救えなかった友人と愛した女性の事と並んで、ゼロにとって決して癒えない傷となっていた。
 その傷口から心に入り込もうとする闇を、ゼロは確固たる意志によって撥ね退ける。あの2人から受け継いだ、正義を胸に。
「……衛有吾から聞いた。お前は、兄の死で……変わってしまったと」
 ゼロの言葉に、仲間達だけでなく刃斬武にも動揺が見えた。だが、それも一瞬だけ。
「忘れたな、そんな昔のことは。今はただ、闇の使徒としての使命を全うするのみ」
 全ての感情が消え失せたような暗い瞳と声。最早、衛有吾の願いは届かないのかと、ゼロは力の盾と炎の剣を握る手に、力を込める。
「聞かせてもらおうか、その闇の使命とやらを」
 刃斬武が口にした“闇の使命”という、今回の殺し合いの核心に迫るであろう単語の意味をオキクルミが問う。
 相手が思いの外饒舌である為、戦いの前にある程度の情報を引き出せると考えたからだ。
 その思惑通り――或いはそんなものは承知の上であるのか、司馬懿は勿体ぶることも無くすぐに答えた。
「全てを滅ぼし灰燼へと帰し、新たなる世界の創造の糧とする。それこそがG記に記されし黙示録の預言である。この予言を実現させることこそ、我らの使命」
「くだらん。だが、それが奴の家族や……俺の村にも累を及ぼすようなものとあっては、捨て置くことは出来ん」
 司馬懿の口から語られた闇の使命なるものの中身を、オキクルミは即座に切って捨てた。
 かつては己の非力さへの悔恨と憤りから、自らの心の闇に捕らわれ道を見失ってしまい、そこを血塗られた赤き魔剣に浸けこまれてしまった。だが今は、自分を闇から解き放ってくれた友が示してくれた勇気が、心に宿る光となってオキクルミを導いていた。
 しかし、オキクルミがこの殺し合いの場でどのような経緯を辿ったか知る刃斬武と司馬懿は、一笑に付した。

140剣士ロワ第298話「決戦、開幕」  ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/06(日) 01:29:19
「ほう、虎暁の魂を継ぐ轟大帝を犬死させた犬畜生の変化が、よくもそんなことを口にする」
 オキクルミは赤き魔剣に魅入られ、力への執着と固執、そして望むだけの力を得られぬ焦燥と不安を増幅されてしまった。
 結果、自分よりも強い力を示していた仲間達を嫉妬心から不意討ちで殺めるという暴挙に至ってしまった。
 それでも、オキクルミを見捨てず、残された命の全てを振り絞って立ち上がり、オキクルミを救ってくれたのが――轟大帝・孫権だった。
 孫権は強かった。戦う力だけでなく、心が誰よりも強かった。どんな恐怖や絶望に挫けることがあっても、それでも決して屈さずに何度でも立ち上がって立ち向かい、最後には打ち克つ、真の勇気の持ち主だった。
 この場にいるのがオキクルミでは無く、あの時にオキクルミが殺してしまった孫権を始めとした彼らだったなら、より大きな力となって闇の使徒どもと対峙していただろう。
 だが、彼らはここにはいない。
 それでも、自分はここにいる。
 ならば、答えは決まっている。迷う必要などないのだ。
「だからこそだ。あいつが俺に伝えてくれた真の勇気……そして、気付かせてくれた、俺が求めていた力の、真の在り様。それで、貴様らを倒す」
 クトネシリカと共に背負っていた虎碇刀を手に取り、切っ先を司馬懿へと向ける。しかし未だに司馬懿と刃斬武は悠然と構え、まるで値踏みするように4人を見据えている。
「幻魔皇帝は、アサルトバスターは何処だ」
 ゼロガンダムはいよいよ待ち切れず、自ら仇敵の名を出した。
 幾ら待てども現れず、しかもどれ程精神を研ぎ澄ませても何処にも気配を感じない。宮殿中に闇の瘴気が充満していても、あの男の気配をゼロガンダムが気付かないはずが無いのだ。
 殺し合いの開幕を告げる時に自ら姿を現し高らかに宣言を出しておきながら、今更現れないのは妙だ。
「奴ならば、既に闇の生贄として捧げたよ。タクティモンは見込み以上の強さだった」
「な、なに……!?」
 司馬懿の口から告げられた、予期していなかった言葉に、ゼロは周章狼狽し、絶句してしまった。
「残念だったな。父の仇を討てなくて」
 刃斬武から投げかけられた言葉にも、ゼロガンダムはすぐに心中で否を唱えた。ゼロガンダムは幻魔大帝の死に対して、驚愕しか浮かばなかったのだ。
 ゼロガンダムの一族に伝わる雷龍剣と対を成す嵐虎剣の正統継承者にして、力への渇望から闇の勢力と契約を結び更なる力を得た幻魔大帝の力は、既に一介の剣士の領域を遥かに超えている。
 スダ・ドアカの人々を、ゼロガンダムを残して全て消し去ってしまう程の力の持ち主なのだ。
 その幻魔皇帝が、死んだ。しかも、司馬懿の口振りからすれば、恐らくはタクティモンとの一騎討ちに負けて。
 そんな化物の前に、自分は仲間を、しかも何の特別な力を持たない人間族を置き去りにして来てしまったのかと、自責の念に捕らわれる。
 だが、背後からは未だに剣戟の気配を感じる。タクティモンが手を抜いているのか、それとも、トゥバンもゼロガンダムの想像を超えるほどの剣士だったのか。

141剣士ロワ第298話「決戦、開幕」  ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/06(日) 01:31:48
「仲間を生贄に、だと?……いや、そもそも、幻魔皇帝こそが奴らのリーダーだったんじゃないのか」
 ゼロガンダムが沈黙している傍らで、ゼロは司馬懿の言葉を怪訝に思い、問い質した。それに、スプラウトが続きを付け加えた。
「……貴様らは、何かを呼び出そうとしているのか?」
 スプラウトは他の4人とは違い、洛陽宮殿の内部に侵入してからもう1つの巨大な闇の力を感じていた。しかし、その気配は今や会場の全域に現出したタタリ場から噴き出す闇の瘴気に溶け込んでおり、普通には気付けなくなっていた。
 だが、スプラウトは大いなる闇を纏う破壊神を滅ぼすべく、半世紀以上にも渡り闇の力を食らい蓄え続けていた魔人。闇の気配には、この場にいる誰よりも敏くなっていた。
 そして、異界より来たる大いなる闇の存在を知るスプラウトは、その巨大な闇はこれからこの場に現れようとしているのだと直感した。
 司馬懿と刃斬武は、ゼロとスプラウトからの問い掛けに、暫しの沈黙の後、薄暗い笑い声を洩らしながら明確に答えた。
「蘇るのだ。常夜の世界を統べるべき闇の皇が」
「そして我らは、その闇の皇に見出され選り抜かれし闇の使徒」
 刃斬武と司馬懿の体から、闇の瘴気が噴出し彼らの体を覆った。
「鎧装!」
 その掛け声と共に刃斬武は纏っていた鎧と鉄仮面を解除し、自身の本来の鎧を呼び出し、装着した。
 司馬懿は闇の瘴気により自身の鎧と体を変質させ、鳥を模った禍々しい真紅の鎧を身に纏った。
「我こそは、暗黒剣士逞鍛なり!!」
「我こそは、天を熾す鵬……天熾鵬なり。我らのこの絶大なる真力も、廻天の盟約によって賜わされた闇の力の一葉に過ぎぬと心得よ」
 対峙する2人から迸る闇の力が一気に強まり、4人の総身が震えた。
 闇への恐怖では無く、これから起こる戦いの激しさを予感し、体がひとりでに昂ったのだ。

142剣士ロワ第298話「決戦、開幕」  ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/06(日) 01:34:40
「逞鍛は俺に任せてくれ」
 ゼロは炎の剣を握り、逞鍛を睨んだ。感じる力の大小で言えば逞鍛よりも司馬懿の方が上だが、それでも、逞鍛も侮れる力ではない。
 それを承知した上で、3人は何も言わずに頷いた。逞鍛と誰よりも強い因縁を持つゼロがそれを望むなら、逞鍛との決着を付けるべきだと。
 今こそ、散って逝った戦友達から受け継いだ、託された力を――正義の力を示す時だ。
 炎の剣を、雷龍剣と天叢雲剣を、虎錠刀とクトネシリカを、ドラゴンころしを、誰が言うでもなく一斉に構える。
「行くぞ」
「応!!」
 スプラウトの号令を合図に、4人の剣士は全ての決着の為に駆け出した。
 それを迎え討つより先に、司馬懿は肩越しに背後に――玉座の間の更に奥にある、儀式の間へと視線を送った。
 そして、隣に立つ逞鍛にも聞こえないほど小さな声で呟いた。
「間も無く、黙示録は成就する。今暫く待たれよ、常闇の皇……ムーン・ミレニアモンよ」


【ゼロガンダム@新SDガンダム外伝ナイトガンダム物語】
[状態]:疲労(小)、龍機の召喚不可能、幻魔皇帝の死に動揺
[装備]:雷龍剣@SDガンダム外伝、天叢雲剣@大神、竜騎士の鎧@SDガンダム外伝
[道具]:基本支給品一式
[思考]:司馬懿を倒し、全ての決着を付ける。トゥバンが敗れた時は自分の手でタクティモンを倒す。

【ゼロ@ロックマンXシリーズ】
[状態]:疲労(中)、三種の神器のフル装備による反動が発動中
[装備]:炎の剣@SDガンダム外伝、力の盾@SDガンダム外伝、霞の鎧@SDガンダム外伝
[道具]:基本支給品一式
[思考]:可能であれば逞鍛を説得、不可能であれば倒す。

【オキクルミ@大神】
[状態]:疲労(小)
[装備]: クトネシリカ@大神、虎錠刀@BB戦士三国伝
[道具]:基本支給品一式、赤いマフラー@BB戦士三国伝
[思考]: 司馬懿を倒し、全ての決着を付ける。

【スプラウト@ファントム・ブレイブ】
[状態]:疲労(中)、鎧全体に細かな罅、
[装備]:ドラゴンころし@ベルセルク、黒い鎧@ファントム・ブレイブ
[道具]:基本支給品一式、バラとマラカス@幻想大陸
[思考]: 司馬懿を倒し、全ての決着を付ける。

143剣士ロワ第298話「決戦、開幕」  ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/06(日) 01:35:14
 我が身が、恐怖に震える。
 我が魂が、歓喜に震える。
 恐怖が体を突き動かし、歓喜が心を揺さぶる。
 使命も、宿命も、忠義も、大義も、正義も、全て忘れて。
 今はただ、目の前のこの男に勝つ為に、剣を振るおう。


【トゥバン・サノオ@海皇紀】
[状態]:疲労(小)、恐怖と歓喜
[装備]:イルランザー@クロノクロス
[道具]:基本支給品一式
[思考]:タクティモンを斬る。

【タクティモン@デジモンクロスウォーズ(漫画版)】
[状態]:全力解放、恐怖と歓喜
[装備]:蛇鉄封神丸@デジモンクロスウォーズ(漫画版)
[道具]:無し
[思考]:トゥバン・サノオを斬る

144 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/06(日) 01:38:33
以上で投下終了です。
SDガンダム色が強過ぎるかも知れませんが、こういう場で無いとSDガンダム勢はロワで書けそうもありませんし……。
他の方々も投下乙です。
長らく感想を書いていなったのでどうにもまともなものを書けませんので、せめて一言。
皆さんスゲェ。

145名無しロワイアル:2013/01/07(月) 02:32:12
むしろ、それがいい!>SDガンダム
投下乙〜
三国伝も武者列伝も好きなので所々で語られるあいつらの勇姿に燃えた
この話だけじゃないけど、残り三話には直接登場はしない奴らの作中での語られ方上手いよなーw
んで、大ボスお前かよ、ムーンミレニアモン!?w
違和感なくSDガンダム勢に混ざりすぎだろwww
そしてもうそんな奴らも関係なしにバトってる戦闘狂共いいぞ、もっとやれw

146名無しロワイアル:2013/01/07(月) 16:41:35
執筆と投下、お疲れ様です。
……把握率はほぼゼロなんで申し訳ないですが、締まったテキストが
素晴らしくて一気に読んでしまいました。
とくに>143のパートなんて、ただの五行でこちらの心を揺さぶる。
文章にある力を堪能したこともあって、実際の容量以上に楽しむことが出来ました。
この濃密さで仕上げていくのは骨でしょうが、残りの二話も待ってます!

147名無しロワイアル:2013/01/07(月) 21:15:14
(しかし◆9DPBcJuJ5Q氏ってロボだけじゃなくてF剣でも書いていたことあるのかな)

148 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/08(火) 21:51:30
>>147
ロボロワ以来どこのロワにも……ってわけでも無かったですが、ロワ書くのは久し振りでした。
無論、F剣にも参加してませんでした。トゥバンがいるのに気付いた時には既に停滞していたという……。
>>146
大神は文字通りの神ゲーだからプレイするべきそうすべき。
というより生き残り面子の作品はどれも全力でオススメしたい。

149 ◆YOtBuxuP4U:2013/01/10(木) 04:32:52
こんばんは!twitterで先月存在を知って気になってた企画、
いまさらながら参加させていただきます。
普段は非リレーとかにいる木端書き手です。
大好きな作品で夢のバトル!といった感じの話もできれば書きたいんですが、まず先にこの企画じゃないと描けない話をひとつ。

<<ここからテンプレ>>
【ロワ名】
 第297話までは『なかったこと』になりました
【生存者6名】
 球磨川禊【右腕使用不可、限界寸前、無力化の可能性】と候補生五人
【主催者】
 安心院なじみ、不知火半纏
【主催者の目的】
 バトルロワイアル《群像劇》による主人公からの主人公性の剥奪、
 および目障りな獅子目言彦の殺害、またフラスコ計画のデータ収集
【補足】
 ・めだかボックス単一ロワ、時系列はオリエンテーション編あたり
 ・単行本持ってないんで登場キャラの口調とかはうろおぼえウロボロスです、ご容赦を
<<ここまでテンプレ>>

(次のレスから開始します―)

150298:シニカル(白に還る) ◆YOtBuxuP4U:2013/01/10(木) 04:34:30
  

『いままでこのロワを読んでくれたみなさんに残念なおしらせがあります』

『ただ今を持ちまして、ここまでのあらすじは』

『なかったことになりました』


◆◇◆◇


第298話「シニカル(白に還る)」


◆◇◆◇


「ここは――どこでありますか?」

 鰐塚処理(潜水艦中学二年五組・AB型)が目を覚ますと、
 そこは白い天井に白いベッドが五つ並べられた、何の面白味もない仮眠室だった。
 いや、白味はあった。
 白い天井、白い壁、白い床にタイルライン。
 そして清潔感あふれる白いベッドの上、
 潔癖なまでに白で統一されたシーツを被って寝ていたのだ。
 むしろ白けるほど白ばかりだ。
 ペイントで書いた落書きを、全選択して消したあとのような白。
 何も残っていない白。
 しかしてまだ続く、白紙世界(プレーンワールド)。
 この空間で白でないのは――自分たち五人の人間だけであろう。

「ツッキー。タカちゃん。ノゾミちゃん、それに、ジロちゃんも」

 首をめぐらせ辺りを見渡して、五つのベッドに寝ている自分以外の人間が誰なのかを、
 鰐塚処理は確認した。幸いなことに残りの四人はみな彼女の仲間だった。
 生きていて、すやすやと寝息を建てている。
 いや――生きていて?
 生きているのは当たり前じゃあないか?
 なぜそんな思考に至ったのか、春眠明けの忘我状態でぼんやりと疑問に想いながらも、
 キャラの一貫もろもろで付けている眼帯で狭くなっている視界の隅、処理は四人の顔を順に見る。

 寝ているときはゴーグルを外すらしい。
 ――ゲーマー少女、喜々津嬉々(棺桶中学三年二組・AB型)は、
 PSPを枕元に置いてぐーぐー。

 寝言では本音と建前を使い分けないと聞く。
 ――線引き少女、財部依真(一枡女子中三年一組 ・AB型)は、
 メガネを外した素顔がきゅーと。

 寝るっていうか、スリープモードっていうか。
 ――アンドロイド少女、希望が丘水晶(聖カーゴ女学院一年梅組・AB型)は、
 機械的なお行儀良い姿勢できっちり。

 寝ていれば普通の女の子なんだけどなあ。
 ――魔法少女症少女、与次郎次葉(缶詰中学三年D組・AB型)は、
 めずらしく髪結いを解いた状態でむにゃむにゃ。

151298:シニカル(白に還る) ◆YOtBuxuP4U:2013/01/10(木) 04:35:47
  
 鰐塚処理のかけがえのない友達にして仲間である四人は、何の危害を加えられることもなく、
 最初からずっと、たった今のいままで、この仮眠室で眠り続けていたようだ。
 もちろん処理も同じだ。
 「彼女らは五人仲良く仮眠室でずっとずっと眠りこけていた」。
 何時間こうしていたのか、自分でも分からない。
 何時間“こうなって”いたのか、誰も分かる人がいない。ように思えた。
 誰も?
 誰もかも。
 何でそんなことが分かる?
 何でって、だって。
 ……何かが引っかかる。

「さっきから、何なんでありますか――?」

 鰐塚処理はベッドから半身を起こした状態で、静かに頭を抱えた。
 真っ白だった頭の中に情報が入ってくるたびに、
 この奇妙すぎる状況に対して、彼女の頭はずっと一つの行動を取ろうとしていた。
 白をきりたい。
 知っていることを、知らないふりをしたいと。
 何でも知っているわけではないにしろ何かを知っている彼女の頭が、ずっと防御反応をとっていた。
 明らかに何かを思い出そうとしているのに。
 まるでそれは、思い出したら――死んでしまう――NGワードであるかのようだ。

「死んで……」

 処理はその一文字にひときわ強く反応を見せた。

「死? 死、ぬ? 誰が。何で?」
「ん……やだなあ、ゼビウスはもうとっくの昔にクリア――んぅ?」
「&strike(){好きだって言ってんだろ先ぱ} ……ぃわっ!?」
「――定刻を過ぎまシタ。希望が丘水晶は再起動(リブート)致しマス」
「はぁあああっ! 魔王ワルゴールドよっ、いまこそ最強魔法の前に……あれっ!?」

 顔面を蒼白くしながら思考の迷宮に迷い込んでいた処理を驚かすかのように、
 左右二つずつのベッドに寝ていた四人が急に跳ね起きた。
 そして、その唐突な出来事に、唐突を重ね合わせるようにして。
 部屋のどこにもないはずのスピーカーが震えて、彼女らの耳に残酷な真実を告げた。
 ――第六放送が、流れたのだ。


◆◇◆◇


「――ッ!!」
「ワニちゃん、落ち着いてっ」
「ワニちゃんだめだよ、冷静になって!」
「心拍、吐息……ありまセン。阿久根氏は死んでおられます」
「&strike(){マジかよおい} う、嘘だよね?」
「嘘ではありまセン。――阿久根氏は死んでおられます」

152298:シニカル(白に還る) ◆YOtBuxuP4U:2013/01/10(木) 04:36:57
  
 仮眠室を開けてすぐそこの壁にもたれるようにして、阿久根高貴は死んでいた。
 金に光る美しい髪もそのままに。
 二年生の間では知らない者はいないという、
 学園でもまず美男子といえば彼に指名が入るだろう美貌も、ひとつたりとも崩さぬままに。
 心臓が活動を停止していた。
 血流が身体を流れなくなっていた。
 脳髄が信号を発するのをやめていた。
 阿久根高貴は、死んでいた。
 放送で最後に名前を呼ばれたことからして、放送前の最期の死者だったろうことはうかがえる。
 しかし彼がどうやって死んだのか、鰐塚処理たちには判断が付かなかった。
 彼の死体からは本来あるはずの外傷や打撲痕などが一切合財『見つからなかった』のだ。

「誰が……何でっ。阿久根殿がなんで、死ななければならないんでありますかっ!!!」

 怒りで四人の制止を振り切った鰐塚処理は彼に駆け寄り、その体を抱いた。
 しかし――。
 見えない傷により彼の身体が切り裂かれているなんてことはなく。
 壁にもたれていた背中が心臓ごと抉られている、なんてこともなく。
 確かにそこで、生命活動は停止しているのに。
 阿久根高貴はまるで生きていた時に戻ったみたいに、綺麗に眠りについていた。

  続いて死んでいたのは彼女らのまだ知らぬ大男だった。
  名を獅子目言彦というようだ。そばに落ちていた首輪の裏に、そう書いてあった。
  そう、大男の死体のそばには、彼の首輪が落ちていた……。
  大男の体は、阿久根高貴の例と同じく、『五体満足、傷無し』なのにもかかわらず。
  仮眠室から進み、少し開けたホールのような場所に出た五人の前で。
  誰もが勝てないはずの大男が、問いを投げかけるような姿で死んでいた。

 続いて建物を出た場所で、黒神めだかが死んでいた。
     続いて人吉善吉が。続いて雲仙冥利が。続いて杠かけがえが。
   続いて百町破魔矢が死んでいた。
     続いて名瀬夭歌と古賀いたみが。続いて志布志飛沫が。
                 続いて般若寺憂が死んでいた。
      続いて対馬兄弟が。続いて杠かけがえが。
           続いて須木奈佐木咲が。続いて飯塚食人が。
       続いて叶野遂が。続いて黒神真黒が。
     続いて鉈山粍が。続いて都城王土が。
  続いて湯前音眼が。
      続いて潜木傀儡が。続いて八人ヶ岳十字花が。続いて人吉瞳が。
        続いて平戸ロイヤルが。続いて蝶ヶ崎蛾々丸が。
  続いて米良孤呑が。続いて杠かけがえが。続いて雲仙冥加が。
 続いて糸島軍規が。続いて鶴喰鴎が。続いて贄波生煮が。
                          続いて喜界島もがなが死んでいた。

153298:シニカル(白に還る) ◆YOtBuxuP4U:2013/01/10(木) 04:37:42
   続いて不知火半袖。続いて高千穂仕草。続いて木金コンビ。
 大刀洗斬子。直方賢理。桃園喪々。杠かけがえ。
     江迎怒江。鶴御崎山海。
  鶴喰梟。贄波錯誤。日之影空洞。練兵癒。
                  阿蘇短冊。牛深柄春。寿常套。
                   ――死んでいた。
            十二町矢文。不知火半幅。虎居砕。長者原融通。
      鍋島猫美。不老山ぞめき。屋久島、種子島。
   上峰書子。鬼瀬針音。杠かけがえ。
 寿蜃気郎。宗像形。鹿屋。廻栖野うずめ。
   久々原滅私。筑前優鳥。
        夕張。秋月。諫早。黒神舵樹。
                      ――死んでいた。
        赤青黄。兎洞武器子。潜木もぐら。
  上無津呂杖。行橋未造。吉野ヶ里。指宿。門司。鳥栖。鉄砲撃。
    杠かけがえ。画図町筆。花熟理桃。
         坂之上替。日向。潜木傀儡。八代。椋枝閾。
  ――死んでいた。
   ありのままに、死んでいた。
    焼石櫛。桃園幻実。隠蓑既&済。国東。杠かけがえ。
           叶野仮輝。杠偽造。餅原沙小枝。
                 そして――――――不知火袴が。死んでいた。    
  
「思い出した、よ」

 会場をひとしきり練り歩いたあと。
 門が閉まっている箱庭学園の正面玄関に安置された老人の死体の前。
 無言で歩き続けていた五人の中で、最初に沈黙を破ったのは、
 ゲーマー少女にして五人の中ではアイデアマン的立ち回りをよく行う喜々津嬉々だった。
 でも、彼女の「思い出した」という言葉を聞くまでもなく、
 少女たちはもうとっくの昔に、第六放送を聞いた時点ですでに、思い出していた。

「……レクリエーションが終わってすぐだったよね」
「わたしたちは、この学園に閉じ込められた」
「校庭に集められた100人の人物に、安心院さんは言いまシタ」
「気が変わった――と。言っていたであります」

 気が変わった、と。
 彼女ら五人をこの箱庭学園に送りこんだ張本人にして、
 フラスコ計画提案者、七億人の悪平等(ぼく)の祖、安心院なじみは言った。
 100人を見下すように校庭備え付けの朝礼台の檀上に立って。
 背後に不知火半纏を携えて。
 ほんの気まぐれでそうしたと言うように――バトルロワイアルの開催を宣言したのだ。
 見せしめは不知火袴だった。
 彼女たちはみな、不知火袴の首が爆発で跳ぶのを見ている。
 だがまるでそれすら夢だったかのように、 
 かの老人もまた五体満足な姿で、目の前で死んでいる。
 すべてを白紙に戻しておいて――それでも取り返しはつかなかったような、死体に。

「&strike(){ふざけてんじゃねーよだよな}ある意味安心院さんらしい発言ではあったよね」

 財部依真は振り返る。
 過去を振り返りながら背後を見、箱庭学園のシンボルマークたる時計台を見る。

「うん、むしろなんで最初からこうしなかったのかってくらい“らしいやり方”だよね、これは。
 群像劇に――主人公のいない物語にシフトチェンジしちゃえば、
 主人公の主人公性が無くなって、黒神めだかを葬ることができるなんて――当たり前じゃん」

154298:シニカル(白に還る) ◆YOtBuxuP4U:2013/01/10(木) 04:38:56
  
 与次郎次葉がそれに続く。
 時計台の針は六時を差していた。開始時間から半日――?
 いや違う。一日と半日だ。36時間の間、ずっと群像劇は続けられていた。
 そして安心院なじみが最も恐れていた黒神めだかは、死んだ。これは事実だ。

「でもきっと、安心院さんは読み損ねてたんだ。
 バトルロワイアル……命の奪い合いなんて設定は、あの人を活かしてしまうことを。
 勝者と敗者の境界線が曖昧になってしまうこの空間では、負け続けるあの人が活躍できてしまうことを」

 喜々津嬉々は下を向く。
 確認できた遺体は94体。参加した100人からこの数を引いて、生き残っているのはたった6人だ。
 そしてそのうち5人はここにいる。
 開始からいままでずっと、誰も立ち寄ることない奥の奥の仮眠室で眠り続けていた。
 いや、眠らされ続けていた。
 おそらくは――全てが終わった後の最後の語り部として、使うために。
 あの男は、混沌よりも這い寄るマイナスは、わたしたち五人に白羽の釘を立てた。
 
「さっきの放送の安心院さんは、非常に面倒そうな声のトーンをしていまシタ。
 機械的に理由を考えてみたのですが……やはり、黒神めだかが、人吉善吉が、
 そしてあの強そうな大男が――圧倒的なまでに粗雑に、
 つまらなく、面白くなく死んでしまったのではないかと予測しマス。あの人のせいで」 

 希望が丘水晶は上を見る。
 彼女の機械的な目と耳は時計塔の屋上、空気がわずかに震えているのを観測していた。
 正確なところまでは分からないが、それは九割九分九厘の確率で、
 人の身体の動きや、声の振動からくるものだ。つまり残りの生者はあそこにいる。

「それだけじゃないであります。死んだ事実を変えないまま、あの男は死体から傷だけを、
 『なかったことにした』。これじゃあ何があったのか、何でみんなが死んだのか、
 推測することさえままならないであります――まるで、最終ページ以外を破り捨てた物語!」

 鰐塚処理は、険しく比喩した。
 そうだ。これは297話近く積み上げられた物語を、全て台無しにしたかのような状態だ。
 死体は全て優しい表情で寝ていた。
 でも彼らはきっと恐怖したはずだ。きっと覚悟したはずだ。
 きっと涙も流したはずだ。きっと寂しさに狂いもしたはずだ。
 勇気に満ち満ちた表情もしただろうし、安堵だってしただろう。
 シニカルに笑ったことも、おそらくきっとあっただろう。
 
 あの男はそれを奪った。
 彼ら彼女らの物語を全てプレーンな白紙に戻した。
 人の死から、過程を奪って――――ただそこで死んでいるだけの死体にしてしまった。

 彼女らにとっての裸エプロン先輩。
 負完全、球磨川禊は。

 ここに――ここに確かにあったはずのバトルロワイアルを、『なかったこと』にしようとしている!

155298:シニカル(白に還る) ◆YOtBuxuP4U:2013/01/10(木) 04:40:37
  
「向かいましょう、みんな」
「&strike(){当然だろうが!}当たり前だよ!」
「うん」
「ウィ」
「了解であります」

 五人は一路、時計台へと駆けた。
 ついこの前登ったばかりだ、頂上までの道のりは覚えている。
 言いたいことがあった。聞きたいことがあった。殴りたい奴がいた。
 ――その程度の感情を背負って、少女五人は時計塔の頂上を目指した。

 当然、球磨川禊がそれを想定していないわけがない。
 すべてを台無しにする男が、最期にそんなドラマを挿入できる余地を、残すわけがない。


◇◆◇◆


『さあ――それではみなさんご唱和ください』

 時計塔の頂上に。
 学生服を着た男がいる。
 獅子目言彦の不可逆破壊に右腕を破壊され。
 限界を肥えた無茶な過負荷の使用により息も絶え絶えで。
 志布志飛沫の古傷抉りの後遺症で、常に無力化の可能性さえ抱えている。
 爆弾だらけのずたぼろ状態。
 それでも。
 それであっても、彼は。
 球磨川禊は、へらへらと笑っている。

『――――いっつ、おーる、ふぃくしょん』

 安心院なじみの自殺体の前で、わらって、いる。


【主催・安心院なじみ――死亡】


【299話へ続く】

156 ◆YOtBuxuP4U:2013/01/10(木) 04:45:14
投下終了です。
最近のめだかの展開はよくわかんないんですが、この前のアニメの球磨川さん回が面白かったので、
ちょっと球磨川さんを描きたくなったというのが執筆理由。
でもやっぱ西尾キャラむずいです。
財部ちゃんのセリフについてる謎のタグは言葉に取り消し線を引く@wikiのタグだとか。
取り消し線が引かれているという幻視をしてもらえれば幸いです。

157名無しロワイアル:2013/01/10(木) 12:35:15
執筆と投下、お疲れ様でした。
これは……巧い。というか自分の好みの切り口だなあw
「297話のあいだに生まれたものは、一体どうしたの?」という問いかけを、
めだかボックス(というか、西尾維新の作品かな)らしい語り口で
綺麗に語っていった。こういうところを深く考えてしまうと、たとえばリレーなんかは
続けづらくなりかねんので、場所と企画を巧く選んだものだなぁと思ったりもしました。

で、そういうメタな視点というか、腐った書き手的な感想を抜きにしても、
「なかったことにされた」ことを知ったヤツらの行動が気になる。
残りの二話で、どうカタをつけるのか――あえてカタをつけないことも含めて
カタをつけることだろうなあ、みたいな考えを弄びながら、楽しみにしておりますッ。

158名無しロワイアル:2013/01/11(金) 18:28:11
そうかこういう手もあるのかすごいなぁ……
一手にに全ての状態異常を押し付けられてなおやり切ってるグッドルーザーは
絶対にウィナーたり得なくても生存者たり得るってのを見せつけられました
非リレーだってここまでは大変だろうし、やった上でなかったことにするのはこのロワでしか出来ない!
メタメタしいもの言いの西尾っていうかめだかっぽさもすばらしい!

159名無しロワイアル:2013/01/12(土) 02:36:05

この発想はすげえ! スレのコンセプトと西尾をこう組み合わせるとは

160 ◆MobiusZmZg:2013/01/12(土) 19:30:21
『Splendid Little B.R.』第二話の序幕を投下します。
単体で読んでもおそらく大丈夫ですが、下記の漫画と繋がっているので、気になる方はどうぞ。

ttp://www.eonet.ne.jp/~ice9/3rowa/etc_comic01.html

161素晴らしき小さな戦争(0)雨時々僕たちまち君 ◆MobiusZmZg:2013/01/12(土) 19:31:40
SLBR・289-PREPLAY: 素晴らしき小さな戦争(0)雨時々僕たちまち君

TRAILER ◆ 断片・情景の至る所





 誰かの疵をいやしてつなぎ、過去に封ずるための物語。
 それを掘り返してまさぐり、つついた果てにえぐって、突き抜けた裏になにかがある。
 物語で救われなかった誰かの、いいや。物語を読んで救われなかったと感じた自分の求めるなにかがある。
『わたし』はそうと信じて恥じない。恥じないはずで、あったのに。

 殺そうとして、だめだった。
 死のうとして、いけなかった。
 壊そうとして、くだけなかった。

 だのに、この現実を呑みたくもないのに納得だけはしたかった。
 ゆえにこそ愛すべきものの表皮を破って真皮を舐めて、肉を噛んで髄をすすって、
 それでも溢れ出るものからは、なにも掬えはしなかった。
 物語を掘り返してうずめ、いくつの愛をかさねて墓標を作っても、納得は出来ない。
 どうしても、出来ない。




.

162素晴らしき小さな戦争(0)雨時々僕たちまち君 ◆MobiusZmZg:2013/01/12(土) 19:32:12
 ……季節を拾い損ねたものの、これは『断章(ベイン)』にさえ成りえぬ無様な断片。
 同時にこれは、歓喜と含羞をもって紙を引き裂き、それをしてやっと綴られた声の欠片でもある。

 肉を削いでも骨を見たいか。
 骨に突かれてなお笑えるか。
 なにひとつ憎悪できぬものどもの、なにひとつ終わらせ得ぬものの、これが赦された夢だった。
 もはや水も漏らさぬ決戦のはじまりに――それでも、足許をすくう水がしたたる。
 血よりも濃く、藍ほどにも蒼い、それはとうに盤を離れし死者がいのちの霞む声。
 はじまりの角笛<ギャラルホルン>が鳴らぬを幸いに、終わりえぬはずであったものが亡霊に纏い付く。


  Splendid Little B.R. #289 『素晴らしき小さな戦争』


 ダブルクロス。それは裏切りを意味する言葉。
 けれども愛すら裏切りならば――裏切りさえも、愛であるというのなら。



 ◆◆


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163素晴らしき小さな戦争(0)雨時々僕たちまち君 ◆MobiusZmZg:2013/01/12(土) 19:32:40
REPLAY #248-01 ◆ 導入フェイズ あるいは、回想シーン


 ――あら。
 ほんとうに、これでよろしいんですの?
 血盟『影弥勒』が行う【分断】と、迷宮支配者が【決闘場】の罠による戦場の二重分割。
 後者は単なる予想ですけれど、黒須左京が加賀十也との邂逅を望むかぎり、彼は罠を作ります。
 斜歯忍軍が神器『神鏡』を持てるわたくしには、未来の一端も視えるのですから。
 ときおりノイズが交じりますけれど、狭く深く視られるこの場でならば、解釈を違えることもない。
 それに、未来を知ることのない貴方にも、この程度のことは分かるでしょう。

 この戦場……『迷宮』では、思いが力になる。
 左京くんの思いが核となった交錯迷宮なら、なおのこと思いとのリンクは深まる。
 《希望》が魔力や活力を生み、《好意》がひとを動かすのなら、逆もまたしかりですから。

 だから盤上に出来るものは、一騎討ちの札がみっつというところ。
 けれど、この配置と面々では――この戦争の結末など、最初から見えたも同然ですわ。


 こうと告げても頑是無いのが貴方ですから、断言して差し上げましょう。
 いかに鉄火場を演出しようと、ここではもう、『消化試合』しか生み出し得ません。
 かりに忍神が生まれたとて、これ以上なにを生むこともなく、これより奥のなにを抉ることもなく。
 すべての可能性というべきもの、拾いあげたいと思えるものは行き詰まって消えるでしょう。


 もう、お分かりになりましたね。
 これが「敵を粉砕する『だけ』で終わる物語」なら、終局までに三手も要しませんわ。
 玄冬を殺した救世主。十也くんを喪った『マスターレイス14'』。ここで転生しようとしている完全者。
 それに、萬川集海に呑まれかけている藤林が末裔も――ほうら。みんな、一手でまとめて滅殺出来ますでしょう。
 一騎討ちの戦場を用意して、それぞれに照明の当たる晴れ舞台を用意してやったところで事実は変わりません。
 むしろ、終わるべきとされたものどもの苦しみは増します。かれらの瑕を丁寧に抉っていくわけですから。

 そうであるなら結局は、生きられそうにないと決め込んだものを、手早く切り捨ててゆくしかない。
 生きたくないとわめくものの口を塞がせるしかない。もう生きる目的がないと思ったものの道を閉ざすしかない。
 生きたくなくても生き残るという道を赦さず、生きたいという『敵手』の願いさえも、『敵手』のそれであるから
という単純きわまりない二項の対立で整理していくしかない。

 こうしたならば、見たいと思えたものの、上澄みと記号だけをかたちにして……ただの三手で魅せていける。
 果たして結晶化された思い出は、もはや心水へ溶けて胸を乱すこともなくなる。救いといえばそれだけですか。

 もしも、もしもそのなかに、ときおりひとの指を突く棘があるのだとしましょう。
 積み重なる予定調和の中にも、ひとの目を引く彩りの花弁があったとしましょう。
 けれど、それはただ、それだけで終わってしまうものです。わたくしはそう信じます。
 そうと信じている間にも――この盤面では、生きあがくことと進むことの煌めきが描かれ続けます。
 美しき終幕のためだけに有り物を使い尽くして、影は、そのかたちも顧みられぬまま使い潰していかれます。
 きっと生き残ったものは、喪ったものどもを心の糧として、迷わず光の差す場所へ歩いて行くのでしょうね。
 単純化された世界で、焼け野原のようになった陣地に春花のひとつも見い出したなら、それで物語は終われますわ。


  ――華と散れぃ!


 なぁんてセリフも聞きましたけれど、ねえ……ふふ、ムラクモさん。
 そんな方でも終わりには花を添えねばならないだなんて、とんだ皮肉で、誤算ですわよねぇ。

164素晴らしき小さな戦争(0)雨時々僕たちまち君 ◆MobiusZmZg:2013/01/12(土) 19:33:13
 でも、まぁ、こんなたわごとに付き合うのも最後になりましてよ。
 こうしてお茶をするたびに、わたくしが色々と申し上げて。貴方はいつも生真面目で本気で、女性の心の機微も
黄金の右で潰してしまうような方ですから、わたくしの言にいちいち青筋を立てていてくださいました。
 うふふふ。律義者はほとほと疲れたことでしょうが、それでも最後にもうひとつだけ――。
 壊すことなどいたしませんから、水入りもいたしませんから、ひとつだけ問わせてくださいな。

 貴方はこの『神鏡』を手にする代わりに、わたくしを殺す約束をしてくださいました。
 けれど、それを手にして発動させるのは儀式忍法、死ねば終われる『天魔伏滅の法』ですわよね。
 ならば「闘争を支配する」とおっしゃった貴方からは、ここより負けることに逃げる余地すら奪われてしまう。
 転生による不死というアドバンテージを喪えば、貴方とて闘争の支配者ではなく当事者にならねばならない……。
 この盤にいる全員が主体的に戦うというのなら、この先では権力や暴力をもって戦争を止めることもかないません。

 息の詰まって死んでしまいそうな戦場で、ならば貴方も潰れてしまう。
 ここに来るべきだったろう『神の現実態(エネルゲイア・アイン)』とて、もういなくなってしまったというのに。
 それでも貴方は他の誰かと、破滅の方へ向かうのですね。


 だから教えてくださいな。帝國陸軍武官ムラクモ。
 自殺を続ける貴方が最期に収めたい風景は、戦争の盛夏が過ぎた場所に訪れるのはなんですか?

 いったいなにを愛したのなら、いったいなにを守ろうとすれば、こんなにもすべてを、殺せるのでしょう。



 ◆◆


.

165素晴らしき小さな戦争(0)雨時々僕たちまち君 ◆MobiusZmZg:2013/01/12(土) 19:34:02
REPLAY #248-02 ◆ 九重ルツボ・斜歯忍法『霞声(かすみごえ)』


 迷宮にたたずむムラクモの鼻孔を、花の香りがくすぐった。
 泥砂とほぐれた土や、蒸れた石から立ちのぼったような、それは大地のいだく熱の名残である。
 かすかなそれが雨香と気づいたときには、彼の髪を雨滴のひと粒がつたった。
 唇にとどいて含んだ枝垂の丸い甘みと、それを塗り替えて舌先に残す苦さは毒のそれだ。
 そうと感じた理由は、改めて考えるまでもない。
 雨――天津『水』とは『濡れ女』の異名をとる斜歯の九ノ一、九重ルツボが忍法の触媒であったからだ。
 目標に水を送り込んで操る忍法・水人形をはじめとする力は、彼女とともにあったムラクモも直に見ている。

 懐紙でもって血を拭おうとも残った余韻を、武官は鼻から息を吐くことで抜いてやった。
 交錯迷宮の一室に敷設されていた砦跡。野戦ならば土埃の舞い込んで仕方のなかっただろう作戦室の机に
向かって手を伸ばし、いまだ湯気が立ちのぼるデミタスカップの中身をすする。
 ひといきに煽ったのは酸味より苦味が前に出た、つよい焙煎のコーヒーた。
 苦味を苦味で相殺した、彼は大外套の代わりに右肩で留めた上着の裾をさばいて作戦概要に目を落とす。
 血盟の者――むろん、そこにはルツボも含む――のおかげで、『天魔伏滅の法』の念度は最大に近くなっていた。
 発動の引き金となる二度目の儀式を行うまでに完全者は転生を果たしたが、特別構うことはない。
『棄神宮殿』。いまでは『新神宮殿』と名を変えた儀式忍法の支配者がいた状況では、命脈を断たれた者も無茶を
するか、殺されでもしなければ死ねるものではなかったからだ。

 だが、すでにして真理を得た完全者も次で必ず死ぬ。
 転生の秘蹟を得たものであろうとも、必ず終わってしまうようにしたのだ。
 ヴァルハラで逢おうなどとさえずるのなら、まず、あの女がひと足先に逝けばいい。


「……まったく。頑是無いばかりか我慢のきかない方でもあるのですか。
 こんなことでしたら本当に、わたくし、これから貴方をいつまでも『ゴミ』と呼ぶことにしますわよ」


 死に様を振り見れば月光の、したたるような微笑みが武官を突き刺した。
 振り見た先に、うごめく九重ルツボ。神速の逆袈裟にて華と散らせたはずのもの。
 彼女は仰向けに倒れ伏したまま、蒼く水と透けゆくに任せた貌へ悪意を浮かべて微笑んでいる。
 妖艶にして奇怪たる女の有様と視線を合わせた男の双眸に、このときまぎれようのない嫌悪が差した。



 ◆◆



 ぬるり――と音のするようだった。
 血と雨の溜まりから、陶然と笑みを宿す女のかたちが、ふたたび構成されていく。
 背面まで断たれたセーラー服の残骸からは、クリームを思わせてなめらかな素肌がこぼれだした。
 ひとつ、左の乳房の側にある黒子だけが白蝋を思わせて幽明な肌へと滲み、あだめいた艶を醸している。

「貴方に告げるのは、これで二度目になりますけれど。わたくし不老不死ですの」

 身も蓋もない理由を告げた、彼女はたしかに散華のときを散りはぐらかした。
 歴史の闇に潜む『影』、斜歯忍軍が坩堝流の九ノ一は、瀕死の吐息を湿らせていく。

「それで、わたくしを殺すことが、貴方の答えだと受け取っても構いませんか」

 声に深みを増す湿り気は、けして情によるものでない。
 といって、彼女の得意とする水術を、攻撃のために操ってのものでもない。
 九重ルツボのかたちを取らんとして寄り集まる血と水の、溜まった淵が仇とふるえ始める。
 騒がしいと思えるほどに波立った液体の、振動が寄り集まって、ひとつの声をムラクモに届けた。


  ――金も女も権力も、暴力の前には無価値だ。


「青年のように涼しげで、若々しく張った響き。内容はともかく聞き惚れますわね。
 忍器など通さずとも使えるようになりましたけれど……わたくしの水面に映る貴方の声も悪くない」

 繰り出された忍法の名は『霞声(かすみごえ)』。
 離れた場所にある者へ一方的に声を届ける、斜歯のわざの変奏である。

166素晴らしき小さな戦争(0)雨時々僕たちまち君 ◆MobiusZmZg:2013/01/12(土) 19:35:05
「そう、一方的に。貴方の得意な札ですけれど、たまには受ける側に回ってもよろしいんじゃありません?」
 舌のひとつも出しかねない口調で続けたルツボの周囲へ、赤と蒼が寄り集まった。
 これまで混ざろうともしなかった血と雨が、『濡れ女』の分泌液で有機的な繋がりを作られていく。
「代わりにといえばなんですが、わたくしももう、服のひとつも作れなくなりましたから」
 かくて裸身を晒したまま、九重ルツボはムラクモと再度相対した。
 傷ひとつない肢体が纏うのは、かつて彼女の髪であったものだけだ。輪郭だけを残した『髪』は絶え間なく流動し、
星の欠片の灯を照り返して銀とも蒼ともつかぬ色に輝いている。
 流れ落ち、昇り来てまた集う水の音こそが、ここに立つ九ノ一を支えものだった。

「まぁ、着替えも良いなと思ったんですけどね。教師にメイド、ナース服や、チアリーダーの衣装など」
「瑣末に拘泥するか、九重の……濡れ女め」
「その瑣末で黙ってしまったのは、どこのどなたですかしら」

 あきらかな怒気に表情を無くしてなお、ムラクモは刀を抜かなかった。
 先史遺産――レムナントのひとつであるところの『月下美人』。玉壷の氷を思わせて蒼くするどい刃と、神速の
振り上げですべてを華と散らせる特別攻撃をもって引いた死線を乗り越えて、九重ルツボはここに立ってみせている。
 たとえ、この忍法のからくりが分かった今となっても同じだ。
 男性的にすぎるこの男は、愚かではあれど無知ではないからこそ彼女を斬ることかなわない。
 世界に生きた者を「自律出来ぬ愚民」と切って捨てられた者にとり、『霞声』はこれ以上ない意趣返しであった。
 むろんのことと言うべきか。その事実を知ったうえで、女忍者は笑みを深めている。
 右手の人差し指を下唇の上に置けば甚三紅の舌がひらめいて、爪の円弧を無色に染めた。

「ふふ……よろしくてよ。焦らずじっくりといきましょう。
 わたくしのこんなに恥ずかしいところ、――くんにだって見せたことはないんですから」

 続く台詞と裏腹に、ルツボは乳房の先に尖る桃色を隠そうともしない。
 ムラクモの側も、彼女が向けてくる視線に対して無機物を見るようなそれしか返さなかった。

「そういえば『鏡地獄』なんて名前の忍法も、伊賀の者には伝わっておりましたっけ」
「人は鏡とでも言いたいか。ひとを、やめてしまったものが」
「『星の意志』を知るわたくしに『完全者』となった貴方。お互いここは突けないでしょう」
 色狂いと呼ばれる一歩手前のところで、彼女は男の思考へ爪を立てる。
 古流流派に伝わる忍法を使えずとも、言法の一端は知っているのだと言わんばかりに。

「だから答えてくださいませな、『星の未来を案じた、帝國陸軍の軍人さん』。
 貴方の技以外で、消化試合を避けて、これから死ぬわたくしを使い潰すことなく。
 そうすれば、わたくしをも殺せる秘剣――忍びが【奥義】の一端を、貴方に札として差し上げます」

 笑みが、板につきすぎているからか。
 影ひとつないルツボの笑った顔こそが、この迷宮で最も歪んだものに見えた。
 その笑みを受けるべきとされたムラクモからは、彼女の問いに答える以外の選択肢が失せている。
 これは自身が試製一號と『最期』に交わした会話の再現、そのものであった。
 不老不死である女をいくら殺したところで、ムラクモの側にはなにひとつ終わるものなどない。
 殺されてなお終わらぬとあらば、すべての生を現し世に繋ぐ命脈を断とう暴力さえ価値をなくしてしまう。

「言法……そう、ですね。『玉塵抄』。
 雪と散じ解け消えた言葉を繋いで、貴方を縛らせていただきました」

 その揺らぎをつくように、生娘を思わせて初心なルツボのためらいさえ言霊術の名付けに使われる。
 しかめた顔に落ちる雨の一滴が瞳に伝わって、ムラクモが軽いくるめきを覚えた、
 次の瞬間。一気に間合を詰めた彼女は、その勢いを悟らせぬしどけなさで武官の胸にしなだれかかった。
 殺したとて死なぬ女の、星の意志から生まれたというものの重みが、数拍遅れて生ぬるい熱を伝える。

167素晴らしき小さな戦争(0)雨時々僕たちまち君 ◆MobiusZmZg:2013/01/12(土) 19:35:33
「日向影斗。影斗くんを殺した貴方に用向きがなくとも、わたくしにはある」

 ひむかい・えいと。
 人の名前の七文字を発した九ノ一の声に、今までにない響きが加わった。
 風を風のまま繋ぎとめようとする、どうしようもない切実さこそが、歴史より消えた男を何より強く縛る。
 ついぞ振り払うこともかなわず、彼の背中に、ルツボの腕が回された。脚を、脚で挟まれた。
 そのようなことをせずとも、彼女の忍法を支える水はこの部屋の全域を包んでいる。
 交錯迷宮の迷核に伝わった『濡れ女』の意志は、ムラクモと彼女と完全者――定命を捨てたものどものことごとくと、
かれらの位置する砦跡とにしのついていた。



 ◆◆


.

168素晴らしき小さな戦争(0)雨時々僕たちまち君 ◆MobiusZmZg:2013/01/12(土) 19:36:32
REPLAY: #248-03 ◆ ムラクモ・せめて最後に


 ひとつずつ、整理してみましょうか。
 遣らずの雨が銀箭にほどけた第一声は、子供に諦めを促すそれであった。

「――アカツキ。アカツキ試製一號。
 終わりえぬ闘争、その嚆矢を与えたはずが、戦いの終わりを貴方へ告げて征けたもの」

 柔らかな声音としどけないが緊張を残した肢体だけを見れば、あるいは睦言とも聴こえるだろう。
「彼は……ひょっとすると、貴方の虚構を誰よりするどく見ぬいたものかもしれません」
 頑是無くも籠の鳥を、雨夜の星を手にしようとした男に向けて紡ぐ言葉には、しかし、敵意の他になにもない。
「すべてを知っているような顔をして実感の伴わぬ言葉を繰って。そうして貴方は、貴方自身にひとを縛ってゆく」
 枝垂に流されるはずの花もまた、ふたりの場所から消えることがない。
 くるめきを誘う甘さを含んだ匂いは、さらさらと音をたてて流れる女の髪から香り立っていた。
 だが、突き出すように近づけられた唇からは、ときおり粒の揃った白い歯がこぼれる。
 その瞬間だけは背の君よりの接吻をせがむような抱擁から色事めいたものが抜け落ちて、女の滑稽こそが前に出た。
 言うまでもなくムラクモは、みっしりと蛇に食い締められるような有様に、甘さなど欠片も感じない。
 もとより闘争をしか望まず、抱擁を受けることの意味など捨てているのがこの男であった。

「塞。鼎二尉。不律。マリリン・スー。魏。
 終わりを認めたか、再会を思ったか、終わらないことを告げたのか――。
 それぞれ違いはありましたけれど、彼らは貴方を知らずして、何かを知っている貴方の言に応えていた」

 ゆえにこそ、女の側も遠慮なく彼の弱みというべきをついていた。
 これから自分は死ぬのだからという前提を掲げ、不死の力やムラクモの憂慮した『星』の意志と一体化している
事実を示して彼の絶対性を喪わせ、彼の知らないことや経験の薄い状況を盾にとって毒を含んだ言葉を紡ぐ。
 そうして自分が何かを知っているものだと感じてもらえるように立ちまわって受け身をとらせ、これでもまだ
足りぬとばかりに、孤独を望む彼が思いもしない相互的な関係を、他者のぬくもりというべきなにものかを――。
 おそらくは最も理解に易いであろう、肉のつながりをとおして迫ってさえいる。
 そこまでした濡れ女にとって、この武官の手筋は容易に突き崩せるなどとは思えぬものであった。

「神はいないと告げられて、最期には完全者に『乗られた』アノニム・メレル・ランバス。
 個性の育ったエレクトロゾルダートに電光戦車。後者は貴方自身がヴァルハラに送ったのでしたか。
 アドラーという方には、危うく出し抜かれかけたようですけれど……貴方がここにいるのが何よりの証ですね」

 たとえばアカツキのやり方では、ムラクモは止められない。
 彼は『ムラクモの問いに答えない』という形で彼の力が及ばぬ状況を作ったが、それでは彼の望む人類虐殺計画は
止められない。電光機関と複製體を作る技術が別個に存在する以上、この男は歴史の闇に留まり続けられる。
 逆に、鼎二尉や魏のようにムラクモを追っていたしても、やはり彼は止められない。
 周到に布石を打って相手の敵意を引き出し、それを折ってゆく武官の真意を誰も知り得ず、その謎がゆえに彼へと
引き寄せられていく者は、飛んで火に入る夏の虫と本質的には同じだ。
 彼を追う間に、全体状況は彼と彼の動かす『人口調節審議会』の有利な方向に展開されていく。
 ここで転生を待つ完全者が首魁となった教団による横槍さえなければ、十中八九そうなっていた。

  ――まぁ……当然といえば当然ですか。【秘密】など、戦いに勝っても知ることはかないますし。

 そうと思ってみたところで、如何せんため息は漏れるものである。
 ムラクモの野望を止めようとする者はいても、誰も彼を知ろうとはしないのだ。

169素晴らしき小さな戦争(0)雨時々僕たちまち君 ◆MobiusZmZg:2013/01/12(土) 19:37:22
 現人神。万物の理と定めた、闘争を支配せんとするもの。歴史の闇に消えた帝國陸軍武官。
 数多の複製體をもつ『アカツキ零號』にして、『完全者』となって転生の秘蹟を得てしまったもの。
 負けるという逃げ道を己に許してしまった矛盾の塊の裏にあるものを探ろうとしないことにルツボが疑問を
覚えられたのも、ひとえにルツボが斜歯忍軍の手によって作られ、忍者の流儀を身につけたことに拠っている。
 また、たとえ【秘密】を探ったところで、必ずしも行動方針が固まるわけでなく、その【秘密】に――相手の人間へ
目を通した際に抱いた思いによっては、もはや刃を交わすことさえ出来なくなるときもあると知っていた。

「それと、そこでひととき眠りについている完全者。ミュカレ。
 思いを忘れるほどの時間を生き続け、終わりえぬ夢を見る絶望は、果たしていかほどのものでしょうか」

 知っていたところで、この問いを止める道理もない。
 常世であろうと地獄であろうと、九重ルツボは日向影斗にもう一度逢いたいのだ。
 涙をこぼしでもしなければ自分を「可愛い」とさえ思ってくれない少年に、風のような『忍神』に。
 影斗の心に別の誰かが住んでいようとも、自儘や無謀のそしりと受けようとも、いい。
 彼や彼の仲間を喪って泣くことの出来た自分の心に、優しいそよ風を吹かせて欲しいのだ。
 甘く腐って香る昂揚が、腐っているから胸に貼り付き、不老不死の九ノ一の魂をすら侵蝕してゆく。
 侵蝕が度合いを加速させる一因は、皮肉にも自分の恋したものが仇の肉体であった。
 筋肉の充実さえ『電光被服』と呼ばれる軍装に隠したムラクモの、それでも隠すことのかなわぬ首の付け根。
 雪花がごとく色の抜けた皮膚に唇をつければ、どくり、どくりと、彼が燃やす命の鼓動が伝わってくる。
 自身の操る水の牢獄にあってなおも解けぬ仇の体を、あたたかいと感じた――そのときだ。
 黒手袋に包まれた五指で、顎を引き上げられた女と、男の視線が交わることなくぶつかり合う。
 その手を取って自身の胸元にすべらせながら、女は終わりに続く言葉をほうった。


「最後にムラクモ。アカツキ零號。あなたは、彼らに幾度殺されますの?」


 水より生まれた身体を、探りも求めもしない男の『心臓』へたどり着くために。
 第二次世界大戦の直前に作られたルツボは、根の部分でムラクモを理解出来ていない。
 彼女が打った布石の意味を理解して、いま動かないことを選べるほどに頭の回る彼と、あの言葉が噛み合わない。
 自分の大義を語るにあたって、産業革命などという大仰な単語を持ちだしてくるのはまだいい。
 だが、闘争を支配するとの言を実現させるにあたって、なぜ、この男はここまで自分の人間を隠してしまったのか。
 ……顔が見えない相手には、容赦なく拳を振り落ろせる。
 そうして殺したムラクモを見れば、敵手ははじめて闘争のなんたるかを知るのかもしれない。
 きっと、それも間違いではないだろう。
 けれどもここにあるルツボにとって、徹底的なまでに行われた隠匿は、ひどく滑稽なものに見えた。
 色に溺れることなく、権力に憑かれることもなく、闘うものを睥睨し続ける道を選ぶことの出来た頭のいい武官。
 それが初手から手を歪ませ、無様な姿を晒している。
 この構造を知ったからには、なんとしても聞かねばならない。
 そこまでして守りたいものが何なのか、ここで掴まなければならない。
 相手の欲するところを聞かねば、嫌がらせをしていくこともかなわないのだから。

「いったいどういう殺され方をしたら、あなたは満足出来るのかしら。
 貴方ほどに死んでしまった魂の持ち主など、きっとどこにもいませんから――」
「……サー・ウォルター・スコットだな」
「あら、碩学の人でもありましたの? 新たな魅力ですわねぇ」

 くすくすと笑いながらも、すべって落ちただけの手に失望を覚えなかったといえば嘘になる。
 異性の趣味については、自分とて立派なことを言えたものではないのだが、それでもこの武官に対する期待を
傷に垂らし続けただろう完全者の死体が、ルツボの意識で始まりの笛<ギャラルホルン>を歌わせはじめる。
 自分のような『女』の身体でなく、少女の姿をしていた魔女には、すこし同情出来るような気がした。
 血の色をした瞳に揺らぐ焔を宿したムラクモのように、相手がそれを求めていなくともだ。

170素晴らしき小さな戦争(0)雨時々僕たちまち君 ◆MobiusZmZg:2013/01/12(土) 19:38:18
「と、枯れた女が褥に誘うような真似をするのにも飽きました。
 まただんまりを決め込まれても寂しいので、此度は貴方の水に訊ねるといたしましょう」

 だからルツボは、ムラクモが死んでも求めないであろうこともする。
 ふたたび首筋に這わせた唇と、舌を――此度は引き結ばれた武官のそれに向かわせた。
 纏った水による浮力で、わずかに地から浮かぶ濡れ女は、背中から首の後ろにつたわせた左手で彼の髪を愛撫する。
 薄い唇の表面を、猫のするように舐めれば、意外なほどに容易く隙間が出来た。
「聞き分けのよろしいこと。坩堝衆が技を恐れるのなら、抱擁も受けなかったでしょうが……っ」
 触れるばかりの口づけが、不意に深いものとなった瞬間、ルツボの頬がこわばった。
 毒婦のそれともみえた色は瞬く間に塗り替えられ、かたちを歪めてなお純真な苺のように、
「こうなるようにことを運んだのはお前だ。すべて計算していたろうに、今になって臆したなどと言えるか」
 赤く染まった顔を、ムラクモは瞳を開いたまま視界に入れていた。
 転瞬、酷いともずるいとも言わせる隙を与えず、武官は間隙のひとつも残さぬ接吻を再開する。
 唇を噛み裂いて血を得るも、口づけの合間に糸を引く唾液を呑むも自由と言わんばかりに、焦げ付くほどの
熱をもってルツボの『闘い』に応じた男が吐息に残るものは、恋のように甘いと形容された飲料の香りだ。

  ――なんですの。本当に、なんなんですかそれは。きちんと出来るのではありませんか。

 かすかに塩の味が残る唾液の、ぬるつきが疎ましかった。
 合間に漏れだす吐息の熱に、瞳まで潤んでしまいそうだった。
 女の背中へ回した腕が有する力と無造作にこそ、憤りを覚えていた。
 たちまちを通り越して鮮やかだとしか言いようのない所作で主導権が入れ替えられかけた事実と、事ここに至るまで
動こうともしなかった男との間にある溝の大きさに絶望しながら、ルツボは彼の頬を両手で挟み込んだ。
 ディスコミュニケーションを地で行くものが、せめて最後にキスを返してくれている。
 ならば――口づけを受けた側が敬意を払って投げ返すべき石も、これしかない。

 息が湿るほどに長い口づけの、ほどけるそのとき、
 はじめに舌を沿わせていた下唇に歯を立てて、誰にも虚飾のかなわぬ血を、
 ムラクモの燃やして流した生命の、鼓動に転がる『断片』をたしかに舐め取って告げる。


「……忍法『洫語(みぞがたり)』」


 そうしてルツボは、ディスコミュニケーションしかない濃密な接吻を終えた。
 ひどく空虚で不毛だと、誰よりも当人が知るからこそひたすらに閉じ込め続けていた肋骨をかき分けた果てに、刹那
のぞけた果実の赤さ。それを知ってなお相手を「敵と突き放したい」がために、潤んだ瞳の焦点をずらす。
 かなわぬ夢を見るように、届かぬ星をただ眺めるように、『星の意志』を得た魔人として茫洋とたたずむ。

「うん――成功です。百歩譲って満足したことにもしましょう。
 閨でそのようなことを言われなく……て……ッ、ああ、良かったですね!」
「くだらんな」
「それが、貴方のいちばん悪いクセですのよ!」

 だが、当然というべきか。
 本音を知られて自嘲する武官と、かぎりなく近づいた――時と場所さえ噛み合っていれば、本当に最後まで共闘した
かもしれないルツボであったからこそ、慣れているはずの演技も一瞬で崩れた。
「もう――もう、わたくしは決めてしまいました」
 寝物語をするような気安さが、慇懃無礼な言葉つきにもさす。

「ムラクモ。貴方のことは『ゴミ』でなく、『クズ』か『残念なイケメン』と呼んで差し上げます。
 この身が常世に向かおうとも、ずっと。いつまでも……わたくしが貴方の血を忘却する、そのときまで」

 強いて言うなら何もかもが台無しにされたことへの怒りで震えた声に、情というべきが混淆するのは――
やはり自分が、九重ルツボが『女』としてあることを選んでしまったからだろうか。
 もう、武官の表情は見えない。いいや。接吻の、そのときから、女は男の顔など見られなかった。
 九重ルツボが知っているのは、彼の体温と心臓の押し出した血の味と、赤く潜んだ本音の断片だけだ。

171素晴らしき小さな戦争(0)雨時々僕たちまち君 ◆MobiusZmZg:2013/01/12(土) 19:39:23
「この『力』は、九重の。お前なりの礼としておくか」
「ええ……先の口づけの合間にあって、すでに教え導いてあります。
 【達人】と名を取る技が封じられぬかぎり、貴方の剣は、いかに傷つけられても鈍りませんよ」
「だが、お前に導かれた者は、お前に向けた刃が鈍る」口数が増えたのと真逆に、ムラクモの眉間に刻まれている影は
深みを増した。「答えるべきはひとつだ。お前は『私』を知って、お前を斬れるか否か、重ねて問うつもりか」
 水傘――牢獄というべきによって雨に濡れなかったムラクモが携える刀の鞘が鳴った。
 月下美人が放つ氷の声を聞いてか、迷宮を満たすかと思われた雨は、次第に雪へと変わっていく。
 だが、武官が動くはそれまでであった。
 放つべき激情の源泉を、自身に沈む滑稽を知るものを、どうして力で押さえつけようものか。
 ルツボの眼前に立つものは、最後の、本当に最後のところで恥というべきを知っている。
「ああ、【奥義】は別でしてよ。あれのからくりは知っていますが、わたくしには破る意志などありませんので」
 なにに恥を覚えているのかも掴んだこのとき、彼女もあの秘剣を教えることを拒む理由などない。

「特攻徹甲斬と、すこし似ていますか……秘剣の名は『人間華』。
 道なき所を進まんとして、おそらくは行き止まりに至るだろう貴方に似合いの剣法です」
「魔人の魔たるを封ずる剣か。礼を言う」
「夢見が悪くなりそうですが、受けましょう。貴方も願わくば最後まで、よい戦争を戦えますことを」

 心臓を掴まれた武官は、その言にこもった皮肉へ声をたてて笑った。
 よい戦争。夢見るような並びで一騎討ちの札が揃うだろう『素晴らしき小さな戦争』。
 これを素晴らしいと言って笑いたいなら、この女の明かしてみせた真実の一端に痛みや恥をおぼえるというのなら、
最終決戦<クライマックスフェイズ>を消化試合で済ませることは出来ない。
 敬意を払って戦闘を展開させたところで、体よく使い潰すのが同じと知れていても――。

「よい戦争か。幼少の頃は、そのようなものに憧れたこともあったように記憶している」
「ああ、幼き日の恋でしたか。――恋で結論しては、いけませんでしたか?」
「それこそ、お前の言う『使い潰す』行いと何が違うというのだ」

 恥を知っているからこそ、恥を知る自分を守るために通すべき筋はある。
「男の人は分かりませんわ」とこぼして、目の前では女が腕を広げた。接吻とともに抱擁が解けて、ゆるゆるとした
寝物語が続いていても、やがて部屋には日が昇る。終わらせてしまわねばならぬ時は否応なく訪れる。

「さて。最後まで平行線でしたし、好きになってはいけない相手ですけれど、貴方も可愛い方でした」
「こちらはもう、お前の戯言に付き合う義理などないのだがな」
「うふふ。でも、ダメもとでお願いしましょう」


  ――こんなことは初めてですので、優しくしてくださいませ。


『濡れ女』の遺した言葉は、なれど夜の訪れを存分に含んだものであった。


【交錯迷宮・砦跡】
【九重ルツボ@現代忍術バトルRPG シノビガミ −忍神−】
[状態]:瀕死、全裸ルツボ
[装備・所持品]:神鏡@シノビガミ、???
[思考]:ムラクモに自分を殺してもらう
[備考]:参戦時期は『シノビガミ死 棄神宮殿』リプレイパートの終了時です。

【ムラクモ@エヌアイン完全世界】
[状態]:【人類の敵】、達人:刀術、???
[装備・所持品]:月下美人【天霧】@ラストレムナント、銀朱の外套@花帰葬、???
[秘密]:???
[備考]:不明支給品の刀は月下美人【天霧】@ラストレムナントでした。
 修得しているユニークアーツ『大乱れ雪月花【桜嵐】』は、月下美人を装備した状態でのみ使えます。
 九重ルツボ@シノビガミから【達人:刀術】を【教導】されると同時に、奥義『秘剣人間華』の情報を手にしました。
 直後、ムラクモはこの技でルツボを殺します(#ep-XX 九重ルツボ・特別攻撃『特攻徹甲斬』を参照)。

172 ◆MobiusZmZg:2013/01/12(土) 19:39:50
以上で投下を終了します。
二話は最終決戦(素晴らしき小さな戦争)。
容量が多くて、まとめて投下すれば間が空きすぎる・スレを占拠してしまうのと、少しずつ読んでいった方が
いい内容に思えたので三回に分けて投下します。
3話ロワの企画のコンセプトそのものに沿うならば悪手なんですが、自分の思った『完結のさせ方』が
もう、これしかないと思えてしまったんで……申し訳ないですが最後まで書くかなあ、と。
「今月中に一話投下があったらセーフ」とのツイートも拝見しましたが、こうした形式の投下や先月の投下を
含まないのだとしたら間違いなくアウトなので、別のところで書くなりします。
ただ、猶予をいただいても二月には終える目算を現時点では立てられました。
SS以外にもタスクが詰まっているのに血迷った現状、時間をいただけるのが本当にありがたいです。

173 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:34:33
執筆&投下お疲れ様でしたッ!

相変わらず氏の文章は流麗で美しい……。
ハイレベルな表現力と語彙力が世界観を作り出し、脳裏に美しい風景を描かせてくれます。
芸術作品のようで、本当に心に響きます。
知っているキャラはいないのですが、情景、心象がまざまざと浮かんできて素敵でした。
まだまだ続きがあるとのことですので、楽しみにお待ちしておりますッ!

あと、直接内容とは関係ないのですが、絵が描けるっていいなーと思いました。
文章だけでなく、漫画で表現できるスキルが羨ましいです。

さて、それではSSを投下いたします。
『それはきっと、いつか『想い出』になるロワ』 300話です。

174それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:37:10
 黒い。白い。暗い。明るい。眩しい。真っ暗い。地に足がつかない。手に触れるものが感じられない。 
 水面に浮かんでいるような不可思議な浮遊感があった。穏やかな潮流に身を任せるような流動感があった。意識を埋め尽くすノイズがあった。 
 何をしていたのだろう。
 何をしているのだろう。
 何をしてきたのだろう。
 思い出す。思い出そうとする。
 ノイズの中を探り記憶を辿る。
 男の顔があった。少女の顔があった。女の顔があった。少年の顔があった。
 知っているような気がする。知らないような気がする。
 自分のもののような気がする。他人のもののような気がする。
 記憶は、濃霧の先に微かに浮かぶ輪郭のように曖昧で、はっきりとしなかった。
 揺らぐ。
 自分とは何なのか分からなくなる。
 たゆたう。
 他人とは何なのか分からなくなる。
 流される。
 何か大いなるものに引っ張られるような感覚がある。
 そこには、音にはならない声があった。
 無数の声は入り乱れ、数え切れない言葉がぐちゃぐちゃにぶちまけられていた。
 
 ――いいのか?

 誰かに問い掛けられる。
 知っている声のようだった。
 
 ――お前は、それでいいのか?

 誰かに問い掛けられる。
 知らない声のようだった。
「知らねェ……」

 発声はできた。
 だがその声は、自分の口を通して放たれたものなのか分からなかった。
 その回答に意志が通っているかどうかすら分からなかった。

 ――お前は風に吹かれっぱなしの草か?

 誰かに問い掛けられる。
 聞いたことがあるような声だった。
 聞いたことがないような声だった。
 煩雑な集団となった言葉の中で、ただその声が気になった。
 意識に、引っかかる。
 イメージが広がる。
 草原。吹き荒ぶ風。流される草。飛ばされる草。吹かれっぱなしの、草。
 自らの意志が通わない、草の光景。
 その緑を、視線で追ってみる。
 彼方へ流れ、果てへと遠ざかり、小さくなり、曖昧さに溶け、呑まれる。
 見えなくなる。消えてなくなる。
 ただ流されるままに消えてゆく。
 一切の意志が介在しない光景。消滅の定めに抗わず逆わず、風に全てを委ねる風景。
 心が、それを受け付けはしなかった。
 気に入らないと、ただそう思った。
 そうやって消えてしまうのだけは、絶対に嫌だと思った。

『俺』をなくすのだけは、絶対に、嫌だった。

175それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:39:39
 ちりっ、と、ノイズが揺らぐ。

「違う……」

 発声ができた。
 その声はなんとなく、自分の口を通して放たれたもののような気がした。その回答にはなんとなく、自分の意志が通っているような気がした。

「違う……ッ!」

 もう一度発声してみる。
 そうだ。この声は知っている。この声には、紛れもなく意志が宿っている。

 ――これは、俺の声だ。俺の、意志だッ!
 
「俺は違うッ! 風に吹かれて流されたまま消えるなんざ、御免だッ!!」
 
 流されるなど御免だ。
 自分以外の何かに身を任せてたまるものか。
 叫ぶと、認識がついてくる。
 両手がある。両足がある。体がある。
 残る浮遊感を足蹴にし流動感に反逆するように、意志が形になる。
 ノイズが徐々にクリアになる。モノクロームの世界が色づいていく。
 己を、強く打ち立てる。曖昧だった記憶の輪郭が明確な『想い出』となっていく。

「俺は――カズマだッ! シェルブリットの、カズマだッ!!」

 集合無意識の中、溶けかけていた存在が確立する。
 夢の中の意識体であり、集合無意識に浮かぶ明確なる個存在。
 自己を認識し、自己以外を知覚する。
 この場所は【向こう側の世界】によく似ていて、魔獣が闊歩し、神の悪夢が彷徨い、シャドウが徘徊していた。
 強烈な拒絶感を、覚えた。
 あらゆる生命体が無意識下で共有する、集合無意識。
 星の数を越える『想い出』が集い混じり溶けあう、夢の世界。
 ここにはすべての『想い出』があった。ここではどんな『想い出』の区別すらできなかった。
「ここは、俺の居場所じゃねェ。夢を見るのは、寝てるときだけで十分だ」 
 夢に住まう魔獣にも、弾けて溶けた神の悪夢にも、抑圧された無意識体であるシャドウにも。
 馴染みたくなどない。馴染んでしまえば、きっとカズマはカズマでなくなってしまう。
 そんなのは御免だった。
 死ぬよりも、御免だった。

 ――カズマ!
 
 そんなカズマに、呼び声が届く。 
 よく知っている呼び声だった。
 違和感など微塵もない、カズマによく馴染む声だった。
 呼び声の発生源へと意識を向ける。
 家が、浮いていた。
 木造の一軒家が、異形どもの向こうで、ふわふわと浮いていた。
 なんだありゃ、と疑問に思うが、夢なんだから別になんでもアリなのか、と思い直し考えるのをやめる。
 
 ――カズマッ!

 いずれにせよ、声はそこから届いてくるのだ。
 アイツの声が――現実を生きようとする奴の声が、聞こえるのだ。
 だから、カズマは行く。
 夢から覚めるため夢を泳ぐ。
 瞬間、化物の群れが一斉にカズマを向いた。
 夢に溶けることをよしとせず現実を目指す異物を認めないかのように、魔獣が、神の悪夢が、シャドウが、一挙にカズマへ殺到する。
 殴り飛ばした。
 纏わりついてくる魔獣も、縋りついてくる悪夢も、付きまとってくるシャドウも、遠慮なく呵責なくまとめてぶっ飛ばす。
 迷わず。
 惑わず。
 躊躇わず。
 家へと、到達する。
 邪魔をする異形を軒並み薙ぎ倒し、扉を開けて滑りこむ。異形どもが侵入する前に素早く閉める。
 家の中から飛び付いてくる影の気配を感じ、振り仰ぐ。
 迎撃すべく拳を握り、腰を落とし――力が、抜けた。

176それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:41:59
 飛んできたのは、クマと、ヴァージニアだったからだ。
「カズマッ! 無事でよかったッ!」
「遅いクマ! 大遅刻クマ!」
「遅いってなんだよ!? 離れろクマ野郎! つーかアンタまで飛び付いてくるんじゃねェッ!」
 二人を押しのけながら、謎の屋内を見回す。
 目に付いた棚には頭が痛くなりそうな分厚い書物と、用途不明な薬らしきものが並んでいた。
 本は机にも積まれ、巨大な地球儀が飾られている。
 ソファには可愛らしいぬいぐるみが置いてあった。子ども一人分くらいの大きさに膨らんでいるベッドにも、おそらくぬいぐるみが眠っているのだろう。
 何よりも目を引くのは、壁沿いに大きく鎮座する釜だった。
 その釜には大人すら余裕で入れそうなほどで、調理器具にしてはあまりに巨大だった。
 釜のそばに、座り込んでいる人物がいた。
 目が合う。

「えっと、ようこそ。わたしの、アトリエへ」

 その人物――トトゥーリア・ヘルモルトは、苦笑いをして応じたのだった。
 そう、そいつはどう見ても、トトゥーリア・ヘルモルトだった。
 顔も、背丈も、体格も、服装も、『想い出』にあるトトリと一致する。
 なのに、カズマが最後に見た時の彼女と、別人のように印象が違う。
 目が違う。顔つきが違う。そして何より、まとう雰囲気が別物になっていた。
 トトリが立ち上がる。
 最後に得た記憶を信じるならば、この女は敵のはずだ。だがカズマの本能は、彼女から敵意を嗅ぎ取りはしなかった。
 違うのだ。
 何かが、致命的に違う。
「アンタ、いったい……」
 尋ねようとするが、疑問は上手く言語化されない。もやもやとした気持ちの悪さが、胸の奥でわだかまった。
「皆さん、揃いましたね」
 その瞳が、カズマ、ヴァージニア、クマの順で移動する。
 皆さん。
 その単語がやけに耳に残った。カズマは、その単語を反芻する。
 待て、違うだろう。
「きっと、色々聞きたいこととか、気になってることがあると思います」
 制止の言葉が出るより先に、トトリは深呼吸を挟み、両手を組み合わせ、握り締めてみせた。
「けれど、まずは……謝らせて、ください」
 謝る。
 まただ。
 また、耳に残る単語が聞こえてくる。
「謝るって、何を……」
 呟いた、直後。
 カズマの背筋を、嫌な直感が駆け廻った。
 言うなと思う。
 言ってくれるなと、願う。
 そんなカズマをよそに、トトリは、強く目を閉じ、口を引き結ぶ。

「ごめんなさい……っ!」

 そうして。
 彼女は、頭が地についてしまいそうなほどに、深々と頭を下げた。

「わたしが……殊子さんを、殺しましたッ!」

177それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:43:08
 言ってほしくない、名前だった。
 一瞬、カズマの脳が空っぽになる。トトリの言動が、即座に理解できなかった。 
 紙に墨が浸透するように、その意味がじわりじわりと沁み込んでいく。
 感情が、沸騰した。
 体が勝手に動く。足裏は床を叩き右手は拳を形作り前へ跳ぶ。
 揺れるほどに強烈な踏み込みの音が、やけに大きくアトリエへ響き渡った。 
「やめなさいッ!」
 ヴァージニアに羽交い締めにされる。勢いは強引に削ぎ落とされるが、それでも止まらない。
 だがその拳はトトリへと到達しなかった。
 彼女の前に、クマが立ちはだかっていたからだ。
 カズマの拳が、クマのギリギリ前で停止する。
「どけッ! 離せッ! こいつは、あの女を――殊子をッ!! なんで、なんで止めやがるッ!?」
「いいから落ち付いて! 今、トトリを殴っても何にもならないからッ! こんなことをしたって、何にもならないからッ!」
 耳元でヴァージニアの叫びが聞こえる。
 その叫びに、湿り気が交じっていることにカズマは気付いた。 
「トトチャンの代わりに、クマが殴られるクマッ!!」
 カズマの拳を前に、クマは揺るがない。その瞳には不屈の意志が宿っていた。
 振り払うのは簡単だった。殴り飛ばしてやることだってできた。
 歯を食いしばり拳を握り締める。奥歯が音を立て爪が掌に食い込む。
 持て余された拳が、ゆっくりと降りた。
「お前ら、知ってたのか」
 ヴァージニアの腕から抜け出し、尋ねる。
 だがクマも、ヴァージニアも、黙って首を横に振るだけだった。
 苛立ち紛れに舌打ちを一つ落とし、カズマは床にどかりと腰掛ける。
 せめてと言わんばかりに、トトリを睨みつけた。
「どうして、ですか……?」
 顔を上げるトトリの顔には、困惑が広がっていた。
「どうしてクマさんが代わりになるんですか? 悪いのは、ぜんぶわたしなのに」
「……クマが、約束を守れなかったから。ツェツィチャンを、護れなかったから。
 だから、トトチャンがいっぱいいっぱい傷ついて、それで、そのせいで……」

 耐え切れないかのように、倒れそうなほどの勢いで、今度はクマが頭を下げたのだった。

「だからごめん、ごめんなさい! ごめんなさいッ!!」
「わわ、ちょっと、ちょっと待ってください。頭、上げてくださいっ」

 沈痛そうに頭を垂れ、謝罪を繰り返すクマを慌てて止めて、トトリは不思議そうに首を傾げる。
 
「ツェツィ……って、おねえちゃん、ですよね? その、わたし……」

 そして、本気で分からないというように、全員を見回して、

「おねえちゃんのこと、あんまり覚えてなくて。えっと、おねえちゃんがいたのは確かなんですけど」

 寂しそうに眉尻を下げて、

「おねえちゃんと一緒に過ごした時間って、全然なくて。なんだか、肉親って感じがしなくて。
 だからだと思うんですけど、おねえちゃんが死んじゃっても、その……」

 零すのだった。

「あんまり、悲しくないん、ですよ。
 ですから、クマさんがおねえちゃんと何かがあったとしても、わたしがやってしまったことには、関係がないと思うんです」

178それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:43:54
 ◆◆

 ヴァージニアがトトリと過ごした時間というのは、ほとんどなかった。
 なので、ヴァージニアは元々のトトゥーリア・ヘルモルトという人物を知らない。
 彼女が知るトトリというのは、速水殊子を姉と慕うトトリと、真実を知り壊れてしまったトトリだけだ。
 そして今、目の前のいるトトリもまた、元々の彼女ではないのだろうなとヴァージニアは想う。
 姉や友人や仲間のことを、トトリは記憶している。殊子のことも、クマのことも、ヴァージニアのことも、カズマのことも覚えている。
 この悪夢のことも、確かに覚えているようだった。
 ただ、その記憶はクマの持つ『想い出』との食い違いがいくつかあり、疎らになっていた。
 トトリの異変はそれだけではない。
 会話を通し、ヴァージニアは気付いたのだ。
 トトリの話しぶりから、これまで関わってきた人物に対する強い強い気持ちが感じられないということに、だ。
 これは、異常だった。
 トトリの精神が崩壊した原因とは、だいすきでたいせつな人たちの死に心が耐え切れなかったからである。
 仮に、これほどまでに他人に対する執着が希薄であるならば、彼女の精神が壊れることはなかったはずだ。
 今のトトリの振舞いは、これまでたいせつな人などいたことがないかのように、感じられた。
 そして。
 その様子は、あまりにも自然すぎた。
 今のトトリは、ヴァージニアが知るどのトトリよりも、普通に見えたのだ。
 機械からいくつか部品を抜き取って組み直したにも関わらず、正常に動いてしまったかのような違和が、今のトトリからは感じられるのだった。

 ――悪化、しちゃったのかな……。

 最初に出会ったこともあって、もともと、殊子とトトリは仲が良かったはずだ。
 その殊子を手に掛けてしまったせいで、心が更に壊れてしまったのかもしれないと、ヴァージニアは想う。
 あのとき、殊子を残していったのは間違いだったのだろうか。
 殊子の意志を無視し、無理にでも誰かが残っていれば。
 首を横に振り目尻を拭い、涙を呑み込んだ。
 未来予知ができるわけではない。無数の選択肢から、自分にとっての最善を選んでここにいる。
 殊子だってそうだ。彼女もまた、彼女にとっての最善を選び出したはずなのだ。
 だから悔やんではならない。後悔なんてしたくない。
 それよりも、これからどうすべきかを考えるべきだ。

「……聞かせろ」
 片膝を立てて座るカズマから、鋭い声が飛ぶ。
「殊子が逝ったときのことを、教えろ。アイツはなんて言っていた? どんな顔をして、逝った?」
 それは、トトリが負った心の傷に触れる、無遠慮な問いだった。
「ちょっとカズマ! あなた、もうちょっとトトリの気持ちを――」
 止めようとするヴァージニアを、カズマの言葉はぴしゃりと遮断した。
「殴るのはやめてもいい。だが、アイツを俺の『想い出』に刻むために、これだけは聞いとかなきゃならねェ」
「……それは、わかるけど……ッ」
 ヴァージニアは、唇を噛んで言葉を止める。
 そのカズマの想いを、否定はできない。
 彼の気持ちは、ヴァージニアにもよく理解ができたからだ。
「だからって、そんな、そんな不躾な言い方をしなくてもッ!」
「心配、ありがとうございます。お話しさせてください」
 ヴァージニアの心配とは裏腹に、トトリの声色は落ち着いていた。
 そしてそのまま、トトリは語るのだ。
 抱き締めてくれた温もりを。
 掛けて貰った言の葉を。
 悲しそうな目で、少しだけ嬉しそうにはにかんで。
 トトリは、語る。

179それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:44:50
「笑って、いました」

 眉をハの字にし、目尻に涙を浮かべ、それでも笑って、

「最期のその瞬間、殊子さんは、わたしに笑いかけてくれていたんです」

 死に瀕した殊子の気持ちを再現するために、

「たいせつな人なんていないって、大好きな人なんていないって、そんなの、言われなくても分かってるんです」

 笑うべきだというようにして、

「ずっとずっとずっと、わたしにはそんな人いなかったんだから。言われなくても、誰よりも自分がよく知ってます」

 必死で笑顔を保とうとして、

「でも、なんだか、そうやって言われたら、ああ、そうかって、納得できた気がして。心が落ち着いた気がして。
 それで、それで……ッ」
 ぽたり、と。
 トトリは、笑顔のままで、大粒の涙を溢れさせる。
 一度零れ落ちてしまえば、涙は止まらなかった。
「わたし、何言って、るんだろ。あの、あれ、えと、ごめん、ごめんなさ、ごめんなさい……ッ」
 自分を制御できず持て余しているようのその様は、ヴァージニアは胸を痛ませた。
 笑おうとすればするほど、雫はぼろぼろと落ちて、トトリの頬を濡れそぼらせる。
 その雫を、拭いとるものがあった。
 クマの、手だった。
「トトチャン、頑張って笑わなくて、いいクマ。トトチャンは、トトチャンなんだから」
 着ぐるみの手に、トトリの涙がじんわりと沁み込んでいく。 
「今のトトチャンの気持ちを、大事にしてほしいって、クマは思うクマよ」
「今の、わたし……。今の、わたしは……ッ」
 トトリの声は滲んで、震えている。
 その姿は、たった一人、荒野に放り出されてしまった雛鳥のように見えたのだった。
 そんなトトリの髪に、ヴァージニアはそっと触れる。
「無理、しないで。明日笑う為に、今日泣いたっていいじゃない」
「そんな、わたしは……殊子さんを、殊子さんの……」
 なおも首を振るトトリに、言葉が差し込まれる。
「殊子のことは分かった。サンキュな。あんがとよ」
 それは、カズマの言葉だった。
「だからもういい。もう、我慢すンな。苦しいんだったら吐き出せ。辛いんだったら泣けよ」
 ぶっきらぼうで愛想の悪い、言葉が差し出される。
「泣けるってのは、案外悪いことじゃねェさ」
 その一撃は、トトリの顔をくしゃりと歪ませるには十分だった。
 しゃくり上げ、えずき、濡れた吐息を吐き出して。
 トトリの感情が、決壊する。
 クマの身に縋りついて、トトリは泣きじゃくる。
 その涙はクマ毛を伝い、クマの感情にまで届いたらしい。
 みるみるうちに、クマの瞳にも大粒の雫が浮かび上がった。
「トトチャン……! ツェツィチャン、コトチャン……! ごめんなさい、ごめんなさいクマぁ……ッ!」
 滝のような涙を流し始める。
 慟哭は重なり合い溢れだし、アトリエをいっぱいに満たす。
 ヴァージニアはそんな二人を抱きよせ、その身をそっと撫でた。
「優しい言葉、言えるのね」
 そうして、ヴァージニアはカズマに微笑みかける。
 対し、カズマは白々しい溜息を鼻から吐き出し、ヴァージニアから目を逸らす。
「アイツが笑ってたんだろ。だったら、責める気なんてねェよ」
 カズマの視線が、宙に向けられる。
 その目が見ているのは、速水殊子か舞鶴蜜か。
 ヴァージニアは蜜のことを知らない。それでも、両方だったらいいなと、そう思う。
 そうだね、とだけ呟いて、ヴァージニアは、トトリとクマを強く抱きしめる。
 強く、抱きしめるのだった。

180それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:48:38
 ◆◆
 
 波が引いてゆくように。雪が解けてゆくように。アトリエから、涙の色が薄れていく。
 ヴァージニアが二人から手を離すと、トトリとクマは揃って目をごしごしやっていた。
「もう、大丈夫かな?」
 問うと、頷きが返ってきた。
「すみません、もう、大丈夫です」
「クマも、ダイジョウブよ」
 おどけるように、クマはくるりと回転する。
「トトチャンとヴァニチャンのハグがー、クマに元気をくれたクマぁ」
 とりあえず叩いておいた。
「さてそれじゃあ、聞いてもいいかな」
 ごほん、と咳払いをして、ヴァージニアはトトリを見る。
「ナイトメアキャッスルが崩れて、電界25次元に放り出されたわたしたちを、トトリが助けてくれた。っていう認識でいいのかしら?」
「わたしは何もしてないです。このアトリエを拵えただけですから。
 お二人が助かったのは、皆さんが夢に溶けない強さを持っていたことと、クマさんがアトリエから皆さんを呼んだからだと思います」
 
 クマに、視線が集中する。クマは腰に手を当て、得意げに胸を張っていた。
「夢の世界は、クマがいた世界とおんなじクマ。だからクマは、目隠ししてでもここを歩けるクマよー」
 と、言葉を切って、クマが突然もじもじとし始めた。
「そしたらー、トトチャンの匂いがしたからー、それを辿ってトトチャンハウスにお宅訪問しちゃったクマー!」
 クマは膨らんだベッドや鉱石の詰まった棚、巨大な釜を興味深そうな視線で見つめる。
「に、匂い……。わたし、匂うのかな……そりゃあ、調合の時にクサい素材使ったりするけど……。
 って、わわ、恥ずかしいから見ないでっ!」
 慌てるトトリは妙に可愛いなと思いながらも、ヴァージニアはクマをもう一発叩いておいた。
「女の子の部屋をじろじろ見ないの。もう、せっかく呼んでくれたことのお礼を言おうと思ったのに台無しだわ」
 それにしても、クマを叩いたときに返ってくる弾力はえらく小気味よい。クセになるかもとヴァージニアは思う。
「アトリエとか部屋とか言ってッけど、だいたいここは何なんだよ? おかしいだろこれ。なんで家が浮かんでんだよ?」
「おお、カズマがまともなことを言っとるクマ……!」
「カズマー、殴っていいわよー」
 クマの背中を押し、カズマへとシュートする。カズマ自慢の拳がクマにめり込んだ。
「ぐぼッ!」
 座ったまま繰り出された拳でも、力はそれなりに乗っていたらしい。
 クマの身が、アトリエをごろごろと転がった。
「おぉ、なかなか殴り応えがあるぞ……!」
「でしょー。いい手応えしてるわよね」
「しどいッ! ときどきヴァニチャンが鬼に見えるクマッ!」
「あのー……」
「あ、ごめんね。話の腰折っちゃって」
 三人を見回すトトリに謝罪すると、彼女は慌てて首を横に振った。
「いえ、その、わたしも叩いてみたいなーと、ちょっと思っただけで」
「ト、トトチャン……。ぷりちーなお顔から飛び出るキレのあるお言葉に、もうクマは、たまりませんッ!」
 ヴァージニアは拳を作り、叩き下ろすジェスチャーをトトリに見せた。
 その真似をするように、ぐっ、と拳を作り、トトリはクマを叩く。ぽくっ、と、可愛らしい音がした。
「よっし、それじゃあ真面目な話の続きをしましょうか。このアトリエが何なのか、教えてもらっていいかしら?」
 はい、と頷き、トトリは口を開くのだった。

「これは、わたしがずっと過ごしてきたアトリエです。夢じゃない、現実のアトリエなんです」

 三人の目が、点になった。
 理解ができない。意味が、よく分からなかった。
「え、えーっと。それも、錬金術?」
 呆然としながら尋ねると、トトリは首を横に振り、
「まさか、違いますよー」
 そして、更に驚くべき発言をするのだった。
「わたし……固定剤<リターダ>になっちゃったみたいなんです」

 沈黙が、アトリエに落ちて広がった。
 
「……へ?」
「固定剤<リターダ>って……」
「舞鶴や殊子と同じヤツ、なのか……?」

 理解が追い付かないままの三人に、トトリは、はい、と頷いたのだった。 
 昨日の夕飯を思い出すかのような気軽さで、訥々と語り出す。

181それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:49:48
「さっきのお城が急に揺れ出して崩れ始めたそのとき、目の奥にふわふわした――ぼんやりした雲みたいなものを感じて。
 わたしの中に、世界が入ってきたんです」

 トトリはこう言うのだ。
 誰かが望んだ虚ろな世界がナイトメアキャッスルの崩壊と同時に滅び、それが彼女の精神に根を張り、巣食い、寄生したのだ、と。
 虚軸<キャスト>の定着。
 それによりトトリの人格には世界が固定され、彼女は虚ろなる世界とひとつになる。
 結果、トトリは虚軸<キャスト>にまつわる知識を得た。同時に、その世界を支配していた法則を、力として行使できるようになった。
 ああ、そうなのか、とヴァージニアは得心する。
 殊子は言っていた。
 虚軸<キャスト>を身に宿すということは、欠落を抱えるということだ、と。
 トトリは壊れたのではない。世界と引き換えに何かを失ってしまったのだろう。 
 それは、決して幸福ではないのかもしれない。 
 だがヴァージニアには、不幸だと断じることはできなかった。
 何故ならば。
 今トトリは、生きているのだ。
 数多くの犠牲と悲しみの果てで、トトリは確かに、ここにいるのだ。
 それを不幸だと言ってしまったら、トトリの命と、最期にトトリへと微笑みかけた殊子の意志を否定することになってしまう。
 そう、思うのだ。
「このアトリエは、わたしに宿った虚軸<キャスト>の力です。この虚軸<キャスト>は、夢と現実の境界を曖昧にできるんです」
 トトリが、両手を浅く広げる。
「ここは、夢の世界でもあり、わたしが知っている現実でもあります。でも――」
 と、トトリはアトリエの天井を見上げ、呟いた。
「わたしは、夢の世界の住人じゃないから。夢の中に、現実は定着させられません」
 トトリの視線を追う。
 天井の輪郭が曖昧になっており、今にも消えてしまいそうになっていた。 
「もうすぐ、このアトリエは現実へ――アーランドへ、還ります」
 アーランド。
 それはトトリが生まれ生きてきた世界。
 ファルガイアでも、ロストグラウンドでも、稲羽市でもない、トトリが帰るべき場所。
「このままだと、俺らもそこへ行っちまう、ってことか?」
「はい。アーランドに戻った後でも、もう一度力を使えば夢の世界には来れると思います。
 けど、ここから皆さんを、それぞれの世界に送り届けることはできないんです……」 

 申し訳なさそうに縮こまって首肯するトトリ。その手を、クマがぽんぽんと叩いた。
「だいじょぶクマ! ちゃあんと帰る方法は用意してあるクマよー」
 クマが、ぐっ、と親指を立ててみせた。
「え、そうなんですか? さすがクマさん!」
 トトリがぱちぱちと手を叩く。純真な瞳に見つめられて、クマは少し後ずさった。
「ほ、本来はクマテレビで皆さんをお送りしたいところなのですが? その、あれはその、今はお休み中でして?」 
 露骨に目を逸らし、口笛を吹くべく口を尖らせる。ひゅーひゅーと、空しく吐息が漏れた。
 そんなクマにくすくすと笑い掛け、ヴァージニアはポーチからペンダントを取り出した。
 それは、傷ついた天使からユルヤナの老師へと託され、アニエス・オブリージュへ手渡されたペンダント。並行して存在するルクセンダルクを繋いだ、ペンダントだ。
 これこそが鍵だった。
 無数の並行世界を繋いだように。
 この鍵で、夢の世界からあらゆる現実へ繋がる扉を開けるのだ。
 眩い光を湛えたそれを、クマへと差し出す。
「お願い、クマ。あなたに任せるわ」
「クマが、やっていいクマ?」
 ええ、とヴァージニアが頷く。任せるぜ、とカズマが首を縦に振る。
 応じるように、クマも強く頷き返し、その手でペンダントを受け取った。
「よーし! やったるクマァッ!」 
 クマは、力こぶしを作ってみせ、
「そいやぁッ!」
 宙へ、ペンダントをぶん投げた。
「開けぇー、クマッ!」
 ペンダントはまるで意志を持つかのように宙を飛び、アーランドへ還りつつある扉の前で制止する。
 光が、解き放たれる。
 外へ。
 外へ。
 光は回廊を形作る。
 長い長い回廊を、形作る。
 曖昧となっていくアトリエを起点とし、集合無意識の沃野を貫くその回廊は、何よりも煌々と輝いていた。

182それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:50:21
 夢から現実へと通ずるそれは、目覚めの輝きだった。
 夢の時間は、もう終わる。
「よっ、と」
 カズマが、立ち上がった。
 回廊は一本道だ。だが、一度足を踏み出せば、きっとそれぞれの帰る場所へと道は分岐するだろう。
 だから。
 このまどろみの時が、別れの時間なのだ。
「カズマ」
 呼ぶ。
「クマ」
 呼ぶ。
「トトリ」
 呼ぶ。
 三人の瞳を順に見つめ、胸に焼き付ける。
「この夢は、確かに悪夢だった。ひょっとしたら、わたしたちは出逢わずにいられた方がよかったかもしれない」
 そして、ヴァージニアは脳裏に思い描く。
 散った人々のことを、彼らと過ごした時間を、深く強く想い描く。
「それでもわたしは、あなたたちと――みんなと、出逢えてよかったって言うわ。何度だって、何度だってそう言うわ」
 両手を重ね、胸に強く押し当てる。
 そして、精一杯の笑顔を三人へ向けるのだ。
「だって、いっぱいにもらった『想い出』を、わたしは否定したくないもの」
 ああ、と返答し、カズマは拳を突き出した。
「逝った奴がいる。亡くしたモンがある。けど、全部背負って刻んで進んでやる」
 そう思えるのならば。
「重てェよ。重てェけど、背負っていたいと思うものを掴めたんだ。だからこいつは、ただ悪いだけの悪夢じゃねェ。悪いだけじゃあ、ねェのさ」
 カズマの拳に、クマが手を打ち付ける。
「我が命は、君たちの『想い出』と共に、クマ! クマは皆のことを忘れない! ゼッタイ、ゼッタイ忘れない!」
 続いてヴァージニアも、拳に手を打ち付けた。手の甲で感じられる温もりも『想い出』となるのだろうとヴァージニアは思う。
「ほら、そんなところで突っ立ってないで。トトリも早く」
 ヴァージニアが促すと、少し距離を置いて佇んでいたトトリが、つぶらな瞳を丸くした。
「え? わたしも、ですか?」
 自分を指差し、小首を傾げる。
 否定する者など、いやしなかった。
「たりめェだろ」
「もっちろんクマ!」
 トトリは迷うようにヴァージニアを見て、戸惑うようにクマに視線を移し、躊躇うようにカズマを眺める。
 そして、惑うようにあたりを見回してから、おずおずと近づいてくる。
 こつん、と。
 遠慮がちに打ち合わせられた手も、また温かい。
 簡単に忘れられないくらいには、温かい。その温かさが在るから、現実を生きていける。
 トトリもそうであるといい。そうであるといいなと、ヴァージニアは思うのだ。
「それじゃあ、行くか」
 カズマが扉を開け放つ。
「ええ。そろそろ、起きましょう」
 ヴァージニアが隣に立つ。
「トトチャンは、どうするクマ?」 
 クマが尋ねると、トトリは、思い切り目を擦った後のように薄ぼんやりとするアトリエをぐるりと見回した。
「わたしは、このままアトリエと一緒に還ります」
 そっか、と頷いて、クマはトトリの隣へ行く。とてとてと足音を立て、背伸びしてトトリを見上げる。

「トトチャン。クマは、トトチャンの力になりたいクマ。トトチャンが元気でいる力に。トトチャンが明日を歩いていく力に、なりたいクマ。
 そして、伝えたいことが、たくさん、たくさん、たくさんあるクマよ」
 
 だから、と言葉を切り、言いにくそうにしながら、
 
「もしトトチャンさえよければ、クマの世界へ、ご一緒、しませんクマ……?」
 
 クマは、そう告げたのだった。

183それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:51:06
 ◆◆

 トトリの力になりたい。
 ツェツィを大好きなトトリに戻ってもらうために、できることをやりたい。
 それは紛れもないクマの本心だった。  
 ツェツィのことをしっかり伝えたい。
 たとえば、どれだけトトリを愛していたか。たとえば、どれだけトトリを想っていたか。
 たくさん、たくさん、たくさん伝えたい。
 それは心底からの、クマの望みだった。
 けれど、それを叶える為の時間は限りなく少ないのだ。
 ならば、共に在れれば。
 同じ場所で同じ時間を過ごせれば、トトリの力になれる。ツェツィのことを伝えられる。
 アーランドへ行くことはできない。きっと今も、菜々子が稲羽市で、悠たちを待っている。
 だから、もしも。
 もしもトトリが稲羽市に行くことを望んでくれれば、あるいは。
「ありがとう、クマさん。気持ちは、とってもうれしい。誘ってくれて、本当にうれしい」
 トトリがはにかみ、目を細める。それは確かな笑みではあった。
 けれども、その瞳は潤んでいた。潤んだ瞳に宿っている感情を、クマは見る。
 その感情は、郷愁だ。

「でもわたしは、アーランドへ帰るよ。アーランドへ、帰りたい」

 その言葉に、クマはさみしさと。それを遥かに超える安堵を、覚えた。 
 たとえ何かを失くしても。
 たいせつなものを失ったとしても。
 帰りたいと思えるだけの、世界が在るのならば。
 それはきっと、とてもしあわせなことなのだ。
 だからこくりと、大きく頷く。
「トトチャンの――みんなの幸せを、祈ってる。ずっとずっと、祈ってる」
 それでいいと思えた。
 それがきっと、クマにできる最善だ。

 クマは振り仰ぐ。
 ヴァージニアとカズマを、振り仰ぎ、隣に並ぶ。
 別れの時だ。
 この悪夢にも、よかったことだってあったと思う為に。
 クマは笑う。
 ヴァージニアも、カズマも、トトリも。
 笑って、くれたのだった。
「じゃあ。みんな、元気で! みんなとの『想い出』は、ずっと抱き締めて行くからッ!」
「あばよ、お前らッ!」
「みんなは、いつまでもいつまでも、クマの仲間クマッ!」
 手を振って。
 まどろみの回廊へと足を踏み出す。
「皆さん、ありがとうございましたッ! どうか、どうかお元気でッ!」
 トトリの見送りを背で聴いて。
 クマは、ヴァージニアは、カズマは。
 振り返ることなく、歩いて行く。
 立ち止まることなく、歩いて行く。
 手にした『想い出』を胸に。
 目覚めの道を、その足で踏み締めて歩いて行くのだった。

【ヴァージニア・マックスウェル@WILD ARMS Advanced 3rd ファルガイアへと生還】
【カズマ@スクライド ロストグラウンドへと生還】
【クマ@ペルソナ4 ザ・ゴールデン 稲羽市へと生還】

184それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:51:55
 ◆◆

 見えなくなる。
 三つの背中が、夢の世界から消えていく。
 その後ろ姿を忘れないと誓おう。他でもない自分自身に、誓おうと思う。
「さって、と」
 振り返る。
 もはやアトリエの輪郭はほとんど見えず色は落ちている。アーランドへ還るのは時間の問題だ。
 だが、そんなアトリエの中で、くっきりとカタチを保つものがあった。
 子ども一人分の大きさに膨らんだ、ベッドだ。
 夢の世界に残ろうとするかのように、それは明確な色を持っていた。
 端に、腰掛ける。
 布団の柔らかさも、スプリングの感触も、現実にあるトトリのベッドと同じだった。
 夢の世界に建ったこのアトリエの、一番最初の訪問者が、ここにいる。
 クマよりも夢の世界を熟知し、クマよりもずっと早く夢の世界を歩ける、夢の世界の住人。
 故に誰よりも早くここに到達し、故にこのベッドを夢に定着させることを可能とする。
 布団から少しだけ、長い黒髪が覗いていた。
 それを、トトリはそっと撫でる。何の反応もないのは、まだ眠っているからだろう。
 無理もない。
 ここに来た時、彼女はボロボロだったのだ。入ってきた瞬間、彼女はすぐに倒れ込んでしまった。
 片腕を失った傷だらけの身と、ぐしゃぐしゃに泣き腫らしたその顔は、とても痛ましいものだった。
 寝かせてあげよう。
 この髪に触れていれば、きっとアトリエだけが還ってしまい、夢の世界に取り残されるだろう。
 そのときはまた、アトリエと夢の境界を曖昧にしてやればいい。
 だから、大丈夫。
 そう思い、トトリは、黒髪を撫で続けるのだった。

185それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:52:58
 ◆◆

 青い。
 壁も、天井も、床も、テーブルも、ソファも。
 その部屋は、ただひたすらに青かった。
 青のソファに、礼装を纏った老人が腰かけていた。
 ぎょろりとした瞳に尖った耳、長い鷲鼻のその老人が、面を上げる。

「――ようこそ……我がベルベットルームへ。お初にお目に掛かります。とはいえ、貴方様は私めのことも。この場所のことも、ご存じでしょうな」
 
 そう、知っている。
 ここは夢と現実、精神と物質の狭間の場所。

「……知っているわ、イゴール。貴方も、わたしのことを知っているんでしょう?」
「然り。貴方様が行ったことも、貴方様が夢見たことも。すべて、存じ上げております」

 ぎりっ、と、奥歯から音がした。その音で、歯噛みを堪えられなかったことに気が付いた。

「今更、何の真似? わたしを嘲笑いうために呼び寄せたの? わたしを否定するために呼び付けたの?」
 卑屈になっている自分に嫌気を覚えながら詰問する。すると老人――イゴールは、ゆっくりと頭を振ってみせた。
「この部屋は本来、何かの形で“契約”を果たされた方のみが訪れる部屋。ですが、今回はイレギュラーな出来事が多発致しております」
 イゴールが、窓の外に目を向ける。そこには、一件の木造家屋が建っていた。
「あの建物もまた、夢と現実、精神と物質の狭間に存在しております。
 夢の中で眠る貴方様の無意識が、現実へ還ろうとするあの建物に引っ張られ、ここの扉に手を掛けたのでしょう」
「……わたしは、こんなところに来たかったわけじゃない」
 吐き捨てる。
 こんな場所を願っていたわけではない。こんな虚ろな世界を望んだわけではない。
 欲しかったのは、もっと確かなものだった。
「それもまた存じ上げております。ですが、ここで見えたのも何かの御縁。僭越ながら、貴方様が御気付きでない事柄を御伝えいたしましょう」
 イゴールの大きな瞳が、こちらに向けられる。
「貴方様は見事、創世を成功なされた。虚ろなる軸だとしても、貴方様が望まれた世界は仮想の観測を経て産声を上げたのです。
 実なる軸ではなく、夢なる軸から分岐した新世界を、貴方様は産み出された」

 わたしの強い願いを苗床にして、産み出された虚軸<キャスト>がある。
 その言葉を聞き、意味を理解しても、心は動かなかった。どうでもいいとしか思えなかった。
 それすらも、所詮は虚ろな世界なのだ。

「そしてその世界は、貴方様の居城と共に滅んでしまいました。ですがその世界は、今際の瞬間、とある御方に馴染み――固定されたのです。
 彼の方が既に欠落を抱えていたが故に、虚ろな軸の固定は急速に果たされた」

 それもまた、イレギュラーだった。
 そもそも、実軸<ランナ>とは異なる世界から枝分かれした虚軸<キャスト>という存在自体がイレギュラーなのだ。
「ともすれば、貴方様の悲願が叶う時が来ているのやもしれませんな」
 イゴールが、今一度外を見る。外の建物は狭間を越え、現実へと戻ろうとしている。
 その建物は、無人だった。それは、未だ夢に残っているものがあるという証だった。
 わたしの世界は――まだ、夢の中にいる。
「わたしの……悲願……」
 どくり、と、胸の奥が疼いた。喉の奥が、何かを求めていた。鼻の奥が、くっと詰まった。瞳の奥が、じんわりと熱かった。
 もしも世界が在るのなら。
 望む世界に手を触れられるなら。
 それならば、わたしは――。

「願いを叶えた果てに、幸福があるとは限らない。望んだものを得たが故に、耐え切れぬ苦しみや悔恨に捉われることもある。
 定めとは、誠にままならぬもの。故に私、貴方様を見守りましょう。この御縁が、良きものとなりますように」

 じわじわと、青の部屋が意識から薄れていく。
 視界が狭くなり、世界が夢色に濡れていく。手足が感覚を取り戻す。
 夢の世界へ、戻るときの感覚だった。
 狭間の時間には留まれない。
 在るべき世界へ、意識が還っていく。

「……御礼を、言っておくわ。ありがとう、イゴール」
「フフ、それには及びません」

 ベルベットルームが遠ざかったとき、聴覚がその声を拾い上げる。

「行ってらっしゃいませ――夢魔、ベアトリーチェ様」

186それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:53:49
 ◆◆

 夢の世界に、ベッドが一つ浮かんでいる。
 アトリエは完全に現実へと還った。それでも周りにいる夢の世界の化物どもは、何故か襲ってこない。
 だから、ベッドの端に座ったトトリは、黒髪を撫で続けていた。
 やがてトトリの掌の下で、ベアトリーチェが動く気配があった。
 手を離すと、すぐに起き上がる。
 痛ましい傷はほとんど治っていたが、顔に残る涙の跡はそのままだった。
「おはよう、ベアちゃん。みんな、行ったよ」
「……どうして、わたしを匿ったの。どうして、帰らなかったの」
 頬を膨らませ、口を尖らせ、上目遣いで睨みつけてくる。
 その不貞腐れているような様子は、普通の子どもと変わらなくて、少し微笑ましかった。
「放って、おけなかったから」
「……どうして」
 どうして、どうしてと問うのも子どもみたいだなと、トトリは思う。
 その不服そうな顔の裏にあるのは不満ではない。
 ベアトリーチェが抱えているのは、不安なのだ。
「ベアちゃんの気持ちが分かったから、かな。ベアちゃんが願ったこと――わたしの中にあるから」
 だから手を伸ばす。
 たとえ拒否されても。拒絶されても。
 抱き締めるつもりで、トトリは手を伸ばす。
 それでも、ベアトリーチェからの抵抗は、なかった。

「寂しかったんだよね」

 右腕に力を込める。

「永い、永い間、独りぼっちだったから」

 左腕に力を込める。

「『想い出』が欲しかったんだよね」

 全身で、ベアトリーチェを包み込む。

「他の人たちの『想い出』を、たくさん、たくさん、たくさん見てきたから」

 腕の中で、胸の中で。

「『想い出』にして欲しかったんだよね」

 ベアトリーチェを感じ取る。

「みんな――『想い出』を大切にしているから」

 ぎゅーっとされる、その感覚をトトリは知っている。
 してもらった『想い出』はないのに、心のどこかで、知っている気がするのだ。

「独りぼっちは、イヤ……。寂しいのは、キライ……ッ」

 温もりが、凝り固まった心を溶かしていく。
 震えが伝わってくる。涙が伝わってくる。
 確かめるように、ベアトリーチェが吐き出す。

「『想い出』が、欲しいのッ!」

 ベアトリーチェが、抱き締め返してくる。その腕はか細く、その身は小さかった。

「『想い出』に残りたいのッ!」

「うん……うん。わたしも、おんなじ。おんなじ、だよ」

 ベアトリーチェの願いは、今やトトリの願いでもある。トトリは、ベアトリーチェが切望する願いの結晶を抱えているのだ。

187それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:55:03
「わたしには――たいせつな人がいないから。大好きな人が、いないから」

 殊子が言ってくれた、その事実。
 それを認識する瞬間、心の奥から何かが突き上がってくる。
 正体の分からない何かは、トトリの意識へと浮かび上がり、分からないままに弾け飛ぶ。
 両目から、雫が溢れる。その理由も、やはり分かりはしない。
 けれどトトリは、それを拭わない。
 拭わない方が、きっといいような気がしたのだ。

「だから、つくろうよ。一緒に、つくろうよ」
 息を呑み、ベアトリーチェが見上げてくる。
 貰えないと諦めていた誕生日プレゼントを差し出された子どものような表情で、見上げてくる。
「つくれるの……? わたしも、つくれるの……?」
 髪を撫で、頷く。
 何度も、何度も、トトリは頷く。

「できる。できるよ。だって――」

 トトリは涙を流しながら、心に宿る世界へアクセスする。
 それは、ベアトリーチェの願いが生んだ世界。

「だってわたしは、あなたが望む世界なんだから」

 虚軸<キャスト>に触れ、願いを受け取る。

「虚軸<キャスト>……『夢現渡り鳥<アローン・ザ・ワールド>』」

 ひとりぼっちの世界から飛び立ちたい。
 そんな願いを根源とする世界が、トトリの裡から溢れ出る。
 夢と現実の境界が薄れていく。
 夢が曖昧になり、現実がカタチになる。
 床が、壁が、天井が、棚が、ソファが、大釜が顕現し――現実に在るトトリのアトリエが、夢の中に再度現れる。

「ほら、ここは夢の中だけど現実なんだよ。だから現実に戻っても、わたしたちは一緒にいられる」
 夢に浮かぶ、現実で。
 トトリは、ベアトリーチェを抱き締める。
「ねぇ、ベアちゃん。わたしと、『想い出』を見つけに行こうよ。一緒にアーランドを旅をして、色んな『想い出』を作ろうよ!」

 アーランドへ戻れば、何処へだって行ける。
 いつだったか、どうしてか取った冒険者免許と。
 父が残してくれた、船がある。
 だから。
 荒野に羽ばたく渡り鳥のように。
 何処へだって、さがしに行けるのだ。

「いきたい……」

 腕の中から届いたのは、希求だった。

「わたしも、いっしょに、いきたい……ッ!」

 幼い外見にそぐう泣き声が、トトリの耳朶を打つ。 

「いっしょに、『想い出』、つくりたいッ!」

 より強く、抱き締めた。
 更に強く、抱き締め返された。
 トトリは離さない。
 ベアトリーチェも離さない。
 何故ならこれは、二人の最初の『想い出』なのだ。 
 始まりを乗せて、アトリエは輪郭を失っていく。現実へ還るべく、色を落としていく。
 アトリエが、アーランドへ還っていく。
 二つの泣き声を乗せて、抱きあう強さを連れて、感じる温もりを抱いて。
 夢を越えて、現実へと還っていく。
 その先に在る『想い出』を夢見て。
 血塗られた悪夢は、今、終わりを告げるのだった。

【トトゥーリア・ヘルモルト@トトリのアトリエ〜アーランドの錬金術士2〜 アーランドへと生還】
【ベアトリーチェ@WILD ARMS Advanced 3rd アーランドへと出立】

188それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:56:28
 ◆◆

 そうして。
 すべての悪夢は終焉を迎え、『想い出』をなくした少女と、『想い出』を知らない夢魔の物語が、幕を開ける。
 もしも少女が『想い出』を取り戻すことがあるとすれば、塞いだ傷がもう一度開くことになるかもしれない。
 もしも夢魔が『想い出』を手に入れたのならば、犯した罪の重さを自覚して苦しむことになるかもしれない。
 けれど、そうなったとしても。
『想い出』がある限り、彼女らの物語は、きっと、宝物のように輝くに違いない。
 
 そう、その物語は。
 
 ――それはきっと、いつか『想い出』になる物語。

189 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 22:01:45
以上、投下終了です。

次回、『ベアトリーチェのアトリエ〜アーランドのペルソナ使い〜』に続きます!
嘘です!

これにて、『それはきっと、いつか『想い出』になるロワ』完結です。
好きな作品をぶっこみ、楽しんで参加できました。
1話からここに来るまでの話を妄想するのも楽しかったです。
私の投下はこれにて終了となりますが、これからも投下される多くの完結作品を楽しみにしております。

主催者の方、読んで下さった方、ありがとうございましたッ!

190名無しロワイアル:2013/01/14(月) 18:20:23
執筆と投下、お疲れ様でした!
そして、完結もおめでとうございます!
ああ……ここでアリューゼのアレを出してくるのは嬉しいなぁ。
ここにかぎらず、原作のファンがみたいなと思う場面を、的確に拾ってくださった作品でした。
二話目でベアトリーチェが「時間圧縮」……騎士のいない(騎士が欲しかったかもしれない)
魔女の技を使ってなおも、そこに触れられず倒されてしまったときは多少の引っ掛かりを
覚えていたのですが、そういえばトトリも『世界でひとりぼっち』になってたんだもんなあ、と!
この結末を見て、一話一話を見ても非常によくまとまっているのに、その間にも
しっかり「リレー」していたことがよく分かりました。
ベアトリーチェが、いつか自分のしてきたことの痛みを知っても、トトリが、いつか
自分の記憶を取り戻しても、彼女たちはそれもまた想い出に出来るまで歩いていける。
彼女たちなら、自分自身で想い出を作っていくことが出来る。
たった三話で終わる物語でも、そうと信じることの出来る物語でした。
読んでいる時間が本当に幸せで、これを読むことが出来て良かったです。

191 ◆YOtBuxuP4U:2013/01/17(木) 15:14:10
6X氏完結乙ですー!
Mobius氏も投下乙です!
自分は作品把握率低いのであれですが、いずれ読ませていただきますー

298話への感想もありがとうございました。
すごい励みになります。
では、「第297話までは『なかったこと』になりました」299話を投下します。

192299:すべてが0になる ◆YOtBuxuP4U:2013/01/17(木) 15:16:32
 

 ――風は吹いてはいなかった。
 今や箱庭学園で一番高い場所である時計台の頂上からは、
 風音すらない、静まり返った学園の姿を見渡すことができるだけとなっていた。

『みんな死んでしまったね。安心院さんも。もう、すっかり死者の数のほうが多くなった。
 死んだらどこに行くんだろうね。天国? 地獄?
 もしかしたら、僕もよく逝くあの教室とかかな。
 死者は死者で集まって、けっこう楽しくやってたとしたら。少数派の僕らは負け組なのかもしれないな』

 ――ねえ、そう思わない?
 球磨川禊は目線を空に向けたまま、白々しく問いかけるポーズをとる。
 時計塔の屋上には二人の人間が生きていた。
 死んでいる安心院なじみの身体を挟むように対角線上、
 球磨川禊の向かい側で、彼に背を向け「≠」のマークを見せている男がまだ、生きていた。

『なあ――安心院さんは死んだぜ。こっちを向けよ、背景野郎』
「……」

 男は球磨川の言葉に反応し、ゆっくりと振り向く――↓
 。るせさ転反度081を体身―←――←――←――←
 その瞬間、役割も反転する。
 安心院なじみの死体はどうしようもなく背景へと消え去り。
 不知火半纏の眼光が、「主催者」として球磨川禊を射抜く。
 その端麗な顔は憎悪に歪んでいた。眉間には何本もの筋が浮かび、
 歯は深く食いしばられ万力のようにみしみしと震えていた。
 数秒後、「もうひとりの悪平等」――不知火半纏は、そんな口を開き言葉を発した。
 
「どうしてこんなことをした」

 まるで殺人事件の犯人に動機を問う探偵のような、突き放した口調で。


◆◇◆◇


 第299話「すべてが0になる」


◇◆◇◆

 
『え? おいおい、僕に理由を聞くつもり?』

 どうしてこんなことをした。
 不知火半纏のそんな問いに対して、球磨川はおどけながら左手に螺子を出現させる。

『それがどれだけ徒労なことか、知らない人はいないと思ってたんだけどなあ』

 安心院なじみの「影武者」にして「ただそこにいるだけの人外」――。
 スキルを創るスキルを持つ不知火半纏は球磨川禊と対極のなんでもありキャラクターだ。
 いつどこで、どこからどう殺されるか分からない。
 《大嘘吐き(オールフィクション)》による警戒をしておくのは当然と言えた。
 しかし半纏は、彼に攻撃を加えるそぶりは見せない。
 ただ、怒っている――汚物を見るような目をして球磨川禊を見ている。

193299:すべてが0になる ◆YOtBuxuP4U:2013/01/17(木) 15:17:53
 
「理由もなしにやったのならばさらに最悪だと言っておこう。
 お前のせいでなじみは死んだ。お前がすべてを台無しにしたせいで」

 いっそう鋭く瞳をとがらせ、不知火半纏は球磨川禊の方へ一歩足を踏み出す。
 彼の周りの大気がびりびりと震えている。
 それが裁きのスキル《地震雷雷雷(サードサンダー)》の発動の前触れであることを知る者はいない。
 不知火半纏がたったさっき作ったばかりのスキルだからだ。

「なじみはお前を信じてたんだ、球磨川禊。
 大嘘吐き(オールフィクション)を弱体化させずとも、お前はここではそれを使わないだろうと。
 使うとしても目的なしにだと――こんなに大々的に物語を壊すような真似はしないと言っていた」
『へぇ、そうなんだ。僕みたいなのを信じるだなんて、安心院さんも耄碌したものだね』
「まったくだな。俺も何度も忠告したのになじみは聞かなかったよ。
 おかげでめちゃくちゃだ、何もかも崩れて、歪んで、治らない――壊れたルービックキューブだ」
『詩的な言い回しをするじゃないか。でもどうやらその口ぶりだと、分かってないみたいだね』
「なにをだ」
『安心院さんが死んだのは君の所為だってことを、さ』

 不知火半纏は――球磨川禊に手を翳した。

「《地震雷雷雷(サードサンダー)》!」

 ――彼が作成したスキル《地震雷雷雷(サードサンダー)》は裁きのスキルである。
 その効力は至極単純、「罪悪感を操る」ただそれだけだ。
 人の心に生まれた罪悪感を増幅させ、心を揺らし、雷を落とし、落とし、落とすスキル。
 球磨川禊に対して使うスキルとしては一見最悪の選択に思える。
 だが、だからこその裁き(ジャッジメント)だ。

(ひたすらバトルロワイアルを邪魔し続け。死者から傷を奪い全てをうやむやにし、
 挙句の果てになじみの死を俺のせいにするという所業。
 悪意のもとにやったのであれば。それにどうしても付随する罪悪感、無限に増幅して心を壊す。
 悪しき心無しに――無邪気にやったのであれば。
 その純粋悪な精神、どちらにせよ生かしてはおかない。他のスキルで叩き潰す)

 球磨川禊はよく言う。格好つけた言葉、括弧つけた言葉で、
 『僕は悪くない』と。
 不知火半纏にとって《地震雷雷雷(サードサンダー)》はそんな球磨川の精神を量るスキルだった。
 行動の理由を強制的に測るスキルだった。
 神になったつもりではないが、不知火半纏は球磨川禊の真意が知りたかったのだ。
 嘘に嘘を重ねて、本当のことはめったに口走らない。
 あえてそう振る舞っているともとれる彼の、真意。どうしてこんなことをした?

「どうして――どうしてこんなことをしたんだ!」
『どうして?』

 不知火半纏の手から放たれた裁きの雷を前に微動だにせず。
 球磨川禊はカッコつけた表情で、彼の問いに答える。

『しょうがないなあ、教えてあげるよ――。
 僕がやったことは全部。悪意でも、無邪気でもない。――良心からだ。よかれと思って、やったのさ」

 雷が球磨川禊を打った。
 球磨川禊は、倒れなかった。

194299:すべてが0になる ◆YOtBuxuP4U:2013/01/17(木) 15:19:23
 
「――良心から、だと?」

 不知火半纏は自らの耳を疑った。ぽかんと空いた口を閉じることを忘れた。
 《地震雷雷雷(サードサンダー)》は不発。
 発動を『なかったこと』にはされていない――いやできないはずだ。
 《大嘘憑き(オールフィクション)》は後だしスキル、一撃目は喰らわざるを得ないはず。
 つまり、罪悪感は球磨川禊に一切ない。そして彼自身もそれを認めた。
 しかし。無邪気ですらないと。良心だと。よかれと思って、物語を壊したのだと。

「お前は――お前はなにを言っているんだ」
「素直な言葉を言ってるだけさ、半纏くん」

 いまだボロボロの状態で対岸に立ち尽くす球磨川は「素直な言葉」でそれに答える。
 表情はうって変わって、ゼロだった。
 無表情、無感動、そんな言葉が陳腐化するしかないほど何もない、
 ゼロの表情で彼は語り始める。彼にとっての。球磨川禊にとってのバトルロワイアルを。

「僕たちはさ……詰んでたんだよ、最初から。
 最初の最初。安心院さんがこの首輪で、見せしめに不知火袴を爆殺したところから。
 僕たちの負けは確定してしまっていた。
 何故って? だってそうだろ? “犠牲者が出てしまった”んだぜ?
 死んだ不知火袴だけじゃない。それを見た全員、全員が犠牲者さ。
 見せしめとして死んだ老人。その死の瞬間を見たみんな。
 そして主催として、人殺しをしてしまった安心院さんと君――。
 誰一人としてもう“元には戻れなくなった”。楽しい学園生活には戻れなくなった。
 壊れてしまったんだ。
 殺し合いが始まって、いくらかの登場人物は安心院さんを倒して、平和を取り戻そうとした。
 でもそれはあまりにも――あまりにも遅すぎるんだよ、半纏くん。
 遅きに失している。僕からすれば滑稽だ。完成不可能なパズルの前で唸り続ける子供みたいに」

 絶対に取り戻せると、駄々をこねているだけだ。
 そう、球磨川禊は断じる。

「長く続けば続くほど。
 殺し合いが進めば進むほど、その登場人物はいろんなものを背負う。
 僕だってほら、傷だらけで、痛々しいだろ?
 これらを僕だけは『なかったこと』にできるけど、みんなは違う――背負い続けなきゃいけない。
 人の死を、人を殺した事実を、人を助けた経験を、大切な人の言葉を、
 ナイフを振り上げたときの心情を、拳銃の重みを、戦うことへの疑問とか、愛とか欲とか、
 極限状態の中で生まれた清濁入り混じった感情は、経験は、全てが終わっても残ってしまう。
 何年経っても何十年経っても、きっとゼロにはならないだろう。
 そんな――そんな想いは、重すぎやしないか? ううん、重すぎるんだよ。
 重すぎるんだ。漫画の中の登場人物ならともかく――現実の人間が、耐え切れるわけがない。
 それこそ“開始直後から終了間際までずっと眠っていて、何が起きたのか分からない”
 くらいじゃないと――例え生き残ったって呪われ続けるだけだ」

 絶望だけじゃなく、希望にもね。球磨川禊はそう続けた。
 不知火半纏は普通の人間ではないが、その言葉の意味を想像することは出来た。
 確かに、
 誰かを殺して生き残れば、殺した事実に苛まれ続けるだろう。
 そして――誰も殺さず生き残ろうとも、他に死者が生まれてしまった以上。
 生き残った者には死んだ者を弔う義務が発生する。
 ○○のぶんまで生きなければならなくなる。
 大量の命を背負って長い人生を生き続けなければならない。
 もとには戻れない――そんな壊れた人生を送る。壊れなければ、いけなくなる。
 誰かは必ずその役割を負わなければならないというなら――確かに初手から手詰まりだ。

195299:すべてが0になる ◆YOtBuxuP4U:2013/01/17(木) 15:21:32
 
「だからあの五人を開始直後から眠らせたと言うのか。
 だから――殺し合いを邪魔し続け、すべてを『なかったこと』にしたと言うのか」
「そうだね。彼女たちは鰐塚ちゃん以外、学内との人間のかかわりも最近できたばかりだ。
 彼女たちなら、100人近い人間が死んだ事実を、ある程度遠いところから見ることができる。
 いつかそうなったかもしれないくらいの――現実的な重荷を背負ってくれる。
 って思ってたんだけどね。僕も完璧じゃない。もうそろそろ彼女たちは起きてしまうだろう。
 計画は失敗、僕はまた負けたわけさ。エピローグで起きてもらうのが理想だった」

 ――でもまあ、ベストじゃないけどベターかな。
 球磨川禊は左手で大きな螺子を弄びながら自らを賞賛するように胸を張った。

「少なくとも、ここまでのすべてを100とするなら、
 そのうち99は『なかったこと』になった。
 彼女たちが背負わなければいけない重みは百分の一だ。
 ほんの少し――酷い悪夢くらいの重みに。実感の湧かないレベルの重みになったはずさ」
「――なっ」

 と。球磨川禊は左手の螺子を投擲した。
 直線軌道で飛んだそれは、綺麗に背景へと突き刺さる。
 安心院なじみの自殺体へと突き刺さり、その傷を『なかったこと』にする。

「また――お前は」
「人の死に。ドラマがあるから重みは生まれる。
 その現場に居合わせなくても。どうやって死んだのかが推測できてしまったら、
 物語が生まれてしまう。――語り継がれてしまう。
 ――こんな最悪な物語は語られるべきじゃないんだよ、半纏くん。
 あの子が強く生きたことも、あの男が成長したことも、
 あの人が狂ってしまったことも、あの少女が絶望してしまったことも、
 誰が笑って死んだのか、いつ何を思ってたか、ぜんぶぜんぶ――、
 僕は美談にしてほしくないんだ。
 人の死を、かんたんに楽しんでもらいたくないんだ。
 誰かの死にざまは見世物じゃない。ただそこにあるだけで、留めておくべきだ」
「なじみを……なじみの死をそこにあっただけで受け止めろと言うのか」
「そうだよ。それが君の罪だ、
 不知火半纏――未来読書のスキルを作ってしまった君のね』

 冷たく。
 本音を抑え、いつもの格好つけた調子に戻りながら、
 球磨川禊が放った最後のフレーズが、不知火半纏の心に刺さる。

「未来読書の、スキル」

 未来読書のスキル《土曜の夜に感想(ネタバレセンチメント)》。
 不知火半纏はそのスキルを、その存在を覚えていた。
 忘れもしない、百年ほど前に安心院なじみの要請で彼が初めて作ったスキルだ。

「まさか。まさか――なじみは使えたのか。あれを」
『そうとしか考えられない。
 予知スキルをいくつも持つ安心院さんだけど、君の作ったあのスキルはそれとは一線を画す』
「そう、そうだ。《土曜の夜に感想(ネタバレセンチメント)》が予知するのは、
 “今後の展開”だ。この現実を週刊少年ジャンプに例えるならば、
 一年先までの未来のジャンプを読むことが出来る――そういう能力を、作った」

196299:すべてが0になる ◆YOtBuxuP4U:2013/01/17(木) 15:23:10
 
 安心院なじみは全能に近い能力を有する。
 自分が漫画の中の登場人物にすぎないと錯覚してしまうくらいになんでもできてしまう。
 よって当然のように未来を予知する能力も複数所持しているが、彼女の持つこれらのうち多くは、
 少し行動を起こせば変えることができる不確定な未来を予知するものだ。
 しかし、不知火半纏の作った《土曜の夜に感想(ネタバレセンチメント)》は違う。
 すでに確定している未来を読む――何故か作れてしまった矛盾テーマのスキル。
 使えないはずのスキル。

『きっと、ほんの一兆分の一の気まぐれだったんだろうね』

 球磨川禊は懐から一冊の本を取り出す。
 それこそが彼の初期支給品にして、彼がすべてを知った原因。
 安心院なじみが《土曜の夜に感想(ネタバレセンチメント)》で先読みし、
 心の中を印刷するスキル《心色印刷機(テンプリンテーション)》で製本した、
 彼女たちにとって幾週間後のジャンプ――安心院なじみの敗北回。

『安心院さんは――読んでしまったんだ。未来のジャンプを自分の目で。
 黒神めだかにほだされて、自殺を諦めて。
 自らの考えを病気と断定されて、現実を学ぶために一年十三組に編入される。
 ――そんな結末が確実に未来にあることを知ってしまった』
「……」
『そして思ったんだろう。
 本当の本当に、いよいよもってこの世界が漫画でしかないなんてことを。
 もう、現在の登場人物も、過去の登場人物も、
 未来の登場人物も、外伝やアニメや小説のオリキャラもないまぜにして混ぜて、
 ぐちゃぐちゃのバトルロワイアルでお茶を濁して――すべてを0にするしかないだなんて』

 誰にも相談せずに、ひとりで決めてしまったんだ。
 ほんの少し物悲しそうに下を向き、優しい顔で斃れる安心院なじみを見ながら、
 球磨川禊はぽつりそう呟いて、次の瞬間、けろりとした顔で。

『――なぁんて、このジャンプはそこの購買で普通に売ってたやつで、
 そんな展開はこれっぽっちも、ほんの少しも書かれてなかったんだけどさ!』

 ジャンプを宙に放り投げ、螺子で物理的に貫きながら。
 括弧のついた言葉で、言いきった。
 はらはらと舞い散るジャンプの再生紙のはしきれと、球磨川禊のしてやったりな笑顔。

「球磨川禊。お前は、まさか、
 バトルロワイアルを上手くいかせずに『なかったこと』にすることで、
 なじみを止めようと――ん? なんだと?」
『えぇ? 違う違う。結局僕が場をかき乱したのはただの私怨さ。
 安心院さんの思惑(推測でしかないけど!)通りにいくのが嫌だったから、
 それっぽく理由をでっちあげてひたすら邪魔しただけだよ。
 括弧つけてないからって嘘ついてないとは限らないぜ、ばかだなあ。
 思えば、死者の服装を全員スク水にする暇がなかったのが唯一の心残りかな――』

 球磨川はそのまま不知火半纏を挑発するような態度をとる。
 へらへらと笑いながらべらべらとくっちゃべって、相手の心に不快感を与えていく。
 不知火半纏は球磨川のそんな姿に、静かに誘導される。
 心に風が吹く――怒り、憎しみ、恨みつらみ。自分の感情が指針を失う。

197299:すべてが0になる ◆YOtBuxuP4U:2013/01/17(木) 15:25:47
 
「ふざけ――ふざけるなよ、球磨川禊!」

 怒髪天を突くようにして。不知火半纏はわけもわからず、
 おそらく彼の思惑通りに両手になんらかのオーラを発生させる。
 名称不明、安心院なじみの影武者として半纏が会得した「スキルを作るスキル」のお出ましだ。

「そうだ。嘘に決まっている。
 なぜならば、その行動指針であれば、お前はあまりにも失敗しすぎている!
 すでに94人死んだ。黒神めだかも獅子目言彦もだ。
 本当になじみを納得させたいのなら、彼女が思い通りにできない/できなかったこの二人を、
 死んでも生き残らせなければならないはずだ!
 そうして、ほら思い通りにいかないだろうと笑ってやるべきだった!
 なのに二人は死に! なじみも死に――お前は図々しく生き残っている!
 結局は、自分が可愛いだけなんだろう! 醜く生き残りたかっただけなんだろう!」
『――そうさ。僕は球磨川禊だからね。大失敗の負け続けさ。
 ホントは全員生き残らせるつもりだったのに、たった五人しか救えなかった無能人間だ。
 いつまで経ってもやりたいことが出来ずに、それを自分のせいにも出来ない、失格人間だ。
 それでもとりあえず、ベストじゃないけど、ベターだよ。今の状況はね』
「もういい。お前の戯言を聞くのはもういい――なじみへの弔いにもならない。
 “ここに来た”ということは。最初からこういうつもりだったんだろう、球磨川!」

 地面を蹴って不知火半纏は駆ける。
 光るオーラを放つ両手を――スキルを作るスキルを球磨川禊に当てるために。

『ああ、不知火半纏。僕は最初からそのつもりだったんだ。
 ――君を倒してバトルロワイアルから逃げ切るつもりだったのさ。うん、それだそれだ。
 しかし難しいだろうなあ。
 君の「スキルを作るスキル」は矛盾しないテーマのスキルであれば何であろうと実現する。
 言い換えれば僕の正反対だ。『なかったことにする』に対する、「あったことにできる」スキル』
「……今からお前の身体にこれを当てる!
 そして球磨川禊、“お前を殺すスキル”を作り出す!
 『なかったこと』にできるならしてみるがいい。俺はそうさせないスキルを作る。可能性はゼロだ」
『っははは、可能性はゼロ、か。
 僕はゼロよりマイナスのほうが好きだぜ、影武者君。
 ん、じゃあ僕はその0パーセントをマイナス100パーセントにしてみせよう。
 かかってきな、不知火半纏。――――――――後悔しないように、全力でさ』

 不知火半纏の「あったことにできる」スキル。+の∞。
 球磨川禊の『なかったことにする』マイナス。−の∞。
 誰が意図したのか。どうしてそうなってしまうのか。
 無風の時計塔の頂上、最終局面の最期に行われたのは、あまりにも簡単でかつ大規模な足し算だった。

「――――がああああああああ!!」
『――――あはははははははは!!』

 ∞+(−∞)=0。

 そしてすべてが、ゼロになった。


【マーダー・球磨川禊――消滅】
【主催者・不知火半纏――消滅】


 かくしてバトルロワイアルの真実を知る者は全員消えて。
 全ては、『なかったことに』――――――なった、の、だが。

198299:すべてが0になる ◆YOtBuxuP4U:2013/01/17(木) 15:27:37
 

◆◇◆◇


「これは――嘘、でありましょう?」

 ワンテンポ遅れて。
 鰐塚処理たちが女子中学生の全力を駆使して辿り着いた時計塔の屋上には、何もなかった。
 球磨川禊も、不知火半纏も――それどころか安心院なじみの死体すら。

「ノゾミちゃん、どういうこと? 確かにここに安心院さんと裸エプロン先輩がいるってさっき」
「え、ええ、言いました、ツギハ。でも今は反応がありまセン。
 ただ、たったさっき――なんらかのエネルギー反応を二つ、観測しました。
 その二つは、今から十数秒とコンマ数秒前。私たちがこのドアを開ける直前に消滅しました」
「消滅した? 安心院さんと裸エプロン先輩が?」
「&strike(){意味分かんねえよ!}そんな――どういうことなの!?」

 動揺する候補生たちは、彼女たちの中でブレイン的役割を担っているアンドロイド少女、
 希望が丘水晶に事態の説明を求める。しかし芳しい答えは返ってこなかった。
 そして――事態はさらに悪化する。
 おそらく球磨川禊も、不知火半纏も、
 死んでいった数多の参加者たちも誰も予想できなかった展開へと。――物語は、進んでいく。

「つまりは――私たちがこの箱庭学園から出られる可能性は、
 生き延びることが出来る可能性は、ただ今をもってゼロになったということです」
「「「「――え」」」」

 希望が丘水晶は、四人に無慈悲かつ機械的に宣告する。
 ――彼女たちの首には参加者として、今も首輪が巻かれている。
 そしてこの首輪が外れる条件はただ一つ。主催が倒された場合に限られる【ルール2参照】。
 安心院なじみは、自殺した。
 不知火半纏は、球磨川禊と対消滅した。
 誰も主催を倒していない――ルール外の展開だ。
 つまり、首輪はもう外れない。外すこともできない。そしてさらに。

「どうやら。安心院さんが使った“学園を現実世界から切り離す”スキルは、
 安心院さんが居なくなった今も――死んだであろう今も残るタイプのものだったらしいのデス。
 まだ効力は続いています。スキルだけは消えていません。私たちは、出られない」
「……まじで?」

199299:すべてが0になる ◆YOtBuxuP4U:2013/01/17(木) 15:29:13
 
 ――安心院なじみが殺し合いの舞台に選んだ箱庭学園にはスキルが施されている。
 学園の外から風が吹かないように。
 学園の中から風を吹かせないように。
 彼女は自らの持つスキルを駆使して学園を外部と完全に遮断した。

 閉鎖空間のスキル《他閉症(シャットダウンカットアップ)》。
 死後も呪うマイナス《此処個々心残り(インテステイトハート)》。
 これらを合成して創られたミックススキル、
 《怨匣(ロワイアルボックス)》は安心院なじみの死後すら消えることなくこの学園を閉鎖し続ける。

 禁止エリア制度も健在だ。残り2時間で時計塔のエリアは禁止区域になる。
 箱庭学園《怨匣(ロワイアルボックス)》仕様は7×7マス、
 49のエリアに分けられており、現在18の区域が侵入禁止エリアに指定されている。
 《怨匣(ロワイアルボックス)》のプログラム内に組み込まれているこれをどうにかすることも、不可能。

「え、と、じゃあ――残るエリアは約30でしょ。
 ……2時間に1エリアが禁止エリアになるってことは」

 五人の中で計算が二番目に(機械である水晶の次に)得意な喜々津嬉々が、
 冷静に空中でそろばんをはじく。いや、こんな簡単な計算にそんなポーズをとる時点で、
 すでに冷静さは失っているのかもしれない。
 現に、彼女が答えを出す前に、隣で上の空を見つめていた与次郎次葉が小さくつぶやいた。

「60時間。わ、わたしたちに残された時間は――60時間しかない」
「&strike(){正確には61時間半ってとこか}そ、そんな……」
「誰も死ななければ、そうでありますね」
「「「「!?」」」」

 次いで――ごくりと唾を呑みながら。
 絶望に顔色を失いかけた少女四人を追い討つように、鰐塚処理は残酷な真実を提示した。
 デイパックに入っていたルールの紙を見えるようにかざす。
 その首輪の項に描かれている、このバトルロワイアルのみの追加ルールを見せる。

【 生存者が残りひとり以下になった時点で 】
【 首輪の爆発機能と、学園の内外部遮断スキルは停止する 】
 
 これまで眠りに守られていた少女たちに、このとき改めて、現実が突き刺さった。
 薄っぺらいその紙は告げていた。
 生き残りたいのであれば、他の四人を殺せ、……と。

 
【第300話へつづく】

200 ◆YOtBuxuP4U:2013/01/17(木) 15:31:21
投下終了です。
めだかっぽいスキル名でっちあげが何より難しかった。次回で完結です

201 ◆rjzjCkbSOc:2013/01/17(木) 20:39:26
【ロワ名】謎ロワ
【生存者6名】
・教会育ちのKさん@寺生まれのTさんシリーズ
・鎌田吾作@本格的 ガチムチパンツレスリング
・モナー@アスキーアート
・阿部高和@くそみそテクニック【右腕使用不可】
・ジョニー@メタルギアソリッド(MGS)4【フラッシュバックによる無力化の可能性】
・スペランカー先生@スペランカー先生【(残機的な意味で)限界寸前】

【主催者】母胎@SIREN2(消滅)、岸猿伊右衛門@かまいたちの夜2
【主催者の目的】生き残った者を利用し、死んだ者を生贄として邪神を蘇らせる
【補足】
・参加者達がいるのは離島線四号基鉄塔(SIREN2)。頂上に特異点
・首輪の代わりの呪いが全員にかけられていたが、現在は緩んでいる(解呪はされていない)
・あと2時間で全てが赤い海の底に沈み、虚無へと還る
・寺生まれの力が阿部高和に受け継がれている
・鉄塔の周りは赤い海に変化
・母胎が消滅している事を参加者は知らない

二の足を踏んでいる内に終わってしまわないように、テンプレを。本編は後日に。

202名無しロワイアル:2013/01/17(木) 23:57:14
>>201
濃いよ、とんでもなく参戦作が濃いよ!w

203名無しロワイアル:2013/01/18(金) 11:40:58
>>200
対消滅!?
手ブラジーンズ先輩のかっこよさと反転院さんの激しさ
西尾節というかめだか節なスキル
あと1話しかないのにこの展開
どれをとっても素晴らしい!
めだかボックスのロワで作られたスキルがロワイヤルボックスってのもすっごい「それっぽさ」で
終始固唾を呑みつつニヤニヤできるのがいいなぁ
最終話、楽しみに待ってます!

204 ◆9n1Os0Si9I:2013/01/21(月) 22:58:29
やろうか悩んだけど始めます。

【ロワ名】やきうロワ
【生存者6名】
1.小笠原@日本ハム【対主催:体中ボロボロ】
2.浅尾@中日【マーダー:右目失明】
3.新井@阪神【脱出派:全身に裂傷】
4.西口@西武【マーダー:健康】
5.斉藤@日ハム【優勝狙い:最強の24歳状態】
6.内川@SB【優勝狙い:チック、アゴが更に長くなっている】
【主催者】大松@ロッテ、NPB
【主催者の目的】NPBのスターを創り出す

カオス系ロワですが、よろしくお願いします。
なんとか今月末に間に合わせたい……!

205名無しロワイアル:2013/01/23(水) 20:30:30
ドラッキー「やきう!?」

206 ◆9n1Os0Si9I:2013/01/24(木) 19:59:53
>>205 日ハム小笠原「そうだぞ」

と言うことでちょっとスタンス変更だったりしたついでに名簿作ったんで投下
【ロワ名】やきうロワ
【生存者6名】
1.日ハム小笠原@日本ハム【対主催:体中ボロボロ】
2.浅尾@中日ジョイナススレ【無差別マーダー:右目失明】
3.新井悪@阪神【脱出派:全身に裂傷】
4.西口@西部の中継ぎ【対主催:健康】
5.さいてょ@日ハム【優勝狙い:最強の24歳状態】
6.内川@SB【優勝狙い:畜生度上昇】
【主催者】大松@ロッテ、NPB
【主催者の目的】NPBのスター選手を決める

9/9【巨人】
村田 / 内海 / ボウカー / マシソン / 長野 / 加藤 / 澤村 / 菅野 / 杉内
10/10【中日】
吉見 / ソト / 浅尾 / 山井 / 雄大 / 岩瀬 / 荒木 / 森野 / 和田 / 堂上直
9/9【阪神】
能見 / マートン / 鳥谷 / 新井悪 / 新井弟 / 福留 / 西岡 / 安藤 / 日高
7/7【ヤクルト】
館山 / 石川 / 由規 / ミレッジ / バレンティン / 畠山 / 相川
8/8【広島】
前田健 / 野村 / 大竹 / 今村 / バリントン / 石原 / 東出 / 堂林
10/10【DeNA】
三浦 / 藤井 / 高崎 / 須田 / 細山田 / 筒香 / 中村紀 / ラミレス / 森本 / 多村
8/8【日ハム】
斉藤 / 吉川 / 中村勝 / 武田勝 / 武田久 / 多田野 / 中田翔 / 稲葉
9/9【オリックス】
東野 / 金子千 / 小松 / 井川 / 西 / 後藤 / 坂口 / T-岡田 / 糸井
10/10【ソフトバンク】
新垣 / 巽 / 大隣 / 摂津 / 田上 / 細川 / 松田 / 本田 / 内川 / 吉村
7/7【ロッテ】
成瀬 / 里崎 / 福浦 / 荻野 / G.G.佐藤 / 神戸 / 南
5/5【楽天】
田中 / 永井 / 嶋 / 松井 / 鉄平
8/8【西武】
岸 / 西口 / 涌井 / 長田 / 岡本篤 / 十亀 / 大石 / 野上
100/100

明日短いですが288話投下します!(予告)

207 ◆9n1Os0Si9I:2013/01/25(金) 23:32:10
やきうロワ288話を投下します。

208やきうロワ288話 ◆9n1Os0Si9I:2013/01/25(金) 23:32:39
「クッ……もうこれだけしか生存者がいないというのか……!」

北の侍、日ハム小笠原は怒りのままに壁を殴りつけた。
放送が流れ終わり、今の生存者が6人だと知らされた。
何故かタイムスリップをして2012年に来たと思えばこれだ。
とてつもない怒りが彼からこみあげる。

「何としてでも、この殺し合いを止めなくてはならない……!
 本部のビルまであと少しだ……待っていろ!」

小笠原はバットを片手に再び走り出した。


【日ハム小笠原@日ハム】
[状態]体中ボロボロ
[スタンス]対主催
[装備]基本支給品、バット



◆             ◆




「ウッ……なんてことだ、田島君まで……!」

本部の中に入っていた浅尾は放送を聞き悲しみに暮れていた。
吉見や荒木、さらには尊敬する岩瀬までもいなくなってしまい、挙句の果てには田島まで。
もう彼に味方はいなかった。
いや、岩瀬が死亡してこの殺し合いに乗った時点でもう彼の周りには敵しかいなかった。

「もう、止まることはできない……この殺し合い、生き残ってやる!」

途中、他人の支給品から奪った拳銃を持ち、浅尾は立ち上がる。
あと5人殺せば終了なのだ。
出来ないことがあるはずがない。
それに自分はすでに4人も殺しているのだ。


「――――キミは、中日の浅尾君じゃないか!」


と、その中背後から声が聞こえる。
そこに立っていたのは生存者の一人――――西武の西口だった。
体に傷などは全くなく、悠然とこちらに近づいてくる。

「……どうも、西口さん」
「浅尾君、その右目は……」
「えぇ、もう見えないんですよ……ピッチングもできるかわからない」
「いいや、君は大丈夫だ! 怪我を乗り越えた君ならきっと!」
「それに――――田島君だって吉見も、岩瀬さんももうこの世には……」
「大丈夫だ、君なら乗り越えられる! だから――――」




「生還して西武ライオンズで、一緒に優勝を目指そうじゃないか!」




その西口さんの言葉はとても心に響いた。
ユニフォームを血に濡らした僕を見捨てないでいてくれるのか。

209やきうロワ288話 ◆9n1Os0Si9I:2013/01/25(金) 23:33:08



でも、僕はその思いにこたえることはできない。





バン、という無機質な音が響いた。
それが何の音か説明するまでもない。
西口さんのユニフォームの腹部から赤い染みが広がっていく。

「あ、浅尾君……」
「すみません――――でも、僕はもう元に戻ろうなんて、考えられないんです」

岩瀬さんにつなぐために、今までに努力した。
その思い出を汚してまで犯した殺人と言う罪は、重かった。
それを消すのは、今までの思い出を消すのと同じだ。
だから、僕は西口さんの手を取ることはできない。

「――――そうか、残念だよ……ゴホッ!」
「憎むのなら憎んでくださって結構です、僕がしたのは……それだけの悪行ですから」

十中八九、罵詈雑言に近いものを浴びせられると思っていた。
今までの人もそうだったから。
プロ野球選手と言う、夢を与える職業として僕は、失格なのだ。



「いや……浅尾君は悪くないよ、悪いのはこんなことを考え出したNPBなんだ」



だが、予想を大きく反した。
西口さんは僕を責めるどころが、僕を悪くないといった。
その瞬間、僕の中で何かが吹っ切れたような気がした。



「ッ、うわああああああああああああああああああああああああああ!!」



ただ、叫ぶことしかできなかった。

【西口@西武 死亡】
【残り5名】

【浅尾@中日】
[状態]精神不安定、右目失明
[スタンス]無差別マーダー
[装備]基本支給品、拳銃(残り?発)

210やきうロワ288話 ◆9n1Os0Si9I:2013/01/25(金) 23:33:24



◆                ◆



「――――今のは……?」

その叫び声を聞いていたのは新井だった。
浅尾のいる階の1階上の会議室で身を隠していた。

「まさかまただれか死んでしまったのか……辛いです」

悔やんでも、今の彼には何もできない。
殺し合いから逃げ続け、戦うだけの力はもうない。
彼が持っているのはにぃにこと金本のサイン色紙だけだった。

「――――とにかく、仲間になってくれそうな人……はもういないか?」

生存者はもう6人になったと言っていた。
きっとその中にはこの殺し合いに乗った人だっているはずだ。
その人を避けてどうやって味方になってくれそうな人と合流するか。


「とりあえず、ここから出なければ……だな」


意を決して、ドアの方に向かう。
とりあえず物陰に隠れて移動していけば気付かれない……だろう、多分だが。
そう思いながらドアを開ける。





「フハハハ! 見つけましたよ……!」





そこに立っていたのは、斉藤佑樹だった。
だが、雰囲気は前に彼と対戦した時と大違いだ。

「斉藤君、まさか君はこの殺し合いに……!」
「フハハハ! 僕はもうピエロなんかじゃないんですよ……!
 僕にはもう吉川も田中も勝てないんですよ! 僕は最強なのですよ! フハハハハ!!」

一瞬で斉藤は俺の懐に入っていた。
何とか避けようとするが、それも構わず俺の腹にナイフが刺さった。

「グ、ハッ……!」
「フハハハハハハハハ! もう誰も僕を止めることはできませんよ!!」

ナイフが腹から引き抜かれ、体が地面へと崩れ落ちる。
生きて帰ることはできそうにない。
にぃにに、まだお礼を言っていなかったのに。
ずっと追いかけて、頑張ったのに。



「辛い、です……」



意識は、闇の中へと堕ちて行った。


【新井悪@阪神 死亡】
【残り 4名】


◆                ◆



「フハハハ! こんなもんですよ!!」

斉藤佑樹――――いや、最強の24歳となった彼は新井の死体を踏みつけた。
自分が最強なのだ。 もう誰にもピエロなどと言わせない。

「フハハハ、今まで僕をピエロだなんて言った奴を見返してやりますよ!」

彼はもう、ハンカチ王子などと言われた斉藤佑樹ではない。
ただ己が最強と証明するために殺人を続ける、殺人鬼≪ピエロ≫だった。


【斉藤@日ハム】
[状態]最強の24歳
[スタンス]優勝狙い
[装備]基本支給品、ナイフ

211 ◆9n1Os0Si9I:2013/01/25(金) 23:35:18
投下終了です。
名簿の日ハムの欄を 中村勝→小笠原 へと変更です。
とりあえずカオスなごちゃごちゃした完結を目標とします。

212 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:10:05
>>211
カオス上等! お互い完結目指して頑張りましょう。

剣士ロワ、第299話の投下を開始します。
ゼロガンダムのレジェンドBB発売記念に間に合わんかった……orz

213剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:11:42
 蛇鉄封神丸が、轟音と共に振るわれる。その一撃でまたも洛陽宮殿の一角が崩壊したが、その刃はトゥバンに届かない。
「おおっ!」
 裂帛の気合と共に、トゥバンの手の中で白き龍の聖剣“イルランザー”が翻り、タクティモンの胴を狙う。だが、タクティモンはマントでその一撃をかわすまでも無く防ぎ切った。
 トゥバン・サノオの渾身の力を込めた一撃を、マントとは到底思えぬ、森守の鎧と同等以上の強度の障壁によって阻まれた。これはディアブラスから委ねられたカガクの剣ではない。折れたか、毀れたか、或いは罅が――という不安から、タクティモンが態勢を僅かに崩している隙に一時間合いを取る。
 イルランザーの刀身を見遣り、トゥバンは嘆息を漏らした。罅も刃毀れも無い、万全の状態のままだったのだ。これに、トゥバンは歓喜した。
 トゥバンは旅の中で2度、これは、という名剣を名工から授かる機会があった。だが、1振りは土武者との戦いで、もう1振りはディアブラスとの戦いでボロボロになってしまった。たった1度の戦いで、トゥバン・サノオの本気に耐えられなかったのだ。例外は、古のカガクの業を用いて作られた剣のみだった。
 この殺し合いの舞台でも、それは同様。木刀を含めて7振りの剣を手にしたが、どれもがトゥバンの力に耐えられず、途中で折れて毀れて曲がって朽ちて果てた。ニホントウにも善し悪しがあるのだと学べた点は貴重だったともいえるが、不満は募るのみ。
 漸く手に入れた、折れず毀れず曲がらずの剣であった虎錠刀も、トゥバンとの相性は悪かった。だが、決戦に臨む少し前に出会ったオキクルミと、虎錠刀と引き換えに手に入れたこの剣――イルランザーは素晴らしかった。
 刀身はやや長いが、トゥバンが最も扱い慣れた両刃剣であり、剣の強度も切れ味も申し分ない。何よりも、トゥバン・サノオの全力を受け止め、そして応えてくれるだけの名剣に巡り合えた。それが何よりの実感として、イルランザーを握る両手に宿っている。持ち手の傷を少しずつ癒す力もあるらしいが、そんなものはオマケのようなものだろう。
 剣の状態を気に掛ける必要も無く、目の前の人外の魔人を斬ることに全神経を集中させることができる。これほどに喜ばしいことは無い。
 離れた間合いのまま、タクティモンが構えを変えた。あの体勢は突きかと予想した直後、タクティモンは5メード以上離れていた間合いを一歩で詰めて来た。
「壱の太刀・鬼神突」
 高速で放たれた打突だが、それだけではない。蛇鉄封神丸に闇の瘴気が暗黒の大蛇の姿となって纏わりついたのだ。これは、森守の放った光条と同じ。触れたら不味い。しかし、これは森守の光条に比べれば、遅い。
 トゥバンはタクティモンの神速の踏み込みに対応し、蛇鉄封神丸にイルランザーを打ち込み、その切っ先をずらし、軌道を逸らした。だが、闇の瘴気が僅かに身体を掠めた。
 森守の吐いた光条の余波とも違う、まるで身体を咀嚼されるような痛みを感じたが、それは一瞬で和らいだ。どういうことかと、咄嗟にイルランザーを見た。
 まさか、これがイルランザーの持つ癒しの力だと言うのか。だとすれば、願っても無い。タクティモンと戦う上で最良の剣を手にしていた幸運を実感し、顔に浮かぶ笑みを深める。
 タクティモンは一の太刀が凌がれたことにさして動揺も見せず、すぐさま次の一手を見せた。蛇鉄封神丸を振り上げ、そのままトゥバンにではなく床に――大地に叩きつけた。トゥバンは最小限の動きでそれをかわしたが、直後、本能に任せて更に後ろに跳んだ。
「参の太刀・天守閣」
 大地が、突如として隆起した。タクティモンは大地を操る力をも持ち合わせていたのかと、恐怖が全身を刺激する。自然と、笑みも深くなる。
 10メードほどで大地の隆起は収まり、すぐに崩落を始めた。足場崩しと攻撃を一体化させた、あまりにもスケールの大きい技だ。だが、大剣の切っ先を大地に突き刺すという大きな予備動作が必要な以上、そう簡単にはくらうまい。
 否。そろそろ受けるのはやめて、こちらからも仕掛けようか。



214剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:13:31

 タクティモンが着地すると同時、トゥバンの剣の一閃が迫った。蛇鉄封神丸の刃で受け、そのまま弾き返すように剣を振るう。トゥバンは僅かに身をかわしたが、完全には間に合わず掠り傷を負わせた。しかしその程度で怯むようなことは無く、トゥバンは剣を振るい続けた。
 タクティモンはトゥバンの剣を、鎧やマント、蛇鉄封神丸で幾度となく受け止めた。鎧やマントには幾つか薄い切り傷ができていたが、破壊されるに至ることも無く、蛇鉄封神丸に至っては全くの無傷だ。
 対して、トゥバン・サノオは見切りを損なってばかりで深手は負わずとも全身が傷だらけになっていた。イルランザーの癒しの力も蛇鉄封神丸の瘴気によって効力を封殺されており、傷口から流れ出た血が衣服を赤く染め、動く度に飛沫となって巻き散らされている。
 だというのに。その顔には、笑みが浮かんでいた。恐怖で引き攣ったような、それでいて、子供のような無邪気さが混じった、不可思議な笑みだった。
 それを見ている内に、タクティモンはふるえた。恐怖に震えたのか、歓喜に奮えたのか、或いは両方なのか。
 必殺技は大振りでトゥバン・サノオには見切られてしまうだろうと感じていたが、己の内の猛りに任せるまま、鬼神突を放つ。しかし、今度は回避も防御も間に合わなかったのか、瘴気だけでなく蛇鉄封神丸の刃がトゥバンの肉を僅かに抉った。
 次の瞬間、タクティモンは戦慄した。

215剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:13:52
 トゥバンは鬼神突を受けながらも踏み込み、タクティモンの胴に強烈な一撃を叩きこんで来たのだ。
「ぐぅ……!?」
 痛烈な一撃に、口から息が勝手に漏れ出す。クロンデジゾイドにも匹敵する強度を誇る鎧にも、鋭い切り傷が刻まれる。
 次いで、顔面目掛けて振るわれた剣を辛うじてかわすが、仮面の端を斬られ、砕かれた。遮二無二、右手を蛇鉄封神丸の柄から放して乱雑に振るう。
 しかし、既にトゥバンはタクティモンの間合いの外に離れていた。タクティモンが振り払おうとしたのは、残像だったのだ。
 全身に、怖気が走る。
 タクティモンの眼力を以ってしても、残像を残す巧みな体捌き、そして純粋な速さ。それなのに、何故先程までは、タクティモンの剣をかわせなかったのか。その意味は、先程の剛剣と、トゥバンの表情を見て理解した。
 かわせなかったのではなく、かわさなかったのだ。
 かわせばその分体勢が乱れ、踏み込みも浅くなってしまう。それではタクティモンを斬れない。だから、掠る程度にしかかわしていなかった。
 理屈は分かる。しかし、それを実行に移そうという心胆、そして実現できる技量は、最早、人のそれではない。
 魔人を震わせるものなど、鬼か修羅しかありえまい。
「く、くくく……ははははは……」
 自然と、タクティモンの口から笑い声が漏れた。
 砕けた仮面からはタクティモンの本体――1つの存在として練り固められた、数万年来溜まり続けた武人デジモン達の怨霊体が瘴気と共に噴き出ていたが、それは些細なことだった。タクティモンにとっても、トゥバンにとっても。
 正直、タクティモンはトゥバンをどこか侮っていた。剣の腕こそ評価に値するが、所詮は人間であり、その身体能力はデジモンには遠く及ばないものだと。
 しかし、違ったのだ。目の前に立つ男は、聖騎士オメガモン以来の――ある意味では彼以上の強敵だったのだ。
 身体が奮える。今まで感じたことの無い歓喜に、魂が沸き立つ。
 トゥバンは、剣を構え、笑みを浮かべたまま動かない。タクティモンが態勢を整えるのを待っているのだ。
 求めているのは単純な勝利ではなく、十全の状態の相手を斬り伏せた上での、真の勝利。
 それは、タクティモンも同じだった。戦略的な完璧な勝利からは程遠い、個人の自己満足とも言えるもの。それを、今はタクティモンも渇望していた。
 数万年来彷徨い続けた武人達の無念の魂が、真に一丸となって咆哮する。
 ――目の前の修羅に剣で以って勝ってこそ、我ら戦士の本懐なり!!――
 それを自覚すると同時に、タクティモンは主君であるバグラモンに詫びた。
 我らが無念を汲み取り、最強の剣と共に刃に最期の振り下ろし場所を与えて下さった我が君よ。御許し下さい。貴方の御心からも、貴方へ捧げた我が士道からも外れ、ただただ歓喜に打ち震えるだけの私を。これも武人の我が儘と……諦めて下さい。
 最後の未練を打ち払うと同時、タクティモンは蛇鉄封神丸を掲げ、改めて名乗りを上げる。
「我はタクティモン。蛇鉄封神丸を振るい、神を殺し世界を分断する為に造られた器なり。磨き抜いた魂、鍛え抜いた技……我が存在を成す全てを懸けて。トゥバン・サノオ……貴殿を斬る」
 これを聞いて、タクティモンの言に疑問など一切持たず、剣を持つ修羅も即座に応える。
「わしが名はトゥバン・サノオ。大した肩書も持たぬ……ただ、強いものと戦いたいだけの大馬鹿よ。誉れ高き武人、タクティモンよ……おぬしを斬る」
 互いが名乗りを終えると、両者は同時に踏み出した。
 剣戟は更に激しく、苛烈なものへとなって行く。
 それでも、2人の恐怖と喜びだけは、変わらない。






216剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:15:39




 逞鍛は天井近くまで跳躍し、すぐさま空中で反転し急降下。すれ違いざまに斬り付けられたが、ゼロはそれを力の盾で防いだ。だが、僅かに反応が遅れ髪の毛の先端が斬り落とされた。
 衛有吾と比べて全く遜色ない速く鋭い一閃。もしも衛有吾の剣を見ていなければ、盾での防御も間に合わなかったか。
「気に食わんな、貴様は……貴様らレプリロイドは」
 両手に握る二刀を自在に操りながら、逞鍛はゼロに対して怒りと嫌悪の言葉を叩きつける。だが、その声色には全く感情がこもっておらず、響きは虚ろなままだ。
 右手の剣と左手の盾で二刀を捌きながら、ゼロは逞鍛に問い掛ける。
「以前、お前は心を排除したレプリロイド……鉄機武者とやらを使って、自分の国を征服しようとしていたらしいな。それと関係があるのか?」
 衛有吾から聞いた話によれば、逞鍛は邪悪武者軍団という敵対勢力に、軍事の最高責任者の1人という立場でありながら自国の軍備の重要情報を漏洩して自国を窮地に追い込み、一大反攻作戦の実行段階で離反し自国軍を崩壊させ、邪悪武者軍団に自国を制圧させた。
 その数年後には何食わぬ顔で邪悪武者軍団との再度の決戦に参加して自国軍を勝利に導いたが、それも全ては逞鍛自身の野望の為だった。それこそが、レプリロイドと極めて近い存在である鉄機武者軍団による自国の征服だったと、衛有吾は語った。
 先程の言葉と、衛有吾から聞かされた逞鍛のかつての野望。そこに、何かのヒントがあるような気がして、ゼロは敢えて反撃に出ず、防御に徹して逞鍛の言葉を待ち続けた。
 やがて、逞鍛が口を開いた。
「何故だ。何故、貴様らは心を持つ。本来、貴様らはカラクリ人形と、心を持たぬ道具存在と同じだというのに」
「何だと?」
「何故、貴様らの創造主たるあの2人は貴様らに心を持たせた? 貴様も人間にいいように利用され、同族殺しを強要されているというのに……何故、心を持ち続けている?」
 僅かに、逞鍛の二刀に込められた力が増し、打ち込みが激しくなる。一方、ゼロは一瞬、息を呑んだ。
 逞鍛は知っているのだ、ゼロ自身も忘れてしまった、ゼロの出自の秘密を。恐らくは、この殺し合いに連れて来る段階で時空を超える技術を用いて調べ上げたのだろう。
 もしもそのことだけを告げられていたら、ゼロは同様から一気に切り崩されていたことだろう。
 だが、続いて投げかけられた言葉が、オーバーヒート気味だった頭部に冷却水を浴びせたようになり、ゼロは一瞬で平素の冷静さを取り戻した。
「……俺達を作った人間の意図など知らん、本人達に聞け。そして、俺達が心を持ち続けているのは、お前と同じだ」
 言うと同時に一層の力を込めて炎の剣を振るい、逞鍛の二刀を斬り払う。
「決して捨てられない感情が、想いが、この心の中にある。それだけだ」
 剣を握ったまま、右手で自分の胸を叩く。
 記憶回路や思考回路、感情システムなどは全て頭部にあるのだが、そこを指すことこそが当然だと、ゼロは無意識にそのように示した。
「違うな。感情など、オレはとうの昔に捨て去った。我が心も、既に無に等しき暗黒の闇……そのもの」
 逞鍛はゼロの言葉を、静かに否定した。だが、揺れる瞳の奥底に一瞬だけ垣間見えたもの。それを、ゼロは見逃さなかった。
「ならば、俺を気に食わんと毛嫌い、執着するのは何故だ? それは、お前の感情じゃないのか?」
 ゼロからの追及を受け、逞鍛は顔を俯け、両腕を脱力してだらりと下げた。そのまま、逞鍛は無言で佇んだ。ゼロも口を真一文字に結んで、待ち構える。

217剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:16:57
 やがて、逞鍛の肩がわなわなと震え――顔を上げると同時、噴火するように逞鍛の感情が爆発した。
「黙れ、人形風情が! 己の本来の存在意義すらも忘れた欠陥品が!! 正義の虚しさも知らずに……正義の力などとほざくガラクタが!!!」
 噴出される感情をそのまま載せたかのような、嵐の如く荒れ狂う二刀の剣戟を、ゼロは炎の剣と力の盾で防ぎながら、決して聞き捨てならない言葉を聞き返す。
「正義の虚しさだと?!」
 先程の言葉が、どうしても聴覚センサから消えないような錯覚に陥る。その言葉にゼロ自身も思うところがあるだけに、冷静ではいられなかった。
 かつて、自分の信じる正義を貫き通した果てに、友を殺め、愛する者を狂わせ死に至らしめ、涙も流せなかった。その時の悲しみが、ゼロの胸に蘇った。
 ゼロの問いに応えるべく、逞鍛は力の盾を踏み台にして跳躍し、宙を舞って間合いを離した。そして、ゆっくりと語り始めた。
「かつて、己が信じた正義に殉じ、祖国の未来と平和の為に戦い散った男がいた。彼の死から間もなく戦いは終わり、彼が望んだ平和は訪れ、未来は拓かれたのだ。……なのに、なのにっ、なのにっ!!」
 過去を思い出す内にその時の感情までも蘇ったのか、逞鍛は迸る激情を抑えようともせず、声を荒げた。
「戦いが終わって、平和が続いてみればどうだ! 民たちは時が経つと共に平和のありがたみを忘れ、やがてお互いの富を奪い合い、争いを繰り返すようになった! 兄者の死は無駄になったのだ!! 愚かな……己の欲を、感情を、心を制御できぬ愚か者たちのせいで!! 兄者が命を懸けて守った、国を、成す民達が……! 兄者を! 兄者の信じた正義を裏切ったのだ!!」
 最後の言葉を言い切ると同時に振るわれた一撃の力強さは、正しく剛剣。防御も間に合わぬ速さの鋭き“縦一閃”がゼロの頬を斬り裂いた。
 切断面からはオイルが血液のように流れ出たが、しかし、ゼロは臆することなく逞鍛を見詰め続けた。
「その絶望の中で、オレは悟ったのだ。こんな、腐りきった世界に必要なのは光ではなく、闇なのだと。邪悪蔓延る世界に、差す光など必要ない。闇に呑まれて消え去ることこそが相応しいと……!」
 逞鍛の表情は、暗く、黒く、濁っていた。嘗ては光の中で生きていたからこそ、希望を信じていたからこそ、逞鍛の絶望は深く、重い。
 その姿に、ゼロは友の姿を重ねていた。
 ――もしも俺が、イレギュラー化してしまったら――
 ああ、そうか。お前は、自分がこんな風になってしまうのではないかと恐れていたんだな。
 戦いを悲しむあまり、大切な者が失われる痛みに耐えられなくなって、自分の力を間違った方向に使ってしまうことを。
 そして、衛有吾。お前は逞鍛が本当はどういうやつか、ちゃんと知っていて、理解していたから、こんな事に巻き込まれても奴を救おうとしていたんだな。
 最大の友の苦悩と、そしてこの殺し合いの舞台で出会った友の願いを理解し、ゼロは無意識のうちの僅かな迷いすらも完全に打ち消した。
 炎の剣を握る右手で、頬の傷口を拭う。

218剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:18:57
「くだらんな」
「なんだと?」
「くだらんと言った」
 逞鍛の語った過去、それ故の絶望と怒りを理解した上で、ゼロはばっさりと切って捨てた。そして、毅然と逞鍛を睨み返す。
「お前の言っていることはよく分かる。俺のダチにも、昔のお前と同じような悩みを抱えている奴がいるからな。あいつはいつも、長く続かない平和を、何度終わらせても繰り返し引き起こされる戦いを、いつも悩んでいる。どうやったら戦いを終わらせることができるのか、どうやったら平和を守り続けることができるのか……とな。だからこそ断言できる。お前の絶望とやらはくだらないと!」
「人形風情が、減らず口を!!」
 逞鍛が怒号を吐くが、怯みなどしない。絶対に負けられない理由と、勝たなければならない理由が増えた以上、これ以上守勢になど回らない。
 逞鍛の二刀とゼロの炎の剣がぶつかり合い、激しく火花を散らす。
 衛有吾や兄と同じ天翔狩人の称号を持つだけあり、逞鍛の空戦能力は極めて高い。
 地上で待ち受け、落鳳破等の対空迎撃技によるカウンターを狙うのが上策だが、ゼロは敢えて飛燕脚と壁蹴りを用いて空戦に応じた。
 逞鍛は刃斬武の姿の時に纏っていた鎧を追加武装として纏った高速戦闘形態となり、超高速の連撃でゼロを襲う。
 だが逞鍛の攻撃は力の盾と霞の鎧の堅牢な守りによって悉く防がれ、足を狙った攻撃は壁蹴りと氷烈刃を駆使してかわされる。
 そして、業を煮やした逞鍛が放った乾坤一擲の一撃に、ゼロは空円斬を合わせて迎え討つ。
 縦一閃と縦回転の斬撃がぶつかり合い、ほぼ同等の力の相殺によって生じた反動の衝撃に合わせて、2人は宙を舞って距離を置く。
 呼吸を整える間もおかず、ゼロは逞鍛へと問い掛ける。
「お前は民達が兄を裏切ったと、それが許せないと言ったな。なら、お前自身はどうだ」
「何を……!」
 ゼロの問いに、逞鍛は明らかに動揺を露わした。怒りと、ほんの僅かな戸惑い。それを見抜いて、ゼロは更に問いを重ねる。
「今お前がやろうとしていることを知って、お前の兄貴は喜ぶのか!? お前は、今の自分自身を兄貴に誇れるのか!? お前自身が、誰よりも兄貴を裏切っているんじゃないのか!!」
 まず返って来たのは刀だ。だが明らかに精彩を欠いた一撃をかわすのは容易であった。
 二度、三度と繰り返し、たったそれだけで逞鍛は息を乱し、大きく肩を上下させていた。
 本人は認めようとしないだろうが、何の事は無い。逞鍛もまた、下らないものだと切り捨てたはずの感情を捨て切れず、それを制御できずに暴走させてしまっていたのだ。
 逞鍛は両腕をわなわなと震わせながら、しかし決して刀を手放そうとは、二刀の構えを崩そうとはしなかった。
「それでも、オレは……この道を突き進むと決めたのだ! 情を棄て、力を得て、戦いの終わらない世界を変える……戦いの無い世界に生まれ変わらせるのだと!」
 逞鍛の双眸から、黒い涙が滂沱の如く溢れだす。体を伝う黒い涙は闇となり、逞鍛の体と二刀に絡みつく。
 その体を震わせているのは、怒りなのか、憎しみなのか、悲しみなのか、ゼロには分からない。
 涙を流せないものに、涙を流すほどの激情の如何なるかなど、分かるはずが無かった。

219剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:20:16
「非情こそ我が正義! オレは……この道を、オレの正義を貫く!!」
 どんな力を手にしてでも、自分の信じた正義を貫こうとする。その力がたとえ、敵だけでなく自分自身さえも滅ぼしてしまうものであっても。
 そんなことが、正しいことのはずがない。そんなことの為に、自分達の力と心はあるのではない。
 それに、さっさと気付け――!
「この……馬鹿野郎!!」
 2人の戦いの決着は、交差と同時に放たれた鋭き一閃。
 縦一文字の紫電が落ちるよりも速く、横一文字の一閃が駆け抜けた。
 一閃により鎧を斬り裂かれ、逞鍛が膝を着く。
「バ……バカなッ……! 今のは……衛有吾の、横一閃……!?」
 振り返ることすらせず、逞鍛は顔を俯けたまま驚愕に目を瞠り、誰に問うたわけでもなく言葉を漏らした。
 ありえないはずだと、誰より逞鍛が理解していたのだ。
 ゼロの持つラーニング能力であろうと、一朝一夕で天翔狩人の一族に伝わる秘剣をここまで再現できるはずがないと。
「俺のラーニング能力……だけじゃ、ないのかもな。衛有吾が力を貸してくれた……そんな気がする」
 ゼロ自身もそのことを承知しているかのように、静かに呟いた。
 事実、あの瞬間にゼロは自分以外の何かの力を感じたのだ。或いは、秘められた三種の神器の真の力の片鱗だったのかもしれない。
 だが、深き情愛で繋がった兄弟の過ちを止める為に、亡き友が力を貸してくれたのだと、ゼロはそう思わずにはいられなかった。
「オレは……間違っていたのか? 戦いの無い世界以上の平和など……あるはずがないのに……。オレの正義の、何が……お前に劣っていたというのだ」
 逞鍛は膝を着いて俯いたまま、呆然と呟いた。ゼロは振り返り、逞鍛の背中を見詰めながら、静かに言葉を紡いだ。
「その答えは、自分で見つけ出せ。ただな、お前のような“力の正義”に溺れちまった奴にこそ……俺達は“正義の力”を見せなきゃならないんだ」
 ゼロの言葉に、逞鍛は何も言い返さなかった。ゼロも今は、これ以上何も言おうとしなかった。
 逞鍛の暴走は止めた。後は、衛有吾の願いの通り、彼を救うだけだ。“力の正義”ではない、自分達の“正義の力”を示し、闇を覆すことで。
 ゼロが逞鍛から視線を外そうとした、その時だった。ゼロの傍らに、弾き飛ばされて来た剣が突き刺さったのだ。
 その剣は、オキクルミが持っているはずの虎錠刀だった。






220剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:21:08




 2人の剣士の戦いは、先刻までとは異なる様相を呈していた。
 タクティモンが一切の大技を封じ、ただ純粋に蛇鉄封神丸を己が技量でのみ振るうようになったのだ。
 トゥバンが敢えてそれらしい隙を作って誘っても、決して迂闊には踏み込まない。下手を打てば、今度は首が落ちると分かっているからだ。
 大蛇を模った大剣が、たった1人の人間を呑みこもうと迫る。だが、その牙は決してトゥバン・サノオには届かず、僅かに肉を掠めるばかり。
 牙から滴る闇の猛毒も、白き龍の聖剣の力によって相殺されてしまっている。
 だが、それこそが良かった。今更、剣の力だけで勝ってしまうなどと、そんな物は両者にとって無粋の極みだった。
 この男を斬るのは、自分自身の力で無くてはならぬ。そうでなければ、この飢えと渇きは到底満たせるものではない。
 トゥバンは自らの血で全身を赤く染めながら、タクティモンは鎧に剣戟による斬り傷を無数に刻みながら、笑っていた。
 声には出さずとも、2人は、笑っていた。
 何もかもを忘れて、ただ、この瞬間にのみ没頭していた。






221剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:23:22




 ゼロガンダムとオキクルミとスプラウトは、最初、司馬懿との戦いを優位に進めていた。
 自らを“天を熾す鵬”と称する司馬懿の力はその言葉に遜色せず、剣の腕前も一流の域にあった。だが、この3人を押し留めるには些か足りない。
 司馬懿の闇の呪縛をスプラウトの力によって振り払い、放たれた闇の閃光を狼の姿に転身しゼロガンダムを背に乗せたオキクルミが掻い潜り、ゼロガンダムが両手に構えた2振りの雷の剣を振るう。
 司馬懿は冥黒の牙と煉獄扇でそれを受け止めようとしたが、剣士としての力量差は如何ともし難くゼロガンダムによって易々と弾かれ、両方ともがそのまま天上に突き刺さってしまった。
 これを勝機と見て3人は一斉に斬りかかった。だが、司馬懿は余裕の表情を崩さなかった。
 3人の刃が司馬懿を捉えようとした、その瞬間。
 司馬懿の内から莫大な闇の瘴気が溢れ出て、同時に発生した衝撃波が3人を吹き飛ばした。
 3人は即座に体勢を立て直したが、そこへ10個の小さな暗黒の球体が出現し、縦横無尽に飛び回りながら闇の閃光を放ち、3人を撹乱する。
 やがて、闇の瘴気が晴れると――否、冥黒の牙と煉獄扇が一体化した黒金の牙翼が、暗黒瘴気を吸収しその刀身に宿らせていたのだ。
 異様な光景だった。暗黒瘴気を纏った黒金の牙翼は、正しく闇だった。黒金の牙翼のあるはずのそこは、一切の光が届か暗黒の空間と化していたのだ。
「天冥獄鳳斬!」
 それこそは、あらゆる光を飲み干し消滅させる闇の究極奥義。光によってその存在を現世に確立させるあらゆる物体・物質は、悉く無へと帰す。
 謂わば、斬撃の形へと凝縮された暗黒星雲【ブラックホール】そのものだ。
 3人は辛うじて直撃を免れたが、その余波だけで甚大なダメージを負ってしまった。
 その様子を、闇の神の力を具現化させ自らと一体化させ、異形の姿へと変化した司馬懿は睥睨する。
「見事。流石、この儀式を勝ち抜き生き残った類稀なる剣士達である。その心胆、技量、体術、全てが称賛に値しよう。よもや、早々に獄鳳の姿を晒すことになろうとは」
 ゆったりと、余裕を持った動作で3人を見回しながら、司馬懿は賛辞の言葉を贈る。その間にも、ファンネルによる追撃を容赦なく浴びせ、3人から反撃の芽を摘み取る。
 すっ、と左手を翳し、暗黒瘴気を迸らせる。再び闇の呪縛により、ゼロガンダムの動きを封じたのだ。
「ぐ……ぬ、ぐ……!」
 ゼロガンダムは闇の掌中で必死にもがくが、桁外れの闇の力を腕力だけで振り解くことは不可能だった。
 司馬懿は呪縛を更に締め上げ、ゼロガンダムから指一つ動かす自由さえも奪い取る。
「中でも一際に目を引くのは……貴様だ、雷龍剣の末裔よ。スダ・ドアカ十二神の一柱の力を継ぐだけのことはあるが、何より貴様は、忌まわしき黄金神からの加護を受け、時空を超越し闇と対峙する光の騎士団の称号までも賜わされようとしている」
 儀式の中で、仮初の世界を覆う闇の結界が一度だけ破られたことがある。烈火武者頑駄無が爆心の鎧を纏い命の全てを燃やして放った、爆界天衝によるものだ。
 お陰でよく育っていた闇の苗床や、闇の盟主として迎え入れようとしていた者達まで諸共に消滅させられてしまった。
 その時に結界に生じた一瞬の綻びを突いて、黄金神がこの儀式に対して干渉を行った。それこそが、ゼロガンダムのシャッフル騎士団への叙任に他ならない。
 常闇の皇により叙任の完遂は防げているが、黄金神の加護が未だにこの場に存在している事実は消えない。
 黄金神の力の欠片、黄金魂を自覚し発揮するよりも先に始末をしなければならない。

222剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:25:16
「謂わば貴様こそ、闇の宿敵にして闇の怨敵……その象徴である。故に、その肉体と精神に留まらず、魂魄の一片までも蹂躙し尽くした上で葬ろう! そして貴様の断末魔と絶望によって至上の闇を生み、常闇の皇へと捧げよう!!」
 まず両腕を斬り落とし、続いて両足、次いで鎧。片目を抉り出し、首を斬り落とした上で延命の術を施し、最後には眼前で雷龍剣を砕く。
 シャッフル騎士団の一角の崩落は光と闇の決戦の趨勢を暗黒へと導き、そしてゼロガンダムの惨死はこの場で宿命に抗う愚者達を絶望の底へと落とし、その魂を暗黒に染め上げることであろう。
 だが、それを遮る者がいた。
「させぬわぁ!!」
 裂帛の気合と共に打ち込まれたのは、イヴォワールという世界で伝わる最高峰の広域攻撃剣術、真・飛天無双斬。
 空中へと高々と跳躍し、空中で反転、足の裏から魔力をジェット噴射のように放出し、重力加速も組み込んだ超加速の突進斬撃だ。
 オキクルミの誘導によりその間合いに収まった暗黒球体を全て粉砕し、勢いを留めず司馬懿にまで迫る。
 それを、司馬懿は黒金の牙翼で受け止めようとして、気付いた。スプラウトの狙いは司馬懿自身ではなく、ゼロガンダムを捕える闇の呪縛だ。
 スプラウトはドラゴンころしを以って闇の呪縛を断ち切り、そこへすかさずオキクルミが狼の姿で駆け付け、ゼロガンダムを背に乗せて一度距離を取る。
「助かった……ありがとう、スプラウト殿、オキクルミ」
「礼には及ばぬ」
「気を抜くな、ゼロ」
 3人は再び司馬懿と対峙する。しかし司馬懿の視線は、先程とは別の人物に注がれている。
「ただの鉄塊で、我が闇の呪縛を振り払うとは……。否、それ以前にだ、大剣士スプラウトよ。貴様の肉体は闇の力に染まりきり、人外の存在へと変容すらしているはず。何故、貴様は我が闇に恭順せず、その力を常闇の皇に奉らぬ」
 大剣士スプラウト。かつては輝ける聖剣と謳われながら、闇の勢力の一角である破壊神サルファーの姦計により、愛する者を無残に殺された憤怒と憎悪から闇へと堕ち、闇を蓄え育む苗床と化した者。
 本来であれば、常闇の皇の威光を受けた司馬懿の力に、闇の眷属は抗えないはず。だが、スプラウトは司馬懿の命に抗うばかりでなく、闇の瘴気に中てられ正気を失わず、闇の力を暴走させることすら無い。
 司馬懿からの問い掛けに、スプラウトは道具入れからボロボロになったマラカスと薔薇を取り出し、静かに答えた。

223剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:29:06
「確かに、わしは肉体のみならず心までもが闇に染まり、蝕まれておった。闇を喰らったが故では無く、己が裡より溢れ出た心の闇に溺れてな。……だが、お人好しの聖騎士が、我が心に僅かな光を灯してくれた。ただ、それだけのことよ」
 歌と踊りが誰より得意な、陽気で明るい好青年だった。騎士というよりも踊子か旅芸人の方がしっくりくると言ってしまえば、本人は嘆くだろうか。
 スプラウトがこの殺し合いの舞台で“鬼”と見紛う剣士との戦いの後に出会ったのが、そんな愉快な聖騎士――カイだった。
 カイは、スプラウトが殺し合いに乗っているにも拘わらず、手当てをして動けるようになるまでの護衛まで買って出たのだ。
 何故こんなことをするのかと問うても、へらへらと笑いながら、のらりくらりとかわされるのみ。
 その後も成り行きで、カイの言動に流されるまま行動を共にするようになった。
 カイの真意を聞くことができたのは、彼の死の間際だった。
 スプラウトを庇い、カイは致命傷を負ってしまった。
 何故、殺人者の自分を庇ったのだとスプラウトが問うと、カイはこう答えた。
 スプラウトの目が、泣いているようにしか見えなかった。
 振るう剣も、大切な人を失った悲しみとやり場の無い怒りを、目の前の敵に叩きつけるようにしか見えなかった。
 昔、初陣の折に大勢の僚友を失った、自分と重なって見えた。
 そんな悲しいおじいさんを、放っておくことなどできなかった……と。
 言い終えると、即死を免れたのが奇跡としか言いようの無い重傷を負いながら、カイはマラカスを握ったままバラを取り出す手品をスプラウトに見せた。
 そして、スプラウトの反応を見ると、穏やかに微笑んで――そのまま、逝ってしまった。
 スプラウトは、泣いた。半世紀ぶりに、最愛の家族を失った時以来に、紅く染まった双眸から透き通る涙を流し続けた。
 やがて、まるでその涙がスプラウトの心を洗い流したかのように、泣きやんだスプラウトの心からはサルファーへの憎悪と復讐衝動が消えていた。
 胸に残ったものは、サルファーに奪われたとばかり思っていた温もり。
 今まで自分が持っていた、それなのに忘れてしまっていた、大事なもの。
 そうだ、あの気が狂う程の悲しみは、自分がそれまでどれほど大切なものを持っていたのか、共にいられたのか、その証だったのだとスプラウトは悟った。
 ブリアンの為にするべきは復讐では無く、彼女の為に心の底から泣いて悲しむ。ただそれだけのことで良かったのだ。
 そして、カイがスプラウトにくれた優しさも、今もこの胸に共に在る。
 心に確かな光を宿した――取り戻した今、スプラウトが闇に屈することなどあり得ない。
 今の彼こそ、イヴォワール最強の剣士“輝ける聖剣”スプラウトなのだ。
「……そうか。紅の瞳を保ったままであるが故に見落としていたが……抜かったわ。よもや、天の刃が後天的に生まれようとはな」
 司馬懿はスプラウトの話を聞き終えると、忌々しげに呟いた。
 光の戦士の他に存在する、もう1つの闇の宿敵。
 闇の力を宿して生まれながら、その闇の力を御して闇を斬り裂く者――天の宿命に刃向かう、闇の裏切り者。
「天の刃……?」
 スプラウトはその言葉を不思議そうな表情で繰り返す。
 自分の存在が更なる変質を遂げたことに、本人すらも気付いていなかったのだ。
「闇であって、闇にあらざるもの。宿命を知らず、運命を解さず、天命を心得ず、天の意志に刃向かう逆賊よ。死ぬがよい」

224剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:32:28
 言葉を終えると同時、司馬懿は黒金の牙翼を振るう。かざした掌からは、闇の閃光が迸る。
 それらをかわし、3人はそれぞれに司馬懿に仕掛ける。だが、司馬懿が手を翳し闇の波動を放つだけで吹き飛ばされてしまう。
 しかし、オキクルミは四足の獣ならではの身軽さですぐさま体勢を立て直し、再び司馬懿へと襲いかかる。
 だが、牙と爪、背負った剣も司馬懿には届かない。
 それでもオキクルミの闘志は些かも衰えず、攻撃の合間に司馬懿へと言葉をぶつける。
「光の戦士と天の刃。その2つが揃って初めて、大いなる闇に対抗できる。……そうだな、司馬懿」
「宿命に抗う愚者の総称に過ぎぬ。……若虎から聞いていたか」
 司馬懿の推察に、オキクルミは無言の肯定を返す。
 孫権が死の間際に伝えてくれた、彼の世界に限らず、多くの世界で古から続く光と闇の宿命の戦い。
 それを聞かされた時から、オキクルミは光の戦士よりも尚稀有であるという天の刃の捜索に奔走したが、遂に見つけられずにいたと、そう思い込んでいた。
 だが、違ったのだ。オキクルミも気付かぬ内に、大いなる闇と戦う為の戦士達は集っていたのだ。
 例外は、外で戦っているトゥバンと、オキクルミぐらいのものだ。
「ならば俺の使命は、こいつらを無事に真の敵の下まで送り届けることだ」
 そうだ、強大な闇の力を振るう司馬懿との戦いですら前哨でしかない。
 この後に待ち受けているという闇の根源との戦いには、オキクルミ以外の3人の力は必要不可欠だ。
 故にオキクルミは、孫権たちを殺した自分がこの時まで生き延びたのはこの命の全てを懸けて、仲間達を決戦の舞台に送り届ける為だと考えていた。
「……愚かな」
 オキクルミの決死の覚悟を、嘲笑すらせず、司馬懿は冷酷に踏み躙る。
 再度放たれた天冥獄鳳斬は、溜めが無い為に威力が大幅に減少していたが、それでも人を殺すには十分な殺傷力を持ち、何よりも技の出が速かった。
 距離を取っていたゼロガンダムとスプラウトは辛うじて攻撃をかわしたが、オキクルミだけは避け損ねてしまい、痛烈な一撃を受けてしまった。
「オキクルミ!」
 高々と天井までかち上げられ、激突と同時に狼への変化も解けてしまう。オイナ族の仮面も、目元近くを残して砕け散った。クトネシリカは背に残ったが、虎錠刀だけは弾き飛ばされてしまう。
 司馬懿は闇の呪縛によりオキクルミを強引に引きずり降ろし、肉の盾とするかのようにゼロガンダムとスプラウトの前に突き出す。
 オキクルミは意識が朦朧としたまま、声を出すことも抵抗することもできない。
 2人が躊躇により動きを止めた一瞬を見逃さず、司馬懿は黒金の牙翼を握る手に力を込める。
「貴様如き地を這いずり回る犬畜生に、煉獄を往く鳳は落とせぬ」
 分も弁えず神々の戦いに関わった報いだと、そう言わんばかりに、黒金の牙翼がオキクルミの左手足を斬り落とした。
 オキクルミが苦痛の叫びを上げることすら許さず、司馬懿はついで右手足も斬り落そうとして、オキクルミのクトネシリカによって阻まれた。
 手足を失った痛みよりも、犬畜生呼ばわりされたまま犬死することだけは許せなかった。
 命ある限り戦い続けると誓っておきながら、無駄死にどころか、自らの死で仲間達を絶望に落として堪るものか。
 しかし、司馬懿はオキクルミが未だに抵抗する力を残していると見るや、宙から地面に叩き落とし、オキクルミが剣を振るえぬ状態でトドメを刺すことに切り替えた。

225剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:35:12
 それを即座に察したゼロガンダムとスプラウトが駆けつけようにもこの距離では、あと一歩、間に合わない。
 オキクルミは自分の命が途絶えることを悟りながら、せめて一矢を報いようと――仲間達が司馬懿を倒す為の一手を打とうと、最後の力を振り絞る。
 その力の源泉は、大切なものを守るため。仲間達を、今は遠い故郷を、離れてしまった一族の皆を、友が遺したものを、ただ一心に守りたいという想い。
 オキクルミの持つ本当の強さ――自分の力を自分の為では無く、誰かの為に使おうとする、その心。
 其れ即ち、真の勇気。
 その勇気が、今、光り輝く。
 クトネシリカが青鈍色に輝き、そして虎錠刀もまた青白き輝きを放つ――。



 司馬懿がオキクルミの首目掛けて振り下ろした黒金の牙翼を、何者かが遮った。
 それはその勢いのまま、司馬懿に強烈な一撃浴びせて壁際にまで押し出した。
 オキクルミは、自分の目の前を駆けて行った神々しき四足獣の姿を見て、幽門扉を超えた先で出会ったコロポックル宿しの白い狼を連想した。
 しかし、オキクルミの顔を覗き込んで来たのは白い狼では無く、碧眼の白虎だった。
「……孫権?」
 白虎の紺碧の瞳を見て、オキクルミは何故か、孫権の名を呼んでいた。孫権とは似ても似つかぬ獣だというのに。
 孫権の名で呼ばれた白虎は、何故だかとても嬉しげに喉を鳴らした。
「バカなッ、虎燐魄だと!? 虎暁の魂を継ぐ者亡き今に、何ゆえ……!?」
 白虎の姿を見て、司馬懿が目を血走らせて叫んだ。その狼狽ぶりは、今までの余裕を保った姿からは想像できないものだった。
 白虎がそれだけの存在だと気付くと、そこへゼロガンダムとスプラウトが駆けつけてくれた。
「オキクルミ! 待っていろ、すぐに手当を……!」
 スプラウトが司馬懿との間に立ち塞がり、ゼロガンダムはオキクルミの傷を手当てしようと治療道具を探っている。
 だが、自分達の持ち物の中には、手足の欠損をどうにかできるような物が無いことを、オキクルミは既に理解していた。
 しかし、不思議と焦燥も不安は無く、それよりも、もっと別の事が気にかかっていた。
「いや……いい。それよりも、肩を、貸してくれないか。1人では、体も起こせそうにない」
 ゼロガンダムは一瞬、手の動きを止めてオキクルミの顔を覗き込んだ。
 目元は仮面に隠れているが、決して捨て鉢になったわけではないことは伝わったのか、ゼロガンダムは怪訝そうな表情ではあったが肩を貸して体を起こしてくれた。
 右手足の傷口からは大量の血が流れ出ていて、衣服も血まみれになってしまっていたが、少しも気にならなかった。
 オキクルミは改めて、白虎の姿を具に見た。そして、その腹に収められている剣を――月のように青白く輝く、真の姿となった虎錠刀を目にして、驚愕に目を瞠った。
 それを待っていたかのように、白虎は雄叫びを上げると眩い光に包まれ、そのままオキクルミを包みこんだ。
 ――友よ、君が心に真の勇気を宿す限り、我が魂は、君と共に在り続ける。
 聞こえた声は、決して、幻などでは無い。
「孫権! 本当に、お前なのか……」
 返事は無かった。代わりに、オキクルミは輝く衣と水晶のように透き通る青い鎧を身に纏い、砕けた狼の仮面は白虎の仮面へと変化して再生した。
 切断されたはずの手足は繋がれ、両の手にはそれぞれの輝きを放つクトネシリカと虎錠刀が握られていた。
 自らの過ちにより殺めてしまった友に、許されたのみならず、二度までも救われた。
 オキクルミは喜びの涙を堪えることができず、頬を一筋の涙が伝った。




226剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:37:16


「オキクルミ、ゼロ、スプラウト! どうやら、3人とも無事のようだな」
 虎錠刀から現れた虎がオキクルミを助けて融合するまでの過程に目を奪われていたゼロだったが、オキクルミが助かったのだと気付くと、すぐに3人の下へ駆けつけた。
 4人はそれぞれ顔を見合わせると、何も言わずに互いに頷き合い、新たなる光の戦士の誕生に激怒する闇の使徒に対峙する。
「天翔狩人、イセアデュッオの聖騎士、そして轟大帝! 貴様ら、神ならぬ人の身で……死して尚、宿命に抗うというのか!!」
 この場にいないはずの、とうに死んだ者達の名を呼び、司馬懿は怒声を巻き散らす。
 黄金神の加護を受けるゼロガンダムならばいざ知らず、死んだただの人間が生きる者に力を与え光となるなど、言語道断。
 この世の全てを司る真理の一つ、生者必滅の理に背くことなど、ただの人間に、しかも死人に許されるはずがないのだ。
 だが現実に、死なせてしまった友たちの想いを胸に、4人の剣士はこの場に集った。光と闇の宿命によってではなく、友との誓いを果たす為に。この悲劇を終わらせる為に。
 両者が視線を交錯させた直後、戦いの幕を下ろす剣戟が走った。
 司馬懿が剣を振るう暇すら与えず、ゼロの横一閃が黒金の牙翼を握る司馬懿の右腕を斬り落とし、スプラウトの豪剣が司馬懿を覆い守護していた闇を払い、碧眼の獣神へと転身したオキクルミの振るう2連撃が司馬懿の鎧を砕く。
 そして、ゼロガンダムが両手に握った雷の剣の力を最大限に発揮させて放った×の字の斬撃が、司馬懿の肉体を斬り裂いた。
「名付けて……“重ね雷龍衝【ドラゴンインパルスX】”」
 闇を祓う天の刃の力、そして強い光の力に体を砕かれた司馬懿は、もはや再生することも叶わない。
 だが、それでも、その瞳に宿る狂気は失われていない。
「ならば、我は…………死して尚……宿命に殉じよう」
 その言葉を遺して、司馬懿の魂は闇へと還った。
 常闇の皇へと奉ずる、最後の生贄として。


【司馬懿サザビー@BB戦士三国伝 死亡確認】




227剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:38:19

「なんだ!?」
 司馬懿という強敵を打ち破った感慨に浸る間もなく、洛陽宮殿を激しい揺れが襲った。
 ゼロガンダムは、ドゥーム・ハイロウの起動時にも似た禍々しい気配に、司馬懿と戦っていた先程よりも緊張を高めた。
 それは他の3人も同様であり、一様に玉座の間の奥、今までとは比べ物にならないほどの闇の力を感じる方角を睨んだ。
 そこへ、覚束ない足取りで1人の男が歩み寄って来た。
「……この儀式の最終段階は、勝ち残った者達を我らの手で絶望の底に落とし、暗黒の闇へと堕ちた魂を“常闇の皇”に捧げることだった。だが……司馬懿はお前達の代わりに、自分自身の魂を捧げたのだ」
 殺し合いの主催者の1人として、全ての真相を知る最後の男――逞鍛が、虚ろな声でゼロたちに今の状況を解説した。
 しかし改心して味方になったわけではないことは、顔を見ずとも声色だけで分かる。
 ゼロは敢えて何も言わず、代わってスプラウトが逞鍛を問い質す。
「常闇の皇……。それが、お前達が目覚めさせようとしていた“大いなる闇”の正体か」
 逞鍛は頷いて、崩落する玉座の間の奥から現れるものを見詰めながら、言葉を紡ぐ。
「そうだ。……オレが修復した、時空を破壊する最凶兵器『ジェネラルジオング』という機械の器と共にな。そして常闇の皇とは称号にして畏称。その真の名を……幻影の千年魔獣【ムーンミレニアモン】」


【ゼロガンダム@新SDガンダム外伝ナイトガンダム物語】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(大)、龍機の召喚不可能
[装備]:雷龍剣@SDガンダム外伝、天叢雲剣@大神、竜騎士の鎧@SDガンダム外伝
[道具]:基本支給品一式
[思考]:常闇の皇を倒し、全ての決着を付ける。トゥバンが敗れた時は自分の手でタクティモンを倒す。

【ゼロ@ロックマンXシリーズ】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(小)、三種の神器のフル装備による反動が発動中
[装備]:炎の剣@SDガンダム外伝、力の盾@SDガンダム外伝、霞の鎧@SDガンダム外伝
[道具]:基本支給品一式
[思考]:正義の力を示して闇に打ち勝ち、逞鍛を救う。

【オキクルミ@大神】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)、虎燐魄と融合
[装備]: クトネシリカ@大神、虎錠刀@BB戦士三国伝、虎燐魄@BB戦士三国伝
[道具]:基本支給品一式、赤いマフラー@BB戦士三国伝
[思考]: 常闇の皇を倒し、全ての決着を付ける。

【スプラウト@ファントム・ブレイブ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、鎧全体に細かな罅、天の刃に覚醒
[装備]:ドラゴンころし@ベルセルク、黒い鎧@ファントム・ブレイブ
[道具]:基本支給品一式、バラとマラカス@幻想大陸
[思考]: 常闇の皇を倒し、全ての決着を付ける。

【逞鍛(ティターン)@武者烈伝武化舞可編】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、呆然自失
[装備]:天刃・空刃@武者烈伝武化舞可編、天翔狩人の鎧@武者烈伝武化舞可編
[道具]:基本支給品一式
[思考]:常闇の皇の降臨を見守る……?







228剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:41:12






 魔人と修羅の戦いは、佳境を迎えていた。
 両者は互いに一歩も譲らず、トゥバンは刃を掠めさせても決して肉を切らせず、タクティモンも防御を鎧とマントに任せて攻撃に専念することで、確実にトゥバンの神速を捉えつつあった。
 だが、両者は極限の集中の持続による精神疲労と、数十分以上も全力で動き続けていることによる肉体疲労で、ほんの僅か、息が乱れ始めていた。
 息の乱れは全ての乱れに通じる。超一流の戦士ともなればどれだけ疲労しようとも息は乱さぬように心掛けるものだが、2人はそれを保つこともできないほどに疲労が蓄積しつつあった。
 逃げ出したいほどの恐怖と、この瞬間を永劫に味わいたい程の歓喜が、2人の奥底から湧き上がり、突き動かす。
 この瞬間に至って、2人は感謝した。このような戦場で、異世界の類稀なる剣士と巡り会えたことに。
 2人は視線を交え、ほんの一瞬だけ穏やかな笑みを浮かべて、すぐに鬼神の表情へと戻り、剣を構える。
 駆け出したのは同時、先に剣を振るったのは間合いの利を持つタクティモン。
 蛇鉄封神丸を袈裟に振り下ろし、かわされたと見るや剣の勢いを殺さず、そのまま刃を返し逆袈裟に斬り上げる。
 超高速の連撃、しかも一度かわした直後の下からの急襲。この必殺の連携に必勝を期したタクティモンは、瞠目した。
 逆袈裟の斬り上げは、どうしても片手になってしまう。なにより重力のベクトルに従うのではなく逆らう方向に振るうことになる為、両手で振り下ろすよりも遅くなってしまう。
 加えて、蛇鉄封神丸の刀身は巨大で、その分質量も大きく加速がつきにくい。
 それらを加味したとして――高速で振るわれた剣を足場として跳躍する剣士がいようなどと、誰が思えようか。
 人の持つ、底知れぬ可能性。今より前を、今より先を、今より上を目指す、飽くなき志。
 その結晶を目の当たりにしたタクティモンは、トゥバンの剣に目を奪われた。
「うおおおっ!!」
 全身全霊の気魄を込めた、乾坤一擲の一撃はタクティモンの仮面のみならず兜をも打ち砕いた。
 加えて破邪の力を宿す聖剣の刃を直接に受けた、怨霊体であるタクティモンの本体は大きなダメージを負った、
 だが、まだだ。まだ、倒れはしない。
 崩れ落ちそうになった膝を踏ん張り、一瞬俯けた顔を即座に上げる。手放しそうになった蛇鉄封神丸を、強く力を込めて構え直す。
 トゥバン・サノオは、剣を構えたまま動かない。それでこそだと、タクティモンは歓喜に打ち震える。

229剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:43:32
 そこで、タクティモンは違和感を覚えた。
 おかしい。何故、追撃を仕掛けて来なかったのだ?
 互いの剣技は、既に存分に見せ合い、最早如何なる時に決着が着こうとも悔いがない――その心意気は、トゥバン・サノオも同じだったはず。
 ならば、何故――私の首を、落としに来なかった?
 何故今も、息一つ乱さず、指一つ動かない?
「まさか……」
 構えを解いて、タクティモンはトゥバンに歩み寄る。トゥバンは動かない。
 タクティモンの間合いが過ぎ、トゥバンの間合いに入る。やはり、トゥバンは動かない。
 眼前でタクティモンが立ち止まったが、トゥバンはもう、動かない。
 トゥバン・サノオは、全身を己の血で染めて、両の足で立ち、両の手で剣を構え――死んでいた。
 タクティモンは、呆然と、トゥバンを見詰め続けた。
 暫くして、ぽつり、ぽつり、と、言葉を漏らす。
「……天晴れ、見事。トゥバン・サノオよ、貴殿の剣、その技の冴えの鋭きこと、正に閃光。……しかし、しかし……!!」
 蛇鉄封神丸を手から落とし、タクティモンはトゥバンの前に膝から崩れ落ちた。
「その肉体、その志に比して、あまりにも脆し……! その生命、あまりにも……儚し……!」
 何故だ。何故、このような決着が訪れてしまったのだ。
 勝敗は、戦った両者の生死で決まるものなのか? 生き残ったタクティモンが勝者であり、死んだトゥバンが敗者なのか?
 否だ。そんなことは、断じてあり得ない。
 真の勝敗とは、生死でも、第三者の判定や規定によるものでもない。
 戦った両者の心が、それを認めた時に初めて決着となるのだ。
 タクティモンにはまだ、戦う意志があった。目を奪われるほどの人の可能性を見せつけられたからこそ、ならば次は自分こそがと息巻いていた。
 だが、現実は……こうだ。
「何故だ……トゥバン・サノオよ……何故だ……!」
 タクティモンは、戦場で無念の敗北と死を遂げた、万を超える武人デジモン達の無念の残留魂魄のデータを練り固められ、創り上げられた。
 そんなタクティモンが知る中で、武人として最も悔いの残る、無念という言葉ですら言い表せないほどの虚しき最期だったというのに……!
 確固たる信念の下に鍛え抜き磨き抜いた力と技の比べ合いが、生まれ落ちた種族の違いなどというもので終わらされてしまったというのに……!
「何故、お前は……! 笑ったまま、逝ったのだ……! トゥバン、サノオ……ッ」
 トゥバン・サノオは、鬼神の如き形相でも、阿修羅の如き笑みでも無く、憑き物が落ちたような表情で――穏やかな笑みを浮かべたまま、死んでいた。
 タクティモンは、押さえ付ける枷の無くなった怨霊体を露出させながらも、その意志は一つに纏まったままだった。
 数多の武人達の無念は、誉れ高くあるべき無類の剣士の虚しき最期を悲しみ、涙を流し続けた。


【トゥバン・サノオ@海皇紀 死亡確認】


【タクティモン@デジモンクロスウォーズ(漫画版)】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、兜損失、深い悲しみ
[装備]:蛇鉄封神丸@デジモンクロスウォーズ(漫画版)
[道具]:無し
[思考]:………………

230 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:45:38
以上で投下終了です。
次の最終話をリレーしたい人がいたら、
遠慮なくリレーしてくれていいんだぜ……!

231名無しロワイアル:2013/01/27(日) 02:43:49
>>229
トゥバン・サノオ、その生き様はまさに修羅ッッ!!
そして、次でラストバトル!…なのか?
目が離せねえ!!

232名無しロワイアル:2013/01/27(日) 07:45:15
執筆と投下、お疲れ様です。
把握している作品はほぼないのですが、分からないなりに読んでいって、
「面白いな」「すごいなぁ」などと思わせて頂いています。とてもありがたいことです。
理屈っぽく読んでしまうせいか、カオス系のそれには感想をつけられないので割愛しますが、
それでも読ませては頂いてます。それだけは伝わってくださいませ。

>第297話までは『なかったこと』になりました
ある種のロワ書き手にとっては、これは非常に痛い話。
なんだけどなあ、「安易に美談にさせてなるものか」と言ってしまう球磨川……これを言う
自分をも美談にさせまいと言葉を重ねる『道具』の姿に胸を衝かれる。
こういう物語を書いていく以上どうしても道具は要る。要るんだけど、ここを描いてしまうと
書き手がしんどくなってしまいかねないし、キリが無くなる題材でもあるんだよなあ。
それを『めだかボックス』をもとにして書いていった◆YO氏のバランス感覚、ヘタを打つと
書き手の自虐から自殺になるような話の語り方がすごいなと改めて感じました。
内省している書き手の姿が前に出るのでもなく、あくまで『めだかボックス』してるのも素晴らしいところ。
あと一話でどういった結論を出していくのか。どんな魔球でも楽しむ覚悟完了です!

>剣士ロワ
ああ……すげえ、熱かった……。
タイトルに恥じない、おのが全力を賭しての闘いに惹き込まれました。
龍で聖剣、ってところでイルランザー@クロノ・クロスが出てきたところで個人的に
熱くなったり、ロボロワとはまた違ったゼロの姿を見られて感慨を噛み締めたり。
素直にバトルを繰り広げる筋であるからこそ、「正義の虚しさも知らずに……」からの
『力の正義』『正義の力』には、こちらも素直に乗って、氏の物語の味に浸っていけました。
このあたり、一話目の投下と同じく、いい意味で文章や話にてらいがないところも魅力だなあと感じます。
そして、これはどの作者さんにも言えることですが、ホントに好きなものを楽しんで書いているのが
伝わる。だからこそ、読後感がすごく良い。気持ちよく浸ることが出来るんじゃないかなあ、とも。
読後、今回はタクティモンの悲嘆が非常に良かったのですが、これがどう繋がるのか。
リレーもいいんですが、自分は氏の書く話を、文章をもう一話分読みたいですね!w

233 ◆rjzjCkbSOc:2013/01/27(日) 20:09:15
謎ロワ投下いたします

234298:Final Stage ◆rjzjCkbSOc:2013/01/27(日) 20:09:47


――――11:00:00
――――鉄塔:頂上直前



「……やっと到着したモナ」
「ええ……やっぱり、これだけ歩くと疲れますね……あ、あれを見て下さい」

 Kさんの指差す先に、空間の歪みが……。
 時折見えるすきまから、向こうが見える。
 そこは……いわゆる、"特異点"と呼ばれる場所であった。
 今まで集めた情報から察するに、奴ら――――岸猿伊右衛門と母胎は、必ずそこにいるはずだ。
 しかし、それを目前にして、突入しないのは何故か。
 ……答えは単純明快である。

「――――阿部さんたちは、まだ着いてないようだ」

 まだ、全員揃っていないのだ。
 特異点に突入すれば、過酷な戦いは避けられないだろう。
 その為には、今残っている5人の力を合わせる必要があったのだ。
 だが……ここにいるのは3人。
 残りの2人、阿部高和とスペランカー先生が、まだ到着していない。

「私たちとは別のタイミングで突入しましたからね……ですが、阿部さん達も、きっとここに向かっているはずです。
 今は、待つしかありませんよ」

 そう言い終わると、Kさんはその場に座り込む。

「…………申し訳ありませんが、少し休ませていただけませんか。元々、体力がないもので」

 そう言うKさんの顔には、疲労の色が浮かんでいる。
 それもそうだ、元々あまり体力がないのに、今まで会場中を歩き回っていたのだ。
 その上、幾度か戦闘も繰り返し、疲弊していた所に、この鉄塔だ。
 ……途中で、何度か休憩は挟んだものの、やはり疲れは抜けない。

235298:Final Stage ◆rjzjCkbSOc:2013/01/27(日) 20:10:10

「……大丈夫モナ。心配しなくても、僕がついてるモナ」
「心強いです……それでは、失礼して……」

 最後まで言い終わる事無く、Kさんは寝息を立て始める。

「僕も、少し休ませてもらうモナ……」

 誰に言うとも無くそう呟いて、モナーもその場に腰を下ろす。
 流石に眠る訳にはいかないけれど、こうやって休んでいるだけでも、体力は回復するはずだ。
 少しでも回復してくれれば、ありがたい。
 ……迫る戦いの為にも、体調を整えなければならない……。
 そんな思いが、モナーの頭の中を駆け巡っていた。
 ……多分、Kさんの頭にも、同じ考えが浮かんでいる筈だ。眠ってるけど。




【離島線四号基鉄塔・蜘蛛糸・最上層/午前】
【教会育ちのKさん@寺生まれのTさんシリーズ】
[状態]:疲労(大)、精神疲労(中)、全身に切り傷、教会育ちの力(残り45%)、睡眠中
[装備]:ストック@かまいたちの夜、Thor.45-70(1/1)@MGS4、阿部高和のツナギ@くそみそテクニック
[所持品]:基本支給品、空気砲@ドラえもん、ダンボール@MGS3、タバコ@地獄の使者たち、
     180円@かまいたちの夜、兄者のノートPC@アスキーアート、茄子@VIPRPG、
     救急箱@現実、ライフ回復剤@MGS3、パトリオット(破損)@MGS3、四次元ポケット@ドラえもん、
     ボーイスカウト編のギター@本格的 ガチムチパンツレスリング
[思考]
基本:悲しみの連鎖を立ち切る
1:阿部さんが到着するまで休憩しておきましょう……
※呪いが緩んだ事により、教会育ちの力が少し元に戻りました
※屍人、闇人の対処法を知りました

【モナー@アスキーアート】
[状態]:疲労(小)、脇腹・頭部に切り傷(処置済み)
[装備]:アクアブレイカー@Nightmarecity、蓮家の青龍刀@龍が如く4、ソリッド・アイ(バッテリー微量)@MGS4
[所持品]:支給品一式、闇那其・痕(彎角)@SIREN2、コエカタマリン(1回分)@ドラえもん、
     ボウガン(0/1)@現実、ボウガンの矢×3、車のおもちゃと遺影@かまいたちの夜2、
     サーフボード@寺生まれのTさんシリーズ、発煙筒@現実、0点のテスト@ドラえもん
[思考]
基本:全てを終わらせるモナ……!
1:阿部さん達を待つモナ

236298:Final Stage ◆rjzjCkbSOc:2013/01/27(日) 20:10:28







(メリル……俺は、どうすれば……)

 心の中で、渦巻く感情。



 …………死ぬ間際に、"生きて"、と言われた。


 けれども、愛した人を失ったまま、生きて行くなんて。


 …………いっそ、あの時死んでいれば。



(…………)


 答えが出るのは――――もしかしたら、そう遠く無いかもしれない。




【ジョニー@メタルギアソリッド4】
[状態]:疲労(大)、精神疲労(大)
[装備]:FN ファイブセブン(8/20)@MGS4
[所持品]:基本支給品、今惹湯@忌火起草、黒い女の絵@忌火起草、サブマシンガン(残り0%)@現実
     レザー男の服@男狩り、ネイルハンマー@SIREN、ライター@現地調達、
     かたづけラッカー@ドラえもん
[思考]
基本:生きる……?
1:メリル……
※様々な情報を聞きましたが、それどころではなかったようです

237298:Final Stage ◆rjzjCkbSOc:2013/01/27(日) 20:10:51



――――11:06:00
――――鉄塔:上層付近





 とにかく、最上層へ。
 登って行かなければ、ならない。
 『蜘蛛の糸』の如く……。
 登り切れば、偽の天国が。
 堕ちてしまえば、本物の地獄が待っている……。

「ずいぶんと入り組んでるじゃないの。それじゃ、とことん登ってやるからな」

 時には段差をよじ登り。
 時には階段を駆け上がり。
 時にはあえて下に降り。
 そんな事をくり返して、3人は鉄塔内部を進んでいた。
 ……悠長に歩いて進む余裕はない。
 だが、下手に急いでも体力を余計に消費する。
 そんな、中途半端な状況が、どれだけ続いただろうか。
 少し、開けた場所に出た。

「上を見てみなよ」
「?」

 阿部さんに言われるがまま、全員が上を見上げる。
 ……鉄骨やら足場やらの密度が、明らかに低くなっている。
 と言う事は……そろそろ、最上層に着くかもしれない、と言う事だろう。
 それは、喜ばしい事でもあったが……同時に、懸念材料でもあった。
 とはいえ、別に歩けない程疲弊している訳でも、瀕死の重症を負っている訳でもない。
 阿部さんだけは、右腕が完全に消滅し、使用不能状態ではあるが……問題はそこではない。

238298:Final Stage ◆rjzjCkbSOc:2013/01/27(日) 20:11:12

「俺よりも、先生の残機が心配だな。いくら強くなったとは言え、足を踏み外せば……」
「……まだ、大丈夫ですよ」
「嘘はいけないな。……もう、残機は0なんだろう?」

 幾度と無く戦いをくり返した彼の残機は、もう底をついていた。
 それと引き換えに、幾分かは強くなったものの……元が元なので、やはり、打たれ弱いのだ。

「……ええ。いつ死んでもおかしくないです」
「馬鹿野郎、あんたみたいないい男を死なせてたまるかってんだ。ポジティブに行こうぜ。
 ここまで来たからには、必ず生きて帰るんだ」
「…………」

 気まずい沈黙。
 それを破ったのは……2人のものではない、声だった。




「Mrマルチメディア? 蟹になりたいね?」




 声がした方に、2人が振り向くと。

「――――お前……何故」

239298:Final Stage ◆rjzjCkbSOc:2013/01/27(日) 20:11:33




 変わり果てた姿で立ち尽くす、鎌田吾作の姿があった。





【離島線四号基鉄塔・蜘蛛糸・上層付近/午前】
【阿部高和@くそみそテクニック】
[状態]:右腕消滅(処置済み)、疲労(中)、超いい男、寺生まれの力(残り57%)
[装備]:名刀電光丸(バッテリー残り10%)@ドラえもん、ツナギ(白)@現地調達
[所持品]:支給品一式、くりまんじゅう@ドラえもん、葉巻@MGS3、火掻き棒@SIREN、
     きせかえカメラ@ドラえもん、兄貴のジーンズ@本格的 ガチムチパンツレスリング、
     フォトンブレードPG@龍が如く4、釘バット@SIREN2、コート@かまいたちの夜3
[思考]
基本:全てを終わらせる
1:……!?
※寺生まれの力を受け継いでいます
※フェアリーナイトメアを習得しました

【スペランカー先生@スペランカー先生】
[状態]:ボロボロ、残機:0
[装備]:シングルアクションアーミー(2/6)@MGS3
[所持品]:支給品一式、ステルス迷彩(残り使用時間:36秒)@MGS3、がんじょう(残り1個)@ドラえもん
[思考]
基本:死なないように、生きて帰る
1:一体、何が……!?
※闇人の対処法を知りました

240298:Final Stage ◆rjzjCkbSOc:2013/01/27(日) 20:11:48




 蟹になりたい……。
 その思いを抱き、殺し合いを生き抜いてきた吾作。
 だが無情にも、志半ばで倒れてしまった。
 物言わぬ骸に成り果てた姿は、一度、阿部さん達も目撃している。
 一度死んでしまえば、もう、生き返ることはできない。
 それは、当然の理である。
 だと言うのに、何故こうして、3人の前に姿を現したのか?
 答えは簡単である。……闇人と化して、再度立ち上がったのだ。
 しかし、魂は既に消滅している。
 だが、死の間際まで考えていたことが、吾作の魂を、肉体に僅かばかり引き留めた。


 ――――蟹になりたい、蟹になりたいね?


 蟹になりたかっただけなのに。ただ、蟹になりたかっただけなのに……。
 理性では抑えがたいほどに膨らむ願望。
 ……本来ならば、ここまでの欲望にはならないはずだったのだ。
 せめて、最初に出会ったのが、あの"VAN様"でなかったら。
 せめて、そこでダークサイドに堕ちなければ。
 こうはならなかったかも、しれない。
 だが、闇人として彷徨う内に、その欲望も薄れて。
 今では、僅かばかりの意思を元に動いている、人形でしかなかった。

241298:Final Stage ◆rjzjCkbSOc:2013/01/27(日) 20:12:03






 ――――だらしねぇな。






 どこかで、兄貴の声が聞こえた気がした……。







【鎌田吾作@本格的 ガチムチパンツレスリング】
[状態]:全身ボロボロ、闇人化
[装備]:焔薙@SIREN2、ジーンズとTシャツ@現実
[所持品]:なし
[思考]
基本:蟹に、なりたいね……

242298:Final Stage ◆rjzjCkbSOc:2013/01/27(日) 20:12:17
投下終了です。

243 ◆tSD.e54zss:2013/01/27(日) 22:12:40
ドーモ、ライター=サン。投下乙です。
私もこの企画に参加させていただきたいと思います。
まずは名簿と各種情報、続けて1話(298話)を投下させていただきます。

244 ◆tSD.e54zss:2013/01/27(日) 22:16:14
【ロワ名】ニンジャスレイヤーロワ
【生存者6名】ニンジャスレイヤー【フラッシュバックによる無力化の可能性】、シルバーキー【右腕使用不可】、アースクエイク
        サラマンダー、ディプロマット【限界寸前】、デスドレイン【マーダー】
【主催者】フィリップ・N・モーゼズ
【主催者の目的】イクサとカラテを楽しむ
【補足】会場はネオサイタマとキョートを模して作られた空間です。重金属酸性雨は降っていません。また、主催者による首輪の爆破はありません。

【名簿】6/100
○ニンジャスレイヤー/●ディテクティヴ/●ナンシー・リー/○シルバーキー/●ヤモト・コキ/●ネザークイーン/●デッドムーン/●ドラゴン・ゲンドーソー/●ドラゴン・ユカノ/●ダークニンジャ

●ジェノサイド/●ブラックヘイズ/●フォレスト・サワタリ/●ラオモト・カン/●ヒュージシュリケン/○アースクエイク/●バンディット/●ビホルダー/●ソニックブーム/●ヘルカイト

●レイザーエッジ/●インターラプター/●サボター/●クイックシルヴァー/●フロストバイト/●アゴニィ/●レオパルド/●ガントレット/●ヴィトリオール/●ミニットマン

●イクエイション/●テンカウント/●オブリヴィオン/●ビーハイヴ/●バジリスク/●シルバーカラス/●ロード・オブ・ザイバツ/●ダークドメイン/●イグゾーション/●ニーズヘグ

●パラゴン/●スローハンド/○サラマンダー/●パーガトリー/●ヴィジランス/●ブラックドラゴン/●アイボリーイーグル/●レッドゴリラ/●パープルタコ/●アンバサダー

○ディプロマット/●ガラハッド/●ジルコニア/●ミラーシェード/●トゥールビヨン/●メンタリスト/●ワイルドハント/●チェインボルト/●サンバーン/●ブルーオーブ/●ジャバウォック

●ディヴァーラー/●アノマロカリス/●インペイルメイト/●イグナイト/●ガンスリンガー/●コンジャラー●ソルヴェント/●メイガス/●ファランクス/●センチュリオン

●プリンセプス/●ペインキラー/●ボーツカイ/●モスキート/●アガメムノン/●ネヴァーモア/●シズケサ/●シャドウドラゴン/●ドラゴンベイン/●スパルタカス

●スワッシュバックラー/●ミョルニール/●セントール/●フロッグマン/●ノトーリアス/●キャバリアー/●ナックラヴィー/○デスドレイン/●ランペイジ/●シーワーラット

●アコライト/●マニプル/●アナイアレイター/●スーサイド/●フィルギア/●アサイラム/●ネブカドネザル/●ニンジャキラー/●ケジメニンジャ/●イヴォルヴァー

245 ◆tSD.e54zss:2013/01/27(日) 22:19:21
「エンド・オブ・ニンジャ・ロワイアル」#1

重金属酸性雨が降っておらず、慰霊碑が既に撤去されていようとも。それが精巧なイミテーションでしかなかったとしても。
フジキド・ケンジにとって、マルノウチ・スゴイタカイビルとは特別な場所だ。妻子を失い、ナラクをその身に宿し、ニンジャスレイヤーとなった場所。

ネオサイタマの死神。ベイン・オブ・ソウカイヤ。暗黒非合法探偵。ニンジャスレイヤーとそれに付随する様々な憶測、伝説、事実。その全ての物語の、始まりの場所。
脳裏に浮かびかけたあの日の光景を、ニンジャスレイヤーは首を振って頭から追い出す。あの悪夢を忘れたいわけではない。あの絶望から逃げたいわけでもない。

今は悪夢も絶望も必要ない。今はただ、カラテを。やり遂げる力を。「……大丈夫か?」隣に立つシルバーキーが声をかける。
「怖い顔してたぜ。……なぁ、そう難しく考えるなよ。気楽に行こうぜ、気楽にさ。ああ、もちろん気を抜けって言ってるわけじゃあないぞ?そう気負うなってことさ」

そう言って笑うシルバーキーの右腕は見るも無残な有様だ。マニプルの古代ローマカラテにより、骨が完全に粉砕されてしまっているのだ。
ニンジャスレイヤーはシルバーキーの顔を見た。「そう、単純なことだ。ここを終わりの地とする。この悪趣味なイクサと、モーゼズというニンジャのな」

ニンジャスレイヤーは天井を見上げた。シルバーキーもつられて見上げた。倒すべき敵が待つであろう屋上を、外からでは雲に、中からでは天井に阻まれ見ること叶わぬその場所を、見据えた。

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「ふん、まさか元とはいえザイバツのニンジャを背負う羽目になるとはな」マルノウチ・スゴイタカイビル三階。その廊下を三人のニンジャが歩いていた。
とはいえ、実際に歩いているのは二人である。一人は気絶し、別のニンジャに背負われているのだから。

「言っておくが、俺は代わってやらんぞ。カラテが振るえなくなるからな」気絶したディプロマットを背負うアースクエイクにサラマンダーが尊大に告げる。
「わかっている。元よりそのつもりもない……ん?」アースクエイクが立ち止まる。当然、サラマンダーも。

あなたがニンジャ聴力の持ち主なら、たしかに上階でサツバツとしたカラテシャウトとヤクザスラングが響いているのがわかるだろう。
……そして、ここにいる二人のような優れたニンジャ第六感を持つ者なら、さらにその上の階層に存在する、邪悪なニンジャソウルをも知覚しているはずだ。

「ニンジャスレイヤー=サンめ、さっそく始めよったか。それにこれは……奴か」「我が不甲斐なき弟弟子がいつ些細なミスをするとも限らん。さっさと行くとしよう」
「ニンジャスレイヤー=サンが心配か?元ザイバツのグランドマスターともあろう男が過保護なものだ」

「ドラゴン・ドージョーにクローンヤクザ程度に遅れをとるようなサンシタがいるとでも思うたか?」
「ふん、どうだかな。俺がドージョーを襲撃したときは、状況判断さえまともに出来ぬニュービーがゴロゴロしていたが。まあ、それはどうでもいい。……行くぞ」「言われるまでもない」

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246 ◆tSD.e54zss:2013/01/27(日) 22:21:34
マルノウチ・スゴイタカイビル七階!そこでは、サツバツとした殺戮が繰り広げられていた!「「「ザッケンナコラー!」」」「イヤーッ!」「「「アバーッ!?」」」
ニンジャスレイヤーのスリケンがクローンヤクザを三人まとめて貫通!クローンヤクザはその場に折り重なり倒れる!

すると廊下の角を曲がって、四人のクローンヤクザが新たに現れる!「「「「スッゾコラー!」」」」
倒れたクローンヤクザの死体を踏みしめ、新手のクローンヤクザ達はニンジャスレイヤーとシルバーキーに迫る!「イヤーッ!」「「「「アバーッ!」」」」スリケンがクローンヤクザの頭部を貫通!四重殺!

「おいおいおい!いったいどれだけいるんだよ!」シルバーキーが叫ぶ。彼らは数分前からこの主催者が配置したであろうクローンヤクザ達の猛攻を受けているのだ。
一人ひとりは弱くとも、どこからともなく大量に現れるクローンヤクザには、さしものニンジャスレイヤーも手を焼いていた。

「わからぬ。だが、どれだけいようと殲滅するのみ」スリケンを構え、敵の到来に備えながらニンジャスレイヤーが答える。
「俺のジツじゃだめなのか?」シルバーキーのユメミル・ジツはニューロンを焼くことができる。同じDNAから作られたクローンヤクザは同じニューロンを持っており、故にジツで一掃することができるのだ。

「まだだ。今使ってもこの階層にいるクローンヤクザを全滅させられるかはわからん。全てのクローンヤクザを集め、まとめて殺す……イヤーッ!」
曲がり角から顔を出したクローンヤクザの額にスリケンが突き刺さる!「とは言ってもよぉ……このままじゃ」シルバーキーは不安げに呟く。

そう、いくらチャドー呼吸による回復が可能なニンジャスレイヤーといえど、その体力は無限ではない。敵がどれだけいるかわからぬ以上、このままではジリー・プアー(徐々に不利)だ!
「イヤーッ!」そのとき、突如床に大穴が開いた!そしてそこからエントリーしてくるバーガンディ装束のニンジャ!その背には別のニンジャが背負われている!

「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン」「ドーモ、サラマンダー=サン。……アースクエイク=サンは?」ニンジャスレイヤーがエントリーしてきたニンジャ――サラマンダーに問いかける。
「イヤーッ!……あやつなら下でクローンヤクザと戯れている。すぐに合流するだろう。あやつ……結局こいつを俺に押し付けていきよった」

サラマンダーは背中のディプロマットを顎で示した。「それより上だ。デスドレインがこの上にいるようだ。イヤーッ!……動きがないことを見ると、おそらくは待ち構えているのだろうな」
「……デスドレイン」ニンジャスレイヤーの問に答えながら、サラマンダーは時折片腕でスリケンを投擲しクローンヤクザを殺害していく。

デスドレインの所在がわかった今、彼らにとってクローンヤクザはもっとも注意を払うべき問題ではなくなった。アースクエイクの働きによるものか、襲来するクローンヤクザの数が減っているとくれば尚更だ。
「この先妙な動きをされては困る。早急に討つべきだと俺は思うがな……イヤーッ!」

「しかし、このクローンヤクザ達を放置するわけにも……イヤーッ! ……いくまい」「……俺だ。俺に任せてくれ」
その時、それまで黙っていたシルバーキーが口を開いた。「オヌシが?」ニンジャスレイヤーがシルバーキーの顔を怪訝そうに見る。

ニンジャスレイヤーはシルバーキーのジツをよく知っている。その未熟なカラテのワザマエもまた、同様に。
「ああ、俺だ!俺だってニンジャだ、あいつらよりもカラテはできる。それにいざとなったらジツで一網打尽!な?任せてくれよ。……俺なら、大丈夫だからさ」

247 ◆tSD.e54zss:2013/01/27(日) 22:22:42
シルバーキーはまっすぐニンジャスレイヤーを見つめ返す。二人の間を沈黙が支配する。サラマンダーは無造作にスリケンを投げ、クローンヤクザを殺害している。
「……いいだろう」そして、ニンジャスレイヤーが折れた。シルバーキーは顔を綻ばせた。

「決まったか。それでは行くぞ、ニンジャスレイヤー=サン」サラマンダーが上階へと向かう。ニンジャスレイヤーもまた、シルバーキーに背を向け走りだした。
シルバーキーはそれを見送った。ニンジャスレイヤーは階段を登り切る寸前にちらりとシルバーキーを振り返り、上階に消えていった。

「「ザッケンナコラー!」」この階層のどこかからヤクザスラングが聞こえてくる。排除対象を、シルバーキーを探しているのだ。
「へっ、いいぜ。そんなに俺を見つけたいのなら、俺から場所を教えてやるよ。お前たちを倒すのは――」

シルバーキーはニンジャ肺活量を活かし、大きく息を吸い込む。そしてニンジャ声量の限りに、全力で叫んだ!
「――俺だぁぁぁああっ!」「「「「「「ザッケンナコラー!!!!」」」」」」廊下に雪崩れ込むクローンヤクザ!シルバーキーがカラテを構える!未熟ながらも強い意志を秘めた、カラテを!

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八階に上がったニンジャスレイヤーとサラマンダーが見たものは、大量のクローンヤクザの死体だった。
床や壁に残った黒いヘドロや体をあべこべに拗られたクローンヤクザ達の死に様が、それらがデスドレインの仕業であることを如実に語っている。

「あそこか」「そのようだな」ニンジャスレイヤーが指し示したのは、階層の四分の一もの広さを持つ宴会場の入り口だ。
カチグミ・サラリマンが利用することが多いマルノウチ・スゴイタカイビルにおいて、宴会場が巨大なものとなるのは当然のことだ。

宴会とは出世と昇進における重要なファクターであり、宴会芸と呼ばれる古典的芸能が脈々と受け継がれていることからもそれは察することができる。
平安時代のサラリマン達は、自らの宴会芸を高め、またそれを派手なものにするべく広い宴会場を欲したのだ。

つまるところ、宴会場は実際広い。それこそ、ニンジャのイクサですら不自由なく行える程度には。
「ディプロマット=サンはどうする」「外に置いておいてはクローンヤクザに殺される可能性がないとは言い切れん。連れて行くしかなかろう。中ならまだ護ることもできる」

「了解した……イヤーッ!」ニンジャスレイヤーがフスマをトビゲリで破壊し、宴会場へとエントリーする。
続けてサラマンダーが宴会場へと足を踏み入れ、ディプロマットを壁にもたれかからせる。そこは、乱れに乱れていた。美しい墨絵が描かれていたであろうフスマは黒く染まり、壁にかかったカケジクは半ばで破られている。

その下手人は誰か。考えるまでもない。ニンジャスレイヤー達が侵入した位置とは正反対に立つ男。デスドレイン。
「ドーモ、デスドレイン=サン。ニンジャスレイヤーです」「サラマンダーです」圧倒的な邪悪を前にして進み出る、二人のニンジャ戦闘者。その意志は揺るぎなく、カラテの冴えに陰りなし。

248 ◆tSD.e54zss:2013/01/27(日) 22:25:28
臆す事なくアイサツを決めたドラゴンニンジャ・クランのニンジャ達は、油断無くカラテを構える。
「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン、サラマンダー=サン。……アァン?二人だけか?まったく舐め腐ってくれるなァおい。それとも……」アイサツを終えたコンマ1秒後、デスドレインが動く!

「……そのお仲間は動けねぇのかァ!?」囚人メンポから吐き出された暗黒ヘドロが一斉に湧き上がり、数多の筋となって飛翔する。
その狙いはニンジャスレイヤーやサラマンダーではなく、後方の壁にもたれかかるディプロマットだ!彼は度重なるイクサとポータル・ジツの行使によって気絶し、当然回避など不可能!

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーのスリケンが、サラマンダーのチョップが、ディプロマットへと向かうアンコクトンを叩き落とす!
だが、足りない!撃墜を免れた一筋のアンコクトンが、ディプロマットへと接近する!

おお、ナムサン!このままディプロマットはアンコクトンにより拗られ、潰され、惨たらしく殺されてしまうというのか!?
「イヤーッ!」答えは否!見よ、ディプロマットの前に回転ジャンプで降り立った巨漢のニンジャを!「スマン、遅れたな。……イヤーッ!」

そのニンジャが繰り出した裏拳は正確にアンコクトンを打ち、壁へと吹き飛ばした!ゴウランガ!
これこそがビッグニンジャ・クランのソウルを憑依させたニンジャのニンジャ筋力のなせる技であり、シックスゲイツが一人、アースクエイクのカラテのワザマエなのだ!

「ふん、俺はお守りではないのだがな……。ドーモ、デスドレイン=サン。アースクエイクです」未だ横たわるディプロマットを横目で見ながら、アースクエイクはアイサツした。
そしてそのまま、その場でのカラテ警戒へと移行する。その視線が、一瞬ニンジャスレイヤーとかち合った。両者は無言で頷いた。

「あー、ドーモ、アースクエイク=サン。デスドレインです。……なンだよ、つまらねぇなァ」デスドレインは苛立ちを隠そうともせず、オジギした。
その周囲には弾かれたアンコクトンが集まり、煮えた重油めいて泡立っている。「まぁいいや。どうせ全員殺すんだからよォ!」デスドレインが叫ぶ。その言葉を皮切りにアンコクトンが、爆ぜた!

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(……感謝する)無言で頷きながら、ニンジャスレイヤーは心の中でオジギした。何に?アースクエイクに。
動けぬディプロマットのために護衛を買ってでた、かつての怨敵に。不思議なものだ、とニンジャスレイヤーは思う。

センセイと共に自らの手で殺害したかのソウカイニンジャとこうして共闘することになるとは、ニンジャスレイヤーもアースクエイクも、おそらくはブッダさえも予想していなかっただろう。
しかし、一度イクサで直接カラテを交え、そのワザマエを知っているからこそ、ニンジャスレイヤーは迷いなくディプロマットの護衛をアースクエイクに託すことができる。

まさにサイオー・ホース。そしてそれは、隣に立つサラマンダーにも言えることだ。サラマンダーがこの殺し合いの中で何を経験し、どのような心境の変化があったのかはわからない。
ただ一つ言えることは、ロードの死によりキョジツテンカンホー・ジツを脱したサラマンダーが、センセイとのイクサの果てにドラゴン・ドージョーを継いだということだ。

249 ◆tSD.e54zss:2013/01/27(日) 22:27:18
ニンジャスレイヤーは彼らのイクサを見届けた。サラマンダーのチョップがセンセイを両断するその瞬間を、見届けた。
おそらくはイクサの最中に何らかのインストラクションが行われたのだろう。センセイとのイクサを終えたサラマンダーは、ザイバツ・シャドーギルドのグランドマスターではなく、ドラゴン・ドージョーの後継者としてそこに存在していた。

「来るぞ、ニンジャスレイヤー=サン。ぬかるなよ」「無論だ」サラマンダーの声に、ニンジャスレイヤーが答える。
短い、ごく短いやり取りだ。しかし、その中にある信頼はどれほどのものであろうか。同じ師を持ち、同じカラテを学び、同じインストラクションを授かった。だが、一度は道を違え、イクサの果てに一方が勝利し、一方が敗れた。

そんな二人が師の遺志を継いで、意志を同じくして、共に並び立っている。敵はデスドレイン。邪悪なニンジャだ。
強力なジツも備えている。だが、それがどうしたというのだ。兄弟子と弟弟子、カラテにカラテをかけて100倍。越えられぬ壁など、討てぬ敵など、あるはずもない!

「まぁいいや。どうせ全員殺すんだからよォ!」デスドレインの叫びと共に殺到するアンコクトン!
ニンジャ動体視力をもってしても数えるのに難儀するほどに枝分かれしたアンコクトン、その全てが四方八方からニンジャスレイヤーとサラマンダーに襲いかかる!

「イヤーッ!」対するサラマンダーは地を叩き、周囲のタタミを浮き上がらせた!タタミで何をしようというのか!?答えはもちろん、カラテだ!
「「イヤーッ!」」唱和する二人のカラテシャウト!浮き上がったタタミに渾身のダーカイ掌打だ!SPAAAAAM!奇妙な衝撃音と共に、前方のアンコクトンが全て弾け飛ぶ!

ゴウランガ!これはまさにマスタータタミことソガ・ニンジャが、そしてロード・オブ・ザイバツが得意とした衝撃伝達カラテの再現!
前方のアンコクトンが消え去り、道が開ける!デスドレインへと繋がる、その道が!ニンジャスレイヤーは、サラマンダーは駆ける!

側面から襲い来るアンコクトンを弾き、躱し、少しずつ、しかし確実に距離を詰めていく!
「イヤーッ!」そしてついに、サラマンダーが背後に回ったアンコクトンを蹴り、反動を推進力に変えて前方へと跳んだ!その先には当然デスドレイン!「大人しく死んどけよ、なぁ!」

デスドレインはアンコクトンを盾めいて凝縮!オミヤゲストリートでのダークニンジャとのイクサで見せたアンコクトンによる防御体勢をもって、サラマンダーのカラテに備える!
一方のサラマンダーは空中で極限まで身を捻る!上体がほとんど真後ろを向き、右腕が異様な緊張状態と化す!

ゴウランガ!これはまさしくタタミ・ケンではないか!?そう、我々は知っている。インターラプターの切り札であるこのカラテを。
サラマンダーがかつてインターラプターの絶対防御カラダチを使ってみせたことを、知っている!ならば、サラマンダーがこのカラテを使えぬ道理など、ない!

「ハイーッ!」サラマンダーが叫ぶ!サラマンダーの全ニンジャ筋力をもって放たれたタタミ・ケンが、アンコクトンの盾へと振りぬかれる!
「「グワーッ!?」」悲鳴が……二つ!?いったい何が起こったというのか!?仰け反り、たたらを踏むデスドレイン。その周囲に盾となっていたアンコクトンは存在しない。

サラマンダーのタタミ・ケンにより、形を保つことさえ許されず四散したのだ!では、サラマンダーは?……おお、ナムサン!地に臥し吐血しているではないか!
サラマンダーのタタミ・ケンはたしかに強固なるアンコクトンの盾を破った。だがそれと同時に、サラマンダーは頭上から襲いかかったアンコクトンにより、地へと叩きつけられていたのだ!

250 ◆tSD.e54zss:2013/01/27(日) 22:29:07
デスドレインはオミヤゲストリートのイクサにて、アンコクトンが絶対無敵ではないことを知った。アンコクトンの守りは、研ぎ澄まされたカラテの前には屈するのだと知った。
だからこそのクロスカウンター。カラテを受けきったのちの反撃ではなく、防御を薄くしててでも同時攻撃を選んだのだ!

デスドレインとてニンジャだ。そのニンジャ判断力は実際見事!「へへッ!まず一人ィ!」……そう、これが一対一のイクサであったならば!
赤黒の風が、疾る。その接近に気づいたデスドレインが迎撃のアンコクトンを練り上げるよりも早く。サラマンダーを叩きつけたアンコクトンが彼をカイシャクするよりも早く。

ニンジャスレイヤーは、兄弟子が切り開いた道へと風の如き疾さで駆け込んだ。「……ふざけンな」デスドレインが鍛錬すらしたことのないカラテで迎撃を試みる。
遅い。そして弱い。「ふざけンなよ」鈍化した時間の中で、ニンジャスレイヤーはデスドレインのヤバレカバレなチョップをいとも簡単に回避する。

「……何なんだよ!お前――」パァン。四重一音の打撃音が響く。両手を広げ着地するニンジャスレイヤー。崩れ落ちるデスドレイン。力を失い分解されるアンコクトン。
チャドー暗殺拳奥義、アラシノケン。完全な体勢から完璧なタイミングで放たれたそれは、デスドレインの体内を尽く破壊し……ワッザ!?


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「まぁいいや。どうせ全員殺すんだからよォ!」デスドレインの声が響く。こうして護衛に来たはいいが、おそらくもうデスドレインがディプロマットに攻撃を仕掛けることはないだろう。
そうアースクエイクは黙考する。アンコクトンをけしかけた所でアースクエイクがそれを弾くのはわかりきっているし、何よりあの二人がそのような暇をデスドレインに与えるはずもない。

シルバーキーがこの場にいないことは気がかりだが、下階のクローンヤクザの死体を見る限りではおそらく下に留まっているのだろう。
ならば今は気にしてもしょうがないことだ。「そんな風に寝ておらずに、アグラでもしたらどうだ。目は覚めているのだろう」

黙考しながらもカラテ警戒の構えだけは崩さずに、アースクエイクはディプロマットに声をかける。
「……ん」力なく横たわっていたディプロマットが、難儀そうに体を持ち上げる。

「このイクサにどれほどの時間が掛かるかはわからんが、少なくともこれで終わりではない。少しでもカラテを回復させておけ。お前の出番は必ずやってくる」
「……ああ、そうだな」ディプロマットはアグラした。彼が担うべき仕事――彼の最期の仕事に、思いを馳せながら。

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251 ◆tSD.e54zss:2013/01/27(日) 22:31:05
「アバッ……アバッ……」デスドレインが、起きる。起き上がる。体のいたるところから血とアンコクトンを吹き出しながらも、ゆっくりと、しかし確実に体を起こしていく。
そして、立ち上がった。チャドー奥義アラシノケンは、完全成功時に相手の体内の尽くを破壊する。

四度の打撃によるカラテ衝撃力が体内で衝突し、内的爆発によってズタズタに破壊するのだ。故に、必殺。ロード・オブ・ザイバツですら即死と行かぬまでも数分で絶命するところまで追い込んだ、奥義の中の奥義。
ニンジャスレイヤーが持ちうるカラテの中でも最強最大の殺傷力を持つそれを受けてなお、デスドレインは立ち上がった。

デスドレインの体の大半が連戦によってアンコクトンに置き換わっているというのも理由の一つだろう。
デスドレインが攻撃を受けたその瞬間に本能的に体の一部のアンコクトンを流失させ、完全な形の内的爆発を避けたというのもそうだ。だがしかし、それらはあくまで理由の一部分でしかない。

真にデスドレインを生き長らえさせたもの。それはあまりにも強い生への執着。
無数のモータルとニンジャを何の良心の呵責も無く殺しておきながら、自らは死にたくないと臆面もなく叫ぶ、身勝手極まりない生きることへの渇望。それをニンジャ生命力が後押しし、必殺を受けてなお死なずその体を動かし続ける。

「ガイオン……ショージャノ……カネノオト……」デスドレインが、あるいはダイコク・ニンジャが呪詛を吐く。生きようと、死ぬまいと、必死の抵抗を試みる。
その身からアンコクトンを染み出させる。だがしかし、それだけだ。必殺を受けて死なないということは、必ずしもこの場を切り抜けられるということを意味しない。

「サラマンダー=サン!無事か!」「当然だ」ニンジャスレイヤーの呼びかけに答え、サラマンダーもまた立ち上がる。
そして、二人のドラゴン・ドージョーの戦士は目を閉じる。「「スゥー……ハァー……」」それは厳かな、そして神聖なチャドー呼吸のユニゾン。

『チャドー。フーリンカザン。そしてチャドー』センセイのインストラクションが、弟子たちの脳裏に、心に響く。「ショッギョ……ムッジョノ……ヒビキアリ……」
アンコクトンが動き出す。それ自体が意志を持っているかのように、ニンジャスレイヤーを、サラマンダーを狙う。

ニンジャスレイヤーは目を開いた。そして駆け出した。デスドレインの周りを、高速で旋回する。では、サラマンダーは?
……見るまでもない。既に彼らの心はセンセイの教えと、そしてカラテで繋がっている。強い絆を持つテニスの達人たちが窮地において同調するように、お互いの意図など、なすべきことなど、既に理解している!

「オゴレルモノ……ヒサシカラズ……」アンコクトンが獲物を追う。だが、捉えられない。避けられるわけでも、弾かれるわけでもない。
ただ、二人のニンジャがハヤイ!ハヤイすぎるのだ!アンコクトンを置き去りにし、旋回を終え、デスドレインに向かって走る二人の……否!二匹のドラゴンが今、天を駆ける!

かつてはセンセイと二人で。その後は一人で。そして今は、兄弟子とともに!ドラゴン・トビゲリ!
「「イイイイイヤアアアアアアアーッ!!」」「グワーッ!」トビゲリがデスドレインの頭部を捉え……その首を捻り切る!宙を舞うデスドレインの頭部!さしものデスドレインもこれで終わりか!?

……いや、まだだ!未だ地に立つデスドレインの肉体、その首の断面からアンコクトンが伸び、空中のデスドレインの頭部と繋がる!コワイ!
まだ生き足りないと、殺し足りないというのか!なんという、なんという執念か!そしてトビゲリを終えた直後のニンジャスレイヤーとサラマンダーは、これを阻止することができないのだ!

252 ◆tSD.e54zss:2013/01/27(日) 22:32:32
アンコクトンが頭部を引き寄せる!デスドレインが復活するのを、黙ってみていることしかできないというのか!「イヤーッ!」その時、飛来した物体がアンコクトンを断ち切った!アースクエイクが投擲した相棒の、ヒュージシュリケンの巨大スリケンだ!

そして再度宙に浮いた頭部に向かって飛び込んできたのは……アグラによりカラテを回復したディプロマット!万全には程遠いカラテを振り絞って両手をかざす!「イヤーッ!」デスドレインの頭部が展開されたポータルに飲み込まれ、消えた!そのままディプロマットは残されたデスドレインの体を蹴り、バク転して着地する。

デスドレインの体がゆっくりと倒れる。そして、アンコクトンを撒き散らしながら爆発四散!これが邪悪なる大量殺戮ニンジャ、罪を罪とも思わず、自らの欲求を満たし続ける犯罪者、デスドレイン――ゴトー・ボリスの最後だ!驕れる者は久しからず!インガオホー!インガオッホー!

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その後、彼らはクローンヤクザを殲滅し終えたシルバーキーが帰還するまで、暫くの休息をとった。白い壁に黒いアンコクトンが付着した邪悪でありながらもゼンめいた空間で、彼らはザゼンした。サラマンダーの背中の傷はチャドー呼吸により癒えるが、ディプロマットの方はそうもいくまい。

タイムリミットが迫りつつあるこのイクサにおいて、その休息の時間は侵されざるべき貴重なものだった。「……すまない」シルバーキーが帰還した数分後、ニンジャスレイヤーが突如口を開いた。ディプロマットへと向けた言葉だ。「すまない。このような役目を、オヌシに背負わせることになってしまった」

「……いいさ、そんな気はしていた。もとよりキョート城で捨てたのをあんたに拾われた生命だ。今更惜しみはしないさ」ディプロマットは笑った。「……それに、俺がそばに居てやらないと、弟が悲しむだろうからな。さあ、もう時間に余裕もない。……始めよう」

その場にいた全員が立ち上がる。ディプロマットは全員の顔を見回した。ニューロンに、心に刻み付けるように。「さらばだ、ニンジャスレイヤー=サン。サラマンダー=サン。アースクエイク=サン。シルバーキー=サン。……イヤーッ!」ニン010101レ0101010101オ10101010101010101010101

010101010101010101010101010101010101010101010101001101001100010100101010100コ10101空0010100010100101100100101001010010101010010100101010101010101010101010101010101イ010010ター101010101010101010101001010100101010100101010101010010101010101010010101010101010101010101010010101


【デスド0101ン 死亡】
【ニ01ジ0101レ01ヤ01 0101】
【01ラ010101ー 0101】
【0101スク0101ク 0101】
【シルバーキー 0101】

【バトルロワイアル 終了】


【優勝者 ディプロマット】

「エンド・オブ・ニンジャ・ロワイアル」#1 終わり #2 に続く

253 ◆tSD.e54zss:2013/01/27(日) 22:32:57
以上で投下は終了です

254名無しロワイアル:2013/01/27(日) 23:49:09
>>253
アイエエエエ!?
ナンデ?ニンジャナンデ!?

ニンジャスレイヤーの狂った言語センスをそのまま再現するとはw

255 ◆rjzjCkbSOc:2013/01/30(水) 00:12:35
謎ロワ299話投下します

256299:EXTRA Stage ◆rjzjCkbSOc:2013/01/30(水) 00:13:03



――――11:06:01
――――鉄塔:上層付近





「何故、生きてるんだ……?」

 意味が分からない、と言った口調で、阿部さんが呟く。
 死んだと思っていた人間が、目の前に立っていれば、誰だって混乱するだろう。

「まさか、死んでなかったのか……?」

 そんなはずはない。
 数時間前、阿部さんは吾作の遺体を目撃したのだ。
 その際、生死も確認した。
 ……その際、"本当に"死んでいる事も、確認した。
 だが、そんな吾作が、立ち上がってここに来ている。
 阿部さんと先生、2人の頭には、1つのワードが浮かんでいた。




 ――――どういうことなの……。




 そんなことを考えている内に、吾作は刀を抜く。
 その刀はかつて闇人をも斬り倒した事のある刀、"焔薙"であった。
 それを、闇人と化した吾作が振るうとは……。

257299:EXTRA Stage ◆rjzjCkbSOc:2013/01/30(水) 00:13:22

「……どうやら、やる気満々のようだな。こっちも、ヤる気で行かないとヤバいぜ!」
「ええ……分かってます!」

 先生は、未だ慣れない手つきで銃を構える。
 阿部さんは、ツナギのチャックをギリギリの所まで下ろす。
 ジリジリと、お互いがお互いの出方を窺っている。
 ……下手に動けば、やられる。
 阿部さん、そして先生は今までの戦いの中で得た"経験"から。
 吾作は、未だ微かに残る、パンツレスラーであった頃の"経験"から。
 その答えを、導き出していた。

「……!」

 それを、荒々しく破ったのは、吾作だった。
 大胆にも刀を上段に構え、一気に振り抜く。
 だが、阿部さんの持つ"電光丸"が、自動的に攻撃を防ぐ……!
 ……だが、攻撃を防いだせいで、微量に残っていたバッテリーが、底を尽きた。

「そんなもの振り回しちゃあ……危ないだろうッ!」

 役に立たない電光丸を放り投げ、怒りの籠った鉄拳を、的確にお見舞いする。
 ……忘れられがちではあるが、阿部さんの本職は、自動車整備工だ。
 連日、ハードワーク(意味深)をこなしていたお陰で、体は、自然と鍛え上げられていたのである!
 そんな、とてつもない肉体から繰り出されるパンチは、やはりとてつもないものであった。
 元パンツレスラーであった吾作も、この打撃の嵐には、なす術もなく打ちのめされるばかり。
 ……だが、それはあくまで表面上の事。
 幾ら強いとは言え、所詮は拳での殴打。倒すまでには、至らない。
 それは、阿部さんも十分分かっていた。

「阿部さん……!」
「分かってる。これからが本番だ! ――――破アッー!」

 気合いの入った声と共に――――阿部さんの股間から青白い光弾が!

258299:EXTRA Stage ◆rjzjCkbSOc:2013/01/30(水) 00:13:45

「――――ッ!!」

 いろんな意味で予想外だったのだろう。
 高速で飛来する光弾に、吾作は何も出来ずにただ食らってしまった。
 あまりの威力に少し後ずさるも、すぐに体勢を立て直す。
 ……光弾の当たった場所からは、シュウシュウと煙のような物が上がっている。
 だが、大した痛手にはなってはないようだ。
 現に、吾作の顔は、依然生きていた時のような笑顔を浮かべている。

「これで終わりじゃないぜ?」

 しかし、阿部さんは怯まない。
 それどころか、この状況を楽しんでいるようにさえ見える。

「……!?」
「良かったのか、ホイホイ勝負を仕掛けて」

 気がつけば、吾作の背後には阿部さんが。
 残った片腕で、吾作のズボンを下ろす。

「俺は、闇人だって構わないで食っちまう人間なんだぜ?」

 吾作の下半身は、既に無防備。
 それを確認してから、阿部さんのツナギのチャックが下まで下ろされる。
 ……こうなってしまった以上、もう、吾作の運命は決まったようなものである。
 ――――そして、運命の瞬間が訪れた。

259299:EXTRA Stage ◆rjzjCkbSOc:2013/01/30(水) 00:14:14





「  あ  お  お  ー  っ  !  !  」





 吾作の叫び声が、辺りに響く。
 色々な意味で言葉に出来ない光景に、先生は思わず目を背ける。

「別に、苦しめたい訳じゃないからな。すぐに終わらせてやる……」

 そう言い終わるか終わらないかの内に……阿部さんの腰辺りに、力が集まっていく。
 ……一撃で、終わる。
 お互いが、それを実感していた。

「しっかり、ケツの穴を締めておけよ?」

 阿部さんの手に、力が籠る。
 がっしりと腰を掴んで、逃がさないように。
 最初から、手加減する気はない。
 下手に手加減すれば、余計に苦しませるだけだから。





「破アッ――――!!」

260299:EXTRA Stage ◆rjzjCkbSOc:2013/01/30(水) 00:14:51





 ――――迸る光。そして、そこに溶けてゆく、吾作。





「か、に…………アッ――――!!」





 吾作は見た。
 いつも変わらない笑顔で、自分を待ってくれる兄貴を……。
 ――――吾作、だらしねぇな。もう一度、俺とレスリングだ。
 そして、吾作は……笑顔のまま、消滅した。






【鎌田吾作@本格的 ガチムチパンツレスリング 消滅】

261299:EXTRA Stage ◆rjzjCkbSOc:2013/01/30(水) 00:15:33







 終わった。
 かつて吾作のいた場所には、焔薙が、ただ残されているだけ。
 それを、阿部さんは拾い上げる。

「……そろそろ行かねえとな」

 空を見上げて、2人は歩き出す。
 ――――全てを、終わらせる為に。





【離島線四号基鉄塔・蜘蛛糸・上層付近/午前】
【阿部高和@くそみそテクニック】
[状態]:右腕消滅(処置済み)、疲労(中の上)、いい男、寺生まれの力(残り57%)
[装備]:TDNアーマー@本格的 ガチムチパンツレスリング、焔薙@SIREN2
[所持品]:支給品一式、くりまんじゅう@ドラえもん、葉巻@MGS3、火掻き棒@SIREN、
     きせかえカメラ@ドラえもん、兄貴のジーンズ@本格的 ガチムチパンツレスリング、
     フォトンブレードPG@龍が如く4、釘バット@SIREN2、コート@かまいたちの夜3
[思考]
基本:"ウホッ!いいエンド"で全てを終わらせる
1:Kさん達の所に行こう
※寺生まれの力を受け継いでいます
※フェアリーナイトメアを習得しました

【スペランカー先生@スペランカー先生】
[状態]:ボロボロ、残機:0
[装備]:シングルアクションアーミー(2/6)@MGS3
[所持品]:支給品一式、ステルス迷彩(残り使用時間:36秒)@MGS3、がんじょう(残り1個)@ドラえもん
[思考]
基本:死なないように、生きて帰る
1:Kさん達の所に、行きましょう
※闇人の対処法を知りました

262299:EXTRA Stage ◆rjzjCkbSOc:2013/01/30(水) 00:15:44
投下終了です

263 ◆rjzjCkbSOc:2013/01/30(水) 00:21:48
状態表にミスがありました

[状態]:右腕消滅(処置済み)、疲労(中の上)、いい男、寺生まれの力(残り57%)



[状態]:右腕消滅(処置済み)、疲労(中の上)、いい男、寺生まれの力(残り42%)

に修正します

264 ◆uPLvM1/uq6:2013/01/30(水) 18:03:27
とりあえずテンプレだけ投下しておきます。

【ロワ名】変態ロワ
【生存者6名】
・クマ吉@ギャグ漫画日和
・亀仙人@ドラゴンボール【右腕使用不可】
・ふんどし仮面@銀魂【限界寸前】
・マクシーム・キシン@悪魔城ドラキュラ
・安錠春樹@新米婦警キルコさん
・ムッツリーニ@バカとテストと召喚獣【フラッシュバックによる無力化の可能性】
【主催】裁判長@逆転裁判【洗脳されている】
【主催者の目的】変態共に死刑を執行する
【補足】
・会場は悪魔城の中、裁判長は悪魔城の最上部にいます。
・キシンはマーダー。それ以外は対主催です

265 ◆xo3yisTuUY:2013/01/30(水) 21:18:16
はじめまして。
今日はテンプレだけということでご勘弁を。

【ロワ名】「日常の境界ロワ」

【生存者6名】1.阿部高和(くそみそテクニック)【限界寸前】 
       2.漆原るか(STEINS;GATE)【フラッシュバックによる無力化の可能性】
       3.藤堂晴香(寄生ジョーカー)【右腕使用不可】 
       4.真紅(ローゼンメイデントロイメント) 
       5.水瀬伊織(アイドルマスター) 
       6.鯨(グラスホッパー)
【主催者】藤堂奈津子(寄生ジョーカー)
【主催者の目的】最終優勝者(最も過酷な生存に適する者)を苗床とした寄生生命体の創造。
【補足】首輪のかわりに、参加者の体内に72時間で発現する寄生体の核が投与されており、それが実質的なタイムリミットとなっている。
    優勝者への褒賞は、賞金のほか、ただひとつしかないその抗体とされている。


まっすぐで、凝りすぎないロワという感じで行こうかと思います。

266 ◆xo3yisTuUY:2013/01/31(木) 23:52:19
「日常の境界ロワ」 298話投下します。

267【298話:それはのばらのように】  ◆xo3yisTuUY:2013/01/31(木) 23:54:09


 決着は、一瞬だった。
 それも当然、といえばそうかもしれない。
 方や、満身創痍の身体に鞭打ち、欠けたナイフと己の身体を弾丸にして挑んだ男。
 方や、数々の修羅場を潜り抜けて来た、ライフル装備の大男。 
 銃撃を受けきってでも相手に切り込む覚悟だったというのに、その銃撃さえ無くても、前者の渾身の一撃は、後者には届かない。
 勢い込んだその腹に、鋭く膝を蹴りこまれて、男は無残に地面に転がった。
 ――交錯は、一瞬だったのだ。

 敗北、か。仰向けに倒れたまま、男は宙を見上げた。ビルの無機質な天井が、随分と遠く見える。
 彼――阿部高和の身体は、限界をとうに超えていた。
 ほぼ三日間の不眠不休に加え、幾度も繰り返された強敵との死闘は、彼の命を確実に削ってきていた。
 身体は磨耗し、精神は磨り減り、それでも倒れることなく進み続け――
 ――つい先ほど、友の命と自身の身体を犠牲にして、このゲームの最悪の“切り札”を沈めたばかりなのだ。
 
 青いツナギは血の斑に染められ、身体中痛くないところが無いというほどに怪我だらけだ。
 立ち上がることもできず、自慢の息子もピクリとも勃ち上がらない。
 ――なるほど。これが俺の死か。
 阿部は、どこか冷静に、それを受け入れていた。
 あいつを――伊織を逃がすために、こいつに単身挑んだときから、覚悟はできていたのだ。
 勝ち目など無かった。そんなことは、出会ったときから知っていた。
 だが悔しさは無い。これだけの時間が稼げれば、あいつは上まで上れただろう。
 その先に何が待っているかはわからないが、今のあいつなら、それを乗り越えることができるだろう。

『いいこと、死ぬなんて許さないから。死んだりなんかしたら殺すわよ!』

 脳裏に彼女の声が浮かんで、くく、と阿部は笑う。
 彼女の声は厳しい言葉でも甘ったるく、ひどく脳裏にこびりつく声だ。だがまさか死に際にまで、脳内で聞こえてくるとは思わなかった。
 あれは相当のじゃじゃ馬だが、確かにいい女だ。男を手玉に取るには、些か幼なすぎるが――。
 あれの未来を、少しだけでも見てはみたかったが。
 そんな感傷は俺には不似合いだろうけどな、と阿部はまた笑った。

 あいつの言葉を裏切ってしまうのは、漢の美学に反するが――だが、それもまた仕方のないことだ。
 今まで思っていたよりもずっと、死は心地いい。
 やりきった感情すらある。イッた後のように、精神も清んでいる。
 性欲に任せた人生でもあったが、ここらで幕引きなのもまた運命だろう。
 あとはあいつらの無事を祈りながら、走馬灯に意識を委ねるのも、悪くないかもしれない――。

 そう、思っていた。

268【298話:それはのばらのように】  ◆xo3yisTuUY:2013/01/31(木) 23:54:56

 そんな阿部の顔を、鯨が覗き込んできた。
 卵が孵化するのを待ち侘びるかのように。阿部の死を見届けるためだろうか。
 黒いシルエットのように、彼の顔は照明の影となっていて表情が見えない。
 だがそれは、まるで深淵に覗き込まれているかのような――
 
 突如、阿部の脳内に流れ込んでくる、走馬灯とは違う映像。
 心地よい回想が突如として濁っていく。視界までもそれに侵されていく。
 泥のようなものに塗りつぶされていくように、思考がそれに支配されていく。
 それは怨念であったり、憎悪であったり、恐怖、嫉妬、――絶望。
 自身の人生から、幸福だけを取り除いた出涸らしのように、無造作で無機質な負の感情の塊。
 自分の前で死んでいった者たち。自分が殺した者たち。自分の手が届かなかったものたち。
 そういったものの、見えるはずもない感情が形を持って渦巻いて、曖昧ながらも明確に、色を持ち、脳内から心へと押し寄せる。
 亡者たちが、地獄の底から手を伸ばし、自分を絡め取り引き摺り落とそうとしているような。
 それは、生きようとすらしていない自分を、さらに死へと駆り立てるような。
 現実で感じるすべての感情を否定し、死という安楽へ逃げ込みたくなるような。
「――人は誰でも、死にたがっている」
 感情が、生存本能へ反乱を起こしているかのような――。

「これ、か」
 阿部は、呻いた。
「雪歩をやったのは、これか」
 脳内の映像を掻き消そうともがきながら、呻くように言葉を搾り出す。
 閉じかけていた目を見開き、自分を見下ろす男に、憎悪の篭った視線を遣る。
 確信があった。あの時、あの僅かな時間に、あの臆病な少女に自らの死を選ばせたのは、きっと、この感情に他ならない。
 それを駆り立てているのは、間違いなく、この男なのだという、確信が。

「雪歩という者は知らない。だが俺の前で命を絶った、雪の似合いそうな女はいたな」
 阿部を見下ろす鯨は、こともなげに答えた。
 特に感慨も無く、その死に思い入れも無い、そういった口ぶりだった。
「――そうか」
 阿部は、再度呻いた。語尾が震えた。

「俺は、お前を探していたぞ」
 倒れたままの、阿部の声が一段と低くなる。
 唸るような、目の前の敵を噛み殺してやりたいとでも言いたげな、野獣の声になっていた。

269【298話:それはのばらのように】  ◆xo3yisTuUY:2013/01/31(木) 23:55:30

「俺が離れたわずかのうちに、雪歩を自殺に追い込んだ奴をな。
 あの臆病な子に、自分を殺すなどと出来る筈も無いだろうよ。
 殺すこと、死ぬことだけでなく、人を傷つける事すら恐れていた、ただの少女にそんなことがな。
 俺は探していたんだぜ。直接手を下さず、人を自殺に追い込むことができる能力者ってやつをなぁッ!」
 阿部が感情を剥き出しにして吼える。
 押寄せる絶望の波に打ち勝つように、ただひたすら目の前の存在に対しての憎悪を顕にする。
 身体が動いたのならば、一切の箍を外してでも、目の前の男を殴っていただろう。
 雪歩の無残な死体を抱いて慟哭した、あの時の誓いを無かった事にするなど、できるものか。

「俺には確かに、もうお前を殺すだけの力は残っていない――。
 だが同時に、自らを殺すだけの力も無い。だからこの、お前の能力は俺には無意味だ。
 むしろ俺は感謝したいぐらいさ。こんな感情を蒸し返してくれてよ。
 この生きた怒りって感情をな……」
 入らない力を無理やりに込めて、拳を握る。
 先ほどまでの、緩やかな死を望んでいたことがただの気の迷いであったと、自分に言いたかった。
 そんな恥があってたまるか。
 こいつを目の前にして諦める事は、それこそ、こいつの能力の結果で自殺することと何も変わらない。
 俺の人生のケツが、そんなシマりの悪いことでたまるものか。
 
「――俺はゲイだぜ」

 唐突に、宣言した。

「生産的じゃない存在さ、殺し屋のお前と同じじゃないの」
 鯨の表情は変わらない。だが、お前と一緒にされたくはないという感情はあるはずだ、と阿部は感じていた。
 満身創痍、喋るだけの体力も気力も無いはずなのに、言葉だけは次々に溢れてくる。
 この期に及んでも俺は絶倫ってことかい。阿部はまた一人で嗤った。

「異端者だぜ。虐げられもしたさ。だが俺は強く生きたぞ。薔薇の魂を持ってな。
 知ってるかい。のばらってのは、束縛への反乱の象徴でもあるってね」
 綺麗な薔薇――とは言えないが、薔薇に象徴される、阿部の人生はそういうものだった。
 薔薇色とも言い難いが、決して不幸な人生ではなかった。

「俺の薔薇はここで枯れちまうかもしれないね……だが枯れない薔薇だって、俺は知っているんだぜ」
 鯨が、相も変らぬ醒めた表情で阿部を見下ろしている。阿部は、皮肉めいた笑みを彼に見せた。
 鯨がそれでも阿部を殺そうとしないのは、彼が自殺を見慣れすぎているからだろうと思う。
 死を前にした人間が饒舌なのは、彼が一番よく知っている。喋るのをやめたとき、自分が死んでしまうと思い込んでいるのだと。

270【298話:それはのばらのように】  ◆xo3yisTuUY:2013/01/31(木) 23:57:03

「薔薇の誇りは、そう簡単に、傷つけさせられるものじゃないぜ――!」

 阿部の声が一際大きくなった。
 刹那、鯨の表情が僅かに歪み、突然身を捻るように仰け反る。
 一瞬遅れて、その場を疾風のような刃が掠めた。
 鮮血が飛ぶ。鯨の巨体の肩口に、鋭く斬跡が入る。

「ちっ……見破られたか」
 阿部が呻く。
 彼が喋り続けていたのは、それから意識を逸らさせるためであった。
 だがこの相手は、プロだ。だから、それに気付いたのだろう。

 紅い人形が、僅かに血の光沢の残った刀を翻して、鯨に迫る。
 鯨はライフルを大きく後ろ手から回し、素早い動作で人形に照準を合わせた。
 ハッと身体を固くしたその人形の一瞬の隙に、鯨は銃撃を加えることなく、大きく飛び退いた。
 奇襲を受けた時は、迎撃に徹するのではなく、その場を放棄して退却し、態勢を整えるのが、殺しを生業とする者達の鉄則だ。
 鯨は、その巨体に似合わぬ素早い動作で、階段へ続く通路へと身体を翻した。

 紅の人形――真紅は、それを追い大地を蹴る。
「追うな、やつはプロだ」
 阿部の一声に、真紅は足を止めた。阿部に振り向きはせず、背中を見せたまま、鯨の消えた通路を睨んでいる。
「そうね。ただ私も、ある意味プロなのだけど?」
「奴は――戦いのプロというよりは、殺しのプロだ。いや、死のプロ、か。
 逸っても、いいことは無いぜ」
 
 倒れたままで説教とは情けないがね、と阿部はぼやくように言った。
 真紅は嘆息する。

「まぁ、あの子を置いてもいけないし、貴方の言うとおりだわ。
 るか! 大丈夫よ、来なさい」

 真紅が声をかけると、下の階段から、漆原るかが恐る恐ると顔を出す。
 奇襲を仕掛ける以上、身軽な自分が一人で戦ったほうがいい。真紅はるかを、そう諭して待たせてあったのだ。
 尤も、彼女自身の実力はともかく――彼女が武器と言って憚らない、あのレプリカの刀では戦力とも言い難いというのが、本心のところであったのだが。

「あいつはどうやら次の階へ逃げたみたい。待ち伏せしているのかもしれないから、油断はならないわね」
 阿部に背中を向けたまま、真紅は階段の向こうから視線を外さない。
「逃げた、とは極めて主観的だが――まぁこの階から消えたのは間違いなさそうだな。
 だが、その先に水瀬伊織が――行っている。すまないが、追いつかれる前に、頼む」
「――伊織。ああ、容姿は、人から、聞いているわ。了解よ」
「ひとつ、気をつけてくれ。あいつに意識を傾けすぎるな。奴の目の前では、死に――駆り立てられる」
「自殺させる能力者、だったかしら。それも、他の子から聞いたわ。
 死の色が、あまりに濃すぎる人。傍にいるだけで、『死に近くなる』って――。
 でも――。大丈夫。それに引き摺り込まれたりしないわ」

271【298話:それはのばらのように】  ◆xo3yisTuUY:2013/01/31(木) 23:57:42

 ようやく阿部の傍に辿り着いたるかが、阿部の身体の無残な怪我に思わず息を呑み、眼を逸らす。
 生きているのも不思議に見えるというのに、どうして彼は喋り続けることができるのだろう。
 僕を見て、どうして目を輝かせたりしたんだろう、などと考えていた。
 ――知らぬが仏、である。

「あの、ええと……大丈夫、なんですか」
「阿部、だ」
 阿部は、深く溜息をつく。
「だが大丈夫じゃ、ないな」
「悪いけど、手の施しようも無いわ」
 阿部に同調するように、真紅も容赦なくも思える一言を呟いた。 

「そんな……なんとかならないんでしょうか。
 僕はもう、誰にも死んでほしくなんて、ないんです」
 るかは、既に目に涙を溜めている。
 喪失は、何度味わっても、辛い。ひとつの命が終わるということを受け入れる経験は、人間の心に重く沈む。
 それが続いたとしても、決して一つ一つが軽くなることはない。
 はじめから、喪い続けた彼にとっても、それは同じことだ。

「へぇ、うれしいこと言ってくれるじゃないの。
 でもな、るか。俺はここが人生のケツだ。もう自分の墓穴すら掘れないってのは残念だがね。
 ……そうだな、お前にこれをヤろう。俺が今までずっと使ってきたナイフだ。
 お前に戦えとは言わない。だが……そいつは、俺をずっと守ってきた、お守りみたいなもんだと思ってくれ。
 万一戦うときが来たならば……やや欠けてはいるが、ブスリとやれば挿入(ささ)るだろう」
「は、はいっ」
 るかは、阿部の視線の動きに合わせ、もう上がらない阿部の腕を取ると、その手に握ったナイフを、阿部の指を一本ずつ離しながら、優しく持ち上げた。
「名前は」
「漆原るか、です」
「……そうか、いい名前だ」

 るかの頬を、涙が伝う。
 阿部は、少し悲しい顔をした。腕が上がらない。涙を拭いてやることのできない身体が、少しだけ悔しかった。

「――真紅。あとは頼んだぞ。薔薇族の魂は君に託そうじゃないの」
「勝手に、私をその薔薇族とやらの一味に加えないでもらえるかしら」
 阿部の言葉に、背を向けたままの真紅の冷静な返事。
 ほんの二日前、戦場で出会い、僅かに言葉を交わしたときから、二人の関係はずっとそういうものであった。
「いいじゃないか。お互い薔薇同士、仲良くやらないか」
「――貴方が言うと、薔薇も随分と俗な花に思えてくるわね」
 本人は――少なくとも真紅は――否定するだろうが、お互いに心を許している。そういう関係だ。
「そうかい。だが真紅、あんたは気高く、綺麗だ。俺が認めるんだから、相当なもんだぜ」
 阿部の、レディに言うには余りにガサツな――しかし、本心からの褒め言葉。
「――ありがとう、阿部。でも減らず口はその辺にして、もう休みなさい。
 あとは私に任せればいいわ。伊織のことも、るかのことも、この歪んだアリスゲームのことも」
 それを減らず口とすら評した真紅を、阿部は楽しいやつだと笑った。

「そうかい、安心した。頼んだぜ、薔薇乙女」
「安心して逝きなさい。頼まれたわ、薔薇漢」

272【298話:それはのばらのように】  ◆xo3yisTuUY:2013/01/31(木) 23:58:08

 真紅が、歩き出す。彼女は、一度も振り向かなかった。
 その後ろを、るかが阿部を何度か見遣りながら続く。

 それを、頭が動かないために視線だけで見送り、阿部はまた視線を天井に移した。

 俺としたことが、ずいぶん喋っちまったな。
 お喋りな奴は嫌いなのだが――。
 こんな死にかけだというのに、言葉は途切れることなく口から溢れていった。
 不思議なもんだ。死ぬその間際まで話ができるなんて、思いもしなかった。

 ――まぁ、いいか。

 阿部は、ゆっくりと目を閉じた。

 最期なんだ、そんなロマンが、あってもいいじゃないか。
 今は、薔薇の散るように、ゆるやかで安らかな気分だ。
 
 死を受け入れていた、恥じるべき先程の気持ちとはまた違う。
 これは死ではない。花が散ることは、季節の巡りと同義なのだ。
 次の種が芽吹けば、それでいい。子種は随分と無駄にしたが、心は引き継がれたのだから、それでいい。

 伊織、すまん。俺は死ぬ。お前との約束は、守れなかった。
 雪歩を守れなかった。お前を最後まで守り続けることもできなかった。不甲斐ない男だと笑ってくれ。
 だが、俺の魂は、俺ののばらの精神は、お前や、真紅や、るかに託した。
 死ぬなよ。魂を、こぼすなよ。生きて、帰れよ。

 ――俺の墓には、似合わないだろうが、薔薇でも供えておいてくれよ。


【コントロールタワー17階・深夜】

【真紅@ローゼンメイデントロイメント】
[状態]:疲労(中) 能力使用不可
[装備]:日本刀(一部欠損)@現実
[道具]:見崎鳴の左目@Another 人形お着替えセット@ローゼンメイデン 基本支給品×2
[思考]:このアリスゲームを終わらせる。

【漆原るか@STEINS;GATE】
[状態]:疲労(小) 全身に掠り傷 轟音に対する強い恐怖
[装備]:妖刀・五月雨@STEINS;GATE 蝉のナイフ(先端破損)@グラスホッパー
[道具]:殺虫剤@寄生ジョーカー 基本支給品×1
[思考]:真紅に従う。生き残る。


【コントロールタワー18階・深夜】

【鯨@グラスホッパー】
[状態]:疲労(中) 左肩口に斬り傷
[装備]:ライフル銃(残弾5/8)@寄生ジョーカー
[道具]:ライフル銃弾×14@寄生ジョーカー 『罪と罰』@グラスホッパー 基本支給品×3
[思考]:過去を“清算”する。


【阿部高和 死亡  残り5名】

273【298話:それはのばらのように】  ◆xo3yisTuUY:2013/01/31(木) 23:58:48
以上です。

274 ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:08:41
『Splendid Little B.R.』、第二話の第一章を投下します。
TRPGのリプレイに、たまについてる予告漫画を見るのが好きなので、ちょっと作りました。
閲覧しなくとも本編を読むにあたって問題はありませんが、登場人物の見た目など知りたい方はどうぞ。

 ttp://www.eonet.ne.jp/~ice9/3rowa/comic_02.html

275 ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:09:33
……違う、URLはそれじゃない!w
正しくは下記になります。削っても見られるんですが、いきなりつまずいて申し訳ない。

ttp://www.eonet.ne.jp/~ice9/3rowa/etc_comic02.html

276SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:10:17
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)まことの騎士

Scene 01 ◆ 白の鳥・まるで玩具のような


 幼子の、遊びですね。

 雪によって滅ぶ箱庭の維持を使命とする鳥は、玲瓏な声でそう言った。
 なにものにも染まらず、染めようとするものも退ける、響きは凍てて耳朶を灼く。
 だが、優美な韻律を含ませてさえずる鳥――齢三十にも満たぬ見目をした女の、双眸はひどく茫洋としていた。
 初夏の陽にきらめく緑を宿した瞳には空疎と超然が混淆して、硝子玉のように透き通っている。
 彼女が黙してかぶりを振れば日覆いの絹から薄香の髪が溢れ、口許を隠すように添えられる手をいろどった。
 粛然たる居住まいは世界を俯瞰しているのか傍観しているのか、あるいは諦観しているのかさえ余人に悟らせない。

 この箱庭にある鳥よ。
 あなたも、『そう』なのですか。

 ただひとつ、歌う言葉の自嘲だけが周囲の空気をふるわせる。



 ◆◆



 分かりません。
 いえ。貴方のなさっていることは、私には分かりたくありません。
 もとより初めから主によって創られ、箱庭を見守る私に、これだけは分かりようもない。
 だからでしょうか。私の紡いでいるこの言葉さえ、貴方に届くことなどありません。
 この箱庭に在る私は、外なる果てで戯れに浮かべられた『夢』の欠片でしかないのですから。

 そして、ある意味では貴方も……正しくあの方と相似した視点をもって、この箱庭を眺めつつある。

 これだけは分かります。
 分かりましたから、もう、やめておしまいなさい。
 すでに滅びも近いとはいえ、創世主の真似事をして、貴方は何を得られるのです。
 まるで玩具のような為様で弄んでいるの箱庭に想いを寄せて、貴方はこんなに憔悴しているではありませんか。
 今にも泣き出しそうになりながら、中座するのもこらえ、おぼつかぬ指と四肢をふるわせて――。
 急き立てられるように、貴方は、形の合わない小片を押し込み繋いで間隙を埋めようとしつづける。
 いちど歪めてしまったものを壊し切ることも出来ず、別の物を創ってしまうことも出来ずに、ずっと。
 ずっとその掌で温めたなら、いつか、別の箱庭の小片が馴染むかもしれないとでも思っているのですか。

 愚かしい。ほんとうに、惨めで、哀れで見苦しいものですね。
 これ以上に付け加えるものもないだろう、これに、どうして別の小片が馴染むのです。
 綻び解けるものを無理に繋いで疵を押し隠す。その行いに、どれほどの価値があるのですか。
 なにより、貴方自身が己の行いを愚かしいと思っている。箱庭の維持にも繋がらないと解している。
 そうと分かってなお突き進んだのが、同じ鳥としてある貴方の、最も救いようのないところです。

 無様にしがみついている、これが、貴方になにをしてくれました?
 裏を返せば、これに、貴方はなにかをしてやれると仰るのですか?

 愛を叫んだところで、ここより先にはもう何もない。貴方が、すべて壊してしまったから。
 何かを憎もうにも、ここから遡ってももう何もない。貴方が、すべて消してしまったから。
 世界を切り取り抱き締めて、二度と手に入らないものを求めている事実さえも知っていて、

 そこまで行ったというのなら、もう、やめてしまえば楽になれるでしょうに。

 それでも許せないのですか。
 それでも手離せないのですか。
 それでも諦められないのですか。
 それでも、忘れられないのですか。


  荒らげた息を吸って、ならばと白の鳥は続ける。
  言葉が胸で凍って砕け、そのたびに彼女自身を傷つけてなおも口を開く。


 ならば……せめて、終わらせてしまいなさい。
 終わってしまえば、夢だったとでも思えるでしょう。

 いつかあの方の仰っていたように、忘却が精算にはならないのだとしても。



 ◆◆


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277SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:10:51
Scene 02 ◆ 合咲の間・開幕『剣劇(ブレイド・オペラ)』


 乱れて舞い散る、雪が迷宮を満たしていた。
『合咲の間』と名付けられた一室の、天地左右も見え分かぬほどに氷の花があまぎって鳴る。
 空がない百万迷宮を照らす星の欠片の、ひどく澄んだ一片さえ、これほどさやけく瞬きはしないだろう。
 そして、本来なら命の危険をもたらす冷気からは、ひとに対する敵意や殺意の欠片も感じられない。心を奪われれば
盲目のうちに果てると知れていてもなお、冬の朝を思わせて蒼く締まった空気を恐ろしいものとは思えなかった。
 空気。くうき、空(くう)――から、『そら』。
 迷宮の天階にあると聞く『空』も、この雪のように美しく鮮烈なものなのだろうか。
 肌を刺す寒気を裏切るように、虚ろに澄んだ六ツ花が輪郭は心もとなく、淡い。
 穢れない白に、白く重なる影へと認識が吸い寄せられ、胸の拍動さえ潰れて聴こえなくなる。

 永遠を思わせて降り積もる、この雪に埋もれ解け敢えるのなら、
 現し世に在るいかなものどもも、眠るように終われるのではないだろうか。

 ひどく危うい感傷に衝かれて、テトリスは強くかぶりを振った。
 世界の滅びを。いいや。自身の死をすら受け容れる心地を受けた足が、止まっている。
 受容とも諦観ともいうべき思いが、胸にともった希望や気力を消すものが、自身のどこから沸き起こったものか
判断がつかなかった。生を希求して脈打つ胸は主の思いに揺り戻しをかけるように激しく高鳴っている。

 死ぬわけにはいかない。
 花白に向けて宣誓し、国にある者の意気を上げる【突撃】を行わんとしていた体が動かない。

 もとより先手を取るにあたって、自身の機転や才知には期待していなかった。
 だが、騎士の核たる武勇を支える精神が揺らされてしまえば、肉体もそれに引きずられてしまう。
 足を止めたまま、動かない自身の呼吸が。早鐘を打つ心音がうるさい。
 やまぬ動悸はテトリスの胸中で焦燥と認識され、そのまま、本能的な恐怖に取って代わろうとする。
 致命に至る自失を払うべく、ほつれた雪に濡れて束をなした髪を跳ね上げて一刹那、
「ホントに……きみは、アカツキのことを心配しないんだね」
 猫と同じかたちをした耳に、どすのきいた声がもつれる。

「【決闘場】だったっけ。
 大事な仲間とはぐれる罠にも慣れっこなのかな、百万迷宮の騎士ってヤツは!」

 心中の憤懣を堪えかねてか。地の底をすべる苛烈が天の氷雪を割り裂いた。
 その声に追随するように、騎士を嫌う救世主は無造作な足取りでもって間合を詰めていく。
 花白。天から降る花の名をもつ少年が振るった剣の、太刀筋はひどく感覚に拠っている。しかし、逆落しの一閃でもって
武をおのが道と定めるテトリスの体幹を揺らし得た事実は、彼の有する感覚が正しいことの証左となった。
 身体の延長を思わせて馴染んでいる刃に剣を噛み合わせた騎士の、腕に重たくしびれが残る。
「先手、っていうか。このまま全部もらおっかな」
 雪をものともせずに踏み足へ力を込める花白は、女性的な面立ちに獰猛な笑みを刻んだ。
「ふざけるな」冷気でひりついていたテトリスの頬に、瞬間べつの赤みが宿る。「国のために仲間を信じ、力を合わせる。
それがランドメイカーだ。民はボクらの姿を見て、胸に芽生えた《希望》を育てていく」
 迷宮では、ひとの思いが力になる。
 胸に湧いた義憤を、このとき確かな力として、テトリスは四肢に力を込めた。
 取り回しに難がある両手剣の切っ先を、ほんのわずかに自身の胸へと引き寄せ、花白の剣を絡めとる。
 他者に血を流させることしか出来ぬとうそぶいた救世主の、縦の軌道を刻む刃が、峰をすべって頭を垂らした。

「アカツキが何を思ってるかは知らないが、仲間だって《民》のひとりなんだ。
 アイツがボクに託すというなら、こちらは『災厄王』の末裔たる誇りをもってそれに応える!」

278SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:11:18
 初手の斬撃を受け流して刃を返すテトリスの言葉から、迷いというべきは払われていた。
 六花がもたらす困惑と自失を払って、はじめてそれが『白の力』――救世主の異能と思い至る。
 なんだ、ボクはホントに『散漫』としてたんじゃないか。白の力で剣圧を増幅させた一閃を、自身が傷を負う未来を
厭わず捌ききる。被害を最小限に留めることだけに意識を集中させていた騎士は、引いたあごに戸惑いを隠した。
 自身の異変。始まりも終わりも分からなかった白いパズルに、ピースがはまって確かな形をなしていく。
「……そうかい」
 失望と妬心を隠そうともしないため息が、雪に抗って立つ耳を突き刺した。
 剣をいなされて重心を崩したまま、ゆらりと巡らせた花白の瞳に、先ほどまでの思い切りのよさはない。
 魔物ならば呪詛や術理の構築が必須となる【困惑】のスキルを、迷宮支配者のもつはずの迷核へ干渉して顕してみせた
規格外。世界を手玉に取るほどの力を有する者の気勢と戦意は、相手を選ばず、相手の顔を認識せぬがゆえにあった
気負いのなさを喪い、テトリス個人への《敵意》に変貌していた。

「テトリス。僕はお前らみたいな莫迦が一番嫌いだ。さっきお前の言ってたとおりに」

 硝子の質感を有する血濡れた剣を手にする、彼は星の欠片の輝きを受けて傲然と立っていた。
 線の細い身体にくすんだ白さの衣装を纏う、彼は世界へ貧弱でみすぼらしい姿を晒していた。
 箱庭と呼ばれた世界を救って――自身の好ましく思った魔王を手にかけたことで一度死に、この迷宮においては
魔王としての価値を無くした玄冬を殺して二度死んだ少年は、しかして今なお、ここに在る。
「託した? 違う。お前らが勝手に擦り寄ったんじゃないか。お前らが押し付けていったんじゃないか」
 自身の正しさを疑いながらも相手を信じ、ひととしての間違いを正せと言えるもの。
 テトリスの向こうにある何者かの影が去来するのを、花白は呼気を押し出して否定した。
 ふるえる膝を冷笑で隠し、ひりつく二の腕に力を込め、折れそうな心を守るために言葉を操る。
「矜持、じゃあないな」それに応じるテトリスの声は、彼の耳朶をも冷たく打った。「意地か。それが、お前の」
「本音は『逆上だ』って言いたい? でも、……逆上だとしてもお前らのせいだ」
 騎士の纏ったサーコートの襟が、吹き上がった風に巻きあげられて乾いた音をたてる。
 いかにして――いかに思って打ち込んだものか掴みきれず、テトリスの得物も身体の脇にと流された。
 王のもとにあった救世主と、国王を目指す騎士が演じる剣劇(ブレイド・オペラ)。
 壮麗たる剣の舞踏、救世主の魂として箱庭の創世主に選ばれた少年と、百万迷宮が創世主たる神の血を引く
『災厄の王子』の決戦は、その序幕を終えぬうちに化けの皮を剥がされていた。
 大舞台が瓦解した後に残るのは安いつくりの三文芝居。玄冬以外のなにものも信じまいとする花白と、《民の声》が
生み出す希望を信じるテトリスの、みじめたらしい綱引きだ。いいや。双方の主張が平行線上にあり、『影弥勒』の側が
【分断】のエニグマで殲滅戦を規定している現状、これは、そんなものでは終わらない。
 相手が折れて剣を手放すまで、我慢比べを続けるか、
 敵と定めてしまったものを殺して、
 命を、奪っていくだけの、


「はな、しろ」


 騎士のついた吐息が、子供のような響きをなした。
 縁のない眼鏡の下では、無愛想な瞳がはっきりと見開かれている。
「へぇ。大食らいの莫迦は血の巡りも悪いんだ。普段は胃にでも集まってるんじゃない?」
 思考の死角を衝かれた者に特有の反応を見もせずに、花白はあっけらかんとした声で笑ってみせた。
 ぼぉん。古い柱時計の鳴らすような音の、どこか間の抜けた響きがテトリスの耳に届く。
 その音が空間そのものをゆがめていくさまを察知すれば、その事実が彼の心をも乱していく。

279SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:12:05
「花白ッ! お前……お前はッ!!」
「『きみ』が、僕に何か言う権利はないと思うんだ」騎士に掴まれた左の腕を、花白はもう片方の手で掴み返した。
「あの結界を張ったのが『影弥勒』なら、当然、その仕組みも知ってるはずだろ?」
 頑是無い子供に言い聞かせるような声音の、ひとを憐れむ態度が、テトリスにひとりの男を連想させる。
 帝国陸軍武官ムラクモ。流派や忍者であるなしを超えた血盟である『影弥勒』に属するものは、すでに亡き乙女より
命を受けて血盟に潜んだ騎士の「誰から落とす」という問いに対して、何を臆するということもなく告げていた。

  ――命の器が壊れかけているいま、世界の嘆きも最大限に高まっているはずだ。

 命の器。
 死んだものの命を計上し、それが満ちれば世界が滅んでしまうもの。
 そうして、それはこの迷宮に仕掛けられていたエニグマ、【封鎖結界】の外見(そとみ)であった。
 【封鎖結界】。儀式忍法『新神宮殿』と、その主であるムラクモに何者も近づけなくする仕掛け。
 深人が<黒真珠砦>にも似た森の要害を砦跡に変えた『スプレンディッド・ビッグ・ウォー』によって解除を行い、
真理を得て不死となったものとの最終決戦<クライマックスフェイズ>に至る道――すなわち『真の忍神』を生む
儀式を壊して、相手の抱く野望を潰えさせる道を、拓いた――はずの。
「ふん。ムラクモってヤツも、けっこう頭がいいんだね」
 どっちかっていうと、頭のいい莫迦だけど。
 棘に満ちた言葉をこぼして、救世主であった少年は騎士に視線を合わさせた。
 戦慄と呆然が相半ばしている相手の腕を払って下がり、澄んだ剣の切っ先でもって胸を指す。

「命の器を【結界】にしたなら、それを壊さなきゃアイツと戦って終われない。
 命の器を壊したいなら、器を命で満たさなきゃいけない。殺しあわなきゃ終わりにも行き着けない」

 テトリスを敵と定めた花白の声は、沁み入るように優しい響きを有していた。
 ともに死のうと言われたときのことを追想していた瞬間と同じ、噛み締めるような微笑みはひどく穏やかだ。
 すべてを受容し諦観したがゆえに満たされた、それは日常の点景をただ綺麗だと眺めるものの顔つきにも似ている。
 本来ならば、そうした表情を浮かべるものの《希望》となることこそ人類が弱者となった迷宮に挑んでゆく道を決めた
ランドメイカーの――パジトノフ公爵テトリス九世の責務だが、違う。これだけは違う。
 彼が浮かべる安らぎの背景だけは、けして認めてはならないと生命が叫んでいる。

 嬉しかった。ホントに、嬉しかったんだよ。
 だってここに来るまでは、みんな僕にだけ殺させてたんだもの。

 こうした言葉が、ほんとうに聴こえたのかどうかはテトリスの側にも判らない。
 だが、判らなくとも関係はないと思えるほどに、花白の瞳に浮かんだ色は終わっている。
「分かるんだ。もう、この箱庭も限界に近いって」
 雪。花白や玄冬の箱庭では、けして降り止むことがなかった滅びの証左。
 ひどく静かな終わりをもたらすものを美しいと眺める、少年はどこにもたどり着かぬ空疎を体現している。
「……ひとが、死にすぎたからか」
 しわがれた騎士の声を、空疎はかるく頷いて肯定した。
「救世主や玄冬じゃないきみにも、せかいの嘆きが、歪みが『聞こえた』んだろ?
 なら殺すのをやめても無駄さ。このまませかいは雪に埋もれる。玄冬を殺して滅びを避けたってときに溢れたら
意味が無いから、救世主が殺したものだけは命の器に計上されないけど――」
 もはや『花白』をさえ捨てたとみえる少年は、影ひとつない笑みを嗜虐的にゆがめて締めくくる。


「ここには、自分が犠牲になって箱庭を続けさせる玄冬<魔王>も、かれを殺せる救世主もいない」

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280SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:12:30
 ひとを嘲り踏みにじる意志に応じないのが、テトリスに出来る最大限の努力だった。
「つまり」それでも、黒い猫耳がひくつくことだけは止められない。「この世界が雪に埋もれる『時間切れ』を待つか、
相手方と死合って積極的に世界を滅ぼすか。ボクらには、そのどちらかを選べというわけだな」
「そ。でももう、時計の針がふた回りするまでに終わっちゃうと思うな」
 花白が剣を振るわない理由を知って、耳の内側に生えた白い毛までもがざわついた。

 時間切れ。
 世界が終わってしまうまでの猶予は1クォーター(約六時間)の、三分の一。
 常ならば迷宮の、ひとつの部屋への移動や罠などの探索、戦闘や休憩にかける時間にさえ満たない。

「……解ったんなら諦めなよ」
 残された時間と人数。遡行不可能な過去の出来事。
 誰も救わぬと決めたものは、みっつの要素を味方につけて「諦めたら楽になれるよ」と続けた。
 甘くすらある言葉でもって相手の戦意を雪に解かさんとする、彼はテトリスにかける憐憫の情を惜しまない。


「僕を終わらせるのは、絶対に、お前なんかじゃない」


 ただひとつ譲れなかったものだけを、自身のすべてで守りながら。
 玄冬によって終われずに在り続けている花白は、ゆえに空疎として雪の中たたずむ。
 一方で、答えられたはずの謎は答えられたために厳然たる真実となって、民なき者へと迫り来ていた。




 ◆◆


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281SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:13:11
Scene 03 ◆ 時の極光・願い飢えたその果てに





  災厄王は三界の主を喚び出し、「ただいまより世界はひとつとなれ」と命じた。
  すると天階と地上、地階はみるみる合わさり、世界はひとつとなった。
  災厄王おおいに喜び世界を我が物にせんとしたが、三位一体となった世界の主はかれに告げた。
 「人の身で世界を我が物にしようとは傲岸不遜、その命果つるまで、汝を幽閉せん」
  災厄王の足許から迷宮が広がり、彼が秘術を尽くして逃げようとも、牢獄の壁は虜囚とすべきに追いすがった。

  そのとき、世界は終わり、新たな世界が始まった。
  ひとの知る土地のすべては、ひとつの迷宮となったのである。

                          ――――名も知れぬ迷宮職人<ダイダリスト>、タカラ・マルコキアスの序文を借りて





  ◆◆



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282SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:13:33
「……こんなこと、分からなきゃ良かった?」

 剣劇が言葉に断ち切られての第二幕は、ひそやかな声にて始められた。
 しずかに壊れてゆくものを眺めて息をつく花白の、テトリスに問う声は恍惚としてさえいる。
 世界が滅んで黙したそのとき、彼は、はじめて世界を抱き締められるとでもいいたげに睫毛を伏せる。
 もはや双方剣を構えず、会話も成立しない局面を迎えて、騎士は大剣を杖がわりにして身体を支えていた。

 剣の一閃によって決着をつけられぬ間にも刻一刻と、世界は終わりに近づいていく。
 なにも為さぬまま、滅びを告げる雪に消え敢えるか、最終決戦で積極的に世界を滅ぼすか。
 【困惑】にさえ昇華され得ぬくるめきを覚える選択を前にすれば思考も止まる。この世界は必ず終わる。
 騎士では、いけない。積み上げた武勲では、目の前にある『空疎』を殺した先に進んでいくこともかなわない。

 笑うしかない状況だと、テトリスの脳漿は告げている。
 笑ってしまえば、少なくとも肉体は弛緩を得られることも経験していた。
 それでも吐息に色はつかず、肩を揺らすたび白く凍ったものが緩んで溶けてほどけていく。
「黙ってるって、ことはさ」
 声がかけられたという事実に対して目を上げれば、伏せられた空疎の睫毛に銀花の欠片が舞い降りた。
「きみは、自分が潔白だなんて思わないんだ。血に汚れた手で何かを掴めるなんて思えないんだ」
「汚れのない身で、なけりゃあ……」
 幸せにはなれないかというくだりを、テトリスは胸中に呑んで殺した。
「自分が潔白である――なんて。そんな根拠のないこと、よく思えたもんだよね」
 やはりと、言うべきなのだろうか。
 かつての救世主であり、花白という名を持っていた空の少年は、自分に対して言葉を発していない。

「だってひとは……ヒトビトは、どれだけ同類を殺してきたの?
 どれだけ、玄冬と救世主に犠牲を強いてきたの? あの人やバカトリに無理をさせたの。
 争いのない世界を望んでたっていうなら、どうして、かみさまはあんなふうに作っちゃったのかな」

 先刻の繰り返しとなる言を、今度はテトリスも止めなかった。
 止めても無駄だと感じたのではない。滅びまでの空白を、音で埋めたいと思ったわけでもない。
「今までヒトビトを殺して、傷つけて、せかいの滅びに手を貸してきたくせに。
 いざせかいが滅ぶとなったら『救世主と玄冬によって救われる』だなんて、道理が通らないよ」
 花白の言を聴く少年は、自身の才知が不足に逃げることなく黙考することを選んでいた。
 騎士では、いけない。世界を呪う彼を剣によって殺すことでは、ここより先にある何処にも向かえない。
 そのすべてが真実であったとして、そうであるからなんだというのだ。
 何処にも行けぬからといって、ここまでの道で覚え掴んだ《希望》を投げ出す道理はない。
 ランドメイカーだからではなく、異能があるからでもなく、まず、自身がテトリス・パジトノフであるために。
 ただひとりの乙女と交わした誓いに、乙女のもとを離れる自分をさえ受け容れた彼女に応えるために――。
 ここでも、約束は守っていく。あの雪の日に交わした約束を、守り続けていく。

  ――約束する。必ず、君にふさわしい王になってここに帰ってくる。

 この言を聞いて、乙女――「七不思議の」リジィは、騎士でもいいのにと首を傾げた。
 だが、そこだけはテトリスにも譲れはしなかった。騎士であるなら、リジィを守ることは出来る。しかし騎士では
王国を拓けない。王の傍らにあって輝くことはかなっても、みずから希望の炎をともすことはかなわぬがゆえに。
 ある意味では、暗黒不思議学園の国王たるリジィと袂を分かちかねない選択を、しかして彼女は許していった。
 友好国との事情はあれども、ほんのすこし寂しげに、けれども、この気性ゆえにこそと言いたげに。
 リジィが命を落としたいま、かりに彼女と交わした約束を破ったとしても、その事実にはきっと誰も気付かない。
 だが、彼女に向けて世界をもっと良くすると宣誓したテトリス自身だけは、約束を破った事実を絶対に忘れない。
 忘れられるものか。凛と紅い瞳。ときおり林檎の朱がさすなめらかな頬。リジィが好きだから帰ってくるわけじゃない。
よく通る声。雪に流れた金の髪。素直に伝えて行けなかったことは、すべてくちづけに込めたのだ。

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283SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:14:02
 黙示録の乙女。理想を胸に学園を打ち立てた女王が、足を折ってひざまずく。
 災厄の王子。王になるとの誓いをたてた騎士が、乙女のあごにと手を添える。
 さよならは言わないわ。決然としたリジィの言葉に、テトリスも胸中で同意していた。
 さよならの言葉は、いつかこの手が冷たくなろうと、あの日荒野を目指した心が凍りつくまで要らない。


 誓いの、あるいは道を征く覚悟を表明した接吻は、熱に解けた雪の苦みを舌に刻んでいる。
 叙事詩的な光景に影を落とす苦みこそが、騎士としてありつづけていたテトリスに飛躍を促した。
 王のため、勇者のごとくに斃れること。それが騎士に出来る最後の誓いの表明だとして、自分は、そこにいかな意味も
見出さない。それを実行したところで忠誠を誓うべき王はすでになく、世界の滅びも止められはしない。
 まぶしいものを見たかのように、風雨に立ち向かうように。少年は瑠璃のしずむ双眸をすがめた。
「どうして」
 口をついた言葉の調子はひどく静謐で、選ばれた単語は滑稽なほど朴訥だった。
 だが、その単語にこそ空疎な少年はいっとき花白となって、意識をテトリスの側にと向ける。

「どうしてなんだと、お前は言う。
 世界に、神とやらに、そしてボクらに――花白。お前は問いをかけてばかりだ」

 無慈悲な吹雪を、刹那、そよと吹いた風が払った。
 雪雷さえ寄せ付けぬ、それは初夏の緑を思わせて爽やかなものをふたりの間に残していく。
「だからなんだっていうんだ。僕に殺せと強いたせかいを、そこに住むものを恨んで、憎んで呪って何が悪い……!」
 花白の、雪に映える薄紅の髪より深い瞳の紅を、テトリスは真っ向から見つめ返した。
 双方『睨んでいる』との形容が至当な、視線には切迫したものがある。身を震わせるほどの切迫と焦燥とに苛まれて
なお見出したいものがある。信じたいものがある。殉じたい、重なりたい、愛したいものが確かにある。
 少なくとも、いまこのときのテトリス・パジトノフは『それ』ゆえに渇き餓えている。
 その気持ちが花白の側にあると明言しないのが、ある意味では、この少年の示す誇りの最たるものであった。
「違うだろう。質問ってのは審問じゃない。それは、相手を痛めつけるために行うものじゃない。質問ってのは」
「答えを求めて行うものだなんて、お前なんかが言えるわけ?」
 ただ、素っ気ないと思われがちな物言いだけは、この場で直せるようなものでもない。
 理合いの勝って、いささか教条的な印象さえ残す物言いに、花白が噛み付くのも当然だと思えた。
 噛み付いてもらえるだけで、十分だった。
「じゃあ、どうしてお前はボクに問いかけた?」
 噛み付いてくれた少年を受け止めた災厄の王子は、そのまま、彼の手筋を崩しにかかる。
「お前が『影弥勒』だから。騎士で貴族で、僕の嫌いな軍人っぽいヤツだからに決まってるじゃない」
「銀朱隊長、か? そういう人間でいいんなら、ムラクモやアカツキも変わらないさ」
 敵だから、軍人だから貴族だから騎士だから。記号の力を、他者との相似でもっていちどきに打ち払う。
「この戦場に向かうのを選んだのはお前自身だ。その時点で、お前は問いかけるべきをボクらだと定めている」
 処刑人としてもあった友の、あるいは抗魔式にて相手を無力化する仲間の手筋を思い出しながら、
「自意識、過剰すぎ。僕は、お前らじゃなくてアカツキと一緒にいたんだよ」
 テトリスは、花白の隠していたのだろう本音をここで引き出し、たしかに掴み取った。

「同じことだ。さっき『救世主が殺したものだけは、命の器が計上しない』と言っただろう。
 ずるい言い草だが――本当に世界の滅びを望んだとして、ボクがお前だったら、あそこで加賀十也を殺さない」

 息を呑んだ花白の、細い身体を風が揺らしていく。
 飛雪は花と見まごうものから、ざらざらと振りかかる氷塊にと成り代わっている。
 ぴんと立った耳のなかに入り込もうとする雪を、テトリスはかぶりを振って追い払った。

284SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:14:23
「お前だけは命の器を無視出来る。それで世界を滅ぼしたいなら、他のヤツらに殺し合わせるだろうさ。
 そして答えが要らないなら、相手の苦しむ姿も見ないなら、自分以外のものに問いをかける必要だってない。
 なにより――神を憎んでいようと、玄冬を信じられるなら。お前だって、『真の忍神』に何かを願えるはずなんだ」

 神に願いたいことはない。
 花白の言に恨みつらみ以上のなにかを感じたがゆえに、テトリスは質問の手を緩めない。

「ボクにかみさまのことは分からない。だが、ここにはソイツと関係ない『神の死体』なんざ腐るほどある」
 相手に痛い問いを放てば、自身も心に痛みをおぼえることを体感しながら。
『新神宮殿』。死んだものにさえ使い道を見つけるような人間が、神へと願う権利を手にする儀式忍法。
 さながら戦時にある騎士団や軍隊と同じか、それ以上に理想や概念、機能といったものだけが肥大したものの手によって
世界が生まれかねない構図に生理的な忌避感を覚えた少年の瞳は、希望喰いどもに襲われたかのように渇き餓えていく。

「やめろよ……」

 しいて言うなら情に餓えた心を潤すは、花白の漏らした声であった。
「やめろ。もういいじゃないか。僕は、そんな話は聞きたくなんか、ッ、ない!」
 創世主があることの意味を知る『もと救世主』は、そのとき、完全に空疎の影を払った。
 剽げた部分の影もなく震え、嵐を受けたざわめく胸で砕かれた言葉に何ひとつとして嘘はない。
 機転のきかないテトリスでさえ、激情の発露をもう少し誤魔化せたのではないかと感ぜられるほどに、彼は揺らいでいる。
 きつく目を閉じ、剣を持たぬ側の手を胸にと添えて歯を食いしばっている姿を隠そうともしない。
 それでも、この少年はテトリスの言葉を耳をふさぐことだけは選ばなかった。
「なにがいいんだ。このままじゃ、ボクだってお前に何も答えられない」
 相手の情を喰らうような言葉を放ったテトリスもまた、相手の無様には言及しない。
 皮肉の棘や諧謔の牙を振り捨てて求めたものに手を伸ばすものを、無様だとは思わない。


「答えなんか要らない。だって、僕が諦めて、玄冬を忘れてしまったら!
 この『箱庭』にいる僕には、もう、なにも好きになれるものが無くなる――ッ」


「それが、お前の核というわけか」
 わめきが示した花白は、滑稽で頑是無い子供だった。
 小児的な激情をぶつけ返されたテトリスも、自身に可能なかぎりにおいてそれを聴く。
「アカツキとともにいたのは、玄冬を忘れない命を繋ぐために、アイツを好きになろうとしたから。
 十也を殺したのは、アカツキと生きていけそうな自分に耐えられなくなったから。……下衆の勘ぐりだけどな」
 なにかを好きになりたいという気持ちは、《希望》を抱くうえで何より大事なものだと知っているから。
「いいよ、それで」ぞんざいな響きを投げた子供が、鼻をすすりあげた。「でも、だから僕は、ずっと笑っててやる」
 皮肉も剽げた笑みもなくした彼からは、消極的な滅びに向かわんとしていた空疎も失せている。
 理解しても共感してはならない存在が理解も共感も可能な人間に変わったからこそ、テトリスの側も彼を直視することを
拒めない。ただ溢れるがためだけに横溢すると言わんばかりに、花白はなにものも救わぬ力を発散させている。

「どこに行っても僕だけは、他の誰かを殺さないと終われないから。
 だから加害者の顔をして、僕たちだけにこんなものを押し付けた世界を踏みにじってやるのさ」

 怒りも憤りも通り越して、哀れみにも似た色が、テトリスを射抜く紅の瞳に差した。
 【人類の敵】がひとりは、この言葉をもって、終わった自身が未だ戦場に立つ意義を定める。
 《希望》を拒み《好意》をはねのけて、ひとと衝突するしかない《敵意》でもってかろうじて現し世と繋がる少年の双眸には、
しかして空疎を気取っていた頃には見られなかった色がある。
 玄冬以外のものとあれると信じれば、そこで終わるしかない彼が全力をもって守り、しがみついてさえいる「不信」は
いま、間違えようもなく「落下ダメージの」テトリス・パジトノフにと向けられている。

285SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:15:09
「……それでも、お前の心は耐えられなかったじゃないか。
 世界を憎んでいたって、自分の行いが悪いんだと思えて、苦しむことが出来ていたんじゃないか」

 だが、先刻と同じ《敵意》を前にしても、テトリスはもはや恐れなかった。
 滅びに対する恐怖――より正確には、穏やかな心持ちで滅びを受け容れかけた自身に対する恐怖はある。
 しかして目の前にある花白は、テトリス個人に感情を抱いて立ち向かう人間だ。その苛烈や救いようがないほどの潔癖に
神経を引きちぎられる思いをしようと、《民》になれぬ人類の敵であろうと、騎士の武で殺し得ぬ者であろうと、

「だったら! その涙を知らずに征く者は、ひとに審判だけを下せる者は『まことの騎士』じゃないッ!」

 相手が強い思いを抱くに至ったことに、敬意を払うことは出来る。
 世界すべてを敵に回してまでも果てを目指した相手の、名誉を守ることは出来る。
「ボクはいずれ、騎士を率いる王になるんだ。それが国を滅ぼすような【暗黒騎士】を目指すもんか」
 そして、王を目指して荒野を征く道を選んだ少年は、ゆえにこそ騎士としてある今の自身を否定はしない。
 まことの騎士。《民の声》に応えられるのならば真贋など関係ないとも感じはするが、それでも、胸には銀のロケットがある。
騎士を送り出した乙女の肖像画と、その遺髪を収めた、忠誠と愛情をそそぐべきものが確かにあるのだ。
 冒険を経て技量を上げ、成長したことで心持ちが変わろうとも、注いだ情愛は少年の道に光を灯し続けていく。

「それならッ!」

 叫びを斬り裂く風の、曲歌が、迷宮の一室を掻き回した。
 世界のすべてを葬る雪は、このとき、テトリスと花白の間にわたって光源を隠す。
 戦場にある二人の、いずれの道行きに影が伸びているのか。いずれの背にこそ光があるのか分からなくなる。

 ――ぼぉん。

 間の抜けた時計の音が、ふたたび鳴ったのはそのときだ。
 砕けてもなお輝く星の欠片が、薄闇にたたずむ花白の姿を浮き立たせる。


「……それなら。すべてあいして――ゆるしてみせろよ」


 口の中で、紡ぎ出される響きを惜しむかのような言葉。
 それを耳にし、それが生み出すものを感じた、テトリスの表情が凍りつく。
「星術? ……三大魔道(オーソドックス)まで行使するだとッ!?」
「知らないよ、そんなの。僕は、ただ……ほんのすこし願っただけだ」
 だが、硝子の剣を構えるでもなく微笑む少年の――魔法を操る言素(ロギオン)と念素(ポエトン)を、ただのひと言で
呼び寄せ操り得たものの声に鬼気などない。
 林檎のように赤くなっていたはずの頬が、いま、このときは青ざめて果敢なく。
 まるで今にも泣きそうだというテトリスの感想は、雪と星の生み出す白の光に飲み込まれた。


.

286SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:15:34
 ◆◆



【星術まじない:時の極光/Light of the Past】

 過去の出来事を映し出す魔法。
 アイテムひとつか、現在いる部屋を選ぶ。選んだ対象にまつわる過去に起こった重要な出来事を映し出す。
 特に重要な出来事がない場合、その道具や部屋が生まれたときのことが分かる。


 対象:――――
 効果:わずかな効果(まじないの使用者にとり、わずかに状況が良くなる)
 難易度:9 使用者・花白の〔魅力〕:4

 状況:重要な出来事が起きたときと天候が同じ(+1修正)、対象には使用者も干渉している(同左)
 代償:まじないの使用者が、代償として《HP》を1D6点減らす(+1修正)
 逆効果:まじないに絶対成功した場合、花白はテトリスに対して「愛情」を1点得る(−2修正)


 判定:〔魅力〕 ―― 2D6+4+1>=9
 (2D6+4+1>=9) > 11[6,5]+4+1 > 16 > 成功



 ◆◆


.

287SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:16:08
Scene 04 ◆ 災厄の王子・誇りのままにその慈悲を与えよ


 閉じていた目を開いてみれば、ひろがるものに胸をうたれた。
 冷たい空気の、抜けていく果てにたゆとう闇を区切る天井がこの場所にはない。
 それに気づく前から、二の腕のひりつくような開放感があった。頭上に分厚い雲があろうと、その合間より銀花が
降り来たろうと変わらない。震えがくるほど鮮やかな空気は、そこにあるものの認識を打ち据えたいのか、穏やかに
解かしたいのか掴めない。掴めないまま雪風巻に吹かれてしまえば、掴めぬままでよいのだと無条件に思えてしまう。

(……これが『空』というものなのか)

 百万迷宮が飲み込み、砕いてしまったものに抱かれるテトリスの、思いは自問にすらならなかった。
 迷宮――『牢獄』が起源となるものに囚われたすべての魂が『海』や『虹』、『月』や『太陽』などとともに存在を
知らずして焦がれ、心の慰みとするもののひとつが、目の前にある。種族的な記憶がそうと叫んでいる。
 言葉を奪われたテトリスの纏う外套が、風によるものでなく輪郭を変えていた。
 普段は動きを抑えている猫の尻尾は、いまや垂直に持ち上がり、あるじの覚えた歓喜を表してやまない。
 だが、「尻尾が動いた」という感覚があっても、彼には、指の一本も動かせなかった。
 空の下に一歩を踏み出して、周囲の景色が変わらない。雪のひとひらを捕まえようと伸ばした指も応えない。

(こいつは星術士が伝えるどの術でもない。なら、まずもって『まじない』だろう)

「ほんのすこし願っただけ」。
 花白の言葉と系統だった星術にない効果をたどれば、答えはおのずと導かれた。
 たとえば、これが迷宮の壁のひとつに向けて映像を映し出す【幻燈】ならば自分の身体は動く。加えて、迷宮の他の壁が
健在なら自分がどこにいるのか自失することも出来ない。失ったものを探す【導きの灯】では空間を超えられず、また、
実体の無いもの――この場合は、テトリスのなかにある空の記憶――を探し出すこともかなわない。
 そして【時の極光】は、過去の重要な出来事を映し出す。
 まじないという言葉に反して、いまテトリスの「立っている」場所の現実感は魔法のように強いものだ。
 だが、それも記憶を封じ、あるいは目覚めさせるという『白の力』や状況、代償といった要素も手伝えば、けして不可能
ではない。まじないとは体系化された魔法にない効果の幅広さと、再現性の低さを備えた簡素な術であるから。
 立ち上がった尻尾を鎮めるかたわら、適度に可能性を潰した少年は、潰したものを土台に気を落ち着けた。
 尻尾と同じに空ばかり見ていた視線を落とせば、高層建築物のくすんだねずみ色が視界を満たす。瀝青。列強の一たる
ダイナマイト帝国の『船』にも使われたという素材が、これほどに多用される場所は百万迷宮のどこにもない。


(ここは、十也や修羅ノ介……ムラクモやアカツキたちの世界。この迷宮が、生まれた場所だ――)


 戦慄と納得に満ちた脳漿から、思考の末端がほどけて溢れた。
 【決闘場】の罠――《マグネットムーブ》と言ったか、雷使いの能力者が操ってみせた磁力によってテトリスが誘われかけた
場所もまた、まじないを使った花白のいる『合咲の間』だ。
 ならば左京やアカツキの所持する物品も、「術者が位置する部屋にあるもの」という条件を満たす。
 そして、ここまで強力に過去を写し込んでいる結果もかんがみれば、『これ』に花白自身も干渉していた事実がまじないの
効果を高めている可能性は十分に考えられた。

(それならこれは、迷核の。あるいは……迷核となかば同化している、迷宮支配者の過去なのか)

 そこに考えの至った瞬間、テトリスは真に過去の光景へ溶け込んだ。
 自分の肉体に由来する五感が極限まで削られ、主観のなかに客観が混淆する。
 映し出されている過去の持ち主の視点と、すでに結晶化した記憶をためつすがめつするときの、あの感覚――過去のあるじすら
持ち得ぬ角度からカメラが当てられるときの視点とが、ひどく澄んだ思考のなかだけで両立していく。
 先刻の剣劇とは比べ物にならない出来ばえの舞台においても、雪は、絶えることなく舞い遊んでいた。
 高層建築の一面に流れる映像の予報によれば、あすもあさっても雪。現在時刻は十九時五十二分、

(な……こいつ、が……憎い?)

 三十五秒を回った瞬間、掲示板の流す映像に、ひとりの人間が現れた。

288SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:16:38
 同時に、テトリスの脳は、写り込んだ過去にこめられた感情でもって直截に揺らされる。
 白い部屋の壇上にあがった男の、秀麗な顔立ちを引き立てるプラチナブロンド。許容や妥協の一切見受けられぬ峻厳な双眸。
胸の、ざわつくものの源を眺めないという選択を下すことも許されない少年は、必死で思いの源を探った。
 憎い。思い自体は強く烈しいが、そうではない。憤懣に近いものや、さらに未消化な衝撃は街の様々なモニタへいちどきに
映る男にも向いているが、何よりまず、この思いを感じた者と、それを追憶するテトリス自身にこそ牙を剥く。

(なぜだ。なぜ――? 疑問、を……叩きつけたいと思っているのか、こいつは)

 おそらく、事態を受けたものがあまりに無力であったから。
 思いがひどく強いのは、ここにどうしても噛み砕けないものがあって、何度も思い出していたから。
 そうした理解は自身のおぼえる負担の軽減には一切繋がらないことを痛感しながら、それでも過去が物語を作る。

(イスカリオテ……反逆の、聖人とやらに)

 アルフレッド・J・コードウェル博士。
 複数の画面で男が名乗ると同時に、彼の二つ名<コードネーム>が脳裡にひらめいた。
 記憶のあるじが知る年齢に比して若い肉体の、喉から紡ぎ出される声はテトリスの想像を外れない。深みはあるが厳しい、
男性性のかたまりだとすら形容出来る声音は、ひどく計算された抑揚をもって聴衆の耳朶を打つ。
 彫りの深く端正な顔の、鼻梁に渡したブリッジで支えられたモノクルもそうだ。緑色の瞳の片方を彩るレンズと、頬に下がる
銀の鎖の繊細をもってしても、視線のするどさはいささかも減じなかった。


「あなた方の日常は、すでに壊れている」


 酷薄なまでのひと言で、瞬間、テトリスは理解に至った。
 様々なものの伝聞によって知った世界に関する知識の点が、線を通り越して面となる。

(『レネゲイドウィルス』。ひとを超人たらしめる与える代わりに、彼らの理性を奪うもの。
 発見したものは、この、コードウェル博士。人類の多くがこれに感染したことと、ウィルスの侵蝕に耐え切れないものは
心を失い、ひとでない『ジャーム』になること。その怪物が世界を壊していることを、各国政府へ警告した……)

 儀式忍法の土台となった世界の背景を自分に話した者は、加賀十也。
『探求の獣(クエスティングビースト)』のコードネームをもつ少年であった。
 自身が一度死んだことで超人としての能力に目覚めた彼の、気怠げにしている眼に、あのときばかりは血が入っていたことを
覚えている。怪力を得るとともに、肉体の一部が獣のそれに変化する「キュマイラ」のシンドロームに覚醒したと知れると同時に、
自分が決定的に日常へ馴染めなくなったと理解した、彼は、それでも何かに焦がれる心までは喪っていなかった。

  ――いつか、この手でアイツを殺す――

 たとえ、それがひどく昏いものであったとしてもだ。
 アカツキのような年長者に属し、幾度となく鉄火場を乗り越えたものが、だからこそ沈黙した瞬間もよく覚えている。
 同じ世界に生きていたという十也の話があったからこそ、あの技官は左京との戦いを選んだのかもしれない。


(……だが、これは……これが、ボク自身の気持ちか)


 魔戦が行われた世界について、テトリスは伝聞によって得たことしか知らない。
 一説には百万迷宮のいずこかから到達出来るともいうこの世界は、どれだけ終わっているか。どれだけ救いがないのか、
どれだけ苦しいのか生きづらいのか、それでも目指したいものが、見たい景色が、夢や希望があるのか。
 血盟に与するか否かに関わらず、どこの世界にもあるような『人間』の話は、抱えきれぬほど聞いてきた。
 その、ばらばらにほどけた欠片を繋いだものが、十也たちによる世界そのものの話だったのだ。

289SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:16:58
 たとえば、十也も助力していたという『日常の盾』――UGN(ユニバーサル・ガーディアンズ・ネットワーク)。
 コードウェル博士らが設立した、人類と超人<オーヴァード>の共存を目指す組織の背景も思い出せる。
 人間以上の力を持つが、人間よりも人間性を喪いやすい超人。ヒトでなくなった者たちを世界に認め受け入れさせることを
目的にしたUGNは、博士の事故死をきっかけに治安維持の機能に重点を置いたものになったのだという。
 レネゲイドが関連する事件の解決や情報の隠蔽を行う一方で、力の扱い方を知らぬ者を保護し、ウィルスがもたらす衝動を
制御する方法を教えて協力者を増やす。そうして時間を稼ぎながらウィルスを研究し――。


「UGNは、その意義を失った」


 最終的には超人をヒトに戻すことを目的としていた組織を、設立者であった男があっさりと切り捨てた。
 そればかりか、博士は人類の盾としてあった者たちすべてをこの夜を機に裏切った。オーヴァードの力を犯罪やテロに
扱う『人類の敵』に与し、みずからの手で複数のUGN支部を壊滅させたというのだ。
 記憶操作や機械への干渉をもって博士の帰還を一般社会から隠すことには成功したが、それも無駄に終わったと聞いている。
 完全者を名乗る魔女が立ち上げた『完全教団』の擁する騎士どもが、ウィルスや忍神の血といった異能に目覚めぬ「旧人類」の
肉体を破壊することで、かれらの霊的な救済を行うと全世界に向けて宣言し、実行したがゆえに。


「新たな世界のため、すべてを破壊しなければならんのだ」
 すでに途切れた映像に映っていた男の名残が、追想する過去にあった。
 コードウェル博士はUGNに向けたものと同じ調子で、自身の住まっていた世界そのものを捨てて征く。

「恐れることはない……悪しき肉体は滅び霊魂は救われる。新たなる器の完成をもって、人は次の階段を上るのだ」
 いくつか断線した映像や音声の、原因を作り出した魔女が、高らかに笑う気配もあった。
 プネウマ計画。愛を意味する語を冠したものが人々にもたらしたのは飢えに疫病、暴動、凍死というところだった。

「人間に価値は無い――殺してでも減らすべきだ。もう誰も『人口調節審議会』を止めることは出来ないのだよ」
 政府の側からコードウェル博士の帰還に助力した帝国陸軍の武官が、黒く艶消しした刀を突きつけた。
 人減らしが目的だと口にすることの出来る、彼は自分自身の手によってさえ組織を止めようとは思わない。


(浄化。滅ぼす。破壊する。……ほとんどは詩的で綺麗な表現だが、要は『皆殺しにする』ってことだろう)

 情報を、統制するためだろうか。
 ただ砂嵐を流すようになっていたモニタのひとつが、ノイズのような歌を流した。


.

290SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:17:21
 ◆◆





  ――――全てを壊しー、それから創るー。





 ◆◆


.

291SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:17:39
「……どうして」

 はじめて自身の思考が肉声をなしたと感じた、その瞬間に『戻って』いた。
 雪の吹き乱れる情景こそ変化はないが、空気の流れ方で分かる。分かってしまう。
「やあ、おかえり」
 壁と天井でもって仕切られた空間で花白と直面せざるを得ないことを理解した、テトリスは片膝を折っていた。
 迷核に込められていたであろう過去が、脳漿を圧迫し、花白の声の穏やかさが、彼の求めるものを思い起こさせる。
「頑張ってみたんだけど、ちゃんとした魔法はダメだったよ」
 息を荒らげる騎士の背景を知ってか知らずか、花白は気楽そうな声で言った。きみが過去を見てる……過去と重なってるって
ことを理由にして、【刻騙し】の魔法が使えないかと思ったんだ。
 でも、いっときでも滅びの時を止めるなんてどだい無理な話だったね。
 そんな力が使えたら、僕だってもとの箱庭で……力が及ぶかぎり、ずっと使ってたと思うから。
「そんな――魔法を。いつ使ったんだ」
「いま」いたずらを自分からばらした子供の顔で、花白は星の欠片から手を離す。「『どうして』って、いま言ったじゃない。
そのとき、僕の力がちょっとだけ強まった気がしたんだ」
 協調行動。思い浮かんだランドメイカーとしての用語を、テトリスは水筒の水で飲み込んだ。
 相手に対して抱いた《好意》を、この場合は無意識に花白自身の糧として使われたということだろうか。
 じかに手合わせした剣のみならず、救世主がもつ『白の力』も感覚的に操っていたと聞いたものだが、なるほどたしかに、
この少年にはひどく嗅覚のするどいところがある。

「結論を言うまでに、ひとつ問おう。お前の言う――『すべて』ってのは、一体どこまでのものを指すんだ」

 だからこそ、先手を打って問いかけなければならなかった。
 自身へ問いかけた花白に満足される必要はない。まして愛される必要もない。
 だが、これだけは譲れなかった。ここで一歩でも譲ってしまえば、少年は自身が騎士でさえあれないと確信した。
「なんだ。それって最初に訊くべきところじゃない?」
「そこだけ聞けば正論だが、訊くまでにあれを見せたのはお前だ」
「それでも、おかしいよ」そして、花白は最も痛いところを晒した言葉を的確に拾って、ため息をついてみせる。

「すべては『すべて』さ。でも、そういうふうに訊くってことは、弾かなきゃいけないと思うものとか見ちゃった?」
「……そのとおりだ。民草――お前の言う『ヒトビト』か? ソイツらに審判だけを下せるヤツが、あそこにもいた」

 アルフレッド・J・コードウェルの、あるいは完全者の、ムラクモの――。
 三者三様に世界を壊すと言い放ったものたちの浮かべる表情は、おぞましいと形容しても足りなかった。
「理想もいい。ときには鬼になることだって必要だろう。そういう気持ちはボクにだってある」
 理合いに秀でてひどく冷たく、しかして、双眸にだけは憎しみとも怒りとも取れる熱のさし続ける顔。顔。顔。
「だが……絆や命の途切れた瞬間で止まって、自分の力にまつわる衝動でしか動けない怪物となると話はべつだ」
 方向こそ違えど『新世界』を求めて行動した彼らは、三者とも同じような顔つきをしていたのだ。
 いちど死んだはずの人間は、これ以上死なない。
 生まれ直すこともなければ、精神の変容がなされることもない。
 ひとと繋がる理由もないというのに、変わりようのないがゆえに相対するものに変化を強要し続けるさまは、テトリスの
目から見れば屍霊術師の手によって立ち上がり、生者を憎む死霊のそれとなんら変わりはなかった。
「ふぅん。それだけ聞くと、きみが見てきたヤツは『ジャーム』ってのに似てるね」
 わずかな間だが、アカツキとともにいた十也と行動した花白もオーヴァードを知っている。
 極光によって過去に至る、それまでに聞いた言葉がなければ、テトリスは彼もジャームに近いものだと認識しただろう。

292SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:18:00
「ヤツらだけは許されないと感じたボクが正しいかどうかは、この際どうでもいい。
 理想、目的――あるいは概念そのものになって、自分で自分を満たすやり方も忘れた輩だけは認められない」
「ギリギリで成り立ってる日常を壊して、整理して、水際立ったところから助けてくれるかもしれなくても?」
「整理や救済って言葉の裏には何がある。もと救世主。その『裏』に堪えられなかったのがお前なんじゃなかったか」
「……それだってウソじゃないけど、なんか落第したみたいに聞こえちゃうなぁ」
「いいさ。手前勝手にひとを神にする『新神宮殿』と同じに、こんなもの、本当は出来なくていい」

 もっとも、王と王を守る騎士だけは、最後まで逃げてはならないのだが。
 それゆえに、テトリスは花白よりも先に征くために心を燃やす。人類の敵となった者を超えるために口を開く。

「一番怖いと思ったのは、な。戻りぎわに耳に入った、子供の歌う声だったよ。
『全てを壊し、それから創る』……活劇の主題歌のようにも聴こえたんだが、ボクには裏にある意味が分かった。
 そして、そんなものの意味が分からない子供の姿を、一瞬……ほんの一瞬であっても、想像がつかなくなったのさ」
「冗談とか夢物語で流せないくらいに、この箱庭も終わってたのかい?」
「終わっているかどうかは知らない。だが、どうしても分からない。どうして」

 どうして。
 答えようのない問いの、否定の一節こそが、テトリスの胸を衝き上げる。


「その歌も、ムラクモや完全者たちも、ヤツらの編んだ『新神宮殿』も同じだ。
 どうして壊してから創るんだ。壊してからじゃないと創れないのか、全部壊していく必要は本当にあるのか。
 風雨やなにかのように『ままならない』と思えるものも認めて、そいつを残しながら創ることは選べなかったのか」


 続いた言葉は、問いの形さえなさないものだった。
 血盟『影弥勒』の一員として儀式忍法に近い立ち位置にあった少年は、この問いに答えを望まない。
 この世界にあるものを全て壊していくと、絆や歴史、伝統や生を振りほどいて応えられる者がいることをこそ望まない。
「それ、出来るんなら誰かがとっくにやってると思うんだ。僕らのせかいの、かみさまとかが」
「知るか。ボクはかみさまなんか見てない。いや――生き神様とか『不思議さま』には会ったけど、あれは」
「あれは?」
「いや、いい。かみさまが出来ないか、やらなかったことなら、それは人が努力していけることだ。
 ボクにはわずかな《民》に《希望》を宿すことしか出来ないが、だからって最初から最後の手段に頼ってどうする」
「……羨ましいな、そういうコト、素直に言えるの。かみさまになれば楽かもしれないのに」
「楽じゃない」生き神様を知る少年は、その言葉だけは明確に否定した。「ひとの信仰に応えるってのは、楽なもんじゃない」


 信仰者を獲得すれば、ひとは神になれる。
 信仰もまた思いである以上、神は信仰を糧にして奇跡を起こす。
 それが、百万迷宮における生き神様のあり方だ。
 ではなにゆえに、ひとはこの世界における生き神様となる『真の忍神』を信ずるか。
 おそらくは神鏡で未来を見透し、世界の終わりさえ分かってもなお、夢を諦めずに進む姿を信じるのだろう。
 理想の見た夢を目指して神にまで至り、不滅の存在となろうとも色褪せぬ存在を前にした人々は、

 胸に《希望》を、宿せようものか。
 改めて、そうとだけ吐き捨ててしまいたくなる心地だった。

 いまも発動し続ける『新神宮殿』の構造そのものは、筋が通っているとすら言えるものだ。
 神の死体。それに神器「神鏡」と部品「理想の見る夢」を宿し、現人神や救世主たちの性質を作り変える。
 あるいは「理想の見る夢」とやらを抱くことがかなった人物の篤信が、かれの信じる者を生き神様として蘇らせる。
『新神宮殿』のもととなった『棄神宮殿』は、力に溺れた「偽りの忍神」を異世界に隔離するためのものであると
言うのだから、このような場に喚ばれた者は等しく生き神様となりうる資格を有するのかもしれない。

 だが、そうして生まれ直した世界にはきっと何も残らない。
 理想や夢が膨らんだ結果として生まれる、世界には《希望》を抱くべき未来がない。

293SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:18:28
 理想や夢を貫くために、ひとの、屍の使い道さえ見つけたもの――ひとを、もののように扱うひとの開闢していく
世界があるとして、「落下ダメージの」パジトノフ公爵テトリス九世は、そのような世界の誕生を認めない。
 そんな場所には神がいようと、善人も悪人も悪役も、凡人や俗人さえもが等しくいないだろう。
 大義があって理由のない世界では、そのような者は存在していたとしても認識がされないだろう。
 思いが力になろうとなるまいと、ひとに対する《好意》も《敵意》も、敬意も名誉もない世界だけは認められない。


「そんな世界を望むようなヤツだけは、ボクは愛してなんかやれない。
 出来ることといえば、ソイツらをボク自身の心にとどめて、一生をかけて考えていくくらいだ」
「なんだ。中途半端っていうか、きみもけっこう純粋なとこ、あるんだね」
 気分を入れ替えるように、花白は空いていた手で背中を叩いた。
 そのままひとつ伸びをして――硝子の刀身をもつ剣を纏った上着の裾で拭い、青眼に構え直す。
「愛せないなら、愛することが出来るようになるまで噛み砕く。でも、それってけっこう残酷だよ?」
「赦すにあたっては、納得がないと始まらない……」いかんなと続けたテトリスの声は、年齢以上に落ち着いていた。
「それも壊すうちに入るなら、ボクも、結局は壊して創ることしか出来ん。
 だけど、壊したもののことは忘れない。ものを壊すに至ったきっかけが別の死や滅びであったとして、もう何も言えなくなった
ものを免罪符にすることはパジトノフ公爵家の。いや。『落下ダメージの』テトリスが流儀ではないな」
 災厄王。罪なきものを百万迷宮に放り込んだ大罪人であると同時に、創造主にして偉大なる魔術の使い手。
 テトリスはそうした存在の血を引いていることを誇りにしてきたが――脈々と受け継がれてきたものを誇りに思い、道を征くに
あたって心の支えにすることと、自身が正義を行うために死者の口を借りて何かを言わせることとは違う。

「決闘は……まぁ、男で国賓の保護を受けている者が相手ならよかろう。
 どのみちノー・クォーターなんだし、ボクはまず、戦い終わった者を迎えてやらねばならんのだから」

 心を脈打たせて溢れ出さんとする思いを、ゆえに少年は他人へ示さない。
 これは無責任な同情や称賛で満たされていいものではないと、自身の裡で定義しているがゆえに。
 代わりにというべきか、決闘を挑むために必要な白手袋を探すふりをすることが、彼の誇りに沿うやり方であった。
「じゃ、それが答えでいいんだね?」
「ああ。今のボクの全力がこれだ。何年か経てば変わるだろうが、さすがにそれは許してもらう」
 といって、大剣を構えて打ち込めば、それで命の器が壊れかねない。
 降伏勧告を行うことは可能だが、それでこの少年が無力化されるとも思えない。
 そうして悩んでいるがゆえに、テトリスには、花白が浮かべていた表情の意味に気づけなかった。

「国賓……彩国の国賓預言師のこと、知ってたの?」
「ああ。直接は会っちゃいないが銀朱から聞いた。白梟という名の女性だったらしいな」

 花白の、薄紅をした瞳の揺らぎは、その意味を探る前にかき消された。
 今にも壊れてしまいそうなものに触れたかのような惑いは、瞑目したまぶたが隠してこぼさない。
 同じ瞑目であっても話を聞きたくないと叫んだときとは真逆に、少年は青ざめた頬へ安らいだものを浮かべた。
「気難しいっていうか頑固だけど、悪い人じゃないんだよ。
 玄冬を殺した僕は、救世主じゃなくなったのに……それでも風邪を、引かないようにしてくれてた」
「母親がわりのようなもの、だったのか」
 母も、父というべきも、すでにないからだろうか。
 花白が恐れながらも抱きしめている安らぎが、テトリスには分かれない。
「う……ん。分かんないな。いつだって、僕と『白の鳥』との距離は遠かったように思うから」
 安らぎに翳をさす疲れが、いったい彼の何に由来しているのか、見当がつかない。


「だから。僕が他の誰かを殺さず終わる方法とか、ここで終わる僕を活かす方法は、これしかないと思えたよ」
「――ッあ!?」


 白光が思考の死角をついて、テトリスの得物を跳ねあげた。
 武勇を支える全力をもって敵を仕留める大剣。最も手に馴染んだ武器のひとつが、あっさりと手から離れた事実に
驚くまでに、騎士の身体は腰を落として、肩口から迷宮の床に転がる。

294SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:19:05
 無理矢理に間合いを離して、舌に土の苦味をおぼえながら立ち上がれば、花白はすでに剣を構えていた。
 ただ、玉壺の氷がごとくに透き通った刃の向かう先はテトリスなどではなく、

「お前、死ぬ気か? あそこまでしておいて……!」
「言ってたんだよ、玄冬が。殺すのは俺で最後にしろって」

 そうと口にしてすぐに、花白はゆるゆるとかぶりをふった。
 何もかも玄冬のせいにしちゃいけないや。僕だって本当は殺したくなんかないもの。
 続いた言葉は、自身の骨を晒すものだった。そして、それを聞いた者を突こうとするものではなかった。
「莫迦野郎。それじゃ、そんなじゃお前は、何のためにッ」
「僕は、きみの答えに満足した。……それじゃダメ?
 命の器は、こうしたら満ちない。それに世界がまた滅びに近づくまで、あの箱庭には救世主も生まれない」
 そうすれば、ほんのすこしだけど、あの人が楽になれるんだ。
 疲労と憔悴を手放そうとする、その表情が満ち足りていたこそ、テトリスは歳相応の怒りをあらわにした。
 すべて良しとでも言わんばかりの顔は、言葉つきは、鮮烈なほどに白い少年も人類の敵も使うべきものではない。
 人類の敵。ちくしょう。世界を愛そうとして愛せない花白は、たしかに希望を胸にして歩まんとするものどもとの共存は
出来ない。だが、どうしてそれなら最後まで、敬意を払える敵として、交わった道を歩んでいこうとしないのだ。
 どうして土壇場になって、自身のすべてを賭して殉じようとしていた相手を変えて、しまえる――。

「……まさか」
「そういうこと。僕、ウソは下手なんだけど、なにを我慢してたかにまでは気づかれなかったな」

 玄冬に殉じようとしていた花白の変心が分からない。
 花白が玄冬に殉じることを前提に考えを巡らせていたテトリスに、分かれようはずもなかった。
 あまつさえ、それが母親がわりのような存在のために死のうとしている、ということであるのなら。
「なんで……どうして、そこだけは間違わないんだ。なんで一貫させられるんだ、お前は」
 命や人倫など振り捨てた選択をまえに、テトリスは身を起こそうとして、起こせない。
「ごめん。ホントは、あまり好きじゃない『力』なんだけどさ。ウソをついてごまかしたって、心は痛いままだから」
 誰かを好きになるためにさえ、誰かに血を流させる必要がある。
 花白のためにこそ聞き流すと決めていた言葉が、聞き流すと決めていたからこそ胸中に悔悟を呼び起こす。
 何かを知っていることが美徳であるとは言わないが、知ろうとすることを放棄したのは、明らかな失策だった。


「だけど、きみは僕のこともゆるして――最期まで、見守ってくれるんだろ」


 誰かを、好きになりたかった。
 どうしようもなく審判や救済に向かない願いを抱いた救世主の出来損ないは、甘い声音でテトリスに乞う。
「違う! あれはそういう意味じゃな……ッ」
「言ったよね。『すべてあいして、ゆるしてみせろ』って」
 最期まで見守ってくれという願いが『白の力』を伝わって、騎士の身体を石床に縛り続けていた。
 王を目指すこの騎士の思いと、誇りの土台をなすのは愛したものに報いることと、情愛を注いで征くこと――。
 願い乞うた花白と質を同じくするがゆえに、テトリスの誇りでは、白の呪縛をほどくことがかなわない。
 同質の思いを抱いた二人のうち、片方が人ならざる『力』を有する事実が、ここにきて厳然たる差となって現れる。
「そして、きみは愛せないものも噛み砕くと誓った。……諦めずにたくさん考えて、ここで、決めてくれたんだ」
「こ、の……」
 動かない身体に、《気力》を込めようとするテトリスの傍に花白はそっと近づいた。
 花白。空より降り来たる雪を、その身と名とに纏った少年は、騎士の頬にあたたかな指先をすべらせる。

「だから、たとえば春に降る白い花。僕が持ってる綺麗なもの、あの人からもらったものを、きみにもあげる」

 困ったような顔つきでそう言われれば、面食らうしかなかった。
 ――自分にとって大事なものを、口の中で噛み砕いて遊べる玩具をやるから大人しくしていてくれ。
 子供が子供をあやすような言を受けたテトリスの緊張が、これでいちどきに切れてしまう。優れた力を持つがゆえに、人として
いびつになるものは数多くある。だが、花白の場合は言動と思考がどこまでも噛み合わないまま、ひとり死んでいくことが出来る。
 そうであるからこの少年が、《民》とならない人類の敵たりうると分かってしまう。

295SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:19:25
 どうしようもない。
 諦観を全面に出した言葉は、苦い酸のようにテトリスの胸を灼いていく。
 足りないのだ。どうしようもない人間を、どうしようもなくはない者にするには手数も時間も足りない。
 そして、どうしようもない人間を、どうしようもないままで抱えていく考えを、よりによってこの自分が表明している。
 いずれ世界が滅ぶなら、それを続けと願うなら。この戦いとて、ここで、終わっていくしかないのだ。

「春の花ってのは……この、白梅じゃあなく」
 だから、せめてものこと、騎士は花白の名が持つ意味を問うた。
 救世主として生まれたというのに人としてしかあれず、人としての玄冬や白梟、銀朱らをしか愛せずに――。
 そうであったというのに、死に方だけは人のそれというには異常な少年を表すものが何なのかは知っておきたかった。
「桜だよ。救世主が玄冬を殺すと、せかいに降り積もった雪は、すべて春の花に変わるんだ」
 誰の願いにも添えないまま逝く少年の笑みがおぞましいと思えても、知っておかねばならなかった。
 その花白は自身の未熟にも無知にも気づかない様子で、自分が言った言葉に対してひどく素直な唸りを漏らす。
「まいったな。僕が死んだら、アカツキの記憶戻っちゃうや」
「『白の力』で、何かの記憶を封じているのか」
「そ。アイツは自分で自分の始末をつけようとしてた。首を斬るヤツも――腹を、切るようなヤツも同じだから」
 自分の名前の意味と、ひとの死を同列に語れることの意味に、そのとき、テトリスも気づいた。

「だから、僕はきっと……僕みたいでさ。アイツのことも、好きじゃなかった」

「いいさ。べつにそれでも」
 気づいて、しかし、触れなかった。
 自分が何をしているか、どれだけ莫迦なことをしているかを、この少年は知っている。
 だから最期に、花白はアカツキを嫌っていく。莫迦なことはこれで最後にしろと、間違ってはいないのに歪みがすぎて
届きもしない伝言を、届きもしないという程度では諦めることなく残していく。
「もうちょっと、まともに育てとは思うんだが」それなら、それで良かった。「とりあえず、お前はボクを信じたんだ。
その回りくどい伝言は、とりあえずヤツが生き残ってるかどうかを確かめてから伝えるさ」
 ノー・クォーター、ノー・プロットの、どこにも繋がらない劇に、これ以上続けと願う趣味はテトリスにない。
 それは、硝子の剣の刀身を返した花白も同じだった。

「……闘いはまだこれからだ。これからボクは王になる。
 いつかも言ったが、王でなけりゃダメなんだ。王として、《民》が始めたこの魔戦を終わらせてやるには」

 硝子の剣が、瞬間、輝きの質を変えた。
『白の力』を受けた刃は、よく練磨された鋼のように冴え渡った煌めきをのぞかせる。
 あとに残ったものは、幼児のような首肯と、テトリスの周囲に纏い付く魔素。
 災厄の王子を縛ってとどめた『白の力』の、成れの果てたる思いであった。



 ◆◆


.

296SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:19:47
Scene 05 ◆ 花白・君を殺して花を散らせて


 春の花に息が止まった。
 空から降る白い花に交ざって降るのは、救世主が生み出すという花。
 ぼくの生まれた季節にして、玄冬の死んで迎える季節に咲いて舞い散る――。
 雪に交じる花びらが狂い咲きの桜に見えたそのとき、左手はそれをたぐってつかんだ。
 だけど、穴が空くほど見つめた萼は赤くて、指で透けるほど撫でた花びらも、切れ目なく丸いもので。
 花びらが壊れてしまうほどに答えを探して納得して、僕は、やっと息を継ぐことが出来た。もう死んだほうがいいと
決めたときにも脈打つ鼓動が白々しいのに安らぎが体をめぐって、やっぱり未来に期待しているんだと思えた。
 いま幸せになれなくても、幸せが一体なんなのかさえ分からなくてもだ。
 未来に期待してるってことは、たぶん、僕は幸せになることをずっと夢見ている。
 いま幸せになれなくても、幸せってものが、一体どんなものなのかさえ分からなくても。
 ただ、きっと幸せってものは、あした生まれてくるきみと、あしたは剣を取らなかった僕とが巡り逢って、そして。

 いずれ生まれてくるだろう、次の玄冬に、
 僕の救わなきゃいけない、あのせかいを終わらせるものに、
 最後には死に別れると分かっていても、それでも優しくされることだと思えた。
 優しくされたいって言葉は死ぬほど薄っぺらくて、今からホントに死ぬヤツにはお似合いだった。

 幸せ。
 幸せを思えば浮かぶ、玄冬はけれど、ここでも死んだ。
 こんな所でなければ願えない終わりのかたちを、僕こそが否定した。
 そうしてこのまま元の箱庭に戻れたとして、あそこにはまだあの人が。箱庭を監視する鳥の片翼が変わらずにある。
 救世主とされた僕の隣にあった、あの人は、なににも染まらない『白の鳥』だった。

 ああ――ああ、きっと。
 きっと、彩の国の城では僕の嫌いなあの人が。僕の好きになりたかった、あの人が。
 もう変えることさえ出来ない、涼しそうな顔つきで、繰り返し永遠の冬に近づく世界を眺めている。
 初夏の緑色をした目。普段は穏やかなのに、必要ならどこまでも酷薄になれるあの目は涙も流さない。
 そのくせ、このごろは母親のような諦観をしずめた眼差しを、この僕に注ぎさえしている。

 だから、それならやっぱり、僕のやることはひとつしかないと思えた。
 誰からも忌まれる玄冬が好きで、かわいそうで、かわいそうだと感じたものを拠り所にして『正義』を為そうとした
僕と、創世主の帰還をしか信じ得ない白の鳥とは、目を逸らしたくなるほどの盲目だけはよく似ているとも思った。
 管理者の塔で見た、怜悧な微笑み。
 自分で玄冬を殺しに行くという僕の言葉を、嘘だと知っていたくせに。
 子供そのものの癇癪をぶつけたときの、あの人の表情が浮かぶと同時に胸を刺す。

  ――……いいえ?

 刺された胸が、絞られてたまらなくなる。
 あの人は。他人行儀で張り詰めていて、ひどく近寄りがたいあの人は、
 僕のことを……救世主が玄冬を殺して世界を救う未来を心から信じていた。
 理屈や計算、どこかで理想さえ振り捨てた、およそあの人らしくないやり方で、


 白の鳥たる白梟は、花白を信じてくれていた。


 花白。
 あの人が僕にくれた綺麗な名前を、あの人が歌えば、桜さえ美しく思える瞬間があった。
 玄冬以外のものが救われたせかいに咲く花を認めるたび、僕からは冬が拭われた。
 そうして日々を過ごしていれば、撥ね付けられても揺るがなかったあの人が棘を失うさまも見た。
 これ以上甘えて寄りかかってしまえば、あの人が倒れてしまう。
 直感としか言いようのない感覚を受けた僕からも、棘というべきは抜け落ちていった。
 それは、でも、丸くなっただとか大人になったなんていうものじゃない。
 救われたせかいがヒトビトにもたらした日々の安穏は、僕とあの人からじりじりと力を奪っていく。


  ――だから……終わらせてしまいなさい、花白。
  終わってしまえば、夢だったとでも思えるでしょう。


 あの塔で玄冬を斬って、僕は、ほんの少しだけ楽になれた。
 だけど「次からの僕には優しくする」と約束したあの人は、どれだけ時代が巡ろうと終われない。
 箱庭を維持することが白の鳥の役目だから、そもそも、箱庭にあるどんなものも途中で手放せはしない。
 悲しいことを、つかの間の夢だったと思えるときは、あの人には最初から与えられてなんかいない。

297SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:21:06
 季節が巡るうちに、あの人の顔をなす諸々の、ほんの一部でも目にしたからだろうか。
 いつの間にか僕は、殺したいとさえ思っていて、それでも好きになりたかったあの人を憎めなくなっていた。
「貴方には、私がついています」。悠然と断言した約束を守ってしまえる、怜悧で強くて正しい、白の鳥。
 そんなものでも悲しみや羨望や、諦観を覚えるものなのだと知ってしまったなら、救われるために傷つきたい僕は
あの人の胸奥に唇をつけて、わだかまる思いのいくばくかを吸いだしたいとさえ考える自分を四季の中に見つけていた。

 きっと埒もないことと、あの人は笑うんだろう。
 でも、僕はもうあの人を憎めない。約束を守るあの人を、要らないなんて思えない。
 救世主の役目から開放して欲しいと思っていた僕を、あの人は玄冬を殺させることで開放してくれたから。
 僕と約束したせいで、心に突き立つ楔をまたひとつ増やした、あの人がいとおしくなったから。
 その気持ちが分かったのなら、今度は僕が、あの人を。
 いいや。貴方……を。心がけずられるほど水際立った日常から、解放したい。

 前の玄冬を斬って、ここでも『次』の玄冬を斬って、次も、この次もきっと、
 僕は何度でも彼に出逢って、彼を知って、彼を斬って血に濡れて、赦されて心を痛める。
 傷口を抉り続ける僕の思いを注げるものは、あの箱庭で微笑み続ける貴方しかいないと分かってしまったから。

 だから……お願い、します。どんないろでもいいから、笑ってくれませんか。
 玄冬を喪った自分の変節を僕自身が笑っても、どうしてか虚しくなってしまうのです。
 虚しい、苦いと思いながら笑った頭に浮かんだのは、あのバカトリ。『黒の鳥』の剽げた顔だからかも。
 悔しいけど、本当に、悔しいけど。最初の玄冬のために創世主から箱庭を譲ってもらい、二人目の彼のために箱庭さえ
滅ぼしかねなかった片翼と、玄冬から貴方に心を移しつつあった僕は、やっぱり同類だったのかもしれません。
 ううん。あるいは「自分さえ死ねばすべてが終わる」と思い続けた玄冬と、いま、このときだけは。
 そういうふうに思ってみると、愚かな僕はどうしようもなく、嬉しくなってしまう。


 なのにお前も、死んだって莫迦なままでいるのか。
 お願いだ、銀朱。めまいがするほど考えたはての選択にさえ「間違ってる」だなんて言うな。


 僕が間違ったことをすれば、お前だけはいつも正してくれた。
 覚えてるよ、彩国が第三兵団の隊長どの。でも、お前に言われなくたって今の状況の莫迦らしさは分かるさ。
 こんな終わり方が美しいなら、こんな終わりを包んで続いていくせかいが綺麗だって言うんなら、こんなもの。
 ああそうさ。せかいは、ときに綺麗で、せかいに生きるものの思いはときに美しいかもしれない。
 けど『こんなもの』だよ。綺麗で美しいはずのものは、だって何度繰り返して続けてみたってあの人の、お前の、
僕や玄冬に――あの、トリの。黒鷹の心ひとつ救えないじゃないか。

 だったらそれは、ほんとうに大切なものなのか。
 僕と玄冬と鳥たちのたましいを、歪もうとも繋いできた想いを懸けて救うに足るものなのか。
 雪消の日さえ信じられず、戦いの血で雪を溶かそうとしていた箱庭。かみさまに見放されたせかい。
 綺麗で美しいものたちが、妙に薄っぺらく思えて、皮の一枚も剥がしてしまえば壊れてしまう書割のような代物は。
 憎んだって、恨んだって呪ったって僕を生かしていく、とろとろとしたまどろみのように生ぬるい水の、ゆりかごは。

 あんまりにも分からないから、べつに銀朱やネコミミじゃなくたって、いい。
 答えろ。誰か、僕に、せかいのすべてに対して答えろ。せかいを好きになるために答えてみせろ。
 あの莫迦や、あいつの大切な民草、玄冬と僕や鳥たちや他の箱庭をさえ、すべてあいして、ゆるしてみせろよ。
 これは綺麗なものだって、これは愛すべきものなんだって、喰らったものの骨に突かれても笑って、みせてくれ。

 は……イヤだな、ホント。なんでだよ。
 銀朱なんて、とっくにムラクモに殺されちゃったくせに。
 それでもアイツから教えるでもなく示してもらったものは、今も僕のなかでざわめいてる。
 これを知ったから、きっと僕だってヒトビトじゃあない玄冬たちを好きになろうとしてしまったんだ。
 せかいの嘆きを聴いて、嘆いても美しいせかいの矛盾を呪うほど、何もかもを好きになってしまいたかったんだ。

298SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:21:27
 そんなふうに思うからこそ、このせかいは間違っていると言わなきゃいけないのに。
 歪んでるんだって叫んで、嘆きに隠れたあかいものに気付いてもらわないといけない、のに。
 どうしてそれなら、舞い降りてくる雪は綺麗なんだろう。粛然と滅びを受け容れるさまが、こんなに美しいんだ。嘘だ。
嘘だよ。滅びさえ諦めて受け容れるのが本当に美しいなら、そう思うのが本当の気持ちだっていうんならせかいは。

 ほら、こうやってバラバラになるだけだから分かれよ。分かって――僕を、離せよ。
 こんな僕に未来を託して、信じてくれたひとの気持ちに応えていくには、これしかないんだから。
 お前だって先の救世主の血を引いてるんなら、こんなところでまで僕を叱っていくんじゃなくて、あの『鳥』の
空にも花を降らせて、ひとに近づいたあの人の心をなぐさめてくれ。それくらいはきっと、出来るだろ。
 やけっぱちの恨みつらみには、きっと誰も気付けない。だけど、かたちにすれば少しだけ楽になれたよ。
 それなら、いい。もういいんだ。だからこれで終わらせる。


 白梟。
 貴方がこのことを知らずとも、僕は構わない。
 春に芽吹くような花なんかで、貴方の心が鎮まるとも思えない。
 でも、どうせ貴方だって、勝手に僕のなにもかもを決めていったんですから。
 これから僕は剣を振るう。そうして貴方を、白の鳥をいっとき籠から解き放していく。
 せめて次の僕が生まれてくるときまでは、自由の身となった救世主を見ないでいいように。
 僕や玄冬、黒鷹、ヒトビト。せかいからの絶えることない問いかけへ、ひととき応えずにすむように。

 諦めるなんて赦さない。
 自分の言ったことが守れないのはとても、とても痛いけど。
 この時代にある白の鳥から離れると決めた、僕の自殺を貴方に捧げます。

 不断に続く遠いあすで、いつかまた出逢うまで。殺すことでしか救えない僕が示せる優しさのひとしずくを。



【花白@花帰葬 死亡】


.

299SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:21:57
【交錯迷宮・合咲の間 Side.B】
【「落下ダメージの」テトリス@シニカルポップ・ダンジョンシアター 迷宮キングダム】
[状態]:まことの騎士、災厄の王子、王になる決意
[クラス・ジョブスキル]:【武勲】【剣劇】 [スキル]:【乱舞】【突撃】【受け流し】【鉄腕】
[装備・所持品]:大剣@迷宮キングダム、希望の魔除け@ラストレムナント、幽命丹@シノビガミ、
 救世主の剣@花帰葬、「魔素」の素材×10@迷宮キングダム
[思考]:玄冬<魔王>となって、この魔戦を終わらせる
[参戦時期]:『猫耳王子×三女怪(迷宮キングダム リプレイ 女王の帰還)』終了後
[備考]:レベルが3から4に上がっています。その際に「感情値のリセット」が発生しました。
 血盟忍法【二人袴】を修得しています。
 血盟「影弥勒」の誰かが【感情】を抱いたとき、自分も同じ対象に同種の【感情】を手にします。

[テトリスの修得スキル]
【武勲】:騎士のクラススキル。戦闘開始時に指定した者に対するダメージを上昇させる。
【剣劇】:武人のジョブスキル。自分と同じエリアにいるもの全員に対して命中判定を行える。
【乱舞】:肉弾系のアドバンスドスキル。命中判定のとき、ダイスをひとつ多く振って命中や絶対成功の確率を上げる。
【突撃】:同上。戦闘時の移動フェイズに前進すると、命中率と武器の威力が上昇する。
【受け流し】:同上。自分が攻撃されたときに割り込んで使用。
 判定の達成値が相手の命中判定の達成値を上回れば、その攻撃のダメージを1にすることが出来る。
【鉄腕】:同上。自分の攻撃でダメージを与えたとき、相手を1マス後退させる。


 ※花白が命を落としたことにより、救世主の力たる「白の光」が途絶えました。
  光が封じていたアカツキの記憶から【フラッシュバックによる無力化の可能性】が生まれます。


 ※箱庭
 『Splendid Little B.R.』の舞台。
  エヌアイン完全世界・ダブルクロス・シノビガミの世界観がクロスオーバーしている世界。
  ある雪の日、人を超人に変えるが彼らから理性を奪う「レネゲイドウィルス」を発見した人物が
  日常の崩壊を世界へと告げ、それとほぼ同時期に旧人狩りを目的とした新聖堂騎士団による世界規模の
  無差別テロルが発生。地獄門が開いてのち、そこより現れた妖魔を軸に目的を達しようとしていた
  忍者も、こうなればヒトビトとの争いや死合いを余儀なくされた。
  日常の崩壊を示唆された放送こそ隠匿されたが、あの日から雪は止むことがない。
  ヒトビトのうちの、ある者は旧人狩りの電光兵団が手にかかった。
  ある者はオーヴァード同士の争いに巻き込まれ、あるいは彼らを利用しようとした結果として死んだ。
  ある者は忍者の力を持つ「蛹」として目覚めながら、その力を制御することが出来ずに暴走し、果てた。
  そうして散ったすべての命は、命の器に取り込まれている。

 ※命の器@花帰葬
  最終決戦<クライマックスフェイズ>が発生しないようになるエニグマ【封鎖結界】@シノビガミ参の
  偽装であったもの。
  花帰葬の舞台となった箱庭(世界)では、喪われた命の数がこの器に計上されていた。
  この器が満ちるまでに救世主が玄冬を殺さない場合、降り止まぬ雪に埋もれて世界は滅ぶ。
  だが、花白が玄冬を殺してもなお、この箱庭の滅びはやまない。
  現在エニグマは解除され、影弥勒たちとの決戦に移行しているが、解除条件は「二つの陣営の生き残りが
  十人以下になる」こと。交錯迷宮――ひいては迷宮によって隔絶された外の世界にも降り続ける雪は、
  迷宮化現象の起きた箱庭の滅びを暗喩したそれである。

300 ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:24:41
以上で投下を終了します。
途中、必要だなと思ったところでダイスロールを行ない、ルールを参照することで話の筋を立てていたのですが、
これはTwitter上のダイスボットにリプライを送って、返ってきた出目を基準にしてました。
判定の結果は、下記のページに目標値や使用したスキルなどと一緒にまとめています。

 ttp://www.eonet.ne.jp/~ice9/3rowa/etc_afterplay01.html

次回は第二章。ムラクモ vs. 藤林修羅ノ介です。
ここの容量「も」膨れてたので、分割投下の回数が増えるのは許してやってください……。

そして、ある意味では企画の趣旨を理解していない、知られている原作もさほどないだろう話を、
それでも読んでくださっている方に感謝を。
他人様の話に感想をつけるときと違って、巧くは言えませんが、とてもありがたいです。

301虫ロワ ◆XksB4AwhxU:2013/02/03(日) 22:33:04
>>67で参加表明した虫ロワ、投下開始します。

302虫ロワ ◆XksB4AwhxU:2013/02/03(日) 22:35:21
【ロワ名】虫ロワ
【生存者6名】
1.王蟲@風の谷のナウシカ【重傷・限界寸前】
2.黒谷ヤマメ@東方project【右腕・両足欠損】
3.ティン@テラフォーマーズ
4.シアン・シンジョーネ@パワポケ12秘密結社編【トラウマによる無力化の可能性あり】
5.虫愛づる姫君@堤中納言物語「虫愛づる姫君」
6.モントゥトゥユピー@HUNTER×HUNTER【メルエムの死に動揺】

【主催者サイド】
皇兄ナムリス@風の谷のナウシカ(司会)
シアン・シンジョーネ@パワポケ12秘密結社編(ジョーカーと兼任)
以上の二人は主な進行役。
バックには高度な科学力と強大な組織力を備えた謎の勢力が存在する。

【主催者の目的】
実験サンプルの処分を兼ねた余興……
だったが、シアンが進行役という立場を利用して何かを企んでいることが作中で明かされている。

【参戦作品】
風の谷のナウシカ
東方project
テラフォーマーズ
パワポケ12秘密結社編
堤中納言物語「虫愛づる姫君」
HUNTER×HUNTER
仮面ライダーspirits
サバイビー
ドラゴンクエスト7
ロマンシング・サガ2
武装錬金
地球防衛軍、
虫姫さま

【補足】
会場はアリの巣のような形の、巨大な地下空洞である。
日光は入らないが、内壁を光ゴケ@ドラクエ7が覆っているため、ヒトの視力で活動するのに十分な明るさが保たれている。
首輪の代わりに参加者の身体には呪印と、腐海の菌類のカプセルが仕込まれている。
呪印は参加者の能力をある程度制限する機能と、
主催者の命令に反応し、カプセルに封じられた腐海の植物の発芽を促す機能が備わっている。

303名無しロワイアル:2013/02/03(日) 22:37:23
 バトルロワイアル会場、地下大空洞から地上へと続く唯一の通路である
巨大アリ塚の頂上に、無数のモニターを眺める一つの眼があった。
正確には、一つ眼を象った兜。その生首の名をナムリスと言った。
兜の下に付いているべき体は数十時間前のオープニングで既に失われていた。
だが人の肉体を捨て、半不死者となったナムリスにとってそれは大した問題ではない。
事実、現在まで定時放送を始めとする司会の役目を元気に務め上げてきている。
先刻、まだ生き残っていた数少ない参加者を全て喰らい
会場に残る最後の参加者となった王蟲を見てナムリスはつぶやく。

「優勝は、あの蟲か。オメデトさん。
 ……アイツに言っても通じねえか。」

既に会場にはテラフォーマーズ・凶虫バゥ・殺人コオロギ等といった
大小様々な主催者の手駒達が放たれ、地下空間をくまなく埋め尽くしつつあった。
さらに本拠地および禁止エリアで発芽させられた菌類は
一口吸い込むだけでヒトの肺を腐らせる猛毒の瘴気を発し始めていた。
もはやこれではバトルロワイアルの体を為していない。
最後に生き残った参加者を、更に自らの手駒さえも楽には殺すまいとする主催者の悪意。
それはまるで、現世に地獄を生み出そうと試みているかの様だった。

その悪意に呼応するかのように、無数の複眼を爛々と赤く光らせながらアリ塚へ突撃する王蟲。
行く手を阻む大量の巨大グモに甲皮の所々を引き剥がされても、
傷口に巨大アリの酸液を浴びても、
爆弾ビートルを踏んで脚の何本かを吹き飛ばされても、
その勢いは止まらない。

「ヒヒッ……シアン、あの蟲諦めずにこっちに来やがるぜ」
「そうでなければ困る。
 生への執着・希望……それが強ければ強いほどその裏返しである無念・絶望も強くなる。
 知性ある者に対してわざわざこんなゲームを開いたのはそのためだ」
「アンタが何をやりてえかは知らねえがよ、中々面白いゲームだったぜ?
 だが、それももう終わりか。流石のあいつもここまで生きて辿り着けそうにねえぜ?」

いくつもの傷を負い、蒼い血煙を上げながら
王蟲は遂にアリ塚の外壁に頭から激突。
轟音とともに大穴を空け、やっと王蟲の動きは止まったのだった。
アリ塚の1階……大広間の様に開けた空間に突然のぞく王蟲の頭。
待機していた主催者側の戦力である黒い類人猿のような生物……
テラフォーマーズ達にも、表情こそ無い(持たない)が仕草に動揺の色が表れている。
だが複眼の赤い光は全て消え失せ、まるで暗闇を閉じ込めたようである。

「死んだか?」
「……あの王蟲は、な。」

そうつぶやいたシアンと呼ばれているその女の姿は突如崩れ、階下へ煙のように流れ去っていった。

【シアン・シンジョーネ@パワポケ12秘密結社編】
[状態]:健康
結婚式ごっこにトラウマ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:レアモノの肉団子@HUNTER×HUNTER (完食))
[思考・状況]
基本:???
1:参加者の全滅。
2:参加者は、なるべく苦しめて殺す。
3:結婚式ごっこにトラウマ
4:顔を舐めまわされるのはもう勘弁して欲しい……。

第98話「The half inch SPIRIT」

304虫ロワ ◆XksB4AwhxU:2013/02/03(日) 22:37:57
 バトルロワイアル会場、地下大空洞から地上へと続く唯一の通路である
巨大アリ塚の頂上に、無数のモニターを眺める一つの眼があった。
正確には、一つ眼を象った兜。その生首の名をナムリスと言った。
兜の下に付いているべき体は数十時間前のオープニングで既に失われていた。
だが人の肉体を捨て、半不死者となったナムリスにとってそれは大した問題ではない。
事実、現在まで定時放送を始めとする司会の役目を元気に務め上げてきている。
先刻、まだ生き残っていた数少ない参加者を全て喰らい
会場に残る最後の参加者となった王蟲を見てナムリスはつぶやく。

「優勝は、あの蟲か。オメデトさん。
 ……アイツに言っても通じねえか。」

既に会場にはテラフォーマーズ・凶虫バゥ・殺人コオロギ等といった
大小様々な主催者の手駒達が放たれ、地下空間をくまなく埋め尽くしつつあった。
さらに本拠地および禁止エリアで発芽させられた菌類は
一口吸い込むだけでヒトの肺を腐らせる猛毒の瘴気を発し始めていた。
もはやこれではバトルロワイアルの体を為していない。
最後に生き残った参加者を、更に自らの手駒さえも楽には殺すまいとする主催者の悪意。
それはまるで、現世に地獄を生み出そうと試みているかの様だった。

その悪意に呼応するかのように、無数の複眼を爛々と赤く光らせながらアリ塚へ突撃する王蟲。
行く手を阻む大量の巨大グモに甲皮の所々を引き剥がされても、
傷口に巨大アリの酸液を浴びても、
爆弾ビートルを踏んで脚の何本かを吹き飛ばされても、
その勢いは止まらない。

「ヒヒッ……シアン、あの蟲諦めずにこっちに来やがるぜ」
「そうでなければ困る。
 生への執着・希望……それが強ければ強いほどその裏返しである無念・絶望も強くなる。
 知性ある者に対してわざわざこんなゲームを開いたのはそのためだ」
「アンタが何をやりてえかは知らねえがよ、中々面白いゲームだったぜ?
 だが、それももう終わりか。流石のあいつもここまで生きて辿り着けそうにねえぜ?」

いくつもの傷を負い、蒼い血煙を上げながら
王蟲は遂にアリ塚の外壁に頭から激突。
轟音とともに大穴を空け、やっと王蟲の動きは止まったのだった。
アリ塚の1階……大広間の様に開けた空間に突然のぞく王蟲の頭。
待機していた主催者側の戦力である黒い類人猿のような生物……
テラフォーマーズ達にも、表情こそ無い(持たない)が仕草に動揺の色が表れている。
だが複眼の赤い光は全て消え失せ、まるで暗闇を閉じ込めたようである。

「死んだか?」
「……あの王蟲は、な。」

そうつぶやいたシアンと呼ばれているその女の姿は突如崩れ、階下へ煙のように流れ去っていった。

【シアン・シンジョーネ@パワポケ12秘密結社編】
[状態]:健康
結婚式ごっこにトラウマ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:レアモノの肉団子@HUNTER×HUNTER (完食))
[思考・状況]
基本:???
1:参加者の全滅。
2:参加者は、なるべく苦しめて殺す。
3:結婚式ごっこにトラウマ
4:顔を舐めまわされるのはもう勘弁して欲しい……。

第98話「The half inch SPIRIT」

305虫ロワ第98話「The half inch SPIRIT」 ◆XksB4AwhxU:2013/02/03(日) 22:41:33
アリ塚の1階、王蟲突入の2秒後。
突如、フロアのテラフォーマーズ達に凄まじい閃光と火炎が襲いかかった!

「油虫(ゴキブリ)狩り、世界チャンピオン!黒だn「じょう!」え、ちょ、」
「来てるぞ、バカ!」
「うそ、何でアレがぜんぜん効いてないのよ!?」
「何度も見ただろ、奴らに半端な熱は通用しない!
 一匹一匹確実に潰せ!」

王蟲の口から飛び出したのは、『怪人蜘蛛女』と『仮面のヒーロー』。異色のタッグである。
怪力と器用さを併せ持つ蜘蛛の持つ剣が、昆虫界随一のバッタの脚力から放たれるムエタイの舞が、
動揺するテラフォーマーズを次々となぎ倒してゆく。
突然の攻撃で統制に乱れが出ているのだ。

テラフォーマーズ達がどうにか体勢を立て直し、侵入した二人を包囲する頃には
既に数体の惨殺死体が転がっていた。
状況が落ち着いたのをいいことに、
待ってましたとばかりに『怪人蜘蛛女』が改めて見得を切った。

「地底からの使者、黒谷ヤマメッ!死んでいった仲間達の復讐はあたしが果たす!!」

焦げ茶色の丸くふくらんだスカートからは、失われた両膝下の代わりに4本のロボットアームが飛び出している。
腰を落として交互に腕を突き出すポーズ。
両足を失った彼女を最期まで守りぬいた男のポーズだ。
右腕は少女の姿に不釣り合いな機械の鉤爪に置き換わっている。
上半身を覆う鎧の背中からは、3本目の金属の腕が大剣を携えている。
その姿は、まさしく7本肢の蜘蛛の化生であった。

「最近の油虫は、じょうじょう鳴くのが流行りなのかしら」
「……ヤマメ、ビビるなよ。ヤツらは逃げ腰の相手から狙ってくる」
「油虫如きが何匹束になろうと、この土蜘蛛サマの敵ではないわ!
 …って、何そのポーズ」

ヤマメと背中合わせに身構える『仮面のヒーロー』、ティン。
額からは二本の触覚が伸び、顔の輪郭はキチン質の甲殻で覆われている。
右腕に怪力をもたらす篭手、左腕に高熱を帯びた赤い鉤爪。
両足を踏みしめて左の拳に手を当て、右掌で宙にゆっくりと円弧を描いている。
彼の本来のスタイル・ムエタイとは違う精神統一の構え。
彼に『正義』を教えて散っていった男が『変身』する際にとっていたポーズである。
“SPIRITS”と銘打たれた黒いコンバットスーツに身を包んだその姿は、
『仮面』こそないものの、まさしくあの『仮面のヒーロー』の様であった。

306虫ロワ第98話「The half inch SPIRIT」 ◆XksB4AwhxU:2013/02/03(日) 22:42:55
「「じょじょう」」
「じょうじ」

二人を取り囲むゴキブリ人間はまだ何十匹も残っている。
ゆっくりこいつらの相手している時間はない。
腐海の瘴気に満たされたこの一帯で呼吸ができるのは、
肺に溜まった王蟲の漿液が残っている間だけだからだ。
だから……

「「「じょあああああああああああ!」」」
「ヤマメ、行くぞ!」
「よしきたぁ!」

蜘蛛とバッタにゴキブリの群れが殺到し、黒地白抜きの包囲円は一瞬で塗りつぶされた。
だが、中心にあるべき二人の姿は忽然と消失。

どこだ。…2箇所で響くゴキブリ人間の悲鳴。
そこか。だがあるのは死体だけ。再び悲鳴。再び。また。
上。ホールの天井と壁を縦横無尽に跳ね回る二つの影。
空中から地上に奇襲。すぐさま上空へと退避。そして再びかく乱。その繰り返し。
ティン。バッタの脚力は地上で蹴りを繰り出すに留まらないことを戦友から学んでいた。
ヤマメ。本来熟練を要する筈のバルキリースカートの扱いを、蜘蛛の本能で理解していた。
敵の姿を見失ったテラフォーマーズに、
ティンの飛び蹴りが、ヤマメの斬撃が、止むことのない落雷のように降り注いだ。

二人と、その仲間たちに残された時間は長くない。
だから……二人の意志はひとつ。
しんがりといえど、ここで死ぬ気はさらさらない。
速攻で、ゴキブリどもを狩り尽くす。
先行した二人に合流し、勝つ(いきのこる)ために。

【黒谷ヤマメ@東方project】
[状態]:疲労(小)、妖力消費(中)、両足膝下欠損・止血済み
右腕欠損・アタッチメントアーム@仮面ライダーSPIRITSに換装
腐海の菌類のカプセル除去済み
肺に王蟲の漿液(2時間程度で切れます)
お尻にハチ刺され
[装備]:
体:グレートメイル@パワポケ12秘密結社編
右手:パワーアーム@仮面ライダーSPIRITS
左手:セラミックの剣@風の谷のナウシカ、スパイダーブレスレット@スパイダーマン
第3腕:西洋大剣の武装錬金“アンシャッター・ブラザーフッド”@武装錬金
(第3腕はアンシャッター・ブラザーフッドの特性により付加されている)
両太もも:処刑鎌の武装錬金“バルキリースカート”@武装錬金
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:女王蟻の肉団子@HUNTER×HUNTER(残り30%)、カイコガの幼虫@テラフォーマーズ(完食)
、タランチュラの素揚げ@現実(残り100%))、
ボーラ@パワポケ12秘密結社編、昆虫飼育ケース@現実、『卵』@???
[思考・状況]
基本:バトルロワイアルから脱出する。
1:『卵』を無事に持ち帰る。
2:1階大広間のテラフォーマーズを全滅させ、先行した味方と合流する。
3:自分が生還できない場合は、信用できる者の元に『卵』を託す。
※サクレツの実@虫姫さまを使い切りました。

【ティン@テラフォーマーズ】
[状態]:疲労(中)
肺に王蟲の漿液(2時間程度で切れます)
腐海の菌類のカプセル除去済み
[装備]:
体:SPIRITSのコンバットスーツ@仮面ライダーSPIRITS
右手:怪力のこて@パワポケ12秘密結社編
左手:炎のツメ@ドラゴンクエスト7
両足:クイックシルバー@ロマサガ2
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:毛ガニ@現実(完食)、イナゴの佃煮@現実(完食))、バグズ手術能力発現薬@テラフォーマーズ×11
、マグマ火炎砲@地球防衛軍2(弾切れ)
[思考・状況]
基本:自らの命を捨ててでも、仲間を守る。
1:1階大広間のテラフォーマーズを全滅させ、先行した味方と合流する。

307虫ロワ第98話「The half inch SPIRIT」 ◆XksB4AwhxU:2013/02/03(日) 22:44:18
一匹の獣が、駆ける。駆け登る。阻むもの無きアリ塚の中を。
正確には、獣ではなく、蟻。魔獣を元に生み出された、既に亡き王の忠実な兵隊アリである。
ツノの様に尖った頭。半人半馬の体。蹄の付いた4本の脚。
そして、左肩に纏った醜悪な人面には、はちきれんばかりの『怒り』を満載している。
そのキメラアントの名を、モントゥトゥユピー……通称ユピーといった。

獣の背にまたがる、否、しがみつく、青い厚手のワンピースの少女。
古代日本で高官の娘として何不自由なく育った彼女は、ただ『姫』と呼ばれていた。
彼女は服飾や美容などといった一般的な女性の趣味と呼ばれるものには興味をもたず、
もっぱら毛虫などを集めては飼育し、観察するのを日課としていた。
そんな『姫』のことを、周囲の者はいつしか『虫愛づる姫君』と呼ぶようになっていた。

「ゆ、『ゆぴい』よ」
「……何だ」
「後ろからは声が聞こえてこぬ。
 どうやらその『隠れ身のまんと』とやらが役に立ったみたいじゃ」

姫は怯えた様子で潜入に成功したことをユピーに伝える。
彼女が虫の感情を感じ取ることにより、視認できない虫の存在を知ることができるのは
レコから託されたレヴィ=センス結晶の腕輪のおかげである。
だが、姫が怯えているのは追ってくるかもしれない虫に対してではない。
これから対決するであろうバトルロワイアル主催者に対してでもない。
もっと身近にいる虫……ユピーである。
姫はユピーの主がこのバトルロワイアルで死んだことを聞いていた。
一見落ち着いた様子のユピーだが、
彼に溜め込まれた怒りの感情は左肩の瘤の中でぐつぐつと煮えたぎる音が聞こえるようだった。
その怒りはもちろん姫に向けられている訳ではない。
だが、姫は近くに居るだけでその圧力と熱量に中てられ、気絶しそうな程の重圧を感じていた。

(……コッチニ来イ……サア、早ク……)

そんな姫に、上から主催者のものと思しき声が聞こえてきた。
聞き覚えのある声だ。本来、腕輪で判るのは虫の感情だけの筈。
だが王蟲と出逢い、念話で話した時を境に
腕輪の力で聞くことのできる声が鮮明になってきていたようだった。

「右の階段からじゃ。……我らを誘っておる」
「……」

黙って姫の誘導に従うユピー。
背中の姫のことは、
『念能力も無いのに虫の存在を感じることができる便利なヤツ』
程度にしか思っていない。
1階でしんがりを務めているティンとヤマメのことは、
『囮になってくれるのは助かるが、別にいなくてもやることは変わらない』
程度には思っている。
彼にとっては王への奉仕こそ全てに優先し、
自分を含むそれ以外のことはどうでも良い事だった。
主君の敵討ち。復讐。
直接の下手人が既に存在しない現在
王を殺したバトルロワイアルというプログラムの主催者への復讐を
一秒でも早く果たすことが、彼の全てであった。
他の部分は、ただひたすらに空虚であった。

【モントゥトゥユピー@HUNTER×HUNTER】
[状態]:オーラ消費(大)、左肩のコブに怒り満載
腐海の菌類のカプセル除去済み
肺に王蟲の漿液(2時間程度で切れます)
[装備]:
体:隠れ身のマント@パワポケ12秘密結社編
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:さぬきうどん@仮面ライダーSPIRITS(完食)、イナゴの佃煮@現実(完食))
地蟲@風の谷のナウシカ(参加者の死体、完食)
[思考・状況]
基本:王の仇を討つため、主催者を殺す。

【虫愛づる姫君@堤中納言物語「虫愛づる姫君」】
[状態]:疲労(小)、ユピーの溜め込んだ怒りに恐怖
腐海の菌類のカプセル除去済み
肺に王蟲の漿液(2時間程度で切れます)
[装備]:レイピアGスラスト@地球防衛軍2
右腕:レヴィ=センス結晶の腕輪
体:青き衣@風の谷のナウシカ
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:王蟲の無精卵@風の谷のナウシカ(残り20%))
オーダイ@サバイビー
不明支給品あり
[思考・状況]
基本:主催者を打倒し、生還する。
1:『オーダイ』を持ち帰る。
2:ユピーが怖い。

308虫ロワ第98話「The half inch SPIRIT」 ◆XksB4AwhxU:2013/02/03(日) 22:46:38
1階、大広間。
床は一面テラフォーマーズの死体で埋め尽くされ、
生き残っている者は片手の指で数えられる程になっていた。
とはいえ、敵もさるもの。
上空からの攻撃に対応し、反撃を仕掛けてくる者もいた。
だがそれでも、ティンとヤマメの両名、現在まで辛うじて健在。
残りのテラフォーマーズは…

「シュッ!」
「ギ…ギギッ…!」
「あと…2体……!」
「ジョッ!…ギッ……ブルィィィ…」
「これでっ、あと…1体よ!」

残り1体。
二人は空中から同時に攻撃を仕掛ける。
その瞬間の彼らに油断があったかといえば、答えはNOである。
テラフォーマーは例え1体でも油断ならない相手。
むしろ、ゴキブリのスピードを持つこの敵にとっては、数が減って
自由に動ける空間ができた時の方が脅威は大きい。
故に、二人は最後のこの1体にこそ全神経を集中し、細心の注意を払って仕留めに掛かった。

「オラアアアア!」
「うりゃあああ!」
「……じょっ!」

……それが、いけなかった。

「じょおおう!」
「ッ!?」
「ヤマメ!」


突如、銀色の砲弾の如き一撃が、ヤマメに突き刺さった。
その人型をした砲弾と共に吹き飛ばされるヤマメ。
その『とびひざげり』の威力は凄まじく、咄嗟にガードに回した
金属製の右腕と第3腕をまとめて破壊する程であった。
伏兵は、ティンの蹴りを受け倒れゆく最後の一体と同じような顔をしたゴキブリ人間であった。
その頭には髪が無く、額に漢字の『小』に似た斑紋が付いている。
ティンはこの個体に見覚えがあった。
西暦2599年に火星探査船・バグズ二号で卵から生まれた次世代型テラフォーマーズ2体のうち、
小町正吉と死闘を演じた方の個体である。
……だがティンが『それ』から受けた印象はまるで別人である。まず、全身に銀灰色の鎧を纏っている。
さらに、鎧と同じ材質らしき剣盾を構えている。だが武装は大した問題ではない。

(このゴキブリ野郎、動きが素人じゃない!)

旧世代型テラフォーマーに見られなかった次世代型ならではの『人間らしい動き』に、磨きがかかっている。
ムエタイを修めたティンには、その身のこなし・剣捌きが熟練のものであることが一目でハッキリ判った。
主催者の元で戦闘訓練を受けていたのか?

そう思案しつつティンが援護に駆け寄る間に、なおも『小の字』はヤマメに猛攻を仕掛ける。
舞うような動きで剣撃を放つ『つるぎのまい』は
左手のセラミックの剣と脚代わりのロボットアームを材木の様に切り刻み、
大気をバァンと突き破る速さの『まわしげり』は
一瞬ヤマメの脇腹に20センチもめり込み、金属の鎧をキラキラと紙クズの様に粉砕した。
ティンはたまらずその凶行に割って入る。
この場で遭った戦友であり、師でもあるあの男と同じフォームの飛び蹴りで。
バッタの跳躍力と脚力から生み出される恐るべき威力の蹴りが、『小の字』に向かう。
だが、命中の瞬間……『小の字』はティンの方を向き、ニタァという擬音の付きそうなおぞましい笑みを浮かべた。
『小の字』はティンの飛び蹴りを盾でヤマメに『うけながし』たのだった。

そして蹴りを受けたヤマメは潰れるような音を吐きながら水平に吹き飛ばされ……
大広間内壁に咲くいびつな赤い花となった。
『小の字』は壁にべったり貼り付けられたヤマメを見届けると
唖然とするティンの方を向き、またニタァと笑った。

309虫ロワ第98話「The half inch SPIRIT」 ◆XksB4AwhxU:2013/02/03(日) 22:48:00
ゴキブリの戦士とバッタの闘士がペアで死の舞踏を舞う。
リードするのは常にゴキブリ。
早回し動画のような、怖気の走るような機敏さで剣舞を舞う。
防戦一方のバッタ。手が出せない。
テラフォーマーズの身体能力、ヒトの生み出した戦闘技術に加え、剣そのものの切れ味も凄まじい。
刃筋を立てられた状態でアレを受けたら、金属の篭手ごと腕を斬り落とされる。
バッタの身体に刻々と傷が増えてゆく。
壁に貼り付けられたヤマメは、二人のペアダンスを前にしても動くことが出来ない。
文字通りの、壁の花。
だが、驚くべきことに、その花はまだ生きていた。
もってあと数分の命だが。

(苦しい。息が出来ない。胴体の半分ほどを潰されたみたい。
 寒い。体の中……背骨の辺りがスースーする。恐らく『丸見え』になっているのだろう。
 ティンは……まだ戦ってる?あたしも、立たなきゃ……。脚がもう無いんだった。
 怪我が酷すぎて、全身の感覚が無い。
 苦しいよ。あたし……死ぬのかな。嫌だ。死にたくない……まだ、死ねないよ。
 ティン……!あのままじゃ、ティンまで死んじゃう……!
 あたし達、あの油虫に殺されるの?そんなのヤだよ。
 ……せめてアレだけは誰かに頼めないかな。無理か。姫もユピーも先に進んじゃったし。
 ああ、目が霞んできた……ティン、せめてアンタの…最期だけは……みとどけ………
 ………………‥‥‥‥‥‥・・・・・・・)

意識を失いつつあったヤマメは、壁に腰掛けるようにズリ落ちた。だが……

(チクッ!)

不意に、臀部に鋭い痛みが走る。
怪我の痛みはまるで感じないのに。
手放しかけたヤマメの意識が、引き戻される。
刺さったのは……針?

310虫ロワ第98話「The half inch SPIRIT」 ◆XksB4AwhxU:2013/02/03(日) 22:49:07
『小の字』の『正拳突き』を受け、吹き飛ばされたティン。
強固な鎧の上からはティンの攻撃が通用しない上、ヤツの剣の切れ味は一撃必殺。
剣に気を取られ、素手への注意が疎かになったティンに
いずれこのような結果が訪れるのは明らかであった。
倒れ伏すティンは、最後の賭けに出る。
すなわち、『薬剤』の大量投与。
バグズ手術被験者であるティンの体質を虫寄りに近づける『薬剤』は、
大量に使用することでより高い戦闘能力を得ることができる。
手持ちの『薬剤』の入った注射器をありったけ取り出すティン。
4本の注射器をまとめて握り締め、脚に突き刺そうとするが……。

『小の字』はそれを許さない。
剣を水平やや下、倒れているティンの頭にピタリと向け、腰を落とす構えを取った。
まるで切っ先を銃口に見立て、ライフルで狙い撃とうとするかの様に……
神速の刺突『しっぷう突き』の構えである。
事実、テラフォーマーズの身体能力で放たれる『しっぷう突き』の剣速は
恐るべきことに銃弾にも迫るであろう。

もはや注射を打つ数秒の猶予すらない……万事休すか。
ティンは歯噛みしながら、狙いを定める『小の字』と睨み合う。
その時突然『小の字』の身体がブレた。何かがぶつかった?
続いて『小の字』に命中した何かから伸びる紐がグルグル巻き付いてゆく。
これはヤマメの支給品!生きているのか!
ティンは脚に注射針を刺しながら、視界の端でボーラの飛んできた先を見やった。

311虫ロワ第98話「The half inch SPIRIT」 ◆XksB4AwhxU:2013/02/03(日) 22:50:12
そこに居たのは……やはりヤマメ!だがその変わり果てた姿は何だ!?
彼女は放射状に伸びる6本の細長い肢で身体を支えている。投擲のために振り抜いた右腕も同様の肢だ。
そして、臍から下には6本肢の付け根、
その後ろにつながった大きな卵のような胴体……あれではまるで本物の蜘蛛だ。
人間らしい姿が残っているのは……頭、臍から上の『人間の』胴体、そして左腕……
左手に握り締めているのは、予備の注射器か!

「ティン!まだ生きてる!?」

話は後だ、まずは目の前の奴を!
ティンに投与された大量の『薬剤』が効力を発揮しだした。
背中からスーツを突き破って翅が伸び、皮膚が黒く変色する。
ティンのDNAに組み込まれたサバクトビバッタの、群生相の形質が発現しているのだ。
だが太古の昔より恐れられた害虫・サバクトビバッタ……その群生相の、最も顕著な特徴は外見ではない。
それは……動物も植物も、進む先にある生物は全て喰らい尽くす獰猛さである!

「こんな所で、死ねるかァァ!」

『小の字』が巻き付いた紐を振りほどく一瞬の隙に、ティンは猛然と突撃。
暴力的な笑みを浮かべながら、一気呵成のラッシュを仕掛ける。
が、鎧の硬度とテラフォーマーズの頑強な肉体に阻まれ、殆どダメージは通らない。
しかし、『小の字』の身体はその勢いに後ずさりし、浮き上がり……遂には吹き飛ばされる!
吹き飛ばされた先には、ヤマメ!
……の眼前に張られた、蜘蛛の網!
網を振り払おうと、『小の字』がもがくが……

「罠符『キャプチャーウェブ』&スパイダーストリングス!」

ヤマメの両腕から放たれる糸が追い討ちをかける!
『小の字』の身体を繭のように縛り上げたヤマメは、そのまま……

「ふっ……!ぬうぅぅりゃあああああ!!」

そのまま『小の字』を無理矢理地面から引き剥がし、体ごと振り回し始めた!
徐々にその回転半径と速度は増し、部屋に唸るような風切り音が響く!
いわゆるジャイアント・スイング、いや、ハンマー投げの体勢!
仕掛けられる方の身体は回転方向を向いているため、何かが当たったら頭から全体重ごとぶつかる!
その体勢を見て……ティンが閃く!

「ヤマメ!そのままぶん回せ!」
「…!わかった!」

ティンは回転するヤマメを尻目に壁に跳躍!
三角跳びの反動と翅の羽ばたきで加速を付け、さらに身体の捻りを加えた……渾身の蹴りを放った!

「じょ、じょう…!「うぅぅうおおおお!らあああああああ!!」

本家もかくやという威力で放たれたティンの飛び蹴りは、円運動する『小の字』に絶妙なタイミングで激突!
その瞬間、『小の字』の顔に明らかな恐怖の表情が浮かんだ!
ティンの穿孔キックが黒くヌラヌラ光る頭部をバリバリと頭の先から粉砕!
さらに黒い破片と白い液体、そして、何だかよくわからない肉片を大量にブチ撒き散らしながら、
ティンの右脚がドリルのように『小の字』の首に滅りこんでゆく!

そしてティンの蹴りは遂に『小の字』の身体を縦に貫通し
後には正中線を抉られたテラフォーマーズの身体だけが残った。
緩んだ蜘蛛糸の繭の中で『小の字』の四肢がまだビクビク動いているが
それらに司令を送る神経はもう残っていない。もう戦うことは出来ないだろう。

312虫ロワ第98話「The half inch SPIRIT」 ◆XksB4AwhxU:2013/02/03(日) 22:51:06
「やれやれ、この油虫まだ動いてるわ」

ヤマメが6本の肢でティンに歩み寄る。
ティンは『小の字』の身体を突き破り、蹴り足を伸ばした体勢のまま地面に不時着していた。

「ヤマメ……その体は」
「アンタ達みたいなバグズ手術の被験者、とかいうのを虫の身体に近づける薬だっけ?
 あたしもこう見えて一応蟲の妖怪だからね、一か八か、最期の賭けに使ってみたのよ」
「だが、アンタみたいな姿の変異は見たことがない」
「足りない身体の部品を補おうとした結果……一種の生存本能ってやつが働いたのかもね」
(それに、あそこであたしが諦めて何もせずに死んだら……あの蜜蜂に申し訳が立たないもの)

受け流されたティンの飛び蹴りをマトモに受け、絶命しかけたヤマメはあの時の事……
このバトル・ロワイアルに参加させられて間もない時にあった事を思い出していた。

その時ヤマメは休憩の為に腰を下ろそうとして、お尻を蜜蜂に刺されたのだった。
痛さのあまり跳び上がってお尻の下を見た時、
腸がちぎれて死んだ蜜蜂の他に、カブト虫が何かを運んで逃げていくのが見えた。
……あの蜜蜂は同族でもない仲間を守るために闘って死んだというのか?
それとも、カブト虫が運ぶ物体がそれほど重要だったのか?
今となってはその真意は知れない。
……だが、今重要なのはその内容ではなく、ヤマメが蜂に刺されるという、
何でもない一幕を思い出すに至った経緯。

その時ヤマメを刺した針は一旦抜き取られたが
スカートの布地の中に残っていた。
飛び蹴りを受けて壁に叩きつけられたヤマメがズリ落ちた時、その針が偶然刺さったのだ。
その時の針の痛み。注射針という発想。
そして……その時確かに聞こえたあの若い蜜蜂の

(諦めるな、アホー!!)

という檄。

あまりに荒唐無稽で人に話す気も起きないが、現在ヤマメがこうして生きているのは
あの一寸にも満たぬ蜜蜂の……魂のおかげであると実感していた。

313名無しロワイアル:2013/02/03(日) 22:55:37
「ってアンタ、それ……大丈夫なの?」

のんきに回想している場合ではない。
ティンのダメージが深刻だ。全身に切り傷・打撲を負っている。
特に『正拳突き』を受けた腹部のダメージは深刻だ。恐らく内蔵もただでは済んでいない。
だが最も致命的なのは……ティンの頭の輪郭を覆っていたキチン質の外骨格が
顔を侵食するかのように広がりだしていたことだ。

「やっぱり、こうなっちまったか……」

ティン他、虫の能力を組み込まれたバグズ手術の被験者は通常時、
手術の効果で相容れないはずのヒトと虫の肉体を共存させている。
だが、注射の効果で肉体が虫に近づいた状態が長く続きすぎると
ヒトの免疫機構の働きでショック症状を起こし、死に至る。
テラフォーマーたちや『小の字』との闘いで薬を使いすぎたことに加え、
肝臓および腎臓の一部を『小の字』の『正拳突き』で破壊されて
注射の成分を分解できなくなっていたティンの肉体のバランスは、歯止めなく虫に傾き続けていた。

「すまない……俺はもう戦えない。上には……お前一人で行け……
 あの姫サンとユピーを、助けてやってくれ……
 俺は、もう死んだことになってる人間だ……生きて帰っても
 居場所がない……大事なヒトも……皆死んじまった……
 俺には、もう何も無いんだ……
 こんな所に連れて来られたけど……
 アンタや、本郷さんみてえな奴らと出会えたのは、幸運だった……
 ……ヤマメ、お前は、生きて還るんだ……!」

ティンの呼吸が浅く、不規則になりだした。重度の免疫性ショックの症状だ。
ティンの頭部は、もう殆どバッタそのものになりつつあった。
複眼の中心の瞳と顔の傷に、わずかにヒトの面影を残すのみである。
そのままティンは天を仰ぎ、意識を失った。
ティンの『遺言』を聞いたヤマメ。……無性に腹が立った。

314虫ロワ第98話「The half inch SPIRIT」 ◆XksB4AwhxU:2013/02/03(日) 22:57:01
「諦めてんじゃないわよ、バカ!」

ティンの頬を左手で張り倒す。死なせてたまるか。
ヤマメはまず2個の核鉄を取り出し、祈るように、
それこそ願掛けの賽銭を投入するようにティンの胴体の傷口に押し込んだ。
パピヨンから聞いた話によれば、この金属塊は武器になるだけでなく、傷を癒す力もあるらしい。
何でも、潰された心臓の代わりとして機能した例もあるとか。
これを損傷したティンの臓器の代わりにする。
先ほどの戦闘でバルキリー・スカート、アンシャッター・ブラザーフッドは両方とも破損したため、
核鉄に戻った後もひび割れてしまっている。どこまでその効果を発揮してくれるかはわからない。
が……ビキビキとティンの身体が虫に変化していく音は止んだ……気がする。
それでも症状はまだ予断を許さない。
脈が不安定で、呼吸もか細い。虫の息だ。
胸の中心を押さえつけて心臓を無理矢理動かし、口移しで息を吹き込む。
周囲が妖怪だらけの中で生きてきたヤマメ。妖怪に蘇生処置が必要な状況などまず無いのに、
正しい方法など知るはずもないが、風の噂で聞いた方法をがむしゃらに試した。
何回かそれを繰り返した所で、ヤマメは気付いた。
ティンの身体が異常に冷たい。氷のよう……まるで凍死寸前だ。
ヤマメは意を決し

「瘴気『原因不明の熱病』……!お願い、効いて……!」

何と、熱病をもたらす病原体を少しづつティンに送り出した。
冷えた身体は熱病で温めればいいという、至極単純な発想。
消耗しきったティンの身体に、更に病原体を送り込むのが危険なのは百も承知。
だが、虫の様に、冷血動物のように冷えきったティンの身体に触れていると
何とかして温めなければならないと、ヤマメはそう感じた。

「『俺には、もう何も無い』なんて、そんな寂しいこと言わないでよ……!
 あたしと子供を置いて逝くなんて、そんな冷たいこと言わないでよ……!」

顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながら、うろ覚えの蘇生行為を必死に続けるヤマメ。
その祈りは……その時、確かに、神に通じたのだった。

「今、何て言った……!?子供って……!」
「テ゛ィ゛ン゛〜〜〜〜〜〜!!」

ティンは遂に息を吹き返した。
だが、『子供』とは……!?

ようやく落ち着いたヤマメに、ティンは『子供』の意味を尋ねた。
ヤマメのデイパックから出てきたのは、プラスチックの直方体……昆虫飼育に使うケースだ。
その中には、糸に厳重に包まれ、さらに王蟲の漿液に浸された、野球ボール大の金色の玉が入っていた。
玉の中で何かの影が……動いたぞ!?

「あ、今ちょっと動いたよ!」
「まさか、子供ってこれの事か……!?」
「うん。あたしが3時間ほど前に産んだの」
「誰との子だ……?」
「しらばっくれないでよ。あの時アンタ、確かに『中』で出したでしょ……責任、取ってよね?」

ティンは再び意識を失った。

315虫ロワ第98話「The half inch SPIRIT」 ◆XksB4AwhxU:2013/02/03(日) 23:02:36
【黒谷ヤマメ@東方project】
[状態]:疲労(大)、妖力消費(大)
臍から下の下半身と、右腕がクモの姿
腐海の菌類のカプセル除去済み
肺に王蟲の漿液(2時間程度で切れます)
[装備]:
体:ヤマメの服(破れています)@東方project
右手:ボーラ@パワポケ12秘密結社編
左手:メタルキングの剣@ドラクエ7(『小の字』より回収)、スパイダーブレスレット@スパイダーマン
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:女王蟻の肉団子@HUNTER×HUNTER(残り30%)、カイコガの幼虫@テラフォーマーズ(完食)
、タランチュラの素揚げ@現実(残り100%))、
メタルキングの盾@ドラクエ7(『小の字』より回収)、昆虫飼育ケース@現実、半妖の卵@オリジナル(現地調達)
アタッチメントアーム(破損)@仮面ライダーSPIRITS
[思考・状況]
基本:ティンと共に、生きて会場から脱出する。
1:『卵』を無事に持ち帰る。
2:先行した姫、ユピーと合流する。
3:自分が生還できない場合は、信用できる者の元に『卵』を託す。

【ティン@テラフォーマーズ】
[状態]:疲労(大)、全身の所々に切り傷と打撲(応急処置済み)
顔がサバクトビバッタの姿に変異
肝臓と腎臓の一部を損傷。ひび割れた核鉄@武装錬金×2により応急処置済み
肺に王蟲の漿液(2時間程度で切れます)
腐海の菌類のカプセル除去済み
[装備]:
体:SPIRITSのコンバットスーツ@仮面ライダーSPIRITS
右手:メタルキングよろいの篭手部分@ドラゴンクエスト7(『小の字』より回収)
左手:メタルキングよろいの篭手部分@ドラゴンクエスト7(『小の字』より回収)
両足:クイックシルバー@ロマサガ2
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:毛ガニ@現実(完食)、イナゴの佃煮@現実(完食))、バグズ手術能力発現薬@テラフォーマーズ×6、
マグマ火炎砲@地球防衛軍2(弾切れ)
[思考・状況]
基本:仲間を守り、生きて会場を脱出する。
1:気絶中
2:セキニン、だと……?!
3:すまん、プロイ……。




大広間の片隅で、壁から顔を突き出したまま、沈黙していた王蟲。
彼女はまだ、死んでいなかった。……生きているとも言いがたい状態だが。
生死の境をさまよう彼女の声なき祈りが彼らを救ったことを、二人はまだ知る由もなかった。

【王蟲@風の谷のナウシカ】
[状態]:瀕死
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:ムシゴヤシの子実体@風の谷のナウシカ(完食))
[思考・状況]
基本:一人でも多くの参加者の生還。
1:……………………。

316虫ロワ ◆XksB4AwhxU:2013/02/03(日) 23:03:10
以上で投下を終了します。

317名無しロワイアル:2013/02/07(木) 00:26:28
人が居るか心配になってきたので…
勝手ながら、参加者を集計してみました。

◆Wue.BM1z3Y氏
DQFFロワイアルS XIII 完結
>>17から3話連続
◆eVB8arcato氏
まったくやる気がございませんロワイアル
テンプレ、298話>>33
◆nucQuP5m3Y氏
リ・サンデーロワ
テンプレ>>44 298話>>59  299話>>122
◆6XQgLQ9rNg氏
それはきっと、いつか『想い出』になるロワ 完結
テンプレ、298話>>46 299話>>97 300話>>174
◆9DPBcJuJ5Q氏
剣士ロワ
テンプレ>>66 298話>>137 299話>>212
◆MobiusZmZg氏
素晴らしき小さなバトルロワイアル
テンプレ、288話>>68 289話・序幕>>161 289話・第一章>>276
◆c92qFeyVpE氏
絶望汚染ロワ
テンプレ、288話>>84
◆YOtBuxuP4U氏
第297話までは『なかったこと』になりました(めだかボックスロワ)
テンプレ、298話>>149 299話>>192
◆rjzjCkbSOc氏
謎ロワ
テンプレ>>201 298話>>234 299話>>255
◆9n1Os0Si9I氏
やきうロワ
テンプレ、288話>>206
◆tSD.e54zss氏
ニンジャスレイヤーロワ
テンプレ、288話>>244
◆uPLvM1/uq6氏
変態ロワ
テンプレ>>264
◆xo3yisTuUY氏
日常の境界ロワ
テンプレ、298話>>265
◆XksB4AwhxU氏
虫ロワ
テンプレ>>67 98話>>302

318名無しロワイアル:2013/02/08(金) 00:27:37
>>317
乙です!
虫ロワは……その……最後の爆弾発言で全部吹っ飛んじまって感想がうまく纏まらないよw

319FLASHの人:2013/02/10(日) 01:49:35
>>317
まとめお疲れ様です!
素晴らしくわかりやすい!

立案者ながらなかなか顔を出せず申し訳ありません!読んでます!
まとめサイトとか諸々に手をつけないといけないのですが、ちょっと立て込んでまして
もう少ししたら始められると思います
完結済みの方はしばしお待ちを、俺を含め進行中の人は多くてもあと2話です、頑張りましょう!

320 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/02/20(水) 22:39:28
誰もいない……ちょっとネタを振ってみよう
アイム・ライアード「剣士ロワ最終話の完成度は63%と言った所です。
            そして最終決戦はソードマスター形式で終わります」

取り敢えず、今月中には間に合いそうです。

321名無しロワイアル:2013/02/20(水) 22:59:01
>>320
「私は嘘つきです」さんに言われても……w
 一行目だけは信用して良いですか?

322 ◆9n1Os0Si9I:2013/02/23(土) 21:48:23
なんとか創作意欲が復活したので、投下します。289話・290話をまとめて投下します!

323やきうロワ・289話 ◆9n1Os0Si9I:2013/02/23(土) 21:48:52
ビルに入った日ハム小笠原はまず、人を探すことを先決とした。
この運営本部の奴らがいる場所ならばきっと誰かいるだろうと踏んだのだ。
だが、誰も見つかる気配がない。

「クッ……誰かいないのか」

ここ以外はもう禁止エリアとなる、というのは放送で聞いた。
だからこの場に既に人が集まっていてもおかしくはないはずだ。
嫌な汗が顔を伝って地面に落ちる。
もしかすると、もう生存者が6人ではなくなってしまったのだろうか。
殺し合いに乗っている人間が、すでにこのビルで誰かを殺して回っているのではないのか。



「――――ッ、なんだこれは!」



適当に探索をしていると、衝撃の濃い系が目の前に広がった。
目の前に、新井さん(なぜか阪神ユニ)の死体が転がっていた。
手には、放すものかと金本さんのグッズが持たれている。

「ひ、ひどい……誰が、こんな」
「フハハハ! どこかで見た顔だと思えば、小笠原さんじゃないですか!」
「ッ――――!」

後ろを振り向くと、日ハムのユニを着た青年が立っていた。
その顔には見覚えがあった。
印象がだいぶ違うが、ハンカチ王子と騒がれた斉藤祐樹に見える。

「小笠原さん、どうですか! 僕は最強なんですよ!!」
「まさか、新井さんは……」
「そうですよ! 僕が殺したんです、最強のボクに勝てるはずがありませんからね!!」

もはや、話が通じないような状態だ。
一体何が彼をここまで駆り立てられるのだろうか。

「フハハハ! 小笠原さん、かつて最強と言われたあなたを殺して、僕が真の最強となりますよ!」
「――――仕方ない、こうなったなら、俺も容赦はしない」

斉藤はナイフで小笠原を狙う。
対して、日ハム小笠原はバットを構えた。
その小笠原の姿はまるで、侍のようであった。



そして、渾身のフルスイングを放った。



すさまじい風が小笠原と斉藤の間に発生する。
斉藤はその風に負け、吹き飛ばされる。
壁に激突し、斉藤は動かなくなった。

「――――殺しはしたくない、でも……このまま彼を放置するわけにもいかない」

斉藤を身動きできない状態にしておこうと彼に近づく。
だがその瞬間――――。
グチャ、という鈍い音が耳に入ってきた。

324やきうロワ・289話 ◆9n1Os0Si9I:2013/02/23(土) 21:49:09

「ッ――――!?」
「"最強"じゃないじゃないですか、こんなもので良く言えましたね。
 所詮ピエロはピエロなんですよ」
「お前……なぜ、何故そいつを殺した!」
「プロの僕にとって信用できるのはプロだけだからですよ。
 こいつはプロなんかじゃない、粋がってるだけのアマ同然だ。
 どこかのチームの誰かさんたちと同じでね」
「なん……だとっ……!?」

実力がないから人を殺す……?
何をふざけたことを言っているのだ。
日ハム小笠原の目に怒りの炎がともる。

「ふざけるな……! 君は、人を殺して何も思わないのか……!!」
「そうですね、殺しすぎて申し訳ないですね」
「……ふざけるなよ、貴様」
「おやおやいいんですかね、正義の味方気取ってたのに僕を殺しちゃって……。
 まぁ僕は今回も殺しただけですけどね(笑)」
「ふ、ざけるなああああああああああ!!」

小笠原の目には怒りしかなかった。
そして再びバットを構える。
しかし、先ほどの斉藤の時の構えより微かに鋭い何かが見える。
この畜生を生かしてはおけないと、小笠原の心が彼自身の構えを変えているのか。


「ッ、ああああああああああああああああああああああ!!」


そして、渾身のフルスイングを繰り出す。
だが内川は動じずにそれによる衝撃波をよける。
顔からは畜生さと余裕が伺えた。

「そんな萎びたようなスイングで僕が倒せるとでも思ってるのか?」
「クッ……」
「では、僕も本気を出させてもらいますよ」

そういいチックがデイバックからあるものを取り出した。
畜生バット――――チックバットとも呼ばれている彼の愛用バットだ。
主催陣営の一人である今江がある場所に隠したのをチックが見つけたのである。

「な……それは、規定違反ではないのか!?」
「規定じゃないぞ、だってNPBに公式に認められたんだからな(チックスマイル
 それじゃあ死んでもらおう……あと6人のうち何人残ってるかは知らないがな。
 横浜の犬6人と中日の岩瀬も合わせてこれで8人目だ、報酬だって余裕でもらえる」

内川はバットを構える。
ここまでか――――幾千もの戦いを切り抜けた侍も覚悟を決めた。






「うわああああああああああああああああああああああああ!!」 パンッ、パンッ、パンッ





叫び声や乾いた音を聞き目を開ける、すると視界にいたはずの内川がいなくなっていた。
いや、正確に言えば内川は目の前にいた。
頭や腹などから大量の赤い液体を流し、横たわった状態で。

325やきうロワ・289話 ◆9n1Os0Si9I:2013/02/23(土) 21:49:25

「お前が……お前が岩瀬さんを……!!」

声がしたほうを見ると、銃を構えた血濡れの男がいた。
とても悲しそうな顔をしているのがガッツからもわかった。
岩瀬を心の底から尊敬している彼からすれば、怒るのは当然であろう。

「君は……」
「中日の、浅尾です……」

中日に浅尾という選手がいた覚えは小笠原にはない。
彼は、自分にとっての空白の時間の間にプロ入りした選手なのだろう。

「浅尾君、その血は……」
「僕は、もう許されないことをしました。 岩瀬さんや仲間のみんなが死んで……耐えきれなかったんだ……!」
「浅尾……君」
「でも、岩瀬さんを殺したと聞いて……僕は、許せなかったんです」
「わかってる……それに、内川君は許せないことをしたんだ。 許されることではないが、君のおかげで僕は助かった。 ありがとう」

そういうと浅尾君は窓の外を見た。
わずかに、拳銃を持った手が震えているのが見える。
今の彼は、悲しみやら苦しみの感情が混ざった状態なのだろう。
自分にはどうしようもない、彼自身の問題なのだと小笠原は思った。

「――――――――」

浅尾君が、何かを言った。
小笠原は最初何を言ったのか聞き取れなかった。
何を言ったのか聞こうとした――――



パァン



その瞬間、乾いた音が再び耳を刺激した。

【斉藤@日ハム 死亡】
【内川@ソフトバンク 死亡】
【残り2名】

326やきうロワ・290話 ◆9n1Os0Si9I:2013/02/23(土) 21:49:50
気が付けば、暗い部屋にいた。
あの瞬間、何があったのか――――いまだ理解できない。

「起きろよ」

その声とともに、部屋に明かりが灯る。
そこは最初に集められた場所だった。
100人のNPB所属選手で殺し合いをしろと言われた場所。
彼――――小笠原にとっては困惑させられた場所だった。
2012年という、自分がいた2006年から数年過ぎた世界。
それが知らされた場所であった。
いつの間にか自分は戻ってきていた。

「お前は……主催の」
「そうだぞ、お前は最後の一人になった……それだけだ」
「ッ――――それじゃあ皆は」
「死んだぞ」
「……クッ」

残酷なことを、平気な顔して言いやがる。
コイツはどういう神経をしているのだ。

「お前らはなぜ、こんな殺し合いをしたんだ……理由を教えてくれ」
「ただのNPBの無能どもの余興だぞ」
「余興……?」
「殺し合いをして生き残った人間が本当にスターになれると勘違いしてるんだよ」
「なん……だと……?」

殺し合いをして生き残ればスター選手になる?
そんなふざけたことがあり得るはずがない。
選手が減ればそれだけファンはいなくなってしまうはずだ。

「まぁ、お前はこれで解放される……特別にお前は日本ハムに戻れるようにしてやる、感謝しろよ」
「――――お前に言っておいてやる」
「?」






「俺が、プロ野球を再び活気づけてやる……死んだみんなの分も」






「不可能に決まってるだろ」

主催の男はばっさりと切り捨てる。
だが、俺は本気で言っている。
この殺し合いで死んだ人の分もプロ野球を盛り上げる。
自分ができるのは、これぐらいだ。
こんな殺し合いをしたNPBの思惑通りに動くのは癪に触る。
だが、この殺し合いでプロ野球界は大きな打撃を受けるだろう。

327やきうロワ・290話 ◆9n1Os0Si9I:2013/02/23(土) 21:50:14

「いや、不可能じゃない……俺が、プロ野球界のスターとして活躍すれば、きっと見てくれる人は増えるはずだ」
「――――好きにしろ、俺は知らないぞ」

そこで、意識が薄らいできた。
このまま眠ってしまえばどうなるのだろうか。
少なくとも……自分が死ぬというのがないことを願いたい。
だって自分は……プロ野球を、再び盛り上げなくては……なら、な……。



【生還者 小笠原@日ハム】






    ■      数か月後        ■





『さぁ、やってきました……2013年日本シリーズ! 日本ハムVS阪神第4回戦です。
 阪神甲子園球場は割れんばかりの歓声です! 最終回、1-2で阪神が1点リードしています。
 抑えの久保康友、ランナーを2塁に背負ってバッターは今年日本ハムに年俸1500万という激安な遺跡をしたこの人! 小笠原選手!
 今シーズンは三冠王を獲得し、チームをリーグ優勝に導きました!
 先発のほとんどや主軸を失いながらも優勝できたのはこの人のおかげでしょう!』

俺は、阪神甲子園球場に立っていた。
観客は満員だった。
最初のうちは観客はほとんどいない、そんな状態になっていた。
だが、残った選手の努力により、ここまでこれた。







「さぁ……いくぞ!」







プロ野球ファンは、小笠原のことをこう言った。
『復活した侍』――――彼は本当のヒーローとなったのだ。



       ■             ■

328やきうロワ・290話 ◆9n1Os0Si9I:2013/02/23(土) 21:50:48
「では、スポーツの時間です。 本日、日本シリーズの勝者が決定しました!
 北海道日本ハムファイターズのみなさん、おめでとうございます!
 それではこれまでの試合の結果をご覧いただきましょう」



     阪神       ―      日ハム

1戦目       0   ―   10

2戦目       1   ―   8

3戦目       0   ―   12

4戦目       2   ―   3

合計        3   ―  34



【やきうロワ ち〜ん(笑)】

329 ◆9n1Os0Si9I:2013/02/23(土) 21:52:32
最後のがやりたかっただけとは言えないですが、投下終了です。
本当は普通のロワをやろうと思ってたけれど創作意欲がそっちに向いてくれないのです。
一応少しは書いてあるので2月末に完結できるまで書きあがった場合には投下するかもしれません。

330名無しロワイアル:2013/02/23(土) 23:04:26
>>328

なんでや!w

331虫ロワ ◆XksB4AwhxU:2013/02/24(日) 00:16:59
>>315話に続き、
虫ロワの第99話、投下を開始します。

332虫ロワ第99話 ◆XksB4AwhxU:2013/02/24(日) 00:18:46
どうして、こうなった……。
うっすらと覚醒してきた意識で、ティンはあてのない思索にふけっていた。
どうしてこうなった……といっても、事の因果関係について、弁解はしないし、できるわけもない。
…ちょうど12時間前、リアルクィーンというシロアリをどうにか撃破した後のことだ。
あのシロアリには死に際に自分を殺した者の身体にこっそりと卵を産み付ける習性がある……
という情報を得ていた俺とヤマメは、戦闘後に身体の隅々までボディチェックを行う必要に迫られた。
そう……身体の隅々までだ。衣服や、下着の中もだ。
鏡などが手持ちになかったので、背中などのチェックは他者に任せる必要があった。
若い男女(ヤマメの年齢は知らないが)が、全裸で身体の隅々を互いにチェックし合ったのだ。
……その後ナニがあって『こうなった』かは、容易に想像のできる所であると思う。
だが、一つだけ弁明させて欲しい。……誘ってきた、というか、押し倒してきたのは向こうからだ。
……まさかヤマメまで卵生だったとは、その時思っても見なかったことだが。

「ん、目ぇ覚めた?」

ティンがため息をつくと、当のヤマメの声が聞こえてきた。頭の後ろからだ。
目を開くと、まだらに光る土の天井がゆっくりと流れている。
脚はスベスベとした丸くて大きな物体の上に乗っている。
腰からは6本の肢がトコトコと小刻みに歩く振動が伝わってくる。
背中が小さな肩に支えられている。
どうやらヤマメはティンを担いでアリ塚を登ってくれているらしい。

「生き返ったと思ったらまた急に気絶するんだもん。大丈夫?立てる?」
「何とか、な……」

腿と背中を固定していた蜘蛛の糸をペリペリ引き剥がし、ヤマメの背中から降りるティン。
自らの身体の異変に気付いた。頭が妙に重い。手で頭に触れてみると……。
硬い……のに、体温と感覚が直に伝わる。これは俺の皮膚なのか?
まさか……!両手で頭を撫で回し、輪郭を確認する。

「……!俺の頭!戻ってない?!」
「アンタ完全にバッタ頭になって死にかけてたのよ?
 核鉄とやらをアンタの身体の中に押し込んだり、大変だったんだからね?」

333虫ロワ第99話 ◆XksB4AwhxU:2013/02/24(日) 00:21:25
腹をさすると、縫い合わされた跡があった。
ゴツゴツした塊が入っているようだが、不思議と異物感は感じない。
そして、全身をを動かしてみて気付いたのだが……
腹部以外のキズも、糸でくまなく縫合されていた。

「お前が手当してくれたのか……すまんな」
「人間のキズをそうやって手当したのは初めてだったんだけど、痒くなったりとかしてない?
 流石にその頭は……どうしようもなかったけど。でもね、アタシその顔も結構好きだよ?
 ……美味しそうで」
「ソデで口元を拭いながら言ったら、シャレにならんぞ……」
「シャレで言ったつもりじゃないからね。
 まあ、帰ったら腕の良い医者紹介してあげるから、それまでは我慢しな」
「帰るって、アンタの居た所にか?」
「言ったでしょ。責任取れって。それとも何?
 あんたアタシを『後家蜘蛛の黒谷ヤモメ』にする気?」
「う……」

幼少の頃に幼馴染のプロイと別れ、故郷を捨ててストリート・チルドレンとなってまで彼女を探し続けたティン。
残される者の苦しみは身にしみて知っている。
その場の勢いとはいえ子供まで設けてしまったヤマメの言葉を
無碍にはねつけることなど、彼には到底できない。
再開の目を見ないまま、風の噂で病死したと聞いた幼馴染に、心の中で許しを乞うた。

(プロイ、すまない……やっと出来た友も、皆死んじまった……これ以上孤独になるのは
 もう耐えられそうにない……だから……良いだろう?)

その時ティンの視界がかすみ、身体が大きく傾いた。
異変を察知したヤマメが叫ぶ。

「ティン!?」

第99話「コドク」

334虫ロワ第99話「コドク」 ◆XksB4AwhxU:2013/02/24(日) 00:23:21
「まったく、脅かさないでよね……」

ティンは、極度の空腹で貧血状態に陥っていた。
テラフォーマーズとの闘いでエネルギーを使い過ぎたのか。
こんな状態では点々と続いているユピーのヒヅメをたどった先で起こるであろう戦闘にも支障が出かねない。
何か食べないと……デイパックを探ってみたが、だめだ、もう何も無い。

「なあ、ヤマメ。何か食べ物無いか?」
「ごめん……あたしも、自分のは全部食べちゃった」
「そうか……」
(あの『肉団子』は絶対に出せないし……ていうか、もう全部食べちゃったし……)
「今、何か言ったか?」
「い、いやっ、何も?」
「なら仕方ないな……」

仕方ない、我慢するか。
空腹のあまりゴキブリを生で食べた時に比べれば、この程度何ともない。
……とは言ってはみたものの、やっぱり減るものは減る。
胃袋がキリキリ痛むほどの空腹で、腹の虫が大音量で鳴り響いた。
それを見かねたヤマメが、

「こんなのでよかったら、あるけど…」

紙袋をおずおずと差し出すと、ティンはその中の揚げ物に夢中でかぶりついた。
うまい。
肢のカリカリとした食感に、プリプリした身の詰まった胴体が絶妙にマッチする。
塩コショウの加減も申し分ない。
やめられない、止まらない、とはこの事を言うのか。
あっという間の勢いで紙袋の中の『ソレ』を完食してしまった。
こんなに美味いものを出してくれた彼女に礼を言わなければ。
ティンは満面の笑み(の、つもり)でヤマメの方を向き、こう言った。

「サンキューな、ヤマメ。美味かったぜ。『タランチュラの素揚げ』」

335虫ロワ第99話「コドク」 ◆XksB4AwhxU:2013/02/24(日) 00:24:10
彼の目の前には、今しがた平らげた生物と同じ身体を持った少女が居た。

(しまった……!)

だがヤマメは

「やだ……野性的……」

とつぶやき、そのまま顔を赤らめてうつむいてしまった。
なぜそんな恥じらうような反応をするのか?
どうやら気分を害してしまった訳ではないらしいが……
……ヨウカイとやらの考えることは、時々よく分からない。
彼女はつい先程まではヒトと変わりない姿をしていたはずなのだが……。

それにしても、乾き物を食べたせいか今度は喉が渇いた。
ティンは、既に支給された水を飲み干してしまっていた。
ヤマメに飲み物が無いか尋ねてみることにする。
彼女から微かにミルクのような匂いが漂ってきているのには気付いている。
牛乳か何かを支給されているのだろう。豆乳だったらなお有難いのだが。

「飲み物?水ならまだあるけど?」
「……何だか乳臭くないか?」
「牛乳なんて持ってないよ、あたし。……でも本当だ。乳臭い」

すると何かに気付いたヤマメはおもむろに黒い上着の襟を引っ張り、服の中、胸元を覗きこんだ。

「……!!さっきからどうも胸が張って変な感じがしてたんだけど……
 ……お乳出てる……」

その時、二人に……
……いや、アリ塚全体に地響きのような衝撃が走り

……直後、腹の底に沁み入るような、不吉な音色の重低音が響き渡った。

336虫ロワ第99話「コドク」 ◆XksB4AwhxU:2013/02/24(日) 00:25:05
【黒谷ヤマメ@東方project】
[状態]:疲労(大)、妖力消費(大)
臍から下の下半身と、右腕がクモの姿、母乳が出始めた
腐海の菌類のカプセル除去済み
肺に王蟲の漿液(2時間程度で切れます)
[装備]:
体:ヤマメの服(腰から下の部分が破れています)@東方project
右手:ボーラ@パワポケ12秘密結社編
左手:メタルキングの剣@ドラクエ7(『小の字』より回収)、スパイダーブレスレット@スパイダーマン
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:女王蟻の肉団子@HUNTER×HUNTER(完食)、カイコガの幼虫@テラフォーマーズ(完食)、
タランチュラの素揚げ@現実(完食))、
メタルキングの盾@ドラクエ7(『小の字』より回収)、昆虫飼育ケース@現実、半妖の卵@オリジナル(現地調達)
アタッチメントアーム(破損)@仮面ライダーSPIRITS
[思考・状況]
基本:ティンと共に、生きて会場から脱出する。
1:『半妖の卵』を無事に持ち帰る。
2:ユピーの残した足跡を辿り、先行した姫&ユピーと合流する。
3:上の方で戦闘が?
4:自分が生還できない場合は、信用できる者の元に『半妖の卵』を託す。
※女王蟻の肉団子@HUNTER×HUNTER、タランチュラの素揚げ@現実を消費しきりました。


【ティン@テラフォーマーズ】
[状態]:疲労(大)、全身の所々に切り傷と打撲(ヤマメの糸で応急処置済み)
顔がサバクトビバッタの姿に変異
肝臓と腎臓の一部を損傷。ひび割れた核鉄@武装錬金×2により応急処置済み
肺に王蟲の漿液(2時間程度で切れます)
腐海の菌類のカプセル除去済み
[装備]:
体:SPIRITSのコンバットスーツ@仮面ライダーSPIRITS
右手:メタルキングよろいの篭手部分@ドラゴンクエスト7(『小の字』より回収)
左手:メタルキングよろいの篭手部分@ドラゴンクエスト7(『小の字』より回収)
両足:クイックシルバー@ロマサガ2
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:毛ガニ@現実(完食)、イナゴの佃煮@現実(完食))、バグズ手術能力発現薬@テラフォーマーズ×6、
マグマ火炎砲@地球防衛軍2(弾切れ)
[思考・状況]
基本:仲間を守り、ヤマメと共に生きて会場を脱出する。
1:ユピーの残した足跡を辿り、先行した姫&ユピーと合流する。
2:上の階で戦闘が?
3:セキニン、取らなきゃな
4:プロイ、許してくれるか……?
5:ヤマメの言っていたその医者に掛かれば、このバッタ頭も治るのか?

337虫ロワ第99話「コドク」 ◆XksB4AwhxU:2013/02/24(日) 00:25:37
ユピーに震えながら掴まる姫。
どれだけの高さを登っただろうか。
姫の生まれた時代にこのような高さの構造物は存在しなかった。
複雑なアリ塚の構造も相まって、すっかり距離の感覚が判らなくなっていた。
階を上がるにつれて薄くなる瘴気の香り、そして大きくなってくる何者かの心の声だけが道標であった。
だが、その時は来た。
……近い。この階段を登った先に、声の主がいる。
その時姫に生じた感情は、安堵であった。
これ以上、この怒りの塊の傍に居続けたらそれだけで精神が圧し潰されそうだった。
ユピーも階段の先の存在に気付いたらしく、

「『ゆぴい』よ、わらわを下ろしてたもれ」

と言いかける姫を乱暴に床に下ろし、マントを脱ぎ捨てて階段を駆け登っていった。
一応護身用の武器は持ってはいるが、戦いとなれば彼女は全くの役立たずである。
できることといえば、巻き添えを食わないように隠れているぐらいのこと。
ユピーの怒りのオーラを間近で感じ続けて消耗しきった姫は
やっとの思いで物陰に潜り込み、マントにくるまると……そのまま気を失ってしまった。

【虫愛づる姫君@堤中納言物語「虫愛づる姫君」】
[状態]:肉体疲労(小)、精神疲労(大)ユピーの溜め込んだ怒りに恐怖
腐海の菌類のカプセル除去済み
肺に王蟲の漿液(2時間程度で切れます)
[装備]:レイピアGスラスト@地球防衛軍2
右腕:レヴィ=センス結晶の腕輪
体:青き衣@風の谷のナウシカ
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:王蟲の無精卵@風の谷のナウシカ(残り20%))
オーダイ@サバイビー
不明支給品数個
[思考・状況]
基本:主催者を打倒し、生還する。
1:気絶中
2:『オーダイ』を持ち帰る。
3:ユピーが怖い。

338虫ロワ第99話「コドク」 ◆XksB4AwhxU:2013/02/24(日) 00:27:07
ユピーが階段を駆け登った先で見たのは、無数の小さな足音と羽音を発散する黒い霧……
部屋一杯に蠢く数えきれぬほどの蟲の群れだった。
同僚であったシャアウプフと同質の、体を細かく分散させる能力か?
頭に浮かんだ疑問はすぐに消えた。
何故なら……
左肩に蓄積されたこの怒りのオーラが、今まさに大爆発を起こし
この蟲を全て消滅させ尽くすからだ!!

「うおおおおおあああああ!!死ぃにィィさらせああああアアアアaaaa!!」

咆哮とともに怒りのオーラが体に広がり、急速に圧力を増してゆく!
ユピーの全身がムクムクと積乱雲の様にドス黒く膨れ上がり、そして!
膨大な力は遂にピークに達し、刹那、破滅的な一息となって全方位に叩きつけられた!!
周囲の空間ごと無理矢理に弾き飛ばすかのように放出されたそのオーラの衝撃波は、
信じ難いことに呪印の力により威力の制限された状態で放たれたものである……!
だが、アリ塚を破壊できない程度までに弱められたその衝撃波は壁面・天井・床を延々反響して回り、
部屋中を駆け巡り続け、却って閉鎖空間における殺傷力を倍加していた。
爆発の衝撃とその余波はアリ塚全体を、暗澹とした音色を生む楽器に変貌させた。

(殺った、か……?!)

339虫ロワ第99話「コドク」 ◆XksB4AwhxU:2013/02/24(日) 00:27:50
アリ塚の音色が収まった後も濃密な砂埃が生じ、視界が利かない。
怒りを放出し、醒めた頭でしばし様子を伺うユピーの予想は、砂塵の奥から聞こえてくる声で覆された。

「素晴らしい攻撃だった。
 呪印で力を制限されているその状態で、防御の体勢を取ったこの私の体を5%も吹き飛ばすとはな。」

若い女の声。
だが、埃の中から浮かんでくる姿は……それとは似ても似つかない
ユピーの頭頂高の約2倍にもおよぶ巨大な球体であった。
よく見ればその表面には、蟲達が蠢いている。
このバトルロワイアルの主催者であり、参加者でもあるこの女……
シアン・シンジョーネの正体は、無数の蟲を依り代にしたアンデッド……レブナントなのであった。
彼女は、自身の肉体である蟲達を球状に密集させ、爆発のダメージを最小限に留めたのだ。

「その力、その怨念、正しく『魔王』の糧に相応しい。
 貴様等キメラアントの王・メルエムの無念を晴らしたいと思うなら、ユピーよ。
 その体と魂、これから喚ぶ『魔王』に捧げてはくれないか?」

目の前の蟲玉が何か言っている。ユピーにそれと言葉を交わす気はさらさらない。
だが、シアンの堅苦しくてそれでいて高慢な口調はどこか『王』に似ており
聞いているだけでユピーの怒りのオーラは再装填されていく。
次こそ殺す。再度の昇圧。再度の膨張。そして、再度の……!
球状の陣形を固め、再度シアンは防御の体勢に入った。

「聞く耳持たずか。だが、果たしてあと何発その攻撃を撃てるかな?」

340虫ロワ第99話「コドク」 ◆XksB4AwhxU:2013/02/24(日) 00:28:38

シアンはユピーのオーラの消耗を見抜き、挑発する。
あと二、三発程度なら、この防御の陣形で十分に凌げる。

……が、再度の爆発、起きず。
膨張がピークに達しかけたユピーの体は急速にしぼみ、爆発の代わりに……
何百本もの触手が一斉に飛び出した。
それらは鞭のようにしなりながら球体と化したシアンに殺到する。
その一本一本が一流の戦士でさえ対処が困難な程の速度で迫る触手は、
瞬く間にシアンの身体にヒュンヒュンと絡みつき……
毛糸玉の様に、アリ一匹逃がす隙間も無く包みこんだ。
そして……

「うおらああああああああ!ブッッッ潰れろやああああああ!!」

ユピーは雄叫びと共に、毛糸玉から伸びる触手を有らん限りの力で引き絞り出した。
毛糸玉の表面が小刻みに震え出す。
ギリギリと自分の身体が軋み、所々から血が滲むのも、ユピーは意に介さない。

「うおおおおおおおおおおおお!」

ユピーは咆哮を上げながら、なおもシアンの身体を触手で締め上げる。
中からパキパキ、プチプチという破裂音が漏れ出す。

「ぬぅうううっ、がああああああああアアアアア!」

その叫びは、絶叫と表現した方が正しいか。
毛糸玉からどす黒い液体がジワジワと染み出しても、ユピーはまだ攻撃の手を緩めない。

「アアアアアアアア!オオオオオオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッ、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

ユピーの叫びは、いつしか慟哭へと変わっていた。その顔を汗と涙と鼻水と涎などが流れ落ちる。
毛糸玉からは何と湯気が上がり始めている。
急激な圧力の上昇・体積の減少により、内部の温度が上昇しているのだ。

341虫ロワ第99話「コドク」 ◆XksB4AwhxU:2013/02/24(日) 00:29:26
ユピーの頬を涙が流れる。
王、今貴方の仇を討ちます。
憤怒、憎悪、怨恨、悲哀…あるいは歓喜か。
あらゆる感情が脳内に渦巻き、ユピーは半狂乱となっていた。

それ故に、シアンの肉体が圧壊してゆくにつれて、彼女の魔力が、
オーラが増大していくことを彼が感じ取ることは出来なかった。
シアンが『コドク』と呼ぶその儀式に、完成の時が近づいている。

【モントゥトゥユピー@HUNTER×HUNTER】
[状態]:オーラ消費(極大)、シアンを拘束中
腐海の菌類のカプセル除去済み
肺に王蟲の漿液(2時間程度で切れます)
[装備]:
体:隠れ身のマント@パワポケ12秘密結社編
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:さぬきうどん@仮面ライダーSPIRITS(完食)、イナゴの佃煮@現実(完食))
地蟲@風の谷のナウシカ(参加者の死体、完食)
[思考・状況]
基本:殺す。

【シアン・シンジョーネ@パワポケ12秘密結社編】
[状態]:瀕死、防御の陣形、ユピーに拘束されている、魔力上昇
結婚式ごっこにトラウマ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式(支給食糧:レアモノの肉団子@HUNTER×HUNTER (完食))
[思考・状況]
基本:『コドク』の儀式の完成、そして……。
1:参加者の全滅。
2:参加者は、なるべく苦しめて殺す。
3:結婚式ごっこにトラウマ
4:顔を舐めまわされるのはもう勘弁して欲しい……。

342虫ロワ ◆XksB4AwhxU:2013/02/24(日) 00:30:26
以上で99話の投下を終了します。
盛大なネタかぶり?気にするな!俺は気にしない!!

343 ◆c92qFeyVpE:2013/02/24(日) 10:55:33
投下乙です!
ユピーの激情が見事……に対してヤマメ達はさぁwww

絶望汚染ロワ289話投下します

344289話:絶望の先の希望/希望の先の絶望  ◆c92qFeyVpE:2013/02/24(日) 10:56:37

『ねえ貴方、ちょっと聞きたいのだけど』
『何いきなり話しかけてるわけ?』

第一印象―――最悪。

『まあ、あいrすが俺のことを覚えてねえって言うんじゃ仕方にい。
 俺のやることは変わんねぇからよ』
『さっきの私を守るって奴? 知らない相手に守ってもらうほど弱いつもりはないわ』
『守るんじゃない、守ってしまうのがナイト』

変な奴、これ以上彼を表すに相応しい言葉は思いつかない。

『フランドール……紅魔館の地下に幽閉されてる吸血鬼だったわね。
 そんな奴の説得が彼女にできると思うの?』
『うむ、確かにフランはだいぶ少しばかり頭がヒットしちまうことが多いけどよ、それでも話の通じない奴じゃにい。
 俺はフランと、フランを助けようとするさくらを信じるべ』

呆れるぐらい変な奴で。

『さくらと……こっちはフランドール? まさか二人共死んでるなんて……』
『―――くしょう』
『え?』
『ちくしょおおおおおおおお!!!』

それでいて、無駄に優しくて。

『ブロント……』
『剣崎とイムカは……死んだ。後はバベルの塔に乗り込むだけなんだが?』
『そう、マジックの方は手筈通りに上手くいってるはずよ。少し時間を置いてから向かいましょう』
『おぃィ? 準備完了状態なら今すぐ乗りこむべき、死にたくないならそうするべき』
『……その涙痕を消す時間をあげるって言ってるの』

どうにも放っておけない……変な奴。




345289話:絶望の先の希望/希望の先の絶望  ◆c92qFeyVpE:2013/02/24(日) 10:57:23

(それなのに、こういう時は頼りにしたくなる……)

都合のいい話だろう、それは理解している。
それでもそう思わざるを得ない程に、彼の持つオーラは強く人を惹きつけるのだ。
マジックは先程から口を開こうとしない、ただぼんやりとランスの死体を見つめたまま動かない。
魂の汚染、この殺し合いの中で多くの犠牲を出してきたそれはアリス一人にどうにか出来るものではなかった。
だが今この場にいるのは二人だけ、ずっと側にいた騎士はここにはいない。
一刻を争う状況でアリスの思考が回り続ける、自分が一人で彼女を助ける方法がないかを探すため。

(言葉だけでどうにかなるような代物じゃない……けど、私の魔法じゃ魂の浄化なんて……)

どれだけ思考を巡らせようと、アリスの持っている手札にこの状況を打開する手段は存在しない。
無力感が込み上げ悔しさから、唯一動く左の拳を強く握る、爪が手の平に食い込むがその程度のこと気にも――

(―――あった!)

突然顔を跳ね上げ、マジックの手を取り無理矢理開かせる、

「っ……離して! もう、何をしたって……」
「いいから、黙って見てなさい」

抵抗するマジックには取り合わず、アリスは静かに瞳を閉じて記憶を辿る。
皮肉にも「本気」を出すことを意識したせいで、自分の力のみに拘っていた。
一人だけで解決する必要はないのだ、自分の力でダメなら別の誰かを頼ればいい。
そう、七色の魔法では浄化できない魂も、彼女の魔法ならば癒すことができるはず。
あのフランドール・スカーレットさえも心を開いたという、素敵な魔法。
それは―――

「出来たわ」
「………お饅頭?」

それは、【手の平から和菓子を生み出す魔法】。
自らのカロリーを媒体として和菓子を作り出す、たったそれだけの、小さな魔法。

『この魔法はね、今はいない……ボクが大好きな人達が使う、幸せに満ちた魔法なんだ』

そう言いながら、少し寂しげに笑っていたさくらの姿を思い出す。
あの時は使い道の無いくだらない魔法だと切り捨てたが、今ならわかる。
この魔法に込められた、何よりも尊い想いを。

「マジック、食べてみて。絶望してようが食欲ぐらいあるでしょう」
「っ……」

マジックが最後にまともな食事を取ってから丸一日経過している。
どれだけ負の感情に支配されていようと、空腹感までは消せはしない。
無理矢理渡された饅頭とアリスを交互に見て、恐る恐るといった様子で口元へと運ぶ。
ぱくり、と一口噛り――

「わ、美味しい……」

絶望に染まっていた顔が、綻んだ。
これこそがこの魔法に込められた想い。

346289話:絶望の先の希望/希望の先の絶望  ◆c92qFeyVpE:2013/02/24(日) 10:57:59

「相手に、ほんの少しの笑顔を与える魔法、か……」

胸元で桜色に光るペンダントを握り、小さな魔法使いへと想い馳せる。

「少しは目が覚めたかしら?」
「アリス……ご、ごめんなさい、こんな状況で、私は何を……」
「反省するのは後、今は上へ向かうのが先よ。
 ……私達は一人じゃない、必ずアム・イスエルを倒せるわ」

その言葉に力強く頷き返すマジックを見て、そっと胸を撫で下ろす。
今行ったのはクルックーの説法やリセットの「クラウゼンの手」と違い、ほんの一時の応急処置。
再び魂が汚染されるまでどれだけの猶予があるかわからないのだ、今は前へと進み続けるしかない。

「行くわよ、マジック!」
「ええ!」





『SLASH』
『THUNDER』

『LIGHTNING SLASH』

「があっ……!!」

ブレイドの雷を纏った斬撃がブロントの体を捉えた。
堪らず吹き飛ばされ、その手から剣と盾がこぼれ落ちる。

『あー、こりゃ本気でマズイ』
「け、んざき……!」
「所詮こんなものかい、これで終わりだよ」

海東の言葉に従い、ブレイドが剣を振りかざしながらブロントへと駆け出す。
それを認識こそすれど、その手には迫る刃を防ぐ手立てが存在しない。

(すまにい……剣崎、俺は―――)

『ケンザキの事を、諦められるはずがない!』

「――っ!?」

347289話:絶望の先の希望/希望の先の絶望  ◆c92qFeyVpE:2013/02/24(日) 10:58:42

ブロントの命を刈り取るために振り下ろされた刃。
それは彼の寸前で動きを止めていた。
ブレイドがブロントを殺すことを躊躇った……などというわけではない。

「イムカ……」

それは機関銃であり、ライフルであり、大筒であり、剣でもある。
ヴァルキュリアを倒すために作られた武器、イムカの想いが込められた「ヴァール」によって、ブロントはブレイドの刃を受け止めていた。

「イムカ、お前……」

『ケンザキは私達を裏切っていない! ならば私も諦めない!』

「……そうだな、大分少しばかり諦めが心を支配している鬼になっていた」
「何をしているブレイド! 早くトドメを刺せ!」

海東の言葉に反応し、鍔迫り合いをしていたブレイドが僅かに間合いを取る。

「それにはどちらかと言うと大反対だな!!」

それを追いかけるように踏み込み、ブロントはヴァールを構える。
通常の人間よりも高い力を持つエルヴァーンと言えど、その巨大な武器を片手で扱うことは不可能だ。
だがナイトは片手剣しか扱えないわけではない。
それはブロントが好ましく思っていない、幻想郷に紛れ込んだもう一人のナイトの得意技、
常に響く笑い声と共に幾度と無く放たれた、伝説の突き技―――

「パワースラッシュ!!」

鋭く突き出された剣先がブレイドの体を捉えた。
しかし、ブレイドの装甲である超金属とヴァールの刀身では強度が余りにも違いすぎる。
ヴァールの全体に亀裂が走るのを感じながら、それでもブロントはその突きを止めようとはしない。
何故なら彼は知っているからだ、この武器が―――イムカの魂が、この程度で砕けやしないことを。

「おおおおおおおおおお!!!」
「馬鹿なっ!?」

ブレイドの装甲が砕け、その身にヴァールの刀身が突き刺さる。
これが剣崎一真であったなら、それでもまだ諦めずに反撃を試みたであろう。
だがディエンドに召喚された、魂の無いブレイドにそれだけの意思は持つことができない。
呆然と自身に突き刺さった刃を見て、その体を消失させていく。

「っ……は、はは! やはり僕の言った通りだったようだね!」
「海東……」
「結局キミも、友情より自分の命を選んだんだ!」

嘲笑する海東へと、ブロントは無言でヴァールを構え直す。

「そんな今にも壊れそうなガラクタで、僕を倒せると思っているのかい?」
「今のお前には何を言ってもわからないだろうな、まずはそのヒットした頭を冷やしてやる」

互いの獲物を相手に突き付け対峙する。
この状況ではブレイドとのダメージが大きいブロントの不利は否めない。
それでも、彼は一歩も退かず、仮面に隠された海東の瞳を見据えていた。

『ブロント……お前は、俺のようには、なるな、よ……』
(言われるまでもにい、俺がバーサーク状態になることなどありえないのは確定的に明らか。何故なら……)

「キミもいい加減に死にたまえ!!」
「ナイトは、相手の心も守るからよ!!」

348289話:絶望の先の希望/希望の先の絶望  ◆c92qFeyVpE:2013/02/24(日) 10:59:20




「ふふ、流石騎士様、格好良いことを言うわね」

アム・イスエルはそう言うと魔法ビジョンを消し、部屋の入口へと視線を向ける。
後一分もしない間に二人の魔法使いはここへと到達するであろう。
だが、彼女はそのことに動じた様子は一切無い。

「ランス君の死体を見て持ち直したのは意外だったけど……」

呟き、視線を横へとずらす。
そこに立っているのはパステル・カラー、その瞳には一切の光が宿っていない、完全汚染人間の一歩手前まで来ているだろう。

「ふふっ、便りにしているわよ、パステル」

アム・イスエルのその背後。


そこにあるのは、巨大な魂の集合体―――【汚染塊】。


「さあ、魔法使いさん。一人の死は乗り越えたかもしれないけど―――100人の死をぶつけられたら、耐えられるかしらね?」


【バベルの塔・65階/深夜】

【アリス・マーガトロイド@東方Project】
[状態]:疲労(中)、魔力消費(小)、右腕使用不能、魂汚染度60%
[装備]:上海人形@東方Project
[道具]:ミニ八卦炉@東方Project、さくらのお守り@D.C.Ⅱ、基本支給品
[思考]:
1、導く者を倒し元の世界に戻る
2、これからは「本気」を出す
3、ブロントのことは意地でもさん付けしてやらない

【マジック・ガンジー@ランス・クエスト・マグナム】
[状態]:疲労(小)、魂汚染度68%
[装備]:バルフィニカス@魔法少女リリカルなのはGOD
[道具]:ハニーの欠片@ランス・クエスト・マグナム、さくらのマント@D.C.、基本支給品
[思考]:
1、導く者を倒し元の世界に戻る
2、ランスのことは、今は考えない


【バベルの塔・55階/深夜】

【ブロントさん@東方陰陽鉄】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)インビンシブル1時間使用不能、フラッシュバックによる無力化の可能性、魂汚染度50%
[装備]:ヴァール@戦場のヴァルキュリア3、ガラントアーマー一式@東方陰陽鉄
[道具]:ブレイバックル@仮面ライダーディケイド
[思考]:
1、導く者を倒し元の世界に戻る
2、海東を止める
3、救うのではない、救ってしまうのがナイト!
4、カオスはどこかで捨てたい

【海東大樹@仮面ライダーディケイド】
[状態]:疲労(小)、魂汚染度65%
[装備]:ディエンドライバー@仮面ライダーディケイド
[道具]:ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、世色癌箱@ランス・クエスト・マグナム、基本支給品
[思考]:
1、最後まで生き残り各世界のお宝を手に入れる
2、ブロントを倒す
3、友情に価値なんてない!

349 ◆c92qFeyVpE:2013/02/24(日) 10:59:47
以上で投下終了です

350 ◆Air.3Tf2aA:2013/02/26(火) 20:21:40
【ロワ名】現代ジャンプバトルロワイアル
【生存者6名】
1.ポートガス・D・エース@ONE PIECE
2.小野寺小咲@ニセコイ【フラッシュバックによる無力化の可能性】【限界寸前】
3.赤司征十郎@黒子のバスケ【右腕切断】
4.杠かけがえ@めだかボックス
5.藍染惣右介@BLEACH【マーダー】
6.斉木楠雄@斉木楠雄のΨ難

【主催者】
鶴喰梟@めだかボックス(獅子目言彦により殺害されている)
獅子目言彦@めだかボックス
【主催者の目的】自らの『欲望』を妥協して満たす

【補足】
・梟博士が捕らえていた獅子目言彦が暴走。優勝すれば願いが叶うという仕組みだけは残っていますが実質主催者は不在、言彦の殺害がゲームクリアーの障害となっている状況です。
・願いが叶う仕組みをどうやって手に入れたかは不明。梟亡き今知る者はなし。
・『主催者』鶴喰梟は主催本拠地の屋上で死亡している

ひとまずテンプレだけ。問題などあれば言いつけて下さいな。

351名無しロワイアル:2013/02/27(水) 00:20:19
剣ロワと虫ロワの蟲毒の儀式に精神汚染ロワの汚染塊……
共通点の多い設定だけにそれぞれどんな結末を目指すのか、見ものだなw

352 ◆YOtBuxuP4U:2013/02/27(水) 04:07:30
ちらちら他の方のを読んでるのだけれど、
虫ロワのヤマメちゃんがかわいくて仕方ない……なんということだ

っと、ずいぶん間が空きましたが、「第297話までは『なかったこと』になりました」を投下します!

※ただし本編ではありません!

353XXX:死者スレ ◆YOtBuxuP4U:2013/02/27(水) 04:10:50
 


???「……おはよう、球磨川先輩」

???「といっても、“ここ”には昼や夜の概念なんてないのだけれど」

???「少なくともたった今起きた相手に掛ける言葉は、おはようで合っているわよね?」

球磨川「……出迎えはきみひとりかい、赤さん」

???「ええ――」

赤青黄「――私ひとりよ、先輩(はぁと)」

赤青黄「他の子はあなたの顔なんて見たくないか、まだ続いてるお話に夢中だわ」

赤青黄「ほら、向こうのモニターの前。けっこうな人が群がっているでしょう?」

赤青黄「みんな知りたいのよ――自分が関わったお話の結末を」

赤青黄「あなたが台無しにして、それでも終わらせきることができなかった、夢の跡をね」

球磨川「そう、か……」

球磨川「つまりここは天国とか地獄とか、そういうのじゃないのか」

球磨川「……安心院さんは、こんな場所を用意してたってことなんだね…………」

赤青黄「ええ」

球磨川「どうりで。」

球磨川「どうりで不思議だったわけだ。」

球磨川「僕は≪大嘘憑き(オールフィクション)≫で死体の傷を『なかったこと』にしたけど」

球磨川「本当なら、死者の死そのものを『なかったこと』にしてやるつもりだった」

球磨川「でも出来なかった」

赤青黄「そう、出来なかった」

赤青黄「死体の傷は無くなれど、心までは戻らなかった」

赤青黄「この箱庭学園で最も大切なものである心だけは、取り戻すことが出来なかったのよね」

赤青黄「――それは“ここ”があったから」

赤青黄「“この場所”を安心院さんが創って――」

赤青黄「死んだ人の心が集まる“ここ”を、“学園外”と定義したから、よ」

赤青黄「球磨川先輩はずっとそれを“自らに課せられた制限”だと思っていたようだけれど」

赤青黄「気付くべきだったわね、どこかで。最初から間違えていたことに」

赤青黄「最初から――貴方が私と戦った、あの神経衰弱のように――勝負が決まってたことに」

354XXX:死者スレ ◆YOtBuxuP4U:2013/02/27(水) 04:11:48
 
球磨川「そうだね。……気付くべきだったんだ。僕は」

球磨川「僕は気付くべきだった――」

球磨川「僕がことを上手く運べるわけがないってことに、さっさと気付くべきだったんだ……」

赤青黄「ずいぶんとしおらしいですね、先輩」

赤青黄「お得意の格好つけも外して、ずいぶんと丸くなったご様子ですが――」

赤青黄「まだ貴方には仕事が残っていますよ(はぁと)」

赤青黄「ゲーム中、散々迷惑をかけた上、死体の尊厳まで侮辱しきった罪は重いですからね」

赤青黄「今から私と一緒に、全員に巡礼して、一人一時間謝罪の時間です」

赤青黄「箱庭学園の命を預っていた者として――私があなたを逃がしません(はぁと)」

球磨川「手厳しいね」

球磨川「まあ、いつの世も嫌われ者に対する態度なんてこんなものかな……」

球磨川「なまじ今回は僕が愚かだっただけに、余計に身に沁みちゃうなあ」

球磨川「わりとヒーローっぽく散ったつもりだったけど、迎えの数もひとりだけだしね」

球磨川『それについては全然、これっぽっちも気にしちゃないけど!』

球磨川「けほん……でも、そんな中で」

球磨川「僕のことを嫌いなはずの君が僕を迎えに来てくれたのは、少し驚くな」

球磨川「いつぞやの高貴くんの言葉はうわぁと思ってたけれど、君は本当は、本当に優しい子だったり?」

赤青黄「――そんなわけあるわけないじゃないですか」

赤青黄「少なくとも球磨川先輩に対しては、今も昔もこれからも、」

赤青黄「この赤青黄は軽蔑以外の感情を一切持ちませんので。安心してください(はぁと)」

球磨川「……だろうね」

赤青黄「それでもこうして迎えに来てあげたのは――伝言があるからです」

球磨川「伝言?」

赤青黄「保健室の赤衣の天使(レッドエンゼル)、赤青黄としてではなく」

赤青黄「安心院さんの端末の「悪平等(ぼく)」として、球磨川先輩に伝言があるからですよ」

球磨川「……!」

赤青黄「もちろん安心院さんからね」

355XXX:死者スレ ◆YOtBuxuP4U:2013/02/27(水) 04:12:46
 
赤青黄「さて、前置きは終わり。あなたが望む・望まないにかかわらず、」

赤青黄「今から私はその伝言を読み上げて――赤衣の天使(レッドエンゼル)に戻るわ」

赤青黄「3秒、時間はあげるから」

赤青黄「せめて地べたに座るのはやめて、ちゃんと立って聞くようにしなさい(はぁと)」

赤青黄「3」

球磨川「……やれやれ」

赤青黄「2」

球磨川「本人も“ここ”にいるだろうにわざわざ伝言なんて」

赤青黄「1」

球磨川「はは、よっぽど僕は見捨てられちゃったってことなのかな――――――」


赤青黄「<――――ごめんなさい>」


球磨川「……え?」

赤青黄「<本当に、申し訳ないと思っている>」

赤青黄「<僕がこんなことを言うなんて、どんな驚天動地が起ころうと思ってもいないことだったけど>」

赤青黄「<もしかしたらこの言葉は、今日僕がきみに言うために残されてたんじゃないかとすら思うよ>」

球磨川「――――おいおい。おい」

球磨川「ちょっとそれはないぜ――“それはない”、ぜ、安心院さん」


赤青黄「<きみは悪くない>」


赤青黄「<今回の件については――僕が、全面的に、悪かったと思う>」

赤青黄「<きみがしようとしたこと、その名誉に誓って>」

赤青黄「<僕がなぜこんなにも僕のことを蔑み、君に謝っているのか、その真意は明かさないでおこう>」

356XXX:死者スレ ◆YOtBuxuP4U:2013/02/27(水) 04:13:32
 
赤青黄「<それでも僕は。僕はバカだったと思う>」

赤青黄「<思慮が足りない、我慢がきかない、夢しか見てない――子供だったと思う>」

赤青黄「<だから僕はきみを迎えに行けない>」

赤青黄「<きみから逃げて死んだ僕はまだ、きみの言葉を聞く準備ができていないんだ>」

赤青黄「<だからせめて>」

赤青黄「<せめてこの、物語の結末を見届けるまで……悪いけど、待っててくれるかい?>」

赤青黄「<球磨川禊へ>」

赤青黄「<安心院なじみより>」

赤青黄「<2パーセントの愛情と、98パーセントの信頼を込めて。――嬉しかったよ>」

球磨川「……」

赤青黄「……以上」

赤青黄「感想はありますか? 球磨川先輩」

赤青黄「あるならその涙をぬぐって、5秒以内に答えておけば、あとで私から伝えておきましょう」

赤青黄「なあんて――野暮なことは言いませんけど(はぁと)」

赤青黄「どうせもうすぐ、終わりです。ゆっくり感情を整理してください」

赤青黄「……結局、貴方も安心院さんも、そして私も。だれもがみんな、子供だったのかもしれないわね」

赤青黄「夢を作って、それを追って、勝手に失望してしまったり」

赤青黄「誰かの夢を叶えようとして、空回りしてしまったり」

赤青黄「くだらない意地の張り合いにいつまでも付き合って、でも割と楽しい気がしてしまったり?」

赤青黄「全く――融通の利かないというか、一筋縄ではいかないやつらだわ」

球磨川「……でも僕は」

球磨川「僕はそいつらのそういうとこ、嫌いじゃないぜ」

赤青黄「奇遇ね。私もよ(はぁと)」

赤青黄「まさか球磨川先輩と意見が一致する日が来るだなんて」

赤青黄「死んでも無いと思ってたけど、ふふ、案外、死んでみるものね」

球磨川「……さっき、もうすぐ終わりって言ってたけど」

赤青黄「ええ。ほら、モニターを見れば分かるわよ。もうすぐこのバトルロワイアルは終わるわ」

赤青黄「ああ、さっきは球磨川先輩、ずいぶんしおらしくなってましたけど――」

赤青黄「この結末を見てもそんな腑抜けた態度でいるのなら、もう少し私は貴方を軽蔑しちゃうかも?」

357XXX:死者スレ ◆YOtBuxuP4U:2013/02/27(水) 04:14:39
 

球磨川「……」

球磨川「――これ、は」


赤青黄「1、優勝エンド。」

赤青黄「2、脱出エンド。」

赤青黄「3、全滅エンド。」

赤青黄「バトルロワイアルの終わり方は、この3つのどれかに当てはまると言われているけれど」

赤青黄「今回は、全滅エンドね。」

赤青黄「ただし――きっと世にも珍しい、通常ならありえない、そんな全滅エンドだわ」

球磨川「……なんとなく、僕が“ここ”に来て、君と会話してる理由が分かった気がするよ、赤さん」

赤青黄「あら本当かしら? なら話が早いわ、さっさと言ってちょうだい」

赤青黄「そう、今回先輩は、無理して戦って、しかも最後に消えちゃったもんだから――」

球磨川「そう、僕は」

球磨川「今回に限っては一回も、あの言葉を使わずに死んでしまった」

赤青黄「グッド。じゃあほら、ハリー、ハリーよ、球磨川先輩。あの五人がまだ生きているうちに」

赤青黄「あなたに“勝った”あの五人に、ここから負け惜しみを言ってあげなさいな(はぁと)」

球磨川「――――ああ、そうだね」

球磨川「あー。改めて言うと、随分きざな言い回しだけど」

球磨川『僕はこれでも、けっこう演技派な自負はあるから、カッコよく言おうか――』



『――“また勝てなかった”。』 



球磨川『もし生まれ変わったら、今度こそ、勝つ――――なんて、どう?』

赤青黄「一言余計なとこまで含めて、すごく球磨川禊ですね」

赤青黄「……まあいいでしょう。じゃあ、あとは任せましたよ」

球磨川『?』

赤青黄「貴方には言ってません。さ、付いてきなさい(はぁと)謝罪の旅は長いですよ(はぁと)」

球磨川『ちょっと赤さん、耳は引っ張らないでくれない!? 痛、いた、アタタ……』

358XXX:タイトルコール ◆YOtBuxuP4U:2013/02/27(水) 04:16:19
 


◇◆◇◆



???「さて、みなさんここまでこのロワを読んでくれてありがとう」

???「最後のタイトルコールをするのは、当然この僕に任せてもらおうかな」

???「7932兆1354億4152万3222個の異常性と」

???「4925兆9165億2611万0643個の過負荷」

安心院「合計1京2858兆0519億6763万3865個のスキルを持った“悪平等”――この安心院なじみにね」

安心院「いやまあ、ここまでの2回のタイトルコールも言ってしまえば僕だったんだけどね」

 第298話「こんなふうにスキルで名前を変えて」

 第299話「タイトルのときだけこの死者スレからちょっとお邪魔してたと言うわけさ」

安心院「……こらそこ、そんな裏話は別にいいから本編はよ!とか」

安心院「あんまり人が泣いちゃうようなことを言うもんじゃないぜ……?」

安心院「これでも今ちょっと精神的にダウンしてるところなんだからさ」

安心院「さて」

安心院「前座にしてはずいぶん長く喋ってしまったけど――そろそろ名残惜しさにお別れを言わなきゃいけない」

安心院「僕が殺した少女たちの結末を、せめて君たちだけは覚えておいてくれ。」

安心院「さあ、第300話――」



 第300話「ウソツキハッピーエンド」



◆◇◆◇

359 ◆YOtBuxuP4U:2013/02/27(水) 04:19:05
投下終了です。死者スレは本編に入りませんね?入りません。
本編は今から書くので2月中に投下できたらいいなあと思います。

360名無しロワイアル:2013/02/27(水) 08:31:28
うっわ、そんな手があったのかwww
らしいなぁ、投下乙です

361名無しロワイアル:2013/02/27(水) 15:39:55
あれ?まだ参加受け付けしてたっけ?

362名無しロワイアル:2013/02/27(水) 15:45:17
受け付けてなかったと思うけど、そういうふうに見える告知ってどっかであったっけ?

363名無しロワイアル:2013/02/27(水) 21:22:00
>>9
>>10
のあたりのレスを参考にすれば……参加表明期限はそこまで厳密でない
とも解釈できるかなぁ

364 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/02/27(水) 23:40:02
死者スレ! その手があったか!!
後、剣士ロワ最終話、ペース配分ミスで今月中は無理っぽいです。
事前にハーマルくん使って告知しておいて申し訳ありません。
UX発売前には仕上げなければ……!

365FLASHの人:2013/02/28(木) 00:13:38
どもです。
今から参加?別にいいよ?(えー

短期決戦で2.3作完結すりゃ形になるだろうと思ってた認識の甘い自分を戒めるべく
もういくらでも迎え入れます。来るものウェルカム去るもの捕縛。
大丈夫大丈夫。多分大丈夫。

366リ・サンデーロワ第300話「リ・スタート」 ◆nucQuP5m3Y:2013/03/07(木) 02:55:39
「よぉ……そろそろ……限界か?」
ゼクレアトルは体に傷こそ負っていないものの、息も絶え絶えに生存者に問う。
ここ部屋に突入した時には六人だった生存者は、地に伏した恋川春菊と霊幻新隆を除き今は四人。
その四人のうちでも蝉が脇腹を大きく抉られておそらくはもう戦うことは適わない。
無理やり巻いたパーカーの厚手の生地を染み透してなお滴る血が刻限を示すかのように床に赤い水溜りを作り続けている。
「まだまだ……そっちこそ、限界が近いんじゃないの?」
春瓶はぐっと歯を食いしばって、口の端を上げてみせる。
三体目の世界鬼を撃破した時、この部屋に「世界鬼の世界のルール」が適用され、具現化が可能となった頼もしい相棒、ハイドも彼に倣って笑う。
「そうだぜ三下、俺達呪術人形に似たその体、いつまで保つんだ?」
「わかっちゃいたんだけどな、制限がなければ、俺を倒すことは不可能だから……」
ゼクレアトルもまた、薄く笑って手を床にかざす。
ぼうっと光った手に呼応するように、同じく光った床から加湿器のように上がった霧が形を成して春瓶達を見下ろした。
「霧の妖怪シュムナ……さあ、斬っても突いても効かないこいつは……どう凌ぐ?」
シュムナがその体で壁や床をじわじわと溶かす様を見せ付けるように部屋中に広がると、ゼクレアトルはまたも問うた。
「気にいらねぇぜ……この期に及んで、こんな奴だとはよ!!」
一喝。
ハイドの手に握られた「荒くれ鎖鋸(テキサスチェーンソー)・暴(ハリケーン)」が床に螺旋を描く用に傷を刻む。
その傷から吹き出した暴風はそのまま渦を巻いて部屋の中心に天井へと登る竜巻を作り上げた。
「お覚悟!!」
その暴風に巻き込まれ、霧の体を一本の筋として部屋の中央に繋ぎ止められたシュムナに向かったのは鉢かつぎだ。
先刻、春瓶より託された獣の槍を飲み込み、その体を槍へと変化させて雷の如く竜巻の中心へと飛来する。
一閃。
「ぐおぉぉぉぉ」
斬れず突けずの霧と言えど、極印を込めた退魔の槍に体を侵食されたのだ、当然の如くそれは致命の一撃となった。
激しい戦いに崩れた壁の隙間から差し込むまばゆい光。
その光の中に散るように、シュムナは消え失せ、場には静寂と緊張が戻る。

367リ・サンデーロワ第300話「リ・スタート」 ◆nucQuP5m3Y:2013/03/07(木) 02:56:40
「わかってると思うが……」
ふっ、と軽く息を吐いて、ゼクレアトルは世間話をするように軽い口調で語り出した。
「俺様はこのままお前らの敵として消える運命だ。あらゆる世界から脅威を呼び寄せて、お前らに差し向けるこの力を使いすぎて。あるいはお前らの誰かに殺されて、な」
生存者たちはそれに応えない。
全員が明らかなゼクレアトルの消耗には気づいていたし、終わりが近いことを感じていた。
それでもなお、気を緩めることは敗北に繋がると、この会話もまた罠ではないかと警戒を怠りはしなかった。
「さて……それはともかくとして、だ……なぁ、さっきお前たちが開放したあの世界。あのガシャポンみたいな玉。俺様の頭の上にも浮いてるこれ。なんて言うか知ってるか?」
「しらねぇよ!早く死ね!」
蝉の悪態を無視してゼクレアトルは笑う。
「これはな『宇宙の実』って言うんだ。実って言うくらいだ、樹に生るんだぜ、これ」
今度は蝉も沈黙で返す。
「それと、そこに倒れてる男、恋川な。そいつ、必殺技があるんだ。『慈愛斬り』っつってな、痛みを感じる間もなく相手を粉微塵に斬り刻むすげえ奴が」
沈黙。
ゼクレアトルが話しかける彼らには、ゼクレアトルの意図がわからない。
「質問だ、何で恋川はそれを使わなかった?『現時点で』アイツが使える最も強力な技なのに?」
「……もう、技を使えないほどに消耗なされていたからでしょう」
しばらくの沈黙に、返答なくば状況が進まないと判断して鉢かつぎが答える。
「なるほど、納得できる理由だ。だが、こうも考えられる」
ゼクレアトルは己の頭上に浮かぶ球を手にとって、言った。
「恋川はその技を『知らなかった』……俺様がこの球の名前を『知らなかった』ように」
「知らな……い?」
混乱。
今度はゼクレアトルの言葉の意味がわからない。
彼は言う。
恋川は自分の最も強い技を知らなかったと。
ゼクレアトルは己が司る頭上の世界の名称を知らなかったと。
「そうだ、知らなかった。俺様は今は『知っている』けどな……さて、賢い蝉、意味、わかるか?」
「ヒニク言いやがって!どーせバカだよ!」
大声を出して傷の痛みに体を折る蝉を愉快そうに見て、ゼクレアトルはこう続けた。

368リ・サンデーロワ第300話「リ・スタート」 ◆nucQuP5m3Y:2013/03/07(木) 02:56:57
「つまりだ、この世界に入ってくる情報が更新されている。俺たちが戦い始めた時にはまだ存在していなかった情報が、今は入ってきているんだ。どういうことか?簡単だ。
 俺達の世界はまだ続いている。ムシブギョーも、ゼクレアトルも、月光条例も、神のみぞ知るセカイも……なぁ、ハクア」
「クッ……!」
またも羽衣で姿を消し、ゼクレアトルの背後を取っていたハクアは、呼びかけられたことに警戒して振り下ろしかけた鎌を退いて距離をとる。
「お前ならわからないか、桂馬ほどじゃなくても頭脳派のキャラだ。俺様の言っている意味が」
「意味……?」
構えは崩さず、あくまで警戒したままハクアは呟く。
これがただの時間稼ぎや罠だった場合を考え、平行して一瞬でも早く決着をつける策を練りながら。
「ま……さか……」
しかし、固まりかけていたその策が吹き飛ぶほどの結論が、彼女の脳裏に閃いてしまった。
それは決して認めたくない、しかし抗えない説得力を持った推論だった。
「この世界は……借り物……」
「そうだ、この世界は、勝手に進んでいる、借り物の――――――――」

369リ・サンデーロワ第300話「リ・スタート」 ◆nucQuP5m3Y:2013/03/07(木) 02:57:17
世界が




途切れた

370リ・サンデーロワ第300話「リ・スタート」 ◆nucQuP5m3Y:2013/03/07(木) 02:57:50




















俺は一体、何をやってるんだ……
目の前に重ねられた原稿に目を落とし、自問する。
俺が今、つい今しがたまで描いていたのは、二次創作の同人誌の原稿だ。
来月開催のイベントにむけて、長年やりたかった好きなキャラクターでのバトルロワイヤルパロディ……
だったはずだ……
描き始めた手は一向に止まる気配を見せず、勢いに任せて描くも描いたり300話……
予定だったはずの「来月」は二年も前に過ぎ去り、同じイベントに二年越しで新刊として出そうと思っていた。
その最終話を勢いのままに描いて、あと少しで完成のはずだった。
「はずだった」「予定」は現時点を持って全てストップ。
メタ発言を華麗に決めるはずだったゼクレアトルは沈黙し、それ以上の言葉を発することはない。
こんなに楽しく、ライフワークのように次々に描いて来たのに、今になってどうして手が止まるのか。
わからない、まさか無意識のうちに完成してしまうことを拒否しているのか。
いや、それは違う。
299話目を描き始めたとき、ついにやりたかった全てをぶちまける最高の快感を感じた。
300話を描いている時だって、物語を終わらせられることが誇らしくて仕方がなかった。
だったらなぜ、なぜ今俺の手は、思考は止まっているのか。
ほら、続きを話すんだゼクレアトル、この世界は借り物で、そして、この物語は……

371リ・サンデーロワ第300話「リ・スタート」 ◆nucQuP5m3Y:2013/03/07(木) 02:58:09
そうか、そうなのか。
俺は気づいてしまった。
この借り物の世界が、偉大な先生方が悩みに悩んで作ったキャラクターと世界観を借りてきただけの二次創作が嫌になったんだ。
いや、嫌になったというのは厳密には違うかもしれない。
二次創作っていうのは読者の自然な感動の発露の一つだ。
あの魅力的なキャラを、あのかっこいい設定を、あの憧れの世界を自分の手で動かしてみたいという、ごく健全な行為だ。
だったら、俺はなぜ、もうこの話を描きたくなくなっているんだ。
そうだ、そうなんだ。
こんな素敵なキャラや、設定や、世界を、自分の手で生み出してみたくなってしまっているんだ。
もう、借り物では満足できなくなってしまったんだ。

372リ・サンデーロワ第300話「リ・スタート」 ◆nucQuP5m3Y:2013/03/07(木) 02:58:28
それから俺は、今まで描いた全ての原稿を、1話ずつ大切に茶封筒に入れていつでも読める位置に保管してあるそれを、ダンボールに詰め込んだ。
描きかけの、終わることのない300話目も、一つの封筒に入れ、箱に入れて封をした。
そして俺はまた白紙の原稿用紙を取り出す。
溢れて溢れて仕方がないアイデアを傍らのノートに書きなぐりながら、自分の創作意欲をペンに乗せて白い紙に叩きつけていく。
ああ、なんて楽しい。
生み出すことはこんなにも喜びに溢れている。

373リ・サンデーロワ第300話「リ・スタート」 ◆nucQuP5m3Y:2013/03/07(木) 02:58:44

いつか、自分が胸を張って世に送り出せる作品が描けたら、もう一度あの箱を開けよう。
そうしてあのキャラクターたちに、借りてきたあの素晴らしき世界の全てに感謝をしながら、描けなかった続きを描こう。
物語は完結するべきだ。
しかしそれは、作者が完結させるべきだと思ったときに完結すべきだ。俺はそう思う。
それがいつになるかはわからないけど、いつか出来る。俺は、出来るようになりたいんだ。

【リ・サンデーロワ 未完結】

374リ・サンデーロワ第300話「リ・スタート」 ◆nucQuP5m3Y:2013/03/07(木) 02:59:02














「なぁ、最高の名作の条件って奴を知ってるか」
「売れることか?高い評価をされること?それとも誰もが名前を知ってることか……違う」
「違うんだ。名作かどうかはそんなことで決まらない」
「いいか、名作ってのはな、『読んだ奴の人生を変える』んだ。そして『人生を変えられた奴が、変えた本を名作と呼ぶ』んだ。それだけなんだよ」
「だからよ、この物語は、間違いなく名作だ。名作に、今、なった」

【完】

375 ◆nucQuP5m3Y:2013/03/07(木) 02:59:47
以上で投下終了です!
これ本当のロワでやったらボッコボコの奴やで!

376名無しロワイアル:2013/03/07(木) 16:41:20
こういう落ちか……これは予想外、というより予想できるかw
何にせよ完結乙でしたー!

……ところで、まだ新規参加は有りなやつですかね(震え声)?

377名無しロワイアル:2013/03/07(木) 16:44:00
追いついた―!

>>207 >>323 >>326 やきうロワ
やきうでカオスというからムネリンロワの系列かなと思いきや、ネタは使いつつも割りと最後まで一般人ロワしてた印象
一般人ロワだからこそ、主催者倒して大勝利!ってのじゃないんだけど
でも主催者への宣言とか込で小笠原がヒーローしてくれたから中々さわやかな最後だったと思う

>>213 剣士ロワ
ぶっちゃけすんげえ好みです
書き手自身も言ってたようにSDガンダムしまくっているところがw
上手いんだよなあ、SDガンダムじゃないキャラがSDガンダムするそのクロスがw
ゼロVS逞鍛の正義の力とか天の刃とか虎燐魄オキクルミとかすげえよ
ってか、ちゃっかり語られてる爆心烈火武者頑駄無とか、ジェネラルジオングとかどれだけSD好きをニヤニヤさせんだよw
そして、それが故にSDガンダムしていない、でも熱い修羅同士の戦いがいい意味で浮いてるんだよな―w
まじでこいつらには光とか闇とか関係なくただ剣士として目の前の剣士と戦ってるんだなってのが伝わってくる
それだけにこの決着にタクティモンじゃないけど慟哭したくなる

>>233 >>255 謎ロワ
どういうことなの……。
まじどういうことなの!?
つうかこれ、どう終わるか想像つかないんだけどwww
流石“謎”ロワw

>>244 忍殺ロワ
おお、すげえ、投下形式からして忍殺だ(150字区切り
他のだれでもないニンジャスレイヤーだからこそ、本人もブッダに感謝していたように、本編でスレイしたニンジャとの共闘ってのが夢の展開だよなw
しかもその理由もキョジツテンカンホーとか、ドラゴン先生とかをうまい具合に拾ってて納得できるしw
その二人でぼこってもぼこってもなデスドさんはマジしぶとかったなー
っつうか主催者てめえかよwww 荒木やZUNほど元のキャラ濃かったっけ―!?w 
最後の振りといいどうなんだろこれ

>>266 日常の境界ロワ
やばい、この阿部さんになら掘られてもいいかもしんない
謎ロワとかの阿部さんが一般化されがちだけど、原作(?)じゃすごいいい男だってのはやる夫ロワの時から聞いちゃいたが
この阿部さんは本当にかっこよかった。男だからこそ惚れるわ
単にかっこいいだけじゃなくてちゃんとゲイとしてかっこいいのがすげえ
多分これ、阿部さんとしてかっこいいんだろなー、原作しらんけど
というか絡み方もうめえよw
非生産的とか、薔薇とか、ルカ子とかw
直接出番ないのにいおりんやゆきぽとの関係もなんか伝わってきて、いい阿部さんの最終回でした!

>>276 Splendid Little B.R.
箱庭に舞い降りてつもりゆく雪は桜となる
全編通して描写されてるそれこそが、きっとこの話の全て
読んだ今感じているこの想いを言葉にはできないだろう
多分これは感想は書きにくい話だと思うけどとにかく綺麗だった
愛そうとして愛せない花白と、愛せなくとも愛せるまで噛み砕くテトリス
多分それは残酷でも優しいんだと思うんだ

>>302 >>332 虫ロワ
あれ、外見やら設定やらでかなりがっつり虫要素持ち多いのに、なんか普通にかっこよかったりラブコメってたりしてるー!?
フルアーマーヤマーメのクロスオーバーっぷりやべえw
ってかティンも何気にヒーロー装備がいい具合にクロスオーバーの成果だしw
そんな二人がラブコメってる傍らでシリアスに最終決戦しているユピーらに謝れw
虫ロワ故に蠱毒が正しく蠱毒なんだよなー
ここはここで、ラブっている奴らのせいでオチが読めないw

>>344 絶望汚染ロワ
絶望だとか汚染だとかそういうのがテーマだからこそ、桜の魔法よりもほんのちょっとだけ笑顔にしてくれる和菓子とか、黄金の魂の塊なナイトが意味を持つんだろうなあ
アリス負けるな、ブロント負けるな、マジック負けるな

>>353 めだかロワ
死者すれ!?
この発想はなかった!
たしかにこれなら後三話縛りも破ってないし、しかもなかったことになったこのロワだからこそでもあるし、ナイス発想!
うわあ、最終回も楽しみだああ!

>>366 リ・サンデーロワ
エタ―で、だけどエンド
思えばこの最後のためにタイトルにリ・ってつけてたのか
たしかにこれもまた、三話完結でしか出来んw
消滅設定にしろ、最後にしろ、最初から最後までこの企画ならではのロワだった
ところで、 ◆nucQuP5m3Yさん? 早くオリジナル書きましょうよ。え、そういうことじゃない?
これ、書き手をさらにメタ書き手が書いているっていう構図なんだよな―w
作中作者さんが新たな未来に進んで人生変わって、だから名作になったんで、【完】
名作としてここに完成したからこそ、確かに完結してるんだよな―。未完なのにw

378名無しロワイアル:2013/03/07(木) 16:47:49
こりゃたしかにホントのロワでやったらキレるわw
ここだから出来るネタ、って感じのネタで上手いなぁ
最後の名作の条件とかゼクが言いそうな感じの締め方だし。
未完、乙でした。

>>376
>>365らしいですぜー

379 ◆ULaI/Y8Xtg:2013/03/07(木) 18:41:03
ではではテンプレ投下ー。
ぶっちゃけロワかどうか怪しいけどまあ、殺し合いにはかわりないし((

【ロワ名】ダンガンロンパ―もういっかい! リピート絶望学園♪―
【生存者六名】霧切響子/不二咲千尋【フラッシュバックの危険性】/日向創/七海千秋【プログラム体としての限界寸前】/狛枝凪斗【右腕欠損】/田中眼蛇夢
【主催者】江ノ島盾子アルターエゴ
【主催者の目的】一度は希望を手にした者達が、何もかも忘れて絶望する様を見たい
【補足】・会場は希望ヶ峰学園、ジャバウォック諸島。なお、希望ヶ峰学園内部以外は侵入禁止となり、侵入した場合は徘徊しているモノケモノに容赦なく抹殺される。
    ・新世界プログラムの残骸を集めて出来た世界の為、全員プログラムの存在。
    ・ただし、プログラム内で死亡した場合は現実世界で脳死する。
    ・全員の記憶は奪われている。時間軸は全員が死亡後、もしくは本編終了後。
    ・どうやって現実で死亡している人物を参加させたのかは不明。
    ・なお、作品の都合上マーダーが誰かは明かさないでおく。

正直かなりの異色、趣旨に合うかも分かりませんがやれるだけやってみますー。

380名無しロワイアル:2013/03/10(日) 01:38:52
3万字ってWiki何ページ分ぐらいだっけ?
教えて分かる人。
(後から後から書きたい展開が湧いて出て来る。楽しいけど終わんねぇ)

381名無しロワイアル:2013/03/10(日) 02:04:15
3ページくらいじゃね?

382名無しロワイアル:2013/03/10(日) 05:02:02
>>377
阿部高和さんは一話完結型のホモ向けエロ漫画のキャラクターなんだよ……w
原作で語られてるキャラ設定なんて
ノンケだって構わず食っちまうホモセックスが上手な自動車修理工ってぐらいなんだよ……w
だから日常の境界ロワでのかっこ良さのほうがむしろ異常なんだよ……w

383380:2013/03/10(日) 21:09:52
>>381
ありがとう。
1話でこんな量書いたのはパロロワ抜きにしても初めてだから自分でビックリ。
最初は軽い気持ちだったのに……改めてこの企画の発起人に感謝の念が絶えない。
それにしても、4分割とか5分割とか書いちゃう人は凄いなぁ。自分には到底出来そうも無い。

384剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:11:19
剣士ロワ、最終話を投下します。

385剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:12:55
 轟音と共に、洛陽宮殿が崩落する。度重なる戦いの余波によるものではなく、起き上った闇の神の巨体に突き崩されたのだ。
 ゼロガンダム達は宮殿の崩壊から素早く抜け出し、瓦礫と化した洛陽宮殿の上に立つ。
 トゥバンとタクティモンの戦う気配が無くなっていたことも含めて彼らの安否が気掛かりだが、今はそれ以上の危機が、目の前に現れた。
「あれが、常闇の皇……!」
 厳密に言えば、それは常闇の皇の本体を収めた、闇の最終決戦兵器。
 何時、何処で、何者が、何の為に――建造の由来、目的など全てが謎に包まれた、時空の狭間に存在した破壊兵器、ジェネラルジオング。
 その姿は、異様としか言い様の無いものだった。
 身体は茨のような形状の赤黒い結晶状の物質によって構成され、その上に金の縁で彩られた紫の鎧を無理矢理被せたような不格好な姿で、それが却って不気味だ。
 本体に肩どころか関節に相当するものが無い為に、両手は独立ユニットとして浮遊している。
 頭部の意匠は、巨大な2本角と小さな4本角のバランスの悪さが目につくと同時、得体の知れぬ威圧感を対峙する者に与える。
 しかしその頭部を見て、ジオン族の機兵に共通する独特のデザインラインと多くの共通点があることに、ゼロガンダムはすぐに気付いた。
「あれは、機兵……なのか……?」
 その答えは、是でもあり、否でもある。
 今のジェネラルジオングは、黄金神にとってのカイザーワイバーン、そして、今や忘れ去られし古代神にとってのカイザーティーゲルに相当する物となっている。
 即ち――神の身体。
 ジェネラルジオングの全身の棘、そして両手の指の先に設けられた砲門に、巨大な闇の力が充填される。
 たったそれだけのことで、ゼロガンダム達の身体に異常が起きた。
「な、なんだ……?」
「体に、力が入らない……!?」
 全身から、力が抜けて行く。剣を握るどころか、立つことさえも出来ずに跪き、その場に倒れ伏す。
「どうしたというのだ、お前達!」
 唯一それを免れたスプラウトが呼び掛けるが、ゼロガンダムにも、オキクルミやゼロにも何が起きているのか分からなかった。
「なんだ、エネルギーが……光の力が……押し潰される……!?」
 状況を僅かに解析したゼロは、しかしあまりにも常軌を逸した現象をより鮮明に確認したことにより、更なる混乱に陥っていた。
「お前達も、落ちるのだ……デス・クリスタルの悪夢に」
 逞鍛が呆然と呟いた、直後、天から赤い矢が――ジェネラルジオングを構成する結晶体の一部が雨のように降り注いだ。
 ゼロガンダムは、オキクルミは、ゼロは、抵抗すらできず、飲み込まれるしかなかった。






386剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:15:35




 無我夢中だった。
 突如として崩落を始めた宮殿の中で、最初、タクティモンは膝を着いたまま立つことすらできずにいた。
 それほどに、タクティモンはトゥバン・サノオの死を悼み、悲しんでいた。
 このまま宮殿の崩落に呑まれて、押し潰されて静かに消え去るのも良いかと思った、その時だった。
 人一人を容易に押しつぶせるほどの大きな瓦礫が、トゥバン目掛けて落ちて来たのだ。
 気付いた時には両の足で立ち、両の手で蛇鉄封神丸を握り、振るっていた。
 そうすることの意味も知らず、理由も分からぬまま、タクティモンは一心不乱に剣を振るい瓦礫を撥ね退け続けた。
 数分後。洛陽宮殿は完全に崩壊し、瓦礫の雨も止んだ。タタリ場の瘴気に浸食された曇天の下、タクティモンはトゥバンの亡骸と共に立っていた。
 終わってから、タクティモンは自分が何故、反射的に身体を動かしたのかを考えた。
 トゥバン・サノオは、最早ただの肉塊。それを守ったところで、何の意味があるというのだ。
 決して答えの出ることの無い自問自答に沈む直前、タクティモンは自分の顔に違和感を覚え、手で触れた。
 指先が、何かの液体で濡れた。
 これは何かと考えること数秒、答えはすぐに出た。
「馬鹿な……! 私が、涙を……?!」
 タクティモンは自分が涙を流していたことに、今になって気付いた。
 よく見れば、鎧も涙で濡れていた。一滴や二滴では到底足りないほどに。
 驚愕によって、思考が白く埋まる。タクティモン自身が、『タクティモン』というデジモンについて熟知しているが故に。
 タクティモンとは、デジタルワールドの幾万年分にも及ぶ記録の中で、戦場で無念の最期を遂げた武人デジモン達の怨霊とも呼ぶべき無数の残留魂魄のデータを、バグラモンの手によって1体のデジモンとして練り固められた存在だ。
 その存在に、誰かの死を悲しみ、悼み、涙を流すという性質を記したデータは、何処にも存在しない。
 主君への忠誠心、一介の武人としての性、完璧(パーフェクト)を好む――タクティモンの人格を構成する要素など、たったそれだけなのだ。
 なのに、タクティモンは間違いなく、泣いていた。つい先程まで、虚しき最期を迎えてしまった男の死を悼み、悲しんで。
 これはどういうことなのだ。まるで自分が別人にでもなってしまったのではないかとすら考えて、タクティモンはその思考の中に答えを見つけ出した。

387剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:18:51
「まさか、“変わった”というのか……この、私が……。今の時代のデジモンが……!」
 タクティモンの生きる時代のデジタルワールドは、それまでのデジタルワールドと大きく性質を異にしている。
 それは、デジモンから『進化』が失われたこと。そして、デジモンは生まれてから一生その性質を変えることなく、正義は正義、悪は悪のままに一生を終えるというものだ。
 かつてデジモンが強く願えば自らを変えることができる種族だったという事実を知る者は、最早バグラモンとその側近であるタクティモンしかいない。
 デジタルワールドは電子的なデータを解して、人の心によって照らされて認識される宇宙――即ち、人という種の心の在り様によって法則が書き換えられる世界なのだ。
 その世界の法則に於いて、デジモンの進化とは人の夢や希望の表れだった。
 そしてデジモンから進化が失われたということは、人々の心から夢や希望が失われた――『代わり得る自分自身』を信じられなくなったということを意味する。
 即ち、絶望による諦観と虚無感によって人の心が満たされ、それに伴ってデジタルワールドも変質してしまったのだ。
 その世界で生まれたタクティモンも当然、それは変わらない。人々の心が絶望に支配され膿み腐っていく時代で、自分の可能性を心から信じられる者がどれだけいるというのだ。
 だが、現にタクティモンは“変わっていた”。切っ掛けは、疑いようも無い、トゥバン・サノオとの戦いだ。
 トゥバン・サノオが見せた、人の持つ底知れぬ可能性。今より前を、今より先を、今より上を目指す、飽くなき志。
 それを目の当たりにして、タクティモンは心を動かされたのだ。
 ただ剣を振るうことしかできない武人から、誰かの為に悲しみの涙を流せるものへと変わる程に。
 そして、バグラモン自らの手によって創造された自分が、このもう一つの巡り合いの戦争【クロスウォーズ】と呼ぶべき場所――善と悪、光と闇が相克する殺し合いの場で変われたこと。
 それが意味する所を、タクティモンは悟った。
「……陛下。貴方の大義、その奥底には……貴方の願いが眠っていたのですね。この私にも……!」
 振り返り、迸る闇の波動の根源を睨む。
 そこには、赤黒の双頭龍と見紛う程の邪悪の権化が存在していた。
 あれを倒さねば、あまねく世界の未来は闇に閉ざされ、光を失うことになるだろう。
 視線を、再びトゥバンの亡骸へと戻す。そして、その手に握られたままのイルランザーを取り去った。
 不思議と、簡単に取ることができた。まるで、トゥバンが死して尚、イルランザーにはまだ往くべき戦場があることを承知しているかのように。
「去らばだ、トゥバン・サノオ」
 別れの言葉を告げて、タクティモンは邪神の下へ――自分が往くべき戦場へと走った。
 今の自分の、心の命ずるままに。












388剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:21:09










 気が付けば、ゼロガンダムは荒野で倒れていた。
 痛む体に鞭打って立ち上がり、自分はどうして倒れていたのか、少しずつ思い出す。
「そうだ、俺は……常闇の皇の、ジェネラルジオングという機兵と戦って――……」
 ……――辛うじて勝利を収めた。そして、仲間達に別れを告げて、元の世界へと帰ることになったのだ。
 つまりここは、ゼロガンダムの故郷――スダ・ドアカ・ワールドだ。
 状況をどうにか思い出すと、一つ溜息を吐いてその場に腰を下ろし、呼吸を整え体力の回復を待つこと数十分。
 歩く分には苦の無い程度に回復すると、ゼロガンダムは荒野を一人歩き続けた。
 歩いた。
 歩き続けた。
 ただただ、只管に、歩き続けた。
 時間の感覚も麻痺し、空腹と眠気にも必死に耐えて、ゼロガンダムは歩き続けた。
 既に荒野は終わり、見覚えのある城下町へと至った。
 しかし、誰もいない。
 いや、違う。何もいない。
 人も、犬も、猫も、鳥も、虫も、何一つとして、生命の気配がない。
 ドゥームハイロウの発動によってザンスカール族以外の全ての命が奪われたのだから当然、というわけでもない。
 我が物顔で世界に跳梁跋扈していた魔物や暗黒の一族――闇の勢力の気配すら無いのだ。
 本当に、何一つとして、命と呼ぶべきものが何も無いのだ。
 残っているのは、荒れ果てた街と大地だけ。
 ゼロガンダムは、今まで感じたことの無いような、言い知れぬ不安と恐怖に身震いして、グラナダの王都を後にした。
 その後、ゼロガンダムは幾つもの町や村、集落を巡ったが、何もいなかった。
 グラナダ王国以外の国々……ドレスデン、ダバード、ブリティス、アルビオン、ミリティア、ウィナー、アルガス、ラクロア。そのいずれも、同様だった。
 そして、最後に辿り着いたのは古代遺跡兵器ドゥームハイロウ。
 幻魔皇帝アサルトバスターの居城となっていたこの場所でさえも、同様だった。
 玉座へと歩み寄り、それを雷龍剣で一刀両断しても、それ以上は何も変わらず、何も起こらなかった。
 その一撃で全ての力を出し尽くしたのかのように、ゼロガンダムは崩れるように倒れた。
 その胸に在るのは、勝利の実感でも、使命を為し遂げた達成感でもなく、希望や絶望さえもない、虚無感だけだった。
 誰も、何も、いない。
 守るべき仲間も、共に生きる友も、戦うべき敵も、討つべき仇敵も、鳥獣や虫さえも……誰一人、何一つ、存在しない、せかい。
 闇を乗り越えたその先にあったのは、光でも、希望でも、未来でもなく。

 じぶんひとりだけの、えいえんのこどく。







389剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:25:24





 戦いを終えて故郷のカムイへと帰って来たオキクルミは、感慨に耽る暇すら無く目の前の惨状に言葉を失った。
 辺り一面はタタリ場に呑み込まれ、母なるカムイの大地は闇の瘴気に包まれていた。
 吹雪こそ止んでいるが、寒さも冬であるにしても異常で、木々すらも凍りついて折れている。
「まさか、双魔神どもの手がここまで……!」
 迂闊だった。別世界の恐るべき闇を倒して来たとは言っても、この世界の闇の勢力は健在だったのだ。
 しかも、時期は“厳冬の蝕”が差し迫った頃。
 オキクルミがこの世界を離れている間に、双魔神が本格的な行動を起こしていてもおかしくなかったのだ。
 碧眼の獣神へと転身し、オキクルミはエゾフジの麓、故郷のウエペケレへと走った。
 ウエペケレに辿り着いたオキクルミは大きな声で3度吠えたが、誰も応えない。村の何処からも、誰の臭いも漂って来ない。
 嫌な予感が胸を締め付けるが、それを振り払うようにオキクルミは村の中を駆け巡り、やがてエゾフジの麓、ラヨチ湖の畔にある山興しの儀式の舞台へと辿り着いた。
 そこで待っていたのは、地獄だった。
 サマイクル、ケムシリ爺、カイポク、トゥスクル、ワリウネクル……オイナ族の、村の仲間達の亡骸が、死屍累々という言葉のままに、儀式の舞台の周りに倒れていた。
 そして、エゾフジを噴火させカムイの大地に温もりを与える重要な儀式『山興し』を行う舞台の上には、ピリカと、コロポックル宿しの狼――アマテラスが折り重なって倒れていた。
 オキクルミは人間の姿に戻り、力無くその場に崩れ落ちた。
 両手を温もりの失われた大地に突き立て、立ち上がろうとするが、上体を起こすだけで精一杯で、力が入らない。
 悲しさと悔しさのあまり、声すら出ない。
 しかし、それが幸いした。微かな、今にも消えてしまいそうな程弱々しい呻き声を、オキクルミの耳は捉えることができた。
「ピリカ!!」
 今年の山興しの祈祷を捧げる役を任されていた、自分にも懐いていた少女の名を叫び、オキクルミは慌てて彼女の下へと駆け寄った。
 オキクルミが傍まで近寄って跪くと、ピリカも気付いて、顔をオキクルミの方へと向けた。
「オキクルミ……お兄ちゃん……? 帰ってきたんだ……良かった、無事で……。みんな、どこに行ったんだって、心配……してたよ……」
「喋るな、ピリカ!」
 ピリカの声は間近まで近付いて漸く聞き取れるほどにか細く、彼女の生命が今にも尽きようとしていることが嫌でも分かってしまった。
 見れば、ピリカも傷だらけで、彼女を庇うように倒れているアマテラスはその白い体を朱の隈取りとは違う、赤い血で染めていた。
「双子の魔神が、エゾフジから降りて来て……みんなは、オオカミさんと一緒に戦って、わたしは……ケムシリお爺ちゃんの代わりに、山興しを、いっしょうけんめい踊ったの……」
 言われて、オキクルミは目の前のラヨチ湖に巨大な物体が転がっていることに気付いた。
 黄金と白銀の、フクロウの姿を模したカラクリ仕掛けの怪物。双子の魔神、モシレチク・コタネチク。
 オイナ族の同胞とアマテラスは、山興しの儀式を阻もうと現れたこの双魔神との戦いで力尽きてしまったのだと悟った。
「ねぇ、お兄ちゃん。わたし、ちゃんとできたかな……? わたしの、力で……みんなを守れたかな……? なんだか、周りが真っ黒で、お兄ちゃんの顔も見えないの……」
 ピリカからの問いかけに、オキクルミは言葉に詰まった。
 何と答えればよいのだ。
 カムイの大地は温かさを失い闇に呑まれていると、事実を告げろというのか?
 未だ寒さに震えているピリカに、山興しは成功したぞと、見え透いた嘘を言えというのか?
 オキクルミには、そのどちらも言うことは出来ない。
「ピリカ……!」
 少女の名を呼び、抱き締める以外に思いつかなかった。
 だが、既にピリカの体は、冷たくなっていた。
 呼吸も、鼓動も、止まっていた。
「ピリカ……? ピリカ! ピリカ!!」
 息絶えた少女の名を、オキクルミは呼び続け……いつしかその呼び掛けは、慟哭へと変わっていった。
 英雄の慟哭が、母なる温もりを失った大地に木霊する。







390剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:29:18





 どことも知れぬ、暗黒の空間の中。
 そこでゼロは、延々と、幻影を見せつけられ続けていた。
「違う……!」
 否。それは幻影では無く、真実。
 過去にまだイレギュラーハンターの隊長だった頃のシグマとの戦いで、自身に纏わる記憶【メモリー】の全てを、ゼロは失っていた。
 だが、今見せられている映像に、ゼロはデジャビュを感じていた。
 それは、その映像に見覚えが――否、身に覚えがあるからに他ならない。
 メモリーの奥底に遺されていた記憶の残滓が囁くのだ。
 今、目の前に映し出されている者こそが真実だと。
 ゼロとは、究極の破壊者であるのだと。
「違う、止めろ! 俺は、俺はそんなんじゃない!!」
 ゼロの叫びが、虚ろに響き渡る。
 だが、映像は止まらない。
 ゼロのアイセンサに、視覚認識領域に、ありとあらゆる知覚領域に、映像が、データが、メモリーが、否応なしに現れて、記録されていく。
 次に現れたのは、親友と最愛の女性の、無残に破壊された残骸。
「カーネル! アイリス!!」
 彼らの名を叫び、がむしゃらに手を伸ばすが、どうしても届かない。幻に等しいただの記録に、触れられるはずがない。
 壊れた姿のまま、彼らの姿は消えてしまう。
 どうしてこうなってしまったのか。何故、ああなってしまったのか。
 誰が、彼らを壊したというのか。そんなものは、誰に問い掛けるまでも無く分かっていた。
 それでもゼロは、認めるわけにはいかなかった。
 不意に、眼前に何かの気配を感じた。
 姿は見えないが、ゼロにはそれこそが、自分の倒すべき敵なのだと直感し、一心不乱にセイバーを振るった。
 まるで、その“敵”を倒せば、この悪夢は終わるのだとばかりに。
 目の前の影は呆気なく斬られ、ゼロの目の前に倒れた。
 ゼロが倒すべき敵と直感したそれは、悪でもなく、闇でもなく、イレギュラーですらなく。
「エックス…………?」
 親友の残骸を前に、ゼロは愕然と、その場に崩れた。
 気付けば、闇が晴れていた。
 煌々と燃え盛る炎が夜の闇を赤々と照らし、ゼロの足元に転がる、無数の骸の姿を浮かび上がらせた。
 無数のレプリロイドの残骸が、ゼロ足元から地平線の果てまで広がっていた。
「俺が……俺がやったっていうのか……?」

391剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:31:38
 呆然と呟き、ふと、足元のレプリロイド達の残骸に目を遣る。
 どうやって壊したのか、どうやって壊れたのか、その全てを体が覚えていた。メモリーに記録されていた。
 覚えていないはずなのに、覚えている。やっていないはずなのに、やっていた。
 この現実が真実で、ゼロの実感や記憶が偽りだというのならば。
 俺は、一体なんなんだ!?
 声には出せなかった疑問に、メモリーの奥底に眠る影が答えた。
『そうだ、お前がやったのだ! よくやったぞ、ゼロ! わしの最高傑作よ!』
「黙れぇ! 俺は、俺は……!」
 目の前の惨状を褒め称える影の言葉に声を荒げて、否定しようとして、それ以上何も言葉が出て来なかった。
 何が違うというのだ。
 どうして否定できるのだ。この惨状を作り上げた張本人である自分が。
 ゼロの沈黙を意にも介さず、ゼロを最高傑作と呼ぶ老人は狂気を孕んだ声で叫び続ける。
『ライトの最高傑作、最後の遺産を基に造られた者達。その全てを、お前は凌駕した! よくやった、よくやったぞゼロ!』
 その言葉は、いよいよゼロを打ちのめした。
 全てのレプリロイドは、発掘されたエックスの構造やデータを参考に造られたと、ドクター・ケインから聞いたことがある。
 たった、それだけのことで。
 エックスを参考に誕生したという理由だけで。
 俺は、無数の同胞を破壊し尽くしたというのか!?
『お前こそ最強! 最強のロボットだ!』
 老人からの最大の賛辞を聞き届け、ゼロのボディが反応を示す。
 示す感情は、歓喜と愉悦。
「ワレハメシアナリ! ハハハハハ! ハァーッハッハッハッハッ!!」
 圧倒的にして絶対的な破壊者は、自らが成した破壊の痕跡を前に、高らかに笑った。笑い続けた。
 自らの存在意義を満たすという喜び、使命を為し遂げた達成感、破壊そのものに見出す愉悦に浸って。
 その狂気は、そのデータの中に押し込められたゼロの心を侵し、切り刻んでいく。

 俺は、この力で……もう、何も……! 壊したくなんか無いんだああああああああ!!

 ゼロの叫びは、何者にも届かず、己の内でのみ木霊し続けた。












392剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:34:45










 鎧は半ば砕け、降り注ぐ赤き破壊の雨を振り払う度に大剣は軋み、強烈な衝撃が痛みに変わって肉体を貫く。
 だが、手を休めるわけにはいかない。
 ここで自分が手を止めたら、誰が結晶の中に封じられた仲間達を守り、救いだすことができるというのだ。
 スプラウトが叩き落とした、ジェネラルジオングが発射した棘の数は既に数千にも及んでいる。
 それだけの数を捌き切ることはさしものスプラウトにも不可能であり、頑強なドラゴンころしの刀身も僅かに歪み、罅の入っていた鎧は幾度か棘が掠っただけで半分近くが砕け散った。
「ぐぅっ……!」
 そして遂に、左腕に小さな棘が突き刺さった。外見からは思いもよらぬ激痛にも、スプラウトは僅かに声を上げるだけで堪えた。
 スプラウトは元より、全長2mを超える大剣を片手で自在に操る。片腕を使えなくなったことは、それほど深刻ではない。
 だが、照準も何も無い、ただ数をばら撒いているだけの弾が当たってしまった。
 スプラウトの体力と集中力が限界に近付いているという事実こそが深刻なのだ。
 すると、急にジェネラルジオング――常闇の皇からの攻撃が収まった。
 一息吐く暇ぐらいは与えてやろうと嘲られているのだと、スプラウトは直感した。
 それに腹を立てるでもなく、その余裕に甘えて棘を抜き取り、呼吸を整える。
「もう諦めたらどうだ。奴らに常闇の皇のデス・クリスタルから逃れる術など無い」
 腑抜けたような声で逞鍛が吐いた戯言を聞いて、スプラウトは彼を鬼気迫る表情で睨みつけた。
「貴様は黙っていろ。これしきで、諦めてたまるか……!」
 逞鍛は何も言い返さず、代わりに視線をジェネラルジオングの頭部近くへと向けていた。そこを見ろと暗に示しているのだと理解し、スプラウトもジェネラルジオングの頭部を見る。
 その瞬間だった。ジェネラルジオングの放った閃光が、時空間を貫いた。
 同時に生じた衝撃波で吹き飛ばされないように体を支えながら、スプラウトは具に状況を確認した。
 空間を破壊され、虚空に空いた穴。その先に見える世界は、かつて垣間見たサルファーの巣食う元の世界――闇の寝床に酷く似ていた。
 やがて、その穴は閉じ、衝撃波による気流の乱れも収まった。
「デス・レイン……。ほんの0.001%でこの威力だ。最大出力で放てば、世界の10や20は纏めて消え去るだろうよ」
 逞鍛の口から、今の一撃も本来の威力の10万分の1程度だったと告げられる。それが事実ならば、ジェネラルジオングの、常闇の皇の脅威は計り知れない。
 1つの世界を一夜で滅ぼすこともできないサルファーとは比べ物にならない程の圧倒的な脅威だ。
 そんなバケモノを解き放ち、数多の世界を脅かすことを許すわけにはいかない。
「させぬ。させて、なるものか!」
 啖呵を切り、右腕だけでドラゴンころしを構えた、直後。
 スプラウトの眼前に、白き龍の聖剣が突き立てられた。

393剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:38:12
「その心意気や良し。しかし、歪んだ鉄の剣では不足であろう」
 洛陽宮殿の瓦礫を踏み締めながら、1人の剣士が歩み寄って来る。
 見るまでも無く、声と気配だけでそれが何者かすぐに分かった。
「この剣は、トゥバンのイルランザー」
 そして目の前の剣を見れば、否が応にも理解出来た。
 あのトゥバン・サノオが死んだのだと。
 そうなるだろうとは予感していた。だが、いざ事実として直面すると、俄かには信じ難かった。
「勝敗は決しなかった。だが、生死のみは別れてしまった」
 すると、スプラウトの内心を察したのか、タクティモンはそのようなことを言った。そして、そのまま当たり前のようにスプラウトの隣に並び立った。
 見ればタクティモンの兜が失われており、その中身が露出していた。スプラウトが感じていた通りその正体は、人間はおろか生物とは言い難いものだった。
 だが、その姿を間近で見ても、不思議と不快感や嫌悪感を覚えない。
 そうだ。タクティモンが常に自らを鞘として納めていた鋭利な刃のような狂気や怨念が、今は全く感じられないのだ。
「タクティモン……? 貴様、どういうつもりだ。まさか、今更こいつらに加勢するとでも」
「その心算で来た」
「なんだと!?」
 逞鍛からの問いにタクティモンはあっさりと即答する。
 これには問うた逞鍛のみならず、スプラウトも驚き、同時に疑念も湧いた。
「どういう心境の変化だ?」
「それは、後で話そう。スプラウト、時間を稼いでくれ。この奥義は、出すまでに練りが要る」
 スプラウトからの問いにも碌に答えようとせず、タクティモンは話を先に進める。
 しかしその声調はタクティモンらしくなく、戸惑っているような調子が混ざっていた。
 策を弄しはするが、虚言の類で他人を陥れる男ではない。その点は信じられる。
 過去、未だカイと行動を共にしていた時のことを思い出し、スプラウトはそれ以上の追及はやめた。
 この男が力を貸してくれるというのなら、心強いことに違いは無い。
「時間は?」
「1分もあれば」
「良かろう。しくじるなよ」
 最低限の言葉だけ交わして、スプラウトはドラゴンころしを棄ててイルランザーを握る。
 かつて“輝ける聖剣”と謳われながら闇へと堕ちた自分が聖剣を握って戦うことに、運命の皮肉を感じる。だが、迷いは無い。
 今は亡き仲間の為、今窮地に在る戦友の為、今こそ持てる力の全てを振るう時。
 スプラウトが剣を構えるのに呼応して、ジェネラルジオングの攻撃が再開される。……いや、違う。
 これから攻撃が始まる。
 全身を駆け巡る悪寒に肌が粟立ち、冷や汗が流れる。
 ジェネラルジオングの両手、それぞれの指に莫大な闇の力を充填した10の砲門が、スプラウトとタクティモンに向けられていた。
 先程までは、ほんの遊びでしかなかったのだ。
 これから始まるものこそジェネラルジオングの、常闇の皇の攻撃であり。
 その一撃で、この戦いを終わらせるつもりだ。

394剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:45:33
 それができるということは、先程のデス・レインを見ていれば誰しもが理解出来る。
 加えて、今向けられている10の砲門――いや、2つの大砲は、司馬懿の放った闇の究極奥義・天冥獄鳳斬と同質のものであり、それを遥かに上回る力だ。
 直撃すれば命が無いだけではない。ただ充填されただけで、闇の力を持たない者達は、身体から力を奪われ無力化されてしまう。
 途方も無い力を前に、スプラウトの気は散漫となり、諦めという言葉すら脳裏を過ってしまった。
 すると、突然タクティモンが口を開いた。
「我ら闇の者が、闇の盟主たる常闇の皇と対峙するとは……。これも、運命なのかもしれんな」
 タクティモンの口調は、どこか嬉しそうですらあった。
 そしてその言葉を聞いて、スプラウトもある事実に気付いた。
「いいや、我らの意志が切り開いた可能性だ。わしらでなければ、あのジェネラルジオングとやらは壊せまい」
 そうだ。あの力に対抗できるのは、この身に闇の力を宿している者だけなのだ。
 光の力を持つ彼らはその力を封じられて為す術も無いが、自分達は違う。
 ジェネラルジオングを壊せる者が、ここに2人揃ったのだ。
 スプラウトの心から、完全に迷いは消えた。
 それを悟ったのか、ジェネラルジオングは頭部と両腕の目をギョロリと動かし、2人を睨みつけ、両腕の極大暗黒砲を発射した。
 極大暗黒砲の一撃によって、スプラウトとタクティモン、そして逞鍛までもが消滅するかと思われた。だが、誰1人として消えなかった。
「冒涜の能力! ダークエボレウス!!」
 決して回避の出来ない、そして防ぎ切れない闇の攻撃を凌ぐ唯一つの術。それを、スプラウトは既に持っていたのだ。この殺し合いの舞台に呼ばれる、遥か以前から。
 闇をその身に取りこみ自らの力と成す、イヴォワールでも禁じられた邪法として封印されていた冒涜の能力。
 スプラウトはその能力を用いて、極大暗黒砲の闇のエネルギーを吸収してしたのだ。
 大暗黒砲の破壊力とダークエボレウスの吸収力、2つの力が鬩ぎ合う。だが、出力があまりにも桁外れだ。
 すぐに闇を溜め込む器である能力者の肉体が崩壊し、闇へと還る。そのはずだった。
 それをスプラウトは覆してみせた。理論は単純、吸収した闇の力を、そのまま即座に別の形で放出しているのだ。
 イルランザーの刀身から、エネルギーの刃が伸びて行く。オーラブレードと呼ばれるその剣技は、本来なら使用者の気や魔力をエネルギー源とする。
 それをスプラウトは、吸収した闇の力を即座にエネルギー源へと変換して行っているのだ。
 強大な闇の力の吸収と放出、それら2つを限界ギリギリの出力を常に保ちながら行うなど、人間業でも無く、まして正気の沙汰でもない。
 闇を喰らい続けて魔人と成り果て、50年以上を狂気の中で生き続けたスプラウトならばこその絶技。だがそれでも、無謀には変わらない。
 少しずつ、少しずつ、極大暗黒砲の出力に押されていく。
 それでも、スプラウトは諦めない。歯を食い縛り、足を踏ん張り、掲げた左手とイルランザーを握る右手を、決して下ろさない。
 やがて、極大暗黒砲が途切れた。だが、まだ終わりではない。撃ち終わったのはまだ指1本分、まだ9発分が残されているのだ。
 時間は、まだ30秒も経っていない――
「蛇鉄封神丸、四の太刀」

395剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:48:41
 ――が、タクティモンが突如として動いた。大地を蹴って跳び、ジェネラルジオングの左手も踏み台として更に跳躍する。
 1分要ると言ったのは、ジェネラルジオングの油断を誘う為の布石か。
 この期に及んで大した豪胆さだと呆れながら、スプラウトはタクティモンに先んじて仕掛ける。
 タクティモンを狙うジェネラルジオングの両手を、叩き落とさなければならない。
 オーラブレードは、既に数十mにも及ぶ長さになっていた。スプラウトの力を注ぎこめば、更に伸ばせるだろう。
 ならば、あれをやるか。イヴォワールでも、極めた者は歴代の“九つ剣”の中でもほんの一握りとされる、魔界から伝わったとも言われる究極の剣技を。
 限界を超えて動くことに悲鳴を上げようとする肉体を黙らせ、スプラウトは乾坤一擲の刃を振るった。
 その剣が断ち切るのは人ではなく、物ではなく、風でなければ空でもなく。
 次元を切り裂く究極斬撃・超次元断。
 この一撃に断てぬ物は、普通なら存在しない。だが、時空間を超越する力を持つ常闇の皇によって、ジェネラルジオングは超次元断を含め殆どの攻撃が通用しなくなっている。
 ジェネラルジオングの全身を覆う闇の結界は、この会場を覆っていた結界と同じ物。それを貫くことができるのは、本来ならば常闇の皇の力を超える光の力のみ。
 しかし、例外がたった一つだけ存在する。それは、闇の力を身に宿しながら、心に光を宿す者が御する闇の力。
 それを成し得る者こそは、即ち――天の刃。
「ぬぅおおおぉぉぉぉぉ!!」
 スプラウトは咆哮と共に超次元断を振るい、ジェネラルジオングの両手を一刀両断した。



 スプラウトがジェネラルジオングの両手を斬り落としたのを、タクティモンは直に見るまでも無く察した。
 あれほどの攻撃を耐え凌いだだけでも驚嘆に値するというのに、直後にそれ以上のことをやってのけるとは。
 こうなっては、あれだけのことを強いたタクティモンが無様晒すことは、決してあってはならないことだ。
 ジェネラルジオングの体に到達したタクティモンは、そのままほぼ垂直に体表を駆け上がり、間もなく肩に至り、跳躍。ジェネラルジオングの頭頂部を真下に捉える位置を取った。
 タクティモンの背に輝く光輪がその輝きを一層に増し、蛇鉄封神丸は周辺の物質を大気ごと呑み込み力へと換え、刀身に迸る闇の力が視覚で捉えられるほどに猛り狂う。
 その太刀は、皇帝バグラモンによって『災厄』として定義された。
 その一撃がもたらす破壊は、最早剣戟はおろかデジモンの必殺技としての範疇を超え、当時ロイヤルナイツを始め数多のデジモン達からも一種の破壊や崩壊の現象として認識された。
 デジタルワールドを司る神『ホメオスタシス』を殺し、その体を数多の欠片【コードクラウン】へと破砕し、デジタルワールドを幾つもの『ゾーン』へと分断した災厄。
 その正体こそは、タクティモンと蛇鉄封神丸の最強最大の禁忌の必殺剣。
 この一撃を、今は亡き我が強敵(とも)への弔いとして奉る!
「究極奥義・星割!!」
 神殺しの一撃が、神の身体へと打ち込まれる。
 闇の結界すら物ともせず、たったの一撃で、ジェネラルジオングの巨体を真っ二つに斬り裂いた。







396剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:51:23






「……声?」
 倒れ伏したまま意識を失っていたゼロガンダムは、唐突な覚醒を迎えた。
 自発的な目覚めではない。誰かが、自分を呼んでいたのだ。
 しかし、周囲には誰もいない、何も無い。
 きっと、孤独に耐えかねた自分が生み出した幻聴だったのだと、ゼロガンダムは自嘲する。
 ――ゼロ……ゼロ……!――
「……違う。空耳なんかじゃない……!」
 ゼロは立ち上がり、周囲を見回し、耳を澄ます。しかし、誰もいないし、何も聞こえない。
 ならば、研ぎ澄ますべきはそれら以外の感覚。
 ゼロは目を閉じ、心を波打たぬ水面のように落ち着かせ、この世の全てに心を開くような感覚で待ち続けた。
 今度は、はっきりと聞こえて来た。
 自分の名を呼ぶ声、励ます声が。
「マーベット……父上……」
 ドゥームハイロウの発動によって消えてしまった仲間達、そしてアサルトバスターの姦計により自らの手で殺めてしまった父の、声が聞こえた、姿が見えた。
 直接目には見えず、耳には聞こえずとも、彼らの魂が確かに自分の傍に在るのだとゼロガンダムは気付いた。
 そして、その気付きに応じるかのように1人の竜騎士が、ゼロガンダムの目の前に現れた。
「ゼロマル!」
 アルフォースブイドラモンの、名前が長くて呼び辛いだろうからと教えてもらった彼の愛称を叫ぶように唱えて呼び掛ける。
 生前と変わらない、まるで犬のような人懐こい笑顔を浮かべて、アルフォースブイドラモンはゼロガンダムの呼び掛けに応えた。
「良かった。デス・クリスタルから抜け出せたんだね、ゼロ」
「デス・クリスタル……?」
 アルフォースブイドラモンの発した、聞き覚えの無い言葉をそのまま繰り返す。
 すると、アルフォースブイドラモンは険しい表情で頷いた。
「デジタルワールドに伝わる伝説の邪神……ムーンミレニアモンの、相手の心を甚振り殺す必殺技さ。奴は肉体を持たない精神体で、だからこそ他者の心を叩きのめして切り刻むことに長けている。そしてムーンミレニアモンこそ、別世界で常闇の皇と呼ばれるようになった、この殺し合いを仕組んだ全ての黒幕だ」
「つまり、今のは……幻覚、だったのか」
 聞き返して、すぐに返って来た解説に、その内容に困惑しながらも、ゼロガンダムは自分なりの解釈を口にする。
「正確には、今のまま迎えてしまうであろう来るべき未来の1つのヴィジョン……起こり得る、最悪の可能性さ」
 アルフォースブイドラモンが頷きながらも、ゼロガンダムの解釈を補足する。

397剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:53:25
 そこまで話を聞いて、少しずつ、ゼロガンダムは思い出した。
 自分は、まだ常闇の皇と戦ってすらいなかったこと。
 寧ろ、力を奪われ地に這い蹲って……そのまま、敵の術中に落ちてしまったのだ。
「不甲斐ない。まさか、完璧に敵の術中に落ちていたとは」
 敵が精神攻撃を得手としているとはいえ、今の今までその掌中で踊らされていたことすら気付けなかった。
 それはつまり、自分の心に付け入る隙があった、自らの未熟さ故のことと考え、ゼロガンダムは自戒の言葉を吐き出した。
 すると、それを聞いたアルフォースブイドラモンは苦笑を浮かべながら、ゼロガンダムを励ました。
「しょうがないさ。あの暗黒砲も含めて、完璧に初見殺しだもん。だけど、君の心の強さ、そして天の刃と呼ばれる君の仲間達のお陰で、道は拓かれた」
 すると、辺り一帯の景色が消え去った。滅びた王国も、無人の荒野も、何もかも消えて、無の暗黒の中にゼロガンダムとアルフォースブイドラモンは残された。
 だが、分かる。アルフォースブイドラモンの言った、拓かれた道。その先にある、往くべき最後の戦場。
 闇の中であろうと、もう見失うことは無い。
 ゼロガンダムの心にはもう、孤独も恐怖も、迷いも無い。
「ありがとう、ゼロマル。お前に出会えて、本当に良かった」
 闇に閉ざされた精神世界へ、死して尚、魂のみの存在となってまでも自分を助けに来てくれた戦友に、ゼロガンダムは心からの感謝の言葉を伝えた。
 それを聞いたアルフォースブイドラモンは穏やかな笑顔を浮かべると、すぐに歴戦の聖騎士の表情へと変えた。
「僕もだよ、ゼロ。……自分の可能性を、未来を信じて。その時にこそ、闇にも絶望にも負けない究極の力が生まれる!」
 その言葉を最後に遺して、アルフォースブイドラモンの魂――正確には彼というデジモンを構築するデータ――はその形を失って丸い球のような姿となり、どこかへと飛び去っていた。
 ゼロガンダムはそれを見送りながら、アルフォースブイドラモンが自分達の名前の共通点を使って考えた、決め台詞を思い出していた。
「……ゼロは、一つならば無。2つで無限。そして……!」
 雷龍剣と天叢雲剣を構え、それらの剣に宿る雷の力を最大限まで高める。
「ゼロガンダムとゼロマルの『0』が3つ揃えば、無限の光!」
 締めの言葉と同時に両手の剣を天へと掲げ、稲妻を走らせる。雷光が闇を切り裂き、ゼロガンダムの進む道を作る。
 友との言葉を胸に、ゼロガンダムは最後の戦場へと往く。







398剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:56:19





 悲しみに打ちひしがれ、オキクルミの心は身体以上に凍えていた。自分の心に温もりを与えてくれていた、掛け替えの無い者達に先立たれてしまったが故に。
 双眸から溢れる涙も、流れ出た途端に凍りついてしまうようになっていた。
 このままでは、遠からずオキクルミの肉体も冷気に侵され、やがて鼓動も途絶えてしまうだろう。
 そのことはオキクルミ自身も気付いていた。だが、それでも良いのではないかという考えすら、脳裏を過るようになってしまっていた。
 この孤独に耐えられないほど、オキクルミにとってオイナ族の仲間達は温かかったのだ。
 すると、突然、手を温かい何かが触れた。
「……アマテラス?」
 体中に朱の隈取りの化粧を施した、コロポックル宿しの狼の名を呼ぶ。
 双魔神と戦い、ピリカの傍らで息絶えたとばかり思っていたが、まだ生きていたのだ。
 アマテラスは自分の体のことも顧みず、オキクルミを気遣い、彼の体を少しでも温めようと、指先を舐めていたのだ。
 自らの命が絶えようとしているというのに、他者を気遣える底知れぬ慈愛の心。さながら、万物を照らす太陽のような温もりが、指先から伝わって来る。
 すると、何を思い立ったというのか、アマテラスは鋭利な槍で貫かれたような大穴の開いた身体に鞭打って立ち上がり、絵筆の先のような尾の先を振るいだしたのだ。
「よせ、アマテラス! 無理に筆業を使えば、お前も……!」
 オキクルミが止めようと声を掛ける。だが、アマテラスは以前と変わらぬ穏やかな表情で一声鳴くと、空に見事な筆を走らせた。
 空に現れたのは、月。
 イザナギのヤマタノオロチ討伐のその瞬間に輝いていた、あの時と同じ三日月だ。
 すると、オキクルミは背中から強い力の波動を感じた。虎錠刀が三日月の光を浴びて、淡く輝き始めたのだ。
 その輝きはだんだんと強さを増し、やがて、光が闇に呑まれた大地を照らし出した。
「な、なんだ!? 急に景色が……!」
 虎錠刀から放たれた光に照らされた途端、オキクルミが今まで見ていた景色が姿を変えた。
 現れたのは、闇に包まれた何も無い空間。地面を踏み締めているという感覚すら無い、延々と広がる闇の空間だ。
 いったい、何が起きたというのか。オキクルミには、光が収まった虎錠刀を見遣るぐらいしかできなかった。
「異界の大神よ、ありがとう」
 急に、声が聞こえた。聞き慣れた、もう二度と聞けると思っていなかったその声を聞いて、オキクルミは慌てて後ろを振り返った。
 そこには、孫権の姿があった。
「孫権……? どうしてお前が……いや、ここはどこだ?」
 思考が纏まらず、ただ口を吐いて出た、しかしそれゆえの真実の問い掛けに、孫権は徐に頷いた。
「ここは、常闇の皇が創り出した精神世界。魂だけの存在となった俺でも、ここでならこうして君に姿を見せることができるんだ」
「常闇の皇の……? …………そうだ! 戦いは終わってなどいなかったんだ! 俺は、奴の放った術に捕えられて……!」
 孫権から告げられた言葉により、オキクルミは全てを思い出した。
 同時に常闇の皇の絶大な力を思い知ることになり、言い知れぬ不安と恐怖で体が震える。

399剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:58:46
 手も足も出ずに膝を屈し地を嘗めさせられ、今も恐らくはいつでも自分を殺せるであろう、闇の神。
 そんな存在を相手に、自分は戦えるのかという疑念が生じ、自信が揺らぐ。
 オキクルミの心の迷いを察してか、孫権が静かに語りかけて来た。
「オキクルミ、畏れるな。本当の強さを知り、真の勇気を持つ君達に、もう恐れるものはなにもない。自分の心を信じて進むんだ」
 言って、孫権は赤いマフラーをオキクルミに差し出した。
 孫権が父親から受け継いだという、彼の死後にオキクルミが引き取っていた遺品だ。
 孫権は信じているのだ。オキクルミの持つ力が常闇の皇を倒すために必要不可欠であり、オキクルミはそれを成し遂げられる侠なのだと。
「すまない、孫権。俺は、お前に助けられてばかりだ」
 礼の言葉を告げると同時にマフラーを受け取り、それを首に巻き付ける。
 心から、畏れも疑いも迷いも消える。
 オキクルミの心に満ちるのは、本当の強さ、真の勇気。
 暗黒の闇に決して負けない、夜闇を照らす優しき月の如き光。
「だからこそ、お前達の分も戦い抜いてみせる。俺の……そして、お前達の大切なものを守る為に」
 友から受け継いだ、友が気付かせてくれた、大切なものを胸に抱き、オキクルミは孫権と、彼と共に駆け付けてくれていた戦友達に決意の言葉を告げる。
 戦友達はオキクルミの言葉を聞くと何も言わずに頷き、何処かへと消えて行った。
「往こう、友よ。虎暁を継ぎし我が魂は、真の勇気を知る君と共に!」
 その言葉を最後に、孫権もまた光となって飛び去っていった。
 その先が何処かは、すぐに分かった。そこは、常闇の皇との決戦の場に他ならない。
 すると、クトネシリカが輝き、その刀身から虹が生まれ、闇の先へと続く道を作った。
 虹はカムイに於いては不吉の前兆とされ、忌み嫌われるものとしての側面も持つ。
 これが大いなる闇の盟主の下へと誘うものならば、これほど不吉なものはそうはあるまい。
 だが、今更そんな物に恐れを成すことなどない。
 オキクルミは碧眼の獣神へと転身し、景気付けにと力の限り吠えた。
 白虎の鎧を纏う気高き狼は、決戦の地へと続く虹の橋を力強く蹴って走った。







400剣士ロワ第300話「光」:2013/03/14(木) 00:01:00





 何もかもが破壊し尽くされた瓦礫の山の上で、ゼロは項垂れたまま動けずにいた。
 望まぬ破壊に疲れ果て、最早自発的には思考すら働かないほどの状態に追い込まれていた。
 このまま何の刺激も受けなければ、瓦礫の山の高さが上がる。
 それでいいのだと、ゼロは感じていた。
 壊す以外に脳の無いモノなど、一体、誰にも止められるというのだ。この世のどこに、身の置き場があるというのだ。
 自分自身の造られた理由、存在意義を知ってしまったが故に、ゼロは自分自身を肯定することも否定することもできず、闇の底に沈むしかなかった。
 すると、ゼロの眼前に小さな光る球体が現れた。
「ゼロ……どうしたんだい? 君らしくないよ、そんな顔は」
 球体が発したゼロの名を親しげに呼ぶ声を聞いて、ゼロはそれを凝視した。
 今の声は、決して聞き間違えることなどない。あいつの声だ。
「エックス……?」
 ゼロが連想した名をそのまま呼ぶと、光る球体はレプリロイドの姿の立体映像を投影した。
 その姿は、多少アーマーの形状が変わっていたが、紛れも無くエックスだった。
 自分が破壊してしまったはずの親友が目の前に現れ、ゼロは内心で大きく動揺した。だが表面上は冷静を装い、エックスへと問い掛ける。
「今更、俺に何の用だ?」
「君を、君の往くべき戦場へと導く為に」
 即座に返って来た答えに、ゼロは激怒した。
 今、こいつは俺に、戦場に行けと言ったか? 戦いに行けと、破壊の限りを尽くせと言ったか?
 ……ふざけるな!
「ふざけるな! こんな……壊すことしかできない俺に! 今更、何をさせようっていうんだ!! 敵を壊して、壊し続けて……! それでいつか、終わりが来るのかよ!!」
 感情の昂るままに、エックスを怒鳴り付ける。もしも彼に未だ肉体が存在していれば、胸倉を掴んで殴りかかっていそうなほどの剣幕だった。
 それほどに、ゼロは自ら存在に絶望していた。
 友や最愛の女性を救えず、破壊することしかできなかった。
 今も尚ゼロの心を苛む過去の悲劇の原因が、自分自身の存在理由にあった。
 破壊するだけのモノが、どうして誰かを愛し抜き、守り抜けるというのだ。
 仮にその破壊の力で倒すべき敵を倒したとして、その先に何があるというのだ。
 未来(可能性)も希望(祈り)も破壊してしまう自分に、何が残せるというのだ。
 ゼロの怒りと悲しみと絶望と、様々な負の感情が混濁とした言葉を叩き付けられても、エックスの目に迷いは無かった。
「……君に、どうしても伝えたい言葉がある」
 そう言って、エックスは両手を持ち上げた。両の掌には、先程までのエックスと同じ光る球体がそれぞれ1つずつあった。
 それらはエックスの掌から飛び立つと、エックスとゼロそれぞれの両隣に立つ位置で、姿を変えた。

401剣士ロワ第300話「光」:2013/03/14(木) 00:03:22
「人間は何も知らず、何も持たず、何も教えられないまま生まれて来る。だが、それから色々なことを知って、学んで、色々な物を得ることで。自分で考えて、選んで、行動するようになっていく。なら、ロボットだって同じでいいはずだ」
 鈍色の鎧を身に纏った、金髪碧眼の類稀なる竜騎士――ダリオが、ゼロにそう語りかけて来た。
 彼の暮らしていたエルニド諸島には機械技術は殆ど存在せず、意志を持ったロボットもいなかった。
 ロボットについて何も知らないからこそ、ロボットという存在に対する一切の先入観を持たないが故の、互いの存在を同じとする真実の言葉。
「鉄機……ロボットは、何かの目的の為に造られなければならないとしても。その力で何をするか、どうやって生きて行くかは、そのロボットが自分で決めてもいいはずだ」
 青い鎧を纏った、天を翔ける二刀流の剣士――衛有吾も、ゼロに語りかける。
 彼の暮らしていた天宮は古代の超技術を研究する一門のお陰もあって高度な機械技術が存在し、鉄機武者と呼ばれるロボットもいる。
 その鉄機武者に親友を持っていたからこそ、ロボットという存在に対する親愛の念の籠もった、可能性を信じる祈りの言葉。
「ダリオ、衛有吾。お前達……」
 2人の亡き戦友までも自分の前に姿を現したことに対する驚きは、最早無かった。
 彼らから贈られた真実と祈りの言葉のみが、ゼロの心に響き渡る。
「ゼロ。君の心は、誰かから与えられたものじゃない。君だけのものなんだ。だから……君の心の信じるままに、戦うんだ」
 そして、永遠の親友の言葉が、ゼロの心を熱く叩く。
 実際の衝撃や刺激などを一切持たない、謂わば幻の鼓動が波動となり、ゼロを苛んでいた暗黒を吹き飛ばした。
 ここに至って、ゼロは今の状況を冷静に解析できた。
 此処は、何らかの仮想空間。
 気付かぬ間に――否、常闇の皇から受けた攻撃によって、ゼロの思考と人格がボディから切り離されて幽閉されていたのだ。
 そう言えば、レプリフォース事件の折にサイバー空間で似たようなことがあったな、などと、今と昔を照らし合わせるだけの余裕が自分に生まれていることに気付いて、ゼロは大きく溜息を吐いた。
「まったく……参ったな。まさかレプリロイドの俺が、幽霊なんて非科学的なものに説教されることになるなんて、考えたことも無かったぜ」
 まったく、情けない限りだ。死んだ奴にまで心配かけて、助けられるなんてな。
「吹っ切れたようだな」
 口には出さず、心の中で礼を言った直後に、ダリオが穏やかな笑みを浮かべてそう言って来た。
 出来の悪い弟のいる面倒見のいい兄貴らしいと思いながら、ゼロはすぐに頷いた。

402剣士ロワ第300話「光」:2013/03/14(木) 00:05:13
「ああ。もう、迷いはしない。俺は、俺の心を、信念を、正義を信じて戦い続ける。立ち塞がるものは、たとえ神であろうと……斬り伏せるのみ、だ」
 決意の言葉を唱えると同時、ゼロのアーマーが通常の物から霞の鎧へと変わり、両手には炎の剣と力の盾が現れる。
 ゼロのその言葉を、正義の心が蘇るのを信じて待ち続けていたとばかりに。
「ゼロ。逞鍛を……俺の兄弟を、頼む」
 衛有吾は顔を俯けながら、申し訳なさそうに、改めてゼロにそう言った。息を引き取った時と全く同じ言葉だ。
 あの時ゼロは、戦友を自分の手で殺めてしまったことへの後悔と恐怖、そして2人を失ったことへの悲しみで、ただ慟哭するしかなく、答えることができなかった。
 しかし今は、逞鍛の人となりを知った上で、力強く答えられる。
「ああ、任せろ。まだ馬鹿なことを言うようなら、思いっ切りぶん殴ってやる」
 ゼロの冗談混じりの言葉に、衛有吾は苦笑をしながらも頷いた。
 すると、3人の身体が淡く輝き出し、元の姿を失い始めた。あの姿を保つ限界が来たのだと、ゼロは冷静に事態を受け止める。
 すると、ゼロの通信装置に文書データが送られて来た。差出人は、エックスだ。
 時間が無いのだということを承知し、ゼロはそれを読むのではなく記憶領域に直接インストールし、文字通り一瞬でその内容を理解する。
 目の前にいるエックスは、ゼロの知るエックスとは違う、異なる時間軸の未来の存在で、今はサイバーエルフと呼ばれるものだということ。
 ゼロが一度敵として、そして一度だけ肩を並べて戦ったハルピュイアはエックスの仲間で、死して尚、サイバーエルフとなって常闇の皇に取り込まれてもエックスを守り続けていたこと。
 そして――常闇の皇を打倒する為の、切り札。
 体を失っても尚、不屈の闘志と平和を祈り続ける、正義の心は微塵も褪せていない。
 変わらぬ友の在り方に、そして今まで共に戦ってくれていたのだという事実に、ゼロは今まで以上の心強さを感じていた。
「僕達には、もう祈ることしかできない……。だから、君達の勝利を祈っているよ」
「任せておけ」
 最高の親友の言葉に短く返して、ゼロは3人の魂が自分の前から消えて行くのを見送った。
 見送って、すぐにゼロは走り出した。自分の往くべき戦場へと、3人の友から受け取った祈りと共に。







403剣士ロワ第300話「光」:2013/03/14(木) 00:07:52





 常闇の皇の放った赤き結晶の牢獄から、ゼロは、ゼロガンダムは、オキクルミは、3人が同時にその呪縛を破り、最後の戦場へと帰還した。
「まさか、こんなことが……!? デス・クリスタルの悪夢から、抜け出して来たというのか……!」
 3人の帰還を、誰よりも逞鍛が驚愕した。彼自身もまた、常闇の皇のデス・クリスタルに堕ち、それ故に真に闇の世界を求めるようになり、回天の盟約を結ぶに至ったからだ。
 逞鍛の驚愕に、ゼロのみが視線を向けて応じる。だが、すぐにその視線は外れた。
「スプラウト!」
 オキクルミは碧眼の獣神の姿のまま、スプラウトの名を呼び彼に駆け寄った。
 スプラウトは、全身の鎧が砕け散り、左腕と両足を失い、腹に大穴を開けて倒れていたのだ。
 残された肉体も闇の力を取りこみ過ぎた為か、最早人間としての名残が見られないほどに変質し、辛うじて顔に人としての面影を見出せる程度だった。
 スプラウトの凄惨な姿を見て、誰もが悟った。
 自分達が闇に囚われている間、彼は命を懸けて自分達を守り抜いてくれたのだと。
 オキクルミが駆け寄ると、スプラウトは残された右手で握りしめていたイルランザーを放し、戻って来た3人の顔を見て、微かに笑みを浮かべた。
「ふ、ふふ…………最後の、最後に……やっと、守れた……」
 今までスプラウトは、戦いの中に身を置き、最強の剣士と謳われながら戦いの中で大切なものを守れなかった。
 最愛の孫娘、ブリアン。そしてお節介焼きの愛すべきバカの聖騎士、カイ。
 自分の目の届かぬ所で、自分の目の前で、彼らを失った。自分には、彼らを守れるだけの力があるはずなのに。
 だが、今は。今度こそは。守るべき仲間達を、守り抜くことができた。
 これで、2人に少しは顔向けができる。
 復讐と憎悪の闇に呑まれた20年を超えて、再び光を取り戻した輝ける聖剣は、安堵しながらその生涯を終えた。
「スプラウト!!」
 ゼロも駆け寄った時には、既にスプラウトの息は止まっていた。やがて、スプラウトの肉体は、塵となって消えた。
 そして、3人を守っていたもう1人の剣士に、ゼロガンダムは背後から詰め寄った。

404剣士ロワ第300話「光」:2013/03/14(木) 00:09:23
「タクティモン……!? 貴様が、何故!」
 半ばから折れた蛇鉄封神丸を大地に突き刺した状態で、タクティモンはゼロを庇うように立っていたのだ。
 不可解なことだった。その本質を闇に属するこの男が、アルフォースブイドラモンの盟友である自分を助けるはずが無い、自分達の助勢をするはずが無いと、ゼロガンダムは確信していたからだ。
 しかし、守られたことは事実。礼を述べ、この戦いを終えた後の決着を約束して、今は捨て置くか。
 そう考えを巡らせたところで、タクティモンが振り返った。
 兜が破壊され、中身の怨霊体が露出し噴出している状態で、凡そ表情と呼べるものは見出せない。
 なのに、この時だけは分かった。
 もう、声を出す余力すら無いのか、タクティモンは声を出さずに、しかし確かに呵々と笑ったのだ。
 自らの命が今尽き果てるというのに、タクティモンの心は晴れやかだった。
 死者の怨念の集積体である自分が変われたということは、全てのデジモンに変わることができる可能性が未だ秘められている確たる証拠なのだ。
 神を殺し世界を分断し、敵を倒すために生み出されたタクティモンが、強敵との戦いではなく、何者かを守って死ぬ。
 これが人の心に秘められた可能性の顕現でなくして、何だというのだ。
 陛下、どうかご安心を。あの赤の少年と青の少年と絆を結んだデジモン達が、貴方にも必ずや見せてくれます。
 人とデジモンの持つ、無限大な夢を。
 声には出せずとも呵々と笑いながら、無念と怨念から解き放たれたタクティモンは、タクティモンを成していた武人デジモン達の魂は、桜花の如く散華し、蛇鉄封神丸を遺して消滅した。
「何故だ、タクティモン……! なぜだぁああ!!」
 目の前で何も言わず、何も語らず、しかしほんの僅かなことだけは伝えて消え去った仇敵の名を、ゼロガンダムは叫んだ。
 アルフォースブイドラモンの仇を討てないことが悔しいのではない、ましてタクティモンの死を悲しんでいることなど断じてない。
 ただ、それでも、ゼロガンダムは叫ばずにはいられなかったのだ。


【スプラウト@ファントム・ブレイブ 死亡】
【タクティモン@漫画版デジモンクロスウォーズ 死亡】

405剣士ロワ第300話「光」:2013/03/14(木) 00:11:40


「……あいつらは、お前達の帰還を信じていた。ジェネラルジオングを破壊し、その後も際限無く生まれ出でて来る闇の軍勢と戦い続けたのだ。見ての通り、全ての力を振り絞って……」
 スプラウトとタクティモンの戦いを、1人だけ後ろから眺め続けていた逞鍛は、3人にありのままの事実を伝えた。
 ジェネラルジオングを撃破した直後、常闇の皇は天空へと浮上し、闇の軍勢を生み出し始めたのだ。
 有象無象の低級妖怪だけではない、その中には生前死後問わず常闇の皇に恭順した闇の魂さえもいた。
 幻魔皇帝アサルトバスターと司馬懿サザビーを筆頭に、妖魔王キュウビ、地獄門の申し子・刹那など、錚々たる闇の軍勢が生前の力そのままに復活を遂げたのだ。
 魁斬頑駄無や頑駄無流星王など、勢いに乗じて同時に復活した天の刃とも呼ぶべき者達の助勢もあったとはいえ、それらを相手に戦い抜き、命と引き換えに全てを退けたという事実は称賛に値しよう。
 本来なら、こんなことは敵である彼らに伝えるべき事ではないはずだ。なのに、気が付けば言葉が口を衝いて出ていたのだ。
 やはて、逞鍛は無言のまま視線を上空へと向け、3人を促す。
 天空には、太陽は輝いていない。代わりに存在するのは、赤黒い紋様の刻まれた漆黒の球体だ。
 それから放たれているのは闇の瘴気、可視化どころか実体化すらしているほどの暗黒の呪い。
 一目でそれが如何なる存在かを、ゼロガンダム達は見抜いた。
「あれが、常闇の皇か……!」
「厳密には、あれの中に常闇の皇の本体――ムーンミレニアモンが収められているようだな」
 ゼロはゼロガンダムの言葉を肯定しつつ、エックスから受け取ったデータを参照して補足した。
 巨大兵器の中から球体が現れ、更にその中に本体がいるとは、随分と勿体付けたことだ。
 そしてゼロの補足説明を逞鍛は首肯し、更に付け加える。
「そうだ。純粋な妖力や魔力そのものともいえる存在であり、百鬼夜行を生み出し、世界の全てを呑み込む闇を齎す、暗黒の太陽にして古今絶無の闇の君主。それこそが、常闇の皇」
 逞鍛が常闇の皇の名を唱えた瞬間、まるでそれを合図にしたかのように、常闇の皇が宙に“闇”の一文字を記し、そこから湧出した闇が、瞬く間に世界を呑み込んだ。
「なんだ……――!? 今のも、筆業だというのか……?」
「何も見えない……!? くそ、センサーも全部正常に作動しない!」
「無限に広がる闇。常闇の皇とは、この闇そのものだというのか……!」
 オキクルミ、ゼロ、ゼロガンダムはそれぞれ、突如として訪れた闇の世界に困惑している。
 当然だろう。本当にたった一瞬で、先程までは微かに存在していた光が完全に消え去り、自分の姿すら確かめられない真の闇が顕現したのだから。

406剣士ロワ第300話「光」:2013/03/14(木) 00:14:21
 だが、逞鍛には分かる。常闇の皇の膝下に跪き、回天の盟約を結び直属の配下となった逞鍛には、光に頼らずとも、周囲の状況がはっきりと認識できていた。
 上下左右の認識すらも曖昧になった闇の中で、天空から地獄の業雷が大地に落ち、地獄の業火が燃え盛り、氷結地獄が周囲を取り囲み、地獄の瘴気を乗せた旋風が吹き荒れる。
 それらの攻撃に反応することすらできず、3人は打ちのめされていく。
 闇の中でも頼れる聴覚や触覚を頼りに辛うじて直撃は免れていたが、防戦にすらなっておらず、一方的に甚振られているだけだった。
 今、常闇の皇が悠然と天空から大地へと降り立ち、そのまま世界を砕こうとしていることすらも気付けていない。
 目の前から光が奪われただけで、こんなにも無様な醜態を晒す。
 それが、光の戦士達の、彼らが掲げた“正義の力”の限界なのだと……認めてなるものか!
「うおおおおおお!!」
 雄叫びを上げて、逞鍛は高速戦闘形態で常闇の皇へと突貫する。
 闇の炎と氷を飛び越え、闇の颶風を振り払って飛ぶ。そして、両手に握った天刃と空刃を――兄の形見の双剣を振るい、常闇の皇へと渾身の縦一閃を放つ。
 だが、常闇の皇はその攻撃を、自身の神体である球状のカラクリを幾つも縦に分割することで回避した。
 そのままカラクリを逞鍛の体へとぶつけ、大地へと叩き落とす。
「ぐあぁぁ!」
 鎧が砕け散るほどの衝撃を受け、逞鍛は血反吐を吐きながら、しかし、天刃と空刃を手にすぐに立ち上がった。
 こんな程度で諦めてはならない、こんなことで負けてはいられないと。
「逞鍛! なにを……!」
 氷の棘に苦戦しているゼロが、逞鍛へと声を掛けて来た。
 思えば、本来なら逞鍛とゼロの間には何の因縁も無かった。
 それが、衛有吾の意志を解して通じ合い、そして同じ戦場にいる。
 衛有吾の意志、それを汲み取ったゼロの心。それらの情が結び付き、逞鍛へと届いた。
 そして、殺戮の儀式という極限の状況下でそれぞれに人の情に触れたことで、闇に堕ちながら、闇に生まれながら、変わることのできた2人の戦士の生き様が、逞鍛の心を突き動かした。
「……フッ。やっと、正気に戻った……!」
 兄が命を賭して守ろうとしていたものは、この闇の中にあるのか?
 自分が求めていた理想と正義は、この闇の中にあり得るのか?
 答えは、否。断じて否。
 天翔狩人摩亜屈が願っていたのは、逞鍛が望んでいたのは、こんな世界ではない。
 光あるが故に己とそれ以外との境界が生まれ、それ故に人は他者と他者とに分かれ、大小問わず争いや諍いの絶えず起こる世界であろうと、人は変わることができる、分かり合うことができる。
 光射す世界だからこそ、夢も、希望も、未来も、平和も意味があるのだ。
 闇だけの世界では、全てが混然一体となり、それ故に争いも諍いも一切生じない静かな世界となるだろう。
 しかしそれは、己とそれ以外のものどころか、有と無の境界すらも曖昧になってしまった、永遠の孤独の世界。
 暗黒の世界では、現実にも、絶望にも、過去にも、何もかもに意味が無い。
 そんな世界を認めるわけにはいかない。
 一度闇に屈したことを言い訳に、己が正義を棄てるわけにはいかないのだ。
 逞鍛が己の内に熱く脈打つ魂を自覚した、その時、彼方から移動する熱源が飛来した。
 その熱源は己の高熱によって光を放っており、その姿はまるで小さな太陽だった。
 逞鍛の目前に迫っていた、常闇の皇の放った無数の雷球と火球を全て受け止めて防ぎ切り、それは逞鍛の前に降り立った。
 それの名を、逞鍛は知っていた。

407剣士ロワ第300話「光」:2013/03/14(木) 00:17:36
 爆心の鎧。清き心の持ち主にしか纏えぬ、灼熱の炎を宿した武具。しかし、昨日に烈火武者頑駄無と共に爆発四散したはずの物だ。
 何故この鎧が、今この時に自分の目の前に現れたのか。逞鍛には分からなかった。
 すると、爆心の鎧が現れた途端に常闇の皇の攻撃が激しさを増した。しかし逞鍛は、その様に苛烈さではなく焦りや動揺を感じていた。
 それを同様に感じ取ったのか、ゼロ達は爆心の鎧の発する灯りを頼りに、逞鍛と爆心の鎧を守るように戦い始めた。
 つい先程まで敵だった自分の為に、何の躊躇いも無く身を呈す。今は亡き、烈火の如く熱き魂の武者を思い出し、逞鍛はつい笑みを漏らした。
「信じていたぞ、摩亜屈……いや、逞鍛。お前の正義が蘇る、この時を」
 爆心の鎧から声が響き、そして燃え盛る炎が姿を変える。
 炎に現れたのは、烈火武者頑駄無。
「お前……頑駄無!?」
 逞鍛はつい今し方思い出していた相手が、唐突に鎧の中から現れたことに驚き、素っ頓狂な声を出してしまった。
 だが、頑駄無はそんなことは一切気に掛けず、話を先に進める。
「俺の魂は爆心の鎧に烈火の炎と共に宿り、眠り続けていたのだ。爆心の鎧もまた、闇との決戦の為に造られた武具の一つであるが故に……黄金神の啓示を受け、その時が来るのを待っていた」
 爆界天衝により、この仮初の世界を覆う結界が一時的に綻びた。その瞬間にスダ・ドアカ・ワールドの黄金神がこの儀式に干渉してきたことは、逞鍛も知っていた。
 しかし、それはゼロガンダムのシャッフル騎士団への叙任だけであり、まさか爆心の鎧と頑駄無にまで干渉していたとは、全く気付かなかった。
 恐らくは、常闇の皇に吸収されるはずだった頑駄無の魂を爆心の鎧に定着させ、爆心の鎧を各部分割して隠しておいたのだろう。
 逞鍛が自分なりに推理して納得をすると、頑駄無は拳を握り、炎を更に激しく煌々と燃やした。
「今がその時だ! 今こそ燃やすんだ、逞鍛! お前の武者魂を!!」
 躊躇いながら、爆心の鎧に手を触れる。
 まったく熱くない。寧ろ感じるのは、太陽の光のような温かさだ。
 闇に沈み、取り返しようの無い罪を犯した自分にも、この鎧を纏う資格があるというのか。
 体が震える。これこそ正しく、武者震い。
「……死んでも治らんものもあるようだな。礼を言うぞ、頑駄無」
 素っ気ない言葉に頑駄無は笑顔で応えると、爆心の鎧の炎と再び一体となった。
 逞鍛は爆心の鎧を身に纏い、立ち上がる。
 温かな炎が逞鍛の傷を癒し、熱く燃える武者魂が爆心の鎧の炎を更に激しく燃え盛らす。
 そして、上空の常闇の皇目掛けて、逞鍛は一直線に跳んだ。
 無防備な跳躍に、容赦無く闇の雷が落とされる。激痛が全身を襲ったが、どんな痛みだろうと痛くないと思えば痛くない。無茶な理屈だが、それが武者なのだ。
 攻撃を凌ぎ切り、常闇の皇の目前へと迫る。すると、常闇の皇はグルリとカラクリを回転させて巨大な腕を展開させた。
 球体から生える、片方だけの巨大な腕。不気味なその姿は、闇の王に相応しい威圧感も備えている。
 それもそのはず、この形態は常闇の皇の最強攻撃形態であると同時に、掌の部分に常闇の皇の本体――幻影の千年魔獣が位置しているのだ。

408剣士ロワ第300話「光」:2013/03/14(木) 00:21:12
 常闇の皇から放たれるプレッシャーが、本体が姿を現したことによって殊更に強まる。
 そして、逞鍛は何ら抵抗することすらできず、常闇の皇に捕まってしまった。
 巨大な手で獲物を掴んだ状態で膨大な闇の力を放出し、相手を握り潰しながら最後は闇の力を爆発させる、単純明快な必殺技。
 絶体絶命の状況に至って、しかし逞鍛は不敵に笑った。
 全ては計算通りだと。
 常闇の皇から闇の力が放出されるのと同時に、逞鍛と頑駄無は同時に己の武者魂を熱く燃やし、爆心の鎧の力を、極限を超えて凄まじい速度で高めて行く。
 纏う炎が放つ熱は光へと変わり、常闇の皇が放つ闇と拮抗する。
 だがその代償に、逞鍛の肉体は炎に焼かれ、手足は融解を始めていた。
「待て! 何をする気だ、逞鍛!」
 逞鍛の異変を察知したゼロが、常闇の皇が放ち続けている攻撃を耐え凌ぎながら大声で呼びかけて来る。
 それを聞いた逞鍛は、ゼロと視線を合わせた。
「全く、この期に及んでも俺の心配などと……お前はバカか、ゼロ。衛有吾の頼みなどを真に受けて、赤の他人の俺を構って……」
 この俺も……情に救われるか。
 声には出さず、心の中で囁くように呟いた。
 情によって心を殺されたと思っていた自分が、他者の情によって心を救われる。これを皮肉というのだろう。
 いいや、違う。因果応報、この世にあって然るべき当然の摂理だ。頑駄無に心の中で諭され、素直に頷く。
 代わる言葉を、ゼロに、そしてゼロガンダムとオキクルミへと贈る。
「光の戦士たちよ、戦え! 今こそ、お前達の“正義の力”を示すのだ! そして……あの、懐かしい未来を、もう1度……!」
 未熟な頃、幼き日に、誰もが一度は夢見たはずの、希望に溢れた輝かしい未来。
 しかし、現実を生き続ける中でどうしても忘れてしまった、棄ててしまった、懐かしい未来。
 それを、もう1度見せてくれ。お前たちなら、正義の力を信じているお前たちなら、きっとできる。
 感極まり、最後までは言葉が出なかった。それでも、きっと伝わっただろう。少なくともゼロならば、これぐらいは察してくれるはずだ。
 気持ちを切り替え、目前の大敵を睨みつける。覚悟は、疾うに出来ている。
 兄者、今、私も逝きます。不出来の弟を、どうかお叱り下さい。
 そして、衛有吾。お前とは、話したいことが沢山ある。
「頑駄無、共に往くぞ!!」
「応!!」
 逞鍛と頑駄無、2人の武者魂の火が交わり、1つの魂の炎となる。
 心と心が繋がることで生み出される力、交魂(キャッチボール)が爆心の鎧が纏う炎と帯びる熱を、太陽と見紛う程にまで進化させる。
「爆界天衝、発火!!」
 暗黒の太陽の闇に呑まれた世界に、太陽が昇る。
 しかし、それは一瞬の輝き。
 それでも、闇を払う確かな光だ。
 その光と一つとなり、2人の武者の魂は消えて逝った。


【逞鍛@武者烈伝武化舞可編 死亡】

409剣士ロワ第300話「光」:2013/03/14(木) 00:24:02


 常闇の世界に一瞬だけ昇った、小さき太陽。その輝きは闇を払い、暗黒の太陽を翳らせた。
 相応と分かっていても、矢張りあまりにも重い犠牲を払って。
 ゼロは敢えて何も言わず、名前すらも呼ばず、1人の武者の死に様を見届けた。
 常闇の皇は本体をカラクリの中に収容したが、手を破壊され、暗黒の太陽と呼ぶべき威容も所々が融け、歪んでしまっている。
 勝機が訪れたことを悟ったゼロは、決して気を逸らせず、エックスから受け取った常闇の皇についてのデータを確認する。
 常闇の皇、ムーンミレニアモンには物理的な攻撃は通用しない。邪神の精神体が目に見える形になっているだけ、という特異な存在であるためだ。
 だが、どんな攻撃だろうと通用しないわけではない。ムーンミレニアモンと同格かそれ以上の神性を帯びた攻撃ならば、その刃は邪神の魂に届く。
 今、この場にそれを可能とするものは――3人、それぞれの手の中にある。
 すると、再び虚空に闇の一文字が現れ、世界は再び闇に呑まれた。
 そして、3人の脳裏に、言葉が直接現れる。
――お前は破壊者として造られた。破壊者として望まれた。破壊者として願われた。お前の存在意義は、破壊以外にあり得ない――
――力への執着から生じた嫉妬心で友を殺したようなお前のような凡人には、何も救えない、何も守れない。お前は英雄などになれはしない、一生を凡人として終えるのだ――
――お前の戦いは無意味だ。帰るべき世界には、守るべき民も、語り合う友も、倒すべき敵も、愛する人も、既にいない。待ち受けているのは、永遠の孤独だけ――
 つい先程まで囚われていた、絶望の世界がフラッシュバックする。周囲だけでなく、己の内にまで闇が浸食して来る。
 しかし3人の心には最早、一片の畏れも迷いも無かった。
「俺の力は、破壊する為のものなんかじゃない! 友を! 友が信じるものを! 守る為の力だぁぁ!!」
 ゼロの決意の言葉に応えるように三種の神器は輝きを放つ。
 炎の剣を振るい、自らの恐怖が形を成した老科学者の幻影を切り裂く。
「一つの道を究めようとすれば、必ず成功と失敗を問われる。しかし……その道を歩むことにこそ掛け替えのない価値があるのだと、仲間達が教えてくれた。だから……俺は自分の心を信じて、ただ只管、己の道を歩んでいく!」
 オキクルミの心に宿る本当の強さ、真の勇気に応えてクトネシリカと虎錠刀、そして虎燐魄は眩い光を放ち、闇の氷壁を砕き進むべき道を切り拓く。
「たとえ俺の帰りを待ってくれている人がいなくても、俺は、俺を信じてくれた仲間達の願いを叶える為に戦う! そして、闇に奪われた全てを……光ある世界とそこに生きる命を取り戻してみせる!」
 魂だけの存在となりながら自分を奮い立たせてくれたスダ・ドアカの仲間達の祈りを聞いたゼロガンダムに、もう孤独への恐怖は無い。
 闇を乗り越えた先の光、絶望の先の希望、来るべき未来を信じて、雷龍剣と雷の神剣を手に進み続ける。

410剣士ロワ第300話「光」:2013/03/14(木) 00:26:27
 3人の心の光が己の闇に打ち克つと、それに呼応してゼロガンダムに託されていた黄金神の祈り――スペリオルドラゴンの力の欠片が発現し、その胸にシャッフル騎士団の一員たる証“クラブ・オン・エース”の紋章が輝く。
 それだけに留まらず、ゼロガンダムの身に黄金神の想定すらも超えた変化が起きた。
 ゼロガンダムの鎧は黒を基調とした物から青を基調とした物へと変化し、マントは龍の翼を思わせる形状へと変化した。
 その姿は、愛機ドラグーンと、戦友アルフォースブイドラモンによく似ていた。
 未来を信じる心が生み出す奇跡の力、アルフォースを宿した新たなる騎士――青龍騎士アルフォース・ゼロガンダムが誕生したのだ。
 3人が放つ光は一つとなって更なる輝きとなり、常闇の皇の闇を打ち払う。
 常闇の皇は闇に紛れた僅かの内に己の神体を復元させていた。
 だが今更その程度のことで動揺などせず、3人は一斉に動き出した。

411剣士ロワ第300話「光」:2013/03/14(木) 00:30:08
 先鋒を務めたのはゼロガンダム。堅牢さと軽量を併せ持つブルーデジゾイドの鎧に身を包み、新たに得た龍翼による神速のスピードと縦横無尽の空戦能力を初戦でありながら自在に発揮していた。
 僅か3日、それでも3日もの間、ずっと共に戦った戦友の能力。戸惑うことなどあるはずが無い。
 常闇の皇が攻撃を放とうとしてもその出鼻を悉く挫き、封殺する。漆黒の巨大な腕も決して愚鈍ではないが、神速の青龍騎士を捉えるには程遠い。
 その空中戦を、オキクルミとゼロは少し離れた地上で見守り、機会を覗っていた。
 オキクルミは碧眼の獣神の姿で背負った2本の剣を弓のように展開し、ゼロも背に乗り弓矢の矢の部分を担っていた。
 狙うは一瞬、ゼロガンダムによって常闇の皇の防御が完全に崩されるその時だ。
 間も無く、ゼロガンダムは常闇の皇よりも遥か高い天空へと昇り、そのまま超高速で垂直に常闇の皇の頂点部へと迫り、重ね雷龍衝を放つ。
 だが、常闇の皇は超高速の剣にすら対応し、神体を分割するカラクリで完全に回避する。
 攻撃を外したゼロガンダムは一瞬で地上すれすれの所まで移動し減速を余儀なくされる。
 一方、ゼロガンダムが態勢を立て直すよりも速く、常闇の皇の神体が再び球形に合体する――その瞬間、オキクルミは光の矢を放った。
 雄叫びを上げて、ゼロは炎の剣を常闇の皇の神体へと突き立てる。しかし貫くことはできず、常闇の皇の体にゼロがぶら下がる形となってしまう。
 常闇の皇は体の表面に電撃を流し、ゼロを機能不全に追い込もうとする。だが、ゼロは怯まない。
 ゼロは右腕に、死んでしまったゼットバスターの機能部分にアースクラッシュの要領で全エネルギーを集中、そのエネルギーを炎の剣を介して常闇の皇の内部へと叩きこむ。
 本来なら、ゼロのエネルギー量では常闇の皇に与えられるダメージはごく僅かなものでしかない。
 だがこの時、ゼロの心の光に、そして間近で2度も続けて発現した黄金神の力に触発され、三種の神器は鍵となる石板と呪文を介さず、真の力を発揮した。
 三種の神器から溢れ出る膨大なエネルギーは、ゼロの許容限界を遥かに超えるものだった。だがゼロはそのエネルギーを制御し、全てを炎の剣へと注ぎこむ。
「教えてやるよ、暗黒の太陽! 現代のイカロスはな、太陽を叩き落とすんだよ!!」
 ゼロが啖呵を切ると同時に、ゼロの右腕が爆発し、常闇の皇の神体の内部で大爆発が起きた。
 落下したゼロはゼロガンダムによって拾われ、暗黒の太陽は地へと墜ちる。
 そこへ、大地を駆ける碧眼の獣神――オキクルミが迫る。
 放つのは、虎燐魄と虎錠刀を通して体と心に伝わって来る、孫家の侠に代々伝わる必殺剣。
 それを己の剣技と合わせて、新たなる技へと昇華させた一撃。
「狼虎獣烈覇!」
 オイナ族の誇りと孫家の魂を宿した、クトネシリカと虎錠刀から放つ狼と虎の姿を持った斬撃は、常闇の皇の神体は完全に噛み砕く。

412剣士ロワ第300話「光」:2013/03/14(木) 00:36:45
 そして、全ての神体を失った常闇の皇の本体――幻影の千年魔獣、ムーンミレニアモンの姿が遂に露わとなった。
 神体の巨体とは打って変わり、常闇の皇の本体は人間とさして変わらない。
 クリスタルの中に収まる双頭の邪神の魂は、忌々しげにオキクルミを睨む。
 しかし、ムーンミレニアモンに物理攻撃が通用しないのと同じ理屈で、ムーンミレニアモンは物体に対して干渉を行えない。
 それ故に、ムーンミレニアモンは常闇の皇としての機械の器を欲し、月の民の、そして逞鍛の精神を狂わせて操ったのだ。
 最早この戦いでの勝機は無いと察したか、ムーンミレニアモンは捨て台詞すら口にせず別時空への逃走を試みた。
 だが、それは未然に防がれた。眩い光の八方陣が現れ、闇の力を封じたのだ。
 大暗黒砲が光の力を封じたように、この八方陣は闇の力を封じる。
 その陣形を成す8つの光の根源となっているのは、8つの剣。
 聖剣イルランザー、蛇鉄封神丸、天刃、空刃、炎の剣、クトネシリカ、虎錠刀、そしてゼロガンダムの携える天叢雲剣。
「破邪剣聖――八紘の陣!」
 ゼロガンダムはゼロを地上へ下ろす際に、ゼロがエックスから託されたこの秘策を伝えられていた。
 その神速で以ってゼロガンダムは洛陽宮殿跡に遺されていたイルランザーと蛇鉄封神丸、天刃と空刃を回収。
 炎の剣を起点として、クトネシリカと虎錠刀をオキクルミから受け取り8つの剣を所定の場所へと配置し、八紘の陣を敷く為の布石としたのだ。
 天叢雲剣を大地へと突き刺し、八紘の陣を固定する。異界の大神の筆しらべの力が宿る神剣は、八紘の陣をより強固なものとする。
 そしてゼロガンダムは雷龍剣を手に、動きを封じたムーンミレニアモンへと歩み寄る。
 今共に戦う仲間、対峙することのできなかった仇敵、死に別れた戦友、この手で倒した敵対者、出会うことすらできなかった数多の剣士達。
 彼らへの万感の想いを込めて、ゼロガンダムは雷龍剣を構える。
 今更技や奥義など必要無い。全身全霊、全ての祈りを剣へと込めるのみ。
 身動き一つできず、ムーンミレニアモンはただただ驚愕に目を瞠り、迫り来る剣士を見るのみ。
 ゼロガンダムの剣が、ムーンミレニアモンを間合いに捉えた瞬間、雷光が走る。
 ムーンミレニアモンは体を真っ二つに斬り裂かれた。精神体ではありえないはずの肉体的な激痛を味わい、ムーンミレニアモンは別たれた双頭で断末魔の叫びを上げる。
 その双頭を、雷龍剣が切り裂く。その後も次々に神速の剣戟が放たれ――
「悪しき闇よ、零に還れ!」
 ――遂にムーンミレニアモンは、世界に欠片一つ残さず完全に消滅した。


【常闇の皇・ムーミレニアモン@大神&デジモンシリーズ 消滅】

413剣士ロワ第300話「光」:2013/03/14(木) 00:40:44


 常闇の皇・ムーンミレニアモンの消滅と同じくして、常闇の皇によって造られた仮初の世界は瞬く間に崩壊を始めた。
 唯一の脱出手段である龍機を召喚しようにも、ゼロガンダムは戦いで消耗しており、雷龍剣の最終奥義である雷龍大系を行うには時間が足らない。
 否、それ以前に精根尽き果てた3人は、勝利を見届けると同時に気絶していた。今まで蓄積していた疲労とダメージが、ほんの一瞬だけ精神が弛緩した瞬間に、一気に押し寄せてしまったのだ。
 3人は戦いの中で斃れた数多の剣士達の亡骸と、彼らが振るった幾多の剣と共に、無という闇へと呑まれていく――その間際に、1つの光に導かれた2柱の光が、彼らを救いだした。
 常闇の皇の消滅により解放されたサイバーエルフ・エックスと、世界の外なる領域で常闇の皇の再誕を祝福せんと集っていた闇の神々と戦い、これを退けた光の神々の中心を担っていた2柱の神――黄金神スペリオルドラゴンと、大神アマテラスだ。
 アマテラスは消滅する世界に井桁の文字を記して簡易的な幽門を造り、魂たちを還るべき世界へと還り、再び輪廻転生の輪に加われるように施した。無論、そこに光と闇、善と悪の区別は無い。
 そして画竜の筆しらべで以って3人の傷を癒し、桜花の筆しらべを駆使して3人の体に生命力を注ぎ込む。唯一純粋な生命体ではないゼロの体は、機械の体にも精通している黄金神が癒しを与えた。
「光の戦士達……いや、ゼロ、ゼロガンダム、オキクルミ、ありがとう」
 黄金神は多くを語らず、数多の苦難を乗り越え幾多の祈りを背負って戦い抜き、大いなる闇を打ち倒した3人へ、心からの感謝の言葉を贈った。
 アマテラスもそれに続くように一つ鳴くと、眠っている3人の頬を舐めた。
「お疲れ様。3人とも、今はゆっくりと休んで。目覚めた時には、きっと……素晴らしい世界が待っているから」
 エックスは穏やかな笑顔で3人に告げて、自身もまた、永遠の眠りへと就いた。
 肉体を失ってなお魂だけで戦い続けた、異世界の心優しい戦士の魂に、2柱の神は安寧を願って祈りを捧げた。
 そして、彼の願いを叶えるべく、そして3人へのせめてものお礼として、黄金神と大神は、3人を丁重に元の世界へといざなった。

414剣士ロワ第300話「光」:2013/03/14(木) 00:44:10


 そして3人は、帰るべき世界へと帰って来た。
 3人は気付けばそれぞれ元の世界で仲間達に囲まれていて、目を覚ました途端にもみくちゃにされた。
 ある者は喜びのあまり涙を流し、ある者は叱りながらも喜んでくれていた。3人は、そのことが無性に嬉しかった。
 別れの言葉を言う暇も無く他の2人と別れてしまったことに気付くのには、そんなに時間はかからなかった。
 寂しくないと言えば嘘になる。だが、何時までも引き摺るつもりは無い。自分にはまだ、この世界でやるべきことがまだ残っているのだから。
 だからこの言葉で、4日間の殺戮の舞台を自分で終えよう。
「ありがとう。お前達のことは、絶対に忘れない」
 願わくは、それぞれの世界の未来が、平和で希望に溢れた――懐かしい未来へと続いて行くように。

 殺戮の舞台はこれで終わり。
 だが、彼らの戦いはまだ終わっていない。
 オキクルミにはエゾフジに巣食う双魔神モシレチク・コタネチク、そして彼の世界の常闇の皇が。
 ゼロにはもう何度目かも分からないが復活の兆候を見せるシグマが。
 ゼロガンダムには黄金神の死と、それに合わせて復活する古代の闇の神々が。
 それぞれの世界には、それぞれの強敵が待ち受けている。
 それでも彼らはきっと、どんな闇にも絶望にも負けず、勝利を掴み取るだろう。
 彼らの心に、光がある限り。

415剣士ロワ第300話「光」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/03/14(木) 00:47:36
剣士ロワ、これにて完結です。
まさか、最後の最後にトリを付け忘れるうっかりをやらかしてしまうとは……。

読んで頂き、そしてこの作品を書かせて頂ける場を作って頂き、本当にありがとうございました。
作品を書いててこんなに楽しかったのは本当に久しぶりで、自分でもびっくりです。

416名無しロワイアル:2013/03/14(木) 07:13:24
執筆と投下、お疲れ様でした。
ああ……熱かったぁああ! バトルの内容や、とくにタクティモンの身の振り方もですが、
光射す世界への肯定を真っ直ぐに書いた部分にも心が震えました。
教条的にならず、息苦しくもない――本文で言われたとおりの「熱く脈打つ魂」が
伝わってくるのが素敵だなぁ、魂を燃やせる逞鍛たちがカッコいいなと思うことしきり。
氏のSSはロボロワの頃のものも好きだったんですが、てらいなく開かれた印象を
有するテキストには今回も魅せられました。原作の把握率は非常に悪いんですが、
それでも氏の文章で魂を燃やしたことは忘れないでしょう。
というわけで、最後になりますが完結おめでとうございます!

417FLASHの人:2013/03/15(金) 08:44:11
投下&完結お疲れ様です!
スパロボ始めたところで三国伝の技もイメージできるようになった俺に隙はなかった
重厚極まりないバトル描写と、熱い熱すぎる展開に震えっぱなしでした。
この熱さで300話まで続き、ついに完結したのかと思うと感涙を禁じえません。
重ね重ねお疲れ様&完結おめでとう!!


そして業務連絡。
この3話ロワのまとめサイトの作成を始めました。
1ロワに1つ、まとめサイトの形を作ろうと思っています。

とりあえず第一弾として、「第297話までは『なかったこと』になりました」のサイトを
作成しました。
何故これを選んだかって?
打ち消し線と螺子乱舞でサイトの色が出しやすいからだよ!
ということでこんな感じです
ttp://akerowa.web.fc2.com/rwbox/medakatop.html
手癖で作っており簡素ではありますが、作者さん及びこれからまとめられてしまう皆様も
「俺のロワのまとめはこうしてくれ!」という要望があれば
私の技術の追いつく範囲で応えさせていただきます。

それでは引き続き、完結していく物語をお楽しみ下さい。

418名無しロワイアル:2013/03/15(金) 23:05:02
>>417
企画主さん、乙です。
まとめサイト、見せて頂きました。
各ロワごとにサイトのデザインにも個性をつけて頂けるとは思わなかったので
正直、驚いています。(KONAMI感)

ところで@wiki形式ではないということは
修正は各作者が勝手にできる訳ではない、という事でしょうか?

419FLASHの人:2013/03/17(日) 11:23:24
どうもでございます。
今日は「まったくやる気がございませんロワイヤル」のサイトができたので貼って置きます
やる気ですか?ええ、ございません
ttp://akerowa.web.fc2.com/yarukinothin/yarukitop.html

>>418
拙い作成能力で恐縮です
一応ロワがちゃんと続いていた体でサイトが出来上がっていればいいなと思っております
なお、修正についてはこのスレでご連絡いただければ直します
1企画でwiki乱立させるのもなんだなあと思ってサイト形式にしておりますので
お手数ですがご連絡いただければと思います

420 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/03/18(月) 23:49:39
>>419
まとめサイト作成お疲れ様です!
Wikiで一纏め形式だとばかり思い込んでいたので、態々一つずつを作って頂けるということで、頭が下がるばかりです。
拙作のまとめに関する要望は……
ブシドー風に言えば、
作成中のまとめサイト、あなた色に染め上げて欲しい。
サコミズ王風に言えば、
貴君にはSDガンダムを司る新しいロワまとめをやってくれ!
普通に言えば、思うままにお作り下さい。

421名無しロワイアル:2013/03/18(月) 23:56:50
>>419
話の中身はシリアスなのに、何と脱力系なデザインかw

422名無しロワイアル:2013/03/23(土) 02:40:48
作品を把握し直そうとして始めたゲームが面白くてやめられない…
執筆できねぇw

423名無しロワイアル:2013/03/23(土) 10:31:21
分かり過ぎる
しかもワールド3歯応え有り過ぎて進まない

424422:2013/03/23(土) 11:34:56
把握しようとしたキャラのシーンはとっくに過ぎているのに…w

425名無しロワイアル:2013/03/23(土) 21:22:54
>>422
あるあるw
自分もちょっと見直すつもりで単行本を手に取って、気付いたら全巻読んでたり、ベストバウト読みふけってたりw
そしてトゥバンの活躍を見直していて思ったのが、こんなバケモノが第1話で主人公の仲間入りってどういうことなの……。
しかも長期連載特有のインフレが始まってもおっさん強過ぎる上に日々の鍛錬で着実に強くなってるから誰も追いつけない。
最強キャラが文字通り最初から最後まで最強なんて稀有だよなぁ。

426名無しロワイアル:2013/03/23(土) 22:29:56
>>422
あるある過ぎて困るw
俺も書いてて改めて原作読みふけったり、またゲームをやり直したくなったりしたんだよなー

427名無しロワイアル:2013/03/25(月) 14:50:06
めだかでまさかの百人戦(バトルロイヤル方式じゃないけど)が始まって噴いた

428名無しロワイアル:2013/03/27(水) 17:23:45
今更だけど剣士ロワ最終回読み終わったああ!
投下乙!
やばい、まじこれやばい。
デジモンやSDガンダム、ロックマンX愛に溢れまくってる!
キャッチボールとか武者○伝ネタとかゼロマルで100%パロとか懐かしい未来やイカロスな岩本版ネタとかロックマンゼロも拾ってたし、漫画版クロウォ最終回とかもうね、やべえ
大神とかファントム・ブレイブだっけかも知ってたらもっとにやにやできたんだろなー、くっそうw
クロスオーバーしまくりの常闇を始めとした、まさしくクロスウォーズな光と闇の戦い感服しました!
SDガンダムにデジモンにロックマンXと大好きな要素がありまくりで本当にクリティカルなロワでした!
面白かったです!
また何処で氏の作品が読めれば幸いです! では!

429名無しロワイアル:2013/03/27(水) 17:24:44
あ、そういえば氏も触れてたUXで呂布仲間になる時に天の刃とか大地とか合体攻撃でのセリフなど、戦神決闘編のネタ満載らしいよ!

430 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/03/27(水) 22:12:34
>>429
なんだって! それは本当かい!?
妄想ロボロワ最終決戦そのままの最終話での登場に昂っていたのに、
更にその上があると! なんとしてでも仲間にしたいなぁ!
あ、呂布にグランドリーム持たせたのは自分です。
>>428
大神はPS3のHDリマスターが、ファントムブレイブはPSP版がオススメ。
時間と財布に余裕があったら、是非プレイして頂きたい。

431名無しロワイアル:2013/03/31(日) 19:02:36
ラジオと俺の最終話と、どっちが先になるか・・・

432428:2013/04/03(水) 23:59:02
>>430
おお、なんと!
呂布をホンダ武装させたのが自分ですw

433名無しロワイアル:2013/04/04(木) 22:02:51
>>431
最終話が先にアサギの主人公の座を賭ける。
そういやラジオって何時頃だっけ? 現状未定だったかな。

434FLASHの人:2013/04/06(土) 10:07:21
未定だけど5月の連休に出来たらいいなと思っておりますでラジオ(語尾

435名無しロワイアル:2013/04/07(日) 23:57:35
>>434
それまでに頑張って完成させるでムシ(語尾

436名無しロワイアル:2013/04/08(月) 00:02:43
>>434
私にやる気が全くございません ぼく禿げてまう

437 ◆YOtBuxuP4U:2013/04/10(水) 22:42:08
>>417
さささ、サイトSUGEEEE!
個別でまとめサイトがつくられるとは思ってなかったので感謝感激です!
自分でもリスト化してない登場人物欄まで整備されてておどろく……
手間かけさせてしまいましてすいません

そして、2月中に投下できたら〜とか言ってたらもう4月ですが、
「第297話までは『なかったこと』になりました」の300話(最終回)を投下しますー。
せっかくだしエイプリルフール投下しようと思ってたけどそれすら間に合わなかった!

438300:ウソツキハッピーエンド ◆YOtBuxuP4U:2013/04/10(水) 22:45:36
 

 かちり、と、時計塔の針が進んだ。
 そして朝の8時を指した。
 誰も受けやしないのに、教える教師も居ないのに、
 空々しく、白々しく、むごたらしく始業チャイムが鳴らされる。

 きーんこーんかーんこーん
 きーんこーんかーんこーん。
 
 そして。それが最後の役目だったと言わんばかりに、時計塔エリアは禁止エリアになった。 
 ……少年少女たちの箱庭が怨匣(ロワイアルボックス)となってから38時間。
 100人居たはずの参加者は、ずいぶん少なくなってしまった。
 2人居たはずの主催者も、もうどこかへと消えてしまった。

 空っぽに
 限りなく
 近い匣。

 そこには物語すら2話程度しか残っていない。
 他は全部『なかったこと』になってしまった。
 主催者も、マーダーも、対主催も、
 その他色々な登場人物が、すべて胸元に咲かせた花を散らして、
 しかしどうやって散って逝ったのかはもう分からなくなっている。
 未だ咲き続けているのは5輪だけ。
 何も知らず、知らされず、突然この状況に直面させられた5人の少女たちだけ。
 鰐塚処理。喜々津嬉々。与次郎次葉。希望が丘水晶。財部依真。
 すべてが0になった箱庭で、たった5人の少女たちがたった今何をしているかというと……。

「し、新鮮さはさすがになくなってたけどっ」
「まだ、食べれるのが、あって、良かったぁ……!」
「疲れたであります……5人でなければ、無理でありました」
「&strike(){もう足が動かないんですけど}で、ノゾミちゃん? どこに運べばいい?」
「機械的な算出の結果、最後に禁止エリアに選ばれる確率が高いのはあそこです」
「あー」
「確かに」
「それはそうでありますね」
「&strike(){遠いしだる……いや、}じゃあせっかくだし。あそこで、やろっか」
「ウィ。では始めましょう。箱庭学園、生徒会室で――」

 ぜーはーと息を切らして。腕一杯にたくさんの食べ物を抱えて。

「「「「「鍋パーティーを!」」」」」


 仲良く鍋を囲もうとしていた。


◆◇◆◇


 第300話「ウソツキハッピーエンド」


◆◇◆◇

439300:ウソツキハッピーエンド ◆YOtBuxuP4U:2013/04/10(水) 22:46:46
 
 
 ぐつぐつと煮える土鍋が四角形の机の中央に置かれている。
 そして、一体どこから調達してきたのか四つの座布団が机を囲むように置かれ、
 ロボ娘・水晶を除く四人の少女たちがそれらに座り、箸を持って鍋を覗き込んでいる。

「……」「……」「……」「……」   「……」 

 少し離れて希望が丘水晶が同じ色の座布団に正座して、
 空の湯飲みを膝の上に置いて和み、食事の雰囲気を共有している。
 土鍋の中は鰹節とか昆布とかで出汁をとったアッサリめで何にでも合うスープに、
 中学生の好奇心と悪ノリで様々なものを放り込んだ――所謂「闇鍋」だ。

 箱庭学園の最大の要、本校舎の一室。 
 黒神めだかが、そしてこうならなかった未来では人吉善吉が、
 生徒会長として日々活動を行っていた場所……生徒会室にて。
 36時間もの間何も口にしていなかった少女たちは、まず腹ごしらえをすることにした。

 時計塔の一室にある食育委員の調理室。
 その部屋には沢山の食材が常に保存されているのを、彼女たちはオリエンテーションで知っていた。
 時計塔の屋上から下に降りるついでにそこへ行き、
 痛んでいない食材を出来る限り抱えて駆け下りるのに一時間を要したのは少し計算外だったが。

「機械的にお知らせします。あと5秒で煮込みが完了します。『5』」
「ふふ……中央のリンゴは渡さないぜワニちゃん。意外と美味いかもしれないし!『4』」
「ほう、この鰐塚処理の暗器(お箸)のスピードを甘く見ておりますなツッキー?『3』」
「むむむ、二人はリンゴ狙いかぁ……じゃああたしはやや左のロシアンから揚げを。『2』」
「&strike(){おまえら最初から攻めすぎだろ!?}あたしは……ちくわで……。『1』」

 少女たちは楽しく料理して。
 まず手を合わせて、大きな声で感謝のひとことを叫んで。

「「「「「いただきます!『0』」」」」」

 カウントが0になると同時に、鍋上の殺し合いを始めるのだった。

「いくでありますよー! 必殺鰐塚式、《口止め料理(ブロッククック)》!!」

 まずは見敵必殺!
 勢いよく飛び出した鰐塚の箸が暴力的に閃いてこんにゃくを跳ね上げる。
 そして中央のリンゴを無事に掴み口に運ぼうとしていた喜々津の、
 無防備に空いたその口めがけてこんにゃくをシュート!
 こんにゃくがゴールイン! 「もがッ!?」 これではリンゴを口に運ぶことができない!
 しかもこのこんにゃくはカミカミメニューだ!

「にゃんほいうほとふぁ(何ということだ)……! 噛み切るのに時間がかかって」
「リンゴは食べられないでありますねぇ! さあツッキー、リンゴを渡すであります!」
「ちょっと待ったぁー! まだわたしの「銃」があるよん!」
「なにっ!?」

 それは一瞬の油断であった!
 突如として横からかけられた声に気を削がれついそちらを見た処理が見たのは、
 すでにロシアンから揚げを一つ無事に食べ終えたらしく、
 しかしさらにもう一つ、箸にロシアンから揚げを「装填」した与次郎次葉の姿!

「――Bang!」
「もがっ……。……。〜〜〜〜!!!!」

440300:ウソツキハッピーエンド ◆YOtBuxuP4U:2013/04/10(水) 22:47:58
 
 「てこ」の要領で跳ね上げられたから揚げは処理の口へと着弾! 思わず噛む!
 広がる味は――これは――ハバネロ団子から揚げだ!
 辛い!
 激辛い!
 処理は乙女にあるまじき顔になる! 目がぐるぐるになって、顔が赤くなる!
 少し経って今度は青くなる! ちょっとして口から火を噴いて叫ぶ。

「けほっ、む、むりぃっ! キャラを保つのが無理なくらい辛いよぉっ! あ、阿久根どの〜〜!」
「……機械的に言わせていただくと、
 ワニちゃんの感じる辛さは阿久根氏でもどうにもできないと思われます」
「そこ突っ込むんだノゾミちゃん!? って驚いてる場合じゃない!
 いざっ! 魔法少女ワンダーツギハ、神聖なる煮込みリンゴを食して天星の――」

 からん。
 ワンダーツギハの箸は空を切った。

「ってあれ? 無い?」
「&strike(){お前ら正直コントしすぎなんだよなぁ}えへ、ごちそうさまでした」
「「「タカちゃん!!??」」」
「&strike(){ざまぁwwwww}ふふふ、食べたのは私でしたー。でも、そこまで美味しくはなかったかな」

 いつの間にやら、あざとい笑顔でぺろりと口の端を舐めたのは財部依真であった。
 静かにかつ狡猾に、気取られないように箸を伸ばした綺麗な漁夫の利。
 財部依真はステルス・箸使いだったのだ。
 リンゴをめぐる鍋上の殺し合いはこうして決着を迎えた。
 ぱちくり、他三人は顔を見合わせて……そして大笑いを始める。
 してやられたー。おいしいとこ取ってくなータカちゃんは。ちょっとくらい分けてよもー。
 四人が笑いあう光景を、水晶は遠巻きに慈しむように眺めている。

 その次は謎の桃色こんにゃくを巡って4人は殺しあった。
 その次は最後の一個のロシアンから揚げを巡って4人は殺し合った。
 その次は見ていた水晶も妨害役に加わって、5人で白玉団子フルーツを巡って殺し合った。
 大きな鍋に闇鍋した、たくさんのおかずを巡って。
 数えきれないほど少女たちは殺し合って。
 胃袋の空白を埋めるように殺し合って。殺し合って、殺し合って、鍋が空になるまで戦い続けて。

 お腹がいっぱいになったら、苦しくなったし他に見てる人もいないので、
 女子らしさなんてかなぐりすてて、その場にぐでんと寝転んでやった。

「あはは。もう無理、入らないや。体力ゲージ全回復ってかんじ」

 大きくなったお腹をさすりながら喜々津嬉々が言った。

「こんなに食べたのはいつ以来でありましょう……昔は兄と大食い競争をしたりもしましたが」

 今は亡き兄のことを少し思い出しながら鰐塚処理がぽつり口ずさんだ。

「こういう形で食事に参加したのは初めてでしたが、楽しいですね、食べるのは」
「でしょ?ノゾミちゃん」
「ええツギハ。私も最後に……お腹がいっぱいになった気分が、します」

 希望が丘水晶と与次郎次葉は近くに寄り添いあって、ふふ、と笑いあった。
 
「……それで。これから、どうしよっか?
 ルール通り最後の一人を決める? ――ホントに殺し合っちゃう?」
「ははッ、まさか」「ありえないであります」
「それはないよ、タカちゃん」「ええ。その提案には賛成しかねます」
「&strike(){だよなあ}……あたしも、そう思ってた」

441300:ウソツキハッピーエンド ◆YOtBuxuP4U:2013/04/10(水) 22:49:19
 
 そして財部依真が軽いノリで提案し、当たり前という風に四人が否定する。
 本当に当たり前みたいだった。
 というか。実際に、当たり前の話なのだ。
 だって。

「「「「「私たちは。大切な友達を殺してまで生きようとは、思わない」」」」」

 少女たち五人は、とってもとっても仲がいいのだから。
 彼女たちだけが残ってしまった時点で、彼女たちの中ではもう、
 バトルロワイアルなんて設定は。――『なかったこと』になっているのだ。
 殺し合って終わるような結末は無い。絶対に、ない。

 だから残り58時間、
 少女たちはこの箱庭で最後の時を共に過ごし、
 そして……仲良く皆で首輪の爆発を待って……この箱庭と共に心中することを決めた。

 誰もが誰も殺そうとしなければ、殺し合いなど、成立しない。


◇◆◇◆


 食事のあとはただ、分かりきった作業を進めた。
 脱出の可能性の模索。担当は主に、オーパーツじみたアンドロイドである水晶だ。
 まずどうにかして外に出られないかやってみる。
 外へ続く柵を人力で、あるいは飛行能力で、または爆薬などで乗り越えようと壊そうとする。
 しかし、謎バリアにより失敗。まあ当たり前の話だ。
 この囲いのスキルを定義したのはあの安心院なじみなのだ、
 安心院なじみの端末にすぎない5人がどうにかできるわけがない(というか、誰だって無理だ)。

 次に298話にて死体を巡礼したときに目についた、
 獅子目言彦の首からなぜか外れていた首輪――これを回収して分析をした。
 言彦の首を跳ねて首輪を外した後、球磨川禊が首の切断を『なかったこと』にしたのだろうか?
 今となっては真相は闇の中だが、
 ともかくこれによって、少女たちが誰の首も切断することなく首輪を回収できたことは僥倖だったのだろう。
 なぜなら、首輪を外すことが出来るなんて展開はすぐ否定されることになるからだ。

「やはり、不可能ですね……強力なスキルとマイナスによる呪い。
 私たち普通(ノーマル)の力ではどうにもなりません。もしかしたら、安心院さんでさえどうにもできないのでは」
「うん、やっぱり無理かぁ。ノゾミちゃんで無理なら、どうしようもないね」
「ねぇねぇ! じゃあワニちゃんの隠された右目に首輪を解除できるスーパー能力が備わってたりしないかな?」
「いやジロちゃんそれは無茶振りであります……この右目はもう何のスキルも宿してません」
「&strike(){ま、だよなあ}そして、外への連絡手段も全滅、っと」

 試行錯誤の果てに。
 生徒会室へと引き返してきた少女たちは、一縷の望みを外部からの救援に託した。
 電話、メール、あるいは無線など。
 全体から見ればとても今さらながら、本人たちも無駄だとは思っていたが、
 ひととおり外部への連絡手段を試してみたのだ。……そしてやはり無駄だった。

「こっちからの連絡が無理ってことは……外に居る誰かが気づいてくれるのを待つしかない、のかぁ」
「でもそれは――万が一、億が一にも満たない――ほとんど0の可能性であります」
「&strike(){というか、ありえねーだろ}あの安心院さんがそんなご都合主義を起こせるような余地を残すとは思えないよね」
「100人が閉じ込められて1日半以上経って、外部から何のアクションもない(なかったっぽい)時点でねー……」
「……C-7が禁止エリアになりました。あと。54時間」

 つまり彼女たちの寿命は、九割九分九厘、あと54時間しかないということなのだった。
 いや、ことここに至ってしまえばむしろ――54時間は、多くすら感じられる。

442300:ウソツキハッピーエンド ◆YOtBuxuP4U:2013/04/10(水) 22:51:00

「54時間かあ。二日と四半日」
「&strike(){案外長いなおい}やることはやったし、なにしよっか?」
「ゲームならいっぱいあるよー。前来た時あそこの棚に隠しといたからね私」
「さすがツッキー。でも、スマブラやマリオパーティで最期のひとときというのはどうなんでありましょう……」

 それもそれでいいけどね、と付け加えたあと、五人は机を囲んでうんうん唸る。
 ひとしきり粗潰し、しらみ潰しを終えたら。
 普通(ノーマル)の少女である五人にはもう何も出来ることがない。
 それでも、たとえば残り3時間しかないなら悩むことはない、仲良く駄弁って終わればいい。
 ただ54時間もあるとさすがにずっと喋っていてもネタが尽きるし、
 ――多分、なんだか時間を無駄にした気になる。
 何が出来る? 何をすればいい?
 
 後悔せずにみんなで終わるために――あとなにか足りないピースはあるだろうか。

「足りない……足りない、か。
 足りないって言えばさ、もしかしてここなら、あれがあるんじゃないかな」
「?」
「ちょっと待ってて。えっと……こっちかな……?」

 何かを思いついたらしい喜々津嬉々が、生徒会室の試料棚を漁り始める。
 がさごそ、がさごそ。ぼうっとそれを見つめながら、次葉が不意に呟いた。

「なんか、実感わかないなあ。これから私たち、死ぬんだ。
 死ぬ。死ぬ……死んだら、どうなるんだろうなあ。
 なんにもなくなって、私なんてなかったことになるのかなあ」
「そうではないでありましょう。ジロちゃんが生きていた証は、きっとどこかに残るでありますよ」
「あたしはそうとは思えねーかな。&strike(){うん、きっとそうだよ}」
「タカちゃん、本音と建前が逆になってるけど…?」
「&strike(){今さら本音も建前もねーだろ}……よいしょっと。えい」

 (ぽい。っとセリフに手を突っ込んで打ち消し線を取り除く)

「よし。あーあー。……今さら本音も建前もねーだろ?」
「物理的に全部本音にしたー!?」
「今日は珍しくツッコミ冴えわたってんなジロちゃん。
 でだ、話の続き。あたしたちが生きてた証が残るかどうかだけど……残るかなあ。ホントに」
「……?」
「黒神めだかとか、安心院さんとか。それこそ球磨川先輩とか。
 ああいう、歴史に名を刻んじゃうタイプの特別な人間は、きっといつまでも証を残せるだろうけど。
 あたし達って言ってみれば、安心院さんの駒1号〜5号とか、
 そういうくくりでまとめられちゃう存在だろ? そんなあたし達の生きた証が、いつまでも残るか?
 戦国時代に死んだ雑兵の名前が一人一人明確に残ってるわけじゃないのと同じ。
 少しはどうにか残っても。いつかは、忘れられるだろ」

 メガネと帽子を外して、胸に手を当てながら財部依真は淡々と言葉を連ねた。
 死んだ人間は、周りの人の心の中で生き続ける。
 なんて詭弁を人は言う。
 本当にそうだとして、ではどうだろう、死んだそのAさんを覚えている人が全員死んだら、
 Aさんは今度こそ本当に死んでしまうことになるじゃないか。――こう財部依真は言いたいのだ。

「そ、それはそうかもしれないでありますが。
 少しでも残るのであれば、それで十分ではないでしょうか? 少なくとも私は……」
「そこで満足するって手もあるよ、確かに。現にあたしは、
 死ぬ間際までワニちゃんやツッキー、ノゾミちゃんにジロちゃんと一緒にいられるってだけで、
 けっこう満たされてるなーなんて思ってる側面もあるんだ。でもさ」

443300:ウソツキハッピーエンド ◆YOtBuxuP4U:2013/04/10(水) 22:52:33
  
 立ち上がり、窓の近くまで行って少女は外を見る。
 広がる箱庭学園の風景――彼女たちが生きてきた場所を見て、思う。

「贅沢な考えだとは思うけど。どうせ死ぬならこう、あたしはここにいたぞ! って気持ちを、
 どこかに、ずっとずっと、少しでも長く残しておきたいって思うのは、間違いじゃないと思うんだ。
 特にあたし達は、この学園で――安心院さんの気まぐれ次第じゃ、
 自分自身の気持ちなんて持てずに、駒みたいな生き方しかできなかったかもしれなかった。
 でも今は、ルールなんてぶっちぎって、安心院さんに抗えてる。
 そういうことが出来るようになった。せっかく出来るくらい、自分が出来て、育ったのにさ。
 あたし達を誰にも伝えられずに死ぬなんて――嫌なんだよ。やなんだ。みんなだって、そうでしょ?」

 最期のほうは少し熱っぽくなりながら。依真は他のメンバーに問いかけた。
 打ち消し線を外して、メガネも帽子も外して、もはや彼女を彼女と定義づける記号は一つもない。
 だけど瞳に遺志を帯びた顔をしている彼女は、誰がどう見ても財部依真以外のなにものでもなかった。

 安心院なじみ。
 自分以外を悪平等に大したことはない存在だと定義する全能少女。
 フラスコ計画を潰した黒神めだかから主人公をはく奪するために、彼女が送り込んだ5人の「普通」。
 「普通」であるがゆえに警戒されず、
 「普通」であるがゆえに作戦の要を担った5人の候補生たちは、最初はただの記号の集まりでしかなかった。

 でもいつのまにか、記号なんて無くても個人を個人だと判別できるくらいに、育った。
 ただの記号に人間としての色がついて、自分として独立することができた。
 それなのに。誰にもそれを伝えられないまま、彼女たちはもう死を選ぶしかない。
 彼女たちが成長したことを知っている人々もみんな死んでしまっているから、
 この状況でみんなで死ぬことを選んだという彼女たちの想いすら、このままだと知る人はいないまま。

「……機械的に言わせていただくと」

 依真の言葉に最初に返したのは、希望が丘水晶だった。

「私はアンドロイドですから、死んでもこの体の中にメモリーは残ります。
 ですから、もし後日に私の死体からこのメモリが解析されれば、
 この場で私たちが選んだ決断、それ自体は知られることになるでしょう。ですが」

 反語を呟くと、水晶は関節部を動かして自らの背中に手を回す。
 そしてカチリと脊髄のあたりにあるバックカバーを開けて、中から小さなメモリを取り出す。
 四角いチップ型のそれは希望が丘水晶の誕生からこれまでの記録を収めているメモリだ。
 無表情のまま――希望が丘水晶は、それを自らの手で、
                              折った。

「え?」
「ノゾミちゃん!?」
「な……」

 ぽきり。
 とメモリが折られたことで、希望が丘水晶の外部保存領域は消滅した。 
 残る記憶領域は、せいぜい人間と同じ程度の重要事項しか残さず、
 電源が落ちれば0になるローカル領域だけ……つまり、他の4人と同じくらいの記憶だけ。

「メモリはあくまで記録であって、その場での感情を記した思い出ではありません。
 だからタカちゃんの想いを受け取るならば。思い出を残すためならば。
 この記録はむしろ、ノイズであると判断しました。――間違いだったでしょうか?」

 自らアンドロイドとしての利点を捨て、希望が丘水晶はそれでも笑顔を作った。
 もうこれでいよいよ本当に、5人が死んでも何も残せなくなったのに。
 36時間眠っていて話に関われなかったことさえ残せなく――――残「ら」なく、なったのに。

444300:ウソツキハッピーエンド ◆YOtBuxuP4U:2013/04/10(水) 22:54:53
 
 そう、これで。
 彼女たちのこれまでの動きを証言する記録(メモリー)は消えたので。

「いや間違いもなにも、それじゃ、
 ほかにどんな記録を残してもその正しさが証明できなくなるじゃねー……か?」
「あれ、ってことはそれって――」

 水晶の行動に対して、財部依真と与次郎次葉が驚きながらも、何かを察し。

「あはは!
 なるほどね。間違ってないよ、ノゾミちゃん。っていうか……同じこと考えてた?」
「おわ! ツッキー? な、何を持ってるでありますか!?」

 話がひと段落したところを狙ったかのように、喜々津嬉々が戻ってきた。
 手にはタウンページ大はありそうな大きく分厚い冊子を持っている。
 彼女は軽快な言葉と共に、その冊子をうんしょと持ち上げて。
 ばばん!
 と大きな音を立ててその冊子を机の上に置いた。

「ツッキー。探し物は見つかりましたか?」
「ん。見つけたよ。――足りない穴を埋めるパズルのピース」
「ウィ。さすがです。やはり、ここにありましたね……」

 その冊子とは、
 箱庭学園全生徒および関係人物、および、黒神めだかが知り合った人物……。
 有体に言えばこのバトルロワイアルの参加者全員を含む様々な人間のプロフィールをまとめた、
 いかにも黒神めだかが持ってそうな「全生徒手帳」である。

 試しに水晶が数枚、ぱらぱらとめくれば。
 載っている、載っている。
 阿蘇短冊から贄波錯誤まで。
 きっとこれさえあれば全く知らない人物だってそれなりに語れてしまうだろうほどの情報が。
 そう、どんな登場人物であろうと、それっぽく「書けて」しまうほどの資料が――!

「さーみんな。ここに。残り時間が『54時間』ある」

 喜々津嬉々は時計を指差して。

「そしてここに、足りない情報を埋める、『把握のための資料』がある」

 次に冊子を指差して。

「さらに球磨川先輩のおかげで、
 『どんな展開になってもラスト3話でなかったことになる』のなら。」

 悪戯っぽい笑みをうかべて、紙とペンを取り出しながら。

「……『そこまでの297話で、どんな嘘をついてもいい』ってことでしょ?」

 白紙のそれを、真っ白なキャンバスを見せつけるようにして、
 喜々津嬉々は4人にひとつの提案をする。

「ねぇ。遺書を書こうよ。未来にいつまでも残るような、
 馬鹿らしくて阿呆らしい、何でもありのとびっきりフリーダムなやつをさ。
 みんなでリレーのバトンを渡すようにして、一から十まで嘘で固めて、
 でも誰もそれが嘘なんだって証明できないような、カンペキな悪ふざけ――」

445300:ウソツキハッピーエンド ◆YOtBuxuP4U:2013/04/10(水) 22:56:21
 
 それは、0になった物語に存在しないはずの虚数を加える行為。
 ウソツキハッピーエンドへ向かうリレー遺書。
 死んでも何も残らないと思うなら、自分から何かを残してしまえばいい。
 しかもただ遺すだけじゃない。全力で自分たちをアピールできるものを遺せるのならそれをやるべきだ。
 そう考えた喜々津嬉々の提案は――この箱庭でつづられた物語の、そのシナリオを。

「わたしたちで。このバトルロワイアルを、捏造しちゃおうぜ?」

 二次創作、してしまうこと。

 ぞわりと空気が震えて、得体の知れない雰囲気が部屋を満たした。
 本気だった――喜々津嬉々のゴーグルの下の目が、本気だった。
 まったくネタでなく、本当に彼女は世界に嘘をつくつもりなのだ。
 もう誰も知らない36時間の空白を、言ったもん勝ちのシナリオで埋めるつもりなのだ。

 異常でも過負荷でもない「普通」の少女たちである自分たちが、主役になり。
 誰をも倒し、誰をも説き伏せ、誰もを思い通りにする――カミサマにでもなったみたいな。
 そんなシナリオ。
 ありえないことだ。
 ありえないことすぎて可笑しくなる。
 でも、54時間で出来ること。たった5人で出来ること。
 そしてなにより、空っぽになってしまった箱庭で、少女たちが抱えていた。
 提案された他の4人は――ごくりと唾を呑みこんで。

「ひ」

 硬直した顔で、一文字喉から絞り出せば……あとは雪崩のようだった。 

「――ひとつだけ、ルールを。――(中略)――でいいでありますね?」
「確認するまでもないよ、ワニちゃん。それは前提でやらなきゃ意味ないじゃん。
 だって、これってわたしたちのエゴでもあるし……『それだけじゃない』んだからさ」
「ウィ。では私は、細かい矛盾点が発生しないよう各所の管理と、繋ぎを。
 ワニちゃんはバトル、ジロちゃんは中二、タカちゃんは心理戦、ツッキーは頭脳戦でしょうか」
「おおさすがノゾミちゃん、いい役割分担。
 でも最後の方とかは合作するのもいいかもな。闇鍋みたいに取り合いじゃなくてみんなで」
「いいね! なんたってこれは――みんなで背負う、罪だからね」

 ある者は楽しそうに笑みを浮かべ、ある者は真剣に流れを考え始め。
 全員が喜々津嬉々の発案に、いたずらにしては大きすぎる罪に、ノータイムで同意した。

 そしてすぐ。
 闇鍋にどんな具を入れるか話し合ったときのように、思い思いにリレー遺書の案を出し。
 2時間かからずおおまかなあらすじを確定し。
 2時間ちょっとかけて参加者のデータを把握して。
 50時間を残したところで、少女たちは執筆の用意を完了させる。

 それぞれ目の前に白紙を用意、おのおのが書きやすいペンを手にし、
 中央には希望が丘水晶が管理する、
 現在位置表や参加者の各種データを集めたPC画面を表示。
 途中で休憩を挟むときのお供にどこからかスナックやジュースも持ってきた。
 添い遂げる準備は――万全だ。

「じゃあ……オープニングを、始めるよ」

 言い出しっぺの法則。喜々津嬉々がまず書き初めに着手した。
 続いて平行作業で他4人がそれぞれの登場話に移る。
 細かく分けられたプロットは合計にしておよそ300話。
 一話が短い手記形式とはいえ、創作に携わることなどなかった少女たちには難しい量だ。

446300:ウソツキハッピーエンド ◆YOtBuxuP4U:2013/04/10(水) 22:58:17
 
 それでも、やり遂げると決めた。
 自分たちの想いを遺すため――いいや、それだけじゃ、ない。

 297話近く積み上げられた物語が、全て台無しにされたそのあと。
 少し優しい顔で眠りにつかされた死体からは、なにもかもが奪われてしまっていた。
 ある少年は良かれと思ってそうしたという。
 人の死には付属する物語なんて、悲劇なんて喜劇なんて、英雄譚すら、邪魔なだけだと思ったという。

 確かにそうなのかもしれない。
 死はけして美談ではないのだから。
 けれど――そうしてしまったら。物語を消してしまったら。
 そこにあるのはただの「死」だ。

 誰が死んでいても一様に同じ、代替の利く現象でしかない。
 そんな死に、個性はない。

「だからあたしたちは、この物語を書く。死んだのが誰なのかを分からせるために」
「かけがえのない、たった一人の、わたしが、みんなが、一人一人が! 死んだんだって知らしめるために!」
「そのための、本当の物語が失われてしまったのなら――たとえ嘘であっても構いません」
「伝えたいのです。残したいのです」
「ただひたすらに――『みんなはちゃんとここにいた』って、伝えたいだけなんだ!」

 もちろん少女たちは分かっている。それはそうあってほしいと言う願いでしかないということを。
 嘘で作られた100人の登場人物の生き様は本当のものではけしてなく、
 他人では100パーセント本人を再現することなんて、不可能だということを知っている。
 だけれどそれがなんだというのだ?
 不可能だからと言って筆を置くのか?
 違う。
 違うのだ。
 例え願いでしかなくても――そう願おうとする気持ちは。
 本物であってほしいと言う気持ちは、嘘をもうひとつの本物に、変えるのだ。

 少女たちは書いて。
 書いて。
 書いて。
 くだらない嘘を紡ぎ続けた。

 20話が描かれて。
 40話が描かれて。
 第一放送が描かれて。
 80話が描かれて、
 100話が、200話が、
 第三放送が、第五放送が……。

 そして――50時間が経過して。
 最後の禁止エリアが、指定される。

「「「「「……はは」」」」」

 ぴぴぴぴと鳴り始めた首輪の警告音は、少しうるさいファンファーレだ。

「「「「「みんな、お疲れ様、そして・……」」」」」」

 財部依真は。与次郎次葉は。鰐塚処理は。喜々津嬉々は。希望が丘水晶は。
 クマだらけの目で力なく、それでもやりきったような笑みを浮かべ。
 腱鞘炎になりかけの手でグーを作って、乾杯をするようにそれをぶつけ合って。
 人生最後のガッツポーズを、した。

447300:ウソツキハッピーエンド ◆YOtBuxuP4U:2013/04/10(水) 22:59:40
  
「「「「「――完結、おめでとう。」」」」」

 少し離れて机の上。
 たくさんあった白紙の紙が0枚になっていて。
 急いで書かれた走り書きの手記が、散らばる紙にはびっしりと書かれていて。
 空想は描かれた。0は虚数で埋め尽くされた。そこには確かに物語があった。

 彼女たちの首が、跳んだ。

 
【財部依真 死亡】
【与次郎次葉 死亡】
【鰐塚処理 死亡】
【喜々津嬉々 死亡】
【希望が丘水晶 死亡】


【ロワイアルボックス――停止。生存者:なし】 
 
  
 
◆◇◆◇ 



 ――後日談。



◇◆◇◆


 
 201X年△月○日。
 文化祭の日程と祝日の関係で、
 この日までその学園は4連休となっていた。
 その4連休が明けたばかりのこの日、久しぶりに学園に足を踏み入れたのは、
 陸上部の朝練にいち早く来ようとしていた当学園の一年生の少女(仮名:A子)だった。

 不可解なのは、連休前の夕方に用務員が学園を出てから4日半後のその瞬間まで、
 学園には誰も出入りしなかった……定期掃除の業者さえ入ることを忘れていたことだが、
 とにかく広い校門をくぐったその瞬間に、A子は糸が切れたような音を聞いた。

「? ――――!?」

 その次の瞬間、A子の目の前に広がっていたのは――惨劇の、跡だった。

 「箱庭学園集団拉致監禁殺人事件」という名が付けられたこの大事件は、
 発覚するや否や様々なニュース、TV、新聞などに取り上げられて世界をにぎわせた。
 確認できるだけで死者99名。そして行方不明者3名。
 その人数規模だけでも腰を抜かすしかないのに、
 死者の中にはかの黒神財閥の関係者など、日本の中枢に関わる人物の名前もあった。
 「どうして4日も行方が分からなくなっていたことを放置していたのか?」と非難の声が出るほどだ。

448300:ウソツキハッピーエンド ◆YOtBuxuP4U:2013/04/10(水) 23:01:24
  
 さらに世間をにぎわせたのは、その事件の異常(アブノーマル)な中身だった。
 100名に届くかという数の死者たちはその全員が、
 なんらかの爆薬を仕込んだ首輪によって首を爆破された死体となっていた。
 凄惨な首なし死体。
 この、映画バトル・ロワイアルを彷彿とさせる殺害方法――これも異常なのだが、
 それ以上に、
 不可解かつ異常な点が一つ。
 死者たちは全員、首輪の爆発による外傷以外には『傷ひとつない』という点が、おかしかった。
 つまり――急性心停止とかでない限り。

「首輪の爆発以外に、彼らを殺す手立てがない、ということだったんだよね」

 201X年◇月◎日。東京都庁資料室。
 別件で招かれたとある青年探偵が、暇潰しに一年前の大事件の資料を覗いていた。
 背丈普通、印象普通、されど頭と性格は少し普通ではない。
 かといってそう大それたことができるわけでもない――彼は普通の探偵だった。
 隣には女子高生じみた助手がいて、こちらは少し間の抜けたことを言う。

「じゃあ首輪の爆発で死んだんじゃないの?」
「普通に考えればそうなる。
 でも、映画バトル・ロワイアルをリスペクトして人質に首輪をつけた犯人が、
 映画のように殺し合いを開催しなかったわけがない。だからおかしいんだ。
 まるで、殺し合いを始めますと言った瞬間に、全員の首輪が誤作動で爆発してしまったようなものだ」
「ほへぇ。それはひどくこめでぃだ」
「そうコメディだ。現実的に考えてありえない。
 なにか整合性のとれる仮説が存在しうるはずだ――たとえば、
 世の中には、異常(アブノーマル)な事象を起こせるスキルを持つ人間もいる。
 さらに箱庭学園は、その手のスキルにずいぶんと研究熱心だという情報があった。
 常識にとらわれずに色々な可能性を検討すれば、情報次第では真実に迫れるかもしれない。
 ……事件の最初の一報を聞いたぼくたち探偵はそう思って、思索に耽ろうとした。
 その暇さえ与えられないとは思わなかったけどね。この事件が異常なのはさらにこの後。手記が見つかったことさ」
「手記?」
「そう、手記。それも同じ場所から、五編の手記が見つかった。
 執筆者は中学生の“参加者”五名。その内容は、ぼくたちにはクリティカルなものだった」

 探偵はぱらぱらと事件の資料をめくり、手記が発見された当時の新聞記事のページを開く。
 少し目の悪い助手はそれに近寄って目を凝らし、大きな字で書いてある見出しを読む。

「へぇ、中学生が……って、
 見出し……《大事件の死者が描いた不可解な手記》……どゆこと?」
「きみの目には細かい内容までは見えないだろうから、
 ぼくから説明しよう。端的に言うとこの五編の手記には、こう書かれていたんだ。
 “全知全能の神のような主催、安心院なじみは、
 殺し合いを確かに開催した。しかし――殺し合いは『行われなかった』”」
「行われ……なかった?」
「そうなんだ。開始からたった4日で全員が死ぬシステムだったにも関わらず。
 最期の一人にさえなれば生き残れるシステムだったにも関わらず。誰一人として、人を殺さなかった」

 手記には5人の少女たち、それぞれの視点からゲームの様子が描かれていた。
 バラバラの場所からスタートした5人は、
 違うルートを通って箱庭学園内を巡回して、物語を紡いだ。
 ある時は恐怖に怯えていた少女を助け。
 ある時は殺し合いに乗りそうになっていた少年と戦い、説得し。
 ある時は賭けを行い、交渉して。
 個性的な箱庭学園の面々と、彼女たちなりに――語り合った。
 そして、最終的に。
 見せしめとして殺された理事長を除いた全員を、校庭に集めることに成功したのだという。

449300:ウソツキハッピーエンド ◆YOtBuxuP4U:2013/04/10(水) 23:03:27
  
「ここで登場するのが、球磨川禊と赤青黄という登場人物だ。
 球磨川禊はどんな事象でも『なかったこと』にする、マイナスのスキルを。
 赤青黄はどんな病気でも治せるスキルを持っていた、と記録されている」

 この二人が協力して――協力(二人の因縁を知る人からすればありえないことだが!)して。
 それまでの手記で意思のぶつかり合いや事故、
 あるいはetc.によって創られた参加者の傷を、『なかったこと』にしたと手記には書かれていた。

「『なかったこと』にするとか、便利だねぇ。
 そんなスキルあったらさいっきょーじゃん。その中学生のでまかせじゃないの?」
「のちの調べで、球磨川禊がこの能力を持っていたことについてはウラが取れてるよ。
 彼は箱庭に来る前、いくつもの学校でそのスキルで猛威を振るっていたし……。
 まあ、とにかくだ。かくして全員が無傷の状態で校庭に集められた、最初の状態に戻ったわけだ」
「ふりだしに」
「そう振り出し。そこからは凡そ予定調和さ。
 殺し合いする気が無くなった参加者、全員、バーサス主催者ふたり。どちらが勝つかは明白だよね。
 ただ、安心院なじみはそれこそ本当に何でもできるほどに埒外の力を持っていたから、
 参加者全員で、さらに球磨川禊が自分ごと『なかったこと』にすることでしか決着をつけられなかったらしい。
 ともかく安心院なじみたち主催者側は敗北し、
 消滅することとなった――ただし首輪と殺し合いのシステムだけ残して」

 主催は消滅した……が。
 「開始から4日経った時点で優勝者が決まっていない場合、全員の首輪が爆発する」というルールは。
 すべて『なかったこと』になった殺し合いで、そのルールだけはどうしても無くならなかった。
 まるで安心院なじみの呪いのようなそれを前に、参加者たちは頭を捻ったが……力及ばず。

「そして99人の首輪がいっせいに爆発し、全員が一気に死んじゃった、と……そいうわけ?」
「手記に従うならばそうなる。従うならばだけどね」

 探偵は苦笑いをしながら頭を掻いた。

「でもね、魔法少女ワンダーツギハがどうとか、無駄にお涙ちょうだいだとか、
 基本情報は押さえてるけど若干キャラが違う人がいるとか、色々都合がよすぎるとか、
 手記に描かれたストーリー自体は正直言ってどの推測よりずっと荒唐無稽でありえない話なんだ。
 なにより、100人も居て、
 その中には好戦的な人物や死ねない信念を持った人物もいるのに、
 誰一人として殺し合いを遂行することをしなかった(あるいはする前に止められた)なんてさ、
 いくらなんでも信じれるはずがない。――嘘としか思えない異常なシナリオだ。きみなら、信じる?」
「うーん。……信じないねー。殺し合いが起きなかったってのは、いくらなんでもふしぜんじゃん。
 でも手記ごとケーサツ側が捏造したにしちゃお粗末な筋書きだし、
 手記自体、「本物」だって証明はできない代わりに、「嘘」だって証明もできないんでしょ〜……?」
「珍しく鋭いね。そう。
 この手記はどうみても嘘としか思えないことが書かれているけれど、矛盾点はないんだ。
 5つの手記の内容を比べても矛盾する描写はひとつもないし……。
 見つかった死体の状態と、ウラが取れている参加者のスキルを照らし合わせれば、
 そういうことがあったとしてもおかしくはないという結論になってしまう。
 手記さえ見つからなければ、いろいろな可能性を想像(創造)することができたのに。
 実際に参加していたキャラクター側からの『公式見解』がある以上、論より証拠になってしまう」

 シニカルに呟く探偵の頭の中には、彼なりに考えた事件の真相が存在する。
 殺し合いをなかったことにしようとした球磨川禊が、
 手記の筆者を除くすべての参加者から傷を消した後、主催と相討ちになり消滅、
 残された5名が4日ルール(あるいはこんなルールはなかったかもしれないが、
 とにかく4日で全員死ぬようなルールだ)で死ぬまでの間に、でたらめな手記を捏造したというものだ。
 「誰も誰を殺さないような話」という、彼女たちの間で決めたひとつのルールにのっとって。

450300:ウソツキハッピーエンド ◆YOtBuxuP4U:2013/04/10(水) 23:06:10
  
 だが探偵が考えたそのシナリオも一欠片の無茶がないシナリオとは言い難い。
 候補生たちのスペックから考えれば、
 5人の候補生と球磨川禊だけが都合よく生き残らなければならないし、
 さらに球磨川が主催と相討ちになって消滅したあと、都合よく少女たちがメモを捏造しないといけない。
 では他の探偵の考えた推測はどうかというとやはりどこかに綻びは存在し、他の推測も同様、その他も……。

 ――現実はえてして数奇なものであって、こんなことありえないということがやすやすと起こり得る。

 結果として残っている「外傷がない99体の首なし爆殺死体」という無茶苦茶な謎を前に、
 だから誰一人として完璧に無茶のない推測を立てることはできないし、
 だから誰一人として、参加者が描いた手記という絶対的な証拠を超える信憑性を出せない。

「……結局きみも知ってのとおり、この事件は先日、大規模な捜査を打ち切られることになった。
 他に証拠がない以上、この手記にのっとるしか、なかった。
 そして手記通りに『バトルロワイアルなんてなかった』という『答え』が採用されて、
 しかも主催が消滅した以上、死亡者の誰にも罪はなくなった。後は細かい事務処理だけさ」
「ああ、だから事件の名前もバトルロワイアルとかじゃなく、拉致監禁殺人になったわけですか?
 確か最初のころは、現代に実際に開かれてしまった殺し合いゲームが〜とかニュースで言ってたけど、
 最後のほうは死者の生前の功績とかしかぴっくあっぷされてなかったような」
「そういうこと。事実上は違うけど……真実に対しては、この事件は迷宮入りってわけさ」

 結局は、そういうことだ。
 沢山の好奇心によって0から作り出されるはずだった真実を探る手は、
 大きな嘘で形作られた偽物の壁を突き破れない。
 つまり皮肉なことに――いや、運命だったのか――結果的には、
 とある少年がとある少女のために行おうとしたバトルロワイアルを『なかったことに』するという願いは、
 ふたりが消えたあとに5人の少女たちによって、『完成』されたのだった。

「なんというか、アレですね。黒い真実を明かさせないための、学園規模の白い嘘、みたいな。
 本人たちにそのつもりがあったのかは分かんないけど――きっとその子たち、優しかったんですねぇ」
「そうだね――うん、大分きみもいい意見を出せるようになったね。
 普通の探偵たるぼくの助手にふさわしくなってきた。帰りにジュースをおごってあげよう」
「まじです? でも、褒めるくらいならいいかげん、
 あなたの名字を教えてほしいんですが……あ。来ましたよ雪(そそぎ)さん。警部だ」
「おや、もうそんな時間かい。……珍しく感傷にひたりすぎてしまったかな?」
「悪いな雪! 遅れた! さて、では始めようか。で……今回の事件はなんだっけっか!?」
「わすれてるんかいー!?」
「おやおや、しっかりしてくださいよ警部。――ぼくはこの事件、『なかったこと』には、させませんよ……?」

 資料室の扉が開いて、探偵に協力してくれる警部がいかめし面をして入ってきて。
 探偵と助手の、無意味で無価値な雑談は終局を迎えた。
 資料は棚へ戻される――。
 しかし大事件の記憶は人々の記憶に長く長く残り続けるし、
 その証人である少女たちの手記も、そこにつづられた箱庭学園への愛(i)も、
 彼女たちの名前と共に末永く語り継がれて、向こう千年は消えることがないだろう。
 
 だから彼らは、そこに居た。
 例えすべてが『なかったこと』になっても――確かにそこに、在ったのだ。





 第297話までは『なかったこと』になりました  ‐完‐

451300:ウソツキハッピーエンド ◆YOtBuxuP4U:2013/04/10(水) 23:07:41
  



 &strike(){第297話までは『なかったこと』になりました  ‐完‐}

452300:ウソツキハッピーエンド ◆YOtBuxuP4U:2013/04/10(水) 23:08:28
  


 このバトルロワイアルは『なかったこと』になりました  ‐完‐ 


.

453 ◆YOtBuxuP4U:2013/04/10(水) 23:12:16
以上で投下終了です。
読んでくれた方いらっしゃいましたらありがとうございます!
最終的に当初の着地点を2回りほどぶっとばして亜空間に着地しましたが、
うまいことこの企画じゃないと出来ない話になったように思います。

企画を開いてくれた>>1さんにも改めて感謝を!

454FLASHの人:2013/04/10(水) 23:44:03
>>453
完結おめでとうございます!すばらしい&西尾らしいデビルかっこいい結末でした
非リレーだとしてもこのエンディングに到達するのは非常に困難だと思います。
ここで書いてくれて本当によかった……感謝ッ!!

ところでまとめサイトで登場人物まとめてて気づいたんですが、死体列記の中に
杠かけがえだけ「これ絶対わざとだろ」って数出てきてたんですが、何があったんで……
あ、いや、「なかったことになった」ことを聞くのは無粋ですね
そこを妄想で補ってこその三話ロワでした。やめておきましょう。

なにはともあれ、完結おめでとうございます。そしてお疲れ様でした!

455名無しロワイアル:2013/04/11(木) 18:38:10
おお、おお、おお、おおおおお!
投下お疲れ様でしたあああ!
なかったことになった。文字通り、なかったことになった。バトルロワイアルまでなかったことになった
いや、なったじゃない。彼女たちが、なかったことにしたんだ
この五人だからこその結末。ずっと残り続ける物語。彼女たちの二次創作でリレー創作
この話はまさにこの企画じゃないと無理だよなあ。非リレーでもダメだ
ちゃんと書かれちゃったらそれまでの297話が俺らの中には残っちゃうもの
でも、後3話ロワにはそれがない。或いは本当はあったのかもしれないけれど、なかったことに文字通りなった
だから、やっぱり、俺たちも。彼女らが完結させたパロロワですらない手記をそのままそうだったんだろうと覚えておこう

456FLASHの人:2013/04/14(日) 02:22:26
剣士ロワのまとめ、できました
ttp://akerowa.web.fc2.com/kenshi/kenshitop.html

とにかく渋く、シンプルにあの熱い文章を読んでもらいたく、
こんな感じになりました。
地味に面倒なことしました。

457名無しロワイアル:2013/04/14(日) 02:30:04
剣をバックに…渋いなぁ
wiki形式だとこういうデザイン中々できないからな

458 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/04/14(日) 23:10:26
>>456
ありがとうございます! こうして拙作を纏めて頂けるとは、感無量です。
そして過去のページ、自分も提案しようか迷っていた「闇に呑まれて消えた」演出をやって頂けるとは!
貴重な時間を割いて手間暇かけて頂いて、本当にありがとうございます。

……『常闇の皇』に「とこやみのすめらぎ」と読み仮名を振ることを今の今までうっかり忘れていたことを、ここに懺悔します。
大神を知らない人へのフォローを怠ってしまいました、申し訳ございません。

459FLASHの人:2013/04/15(月) 07:51:15
>>458
あ、ああ、そうか未プレイの人は読めないのか……
(当たり前に世界中の人が読めると思ってたマン

460 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/04/15(月) 19:03:57
>>459
多分「すめらぎ」を「おう」と読む人が大半ですわ……
皇の鍵然り、応龍皇しかり。

大神は素晴らしい楽曲も多いのでマジお勧め。
絵本の中を走り回るような独特な爽快感は、他では味わえない。
虎燐魄登場辺りは「勇者オキクルミ」を聞きながら読むのもいいと思うよ!
というか聞きながら書いてたよ!

461FLASHの人:2013/04/15(月) 19:39:32
>>460
(完全に同意なのでそっと広告を変更する、結婚式にケーキ入刀で「大神降ろし」を流した管理人)

462 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/04/15(月) 20:00:52
>>461
あなたが――信仰伝道師、天道太子だったのですね。

463FLASHの人:2013/04/18(木) 00:59:11
拙作で恐縮ですが、第297話まではなかったことになりました
の支援絵らしきサムシングを置いておきます
できれば完結した作品にはサイト以外になにかしらこういうこともしたいです
まあ、多分全部は無理なんだけど

ttp://akerowa.web.fc2.com/rwbox/medakarowa.png

464 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/04/18(木) 19:02:38
>>463
ナイスなイラストじゃないか!   消し線と命は投げ捨てる者by世紀末病人
原作でもありそうなワンシーンですね。

ところで、誤字の訂正とかはここで申請すればよいでしょうか?
まとめサイトになって漸く誤変換に気付きまして……。

465FLASHの人:2013/04/18(木) 22:29:35
うす、誤字修正やらスペース調整やらなんでも受け付けます。
とりあえずこちらに書いていただくのが一番早いです

466 ◆rjzjCkbSOc:2013/04/18(木) 23:49:21
謎ロワ・300話を投下します

467 ◆rjzjCkbSOc:2013/04/18(木) 23:49:43



 ――――11:37:27
 ――――――――鉄塔:最上層



「……はっ、私は……!」
「うわぁっ!」

 突然目を覚まし、唐突に起き上がるKさん。
 ……暫し呆然としていたが、はっと我にかえって時計を見る。

「ど、どうしたモナ?」
「ああ、ごめんなさい。……私は、どれくらい眠っていましたか」
「大体、30分は寝てたモナ」
「そうですか……少しですが、疲れが取れましたよ」

 十分とは言えないが、ある程度回復しただけでも儲け物だ。
 ……そんなKさんに、話しかけてくる人がいた。
 それは、先程まで階下で戦っていたはずの"いい男"!

「――――よう、Kさん。目は覚めたかい?」
「あ、阿部さん! 良かった、合流できたんですね」
「まあな。ちょっと手間取ったが……タバコを一本くれないか? 確かあっただろう」

 ――――阿部高和であった!
 しかし、明るそうな声とは裏腹に、表情からは疲労の色が見て取れる。
 それもそうだ、先程まで階下で死闘を繰り広げていたのだから……。
 その上、ここまで歩いてきたおかげで、その分余計に体力を消費しているのである。
 その疲れに勝つことは、さしもの阿部さんでも難しかったようだ。
 ドカッとその場に座り込み、一服。
 ……ゆらゆらとゆらめく紫煙と、煙草の香り。

468 ◆rjzjCkbSOc:2013/04/18(木) 23:50:15

「やっと一息つけるぜ……まだ、時間は残ってるか?」
「ええ、まだ大丈夫です」
「そうか……」

 ……もう少しすれば、"最終決戦"が始まる。
 なるべく、疲労は解消しておきたいと思うのが筋である。













 ――――--:--:--
 ――――――――不明



 それから数十分後。
 5人は、最終決戦の場に、赴いていた。

469 ◆rjzjCkbSOc:2013/04/18(木) 23:50:39

「……ここか……」

 世界が揺らめく。
 空間が揺らめく。
 全てが、この場にある全てが、揺らめく。

「……やはり、私たちが一番最初にいた場所……」

 刹那。
 揺らぎは止まり、空間に均衡が戻った。
 それと同時に、溢れるように"邪気"が辺りに満ちる。
 ……全員の顔が、一気に険しくなる。

『――――ここまで来るとはな』
「私たちを軽く見たのが悪いんですよ」
『ほう。わざわざ、我が領分に招き入れてやったと言うに……』

 この状況でも、全く動揺せずにほくそ笑む伊右衛門。
 それは、果たして虚勢なのか、それとも何らかの策があるのか。
 それを、5人は知るよしもない。

「……お喋りをしにきた訳じゃあないからな。とっととお前をあの世に送ってやるぜ」

 そう言い終わったと同時に、下までツナギのチャックを下ろす阿部さん。
 するとどうだろうか。
 股の間に、見る見る内に力が溜まっていくではないか!
 それを合図に、Kさんがこめかみに手を当てる。

『ほう……その貧弱な力で、我を消そうと? ……やはり家兎は家兎。浅ましき考えよ』
「確かに、俺だけじゃあお前は消せない。隕石すら、砕けないだろうな……。
 だが……今は違う。皆がいる。皆の力で、お前を斃す!」
『……やってみよ!! 身の程知らずの愚か物めがッ!!!』
「言われなくても、やってやるさッ!! Kさん、位置は!?」
「――――分かりました! あそこですッ!!」

 Kさんが、伊右衛門の一部を指差す。
 それと同時に、3人……ジョニー、スペランカー先生、そしてモナーが、伊右衛門に襲い掛かる。
 まず、スペランカー先生が、ありったけの銃弾を、伊右衛門にぶち込む!
 霊体である以上、大した打撃にはならない。だが、狙いはそこではなかった。

470 ◆rjzjCkbSOc:2013/04/18(木) 23:50:53

『このような攻撃、痛くも痒くも――――うぐッ!?』

 真に狙った標的は……霊体内に潜む、即身仏と化した伊右衛門本体。
 こちらは霊体ではなく実体。既に朽ちた肉体が、銃弾を躱せるはずも無い。
 なす術もなく、銃弾の雨に晒され、ボロボロと崩壊して行く。

『ぬうっ……!?』

 銃弾の雨を逃れ、首のみとなった伊右衛門の肉体。
 ――――現世に残してはならぬ、禍々しき存在。
 この場所、いやこの世界と共に、葬らねばならぬ。

「「イヤーッ!」」

 落ちて来た首を、ジョニーとモナーの持つ剣がバラバラに引き裂く!
 切り刻まれた首は、ぶしゅうと小さく音を立てて、塵と化した。

『ほう……わざわざ肉体を先に滅するとは……』
「将を射んとすればまず……ですよ。邪気の発生源である即身仏を先に滅するのは当然です。
 ……邪気が強く、場所を特定するのは至難の技でしたがね。もう少し遅れていれば失敗してましたよ」
『だが、まだワシは残っておるぞ? それで勝ったつもりとは……』
「だからこそ――――俺とKさんの出番なんだぜ?」

 ……阿部さんの股間からは、眩い程の光が溢れだしている!
 それと同様に、Kさんの胸元にも光が……!
 お互いにすさまじい力を放っており、2人を中心に半径2メートルほどの邪気が浄化されている。
 もはや、直視することもできぬほどの、聖なる光。

『まさかそれは……』
「――――俺の"テクニック"、Kさんの、そしてTさんの"スゴい力"、トコトン味あわせてやるからな」
『させぬッ!!』
「もう遅いッ! 食らえ、俺と……」「私の……」

471 ◆rjzjCkbSOc:2013/04/18(木) 23:51:09










「破アッ――――――――――――!!!!」
「ア―――――――――メンッッ!!!」











 迸る力。
 辺りに満ちる、光。
 全てが、白に、染まって行く……。

『ぐっ……ぬおおぉぉぉぉぉッ!!!』

 その光の中で、何かが溶けて、消えた――――。

472 ◆rjzjCkbSOc:2013/04/18(木) 23:51:24











【岸猿伊右衛門@かまいたちの夜2 塵も残さず――――消滅】




















 サイレンが、鳴り響く。それと同時に、遠方から迫る赤い波。

473 ◆rjzjCkbSOc:2013/04/18(木) 23:51:41
 次元を、世界を超え、襲い掛かる波。
 これほどの波に飲まれれば、普通は死は免れられないだろう。
 だが……この波では、そうはならない。
 全てが終わった時――――5人が勝とうが負けようが、ここには、津波が来る。
 生き残った者を、あるべき世界へ押し流す津波が……。

「これで、お前らともお別れか……寂しくなるな」
「……元の世界に帰っても、絶対、忘れないモナ」
「それは皆同じですよ。……それでは皆さん、お元気で」

 ――――5人を、赤い津波が覆った。







【謎ロワ――――完】

474 ◆rjzjCkbSOc:2013/04/18(木) 23:51:58








〜〜〜

475 ◆rjzjCkbSOc:2013/04/18(木) 23:52:13










【謎ロワ――――完?】






【謎ロワ――――】













 砂嵐のみが映るモニター100個。
 そして、その近くに横たわる、100人の人影。

476 ◆rjzjCkbSOc:2013/04/18(木) 23:52:33
『全ての招かれし者よ、目覚めよ』

 その声に誘われるように、目を覚ます100人。

『"運命"を見終わった感想はどうかな? それらは全て、貴様らが辿るかもしれない道だ』

 何も終わってない。
 何も始まってない。
 全ては、スタートラインで行われていただけの事。

『だがこれは、あくまで1つの可能性。必ずこうなる訳ではない』

 無数ある可能性の1つ。
 それが、この"5人が生き残り、伊右衛門を打ち倒し生還する道"。

『自身の恐ろしい結末や、無残な最期を見た感想はどうかね』

 それに反応し、何人かが反応を示す。
 ――――彼、または彼女らは、ゲームに乗り、参加者を殺害した者達。
 自身の凶暴性に怯える者や、血の気が引く者、逆に、顔色一つ変えぬ者もいた。
 それとは別に、何人かが別の反応を示す。
 ――――彼、もしくは彼女らは、何も出来ずに無残に殺された者達。
 自身の死の可能性に怯える者もあれば、紙の様に白い顔でガタガタ震える者もいた。

『"運命"には、並大抵の力では抗えぬぞ。犠牲を払い、運命を変える覚悟があるか?』

 自身が死ぬ運命に抗い、生き残ろうと足掻くか。
 殺戮者となる運命に従い、他人を殺すか。
 運命を捻じ曲げ、生きるか。それとも、運命に従い、死ぬか。
 "運命"を先に見た事によって……選ぶ権利が、100人全員に等しく与えられた。

『さあ、始めようぞ。全ては――――これからだ』

 もう一度……いいや、これから全てが始まる。
 ――――本当の悪夢からは、まだまだ目覚められそうに無い。










【謎ロワ――――開始】

477 ◆rjzjCkbSOc:2013/04/18(木) 23:52:48
これにて、投下終了でございます

478 ◆rjzjCkbSOc:2013/04/19(金) 01:54:35
申し訳ありません、タイトルを忘れていました。
タイトルは「300:OVER/START」です。

479FLASHの人:2013/04/20(土) 00:01:24
>>478
完結おめでとうございます&お疲れ様です!!
お前にはわかるまい!この俺の股間を通して出る力が!!
いやあ、面子にそぐわぬ(といっていいのか)熱い展開と、それをすべて無に帰す
無慈悲極まりないエンディング、そしてオープニング……
これまであった297話だけでなく、ここから始まる300話すら想起させるなんて
恐ろしいお話でした……間違いなく、ここから始まるロワにゃこの5人は残らないね……

まさか597話分を想像させる三話だなんて……これもまた新しい!
素晴らしいロワでした!
あらためて完結おめでとう!そしてお疲れ様!!

480名無しロワイアル:2013/04/20(土) 23:02:48
すげぇ。
最後の最後、全てをひっくり返す正しく衝撃のラストであり、劇的なスタート。
凄惨な運命を見せられた者達の反応から、開幕後の選択を想像したら……堪んねぇな。
ある意味、参加者全員がリピーターになるラストとプロローグとか発想が凄過ぎる。俺も想像力が足りなかったのか……!
完結お疲れ様でした。

481 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/04/21(日) 23:02:32
それでは、拙作剣士ロワの誤字脱字の報告をさせて頂きます。

うっかりでは済まない全編通した根本的な勘違い。
スプラウトの50年やら半世紀やら→正しくは30年。
設定資料集を確認せずにうろ覚えで書いた結果がこれだよ!
挙句最終話では20年ともなってたり。ファンなのにどうしようもねぇ。

第298話
×殺し合いを強制され続けたこの3日。たった3日とは思えないほどに
○殺し合いを強制され続けたこの4日。たった4日とは思えないほどに

×殺戮の舞台の主宰者達が待つ宮殿の中心部へと迫った。
○殺戮の舞台の主催者達が待つ宮殿の中心部へと迫った。

×未だ死んでいないはずのタクティモンが知らぬ内に会場から抜け出していた
○タクティモンが知らぬ内に会場から抜け出していた

×司馬懿「〜この予言を実現させることこそ、我らの使命」
○司馬懿「〜この預言を実現させることこそ、我らの使命」

×血塗られた赤き魔剣に浸けこまれてしまった。
○血塗られた赤き魔剣に付け入られてしまった。

×幻魔大帝の力は、既に一介の剣士の領域を遥かに超えている。
○幻魔皇帝の力は、既に一介の剣士の領域を遥かに超えている。

×司馬懿は肩越しに背後に
○司馬懿は肩越しに背後へ

第299話
死亡表記を【死亡確認】から【死亡】へ

×ゼロは同様から一気に切り崩されていたことだろう。
○ゼロは動揺から一気に切り崩されていたことだろう。

×ゼロ「〜あいつはいつも、長く続かない平和を、何度終わらせても繰り返し引き起こされる戦いを、いつも悩んでいる。〜」
○ゼロ「〜あいつはいつも、長く続かない平和を、何度終わらせても繰り返し引き起こされる戦いを、どうにかしようと悩んでいる。〜」

×爆界天衝
○爆界天昇(300話も同様)

×勢いを留めず司馬懿にまで迫る。
○勢いを止めず司馬懿にまで迫る。

×――友よ〜君と共に在り続ける。
○――友よ〜君と共に在り続ける――

ゼロ達の状態票の下の▽を2つから1つに

×2人は視線を交え、ほんの一瞬だけ穏やかな笑みを浮かべて、すぐに鬼神の表情へと戻り、剣を構える。
○2人は視線を交えると、鬼神と見紛う表情のまま笑みを深めた。

×崩れ落ちそうになった膝を踏ん張り、一瞬俯けた顔を即座に上げる。
○背後へたたらを踏み、そのまま崩れ落ちそうになった膝を踏ん張り、前のめりになって一瞬俯けた顔を即座に上げる。

第300話
×『代わり得る自分自身』
○『変わり得る自分自身』

×姿は見えないが、ゼロにはそれこそが、自分の倒すべき敵なのだと直感し、一心不乱にセイバーを振るった。
○姿は見えないが、ゼロは直感的にそれこそが自分の倒すべき敵なのだと思い、一心不乱にセイバーを振るった。

×しかしその声調はタクティモンらしくなく、戸惑っているような調子が混ざっていた。
この一文は削除してください。

×今向けられている10の砲門――いや、2つの大砲は、
○今向けられている10の砲門は、

×両腕の極大暗黒砲を発射した。
○極大暗黒砲を発射した。

星割の後の▽を2つから1つに

×手を温かい何かが触れた。
○手に温かい何かが触れた。

×壊す以外に脳の無いモノなど、一体、誰にも止められるというのだ。
○壊す以外に能の無いモノなど、一体、誰に求められるというのだ。

×3人の帰還を、誰よりも逞鍛が驚愕した。
○3人の帰還に、誰よりも逞鍛が驚愕した。

×回天の盟約
○廻天の盟約(複数ありました)

×狼と虎の姿を持った斬撃は、常闇の皇の神体は完全に噛み砕く。
○狼と虎の姿を持った斬撃が、常闇の皇の神体を完全に噛み砕く。

×常闇の皇の本体は人間とさして変わらない。
○ムーンミレニアモンの大きさは人間とさして変わらない。

×魂たちを還るべき世界へと還り
○魂たちを還るべき世界へと還し

×そして、彼の願いを叶えるべく、そして3人へのせめてものお礼として、
○彼の願いを叶えるべく、そして3人へのせめてものお礼として、

×そして3人は、帰るべき世界へと帰って来た。
○そうして3人は、帰るべき世界へと帰って来た。

482 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/04/21(日) 23:05:20
以上です。以上のはずです。以上であってくれ。
妄想妖怪ロワの名簿作成時の悪夢はもう嫌だ。
ご覧のあり様ですが、何卒よろしくお願い申し上げます。

483FLASHの人:2013/04/22(月) 01:34:32
>>481
修正完了しました
ご確認ください

484名無しロワイアル:2013/04/22(月) 22:18:45
>>483
確認しました。
私の不手際で御手間を取らせてしまい、申し訳ございませんでした。
迅速な対応、ありがとうございます。

485 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/04/22(月) 22:19:18
>>484は私です。

486FLASHの人:2013/04/29(月) 16:11:45
ラジオ何日くらいがいいかしら……
GWの真ん中ってむしろ人はいないかなぁ

487名無しロワイアル:2013/04/29(月) 21:36:52
水曜日でも俺は一向に構わん!

488FLASHの人:2013/05/01(水) 00:47:46
んではとりあえず3話ロワにかけて3日の金曜夜にしましょうかね
時間は9時くらいから2時間程度で

489 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/05/01(水) 01:58:30
>>488
了解です

490 ◆XksB4AwhxU:2013/05/01(水) 03:31:18
桶。

491 ◆c92qFeyVpE:2013/05/01(水) 22:53:11
りょーかいっ

492FLASHの人:2013/05/02(木) 02:02:17
3話ロワ全体のまとめサイトができました
ここからこれまでまとめたロワには飛べます
それとFC2の上んとこに出てくるうざったいQRコードを出なくしたので
少しは見やすくなってるかなと思います

ttp://akerowa.web.fc2.com/3warowa/index.html

493名無しロワイアル:2013/05/02(木) 19:53:58
>>492
乙です!
次はどのロワが完結するかな。

494 ◆MobiusZmZg:2013/05/03(金) 17:00:38
まとめサイトの作成やリンクの整備、ラジオ企画などお疲れ様です。
完結はきっちりみてますが、リテイクやリアルの事情などで遅れてしまって申し訳ない……!

では、『Splendid Battle B.R.』の投下いきます。
今回は第二話・第二章。今回予告の漫画は下記のURLからどうぞ。

 ttp://www.eonet.ne.jp/~ice9/3rowa/etc_comic03.html

495 ◆MobiusZmZg:2013/05/03(金) 17:01:28
289-b 素晴らしき小さな戦争(Ⅱ)われら死地に踏み入る者たち

Scene 06 ◆ 黒の鳥・世界の歯車が軋み始める


 なんとも、安直な発想だね。

 世界を静かに眠らせることを使命とする鳥は、穏やかな声でそう言った。
 なにものにも染まらず、染まらぬものをも逃がさない、響きはほがらかに心を侵す。
 だが、軽薄そうに謳う鳥――齢三十を超えたかどうかという見目をした男の、双眸はひどく冷酷に光っていた。
 宵闇の輪郭をぼかす月の瞳には諧謔と超然が混淆して、見たものの裡にある空虚を暴き立てる。
 彼がため息をついて腕を組めば、襟巻から墨色をした羽根がこぼれ、白手袋に包まれた指先を包み込んだ。
 道化のごとく剽げた佇まいは世界を憎んでいるのか愛しているのか、あるいは許しているのかさえ余人に掴ませない。

 この箱庭にある鳥よ。
 貴方も『そう』だったのかな。

 ただひとつ、囀る言葉の自嘲だけが周囲の闇を揺らしていく。



 ◆◆



 足りないものがあるから足す。
 安直だという感想を撤回はしないが、使い方によっては、それほど悪い考えではないとも思うんだ。
 なにせ私は、時で滅ばぬ黒の鳥。箱庭の滅びを司る存在なんだ。自殺行為を破滅的だというだけで否定はしないさ。
 白梟ともども、他の者の主観から復元された存在<タイム&アゲイン>だからこそ素直な言葉もほうりやすいよ。
 それに、ここでこうしていると、失敗作を壊して行かれるあの方の気持ちを察することが出来る気もしてねぇ。

 ま、私も『たったひとつ』のために世界すべてを裏切っていける者だ。
 滅びを恐れ、喪失を嘆いて手を伸ばすこと自体にどうこう言うつもりはないよ。
 ただ、伸ばした手を離すべき時に至ってなおもぐずぐずしていると、結局世界はこうなるというわけだ。ほんとうに、
愛とは害意に他ならないな。なぁムラクモ。箱庭の楔たる鳥、ヴァルキュリアを手にかけた現人神よ。
 なんていうか、お前が掲げた天命と主の浮かべる理想は、わずかに色味が似ているんだ。悪い意味でというよりは、私が
好まない方向で合致している。だから、届かないと分かっていても意地悪を言いたくなってしまったんだなぁ。

  ――ひとがひとを殺し過ぎない世界を。

 ……まだ負ってもいない傷をさえ嘆いて、征く途を綺麗にしてみたところで、世界にはなにも実るまい。
 それは花に満ちる庭とて同じだ。すべてが白い花の色に塗り潰された楽園は、なにも香らせ得ずに滅びるさ。
 だって、綺麗だと思ったものだけを集めたというのなら、美しきを峻別するはずの五感は役に立たなくなるじゃないか。
 世界に息づいているものの、一体なにが綺麗であるのか、なにがそれを綺麗に見せたのかも見えなくなった世界で生きろと
いうのなら、人は情愛を注ぐべきを選べなくなる。なにを見てもいとおしいと思えなくなるだろうね。
 比喩表現が気に入らないなら、花を闘争にでも入れ替えたまえ。
 なにを当てはめるにせよ、そんな世界ではだれもが神のように生きてしまう。だから世界も壊れるというわけだ。
 それは推測でも、予測でもない。経験に基づいた確信で、私にとっての絶望ともいうべきものさ。

 でも正直、顰め面如く行う講釈なんてどうでもいいんだ。
 私はこの世界も気に入らないけれど、それ以上に、この世界に従うお前が嫌いだなぁと思うから。

 泣き言と感傷しかない、おもちゃ箱をひっくり返して戻さない戦争。
 あのちびっこのように、道を歩みきったはずの者が折れるまで紡がれる繰り言。
 胸が悪くなるほどに密で甘い感傷すら――胸が悪くなること自体に飽きてしまったから、感傷に浸らせていたものを
死なせてなかったことにする。そんな世界の様相を前にすると、すべてが嫌になってこないか。
 こんなふうに雪であるとか花だとか、美しいものたちをかき回しても、生み得るものなどありはしないよ。
 指を伸ばす前に発想したことを正答としているものにとって、世界は我を肥やすエサにしかならないから。

496 ◆MobiusZmZg:2013/05/03(金) 17:03:07
 ムラクモ。結局、お前もおのが力を自分自身にさえ使ってやれないんだ。おのが現状、そのありようの正しさを示すお前は、
相手方から「話にならない」と見放されることさえも「受容」とみなして、人の身で神に至らんとする自身を守り続けている。
 そうして自身が餓えないために他者と闘って意味を喰らうけれど、自らの意味は喰らわせない。
 魂が死んでいるなんて濡れ女は言ったようだが、何にも満たされ得ない自分に、お前はうんざりしていないのか。
 もちろん、あの玄冬を息子として育て、世界を内側から見ることで変化したのは私個人の問題で感じ方だよ。
 だけどそんなにもお前だけが正しくて、お前だけは変わらないのなら、ずっと自分だけを見ていれば十分じゃないか。
 なのにお前はこの期に及んで終わりきれずに、他のものを殺そうとするんだな。


  ゆっくりと息を吐き、ならばと黒の鳥は続ける。
  言葉が空に散じてほどけ、そのたび無為に心を凍らせてなおも口を開く。


 そうであるなら、そんなお前に『足りないもの』というのはいったいなんだ。
 過去を殺して未来を潰して、切り捨てるものばかりしかない現在にあって満たされもしない現人神。真理に到達しても
腐るばかりの死体を満たし得るなにものかは、死よりほかに与えるものの無い手を伸ばした先にあるというのか。
 いま、完全者が世界を無理矢理に抱き締めているけれど、それを儀式忍法に活かしてしまったのはお前だ。
 その先でも傷つかず繋がり得ず、すべてを投げ出して死んでいけるなら、……そうだな。赦さないよ。
 箱庭を滅ぼすものとされても世界や人々を憎まず、未来をも望み得たあの子<玄冬>。
 自身の罪を知り、玄冬と救世主とで創られた世界のシステムに抗おうとしたちびっこ<花白>。
 世界の平和をまえに萎れたちびっこを見つめて、籠の鳥と定義する己の心を揺らがせたあの人<白梟>。
 ああ、それとまぁ……代わりは創らないと仰った主の言葉を無視して、『代わり』にされた私<黒鷹>もだろうな。
 個人で完結など出来ない者どもの魂を、お前の裡の矮小なものを慰撫するために歪めたのなら、私はお前を赦さない。



 ◆◆



 言いたい放題言ってみたけれど、ここまで言えば、貴方にも伝わったかな。
 気分? よくはないね。私自身に心当たりがあることを札にしたんだから、すっきりなんてするわけがない。
 それでも口を開かなければ、『思考され得たものは棄却されない』この場のルールを利用出来ないじゃないか。

 ……あの儀式忍法の力で死に終われるかもしれないのに、自身の主観で世界を弄ぶ気分はどうかな。
 去ると決めたはずの世界に手を伸ばし、貴方を排斥したものにさえ手を伸ばすのは、どうしてなのかな。
 手を伸ばして、結局は消えていくだけなのが解っているのだと、私は勝手に思っていたんだが。

 ああ――だって、そうだろう。
 救いを綴って優しい物語を受け取ろうにも、他の誰かのためにあるようで腰が引けるのが貴方だ。
 息をひそめた背中は気持ちの悪い言葉に刺され続けているし、グリム・グリモワールの『魔法』だけに沿おうとしたって
迫る無意味が恐ろしいし、だけど足を止めることは一時しのぎにもならないと理解しているのも貴方だ。
 それでもまだ朝は、変化は自身の胸中にすら訪れていないのだと目を閉じれば、そこに何もありはしないことへの
焦燥にさいなまれると知っているから、膝の上に世界があるように振る舞うことさえかなわない――。
 逸脱しようにも、常軌を逸することさえ出来ないのが貴方や、あの男たちなんじゃないか。
 だから暴力を蹂躙を殺戮を短絡を欲望する自分から目を背けても胸中の自身<他者>にさえ呆れられる有様で、
 それでもまだ、かたりたいものがあるんだろう。
 かたりたいものを語るか、それとも騙るのか。私はどちらでも構わない。
 いずれにせよ、それは何かを信じるということか、こうあって欲しいと祈り願う思いなんだから。
 貴方の目に対面の打ち手さえ見えなくても、そもそも打ち手がいないとしても、ゲームはまだ続いている。
 たまらず汚した世界、詰みかかっている自分の手筋に殺されようとも、それでも好きだと貴方だけは言えるはずさ。


 ◆◆


.

497 ◆MobiusZmZg:2013/05/03(金) 17:05:13
Scene 07 ◆ 咲乱の間・透明な傘の内側より


 白梅の鮮華こぼれるなか、藤林修羅ノ介は深く瞑目していた。
 こころ澄ませばいくさ場に流れし雪の香を、自身の肌をなす忍術秘伝が吸い取ってゆく。
「は? ……ええー、なんだ、なんだよそれ。第三の選択肢にもほどがあんだろッ」
 淡く、果敢ない匂いから盤面に刻まれた【情報】――『合咲の間』が二重に分割されたことと、花白の自殺という
結末を手にした少年は、雪白へ荒々しく語尾をぶつけた。
 流された血の優しさに、抗うように目蓋を開けば、そこにはしかり、まなこがある。

「雪の香から情報を読み取る、忍法……やっぱ『匂追(におい)』だよなぁ。
 天華ちゃんの術そのものじゃなくて、俺なりの変奏だけどさ。名前だけもらっとくよ」

 化野天華(あだしの・てんか)という名前は、まだ、思い出すことがかなった。
 私立御斎学園で迎えた何度目かの六道祭、萬川集海の断章を奪い合う魔戦が始まる日に転校してきた狐の少女。
 血盟『化野生徒会』のリーダーとしてあった仲間の名を呼べば、失せて久しい胸も痛んだ。
 鋼玉の赤をした瞳に沈んだ悲しみは、されどいくばくもせぬうちにほどける。
 仮睡の余韻か、あるいは桜の香にも似て情の薄まる原因は、少年の精神でなく肉体にあった。
「しっかし、よろしくねぇなあ、なにもかも」
 口を開いた傍から、肉の薄い頬がくずれる。
 白く、きめの粗い肌が『紙のようだ』という形容は、露出した文字列と竹で出来た巻物の芯が超越した。
「もう四六時中くだらないことでも喋ってなきゃ、俺はコイツに全部持ってかれちまう。
 萬川集海の力を使わなきゃまだマシだろうが、それじゃなんにも出来ないうちにタイムアップだ」
 水は好きじゃないんだけどな。うそぶいた彼の唇に、ゆるんだ雪が染み込んでいく。
 それほどまでに、伊賀の末裔は自身を萬川集海そのものであると信じている。
「面白いな。藤林の、修羅ノ介」胡座をかいて刀を見分するムラクモの声に、喜色はかけらもなかった。
「自我を保つために抗うべきものとの同調を敢えて深め、死に体となってなおも闘志を収めぬとは」
 石床をすべった囁きの底にあるものは、いつしか主と従が逆転している。
 憂いと紙一重の疲労。特段面白くもないものを面白いと断ずる苦しさが、少年を見下ろす赤に映っていた。
 くるめきを覚えるほどに濡れた鋼の、赤い眼光が、雪とも花とも見えぬもので遮られたそのとき、修羅ノ介は風の流れに
触れて返す言葉の刃を喪う。いまも滅びにむけて時が進んでいるというのに、滅びゆく世界の今日という日が暮れたとて、
やって来る明日は雪に埋もれた昨日と見分けのつかぬ無明であったのに、それでも時の流れが嬉しい。
 自他の間にあるものの、なにひとつとして変わることなく「脳裡」で泡の弾けるような幸福が。自他の間に、なにひとつも
生むこともなく、認識の空白に痛む「背骨」の熔ける安堵が、――とうに原型がない「四肢」から「五指」に沁みる。
 死よりほかに思うこともない少年の、「爪」に覆われた「肉」がしびれていわれない多幸感がうたを運んだ。



 ◆◆





  ――――創って壊す〜、それが真理〜、しんらばんしょー。




 ◆◆



 壊すことの痛みも創ることへの躊躇も知らないヒトビトの声を、「耳」にしたのはなにゆえか。
 いま、まさに音楽的なまどろみに浸りかけていた修羅ノ介は、その声を聴きたかったからだと断じた。
「創って壊すー、壊して創るー。……イッゴー、イッゴー、リッサ―――イクル――」
 かすれた「のど」で歌の続きを引き取れば、夢のなかでは美しくあった誤解が崩れ去る。
 冴えた雪に韻律を載せれば、卑小で行き詰まるしかない思いも綺麗に。たとえば空から降る白い花の、風に舞い遊ぶが
ごとくに響くと思えたのに、自分の「耳」にさえ感傷と泣き言しか届かないとなれば笑ってやるほかなくなった。
 たがの外れた笑いで「胸」を開けば、壊れた誤解の招いた感傷が感慨に変じる。
「ああ――なあ、……ムラクモさんよ」
 忘我のもたらす深い息。そこに沈んだ名を、修羅ノ介は、ただ滑らかな音のつらなりとして捉えていた。
 雪を見通した先にある天井の、石の継ぎ目を見つめるしかない「後頭部」がしびれ、「目」の焦点が現世のどこにもない
紫明に合わされて盤面からずれ落ちるばかりの存在が自身の「肉体」であったものを構成する

498 ◆MobiusZmZg:2013/05/03(金) 17:07:12
 

  紙に、神に近づいていく。


 孤独に対しておぼえる安らぎ。永遠に対する感覚の鈍麻。これらが招くであろう死をいっとき忘れさせ、今、このとき
だけでも主を生きながらえさせる「胸」の昂ぶりさえ修羅ノ介を大地に縫い止めて離さない。
 忘却と停滞の肯定。それこそが生にしがみつくヒトガタ、「いのち」の性質さえ無為なものとしてしまう。
 なんだこれと、洒落にならねえとこぼした声は、はたしてかたちをなしたろうか。
 子供のむずがるようにもがいて、――紙のかたまりはぴくりともせぬまま、梅花のひとひらに口をふさがれた。
 なんだこれ、ではない。これを自分は知っている。萬川集海の断章を取り込んだとき、力に酔いしれて『神モード』などと
うそぶいたものだが、違う。あの、スイッチを操作するようにおのれの任意で変えられる状態と、これとは違う。
 銀色にひかって痛む、「眼」の前を青白く燃えて流れる星が塗りつぶした。
 黒焔の、華散るがごとくに翻る幻想は、九尾の妖狐が中天へ舞った夜に見たものだ。

  ――俺にはいくらでも時間がある。俺が俺を見失わないうちはな!

 六道ノ書と六識ノ書。萬川集海のうちの二巻をみずから散逸させたときに紡いだ言葉が「耳」に蘇る。
 秘伝書に自身を侵蝕させたことは、しかし計算のうちにあったことだ。
 この魔戦が盤面の、ひいては世界を形作る【情報】のひとつもなければ、自分は自分の定点を見失う。世界に関わらず、
そのありようを拒絶するという選択さえ、世界に抱かれていなければ選べないように。
 “喰らうべき意味が裡になければ”外側から取り込むしかないのだと考えて、探った相手は花白だった。
 この世界はどうすれば君に償えるんだろう。箱庭における唯一の被害者としてある玄冬の「顔」を見た救世主は世界と
折り合いをつけることすら出来ぬがゆえに正しく少年で、それだから死ぬことでしか存在しえないものだったのかと思えた、


  その思いも逃散する。
  逃げゆくいま<ヒト>との間にある距離を嘆いて伸ばした「手」が刻む文字で時をつかもうとあがく発想の
  健全に自分はまだヒトだまだ大丈夫なのだと安堵して「心臓」をさすろうと溢れるものを止められない。


 ならば自分こそが他者の定点、他者の情動を励起する、モノになる。
 過去のように死のように、他者から意識を向けられねば現れ得ぬ機能と成り果てる。
 もはや喪失への危惧もなく、そのくせ「膝」の裏の「腱」がひきつる痛みが恐れの役をはたしている。
 茫洋とたゆとう、思考がそのとき煤竹色に。大外套の役を果たす上着の、腕に通していない片袖で引き裂かれ、

.

499 ◆MobiusZmZg:2013/05/03(金) 17:07:49










     他者<自分自身>を認めた一秒で、藤林修羅ノ介は神の、死体からヒトへと戻っていた。









.

500 ◆MobiusZmZg:2013/05/03(金) 17:10:04
「うわあ」。
 のどをすり抜けた響きは彼が纏っていたはずの果敢無さを裏切って太く、間が抜けている。
 声からのぞけた生理的な――ああ、ああ。そうだ。もう自分にはこのヒトガタが自身の身体であるどころか、まるで、
これがヒトの、半端な温度に縛られた肉であるように感じられる――嫌悪感。いっそ「ひるんだ」と言ったほうが楽になる
思いの向かった先は『藤林修羅ノ介』が死して神となる過程かどこまでいこうと逸脱出来ない自分自身にか――。
 それこそとりとめもなく浮かぶ思考の、一切を現実が黙らせた。
 黒手袋に包まれていた男の爪が、修羅ノ介の視線に晒されている。節くれだった指と、肉の厚い手のひらが有する輪郭は
弛緩とかけ離れて、彼が自身の肉体を我が物にしていることがひと目で判別出来るものだった。
 すんなりと修羅ノ介に向かって伸ばされた指は、彼の吐息が飛ばした花びらの、赤い萼を軽々と摘む。
 自身の肉体を扱うことに慣れた男の所作は生理的な震えがくるほどに優しい。
 そうして震えは修羅ノ介の意識に背中を、腋下を二の腕を脇腹を腿を膝をくるぶしを土踏まずを思い起こさせ、
 書物が、肉体としての意識を模る。
 それを意識したときには、くぐもって固まり、不恰好に軋んでさえいる鼓動の、――幻想を取り戻したことによる緊張が
すすり泣きのような呼気にまで及んでいた。不随意のうごきで息を吸い込めば、もはや不要となった空気になめし革の
蒸れた匂いが鼻孔をつく。『ああこんなヤツでも汗をかくのか』と思い遊ばせたそのときに傘の、透明な内側からすべてを
睥睨するしかなかった修羅ノ介の花よりおぼろな認識を突き抜け


  半端な熱に触れた瞬間夢の淡いから世界が異物感を誇示して立ちのぼり、透き通ってあろうとするものの
  底に沈む鈍い、濁りを鋭角なものとして少年がたましいに流れる、赤いものにと突き込んでくる。


 だから、もう、藤林修羅ノ介は神に戻らなかった。
 紙たる自身が神に変ずるという逃避、透き通って口当たりがいいだけのひとりよがりに醒めていた。
『神モード』とうそぶいてまで現実にしなかったものの影を見た目尻に伝うものがある。肌が水を弾くさまを感じる。
 涙かと、あるはずがないものに鼻孔の奥を衝かれて――泣きたくなるほど、意識が自らの肉体を捉えている。
 根拠ひとつない自分の、体温で雪を解かすほど確かな在り方へなぜなど問わず、修羅ノ介は視線を上げた。
 淡く、果敢ない。恥ずかしげもなく白にまみれた世界にあって、鋼玉の瞳はそれ以外の色と、音と光をつかんで輝く。
 色は、泥砂にくすんだ都市迷彩の青で、音は、歯列を抜けた嘲笑の原型で、光は、つやめく無彩の黒髪だった。
「ああ――ちくしょう。こういうのアンタに言うとか絶対変だし、死ぬほど不本意なんだけどなぁ」
 眉間が深く落とした翳を、みずから払って強く光る武官の瞳を見た、少年の目は気安い口調と裏腹に緊張している。
 平然と手袋をはめ直したこの男。父よりは少しく若いだろうムラクモよりほかに、修羅ノ介が視える世界にはいない。
 そう思えるほどに閉塞し客観というべきものから遠ざかった状況で、ゆえにこそ客観を連れて来る他者が。どれほど抽象に
溺れようと世界に残る不純物が、自分に常軌を逸させはしなかったのだと今にして気づく。
 動かない武官の表情に二の腕がひりつく感覚は、それこそ父を盗み見る時間でおぼえたものに近い。

「でもいまは、もういい。俺はお前で……じゃねぇな。お前がいいよ」

 ムラクモ。
 精神の血肉を取り戻した身体の紡ぐ名が空気をふるわせ、銀花をもたつかせた。
 どうにもならないものを前にふてくされながら引き下がる、子供の言いようが口へと残る。
 言葉を費やしたとて記号に出来ず、視線で射抜けども磔にされず、思惟の果てにさえ汲み尽くせぬ不可侵の、
「……お前は、私とあの女に勝つつもりではなかったのか?」
 他者は、しかし鼻にかかった笑みで修羅ノ介に『応じた』。
 深い響きを有する、現実認識をあざけって怒りを引き出す言葉には拍子抜けするほど傷つかない。
 永遠の少年は、雪と花を割り裂く男から、自分が体感していたものと同質の空虚を視ているがゆえに。
 ムラクモ。神に至ろうとするものに意識を向ければ――そこで、暴力と軽侮に対する怒りにとらわれさえしなければ、
赤く沈んだ光をのぞかせる瞳が想い出のように死体のように相対する者の胸を衝く。
 呼気を詰める切なさこそは、過去を忘れ現在を手放し、未来を迷妄に押し込めた先刻から消えない思いであった。

501 ◆MobiusZmZg:2013/05/03(金) 17:12:11
「莫迦を言うなよ。お前は俺とか完全者サンに向かって行って勝つとか、そんなんないでしょ?」
 仰向けになっているしかない修羅ノ介は、ゆえに愛惜ともいうべき情をもって武官に応える。
 彼を直視し立ち向かおうとしなければ、彼は世界から消えていく。命の器による【封鎖結界】の罠を仕掛け、『影弥勒』を
使って『天魔伏滅の法』を展開し、『綾鼓ノ儀』で理想に夢さえ抱かせぬ強敵であっても関係はない。

「だって……ほら。ここで俺らがみんな死んじまって、世界の全部が壊れちまったら。
 絶対、誰も気付けない。俺もお前も、この天井突き抜けた宇宙のどこからも忘れられて、いなくなっちまう」

 あンの八咫烏だって、俺ら『化野生徒会』が墜としちまったし。
 天才的にエロい――えげつなくろくでもなく、いやらしいにもほどがある札さえ、事無草はまなうらに追憶する。
 こうして追憶しなければ生まれ得ないからこそ、自分は現世にない過去にありもしない熱を燃やしているのだと、
 萬川集海による侵蝕と闘う際に覚えた絶望とて、こうして、喰らえずともしがみ続けて慣れていったのだろうと、
 なにものかを呑めぬまましがみ続ける代わりに男へ刻まれたのが、額から頬骨に落ちる翳であるのかと、思った。

「濡れ女みたいには、言ってやれねえけど……でも『斬らないならお前、また負けるよ』。
 その得物の、美の一閃で、物語<Winter Tales>なんざすぐに終わらせちまえる冬の圧制者だってのに」

 あぁ、でも、――斬っても負けたんだっけ。
 ささめいて冬の気配たる雪を水にほどけば、修羅ノ介の双眸には九重ルツボの魂が宿る。
 これまで命を落とした忍びたちの名をもって過去を刻む忍術秘伝が外典・『天下忍名録』にかたどられた他者に触れても、
彼女の置き土産であろう哀れみにちかい愛惜に口を開かされても、情報を溶かし落とした心水は揺らがない。
「その、ヒトガタをすら作れぬ身体で、私に勝つつもりか」
「なんでよ? 俺の負けがお前の勝ちとか、その逆になるような場所じゃないっしょ、ここはさ」
 けれども哀れみの行く先は、この、短い間で移り変わりかけていた。
 意識せねば現し世に浮かび上がることのない、昨日の体現。それがムラクモなのだというのなら、昨日を愛し、あるいは
傷つけてみたところで、振り向かせることはかなうまい。日向影斗という『いま』を武器として、彼に立ち向かおうとした
九重ルツボと、いまの自分はきっと同じだ。『過去の、想い出から人間を取り出そうとする』自分をこそ哀れんで、



                 ――――所詮、夢は夢。過去を追っても、何も得られぬ。



「……うるっせえんだよ『花狂い』!」
 哀れむことがかなったからこそ、修羅ノ介は冬の気配に怒声をもって応じられた。
 怒り。紙の身体が何より恐れる焔のごとき感情こそは、ムラクモという他者に声を放ったつもりでいて、そのじつ自分に
声が返ってくる感触を前にすれば、どうしても抱ききれなかった思いである。
「何も得られない。夢を見続けたくて目を閉じたって、夢を見られる自分にさえ冷めちまってる。
 そんなのはもう知ってるよ。でも、それを分かっててしがみつくのはいつだって九尾の――狐じゃねえか」
 けれども今、殴り返されることのないのだろう場所から響いた声に、少年は酷薄な笑みをもって応じた。
 ヒトは完全な受動にあって、はじめて己の本性を露にする。藤林修羅ノ介。のらりくらりと立ち回り、ときに『悪魔忍者の
再来』とさえ言われよう策を弄して勝ちを奪う「戦術」の得手。怒りで自身を燃やす《火術》の達人。
 過去の喪失を取り戻さんとする彼の本性は、ならば変化を拒む盲信であり拘泥であり、憎悪であった。
「だけど、それで俺を黙らせようってなら、当てが外れてんだよなぁ……。
 本当は何も喪ってないなら、本当は傷ついてないなら、あのときつらかった自分は何だったのかって、思うよ。
 でもあのとき、止まれなくなってた俺を止めた狐<天華ちゃん>だって、ここばっかりは止まらずに走るだろうさ」
 けれどこのとき、修羅ノ介は決めた。
 都合よく日常を謳歌し夢を思い出し、ひとりよがりに咲き散らかす自分をこそ赦さないと決めてしまった。

502 ◆MobiusZmZg:2013/05/03(金) 17:14:29
「俺はもう、黙らないし誤魔化さない。この『傷痕』に何度でも目を覚まして、それでもほっとく不義理を許す。
 だって腐る傷のかさぶた剥がして、そんな安い快感で満足するかよこんな、世界に――――萬川集海・巻ノ七!」

 怒りの激しさを裏切るように、紡がれた声はさえざえとしていた。
 先ほどの絶対失敗<ファンブル>で、何も起こらなかったことも幸いしたのだろう。数多の巻物、忍法の秘奥綴られし
紙片が部屋の全域に鮮烈な嵐を起こす。それが骨となり肉をなして、藤林修羅ノ介のヒトガタが再び模られる。
 骨組みの心もとない身体が纏うのは、しわや汚れのひとつとしてない、白の学ラン。
 私立御斎学園の生徒会に所属する者だけが着用を許される、いささか時代錯誤な『勝負服』であった。



 ◆◆



Scene 08 ◆ 無限の始源・闇夜が食べるは影の色


「……忍法、『秘身宝鑑』」
 凛然と響きわたったはずの、声はしおれた反響となってあるじの耳朶を叩いた。
 秘伝書の紙は着衣の上から四肢を覆って垂れ下がり、事無草を木乃伊のごとくによどませている。
 雪と花の白で満たされた世界に著しく透明度の低い自身を認めながら、修羅ノ介は背筋を伸ばす。
 凍りついた世界のなかでヒトビトが――自分が、泡沫となって氷を濁らせる空気となっていようと構うことはない。
 どんなに終わりかけた世界でも濁っていた双眸を開けば、血と泥にまみれた肉は、心臓は脈を打つのだと信じて、

「ああ、あ――ははッ。ホンっト、清々しいなあ……カラダを動かすってのは」

 信じれば、空白への恐怖さえ覚悟の扉に。この先に通じるものへと変わって彼を動かしていく。
『かみ』より降ってきた御言に逆らうのではなく、言を受けて弾んだと言うに相応しい転回を遂げた修羅ノ介の、しかし
右腕は動かない。様々な陣形や忍法、特技の策を断簡として授けてきた萬川集海は巻物の数こそ揃っていても、そこに
刻まれた情報を伝える精神の血<インク>が圧倒的に不足している。
「なんだ、完全者サン刺されてたんだ。その深傷で《リザレクト》してんなら、しばらくは起き上がれねえか」
 完全者に乗られている者の姿が、けれど、今ならよく見えた。
 どうということもない短髪を、真理を得た『完全者』――電光機関の力を使ったムラクモらのように白く染めた青年を、
修羅ノ介は知らない。うつ伏せになったパーカーの、影からのぞくネクタイさえ彼を『ヒトビト』に埋もれさせる。
「一応聞いとくけど、あいつ、誰?」
 忍びが声をかけるまで無個性の影に落ち込んでいたのは、ムラクモとて同じだった。
「高崎隼人(たかさき・はやと)……『ファルコンブレード』。UGNのエージェントだ」
「あ、そっちなら知ってるわ」どうということもない顔で、修羅ノ介は頷く。「ま、始末されてないんなら生還するだろ」
 そうして彼は、その認識で射抜くべきただひとつ<Sロイス>を定めて一歩を踏み出す。
 つねに自身を貫くなにかに耐えているような、この男。目を逸らしてしまった瞬間に世界から消えてしまう空虚に向かって
いくというのなら、脇目もふらずに進まねば――指で、腕で身体で、彼のあばらをこじ開けることさえかなわない。
 東風吹かば萬川集海の紙片がまたたいて、ふたりの場所を満たしていく。
 そのなかでいちど息を吸い、呼気と変えた修羅ノ介は、得心がいったとばかりに息を漏らした。


「俺の《ワーディング》にも反応しねぇってことは、やっぱ、そっちも『もう』オーヴァードか」
「そのとおりだ。藤林修羅ノ介――愚者の黄金<デミクリスタル>に適合した、新たなる『神の現実態』よ」


「ヤだ」取り繕うような言葉を、修羅ノ介は即座に断った。「俺は自分を人間だと信じきるコトにしたんで、そういうのは
もう要らねぇ。ていうか、もともと俺は『新神宮殿』とかどうでもいいって、言って――言ってたよね?」
「私やあの女と敵対する【使命】などないとは、その口でさえずっていたな」
「うん、そう。そんで、でも隼人がデッドマンになるまでにお前と戦うとかそういうのは……言ったっけなぁ……」
 だが、正確無比な返答と温度のない視線を受けて、忘れたふりをする言葉尻は濁った。
 生きていようとすることの濁りとは違い、まったくもって美しくはない光景の先で蒼い刃の鯉口が切られる。

503 ◆MobiusZmZg:2013/05/03(金) 17:16:11
「『神の死体』……お前の屍を、いま此処に創り出すか。あるいは、その手で私を倒してみるか」
「あー、ダメダメ。俺とお前に殺しあうのは無理だって、ちゃんと説明したでしょ?」
 月下美人の銘が刻まれた刀、世界にあまぎる雪を呼ぶ遺産を恐れることなく、修羅ノ介は歩を進めた。
 分かってないなら、もっかい言うよ。気負いのない言葉は、水が、波紋をつくるように彼らの世界を侵蝕する。
「俺はお前を選んだ。壊れかけた俺の全部を壊して、もっかい同じに創ろうとしたお前を心に刻んでるんだ。
 まぁ……俺が勝手にお前『で』立ち直ったのかもしれねぇが、それならやっぱ、俺はとっくにお前を選んでるんで」
 それは、白に雑ざった影とよどんだ修羅ノ介の身ごなしも同じであった。
『幽霊歩き』と呼ばれる、忍者の高速機動のなかでも最も遅い足取りは、けれどムラクモに捉えられない。
 より正確には、修羅ノ介の纏う文字が『影』と変わるさまを、捉えようとさえしていなかった。
 レネゲイドウィルス。第二次大戦前夜には『ヴリル』や『魔術』と呼ばれていた力でもって、身体能力や思考能力の
増大が果たされていようとも。いいや。レネゲイドウィルスによる力を有するからこそ、彼は足を止めている。
 この空間における音波の伝達、匂いの拡散――。
 藤林修羅ノ介が『いた』場所を中心とした地点から、それらすべてが遮断され、

(こいつ、が、オーヴァードのエフェクト。《イージー、フェイカー》……?)

「――ッ、ぅ――――!」
 転瞬、ムラクモに肉薄していた少年は、声にならぬ声を喉奥に詰まらせた。
 とうにヒトから離れた身体の、それでも文字が熔け堕ちてゆく異形化<イレギュライゼーション>。
 文字が渦をなし、影となって場を支配するイメージが使い手をも貫いて、久方ぶりに『肉体的な痛み』をもたらしたのだ。
自身を構成する萬川集海に刻まれた【情報】をアヴァターとして操る幻想。これまでも忍法や奥義のかたちで現実にしてきた
都合のよさが、もはや都合よく切り離せないものになったのだと、交錯以前の接近で叩き込まれる。
「ちぃ……ホンモノ、触るまで怖さが分かんねえとかッ」
 はっきりとした声が出て、はじめて《無音の空間》が壊れたことを知った。
 その体たらくを笑ってやる前に、膝のほうが笑っている。そのふるえが情報までも揺さぶって、ああ、……思い出した。
 この力。影と、他人様の発現したシンドロームをコピーして使う力は『ウロボロス』のシンドロームに属するものだ。
 それは、忍術の秘伝書から力を引き出して使う者が目覚めるにはなんとも似つかわしい、


  借り物を我が物顔で操る力。
  物欲しげに喰らった他者の意味を自身の進化のためにしか使えない能力。


 外部からの刺激を受けて進化するという力への絶望が、修羅ノ介の存在に叩きこまれた。
 空を見れば星と消えてしまいそうな、モードにすらならない『神』になりかけたときに何度も、何度も響いた言葉。
 カミからの御言が響く瞬間に世界からは色も音も、光さえも消え失せるのだと今さらのように知覚する。
 きっと、この現象には誰も気付けない。神鏡による未来視を扱えるムラクモでさえ、気付いているかは分からない。
「そん、でも……知るか。腹が減っても選り好みする感傷なんざ、俺は、分かってたって知らねえッ!」
 ゆえにこそ、感傷で腹など満ちなかった少年は、強く声を張ってみせた。
 世界と折り合いをつけようと譲歩して、それでも残った意地と見栄が、声に折れることを赦さなかった。
 至近で、その声を聞かされたからか。かたくななまでに動かないでいた武官の「顔」が、はっきりとしかめられる。
 動かぬがゆえに相手の感情だけを励起してきたモノ――神としての表情が、大きく揺らいだ修羅ノ介の視界でさらに歪みを
増して植物の。あるいは無機物から生命の芽吹くように色と、音と光とをにじませた。
 見開かれた双眸が詰まった呼気が熱を帯びる、そのさまは顔を伏せた少年の目に見えることがない。
「ほら。借り物ばっかでも、射抜くべきヤツには、届いた」
 見えなくとも、爪先立ちになって相手方の首にかじりついた腕の、左で鼓動を感じ取っていた。

504 ◆MobiusZmZg:2013/05/03(金) 17:18:14
「な――――」
「こういうのはないって思ってた顔だろうな。でも残念。俺はセクハラを、男にだってするんだぜぇ……」
 濡れ女とは違って、俺は、お前に優しくする義理もないわけだしさ。
 ある意味においては絶望的な言葉を耳朶に這わせて、修羅ノ介はムラクモの、剣を振るう右肩に額を預ける。
 斬らないならまた負けるよ。その言葉のとおりに、武官は負け続けている。人間に価値はないと言い放つわりに他者を
『面白い』と評し、人の身を保って神に至ろうとする彼は、価値はないとした人間にこそ意味を求めてやまない。
 ただひとりでは闘争など成り立たぬことを知悉しているがゆえに、ヒトとの繋がりを鏡面のごとく構築する、――。


  九重ルツボ<死者>の余韻を超え藤林修羅ノ介<生者>自身の認識が芽吹きひらいて枝をなす。
  神。かの者の存在を意識したものの想いを照り返す機能を願うヒトの過去に沈んでなお悲しまぬさまに心が灼ける。


 ――ふたりでいれば、寒くないね。
 自身の裡にあるなにものも返さぬ男<無為の咎人>に相応しい言葉が思考の端へ浮かんだが、即座に叩き潰す。
 それを言ってしまうには、フラグも好感度もイベントも足りていない。理合いだけに満ちた相手の抱えているだろう、
過去と名のついたブラックボックスに比すれば、わずかな言葉と時間で作った手筋はあまりに脆いものだ。
(でも、ヒトの敵愾心を煽るコイツは【人類の敵】だろうが、ジャームになれるようなヤツじゃない。
 自分ひとりで完結出来て、相手の言動にタイミングよく応えて衝動を満たすだけの存在なら……塞とかいうヤツに、
前後不覚になるまで怒る理由なんかない。絆を持てないっていう存在なら、過去にだって執着出来ねえよ)
 だのに「小賢しい」との評には、瞬速の抜刀どころか、四本貫手も軍靴による鋭い蹴り上げも乗りはしない。
 いつの間にか適合させられた『愚者の黄金』とやらが大事なのか、やり過ごせると判断したか。――せめて、後者を
潰さねば、過去に逃れるムラクモを意識して繋ぎ止める修羅ノ介の側が彼の孤独に取り込まれかねなかった。
 そうなればきっと、『貴方はそこにいていいのか』と男に問い続けたルツボのように死ぬしかなくなってしまう。
 けして返らぬ熱情を抱き続ける自分が可哀想になってしまうか、熱情を注いだものへの憎しみにとらわれてしまう。
(ええい。死。死ぬ。そりゃあもう、都合よく家族を蘇らせる『モード』なんか使わないって言ったけどさ!)
 こんな体になっても、こんな力を手にしても、それだけはいやだった。
 忘我の果てに命を落とすなど、無意味などあり得ない書物を核としていなくとも認められない。鼻がぶつかりそうな
ほど近くにいる、無意味に、執着をあっさりと捨てて死ねるがあまりに無意味に生きることすら出来そうな男は吐き気が
するほどおぞましい。だからこそ相手にすがって体温を奪い鼓動を盗み、心を、聴き取ろうとしている。
 それもきっと、事無草ではない『藤林修羅ノ介』の。ヒトのかたちを崩していながら常軌を逸することのかなわない
小市民の性だった。あるいは、世界から拾いあげた意味を喰らい刺激を受けて進化するものであるものの業だった。
 外界に在るなにものかを理解出来ぬ責が自身にあるとして、それをも呑み込めるように――。
 愛せるように、少年は思考を続ける。同時に自分が理解出来ないものを繋ぎ止めて記号になるまでしがみ、相手を
標本にしてしまうような行いにさえ快感をおぼえる事実を認識して、

「お前の得意分野に付き合う気はなかったけど、こういうのも立派に暴力だろ。
 でもまぁ、意外と肌が気持ちいいしなんだか眠たくなる匂いがするから、冗談で済むまでに本題に入ろうか」

 だからそれがなんなのだと、開き直って視線を上げた。
「正直言ってさぁ、俺、このままならお前を躊躇なく傷つけてやれると思うんだよ」
 紙でいたからか『影』を扱うシンドロームに目覚めたからか、ともすれば内閉に向かいかねない自分自身の心持ちに
こそうんざりする。絶望のなかにあっておぼえる、不思議に停滞した安堵。死にも近いあの感覚を、もう二度と味わいたく
ないというのなら目の前にいる他者の、鏡写しのように赤い双眸を見なければならない。

505 ◆MobiusZmZg:2013/05/03(金) 17:20:14
「俺の思ったコトを叶えるなら、たぶん出来ることはふたつ。
 お前が、自分が無意味である事実を嫌になるくらいに愛していくか、アンタが自分のたましいを守りたくなるくらいに
傷つけてやるかだと思うんだけど、そっちのコトよく知らないから後者は選びやすいんだ。
 ホント……戦争とかおぼろげに覚えてるコトはあるし、学園にいた頃とかの想い出もきっちり刻んでんだけど、魔戦の
全貌となるとハイライトみたいな記憶しかないんで、俺自身、再構成にゃ苦労したんだよねぇ」
「……まるで、最終決戦<クライマックスフェイズ>からセッションが始まったように、か?」
「は、――え、セッションッ?」
 紙の身体を突き放して、同時に『砂時計週報日本語版』の縮刷版をほうってきたかみさま。
 自分と同じ『人間のなりそこない』が、鏡像のように触れ得ども奪えぬ他者であるのだと認めて、
 この世界に、不可侵の他者が。自身の餓えをしのぐためにあるのでない者がいることにこそ安堵を、覚えたい。

「『次のリプレイのセッションあり。至急連絡求む』――って、すげえ。
 リプレイってラノベになるヤツでしょ? あンの猫耳、莫迦っぽく見えてガチの遊侠<テーブルパンク>なのな」
「兵棋演習か、それを基に作られたウォーゲームのようなものだろう。騎士ならばやっておいて損はない」
「えっ、なにこれ。お前がそういう遊びをしてりゃ楽だったなと思うけど、それがないコトに安心する……だと?」

 そうして、ひどく殊勝なことを考えていたのに、言葉を交わせば思考は回転の速度を増した。
 安堵でいいのかと問う声はカミでなく安堵に浸された胸から届いて、そのたびに自分が憎らしくなる。
 火のつきかけた憎しみを怯懦や惰性に拠らずいなし、衝動に溺れることなく、この足で歩きたくなってしまう。
「さて。だったらやるべきコトも見えてきたよね。けっこう、俺のやりたいコトともかぶってるかも」
「フ……もう、手数というべきも残されてはいないというのにか?」
「まあ、そうだなあ。白子ちゃんとか【電撃作戦】得意だったけど、ソレももう使える局面じゃねえから」
 挑発的な笑みへ応えないことに、ムラクモががっかりでもしてくれないだろうか。
 忘れ水のごとくに沸いた思いを受けて、修羅ノ介は肩をすくめた。『天下忍名録』から取り出したというほかない
九重ルツボも瑣末な歯がゆさを重ね、それでも他者を解体する行いへの誘惑を殺し続けていたに違いない。
 そのはずだが上っ面をなぞるようなやり取り、その手応えのなさへ、自分はすでに寂しさを感じ始めている。
 いっそ戦ってみたほうが、お互い楽しくなれるのではないか。いいや。では、なぜこの男から戦わない――。

「だけど、戦う理由が……俺たちの知らない昨日に来て欲しいってのは、そっちだって同じだろ?」

 回転する思考の転回を受けて言葉が口をつき、修羅ノ介は、この男に感じる親近感の源泉を視た。
 想像出来ない、世界は創造出来ない。完全者――ミュカレらも、それは同じだ。この世界は嫌だと思っているくせに
常軌を逸した世界の土台から妄想することは出来ないまま、これまでに『旧世界』から受け取った意味を拾って言葉を。
最終解決策に最終戦争、新世界に現人神といった語を繋げて、幻想を、なんとか現実にしようとしているだけの、


  少しく影に色がついたばかりのヒトビトが盤上へ唐突に放り込まれて理由のひとつもなく戦えるわけがない。


 転瞬、修羅ノ介を動かしたのは自身に対する恐怖であった。
 絡んだロープをほどく程度であった思考の回転が加速しすぎて、このままでは相手を構成する螺子や歯車さえバラバラに
分解してしまう。常軌を逸するのと他者を守らないのとは違う。
 守られなくとも生きて死んでしまえるようなヤツであるからこそ、自分はこれを喰らいたくはない。
「なんだ、それは……?」
 違う、違うと繰り返してどうにかヒトの側にとどまろうとしたくせに、指が甘えてムラクモの服を掴んだ。
「あー、えっと、その。手汗がひどいなーって錯覚がしたからつい」
「ならば、せめて外套にしておけ」
「え、なに、脇腹弱いの?」
「……………………死ね」
 だのに、この反応さえシナリオに見えてしまうまでに掴んで良かったと心から思えた。
 ああ、そこはお前は死ねでいいんだ。斬らないと負けるのに殺すとは言わないのか言えないのか、だったらアンタは
どれだけ優しく殺されてくれるのかみさま。これを胸中に留め置く藤林修羅ノ介もずいぶん優しくなったではないか。

506 ◆MobiusZmZg:2013/05/03(金) 17:23:11
「ま、嫌がるなら仕方ないな。お前の悔しがったりとかするところ、一回見てみたかったんだけどさ」
 へらへらとしながら一歩後ろに下がった少年は、まだ動かせる左手を振って汗を払うふりをした。
 文字。情報。影。種々のしがらみを纏ったままで、力に目覚めた事無草は同族喰らい<ウロボロス>の左手を伸ばす。

「さあ、綱引きを始め……始められない……?」
「なんだと……」
「だって俺、もうお前のこと選んじゃったじゃん。なんでこんなに『真面目じゃないけど変な話』に行くんだよ!」
「私の知ったことか! それを悔やむのならば、少しは考えてものを言え――」
 開いた指の銀花に冷えてゆくその先で、ムラクモの眉がしかめられた。
 許容とかけ離れた怒りと自制が前にでた顔つきへ、新たに加わった色は困惑。
 眉間をひくつかせている彼の視界から左手が収められ、その先では藤林修羅ノ介が『腹を抱えて笑っている』。
「やったぜ。『真面目じゃないけど変な話』……茶番や楽屋落ちって死ぬほど大事なもんでさ。
 楽屋なんざ必要なさげなアンタがそういうコト出来るように、雰囲気を壊して、まずは楽屋を創らせてもらったよ」
 真の創造は、破壊なくしてはあり得ない。
 日常を壊され家族を奪われ力の使い方さえ去勢され、それらすべてを手放してなお影に囚われた、
 少年は外界から引いてきた言葉を諦観に拠らず受け容れて、なおも抗うようにひねた笑みを口角に刻み付ける。


「なぜなら、『破壊こそが創る事そのものだからさ』。
 師匠……イゴさんのゴッドハンドにゃ及ばないが、これが俺の忍法『イゴイゴリサイクル』だ!」


 ――――口上を放った藤林の、修羅ノ介の出で立ちからは、冬の気配がゆるやかに拭われていた。
 痛みを喪わず、なれど傷に固執せず。ヒトガタを成したときの言葉どおりに動く少年は、今こそ世界という激流に、
自分自身という濁流に、無自覚という清流に正しく抗うものとしてある。
「さあ、だから、今度はそっちが選べ。ロイスなんざ一方通行の片思いだけど、それでもここで選んでよ」
 先ほどの言に沿うのならば、「壊してよ」と同義の言葉を、彼は優しい響きでさえずる。
 世界も人も赦せないのに手放したり見放したりすることだって出来ない、お前、この世界がけっこう好きだろ。
 好きだという言葉の白々しさを知っていながら、それを口にすることで生にすがる化け物が、
「それならもう、ここでかみさまを殺して全部終わらせて、誰も悲しまない世界にしよう」
 世界へ色を、音を光をつけるように甘く、せつない声でうたう。
「……でもリリカルポップ・ダンジョンシアターは恥ずかしいんでちょっと今風に」
 言い終わって、はじめて羞恥心の存在を思い出したとでも言いたげに、でたらめな言葉をつなぐのだ。


「『カミサマヤメマスカ』――ッて、え?」


 ああ、ああ。……歌を覚えたばかりの声でわめくな。
 何を無理をしているのか、何に堪えているのか何を望んでいるのか、
 そのすべてを知らずともお前は。『お前たち』は自儘に、自力で救われて征くのだろうに。
 失ってなお喪わぬものどもは、こうして、命を落としてなお落とし得ぬものさえ奪ってゆくのだ。
 そうして、それが。このひととき、命を賭け金として遊戯に興じることが、なにゆえかひどく面白い――。



 ◆◆


 ▼ムラクモ用リバースハンドアウト
 シナリオロイス:完全者  推奨感情 ポジティブ:懐旧/ネガティブ:侮蔑

 キミは、過去に箱庭の楔となる『星の意志』の声を聞いたことがある。
 魔戦の始まる前、旧世界に死をもたらす黒き鳥・ヴァルキュリアを打倒した一因もそこにあった。
 だが、星の意志を取り込んだという九重ルツボは、キミに向けてこう言った。
「『いびつな戦役<バロック・キャンペーン>』を私戦<フェーデ>に変えられるときは、今より他にありませんよ」
 すなわち終わるしかない世界で、ここからは一騎討ちをするしかないほど限定された状況に向かってしまうのだから、
 自分の好きにしてよいのではないかと。

 キミは、完全者の手で望んだ世界――無価値と断じた人間が減った世界を創られている。
 だが、それでもキミはあの魔女に刃を向けた。
 あのとき、キミは、掲げた使命以上のなにを望んだのだろうか。


 ◆◆


.

507 ◆MobiusZmZg:2013/05/03(金) 17:25:21
 情報の塊である『萬川集海』を、おのが核としているがゆえにか――。
「……やはりな。そういうことかって、ツナセンなら言うだろうよ」
 あるいは茶化すような言葉のとおりに、予想から外れていなかったであるからか。
「何を我慢してたのかなって思ってたけど、それこそこの盤をひっくり返して『壊すこと』だったわけだな」
 藤林の、修羅ノ介は、問題の要諦を捉えて言った。
「それならお前はやれる……のかなあ? なんだかんだ、人減らしも完全者サンにやってもらったんじゃない」
「……では、やれた方が良かったのか?」
「んー、まあ、どっちもヤだね。だって俺、こんなザマでもまだ死にたくないし」
 でもまあ、そうやって照れ隠し出来るアンタにほっとした。
 さながら保護者であるかのように言う少年。神を辞めたという人間の、神のごとき安堵を前にして、
 私は、どのような顔をすべきか解れぬままに息を吐く。
 創って壊す。その言葉に自身が釣り合わぬなどと、この草は欠片たりとも考えまい。

  ――救世主の使命なんかより大事なものはあるよ。

 神であるならその不遜をこそ受け容れよとばかりに私の前へ立つ、賢しさへ水と桜が混淆する。
「で、どうやってこれ壊すの?」
「影弥勒が忍法【合方】。終焉の石<デミクリスタル>を埋め込む際に、お前の『絆』を奪っている」
「はぁ? 絆、て――そいつは『魔獣の絆』ッ!?」
「そのとおりだ。この絆が綾なすは、妖かしどもが忍法【魔界転生】。これで一手は稼げようが」
「うん、俺それが本業だから知ってるよ! てぇか、俺もソイツは使いたいんだけどマジでここにあったの!?」
 言いながら、藤林の若者は忍術秘伝の巻物を四肢より乱雑に引き出した。
 そのうちの『どれが頑丈なつくりをしているのか』認識して、私は、壊すために瞑目する。
 迎撃でなく反撃でもなく、純然たる進撃のために征く、耳朶にバリトンが染みた。

「あぁ、無い物はしゃーねえ。……ならもう、せめて『エゴ』じゃなく『愛』をもって、そいつを使いやがれ!」


  世界の何もかもが許せねえ、俺が許すから。


 化け物であろうとする人間をこれほどに許容する、この少年こそ神なのではないか。
 追憶の入り口にあって、あれの忍法はいまだ力を発揮しているようであった。



 ◆◆



 追憶の行われる、どこにも届かない一瞬で、藤林修羅ノ介は息を吐いた。
「ったく、さすがに軍人なだけあって、戦い方とか分かってやがる。
 この戦争、結局は壊しあい……てか、空白<ブランク>になってる過去の創りあいなんだよねぇ」
 結局、ちらとも視線を向けられなかった完全者と『ファルコンブレード』高崎隼人……忍法の布石であるとはいえ、
下手をすれば衆人環視の戦場ロマンスのような何かを演じかねなかった状況を思えば、そこにため息が続く。
 そうしてついに、ため息は八つ当たりとなって絶対の他者にと向かった。
「微妙に乙女ちっくになった俺が気持ち悪いんだけど、せめてなんか言わせろよあの莫迦。
 【魔界転生】の反動も『4点になっちまったヤツ<絶対防御>』で防げたけど、人目のあるとこで見せたくな――あ」
 それは駄目だと思い直すと同時、思考も醒めた。
 かなり緊張していた自分自身を見つけた少年は、これから纏うと決めた『影』に意識を向け直す。

 真面目じゃないけど変な話。
 その『変』で脳が動き、喰らった意味から新たな何かが生まれるのならば、それはべつに構わない。
 だが、真面目じゃないうえに変なところさえない話は無為や益体もないといった形容を通り越して無意味に。
 ――単なる無意味ならばまだいいが、恥ずかしげもなく白くて淡い、透き通るものに堕してしまうと思えたのだ。



 ◆◆


.

508 ◆MobiusZmZg:2013/05/03(金) 17:27:14
【交錯迷宮・咲乱の間】
【ムラクモ@エヌアイン完全世界】
[状態]:【人類の敵】、侵蝕率120%、衝動:解放、青×黒カラー
[シンドローム]:ノイマン/エンジェルハィロゥ(クロスブリード。思考強化と屈折率の変更)
[エフェクト]:《コンバットシステム:白兵》、《エクスマキナ》、《陽炎の衣》、《神の眼》、《ゆらめき》、《朧の旋風》、他
[Dロイス]:反抗者、??? [ロイス]:完全者(Positive:懐旧/○Negative:侮蔑)
[忍法・奥義]:【達人:《刀術》】、【合方】、【秘剣『人間華』:クリティカルヒット《封術》】
[エクストラアーツ]:大乱れ雪月花【桜嵐】(月下美人装備時のみ/属性:神斬、氷撃+5、敵勢力全体を攻撃)
[装備・所持品]:六〇式電光被服@エヌアイン完全世界、神鏡@シノビガミ、銀朱の外套@花帰葬、
 月下美人【天霧】(Mサイズ・刀/パライズ、AP+9、オーバーソウル種に特攻)@ラストレムナント、
 魔獣の絆(流派を問わず【魔界転生】が使用可能になる)@シノビガミ、???
[思考]:【魔界転生】で過去時制のドラマシーンに移行。修羅ノ介にロイスを結ぶ……?
[備考]:儀式忍法『天魔伏滅の法』と、その変奏『綾鼓ノ儀』を発動させています。
 この儀式忍法が発動している間、【生命力】がゼロになったキャラクターは必ず死亡します。
 侵蝕率は120%固定。ロイスは取得可能ですがタイタスの昇華は出来ません。
 Eロイス(エグゾーストロイス)をもたず、通常のロイスを取得しているため、ジャームではありません。


【藤林修羅ノ介@シノビガミ・リプレイ戦】
[状態]:【右腕使用不可】、【限界寸前 >> 終焉の継承者】、侵蝕率???%、衝動:憎悪、【生命力】残り2点
[シンドローム]:ウロボロス/???(ブリード:不明。影の使役・能力の模倣)
[ロイス・タイタス]:愚者の黄金(Dロイス)、ムラクモ(Sロイス・○Positive:親近感/Negative:憐憫)
[忍法]:【末裔:鏡地獄】、【内縛陣:《呪術》】、【御斎魂:《意気》】、【早乙女】、【達人:《火術》】、【鏡獅子:《火術》】
[奥義]:【傷無形代:絶対防御《呪術》】−同じシーンにいる者からひとり選び、【生命力】の減少を4点まで無効化する
[背景]:【他流派の血(常世:屍人使い)】、【末裔(伊賀者:鏡地獄)】、【政治的対立】、【目撃者】
[装備・所持品]:萬川集海@シノビガミ・リプレイ戦、御斎学園の生徒会専用白ラン@シノビガミ、
 終焉の石(デミクリスタル相当/レムナント種に特攻、アニメート無効、ユニークアーツ+5)@ラストレムナント、
『砂時計週報』日本語版@シニカルポップ・ダンジョンシアター 迷宮キングダム
[思考]:過去から想い出<人間>を見出……そのプライズ俺が持ってたのォッ!?
[備考]:修羅ノ介の体を構成しているのは、萬川集海@シノビガミ・リプレイ戦です。
 弱点【目撃者(超存在たる『忍神』と遭遇したことで現在を正しく生きることが出来ず、同時にふたりまでにしか
 感情を抱けない)】を克服する条件を満たしました。
 自身の心を確かめ、ショックを受けることでオーヴァード@ダブルクロス The 3rd Editionとして覚醒しました。
 《リザレクト》、《ワーディング》、《イージーフェイカー:無音の空間》以外のエフェクト・ウロボロス以外の
 シンドロームは不明。また、「制限:侵蝕率100%・120%以上」のエフェクトを使うことは、彼に大きな負担を強います。


【完全者@エヌアイン完全世界】
[状態]:【人類の敵】、転生中、???
[装備・所持品]:???
[思考]:???
[備考]:高崎隼人(たかさき・はやと)@ダブルクロス・リプレイ・オリジンに転生していました。

【高崎隼人@ダブルクロス・リプレイ・オリジン】
[状態]:侵蝕率100%未満、重度刺傷、《リザレクト》中、白い髪と赤い瞳、???
[シンドローム]:モルフェウス/ハヌマーン(クロスブリード。物質錬成と反射神経の強化)
[ロイス・タイタス]:生還者(Dロイス・侵蝕率を減少させる際にダイス数が増加)、???
[装備・所持品]:完全者@エヌアイン完全世界と共通
[思考]:???
[備考]:参戦時期は『ダブルクロス The 3rd Edition データ集 レネゲイズアージ』巻頭コミック以降。
 《リザレクト》による自動回復の速度が低下しています。

509 ◆MobiusZmZg:2013/05/03(金) 17:29:40
【高崎隼人(たかさき・はやと)@ダブルクロス The 3rd Edition】
『ダブルクロス・リプレイ・オリジン』のPC1。
 UGNチルドレンとして様々な街に赴き、レネゲイドと能力者から日常を守る少年。
 普段は気怠げにしているが、任務はけして放棄せず、やる気になれば実力以上の力を発揮する。
 かつては、絆を喪ってジャームと化したオーヴァードを人間に戻すために始められた「プロジェクト・アダムカドモン」の
 実験体であり、暴走した計画において『ダインスレイフ』と呼ばれる戦闘用人格<Dロイス>を与えられていた。
 現在のコードネームは『ファルコンブレード』。戦闘においては物質を錬成するモルフェウスの力で思い出の写真から
 日本刀を作り出し、ハヌマーンの超スピードをもってそれを振るう。


【ウロボロス@ダブルクロス The 3rd Edition】
 サプリメント『インフィニティコード』で追加された、オーヴァードの十三番目の能力。
 別のシンドロームに目覚めた者が持つエフェクトを取り込み、自分の力とすることが出来る。また、世代によって
 進化するウィルスの特性どおりに喰らった能力――外部刺激からの自己進化を繰り返す特性に秀でている。
 純粋にウロボロス自身のものといえる能力としても、『影』と呼ばれるものを扱う力が挙げられる。
 藤林修羅ノ介のプレイヤーである田中天は、『ダブルクロス The 3rd Edition リプレイ・ナイツ』で、公式リプレイ
 初となるウロボロス・シンドロームのPC、炎の魔神ラハブを演じていた。

【Dロイス(ディスクリプトロイス)@DX3】
『上級ルールブック』で追加された、自分に対する特殊なロイス。
 取得したキャラクター自身の過去や特徴、強い思いを、データ的な裏付けも含めて表現する。

 ▼反抗者(レジスタンス)
  キャラクターが、とてつもなく強大な敵手と戦っていることを表すDロイス。
  このDロイスを持つ者が有する不屈の精神は、ぎりぎりの死地においてかれに勝利をもたらす。
  万物の理は闘争にあるとしたムラクモが反抗<闘争>をやめるのは、勝利か、死を迎えたときだけだ。

 ▼愚者の黄金(デミクリスタル)
  レネゲイドウィルスの結晶・賢者の石の紛い物に適合したことを表すDロイス。
  デミクリスタルに適合した者は、石の力を引き出すことで一度だけエフェクトのレベルを上げて
  使用することが可能になるが、代償としてHPを失う。
  また、このDロイスを持つ者が死亡すると身体は塵のように崩壊し、あとには力をほとんど使い果たした
  デミクリスタルだけが残される。
  藤林修羅ノ介が手にした石は、『神の現実態』たるエヌアインがその身に埋めたものだった。

 ▼生還者(リターナー)
  このDロイスを持つキャラクターが、強い自我で衝動から生還する者であることを表す。
  代わりに、このDロイスを持つ者は他のDロイスを取得することは出来ない。
  隼人の記憶、けして手放せない日常に対する思いはリプレイ本編の彼を幾度も人間につなぎとめた。


【Eロイス(エグゾーストロイス)@DX3】
 レネゲイドに侵蝕されて理性を喪ったジャームのみが取得出来るロイス。
 超人を日常へと繋ぎ止める絆<ロイス>をすべて無くして燃え尽きた魂のなかに、わずかに残る人間性の残滓は、
 歪んだ心が求める衝動を満たすためにかれらを動かす。ジャームとなったものはEロイスと、自身のもつ
 力の特性を示すDロイス以外のロイスを新たに取得することは出来ない。

【リバースハンドアウト@DX3】
 サプリメント『ユニバーサルガーディアン』で追加された要素。
 他のキャラクターに対して非公開の背景を持ってセッションに参加する。
 情報判定で内容が分かる【秘密】とは違い、内容を公開出来るのは持ち主のみである。

【合方@シノビガミ】
 血盟の仲間と連携行動を行うことを示す、常駐タイプの「装備忍法」。
 戦闘中、自分と同じプロット値に血盟の者がいる場合はあらゆる行為判定に+1の修正がかかり、また、対象にした
 血盟の者との間で同意が得られれば攻撃を行う代わりに忍具<支給品>の受け渡しを行うことも出来る。

【魔界転生@シノビガミ】
 妖怪や年を経た獣らがゆるやかに集う「隠忍の血統」の流派忍法。
 戦闘中、自分が攻撃を行う代わりに【生命力】を消費して、自分をシーンプレイヤーとした過去の
 ドラマシーンに移行する。一度の戦闘に回しか使えないが、戦闘しながら手数を増やすことが出来る。

510 ◆MobiusZmZg:2013/05/03(金) 17:31:46
Scene 09 ◆ 断簡・散り往く桜の語部


 ああ、やっと起きたね。おはよう。
 目覚めはど……え? 寒くはないのかって、なんで、僕の側がそんなこと訊かれるのさ。
 そりゃ、こんな雪だけどさ。
「ここはどこだ」とか「なぜ助けた」とか「お前は誰だ」とか、まずはそういう質問をするんじゃないの?
 え、あ……うん。そう。僕がきみを助けたんだ。この――雪がやまないから上着かけたり、焚き火とかしてみたりで。
 きみは戦いだけが得意なのかと思ってたんだけど、そうやって、自然に聞き出すことも出来るんだね。

 でも、やっぱり名前とかは忘れちゃってるか。
 ……ああ、ごめん、こっちの話。きみは知らなくても平気だからさ。

 きみの名前は『アカツキ』。 
 日の出とか黎明とか、そんな意味合いの言葉だね。
 ここ、底なしの迷宮だから太陽なんて見えないんだけど。きみの戦いぶりは、たしかに太陽みたいだったよ。
 うん。あの森の向こう、見える? 大陸間弾道列車砲『グングニル』――えっと、なんか、ものすごい射程の鉄砲……?
 あ、それ。大砲。そんな危ないモノが、あそこにあった要塞を見つけたヒトたちを一網打尽にしてさ。
 それだけなら【発射台】の拠点を壊しちゃえばいいんだけど、この迷宮の核を支配したヤツ……ものすごい雷使いの、
黒須左京ってバカが魔物まで呼び出しちゃったんだよね。小鬼とかバンダースナッチとか、ザコならともかく火炎魔神みたいな
ヤツらまでいる砦なんて、下手に行ったら各個撃破されるのは目に見えてるでしょ?

 だから、僕らはアイツらに戦争を仕掛けたんだ。小隊<ユニオン>を組んで魔物の群れと戦うのが普通だったっていう
侯爵様……ダヴィッドってヒト……ミトラっていう種族なんだっけ?
 あー、うん、ゴメン。訊かれたって覚えてないよね。
 ソイツと、ソイツの脇を固める四将軍……うーん。二刀を使う女の人の他には、四本腕の猫<ソバニ>とか、二本の足で
歩ける魚<ヤーマ>とかカエル<クシティ>とか、変だけど強くて、ムカつくくらい真っ直ぐなヤツらがいたんだ。
 で、ソイツらのところに忍者とかオーヴァード、ランドメイカーみたいな強いヤツらがたくさん集まってきてたんだよ。

 それでも、結果はこのとおりさ。
 この平原って、もとは森だったところだし、一緒に戦ってたヤツらも、もう何人も生きちゃいない。
 完全者を一回倒すまではいけたんだけど、本陣に【リセットスイッチ】ってのが仕掛けられてた。ほとんど、っていうか
全部そのせいだな。
 なんていうか、ひどい名前の戦罠<トラップ>だよね。
 そいつを誰も見つけられなかったのが悪かったんだけどさ、攻め込んでいった側は消耗したままなのに魔物や罠は全部
元に戻りました、なんて身も蓋もなさすぎると思わない?
 で、そのままダヴィッドたちも初手を取られたから、最後は撤退戦にもならなかった。
 攻めれば大抵の敵は蹴散らしてたし、護りにまわっても鉄壁だったのに、兵の士気って簡単に上下するんだね。
 僕? 僕は後方にいたよ。剣なら少しは使えるけど、あのとき風邪をひきかけてたから。だからきみを拾えたんだ。
 う……うるさい。子供だからなんて言うな。『始末屋』のアリサやエヌアインは、僕より年下だったんだぞ。

 名前? そっか。僕の名前も、もう一回言わなきゃいけないんだ。
 花白。僕は花白っていうんだ。きみの切り札の名前は、たしか『桜花』だったよね。
 ん。春に咲いて、この雪みたいに空から降るしろいはな。――これは、桜と同じ名前だよ。

511 ◆MobiusZmZg:2013/05/03(金) 17:33:48
※イゴイゴリサイクル
『花帰葬』を制作したHaccaWorks*の二作目、『あかやあかしやあやかしの』の劇中に登場する幼児向け工作番組。
 白手袋にステッキを持った紳士「イゴさん」が、相手役の子供「イゴンくん」と会話しながら、ゴッドハンドで様々なものを創造(破壊)していく。
「よく分からないがカッコいい」というのがヒトビトの評価であるらしく、テトリスが視た過去の風景においても、修羅ノ介らの世界に住まう
 子供たちが番組のテーマ曲を口ずさんでいた。
 "創って壊す〜それが真理〜しんらばんしょー♪"

※スプレンディッド・ビッグ・ウォー(Splendid Big War)
 交錯迷宮の森林部・閃刃の間で「戦争の夏」を終わらせた大規模戦闘。
 人類の敵と迷宮支配者が集う【要塞】を陥とすことに加え、そこに据えられた【発射台】――「大陸間弾道列車砲
 『グングニル』@ダブルクロス・リプレイ・トワイライト」を破壊して、再度の砲撃を止めるのが寄せ手の目的であった。
 集団戦闘の指揮に慣れた青年・アスラム侯ダヴィッド@ラストレムナントと、小隊の長<ユニオンリーダー>を
 務める者の手によって束ねられた強者は、それぞれが持ち得た力を尽くして拠点を落とすことに成功する。

 だが、拠点の本陣に仕掛けられ、発見されなかった【リセットスイッチ】の罠が発動したことで戦況は一変。
 これまでに倒した魔物や死んだはずの完全者らが蘇った状況にあって、死力を尽くしたがゆえに消耗した
 ダヴィッドたちは撤退戦以前の状況に立ち向かうことを強いられる。
 大盤振る舞いの許された『素晴らしき大きな戦争』は、月下美人の力を引き出すユニークアーツ『大乱れ雪月花』
 によって終わりを告げた。

512 ◆MobiusZmZg:2013/05/03(金) 17:34:52
以上で投下を終わります。
そして、藤林修羅ノ介(シノビガミver.)のキャラクターシートと登場人物一覧を「公開情報」に。

 キャラクターシート:藤林修羅ノ介 ttp://www.eonet.ne.jp/~ice9/3rowa/etc_cs01.html
 登場人物一覧 ttp://www.eonet.ne.jp/~ice9/3rowa/etc_chara.html

TRPGリプレイを読んだ後にキャラシートを眺める時間も好きなんで、そういうところが状態表とかにも出てます。
『ダブルクロス』くらいになるとエフェクトの量が多いのでアレなんですが、そっちもうまいこと見せられればいいな、と。
ページ名にしている『アイテム・コレクション』『キャラクター・コレクション』等にもお世話になりました。

513名無しロワイアル:2013/05/03(金) 21:23:04
うん?もうラジオ始まってる?

514FLASHの人:2013/05/03(金) 21:28:23
ラジオ一応開始です。
こちらからどうぞ

ttp://www.ustream.tv/broadcaster/new/3580224

515 ◆MobiusZmZg:2013/05/03(金) 22:20:10
あ、遅れましたが元ネタは『花帰葬PLUS+DISC』の「打鶏肉」です>289話
ゼロ羽>一羽>二羽>三羽(天・地)>四羽>五羽(陰・陽)と、
タイピングゲームのなかでも分岐があったんで。
つまりはそういうことです。はい。

516 ◆MobiusZmZg:2013/05/03(金) 22:20:56
……スレ間違えッ……!(1ゾロ感)

517 ◆uPLvM1/uq6:2013/05/03(金) 22:43:17
皆忘れてると思うけど変態ロワ投下します。

518158話 走る変態  ◆uPLvM1/uq6:2013/05/03(金) 22:45:32
安錠は涙を流しながら、城を走り回っていた。
走り回っていたというより、逃げ回っていたという表現のほうが正しいのだが。

(殺される殺される殺される殺される殺される殺される……)

彼のスタンスは殺し合いはせず、ただ隠れ続けること。
しかし、バトルロワイアルが中盤に差し掛かった頃に、謎の気持ち悪い生物に見つかった。
そして生死をかけた鬼ごっこが始まったのである。
そのため、立ち止まればその生物に食われて死ぬ、と安錠は思っている。
が、自分を追いかけていた生物が、既に死んでいることに安錠は気づいていない。
安錠を追いかけていた生物、レギオン・ムクロはキシンによって退治されていた。
クルクル回転しながらレギオンに突っ込んでいく様は、まごうことなき変態であった。
安錠にとって幸いだったのは、キシンが自分の存在に気づかなかったことである。
もしキシンが存在に気づいていたなら、既に安錠の命は無かったのだから。
そんなこんなで、安錠がもう謎の生物に追いかけられていないことに気づくのは、少し先の話である。
と同時に、最終決戦の場である最上階へ近づいていることに気づくのも、先の話。

【安錠春樹@新米婦警キルコさん】
[状態]:恐怖
[装備]:拳銃@現実 おなべのふた@ドラクエシリーズ
[道具]:基本支給品一式、エロ本
[思考・状況]
基本:この殺し合いを打破したい……俺は無理。
1:止まったら殺される……!
2:死にたくねえ!
[補足]
安錠春樹は追っ手がいないことに気づいていません。
また、最上階に向かって走っていることにも気づいていません。


□□□


さて、安錠の存在に気づくことなくレギオンを倒したキシン。
彼もまた、最上階に向けて変態的な速度で走っていた。
いつものような変態的な動きはできないが、それでも変態的な速度で走り続ける。
ちなみに、走っている方向は安錠とは全く違う方向だが、最上階へと向かうもう一つのルートでもある。

(ジュスト……もうすぐでお前の敵はとれる……!)

最上階にはジュスト殺した、髭をたくわえた老人。
恐らく奴もドラキュラであろう、なんとしてでも奴は殺さなくてはならない。
はじめは優勝するつもりだった。
だから他の参加者を躊躇無く殺した。
しかし、最上階に奴がいるとなれば話は早い。
敵を討つのだ。
奴を殺すのだ。
ドラキュラを、殲滅する。
邪魔をするものも殺す。
彼の頭の中には復讐という二文字しか、ない。


【マクシーム・キシン@悪魔城ドラキュラ】
[状態]:健康、疲労(中)
[装備]:日本刀@現実 ヨーヨー@現実
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本:主催を殺す。そのためなら他の参加者も容赦なく殺す。
1:最上階へ向かう。
2:邪魔をする者は殺す。

519158話 走る変態  ◆uPLvM1/uq6:2013/05/03(金) 22:46:05


□□□


「ワシのことはいい! 早く最上階へ急ぐんじゃ!」
「で、でも! 亀仙人を置いていくことなんてできないよ!」
「早く行くんじゃ!」

一方、ふんどし仮面一行は危機的状況に陥っていた。
亀仙人がいまにも、落とし穴に落ちそうになっているのだ。
ギリギリ床を掴んでいるのだが、最早命は風前の灯火である。
亀仙人にはもう、右腕がない。
従って、左腕でしか掴むことはできない。
片手で自分の全体重を支えているのだ。
さらにここまで、最上階に向かって休まずに移動していたので、疲労も溜まっている。
限界は近かった。

「クッ……! 少しでも休んでいればこんなことには!」
「…………ひとついい?」
「なんだ! お前も見ている暇があったら手伝え!」
「…………普通は、あんなみえみえの罠には引っかからないよね?」
「…………そうだな」

ムッツリーニこと土屋康太が指差したのは、落とし穴の手前にある台。
そこにはエロ本が置かれている。
そう、亀仙人はあのエロ本を取ろうとして罠にかかってしまったのだった。
他の三人はあからさまに怪しいなと思い、取ろうとはしなかったが、亀仙人は違った。
普通に取りに行った。
結果、今の状況に至る。
ふんどし仮面とクマ吉はそのことを思い出し

「ああ、じゃあ別にいいか」
「亀仙人! 君の犠牲は忘れないぞっ!」
「ええっ!?」
「よし、最上階に急ぐぞ」

あっさりと亀仙人を見捨てることを決めたのだった。
今までのやりとりはなんだったのだろうか。
この数分後

わしは ふかい ふかーい やみの なかへと
てんらくした。
そして そこによこたわる ドクロたちの
なかまになるのを まつだけになってしまった。
ざんねん!!
わしの ばとるろわいあるは これで おわってしまった!!

亀仙人は死神を見たという。

「あんな罠に引っかかりにいくなんて、亀仙人はまさしく、しんのゆうしゃだよ!(笑)」


【亀仙人@ドラゴンボール 死亡】
【残り5人】


【ふんどし仮面@銀魂】
[状態]:限界寸前、疲労(中)
[装備]:盾@現実 
[道具]:基本支給品 月刊チェヨンス@ギャグマンガ日和 上条の右手@とある魔術の禁書目録
[思考・状況]
基本:この殺し合いを打破する。
1:最上階へと向かう
2:亀仙人……お前のことは忘れない……

【クマ吉@ギャグマンガ日和】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(中)
[装備]:ジャスタウェイ@銀魂×10 西洋の鎧@ギャグマンガ日和
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本:この殺し合いを打破する
1:最上階へと向かう
2:亀仙人……プークスクスwwwwwwww

【ムッツリーニ(土屋康太)@バカとテストと召喚獣】
[状態]:疲労(中)、フラッシュバックによる無効化の可能性
[装備]:クサリ@悪魔城ドラキュラ
[道具]:基本支給品 エロ本 輸血パック@バカとテストと召喚獣
[思考・状況]
基本:この殺し合いを打破する
1:最上階へと向かう
2:…………なんで、引っかかったんだろう

520 ◆uPLvM1/uq6:2013/05/03(金) 22:46:40
というわけで158話目終了です。
おもっくそ忘れてましたすんません……

521 ◆MobiusZmZg:2013/05/08(水) 17:27:13
『Splendid Little B.R.』、ちょっとSSの内容を修正したので報告を。
黒須左京からアカツキに結んだロイスの感情、「憐憫/殺意」を、
ダイス振った結果に沿って「親近感/殺意」に変更します。
自分以外の誰かへ、ポジティブ・ネガティブで表裏一体になった思いを抱くのが
ロイスなんですが憐憫は間違ってもポジティブじゃねえよ!w

と、報告の義務はあまり無いんでしょうが、他のどなたかに見られてる・どなたかに
伝えているという観点は持っていたいのでこちらに。
次の投下は……またちょっと色々仕込む羽目になるんでゆっくりになりそうですが、
そのネガティブ感情に尖りまくった左京さんと、アカツキのお話になると思います。
雷使いどうしの対決とか見た目からしてカッコいいですね!

522名無しロワイアル:2013/05/08(水) 22:00:30
>>520
へ、変態だー!?
最強戦力と思われた亀仙人が割と初期の頃のノリで墓穴掘ってクソ吹いたww
クマ吉とふんどし仮面もあっさり見限りやがってw
次もどうなるのか楽しみにしてます。

>>521
あと3話詐欺(褒め言葉)がどう転ぶのか常に楽しみにしています。
TRPGが良く分からないのが残念な所。小学校の頃は友人に付き合ってやってたんですが。

折角だから雑談ネタも振ってみる。
皆さんこの3話ロワ企画で知って、読んでみたい・見てみたい・やってみたいと思った作品はありますか?
自分はワイルドアームズ3とトトリのアトリエです。
ええ、想い出ロワに影響されましたとも。
しかしバトライドウォーに買いそびれたマクロス30に迷っているDIVAf、
やりこみ中のUXにいつでもやりたい大神……最近は良作が多くて困る。

523名無しロワイアル:2013/05/08(水) 23:39:26
>>522
ゼクレアトルかな…>読んでみたい

524名無しロワイアル:2013/05/09(木) 23:15:51
>>522
読んでみたいと思ったのは想い出ロワの『レジンキャストミルク』、
やってみたいのは剣士ロワの『大神』だなあ……。
前者は殊子のキャラが、後者は神さびた色合いの世界観がよく伝わったのです。
で、もう持ってるしやってるけれど、作品に影響されて触り直したっていうのが
『クロノ・クロス』と『ワイルドアームズ3』でした。
書き手さんさえよければロボロワにイルランザーとかフェイトとか出てもいいんだよ……
と無責任に思っていた読み手だったので、9D氏の手によるクロノ・クロスは嬉しかったッ!w

TRPGは >522 氏とは逆に、小学生の頃に出来なかったけれどTwitterなどの
オンライン募集をとおして十年越しの夢がかなった! やった! ってヤツでしたねー。
『シノビガミ』『ダブルクロス』ともに、リプレイ読んでても面白いですし、後者はたしか
アニメ版『氷菓』でも遊んでるシーンが出てきたり、声優さんの参加もちょこちょこあるので
「あのゲームなんなの」とか「主人公が若林神だと……!?」とかから読んでみても面白い気がしますー。

525名無しロワイアル:2013/05/10(金) 00:33:19
>>522
大神やりたくなった
前から気にはなってたんだけど手を出せてなかったんだよな

526 ◆nucQuP5m3Y:2013/05/10(金) 17:31:34
>>522
割と把握率高いので改めてってそんなにないんですが、
やっぱレジンキャストミルクかなあ
あとはスパロボ効果もあるけどSD三国伝!

>>523
やったー!書いたかいがあったというもの!
まあ読む人を選ぶタイプなので手放しで推薦できない感はありますが
それでも読む人が増えたら嬉しいことこの上ない!!

527名無しロワイアル:2013/05/10(金) 19:34:46
は、花帰葬(小声)
花白の最期に震えたけど乙女ゲー?なんだよなぁ

528 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/05/10(金) 20:30:58
>>524
俺好みの発想だ……(下っ端風に)>ロボロワにフェイトでもイルランザーでも
というか、隙あらばグランドリオンを魔剣にしてスバルかエックスにプレゼントしようと画策していましたw
ちなみに、グランドリオンは剣士ロワではオキクルミと共に孫権の真の勇気によって救われ、最後はゼンガー(α外伝)と共に壮絶な最期を遂げました。
あとは本編中にダリオぐらいしかクロス要素を入れられなかったのが心残り。
俺とお前達でトリプルグレン団(要するにグレン2人と鬼リーダー)とか考えていた時期もありました……。
余談ですが、クロノ・クロスがお好きでしたらファントム・ブレイブがある意味オススメ。
人間と亜人種が存在=種族間の差別や軋轢がある、というクロスでも存在したお決まりパターンを完全無視。
最初から、あらゆる人種が一つの世界の住人としてごく普通に共存して暮らしております。
ファルガやイレーネス、ゼルベス、亜人の賢者に是非とも見せたい世界です。

>>大神、三国伝やってみたい・読みたい
書いた甲斐が、あったというもの!
大神で注意点は、オキクルミは終盤に登場する重要人物ということですね。
あと三国伝は漫画版(風雲豪傑編、英雄激突編、戦神決闘編、計8巻)がオススメ。
漫画だとSDガンダムシリーズのメインテーマ『光と闇の戦い』が描かれているのと、曹操の苛烈な一面が強調されているのもポイント。
アニメに比べて孫権が地味というか劉備と曹操に食われ気味という難点がありますが。
アニメもアニメでメイン主人公であるホンタイさんを蔑ろにし過ぎている点が非常に気に食わない。
プラモキットでは、轟大帝孫権、真・翔烈帝劉備、玄武装呂布、呂布+天玉鎧セット、紅蓮装曹操+猛虎装孫権セット、天熾鵬司馬懿サザビー
などが特にお勧め。

529 ◆MobiusZmZg:2013/05/11(土) 12:27:04
>>528
うおお、熱い……!>真の勇気
ラスト三話で十分伝わりましたが、『光と闇の戦い』には、それこそ
グランドリオンとイルランザーは大事な存在だったろうなあ。
>524ではうっかりトリ外して返答しちゃってなんでしたが、『クロノ・クロス』には
テキストにおける言葉つきから何から、色々影響されました。
大好きなゲームのひとつに、いまだ思い入れを持ってくれてる方が見つかったのも嬉しいところです。

そして異種族のちゃんぽんというと、自分の場合はサガシリーズですとか、
自分のロワなら『ラストレムナント』がミトラ(人間)・魚・猫・カエルの四種族がごた混ぜに
平然と生きてて、その世界にプレイヤーとして立つのがたまらなく好きですね。
調べるかぎりでは『ファントム・ブレイブ』は隙間時間でも遊びやすそうな感じなので、
機会があれば触ってみようかと思います。


最後に、『花帰葬』が気になるあなたは……PSP版、やりましょう(笑顔)。
RPGロワの「勇者と魔王」を掘り下げるために触ってみて、最初は女性のヒロインが欲しくて
仕方なかったんですけどw それでも「この世界はどうすれば君に償えるんだろう?」を
はじめとした台詞に力がありますし、雰囲気作りも巧い。志方あきこさんのBGMもいい。
(同人版が出た当時、志方さんご本人がシナリオを読んで必要だと思ったシーンにBGMをつけたのだとか)
なにより勇者(花白)と魔王(玄冬)のうち片方が死ぬエンディングが多いし、世界を滅ぼす雪の表現が
綺麗なのに、けして死を美化していない姿勢はロワというか、ひとの生き様を書くうえでも役立つかもしれないです。

530名無しロワイアル:2013/05/27(月) 00:58:30
続きのプロットは頭にあるんだけど、
なかなかそれを文章化できぬぇ

531名無しロワイアル:2013/05/27(月) 21:40:36
>>530
いっそソードマスター形式にしてみよう(暴論)
当初は最終回をソードマスターにしようと本気で考えていたのもいい思い出ですw

黒幕「俺は1回攻撃したら死ぬぞぉー! ウボァー!!」
一同「えぇー!?」
主催者「待て慌てるなこれは孔明の罠である」

532名無しロワイアル:2013/06/09(日) 19:09:17
パロロワ系列のbotなど見かけるので、ちょっと作ってみました。

ttps://twitter.com/3rowa_bot

登録したつぶやき数は、いまの時点では130程度。
さすがにこのスレではリクエストを受けられないですけど、想い出を楽しむ時間などが生まれれば幸い。
読み返す間にも琴線に触れる表現や切り口が多くて、作業の手がしばしば止まりましたよ!

533 ◆XksB4AwhxU:2013/06/09(日) 21:25:07
おお、すげえwこんなの作ってくれるとは!

534 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/06/09(日) 22:18:18
>>532
素晴らしい。覗いてみたら早速剣士ロワの一節が出ていてしんみりしました。
少しでも皆さんを楽しめたのなら、俺は満足だ……。
ところで、剣士ロワ死者スレラジオとかやってもいいでしょうか?

535名無しロワイアル:2013/06/10(月) 00:01:32
私は一向に構わんッッ

(ん?死者スレラジオ?
 死者スレネタ投下でもなく、剣士ロワをネタにしたラジオでもない?
 一体何が始まるんです?)

536名無しロワイアル:2013/06/10(月) 00:55:30
たしか漫画ロワとかの死者スレでやってた、登場人物のロワ内での行動とか
異名、ネタなんかを紹介するヤツ……かな?>死者スレラジオ
たいてい、パーソナリティが見せしめのひととかなんだよねw
予想が間違ってたらあれですが巻末漫画読んだり、ギャグ調のおまけシナリオを
見たりするのが好きな自分もばっちこーいですよー。

537名無しロワイアル:2013/06/11(火) 00:06:15
3話ロワbot、1日12ツイートで全130ワードか・・・
全部見終わるのは結構掛かりそうだな

538 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/06/13(木) 19:33:40
>>535-536
いいんですね!? やったー!
>>536の方の説明の通りで、基本ギャグでネタ満載でカオスです。三国伝の公式ページぐらい。

漫画ロワの死者スレで停滞していた死者スレラジオを勝手に再開させて以降、ほぼ毎回投下していたのは私だし、
ロボロワに至っては死者スレネタの大半が私のネタでした。人気投票の集計と発表もやってたり。
そうか、死者スレラジオを知らないロワ住人の人もいるんですね……ジェネレーションギャップってやつか(多分違う)。

539 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/06/13(木) 19:34:16
司馬懿「剣士ロワ完結記念」
逞鍛(今更だなおい)
「「死者スレラジオ特別編、名前だけ出たあいつら」である」

司馬懿「さて、今回の死者スレラジオは表題にある通り、剣士ロワの最終3話で名前だけ出て来た者達を、たまに本人もゲストに呼びつつ、本編で解説役の位置にあった我らが直々に解説する」
逞鍛「孫権や衛有吾のように、本編で普通に出番があった奴もいるがな」
司馬懿「ちなみに、前回まで死者スレラジオのメインパーソナリティを務めていたのは右京さんとデスティニーガンダム。見事なボケとツッコミであった」
逞鍛「突っ込み不足で呼んでた参加者じゃないキャラが、何時の間にか居ついて死者スレラジオまでやってたとかどういうことだ」
司馬懿「所謂イボンコとウェンディの法則である。そしてフルカラーRPG編で剣士キャラだったから余裕のセーフ。では、早速始めるとしよう」

その1.幻魔皇帝アサルトバスター「刃鳴散し、華と散れ。類稀なる剣士達よ!」

逞鍛「そういえば、あと3話ロワで最初から死んでいた主催者はこいつだけだったな」
司馬懿「我らと同じ主催者でありながら哀れな奴。ちなみに死者スレでは曹操将軍によりアイマスファンとなり参加者達と和解した。
     推しアイドルは天海春香と佐久間まゆ」
逞鍛「奴もまた、俺と同じく常闇の皇によって闇へと堕ちた頑駄無だ。その為、俺達の世界と大神の世界が同一世界であるかのような描写が散見されたが、全ては謎のまま」
司馬懿「闇の使命よりも、己が力を示すという享楽を優先する愚物であった。儀式に古今東西の剣士達のみを召喚することとなったのもこやつの仕業。
     しかし、私と逞鍛が異を挟めぬ力を持つだけあり、なまじ強過ぎた。その強さ故の慢心と油断から隙が生じ、タクティモンによって深手を負わされる最大の敗因となった」
逞鍛「俺達からすれば、目障り極まりない目の上の瘤を消せた上、常闇の皇の復活の生贄にも使えた。あの状況は一石二鳥だったよ」
司馬懿「本人の名誉などどうでもいいが、付記しておくとすれば奴の力は絶大の一語に尽きる。もしも奴が生きていたなら、結末は変わっていたやもしれぬ」
アサルトバスター「ぶっちゃけ資料不足で把握きついってレベルじゃないからな」←カードダスだけでしかも絶版。
司馬懿「……そうでもあるな」←最終章3巻で大体把握できる。
逞鍛「そんなことを言っていいのか」←最終巻だけでほぼ完璧に把握できる。

その2.ゼンガー・ゾンボルト「償いようのない過ちを犯したのなら、戦うしかない。俺達は……“剣”なのだから」

逞鍛「実は最後の生き残りの対主催連中はなかなか1つに纏まらなかった」
司馬懿「そんな奴らを1つにまとめ上げた侠こそ、大地の守護神とも称された悪を断つ剣、ゼンガー・ゾンボルトなのである」
逞鍛「当初こそこっちはα外伝出典だから戦闘力に一抹の不安があるなど散々言われていたが、
    最終的にグランドリオンを手に生身で星薙の太刀を放っていた」
司馬懿「もう1人のPXZ出典の方は割合あっさりと死んだというのに、どこで差が付いたのか……」
ゼンガー「俺の存在が、勝利へと繋がったと言うなら……何も悔いは無い」
逞鍛「アサルトバスターとは逆に、お前さえいなければ闇の勝利となっていただろうな」

540 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/06/13(木) 19:39:22
その3.真の正義を持つ侠・劉備ガンダム「燃えよ龍帝剣! 宿せ正義!」

司馬懿「龍帝の魂を継ぎ、龍帝剣を継承した者。我ら闇の宿敵にして怨敵の代表格であった」
逞鍛「正直、この侠は最終局面まで生き残るものと思っていたが……ロイド・アーヴィングとの正義問答が響いたか」
司馬懿「正義を心得ずして正義を網羅したかのように語り謗る視野狭窄の愚者……ふふ、この2人を早期に遭遇するよう配置したのは正解だった」
逞鍛「しかし、その後に加わった青龍のロック……じゃなかった、楓と衛宮士郎の存在は誤算だった。2人の緩衝と橋渡しを見事にこなしていたからな」
司馬懿「なにより、青龍とは同じく龍神の力と宿命を受け継ぐ者同士……奴らは力を高め合っていた。故に危険視し妖魔王キュウビと黒き王アルトリアを向かわせたのである」
逞鍛「その策は見事に嵌り、劉備は仲間を、お前の言う愚者を庇って散った……滑稽なほどに策略通りに」
劉備「黙って聞いていれば好き勝手を! ロイドが愚者などと、どの口が言った!!」
司馬懿「正義を毛嫌いし、知ろうとも理解を深めようともせぬ輩が、正義とは暴力を正当化する暴論であるという持論をさも真理であるかのように語る。
     これを愚者の物言いとせずしてなんとするか、龍帝剣よ」
劉備「それこそは、正義を信じたくとも信じられぬ世界に生まれ、正義の言葉を暴力として振りかざす悪虐の徒に蹂躙されて生きて来た、彼の心の悲痛な叫び声に他ならない!
    ならばこそ、俺は……この魂を賭して我が正義を示したのだ!!」
司馬懿「……見事。それでこそ翔烈帝、真の正義の持ち主よ」

その4.真の理想を持つ男・曹操ガンダム「笑止。正義無くして理想無し!」

司馬懿「私の元主君である。尤も、我ら闇の使命を果たす為の依り代程度の関係であったがな」
逞鍛「それだけに、お前が最も敵視し、また危険視していた侠でもあったな」
司馬懿「然り。その太陽の如きカリスマ性で、見る間に一大対主催グループを作り上げて行った。
     闇の王アルトリアや豪将ハイドラ、朱雀を始め、多くの闇の盟主達を刺し向けたが……」
逞鍛「最後に奴を討ったのは、我々が最早闇の盟主の器に非ずと見限っていた魔星だった」
司馬懿「うむ。流石は史上唯一の闇の大将軍。事前に弱っていたとはいえ、よくぞ曹操将軍を討ち取ってくれた」
曹操「父を想う子の心、そして……子を想う父の心。余が理解できなかった情の前に、敗れ去ることになるとはな」
逞鍛「情の力、か……」
曹操「だが、闇を討つべく配した余の布陣、その全ては見切れなかったようだな、司馬懿よ」
司馬懿「星凰剣と威天剣。雀瞬の力の象徴とも言うべき双剣を魁斬に預けたまま別れた時は何事かと思ったが……
     よもや、七逆星として天命を授けられし魁斬が、天の刃の資質を秘めていようとはな……!」
曹操「自らに課せられた宿命に殉じながらも、その果てに運命を超えるという切なる祈りを胸に、己が魂を燃やし尽くしてでもそれを成そうとする心――
    それ即ち、真の理想。それを見抜けなんだ貴様の不明よ!」
逞鍛「ところで、お前の一推しアイドルは誰だ?」
曹操「菊池真だ。しかしマコマコリーンは無い」
司馬懿「私はシスプリ派であるのでファンから搾取するゲームとか心底どうでもよい」
曹操「なに……?」
司馬懿「なにか?」
曹操「こやつめハハハ」
司馬懿「ははは」
逞鍛(殺気と剣を収めろよ……)

541 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/06/13(木) 19:45:02
その5.疾風剣豪精太「歯を食い縛れ! 貴様のような我が儘小僧は、修正してやる!!」

逞鍛「今思ったが、俺達の名前は武者頑駄無シリーズに馴染みが無いと難読漢字となってしまうな」
司馬懿「酷く今更な話であるが、実際、昔日のラジオでも貴公の名前でちょっと止まっていたな」
逞鍛「こいつはゼータ、そして俺はティターンだ。共に天宮の光の七人衆に名を連ねていた。
   邪悪武者との第二次決戦に勝利した後、光の力の暴走が治まった本来の状態からの参戦だ」
司馬懿「曹操将軍の唱える理想を太陽と称し、最初に共感した戦友。この男がいなければ、もっと早くに手を打てたものを……」
逞鍛「とにかく騎馬の扱いに手慣れており、アルトリアのポンコツ道中記に騎馬戦での完敗を加えたのもこの男だ」
精太「なんだ、そのポンコツ道中記って。彼女の実力はとてもポンコツなんてものじゃなかったが……」
司馬懿「正確には、あの女を完全なる闇の王へと仕立てる為に張り巡らせた我が謀略である。悉く嵌って片腹痛すぎたが」
逞鍛「しかし、お前は結局……誰も守れなかったな。結果としてだが、曹操のグループはあの戦いで全滅した」
精太「その通りだ。それだけが、この戦場での俺の最大の悔いだ」


司馬懿「さて、こんな所であるか」
逞鍛「取り敢えず、298話分はこれで終わりだな」
頑駄無「待て! 俺達は!?」
孫権「俺たちだって298話で名前が出ていたはずだ!」
アルフォースブイドラモン「そうだよ! だから僕らも何時でも出られるように準備していたのに」
司馬懿「お前たちは普通に出番があった。故に、今回は無し」
逞鍛「まぁ、次があるかも分からんがな」
司馬懿「全くの余談であるが、剣士ロワの書き手は某所で殺伐ガンアクションのラスボスがほのぼの日常の水の惑星で過ごすという気の狂ったものを書いている」
逞鍛「大神とUXに現を抜かした上に剣士ロワを書き終えて燃え尽き気味で止まっているがな。暇に殺されそうになった時に気が向いたら探してみるといい」

司馬懿「では、次回があればその時に、再び相見えようぞ」
逞鍛「司会進行役が変わっていそうな気もするがな」
司馬懿「待て慌てるな落ち着けそうなったならそれは孔明の罠である」
逞鍛「お前が落ち着け」

542 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/06/13(木) 19:46:28
以上で死者スレネタは終わりです。
死者スレネタ書くのも久しぶりだったなぁ……。

543名無しロワイアル:2013/06/13(木) 20:57:51
はじめまして、失礼します。
最近この企画のことを知ったのですが新しく参加を申し込んでも構わないでしょうか。
申し込み期限は半年前ですしまだ書き手の経験もないのですが良ければよろしくお願いします。

544名無しロワイアル:2013/06/13(木) 21:20:10
>>543
>>365らしいですぜー、楽しみが増えたー。

545名無しロワイアル:2013/06/13(木) 21:41:48
>>543
これから毎日ロワを書こうぜ?

546名無しロワイアル:2013/06/13(木) 21:54:29
>>543
おや、いらっしゃいませ。よい完結を楽しめますようにッ!

547名無しロワイアル:2013/06/13(木) 21:58:54
あたたかい言葉ありがとうございます。
では、準備ができ次第投下させていただきます。

548FLASHの人:2013/06/14(金) 10:53:14
なんかすげえのが投下されてるwwwwwww
推しアイドル設定は必要なのか
まとめサイトに追加すべきなのか……!?

でも死者スレネタいいな……うちもちょっとやろうかな……
わりと297話分の設定はあるし

>>543
いらっしゃいませいらっしゃいませ
こちらの企画はすでに期限などあってなきが如しのお祭り騒ぎ
締め切りがあるとすれば己の心にのみ誓って突き進んで下され
投下をお待ちしております

549名無しロワイアル:2013/06/14(金) 20:10:46
>>548
やめてください(剣士ロワのシリアスな雰囲気が)しんでしまいますw

でも、それはそれで面白いかも…w

550 ◆uuKOks8/KA:2013/06/14(金) 21:47:45
1話め?を半分まで書き終えたのでロワテンプレを投下します。

551 ◆uuKOks8/KA:2013/06/14(金) 21:52:40
【ロワ名】幻想水滸ロワイヤル

【生き残りの6人】
[グレミオ@幻想水滸伝【マーダー】【極限状態】][リオウ@幻想水滸伝Ⅱ][テンガアール@幻想水滸伝Ⅱ【フラッシュバックによる無力化の可能性】][ルカ・ブライド@幻想水滸伝Ⅱ【右腕切断】][ユーラム・バロウズ@幻想水滸伝Ⅴ][リムスレーア@幻想水滸伝Ⅴ]

【主催者】
ウィンディ@幻想水滸伝→ルック@幻想水滸伝Ⅲ

【開催目的】
所有者を殺し真の紋章を手に入れる→真の紋章を集め、破壊する


【補足】
・幻想水滸伝Ⅰ〜Ⅴまでのキャラクターを集めたバトルロワイヤルです。
・真の紋章は配分アイテムに数えません。
・紋章の使用回数は全キャラ共通で8/6/4/2とします。これは例外を除き回復しません。
回復アイテムが配布されない代わりに死者蘇生を除き、紋章での回復量に制限はありません。無論、欠損した器官は喪われたままです。
・真の紋章を宿している人物が死んだ場合最も近くにいた人物に移ります。ただし自決、首輪の爆発による死亡の場合は主催者の元に移動します。
・原作とは違い宿せる紋章の数制限はありませんが宿しすぎることで精神崩壊や体調の異変が起こることもあります。真の紋章は原則1つまでです(無理に宿すと精神崩壊します)。固有紋章を他の人物が使用することもできます。
戦闘中に使用できる紋章の数はどんなに宿していても3つまでです(常時効果以外)。
・紋章師、魔法使いなら誰でも紋章を他人に宿すことができます。
いない場合でも紋章を宿すことはできますが効果は半減します。
☆ルック@幻想水滸伝Ⅲが主催者を殺害し成り代わりました。参加者リストでは死亡として扱っています。
☆紋章の効果に多少の捏造を含みます


【参加者リスト】
・幻想水滸伝(1/17)
●ティル・マクドール(Ⅰ主人公)【ソウルイーター】/○グレミオ/●オデッサ・シルバーバーグ/●レパント/●アイリーン/●テオ・マクドール/●キルキス/●カーミユ/●バルバロッサ【黄金剣・・覇王の紋章】/●クロン/●ヨシュア【竜の紋章】/●クロミミ/●バルカス/●シドニア/●ソニア・シューレン/●ミルイヒ・オッペンハイマー/●クワンダ・ロスマン

・幻想水滸伝Ⅱ(3/21)
○リオウ(Ⅱ主人公)【輝く盾の紋章】/●ジョウイ・ブライト【黒き刃の紋章】/○ルカ・ブライト【獣の紋章(使用不可)】/●ソロン・ジー/●ムクムク/●ヒックス/○テンガアール/●ビクトール【星辰剣・・星の紋章】/●ハンフリー/●ネクロード/●バレリア/●エイダ/●アビズボア/●カスミ/●ニナ/●ジル・ブライト/●シエラ【夜の紋章】/●フリック/●テンプルトン/●ポール/●ラウラ

・幻想水滸外伝(0/2)
●ザジ/●リイン

・幻想水滸伝Ⅲ(0/29)
●ヒューゴ【真の火の紋章】/●ジンバ【真の水の紋章】/●ゲド【真の雷の紋章】/●ササライ【真の土の紋章】/●ルック【真の風の紋章】/●ビッキー/●フッチ/●コゴロウ/●パーシヴァル/●エース/●クイーン/●ジャック/●アイラ/●バスバ/●シバ/●デューク/●エレーン/●アヤメ/●ピッコロ/●ケンジ/●フーバー/●メルヴィル/●アラニス/●エリオット/●ワイルダー/●ルイス/●ルビ/●ユーバー【八鬼の紋章】

・幻想水滸伝Ⅳ(0/11)
●ラズル(Ⅳ主人公)【罰の紋章】/●スノウ/●カタリナ/●タル/●ハーヴェイ/●キカ/●ジュエル/●レイチェル/●リーリン/●ラインホルト/●ミツバ/

・幻想水滸伝Ⅴ(2/20)
●ファルス(Ⅴ主人公)/○リムスレーア/●リオン/●ミアキス/●ギゼル・ゴドヴィン/●アルシュタート【太陽の紋章】/●サイアリーズ/●モルル/●ドルフ/キルデリク/●ベルクート/●マリノ/●フェルド/●ラハル/●ニック/●サルム・バロウズ/○ユーラム・バロウズ/●ボズ・ウィルド/●レツオウ/●ゲッシュ

男女比:70:30
生存比: 4: 2

552 ◆uuKOks8/KA:2013/06/14(金) 22:00:04
テンプレは以上です。補足が長いのは一々細かい所まで考えているからです、はい。そしてやっぱり状態表は長いと言われました。
1週間以内に本文を投下させていただきます。

553名無しロワイアル:2013/06/14(金) 22:10:55
>>552
幻想水滸伝きたーッ!
最終盤まで生きているルカ様とかもう恐すぎる……ッ!
リムとかグレミオも気になるし、超楽しみだ!

554名無しロワイアル:2013/06/14(金) 22:14:44
と、よく見たらルカ様マーダーじゃないのか。
それはそれで気になるッ!

555名無しロワイアル:2013/06/14(金) 22:20:52
剣士ロワ死者スレ乙〜!
本編未登場キャラの活躍分かって嬉しかったw
真の勇気でグランドリオンもだけど、個人的にはカイザーを出してくれたのが嬉しかったなーw
確かにあいつは天の刃にふさわしい。天に輝く7つ星的にも
あの最終回は子供の頃泣いた

そして幻水ロワだと!?
個人的にはテンガアールがいてくれてるのがすごい嬉しいw

556名無しロワイアル:2013/06/14(金) 23:12:22
執筆や投下など、お疲れ様ですー

……あの剣士ロワにもこんな部分がッ!?
死者スレのこの空気、なんだか懐かしくて好きだなあ。
いくら良い話を見ても、というか良い物語が終わったから「あとちょっと余韻を味わいたいな」
と感じるのだろうけど、本編のノリをキープしつつネタとしてのノリを出して掛け合いしてるのが
純粋に凄い。氏はそのへん、読ませるにあたってのバランス感覚がいいのだなあと、改めて思いますね。
しかし自分も推しアイドルはいないからか、あのへんバッサリいっちゃう司馬懿いいキャラだわw

そして、幻水ロワもすっげえ気になります。
幻水やったのは3までで、しかもRPGロワ関連だったんですが、それでも名簿を
見ていて感じるところが多いのがこのシリーズのすごいとこなんだろなあ。
ユーバーにはお世話になったけど、まさか死亡表記だけでクるとは思わなかったw
ゲーム好きとしては、紋章関連のルールがリソース管理的に楽しそうで身悶えしちまう……。
改めまして、よい完結を迎えられますようにッ。

557 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/06/15(土) 10:29:03
>>548
残念ながら、あと3話に登場した面子に推しアイドルはいないのです……
司馬懿:モバマス・グリマスのゲーム性の低さ、課金制度に幻滅。
逞鍛:なんだよアイドルって……。そんなことより語り合おうぜ衛有吾。
トゥバン:そんなことより仕合しようぜ!
タクティモン:そんなことより仕合しようぜ! 完璧算数教室もね!
スプラウト:孫娘が愛し過ぎて他が見えていない。
生還者:そんな事情は露知らず。
ちなみに、元ネタは某動画サイトの菊地真をSDガンダムがプロデュースするMADシリーズだったり。
死者スレネタは皆さんもっとやっていいと思いますw

>>555
自分も魁斬の最期には心打たれ、涙しました。
なので、実は最初、逞鍛の最期は魁斬のパク……
もとい、リスペクトした展開にしようと考えていました。

>>556
司馬懿は多分、煽りスキルがカンスト。
ちなみにシスプリ派になっている原因は公式ネタで、
曹丕を妙に楽しそうにシスプリ厨に教育していたことから。

そして新たなあと3話は幻水ロワでしたか。
未プレイですが何度か耳にしたことはあるシリーズなのでちょっと楽しみです。
またプレイ予定ゲームの増える予感が……。

558名無しロワイアル:2013/06/16(日) 01:21:26
何だよ、完璧算数教室ってw

559 ◆uuKOks8/KA:2013/06/16(日) 09:21:40
失礼します。寝ぼけていたのか所持している真の紋章を間違えて書いていたので修正します。

修正箇所
・さあ

560 ◆uuKOks8/KA:2013/06/16(日) 09:26:55
くっ、途中送信してしまった

修正箇所
ビクトール【星辰剣…×星の紋章○夜の紋章】
シエラ×【夜の紋章】○【月の紋章】
ユーバー×【八鬼の紋章】○【八房の紋章】

561名無しロワイアル:2013/06/16(日) 20:12:29
>>558
さぁ、漫画版クロスウォーズ第3巻収録の特別編をチェックするんだ!
タクティモンがいじけてOTZする貴重な姿が見られるぞ!

562558:2013/06/16(日) 20:25:40
>>561
公式ネタかよw

「みんな〜♪タクティモンのさんすうきょうしつはっじまっるよ〜♪
 あたいみたいなてんさいになれるように、がんばっていってね〜♪」
的なネタじゃなかったのかよw

563 ◆loZDXIX6eU:2013/06/21(金) 22:34:14
【NARUTOロワ】

【生存者】
1 自来也   【疲労大】
2 うちはサスケ【木の葉に帰る決意】
3 奈良シカマル【フラッシュバック無力の可能性】
4 テマリ   【限界寸前】
5 干柿鬼鮫  【左目失明】
6 大蛇丸   【右腕欠損】

【主催者】
うちはオビト
うちはマダラ

【主催者の目的】
全て明かされていない。
 
【補足】
・参加者にはクナイと手裏剣が基本支給品として支給されています。
・影分身ストック(仙人の所から戻す)などは禁止。
・参加者は穢土転生を使えません。
・変身には時間制限が付きます。
・現在は昼です。


先にテンプレを投下させていただきました。
投下は来週になると思いますがよろしくお願いします。

564 ◆uuKOks8/KA:2013/06/22(土) 03:07:38
申し訳ありません。書き直しに書き直しを重ねた結果、まだ書き終えておりません…!
もう少しお待ちください。

NARUTOロワは忍者の戦いがどう描写されるかが楽しみであります。

565 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/06/24(月) 22:31:14
>>563
千客万来! ようこそ、あと3話ロワスレへ。
サスケェ! お前は木の葉の新たなる光だぁ! 
みたいな展開を勝手に予想しときますw

>>564
はは、自分も散々書き直したりで延びまくりましたから、あまり気張らず行きましょう。

566名無しロワイアル:2013/06/25(火) 23:28:32
>>564
あるあるw
大まかなプロットはできてても、必要な描写を入れてくとドゥンドゥン長くなるんだよなw

567 ◆LO34IBmVw2:2013/06/27(木) 20:37:54
【ロワ名】
『孤独ロワイアル』

【生存者6名】
ナナ(エルフェンリート)【右腕使用不可】
岩倉玲音(serial experiments lain)
佐藤達広(NHKにようこそ!)
桐敷沙子(屍鬼)【限界寸前】【フラッシュバックによる無力化の可能性】
引企谷八幡(やはり俺の青春ラブコメは間違っている。)
鈴木英雄(アイアムアヒーロー)
ピノ(Ergo Proxy)

【主催者】
球磨川禊(めだかボックス)

【主催者の目的】『暇つぶし』『強いて言うなら』
        『パロロワってやつを開催してみたくてね』

【補足】『優勝したら元にいた世界に返してあげるけど』『願いは叶えないよ』
    『だってどんな願いも叶えるだなんて』『人間にできるわけないだろう(笑)』

【参加作品】
・エルフェンリート
・serial experiments lain
・NHKにようこそ!
・屍鬼
・やはり俺の青春ラブコメは間違っている。
・Ergo Proxy
・めだかボックス
・GUNSLINGER GIRL
・僕は友達が少ない
・今、そこにいる僕
・ぼくらの
・BRIGADOON まりんとメラン
・灰羽連盟
・アイアムアヒーロー
・烈火の炎
・おやすみプンプン


以上テンプレです。投下はまた来週か再来週になると思います。よろしくお願いします。

568 ◆9n1Os0Si9I:2013/06/28(金) 19:35:23
まともなロワも書きたいと思い、前回やったやきうロワの反省(仮)を生かし、今度は真面目なロワを1つ書こうと思ってます。
という事でテンプレ+298話投下

<<ここからテンプレ>>
【ロワ名】希望ロワ
【生存者6名】
1.鏑木・T・虎徹@TIGER&BUNNY【対主催:NEXT能力使用可能、体中にダメージ】
2.左右田和一@スーパーダンガンロンパ2-さよなら絶望学園-【対主催:精神的不安定】
3.江迎怒江@めだかボックス【マーダー:右目が潰されている、全身に裂傷】
4.天野雪輝@未来日記【マーダー:左脇腹に銃創】
5.玄野計@GANTZ【対主催:GANTZスーツ着用(壊れている)】
6.羊飼士狼@オオカミさんと七人の仲間たち【マーダー:左頬に切り傷、右足に銃創】
【主催者】超高校級の絶望@ダンガンロンパシリーズ
【主催者の目的】最上級の絶望を得る、そしてこの世を絶望で支配する
【補足】鏑木・T・虎徹と左右田和一は共に行動中
<<ここまでテンプレ>>

0/8【リトルバスターズ】
●直枝理樹●棗鈴●棗恭介●井ノ原真人●神北小毬●来ヶ谷唯湖●三枝葉留佳●二木佳奈多

0/7【enigme【エニグマ】】
●灰葉スミオ●来宮しげる●支倉モト●九条院ひいな●祀木ジロウ●水沢アル●崇藤タケマル

1/7【オオカミさんと七人の仲間たち】
●大神涼子●森野亮士●赤井林檎●桐木リスト●桐木アリス●猫宮三郎○羊飼士狼

1/7【GANTZ】
○玄野計●加藤勝●風大左衛門●桜井弘斗●西丈一郎●和泉紫音●鈴木良一

0/7【ToHeart2】
●河野貴明●柚原このみ●向坂環●小牧愛佳●十波由真●姫百合珊瑚●姫百合瑠璃

0/6【ダンガンロンパ-希望の学園と絶望の高校生-】
●苗木誠●霧切響子●大和田紋土●石丸清多夏●大神さくら●戦場むくろ

0/6【物語シリーズ】
●阿良々木暦●戦場ヶ原ひたぎ●八九寺真宵●神原駿河●羽川翼●阿良々木火憐

0/6【ペルソナ4】
●鳴上悠●花村陽介●里中千枝●天城雪子●巽完二●クマ

1/6【めだかボックス】
●黒神めだか●人吉善吉●阿久根高貴●喜界島もがな●球磨川禊○江迎怒江

1/5【未来日記】
○天野雪輝●我妻由乃●来須圭悟●雨流みねね●秋瀬或

1/5【スーパーダンガンロンパ2-さよなら絶望学園-】
●日向創●狛枝凪斗●終里赤音○左右田和一●ソニア・ネヴァーマインド

1/5【TIGER & BUNNY】
○鏑木・T・虎徹●バーナビー・ブルックスJr.●カリーナ・ライル●キース・グッドマン●ユーリ・ペトロフ

0/5【バトルロワイアル】
●七原秋也●川田章吾●桐山和雄●三村信史●杉村弘樹

0/5【戦場のヴァルキュリア】
●ウェルキン・ギュンター●アリシア・メルキオット●ロージー●ラルゴ・ポッテル●イーディ・ネルソン

0/5【おまもりひまり】
●天河優人●緋鞠●九崎凛子●静水久●神宮寺くえす

0/5【かのこん】
●小山田耕太●源ちずる●犹守望●源たゆら●熊田流星

0/5【魔法少女まどか☆マギカ】
●鹿目まどか●暁美ほむら●美樹さやか●巴マミ●佐倉杏子

569298話 ◆9n1Os0Si9I:2013/06/28(金) 19:36:19
<Chapter6 元『超高校級の絶望』が??という『??』を掴んだ理由>

【超高校級のメカニックとその相棒の永遠的な別れ】

『うぷぷぷぷ……オマエラ、絶望してるぅ〜?』

俺はただその声を聴いていた。
ただ茫然と、感情をどこかへやってしまったかのように。
前の放送からすでに6時間が経っていた。
俺はただ目の前で目を閉じている奴を見る。
安らかに眠っている。
寝息も立てずに、ただ眠っている。

『かれこれ前の放送から6時間たっちゃったねぇ〜、コロシアイの方も順調でいい感じだね!
 うぷぷぷ……それじゃあこの6時間で死んじゃった人の発表と行きましょうか!

 棗恭介
 風大左衛門
 ウェルキン・ギュンター
 バーナビー・ブルックスJr.
 川田章吾
 日向創

 以上6人でーす! うぷぷぷ……残りの生存者も言っておいた方がいいかなぁ?

 鏑木・T・虎徹
 左右田和一
 江迎怒江
 天野雪輝
 玄野計
 羊飼士狼

 残りも6人だね! もうすぐこのコロシアイも終焉って所だね……。
 あ、言っておくけどボクを倒して脱出できるなんて思ってないよね?
 無理無理無理! 無駄無駄無駄! そんな考えは甘いんだよ!
 それじゃあ、ほどほどに頑張ってね!
 禁止エリアについては、もう言わなくていいや!
 オマエラは全員、同じエリアにいるんだからさ!
 それじゃーねー!』

放送は終わった、だが目を覚まさない。
先ほどからずっと揺すってるのに、目を覚まさない。

「なぁ、目を覚ませよ」
「嘘だよな、嘘だと言ってくれよ」
「さっきまで、動いてたじゃねぇか」

いつの間にか、自分の目から液体が流れていることに気が付いた。
何故俺は泣いているんだ。
泣く理由なんてねぇだろうがよ。
ソニアさんが死んだ時、あの時もう涙は枯れたはずなんだ。
それにコイツは、日向はまだ生きてるんだ。
死んでなんかない、すぐに目を覚ますはずなんだ。

「起きろよ、寝たふりで俺を驚かせようなんてオメェらしくねぇぞ」
「なぁ、何とか言えよ」

日向、そういわれた少年は重力に負けて横たわる形となって落ちた。
彼の背中からは、大量の出血の跡。
誰が見ても死んでいるとわかるような状態であった。



「何とか言えよ、日向あああああああああああああああああああああああ!!」



その悲痛な叫びは、もう日向に届かなくなっていた。
日向創の『ココロ』はもう二度と、『ロンパ』できない。




◆            ◆

570298話 ◆9n1Os0Si9I:2013/06/28(金) 19:36:44
【ヒーローとして】

何をやっているんだ、そう思いながら俺は唇を噛んだ。
ヒーローなんて言って、結局は守れなかったんだ。
バニーとの約束も、守れなかった。

「――――なーにやってんだかな」

自分を嘲笑いたくなる。
これ以上誰も殺させはしない。
その約束はもう守ることはできないのだ。
日向創、そういわれた少年と遭遇し、永遠に分かれることになった。
羊飼士狼――――奴に俺は負けたんだ。

「こんなんじゃ、ヒーロー失格だよな」

かつて、Mr.レジェンドに助けてもらったとき、彼は被害を出しただろうか。
レジェンド――――彼はどんな時でもヒーローだった。
それに比べて自分はどうだろうか。
バニーも助けられず、日向という少年も救えなかった。
それ以前にどれだけの人間を見捨ててしまったのか。

「――――クソッ」

結局はすべて自分の無力さが招いた結果だった。
100人いたこの殺し合いも6人しか生きていない。
バニーもカリーナもキースもあの裁判官さんだって死んでしまった。
ヒーローの奴らは全員、最後までヒーローらしく動いたのだろう。


「――――なぁ、虎徹さん」


そこで、左右田が俺に話しかけてきた。
目は宙を見ているようであった。
焦点が俺に会っていない。
まるで、絶望に染まった景色でも見ているかのように。

「……なんだ」
「日向が目覚めないんだよ、どうしてなんだ?」
「…………」

もう、左右田は精神的にボロボロになっているのだとわかった。
何を言ってやればいいのかわからない自分にさらに苛立ちを覚える。
下手をすれば、完全に左右田は廃人のようになってしまうだろう。
こういう状況に陥るなんて、よほどの人間じゃなければ正気は保てない。
左右田は機会にめっぽう強いらしいが、言ってしまえば弱いただの一般人だ。
いや、逆にここまで精神を保ててるだけ左右田は強いのだろう。
しかし友人が全員死んでしまった今、もう彼の支えがない。
だから今、このようになってしまっているのだ。

「なぁ、虎徹さん――――どうしてなんだよ」
「左右田、俺は今からお前を信じて言わせてもらうぞ」
「は?」
「現実を見ろ、日向創はもう死んでいるんだ。
 さっきの放送でも、もう死んだって言われた。
 バニーだって死んだのを確認した、そして呼ばれた。
 あの放送に嘘はないはずだ、だから日向創はもうこの世にはいない」
「何言ってんだよ、そんなわけねぇだろ!! さっきまで、俺と話して、俺を守ってくれて……」
「もう、いないんだよ……目の前でお前を守って死んだんだぞ、ソイツは……!
 お前はその死を侮辱するつもりかよ!」
「違う! 日向が、死んでるわけねー!」
「現実を見やがれ、このわからず屋がッ!!」

ぱぁん、と気味のいい音が耳に触れる。
おれの手は、いつの間にか左右田の頬を叩いていた。
あの時――――バニーに対しやった時と同じように。

571298話 ◆9n1Os0Si9I:2013/06/28(金) 19:37:17
「――――わかってんだよ、それくらい……日向はもういねーんだって。
 終里だって、あの狛枝だって……ソニアさんだって、もういねーんだよ」
「左右田……」
「……くそ、なんでこんなことになってんだよ……! アレで、あの殺し合い修学旅行で終わったんじゃねーのかよ……!」

殺し合い修学旅行、左右田が経験した悪夢の日々のことだ。
彼はそこから、命からがら生還した。
その時の一番の立役者が、日向創――――今、目の前に死体となっている彼だ。
左右田にとって、そんな彼は心の支えだったに違いない。
自分にとっての……Mr.レジェンドと同じだ。

「――――」

この時から、崩壊と言う名の【絶望】は始まっていたのだ。


【鏑木・T・虎徹@TIGER&BUNNY】
[状態]NEXT能力使用可能、体中にダメージ
[装備]ワイルドタイガー用ヒーロースーツ(かなりボロボロ)
[道具]ヒーローのブロマイド(ワイルドタイガーとバーナビー・ブルックスJr.)@TIGER&BUNNY
[思考]
1:ヒーローとして、バニーの相棒として主催を倒す
2:……左右田
3:能力がいつまで持つのか……
[備考]
※NEXT能力が減退して行っています。 現在は3分強くらいしか続きません
【左右田和一@スーパーダンガンロンパ2-さよなら絶望学園-】
[状態]精神が不安定
[装備]なし
[道具]サバイバルナイフ@ダンガンロンパ-希望の学園と絶望の高校生-
[思考]
1:……


◆            ◆


【君と僕が壊れた世界】

少なくとも、もう6人しか生きていないらしい。
あれだけたくさんいた中で、僕が生きている。
これは、あくまで決まっていたことなのだ。
この『未来日記』の通りでは、僕はまだ死なないと決まっていた。

「――――ねぇ、由乃」

由乃、僕の大事な存在となった女の子だ。
サバイバルゲームを終えて、一緒にHAPPYENDを掴み取ったはずの相手だ。
だが、そのHAPPYENDは消えてしまった。
その掴み取ったものが消えたとき、僕は絶望したのだろう。
だけれども、今は違う。
この殺し合いで優勝し、もう一度……4周目に行けばいい。
4周目に行けば変わってしまうのだろう。
だけれども、僕の中で由乃はそれほど大事な人なのだ。
たとえこの世が壊れたとしても、由乃と居れるのならば僕はそれも甘んじて受け入れれる。
それほどに――――僕の中で、彼女は大きかった。



「こんな、由乃が死ぬなんていうふざけた結末も……無かった世界に行けるんだ」



――――それはとっても、幸せなことに違いない。
だからこそ、彼女を追いかけ続ける。
その、はるか遠い幻影(我妻由乃)までも。
たとえそれが異端であり、この世を敵に回す行為なのだとしても。
僕はそれほどに――――彼女を愛しているのだから。

【天野雪輝@未来日記】
[状態]脇腹に銃創
[装備]無差別日記@未来日記、ガリアン-4(5/5)@戦場のヴァルキュリア
[道具]ガリアン-4の弾丸(30)、雪輝日記@未来日記
[思考]
1:殺し合いに優勝し、4周目の世界に行く
2:間違っているかもしれないけれど……それでも……
[備考]
※無差別日記は制限がかかっていて少し先の未来しか見えなくなっています

572298話 ◆9n1Os0Si9I:2013/06/28(金) 19:37:38

◆            ◆


【私と貴方が壊した世界】

あと6人だそうですね。
ねぇ、球磨川さん。
貴方が死んでしまってから、私は頑張ったんですよ?
もう、体だってボロボロになって。
右目なんかも見えなくなっちゃったんですよ。
でも私は諦めません……あなたを再び生き返らせるために。
この殺し合いに、勝利しなくてはならないのだから。
貴方がいなければ、マイナス十三組はどうなるのですか。
この私の愛を受け止めてくれる人は、いないんですよ。
貴方が――――球磨川さんがいなければ。
プラスもマイナスもない、0とも言えない様な最高に最悪な状況です。

「ふふ、ふふふふふ待っててください球磨川さん。
 私は絶対にこの殺し合いで優勝して貴方をよみがえらせます。
 そしてマイナス十三組全員で箱庭学園を……!」

球磨川さんを殺すほどの化け物が、ここにはいる。
死んでいるかもしれないし、今も生きているかもしれない。
だけれども私は……止まるわけにはいかない。
この『愛』のために、絶対に止まれない。


【江迎怒江@めだかボックス】
[状態]右目が潰されている、全身に裂傷
[装備]万能包丁×2@現地調達品
[道具]なし
[思考]
1:殺し合いに優勝して球磨川さんを生き返らせる
[備考]
※荒廃した腐花が進化しています


◆            ◆


【わるいおおかみにごようじん】

「――――くくくっ、ああ……なんて滑稽なんだろうね」

白い清楚な制服に身を纏う男はただただ笑っていた。
彼の名前は羊飼士狼、鬼ヶ島高校の生徒会長にして生徒達の頭を張る男。
そして――――この殺し合いのトップマーダーである。
鏑木・T・虎徹と左右田和一を襲撃し、日向創を殺した張本人でもある。

「まぁ、今ここで彼らに接触する意味はない……このままいけば、もっと彼らは崩れてくれる」

そして、彼は物陰から虎徹と左右田を見ていた。
接触しようと思えばすぐにでもできたが、彼はそれを良しとしなかった。
もっともっともっと、彼らが崩れるのを見たかったからだ。
彼はただの殺人者ではない。
面白い風になるように動く、それが羊飼のスタンスだ。

573298話 ◆9n1Os0Si9I:2013/06/28(金) 19:37:48

「でも、結局涼子ちゃんには会えなかったね。 本当は壊れていく彼女を見たかったんだけどなぁ……」

大神涼子――――羊飼が壊したいと思った少女だ。
彼女を強くしたのは羊飼であり、弱くしたのも羊飼である。
そして、彼女を知らずの場所で絶望させたのも――――彼だ。
森野亮士という大神涼子が好意を寄せた男を、彼が殺したからだ。
彼にとって本来歩むべき未来にて倒される相手を、羊飼は殺したのだ。
自分の未来を消し、書き換えた。

「――――まぁ、どうせそういう運命だったんだ。 今はとりあえず、このつまらなくなってきたゲームを終わらせなきゃね」

その場から離れる――――と思ったその時だった。
左ポケットからナイフを取り出し茂みに放つ。
それと同時に茂みから何かが飛び出してきた。

「ッ――――なぜわかった」
「バレバレだよ……気付かれてないとでも思ったの?」
「……そうかよ」

黒いスーツを身にまとった男――――玄野計は羊飼の前に立つ。
この殺し合いを止めようと動いていた彼は、先ほどまで潜んでいたのだ。
自分の親友であった、加藤勝を殺した張本人を殺した羊飼を殺すために。

「絶対ぇ――――殺す!」
「見せてやるよ、格の違いって奴をさ」

二人の人間の対決が、ここに始まる。

【羊飼士狼@オオカミさんと七人の仲間たち】
[状態]左頬に切り傷、右足に銃創
[装備]投げナイフ@現実、安綱@おまもりひまり
[道具]支給品の一部
[思考]
1:この殺し合いに優勝し、主催も殺す
2:まずは目の前の奴(玄野)の対処
【玄野計@GANTZ】
[状態]左肩脱臼
[装備]GANTZスーツ@GANTZ(オシャカ)、GANTZソード@GANTZ
[道具]なし
[思考]
1:死んだ皆の分まで、生きぬく
2:加藤を殺したコイツ(羊飼)は許せねぇ……!

574 ◆9n1Os0Si9I:2013/06/28(金) 19:38:53
投下終了ですん。
前回のカオス系と違って、ちょっと考えたりしないといけないので、さすがに前回よりは投下ペースが落ちる(確信)

575 ◆Q0VzZxV5ys:2013/06/30(日) 13:41:14
遅れながらNARUTOロワ一回目投下させていただきます

576意志を継ぐ者/繋げる者 ◆Q0VzZxV5ys:2013/06/30(日) 13:45:00

「あの小僧……霧隠れの鬼人の底力ですか」


地図に存在している建物は全て消えている。
草原もその姿を消し視界に広がるのは荒々しい大地が彼方まで続く。
大地の中央に存在感を放ち君臨するは再不斬の愛刀首切り包丁一本のみ。


彼が死に際に放った斬撃は会場を覆う邪悪を断罪した。
四代目火影波風ミナトが己のチャクラと体を犠牲にして瞬身の術を発動し会場を飛び回る。
その役目は各地にある幻術の札を破壊するためであり故に10分の間に7つのエリアを巡回。
札は8つあった事をミナトは知らない。
8つ目を破壊したのは大蛇丸。
無論知っていたとしても大蛇丸が協力したなど信じられる話ではないし、大蛇丸も協力した訳ではないようだ。
しかしそれが会場を騙る幻術を破壊するのに繋がった。
札を破壊したことにより幻術が解け会場がただの荒地に戻る。
そこは第四次忍界大戦が行われた場所である。


大きなチャクラの反応――それは始まりの仮面の男。
奴のせいで多くの人間が死に、多くの悲劇が生まれ、多くの憎しみが生まれた。

ミナトは酷使し過ぎた反動により一矢報いるチャクラも命も残っていなかった。
破壊に協力したガイ、キラービーもチャクラが残っていなく絶命寸前。
唯一の生き残りである再不斬を他にオビトと戦える者は残っていない――
三人は状況が理解できないほど頭が回らない訳ではない。

常に最善の方法を尽くす忍。


ならば可能性が高い方に賭けるのが筋であり故に全てのチャクラを再不斬に捧げる。



木の葉の気高き碧い猛獣、八尾の人柱力、四代目火影、そして己の生命を一本の愛刀に宿し根城を斬り裂く。
結果として四代目の瞬身の助けもありオビトと激突を起こし命を取る事はなかったが傷を負わし仮面を割る。
仮面が割れたことによりそのチャクラに気付く生き残った忍達は主催を目指す。


霧隠れの鬼人桃地再不斬が切り開いた可能性を目指して――

577意志を継ぐ者/繋げる者 ◆Q0VzZxV5ys:2013/06/30(日) 13:47:12
「イタチさんも死んでしまい残る暁は私だけですか」


唯一の暁生き残りとなった干柿鬼鮫
彼の動向は定まっていない。
この場に来てからも慣れ合うことはしなかった。
時に人を殺せば時に悪者を斬り付け人の命を奪うにも様々な形で行なってきた。
始まりの仮面の男であるトビ――オビトの計画である月の眼計画が生き残りの参加者に知れ渡った。
無論干柿鬼鮫は最初から全てを知っていた、参加自体には何の説明も無かったが。

イタチの死に際の際に語られたうちは一族の真実。
そして今もこの会場に存在しているイタチの弟であるうちはサスケ。
会場で遭遇している生存者は伝説の三忍の一人である自来也、木の葉の奈良一族の忍そして風影の側近の三人。
出会ってはいないがかつての裏切り者大蛇丸、そして自分を含めた計六人。
外道魔像がまだ発動できる状態とは思えない。
九尾の人柱力であるうずまきナルトのチャクラ反応がまだ残っているため儀式前だろう。
再不斬の一撃は魔像に直撃しているためもしかしたら発動が出来ない状態かもしれない。
無論、条件を無視してマダラの口寄せが可能のため主催の戦力は十分高いものと予想できる。
生存戦力を考えた場合己を含め全員が万全な状態とは呼べないはずだ。
それに鬼鮫自身暁の一員であるためオビトと対立する必要がない。

そう必要がない――――――





「私の処分に来ましたか……ゼツ」

578意志を継ぐ者/繋げる者 ◆Q0VzZxV5ys:2013/06/30(日) 13:48:13
前方に広がるのは大量の暁の一員であるゼツ。
その数十万ををも超える。


「やぁ鬼鮫久し振りだね」


「邪魔者は全て消す……私もデイダラもサソリもペインもイタチさんも邪魔者でしたか」


「ごめんねぇもう君たちは要らないみたいだ」


何故殺し合いを画策したかは一切不明であるが月の眼計画に必要なのだろう。
死人の魂やチャクラが必要だったのかも知れない。
暁の構成員も元の大蛇丸を含め複数死人を出しているので形として計画に協力していたかもしれない。


だとしたら、だとしたらだ。


終盤とも言えるこの状況なら必要と仮定する魂やチャクラは集まった。
ならもう出先の者は用済みで後はその生命を粛清するだけだとしたら――鬼鮫はもう必要ない。


「ククク……私もイタチさんも随分と馬鹿にされたみたいですね」


「まあそうゆうことだからごめんね!」


一斉に飛びかかる大量のゼツ


「水遁・大瀑布の術!!」


鮫肌に大量の水を己のチャクラを宿し腰を落とした体制で前方を見つめる。
そこから放たれる一閃は豪快に水流を飛ばし迫るゼツを孤高の彼方へと押し流す。
それでもゼツの数は減らず依然として視界に映る景色はゼツ一色。




『もし機会があるのなら……サスケを頼む』




「イタチさん……あなたは最後にとても面倒な事を頼みましたねえ――




ですがあなたの頼みなら断れませんねぇまったく!!」



【干柿鬼鮫@NARUTO】
[状態]左目失明、疲労(中)、チャクラ消費(小)、腹部損傷、左腕に裂傷
[装備]鮫肌
[道具]バック、クナイ、手裏剣、起爆札、各×10、ガイの額当て、イタチの指輪、ヒナタの左目
[思考]基本:イタチの頼みに従う
1:ゼツを殺す
2:イタチの遺言通りサスケを助ける
3:碧い猛獣……覚えておきますよ
[備考]
※うちは一族の真実を知りました。
※鮫肌はもう裏切ることはありません。

579意志を継ぐ者/繋げる者 ◆Q0VzZxV5ys:2013/06/30(日) 13:50:34
「シカマル!!」


叫ぶ
そう、叫んでしまう
お前は今何処に行こうとしている
何故私を置いていこうとするのだ
我愛羅もカンクロウも皆、みんな死んでしまった


「もう私を一人に――――」








「俺は今からあいつの首を取る」


崖から見下ろすこの景色に思い出はない。
イタチにも会えずに彼は死んでしまった。
ナルトのチャクラの反応が消えた。


カカシもサクラもリーもネジもテンテンもチョウジもいのもキバもシノもヒナタもみんな死んでしまった。


「俺は木の葉に帰る」


聞かされたうちはの真実。
もうあんな悲劇は二度と繰り返さない。




「俺の復讐に終止符を撃つ――!!」




【うちはサスケ@NARUTO】
[状態]疲労(中)、チャクラ消費(中)、万華鏡写輪眼開眼可能
[装備]草薙の剣
[道具]バック、忍具一式
[思考]基本:木の葉に帰り一族の悲劇を繰り返さないため火影になる
1:仮面の男を殺す
2:もう人を殺す気はない
3:ナルト……
[備考]
※うちは一族の真実を知りました。

580意志を継ぐ者/繋げる者 ◆Q0VzZxV5ys:2013/06/30(日) 13:52:32


「こいつ……魘されてるのか?」


限界寸前で気絶しているテマリの傍にいるシカマルが呟く。
無理もないこの会場に来てから常に死との隣合わせの状況で時間が過ぎている。


そして我愛羅が自分を守り抜いて目の前で絶命した――気絶するのも仕方がない。
このまま一人で残しておくのは大変危険である。
それに知り合いを見捨てる程腐っている男ではない。
生存者も一桁となりこの先には辛い戦いしか待ち受けていないだろう。


ならば少しでも休息を取るのが最善の策といえる。
生き残れる保証など最初から存在していない。
少しでも可能性を上げるためにチャクラを温存し体力を回復するのが今行うべき行動。
少しでも長く術を発動できるように、少しでも勝てる可能性を上げるために――――――。


「みんな……みんなが切り開いた道を無駄にはしたくねえ」


数々のドラマが、色が生まれた殺し合い。
それは悲劇の繰り返しであり行わない方が良いに決まっている。
終わり良ければ全て良しなど存在しない、そんな事なら始めからやる必要がない。

でも死んだ命を無駄にすることは許されない。
残った希望を生存者は導く必要が、義務がある。


弱い消極的な意思は捨てろ、理不尽な世界に反逆しろ、ここは諦める場面何かじゃない。


受け継いだ希望の意思をその胸に宿し例えその身が砕けようとも貢献しろ。


根性、この言葉がよく似合う。


「これじゃあナルトみてぇだな……まぁたまにはいいかもな」


世の中数字だけでは測れない事が多数に存在している。
今思えばサスケ奪還任務の時だって同じだ。
テマリ達が助けに来てくれなければ自分を含めキバとリーが死んでいただろう。
無論その助けなど知らず計算の内に入っていなかった。


「『絶対』何て言葉は通用しない……残された奴は次の世代に全てを繋ぐ……そうだろアスマ」

581意志を継ぐ者/繋げる者 ◆Q0VzZxV5ys:2013/06/30(日) 13:54:32

「――やっぱタバコは合わないわ」


空を見上げる。
幻術が解け大地は荒々しくなったが空は色褪せることは無かった。
美しい蒼に邪魔することなく存在している白い雲。
思い返せば自分は昔雲に憧れていた。
何物に縛られない自由な存在に憧れていた時代を思い出す。


「たしかにめんどくせぇ事ばっかだ」


出来る事ならゆっくり風を感じながら寝ていたい。
縛るものなど存在しない世界でゆっくり気が赴くままに事を成し遂げたい。


「でもそんな事言ってる暇があったら……」


感じるチャクラ反応。
噂に聞く暁の一人干柿鬼鮫。
以前とは変わったがそれでも懐かしさを感じるうちはサスケ。
全ての元凶でもあるアスマやカカシ先生の同期らしい男うちはオビト。
邪悪さは相変わらずの禍々しいチャクラ大蛇丸。
今この場で倒れている何かと縁のある女テマリ。
そして木の葉が誇る伝説の三忍の一人自来也。


三桁もあった参加者も気づけば指で数えられるような所まで減ってしまった。
それでもシカマルは前を見続ける――この遥か先に感じるオビトのチャクラから。


所謂次が最終戦――――――




【奈良シカマル@NARUTO】
[状態]疲労(大)、チャクラ消費(中)、固い決意
[装備]忍具一式、チャクラ刀
[道具]バック、忍具一式
[思考]基本:全てを背負い任務を行う
1:テマリを守る
2:オビトを倒し木の葉に帰る
3:悲しむのは全てが終わった後
[備考]
※我愛羅からテマリを任されました



【テマリ@NARUTO】
[状態]疲労(大)、チャクラ消費(大)、全身消耗
[装備]忍具一式、巨大扇子
[道具]バック、忍具一式
[思考]基本:気絶中

582意志を継ぐ者/繋げる者 ◆Q0VzZxV5ys:2013/06/30(日) 13:55:17

四代目火影波風ミナト。
正義の具現者としてその最後は自らの犠牲を顧みずその身と引き換えに幻術破壊に貢献する。

三代目火影猿飛ヒルゼン。
強い力と圧倒的経験を活かし戦いだけではなく精神的支柱にもなっていた。
その最後は薬師カブトに敗れるもその後の勝利へと繋げた。

五代目火影綱手。
治療術を活かして数々の負傷者を救ったがその最後はデイダラに爆破された。

そして伝説の三忍の生き残りである――



「大蛇丸か……」


「あら気付いていたのね自来也」


再び相まみえる両雄。
方や正義方や悪を名乗るに相応しいかつての仲間がこの地で再び出会う。
その瞳に映る影はどちらも――昔から変わらない姿だけ。
交わす言葉も必要ない、自来也からすれば語りたいことはたくさん存在する。

だが、それでもだ。

言葉で解決するほど簡単な物ならとっくに物事は解決しているだろう。
止めれるなら既に止めている――ナルトとサスケのように。


「綱手の仇を取ってくれたらしいのう」


「デイダラと綱手を天秤に掛けただけよ……」


それは大蛇丸が変わったわけではない、いや、変わっている。
だが彼の本質的な、根本的な事に影響している訳ではない。
形成されている全てが人一人の死で変わるのなら争いなんて起きない。


それこそ月の眼計画何て必要ない。

「お前はオビトの策に乗るのかのう?」

「うちはオビト……カカシの同期であったうちは一族……興味ないわねえ」

「ならお前はどうするんだ?――これから」

「他人の起こした戦争に興味はないのよ……だからと言って」

583意志を継ぐ者/繋げる者 ◆Q0VzZxV5ys:2013/06/30(日) 13:56:39


大蛇丸は言わずとも【悪】の位置に存在する生物である。
その性格、構成ともに常人とはかけ離れ酷く歪んでいる存在。
故に数多の人間を殺し闇と向かい合ってきた忍者。
それは表舞台に立つことを二度と許されない闇の役者。


「私は帰るわ……失った右腕もヤマトの、初代の細胞を手に入れることが出来たしね」


「今どうするかを聽いているんだがのう」


「愚問ね自来也……これまでと変わることなんてない……あなたも分かっているでしょう?」


そうだ。
人間には、忍には己の意地がある。
アイデンティティが簡単に崩壊している様じゃ真っ当な忍は務まらないし邪魔なだけ。
強い意志を持っていないものは成長どころか戦場に立つことを許されない。
他人に流される人間が忍を、人の命を奪う忍を語る上で己の強さを認識しろ。
責任を持てない人間に忍を語る資格はない。


「火遁――――――!!」


己の意思とは己の忍道
簡単に曲げる柔な意思では伝説の三忍は務まらない。
火遁と火遁のぶつかり合いは互い譲らず大きな爆発を起こす。
距離を取る両者――こんな事で命が取れるなど全く思っていない、目の前の男が簡単に死ぬはずがない。
煙が晴れて自来也が前方を見るも大蛇丸の姿を捉えられない。
大蛇丸は足にチャクラを集中させ岩場に張り付いている――チャクラの簡単な応用。
そこから右腕を伸ばし蛇を、初代の細胞によって更に木遁も追加し自来也に放つ。
クナイを投げつけ撃墜を試みる自来也だが大蛇丸の意志によって行動するため避けられてしまう。
木遁と蛇が螺旋を組み自来也に襲いかかるが伝説の三忍の戦いは終わらない。


「忍法・針地蔵!!」

584意志を継ぐ者/繋げる者 ◆Q0VzZxV5ys:2013/06/30(日) 13:58:21


長い髪を己に纏わせチャクラを流して硬化させ針のように身を守る自来也の忍術。
蛇と木遁は髪に捕まり自来也に衝撃を与え後退させる。
ジリジリと大地を引き摺るが損傷は一切与えられずその術を大蛇丸は解く。
岩場を離れその手にクナイを握り自来也に急接近、そこから格闘戦に映る。
大蛇丸が自来也の首元を斬りつけようとするが自来也もクナイで応戦、これを防ぐ。
自来也の上を飛び越し踵落としを脳天に叩きこむも両腕を交差させその攻撃に耐える。
腕を大蛇丸ごと払い上げ接近し腹に拳を叩きこむ。
しかし変わり身で背後を取られ大蛇丸が逆にその体を貫く。
だがこれは分身――本物の自来也は後方に居る。


「火遁・火龍炎弾!!」


「水遁・水龍弾の術!!」


どちらも引かない蒼炎の龍は大きく跡を残しこの世を去る。
自来也と大蛇丸――その意志は違えど最終的な行動は同じである。
チャクラを温存しておかないとうちはオビトに勝利するのが断然難しくなる。
だが。
目の前の相手は手を抜いて勝てる程弱い男なのだろうか?
答えは違う。
因縁の、昔の仲間に、友達に手を抜ける筈がない。


「相変わらずの力ね自来也」


「お前は劣ることを知らんのか大蛇丸」


再び対峙する二人に冷たい空気が張り詰める。
元より無傷で勝てるなど思っていない。
互いが互いを知りその強さも、その忍道も全てをしっているのだから。

585意志を継ぐ者/繋げる者 ◆Q0VzZxV5ys:2013/06/30(日) 14:00:00


「風遁・大突破!!」

荒々しく吹き荒れる暴風。
大地に残る僅かな緑をも毟り取り自来也目掛けて螺旋を描く。

「土遁・土流壁!!」

自来也を守るべく厚い肉壁が大地から出現する。
風遁は土流壁を抉り取りながらも破壊までには至らない。
風は貫く事を諦め次の段階に移る。
大きく上空に吹き荒れる暴風は土流壁を遥か彼方に吹き飛ばす。

「やるのう……だが!」

「こんな簡単に終わるとは思っていないわ……!」

術の応酬を繰り返すかつての友。
その実力は生存者の中でも間違いなく上位を争う屈強なき力。
それこそ生存者、いや参加者全体の中でもトップクラスの激突である。
もしこの二人が手を組んだら。
所詮甘い妄想である。

幼稚な妄想に取り憑かれるほど弱い人間ではない。
傷つくことを恐れる忍は成長が……大切な存在を守ることも出来ない。

潜り抜けてきた場数は並の忍と並ぶ事なかれ――此処に君臨するは木の葉が誇る伝説の三忍。
その器量、その度胸どれも一級品。
小さい瞳を開眼させ拝んでおくがいい。



「「口寄せの術!!」」



事実上の最終決戦を――――――





【自来也@NARUTO】
[状態]疲労(大)、チャクラ消費(中)、全身にダメージ、右肋骨骨折
[装備]忍具一式、
[道具]バック、忍具一式
[思考]基本:火の意志を次の世代に受け渡す
1:大蛇丸を止める――倒す
2:受け継いだ火の意志を次の世代に受け渡す
3:ナルト……お前は今何処にいる?
【備考】
※は一族の真実をしりました


【大蛇丸@NARUTO】
[状態]疲労(中)、チャクラ消費(中)、ヤマトの右腕
[装備]忍具一式、草薙の剣
[道具]バック、忍具一式
[思考]基本:???
1:自来也と戦う
2:他人の戦争に興味はない
[備考]
※うちは一族の真実を知りました

586 ◆Q0VzZxV5ys:2013/06/30(日) 14:03:56
以上で投下終了です
トリップが違いますが同じ人です(前のトリは忘れてしまいました)
これからよろしくお願いします

587 ◆uuKOks8/KA:2013/07/03(水) 13:18:42
遅くなりましたが >>551 幻想水滸ロワ投下します。

588Ep.322「最後の分岐点」1 ◆uuKOks8/KA:2013/07/03(水) 13:21:57
軽い足音が去って数刻。
ぱきり、と何かが割れた音がした。
その直後、激戦を物語る砕け荒れ果てた石畳の上に横たわっていた遺体の片割れがのそりと起きあがる。

「(―――)」

彼は酷く汚れた金の髪を指で払うことなく、ただぼんやりと虚空を見つめる。
男は死んだ、死んでいた、…死んだ筈だった。
太陽の王子が差し違いに放った一突きは心臓を確実に貫いていたし、その妹姫の弾丸は眉間の真ん中に芸術的とも思えるくらいに綺麗に吸い込まれていったのだ、生きている方がおかしい。
それでも男が死ななかったのは幸運が幾つも重なっていたからだろう。
例えば夜の紋章による吸血鬼化―それに伴う身体能力の上昇、例えば真の紋章が所有者を守るため自動的に貼られた結界、例えば星辰剣での斬撃が結界により急所に当たらなかったこと…そして『身代わり地蔵』の所持。
ひとつでも欠けていたら男は冥府に降っていた。
しかし最早この殺戮以前の面影はくすんだ金の髪だけだったとしても男は今なお生きている。
代償に彼の思考回路は完全に麻痺し、ただひとつの想い以外は獣の如く理性がない状態になっていたが。
そんな男の虚ろにさ迷う視界に映ったのは一度自分を殺した銀の王子。
既に冷たくなっている青年の遺体を見ても憎しみも恨みも抱くことはない。ただ、浮かんできたのは

『美味そう』

黒く変わりつつあるがまだ新鮮な血も、固いだろうが若く瑞々しいであろう身体も、満足とはいえないだろうが乾いた喉を空腹の胃を満たしてくれるだろう。
彼の本能がそう告げる。微かに鼻に届いた血の匂いに餓えは膨れ上がる。

『ああ、待っていてください、全てを終わらせて必ずや皆さんの待つ家に帰ります』

唯一残った己の『願い』を叶えるべく、男は不自由な身体を這いつくばわせ…そして餌に覆い被さると食らい始めた

589Ep.322「最後の分岐点」1 ◆uuKOks8/KA:2013/07/03(水) 13:24:05


癒やしの光が身体を包み込み、刻まれた傷を塞いでいく。
この5日間ですっかり慣れてしまった感覚を受けながらユーラムは魔法を行使している少女を、光の射さない瞳を向けてただ見つめていた。
少女は涙を見せることも嘆くことも縋ることもせず、リオウの意見に賛同し惨劇の場を離れた。
信頼していた男が側から離れ、目の前で最愛の兄を亡くし。
一度は感情が麻痺してしまったのかと不安になったが、そうではないのだろう。

リムスレーアという少女は強すぎた。
だから悲しみを誰にも見せず、ただ耐えているのだ。
悲しいはずだ、だって彼女の周りの空気はずっと僅かに震えている。

この時、ユーラムは初めて視力を喪っていることに感謝した。そのお陰で姫君の隠された本音を知れたのだ。
ユーラムは何も聞かない。悲しいのは当たり前で、慰める言葉も見つからない。
その代わり、震える手を両手でそっと包み込みたった一言だけ彼女に伝える。揺るぐことない決意と、想いを。
――ほら。目が見えないのも悪くはない。
強がりな姫君の涙を、見ない振りできるから。

590Ep.322「最後の分岐点」1 ◆uuKOks8/KA:2013/07/03(水) 13:25:57


「ん、休憩終わったようだね」

リオウがふたりの元に戻ってきたのはそれから数分も経たない内だった。

少年はリムスレーアが先程よりも青い顔をして俯いていることやユーラムの役割を果たすことのない瞳が薄く濁っていることにも気付いていたが、それに対して何かを言うつもりはなかった。
とりあえず、とリオウはリムスレーアに数枚の札を渡す。《癒やしの雫》の込められた札が一枚、《氷の息吹》は三枚。グレミオの懐を漁ったら出てきたものだ。
支給品に回復アイテムはない、と言っていた主催者を信じるならば恐らくは誰かに作らせたものだろう。

「(水の紋章が残っていた方が良かったのにな)」

もう過ぎたことだが思わずにはいられない。
札と引き替えに消失してしまった水の紋章…特に傷口を全て癒やす強力な回復魔法《癒やしの雫》はこれからの決戦にかなり有利に働いただろうに。

「(愚痴言っても仕方ないか)」

ユーラムにはかなりの量の封印球と華美な装飾のついた杖を袋ごと渡す。
残りのメンバーを合わせても、唯一まだ紋章術を使っていない青年はある意味で最終兵器だった。

「ユーラムは適性が合いそうな紋章宿しておいて」
「はい」

既に真の土の紋章を宿してしまっている彼には不要かもしれないが、リオウには副作用があるかもしれない強大な力を持つ真の紋章を多用させるつもりはなかった。

しかし結局ユーラムが宿せる紋章は見つからなかった。
というより彼が宿しているもうひとつの紋章―音の紋章がこれ以上紋章を宿すのを拒絶したのだ。
その紋章を外せば彼は歩くこともままならないだろうから打つ手はなく。

「仕方ないなぁ。ユーラムには後方支援を任せるね」

情報が確かならばルックのしもべたちは宙に浮いている筈だ。土の紋章による攻撃魔法は無効化される可能性が高い。
それに、いくら勝ちたいと願っていても盲目の人を前線に立たせるような人でなしにはなりたくない、というのも本音ではあった。

「いいえ、私も前に出て戦います」

しかしユーラムは自らその提案を蹴った。
光ない瞳には強い決意の中に僅かに諦めと虚無が混じっているような気さえするが考えすぎだろうか。

「そうすればリオウ君たちへ攻撃が行く可能性が減ります」
「…わらわからも頼む」

しかも驚いたことにリムスレーアも賛同している…その可愛らしい表情に陰りはあるが。
少年は困ったなぁ、とばかりに頭を掻いた。

「(アラニスちゃんやテンガアールなら強い調子で駄目って言ってただろうな。
 ルカやキカさんは足手まといだってはっきり言ってくれただろうし)」

押しが弱い少年にとって彼らのそういうところは素直にうらやましく感じられた。

「分かった。ただし無理はしないように」

無茶とは思ったが言わずにはいれなかった。しかし頷いてはいたのだけどユーラムがそれを承諾したようには思えない。

「(リムちゃんが心配そうにあなたを見つめてるよ、とでも言えば別なんだろうけど…人間関係って複雑だからなぁ)」

やれやれと心中で溜め息を吐きつつリオウは二人を先へ促す。

…その時、上空から5日間で何度も聞いた、あの声が場に響いた。

591Ep.322「最後の分岐点」1 ◆uuKOks8/KA:2013/07/03(水) 13:29:58
【五日目夕方/放送直前:シンダル遺跡第三層東】

[リオウ@幻想水滸伝Ⅱ主人公]
[状態]HP3/5 常時HP回復 微かな吐き気 ルカに対する信頼 テンガアールへの罪悪感
[回数]1/1/2/1
[紋章]○始まりの紋章、○破魔の紋章(半減)、○大地の紋章(半減)、●獅子の紋章
[装備]星辰剣(会話不可能)+友情の紋章、玄武の服、たいようのバッチ
[道具]ボナパルト、ムクムクのマント、支給品(ムクムク、ジョウイ)、瞬きの手鏡
[思考]……はぁ、何かめんどくさいな…もう
[基本方針]対主催、戦いを終わらせる
[第一目的]誰も死なせない
[第ニ目的]全てが終わったらルカと戦って殺す約束を果たす
[備考]紋章の宿しすぎによる体調の異変を起こしています。
参戦時期:ベストエンド後

[リムスレーア@幻想水滸伝Ⅴ]
[状態]HP全快 全身に打ち身 グレミオに対する恐怖心 ルカへの信頼と依存 ユーラムに対する微かな慕情 兄の死による衝撃と死への恐怖
[回数]1/3/4/2
[紋章]○黎明の紋章、○黄昏の紋章、太陽の紋章
[装備]シュトルム、白銀のローブ
[道具]札セット(凍える息吹*3、優しき雫)、疾風の封印球
[思考]兄上…わらわは泣かぬのじゃ…
[基本方針]対主催、戦いを終わらせる
[第一目的]元の時代に帰り家族が望んだ国を築き上げる
[備考]太陽の紋章の力により黎明と黄昏の合体魔法を1人で使うことができます。
また、順番通りに紋章を宿した為、太陽の紋章の力は黎明と黄昏の紋章により抑えられています。
参戦時期:騎士長エンド後


[ユーラム・バロウズ@幻想水滸伝Ⅴ]
[状態]HP4/5 盲目(暗闇) 右肩に弾痕 右足捻挫 感覚機敏 ルカへ対する尊敬と信頼 リムスレーアを護る決意
[回数]8/6/4/2
[紋章]○真の土の紋章、○音の紋章
[装備]クリスタルロッド、羽根付帽子、黄色いスカーフ
[道具]各種装備と封印球(話には出てきません)
[思考]姫様…
[基本方針]対主催、リムスレーアに従う
[第一目的]姫様を護り彼女と仲間は死なせない
[第ニ目的]できるならばもう1度、姫様のお顔を見たい
[備考]音の紋章が目の役割を補っています。敵意や殺気、空気の震えなどには敏感ですがそれ以外には鈍いです。
真の紋章使用時1/5の確率で暴走します。また、複数回連続で使用することでデメリットが発生します(目安は10回)。
きれいなユーラムです。
参戦時期:騎士長エンド後

【共通:シンダル遺跡第三層東→第四層】

592Ep.322「最後の分岐点」1 ◆uuKOks8/KA:2013/07/03(水) 13:31:24


ルカ・ブライトは自分の前で必死に穴を掘っている娘を、特に何も感じることなく視界の中に映していた。
死体など朽ちるに任せろ、死した者に情を向けても無駄だ―それは「狂った」今でなおルカの中に染み付いた持論である。
テンガアールもそれに薄々と気付いているようで手伝いを強制することはなかった。
ルカは目を閉じると、身体を休めるべく眠りにつく。

放送が始まったのは日が暮れて…テンガアールがやっと、3つめの穴を掘り終え、埋葬をすませた頃だ。
その頃にはルカも休息を終えて、放送を聞き逃さないように集中していた。
放送前は13人生存者がいた―死んだと確認したのは、リオウと協力して殺した青い奴がひとり。
此処に転がる遺体はテンガアールの仲間が3人にマーダーの黒ずくめ。
リオウたちが斧使いと不気味な笑みを浮かべていた女を殺しているのならば残り人数は6人になる。

視線を移すとテンガアールは天井を仰ぎ見ている。ルック、と掠れた声が耳に届いた。

《こんばんは。
 今から死者を発表する》

ただ、淡々と事務的に届けられる年の割には高い声。
ウィンディと名乗った魔女とは対照的に必要なことだけを参加者に伝えていく。

《最終日、無残に死んでいったのは
 フリック
 アラニス
 レツオウ
 キカ
 ユーバー
 ソニア・シューレン
 ファルス
 グレミオ
 以上の8人だ。
 これにて放送を終了する》

あっけなく放送が終わる。
テンガアールの半ばで焦げ落ちたお下げが跳ねるのを見ながらルカは今、呼ばれた内のひとりを脳裏に浮かべる。
ファルス…リムスレーアの兄、人格者で何があっても諦めず立ち向かった青年。
妹思いの優しい性格をしていて、彼と合流してからリムスレーアの笑顔が増えていたことはルカも気付いていた。
戦力的にも武術に優れ、紋章の扱いも上手い。生きていてほしい人員だった。
それにあの面子の中で死ぬなら盲目な上に戦闘能力もそんなにないユーラムの方だとばかり思っていたから、衝撃を受けなかったといえば嘘になる。

「(それほどあの斧使いは強かったのか…貴様は妹を残し、どんな死を迎えた?)」

しかし、ルカはすぐにファルス王子のことを脳内より切り捨てる。そしてへたり座っている娘を立たせた。

「早く行くぞ、小娘」
「………行けないよ」

テンガアールは泣いていた。

「ボク、リムちゃんに酷いこと言ったんだ。
 『きみの大切な人も死んじゃえ!』って」

別行動する前、少女2人が何かを話していたが、リオウが想像していたようなふわふわとした内容ではなかった、と本人から聞かされる。

「ヒックスがいなくなったからって、リムちゃんに八つ当たりして…ボクは酷い奴だ。
 リムちゃんに合わせる顔がなあよ」

恐らく娘はファルスの死に責任を感じているのだろう。
本来ならここで慰めるべきなのだろうが、記憶喪失時の「爽やかなルカ」ならともかく今の彼にはその選択肢は浮かんでこない。
代わりにルカはテンガアールを片手で器用に担ぎ、歩き出す。そして抵抗しようとキーキーと暴れる娘に

「懺悔や謝罪はリムスレーアにしろ、それに今の貴様は猿のようだ」
「………」

途端に静かになるテンガアール。少し歩くとありがと、と小さな声が耳に届いた。
しかし何故礼を言われたのかが分からないルカはああ、と彼にしては間の抜けた返答をするに留まった。

593Ep.322「最後の分岐点」1 ◆uuKOks8/KA:2013/07/03(水) 13:32:10


ルカに担がれながらテンガアールは死んでいった仲間たちを、友人を想っていた。

アラニス。
大切な人を喪ったのは自分と同じなのに嘆くことなく、最期までまっすぐに立ち向かっていた女の子。

キカ。
初めて会った時から自分の傍にいてくれて、ずっと誇りを失うことのなかった強い女性。

レツオウ。
娘のもとに帰りたいとずっと言っていたのに、出会って間もない少女たちを庇って散ったお父さん。

もう会うことのできない、大切な人たち。
愛しい人を喪った娘が、それでも生きることを諦めなかったのは彼女たちがいてくれて、それぞれの生き様を示してくれたからだ。

大丈夫?とアラニスが聞いてくる。
大丈夫さ、とキカが応える。
大丈夫だろう、とレツオウが声をかけてくる。
それはテンガアールの心の中だけで見える光景だけど、もしかしたら心配した3人が様子を見に来たのかもしれない。
そうだ、そっちの方がいい。

「(……大丈夫。ボクは、)」

まず、合流したらリムスレーアに謝ろう。そしてルックを止めて、みんなで帰る。それまでは

「(立ち止まらないから)

594Ep.322「最後の分岐点」1 ◆uuKOks8/KA:2013/07/03(水) 13:33:05
【五日目夕方/放送直後:シンダル遺跡第三層西】

[ルカ・ブライト@幻想水滸伝Ⅱ]
[状態]HP4/5 「狂っている」 右腕切断 リムスレーアを護る決意 リオウに対する僅かな信頼 ユーラムへ対する信頼と尊敬
[回数]0/0/3/1
[紋章]○烈火の紋章、○はやぶさの紋章、○ドレインの紋章
[装備]天命双牙、アタックリング
[道具]ピリカのぬいぐるみ、木彫りの御守り、支給品*5、首輪(ソロン・ジー)、折れた剣
[思考]今は戦いのことだけを考える
[基本方針]対主催、リムスレーアに従う
[第一目的]このふざけた宴を終わらせる
[第ニ目的]全てが終わったらリオウと戦い、果てる
[備考]ソロン・ジーの生首を見たときに記憶喪失は治っています。
自分のことを「狂った」と認識していましたが現在は変化を受け入れています。尚、他人への感情は表に出していません。
参戦時期:本編死亡後


[テンガアール@幻想水滸伝Ⅱ]
[状態]HP3/4 フラッシュバックにより戦闘不能に陥る可能性 右目欠損 刃物恐怖症 リムスレーアに罪悪感
[回数]4/1/1/2
[紋章]○流水の紋章、○雷鳴の紋章、魔吸いの紋章
[装備]チュニック
[道具]力の石、赤のペンキ
[思考]リムちゃんに謝ろう
[基本方針]対主催
[第一目的]ルックを止める
[第ニ目的]ヒックス(の死体)を捜して一緒に帰りたい
[備考]ヒックスの死を直視した影響で「金髪」の「剣士」に対してトラウマを受けています
参戦時期:ベストエンド後

【共通:シンダル遺跡第三層西→シンダル遺跡第四層】

595Ep.322「最後の分岐点」1 ◆uuKOks8/KA:2013/07/03(水) 13:34:05


首を締める忌々しい枷は取って、粉砕した。身体は重いが、ちゃんと動く。
……ああ、どうしたことか。
あんなに満たしたはずなのに血の渇きを感じる。
それならばまずは、満たすことにしよう。

男が去り静寂が戻る。
ただ一切れその場に残った赤色の布は、風にさらわれどこかに消えた。


【五日目夕方/放送直後:シンダル遺跡第ニ層】

[グレミオ@幻想水滸伝]
[状態]HP1/50 瀕死(極限状態) 沈黙 首輪なし 全身に大火傷 首に深い斬り傷 左手の指全切断 右腕欠損 精神崩壊 錯乱 吸血鬼化とそれに伴う不老不死 首輪なし
[回数]0/0/0/0
[紋章]○ソウルイーター、真の炎の紋章、夜の紋章、真の水の紋章、雷の紋章
[装備]誓いの斧@幻想水滸伝
[道具]なし
[思考]渇きを満たす
[基本方針]無差別、坊ちゃんたちの待つ家に帰る
[最終目的]坊ちゃんの為に皆殺し
[備考]真の紋章を多数宿し使用した結果、精神崩壊を起こしています。
この世界で出会ったティルのことを偽物だと信じ込んでいます。
星辰剣以外ではとどめをさせません。
※身代わり地蔵が発動しました
※首輪は首はねぽーんで取りました。
参戦時期:ソビエール監獄での死後

【シンダル遺跡第ニ層東→???】

596 ◆uuKOks8/KA:2013/07/03(水) 13:35:24
以上で投下終了です。

597名無しロワイアル:2013/07/03(水) 23:45:56
NARUTO・幻水・希望と立て続けに新シリーズが始まって、
あと3話で完結ロワ・第2期開始って感じだな…

ところで、twitterの3話ロワbotって今も少しづつコメントが追加されてったりします?
今まで見なかったツイートがちょくちょく出てきて、非常に嬉しい(KONMAI感)

598名無しロワイアル:2013/07/04(木) 05:25:22
執筆や投下、お疲れさまでした。
簡単にですが、新たに始まったロワへの感想など。

希望ロワ。前作もそうでしたが、とにかく真っ直ぐにロワしてるなあ。
どの企画も最初の一話はそんな印象ですが、ひねたところがなく、最終戦への土台を固めつつ
それぞれの掘り下げを行うターンが好みでたまらない。
ひねたところがない、だけでは後に残らない可能性も出るんですが、「もう二度と、『ロンパ』できない」を
はじめとした光る表現に引きつけられてしまう。
原作の把握率は非常に低いですが、素直にロワを楽しんでいる、その姿勢だけでまぶしいです。

続いてのNARUTOロワは、とくに否定形の強い文章に惚れ惚れしたなぁ……。
「死んだ命を〜」あたりは文章自体も小気味良くて、気持ちよく読みを進めていけました。
戦闘パートでも、おもにダッシュによる間が適宜入って叙情的なものを滲ませる文章がじつにいい。
原作は中忍試験くらいで止まってたのですが、三忍が揃って戦うヒキも少年漫画らしくて熱かったです。
中忍試験あたりの展開だとシカマル好きだったんで、アイツがどうなるか、生きるも死ぬも見届けたいなと思ったり!

幻想水滸ロワ、ルカ様とテンガアールなんてぇコンビがなんだか面白いw
歴史の流れ、流転するもののなかで、それでも受け継がれるものがあるのだ、というように
解釈している原作ゲームの描写が大好きなんですが、愛する者の生き様を見せてもらったから
諦めないって心理描写の流れがとくにらしいなあ、いいなぁと感じることしきりでした。
そういう意味では、受け継ぐことは出来るけれど「エンドユーザー」になってしまいがちな
吸血鬼になっちまったグレミオがどうなるか、なんだよなあ……。
状態表でも紋章の残り回数なんかにワクワクしたり、楽しませていただいてます。

リテイクなどに悩まされる側としては、書き直しで遅くなるのにも心当たりがありすぎるんですが、
泣いても笑っても三話、どの書き手さんも存分に楽しんでいただければと思いますー。

>>597
楽しみにしていただいて、どうもありがとうございます。
botのツイート、おっしゃるとおり少しずつ追加してますね。本文以外には、完結したロワのタイトルや
六代目さんのまとめサイトにある良い言葉・面白いと感じたルールとかも入れたりしてます。
なにがTLに出るかは完璧にランダムなんですが、ここ最近で新たに始まった企画から
新規のツイートも入れてみてるので、のんびり楽しんでいただければ幸いです!

599名無しロワイアル:2013/07/04(木) 23:53:38
新鮮なあと3話のスタート3連打ぁ!
どのロワも良き完結を期待しております。

>>598
自ロワのタイトル出る度に
「なんで俺にはネーミングセンスが無いんだ」と悶絶しております。

600FLASHの人:2013/07/10(水) 09:21:51
くそう!
読んでるよ!
新作ラッシュに目頭がバーニングだよ!
でも忙しくてまとめも感想もおいつかねえよウワァーーーン!
もうちょい、もうちょいしたらドバッとやりますゆ
何卒、なぁにぃとぉぞぉー(蛇に呑まれながら

601 ◆r7Zqk/D9pg:2013/07/17(水) 01:59:14
始めさせて頂きます。


D(どうしようもないよ)Q(くぉいつら)ロワ

【生存者】
○女戦士【両腕欠損】【限界寸前】【フラッシュバックによる無力化の可能性】【頭が悪い】
○男武闘家【頭が悪い】
○女賢者【それほど賢くはないし、むしろ頭が悪い】
○女僧侶【頭が悪い】
○女武闘家【頭が悪い】
○バラモス【マーダー】【頭が悪い】【ジョーカー】

【主催者】
○ゾーマ【頭が悪くない】
○子どもテリー【性格が悪い】

【主催者の目的】
未だ不明


【前回までのあらすじ】
参加者の抵抗むなしく、とうとう主催の本拠地であるヘルクラウド城は宇宙へと向けて射出された。
ヘルクラウド城の城壁にGに耐えながら懸命にしがみつく主催の手先バラモスの姿を見ながら、
参加者達は天馬の塔の最上階で時間切れによる死を待つだけなのか!?

勇者の遺言である雨雲と太陽が重なる時、虹の橋が掛かるとはいったいどういう意味なのか!?

今、戦いは最終局面を迎える!!
(ただし、DQロワ書き手の方の苦情が入った場合は最終局面ではなく最終回を迎えたことになります)

602虹の架け橋 ◆r7Zqk/D9pg:2013/07/17(水) 01:59:59


「どうしようもない……」
前回のピサロもじゃとの戦いで両腕を失った上に一生消えないトラウマを植え付けられ、
それに加えて、全力で戦うと死ぬ所まで追い詰められた女戦士は弱々しく呟いた。

「やっぱり……駄目だったんだ!!私達じゃ……勝てないよ!!」
「諦めるな!!」
そんな女戦士に活を入れるべく、男武闘家は女戦士の頬を引っぱたいた。
女戦士は死んだ。

【女戦士@DQ3 死亡】

「女戦士!!」
「てめぇよくも女戦士を!!」
「絶対にゆるさないぞ男武闘家!!!」
突如与えられた理不尽な死、それを前に冷静でいられるほど生き残った参加者達は冷血ではなかった。
男武闘家許すまじ、満場一致でそういう感じだった。

「待て!!」
男武闘家が叫ぶ。

「死ぬ前の遺言かこの野郎!!」
「聞いてやろう!!なるべくゆっくり大きい声で言えよなこの野郎!!」
「そして死ね!!」
突如発せられた男武闘家の言葉、それを遺言であると察した参加者達は、その言葉を止めるほどに冷血ではなかった。

「俺の拳で殴られて女戦士が死んだのはなんでだと思う!?」
「もしや……理由があるのか!?」

「アイツは……ピサロもじゃとの戦いで限界を迎えていたんだ!!じゃあなんで限界を迎えていたんだと思う!?」
「それにも理由があるのか!!」
「理由を求め続けると無限連鎖になる……なんかすごいな!!」

「こんな殺し合いに参加せられたから、アイツは限界を迎えていたんだ!!
つまりこの殺し合いを開いた奴が悪い!!トドメを刺したのは俺だけど……俺だってトドメを刺したかったわけじゃない!!この殺し合いを開いた奴が悪い!!」
「……言われてみればそうだ!!」
「この殺し合いを開いた奴が悪い!!」
「男武闘家はそんなに悪くない!!」

「確かに自分でも惚れぼれする程の会心の一撃で女戦士を仕留めたが、
それはそれとして絶対にこの殺し合いを開いた奴を殺して女戦士の仇を取ろう!」
「で……でもさぁ、天馬の塔の屋上に突き刺さっていたヘルクラウド城はもう射出されちまったんだ……どうやって追えばいいんだよ!!」

「雨雲と太陽が重なる時、虹の橋が掛かる……この言葉を覚えているか!?」
「それは……勇者の遺言!!」
「死に際に頭おかしくなって言った言葉じゃないのか!?」

「違う……アイツの言葉には、意味があったんだ!!これを見ろ!!」
そう言って男武闘家は、自分のふくろから太陽の石と雨雲の杖を取り出した。

「こ、これは……」
「わかるだろう?こいつらの名前は太陽の石と雨雲の杖……つまり!」
「こいつらを重ねるわけだな!!」

603虹の架け橋 ◆r7Zqk/D9pg:2013/07/17(水) 02:00:30





「ああ……生まれろ!!虹よ!!!」




                 ̄ ̄ ̄ ̄-----________ \ | /  -- ̄
      ---------------------------------  。 ←太陽の石
           _______----------- ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     ∧ ∧    / / |  \   イ
                    (   )  /  ./  |    \ /
                 _ /    )/   /  |     /|
                 ぅ/ /   //    /   |    / |
                ノ  ,/   /'    /    |│ /|
 _____      ,./ //    |     /    .─┼─ |
(_____二二二二)  ノ ( (.  |    / ┼┐─┼─
              ^^^'  ヽ, |  |   /  .││  .│
 ↑雨雲の杖





太陽の石は大気圏を突き抜け、ヘルクラウド城の動力源を破壊し再び天馬の塔の屋上に叩きつけた。
そう、太陽と雨雲が重なることで、虹が生まれたのだ!!

【次回に続く】

604 ◆r7Zqk/D9pg:2013/07/17(水) 02:01:55
投下終了します。
雨雲の杖で太陽の石を打つというアイディアを書くために、
288話も一人だけで書いてきたこのロワもあと2話で最終回です。

605名無しロワイアル:2013/07/17(水) 22:53:51
>>604
投下乙です。
288話まではどこで読めますか?w

606 ◆r7Zqk/D9pg:2013/07/17(水) 23:53:34
>>605
前々から防ごうとしていたのですが、
とうとう287話で公安の方が動いたため、投下していた板及びwikiは完全に消滅しました。
それでも最終回までは書きたかったので、当スレをお借りしています。

607605:2013/07/18(木) 20:58:33
>>606
返答ありがとうございます。
そうですか、公安……。

このスレが公安に見つかる前に私も何とか最終回を書き上げたいものです。では!

608 ◆MobiusZmZg:2013/07/25(木) 22:30:51
すみません、いつもお世話になっております。
けれども心が折れたので、自分の三話ロワ、ここでやめさせてください。
話は固まっていて、三話目へのタメなど作っていましたが、「果たして、自分には
この文章で他の誰かに伝えられることがあるだろうか」と考えていたらもう駄目でした。
巧くはまとまりませんが、理由はそれだけです。
botのほうは……どうにかするためにはこのスレに目を通さなければならないので、
心労が溜まっている現在、それが出来る保証もないので月末をめどに削除します。
以上です。

609 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/07/28(日) 19:24:19
>>608
とても残念です。感想書くのが苦手で書けていませんでしたが、いつも楽しく読ませて頂いておりました。
ロワじゃないですけど、自分も似た理由で絶筆してしまった作品があるので、その気持ちは本当によくわかります……。
お疲れ様でした。またどこかで、あなたの作品が読める日が来ることを楽しみにしております。



不謹慎かもしれませんが、皆様にちょっと質問です。
エピローグ投下とかありですかね?

610名無しロワイアル:2013/07/28(日) 23:31:11
>>608
ここにわざわざ書き込んで中止宣言をして下さったということは、
相当悩んだ末の結論なのだろうと思います。
お疲れ様でした。

>>609
あると思います。
死者スレもありますし。

611FLASHの人:2013/07/29(月) 02:44:23
>>608
このスレは来る者拒まず去るもの追わず
どっかの投下にありましたが、物語はすべて
完結させたいときにさせるべきだと思いますので
そこでやめるという判断もまた、物語に対する一つの
真摯な向き合い方だと思います
ご苦労様でした、いつか貴方が望むなら、完結することを願っています

>>609
知ってるかい?
エピローグって本編じゃないから、三話には含まれないんだよ?
このスレは完結に至る三話以外については一切の制限がないんだ
じゃあどうしたらいいかわかるよね?

612 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/07/30(火) 19:08:06
>>610-611
ありがとうございます! 発起人からのお墨付きも頂いた!
差し当たっては、序文となるようなものを投下させて頂きます。




 崩落する仮初の世界、無へと還る殺戮の舞台。
 そこに大神の筆しらべが走り、異空へと繋がる幽門が開かれる。
 黄金神と大神の導きを受け、戦いの中で散って逝った数多の剣士達の魂は、還るべき世界へ還っていった。
 それは、彼らの振るった幾多の剣も同じ――。


 エピローグ 剣の還る場所
※頓挫する可能性も十分にあります。

613虫ロワ ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 10:04:28
>>301 第98話
>>331 第99話

に続き、虫ロワ第100話を投下します。

614虫ロワ ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 10:05:16
最上階付近が震源と見られる、アリ塚全体を揺るがした巨大な振動。
その後、微かに聞こえたユピーの絶叫。
階上で大規模な戦闘があったのか?
主催者の罠か?
ユピーと、姫の生死は?
ティンとヤマメの両名は、ユピーの残した足跡を頼りにアリ塚を駆け上がっていた。
既に階下は腐海の瘴気に満ち、巨大菌類が発芽を始めている。後退は不可能だ。
この先に何が待っていようと、生き残るために、二人は上を目指すことしか出来ない。
二人が目指す先に待つのは、太陽輝く外界の光か、その身を焼き尽くす炎なのか?
もはやヒトとも虫ともつかぬ姿の二人だったが、
その現在の立場においていえば、正体も知らぬ光に引き寄せられる夜の虫そのものであった。

二人はアリ塚を登っていくにつれて、
壁や床の損傷が激しくなっていることに気づいていた。
最初は髪の毛のように細い筋が何本か走っているのが辛うじて見える程度だったのが、
次第に遠目でも判るほど太く、深いひび割れになっていった。
そろそろ最上階に近づいた辺りだろうか。
階段を上り切った先には、一際損傷の激しい大広間があった。

「これは……!」

ティンが見回すと、ある一点を中心にクレーターのように床が抉れている。
床だけではない。壁も、天井も、その中心から発生した巨大な衝撃を受けたようだ。
土造りのアリ塚がどうして崩壊せずにいるのか、不思議な程にボロボロである。

「う……何、この臭い?」

ヤマメは部屋に立ち込める異臭に、思わず左手で口元を覆った。
生臭いような、金気臭いような、鼻に刺さるような刺激臭……だが……何故か馴染み深いとも感じる。
すぐに判った。虫の体液の臭いだ。
臭気の源は……部屋の奥。
そこにあったのは黒い土山。発酵中の堆肥のようにホカホカと白い湯気を上げている。
よく見ると、それは山と積み上げられた蟲……シアン・シンジョーネの依り代だったものであった。

615虫ロワ ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 10:05:53
階上……屍体の山向こうの上り階段からヒヅメの足音が降りてくる。
仲間意識の薄い「彼」らしからぬ行為だが、ティンとヤマメを出迎えてくれるのか?
少しだけ安堵した表情で二人は部屋向こうを見やる。(ティンは表情を作ることが出来ないが)
足音が大きくなるにつれ、その音から多少の違和感を覚える。何だか重量感が足りない。
歩き方がおかしいのか?もしかしてケガを?
二人の表情が少し曇る。(ティンは表情を作ることが出来ないが)
ゆっくりと降りてくる足音の源が穴からチラリと覗いた。
それから発せられる妖気を感じてまずヤマメが、それに一瞬遅れてティンが、違和感の原因を悟った。
二人は部屋に入って来ようとする者を睨みつけ、身構えた。
表情には、怒りと、憎しみと、悲しみと……恐怖がこもっていた。
(もちろん、今のティンに表情を作ることが出来ない……だが、その様子は、表情なしでもハッキリと判る)
「それ」の姿が少しずつあらわになる。
下半身の馬がユピー「だった」頃より一回り、いや、二回り小さい。
上半身は、彼らの知る筋骨逞しい姿ではない、腕を組んだ美しい女性の上半身、そして、
赤毛のポニーテールの美貌……現れたのはユピーではない……シアン・シンジョーネだ!

616虫ロワ 第100話「完全変態、そして」 ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 10:07:15
「シアン、随分と人間離れしたな……!」
「ユピーを、『喰った』のね……!」

先刻の闘いで、蟲毒の儀式により増幅されていたシアンの魔力は、遂にユピーの膨大なオーラ量をも超越した。
そしてユピーとの力関係が逆転した瞬間、彼女はユピーに対して『同化の法』を試みたのだ。
『同化の法』、それは他者の肉体を術者と融合・支配する、七英雄・ワグナスの開発した術……。
シアンは主催サイドを通じて習得した異界の術『同化の法』で、ユピーの肉体を取り込んだのである。
かつて地底で同様の事態に遭遇したヤマメは、シアンに起こった異変を『ほぼ』正確に見抜いていた。
だが……

「あの羽根……ユピーの羽根じゃないのか……」

ばさり、とシアンの背中に広げられた一対の大きな翼。
ティンが指摘したように、ユピーが飛行の際に生やしていたそれとは、明らかに様子が違う。
金色をベースに、風切羽は虹のように彩られ、シアンの背後で後光の様に輝いている。

「あ、あいつは、一体何者に『なっている』の……?!」

時間にすればほんの数秒のことだったが、ヤマメは一歩も動くことが出来なかった。
神の御使かと見紛うシアンの姿に、戦慄していたからか。
遺伝子に刻まれた本能が、眼前の天敵の両翼に立ち向かう事をためらわせていたからか。
いや、最大の理由は、シアンから発せられる力が、黄泉還り者(レブナント)でも、
キメラアントの生命エネルギーでもない、何か別の畏るべきものになりつつあることを感じ取ってしまったからである。

617虫ロワ 第100話「完全変態、そして」 ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 10:07:47
「悪いが…先手必勝でやらせてもらう!」

ヤマメが立ち竦むのをよそに、シアンの緩慢な動作を見たティンが飛び出していた。
口を衝いて出たのは、戦友であるゴッド・リーの言葉。
このバトル・ロワイアルのオープニングで真っ先に主催者への反抗の意志を示した、
ミイデラゴミムシのバグズ手術被験者である。
彼は、その言葉と共に司会者である皇兄ナムリスの首をその能力で灼き斬ると同時に、
全身を突き破って生長する巨大キノコにまみれて死んだ。
リーはこのバトルロワイアルに逆らった者がどうなるか、最初の見せしめにされたのだ。
ティンがこの場でその勇気ある戦友の言葉を借りたのは、殆ど無意識下の事であった。

「……――!……駄目ッ!!」

我に返ったヤマメがティンを制止する。
迫り来るティンにゆっくりと顔を向けたシアン、その双眸に急速に妖力が収束している。

次の瞬間、シアンの両目から一瞬だけ鋭い閃光が煌き、ティンの全身を包みこんだ。
『王の怒り』と呼ばれる凄まじい熱線。
シアンがその存在を賭して求めた存在、『魔王』の術である。
蟲毒の儀式を経て得た膨大な魔力、妖力、オーラ、そして何より、
失意のうちに死んでいった蟲たちの怨念……呪いを一身に集めたシアンは、
最早『魔王』に限りなく近い存在になりつつあったのだ。

「ティン!!」

1秒置いて、『王の怒り』の余波でティンの周囲の床・壁が爆裂した。
アリ塚の土壁が瞬く間に沸騰する程の熱量。
タンパク質と水で出来た身体など、灰を吹くように蒸発してしまう。
続けてシアンからこちらに向かって、山なりに何かが大量に飛来してきた。
無数の七色の羽根。『ふりそそぐ羽』の弾幕だ。
今まで見てきたどの弾幕よりも殺意の篭った弾幕……かわせない!

618虫ロワ 第100話「完全変態、そして」 ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 10:08:36
「網だ!網を出せ!」

たった今霧散したかと思われたティンの声。
ティンは『王の怒り』を浴びる瞬間に咄嗟に蹴り足を戻し、
両腕・両脚の防具でシアンの視線から全身を覆い隠していたのだ。
お陰で両脚を守る『クイックシルバー』を失いながらも、辛うじて『王の怒り』をしのぐことができていた。

そうだ、かわせない弾幕には……

「スペルカード、罠符『キャプチャーウェブ』!!」

ヤマメは左腕のブレスレットと、右手改め右前肢から網を生成し、羽根を片っ端から絡めとる。
その時焼きたてピザの様に煮え立つ床を、びちゃりと踏む音が聞こえた。
ティンが駆け出している。
それを迎え討つシアン、形の整った乳房を惜しげもなく露わにして突き出した両腕、
それが……ところてんのように、裂けた!……触手だ!
一瞬の間に10発は繰り出されようかという触手の鞭打ち、
それは『本来の世界』でも魔王に挑む戦士達を最も苦しめていたであろう、魔王最大の攻撃。
そのおぞましきうねりがティンの行く手を阻む。

(あたしが、盾になって道を空ける……!)

ヤマメが『メタルキングの盾』をデイパックから取り出そうとする……
その一瞬の隙を、魔王は見逃さなかった。尻尾より生成された一本の触手がティンを迂回し、ヤマメに迫る。

「あ、卵……!」

大きな円軌道を描き、一際加速をつけてしなった触手が、超音速でヤマメの身体を切り裂いた。
下半身を階下に弾き飛ばされ、ボトリと床に落ちるヤマメの上半身。
デイパックを盾にすれば防ぐことが出来たかも知れない一撃。
だが、我が子の収められたカバンを盾にすることなど、彼女にできはしなかった。

619虫ロワ 第100話「完全変態、そして」 ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 10:09:24
「網だ!網を出せ!」

たった今霧散したかと思われたティンの声。
ティンは『王の怒り』を浴びる瞬間に咄嗟に蹴り足を戻し、
両腕・両脚の防具でシアンの視線から全身を覆い隠していたのだ。
お陰で両脚を守る『クイックシルバー』を失いながらも、辛うじて『王の怒り』をしのぐことができていた。

そうだ、かわせない弾幕には……

「スペルカード、罠符『キャプチャーウェブ』!!」

ヤマメは左腕のブレスレットと、右手改め右前肢から網を生成し、羽根を片っ端から絡めとる。
その時焼きたてピザの様に煮え立つ床を、びちゃりと踏む音が聞こえた。
ティンが駆け出している。
それを迎え討つシアン、形の整った乳房を惜しげもなく露わにして突き出した両腕、
それが……ところてんのように、裂けた!……触手だ!
一瞬の間に10発は繰り出されようかという触手の鞭打ち、
それは『本来の世界』でも魔王に挑む戦士達を最も苦しめていたであろう、魔王最大の攻撃。
そのおぞましきうねりがティンの行く手を阻む。

(あたしが、盾になって道を空ける……!)

ヤマメが『メタルキングの盾』をデイパックから取り出そうとする……
その一瞬の隙を、魔王は見逃さなかった。尻尾より生成された一本の触手がティンを迂回し、ヤマメに迫る。

「あ、卵……!」

大きな円軌道を描き、一際加速をつけてしなった触手が、超音速でヤマメの身体を切り裂いた。
下半身を階下に弾き飛ばされ、ボトリと床に落ちるヤマメの上半身。
デイパックを盾にすれば防ぐことが出来たかも知れない一撃。
だが、我が子の収められたカバンを盾にすることなど、彼女にできはしなかった。

620虫ロワ 第100話「完全変態、そして」 ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 10:09:52
「シッ!!」

ティンが小さな掛け声と共にシアンの傍を駆け抜けると同時、刃と化した右肘が煌めき、
吸引の負圧を生み出さんとして動き出したシアンのノドをバッサリ切断した。
シアンの生首は30cm垂直に飛び上がり、時計回りに90度回転して元の場所に着地。
だが、新たな接合面となったシアンの左頬が一瞬にして首と癒着し、食道と気管はすぐさま再構築された。
吸引作業は、ケースに挿し込まれたままのストローから、当初の予定通り開始された。

ずじゅっ、ずごごごっ

プラスチックケースの不快な振動音が部屋に小さく響く。
粘度の高い液体が吸引される音だ。

俺の、俺たちの子が。確かに首を落としたはず。
この、バケモノが。次こそ、仕留める。
振り返ったティンが見たのは、横倒しの頭から垂直に串刺しにされたシアンの姿……
左手の剣をシアンの耳孔にねじ込む、ヤマメの上半身だった。

「返せ……あたしの子ども、返セッ……!」

毒符「樺黄小町」。ヤマメは上半身を斬り落とされた瞬間にそのスペルカードの効果で身を隠し、
糸を飛ばしてシアンの真上に回りこんでいたのだ。

「殺す、殺してやるっ……殺ス、殺スコロスコロス……」

ヤマメはかすれた声でひたすら呪言を繰り返している。
憎悪に歪むその表情はまさしく悪鬼羅刹のそれだ。
『断面』から自らの血肉がこぼれ落ちるのも厭わない。
ヤマメはシアンの肩に右前肢を掛け……
左手でシアンに根元まで刺さった『メタルキングの剣』の柄を掴み……
全力で引き倒した。

みしっ、ばきばきめき、ぶしゃっ。

621虫ロワ 第100話「完全変態、そして」 ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 10:10:18
シアンの身体が頭からへそまで左右に分かれ、『開き』となった。
重力の作用のままに、それらはバラバラの向きにグニャリとしなだれてゆく。
力を使い果たし、ボトリと倒れかかるヤマメ。シアンの下半身に『騎乗』する格好だ。
だが、当のシアンの四つ足は……未だに床をしっかり踏みしめている!
『開き』はすぐに動き出し、背中のヤマメにバクリと食らいついた!

「くそおっ!」

間近まで間合いを詰めていたティンは、シアンの『新たなアゴ』の付け根に会心のミドルキックを叩き込んだ。
……はずだった。脚がシアンの身体を通り抜けている!?
違う!蹴りによって切り裂かれたそばから、傷が癒えている!

めりめり、ぼきぼき、ばきっ。ぐじゅっ、じゅうじゅう。

ヤマメに食らいついた『アゴ』が激しく蠕動し、咀嚼する。
ヤマメは……もはやミンチだろう。一目で判るほど無慈悲な蠢きだ。
シアンは『アゴ』からヤマメの肉体を『しぼりとる』ことによって、回復力を増しているのだ。

「返せよ……ヤマメをっ、子どもを返せっつってんだろうがああああ!」

ティンが渾身の打撃をいくら叩きこもうとも、シアンにダメージは残らない。
シアンはティンのことなどもはや眼中に無く、反撃も防御もせずに、
ひたすらヤマメの身体と妖力を貪っている。

622虫ロワ 第100話「完全変態、そして」 ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 10:10:42
「ハアッ……バケモノが……!シュッ!シッ!ハッ!」

そしてシアンに叩きこまれた打撃が200を超える頃の事だ。
今まで一心不乱に、怒りのままに攻撃を続けていたティンが、異変に気付いた。
なぜだ。疲労を推して今まで闘って来て、体力は限界に近づいてきているはずなのに……
技のキレが増してきている。シアンに傷が、少しずつ残り始めている。
傷の治りが、攻撃に追いつかなくなってきている。
……そうだ、怒りだ。あの信じられない脚力を生んだのは、怒りの感情だ。
もっと怒りを。
ティンは、ヤマメが『アゴ』に食われる瞬間の映像を脳裏に浮かべながら、膝蹴りを繰り出した。
シアンの脇腹が削り取られ、初めてシアンの四足がぐらついた。
怒れ。
ゴッド・リーの全身を突き破ってキノコが生長する音を思い出しながら、逆側に回り込み、肘鉄を叩き込んだ。
煙を上げてシアンの肉が削げ、白い背骨が露出した。
もっとだ。
礼拝堂で庇い合うように死んでいた、ヤマメの知り合いの少年と背中に蝶の羽根を持つ少女を埋葬した時の感触を思い出しながら、
シアンの後ろ脚をローキックで斬り落とした。
怒れっ。
突然「逃げろ」と叫んだ瞬間、産まれ出たリアルクィーンに体内を食い破られた本郷の最期をフラッシュバックさせながら、
腹を蹴り上げる。宙を舞うシアン。
怒りだ!
小吉が偽神・オルゴ・デミーラと壮絶な相討ちを遂げた瞬間を目撃した時の無念・後悔を反芻しながら
浮き上がったシアンに追撃を加えた。
怒りしか無い!!
デイヴス艦長、一郎、菜々緒ちゃん、ヴィクトリア、再会を果たすこと無くこの場で死んでいったバグズ2号の仲間達を思い出す。

怒涛の連撃とともにシアンの周囲を旋回するティンは、いつしか黒い竜巻となっていた。
狙った相手を削り取り尽くす、呪われし竜巻である。
シアンは竜巻の中を木の葉のように舞い、
ミキサーに掛けられたトマトのように撹拌、粉砕され、血と肉片の赤い雨となった。

623虫ロワ 第100話「完全変態、そして」 ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 10:11:11
ティンは体力を使い果たし、赤い雨に打たれるままに床に突っ伏していた。

これでまた、俺は独りぼっちか……。
……休もう。腐海の瘴気もここまでは届いていない。
新手が来ないということは、主催者の手の者はもうこの場を放棄したのだろう。
少し休んで動けるようになったら、姫と合流して脱出の方法を探そう。
うまく隠れていてくれればいいが。
それにしてもこの顔、不便だな。まぶたが無いから寝る時も目を閉じられない。
あの昆虫ケースが……嫌でも目に入っちまう。
……思い出してみれば変な女だった。
どう見てもただの人間なのに、蜘蛛の化物……ツチグモだったか?を自称していて、
ああ、こんな異常な状況でおかしくなっちまったんだな、こんな若い娘が……って最初は同情したんだよな、確か。
確かに腕っ節は強かったし、糸を出したりもしたから、俺や本郷さんみたいに改造手術を受けたクチかと思ったんだが……
まさか、タマゴ産むとはな……。本当に人と根本から違うイキモノだとは思わなかったぜ……。
……でも、それでも……あの卵、俺の子でもあったんだよな……。
本郷さんが死んで、半分ヤケになってた時に作ったとはいえ、
「だいじょぶ、ダイジョーブ、人と妖怪なんだし、そうそう当たるもんじゃないって!」
と誘われるがままに作ったとはいえ、あれは俺の子どもなんだよな……。
畜生、見たかったな、あの卵からどんな子どもが産まれてくるか。
……ん?よく見たら残っている!卵が、ケースの中に!!
あの時シアンは、卵をすすっていなかったのか?
シアンがすすっていたのは、ケースを満たしていた、王蟲の漿液だった?
卵をすするフリをしていただけなのか?それとも、卵ではなく、漿液の方が目的だったのか?
……でも、ああ、良かった。俺はまだ、独りじゃない。

血溜りを這いずりながらティンは卵の入ったケースにたどり着いた。
卵は生きている。その鼓動が確かであることを手で触れて確認すると、
それを大事に抱きかかえ、しばしの休息についた。

624虫ロワ 第100話「完全変態、そして」 ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 10:11:38
ティンは目を覚ましたのは、それからしばらくしてからのことだった。
5分だったか、1時間だったか、どれくらいの時間が流れたか分からない。
少し体を休めるつもりだったのが、すっかり熟睡してしまっていた。
姫のことが心配だ。早くここを出る方法を探そう。
それにしても……俺の目の前にいる女は……誰なんだいったい!?
あの金髪はヤマメか……いや違う。だがどこか見慣れた顔立ち、そして額には1対の触覚……そうだ、俺だ!
俺と、ヤマメの子か!抱えていた卵か殻だけになっている。
卵が孵った!?いくらなんでも成長が早すぎる。妖怪の子だからか?

「おはよう、ティン、いいえ……お父さん」
「……お、おう」

もう言葉を話している。ああ、声は母似だ……。

「いや、こういう時はもっと的確なセリフがあったね。

金髪の少女の顔が、『シアン・シンジョーネ』の顔に変化した。声も、口調もだ。
部屋中に散らばっていた肉片と血液が、目の前の誰かに吸引されてゆく!
まさか、おまえは……!

625虫ロワ 第100話「完全変態、そして」 ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 10:12:06
「そうだ、確か……『先帝の無念を晴らす!』……だ。
 魔王だから正しくは『先王』、か。フフフ。」
「!?」

俺は、悪い夢を見ているのか!?卵は……やはり殻だけ!
動けない、手足が縛られている、『蜘蛛の糸』で!!

「では、頂くか。」
「う、うあああああああああああああ、がは」

お前は、何だ。何者なんだ。
『シアンの姿をした何者か』は、真っ先に喉笛を噛み砕いてきた。叫ぶこともできない。
それから脇腹を噛み砕き、生暖かい唇を押し当てて、はらわたをズルズルと吸い出してきた。
痛みは殆ど感じない、手足は床にベッタリはりつけられている、やはりびくともしない、
腹から先刻の命を救ってくれた核鉄が覗いている、ヤマメの形見だ、俺はまだ死ねないんだ、
にもかかわらず頭が妙に落ち着いてきた、もう一度さっきの力を、視界が暗い、寒い、脇腹の唇だけが温かい、冷たい体を吸い出して、
この喉越しは俺のはらわたか、横たわる俺が見える、動けよ俺の体、俺のはらわたをすするの奴の顔が見える、
これで『計画』は完成する、計画、なぜ俺がシアンの目的を知っている、
そうか、そうだったのか、バトルロワイアルとは、蟲毒とは、正しき統治、くそっ気をしっかり持つんだ、
やめろ、迎えに来たなんて、ああ、一郎、小吉、本郷さん、ヤマメ、……皆……
ただいま。

【モントゥトゥユピー@HUNTER×HUNTER】死亡
【黒谷ヤマメ@東方project】死亡
【ティン@テラフォーマーズ】死亡

626虫ロワ 第100話「完全変態、そして」 ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 10:12:30
本人にその頃の記憶はないが、シアン・シンジョーネは元はただの村娘であった。
彼女は結婚式の日に理不尽な理由で新郎、家族、村人を皆殺しにされ、
自身も身動きひとつ取れなくなる程の重傷を負った。
だが、彼女はすぐには死ななかった。
チャペルに累々と積み上げられた死体の中……シアンは数日に渡り生き続けていた。
死肉に群がる蟲に、生きたまま食われ続けながら……
自分をこのような仕打ちに遭わせた世界を呪い続けながら……。
そんな彼女の怨念は彼女の肉を喰らった蟲に宿り、一体の魔族を生んだ。
無数の蟲を依り代としたレブナント……シアン・シンジョーネである。

レブナントとして生まれ変わったシアンには、その存在を賭けてでも実現したい目的があった。
世界を正しく統治する絶対的な存在、魔王の誕生である。
正しい統治が民を救う。正しい為政者は、世にはびこる不幸を駆逐する。
その信念は、彼女の居た世界から突然研究に連れ出され、
それが済んで用済みなった後に『虫ロワ』(正式名称:バグズ・バトルロワイアル)
という名の悪趣味な催しが開かれることを知っても揺るぐことは無く、一層強固なものとなった。

だが魔王の誕生には、シアンが体内に内蔵していた『魔王の魂』と莫大な量の魔力が必要である。
彼女が元居た世界では、大地に走る何本ものマナの導線『マナライン』から長期に渡って魔力を集め、
さらにシアン自身を含む多数の蟲の魔力を『コドク』の儀式によって収束させることで、やっと魔王を誕生させることができた。
虫ロワの参加者の魔力を、『コドク』で集めれば魔王を産むに足りる力を集めることができるか?
確かに彼らの中には非常に強力な力を有する者も複数存在した。
だが、それだけでは足りない、魔王を産むにはほんの少し足りない。
その少しを埋めるものは何か?怨念だ。魔力とは精神の力。
惨劇の種を振りまき、この場を阿鼻叫喚で埋め尽くそう。
その時生まれる怒り、憎しみ、苦しみ……それらが参加者の魔力を増幅させる。
そう……今しがたシアンが喰らった飛蝗の男が、魔族、いや、ヨウカイとしての力に目覚めたように。
それは皮肉にも、レブナント・シアンを産んだ状況と酷似していた。

627虫ロワ 第100話「完全変態、そして」 ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 10:12:52
(奴らが私を『ジョーカー』とやらに選んだのは、その為かもな……さぞ楽しめたことだろう)

血の雨降り注ぐ死闘から十数分後、そこには膨れた腹をさすりながら、独り佇むシアンの姿があった。
生物学的には、彼女は『半妖の卵』から生まれた子なのであるが
何も知らぬ白紙の状態の赤子に、アバロンに伝わる秘術『伝承法』によってシアンの人格と魔力が乗り移ってきたのだ。
彼女は間違いなく『シアン・シンジョーネ』であろう。
シアンは沈黙し、立ち尽くしていた。最後に残った蟲……このアリ塚に突入した王蟲の生命が尽きるのを待っていたのだ……
が、それだけではない。彼女は黙祷に耽っていた。
恋人の片割れを目の前で殺害し、生き残った方も生きたまま喰らうという自らの所業に、わずかながら罪悪感を覚えていたのだ。

(そうか、私が……ヒトの心など蟲に喰われた時に失せたと思っていた、私の心が痛むとは……)

そういえば、蜘蛛の女を挑発する為にすするふりをした卵も、何故か実際に口を付ける気にはなれなかった。
もちろん『伝承法』で乗り移るための保険を掛けていたから、あえて食べるフリだけにしたのだが、
例え状況が許したとしてもアレは食べられなかっただろう。
人間の子供は容赦なく魔族に変え、成人の魔族は容赦なく利用し見捨てるシアンだが、
何故か魔の者の子供には甘かった。

(私は、子供に、そして、子を育む男女に、つい今しがた私が完膚なきまでに踏みにじったものに
 ……未来の希望を見ていたのかも知れん。)

(だが、私は謝らない。……代わりに約束する。
 この世の、ありとあらゆる不幸は……お前たちで最後にすると。)

(たった今息絶えた蟲の王の魂によって、『コドク』は完成した。)

628虫ロワ 第100話「完全変態、そして」 ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 10:13:22
「魔王『シアン・シンジョーネ』の誕生だ……!」

誰にともなく、天を仰いでシアン・シンジョーネは宣言した。
背中には、以前にも増して眩いばかりの虹色の鳥の翼が広がった。

「私は誓う。魔王として得た力で、……全世界の、あらゆる平行世界の、あまねく不幸を尽く駆逐すると。」

シアンの頭上に、黄金色に輝く魔法陣が展開された。
大気が震え、空中放電が産まれる程の、凄まじいエネルギー。
バダンに伝わる『時空魔法陣』だ。
バダンの怪人には月面と地球を繋ぐのが関の山だったが、
今のシアンに掛かれば並行世界の壁すら容易に破ることができる。

「来たか、『虫愛づる姫君』。最後まで生き延びた褒美だ。
 このシアンの為すことを、傍らで見守っていて欲しい。
 ……最早こうして言葉を交わす必要もないだろうが。」

そう言うとシアンは姫の手を取り、魔法陣の中央、闇の中に飛び込んでいった。
魔力の源を失った魔法陣はすぐにその機能を停止し、収縮して消滅した。
大広間には、静寂だけが残された。

【王蟲@風の谷のナウシカ】死亡
【シアン・シンジョーネ@パワポケ12秘密結社編】脱出
【虫愛づる姫@堤中納言物語「虫愛づる姫君」】脱出

629虫ロワ 第100話「完全変態、そして」 ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 10:13:50
☆参加者名簿
【サバイビー】(0/13)
●バズー/●ライバー/●デブリン/●赤目/●イップ/●ギロ/●エンゾ/●デッド/●ボガド/●キム/●ラム/●ブレイズ/●マシュー

【HUNTER×HUNTER】(0/13)
●ポンズ/●キメラ=アントの女王/●コルト/●ラモット/●レイナ/●メルエム/●ネフェルピトー/●シャアウプフ/●モントゥトゥユピー/
●レオル/●ブロヴーダ/●ウェルフィン/●メレオロン/●イカルゴ/●ヂートゥ/●ザザン/●パイク/●ヒナ

【仮面ライダーspirits】(0/11)
●本郷猛/●一文字隼人/●風見志郎/●フレイ・ボーヒネン/●アスラ/●グィン将軍/●ジゴクロイド/●カマキロイド/●カニロイド/●ムシビト/
●ビクトル・ハーリン

【虫姫さま】(0/11)
●レコ/●アキ/●キンイロ/●ギガスゾォム/●ザゾライザ/●ベニホノォガーダー/●キュリオネス・ヘッド/
●ヤミィロシマーボウ/●ダマルリガ/●ルリイゴホォン・クリス/●アッカ

【テラフォーマーズ(バグズ2号編)】(0/11)
●小町小吉/●ドナテロ・K・デイヴス/●蛭間一郎/●秋田菜々緒/●ティン/●ゴッド・リー/●ヴィクトリア・ウッド/
●テラフォーマー(第1話・菜々緒の首を折った個体)/●テラフォーマー(第2話・ゴッド・リーの高熱ガスを受けた個体)/
●テラフォーマー(第3話・テジャスの頭をもいだ個体)/●次世代型テラフォーマー(額に川の字)

【風の谷のナウシカ】(0/6)
●ナウシカ/●セルム/●王蟲(6巻・ナウシカを漿で包んだ個体)/●王蟲・幼体(2巻・トルメキア軍に囮として利用された個体)/●地蟲/●ヘビトンボ

【地球防衛軍2】(0/6)
●巨大甲殻虫/●赤色甲殻虫/●凶虫バゥ/●バウ・ロード/●ドラゴン・センチピード/●ストーム1

【ドラゴンクエスト7】(0/5)
●チビィ/●シーブル/●ヘルワーム/●チョッキンガー/●オルゴ・デ・ミーラ

【ロマンシング・サガ2】(0/4)
●ワグナス/●クィーン/●マンターム/●タームソルジャー

【パワポケ12秘密結社編】(1/4)
○シアン・シンジョーネ/●ソネ・ミューラー/●ハキム/●ヘルモンド

【東方project】(0/3)
●西行寺幽々子/●リグル・ナイトバグ/●黒谷ヤマメ

【武装錬金】(0/2)
●パピヨン/●ドクトル・バタフライ

【堤中納言物語「虫愛づる姫君」】(1/1)
○虫愛づる姫

【スパイダーマン(東映版)】(0/1)
●山城拓也

【現実】(0/2)
●ジャン・アンリ・ファーブル/●下妻市のシモンちゃん

計2/93
虫ロワ(バグズ・バトルロワイアル)終了

630虫ロワ エピローグ「胡蝶の夢」 ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 10:14:40
途方も無い魔力を蓄え、真なる魔王と化したシアン・シンジョーネが、地球に『降臨』した。
北極点付近で撮影されたその姿は、太陽のようにまばゆく輝く黄金の鳥の様だったという。
その輝きは波紋のように大気圏内を巡り、地球上全ての生命体を覆い尽くした。
同時に、彼らはその輝きの正体を知る。
何か偉大で、温かい力を持つものが入り込んでくる。
それを中心に、全ての生命体の精神がつながり合っていく。
同化の法。テレパシー。蟲や死霊を操る能力。
蟲毒によって集めた参加者の魂からこれらの能力を獲得したシアンが行ったのは、地球上の全生命体の意識の統合。
食うものが食われることの痛みを知り、食われるものが食うことの苦しみを知る世界。
シアンの目的は自ら大地にあまねく五虫を束ね、調和させる鳥となることだった。

その光の津波は、社会と生命のあり方を根本から覆した。
今まさに戦闘中だった敵兵同士が、突如として武器を投げ捨てた。
自力の呼吸すらできなくなった母親の真意を知り、静かに呼吸器を外す息子がいた。
職を求めるという行為が意味を失い、人々は皆自然と最も適する役割を担った。
役割が無いと悟った者は静かに土や海へと還っていった。
市場経済は自然消滅し、政府は大幅にその機能を縮小した。
屠殺業者は自責の念から自殺を試みたが、家畜たちに制止された。
恋愛はその意味を失い、婚姻ははより優れた子孫を残すための品種改良の手段となった。

生きとし生けるものがお互いの全てを知り、競争を止め協力をする世界。
地球の生命は、初めて一つの『真の社会』となった。
生存競争というエネルギーのロスが消え、文明が急速に発展した。
やがて並行世界の壁をも超えて統合された地球の生命は宇宙にまで版図を広げ、
末永く繁栄を謳歌することとなる……。

631虫ロワ ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 13:32:39
……今、わらわが見ていたのは何だったのじゃろう。

確か、やっとの思いで隠れることができた所までは覚えておる。
傍にいるだけでどうにかなってしまいそうなゆぴいの『怒りの感情』じゃった。
隠れた後、わらわは……気を失っておったのじゃろう。
長い、永い、幾百年、幾千年もの間を夢見ていたようじゃ。
ゆぴいに、やまめに、てぃんは、どうしたのじゃろう。

(死ンダ。……アノマツロワヌ魂……しあんノ贄トナッタ。)

虫愛づる姫君が仲間の安否を案じると、階下から話しかけてくる心の声が聞こえてきた。
体全体を震わすように重々しく、それでいてどこか安らぎを感じるその声は……王蟲。
姫を含む4人を、捨て身でこの蟻塚まで運んでくれた仲間。
既に事切れたかに思えた彼女だったが、まだ息があった。
現在も姫の右腕の腕輪を介して、王蟲と心が通じ合っているのが何よりの証拠だ。
だが今は、そんなことよりも……

(3人とも死んだ、じゃと?)
(オマエモ見タハズダ。今見テイタノハ、紛レモナク現実ニ『起キテイタ』コト。
 ヨリ正確ニハ……今、マサニ『起コッテイル』コト、ナノダ。
 オマエガ左手ニ握リ締メテイル、ソノ『珠』ガ我々ニ見セタ光景ハ……。)
(この珠が……?)

632虫ロワ ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 13:33:13
いつの間にか姫が握り締めていたのは、オレンジ色に淡く輝く宝珠・『未来視の珠』。
その名の通り説明書きには『未来が見えるといわれる魔法の珠』とだけ記されていたが、
何をしてもその効力を発揮することがなく、支給された彼女自身その存在を忘れてしまっていたシロモノだ。

(では、今見たまぼろしが本当に『起コッテイル』コトとして、
 どこまで『起コッテイル』のじゃ?判るか?王蟲よ)
(ダカラソレハ……今教エタ通リ、ダ。)
(死んだのか!?ゆぴいも、やまめも、てぃんも!おお……なんということじゃ)
(ダガ……案ズル事ハ無イ。
 オ前ハ恐ラク、最後マデ生キ残ル。ソノ珠ガ見セル通リニ事ガ運ベバナ。
 ソレニ……ソノ『珠』ノオカゲデ初メテしあんの真意ヲ知ルコトガデキタ。
 コノ地デ斃レタ蟲タチノ魂ヲ糧ニ、しあんハ『救イ』ヲモタラソウトシテイルノダ。)
(『救い』、じゃと……?)
(私モモウ助カラナイガ……私ガ死ンダ時、ソノ魂ヲ以ツテしあんノ『救イ』ハ完成スル。
 ダカラ、オ前ハ何モ案ズル事ハ無イ、心配ハ要ラナイ。
 我々ノ戦イハ……モウ、終ワッタノダ。)

既に我々にはシアンと戦う理由がない。
そう告げられた姫は咄嗟に王蟲に何か言い返そうとしたが、上手く言葉にできなかった。
だが、数十秒の沈黙の後、ポツリと一言、口にした。

633虫ロワ ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 13:33:59
「……嫌じゃ。」
(……)
「そんな世界、嫌じゃ。
 産まれた時からこの世の生き物のこと全て知り尽くしておる世界など、わらわは嫌じゃ。
 そんな世界、『救い』でも何でもない。」
(………)
「わらわは……毛虫が蛹になって、蝶になるのを見るのが好きなのじゃ。
 初めて見る毛虫が、どんな蛹にこもって、どんな蝶になるのか……
 成長する過程、そして、わらわがそれを知っていく過程が好きなのじゃ」
(…………)
「じゃから……シアンのこれからやろうとしていることは、
 とても『救い』であるとは思えん。わらわが、わらわでなくなってしまう。
 ……のう、どうにかしてしあんを止めることはできぬか?」
(……オ前ハ、ワガママダ。
 貴人ノ娘トシテ何一ツ不自由ナク生キテキタカラ、ソンナコトガ言エルノダ。
 全テノ生キ物ガ心ヲ通ジ合ワスコトガ出来レバ、
 人間ドモガツマラヌ争イデ苦シムコトハナクナルノダ。
 餓エテ死ヌ子ラモ大勢救ウコトガデキルノダ。)

「……駄目なのか?……ならば、わらわだけでも行く。行かせてたもれ。」
(イヤ……待ッテイタゾ、ソノ言葉ヲ。『しあんヲ止メル』トイウ、ソノ言葉ヲ。
 オ互イ殺シ合イ、喰ライ合イ、餓エテ倒レ……ソレデモ生キテユクノガ、人間ナノダ。
 生命ナノダ。ダカラ……『コノ者タチ』ト共ニ、チカラヲ貸ソウ、『虫愛ヅル姫君』ヨ。)

いつの間にか姫の周りには、喰われずに残っていた魂が集まっていた。
シアンに『触媒』として集められ、蟲毒の足しにならぬからと捨て置かれていた、ただの人間の魂。
姿は視えないが、確かにそこにいる。会ったことがある者も、顔も見ることも無く死んでしまった者も。
そして、魂を喰われて尚、子の為に戦わんとする土蜘蛛の半身も、そこにいた。
彼らが護ってくれている。姫は武器を手に、立ち上がった。

(君ならできるよ)
「そうとも、わらわたちなら……できる!」

これが最後の闘いだ。

634虫ロワ 第100話・TAKE2『バグズ・ライフ』 ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 13:35:08
血の雨降り注ぐ死闘からおよそ十分後、そこには膨れた腹をさすりながら、独り佇むシアンの姿があった。
生物学的には、彼女は『半妖の卵』から生まれた子なのであるが
何も知らぬ白紙の状態の赤子に、アバロンに伝わる秘術『伝承法』によってシアンの人格と魔力が乗り移ってきたのだ。
彼女は間違いなく『シアン・シンジョーネ』であろう。
シアンは沈黙し、立ち尽くしていた。最後に残った蟲……このアリ塚に突入した王蟲の生命が尽きるのを待っていたのだ……
が、その時シアンの胸に、赤い呪力の槍が突き刺さった。
これは、シアンもよく知る攻撃魔術の一つ……『ブラッドランス』!

「『虫愛づる姫君』……!そのまま大人しく寝ていれば、『新世界』の誕生に立ち会えたものを!」

シアンが振り向いた先には、『賢者の青き衣』を纏った黒髪の少女がいた。
右腕に大型のプラズマ銃、左手には今しがた初めて『本来の用途』で使われた未来視の珠。
そして、下半身は……先程階段に叩き落としたツチグモの胴体と融合している!

「既にお前達の仲間は全滅している!
 それでも、あくまで私を邪魔するというなら、消え失せろッ!」
「……右っ!」

以前にも増して強力な熱線『王の怒り』を、姫は蜘蛛の肢で横跳びし回避。
姫のもう一つの支給品は、一枚の紙切れ。
破り捨てることで一時間だけ『念能力』を得ることができる、てのひらに収まる大きさの、小さな紙切れだ。
彼女に支給されていたのは……『死体と遊ぶな子供達(リビングデッドドールズ)』が封じられた券。
それは、死体に取り付き、我が身のように操る念能力だ!

(よもやわらわがこうして、土蜘蛛と一つになって戦うことになるとはな……)

635虫ロワ 第100話・TAKE2『バグズ・ライフ』 ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 13:35:35
感慨に浸る暇はない!
シアンは再び背中に翼を、そして両腕を無数の触手を生み出している!
姫の正面から『ふりそそぐ羽根』が、周囲からは回りこむように『触手』が、
怒涛のように襲い掛かってくる!

「敏捷性強化(くいっくねす)……!」

未来視の珠に封じられたもう一つの術、『クイックネス』で加速した姫は、
なんとシアンに向かって真正面から突貫した!
無数の毒羽根の発射地点に、最も弾幕密度の高い地点に向かって!だが、当たらない!
身を翻し、首を反らし、電光のように隙間を縫いながらかわす、かわす、かわす!

「この動き!術で強化された程度でこれだけ動けるはずが……!まさか……!」

シアンが驚愕する一瞬の間に、既に姫は目前に到達していた!
既に癒えつつあった胸の傷に右腕のプラズマ銃をねじ込みながら!

「そこじゃああああああ!」

636虫ロワ 第100話・TAKE2『バグズ・ライフ』 ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 13:36:16
そして、レイピアGスラストの引き金が引かれ、シアンの体内に押し込まれた銃口から
エメラルドグリーンの閃光が放たれた!
巨大昆虫さえ一瞬で焼き殺す無数のプラズマアーク刃が、ゼロ距離、いや、マイナス距離からシアンを襲う!

「がああぁああああぁああぁあぁあ!」

全身を痙攣させ、苦悶の叫びを上げるシアン!
炭化する肉体は魔王の驚異的な回復力で次々修復されてゆくが、追いつかない!
徐々にシアンの胸に穴が穿たれてゆき、そしてついに鼓動する心臓が露出した!

「これでえぇ!終わりじゃああああああ!」

姫はエネルギーの切れた銃を投げ捨て、
右手をシアンの心臓に……『魔王の魂』の宿る処に押し当て、スペルカードを宣言した!
今や姫の半身となった『黒谷ヤマメ』の、スペルカードを!

「細網『犍陀多之縄(カンダタロープ)』!……皆、還って来いっ!」

掌から放たれる黄金色のレーザーが露出したシアンの心臓を更に灼き貫く!
……いや、貫けない!
シアンの肉体の回復が追いつき始めている!破壊力が、足りない!
そして、ついにスペルカードの効力が終了した!
シアンの傷は姫の右腕を閉じ込めたまま、完全に回復してしまった……!

637虫ロワ 第100話・TAKE2『バグズ・ライフ』 ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 13:36:46
「ハァッ、ハーッ……どうした、これで打ち止めか」
「はあっ、はぁっ……」
「……惜しかったな。私の攻撃を掻い潜り、間近まで詰め寄ったあの動き。
 蟲毒の材料として使われず漂っていた『人間』達の意識を借りていたのだろう?
 私が真の魔王となれば、更に多くの者……全世界の生命と繋がることも可能だ。
 お互いがお互いの全てを知り尽くし、争いもなく協力して生きていく。
 悪しき迷信に囚われること無く、全ての者が正しい知識を生まれつき共有している。
 ……そんな世界を創ることができるのだ。
 ……もう一度だけチャンスをやろう。私と共に来い。世界を救おう。二人で、共に」
「……じゃ。」
「ん?」
「わらわの……わらわたちの勝ちじゃ」
「何を言って……まさか、これは!!」

(ほらね?迎えは絶対来るって)

シアンの胸の中から声が聞こえてくる。

(しかし、こんな細い糸で大丈夫なのか?)

正確には胸の中、心臓と一体化した魔王の魂からだ。

(どっかのお釈迦様の気まぐれとは一緒にしないでほしいわね。
 この糸は百人ぶら下がってもダイジョーブ!)
(カメラで撮られたりしない限りね!)
(うっさい!)

この声は……蟲毒によって魔王の魂の中に封じられた、死んだ蟲たちの声!

638虫ロワ 第100話・TAKE2『バグズ・ライフ』 ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 13:37:16
「待てっ、お前は何を「おおおおおおおおお!!」

姫がシアンの体内に埋まった右腕を力の限り引き抜くと、その手には金色に輝く細い糸が握られている!
糸には数匹の蜜蜂や、ケラ、甲虫、コオロギ、隻眼のオオスズメバチ……何匹もの小さな虫たちの……魂が掴まっている!

「まさかお前は!……やめろ、やめてくれえええええ!」

シアンはその時初めて姫の真の目的を知った!
魔王の魂に撃ち込まれた『カンダタロープ』の真の目的を!

「皆の者、手伝ってたもれ!」

『人間』たちの魂が、力を合わせて金色の糸を引く!
魔王の魂に封じられた、蟲達の魂が続々引きずり出されて来る!
ヒトと心を通じ合わせた、あるいは通じ合わすことのなかった虫の魔物たちが、
異星からの尖兵たちが、火星で異常な進化を遂げた黒き悪魔たちが、ヒトを喰らいヒトの姿と知性を得た蟻たちが、
ヒトの身に蟲を組み込んだヒト達が、善悪なく、その魂の聖邪にかかわらず、一筋の蜘蛛の糸を手繰り魔王の魂を脱出する!

(姫と、王蟲たちに……あのワグナスって奴には感謝しないといけないな)
(そうね……ユピー、アンタはどうするの?
 要らないっていうんなら、あたしがアンタの分までもらってくわよ?)

「……王蟲よ、頼む!」
(心得タ)

639虫ロワ 第100話・TAKE2『バグズ・ライフ』 ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 13:37:48
金色の糸の延びる先には、既に朽ち果てた肉体を脱した王蟲がいた!
彼女もまた綱引きの錨(アンカー)となって、糸を引いている!
蟲達の魂はなおも列を為し、続々と抜け出てくる!
シアンの同志だった者たちも、森を護っていた巨大な蟲たちも、
かつて世界を救い英雄と呼ばれた復讐者も、世界を切り取り闇の中に封じようとした偽神も、
蟻の王とその忠実な下僕たち、そしてその母君も……!

(ピトー、プフ、そして、母上……迎えが来た、共に行こうぞ)
(ははっ)
(仰せのままに)
(王!私も、このモントゥトゥユピーもお供します!)
(ならぬ)
(!?……何故です、王!)
(余は既に王ではない)
(王、いえ、メルエム様は既にその役目を終えられた……ただそれだけの事)
(これで、今度こそコムギ様の元へ行けますね、メルエム様)
(モントゥトゥユピー、今まであの子に、メルエムによく仕えてくれました。
 ですが、肉体の滅びた私たちは行かなければなりません。あの巨きな蟲の導く先へ。
 この地で我らが種族もその殆どが斃れてしまいました。貴方だけは、まだ……)
(母上の言う通りだ。余からも、頼む。……キメラアントの未来をお主に託す)
(……メルエム様)

(ユピー!どーすんのー!?)
(早く決めないと、ヤバいぞー!)

640虫ロワ 第100話・TAKE2『バグズ・ライフ』 ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 13:38:40
既に蜘蛛の糸は姫の手を離れていた。
王蟲を先頭に、ヒトと、蟲と、それ以外の何かの魂が、蜘蛛の糸に連なり天へと還ってゆく。
生前の姿を模していた魂の像が、次第にぼやけ、薄くなり、遠く何処かへ離れてゆく。
文字通り魂の抜け殻となり、仰向けに倒れたシアン・シンジョーネ。
首の裏から一瞬、焼けるような痛みが走った。『呪印』が解かれたのだ。
もはやこの蜘蛛の体も必要ない。持ち主に還そう。姫は念能力を解除し、ヤマメの半身との融合を解いた。
シアンの胸からは依然、天に向かって延びてゆく蜘蛛の糸が……糸を掴んだ手が湧き出てくる!
実体のある、手が!シアンの胸から!腕が!肩が!身体が!バリバリと肉を裂きながら!

「お、お主ら……!……何者じゃ!?
 ええと、『やまめ』に、『ゆぴい』に、その『飛蝗頭』は本当に何者じゃあ!?」
「ティンよ。なかなか美味しそうな顔でしょ?」
「……やまめよ、それは無いのう。して、なぜお主がゆぴいの胴体を!?」
「だってあたし、出てきても足が無いし」
「だからって俺の身体奪う奴があるか!?」
「ゆぴいが縮んでおるのはそのためか……でも、良かった。3人とも無事だったのじゃな」
「4人よ」
「ああ」

蜘蛛の糸を手繰り、魔王の魂から最後に脱出を果たしたのは、
ユピー、ティン、ヤマメと、彼女が左手に持つ卵の『4名』であった。
魂のみならず、肉体をもシアンに奪われた彼らは
魔王の魂の中でワグナスより教わった術・同化の法でシアンから肉体を奪い返すことにより、生還を果たしたのだ。
……ユピーが迷う間にヤマメが余分に身体を同化してしまうというイレギュラーは発生してしまったが。

641虫ロワ 第100話・TAKE2『バグズ・ライフ』 ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 13:39:02
「俺の身体返せよ、テメェ!」
「やだよ、同化の法で身体は治せても、痛いモノは痛いもん!」
「じゃあ、あの人間の女に貸してた、胴体を寄越せ!」
「それもダメ!……あたしを食べて良いのは、ティンだけだもん!」
「……おい、ティン!……あの胴体、喰って良いか?もしダメなら、お前の下半身をもらう」
「俺に振るな俺に!」

(あやつら、生き返ったばかりなのに元気じゃのう。
 ……そうか。そうでなければ困る、か。そうじゃな、戦いはまだ終わってはおらぬ。
 そして、この戦いが終わってもまた新たな戦いがやってくる……か。
 ……王蟲よ。達者でな)

「あー、痛かった……今日は3回も胴を斬られた……厄日だわ」
「少なくとも1回は自業自得だろうが、ケッ!」
「そういう時は逆に考えるんじゃ。
 1日に3回も胴体を斬られて生きておるなんて、なかなかできん経験じゃぞ?
 普通1回で死ぬ。お主は幸運じゃ」

『ア゛ァア゛ア゛ア゛ア゛――――――――――――――――!!!』

ユピーが『元の姿』に戻り、ヤマメが蜘蛛の下半身を取り戻した時、
部屋中にけたたましいモーターサイレンの大音響が鳴り響いた。

642虫ロワ 第100話・TAKE2『バグズ・ライフ』 ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 13:39:35
「この音は!」
「『警告音』だ!……主催者の手に負えなくなった俺たちを、アリ塚ごと始末する気だ!
 核爆弾か、殺虫剤のような兵器で!」
「姫!主催者の、ナムリスの居所は判るか!」
「この上……階段を登った先じゃ!」

一行が階段を駆け上がり、鉄の扉を突き破ると、
そこは無数のモニターが床から天井から並ぶ……航空管制室とでも表現すべき部屋に行き着いた。
部屋の中央の机には、マイクスタンドと兜をかぶった生首があった。
バトルロワイアル司会進行役の、皇兄ナムリスだ。

「おい、そこの生首!わらわ達が帰る方法を教えろ!」
「あ゛ぁ!?」

モニターを見張っていたナムリスは、ぴょんぴょん飛び跳ねて一行の方を向いた。

「脱出の方法を教えろって言ってんのよ、このゆっくり亜種!」
「ああん!?ねえよ、そんなもん!」
「何だと……!」
「しらばっくれたら為にならねぇぞ。頭を開いて脳味噌に直接『質問』させてもらう。
 俺はピトー程器用でないから、余計に苦しませることになるかもしれん。覚悟しろよ」
「そんなことしても何も判らねえぜ?『廃棄』されたんだよ!お前らも、俺も!!
 脱出方法なんざ無え!あと10分でこの会場の最深部、腐海の底にセットされた水素爆弾が爆発する!
 せいぜいゆっくりして逝きやがれ!ヒヒヒヒヒヒ、ヒ、ヒ……ヒ!?」

一行が詰め寄ろうとすると、一つ目をあしらったナムリスの兜の『瞳』に、剣が突き刺さっていた。
大広間に置き忘れてきた、『メタルキングの剣』だ!
投げつけたのは……

643虫ロワ 第100話・TAKE2『バグズ・ライフ』 ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 13:40:07
「シアン・シンジョーネ!」
「生きてやがったのか……」

ユピー、ティン、ヤマメの3名は、部屋の入り口で息を切らすシアンに敵意の篭った眼差しを向けた。

「その男の言う事は……事実だ。脱出方法など最初から用意していない」
「このアマ……!」
「よせ、ゆぴいよ……しあん、お主が」
「ああ、脱出方法は、これから私が作る」
「信用するとでも思っているのか?」
「それはお前たちの勝手だ。私は為すべきことをするだけだ」
「てぃん……わらわも保証する。しあんにもはや、敵意はない」
「……方法は?」
「『時空魔法陣』を開く。『コドク』の儀式は魂の解放によりお前たちに破られたが……
 『コドク』により集められた魔力はまだいくらか残っている。
 お前たちを元のところに帰すくらいなら、何とかなるだろう」
「……では、わらわは屋敷に送ってたもれ」

最初に行き先を告げたのは、虫愛づる姫君だった。
彼女だけは、予知で『時空魔法陣』を見ていた。
シアンが目を閉じ空中に手をかざすと、スパークと共に空中に魔法陣のリングが出現。
それは拡大を続け、シアンの身長ほどのサイズで静止した。姫が予知で見たものと同じ魔法陣だ。
リングの内側には、夜の水面のように波打つ膜の向こうに……うっすらと大きな木造の邸宅が見える。

「ここを通り抜ければ帰れる……別に時速600キロを出す必要はないからな」
「? ともかく、向こうに見えるのは、間違いなくわらわの家じゃ。信じてやっても良いと思うぞ」

3人は実際に出現した魔法陣と姫の言葉に、幾分警戒を和らげた様子だった。

「本当に信じて良いのね?あたしとこの子は、幻想郷の地底の入り口へ頼むわ。ねえ……」

ヤマメがぶつけた質問は、参加者の立場からすればごく当然の質問だった。

644虫ロワ 第100話・TAKE2『バグズ・ライフ』 ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 13:40:37
「シアン、あんた敵だったのに……なぜそこまでしてくれるの?」
「同じだからだ。私も、お前たちも……人間以外の関係者は全て生体データ採取の為に集められたサンプルなのだ。
 この場でバトル・ロワイアルが開かれたのも、サンプル処分を兼ねた余興に過ぎん。
 『コドク』を完成させようとしたのも……いや、よそう。今は時間が惜しい。早く次の者の行き先を教えろ」

シアンがこのバトル・ロワイアルの開催の経緯を参加者に告げたのは、その時が初めてだった。

「俺は……そのサンプルとやらを集めた連中の元に送ってくれ。ぶん殴りに行く」

……そして、それを知ったユピーの反応は実に彼らしい反応であった。

「ユピー、アンタ王様とお母さんの最期の言葉忘れたの!?『キメラアントの未来を頼む』って!
 復讐なんてやってる場合!?」
「ヤマメの言うとおりだ。奴らに楯突く事は……あまりオススメできんな。
 私たちの反乱など想定の範囲内だろう。対策は何重にも打っているはずだ。
 例え関係者全員を皆殺しにして復讐を果たしたとしても
 いずれ代わりの組織が現れて同じ事をするだろうしな」
「それでもやるんだよ。俺たちをこんな穴蔵に閉じ込めて、こんな殺し合いをさせて、
 それを肴に一杯やる連中の事、許せる訳がねぇ!ありえねぇよ!
 その連中とやらには一発、痛い目見せてやらなきゃならねぇ!
 でねぇと、またすぐに同じことやるぜ……!俺たちや、俺達の子孫を無理矢理呼び出してな!」
「なるほど、ユピーは『私と同じ』でいいな」
「シアン、てめぇ……」

シアンの手により、新たに2つの魔法陣が開かれた。

645虫ロワ 第100話・TAKE2『バグズ・ライフ』 ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 13:41:00
「残るはてぃんだけじゃな。てぃん、お主はどうするのじゃ?」
「俺は……」
「あたし達と一緒に行こう!幻想郷で一緒に暮らそうよ!」
「……すまない。俺もユピー達と共に行く」
「え……?」
「俺たちの子を守るためだ、分かってくれ……全部片付いたら、必ずそっちに行くから」
「…………ティン、頭下げて」

そう言うや否や、ヤマメはティンの頭を右前肢で自分の顔まで引き寄せ……

「そういえば、ちゃんとキスしたの初めてたったね……」

本来緑のはずのバッタの頭が、赤く染まった瞬間であった。

「ティン、待ってるから!じゃあね、みんな!」
「ああ、必ずそっちに行くからな!」

照れくささを隠し切れない様子で、まずヤマメが幻想郷へと繋がる魔法陣に飛び込んだ。
もちろん、左手には卵を抱えて。

646虫ロワ 第100話・TAKE2『バグズ・ライフ』 ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 13:41:37
「おおう、あやつら熱いのう……」
「ケッ、バカップルが」
「では、わらわも行くとするか。あやつらを見ておると、急に右馬佐の奴に会いとうなってきた。
 ……ゆぴいに、てぃんよ。お主らも急ぐが良いぞ。では、さらばじゃ」

別れの言葉もそこそこに、虫愛づる姫君もそそくさと魔法陣を通り抜けていった。
と同時に、ユピーとティンは異変に気付く。

「う、うむむむむ……」(ぷしゅ〜っ)
「シアンの奴、湯気吐いてるぞ!」
「オイッ、シアン!目ェ回して、ゆでダコみたいになってんじゃねぇ!
 魔法陣消えかけてんぞ!気を確かに持てっ!どんだけウブなんだよ、オイッ!
 ティン!早く来いっ!!魔法陣がやべぇ!」

ティンと、シアンを担いだユピーが、駆け足で魔法陣を駆け抜けていった。
彼らの戦いはまだ終わってはいない。

【王蟲@風の谷のナウシカ】死亡
【黒谷ヤマメ@東方project】脱出
【虫愛づる姫@堤中納言物語「虫愛づる姫君」】脱出
【モントゥトゥユピー@HUNTER×HUNTER】脱出
【シアン・シンジョーネ@パワポケ12秘密結社編】脱出
【ティン@テラフォーマーズ】脱出

647虫ロワ 第100話・TAKE2『バグズ・ライフ』 ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 13:42:07
☆参加者名簿
【サバイビー】(0/13)
●バズー/●ライバー/●デブリン/●赤目/●イップ/●ギロ/●エンゾ/●デッド/●ボガド/●キム/●ラム/●ブレイズ/●マシュー

【HUNTER×HUNTER】(1/13)
●ポンズ/●キメラ=アントの女王/●コルト/●ラモット/●レイナ/●メルエム/●ネフェルピトー/●シャアウプフ/○モントゥトゥユピー/
●レオル/●ブロヴーダ/●ウェルフィン/●メレオロン/●イカルゴ/●ヂートゥ/●ザザン/●パイク/●ヒナ

【仮面ライダーspirits】(0/11)
●本郷猛/●一文字隼人/●風見志郎/●フレイ・ボーヒネン/●アスラ/●グィン将軍/●ジゴクロイド/●カマキロイド/●カニロイド/●ムシビト/
●ビクトル・ハーリン

【虫姫さま】(0/11)
●レコ/●アキ/●キンイロ/●ギガスゾォム/●ザゾライザ/●ベニホノォガーダー/●キュリオネス・ヘッド/
●ヤミィロシマーボウ/●ダマルリガ/●ルリイゴホォン・クリス/●アッカ

【テラフォーマーズ(バグズ2号編)】(1/11)
●小町小吉/●ドナテロ・K・デイヴス/●蛭間一郎/●秋田菜々緒/○ティン/●ゴッド・リー/●ヴィクトリア・ウッド/
●テラフォーマー(第1話・菜々緒の首を折った個体)/●テラフォーマー(第2話・ゴッド・リーの高熱ガスを受けた個体)/
●テラフォーマー(第3話・テジャスの頭をもいだ個体)/●次世代型テラフォーマー(額に川の字)

【風の谷のナウシカ】(0/6)
●ナウシカ/●セルム/●王蟲(6巻・ナウシカを漿で包んだ個体)/●王蟲・幼体(2巻・トルメキア軍に囮として利用された個体)/●地蟲/●ヘビトンボ

【地球防衛軍2】(0/6)
●巨大甲殻虫/●赤色甲殻虫/●凶虫バゥ/●バウ・ロード/●ドラゴン・センチピード/●ストーム1

【ドラゴンクエスト7】(0/5)
●チビィ/●シーブル/●ヘルワーム/●チョッキンガー/●オルゴ・デ・ミーラ

【ロマンシング・サガ2】(0/4)
●ワグナス/●クィーン/●マンターム/●タームソルジャー

【パワポケ12秘密結社編】(1/4)
○シアン・シンジョーネ/●ソネ・ミューラー/●ハキム/●ヘルモンド

【東方project】(1/3)
●西行寺幽々子/●リグル・ナイトバグ/○黒谷ヤマメ

【武装錬金】(0/2)
●パピヨン/●ドクトル・バタフライ

【堤中納言物語「虫愛づる姫君」】(1/1)
○虫愛づる姫

【スパイダーマン(東映版)】(0/1)
●山城拓也

【現実】(0/2)
●ジャン・アンリ・ファーブル/●下妻市のシモンちゃん

計5/93
虫ロワ(バグズ・バトルロワイアル)終了

648虫ロワ ◆XksB4AwhxU:2013/08/05(月) 13:42:36
以上で投下を終了します。

649名無しロワイアル:2013/08/12(月) 19:55:30
これで完結したのは……
8作品目?

650名無しロワイアル:2013/08/12(月) 21:17:23
虫ロワ完結おめでとうございます。
エピローグまで流れて、事実上の全滅で終わるかと思いきや、
まさか虫愛づる姫がヤマメの力を借りて、蜘蛛の糸の寓話の再現というか、
仲間達を死の淵から現世に呼び戻す荒業! また俺の想像力が足りなかった……
ティンたちの戦いはこれからのようですが、続きはあるんですかね?(期待)

651 ◆XksB4AwhxU:2013/08/13(火) 21:22:02
>>650
感想ありがとうございます。
参戦発表時は2話目までのプロットまでしか考えてなかったのでどうなることかと思っていましたが、
何とか完結できました。

行き当たりバッタリなのは毎度のことですが、エピローグはまたそのうちに……ということで。

それにしても……今思い返すと普段のパロロワじゃあ生き残りそうに無いメンツだなぁw

ティン:1巻で壮絶な死を迎える主人公の親友ポジ
ヤマメ:1面ボス
ユピー:敵組織幹部の脳筋担当
シアン:敵組織幹部のリーダー、ただし原作ではハーゴンに近い立場
王蟲:名無しキャラ、見た目からして完全に人外
虫愛づる姫君:古文の短編が出典の一般人、ていうかほぼオリキャラ

652 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/08/13(火) 21:47:02
>>651
そもそもテラフォの参戦キャラ(死亡済みですが)からして無理矢理感がw
バグズテラフォーマーですらないのにじょうじい過ぎですよw
けどそうやって自分の好き放題やれるのが、そしてそれを見せてもらえるのがあと3話の醍醐味。
あとティンは死に様も生き様も最高に熱い男なので、二次創作でこそ生き残って欲しいと思う自分には最高でした。


自分の場合、2話目でノリ過ぎて初期プロットが完全にひっくり返ってしまいました。
本当はもっと1話辺りの文量を少なく、さっくり全滅ENDの予定だったのに……
実はオキクルミはパワーアップせずに死ぬ予定でした。というかそれを思いついたがためにああなりました。

653名無しロワイアル:2013/08/19(月) 21:47:28
よーし、お兄ちゃん新しく来たヒトの為に
>>317の続き作っちゃうぞーw

◆Wue.BM1z3Y氏
DQFFロワイアルS XIII 完結
>>17から3話連続

◆eVB8arcato氏
まったくやる気がございませんロワイアル
テンプレ、298話>>33

◆nucQuP5m3Y氏
リ・サンデーロワ 未完(だけど完結)
テンプレ>>44 298話>>59 299話>>122 300話>>366

◆6XQgLQ9rNg氏
それはきっと、いつか『想い出』になるロワ 完結
テンプレ、298話>>46 299話>>97 300話>>174

◆9DPBcJuJ5Q氏
剣士ロワ 完結
テンプレ>>66 298話>>137 299話>>212 300話>>385 死者スレラジオ>>539

◆MobiusZmZg氏
素晴らしき小さなバトルロワイアル
テンプレ、288話>>68 289話・序幕>>161 289話・第一章>>276 289話・第二章>>494

◆c92qFeyVpE氏
絶望汚染ロワ
テンプレ、288話>>84 289話>>344

◆YOtBuxuP4U氏
第297話までは『なかったこと』になりました(めだかボックスロワ) なかったことになりました(完結)
テンプレ、298話>>149 299話>>192 死者スレ>>353 300話>>438

◆rjzjCkbSOc氏
謎ロワ 完結(プロローグが)
テンプレ>>201 298話>>234 299話>>255 300話>>467

◆9n1Os0Si9I氏
やきうロワ 完結
テンプレ、288話>>206 289話、300話>>322
希望ロワ
テンプレ、298話>>568

◆tSD.e54zss氏
ニンジャスレイヤーロワ
テンプレ、288話>>244

◆uPLvM1/uq6氏
変態ロワ
テンプレ>>264 158話>>517

◆xo3yisTuUY氏
日常の境界ロワ
テンプレ、298話>>265

◆XksB4AwhxU氏
虫ロワ 完結
テンプレ>>67 98話>>301 99話>>332 100話>>613

◆Air.3Tf2aA氏
現代ジャンプバトルロワイアル
テンプレ>>350

◆ULaI/Y8Xtg氏
ダンガンロンパ―もういっかい! リピート絶望学園♪―(ダンガンロンパロワ)
テンプレ>>379

◆uuKOks8/KA氏
幻想水滸ロワイヤル
テンプレ>>551 322話>>587

◆loZDXIX6eU氏=◆Q0VzZxV5ys氏
NARUTOロワ
テンプレ>>563 一回目>>575

◆LO34IBmVw2氏
孤独ロワイアル
テンプレ>>567

◆r7Zqk/D9pg氏
D(どうしようもないよ)Q(くぉいつら)ロワ(ドラクエロワ)
テンプレ、288話>>601

654 ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 00:58:07
投下します、と言いたいですがテンプレ生存者七人おるやん、ってことでまずはテンプレ変更します。



【ロワ名】
『孤独ロワイアル』

【生存者6名】
岩倉玲音(serial experiments lain)
佐藤達広(NHKにようこそ!)
桐敷沙子(屍鬼)【限界寸前】【右腕使用不可】
引企谷八幡(やはり俺の青春ラブコメは間違っている。)
鈴木英雄(アイアムアヒーロー)【フラッシュバックによる無力化の可能性】
ピノ(Ergo Proxy)

【主催者】
球磨川禊(めだかボックス)

【主催者の目的】『暇つぶし』『強いて言うなら』
        『パロロワってやつを開催してみたくてね』

【補足】『優勝したら元にいた世界に返してあげるけど』『願いは叶えないよ』
    『だってどんな願いも叶えるだなんて』『人間にできるわけないだろう(笑)』

【参加作品】
・エルフェンリート
・serial experiments lain
・NHKにようこそ!
・屍鬼
・やはり俺の青春ラブコメは間違っている。
・Ergo Proxy
・めだかボックス
・GUNSLINGER GIRL
・僕は友達が少ない
・今、そこにいる僕
・ぼくらの
・BRIGADOON まりんとメラン
・灰羽連盟
・アイアムアヒーロー
・烈火の炎
・おやすみプンプン


以上テンプレです。では投下しますー。

655 ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 21:19:17
昨日はテンプレ透過した瞬間メンテでした、すみません。

ちと修正があったので再び改めてテンプレから。




【ロワ名】
『孤独ロワイアル』

【生存者6名】
岩倉玲音(serial experiments lain)
佐藤達広(NHKにようこそ!)
桐敷沙子(屍鬼)【限界寸前】【右腕使用不可】
引企谷八幡(やはり俺の青春ラブコメは間違っている。)
鈴木英雄(アイアムアヒーロー)【フラッシュバックによる無力化の可能性】
ピノ(Ergo Proxy)

【主催者】
球磨川禊(めだかボックス)

【主催者の目的】『暇つぶし』『強いて言うなら』
        『パロロワってやつを開催してみたくてね』

【補足】『優勝したら元にいた世界に返してあげるけど』『願いは叶えないよ』
    『だってどんな願いも叶えるだなんて』『人間にできるわけないだろう(笑)』

【参加作品】
・エルフェンリート
・serial experiments lain
・NHKにようこそ!
・屍鬼
・やはり俺の青春ラブコメは間違っている。
・Ergo Proxy
・めだかボックス
・GUNSLINGER GIRL
・僕は友達が少ない
・ローゼンメイデン
  ・私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!
・ぼくらの
・BRIGADOON まりんとメラン
・灰羽連盟
・アイアムアヒーロー
・烈火の炎
・おやすみプンプン


以上テンプレです。では投下しますー。

656 ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 21:23:36
『みんなおはよう!』『はじめまして!』
『ここはいいところだよね』『折角好き勝手出来る世界だし』『2chと違って』『規制もないしね!』
『こんな機会めったにないから』『パロロワってやつをやってみたよ!』
『簡単にルールを説明するから』『よく聞いてね』『ちょっと複雑で』『馬鹿にはわかんねーと思うから!』
『孤独ロワ開催の為に安心院さんから借りたスキルは』『たったの五つ』
『参加者のみんなにはこれをあらかじめかけてあるから』『強制的に守ってもらう事になるよ』
『縛りプレイってやつさ!』


『一つ目のスキル』

『重い愛(エクスキュートコミュニケート)』

『人を孤独にさせるスキル』
『仲間が出来る』『誰かの為に戦う』『身体が接触する』『マーダー殺害』『恋をする』『などなど』
『他人と関わる事や自分以外の為に動く事で発動する』『発動すれば徐々に肉体のステータスが劣化していく』
『当事者のみならず、関わった人間もステータスは劣化する』
『でも』『安心して!』
『マーダー化とか』『自殺とか』『孤独になろうとすれば関わった人間の能力劣化は一斉解除されるよ』『すごく優しいよね!』


『二つ目のスキル』

『苦労する支配(デッドナイト)』

『クロスオーバーのスキル』
『各参加者の作品固有能力はその才能に関わらず条件を満たせばクロスオーバー出来る様になり』
『また全ての能力・武器は普通(ノーマル)が回避、防御可能になるか』『普通(ノーマル)の常識の範囲内まで』
『威力・性能が劣化する』
『チート能力とか』『瞬殺とか』『そんなオカルト』『有り得ません。』
『あ』『忘れてたけど』
『劣化却本作り(マイナスブックメーカー)』
『これも一応使ってるぜ』『ま』『このスキルで更に劣化してるけど』
『参加者は初期肉体的ステータスに限り僕と同等となる』『効力は普通(ノーマル)ですら一週間』
『たったの一週間だぜ?』『最早弱過ぎて』『笑っちまうよな』
『さて』『あとの三つは会場とかを作ったものだし』『大したものじゃないから』『さらっと流すよ』


『三つ目のスキル』

『列島生(ネックレス)』

『人に首輪つけて島に閉じ込めるスキルなんだって!』
『最早こじつけだし』『スキルですらないような気がするけど』
『残念ながら』『ーーー僕は悪くない。』


『四つ目のスキル』

『復路工事(ラックアンロック)』

『僕が用意した袋を持った者に脱出を禁止するスキル』
『この説明をしたあと』『支給品袋を受け取らなかった主人公達もいたけど』
『彼等はもう死んだから』『描写もないし』『するつもりもないから』
『関係ないや。』


『五つ目のスキル』

『楽監視(メタルピクト)』

『一度に大勢を監視するスキル』
『こうでもしなきゃ』『一人で全員分把握出来るわけがないからね』
『全く』『一人でやってのける他ロワの主催はどうかしてるぜ』『人間業じゃないよな』
『僕みたいな普通の人間には無理だよ。』



『以上、球磨川禊でした』『じゃっ』『また1レス後!』

657ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 21:26:24


『放送の前に一つだけ言ってもいいかな?』

予定には無かったはずの放送で、先ず球磨川はそう切り出した。

『このロワが終わったら、僕』
すう、と小さくブレスが入る。
『死んだ女の子達の全開パーカーで週刊少年ジャンプのセンターカラーを飾るんだ!』

最終日。残り六人、あと二時間、ビルの中。暗い地下室。血の臭い。響くハウリング。
スピーカーから流れてきたのは、およそ考えつく限りこの世で最も成就されそうにない、戯けた死亡フラグだった。







                  <ep.298-------------------主人公はもう居ない>







ぺちぺち、とやる気のない拍手の音が部屋の中を反響する。
わざとらしく設置されたBOSEのスピーカー、MB12WRは無駄に音だけは良く、生き残りの大半はその感情の籠らない拍手に顔を顰める。

『あはは』『みんなよく生き残ったね!』『すごいすごーい!』

球磨川は続けた。こちらの様子は監視カメラで把握しているだろうに、言動はそれに構う素振りさえ見せない。
そういう人間なのだと分かっていても、やはり癪に触るものだ。

『いやぁ』『感動したよ』『おめでとう!』

腹が立つ声だ、と思った。何がと言われれば思い付かないが、ただただ不快な声だった。
理由などありはしない。ただ純粋に、俺は球磨川が嫌いだった。個人的な怨みを抜きにして、このバトルロワイヤルの主催という事も関係なく。
比企谷八幡という人間は、球磨川禊が嫌いだ。
嫌われている俺が言えた事じゃなあないが、人が人を好きになる理由が無い様にーーー人が人を嫌いになる理由なんか、無くたって良いのだ。
一目惚れという言葉があるように、一目嫌いという言葉もあって然るべきだと俺は思う。
感情は、常に他人に対して冷酷で理不尽なのである。

『誇ったっていい』『君達みたいななんの取り柄も無い親負孝者が』『ここまで頑張って強者達を倒してきたんだ』

倒してきた? その言葉に俺は自問した。俺は誰を、倒してきた?

『今まで培ってきた熱い友情』『血の滲む努力』『輝かしい勝利』『その賜物あっての結果だよね!』

隣から舌打ちが聞こえた。気持ちは分かるが、安い挑発に苛立つ事ほど無意味な事はない。
俺は溜息を吐いた。やれやれ、いつまでこの中身のない放送は続くんだ、と。

『生き残った人間に希望を託した、熱い最期』『鬱展開を砕く熱血』『受け継がれる想い』『淡い恋心』

馬鹿げている。俺は思った。
いや、或いはここまでつらつらと嘘八百を並べられるのは、一種の才能と呼ぶべきなのかもしれない。
少なくとも、俺には到底真似出来ない。憧れこそしないが、認めよう。確かにそれは球磨川禊の個性の一つなのだと。

『……眼福だったよ』『だってまるで週間少年ジャンプみたいじゃないか!』
『さぁみんな頑張れ!』『あとは僕を倒して感動のエンディングだ!』

球磨川禊は俺と少し似ている。それに気付いたのはいつだったろう。……いや、違うか。俺、ではない。皆、だ。
ここに居る奴等は皆、少なからず何かしらの“孤独”を抱えている。ならば誰しもが一度は思っているはずだった。
“自分と球磨川禊は似ている部分がある”。

『でも、流石に最弱の僕も一応ラスボスだからね』『残念だけど一筋縄じゃいかないかもしれない』
『だけれど』『そんな時の展開は昔から決まってるんだ』『ゲームも』『漫画も』『小説も』『映画も』『ドラマも』
『このロワを運営するにあたって2chやしたらばやwikiで読んだあらゆるパロロワでもそうだった』

無論、球磨川は俺達がそう思っている事も分かっているだろう。分かっていて、俺達をからかっているのだ。自分の事は勿論、棚上げして。
まったく以って始末が悪いが、球磨川はそれを悪いと思っていない。奴の言葉を借りるならまさに『僕は悪くない』だ。
相手が俺達だろうが、葉山みたいな奴だろうが、球磨川は同じ態度を取るだろう。球磨川は孤独や感情や事情に一切左右されない。
決定的な違いがあるとすればそこだった。奴の目と口は人をカテゴライズしたとしても、それを行為に出さないのだ。
そう、それは言わば。

 平 等 。

658ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 21:31:24
『皆の想いを剣に乗せて』『皆の幻に背を押してもらって』『愛と奇跡と勇気と友情と』『突然の覚醒で』『敵は倒れる』
『どんなに力の差があっても』『どんなに死にかけでも』『どんなに馬鹿でも』『主人公補正と謎の浅知恵で逆転勝利』
『皆との繋がりアピールで孤独なラスボスを全否定』『鬱展開にするための偶然<奇跡>は荒れるくせに』『熱血展開にする奇跡<偶然>は決して荒れない!』
『キャラ崩壊<覚醒>は荒れるけど』『覚醒<キャラ崩壊>は荒れない』『そんな素晴らしい必殺魔法』『“御都合主義”!!』
『夢があって』『かっこいいよね!』

だから俺達は球磨川を嫌悪する。奴は嫌われ者で孤独であると同時に、苛めっ子で、リア充で、どこまでも平等だったからだ。
俺達の劣等性を持ったまま、けれども決して態度だけは劣等しない。言わば理想的で完璧な劣等生だった。

『うん』『どうかな?』『中々の感動ストーリーだと思うのだけれど』『でも少し難易度高いかな』
『……あっ、そうか!』『じゃあこうしよう』

俺達は怒りの矛先を失ったも同然だった。何故ならば今まで俺達を排斥してきた連中にないものを、球磨川が持っていたのだから。
それに気付いた奴等から、絶対的な拠り所を無くしていった。勝ち組の様な口を持つ球磨川は、あろうことか自分達の向こう側に立つ、負け組の頂点だったのだ。ベスト・オブ・ルーザー。キング・オブ・ルーザー。それが球磨川だった。
だけれど。いや、だからこそ。

『出血大サービスだ』
『 こ の 戦 い 、 僕 は わ ざ と 負 け て あ げ よ う ! 』

だからこそ、球磨川には足りないものがあると俺は思ったーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーそれは人間性だ。

『だって』『そうすればハッピーエンドだ!』
『ほら』『終わり良ければすべて良しって、誰かも言っていたよね』

球磨川はそれを決して出さない。奴には表面しか存在しない。能面の様な顔。起伏の無い声。一貫しない意見。矛盾した態度。
どれをとってもそこに本質は無かった。だがそれはあり得ない。
..... ..........
そんな人間、この世に居ないからだ。
小説や創作の上では存在しても、現実にこんな異常な人間が居るわけない。しかも球磨川は精神病でもなく、異常殺人鬼でもなく、ただの人間なのだという。
常識的に考えて有り得ない。それでも、球磨川禊は存在してしまっている。わけが分からなかった。
マイナス十三組? 過負荷? 大嘘憑きにルビを振ってオールフィクション、だって? おいおい、寒すぎて鳥肌すら立たねぇよ。
材木座の創作小説の方がまだまともだったぞ。厨二病も大概にしとけって。いいか、よく聞けよ。
............
この世に魔法は存在しない。
正直に言おう。この世界も、球磨川も、気味が悪いと。
何故って、球磨川は、此処はまるでーーーーーーーインテリサブカルぶったオサレラノベ作者が考えた、二次創作のようだからだ。
だから、俺は考察もしないし、頑張らない。球磨川に憧れない。
完璧で究極で理想的で個性的で孤独で大変優れた劣等生は、けれども俺の常識の中ではニンゲンじゃあなかったからだ。

『うん! そうだよ。過去ばかり気にしてても仕方ないよね』
『僕を倒して』『脱出して』『君達に未来と希望を託して死んでいったオトモダチの分まで』『思う存分幸せになってくれよ』
『未来を見て生きるんだ、これからは』
『ああよかった』『これなら僕も安心して死ねるよ』『なんてったって輝かしい未来のためだもんね!』
『その犠牲だと思えば』『こんな極悪人の僕の命だなんて』『安い安い!』

球磨川禊の正体は、
クマガワミソギ界 クマガワミソギ門 クマガワミソギ綱 クマガワミソギ目 クマガワミソギ科 クマガワミソギ属 クマガワミソギ種 クマガワミソギ 
という、ただの孤独な何かなのだ。

『だからもう』










『君達みたいな無力な人間が他人を蹴落として裏切って逃げて嘲笑って嘘をついてただ引きこもったり頼ったり守ってもらったりして
 一度も戦わないまま目的も理想もなにも自殺する勇気すらもなくただただ無駄に生き延びて来て全部他人に押し付けて生存者になってしまった事も』









『何もかも全く全然ちっともすべからく全部まるで』『関係ないよね!!!』

659ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 21:34:42
人間じゃないものが何を言ったところで、少なくともその挑発は俺には通じない。
ああ。何度でもはっきり言ってやる。球磨川、お前ーーーーーーーーーーーーー気持ち悪いぜ。

『おめでとう、幸せ者(負幸せ)!』
『さて、残りあと6人』『首輪爆破までの時間は泣いても笑ってもあと120分』『マーダーは……教えるまでもないけど、君達の目の前に居るそいつ1人』
『頑張って頂上まできてくれよ』『流石に今週のジャンプももう読み飽きたんだ』『期待を裏切るんじゃないぜ?』
『テイルズシリーズみたく』『決戦前夜のくだらない会話でもして』『テンションをあげてくれ』
『ただ』『やりのこしたイベントを回収するような時間は』『生憎ともうないぜ』
『さてと』『じゃあ僕も君達がくる前までには』
『新しい戦闘用BGMと』
『ヌルヌル動く新規ムービーと』
『無駄に図体だけはでかい割に意外と弱い第二形態と』
『無駄に貰える経験値と』
『範囲が広くて高威力なくせに体力を1だけ残してくれる便利な秘奥義を作ったりとか』
『散々努力した挙句』
『それでも負けられる準備をして』
『首を洗って待ってるからね!』

もう一度言おう。クマガワミソギ。

『じゃあね、主人公(人殺し)。』

俺はお前がーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー嫌いだ。

だから、早く終わってしまえ。
俺も、お前も、このくだらないゲームも。
ファンタジーはもうたくさんだ。



なにもかも、もうどうでもいい。

660ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 21:37:53

【120:00】





生きていれば良い事はあるさ、とジョン=レノンは言った。
生きていればなんとかなる、ともののけ姫の登場人物は言った。

だがちょっと待って欲しい。それはなんて自己中心的で無責任な台詞だろう。
湯煙の中に舞う雪の様に、或いは霧の中で吹かす煙草の様にーーーその言葉はあまりにも茫漠としていやしないだろうか?
生きていれば良い事がある。なんとかなる。まぁ、確かにある意味ではそうである事を認めよう。
生きていたから、彼女が出来た。生きていたから、就職出来た。生きていたから、友達が出来た。
生きていたから、あの時仲直り出来たし、生きていたから、今こうして誰かと話せている。
生きていたから、生きていたから、、、生きていたから、、、、、、、


ただ、悲しいかな忘れてはいけない事がある。
その台詞を言うのは、決まって生きていれば良い事があったか、生きていればなんとかなった奴等だけだって事だ。
そしてその台詞に感動する事が出来るのもまた、良い事があった奴等だけなのだ。
世の中の名言といわれるものは大体がそうであると言って良い。

……そして断言しよう。名言とやらを生み出す人間は、そうなる事がわかっている側の人間である、と。
さぁ今から俺は良い事を言うぜと息巻き、自分の豊富な経験に基づくごもっともな高説を、さもこの世の真理の様に語る。
信者共や依存性が高いかまってちゃんは、その言葉に感動し、そして本人は雲の上から満足げにそいつらを見下すのだ。
そういった名言製造機を中心とした不毛なサイクルを経て、奴等のくだらない世界は出来ている。

妹が持っていた漫画の中に、ダサイクルという造語が出てきた。これほど言い得て妙な言葉がかつてあっただろうか。
間違いなく俺の中の上半期第一位。寧ろベストオブ八幡語録。
ダサイクル。
コミケだとかバンドだとかpixivだとか創作SSだとか2chだとかファッションだとかデザインだとかTwitterだとか、
そんな中でよく見られる現象だが、こうして名言のサイクルを考えれば、存外身近にあることがわかる。
勘違いしないで欲しいが、別に彼等の存在を否定する訳じゃないし、正しくないと言っている訳じゃない。
ただ、奴等は見えているのにこちらを向かない。俺はそれが気に入らない。
私だって辛いよ、とか、私だって孤独だったよ、とか、安い言葉を並べ立て、新たな名言を作り出し、その言葉に依存していくのだ。

そうして俺達を数と正義とリア充の暴力で黙らせ、聖母の様な微笑みで口を軒並み揃えてこう言うーーーーーーーー“僕達は一緒だよ”。

もうね、馬鹿かと。阿保かと。
これを善行だと信じ込んでいるのだから始末が悪い。奴等は問題の本質を、俺達を見ていない。
奴等が微笑みを向けているのは、自分とその周囲環境と未来的観測による利益だ。
そして奴等は、俺達がそれを分かっている事を知らない。その時点で底が知れたも同然だ。
奴等は俺達を莫迦か阿保だと勘違いしているが、敢えて言おう。それは間違っていると。
よく考えなくてもわかる。他人の顔を人一倍伺って生きてきた俺達が、単純思考のお前達の考えを見抜けないわけがないだろう?
それにお前達は俺達と逆なのだ。水と油。腐女子とオタク。ホモとレズ。磁石のS極とN極。そんな相入れない存在。

思考が真逆ならば、その通りにすれば良い。行動と思考を反対にすれば、お前達の中身なんて簡単に分かってしまう。
そもそもだ、前提の考え方からしてまず間違っているんだ。俺達は一緒なのだと慰めて欲しいんじゃない。


俺達が本当に望んでいるのはーーーーーー俺達はあんたらと違うっていう、決定的な証拠なのだ。


さて、生きていてもなんともならないし、生きていても良い事がなかった孤独な俺達へ。
だからこそ俺はその名言をただの言葉に置き換えて、こう表現しよう。


“死んだ方がマシだ”。

661ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 21:42:02



【119:50】


放送が終わった。球磨川の戯言について語る人間は一人もいない。今は口を挟む余地も、意味もなかった。
それよりも大切な現実が目の前にあったからだ。
120分。派手なアクションを起こすには些か足りず、赤の他人同士で結束するにも短過ぎ、寝るにも半端で、ただ黙っているには長過ぎる時間だった。
ただ一つだけ言えるのはーーーけれども弱った少女一人の命を奪うには、十分過ぎるという事だ。

「た、たすけっ……嫌っ……誰か……」

ひんやりとしたコンクリートの床は、灰色の身体を薔薇色のドレスで着飾っている。
かちかちと点滅するナトリウム灯は、流れ広がる鮮やかな紅を不規則に照らしていた。
部屋はそれなりに広くちょっとした公園や体育館程度の広さはあったが、家具や雑貨の類は無く、至って簡素な作りだった。
良く言えばシンプル。或いは悪く言えば味気ないとも言う。図体だけ大きく空っぽな部屋には、温かみの類など探すだけ無駄だった。

「…………ど、うして、こんなっ……わ、わた、しっ……なにもっ」

灯りは切れかけの裸電球一個。御世辞にも明るさが足りているとは言えない。
その暗さからなのか、地下室だからなのか。空気は薄気味悪いほど冷たかった。
吐いた息すらほんのり白かったが、湿気だけがいやに彼等の肌に纏わり付いて離れなかった。
飽和水蒸気量を超えた水分子達は、菜の花に群がる油虫の様に床や天井にびっしりと張り付いている。
部屋の隅は深緑の暗がりに飲まれ酷く不鮮明で、壁の気配は消えてしまっていた。
そのせいでどこまでも空間が続いている様な錯覚さえ感じられたが、スケルトン天井の異様な低さから閉鎖感を忘れる事だけは出来なかった。
よくよく見ると、壁は打ちっ放しのコンクリートである事がわかった。ただ遠目にも綺麗な施工とは言えず、欧州よりのそれだったが。
職人が外国人だったか、或いは時間と金がなかったかだろう。安藤忠雄だったら建物ごと殴り倒しているレベルだ。
空気は質量を持っているかの様にずっしりと重く、トンネルの中の様に酷く淀んでいた。
これ以上こんな場所に居たくない。
その場にいる全員がそう思っていたことだろう。
低い天井がだんだんと彼等に近付き、空気ごと肉を圧迫しているようで、得体の知れないその重圧は彼等の肌をぴりぴりと刺激していた。
辺りには噎せ返る様な血の臭いが満ちている。此処に来て彼等が覚えた臭いの一つだ。そこには明確な死の予感があった。
音は、少女の命乞いが一つ。はぁ、はぁ、と荒れた息遣いが、幾つか。

「たす……死に、く……なっ……わ、私、なにも、悪、ない、のにっ……」

嗚咽混じりの嗄れた声が少女から漏れた。その場に立っていた青年が、少女の胸倉を掴んで小さな身体を持ち上げる。その光景はどうにも奇妙だった。

「“何も悪くない?”」
青年ーー佐藤達広ーーは震える声で呟く。乾いた嘲笑が地下室に反響した。
「“何も悪くない”、だって?」

怯えた声色で悲鳴を上げる少女の後ろの暗がりに、不意にぼわりと灯りが浮かび上がる。支給品のランタンだった。
弧を描いた薄い飴色のガラスの内側で、何かを嘲笑う様に焔がぶわりと踊る。
その度に部屋に散らかる影はけたけたと輪郭を変えて、部屋の中を徒に駆け回った。
青年はランタンを灯した男を一瞥して、小さく舌を打つ。なんなんだ、と。

「さ、佐藤くん……お、落ち着こう、まずは」

鈴木英雄だった。
皮脂でずり落ちる眼鏡を上げながら、彼は続ける。

「相手はまだ子供だよっ。それにZQNですらないし。何もここまでする必要はないんじゃない……ですか」

ハン、と青年が呆れた様に笑った。

「正気っすか、鈴木さん。俺達が残ったのは、全部こいつらのせいだろ? 全部こいつらの陰謀だろ! 違うか!?
 球磨川だって言ってただろ! こいつが最期のマーダーだって!!」
「それは……」

ランタンに照らされて、部屋の隅で腕を組む少年の不服そうな顔が浮かび上がった。比企谷八幡だった。
残念ながらそいつは違う、と少年は心の中で呟く。俺達がここまで残ってしまったのは、他でもない俺達自身のせいなのだ、と。
間違っても誰かのせいなんかではない。自分達には彼女を殺す権利はあっても、糾弾する権利は無い。
むしろトリエラが今際の際に語った彼女のしてきた事は、マーダーとして至極正当なものだった。
それが非人道的で褒められるものではないにせよーーー彼女のせいにするには驕りが過ぎるというものだ。
少年は口を閉ざしたまま、胸中で舌を打った。それを偉そうに言う権利もまた、自分にはないのだと自覚していたからだ。

662ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 21:44:57

「だとしても人殺しは刑法38条によって定められた立派な犯罪でっ! この場合過失致死にも該当しなさそうだし……。
 あっ! でもこの場合バトロワっていう特殊環境下にあった事が考慮されるのか……?
 いやいや、でも相手が幼女って言い訳厳しいだろうなぁ……今の世の中、ロリには厳しいし……猟銃や刃物だって持ってるし、それだけでも犯罪なのに。
 なにより沙子ちゃんは右手折れてるから……。
 それを分かってて五人掛かりで私刑か……うん、厳しいな。
 それに殺人はやっぱりよくない……何故なら今日の日本社会において、そう法律で決められてるからでっ」
「こんな状況であんたはまだそんな悠長な事言ってんのか!」
「ひいっ!」

少女を乱暴に投げ捨て、青年は男の胸倉を掴んだ。ぴしりと空気が張り詰める。やれやれ、と少年は溜息を吐いた。
ランタンが男の手から弾かれて、派手な音を立てながら床を転がる。ごう、と炎が鈍い悲鳴を上げた。

「おいおい。喧嘩なら外でやってくださいよ。俺、プロレスとか嫌いなんで」

少年が肩を竦めて皮肉気に呟くと、青年は男をつっぱねて恨めしそうに睨む。

「……そういう比企谷はどう思うんだよ?」

妥当過ぎる意見に少年は一度だけ眉を潜めたが、やがて観念した様に溜息を零した。
そうして口を心底嫌そうな表情で開くのだ。こういう場で意見はらしくないが仕方無い、と。

「……答えなんて出てるだろ」
「何か言ったか?」
「いや……。正直、興味はないですけど……生かしておく必要、ないんじゃないですか?」

そう。こうなってしまったのは彼女のせいではない。だが、あくまでもそれは理屈である。
理屈で人は動かない。理屈で動くのは、プログラムと弁護士と、ごく一部の生真面目な変人くらいなものだ。
比企谷八幡は人間が出来ていなかった。理屈は好きだが、彼の理屈はやや利己的な方へ婉曲した……端的に言えばただの屁理屈なのだ。
故に少年は、糾弾こそしないがーーー決して少女を赦すつもりはなかった。
なにより実際問題、この件はそれ以外に解決方法が無いのだ。
彼女は残された最後の絶対悪であり、捌け口だった。彼女は彼等の為に死ななければならなかったのだ。
それは生き残った誰もが分かっている事だった。何よりも理不尽で、何よりも合理的。そして何よりも必要な犠牲だった。
嗚呼そうとも。断言しても良い。


桐敷沙子は今から、彼等の言い訳と、中身の無い復讐心と、自己満足の為だけに無様に死ぬ。


「起き上がりたいなら別ですけど、皆さん違うでしょう? まぁ、起き上がる為の時間もねーんですけどね。
 でもこれ以上面倒を増やすくらいなら、ここで処理しておくのが余程合理的ですよ、多分」

僅かに間があったが、やがて青年が額に汗を浮かべながら笑った。張り付いた様な気味の悪い笑みだった。
男は眉間に皺を寄せて押し黙っている。青年はそれを見て笑みをぴたりと止め、唇を釣り上げながら男の肩をぽんと叩いた。

「決まりだぜ、鈴木のおっさん。三人のうち二人が殺すべきだって言ってる」

663ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 21:47:27
男は俯いたまま唇を噛んだ。本当は、誰だって解っているのだ。
誰かのせいにしなければ、この現実を受け入れられない。何かを差別して、殴らなければ、現実逃避できやしない。
悪の権化を磔にしたボロボロのサンドバッグ。それが目の前にあるのなら、殴らない人間は居なかった。
少なくとも、現実から目を背けてきた社会不適合者の彼等の中には、一人も。

「……分かった」
少しの沈黙のあと、男は額に手を宛てながら言った。重々しい声色は、床を滑り暗闇に沈んでゆく。
「でも、殺すとして」

しかし。だがしかし、その一言で彼等の時はぴたりと凍て付く。

先に行くには続けなければならなかったが、それは絶対に口にしてはいけない呪いの言葉だったからだ。
誰一人目を見て話さない彼等の視線が中空を彷徨って、不気味に混ざり蕩け合う。
行き場の無い声が、感情がーーー空気を石の様に凝固させ、息を詰まらせた。
床に転がる死に損ないの少女が、彼等の視界の隅にちらつく。いたいけな薄幸の少女が、その虚ろな双眸が、孤独な卑怯者共を畏怖の感情で射抜いていた。
わかっているのだ。そんな事は。わかってる。
あぁしかしなんという事だろう。
殺人鬼になり少女を裁こうとしている彼等の大半は、本当の殺意を以って人を殺した経験など、ましてやその勇気と覚悟さえありはしなかったのだ。




「……誰が彼女を殺せるんだ?」




責任も、献身も。少しの優しさすらもありはしない。嫌な役を擦り付け合い、現実からは目を背け、面倒事は避け続けてきた。
放送は聞かないフリ。悲鳴も聞かないフリ。禁止エリアだけを必死にメモして、ひたすら隠れて引き篭もる。
仲間が危機に瀕せば真っ先に見捨て、自分が危機に瀕せば真っ先に逃げた。
他力本願の屑人間。そのくせ責任転換と我儘だけは一人前の、底辺よりも底辺な最底ーーーーーそれが彼等、望まざる生き残りの、無様な正体だった。

「……鈴木さんがやって下さいよ」嫌な沈黙を最初に絶ったのは、少年だった。「知ってるんですよ? ここに来る前までZQN退治してたって」

ZQN、とその後ろで小さく青年が繰り返した。
この島で猛威を奮った要素の一つだ。ZQN、起き上がり、コギトウイルス。
その三つさえなければ、或いはこんな酷い結末はなかったのかもしれない。

「そうなのか、鈴木さん」
青年が尋ねたが、男は俯いたままかぶりをぶるぶると振った。
「い、嫌だっ……!」

嫌だ。男は素直にそう思った。こんないたいけな少女を、自分が、殺す?

「ぐ、ぎ、じょ、冗談じゃない。そんなのまるで悪者だっ。法律でも、ひ、人を殺したら駄目って決まってらぁっ。
 お、俺がなりたかったのは、そんな事をする大人じゃないっ。そんな為に銃を担いでいるんじゃないっ。
 な、何の為に今まで犯罪せず生きてきたと、お、思ってるんだっ。俺は、本当はっ」
   ....
……本当は?

唾を飲む音が、地下室に響いた。少女 へ一度だけ視線を向けた後、男はこうべを垂れ、続ける。
「俺がなりたかったのは、したかった事は……っ。も、もっと、アレで……。
 皆の、ソレの為に……そのっ、こんなんじゃ、俺が望んでたのは、い、生き残ったのは、こんな事の為じゃあ、こんなはずじゃ……」

ーーーこんなはずじゃ、なかった。

拳を握ったまま腹の底から絞り出す様に呟いた男に、けれども青年は追い打ちをかけんと口を開く。

「……悪いけど、年の功だろここは」
「年の功!?」男は諸手を前に差し出してかぶりを振った。「なんでそうなるんだっ」
青年の口から溜息が漏れる。
「いや、常識的に考えてそうだろ。若い奴にやらせるっておかしいしー」
「おかしいだろぉその常識っ。俺は反対してたんだから君達がやるのが筋だっ」
「筋だぁ!?」
青年は肩を竦めて嘲笑った。何が筋だ、と。
「冗談じゃないっすよ。アンタだって本当は分かってんでしょ?
 分かってるくせに、体裁を気にして善人ぶってる! アンタは偽善者だ!」
「ち、違うっ。俺は、」
「人を殺したら駄目? 今日日いじめっ子の餓鬼だって知ってるぜ、それくらい!
 自分だけいつまでも綺麗なままみたいな顔しやがって! もう目を覚ませよ! 現実はなぁ、腐ってんだよ!!」
青年の指が、無精髭だらけの男の顔をびしりと指した。
どの口が偽善者だと? 青年の心の奥で、誰かが飽きれた様に吐き捨てる。同族嫌悪も大概だ。

664ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 21:49:33


「だから……もう知ってるはずなんだぜ、おっさん。こいつを殺さなきゃ何も始まらない事くらい」


はじまる? 男が震える声で鸚鵡返しした。はじまる、だって?
地面に横たわるランタンの中で、炎が揺れた。わなわなと肩を揺らす男の顔に、深い影が落ちる。

「今更何が始まるってんだっ。俺達みたいな社会のゴミが集まったところで、何も始まるわけがないっ!」

男は叫んだ。腐っているのを知っているから、せめて綺麗で居たいのだと。
35年。夢を見る事も、生きる事すら、疲れきって諦めてしまうには十分な歳月だった。
成程ならばそれは確かに尤もな意見なのかもしれない。何故って彼等は自他が認める紛れもない屑なのだから。
幾ら烏が集い雲の上を目指しもがいたところで、ただ煩いだけなのだ。誰もが嫌というほど知っていた。
ただ天井が見える年齢になって、それを諦めるか諦めないか、たったそれだけの違いだった。
しかし、いやだからこそその一言は青年の琴線に触れた。分かっていて、それでも逃げてきたのだ。諦める事から目を背けてきたのだ。
同類にだけには、絶対に言われたくなかった台詞だった。

「ふざけんなよ……」
だから、青年は先ず最初に思った事を口に出した。ふざけんな、と。
「まだ負けたわけじゃねぇだろ……」

冗談じゃない。このまま終わるだなんて。全部無駄になるなんて。

「まだ終わったわけじゃねぇよ!」
「いいや終わってるねっ!!」

びくり、と青年の肩が揺れる。喉はからからに渇いていた。心臓がばくばくと、子供が叩く太鼓の様に鳴り止まない。
終わりなんかじゃない。自分に言い聞かせるその想いには、およそ自信と呼べるようなものが悉く欠落していた。

ならば、これから、少女を殺してどうすると?

心の底の波を荒立てるその鉛色の疑問に、青年は何も答える事が出来なかった。
途方に暮れるもう一人の自分の薄汚れた双眸の前には、救いの道など残されていなかったのだ。改めて問われるまでもない。
屑は何処までいこうが屑なのだから。
されど、だが、だけど、でも、しかし、けれど。だからと言ってーーー認めろというのか。
詰みきったこのどうしようもない現実を、未来を。受け入れろと、そう言うのか。
山崎も、柏先輩も、岬ちゃんも、委員長も、城ヶ崎さんも、皆、皆。
皆みんなみんなッ、無駄にしろって言うのか。

「……ふざけろ!!」

気付いた時には、青年の右手が男の胸倉を掴んでいた。青年は自分の行動に、しかし呆気にとられる。
何をしている? 青年は思った。自分は今、こいつに何を言いたいんだ?
ぎしり、と胸の奥が軋む様に痛んだ。

「勝手に俺まで終わらせんな! 何で! 何でそう言い切れるんだよッ!
 まだ何もわからないだろ! 未来なんて!! 誰にも!!!」

どこかで聞いた様な台詞ばかりが、頭の中をごうごうと渦巻く。不意に、デジャビュという単語が浮かんだ。
それは漫画やアニメで、何度も見てきたシーンだった。目の前と重なり、繰り返す。作り物で、偽物で、馬鹿みたいな青春御伽噺。
主人公はいつだって現実に辟易としていながらも何もない日常をなんとなく生きていて、童貞で、幼馴染と妹がいて。
クラスにはエロい男友達が居て、委員長はツンデレで、教師は適当な人間で。理事長の娘は、決まってプライドが高い生徒会長。
主人公の性格は普通で、部活にも入ってなくて、奥手で難聴の癖して稀に無駄に熱くて、何故かは知らないがやたらとモテる。
演出と作画も良くて、BGMも良い。脚本は虚淵にでもすればなお良い。死人を出せば感動もカタルシスも出来るし満足だ。
寄せ集めテンプレ設定でも、それだけでゲームやアニメの台詞には中身があるように見えた。
ところが、現実はどうだ?

665ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 21:51:58

「まだこれからなんだよ!」

何がだ? いつだって、そうやって待ってて何かが起きたか? 変わったか?

「俺たちはまだ本気を出してないだけだ! 強い奴らが居たから! 仕方が無かった! 戦った事すらないんだから!」

本気なんて出した事が、一度だってあったか? 戦おうとしなかっただけじゃないのか?
あの時はどうだった? ヘンリエッタやビンセント、ルーシーを前に逃げたのは、誰だった? その結果、何人が死んだ?

「球磨川にだって、弱体化が少ない俺達なら敵うはずだ! 敵が居なくなった今なら、きっと!」

戦略はあるのか? 勝算は? 一人でもそれをやれるか? 答えは出てるだろ?

「今まで俺達が逃げてきちまった結果が今朝の事件だろ!?」

本当にそう思ってるのか? 仕方ないって、思ってねぇか? あいつらを見捨てて逃げたのは、何でだ? 罪悪感を言い訳にしてないか?

「またあれを繰り返すってのかよ!」

繰り返すよ。
そうやって卑怯に生きて来たんだろうが、お前は。なぁ、そうだろう? 言葉だけは毎回一人前だからな。それがお前だよ佐藤達広。


ーーー今更、生き方は変えられないよ。


青年の頭の中で、少女の形をした誰かが言った。
全部知ってるはずだよね? 本だって読んだ。ネットに情報はゴロゴロあった。近所にハローワークだってあった。
どうすれば、上手くいくのか。
どうすれば、仕事が出来るのか。
どうすれば、家から出られるか。
どうすれば、親に迷惑をかけずに済むのか。
どうすれば、嘘を吐かずに済むのか。
どうすれば、借金しないのか。
どうすれば、真面に生きていけるのか。
どうすれば、人を好きになれるのか。
どうすれば、脱法ドラッグを止められるのか。
どうすれば、ネズミ講に引っかからないのか。
どうすれば、童貞を捨てられたのか。
どうすれば……こうならずに済んだのか。
裸の少女が、間抜け顏の青年を抱き締める。耳元に少し湿った息が掛かって、青年は鼻息を荒くした。


ーーーね? 全部、知ってたんだよ、佐藤くんは。

  ........ .....
「だいじょうぶだよ おれたちは」


ーーーでも。分かっていても、どうにもならなかったから。だから佐藤くんは、引き篭ったんでしょ?

  .. ......
「まだ やりなおせる」


寄せ集めた言葉。震える唇、閉じた拳。滲む脂汗。歪む視界。霞んだ感情。濁った未来。光の無い眼。
ごとりと重い何かが体の中で転がった。心臓が、ずっと喧しい。
そうして初めて理解るのだから、嗚呼。解っていたつもりだったが、存外自分って奴は馬鹿な生き物なのだ。


中身なんて、ありはしなかった。


餓鬼が喜ぶ紙風船の様にーーーー図体だけが、徒らに立派で。水で割れてしまうほど儚く、脆く、空気の様にどこまでも薄く、軽い。

「佐藤くんは、夢を見過ぎだ」

男は恨みを吐き捨てるように言った。青年は男を見る。眼鏡の奥の曇った瞳は、まるで自分の何もかもを見透しているようで、吐き気がした。

「ここは映画でも、漫画でも、ライトノベルの世界でもない」

男はぽつぽつと、言葉を零す。青年は黙ってそれを聞く事しか出来なかった。

666ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 21:54:40

「一番俺達がわかってるはずじゃないかっ。現実は、創作じゃないって。
 青春や、起承転結や、奇跡や、ドラマなんてものは……自分の世界には無いんだって」

青年は少女を見た。横たわる少女の目は見開かれ、瞳孔は開き、焦点は合っていない。
彼女は死ぬ。放っておいても、どうせ死ぬ。苦しみながら死ぬ。痛がりながら死ぬ。無様に死ぬ。
虫螻蛄の様に。畜生の様に。ゴミ屑の様に。もうすぐ彼女は、人間でなくただの肉の塊になる。
引導を渡すのは、誰だ?

「主人公はいつも別に居て、成功も、金も、才能も、名声も、処女も、どうしようもないヤリチンが奪ってくんだっ、いつも、いつも!」

そうだ。現実はいつだって非情だった。それを一番知っているのは、生き残ってしまった俺達みたいな、どうしようもない底辺じゃないか。
だけど。

「だから、始まらないんだーーーーーーーーー俺達は産まれた時から、負けてる」




だけどさ。それでも諦めたくないのだと、勝ちたいんだと思う事は、罪なのか?




「あのさぁ……」

ーーー寝耳に水とは正にこの事だ。
青年と男はははっとして、声の主へ顔をがばりと向けた。傷だらけのコンクリートの床に、退屈そうに少年が胡座をかいている。

「……なんか面倒なんで、もう最初に言い出した佐藤さんがやればいいじゃないですか? 埒があかないですよ」

少年が目を逸らしながら、さらりと言った。肩を竦めて、やれやれと溜息を吐きながら。朝におはよう、夜におやすみと言う様に。
「な、な、ななっ」
青年の顔からみるみるうちに血の気が引いてゆく。当然だった。ここで少年が敵に回るとは毛ほども思っていなかったのだから。

「なんでだよ! お前だって殺せばとかなんとか言ってただろ! だったらお前がやれよ!」
「……いいぜ」
「ファッ!?」

思わず、青年がよろめく。少年は気怠そうに立ち上がると、口をあんぐりと開けた二人の元へ足を進め、そして言った。
「俺がやるって言ってんの」
少年は彼等に視線すら寄越さない。足も止めず、目もくれず。少年は地面に臥す少女だけを見ていた。
「お、おい引企谷……お前……」
「何だよ」
青年の問いに、背中を向けたまま少年が苛立った声で応える。
「い、いや……」
青年は助けを求める様に男を見た。男は目を逸らして、額の汗を拭うだけだった。
少年はゆっくりと歩く。コンバースのオールスターが、地面を擦る様に叩いていた。
かしゅっ、かしゅっ、と、ソールが擦れきった右踵が規則的に悲鳴をあげている。


「死……たく、ない……」


消えてしまいそうな声が、少年の耳を打った。桐敷沙子の声だった。けれども少年は表情一つ変えず、その命乞いの主へと足を運ぶ。
落ち着いた桔梗色の長髪に不釣合いなほど華奢な手足が、床に転がるランタンに照らされていた。
飴細工のように繊細そうな体躯は、触れると壊れてしまいそうだった。こうして見ると、ただのいたいけな少女なのだ。
尤も、利発そうな顔は涙と鼻水で台無しになっていたし、右足は捻じ曲がり、右手は砕けていたが。
それでも肌は雪の様に、或いは病的と言っても良いくらいに白く透き通っていたし、顔立ちはやはりフランス人形の様に端正過ぎた。
完璧過ぎる程に、彼女は完璧だった。怖いくらいに、引いてしまうくらいに。
身体は木の枝の様にすらりと細く可憐に伸び、薄紫のワンピースはキュプラ生地が上品でーーー惜しむらくはその全てが赤黒い血に染まっていた事だ。
ねぇ、と少女が震える声を投げ掛ける。ランタンの炎が再びぐらりと揺れて、影と光がぐにゃりと歪んだ。
少女の枕元に立つ少年の顔は、影で暗く、窺えない。
ーーーお願い。
か細い声が地下室の暗闇に消えてゆく。少女の懇願に応える者は一人も居ない。異様な光景だった。
数拍置いて、少年はくたばり損ないの少女を目線だけで見下し、口を開いた。


「……そう言っていた奴等を、お前は何人手に掛けてきた?」


黒神、神楽、行橋、三日月、不知火、アンジェリカ、宇白、レキ、来栖、リル、志熊、ナナ、山崎、志布志、ダイアナ、霧江、小金井、中田ーーーーー雪乃下。
ぽつぽつと、起伏の無い声が念仏を唱える様に犠牲になって来た者達の名前を呟く。

667ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 21:57:29

「あと何人だ?」声は震えていた。「どれだけ奪えば気が済む?」

口を開かぬ少女を見て、八幡は諦めた様に表情だけで笑った。懐から、獲物が抜かれる。
血で濡れた事は勿論無く、陽の目を見る事は愚か、その予定すらなかった刃。
魔道具、神慮伸刀。持ち主の意思を読み何処までも伸びる魔双刀の片割れ。
今は亡き不知火から受け取ったそれは、使う機会はあったものの使う勇気すら無く、逃げる様に隠したーーー死んだ切札だった。

「答えろ。桐敷」

けれどもそう問われても少女は。桐敷沙子は。
首筋に宛てられる刃を前にしてもなお、震えながらかぶりを降るのだ。私は悪くないと。信じてくれと。

「……わたし、は、やっ、て、ない……人が、人間……が……勝手に……死んだ……だけ、よ……私は、悪く、な……いっ……」

嗚呼、と世界を呪う様に唸る。少年は目を細めながら歯を軋ませた。
こういう手合いには何を言っても無駄だ。多分、死んでも治らない。

「私、がっ、何……を……なに……を、した……って、言う、の……ただ、とも、だち、を、作っ……た……だ、けじゃ……ない…… 」
「作ったのは死体の間違いだろ」

八幡が吐き捨てる様に言った。

「違うわ……私は誰も、殺してない……私は、ただ、人並みに……普通に……生きたかった、だけじゃない……。
 それすら、認めない、の……ならっ……人じゃ、な、いの、は…………………お前達、の……ほう、よ……」

一瞬の静寂の後、部屋の中に哄笑が響いた。佐藤達広だった。

「そりゃそうだよな。俺達は所詮餌だ。いや、別に良いんだぜ。トリエラが言ってたよ。そういうものなんだろ、お前達は」

汚れたアディダスのシューズが、血だまりをぬるりと進む。ざらざらとした床に張り付いた固まりかけの血液が、ソールをねっとりと床に捕まえた。
虫の息の少女の側まで足を進めて、青年は腰から銃を、SIG SAUER P230 SLを抜く。

「佐藤さん……俺がやるって言ったじゃないですか」
少年が呟くと、青年は自嘲した。
「流石に全部丸投げってのはかっこ悪過ぎだからなぁ」
シワだらけのTシャツに色褪せたジーンズ、無精髭だらけのもやし体型の引きこもりと、真新しい拳銃は酷く不釣合いだった。
青年は震える手に力を入れ、少女を見た。哀れだと、決して思わないわけではない。

「……別にさ、俺はアンタが誰かを喰ったからキレてるんじゃねぇんだぜ」

安全装置を外して、トリガーに指をかけ、両手で銃を構える。この距離では外すわけもなかったが、なにせ彼には銃を撃った試しがなかった。
アニメや小説みたいに、可愛い女の子達でも銃を撃てるなんて事があるはずないのだ。
尤も、この島では義体という少女やオートレイヴとかいう奴等がオサレパンク雰囲気アニメよろしく銃火器で猛威を振るっていたらしい。
だが、奴達はほぼ全身が機械のような代物だったという。素人が下手に銃に触れば肩が外れると聞くのは嘘ではない筈だった。
そうだ。何度も言うが此処は決してアニメなんかじゃない。小説じゃない。ゲームじゃない。漫画じゃない。
紛れも無い、現実なのだ。

「それは構わねーんだ。別にお前が誰を喰おうが良かった。いや良くはねーけど、俺には関係無いからな。
 他人がどうなろうが正直な話、ざまぁとしか思わねー」

つらつらとそう零す青年の背の向こう側で、男が間の抜けた表情で立ち尽くしている。
鈴木英雄。彼はただ二人の後輩の背を見ている事しか出来なかった。
背に下がるガリルMARは最早お飾りだ。大量の汗で滑るグリップを何時でも取り出せる様に握ってはいたが、その弾丸はZQNにしか向けられた事はなかった。
どうして、と男は呟く。化け物とは言え、少女。躊躇するには十分過ぎるはずだった。
なのに何故佐藤と比企谷は平気なのかと。



「ーーーでもな。めだかちゃんは、彼女だけはまずかった」

668ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 21:59:38
それを尻目に、青年は続ける。
銃口は震えていたし、膝はがたがたと笑っていた。それでも無様に、間抜けに強がって続けた。

「分かってたはずだろ、お前だって。めだかちゃんは対主催陣営の最後の希望だった。誰もあいつが負けるだなんて、疑わなかった。ちっとも。
 こんなどうしようもない奴等が、夢を見ちまってたんだ。めだかちゃんなら勝てるって、何でも出来るって。信じてた。
 めだかちゃんには皆をその気にさせる何かがあった。口を開けば説得力の方が後からついてきた。めだかちゃんは絶対の存在だった。
 皆言わなかったけど分かってた。俺達がめだかちゃんで保ってたって事ぐらいは。でも言う必要すら無かった。
 何故ってめだかちゃんが負けるだなんて誰も思わなかったからだ。だから心配する必要が無かった。
 ヘンリエッタ・ビンセント・ルーシー戦で沢山の強ェ奴がくたばったけど、皆が諦めなかったのはだからなんだ。
 めだかちゃんが居たから、生きていたから。何とかなるって信じてた。希望を見てた! 本気で!!
 それにマーダーも本当ならヘンリエッタ達で最後だったからな。皆、浮かれてたんだ。
 あとは首輪解除だけだった! それも改心した都城と玲音ちゃん達が居たからなんとかなるはずだった!
 球磨川の『重い愛』の影響もあったけど、それでも乗り越えてきた様な強い奴等だったんだ!
 俺達対主宰陣営の勝利は目前だった……なのに、なんでだよ! それを、何でだ!! 何で!!!」

「……めだかが……悪かっ、た、だけよ……」
少女はけれども血だらけになりながら首を降り、その一言で全てを終わらせる。
いっそ清々しい程の一貫性。ともすればそれが真実なのではないかと疑うほどの真っ直ぐさだった。
或いはそれは、少女の声色と容姿からその奥に純粋さを見ていたのかもしれなかった。
青年は、惑わされてはいけないと銃を握る力を強くする。
winnyを使って小学生の裸を集めた事も、通学路の茂みに隠れて児童を盗撮した事も確かにあった。自分は立派なロリコンだ。
ただ、目の前に居るのは諸悪の根元だった。幾ら純粋無垢な皮を被ろうが、その腐った性根は消えないはずだ。

「勝……手に、皆を……襲って、私……ねぇ、信じて……私は……めだかに、噛、み……付い、たり……してない…の…。
 命、令だっ、てして、ない……めだか、は、私の、大切な……お友達だ……もの……人狼に、なんか……しな、い……わ……」

異様な光景である事は、誰もが理解していた。
血の涙を流しながら罪人でない事を説く少女に、大人が三人掛かりで言葉攻め。どう甘く見ても普通の状況ではなかった。
「私を、信じて」
ただ悲しいかな、彼女の言葉が真実であるか否かは、この場ではさしたる問題ではなくなってしまっていた。
彼等が望むのは、真実ではなく彼女の死そのものだったからだ。
それは自分達が役立たずではなかったのだと、仇を討ったのだと、自分に納得させる為。
あの時逃げたけど、でも今回は逃げなかったのだと、居もしない死者に許しを乞う為。
とことん下らない理由だったが、彼等はそれがないと生きていけなかった。逃げる事が出来なかった。
最後まで現実と立ち向かわない。腐り切った根性は、少女に罪を被せる事でしか、弱い心を守れなかったのだ。
桐敷沙子の正体や諸行は、やはりその為のただの口実に過ぎなかった。

「……もう黙れよ」少年が言う。「桐敷、お前は少しやり過ぎた」

少女は何も言わなかった。その変わりに首筋に当てられた刃を受け入れ死を享受する様に、瞳を閉じて涙を流した。

「返せよ、皆を。生き残ってなきゃいけなかったのは、あいつらだったんだ」

青年が銃口を向け直しながら言う。少女は肩を揺らしながら力無く笑った。自嘲に歪んだ唇は、酷く青白い。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーお前なんか、産まれてこなけりゃ良かったのに。




青年が呟いて、銃声が鳴る。
少女はそうしてただの肉片になった。

669ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 22:03:59






【89:04】






結論から言おう。俺達は運が無かった。

何故ならここまで生き残ってしまったからだ。
敗因は何だ? 考えてみたが至極当たり前の事で、答えは直ぐに出た。理由は一つ。
……俺たちがどうしようもなく弱虫だったからだ。

孤独な人間を集めてバトルロワイヤル。略して孤独ロワ。今思えば最初から企画が破綻していた。
球磨川禊は何を考えていたのか。いや、或いは何も考えてなかっただけなのか。
他人と関わるのを嫌がる奴等ーー例外もあったが大多数はそうだったらしいーーがいくら集ったところで、対主催集団など出来るわけがないのだ。
話によれば天使(天使!?)を中心に少しは出来たらしいのだが、まぁ性格が悪く協調性が無い奴等の集団がどうなったかなんて、結末を言うまでもない。
結局、まともだったのはーーそれも今となっては跡形もないがーー黒神めだかの集団だけだったって事だ。

黒神は、佐藤さんが言った通り不思議な魅力がある奴だった。
今まで誰も信じてこなかった俺ですら彼女の口車に乗せられて半ば信じ、それを死に追いやった桐敷を理不尽に恨んでしまうくらいには、すごい奴だった。
それにしても、今でさえ信じられない。今まで一人で生きてきた俺が何故黒神に頼ってしまったのか。
そのせいでこんなにもやるせない気持ちになり、誰かを恨み、後悔しているというのに。それが嫌で誰にも頼らないと決めていたのに。
とは言えどうにも黒神を好きにはなれなかった訳だが、まぁ成程確かにカリスマ性はあったのだろう。
どこぞの生徒会長にも見せてやりたかったところだ。
しかし彼女がここに呼ばれていたという事は、彼女も孤独だったのだろうか、と思う。答えなんて当人が死んだ以上は今更だが、少しだけ興味はあった。

さて、この世界に呼ばれた奴等の孤独は、大きく三つにカテゴライズする事が出来るのだと、二日前に志熊理科は言った。


   一つ、種族的孤独者。
   二つ、性格的孤独者。
   三つ、環境的孤独者。


ーーー貴方と私は二つ目。葵さんが三つ目。一つ目は先程のルーシーという人があたります。

志熊はそう言って、マーダーになりやすい奴だとか自殺しやすい奴だとかを俺に一方的に話した。
カテゴライズには成程と俺は思ったが、しかしどうにもこの島の奴らの考え方は好きにはなれなかった。
孤独の渦中にいる癖に、まるで孤独を悪の様に語るからだ。自分のせいでそうなったにも関わらず。
皆で力を合わせて信頼し合うのが如何に素敵な事かという言い分は分かる。
しかしだからと言って、一人でやりきる事が悪だ、というのは必ずしもイコールにはならないはずだ。
孤独は悪ではない。俺は志熊にそう言おうとしたが、彼女が隣人部とかいう戯けきった部活に所属する事実を知って、やめておいた。

ーーーおいおいおいおいおい、そりゃあ随分と温い孤独だな。欠伸が出るぜ。それを世間一般だとリア充って言うんだ。
   お前等さぁ、訓練されたプロぼっち舐めてんの? なんなの? 死ぬの?

素直に腹が立ったので、俺はそう言った。志熊は苦笑こそ浮かべたが、反論はしなかった。
その二時間後に志熊と葵は調査だとか言って地下室を出たが、それっきり戻ってくる事はなかった。
俺が次に彼女達の名前を聞いたのは、それから四時間後の放送だ。
俺はそれから黒神が助けにくるまでの数日、引き篭もった。他人に関わりたくなかったからだ。
下手に関わるから悲しくなったりするのだ。人はどうせ死ぬ時は一人なのだから、最初から独りで良い。
途中不知火や葉山が来たが、それ以外にイベントらしいイベントは皆無だった。故に俺はさしたるフラグも持っていない。
元々イベントやフラグとは無縁の人種だし、特に不便もなかった。だからそれで良かった。

良かったのだ。



「おかえりなさい!」



階段を上がった俺達を迎えたのは、機械仕掛けの少女の声とシチューの匂いだった。

670ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 22:05:46

「あ、あぁ」

佐藤さんは応えると、ぎこちない苦笑を浮かべてオートレイヴ少女、ピノの頭を撫でる。
「達広たち、なにしてた?」
ピノが笑顔で佐藤さんに尋ねた。俺達は彼女にだけは状況を説明していなかったのだ。
相手が機械とは言え、流石にこんな少女に真実を告げる気にはなれない。コギトウイルスに感染しているなら尚の事だ。
だから岩倉に彼女の御守りを任せて、男面子だけで重症を負った桐敷の後始末を行う事にした。

佐藤さんは何をしていたのかを思い出してしまったのだろう。
みるみるうちに顔を青くすると口を押さえて逃げるようにトイレへ駆け込んだ。
無理もない。頭が破裂した死体なんか、2chでさえあれど実際に目の前で見たのは二人とも初めてだったのだから。
俺はそれに比べてまだマシだった。見た事はあったし、一度だけ人もーーそれもクラスメイトだった葉山隼人をーー殺したから。

「? ねぇ、達広どうしたの?」

ピノが小首を傾げて鈴木さんに尋ねる。鈴木さんは中空を見たまま、譫言の様に何かをぶつぶつと呟いている。

「ピノ。今は鈴木さんも佐藤さんも、少し休ませてやってくれ」

ピノは怪訝そうな表情を見せたが、直ぐに頷いてにかりと笑った。唯一の癒しだな、と俺は苦笑する。
オートレイヴの奴等は、コギトに感染して自我と暴力性に目覚めない限りは人間に忠実で決して嫌わないらしい。
なんて素晴らしいのだろうか。しかし、俺は知っている。もし仮に、俺の世界にそんな常識があったならばーーー俺は確実にロボットに恋をしていたと。
全く、イヴの時間かってんだ。そう思えばある意味まだ運が良かった。俺の嫁はこの島に呼ばれなかった戸塚だけで良いのだ。
戸塚マジ天使。TMT。

「……岩倉は?」
「れいんは、おりょうり!」

俺が誰も居ない部屋を見渡しながら尋ねると、ピノが猫のフードを被りながら応えた。
だが、悪いなピノ。材木座ならともかく、俺はそのあからさまな萌えには騙されない。
それはそうと、岩倉は上のキッチンに居るらしい。
匂いからすれば此処の冷蔵庫の食材から作った普通のシチューだとは思うが、あまり期待は出来そうにはなかった。
俺は佐藤さん以上に岩倉が苦手だったからだ。
例えそれが如何に美味かろうが、あの能面の様な顔を見ながら飯を食べるというシチュエーションだけで味は三割減だ。
全くもって、ピノと岩倉どちらが人間でどちらがオートレイヴなんだか分かりゃしない。あそこまで考えてる事が分からない人間も中々居ない。
それ以前に、そもそも人を殺した直後だ。飯なんか食べる気分でも無かった。自分と佐藤さんはまだしも、鈴木さんは特に駄目だ。

「鈴木さん、取り敢えず座って休んだらどうですか?」

俺の提案に、鈴木さんは白い顔で頷き、部屋の隅に腰を下ろした。彼の服にはべっとりと血が染みていた。当然だった。
なにせあの瞬間、俺達を押し退けて桐敷の頭に散弾を捻じ込んだのは他でもない鈴木さんだったのだから。
俺はサックの中から白いシャツを取り出して、鈴木さんの目の前に置いた。サイズが合うかは別にして、その血はこちらとしても勘弁願いたかったからだ。
慣れているとは言え、決して気分は良くなかった。

「……どうして、あの時撃ったんですか」

レジ袋を口に当てながらえづく鈴木さんの隣に腰を下ろして、俺は尋ねた。
遠くからショパンの“子犬のワルツ”が響いていた。ピノが何処かでピアニカを吹いているようだった。

「俺は……」鈴木さんはレジ袋から口を離して深呼吸をした。「俺は、ヒーローだし……」

ヒーロー。俺は舌の上でその言葉を転がしたが、さっぱり意図が掴めなかった。

「ヒーロー?」何を言っているんだ? 俺は思った。この人は何を言っている?「意味が分かりませんけど」
「分からなくても、別に、良い……」

鈴木さんは力無く笑うと、レジ袋の中に吐瀉物をぶちまけた。嫌な臭いが部屋に満ちる。
とても“子犬のワルツ”を聴く気分じゃないな、と俺は思った。

「……ふぅー。や、やっぱり俺には無理だな。こんなに酷い事を繰り返すのは。か、身体が保たないぜぇー。つれぇーっ」

一通り吐いた後、胸をさすりながら鈴木さんが言った。同感です、と俺は応えた。
遠くで“子犬のワルツ”が途中で終わって、今度はパッヘルベルの“カノン”が流れ始めた。
演奏に慣れていないのか、やけにぎこちなかった。

「そ、その割に引企谷君は、平気、みたいだけども?」

そう言うと、鈴木さんは再びレジ袋に吐瀉物を吐いた。
シチューの匂いと胃液の臭いが混ざり合って、なにやらよくわからない臭いを作り出していた。
夜の満員電車でたまに嗅ぐ匂いだな、と俺は思った。

671ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 22:08:36

「平気じゃないです。我慢してるだけですよ。それに人を殺した事は一度ありますから。ほら、俺この通り極悪人なんで」

佐藤さんと岩倉と黒神は好きにはなれなかったが、何故だかこの人はそこまで嫌いじゃないな、と俺は思った。何故かは知らないが。

「お、俺は生きてる人を殺したのは、うぷ、は、初めてだった……。
 見捨てた事なら、一度だけあったけど……ごぷ。ぅぐぇー、きもちわるっ」

血で濡れたシャツを脱ぎながら、鈴木さんは言った。
服を脱いだ後、鈴木さんは決まりきった出来事の様にレジ袋に吐瀉を吐いた。俺は最早何も思わなかった。

「それで気分を悪くしてるんですか?」
俺は尋ねた。鈴木さんは首を横に振る。
「違う……違うんだっ。同じだったから……ZQNを殺す感覚と、同じだった……」
「解らないな」俺も首を横に振った。「だったら何処に、気分が悪くなる理由があるんですか?」
鈴木さんはレジ袋に吐くと、長い溜息を吐いて、そして俺の方を見た。

「俺が元の世界で殺してきたZQNは、人間だったんだって……だったらやっぱり、殺人だ……そう思ってしまったのでっ……。
 だったら彼女だって、化け物とは言うけれど……お、同じ人間だったんじゃ、ないのかって……。な、なら。ならだ?
 それって、つまり、俺が、やった、事、は、その、」

俺が鈴木さんの言葉を遮って反論しようとした時、トイレの扉が開いてげっそりとした面持ちの佐藤さんが出て来た。

「すまん、待たせた。もう大丈夫だぜ。ちょっと堪えたけど……」
「俺も……もう行ける」
佐藤さんの言葉に、鈴木さんも続いた。どう見ても大丈夫そうにはなかったが、彼なりの気の遣い方なのかもしれないので放っておいた。
「なら、上に行きましょう。食べる気分じゃなくても、最期の晩餐くらい胃に入れとかないと」

俺は立ち上がって、階段の上で鍋を見張る岩倉を見た。
どうか神様。あれが空鍋でありませんように。
俺は今生最期の祈りを、密かに神に捧げた。






【80:12】






「悪いな、玲音ちゃん。メシまで作ってもらってさ」

佐藤さんが申し訳なさそうに言って、席に着いた。向かい側に座る岩倉は無表情のままこくりと頷く。
「……最期の晩餐」
隣で、独り言の様に鈴木さんが呟く。もし本当にそうならこの場に裏切り者が居る事になるな、と俺は思った。
ならば果たしてそいつは銀貨何枚で俺達を売るのだろうかと思ったところで、俺は考えるのを止めた。
メリットが無いからだ。故にそれは有り得ない答えだった。最早裏切る必要さえも無い。

「さいごって?」

ピノが左を向き、佐藤さんに尋ねた。
「皆消えちゃうって事さ」
佐藤さんは悲しそうに笑って、ピノの頭を撫でる。

「きえる?」
「何も無くなるって事だよ」

岩倉がコッペパンを齧りながら淡々と言った。
ピノは眉間に皺を寄せて暫く考えているようだったが、やがてかぶりを振って考える事を止めたようだった。
黒くくすんだスプーンを手にとって、俺はシチューを口へ運ぶ。
スプーンはきっと高級な代物なのだろうが、銀装飾がごつごつと指に当たってどうにも慣れなかった。
シチューの味は、本来こうあるべきというシチューよりーー少なくとも俺の知っている常識で考えてーーだいたい十倍ほど薄く、そして必要以上に塩辛かった。
隣の鈴木さんはしかめっ面を浮かべている。体型的にも濃い味が好きそうだもんな、と俺は思った。二郎とか行って呪文唱えてそうだし。
……俺は食べられなくはなかったが、それでも不味いという事実は避けようがない。やはり岩倉は普段料理をする人間ではないらしい。
まぁそういう風にも見えないし、不自然に美味いよりかは下手な方が余程良いかもしれない。

「……なくなってもまたつくれる?」

数分間はカトラリー達が音を立てていたが、ふと不安そうな顔をしたピノがそう呟いて、四人の手は止まった。

つくれる?

俺は間抜けに口を開けたままその発言の意図を咀嚼してみたが、意味が掴めずそのままスプーンを口へ運んだ。
人を作れるのかどうかと、そういう事を訊いているのだろうか。この幼女の世界ではクローン技術でもあるのかもしれない。
なにせオートレイヴとかいうアンドロイドが当たり前の様に居るのだ。そのくらいあっても別段おかしくはないだろう。

672ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 22:09:29

「ピノはそうかもしれない。でもそれは、今のピノとはきっと違うピノだよ」

きっと誰もがお手上げ状態だったであろう質問に応えたのは、意外にも岩倉だった。
「? ピノはピノだよ?」
ピノが言った。岩倉は紙ナプキンで丁寧に口を拭き、静かにスプーンをテーブルに置く。
「……ピノの持ってる鍵盤ハーモニカがあるでしょ? 他の鍵盤ハーモニカじゃなくて、ピノの。
 それがなくなるって事……みたいなもの、かな」
「れいん、ピノよくわかんないよ……」

しかしピノはかぶりを振る。随分物分りが悪いアンドロイドだな、と思った。これではまるで人間の幼女じゃないか。
フィリップ=K=ディックさんよ、朗報だぜ。どうもこのアンドロイドは電気羊の夢だって見れそうだ。

「ごめんね、また後で説明してあげるよ」

とかなんとか下らない事を思っていると、岩倉が眉を下げながらそう言った。
珍しい表情だった。少なくとも俺達には向けられた事はない類の。
岩倉とピノは付き合いがそれなりに長いらしい。仲もまぁ、普通に良いのだろう。
似た者同士なのか、或いは足りない何かを互いに求めているのか。
ロボットの様な少女と、人間のようなロボット。彼女達が少しだけ奇妙な関係に見えた。



「ピノちゃん、死ぬのは怖いかい?」



食事を終えて暫くして、ソファに座っていた鈴木さんが何の脈絡もなく言った。
中々面白い質問だと思ったので、俺は視線だけを彼等の方へ向ける。今読んでいた参加者詳細名簿よりは、少なくとも中身がある話だった。

「こわくないよ」階段に座っていたピノが応える。「パパがいってたもん。しぬのはしあわせなことだって」

パパ? 俺は思ったが、直ぐに考える事を止めた。どうせ死んでいるのだ。考えるだけ無駄だった。
この名簿と同じ。居ない人間の情報など塵にも等しい。
「幸せな事、か……そうなのかもしれない」
鈴木さんは視線を落として自嘲混じりに呟く。まるで自分に言い聞かせている様だった。

「それに、みんないっしょ! だからピノ、こわくない!」

アンドロイドは大層御立派だなと思った。
俺は早く死にたいが、それでも死ぬのはまだ少しだけ怖いというのに、この少女は怖くないのだと言う。


「ーーーーーーーもう、みんなひとりじゃないもんね」


窓際に腰掛ける岩倉が、熊のフードを被りながらぼそりと呟いた。一番彼女と近かった俺さえ聞き逃してしまいそうな程、か細い声だった。
俺は少しだけ怖くなった。一番その言葉から遠そうな岩倉がそう言ったのは、何かとても深い意味がある様に思えたからだ。

……ひとりじゃない。

いや、違う。都城達と組んで首輪を解除しかけたほど賢い岩倉なら尚更分かっていたはずだ。
人間は種として一人じゃない。だが、人間は生物としてはどこまでいこうが独りだという事を。

俺は岩倉をまじまじと見た。瞳孔が開いた大きな双眸は、吸い込まれそうな黒に染まっている。
冬の深い夜を丸めた様なその冷たく澄んだ瞳には、けれども人も月も光も、一切の景色は映っていなかった。

お前は一体、何処を見ている? 俺は心の中で彼女に訊いた。

何も見ていないよ。俺の心の中で、彼女は無関心そうに応えた。

673ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 22:10:48








【50:08】







「悪かった、鈴木のおっさん」
「へ?」

俺がトイレから帰ってくると、佐藤さんが鈴木さんに頭を下げていた。何事かと俺は彼等の会話に耳を傾ける。

「やっぱりさ、無理だった。耐えられねーよ。もうあんな思いをするなんて二度と御免だ」

佐藤さんは力無く笑っていた。俺は漸く状況を理解する。きっと桐敷を殺す時のあの口論の謝罪なのだろう。

「い、いや俺だって悪かったんだしっ……謝らないでいいって、佐藤くん」
「駄目だ。謝らせてほしい。……だけど、これだけは言いたいんです。
 俺は考える事を止めたわけじゃない。やっぱり色んな事考えちまうよ。でも俺には優勝は無理なんだ。脱出も。
 もどかしいけどこればっかりは仕方無いんだよな。力も覚悟も勇気も頭も、足りねぇ。俺、馬鹿でヘタレですから。
 貴方達がやろうとしてる答え意外、選択出来なかったんです。それが一番……楽だったから」
「佐藤くん……」

ピアニカの音が階段の方から聞こえていた。譜面は多分、小瀬村晶の“light dance”だった。
透き通った音は確かに綺麗だったが、佐藤さんの苦い表情と固く閉じた拳とは、その雰囲気と曲調は酷く不相応だった。

「なぁ、引企谷」
「ん?」
「確か球磨川は“無かった事に出来る”んだったよな?」

佐藤さんは不意に何かを思い出した様に顔を上げると、手を濡らしたまま立ち尽くす俺にそう質した。

「……少なくとも黒神と都城と行橋と不知火は、そう言ってました」
俺はソファに腰を下ろしながら応える。
尤も、今はその眉唾情報を確かめる事すら叶わないのだが。
「『大嘘憑き(オールフィクション)』。現実(すべて)を虚構(なかったこと)にする能力、らしいですよ」

正直不知火から聞いた時は半信半疑だったが、黒神と都城から聞けば納得するほかなかった。
ラノベ顔負けな設定だが、スキルや魔道具とかいうものがあった以上、ファンタジーも最早ファンタジーではなくなりつつある。
いや、それでも十分中二っぽいファンタジーなのだが。

「だよな……尚更お手上げだわ。何でも有りじゃねーか。そんなのチートだぜ、チート。
 “ぼくがかんがえたさいきょうきゃら”かよ。MUGENなら糞キャラ扱いだぜ?
 アクションリプレイでもそこまで出来ねぇよ」
佐藤さんは肩を竦めて諸手を上げ、そして諦めた様に笑った。

「認めるよ鈴木さん。俺は負けた」
「……でもっ、佐藤くんは俺と違って迷って決めた事、だろ?
 なら、産まれた時から負けてたと思ってた俺よりは、ずっとマシだと思うけど……ど、どうだろう?」
「よしてくださいよ。結果は同じじゃないですか」

胸ポケットから桃印のマッチを取り出しながら、佐藤さんはあからさまなフォローを嗤った。

「俺の方が、よっぽど道化ですよ」

深い溜息と共にそう続けて、佐藤さんはソファに深く腰掛ける。カリモクソファーの木製脚がぎいと軋む音を上げた。
鈴木さんは中空に目を泳がせて、開きかけた口を閉じる。それ以上二人の間で言葉が交わされることはなかった。
遠くから、下手糞な“light dance”が聞こえている。部屋の隅の窓の外には、月が浮かんでいた。
天井から垂れ下がる電球に、小さな蛾が一匹、体当たりを繰り返していた。
本棚の影では、岩倉が体育座りをしたまま膝にパソコンを載せ、一心不乱に何かを打ち込んでいる。

俺は時計を見た。あと46分で俺達はこの世から消えてしまうというのに、時計は素知らぬ顔をして秒針を進めている。
針は細く、動きは軽やかで、死のタイムリミットは余りにも軽々しく進んでいた。
きっとあと46分後にも、一秒もずれることなく時計の針は進むのだろう。
俺達の命は、あんなに細い時計の秒針一つ動かせない。

そんなものなのだ、人の命なんて。

674ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 22:18:25







【38:37】







「……なあ比企谷。NHKって知ってるか?」

箱の背でマッチを擦りながら、佐藤さんが言った。
「知らない奴が居るのかよ。黄金時間の量産型糞クイズ番組でも全員正解レベルだわ―」
俺はそう答えた。日本人なら知らない人間は居ないだろう。
「何か勘違いしてないか? 何を想像してた?」
「……日本放送協会?」
俺の代わりに鈴木さんが質問に答える。いや、と佐藤さんはかぶりを振った。
「違うんですよそれが」火の点いたマッチが薄暗い部屋に光の残滓を振り巻く。「答えは日本人質交換会」
煙草に火が点いて、何とも言えないリンの匂いが鼻をつんと突いた。

「にほんひとじちこうかんかい?」俺が文句を言う前に、玲音はそう言って小首を傾げる。「なぁに、それ」
「ピノもしらないよ?」
岩倉の隣で、ピノが言った。そもそも本来のNHKすら彼女たちの世界にはなさそうだな、と俺は思った。

「その胡散臭さMAXな会があるのかは置いといて、それって造語じゃないんですか?」

俺は肩を竦めて言った。聞いた事もない単語だし、なによりNHKの略称をそんな戯けた会に許すほど、日本放送協会は懐が深くないと思ったからだ。
佐藤さんは少しだけ笑うと、不味そうに煙草の煙を吐いた。

「俺の知り合いが作ったんだ。人質交換会ってのはな、会員同士で人質を交換するんだよ。自分の命を人質にして互いに差し出すんだ。
 まあ、つまり“あんたが死んだら俺も死ぬぞコラ!”って事だな。
 そうすると、あたかも核保有国の冷戦下ににおける睨み合いのごとく身動きがとれなくなって、死にたくなっても死ねなくなるんだとよ」

俺達は黙って佐藤さんの話を聴いていた。きっと、その知り合いはこの島で死んだのだろう。俺は何よりも先ずそう思った。

「でも注意しなきゃいけない点がひとつだけあってな。
 “あなたが死んだって、そんなのどうでもいいよ”って状況になるとこの会のシステムは破綻しちまう。
 だからそうならないように気をつけなきゃいけねーんだ」

俺達は黙っていた。きっと俺を含めこの場にいる誰もが、誰が死んでもどうでもいいと思っていたからだ。
俺達は生き残ったが、何一つとして絆は無かったし、心の底から仲間と呼び合える間柄でもなかった。

675ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 22:20:13

「不思議だよな。俺も、多分お前らも、“あなたが死んだって、そんなのどうでもいいよ”って心の底では思ってるだろ?
 でも今の状況って、なんか脅迫じみたもんがあると思わねーか? 自分の命を人質にして互いに差し出してるみたいなもんに思えてきたんだ」

佐藤さんが言った。確かにそうかもしれない。自分が仮に死にたくなかったとしても、恐らくこの状況では生きたいとはとても言い出せないだろう。
しかし生憎、今この部屋の中に生きたい奴は居ないだろうし、この話に中身があるとは俺には思えなかった。
ただ、不思議な状況であるというのは俺にも何となく理解できた。集団自殺もこんな雰囲気なのだろうか。

「……誰も言わないから、俺が訊いとくぜ。俺達は今から死ぬ。そうだよな?」

佐藤さんが続けた。俺は周りの皆を見た。岩倉も、鈴木さんも、頷いている。
ピノは未だに理解していなさそうな表情だったが、死ぬことで幸せになれるとか、死ぬことが理解できないとか言うアンドロイドだ。
最早彼女が理解していようがいまいが、どうでも良かった。無理に理解させようとして話が拗れる方が面倒だ。

「だよな。まあ良いんだけどよ。飽き飽きしてたんだ。ただぶらぶらと宛てもなく、変わらない毎日を生きるって事に。
 なぁ、不謹慎だけど本当は皆思ってたんだろ? 今まで生きてきて、初めて生きた気がしたってさ」

胸の奥がいやにざわついた。
その言葉は、たしかに本質を突いていたからだ。誰もが思っていながら言わないであろう、黒い感情だった。
不謹慎と黙殺されるが、人間はきっと何時だってそうなのだ。誰かが死んで、目の前で事件が起こって、災害が起きて、戦争が起きて。
大変なことだと思いながら、きっとそれにワクワクしている。高揚している。

「映画とか、漫画とかにはさ。起承転結があって、感情の爆発があって、結末がある。でも元の生活には、そんなもん無かった。
 だけど、此処はそれがあった。程度はあっても確かに始まりがあって、小さくてもドラマがあって、感情の爆発があって、約束された結末があった」

バトル・ロワイアル。まるでハリウッド映画やゲームの世界の出来事だった。北野武の映画の中だけの事件だと思っていた。
ところがある日目が覚めると、自分が参加者。笑っちまうよマジで。目の前で人が死んで、毎日誰かが死んで。でもそれに目を背けた。
不知火を看取った。葉山を殺した。紅麗や黒神の死を間近で見た。
その度に妙な高揚感があったのは確かだ。

「辛い思いをしてまであの灰色の世界に帰るのと、このファンタジーの世界で、役者としてエンドロールを迎えるの。
 どっちが良いかなんて、考えるまでもなかったのかもな……」

約束された、結末。
俺は胸の中でその言葉を繰り返す。その時俺は何を思って、何を感じて、どんな表情で死んでいくのだろう。

676ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 22:24:59






【30:00ーー岩倉玲音とピノの場合ーー】





あれから、自由行動ということになったので、玲音はピノと一緒に散歩することにした。
いくつか部屋を見て、それから辿り着いた廃ビルの裏口には、ハンス・ウェグナーのYチェアが二脚、ぽつんと置いてあった。
一脚は苔と黴に覆われ自慢の曲線美は失われてしまっていたが、もう一脚は比較的新しく、岩倉玲音はそこに腰を下ろした。

「何をしているの?」

玲音が小首を傾げながら尋ねた。ピノは落ち葉が重なった地面に、木の枝を立てているところだった。
「おはかっ、つくってるの!」
ピノは玲音へ振り向いて、大きな声で答えた。顔は泥だらけだった。
「……桐敷ちゃんの?」
玲音はノートパソコンに何かを打ちながら訊いた。エンターキーを打つと同時に、ピノの体がびくりと大きく跳ねた。
ビルの入り口からは太い細いが入り乱れた様々なコードが溢れ、玲音の持つパソコンやその周辺の大きな機材、そしてピノの背中とを繋いでいた。
「うん。うごかなかったから。うごかなくなったら、おはかをつくるんでしょ? ビンスがおしえてくれたよ」
今度はピノの声は聞き取れないほど小さかった。玲音の指がパソコンに何かを打ち込む。当たり前の様に、ピノの身体がびくんと跳ね上がった。

「ピノはビンセントさんが好き、なんだね?」
「すき?」
「えっと、違うの?」
「ううん。すきって、なにー?」

ピノが小首を傾げる。愛玩用だから辞書をインストールしておかなかったんだね、と玲音がパソコンのモニタを見ながら小さく呟いた。

「ピノ、すきってわかんない。だけど、ビンスはほうっておけないやつ。だからピノがついてなきゃいけないんだ」

ピノは鼻の頭を擦って、したり顔を浮かべた。玲音は目を白黒させた後、肩を揺らして小さく笑った。
「ふふっ。ピノと話してると、不思議な気分になるよ」
ふしぎなきぶん、とピノは歌う様に繰り返す。ふしぎな、きぶん?

「ともだち、だから?」
「ふふふ、そうかもね?」

玲音は口元を隠して笑うと、キーボードを指で静かに叩いた。
画面は暗い緑色のスクリーンで、意味ありげな文字列がずらりと並んでいたが、それを覗いたピノには意味がさっぱり分からなかった。

「……ねぇ」数分の沈黙の後、玲音は思い出した様にそう切り出した。「ピノは人が動かなくなったのを見たって言ってたよね?」

ピノは苔の生えたYチェアーの上でピアニカを吹いていたが、玲音の質問にうーんと唸る。
ピアニカの唄口を咥えたままだったので、警笛を失敗した様な間抜けな音が鳴った。

「ラッカがね、くびをしめてっていうから、しめたの。そしたらうごかなくなっちゃったんだ。ピノ、びっくりしたな。
 れいん。あれがみんなのいう、“しぬ”ってことなんだよね?」

玲音の指がするするとキーボードを走る。スクリーンに浮かぶ小窓にはRakka、と黄緑色の文字が浮かびあがった。
エンターキーを押すとほぼ同時に、ずらりと何かの一覧が新しいウィンドウで飛び出した。そのうちの一つがタブで選択される。
玲音はそれをドラッグして、haibaneというフォルダにドロップした。

「うん。そうだよ」
「ピノにはすこしむずかしいな」

ピノが口を尖らせて言う。玲音は手を止めて、ピノの頭を猫耳フード越しに撫でた。

「れいんはわかってる?」
「私にも、難しいよ。リアルワールドでの死なんて、解らない。意味も、価値も。知りたいと思った事も、ない……から」
「ふうん……?」

玲音は熊耳のついたフードを深々と被って、目の前に広がる景色を見た。
小さな枝が墓標の様に地面に刺さっていて、しかしその下には死体は埋まっていない。
コギトに感染し、死んだ事を理解できて、弔いの文化や墓について知っていても、そこには感情と意味が欠落していた。
人が死んだら、墓を作って弔わなければならない。ピノはその一文を条件と結果の一致としか見ていなかった。

「ピノは今、幸せ?」

677ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 22:27:48
玲音が思い付いた様に尋ねる。目線は墓の向こう側の暗い森を見ていた。
よくわかんない、とピノは応えた。玲音はピノの方へ視線だけを動かした。ぐるり、とやや大き過ぎる目玉が回転する。

「ピノ、ニンゲンじゃないから、よくわかんないの。でも“死ぬのは幸せな事だ”って、パパ、いってた」
「オートレイヴだから、よくわからない?」
「わかんないもん、そんなの」
頬を膨らませながらピノは言う。玲音は少し悩む様な素振りを見せた後、再び口を開いた。
「でも、ピノはコギトウイルスに感染しているんだよね?」
「うん。でもわからないの!」
「どうして?」
「わかんないっ。れいんはときどき、よくわからないこという!」

ばん、とピノが椅子の上に立ち上がって、玲音にサックを投げ付ける。
サックの中身が散らばって、玲音の膝の上のパソコンは落ち葉の海にダイブした。

「……。……ごめんなさい。ピノがどう思ってるか、知りたかっただけなの。許してくれる?」

玲音は立ち上がり、ピノの支給品をサックの中に入れながら言った。ばつの悪そうな表情だった。

「ううん……ピノも、ごめんなさいする。ピノ、れいんのことしりたいよ。ピノだって、しあわせ、おしえてほしいもん」
「私は……私みたいな人の事なんか、知っても良い事ないよ」
玲音は苦笑を浮かべて言った。ピノは首を振って、椅子を飛び降りる。錆色の木の葉が少しだけ地面の周りを踊った。

「トリエラがいってた。きっとともだちってやつは、おたがいのことをよくしってるものなんだって」
「トリエラが……?」
「トリエラ、それからヘンリエッタこわしたんだ。そしたらトリエラきゅうになきだしたの」
「……きっとコギトに感染してたんだね、トリエラも」
「トリエラ、さみしいっていってた。ピノもね、そのあとうごかなくなったビンスをみたの。そしたらむねがなんか、きゅーってしたよ。
 だからピノ、きっとトリエラがいってた“さみしい”っていうびょうきなのかもしれないなって」

玲音は無表情のまま、空を見上げた。星は一つとして顔を出していない。
ーーー寂しい?
自分に問いかけるように呟いたが、やがてその言葉は森の向こう側の闇に沈んでいった。
いつまでもそうしていた玲音の腰あたりに、ピノは不安そうな表情を浮かべて抱き付いた。
熊のフードと、猫のフード。白い肌、暗い髪の毛。端から見れば、姉妹の様に見えなくもなかった。

「……ビンス、いつここにくるのかな」

不意に、ピノが呟く。顔は玲音の胸に埋まっていた。玲音はピノの肩を優しく掴み、ゆっくりと引き離す。
「……あのね、ピノ」
「うん?」
「ビンセントさんは、もう帰ってこないんだよ」

678ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 22:30:03

半秒の間があって、どうして? とピノが首を傾げた。玲音はパソコンを拾うと丁寧に枯葉を払い、椅子に腰をかけ、そして口を開いた。

「ビンセントさんは、死んじゃったから」

しってるよ、とピノは応えた。
「めだかがいってたもん。だからビンス、もういっこないかなって」
違うの。玲音は言った。違うんだよ、ピノ。

「無いの、ピノ。人は、一つしかないんだよ」

「……ふべん、だね?」
「そう。不便、人間は。だから、死ぬのは寂しいんだよ。
 ピノも知ってたんじゃない……? もういっこのビンセントさんは、ビンセントさんだけどビンセントさんじゃないって。
 だから寂しかったんじゃない、かな」
そうなのかなぁ、とピノは俯きながら口を尖らせた。
「じゃあ、ビンスにはもうあえない? でーたでも?」

奇妙な間があった。

答えに悩んだのではなく、聞きそびれたからという訳でもない。六秒半という絶妙な間の後、玲音は無表情のまま笑った。
ふふふ、と無機質な声が蔦だらけの廃ビルの身体を舐め回す。そして一通り笑うと、息を小さく吸って玲音はピノを見た。
そして、微笑みながら言うのだ。

「……また、会いたい?」

それは、凡そ有り得ない質問だった。或いは相手がオートレイヴの少女でなければ、その質問に疑問を持てただろう。
しかし少女ピノはオートレイヴだったし、剰えその心は下ろしたてのシャツや刷りたての画用紙よりも遥かに白く、無垢で、純粋だった。

「あいたい!」
「会えるよ。きっと」
「ほんと!?」
うん、と玲音は応えながらパソコンを開く。
「そういう風に出来てるの。ビンスにも、リルにも……ピノのパパにだって、会えるんだよ」
「ほんと!? すごい、れいん!」

かたかたかた。パソコンのキーボードが囁いて、それが止むと同時に生温い風が吹いた。
風は少女たちの髪をさらさらと靡かせた。

「ピノは、みんなと繋がっていたい?」

玲音が尋ねる。つながる? とピノは訊き返した。
「うん。みんなの考えをわかりたいなぁとか、みんなとずっと一緒がいいなぁとか、思う?」
「うん! おもうよ!」
「私なら、繋げてあげられるよ。ずっと」
「ずっと!?」
「ふふ。うん。ずーっと、永遠にみんなと一緒。うふふっ。もう寂しくないんだよ。だから、ね?」

玲音はにこりと笑って、愛玩用オートレイヴ少女の首にゆっくりと手を伸ばした。
ピノの視界に、灰色の砂嵐が走る。高揚の無い笑い声が、夜の森の向こう側に響いていた。


「こんな世界、もういらない」

679ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 22:32:12





【30:00ーー佐藤達広と比企谷八幡の場合ーー】






ソファに腰を深く沈めた。緑色のベロア生地に金色の刺繍は中々に高級感があって、座り心地も悪くはなかった。
サイドテーブルからカップを手に取って、口へ運ぶ。注いである珈琲は、何故だかいつもより苦く感じた。

「どうして」

カップの中の黒い水面を見ていると、そこに映っている冴えない男の口から声が漏れた。

「どうして、俺達なんだ」

どうしてなんだ、と。腹の底から捻り出す様に言う。半ば無意識の言葉は、その九文字は、この一週間の苦い想いの全てが詰まっていた。

「生き残ってなきゃいけなかったのは、めだかちゃんや紅麗さん達の方だった」

対面の高校生は、何も言わなかった。ただ光の無い黒い目を、こちらに向け続けていた。
励ます人も、怒る人も同意する人も、殴ってくれる人すら、もうこの世界には居ない。
残ってしまった五人は生きてこそいれど、軒並み心が死に尽くしていた。
優しさなどありはしない。温かさなどありはしない。希望は愚か、絶望すらありはしない。
そこにあるのは、ただただ“無気力”だった。
抗う事すら諦めた。勇気なんてものは、端からありはしなかった。人の形をしたその中身は、ひたすらに空虚だった。

「俺達は守られちゃいけなかったんだ。死ぬべきなのは俺達だった。ずっと前からそう思ってたんだ」

珈琲を飲み干して、ソーサーの上にカップを置く。
まるで泥水のような不味さだった。こんなにも不味く感じたのは初めての事だった。

「そうさ、ずっと思ってた事だ。ずっと見てきた事だ。自殺していく奴や、戦って死んでいく奴。殺してもらう奴、集団で死ぬ奴。
 俺もそうなるはずだった。せめて人間らしく、誰かに悲しんでもらって逝く筈だった。それが、なんで」

震える両手を目の前に出す。一週間を生き残ったにしては、彼等の掌はあまりに綺麗で、あまりに白かった。
目頭が熱くなる。視界が滲んで。頬をゆっくりと雫が流れ落ちた。



「ーーーなんで、ここに居る?」



わななく口で、震える心で、絞り出す。
死にたくなかった。
死ねなかった。
生きたくなかった。
戦いたくなかった。
ただどうしようもなく、生きてしまった。

「こんな守る価値も無い引き篭もりでニートの屑が、なんで。なんでだよ……なんでだ……」

一緒に死のうと言ってきた奴が居た。俺は怖くて、薬を飲んだふりをした。そいつだけ死んだ。
脱出を誓った奴も居た。敵に襲われて、俺はそいつを餌に逃げた。
俺を元気付けてくれた奴も居た。救ってくれた奴が居た。戦いを任せていたらピンチになったので、見捨てて隠れた。
全員、ゴミ屑の様に死んでいった。自分なんかよりもよっぽど価値ある命が、まるで羽虫の様にこの島の呪いに喰い散らかされた。

「俺達は此処で何をしてきた? 何を誇れる? 俺達に一体何がある?
 ただだらだらと長い時間引き篭って、助けられて、縋って、仲間を見捨てて、ひたすら現実から逃げて……そんな俺達の命に何の意味がある?
 守られて、頼って、逃げて、任せて。一度も戦ってこなかった俺達に、今更何が出来る?」

680ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 22:36:52
対面のソファに座る高校生は、口を開く素振りすら見せない。
何だってこんな仏頂面の可愛くもない歳下餓鬼相手に、俺は必死になって雄弁になっているのかーーーあぁ、そうか。
そっくりなんだ。昔の自分に。高校の時、達観した気分になって、斜に構えてれば格好良いと思っていたあの時の俺に。

「悪い、こんな事いきなり言われても困るよな」
目尻に浮かんだ涙を拭きながら、俺は言った。まったく、今日の俺はどうかしてる。
「しかし……本当にさ。何でこうなっちまったんだろうな。何処で間違えちまったんだろうなぁ」

ソファに全身を預け、胸ポケットから煙草を取り出す。
火を点けて咥えてみるが、マールボロ・ライト・メンソールは、すっかり“メンソール”の部分だけが抜け落ちてしまっていた。
これじゃあただのマールボロ・ライトだ。やれやれと鼻から息を吐きながら、俺は天井を見た。
湿気た煙草は世辞にも美味くはなかったが、味気ない天井に向かって漂う紫煙を見ている気分は、何故だか決して悪くはなかった。
不味い珈琲に不味い煙草、小さな矩形窓が一つだけの味気ないコンクリートの部屋。
だが或いはこんなロリコン薬中引き篭もりニートの最期には、相応しいシチュエーションなのかもしれなかった。

「ヒキタニ君は、何でだと思う?」
「……分かりませんよ。自分の胸にでも聞いてみて下さい。あと俺の名前間違ってます。不快です。死にます」

へへへ、と思わず笑みが零れる。頭を起こして、俺は仏頂面の引企谷を見た。
この目だ。周りを見下して捻くれた目。高校生の時、俺が委員長を見ていた目もきっとこうだった。

「でも、何が出来るか、って言いましたよね。あれには答えられますよ」

引企谷が言った。へぇ、と俺は先を促す。

「何もできねぇと思いますよ。俺にも、佐藤さんにも。だから俺達には嘆く資格も権利もありゃしないんです。
 俺達がやってきた事の皺寄せが今の状況なんですし。
 今更逃げる脅威も無い。抗う勇気も気力も無い。なら、受け止めるしかないでしょう? 今更決めた事迷うとか、それでもぼっちの先輩ですか?
 まあでも、俺は今も間違ってなかったって思いますけどね。そうやって狡賢く不器用に生きる事が、俺の生き方だったんですから」

煙草を銀皿に押し付けて火を消して、俺は懐からもう一本を取り出した。かちり、とライターの火打石が火花を散らす。

「だから俺は嘆かない。泣かない。逃げない。これで良い。俺は此処で孤独に死ぬ。そう決めた。
 自分勝手に生きてきたんだ。人間、報われないまま終わる事もありますよ。
 テトリスと一緒ですよ、人生なんて。長い棒野郎を待ってる時は来ないし、待ってない時に限って降ってきやがる」

人間、報われないまま終わる事もある、か。
咀嚼する様に胸中で反芻しながら、俺はぼんやりと煙越しに引企谷を見た。そこまで当時の俺は達観してただろうか。
いや、少なくともその振りだけはしてたか。こいつもそうなのかもしれないけど……ま、関係ないか。

681ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 22:38:39

「今更考え方を変えても過去も未来も変わらない。屑は屑らしく、嫌われ者は嫌われ者らしくしてれば良いと思うんです。
 佐藤さんがどう思うかは知りませんけどね、俺には何も期待しないで下さい。
 貴方の事なんか知ったこっちゃないですよ。なんてったって、あと数十分で別れる他人なんですから。
 くれぐれも内輪揉めとかに俺を巻き込まないで下さいね。俺は内輪に居たくないんで」

引企谷はきっぱりとそう言って、ソファから腰を上げる。埃が少しだけ舞って、天井からぶら下がるナトリウム灯の光にきらきらと踊った。
少し迷って、口を開く。今日の俺は何故だか饒舌だった。

「……俺はそれでも悩んで悩んで、最後まで悩んでいたい。勇気もないし、抗う気力もないけど。
 何も変わらなかったとしても、悩む。決めたとしても、やっぱり迷う。
 人間、そんなもんじゃないのか? 少なくとも俺はそういう情けない奴だよ。ニートだし。大学中退だし、引き篭もりだしな。
 ただお前みたいな奴は、俺から言わせればただの格好つけたがりの糞生意気な餓鬼だね。
 感傷的な気分にでも浸って星空でも見上げてろよ。あれがテネブ、アルタイル、ベガってさ(笑)。
 その間にも逃げて、悩んで、結局いつもいつも駄目な結果で。
 死ぬのを決めた今でもまだ死にたくないとか、あの時こうしてればとか、色んな事を後悔し続けておくからな。俺は。
 俺達は確かに現実に負けた屑だけど、まだ25分くらいは生きてるんだぜ。全部放り投げてくたばっちまうのは……それからだろ。
 迷わない考えない悩まないってのはお前、そりゃあ最早人間じゃなくて機械の域だぜ。俺はそう思うけどな」

引企谷は口をへの字に曲げて俺の言葉を聞いていたが、やがて溜息を吐いて俺に背を向けた。

「非生産的ですね。きっと球磨川大先生は、今のアンタをモニタ越しに見ながらメシウマしてますよ」

肩を竦めて僅かに嘲笑しながら、引企谷は扉の向こう側に消えてゆく。なにやら原因不明の苦しい気持ちだけが、胸の奥に深く残っていた。
部屋は静かになってしまった。錆びた鉄扉へ煙の輪を飛ばしながら、俺は黴臭いソファに上半身を委ねる。

「格好つけてるのは俺の方だ……なぁ……本当にこのままで、良いのか? 教えてくれよ、岬ちゃん。
 俺はまだ自分の人生の中で、一度も答えを見付けた事がないんだ。笑っちまうよなぁ。
 でもさ、死ぬ時くらい、見付けたいんだよ……何の答えかは分からないけどさ。何かを見付けたいんだ。何か一つでいいんだ」

俺はポケットに手を入れた。いつか山崎と作った脱法ドラッグは、まだ確かに残っている。
この島に来てから、一度も使っていなかった。そんな気分にはなれなかった。だが、今なら使ってもいいかもしれない。
どうせ死ぬからなのだろう。そんな気分だった。

ーーー佐藤くん、また私に会いたい?

重い鉄の扉の向こう側から、そんな声が聞こえた気がした。
あぁ、岬ちゃん。会いたいよ。またこの夢の粒を飲めば、答えを教えてくれるかな?
君は、俺を救ってくれる天使だもんな。


「いつかの星空の、続きを見に行こうぜ。岬ちゃん」


だけど、嗚呼ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー高校の時あんなに覚えた星座の名前、もう殆ど忘れちまったよ。

682ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 22:40:26






【30:00ーー鈴木英雄の場合ーー】






小さな頃から、絵が好きだった。

アニメのキャラクターを真似てはクレヨンや色鉛筆で広告の裏に描き、両親や親戚に見せた。絵が上手だと言われて、嬉しかった。
十歳の時に、初めて他人に絵が褒められた。校内コンクールで金賞を取ったからだ。先生にも褒められた。英雄くんは絵が上手だね、と。
運動能力は皆無。学業は普通以下。顔も中の下。背も高くなければ、体型も良くないし、モテすらしない。真面に褒められた事など皆無っ。
そんな俺にとって、それは“勘違い”させるに十分過ぎる出来事だったと言える。
今思えばそれが始まりだった。
中学。並の受験勉強で、並の学校に入学した。相変わらず勉強は出来ず恋人も出来ず運動も出来ず。
ただ、美術だけはいつも成績が良かった。自分にはそれしかない。俺はそれが分かっていた。齢十四にして。分かってしまった。

僕は勉強ができない。答えが書けない。けれどもーーー絵だけは描けた。

これはアイデンティティと言うべきか? まぁ、それは置いておいて。その頃、丁度漫画の面白さを知ったのだ。俺は。
読み漁り買い漁り、自力で初めて漫画を描いたのもその頃だった。
見せる人は居なかった(今思えば到底見せられる代物でもなかった)けれども、当時はその達成感だけで十分だったのだ。
十七の頃、それで満足出来なくなり、雑誌に漫画を投稿した。銅賞を取った。編集に褒めて頂いた。
自分の才能はこんな小さな世界で完結すべきでないと考え始めた。
俺は漫画家になって、金をたんまり稼いで、いい女とそれこそメロンブックスで売ってる男性向け同人誌顔負けなセックス三昧の日々を送るのだと。

高校三年生の夏、再び銅賞を取って、漫画家になろうと決意した。俺には才能があったのだ!
例年より些か暑く、雨が少ない夏だった。

二十代になって、週刊漫画は糞だと切り捨てた。自分には作風が合わないし、自己表現に週刊漫画という媒体は向かない。
長いスパンで見た場合、アンケート打ち切り制度など、自ら漫画界の将来を閉ざす間抜けな戦法じゃないか。
編集は糞しかいないし。奴等は何も理解していやしない。いや、理解はしているが営利主義と顧客主義の面から見て……或いは仕方ないのかもしれないが……。
それにしたって十週打ち切りとかなんだの、あんまりだろっ。物語の始まりの『は』も始まってないじゃないか。
ここからは漫画の意味という根本的な問題から話す事になるが、まず。まずだよ。
誰しもが、思春期を境に気付き始める。まずい、と。自分の人生は存外つまらないなと。
だから漫画があるわけだ。他人の人生を覗いて、その恐怖から逃げる為に。それで満たされる。
経験と充実を代替してくれる素晴らしい媒体だ、漫画は。でも漫画の主人公だっていつも上手くいくわけじゃない。
だから“静”は必要だ。アンケートも当然その時は票数が取れないだろう。でもこれからなんだよ。これからだ。
漫画の主人公だって、これから味が出てきて、話も盛り上がるんだ。
なぁ、そうだろう? これからなんだ。
俺の漫画『アンカットペニス』だって、これからだったんだ……。

二十代後半、そろそろだなと思っていた。本気を出すなら今だと。でも、気付けばアシスタントを繰り返す日々になっていた。
そうこうしていて三十になった。そこで漸く気付くのだ。俺は。漫画家は夢を与える職業だと誰かが言ったが、それは違うと。



漫画家は、夢を見る仕事だった。



社会の不条理の中に揉まれて。徹夜明けのマクドナルドの中で。京王線の満員電車の中で。新宿駅のトイレの中で。
腐り切った世界で、濁った目で、汚れた夢を見ていた。叶わない事なんか知っていた。
漫画は売れない。このままプロアシとして血反吐を吐いて、身体を壊して廃業。
独身のまま、ナマポで飯を食っていく。そんな未来を認めたくないだけだった。バクマンみたいに上手くいかないんだ、漫画は。

現実を見ず、夢を見る。それが取り残された漫画家の唯一の生き方だ。

683ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 22:45:15
「ふぅーっ」

溜息が自然に出た。吐く物は全部吐き尽くしていたが、息だけは未だに吐ける事に少しだけ安心した。
まだ自分が生きている事の裏返しのように思えたからだ。

「こんな事になる前に早く誰か可愛い女の子を守って、格好つけてから自殺すれば良かった……」

何となしに、空を仰いだ。雲で暗く淀んで、星など見えはしなかった。今生最期の夜だと言うのに、気の利かない空だ。

「くそ。俺の馬鹿っ。結局集団自殺とかっ」
赤く錆びた手摺に額をごつりと凭れる。ざらざらとして、少しだけ痛かった。
皆と別れた後、テラスへ出た。あの息が詰まりそうな地下室に居ると、吐き気が治まりそうになかったからだ。
テラスは二階の東側にあった。こぢんまりとした、一畳あまりの一人用テラスだった。
夜風は涼しく、湿気は適度。虫一匹いない。自然光は皆無で、朧月が僅かに辺りを照らしているだけ。中々どうして良い環境だった。
テラスの外には深い森ーー参加者達からは“黒い森の庭”と呼ばれて恐れられたーーが見えた。
屋久杉顔負けな巨大な杉達は天を目指してそれぞれが競うように伸び、ひしめき合っていた。
森の中には深い谷があり、そこには川が流れていて、滝壺に落ちる水の音が、空にどうどうと響いていた。
めだか、紅麗、トリエラ、ジョーカー、夜空、クルス、王土、坂東、メラン、ヘンリエッタ、ルーシー、ヴィンセント、桜田、黒木。
少なくとも今朝から夜にかけての惨劇で、13の死体がその森に眠っている筈だった。

「はぁーっ。ついてなさすぎだろぉっ、俺……」
溜息と共に、言葉が唇から零れ落ちる。そのうちの一人になれたならどれだけ幸せだったろう。
自殺だなんて、そんな事想像すらした事なかった。自殺する奴は馬鹿だと思っていた。
漫画家の世界では別段珍しくはなかったが、それでも親や大家に迷惑だし、折角生きてるのに自分から命を終わらせる意味もさっぱりわからなかった。
だがそれがここにきて現実味を帯びて心を襲う。
かつて自分が貶してきた最も間抜けな最期が、目前にあった。皮肉にも程がある馬鹿げた話だった。

「……でも。俺なんかが格好つけられる様なシーン、どこにも無かったよなぁ……」

初日から、俺は洞窟の奥に引き篭もった。DQNとの戦いで学んだ事は、とにかく静かにして身を隠す事が一番という事だったからだ。
三日目に差し掛かる頃に、中原岬さんと小野寺雄一さんの二人が洞窟へ来たが、その二人も結局自殺して。
その後も黒神めだかさんが来るまでずっと引き篭った。格好つける余裕も隙も、機会さえありはしなかった。

「おぇ。まだちょっと吐き気する。くそっ」
瞳を閉じると、少女の頭が弾け飛ぶ瞬間が壊れたテープの様に繰り返す。
「けど、悪くない……俺は……悪くない……大丈夫……大丈夫……」
網膜に焼き付いてしまったみたく、最期の瞬間が離れない。

「……ようつべで見た、外人が輪ゴムで西瓜を割る動画みたいだった……」

人を殺した以上、天国には行けないな、と思った。ただでさえ今だって不法侵入してるし、器物破損もしてきた。元の世界でも。
これじゃあ、バカッターに犯罪自慢するDQNと何も変わらない。
寧ろローソンやブロンコビリーのアイスケースや冷蔵庫の中に入る方がエンターテイメント性があるだけまだマシじゃないか。
……あ―あ。ガリガリ君の梨味と炭焼き厚切り熟成ぶどう牛サーロインステーキセット400g……死ぬ前にもう一回食べたかったなぁ。

「自分の人生って、やっぱり自分で思ってる以上に大した事ないよな。俺の持論は身を以って証明された訳だ……。
 自分の人生がつまらないから、漫画で他人の人生を覗きたがる。そこに現実を見て、経験を補いたい。だから人間は漫画を見るのだという理論が……」

684ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 22:46:31

“なぁ、不謹慎だけど本当は皆思ってんだろ? 今まで生きてきて、初めて生きた気がしたってさ”
佐藤君の言葉が、頭の中でずっと渦巻いていた。元の世界では、三谷さんも同じ様な事を言って死んだ。
何も変わらない毎日は、確かにDQNやバトロワのせいで変わった。生きる事を初めて意識して、命に対する想いも変化した。
死に触れる事で、生きている事に実感が持てた。だけど、結局本質は変わらない。死なない様に引き篭って脇役に徹しただけだった。

「俺は……俺の人生くらい、自分がヒーローにななりたかったんだ……それだけなのに」

しかし結局、どうやらヒーローにはなれずに人生は終わってしまいそうだった。
……でも、本当にそれでいいのか?
ふと思い出して、胸ポケットの煙草を取り出す。煙草は好きではなかったけれど、その一本の煙草だけは、ヒーローになれた時に吸おうと決めていた。

「こんな時に、どうして思い出しちゃうかなぁ……俺は……」

ーーーヒーローになりたいです。
三日目の昼、俺は雄一さんに言った。雄一さんはふむ、と唸り、煙草をふかしながら暫く考え込んでいた。
その夜、雄一さんは俺の隣に座って、眼鏡のレンズをTシャツで拭きながら言った。
ーーー僕ァね、鈴木くん。ヒーローになりたければなればいいと思うよ。
   ただ君以外の誰もが、君がヒーローである事に、興味なんてないんだ。
俺は何も反論する事が出来なかった。
ーーーだけどヒーローは街を壊すし、全員を救えないし、法律と警察無視で直接悪を殺すし、誰にも理解されない。
   それでもヒーローであり続ける自信が、責任を取り続ける覚悟が、君にはあるのかい?

「……誰もやらないというなら、俺がやってやる……今しかないんだ、チャンスは。俺なら、うん。出来る」
ガリルのグリップを握って、空を見上げた。雲の向こう側で、十六夜の月がぼんやりと浮かんでいる。


「アイアムア、ヒーロー」


ーーーないです。
俺は言った。
ーーーないけれど、どうしていいか分からないけど、ヒーローになる方法も、貴方の言う覚悟も分かりませんけど。
   でも、なりたかった。それって、悪い事なのでしょうか?
雄一さんは笑って煙草に火を点けた。まるでエクトプラズムの如く煙は洞窟に浮かんで、やがて岩壁に吸い込まれるようにして消えていった。
ーーー今度、君の漫画を見しておくれよ。そしたら、答えてあげても良いかな。
雄一さんはそう言って煙草をふかした。いいですよ、と俺は応えた。
その夜、雄一さんは遺書と一本の煙草を遺して洞窟を出ていった。

『僕ァ、ヒーローにはなれそうにないからね』

遺書の最後の一文には、汚い文字でそう綴られていた。

685ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 22:47:52





【20:00】






俺達は孤独だ。

心も弱いし、勇気は無い。運動能力も無ければ、運もないし、挙句勉強も出来ない。
モテすらしないし、凡そ才能やカリスマ性と呼ばれる類のものとはとことん無縁だ。
だけど別に、それを悪い事だと思った事は一度だってない。誇れる事だと思った事もないが、しかしそれを咎めるリア充共よ、成功者共よ、俺は問いたい。
だからなんなのだ、と。
そもそも俺達が居なければ、お前達は高説を垂れ流す事も、成功する事も、悦に浸る事すら出来なかったはずではないのか?
とは言え俺は別にそれを恨んでいるわけではない。可哀想と思いたくば思え。嫌いたくば嫌え。
ただ、それを認めている俺達に、お前達は意見を言える立場にあるのかと言いたいのだ。
俺はお前達から蔑まれる事も、無視される事も、負ける事も認めている。だからお前達も、俺達が孤独である事を認めろ。
俺達からその立ち位置すら奪おうというなら、それは最早白痴や傲慢以外の何物でもないだろうに。

俺達は弱い自分を受け入れた人間だ。そして少なくとも俺はーーーそれが諦観とは違うと思っている。
俺は幾ら啓発本を読んでも自分が変わらない事を知っている。ゲームやアニメじゃないんだ。人間、中身はそうそう変わらない。
でもそれでいい。変わりたいと思う事も確かに少しはあるし、すごい奴には……まぁ多少なり憧れるが、その反面で確かに今の自分を享受しているし、嫌いではない。
何より結果として変わらないのは、変わりたい気持ちよりありのままの自分を選んでいるからだ。
クズでいい。ニートでいい。馬鹿でもコミュ障でもいい。
恋人が出来なくとも、体育で2人組を作れなくとも、友達が居なくとも、ヒーローになれなくても、主人公じゃなくても良い。
何故ならそれが俺の人生だからだ。

だからお前、頭によく刻め。お前達が何をもって“ハッピーエンド”と呼んでいるのかはこの際問わない。








だがそれでもーーーーーーーーーーーーーーーこの物語を。結末を。決して“バッドエンド”とは言わせない。



















【桐敷 沙子 死亡確認】

【孤独ロワイアル 残り5人】

686ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 22:48:58
投下終了。長くてすみません。

687剣士ロワエピローグ ◆9DPBcJuJ5Q:2013/08/26(月) 01:02:34
 崩落する仮初の世界、無へと還る殺戮の舞台。
 そこに大神の筆しらべが走り、異空へと繋がる幽門が開かれる。
 黄金神と大神の導きを受け、戦いの中で散って逝った数多の剣士達の魂は、還るべき世界へ還っていった。
 それは、彼らの振るった幾多の剣も同じ――。




 エピローグ 剣の還る場所
 其の一『聖剣イルランザー』




 ガルディア大陸から遥か南方に位置する、幾つもの島々からなるエルニド諸島。
 かつては大陸で名を馳せた蛇骨大佐率いるアカシア龍騎士団によって統治されていたが、数年前に中枢メンバーが死海へと遠征に向かい全員が行方不明となり、少し前にその死海も消滅してしまった。
 現在は交易の中心である港町テルミナを始め、本島はパレポリ軍の統治下――事実上の支配下――にある。
 そんな世間の喧騒から隔絶された、小さな離れ小島があった。
 豊かな緑に囲まれたそこは一見無人島のようだが、中心部には小さな小屋があり、そこには1人の女性が住んでいた。
 彼女は今日も、2人分の茶器を用意して、2人分のお茶を淹れて、じっと、椅子に座ったまま待っていた。机を挟んだ対面の席に来るべき人が来ることを、帰るべき人が帰ることを。
 女性の顔にはおよそ精気と呼べるものは見られず、悲しみや嘆きのような感情すらも垣間見えない。
 ほんの数年前、この離れ小島に大怪我を負った騎士が記憶喪失の状態で流れ着くまで、彼女はずっと1人だった。それが当たり前だった。
 世間から隔絶された場所で、彼女はずっと1人で生きて来た。死が訪れるその時までそれは変わらないと、そう思っていた。
 だが、彼が現れてから彼女の世界は一変した。
 彼は命を救われた恩を返す為だと彼女の手伝いを買って出た。木を伐ったり薪を割ったりと力仕事が主だ。
 彼女もそのお礼にと、彼には腕を振るって食事を御馳走した。
 またそのお礼にと青年が、またそのお礼にと彼女が、とその関係はずっと循環していた。
 彼と共に暮らし、語り合う内に、彼女の心に今まで感じたことの無い感情が芽生えた。
 それが恋であり、愛なのだと悟ることに、さして時間はかからなかった。
 その想いを自覚すると同時に、彼女の内に一つの恐怖が生まれた。それは、彼と別れる時が訪れること。
 彼はいつか、記憶を取り戻すかもしれない。或いは、彼の知り合いがここに来るかもしれない。そうなってしまったらと思うと、胸が張り裂かれるようだった。
 彼がここに来る前の日常に戻るだけだと頭では理解できているし割り切れるものだと思えるのに、心は、そんなものには耐えられないと叫んでいた。

688剣士ロワエピローグ ◆9DPBcJuJ5Q:2013/08/26(月) 01:07:31
 けれどある日、唐突に、全く予期せぬ形で、彼は彼女の前から姿を消してしまった。
 不可思議な闇の霧、暗黒のオーラとも呼ぶべきものが彼の体を包んだ時に、一緒に巻き込まれそうになった彼女を助けて、彼は闇に呑まれて消えてしまった。
 突然の別離を受け入れられず、彼女はまるで、彼が少し出掛けてしまっただけだと自分に言い聞かせるように、食器と食事を2人分用意して、そのまま待ち続けるという奇行を繰り返していた。
 今日で5日目。その間、彼女は自分も用意した食事や間食に一切手を付けていない。睡眠はとっているのでなんとか保っているが、人間が飲まず食わずで生きられる限界とされる時間を既に超えてしまっている。
 今も意識が朦朧としておりいつ倒れてしまってもおかしくない。その朦朧とした意識の中で、彼女はもうすぐ薪が無くなってしまうので、木を伐らなければならないことに気付いた。
 いつもは彼が率先してやってくれていたので、すっかり忘れていた。
「………………ダリオ」
 彼の姿を思い出して、彼女は一度も呼んだことの無かった彼の名を唱えた。
 離れ小島での隠遁生活とはいえ、食料の買い出しに行くことはあるし、そこで噂や世間を騒がせるニュースぐらいは知っていた。
 アカシア龍騎士団四天王筆頭にして、聖剣イルランザーの新たなる所持者となった人物の名と容姿の特徴を、彼女が知らないはずが無かった。
 それでも言えなかった。教えられなかった。彼にもう帰る場所が無くなっていたからとか、そんな理由では無く。彼と、ずっと一緒にいたかったから。
 彼女の頬を、一筋の涙が伝った。寂しさから、後悔からか、それとも哀しさからか。それすらも、もう分からなくなっていた。
 このまま何も分からなくなってしまおうかと思った、その時、家の扉を叩く音が聞こえた。
 一瞬、彼が帰って来たのかと思ったが、彼ならばすぐに入って来るはずだ。なのに、今ドアを叩いた人物は返事を待っているのか一向に姿を現さない。
 自分の冷静な思考に落胆しつつ、彼女は立ち上がって客人を出迎えようとしたが、体に力が入らず、椅子から立ち上がれない。
 止むを得ず、椅子に座ったまま声を掛けて客人を招き入れる。
「どうぞ。鍵は開いています」
「失礼する」
 彼女の声に応じて入って来たのは、金の長髪を束ねて纏めている、青い鎧を纏った騎士だった。異様に大きな足の部分が特徴的な鎧だ。

689剣士ロワエピローグ ◆9DPBcJuJ5Q:2013/08/26(月) 01:11:59
「何のご用でしょうか? ご覧のとおり、ここは何も無い島ですよ」
「俺の友……ダリオの剣を届けに来た」
 青い鎧の騎士の言葉を理解するのに、普通よりも遥かに時間が掛かった。
 もう二度と聞けないと思っていた名前が、唐突に告げられたから。
「ダリオの!? 貴方は、一体……?」
 彼女が問うと、騎士は兜を脱ぎ、答えを口にする。
「俺はゼロ。ダリオに救われ……ダリオを死なせた大馬鹿だ」
 その報せを聞かされて、彼女は言葉を失い、何とかその場に崩れ落ちるより前に椅子に座る。
 覚悟はしていたはずなのに、改めて他人の口から事実として告げられたその言葉は、ダリオの訃報は彼女の心を粉々に砕いてしまう程に強烈だった。
 暫時、小屋の中を静寂が包む。彼女は伝えられた言葉を受け入れなければならないと分かっていながら、上手く飲み込めないまま、ただただ沈黙だけが過ぎて行く。
 やがて、堪りかねたのか、或いはこのままでは彼女は一言も発せないと察したのか、ゼロと名乗った騎士が再び口を開いた。
「俺が我を失って暴走した時に、ダリオと衛有吾……俺の友は、俺を斬り捨てることを選ばず、俺を救うことを選んでくれた……。なのに、俺は、あいつらを……殺して、しまった」
「そんな……」
 告げられた、あまりにも残酷な事実に、彼女は言葉を失った。
 もしもゼロが、虫が鳴くように表情を変えずに声を発していただけだったなら、彼女はゼロを憎み罵声を浴びせることもできただろう。
 だが、ダリオともう1人の友人の死について語ったゼロの表情は、隠し切れないほどの悲しみと後悔に塗れていた。
 感情を不要に表に出すまいと表情を強張らせているのが分かってしまい、殊更痛ましかった。
 それでも、ゼロは決然とした表情で、言葉を紡ぐ。
「あんたが望むなら、俺はここで死んでもいい。だが、その前に……どうか、この剣を受け取って欲しい」
 そう言って、ゼロはダリオの形見というべき剣を、彼女へと差し出す。
 幾度かゼロと剣とを交互に見比べて、彼女は一つの疑問をぶつけた。
「……何故、私にこの剣を?」
 この剣を返すならば、廃墟と化しているとはいえかつてアカシア龍騎士団の本拠地だった蛇骨館か、歴代の四天王の御魂が祀られているテルミナの霊廟こそが相応しいはずだ。
 それを何故、ゼロはわざわざ辺境の小島の、誰も知らないような女の下まで届けに来たのだろうか。
 気が動転して、却ってそんな率直で素朴な疑問が湧いて出て口を突いて出てしまった。

690剣士ロワエピローグ ◆9DPBcJuJ5Q:2013/08/26(月) 01:15:49
「ダリオから、あんたの事は聞いていた。全てを失った自分を救ってくれた、誰よりも大切な女性だと。だから、こいつを預けるならあんたしかいないと、そう思ったんだ」
 帰ってきた答えは、予想はおろか今の今まで、ただの一度も思いもしなかったことだった。
「ダリオが、私を……?」
 彼女には負い目があった。ダリオが記憶喪失のままずっと自分の傍にいて欲しいという、浅ましい欲望。
 そんな欲に目がくらんでダリオに少しの真実も教えようとしなかった自分に、ダリオが好意を向けてくれているなど、考えたことも無かったのだ。
「ああ。全部の記憶を取り戻した上で、あいつがそう言っていた」
 彼女の反応からその内心を僅かながらも察したのか、ゼロは肝心の事を付け加えてくれた。
 或いはダリオが何も知らない、思い出せないからこそではないかという不安も、その言葉で消えた。
「ゼロ、そろそろいいかい? 次の世界への入り口が見つかったみたいだよ」
「了解した、すぐにそちらへ向かう。……俺はもう行く。ダリオの剣を……イルランザーを頼む」
 外からゼロを呼ぶ青年の声が聞こえた。ゼロはその声に応えて、彼女に一礼をしてから小屋を出た。
 彼女は自分でも気付かぬ内に、イルランザーを受け取り、それを両腕でしっかと抱き締めていた。まるで、愛しいひとの体を抱きしめるように。
「ダリオ……」
 本来なら感ずるはずの無い、まるで自分自身も抱かれているような温もりを、彼女はイルランザーを通じて感じていた。





 こうして、聖剣イルランザーは緑豊かな名も無き小島の小さな小屋に住む女性の下へと辿り着いた。
 彼女はその剣をアカシア龍騎士団の宝剣ではなく、ダリオの形見としてとても丁重に扱い、大事にした。
 後に修羅の如き剣士の手の中で風のように舞い、輝ける聖剣と共に星のように輝いた、もう一つのイルランザーを携えた冒険者達が彼女の下を訪れるのだが、それはまた、別の物語である。

691 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/08/26(月) 01:30:05
剣士ロワエピローグ、これにて投下終了です。
その一と銘打ちましたが続く予定はありません。構想程度はありますが。
こんなマイナーキャラ(名無しのモブキャラ)メインのエピローグとか、普通のロワだったら絶対怒られますよね……。

>>653
まとめ乙です! いやぁ、これはありがたい。
想い出ロワとかまだまとめられていないロワを読み返す時に探すのが地味に大変だったので。
目当てのロワじゃないロワをつい読みふけってしまったりで。

692名無しロワイアル:2013/08/26(月) 21:36:46
>>654
遅くなりましたが、感想を

正直いって殆ど把握していない作品ばかりだけど……
凄く面白かった(KONAMI缶)
一点のヒロイズムも存在しない生き残りたちが6人残るってのは、
最初から順を追って書いた小説では考えにくい、3話ロワならではの状況で
その苦悩を描いたのは斬新に感じられました

693名無しロワイアル:2013/09/27(金) 23:28:41
ううむ、過疎ってるなぁ

早くDQロワの完結が読みたいというのにw

694名無しロワイアル:2013/10/28(月) 00:58:48
誰もいない……試しに話を振ってみよう。
剣士ロワの主催者にアサルトバスターが名を連ねていたのは、彼の切り札に由来します。
その名も嵐暴神ストーム・サン。暗黒の世界に君臨する「もう一つの太陽」。
そのサイズは機兵(MSみたいなもの)を内部に搭載するという規格外の巨体。
ここまで来ればお分かり頂けるでしょう。当初のジェネラルジオングポジでした。
しかしカードダスだけで資料もクソもあったもんじゃないので、技や能力をでっちあげるのすら困難を極めたので構想段階で没に。
なのでアサルトバスターさんにはあと3話時点で故人になって頂きました。

695名無しロワイアル:2013/10/28(月) 18:08:10
裏話だなーw

696名無しロワイアル:2013/10/28(月) 20:25:26
裏話……か。

拙作虫ロワの対主催の本拠地突入は、
風の谷のガンシップ@ナウシカで火蜂を撃破っていう没案があったなぁ
突入者も、ユピー、虫愛づる姫の他は、一文字@ライスピ、リグル@東方の予定だった。

テラフォーマーズっていう良作漫画の存在を知ってから、
突入メンバーをティン&ヤマメに変更したんだけどねw

ガンシップじゃなくて王蟲さんで突入する案を採用したのは、
乗員数の問題と、ラストシーンで働いてくれそうって理由があったからかな。

697名無しロワイアル:2013/10/29(火) 00:31:33
>>696
ゆぴぃと姫は確定だったんですね!(歓喜)

698名無しロワイアル:2013/10/29(火) 21:15:33
>>694
うん?アサルトバスターって主人公サイドのMSじゃねえの?
SDだと敵なん?

699名無しロワイアル:2013/10/29(火) 21:37:07
>>697
スマヌ……
彼らもまた確定ではなかったのだ……
原案では、ゆぴい@ハンタはチビィ@ドラクエ7だったし、
虫愛づる姫君は、ナウシカ@風の谷のナウシカ、レコ姫@虫姫さま、ファーブル@史実
で迷ってたのだ……

唯一役柄が確定してたのは、主催兼ジョーカーのしあーん@パワポケ12秘密結社編だけっていうね……

最終話の展開は全くノープランだったしなw

700名無しロワイアル:2013/10/30(水) 01:06:21
>>698
うん。幻魔皇帝アサルトバスターが登場するシリーズが始まる際、SD製作陣にバンダイの偉い人が
「本家ガンダムの人気がSDに食われ気味だから、主人公ガンダムのモチーフに今アニメ放送してるVガンダム使うの禁止な」
という理不尽な業務命令を出した結果、主人公機の最終形態がラスボスになったという。
主人公にするなと言われただけで、モチーフにするなと言われてはいないけど思い切ったことしたもんだよ。
ちなみに実力は歴代ボスでも屈指、そして見た目は目玉が全身についてて非常にグロくてキモイ。

余談ながら、主人公ゼロガンダムのデザインモチーフはシャッコー。ウッソ少年が最初に乗ったMSだね。
ついでにV2モチーフの騎士ガンダムも後に味方側で無事に登場している。

701名無しロワイアル:2013/10/30(水) 21:30:52
>>700
ゼロガンダムってガンダムWのアレじゃないのか・・・w

702名無しロワイアル:2013/11/08(金) 11:31:20
>>701
ウイングゼロモチーフの騎士は翼の騎士ゼロと超鎧闘神ウイングだよ!
ウイングゼロよりもゼロガンダムの方がずっと先だよ!
ググれば画像はすぐに見つかるから、是非一度見て欲しい。そしてレジェンドBBを買おう(ステマ)

703名無しロワイアル:2013/11/14(木) 21:26:22
そろそろこの企画も1周年か……。

704名無しロワイアル:2013/11/14(木) 21:36:48
1周年記念に何か投下しようかな……

705名無しロワイアル:2013/11/15(金) 23:11:27
そういえばこれ年末駆け込み企画からスタートしたんだっけ……
スレなくなるような板じゃないけどまさかこの時期まで人がいるようなスレになるとは
思ってなかったんじゃよ……

706FLASHの人:2013/11/21(木) 21:57:17
せっかく一周年なのでもっとぶっ壊れた企画やろうか
名づけて
「あと3行で最終話ロワ」
とか

3行だけラスト書いて、
【○○ロワ 終了】(これは行に含めず)
みたいなの

707名無しロワイアル:2013/11/21(木) 22:06:49
「Go d b e my mas r……yo  c n ch ng thi wo ld」
レイジングハートは、最後の力で己のマスターに勝利を告げ、もう光ることはなかった。
巴マミは己の命、ソウルジェムとそのひび割れた赤い宝石を握り締めると、強く祈る。これより、世界は再生される。

【魔法少女決戦ロワ 完】

こんな感じ
いや、さすがに3行無茶だわ。
33行くらいが限界か。

708名無しロワイアル:2013/11/22(金) 18:25:10
全ての悲劇を乗り越えて、、誰かの立場に則って、語り口に挙がるのはハッピーエンド。
だから、これもまた「めでたし、めでたし」で終わるおとぎ話。
笑顔で終わる物語。それだけではなかった筈の物語。

【おとぎロワ 完】

三行だと特定作品ぶっこんだり個性出すのは無理ゲーっぽいなー

709名無しロワイアル:2013/11/23(土) 01:08:30
「人はただ、宿命に殉じるのみである!」
「貴様らの語るぬるい情や正義など、この俺が斬り捨ててくれるわ!」
「さぁ見るがいい。闇との血盟によって得た、我が激越なる真力をォ!」

【剣士ロワ主催者達の自己紹介(?) 完】
ロワを語れないならキャラに語らせればいいじゃない(混乱)

710名無しロワイアル:2013/11/23(土) 20:05:36
――クックックッ……。





――――ハッハッハッハッハッハッハッ……。





――――アーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!





【木原マサキ  生還】
【スパロボキャラバトルロワイアルR 完】





空白除けば3行
Rはリスタートまたはリピーターの意、全員復活しロワの記憶を持ったままリスタート
でも大方の予想通り、やっぱりまた冥王が一人勝ちしたようで

711名無しロワイアル:2013/11/24(日) 00:19:18
0.5畳の空間で繰り広げられる死闘は、いま正に佳境を迎えていた。少年の想いが届いたカブトムシが、遂にラジコン操作の悍ましきゴキブリキメラを高々と投げ飛ばしたのだ。
今や眼前に残るのは斜向かいに住む幼なじみの少女の駆る、アシダカグモのみ。ふと、二人の視線が交錯し、誰からともなく口にした……「決着をつけよう」と。
頂点に立つのはどちらか?睨み合う最後の2匹。一陣の風が吹き……決戦の火蓋が、切って落とされなかった。二匹は、突如現れた野良猫の口の中に収まっていたのだった。


【虫ロワ:終了】
【生存個体:無し】


やっぱり3行ロワなんて無理だったよ・・・w

712名無しロワイアル:2013/11/26(火) 22:35:13
そうしてそこに溢れ返るのは、強く激しく輝き過ぎた、力や意志や言葉や歌や勇気や魂や『想い出』が、すべて砕けて爆ぜて潰え切り、神の悪夢に呑まれたが故の、ただ深く真っ白な霧だけでしかなかった。
誰からも顧みられず、観測されず、意識すらされないその場所は、もはや世界としての形を保てはせず、微かに残響する泣き声さえも、やがて消えてしまうに違いない。
そう、それはもはや、ただ忘却されるだけの、虚語<ウツロガタリ>。

【それはきっと、いつか『想い出』になるロワ Oblivion End】

おかしい
3行で完結するロワを書いていたはずなのにポエムが出来ていた

713名無しロワイアル:2013/11/27(水) 19:18:00
 
そう、これで、すべておわり。ゆめにみた、もとのせかいがひろがる。
うれしいきもちと、ごめんねがいっしょにきて。まぶたからなみだが、ほほをぬらす。
「さよならを、いわずにきょうをむかえたかったな。ひとりだけしんでしまったのは、くやしいよ…」

【五十音ロワ 完結】

しんだのはだーれだ

714名無しロワイアル:2013/11/27(水) 21:25:27
>>713
あ……!?

715名無しロワイアル:2013/11/28(木) 07:46:19
>>713
空母?級「ヲッ、ヲッ」

716名無しロワイアル:2013/12/10(火) 23:57:12
そういえば、あと3話ロワももう1年かー

717 ◆MobiusZmZg:2013/12/19(木) 23:46:07
|U∞) U◉◉) ……
……なにも文面を考えていなかったコトを小鬼@迷宮キングダムでごまかすのはよそう!
ということで、はい。自分の3話ロワを俺ロワにリファインしたので、花という名のURLを置いていきます。

 ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1387460732/

[参戦作品]
『Splendid Little B.R.(3話で完結ロワ)』
『GOD EATER BURST』『OZ −オズ−』『あかやあかしやあやかしの』
『エヌアイン完全世界』『花帰葬・花帰葬PLUS+DISC』『ラスト レムナント』
『シニカルポップ・ダンジョンシアター 迷宮キングダム』『忍術バトルRPG シノビガミ』
『ダブルクロス The 3rd Edition』『Replay: 真・女神転生TRPG 魔都東京200X』

向こうでも言ってますが、『雨時々僕たちまち君』とかいう莫迦な話を書いた時点で、
「これ企画の概要に沿うことが出来ないわ……」となっていたので、いっそ縛りを外して、
ここ二年ほど構想したりプロット固めたりしてた世界にブチ込んでしまおうと、そういう感じで。
純粋にこのスレにおける容量面での専有っぷりも気にしてたので、あのレスがいい区切りにもなりました。
感想の有無と構成とは関係ないですし、ついてこれるヤツがいない名簿でやった自分が悪いんで大丈夫です。
むしろ、なにか言うにしても文章しか褒めるコトが出来ないような物語の出来損ないを綴ってしまって、すみませんでした。

718名無しロワイアル:2013/12/20(金) 15:09:12
>>717
ムラクモがメインという俺得ホイホイなロワなので復活嬉しいです!
……けど参戦作品はエヌアインとゴッドイーターしか分かりません。悔しいなぁ……。

719 ◆6XQgLQ9rNg:2013/12/29(日) 23:09:11
>>717
やった! また読めるッ! しかもオープニングから読めるッ!
楽しみにはしておりますが、御無理はなさらないでくださいな

さて、あと3話で完結ロワ企画も一周年!
記念ってことで、ひっそりとひとつ投下していきます

『それはきっと、いつか『想い出』になるロワ』エピローグです

720夢と『想い出』が交差するその日 ◆6XQgLQ9rNg:2013/12/29(日) 23:12:06
 食欲を遠慮なく刺激してくる香りが、湯気と共に立ち上る。
 木造の部屋の真ん中、テーブルいっぱいに料理が並べられていた。
 酒場にも負けないほどの色々なお酒に、アランヤ村近海で獲れる新鮮な魚介類をふんだんに使った料理、更にはアーランドの食堂にでも行かないと食べられないような豪勢な料理、それに、ハニーパイ、ミルクパイ、ベジパイ、ミートパイ、おさかなパイなどなど、様々な種類のパイが所狭しと置かれたその様は、なかなかに壮観だった。
 そして、それだけの料理に負けないほどの人々が、その部屋には集まっていた。
 老若男女を問わず集った人々は皆、談笑に興じ笑い合っている。
 その部屋は、あったかさで溢れる空間だった。
 そんな、寂しさからも悲しさからも切なさからも虚しさからも切り離されたような部屋の隅っこで、トトリは、ティーカップを片手にぼんやりと佇んでいた。
 ぐるりと、人々の様子を眺めてみる。
 夢中で料理を食べ、幸せそうに笑う男の子がいる。
 自分より少し年上くらいに見える女の子が、とろけそうな顔でパイを頬張っている。
 楽しそうにお喋りをしながらも、空いた皿をてきぱきと片付けていく女性が見える。
 豪快にお酒を煽る中年女性の隣で、同じくらいの年の男性が苦笑いをしている。
 他にも、他にも、他にも、他にも、色んな人たちがいる。
 そのすべてが、なんとなく知っているような、けれどよく見ると見覚えのない、曖昧な人たちばかりだった。
 ティーカップに注がれた黒の紅茶を一口飲む。舌が溶けそうなほどの甘さに顔を顰めて、トトリは小さく息を吐いた。
「ねえ、ベアちゃん」
 呼びかける。
 すると音もなく、トトリの隣に黒衣の少女が現れた。
「この紅茶、甘すぎるよ」
「そんなことない。美味しいわ」
 小さな両手で持ったティーカップに口をつけると、ベアトリーチェは満足そうに笑ってみせた。
「ベアちゃんは子どもなんだから」
「わたし、トトリよりずっと、ずーっと、ずーーーーーーっっと長く生きてるもん」
 頬を膨らませて反論してくるベアトリーチェを、あやすようにしてぽんぽんと撫でてやる。
「こ、子ども扱いしないでくれる?」
 トトリと目を合わせずにそう言いながらも、拒絶せずに甘ったるい紅茶を啜るベアトリーチェに感じるのは、微笑ましさだった。
 ベアトリーチェの頭を撫でながら、トトリはもう一度部屋を眺める。
 不確かな人々が作り出す、仮初めいた喧騒こそが、ここが夢の世界であると物語っていた。
 だから。
 ふと、遠くから聞こえてきたノックの音に気付いたのはトトリと。
 夢現渡り鳥<アローン・ザ・ワールド>によって現着されているベアトリーチェしかいなかった。
 ここではない遠くから響くそのノックは、不確かに揺らぐこの部屋の騒々しさに比べれば小さなものだ。
 けれどそれは、確かに鳴り響く音だった。
「起きなきゃ。アトリエに誰か来たみたい」
 トトリは部屋の外に目をやって、ベアトリーチェの髪から手を離し、大きく伸びをする。
 瞬間、賑やかしさはゆっくりと遠ざかり、美味しそうな匂いが薄れていき、部屋が色を失い始める。
 ベアトリーチェが慌てて紅茶を飲み干した直後に、トトリの手にあった陶器の感触が、風に吹きさらされた砂のように消え失せた。
 渡り鳥の羽撃きが響く。
 夢から現へと渡る鳥の鳴き声が、夢を溶かし目覚めを促してくる。
 そうして消えゆく夢を。
 賑やかで、いい匂いで、あったかくてあったかくてあったかくて、堪らない夢のカタチを。
 トトリは、噛み締めるように見つめていた。

721夢と『想い出』が交差するその日 ◆6XQgLQ9rNg:2013/12/29(日) 23:12:45
 ◆◆
 
 アトリエにやってきたのは、冴えないよれよれの衣服を纏った中年の男だった。
 無精髭の生えたその顔立ちは地味なものであり、特筆した特徴はない。
 だがそれだけに、男の瞳は印象強い。
 黒い瞳が、力強い輝きを湛えているのだ。
 生き生きとした輝きからは揺るぎない自信と誇りが見て取れて、それでいて、希望と挑戦を忘れない少年のようだった。
 このような瞳ができるということはきっと、心から打ち込めるものがあるということなのだろう。 
 素敵だなと、トトリは思う。同時に、羨ましいとも思う。
「凄腕の錬金術師だって有名なお前さんに、頼みたいことがあって来たんだ」
「は、はい。なんでしょう……?」
 強い熱が籠る男の声を前に、トトリは緊張を覚える。
 目立たない風貌をしながらも、これほどの情熱を持つ男の依頼が何なのか、想像がつかなかった。
「こいつらを、作って欲しい」
 不敵な笑みを浮かべ、男は一冊の分厚い本を差し出してきた。
 受け取り、表紙に記述されたタイトルを読み上げる。
「帆船解体新書……?」
「ああ、そうだ。ワクワクするだろ?」
「え? えっと、特には……」
「そ、そうか? まあ、まだ題名を見ただけだもんな。ぱらぱらっと見てみろって!」
「はあ……」
 勢いに押されるようにして表紙をめくると、見開きいっぱいに描かれていたイラストが飛び込んでくる。
 それは、波を掻き分け飛沫を上げ、大きな帆いっぱいに海風を受けて大海原を進んでゆく船だった。
 雄大で力強く、堂々としていて美しい。 
 次のページへは、進めなかった。
 ただただトトリは目を見張り、船の駆動音さえ聞こえてきそうなイラストに釘づけになっていた。
 知っている。
 トトリは、この船を、知っている。

 これは。
 この船は。
 顔も名前も憶えていない父が残してくれた船と、瓜二つなのであった。 

「ほら、どうだ! すげーだろ!」
 宝物を見せびらかす子供のように得意げな男の声に、トトリは顔を上げる。
「……船を、造るんですか?」
「ああ、そうだ。といっても、組み立ては俺がやる。お前さんに頼みたいのは船の材料作りだ」
 言って、男はトトリの手にある本のページをめくっていく。
 超重碇、動力操縦桿、百木船体、疾風の帆、防食甲板、神秘の船首像。
 それらの錬金レシピが、詳細なイラスト付きで書き記されていた。
 初めて見るレシピだった。錬金素材にも、知らないものもいくつかある。
 作ったことが、あるはずがない。
 それでも、それなのに、どうしてか。
 深くて深くて深くて、目の届かない心の水底で、正体のわからない何かが、ざわついた気がした。
 何一つ得体のしれないまま浮かび上がってくるそのざわつきは、漂流物を運ぶさざ波のように、トトリの心に何かを届けてくる。
 それが何かは分からない。
 分からないが、それは、楽しい夢を見た覚えはあるのに、内容が思い出せないときのような感覚に似ていた。
 だからきっと。
 この何かは、逃してしまったら、夢の彼方で弾けてしまい、二度と掴めなくなるもののように感じられた。
 逃したくないと、そう思った。 

「採取できる素材は冒険者に依頼して集めてもらうつもりだ。そんで、報酬なんだが――」
「お引き受けします」
 男の言葉を遮って、トトリは、食らい付くようにして返答していた。
 面食らったような男の前に、冒険者免許を見せつける。
「素材集めもわたしにやらせてください。最高品質の材料をご提供します」
 断言すると、男は口の端を吊り上げ、愉快そうにひとしきり笑ってから。
 真っ直ぐに右手を差し出してきたのだった。
 
「自己紹介がまだだったな。俺はグイード。船大工をやってる。宜しく頼むぜ」

722夢と『想い出』が交差するその日 ◆6XQgLQ9rNg:2013/12/29(日) 23:13:58
 ◆◆
 
 ぱたん、と音を立てて扉が閉じる。
 諸々の打合せを終えて帰ったグイードの姿を、トトリは首を傾げて腕を組み、思い起こしていた。
「あの人、さっきの夢の中で、見たような……見てない、ような……やっぱり見たような……」
 あのあったかい夢を作っていた人たちの中に、グイードの姿もあったような気がする。
 だからだろうか。
 初めて会った人だというのに、もっと前から知っていたように思えて仕方がなかった。
「グイードさん、グイードさん……」
 落とし物を探して道を歩くように、トトリはその名前を呟く。
 そうやって名を呼ぶことに、奇妙な違和感があった。
 もっと別の呼び方があるはずだと、根拠もなく感じる。
 もっとずっと、親しみのある呼び方があるに違いないと、なんとなくながら思ってしまう。
 その呼び方を知りたかった。
 その呼び方を知らないということが、何故かとても、とても寂しかった。
 だからトトリは、ふわふわとして定まらない感覚に触れる。
 そうして撫でて、捏ねて、混ぜて、探る。
 けれどカタチを作れない。言葉を生み出せない。
 それどころか、考えれば考えるほど遠ざかってしまう。
 親しみのある呼び方など、最初から存在してなどいないというように。
 親しいものなどいるはずがないだろうと、改めて思い出させるように。
 手の届かないところへ、行ってしまう。

 胸の奥が――空白に詰め込まれた世界が、苦しみを訴えた。
 視界が揺らめき、足元がふらつく。
 呼吸が上手くできなくなり、頭の中を掻き回されるような不快感が襲ってくる。
 急速に、現実と夢の境界線が薄れていく。
 わからなくなる。
 現実なのか夢なのか、わからなくなる。
 トトリの意識<現実>と集合的無意識<夢>の境目が、わからなくなっていく。
 目が霞む。
 知らない光景が意識に溢れる。膨大な情報量がトトリを呑み込むべく流れ込む。
 その、瞬間。
 胸のあたりに、熱を感じた。腰に回される、力を感じた。
 それは、確かな温もりだった。
「トトリッ!」
 それは、紛れもない呼び声だった。
 それらによって、トトリは引っ張り上げられて浮上する。
 足裏は床に触れている。
 様々な薬品の臭いが鼻をつく。 
 視線を、ゆっくりと温もりへと向ける。
 ベアトリーチェの頭が、目に入った。
 トトリを強く抱き締めてくれているベアトリーチェが、目に入った。
「ベアちゃん……」
 呼ぶと、ベアトリーチェが弾かれたように顔を上げた。
「トトリ! トトリッ! 大丈夫!?」
 ベアトリーチェは、不安と心配を調合したかのような表情をしていた。
 だからトトリは、笑ってみせる。
 大丈夫だよと、ありがとうと、そう告げるために笑顔を見せる。

 そうやって表情を変えて、初めて気付く。
 涙が溢れ、頬を伝っていることに、だ。
 けれどトトリは、それを拭おうとはしなかった。
 そうして泣いたまま、トトリはベアトリーチェをぎゅっと抱き締め返す。
 今は、ここにある小さな温もりを感じていたかった。
 引っかかったままの違和感も、思い出せない寂しさも、消えてなんていないけど。
 だからこそ、今は。
 今だけは。
 確かなあったかさを、確かなこの場所で、感じていたかったのだった。

723 ◆6XQgLQ9rNg:2013/12/29(日) 23:14:31
以上、投下終了です
それでは、よいお年を

724 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/12/30(月) 21:51:59
想い出ロワのエピ投下来たぁぁ!! 乙です!
トトリとベアトの微笑ましいやり取りと、原作知らなくとも伝わって来るグイードとの悲しいすれ違い、
どちらも素晴らしいです。原作をやる時間を捻出しなくちゃ……!


やろうかどうか悩んでましたが、あと3話詐欺(褒め言葉)の復活、今回のエピ投下など、自分もいても立ってもいられなくなりました。
というわけで、新しい後3話のテンプレを投下いたします。
ちなみにこれは数カ月前に
曹操「剣士ロワには足りぬものがあった。それは女っ気! あと余の活躍」
という天啓を授かってから妄想していたものです。剣士ロワと違って悩みまくり。

【ロワ名】いのちロワ(仮) タイトル絶賛募集中
【生存者6名】
1.アマテラス@大神
2.劉備ガンダム@SDガンダム三国伝:左腕損失、失血多量
3.リチュア・アバンス@遊戯王OCGデュエルターミナル:ラストマーダー
4.暁切歌@戦姫絶唱シンフォギアG:フラッシュバックによる無力化の可能性
5.クローネ@ファントム・ブレイブ
6.Ⅳ@遊戯王ZEXAL :生死不明。何処かで野垂れ死んでいる可能性。
【主催者】
1.ミヒャエル・ハードバーグ@漫画版エレメントハンター
2.バグラモン@漫画版デジモンクロスウォーズ
3.ゾーン@遊戯王5D’s:死亡
4.フェイト(ダークセルジュ)@クロノクロス
5.無限法師@武者○伝シリーズ
【主催者の目的】
・膿み腐る心、人間に醜さを強いる人間の生物としての限界を超越する為、人間に新たなる進化を促す、
或いは新たなる生物へと新生させること。バトルロワイアルはその実験の為のプログラムとされる。
・現在、居ても立ってもいられなくなったフェイトが絶賛暴走中。
【補足】
・ロワ中に数名が別次元(11次元宇宙とされる)へと旅立って消息不明になっています。ゲッターの導きではないのであしからず。
・融合や進化に関するアイテムが大量に登場し、それらによって多くのパワーアップ・暴走イベントが発生。ラストマーダーもそんな感じ。
・曹操将軍の活躍? あと3話より前にちゃんとありましたよ。

ミヒャエルと無限法師を知っている人は僕と握手!

725 ◆9DPBcJuJ5Q:2014/01/16(木) 00:28:28
いのちロワの投下を始めます。

726第298話『運命に囚われし者たち/運命に挑みし者たち』 ◆9DPBcJuJ5Q:2014/01/16(木) 00:30:41
 進むべき未来の消え失せた――生物はおろか時すらも死んでしまった海、死海。
 その中心部に聳え立つ滅びの塔の頂上、バトルロワイアル・プログラムを画策した主催者の本陣に、2人の男が静かに佇んでいた。
 皇帝バグラモンとミヒャエル・ハードバーグ。世界の未来と人の種としての限界を憂い、深く世界を愛すればこそ非情の決断を為し、今回のプログラムを画策した中心人物。
 もう1人の同志、行き過ぎた進化の果てに滅びた未来に生き残った最後の一人【Z-ONE】、ゾーンは彼らとは違った。
 彼は、バトルロワイアルを見守る中で心の奥底で信じ続けていた希望を確信し、突如として反旗を翻し、バグラモンとミヒャエルを討たんとした。
 だが、パートナーを得たバグラモンと自らが率先して人類進化の魁とならんと既に人間を捨てていたミヒャエルを相手に、寿命の迫った体では力及ばずに斃れた。
 それでもゾーンは死の直前に最後の手を打ち、死海の門を開き、バトルロワイアルを生き残った参加者達を導くためのプログラムを起動させた。
 ゾーンの最後の行動を阻止することは不可能ではなかった。だが、敢えてバグラモンとミヒャエルはそうしなかった。
 誰よりも長い年月を絶望との戦いに費やした名も無き英雄に対する敬意の表れであると同時に、彼らの最後の迷いを断ち切る答えを得る為に。
 その答えを持つ者が、もうじき現れる。

727第298話『運命に囚われし者たち/運命に挑みし者たち』 ◆9DPBcJuJ5Q:2014/01/16(木) 00:33:39



 滅びの塔の入り口付近で、参加者同士での最後となる戦いが始まっていた。
 劉備によって率いられた一行の前に立ちはだかるのは、最早人としてのかつての面影を何一つとして残していない、異形の怪物と成り果てたもの。
 それは、リチュア・アバンスという名の青年だったもの。
 最愛の女性を失った悲しみから心の闇を暴走させ、獣へと堕した今の名はイビリチュア・リヴァイアニマと、本来ならそう呼ばれるべきだった。
 だが今の彼は、最早そうとすらも呼べない存在になっていた。
 様々なモノが融け合い、ぶくぶくと肥大化したどす黒い体に、イビリチュア・リヴァイアニマの顔が生え、反対側には魔剣シヴァと一体化した尾が生えていた。
 ヘドロが凝固したような醜悪な肉体を、背に当たると思しき部分から生やした9対の翼を羽ばたかせることすら無く浮遊する様は、生物と形容することさえも憚らせた。
 力を得て、勝利を奪い取る為に、アバンスは超融合のカードとダークネスローダーの力を使って、ありとあらゆるものを自分自身に取り込み続けた。
 リチュアの儀水鏡と写魂鏡に始まり、魔剣シヴァ、ジェムナイトたちのコア、ナンバーズのカード、モーメント、暗黒玉璽、龍の涙、シンフォギア『ガングニール』と『神獣鏡』、全ての武化舞可の鎧、
 シャウトモンを始めとする多くのデジモン達、ポジ元素、妖魔王キュウビの仮面、そしてヴェルズ・ケルキオンを殺して奪い取った氷結界の三龍のコア……枚挙に切りが無いほど、膨大に、貪欲に。
 ありとあらゆる物を奪い取り、自らの力とした。ある時は騙し、ある時は不意を討ち、ある時は正面から、ある時は戦いの後に漁夫の利を狙って。
 無様にもなった。汚くもなった。嘗ての仲間から痛罵を浴びせられたこともあった。だが、それでも立ち止まることはしなかった。
 たった一つの願いを、叶える為に。
 何もかもを擲ってでも、何もかもを奪い取ってでも抱き続けた、決して忘れることの無かった、切なる願い。
 ――死んでも、君を救いたい――
「エ、ミリ、ア……」
 最早人のものとは掛け離れた体構造と成り果てた肉体で、アバンスだった怪物は人の言葉を絞り出した。
 それを聞いて、アバンスを知る数少ない1人であるマローネが悲痛な叫び声を上げた。
「もうやめて下さい、アバンスさん! エミリアは、貴方がこんなことをすることを望んでなんかいません!」
 マローネはリチュア・エミリアとバトルロワイアルの初期に出会い、力を合わせて生きて帰ろうと約束した。
 マローネにとってエミリアは、生まれて初めてできた大切な友達だった。幼馴染であり恋人でもあるアバンスとの再会が叶った時は、マローネも心から喜んだ。
 だが、エミリアが妖魔王キュウビの凶刃に斃れ、続いて現れたタクティモンに手も足も出ず逃げることしかできなかった。
 それらの出来事が、アバンスを狂わせてしまった。

728名無しロワイアル:2014/01/16(木) 00:37:42
「ア、バ……? だれ…………??」
 しかし、エミリアの親友の言葉も、今や届かない。
 最早アバンスは、自分の名前はおろか、自分が元々は人間だったことすらも忘れてしまっていた。
 アバンスだった怪物の発した声に、マローネと切歌は悲しみのあまり声を失う。
 その瞬間に生じた隙に振り下ろされた魔剣シヴァを、大神アマテラスの沖津鏡が盾となって防ぎ、劉備が隻腕のまま斬って掛かる。
「忘れるな! 思い出せ! お前はリチュア・アバンス! 俺達の、友だああああああ!!」
 タクティモンに襲われたマローネとアバンスを、絶体絶命の窮地から救ったのが劉備だった。
 劉備はアバンスの心の傷の深さを見抜けず、彼が心の闇に呑み込まれてしまうのを引き止められなかったことを、ずっと悔いていた。
 しかし、劉備とアバンスが共にいた時間も交わした言葉は決して多くない、むしろ少ないくらいだ。
 それでも劉備がアバンスを友と呼ぶのは、彼が元々懐いていた志を聞いていればこそ。
 戦乱で荒れ果てた世界に、2人の母から授かった知識を教え広めて復興の礎となり、人々が笑顔で暮らせる明日を作ること。
 その志は劉備と同じものであり、確かにあの時2人は同じ志を共有する友となれた。そのはずだったのだ。
「ジゃ、ぁ、マぁアアアア!!」
 アバンスだった怪物には、もう劉備の声も届かない。それどころか、事態は急速に悪化する。
 怪物の体から突如として3つの首が現れ、劉備に襲いかかったのだ。
 劉備は咄嗟にかわそうとするも、隻腕となり重心が変化してしまった体では、以前のような身のこなしは出来ず。
「ぐわああああああ!!」
 回避を損ない無防備を晒した劉備の体に、三ツ首の龍の牙が突き立てられる。それに続いて更に2頭の龍の首が生えた。
「劉備さん!」
「劉備!」
 マローネと切歌が悲痛な叫びを上げると、まるでそれを見計らったかのように、更なる龍の牙が劉備に襲いかかった。
 現れた龍の名はトリシューラ、グングニール、ブリューナク。
 ケルキオンによって闇とヴェルズの呪縛から解き放たれたはずの氷結界の三龍。彼らは今、再び闇へと堕ちてしまっていた。
 ヴェルズ化との違いがあるとすれば、それぞれの龍の顔に今はキュウビの仮面が憑いていることだ。
 これこそは、妖魔王キュウビの呪い。
 暴走したアバンスによって逆襲されたキュウビは、自らも取り込まれることを悟るや、その妖力の全てを自らの仮面に封じ込め、アバンスに呪いを掛けた。
 より深く、より暗く、闇の深淵へと堕ち、地獄の底でのた打ち回るように。
 かくしてキュウビの呪いは今この時に実を結び、アバンスが無作為に取りこみ続けた闇の力をも取り込み、増幅していく。
 この上龍帝の魂をも喰らい闇に染めてしまえば、その時は妖魔王の復活もあり得るだろう。

729第298話『運命に囚われし者たち/運命に挑みし者たち』 ◆9DPBcJuJ5Q:2014/01/16(木) 00:47:53
 だが、天を翔ける龍は、この程度では落ちない。
「アマテラス! 切歌! マローネ! 今だああああああ!!」
 5頭の龍に貪られながら、劉備は龍帝の力を発揮し、自分諸共にアバンスの魂を蝕もうとする邪悪なる闇の力に拮抗する。
 命など惜しくは無い。友を救う為ならば、命を擲つ覚悟など疾うに済ませている。
 闇に染まったアバンスと氷龍たちは強烈な光の力に苦悶の呻き声を流すが、同時に龍達の目から一筋の涙が伝った。
 劉備には、三龍達の声にならぬ慟哭が、言葉にならぬ嘆きが、ひしひしと伝わって来た。
 あり余る力を利用され、その力故に利用され続け。心も体も侵され、蹂躙され、凌辱され、氷龍たちは泣いていた。邪悪からの解放を願って、ただただ祈り続けていた。
 はっきりと分かる、この龍達もまた、同じ世界に生きる命。劉備が手を差し伸べるべき民なのだと。
 ならばこそ、尚更この命を懸ける意味があるというもの!
 劉備の心に応えるように、アマテラスが草薙の剣と一閃の筆しらべを翻してグングニールとブリューナクの首を落とす。
 残るトリシューラの三ツ首は1つを残して狙いを劉備からアマテラスに変えたが、そこへ切歌の一撃が割って入る。
「堕悪馬吸夢、発射デェース!」
 厳密に言うとそれは発射するものではなく吸収するものだが、そんなことは些細なことだ。
 堕悪馬吸夢(ダークバキューム)は対象の肉体すらもエネルギーに変換して吸収する装置。
 これを利用してアバンスが吸収した様々なものをエネルギーとして可能な限り吸い取り、弱体化させる。これこそが後に続く秘策の為の大前提であった。
 エネルギーを吸い取られ、怪物の膨れ上がった醜悪な姿が次第に小さくなっていく。
 だが、怪物が吸収していたエネルギーの総量は桁外れで、全てを吸収し尽くす前に堕悪馬吸夢の容量の限界に達してしまった。しかし、これで十分。
 怪物が力を奪われ戸惑っている隙に、切歌は続けて一枚のカードを取り出す。
「更に速効魔法『融合解除』、発動デス!」
 これこそが、アバンスを救う為の秘策の第一手。
 アバンスが行った吸収はダークネスローダーを媒介として制御された超融合の力によるもの。
 故に、この融合解除によって取りこんだものを強制分離できるのではないか――蒼沼キリハと遊城十代が遺してくれた希望は、彼らの思い描いた通りの結果を導き出した。
 怪物が取り込んだ諸々が混然一体となったカオスは四散し、本体のイビリチュア・リヴァイアニマの姿が露わになった。
 リヴァイアニマは血走った眼で力を奪った張本人である切歌を睨み、魔剣シヴァを手に彼女に襲いかかる。
 刹那、割って入ったアマテラスの沖津鏡の盾がそれを遮り、続けざまに放たれた神業・イズナ落としによって死海の波間に叩きつけられる。
 この間に、最後の一手をマローネが執り行う。
「彷徨える魂よ、導きに従い現れ出でよ! 奇跡の能力、シャルトルーズ!」
 物質を媒介として、霊魂に仮初の肉体を与える、正しく奇跡の能力。その担い手たるマローネがいるからこそ、この策は成り立った。
 アバンスの救済の願いと共に託されたケルキオンの杖を強く握りしめ、マローネはリチュアの写魂鏡に期せずして閉じ込められてしまった魂――リチュア・エミリアのスピリット体に働きかける。
 今やエミリアのスピリット体は他者に姿を見せられないほどに衰弱している。しかし、マローネのシャルトルーズならば今一度、彼女に仮初の体を与えることができる。
 エミリアとアバンスを、もう1度会わせることができる。

730第298話『運命に囚われし者たち/運命に挑みし者たち』 ◆9DPBcJuJ5Q:2014/01/16(木) 00:50:48
 ここで更に大神アマテラスの尾先が翻り、イビリチュア・リヴァイアニマを包む大きな○を描いた。
 2対の鳳凰が認めアマテラスも共感した真の理想を掲げたワカ武者の、その御旗に記された紋様と同じ。日輪と同じ形を描く、命の力を司る桜花の筆しらべ。
 桜花の筆しらべの隠された効果も作用し、力を失っていたリヴァイアニマはそれを拒絶することも無く受け入れて、リチュア・アバンスの姿へと戻った。
 アバンスは突如として儀式の効力が覆されたこと、失われていた理性が急に取り戻されたこと、吸収していた莫大な力が一挙に抜け出た反動で昏倒したが、すぐに意識を取り戻した。
 すぐ傍に、懐かしい魔力を、温かさを感じたから。
「エミリア……?!」
「アバンス」
 互いに名を呼び合い、一方は驚愕に目を瞠り、一方は穏やかな笑みを浮かべた。
 お互いに、もう2度と会えないと、言葉を交わすことは出来ないと諦めていた最愛の人に、名を呼ばれた、名を呼べた。
 これだけでも2人は、2人を見守る者達は感無量だった。
「俺は……」
 しかし、アバンスはそんな感慨には耽ることは出来なかった。
 朦朧とした意識が、却って偽らざる本心を、素直に吐き出させる。
「君を、守りたかった、救いたかった。その為なら、俺の命なんか……いらないのに…………」
 滂沱の涙を流しながら、アバンスは後悔に塗れた言霊を吐いた。その相貌に浮かぶのは、悲哀と自責。
 愛する人を救えなかったことに対する後悔だけが、アバンスをここまで突き動かしていた。
 同時に、理性を取り戻したことで自分を襲った悲劇に耐えられず、その怒りと悲しみを殺戮という最悪の形で無関係の大勢にぶつけてしまったことへの自責の念が、どうしようもなくなってしまった今になって胸を貫く。
 アバンスの口は更に言葉を紡ごうとするが、それ以上は声が出せず、涙を流しながら、餌を求めるひな鳥のようにぱくぱくと口を動かすしかできなかった。
 そんなアバンスの姿を見て、エミリアは柔らかに微笑んだ。
「なら、私からのお願い。私の分も生きて、アバンス」
 あの時に伝えられなかった、大切な人への切なる願い。それを伝えることだけが、エミリアに残された心残りだった。
 同時に、エミリアの姿が薄らぎ、消え始めた。
 シャルトルーズには元々時間制限があるのだが、こんなに早くない。エミリア自身の魂が限界を迎えつつあるのだ。
「エミリア!!」
 アバンスは無我夢中で、消え行くエミリアを抱き締めた。
 力強くも優しく、しっかりと、二度とこの温もりを忘れない為に。彼女が最期に、温もりを感じていられるように。
 エミリアは涙を流しながらも笑顔のままでアバンスを抱きしめ、愛しい人の腕の中で消えて行った。
 誰もいなくなった腕を解いて、アバンスは涙を拭い、泣くのをやめた。最愛の人から託された願いのためにも、泣いている暇などもう無いのだ。

731第298話『運命に囚われし者たち/運命に挑みし者たち』 ◆9DPBcJuJ5Q:2014/01/16(木) 00:54:11
「アバンス、エミリア……よかった」
 アバンスが立ち直り、エミリアが笑顔で逝けたことを見届けた劉備は、その場に崩れ落ちた。
 龍の牙に貫かれた部分だけでなく、応急処置で止血していた腕の断面からも夥しい量の血が溢れ出て来た。
「劉備!」
「劉備さん、しっかりして下さい!」
 切歌とマローネが駆け寄るが、劉備は荒い呼吸を繰り返すだけで応えることもできない。
 どれだけ傷つこうとも、如何なる困難や強敵に直面しようとも。
 先陣に立って戦い続け、仲間達を導いて来た侠の今にも息絶えてしまいそうな姿は、今まで一瞬たりとも想像していなかった。出来るはずもなかった。
 マローネと切歌は、すぐさま支給品から回復用のエレメントを取り出し、発動させる。
 瀕死の状態から復活させるリカバー、仲間全員の傷を癒すケアルガやヒールウィンドなど、ありったけを使った。
 しかし、劉備は一向に目を覚まさず、傷口からはとめどなく血が溢れて来る。
「どうしよう……血が、血が止まらないデス……ッ」
 それが意味するのは、治癒の魔法やエレメントが通じないほどの状態であり。
 劉備の命は死の運命を覆せない瀬戸際にあることを意味していた。
「俺は……俺は、なんてことを……!」
 全体回復のエレメントの効果の恩恵で傷が癒えたアバンスは、そのことで却って心に傷を負った。
 自分を救おうと、誰よりも必死になってくれた、己の命さえも顧みずに戦ってくれた友の命を、自分が奪ってしまった。
 エミリアの時と同じかそれ以上の自責の念がアバンスを襲うが、もう自暴自棄になることは無い。
 寧ろ努めて冷静に、劉備を救う為の術を見つける為に考えを巡らせていた。
 そこで、ふとある物が目に入った。
 まるで劉備に寄り添うように転がっている4つの珠――氷結界の三龍のコアと秘宝・龍の涙が。
 加えて、自分の腰にはキュウビから奪い返した、ジェムナイトの融合の力の結晶であるマスター・ダイヤの剣が進化した戦友セイクリッド・ソンブレスの短剣がある。
 そして、手にはエミリアが遺したリチュアの写魂鏡、傍らにはケルキオンの二つの杖の内リチュアの儀水鏡が変化した杖もある。
 これらの力を、全て合わせることができれば。
 アバンスが一縷の望みを見出した、その時。
 頭上から、更なる絶望を告げる声が響いた。

732名無しロワイアル:2014/01/16(木) 00:57:47
「深く、黒く、愛に血を流す……素晴らしい戦いだったよ。だが、残念だな。あんなにも美しい憎しみが、完全に掻き消えてしまったとは」
 滅びの塔への門、巨大な黄金と白銀の梟の像の間にある柱の上に、声の主は立っていた。
 身の丈ほどの大鎌を軽々と振り回す、少年の面差しを残した魔人フェイト。その傍らには、蒼い鎧装束に身を包んだ錬金術師・無限法師の姿もあった。
「お前は……フェイト!」
「それに、無限法師か」
 切歌とアバンスはそれぞれに怒りを籠らせた声で、忌々しい2人の主催者の名を呼ぶ。
 特にこの2人の声は放送の度に幾度となく聞かされていたのだから、殊更に討つべき敵として記憶に刻まれている。
 マローネは一言も発さなかったが、このバトルロワイアルで最初に手を差し伸べてくれたヤマネコの亜人――セルジュの本当の体を、そして一番大切な女性を奪ったというフェイトに対して、静かに怒りを燃やしていた。
 アマテラスは早くも臨戦態勢となって2人の魔人を威嚇しているが、フェイトは自分に向けられる怒りや敵意を全て受け止めた上で、全員を睥睨しているようにも、誰も目に入れず虚空を見ているようにも思えた。
「この世で唯一純粋なものは憎しみだけだ。だからこそ、心が憎しみに染まりきった姿は、憎しみが広まっていくその様は、とても美しかった」
 唐突に始まった、フェイトの狂った価値観と美意識の吐露に、無限法師以外の全員が困惑する。
 そんなことはお構いなしに、フェイトは焦点を眼下のアバンスに合わせて、続く言葉を紡ぎ出す。
「リチュア・アバンス。お前がその憎しみでガンダムを……劉備をも取り込むことを期待していた。とても残念だよ」
「超融合のカードとダークネスローダーは返してもらおうか」
 恍惚とした表情で語り続けるフェイトを尻目に、無限法師は淡々と事を進め、目的の物を回収する。
 十代とキリハから必ず取り戻すように言われていた2つの重要アイテムを先んじて回収されてしまったのだが、そこまでは頭が回らず、マローネは感情を吐き出した。
「あなたたちは……一体、何者です!? どうして、こんな酷いことをするんですか!」
 怒りと悲しみ、そして純粋な疑念が織り混ざった問い掛け。
 これにアマテラスも切歌もアバンスも、無言の視線で以って同様の問いをフェイトと無限法師に投げ掛ける。
 事実、このバトルロワイアルを主催した5人を知る参加者は、彼らが放ったジョーカーを除いて、彼らの思惑や真意を全くと言っていいほど知らなかった。
 何故、どうして、なんのために、なにがあって、こんな殺し合いに自分達を、様々な世界や時代から100人もの参加者を集めて殺し合わせたのか。
 バトルロワイアルに関する最大の謎の答えが得られるかもしれない。
 そんな予想から来る緊張感は、フェイトからの返答によって一瞬で吹き飛んだ。
「私は、お前達を……人間を愛している。狂おしいほどに、狂わずにはいられないほどに。だから、私は……お前達と、一つになりたい。その為に、このプログラムが必要だったのだ」
 身の毛もよだつ思いというものを、3人は初めて実感した。
 フェイトの声色は優しく、言葉にも慈愛が込められていることがよく分かった。
 だが、爛々と輝く瞳と恍惚とした面貌には、狂気の二字以外に見出せない。
 切歌が勇気を振り絞って何故そこで愛なのかと言い返そうとしても、口を動かせなかった。

733名無しロワイアル:2014/01/16(木) 01:02:04
 いや、それだけではない。瞼も、眼球も、指の一本さえも、動かせない。
(なん、だ……。体が、動か、ない……!?)
(い、息も、できな、い……っ)
(ど、どうなってる、デスかっ……!)
 自らの体を襲った異変に、3人のみならずアマテラスさえも吐息を一つ絞り出すことさえできなかった。
 不意に、アマテラス達の視界に巨大な翼が現れた。機械仕掛けの梟の翼が。
 フェイトと無限法師の両脇に控えていた、黄金と白銀の魔神像が動き出したのだ。
 それこそは、カムイの國を永久の氷壁に包みこまんとした双子の魔神。
 錬金術師たちの狂気が生み出した、禁忌の力の結晶。
「ホーッホッホッホッホウ。如何かな? 我ら時操衆の最高傑作、双魔神モシレチク・コタネチクの時操術は」
 無限法師は声高らかに、静止した時間の中で自らの力を誇る。
 時操衆から別れた、積極的に時操術を操り全てを支配せんと企んだ一派、時攻流の最後の生き残りとして、この喜悦に浸らずにはいられないとばかりに。
 正真正銘の神すらも縛る自らの力に、無限法師は酔いしれていた。
「無限法師」
 無粋な横槍によって愛の語らいに水を差されたフェイトが、ギロリと無限法師を睨みつける。
 フェイトもまた時空間を超越する力の持ち主故に、平然と双魔神の時操術を撥ね退けていたのだ。
「案ずるな、お前の夢は錬金術師の私としても非常に興味深い。素材は残すさ」
 それだけ言って、無限法師は自らの屍鬼力とした双魔神を標的へと差し向ける。
 白銀魔神コタネチクは翼を羽ばたかせて劉備の下へと向かい。
 黄金魔神モシレチクは死海の波間を独特の歩き方で進み、アマテラスへと迫る。
 切歌が、マローネが、アバンスが、声に出せないまま絶叫を上げる。
 しかし双魔神の凶刃は、無慈悲に劉備とアマテラスへと振り下ろされた――。



「バグラモン。どうやら、彼が間に合ったようだ」
「そうか。さて……希望は絶望に相克しうるのか、見届けようか」



734第298話『運命に囚われし者たち/運命に挑みし者たち』 ◆9DPBcJuJ5Q:2014/01/16(木) 01:07:40

「この世は単純な一面だけじゃない、複雑な側面を併せ持つ多面体だ。時にその面(ボックス)の構成は、遠近感や距離感を狂わせる仕掛け(ギミック)となる」
 唐突に、静止した世界に青年の声が割って入った。
 その世界を作り出している双魔神達はと言えば、確かに仕留めた――否、そこにいたはずの標的へと放った攻撃が、見当違いの場所に突き刺さっていることに首を傾げていた。
 すると、どこからか、不気味な笑い声が響きだした。
 その笑い声の出所は、双魔神を欺いた機械仕掛けの多面体。
「永続罠、ギミック・ボックス」
 同時に双魔神へと襲いかかる、赤と白の獣の影。
 これによって双魔神の魔術は解かれ、時は再び正常に刻まれる。
「……ふえ?」
 双魔神の魔術から解き放たれてすぐ、切歌は意気を整えるより先に素っ頓狂な声を出してしまった。
 今、目の前で起こったことへの理解が追いつかない。
 劉備とアマテラスを助けたカードに見覚えがあるし、なによりそれを操る声の主にも聞き覚えがあった。
 だが、彼は死海へと突入する際に、死の門の番人アポリアと相討ちになってしまった、そのはずなのだ。
 しかし、彼以外の誰がいよう。これらのカードを巧みに操る決闘者が、ファンの窮地に颯爽と現れるスターが。
「なんだよ、切歌。忘れちまったのか? お前の歌の、一番のファンの顔を!」
 何時の間にやら登っていた滅びの塔周辺に点在する柱の中でも最も高い所から、高らかな宣言と共に1人の決闘者が降り立った。
「Ⅳさん……ホントに、Ⅳさんデスか!?」
 喜びよりも驚きの方が先に立った切歌からの呼び掛けに、Ⅳは笑みだけ浮かべて軽く答える。今は、再会を喜んでいる余裕は無い。
「話は後だ。俺のファン達に随分なことをしてくれたみたいじゃねぇか」
「バカな!? 大神をも縛る双魔神の魔術を、何故人間ごときが……!?」
「ナンバーズを持つ者は、時間操作の類の影響を受けません。悔しいでしょうねぇ」
 絶対の自信を持っていた双魔神の魔術が人間に破られたことに、無限法師は驚愕を露わにした。
 その醜態を、Ⅳはわざとらしい煽り口調と共に鼻で笑って挑発した。
「ファンサービスはしなくていいのか? 希望を与え、それを奪う男よ」
 屈辱にわなわなと肩を震わす無限法師を余所に、今度はフェイトが嘲笑混じりにⅣへと問い掛ける。
 フェイトはその素性も相俟って、全ての参加者の詳細なプロフィールを把握し管理している。
 だからこそ、Ⅳが今と最も掛け離れていた時期を引き合いに出し、動揺を誘う。
 しかしⅣは、これすらも一笑に附してみせた。
「そういう時もあったさ、確かにな。だが、今はそういうわけじゃないのさ。さぁ、切歌! 俺からのファンサービスだ、受け取れぇ!!」
 Ⅳからのファンサービスという号令を受け取って、先程の赤と白の獣が、切歌の前へと現れた。
「ゾナ!」
「ブオー!」
「な、なんデスかこれー!?」
 ……それらは、獣ではあるのだが、本当に獣なのか疑わしいものだった。そもそも鳴き声からしておかしい。
 ふくよかで全体的に丸みを帯びた外見は、赤い鳥と白い牛のぬいぐるみや着ぐるみのようだった。
「ゾナーとブオーだ。切歌、こいつらを使え」
「け、けど、牛と鳥で、私はどうすればいいんデスか!?」

735第298話『運命に囚われし者たち/運命に挑みし者たち』 ◆9DPBcJuJ5Q:2014/01/16(木) 01:11:30
「アマテラス、あの双魔神には残る3種の神器とお前の分神が1つずつ封じられている。何としても取り戻せ」
「無視デスか!?」
 Ⅳはさも当たり前のように、何の説明も無しに赤い鳥のゾナーと白い牛のブオーを切歌に託し、切歌の抗議を無視してアマテラスにとって最も重要な情報を伝えた。
 アマテラスの残る分神は2つ、幽神と凍神のみ。そしてアマテラスの三種の神器、天叢雲剣と八尺瓊勾玉はそれぞれ雷と氷の力を帯びたもので、双魔神の特徴とも一致するものだった。
 それらの情報は、敵が強大な力を司る凶報であると同時に、アマテラスが全ての力を取り戻すことが不可能ではないという吉報でもあった。
「Ⅳさん、どこでそんな情報を?」
 参加者の身分では決して知りえない主催者側の内部情報。その出所が不思議になって、マローネは切迫した状況ではあるが出所を問わずにはいられなかった。
「Z−ONE……。やはり、裏切ったか」
 するとマローネの問いに代わって答える形で、フェイトが納得したように呟いた。
 自分と同じく、遥かなる時間をかけて人類を見守り、破滅を超えたより良き未来へ導く為に人類の運命を定め、神とも呼ばれた最後の一人。
 彼の人類への愛はフェイトとは似て非なる物であり、いずれ彼が離反し自分達に刃を向けることは予見していた。
 しかしそれもまた運命であればこそ、同じく運命を知るバグラモンもフェイト共々その意志と結末を祝福した。
「奴らも一枚岩じゃなかったのさ。劉備、アバンス、怪我人は大人しく寝てろ。心配しなくても、俺のファンサービスはばっちり見せてやるからよぉ!」
 2体のギミック・ボックスを双魔神と対峙させ、全員を鼓舞するようにⅣが叫ぶ。敬愛する父をその手に掛けた、アバンスに対してさえも。
 Ⅳの父、トロンはⅣとは異なる時間軸から招聘されたが故に主催者のジョーカーとしてバトルロワイアルに参画し、10人を超える参加者をその奸智と実力で以って葬り去った。
 だが、Ⅳの決死のデュエルによって彼に憑り付いていた復讐と憎悪は祓われ、分かり合うことが出来た。
 その少し後、心の整理の為にと1人になっていたトロンを、アバンスは殺した。彼の紋章の力と強大なナンバーズを奪う為に。
 Ⅳはこのバトルロワイアルによって家族を全て奪われ、友すらも失った。
 それでも、決して自分を見失わず、怒りや悲しみを他者に当たり散らそうとしない。
 アバンスには、礼の言葉を言うことすら憚られた。
「……ああ、そうさせてもらう。みんな、劉備は……俺に任せてくれないか?」
 だから、行動で示す。ケジメと、覚悟を。
 誰もアバンスの案に異を唱える者はおらず、劉備の命運は託された。
 一方、ゾナーとブオーに懐かれたのはいいものの、どうしたものか戸惑っている切歌を残し、2人と大神は主催者たちと対峙する。

736第298話『運命に囚われし者たち/運命に挑みし者たち』 ◆9DPBcJuJ5Q:2014/01/16(木) 01:16:04
「お師匠様、シェンナさん、セルジュさん、アバンスさん、エミリア……皆さんの運命を狂わせた、仇……。許しません」
 霊剣スカーレットを強く握りしめて、マローネはフェイトを睨んだ。
 イヴォワール九つ剣の1人、大剣士スプラウトは家族を失い天涯孤独となったマローネを助け、生き抜く為の力と戦い方を教えてくれた大切な師匠。
 シェンナは悪霊憑きと忌み嫌われ万人から罵声を浴びせられていたマローネを唯一受け入れ、分け隔てなく接し、住む場所をくれた大切な恩人。
 セルジュはバトルロワイアルという極限の状況下で手を差し伸べ、助けてくれた大切な仲間。
 エミリアとアバンスについては、最早言うに及ぶまい。
 彼らの全てを狂わせたフェイト達は、マローネにとって間違いなく倒すべき敵だった。
 主催者全員を師匠仕込みの剣術、セルジュから譲り受けたシェンナの剣で討つことに寸毫の迷いも無い。
 そんな風に気を張っていたマローネの肩を、Ⅳが軽く叩いた。
「憎しみで戦うのはやめときな。父さんも……そういう心の闇を、奴らに利用されたんだ」
 達観したような眼で、Ⅳは静かに語りかけた。
 Ⅳの父、トロンに関する顛末を知るマローネは、静かに頷いた。
 彼女の瞳に宿るのは、憎しみではなく、怒りと悲しみの代償に得た、強い意志と確固たる決意。
「はい。なら、せめて……あの人達の無念を晴らす為に、私、戦います。戦うの、好きじゃありませんけど」
 マローネの言葉を聞いて、アマテラスは喜びを示す為に大きく鳴き、そのまま決戦を告げる遠吠えを上げる。
 しかしその決意を、黒衣の運命と蒼き鎧の錬金術師は嘲笑う。
「ホウホウ。お前達にとっての神にも等しい我らに、人の分際で挑もうとは愚かなこと」
「お前たちの運命は、私達の掌中にある」
 その言葉を聞くや、Ⅳは左腕のデュエルディスクを構え、右手にカードを握る。
「なら全てぶっ壊してやるさ! お前らの言う運命を、俺達の手でなぁ!!」
 2体のギミック・ボックスをオーバーレイし、呼び出すのは彼の握る切り札の1枚。
 かつては神のみぞ操れる運命の糸を操る者と嘯いたその1枚を、今敢えて召喚する。
「現れろ、No.40! 運命の手綱を断て! ギミック・パペット−ヘブンズ・ストリングス!」
 運命を操らんとする者と運命を見極めようとする者――運命に囚われし者たちと、運命を壊し未来を勝ち取らんとする運命に挑みし者たち。
 バトルロワイアル・プログラムの終わりを告げる最終決戦の幕が、今、切って下ろされた。

737名無しロワイアル:2014/01/16(木) 01:46:14
【劉備ガンダム@BB戦士三国伝 戦神決闘編】
[状態]:意識不明、出血多量、左腕損失、体と鎧に無数の穴。
[装備]:劉備の鎧@BB戦士三国伝、龍帝剣@BB戦士三国伝
[道具]:基本支給品一式、イルランザー@クロノクロス、グランドリオン@クロノクロス、
[思考]:正義を成し、主催者達を討つ。

【リチュア・アバンス@遊戯王デュエルターミナル】
[状態]:疲労(極大)、深い後悔と強い覚悟
[装備]:無し
[道具]:辺りに散乱している
[思考]:劉備を助ける

【アマテラス@大神】
[状態]:疲労(小)
[装備]:沖津鏡@大神、草薙の剣@大神
[道具]:基本支給品一式、
[思考]:闇を祓い、浮世を照らす。

【マローネ(クローネ)@ファントム・ブレイブ】
[状態]:疲労(中)、静かな怒り
[装備]:霊剣スカーレット@ファントム・ブレイブ、ケルキオンの杖@遊戯王デュエルターミナル
[道具]:基本支給品一式、回復エレメント一式
[思考]:主催者を討ち、大切な人達の無念を晴らす。

【Ⅳ@遊戯王ZEXAL】
[状態]:疲労(大)、紋章の力の反動による魂の消耗(大)
[装備]:デュエルディスク&Ⅳのデッキ@遊戯王ZEXAL
[道具]:基本支給品一式
[思考]:主催者共にファンサービス! スターとして、ファンに全てを捧げる覚悟。

【暁切歌@戦姫絶唱シンフォギアG】
[状態]:疲労(小)、困惑
[装備]:赤いマフラー@BB戦士三国伝、ブオーとゾナー@武者○伝シリーズ (※No.カード付き)
[道具]:基本支給品一式、回復エレメント一式、オキクルミの仮面@大神、デュエルモンスターズのカード×10@遊戯王シリーズ
[思考]:みんなと一緒に戦いたいけど、どうしたらいいか分からないデス!

補足説明
・クローネとマローネ
クローネはファントムブレイブの主人公マローネの並行世界の同一人物。
両親だけでなくアッシュさえも失ってしまい、天涯孤独となったIFの存在。
クローネという呼び名は見た目が日に焼けて黒いのと、原作で説明をめんどくさがったある人物が
「クローンのようなもん」と乱暴な上に語弊のある説明をして「クローンのマローネ」を縮めた通称。
なのでこの後3話では彼女の本名のマローネで通させてもらいます。ややこしくてすみません。

738 ◆9DPBcJuJ5Q:2014/01/16(木) 01:49:42
以上で投下終了です。
マイナー作品のネタ多過ぎてすみません。けど大好きなんだ……!

739 ◆uBeWzhDvqI:2014/09/30(火) 21:49:13
【ロワ名】ジャンプキャラバトルロワイアル 俺が書かなきゃ誰が書く

【略称】俺ジャン

【生存者】
○うちはサスケ@NARUTO-ナルト-
○男鹿辰巳@べるぜバブ
○小野寺小咲@ニセコイ
○斎藤一@るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-
○DIO@ジョジョの奇妙な冒険
○八雲祭@PSYREN -サイレン-

【主催】
バビディ@ドラゴンボール
ダーブラ@ドラゴンボール

【主催陣営】
ヴィクター@武装錬金
鶫誠士郎@ニセコイ
ドルキ@PSYREN -サイレン-
(多分増えたり減ったりします)

【参加作品】
○ドラゴンボール/○ONE PIECE/○NARUTO-ナルト-/○BLEACH/○銀魂/○るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-/○ジョジョの奇妙な冒険
○べるぜバブ/○PSYREN -サイレン-/○武装錬金/○ニセコイ/○アイアンナイト/○恋のキューピッド 焼野原塵/○ダブルアーツ/○タガマガハラ


とりあえずテンプレ的なものを……。
本編及び設定とか流れは10月中に投下できるように頑張ります。

(始めても大丈夫ですよね?)

740 ◆uBeWzhDvqI:2014/09/30(火) 22:27:32

各キャラの動向みたいなものだけ先に。

その一、サイヤ人頂上決戦関係者


【男鹿辰巳】
バビディにベル坊を人質に捕らえられているが弱気にならず己の道を進む。
最初に出会った一条楽、ナルトと行動を共するがブロリーとの戦闘で一条楽を亡くしてしまう。
己の無力を痛感するが止まっている暇はなく他の参加者達と合流し血を流しながらも前を進んでいた。
その先にアイアンナイトとして暴れる少年と交戦し言葉ではなく拳で語るも化け物を取り逃してしまう。

道中ナルトの友達であり敵であるうちはサスケと出会い交戦寸前になるが「ダチの勝負の邪魔はしねぇ」と拒否。
他の仲間と共にナルトの戦いを見守るが突然ナルトが急変し味方にも攻撃を開始する。
戸惑いながら交戦し、「DIO様のために」と呟くナルトを戦闘不能にさせるべく奮戦。
しかし乱入してきた志々雄真にナルトを殺害されてしまう。その後志々雄を倒そうとするもヘルメスドライブで逃げっれてしまう。
死にゆくナルトから謎の紙を託され、彼はなお、前へ進む。

サスケは無言でその場を去り残された男鹿や山田ヤマト達はゲームに乗ったパピヨンと遭遇してしまう。
この戦いでパピヨンを殺すことは出来たが近藤勇が死亡、彼の漢としての最後を看取った。

そしてバビディに洗脳されたベジータと交戦し壊滅級の被害を被ることになる。


【八雲祭】
最初に出会った武藤カズキと共に行動を開始する。カズキの人懐っこい姿に笑顔を見せる場面も。
左之助と承太郎の戦い(勘違いによる)を目撃し謎のビジョン(スタンド)を使う承太郎をPSI使いと認識。
そのまま左之助に加勢し交戦を続けるも勘違いと判明し中断。左之助から「何で邪魔をした」と言われるが基本無視。

その後一条楽の死を知り彼を生きかえらせるためにゲームに乗ったマリーの奇襲を受ける。
ニアデスハピネスの爆発で被害を負うもマリーを無力化し彼女を正す。
しかし改心させる事は出来ずにマリーの決死の自爆で左之助を亡くしてしまった。

進む道中に黒崎一護と小野寺小咲の二人組と合流しゲームに乗ったロンシアと交戦。
これを退け後を追うも其処には何者かによって殺されたロンシアの姿があった。
祭達の脳裏に浮かぶのは「DIO様のために」と呟いていた意味深な言葉だけだった。

殺し合いの遅延を感じたバビディによって放たれた虚と戦っていく中、大きな閃光に包まれた。


【サイヤ人頂上決戦】
バビディに洗脳されたベジータはそのまま男鹿辰巳グループを襲撃した。
カカロットがバビディによる首輪の爆破で死んだ今、彼を止める者は存在しない。
男鹿やヤマト、恋次や銀時など多数の猛者を一度に戦うがサイヤ人の戦闘力は一線を超えていた。

戦闘する中彼の脳裏にはかつての王子であった自分とカカロット達と共に戦うZ戦士がぶつかり合っていた。
銀時の「お前は誰なんだ」を受け己の身体に多大なる負担を掛けながらも洗脳を振り切った。

しかしその場にブロリーが出現し更なる戦闘が始まる。この時ブロリーと交戦していた祭達も加入する。
この時祭達から一護と小野寺が戦闘の余波で逸れてしまっていた。
既に何方の陣営にも被害及び死者が出てしまい戦闘はブロリーが終始圧倒していた。
その最後は承太郎が時を止めブロリーにラッシュを叩き込んだ後に銀時が斬り捨てる幕引き。
だがブロリーは最後の悪足掻きとして己の気を全開にまで高め自爆を引き起こした。

爆心地の距離の関係上生き残ったのは祭と男鹿とベジータの三名。
その後ベジータは洗脳されていた時に多くの命を奪ったケジメを着けるためにその生命を犠牲にして結界を破る。
これによりバビディの居場所がマップ上に出現し祭は乗り込むために足を進める。

一方男鹿はナルトから託された紙が動いているのに気付く。
この紙の招待はビブルカード、つまりこの紙の方向にDIOが居る。
ナルトやヤマトの仇を取るため男鹿は満身創痍ながらも足を進めた。

741 ◆uBeWzhDvqI:2014/09/30(火) 23:46:26
その二、小野寺救出煉獄決戦関係者


【DIO】
承太郎という恐るべき敵が存在する中、このロワでは黒幕的な存在として暗躍していた。
肉の芽によって洗脳に成功したのはナルト、ロンシア、ヤマト、アゲハ、剣心、桂……など多くの参加者を手駒に。
命令を下し自身は光に身体を晒す事無くロワを優位に勧めていた、しかし。

カーズに奇襲され応戦、スタンド能力で優位に立つも身体能力はカーズが優っていた。
時止のアドバンテージでさえも覆すカーズに絶体絶命だったがアゲハが駆けつけ奇跡が起きる。
アゲハの暴王の流星「追尾は無限」でカーズの動きを止める事に成功、そして場所は禁止エリア。
時間が経ちカーズの首輪は爆発しDIOは最大の危機を乗り切った、しかし――。


【小野寺小咲】
殺し合いに巻き込まれ錯乱するが最初に黒崎一護と出会い彼のおかげで平常心を取り戻す。
その後出会った塵を見て驚くが心優しい彼を外見で判断すること無く仲間として受け入れた。
当の塵は小野寺を「恋する乙女」として見守ることを決意していた。

仲間と合流し平穏に進むがDIOに操られた剣心と交戦することになるが小野寺自身は戦わない。
皆が戦い、自分だけ安全な場所に居ることに罪悪感を感じてしまう。

一条楽の死を知り生きる希望を感じられなくなり、泣きながら「私を殺してください」と仲間に頼む。
この発言を仲間たちは受け流すこと無く彼女を論し、支え、励ました。

マリーの死が知らされ追い打ちを掛けられ更に心が空になるも前だけは見つめていた。
アイアンナイトの襲撃に遭うも生き延びる、そして彼の心が泣いていることに気付く。

その後仲間と別れ一護と行動を共にし祭達と合流し襲ってきたロンシアと交戦。
塵の仲間と聞いていたがその性格は全くの別人だった。気になることは剣心と同じく「DIO」という単語を口にしていたこと。
ブロリーの戦闘の際に大きく吹き飛ばされ一護共に祭達と離れる。

そこで小野寺にとって悲劇が起きてしまう。


【斎藤一】
名簿に乗っていた志々雄の名前に疑問を抱くも悪を斬るため動き始める。
最初に出会ったゴルゴンに苛立ちを覚えるも奇術と呼べる瞬間移動の力を目にし近くに置いておく。
……しかし道中何度も苛立ちからか斬り捨てようとしていた。

その後土方十四郎、桐崎千棘らと合流。
土方の名前と新選組関連の情報から騙りと決め付け交戦を開始する。
何方の言い分も本当ではあるが世界が違うため真実は互いに異なっていた。
千棘やゴルゴンが戸惑っている中志々雄の乱入により戦闘は中断、彼の相手を務める。

志々雄の戦闘能力は斎藤一の知っている志々雄と変わらないが時間の制限を既に知っていた。
15分が経過しようとしていた所を武装錬金ヘルメスドライブによって逃げられてしまう。

その後放送により左之助の死を、次の放送により剣心の死を知らされる。
また一条楽の死を知った千棘が暴走の末にエルを殺してしまい自身も自殺してしまう。
少ない間に知った顔が死んでゆくが修羅場を潜り抜けてきた男の心は揺るがない。
その冷静さから反感を買うも彼は悪・即・斬を貫き通す。


【うちはサスケ】
ゲームに乗り悪を殺し願いを叶えるべく行動を開始する。
しかし最初に出会ったシーザーと交戦、彼を殺害するも彼の生き様に過去の自分を重ねてしまう。
心に一瞬の迷いが生まれるが目的のために止まることは許されない、彼は進む。

その後何度か戦闘を繰り返した後パピヨンと出会い同盟を申し込まれる。
サスケは断ろうとしていが近くにナルトの姿があった。
彼を見ているとチャクラに気付かれナルトと交戦する嵌めになってしまう。
この際、パピヨンに「邪魔をするな」と告げた。後のパピヨンVS男鹿一味戦であった。

ナルトと交戦する中、過去の自分を再度重ねるも闇に染まったこの身体に光は受け付けなかった。
途中ナルトが急変し「DIO様のために」と呟く。異変を感じたサスケだが戦闘は止めない。
此処に男鹿達も加勢するが暴走するナルトは大術を発動しながら確実に彼らの生命を削っていた。
その後斎藤達との交戦から回復した志々雄が乱入しナルトを殺害、サスケはそのまま志々雄を追うべくその場を去る。

ナルトの仇を取るつもりはない、だが志々雄を殺すべき相手として認識していた。

742 ◆uBeWzhDvqI:2014/10/01(水) 00:04:50
【小野寺救出煉獄決戦】


殺し合いの停滞を危惧したバビディは志々雄に無限刃と強化した戦闘集団、そして煉獄を授ける。
これを受け取った志々雄はそのままバビディを殺害しようとするもダーブラの介入で失敗してしまう。
直後に後を追ってきたサスケに敵意を向けられるも「これからもっと面白ぇ祭りが始まるから黙っとけ」と言葉を残し消える。
ヘルメスドライブで移動した先は斎藤一のグループであり宣戦布告をした後小野寺を攫い煉獄の中に乗り込む。
煉獄の中に居るのは志々雄と攫われた小野寺、そしてフレアの能力を見込まれたキリだった。


小野寺を救うべく(斎藤はあくまで志々雄を殺すためと言い切る)煉獄へ向かう一行。
道中に肉の芽に支配されたアゲハと帝王DIOと交戦する形になってしまう。
バビディの命令かどうかは不明だが志々雄の戦闘集団はDIO達に加勢しており数では圧倒的に不利だった。

交戦する中埒が明かないため煉獄突入組と残存組に別れる事に。
アゲハを止めるべく残る飛竜を始め、塵や剛太、神埼など他合わせて系6人が残ることに。
煉獄に突入するのは斎藤、一護、土方、ゾロ、ゴルゴンの五人だった。
ゴルゴンの瞬間移動で移動を開始するがDIOが時を止める事により妨害する。
このままでは一生煉獄に突入できないため、斎藤が残ることを決意する。
志々雄はいいのか、と聞かれると「こんな雑魚は速攻で斬り捨てる」と残し他の足を促した。


DIOのスタンド能力に苦戦するもその高いプライドを煽り生まれた隙を狙い牙突を放ち彼の右腕を吹き飛ばす。
そのまま海の中へ蹴り飛ばし斎藤も煉獄の中へ突入した。

743 ◆uBeWzhDvqI:2014/10/01(水) 00:06:38
先に煉獄へ突入していた一護達は志々雄と交戦していた。
志々雄の戦闘能力は本物であり無限刃の存在もあったか苦戦……数では此方が有利。
一護、土方、ゾロ……彼らも一級品の戦闘能力を持っており志々雄とは存在する世界も違うため圧倒。
しかし既に満身創痍のため戦局は五分、やや志々雄が優勢になっていた。ゴルゴンはこの間に小野寺とキリを開放していた。


その後斎藤も合流し四対一となり志々雄に攻め込む。
やがて15分が経ちそうになった所で斎藤が牙突零式で志々雄を吹き飛ばし勝負が終わるはずがない。
志々雄は武装錬金「激戦」で己の身体を修復し再度四人相手に暴れ始める。
殺しても殺しても復活する志々雄、その力の前に斎藤達は徐々に押され始め意識が現界に近づいていた。


サスケも乱入し五対一となるも志々雄の優勢は変わらない、しかしまだ彼が居る。
この状況を破ったのはゴルゴン、激戦で再生する中、逆刃刀を投げ付け妨害し志々雄の身体を破壊する。
発火現象が始まった志々雄はそのままゴルゴンを斬り捨てるが死は免れない。ゴルゴンの顔は笑顔だった。


志々雄が死ぬように煉獄も崩壊を始め、サスケは逸早く脱出する。
ゴルゴンが最後の力を振り絞って瞬間移動させようとするも身体は限界、キリのフレアの力を借りる。
しかしこれではキリも死んでしまう、彼を止めるゴルゴンだがキリはそれを振り切り瞬間移動を始める。


だが伸ばした腕は小野寺に届かず彼女は一人煉獄の中へ残され――崩壊した。


陸地に戻った斎藤達だが彼らを待っていたのは暴れるマスターバロンと桂だった。
DIOはそのまま逃走を図りアゲハは仲間によって倒されていた。しかし飛竜達は死んでしまい、生き残ったのは塵と剛太だけ。
時を同じくしてベジータが結界を破界したため居場所が判明するが移動出来る状況では無かった。

志々雄戦で後半参戦し比較的傷が軽い斎藤を先公させる提案をする土方、この発言にナニカを感じる斎藤。
「いいから黙って行け、それで俺達を受けいられるように宴の準備でもしとけ」「阿呆が」。
ゾロは斎藤に三代鬼徹を託し、彼を走らせた。
土方は桂を止めるため、ゾロと剛太はマスターバロンを止めるために戦う――結果は何方も相打ち。


塵と一護は小野寺の気(霊圧)を感じた方向へ移動していた。
その際塵は何かゴルゴンと会話していたようだが内容は不明、しかし彼らは何時通り笑顔だったという。


塵と一護が駆けつけた先にはアイアンナイトに襲われかけている小野寺だった。
聞けば小野寺はサスケに救出されていたらしく、彼はバビディの元へ行くため小野寺一人を此処に放置したらしい。
暴れるアイアンナイトを止めるのは恋のキューピットと護る力を信じる死神。
志々雄戦で満身創痍の一護はアイアンナイトを止める前に力尽きるが彼の死を笑う者は存在しない。
塵の最期は暴れ悲しむアイアンナイトの心を理解し受け入れた上で其処から「だがお前は最低野郎だ」と突き放し殺した上で自身の生命も停止した。


残された小野寺は一護の斬魄刀である斬月を形見として受け取り、脚が震える中、それでも皆のためにバビディの元へ足を進めた。


こんな感じです。きっと矛盾も生まれる(既に生まれてる)かもしれませんが、頑張ります。


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